第45章シュレーディンガー方程式(直交座標)と無限井戸型ポテンシャル
前章までで,波動方程式や熱伝導方程式といった具体的な物理現象を表す偏微分方程式を,変数分離法(method of separation of variables)で解く技術を身につけてきた.また,極座標や円柱座標,球座標で「ラプラシアン」と呼ばれる微分演算子がどのような形になるかも調べた.本章からは,いよいよそれらの道具を使って,20世紀に生まれたまったく新しい物理学——量子力学(quantum mechanics)——の中心方程式である「シュレーディンガー方程式(Schrödinger equation)」を解いていく.
シュレーディンガー方程式は,電子や原子核のようにきわめて小さな粒子のふるまいを記述する偏微分方程式である.高校物理で学んだニュートンの運動方程式 $F=ma$ が「粒子の位置 $x(t)$ を求める」ための方程式であったのに対し,シュレーディンガー方程式は「波動関数(wave function) $\psi$ と呼ばれる,複素数値をとる関数を求める」ための方程式である.なぜ関数なのか,なぜ複素数なのか——という疑問に本章がすべて答えられるわけではない(それは量子力学そのものの授業に譲る).しかし本章を読み終えたときには,少なくとも「シュレーディンガー方程式を目の前にしたら,何をすればよいか」が具体的にわかるようになっているはずである.
本章で扱う最初の具体例は,無限井戸型ポテンシャル(infinite square well,「箱の中の粒子」)と呼ばれる,考えうる限りもっとも単純な量子力学の問題である.幅 $2a$ の箱の中に電子を閉じ込め,箱の外には絶対に出られないようにする——この単純な設定だけから,「エネルギーは連続な値ではなく,とびとびの値しか取れない」という,量子力学最大の特徴(量子化,quantization)が,何の近似もなしに厳密に導かれる.この驚くべき結論を,前章までに身につけた変数分離法と,第35章で学んだ2階線形同次微分方程式の知識だけを使って,自分の手で導いてみよう.
- 演算子(operator)とは何か,固有値方程式「(演算子)×(固有関数)=(固有値)×(固有関数)」の意味
- 運動量演算子 $\hat p=\dfrac{\hbar}{i}\pdiff{}{x}$ とエネルギー演算子 $\hat E=-\dfrac{\hbar}{i}\pdiff{}{t}$ の定義と,それらが可換であること
- ハミルトニアン演算子 $\hat H=\hat p^2/2m+V$ の導入と,シュレーディンガー方程式 $\hat H\psi=E\psi$(定常状態の場合)・$\hat H\psi=\hat E\psi$(時間変動する場合)の導出
- 1次元無限井戸型ポテンシャルの定常状態を解き,エネルギー固有値 $E_n=\dfrac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}n^2$ の量子化を導く
- 境界条件を満たすための「非自明解条件(行列式=0)」という考え方——線形代数の固有値問題との対応
- 1次元無限井戸型ポテンシャルの時間変動する解と,波動関数の規格化 $\int\abs{\psi}^2\dd x=1$
- 2次元無限井戸型ポテンシャルへの拡張と,異なる量子数の組が同じエネルギーを与える「縮退(degeneracy)」という現象
- 「変数分離法 → 各方向の常微分方程式 → 境界条件による量子化 → 規格化」という,量子力学の問題を解く一連の「型」を身につける(この型は次章以降,調和振動子や水素原子でも繰り返し使われる)
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 偏微分方程式』 pp. 29–37.
45.1 量子力学の演算子とハミルトニアン
本章では,まったく新しい種類の数学的対象である演算子(operator)を扱う.演算子とは,一言でいえば「関数を受け取って,別の関数を返す仕組み」である.これは高校数学までに親しんできた「数を受け取って数を返す関数」よりも1段階抽象度の高い概念である.例えば微分 $\dfrac{d}{dx}$ も演算子の一種であり,関数 $f(x)$ を受け取って導関数 $f'(x)$ という別の関数を返す.本章で登場する演算子はすべて,微分(あるいは何かを掛け算する操作)を組み合わせたものだけなので,中身は難しくない.
イメージ:演算子は「関数を受け取り関数を返す機械」
図45.1のように,演算子 $\hat A$ を「入力された関数 $\psi(x)$ に何らかの操作(微分する,$x$ を掛ける,など)を施して,別の関数 $\hat A\psi(x)$ を出力する機械」だとイメージしよう.線形代数(第12章)で学んだ「行列 $A$ はベクトル $\bm v$ を受け取って別のベクトル $A\bm v$ を返す仕組み」という考え方と,構造としてはまったく同じである.行列の固有値方程式 $A\bm v=\lambda\bm v$(第12.1節)を思い出そう——「行列を掛けても向きが変わらず,長さだけが $\lambda$ 倍になる」特別なベクトル $\bm v$ を固有ベクトル,その倍率 $\lambda$ を固有値と呼んだ.演算子についても同じ言葉を使う.「関数全体の集まり」を,ベクトルの集まり(ベクトル空間)の無限次元版だと思えばよい——ベクトルの「向き」に対応するのが,関数の「形(波形)」である.
定義45.1 演算子の固有値方程式
演算子 $\hat A$ と(恒等的に $0$ ではない)関数 $\psi$ が
\begin{equation} \hat A\psi=\lambda\psi\qquad(\lambda\ は\ \psi\ によらない定数) \label{eq:45-eigen-def} \end{equation}を満たすとき,$\psi$ を $\hat A$ の固有関数(eigenfunction),$\lambda$ を対応する固有値(eigenvalue)という.つまり「(演算子)×(固有関数)=(固有値)×(固有関数)」という形の等式である.
定義45.2 運動量演算子とエネルギー演算子
量子力学では,物理量である運動量 $p$ とエネルギー $E$ に,それぞれ次の演算子を対応させる.ここで $\hbar=h/2\pi$ は換算プランク定数(reduced Planck constant)($h$ はプランク定数,$2\pi$ で割った量に $\hbar$(エイチバー)という専用の記号を当てる),$i$ は虚数単位($i^2=-1$,第21章)である.
\begin{equation} \hat p=\frac{\hbar}{i}\pdiff{}{x},\qquad \hat E=-\frac{\hbar}{i}\pdiff{}{t} \label{eq:45-p-E-def} \end{equation}物理的意味:可換な演算子と同時測定
量子力学には次のような原理がある——2つの演算子 $\hat A,\hat B$ が可換($\hat A\hat B=\hat B\hat A$,すなわち交換子 $[\hat A,\hat B]:=\hat A\hat B-\hat B\hat A$ が恒等的に $0$)であるとき,対応する2つの物理量は原理的にいくらでも精密に同時測定できる.逆に可換でない演算子(例えば位置演算子 $\hat x$ と運動量演算子 $\hat p$)に対応する物理量は,同時には精密に測定できない(これがハイゼンベルク(Heisenberg)の不確定性原理の演算子版の表現である).運動量演算子 $\hat p$ とエネルギー演算子 $\hat E$ は,それぞれ $x$ 微分・$t$ 微分という異なる変数についての演算子なので可換である($x$ 偏微分と $t$ 偏微分の順序を入れ替えても結果は同じ,というだけのことである).これは演習45.3で実際に確かめる.
