大学数学 — 目次 第VIII部 常微分方程式 / 第38章

第38章演算子法

第36章・第37章では,定数係数の線形微分方程式 $\Phi(D)y=f(x)$ の特殊解 $Y$ を求めるのに,未定係数法($f(x)$ の形から $Y$ の形を予想して係数を決める)や定数変化法(基本解を使って必ず答えにたどり着く万能な方法)を使ってきた.どちらも正しい方法だが,$f(x)$ が指数関数・$\sin$・$\cos$ であるとき——工学でも物理でも圧倒的によく現れる形——には,もっと機械的で速い方法がある.それが本章の演算子法(operator method)である.

アイデアは大胆である.微分すること $\dfrac{d}{dx}$ を $D$ という1つの文字で表し,$D$ を普通の数や文字式と同じように足し算・掛け算・(形式的な)割り算までできる「量」として扱ってしまう.すると $\Phi(D)y=f(x)$ という方程式は,あたかも $\Phi(D)\cdot y = f(x)$ という代数方程式のように見え,特殊解は $y=\dfrac{1}{\Phi(D)}f(x)$ と「両辺を $\Phi(D)$ で割る」だけで書けてしまう.もちろん $\dfrac{1}{\Phi(D)}$ が何を意味するのかをきちんと定義しなければ数学にならないが,一度定義してしまえば,あとは代入するだけで特殊解が求まる公式集ができあがる.この発想は19世紀末にイギリスの電気技師オリバー・ヘヴィサイド(Oliver Heaviside)が電気回路の計算のために使い始めたもので,現在でも回路理論・機械振動・制御工学で日常的に使われている.

この章で学ぶこと
  • 微分演算子 $D$ の定義と,$D$ が満たす代数的な性質(線形性,べきの交換則,$D^0=$恒等演算子)
  • 逆演算子 $\dfrac{1}{D-\alpha}$ を「1階線形微分方程式を解くこと」として定義する(公式(3))
  • 指数関数への代入公式 $\dfrac{1}{\Phi(D)}e^{\alpha x}=\dfrac{1}{\Phi(\alpha)}e^{\alpha x}$(公式(4))とその威力
  • シフト定理 $\dfrac{1}{\Phi(D)}\{e^{\alpha x}f(x)\}=e^{\alpha x}\dfrac{1}{\Phi(D+\alpha)}f(x)$(公式(5))——指数関数を演算子の外にくくり出す技術
  • 特性根が重解のとき(共鳴)の指数関数の公式 $\dfrac{1}{(D-\alpha)^n}e^{\alpha x}=\dfrac{x^n}{n!}e^{\alpha x}$(公式(6))
  • $\sin\alpha x,\ \cos\alpha x$ への代入公式(公式(7)(8))と,$\Phi(-\alpha^2)=0$ になる「共鳴」のときの特別公式(公式(9)(10))
  • 共鳴が起こると解の振幅が $x$ に比例して際限なく増大すること——橋やブランコの共鳴現象の数学的な正体
前提:第33章(1階線形微分方程式,定数変化法・積分因子),第35章(特性方程式),第36章(未定係数法),第37章(高階の特性方程式と重解).線形写像の考え方は第11章で本格的に学ぶが,本章では「関数を関数に対応させる規則で,足し算とスカラー倍を保つもの」という素朴な理解で十分である.
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 常微分方程式』 pp. 45–50.

38.1 なぜ演算子法を学ぶか——微分演算子 $D$ の定義

まず記号を定義するところから始めよう.

定義38.1 微分演算子 $D$

関数 $y$ を $x$ で微分する操作を,記号 $D$ を使って $D[y]$ と表す.すなわち

$$ D[y] := \frac{dy}{dx} = y' \tag{38.1}\label{eq:38-Ddef} $$

と定める.同様に,2階微分 $\dfrac{d^2y}{dx^2}$ を $D^2[y]$,$n$ 階微分 $\dfrac{d^ny}{dx^n}$ を $D^n[y]$ と表す.定義から,ただちに

$$ D[y]=y',\qquad D^n[y]=y^{(n)} $$

が成り立つ.「$D$ を $n$ 回繰り返し施す」ことが「$n$ 階微分をとる」ことと同じ意味になるように定義したのだから,これは当然である.

数学ノート:$D$ という文字の由来

$D$ は英語の Differential Operator(微分演算子)の頭文字である.演算子(operator)とは,「関数を1つ受け取って,別の関数を1つ返す規則」の総称であり,$D$ はその最も基本的な例である.$D$ に $y=x^3$ を入れると $D[x^3]=3x^2$ が返ってくる——ちょうど関数 $f$ に数 $2$ を入れると $f(2)$ が返ってくるのと同じ発想で,今度は「入力」も「出力」も関数だと思えばよい.

この $D$ を,線形代数の言葉で捉え直しておくと後々便利である.微分可能な関数全体の集まりを $y_1$,連続な関数全体の集まりを $y_2$ としよう.$D$ は,$y_1$ に属する関数 $f(x)$ を,$y_2$ に属するその導関数 $f'(x)$ へ対応させる規則

$$ D:\ y_1 \longrightarrow y_2,\qquad f(x)\ \longmapsto\ D[f(x)]=f'(x) $$

とみなせる.図38.1 に,具体的な関数を使って $D$ の働きを描いた.

微分演算子 D のはたらき y1 y2 (微分可能な関数) (連続な関数) x² x²+2 ln|x| 2x 1/x D D D
図38.1 微分演算子 $D$ は,微分可能な関数の集まり $y_1$ から,その導関数からなる連続関数の集まり $y_2$ への対応である.$x^2$ と $x^2+2$ はどちらも $D$ によって $2x$ に写る——定数を足しても微分すれば消えてしまうので,$D$ は「1対1」の対応ではない.同様に $\ln|x|$ は $D$ によって $\dfrac1x$ に写る.矢印の向きと $\ln|x|,\ \dfrac1x$ の左右配置は,本文の定義 $D:y_1\to y_2$(微分可能な関数をその導関数に対応させる)と揃えて描いてある.

この対応が「関数の足し算・定数倍を保つ」——すなわち $D[f+g]=D[f]+D[g]$,$D[kf]=k\,D[f]$——という性質を持つことは次節38.2で確認する.この性質を持つ対応のことを,線形代数では線形写像(linear map)と呼ぶ(線形写像そのものは第11章で本格的に学ぶ).$D$ は「関数の空間から関数の空間への線形写像」の最も基本的な例なのである.

また,微分の逆操作は積分であった.そこで $D$ の「逆」を $D^{-1}$ あるいは $\dfrac{1}{D}$ と書き,

$$ D^{-1}[y] = \frac{1}{D}[y] := \int y\,dx \tag{38.2}\label{eq:38-Dinv} $$

と定める(右辺の積分定数はここでは触れず,以降の節では特殊解を1つ見つければよいという立場から $C=0$ の場合を使う).$n$ 回積分することも同様に

$$ D^{-n}[y] = \underbrace{\int\!\int\cdots\int}_{n\ \text{個}} y\,(dx)^n $$

と表す.

例題38.1 図38.1の対応を実際に確かめる

(a) $D[x^2]=2x$ と $D[x^2+2]=2x$ をそれぞれ確かめよ.(b) $x\gt0$ のもとで $D[\ln x]=\dfrac{1}{x}$ を確かめ,逆に $D^{-1}\!\left[\dfrac{1}{x}\right]$(積分定数0)を求めて図38.1 の対応と一致することを確認せよ.

解答 (a) $\dfrac{d}{dx}(x^2)=2x$.また $\dfrac{d}{dx}(x^2+2)=2x+0=2x$(定数の微分は0).よって $D[x^2]=D[x^2+2]=2x$ が成り立つ.$D$ は定数の違いを区別できないので,1対1の対応(単射)ではないことがわかる.

(b) $x\gt0$ のとき $\ln|x|=\ln x$ であり,$\dfrac{d}{dx}\ln x=\dfrac1x$ だから,定義より $D[\ln x]=\dfrac1x$ が成り立つ.逆に

$$ D^{-1}\!\left[\frac1x\right]=\int\frac1x\,dx=\ln|x| $$

(積分定数0)となり,図38.1 の矢印「$\ln|x|\xrightarrow{D}\dfrac1x$」とちょうど対応する.$D$ と $D^{-1}$ が互いに逆の操作であることが,この1組の対応からも見て取れる.

