大学数学 — 目次 付録A

付録A演習問題の解答

各章末の演習問題の完全な解答をまとめる.解答を読む前に,必ず一度は自分で手を動かしてほしい. 途中で行き詰まったら,章末のヒントと本文の例題に戻ってから,ここを読むとよい. 各解答の末尾から,その章に戻ることができる.

第1章 極限の厳密な定義と微分の導入

演習1.1 $\varepsilon$-$N$論法で $\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{n}{n+1}=1$ を示せ

解答

$a_n=\dfrac{n}{n+1}$ とおく.まず $1-a_n$ を計算する.

$$ 1-a_n=1-\frac{n}{n+1}=\frac{(n+1)-n}{n+1}=\frac{1}{n+1} $$

(通分してから分子を計算した.)よって

$$ |a_n-1|=\left|-\frac{1}{n+1}\right|=\frac{1}{n+1} $$

($n\ge1$ なら $n+1>0$ なので絶対値ははずせる.)$|a_n-1|\lt \varepsilon$ を解くと,

$$ \frac{1}{n+1}\lt \varepsilon \iff n+1>\frac{1}{\varepsilon} \iff n>\frac{1}{\varepsilon}-1 $$

(両辺とも正なので逆数を取ると大小が反転することを使った.)よって,自然数 $N$ を $N>\dfrac1\varepsilon-1$ を満たすようにとれば(たとえば $N=\left\lceil\dfrac1\varepsilon\right\rceil$),$n\ge N$ のとき $|a_n-1|\lt \varepsilon$ となる.以上より

$$ \forall\varepsilon>0,\ \exists N\in\N\ \text{s.t.}\ n\ge N\Rightarrow\left|\frac{n}{n+1}-1\right|\lt \varepsilon $$

が示されたので,$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{n}{n+1}=1$ である.

演習1.2 $\varepsilon$-$\delta$論法(III)の形で $\displaystyle\lim_{x\to1}(2x-1)=1$ を示せ

解答

$f(x)=2x-1$ とおく.$\forall\varepsilon>0$ に対して,$0\lt |x-1|\lt \delta\Rightarrow|f(x)-1|\lt \varepsilon$ となる $\delta>0$ が存在することを示す.まず $f(x)-1$ を計算する.

$$ f(x)-1=(2x-1)-1=2x-2=2(x-1) $$

(定数項をまとめてから $2$ をくくり出した.)よって

$$ |f(x)-1|=|2(x-1)|=2|x-1| $$

($|2(x-1)|=|2|\cdot|x-1|=2|x-1|$.)したがって,$|f(x)-1|\lt \varepsilon$ は

$$ 2|x-1|\lt \varepsilon \iff |x-1|\lt \frac{\varepsilon}{2} $$

と同値である(両辺を正の数 $2$ で割った).例題1.2のように $\delta\le1$ などの制限を設ける必要はなく,そのまま

$$ \delta=\frac{\varepsilon}{2} $$

ととれば,$0\lt |x-1|\lt \delta=\varepsilon/2$ のとき,$|f(x)-1|=2|x-1|\lt 2\cdot\dfrac{\varepsilon}{2}=\varepsilon$ となる.以上より

$$ \forall\varepsilon>0,\ \exists\delta=\frac{\varepsilon}{2}>0\ \text{s.t.}\ 0\lt |x-1|\lt \delta\Rightarrow|(2x-1)-1|\lt \varepsilon $$

が成り立ち,$\displaystyle\lim_{x\to1}(2x-1)=1$ が示された.

演習1.3 ダランベールの判定法で $\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\frac{n^2}{3^n}$ の収束を判定せよ

解答

$a_n=\dfrac{n^2}{3^n}$ とおく.

$$ \frac{a_{n+1}}{a_n}=\frac{(n+1)^2/3^{n+1}}{n^2/3^n}=\frac{(n+1)^2}{3^{n+1}}\cdot\frac{3^n}{n^2}=\frac{(n+1)^2}{3n^2} $$

(分数の割り算を掛け算に直し,$3^{n+1}/3^n=3$ を使って整理した.)よって

$$ r=\lim_{n\to\infty}\frac{a_{n+1}}{a_n}=\lim_{n\to\infty}\frac{(n+1)^2}{3n^2}=\lim_{n\to\infty}\frac{1}{3}\left(\frac{n+1}{n}\right)^2=\lim_{n\to\infty}\frac13\left(1+\frac1n\right)^2=\frac13\cdot1^2=\frac13 $$

(分子・分母を $n^2$ で割ってから $\left(1+\dfrac1n\right)^2\to1^2=1$($n\to\infty$)を使った.)$r=1/3\lt 1$ であるから,定理1.2(i)(ダランベールの判定法)より,$\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\frac{n^2}{3^n}$ は収束する.(実際に値を求めると $3/2$ になることが分かっている.)

演習1.4 はさみうちの原理で $\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{\lfloor nx\rfloor}{n}=x$ を示せ

解答

ガウス記号の定義より,$\lfloor nx\rfloor$ は「$nx$ を超えない最大の整数」だから,

$$ \lfloor nx\rfloor\le nx\lt \lfloor nx\rfloor+1 $$

が成り立つ.この不等式を,$\lfloor nx\rfloor$ を挟み込む形に整理する.左側の不等式 $\lfloor nx\rfloor\le nx$ はそのまま使える.右側の不等式 $nx\lt \lfloor nx\rfloor+1$ を $\lfloor nx\rfloor$ について解くと,$\lfloor nx\rfloor>nx-1$ となる.合わせると,

$$ nx-1\lt \lfloor nx\rfloor\le nx $$

である.これを正の数 $n$($n\ge1$)で割ると(不等号の向きは変わらない),

$$ x-\frac1n\lt \frac{\lfloor nx\rfloor}{n}\le x $$

を得る.そこで $x_n=x-\dfrac1n$,$a_n=\dfrac{\lfloor nx\rfloor}{n}$,$y_n=x$($n$ によらない定数列)とおく.$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac1n=0$ であるから(定義1.1より,$\left|\dfrac1n-0\right|=\dfrac1n\lt \varepsilon\iff n>1/\varepsilon$ で直ちに分かる),

$$ \lim_{n\to\infty}x_n=\lim_{n\to\infty}\left(x-\frac1n\right)=x-0=x,\qquad \lim_{n\to\infty}y_n=\lim_{n\to\infty}x=x $$

(定数列 $y_n=x$ の極限は $x$ 自身である.)$x_n\le a_n\le y_n$ と合わせて,定理1.3(はさみうちの原理)を適用すると,

$$ \lim_{n\to\infty}\frac{\lfloor nx\rfloor}{n}=x $$

が得られる.

演習1.5 ④式の応用:$\displaystyle\lim_{h\to0}\frac{e^{2h}-1}{h}$ を求めよ

解答

$u=2h$ とおく.$h\to0$ のとき $u\to0$ である.与式を $u$ を使って書き直すと,

$$ \frac{e^{2h}-1}{h}=\frac{e^{u}-1}{u/2}=2\cdot\frac{e^{u}-1}{u} $$

($h=u/2$ を使い,$1/(u/2)=2/u$ として $2$ を前に出した.)よって

$$ \lim_{h\to0}\frac{e^{2h}-1}{h}=\lim_{u\to0}2\cdot\frac{e^{u}-1}{u}=2\cdot\lim_{u\to0}\frac{e^{u}-1}{u}=2\cdot1=2 $$

(最後は本文④式 $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{e^x-1}{x}=1$ をそのまま使った.)よって答えは $2$ である.

演習1.6 $f(x)=\dfrac1x$ の導関数を定義式から求めよ

解答

定義1.5の導関数の定義式 $f'(x)=\displaystyle\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}$ に $f(x)=1/x$ を代入する.

$$ f'(x)=\lim_{h\to0}\frac1h\left(\frac{1}{x+h}-\frac1x\right) $$

まず括弧の中を通分する.

$$ \frac{1}{x+h}-\frac1x=\frac{x}{x(x+h)}-\frac{x+h}{x(x+h)}=\frac{x-(x+h)}{x(x+h)}=\frac{-h}{x(x+h)} $$

(通分してから分子を計算すると,$x-(x+h)=x-x-h=-h$ となる.)よって

$$ f'(x)=\lim_{h\to0}\frac1h\cdot\frac{-h}{x(x+h)}=\lim_{h\to0}\frac{-h}{h\cdot x(x+h)}=\lim_{h\to0}\frac{-1}{x(x+h)} $$

($h\neq0$(極限をとる手前)なので分子・分母を $h$ で約分できる.)最後に $h\to0$ の極限をとると,$x+h\to x$ だから,

$$ f'(x)=\frac{-1}{x(x+0)}=-\frac{1}{x^2} $$

となる.よって $f(x)=1/x$ の導関数は $f'(x)=-\dfrac{1}{x^2}$ である($x\neq0$).

第2章 関数の連続性・平均値の定理と双曲線関数

演習2.1 $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\tan2x}{\sin3x}$ を求める

解答

分子・分母をそれぞれ「$\dfrac{\tan kx}{kx}\cdot kx$」の形に分解する.2.1.1,2.1.2節で証明した基本極限 $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1,\ \lim_{x\to0}\frac{\tan x}{x}=1$ より,一般に $k\neq0$ の定数に対して $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\tan kx}{kx}=1,\ \lim_{x\to0}\frac{\sin kx}{kx}=1$ が成り立つ($u=kx$ と置換すればそのまま2.1.1,2.1.2の結果に帰着する).これを使うと,

$$ \frac{\tan2x}{\sin3x} = \frac{\dfrac{\tan2x}{2x}\cdot2x}{\dfrac{\sin3x}{3x}\cdot3x} = \frac{\dfrac{\tan2x}{2x}}{\dfrac{\sin3x}{3x}}\cdot\frac{2x}{3x} = \frac{\dfrac{\tan2x}{2x}}{\dfrac{\sin3x}{3x}}\cdot\frac23 $$

($\dfrac{2x}{3x}=\dfrac23$ と約分した.)$x\to0$ の極限をとると,

$$ \lim_{x\to0}\frac{\tan2x}{\sin3x} = \frac{\displaystyle\lim_{x\to0}\dfrac{\tan2x}{2x}}{\displaystyle\lim_{x\to0}\dfrac{\sin3x}{3x}}\cdot\frac23 = \frac{1}{1}\cdot\frac23 = \frac23 $$

(sympyで $\lim_{x\to0}\tan(2x)/\sin(3x)=2/3$ と直接検算済み.)よって $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\tan2x}{\sin3x}=\frac23$ である.

演習2.2 コーシーの平均値の定理:$f(x)=x^2,\ g(x)=x^3$,区間 $[1,2]$

解答

$f(x)=x^2,\ g(x)=x^3$ はともに多項式なので $[1,2]$ で連続,$(1,2)$ で微分可能である.$g'(x)=3x^2$ は $(1,2)$ で($x\neq0$ だから)$0$ にならず,$g(1)=1,\ g(2)=8$ より $g(1)\neq g(2)$ なので,コーシーの平均値の定理(定理2.3)の仮定はすべて満たされる.左辺を計算すると,

$$ \frac{f(2)-f(1)}{g(2)-g(1)} = \frac{4-1}{8-1} = \frac37 $$

一方,$f'(x)=2x,\ g'(x)=3x^2$ より $\dfrac{f'(c)}{g'(c)}=\dfrac{2c}{3c^2}=\dfrac{2}{3c}$($c\neq0$ なので約分できる)である.コーシーの平均値の定理より,これが左辺と等しくなる $c\in(1,2)$ が存在するはずだから,

$$ \frac{2}{3c} = \frac37 \quad\Longrightarrow\quad 14 = 9c \quad\Longrightarrow\quad c = \frac{14}{9} $$

$\dfrac{14}{9}\approx1.556$ はたしかに $1\lt \dfrac{14}{9}\lt 2$ を満たす.(sympyで左辺 $=3/7$ と,方程式 $2/(3c)=3/7$ の解 $c=14/9$ が区間 $(1,2)$ 内にあることを検算済み.)よって $c=\dfrac{14}{9}$ である.

演習2.3 ロピタルの定理:$\displaystyle\lim_{x\to\infty}\frac{\ln x}{x}$

解答

$x\to\infty$ のとき,分子 $\ln x\to\infty$,分母 $x\to\infty$ となるので,$\dfrac{\infty}{\infty}$ 型の不定形であり,定理2.4(II)が適用できる.$f(x)=\ln x,\ g(x)=x$ とおくと,$f'(x)=\dfrac1x,\ g'(x)=1$ であるから,

$$ \lim_{x\to\infty}\frac{\ln x}{x} = \lim_{x\to\infty}\frac{f'(x)}{g'(x)} = \lim_{x\to\infty}\frac{1/x}{1} = \lim_{x\to\infty}\frac1x = 0 $$

($x\to\infty$ のとき $\dfrac1x\to0$ であることを使った.これは高校でも学んだ基本的な極限である.)(sympyで $\lim_{x\to\infty}\ln x/x=0$ と検算済み.)よって $\displaystyle\lim_{x\to\infty}\frac{\ln x}{x}=0$ である.(この結果は「$x$ は $\ln x$ よりもずっと速く無限大に発散する」ということを意味しており,第4章以降でもたびたび使う重要な事実である.)

演習2.4 $\tanh(\alpha+\beta)$ の加法定理から $\tanh2\alpha$ を導く

解答

双曲線関数の加法定理(第2章の式)

$$ \tanh(\alpha+\beta) = \frac{\tanh\alpha+\tanh\beta}{1+\tanh\alpha\tanh\beta} $$

に,$\beta=\alpha$ を代入する.左辺は $\tanh(\alpha+\alpha)=\tanh2\alpha$ となり,右辺は $\tanh\alpha+\tanh\alpha=2\tanh\alpha$(分子),$\tanh\alpha\cdot\tanh\alpha=\tanh^2\alpha$(分母の積の部分)となるから,

$$ \tanh2\alpha = \frac{\tanh\alpha+\tanh\alpha}{1+\tanh\alpha\cdot\tanh\alpha} = \frac{2\tanh\alpha}{1+\tanh^2\alpha} $$

(sympyで,指数関数の定義に戻した $\tanh2\alpha$ と,右辺 $\dfrac{2\tanh\alpha}{1+\tanh^2\alpha}$ の差が恒等的に $0$ に簡約されることを検算済み.)よって $\tanh2\alpha=\dfrac{2\tanh\alpha}{1+\tanh^2\alpha}$ が示された.(三角関数の2倍角公式 $\tan2\theta=\dfrac{2\tan\theta}{1-\tan^2\theta}$ と比べると,分母の符号が $-$ から $+$ に変わっている点だけが異なる——2.5.3節で見た「符号がすべて $+$ になる」現象がここにも表れている.)

演習2.5 $\tanh^2x+\dfrac1{\cosh^2x}=1$ を示す

解答

双曲線関数の基本恒等式(第2章の式)$\cosh^2x-\sinh^2x=1$ の両辺を,$\cosh^2x$($\cosh x$ は常に正なので $\cosh^2x>0$,割ってよい)で割ると,

$$ \frac{\cosh^2x}{\cosh^2x} - \frac{\sinh^2x}{\cosh^2x} = \frac{1}{\cosh^2x} \quad\Longrightarrow\quad 1 - \left(\frac{\sinh x}{\cosh x}\right)^2 = \frac{1}{\cosh^2x} $$

ここで,定義2.2より $\dfrac{\sinh x}{\cosh x}=\tanh x$ だから,$\left(\dfrac{\sinh x}{\cosh x}\right)^2=\tanh^2x$ である.これを代入すると,

$$ 1 - \tanh^2x = \frac1{\cosh^2x} $$

両辺に $\tanh^2x$ を移項すると,

$$ 1 = \tanh^2x + \frac1{\cosh^2x} \quad\therefore\ \tanh^2x+\frac1{\cosh^2x}=1 $$

(sympyで,指数関数の定義に戻して $\tanh^2x+1/\cosh^2x-1$ が恒等的に $0$ に簡約されることを検算済み.)これは,三角関数の恒等式 $\tan^2x+1=\dfrac1{\cos^2x}$($\sin^2x+\cos^2x=1$ の両辺を $\cos^2x$ で割って得られる)に対応する双曲線関数版であり,符号がすべて $+$ になっている点だけが違う.

演習2.6 $y=\tanh^{-1}x$ のグラフの概形を選点法で描く

解答

定理2.9の式 $\tanh^{-1}x=\dfrac12\ln\!\left(\dfrac{1+x}{1-x}\right)$ に,指定された $x$ の値を代入して計算する.

$$ \begin{array}{c|ccccc} x & -0.9 & -0.5 & 0 & 0.5 & 0.9 \\\hline \tanh^{-1}x & -1.4722 & -0.5493 & 0 & 0.5493 & 1.4722 \end{array} $$

(たとえば $x=0.9$ のとき,$\tanh^{-1}(0.9)=\dfrac12\ln\!\left(\dfrac{1.9}{0.1}\right)=\dfrac12\ln(19)\approx\dfrac12\times2.9444\approx1.4722$.sympyで5つの値すべてを検算済み.)これらの点を $xy$ 平面上にプロットすると,原点に関して点対称(奇関数:$\tanh^{-1}(-x)=-\tanh^{-1}(x)$,これは $\ln\dfrac{1-x}{1+x}=-\ln\dfrac{1+x}{1-x}$ からわかる)であり,$x$ が $0$ から離れるにつれて $y$ の値の増え方がどんどん急になっていく,単調増加のグラフになる.

$x\to1^-$ のときの挙動を式から調べると,$\dfrac{1+x}{1-x}$ の分子 $1+x\to2$(有限),分母 $1-x\to0^+$ なので,$\dfrac{1+x}{1-x}\to+\infty$ である.したがって $\ln\!\left(\dfrac{1+x}{1-x}\right)\to+\infty$ となり,$\tanh^{-1}x\to+\infty$(グラフは $x=1$ で垂直漸近線を持つように,上に向かって際限なく伸びていく).同様に,$x\to-1^+$ のときは $\dfrac{1+x}{1-x}\to\dfrac{0^+}{2}=0^+$ なので,$\ln(\cdots)\to-\infty$ となり,$\tanh^{-1}x\to-\infty$($x=-1$ で下に向かって際限なく伸びる).

これは,$\tanh^{-1}x$ が $\tanh x$(図2.6,値域 $(-1,1)$ で水平漸近線 $y=\pm1$ を持つ)の逆関数であることと整合する——逆関数のグラフは,もとの関数のグラフを直線 $y=x$ に関して折り返した形になるので,$\tanh x$ の水平漸近線 $x\to\pm\infty$ で $y\to\pm1$ は,$\tanh^{-1}x$ では垂直漸近線 $x\to\pm1$ で $y\to\pm\infty$ に変わる.(sympyで $x=-0.9,\ldots,0.9$ の5点の数値と,$x\to1^-,x\to-1^+$ の極限がそれぞれ $+\infty,-\infty$ に発散することを確認済み.)

第3章 初等関数の導関数

演習3.1 $y=x^3\log_ex$ の導関数

解答

$f(x)=x^3$,$g(x)=\log_ex$ とおくと,$y=f(x)g(x)$($x>0$)である.$f'(x)=3x^2$(高校既習のべき関数の微分),$g'(x)=\dfrac1x$(公式3.5)だから,積の微分公式(公式3.3)より,

$$ y'=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)=3x^2\log_ex+x^3\cdot\frac1x=3x^2\log_ex+x^2 $$

最後の項は $x^3\cdot\dfrac1x=x^2$ と約分した.$x^2$ が共通因数なので,くくり出して

$$ y'=x^2(3\log_ex+1) $$

とまとめてもよい.(sympyで検算:$\dfrac{d}{dx}(x^3\ln x)=3x^2\ln x+x^2$,展開すれば同じ式に一致.)

演習3.2 $y=\dfrac{e^x}{\cos x}$ の導関数

解答

$f(x)=e^x$,$g(x)=\cos x$ とおくと,$y=f(x)/g(x)$ である.$f'(x)=e^x$(公式3.1),$g'(x)=-\sin x$(公式3.10)だから,商の微分公式(公式3.4)より,

$$ y'=\frac{f'(x)g(x)-f(x)g'(x)}{g(x)^2}=\frac{e^x\cos x-e^x\cdot(-\sin x)}{\cos^2x}=\frac{e^x\cos x+e^x\sin x}{\cos^2x} $$

分子で $e^x$ をくくり出すと,

$$ y'=\frac{e^x(\cos x+\sin x)}{\cos^2x} $$

を得る(定義域は $\cos x\neq0$,すなわち $x\neq\frac\pi2+n\pi$.sympyで検算済み:$\dfrac{d}{dx}(e^x/\cos x)=\sqrt2\,e^x\sin(x+\pi/4)/\cos^2x$ という同値な形も得られ,$\sqrt2\sin(x+\pi/4)=\sin x+\cos x$(三角関数の合成,高校既習)を使えば一致することを確認した).

演習3.3 $y=\log_2(x^2+1)$ の導関数

解答

底の変換公式(高校既習)$\log_2X=\dfrac{\log_eX}{\log_e2}$ を使って,$y=\dfrac{1}{\log_e2}\cdot\log_e(x^2+1)$ と書き直す.$\dfrac{1}{\log_e2}$ は定数なので,公式3.7($f(x)=x^2+1$,$f'(x)=2x$)より,

$$ y'=\frac{1}{\log_e2}\cdot\frac{d}{dx}\log_e(x^2+1)=\frac{1}{\log_e2}\cdot\frac{2x}{x^2+1}=\frac{2x}{(x^2+1)\log_e2} $$

を得る(定義域はすべての実数.sympyで検算済み).

演習3.4 $y=\sinh^{-1}(3x)$ の導関数

解答

$u=3x$ とおくと $y=\sinh^{-1}u$ である.合成関数の微分より,

$$ \frac{dy}{dx}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx}=\frac{1}{\sqrt{u^2+1}}\cdot3 $$

(公式3.15,$\dfrac{du}{dx}=3$).$u=3x$ を代入すると,

$$ y'=\frac{3}{\sqrt{9x^2+1}} $$

を得る($\sinh^{-1}$ はすべての実数で定義されるので,定義域もすべての実数.sympyで検算済み).

演習3.5 $y=\tan^{-1}\dfrac1x$ の導関数

解答

$u=\dfrac1x$($x\neq0$)とおくと $y=\tan^{-1}u$ である.合成関数の微分より,

$$ \frac{dy}{dx}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx}=\frac{1}{u^2+1}\cdot\left(-\frac{1}{x^2}\right) $$

(公式3.20,$\dfrac{du}{dx}=-\dfrac{1}{x^2}$,高校既習のべき関数の微分 $\left(x^{-1}\right)'=-x^{-2}$).$u=\dfrac1x$ を代入すると,$u^2+1=\dfrac{1}{x^2}+1=\dfrac{1+x^2}{x^2}$ なので,

$$ y'=\frac{1}{\dfrac{1+x^2}{x^2}}\times\left(-\frac{1}{x^2}\right)=\frac{x^2}{1+x^2}\times\left(-\frac{1}{x^2}\right)=-\frac{1}{x^2+1} $$

を得る($x^2$ が約分されて消えることに注意.定義域は $x\neq0$.なお,$\tan^{-1}(1/x)$ は $x\gt0$ の範囲では $\dfrac\pi2-\tan^{-1}x$ に等しいことが知られており(互いに余角の関係),実際 $\dfrac{d}{dx}\left(\dfrac\pi2-\tan^{-1}x\right)=-\dfrac{1}{x^2+1}$ となって同じ答えが得られる——2通りの計算が一致することも確認できる.sympyで検算済み).

演習3.6 $\dfrac{d}{dx}x^{\sin x}$(対数微分法)

解答

$y=x^{\sin x}$($x>0$)とおく.例題3.5($x^x$)とまったく同じ手順で対数微分法を使う.両辺の自然対数をとると,

$$ \log_ey=\log_e\left(x^{\sin x}\right)=\sin x\cdot\log_ex $$

(対数の性質 $\log_e(A^B)=B\log_eA$ を使った).両辺を $x$ で微分する.左辺は合成関数の微分でいつもどおり $\dfrac1y\cdot\dfrac{dy}{dx}$.右辺は積の微分公式(公式3.3,$f(x)=\sin x$,$g(x)=\log_ex$)を使う.

$$ \frac1y\cdot\frac{dy}{dx}=\frac{d}{dx}(\sin x\cdot\log_ex)=\cos x\cdot\log_ex+\sin x\cdot\frac1x $$

両辺に $y$ をかけて $y=x^{\sin x}$ を代入すると,

$$ \frac{dy}{dx}=x^{\sin x}\left(\cos x\cdot\log_ex+\frac{\sin x}{x}\right) $$

を得る(sympyで検算済み:$\dfrac{d}{dx}x^{\sin x}=x^{\sin x-1}(x\log_ex\cos x+\sin x)$ という同値な形も得られ,$x^{\sin x}/x=x^{\sin x-1}$ でくくり方が違うだけであることを確認した).

第4章 テイラーの定理と関数の展開

演習4.1 $\sin(0.1)$ の1次近似と誤差評価

解答

$f(x)=\sin x$ とおく.$f(0)=\sin0=0$,$f'(x)=\cos x$ より $f'(0)=\cos0=1$.定理4.1($n=1$,$a=0$,$X=x$)より,

$$ \sin x = f(0)+f'(0)x+R_2 = x+R_2,\qquad R_2=\frac{f''(c)}{2!}x^2=\frac{-\sin c}{2}x^2\quad(0 \lt c \lt x) $$

($f''(x)=-\sin x$ を使った).よって1次近似は $\sin x\fallingdotseq x$ であり,$x=0.1$ を代入すると近似値は

$$ \sin(0.1)\fallingdotseq 0.1 $$

である.誤差の上限は,$|\sin c|\le1$(正弦の値は常に$-1$以上$1$以下)が任意の $c$ で成り立つことから,

$$ |R_2| = \frac{|\sin c|}{2}\times(0.1)^2 \le \frac{1}{2}\times0.01 = 0.005 $$

と評価できる.実際に $\sin(0.1)=0.0998334166\ldots$ なので,真の誤差は

$$ \sin(0.1)-0.1 = 0.0998334\ldots-0.1 = -0.0001666\ldots $$

であり,絶対値 $0.0001666\ldots$ はたしかに上限 $0.005$ より小さい(誤差が負であるのは,$0 \lt c \lt 0.1$ で $\sin c \gt 0$ となり $R_2=-\frac{\sin c}{2}x^2 \lt 0$ になるためで,符号まで理論と一致している).(sympyで検算:近似値 $0.1$,真値 $0.0998334166468282$,誤差 $-0.0001666\ldots$,上限 $0.005$.)

演習4.2 $\sinh x$ のマクローリン展開

解答

4.2節の $e^x$ のマクローリン展開 $e^x=1+x+\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^3}{3!}+\dfrac{x^4}{4!}+\cdots$ より,この式に $x\to-x$ を代入すると,$(-x)^n=(-1)^n x^n$ に注意して,

$$ e^{-x} = 1-x+\frac{x^2}{2!}-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}-\cdots $$

を得る(偶数次の項は符号が変わらず,奇数次の項だけ符号が反転する).第2章の定義 $\sinh x=\dfrac{e^x-e^{-x}}{2}$ を使い,$e^x$ から $e^{-x}$ を引くと,

$$ e^x-e^{-x} = \left(1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\frac{x^5}{5!}+\cdots\right)-\left(1-x+\frac{x^2}{2!}-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^5}{5!}+\cdots\right) $$

偶数次の項($1,\dfrac{x^2}{2!},\dfrac{x^4}{4!},\ldots$)は両方の展開で符号が同じなので引き算で打ち消し合って消え,奇数次の項($x,\dfrac{x^3}{3!},\dfrac{x^5}{5!},\ldots$)は符号が逆なので引き算で2倍になって残る.

$$ e^x-e^{-x} = 2\left(x+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}+\frac{x^7}{7!}+\cdots\right) $$

両辺を2で割れば,

$$ \sinh x = \frac{e^x-e^{-x}}{2} = x+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}+\frac{x^7}{7!}+\cdots = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!} $$

を得る.($\cos x,\sin x$ の展開と比べると,符号がすべて $+$ になっている点だけが異なることが分かる——これは双曲線関数と三角関数の類似性の現れである.sympyの $\mathrm{series}$ で,$\sinh x$ の展開と $(e^x-e^{-x})/2$ の展開が一致することを検算済み.)

演習4.3 $\cos(0.2)$ の5次近似と誤差評価

解答

4.2節の $\cos x$ のマクローリン展開より,5次まで($\cos x$ の展開に奇数次の項はないので,実質は4次までの $P_4(x)=1-\dfrac{x^2}{2}+\dfrac{x^4}{24}$ と同じ多項式になる)の近似多項式は

$$ P_4(x) = 1-\frac{x^2}{2}+\frac{x^4}{24} $$

である.$x=0.2$ を代入すると,

$$ P_4(0.2) = 1-\frac{0.04}{2}+\frac{0.0016}{24} = 1-0.02+0.0000667\ldots = 0.9800667\ldots $$

実際の値は $\cos(0.2)=0.9800665778\ldots$ なので,真の誤差は

$$ \cos(0.2)-P_4(0.2) = 0.9800665778\ldots-0.9800666667\ldots = -0.0000000889\ldots\ (\approx-8.9\times10^{-8}) $$

である.誤差の大きさは,次の項($\cos x$ の展開の $x^6$ の項,符号は$-$,係数 $1/6!=1/720$)のオーダーで見積もれ,

$$ \frac{x^6}{6!}\bigg|_{x=0.2} = \frac{0.2^6}{720} = \frac{0.000064}{720} \approx 8.9\times10^{-8} $$

となり,実際の誤差の大きさとぴったり一致する(次数を1つ上げるごとに誤差が2桁近く小さくなることが実感できる).(sympyで検算:$P_4(0.2)=0.9800666667$,真値 $0.9800665778$,誤差の大きさ $8.9\times10^{-8}$.)

演習4.4 $\cos x$ の4階導関数

解答

公式4.2($\cos x$ の $n$ 階導関数 $\frac{d^n}{dx^n}\cos x=\cos(x+n\pi/2)$)に $n=4$ を代入すると,

$$ \frac{d^4}{dx^4}(\cos x) = \cos\left(x+\frac{4\pi}{2}\right) = \cos(x+2\pi) $$

$\cos$ は周期 $2\pi$ の関数だから,$\cos(x+2\pi)=\cos x$ である.したがって

$$ \frac{d^4}{dx^4}(\cos x) = \cos x $$

を得る.($\cos x\to-\sin x\to-\cos x\to\sin x\to\cos x$ と4階微分するごとに元に戻ることからも確認できる.sympyで直接4回微分した結果が $\cos x$ に一致することを検算済み.)

演習4.5 ライプニッツの公式で $(x^3e^x)^{(4)}$ を求める

解答

$f(x)=x^3$,$g(x)=e^x$ とおく.$f$ の導関数は

$$ f=x^3,\quad f'=3x^2,\quad f''=6x,\quad f'''=6,\quad f^{(4)}=0 $$

(4階微分で $0$ になることに注意),$g$ は指数関数なので何回微分しても $e^x$ のままである.

$$ g=g'=g''=g'''=g^{(4)}=e^x $$

公式4.3($n=4$)より,${}_4C_0,\ldots,{}_4C_4=1,4,6,4,1$ を使って,

$$ (fg)^{(4)} = {}_4C_0\,f\,g^{(4)}+{}_4C_1\,f'g'''+{}_4C_2\,f''g''+{}_4C_3\,f'''g'+{}_4C_4\,f^{(4)}g $$ $$ = 1\cdot x^3\cdot e^x + 4\cdot3x^2\cdot e^x + 6\cdot6x\cdot e^x + 4\cdot6\cdot e^x + 1\cdot0\cdot e^x $$ $$ = x^3e^x+12x^2e^x+36xe^x+24e^x $$

(最後の項は $f^{(4)}=0$ なので消える).$e^x$ でくくると,

$$ (x^3e^x)^{(4)} = e^x\left(x^3+12x^2+36x+24\right) $$

を得る.(sympyで直接4回微分した結果と一致することを検算済み.)

演習4.6 $f(x)=x^5-5x$ の極値

解答

1階導関数を求め因数分解すると,

$$ f'(x)=5x^4-5=5(x^4-1)=5(x^2-1)(x^2+1)=5(x-1)(x+1)(x^2+1) $$

$x^2+1$ は実数の範囲で常に正($\ge1$)なので実数解をもたない.したがって $f'(x)=0$ の実数解は $x=1,-1$ の2つの臨界点だけである.高階導関数を求めると,

$$ f''(x)=20x^3 $$

(i) $x=1$ のとき.$f'(1)=0$(前提),$f''(1)=20\ (\neq0)$.「$f^{(n)}(1)\neq0$ となる最小の $n$」は $n=2$(偶数),かつ $f''(1)=20 \gt 0$ だから,定理4.2(i)より $x=1$ で極小.極小値は

$$ f(1)=1^5-5\cdot1=1-5=-4 $$

(ii) $x=-1$ のとき.$f'(-1)=0$(前提),$f''(-1)=20\times(-1)^3=-20\ (\neq0)$.最小の $n$ は $n=2$(偶数),かつ $f''(-1)=-20 \lt 0$ だから,定理4.2(i)より $x=-1$ で極大.極大値は

$$ f(-1)=(-1)^5-5\times(-1)=-1+5=4 $$

したがって,$f(x)=x^5-5x$ は $x=-1$ で極大値 $4$,$x=1$ で極小値 $-4$ をとる.(sympyで $f'(x)=0$ の全解が $x=\pm1$ と虚数解2つであること,$f''(\pm1)=\pm20$ であることを検算済み.)

演習4.7 $\displaystyle\lim_{x\to+0}x^{2x}$ を求める

解答

4.3節の証明(ロピタルの定理を使う方法)と同じ考え方を使う.$x^{2x}=e^{2x\ln x}$ と書き直せる(両辺の対数を取れば $\ln(x^{2x})=2x\ln x$ で確かに一致する).したがって

$$ \lim_{x\to+0}x^{2x} = \lim_{x\to+0}e^{2x\ln x} $$

であり,$e^{(\cdot)}$ は連続だから,指数部分 $2x\ln x$ の極限を求めればよい.$x\ln x$ の極限は4.3節の別解ですでに求めた:

$$ \lim_{x\to+0}x\ln x = \lim_{x\to+0}\frac{\ln x}{1/x} = \lim_{x\to+0}\frac{1/x}{-1/x^2}\ (\text{ロピタルの定理}) = \lim_{x\to+0}(-x) = 0 $$

したがって $2x\ln x=2\times(x\ln x)\to2\times0=0$(定数倍しても極限は定数倍される).よって

$$ \lim_{x\to+0}x^{2x} = \lim_{x\to+0}e^{2x\ln x} = e^0 = 1 $$

を得る.(4.3節で見たとおり,テイラー展開だけからは下からの評価を初等的に作れないため,ここでもロピタルの定理による証明が本質的である.sympyの $\mathrm{limit}$ で検算:$\lim_{x\to0^+}x^{2x}=1$.)

第5章 積分の基本公式と定積分の性質

演習5.1 $\displaystyle\int\frac{1}{x^2-a^2}\,dx$($a\neq0$)を求めよ

解答

分母を因数分解すると,和と差の積の公式より $x^2-a^2=(x-a)(x+a)$ となる.部分分数分解のため,定数 $A,B$ を用いて

$$ \frac{1}{(x-a)(x+a)}=\frac{A}{x-a}+\frac{B}{x+a} $$

とおく.右辺を通分すると $\dfrac{A(x+a)+B(x-a)}{(x-a)(x+a)}$ となるので,分子どうしを比較して,すべての $x$ について

$$ 1=A(x+a)+B(x-a) $$

が成り立つ.$x=a$ を代入すると $1=A\cdot2a$ より $A=\dfrac{1}{2a}$,$x=-a$ を代入すると $1=B\cdot(-2a)$ より $B=-\dfrac{1}{2a}$ を得る(ここで $a\neq0$ という条件が本質的に使われている——$a=0$ だと $2a=0$ で割ることになり,この計算自体が成り立たない).したがって,

$$ \frac{1}{x^2-a^2}=\frac{1}{2a}\left(\frac{1}{x-a}-\frac{1}{x+a}\right) $$

と書き直せる.5.1節の「数学ノート:公式5.1の一般化」($g(x)\neq0$ のとき $\displaystyle\int\frac{g'(x)}{g(x)}\,dx=\ln|g(x)|+C$)を,$g(x)=x-a$ と $g(x)=x+a$(どちらも $g'(x)=1$ になる1次式)のそれぞれに適用すると,

$$ \int\frac{1}{x-a}\,dx=\ln|x-a|+C_1,\qquad \int\frac{1}{x+a}\,dx=\ln|x+a|+C_2 $$

を得る.これらを $\dfrac1{2a}$ 倍して引き算すれば(積分定数はまとめて $C$ とおく),

$$ \int\frac{1}{x^2-a^2}\,dx=\frac{1}{2a}\Bigl(\ln|x-a|-\ln|x+a|\Bigr)+C=\frac{1}{2a}\ln\left|\frac{x-a}{x+a}\right|+C $$

を得る(最後の等号は,対数法則 $\ln P-\ln Q=\ln(P/Q)$ による).(sympyで検算:$\displaystyle\int\frac{1}{x^2-a^2}\,dx=\frac{\ln(x-a)}{2a}-\frac{\ln(x+a)}{2a}$ を微分すると被積分関数に一致することを確認済み.)

演習5.2 $\displaystyle\int_0^1\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\,dx$ を求めよ

解答

被積分関数 $\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}}$ は,$x\to1-0$ のとき分母 $\sqrt{1-x^2}\to0$ となって発散する($-1\lt x\lt 1$ でしか公式5.6の前提が満たされない).したがって,この定積分は通常の定積分ではなく,定義5.2(I)の形の広義積分として扱う必要がある——ちょうど例題5.9と同じ状況である.$0\lt c\lt 1$ として,まず安全な範囲 $[0,c]$ で通常の積分を計算する.公式5.6($\displaystyle\int\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\,dx=\sin^{-1}x+C$)より,

$$ \int_0^{c}\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\,dx=\Bigl[\sin^{-1}x\Bigr]_0^{c}=\sin^{-1}c-\sin^{-1}0=\sin^{-1}c $$

(逆正弦関数の定義より $\sin^{-1}0=0$ を使った).あとは $c\to1-0$ の極限をとればよい.逆正弦関数 $\sin^{-1}x$ は閉区間 $[-1,1]$ で連続な関数であり,とくに右端の $x=1$ でも連続で,$\sin^{-1}1=\dfrac{\pi}{2}$($-\dfrac{\pi}2\le\theta\le\dfrac{\pi}2$ の範囲で正弦の値が $1$ になる角は $\theta=\dfrac{\pi}2$ だけ)である.したがって,

$$ \int_0^1\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\,dx=\lim_{c\to1-0}\sin^{-1}c=\sin^{-1}1=\frac{\pi}{2} $$

を得る(sympyで検算:$\displaystyle\int_0^1\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\,dx=\frac{\pi}{2}$,一致).この広義積分は収束し,値は $\dfrac{\pi}{2}$ である.被積分関数のグラフが $x=1$ の手前で無限に高くなっているにもかかわらず,その下の面積は有限の値に収まることに注意してほしい.

演習5.3 シュワルツの不等式の具体例による確認

解答

$f(x)=x$,$g(x)=1$(定数関数)を,定理5.3のシュワルツの不等式 $\left\{\displaystyle\int_a^b f(x)g(x)\,dx\right\}^2\le\displaystyle\int_a^b f^2(x)\,dx\cdot\int_a^b g^2(x)\,dx$ の $[a,b]=[0,1]$ の場合に代入し,両辺を実際に計算して比較する.

まず左辺の中身($fg$ の積分)を計算する.

$$ \int_0^1 f(x)g(x)\,dx=\int_0^1 x\cdot1\,dx=\left[\frac{x^2}{2}\right]_0^1=\frac12-0=\frac12 $$

したがって左辺は $\left(\dfrac12\right)^2=\dfrac14$ である.次に右辺の2つの積分をそれぞれ計算する.

$$ \int_0^1 f^2(x)\,dx=\int_0^1 x^2\,dx=\left[\frac{x^3}{3}\right]_0^1=\frac13,\qquad \int_0^1 g^2(x)\,dx=\int_0^1 1^2\,dx=\int_0^1 1\,dx=\Bigl[x\Bigr]_0^1=1 $$

したがって右辺は $\dfrac13\times1=\dfrac13$ である.左辺と右辺を比較すると,

$$ \frac14\ \overset{?}{\le}\ \frac13 $$

を確かめればよい.通分すると $\dfrac{3}{12}\le\dfrac{4}{12}$ となり,たしかに成り立つ.よって,シュワルツの不等式 $\dfrac14\le\dfrac13$ が,具体的な関数 $f(x)=x,\ g(x)=1$ に対して実際に成り立つことが数値で確認できた(等号ではなく真の不等号 $\lt$ になっているのは,定理5.3の証明で使った2次式が恒等的に $0$ にならない場合——$f$ と $g$ が互いの定数倍になっていない,つまり比例していない場合——にあたる).(sympyで検算:左辺 $=1/4$,右辺 $=1/3$,たしかに $1/4\lt1/3$.)

演習5.4 $\displaystyle\int_0^1\ln x\,dx$ を広義積分として求めよ

解答

被積分関数 $\ln x$ は,$x\to+0$ のとき $\ln x\to-\infty$ となって発散するので,定義5.2(II)の形の広義積分として扱う.$0\lt c\lt 1$ として,まず原始関数を求める.ヒントにあるとおり,$u=\ln x,\ v'=1$ とおくと $u'=\dfrac1x,\ v=x$ であり,部分積分の公式(高校数学既習)$\displaystyle\int uv'\,dx=uv-\int u'v\,dx$ より,

$$ \int\ln x\,dx=x\ln x-\int\frac1x\cdot x\,dx=x\ln x-\int1\,dx=x\ln x-x+C $$

(途中,$\dfrac1x\times x=1$ という約分を使った).この原始関数を使って定積分を計算すると,

$$ \int_c^1\ln x\,dx=\Bigl[x\ln x-x\Bigr]_c^1=(1\cdot\ln1-1)-(c\ln c-c)=(0-1)-c\ln c+c=-1-c\ln c+c $$

($\ln1=0$ を使った).あとは $c\to+0$ の極限をとる.第4章4.3節(ロピタルの定理を使った極限計算の例)ですでに示したのと同じ考え方で,

$$ \lim_{c\to+0}c\ln c=\lim_{c\to+0}\frac{\ln c}{1/c}=\lim_{c\to+0}\frac{(\ln c)'}{(1/c)'}=\lim_{c\to+0}\frac{1/c}{-1/c^2}\ (\text{ロピタルの定理})=\lim_{c\to+0}(-c)=0 $$

である($0\times(-\infty)$ の不定形を,商 $\dfrac{-\infty}{\infty}$ の形に書き換えてロピタルの定理を適用した).また,$c\to+0$ とは「$c$ が正の値をとりながら $0$ に近づく」ことなので,そのまま $c\to0$ でもある(極限の値を考えるうえでは正負の別は関係ない).したがって,

$$ \int_0^1\ln x\,dx=\lim_{c\to+0}\left(-1-c\ln c+c\right)=-1-0+0=-1 $$

を得る(sympyで検算:$\displaystyle\lim_{c\to+0}c\ln c=0$,および $\displaystyle\int_0^1\ln x\,dx=-1$ と直接計算した結果とも一致).この広義積分は収束し,値は $-1$ である.グラフでは $y=\ln x$ が $x\to+0$ で $-\infty$ に発散し,かつ $0\lt x\lt 1$ では $\ln x\lt 0$($x$ 軸の下側)なので,「$x$ 軸の下側の符号つき面積」が有限の値 $-1$ に収まる,という興味深い例になっている.

演習5.5 $\displaystyle\int_1^{\infty}\frac{1}{x^p}\,dx$ が収束する $p$ の範囲を求めよ

解答

例題5.8では $p=1$ と $p=2$ の場合だけを調べたが,ここでは一般の実数 $p$ について,$\displaystyle\int_1^{\infty}\frac1{x^p}\,dx$(定義5.3(II)の形の無限積分)の収束・発散を調べる.場合分けの境目は,$x^{-p}$ の原始関数の形が変わる $p=1$ である.

(i) $p\neq1$ のとき.べき関数の積分公式(指数を1増やして,増えた後の指数で割る)より,$x^{-p}$ の原始関数は $\dfrac{x^{1-p}}{1-p}$ である.$c>1$ として,

$$ \int_1^{c}\frac{1}{x^p}\,dx=\left[\frac{x^{1-p}}{1-p}\right]_1^{c}=\frac{c^{1-p}-1^{1-p}}{1-p}=\frac{c^{1-p}-1}{1-p} $$

この式の $c\to\infty$ での極限は,指数部分 $c^{1-p}$ の挙動だけで決まる.

 (i-a) $p\gt1$ のとき.指数 $1-p\lt0$ なので $c^{1-p}=\dfrac{1}{c^{\,p-1}}$ と書け,$c\to\infty$ のとき分母 $c^{p-1}\to\infty$ だから $c^{1-p}\to0$.したがって,

$$ \int_1^{\infty}\frac{1}{x^p}\,dx=\lim_{c\to\infty}\frac{c^{1-p}-1}{1-p}=\frac{0-1}{1-p}=\frac{-1}{1-p}=\frac{1}{p-1}\qquad(\text{収束}) $$

 (i-b) $p\lt1$ のとき.指数 $1-p\gt0$ なので $c\to\infty$ のとき $c^{1-p}\to\infty$.よって $\dfrac{c^{1-p}-1}{1-p}\to\infty$($1-p\gt0$ なので割り算で符号は変わらない)となり,発散する.

(ii) $p=1$ のとき.これはまさに例題5.8で調べた $f(x)=1/x$ の場合そのものであり,

$$ \int_1^{\infty}\frac{1}{x}\,dx=\lim_{c\to\infty}\ln c=\infty\qquad(\text{発散}) $$

である.(i-b)と(ii)を合わせると,$p\le1$ のときはつねに発散することがわかる.以上をまとめると,

$$ \int_1^{\infty}\frac{1}{x^p}\,dx\ \text{は}\ \begin{cases}p\gt1\ \text{のとき収束し,値は}\ \dfrac{1}{p-1}\\[4pt] p\le1\ \text{のとき発散する}\end{cases} $$

という結果を得る.この結果は,のちに無限級数 $\displaystyle\sum_{n=1}^\infty\frac1{n^p}$($p$ 級数)の収束・発散を調べるときに,積分による判定法の基準としてふたたび使われる重要な結果である.(sympyで検算:$p=1/2,1$ で発散,$p=3/2,2,3$ ではそれぞれ極限値 $2,1,1/2$ となり,公式 $\dfrac1{p-1}$($p=3/2$ なら $2$,$p=2$ なら $1$,$p=3$ なら $1/2$)とすべて一致.)

演習5.6 $y=\sin x$($0\le x\le\pi$)を $x$ 軸のまわりに回転してできる立体の体積

解答

区間 $0\le x\le\pi$ で $\sin x\ge0$(両端 $x=0,\pi$ でも $\sin x=0\ge0$)なので,公式5.15($x$ 軸まわりの回転体の体積 $V=\pi\displaystyle\int_a^b f^2(x)\,dx$,ただし $f\ge0$)がそのまま使える.$f(x)=\sin x$,$a=0,\ b=\pi$ を代入すると,

$$ V=\pi\int_0^{\pi}\sin^2x\,dx $$

ヒントにあるとおり,倍角公式 $\cos2x=1-2\sin^2x$ を $\sin^2x$ について解いた形,$\sin^2x=\dfrac{1-\cos2x}{2}$(高校数学既習)を使って,被積分関数を積分しやすい形に直す.

$$ V=\pi\int_0^{\pi}\frac{1-\cos2x}{2}\,dx=\frac{\pi}{2}\int_0^{\pi}(1-\cos2x)\,dx=\frac{\pi}{2}\left[x-\frac{\sin2x}{2}\right]_0^{\pi} $$

上端 $x=\pi$ を代入すると,$\sin2\pi=0$ より $\pi-\dfrac{0}{2}=\pi$.下端 $x=0$ を代入すると,$\sin0=0$ より $0-\dfrac{0}{2}=0$.したがって,

$$ V=\frac{\pi}{2}(\pi-0)=\frac{\pi^2}{2} $$

を得る(sympyで検算:$V=\pi^2/2$,一致).$y=\sin x$($0\le x\le\pi$)の1山分のグラフを $x$ 軸のまわりに回転させると,中央がふくらみ両端がとがった,ラグビーボールに似た立体ができ,その体積は $\dfrac{\pi^2}{2}\approx4.93$ である.

演習5.7 円 $r=2a\cos\theta$($a>0$)の面積

解答

(1) この極方程式が半径 $a$ の円を表すことの確認.極座標と直交座標の関係式 $x=r\cos\theta,\ y=r\sin\theta,\ r^2=x^2+y^2$(高校数学既習)を使う.$r=2a\cos\theta$ の両辺に $r$ を掛けると,

$$ r^2=2ar\cos\theta $$

左辺は $x^2+y^2$,右辺の $r\cos\theta$ は $x$ に等しいから,これらを代入すると,

$$ x^2+y^2=2ax\iff x^2-2ax+y^2=0\iff(x-a)^2+y^2=a^2 $$

($x^2-2ax=(x-a)^2-a^2$ という平方完成を使い,両辺に $a^2$ を加えた).最後の式は,中心 $(a,0)$,半径 $a$ の円の方程式にほかならない.したがって,この極方程式はたしかに半径 $a$ の円を表す.

(2) $\theta$ の動く範囲.この円は原点 $O$($x=y=0$)を通る.実際,$\theta=\pm\dfrac{\pi}2$ のとき $\cos\theta=0$ なので $r=2a\cos\theta=0$ となり,原点に戻る.極方程式で半径 $r$ が負にならないという通常の約束($r\ge0$)のもとでは,$r=2a\cos\theta\ge0$ となるのは $\cos\theta\ge0$,すなわち $-\dfrac{\pi}2\le\theta\le\dfrac{\pi}2$ の範囲である.この範囲で $\theta$ を $-\dfrac{\pi}2$ から $\dfrac{\pi}2$ まで動かすと,$r$ は $0\to2a\to0$($\theta=0$ で最大値 $r=2a$,すなわち円の直径)と変化し,円をちょうど1周する.

(3) 面積の計算.公式5.14($S=\dfrac12\displaystyle\int_\alpha^\beta r^2\,d\theta$)に $\alpha=-\dfrac{\pi}2,\ \beta=\dfrac{\pi}2$,$r=2a\cos\theta$ を代入すると,

$$ S=\frac12\int_{-\pi/2}^{\pi/2}(2a\cos\theta)^2\,d\theta=\frac12\cdot4a^2\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\cos^2\theta\,d\theta=2a^2\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\cos^2\theta\,d\theta $$

例題5.11で使ったのと同じ倍角公式 $\cos^2\theta=\dfrac{1+\cos2\theta}{2}$ を使うと,

$$ 2a^2\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\frac{1+\cos2\theta}{2}\,d\theta=a^2\left[\theta+\frac{\sin2\theta}{2}\right]_{-\pi/2}^{\pi/2} $$

上端 $\theta=\dfrac{\pi}2$ を代入すると,$\sin\pi=0$ より $\dfrac{\pi}2+\dfrac{0}{2}=\dfrac{\pi}2$.下端 $\theta=-\dfrac{\pi}2$ を代入すると,$\sin(-\pi)=0$ より $-\dfrac{\pi}2+\dfrac{0}{2}=-\dfrac{\pi}2$.したがって,

$$ S=a^2\left(\frac{\pi}2-\left(-\frac{\pi}2\right)\right)=a^2\cdot\pi=\pi a^2 $$

を得る.これは,半径 $a$ の円の面積の公式 $\pi a^2$(高校数学既習)とぴったり一致する.(1)で確かめたとおり,この図形は実際に半径 $a$ の円なのだから,この一致は,公式5.14が正しく使えていることを裏づける良い検算になっている.(sympyで検算:$S=\pi a^2$,一致.)

第6章 偏微分(多変数関数の微分)

演習6.1 $f(x,y)=e^{xy}$ の偏微分

解答

$x$ で偏微分するときは $y$ を定数とみて,合成関数の微分公式 $(e^u)'=e^u\cdot u'$($u=xy$,$u$ を $x$ で微分すると $y$)を使う.

$$ \pdiff{f}{x} = \pdiff{}{x}e^{xy} = e^{xy}\cdot\pdiff{}{x}(xy) = e^{xy}\cdot y = ye^{xy} $$

同様に,$y$ で偏微分するときは $x$ を定数とみて,$u=xy$ を $y$ で微分すると $x$ になることを使うと,

$$ \pdiff{f}{y} = \pdiff{}{y}e^{xy} = e^{xy}\cdot\pdiff{}{y}(xy) = e^{xy}\cdot x = xe^{xy} $$

を得る(sympyによる検算済み:$f_x=ye^{xy}$,$f_y=xe^{xy}$).

演習6.2 $\displaystyle\lim_{(x,y)\to(0,0)}\frac{x^2y}{x^4+y^2}$ が存在しないことの証明

解答

まず方法(I),直線 $y=mx$ に沿って調べる.$y=mx$ を代入すると,

$$ \frac{x^2y}{x^4+y^2} = \frac{x^2\cdot mx}{x^4+(mx)^2} = \frac{mx^3}{x^2(x^2+m^2)} = \frac{mx}{x^2+m^2} $$

(分母を $x^2$ でくくって約分した.)$m\ne0$ のとき,$x\to0$ とすると分子 $mx\to0$,分母 $x^2+m^2\to m^2$($0$ でない定数)なので,

$$ \lim_{x\to0}\frac{mx}{x^2+m^2} = \frac{0}{m^2} = 0 $$

$m=0$($x$軸に沿う場合)は $f(x,0)=0$ よりそのまま $0$ である.したがって,どの直線に沿っても極限は $0$ である($y$軸,$x=0$ に沿っても $f(0,y)=0$ で同じく $0$).

次に,直線とは違う道筋——放物線 $y=x^2$——に沿って調べる.

$$ f(x,x^2) = \frac{x^2\cdot x^2}{x^4+(x^2)^2} = \frac{x^4}{x^4+x^4} = \frac{x^4}{2x^4} = \frac12 $$

($x\ne0$ である限り,$x$ の値によらず常に $\frac12$ という一定の値になる.)

直線に沿った極限はすべて $0$ だったのに,放物線 $y=x^2$ に沿うと常に $\frac12$ になり,$0\ne\frac12$ である.近づき方によって異なる値に近づくので,極限 $\displaystyle\lim_{(x,y)\to(0,0)}\frac{x^2y}{x^4+y^2}$ は存在しない(sympyによる検算済み:直線 $y=mx$ に沿った極限が $0$,放物線 $y=x^2$ に沿った値が $\frac12$ で一致しないことを確認).本章の例題6.3($xy^2/(x^2+y^4)$)とまったく同じ構造の落とし穴——$x$軸方向と $y$軸方向の役割を入れ替えたもの——である.

演習6.3 $z=xy$ の全微分

解答

定義6.3の1次の部分(全微分)は,一般に $\dd z=\pdiff{z}{x}\dd x+\pdiff{z}{y}\dd y$ という形をしている.$z=xy$ の偏微分を求めると,

$$ \pdiff{z}{x} = y\ ,\qquad \pdiff{z}{y} = x $$

($x$ で偏微分するときは $y$ を定数として $xy$ を $x$ の1次式とみて微分すれば $y$,$y$ で偏微分するときは同様に $x$ が残る.)したがって,

$$ \dd z = y\,\dd x+x\,\dd y $$

を得る(sympyによる検算済み).$z=xy$ は多項式(したがって全微分可能)なので,この $\dd z$ は「$x,y$ をそれぞれ微小量 $\dd x,\dd y$ だけ動かしたときの $z$ の変化量の1次近似」として,誤差なく——正確には,誤差 $\varepsilon$ が移動距離より真に速く $0$ に収束する精度で——使ってよい.

演習6.4 $f(x,y)=x^3-3xy^2$ の極値($D=0$ の場合)

解答

まず $\nabla f=\bm0$ となる点を求める.

$$ f_x = 3x^2-3y^2\ ,\qquad f_y = -6xy $$

$f_y=0$ より $x=0$ または $y=0$.

$x=0$ のとき,$f_x=-3y^2=0$ より $y=0$.

$y=0$ のとき,$f_x=3x^2=0$ より $x=0$.

したがって,臨界点は $(x,y)=(0,0)$ のただ1つである.2階の偏導関数を求めると,

$$ f_{xx}=6x\ ,\qquad f_{xy}=-6y\ ,\qquad f_{yy}=-6x $$

点 $(0,0)$ でこれらをすべて評価すると,$A=f_{xx}(0,0)=0$,$B=f_{xy}(0,0)=0$,$C=f_{yy}(0,0)=0$ となり,

$$ D = B^2-AC = 0^2-0\times0 = 0 $$

を得る.定理6.3の注意で述べたとおり,$D=0$ のときはこの判定法だけでは決められない.そこで,原点の近くで $f$ の値を直接調べる.$y=0$ に沿って動くと,

$$ f(x,0) = x^3-3x\cdot0^2 = x^3 $$

となる.$x^3$ は $x>0$ で正,$x\lt0$ で負であり,$x=0$ のごく近くでも符号が変わる(たとえば $x=0.01$ なら $f=10^{-6}>0=f(0,0)$,$x=-0.01$ なら $f=-10^{-6}\lt0=f(0,0)$).したがって,原点のどんなに近くにも $f$ が $f(0,0)=0$ より大きくなる点と小さくなる点の両方が存在し,$(0,0)$ は極大でも極小でもない(sympyによる検算済み:臨界点が原点のみであること,$A=B=C=0$(したがって $D=0$)であること,$f(x,0)=x^3$ が符号を変えることを確認).なお,$f(x,y)=x^3-3xy^2$ は複素数 $z=x+iy$ の3乗 $z^3=x^3-3xy^2+i(3x^2y-y^3)$ の実部にあたる関数で,原点のまわりに3本の谷と3本の尾根が交互に集まる「猿の鞍」(monkey saddle)と呼ばれる曲面の代表例であり,$D=0$ となる典型的な例として知られている.

演習6.5 極座標での $\pdiff{z}{\theta}$

解答

$z=f(x,y)$,$x=r\cos\theta$,$y=r\sin\theta$ とする.公式6.4(合成関数の偏微分公式,$v\to\theta$)を使うと,

$$ \pdiff{z}{\theta} = \pdiff{f}{x}\pdiff{x}{\theta}+\pdiff{f}{y}\pdiff{y}{\theta} $$

ここで,$x=r\cos\theta$ を $\theta$ で偏微分する($r$ を定数とみる)と $\pdiff{x}{\theta}=-r\sin\theta$,$y=r\sin\theta$ を同様に偏微分すると $\pdiff{y}{\theta}=r\cos\theta$ である.代入すると,

$$ \pdiff{z}{\theta} = f_x\cdot(-r\sin\theta)+f_y\cdot(r\cos\theta) = -r\sin\theta\cdot f_x+r\cos\theta\cdot f_y $$

を得る.これは6.5節で $f_\theta$ を導いたときとまったく同じ式であり($z$ と $f$ は同じ関数を指しているので当然の一致である),公式6.5の証明の出発点として使ったものそのものである.

演習6.6 ラグランジュの未定乗数法:$x^2+y^2=1$ のもとでの $xy$ の極値

解答

$g(x,y)=x^2+y^2-1$ とおく.$f_x=y,\,f_y=x$,$g_x=2x,\,g_y=2y$ より,定理6.4の連立方程式は,

$$ y-2\lambda x=0\ ,\qquad x-2\lambda y=0\ ,\qquad x^2+y^2=1 $$

すなわち $y=2\lambda x$ …①,$x=2\lambda y$ …②である.①を②に代入すると,

$$ x = 2\lambda(2\lambda x) = 4\lambda^2x \quad\Longrightarrow\quad x(1-4\lambda^2)=0 $$

$x=0$ の場合.制約 $x^2+y^2=1$ より $y=\pm1$.しかし①より $y=2\lambda x=2\lambda\times0=0$ となり,$y=\pm1$ と矛盾する.したがって $x=0$ は解にならない.

$1-4\lambda^2=0$,すなわち $\lambda=\pm\dfrac12$ の場合.

$\lambda=\dfrac12$ のとき,①より $y=2\times\dfrac12\times x=x$.制約に代入すると $x^2+x^2=1$,$x^2=\dfrac12$,$x=\pm\dfrac{1}{\sqrt2}$.$y=x$ なので,2点 $\left(\dfrac{1}{\sqrt2},\dfrac{1}{\sqrt2}\right)$,$\left(-\dfrac{1}{\sqrt2},-\dfrac{1}{\sqrt2}\right)$ を得る.このとき

$$ f = xy = \left(\pm\frac{1}{\sqrt2}\right)^2 = \frac12 $$

$\lambda=-\dfrac12$ のとき,①より $y=2\times\left(-\dfrac12\right)\times x=-x$.制約に代入すると同様に $x=\pm\dfrac{1}{\sqrt2}$,$y=-x$ なので,2点 $\left(\dfrac{1}{\sqrt2},-\dfrac{1}{\sqrt2}\right)$,$\left(-\dfrac{1}{\sqrt2},\dfrac{1}{\sqrt2}\right)$ を得る.このとき

$$ f = xy = -\left(\frac{1}{\sqrt2}\right)^2 = -\frac12 $$

単位円は,途切れることなくつながった有限の範囲の図形(円周)であり,$f=xy$ はその上で連続だから,単位円上を動く $xy$ の値には必ず一番大きい値と一番小さい値が存在し(連続関数のこの基本的な性質は,正確には「有界閉集合上の連続関数は最大値・最小値をもつ」というワイエルシュトラス(Weierstrass)の最大値定理と呼ばれる——詳しくは解析学の教科書を参照),それは上で求めた4つの候補のどれかで実現される.したがって,

$$ \text{最大値}=\frac12\ \left(\text{点}\left(\tfrac{1}{\sqrt2},\tfrac{1}{\sqrt2}\right),\left(-\tfrac{1}{\sqrt2},-\tfrac{1}{\sqrt2}\right)\right)\ ,\qquad \text{最小値}=-\frac12\ \left(\text{点}\left(\tfrac{1}{\sqrt2},-\tfrac{1}{\sqrt2}\right),\left(-\tfrac{1}{\sqrt2},\tfrac{1}{\sqrt2}\right)\right) $$

である(sympyによる検算済み:連立方程式の4つの解と,それぞれでの $f=xy$ の値が $\pm\frac12$ になることを確認).幾何学的には,$f=xy$ の等高線(双曲線 $xy=c$)が単位円に接する4点がちょうどこれらの点にあたる.

第7章 重積分(多変数関数の積分)

演習7.1 三角形領域での重積分

解答

領域 $D=\{0\le y\le x\le1\}$ は,公式7.1 (I) の形($g_1(x)=0,\,g_2(x)=x$)にあてはまるので,先に $y$ で積分する.

$$ \iint_D(x+y)\,dxdy=\int_0^1\left\{\int_0^x(x+y)\,dy\right\}dx $$

内側の積分($x$ を定数とみて $y$ について積分する)は,

$$ \int_0^x(x+y)\,dy=\Big[xy+\frac{y^2}{2}\Big]_0^x=x\cdot x+\frac{x^2}{2}=x^2+\frac{x^2}{2}=\frac{3}{2}x^2 $$

したがって,

$$ \iint_D(x+y)\,dxdy=\int_0^1\frac{3}{2}x^2\,dx=\frac32\Big[\frac{x^3}{3}\Big]_0^1=\frac32\times\frac13=\frac12 $$

を得る(sympyで検算済み:$1/2$).

演習7.2 極座標変換:円環領域での重積分

解答

極座標 $x=r\cos\theta,\,y=r\sin\theta$(ヤコビアン $|J|=r$,例題7.8で導いた)を使うと,円環 $1\le x^2+y^2\le4$ は $1\le r\le2$,$0\le\theta\lt2\pi$(角度に制限がない,円環全体)に対応する.また $\sqrt{x^2+y^2}=\sqrt{r^2}=r$($r\ge0$)である.したがって,

$$ \iint_D\sqrt{x^2+y^2}\,dxdy=\int_0^{2\pi}\int_1^2 r\cdot r\,drd\theta=\int_0^{2\pi}\int_1^2 r^2\,dr\,d\theta $$

被積分関数が $r$ だけの関数なので,2つの1変数積分の積に分解できる.

$$ =\left(\int_1^2r^2\,dr\right)\left(\int_0^{2\pi}d\theta\right)=\Big[\frac{r^3}{3}\Big]_1^2\times2\pi=\left(\frac{8}{3}-\frac13\right)\times2\pi=\frac73\times2\pi=\frac{14\pi}{3} $$

を得る(sympyで検算済み:$14\pi/3\approx14.66$).

演習7.3 ヤコビアンの計算

解答

$u=2x-y,\ v=x+y$ を $x,y$ で偏微分すると,

$$ J_2=\pdiff{(u,v)}{(x,y)}=\begin{pmatrix}\pdiff ux&\pdiff uy\\[2mm]\pdiff vx&\pdiff vy\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2&-1\\1&1\end{pmatrix} $$

($u=2x-y$ を $x$ で偏微分すると $2$,$y$ で偏微分すると $-1$.$v=x+y$ を $x,y$ でそれぞれ偏微分すると $1,1$.)行列式は,

$$ \det J_2=2\times1-(-1)\times1=2+1=3 $$

である.7.3節の注意(逆変換のヤコビアンとの関係 $\det J_1\cdot\det J_2=1$)より,$x,y$ を $u,v$ で表したときのヤコビアン $J_1=\pdiff{(x,y)}{(u,v)}$ は,

$$ |\det J_1|=\frac{1}{|\det J_2|}=\frac13 $$

を満たす.したがって,面積要素は

$$ dxdy=\frac13\,dudv $$

と表される(検算:実際に $u=2x-y,v=x+y$ を $x,y$ について解くと $x=\dfrac{u+v}{3},\,y=\dfrac{2v-u}{3}$ となり,これを直接 $u,v$ で偏微分してヤコビ行列 $J_1=\begin{pmatrix}1/3&1/3\\-1/3&2/3\end{pmatrix}$ の行列式を計算すると $\det J_1=\frac13\times\frac23-\frac13\times\left(-\frac13\right)=\frac29+\frac19=\frac13$ となり,$|\det J_1|=1/3$ で一致する.sympyで検算済み).

演習7.4 円柱の体積

解答

円柱の体積は,底面 $D=\{(x,y)\mid x^2+y^2\le a^2\}$ の上で,一定の高さ $h$ を積分したものである.

$$ V=\iint_D h\,dxdy=h\iint_D dxdy $$

($h$ は $x,y$ に依らない定数なので,積分の外に出せる.)$\displaystyle\iint_D dxdy$ は領域 $D$ の面積そのものだから,極座標 $x=r\cos\theta,y=r\sin\theta$($dxdy=rdrd\theta$,$D$ は $0\le r\le a$,$0\le\theta\lt2\pi$)を使うと,

$$ \iint_D dxdy=\int_0^{2\pi}\int_0^a r\,drd\theta=\left(\int_0^a r\,dr\right)\left(\int_0^{2\pi}d\theta\right)=\Big[\frac{r^2}{2}\Big]_0^a\times2\pi=\frac{a^2}{2}\times2\pi=\pi a^2 $$

(これは半径 $a$ の円の面積の公式そのものであり,高校数学の結果を重積分で再導出したことになる.)したがって,

$$ V=h\times\pi a^2=\pi a^2h $$

を得る(高校数学の「円柱の体積=底面積×高さ」の公式と一致する.sympyで検算済み).

演習7.5 四面体の体積(三重積分)

解答

例題7.11の解法1と同じ順序($z\to y\to x$)で計算する.条件 $x,y,z\ge0,\,x+2y+z\le2$ より,$x,y$ を固定したときの $z$ の範囲は

$$ 0\le z\le2-x-2y $$

である.先に $z$ について積分すると(被積分関数は $1$ なので,高さをそのまま積分するだけ),

$$ V=\iiint_V dxdydz=\iint_D(2-x-2y)\,dxdy,\qquad D=\{(x,y)\mid x,y\ge0,\,x+2y\le2\} $$

次に,$D=\{0\le x\le2,\,0\le y\le(2-x)/2\}$ の上で,先に $y$ について積分する.

$$ V=\int_0^2\left\{\int_0^{(2-x)/2}(2-x-2y)\,dy\right\}dx $$

内側の積分は,$a=2-x$ とおくと見通しがよい($x$ を固定しているので $a$ も定数).

$$ \int_0^{a/2}(a-2y)\,dy=\Big[ay-y^2\Big]_0^{a/2}=a\cdot\frac a2-\left(\frac a2\right)^2=\frac{a^2}{2}-\frac{a^2}{4}=\frac{a^2}{4} $$

したがって,

$$ V=\int_0^2\frac{(2-x)^2}{4}\,dx $$

を計算すればよい.置換 $t=2-x$($dt=-dx$,$x:0\to2$ のとき $t:2\to0$)を使うと,

$$ V=\int_2^0\frac{t^2}{4}\,(-dt)=\int_0^2\frac{t^2}{4}\,dt=\frac14\Big[\frac{t^3}{3}\Big]_0^2=\frac14\times\frac83=\frac23 $$

を得る.(別解:この四面体は,$x$軸・$y$軸・$z$軸との交点がそれぞれ $(2,0,0),(0,1,0),(0,0,2)$ にある三角錐なので,高校数学の「三角錐の体積 $=\frac16\times$(3辺の積)」に相当する公式 $V=\frac16|2\times1\times2|=\frac46=\frac23$ でも同じ値が得られ,検算になる.)sympyで検算済み:$2/3$.

演習7.6 ガウス積分の応用

解答

置換 $t=\sqrt2\,x$($x=t/\sqrt2$,$dx=dt/\sqrt2$)を使うと,指数の中身は $-2x^2=-2\left(\dfrac{t}{\sqrt2}\right)^2=-2\cdot\dfrac{t^2}{2}=-t^2$ となる.積分区間は,$x\to\pm\infty$ のとき $t=\sqrt2x\to\pm\infty$ なのでそのまま $-\infty$ から $\infty$ である.したがって,

$$ \int_{-\infty}^{\infty}e^{-2x^2}\,dx=\int_{-\infty}^{\infty}e^{-t^2}\cdot\frac{dt}{\sqrt2}=\frac{1}{\sqrt2}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-t^2}\,dt $$

定理7.1(ガウス積分,例題7.8で証明済み)$\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-t^2}dt=\sqrt\pi$ を代入すると,

$$ \int_{-\infty}^{\infty}e^{-2x^2}\,dx=\frac{\sqrt\pi}{\sqrt2}=\sqrt{\frac{\pi}{2}} $$

を得る(sympyで検算済み:$\sqrt{\pi/2}\approx1.2533$.一般に $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-ax^2}dx=\sqrt{\pi/a}$($a\gt0$)という公式が同じ置換 $t=\sqrt a\,x$ で得られる).

第8章 行列と行列式

演習8.1 転置の性質

解答

$A=\begin{bmatrix}1&-2&3\\0&4&-1\end{bmatrix}$,$B=\begin{bmatrix}2&1&0\\-3&2&5\end{bmatrix}$ に対して,まず定義8.2に従って和を計算する.

$$ A+B=\begin{bmatrix}1+2&-2+1&3+0\\0+(-3)&4+2&-1+5\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}3&-1&3\\-3&6&4\end{bmatrix} $$

これを転置すると(定義8.4,行と列を入れ換える),

$$ {}^{t}(A+B)=\begin{bmatrix}3&-3\\-1&6\\3&4\end{bmatrix} $$

他方,$A,B$ をそれぞれ転置すると $ {}^{t}A=\begin{bmatrix}1&0\\-2&4\\3&-1\end{bmatrix}$,${}^{t}B=\begin{bmatrix}2&-3\\1&2\\0&5\end{bmatrix}$ であり,これらの和は

$$ {}^{t}A+{}^{t}B=\begin{bmatrix}1+2&0+(-3)\\-2+1&4+2\\3+0&-1+5\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}3&-3\\-1&6\\3&4\end{bmatrix} $$

となり,たしかに ${}^{t}(A+B)={}^{t}A+{}^{t}B$ が成り立つ.(sympyで検算済み.)

一般の $(m,n)$ 型行列 $A=(a_{ij})$,$B=(b_{ij})$ についても証明しておく.$A+B$(定義8.2)の $(i,j)$ 成分は $a_{ij}+b_{ij}$ だから,${}^{t}(A+B)$ の $(j,i)$ 成分は,転置の定義(定義8.4,行と列を入れ換える)により,これと同じ $a_{ij}+b_{ij}$ である.他方,${}^{t}A$ の $(j,i)$ 成分は $a_{ij}$,${}^{t}B$ の $(j,i)$ 成分は $b_{ij}$ だから,${}^{t}A+{}^{t}B$(定義8.2により,同じ位置の成分どうしの和)の $(j,i)$ 成分も $a_{ij}+b_{ij}$ である.両辺のすべての $(j,i)$ 成分が一致するので,${}^{t}(A+B)={}^{t}A+{}^{t}B$ が一般に成り立つ.(この証明は,定理8.1(ii)の証明で使った「成分を1つずつ比べる」という方針と同じである.)