試しに,この2つの演算子を,波数 $k$(wavenumber,波長を $\lambda_{\text{wave}}$ とすると $k=2\pi/\lambda_{\text{wave}}$)と角振動数 $\omega$(angular frequency,振動数を $\nu$ とすると $\omega=2\pi\nu$)を持つ平面波(plane wave)
$$ \varphi(x,t)=Ae^{i(kx-\omega t)} $$に作用させてみよう.ここで $A$ は($x,t$ によらない)複素数の定数である.$e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$(オイラーの公式,第21.4節)を思い出すと,$\varphi$ は実部・虚部がそれぞれ $\cos(kx-\omega t)$,$\sin(kx-\omega t)$ となっている波である.$\varphi$ を $x$ で1回微分するには,$t$ を定数とみなして,指数関数の微分公式 $\dfrac{d}{dx}e^{cx}=ce^{cx}$($c$ は $x$ によらない定数)をそのまま用いればよい(ここでは指数の肩を $x$ について見ると $c=ik$ にあたる).
例題45.1 平面波に演算子を作用させる(ノートの計算)
平面波 $\varphi(x,t)=Ae^{i(kx-\omega t)}$ に運動量演算子 $\hat p$ とエネルギー演算子 $\hat E$ を作用させ,$\varphi$ がその両方の固有関数になっていることを確かめよ.
解答 まず運動量演算子を作用させる.$x$ について偏微分すると,指数の肩の $x$ 以外はすべて定数として扱われるので $\pdiff{\varphi}{x}=ik\cdot\varphi$ となる.したがって
$$ \hat p\varphi=\frac{\hbar}{i}\pdiff{\varphi}{x}=\frac{\hbar}{i}\cdot ik\cdot\varphi=\hbar k\cdot\varphi $$($\dfrac{\hbar}{i}\cdot ik=\hbar k\cdot\dfrac{i}{i}=\hbar k$ である.$\dfrac{i}{i}=1$ に注意.)次にエネルギー演算子を作用させる.今度は $t$ で1回偏微分するので $\pdiff{\varphi}{t}=-i\omega\cdot\varphi$ である.
$$ \hat E\varphi=-\frac{\hbar}{i}\pdiff{\varphi}{t}=-\frac{\hbar}{i}\cdot(-i\omega)\cdot\varphi=\hbar\omega\cdot\varphi $$したがって $\varphi$ は $\hat p$,$\hat E$ の両方の固有関数であり,固有値はそれぞれ運動量の固有値 $\hbar k$,エネルギーの固有値 $\hbar\omega$ である.これは,量子力学誕生のきっかけとなったド・ブロイの関係式(de Broglie relation) $p=\hbar k=h/\lambda_{\text{wave}}$ や,プランク(Planck)・アインシュタイン(Einstein)の関係式 $E=\hbar\omega=h\nu$ と一致している.
続いて,$\hbar k$ と $\hbar\omega$ が確かに運動量・エネルギーの次元を持つことを次元解析で確認しておく.プランク定数 $h$ の次元は $[\text N\cdot\text m\cdot\text s]$(力×距離×時間,すなわちエネルギー×時間の次元)である.波数は $k=2\pi/\lambda_{\text{wave}}$($\lambda_{\text{wave}}$ の次元は $[\text m]$)なので $\hbar k=\dfrac{h}{2\pi}\cdot\dfrac{2\pi}{\lambda_{\text{wave}}}=\dfrac{h}{\lambda_{\text{wave}}}$ であり,その次元は
$$ [\hbar k]=\frac{\text N\cdot\text m\cdot\text s}{\text m}=\text N\cdot\text s $$で,これは運動量の次元($p=mv$,質量×速度=$\text{kg}\cdot\text m/\text s$ を力積の単位 $\text N\cdot\text s$ に直したもの)と一致する.同様に,振動数 $\nu$(次元 $[\text s^{-1}]$,$\omega=2\pi\nu$)を使うと $\hbar\omega=\dfrac{h}{2\pi}\cdot2\pi\nu=h\nu$ であり,
$$ [\hbar\omega]=\text N\cdot\text m=\text J $$で,こちらはエネルギーの次元と一致する.運動量演算子・エネルギー演算子の定義(定義45.2)が,物理的に正しい量を返すことがこれで裏付けられた.
定義45.3 ハミルトニアン演算子
古典力学におけるハミルトニアン(Hamiltonian) $H$ は,一般化運動量 $p_i$ と一般化速度 $\dot x_i$,ラグランジアン $L$ を用いて $H=\sum_i p_i\dot x_i-L$ と定義される(解析力学).1次元・ポテンシャル $V(x)$ のもとで運動する質量 $m$ の1粒子については,これは運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和に等しくなることが知られている.
\begin{equation} H=\frac12m\dot x^2+V=\frac{p^2}{2m}+V \label{eq:45-hamiltonian-classical} \end{equation}(運動量の定義 $p=m\dot x$ より $\dot x=p/m$ なので $\frac12m\dot x^2=\frac12m\left(\dfrac pm\right)^{\!2}=\dfrac{p^2}{2m}$ と書き換えられる.)ここから,運動量 $p$ を演算子 $\hat p$ に置き換えることで,ハミルトニアン演算子 $\hat H$ を定義する.
\begin{equation} \hat H=\frac{\hat p^2}{2m}+V=\frac{1}{2m}\left(\frac{\hbar}{i}\pdiff{}{x}\right)^{\!2}+V =-\frac{\hbar^2}{2m}\pdiff{^2}{x^2}+V \label{eq:45-hamiltonian-op} \end{equation}($\hat p^2$ を計算する際,$\left(\dfrac1i\right)^{\!2}=\dfrac1{i^2}=\dfrac1{-1}=-1$ となることに注意すると,係数の符号がマイナスに変わる理由がわかる.)
この $\hat H$ を,先ほどと同じ平面波 $\psi(x,t)=Ae^{i(kx-\omega t)}$ に作用させてみよう(ここから先,波動関数を表す記号を $\varphi$ から $\psi$ に切り替える.文字自体に意味の違いはなく,本章の主役である「波動関数」に,ノート後半で使われている記号 $\psi$ に統一するだけである).$x$ で2回偏微分すると $\pdiff{^2\psi}{x^2}=(ik)^2\psi=-k^2\psi$ となるから,
$$ \hat H\psi=\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}(ik)^2+V\right\}\psi=\left(\frac{\hbar^2k^2}{2m}+V\right)\psi =\left(\frac{p^2}{2m}+V\right)\psi $$(最後の等号では,例題45.1の結果 $p=\hbar k$ を用いて $\hbar^2k^2=(\hbar k)^2=p^2$ と書き直した.)ここで,古典力学の式 \eqref{eq:45-hamiltonian-classical} にならって $\dfrac{p^2}{2m}+V=E$(一定のエネルギー)とおくと,
\begin{equation} \hat H\psi(x,t)=E\psi(x,t) \label{eq:45-tise-eigen} \end{equation}という,定義45.1の演算子の固有値方程式とまったく同じ形の等式が現れる.これこそが,次節で詳しく導くシュレーディンガー方程式(Schrödinger equation)の骨格である——「エネルギー $E$ を固有値,波動関数 $\psi$ を固有関数とする,ハミルトニアン演算子の固有値方程式を解く」ことが,量子力学の基本問題になる.
45.2 シュレーディンガー方程式の導出
前節末の式 \eqref{eq:45-tise-eigen},$\hat H\psi=E\psi$ に,ハミルトニアン演算子の定義 \eqref{eq:45-hamiltonian-op},$\hat H=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\pdiff{^2}{x^2}+V$ を代入するだけで,方程式を具体的な形に書き下すことができる.
導出:時間に依存しない(定常状態の)シュレーディンガー方程式
$\hat H\psi=E\psi$ に $\hat H=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\pdiff{^2}{x^2}+V$ を代入すると,
\begin{equation} -\frac{\hbar^2}{2m}\pdiff{^2\psi}{x^2}+V\psi=E\psi \label{eq:45-tise-stationary} \end{equation}が得られる.これを時間に依存しないシュレーディンガー方程式(time-independent Schrödinger equation)という.「時間に依存しない」というのは,エネルギー $E$ が時間 $t$ によらない一定の値である,すなわち系が定常状態(stationary state)にあることを表している.波動関数 $\psi=\psi(x)$ も,この場合は $x$ だけの関数として求まる.