38.2 微分演算子の性質

$D$ を「代数のように」扱ってよい根拠となる4つの性質を確認する.ノートには「この証明はいらない」と書かれている通り,どれも高校・第1章で習った微分の基本規則(和の微分・定数倍の微分・累次微分の順序交換)をそのまま演算子の記法に翻訳しただけなので,形式的な証明は割愛し,なぜ成り立つかを一言ずつ添えるにとどめる.

定理38.1 微分演算子の性質

$f(x),g(x)$ を(必要な回数だけ,たとえば何回でも)微分可能な関数,$k$ を定数,$m,n$ を0以上の整数とする.

$$ D[f(x)\pm g(x)] = D[f(x)] \pm D[g(x)] \tag{38.3}\label{eq:38-Dlinear1} $$ $$ D[k f(x)] = k\cdot D[f(x)] \qquad (k:\text{定数}) \tag{38.4}\label{eq:38-Dlinear2} $$ $$ D^n\big[D^m f(x)\big] = D^m\big[D^n f(x)\big] = D^{m+n}[f(x)] \tag{38.5}\label{eq:38-Dcomm} $$ $$ D^0[f(x)] = f(x) \tag{38.6}\label{eq:38-Dzero} $$

順に確かめておこう.式\eqref{eq:38-Dlinear1}は「和の導関数は導関数の和」$(f\pm g)'=f'\pm g'$ を,式\eqref{eq:38-Dlinear2}は「定数倍の導関数は導関数の定数倍」$(kf)'=kf'$ を,$D$ の記法に書き直しただけである.式\eqref{eq:38-Dcomm}は,「$m$ 階微分してから $n$ 階微分する」のと「$n$ 階微分してから $m$ 階微分する」のと「最初から $m+n$ 階微分する」のが,どの順で計算しても同じ関数 $f^{(m+n)}(x)$ にたどり着くことを言っている(何回微分するかという回数だけが結果を決め,途中の順序にはよらない.なお,この等式が意味を持つには $f$ が少なくとも $m+n$ 階まで微分できる必要があるので,以下では扱う関数はどれも何回でも微分できるものとしておく).式\eqref{eq:38-Dzero}は「0階微分=何もしない」という約束であり,$D^0$ を恒等演算子(何も変えない演算子,identity operator)と定める式である.

式\eqref{eq:38-Dlinear1}と式\eqref{eq:38-Dlinear2}——「和を保つ」「定数倍を保つ」——を合わせて,$D$ が線形(linear)であるという.この線形性のおかげで,$D$ の多項式

$$ \Phi(D) := a_n D^n + a_{n-1}D^{n-1} + \cdots + a_1 D + a_0 \qquad (a_0,\dots,a_n:\text{定数}) $$

を考えることができる.$\Phi(D)$ もまた $y_1$(あるいはさらに広い,何度でも微分できる関数の集まり)から関数の集まりへの線形写像であり,本章で扱う定数係数線形微分方程式 $\Phi(D)y=f(x)$ の左辺は,まさにこの $\Phi(D)$ が $y$ に作用した結果に他ならない.たとえば2階線形微分方程式 $y''+3y'+2y=f(x)$ は,$\Phi(D)=D^2+3D+2$ として $\Phi(D)[y]=f(x)$ と書ける.

例題38.2 交換則を具体的な関数で確かめる

$f(x)=x^7$ とする.$D^2\big[D^3 f(x)\big]$,$D^3\big[D^2 f(x)\big]$,$D^5[f(x)]$ をそれぞれ計算し,式\eqref{eq:38-Dcomm}の通り3つとも一致することを確かめよ.

解答 $f(x)=x^7$ を3階微分すると $D^3[x^7] = 7\cdot6\cdot5\,x^4 = 210x^4$.これをさらに2階微分すると

$$ D^2\big[D^3 f(x)\big] = D^2[210x^4] = 210\cdot4\cdot3\,x^2 = 2520x^2 . $$

次に $f(x)=x^7$ を2階微分すると $D^2[x^7]=7\cdot6\,x^5=42x^5$.これをさらに3階微分すると

$$ D^3\big[D^2 f(x)\big] = D^3[42x^5] = 42\cdot5\cdot4\cdot3\,x^2 = 2520x^2 . $$

最後に,最初から5階微分すると $D^5[x^7] = 7\cdot6\cdot5\cdot4\cdot3\,x^2 = 2520x^2$.たしかに3つとも $2520x^2$ で一致し,式\eqref{eq:38-Dcomm}が確かめられた.どの順で微分しても,「何回微分したか」という合計の回数だけで結果が決まっている.

38.3 逆演算子 $\dfrac{1}{D-\alpha}$ ——特殊解を1階線形方程式に帰着する

いよいよ「$\Phi(D)$ で割る」という操作を定義する.ここで欲しいのは,非同次方程式 $\Phi(D)y=f(x)$ の特殊解を1つ与えてくれる規則である(一般解は,第35〜37章で学んだように,この特殊解に同次方程式 $\Phi(D)y=0$ の一般解を足せば得られる).

定義38.2 逆演算子 $\dfrac{1}{\Phi(D)}$

$\Phi(D)Y=f(x)$ を満たす関数 $Y$ の1つを,記号で

$$ Y = \frac{1}{\Phi(D)}[f(x)] $$

と表す.つまり $\dfrac{1}{\Phi(D)}[f(x)]$ とは,「$\Phi(D)$ を作用させると $f(x)$ に戻ってくるような関数」のことであり,$\Phi(D)$ の逆演算子と呼ぶ.$\Phi(D)Y=f(x)$ を満たす $Y$ は(同次方程式の解の分だけ)無数にあるので,$\dfrac{1}{\Phi(D)}[f(x)]$ はそのうちのどれか1つを表すという約束である.以下では,具体的な $f(x)$ に対して,この $Y$ を代入操作だけで計算できる公式を作っていく.

最初に扱うのは,最も基本的な場合 $\Phi(D)=D-\alpha$(1次式)である.

公式38.1(ノートの公式(3))

$$ \frac{1}{D-\alpha}[f(x)] = e^{\alpha x}\int e^{-\alpha x}\,f(x)\,dx \tag{38.7}\label{eq:38-inv1st} $$

導出

$Y=\dfrac{1}{D-\alpha}[f(x)]$ とおく.定義38.2 により,これは

$$ (D-\alpha)[Y] = f(x) \qquad \cdots\text{①} $$

を満たす関数 $Y$ のことである.$D[Y]=Y'$ だったから,①は

$$ Y' - \alpha Y = f(x) \qquad \cdots\text{②} $$

と書き直せる.これは1階線形微分方程式であり,第33章で学んだ解法がそのまま使える.②を標準形 $Y'+P(x)Y=Q(x)$($P(x)=-\alpha$,$Q(x)=f(x)$)と見て,積分因子 $\mu(x)=e^{\int P(x)dx}=e^{-\alpha x}$ を両辺に掛けると,

$$ e^{-\alpha x}Y' - \alpha e^{-\alpha x}Y = e^{-\alpha x}f(x) $$

の左辺は積の微分公式により $\left(e^{-\alpha x}Y\right)'$ とまとめられる(実際 $\left(e^{-\alpha x}Y\right)' = -\alpha e^{-\alpha x}Y + e^{-\alpha x}Y'$ で一致する).よって

$$ \left(e^{-\alpha x}Y\right)' = e^{-\alpha x}f(x) $$

の両辺を $x$ で積分すれば

$$ e^{-\alpha x}Y = \int e^{-\alpha x}f(x)\,dx + C $$

となり,両辺に $e^{\alpha x}$ を掛けて

$$ Y = e^{\alpha x}\left\{\int e^{-\alpha x}f(x)\,dx + C\right\} $$

を得る.今欲しいのは特殊解,つまり $\Phi(D)Y=f(x)$ を満たす関数を1つ見つければ十分なので,積分定数は $C=0$ を選んでよい.したがって

$$ Y = e^{\alpha x}\int e^{-\alpha x}f(x)\,dx \qquad \cdots\text{③} $$

これを①(すなわち $Y=\dfrac{1}{D-\alpha}[f(x)]$)に代入すれば,式\eqref{eq:38-inv1st}が得られる.