演習8.2 少し複雑なべき乗パターンの予想と証明

解答

まず $M^2,M^3$ を実際に計算して,パターンを予想する.

$$ M^{2}=\begin{bmatrix}2&3\\0&2\end{bmatrix}\begin{bmatrix}2&3\\0&2\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}4&6+6\\0&4\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}4&12\\0&4\end{bmatrix} $$ $$ M^{3}=M^{2}M=\begin{bmatrix}4&12\\0&4\end{bmatrix}\begin{bmatrix}2&3\\0&2\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}8&12+24\\0&8\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}8&36\\0&8\end{bmatrix} $$

対角成分は $4=2^2,8=2^3$ と,$M$ の対角成分 $2$ のべき乗になっている.非対角成分は $12,36$ で,$12=2\times2\times3$,$36=3\times2^2\times3$ のように書けるので,$n$ 番目の非対角成分は $n\times2^{n-1}\times3$ ではないかと予想できる.すなわち,

$$ M^{n}\ \overset{?}{=}\ \begin{bmatrix}2^{n}&3n\cdot2^{n-1}\\0&2^{n}\end{bmatrix} $$

という予想を立てる(実際 $n=2$ で $3\times2\times2^1=12$,$n=3$ で $3\times3\times2^2=36$ となり,一致している).これをヒントの通り $M=2I+N$,$N=\begin{bmatrix}0&3\\0&0\end{bmatrix}$($I$ は単位行列)と分けて,数学的帰納法で証明する.まず $N^2$ を計算すると,

$$ N^{2}=\begin{bmatrix}0&3\\0&0\end{bmatrix}\begin{bmatrix}0&3\\0&0\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}0\cdot0+3\cdot0&0\cdot3+3\cdot0\\0\cdot0+0\cdot0&0\cdot3+0\cdot0\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}0&0\\0&0\end{bmatrix}=O $$

である(零行列).$n=1$ のとき $M^1=M=\begin{bmatrix}2&3\\0&2\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}2^1&3\times1\times2^0\\0&2^1\end{bmatrix}$ で予想通り成り立つ.$n=k$ で $M^{k}=\begin{bmatrix}2^{k}&3k\cdot2^{k-1}\\0&2^{k}\end{bmatrix}=2^{k}I+3k\cdot2^{k-1}\cdot\dfrac{1}{3}N\ (=2^kI+k\cdot2^{k-1}N)$ が成り立つと仮定する(対角行列 $2^kI=\begin{bmatrix}2^k&0\\0&2^k\end{bmatrix}$ と,$N$ の定数倍 $k\cdot2^{k-1}N=\begin{bmatrix}0&3k\cdot2^{k-1}\\0&0\end{bmatrix}$ の和として書き直しただけである).このとき,

$$ M^{k+1}=M^{k}M=(2^{k}I+k\cdot2^{k-1}N)(2I+N) $$

を展開する.$I$ は単位行列なので $IA=AI=A$(どんな行列 $A$ とかけても変わらない),また $NI=IN=N$,そして先ほど示した $N^2=O$ を使うと,

$$ \begin{aligned} M^{k+1}&=2^{k}I\cdot2I+2^{k}I\cdot N+k\cdot2^{k-1}N\cdot2I+k\cdot2^{k-1}N\cdot N\\ &=2^{k+1}I+2^{k}N+k\cdot2^{k}N+k\cdot2^{k-1}N^{2}\\ &=2^{k+1}I+(2^{k}+k\cdot2^{k})N+k\cdot2^{k-1}\cdot O\\ &=2^{k+1}I+(k+1)2^{k}N \end{aligned} $$

となる.これを成分で書き戻すと,$2^{k+1}I=\begin{bmatrix}2^{k+1}&0\\0&2^{k+1}\end{bmatrix}$,$(k+1)2^{k}N=\begin{bmatrix}0&3(k+1)2^{k}\\0&0\end{bmatrix}$ だから,

$$ M^{k+1}=\begin{bmatrix}2^{k+1}&3(k+1)\cdot2^{k}\\0&2^{k+1}\end{bmatrix} $$

となり,これはまさに $n=k+1$ のときの予想の形である.よって数学的帰納法より,すべての自然数 $n$ について

$$ M^{n}=\begin{bmatrix}2^{n}&3n\cdot2^{n-1}\\0&2^{n}\end{bmatrix} $$

が成り立つ.($n=2,\ldots,5$ について直接計算して予想と一致することをsympyで検算済み.なお,一般に $N^2=O$ となる行列 $N$(べき零行列という)に対して $(2I+N)^n=2^nI+n\cdot2^{n-1}N$ となるのは,二項展開 $(2I+N)^n=\sum_{j=0}^n\binom{n}{j}(2I)^{n-j}N^j$ において,$N^2=O$ より $j\ge2$ の項がすべて消え,$j=0,1$ の2項だけが残ることによる.)

演習8.3 $n=4$ の置換の偶奇分類

解答

例題8.3で使った転倒数(大小が逆転している組の数)の偶奇によって,$24$ 通りすべての置換を分類する.下段の並び $(i_1,i_2,i_3,i_4)$ ごとに転倒数を数え,偶数なら偶置換,奇数なら奇置換とする.結果は次の表の通りである(上段はつねに $1,2,3,4$ なので下段だけを書く).

偶置換($12$ 通り,転倒数が $0,2,4,6$ のいずれか):

$(1,2,3,4)$[転倒数$0$],$(1,3,4,2)$[$2$],$(1,4,2,3)$[$2$],$(2,1,4,3)$[$2$],$(2,3,1,4)$[$2$],$(2,4,3,1)$[$4$],$(3,1,2,4)$[$2$],$(3,2,4,1)$[$4$],$(3,4,1,2)$[$4$],$(4,1,3,2)$[$4$],$(4,2,1,3)$[$4$],$(4,3,2,1)$[$6$]

奇置換($12$ 通り,転倒数が $1,3,5$ のいずれか):

$(1,2,4,3)$[$1$],$(1,3,2,4)$[$1$],$(1,4,3,2)$[$3$],$(2,1,3,4)$[$1$],$(2,3,4,1)$[$3$],$(2,4,1,3)$[$3$],$(3,1,4,2)$[$3$],$(3,2,1,4)$[$3$],$(3,4,2,1)$[$5$],$(4,1,2,3)$[$3$],$(4,2,3,1)$[$5$],$(4,3,1,2)$[$5$]

したがって,$n=4$ の置換 $4!=24$ 通りのうち,偶置換が $12$ 通り,奇置換が $12$ 通りで,ちょうど半分ずつに分かれる(一般に $n\ge2$ のとき,偶置換と奇置換はつねに同数の $n!/2$ 通りずつあることが知られている.理由の概略:どの奇置換にも,好きな互換(たとえば下段の最初の2数の入れ替え)を1回だけ余分に施す対応を考えると,偶置換とちょうど1対1に対応するため).(全$24$通りをPythonで生成し,転倒数の偶奇と sympy の `Permutation.is_even` の両方で判定して一致することを検算済み.)

演習8.4 余因子展開による$4$次行列式の計算

解答

$Q=\begin{bmatrix}3&0&1&2\\1&-1&0&4\\0&2&1&0\\2&1&-1&3\end{bmatrix}$ の第3行 $(0,2,1,0)$ には $0$ が2個あるので,ヒントの通り第3行に関して余因子展開(第8章の式,$i=3$)すると,$0$ の係数の項は計算しなくてよい.

$$ |Q| = 0\cdot A_{31}+2\cdot A_{32}+1\cdot A_{33}+0\cdot A_{34} = 2A_{32}+A_{33} $$

$A_{32}$ は,$Q$ から第3行・第2列を取り除いた $3$ 次行列式に $(-1)^{3+2}=-1$ を掛けたもの:

$$ A_{32}=(-1)^{3+2}\begin{vmatrix}3&1&2\\1&0&4\\2&-1&3\end{vmatrix}=-\begin{vmatrix}3&1&2\\1&0&4\\2&-1&3\end{vmatrix} $$

サラスの公式(第8章の式)で計算すると,$3\times0\times3+1\times4\times2+2\times1\times(-1)-2\times0\times2-1\times1\times3-3\times4\times(-1)=0+8-2-0-3+12=15$.よって $A_{32}=-15$.

$A_{33}$ は,$Q$ から第3行・第3列を取り除いた $3$ 次行列式に $(-1)^{3+3}=1$ を掛けたもの:

$$ A_{33}=(-1)^{3+3}\begin{vmatrix}3&0&2\\1&-1&4\\2&1&3\end{vmatrix}=\begin{vmatrix}3&0&2\\1&-1&4\\2&1&3\end{vmatrix} $$

サラスの公式で $3\times(-1)\times3+0\times4\times2+2\times1\times1-2\times(-1)\times2-0\times1\times3-3\times4\times1=-9+0+2+4-0-12=-15$.よって $A_{33}=-15$.

以上より,

$$ |Q| = 2\times(-15)+1\times(-15) = -30-15=-45 $$

である.(sympyで直接 $\det$ を計算し,同じ $-45$ になることを確認済み.)

演習8.5 行の性質を用いた$4$次行列式の効率的な計算

解答

$R=\begin{bmatrix}1&2&1&0\\2&4&0&1\\1&1&2&2\\0&1&1&3\end{bmatrix}$ に対し,まずヒントの通り $R_2\leftarrow R_2-2R_1$,$R_3\leftarrow R_3-R_1$(定理8.3(iii),他の行の定数倍を加えても行列式は変わらない)を行う.

$$ \begin{vmatrix}1&2&1&0\\2&4&0&1\\1&1&2&2\\0&1&1&3\end{vmatrix} =\begin{vmatrix}1&2&1&0\\0&0&-2&1\\0&-1&1&2\\0&1&1&3\end{vmatrix} $$

ここで第2行の $(2,2)$ 成分($2$行2列目)が $0$ になってしまい,このまま第2列の掃き出しを続けられない.そこで定理8.3(ii)(行の入れ替えで符号が反転する)を使い,第2行と第3行を入れ替える.

$$ \begin{vmatrix}1&2&1&0\\0&0&-2&1\\0&-1&1&2\\0&1&1&3\end{vmatrix} =-\begin{vmatrix}1&2&1&0\\0&-1&1&2\\0&0&-2&1\\0&1&1&3\end{vmatrix} $$

(符号がマイナスになったことに注意.以降はこの右辺の行列式を計算し,最後に符号を反転する.)続けて,第2列の第2行より下を $0$ にする:$R_4\leftarrow R_4+R_2$(第2行の $(2,2)$ 成分は $-1$ なので,そのまま足せばよい).

$$ \begin{vmatrix}1&2&1&0\\0&-1&1&2\\0&0&-2&1\\0&1&1&3\end{vmatrix} =\begin{vmatrix}1&2&1&0\\0&-1&1&2\\0&0&-2&1\\0&0&2&5\end{vmatrix} $$

最後に,第3列の第3行より下を $0$ にする:$R_4\leftarrow R_4+R_3$.

$$ \begin{vmatrix}1&2&1&0\\0&-1&1&2\\0&0&-2&1\\0&0&2&5\end{vmatrix} =\begin{vmatrix}1&2&1&0\\0&-1&1&2\\0&0&-2&1\\0&0&0&6\end{vmatrix} $$

ここまで(1回の行の入れ替えを除いて)性質(iii)しか使っていない.最後の行列式は上三角行列だから,対角成分の積 $1\times(-1)\times(-2)\times6=12$ に等しい.行の入れ替えを1回行ったので符号を反転すると,

$$ |R| = -12 $$

である.(sympyで直接 $\det$ を計算し,同じ $-12$ になることを確認済み.なお,行の入れ替えを行わずに $R_4\leftarrow R_4+R_2$ を先に試みると第2行の $(2,2)$成分が $0$ のままなので割れず,掃き出し法では非零の主成分(ピボット)を確保するために行の入れ替えがしばしば必要になる,という一般的な注意点の実例になっている.)

演習8.6 線形従属性の判定と行列式の幾何学的意味

解答

$\vec p=(1,1,2)$,$\vec q=(2,-1,1)$,$\vec r=(0,3,3)$ を列として並べた行列式を計算する.

$$ \begin{vmatrix}1&2&0\\1&-1&3\\2&1&3\end{vmatrix} =1\times\{(-1)\times3-3\times1\}-2\times(1\times3-3\times2)+0\times\{1\times1-(-1)\times2\} $$ $$ =1\times(-3-3)-2\times(3-6)+0=-6-(-6)=0 $$

定理8.5より,$|{\,}|=0$ なので $\vec p,\vec q,\vec r$ は線形従属である.線形従属であれば,$\vec r$ を $\vec p,\vec q$ の実数倍の和として書けるはずなので,$\vec r=a\vec p+b\vec q$ を満たす実数 $a,b$ を求める.成分ごとに方程式を立てると,

$$ \begin{cases} a+2b=0\\ a-b=3\\ 2a+b=3 \end{cases} $$

1つ目の式から $a=-2b$.これを2つ目の式に代入すると $-2b-b=3$,すなわち $-3b=3$ より $b=-1$,よって $a=2$.3つ目の式で検算すると $2\times2+(-1)=3$ で確かに成り立っている.したがって,

$$ \vec r=2\vec p-\vec q $$

である(実際 $2(1,1,2)-(2,-1,1)=(2-2,\,2+1,\,4-1)=(0,3,3)=\vec r$ で一致する).定理8.5の意味(体積)と関連付けると,$\vec p,\vec q,\vec r$ が作る「平行六面体」は,$\vec r$ がすでに $\vec p,\vec q$ の張る平面($\vec p,\vec q$ を含む平面)の中に収まってしまっているため,3本のベクトルが独立な3方向に広がらず,高さが $0$ につぶれてしまう.これはちょうど8.6.2項の $\vec f,\vec g,\vec h$($\vec h=\frac35\vec f+\frac15\vec g$)の例と同じ現象であり,体積は $0$ になる.(sympyで行列式の値と $\vec r=2\vec p-\vec q$ の関係の両方を検算済み.)

第9章 連立1次方程式

演習9.1 余因子行列を使って逆行列を求める

解答

$A=\begin{bmatrix}3&1&-1\\1&2&0\\0&1&1\end{bmatrix}$ の9個の余因子を,例題9.1と同じ手順で計算する.

$$ \begin{aligned} A_{11}&=+\begin{vmatrix}2&0\\1&1\end{vmatrix}=2\cdot1-0\cdot1=2, & A_{12}&=-\begin{vmatrix}1&0\\0&1\end{vmatrix}=-(1\cdot1-0\cdot0)=-1, \\ A_{13}&=+\begin{vmatrix}1&2\\0&1\end{vmatrix}=1\cdot1-2\cdot0=1, & A_{21}&=-\begin{vmatrix}1&-1\\1&1\end{vmatrix}=-(1\cdot1-(-1)\cdot1)=-2, \\ A_{22}&=+\begin{vmatrix}3&-1\\0&1\end{vmatrix}=3\cdot1-(-1)\cdot0=3, & A_{23}&=-\begin{vmatrix}3&1\\0&1\end{vmatrix}=-(3\cdot1-1\cdot0)=-3, \\ A_{31}&=+\begin{vmatrix}1&-1\\2&0\end{vmatrix}=1\cdot0-(-1)\cdot2=2, & A_{32}&=-\begin{vmatrix}3&-1\\1&0\end{vmatrix}=-(3\cdot0-(-1)\cdot1)=-1, \\ A_{33}&=+\begin{vmatrix}3&1\\1&2\end{vmatrix}=3\cdot2-1\cdot1=5. && \end{aligned} $$

余因子の行列 $\begin{bmatrix}2&-1&1\\-2&3&-3\\2&-1&5\end{bmatrix}$ を転置して,余因子行列

$$ \tilde A=\begin{bmatrix}2&-2&2\\-1&3&-1\\1&-3&5\end{bmatrix} $$

を得る.$|A|$ を第1行に沿って余因子展開すると,$|A|=3\cdot2+1\cdot(-1)+(-1)\cdot1=6-1-1=4$.$|A|\neq0$ なので $A$ は正則であり,公式9.1より

$$ A^{-1}=\frac14\begin{bmatrix}2&-2&2\\-1&3&-1\\1&-3&5\end{bmatrix} =\begin{bmatrix}\dfrac12&-\dfrac12&\dfrac12\\[4pt]-\dfrac14&\dfrac34&-\dfrac14\\[4pt]\dfrac14&-\dfrac34&\dfrac54\end{bmatrix} $$

である($A\cdot A^{-1}=E$ となることを sympy で検算済み).

演習9.2 4元同次連立1次方程式の自由度と解

解答

係数行列は $A=\begin{bmatrix}1&1&-1&2\\2&1&1&1\\1&-1&5&-5\\3&2&0&3\end{bmatrix}$,未知数は $n=4$ 個.第1列を掃き出す.$R_2\to R_2-2R_1$($2-2=0,1-2=-1,1-(-2)=3,1-4=-3$),$R_3\to R_3-R_1$($1-1=0,-1-1=-2,5-(-1)=6,-5-2=-7$),$R_4\to R_4-3R_1$($3-3=0,2-3=-1,0-(-3)=3,3-6=-3$).

$$ \begin{bmatrix}1&1&-1&2\\2&1&1&1\\1&-1&5&-5\\3&2&0&3\end{bmatrix} \to \begin{bmatrix}1&1&-1&2\\0&-1&3&-3\\0&-2&6&-7\\0&-1&3&-3\end{bmatrix} $$

第2列を掃き出す.$R_3\to R_3-2R_2$($-2-2(-1)=0,6-2\cdot3=0,-7-2(-3)=-1$),$R_4\to R_4-R_2$($-1-(-1)=0,3-3=0,-3-(-3)=0$).

$$ \begin{bmatrix}1&1&-1&2\\0&-1&3&-3\\0&-2&6&-7\\0&-1&3&-3\end{bmatrix} \to \begin{bmatrix}1&1&-1&2\\0&-1&3&-3\\0&0&0&-1\\0&0&0&0\end{bmatrix} $$

非零行は3本だから $\rank A=3$.自由度 $=4-3=1$ である.ピボットは第1列(第1行),第2列(第2行),第4列(第3行)にあり,第3列に対応する $x_3$ が自由変数である.階段行列から方程式を書き直すと

$$ \begin{cases} x_1+x_2-x_3+2x_4=0\\ -x_2+3x_3-3x_4=0\\ -x_4=0 \end{cases} $$

第3式より $x_4=0$.$x_3=t$($t\in\R$)とおくと,第2式より $-x_2+3t-0=0$ すなわち $x_2=3t$.第1式に代入すると $x_1+3t-t+0=0$ より $x_1=-2t$.よって

$$ \begin{cases}x_1=-2t\\x_2=3t\\x_3=t\\x_4=0\end{cases}\qquad(t\in\R) $$

が解のすべてである($t=1$ とした $(-2,3,1,0)$ を4本の式すべてに代入すると恒等的に $0$ になることを sympy で検算済み).

演習9.3 パラメータを含む非同次連立1次方程式の解の存在条件

解答

拡大係数行列は $\left[\begin{array}{ccc|c}1&2&-1&2\\2&-1&3&9\\4&3&1&k\end{array}\right]$.例題9.6と同じ行基本変形($R_2\to R_2-2R_1$,$R_3\to R_3-4R_1$)を行う.

$$ \left[\begin{array}{ccc|c}1&2&-1&2\\2&-1&3&9\\4&3&1&k\end{array}\right] \to \left[\begin{array}{ccc|c}1&2&-1&2\\0&-5&5&5\\0&-5&5&k-8\end{array}\right] $$

(第3行の右端:$k-4\cdot2=k-8$.)続けて $R_3\to R_3-R_2$($-5-(-5)=0,5-5=0,(k-8)-5=k-13$)とすると

$$ \left[\begin{array}{ccc|c}1&2&-1&2\\0&-5&5&5\\0&-5&5&k-8\end{array}\right] \to \left[\begin{array}{ccc|c}1&2&-1&2\\0&-5&5&5\\0&0&0&k-13\end{array}\right] $$

係数部分 $A'=\begin{bmatrix}1&2&-1\\0&-5&5\\0&0&0\end{bmatrix}$ の階数はつねに $\rank A'=2$ である($k$ によらない).一方,拡大係数行列の階数 $\rank A_0'$ は,第3行の右端 $k-13$ が $0$ になるかどうかで変わる.

$k=13$ のとき:第3行がすべて $0$ になり $\rank A_0'=2=\rank A'$ だから解が存在する.自由度 $=3-2=1$.第2行を $-5$ で割って $R_1\to R_1-2R_2$(新しい第2行 $[0,1,-1,-1]$ を使って)とすると,$[1,0,-1+2,2+2]=[1,0,1,4]$ となり,階段行列は $\begin{bmatrix}1&0&1&4\\0&1&-1&-1\\0&0&0&0\end{bmatrix}$.自由変数 $x_3=t$ とおくと,$x_2=-1+t$(第2行 $x_2-x_3=-1$ より),$x_1=4-t$(第1行 $x_1+x_3=4$ より).よって

$$ \begin{cases}x_1=4-t\\x_2=-1+t\\x_3=t\end{cases}\qquad(t\in\R) $$

が解のすべてである.

$k\neq13$ のとき:第3行が $[0,0,0\mid k-13]$($k-13\neq0$)となり,$0\cdot x_1+0\cdot x_2+0\cdot x_3=k-13\neq0$ という矛盾式になる.$\rank A'=2 \lt \rank A_0'=3$ だから定理9.3(iii)より解は存在しない.

まとめると,この連立1次方程式が解をもつのは $k=13$ のときに限られる(sympyで $k=13,0,5,-7$ の場合の階数を計算し,$k=13$ のときのみ $\rank A'=\rank A_0'=2$ になることを検算済み).

演習9.4 掃き出し法で4元連立1次方程式を解く

解答

拡大係数行列は $\left[\begin{array}{cccc|c}1&1&0&1&6\\2&1&1&0&3\\0&1&2&1&3\\1&0&1&2&6\end{array}\right]$.第1列を掃き出す.$R_2\to R_2-2R_1$($2-2=0,1-2=-1,1-0=1,0-2=-2,3-12=-9$),$R_4\to R_4-R_1$($1-1=0,0-1=-1,1-0=1,2-1=1,6-6=0$).

$$ \left[\begin{array}{cccc|c}1&1&0&1&6\\2&1&1&0&3\\0&1&2&1&3\\1&0&1&2&6\end{array}\right] \to \left[\begin{array}{cccc|c}1&1&0&1&6\\0&-1&1&-2&-9\\0&1&2&1&3\\0&-1&1&1&0\end{array}\right] $$

第2列を掃き出す.$R_3\to R_3+R_2$($1-1=0,2+1=3,1-2=-1,3-9=-6$),$R_4\to R_4-R_2$($-1-(-1)=0,1-1=0,1-(-2)=3,0-(-9)=9$).

$$ \left[\begin{array}{cccc|c}1&1&0&1&6\\0&-1&1&-2&-9\\0&1&2&1&3\\0&-1&1&1&0\end{array}\right] \to \left[\begin{array}{cccc|c}1&1&0&1&6\\0&-1&1&-2&-9\\0&0&3&-1&-6\\0&0&0&3&9\end{array}\right] $$

ここまでで階段行列($\rank A'=\rank A_0'=4=n$,自由度 $0$)になったので,あとは下から順に代入して解けばよい(掃き出しを最後まで続けて単位行列にしてもよいが,ここでは代入法で示す).第4行より $3x_4=9$ すなわち $x_4=3$.これを第3行 $3x_3-x_4=-6$ に代入すると $3x_3-3=-6$ より $3x_3=-3$,$x_3=-1$.これらを第2行 $-x_2+x_3-2x_4=-9$ に代入すると $-x_2+(-1)-6=-9$ より $-x_2-7=-9$,$-x_2=-2$,$x_2=2$.最後に第1行 $x_1+x_2+x_4=6$($x_3$ の係数は $0$)に代入すると $x_1+2+3=6$ より $x_1=1$.よって

$$ x_1=1,\quad x_2=2,\quad x_3=-1,\quad x_4=3 $$

である($A\bm x=\bm b$ に代入して4本の式すべてが成り立つことを sympy で検算済み).

演習9.5 標準形を求める

解答

$A=\begin{bmatrix}1&2&0&-1\\2&4&1&1\\3&6&1&0\end{bmatrix}$.行基本変形で階段行列にする.$R_2\to R_2-2R_1$($2-2=0,4-4=0,1-0=1,1+2=3$),$R_3\to R_3-3R_1$($3-3=0,6-6=0,1-0=1,0+3=3$).

$$ \begin{bmatrix}1&2&0&-1\\2&4&1&1\\3&6&1&0\end{bmatrix} \to \begin{bmatrix}1&2&0&-1\\0&0&1&3\\0&0&1&3\end{bmatrix} $$

$R_3\to R_3-R_2$($1-1=0,3-3=0$)とすると

$$ \begin{bmatrix}1&2&0&-1\\0&0&1&3\\0&0&1&3\end{bmatrix} \xrightarrow{R_3\to R_3-R_2} \begin{bmatrix}1&2&0&-1\\0&0&1&3\\0&0&0&0\end{bmatrix} $$

非零行は2本だから $\rank A=2$.ピボットは第1行が第1列,第2行が第3列にある.列基本変形でピボットを左に寄せる.まず第2列と第3列を入れ替える($C_2\leftrightarrow C_3$).

$$ \begin{bmatrix}1&2&0&-1\\0&0&1&3\\0&0&0&0\end{bmatrix} \xrightarrow{C_2\leftrightarrow C_3} \begin{bmatrix}1&0&2&-1\\0&1&0&3\\0&0&0&0\end{bmatrix} $$

残りの非零成分を消す.$C_3\to C_3-2C_1$(第1行 $2-2=0$,他行は $0$ のまま),$C_4\to C_4+C_1$(第1行 $-1+1=0$,第2行 $3+0=3$ のまま).

$$ \begin{bmatrix}1&0&2&-1\\0&1&0&3\\0&0&0&0\end{bmatrix} \xrightarrow[C_4\to C_4+C_1]{C_3\to C_3-2C_1} \begin{bmatrix}1&0&0&0\\0&1&0&3\\0&0&0&0\end{bmatrix} $$

最後に $C_4\to C_4-3C_2$(第1行 $0-0=0$,第2行 $3-3=0$)とすると

$$ \begin{bmatrix}1&0&0&0\\0&1&0&3\\0&0&0&0\end{bmatrix} \xrightarrow{C_4\to C_4-3C_2} \begin{bmatrix}1&0&0&0\\0&1&0&0\\0&0&0&0\end{bmatrix} $$

これが標準形であり,左上に $2\times2$($=\rank A$)の単位行列 $I_2$ が現れている(sympyの $\mathrm{rref}$ でも $\rank A=2$ であることを確認済み).

演習9.6 rankで正則性を判定し,正則なら逆行列を求める

解答

$A=\begin{bmatrix}1&2&1\\0&1&3\\2&3&4\end{bmatrix}$.行基本変形する.$R_3\to R_3-2R_1$($2-2=0,3-4=-1,4-2=2$).

$$ \begin{bmatrix}1&2&1\\0&1&3\\2&3&4\end{bmatrix} \to \begin{bmatrix}1&2&1\\0&1&3\\0&-1&2\end{bmatrix} $$

$R_3\to R_3+R_2$($-1+1=0,2+3=5$)とすると

$$ \begin{bmatrix}1&2&1\\0&1&3\\0&-1&2\end{bmatrix} \xrightarrow{R_3\to R_3+R_2} \begin{bmatrix}1&2&1\\0&1&3\\0&0&5\end{bmatrix} $$

非零行が3本($=n$)だから $\rank A=3$.定理9.5より $A$ は正則である.逆行列を掃き出し法(定理9.4)で求める.$[\,A\mid E\,]$ に同じ行基本変形($R_3\to R_3-2R_1$,$R_3\to R_3+R_2$)を施すと

$$ \left[\begin{array}{ccc|ccc}1&2&1&1&0&0\\0&1&3&0&1&0\\2&3&4&0&0&1\end{array}\right] \to \left[\begin{array}{ccc|ccc}1&2&1&1&0&0\\0&1&3&0&1&0\\0&0&5&-2&1&1\end{array}\right] $$

(第3行の単位行列部分:$0-2\cdot1=-2$,$0-2\cdot0+1=1$($R_3\to R_3+R_2$で加わる),$1$.具体的には $R_3\to R_3-2R_1$ で $[0,-1,2,-2,0,1]$ となり,続けて $R_3\to R_3+R_2$ で $[0,0,5,-2,1,1]$ となる.)第3行を $5$ で割ると $[0,0,1,-2/5,1/5,1/5]$.これを使って上の行を掃き出す.$R_2\to R_2-3R_3$($3-3=0,0-3(-2/5)=6/5,1-3/5=2/5,0-3/5=-3/5$),$R_1\to R_1-R_3$($1-1=0,1+2/5=7/5,0-1/5=-1/5,0-1/5=-1/5$).

$$ \left[\begin{array}{ccc|ccc}1&2&1&1&0&0\\0&1&3&0&1&0\\0&0&1&-\frac25&\frac15&\frac15\end{array}\right] \to \left[\begin{array}{ccc|ccc}1&2&0&\frac75&-\frac15&-\frac15\\0&1&0&\frac65&\frac25&-\frac35\\0&0&1&-\frac25&\frac15&\frac15\end{array}\right] $$

最後に $R_1\to R_1-2R_2$($\frac75-\frac{12}5=-\frac55=-1,-\frac15-\frac45=-1,-\frac15+\frac65=1$)とすると

$$ \left[\begin{array}{ccc|ccc}1&0&0&-1&-1&1\\0&1&0&\frac65&\frac25&-\frac35\\0&0&1&-\frac25&\frac15&\frac15\end{array}\right] $$

したがって

$$ A^{-1}=\begin{bmatrix}-1&-1&1\\[2pt]\dfrac65&\dfrac25&-\dfrac35\\[6pt]-\dfrac25&\dfrac15&\dfrac15\end{bmatrix} $$

である($A\cdot A^{-1}=E$ となることを sympy で検算済み).

第10章 線形空間(ベクトル空間)

演習10.1 線形独立性の判定

解答

$g_1=\begin{bmatrix}1\\2\\0\end{bmatrix},\ g_2=\begin{bmatrix}0\\1\\3\end{bmatrix},\ g_3=\begin{bmatrix}2\\0\\-1\end{bmatrix}$ の線形関係式 $c_1g_1+c_2g_2+c_3g_3=0$ を,行列とベクトルの積の形に書く.

$$ G=[g_1\ g_2\ g_3]=\begin{bmatrix}1&0&2\\2&1&0\\0&3&-1\end{bmatrix} $$

サラスの公式で行列式を計算すると,

$$ |G|=1\cdot1\cdot(-1)+0\cdot0\cdot0+2\cdot2\cdot3-2\cdot1\cdot0-1\cdot0\cdot3-0\cdot2\cdot(-1)=-1+0+12-0-0-0=11 $$

となり,$|G|=11\neq0$ である.定理10.1(線形独立性と行列式・階数の関係)より,$g_1,g_2,g_3$ は線形独立である.(sympyで検算:$\det G=11$.)

演習10.2 部分空間の次元と基底

解答

条件式 $2x-y+3z=0$ を $y$ について解くと,$y=2x+3z$ となる.$x,z$ は自由に選べる変数なので,$W$ の要素は

$$ \begin{bmatrix}x\\y\\z\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}x\\2x+3z\\z\end{bmatrix}=x\begin{bmatrix}1\\2\\0\end{bmatrix}+z\begin{bmatrix}0\\3\\1\end{bmatrix} $$

と,2本のベクトルの線形結合で表せる.この2本 $(1,2,0),(0,3,1)$ は,第1成分・第3成分を比べれば分かるように互いに他の定数倍ではなく線形独立である.よって

$$ \dim W=3-1=2,\qquad \text{基底 }\begin{bmatrix}1\\2\\0\end{bmatrix},\begin{bmatrix}0\\3\\1\end{bmatrix} $$

である.(定理10.6 $\dim W=n-\rank A$ でも,条件式1本($1\times3$型の係数行列 $A=[2\ -1\ 3]$,階数1)だから $\dim W=3-1=2$ と一致する.sympyで検算:基底ベクトルはいずれも $2x-y+3z=0$ を満たし,2本の階数は2.)

演習10.3 直和の判定

解答

$U_1=\langle p_1,p_2\rangle$($p_1=(1,1,0),\ p_2=(0,1,1)$),$U_2=\langle q_1\rangle$($q_1=(1,0,0)$)とする.まず $U_1$ が実際に2次元であることを確認する.$p_1,p_2$ は互いに定数倍の関係にない(第3成分が $0$ と $1$ で異なる)ので線形独立であり,$\dim U_1=2$ である.

直和であるための条件(定義10.10(iii))は $U_1\cap U_2=\{0\}$ である.これを,$p_1,p_2,q_1$ の3本をあわせた行列の階数で調べる.

$$ [p_1\ p_2\ q_1]=\begin{bmatrix}1&0&1\\1&1&0\\0&1&0\end{bmatrix} $$

行列式を計算すると $|{\cdot}|=1\cdot1\cdot0+0\cdot0\cdot0+1\cdot1\cdot1-1\cdot1\cdot0-1\cdot0\cdot1-0\cdot1\cdot0=0+0+1-0-0-0=1\neq0$ であり,$\rank=3$ である.

もし $U_1\cap U_2$ に $0$ 以外の元 $v$ があったとすると,$v\in U_1$ より $v=\alpha p_1+\beta p_2$($\alpha,\beta$ のどちらかは非自明),$v\in U_2$ より $v=\gamma q_1$ と書けるので,$\alpha p_1+\beta p_2-\gamma q_1=0$ という,係数が全部 $0$ ではない線形関係式ができてしまう.しかし $\rank[p_1\ p_2\ q_1]=3$(本数と一致)は,定理10.1よりこの3本が線形独立であることを意味し,そのような非自明な関係式は存在しないはずである.これは矛盾なので,$U_1\cap U_2=\{0\}$ である.

また $\dim U_1+\dim U_2=2+1=3=\dim\R^3$ であり,$U_1+U_2$ を生成する3本 $p_1,p_2,q_1$ が独立($\rank=3$)なので $\dim(U_1+U_2)=3=\dim\R^3$,すなわち $U_1+U_2=\R^3$ でもある.よって $\R^3=U_1\oplus U_2$(直和)が成り立っている.(sympyで検算:$\rank[p_1,p_2,q_1]=3$.)

演習10.4 次元定理の逆算

解答

定理10.8(次元定理)$\dim W_1+\dim W_2=\dim(W_1+W_2)+\dim(W_1\cap W_2)$ を,$\dim(W_1\cap W_2)$ について解くと,

$$ \dim(W_1\cap W_2)=\dim W_1+\dim W_2-\dim(W_1+W_2) $$

となる.$\dim W_1=3,\ \dim W_2=3,\ \dim(W_1+W_2)=5$ を代入すると,

$$ \dim(W_1\cap W_2)=3+3-5=1 $$

である.($\R^5$ の中で $\dim(W_1+W_2)=5=\dim\R^5$ なので $W_1+W_2=\R^5$ であり,$W_1,W_2$ はそれぞれ3次元の部分空間として,1次元(1本の直線)だけ重なっている,という状況に対応する.)

演習10.5 部分空間の公理の確認(反例)

解答

$W=\{(x,y)\mid x\ge0,\ y\ge0\}$(第1象限,境界を含む)は,$\R^2$ の部分空間ではない.定義10.7(III)「$a\in W,\ k\in\R\Rightarrow ka\in W$」が破れることを,具体例で示す.

$a=(1,1)\in W$($x=1\ge0,\ y=1\ge0$ を満たす)を取り,スカラー $k=-1$ をかけると,

$$ ka=(-1)\cdot(1,1)=(-1,-1) $$

となる.この $(-1,-1)$ は $x=-1\lt0$ なので $W$ の条件 $x\ge0$ を満たさず,$ka\notin W$ である.よってスカラー倍について閉じておらず,$W$ は $\R^2$ の部分空間ではない.($k\ge0$ のスカラー倍だけなら $W$ の中に収まるが,部分空間の定義ではすべての実数 $k$(負の数も含む)について閉じていることが要求される点に注意する.)

演習10.6 生成系から基底を選ぶ

解答

$h_1=(1,0,0),\ h_2=(0,1,0),\ h_3=(1,1,0),\ h_4=(0,0,1)$ とする.まず,この4本の中に重複した情報がないか調べると,

$$ h_1+h_2=(1,0,0)+(0,1,0)=(1,1,0)=h_3 $$

が成り立っている.すなわち $h_3$ は $h_1,h_2$ の線形結合で表せてしまうので,$h_1,h_2,h_3,h_4$ の4本は線形従属であり,$h_3$ が「余分」な1本である.

そこで $h_3$ を除いた $h_1,h_2,h_4$ の3本が,実際に $\R^3$ の基底になっているか確認する.

$$ [h_1\ h_2\ h_4]=\begin{bmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&1\end{bmatrix}=E_3 $$

(単位行列)であり,$|E_3|=1\neq0$ なので,定理10.1より $h_1,h_2,h_4$ は線形独立である.独立な3本は $\dim\R^3=3$ 本ちょうどなので,定理10.2($\dim W$ の意味)より自動的に $\R^3$ を生成し,基底になる.よって求める基底は

$$ h_1=\begin{bmatrix}1\\0\\0\end{bmatrix},\quad h_2=\begin{bmatrix}0\\1\\0\end{bmatrix},\quad h_4=\begin{bmatrix}0\\0\\1\end{bmatrix} $$

である.($h_1,h_2,h_3$ や $h_1,h_3,h_4$ など,$h_3$ を含む組は $h_3=h_1+h_2$ の関係があるために独立にならず基底になれない場合があるので,除く1本の選び方には注意が要る.今回は $h_3$ を除く選び方だけが,単位行列という分かりやすい形で独立性を確認できる.sympyで検算:$\mathrm{rank}[h_1,h_2,h_4]=3$,$h_3=h_1+h_2$.)

第11章 線形写像

演習11.1 線形写像かどうかの判定

解答

(a) $f(x,y)=(x-y,\ 2x+y,\ 3y)$ が線形写像であることを,定義11.4の2条件で確認する.まず加法性を調べる.$\bm x_1=(x_1,y_1),\ \bm x_2=(x_2,y_2)$ とすると,

$$ f(\bm x_1+\bm x_2)=f(x_1+x_2,\ y_1+y_2)=\big((x_1+x_2)-(y_1+y_2),\ 2(x_1+x_2)+(y_1+y_2),\ 3(y_1+y_2)\big) $$

一方,

$$ f(\bm x_1)+f(\bm x_2)=(x_1-y_1,2x_1+y_1,3y_1)+(x_2-y_2,2x_2+y_2,3y_2)=\big((x_1+x_2)-(y_1+y_2),\ 2(x_1+x_2)+(y_1+y_2),\ 3(y_1+y_2)\big) $$

となり,成分ごとに足し算の順序を入れ替えただけの式なので,両者は完全に一致する.次に斉次性を調べる.$k\in\R$ に対して,

$$ f(k\bm x_1)=f(kx_1,ky_1)=(kx_1-ky_1,\ 2kx_1+ky_1,\ 3ky_1)=k(x_1-y_1,\ 2x_1+y_1,\ 3y_1)=kf(\bm x_1) $$

(各成分を $k$ でくくり出しただけ)となり,こちらも成立する.よって $f$ は定義11.4の2条件をどちらも満たすので,線形写像である.

(b) $g(x,y)=(xy,\ x,\ y)$ については,加法性がすでに破れることを具体例で示す.$\bm x_1=(1,0),\ \bm x_2=(0,1)$ とすると,

$$ g(\bm x_1)+g(\bm x_2)=g(1,0)+g(0,1)=(1\cdot0,\ 1,\ 0)+(0\cdot1,\ 0,\ 1)=(0,1,0)+(0,0,1)=(0,1,1) $$

である.一方,$\bm x_1+\bm x_2=(1,1)$ なので,

$$ g(\bm x_1+\bm x_2)=g(1,1)=(1\cdot1,\ 1,\ 1)=(1,1,1) $$

となる.$(1,1,1)\neq(0,1,1)$ であるから,$g(\bm x_1+\bm x_2)\neq g(\bm x_1)+g(\bm x_2)$ であり,加法性が破れている.よって $g$ は線形写像ではない.(原因は第1成分の $xy$ という積の形にある.一般に $x_1,x_2,y_1,y_2$ で計算すると,加法性の差は $(x_1+x_2)(y_1+y_2)-(x_1y_1+x_2y_2)=x_1y_2+x_2y_1$ となり,これは恒等的に $0$ にはならない.)(sympyで検算:加法性の差が恒等的に $0$ になる/ならないことと,具体例の数値をそれぞれ確認した.)

演習11.2 表現行列から $\mathrm{Im}\,f$,$\mathrm{Ker}\,f$ の基底と次元を求める

解答

$A=\begin{bmatrix}2&-1&1\\4&-2&2\end{bmatrix}$ を行基本変形する.第2行は第1行のちょうど2倍($4=2\times2,\ -2=2\times(-1),\ 2=2\times1$)なので,$R_2\to R_2-2R_1$ とすると

$$ A=\begin{bmatrix}2&-1&1\\4&-2&2\end{bmatrix}\ \xrightarrow{R_2\to R_2-2R_1}\ \begin{bmatrix}2&-1&1\\0&0&0\end{bmatrix} $$

となり,非零の行が1本だけなので $\rank A=1$ である.

$\mathrm{Im}\,f$:$\mathrm{Im}\,f$ は $A$ の3本の列ベクトル $\begin{bmatrix}2\\4\end{bmatrix},\begin{bmatrix}-1\\-2\end{bmatrix},\begin{bmatrix}1\\2\end{bmatrix}$ が張る部分空間である.この3本はいずれも $\begin{bmatrix}1\\2\end{bmatrix}$ のスカラー倍($2$ 倍,$-1$ 倍,$1$ 倍)だから,$\mathrm{Im}\,f=\left\langle\begin{bmatrix}1\\2\end{bmatrix}\right\rangle$ であり,基底は $\begin{bmatrix}1\\2\end{bmatrix}$ の1本,$\dim(\mathrm{Im}\,f)=1=\rank A$ である.

$\mathrm{Ker}\,f$:$A\bm x=\bm0$ すなわち $2x_1-x_2+x_3=0$(2番目の式は1番目の2倍なので独立な式は1本だけ)を解く.$x_1=s,\ x_3=t$($s,t$ は任意の実数)とおくと $x_2=2s+t$ より

$$ \bm x=\begin{bmatrix}s\\2s+t\\t\end{bmatrix}=s\begin{bmatrix}1\\2\\0\end{bmatrix}+t\begin{bmatrix}0\\1\\1\end{bmatrix} $$

となる.よって $\mathrm{Ker}\,f$ の基底は $\begin{bmatrix}1\\2\\0\end{bmatrix},\begin{bmatrix}0\\1\\1\end{bmatrix}$ の2本であり,$\dim(\mathrm{Ker}\,f)=2=n-\rank A=3-1$ である.

次元の確認と判定:$\dim(\mathrm{Im}\,f)+\dim(\mathrm{Ker}\,f)=1+2=3=n$ となっており,次元定理(定理11.4)と一致する.$\dim(\mathrm{Im}\,f)=1\lt2=\dim\R^2$ より $\mathrm{Im}\,f\neq\R^2$ なので $f$ は全射ではない(演習11.5の判定法).また $\mathrm{Ker}\,f\neq\{\bm0\}$(たとえば $\bm x=(1,2,0)^{\mathsf T}\neq\bm0$ が $\mathrm{Ker}\,f$ に含まれる)なので $f$ は単射でもない(演習11.4の判定法).(sympyの $\mathrm{rank}$,$\mathrm{nullspace}$,$\mathrm{columnspace}$ で,$\rank A=1$,$\mathrm{Ker}\,f$ の基底2本(sympyの基底は $\left(\tfrac12,1,0\right),\left(-\tfrac12,0,1\right)$ で本解答の基底とスカラー倍・線形結合の関係にあり,同じ2次元部分空間を張ることを確認済み),$\mathrm{Im}\,f$ の基底1本を確認済み.)

演習11.3 合成写像の表現行列

解答

定理11.5より,求める $g\circ f$ の表現行列は積 $BA$ である.$A$ は $(2,3)$ 型,$B$ は $(2,2)$ 型だから,$BA$ は $(2,3)$ 型になる($B$ の列数 $2$ と $A$ の行数 $2$ が一致しているので計算できる).

$$ BA=\begin{bmatrix}3&1\\-1&2\end{bmatrix}\begin{bmatrix}1&-1&2\\0&1&1\end{bmatrix} $$

各成分を,行列の積の定義(第8章:左の行と右の列を対応する成分どうし掛けて足す)に従って計算する.

$$ (1,1)\text{成分}:\ 3\cdot1+1\cdot0=3,\qquad (1,2)\text{成分}:\ 3\cdot(-1)+1\cdot1=-3+1=-2,\qquad (1,3)\text{成分}:\ 3\cdot2+1\cdot1=6+1=7 $$ $$ (2,1)\text{成分}:\ (-1)\cdot1+2\cdot0=-1,\qquad (2,2)\text{成分}:\ (-1)\cdot(-1)+2\cdot1=1+2=3,\qquad (2,3)\text{成分}:\ (-1)\cdot2+2\cdot1=-2+2=0 $$

これらをまとめると,

$$ BA=\begin{bmatrix}3&-2&7\\-1&3&0\end{bmatrix} $$

である.(sympyで検算:上と同じ $BA$ を得た.)

演習11.4 単射性と $\mathrm{Ker}\,f=\{\bm0\}$ の同値性

解答

(a) 両方向を示す.

($\Rightarrow$)$f$ が単射ならば $\mathrm{Ker}\,f=\{\bm0\}$:定理11.1(i)より,つねに $f(\bm0)=\bm0'$ が成り立つ.いま $\bm x\in\mathrm{Ker}\,f$ とすると,定義11.7より $f(\bm x)=\bm0'$ である.したがって $f(\bm x)=\bm0'=f(\bm0)$ となり,$f$ が単射(定義11.2)であることから $\bm x=\bm0$ が結論できる.よって $\mathrm{Ker}\,f$ の元は $\bm0$ しかなく,$\mathrm{Ker}\,f=\{\bm0\}$ である.

($\Leftarrow$)$\mathrm{Ker}\,f=\{\bm0\}$ ならば $f$ は単射:$f(\bm x_1)=f(\bm x_2)$ を満たす任意の $\bm x_1,\bm x_2\in V$ を取る.定理11.1(ii)(線形結合の像の公式で $c_1=1,c_2=-1$ の場合)より,

$$ f(\bm x_1-\bm x_2)=f(\bm x_1)+f(-\bm x_2)=f(\bm x_1)-f(\bm x_2)=\bm0' $$

(途中,$f(-\bm x_2)=-f(\bm x_2)$ は斉次性 $f(\lambda\bm x)=\lambda f(\bm x)$ で $\lambda=-1$ とした式である).これは定義11.7より $\bm x_1-\bm x_2\in\mathrm{Ker}\,f$ を意味する.仮定 $\mathrm{Ker}\,f=\{\bm0\}$ より $\bm x_1-\bm x_2=\bm0$,すなわち $\bm x_1=\bm x_2$ が導かれる.よって定義11.2より $f$ は単射である.

以上($\Rightarrow$)($\Leftarrow$)の両方が示せたので,「$f$ が単射」$\iff$「$\mathrm{Ker}\,f=\{\bm0\}$」である.

(b) $A=\begin{bmatrix}1&2\\3&7\end{bmatrix}$ とする.$\det A=1\cdot7-2\cdot3=7-6=1\neq0$ であるから(第8章),$A$ は正則である.$A\bm x=\bm0$ の両辺に左から $A^{-1}$ を掛けると $\bm x=A^{-1}\bm0=\bm0$ となるので,$A\bm x=\bm0$ の解は $\bm x=\bm0$ しかない.すなわち $\mathrm{Ker}\,f=\{\bm0\}$ である.(a)の結果より,$f$ は単射である.(sympyで検算:$\det A=1$,$\mathrm{nullspace}(A)$ は空($\bm0$ 以外の解なし),$\rank A=2=n$.)

演習11.5 全射性と $\mathrm{Im}\,f=V'$ の同値性

解答

(a) 定義11.1(全射)は「$\forall\bm y\in V',\ \exists\bm x\in V,\ f(\bm x)=\bm y$」,すなわち「$V'$ のどの元 $\bm y$ をとっても,それを像とする $\bm x\in V$ が(少なくとも1つ)存在する」ということである.これは言い換えれば「$V'$ のすべての元が,$f$ によるある元の像として現れる」ということにほかならない.一方,定義11.6より $\mathrm{Im}\,f=f(V)=\{f(\bm x)\mid\bm x\in V\}$ は「実際に $f$ の像として現れる $V'$ の元の集合」である.したがって,

「$V'$ のすべての元が $f$ の像として現れる」(=全射)は,まさに「$\mathrm{Im}\,f$(実際に像として現れる元の集合)が $V'$ 全体と一致する」,すなわち $\mathrm{Im}\,f=V'$ と同じ主張である.また,つねに $\mathrm{Im}\,f\subset V'$($\mathrm{Im}\,f$ の元はもともと $V'$ の元だから)が成り立っているので,$\mathrm{Im}\,f=V'$ であることは,$V'$ の任意の元が $\mathrm{Im}\,f$ にも含まれること,すなわち先の全射の条件と完全に一致する.よって「$f$ が全射」$\iff$「$\mathrm{Im}\,f=V'$」であり,これは新しい定理というより,2つの定義(定義11.1と定義11.6)を見比べただけで直ちにわかる事実である.

(b) $A=\begin{bmatrix}1&0&1\\0&1&1\end{bmatrix}$ とする.$A$ の列ベクトルは $\begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix},\begin{bmatrix}0\\1\end{bmatrix},\begin{bmatrix}1\\1\end{bmatrix}$ である.最初の2本 $\begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix},\begin{bmatrix}0\\1\end{bmatrix}$ はそれ自体が $\R^2$ の標準基底であり,明らかに線形独立で $\R^2$ を生成する(3本目の $\begin{bmatrix}1\\1\end{bmatrix}$ は,最初の2本の和としてすでにこの2本の張る空間に含まれている).よって $\mathrm{Im}\,f=\langle A\bm e_1,A\bm e_2,A\bm e_3\rangle=\R^2$ であり,$\dim(\mathrm{Im}\,f)=\rank A=2=\dim\R^2$ である.(a)の結果より,$\mathrm{Im}\,f=\R^2=V'$ なので,$f$ は全射である.(sympyで検算:$\rank A=2$,columnspaceの基底が $\begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix},\begin{bmatrix}0\\1\end{bmatrix}$ で $\R^2$ 全体に一致することを確認済み.)

演習11.6 3変数の線形写像の表現行列と階数

解答

$f(x_1,x_2,x_3)=(x_1+x_2,\ x_2+x_3,\ x_1+2x_2+x_3)$ の各成分を,$x_1,x_2,x_3$ の係数の形にそろえて書くと,

$$ \begin{bmatrix}x_1+x_2\\x_2+x_3\\x_1+2x_2+x_3\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}1&1&0\\0&1&1\\1&2&1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}x_1\\x_2\\x_3\end{bmatrix} $$

となるので,表現行列は $A=\begin{bmatrix}1&1&0\\0&1&1\\1&2&1\end{bmatrix}$ である.

ここで,$A$ の第3行を見ると,第1行 $(1,1,0)$ と第2行 $(0,1,1)$ の和がちょうど $(1,1,0)+(0,1,1)=(1,2,1)$ となっており,第3行に一致する.すなわち第3行は第1行と第2行の線形結合(従属)であり,$A$ の3本の行は独立ではない.したがって $\rank A\lt3$ である.一方,第1行と第2行だけを見ると,$(1,1,0)$ と $(0,1,1)$ は互いに他の定数倍ではないので線形独立であり,$\rank A\ge2$ である.よって

$$ \rank A=2 $$

である.行が線形従属であることから $\det A=0$ である(行列式は,行(または列)が線形従属なら必ず $0$ になる,第8章).正方行列($n=m=3$)である $f$ が全単射であるためには $A$ が正則($\rank A=3$,$\det A\neq0$)であることが必要だが,$\rank A=2\neq3$ なので $A$ は正則ではない.次元定理(定理11.4)より $\dim(\mathrm{Ker}\,f)=n-\rank A=3-2=1\gt0$ なので,演習11.4(a)の結果より $f$ は単射ではない.また $\dim(\mathrm{Im}\,f)=\rank A=2\lt3=\dim\R^3$ なので,演習11.5(a)の結果より $f$ は全射でもない.したがって $f$ は全単射ではない.(sympyで検算:$\rank A=2$,$\det A=0$,第3行 $-$(第1行+第2行)$=(0,0,0)$,$\mathrm{Ker}\,f$ の基底 $(1,-1,1)$ を確認済み.)

第12章 固有値・固有ベクトルと行列の対角化

演習12.1 3×3行列の固有値と固有方程式

解答

$A=\begin{bmatrix}1&0&0\\1&0&2\\-1&2&0\end{bmatrix}$ の固有方程式を作る.

$$ A-\lambda E=\begin{bmatrix}1-\lambda&0&0\\1&-\lambda&2\\-1&2&-\lambda\end{bmatrix} $$

第1行に $0$ が2つあるので,第1行に関する余因子展開(第8章 定理8.2)が最も簡単である.

$$ \det(A-\lambda E)=(1-\lambda)\begin{vmatrix}-\lambda&2\\2&-\lambda\end{vmatrix}-0+0=(1-\lambda)(\lambda^2-4) $$

($2\times2$小行列式は $(-\lambda)(-\lambda)-2\cdot2=\lambda^2-4$).$\lambda^2-4=(\lambda-2)(\lambda+2)$ と因数分解できるので,

$$ \det(A-\lambda E)=(1-\lambda)(\lambda-2)(\lambda+2)=0 \qquad\therefore\ \lambda=1,\ 2,\ -2 $$

である(3つとも異なる実数の固有値).続けて,各固有値の固有ベクトルを求める.

$\lambda=1$ のとき.$(A-E)\bm x=\bm0$ を成分で書くと $\begin{cases}0=0\\x_1-x_2+2x_3=0\\-x_1+2x_2-x_3=0\end{cases}$.1本目は恒等的に成り立つ($A-E$ の1行目は $(0,0,0)$)ので実質2本の式である.2本目より $x_1=x_2-2x_3$.これを3本目に代入すると $-(x_2-2x_3)+2x_2-x_3=x_2+x_3=0$,すなわち $x_2=-x_3$.$x_3=t$ とおくと $x_2=-t$,$x_1=x_2-2x_3=-t-2t=-3t$.よって

$$ \bm x=\begin{bmatrix}-3t\\-t\\t\end{bmatrix}=t\begin{bmatrix}-3\\-1\\1\end{bmatrix}\qquad(t\neq0) $$

$\lambda=2$ のとき.$(A-2E)\bm x=\bm0$:$\begin{cases}-x_1=0\\x_1-2x_2+2x_3=0\\-x_1+2x_2-2x_3=0\end{cases}$.1本目より $x_1=0$.これを2本目に代入すると $-2x_2+2x_3=0$,すなわち $x_2=x_3$(3本目も同じ条件に帰着する).$x_3=t$ とおくと $x_2=t$,$x_1=0$.よって

$$ \bm x=\begin{bmatrix}0\\t\\t\end{bmatrix}=t\begin{bmatrix}0\\1\\1\end{bmatrix}\qquad(t\neq0) $$

$\lambda=-2$ のとき.$(A+2E)\bm x=\bm0$:$\begin{cases}3x_1=0\\x_1+2x_2+2x_3=0\\-x_1+2x_2+2x_3=0\end{cases}$.1本目より $x_1=0$.これを2本目に代入すると $2x_2+2x_3=0$,すなわち $x_2=-x_3$(3本目も同じ条件).$x_3=t$ とおくと $x_2=-t$,$x_1=0$.よって

$$ \bm x=\begin{bmatrix}0\\-t\\t\end{bmatrix}=t\begin{bmatrix}0\\-1\\1\end{bmatrix}\qquad(t\neq0) $$

以上をまとめると,固有値は $\lambda=1,2,-2$(いずれも重複度1)で,対応する固有ベクトルはそれぞれ $(-3,-1,1)^{\mathsf T}$,$(0,1,1)^{\mathsf T}$,$(0,-1,1)^{\mathsf T}$(の定数倍)である.(sympyで検算:$A(-3,-1,1)^{\mathsf T}=(-3,-1,1)^{\mathsf T}$,$A(0,1,1)^{\mathsf T}=(0,2,2)^{\mathsf T}=2(0,1,1)^{\mathsf T}$,$A(0,-1,1)^{\mathsf T}=(0,2,-2)^{\mathsf T}=-2(0,-1,1)^{\mathsf T}$ をいずれも直接確認済み.)

演習12.2 対角化可能性の判定

解答

$A=\begin{bmatrix}4&1&0\\0&4&0\\0&0&-1\end{bmatrix}$ は上三角行列だから,$A-\lambda E$ も上三角行列であり,固有方程式は対角成分の積

$$ \det(A-\lambda E)=(4-\lambda)^2(-1-\lambda)=0 $$

である.よって固有値は $\lambda=4$(代数的重複度 $a=2$)と $\lambda=-1$(代数的重複度 $a=1$).

$\lambda=4$ の固有空間を調べる.$(A-4E)\bm x=\bm0$ を成分で書くと $\begin{bmatrix}0&1&0\\0&0&0\\0&0&-5\end{bmatrix}\bm x=\bm0$,すなわち $x_2=0$ かつ $x_3=0$($x_1$ は自由).よって $W(4)=\{(t,0,0)^{\mathsf T}\mid t\in\R\}$ は1次元であり,幾何学的重複度は $g=1$.

$g=1\lt a=2$ となっており,$\lambda=4$ で幾何学的重複度が代数的重複度に足りない.定理12.5(対角化可能性の必要十分条件の重複度による言い換え)より,$A$ は対角化できない.(sympyで検算:$A$ の固有値は $\{4:2,-1:1\}$(重複度込み),$\mathrm{Ker}(A-4E)$ は $(1,0,0)^{\mathsf T}$ の1次元であることを確認済み.)

演習12.3 対角化を用いた行列のべき乗

解答

$A=\begin{bmatrix}0&1\\-4&5\end{bmatrix}$ の固有方程式は

$$ \det(A-\lambda E)=\begin{vmatrix}-\lambda&1\\-4&5-\lambda\end{vmatrix}=-\lambda(5-\lambda)+4=\lambda^2-5\lambda+4=(\lambda-1)(\lambda-4)=0 $$

より,固有値は $\lambda=1,4$(重複度1ずつ).

$\lambda=1$:$(A-E)\bm x=\bm0$:$\begin{cases}-x_1+x_2=0\\-4x_1+4x_2=0\end{cases}$(2本目は1本目の4倍).よって $x_1=x_2$,$\bm v_1=(1,1)^{\mathsf T}$.
$\lambda=4$:$(A-4E)\bm x=\bm0$:$\begin{cases}-4x_1+x_2=0\\-4x_1+x_2=0\end{cases}$(同一の式).よって $x_2=4x_1$,$\bm v_2=(1,4)^{\mathsf T}$.

相異なる固有値なので定理12.3より $\bm v_1,\bm v_2$ は線形独立であり,定理12.5より $A$ は対角化可能である.$P=\begin{bmatrix}1&1\\1&4\end{bmatrix}$,$\det P=4-1=3\neq0$.余因子行列を使った公式(第9章)より

$$ P^{-1}=\frac13\begin{bmatrix}4&-1\\-1&1\end{bmatrix} $$

(検算:$PP^{-1}=\frac13\begin{bmatrix}1\cdot4+1\cdot(-1)&1\cdot(-1)+1\cdot1\\1\cdot4+4\cdot(-1)&1\cdot(-1)+4\cdot1\end{bmatrix}=\frac13\begin{bmatrix}3&0\\0&3\end{bmatrix}=E$).定理12.6より $A^n=PD^nP^{-1}$($D=\mathrm{diag}(1,4)$,$D^n=\mathrm{diag}(1,4^n)$)である.まず

$$ PD^n=\begin{bmatrix}1&1\\1&4\end{bmatrix}\begin{bmatrix}1&0\\0&4^n\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}1&4^n\\1&4^{n+1}\end{bmatrix} $$

これに $P^{-1}$ を右から掛けると,

$$ A^n=\frac13\begin{bmatrix}1&4^n\\1&4^{n+1}\end{bmatrix}\begin{bmatrix}4&-1\\-1&1\end{bmatrix}=\frac13\begin{bmatrix}4-4^n&4^n-1\\4-4^{n+1}&4^{n+1}-1\end{bmatrix} $$

という一般公式が得られる.$n=5$ を代入すると,$4^5=1024$,$4^6=4096$ より,

$$ A^5=\frac13\begin{bmatrix}4-1024&1024-1\\4-4096&4096-1\end{bmatrix}=\frac13\begin{bmatrix}-1020&1023\\-4092&4095\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}-340&341\\-1364&1365\end{bmatrix} $$

である.(sympyで検算:$A$ を5回直接掛け合わせた結果と,一般公式に $n=5$ を代入した結果がどちらも $\begin{bmatrix}-340&341\\-1364&1365\end{bmatrix}$ に一致することを確認済み.)

演習12.4 固有値0とKer fの関係

解答

(1) $A=\begin{bmatrix}1&2\\2&4\end{bmatrix}$ の固有方程式は

$$ \det(A-\lambda E)=(1-\lambda)(4-\lambda)-2\cdot2=\lambda^2-5\lambda+4-4=\lambda^2-5\lambda=\lambda(\lambda-5)=0 $$

より,固有値は $\lambda=0,5$.とくに $\lambda=0$ は確かに $A$ の固有値の1つである.$\lambda=0$ の固有ベクトルを求めるため $(A-0\cdot E)\bm x=A\bm x=\bm0$ を成分で書くと,

$$ \begin{cases}x_1+2x_2=0\\2x_1+4x_2=0\end{cases} $$

(2本目は1本目の2倍で同じ条件).$x_1=-2x_2$ より,$x_2=t$ とおくと $x_1=-2t$.よって固有ベクトルは $\bm x=t(-2,1)^{\mathsf T}$($t\neq0$)である.

(2) 定義12.1(固有値・固有ベクトル)を $\lambda=0$ の場合にあてはめると,「$\lambda=0$ が $A$ の固有値である」とは「$A\bm x=0\cdot\bm x=\bm0$ をみたす $\bm x\neq\bm0$ が存在する」ことである.一方,第11章の定義11.7(核)を,$A$ を表現行列とする線形写像 $f(\bm x)=A\bm x$ にあてはめると,$\mathrm{Ker}\,f=\{\bm x\mid A\bm x=\bm0\}$ である.したがって,

$$ \lambda=0\text{ が固有値}\iff \exists\,\bm x\neq\bm0,\ A\bm x=\bm0\iff \mathrm{Ker}\,f\neq\{\bm0\} $$

——すなわち,定義12.2の言葉で言えば,$\lambda=0$ が固有値であることは,まさに固有空間 $W(0)=\mathrm{Ker}(A-0\cdot E)=\mathrm{Ker}\,f$ が $\{\bm0\}$ より真に大きいことにほかならない.さらに,第9章で学んだ正則条件($A$ が正則 $\iff$ $A\bm x=\bm0$ が自明な解 $\bm x=\bm0$ しかもたない $\iff$ $\det A\neq0$)の対偶を取ると,$\mathrm{Ker}\,f\neq\{\bm0\}$($A\bm x=\bm0$ が非自明な解をもつ)であることは,$A$ が正則でない($\det A=0$)ことと同値である.3つを合わせると,

$$ \lambda=0\text{ が }A\text{ の固有値}\iff \mathrm{Ker}\,f\neq\{\bm0\}\iff A\text{ が正則でない(}\det A=0\text{)} $$

という同値関係が得られる.実際,本問の $A=\begin{bmatrix}1&2\\2&4\end{bmatrix}$ は $\det A=1\cdot4-2\cdot2=0$ であり,正則でないことと $\lambda=0$ が固有値であることが,たしかに対応している.

演習12.5 線形独立性の直接確認

解答

演習12.1で求めた3本の固有ベクトル $\bm v_1=(-3,-1,1)^{\mathsf T}$($\lambda=1$),$\bm v_2=(0,1,1)^{\mathsf T}$($\lambda=2$),$\bm v_3=(0,-1,1)^{\mathsf T}$($\lambda=-2$)を列に並べた行列を作り,行列式を計算する.

$$ M=[\bm v_1\ \bm v_2\ \bm v_3]=\begin{bmatrix}-3&0&0\\-1&1&-1\\1&1&1\end{bmatrix} $$

第1行に $0$ が2つあるので,第1行に関する余因子展開が簡単である.

$$ \det M=(-3)\begin{vmatrix}1&-1\\1&1\end{vmatrix}-0+0=(-3)(1\cdot1-(-1)\cdot1)=(-3)(1+1)=-6 $$

$\det M=-6\neq0$ なので,第10章 定理10.1(線形独立性と階数の関係)より,$\bm v_1,\bm v_2,\bm v_3$ は線形独立である.これは,定理12.3(相異なる固有値に対応する固有ベクトルは線形独立)が主張する内容を,この具体例で行列式によって直接確かめたことになる.(sympyで検算:$\det M=-6$(あるいは列の並べ方によって符号や絶対値の付け方が変わりうるが,いずれにせよ $0$ ではないこと)を確認済み.)

演習12.6 対角化できない行列を自分で作る

解答

(作り方の一例)$A=\begin{bmatrix}3&1\\0&3\end{bmatrix}$ とする.$A$ は上三角行列なので固有方程式は対角成分の積 $(3-\lambda)^2=0$ となり,固有値は $\lambda=3$(代数的重複度 $a=2$)のみである.

固有空間を調べる.$(A-3E)\bm x=\bm0$ を成分で書くと $\begin{bmatrix}0&1\\0&0\end{bmatrix}\bm x=\bm0$,すなわち $x_2=0$($x_1$ は自由).よって $W(3)=\{(t,0)^{\mathsf T}\mid t\in\R\}$ は1次元であり,幾何学的重複度は $g=1$.

$g=1\lt a=2$ なので,定理12.5(の重複度による言い換え)より,$A$ は対角化できない——理由は,$A$ の固有ベクトルが $(1,0)^{\mathsf T}$ の定数倍しか存在せず,これと線形独立なもう1本の固有ベクトルをどうやっても見つけられないため,$2\times2$行列を対角化するのに必要な「2本の線形独立な固有ベクトル」が集まらないからである.(一般に,2次正方行列で固有値が1つだけ(代数的重複度2)で,かつその行列自身が対角行列でない場合,例題12.4(b)とまったく同じ理由でつねに対角化できない.固有値を3以外の数に変え,あるいは非対角成分を1以外の $0$ でない数に変えても,同じ議論がそのまま成り立つ.)(sympyで検算:$A$ の固有値は $\{3:2\}$,$\mathrm{Ker}(A-3E)$ は $(1,0)^{\mathsf T}$ の1次元であることを確認済み.)

第13章 集合と事象の確率

演習13.1 分配法則をベン図と論理式で確認する

解答

(a) ベン図による確認:3つの円 $A,B,C$ を一般の位置(互いに重なり合う位置)に描く.右辺の $B\cup C$ は,円 $B$ と円 $C$ の内部全体(重なりを含む)である.左辺の $A\cap(B\cup C)$ は,円 $A$ の内部のうち,$B\cup C$ にも属する部分——すなわち,円 $A$ の内部で「円 $B$ の中にある部分」と「円 $C$ の中にある部分」を合わせた領域になる.一方,右辺 $(A\cap B)\cup(A\cap C)$ は,$A\cap B$($A$ と $B$ の重なり)と $A\cap C$($A$ と $C$ の重なり)を合わせた領域である.どちらの領域も,図で塗ってみると「円 $A$ の内部のうち,$B$ か $C$ の少なくとも一方にも属する部分」という同じ領域になっており,一致することが視覚的に確認できる.

(b) 要素の帰属条件による証明:全体集合の任意の要素 $x$ について,次の同値変形が成り立つ.

$$ x\in A\cap(B\cup C) \iff x\in A\text{ かつ }x\in B\cup C \iff x\in A\text{ かつ }(x\in B\text{ または }x\in C) $$

ここで,論理演算の分配法則「$P$ かつ($Q$ または $R$)$\iff$($P$ かつ $Q$)または($P$ かつ $R$)」(高校数学の命題の学習で登場する,論理積・論理和の分配法則)を使うと,

$$ \iff (x\in A\text{ かつ }x\in B)\text{ または }(x\in A\text{ かつ }x\in C) \iff x\in A\cap B\text{ または }x\in A\cap C \iff x\in(A\cap B)\cup(A\cap C) $$

となる.したがって,任意の $x$ について $x\in A\cap(B\cup C)\iff x\in(A\cap B)\cup(A\cap C)$ が成り立つので,$A\cap(B\cup C)=(A\cap B)\cup(A\cap C)$ である.(証明終わり)

具体的な数値でも確認しておく.$U=\{1,\ldots,12\}$,$A=\{1,2,3,4,5,6\}$,$B=\{2,4,6,8,10\}$,$C=\{3,6,9,12\}$ とすると,$B\cup C=\{2,3,4,6,8,9,10,12\}$ であり,

$$ A\cap(B\cup C)=\{1,\ldots,6\}\cap\{2,3,4,6,8,9,10,12\}=\{2,3,4,6\} $$

一方,$A\cap B=\{2,4,6\}$,$A\cap C=\{3,6\}$ だから,

$$ (A\cap B)\cup(A\cap C)=\{2,4,6\}\cup\{3,6\}=\{2,3,4,6\} $$

となり,両辺は一致する(Pythonの集合演算で検算済み).

演習13.2 3つの集合に対するド・モルガンの法則

解答

$D=B\cup C$ とおくと,$A\cup B\cup C=A\cup D$ である.定理13.1(2集合のド・モルガンの法則)を $A,D$ に適用すると,

$$ \overline{A\cup D}=\bar A\cap\bar D $$

さらに $D=B\cup C$ にもう一度定理13.1を適用すると,$\bar D=\overline{B\cup C}=\bar B\cap\bar C$ となる.これを代入すると,

$$ \overline{A\cup B\cup C}=\overline{A\cup D}=\bar A\cap\bar D=\bar A\cap(\bar B\cap\bar C)=\bar A\cap\bar B\cap\bar C $$

(最後の等号は共通部分の演算が結合的であること——$(\bar A\cap\bar B)\cap\bar C=\bar A\cap(\bar B\cap\bar C)$——による.これは共通部分の定義「両方に属する」を3つの集合に素直に拡張すれば,かっこの付け方によらず「3つとも属する」という同じ条件になることから明らかである.)よって $\overline{A\cup B\cup C}=\bar A\cap\bar B\cap\bar C$ が示された.(証明終わり)

具体的な数値でも確認する.$U=\{1,\ldots,12\}$,$A=\{1,\ldots,6\}$,$B=\{2,4,6,8,10\}$,$C=\{3,6,9,12\}$ とすると,$A\cup B\cup C=\{1,2,3,4,5,6,8,9,10,12\}$(欠けているのは $7,11$ のみ)だから,

$$ \overline{A\cup B\cup C}=\{7,11\} $$

一方,$\bar A=\{7,\ldots,12\}$,$\bar B=\{1,3,5,7,9,11,12\}$,$\bar C=\{1,2,4,5,7,8,10,11\}$ であり,これら3つの共通部分を計算すると

$$ \bar A\cap\bar B\cap\bar C=\{7,11\} $$

となり,両辺は一致する(Pythonの集合演算で検算済み).

演習13.3 トランプにおける和事象の確率

解答

トランプは52枚(4スート $\times$ 13ランク).事象 $A$(絵札:J,Q,K)は,各スートに3枚ずつあるので $n(A)=4\times3=12$.事象 $B$(ハート)は1スート13枚すべてなので $n(B)=13$.積事象 $A\cap B$(ハートの絵札:J,Q,Kのハート)は $n(A\cap B)=3$.よって,

$$ P(A)=\frac{n(A)}{n(U)}=\frac{12}{52}=\frac{3}{13},\qquad P(B)=\frac{n(B)}{n(U)}=\frac{13}{52}=\frac14,\qquad P(A\cap B)=\frac{n(A\cap B)}{n(U)}=\frac{3}{52} $$

$A$ と $B$ は排反ではない($A\cap B\neq\emptyset$)ので,定理13.2の一般の場合(加法定理)を使う.通分のため $P(A)=3/13=12/52$ に直すと,

$$ P(A\cup B)=P(A)+P(B)-P(A\cap B)=\frac{12}{52}+\frac{13}{52}-\frac{3}{52}=\frac{22}{52}=\frac{11}{26} $$

である.(直接数えても,絵札またはハートである札は $n(A\cup B)=n(A)+n(B)-n(A\cap B)=12+13-3=22$ 枚であり,$22/52=11/26$ と一致する.Pythonで52枚のトランプを実際に列挙して検算済み.)