では,エネルギーが時間的に変動する(=定常状態にない)一般の場合はどうすればよいか.ここでノートは巧妙な発想の転換をする——「エネルギー $E$」という数を,「エネルギー演算子 $\hat E$」という演算子に置き換えて,方程式をそのまま演算子の言葉で書き直すのである.定義45.2 より $\hat E=-\dfrac{\hbar}{i}\pdiff{}{t}$ であった.(なぜこのような置き換えが許されるのか,唐突に見えるかもしれない.手がかりは例題45.1にある——エネルギーが確定した平面波 $\varphi=Ae^{i(kx-\omega t)}$ については,$\hat E\varphi=\hbar\omega\cdot\varphi=E\varphi$ が成り立っていた.つまり,これまで扱ってきた特別な場合(エネルギー $E$ が一定の値に定まっている定常状態)では,演算子 $\hat E$ を作用させることと,数 $E$ を掛けることは,まったく同じ結果になる.したがって,一般の(エネルギーが時間的に変動しうる)場合に,数 $E$ の代わりに演算子 $\hat E$ を使っても,少なくとも定常状態という特別な場合との整合性は崩れない.これが,数 $E$ を演算子 $\hat E$ に「格上げ」してよい理由である.)
導出:時間に依存する(一般の)シュレーディンガー方程式
$E\psi=\hat E\psi$($E$ が定数のときはこの2つは等しい,という意味)であるから,$\hat H\psi=E\psi$ の両辺の $E\psi$ を $\hat E\psi$ に置き換えて,
$$ \hat H\psi=\hat E\psi $$という,2つの演算子だけで書かれた等式が得られる.左辺・右辺それぞれに演算子の定義($\hat H=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\pdiff{^2}{x^2}+V$,$\hat E=-\dfrac{\hbar}{i}\pdiff{}{t}$)を代入すると,
\begin{equation} -\frac{\hbar^2}{2m}\pdiff{^2\psi}{x^2}+V\psi=-\frac{\hbar}{i}\pdiff{\psi}{t} \label{eq:45-tise-time} \end{equation}を得る.これが時間に依存するシュレーディンガー方程式(time-dependent Schrödinger equation)である.右辺の係数は,$\dfrac1i=\dfrac{1}{i}\cdot\dfrac{-i}{-i}=\dfrac{-i}{-i^2}=\dfrac{-i}{1}=-i$ を使うと $-\dfrac{\hbar}{i}=-\hbar\cdot(-i)=i\hbar$ と書き直せるので,式 \eqref{eq:45-tise-time} は $i\hbar\pdiff{\psi}{t}=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\pdiff{^2\psi}{x^2}+V\psi=\hat H\psi$ とも書ける.こちらの形(右辺にハミルトニアン演算子,左辺に $i\hbar\,\partial/\partial t$)は,多くの教科書で標準形として採用されている表記なので,覚えておくとよい.
注意:「時間に依存しない」と「時間に依存する」の関係
式 \eqref{eq:45-tise-time} は式 \eqref{eq:45-tise-stationary} を「含んでいる」——つまり,エネルギーが一定値 $E$ に定まる定常状態では,波動関数は $\psi(x,t)=\psi(x)e^{-iEt/\hbar}$(空間だけの関数 $\psi(x)$ と,時間だけの位相因子 $e^{-iEt/\hbar}$ の積)の形に書け,これを式 \eqref{eq:45-tise-time} に代入すると(第45.4節で実際に行うように)式 \eqref{eq:45-tise-stationary} が復元される.したがって,本章の以下の節でも,まず「定常状態」(時間に依存しない方程式)を解いて空間部分 $\psi(x)$ を求め,そのあとで時間変化する場合に進む,という順序をとる.
例題45.2 自由粒子の平面波が時間に依存するシュレーディンガー方程式を満たすことの確認
ポテンシャルがない自由な空間($V=0$,自由粒子)を考える.平面波 $\psi(x,t)=Ae^{i(kx-\omega t)}$ が式 \eqref{eq:45-tise-time} の解であるためには,$\omega$ と $k$ の間にどのような関係(分散関係,dispersion relation)が必要か.
解答 $V=0$ なので,式 \eqref{eq:45-tise-time} は $-\dfrac{\hbar^2}{2m}\pdiff{^2\psi}{x^2}=-\dfrac{\hbar}{i}\pdiff{\psi}{t}$ である.左辺は,例題45.1と同じ計算により $\pdiff{^2\psi}{x^2}=(ik)^2\psi=-k^2\psi$ なので,
$$ -\frac{\hbar^2}{2m}\cdot(-k^2\psi)=\frac{\hbar^2k^2}{2m}\psi $$右辺は,$\pdiff\psi t=-i\omega\psi$ より
$$ -\frac{\hbar}{i}\cdot(-i\omega\psi)=\hbar\omega\psi $$したがって,両辺が等しくなる(=$\psi$ が方程式の解になる)ためには
$$ \frac{\hbar^2k^2}{2m}=\hbar\omega\qquad\text{すなわち}\qquad\omega=\frac{\hbar k^2}{2m} $$が必要である.例題45.1の結果 $p=\hbar k$,$E=\hbar\omega$ を使ってこれを書き直すと,$E=\dfrac{p^2}{2m}$ となる——これはまさに,ポテンシャルがないときの古典力学のエネルギー(運動エネルギーのみ)そのものである.シュレーディンガー方程式は,自由粒子については何も不思議なことを要求していない,ということが確認できた.
次節からは,いよいよ $V$ が定数の $0$ ではない,具体的なポテンシャルを設定して,シュレーディンガー方程式(式 \eqref{eq:45-tise-stationary},式 \eqref{eq:45-tise-time})を解いていく.最初の例は,本章の主題である無限井戸型ポテンシャルである.
45.3 無限井戸型ポテンシャル(1次元・定常状態)
電子が $x$ 軸上だけを動くことができ,時間的にも変動しない(定常状態にある)とする.そして,この電子が受けるポテンシャルエネルギー $V(x)$ を,次のように設定する.
定義45.4 無限井戸型ポテンシャル
$$ V(x)=\begin{cases}0 & \abs x\le a\\ \infty & \abs x\gt a\end{cases} $$すなわち,幅 $2a$ の区間 $[-a,a]$ の内側ではポテンシャルエネルギーが $0$(自由粒子と同じ)だが,外側では無限大というポテンシャルである.これを無限井戸型ポテンシャル(infinite square well),あるいは「箱の中の粒子(particle in a box)」の問題という.境界条件は $\psi(-a)=\psi(a)=0$ とする.
イメージ:なぜ井戸の外では $\psi=0$ なのか
シュレーディンガー方程式 $-\dfrac{\hbar^2}{2m}\psi''+V\psi=E\psi$ で,$\abs x\gt a$ の領域では $V=\infty$ である.もし,この領域で $\psi$ が恒等的に $0$ でなければ,左辺の $V\psi$ の項が無限大になってしまい,有限のエネルギー $E$ では方程式が成り立たない.(正確には極限操作が必要になるが,直観的には「無限に高い壁を作れば,粒子はどんな有限のエネルギーを持っていても,その壁を通り抜けたり,壁の中に浸み込んだりすることはできない」と理解してよい.)つまり,井戸の外側では電子は存在確率 $0$,井戸の内側だけに完全に閉じ込められる.