(導出終わり)

例題38.3 公式\eqref{eq:38-inv1st}を直接使ってみる

公式\eqref{eq:38-inv1st}を使って $\dfrac{1}{D-3}\big[e^{5x}\big]$ を計算せよ.またその結果が,微分方程式 $y'-3y=e^{5x}$ の特殊解になっていることを直接代入して確かめよ.

解答 $\alpha=3$,$f(x)=e^{5x}$ として公式\eqref{eq:38-inv1st}に代入すると,

$$ \frac{1}{D-3}\big[e^{5x}\big] = e^{3x}\int e^{-3x}\cdot e^{5x}\,dx = e^{3x}\int e^{2x}\,dx = e^{3x}\cdot\frac{1}{2}e^{2x} = \frac12 e^{5x} $$

である(積分定数は0とした).確かめのために $Y=\dfrac12 e^{5x}$ を $y'-3y$ に代入すると,$Y'=\dfrac52 e^{5x}$ だから

$$ Y'-3Y = \frac52 e^{5x} - 3\cdot\frac12 e^{5x} = \left(\frac52-\frac32\right)e^{5x} = e^{5x} $$

となり,たしかに $y'-3y=e^{5x}$ の特殊解になっている.次節で学ぶ公式(4)を使えば,積分を実行せずにこの答えへ一瞬でたどり着けることを見る.

38.4 指数関数への代入公式

公式\eqref{eq:38-inv1st}は $\Phi(D)$ が1次式 $D-\alpha$ のときの公式であり,しかも毎回積分を実行しなければならない.$f(x)$ が指数関数 $e^{\alpha x}$ で,$\Phi(D)$ が一般の多項式であるときには,積分すら不要な,もっと速い公式がある.

公式38.2(ノートの公式(4))

$\Phi(D)=a_nD^n+a_{n-1}D^{n-1}+\cdots+a_1D+a_0$(定理38.1の直後で導入したのと同じ記法の,$a_n\neq0$ である定数係数多項式)とし,$\Phi(\alpha)\neq0$ とする.このとき

$$ \frac{1}{\Phi(D)}\cdot e^{\alpha x} = \frac{1}{\Phi(\alpha)}\cdot e^{\alpha x} \tag{38.8}\label{eq:38-expsub} $$

導出

まず $e^{\alpha x}$ を $D$ で繰り返し微分すると,指数関数の微分公式 $\dfrac{d}{dx}e^{\alpha x}=\alpha e^{\alpha x}$ より

$$ D[e^{\alpha x}]=\alpha e^{\alpha x},\qquad D^2[e^{\alpha x}]=\alpha^2 e^{\alpha x},\qquad \dots,\qquad D^k[e^{\alpha x}]=\alpha^k e^{\alpha x} $$

が成り立つ(1回微分するたびに指数の肩の $\alpha$ が1つ前に出てくるだけなので,$k$ 回繰り返せば $\alpha^k$ になる).したがって,$\Phi(D)=a_nD^n+a_{n-1}D^{n-1}+\cdots+a_1D+a_0$ を $e^{\alpha x}$ に作用させると,定理38.1の線形性(式\eqref{eq:38-Dlinear1},\eqref{eq:38-Dlinear2})によって各項に分配でき,

$$ \begin{aligned} \Phi(D)\big[e^{\alpha x}\big] &= a_nD^n[e^{\alpha x}] + a_{n-1}D^{n-1}[e^{\alpha x}]+\cdots+a_1D[e^{\alpha x}]+a_0[e^{\alpha x}]\\ &= \left(a_n\alpha^n + a_{n-1}\alpha^{n-1} + \cdots + a_1\alpha + a_0\right)e^{\alpha x}\\ &= \Phi(\alpha)\cdot e^{\alpha x} \end{aligned} $$

となる.ここで最後の等号は,$\Phi(z)=a_nz^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_0$ という多項式に $z=\alpha$ を代入した値がちょうど括弧の中身であることに注意すれば成り立つ($D$ を数のように $\alpha$ に置き換えるだけでよい,というのがこの公式の核心である.この議論は最高次の係数 $a_n$ が $0$ でさえなければどんな値であっても成り立ち,$\Phi(D)$ を「最高次の係数が1」に限定する必要はない).すなわち $\Phi(D)[e^{\alpha x}]=\Phi(\alpha)e^{\alpha x}$ が示された.$\Phi(\alpha)$ はただの定数($x$ を含まない数)であることに注意すると,$\Phi(\alpha)\neq0$ のとき両辺を $\Phi(\alpha)$ で割って

$$ \frac{1}{\Phi(\alpha)}\Phi(D)\big[e^{\alpha x}\big] = e^{\alpha x} $$

すなわち $\dfrac{1}{\Phi(\alpha)}e^{\alpha x}$ は方程式 $\Phi(D)Y=e^{\alpha x}$ の特殊解であるから,定義38.2により式\eqref{eq:38-expsub}が成り立つ.

(導出終わり)

注意:$\Phi(\alpha)=0$ のときはこの公式は使えない

式\eqref{eq:38-expsub}の右辺は $\Phi(\alpha)$ で割っているので,$\Phi(\alpha)=0$ になる場合——すなわち $\alpha$ が同次方程式 $\Phi(D)y=0$ の特性方程式 $\Phi(\lambda)=0$ の解(特性根)になっている場合——には使えない(ゼロで割ることになってしまう).物理的には,これは強制振動の角振動数が固有振動数に一致する共鳴(resonance)にあたる.この場合の公式は,公式38.4(38.6節)で改めて扱う.

例題38.4 公式\eqref{eq:38-expsub}で特殊解を即座に求める

微分方程式 $y''-3y'+2y=e^{3x}$ の特殊解を,公式\eqref{eq:38-expsub}を使って求めよ.

解答 $\Phi(D)=D^2-3D+2$ であるから,$\Phi(z)=z^2-3z+2$ に $z=3$ を代入すると $\Phi(3)=9-9+2=2\neq0$ となり,共鳴は起きていない.よって公式\eqref{eq:38-expsub}がそのまま使えて,

$$ Y = \frac{1}{\Phi(D)}\big[e^{3x}\big] = \frac{1}{\Phi(3)}e^{3x} = \frac12 e^{3x} $$

が特殊解である.これは例題38.3の最後に予告した通り,積分を1つも計算せずに——多項式 $\Phi(z)=z^2-3z+2$ に $z=3$ を代入するだけで——得られた.第36章の未定係数法なら「$Y=Ae^{3x}$ とおいて代入し,$A$ についての方程式 $(9-9+2)A=1$ を解いて $A=\dfrac12$」という手順を踏むところだが,公式\eqref{eq:38-expsub}はその手順をまるごと「$\Phi(3)$ を計算する」の1行に圧縮してくれる.

38.5 シフト定理

公式38.2(式\eqref{eq:38-expsub})が使えるのは,右辺の $f(x)$ が指数関数 $e^{\alpha x}$ そのものであるときに限られる.では $f(x)=e^{\alpha x}g(x)$ のように,指数関数に別の関数 $g(x)$ が掛かっている場合はどうすればよいだろうか.たとえば $y''-4y'+4y=xe^{2x}$ のような方程式は,工学でもよく現れる(次の例題38.5で扱う).ここで活躍するのが,指数関数を演算子の外にくくり出すシフト定理(shift theorem)である.