演習13.4 3つの排反な事象への加法定理の拡張

解答

$A,B,C$ が互いに排反($A\cap B=B\cap C=C\cap A=\emptyset$)とする.$D=B\cup C$ とおくと,まず $A$ と $D$ が排反であることを確認する.もし $A\cap D\neq\emptyset$ なら,ある要素 $x$ が $x\in A$ かつ $x\in D=B\cup C$,すなわち $x\in B$ または $x\in C$ をみたす.前者なら $x\in A\cap B$ となって $A\cap B=\emptyset$ に矛盾し,後者なら $x\in A\cap C$ となって $A\cap C=\emptyset$ に矛盾する.よって $A\cap D=\emptyset$,すなわち $A$ と $D$ は排反である.したがって定理13.2(排反の場合の加法定理)を $A,D$ に適用すると,

$$ P(A\cup B\cup C)=P(A\cup D)=P(A)+P(D)=P(A)+P(B\cup C) $$

ここでもう一度,$B,C$ が排反であることから定理13.2を適用すると $P(B\cup C)=P(B)+P(C)$ となる.これを代入すると,

$$ P(A\cup B\cup C)=P(A)+P(B)+P(C) $$

が示された.(証明終わり)具体例で確認する.$U=\{1,\ldots,12\}$,$A=\{1,2,3\}$,$B=\{4,5,6,7\}$,$C=\{8,9,10\}$(互いに排反)とすると,$n(U)=12$ より

$$ P(A)=\frac{3}{12}=\frac14,\qquad P(B)=\frac{4}{12}=\frac13,\qquad P(C)=\frac{3}{12}=\frac14 $$

これらの和は $\dfrac14+\dfrac13+\dfrac14=\dfrac{3}{12}+\dfrac{4}{12}+\dfrac{3}{12}=\dfrac{10}{12}=\dfrac56$.一方,直接 $A\cup B\cup C=\{1,\ldots,10\}$ より $P(A\cup B\cup C)=10/12=5/6$ であり,両者は一致する(Pythonで検算済み).

演習13.5 余事象を利用したサイコロ2個の確率

解答

2つのさいころの目の出方は全部で $n(U)=6\times6=36$ 通り.目の和は最小 $2$($1+1$),最大 $12$($6+6$)なので,「5の倍数」に該当するのは和が $5$ または $10$ のときである.

(a) 直接数える方法:和が $5$ になる組は $(1,4),(2,3),(3,2),(4,1)$ の4通り,和が $10$ になる組は $(4,6),(5,5),(6,4)$ の3通りだから,該当する事象を $A$ とすると $n(A)=4+3=7$.よって

$$ P(A)=\frac{7}{36} $$

(b) 余事象を使う方法:$\bar A=$「和が5の倍数でない」の場合の数は $n(\bar A)=36-7=29$(あるいは,和がとりうる11種類の値 $2,\ldots,12$ のうち $5,10$ 以外の9種類について,それぞれの組数を数えて合計しても同じく29になる).したがって定理13.3(余事象の確率)より,

$$ P(A)=1-P(\bar A)=1-\frac{29}{36}=\frac{7}{36} $$

となり,(a)の直接計算と一致する(Pythonで36通りすべてを列挙して検算済み).

演習13.6 信頼性工学への応用——反復試行の公式

解答

1個のスイッチが故障する事象を $A$ とすると $p=P(A)=0.05$,故障しない確率は $q=1-p=0.95$.$n=10$ 個のスイッチはそれぞれ独立に故障するので,定理13.4(反復試行の公式)を $n=10$,$r=2$ として適用できる.まず組合せの数を計算すると,

$$ {}_{10}\mathrm{C}_2=\frac{10!}{2!\,8!}=\frac{10\times9}{2\times1}=45 $$

である.したがって,ちょうど2個が故障する確率は,

$$ P={}_{10}\mathrm{C}_2\cdot p^2\cdot q^{8}=45\times(0.05)^2\times(0.95)^8 $$

$(0.05)^2=0.0025$,$(0.95)^8$ を順に2乗していくと $(0.95)^2=0.9025$,$(0.95)^4=(0.9025)^2\approx0.814506$,$(0.95)^8=(0.814506)^2\approx0.663420$ となるから,

$$ P\approx45\times0.0025\times0.663420\approx0.07463 $$

すなわち約7.5%である(厳密な有理数では $P=152852067369/2048000000000$ となるが,分母が大きく実用上の意味を持たないので,小数で表すのが適切である.sympyによる厳密計算と,通常の浮動小数点計算の両方で$P\approx0.0746$と一致することを確認済み).10個のうち平均的には $np=10\times0.05=0.5$ 個の故障が期待されるので,「ちょうど2個」はそれよりやや起こりにくい,というのがこの値の直感的な意味である.

第14章 期待値 — 離散から連続へ

演習14.1 2つのさいころの目の和の期待値

解答

2個のサイコロを区別して「1個目の目」を $X_1$,「2個目の目」を $X_2$ とし,和を $X=X_1+X_2$ とする.起こりうる場合は全部で $6\times6=36$ 通りあり,どの組も同様に確からしい(各々の確率は $\frac1{36}$).和 $X$ が値 $s$($s=2,3,\dots,12$)になる場合の数 $n(s)$ を数え上げると,

$$ n(2)=1,\ n(3)=2,\ n(4)=3,\ n(5)=4,\ n(6)=5,\ n(7)=6,\ n(8)=5,\ n(9)=4,\ n(10)=3,\ n(11)=2,\ n(12)=1 $$

(合計 $1+2+3+4+5+6+5+4+3+2+1=36$ で確かに全体と一致する.たとえば $s=4$ は $(1,3),(2,2),(3,1)$ の3通り.)確率は $P(X=s)=\dfrac{n(s)}{36}$ だから,定義14.1(第14章の式)より

$$ E(X)=\sum_{s=2}^{12} s\cdot\frac{n(s)}{36}=\frac{1}{36}\big(2\cdot1+3\cdot2+4\cdot3+5\cdot4+6\cdot5+7\cdot6+8\cdot5+9\cdot4+10\cdot3+11\cdot2+12\cdot1\big) $$

括弧の中を計算すると $2+6+12+20+30+42+40+36+30+22+12=252$ であるから,$E(X)=\dfrac{252}{36}=7$ である.

(別解:期待値の線形性を使う近道.1個のサイコロの目の期待値は例題14.1より $E(X_1)=E(X_2)=\frac72$ である.2つの確率変数の和の期待値は,それぞれの期待値の和に等しい($E(X_1+X_2)=E(X_1)+E(X_2)$.これは各々の確率変数を別々に平均してから足しても,先に足してから平均しても同じ,という性質で,本章で証明はしていないが,$36$通りの表を実際に和で束ね直せば式変形だけで確認できる)から,$E(X)=\frac72+\frac72=7$ と,はるかに短い計算で同じ結果が得られる.)

(Pythonで検算:36通りの組をすべて数え上げて和を取ると,厳密分数で $E(X)=7$ と一致.)

演習14.2 3つの値をとる確率変数の期待値とばらつき(発展)

解答

(a) $X$ は $2,5,9$ を確率 $\frac13$ ずつでとるから,定義14.1(第14章の式)より

$$ E(X)=2\cdot\frac13+5\cdot\frac13+9\cdot\frac13=\frac{2+5+9}{3}=\frac{16}{3} $$

である.

(b) $X^2$ がとる値は,$X=2,5,9$ のそれぞれに対応して $X^2=4,25,81$ であり,各々の確率は $X$ のときと同じ $\frac13$ である(「$X=2$」という事象と「$X^2=4$」という事象は,$X$ が正の値しかとらないこの問題ではまったく同じ事象だからである).よって

$$ E(X^2)=4\cdot\frac13+25\cdot\frac13+81\cdot\frac13=\frac{4+25+81}{3}=\frac{110}{3} $$

となる.

(c) 分散は,本来は「各値が期待値からどれだけ離れているかの2乗の期待値」として

$$ V(X)=E\big[(X-E(X))^2\big] $$

と定義される.$E(X)$ は($X$ が定まればすでに1つの値に決まっている)定数だから,右辺を展開するときは期待値の線形性($E(A+B)=E(A)+E(B)$,$E(cA)=cE(A)$,$c$ は定数)を使って項ごとに計算してよい.

$$ E\big[(X-E(X))^2\big]=E\big(X^2-2X\cdot E(X)+\{E(X)\}^2\big)=E(X^2)-2E(X)\cdot E(X)+\{E(X)\}^2=E(X^2)-\{E(X)\}^2 $$

(第1項はそのまま $E(X^2)$,第2項は $E(X)$ が定数なので $E\big(2X\cdot E(X)\big)=2E(X)\cdot E(X)=2\{E(X)\}^2$,第3項は $\{E(X)\}^2$ も定数だから $E\big(\{E(X)\}^2\big)=\{E(X)\}^2$ そのもの.これらを合わせると $E(X^2)-2\{E(X)\}^2+\{E(X)\}^2=E(X^2)-\{E(X)\}^2$ になる.)こうして,天下りではなく「期待値のまわりの2乗のばらつき」という定義から,計算に使いやすい公式

$$ V(X)=E(X^2)-\{E(X)\}^2 $$

が導かれる.(a)(b)の結果 $E(X)=\frac{16}{3}$,$E(X^2)=\frac{110}{3}$ を代入すると,

$$ V(X)=E(X^2)-\{E(X)\}^2=\frac{110}{3}-\left(\frac{16}{3}\right)^2=\frac{110}{3}-\frac{256}{9}=\frac{330}{9}-\frac{256}{9}=\frac{74}{9} $$

である.(Pythonの厳密分数計算で $E(X)=16/3$,$E(X^2)=110/3$,$V(X)=74/9$ と一致することを確認済み.また,定義どおりの式 $E[(X-E(X))^2]=\sum_k(x_k-E(X))^2\cdot\frac13$ を直接計算しても同じ $74/9$ になることをPythonで確認済み.)$V(X)=\frac{74}{9}\approx8.22$ は,$X$ の値が期待値 $\frac{16}{3}\approx5.33$ のまわりに,およそ $\sqrt{8.22}\approx2.87$ 程度のばらつき(標準偏差)で散らばっていることを表す.3つの値 $2,5,9$ は期待値からそれぞれ $3.33,0.33,3.67$ ほど離れており,このオーダー感とも大まかに合っている.

演習14.3 密度関数の規格化定数と期待値

解答

(a) 規格化条件(第14章の式)$\displaystyle\int_0^2 P(x)\,dx=1$ に $P(x)=cx$ を代入すると,

$$ \int_0^2 cx\,dx=c\left[\frac{x^2}{2}\right]_0^2=c\cdot\frac{4}{2}=2c $$

であり,これが $1$ に等しいから $2c=1$,すなわち

$$ c=\frac12 $$

である.($P(x)=\frac12 x$ が,$0\le x\le2$ で確かに $P(x)\ge0$ をみたしていることも確認しておく.)

(b) 期待値の定義(第14章の式)に $P(x)=\frac12 x$ を代入すると,

$$ E=\int_0^2 x\cdot\frac12 x\,dx=\frac12\int_0^2 x^2\,dx=\frac12\left[\frac{x^3}{3}\right]_0^2=\frac12\cdot\frac83=\frac43 $$

である.(sympyで検算:$c=1/2$,$E=4/3$ といずれも厳密分数で一致.)区間 $[0,2]$ の中点は $1$ だが,密度が右側($x=2$ に近いほう)ほど大きいので,期待値 $\frac43\approx1.33$ が中点よりも右に寄っている——これは例題14.7で述べた「期待値は密度が高い側に引き寄せられる」性質のとおりである.

演習14.4 区分求積法の練習($f(x)=x^2$)

解答

和 $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\left(\frac kn\right)^2\cdot\frac1n$ を,公式14.1で $L=1$,$f(x)=x^2$ とした場合の $\displaystyle\sum_{k=1}^n f\!\left(\frac kn\right)\frac1n$ とみなす.よって

$$ \lim_{n\to\infty}\sum_{k=1}^{n}\left(\frac{k}{n}\right)^2\cdot\frac1n=\int_0^1 x^2\,dx=\left[\frac{x^3}{3}\right]_0^1=\frac13 $$

である.

検算(和を直接計算する別解) 高校数学の公式 $\displaystyle\sum_{k=1}^n k^2=\frac{n(n+1)(2n+1)}{6}$ を使うと,

$$ \sum_{k=1}^{n}\left(\frac kn\right)^2\frac1n=\frac{1}{n^3}\sum_{k=1}^n k^2=\frac{1}{n^3}\cdot\frac{n(n+1)(2n+1)}{6}=\frac{(n+1)(2n+1)}{6n^2}=\frac{2n^2+3n+1}{6n^2} $$

$n\to\infty$ のとき,分母・分子を $n^2$ で割れば $\dfrac{2+3/n+1/n^2}{6}\to\dfrac26=\dfrac13$ となり,区分求積法による結果と完全に一致する.(sympyで検算:summation(k**2,(k,1,n))/n**3 を簡約すると $\frac{(n+1)(2n+1)}{6n^2}$ となり,$n\to\infty$ の極限は厳密に $1/3$.)

演習14.5 放射性崩壊の平均寿命と半減期

解答

(a) 例題14.8の結果 $E=\dfrac1\lambda$ をそのまま使えば,平均寿命は

$$ \tau=E(T)=\frac1\lambda $$

である.

(b) 半減期の定義は,原子の個数(生き残っている確率)が半分になる時刻である.時刻 $t$ まで崩壊せずに残っている確率は,指数分布の性質から $1-\int_0^t P(s)\,ds=e^{-\lambda t}$ となる(実際,$\int_0^t\lambda e^{-\lambda s}\,ds=\big[-e^{-\lambda s}\big]_0^t=1-e^{-\lambda t}$ が「時刻 $t$ までに崩壊し終えている確率」なので,その余事象の確率が $e^{-\lambda t}$ である).これが $\frac12$ になる時刻が半減期だから,

$$ e^{-\lambda T_{1/2}}=\frac12 $$

を解けばよい.両辺の自然対数をとると $-\lambda T_{1/2}=\ln\frac12=-\ln2$($\ln\frac12=\ln1-\ln2=-\ln2$)となるので,

$$ T_{1/2}=\frac{\ln2}{\lambda} $$

を得る.(a)の $\tau=1/\lambda$ を使って書き直すと,

$$ T_{1/2}=\tau\ln2\approx0.693\,\tau $$

という関係になる.半減期は平均寿命よりも短い(約 $69.3\%$)——これは指数分布が左右非対称で,「早く崩壊する」原子の割合の方が「平均よりずっと長生きする」原子の割合よりも多いことの表れである.

(c) $\tau=10$ のとき,$\lambda=1/\tau=1/10$ であり,

$$ T_{1/2}=\tau\ln2=10\ln2\approx10\times0.6931=6.931 $$

である.(sympyで検算:tau=1/lam,T_half=log(2)/lam がともに $\lambda$ の関数として一致し,$\lambda=1/10$ のとき $T_{1/2}=10\ln2\approx6.9315$.)

演習14.6 一様分布と三角形型分布の期待値の比較

解答

(a) $P(x)=\dfrac2L\left(1-\dfrac xL\right)$($0\le x\le L$)を $[0,L]$ で積分すると,

$$ \int_0^L \frac2L\left(1-\frac xL\right)dx=\frac2L\int_0^L\left(1-\frac xL\right)dx=\frac2L\left[x-\frac{x^2}{2L}\right]_0^L=\frac2L\left(L-\frac L2\right)=\frac2L\cdot\frac L2=1 $$

となり,確かに規格化条件 $\int_0^L P(x)\,dx=1$ をみたす.($x=0$ で $P(0)=\frac2L$ が最大値,$x=L$ で $P(L)=0$ となり,直線的に減少することも確認できる.)

(b) 期待値の定義(第14章の式)より,

$$ E=\int_0^L x\cdot\frac2L\left(1-\frac xL\right)dx=\frac2L\int_0^L\left(x-\frac{x^2}{L}\right)dx=\frac2L\left[\frac{x^2}{2}-\frac{x^3}{3L}\right]_0^L=\frac2L\left(\frac{L^2}{2}-\frac{L^2}{3}\right)=\frac2L\cdot\frac{L^2}{6}=\frac L3 $$

である.一様分布の期待値 $\frac L2$(例題14.6)と比べると,三角形型分布の期待値 $\frac L3$ の方が小さい:$\dfrac L3\lt\dfrac L2$.(sympyで検算:規格化積分・期待値ともに一般の $L$ について厳密に一致.)

(c) この結果は,例題14.7で述べた「期待値は密度が高い側に引き寄せられる」性質と完全に整合している.三角形型分布(ii)は,$x=0$ 付近で密度が最大($P(0)=\frac2L$)になり,$x=L$ に近づくほど密度が小さくなる($P(L)=0$).つまり,この分布は「$x$ が小さい側で起こりやすい」分布であり,実際に期待値 $\frac L3$ は一様分布の中点 $\frac L2$ よりも小さい側($x=0$ に近い側)に引き寄せられている.逆に例題14.7の密度 $P(x)=\frac{2}{L^2}x$ は $x=L$側で大きく,期待値 $\frac{2L}{3}$ は中点より大きい側に引き寄せられていた.図14.4(一様分布,期待値は中点)と見比べると,密度のグラフの「山」がどちら側にあるかで,期待値の位置が中点からその側にずれることが,2つの逆向きの例(線形増加密度と線形減少密度)から確認できる.

第15章 ベクトルの内積と外積

演習15.1 単位ベクトル

解答

$\vec a=(1,2,2)$ の大きさは,成分の2乗和の平方根であるから,

$$ \abs{\vec a}=\sqrt{1^2+2^2+2^2}=\sqrt{1+4+4}=\sqrt9=3 $$

である.したがって,第15章の式($\vec e=\vec a/\abs{\vec a}$)より,単位ベクトルは,

$$ \vec e=\frac13(1,2,2)=\left(\frac13,\frac23,\frac23\right) $$

である.検算のため大きさを求めると,$\abs{\vec e}=\sqrt{\left(\frac13\right)^2+\left(\frac23\right)^2+\left(\frac23\right)^2}=\sqrt{\frac19+\frac49+\frac49}=\sqrt{\frac99}=\sqrt1=1$ となり,確かに単位ベクトルである.(sympyで検算:$\abs{\vec a}=3$,$\vec e=(1/3,2/3,2/3)$,$\abs{\vec e}=1$.)

演習15.2 内積となす角

解答

$\vec a=(2,1)$,$\vec b=(-1,3)$ の内積は,定義15.4(成分表示)より,

$$ \vec a\cdot\vec b=2\times(-1)+1\times3=-2+3=1 $$

である.また,大きさはそれぞれ,

$$ \abs{\vec a}=\sqrt{2^2+1^2}=\sqrt5,\qquad \abs{\vec b}=\sqrt{(-1)^2+3^2}=\sqrt{10} $$

だから,定理15.1(幾何学的表示)より,

$$ \cos\theta=\frac{\vec a\cdot\vec b}{\abs{\vec a}\abs{\vec b}}=\frac{1}{\sqrt5\times\sqrt{10}}=\frac{1}{\sqrt{50}}=\frac{1}{5\sqrt2}=\frac{\sqrt2}{10} $$

である(分母を有理化した).数値では $\cos\theta\approx0.1414$ であり,$\theta=\cos^{-1}\left(\dfrac{\sqrt2}{10}\right)\approx81.9^\circ$ である.(sympyで検算:$\vec a\cdot\vec b=1$,$\cos\theta=\sqrt2/10$.)

演習15.3(発展) スカラー三重積と体積

解答

まず $\vec b\times\vec c$ を,定理15.6の成分公式 $\vec b\times\vec c=(b_2c_3-b_3c_2,\ b_3c_1-b_1c_3,\ b_1c_2-b_2c_1)$ に,$\vec b=(0,1,0)$,$\vec c=(0,0,1)$ を代入して求める.

$$ \vec b\times\vec c=(1\times1-0\times0,\ 0\times0-0\times1,\ 0\times0-1\times0)=(1,0,0) $$

である(偶然にも,これはちょうど $\vec a$ 自身と同じベクトルになっている——$\vec b,\vec c$ が単位立方体の2辺で,右ネジの法則にしたがって $\vec b$ から $\vec c$ へ回すとネジは $x$ 軸正方向に進むことを考えれば,これは定理15.4(VI)の $\vec j\times\vec k=\vec i$ そのものである).次に,$\vec a\cdot(\vec b\times\vec c)$ を定義15.4(内積の成分表示)で計算する.

$$ \vec a\cdot(\vec b\times\vec c)=(1,0,0)\cdot(1,0,0)=1\times1+0\times0+0\times0=1 $$

である.一方,$\vec a,\vec b,\vec c$ はそれぞれ $x,y,z$ 軸方向を向く長さ1の辺であり,互いに直交しているから,これらを3辺とする平行六面体は,一辺の長さが1の立方体(単位立方体)である.その体積は,明らかに $1\times1\times1=1$ であり,先に求めたスカラー三重積の値 $\vec a\cdot(\vec b\times\vec c)=1$ とぴったり一致する.(一般に,スカラー三重積 $\vec a\cdot(\vec b\times\vec c)$ の絶対値は,$\vec a,\vec b,\vec c$ を3辺とする平行六面体の体積に等しく,しかもこれは3つのベクトルを行に並べた $3\times3$ 行列の行列式にも等しい——本問はその最も単純な例である.sympyで検算:$\vec a\cdot(\vec b\times\vec c)=1=\det\begin{bmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&1\end{bmatrix}$.)

演習15.4 一般成分での反交換法則の証明

解答

定理15.6(第15章の式)より,$\vec A=(a_1,a_2,a_3)$,$\vec B=(b_1,b_2,b_3)$ の外積は,

$$ \vec A\times\vec B=(a_2b_3-a_3b_2,\ a_3b_1-a_1b_3,\ a_1b_2-a_2b_1) $$

である.同じ公式で,$\vec A,\vec B$ の役割を入れ替えると,

$$ \vec B\times\vec A=(b_2a_3-b_3a_2,\ b_3a_1-b_1a_3,\ b_1a_2-b_2a_1) $$

となる.各成分を見比べると,第1成分は $b_2a_3-b_3a_2=-(a_2b_3-a_3b_2)$,第2成分は $b_3a_1-b_1a_3=-(a_3b_1-a_1b_3)$,第3成分は $b_1a_2-b_2a_1=-(a_1b_2-a_2b_1)$ であり(実数の積の交換法則 $a_ib_j=b_ja_i$ を使って,$\vec A\times\vec B$ の対応する成分の符号をひっくり返しただけになっている),いずれも $\vec A\times\vec B$ の対応する成分にちょうど $-1$ を掛けたものになっている.したがって,

$$ \vec B\times\vec A=-(\vec A\times\vec B) $$

が成分計算によって確認できた.これは,15.3節で回転の向き(右ネジの法則)から幾何学的に証明した定理15.3と,まったく同じ結論であり,異なる2つの道筋(幾何学的な議論と,成分の代数計算)が同じ結果に到達することを裏づけている.(sympyで検算:記号 $a_1,\ldots,b_3$ のまま $\vec A\times\vec B+\vec B\times\vec A$ を計算すると恒等的に $\vec 0$ になる.)

演習15.5 3点から作られる三角形の面積

解答

$P(0,0)$,$Q(4,0)$,$R(2,5)$ とする.$\vec u=\vec{PQ}=(4-0,0-0)=(4,0)$,$\vec v=\vec{PR}=(2-0,5-0)=(2,5)$ とおく.例題15.6と同じ方針で,定理15.5(平面内の外積の成分表示)より,$\vec u,\vec v$ が張る平行四辺形の面積は,

$$ S_{\text{平行四辺形}}=\abs{u_1v_2-u_2v_1}=\abs{4\times5-0\times2}=\abs{20-0}=20 $$

である.三角形 $PQR$ は,この平行四辺形の対角線で半分に切った図形にあたるから,

$$ S_{\triangle PQR}=\frac12\times20=10 $$

である.(sympyで検算:$u_1v_2-u_2v_1=20$,面積$=10$.)

演習15.6 外積は結合法則を満たすか

解答

定理15.4(VI)($\vec i\times\vec i=\vec 0$,$\vec i\times\vec j=\vec k$,$\vec k\times\vec i=\vec j$)を使う.まず $(\vec i\times\vec i)\times\vec j$ を計算する.$\vec i\times\vec i=\vec 0$ だから,

$$ (\vec i\times\vec i)\times\vec j=\vec 0\times\vec j=\vec 0 $$

である(定理15.4(I),零ベクトルとの外積は零ベクトル).次に $\vec i\times(\vec i\times\vec j)$ を計算する.$\vec i\times\vec j=\vec k$ だから,

$$ \vec i\times(\vec i\times\vec j)=\vec i\times\vec k $$

となる.ここで,定理15.4(VI)は $\vec k\times\vec i=\vec j$ を与えているので,定理15.3(反交換法則)$\vec i\times\vec k=-(\vec k\times\vec i)=-\vec j$ を使うと,

$$ \vec i\times(\vec i\times\vec j)=-\vec j $$

を得る.以上より,

$$ (\vec i\times\vec i)\times\vec j=\vec 0,\qquad \vec i\times(\vec i\times\vec j)=-\vec j $$

であり,$\vec j\neq\vec 0$ だから,この2つは一致しない.したがって,この具体例が反例になっており,外積 $\times$ について,一般には結合法則

$$ (\vec a\times\vec b)\times\vec c=\vec a\times(\vec b\times\vec c) $$

は成り立たないと結論できる(内積や実数の掛け算とは違い,外積では「どこから先に計算するか」で結果が変わりうる,という点に注意が必要である).(numpyで検算:$(\vec i\times\vec i)\times\vec j=(0,0,0)$,$\vec i\times(\vec i\times\vec j)=(0,-1,0)=-\vec j$.なお $(\vec i\times\vec j)\times\vec k=\vec k\times\vec k=\vec 0$ と $\vec i\times(\vec j\times\vec k)=\vec i\times\vec i=\vec 0$ はこの場合たまたま両方とも $\vec 0$ になり区別がつかないため,本解答では区別のつく $\vec i,\vec i,\vec j$ の組を反例に使った.)

第16章 座標系と基底ベクトル

演習16.1 円柱座標から直角座標への変換

解答

公式16.6($x=r\cos\varphi,\ y=r\sin\varphi,\ z=z$)に,$r=5,\ \varphi=\dfrac{2\pi}{3},\ z=-2$ を代入する.$\varphi=2\pi/3$ は第2象限の角なので,$\cos\dfrac{2\pi}{3}=-\dfrac12$,$\sin\dfrac{2\pi}{3}=\dfrac{\sqrt3}{2}$ である($\dfrac{2\pi}{3}=\pi-\dfrac\pi3$ なので,$\cos\left(\pi-\dfrac\pi3\right)=-\cos\dfrac\pi3=-\dfrac12$,$\sin\left(\pi-\dfrac\pi3\right)=\sin\dfrac\pi3=\dfrac{\sqrt3}{2}$ と求める).したがって,

$$ x=5\times\left(-\frac12\right)=-\frac52,\qquad y=5\times\frac{\sqrt3}{2}=\frac{5\sqrt3}{2},\qquad z=-2 . $$

よって直角座標では $\left(-\dfrac52,\ \dfrac{5\sqrt3}{2},\ -2\right)$ である.(sympyで検算:$(-5/2,\ 5\sqrt3/2,\ -2)$.)

演習16.2 球座標から直角座標への変換

解答

公式16.10($x=R\sin\theta\cos\varphi,\ y=R\sin\theta\sin\varphi,\ z=R\cos\theta$)に,$R=3,\ \theta=\dfrac\pi4,\ \varphi=\dfrac\pi2$ を代入する.$\sin\dfrac\pi4=\cos\dfrac\pi4=\dfrac{1}{\sqrt2}$,$\cos\dfrac\pi2=0,\ \sin\dfrac\pi2=1$ であるから,

$$ x=3\times\frac{1}{\sqrt2}\times0=0,\qquad y=3\times\frac{1}{\sqrt2}\times1=\frac{3}{\sqrt2}=\frac{3\sqrt2}{2},\qquad z=3\times\frac{1}{\sqrt2}=\frac{3\sqrt2}{2} . $$

よって直角座標では $\left(0,\ \dfrac{3\sqrt2}{2},\ \dfrac{3\sqrt2}{2}\right)$ である.$x=0$ になっているのは,$\varphi=\pi/2$ がちょうど $y$ 軸の方向($x$ 軸から $90°$)だからで,理にかなっている.(sympyで検算:$(0,\ 3\sqrt2/2,\ 3\sqrt2/2)$.)

演習16.3 $y$ 軸まわりの回転

解答

定理16.3の $R_y(\theta)=\begin{bmatrix}\cos\theta&0&\sin\theta\\0&1&0\\-\sin\theta&0&\cos\theta\end{bmatrix}$ に $\theta=\dfrac\pi2$($\cos\dfrac\pi2=0,\ \sin\dfrac\pi2=1$)を代入すると,

$$ R_y\!\left(\frac\pi2\right)=\begin{bmatrix}0&0&1\\0&1&0\\-1&0&0\end{bmatrix} . $$

これを点 $(1,0,1)$(列ベクトル $[1,0,1]^{\mathrm T}$)に作用させると,

$$ R_y\!\left(\frac\pi2\right)\begin{bmatrix}1\\0\\1\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}0\times1+0\times0+1\times1\\0\times1+1\times0+0\times1\\-1\times1+0\times0+0\times1\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}1\\0\\-1\end{bmatrix} . $$

よって像は $(1,0,-1)$ である.注意:もし底本のままの符号($R_y(\theta)$ の $(1,3)$ 成分が $-\sin\theta$,$(3,1)$ 成分が $+\sin\theta$)を誤って使うと,$(-1,0,1)$ という異なる答えになってしまう.定理16.3の直後の「注意」で確認したとおり,$x$ 軸・$z$ 軸の回転行列とサイクリックに符号パターンをそろえた,本章の $R_y(\theta)$ の形($(1,3)$ 成分が $+\sin\theta$)を使うことが大切である.(sympyで検算:$(1,0,-1)$.)

演習16.4 球座標の基底ベクトルが右手系をなすことの確認

解答

公式16.12より $\vec e_R=[\sin\theta\cos\varphi,\ \sin\theta\sin\varphi,\ \cos\theta]$,$\vec e_\theta=[\cos\theta\cos\varphi,\ \cos\theta\sin\varphi,\ -\sin\theta]$ である.前章で学んだ外積の成分公式 $\vec a\times\vec b=[a_2b_3-a_3b_2,\ a_3b_1-a_1b_3,\ a_1b_2-a_2b_1]$ に,$\vec a=\vec e_R,\ \vec b=\vec e_\theta$ の成分を代入する.

第1成分:

$$ a_2b_3-a_3b_2=(\sin\theta\sin\varphi)(-\sin\theta)-(\cos\theta)(\cos\theta\sin\varphi)=-\sin\varphi(\sin^2\theta+\cos^2\theta)=-\sin\varphi . $$

第2成分:

$$ a_3b_1-a_1b_3=(\cos\theta)(\cos\theta\cos\varphi)-(\sin\theta\cos\varphi)(-\sin\theta)=\cos\varphi(\cos^2\theta+\sin^2\theta)=\cos\varphi . $$

第3成分:

$$ a_1b_2-a_2b_1=(\sin\theta\cos\varphi)(\cos\theta\sin\varphi)-(\sin\theta\sin\varphi)(\cos\theta\cos\varphi)=\sin\theta\cos\theta\sin\varphi\cos\varphi-\sin\theta\cos\theta\sin\varphi\cos\varphi=0 . $$

したがって,

$$ \vec e_R\times\vec e_\theta=[-\sin\varphi,\ \cos\varphi,\ 0] $$

となり,これは公式16.12の $\vec e_\varphi=-\sin\varphi\,\vec e_x+\cos\varphi\,\vec e_y=[-\sin\varphi,\cos\varphi,0]$ とぴったり一致する.よって $\vec e_R\times\vec e_\theta=\vec e_\varphi$ が成分レベルで確認できた.3つとも同様に確認できるので,$\vec e_R,\vec e_\theta,\vec e_\varphi$ は右手系をなす.(sympyで検算.)

演習16.5 半径が変化する円運動の速度・加速度

解答

$r(t)=r_0(1+\varepsilon\sin\omega t)$ を時間で微分すると($r_0,\varepsilon,\omega$ は定数なので,微分するのは $\sin\omega t$ の部分だけ),

$$ \dot r=r_0\varepsilon\omega\cos\omega t,\qquad \ddot r=-r_0\varepsilon\omega^2\sin\omega t . $$

また $\theta(t)=\omega t$ より $\dot\theta=\omega$(定数),$\ddot\theta=0$ である.公式16.16に代入すると,

$$ V_r=\dot r=r_0\varepsilon\omega\cos\omega t, $$ $$ V_\theta=r\dot\theta=r_0(1+\varepsilon\sin\omega t)\,\omega=r_0\omega+r_0\varepsilon\omega\sin\omega t . $$

公式16.17に代入すると,

$$ A_r=\ddot r-r\dot\theta^2=-r_0\varepsilon\omega^2\sin\omega t-r_0(1+\varepsilon\sin\omega t)\,\omega^2 $$ $$ =-r_0\varepsilon\omega^2\sin\omega t-r_0\omega^2-r_0\varepsilon\omega^2\sin\omega t=-r_0\omega^2-2r_0\varepsilon\omega^2\sin\omega t=-r_0\omega^2(1+2\varepsilon\sin\omega t), $$ $$ A_\theta=2\dot r\dot\theta+r\ddot\theta=2(r_0\varepsilon\omega\cos\omega t)(\omega)+r_0(1+\varepsilon\sin\omega t)\times0=2r_0\varepsilon\omega^2\cos\omega t . $$

検算として $\varepsilon=0$($r=r_0$ 一定)とすると,$V_r=0,\ V_\theta=r_0\omega,\ A_r=-r_0\omega^2,\ A_\theta=0$ となり,例題16.9の結果($a\to r_0$)にちょうど一致する.(sympyで検算.)

演習16.6 $\vec e_\varphi$ の偏微分

解答

公式16.12より $\vec e_\varphi=-\sin\varphi\,\vec e_x+\cos\varphi\,\vec e_y$($\vec e_z$ 成分を持たず,$\theta$ を含まない)である.

$\partial\vec e_\varphi/\partial\theta$ について:右辺には $\theta$ がまったく現れないので,$\theta$ で偏微分すればすべての項が0になる.

$$ \frac{\partial\vec e_\varphi}{\partial\theta}=\frac{\partial}{\partial\theta}\big(-\sin\varphi\,\vec e_x+\cos\varphi\,\vec e_y\big)=0 . $$

$\partial\vec e_\varphi/\partial\varphi$ について:$\varphi$ で偏微分すると,

$$ \frac{\partial\vec e_\varphi}{\partial\varphi}=-\cos\varphi\,\vec e_x-\sin\varphi\,\vec e_y . $$

これを $\vec e_R,\vec e_\theta$($\vec e_z$ 成分を持たない組み合わせ)で表したい.公式16.12より

$$ \vec e_R=\sin\theta\cos\varphi\,\vec e_x+\sin\theta\sin\varphi\,\vec e_y+\cos\theta\,\vec e_z,\qquad \vec e_\theta=\cos\theta\cos\varphi\,\vec e_x+\cos\theta\sin\varphi\,\vec e_y-\sin\theta\,\vec e_z $$

である.$-\sin\theta\,\vec e_R-\cos\theta\,\vec e_\theta$ を計算すると,

$$ -\sin\theta\,\vec e_R-\cos\theta\,\vec e_\theta=-\sin\theta(\sin\theta\cos\varphi\,\vec e_x+\sin\theta\sin\varphi\,\vec e_y+\cos\theta\,\vec e_z)-\cos\theta(\cos\theta\cos\varphi\,\vec e_x+\cos\theta\sin\varphi\,\vec e_y-\sin\theta\,\vec e_z) $$ $$ =-(\sin^2\theta+\cos^2\theta)\cos\varphi\,\vec e_x-(\sin^2\theta+\cos^2\theta)\sin\varphi\,\vec e_y+(-\sin\theta\cos\theta+\cos\theta\sin\theta)\vec e_z $$ $$ =-\cos\varphi\,\vec e_x-\sin\varphi\,\vec e_y+0\cdot\vec e_z . $$

これは $\partial\vec e_\varphi/\partial\varphi$ の計算結果とぴったり一致する($\vec e_z$ 成分が打ち消し合って0になっている点も含めて).したがって,

$$ \frac{\partial\vec e_\varphi}{\partial\theta}=0,\qquad \frac{\partial\vec e_\varphi}{\partial\varphi}=-\sin\theta\,\vec e_R-\cos\theta\,\vec e_\theta $$

が導けた.(sympyで検算.)

第17章 ベクトル値関数の微分積分

演習17.1 ベクトル値関数の微分

解答

$\vec f(t)=[\,t^3-t,\ e^{2t},\ \ln(t+1)\,]$ の各成分を,定義17.1にしたがって $t$ で微分する.

第1成分:$\dfrac{d}{dt}(t^3-t)=3t^2-1$(べき関数の微分公式をそれぞれの項に使った).

第2成分:$\dfrac{d}{dt}e^{2t}=2e^{2t}$(合成関数の微分,$\dfrac{d}{dt}e^{kt}=ke^{kt}$).

第3成分:$\dfrac{d}{dt}\ln(t+1)=\dfrac{1}{t+1}$(合成関数の微分,$\dfrac{d}{dt}\ln u=\dfrac{u'}{u}$ で $u=t+1,\ u'=1$).

したがって,

$$ \vec f\,'(t) = \left[\,3t^2-1,\ \ 2e^{2t},\ \ \frac{1}{t+1}\,\right] $$

である.$t=0$ を代入すると,

$$ \vec f\,'(0) = \left[\,3\cdot0^2-1,\ \ 2e^{0},\ \ \frac{1}{0+1}\,\right] = [\,-1,\ 2,\ 1\,] $$

を得る(sympyによる微分の検算済み).

演習17.2 らせんの長さ

解答

$\vec f(t)=[\,3\cos t,\ 3\sin t,\ 4t\,]$ を $t$ で微分すると,

$$ \vec f\,'(t) = [\,-3\sin t,\ \ 3\cos t,\ \ 4\,] $$

である.この大きさは,

$$ \abs{\vec f\,'(t)} = \sqrt{(-3\sin t)^2+(3\cos t)^2+4^2} = \sqrt{9\sin^2t+9\cos^2t+16} = \sqrt{9(\sin^2t+\cos^2t)+16} $$

($9\sin^2t$ と $9\cos^2t$ から共通因数 $9$ をくくり出した).$\sin^2t+\cos^2t=1$(高校数学の基本公式)を使うと,

$$ \abs{\vec f\,'(t)} = \sqrt{9\cdot1+16} = \sqrt{25} = 5 $$

となり,$t$ によらない定数である.定義17.2(第17章の式)より,

$$ S = \int_0^{2\pi}\abs{\vec f\,'(t)}\,dt = \int_0^{2\pi}5\,dt = 5\times[\,t\,]_0^{2\pi} = 5\times2\pi = 10\pi $$

である($10\pi\fallingdotseq31.4$.sympyによる検算済み).

演習17.3 定積分の計算

解答

定義17.4にしたがい,成分ごとに定積分を計算する.

第1成分:$\displaystyle\int_0^1t^2\,dt=\left[\frac{t^3}{3}\right]_0^1=\frac13-0=\frac13$(べき関数の積分公式).

第2成分:$\displaystyle\int_0^1e^t\,dt=[\,e^t\,]_0^1=e^1-e^0=e-1$(指数関数の積分公式).

第3成分:$\displaystyle\int_0^1\frac{1}{1+t^2}\,dt=[\,\tan^{-1}t\,]_0^1=\tan^{-1}1-\tan^{-1}0=\frac{\pi}{4}-0=\frac{\pi}{4}$(逆正接関数の導関数 $\dfrac{d}{dt}\tan^{-1}t=\dfrac{1}{1+t^2}$,第3章,の逆をたどった.$\tan^{-1}1=\pi/4$ は,$\tan(\pi/4)=1$ による).

したがって,

$$ \int_0^1\left[\,t^2,\ e^t,\ \frac{1}{1+t^2}\,\right]dt = \left[\,\frac13,\ \ e-1,\ \ \frac{\pi}{4}\,\right] $$

である($\frac13\fallingdotseq0.333$,$e-1\fallingdotseq1.718$,$\pi/4\fallingdotseq0.785$.sympyによる検算済み).

演習17.4 部分積分の公式の応用

解答

$\vec a(t)=[\,e^t,\ t^2\,]$ を微分すると $\vec a\,'(t)=[\,e^t,\ 2t\,]$ である.$f(t)=t$($f'(t)=1$)として,公式17.2(I)に代入すると,

$$ \int t\,\vec a\,'(t)\,dt = t\,\vec a(t) - \int 1\cdot\vec a(t)\,dt = t[\,e^t,\ t^2\,] - \int[\,e^t,\ t^2\,]\,dt $$

である.不定積分 $\displaystyle\int\vec a(t)\,dt$ を成分ごとに計算すると,$\displaystyle\int e^t\,dt=e^t+C_1$,$\displaystyle\int t^2\,dt=\frac{t^3}{3}+C_2$ であるから,

$$ \int t\,\vec a\,'(t)\,dt = [\,te^t,\ t^3\,] - \left[\,e^t,\ \frac{t^3}{3}\,\right] + \vec C = \left[\,te^t-e^t,\ \ t^3-\frac{t^3}{3}\,\right] + \vec C = \left[\,te^t-e^t,\ \ \frac23t^3\,\right] + \vec C $$

(第2成分は $t^3-\dfrac{t^3}{3}=\dfrac{3t^3-t^3}{3}=\dfrac{2t^3}{3}$ と通分してまとめた).検算として,この結果を $t$ で微分すると,第1成分は積の微分公式より $\dfrac{d}{dt}(te^t-e^t)=(e^t+te^t)-e^t=te^t$,第2成分は $\dfrac{d}{dt}\left(\dfrac23t^3\right)=2t^2$ となる.一方,もとの被積分関数は $t\,\vec a\,'(t)=t[\,e^t,2t\,]=[\,te^t,\ 2t^2\,]$ であり,両者は確かに一致する(sympyによる検算済み).

演習17.5 ベクトルの1階線形微分方程式(共鳴が起きる場合)

解答

$p(t)=3$(定数)なので $\displaystyle\int p\,dt=3t$ である.3本の成分に分解して,1本ずつ定数変化法(第17章の式)で解く.

【第1成分】$y_1'+3y_1=1$.特解は定数 $y_{1p}=k$ とおくと $3k=1$ より $k=\dfrac13$.一般解は $y_1(t)=\dfrac13+C_1e^{-3t}$.初期条件 $y_1(0)=0$ より $0=\dfrac13+C_1$,$C_1=-\dfrac13$.よって $y_1(t)=\dfrac13-\dfrac13e^{-3t}=\dfrac{1-e^{-3t}}{3}$.

【第2成分】$y_2'+3y_2=t$.特解を $y_{2p}=At+B$ とおいて代入すると,$A+3(At+B)=t$,すなわち $3At+(A+3B)=t$.係数を比べると $3A=1$ より $A=\dfrac13$,$A+3B=0$ より $B=-\dfrac19$.一般解は $y_2(t)=\dfrac t3-\dfrac19+C_2e^{-3t}$.初期条件 $y_2(0)=0$ より $0=-\dfrac19+C_2$,$C_2=\dfrac19$.よって $y_2(t)=\dfrac t3-\dfrac19+\dfrac19e^{-3t}$.

【第3成分(共鳴)】$y_3'+3y_3=e^{-3t}$.同次方程式 $y_3'+3y_3=0$ の解は $e^{-3t}$ そのものであり,非同次項 $e^{-3t}$ もまったく同じ形をしている.このように,非同次項が同次方程式の解と同じ形になっている状況を共鳴(resonance)という.このとき,特解を通常の定数倍 $Ae^{-3t}$ の形で仮定すると,代入した瞬間に左辺が恒等的に $0$ になってしまい(同次解を代入しているのだから当然である),係数 $A$ を決められない.そこで,特解を $t$ 倍した $y_{3p}=At\,e^{-3t}$ の形で仮定し直す.積の微分公式より $y_{3p}'=Ae^{-3t}-3Ate^{-3t}$ であるから,方程式に代入すると

$$ (Ae^{-3t}-3Ate^{-3t})+3(Ate^{-3t}) = Ae^{-3t} = e^{-3t} $$

($-3Ate^{-3t}$ と $+3Ate^{-3t}$ がちょうど打ち消し合った).よって $A=1$,$y_{3p}=te^{-3t}$.一般解は $y_3(t)=te^{-3t}+C_3e^{-3t}=(t+C_3)e^{-3t}$.初期条件 $y_3(0)=1$ より $1=(0+C_3)e^0=C_3$,$C_3=1$.よって $y_3(t)=(t+1)e^{-3t}$.

以上をまとめると,

$$ \vec y(t) = \left[\ \frac{1-e^{-3t}}{3},\ \ \ \frac t3-\frac19+\frac19e^{-3t},\ \ \ (t+1)e^{-3t}\ \right] $$

である(sympyのdsolveによる検算済み.第2・3章で学んだ定数係数線形微分方程式の「特解を非同次項と同じ形で仮定し,同次解と重なるときは $t$ 倍する」という手法が,ベクトルの場合にもそのまま使えることを確認した).

演習17.6 円柱の側面積

解答

$\vec P(u,v)=[\,a\cos u,\ a\sin u,\ v\,]$ を偏微分すると,

$$ \pdiff{\vec P}{u} = [\,-a\sin u,\ \ a\cos u,\ \ 0\,],\qquad \pdiff{\vec P}{v} = [\,0,\ \ 0,\ \ 1\,] $$

である($\pdiff{\vec P}{u}$ は $v$ を固定して $u$ で微分,$\pdiff{\vec P}{v}$ は $u$ を固定して $v$ で微分した).外積の成分公式 $\vec u\times\vec v=[\,u_2v_3-u_3v_2,\ u_3v_1-u_1v_3,\ u_1v_2-u_2v_1\,]$(第15章)にしたがって計算すると,$\vec u=\pdiff{\vec P}{u}=[-a\sin u,a\cos u,0]$,$\vec v=\pdiff{\vec P}{v}=[0,0,1]$ として,

$$ \text{第1成分:}\ a\cos u\cdot1-0\cdot0=a\cos u \qquad \text{第2成分:}\ 0\cdot0-(-a\sin u)\cdot1=a\sin u \qquad \text{第3成分:}\ (-a\sin u)\cdot0-a\cos u\cdot0=0 $$

よって

$$ \pdiff{\vec P}{u}\times\pdiff{\vec P}{v} = [\,a\cos u,\ \ a\sin u,\ \ 0\,] $$

である.この大きさは,

$$ \left|\pdiff{\vec P}{u}\times\pdiff{\vec P}{v}\right| = \sqrt{(a\cos u)^2+(a\sin u)^2+0^2} = \sqrt{a^2(\cos^2u+\sin^2u)} = \sqrt{a^2} = a $$

($a>0$ であることを使った;$\cos^2u+\sin^2u=1$ で整理した).これは $u$ にも $v$ にもよらない定数である.公式17.3に代入すると,

$$ S = \iint_D\left|\pdiff{\vec P}{u}\times\pdiff{\vec P}{v}\right|\,du\,dv = \int_0^h\!\!\int_0^{2\pi}a\,du\,dv = a\left(\int_0^{2\pi}du\right)\left(\int_0^hdv\right) = a\times2\pi\times h = 2\pi ah $$

となり,見慣れた公式「側面積=底面の円周 $2\pi a$ ×高さ $h$」に一致することが確かめられた(sympyによる検算済み).円柱の側面を薄い長方形の紙を丸めたものだと考えれば,横の長さが底面の円周 $2\pi a$,縦の長さが高さ $h$ の長方形の面積 $2\pi ah$ になる,という直感とも一致している.

演習17.7 なぜ外積の向きが曲面の法線方向になるのか(図から考える)

解答

図17.7の塗りつぶされた平行四辺形は,点 $\vec P(u,v)$ から出る2本の接ベクトル $\pdiff{\vec P}{u}\Delta u$ と $\pdiff{\vec P}{v}\Delta v$ が張る図形である.定義17.6の全微分 $d\vec P=\pdiff{\vec P}{u}\,du+\pdiff{\vec P}{v}\,dv$ のイメージ(本文17.5節)で見たとおり,$\Delta u,\Delta v\to0$ の極限では,この平行四辺形は曲面 $\vec P(u,v)$ の点 $\vec P(u,v)$ における接平面(曲面にぴったり接する平面)そのものに近づいていく.言い換えると,$\pdiff{\vec P}{u}$ と $\pdiff{\vec P}{v}$ という2本のベクトルは,どちらもこの接平面の中に含まれるベクトルである.

一方,第15章で学んだ外積の定義を思い出そう.2本のベクトル $\vec u,\vec v$ の外積 $\vec u\times\vec v$ は,$\vec u$ にも $\vec v$ にも垂直な向き(右ねじの規則で決まる向き)を持つベクトルであり,その大きさが $\vec u,\vec v$ の張る平行四辺形の面積に等しいのだった.

いま,$\vec u=\pdiff{\vec P}{u}$,$\vec v=\pdiff{\vec P}{v}$ はどちらも接平面の中のベクトルなので,外積 $\pdiff{\vec P}{u}\times\pdiff{\vec P}{v}$ はこの2本にどちらにも垂直,すなわち接平面自身に垂直な向きを持つ.曲面に接する平面に垂直な方向こそが,まさに曲面の法線方向(normal direction)の定義にほかならない.したがって,$\pdiff{\vec P}{u}\times\pdiff{\vec P}{v}$ は曲面 $\vec P(u,v)$ の法線方向を向く.(この外積の大きさが微小面積要素を与える,という事実は公式17.3の導出ですでに使った.向きと大きさの両方に,外積という1つの演算がちょうど対応する量を与えてくれている,という点が面白い.)

第18章 スカラー場・ベクトル場と勾配

演習18.1 スカラー場・ベクトル場の値の計算

解答

定義18.1・18.2にしたがって,点 $(2,1,-1)$ の座標をそのまま $f,\vec F$ に代入すればよい.

$$ f(2,1,-1) = 2^2+2\cdot1\cdot(-1) = 4-2 = 2 $$ $$ \vec F(2,1,-1) = [\,1+(-1),\ (-1)^2,\ 2\cdot1\,] = [0,\,1,\,2] $$

したがって,$f(2,1,-1)=2$,$\vec F(2,1,-1)=[0,1,2]$ である.(sympyで検算済み)

演習18.2 等位曲線を求める

解答

まず点 $(1,3)$ における $f$ の値を求める.

$$ f(1,3) = 1\cdot3 = 3 $$

定義18.3より,点 $(1,3)$ を通る等位曲線は,方程式 $f(x,y)=3$ を満たす点の集合である.よって求める等位曲線は,

$$ xy = 3 $$

である.これは反比例のグラフの形をした双曲線であり,点 $(1,3)$ がその上にあることは $1\times3=3$ で確認できる.(sympyで検算済み)

演習18.3 等位曲面を求める

解答

点 $(2,1,3)$ における $f$ の値を求める.

$$ f(2,1,3) = 2^2-1^2-3 = 4-1-3 = 0 $$

定義18.4より,点 $(2,1,3)$ を通る等位曲面は,方程式 $f(x,y,z)=0$,すなわち

$$ x^2-y^2-z = 0 \qquad\Longleftrightarrow\qquad z = x^2-y^2 $$

である.これは $z=x^2-y^2$ という形の曲面であり,第6章の例題6.1で学んだとおり,$x$軸方向には凸に持ち上がり,$y$軸方向には凸に下がる鞍点をもつ曲面(鞍型曲面,馬の鞍のような形)である.点 $(2,1,3)$ がこの曲面上にあることは $2^2-1^2=4-1=3$ で確認できる.(sympyで検算済み)

演習18.4 流線を求める

解答

$\vec F=[f,g]=[y,x]$ だから,流線の式 $\dfrac{dx}{f}=\dfrac{dy}{g}=\dfrac{dz}{h}$(式18-streamline,平面の場合は $z$ 成分を除く)は,

$$ \frac{dx}{y} = \frac{dy}{x} $$

である.両辺に $xy$ を掛けて分母を払うと,$x\,dx=y\,dy$ となる.両辺をそれぞれ積分すると,

$$ \int x\,dx = \int y\,dy \quad\Longrightarrow\quad \frac{x^2}{2}+C_1 = \frac{y^2}{2}+C_2 $$

両辺を $2$ 倍して定数をまとめる($2(C_2-C_1)$ を改めて $C$ とおく)と,

$$ x^2 - y^2 = C $$

を得る.したがって,流線は双曲線群 $x^2-y^2=C$($C=0$ のときは2本の直線 $y=\pm x$)である.(検算:曲線 $x(t),y(t)$ が $\dfrac{dx}{dt}=y,\ \dfrac{dy}{dt}=x$ を満たすなら,$\dfrac{d}{dt}(x^2-y^2)=2x\dfrac{dx}{dt}-2y\dfrac{dy}{dt}=2xy-2yx=0$ となり,$x^2-y^2$ が $t$ によらず一定であることが確認できる.sympyで検算済み)

演習18.5 勾配の公式の適用

解答

(a) $|\vec P|^{-3}$ は公式18.3で $n=-3$ とした場合だから,

$$ \nabla|\vec P|^{-3} = (-3)\,|\vec P|^{-3-2}\,\vec P = -3\,|\vec P|^{-5}\,\vec P = -\frac{3\vec P}{|\vec P|^5} $$

である.2変数($\vec P=[x,y]$)の場合に直接確かめてみよう.$|\vec P|^{-3}=(x^2+y^2)^{-3/2}$ を $x$ で偏微分すると,合成関数の微分公式より,

$$ \pdiff{}{x}(x^2+y^2)^{-3/2} = -\frac32(x^2+y^2)^{-5/2}\cdot2x = -3x(x^2+y^2)^{-5/2} = -\frac{3x}{|\vec P|^5} $$

$y$ 成分も同様に $-\dfrac{3y}{|\vec P|^5}$ となるから,$\nabla|\vec P|^{-3}=\left[-\dfrac{3x}{|\vec P|^5},-\dfrac{3y}{|\vec P|^5}\right]=-\dfrac{3}{|\vec P|^5}[x,y]=-\dfrac{3\vec P}{|\vec P|^5}$ となり,公式18.3による結果と完全に一致する.

(b) $f=\ln|\vec P|$ とおくと,$\big(\ln|\vec P|\big)^2=f^2$ は,1変数関数 $g(u)=u^2$($g'(u)=2u$)と $f$ の合成である.公式18.1(IV)より,

$$ \nabla\big(\ln|\vec P|\big)^2 = g'(f)\cdot\nabla f = 2f\cdot\nabla f = 2\ln|\vec P|\cdot\nabla\ln|\vec P| $$

ここで公式18.4($\nabla\ln|\vec P|=\dfrac{\vec P}{|\vec P|^2}$)を代入すると,

$$ \nabla\big(\ln|\vec P|\big)^2 = 2\ln|\vec P|\cdot\frac{\vec P}{|\vec P|^2} = \frac{2\ln|\vec P|}{|\vec P|^2}\,\vec P $$

を得る.(sympyにより,2変数の場合の直接偏微分と一致することを検算済み)

演習18.6 勾配の幾何学的な意味

解答

$f(x,y)=2x^2+y^2$ より $\pdiff{f}{x}=4x,\ \pdiff{f}{y}=2y$ であるから,

$$ \nabla f = [4x,\,2y] \qquad\therefore\ \nabla f(1,1) = [4,\,2] $$

まとめ(i)より,$f$ の値が最も速く増大する方向は $\nabla f(1,1)=[4,2]$ と同じ向き(単位ベクトルでは $\left[\dfrac{2}{\sqrt5},\dfrac{1}{\sqrt5}\right]$)である.

次に,点 $(1,1)$ を通る等位曲線 $f(x,y)=f(1,1)=2+1=3$,すなわち $2x^2+y^2=3$ の接線の傾きを陰関数の微分法で求める.両辺を $x$ で微分すると,

$$ 4x + 2yy' = 0 \quad\Longrightarrow\quad y' = -\frac{4x}{2y} = -\frac{2x}{y} $$

点 $(1,1)$ では $y'=-\dfrac{2\cdot1}{1}=-2$ となるので,接線の方向ベクトルは $[1,\,-2]$ ととれる.

垂直性の確認 $\nabla f(1,1)=[4,2]$ と方向ベクトル $[1,-2]$ の内積は,

$$ [4,2]\cdot[1,-2] = 4\cdot1+2\cdot(-2) = 4-4 = 0 $$

となり,たしかに直交している(定理18.1のとおり).(sympyで検算済み)

演習18.7 勾配ベクトルによる接平面の方程式

解答

まず点 $(2,1,3)$ が曲面上にあることを確認する:$2^2-1^2=4-1=3$ となり一致する.曲面の方程式を $F(x,y,z)=0$ の形に書くと,

$$ F(x,y,z) = x^2-y^2-z = 0 $$

である.例題18.7と同じ手順で,$\nabla F$ を計算する.

$$ \nabla F = \left[\pdiff{F}{x},\,\pdiff{F}{y},\,\pdiff{F}{z}\right] = [\,2x,\ -2y,\ -1\,] $$

点 $(2,1,3)$ における法線ベクトルは,

$$ \nabla F(2,1,3) = [\,2\cdot2,\ -2\cdot1,\ -1\,] = [4,\,-2,\,-1] $$

となる.この法線ベクトルと通る点 $(2,1,3)$ から,接平面の方程式は,

$$ 4(x-2)-2(y-1)-(z-3) = 0 $$

括弧を展開すると $4x-8-2y+2-z+3=0$ となるので,定数項をまとめて,

$$ 4x-2y-z-3 = 0 $$

を得る.(sympyで検算済み)

第19章 発散と回転

演習19.1 多項式ベクトル場の発散

解答

$\vec F=[x^3,\ y^3,\ z^3]$ の発散を,定義19.2に従って計算する.各成分を,それ自身の変数だけで偏微分して足し合わせればよい.$\pdiff{}{x}(x^3)=3x^2$(べき関数の微分,$y,z$ を含まないので他の変数で偏微分する必要は無い),同様に $\pdiff{}{y}(y^3)=3y^2$,$\pdiff{}{z}(z^3)=3z^2$ だから,

$$ \operatorname{div}\vec F=3x^2+3y^2+3z^2 . $$

(sympyで検算:diff(x**3,x)+diff(y**3,y)+diff(z**3,z) = 3*x**2+3*y**2+3*z**2.)例19.1・例19.2で見た $\operatorname{div}\vec p=$(次元の数)という結果と同様に,各成分が同じ形($x^3,y^3,z^3$)をした対称なベクトル場では,発散も $x,y,z$ について対称な式になることがわかる.

演習19.2 球対称な調和関数

解答

$r=\abs{\vec p}=\sqrt{x^2+y^2+z^2}$($\vec p=[x,y,z]$)とおくと,$f=\dfrac1r=r^{-1}$ である.ヒントの通り,19.1節の例19.2の結果を使う近道で示そう.

まず,第18章 公式18.3 $\grad(r^n)=nr^{n-2}\vec p$ に $n=-1$ を代入すると,

$$ \grad f=\grad(r^{-1})=(-1)\cdot r^{-1-2}\vec p=-r^{-3}\vec p . $$

これはラプラシアンの定義(定義19.4)$\Delta f=\operatorname{div}(\grad f)$ より,

$$ \Delta f=\operatorname{div}(-r^{-3}\vec p)=-\operatorname{div}(r^{-3}\vec p) $$

となる.ここで例19.2(II)の結果 $\operatorname{div}(r^n\vec p)=(n+3)r^n$ に $n=-3$ を代入すると,

$$ \operatorname{div}(r^{-3}\vec p)=(-3+3)r^{-3}=0\cdot r^{-3}=0 $$

である(係数がちょうど $0$ になる,というのがこの近道のポイントである).よって,

$$ \Delta f=-0=0 $$

となり,$f=1/r$($r\neq0$)はラプラスの方程式を満たす,すなわち調和関数である.(sympyで検算:simplify(diff(1/sqrt(x**2+y**2+z**2),x,2)+diff(...,y,2)+diff(...,z,2)) = 0.)$r=0$(原点)ではそもそも $f$ 自身が定義できない(分母が $0$)ので,この結果は $r\neq0$ の範囲に限られることに注意する.この $f=1/r$ は,静電気学のクーロンポテンシャルや万有引力のポテンシャルとして頻出する関数である.

演習19.3 位置ベクトル場の回転(再確認)

解答

$\vec F=[x,\ y,\ z]$ について,$f=x,\ g=y,\ h=z$ を定義19.5に代入する.

$$ \rot\vec F=\left[\pdiff zy-\pdiff yz,\ \ \pdiff xz-\pdiff zx,\ \ \pdiff yx-\pdiff xy\right] $$

各項はすべて「ある変数を,それとは異なる変数で偏微分したもの」である.$z$ を $y$ で偏微分すれば $z$ は $y$ と無関係な独立変数だから $0$,$y$ を $z$ で偏微分しても $0$,という具合に,6つの偏微分すべてが $0$ になる.したがって,

$$ \rot\vec F=[0-0,\ 0-0,\ 0-0]=[0,\ 0,\ 0]=\vec 0 $$

となり,公式19.5($\rot\vec P=\vec 0$)が確かに成り立つ.(sympyで検算済み.)

演習19.4 渦とせん断が混じった場の回転

解答

$\vec F=[-y,\ x,\ z]$ について,$f=-y,\ g=x,\ h=z$ を定義19.5に代入する.

$$ \rot\vec F=\left[\pdiff{z}{y}-\pdiff{x}{z},\ \ \pdiff{(-y)}{z}-\pdiff{z}{x},\ \ \pdiff{x}{x}-\pdiff{(-y)}{y}\right] =[0-0,\ \ 0-0,\ \ 1-(-1)]=[0,\ 0,\ 2] . $$

(sympyで検算済み.)例題19.5($\vec F=[-y,x,0]$)と全く同じ結果 $[0,0,2]$ が得られる.これは,第3成分を $0$ から $z$ に変えても,回転の第1・第2成分に現れる偏微分 $\pdiff hy=\pdiff zy=0$ と $\pdiff hx=\pdiff zx=0$ がどちらも変わらず $0$ のままだからである($h=z$ は $x,y$ を含まない).

解釈:$xy$ 平面内で見ると,$\vec F$ の $x,y$ 成分 $[-y,x]$ は例題19.5と全く同じ「原点を中心とする反時計回りの回転」を表す.そこに $z$ 成分として単純な上昇流 $z$(高さ $z$ に比例して $z$ 方向の速度が増える流れ)が重ね合わされているので,$\vec F$ 全体は「反時計回りに回転しながら上($z$ が大きいところではより速く)へ向かう」らせん状(screw-like)の流れを表す.しかし回転ベクトル $\rot\vec F=[0,0,2]$ 自体はこの上昇流の影響を受けず,$xy$ 平面内の回転の強さ・向きだけを表す例題19.5と同じ値になる.

演習19.5 発散の積の公式の直接検算

解答

$\varphi=x$,$\vec F=[y,\ z,\ x]$ とする.

左辺 $\varphi\vec F=[xy,\ xz,\ x^2]$ の発散を定義19.2で直接計算する.

$$ \operatorname{div}(\varphi\vec F)=\pdiff{}{x}(xy)+\pdiff{}{y}(xz)+\pdiff{}{z}(x^2)=y+0+0=y . $$

($\pdiff{}{x}(xy)=y$:$y$ を定数とみて $x$ で微分.$\pdiff{}{y}(xz)=0$:$xz$ は $y$ を含まない.$\pdiff{}{z}(x^2)=0$:$x^2$ は $z$ を含まない.)

右辺 $\grad\varphi=\grad(x)=[1,\ 0,\ 0]$ である.また,

$$ \operatorname{div}\vec F=\pdiff{}{x}(y)+\pdiff{}{y}(z)+\pdiff{}{z}(x)=0+0+0=0 $$

だから,

$$ (\grad\varphi)\cdot\vec F+\varphi\operatorname{div}\vec F=[1,0,0]\cdot[y,z,x]+x\cdot0=(1\cdot y+0\cdot z+0\cdot x)+0=y . $$

左辺・右辺どちらも $y$ となり,一致する.(sympyで検算済み.)

演習19.6 回転の積の公式の直接検算

解答

$\varphi=xyz$,$\vec F=[1,\ 1,\ 1]$ とする.

左辺 $\varphi\vec F=[xyz,\ xyz,\ xyz]$ の回転を定義19.5で直接計算する.

$$ \rot(\varphi\vec F)=\left[\pdiff{(xyz)}{y}-\pdiff{(xyz)}{z},\ \ \pdiff{(xyz)}{z}-\pdiff{(xyz)}{x},\ \ \pdiff{(xyz)}{x}-\pdiff{(xyz)}{y}\right] $$

$\pdiff{}{y}(xyz)=xz$,$\pdiff{}{z}(xyz)=xy$,$\pdiff{}{x}(xyz)=yz$ を代入すると,

$$ \rot(\varphi\vec F)=[xz-xy,\ \ xy-yz,\ \ yz-xz] . $$

右辺 $\grad\varphi=[yz,\ zx,\ xy]$ である.第15章の外積の成分公式 $\vec a\times\vec b=[a_2b_3-a_3b_2,\ a_3b_1-a_1b_3,\ a_1b_2-a_2b_1]$ に $\vec a=\grad\varphi=[yz,zx,xy]$,$\vec b=\vec F=[1,1,1]$ を代入すると,

$$ (\grad\varphi)\times\vec F=[zx\cdot1-xy\cdot1,\ \ xy\cdot1-yz\cdot1,\ \ yz\cdot1-zx\cdot1]=[zx-xy,\ \ xy-yz,\ \ yz-zx] . $$

また $\vec F=[1,1,1]$ は定数ベクトル場なので,すべての成分の偏微分が $0$ であり $\rot\vec F=\vec 0$,したがって $\varphi\rot\vec F=x yz\cdot\vec 0=\vec 0$ である.よって,

$$ (\grad\varphi)\times\vec F+\varphi\rot\vec F=[zx-xy,\ xy-yz,\ yz-zx]+\vec 0=[zx-xy,\ xy-yz,\ yz-zx] . $$

これは左辺 $[xz-xy,\ xy-yz,\ yz-xz]$ と($zx=xz$ なので)完全に一致する.(sympyで検算済み.)

第20章 線積分・面積分と積分定理

演習20.1 $f(x,y)=x+y$,$C:x=\cos\theta,y=\sin\theta\ (0\le\theta\le\pi)$ に沿った $\int_C f\,\dd s$ を求めよ

解答

$x(\theta)=\cos\theta,\ y(\theta)=\sin\theta$ より $x'(\theta)=-\sin\theta,\ y'(\theta)=\cos\theta$.したがって

$$ \sqrt{x'(\theta)^2+y'(\theta)^2}=\sqrt{\sin^2\theta+\cos^2\theta}=\sqrt1=1 $$

(単位円なので弧長要素はつねに $\dd s=1\cdot\dd\theta$,これは半径1の円の弧長がそのまま中心角に等しいという当たり前の事実の言い換えである).また $f(x(\theta),y(\theta))=\cos\theta+\sin\theta$ である.よって

$$ \int_C f\,\dd s=\int_0^{\pi}(\cos\theta+\sin\theta)\,\dd\theta=\bigl[\sin\theta-\cos\theta\bigr]_0^{\pi} =(\sin\pi-\cos\pi)-(\sin0-\cos0)=(0-(-1))-(0-1)=1+1=2 . $$

答え:$\displaystyle\int_C f\,\dd s=2$(sympyによる検算済み).

演習20.2 $\vec f=[x,-y]$,直線 $C:(0,0)\to(2,2)$ に沿った $\int_C\vec f\cdot\dd\vec p$ を求めよ

解答

直線 $C$ を $x=t,\,y=t\ (0\le t\le2)$ とパラメータ表示すると,$x'(t)=1,\ y'(t)=1$.ベクトル場の成分は $\vec f=[x,-y]=[t,-t]$ であるから,

$$ \int_C\vec f\cdot\dd\vec p=\int_0^2\bigl[t\cdot1+(-t)\cdot1\bigr]\dd t=\int_0^2(t-t)\,\dd t=\int_0^2 0\,\dd t=0 . $$

答え:$\displaystyle\int_C\vec f\cdot\dd\vec p=0$(sympyによる検算済み).直線 $y=x$ の上では,$\vec f=[x,-y]=[x,-x]$ となり,ちょうど進行方向 $[1,1]$ に対して直交する(内積 $x\cdot1+(-x)\cdot1=0$)ベクトルになっているため,仕事がまったくされないのである.

演習20.3 $f=x^2+y^2$ の勾配の線積分が経路によらないことを2通りの経路で確かめよ

解答

$\nabla f=[2x,2y]$ である.

(a) 直線 $(0,0)\to(1,1)$:$x=t,\,y=t\ (0\le t\le1)$ とすると $x'=y'=1$,$\nabla f=[2t,2t]$ より

$$ \int_{C_a}\nabla f\cdot\dd\vec p=\int_0^1(2t\cdot1+2t\cdot1)\,\dd t=\int_0^1 4t\,\dd t=\bigl[2t^2\bigr]_0^1=2 . $$

(b) 折れ線 $(0,0)\to(1,0)\to(1,1)$:2つの線分に分けて,加法性(式(20-vec-additive))を使う.

第1区間 $(0,0)\to(1,0)$:$x=t,\,y=0\ (0\le t\le1)$.$\nabla f=[2t,0]$,$x'=1,\,y'=0$ より

$$ \int_{C_{b1}}\nabla f\cdot\dd\vec p=\int_0^1(2t\cdot1+0\cdot0)\,\dd t=\int_0^1 2t\,\dd t=\bigl[t^2\bigr]_0^1=1 . $$

第2区間 $(1,0)\to(1,1)$:$x=1,\,y=t\ (0\le t\le1)$.$\nabla f=[2,2t]$,$x'=0,\,y'=1$ より

$$ \int_{C_{b2}}\nabla f\cdot\dd\vec p=\int_0^1(2\cdot0+2t\cdot1)\,\dd t=\int_0^1 2t\,\dd t=\bigl[t^2\bigr]_0^1=1 . $$

したがって折れ線全体では $\int_{C_b}\nabla f\cdot\dd\vec p=1+1=2$.

一方 $f(1,1)-f(0,0)=(1^2+1^2)-(0^2+0^2)=2-0=2$ であり,(a),(b),そして定理20.1の主張のいずれもが $2$ で一致する(sympyによる検算済み).

演習20.4 円柱の側面 $x^2+y^2=1,\ 0\le z\le1$ の面積を面積分で求めよ

解答

$\vec p(\theta,z)=[\cos\theta,\sin\theta,z]$($0\le\theta\le2\pi,\ 0\le z\le1$)とおくと,

$$ \pdiff{\vec p}{\theta}=[-\sin\theta,\cos\theta,0],\qquad \pdiff{\vec p}{z}=[0,0,1] . $$

外積をたすき掛けで計算すると,

$$ \pdiff{\vec p}{\theta}\times\pdiff{\vec p}{z}=(\cos\theta\cdot1-0\cdot0,\ 0\cdot0-(-\sin\theta)\cdot1,\ (-\sin\theta)\cdot0-\cos\theta\cdot0)=(\cos\theta,\ \sin\theta,\ 0) $$

であり,その大きさは $\sqrt{\cos^2\theta+\sin^2\theta+0^2}=1$(定数)である.したがって,

$$ \iint_S 1\,\dd S=\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^1 1\,\dd z\,\dd\theta=\int_0^{2\pi}1\,\dd\theta=2\pi . $$

答え:側面積 $=2\pi$(sympyによる検算済み).これは高校で習う「円柱の側面積=底面の円周×高さ」の公式 $2\pi\cdot1\cdot1=2\pi$ と完全に一致している.円柱の側面はどの点でも垂直に切り立っているため,ヤコビアン(面積の補正係数)がつねに $1$ になる,というのがこの一致の理由である.

演習20.5 半径2の球でガウスの発散定理を確かめよ

解答

$\vec f=[x,y,z]$ の発散は $\nabla\cdot\vec f=1+1+1=3$(例題20.8と同じ).半径2の球の体積は $\dfrac43\pi\cdot2^3=\dfrac{32}{3}\pi$ であるから,体積分は

$$ \iiint_V(\nabla\cdot\vec f)\,\dd V=3\times\frac{32}{3}\pi=32\pi . $$

面積分は,球面 $x^2+y^2+z^2=4$ 上で外向き単位法線が $\hat n=\dfrac{(x,y,z)}{2}$(位置ベクトルを大きさ2で割って正規化)であることを使う.

$$ \vec f\cdot\hat n=(x,y,z)\cdot\frac{(x,y,z)}{2}=\frac{x^2+y^2+z^2}{2}=\frac{4}{2}=2\quad(\text{球面上でつねに一定}) $$

であるから,半径2の球の表面積 $4\pi(2)^2=16\pi$ を使って

$$ \iint_S\vec f\cdot\dd\vec S=\iint_S 2\,\dd S=2\times16\pi=32\pi . $$

両辺とも $32\pi$ となり一致する(sympyによる検算済み).半径が2倍になると,体積分側は半径の3乗($2^3=8$倍)で増えるが,面積分側も「表面での値が半径に比例して増える($\vec f\cdot\hat n=$ 半径)」ことと「表面積が半径の2乗で増える」ことが合わさって,やはり半径の3乗で増える——次元解析からもつじつまが合っていることがわかる.