そこで,$\abs x\le a$ の内側だけを考える.ここでは $V(x)=0$ なので,シュレーディンガー方程式(式 \eqref{eq:45-tise-stationary})は
\begin{equation} -\frac{\hbar^2}{2m}\diff{^2\psi}{x^2}=E\psi \qquad\text{すなわち}\qquad \diff{^2\psi}{x^2}+\frac{2mE}{\hbar^2}\psi=0 \label{eq:45-well-ode} \end{equation}という,$x$ の常微分方程式になる(内部では $t$ が現れないので,偏微分 $\partial$ ではなく常微分 $d$ で書いてよい).
導出:内部($\abs x\le a$)での一般解
式 \eqref{eq:45-well-ode} は,係数が定数の2階線形同次微分方程式である.第35章(第35.4節,定数係数2階同次方程式と特性方程式)で学んだとおり,$y''+c\,y=0$($c\gt0$)の特性方程式は $r^2+c=0$,すなわち $r=\pm i\sqrt c$ という純虚数の解を持ち,一般解は $y=A\cos(\sqrt c\,x)+B\sin(\sqrt c\,x)$ の形になる.いま $c=2mE/\hbar^2$($E\gt0$ を仮定してよい.$E\le0$ では後述のとおり非自明な解が存在しない)なので,式 \eqref{eq:45-well-ode} の一般解は
\begin{equation} \psi(x)=A\cos\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}x+B\sin\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}x \label{eq:45-well-gensol} \end{equation}である($A,B$ は境界条件で決まる定数).
計算を見やすくするため,$\omega:=\dfrac{\sqrt{2mE}}{\hbar}$(すなわち $\omega^2=\dfrac{2mE}{\hbar^2}$)とおく.境界条件 $\psi(a)=\psi(-a)=0$ を式 \eqref{eq:45-well-gensol} に代入すると,$\cos$ が偶関数($\cos(-\theta)=\cos\theta$),$\sin$ が奇関数($\sin(-\theta)=-\sin\theta$)であることから,
\begin{equation} \psi(a)=A\cos\omega a+B\sin\omega a=0,\qquad \psi(-a)=A\cos\omega a-B\sin\omega a=0 \label{eq:45-well-bc} \end{equation}という,$A,B$ についての連立1次方程式が得られる.
導出:非自明解条件と量子化
式 \eqref{eq:45-well-bc} を行列の形で書くと,
\begin{equation} \begin{bmatrix}\cos\omega a&\sin\omega a\\ \cos\omega a&-\sin\omega a\end{bmatrix} \begin{bmatrix}A\\B\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}0\\0\end{bmatrix} \label{eq:45-well-bc-matrix} \end{equation}である.もし $A=B=0$(自明な解)しか許されないなら,波動関数は井戸の内部でも恒等的に $0$ になってしまい,「電子が存在する」という前提と矛盾する.したがって,$A,B$ が同時に $0$ でない解(非自明解,nontrivial solution)を持つことが必要である.線形代数(第12章,行列の固有値問題で同じ考え方が使われる)で学んだとおり,同次連立1次方程式 $M\bm v=\bm 0$ が非自明解を持つための条件は,係数行列 $M$ の行列式(determinant,第8.3節)が $0$ になることである.
$$ \begin{vmatrix}\cos\omega a&\sin\omega a\\ \cos\omega a&-\sin\omega a\end{vmatrix}=0 $$左辺を2次の行列式の定義(たすき掛けの差)にしたがって展開する.
$$ \cos\omega a\cdot(-\sin\omega a)-\sin\omega a\cdot\cos\omega a=-2\sin\omega a\cos\omega a=0 $$ここで,高校数学の2倍角の公式(HSMath第5.3節)$\sin2\theta=2\sin\theta\cos\theta$ を $\theta=\omega a$ について逆向きに使うと,$-2\sin\omega a\cos\omega a=-\sin2\omega a$ なので,条件は
\begin{equation} \sin2\omega a=0 \label{eq:45-well-detcond} \end{equation}となる.$\sin\theta=0$ となるのは $\theta=n\pi$($n$ は整数)のときだから,$2\omega a=n\pi$.$\omega,a\gt0$ なので $n$ は正の整数($n=0$ は $\omega=0$,すなわち $E=0$ で $\psi\equiv0$ となり非自明解にならないので除く.負の整数は $\omega\gt0$ の仮定と矛盾するので除く).よって
\begin{equation} \omega=\frac{n\pi}{2a}\qquad(n=1,2,3,\dots) \label{eq:45-well-quantization} \end{equation}という,$\omega$(したがってエネルギー $E$)が特定のとびとびの値しか取れないという結論が得られる.
関連シミュレーター:2次の行列式が $0$ になる条件を数値的に動かして確かめたい場合は,行列式シミュレーター も参考になる.
物理的意味:エネルギーの量子化
$\omega^2=\dfrac{2mE}{\hbar^2}$ と式 \eqref{eq:45-well-quantization} から,ただちにエネルギーが求まる.
\begin{equation} E=\frac{\hbar^2\omega^2}{2m}=\frac{\hbar^2}{2m}\cdot\frac{n^2\pi^2}{4a^2}=\frac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}n^2\qquad(n=1,2,3,\dots) \label{eq:45-well-energy} \end{equation}境界条件 $\psi(\pm a)=0$ という,一見ただの「両端を固定する」だけの条件から,エネルギーが連続な値ではなく,とびとびの値(離散スペクトル)しか取れないという結論が出てきたことに注目してほしい.これが「量子化(quantization)」と呼ばれる現象であり,量子力学という名前の由来でもある.高校物理で学んだ「弦の固有振動(両端を固定した弦は,決まった波長の定常波しか作れない)」と数学的に同じ仕組みであることに気づいた読者は鋭い——実際,第43章で調べた1次元の波動方程式の境界値問題(弦の固有振動)と,本節の計算は,ともに「$y''+(\text{定数})y=0$ の一般解に,両端で $0$ になる境界条件を課す」という,まったく同じ数学的構造を持っている.
量子数 $n$ を式 \eqref{eq:45-well-gensol} に戻すと,波動関数は
$$ \psi(x)=A\cos\frac{n\pi}{2a}x+B\sin\frac{n\pi}{2a}x $$となる.ここで境界条件 $\psi(a)=A\cos\dfrac{n\pi}2+B\sin\dfrac{n\pi}2=0$ に戻り,$n$ の偶奇で場合分けをする.
導出:$n$ の偶奇による場合分けと係数の決定
[i] $n$ が奇数のとき.$n=1,3,5,\dots$ では $\dfrac{n\pi}2$ は $\dfrac\pi2,\dfrac{3\pi}2,\dfrac{5\pi}2,\dots$ となり,$\cos\dfrac{n\pi}2=0$ である.したがって境界条件は $B\sin\dfrac{n\pi}2=0$ となるが,奇数 $n$ では $\sin\dfrac{n\pi}2=\pm1\neq0$ なので,これを満たすには $B=0$ でなければならない.よって
$$ \psi(x)=A\cos\frac{n\pi}{2a}x\qquad(n=1,3,5,\dots) $$[ii] $n$ が偶数のとき.$n=2,4,6,\dots$ では $\dfrac{n\pi}2$ は $\pi,2\pi,3\pi,\dots$ となり,$\sin\dfrac{n\pi}2=0$ である.したがって境界条件は $A\cos\dfrac{n\pi}2=0$ となるが,偶数 $n$ では $\cos\dfrac{n\pi}2=\pm1\neq0$ なので,$A=0$ でなければならない.よって
$$ \psi(x)=B\sin\frac{n\pi}{2a}x\qquad(n=2,4,6,\dots) $$(奇数のとき $\cos$ 型,偶数のとき $\sin$ 型になる,というのは一見奇妙に見えるかもしれないが,$\cos$ が偶関数・$\sin$ が奇関数であることと,井戸の中心 $x=0$ に関する対称性を考えると自然である——$n=1$(奇数・$\cos$型)の波動関数は中心について左右対称,$n=2$(偶数・$\sin$型)は左右反対称になる.)