公式38.3(ノートの公式(5)) シフト定理

$$ \frac{1}{\Phi(D)}\Big\{e^{\alpha x}f(x)\Big\} = e^{\alpha x}\left\{\frac{1}{\Phi(D+\alpha)}f(x)\right\} \tag{38.9}\label{eq:38-shift} $$

導出

まず,$g(x)$ を任意の(何度でも微分できる)関数として,$D^n\{e^{\alpha x}g(x)\}$ を計算する練習をする.積の微分公式を使うと,$n=1$ のとき

$$ D^1\{e^{\alpha x}g(x)\} = \alpha e^{\alpha x}g(x) + e^{\alpha x}\,D[g(x)] = e^{\alpha x}\big(D+\alpha\big)^1 g(x) $$

である(「$e^{\alpha x}$ を微分して $\alpha$ が出てくる分」と「$g(x)$ を微分する分」の2つの寄与を,$e^{\alpha x}$ でくくり出すと $(D+\alpha)g(x)$ という形にまとまる,という計算である).同じ計算を $n=2$ でも行うと

$$ D^2\{e^{\alpha x}g(x)\} = D\big\{e^{\alpha x}(D+\alpha)g(x)\big\} = \alpha e^{\alpha x}(D+\alpha)g(x) + e^{\alpha x}D(D+\alpha)g(x) = e^{\alpha x}(D+\alpha)(D+\alpha)g(x) = e^{\alpha x}(D+\alpha)^2g(x) $$

となり,$n=1$ の式にもう一度同じ変形を施しただけであることがわかる.この計算が何回でも繰り返せそうだ,という予想を,数学的帰納法で確認しよう.

$k$ を任意の自然数とし,

$$ D^k\{e^{\alpha x}g(x)\} = e^{\alpha x}(D+\alpha)^k g(x) \qquad \cdots(\ast_k) $$

が成り立つと仮定する(帰納法の仮定).このとき,$(\ast_k)$ の両辺にさらに $D$ を1回作用させると,$n=1$ の場合とまったく同じ計算により

$$ D^{k+1}\{e^{\alpha x}g(x)\} = D\Big\{e^{\alpha x}(D+\alpha)^kg(x)\Big\} = \alpha e^{\alpha x}(D+\alpha)^kg(x) + e^{\alpha x}D(D+\alpha)^kg(x) = e^{\alpha x}(D+\alpha)(D+\alpha)^kg(x) = e^{\alpha x}(D+\alpha)^{k+1}g(x) $$

となり,$(\ast_{k+1})$ が成り立つ.$(\ast_1)$ は上ですでに確認済みだから,数学的帰納法により,すべての自然数 $n$ に対して

$$ D^n\{e^{\alpha x}g(x)\} = e^{\alpha x}(D+\alpha)^n g(x) \tag{38.10}\label{eq:38-shift-power} $$

が成り立つ.

ここまでで,$D$ の1つのべき $D^n$ については確かめられた.$\Phi(D)=a_nD^n+a_{n-1}D^{n-1}+\cdots+a_1D+a_0$ という一般の多項式についても,線形性(定理38.1)と式\eqref{eq:38-shift-power}を各項に使えば,

$$ \begin{aligned} \Phi(D)\{e^{\alpha x}g(x)\} &= a_nD^n\{e^{\alpha x}g(x)\} + a_{n-1}D^{n-1}\{e^{\alpha x}g(x)\} + \cdots + a_0\{e^{\alpha x}g(x)\}\\ &= e^{\alpha x}\Big\{a_n(D+\alpha)^ng(x) + a_{n-1}(D+\alpha)^{n-1}g(x) + \cdots + a_0g(x)\Big\}\\ &= e^{\alpha x}\cdot\Phi(D+\alpha)\,g(x) \end{aligned} $$

が成り立つ.最後の等号は,多項式 $\Phi(z)=a_nz^n+\cdots+a_0$ に $z=D+\alpha$(という演算子)を代入したものが,中括弧の中身にちょうど一致することによる.

あとは,この関係式を逆向きに読めばよい.$\Phi(D+\alpha)g(x)=f(x)$ とおく——つまり $g(x)=\dfrac{1}{\Phi(D+\alpha)}f(x)$ とする——と,上の等式は

$$ \Phi(D)\left\{e^{\alpha x}\cdot\frac{1}{\Phi(D+\alpha)}f(x)\right\} = e^{\alpha x}f(x) $$

と書ける.これは「$e^{\alpha x}\dfrac{1}{\Phi(D+\alpha)}f(x)$ が方程式 $\Phi(D)Y=e^{\alpha x}f(x)$ の特殊解である」という意味に他ならないから,定義38.2により式\eqref{eq:38-shift}が得られる.

(導出終わり)

公式\eqref{eq:38-shift}の使い方をひとことでまとめると,「$1/\Phi(D)$ の中に $e^{\alpha x}$ が掛かった形を見つけたら,$e^{\alpha x}$ を演算子の外に出し,代わりに演算子の中の $D$ をすべて $D+\alpha$ に置き換えてよい」ということである.

例題38.5 シフト定理で多項式×指数関数型を処理する

シフト定理(公式\eqref{eq:38-shift})を使って $\dfrac{1}{(D-2)^2}\big[xe^{2x}\big]$ を計算せよ.

解答 $\Phi(D)=(D-2)^2$,$\alpha=2$,$f(x)=x$ として公式\eqref{eq:38-shift}を適用する.まず $\Phi(D+\alpha)=\Phi(D+2)=\big((D+2)-2\big)^2=D^2$ を計算する($D$ を $D+2$ に置き換えると,$-2$ と $+2$ が打ち消し合うことに注意).したがって

$$ \frac{1}{(D-2)^2}\big[xe^{2x}\big] = e^{2x}\cdot\frac{1}{D^2}[x] $$

となる.あとは $\dfrac{1}{D^2}[x]$,すなわち $x$ を2回積分すればよい(定義38.1の $D^{-n}$).積分定数を0とすると,

$$ \frac{1}{D^2}[x] = \int\!\!\int x\,(dx)^2 = \int\frac{x^2}{2}\,dx = \frac{x^3}{6} $$

であるから,求める答えは

$$ \frac{1}{(D-2)^2}\big[xe^{2x}\big] = \frac{x^3}{6}e^{2x} $$

である.これは,微分方程式 $y''-4y'+4y=xe^{2x}$ の特殊解が $Y=\dfrac{x^3}{6}e^{2x}$ であることを意味する(章末の検算スクリプトで $Y''-4Y'+4Y=xe^{2x}$ となることを直接確認してある).

38.6 共鳴のときの指数関数

38.4節の注意で触れたように,公式38.2は $\Phi(\alpha)=0$ のとき——つまり $\alpha$ が特性方程式 $\Phi(\lambda)=0$ の解(特性根)になっているとき——には使えなかった.この節では,最も基本的な共鳴の場合,すなわち $\Phi(D)=(D-\alpha)^n$($\alpha$ が $n$ 重の特性根)で,かつ強制項がちょうど $e^{\alpha x}$ であるときの公式を,シフト定理を使って求める.

公式38.4(ノートの公式(6))

$$ \frac{1}{(D-\alpha)^n}\cdot e^{\alpha x} = \frac{x^n}{n!}\cdot e^{\alpha x} \tag{38.11}\label{eq:38-resonance-exp} $$

導出

シフト定理(公式\eqref{eq:38-shift})を,$\Phi(D)=(D-\alpha)^n$,$f(x)=1$(定数関数)として使う.まず

$$ \Phi(D+\alpha) = \big((D+\alpha)-\alpha\big)^n = D^n $$

である($D$ を $D+\alpha$ に置き換えると,$-\alpha$ と $+\alpha$ がちょうど打ち消し合う).したがって公式\eqref{eq:38-shift}より

$$ \frac{1}{(D-\alpha)^n}\big[e^{\alpha x}\cdot1\big] = e^{\alpha x}\cdot\frac{1}{D^n}[1] $$

となる.あとは $\dfrac{1}{D^n}[1]$,すなわち定数関数 $1$ を $n$ 回積分すればよい.積分定数をすべて0ととると,

$$ \int 1\,dx = x,\qquad \int x\,dx = \frac{x^2}{2!},\qquad \int \frac{x^2}{2!}\,dx = \frac{x^3}{3!},\qquad \int \frac{x^3}{3!}\,dx = \frac{x^4}{4!},\qquad \dots $$

という規則が見えてくる——1回積分するたびに次数が1つ上がり,分母の階乗も1つ大きくなる.これを $n$ 回繰り返すと

$$ \int \frac{x^{n-1}}{(n-1)!}\,dx = \frac{x^n}{n!} $$

となるから,$\dfrac{1}{D^n}[1] = \dfrac{x^n}{n!}$ である.よって

$$ \frac{1}{(D-\alpha)^n}\cdot e^{\alpha x} = e^{\alpha x}\cdot\frac{x^n}{n!} = \frac{x^n}{n!}e^{\alpha x} $$

を得る.