演習20.6 $\vec f=[y,-x,0]$ でストークスの定理を確かめ,例題20.9と符号を比較せよ

解答

単位円 $C:\vec p(\theta)=[\cos\theta,\sin\theta,0]\ (0\le\theta\le2\pi,\text{反時計回り})$ に沿って,$f=y=\sin\theta,\ g=-x=-\cos\theta$ であるから,

$$ \oint_C\vec f\cdot\dd\vec\ell=\int_0^{2\pi}\bigl[\sin\theta\cdot(-\sin\theta)+(-\cos\theta)\cdot\cos\theta\bigr]\dd\theta =\int_0^{2\pi}\bigl[-\sin^2\theta-\cos^2\theta\bigr]\dd\theta=\int_0^{2\pi}(-1)\,\dd\theta=-2\pi . $$

一方,回転は $\nabla\times\vec f=\left[\pdiff{}{y}0-\pdiff{}{z}(-x),\ \pdiff{}{z}y-\pdiff{}{x}0,\ \pdiff{}{x}(-x)-\pdiff{}{y}y\right]=[0,0,-1-1]=[0,0,-2]$.$S$ は $xy$ 平面内の単位円板,$\dd\vec S=[0,0,1]\dd S$ だから,$(\nabla\times\vec f)\cdot\dd\vec S=-2\,\dd S$ であり,

$$ \iint_S(\nabla\times\vec f)\cdot\dd\vec S=-2\times(\text{単位円板の面積})=-2\times\pi=-2\pi . $$

両辺とも $-2\pi$ となり一致する(sympyによる検算済み).例題20.9の $\vec f=[-y,x,0]$ では答えが $+2\pi$ だったのに対し,今回の $\vec f=[y,-x,0]=-[-y,x,0]$(ちょうど符号が反対のベクトル場)では答えも $-2\pi$(符号が反対)になった.線積分も面積分も $\vec f$ について線形(1次)なので,$\vec f$ 全体の符号を反転すれば,両辺の答えの符号もそのまま反転する——これは線積分・面積分の定義そのものが「$\vec f$ を代入して足し合わせるだけ」の線形な操作であることの,当然の帰結である.

第21章 複素数と複素平面

演習21.1 $z=2e^{i\pi/3}$ の $z^3,\ z^{-1}$

解答

$z=2e^{i\pi/3}=2\left(\cos\dfrac{\pi}3+i\sin\dfrac{\pi}3\right)$ である.ド・モアブルの定理(第21章の式)より,一般に $z^n=r^n(\cos n\theta+i\sin n\theta)$ が成り立つ.

$z^3$ について.$r=2,\theta=\pi/3,n=3$ を代入すると,

$$z^3=2^3\left(\cos\left(3\cdot\frac{\pi}3\right)+i\sin\left(3\cdot\frac{\pi}3\right)\right)=8(\cos\pi+i\sin\pi)$$

$\cos\pi=-1,\ \sin\pi=0$ なので,

$$z^3=8(-1+i\cdot0)=-8$$

$z^{-1}$ について.$n=-1$ を代入すると,

$$z^{-1}=2^{-1}\left(\cos\left(-\frac{\pi}3\right)+i\sin\left(-\frac{\pi}3\right)\right)=\frac12(\cos\tfrac{\pi}3-i\sin\tfrac{\pi}3)$$

($\cos$ は偶関数,$\sin$ は奇関数なので $\cos(-\pi/3)=\cos(\pi/3)$,$\sin(-\pi/3)=-\sin(\pi/3)$.)$\cos\frac{\pi}3=\frac12,\ \sin\frac{\pi}3=\frac{\sqrt3}2$ を代入すると,

$$z^{-1}=\frac12\left(\frac12-i\frac{\sqrt3}2\right)=\frac14-\frac{\sqrt3}4i$$

(検算:$z\cdot z^{-1}=2e^{i\pi/3}\cdot\frac12e^{-i\pi/3}=1\cdot e^{i(\pi/3-\pi/3)}=e^{0}=1$ となり,$z^{-1}$ が確かに $z$ の逆数になっている.)

演習21.2 $(1+i)^{10}$ の計算

解答

$1+i$ を極形式に直す.$a=1,b=1$ より $r=\sqrt{1^2+1^2}=\sqrt2$.$\cos\theta=\dfrac1{\sqrt2},\sin\theta=\dfrac1{\sqrt2}$ を満たす角は $\theta=\dfrac{\pi}4$.よって $1+i=\sqrt2\left(\cos\dfrac{\pi}4+i\sin\dfrac{\pi}4\right)$.ド・モアブルの定理を $n=10$ で使うと,

$$(1+i)^{10}=(\sqrt2)^{10}\left(\cos\left(10\cdot\frac{\pi}4\right)+i\sin\left(10\cdot\frac{\pi}4\right)\right)$$

$(\sqrt2)^{10}=(2^{1/2})^{10}=2^5=32$.また $10\cdot\dfrac{\pi}4=\dfrac{10\pi}4=\dfrac{5\pi}2$ であり,これは $\dfrac{5\pi}2-2\pi=\dfrac{\pi}2$ に等しい角である($\cos,\sin$ は周期 $2\pi$).よって,

$$(1+i)^{10}=32\left(\cos\frac{\pi}2+i\sin\frac{\pi}2\right)=32(0+i\cdot1)=32i$$

(検算:$(1+i)^2=1+2i+i^2=2i$.$(1+i)^4=(2i)^2=4i^2=-4$.$(1+i)^8=(-4)^2=16$.$(1+i)^{10}=(1+i)^8\cdot(1+i)^2=16\times2i=32i$ となり一致する.)

演習21.3 $1$ の $n$ 乗根が正 $n$ 角形をなすこと(一般の $n$)

解答

$z_k=e^{i2k\pi/n}$($k=0,1,\ldots,n-1$)とする.隣り合う2点の距離を計算する.

$$|z_{k+1}-z_k|=\left|e^{i\frac{2(k+1)\pi}n}-e^{i\frac{2k\pi}n}\right|=\left|e^{i\frac{2k\pi}n}\left(e^{i\frac{2\pi}n}-1\right)\right|$$

($e^{i\frac{2(k+1)\pi}n}=e^{i\frac{2k\pi}n}\cdot e^{i\frac{2\pi}n}$ という指数法則を使い,$e^{i\frac{2k\pi}n}$ をくくり出した.)絶対値の積は積の絶対値に等しい($|AB|=|A||B|$,公式21.3 で $r_1=|A|,r_2=|B|$ の場合に相当)ので,

$$=\left|e^{i\frac{2k\pi}n}\right|\cdot\left|e^{i\frac{2\pi}n}-1\right|$$

公式21.5($|e^{i\theta}|=1$)より $\left|e^{i\frac{2k\pi}n}\right|=1$ である($k$ にはよらず常に $1$).よって,

$$|z_{k+1}-z_k|=\left|e^{i\frac{2\pi}n}-1\right|$$

となり,右辺は $k$ を含んでいない,すなわち $k$ によらず一定である.(なお,この値を実際に計算すると,$\left|e^{i\frac{2\pi}n}-1\right|^2=\left(\cos\frac{2\pi}n-1\right)^2+\sin^2\frac{2\pi}n=2-2\cos\frac{2\pi}n=4\sin^2\frac{\pi}n$(半角公式 $1-\cos\phi=2\sin^2(\phi/2)$ を $\phi=2\pi/n$ で使った)となるので,隣り合う2点の距離は $2\sin(\pi/n)$ である.)

また,21.5.3節で見たとおり,すべての $z_k$ は原点から距離 $1$(単位円上)にあり,偏角は $\frac{2\pi}n$ ずつ等間隔である.「中心から等距離にある $n$ 個の点が,隣り合う頂点間の距離もすべて等しく,中心角も等しく並んでいる」ことは,まさに正 $n$ 角形の定義であるから,$1$ の $n$ 乗根は,任意の自然数 $n\ (\ge3)$ に対して単位円に内接する正 $n$ 角形の頂点をなす.

演習21.4 $\tanh ix=i\tan x$ の証明

解答

双曲線正接の定義 $\tanh y=\dfrac{\sinh y}{\cosh y}$ に $y=ix$ を代入すると,

$$\tanh ix=\frac{\sinh ix}{\cosh ix}$$

公式21.10(i)$\cosh ix=\cos x$,公式21.10(ii)$\sinh ix=i\sin x$ を代入すると,

$$\tanh ix=\frac{i\sin x}{\cos x}=i\cdot\frac{\sin x}{\cos x}$$

$\tan x=\dfrac{\sin x}{\cos x}$(正接の定義)であるから,

$$\therefore \tanh ix=i\tan x$$

(検算:$x=\pi/4$ とすると,右辺 $=i\tan(\pi/4)=i\cdot1=i$.左辺は,$\sinh(i\pi/4)=i\sin(\pi/4)=i\frac{\sqrt2}2$,$\cosh(i\pi/4)=\cos(\pi/4)=\frac{\sqrt2}2$ なので $\tanh(i\pi/4)=\dfrac{i\sqrt2/2}{\sqrt2/2}=i$ となり一致する.)

演習21.5 直線の方程式で $\alpha$ が純虚数のとき

解答

公式21.11 の対応 $\alpha=\dfrac a2+\dfrac b2i$($a,b$ は元の直線 $ax+by+c=0$ の係数)を思い出す.$\alpha$ が純虚数であるとは,実部が $0$,すなわち $\dfrac a2=0$,つまり $a=0$ を意味する.

$a=0$ を直線の方程式 $ax+by+c=0$ に代入すると,

$$by+c=0\ \Longleftrightarrow\ y=-\frac cb\quad(b\ne0)$$

これは $x$ を含まない方程式,すなわち実軸に平行な直線(水平な直線)である.

$z,\bar z$ の式で直接確かめることもできる.$\alpha=\dfrac b2i$(純虚数)のとき $\bar\alpha=-\dfrac b2i$ であるから,公式21.11 の方程式は,

$$-\frac b2iz+\frac b2i\bar z+c=0\ \Longleftrightarrow\ \frac b2i(\bar z-z)+c=0$$

$z=x+iy,\bar z=x-iy$ を代入すると $\bar z-z=-2iy$ なので,

$$\frac b2i\cdot(-2iy)+c=-bi^2y+c=by+c=0$$

($i^2=-1$ を使った.)これは確かに $by+c=0$,すなわち水平な直線であり,上の議論と一致する.

演習21.6 円の方程式で $\alpha=0$ のとき

解答

公式21.12 の $C=\alpha\bar\alpha-r^2$ に $\alpha=0$ を代入すると,$\bar\alpha=\overline{0}=0$ なので,

$$C=0\cdot0-r^2=-r^2$$

また,公式21.12 の方程式 $z\bar z-(\alpha\bar z+\bar\alpha z)+C=0$ に $\alpha=0$(したがって $\alpha\bar z=0,\ \bar\alpha z=0$)と $C=-r^2$ を代入すると,

$$z\bar z-(0+0)+(-r^2)=0\ \Longleftrightarrow\ z\bar z-r^2=0\ \Longleftrightarrow\ z\bar z=r^2$$

これは,中心が原点($\alpha=0$)で半径 $r$ の円の方程式 $|z-0|=r$,すなわち $|z|=r$ の両辺を2乗した $|z|^2=r^2$ を,公式21.1($|z|^2=z\bar z$)で書き換えたものにちょうど一致する.よって,公式21.12 は $\alpha=0$ の場合に矛盾なく正しい特殊ケースを与えることが確かめられた.

第22章 複素関数と写像

演習22.1 $W=\bar z$(共役をとる写像)は1対1対応か多対1対応か

解答

$z=x+iy$とおく.$\bar z=x-iy$であるから,

$$ u(x,y)=x,\qquad v(x,y)=-y $$

である.$(u,v)$の値が分かれば,

$$ x=u,\qquad y=-v $$

として,もとの$z=x+iy=u-iv$がただ一通りに復元できる.したがって異なる$(x,y)$からは必ず異なる$(u,v)$が得られるので,この写像は1対1対応である.

幾何学的には,$(x,y)\mapsto(x,-y)$という対応は,$y$座標の符号だけを反転させる操作であるから,実軸($x$軸)に関する対称移動(鏡映)にほかならない.これは22.4節で$W=1/z$の極形式を調べたときに現れた「実軸に関する対称移動」と同じ幾何学的操作である.

演習22.2 $W=z^2+1$による虚軸の像

解答

虚軸上の点は$z=iy$($y$は任意の実数,$x=0$)と書ける.本文の第22章の式($u=x^2-y^2,\ v=2xy$)に$x=0$を代入すると,

$$ u(0,y)=0^2-y^2=-y^2,\qquad v(0,y)=2\cdot0\cdot y=0 $$

であるから,$W=z^2+1$の実部・虚部は

$$ u=1-y^2,\qquad v=0 $$

である.$v$が恒等的に$0$なので,像は$W$平面の実軸上($v=0$)にある.$y$が実数全体を動くとき,$y^2\ge0$より$1-y^2\le1$であり,$y=0$のとき最大値$u=1$をとる.また$y\to\pm\infty$のとき$u\to-\infty$となるから,$u$は$-\infty$から$1$までのすべての値をとる.よって像は

$$ \{u+iv : u\le1,\ v=0\} $$

という,$W$平面上の実軸の半直線($1$以下の部分)である.なお,$y$と$-y$は同じ$u=1-y^2$を与えるので($y=0$を除き),この写像は虚軸上で2対1対応になっている(例:$y=\pm2\to u=-3$,sympyで検算済み).

演習22.3 $W=1/\bar z$による円$\abs z=2$の像

解答

円$\abs z=2$上の点は極形式で$z=2e^{i\theta}$($0\le\theta\lt2\pi$)と書ける.共役をとると$\bar z=2e^{-i\theta}$であるから,

$$ w=\frac1{\bar z}=\frac1{2e^{-i\theta}}=\frac12\,e^{i\theta} $$

である.したがって$w$の絶対値は$\abs w=\dfrac12$($\theta$の値によらず一定),偏角は$\arg w=\theta$(もとの$z$の偏角と同じ)である.$\theta$が$0$から$2\pi$未満まで動けば,$w=\frac12e^{i\theta}$は原点中心・半径$\frac12$の円をちょうど1周する.よって像は

$$ \abs w=\frac12 $$

という円である(数値でも複数の$\theta$で$\abs w=0.5$になることを検算済み).本文の公式22.3($W=1/z$の場合は$R=1/r,\ \Theta=-\theta$で偏角の符号が反転した)と比べると,共役を先にとる分だけ偏角の符号がもう一度反転し,結局もとの偏角$\theta$がそのまま保たれる,という違いに注意する.

演習22.4 1次分数関数 $W=\dfrac{z-1}{z+1}$ が特別な点をどこに写すか

解答

$z=1$のとき:そのまま代入して

$$ W=\frac{1-1}{1+1}=\frac02=0 $$

$z=-1$のとき:分母が$\gamma z+\delta=z+1=0$となり,$W$の絶対値はいくらでも大きくなる($z$を$-1$に近づけると$\abs W\to\infty$).定義22.4に従い,$z=-1$は$W=\infty$(無限遠点)に写ると約束する.

$z=\infty$のとき:分子・分母を$z$で割ると

$$ W=\frac{z-1}{z+1}=\frac{1-\dfrac1z}{1+\dfrac1z} $$

となる.$z\to\infty$のとき$\dfrac1z\to0$であるから,

$$ W\to\frac{1-0}{1+0}=1 $$

ゆえに$z=\infty$は$W=1$に写る.まとめると,$z=1\to W=0$,$z=-1\to W=\infty$,$z=\infty\to W=1$である(sympyの極限計算でも確認済み).一般に,1次分数関数$W=\dfrac{\alpha z+\beta}{\gamma z+\delta}$では,$z=-\delta/\gamma$(分母を$0$にする点)が$W=\infty$に,$z=\infty$が$W=\alpha/\gamma$(公式22.4の$C_2$)に対応することが,同じ計算から分かる.

演習22.5 $W=z^n$による単位円の像が単位円を$n$回巻くこと

解答

単位円上の点は$z=e^{i\theta}$($0\le\theta\lt2\pi$)と書ける.このとき

$$ W=z^n=e^{in\theta} $$

である.$\theta$が$0$から$2\pi$未満まで(単位円をちょうど1周)動くと,$n\theta$は$0$から$2\pi n$未満まで動く.$e^{i\phi}$は$\phi$が$2\pi$増えるごとにもとの点に戻る周期関数だから,$n\theta$が$0$から$2\pi n$まで動くことは,単位円周上をちょうど$n$周することに対応する.よって像は(もとと同じ)単位円$\abs W=1$であり,単位円をちょうど$n$回巻くことになる.

この写像が$n$対1対応であることも同時に分かる:$W$平面上の単位円周上の1点$W_0=e^{i\Phi_0}$に対応する$z$平面上の点は,$n\theta=\Phi_0+2\pi k$($k$は整数)を満たす$\theta$——これを合同式で$n\theta\equiv\Phi_0\pmod{2\pi}$(「$2\pi$を法として合同」,すなわち差$n\theta-\Phi_0$が$2\pi$の整数倍であることを表す記号)とも書く——,すなわち

$$ \theta=\frac{\Phi_0}n+\frac{2\pi k}n\qquad(k=0,1,\dots,n-1) $$

の$n$個であり,これは定理22.1($W=z^n$の$n$対1性)を単位円上に限定した場合にほかならない($n=4$の場合を具体的な$\theta_0$で計算し,4つの異なる$\theta$が同じ$W$を与えることをsympyで検算済み).

演習22.6 リーマン球面の赤道はどんな円に対応するか

解答

球の半径を$R$とし,$S$(球が$z$平面に接する点)を原点,そこから測った高さを$h$($0\le h\le2R$,$h=0$が$S$,$h=2R$が$N$)とする.球の中心は$S$から高さ$R$の位置にあるから,高さ$h$での球の断面の半径($z$平面に平行な方向の半径)を$\rho$とすると,球の方程式(中心$(0,R)$,半径$R$の円の断面)は

$$ \rho^2+(h-R)^2=R^2 $$

である.$N=(0,2R)$から,高さ$h$・水平距離$\rho$の球面上の点を通り,$z$平面(高さ$0$)まで延ばした直線を考える.$N$から$z$平面までの高さは$2R$,$N$から高さ$h$の点までの高さの差は$2R-h$であるから,相似な三角形($N$を頂点とし,高さ$2R-h$の位置での水平方向の広がりが$\rho$,高さ$2R$の位置=$z$平面での広がりを$r$とする2つの直角三角形)より,

$$ \frac{r}{2R}=\frac{\rho}{2R-h}\qquad\therefore\ r=\rho\cdot\frac{2R}{2R-h} $$

という関係が成り立つ.赤道は$S$と$N$のちょうど中間,すなわち$h=R$の高さにある大円である.球の方程式に$h=R$を代入すると

$$ \rho^2+(R-R)^2=R^2\quad\therefore\ \rho=R $$

(高さ$R$では球の断面の半径がちょうど球自身の半径$R$に等しい,すなわち球の「一番太い」ところである).これを$r$の式に代入すると,

$$ r=R\cdot\frac{2R}{2R-R}=R\cdot\frac{2R}{R}=2R $$

となる.したがって,赤道は$z$平面上の原点中心・半径$2R$の円(球の直径に等しい半径の円)

$$ \abs z=2R $$

に対応する(sympyでも$\rho=R,\ r=2R$を検算済み).端点でも確認しておくと,$h=0$(南極$S$)では$\rho^2=0\cdot2R=0$より$\rho=0$,したがって$r=0\cdot\dfrac{2R}{2R}=0$(原点)に対応する.$h\to2R$(北極$N$)の場合は,分母$2R-h$だけでなく分子の$\rho$も$0$に近づくので($\rho^2=h(2R-h)\to2R\cdot0=0$),単純に「分母が$0$だから$r\to\infty$」とは言えず,両者の近づき方を比べる必要がある.そこで$h=2R-\varepsilon$($\varepsilon\to0^+$)とおくと,

$$ \rho^2=h(2R-h)=(2R-\varepsilon)\varepsilon=2R\varepsilon-\varepsilon^2\approx2R\varepsilon\quad(\varepsilon\to0^+\ \text{のとき}) $$

より$\rho\approx\sqrt{2R\varepsilon}$(分子は$\varepsilon$の$\frac12$乗のオーダーで$0$に近づく)である.一方,分母は$2R-h=\varepsilon$($\varepsilon$の$1$乗のオーダー)なので,

$$ r=\rho\cdot\frac{2R}{2R-h}\approx\sqrt{2R\varepsilon}\cdot\frac{2R}{\varepsilon}=2R\sqrt{\frac{2R}{\varepsilon}}\ \longrightarrow\ \infty\qquad(\varepsilon\to0^+) $$

となる(分子は$\sqrt\varepsilon$のオーダー,分母は$\varepsilon$のオーダーで,分母の方が速く$0$に近づくので全体としては発散する——$0/0$の不定形だが,オーダーを比較することで$r\to\infty$と結論できる).こうして$h\to2R$(北極$N$)では$r\to\infty$(無限遠点)に対応することが確かめられ,定義22.4・定義22.5の内容と整合する.すなわち,球の下半分($S$に近い側)が$z$平面の原点付近の点に,赤道が半径$2R$の円に,上半分($N$に近い側)が半径$2R$より外側の点に対応する.

第23章 初等複素関数 — 指数・対数・べき乗・三角関数

演習23.1 指数方程式を解く

解答

$-2$を極形式で表す.$\abs{-2}=2$であり,$-2$は実軸の負の部分にあるから偏角は$\pi$(またはそれに$2\pi$の整数倍を加えたもの)である.すなわち

$$ -2=2e^{i(\pi+2n\pi)}\qquad(n\in\Z) $$

である.定義23.2(複素対数関数)より,$e^z=-2$を満たす$z$は$z=\log(-2)$であり,

$$ z=\log\abs{-2}+i\arg(-2)=\log2+i(\pi+2n\pi)\qquad(n\in\Z) $$

である.検算として$n=0$の場合を確かめる.$e^{\log2+i\pi}=e^{\log2}\cdot e^{i\pi}=2\cdot(\cos\pi+i\sin\pi)=2\cdot(-1+0)=-2$となり,たしかに満たされている(他の$n$についても性質(iv)の周期性$e^{i2n\pi}=1$より同様に成り立つ).

答え:$z=\log2+i(\pi+2n\pi)$($n\in\Z$).無限個の解がある.

演習23.2 複素対数の主値

解答

$z=3+4i$とおく.絶対値は

$$ \abs z=\sqrt{3^2+4^2}=\sqrt{9+16}=\sqrt{25}=5 $$

である($3,4,5$の直角三角形).偏角は,$z$が第1象限(実部・虚部ともに正)にあるので,主値の範囲$-\pi\lt\arg z\le\pi$の中で

$$ \arg z=\tan^{-1}\frac43 $$

となる(分母が正なので場合分けの補正 $\pm\pi$ は不要である).したがって定義23.2より

$$ \log(3+4i)=\log5+i\tan^{-1}\frac43 $$

が主値である.数値では$\log5=1.6094\ldots$,$\tan^{-1}(4/3)=0.9273\ldots$(ラジアン)なので,$\log(3+4i)=1.6094\ldots+0.9273\ldots\,i$である(sympy/numpyで検算済み:$e^{1.6094+0.9273i}=3+4i$と一致).

答え:$\log(3+4i)=\log5+i\tan^{-1}(4/3)$.

演習23.3 複素べき乗としての平方根

解答

定義23.3より$z^c=e^{c\log z}$である.$z=-1$,$c=1/2$を代入し,例題23.3で求めた主値$\log(-1)=i\pi$を使うと,

$$ (-1)^{1/2}=e^{\frac12\log(-1)}=e^{\frac12\cdot i\pi}=e^{i\pi/2} $$

となる.オイラーの公式より$e^{i\pi/2}=\cos\dfrac\pi2+i\sin\dfrac\pi2=0+i\cdot1=i$である.よって

$$ (-1)^{1/2}=i $$

となり,これは高校数学で覚えた$\sqrt{-1}=i$という記憶とちょうど一致する.すなわち,複素べき乗の定義から出発しても,$\sqrt{-1}$の主値は見慣れた$i$に落ち着く.(ただし一般の分岐$n\ne0$を使えば$(-1)^{1/2}=e^{i(\pi/2+n\pi)}$となり,$n$が奇数のときは$-i$も得られる.平方根が「2つの値」を持つという事実が,ここでは対数の分岐の言葉で説明できる.)

答え:$(-1)^{1/2}=i$(主値).通常の平方根の記憶と一致する.

演習23.4 帯状領域の像(再確認)

解答

23.2節の導出より,$z=x+iy$に対して$e^z$は極形式で$R=e^x$,$\theta=y$という対応を与える.帯状領域$\{0\le y\lt2\pi\}$では,$x$は制限なく実数全体を動けるので$R=e^x$は$(0,\infty)$のすべての値をとり($x\to-\infty$で$R\to0$,$x\to+\infty$で$R\to\infty$),$y$は$[0,2\pi)$を動くので$\theta$は偏角のとりうる値をちょうど1周分($0$から$2\pi$未満まで)だけとる.したがって,この帯は原点を除く$W$平面の全体に,重複なくちょうど1対1に写る(図23.3で見た通りである).

帯の幅を$2\pi$より広くとる,たとえば$\{0\le y\lt4\pi\}$とすると,$y$の範囲が偏角の1周分($2\pi$)を超えてしまう.このとき,たとえば$y=\pi/2$の点と$y=\pi/2+2\pi=5\pi/2$の点は,同じ$x$の値に対して異なる$z$でありながら,$\theta=y$としては$\pi/2$と$5\pi/2$という異なる値になるように見えるが,偏角は$2\pi$の整数倍の違いを区別しないので,これらは同じ方角(同じ$\theta\bmod2\pi$)を指す.すなわち,同じ$x$(=同じ$R=e^x$)に対して$y$と$y+2\pi$の2つの異なる点が,$W$平面の同じ像の点に写ってしまう.これは前節の性質(iv)(周期性$e^{z+2\pi i}=e^z$)そのものであり,帯の幅が$2\pi$を超えると写像は1対1でなくなり,2対1(さらに広げれば3対1,…)の対応になる.

答え:幅$2\pi$の帯は原点を除く$W$平面全体に1対1に写るが,帯の幅を$2\pi$より広くとると,周期性のために多対1対応になってしまう.

演習23.5 複素三角方程式

解答

定理23.2より$\cos z=\dfrac{e^{iz}+e^{-iz}}2$である.$\cos z=2$とおくと,

$$ \frac{e^{iz}+e^{-iz}}2=2\quad\Longleftrightarrow\quad e^{iz}+e^{-iz}=4 $$

となる.$t=e^{iz}$とおくと($e^{-iz}=1/t$であることに注意して),

$$ t+\frac1t=4\quad\Longleftrightarrow\quad t^2-4t+1=0 $$

という$t$の2次方程式が得られる.解の公式より

$$ t=\frac{4\pm\sqrt{16-4}}2=\frac{4\pm2\sqrt3}2=2\pm\sqrt3 $$

である.$2+\sqrt3=3.732\ldots\gt0$,$2-\sqrt3=0.268\ldots\gt0$と,どちらも正の実数になることに注目する.$t=e^{iz}$で$t$が正の実数ということは,$iz$が実数($z$が純虚数)であることを意味する.$t=2+\sqrt3$の場合,$iz=\log(2+\sqrt3)$(実数の対数)だから

$$ z=-i\log(2+\sqrt3) $$

である.検算:$\cos\bigl(-i\log(2+\sqrt3)\bigr)=\cosh\bigl(\log(2+\sqrt3)\bigr)=\dfrac{(2+\sqrt3)+(2+\sqrt3)^{-1}}2$.$(2+\sqrt3)^{-1}=2-\sqrt3$($(2+\sqrt3)(2-\sqrt3)=4-3=1$なので)だから,これは$\dfrac{(2+\sqrt3)+(2-\sqrt3)}2=\dfrac42=2$となり,確かに$\cos z=2$を満たす(sympy/numpyで数値検算済み).もう一方の解$t=2-\sqrt3$からは$z=-i\log(2-\sqrt3)=i\log(2+\sqrt3)$($\log(2-\sqrt3)=-\log(2+\sqrt3)$なので)が得られ,これも同じ検算で$\cos z=2$を満たす.

答え:$z=-i\log(2+\sqrt3)$(あるいは同値に$z=i\log(2+\sqrt3)$)は$\cos z=2$を満たす.実数の世界では$\abs{\cos\theta}\le1$なので$\cos\theta=2$を満たす実数$\theta$は存在しないが,複素数の世界には解が存在する.

演習23.6 対数写像:半直線の像

解答

半直線$\arg z=\pi/4$($z\neq0$)上の点は,極形式で$z=re^{i\pi/4}$($r\gt0$は任意)と書ける.このとき

$$ \log z=\log r+i\cdot\frac\pi4 $$

である.$r$が$(0,\infty)$のすべての値を動くとき,$\log r$は(実数の対数関数の値域として)$(-\infty,\infty)$のすべての値をとる.一方,虚部はつねに$\pi/4$のままで変化しない.したがって像は

$$ v=\frac\pi4\qquad(u\ \text{は任意の実数}) $$

という,$W$平面上の横線($u$軸に平行な直線)$v=\pi/4$である.これは例題23.5で見た「半直線は横線に写る」という一般則($\arg z=\theta_0$の半直線は$v=\theta_0$の横線に写る)の$\theta_0=\pi/4$の場合にあたる.

答え:像は横線$v=\pi/4$($u\in\R$)である.

第24章 正則関数とコーシー・リーマンの方程式

演習24.1 $f(z)=x^2-y^2+2ixy$ の正則性

解答

$u(x,y)=x^2-y^2$,$v(x,y)=2xy$ とおく.偏導関数は,

$$ u_x=2x,\quad u_y=-2y,\quad v_x=2y,\quad v_y=2x $$

したがって $u_x=2x=v_y$,$u_y=-2y=-(2y)=-v_x$ となり,C-R方程式がすべての $(x,y)$ で恒等的に成り立つ.よって $f(z)$ は全平面($\mathbb C$ 全体)で正則である.系24.1より,導関数は,

$$ f'(z) = u_x+iv_x = 2x+i\cdot2y = 2(x+iy) = 2z $$

なお,$(x+iy)^2=x^2-y^2+2ixy$ であることに気づけば,$f(z)$ は実は $z^2$ そのものであり,例題24.5の $z^2+3z$ の計算(あるいは高校数学の $(x^2)'=2x$)と結果が整合していることがわかる(sympyで検算済み).

演習24.2 調和共役——$u=x^3-3xy^2$ から正則関数を構成する

解答

$u(x,y)=x^3-3xy^2$ の偏導関数を求める.

$$ u_x = 3x^2-3y^2 ,\qquad u_y = -6xy $$

C-R方程式 $v_y=u_x$ より,

$$ v_y = 3x^2-3y^2 $$

これを $y$ について($x$ を定数とみなして)積分すると,

$$ v(x,y) = \int(3x^2-3y^2)\,dy = 3x^2y-y^3+h(x) $$

(積分定数の代わりに,$y$ に依存しない任意関数 $h(x)$ が付く——$x$ で微分すると消える成分をすべて拾うため.)もう1つのC-R方程式 $v_x=-u_y$ を使って $h(x)$ を決める.左辺を $x$ で偏微分すると,

$$ v_x = 6xy+h'(x) $$

右辺は $-u_y=-(-6xy)=6xy$ である.両辺を比べると,

$$ 6xy+h'(x) = 6xy \quad\Longrightarrow\quad h'(x)=0 \quad\Longrightarrow\quad h(x)=C\ (\text{定数}) $$

もっとも単純な場合として $C=0$ ととると,

$$ v(x,y) = 3x^2y-y^3 $$

したがって,求める正則関数は,

$$ f(z) = u+iv = (x^3-3xy^2)+i(3x^2y-y^3) $$

実際,$(x+iy)^3=x^3+3x^2(iy)+3x(iy)^2+(iy)^3=x^3+3ix^2y-3xy^2-iy^3=(x^3-3xy^2)+i(3x^2y-y^3)$ と展開されるので,これはちょうど $f(z)=z^3$ である.導関数を系24.1で確認すると,

$$ f'(z) = u_x+iv_x = (3x^2-3y^2)+i(6xy) = 3(x^2-y^2+2ixy) = 3(x+iy)^2 = 3z^2 $$

これは高校数学の $(x^3)'=3x^2$ と同じ形であり,$f(z)=z^3$,$f'(z)=3z^2$ という自然な結果に一致する(sympyで検算済み).

演習24.3 $f(z)=\cos z$ の正則性と導関数

解答

24.4節の数学ノートより,$\cos z=\cos x\cosh y-i\sin x\sinh y$ である.よって,

$$ u(x,y)=\cos x\cosh y ,\qquad v(x,y)=-\sin x\sinh y $$

偏導関数を計算する.

$$ u_x = -\sin x\cosh y ,\qquad u_y = \cos x\sinh y ,\qquad v_x = -\cos x\sinh y ,\qquad v_y = -\sin x\cosh y $$

比べると $u_x=-\sin x\cosh y=v_y$,$u_y=\cos x\sinh y=-(-\cos x\sinh y)=-v_x$ となり,C-R方程式がすべての $(x,y)$ で恒等的に成り立つ.よって $\cos z$ は全平面で正則である.系24.1より,導関数は,

$$ f'(z) = u_x+iv_x = -\sin x\cosh y+i(-\cos x\sinh y) = -(\sin x\cosh y+i\cos x\sinh y) $$

24.4節の数学ノートより $\sin z=\sin x\cosh y+i\cos x\sinh y$ だったから,

$$ f'(z) = -\sin z $$

これは公式24.3で導いた $\dfrac{d}{dz}\cos z=-\sin z$ と一致する(sympyで数値検算済み:6点のランダムな複素数でチェック).

演習24.4 商の微分公式の応用——$g(z)=\dfrac{z^2+1}{z-1}$

解答

$f(z)=z^2+1$,$h(z)=z-1$ とおくと,$g(z)=f(z)/h(z)$ である.$f'(z)=2z$,$h'(z)=1$ だから,公式24.2(商の微分公式)より,

$$ g'(z) = \frac{f'(z)h(z)-f(z)h'(z)}{\{h(z)\}^2} = \frac{2z(z-1)-(z^2+1)\cdot1}{(z-1)^2} $$

分子を展開して整理すると,

$$ 2z(z-1)-(z^2+1) = 2z^2-2z-z^2-1 = z^2-2z-1 $$

したがって,

$$ g'(z) = \frac{z^2-2z-1}{(z-1)^2} $$

$g(z)$ は分母 $z-1$ が $0$ になる点,すなわち $z=1$ で定義できず,微分どころではない.したがって$z=1$ で正則でない(それ以外のすべての点では,多項式の商として正則である.sympyで検算済み:直接微分と公式の結果が一致).

演習24.5 2方向の極限が一致することの具体的確認——$f(z)=z^2$

解答

$f(z)=z^2=(x+iy)^2=(x^2-y^2)+i(2xy)$ より,$u=x^2-y^2$,$v=2xy$ である.

[1] $\beta=0,\alpha\to0$(実軸方向):第24章の式より,

$$ u_x+iv_x = 2x+i(2y) = 2x+2iy $$

[2] $\alpha=0,\beta\to0$(虚軸方向):第24章の式より,

$$ -iu_y+v_y = -i(-2y)+2x = 2x+2iy $$

($u_y=-2y$,$v_y=2x$ を代入した.)[1]と[2]はどちらも $2x+2iy=2(x+iy)=2z$ に一致しており,たしかに同じ値になっている.これはC-R方程式 $u_x=2x=v_y$,$u_y=-2y=-v_x$($v_x=2y$ より $-v_x=-2y$)が成り立っていることとも整合する——[1]と[2]が一致するという条件そのものが,まさにC-R方程式だったことを思い出そう(24.3.1項).結果は例題24.5・演習24.1で求めた $f'(z)=2z$($z^2+3z$ の場合の $2z+3$ から定数項 $3$ を除いたもの)とも一致する(sympyで検算済み).

演習24.6 正則関数の実部は調和関数である

解答

$f=u+iv$ が正則であるとし,C-R方程式 $u_x=v_y$,$u_y=-v_x$ が($u,v$ が2回連続微分可能な範囲で)成り立っているとする.1つ目の式 $u_x=v_y$ の両辺を $x$ で偏微分すると,

$$ u_{xx} = v_{yx} $$

2つ目の式 $u_y=-v_x$ の両辺を $y$ で偏微分すると,

$$ u_{yy} = -v_{xy} $$

ここで第6章6.3節のシュワルツの定理($v$ が2回連続微分可能なら,偏微分の順序を交換しても結果は変わらない:$v_{xy}=v_{yx}$)を使うと,2つの式の右辺は符号だけ逆で絶対値が等しい——$v_{yx}=v_{xy}$ だから,$u_{xx}=v_{yx}=v_{xy}=-u_{yy}$.したがって,

$$ u_{xx}+u_{yy} = v_{yx}+(-v_{xy}) = v_{yx}-v_{xy} = 0 $$

すなわち,正則関数の実部 $u$ は調和関数($u_{xx}+u_{yy}=0$,ラプラス方程式の解)である.(同様に虚部 $v$ も調和関数であることが示せる.)具体例として,$f(z)=e^z$ の実部 $u=e^x\cos y$ で直接確かめると,

$$ u_{xx} = e^x\cos y ,\qquad u_{yy} = -e^x\cos y \quad\Longrightarrow\quad u_{xx}+u_{yy} = e^x\cos y-e^x\cos y = 0 $$

となり,たしかに調和関数であることが確認できる(sympyで検算済み).この事実は,正則関数の実部・虚部が,静電場や熱伝導など,ラプラス方程式が支配する物理現象のポテンシャルを記述する道具として使われる——複素解析学と物理・工学を結ぶ重要な橋渡しの1つである.

第25章 複素積分とコーシーの積分定理

演習25.1 指数関数の周回積分

解答

$f(z)=e^z$ を $u+iv$ の形に書くと,$e^z=e^{x+iy}=e^x\cos y+ie^x\sin y$ なので $u=e^x\cos y,\ v=e^x\sin y$ である.コーシー・リーマンの方程式を確かめると,

$$\frac{\partial u}{\partial x}=e^x\cos y=\frac{\partial v}{\partial y},\qquad \frac{\partial u}{\partial y}=-e^x\sin y=-\frac{\partial v}{\partial x}$$

が複素平面全体で成り立ち,しかもこれらの偏導関数($e^x\cos y$ や $e^x\sin y$ など)は指数関数・三角関数の積として複素平面全体で連続である.したがって $f(z)=e^z$ は複素平面全体で正則であり,導関数 $f'(z)=e^z$ も連続である.

$C$ を複素平面上の任意の単純閉曲線とすると,$C$ とその内部 $D$ はどちらも複素平面に含まれ,$f$ はそこで正則かつ導関数が連続である.よって定理25.2(コーシーの積分定理)の仮定がそのまま満たされ,

$$\oint_C e^z\,dz=0$$

である.(数値積分(mpmath)による検算:単位円上で計算すると $\approx-6\times10^{-38}-9\times10^{-31}i$ であり,浮動小数点の誤差の範囲で $0$.)

演習25.2 部分分数分解で3つの極を処理する

解答

$\dfrac{z+2}{z(z-1)(z+1)}=\dfrac{A}z+\dfrac{B}{z-1}+\dfrac{C}{z+1}$ とおき,両辺に $z(z-1)(z+1)$ を掛けると

$$z+2=A(z-1)(z+1)+Bz(z+1)+Cz(z-1)$$

$z=0$ を代入:$2=A(-1)(1)=-A$ より $A=-2$.$z=1$ を代入:$3=B(1)(2)=2B$ より $B=\dfrac32$.$z=-1$ を代入:$1=C(-1)(-2)=2C$ より $C=\dfrac12$.よって

$$\frac{z+2}{z(z-1)(z+1)}=-\frac2z+\frac3{2(z-1)}+\frac1{2(z+1)}$$

特異点 $z=0,1,-1$ は,いずれも $|z|=3$ の内部にある($|0|=0,\ |1|=1,\ |-1|=1$ はすべて $3$ より小さい).公式25.3(周回積分公式)を3つの極それぞれに適用すると,各項の周回積分はいずれも $2\pi i$ であり,

$$\oint_{|z|=3}\frac{z+2}{z(z-1)(z+1)}\,dz=-2\cdot(2\pi i)+\frac32\cdot(2\pi i)+\frac12\cdot(2\pi i)=2\pi i\Big(-2+\frac32+\frac12\Big)=2\pi i\cdot0=0$$

3つの極をすべて囲んでいるにもかかわらず,答えは $0$ になる.これは,部分分数分解の係数の和 $A+B+C$(=各極での留数,residue:特異点のまわりで周回積分をしたときに現れる係数.周回積分公式(公式25.3)の $\frac1{z-\alpha}$ の係数がちょうどこれにあたり,本格的には後の章で学ぶ,の和)がたまたま $0$ になったためである.(分子の次数が分母の次数より2以上小さい有理関数は,$z\to\infty$ で $1/z^2$ 程度の速さで減衰し,実はそのような関数では極の留数の総和が常に $0$ になるという一般的な事実の一例になっている.)数値積分(mpmath)で検算すると $|z|=3$ 上の積分は $\approx1.7\times10^{-38}$ であり,誤差の範囲で $0$ と一致する.

演習25.3 正則でない関数の直接計算

解答

単位円上では $z=e^{i\theta}\ (0\le\theta\le2\pi)$,$\operatorname{Re}(z)=\cos\theta$,$dz=ie^{i\theta}d\theta$ である.よって

$$\oint_{|z|=1}\operatorname{Re}(z)\,dz=\int_0^{2\pi}\cos\theta\cdot ie^{i\theta}\,d\theta=i\int_0^{2\pi}\cos\theta(\cos\theta+i\sin\theta)\,d\theta=i\int_0^{2\pi}\cos^2\theta\,d\theta-\int_0^{2\pi}\sin\theta\cos\theta\,d\theta$$

$\displaystyle\int_0^{2\pi}\cos^2\theta\,d\theta=\pi$(半角公式 $\cos^2\theta=\frac{1+\cos2\theta}2$ を使うと $\int_0^{2\pi}\frac{1+\cos2\theta}2d\theta=\pi+0=\pi$)であり,$\displaystyle\int_0^{2\pi}\sin\theta\cos\theta\,d\theta=\frac12\int_0^{2\pi}\sin2\theta\,d\theta=0$(1周期分の積分なので $0$)である.したがって

$$\oint_{|z|=1}\operatorname{Re}(z)\,dz=i\pi-0=\pi i$$

$f(z)=\operatorname{Re}(z)=x$ を $u+iv$ の形に書くと $u=x,\ v=0$ である.コーシー・リーマンの方程式を確認すると,$\dfrac{\partial u}{\partial x}=1$,$\dfrac{\partial v}{\partial y}=0$ であり,$u_x=v_y$($1=0$)が複素平面のどこでも成り立たない.よって $f$ はどこでも正則でなく,コーシーの積分定理(定理25.2)の仮定を満たさないので,積分が $0$ にならなくても定理と矛盾しない.(sympyで検算:$\pi i$.)

演習25.4 グリーンの定理で面積を求める

解答

定理25.1(グリーンの定理)の第2式で $f(x,y)=x$ とおくと,$\dfrac{\partial f}{\partial x}=1$ なので,

$$\oint_C x\,dy=\iint_D 1\,dx\,dy=\text{($D$ の面積)}$$

また第1式で $f(x,y)=y$ とおくと,$\dfrac{\partial f}{\partial y}=1$ なので,

$$\oint_C y\,dx=-\iint_D 1\,dx\,dy=-\text{($D$ の面積)}$$

したがって,1つ目の式から2つ目の式を引いて2で割ると,

$$\frac12\Big(\oint_C x\,dy-\oint_C y\,dx\Big)=\frac12\Big(\text{面積}-(-\text{面積})\Big)=\text{面積}$$

すなわち $D$ の面積は $\displaystyle\frac12\oint_C(x\,dy-y\,dx)$ で計算できる.単位円 $C:x=\cos\theta,\ y=\sin\theta\ (0\le\theta\le2\pi)$ について,$dx=-\sin\theta\,d\theta,\ dy=\cos\theta\,d\theta$ を代入すると,

$$\frac12\oint_C(x\,dy-y\,dx)=\frac12\int_0^{2\pi}\big[\cos\theta\cdot\cos\theta-\sin\theta\cdot(-\sin\theta)\big]d\theta=\frac12\int_0^{2\pi}(\cos^2\theta+\sin^2\theta)\,d\theta=\frac12\int_0^{2\pi}1\,d\theta=\frac12\cdot2\pi=\pi$$

確かに単位円の面積 $\pi$ に一致する.(sympyで検算:$\pi$.)

演習25.5 対数関数の分岐点

解答

公式25.2($n\neq-1$ の場合)で積分が $0$ になった理由を振り返ると,被積分関数 $z^n$ の原始関数 $\dfrac{z^{n+1}}{n+1}$ が,$z=0$ を除く複素平面全体で1価(1つの $z$ に対して値がただ1つに定まる)の関数だったことが本質的だった.円を1周して $\theta$ が $0$ から $2\pi$ に変わっても,$z=re^{i\cdot0}$ と $z=re^{i\cdot2\pi}$ は同じ点なので,原始関数の値もぴったり同じ値に戻り,その結果として定積分(原始関数の差)が $0$ になる.

ところが $\log z=\ln r+i\theta$ という関数そのものが,$z=0$ を中心に1周する($\theta$ を $2\pi$ だけ増やす)ごとに虚部が $2\pi$ ずつ増え続けてしまう多価関数である.$z=re^{i\cdot0}$ と $z=re^{i\cdot2\pi}$ は複素平面上では同じ点なのに,$\log z$ の値は $\ln r$ と $\ln r+2\pi i$ という異なる値になってしまう.$z=0$ はこのズレが生じる原因になっている点であり,これを分岐点とよぶ.$\log z$ は $z=0$ の周りでは「1周しても元の値に戻らない」関数なので,$z^n\ (n\neq-1)$ のときのような「1周すれば元通り,だから積分は$0$」という理屈がそもそも成り立たない.例題25.3で実際に計算した非零の値 $2\pi ri$ は,この「1周のズレ」がちょうど積分の形で表に出てきたものである.

演習25.6 積分路を縮めてよい理由

解答

特異点 $\alpha$ を1つだけ内部に囲む,形の異なる2つの単純閉曲線 $C$(もとの経路)と $C_r$($\alpha$ を中心とする小さい円)を考える.$C$ の内部から $C_r$ の内部を取り除いた領域を $D$ とすると,$D$ は外側境界 $C$ と内側境界 $C_r$ をもつ2重連結領域(穴が1個)であり,特異点 $\alpha$ は $D$ の外($C_r$ の内部)にあるので,関数 $f$ は $D$ とその境界で正則である.

定理25.4(多重連結領域への応用)は,穴が2個の3重連結領域について $\oint_C f\,dz=\oint_{C_1}f\,dz+\oint_{C_2}f\,dz$ という関係を示していたが,同じ証明(外側境界から穴の境界まで橋渡しの切り込みを1本入れて単連結にし,コーシーの積分定理を適用して打ち消し合う部分を消す)は,穴が1個の場合にもそのまま使え,橋渡し線分1本・穴1個の分だけ式が単純になった

$$\oint_C f(z)\,dz=\oint_{C_r}f(z)\,dz$$

という系25.2の関係を与える.すなわち,$C$ と $C_r$ の間の領域で被積分関数 $f$ がずっと正則でありさえすれば,境界どうしの積分は完全に等しい.言い換えると,$C$ を,特異点 $\alpha$ を飛び越えない限りどんな形にどれだけ変形しても(最終的に小さな円 $C_r$ になるまで縮めても),積分の値は変わらない.だからこそ,$\oint_C\frac{dz}{z-\alpha}$ のような積分は,形の複雑な $C$ 上で直接計算する代わりに,$\alpha$ を中心とする計算しやすい小さな円の上で計算してよいのである(公式25.3の証明で実際に使った論法である).

第26章 コーシーの積分公式

演習26.1 $\displaystyle\oint_{|z|=2}\frac{z+1}{z(z-1)}\,dz$ を2通りの方法で確かめる

解答

(a) 部分分数分解による方法. $\dfrac{z+1}{z(z-1)}=\dfrac{A}{z}+\dfrac{B}{z-1}$ とおいて,右辺を通分すると

$$ z+1=A(z-1)+Bz $$

(分母を払った.)$z=0$ を代入すると $0+1=A(0-1)+0$ より $1=-A$,すなわち $A=-1$.$z=1$ を代入すると $1+1=0+B\cdot1$ より $B=2$.よって

$$ \frac{z+1}{z(z-1)}=-\frac1z+\frac{2}{z-1} $$

円 $|z|=2$ の内部には $z=0$ と $z=1$ の両方が含まれる($|0|=0\lt2$,$|1|=1\lt2$).周回積分公式(第25章5.5節)$\oint_{|z|=2}\dfrac{1}{z-\alpha}dz=2\pi i$($\alpha$ が内部にあるとき)を2回使うと,

$$ \oint_{|z|=2}\frac{z+1}{z(z-1)}\,dz=-1\cdot(2\pi i)+2\cdot(2\pi i)=2\pi i(-1+2)=2\pi i $$

(b) コーシーの積分公式による方法. $z=0$ の近くでは,$\dfrac{z+1}{z(z-1)}=\dfrac{f_1(z)}{z-0}$($f_1(z):=\dfrac{z+1}{z-1}$,$z=0$ の近くで正則)とみる.$f_1(0)=\dfrac{0+1}{0-1}=-1$ だから,定理26.1より寄与は $2\pi i\cdot(-1)=-2\pi i$.$z=1$ の近くでは,$\dfrac{z+1}{z(z-1)}=\dfrac{f_2(z)}{z-1}$($f_2(z):=\dfrac{z+1}{z}$)とみる.$f_2(1)=\dfrac{1+1}{1}=2$ だから,寄与は $2\pi i\cdot2=4\pi i$.2つの寄与を足すと

$$ \oint_{|z|=2}\frac{z+1}{z(z-1)}\,dz=-2\pi i+4\pi i=2\pi i $$

となり,(a)の結果 $2\pi i$ と完全に一致する(Python 検算:verify/univmath/ch26_cauchy_examples.py).部分分数分解の各項の係数($A=-1,\ B=2$)が,そのままコーシーの積分公式で計算した $f_1(0)=-1,\ f_2(1)=2$ の値と一致していることにも注目してほしい——これは偶然ではなく,部分分数分解の係数自体が「その特異点をコーシーの積分公式で評価した値」にほかならないからである.

演習26.2 証明の第1段階と積分路変形の原理の関係

解答

第25章5.4節では,穴が複数ある多重連結領域(たとえば3重連結領域)の周回積分を,外側の境界の積分と,それぞれの穴を囲む小さい円の積分の和として書き換えた.そのときの鍵は,穴と穴,あるいは穴と外側境界を結ぶ「橋渡し線分」を1本引いて全体を1つの単連結領域とみなし,コーシーの積分定理(単連結領域で正則なら周回積分は $0$)を適用する,という手順であった.橋渡し線分は,行きと帰りの2回,向きを逆にして通るので,その2つの積分はちょうど打ち消し合い,結果として「外側境界に沿う積分」と「内側の穴を囲む円に沿う積分の和」が等しいという結論だけが残った.

定理26.1の証明の第1段階(図26.4)は,まったく同じ構造を持つ.ここでの「穴」は,点 $z$ を中心とする半径 $\rho$ の円板 $|\zeta-z|\lt\rho$ の内部であり,被積分関数 $\dfrac{f(\zeta)}{\zeta-z}$ は,$\zeta=z$ で分母が $0$ になるためこの穴の内部では定義できない(正則でない).そこで,外側境界 $\partial D$ と,穴の境界である円 $C_\rho$ を,図26.4のように細い回廊(橋渡し線分を2本,ごく近くに引いたもの)でつなぐ.すると $D$ から円板 $|\zeta-z|\lt\rho$ を除いた領域は,回廊に沿って切り開けば1つの単連結領域とみなせ,その内部で被積分関数はどこでも正則である.したがってコーシーの積分定理より,「$\partial D$ を反時計回りに1周+回廊を内向きに通過+$C_\rho$ を時計回りに1周(穴を単連結領域の境界として見ると向きが逆になる)+回廊を外向きに通過」という経路全体の積分は $0$ になる.回廊の内向きと外向きの積分は,同じ経路を逆向きにたどるので打ち消し合い,残るのは

$$ \oint_{\partial D}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta-\oint_{C_\rho}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta=0 $$

($C_\rho$ の項の符号がマイナスになっているのは,単連結領域の境界として見ると $C_\rho$ を時計回り=反時計回りの逆向きにたどっているため.)これを整理すると,証明の第1段階で使った等式 $\displaystyle\oint_{\partial D}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta=\oint_{C_\rho}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta$ がそのまま得られる.つまり,証明の第1段階は,第25章5.4節の多重連結領域の議論を,「穴が1つだけの場合」に適用したものにほかならない.

演習26.3 鍵穴積分の極限での挙動

解答

26.2.5節で求めた4本の経路の積分をもう一度並べる.

$$ \begin{aligned} \int_{C_1}\log z\,dz&=-2R\log R-i\pi R+2R\\ \int_{C_2}\log z\,dz&=R\log R-R-\varepsilon\log\varepsilon+\varepsilon+i\pi R-i\pi\varepsilon\\ \int_{C_3}\log z\,dz&=2\varepsilon\log\varepsilon+i\pi\varepsilon-2\varepsilon\\ \int_{C_4}\log z\,dz&=R\log R-R-\varepsilon\log\varepsilon+\varepsilon \end{aligned} $$

$R\to\infty$ のとき,$R\log R\to\infty$ かつ $i\pi R\to\infty$(絶対値が大きくなる)なので,$C_1$ 単独では発散し,$C_2$ 単独でも($R\log R$ と $i\pi R$ の項のせいで)発散する.しかし,$R\log R$ の係数だけを取り出すと,$C_1$ で $-2$,$C_2$ で $+1$,$C_4$ で $+1$ であり,$-2+1+1=0$ となって打ち消し合う.同様に,対数を含まない $R$ の項の係数は,$C_1$ で $+2$,$C_2$ で $-1$,$C_4$ で $-1$ で,$2-1-1=0$.$i\pi R$ の項の係数は $C_1$ で $-1$,$C_2$ で $+1$ で,$-1+1=0$.したがって,$C_1+C_2+C_4$ の中で $R$ に関係するすべての項(発散項も含めて)はきれいに打ち消し合い,$R$ に依存する部分は残らない.

一方,$\varepsilon\to0$ のときは,$\varepsilon\log\varepsilon\to0$(これは $\varepsilon\log\varepsilon=\dfrac{\log\varepsilon}{1/\varepsilon}$ と見て,ロピタルの定理を使うか,$t=1/\varepsilon\to\infty$ として $-\log t/t\to0$ となることから示せる),$\varepsilon\to0$,$i\pi\varepsilon\to0$ なので,$\varepsilon$ を含む項はすべて $0$ に近づく.とくに $C_3$(小さい弧)の積分 $2\varepsilon\log\varepsilon+i\pi\varepsilon-2\varepsilon$ は,$\varepsilon\to0$ で丸ごと $0$ に収束する——小さい弧をどんどん縮めていっても,その上の積分の寄与は消えてしまうのである.

結論として,$R\to\infty,\ \varepsilon\to0$ の極限では,$C_1,C_2,C_4$ に含まれる発散する項($R\log R$,$R$,$i\pi R$ の項)がその手前で厳密に打ち消し合い,$\varepsilon$ を含む項は極限で $0$ になり,$C_3$ も丸ごと消えるので,合計はどの段階でも(極限を取る前後どちらでも)ちょうど $0$ のままである.これは,26.2.5節で見た「合計は任意の $0\lt\varepsilon\lt R$ について厳密に $0$」という事実の,極限の立場からの言い換えにすぎない.

演習26.4 正則でない関数 $\bar z$ にはコーシーの積分公式が使えない

解答

$z=e^{i\theta}$($0\le\theta\le2\pi$)とおくと,$\bar z=\overline{e^{i\theta}}=e^{-i\theta}$(第21章:$\overline{e^{i\theta}}=e^{-i\theta}$),$dz=ie^{i\theta}d\theta$ である.したがって

$$ \oint_{|z|=1}\bar z\,dz=\int_0^{2\pi}e^{-i\theta}\cdot ie^{i\theta}\,d\theta=\int_0^{2\pi}i\,d\theta=i\Big[\theta\Big]_0^{2\pi}=2\pi i $$

($e^{-i\theta}\cdot e^{i\theta}=e^{-i\theta+i\theta}=e^0=1$ なので被積分関数は定数 $i$ になる.)

次に,$f(z)=\bar z$ が正則でないことを確認する.$z=x+iy$ とおくと $f(z)=\bar z=x-iy$ であり,実部 $u(x,y)=x$,虚部 $v(x,y)=-y$ である.コーシー・リーマンの方程式(第24章)は $\pdiff{u}{x}=\pdiff{v}{y}$ かつ $\pdiff{u}{y}=-\pdiff{v}{x}$ であることを要求するが,ここでは $\pdiff{u}{x}=1$,$\pdiff{v}{y}=-1$ であり,$1\ne-1$ だから最初の方程式がどの点でも成り立たない.したがって $f(z)=\bar z$ は複素平面上のどの点でも正則ではなく,前章のコーシーの積分定理も本章のコーシーの積分公式も,最初の仮定($f$ が正則であること)が満たされないため適用できない.

それにもかかわらず積分の値がちょうど $2\pi i$ になったのは偶然ではない.一般に,単純閉曲線 $C$ が囲む領域を $D$ とすると,$\bar z\,dz=(x-iy)(dx+i\,dy)=(x\,dx+y\,dy)+i(x\,dy-y\,dx)$ であり,グリーンの定理(26.1節)を実部・虚部それぞれに適用すると,実部の積分は完全微分の形($x\,dx+y\,dy=\dfrac12d(x^2+y^2)$)なので閉曲線に沿って $0$,虚部の積分は $\displaystyle\int_C(x\,dy-y\,dx)=2\times(\text{$D$ の面積})$ になることが知られている.したがって $\displaystyle\oint_C\bar z\,dz=2i\times(\text{面積})$ という,正則性とは無関係な(グリーンの定理だけから来る)公式が成り立つ.単位円板の面積は $\pi$ だから,$\oint_{|z|=1}\bar z\,dz=2i\pi=2\pi i$ となり,直接計算の結果とちょうど一致する.「答えの数値がコーシーの積分公式の答え($2\pi i\cdot1$)と同じに見える」のは,まったく別の理由(正則性ではなく面積)から来ていることに注意しよう.

演習26.5 グリーンの定理の検証($f=x^2-y^2$,上半円板)

解答

弧の部分:$x=r\cos\theta,\,y=r\sin\theta$($\theta:0\to\pi$)とおくと,2倍角の公式 $\cos2\theta=\cos^2\theta-\sin^2\theta$(高校数学)より $f=x^2-y^2=r^2(\cos^2\theta-\sin^2\theta)=r^2\cos2\theta$ である.$dx=-r\sin\theta\,d\theta$ だから

$$ \int_{C_{\text{弧}}}f\,dx=\int_0^\pi r^2\cos2\theta\cdot(-r\sin\theta)\,d\theta=-r^3\int_0^\pi\sin\theta\cos2\theta\,d\theta $$

積和の公式 $\sin A\cos B=\dfrac12\big(\sin(A+B)+\sin(A-B)\big)$(高校数学,$A=\theta,\,B=2\theta$)を使うと,$\sin\theta\cos2\theta=\dfrac12(\sin3\theta+\sin(-\theta))=\dfrac12(\sin3\theta-\sin\theta)$ であるから,

$$ \int_0^\pi\sin\theta\cos2\theta\,d\theta=\frac12\int_0^\pi\sin3\theta\,d\theta-\frac12\int_0^\pi\sin\theta\,d\theta =\frac12\left[-\frac{\cos3\theta}{3}\right]_0^\pi-\frac12\Big[-\cos\theta\Big]_0^\pi $$

$\left[-\dfrac{\cos3\theta}{3}\right]_0^\pi=-\dfrac{\cos3\pi}{3}-\left(-\dfrac{\cos0}{3}\right)=-\dfrac{-1}{3}+\dfrac13=\dfrac13+\dfrac13=\dfrac23$($\cos3\pi=\cos\pi=-1$).$\Big[-\cos\theta\Big]_0^\pi=-(-1)-(-1)=2$.よって

$$ \int_0^\pi\sin\theta\cos2\theta\,d\theta=\frac12\cdot\frac23-\frac12\cdot2=\frac13-1=-\frac23 $$

したがって $\displaystyle\int_{C_{\text{弧}}}f\,dx=-r^3\times\left(-\frac23\right)=\frac23r^3$ である.直径の部分は,$y=0$ で $f(x,0)=x^2-0^2=x^2$ となり,26.1.2節の計算とまったく同じなので $\displaystyle\int_{C_{\text{径}}}f\,dx=\int_{-r}^r x^2\,dx=\dfrac23r^3$.合計すると,境界の線積分は

$$ \int_C f\,dx=\frac23r^3+\frac23r^3=\frac43r^3 $$

次に,二重積分の側.$\pdiff{f}{y}=\pdiff{}{y}(x^2-y^2)=-2y$ である.極座標 $x=r'\cos\theta,\,y=r'\sin\theta$,$dx\,dy=r'\,dr'\,d\theta$ を使うと,

$$ \iint_D\pdiff{f}{y}\,dx\,dy=\int_0^\pi\int_0^r(-2y)\cdot r'\,dr'\,d\theta=\int_0^\pi\int_0^r(-2r'\sin\theta)\cdot r'\,dr'\,d\theta =-2\left(\int_0^r r'^2\,dr'\right)\left(\int_0^\pi\sin\theta\,d\theta\right) $$ $$ =-2\cdot\frac{r^3}{3}\cdot2=-\frac43r^3 $$

したがって $\displaystyle-\iint_D\pdiff{f}{y}\,dx\,dy=\frac43r^3$ であり,左辺の $\dfrac43r^3$ と一致する(Python 検算:verify/univmath/ch26_green_theorem.py).なお,26.1.2節の $f=x^2+y^2$ の結果($-\dfrac43r^3$)と比べると,符号が反転して $+\dfrac43r^3$ になっている.これは,$f=x^2-y^2$ が $y\to-y$ で $f\to f$(偶関数)なのは同じだが,$y^2$ の符号が反転しているために $\pdiff{f}{y}=-2y$(符号が $x^2+y^2$ の場合の $+2y$ から反転)となり,二重積分の符号がそのまま反転して伝わったためである.

演習26.6 平均値性質の意味

解答

コーシーの積分公式 $\displaystyle f(z)=\frac{1}{2\pi i}\oint_{\partial D}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta$ で,境界 $\partial D$ として,点 $z$ を中心とする半径 $\rho$ の円そのものを選ぶ.円周上の点は $\zeta=z+\rho e^{i\theta}$($\theta$ は $0$ から $2\pi$ まで動く)とパラメータ表示できる.このとき $\zeta-z=\rho e^{i\theta}$,$d\zeta=i\rho e^{i\theta}\,d\theta$($\zeta$ を $\theta$ で微分した)である.これを代入すると,

$$ f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_0^{2\pi}\frac{f(z+\rho e^{i\theta})}{\rho e^{i\theta}}\cdot i\rho e^{i\theta}\,d\theta $$

分母の $\rho e^{i\theta}$ と分子の $\rho e^{i\theta}$ がちょうど約分されて消え,$i$ だけが残るので,

$$ f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_0^{2\pi}f(z+\rho e^{i\theta})\cdot i\,d\theta=\frac{i}{2\pi i}\int_0^{2\pi}f(z+\rho e^{i\theta})\,d\theta=\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}f(z+\rho e^{i\theta})\,d\theta $$

となる($i/i=1$).これが平均値性質である.高校生向けに言い換えるなら:「$z$ を中心とする半径 $\rho$ の円周上を1周しながら $f$ の値を測り続け,測った値をぐるっと1周ぶん平均すると,その平均値はちょうど中心の点 $z$ での値 $f(z)$ に一致する」ということである.普通の(複素数でない)関数では,円周上のあちこちの値を平均しても中心の値になる保証はまったくない——たとえば $f(x,y)=x$(平面上の関数)を原点中心の円周上で平均すれば,対称性からたしかに $0=f(0,0)$ になるが,これはこの関数がたまたま奇関数的な対称性を持つからである.一方,正則関数については,どんな正則関数についても,どんな半径の円についても,この平均値の性質がつねに成り立つ.これは,正則関数が「まわりの情報にとても強く縛られている」——1点の値を勝手に変えることができない——特別な関数であることを表している.

第27章 三角関数の直交性と関数の内積

演習27.1 直交性の公式を使って積分を計算する

解答

積分の線形性(和の積分は積分の和,定数倍は外に出せる)を使って,被積分関数を展開する.

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\left(5\sin3x-2\cos7x+1\right)\sin3x\,dx =5\int_{-\pi}^{\pi}\sin3x\sin3x\,dx-2\int_{-\pi}^{\pi}\cos7x\sin3x\,dx+\int_{-\pi}^{\pi}\sin3x\,dx $$

第1項は,$\sin mx\sin nx$ の形で $m=n=3$(ともに正の整数で一致)だから,$\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\sin3x\sin3x\,dx=\pi$(公式27.5の $m=n$ の場合).第2項は,$\cos mx\sin nx=\sin nx\cos mx$ の形($m=7,n=3$)だから,公式27.3より $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\cos7x\sin3x\,dx=0$.第3項は,$m=3\,(\neq0)$ の $\sin mx$ の単独積分だから,公式27.1より $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\sin3x\,dx=0$.したがって,

$$ 5\cdot\pi-2\cdot0+0=5\pi $$

が答えである(sympyで直接展開・積分し,$5\pi$ に一致することを検算済み:verify/univmath/ch27_examples.py).

演習27.2 区間 $[0,2\pi]$ でも直交性は成り立つか

解答

実際に計算すると,$\displaystyle\int_0^{2\pi}\cos2x\cos3x\,dx=0$ となる(sympyで検算済み.参考までに,同じ区間で $\displaystyle\int_0^{2\pi}\cos^22x\,dx=\pi$ であり,これも $[-\pi,\pi]$ 上の値と一致する).

一般に成り立つ理由は,次のように説明できる.$\cos mx\cos nx$($m,n$ は整数)は,$\cos x,\cos2x,\dots$ の積・和として書ける関数であり,$\sin x,\cos x$ がいずれも周期 $2\pi$ を持つことから,$\cos mx\cos nx$ 自身も周期 $2\pi$ の周期関数である($m,n$ が整数なら $\cos m(x+2\pi)=\cos(mx+2\pi m)=\cos mx$,$\cos n(x+2\pi)=\cos nx$ となるので,積 $\cos mx\cos nx$ も $x\to x+2\pi$ で不変).一般に,周期 $T$ を持つ周期関数 $h(x)$ を「長さがちょうど1周期分($T$)」の区間で積分すると,その値は積分区間の位置(どこから測り始めるか)にはよらず一定になる——これは,グラフを思い浮かべれば,区間を周期 $T$ だけ右にずらしても,波形の形そのものは全く変わらず,1周期分の「山と谷の面積」の合計は変わらないことから納得できる(厳密には,$\displaystyle\int_a^{a+T}h(x)\,dx$ を $a$ で微分すると $h(a+T)-h(a)=0$ になることから,この積分の値は $a$ によらない定数であることが示せる).$[-\pi,\pi]$ も $[0,2\pi]$ も,どちらも長さ $2\pi$(=周期 $2\pi$ とちょうど同じ長さ)の区間だから,この一般論により,$\cos mx\cos nx$ を積分した値は,区間を $[-\pi,\pi]$ にとっても $[0,2\pi]$ にとっても同じになる.したがって,本章の直交性の公式(公式27.1〜27.5)は,積分区間を「長さが $2\pi$ の区間」でありさえすれば,$[-\pi,\pi]$ に限らずどこにとっても成り立つ.

演習27.3 三角関数以外の関数どうしの内積とノルム

解答

内積の定義(定義27.1)より,

$$ \langle f,g\rangle=\int_0^1e^x\cdot1\,dx=\Big[e^x\Big]_0^1=e-1\approx1.718 $$

(第5章の指数関数の積分公式 $\int e^x\,dx=e^x+C$ を使った.)ノルムの定義(定義27.2)より,

$$ \|f\|=\sqrt{\int_0^1(e^x)^2\,dx}=\sqrt{\int_0^1e^{2x}\,dx}=\sqrt{\left[\frac12e^{2x}\right]_0^1}=\sqrt{\frac{e^2-1}{2}}\approx1.787,\qquad \|g\|=\sqrt{\int_0^11^2\,dx}=\sqrt{1}=1 $$

したがって $\|f\|\|g\|=\sqrt{\dfrac{e^2-1}{2}}\approx1.787$ である.$|\langle f,g\rangle|=e-1\approx1.718$ と比べると,$1.718\le1.787$ となり,シュワルツの不等式(定理27.1)$|\langle f,g\rangle|\le\|f\|\|g\|$ が実際に成り立っている(sympyで検算済み).

演習27.4 直交する基底の係数からノルムを求める

解答

$\cos x,\cos3x,\cos5x$ は,添字がすべて異なる正の整数なので,公式27.4($m\neq n$)より互いに直交し,かつ公式27.4($m=n$)より $\|\cos x\|=\|\cos3x\|=\|\cos5x\|=\sqrt\pi$ である.ノルムの2乗を定義どおり展開すると,交差項(異なる添字どうしの積)はすべて公式27.4($m\neq n$)により積分すると $0$ になり,残るのは2乗の項だけである.

$$ \|y\|^2=\langle y,y\rangle=\int_{-\pi}^{\pi}(2\cos x+\cos3x-\cos5x)^2\,dx=2^2\int_{-\pi}^{\pi}\cos^2x\,dx+1^2\int_{-\pi}^{\pi}\cos^23x\,dx+(-1)^2\int_{-\pi}^{\pi}\cos^25x\,dx $$ $$ =2^2\cdot\pi+1^2\cdot\pi+(-1)^2\cdot\pi=(4+1+1)\pi=6\pi $$

ゆえに $\|y\|=\sqrt{6\pi}$ である(sympyで $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}(2\cos x+\cos3x-\cos5x)^2\,dx$ を直接展開・積分し,$6\pi$ に一致することを検算済み).例題27.3の一般公式 $\|y\|^2=\pi\sum_kc_k^2$($c_k$ は係数 $2,1,-1$)を使っても,$\pi(2^2+1^2+(-1)^2)=6\pi$ と同じ結果が即座に得られる.

演習27.5 区分的連続性が破れる例

解答

問題の $x=0$ での片側極限を調べる.

$$ \lim_{x\to0+0}\frac1x=+\infty,\qquad\lim_{x\to0-0}\frac1x=-\infty $$

($x$ を正の値から $0$ に近づけると $1/x$ はいくらでも大きくなり,負の値から近づけるといくらでも小さく,つまり負に大きくなる.sympyで検算済み.)どちらの片側極限も,有限な値としては存在しない($\pm\infty$ に発散する).

定義27.3をもう一度確認すると,条件(ii)は「それぞれの不連続点で,左側極限と右側極限が,ともに(有限の値として)存在する」ことを要求している.$x=0$ における左側極限・右側極限はどちらも有限に存在しない(発散する)ので,この条件が満たされない.したがって,$f(x)=1/x\,(x\neq0),\ f(0)=0$ は,区間 $[-1,1]$ で区分的に連続ではない.演習27.4までの関数がいずれも(三角関数や指数関数や多項式で)区分的に連続だったのに対して,$1/x$ 型の関数は,原点で分母が $0$ になって発散してしまうために,区分的連続性の枠組みからは外れてしまう典型例である.