最後に,残った定数(奇数のときの $A$,偶数のときの $B$)を,波動関数の規格化(normalization)条件によって決める.量子力学では $\abs{\psi(x)}^2$ を「電子がその位置に見つかる確率密度」と解釈するので,全空間で積分した確率の合計は $1$ でなければならない.
導出:規格化定数の決定
偶数の場合($\psi=B\sin\dfrac{n\pi}{2a}x$)を計算する.井戸の外側では $\psi=0$ なので,積分は $[-a,a]$ の範囲だけでよい.半角公式(HSMath第5.3節)$\sin^2\theta=\dfrac{1-\cos2\theta}2$ を使うと,
$$ \int_{-\infty}^{\infty}\psi^2(x)\,dx =\int_{-a}^{a}B^2\sin^2\frac{n\pi}{2a}x\,dx =\int_{-a}^{a}B^2\cdot\frac{1-\cos\frac{n\pi}a x}2\,dx $$右辺の積分を実行する.定数項 $\frac12$ の積分は区間の長さ $2a$ をかけて $a$,$\cos$ の項は
$$ \int_{-a}^{a}\cos\frac{n\pi}ax\,dx=\left[\frac{a}{n\pi}\sin\frac{n\pi}ax\right]_{-a}^{a}=\frac{a}{n\pi}\bigl(\sin n\pi-\sin(-n\pi)\bigr)=0 $$($n$ が整数なので $\sin n\pi=0$ である.)となり消える.したがって
$$ \int_{-\infty}^{\infty}\psi^2(x)\,dx=\frac{B^2}2\cdot(2a-0)=aB^2=1 \qquad\therefore\ B=\frac1{\sqrt a} $$奇数の場合($\psi=A\cos\dfrac{n\pi}{2a}x$)も,半角公式 $\cos^2\theta=\dfrac{1+\cos2\theta}2$ を使うとまったく同様に $\cos$ の項が積分区間全体で消え,$aA^2=1$,すなわち $A=\dfrac1{\sqrt a}$ が得られる.
以上をまとめると,無限井戸型ポテンシャル(1次元・定常状態)のエネルギー固有値と,規格化された波動関数は次のようになる.
\begin{equation} E_n=\frac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}n^2,\qquad \psi_n(x)=\begin{cases} \dfrac1{\sqrt a}\cos\dfrac{n\pi}{2a}x & (n=1,3,5,\dots)\\[2mm] \dfrac1{\sqrt a}\sin\dfrac{n\pi}{2a}x & (n=2,4,6,\dots) \end{cases} \label{eq:45-well-psi-final} \end{equation}定理45.1 無限井戸型ポテンシャル(1次元)のエネルギー量子化
幅 $2a$ の無限井戸型ポテンシャル(定義45.4)に閉じ込められた質量 $m$ の粒子の定常状態のエネルギーは,正の整数 $n=1,2,3,\dots$(量子数,quantum number)によって $E_n=\dfrac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}n^2$ と離散化される.対応する規格化された波動関数は式 \eqref{eq:45-well-psi-final} で与えられる.
例題45.3 基底状態のエネルギーと波動関数
無限井戸型ポテンシャル(半幅 $a$)の基底状態($n=1$,もっともエネルギーが低い状態)のエネルギー $E_1$ と,規格化された波動関数 $\psi_1(x)$ を書き下せ.また,第1励起状態($n=2$)とのエネルギー比 $E_2/E_1$ を求めよ.
解答 定理45.1(式 \eqref{eq:45-well-psi-final})に $n=1$ を代入すると,$n=1$ は奇数なので $\cos$ 型になる.
$$ E_1=\frac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2},\qquad \psi_1(x)=\frac1{\sqrt a}\cos\frac{\pi}{2a}x $$$n=2$(偶数,$\sin$型)では $E_2=\dfrac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}\cdot2^2=4\cdot\dfrac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}=4E_1$ となるので,
$$ \frac{E_2}{E_1}=4 $$である.一般に $E_n\propto n^2$ なので,エネルギー準位の間隔は等間隔ではなく,$n$ が大きくなるほど広がっていく.
例題45.4 電子を1ナノメートルの箱に閉じ込める
質量 $m_e=9.109\times10^{-31}\,\text{kg}$ の電子を,全幅 $2a=1\,\text{nm}=1.0\times10^{-9}\,\text{m}$(すなわち $a=0.5\,\text{nm}$)の無限井戸に閉じ込めた.基底状態のエネルギー $E_1$ を電子ボルト(eV)単位で求めよ.また,$n=3$(第2励起状態)の波動関数の,井戸内部(両端を除く)における節(ゼロ点)の数を答えよ.
解答 $\hbar=1.0546\times10^{-34}\,\text{J\,s}$,$1\,\text{eV}=1.602\times10^{-19}\,\text{J}$ を使う.
$$ E_1=\frac{\hbar^2\pi^2}{8m_ea^2} =\frac{(1.0546\times10^{-34})^2\times\pi^2}{8\times(9.109\times10^{-31})\times(0.5\times10^{-9})^2}\,\text{J} $$分子・分母を電卓で計算すると $E_1\approx6.025\times10^{-20}\,\text{J}$ となる(sympy/numpyによる検算は本章末の検算スクリプトを参照).これを eV に直すと,
$$ E_1\approx\frac{6.025\times10^{-20}}{1.602\times10^{-19}}\,\text{eV}\approx0.376\,\text{eV} $$である(原子・分子内の電子のエネルギースケール(数 eV 程度)と同じ桁になっていることに注目してほしい——ナノメートル程度に電子を閉じ込めると,量子化の効果が無視できないエネルギースケールで現れる).節の数については,$n=3$(奇数)は $\psi_3(x)=\dfrac1{\sqrt a}\cos\dfrac{3\pi}{2a}x$ である.$\cos\dfrac{3\pi}{2a}x=0$ となるのは $\dfrac{3\pi}{2a}x=\dfrac\pi2+k\pi$($k$:整数),すなわち $x=\dfrac{a(1+2k)}3$ のときである.これが開区間 $(-a,a)$ に入るのは $k=0$($x=a/3$)と $k=-1$($x=-a/3$)の2つだけであり($k=1$ では $x=a$ で端点,$k=-2$ では $x=-a$ で端点になり,開区間には含まれない),井戸内部の節の数は2個である.一般に,量子数 $n$ の波動関数は内部に $n-1$ 個の節を持つ(図45.3も参照).
45.4 無限井戸型ポテンシャル(1次元・時間変動)
次に,同じ無限井戸型ポテンシャル(定義45.4)に閉じ込められた電子について,時間的に変動する一般の解を求める.初期条件として,時刻 $t=0$ での波動関数の形 $\psi(x,0)=\psi_0(x)$($\abs x\le a$)が与えられているとする.解くべき方程式は,時間に依存するシュレーディンガー方程式(式 \eqref{eq:45-tise-time})
$$ -\frac{\hbar^2}{2m}\pdiff{^2\psi}{x^2}+V\psi=i\hbar\pdiff\psi t $$($-\hbar/i=i\hbar$ であったことを思い出し,こちらの形で書いた)であり,境界条件は $\psi(-a,t)=\psi(a,t)=0$ である.