(導出終わり)

これは,第36・37章で学んだ未定係数法の「共鳴が起きたら試行関数に $x^n$ を掛ける」という処方箋——特性根 $\alpha$ が $n$ 重根のとき,特殊解の形を $Y=Ax^ne^{\alpha x}$ と仮定する,というルール——が,演算子法の側からは公式\eqref{eq:38-resonance-exp}という1本の式として自動的に出てくることを意味する.「なぜ $x^n$ を掛けるのか」という理由も,導出から見えている:$n$ 重根の共鳴を解消するには,$1/D^n$(=$n$ 回積分)を計算する必要があり,それがちょうど $x^n/n!$ という因子を生み出すからである.

例題38.6 共鳴が起きる場合の特殊解

微分方程式 $y''-4y'+4y=e^{2x}$ の特殊解を求めよ.

解答 特性方程式は $\Phi(\lambda)=\lambda^2-4\lambda+4=(\lambda-2)^2=0$ であり,$\lambda=2$(=強制項の指数の肩の値)が2重根になっている.すなわち $\Phi(D)=(D-2)^2$ で $\Phi(2)=0$ だから,公式38.2(式\eqref{eq:38-expsub})は使えず,共鳴が起きている.そこで公式\eqref{eq:38-resonance-exp}を $\alpha=2$,$n=2$ として使うと,

$$ Y = \frac{1}{(D-2)^2}\big[e^{2x}\big] = \frac{x^2}{2!}e^{2x} = \frac{x^2}{2}e^{2x} $$

が特殊解である.$n=1$ 重根の共鳴なら $x^1/1!=x$ 倍,2重根の共鳴なら $x^2/2!=x^2/2$ 倍——公式\eqref{eq:38-resonance-exp}は,このように重複度に応じた倍率を自動的に教えてくれる.

38.7 三角関数への代入公式

強制項 $f(x)$ として指数関数の次によく現れるのは,$\sin\alpha x$ や $\cos\alpha x$ のような三角関数——すなわち周期的に振動する外力——である.ここでも,$\Phi(D)$ が $D$ の偶数べきだけからなる多項式 $\Phi(D^2)$($D,D^3,D^5,\dots$ のような奇数べきを含まない場合)であれば,公式38.2と同じ発想の代入公式が使える.

公式38.5(ノートの公式(7)(8))

$\Phi(D^2)=a_nD^{2n}+a_{n-1}D^{2(n-1)}+\cdots+a_1D^2+a_0$ とし,$\Phi(-\alpha^2)\neq0$ とする.このとき

$$ \frac{1}{\Phi(D^2)}\sin\alpha x = \frac{1}{\Phi(-\alpha^2)}\sin\alpha x \tag{38.12}\label{eq:38-sinsub} $$ $$ \frac{1}{\Phi(D^2)}\cos\alpha x = \frac{1}{\Phi(-\alpha^2)}\cos\alpha x \tag{38.13}\label{eq:38-cossub} $$

導出($\sin\alpha x$ の場合)

$\sin\alpha x$ を2回微分すると,符号に注意しながら計算して

$$ D^2(\sin\alpha x) = \frac{d^2}{dx^2}\sin\alpha x = \frac{d}{dx}\big(\alpha\cos\alpha x\big) = -\alpha^2\sin\alpha x $$

となる.つまり「$\sin\alpha x$ を $D^2$ で1回叩くと,$-\alpha^2$ 倍されて $\sin\alpha x$ 自身に戻ってくる」——ちょうど $D^2$ が数 $-\alpha^2$ をひとつ掛け算しただけのようにふるまう,というのがこの公式の核心である.この操作をもう1回繰り返せば,

$$ D^4(\sin\alpha x) = (D^2)^2(\sin\alpha x) = (-\alpha^2)^2\sin\alpha x $$

であり,これを $n$ 回繰り返せば

$$ D^{2n}(\sin\alpha x) = (-\alpha^2)^n\sin\alpha x $$

が成り立つ($D^2$ を1回作用させるごとに $-\alpha^2$ が1つ掛かるので,$n$ 回で $(-\alpha^2)^n$ になる).この関係を使って,$\Phi(D^2)=a_nD^{2n}+a_{n-1}D^{2(n-1)}+\cdots+a_1D^2+a_0$ を $\sin\alpha x$ に作用させると,線形性(定理38.1)により

$$ \begin{aligned} \Phi(D^2)\sin\alpha x &= a_nD^{2n}(\sin\alpha x) + a_{n-1}D^{2(n-1)}(\sin\alpha x) + \cdots + a_1D^2(\sin\alpha x) + a_0\sin\alpha x\\ &= \Big\{a_n(-\alpha^2)^n + a_{n-1}(-\alpha^2)^{n-1} + \cdots + a_1(-\alpha^2) + a_0\Big\}\sin\alpha x\\ &= \Phi(-\alpha^2)\sin\alpha x \end{aligned} $$

となる(最後の等号は,多項式 $\Phi(z)=a_nz^n+\cdots+a_0$ に $z=-\alpha^2$ を代入した値が中括弧の中身に一致することによる).$\Phi(-\alpha^2)\neq0$ のとき両辺を $\Phi(-\alpha^2)$ で割れば,$\dfrac{1}{\Phi(-\alpha^2)}\sin\alpha x$ が $\Phi(D^2)Y=\sin\alpha x$ の特殊解であることがわかり,式\eqref{eq:38-sinsub}が得られる.

(導出終わり)

導出($\cos\alpha x$ の場合)

$\cos\alpha x$ についても,まったく同じ手順を最初からたどることができる.$\cos\alpha x$ を2回微分すると

$$ D^2(\cos\alpha x) = \frac{d^2}{dx^2}\cos\alpha x = \frac{d}{dx}\big(-\alpha\sin\alpha x\big) = -\alpha^2\cos\alpha x $$

となる($\sin\alpha x$ のときとまったく同じ形——$D^2$ で1回叩くと $-\alpha^2$ 倍されて自分自身に戻る).この操作をもう1回繰り返せば

$$ D^4(\cos\alpha x) = (D^2)^2(\cos\alpha x) = (-\alpha^2)^2\cos\alpha x $$

であり,これを $n$ 回繰り返せば

$$ D^{2n}(\cos\alpha x) = (-\alpha^2)^n\cos\alpha x $$

が成り立つ.この関係を使って,$\Phi(D^2)=a_nD^{2n}+a_{n-1}D^{2(n-1)}+\cdots+a_1D^2+a_0$ を $\cos\alpha x$ に作用させると,線形性(定理38.1)により

$$ \begin{aligned} \Phi(D^2)\cos\alpha x &= a_nD^{2n}(\cos\alpha x) + a_{n-1}D^{2(n-1)}(\cos\alpha x) + \cdots + a_1D^2(\cos\alpha x) + a_0\cos\alpha x\\ &= \Big\{a_n(-\alpha^2)^n + a_{n-1}(-\alpha^2)^{n-1} + \cdots + a_1(-\alpha^2) + a_0\Big\}\cos\alpha x\\ &= \Phi(-\alpha^2)\cos\alpha x \end{aligned} $$

となる(最後の等号は,先ほどと同じ多項式 $\Phi(z)=a_nz^n+\cdots+a_0$ に $z=-\alpha^2$ を代入した値が中括弧の中身に一致することによる).$\Phi(-\alpha^2)\neq0$ のとき両辺を $\Phi(-\alpha^2)$ で割れば,$\dfrac{1}{\Phi(-\alpha^2)}\cos\alpha x$ が $\Phi(D^2)Y=\cos\alpha x$ の特殊解であることがわかり,式\eqref{eq:38-cossub}が得られる.

(導出終わり)

見ての通り,$\sin\alpha x$ の場合の議論を1行ずつそのまま $\cos\alpha x$ に置き換えただけで証明が完成する.そこで以後は,こうした「$\sin$ を $\cos$ に置き換えるだけで議論がそのまま通用する」場面に出会ったら,覚え方として一言でまとめて済ませることにする.