演習27.6 三角不等式の数値確認

解答

例題27.2より,$\|f\|=\dfrac{\sqrt6}{3}\approx0.8165$,$\|g\|=\dfrac{\sqrt{10}}{5}\approx0.6325$ である.まず $\|f\|+\|g\|$ を計算すると,

$$ \|f\|+\|g\|=\frac{\sqrt6}{3}+\frac{\sqrt{10}}{5}\approx0.8165+0.6325=1.4490 $$

次に $\|f+g\|$ を,定義27.2にしたがって直接計算する.$(f+g)(x)=x+x^2$ だから,

$$ \|f+g\|^2=\int_{-1}^1(x+x^2)^2\,dx=\int_{-1}^1\left(x^2+2x^3+x^4\right)dx $$

$2x^3$ は奇関数なので対称区間 $[-1,1]$ での積分は $0$(公式27.3の別解と同じ理由).残る2項は,

$$ \int_{-1}^1x^2\,dx=\left[\frac{x^3}{3}\right]_{-1}^1=\frac13-\left(-\frac13\right)=\frac23,\qquad \int_{-1}^1x^4\,dx=\left[\frac{x^5}{5}\right]_{-1}^1=\frac15-\left(-\frac15\right)=\frac25 $$

したがって $\|f+g\|^2=\dfrac23+\dfrac25=\dfrac{10}{15}+\dfrac6{15}=\dfrac{16}{15}$,ゆえに

$$ \|f+g\|=\sqrt{\frac{16}{15}}=\frac{4}{\sqrt{15}}=\frac{4\sqrt{15}}{15}\approx1.0328 $$

(sympyで直接積分し,一致することを検算済み.)$\|f+g\|\approx1.0328$ と $\|f\|+\|g\|\approx1.4490$ を比べると,$1.0328\le1.4490$ となり,定理27.2(三角不等式)$\|f+g\|\le\|f\|+\|g\|$ が実際に成り立っている.なお,等号($\|f+g\|=\|f\|+\|g\|$)が成り立つのは,$f,g$ が同じ「向き」(片方がもう片方の $0$ 以上の定数倍)のときに限られる——今回は $f(x)=x$ と $g(x)=x^2$ が比例関係にないので,不等式は真に厳密な不等号($\lt$)で成り立っている.

第28章 フーリエ級数の定義と計算例

演習28.1 複素フーリエ級数の計算

解答

$f(x)=e^x\ (-\pi \lt x\le\pi)$ を周期2πで拡張した関数の複素フーリエ級数を求める.定理28.4($L=\pi$)より,

$$ C_k=\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}e^x\,e^{-ikx}\,dx=\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}e^{(1-ik)x}\,dx $$

($e^x\cdot e^{-ikx}=e^{x-ikx}=e^{(1-ik)x}$ と指数法則でまとめた).$1-ik\ne0$($k$ は整数,$i$ は虚数単位なので $1-ik=0$ となるのは $k=-i$ のときだけであり,実数の整数 $k$ では起こらない)だから,指数関数の原始関数の公式 $\int e^{cx}dx=\frac1ce^{cx}$($c=1-ik$ は複素定数)がそのまま使え,

$$ C_k=\frac{1}{2\pi}\left[\frac{1}{1-ik}e^{(1-ik)x}\right]_{-\pi}^{\pi} =\frac{1}{2\pi(1-ik)}\Bigl(e^{(1-ik)\pi}-e^{-(1-ik)\pi}\Bigr) $$

指数を実部・虚部に分けると $e^{(1-ik)\pi}=e^{\pi}e^{-ik\pi}$,$e^{-(1-ik)\pi}=e^{-\pi}e^{ik\pi}$ である.ここで $k$ は整数だから,オイラーの公式より $e^{\pm ik\pi}=\cos k\pi\pm i\sin k\pi=(-1)^k\pm i\cdot0=(-1)^k$($\sin k\pi=0$ なので符号によらず同じ値).したがって

$$ e^{(1-ik)\pi}-e^{-(1-ik)\pi}=(-1)^k e^{\pi}-(-1)^k e^{-\pi}=(-1)^k\bigl(e^{\pi}-e^{-\pi}\bigr)=2(-1)^k\sinh\pi $$

(双曲線正弦 $\sinh\pi=\frac{e^\pi-e^{-\pi}}2$ を使った).よって

$$ C_k=\frac{2(-1)^k\sinh\pi}{2\pi(1-ik)}=\frac{(-1)^k\sinh\pi}{\pi(1-ik)} $$

最後に,ヒントの指示どおり分母を実数化する.分母・分子に $1+ik$($1-ik$ の複素共役)を掛けると,$(1-ik)(1+ik)=1-(ik)^2=1-i^2k^2=1+k^2$ なので,

$$ C_k=\frac{(-1)^k\sinh\pi\,(1+ik)}{\pi(1-ik)(1+ik)}=\frac{(-1)^k(1+ik)\sinh\pi}{\pi(1+k^2)}\qquad(k\in\Z) $$

この式は $k=0$ を代入しても分母が $0$ にならず($1+0^2=1$),そのまま使える.実際 $k=0$ を直接代入すると $C_0=\dfrac{\sinh\pi}{\pi}$ となるが,これは定義式に直接 $k=0$ を代入した $C_0=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^\pi e^x\,dx=\frac1{2\pi}(e^\pi-e^{-\pi})=\frac{\sinh\pi}{\pi}$ と完全に一致する.したがって,$k$ の符号によらず統一的に

$$ f(x)=\sum_{k=-\infty}^{\infty}\frac{(-1)^k(1+ik)\sinh\pi}{\pi(1+k^2)}\,e^{ikx} $$

が答えである(Python 検算:verify/univmath/ch28_explore4.py,ch28_explore5.py——sympyで直接積分した $C_k$ と,上で手計算した式が $k=\pm1,\pm2,\pm3$ ですべて一致することを確認済み.数値でも $k=1$ のとき両方とも $C_1\approx-1.838-1.838i$ と一致した).

演習28.2 周期2Lのフーリエ余弦級数

解答

$f(x)=|x|\ (-3 \lt x\le3)$ を周期6($L=3$)で拡張した関数のフーリエ余弦級数を求める.$f(-x)=|-x|=|x|=f(x)$ より $f$ は偶関数だから,定理28.3(I)より最初から $b_k=0$ であり,$\cos$ の項だけが現れる.

$a_0$ の計算. 定理28.2より,

$$ a_0=\frac1{2L}\int_{-L}^{L}f(x)\,dx=\frac16\int_{-3}^{3}|x|\,dx $$

被積分関数 $|x|$ は偶関数なので,$\int_{-3}^3=2\int_0^3$ とでき(左右対称なグラフの面積を2倍する),$x\ge0$ では $|x|=x$ だから,

$$ a_0=\frac16\cdot2\int_0^{3}x\,dx=\frac13\left[\frac{x^2}{2}\right]_0^{3}=\frac13\cdot\frac92=\frac32 $$

$a_k\ (k\ge1)$ の計算. 同様に被積分関数 $|x|\cos\frac{k\pi}{L}x$ も偶関数(偶関数×偶関数=偶関数)なので $\int_{-3}^3=2\int_0^3$ とできる.

$$ a_k=\frac1L\int_{-L}^{L}f(x)\cos\frac{k\pi}{L}x\,dx=\frac13\cdot2\int_0^{3}x\cos\frac{k\pi}{3}x\,dx=\frac23\int_0^{3}x\cos\frac{k\pi}{3}x\,dx $$

28.4節の「数学ノート」で確認した一般形の不定積分公式 $\int x\cos ax\,dx=\frac1ax\sin ax+\frac1{a^2}\cos ax$ を,$a=\dfrac{k\pi}{3}$ として使う.

$$ \int_0^{3}x\cos\frac{k\pi}{3}x\,dx=\left[\frac{3}{k\pi}x\sin\frac{k\pi}{3}x+\frac{9}{k^2\pi^2}\cos\frac{k\pi}{3}x\right]_0^{3} $$

($\frac1a=\frac3{k\pi}$,$\frac1{a^2}=\frac9{k^2\pi^2}$ を代入した).$x=3$ を代入すると,$\frac{k\pi}{3}\cdot3=k\pi$ より $\sin k\pi=0$,$\cos k\pi=(-1)^k$($k$ は整数)なので第1項は消え,第2項だけが残る.$x=0$ でも第1項は $x=0$ のために $0$,第2項は $\cos0=1$.したがって

$$ \int_0^{3}x\cos\frac{k\pi}{3}x\,dx=\left(0+\frac{9}{k^2\pi^2}(-1)^k\right)-\left(0+\frac{9}{k^2\pi^2}\right)=\frac{9}{k^2\pi^2}\bigl((-1)^k-1\bigr) $$

ゆえに

$$ a_k=\frac23\cdot\frac{9}{k^2\pi^2}\bigl((-1)^k-1\bigr)=\frac{6\bigl((-1)^k-1\bigr)}{\pi^2k^2} $$

$k$ が偶数のとき $(-1)^k-1=0$ なので $a_k=0$.$k$ が奇数のとき $(-1)^k-1=-2$ なので $a_k=\dfrac{-12}{\pi^2k^2}$.以上より,フーリエ余弦級数は

$$ f(x)=\frac32+\sum_{k=1}^{\infty}\frac{6\bigl((-1)^k-1\bigr)}{\pi^2k^2}\cos\frac{k\pi}{3}x =\frac32-\frac{12}{\pi^2}\left(\cos\frac{\pi}{3}x+\frac19\cos\pi x+\frac1{25}\cos\frac{5\pi}{3}x+\cdots\right) $$

である(Python 検算:verify/univmath/ch28_explore4.py,ch28_explore5.py——$a_0=3/2$,$a_k=6\{(-1)^k-1\}/(\pi^2k^2)$ を $k=1,\ldots,4$ で確認済み.この式は例題28.3・例題28.6で見た「周期2πの三角波 $|x|$」の結果 $a_k=2\{(-1)^k-1\}/(\pi k^2)$ で $L=\pi\to L=3$ に一般化した形—— $a_0=L/2$,$a_k=\frac{2L}{\pi^2}\cdot\frac{(-1)^k-1}{k^2}$ ——になっていることも確かめられる:$L=\pi$ を代入すると $a_0=\pi/2$,$a_k=2\{(-1)^k-1\}/(\pi k^2)$ となり,ちょうど例題28.6の結果に戻る.)

演習28.3 偶関数のフーリエ級数に余弦項しか現れないことの証明

解答

$f(x)$ を周期 $2L$ の偶関数($f(-x)=f(x)$,すべての $x$ について)とする.示したいのは

$$ b_k=\frac1L\int_{-L}^{L}f(x)\sin\frac{k\pi}{L}x\,dx=0\qquad(\text{すべての}\ k=1,2,\ldots) $$

である.積分区間 $[-L,L]$ を $[-L,0]$ と $[0,L]$ の2つに分ける(積分区間の分割).

$$ \int_{-L}^{L}f(x)\sin\frac{k\pi}{L}x\,dx=\int_{-L}^{0}f(x)\sin\frac{k\pi}{L}x\,dx+\int_{0}^{L}f(x)\sin\frac{k\pi}{L}x\,dx $$

右辺第1項に,置換積分 $x=-u$($dx=-du$)を行う.$x=-L$ のとき $u=L$,$x=0$ のとき $u=0$ なので,積分区間は $u:L\to0$ になる.

$$ \int_{-L}^{0}f(x)\sin\frac{k\pi}{L}x\,dx=\int_{u=L}^{u=0}f(-u)\sin\!\left(-\frac{k\pi}{L}u\right)(-du) $$

ここで $\sin(-\theta)=-\sin\theta$(正弦関数は奇関数)より $\sin\!\left(-\frac{k\pi}{L}u\right)=-\sin\frac{k\pi}{L}u$.これと積分の前の $(-du)$ の2つのマイナス符号が掛け合わさってちょうど打ち消し合うので,

$$ \int_{u=L}^{u=0}f(-u)\left(-\sin\frac{k\pi}{L}u\right)(-du)=\int_{u=L}^{u=0}f(-u)\sin\frac{k\pi}{L}u\,du=-\int_{0}^{L}f(-u)\sin\frac{k\pi}{L}u\,du $$

(最後の等号は,積分区間の上端と下端を入れ替えると符号が反転するという定積分の性質 $\int_L^0=-\int_0^L$ を使った).ここで,$f$ は偶関数だから $f(-u)=f(u)$ がすべての $u$ で成り立つ.これを代入すると,

$$ \int_{-L}^{0}f(x)\sin\frac{k\pi}{L}x\,dx=-\int_{0}^{L}f(u)\sin\frac{k\pi}{L}u\,du $$

積分変数の記号 $u$ は,積分区間の端点の値さえ合っていれば何と書いても値は変わらない(定積分は変数名によらない)ので,$u$ を $x$ と書き直してよい.したがって

$$ \int_{-L}^{0}f(x)\sin\frac{k\pi}{L}x\,dx=-\int_{0}^{L}f(x)\sin\frac{k\pi}{L}x\,dx $$

これを最初の分割の式に戻すと,

$$ \int_{-L}^{L}f(x)\sin\frac{k\pi}{L}x\,dx=-\int_{0}^{L}f(x)\sin\frac{k\pi}{L}x\,dx+\int_{0}^{L}f(x)\sin\frac{k\pi}{L}x\,dx=0 $$

となり,右辺第1項と第2項はまったく同じ積分(符号だけが逆)なので厳密に打ち消し合ってちょうど $0$ になる.ゆえに $b_k=\frac1L\cdot0=0$ がすべての $k=1,2,\ldots$ について成り立つ.したがって,偶関数 $f(x)$ のフーリエ級数(定理28.2)には $\sin$ の項が一切現れず,$\cos$ の項(と定数項 $a_0$)だけからなるフーリエ余弦級数 $f(x)=\sum_{k=0}^{\infty}a_k\cos\frac{k\pi}{L}x$(定理28.3(I))になることが,積分の計算のレベルで直接示された.

(同じ議論は $a_k$ には使えないことに注意しよう.$f$ が偶関数のとき $f(x)\cos\frac{k\pi}{L}x$ は「偶関数×偶関数=偶関数」なので,上と同じ置換をしても $-\int_0^L(\cdots)$ ではなく $+\int_0^L(\cdots)$ が出てきて,$2\int_0^L f(x)\cos\frac{k\pi}{L}x\,dx$ という消えない値が残る——これが,$a_k$ は一般に $0$ にならない理由である.奇関数の場合($f(-x)=-f(x)$)に同様の置換をすると,今度は逆に $a_k=0$,$b_k\ne0$ となることも,同じ計算をなぞれば各自確認できる.)

演習28.4 矩形波のフーリエ級数の数値実験(ギブス現象)

解答

例題28.5の矩形波 $f(x)=-\pi/4\ (-\pi \lt x\le0),\ \pi/4\ (0 \lt x\le\pi)$ のフーリエ正弦級数の部分和 $S_N(x)=\sum_{k=1}^{N}\frac{1-(-1)^k}{2k}\sin kx$ を,Python(numpy)で計算する(verify/univmath/ch28_numeric.py).

(a) 連続点 $x=\pi/2$ での収束. $f(\pi/2)=\pi/4=0.785398\ldots$(図28.4よりグラフから明らか)に対し,数値計算の結果は次のとおりであった.

$N$5201001000
$S_N(\pi/2)$0.8666670.7604600.7803990.784898

$N$ を大きくするにつれて $S_N(\pi/2)$ は目標値 $\pi/4\approx0.785398$ に単調に近づいており,$x=\pi/2$($f$ が連続な点)ではフーリエ級数がちゃんと $f(\pi/2)$ に収束していることが数値的に確認できる.

(b) 不連続点 $x=0$ の近くでのオーバーシュート(ギブス現象). $x\in(0,\pi)$ の範囲で $S_N(x)$ の最大値とその位置を調べると,

$N$10502001000
最大値の位置 $x$0.31410.06280.01570.0031
最大値 $S_N$0.92860.92610.92600.9260
目標値 $\pi/4$ との比1.18231.17911.17901.1790

この表からわかるように,$N$ を大きくすると最大値の位置は $x=0$ にどんどん近づく($N$ に反比例するように $0$ へ近づいていく)が,最大値そのものは $\pi/4$ に収束せず,$\pi/4$ の約 $1.179$ 倍($\approx0.9260$)という値に留まり続ける.これが,$N\to\infty$ でも消えない「行き過ぎ」=ギブス現象である.

この比の理論値は,ギブス定数とよばれる $\dfrac2\pi\operatorname{Si}(\pi)\approx1.178979744$($\operatorname{Si}$ は正弦積分関数 $\operatorname{Si}(x)=\int_0^x\frac{\sin t}{t}dt$)で与えられることが知られており,Pythonのscipy.special.siciで計算した値 $1.178979744\ldots$ と,数値実験で得られた比($N=1000$ で,表の桁数よりさらに精密に計算すると $1.178980$)が非常によく一致することも確認した.オーバーシュートの大きさをジャンプの大きさ($f$ の飛び幅 $\pi/4-(-\pi/4)=\pi/2$)で測ると,$(0.9260-0.7854)/(\pi/2)\approx0.090$,すなわちジャンプの約9%であり,これもギブス現象について知られている値と一致する.

演習28.5 複素係数から実係数への逆算(鋸歯状波で確認)

解答

例題28.7で求めた鋸歯状波 $f(x)=x/2\ (-4 \lt x \lt4)$(周期8)の複素フーリエ係数は $C_k=\dfrac{2i(-1)^k}{k\pi}\ (k\ne0)$ であった.「数学ノート」ボックス(28.3節)の公式 $a_k=C_k+C_{-k}$,$b_k=i(C_k-C_{-k})$ を使って,実フーリエ係数を計算し直す.

まず $C_{-k}$ を求める.$C_k$ の式に $k\to-k$ を代入すると,

$$ C_{-k}=\frac{2i(-1)^{-k}}{(-k)\pi}=-\frac{2i(-1)^{-k}}{k\pi} $$

ここで,$(-1)^{-k}=\dfrac{1}{(-1)^k}=(-1)^k$($(-1)^k$ は $\pm1$ のどちらかなので,その逆数はもとの値自身に等しい)であることに注意すると,

$$ C_{-k}=-\frac{2i(-1)^k}{k\pi} $$

$a_k$ の計算.

$$ a_k=C_k+C_{-k}=\frac{2i(-1)^k}{k\pi}+\left(-\frac{2i(-1)^k}{k\pi}\right)=0 $$

これは,$f(x)=x/2$ が奇関数であることから定理28.3(II)より最初にわかっていた $a_k=0$(例題28.7の解答冒頭)と完全に一致する.

$b_k$ の計算.

$$ b_k=i\bigl(C_k-C_{-k}\bigr)=i\left(\frac{2i(-1)^k}{k\pi}-\left(-\frac{2i(-1)^k}{k\pi}\right)\right)=i\cdot\frac{4i(-1)^k}{k\pi}=\frac{4i^2(-1)^k}{k\pi} $$

$i^2=-1$ を使うと,

$$ b_k=\frac{-4(-1)^k}{k\pi}=\frac{4(-1)^{k+1}}{k\pi} $$

(最後の等号は $-(-1)^k=(-1)^{k+1}$ による).これは,例題28.7の本文中で実フーリエ級数として直接求めた結果 $a_k=0,\ b_k=\dfrac{4(-1)^{k+1}}{k\pi}$ と,1つの符号の食い違いもなく完全に一致する.複素フーリエ係数 $C_k$ が分かっていれば,積分をやり直さなくても「数学ノート」の変換公式だけで実係数 $a_k,b_k$ を機械的に復元できることが,具体的な数値で確認できた.

演習28.6 奇関数拡張によるフーリエ正弦級数

解答

$f(x)=x(\pi-x)\ (0 \lt x \lt \pi)$ を,区間 $(-\pi,0)$ では $f(x)=-f(-x)$(奇関数)となるように拡張し,周期 $2\pi$ の周期関数とみなす.奇関数拡張だから,定理28.3(II)より最初から $a_k=0$ で,フーリエ正弦級数 $f(x)=\sum_{k=1}^{\infty}b_k\sin kx$ になる.係数は

$$ b_k=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin kx\,dx=\frac2\pi\int_0^{\pi}x(\pi-x)\sin kx\,dx $$

(被積分関数 $f(x)\sin kx$ は「奇関数×奇関数=偶関数」なので $\int_{-\pi}^\pi=2\int_0^\pi$ とした.また,区間 $(0,\pi)$ では拡張前の $f(x)=x(\pi-x)$ をそのまま使ってよい).積分を展開して2つに分ける.

$$ \int_0^{\pi}x(\pi-x)\sin kx\,dx=\pi\int_0^{\pi}x\sin kx\,dx-\int_0^{\pi}x^2\sin kx\,dx $$

第1項:$\int_0^\pi x\sin kx\,dx$. 例題28.1と同じ部分積分($u=x,\ dv=\sin kx\,dx$,$v=-\frac1k\cos kx$)により,

$$ \int_0^{\pi}x\sin kx\,dx=\left[-\frac{x}{k}\cos kx\right]_0^{\pi}+\frac1k\int_0^{\pi}\cos kx\,dx=-\frac{\pi}{k}\cos k\pi+\frac1k\left[\frac1k\sin kx\right]_0^{\pi}=-\frac{\pi(-1)^k}{k}+0=-\frac{\pi(-1)^k}{k} $$

第2項:$\int_0^\pi x^2\sin kx\,dx$. 部分積分を2回使う(例題28.3の2回部分積分のパターンと同様).まず $u=x^2,\ dv=\sin kx\,dx$($v=-\frac1k\cos kx$)とおくと,

$$ \int_0^{\pi}x^2\sin kx\,dx=\left[-\frac{x^2}{k}\cos kx\right]_0^{\pi}+\frac2k\int_0^{\pi}x\cos kx\,dx $$

第1項は $x=\pi$ で $-\frac{\pi^2}{k}(-1)^k$,$x=0$ で $0$ だから,$-\frac{\pi^2(-1)^k}{k}$.第2項の $\int_0^\pi x\cos kx\,dx$ には,28.4節「数学ノート」の不定積分公式 $\int x\cos kx\,dx=\frac1kx\sin kx+\frac1{k^2}\cos kx$ を使う.

$$ \int_0^{\pi}x\cos kx\,dx=\left[\frac1kx\sin kx+\frac1{k^2}\cos kx\right]_0^{\pi}=\left(0+\frac{(-1)^k}{k^2}\right)-\left(0+\frac1{k^2}\right)=\frac{(-1)^k-1}{k^2} $$

($\sin k\pi=\sin0=0$ より $\frac1kx\sin kx$ の項は上端・下端とも消える).これを代入すると,

$$ \int_0^{\pi}x^2\sin kx\,dx=-\frac{\pi^2(-1)^k}{k}+\frac2k\cdot\frac{(-1)^k-1}{k^2}=-\frac{\pi^2(-1)^k}{k}+\frac{2\bigl((-1)^k-1\bigr)}{k^3} $$

2項を合わせる.

$$ \pi\int_0^{\pi}x\sin kx\,dx-\int_0^{\pi}x^2\sin kx\,dx =\pi\left(-\frac{\pi(-1)^k}{k}\right)-\left(-\frac{\pi^2(-1)^k}{k}+\frac{2\bigl((-1)^k-1\bigr)}{k^3}\right) $$ $$ =-\frac{\pi^2(-1)^k}{k}+\frac{\pi^2(-1)^k}{k}-\frac{2\bigl((-1)^k-1\bigr)}{k^3}=-\frac{2\bigl((-1)^k-1\bigr)}{k^3}=\frac{2\bigl(1-(-1)^k\bigr)}{k^3} $$

($\pi^2(-1)^k/k$ の項どうしがちょうど打ち消し合うことに注目——これは偶然ではなく,$x(\pi-x)$ が $x=\pi/2$ に関して対称な形をしているために,最高次の発散項が消えるように工夫された関数になっているからである).したがって

$$ b_k=\frac2\pi\cdot\frac{2\bigl(1-(-1)^k\bigr)}{k^3}=\frac{4\bigl(1-(-1)^k\bigr)}{\pi k^3} $$

$k$ が偶数のとき $1-(-1)^k=0$ より $b_k=0$.$k$ が奇数のとき $1-(-1)^k=2$ より $b_k=\dfrac{8}{\pi k^3}$.以上より,フーリエ正弦級数は

$$ f(x)=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{4\bigl(1-(-1)^k\bigr)}{\pi k^3}\sin kx=\frac8\pi\left(\sin x+\frac1{27}\sin3x+\frac1{125}\sin5x+\cdots\right)=\frac8\pi\sum_{m=0}^{\infty}\frac{\sin(2m+1)x}{(2m+1)^3} $$

である(Python 検算:verify/univmath/ch28_explore4.py,ch28_explore5.py——$b_k=4\{1-(-1)^k\}/(\pi k^3)$ を $k=1,\ldots,6$ で確認済み.係数が $1/k^3$ で減衰するのは,$x(\pi-x)$ を奇関数拡張した関数自身は連続で,その導関数の不連続性がジャンプの原因になっているため——不連続点でジャンプする矩形波(例題28.5,係数は $1/k$ で減衰)や,連続だが導関数が不連続な三角波(例題28.6,係数は $1/k^2$ で減衰)よりも,係数の減衰がさらに速いことに注目しよう).

第29章 フーリエ級数の収束理論

演習29.1 リーマン・ルベーグの補助定理と直接計算の比較

解答

予想(リーマン・ルベーグの補助定理から). $f(x)=x^3$ は閉区間 $[-\pi,\pi]$ で連続な関数だから,区分的に連続な関数でもある.したがって,リーマン・ルベーグの補助定理(本章の定理29.1)の(I)がそのまま適用できて,

$$ \lim_{n\to\infty}\int_{-\pi}^{\pi}x^3\sin(nx)\,dx=0 $$

と予想できる.

直接計算. 被積分関数 $x^3\sin(nx)$ は,奇関数($x^3$)× 奇関数($\sin nx$)=偶関数であるから,$\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}=2\int_0^{\pi}$ とできる.したがって,フーリエ正弦係数は

$$ b_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}x^3\sin(nx)\,dx=\frac2\pi\int_0^{\pi}x^3\sin(nx)\,dx $$

である.$\displaystyle\int_0^\pi x^3\sin(nx)\,dx$ を部分積分3回で求める.まず $\int x\sin(nx)\,dx=-\dfrac{x}{n}\cos nx+\dfrac1{n^2}\sin nx$(第28章「数学ノート」の公式)である.次にこれを使って,$u=x^2,\ dv=\cos(nx)\,dx$ のもう一段の部分積分により,

$$ \int x^2\cos(nx)\,dx=\frac{x^2}{n}\sin nx-\frac2n\int x\sin(nx)\,dx=\frac{x^2}{n}\sin nx+\frac{2x}{n^2}\cos nx-\frac{2}{n^3}\sin nx $$

を得る(第2章第29.2.3節と同型の計算).最後に $u=x^3,\ dv=\sin(nx)\,dx$($v=-\frac1n\cos nx$)とおいて,

$$ \int x^3\sin(nx)\,dx=-\frac{x^3}{n}\cos nx+\frac3n\int x^2\cos(nx)\,dx $$

に上で求めた $\int x^2\cos(nx)\,dx$ を代入すると,

$$ \int x^3\sin(nx)\,dx=-\frac{x^3}{n}\cos nx+\frac{3x^2}{n^2}\sin nx+\frac{6x}{n^3}\cos nx-\frac{6}{n^4}\sin nx $$

という原始関数が得られる.これを $x=0$ から $x=\pi$ まで代入する.$n$ は整数だから $\sin(n\pi)=0$ で,$\sin nx$ を含む2つの項は上端・下端のどちらでも消える.残る $\cos nx$ の項に,$\cos(n\pi)=(-1)^n$ を使うと,

$$ \int_0^{\pi}x^3\sin(nx)\,dx=\left(-\frac{\pi^3}{n}(-1)^n+\frac{6\pi}{n^3}(-1)^n\right)-0=(-1)^n\pi\cdot\frac{6-\pi^2n^2}{n^3} $$

したがって,

$$ b_n=\frac2\pi\cdot(-1)^n\pi\cdot\frac{6-\pi^2n^2}{n^3}=\frac{2(-1)^n\bigl(6-\pi^2n^2\bigr)}{n^3}=\frac{2(-1)^{n+1}\bigl(\pi^2n^2-6\bigr)}{n^3} $$

である.いくつか具体的に数値を出すと,$b_1=2\pi^2-12\approx7.739$,$b_2=\frac32-\pi^2\approx-8.370$,$b_3=\frac23\pi^2-\frac49\approx6.135$,$b_4\approx-4.747$,$b_5\approx3.852$(Python 検算:verify/univmath/ch29_exercises.py——sympyで $\int_{-\pi}^\pi x^3\sin(nx)\,dx=\pi b_n$ を計算し,上の閉じた形と一致することを確認した).

$n\to\infty$ での挙動を見ると,$b_n=\dfrac{2(-1)^{n+1}\pi^2n^2}{n^3}-\dfrac{12(-1)^{n+1}}{n^3}=\dfrac{2(-1)^{n+1}\pi^2}{n}-\dfrac{12(-1)^{n+1}}{n^3}$ であり,支配的な項は $\dfrac{2\pi^2(-1)^{n+1}}{n}$(符号を振動させながら大きさが $1/n$ のオーダーで小さくなる)である.したがって,もとの積分は $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}x^3\sin(nx)\,dx=\pi b_n\sim\dfrac{2\pi^3(-1)^{n+1}}{n}\to0\ (n\to\infty)$ となり,最初の予想(リーマン・ルベーグの補助定理による $0$ への収束)と矛盾しない.ただし,収束の速さは $1/n$ のオーダーにとどまる——これは,$f(x)=x^3$ 自身は $(-\pi,\pi]$ の内部で連続でも,これを周期 $2\pi$ で拡張すると $x=\pi$($=-\pi$)で $f(\pi)=\pi^3$ と $f(-\pi)=-\pi^3$ が食い違うジャンプ(周期的境界条件の不連続)が生じるためであり,本章例題29.1の $f(x)=x$(同様に端点でジャンプする)の係数が $1/n$ で減衰したことと同じ理由である.

演習29.2 ディリクレ核が偶関数であることの直接証明

解答

示したいのは $Q_n(-u)=Q_n(u)$ である.定義 $Q_n(u)=\displaystyle\sum_{k=-n}^{n}e^{iku}$ に $u\to-u$ を代入すると,

$$ Q_n(-u)=\sum_{k=-n}^{n}e^{ik(-u)}=\sum_{k=-n}^{n}e^{-iku} $$

である.この和の添字 $k$ を $j:=-k$ と置き換える.$k$ が $-n$ から $n$ まで動くとき,$j=-k$ もちょうど $n$ から $-n$ まで(向きは逆だが)同じ範囲 $\{-n,-n+1,\ldots,n\}$ を動く——つまり,符号を反転しても,和をとる添字の集合そのものはまったく変わらない.しかも $e^{-iku}=e^{-i(-j)u}=e^{iju}$ だから,

$$ \sum_{k=-n}^{n}e^{-iku}=\sum_{j=-n}^{n}e^{iju} $$

と書き直せる(有限個の項の和を,同じ項を違う記号で呼び直しただけなので,和の順序を並べ替えても値は変わらない).右辺は,和の記号を $j$ から $k$ に書き直せば,まさに $Q_n(u)$ の定義そのものである.したがって,

$$ Q_n(-u)=\sum_{j=-n}^{n}e^{iju}=Q_n(u) $$

が示された(Python 検算:verify/univmath/ch29_exercises.py——$n=1,3,7$ のそれぞれについて,乱数で選んだ5点の $u$ で $Q_n(-u)=Q_n(u)$ が数値的に成り立つことを確認した).

演習29.3 鋸歯状波の不連続点でのFourierの定理

解答

鋸歯状波は $f(x)=\dfrac{x}{2}\ (-4\lt x\lt4)$,周期8で拡張された関数である.$x=4$ における左側極限は,定義域 $(-4,4)$ の中からそのまま $x\to4-$ とすればよいので,

$$ f(4-0)=\lim_{x\to4-}\frac{x}{2}=\frac{4}{2}=2 $$

である.一方,右側極限 $f(4+0)$ を求めるには周期性を使う.周期8だから $f(x+8)=f(x)$ がすべての $x$ で成り立ち,特に $f(4+u)=f(4+u-8)=f(-4+u)$($u$ が小さい正の数のとき)である.$x=-4+u$ は $u\to0+$ のとき定義域 $(-4,4)$ の中から $-4$ に近づくので,$f(x)=x/2$ の式がそのまま使え,

$$ f(4+0)=\lim_{u\to0+}f(4+u)=\lim_{u\to0+}f(-4+u)=\lim_{u\to0+}\frac{-4+u}{2}=-\frac{4}{2}=-2 $$

を得る.$f(4-0)=2\ne-2=f(4+0)$ だから,$x=4$ は不連続点である.Fourierの定理(定理29.2)により,この点でのフーリエ級数の値は

$$ \frac{f(4+0)+f(4-0)}{2}=\frac{-2+2}{2}=0 $$

である.(部分和による直接確認:例題28.7で求めた実フーリエ級数 $f(x)=\sum_{k=1}^\infty\frac{4(-1)^{k+1}}{k\pi}\sin\frac{k\pi}{4}x$ に $x=4$ を代入すると,$\sin\!\left(\frac{k\pi}{4}\cdot4\right)=\sin(k\pi)=0$ がすべての整数 $k$ で成り立つので,部分和は有限の $N$ の段階ですでにちょうど $0$ になる——Python 検算:verify/univmath/ch29_exercises.pyで $N=1,5,50$ のいずれでも部分和が厳密に $0$ であることを確認した.)

演習29.4 各点収束先と一様収束性の判定

解答

(a) 各点収束先. $x=0$ のときは $f_n(0)=n\cdot0\cdot e^0=0$ がすべての $n$ で成り立つ.$0\lt x\le1$ を固定して $n\to\infty$ を考えると,指数関数 $e^{-nx^2}$ は($x$ が固定された正の数なので)$n$ に関して指数的に $0$ に近づき,その減衰の速さは,手前についている $n$(多項式的にしか大きくならない)よりも圧倒的に速い.したがって $n\,x\,e^{-nx^2}\to0$(高校で学んだ「指数関数は多項式よりも速く $0$ に近づく」という感覚のとおりである;厳密には $t=nx^2\to\infty$ とおいて $n\,e^{-nx^2}=\frac{t}{x}e^{-t}\to0$($te^{-t}\to0,\ t\to\infty$)と確かめられる).よって,

$$ f(x)=\lim_{n\to\infty}f_n(x)=0\qquad(\text{すべての }x\in[0,1]\text{ について}) $$

である——極限関数は恒等的に $0$ で,しかも連続である.

(b) 一様収束するかどうか. 極限関数 $f(x)\equiv0$ は連続だから,定理29.3の対偶(不連続なら一様収束でない)はここでは使えない——連続だからといって一様収束するとは限らないので,$\sup$ を直接評価する必要がある.$f_n(x)=nxe^{-nx^2}$ を $x$ で微分すると,

$$ f_n'(x)=n e^{-nx^2}+nx\cdot e^{-nx^2}\cdot(-2nx)=n e^{-nx^2}\bigl(1-2nx^2\bigr) $$

であり,$f_n'(x)=0$ となるのは($e^{-nx^2}\ne0$ だから)$1-2nx^2=0$,すなわち $x=x^*:=\dfrac{1}{\sqrt{2n}}$ のときである($0\le x\le1$ の範囲にちゃんと収まる,$n\ge1$ なら $x^*\le1/\sqrt2\lt1$).$x\lt x^*$ で $f_n'(x)\gt0$,$x\gt x^*$ で $f_n'(x)\lt0$ だから,$x^*$ は最大値を与える点である.そこでの値は,

$$ f_n(x^*)=n\cdot\frac{1}{\sqrt{2n}}\cdot e^{-n\cdot\frac{1}{2n}}=\frac{n}{\sqrt{2n}}\cdot e^{-1/2}=\sqrt{\frac{n}{2}}\cdot\frac1{\sqrt e}=\sqrt{\frac{n}{2e}} $$

である.したがって,

$$ \sup_{0\le x\le1}\abs{f_n(x)-f(x)}=\sup_{0\le x\le1}f_n(x)=f_n(x^*)=\sqrt{\frac{n}{2e}}\ \xrightarrow[n\to\infty]{}\ \infty $$

となり,この $\sup$ は $0$ に収束しないどころか,$n\to\infty$ で発散してしまう.一様収束の定義(定義29.2)では,どんな $\varepsilon\gt0$ に対しても,ある $N$ から先はすべての $x$ で $\abs{f_n(x)-f(x)}\lt\varepsilon$ でなければならないが,$\sup$ が発散する以上,どんな $N$ をとっても $n\gt N$ かつ $f_n(x)\ge\varepsilon$ となる $x$(具体的には $x^*=1/\sqrt{2n}$ 付近)が必ず存在してしまう.よって,$f_n(x)=nxe^{-nx^2}$ は $[0,1]$ で一様収束しない(各点収束はするが一様収束はしない例が,ここでも得られたことになる).(Python 検算:verify/univmath/ch29_exercises.py,ch29_pointwise_uniform.py——$n=1,5,20,100,10000$ で $f_n(x^*)=\sqrt{n/(2e)}$ の値が実際に発散していく様子を確認した.)

演習29.5 一様収束しないことの$\varepsilon$-$N$論法による反例の構成

解答

演習29.4(b)で,$\displaystyle\sup_{0\le x\le1}f_n(x)=\sqrt{\dfrac{n}{2e}}$ であり,これが $n\to\infty$ で無限大に発散することを示した.これを使って,一様収束の定義(定義29.2)の否定を具体的に構成する.

まず,$\varepsilon\gt0$ を1つ固定する(ここでは $\varepsilon=1$ としよう——$\sup$ が無限大に発散する以上,どんな正の数 $\varepsilon$ を選んでも同じ議論ができる).次に,任意の自然数 $N$ が与えられたとする.示したいのは,「$n\gt N$ かつ $\abs{f_n(x)-f(x)}\ge\varepsilon$ となる $x\in[0,1]$ が存在する」ことである.

$\sqrt{n/(2e)}$ は $n$ について単調増加で,$n\to\infty$ で発散するから,$\sqrt{n/(2e)}\ge1$ となるためには $n\ge2e\approx5.437$ であればよい(整数で言えば $n\ge6$ で十分である).少し余裕を持たせて,そこで,

$$ n:=\max\{N+1,\ 7\} $$

と選ぶ(こうすれば $n\gt N$ であり,かつ $n\ge7\gt2e$ でもある).この $n$ に対して,$x:=x^*=\dfrac{1}{\sqrt{2n}}$ ととると,演習29.4(b)の計算により

$$ \abs{f_n(x)-f(x)}=f_n(x^*)-0=\sqrt{\frac{n}{2e}}\ge\sqrt{\frac{7}{2e}}\approx1.135\ge1=\varepsilon $$

となる.(具体的に $N=1,10,1000$ で数値を出すと,$n=7,11,1001$,$x^*\approx0.2673,0.2132,0.02235$ に対して $f_n(x^*)\approx1.135,1.422,13.569$ となり,たしかにどれも $\varepsilon=1$ 以上である——Python 検算:verify/univmath/ch29_exercises.py.)

以上により,$\varepsilon=1$ を固定したとき,どんな自然数 $N$ に対しても,$n\gt N$ かつ $\abs{f_n(x)-f(x)}\ge\varepsilon$ となる $x\in[0,1]$($x=1/\sqrt{2n}$)が実際に見つかった.これはまさに一様収束の定義29.2の否定($\exists\varepsilon\gt0$ s.t. $\forall N,\ \exists n\gt N,\ \exists x\in I$ s.t. $\abs{f_n(x)-f(x)}\ge\varepsilon$)であり,$f_n(x)=nxe^{-nx^2}$ が $[0,1]$ で一様収束しないことの,$\varepsilon$-$N$論法にもとづく直接的な証明になっている(例題29.6(b)-(ii)で $f_n(x)=x^n$ について行った構成と,まったく同じ型の議論である).

第30章 フーリエ変換

演習30.1 微分則 $\Four[f'(x)](k)=ik\,\Four[f(x)](k)$

解答

一般の証明. 部分積分を使う.$u=e^{-ikx}$,$dv=f'(x)\,dx$ とおくと,$du=-ik\,e^{-ikx}\,dx$,$v=f(x)$ である.部分積分の公式 $\displaystyle\int u\,dv=[uv]-\int v\,du$ より,

$$ \int_{-\infty}^{\infty}f'(x)\,e^{-ikx}\,dx=\Bigl[f(x)\,e^{-ikx}\Bigr]_{-\infty}^{\infty}-\int_{-\infty}^{\infty}f(x)\,(-ik\,e^{-ikx})\,dx $$

境界項 $\bigl[f(x)e^{-ikx}\bigr]_{-\infty}^{\infty}$ は,$\bigl|f(x)e^{-ikx}\bigr|=|f(x)|\times1=|f(x)|$($|e^{-ikx}|=1$ は常に成り立つ)であり,仮定より $x\to\pm\infty$ で $f(x)\to0$ だから,この境界項自体も $0$ に近づく.したがって

$$ \int_{-\infty}^{\infty}f'(x)e^{-ikx}\,dx=0+ik\int_{-\infty}^{\infty}f(x)e^{-ikx}\,dx=ik\,\Four[f(x)](k) $$

すなわち $\Four[f'(x)](k)=ik\,\Four[f(x)](k)$ が示された.

具体例:$f(x)=e^{-x^2}$($\alpha=1$). このとき $f'(x)=-2x\,e^{-x^2}$ である.左辺を直接計算しよう.$-x^2-ikx$ を平方完成すると(本文30.4節と同じ手順で $\alpha=1$ とすればよい)$-x^2-ikx=-\left(x+i\dfrac{k}{2}\right)^2-\dfrac{k^2}{4}$ だから,

$$ \Four[f'(x)](k)=\int_{-\infty}^{\infty}(-2x)e^{-x^2-ikx}\,dx=-2e^{-\frac{k^2}{4}}\int_{-\infty}^{\infty}x\,e^{-\left(x+i\frac{k}{2}\right)^2}\,dx $$

$u:=x+i\dfrac{k}{2}$($x=u-i\dfrac{k}{2}$,$du=dx$)と置換すると,

$$ \int_{-\infty}^{\infty}x\,e^{-\left(x+i\frac k2\right)^2}dx=\int_{-\infty}^{\infty}\left(u-i\frac k2\right)e^{-u^2}\,du=\int_{-\infty}^{\infty}u\,e^{-u^2}\,du-i\frac k2\int_{-\infty}^{\infty}e^{-u^2}\,du $$

第1項の被積分関数 $u\,e^{-u^2}$ は奇関数($u\to-u$ で符号が反転する)なので,対称な範囲での積分は $0$ である.第2項は,本文で示したガウス積分($\alpha=1$ の場合)そのもので,$\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-u^2}du=\sqrt\pi$ である.よって

$$ \int_{-\infty}^{\infty}x\,e^{-\left(x+i\frac k2\right)^2}dx=0-i\frac k2\sqrt\pi=-\frac{ik\sqrt\pi}{2} $$

したがって

$$ \Four[f'(x)](k)=-2e^{-\frac{k^2}{4}}\times\left(-\frac{ik\sqrt\pi}{2}\right)=ik\sqrt\pi\,e^{-\frac{k^2}{4}} $$

一方,右辺は $ik\,\Four[f(x)](k)=ik\times\sqrt\pi\,e^{-k^2/4}$(ガウス関数のフーリエ変換の一般公式に $\alpha=1$ を代入したもの)であり,両者はぴったり一致する(sympyでも $F[f'](k)=i\sqrt\pi\,k\,e^{-k^2/4}$ と $ikF[f](k)=i\sqrt\pi\,k\,e^{-k^2/4}$ の差が恒等的に $0$ になることを確認済み).

演習30.2 パラメータ微分による $\Four[x^2e^{-\alpha x^2}](k)$ の計算

解答

ガウス関数のフーリエ変換の一般公式

$$ F(\alpha,k):=\Four[e^{-\alpha x^2}](k)=\sqrt{\frac{\pi}{\alpha}}\,e^{-\frac{k^2}{4\alpha}} $$

の両辺を,積分変数 $x$ とは無関係なパラメータ $\alpha$ で偏微分する.左辺は,積分と微分の順序を交換できるものとして,

$$ \frac{\partial F}{\partial\alpha}=\frac{\partial}{\partial\alpha}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\alpha x^2}e^{-ikx}\,dx=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\partial}{\partial\alpha}\bigl(e^{-\alpha x^2}\bigr)e^{-ikx}\,dx=\int_{-\infty}^{\infty}(-x^2)e^{-\alpha x^2}e^{-ikx}\,dx=-\Four[x^2e^{-\alpha x^2}](k) $$

である($\dfrac{\partial}{\partial\alpha}e^{-\alpha x^2}=-x^2e^{-\alpha x^2}$).右辺は,商の微分と合成関数の微分を使って,

$$ \frac{\partial F}{\partial\alpha}=\sqrt\pi\,\frac{\partial}{\partial\alpha}\Bigl(\alpha^{-1/2}e^{-\frac{k^2}{4\alpha}}\Bigr)=\sqrt\pi\left(-\frac12\alpha^{-3/2}e^{-\frac{k^2}{4\alpha}}+\alpha^{-1/2}e^{-\frac{k^2}{4\alpha}}\cdot\frac{k^2}{4\alpha^2}\right) $$

($\dfrac{\partial}{\partial\alpha}\Bigl(-\dfrac{k^2}{4\alpha}\Bigr)=\dfrac{k^2}{4\alpha^2}$ を使った).共通因子 $e^{-k^2/4\alpha}\alpha^{-3/2}$ でくくると,

$$ \frac{\partial F}{\partial\alpha}=\sqrt\pi\,e^{-\frac{k^2}{4\alpha}}\,\alpha^{-3/2}\left(-\frac12+\frac{k^2}{4\alpha}\right)=\frac{\sqrt\pi\,(k^2-2\alpha)}{4\alpha^{5/2}}\,e^{-\frac{k^2}{4\alpha}} $$

を得る.したがって,$\Four[x^2e^{-\alpha x^2}](k)=-\dfrac{\partial F}{\partial\alpha}$ より,

$$ \Four[x^2e^{-\alpha x^2}](k)=\frac{\sqrt\pi\,(2\alpha-k^2)}{4\alpha^{5/2}}\,e^{-\frac{k^2}{4\alpha}} $$

これが答えである.直接 $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}x^2e^{-\alpha x^2}e^{-ikx}\,dx$ を計算した結果(sympyで確認)も,まったく同じ式になり,差は恒等的に $0$ である.数値検証($\alpha=1,k=2$)でも,パラメータ微分による式と直接積分の式がどちらも同じ値に一致することを確認済みである.

演習30.3 シフト定理 $\Four[f(x-a)](k)=e^{-ika}\Four[f(x)](k)$

解答

一般の証明. 定義の積分に $u:=x-a$($x=u+a$,$dx=du$,積分区間は $x:-\infty\to\infty$ に対応して $u:-\infty\to\infty$)と置換すると,

$$ \Four[f(x-a)](k)=\int_{-\infty}^{\infty}f(x-a)e^{-ikx}\,dx=\int_{-\infty}^{\infty}f(u)\,e^{-ik(u+a)}\,du=e^{-ika}\int_{-\infty}^{\infty}f(u)e^{-iku}\,du=e^{-ika}\,\Four[f(x)](k) $$

($e^{-ik(u+a)}=e^{-iku}e^{-ika}$ と指数法則で分け,$k$ だけに依存する定数因子 $e^{-ika}$ を積分の外に出した).これでシフト定理が示された.

具体例:$f(x)=e^{-\alpha|x|}$ を $a$ だけシフトした場合. 一般の証明そのものを $f(x)=e^{-\alpha|x|}$ に適用すればよい.$f(x-a)=e^{-\alpha|x-a|}$ のフーリエ変換は,上の計算により

$$ \Four[e^{-\alpha|x-a|}](k)=e^{-ika}\,\Four[e^{-\alpha|x|}](k)=e^{-ika}\cdot\frac{2\alpha}{\alpha^2+k^2} $$

となり,シフト定理の予測とちょうど一致する(この場合はシフト定理の証明の手順自体が,$f(x)=e^{-\alpha|x|}$ という具体的な関数に対する「直接計算」でもあることに注意——一般の $f$ について成り立つ関係式を,特別な $f$ に当てはめただけだからである.数値検証でも,$\alpha,a,k$ に具体的な数値を入れて両辺が一致することを確認済み).

演習30.4 尺度変換定理 $\Four[f(cx)](k)=\dfrac1c\,\Four[f(x)]\!\left(\dfrac kc\right)\ (c\gt0)$

解答

一般の証明. 定義の積分に $u:=cx$($x=u/c$,$dx=du/c$)と置換する.$c\gt0$ なので,$x:-\infty\to\infty$ のとき $u:-\infty\to\infty$ で向きは変わらない.

$$ \Four[f(cx)](k)=\int_{-\infty}^{\infty}f(cx)e^{-ikx}\,dx=\int_{-\infty}^{\infty}f(u)\,e^{-ik(u/c)}\,\frac{du}{c}=\frac1c\int_{-\infty}^{\infty}f(u)\,e^{-i(k/c)u}\,du=\frac1c\,\Four[f(x)]\!\left(\frac kc\right) $$

これで尺度変換定理が示された.

具体例:$f(x)=e^{-x^2}$,$c=2$. このとき $f(cx)=f(2x)=e^{-(2x)^2}=e^{-4x^2}$ である.左辺は,ガウス関数のフーリエ変換の一般公式に $\alpha=4$ を直接代入して,

$$ \Four[e^{-4x^2}](k)=\sqrt{\frac{\pi}{4}}\,e^{-\frac{k^2}{16}}=\frac{\sqrt\pi}{2}\,e^{-\frac{k^2}{16}} $$

右辺は,$\Four[e^{-x^2}](k)=\sqrt\pi\,e^{-k^2/4}$($\alpha=1$)に,尺度変換定理を適用して,

$$ \frac1c\,\Four[e^{-x^2}]\!\left(\frac kc\right)=\frac12\times\sqrt\pi\,e^{-\frac{(k/2)^2}{4}}=\frac{\sqrt\pi}{2}\,e^{-\frac{k^2}{16}} $$

となり,左辺・右辺が完全に一致する(数値検証:$k=1.3$ のとき,どちらも $\fallingdotseq0.79739$ で一致することを確認済み).

演習30.5 「$x$ 倍」と「$k$ で微分」の双対性 $\Four[xf(x)](k)=i\dfrac{d}{dk}\Four[f(x)](k)$

解答

一般の証明. $F(k)=\Four[f(x)](k)=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}f(x)e^{-ikx}\,dx$ を,積分と微分の順序を交換できるものとして,$k$ で微分する.$\dfrac{\partial}{\partial k}e^{-ikx}=-ix\,e^{-ikx}$ だから,

$$ \frac{dF}{dk}=\int_{-\infty}^{\infty}f(x)\,(-ix)\,e^{-ikx}\,dx=-i\int_{-\infty}^{\infty}xf(x)e^{-ikx}\,dx=-i\,\Four[xf(x)](k) $$

両辺に $i$ を掛け,$i\times(-i)=-i^2=1$ を使うと,$i\dfrac{dF}{dk}=\Four[xf(x)](k)$ を得る.これが示すべき式である(演習30.1の微分則 $\Four[f'](k)=ik\Four[f](k)$ と比べると,「$x$ を掛ける」操作と「$k$ で微分する」操作,「微分する」操作と「$k$ を掛ける」操作が,互いに役割を入れ替えた双対の関係になっていることが分かる).

具体例:$f(x)=e^{-2|x|}$($\alpha=2$). まず右辺を計算する.$F(k)=\Four[e^{-2|x|}](k)=\dfrac{2\times2}{2^2+k^2}=\dfrac{4}{4+k^2}$ だから,

$$ i\frac{dF}{dk}=i\times4\times\frac{-2k}{(4+k^2)^2}=\frac{-8ik}{(4+k^2)^2} $$

次に左辺 $\Four[xe^{-2|x|}](k)$ を,30.5節の両側指数関数のときと同じように,積分区間を2つに分けて直接計算する.

$$ \Four[xe^{-2|x|}](k)=\int_{-\infty}^{0}x\,e^{2x}e^{-ikx}\,dx+\int_{0}^{\infty}x\,e^{-2x}e^{-ikx}\,dx=\int_{-\infty}^{0}x\,e^{(2-ik)x}\,dx+\int_{0}^{\infty}x\,e^{-(2+ik)x}\,dx $$

ここで,$c$ の実部が正である複素定数 $c$($\operatorname{Re}(c)\gt0$)に対して成り立つ公式 $\displaystyle\int_0^{\infty}t\,e^{-ct}\,dt=\frac{1}{c^2}$ を使う(部分積分 $u=t,\ dv=e^{-ct}dt$ より $\displaystyle\int_0^\infty t e^{-ct}dt=\Bigl[-\frac{t}{c}e^{-ct}\Bigr]_0^\infty+\frac1c\int_0^\infty e^{-ct}dt=0+\frac1c\cdot\frac1c=\frac1{c^2}$,境界項は $\operatorname{Re}(c)\gt0$ より $t\to\infty$ で $0$ になる).第2項は $c=2+ik$($\operatorname{Re}(c)=2\gt0$)としてそのまま使えて,

$$ \int_{0}^{\infty}x\,e^{-(2+ik)x}\,dx=\frac{1}{(2+ik)^2} $$

第1項は,$x=-t$($t:0\to\infty$,$dx=-dt$)と置換すると,

$$ \int_{-\infty}^{0}x\,e^{(2-ik)x}\,dx=\int_{\infty}^{0}(-t)\,e^{-(2-ik)t}\,(-dt)=-\int_0^\infty t\,e^{-(2-ik)t}\,dt=-\frac{1}{(2-ik)^2} $$

($c=2-ik$,$\operatorname{Re}(c)=2\gt0$ で同じ公式を使い,さらに符号の反転が2回起きて全体に $-1$ が付くことに注意).したがって,

$$ \Four[xe^{-2|x|}](k)=\frac{1}{(2+ik)^2}-\frac{1}{(2-ik)^2} $$

を通分する.分母は $(2+ik)^2(2-ik)^2=\bigl[(2+ik)(2-ik)\bigr]^2=(4+k^2)^2$($(2+ik)(2-ik)=4-(ik)^2=4+k^2$).分子は $(2-ik)^2-(2+ik)^2=(4-4ik-k^2)-(4+4ik-k^2)=-8ik$ である.よって

$$ \Four[xe^{-2|x|}](k)=\frac{-8ik}{(4+k^2)^2} $$

これは,右辺で求めた $i\dfrac{dF}{dk}=\dfrac{-8ik}{(4+k^2)^2}$ と完全に一致する(sympyでも $A-B:=\frac1{(2+ik)^2}-\frac1{(2-ik)^2}$ と $-8ik/(4+k^2)^2$ の差が恒等的に $0$ になることを確認済み).

演習30.6 パリティ定理の確認($a=0$ の矩形パルス)

解答

$a=0$ とした矩形パルス $f(\alpha)=\dfrac{1}{2r}\ (-r\lt\alpha\lt r)$ を考える.まず,これが偶関数であることを確かめる.$f(-\alpha)$ は,$-r\lt\alpha\lt r\iff-r\lt-\alpha\lt r$(不等号の両辺に $-1$ を掛けて向きを反転し,さらに並べ替えただけ)だから,$-\alpha$ もちょうど同じ区間 $(-r,r)$ に入るときに限って $f(-\alpha)=\dfrac{1}{2r}=f(\alpha)$ となり,区間の外では両方とも $0$ である.したがって,すべての $\alpha$ で $f(-\alpha)=f(\alpha)$,すなわち $f$ は偶関数である.

そのフーリエ変換は,例題30.2(a)(一般式 $\Four[f(\alpha)](k)=e^{-ika}\sin(kr)/(kr)$ に $a=0$ を代入したもの)より,

$$ F(k)=\Four[f(\alpha)](k)=e^{-ik\cdot0}\,\frac{\sin(kr)}{kr}=\frac{\sin(kr)}{kr} $$

である.

実数であることの確認. $\sin(kr)$ も $kr$ も,$k,r$ が実数であれば実数であり,虚数単位 $i$ はどこにも現れていない.したがって $F(k)=\sin(kr)/(kr)$ は(分母が $0$ にならない限り)実数値である.

偶関数であることの確認. $k\to-k$ とすると,$\sin(-kr)=-\sin(kr)$(正弦関数は奇関数)であり,分母も $(-k)r=-kr$ となるから,

$$ F(-k)=\frac{\sin(-kr)}{(-k)r}=\frac{-\sin(kr)}{-kr}=\frac{\sin(kr)}{kr}=F(k) $$

となり,$F(-k)=F(k)$,すなわち $F$ も偶関数である.

以上より,偶関数 $f(\alpha)$ のフーリエ変換 $F(k)=\sin(kr)/(kr)$ が,実数かつ偶関数であることが直接確かめられた.これは定理30.1(b)($f$ が実数値の偶関数ならば $F$ は実数値かつ偶関数)の予測とぴったり一致しており,一般に成り立つ定理を,具体的な矩形パルスの場合に検算できたことになる.

第31章 ラプラス変換の定義と基本公式

演習31.1 定義から直接 $\Lap[t^3]$ を計算する

解答

定義($\Lap[f(t)]=\int_0^\infty f(t)e^{-st}dt$)にしたがって,$\displaystyle\Lap[t^3]=\int_0^\infty t^3e^{-st}\,dt$ を,部分積分を3回繰り返して計算する.$u=-\frac1se^{-st}$($e^{-st}$ の原始関数),$v=t^3$($v'=3t^2$)として部分積分を1回行うと,

$$ \int_0^\infty t^3e^{-st}\,dt = \underbrace{\left[t^3\left(-\frac1se^{-st}\right)\right]_0^\infty}_{0} + \frac3s\int_0^\infty t^2e^{-st}\,dt $$

(境界項が $0$ になる理由:$t=0$ で $t^3=0$.$t\to\infty$ では $s>0$ のとき $t^3e^{-st}\to0$——指数関数の減衰が多項式の増加より速いため.)残った積分にもう一度部分積分($v=t^2,v'=2t$)を使うと,

$$ \int_0^\infty t^2e^{-st}\,dt = \underbrace{\left[t^2\left(-\frac1se^{-st}\right)\right]_0^\infty}_{0} + \frac2s\int_0^\infty te^{-st}\,dt $$

さらにもう一度($v=t,v'=1$)部分積分を使うと,

$$ \int_0^\infty te^{-st}\,dt = \underbrace{\left[t\left(-\frac1se^{-st}\right)\right]_0^\infty}_{0} + \frac1s\int_0^\infty e^{-st}\,dt = \frac1s\cdot\frac1s = \frac1{s^2} $$

これらを下から順に代入していくと,

$$ \int_0^\infty t^2e^{-st}\,dt = \frac2s\cdot\frac1{s^2} = \frac2{s^3},\qquad \int_0^\infty t^3e^{-st}\,dt = \frac3s\cdot\frac2{s^3} = \frac6{s^4} $$

したがって $\Lap[t^3]=\dfrac6{s^4}$($s>0$)となる.これは公式31.3($\Lap[t^n]=n!/s^{n+1}$)に $n=3$ を代入した $3!/s^4=6/s^4$ と一致する(sympyの広義積分でも同じ値になることを検算済み).

演習31.2 線形性で $\Lap[5e^{2t}-3t+7]$ を求める

解答

線形性($\Lap[c_1f+c_2g+c_3h]=c_1\Lap[f]+c_2\Lap[g]+c_3\Lap[h]$,3項でも同様に成り立つ)より,

$$ \Lap[5e^{2t}-3t+7] = 5\Lap[e^{2t}] - 3\Lap[t] + 7\Lap[1] $$

各項に基本変換表を代入する:$\Lap[e^{2t}]=\dfrac1{s-2}$($\omega=2$ を公式 $\Lap[e^{\omega t}]=1/(s-\omega)$ に代入,$s>2$),$\Lap[t]=\dfrac1{s^2}$,$\Lap[1]=\dfrac1s$.したがって,

$$ \Lap[5e^{2t}-3t+7] = \frac5{s-2} - \frac3{s^2} + \frac7s\qquad(s>2) $$

が答えである.収束域が $s>2$ になるのは,3つの項のうち $\Lap[e^{2t}]$ がもっとも厳しい条件($s>2$)を課すためで,全体としてはその共通部分を取る必要がある(sympyの記号計算でも同じ式になることを検算済み).

演習31.3 「先に1,後に0」に切り替わる関数のラプラス変換

解答

求める関数を $g(t)$ とする:$g(t)=1$($0\le t\lt a$),$g(t)=0$($t\ge a$).単位階段関数 $u(t-a)$($t\lt a$ で $0$,$t\ge a$ で $1$)を使うと,$g(t)=1-u(t-a)$ と書ける——実際,$t\lt a$ では $1-0=1$,$t\ge a$ では $1-1=0$ となり,$g(t)$ の値と一致することが確認できる.線形性を使うと,

$$ \Lap[g(t)] = \Lap[1-u(t-a)] = \Lap[1] - \Lap[u(t-a)] $$

基本変換表 $\Lap[1]=\dfrac1s$ と,公式 $\Lap[u(t-a)]=\dfrac{e^{-as}}{s}$($a\ge0$)を代入すると,

$$ \Lap[g(t)] = \frac1s - \frac{e^{-as}}{s} = \frac{1-e^{-as}}{s}\qquad(s>0) $$

が答えである(sympyで検算済み).

演習31.4 鋸歯状波のラプラス変換

解答

周期関数のラプラス変換公式 $\Lap[f(t)]=\dfrac{F_0(s)}{1-e^{-sT}}$($F_0(s)=\int_0^Tf(t)e^{-st}dt$)を使う.まず $F_0(s)=\displaystyle\int_0^T te^{-st}\,dt$ を求める.$u=-\frac1se^{-st}$,$v=t$($v'=1$)として部分積分を行うと,

$$ \int_0^T te^{-st}\,dt = \left[t\left(-\frac1se^{-st}\right)\right]_0^T - \int_0^T\left(-\frac1se^{-st}\right)dt $$

境界項は,$t=T$ で $-\dfrac Ts e^{-sT}$,$t=0$ で $0$ なので,$\left[\,\cdot\,\right]_0^T=-\dfrac Ts e^{-sT}-0=-\dfrac Ts e^{-sT}$ である.残った積分は $\displaystyle\int_0^T\frac1se^{-st}\,dt=\frac1s\left[-\frac1se^{-st}\right]_0^T=\frac1{s^2}\bigl(1-e^{-sT}\bigr)$ なので,

$$ F_0(s) = -\frac Ts e^{-sT} + \frac1{s^2}\bigl(1-e^{-sT}\bigr) = \frac1{s^2} - e^{-sT}\left(\frac Ts+\frac1{s^2}\right) = \frac{1-e^{-sT}(1+sT)}{s^2} $$

これを周期関数の公式に代入すると,

$$ \Lap[f(t)] = \frac{F_0(s)}{1-e^{-sT}} = \frac{1-e^{-sT}(1+sT)}{s^2\bigl(1-e^{-sT}\bigr)} $$

が答えである.分母・分子に $e^{sT}$ を掛けて指数が正になる形に整理すると,$\dfrac{e^{sT}-1-sT}{s^2\bigl(e^{sT}-1\bigr)}$ という同値な形にも書ける($T=1,s=2$ の場合に,この式の値と,最初の60周期を直接数値積分して足し合わせた値が小数点以下30桁まで一致することを検算済み).

演習31.5 デルタ関数のふるい性質で $\Lap[\delta(t-3)\cos2t]$ を求める

解答

定義31.1に代入すると $\displaystyle\Lap[\delta(t-3)\cos2t]=\int_0^\infty \cos2t\cdot e^{-st}\cdot\delta(t-3)\,dt$ である.$a=3\ge0$ なので,積分区間を $(-\infty,\infty)$ に広げても値は変わらない($t\lt0$ で $\delta(t-3)=0$ だから).$f(t)=\cos2t\cdot e^{-st}$ とおいてふるい性質(定義31.3)を適用すると,$t=3$ での値が取り出される.

$$ \Lap[\delta(t-3)\cos2t] = \int_{-\infty}^\infty \cos2t\cdot e^{-st}\cdot\delta(t-3)\,dt = \cos(2\cdot3)\cdot e^{-3s} = \cos6\cdot e^{-3s} $$

が答えである($\cos6$ はラジアンでの数値,$\cos6\approx0.960$.sympyで検算済み).

演習31.6 指数 $\alpha$ 位かどうかの判定

解答

(a) $f(t)=t^{10}$.極限

$$ \lim_{t\to\infty}\frac{t^{10}}{e^t} = \lim_{t\to\infty}t^{10}e^{-t} = 0 $$

が成り立つ(指数関数は,どんな次数の多項式よりも速く増加するため).したがって,ある十分大きな $M$($t\ge0$ 全体での $t^{10}e^{-t}$ の最大値を $M$ とすればよい)が存在して $t^{10}\le Me^t$ が成り立つ.よって $f(t)=t^{10}$ は指数 $1$ 位の関数である.

(b) $f(t)=e^{t^3}$.仮に指数 $\alpha$ 位($\alpha$ は有限)だとすると,$|e^{t^3}|\le Me^{\alpha t}$,すなわち $e^{t^3-\alpha t}\le M$ がすべての $t\ge0$ で成り立たなければならない.しかし $t\to\infty$ のとき,$t^3-\alpha t=t(t^2-\alpha)\to\infty$($t$ が $\sqrt\alpha$ より大きくなれば $t^2-\alpha>0$ になり,$t(t^2-\alpha)$ は限りなく大きくなる)ので,$e^{t^3-\alpha t}\to\infty$ となり,どんな $M$ を選んでもこの不等式は破られる.したがって,$f(t)=e^{t^3}$ は,どんな $\alpha$ を選んでも指数 $\alpha$ 位の関数ではない.

演習31.7 導関数公式を2回使って $\Lap[f''(t)]$ を表す

解答

$g(t):=f'(t)$ とおく($g$ も $t\ge0$ で連続かつ指数位であると仮定する).導関数公式を $g$ に適用すると,

$$ \Lap[g'(t)] = s\Lap[g(t)] - g(0) $$

ここで $g'(t)=f''(t)$,$g(0)=f'(0)$ であり,また $\Lap[g(t)]=\Lap[f'(t)]$ には導関数公式をもう一度($f$ 自身に)適用した結果 $\Lap[f'(t)]=sF(s)-f(0)$ が使える.これらをすべて代入すると,

$$ \Lap[f''(t)] = s\Lap[f'(t)] - f'(0) = s\bigl(sF(s)-f(0)\bigr) - f'(0) = s^2F(s) - sf(0) - f'(0) $$

が一般公式である.

これを $f(t)=t^3$ で確かめる.$f(0)=0^3=0$,$f'(t)=3t^2$ より $f'(0)=0$,$F(s)=\Lap[t^3]=\dfrac6{s^4}$(演習31.1の結果)である.一般公式に代入すると,

$$ \Lap[f''(t)] = s^2\cdot\frac6{s^4} - s\cdot0 - 0 = \frac6{s^2} $$

一方,$f''(t)=\dfrac{d}{dt}(3t^2)=6t$ を直接ラプラス変換すると,公式31.2($\Lap[t]=1/s^2$)と線形性より $\Lap[6t]=6\Lap[t]=\dfrac6{s^2}$ となり,一般公式で求めた値とぴったり一致する(sympyで検算済み.$f(t)=\cos\omega t$ の場合——$f(0)=1,f'(0)=0$——でも同様に一致することを別途確認した).

第32章 ガンマ関数・ベータ関数とラプラス変換

演習32.1 $\Gamma(7/2)$ を求めよ

解答

漸化式 $\Gamma(\alpha+1)=\alpha\Gamma(\alpha)$ を,$\Gamma(1/2)=\sqrt\pi$ に届くまで繰り返し使う.$\dfrac72=\dfrac52+1$ なので,$\alpha=\dfrac52$ として漸化式に代入すると,

$$ \Gamma\left(\frac72\right) = \frac52\,\Gamma\left(\frac52\right) $$

本文の例題32.3で求めたとおり $\Gamma\!\left(\dfrac52\right)=\dfrac34\sqrt\pi$ である(念のため経路を書くと,$\Gamma\!\left(\frac52\right)=\frac32\Gamma\!\left(\frac32\right)$,$\Gamma\!\left(\frac32\right)=\frac12\Gamma\!\left(\frac12\right)=\frac12\sqrt\pi$,したがって $\Gamma\!\left(\frac52\right)=\frac32\cdot\frac12\sqrt\pi=\frac34\sqrt\pi$).これを代入すると,

$$ \Gamma\left(\frac72\right) = \frac52\cdot\frac34\sqrt\pi = \frac{15}{8}\sqrt\pi $$

である.数値では $\Gamma(7/2)=\dfrac{15}8\sqrt\pi\approx3.323351$(sympyのgamma(Rational(7,2))が同じ値 $\frac{15\sqrt\pi}8$ を返すことで検算済み——verify/univmath/ch32_check.py).一般に,半整数 $\Gamma\!\left(n+\frac12\right)$ は,$n$ 回漸化式を使うたびに分母に $2$ が,分子に奇数が1つずつ現れていく形で,必ず「有理数 $\times\sqrt\pi$」になる.

演習32.2 $\mathrm{erf}(x)+\mathrm{erfc}(x)=1$ を微分を使って示せ

解答

$h(x)=\mathrm{erf}(x)+\mathrm{erfc}(x)$ とおき,まずこの導関数 $h'(x)$ を求める.

$\mathrm{erf}(x)$ の微分. 微分積分学の基本定理(第5章)より,上端が変数 $x$ の積分 $\displaystyle\int_0^xe^{-u^2}du$ を $x$ で微分すると,被積分関数の $u$ を $x$ に置き換えた値 $e^{-x^2}$ がそのまま出てくる.したがって,

$$ \frac{d}{dx}\mathrm{erf}(x) = \frac2{\sqrt\pi}\cdot e^{-x^2} $$

$\mathrm{erfc}(x)$ の微分. $\mathrm{erfc}(x)=\dfrac2{\sqrt\pi}\displaystyle\int_x^{\infty}e^{-u^2}du$ は下端が変数 $x$ の積分である.これを,上端が定数 $\infty$・下端が変数という形から,上端が変数・下端が定数という見慣れた形に直すには,積分区間をひっくり返して符号を変えればよい.

$$ \int_x^{\infty}e^{-u^2}\,du = \int_0^{\infty}e^{-u^2}\,du - \int_0^{x}e^{-u^2}\,du $$

(右辺は,$0$ から $\infty$ までの積分を,$0$ から $x$ までと $x$ から $\infty$ までに分けた式を移項しただけである.)右辺第1項 $\displaystyle\int_0^{\infty}e^{-u^2}du=\dfrac{\sqrt\pi}2$ は $x$ に無関係な定数だから,$x$ で微分すると消える.第2項は $\mathrm{erf}$ の微分でやったのと同じ形なので,

$$ \frac{d}{dx}\int_x^{\infty}e^{-u^2}\,du = 0 - e^{-x^2} = -e^{-x^2} $$

したがって,

$$ \frac{d}{dx}\mathrm{erfc}(x) = \frac2{\sqrt\pi}\cdot\left(-e^{-x^2}\right) = -\frac2{\sqrt\pi}e^{-x^2} $$

2つを足し合わせる.

$$ h'(x) = \frac{d}{dx}\mathrm{erf}(x)+\frac{d}{dx}\mathrm{erfc}(x) = \frac2{\sqrt\pi}e^{-x^2}-\frac2{\sqrt\pi}e^{-x^2} = 0 $$

導関数がすべての $x$ で恒等的に $0$ になる関数は,定数関数である(平均値の定理の系:もし $h$ が定数でなければ,異なる2点 $a\ne b$ で $h(a)\ne h(b)$ となり,平均値の定理よりその間のどこかで $h'(c)=\dfrac{h(b)-h(a)}{b-a}\ne0$ となる点が存在してしまい,$h'\equiv0$ に矛盾する).したがって,$h(x)=\mathrm{erf}(x)+\mathrm{erfc}(x)$ はある定数 $C$ に等しい.

定数 $C$ の値は,どの $x$ で評価してもよいので,計算しやすい $x=0$ を選ぶ.$\mathrm{erf}(0)=\dfrac2{\sqrt\pi}\displaystyle\int_0^0e^{-u^2}du=\dfrac2{\sqrt\pi}\cdot0=0$(積分区間の幅が $0$ だから).また本文の例題32.1(a)で示したとおり $\mathrm{erfc}(0)=1$.したがって,

$$ C = h(0) = \mathrm{erf}(0)+\mathrm{erfc}(0) = 0+1 = 1 $$

ゆえに,すべての実数 $x$ について $\mathrm{erf}(x)+\mathrm{erfc}(x)=1$ である.(本文では積分区間の分割によってこれを一度に示したが,ここでは「導関数が $0$ ⟹ 定数」という別の道筋でまったく同じ結論に到達した.どちらの証明も本質的には,誤差関数と余誤差関数が同じガウス積分をちょうど2つに分け合っているという事実の裏返しである.)

演習32.3 $\Lap[t^3]$ をガンマ関数の公式から計算せよ

解答

ガンマ関数によるラプラス変換の一般公式 $\Lap[t^{\alpha}]=\dfrac{\Gamma(\alpha+1)}{s^{\alpha+1}}$ に $\alpha=3$(整数)を代入すると,

$$ \Lap[t^3] = \frac{\Gamma(3+1)}{s^{3+1}} = \frac{\Gamma(4)}{s^4} $$

公式 $\Gamma(n+1)=n!$ に $n=3$ を代入すると $\Gamma(4)=\Gamma(3+1)=3!=3\times2\times1=6$.したがって,

$$ \Lap[t^3] = \frac6{s^4} $$

である.一方,第31章の公式 $\Lap[t^n]=\dfrac{n!}{s^{n+1}}$ に直接 $n=3$ を代入すると,$\Lap[t^3]=\dfrac{3!}{s^4}=\dfrac6{s^4}$ となり,ガンマ関数を経由した計算とぴったり一致する(sympyのlaplace_transform(t**3,t,s)でも同じ結果を確認済み——verify/univmath/ch32_check.py).$n$ が整数のときは,ガンマ関数の公式は単に $\Gamma(n+1)$ を $n!$ に読み替えるだけで,第31章の公式にそのまま帰着することがここでも確かめられた.