導出:変数分離
$\psi(x,t)=X(x)T(t)$(空間だけの関数と時間だけの関数の積)とおく,第43章で波動方程式・熱伝導方程式に対して使ったのと同じ変数分離法を使う.$\abs x\le a$($V=0$)の範囲で代入すると,
$$ -\frac{\hbar^2}{2m}X''(x)T(t)=i\hbar X(x)\dot T(t) $$両辺を $X(x)T(t)$($\neq0$ と仮定する)で割ると,左辺は $x$ だけの関数,右辺は $t$ だけの関数になる.
$$ -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{X''(x)}{X(x)}=i\hbar\frac{\dot T(t)}{T(t)} $$左辺は $t$ によらず,右辺は $x$ によらないのに,両辺は常に等しい.これが成り立つのは,両辺がともに $x,t$ のどちらにもよらない同じ定数に等しい場合だけである.この定数を $C$ とおく.
\begin{equation} -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{X''}{X}=i\hbar\frac{\dot T}{T}=C\qquad(C:\text{定数}) \label{eq:45-td-sep-const} \end{equation}$\abs x\gt a$(井戸の外)では,定義45.4と同じ理由でやはり $\psi(x,t)=0$ である.内部($\abs x\le a$)については,式 \eqref{eq:45-td-sep-const} の左側の等式を整理すると,
\begin{equation} \frac{\hbar^2}{2m}X''(x)+CX(x)=0 \qquad\text{すなわち}\qquad \diff{^2X}{x^2}+\frac{2mC}{\hbar^2}X=0 \label{eq:45-td-X-ode} \end{equation}という,$X(x)$ についての常微分方程式が得られる.
導出:なぜ $C\gt0$ でなければならないか
式 \eqref{eq:45-td-X-ode} は,係数 $2mC/\hbar^2$ の符号によって解の形が変わる(第35章,特性方程式の3つの場合分け,第35.5節).$C$ の符号ごとに,境界条件 $X(a)=X(-a)=0$ を満たす非自明解($X\not\equiv0$)が存在するかどうかを調べよう.
$C=0$ のとき.方程式は $X''=0$ となり,一般解は $X(x)=\alpha+\beta x$(1次関数)である.境界条件を代入すると $X(a)=\alpha+\beta a=0$,$X(-a)=\alpha-\beta a=0$.2式を足すと $2\alpha=0$ より $\alpha=0$,引くと $2\beta a=0$ より($a\neq0$ だから)$\beta=0$.したがって $X\equiv0$(自明解)しかなく,不適である.
$C\lt0$ のとき.$C=-\abs C$($\abs C\gt0$)とおくと,方程式は $X''-\dfrac{2m\abs C}{\hbar^2}X=0$ となり,特性方程式の解は実数 $r=\pm\mu$($\mu:=\sqrt{2m\abs C}/\hbar\gt0$)である.一般解は双曲線関数(第2章,双曲線関数の定義)を使って $X(x)=\alpha\cosh\mu x+\beta\sinh\mu x$ と書ける.$\cosh$ は偶関数,$\sinh$ は奇関数なので,境界条件は
$$ X(a)=\alpha\cosh\mu a+\beta\sinh\mu a=0,\qquad X(-a)=\alpha\cosh\mu a-\beta\sinh\mu a=0 $$2式を足すと $2\alpha\cosh\mu a=0$.$\cosh$ はつねに正の値($\cosh0=1$ が最小値)をとるので $\cosh\mu a\neq0$,したがって $\alpha=0$.引くと $2\beta\sinh\mu a=0$.$\mu a\gt0$ では $\sinh\mu a\neq0$($\sinh$ は原点以外で $0$ にならない奇関数)なので $\beta=0$.やはり $X\equiv0$ しかなく,不適である.
以上により,非自明な解を持ちうるのは $C\gt0$ の場合だけである.これは,ノートが「$C\le0$ のとき,境界条件を満たさないので $C\gt0$」と一言で済ませていた部分を,実際に確かめたものである.
$C\gt0$ のとき,式 \eqref{eq:45-td-X-ode} は45.3節の式 \eqref{eq:45-well-ode}($E$ が $C$ に変わっただけ)とまったく同じ形なので,そこでの計算がそのまま使える.$\omega:=\sqrt{2mC}/\hbar$ とおくと一般解は $X(x)=A\cos\omega x+B\sin\omega x$ である.境界条件 $X(a)=X(-a)=0$ を行列の形に整理すると,45.3節の式 \eqref{eq:45-well-bc-matrix} とまったく同じ行列が現れる.
$$ \begin{bmatrix}\cos\omega a&\sin\omega a\\ \cos\omega a&-\sin\omega a\end{bmatrix} \begin{bmatrix}A\\B\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}0\\0\end{bmatrix} $$非自明解を持つ条件(行列式 $=0$)から,45.3節とまったく同じ計算により $\sin2\omega a=0$,すなわち
\begin{equation} 2\omega a=n\pi\qquad(n=1,2,3,\dots) \qquad\therefore\ \omega=\frac{n\pi}{2a} \label{eq:45-td-Cn} \end{equation}が得られる.$C=\dfrac{\hbar^2\omega^2}{2m}$ に代入すると,
$$ C=\frac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}n^2 $$となる——これは45.3節で求めたエネルギー固有値 $E_n$(式 \eqref{eq:45-well-energy})とまったく同じ式である(当然のことで,$C$ はエネルギーそのものにほかならない).$X(x)$ も,45.3節と同じ偶奇の場合分けにより,
$$ X(x)=\begin{cases} A\cos\dfrac{n\pi}{2a}x & (n=1,3,5,\dots)\\[1mm] B\sin\dfrac{n\pi}{2a}x & (n=2,4,6,\dots) \end{cases} $$となる.
残るは時間部分 $T(t)$ である.式 \eqref{eq:45-td-sep-const} の右側の等式 $i\hbar\dfrac{\dot T}{T}=C$ を整理すると,
$$ \frac{\dot T}{T}=-\frac{iC}{\hbar} $$という,$T(t)$ についての1階線形微分方程式(変数分離形,第33.2.1節)が得られる.両辺を $t$ で積分すると(左辺は $\displaystyle\int\frac{\dot T}Tdt=\int\frac{dT}T=\ln\abs T$,右辺は $-\dfrac{iC}\hbar t$ の原始関数),
\begin{equation} \ln T=-\frac{iC}{\hbar}t+(\text{積分定数}) \qquad\therefore\ T(t)=T_0\,e^{-iCt/\hbar} \label{eq:45-td-Tsol} \end{equation}($T_0$ は積分定数から決まる複素定数.$T$ を複素数値の関数として扱うので絶対値記号は外し,符号や位相の自由度をすべて複素定数 $T_0$ の中に押し込めた.)以上をまとめると,$\psi(x,t)=X(x)T(t)$ は
\begin{equation} \psi(x,t)=\begin{cases} AT_0\,e^{-i\frac{\hbar\pi^2}{8ma^2}n^2t}\cos\dfrac{n\pi}{2a}x & (n=1,3,5,\dots)\\[1mm] BT_0\,e^{-i\frac{\hbar\pi^2}{8ma^2}n^2t}\sin\dfrac{n\pi}{2a}x & (n=2,4,6,\dots) \end{cases} \label{eq:45-td-psi-cases} \end{equation}(指数の肩は $-iCt/\hbar=-i\cdot\dfrac{\hbar^2\pi^2n^2}{8ma^2}\cdot\dfrac t\hbar=-i\dfrac{\hbar\pi^2n^2}{8ma^2}t$ である.)