数学ノート:公式の覚え方(ノートの「Point」枠より)

公式\eqref{eq:38-sinsub},\eqref{eq:38-cossub}は,次のように覚えるとよい:$\sin\alpha x$(または $\cos\alpha x$)を2回積分すると,積分定数を0として $-\dfrac{1}{\alpha^2}\sin\alpha x$(または $-\dfrac{1}{\alpha^2}\cos\alpha x$)になる.これは公式\eqref{eq:38-sinsub}で $\Phi(D^2)=D^2$(すなわち $n=1,a_1=1,a_0=0$)とおいた特別な場合であり,$\Phi(-\alpha^2)=-\alpha^2$ だから $\dfrac{1}{D^2}\sin\alpha x = -\dfrac{1}{\alpha^2}\sin\alpha x$ となることに対応する.「$D^2$ は $-\alpha^2$ に,$1/D^2$(=2回積分)は $-1/\alpha^2$ に化ける」と覚えれば,公式\eqref{eq:38-sinsub},\eqref{eq:38-cossub}を思い出す手がかりになる.

例題38.7 単振動の方程式に周期的な外力が働く場合

質量とばねからなる系の運動方程式が $y''+4y=\sin3x$(および $y''+4y=\cos3x$)で与えられるとする(ここで $y$ は変位,$4=\omega_0^2$ は系の固有角振動数の2乗,右辺は角振動数3の外力).それぞれの特殊解を求めよ.

解答 $\Phi(D^2)=D^2+4$,すなわち $\Phi(z)=z+4$ である.外力の角振動数は $\alpha=3$ で,$\Phi(-\alpha^2)=\Phi(-9)=-9+4=-5\neq0$ だから共鳴は起きていない.

(a) $y''+4y=\sin3x$ の場合,公式\eqref{eq:38-sinsub}より

$$ Y = \frac{1}{\Phi(-9)}\sin3x = \frac{1}{-5}\sin3x = -\frac15\sin3x $$

(b) $y''+4y=\cos3x$ の場合,公式\eqref{eq:38-cossub}より同様に $Y=-\dfrac15\cos3x$ である.

どちらも,外力の振動数($\alpha=3$)が系の固有振動数($\sqrt4=2$)と一致していないので,応答の振幅 $\left|-\dfrac15\right|=\dfrac15$ は時間が経っても大きくならず,一定振幅で振動し続ける.振動数が一致してしまう「共鳴」の場合に何が起こるかは,次の38.8節で見る.

38.8 共鳴のときの三角関数

公式38.5(式\eqref{eq:38-sinsub},\eqref{eq:38-cossub})には $\Phi(-\alpha^2)\neq0$ という条件が付いていた.$\Phi(D^2)=D^2+\alpha^2$ のように,方程式そのものが角振動数 $\alpha$ の単振動を表し,しかも外力の角振動数もちょうど $\alpha$ であるとき,$\Phi(-\alpha^2)=-\alpha^2+\alpha^2=0$ となって公式38.5は使えなくなる.これが三角関数版の共鳴である.この節では,そのときの特殊解を与える公式を導く.

公式38.6(ノートの公式(9)(10))

$$ \frac{1}{D^2+\alpha^2}\sin\alpha x = -\frac{x}{2\alpha}\cos\alpha x \tag{38.14}\label{eq:38-res-sin} $$ $$ \frac{1}{D^2+\alpha^2}\cos\alpha x = \frac{x}{2\alpha}\sin\alpha x \tag{38.15}\label{eq:38-res-cos} $$

注意:ノートにはこの2つの証明が書かれていない

ノート(p.49–50)には,公式(9)(10)の式そのものと「(7)(あるいは(8))が使えないときの公式!($\Phi(-\alpha^2)=0$ のとき)」という注記はあるが,「Evidence…」と書かれた直後で余白になっており,証明が書かれないまま次のページに移っている.そこで本書では,ここまでに学んだシフト定理(公式38.3)と指数関数の代入公式(公式38.2)——さらに第35章で複素数解を扱ったときのオイラーの公式——を組み合わせて,この2つの公式を独力で導く.

なぜ複素数を持ち出すのか

$\sin\alpha x$ や $\cos\alpha x$ は実数値の関数なのに,なぜわざわざ複素数 $i=\sqrt{-1}$ を持ち出すのか,不思議に思うかもしれない.理由は,オイラーの公式(Euler's formula,第35章で複素数解を扱った際に登場した)

$$ e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta $$

を使うと,$\sin,\cos$ の2つを同時に,たった1つの指数関数 $e^{i\alpha x}$ として扱えるからである.指数関数は公式38.2・公式38.3という強力な道具を持っているのに対し,$\sin,\cos$ は微分すると互いに入れ替わってしまい単独では扱いにくい.そこで「複素数の世界に一度逃げ込んで,指数関数の公式で計算をすませ,最後に実部・虚部を取り出して現実(実数)の世界に戻ってくる」という作戦をとる.

導出

ステップ1:複素数のまま計算してよい理由. $\Phi(D)=D^2+\alpha^2$ は実数係数の演算子である.$u(x),v(x)$ を実数値関数とすると,微分は実部・虚部それぞれに対して独立に行われるから,

$$ \Phi(D)[u+iv] = \Phi(D)[u] + i\,\Phi(D)[v] $$

が成り立ち,しかも $\Phi(D)[u],\ \Phi(D)[v]$ はどちらも実数値関数である(実数係数の演算子を実数値関数に作用させても複素数は出てこない).したがって,もし $\Phi(D)[u+iv]=p(x)+iq(x)$($p,q$ は実数値関数)とわかれば,両辺の実部どうし・虚部どうしを比較して

$$ \Phi(D)[u]=p(x), \qquad \Phi(D)[v]=q(x) $$

が同時にわかる.これから,$e^{i\alpha x}=\cos\alpha x+i\sin\alpha x$ を $\Phi(D)$ に「代入」した結果の実部と虚部から,$\cos\alpha x,\sin\alpha x$ への答えが同時に手に入る.

ステップ2:シフト定理で $D(D+2i\alpha)$ に帰着する. $D^2+\alpha^2=(D-i\alpha)(D+i\alpha)$(複素数の範囲で因数分解できる)に注意する.実際,右辺を展開すると $(D-i\alpha)(D+i\alpha)=D^2-(i\alpha)^2=D^2-i^2\alpha^2=D^2+\alpha^2$($i^2=-1$ を使った)となって左辺と一致する——これは高校で習った因数分解の公式 $a^2-b^2=(a-b)(a+b)$ を,$a=D$,$b=i\alpha$ として複素数の範囲でそのまま使っただけである.この因数分解に注意し,公式\eqref{eq:38-shift}を $\alpha_{\text{シフト}}=i\alpha$,$f(x)=1$ として使うと,

$$ \Phi(D+i\alpha) = \big((D+i\alpha)-i\alpha\big)\big((D+i\alpha)+i\alpha\big) = D(D+2i\alpha) $$

であるから,

$$ \frac{1}{D^2+\alpha^2}\big[e^{i\alpha x}\big] = e^{i\alpha x}\cdot\frac{1}{D(D+2i\alpha)}[1] $$

となる(公式38.2・38.3の導出では係数や指数の肩が実数であることを一度も使わなかったので,複素数の $i\alpha$ に対してもそのまま成り立つ).

ステップ3:$\dfrac{1}{D(D+2i\alpha)}[1]$ を右から順に計算する. $\dfrac{1}{D(D+2i\alpha)}=\dfrac1D\cdot\dfrac{1}{D+2i\alpha}$ であるから,まず内側の $\dfrac{1}{D+2i\alpha}[1]$ を計算する.$1=e^{0\cdot x}$ とみなして公式38.2(式\eqref{eq:38-expsub})を使うと,$\Phi_1(D)=D+2i\alpha$,$\Phi_1(0)=2i\alpha\neq0$ より

$$ \frac{1}{D+2i\alpha}[1] = \frac{1}{2i\alpha} $$

という定数が得られる.次に,この定数を $D^{-1}$(定義38.1)で積分すると,積分定数を0として

$$ \frac{1}{D}\left[\frac{1}{2i\alpha}\right] = \int\frac{1}{2i\alpha}\,dx = \frac{x}{2i\alpha} $$

となる.よって $\dfrac{1}{D(D+2i\alpha)}[1]=\dfrac{x}{2i\alpha}$ であり,

$$ \frac{1}{D^2+\alpha^2}\big[e^{i\alpha x}\big] = \frac{x}{2i\alpha}\,e^{i\alpha x} $$

が得られた.