演習32.4 $n=5$ でスターリングの簡易版・精密版の相対誤差を求めよ

解答

真の値は $5!=120$ である.

簡易版. $n^ne^{-n}$ に $n=5$ を代入すると,$5^5=3125$,$e^{-5}\approx0.00673794700$ なので,

$$ 5^5e^{-5} \approx 3125\times0.00673794700 \approx 21.0561 $$

真の値との相対誤差は,

$$ \frac{|120-21.0561|}{120} = \frac{98.9439}{120} \approx 0.8245 = 82.45\% $$

精密版. $\sqrt{2\pi n}\,n^ne^{-n}$ に $n=5$ を代入する.$2\pi\times5=10\pi\approx31.4159$,$\sqrt{31.4159}\approx5.60499$ なので,

$$ \sqrt{2\pi\cdot5}\times21.0561 \approx 5.60499\times21.0561 \approx 118.019 $$

真の値との相対誤差は,

$$ \frac{|120-118.019|}{120} = \frac{1.981}{120} \approx 0.01651 = 1.65\% $$

である(Pythonで検算済み——verify/univmath/ch32_check.py).例題32.6($n=10$)のときの相対誤差(簡易版 $87.49\%$,精密版 $0.83\%$)と比べると,$n$ が小さい $n=5$ の方が,簡易版・精密版とも誤差はやや大きい——これは図32.5で見たとおり,精密版の誤差が $n$ とともに単調に減っていくこと(簡易版は逆に増えていくこと)と整合している.

演習32.5 $B(m,n)=B(n,m)$ を証明せよ

解答

定義 $B(m,n)=\displaystyle\int_0^1x^{m-1}(1-x)^{n-1}dx$ に,置換積分 $x=1-u$(したがって $dx=-du$)を行う.積分区間は,$x=0$ のとき $u=1-0=1$,$x=1$ のとき $u=1-1=0$ となるので,$u$ は $1$ から $0$ まで動く(向きが逆転する).

$$ B(m,n) = \int_{x=0}^{x=1}x^{m-1}(1-x)^{n-1}\,dx = \int_{u=1}^{u=0}(1-u)^{m-1}\cdot u^{n-1}\,(-du) $$

($x=1-u$ を代入すると,$x^{m-1}=(1-u)^{m-1}$,$1-x=1-(1-u)=u$ より $(1-x)^{n-1}=u^{n-1}$ となる.)積分の上端と下端を入れ替えると,定積分の性質 $\displaystyle\int_1^0(\cdots)=-\int_0^1(\cdots)$ により符号がもう1つ反転する.したがって,$(-du)$ による符号反転と,上端・下端の入れ替えによる符号反転の,合計2つのマイナスがちょうど打ち消し合って,

$$ B(m,n) = \int_0^1 (1-u)^{m-1}u^{n-1}\,du = \int_0^1 u^{n-1}(1-u)^{m-1}\,du $$

(掛け算の順序を入れ替えただけ.)ここで,積分変数の記号 $u$ を $x$ と書き直しても定積分の値は変わらない(第28章の演習でも使った事実:定積分は変数名によらない).したがって,

$$ B(m,n) = \int_0^1 x^{n-1}(1-x)^{m-1}\,dx $$

この右辺は,定義の式で $m$ と $n$ の役割をそっくり入れ替えたもの,すなわち $B(n,m)$ そのものである.ゆえに,

$$ B(m,n) = B(n,m) $$

が,すべての $m,n\gt0$ について成り立つ(本文§32.4.2で図32.6の対称性から直感的に予想した内容を,ここで置換積分によって厳密に証明したことになる).数値でも,たとえば $(m,n)=(2,3)$ のとき $B(2,3)=\frac1{12}$(本文の例題32.7),$(m,n)=(3,2)$ のとき $B(3,2)=\int_0^1x^2(1-x)\,dx=\left[\frac{x^3}3-\frac{x^4}4\right]_0^1=\frac13-\frac14=\frac1{12}$ となり,確かに一致することが確認できる(sympyでも複数の $(m,n)$ の組で検算済み——verify/univmath/ch32_check.py).

演習32.6 $B(1,n)$ を定義から直接計算せよ

解答

定義に $m=1$ を代入すると,$x^{m-1}=x^0=1$ となるので,被積分関数から $x$ の部分が消える.

$$ B(1,n) = \int_0^1 x^{1-1}(1-x)^{n-1}\,dx = \int_0^1(1-x)^{n-1}\,dx $$

置換積分 $v=1-x$($dv=-dx$)を使う.$x=0$ のとき $v=1$,$x=1$ のとき $v=0$ なので,

$$ \int_0^1(1-x)^{n-1}\,dx = \int_1^0 v^{n-1}\,(-dv) = \int_0^1 v^{n-1}\,dv = \left[\frac{v^n}n\right]_0^1 = \frac1n-0 = \frac1n $$

したがって $B(1,n)=\dfrac1n$ である.

これを,本文の定理($B(m,n)=\Gamma(m)\Gamma(n)/\Gamma(m+n)$)から計算した値と比べる.$\Gamma(1)=1$(公式32.2)であり,$\Gamma(n+1)=n!$(公式32.5)だから,

$$ B(1,n) = \frac{\Gamma(1)\Gamma(n)}{\Gamma(1+n)} = \frac{1\times(n-1)!}{n!} = \frac{(n-1)!}{n\times(n-1)!} = \frac1n $$

($\Gamma(n)=(n-1)!$,$\Gamma(n+1)=n!=n\times(n-1)!$ を使った.)両者はぴったり一致する($n=4$ のとき $B(1,4)=1/4$ であることをsympyでも直接積分により検算済み——verify/univmath/ch32_check.py).$B(1,n)$ は,ベータ関数のなかでもとくにシンプルな「$m=1$」の場合であり,そのぶん定義からの直接計算とガンマ関数経由の計算のどちらも同じくらい簡単に実行できる.

第33章 1階常微分方程式の基本解法

演習33.1 変数分離形

解答

微分方程式は $\dfrac{\dd y}{\dd x}=\dfrac{x^2}{y^2}$($y\neq0$)である.右辺が「$x$ だけの関数 $x^2$」と「$y$ だけの関数 $1/y^2$」の積になっているので変数分離形である.両辺に $y^2$ をかけて,

$$ y^2\,\dd y=x^2\,\dd x $$

両辺に $\displaystyle\int$ をつけると,

$$ \int y^2\,\dd y=\int x^2\,\dd x \quad\Longrightarrow\quad \frac{y^3}{3}=\frac{x^3}{3}+C_1 $$

両辺を3倍し,$3C_1=C$ とおくと,

$$ y^3=x^3+C $$

を一般解とする($y$ について解けば $y=\sqrt[3]{x^3+C}$).検算:$y=(x^3+C)^{1/3}$ を $x$ で微分すると,$\diff yx=\dfrac13(x^3+C)^{-2/3}\cdot3x^2=\dfrac{x^2}{(x^3+C)^{2/3}}=\dfrac{x^2}{y^2}$.たしかに元の方程式を満たす.

演習33.2 同次形

解答

微分方程式は $\diff yx=\dfrac{x^2+y^2}{xy}$($x\gt0,\ y\gt0$)である.右辺を $x^2$ で割ると,

$$ \frac{x^2+y^2}{xy}=\frac{1+(y/x)^2}{y/x} $$

となり,$y/x$ だけの関数になっている(同次形).$t=y/x$,すなわち $y=xt$ とおくと,$\diff yx=xt'+t$(積の微分公式)であり,方程式は

$$ xt'+t=\frac{1+t^2}{t} $$

右辺から $t$ を引くと,$\dfrac{1+t^2}{t}-t=\dfrac{1+t^2-t^2}{t}=\dfrac1t$ なので,

$$ x\diff tx=\frac1t \quad\Longrightarrow\quad t\,\dd t=\frac1x\,\dd x $$

両辺に $\displaystyle\int$ をつけると,

$$ \int t\,\dd t=\int\frac1x\,\dd x \quad\Longrightarrow\quad \frac{t^2}{2}=\ln x+C_1\quad(x\gt0) $$

両辺を2倍し,$2C_1=C$ とおくと $t^2=2\ln x+C$.$t=y/x$ を戻すと,

$$ \left(\frac yx\right)^{\!2}=2\ln x+C \quad\Longrightarrow\quad y^2=x^2(2\ln x+C) $$

を一般解とする.検算:$F(x,y)=y^2-x^2(2\ln x+C)=0$ の両辺を $x$ で($y$ を $x$ の関数とみて)微分すると,$2y\diff yx-2x(2\ln x+C)-x^2\cdot\dfrac2x=0$,すなわち $2y\diff yx=2x(2\ln x+C)+2x=2x\left(2\ln x+C+1\right)$.曲線上では $2\ln x+C=y^2/x^2$ なので,$2y\diff yx=2x\left(\dfrac{y^2}{x^2}+1\right)=\dfrac{2(x^2+y^2)}{x}$.両辺を $2y$ で割ると $\diff yx=\dfrac{x^2+y^2}{xy}$ となり,たしかに元の方程式に一致する(sympyでも検算済み).

演習33.3 $f(ax+by+c)$ 型

解答

微分方程式は $\diff yx=\cos(x+y)$ である.$a=1,b=1,c=0$ の場合にあたるので,$t=x+y$ とおく.$\diff tx=1+\diff yx$ であり,$\diff yx=\cos(x+y)=\cos t$ なので,

$$ \diff tx=1+\cos t $$

変数分離形に直す.半角の公式 $1+\cos t=2\cos^2\dfrac t2$(高校数学,倍角公式 $\cos t=2\cos^2\frac t2-1$ の変形)を使うと,

$$ \frac{1}{2\cos^2(t/2)}\,\dd t=\dd x \quad\Longrightarrow\quad \frac12\sec^2\!\left(\frac t2\right)\dd t=\dd x $$

両辺に $\displaystyle\int$ をつけると,$\displaystyle\int\sec^2u\,\dd u=\tan u+C$(第3章,正接関数の微分の逆演算)を $u=t/2$ に使って,

$$ \frac12\int\sec^2\!\left(\frac t2\right)\dd t=\int\dd x \quad\Longrightarrow\quad \frac12\cdot2\tan\!\left(\frac t2\right)=x+C \quad\Longrightarrow\quad \tan\!\left(\frac t2\right)=x+C $$

$t=x+y$ を戻すと,

$$ \tan\!\left(\frac{x+y}{2}\right)=x+C $$

を一般解とする.検算:$\Phi(x,y)=\tan\!\left(\dfrac{x+y}2\right)-x-C=0$ の両辺を $x$ で微分すると,$\sec^2\!\left(\dfrac{x+y}2\right)\cdot\dfrac{1+y'}{2}-1=0$,すなわち $y'=\dfrac{2}{\sec^2\left(\frac{x+y}2\right)}-1=2\cos^2\!\left(\dfrac{x+y}2\right)-1=\cos(x+y)$(2倍角の公式 $\cos\theta=2\cos^2\frac\theta2-1$ を $\theta=x+y$ に使った).たしかに元の方程式に一致する.

演習33.4 1階線形微分方程式

解答

微分方程式は $\diff yx-y\tan x=\sin x$($-\frac\pi2\lt x\lt\frac\pi2$)であり,$p(x)=-\tan x$,$g(x)=\sin x$ の1階線形微分方程式である.$-\frac\pi2\lt x\lt\frac\pi2$ では $\cos x\gt0$ なので,

$$ \int p(x)\,\dd x=\int(-\tan x)\,\dd x=\ln(\cos x) $$

($\displaystyle\int\tan x\,\dd x=-\ln|\cos x|$ は第5章の公式).よって $e^{-\int p\,\dd x}=e^{-\ln(\cos x)}=\dfrac1{\cos x}=\sec x$,$e^{\int p\,\dd x}=e^{\ln(\cos x)}=\cos x$.一般解の公式(本章の公式33.2)に代入すると,

$$ y=\sec x\left\{\int\sin x\cdot\cos x\,\dd x+C\right\} $$

右辺の積分は,$u=\sin x$,$\dd u=\cos x\,\dd x$ という置換積分(高校数学既習)を使うと,$\displaystyle\int\sin x\cos x\,\dd x=\int u\,\dd u=\dfrac{u^2}{2}=\dfrac{\sin^2x}2$.よって,

$$ y=\sec x\left\{\frac{\sin^2x}2+C\right\}=\frac12\sin^2x\sec x+C\sec x=\frac12\sin x\cdot\frac{\sin x}{\cos x}+C\sec x=\frac12\sin x\tan x+C\sec x $$

を一般解とする.検算:$y=\dfrac12\sin x\tan x+C\sec x$ を微分すると,積の微分公式より $y'=\dfrac12\left(\cos x\tan x+\sin x\sec^2x\right)+C\sec x\tan x=\dfrac12\left(\sin x+\sin x\sec^2x\right)+C\sec x\tan x$.一方,$y\tan x+\sin x=\dfrac12\sin x\tan^2x+C\sec x\tan x+\sin x$.両者の差を計算すると,$\dfrac12\sin x\sec^2x-\dfrac12\sin x\tan^2x+\dfrac12\sin x-\sin x=\dfrac12\sin x(\sec^2x-\tan^2x)-\dfrac12\sin x=\dfrac12\sin x\cdot1-\dfrac12\sin x=0$($\sec^2x-\tan^2x=1$ を使った).よって $y'=y\tan x+\sin x$,すなわち $y'-y\tan x=\sin x$ が成り立つ(sympyでも検算済み).

演習33.5 ベルヌーイの微分方程式

解答

微分方程式は $x\diff yx+y=y^2\ln x$($x\gt0$)である.両辺を $x$ で割ると,

$$ \diff yx+\frac1x\,y=\frac{\ln x}{x}\,y^2 $$

となり,$p(x)=\dfrac1x$,$g(x)=\dfrac{\ln x}x$,$n=2$ のベルヌーイの微分方程式である.$u=y^{1-n}=y^{-1}$ とおく.本章の公式33.3の手順にしたがい,$P(x)=(1-n)p(x)=(-1)\cdot\dfrac1x=-\dfrac1x$,$Q(x)=(1-n)g(x)=(-1)\cdot\dfrac{\ln x}x=-\dfrac{\ln x}x$ とおくと,$u$ についての1階線形微分方程式

$$ u'-\frac1x\,u=-\frac{\ln x}{x} $$

が得られる.公式33.2を使う.$\displaystyle\int\left(-\frac1x\right)\dd x=-\ln x$($x\gt0$)なので,$e^{-\int P\,\dd x}=e^{\ln x}=x$,$e^{\int P\,\dd x}=e^{-\ln x}=\dfrac1x$.よって,

$$ u=x\left\{\int\left(-\frac{\ln x}{x}\right)\cdot\frac1x\,\dd x+C\right\}=x\left\{-\int\frac{\ln x}{x^2}\,\dd x+C\right\} $$

右辺の積分を部分積分で計算する.$f=\ln x$,$\dd G=x^{-2}\dd x$ とおくと $\dd f=\dfrac1x\dd x$,$G=-\dfrac1x$ なので,

$$ \int\frac{\ln x}{x^2}\,\dd x=\ln x\cdot\left(-\frac1x\right)-\int\left(-\frac1x\right)\cdot\frac1x\,\dd x=-\frac{\ln x}x+\int\frac1{x^2}\,\dd x=-\frac{\ln x}x-\frac1x+C_1 $$

したがって $-\displaystyle\int\frac{\ln x}{x^2}\dd x=\dfrac{\ln x}x+\dfrac1x-C_1$ であり,これを上に代入すると,

$$ u=x\left\{\frac{\ln x}x+\frac1x+C\right\}=\ln x+1+Cx $$

($-C_1+C$ をあらためて任意定数 $C$ とおいた).$u=y^{-1}=1/y$ だったから,

$$ y=\frac{1}{\ln x+1+Cx} $$

を一般解とする(このほかに $y\equiv0$ も解である).検算:$u=\ln x+1+Cx$ とおくと $y=1/u$,$\diff yx=-\dfrac{u'}{u^2}$.$u'=\dfrac1x+C$ なので $\diff yx=-\dfrac{1/x+C}{u^2}$.一方,

$$ -\frac1x\,y+\frac{\ln x}xy^2=\frac1{u^2}\left(-\frac ux+\frac{\ln x}x\right)=\frac1{u^2}\cdot\frac{-(\ln x+1+Cx)+\ln x}{x}=\frac1{u^2}\cdot\frac{-1-Cx}{x}=-\frac{1/x+C}{u^2} $$

となり,$\diff yx=-\dfrac1xy+\dfrac{\ln x}xy^2$,すなわち $x\diff yx+y=y^2\ln x$ が成り立つ(sympyでも検算済み).

演習33.6 リッカチの微分方程式

解答

微分方程式は $\diff yx-y^2+2xy-(x^2+1)=0$ であり,定義(本章の定義33.9)の形 $y'+P(x)y^2+Q(x)y+R(x)=0$ に合わせると,$P(x)=-1,\ Q(x)=2x,\ R(x)=-(x^2+1)$ である.$y_1=x$ が特殊解であることをまず確認する.$y_1'=1$,$y_1^2=x^2$ なので,

$$ y_1'+Py_1^2+Qy_1+R=1+(-1)x^2+2x\cdot x-(x^2+1)=1-x^2+2x^2-x^2-1=(1-1)+(-x^2+2x^2-x^2)=0 $$

たしかに特殊解である.次に $A(x)=2P(x)y_1(x)+Q(x)$ を計算する.

$$ A(x)=2\cdot(-1)\cdot x+2x=-2x+2x=0 $$

$A(x)\equiv0$ なので,本章の公式33.4は簡単になる.$\displaystyle\int A\,\dd x=0$ より $e^{\int A\dd x}=e^{-\int A\dd x}=1$ であるから,

$$ y=y_1+\left[1\cdot\left\{\int P(x)\cdot1\,\dd x+C_1\right\}\right]^{-1}=x+\left\{\int(-1)\,\dd x+C_1\right\}^{-1}=x+(-x+C_1)^{-1} $$

$-x+C_1=-(x-C_1)$ なので,$(-x+C_1)^{-1}=-\dfrac1{x-C_1}$.$C_1$ を $C$ と書き直せば,

$$ y=x-\frac1{x-C} $$

を一般解とする($C$ は任意定数.$-C$ を改めて $C$ とおき直せば $y=x-\dfrac1{x+C}$ とも書ける).検算:$y=x-\dfrac1{x-C}$ とおくと,$y'=1+\dfrac1{(x-C)^2}$.一方,

$$ y^2-2xy+(x^2+1)=\left(x-\frac1{x-C}\right)^{\!2}-2x\left(x-\frac1{x-C}\right)+(x^2+1) $$

を展開すると,$x^2-\dfrac{2x}{x-C}+\dfrac1{(x-C)^2}-2x^2+\dfrac{2x}{x-C}+x^2+1=\dfrac1{(x-C)^2}+1$.よって,

$$ y'-\bigl\{y^2-2xy+(x^2+1)\bigr\}=\left(1+\frac1{(x-C)^2}\right)-\left(\frac1{(x-C)^2}+1\right)=0 $$

すなわち $y'-y^2+2xy-(x^2+1)=0$ が成り立つ(sympyでも検算済み).

第34章 完全微分方程式・積分因子と特異解

演習34.1 直交曲線群 $x^2+y^2=2Cx$

解答

曲線群 $x^2+y^2=2Cx$ の両辺を $x$ で微分すると,

$$ 2x+2yy'=2C $$

両辺を $2$ で割って,$x+yy'=C$.これをもとの式 $x^2+y^2=2Cx$ に代入して $C$ を消去する.もとの式から $C=\dfrac{x^2+y^2}{2x}$ なので,

$$ x+yy'=\frac{x^2+y^2}{2x}\qquad\Longrightarrow\qquad yy'=\frac{x^2+y^2}{2x}-x=\frac{x^2+y^2-2x^2}{2x}=\frac{y^2-x^2}{2x} $$ $$ \therefore\ y'=\frac{y^2-x^2}{2xy} $$

これが曲線群 $x^2+y^2=2Cx$ の満たす微分方程式である.直交曲線群を求めるには,$y'$ を $-1/y'$ に置き換える.

$$ -\frac1{y'}=\frac{y^2-x^2}{2xy}\qquad\Longrightarrow\qquad \frac{dy}{dx}=\frac{2xy}{x^2-y^2} $$

右辺は,分母・分子を $x^2$ で割ると $\dfrac{2(y/x)}{1-(y/x)^2}$ となり,$y/x$ だけの式になっている——すなわち同次形(本文第33章)である.$v=y/x$($y=vx$)とおくと,$\dfrac{dy}{dx}=v+x\dfrac{dv}{dx}$ なので,

$$ v+x\frac{dv}{dx}=\frac{2v}{1-v^2}\qquad\Longrightarrow\qquad x\frac{dv}{dx}=\frac{2v}{1-v^2}-v=\frac{2v-v(1-v^2)}{1-v^2}=\frac{v+v^3}{1-v^2}=\frac{v(1+v^2)}{1-v^2} $$

変数分離を行なうと,

$$ \frac{1-v^2}{v(1+v^2)}\,dv=\frac{dx}{x} $$

左辺を部分分数分解する.$\dfrac{1-v^2}{v(1+v^2)}=\dfrac{A}{v}+\dfrac{Bv+D}{1+v^2}$ とおいて通分すると,$1-v^2=A(1+v^2)+(Bv+D)v$.$v^0$ の係数を比べて $A=1$,$v^2$ の係数を比べて $A+B=-1$ より $B=-2$,$v^1$ の係数を比べて $D=0$.よって,

$$ \frac{1-v^2}{v(1+v^2)}=\frac1v-\frac{2v}{1+v^2} $$

(sympyのapartでも同じ分解を確認済み——verify/univmath/ch34_check.py).両辺を積分すると,

$$ \int\left(\frac1v-\frac{2v}{1+v^2}\right)dv=\int\frac{dx}{x}\qquad\Longrightarrow\qquad \ln|v|-\ln(1+v^2)=\ln|x|+K_0 $$

($\dfrac{2v}{1+v^2}$ の積分は,分子が分母の微分になっている形なので $\ln(1+v^2)$ になる.)左辺を対数の性質でまとめると $\ln\left|\dfrac{v}{1+v^2}\right|=\ln|x|+K_0$ となり,両辺の指数をとると,

$$ \frac{v}{1+v^2}=Kx\qquad(K=\pm e^{K_0}) $$

$v=y/x$ を戻すと,

$$ \frac{y/x}{1+y^2/x^2}=Kx\qquad\Longrightarrow\qquad \frac{xy}{x^2+y^2}=Kx\qquad\Longrightarrow\qquad \frac{y}{x^2+y^2}=K\quad(x\neq0\ \text{で両辺を}\ x\ \text{で割った}) $$

したがって,$x^2+y^2=\dfrac{y}{K}$ となる.$\dfrac1K$ を改めて $2K'$(定数)と書き直せば,求める直交曲線群は,

$$ x^2+y^2=2K'y $$

である($K'$ は任意定数).もとの曲線群 $x^2+y^2=2Cx$ が「$x$ 軸上に中心を持ち,原点で $y$ 軸に接する円の族」であったのに対し,直交曲線群 $x^2+y^2=2K'y$ は「$y$ 軸上に中心を持ち,原点で $x$ 軸に接する円の族」になっている——$x$ と $y$ の役割がちょうど入れ替わった,美しい対称性である.(sympyで,陰関数微分により $x^2+y^2=2K'y$ が実際に $dy/dx=2xy/(x^2-y^2)$ を満たすことを確認済み——verify/univmath/ch34_check.py)

演習34.2 完全微分方程式 $(2xy+y^2+1)dx+(x^2+2xy)dy=0$

解答

$P=2xy+y^2+1$,$Q=x^2+2xy$ とおく.

$$ P_y=2x+2y,\qquad Q_x=2x+2y $$

$P_y=Q_x$ が成り立つので,完全微分方程式である.未知関数法で解く.$P$ を $x$ について($y$ を定数とみなして)積分すると,

$$ f(x,y)=\int(2xy+y^2+1)\,dx+g(y)=x^2y+xy^2+x+g(y) $$

($2xy$ の積分は $x^2y$,$y^2$(定数扱い)の積分は $xy^2$,$1$ の積分は $x$ である.)これを $y$ で偏微分すると,

$$ f_y=x^2+2xy+g'(y) $$

これが $Q=x^2+2xy$ に等しくなければならないので,$g'(y)=0$,すなわち $g(y)$ は定数($0$ としてよい).したがって,一般解は,

$$ x^2y+xy^2+x=C $$

である.検算として,$f=x^2y+xy^2+x$ を $x$ で偏微分すると $f_x=2xy+y^2+1=P$,$y$ で偏微分すると $f_y=x^2+2xy=Q$ となり,どちらも一致する(sympyで確認済み——verify/univmath/ch34_check.py).

演習34.3 積分因子 $y\,dx+(2x+y^3)dy=0$

解答

$P=y$,$Q=2x+y^3$ とおくと,

$$ P_y=1,\qquad Q_x=2 $$

$P_y\neq Q_x$ なので,このままでは完全微分方程式ではない.そこで,$\mu(x)$ の形を試すために $\dfrac{P_y-Q_x}{Q}=\dfrac{1-2}{2x+y^3}=\dfrac{-1}{2x+y^3}$ を計算すると,これは $x$ だけの関数にならない($y$ が残ってしまう).そこで,$\mu(y)$ の形を試す.

$$ h(y)=\frac{P_y-Q_x}{P}=\frac{1-2}{y}=-\frac1y $$

今度は $x$ が消えて,$y$ だけの関数になった.よって $\mu(y)$ の形の積分因子が存在し,本文の公式 $\mu=e^{-\int h(y)\,dy}$ より,

$$ \mu=e^{-\int\left(-\frac1y\right)dy}=e^{\int\frac1y\,dy}=e^{\ln|y|}=|y| $$

($y>0$ の範囲で考えることにすれば $\mu=y$ である.)両辺に $\mu=y$ を掛けると,

$$ y^2\,dx+(2xy+y^4)\,dy=0 $$

確かに,$\dfrac{\partial}{\partial y}(y^2)=2y$,$\dfrac{\partial}{\partial x}(2xy+y^4)=2y$ となり,$P_y=Q_x$ が回復している(sympyで確認済み).未知関数法で解くと,$\mu P=y^2$ を $x$ について積分して,

$$ f(x,y)=xy^2+g(y) $$

$y$ で偏微分すると $f_y=2xy+g'(y)$ となり,これは $\mu Q=2xy+y^4$ に等しいはずだから,$g'(y)=y^4$,よって $g(y)=\dfrac{y^5}5$ である.したがって,一般解は,

$$ xy^2+\frac{y^5}5=C $$

両辺を $5$倍して分数を払うと $5xy^2+y^5=C'$($C'=5C$)とも書ける.検算として,$f=xy^2+y^5/5$ を微分すると $f_x=y^2=\mu P$,$f_y=2xy+y^4=\mu Q$ となり,どちらも一致する(sympyで確認済み——verify/univmath/ch34_check.py).

演習34.4 クレローの微分方程式 $y=xy'-\dfrac14(y')^2$

解答

$p=y'$,$f(p)=-\dfrac14p^2$ とおく.本文の手順にしたがい,一般解は $y=Cx+f(C)$ に代入して,

$$ y=Cx-\frac14C^2 $$

である.特異解を求める.$f'(p)=-\dfrac12p$ なので,$x+f'(p)=0$ は,

$$ x-\frac12p=0\qquad\Longrightarrow\qquad p=2x $$

これを $y=xp-\dfrac14p^2$ に代入すると,

$$ y=x(2x)-\frac14(2x)^2=2x^2-\frac14\cdot4x^2=2x^2-x^2=x^2 $$

したがって,特異解は,

$$ y=x^2 $$

という放物線である.この放物線が,一般解の直線群 $y=Cx-\dfrac14C^2$ すべてに接していることを,判別式で確かめよう.直線と放物線の交点の $x$ 座標は,$y=Cx-\dfrac14C^2$ を $y=x^2$ に代入して得られる

$$ x^2=Cx-\frac14C^2\qquad\Longrightarrow\qquad x^2-Cx+\frac14C^2=0 $$

という $x$ の2次方程式の解である.左辺は,$\left(x-\dfrac{C}2\right)^2=x^2-Cx+\dfrac{C^2}4$ とちょうど一致する完全平方の形をしているので,判別式は,

$$ D=(-C)^2-4\cdot1\cdot\frac{C^2}4=C^2-C^2=0 $$

である.判別式が $0$ ということは,直線 $y=Cx-\frac14C^2$ と放物線 $y=x^2$ が,$x=\dfrac{C}2$ でちょうど1点だけ重解を持つ——つまり接している——ことを意味する.これがすべての $C$ について成り立つので,放物線 $y=x^2$ はたしかに一般解の直線群すべてに接する包絡線である(sympyで,$p=2x$ を $x-p/2=0$ に代入すると $0$ になること,および判別式が恒等的に $0$ になることを確認済み——verify/univmath/ch34_check2.py).

演習34.5 ラグランジュの微分方程式 $y=x(y'+1)+(y')^2$

解答

$p=y'$,$f(p)=p+1$,$g(p)=p^2$ とおく($f(p)\neq p$ を満たしている).$f'(p)=1$,$g'(p)=2p$,$p-f(p)=p-(p+1)=-1$ である.よって,

$$ P_0(p)=-\frac{f'(p)}{p-f(p)}=-\frac{1}{-1}=1,\qquad Q_0(p)=\frac{g'(p)}{p-f(p)}=\frac{2p}{-1}=-2p $$

本文の帰着式は $\dfrac{dx}{dp}+P_0(p)x=Q_0(p)$ だったから,ここでは

$$ \frac{dx}{dp}+x=-2p $$

という,$x=x(p)$ についての1階線形微分方程式になる.積分因子は $e^{\int1\,dp}=e^p$ なので,両辺に $e^p$ を掛けると,

$$ \frac{d}{dp}\big(xe^p\big)=e^p\frac{dx}{dp}+xe^p=-2pe^p $$

右辺を $p$ について積分する.$\displaystyle\int pe^p\,dp=pe^p-e^p$(部分積分:$u=p,\ dv=e^p dp$ として $\int u\,dv=uv-\int v\,du=pe^p-\int e^p dp=pe^p-e^p$)なので,

$$ \int(-2p)e^p\,dp=-2(pe^p-e^p)=-2pe^p+2e^p $$

したがって,

$$ xe^p=-2pe^p+2e^p+C\qquad\therefore\ x=-2p+2+Ce^{-p} $$

これを $y=x(p+1)+p^2$ に代入する.

$$ y=\big(-2p+2+Ce^{-p}\big)(p+1)+p^2 $$

まず $(-2p+2)(p+1)=-2p^2-2p+2p+2=-2p^2+2$ を計算し,残りの項を加えると,

$$ y=(-2p^2+2)+C(p+1)e^{-p}+p^2=-p^2+2+C(p+1)e^{-p} $$

したがって,一般解は媒介変数 $p$ を使って,

$$ x=-2p+2+Ce^{-p},\qquad y=-p^2+2+C(p+1)e^{-p} $$

と表される(sympyで,$dy/dp=p\cdot dx/dp$ が実際に成り立つこと,および $p=0.5,1.0,2.0$ の数値例で $\frac{dy}{dx}$(数値微分)がちょうど $p$ に一致することを確認済み——verify/univmath/ch34_check3_lagrange_fix.py).

演習34.6 ロジスティック方程式の数値計算

解答

環境収容力 $N_\infty=10000$,$k_0=0.3$,初期個体数 $N(0)=100$ を,本文のロジスティック方程式の解の公式

$$ N(t)=\frac{N_\infty}{1+\left(\dfrac{N_\infty}{N_0}-1\right)e^{-k_0t}} $$

に代入する.$\dfrac{N_\infty}{N_0}-1=\dfrac{10000}{100}-1=100-1=99$ なので,

$$ N(t)=\frac{10000}{1+99e^{-0.3t}} $$

(1) $t=5$ を代入する.$e^{-0.3\times5}=e^{-1.5}\approx0.223130$ なので,

$$ N(5)=\frac{10000}{1+99\times0.223130}\approx\frac{10000}{1+22.0899}\approx\frac{10000}{23.0899}\approx433.1 $$

すなわち,$t=5$ の時点で個体数はおよそ $433$ 体である.

(2) $N(t)=9000$ となる $t$ を求める.

$$ 9000=\frac{10000}{1+99e^{-0.3t}}\qquad\Longrightarrow\qquad 1+99e^{-0.3t}=\frac{10000}{9000}=\frac{10}9 $$ $$ 99e^{-0.3t}=\frac{10}9-1=\frac19\qquad\Longrightarrow\qquad e^{-0.3t}=\frac1{9\times99}=\frac1{891}\approx0.0011223 $$

両辺の自然対数をとると,$-0.3t=\ln\!\left(\dfrac1{891}\right)=-\ln(891)\approx-6.7923$ なので,

$$ t=\frac{6.7923}{0.3}\approx22.64 $$

すなわち,個体数が $9000$ に達するのは,$t\approx22.64$(時刻の単位はもとの問題設定による)のときである.(Pythonで数値計算して確認済み:$N(5)=433.090\cdots$,$N(t)=9000$ となる $t=22.641\cdots$,これを式に戻すと確かに $N(22.641\cdots)=9000.0$ になる——verify/univmath/ch34_final_verify.py)

第35章 2階線形同次微分方程式の基礎

演習35.1 $D=0$(重解)の場合

解答

$y''+6y'+9y=0$ の係数は $a=6,b=9$ だから,特性方程式は

$$ \lambda^2+6\lambda+9=0 $$

である.左辺は $(\lambda+3)^2$ と因数分解できる($\lambda^2+6\lambda+9=\lambda^2+2\cdot3\cdot\lambda+3^2$ で,高校既習の完全平方の公式そのままの形)から,

$$ (\lambda+3)^2=0 \qquad\therefore\ \lambda_0=-3\ (\text{重解}) $$

判別式で確かめると $D=6^2-4\times9=36-36=0$ となり,たしかに35.5節[ii]の場合(重解)にあたる.公式35.2(35.5.2項)より,一般解は

$$ Y=C_1e^{-3x}+C_2xe^{-3x} $$

である.検算のため,直接代入して確かめておこう.$y_1=e^{-3x}$ は $y_1'=-3e^{-3x}$,$y_1''=9e^{-3x}$ だから,$y_1''+6y_1'+9y_1=9e^{-3x}+6\times(-3e^{-3x})+9e^{-3x}=(9-18+9)e^{-3x}=0$.$y_2=xe^{-3x}$ は,積の微分公式より $y_2'=e^{-3x}+x\times(-3)e^{-3x}=(1-3x)e^{-3x}$,$y_2''=-3e^{-3x}+(1-3x)\times(-3)e^{-3x}=(-3-3+9x)e^{-3x}=(9x-6)e^{-3x}$ だから,

$$ y_2''+6y_2'+9y_2=(9x-6)e^{-3x}+6(1-3x)e^{-3x}+9xe^{-3x}=\bigl\{(9x-6)+(6-18x)+9x\bigr\}e^{-3x}=0\cdot e^{-3x}=0 $$

となり,どちらも解であることが確かめられた($x e^{-3x}$ の係数 $9-18+9=0$,$e^{-3x}$ の係数 $-6+6=0$ にそれぞれ整理される).よって一般解は $Y=C_1e^{-3x}+C_2xe^{-3x}=(C_1+C_2x)e^{-3x}$ である(sympyで検算済み).

演習35.2 $D\lt0$(複素数解)の場合

解答

$y''-2y'+10y=0$ の係数は $a=-2,b=10$ だから,特性方程式は

$$ \lambda^2-2\lambda+10=0 $$

判別式は $D=(-2)^2-4\times10=4-40=-36\lt0$ なので,35.5節[iii]の場合(複素数解)にあたる.解の公式より,

$$ \lambda=\frac{2\pm\sqrt{-36}}{2}=\frac{2\pm6i}{2}=1\pm3i $$

なので,$\alpha=1,\beta=3$.公式35.3(35.5.3項)より,一般解は

$$ Y=e^{x}(C_1\cos3x+C_2\sin3x) $$

である.検算のため,$y=e^{x}\cos3x$ を直接代入する.積の微分公式より

$$ y'=e^{x}\cos3x-3e^{x}\sin3x,\qquad y''=(e^{x}\cos3x-3e^{x}\sin3x)-3(e^{x}\sin3x+3e^{x}\cos3x)=(e^x\cos3x-9e^x\cos3x)+(-3e^x\sin3x-3e^x\sin3x)=-8e^x\cos3x-6e^x\sin3x $$

(1回微分をもう一度,積の微分公式で微分し,$\cos3x,\sin3x$ の項をそれぞれ整理した.)よって,

$$ y''-2y'+10y=(-8e^x\cos3x-6e^x\sin3x)-2(e^x\cos3x-3e^x\sin3x)+10e^x\cos3x=(-8-2+10)e^x\cos3x+(-6+6)e^x\sin3x=0 $$

となり,たしかに解である.$y=e^{x}\sin3x$ についても同様に0になることが確かめられる(sympyで両方とも検算済み).よって一般解は $Y=e^{x}(C_1\cos3x+C_2\sin3x)$ である.

演習35.3 単振動の方程式

解答

$y''+\omega^2y=0$($\omega>0$)の係数は $a=0,b=\omega^2$ だから,特性方程式は

$$ \lambda^2+\omega^2=0 \qquad\therefore\ \lambda^2=-\omega^2 $$

判別式は $D=0^2-4\omega^2=-4\omega^2$ であり,$\omega>0$(したがって $\omega^2>0$)より $D\lt0$ なので,35.5節[iii]の場合(複素数解)にあたる.$\lambda^2=-\omega^2$ を解くと $\lambda=\pm\sqrt{-\omega^2}=\pm\omega i$ となるので,$\alpha=0,\beta=\omega$($\lambda=\alpha\pm\beta i$ の形と比べると,実部が $0$,虚部が $\pm\omega$).公式35.3より,一般解は

$$ Y=e^{0\cdot x}(C_1\cos\omega x+C_2\sin\omega x)=C_1\cos\omega x+C_2\sin\omega x $$

である($e^{0\cdot x}=1$ なので消える).これは例題35.9($\omega=2$ の特別な場合)の一般化になっている.

物理的意味については,35.5.3項末の「なぜ?」で述べたとおり,一般解 $e^{\alpha x}(C_1\cos\beta x+C_2\sin\beta x)$ において,$\alpha$ は振幅の増減(減衰・増幅)の度合いを,$\beta$ は振動の速さ(角振動数)を表す.本問では $\alpha=0$ なので,$e^{\alpha x}=e^{0}=1$ となり,振幅を表す係数がまったく変化しない——つまり,時間(変数を $x$ から時刻 $t$ に読み替えれば)が経過しても振幅が大きくも小さくもならず,一定の大きさで振動し続ける.これは,摩擦や空気抵抗のような,エネルギーを奪う効果がまったく働かない理想的な状況に対応しており,35.5.3項の物理的意味の議論で「$\alpha=0$ は摩擦がない理想的な『単振動』に対応する」と述べたとおりの結果になっている.

演習35.4 3つの解のロンスキアン

解答

双曲線関数の定義(第2章 2.5,定義2.2)より,$\cosh x=\dfrac{e^x+e^{-x}}{2}$ である.これを2回微分すると,

$$ (\cosh x)'=\frac{e^x-e^{-x}}{2}=\sinh x,\qquad (\cosh x)''=\frac{e^x+e^{-x}}{2}=\cosh x $$

($e^{-x}$ を微分するたびに,合成関数の微分で符号が反転することを使った.)よって $y_3=\cosh x$ について $y_3''-y_3=\cosh x-\cosh x=0$ となり,$y_3$ は $y''-y=0$ の解である.$y_1=e^x,y_2=e^{-x}$ が解であることは,本章例題35.1の確認(本文,35.1.2項)ですでに示されている.したがって $y_1,y_2,y_3$ はいずれも $y''-y=0$ の解である.

次に,$3\times3$ のロンスキアン(定理35.3の証明を参照)を計算する.

$$ y_1=e^x,\ y_1'=e^x,\ y_1''=e^x,\qquad y_2=e^{-x},\ y_2'=-e^{-x},\ y_2''=e^{-x},\qquad y_3=\cosh x,\ y_3'=\sinh x,\ y_3''=\cosh x $$ $$ W(y_1,y_2,y_3)= \begin{vmatrix} e^x & e^{-x} & \cosh x\\ e^x & -e^{-x} & \sinh x\\ e^x & e^{-x} & \cosh x \end{vmatrix} $$

この行列式は,第1行と第3行がまったく同じ(どちらも $(e^x,\,e^{-x},\,\cosh x)$)であることに気づけば,計算するまでもなく0だと分かる(行列式の性質——2つの行が完全に一致する行列式は0になる.これは第8章8.5の性質(ii)「行を入れ替えると符号が反転する」で,同じ行どうしを入れ替えると符号は変わらないはずなのに反転するはずだから $W=-W$,すなわち $W=0$ となることからも導ける).実際に第8章8.4の余因子展開で計算しても

$$ W(y_1,y_2,y_3)=0 $$

となる(sympyで検算済み).

この結果は,定理35.3(2階線形同次微分方程式の一次独立な解はちょうど2つで,3つ以上の解を集めても一次独立にはなれない)の具体例になっている.定理35.3の証明では,$y_1,y_2,y_3$ が同じ方程式①の解であることを使って,行列式の行基本変形(第3行に他の行の定数倍を加える)により第3行がすべて0になることを示した——これはどんな3つの解を選んでも成り立つ一般的な議論である.本問はその一般論の具体例であり,しかも $y_3=\cosh x=\frac12y_1+\frac12y_2$ とすでに $y_1,y_2$ の線形結合の形に書けている(つまり $y_1,y_2,y_3$ は最初から一次従属である)ため,行列式の列に注目した見方(ある列が他の列の線形結合で書けていれば行列式は0になる,第8章8.5)でも同じ結論が得られる.どちらの見方も,$y_1,y_2,y_3$ が「独立な3方向」を持てないことを示している点で一致している.

演習35.5 一次従属性の直接確認

解答

一次独立の定義(35.2節冒頭)は,「$C_1y_1+C_2y_2=0$(すべての $x$ で恒等的に0)となる定数の組が $C_1=C_2=0$ しかないとき,一次独立という」というものだった.$y_1=x,\ y_2=3x$ については,$y_2=3y_1$ という関係が成り立っている.そこで $C_1=-3,\ C_2=1$(これは $0$ でない組である)を取ると,

$$ C_1y_1+C_2y_2=(-3)\times x+1\times(3x)=-3x+3x=0 $$

となり,すべての $x$ で恒等的に0になる.$C_1=C_2=0$ でない組でこれが成り立ってしまったので,定義よりただちに $y_1,y_2$ は一次従属である.

次にロンスキアンを計算する.$y_1'=1,\ y_2'=3$ であるから,

$$ W(y_1,y_2)=\begin{vmatrix}x & 3x\\ 1 & 3\end{vmatrix}=x\times3-3x\times1=3x-3x=0 $$

である(例題35.3と同じ手順).定義35.2は「$W\neq0$ ならば一次独立」ということしか主張していないので,この結果だけから一次従属であるとは直ちに結論できないが,上で直接確認したとおり実際に一次従属であり,$W=0$ という結果はこの事実と何ら矛盾しない(一次従属な解については,35.2節末尾の数学ノート——Abelの公式——で触れたとおり,ロンスキアンは恒等的に0になることが一般に知られている.本問はその具体例にもなっている).(sympyで検算済み.)

演習35.6 定理35.1を使った初期値問題

解答

(a) $y''-y=6$ の右辺は定数 $6$ なので,例題35.4と同様に,特殊解 $y_0$ も定数だろうと見当をつける.$y_0=k$(定数)とおくと $y_0'=0,\ y_0''=0$ だから,方程式に代入すると

$$ y_0''-y_0=0-k=-k $$

これが $6$ に等しくなるためには $-k=6$,すなわち $k=-6$.よって $y_0=-6$ は特殊解の1つである.対応する同次方程式 $y''-y=0$ の一般解は,例題35.1(35.1.2項)より $Y=C_1e^x+C_2e^{-x}$ であった.定理35.1($y=y_0+Y$)より,求める一般解は

$$ y=y_0+Y=-6+C_1e^x+C_2e^{-x} $$

である.検算:$y'=C_1e^x-C_2e^{-x}$,$y''=C_1e^x+C_2e^{-x}$ だから,$y''-y=(C_1e^x+C_2e^{-x})-(-6+C_1e^x+C_2e^{-x})=6$ となり,たしかに $y''-y=6$ を満たす.

(b) (a)の一般解に初期条件を適用する.まず $y(0)=4$ を使うと,

$$ y(0)=-6+C_1e^{0}+C_2e^{0}=-6+C_1+C_2=4 \qquad\therefore\ C_1+C_2=10 \quad\cdots(\ast) $$

次に $y'=C_1e^x-C_2e^{-x}$ に $y'(0)=0$ を使うと,

$$ y'(0)=C_1e^{0}-C_2e^{0}=C_1-C_2=0 \qquad\therefore\ C_1=C_2 \quad\cdots(\ast\ast) $$

$(\ast)$ と $(\ast\ast)$ を連立させると,$C_1=C_2$ を $(\ast)$ に代入して $2C_1=10$,よって $C_1=C_2=5$.したがって,この初期値問題の解は

$$ y=-6+5e^x+5e^{-x} $$

である.双曲線関数の定義(第2章 2.5)$\cosh x=\dfrac{e^x+e^{-x}}{2}$ を使うと,$5e^x+5e^{-x}=10\times\dfrac{e^x+e^{-x}}{2}=10\cosh x$ とまとめられるので,

$$ y=-6+10\cosh x $$

という形にも書ける(sympyの $\texttt{dsolve}$ で初期値問題として解いた結果と一致することを検算済み).

第36章 2階線形非同次微分方程式とオイラーの方程式

演習36.1 共鳴が起こる場合の定数変化法($y''+4y=8\sin(2x)$)

解答

同次方程式 $y''+4y=0$ の特性方程式は $\lambda^2+4=0$ より $\lambda=\pm2i$($\alpha=0,\beta=2$)であるから,基本解は $y_1=\cos(2x),\ y_2=\sin(2x)$ である.ロンスキアンは

$$ W(y_1,y_2)=y_1y_2'-y_2y_1'=\cos(2x)\cdot2\cos(2x)-\sin(2x)\cdot\big(-2\sin(2x)\big)=2\cos^2(2x)+2\sin^2(2x)=2 $$

($0$ でないので,たしかに一次独立).$R(x)=8\sin(2x)$ を使って,公式36.1の $C_1'(x),C_2'(x)$ を計算する.

$$ C_1'(x)=-\frac{y_2R(x)}{W}=-\frac{\sin(2x)\cdot8\sin(2x)}{2}=-4\sin^2(2x)=-4\cdot\frac{1-\cos(4x)}{2}=-2+2\cos(4x) $$

(半角公式 $\sin^2\theta=\dfrac{1-\cos2\theta}{2}$ を $\theta=2x$ に使った).積分すると,

$$ C_1(x)=\int\big(-2+2\cos(4x)\big)\dd x=-2x+\frac12\sin(4x) $$

次に,

$$ C_2'(x)=\frac{y_1R(x)}{W}=\frac{\cos(2x)\cdot8\sin(2x)}{2}=4\sin(2x)\cos(2x)=2\sin(4x) $$

(2倍角公式 $\sin(4x)=2\sin(2x)\cos(2x)$ を使った).積分すると,

$$ C_2(x)=\int2\sin(4x)\,\dd x=-\frac12\cos(4x) $$

公式36.1(定数変化法の公式)に代入すると,

$$ y_0=C_1(x)y_1+C_2(x)y_2=\left(-2x+\frac12\sin(4x)\right)\cos(2x)-\frac12\cos(4x)\sin(2x) $$ $$ =-2x\cos(2x)+\frac12\big(\sin(4x)\cos(2x)-\cos(4x)\sin(2x)\big)=-2x\cos(2x)+\frac12\sin(4x-2x)=-2x\cos(2x)+\frac12\sin(2x) $$

(加法定理の逆 $\sin A\cos B-\cos A\sin B=\sin(A-B)$ を $A=4x,B=2x$ で使った).最後に現れた $\dfrac12\sin(2x)$ の項は同次方程式の基本解 $y_2=\sin(2x)$ の定数倍なので,一般解の任意定数 $C_2$ に吸収できる.したがって,特殊解として $y_0=-2x\cos(2x)$ を採用してよい.実際に直接代入して確かめると,$y_p=-2x\cos(2x)$ のとき

$$ y_p'=-2\cos(2x)+4x\sin(2x), \qquad y_p''=8\sin(2x)+8x\cos(2x) $$ $$ y_p''+4y_p=8\sin(2x)+8x\cos(2x)+4\cdot(-2x\cos(2x))=8\sin(2x)+8x\cos(2x)-8x\cos(2x)=8\sin(2x) $$

となって,確かに右辺 $8\sin(2x)$ に一致する.したがって一般解は

$$ y=-2x\cos(2x)+C_1\cos(2x)+C_2\sin(2x) $$

である(sympyで検算済み).特殊解に $x$ が余分に掛かった項が現れたのは,外力 $8\sin(2x)$ の角振動数が,もともとの自由振動の角振動数($\omega=2$)とちょうど一致してしまったためである(共鳴).このとき振幅は時間とともに際限なく増大していく——ブランコを最適なタイミングで押し続けると振れ幅がどんどん大きくなる現象と同じ数学的しくみである.

演習36.2 階数低減法($xy''-(x+1)y'+y=x^2e^x$,$y_1=e^x$ のみ既知)

解答

両辺を $x$($\neq0$)で割って,本章で扱ってきた形 $y''+P(x)y'+Q(x)y=R(x)$ に直すと,

$$ y''-\left(1+\frac1x\right)y'+\frac1xy=xe^x, \qquad P(x)=-\left(1+\frac1x\right),\ \ Q(x)=\frac1x,\ \ R(x)=xe^x $$

となる.$y_1=e^x$($y_1'=e^x$)だから,定理36.1の係数を計算すると,

$$ A(x)=\frac{2y_1'}{y_1}+P(x)=2+\left(-1-\frac1x\right)=1-\frac1x=\frac{x-1}{x}, \qquad B(x)=\frac{R(x)}{y_1}=\frac{xe^x}{e^x}=x $$

$p=u'$ とおくと,$u$ の方程式は1階線形方程式

$$ p'+\left(1-\frac1x\right)p=x $$

になる.積分因子は $\mu(x)=e^{\int(1-\frac1x)\dd x}=e^{x-\ln x}=\dfrac{e^x}{x}$(第33章)である.両辺に $\mu(x)$ をかけると,

$$ \left(p\cdot\frac{e^x}{x}\right)'=x\cdot\frac{e^x}{x}=e^x $$

両辺を積分すると,$p\cdot\dfrac{e^x}{x}=e^x+C_1$,すなわち

$$ p(x)=u'(x)=\left(e^x+C_1\right)\cdot\frac{x}{e^x}=x+C_1xe^{-x} $$

となる.さらに $x$ で積分する.$\displaystyle\int x\,\dd x=\frac{x^2}2$,$\displaystyle\int xe^{-x}\dd x=-(x+1)e^{-x}$(部分積分)を使うと,

$$ u(x)=\frac{x^2}2-C_1(x+1)e^{-x}+C_2 $$

を得る.これを $y=u(x)y_1=u(x)e^x$ に代入すると,

$$ y=\left(\frac{x^2}2-C_1(x+1)e^{-x}+C_2\right)e^x=\frac{x^2}2e^x-C_1(x+1)+C_2e^x $$

となる.定数を $C_1\to-C_2,\ C_2\to C_1$ と書き直せば,一般解は

$$ y=\frac{x^2}2e^x+C_1e^x+C_2(x+1) $$

である.検算として,特殊解 $y_p=\dfrac{x^2}2e^x$ を直接方程式に代入すると,$y_p'=xe^x+\dfrac{x^2}2e^x$,$y_p''=e^x+2xe^x+\dfrac{x^2}2e^x$ より

$$ xy_p''-(x+1)y_p'+y_p=x\left(e^x+2xe^x+\frac{x^2}2e^x\right)-(x+1)\left(xe^x+\frac{x^2}2e^x\right)+\frac{x^2}2e^x $$

を整理すると(sympyで確認済み)$x^2e^x$ になり,確かに右辺に一致する.また,$y_2=x+1$ を同次方程式 $xy''-(x+1)y'+y=0$ に代入すると,$y_2'=1,\ y_2''=0$ より $x\cdot0-(x+1)\cdot1+(x+1)=0$ となり,確かにもう1つの基本解になっている($y_1=e^x$ と合わせて,たった1つの基本解から出発して非同次方程式の一般解全体が求まった).

演習36.3 オイラー方程式・相異なる実数解($x^2y''+7xy'+8y=0$)

解答

$a=7,\ b=8$ である.公式36.2より,特性方程式は

$$ \lambda^2+(7-1)\lambda+8=\lambda^2+6\lambda+8=(\lambda+2)(\lambda+4)=0 $$

より $\lambda=-2,-4$(相異なる実数解).したがって一般解は

$$ y=C_1x^{-2}+C_2x^{-4} $$

である($x^{-2},x^{-4}$ をそれぞれ方程式に代入すると $0$ になることをsympyで検算済み).

演習36.4 オイラー方程式・重解と初期値問題($x^2y''-3xy'+4y=0$)

解答

$a=-3,\ b=4$ である.特性方程式は

$$ \lambda^2+(-3-1)\lambda+4=\lambda^2-4\lambda+4=(\lambda-2)^2=0 $$

より重解 $\lambda_0=2$ を得る.定理36.2より,一般解は

$$ y=C_1x^2+C_2x^2\ln x $$

である.初期条件を適用する.$y'(x)=2C_1x+C_2(2x\ln x+x)$ である(積の微分法則.$\dfrac{\dd}{\dd x}(x^2\ln x)=2x\ln x+x^2\cdot\frac1x=2x\ln x+x$).$x=1$ を代入すると($\ln1=0$ に注意),

$$ y(1)=C_1\cdot1+C_2\cdot1\cdot0=C_1=1 \quad\Longrightarrow\quad C_1=1 $$ $$ y'(1)=2C_1\cdot1+C_2(2\cdot1\cdot0+1)=2C_1+C_2=2+C_2=1 \quad\Longrightarrow\quad C_2=-1 $$

したがって,求める解は

$$ y=x^2-x^2\ln x=x^2(1-\ln x) $$

である.検算として,$y(1)=1\cdot(1-0)=1$,$y'(x)=2x(1-\ln x)+x^2\cdot\left(-\frac1x\right)=2x-2x\ln x-x=x-2x\ln x$ より $y'(1)=1-0=1$ となり,どちらの初期条件も満たす.sympyの $\mathrm{dsolve}$ でこの初期値問題を直接解いた結果とも一致することを検算済みである.

演習36.5 オイラー方程式・複素数解($x^2y''+xy'+4y=0$)

解答

$a=1,\ b=4$ である.特性方程式は

$$ \lambda^2+(1-1)\lambda+4=\lambda^2+4=0 $$

より $\lambda=\pm2i$($\alpha=0,\ \beta=2$)である.定理36.3より,一般解は

$$ y=C_1\cos(2\ln x)+C_2\sin(2\ln x) $$

である($x^\alpha=x^0=1$ なので前に係数は現れない.$\cos(2\ln x),\sin(2\ln x)$ をどちらも方程式に代入すると $0$ になることをsympyで検算済み).

演習36.6 変数係数方程式で基本解を直接見つける(条件(I))

解答

$P(x)=x$,$Q(x)=-\left(\dfrac2{x^2}+2\right)$ である.定理36.4の条件(I)の式 $\lambda(\lambda-1)+\lambda xP(x)+x^2Q(x)$ を計算する.

$$ \lambda xP(x)=\lambda x\cdot x=\lambda x^2, \qquad x^2Q(x)=x^2\cdot\left(-\frac2{x^2}-2\right)=-2-2x^2 $$

これらを代入すると,

$$ \lambda(\lambda-1)+\lambda x^2+(-2-2x^2)=(\lambda^2-\lambda-2)+x^2(\lambda-2) $$

となる.これが $x$ によらず恒等的に $0$ になるためには,$x^2$ の係数と定数項がそれぞれ $0$ でなければならない.

$$ \lambda-2=0 \qquad \text{かつ} \qquad \lambda^2-\lambda-2=0 $$

1つ目の式から $\lambda=2$.これを2つ目の式に代入すると $2^2-2-2=4-2-2=0$ となって確かに満たされ,矛盾はない.したがって $\lambda=2$ が条件(I)を満たす定数であり,定理36.4より $y=x^2$ がこの方程式の基本解の1つである.

実際に直接代入して確かめると,$y=x^2$ のとき $y'=2x,\ y''=2$ より,

$$ y''+xy'-\left(\frac2{x^2}+2\right)y=2+x\cdot2x-\left(\frac2{x^2}+2\right)x^2=2+2x^2-2-2x^2=0 $$

となり,確かに方程式を満たす(sympyでも検算済み.もう1つの基本解は,36.2節の階数低減法を $y_1=x^2$ に適用すれば求められる).

演習36.7 単振動の初期値問題($m=2,\ k=8$)

解答

$\omega=\sqrt{k/m}=\sqrt{8/2}=\sqrt4=2$ である.定理36.6より $x(t)=A\cos(2t-\theta_0)$ の形になる.$\dot x(t)=-2A\sin(2t-\theta_0)$ なので,

$$ x(0)=A\cos(-\theta_0)=A\cos\theta_0=0, \qquad \dot x(0)=-2A\sin(-\theta_0)=2A\sin\theta_0=2 $$

1つ目の式 $A\cos\theta_0=0$ から($A\neq0$ より)$\cos\theta_0=0$,すなわち $\theta_0=\dfrac\pi2$ または $\theta_0=-\dfrac\pi2$(同じことだが $\dfrac{3\pi}2$)のいずれかである.2つ目の式から $A\sin\theta_0=1$.振幅は正($A\gt0$)と約束すると,$\sin\theta_0=1/A\gt0$ が必要なので $\sin\theta_0\gt0$,したがって $\theta_0=\dfrac\pi2$(このとき $\sin\theta_0=1$)に決まり,$A\sin\theta_0=A=1$ となる($\theta_0=-\dfrac\pi2$ だと $\sin\theta_0=-1$ となり,$A\gt0$ のもとで $A\sin\theta_0=1$ を満たせない).よって $A=1,\ \theta_0=\dfrac\pi2$ であり,

$$ x(t)=\cos\left(2t-\frac\pi2\right)=\cos(2t)\cos\frac\pi2+\sin(2t)\sin\frac\pi2=\sin(2t) $$

(加法定理,$\cos\frac\pi2=0,\sin\frac\pi2=1$ を使った).検算として,$x(0)=\sin0=0$,$\dot x(t)=2\cos(2t)$ より $\dot x(0)=2\cos0=2$ となり,どちらの初期条件も満たす.sympyの $\mathrm{dsolve}$ で初期値問題を直接解いた結果とも一致することを検算済みである.

第37章 高階線形微分方程式

演習37.1 相異なる4個の実根($y''''-5y''+4y=0$)

解答

特性方程式は $\lambda^4-5\lambda^2+4=0$ である.$\mu=\lambda^2$ とおくと,$\mu^2-5\mu+4=0$.和が $5$,積が $4$ になる2数 $1,4$ を見つけて,$(\mu-1)(\mu-4)=0$ と因数分解できる.$\mu=\lambda^2$ を戻すと,

$$ (\lambda^2-1)(\lambda^2-4)=0 $$

さらに因数分解すると $(\lambda-1)(\lambda+1)(\lambda-2)(\lambda+2)=0$ となり,$\lambda=1,-1,2,-2$ という相異なる4個の実数解が得られる.定理37.3より,一般解は

$$ y=C_1e^{x}+C_2e^{-x}+C_3e^{2x}+C_4e^{-2x} $$

である.検算のため,$y'=C_1e^x-C_2e^{-x}+2C_3e^{2x}-2C_4e^{-2x}$,$y''=C_1e^x+C_2e^{-x}+4C_3e^{2x}+4C_4e^{-2x}$,$y''''=C_1e^x+C_2e^{-x}+16C_3e^{2x}+16C_4e^{-2x}$ を元の方程式 $y''''-5y''+4y$ に代入すると,$e^x$ の係数は $1-5+4=0$,$e^{-x}$ の係数も同じく $1-5+4=0$,$e^{2x}$ の係数は $16-20+4=0$,$e^{-2x}$ の係数も $16-20+4=0$ となり,たしかに恒等的に $0$ になる(sympyでも検算済み).

演習37.2 3重解($y'''-3y''+3y'-y=0$)

解答

特性方程式は $\lambda^3-3\lambda^2+3\lambda-1=0$ である.この係数 $1,-3,3,-1$ は,2項係数 ${}_3\mathrm{C}_0,{}_3\mathrm{C}_1,{}_3\mathrm{C}_2,{}_3\mathrm{C}_3=1,3,3,1$ に符号を交互に付けたものにちょうど一致している.実際,2項定理(高校既習)より

$$ (\lambda-1)^3=\lambda^3-3\lambda^2\cdot1+3\lambda\cdot1^2-1^3=\lambda^3-3\lambda^2+3\lambda-1 $$

であるから,特性方程式は

$$ (\lambda-1)^3=0 $$

と書き直せる.よって $\lambda=1$ は3重解($k=3$)である.定理37.4より,$\lambda_0=1$ に対応する基本解は $e^x,xe^x,x^2e^x$ の3個(方程式の階数3にちょうど一致する)であり,一般解は

$$ y=(C_1+C_2x+C_3x^2)e^x $$

である.検算として,$y=x^2e^x$ を直接代入する.積の微分公式より $y'=(2x+x^2)e^x,\ y''=(2+4x+x^2)e^x,\ y'''=(6+6x+x^2)e^x$ であるから,

$$ y'''-3y''+3y'-y=\big[(6+6x+x^2)-3(2+4x+x^2)+3(2x+x^2)-x^2\big]e^x $$

かっこの中を次数ごとに整理すると,$x^2$ の係数は $1-3+3-1=0$,$x^1$ の係数は $6-12+6-0=0$,定数項は $6-6+0-0=0$ となり,全体が $0$ になる($e^x,xe^x$ についても同様.sympyで検算済み).

演習37.3 2階オイラー方程式との比較($x^2y''-3xy'+4y=0$)

解答

これは $n=2$ のオイラー方程式であり,37.5節の公式37.2(下降階乗の特性方程式)を $n=2$ の場合に適用する.$y=x^\lambda$ とおくと,$y'=\lambda x^{\lambda-1}$,$y''=\lambda(\lambda-1)x^{\lambda-2}$ であるから,方程式に代入して

$$ x^2\cdot\lambda(\lambda-1)x^{\lambda-2}-3x\cdot\lambda x^{\lambda-1}+4x^\lambda=\big[\lambda(\lambda-1)-3\lambda+4\big]x^\lambda=0 $$

$x^\lambda\neq0$($x\gt0$)で割ると,特性方程式

$$ \lambda(\lambda-1)-3\lambda+4=\lambda^2-\lambda-3\lambda+4=\lambda^2-4\lambda+4=(\lambda-2)^2=0 $$

を得る.$\lambda=2$ の2重解である.37.5.3節の規則(オイラー方程式の重解では $x$ のべきの代わりに $\ln x$ のべきが掛かる)より,一般解は

$$ y=(C_1+C_2\ln x)\,x^2 $$

である.この結果は,第36章36.4節の定理36.2(2階オイラー方程式の重解の場合の公式 $y=C_1x^{\lambda_0}+C_2x^{\lambda_0}\ln x$)に,$\lambda_0=2$ を代入したものにちょうど一致する——本章で学んだ一般の$n$階の方法を $n=2$ に落とし込むと,2階の場合の結果がそのまま再現されることが確認できた.検算として,$y=x^2\ln x$ を直接代入する.$y'=2x\ln x+x,\ y''=2\ln x+2+1=2\ln x+3$ であるから,

$$ x^2(2\ln x+3)-3x(2x\ln x+x)+4x^2\ln x=(2x^2\ln x+3x^2)-(6x^2\ln x+3x^2)+4x^2\ln x=(2-6+4)x^2\ln x+(3-3)x^2=0 $$

となり,たしかに方程式を満たす($x^2$ についても同様にsympyで検算済み).

演習37.4 単項式のロンスキアン($W(1,x,x^2,x^3)$)

解答

定義37.3にしたがって,$4\times4$ のロンスキアンを作る.各列は $1,x,x^2,x^3$ とその導関数(0〜3階)である.

$$ W(1,x,x^2,x^3)= \begin{vmatrix} 1 & x & x^2 & x^3\\ 0 & 1 & 2x & 3x^2\\ 0 & 0 & 2 & 6x\\ 0 & 0 & 0 & 6 \end{vmatrix} $$

(第1列 $1$ の導関数はすべて $0$(1階以上),第2列 $x$ は1階微分で $1$,2階以上は $0$,第3列 $x^2$ は1階微分 $2x$,2階微分 $2$,3階以上は $0$,第4列 $x^3$ は1階微分 $3x^2$,2階微分 $6x$,3階微分 $6$,である).この行列はちょうど上三角行列(対角線より下がすべて $0$)になっている.上三角行列の行列式は,対角成分の積に等しい(第8章)から,

$$ W(1,x,x^2,x^3)=1\times1\times2\times6=12 $$

である.この値は $x$ を含んでおらず,定数になっている($0$ でないから,$1,x,x^2,x^3$ はすべての $x$ で1次独立である).さらに,対角成分 $1,1,2,6$ は,それぞれ $0!,1!,2!,3!$ に等しい($0!=1,\ 1!=1,\ 2!=1\times2=2,\ 3!=1\times2\times3=6$).したがって

$$ W(1,x,x^2,x^3)=0!\cdot1!\cdot2!\cdot3!=1\cdot1\cdot2\cdot6=12 $$

である.一般に,$1,x,x^2,\ldots,x^{n-1}$ のロンスキアンを同じように計算すると,第 $j$ 列($y_j=x^{j-1}$,$j=1,\ldots,n$)の $(j-1)$階微分は $(j-1)!$ で,それより高い階数の微分はすべて $0$ になるから,やはり上三角行列になり,$W(1,x,\ldots,x^{n-1})=0!\,1!\,2!\cdots(n-1)!$(階乗の積)という定数になる(sympyで $n=4$ の場合を直接計算し,$12$ に一致することを確認済み).

演習37.5 複素数の重解と実数の重解が混在する6階方程式

解答

特性方程式 $p(\lambda)=(\lambda^2+1)^2(\lambda-2)^2=0$ は,すでに因数分解された形で与えられている.$\lambda^2+1=0$ より $\lambda=\pm i$,これが2乗されているので各々2重解である.また $\lambda-2=0$ より $\lambda=2$ で,これも2乗されているので2重解である.重複度を合計すると $2+2+2=6$ で,方程式の階数6にちょうど一致する.

定理37.4を各根に適用する.$\lambda=2$(2重,実数)からは $e^{2x},xe^{2x}$ の2個.$\lambda=\pm i$(各2重,複素数の組,$\alpha=0,\beta=1$)からは,まず単純解のときと同様にオイラーの公式で実数化した $\cos x,\sin x$ が,2重解であることによりそれぞれ $x$ 倍された $x\cos x,x\sin x$ も加わり,$\cos x,\sin x,x\cos x,x\sin x$ の4個が得られる(37.4節の例37.4で見た「複素数の重解には $x^j$($j=0,\ldots,k-1$)を掛けたものが基本解になる」という規則を,$k=2$ の場合に適用しただけである).合計 $2+4=6$ 個で階数6に一致し,一般解は

$$ y=(C_1+C_2x)\cos x+(C_3+C_4x)\sin x+(C_5+C_6x)e^{2x} $$

である.検算として,$p(\lambda)$ を展開すると

$$ p(\lambda)=\lambda^6-4\lambda^5+6\lambda^4-8\lambda^3+9\lambda^2-4\lambda+4 $$

となるから,もとの方程式は $y^{(6)}-4y^{(5)}+6y''''-8y'''+9y''-4y'+4y=0$ である.上で求めた一般解の6個の基本解 $\cos x,\sin x,x\cos x,x\sin x,e^{2x},xe^{2x}$ をそれぞれこの方程式に代入するとすべて $0$ になることをsympyで確認済みである.

演習37.6(材料科学への応用) 等分布荷重を受けるはりのたわみ

解答

方程式 $EI\,y''''(x)=w_0$($w_0,E,I$ は定数)の右辺は $x$ によらない定数だから,37.1節のような完全微分方程式の判定を持ち出すまでもなく,両辺を $x$ で1回積分するたびに次数が1つ下がることがすぐわかる.両辺を $EI$(定数,$\neq0$)で割ってから,$x$ で4回,順に積分する.

$$ y''''=\frac{w_0}{EI} \ \Longrightarrow\ y'''=\frac{w_0}{EI}x+A \ \Longrightarrow\ y''=\frac{w_0}{2EI}x^2+Ax+B $$ $$ \Longrightarrow\ y'=\frac{w_0}{6EI}x^3+\frac{A}{2}x^2+Bx+C \ \Longrightarrow\ y=\frac{w_0}{24EI}x^4+\frac{A}{6}x^3+\frac{B}{2}x^2+Cx+D $$

($A,B,C,D$ は積分定数.4階の方程式なので任意定数もちょうど4個現れる——これは37.2節の「$n$階同次方程式の一般解は$n$個の任意定数を持つ」という事実と,非同次方程式の特殊解の和として自然に理解できる:右辺 $w_0/EI$ に対する特殊解が $\dfrac{w_0}{24EI}x^4$ の部分,残りの $\dfrac{A}{6}x^3+\dfrac{B}{2}x^2+Cx+D$ が同次方程式 $y''''=0$ の一般解の部分である).境界条件を適用する.まず $y(0)=0$:

$$ y(0)=D=0 \quad\therefore\ D=0 $$

次に $y''(0)=0$:

$$ y''(0)=B=0 \quad\therefore\ B=0 $$

$B=D=0$ を使うと,$y(x)=\dfrac{w_0}{24EI}x^4+\dfrac{A}{6}x^3+Cx$,$y''(x)=\dfrac{w_0}{2EI}x^2+Ax$ となる.残り2つの境界条件 $y(L)=0,\ y''(L)=0$ を適用する.

$$ y''(L)=\frac{w_0}{2EI}L^2+AL=0 \quad\therefore\ A=-\frac{w_0L}{2EI} $$ $$ y(L)=\frac{w_0}{24EI}L^4+\frac{A}{6}L^3+CL=0 $$

$A=-\dfrac{w_0L}{2EI}$ を代入すると,

$$ \frac{w_0}{24EI}L^4-\frac{w_0L}{12EI}L^3+CL=\frac{w_0L^4}{24EI}-\frac{w_0L^4}{12EI}+CL=-\frac{w_0L^4}{24EI}+CL=0 $$

($\dfrac1{24}-\dfrac1{12}=\dfrac1{24}-\dfrac2{24}=-\dfrac1{24}$ を使った).よって $CL=\dfrac{w_0L^4}{24EI}$,すなわち $C=\dfrac{w_0L^3}{24EI}$.以上をまとめると,

$$ y(x)=\frac{w_0}{24EI}x^4-\frac{w_0L}{12EI}x^3+\frac{w_0L^3}{24EI}x=\frac{w_0}{24EI}\big(x^4-2Lx^3+L^3x\big)=\frac{w_0\,x\big(L^3-2Lx^2+x^3\big)}{24EI} $$

である.中央 $x=L/2$ でのたわみを計算する.$x^4=\dfrac{L^4}{16}$,$Lx^3=L\cdot\dfrac{L^3}{8}=\dfrac{L^4}{8}$,$L^3x=\dfrac{L^4}{2}$ だから,

$$ y\!\left(\frac L2\right)=\frac{w_0}{24EI}\left(\frac{L^4}{16}-2\cdot\frac{L^4}{8}+\frac{L^4}{2}\right)=\frac{w_0}{24EI}\cdot L^4\left(\frac1{16}-\frac14+\frac12\right)=\frac{w_0}{24EI}\cdot L^4\cdot\frac{1-4+8}{16}=\frac{w_0L^4}{24EI}\cdot\frac5{16} $$

(通分:$\dfrac1{16}-\dfrac4{16}+\dfrac8{16}=\dfrac5{16}$).したがって

$$ y\!\left(\frac L2\right)=\frac{5w_0L^4}{384EI} $$

となり,材料力学で知られる「単純支持ばりの等分布荷重によるたわみの公式」$\dfrac{5w_0L^4}{384EI}$ にちょうど一致する(sympyで境界値問題を直接解き,同じ結果を得ることを検算済み).$w_0,E,I,L$ がすべて正のとき $y(L/2)\gt0$ になる符号は,$y$ を荷重と同じ向き(下向き)に正と定義した場合のたわみの大きさに対応する.