導出:規格化定数の決定
波動関数の規格化条件は,複素数値の関数に対しては $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\abs{\psi(x,t)}^2dx=\langle\psi|\bar\psi\rangle=1$ と書く($\bar\psi$ は $\psi$ の複素共役,$\abs\psi^2=\psi\bar\psi$).($\langle\psi|\bar\psi\rangle$ のような山括弧の記法は,物理でよく使われる「ブラケット記法(bra-ket notation)」の略記で,ここでは単に直前の積分 $\int_{-\infty}^{\infty}\psi\bar\psi\,dx$ を書き換えただけのものだと思ってよい.今後も同じ意味で使う.なお,45.6節では同じ規格化条件を $\langle\psi|\psi\rangle=1$ と表記する——ノート自身の書き方が2通りに揺れているのをそのまま反映したものだが,$\langle\psi|\bar\psi\rangle$ も $\langle\psi|\psi\rangle$ も指しているのはどちらも「$\psi$ と $\bar\psi$ の積を全空間で積分したものが $1$ に等しい」という同じ規格化条件 $\int\abs\psi^2dx=1$ であり,山括弧の中に $\bar\psi$ と書くか $\psi$ と書くかで意味が変わるわけではない.一般の物理の教科書での標準的なブラケット記法(左側の関数に自動的に複素共役をかける約束)とは細部が異なる書き方なので,本章では深入りせず,このような略記だとだけ理解しておけば十分である.)$T(t)=T_0e^{-iCt/\hbar}$ の絶対値の2乗は
$$ \abs{T(t)}^2=T(t)\overline{T(t)}=T_0e^{-iCt/\hbar}\cdot\overline{T_0}e^{iCt/\hbar}=\abs{T_0}^2 $$(指数の肩の $t$ に依存する部分が,複素共役どうしの積で $e^{-iCt/\hbar}e^{iCt/\hbar}=e^0=1$ となって消える)と,時刻によらない一定値になる.したがって,規格化の積分は45.3節の計算(式で $B\to BT_0$,$A\to AT_0$ と置き換えるだけ)とまったく同じになり,
$$ a(AT_0)^2=1,\qquad a(BT_0)^2=1 \qquad\therefore\ AT_0=\frac1{\sqrt a},\quad BT_0=\frac1{\sqrt a} $$($A,T_0,B$ を実数にとれる位相の自由度を使った.)
物理的意味:定常状態という名前の由来
式 \eqref{eq:45-td-psi-final} をよく見ると,$\psi(x,t)=\psi_n(x)\,e^{-iE_nt/\hbar}$($\psi_n(x)$ は45.3節で求めた,時間に依存しない波動関数)という形になっている——空間部分と時間部分がきれいに分離し,時間依存性は「位相因子 $e^{-iE_nt/\hbar}$」としてだけ現れる.次の例題45.5で確認するように,この位相因子は確率密度 $\abs\psi^2$ にはまったく影響しない.つまり,波動関数 $\psi$ 自体は時間とともに(複素数の位相が)変化し続けているにもかかわらず,「電子がどこに見つかりやすいか」という物理的に観測可能な量はまったく時間変化しない.これが,このような状態を定常状態(stationary state)と呼ぶ理由である.
例題45.5 定常状態では確率密度が時間変化しないことの確認
式 \eqref{eq:45-td-psi-final} の $n=1$(基底状態)の解 $\psi(x,t)=\dfrac1{\sqrt a}e^{-iE_1t/\hbar}\cos\dfrac\pi{2a}x$ について,確率密度 $\abs{\psi(x,t)}^2$ が時刻 $t$ によらないことを示せ.
解答 複素共役は,指数の肩の符号だけが反転し($\cos$ の部分は実数なのでそのまま)$\bar\psi(x,t)=\dfrac1{\sqrt a}e^{+iE_1t/\hbar}\cos\dfrac\pi{2a}x$ である.したがって
$$ \abs{\psi(x,t)}^2=\psi(x,t)\overline{\psi(x,t)} =\frac1a\,e^{-iE_1t/\hbar}e^{+iE_1t/\hbar}\cos^2\frac\pi{2a}x =\frac1a\,e^{0}\cos^2\frac\pi{2a}x=\frac1a\cos^2\frac{\pi}{2a}x $$となり,$t$ が完全に消えて,45.3節の $\psi_1(x)^2$ にぴったり一致する.時間変化する部分(位相因子)は,$\psi$ とその複素共役 $\bar\psi$ を掛け合わせた瞬間に打ち消し合ってしまうことが確認できた.
45.5 無限井戸型ポテンシャル(2次元・定常状態)
ここまでは電子が $x$ 軸上だけを動く1次元の問題であった.ここからは,電子が $xy$ 平面上を自由に動ける2次元の場合に拡張する.
定義45.5 無限井戸型ポテンシャル(2次元)
$$ V(x,y)=\begin{cases}0 & \abs x\le a\ \text{かつ}\ \abs y\le a\\ \infty & \abs x\gt a\ \text{または}\ \abs y\gt a\end{cases} $$すなわち,正方形の領域 $\abs x\le a,\ \abs y\le a$ の内側では $V=0$,外側($x$ 方向・$y$ 方向のどちらか一方でも領域からはみ出せば)では $V=\infty$ である.境界条件は,正方形の4辺すべてで $\psi=0$,つまり $\psi(-a,y)=\psi(a,y)=\psi(x,-a)=\psi(x,a)=0$ である.時間に依存しないシュレーディンガー方程式は,2変数のラプラシアン(第44章)を使って
$$ -\frac{\hbar^2}{2m}\left(\pdiff{^2\psi}{x^2}+\pdiff{^2\psi}{y^2}\right)+V\psi=E\psi $$と書ける.
導出:変数分離
$\psi(x,y)=X(x)Y(y)$ とおく.$\abs x\gt a$ または $\abs y\gt a$ の範囲では,45.3節と同じ理由で $V=\infty$ により電子ははじき返され $\psi(x,y)=0$ となるので,$\abs x\le a$ かつ $\abs y\le a$ の範囲だけを考えればよい.この範囲で $V=0$ だから,シュレーディンガー方程式は
$$ -\frac{\hbar^2}{2m}\bigl(X''(x)Y(y)+X(x)Y''(y)\bigr)=E\cdot X(x)Y(y) $$両辺を $X(x)Y(y)$ で割ると,
$$ \frac{X''(x)}{X(x)}+\frac{Y''(y)}{Y(y)}=-\frac{2mE}{\hbar^2} $$左辺の第1項は $x$ だけの関数,第2項は $y$ だけの関数であり,その和が定数(右辺)に等しい.つまり,2つの項それぞれが,互いに独立な定数でなければならない(1つの項が動けば,もう一方の項がそれを打ち消すように動かなければならないが,それぞれ独立変数の関数なのでそのようなことは定数の場合しか起こらない).そこで
$$ \frac{X''}{X}=-\omega_1^2,\qquad \frac{Y''}{Y}=-\omega_2^2 $$(2つの分離定数 $\omega_1^2,\omega_2^2\ge0$)とおく(符号を $-\omega_i^2$ とおくのは,45.3節の $C\gt0$ の議論とまったく同じ理由で,境界条件 $X(\pm a)=Y(\pm a)=0$ を満たす非自明解が振動解($\cos,\sin$)でなければならないからである).このとき,$-\omega_1^2-\omega_2^2=-2mE/\hbar^2$,すなわち $\omega_1^2+\omega_2^2=2mE/\hbar^2$ という関係が成り立つ.$X,Y$ はそれぞれ
$$ X(x)=A_1\cos\omega_1x+B_1\sin\omega_1x,\qquad Y(y)=A_2\cos\omega_2y+B_2\sin\omega_2y $$という一般解を持つ(45.3節の式 \eqref{eq:45-well-gensol} とまったく同じ形の常微分方程式が,$x$ 方向と $y$ 方向で独立に1つずつ現れただけである).