ステップ4:実部・虚部に分ける. $\dfrac{1}{i}=-i$ であることを使うと $\dfrac{1}{2i\alpha}=-\dfrac{i}{2\alpha}$ だから,

$$ \begin{aligned} \frac{x}{2i\alpha}e^{i\alpha x} &= -\frac{ix}{2\alpha}\big(\cos\alpha x+i\sin\alpha x\big)\\ &= -\frac{ix}{2\alpha}\cos\alpha x - \frac{i^2x}{2\alpha}\sin\alpha x\\ &= \frac{x}{2\alpha}\sin\alpha x \ -\ i\,\frac{x}{2\alpha}\cos\alpha x \end{aligned} $$

($i^2=-1$ を使った).すなわち $\dfrac{1}{D^2+\alpha^2}[e^{i\alpha x}] = u(x)+iv(x)$ で,実部 $u(x)=\dfrac{x}{2\alpha}\sin\alpha x$,虚部 $v(x)=-\dfrac{x}{2\alpha}\cos\alpha x$ である.ステップ1で確認した「実部・虚部それぞれが対応する強制項の解になる」という事実と,$e^{i\alpha x}=\cos\alpha x+i\sin\alpha x$(実部 $\cos\alpha x$,虚部 $\sin\alpha x$)を合わせると,

$$ \Phi(D)[u(x)] = \cos\alpha x \ \Longrightarrow\ \frac{1}{D^2+\alpha^2}\cos\alpha x = \frac{x}{2\alpha}\sin\alpha x $$ $$ \Phi(D)[v(x)] = \sin\alpha x \ \Longrightarrow\ \frac{1}{D^2+\alpha^2}\sin\alpha x = -\frac{x}{2\alpha}\cos\alpha x $$

が得られる.これはまさに式\eqref{eq:38-res-sin},\eqref{eq:38-res-cos}である.

(導出終わり)

式\eqref{eq:38-res-sin},\eqref{eq:38-res-cos}の右辺には,$\cos\alpha x,\sin\alpha x$ そのものではなく,$x$ が掛かった $x\cos\alpha x,\ x\sin\alpha x$ が現れていることに注目してほしい.$|\cos\alpha x|\le1,\ |\sin\alpha x|\le1$ は振動するだけで大きくならないのに対し,$x$ は $x\to\infty$ でいくらでも大きくなる.つまり共鳴が起きると,特殊解の振幅が時間($x$)に比例していくらでも増大する.これを物理の言葉で見てみよう.

物理的意味:共鳴(きょうめい,resonance)とその危険性

ばね定数と質量で決まる固有角振動数 $\omega$ を持つ単振動系(第36章参照)に,大きさ $F_0$,角振動数 $\omega$ の周期的な外力を加えたときの運動方程式は

$$ y'' + \omega^2 y = F_0\sin\omega x $$

である(外力の角振動数が,系そのものの固有角振動数 $\omega$ にちょうど一致している場合).$\Phi(D^2)=D^2+\omega^2$ で $\Phi(-\omega^2)=0$ だから,まさに公式\eqref{eq:38-res-sin}の共鳴条件に当てはまる.特殊解は線形性(定理38.1)より $F_0$ 倍して

$$ Y = F_0\cdot\left(-\frac{x}{2\omega}\cos\omega x\right) = -\frac{F_0}{2\omega}\,x\cos\omega x $$

である.図38.2 に $\omega=1,F_0=1$ の場合のグラフを示す.振動の「山」と「谷」を結ぶ包絡線(envelope)が直線 $y=\pm\dfrac{x}{2}$ になっており,時間 $x$ が経つにつれて振幅がどこまでも大きくなっていく——これが共鳴(resonance)である.現実の橋・建物・機械は有限の強度しかないので,固有振動数に一致する周期的な力を受け続けると,振幅が構造の限界を超えて破壊に至ることがある(1940年のアメリカ・タコマナローズ橋の落橋が有名な例で,強風がもたらす渦の周期が橋のねじれ振動の固有振動数に近かったことが一因とされる).逆に言えば,公式\eqref{eq:38-res-sin},\eqref{eq:38-res-cos}に $x$ が現れること自体が,「共鳴を避けよ」という設計上の教訓を数式の形で語っている.摩擦や空気抵抗などの減衰項を加えると,この振幅の際限ない増大がどう抑えられるかは,減衰振動シミュレーターで実際に動かして確認できる.

共鳴が起きたときの特殊解 y=マイナスx割る2cos xのグラフ.振動しながら振幅が直線的に増大し,包絡線はy=x割る2とy=マイナスx割る2である
図38.2 共鳴時の特殊解 $Y=-\dfrac{x}{2\alpha}\cos\alpha x$($\alpha=1$)のグラフ.振動しながら,振幅が包絡線 $y=\pm\dfrac{x}{2\alpha}$(赤の破線)に沿って際限なく増大していく.

例題38.8 共鳴を起こす外力を受ける単振動

ばね定数と質量から決まる固有角振動数 $\omega$ の単振動系に,同じ角振動数 $\omega$,振幅 $F_0$ の外力を加えた運動方程式 $y''+\omega^2y=F_0\sin\omega x$ の特殊解を求めよ.

解答 $\Phi(D^2)=D^2+\omega^2$ であり,外力の角振動数は $\omega$(系自身の固有角振動数と同じ)だから $\Phi(-\omega^2)=-\omega^2+\omega^2=0$ となり,共鳴が起きている.線形性(定理38.1)と公式\eqref{eq:38-res-sin}より,

$$ Y = \frac{1}{D^2+\omega^2}\big[F_0\sin\omega x\big] = F_0\cdot\frac{1}{D^2+\omega^2}\sin\omega x = F_0\left(-\frac{x}{2\omega}\cos\omega x\right) = -\frac{F_0}{2\omega}x\cos\omega x $$

である.振幅の大きさ $\left|\dfrac{F_0}{2\omega}x\right|$ は $x$ とともにいくらでも大きくなる——外力が系の固有振動数と同じ周期で押し続けるかぎり,ブランコを的確なタイミングで押し続けるとどんどん高く振れるようになるのと同じ理屈で,振幅が際限なく増大していく.

例題38.9 図38.2の包絡線を読み取る

図38.2は,共鳴時の特殊解 $Y(x)=-\dfrac{x}{2\alpha}\cos\alpha x$($\alpha=1$)のグラフである.この図に描かれている2本の赤い破線(包絡線)の式 $y=\pm\dfrac{x}{2\alpha}$ を,$Y(x)$ の式から導け.また,曲線 $Y(x)$ が包絡線に触れる(すなわち $|Y(x)|=\dfrac{x}{2\alpha}$ となる)のはどんな $x$ のときか求め,$\alpha=1$ のとき図の横軸に記された $\pi,2\pi,3\pi,4\pi$ と対応することを確かめよ.

解答 $\cos\alpha x$ は $x$ の値によらず $-1\le\cos\alpha x\le1$,すなわち $|\cos\alpha x|\le1$ を満たす.よって($x\ge0$ の範囲で)

$$ |Y(x)| = \left|-\frac{x}{2\alpha}\cos\alpha x\right| = \frac{x}{2\alpha}\,|\cos\alpha x| \le \frac{x}{2\alpha} $$

が成り立つ.つまり曲線 $Y(x)$ は,つねに2本の直線 $y=\dfrac{x}{2\alpha}$ と $y=-\dfrac{x}{2\alpha}$ の間に挟まれている——これが図38.2 の赤い破線(包絡線)の正体である.