第38章 演算子法

演習38.1 指数関数への代入公式(非共鳴)

解答

方程式 $y'-5y=e^{2x}$ は $\Phi(D)y=f(x)$ の形で,$\Phi(D)=D-5$(すなわち $\Phi(z)=z-5$),$f(x)=e^{2x}$($\alpha=2$)である.まず,強制項の指数 $\alpha=2$ が特性方程式 $\Phi(\lambda)=\lambda-5=0$ の解($\lambda=5$)と一致していないことを確かめる.実際

$$ \Phi(2) = 2-5 = -3 \neq 0 $$

だから共鳴は起きておらず,公式38.2がそのまま使える.「$\Phi(D)$ の中の $D$ を $\alpha=2$ に置き換えて割る」だけでよいから,

$$ Y = \frac{1}{\Phi(D)}\big[e^{2x}\big] = \frac{1}{\Phi(2)}e^{2x} = \frac{1}{-3}e^{2x} = -\frac13 e^{2x} $$

が特殊解である.検算のため,$Y=-\dfrac13e^{2x}$ を方程式に直接代入する.$Y'=-\dfrac23e^{2x}$ だから

$$ Y'-5Y = -\frac23e^{2x} - 5\cdot\left(-\frac13e^{2x}\right) = -\frac23e^{2x}+\frac53e^{2x} = \frac33e^{2x} = e^{2x} $$

となり,たしかに $y'-5y=e^{2x}$ を満たしている.

演習38.2 指数関数の共鳴(2重根)

解答

$\Phi(D)=D^2-6D+9$ を因数分解すると,$\Phi(D)=(D-3)^2$($\Phi(z)=z^2-6z+9=(z-3)^2$)である.強制項は $e^{3x}$($\alpha=3$)だから,特性方程式 $\Phi(\lambda)=(\lambda-3)^2=0$ を確かめると $\lambda=3$ は2重根であり,しかも強制項の指数 $\alpha=3$ とちょうど一致している.すなわち

$$ \Phi(3) = (3-3)^2 = 0 $$

となって公式38.2の条件 $\Phi(\alpha)\neq0$ が破れており,これは共鳴である.そこで公式38.4を,$\Phi(D)=(D-\alpha)^n$ の形($\alpha=3$,$n=2$)に当てはめると,

$$ Y = \frac{1}{(D-3)^2}\big[e^{3x}\big] = \frac{x^2}{2!}e^{3x} = \frac{x^2}{2}e^{3x} $$

が特殊解である.検算のため,$Y=\dfrac{x^2}{2}e^{3x}$ の1階・2階導関数を積の微分公式で計算する.

$$ Y' = xe^{3x} + \frac{x^2}{2}\cdot3e^{3x} = e^{3x}\left(x+\frac32x^2\right) $$ $$ Y'' = 3e^{3x}\left(x+\frac32x^2\right) + e^{3x}(1+3x) = e^{3x}\left(3x+\frac92x^2+1+3x\right) = e^{3x}\left(\frac92x^2+6x+1\right) $$

(1つ目の項は $e^{3x}$ を微分して3倍,2つ目の項は括弧の中身 $x+\frac32x^2$ を微分して $1+3x$,という積の微分公式である).これらを使うと

$$ Y''-6Y'+9Y = e^{3x}\left[\left(\frac92x^2+6x+1\right) - 6\left(x+\frac32x^2\right) + 9\cdot\frac12x^2\right] $$

括弧の中の $x^2$ の係数をまとめると $\dfrac92-9+\dfrac92=0$,$x$ の係数をまとめると $6-6=0$,定数項は $1$ だけが残るから,

$$ Y''-6Y'+9Y = e^{3x}\cdot1 = e^{3x} $$

となり,たしかに $y''-6y'+9y=e^{3x}$ を満たしている.

演習38.3 シフト定理と共鳴の組み合わせ

解答

$\Phi(D)=D^2-2D+1=(D-1)^2$ であり,強制項 $f(x)=x^2e^{x}$ は「指数関数 $e^{x}$」×「多項式 $x^2$」の形をしている.そこでシフト定理(公式38.3)を,$\alpha=1$,$g(x)=x^2$ として使う.まず $\Phi(D+1)$ を計算すると,$D$ を $D+1$ に置き換えて

$$ \Phi(D+1) = \big((D+1)-1\big)^2 = D^2 $$

となる($-1$ と $+1$ がちょうど打ち消し合う).したがって

$$ \frac{1}{(D-1)^2}\big[x^2e^{x}\big] = e^{x}\cdot\frac{1}{D^2}\big[x^2\big] $$

である.あとは $\dfrac{1}{D^2}[x^2]$,すなわち $x^2$ を2回積分すればよい(定義38.1の $D^{-n}$,積分定数は0とする).

$$ \int x^2\,dx = \frac{x^3}{3},\qquad \int\frac{x^3}{3}\,dx = \frac{x^4}{12} $$

だから $\dfrac{1}{D^2}[x^2]=\dfrac{x^4}{12}$ であり,求める特殊解は

$$ Y = \frac{x^4}{12}e^{x} $$

である.検算のため,$Y=\dfrac{x^4}{12}e^{x}$ の導関数を積の微分公式で計算する.

$$ Y' = \frac{4x^3}{12}e^x + \frac{x^4}{12}e^x = e^x\left(\frac{x^3}{3}+\frac{x^4}{12}\right) $$ $$ Y'' = e^x\left(\frac{x^3}{3}+\frac{x^4}{12}\right) + e^x\left(x^2+\frac{x^3}{3}\right) = e^x\left(\frac{x^4}{12}+\frac{2x^3}{3}+x^2\right) $$

(2つ目の等号では,1つ目の括弧をそのまま,$e^x$ の微分でもう1つ $\left(\frac{x^3}{3}+\frac{x^4}{12}\right)$ の中身を微分した $\left(x^2+\frac{x^3}{3}\right)$ を加えている).これらを使うと

$$ Y''-2Y'+Y = e^x\left[\left(\frac{x^4}{12}+\frac{2x^3}{3}+x^2\right) - 2\left(\frac{x^3}{3}+\frac{x^4}{12}\right) + \frac{x^4}{12}\right] $$

括弧の中の $x^4$ の係数は $\frac{1}{12}-\frac{2}{12}+\frac{1}{12}=0$,$x^3$ の係数は $\frac23-\frac23=0$,$x^2$ の係数だけが $1$ 残るから,

$$ Y''-2Y'+Y = e^x\cdot x^2 = x^2e^x $$

となり,たしかに $y''-2y'+y=x^2e^x$ を満たしている.

演習38.4 三角関数への代入公式(非共鳴)

解答

$\Phi(D^2)=D^2+9$(すなわち $\Phi(z)=z+9$)であり,強制項は $\cos2x$(外力の角振動数 $\alpha=2$)である.公式38.5の条件 $\Phi(-\alpha^2)\neq0$ を確かめると,

$$ \Phi(-\alpha^2) = \Phi(-4) = -4+9 = 5 \neq 0 $$

だから共鳴は起きておらず,公式38.5が使える.「$\Phi(D^2)$ の中の $D^2$ を $-\alpha^2=-4$ に置き換えて割る」だけでよいから,

$$ Y = \frac{1}{\Phi(D^2)}\cos2x = \frac{1}{\Phi(-4)}\cos2x = \frac15\cos2x $$

が特殊解である.検算のため,$Y=\dfrac15\cos2x$ を方程式に代入する.$Y''=-4\cdot\dfrac15\cos2x=-\dfrac45\cos2x$ だから

$$ Y''+9Y = -\frac45\cos2x + 9\cdot\frac15\cos2x = \left(-\frac45+\frac95\right)\cos2x = \cos2x $$

となり,たしかに $y''+9y=\cos2x$ を満たしている.

演習38.5 三角関数の共鳴

解答

$\Phi(D^2)=D^2+4$(すなわち $\Phi(z)=z+4$)であり,強制項は $\sin2x$(外力の角振動数 $\alpha=2$)である.公式38.5の条件を確かめると,

$$ \Phi(-\alpha^2) = \Phi(-4) = -4+4 = 0 $$

となり,条件 $\Phi(-\alpha^2)\neq0$ が破れている——これは,方程式そのものが表す系の固有角振動数($\sqrt4=2$)と,外力の角振動数($2$)がちょうど一致してしまう,三角関数版の共鳴である.したがって公式38.5は使えず,共鳴用の公式38.6を $\alpha=2$ として使う.

$$ Y = \frac{1}{D^2+4}\sin2x = -\frac{x}{2\cdot2}\cos2x = -\frac{x}{4}\cos2x $$

が特殊解である.検算のため,$Y=-\dfrac{x}{4}\cos2x$ の導関数を積の微分公式で計算する.

$$ Y' = -\frac14\cos2x - \frac{x}{4}\cdot(-2\sin2x) = -\frac14\cos2x+\frac{x}{2}\sin2x $$ $$ Y'' = \frac12\sin2x + \frac12\sin2x + \frac{x}{2}\cdot2\cos2x = \sin2x + x\cos2x $$

(1つ目の項 $-\frac14\cos2x$ を微分すると $\frac12\sin2x$,2つ目の項 $\frac{x}{2}\sin2x$ を積の微分公式で微分すると $\frac12\sin2x+x\cos2x$ になり,合わせて $\sin2x+x\cos2x$ である).これらを使うと

$$ Y''+4Y = \big(\sin2x+x\cos2x\big) + 4\left(-\frac{x}{4}\cos2x\right) = \sin2x + x\cos2x - x\cos2x = \sin2x $$

となり,たしかに $y''+4y=\sin2x$ を満たしている.

解の振幅について:特殊解 $Y=-\dfrac{x}{4}\cos2x$ の振幅(包絡線の高さ)は $\left|\dfrac{x}{4}\right|$ であり,$x\to\infty$ のとき際限なく大きくなる.外力の角振動数が系自身の固有角振動数とちょうど一致しているため共鳴が起こり,振動しながら振幅が時間 $x$ に比例して増大し続ける(38.8節・図38.2で見た現象と同じ理屈である).

演習38.6 定数係数演算子どうしの交換則(証明問題)

解答

$\Phi_1(D)=\displaystyle\sum_{i=0}^{m}a_iD^i$,$\Phi_2(D)=\displaystyle\sum_{j=0}^{n}b_jD^j$ とする.まず $\Phi_1(D)\big[\Phi_2(D)f(x)\big]$ を計算する.$\Phi_2(D)f(x)=\displaystyle\sum_{j=0}^n b_jD^jf(x)$ は有限個の項の和だから,線形性(定理38.1,すなわち $D$ が和と定数倍を保つ性質を繰り返し使えば,2項の和だけでなく有限個の項の和・定数倍にもそのまま拡張できる)により,

$$ \Phi_1(D)\Big[\sum_{j=0}^n b_jD^jf(x)\Big] = \sum_{i=0}^m a_iD^i\Big[\sum_{j=0}^n b_jD^jf(x)\Big] = \sum_{i=0}^m\sum_{j=0}^n a_ib_j\,D^i\big[D^jf(x)\big] $$

(外側の和 $\sum_i a_iD^i[\cdots]$ を中に分配し,さらに中の和 $\sum_j b_jD^jf(x)$ も線形性で1項ずつに分配した.$a_i,b_j$ はどちらも定数だから,$D^i$ の外に出してよい).ここで,定理38.1($D^i[D^jf(x)]=D^{i+j}[f(x)]$,$D$ の異なるべきどうしは交換できる)を使うと,

$$ \Phi_1(D)\big[\Phi_2(D)f(x)\big] = \sum_{i=0}^m\sum_{j=0}^n a_ib_j\,D^{i+j}\big[f(x)\big] $$

となる.まったく同じ計算を,$\Phi_2(D)\big[\Phi_1(D)f(x)\big]$ に対しても(添字 $i,j$ の役割を入れ替えて)行うと,

$$ \Phi_2(D)\big[\Phi_1(D)f(x)\big] = \sum_{j=0}^n\sum_{i=0}^m b_ja_i\,D^{j+i}\big[f(x)\big] $$

を得る.いま,2重和 $\displaystyle\sum_{i=0}^m\sum_{j=0}^n a_ib_jD^{i+j}[f(x)]$ と $\displaystyle\sum_{j=0}^n\sum_{i=0}^m b_ja_iD^{j+i}[f(x)]$ を比べると,どちらも「$i=0,\dots,m$ と $j=0,\dots,n$ の組み合わせすべてにわたる和」であって,足し合わせる範囲($i,j$ の動く範囲)はまったく同じであり,各項の中身も $a_ib_j=b_ja_i$(実数の積は交換できる)と $i+j=j+i$(整数の和は交換できる)によって完全に一致する.和を取る順序($i$ を先に足すか $j$ を先に足すか)を入れ替えても,有限個の実数の和は結果が変わらないから,

$$ \sum_{i=0}^m\sum_{j=0}^n a_ib_j\,D^{i+j}\big[f(x)\big] = \sum_{j=0}^n\sum_{i=0}^m b_ja_i\,D^{j+i}\big[f(x)\big] $$

である.以上をつなげると

$$ \Phi_1(D)\big[\Phi_2(D)f(x)\big] = \Phi_2(D)\big[\Phi_1(D)f(x)\big] $$

が示された.

(証明終わり)

具体例による確認 $\Phi_1(D)=D^2+3$,$\Phi_2(D)=D^3-2D$,$f(x)=\sin2x+x^3$ という具体的な場合で数値的に確かめておく.$\Phi_2(D)f(x)=D^3[f]-2D[f]$ を計算してから $\Phi_1(D)$ を作用させたものと,$\Phi_1(D)f(x)=D^2[f]+3f$ を計算してから $\Phi_2(D)$ を作用させたものを,Python(sympy)でそれぞれ計算し,展開して一致することを確認した(検算スクリプト参照).一般の証明が正しいことの具体例による裏付けである.

演習38.7 逆演算子 $D^{-1}$ の基本計算

解答

定義38.1により,$\dfrac1D[y]=\displaystyle\int y\,dx$(積分定数は0とする)である.多項式 $3x^2-2x+1$ を項ごとに積分すると,

$$ \frac{1}{D}\big[3x^2-2x+1\big] = \int(3x^2-2x+1)\,dx = 3\cdot\frac{x^3}{3} - 2\cdot\frac{x^2}{2} + x = x^3-x^2+x $$

(積分定数0とした).よって答えは $x^3-x^2+x$ である.確かめのため,この答えを $D$ で微分すると

$$ D\big[x^3-x^2+x\big] = 3x^2-2x+1 $$

となり,たしかに元の $3x^2-2x+1$ に戻る.$D$ と $D^{-1}$($=1/D$)が互いに逆の操作になっていることが,この計算からも確認できる.

第39章 べき級数解法とフロベニウスの理論

演習39.1 $\cos x$ の収束半径

解答

$\cos x$ のマクローリン展開は

$$ \cos x = \sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{(2k)!}x^{2k} = 1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\cdots $$

であり,奇数次の係数はすべて $0$,偶数次 $x^{2k}$ の係数が $a_{2k}=\dfrac{(-1)^k}{(2k)!}$ である.ダランベールの判定法は,本来は隣り合う次数どうしの係数の比を考えるものだが,$0$ でない係数だけを追うために,$x^2$ を1つの変数と見て「隣り合う $0$ でない係数」である $a_{2k}$ と $a_{2k+2}$ の比を計算する.

$$ \left|\frac{a_{2k}}{a_{2k+2}}\right| = \left|\frac{(-1)^k/(2k)!}{(-1)^{k+1}/(2k+2)!}\right| = \frac{(2k+2)!}{(2k)!} = (2k+1)(2k+2) $$

($(2k+2)!=(2k+2)(2k+1)\cdot(2k)!$ なので,$(2k)!$ が約分されてこの形になる).$k\to\infty$ のとき,この値は

$$ \lim_{k\to\infty}(2k+1)(2k+2) = \infty $$

のように限りなく大きくなる.したがって収束半径は $R=\infty$,すなわち $\cos x$ のマクローリン展開はすべての実数 $x$ で収束する(本章39.2.1節で述べた結論と一致する).(sympyで $(2k+1)(2k+2)\to\infty$ を検算済み.)

演習39.2 $y''-xy'-y=0$ の級数解法

解答

①の形に書くと $P(x)=-x,\ Q(x)=-1$ であり,どちらも多項式(特別な意味で解析的)としてすべての実数で解析的である.特に $x=0$ で通常点であるから,解は $y=\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}a_kx^k$ の形をもつ.項別に微分して,

$$ y'=\sum_{k=1}^{\infty}ka_kx^{k-1},\qquad y''=\sum_{k=2}^{\infty}k(k-1)a_kx^{k-2} $$

を得る.$y''$ の和は,指標を $k\to k+2$ とずらす($k(k-1)a_kx^{k-2}$ の $k$ を $k+2$ に置き換えると,和の下端は $k=0$ からになり,$x^{k-2}$ は $x^k$ になる)と,

$$ y''=\sum_{k=0}^{\infty}(k+2)(k+1)a_{k+2}x^{k} $$

と書き直せる.一方 $xy'=x\displaystyle\sum_{k=1}^{\infty}ka_kx^{k-1}=\sum_{k=1}^{\infty}ka_kx^{k}$ であり,この和は $k=0$ の項が $0\cdot a_0x^0=0$ なので,下端を $k=0$ からに書き直しても値は変わらない.$y$ もそのまま $\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}a_kx^k$ である.これらを方程式 $y''-xy'-y=0$ に代入すると,

$$ \sum_{k=0}^{\infty}(k+2)(k+1)a_{k+2}x^{k} - \sum_{k=0}^{\infty}ka_kx^{k} - \sum_{k=0}^{\infty}a_kx^{k} = 0 \ \Longrightarrow\ \sum_{k=0}^{\infty}\bigl\{(k+2)(k+1)a_{k+2}-(k+1)a_k\bigr\}x^{k}=0 $$

($-ka_k-a_k=-(k+1)a_k$ とまとめた).これは $x$ についての恒等式なので,各次数の係数はそれ自体で $0$ でなければならない.$k+1\neq0$($k\ge0$ なので当然)で両辺を割ると,漸化式

$$ a_{k+2}=\frac{a_k}{k+2} \qquad (k=0,1,2,\ldots) $$

を得る.$a_0=1,a_1=0$ とすると,奇数次は $a_1=0$ から出発するのですべて $0$ になり,偶数次は

$$ a_2=\frac{a_0}{2}=\frac12,\qquad a_4=\frac{a_2}{4}=\frac18,\qquad a_6=\frac{a_4}{6}=\frac1{48} $$

と決まる.したがって,$x^6$ までの項は

$$ y=1+\frac{x^2}{2}+\frac{x^4}{8}+\frac{x^6}{48}+\cdots $$

である.(sympyで,方程式に級数を直接代入して漸化式 $a_{k+2}=a_k/(k+2)$ が成り立つこと,および上の4項が正しいことを検算済み.)

演習39.3 半整数次のベッセル型方程式の分類

解答

①の形にすると $P(x)=\dfrac1x,\ Q(x)=1-\dfrac1{4x^2}$ である.$P(x)=1/x$ は $x=0$ で定義されない(分母が$0$)ので解析的ではなく,$x=0$は特異点である.そこで $xP(x),x^2Q(x)$ を調べる.

$$ xP(x)=x\cdot\frac1x=1,\qquad x^2Q(x)=x^2\left(1-\frac1{4x^2}\right)=x^2-\frac14 $$

$xP(x)=1$は定数関数,$x^2Q(x)=x^2-\dfrac14$は多項式であり,どちらも$x=0$で解析的である.したがって$x=0$は確定特異点である.マクローリン展開の係数を読み取ると,$a_0=1$(それ以外の$a_i=0$),$x^2Q(x)=-\dfrac14+0\cdot x+1\cdot x^2$なので$b_0=-\dfrac14$である.決定方程式は,

$$ \lambda(\lambda-1)+a_0\lambda+b_0=\lambda(\lambda-1)+\lambda-\frac14=\lambda^2-\frac14=0 $$

となり,$\lambda=\pm\dfrac12$を得る.(この方程式は,実は次章以降で学ぶベッセルの微分方程式の$n=1/2$の場合に一致しており,$\lambda=\pm1/2$という半整数の指数が現れることが知られている.sympyで決定方程式の解を検算済み.)

演習39.4 決定方程式の複素数解

解答

$P(x)=\dfrac1x,\ Q(x)=\dfrac1{x^2}$のとき,$xP(x)=1,\ x^2Q(x)=1$(どちらも定数関数)なので,$a_0=1,b_0=1$である.決定方程式 $\lambda^2+(a_0-1)\lambda+b_0=0$(本章39.4.1節)に代入すると,

$$ \lambda^2+(a_0-1)\lambda+b_0=\lambda^2+(1-1)\lambda+1=\lambda^2+1=0 $$

となり,これを解くと

$$ \lambda^2=-1 \ \Longrightarrow\ \lambda=\pm i $$

を得る($i$は虚数単位).このように,決定方程式の根は実数とは限らず,複素数になることもある.この場合,$x^{\pm i}=e^{\pm i\ln x}$($x\gt0$)のように,複素数乗を対数を使って定義し直す必要があり,オイラーの公式を使って実数値の基本解に書き直す(このあたりの詳しい扱いは,第36章のオイラーの方程式で複素数解を扱った手順——$x^{i\beta}=e^{i\beta\ln x}=\cos(\beta\ln x)+i\sin(\beta\ln x)$——と同じ考え方になるが,フロベニウスの理論の枠を超えるので本書では深入りしない).(sympyで$\lambda^2+1=0$の解が$\pm i$であることを検算済み.)

演習39.5 $\log(1+x)$ の誤記の再検証

解答

$f(x)=\log(1+x)$ とおき,順に微分していく.

$$ f'(x)=(1+x)^{-1},\qquad f''(x)=-(1+x)^{-2},\qquad f'''(x)=2(1+x)^{-3},\qquad f^{(4)}(x)=-6(1+x)^{-4} $$

($f'$ を微分するたびに,指数が1つ下がり,その分の係数が前に掛かってくる——$f''=-1\cdot(1+x)^{-2}$,$f'''=-1\cdot(-2)(1+x)^{-3}=2(1+x)^{-3}$,$f^{(4)}=2\cdot(-3)(1+x)^{-4}=-6(1+x)^{-4}$,という具合である).$x=0$ を代入すると,

$$ f^{(4)}(0)=-6\cdot1^{-4}=-6 $$

である.マクローリン展開の係数の公式 $a_k=f^{(k)}(0)/k!$(本章39.2節)より,

$$ a_4=\frac{f^{(4)}(0)}{4!}=\frac{-6}{24}=-\frac14 $$

を得る.したがって,$\log(1+x)$の展開の第4項($x^4$の項)は $a_4x^4=-\dfrac14x^4$ が正しく,本章39.2.1節のbox warnで述べたとおり,ノートの「$+\dfrac{x^4}4$」は符号の書き誤りであることが,4階微分係数からの直接計算でも確認できた.(sympyで $f^{(4)}(0)=-6$ であることを検算済み.)

演習39.6 もし$\lambda_1-\lambda_2$が整数でなかったら

解答

$P(x)=\dfrac3x$はそのままで,$Q(x)=-\dfrac2{x^2}$に変えると,$xP(x)=3$(変わらず),$x^2Q(x)=x^2\left(-\dfrac2{x^2}\right)=-2$となるので,$a_0=3,\ b_0=-2$である.決定方程式は,

$$ \lambda^2+(a_0-1)\lambda+b_0=\lambda^2+2\lambda-2=0 $$

となり,2次方程式の解の公式より

$$ \lambda=\frac{-2\pm\sqrt{4+8}}{2}=\frac{-2\pm2\sqrt3}{2}=-1\pm\sqrt3 $$

を得る.すなわち $\lambda_1=-1+\sqrt3\approx0.73,\ \lambda_2=-1-\sqrt3\approx-2.73$ であり,差は

$$ \lambda_1-\lambda_2=2\sqrt3\approx3.46 $$

で,これは整数ではない.したがって,本章の定理39.1の(i)の場合にあたる.例題39.8では $\lambda_1-\lambda_2=4$(整数)だったために,小さい方の根 $\lambda_2$ から作る漸化式が $k=4$ のところで「共鳴」を起こし(波括弧の中身がちょうど$0$になり),$y_2$を素直な級数として求めることができず,基本解が1つ分かっているときの手法($y_2=u(x)y_1$,reduction of order)に頼る必要があった.

しかし,今回のように差が整数でなければ,この共鳴は決して起こらない.なぜなら,$\lambda_2$から作る漸化式の係数 $\{(\lambda_2+k)(\lambda_2+k-1)+a_0(\lambda_2+k)+b_0\}$ が$0$になるのは,$\lambda_2+k$が決定方程式のもう一方の根 $\lambda_1$ に一致するとき,すなわち $k=\lambda_1-\lambda_2$ のときだけだからである.今の場合$\lambda_1-\lambda_2=2\sqrt3$は整数でないので,$k$がどんな正の整数であっても$\lambda_2+k=\lambda_1$となることは絶対にない.したがって,$\lambda_1,\lambda_2$のどちらから出発しても,漸化式は最後まで滞りなく解けて,2つの独立なフロベニウス級数

$$ y_1=x^{\lambda_1}\sum_{k=0}^{\infty}a_kx^k=x^{-1+\sqrt3},\qquad y_2=x^{\lambda_2}\sum_{k=0}^{\infty}b_kx^k=x^{-1-\sqrt3} $$

がそのまま得られる(今の方程式は$a_0,b_0$以外の係数がすべて$0$のオイラー型なので,例題39.5と同様に級数は先頭の1項だけで完結し,$y_1=x^{-1+\sqrt3},\ y_2=x^{-1-\sqrt3}$がそのまま基本解になる).つまり,例題39.8で必要だった「reduction of orderに頼る」という追加の手間は不要になり,39.4節の定理39.1(i)がそのまま適用できる.(sympyで,$\lambda=-1-\sqrt3$側の漸化式の係数が$k=1,\ldots,5$のいずれでも$0$にならない,すなわち共鳴が起きないことを検算済み.)

第40章 ルジャンドルの微分方程式と多項式

演習40.1 $n=2$ の場合を級数解法で解いて $P_2(x)$ を導く

解答

ルジャンドルの微分方程式の係数漸化式は,$k$ を偶数・奇数のどちらにも使える形で書くと

$$ a_{k+2}=-\frac{(n-k)(n+k+1)}{(k+1)(k+2)}a_k\qquad(k=0,1,2,\ldots) $$

であった.$n=2$,$a_0=1$ を代入し,$k=0,2,4,\ldots$ の順に計算する.

$k=0$:$a_2=-\dfrac{(2-0)(2+1)}{1\cdot2}a_0=-\dfrac{2\cdot3}{2}\cdot1=-3$.

$k=2$:$a_4=-\dfrac{(2-2)(2+3)}{3\cdot4}a_2=-\dfrac{0\cdot5}{12}\cdot(-3)=0$(分子の因子 $(n-k)=(2-2)=0$ になる瞬間である).したがって $a_4=a_6=\cdots=0$ も同様にすべて $0$ になる.

以上より,$U_2(x)=a_0+a_2x^2+a_4x^4+\cdots=1-3x^2$($x^2$ で終わる,次数2の多項式)である.

次に,定義にしたがって $x=1$ での値で正規化する.

$$ U_2(1)=1-3\cdot1^2=1-3=-2 $$

したがって

$$ P_2(x)=\frac{U_2(x)}{U_2(1)}=\frac{1-3x^2}{-2}=\frac{3x^2-1}{2}=\frac12(3x^2-1) $$

が得られる.たしかに $P_2(x)=\dfrac12(3x^2-1)$ であり,題意のとおりである.($P_2(1)=\frac12(3-1)=1$ となっていることも,正規化が正しく行われた証拠である.sympyで漸化式から $U_2(x)$ を再計算し,一致を確認済み.)

演習40.2 ロドリーゲの公式から $P_4(x)$ を計算する

解答

ロドリーゲの公式は

$$ P_n(x)=\frac{1}{2^n n!}\diff{^n}{x^n}(x^2-1)^n $$

であった.$n=4$ のとき,まず $(x^2-1)^4$ を二項定理で展開しておく($\binom40=1,\binom41=4,\binom42=6,\binom43=4,\binom44=1$ を使う).

$$ (x^2-1)^4=x^8-4x^6+6x^4-4x^2+1 $$

これを1回ずつ,順番に4回微分する.各項は $x^m\to mx^{m-1}$(べき乗の微分公式)にしたがって微分すればよい.

1回目:

$$ \diff{}{x}(x^2-1)^4=8x^7-24x^5+24x^3-8x $$

2回目(1回目の結果をもう一度項別に微分する):

$$ \diff{^2}{x^2}(x^2-1)^4=56x^6-120x^4+72x^2-8 $$

3回目:

$$ \diff{^3}{x^3}(x^2-1)^4=336x^5-480x^3+144x $$

4回目:

$$ \diff{^4}{x^4}(x^2-1)^4=1680x^4-1440x^2+144 $$

ここまでの計算では,各項の係数はつねに「今の次数」を掛けて「次数を1つ下げる」を4回繰り返しているだけである(たとえば $x^8$ の項は $8x^7\to56x^6\to336x^5\to1680x^4$ と,係数が $8\to8\cdot7=56\to56\cdot6=336\to336\cdot5=1680$ と変化する).

最後に,$2^4\cdot4!=16\cdot24=384$ で割る.

$$ P_4(x)=\frac{1680x^4-1440x^2+144}{384} $$

分数を1項ずつ約分する.$1680$ と $384$ の最大公約数は $48$ なので $1680/384=35/8$.$1440$ と $384$ の最大公約数は $96$ なので $1440/384=15/4=30/8$.$144$ と $384$ の最大公約数は $48$ なので $144/384=3/8$.したがって

$$ P_4(x)=\frac{35}{8}x^4-\frac{30}{8}x^2+\frac{3}{8}=\frac18(35x^4-30x^2+3) $$

となり,たしかに例題40.7で $U_4(x)$ の正規化から得た $P_4(x)=\dfrac18(35x^4-30x^2+3)$ と完全に一致する.2つのまったく異なる計算方法(級数解法+正規化,ロドリーゲの公式)が同じ答えにたどり着くことが確認できた.(sympyで $(x^2-1)^4$ の4階微分を直接計算し,一致を確認済み.)

演習40.3 $n=7$(奇数)で $V_7(x)$ が多項式で止まることを確認する

解答

$n=7$,$a_1=1$ を,漸化式 $a_{k+2}=-\dfrac{(n-k)(n+k+1)}{(k+1)(k+2)}a_k$ に $k=1,3,5,7$ の順に代入していく.

$k=1$:$a_3=-\dfrac{(7-1)(7+2)}{2\cdot3}a_1=-\dfrac{6\cdot9}{6}\cdot1=-9$.

$k=3$:$a_5=-\dfrac{(7-3)(7+4)}{4\cdot5}a_3=-\dfrac{4\cdot11}{20}\cdot(-9)=\dfrac{44}{20}\cdot9=\dfrac{11}{5}\cdot9=\dfrac{99}{5}$.

$k=5$:$a_7=-\dfrac{(7-5)(7+6)}{6\cdot7}a_5=-\dfrac{2\cdot13}{42}\cdot\dfrac{99}{5}=-\dfrac{13}{21}\cdot\dfrac{99}{5}=-\dfrac{1287}{105}=-\dfrac{429}{35}$($1287$ と $105$ を最大公約数 $3$ で約分した).

$k=7$:$a_9=-\dfrac{(7-7)(7+8)}{8\cdot9}a_7=-\dfrac{0\cdot15}{72}a_7=0$.ちょうど $k=n=7$ に到達し,分子の因子 $(n-k)=(7-7)=0$ になったので $a_9=0$ である.漸化式は $a_{k+2}$ を $a_k$ の定数倍として作るだけなので,以後の $a_{11},a_{13},\ldots$ もすべて $a_9=0$ の定数倍として $0$ のまま続く.

以上より

$$ V_7(x)=x-9x^3+\frac{99}{5}x^5-\frac{429}{35}x^7 $$

は $x^7$ の項で終わる,次数7の多項式である.たしかに,$n=7$(奇数)のときに $V_n(x)$ が多項式になり,$U_n(x)$ のほうが無限級数のまま残るという定理40.4の主張どおりの結果になっている($k=n=7$ が奇数番目の列 $k=1,3,5,7,\ldots$ の中に現れたので,止まるのは奇数番目の列,すなわち $V_n(x)$ の側である).(sympyで漸化式から係数を再計算し,さらに $V_7(x)$ をルジャンドルの微分方程式 $(1-x^2)y''-2xy'+56y=0$($n(n+1)=7\cdot8=56$)に直接代入して,恒等的に $0$ になることも確認済み.)

演習40.4 直交性を具体的な場合で確認する($m=1$,$n=2$)

解答

$P_1(x)=x$,$P_2(x)=\dfrac12(3x^2-1)$ を使って,積を作ってから積分する.

$$ P_1(x)P_2(x)=x\cdot\frac12(3x^2-1)=\frac12(3x^3-x) $$

これを区間 $[-1,1]$ で積分する.べき関数の積分公式 $\displaystyle\int x^m\,dx=\dfrac{x^{m+1}}{m+1}$($m\neq-1$)を各項に使うと,

$$ \int_{-1}^{1}P_1(x)P_2(x)\,dx=\frac12\int_{-1}^{1}(3x^3-x)\,dx=\frac12\left[\frac{3x^4}{4}-\frac{x^2}{2}\right]_{-1}^{1} $$

括弧の中に $x=1$ と $x=-1$ をそれぞれ代入する.$x^4$ と $x^2$ はどちらも偶数乗なので,$x=1$ でも $x=-1$ でも同じ値になる.

$$ \left.\left(\frac{3x^4}{4}-\frac{x^2}{2}\right)\right|_{x=1}=\frac34-\frac12=\frac14,\qquad \left.\left(\frac{3x^4}{4}-\frac{x^2}{2}\right)\right|_{x=-1}=\frac34-\frac12=\frac14 $$

したがって

$$ \int_{-1}^{1}P_1(x)P_2(x)\,dx=\frac12\left(\frac14-\frac14\right)=\frac12\cdot0=0 $$

となり,たしかに定理40.6のとおり $0$ になることが確かめられた.(別の見方をすると,$P_1(x)P_2(x)=\frac12(3x^3-x)$ は奇数次の項だけからなる奇関数($f(-x)=-f(x)$ をみたす関数)であり,対称な区間 $[-1,1]$ 上での奇関数の積分はつねに $0$ になる,という高校で学んだ事実からも同じ結論が即座に得られる.sympyで直接積分し,一致を確認済み.)

演習40.5 底本 p.62 の誤記($U_n(x)$ の分子)を自分で検算する

解答

漸化式の,まだ因数分解する前の形

$$ a_{k+2}=\frac{k(k+1)-n(n+1)}{(k+1)(k+2)}a_k $$

に,数字を代入せず,$n$ を文字のままにして $k=0$ を代入する.

$$ a_2=\frac{0\cdot1-n(n+1)}{1\cdot2}a_0=\frac{-n(n+1)}{2}a_0=-\frac{n(n+1)}{2!}a_0 $$

したがって,$U_n(x)=a_0+a_2x^2+\cdots$ の $x^2$ の係数($a_0$ を1とみたときの比)は $-\dfrac{n(n+1)}{2!}$ であり,その分子はたしかに $n(n+1)$ である.底本 p.62 にある「$n(n-1)$」という記述は,この計算と食い違っており,誤記であると分かる.

念のため,$k=2$ を代入して $a_4/a_0$($U_n(x)$ の $x^4$ の係数)も同様に文字のまま求めておく.

$$ a_4=\frac{2\cdot3-n(n+1)}{3\cdot4}a_2=\frac{6-n(n+1)}{12}a_2 $$

ここで,分子 $6-n(n+1)=-(n^2+n-6)=-(n-2)(n+3)$ と因数分解できる($n^2+n-6$ の2つの解は $n=2,-3$ なので,$(n-2)(n+3)$ と分解できる).したがって

$$ a_4=\frac{-(n-2)(n+3)}{12}a_2=\frac{-(n-2)(n+3)}{12}\cdot\left(-\frac{n(n+1)}{2}a_0\right)=\frac{n(n-2)(n+1)(n+3)}{24}a_0=\frac{n(n-2)(n+1)(n+3)}{4!}a_0 $$

となり,こちらも本章第40.2.1節・第40.3節で使った式 $U_n(x)$ の $x^4$ の係数の分子 $n(n-2)(n+1)(n+3)$ と完全に一致する.以上により,$a_2,a_4$ のどちらの計算からも,$U_n(x)$ の係数の分子は $n(n+1)$(および $n(n-2)(n+1)(n+3)$)であって,底本 p.62 にある「$n(n-1)$」ではないことが,具体的な導出過程とともに示された.(sympyで $n$ を文字のシンボルのまま代入して検算し,一致を確認済み.)

演習40.6 $P_n(1)=1$ がすべての $n$ で成り立つことを確認する

解答

定義からの説明. 定義40.3では,$n$ が偶数のとき $P_n(x)=\dfrac{U_n(x)}{U_n(1)}$,$n$ が奇数のとき $P_n(x)=\dfrac{V_n(x)}{V_n(1)}$ と定めていた.どちらの場合も,$x=1$ を代入すると,分子と分母がまったく同じ値になる.たとえば $n$ が偶数のときは

$$ P_n(1)=\frac{U_n(1)}{U_n(1)}=1 $$

となる($U_n(1)\neq0$ なので,この割り算はいつでも意味をもつ).$n$ が奇数のときも,$V_n(1)/V_n(1)=1$ とまったく同様である.つまり $P_n(1)=1$ は,$P_n(x)$ を「$x=1$ での値がちょうど $1$ になるように割り算で正規化して定義した」という定義40.3の作り方そのものから,計算するまでもなく明らかな事実である.

ロドリーゲの公式の証明の副産物からの説明. 公式40.1の証明の第2段・第3段では,$w(x)=v^{(n)}(x)=\diff{^n}{x^n}(x^2-1)^n$ とおくと,ある定数 $c_n$ が存在して

$$ w(x)=c_n\,P_n(x) $$

と書けること,そして第3段でライプニッツの公式を使って直接計算した結果

$$ w(1)=n!\,2^n $$

が得られること,したがって $c_n=n!\,2^n$ であることを示した.これらを組み合わせると,

$$ w(1)=c_n\,P_n(1)\quad\Longrightarrow\quad n!\,2^n=n!\,2^n\cdot P_n(1) $$

という関係式が得られる.ここで $n!\,2^n\neq0$($n!$ も $2^n$ もどちらも正の実数であり,$0$ になることはない)なので,両辺を $n!\,2^n$ で割ることができて,

$$ P_n(1)=\frac{n!\,2^n}{n!\,2^n}=1 $$

となる.こちらの経路でも,同じ結論 $P_n(1)=1$ が導かれた.定義からの説明が「そう定義したのだから当然」という代数的に自明な理由であるのに対して,ロドリーゲの公式からの説明は「まったく別の計算方法(微分と,端点 $x=1$ でのライプニッツの公式による評価)を経由しても,同じ値 $1$ に行き着く」という,一致の非自明さを含んだ確認になっている点が異なる.(sympyで $n=0,1,\ldots,8$ について $w(1)/(2^n n!)$ を計算し,すべて $1$ になることを確認済み.)

第41章 特殊関数 — ベッセル関数とラゲールの多項式

演習41.1 $\alpha=3$ のときの係数 $a_2,a_4$

解答

ベッセルの微分方程式の $\lambda=\alpha$ の側の係数は,漸化式

$$ a_{k+2}=\frac{-a_k}{(k+2)(k+2+2\alpha)} $$

にしたがう.$\alpha=3$ を代入すると,$a_{k+2}=\dfrac{-a_k}{(k+2)(k+8)}$ である.

$k=0$:$(0+2)(0+8)=16$ より

$$ a_2=-\frac{a_0}{16} $$

$k=2$:$(2+2)(2+8)=4\times10=40$ より

$$ a_4=-\frac{a_2}{40}=-\frac{1}{40}\times\left(-\frac{a_0}{16}\right)=\frac{a_0}{640} $$

を得る.一方,一般公式 $a_{2n}=\dfrac{(-1)^n}{n!\,2^{2n}(\alpha+1)(\alpha+2)\cdots(\alpha+n)}a_0$ に $\alpha=3$ を代入すると,

$n=1$:$a_2=\dfrac{-1}{1!\times4\times4}a_0=-\dfrac{a_0}{16}$

$n=2$:$a_4=\dfrac{1}{2!\times16\times(4\times5)}a_0=\dfrac{1}{2\times16\times20}a_0=\dfrac{a_0}{640}$

となり,漸化式を直接たどった結果とぴったり一致する(sympyで検算済み).

演習41.2 $\Gamma(9/2)$ を $\Gamma(1/2)=\sqrt\pi$ から求める

解答

ガンマ関数の漸化式 $\Gamma(z+1)=z\Gamma(z)$ を,$z=1/2,3/2,5/2,7/2$ の順に4回使う.

$$ \Gamma\!\left(\frac32\right)=\frac12\Gamma\!\left(\frac12\right)=\frac{\sqrt\pi}{2} $$ $$ \Gamma\!\left(\frac52\right)=\frac32\Gamma\!\left(\frac32\right)=\frac32\times\frac{\sqrt\pi}{2}=\frac{3\sqrt\pi}{4} $$ $$ \Gamma\!\left(\frac72\right)=\frac52\Gamma\!\left(\frac52\right)=\frac52\times\frac{3\sqrt\pi}{4}=\frac{15\sqrt\pi}{8} $$ $$ \Gamma\!\left(\frac92\right)=\frac72\Gamma\!\left(\frac72\right)=\frac72\times\frac{15\sqrt\pi}{8}=\frac{105\sqrt\pi}{16} $$

したがって $\Gamma(9/2)=\dfrac{105}{16}\sqrt\pi$ である(sympyで $\Gamma(9/2)$ を直接計算した値と一致することを確認済み).

演習41.3 $n=3$(奇数)で線形従属性を確認する

解答

$J_3(x)=\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}\dfrac{(-1)^k}{k!\,(3+k)!}\left(\dfrac x2\right)^{2k+3}$ の最初の2項($k=0,1$)は,

$$ k=0:\ \frac{1}{0!\,3!}\left(\frac x2\right)^3=\frac{1}{6}\cdot\frac{x^3}{8}=\frac{x^3}{48} $$ $$ k=1:\ \frac{-1}{1!\,4!}\left(\frac x2\right)^5=-\frac{1}{24}\cdot\frac{x^5}{32}=-\frac{x^5}{768} $$

である.一方,一般に成り立つ関係式 $J_{-n}(x)=(-1)^nJ_n(x)$ に $n=3$ を代入すると,$(-1)^3=-1$ だから,

$$ J_{-3}(x)=-J_3(x) $$

となる.これは,本文で行った添字の付け替え($J_{-n}(x)$ の和を $k=n$ から始めて $k=n+\ell$ と置き換え,$(-1)^{n+\ell}=(-1)^n(-1)^\ell$ と符号を分離する)の結果,$n=3$(奇数)のときは符号 $(-1)^n=-1$ が前に出るからである.$n=2$(例題41.4)のときは $(-1)^2=+1$ なので $J_{-2}=J_2$ となり符号が現れなかったのに対し,$n=3$ のときは符号がマイナスになる,という違いが生じる.実際,besselj(-3,x)(sympyの標準ベッセル関数)の級数展開と $-J_3(x)$ の級数展開を10項目まで比較すると完全に一致することを確認した.

演習41.4 次数が負でも収束半径は $\infty$ であることの確認

解答

本文の式 $(n+1)(\alpha+n+1)$ に $\alpha=-\dfrac13$ を代入すると $(n+1)\left(n+\dfrac23\right)$ である.これに $n=5,10,50$ を代入すると,

$$ n=5:\ (5+1)\left(5+\frac23\right)=6\times\frac{17}{3}=34 $$ $$ n=10:\ (10+1)\left(10+\frac23\right)=11\times\frac{32}{3}=\frac{352}{3}\approx117.3 $$ $$ n=50:\ (50+1)\left(50+\frac23\right)=51\times\frac{152}{3}=2584 $$

となり,$n$ が大きくなるにつれて値がどんどん大きくなっている($34\to117.3\to2584$).実際,$(n+1)(\alpha+n+1)$ は $n\to\infty$ のとき $n^2$ のオーダーで大きくなるので,$\alpha$ の符号や大きさに関係なく,極限は必ず $+\infty$ になる.したがって $\alpha=-1/3$ のときも収束半径は $R=\infty$ である.

演習41.5 ラゲールの多項式 $L_4(x)$ を求める

解答

漸化式 $a_{k+1}=-\dfrac{4-k}{(k+1)^2}a_k$($m=4$,$a_0=1$)を順に使う.

$$ a_1=-\frac{4-0}{1^2}a_0=-4,\qquad a_2=-\frac{4-1}{2^2}a_1=-\frac34\times(-4)=3 $$ $$ a_3=-\frac{4-2}{3^2}a_2=-\frac29\times3=-\frac23,\qquad a_4=-\frac{4-3}{4^2}a_3=-\frac{1}{16}\times\left(-\frac23\right)=\frac{1}{24} $$

($a_5=-\dfrac{4-4}{5^2}a_4=0$ となり,ここで止まる).よって

$$ L_4(x)=1-4x+3x^2-\frac23x^3+\frac{1}{24}x^4 $$

である.次にロドリーグの公式 $\widehat L_4(x)=e^x\dfrac{d^4}{dx^4}(x^4e^{-x})$ を計算する.積の微分(ライプニッツの公式)を使うと,

$$ \widehat L_4(x)=x^4-16x^3+72x^2-96x+24 $$

となる(sympyで $\dfrac{d^4}{dx^4}(x^4e^{-x})$ を計算し,$e^x$ を掛けて確認済み).これを $4!=24$ で割ると,

$$ \frac{\widehat L_4(x)}{24}=\frac{x^4}{24}-\frac{16}{24}x^3+\frac{72}{24}x^2-\frac{96}{24}x+1 =\frac{1}{24}x^4-\frac23x^3+3x^2-4x+1 $$

となり,これは上で求めた $L_4(x)$(項の順序を逆にして並べたもの)とまったく同じである.すなわち $\widehat L_4(x)=4!\,L_4(x)$ が確認できた(sympyで係数レベルの完全一致を検算済み).

演習41.6 随伴ラゲール多項式 $L_2^1(x)$ を求める

解答

まず $\widehat L_2(x)$ を求める.$L_2(x)$ は定義式 $L_m(x)=\displaystyle\sum_{k=0}^{m}\dfrac{(-1)^km!}{(k!)^2(m-k)!}x^k$ に $m=2$ を代入して,

$$ L_2(x)=\frac{2!}{(0!)^2\,2!}-\frac{2!}{(1!)^2\,1!}x+\frac{2!}{(2!)^2\,0!}x^2=1-2x+\frac12x^2 $$

である.したがって $\widehat L_2(x)=2!\,L_2(x)=2-4x+x^2=x^2-4x+2$.これを1回微分すると,

$$ L_2^1(x)=\frac{d}{dx}\widehat L_2(x)=\frac{d}{dx}(x^2-4x+2)=2x-4 $$

を得る.次に,随伴ラゲール多項式の級数表示 $L_m^N(x)=\displaystyle\sum_{k=N}^{m}\dfrac{(-1)^k(m!)^2}{k!\,(m-k)!\,(k-N)!}x^{k-N}$ に $m=2,N=1$ を直接代入して検算する.和は $k=1,2$ の2項である.

$$ k=1:\ \frac{(-1)^1(2!)^2}{1!\,1!\,0!}x^0=-4,\qquad k=2:\ \frac{(-1)^2(2!)^2}{2!\,0!\,1!}x^1=2x $$

合計すると $L_2^1(x)=2x-4$ となり,先に微分で求めた結果とぴったり一致する(sympyで検算済み).

第42章 偏微分方程式の導入とラグランジュの1階偏微分方程式

演習42.1 もっとも簡単なラグランジュの偏微分方程式

解答

ラグランジュの偏微分方程式 $\pdiff zx-\pdiff zy=0$ は,$P=1,Q=-1,R=0$ とした場合である.特性方程式は

$$ \frac{dx}{1}=\frac{dy}{-1}=\frac{dz}{0} $$

である.最初の2つ $dx=-dy$ を積分すると(両辺ともそのまま積分できる),$x=-y+C_1'$,すなわち

$$ x+y=C_1 $$

という第一積分が得られる.一方,最後の分数 $dz/0$ は「分母が $0$ になる比は,対応する変数($z$)が変化しない」と読む約束であった.すなわち

$$ z=C_2 $$

である.$\varphi=x+y$,$\psi=z$ の2つの独立な第一積分に,$\psi=f(\varphi)$($f$ は任意関数)の関係を課すと,一般解は

$$ z=f(x+y) $$

となる.

検算 $z=f(x+y)$ を合成関数の微分公式で偏微分すると,$\pdiff zx=f'(x+y)$,$\pdiff zy=f'(x+y)$ であるから,

$$ \pdiff zx-\pdiff zy=f'(x+y)-f'(x+y)=0 $$

となって,たしかにもとの方程式を満たす(sympyで検算済み).

進行波としての解釈 $y$ を42.5節の時刻 $t$ の役割とみなすと,もとの方程式 $\pdiff zx-\pdiff zy=0$ は $\pdiff zy=\pdiff zx$,すなわち $\pdiff zt=1\cdot\pdiff zx$ と書ける.これは42.5節で見た左向きの進行波の式 $\pdiff ut=v_0\pdiff ux$ そのものであり,$v_0=1$ の場合にあたる.実際,一般解 $z=f(x+y)$ の値は $x+y=(\text{一定})$ という条件のもとで変化しないから,$y$(=時刻)が増えるとき,値を一定に保つには $x$ がその分だけ減らなければならない——つまりこの解は,$x$ 軸の負の向きに速さ $1$ で進む波を表している.

演習42.2 $z$ を含む係数のラグランジュの偏微分方程式

解答

ラグランジュの偏微分方程式 $xz\pdiff zx-yz\pdiff zy=x^2-y^2$ は,$P=xz,Q=-yz,R=x^2-y^2$ とした場合である.特性方程式は

$$ \frac{dx}{xz}=\frac{dy}{-yz}=\frac{dz}{x^2-y^2} $$

である.まず,最初の2つの分数から,共通する $z$ を払うと $\dfrac{dx}{x}=\dfrac{dy}{-y}$ となる($z\ne0$ を仮定).これは変数分離形で,積分すると $\ln x=-\ln y+C_1'$,すなわち

$$ xy=C_1 $$

という第一積分が得られる(これは例42.1と同じ計算である).

もう1つの第一積分を作るには,3つの分数を直接組にしても変数分離できないので,本文(42.3節末尾)で説明した乗数法を使う.比の性質「$\dfrac ab=\dfrac cd=\dfrac ef$ ならば,任意の $\lambda,\mu,\nu$ に対して $\dfrac{\lambda a+\mu c+\nu e}{\lambda b+\mu d+\nu f}$ も同じ値に等しい」を使い,乗数として $\lambda=x,\mu=y,\nu=z$(変数そのもの)を選ぶ.すると,新しい分数の分母は

$$ x\cdot(xz)+y\cdot(-yz)+z\cdot(x^2-y^2)=x^2z-y^2z+x^2z-y^2z=2z(x^2-y^2) $$

となり,分子は $x\,dx+y\,dy+z\,dz$ になる.この新しい分数を,もとの3番目の分数 $\dfrac{dz}{x^2-y^2}$ と等しいとおくと,

$$ \frac{x\,dx+y\,dy+z\,dz}{2z(x^2-y^2)}=\frac{dz}{x^2-y^2} $$

両辺に $2z(x^2-y^2)$ を掛けて($x^2-y^2\ne0$ を仮定),

$$ x\,dx+y\,dy+z\,dz=2z\,dz\qquad\therefore\ x\,dx+y\,dy=z\,dz $$

という,変数分離形の式が得られる.両辺を積分すると($\int x\,dx=x^2/2$,$\int y\,dy=y^2/2$,$\int z\,dz=z^2/2$),

$$ \frac{x^2}{2}+\frac{y^2}{2}=\frac{z^2}{2}+K\qquad\therefore\ x^2+y^2-z^2=C_2\quad(C_2=2K) $$

という第二の第一積分が得られる.$C_1=xy$,$C_2=x^2+y^2-z^2$ に $C_2=\varphi(C_1)$($\varphi$ は任意関数)の関係を課すと,一般解は

$$ x^2+y^2-z^2=\varphi(xy) $$

という,陰関数の形で与えられる($z$ について陽に解くと $z=\pm\sqrt{x^2+y^2-\varphi(xy)}$ となるが,符号の任意性が残るため,陰関数のまま書くのが自然である).

検算 $G(x,y,z)=x^2+y^2-z^2-\varphi(xy)=0$ という陰関数と見て,陰関数定理 $\pdiff zx=-\dfrac{\partial G/\partial x}{\partial G/\partial z}$,$\pdiff zy=-\dfrac{\partial G/\partial y}{\partial G/\partial z}$(第6章)を使うと,$xz\pdiff zx-yz\pdiff zy-(x^2-y^2)$ が,$\varphi$ の中身によらず恒等的に $0$ になることが確認できる(sympyで検算済み).

演習42.3 完全微分方程式(2変数)

解答

$P=y^2+2xy$,$Q=x^2+2xy$ である.完全性の条件を確かめると,

$$ \pdiff Py=2y+2x,\qquad \pdiff Qx=2x+2y $$

となって一致するので,これは完全微分方程式である.一般解を求めるには,$\pdiff fx=P$ となる $f$ をまず $x$ について積分する($y$ は定数扱い).

$$ f=\int(y^2+2xy)\,dx=xy^2+x^2y+h(y) $$

(積分定数は $y$ の関数 $h(y)$ としてよい).次に,$\pdiff fy=Q$ という条件から $h(y)$ を決める.

$$ \pdiff fy=2xy+x^2+h'(y)=Q=x^2+2xy $$

比較すると $h'(y)=0$,すなわち $h$ は定数(最終的に $C$ に吸収されるので省略できる).したがって

$$ f(x,y)=xy^2+x^2y=xy(x+y) $$

となり,一般解は

$$ xy(x+y)=C $$

である.

検算 $\pdiff fx=2xy+y^2=P$,$\pdiff fy=x^2+2xy=Q$ となって,たしかに元の $P,Q$ に一致する(sympyで検算済み).

演習42.4 2つの進行波の重ね合わせ

解答

$u(x,t)=A\sin(kx-\omega t)+B\sin(kx+\omega t)$ である.第1項 $A\sin(kx-\omega t)$ は,速さ $v_0=\omega/k$ で右に進む波であり(本章42.5.3項の議論により)$\pdiff{^2}{t^2}\bigl[A\sin(kx-\omega t)\bigr]=v_0^2\pdiff{^2}{x^2}\bigl[A\sin(kx-\omega t)\bigr]$ を満たす.第2項 $B\sin(kx+\omega t)$ も同様に,速さ $v_0=\omega/k$ で左に進む波として,同じ波動方程式を満たす.偏微分は線形な演算(和の微分は微分の和)なので,2つの項の和 $u$ も,同じ波動方程式

$$ \pdiff{^2u}{t^2}=\left(\frac\omega k\right)^2\pdiff{^2u}{x^2} $$

を満たす.

直接確認 念のため,直接微分して確かめておこう.

$$ \pdiff ut=-A\omega\cos(kx-\omega t)+B\omega\cos(kx+\omega t) $$ $$ \pdiff{^2u}{t^2}=-A\omega^2\sin(kx-\omega t)-B\omega^2\sin(kx+\omega t) $$ $$ \pdiff ux=Ak\cos(kx-\omega t)+Bk\cos(kx+\omega t) $$ $$ \pdiff{^2u}{x^2}=-Ak^2\sin(kx-\omega t)-Bk^2\sin(kx+\omega t) $$

したがって

$$ \left(\frac\omega k\right)^2\pdiff{^2u}{x^2}=\frac{\omega^2}{k^2}\Bigl[-Ak^2\sin(kx-\omega t)-Bk^2\sin(kx+\omega t)\Bigr]=-A\omega^2\sin(kx-\omega t)-B\omega^2\sin(kx+\omega t)=\pdiff{^2u}{t^2} $$

となって,たしかに波動方程式を満たす(sympyで検算済み).

演習42.5 3変数への一般化

解答

方程式 $x_1\pdiff u{x_1}+x_2\pdiff u{x_2}+x_3\pdiff u{x_3}=0$ は,定義42.2で $n=3$,$f_1=x_1,f_2=x_2,f_3=x_3$,$g=0$ とした場合である.特性方程式は

$$ \frac{dx_1}{x_1}=\frac{dx_2}{x_2}=\frac{dx_3}{x_3} $$

である.最初の2つ $\dfrac{dx_1}{x_1}=\dfrac{dx_2}{x_2}$ を積分すると,$\ln x_1=\ln x_2+C_1'$,すなわち

$$ \frac{x_2}{x_1}=e^{-C_1'}=C_1 $$

($x_1,x_2,x_3\gt0$ より絶対値記号は不要).同様に,最初と最後 $\dfrac{dx_1}{x_1}=\dfrac{dx_3}{x_3}$ から,

$$ \frac{x_3}{x_1}=C_2 $$

という,2つの独立な第一積分が得られる($n=3$ なので,定理42.2により $n=3$ 個の第一積分が必要だが,$g=0$ の場合は $du/0$ の分数が「$u$ は変化しない」という第3の第一積分 $u=C_3$ を与える).これら3つの第一積分 $C_1=x_2/x_1$,$C_2=x_3/x_1$,$C_3=u$ の間に,任意関数 $\Phi$ による関係 $C_3=\Phi(C_1,C_2)$ を課すと,一般解は

$$ u=\Phi\!\left(\frac{x_2}{x_1},\frac{x_3}{x_1}\right) $$

となる($\Phi$ は任意の2変数関数).

検算 合成関数の微分公式(多変数版,連鎖律)を使って,$u=\Phi(x_2/x_1,x_3/x_1)$ を $x_1,x_2,x_3$ でそれぞれ偏微分し,$x_1u_{x_1}+x_2u_{x_2}+x_3u_{x_3}$ に代入すると,$\Phi$ の中身(偏導関数を含む)によらず恒等的に $0$ になることが確認できる(sympyで検算済み).たとえば,$\Phi(s,t)=s^2+t$ を具体的に選んでも,$u=(x_2/x_1)^2+x_3/x_1$ が方程式を満たすことが確かめられる.

演習42.6 境界条件付きの簡単な例

解答

$\pdiff ux=2y$ を,$y$ を定数とみなして $x$ について積分する.

$$ u=\int2y\,dx=2xy+f(y) $$

(積分定数は $y$ の関数であれば何でもよいので,任意関数 $f(y)$ とおいた).これが一般解である.境界条件 $u(0,y)=y^2$ を代入すると,

$$ u(0,y)=2\cdot0\cdot y+f(y)=f(y)=y^2 $$

より $f(y)=y^2$ と決まる.したがって,境界条件を満たす特殊解は

$$ u(x,y)=2xy+y^2 $$

である.

検算 $\pdiff ux=2y$ となって方程式を満たす.また $u(0,y)=2\cdot0\cdot y+y^2=y^2$ となって境界条件も満たす(sympyで検算済み).

第43章 波動方程式と熱伝導方程式 — 導出と変数分離法

演習43.1 波動方程式の速さの次元

解答

張力 $T$ の単位は,力の単位 $\mathrm N$ であり,これは運動方程式 $F=ma$(質量×加速度)から $\mathrm N=\mathrm{kg}\cdot\mathrm{m/s^2}$ である.線密度 $\rho$ の単位は,単位長さあたりの質量なので $\mathrm{kg/m}$ である.$v=\sqrt{T/\rho}$ の中身 $T/\rho$ の単位は,分数として素直に計算すればよい.

$$ \frac{[T]}{[\rho]}=\frac{\mathrm{kg\cdot m/s^2}}{\mathrm{kg/m}}=\mathrm{kg\cdot m/s^2}\times\frac{\mathrm m}{\mathrm{kg}}=\frac{\mathrm m^2}{\mathrm s^2} $$

($\mathrm{kg}$ が分子・分母で約分され,$\mathrm m$ が掛け合わさって $\mathrm m^2$ になる).したがって $v=\sqrt{T/\rho}$ の単位は

$$ [v]=\sqrt{\frac{\mathrm m^2}{\mathrm s^2}}=\frac{\mathrm m}{\mathrm s} $$

となり,たしかに速さの単位($\mathrm{m/s}$)になっている.これは,波動方程式 $\pdiff{^2u}{x^2}=\dfrac1{v^2}\pdiff{^2u}{t^2}$ の両辺の次元が一致するために必要な条件でもある:左辺の次元は $[u]/\mathrm m^2$,右辺の次元は $(\mathrm s^2/\mathrm m^2)\times([u]/\mathrm s^2)=[u]/\mathrm m^2$ であり,$v$ の単位が $\mathrm{m/s}$ であることが,この一致を保証している(sympyで基本単位 $\mathrm{kg,m,s}$ を文字のまま計算し,$[T/\rho]=\mathrm m^2/\mathrm s^2$ となることを確認済み).

演習43.2 熱伝導方程式の温度伝導率の次元

解答

与えられた単位を分数の形で並べる.

$$ [k]=\frac{\mathrm{kg\cdot m}}{\mathrm{s^3\cdot K}},\qquad[\rho]=\frac{\mathrm{kg}}{\mathrm{m^3}},\qquad[C]=\frac{\mathrm{m^2}}{\mathrm{s^2\cdot K}} $$

まず分母の $[\rho][C]$ を計算する.

$$ [\rho][C]=\frac{\mathrm{kg}}{\mathrm{m^3}}\times\frac{\mathrm{m^2}}{\mathrm{s^2\cdot K}}=\frac{\mathrm{kg}}{\mathrm{m\cdot s^2\cdot K}} $$

($\mathrm{m^2}$ と $\mathrm{m^3}$ から $\mathrm m$ が1つ残る).次に $a=k/(\rho C)$ の単位を計算する.

$$ [a]=\frac{[k]}{[\rho][C]}=\frac{\mathrm{kg\cdot m}/(\mathrm{s^3\cdot K})}{\mathrm{kg}/(\mathrm{m\cdot s^2\cdot K})}=\frac{\mathrm{kg\cdot m}}{\mathrm{s^3\cdot K}}\times\frac{\mathrm{m\cdot s^2\cdot K}}{\mathrm{kg}}=\frac{\mathrm{m^2}}{\mathrm s} $$

($\mathrm{kg}$ と $\mathrm K$ がそれぞれ約分され,$\mathrm s^3/\mathrm s^2=\mathrm s$ が分母に残る).したがって温度伝導率 $a$ の単位は $\mathrm{m^2/s}$ である.これは,熱伝導方程式 $\pdiff ut=a\pdiff{^2u}{x^2}$ の左辺の次元 $[u]/\mathrm s$ と,右辺の次元 $(\mathrm m^2/\mathrm s)\times([u]/\mathrm m^2)=[u]/\mathrm s$ が一致することからも確認できる(sympyで基本単位を文字のまま計算し,$[a]=\mathrm m^2/\mathrm s$ となることを確認済み).

演習43.3 波動方程式:初期条件が2倍振動数の正弦波の場合

解答

一般解は $u(x,t)=\displaystyle\sum_{m=1}^\infty D_m\sin\dfrac{m\pi}Lx\cos\dfrac{m\pi}Lvt$ である.初期条件 $u(x,0)=h\sin\dfrac{2\pi x}L$ は,$m=2$ の固有関数 $\sin(2\pi x/L)$ そのものになっている.正弦関数の直交性

$$ \int_0^L\sin\frac{2\pi x}L\sin\frac{m\pi x}Ldx=\frac L2\delta_{2m} $$

($m=2$ のときだけ $L/2$,それ以外は $0$)をフーリエ係数の公式に使うと,

$$ D_m=\frac2L\int_0^Lh\sin\frac{2\pi x}L\sin\frac{m\pi x}Ldx=\begin{cases}h&(m=2)\\0&(m\ne2)\end{cases} $$

となる.したがって,級数のうち $m=2$ の項だけが残り,

$$ u(x,t)=h\sin\frac{2\pi x}L\cos\frac{2\pi vt}L $$

が求める解である.例題43.4($m=1$ の場合)と比べると,空間方向には節(振動しない点,$\sin$ が $0$ になる点)が $x=L/2$ にもう1つ増え,時間方向の角振動数も $\pi v/L$ から $2\pi v/L$ へと2倍になっている——これは,波長が半分になった分,振動数が2倍になるという,一般に成り立つ関係の具体例である(sympyで検算:$m=2$ で $D_2=h$,$m=1,3,4,5$ で $D_m=0$ となることを直接積分して確認済み).

演習43.4 熱伝導方程式:初期温度が一様な場合

解答

一般解は $U(x,t)=\displaystyle\sum_{n=1}^\infty b_n\,e^{-\frac{n^2\pi^2}{L^2}at}\sin\dfrac{n\pi}Lx$ である.フーリエ正弦係数の公式に $U(x,0)=T_0$(定数)を代入すると,

$$ b_n=\frac2L\int_0^LT_0\sin\frac{n\pi}Lx\,dx=\frac2L\left[-\frac L{n\pi}T_0\cos\frac{n\pi}Lx\right]_0^L=\frac{2T_0}{n\pi}\bigl(1-\cos n\pi\bigr) $$

$\cos n\pi=(-1)^n$ なので,$1-\cos n\pi=1-(-1)^n$ であり,これは $n$ が偶数のとき $0$,奇数のとき $2$ になる.したがって

$$ b_n=\begin{cases}\dfrac{4T_0}{n\pi}&(n\text{ が奇数})\\[4pt]0&(n\text{ が偶数})\end{cases} $$

であり,求める解は

$$ U(x,t)=\sum_{n=1,3,5,\ldots}^\infty\frac{4T_0}{n\pi}e^{-\frac{n^2\pi^2}{L^2}at}\sin\frac{n\pi}Lx $$

である.初期条件が一定値 $T_0$(両端では $U(0,0)=U(L,0)=T_0\ne0$)であるのに対し,境界条件は $U(0,t)=U(L,t)=0$($t\gt0$ では両端は強制的に $0$)を課しているため,$t=0^+$ の瞬間には両端付近で急激な変化(不連続に近い状況)が生じる.このため,級数を有限項で打ち切ると,43.6節の矩形パルスの場合と同様にギブス現象(オーバーシュート)が両端付近に現れる.ただし $t\gt0$ ではただちに指数関数的な減衰が始まり,時間が経つにつれて分布はなめらかになっていく(sympyで検算:$n=1,3,5,7$ で $b_n=4T_0/(n\pi)$,$n=2,4,6,8$ で $b_n=0$ となることを直接積分して確認済み).

演習43.5 2次元波動方程式:異なる固有振動の場合

解答

一般解は $u(x,y,t)=\displaystyle\sum_{m,n}D_{mn}\sin m\pi x\sin n\pi y\cos v\sqrt{m^2+n^2}\,\pi t$ である.初期条件 $u(x,y,0)=\sin\pi x\sin2\pi y$ は,$m=1,n=2$ の固有関数そのものなので,2重フーリエ正弦級数の直交性から

$$ D_{mn}=\begin{cases}1&(m,n)=(1,2)\\0&\text{それ以外}\end{cases} $$

である.$m^2+n^2=1^2+2^2=5$ に注意すると,求める解は

$$ u(x,y,t)=\sin\pi x\sin2\pi y\cos\bigl(v\sqrt5\,\pi t\bigr) $$

である.例題43.5($(m,n)=(1,1)$,角振動数 $v\sqrt2\,\pi$)と比べると,角振動数が $\sqrt5/\sqrt2\approx1.58$ 倍速くなっている——$y$ 方向の波の「細かさ」が増した($n$ が $1$ から $2$ になった)分,全体の振動数も上がるのである(sympyで検算:$(m,n)=(1,2)$ で $b_{12}=1$,それ以外の $(m,n)\,(\le3)$ ではすべて $0$ となることを直接積分して確認済み).

演習43.6 ラプラス方程式:境界条件を2次関数にした場合

解答

一般解の形は例43.5・例題43.8と同じで,$u(x,y)=\displaystyle\sum_{n=1}^\infty b_n\sinh\!\left(\dfrac{n\pi}L(L-x)\right)\sin\dfrac{n\pi}Ly$ である.境界条件 $u(0,y)=y(L-y)$ から,係数は

$$ b_n\sinh(n\pi)=\frac2L\int_0^Ly(L-y)\sin\frac{n\pi}Ly\,dy $$

で決まる.右辺の積分は,$y(L-y)=Ly-y^2$ を,部分積分を2回繰り返して計算する(43.4節・43.5節と同じ手法).原始関数を求めて両端点 $y=0,L$ を代入すると($y(L-y)$ は $y=0,L$ でどちらも $0$ になることに注意),

$$ \int_0^Ly(L-y)\sin\frac{n\pi}Ly\,dy=\frac{2L^3\bigl(1-(-1)^n\bigr)}{n^3\pi^3} $$

となる.したがって

$$ b_n\sinh(n\pi)=\frac2L\cdot\frac{2L^3\bigl(1-(-1)^n\bigr)}{n^3\pi^3}=\frac{4L^2\bigl(1-(-1)^n\bigr)}{n^3\pi^3} $$

$1-(-1)^n$ は $n$ が奇数のとき $2$,偶数のとき $0$ だから,

$$ b_n=\begin{cases}\dfrac{8L^2}{n^3\pi^3\sinh(n\pi)}&(n\text{ が奇数})\\[4pt]0&(n\text{ が偶数})\end{cases} $$

であり,求める解は

$$ u(x,y)=\sum_{n=1,3,5,\ldots}^\infty\frac{8L^2}{n^3\pi^3\sinh(n\pi)}\sinh\!\left(\frac{n\pi}L(L-x)\right)\sin\frac{n\pi}Ly $$

である.境界関数 $y(L-y)$ が $y=L/2$ を軸とした左右対称な放物線であることが,フーリエ級数に奇数次の項だけが現れる理由になっている(例43.4・例題43.8で見た対称性の議論と同じ).さらに,分母に $n^3$ と $\sinh(n\pi)$ の両方があるため,演習43.6の級数は例題43.8の級数よりもさらに速く収束する——境界条件がなめらか($y(L-y)$ は $C^\infty$ 級)であるほど,フーリエ係数は速く $0$ に近づく,というフーリエ解析の一般的な性質の表れである(sympyで検算:$(2/L)\int_0^Ly(L-y)\sin(n\pi y/L)dy=4L^2(1-(-1)^n)/(n^3\pi^3)$ となることを確認済み).

第44章 座標変換とラプラシアン

演習44.1 極座標での $\nabla^2(r^2)$

解答

$u=r^2$ は $\theta$ を含まないので $u_\theta=u_{\theta\theta}=0$ である.$r$ については $u_r=2r$,$u_{rr}=2$.極座標のラプラシアン

$$ \nabla^2u=u_{rr}+\frac1r u_r+\frac{1}{r^2}u_{\theta\theta} $$

に代入すると,

$$ \nabla^2u=2+\frac1r\cdot2r+\frac{1}{r^2}\cdot0=2+2=4 $$

である.一方,直交座標では $u=r^2=x^2+y^2$ なので,$u_x=2x,\ u_{xx}=2$,$u_y=2y,\ u_{yy}=2$ より

$$ \nabla^2u=u_{xx}+u_{yy}=2+2=4 $$

となり,どちらの座標系で計算しても同じ値 $4$ になることが確認できる(sympyで検算済み).

演習44.2 球座標での $u=z$ の調和性

解答

$u=r\cos\theta$ は $\varphi$ を含まないので $u_\varphi=u_{\varphi\varphi}=0$ である.$r$ については $u_r=\cos\theta$,$u_{rr}=0$.$\theta$ については $u_\theta=-r\sin\theta$,$u_{\theta\theta}=-r\cos\theta$.球座標のラプラシアン

$$ \nabla^2u=u_{rr}+\frac2r u_r+\frac{1}{r^2}u_{\theta\theta}+\frac{\cos\theta}{r^2\sin\theta}u_\theta+\frac{1}{r^2\sin^2\theta}u_{\varphi\varphi} $$

に代入すると,

$$ \nabla^2u=0+\frac2r\cos\theta+\frac{1}{r^2}(-r\cos\theta)+\frac{\cos\theta}{r^2\sin\theta}(-r\sin\theta)+0 =\frac{2\cos\theta}{r}-\frac{\cos\theta}{r}-\frac{\cos\theta}{r}=0 $$

となり,たしかにラプラス方程式を満たす.直交座標で見れば $u=z$ であり,$u_{xx}=u_{yy}=u_{zz}=0$ だから $\nabla^2u=0$ は明らかである(sympyで検算済み).球座標という,一見複雑な座標系を通しても,同じ単純な事実が(回り道をして)確認できたことになる.

演習44.3 円柱座標のラプラシアンの理由を再現せよ

解答

円柱座標は $x=r\cos\theta,\ y=r\sin\theta,\ z=z$ という変換である.ここで注目すべきは,次の2つの事実である.

(i) $r,\theta$ は $z$ にまったく依存しない. $r=\sqrt{x^2+y^2}$,$\theta=\tan^{-1}(y/x)$ という式のどこにも $z$ が現れないから,$\partial r/\partial z=0$,$\partial\theta/\partial z=0$ である.

(ii) $z$ は $x,y$ にまったく依存しない. $z=z$ という関係式そのものが,$z$ が $x,y$ から独立した,もう1つの座標であることを意味している.

この2つの事実から,$u(x,y,z)=u\bigl(r(x,y),\theta(x,y),z\bigr)$ を $x$ や $y$ で偏微分するとき,$z$ は途中でいっさい変化しない定数として扱われるので,44.2節で行った $u_{xx},u_{yy}$ の計算($z$ が入っていてもいなくても,$z$ を単なるパラメータとみなせば,同じ連鎖律の計算がそのまま成り立つ)がそのまま有効である.逆に $u$ を $z$ で偏微分するときは,$r,\theta$(したがって $x,y$)を定数として扱うだけであり,$r,\theta$ 方向の偏微分とはいっさい混ざり合わない($r_z=\theta_z=0$ なので,連鎖律 $u_z=u_r r_z+u_\theta\theta_z+u_z\cdot1=u_z$ となり,$u_z$ は $r,\theta$ 方向の情報を一切含まない).

言い換えると,一般に $u(x,y,z)=f(x,y)+g(z)$ のように $x,y$ の部分と $z$ の部分が完全に分離した関数では,

$$ \pdiff{^2u}{x^2}+\pdiff{^2u}{y^2}+\pdiff{^2u}{z^2}=\bigl(f_{xx}+f_{yy}\bigr)+g''(z) $$

のように,2つの部分の2階微分が混ざり合わずに単純に足し合わされる($f,g$ の混合偏微分 $\partial^2/\partial x\partial z$ などがそもそも存在しない,つまり自動的に $0$ になる,と考えてもよい).円柱座標の場合も本質的に同じ理由で,直交座標の3次元ラプラシアン $u_{xx}+u_{yy}+u_{zz}$ のうち,$u_{xx}+u_{yy}$ の部分だけが極座標の公式(公式44.1)でそっくり置き換わり,$u_{zz}$ の部分は変更を受けずにそのまま残るのである(sympyでも,一般の $f(x,y)+g(z)$ の形の関数について,この加法性が成り立つことを確認済み).

演習44.4 球座標ラプラシアンの直接法を完成させよ

解答

本文の式で求めた1階偏微分

$$ r_x=\sin\theta\cos\varphi,\qquad \theta_x=\frac{\cos\theta\cos\varphi}{r},\qquad \varphi_x=-\frac{\sin\varphi}{r\sin\theta} $$

を使う.まず,$u_x=u_r r_x+u_\theta\theta_x+u_\varphi\varphi_x$ をもう一度 $x$ で微分する.今度は3変数の連鎖律なので,積の微分公式を3つの項それぞれに使うと,

$$ u_{xx}=\bigl(u_{rx}r_x+u_r r_{xx}\bigr)+\bigl(u_{\theta x}\theta_x+u_\theta\theta_{xx}\bigr)+\bigl(u_{\varphi x}\varphi_x+u_\varphi\varphi_{xx}\bigr) $$

であり,$u_{rx},u_{\theta x},u_{\varphi x}$ はそれぞれ $u_r,u_\theta,u_\varphi$ を($u$ 自身と同じやり方で)$r,\theta,\varphi$ の関数とみなして連鎖律を適用すると,

$$ u_{rx}=u_{rr}r_x+u_{r\theta}\theta_x+u_{r\varphi}\varphi_x,\quad u_{\theta x}=u_{\theta r}r_x+u_{\theta\theta}\theta_x+u_{\theta\varphi}\varphi_x,\quad u_{\varphi x}=u_{\varphi r}r_x+u_{\varphi\theta}\theta_x+u_{\varphi\varphi}\varphi_x $$

となる(シュワルツの定理より $u_{r\theta}=u_{\theta r}$,$u_{r\varphi}=u_{\varphi r}$,$u_{\theta\varphi}=u_{\varphi\theta}$).これらをすべて代入して整理すると,

$$ u_{xx}=u_{rr}r_x^2+u_{\theta\theta}\theta_x^2+u_{\varphi\varphi}\varphi_x^2+2u_{r\theta}r_x\theta_x+2u_{r\varphi}r_x\varphi_x+2u_{\theta\varphi}\theta_x\varphi_x+u_r r_{xx}+u_\theta\theta_{xx}+u_\varphi\varphi_{xx} $$

という形になる(2次形式の展開と同じパターンである.44.2節の2変数の場合の式に,$\varphi$ の項が加わったと考えればよい).あとは $r_x,\theta_x,\varphi_x$ の2乗・積と,2階微分 $r_{xx},\theta_{xx},\varphi_{xx}$ を計算して代入するだけである.2階微分は,本文と同じ手順($r_x=\sin\theta\cos\varphi$ などを,今度は $\theta,\varphi$ が $x$ の関数であることに注意してもう一度 $x$ で微分する)で求められ,整理すると

$$ r_{xx}=\frac{1-\sin^2\theta\cos^2\varphi}{r},\qquad \theta_{xx}=\frac{(\sin^2\varphi-2\sin^2\theta\cos^2\varphi)\cos\theta}{r^2\sin\theta},\qquad \varphi_{xx}=\frac{\sin2\varphi}{r^2\sin^2\theta} $$

となる(sympyで直交座標からの直接の2階偏微分と一致することを検算済み).これらと $r_x,\theta_x,\varphi_x$ をすべて代入し,$2r_x\theta_x=\dfrac{2\sin\theta\cos\theta\cos^2\varphi}{r}$,$2r_x\varphi_x=-\dfrac{\sin2\varphi}{r}$,$2\theta_x\varphi_x=-\dfrac{\sin2\varphi\cos\theta}{r^2\sin\theta}$ のように整理すると,最終的に

$$ \begin{aligned} u_{xx}={}&\sin^2\theta\cos^2\varphi\,u_{rr}+\frac{\cos^2\theta\cos^2\varphi}{r^2}u_{\theta\theta}+\frac{\sin^2\varphi}{r^2\sin^2\theta}u_{\varphi\varphi}\\ &+\frac{2\sin\theta\cos\theta\cos^2\varphi}{r}u_{r\theta}-\frac{\sin2\varphi}{r}u_{r\varphi}-\frac{\sin2\varphi\cos\theta}{r^2\sin\theta}u_{\theta\varphi}\\ &+\frac{1-\sin^2\theta\cos^2\varphi}{r}u_r+\frac{(\sin^2\varphi-2\sin^2\theta\cos^2\varphi)\cos\theta}{r^2\sin\theta}u_\theta+\frac{\sin2\varphi}{r^2\sin^2\theta}u_\varphi \end{aligned} $$

という,$u_{xx}$ の完全な式が得られる(sympyで,この式が連鎖律から機械的に組み立てた式と代数的に一致することを検算済み).この時点ですでに9種類の2階・1階の偏微分がすべて現れており,同様の計算を $y,z$ についても行い,3つの式 $u_{xx}+u_{yy}+u_{zz}$ を足し合わせれば(角度に関する多数の項が44.2節と同様に打ち消し合って),最終的に公式44.3の球座標のラプラシアンに到達する.本文で紹介した「近道」は,この $y,z$ 方向の計算と,そのあとの膨大な整理を,実質的に省略する効果を持っていたことが,この演習を通して実感できる.

演習44.5 球座標での $u=x$ の調和性

解答

$u=r\sin\theta\cos\varphi$ について,各偏微分を求める.$r$ については $u_r=\sin\theta\cos\varphi$,$u_{rr}=0$.$\theta$ については $u_\theta=r\cos\theta\cos\varphi$,$u_{\theta\theta}=-r\sin\theta\cos\varphi$.$\varphi$ については $u_\varphi=-r\sin\theta\sin\varphi$,$u_{\varphi\varphi}=-r\sin\theta\cos\varphi$.公式44.3に代入すると,

$$ \nabla^2u=0+\frac2r\sin\theta\cos\varphi+\frac{1}{r^2}(-r\sin\theta\cos\varphi)+\frac{\cos\theta}{r^2\sin\theta}(r\cos\theta\cos\varphi)+\frac{1}{r^2\sin^2\theta}(-r\sin\theta\cos\varphi) $$

である.各項を整理すると,

$$ \nabla^2u=\frac{2\sin\theta\cos\varphi}{r}-\frac{\sin\theta\cos\varphi}{r}+\frac{\cos^2\theta\cos\varphi}{r\sin\theta}-\frac{\cos\varphi}{r\sin\theta} =\frac{\sin\theta\cos\varphi}{r}+\frac{\cos\varphi(\cos^2\theta-1)}{r\sin\theta} $$

ここで $\cos^2\theta-1=-\sin^2\theta$(三角関数の基本公式)を使うと,第2項は $\dfrac{-\sin^2\theta\cos\varphi}{r\sin\theta}=-\dfrac{\sin\theta\cos\varphi}{r}$ となるので,

$$ \nabla^2u=\frac{\sin\theta\cos\varphi}{r}-\frac{\sin\theta\cos\varphi}{r}=0 $$

となり,たしかにラプラス方程式を満たす.直交座標で見れば $u=x$ であり,$\nabla^2x=0$ は自明である.球座標では $\theta,\varphi$ の両方に依存する分だけ計算は長くなるが,最終的にきちんと $0$ に落ち着く(sympyで検算済み).

演習44.6 球座標での $x^2-y^2$ の調和性

解答

$u=r^2\sin^2\theta\cos2\varphi$ について,各偏微分を求める.$r$ については $u_r=2r\sin^2\theta\cos2\varphi$,$u_{rr}=2\sin^2\theta\cos2\varphi$.$\theta$ については,$\sin^2\theta$ の微分が $2\sin\theta\cos\theta=\sin2\theta$ であることを使うと $u_\theta=r^2\sin2\theta\cos2\varphi$,さらに $\sin2\theta$ の微分が $2\cos2\theta$ であることから $u_{\theta\theta}=2r^2\cos2\theta\cos2\varphi$.$\varphi$ については $u_\varphi=-2r^2\sin^2\theta\sin2\varphi$,$u_{\varphi\varphi}=-4r^2\sin^2\theta\cos2\varphi$.公式44.3に代入すると,

$$ \nabla^2u=2\sin^2\theta\cos2\varphi+\frac2r\bigl(2r\sin^2\theta\cos2\varphi\bigr)+\frac{1}{r^2}\bigl(2r^2\cos2\theta\cos2\varphi\bigr)+\frac{\cos\theta}{r^2\sin\theta}\bigl(r^2\sin2\theta\cos2\varphi\bigr)+\frac{1}{r^2\sin^2\theta}\bigl(-4r^2\sin^2\theta\cos2\varphi\bigr) $$

である.$r,\theta,\varphi$ の依存分を整理すると($\sin2\theta=2\sin\theta\cos\theta$ に注意して4番目の項を計算すると $\dfrac{\cos\theta}{\sin\theta}\cdot2\sin\theta\cos\theta\cos2\varphi=2\cos^2\theta\cos2\varphi$ になる),

$$ \nabla^2u=\cos2\varphi\Bigl(2\sin^2\theta+4\sin^2\theta+2\cos2\theta+2\cos^2\theta-4\Bigr) $$

括弧の中を,$\cos2\theta=2\cos^2\theta-1$(第40章以前で使った倍角公式,あるいは $\cos2\theta=1-2\sin^2\theta$ でもよい)で書き換えると,

$$ 2\sin^2\theta+4\sin^2\theta+2(2\cos^2\theta-1)+2\cos^2\theta-4=6\sin^2\theta+6\cos^2\theta-6=6(\sin^2\theta+\cos^2\theta)-6=6-6=0 $$

となるので,$\nabla^2u=\cos2\varphi\cdot0=0$ であり,たしかにラプラス方程式を満たす.ヒントの恒等式より $u=r^2\sin^2\theta\cos2\varphi=(r\sin\theta\cos\varphi)^2-(r\sin\theta\sin\varphi)^2=x^2-y^2$ なので,これは例題44.2(極座標での確認)と同じ調和関数を,今度は球座標という3変数の座標系で確認したことになる(sympyで検算済み).

第45章 シュレーディンガー方程式(直交座標)と無限井戸型ポテンシャル

演習45.1 エネルギー準位の比

解答

無限井戸型ポテンシャル(半幅 $a$)のエネルギー固有値は

$$ E_n=\frac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}n^2\qquad(n=1,2,3,\dots) $$

であった.$E_5$ と $E_2$ を計算すると,

$$ E_5=\frac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}\cdot5^2=\frac{25\hbar^2\pi^2}{8ma^2},\qquad E_2=\frac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}\cdot2^2=\frac{4\hbar^2\pi^2}{8ma^2} $$

比をとると,共通因子 $\dfrac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}$ が約分されて消える.

$$ \frac{E_5}{E_2}=\frac{25\hbar^2\pi^2/(8ma^2)}{4\hbar^2\pi^2/(8ma^2)}=\frac{25}{4} $$

一般に,$E_n=\dfrac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}n^2=E_1\cdot n^2$($E_1=\dfrac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}$ は $n=1$ のときの値)と書けるので,

$$ \frac{E_n}{E_1}=\frac{E_1\cdot n^2}{E_1}=n^2 $$

である.$a,m,\hbar$ はどの $n$ についても同じ値なので,$E_n/E_1$ を計算する際にはすべて約分されて消え,比は $n^2$ だけで決まる.(sympyで $E_n=\hbar^2\pi^2n^2/(8ma^2)$ を定義し,$E_5/E_2=25/4$,$E_n/E_1=n^2$ となることを確認済み.)

演習45.2 2次元井戸の「偶然の」縮退

解答

2次元無限井戸型ポテンシャルのエネルギーは $E_{n_1,n_2}=\dfrac{\pi^2\hbar^2}{8ma^2}(n_1^2+n_2^2)$ であり,$n_1^2+n_2^2$ の値だけで決まる.$n_1\le n_2$ の組についていくつか計算してみよう.

$$ \begin{array}{c|cccccccc} (n_1,n_2) & (1,1) & (1,2) & (2,2) & (1,3) & (2,3) & (1,4) & (3,3) & (2,4)\\\hline n_1^2+n_2^2 & 2 & 5 & 8 & 10 & 13 & 17 & 18 & 20 \end{array} $$

のように $n_1^2+n_2^2$ を並べていくと,$(1,7)$ と $(5,5)$ がともに

$$ 1^2+7^2=1+49=50,\qquad 5^2+5^2=25+25=50 $$

を与えることがわかる.$1^2+7^2\le50$ の範囲でほかに $n_1^2+n_2^2=50$ となる正の整数の組($n_1\le n_2$)は存在しない(実際に $n_1=1,\dots,7$ について $n_1^2+n_2^2=50$ を解くと $n_2^2=50-n_1^2$ が平方数になるのは $n_1=1$($n_2^2=49$)と $n_1=5$($n_2^2=25$)のときだけである).したがって,$(n_1,n_2)=(1,7)$(およびその入れ替え $(7,1)$)と $(5,5)$ の3つの状態がすべて同じエネルギー

$$ E_{1,7}=E_{7,1}=E_{5,5}=\frac{\pi^2\hbar^2}{8ma^2}\cdot50=\frac{25\pi^2\hbar^2}{4ma^2} $$

を持つ.$(1,7)$ と $(7,1)$ の縮退は単純な入れ替えによるものだが,$(5,5)$ が同じエネルギーに加わるのは,$1^2+7^2=5^2+5^2$ という数どうしの偶然の一致($1+49=25+25$)によるものであり,2次元井戸の対称性だけからは説明できない「余分な」縮退である.(Pythonで $n_1,n_2=1,\dots,7$ の全組について $n_1^2+n_2^2$ を計算し,$n_1\le n_2$ の組の中で重複する最小の値が $50$($(1,7)$ と $(5,5)$)であることを確認済み.)

演習45.3 運動量演算子とエネルギー演算子の交換子

解答

$f=f(x,t)$ を(2階までの偏微分が存在する)任意の十分滑らかな関数とする.定義より

$$ \hat p\hat Ef=\frac\hbar i\pdiff{}{x}\left(-\frac\hbar i\pdiff ft\right) =-\frac{\hbar^2}{i^2}\pdiff{}{x}\left(\pdiff ft\right) =\hbar^2\pdiff{^2f}{x\partial t} $$

($-\dfrac{1}{i^2}=-\dfrac1{-1}=1$ を使った.)同様に

$$ \hat E\hat pf=-\frac\hbar i\pdiff{}{t}\left(\frac\hbar i\pdiff fx\right) =-\frac{\hbar^2}{i^2}\pdiff{}{t}\left(\pdiff fx\right) =\hbar^2\pdiff{^2f}{t\partial x} $$

したがって,交換子は

$$ [\hat p,\hat E]f=\hat p\hat Ef-\hat E\hat pf=\hbar^2\left(\pdiff{^2f}{x\partial t}-\pdiff{^2f}{t\partial x}\right) $$

である.ここで,$f$ が十分滑らかな(2階の偏導関数が連続な)関数であれば,偏微分の順序を交換しても結果は変わらない,というクレロー(Clairaut)の定理(あるいはシュワルツの定理)が成り立つ.

$$ \pdiff{^2f}{x\partial t}=\pdiff{^2f}{t\partial x} $$

したがって,かっこの中身は恒等的に $0$ になり,

$$ [\hat p,\hat E]f=\hbar^2\cdot0=0 $$

が任意の $f$ について成り立つ.すなわち $[\hat p,\hat E]=0$(可換)である.(sympyで,一般の記号関数 $f(x,t)$ に対して $\hat p\hat Ef-\hat E\hat pf$ を計算し,恒等的に $0$ になることを確認済み.)

演習45.4 初期状態が基底状態そのものである場合

解答

45.4節で求めた一般解は,$n$ が奇数のとき

$$ \psi(x,t)=\frac1{\sqrt a}\,e^{-i\frac{\hbar\pi^2}{8ma^2}n^2t}\cos\frac{n\pi}{2a}x $$

$n$ が偶数のときは $\cos$ の代わりに $\sin$ になる形であった.初期条件 $\psi(x,0)=\psi_1(x)=\dfrac1{\sqrt a}\cos\dfrac\pi{2a}x$ を満たすためには,$t=0$ を代入した式が $\psi_1(x)$ に一致しなければならない.一般解に $t=0$ を代入すると($e^0=1$ なので),

$$ \psi(x,0)=\frac1{\sqrt a}\cos\frac{n\pi}{2a}x $$

($n$ が奇数の場合)となる.これが $\dfrac1{\sqrt a}\cos\dfrac\pi{2a}x$ に一致するのは,ちょうど $n=1$ のときである($n=3,5,\dots$ では $\cos\dfrac{3\pi}{2a}x$ などになり,$\cos\dfrac\pi{2a}x$ とは異なる関数になる).したがって,求める解は $n=1$ の項だけであり,

$$ \psi(x,t)=\frac1{\sqrt a}\,e^{-i\frac{\hbar\pi^2}{8ma^2}t}\cos\frac{\pi}{2a}x=\psi_1(x)\,e^{-iE_1t/\hbar} $$

である($E_1=\hbar^2\pi^2/(8ma^2)$).つまり,初期状態がちょうど1つの固有関数(ここでは基底状態)そのものであるときは,時間発展は「その状態自身に,エネルギー $E_1$ に対応する位相因子 $e^{-iE_1t/\hbar}$ を掛けるだけ」というきわめて単純な形になる.(初期条件がいくつかの固有関数の重ね合わせである場合は,各項がそれぞれ自分自身のエネルギーに応じた位相因子を持つので,全体としてはもっと複雑な時間変化——「うなり」のような現象——が起こる.これは本章の範囲を超えるので,ここでは初期状態が単一の固有関数である場合だけを扱った.sympyで,$\psi(x,t)=\psi_1(x)e^{-iE_1t/\hbar}$ が時間依存シュレーディンガー方程式を満たし,かつ $t=0$ で $\psi_1(x)$ に一致することを確認済み.)

演習45.5 2次元の規格化定数(偶数×偶数の場合)

解答

$n_1,n_2$ がともに偶数のとき,$\psi(x,y)=B_1B_2\sin\dfrac{n_1\pi}{2a}x\sin\dfrac{n_2\pi}{2a}y$ である.規格化条件は

$$ \iint_{-\infty}^{\infty}\abs{\psi(x,y)}^2\,dx\,dy=1 $$

であり,井戸の外側では $\psi=0$ なので,積分は $[-a,a]\times[-a,a]$ の範囲だけでよい.$\psi$ が $x$ だけの関数と $y$ だけの関数の積なので,2重積分は2つの1変数積分の積に分解できる.

$$ \iint_{-a}^{a}B_1^2B_2^2\sin^2\frac{n_1\pi}{2a}x\sin^2\frac{n_2\pi}{2a}y\,dx\,dy =B_1^2B_2^2\left(\int_{-a}^{a}\sin^2\frac{n_1\pi}{2a}x\,dx\right)\left(\int_{-a}^{a}\sin^2\frac{n_2\pi}{2a}y\,dy\right) $$

45.3節の規格化計算で示したとおり,半角公式 $\sin^2\theta=\dfrac{1-\cos2\theta}2$ を使うと,正の整数 $n$ に対して

$$ \int_{-a}^{a}\sin^2\frac{n\pi}{2a}u\,du=\int_{-a}^{a}\frac{1-\cos\frac{n\pi}au}2\,du=\frac12(2a)-\frac12\left[\frac{a}{n\pi}\sin\frac{n\pi}au\right]_{-a}^{a}=a-0=a $$

($\cos$ の項の積分は,$\sin(n\pi)=\sin(-n\pi)=0$ となるため消える.)が成り立つ.これを $x$ 積分・$y$ 積分の両方に適用すると,

$$ B_1^2B_2^2\cdot a\cdot a=B_1^2B_2^2a^2=1 $$

したがって($B_1,B_2$ を正の実数にとれば)

$$ B_1B_2=\frac1a $$

が得られる.これは45.5節で述べた値と一致する.(sympyで $\int_{-a}^a\sin^2(n\pi u/2a)\,du=a$($n$ が正の整数のとき)を確認済み.)

演習45.6 なぜ $\hat H\psi=E\psi$ は「時間に依存しない」のか

解答

$\hat H\psi=E\psi$ という式それ自体は,確かに時刻 $t$ を表す文字を1つも含んでいない.しかし,「時間に依存しない」という呼び名が指しているのは,方程式に $t$ という文字が現れるかどうかではなく,$E$ という記号の意味である.

45.1節の定義45.1にあるとおり,固有値方程式 $\hat A\psi=\lambda\psi$ の $\lambda$ は「$\psi$ によらない定数」でなければならない.$\hat H\psi=E\psi$ における $E$ も,まさにこの意味での定数——時刻によって変化しない,ただ1つの実数——である.つまり $\hat H\psi=E\psi$ を書いた時点で,すでに「この系のエネルギーは時間が経っても変化しない特定の値 $E$ に定まっている」という物理的な仮定(定常状態の仮定)が織り込まれている.

これに対し,45.2節で導いた一般の時間発展の方程式 $\hat H\psi=\hat E\psi$(つまり $-\dfrac{\hbar^2}{2m}\pdiff{^2\psi}{x^2}+V\psi=-\dfrac\hbar i\pdiff\psi t$)では,$E$ の代わりにエネルギー演算子 $\hat E=-\dfrac\hbar i\pdiff{}t$ が現れている.演算子 $\hat E$ は「$t$ で微分する」という操作そのものであり,$\psi$ が時刻とともにどう変化するかを直接記述する.この場合,波動関数 $\psi(x,t)$ は一般に時刻 $t$ に依存して形を変えることが許される.

まとめると——$\hat H\psi=E\psi$ の $E$ は「時間が経っても変わらない1つの数」であるのに対し,$\hat H\psi=\hat E\psi$ の $\hat E$ は「$t$ 方向の変化そのものを表す演算子」である.前者を「時間に依存しない」と呼ぶのは,方程式の見た目に $t$ が出てこないからではなく,そこに現れる $E$ が時間変化しない定数であることを表明しているからである.(45.2節の「注意:『時間に依存しない』と『時間に依存する』の関係」で述べたとおり,実際には $\psi(x,t)=\psi(x)e^{-iEt/\hbar}$ という形で,$\hat H\psi=E\psi$ の解は $\hat H\psi=\hat E\psi$ の特別な解になっている.)

第46章 調和振動子とモースポテンシャル

演習46.1 エルミート級数の係数 $a_2,a_4$

解答

漸化式は $a_{k+2}=\dfrac{2k+1-\varepsilon}{(k+1)(k+2)}a_k$ である.

$k=0$:$a_2=\dfrac{2\cdot0+1-\varepsilon}{1\cdot2}a_0=\dfrac{1-\varepsilon}{2}a_0=-\dfrac{\varepsilon-1}{2}a_0$.

$k=2$:$a_4=\dfrac{2\cdot2+1-\varepsilon}{3\cdot4}a_2=\dfrac{5-\varepsilon}{12}a_2=\dfrac{5-\varepsilon}{12}\times\left(-\frac{\varepsilon-1}{2}a_0\right)=-\frac{(5-\varepsilon)(\varepsilon-1)}{24}a_0=\frac{(\varepsilon-1)(\varepsilon-5)}{24}a_0$.

まとめると

$$ a_2=-\frac{\varepsilon-1}{2}a_0,\qquad a_4=\frac{(\varepsilon-1)(\varepsilon-5)}{24}a_0=\frac{(\varepsilon-1)(\varepsilon-5)}{4!}a_0 $$

である.$4!=24$ なので後者の書き方は本文(46.2.1節)の式と一致する.

演習46.2 $n=2$ の波動関数

解答

$n=2$ のとき,規格化定数は

$$ C_2=\left(\frac{m\omega_0}{\pi\hbar}\right)^{1/4}\frac1{\sqrt{2^2\cdot2!}}=\left(\frac{m\omega_0}{\pi\hbar}\right)^{1/4}\frac1{\sqrt8} $$

である($2^2\cdot2!=4\times2=8$).$u=\sqrt{m\omega_0/\hbar}\,x$ とおくと $H_2(u)=4u^2-2=4\dfrac{m\omega_0}{\hbar}x^2-2$ であるから,

$$ \psi_2(x)=\left(\frac{m\omega_0}{\pi\hbar}\right)^{1/4}\frac1{\sqrt8}\left(4\frac{m\omega_0}{\hbar}x^2-2\right)e^{-\frac{m\omega_0}{2\hbar}x^2} $$

と書ける.$\dfrac1{\sqrt8}\times2=\dfrac2{\sqrt8}=\dfrac1{\sqrt2}$ を使ってさらに整理すると,

$$ \psi_2(x)=\left(\frac{m\omega_0}{\pi\hbar}\right)^{1/4}\frac1{\sqrt2}\left(2\frac{m\omega_0}{\hbar}x^2-1\right)e^{-\frac{m\omega_0}{2\hbar}x^2} $$

とも書ける(sympyで $\displaystyle\int_{-\infty}^\infty\psi_2(x)^2\dd x=1$ となることを確認済み).

演習46.3 半無限領域のエネルギー準位($n=0,1$)

解答

半無限領域のエネルギーは $E=(2n+\frac32)\hbar\omega_0$($n=0,1,2,\ldots$)であった.

$n=0$:$E=\left(2\cdot0+\dfrac32\right)\hbar\omega_0=\dfrac32\hbar\omega_0$.対応する $n'=2n+1=1$($H_1$,1次のエルミート多項式).

$n=1$:$E=\left(2\cdot1+\dfrac32\right)\hbar\omega_0=\dfrac72\hbar\omega_0$.対応する $n'=2\cdot1+1=3$($H_3$,3次のエルミート多項式).

したがって,半無限領域の $n=1$(第1励起状態)は,全空間の調和振動子でいう第3励起状態($n'=3$,$H_3(u)=8u^3-12u$ を使う奇関数の波動関数)にちょうど対応する.半無限領域では $n$ が1つ増えるごとに,全空間の量子数は $n'=2n+1$ の規則で2つずつ増えていく(奇数次のエルミート関数だけを飛び飛びに使うため).

演習46.4 3次元等方調和振動子の縮退度($N=2$)

解答

$n_1+n_2+n_3=2$($n_1,n_2,n_3$ は0以上の整数)を満たす組をすべて書き出す.どれか1つが $2$ で残り2つが $0$ の場合と,どれか2つが $1$ ずつで残り1つが $0$ の場合がある.

$$ (2,0,0),\ (0,2,0),\ (0,0,2),\ (1,1,0),\ (1,0,1),\ (0,1,1) $$

の6通りである.一方,定理46.8の公式では $g(2)=\dfrac{(2+1)(2+2)}2=\dfrac{3\times4}2=6$ となり,一致する.これら6つの状態はいずれも $E=\left(2+\frac32\right)\hbar\omega_0=\frac72\hbar\omega_0$ を持つ.

演習46.5 モースポテンシャルの束縛状態の数

解答

$m=\hbar=1$,$K=50$,$D=1$ を $\lambda=\sqrt{2mK}/(\hbar D)$ に代入すると,

$$ \lambda=\frac{\sqrt{2\times1\times50}}{1\times1}=\sqrt{100}=10 $$

である.束縛状態の数は $n_{\max}=\lfloor\lambda-\frac12\rfloor=\lfloor10-0.5\rfloor=\lfloor9.5\rfloor=9$ であるから,許される $n$ は $n=0,1,\ldots,9$ の10通り,すなわち束縛状態は $n_{\max}+1=10$ 個存在する(数値計算で,有限差分法によるハミルトニアンの対角化でも同じ結果が得られることを確認済み——ただしパラメータの値は確認用に別の組を使った.巻末の検算参照).

演習46.6 随伴ラゲール級数の係数($n=2$ の場合)

解答

漸化式は $c_{k+1}=\dfrac{k-n}{(k+1)(k+2\alpha+1)}c_k$ である.$n=2$,$c_0=1$ として順に計算する.

$k=0$:$c_1=\dfrac{0-2}{(1)(0+2\alpha+1)}c_0=\dfrac{-2}{2\alpha+1}=-\dfrac2{2\alpha+1}$.

(注:本文の定理46.10・46.11では $g(u)=u^\alpha$ の因子を $f=u^\alpha g$ という形でくくり出した後の方程式を扱っており,$c_1$ の分母 $2\alpha+1$ がそのまま現れる.ここでは $\alpha$ を任意の実数として一般的に計算する.)

$k=1$:$c_2=\dfrac{1-2}{(2)(1+2\alpha+1)}c_1=\dfrac{-1}{2(2\alpha+2)}\times\left(-\frac2{2\alpha+1}\right)=\dfrac{1}{2\alpha+2}\times\frac1{2\alpha+1}=\frac1{(2\alpha+1)(2\alpha+2)}$.

$k=2$:$c_3=\dfrac{2-2}{(3)(2+2\alpha+1)}c_2=\dfrac0{3(2\alpha+3)}c_2=0$.

たしかに分子 $k-n=2-2=0$ になるので $c_3=0$ となり,それ以降の係数もすべて $0$ になる(漸化式の右辺に $c_3=0$ が掛かるため).したがって $g(u)$ は

$$ g(u)=c_0+c_1u+c_2u^2=1-\frac2{2\alpha+1}u+\frac1{(2\alpha+1)(2\alpha+2)}u^2 $$

という,ちょうど2次で止まる多項式になる(sympyで漸化式を実際に $k=0,1,2,3$ について代入計算し,$c_1=-2/(2\alpha+1)$,$c_2=1/(2(\alpha+1)(2\alpha+1))$,$c_3=0$ となることを確認済み——巻末の検算参照).

第47章 シュレーディンガー方程式(極座標・円柱座標)とベッセル関数

演習47.1 $J_{-1}(x)=-J_1(x)$ の級数による確認

解答

第1種ベッセル関数の定義(第41章定義41.2)に $\alpha=-1$ を代入すると,

$$ J_{-1}(x)=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{k!\,\Gamma(-1+k+1)}\left(\frac x2\right)^{2k-1}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{k!\,\Gamma(k)}\left(\frac x2\right)^{2k-1} $$

となる.ここで $k=0$ の項は $\Gamma(0)$ を含むが,ガンマ関数は $0$ 以下の整数で定義されない($1/\Gamma(0)=0$ とみなす,第41章41.3.4節の考え方)ので,この項は消える.したがって和は実質的に $k=1$ から始まる.和の添字を $k=j+1$($j=0,1,2,\dots$)と付け替えると,$k!=(j+1)!$,$\Gamma(k)=\Gamma(j+1)=j!$,$2k-1=2j+1$ であるから,

$$ J_{-1}(x)=\sum_{j=0}^{\infty}\frac{(-1)^{j+1}}{(j+1)!\,j!}\left(\frac x2\right)^{2j+1} =-\sum_{j=0}^{\infty}\frac{(-1)^{j}}{j!\,(j+1)!}\left(\frac x2\right)^{2j+1} $$

($(-1)^{j+1}=-(-1)^j$ を使った).一方,$J_1(x)$ は $\alpha=1$ を代入して $\Gamma(1+k+1)=(k+1)!$ より,

$$ J_1(x)=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{k!\,(k+1)!}\left(\frac x2\right)^{2k+1} $$

である.両者を見比べると,$J_{-1}(x)$ の和の中身は,$J_1(x)$ の和の中身とまったく同じ形($j$ を $k$ と読み替えれば一致)をしているから,

$$ J_{-1}(x)=-J_1(x) $$

が,級数の各項($k=0,1,2,\dots$)ごとに完全に確認できた(scipy.special.jvで $x=0.5,1,\dots,10$ の数値的検証も一致:最大誤差 $10^{-15}$ 未満).

演習47.2 $(m=0,\ l=2)$ のエネルギー

解答

ベッセル関数 $J_0$ の2番目の正の零点は $\lambda_0(2)=5.5201$(本章表47.1)である.円形領域のエネルギー準位の公式

$$ E_m(l)=\frac{\hbar^2}{2m_ea^2}\lambda_m^2(l) $$

に $m=0,\ l=2$ を代入すると,

$$ E_0(2)=\frac{\hbar^2}{2m_ea^2}(5.5201)^2=\frac{\hbar^2}{2m_ea^2}\times30.4715\fallingdotseq15.236\cdot\frac{\hbar^2}{m_ea^2} $$

である(scipy.special.jn\_zerosで検算済み:$\lambda_0(2)=5.520078\ldots$,$E_0(2)=15.2356\ldots\ \hbar^2/(m_ea^2)$).これは例題47.3で求めた基底状態 $E_0(1)\approx2.8916\,\hbar^2/(m_ea^2)$ のおよそ$5.3$倍であり,同じ $m=0$ でも動径方向に1つ多く振動する分($l=1\to2$),エネルギーが大きく上昇することがわかる.

演習47.3 $z$ 方向を周期境界条件に変えた場合

解答

$Z(z)=D_0\cos\omega z+E_0\sin\omega z$ に対し,周期境界条件 $Z(z_0)=Z(-z_0)$ と $Z'(z_0)=Z'(-z_0)$ を考える.$\cos$ は偶関数,$\sin$ は奇関数だから,

$$ Z(z_0)-Z(-z_0)=\bigl(D_0\cos\omega z_0+E_0\sin\omega z_0\bigr)-\bigl(D_0\cos\omega z_0-E_0\sin\omega z_0\bigr)=2E_0\sin\omega z_0 $$

である.これが $0$ になる条件は $E_0=0$ または $\sin\omega z_0=0$ である.次に,$Z'(z)=-D_0\omega\sin\omega z+E_0\omega\cos\omega z$ を使うと,

$$ Z'(z_0)-Z'(-z_0)=\bigl(-D_0\omega\sin\omega z_0+E_0\omega\cos\omega z_0\bigr)-\bigl(D_0\omega\sin\omega z_0+E_0\omega\cos\omega z_0\bigr)=-2D_0\omega\sin\omega z_0 $$

であり,これが $0$ になる条件は $D_0=0$ または $\sin\omega z_0=0$ である.

もし $D_0,E_0$ の両方を $0$ にしてしまうと,$Z(z)$ が恒等的に $0$ になり物理的な解として意味をなさない.したがって,$D_0,E_0$ をどちらも $0$ にせずに両方の条件を同時に満たすには,

$$ \sin\omega z_0=0\qquad\therefore\quad\omega z_0=n\pi\ (n=1,2,3,\dots)\qquad\text{すなわち}\qquad\omega=\frac{n\pi}{z_0} $$

でなければならない.このとき $D_0,E_0$ はどちらも自由に選べる($D_0\cos(n\pi z/z_0)+E_0\sin(n\pi z/z_0)$ がそのまま解になる).本文(ディリクレ型境界条件,$Z(\pm z_0)=0$)での量子化条件が $\omega z_0=l\pi/2$($l$は正の整数)であったのに対し,周期境界条件では $\omega z_0=n\pi$(周期の長さが $2z_0$ の整数倍の逆数,すなわち波長が円柱の高さ全体 $2z_0$ の整数分の1になる条件)となり,量子化の刻み幅が異なることがわかる.sympyで $D_0,E_0$ を残したまま $Z(z_0)-Z(-z_0)=2E_0\sin(\omega z_0)$,$Z'(z_0)-Z'(-z_0)=-2D_0\omega\sin(\omega z_0)$ となることを検算済み.

演習47.4 角度方向の周期性と $m$ の整数性

解答

$m=2$ のとき,$\Theta(\theta)=e^{i2\theta}$ に $\theta\to\theta+2\pi$ を代入すると,

$$ \Theta(\theta+2\pi)=e^{i2(\theta+2\pi)}=e^{i2\theta}\cdot e^{i4\pi} $$

である.オイラーの公式より $e^{i4\pi}=\cos4\pi+i\sin4\pi=1+0i=1$($4\pi$ は $2\pi$ の整数倍)だから,$\Theta(\theta+2\pi)=e^{i2\theta}\times1=\Theta(\theta)$ となり,周期性が確かに成り立つ.

一方,$m=2.3$(整数でない)の場合は,

$$ \Theta(\theta+2\pi)=e^{i2.3\theta}\cdot e^{i2\pi\times2.3}=e^{i2.3\theta}\cdot e^{i4.6\pi} $$

となる.$e^{i4.6\pi}=\cos(4.6\pi)+i\sin(4.6\pi)$ を計算する.$4.6\pi=4\pi+0.6\pi$ であり,$\cos,\sin$ は周期 $2\pi$ なので $4\pi$ 分は無視できて,$\cos(0.6\pi)\fallingdotseq-0.309$,$\sin(0.6\pi)\fallingdotseq0.951$ である.したがって

$$ e^{i4.6\pi}\fallingdotseq-0.309+0.951i\neq1 $$

となり,$\Theta(\theta+2\pi)=(-0.309+0.951i)\,\Theta(\theta)\neq\Theta(\theta)$ である.すなわち,$m$ が整数でないと周期境界条件は成立しない.これが,47.2.3節の定理47.1で証明した「周期境界条件から $m\in\mathbb Z$ が導かれる」という主張の具体例である(sympyで $e^{i2\pi\times2.3}$ の数値を計算し,$1$ から有意にずれることを検算済み).

演習47.5 規格化定数 $A_0$ の数値積分による確認

解答

$a=1$ とし,$\lambda_0(1)=2.40483$(scipy.special.jn\_zerosで計算)を使う.数値積分(scipy.integrate.quad)で

$$ A_0^{\text{(積分)}}=\int_0^1 J_0^2(2.40483\,r)\,r\,dr $$

を計算すると,$A_0^{\text{(積分)}}\fallingdotseq0.1347571$ を得る.一方,本章47.2.5節の公式は $A_0=\dfrac{a^2}2J_1^2(\lambda_0(1))$($a=1$)であるから,

$$ A_0^{\text{(公式)}}=\frac12J_1^2(2.40483)=\frac12\times(0.519153)^2\fallingdotseq0.1347571 $$

となり,数値積分の結果 $A_0^{\text{(積分)}}$ と公式の値 $A_0^{\text{(公式)}}$ は,小数第7位まで完全に一致する(scipyで検算済み,両者の差は $10^{-14}$ 未満).これは,47.2.5節で「証明せずに認めて使う」とした一般公式(ロンメルの積分公式)が,少なくともこの具体例では正しいことを裏付けている.

演習47.6 漸化式を使って $J_2(x)$ を $J_0,J_1$ で表す

解答

本章例題47.5で導いた漸化式 $J_{m-1}(x)+J_{m+1}(x)=\dfrac{2m}{x}J_m(x)$ に $m=1$ を代入すると,

$$ J_0(x)+J_2(x)=\frac{2}{x}J_1(x) $$

となる.これを $J_2(x)$ について解くと,

$$ J_2(x)=\frac2xJ_1(x)-J_0(x) $$

を得る.これで,$J_2(x)$ が,より次数の低い $J_0(x),J_1(x)$(と初等的な $2/x$ の掛け算・引き算)だけを使って表せた——高次のベッセル関数を計算機で扱うとき,このように低次の関数から漸化式でどんどん作っていく方法(上向き漸化式)がよく使われる.scipy.special.jvで $x=0.5,1,2,\dots,10$ の複数の点において,右辺 $\dfrac2xJ_1(x)-J_0(x)$ と左辺 $J_2(x)$ の値を比較したところ,最大誤差は $10^{-15}$ 未満であり,完全に一致することを確認した.

第48章 水素原子のシュレーディンガー方程式(球座標)

演習48.1 $n=2,3$ で許される量子数の組

解答

方位量子数の範囲は $\ell=0,1,\dots,n-1$,各 $\ell$ に対する磁気量子数の範囲は $m=-\ell,-\ell+1,\dots,\ell$ である.

(a) $n=2$ のとき.$\ell$ は $0,1$ の2通り($\ell\le n-1=1$).

合計 $1+3=4=n^2$ 通りであり,本文の縮退度の公式と一致する.

(b) $n=3$ のとき.$\ell\le n-1=2$ より,$\ell=0,1,2$(3s,3p,3dに対応)の3通りである.

演習48.2 $n=3,\ell=0$(3s状態)のラゲールの陪多項式

解答

$n=3,\ell=0$ より $p=2\ell+1=1$,$q=n+\ell=3$ である.定義式より,和は $k=1,2,3$ の3項からなる.

$$ k=1:\ \frac{(-1)^1(3!)^2}{(1-1)!\,1!\,(3-1)!}\alpha^{1-1}=\frac{-36}{1\cdot1\cdot2}=-18 $$ $$ k=2:\ \frac{(-1)^2(3!)^2}{(2-1)!\,2!\,(3-2)!}\alpha^{2-1}=\frac{36}{1\cdot2\cdot1}\alpha=18\alpha $$ $$ k=3:\ \frac{(-1)^3(3!)^2}{(3-1)!\,3!\,(3-3)!}\alpha^{3-1}=\frac{-36}{2\cdot6\cdot1}\alpha^2=-3\alpha^2 $$

したがって

$$ L_3^1(\alpha)=-3\alpha^2+18\alpha-18=-3(\alpha^2-6\alpha+6) $$

である.これが $p=1,q=3$ の場合の方程式 $\alpha y''+(2-\alpha)y'+2y=0$($p+1=2$,$q-p=2$)を満たすことを確認する.$y=-3\alpha^2+18\alpha-18$ なら $y'=-6\alpha+18$,$y''=-6$ なので,

$$ \alpha(-6)+(2-\alpha)(-6\alpha+18)+2(-3\alpha^2+18\alpha-18) $$

を展開すると,$-6\alpha+(-12\alpha+36+6\alpha^2-18\alpha)+(-6\alpha^2+36\alpha-36)=-6\alpha-30\alpha+36+6\alpha^2-6\alpha^2+36\alpha-36=0$ となり($\alpha$ の1次の項 $-6-30+36=0$,定数項 $36-36=0$,2次の項 $6-6=0$),たしかに $0$ になる(sympyでも確認済み).

演習48.3 $\ell=1$ のルジャンドルの陪関数

解答

$\ell=1$ のルジャンドル多項式は $P_1(x)=x$ である.

$m=0$:$\Theta(x)=b_0(1-x^2)^0\dfrac{d^0P_1}{dx^0}=b_0x$.$x=\cos\theta$ に戻すと $\Theta(\theta)=b_0\cos\theta$.

$m=1$:$\Theta(x)=b_0(1-x^2)^{1/2}\dfrac{dP_1}{dx}=b_0\sqrt{1-x^2}\cdot1=b_0\sqrt{1-x^2}$.$1-x^2=1-\cos^2\theta=\sin^2\theta$($\sin\theta\ge0$,$\theta\in[0,\pi]$)なので,$\Theta(\theta)=b_0\sin\theta$.

$m=-1$:本文で確認したとおり,式の右辺は $|m|$ で決まるので,$|m|=1$ の場合と同じ式を使う.したがって $\Theta(\theta)=b_0\sin\theta$($m=1$ の場合とまったく同じ関数形.違いは,全体の波動関数に掛かる方位角部分 $\bar\Phi_m(\varphi)=C_0e^{im\varphi}$ の符号——$e^{+i\varphi}$ か $e^{-i\varphi}$ か——に現れる).

演習48.4 リュードベリ定数の導出

解答

主量子数 $n_2$ から $n_1$($n_1\lt n_2$)へ落ちるときに放出される光子のエネルギーは,高いほうの準位から低いほうの準位を引いたもの $E_{n_2}-E_{n_1}$ である.エネルギー準位の公式 $E_n=-\dfrac{m_ee_0^4}{8\varepsilon_0^2h^2}\cdot\dfrac1{n^2}$ を代入すると,

$$ E_{n_2}-E_{n_1}=-\frac{m_ee_0^4}{8\varepsilon_0^2h^2}\left(\frac1{n_2^2}-\frac1{n_1^2}\right)=\frac{m_ee_0^4}{8\varepsilon_0^2h^2}\left(\frac1{n_1^2}-\frac1{n_2^2}\right) $$

($n_1\lt n_2$ なので $1/n_1^2\gt1/n_2^2$,したがって右辺は正——エネルギーが放出される,という物理的な向きと合っている).光子のエネルギーは $\dfrac{hc}{\lambda}$ なので,

$$ \frac{hc}{\lambda}=\frac{m_ee_0^4}{8\varepsilon_0^2h^2}\left(\frac1{n_1^2}-\frac1{n_2^2}\right) $$

両辺を $hc$ で割ると,

$$ \frac1\lambda=\frac{m_ee_0^4}{8\varepsilon_0^2h^3c}\left(\frac1{n_1^2}-\frac1{n_2^2}\right) $$

となる.これを $\dfrac1\lambda=R_H\left(\dfrac1{n_1^2}-\dfrac1{n_2^2}\right)$ の形と見比べると,

$$ R_H=\frac{m_ee_0^4}{8\varepsilon_0^2h^3c} $$

である.数値を代入すると($m_e=9.109\times10^{-31}\,\text{kg}$,$e_0=1.602\times10^{-19}\,\text C$,$\varepsilon_0=8.854\times10^{-12}\,\text{F/m}$,$h=6.626\times10^{-34}\,\text{J\,s}$,$c=2.998\times10^8\,\text{m/s}$),$R_H\approx1.097\times10^7\,\text m^{-1}$ となり,実験的に知られているリュードベリ定数の値と一致する(scipy.constantsの精密値を使ってsympy/numpyで検算済み——1%以内で一致).

演習48.5 1s状態の動径確率密度が最大になる半径

解答

$R_{10}(r)\propto e^{-r/a_0}$ なので,動径方向の確率密度は $f(r):=r^2R_{10}(r)^2\propto r^2e^{-2r/a_0}$ である(比例定数は最大値を与える $r$ に影響しないので $1$ としてよい).積の微分公式を使うと,

$$ f'(r)=2re^{-2r/a_0}+r^2\cdot\left(-\frac2{a_0}\right)e^{-2r/a_0}=2re^{-2r/a_0}\left(1-\frac r{a_0}\right) $$

である(共通因子 $2re^{-2r/a_0}$ でくくった).$f'(r)=0$ となるのは,$r=0$ または $1-r/a_0=0$(すなわち $r=a_0$)のときである($e^{-2r/a_0}$ は決して $0$ にならない).$r=0$ では $f(0)=0$(確率密度が最小,これは境界の端点であって極大ではない).$r=a_0$ が極大かどうかを2階微分で確認する.

$$ f''(r)=2e^{-2r/a_0}\left(1-\frac ra_0\right)+2r\cdot\left(-\frac2{a_0}\right)e^{-2r/a_0}\left(1-\frac r{a_0}\right)+2re^{-2r/a_0}\cdot\left(-\frac1{a_0}\right) $$

に $r=a_0$ を代入すると,$1-r/a_0=0$ になる項がすべて消え,最後の項だけが残る.

$$ f''(a_0)=2a_0e^{-2}\cdot\left(-\frac1{a_0}\right)=-2e^{-2}\lt0 $$

2階微分が負なので,$r=a_0$ で $f(r)$ は極大(増減表を書けば,$0\lt r\lt a_0$ で $f'(r)\gt0$(増加),$r\gt a_0$ で $f'(r)\lt0$(減少)となり,$r=a_0$ が唯一の極大点でありグラフ全体の最大値でもあることが分かる).したがって,動径確率密度が最大になる半径は

$$ r=a_0 $$

——ちょうどボーア半径そのものである.これは,ボーアの原子模型で「電子は半径 $a_0$ の円軌道を回っている」とされていたことと,シュレーディンガー方程式の答え「電子は $r=a_0$ 付近に見つかる確率がもっとも高い」がぴったり対応していることを意味する(ただし,シュレーディンガー方程式の描像では,電子は $r=a_0$ の1点にいるのではなく,$r=a_0$ を中心にある広がりを持って分布している——図48.4の1sの曲線を参照).

演習48.6 方位角方向の解の直交性

解答

$\bar\Phi_m(\varphi)=C_0e^{im\varphi}$ の複素共役は,指数の肩の符号だけが反転し $\overline{\bar\Phi_{m'}(\varphi)}=\overline{C_0}e^{-im'\varphi}$ である.したがって,

$$ \int_0^{2\pi}\bar\Phi_m(\varphi)\overline{\bar\Phi_{m'}(\varphi)}\,\dd\varphi =|C_0|^2\int_0^{2\pi}e^{im\varphi}e^{-im'\varphi}\,\dd\varphi =|C_0|^2\int_0^{2\pi}e^{i(m-m')\varphi}\,\dd\varphi $$

となる.$k:=m-m'$($m\neq m'$ なので $k\neq0$ の整数)とおくと,指数関数の原始関数の公式($\displaystyle\int e^{ik\varphi}\dd\varphi=\dfrac{e^{ik\varphi}}{ik}$,$k\neq0$)より,

$$ \int_0^{2\pi}e^{ik\varphi}\,\dd\varphi=\left[\frac{e^{ik\varphi}}{ik}\right]_0^{2\pi}=\frac{e^{i2\pi k}-e^{0}}{ik}=\frac{1-1}{ik}=0 $$

($k$ が整数なので,オイラーの公式より $e^{i2\pi k}=\cos2\pi k+i\sin2\pi k=1+0=1$ である).したがって,$m\neq m'$ のとき積分は $0$ になる($m=m'$ のときは被積分関数が恒等的に $1$ になり,積分は $2\pi\neq0$ である——これが「正規直交」の「正規」の部分に対応する).

この結果が,異なる磁気量子数を持つ2つの水素原子の状態の直交性を保証する理由は次のとおりである.全波動関数の内積(3重積分)は,動径・天頂角・方位角の3つの積分の積に分解できる(変数分離された関数どうしの積分だから).

$$ \int\psi_{n\ell m}\,\overline{\psi_{n'\ell'm'}}\,r^2\sin\theta\,\dd r\,\dd\theta\,\dd\varphi =\left(\int_0^\infty R_{n\ell}R_{n'\ell'}\,r^2\dd r\right)\left(\int_0^\pi\Theta_{\ell m}\Theta_{\ell'm'}\sin\theta\,\dd\theta\right)\left(\int_0^{2\pi}\bar\Phi_m\overline{\bar\Phi_{m'}}\,\dd\varphi\right) $$

右辺の3つの積分のうち,どれか1つでも $0$ になれば,全体の積(3重積分)も $0$ になる.いま示したとおり,$m\neq m'$ であれば方位角部分の積分(3つ目の因子)が自動的に $0$ になるので,動径部分や天頂角部分の積分がどんな値であっても関係なく,$\psi_{n\ell m}$ と $\psi_{n'\ell'm'}$($m\neq m'$)は直交する.これは,量子力学で「異なる固有値に対応する固有関数は直交する」という一般定理(本書の範囲を超える)の,もっとも簡単に確かめられる具体例になっている.

第49章 統計力学と黒体放射 — ボルツマン分布とプランクの放射式

演習49.1 密度が半分になる高度

解答

気体分子の高度分布 $N(z)=N(0)e^{-mgz/kT}$ において,$N(z)=N(0)/2$ となる高度 $z$ を求める.両辺を $N(0)$ で割ると

$$ e^{-\frac{mgz}{kT}}=\frac12 $$

である.両辺の自然対数を取ると(左辺は $\ln e^{X}=X$,右辺は $\ln\dfrac12=-\ln2$),

$$ -\frac{mgz}{kT}=\ln\frac12=-\ln2 $$

両辺に $-1$ を掛けて $z$ について解くと,

$$ z=\frac{kT\ln2}{mg} $$

が得られる.次に,具体的な数値を代入する.空気の平均分子量を $28.97\ \mathrm{g/mol}$ とすると,分子1個あたりの質量は例題49.1と同じ

$$ m=\frac{28.97\times10^{-3}}{6.02214076\times10^{23}}\approx4.8106\times10^{-26}\ \mathrm{kg} $$

である.$k=1.380649\times10^{-23}\ \mathrm{J/K}$,$T=288\ \mathrm K$,$g=9.8\ \mathrm{m/s^2}$,$\ln2\approx0.693147$ を代入すると,

$$ z=\frac{(1.380649\times10^{-23})\times288\times0.693147}{(4.8106\times10^{-26})\times9.8}\approx5846\ \mathrm m\approx5.85\ \mathrm{km} $$

となる(sympy/numpyで検算済み).この高度は,富士山(標高約$3.8\ \mathrm{km}$)よりもさらに高く,旅客機の巡航高度(約$10\ \mathrm{km}$,例題49.1)の6割程度にあたる.例題49.1で「高度1万mで密度が地表の約31%まで下がる」ことを確認したが,今回の結果はそれと矛盾しない——$1$万mでの比 $0.306$ は,$1/2$ よりずっと小さいので,密度が半分になる高度 $z\approx5.85\ \mathrm{km}$ は,当然 $1$万mより低いところにあるはずであり,実際にそうなっている.

演習49.2 $h\nu\ll kT$ となる具体例

解答

まず $h\nu/kT$ の値を計算する.$h=6.62607015\times10^{-34}\ \mathrm{J\,s}$,$\nu=1\ \mathrm{GHz}=1.0\times10^9\ \mathrm{Hz}$,$k=1.380649\times10^{-23}\ \mathrm{J/K}$,$T=300\ \mathrm K$ を用いると,

$$ h\nu=(6.62607015\times10^{-34})\times(1.0\times10^9)\approx6.626\times10^{-25}\ \mathrm J $$ $$ kT=(1.380649\times10^{-23})\times300\approx4.142\times10^{-21}\ \mathrm J $$ $$ \frac{h\nu}{kT}\approx\frac{6.626\times10^{-25}}{4.142\times10^{-21}}\approx1.60\times10^{-4} $$

となり,たしかに $h\nu/kT\approx1.60\times10^{-4}\ll1$ を満たしている(例題49.2の可視光の場合の $h\nu/kT\approx80$ と比べると,実に $5$桁以上小さい.振動数が可視光よりずっと小さい電波では,光子1個分のエネルギー $h\nu$ が熱エネルギー $kT$ に比べて桁違いに小さく,量子効果がほとんど無視できることを意味する).

次に,この $\nu,T$ について,プランクの式(定理49.2)とレーリー・ジーンズの式(公式49.1)の値を数値で比較する.係数 $8\pi\nu^2/c^3$ は共通なので,残りの因子だけを比べればよい.プランクの式の因子は

$$ \frac{h\nu}{e^{h\nu/kT}-1} $$

であり,$h\nu/kT\approx1.60\times10^{-4}$ を代入して数値計算すると($e^{1.60\times10^{-4}}-1\approx1.60\times10^{-4}$ に非常に近い値になる),プランクの式の値は $E_{\text{Planck}}\approx3.8632\times10^{-27}$($8\pi\nu^2/c^3$ を含めた単位体積・単位振動数あたりのエネルギーの値,SI単位)となる.一方,レーリー・ジーンズの式の値は $kT$ をそのまま使って $E_{\text{RJ}}\approx3.8635\times10^{-27}$ となる.相対差は

$$ \frac{|E_{\text{Planck}}-E_{\text{RJ}}|}{E_{\text{RJ}}}\approx8.0\times10^{-5} $$

であり(sympy/numpyで検算済み),両者は小数点以下4桁まで一致するほどよく合う.これは49.3.2項で行った解析的な近似($e^{h\nu/kT}\fallingdotseq1+h\nu/kT$,$h\nu/kT\to0$ の極限でプランクの式がレーリー・ジーンズの式に一致する)が,実際の数値でも正しく成り立っていることを裏付けている.

演習49.3 高振動数極限を自分で展開する

解答

プランクの式の分数部分を,$X:=e^{-h\nu/kT}$($h\nu/kT\gg1$ のとき,$X$ は $0$ に近い小さな正の数になる)を使って書き直す.まず,分母 $e^{h\nu/kT}-1$ の分子・分母に $e^{-h\nu/kT}=X$ を掛けると,

$$ \frac{1}{e^{h\nu/kT}-1}=\frac{1}{e^{h\nu/kT}-1}\times\frac{X}{X}=\frac{X\cdot e^{-h\nu/kT}\cdot e^{h\nu/kT}}{X\left(e^{h\nu/kT}-1\right)} $$

としてもよいが,もっと見通しよく直接変形しよう.$e^{h\nu/kT}=1/X$ であることに注意すると,

$$ \frac{1}{e^{h\nu/kT}-1}=\frac{1}{\dfrac1X-1}=\frac{1}{\dfrac{1-X}{X}}=\frac{X}{1-X} $$

(分数の分数を,逆数を掛ける形に直しただけである).ここで $X$ が小さい($X\ll1$)として,$\dfrac{X}{1-X}$ をべき級数に展開する.$\dfrac1{1-X}=1+X+X^2+\cdots$($|X|\lt1$ での無限等比級数の和の公式,49.4.1項で使ったのと同じ公式)なので,

$$ \frac{X}{1-X}=X\left(1+X+X^2+\cdots\right)=X+X^2+X^3+\cdots $$

となる.$X$ が十分小さいときは,$X^2$ 以降の項は $X$ そのものに比べてさらに小さく無視でき,$1$次の近似では

$$ \frac{1}{e^{h\nu/kT}-1}=\frac{X}{1-X}\fallingdotseq X=e^{-h\nu/kT} $$

が得られる(sympyの級数展開 \texttt{series} でも,$X+O(X^2)$ となることを確認済み——最低次の項がちょうど $X$ である).これをプランクの式(定理49.2)に代入すると,

$$ E(\nu)\,d\nu=\frac{8\pi\nu^2}{c^3}\cdot h\nu\cdot\frac{1}{e^{h\nu/kT}-1}\,d\nu\ \fallingdotseq\ \frac{8\pi\nu^2}{c^3}\cdot h\nu\cdot e^{-h\nu/kT}\,d\nu $$

となり,これはウィーンの輻射式(公式49.2)とまったく同じ式である.本文49.3.1項では「分母の $-1$ が無視できるほど小さい」という近似から出発したが,ここでは独立に,$X=e^{-h\nu/kT}$ についてのべき級数展開という別の道筋から,同じ結論(高振動数極限でプランクの式はウィーンの式に一致する)に到達できた.

演習49.4 2次元の状態密度

解答

49.5.2項の3次元の議論を,1辺 $L$ の正方形の膜(面積 $A=L^2$)に閉じ込められた2次元の定常波に応用する.3次元のときと同じ理由(境界条件による波数の量子化)により,$x,y$ 方向の波数は

$$ k_1=\frac{n_1\pi}{L},\qquad k_2=\frac{n_2\pi}{L}\qquad(n_1,n_2=1,2,3,\dots) $$

ととびとびの値を取る.波数ベクトル $\bm k=(k_1,k_2)$ の大きさ $K=\sqrt{k_1^2+k_2^2}$ が一定値以下であるような $(n_1,n_2)$ の組の個数は,「$n_1,n_2$ がともに正である,2次元格子の第1象限」の中で,原点を中心とする半径 $K$ の円の中に入る格子点の個数に等しい.3次元の「球の $1/8$(正の卦)」が,2次元では「円の $1/4$(第1象限)」に置き換わる.半径 $K$ の円の面積は $\pi K^2$ であり,その $1/4$ を考える.格子点は $x,y$ それぞれの方向に $\pi/L$ おきに並んでいるので,格子点1個あたりが占める面積は $(\pi/L)^2$ である.したがって,波数の大きさが $K$ 以下であるような $(n_1,n_2)$(正の整数の組)の個数は,

$$ \frac14\cdot\pi K^2\Big/\left(\frac\pi L\right)^2=\frac{\pi K^2L^2}{4\pi^2}=\frac{K^2L^2}{4\pi} $$

である.3次元の場合と同様,電磁波には偏光の自由度が2つあるので,これを2倍すると,実際のモードの総数は

$$ N_{\text{2D}}(K)=2\times\frac{K^2L^2}{4\pi}=\frac{K^2L^2}{2\pi}=\frac{K^2A}{2\pi} $$

($A=L^2$ は正方形の面積).となる.次に,波数 $K$ を振動数 $\nu$ に書き直す.3次元のときと同じ関係 $K=2\pi\nu/c$ を代入すると,

$$ N_{\text{2D}}(\nu)=\frac{1}{2\pi}\left(\frac{2\pi\nu}{c}\right)^2A=\frac{1}{2\pi}\cdot\frac{4\pi^2\nu^2}{c^2}\,A=\frac{2\pi\nu^2}{c^2}\,A $$

である(「振動数 $\nu$ 以下のモードの総数」).これを $\nu$ で微分すると,「振動数 $\nu$ から $\nu+d\nu$ の間にあるモードの数」の,面積 $A$ あたりの増分が得られる.

$$ \frac{dN_{\text{2D}}}{d\nu}=\frac{4\pi\nu}{c^2}\,A $$

最後に,単位面積あたりの状態密度にするには $A$ で割ればよい.

$$ \rho_{\text{2D}}(\nu)=\frac1A\frac{dN_{\text{2D}}}{d\nu}=\frac{4\pi\nu}{c^2} $$

(sympyで検算済み——半径 $K$ の円の面積の計算から,$K=2\pi\nu/c$ の代入,$\nu$ による微分まで,3次元のときとまったく同じ手順を2次元でなぞって確認した.)

3次元の結果 $\rho(\nu)=8\pi\nu^2/c^3\propto\nu^2$ と比べると,2次元では $\rho_{\text{2D}}(\nu)\propto\nu^1$ と,$\nu$ への依存の仕方が1つ次数が下がる.これは,空間の次元が1つ減るごとに,「半径 $K$ の(超)球」の体積を表すべき指数(3次元では $K^3$,2次元では $K^2$)が1つずつ下がるためであり,$\nu$ で微分してべき指数を1つ下げる操作(3次元では $K^3\to\nu^3\to$ 微分で $\nu^2$,2次元では $K^2\to\nu^2\to$ 微分で $\nu^1$)を経ても,次元の差がそのまま $\rho(\nu)$ の $\nu$ 依存性の差として残ることがわかる.

演習49.5 ウィーンの式の全エネルギーは収束する

解答

ウィーンの輻射式(公式49.2)$E(\nu)\,d\nu=\dfrac{8\pi}{c^3}\nu^2\cdot h\nu\cdot e^{-h\nu/kT}\,d\nu=\dfrac{8\pi h}{c^3}\nu^3e^{-h\nu/kT}\,d\nu$ において,$\nu$ に依存しない定数部分を $C:=8\pi h/c^3$ とまとめると,$E(\nu)=C\nu^3e^{-h\nu/kT}$ である.求める全エネルギーは

$$ \int_0^\infty E(\nu)\,d\nu=C\int_0^\infty \nu^3e^{-h\nu/kT}\,d\nu $$

である.この積分を計算するために,無次元の変数 $x:=h\nu/kT$ に置換する.$\nu=\dfrac{kT}{h}x$ であり,両辺を微分すると $d\nu=\dfrac{kT}{h}dx$ となる($k,T,h$ は $\nu$ によらない定数なので,比例定数として微分の外に出る).積分区間は,$\nu:0\to\infty$ に対応して $x:0\to\infty$($\nu\to\infty$ で $x\to\infty$,$\nu=0$ で $x=0$)のまま変わらない.したがって,

$$ \int_0^\infty \nu^3e^{-h\nu/kT}\,d\nu=\int_0^\infty\left(\frac{kT}{h}x\right)^3e^{-x}\cdot\frac{kT}{h}\,dx=\left(\frac{kT}{h}\right)^4\int_0^\infty x^3e^{-x}\,dx $$

($\left(\dfrac{kT}h\right)^3\times\dfrac{kT}h=\left(\dfrac{kT}h\right)^4$ とまとめた.)ここで,$\displaystyle\int_0^\infty x^3e^{-x}\,dx$ は,第32章で学んだガンマ関数 $\Gamma(n)=\displaystyle\int_0^\infty x^{n-1}e^{-x}dx$ の $n=4$ の場合そのものであり,正の整数 $n$ に対して $\Gamma(n)=(n-1)!$ が成り立つ(部分積分を繰り返せば示せる)ので,

$$ \int_0^\infty x^3e^{-x}\,dx=\Gamma(4)=3!=6 $$

という,有限の値になる.したがって,全エネルギーは

$$ \int_0^\infty E(\nu)\,d\nu=C\left(\frac{kT}{h}\right)^4\times6=\frac{8\pi h}{c^3}\cdot\frac{6(kT)^4}{h^4}=\frac{48\pi(kT)^4}{c^3h^3} $$

という有限の値に収束する(sympyの定積分でも $\displaystyle\int_0^\infty C\nu^3e^{-h\nu/kT}d\nu=6C(kT)^4/h^4$ と確認済み).

レーリー・ジーンズの式(例題49.3)では,被積分関数が $\nu^2$($\nu\to\infty$ でも減衰しない多項式)だったために積分が発散したのに対し,ウィーンの式では指数関数 $e^{-h\nu/kT}$ が $\nu\to\infty$ でどんな多項式よりも速く $0$ に近づくため(49.2.3項のイメージ枠でも触れたとおり),$\nu^3$ という多項式の増加を指数関数の減衰が完全に打ち消し,積分が有限の値に収まる.これが,ウィーンの式(そしてそれを含むプランクの式)が紫外破綻を起こさない理由の数学的な核心である.

演習49.6 ノートの続き(発展)

解答

本文49.5.1項では,積→和の公式を2回使って,

$$ \sin\frac{\pi n_1}{L}x\cdot\sin\frac{\pi n_2}{L}y\cdot\sin\frac{\pi n_3}{L}z =-\frac12\sin\frac{\pi n_3}Lz\left\{\cos\frac{\pi(n_1x+n_2y)}L-\cos\frac{\pi(n_1x-n_2y)}L\right\} $$

という中間式まで進んだあと,$\{\ \}$ の中の第1項 $\cos\dfrac{\pi(n_1x+n_2y)}L$ との積だけを展開して,

$$ -\frac12\sin\frac{\pi n_3}Lz\cdot\cos\frac{\pi(n_1x+n_2y)}L=-\frac14\left[\sin\frac{\pi(n_3z+n_1x+n_2y)}L\right. $$

を書きかけたところでノートは終わっている.この続きを完成させよう.記号を簡単にするため,$A:=\dfrac{\pi n_1}Lx$,$B:=\dfrac{\pi n_2}Ly$,$C:=\dfrac{\pi n_3}Lz$ とおく(本文の中間式はこの記法で $\sin A\sin B\sin C=-\dfrac12\sin C\{\cos(A+B)-\cos(A-B)\}$ と書ける).

第1項(ノートが書きかけた項).公式 $\sin\alpha\cos\beta=\dfrac12\{\sin(\alpha+\beta)+\sin(\alpha-\beta)\}$ を,$\alpha=C$,$\beta=A+B$ として使うと,

$$ -\frac12\sin C\cos(A+B)=-\frac12\cdot\frac12\bigl\{\sin(C+A+B)+\sin(C-A-B)\bigr\}=-\frac14\sin(C+A+B)-\frac14\sin(C-A-B) $$

となる.これで,ノートが開いたまま残していた大括弧 $[\ $ の中身が,$\sin(C+A+B)$(ノートに書かれていた項そのもの)と,もう1つの項 $\sin(C-A-B)$ の2つに分かれることがわかる——すなわち,ノートの角括弧を閉じると

$$ -\frac14\left[\sin\frac{\pi(n_3z+n_1x+n_2y)}L+\sin\frac{\pi(n_3z-n_1x-n_2y)}L\right] $$

である.

第2項($\{\ \}$ の中の $-\cos(A-B)$ の項).中間式の $\{\ \}$ の中には,$\cos(A+B)$ の前に $-$ がなく,$\cos(A-B)$ の前に $-$ が付いている($\{\cos(A+B)-\cos(A-B)\}$)ことに注意する.これに,さらに先頭の $-\dfrac12\sin C$ を掛けると,$-\dfrac12\sin C\times\bigl(-\cos(A-B)\bigr)=+\dfrac12\sin C\cos(A-B)$ となり,符号がもう1回反転してプラスになる.同じ公式を $\alpha=C$,$\beta=A-B$ として使うと,

$$ \frac12\sin C\cos(A-B)=\frac12\cdot\frac12\bigl\{\sin(C+A-B)+\sin(C-(A-B))\bigr\}=\frac14\sin(C+A-B)+\frac14\sin(C-A+B) $$

となる.

4項をまとめる.以上の2つの計算を足し合わせると,最終的な完全展開が得られる.

$$ \sin\frac{\pi n_1}Lx\cdot\sin\frac{\pi n_2}Ly\cdot\sin\frac{\pi n_3}Lz =-\frac14\sin\frac{\pi(n_3z+n_1x+n_2y)}L-\frac14\sin\frac{\pi(n_3z-n_1x-n_2y)}L+\frac14\sin\frac{\pi(n_3z+n_1x-n_2y)}L+\frac14\sin\frac{\pi(n_3z-n_1x+n_2y)}L $$

これは,$\pm\dfrac14\sin\dfrac{\pi(\pm n_1x\pm n_2y\pm n_3z)}L$ という形の項が,符号の組み合わせ4通り($n_3z$ の符号は常に正に取り,$n_1x,n_2y$ の符号の組み合わせ$++,+-,-+,--$のうち独立な4通り)だけ現れる式になっており,本文49.5.1項の「注意」で予告していた形(4つの項に展開される)と一致する(sympyで,数値を代入した左辺・右辺の値が一致することを確認済み——一般の $n_1,n_2,n_3,x,y,z,L$ の記号のままでも,三角関数の展開規則を使って両辺が恒等的に等しいことを確認した).

なぜこれでは個数を数えられないのか.この展開が計算しているのは,1つの定常波 $\sin\dfrac{\pi n_1}Lx\sin\dfrac{\pi n_2}Ly\sin\dfrac{\pi n_3}Lz$($x,y,z$ の関数としての,ある1つの決まった波形)を,$4$つの平面進行波 $\sin\dfrac{\pi(\pm n_1x\pm n_2y\pm n_3z)}L$ の重ね合わせとして書き直す,という**恒等式**である.この式変形は,$(n_1,n_2,n_3)$ という整数の組を1組決めるたびに(つまり,1つの定常波を選ぶたびに)成り立つ関係であり,$n_1,n_2,n_3$ の値そのものにはいっさい触れていない——展開したあとの式にも,展開する前の式と同じ $n_1,n_2,n_3$ がそのまま残っている.したがって,この展開をどれだけ推し進めても,そこから「$(n_1,n_2,n_3)$ の組が全部でいくつあるか」という情報を取り出すことはできない.波形を成分に分解する操作と,成分(あるいは元の量子数)の組の総数を数え上げる操作とは,まったく別の作業なのである.

これに対し,49.5.2項の $k$ 空間の格子点を数える方法は,個々の定常波の波形($x,y,z$ の関数としての形)にはいっさい立ち入らず,「境界条件を満たす波数の組 $(k_1,k_2,k_3)=\dfrac\pi L(n_1,n_2,n_3)$ が,$k$ 空間のどこにどれだけ密に並んでいるか」という,波数空間そのものの幾何学(格子点の間隔 $\pi/L$,半径 $K$ の球の体積)だけを使って,直接「個数」を数え上げている.ノートが最後のページで進んでいた道(積→和による波形の分解)は,たとえ最後まで完成させても,それ単独では状態密度 $\rho(\nu)$ には到達できない——本章が49.5.2項で標準的な数え上げの方法に切り替えたのは,この理由による.