等号 $|Y(x)|=\dfrac{x}{2\alpha}$ が成り立つのは $|\cos\alpha x|=1$,すなわち $\cos\alpha x=\pm1$ のとき,つまり $\alpha x=n\pi$($n=0,1,2,\dots$)のとき,言い換えると $x=\dfrac{n\pi}{\alpha}$ のときである.$\alpha=1$ の場合はちょうど $x=0,\pi,2\pi,3\pi,4\pi,\dots$ であり,これは図38.2 の横軸に記された目盛りと一致する.さらに,$n$ が奇数のとき $\cos n\pi=-1$ だから

$$ Y\!\left(\frac{n\pi}{\alpha}\right) = -\frac{n\pi/\alpha}{2\alpha}\cdot(-1) = \frac{n\pi}{2\alpha^2} \gt 0 $$

となって上側の包絡線 $y=\dfrac{x}{2\alpha}$ に触れ,$n$ が0でない偶数のとき $\cos n\pi=1$ だから $Y(n\pi/\alpha)=-\dfrac{n\pi}{2\alpha^2}\lt0$ となって下側の包絡線 $y=-\dfrac{x}{2\alpha}$ に触れる.曲線が $x=\pi,2\pi,3\pi,4\pi,\dots$ のたびに上下の包絡線へ交互に触れながら振幅を増していく様子は,まさに図38.2 に描かれている通りである.

38.9 まとめと演習

38.9.1 まとめ

$$ \frac{1}{D^2+\alpha^2}\sin\alpha x = -\frac{x}{2\alpha}\cos\alpha x, \qquad \frac{1}{D^2+\alpha^2}\cos\alpha x = \frac{x}{2\alpha}\sin\alpha x \qquad(\text{共鳴:振幅が}\ x\ \text{に比例して増大する}) $$

本章で登場した公式を,適用条件とあわせて表38.1 に一覧としてまとめておく.方程式 $\Phi(D)y=f(x)$ の特殊解を求めるときは,まず $f(x)$ の形(指数関数か三角関数か,それとも別の関数が掛かっているか)を見て,次に $\Phi(\alpha)$ や $\Phi(-\alpha^2)$ が0になるかどうか(=共鳴が起きているかどうか)を確認してから,対応する行の公式を選べばよい.

表38.1 演算子法の公式一覧($\Phi(D)$ は定数係数の $D$ の多項式)
公式内容適用条件
公式38.1$\dfrac{1}{D-\alpha}f(x)=e^{\alpha x}\displaystyle\int e^{-\alpha x}f(x)\,dx$常に成立(1次式 $\Phi(D)=D-\alpha$)
公式38.2$\dfrac{1}{\Phi(D)}e^{\alpha x}=\dfrac{1}{\Phi(\alpha)}e^{\alpha x}$$\Phi(\alpha)\neq0$(非共鳴)
公式38.3$\dfrac{1}{\Phi(D)}\{e^{\alpha x}f(x)\}=e^{\alpha x}\dfrac{1}{\Phi(D+\alpha)}f(x)$常に成立(シフト定理)
公式38.4$\dfrac{1}{(D-\alpha)^n}e^{\alpha x}=\dfrac{x^n}{n!}e^{\alpha x}$$\alpha$ が $n$ 重の特性根(共鳴)
公式38.5$\dfrac{1}{\Phi(D^2)}\sin\alpha x=\dfrac{1}{\Phi(-\alpha^2)}\sin\alpha x$($\cos$ も同様)$\Phi(-\alpha^2)\neq0$(非共鳴)
公式38.6$\dfrac{1}{D^2+\alpha^2}\sin\alpha x=-\dfrac{x}{2\alpha}\cos\alpha x$($\cos$ の場合は符号反転で $\sin$)$\Phi(-\alpha^2)=0$(共鳴)

38.9.2 演習問題

演習38.1 指数関数への代入公式(非共鳴)

微分方程式 $y'-5y=e^{2x}$ の特殊解を,公式38.2を使って求めよ.

ヒント:$\Phi(D)=D-5$,すなわち $\Phi(z)=z-5$ である.強制項の指数 $\alpha=2$ に対して $\Phi(2)$ を計算し,それが0でないことを確かめてから公式\eqref{eq:38-expsub}に代入する.

演習38.2 指数関数の共鳴(2重根)

微分方程式 $y''-6y'+9y=e^{3x}$ の特殊解を求めよ.

ヒント:まず $\Phi(D)=D^2-6D+9$ を因数分解し,強制項の指数 $\alpha=3$ が特性方程式の何重根になっているかを確かめる.公式38.2の $\Phi(\alpha)\neq0$ という条件が破れることを確認したうえで,公式38.4(式\eqref{eq:38-resonance-exp})を使う.

演習38.3 シフト定理と共鳴の組み合わせ

微分方程式 $y''-2y'+y=x^2e^{x}$ の特殊解を求めよ.

ヒント:$\Phi(D)=(D-1)^2$ であり,強制項は「指数関数 $e^{x}$」×「多項式 $x^2$」の形をしている.まずシフト定理(公式38.3)を使って $e^{x}$ を演算子の外に出し,$\Phi(D+1)$ を計算せよ($-1$ と $+1$ が打ち消し合うはずである).最後に残る $\dfrac{1}{D^2}[x^2]$ は,$x^2$ を2回積分するだけでよい(積分定数は0).

演習38.4 三角関数への代入公式(非共鳴)

微分方程式 $y''+9y=\cos2x$ の特殊解を求めよ.

ヒント:$\Phi(D^2)=D^2+9$,すなわち $\Phi(z)=z+9$ である.外力の角振動数 $\alpha=2$ に対して $\Phi(-\alpha^2)=\Phi(-4)$ を計算し,それが0でないことを確かめてから公式38.5(式\eqref{eq:38-cossub})を使う.

演習38.5 三角関数の共鳴

微分方程式 $y''+4y=\sin2x$ の特殊解を求めよ.またこの解の振幅は $x\to\infty$ でどうなるか,一言で説明せよ.

ヒント:$\Phi(D^2)=D^2+4$ で,外力の角振動数 $\alpha=2$ に対して $\Phi(-4)=-4+4=0$ となることを確かめよ(=この系自身の固有角振動数と外力の角振動数がちょうど一致している).公式38.6(式\eqref{eq:38-res-sin})に $\alpha=2$ を代入する.

演習38.6 定数係数演算子どうしの交換則(証明問題)

$\Phi_1(D)=\displaystyle\sum_{i=0}^{m}a_iD^i$,$\Phi_2(D)=\displaystyle\sum_{j=0}^{n}b_jD^j$ を,係数 $a_i,b_j$ がすべて定数であるような $D$ の多項式とする.$f(x)$ を($m+n$ 回以上微分できる)任意の関数とするとき,

$$ \Phi_1(D)\big[\Phi_2(D)f(x)\big] = \Phi_2(D)\big[\Phi_1(D)f(x)\big] $$

が成り立つことを証明せよ(定理38.1は $D$ の1つのべきどうしの交換則\eqref{eq:38-Dcomm}しか述べていないが,この演習はそれを一般の多項式 $\Phi_1(D),\Phi_2(D)$ に拡張したものである).

ヒント:$D$ の線形性(式\eqref{eq:38-Dlinear1},\eqref{eq:38-Dlinear2},有限個の項の和にも同様に使ってよい)を使って $\Phi_1(D)[\Phi_2(D)f(x)]$ を2重の和 $\displaystyle\sum_{i}\sum_{j}a_ib_jD^i\big[D^jf(x)\big]$ に展開し,式\eqref{eq:38-Dcomm}で $D^i[D^jf(x)]=D^{i+j}[f(x)]$ に書き換える.そのあとで和の順序($i$ と $j$ ,どちらを先に足すか)を入れ替えるだけで,右辺 $\Phi_2(D)[\Phi_1(D)f(x)]$ の2重和とちょうど一致することを確かめよ.

演習38.7 逆演算子 $D^{-1}$ の基本計算

$\dfrac{1}{D}\big[3x^2-2x+1\big]$ を求めよ(積分定数は0とする).また,求めた答えを $D$ で微分すると元の $3x^2-2x+1$ に戻ることを確かめよ.

ヒント:定義38.1により,$\dfrac1D[y]=\displaystyle\int y\,dx$ である.多項式の各項を1つずつ積分すればよい.

38.9.3 参考文献

  1. 望月泰英『数学ノート 常微分方程式』(手書き講義ノート).本章の底本.
  2. E. Kreyszig, Advanced Engineering Mathematics, 10th ed., Wiley, 2011.(演算子法の項)