導出:境界条件と量子化
境界条件 $X(a)=X(-a)=0$,$Y(a)=Y(-a)=0$ を代入すると,
$$ X(a)=A_1\cos\omega_1a+B_1\sin\omega_1a=0,\qquad X(-a)=A_1\cos\omega_1a-B_1\sin\omega_1a=0 $$ $$ Y(a)=A_2\cos\omega_2a+B_2\sin\omega_2a=0,\qquad Y(-a)=A_2\cos\omega_2a-B_2\sin\omega_2a=0 $$$X$ についての2条件,$Y$ についての2条件は,それぞれ45.3節の式 \eqref{eq:45-well-bc-matrix} とまったく同じ行列の形に整理できる.$(A_1,B_1)$ が非自明解を持つ条件と,$(A_2,B_2)$ が非自明解を持つ条件は,それぞれ独立に
$$ \begin{vmatrix}\cos\omega_1a&\sin\omega_1a\\ \cos\omega_1a&-\sin\omega_1a\end{vmatrix}=0, \qquad \begin{vmatrix}\cos\omega_2a&\sin\omega_2a\\ \cos\omega_2a&-\sin\omega_2a\end{vmatrix}=0 $$すなわち $\sin2\omega_1a=0$ かつ $\sin2\omega_2a=0$ を要求する.45.3節とまったく同じ議論により,
$$ 2\omega_1a=n_1\pi,\qquad 2\omega_2a=n_2\pi\qquad(n_1,n_2=1,2,3,\dots) $$すなわち $\omega_1=\dfrac{n_1\pi}{2a}$,$\omega_2=\dfrac{n_2\pi}{2a}$ という,互いに独立な2つの量子数 $n_1,n_2$ が現れる.
定理45.2 無限井戸型ポテンシャル(2次元)のエネルギー量子化
一辺 $2a$ の正方形領域(定義45.5)に閉じ込められた質量 $m$ の粒子の定常状態のエネルギーは,2つの正の整数の組 $(n_1,n_2)$($n_1,n_2=1,2,3,\dots$)によって
\begin{equation} E_{n_1,n_2}=\frac{\omega_1^2+\omega_2^2}{2m}\hbar^2 =\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{n_1^2\pi^2}{4a^2}+\frac{n_2^2\pi^2}{4a^2}\right) =\frac{\pi^2\hbar^2}{8ma^2}\bigl(n_1^2+n_2^2\bigr) \label{eq:45-2d-energy} \end{equation}と量子化される.
波動関数 $X(x)$,$Y(y)$ それぞれについて,45.3節とまったく同じ偶奇の場合分け($n$ が奇数なら $\cos$ 型,偶数なら $\sin$ 型)が独立に起こる.$n_1$ と $n_2$ の偶奇の組み合わせは $2\times2=4$ 通りあるので,$\psi=XY$ も4通りに場合分けされる.
導出:偶奇4通りの場合分け
[i] $n_1,n_2$ がともに奇数のとき.$X(x)=A_1\cos\dfrac{n_1\pi}{2a}x$,$Y(y)=A_2\cos\dfrac{n_2\pi}{2a}y$(両方とも $\cos$ 型)なので,
$$ \psi(x,y)=A_1A_2\cos\frac{n_1\pi}{2a}x\cos\frac{n_2\pi}{2a}y $$[ii] $n_1,n_2$ がともに偶数のとき.両方とも $\sin$ 型になり,
$$ \psi(x,y)=B_1B_2\sin\frac{n_1\pi}{2a}x\sin\frac{n_2\pi}{2a}y $$[iii] $n_1$ が奇数,$n_2$ が偶数のとき.$X$ は $\cos$ 型,$Y$ は $\sin$ 型になり,
$$ \psi(x,y)=A_1B_2\cos\frac{n_1\pi}{2a}x\sin\frac{n_2\pi}{2a}y $$[iv] $n_1$ が偶数,$n_2$ が奇数のとき.$X$ は $\sin$ 型,$Y$ は $\cos$ 型になり,
$$ \psi(x,y)=A_2B_1\sin\frac{n_1\pi}{2a}x\cos\frac{n_2\pi}{2a}y $$導出:規格化定数の決定
[i]の場合で計算してみよう.規格化条件 $\displaystyle\iint\abs{\psi(x,y)}^2\,dx\,dy=1$ に代入すると,$\psi$ が $x$ だけの関数と $y$ だけの関数の積なので,2重積分は1変数積分の積に分解できる.
$$ \iint_{-a}^{a}A_1^2A_2^2\cos^2\frac{n_1\pi}{2a}x\cos^2\frac{n_2\pi}{2a}y\,dx\,dy =A_1^2A_2^2\left(\int_{-a}^{a}\cos^2\frac{n_1\pi}{2a}x\,dx\right)\left(\int_{-a}^{a}\cos^2\frac{n_2\pi}{2a}y\,dy\right) $$2つの積分はどちらも,45.3節で計算した規格化積分(式変形は $x$ でも $y$ でも同じ)とまったく同じ形で,$n_1,n_2$ が正の整数であればどちらも値 $a$ になる(第45.3節「導出:規格化定数の決定」を参照.$n$ の偶奇によらず $\int_{-a}^a\cos^2\frac{n\pi}{2a}u\,du=\int_{-a}^a\sin^2\frac{n\pi}{2a}u\,du=a$ が成り立つことが,そこでの計算からわかる).したがって
$$ A_1^2A_2^2\cdot a\cdot a=A_1^2A_2^2a^2=1 \qquad\therefore\ A_1A_2=\frac1a $$[ii],[iii],[iv]の場合も同様に計算すると,それぞれ $B_1B_2=\dfrac1a$,$A_1B_2=\dfrac1a$,$A_2B_1=\dfrac1a$ が得られる.
注意:積分の添字
2つ目の積分は $y$ についての積分であり,$Y(y)$ の定義に合わせて被積分関数の角度部分の添字は $n_2$ でなければならない($\displaystyle\int_{-a}^a\cos^2\frac{n_2\pi}{2a}y\,dy$).$X(x)$ の積分と見比べるときは,変数と量子数の対応($x\leftrightarrow n_1$,$y\leftrightarrow n_2$)を混同しないよう注意しよう.
定義45.6 縮退
異なる量子数の組 $(n_1,n_2)\neq(n_1',n_2')$ が同じエネルギー $E_{n_1,n_2}=E_{n_1',n_2'}$ を与えるとき,これらのエネルギー準位は縮退している(degenerate)という.式 \eqref{eq:45-2d-energy} は $n_1^2+n_2^2$ だけで決まるので,$n_1$ と $n_2$ を入れ替えても値は変わらない——つまり,$(n_1,n_2)\neq(n_2,n_1)$ である限り,$E_{n_1,n_2}=E_{n_2,n_1}$ という縮退が必ず起こる(例題45.7).
例題45.6 2次元井戸の基底状態
2次元無限井戸型ポテンシャル(一辺 $2a$)の基底状態($n_1=n_2=1$)のエネルギーと,規格化された波動関数を求めよ.
解答 $n_1=n_2=1$ はともに奇数なので,式 \eqref{eq:45-2d-psi-final} の1番目の場合を使う.エネルギーは式 \eqref{eq:45-2d-energy} に $n_1=n_2=1$ を代入して
$$ E_{1,1}=\frac{\pi^2\hbar^2}{8ma^2}(1^2+1^2)=\frac{\pi^2\hbar^2}{4ma^2} $$波動関数は
$$ \psi_{1,1}(x,y)=\frac1a\cos\frac\pi{2a}x\cos\frac\pi{2a}y $$である.図45.5の左端のパネルがこの状態の確率密度を表しており,井戸の中心 $(x,y)=(0,0)$ でもっとも確率密度が高く,4辺に近づくほど $0$ に近づく,山が1つだけの滑らかな分布になっている.
例題45.7 縮退の具体例
2次元無限井戸型ポテンシャルにおいて,最初に縮退が起こる($n_1\neq n_2$ で $E_{n_1,n_2}$ が一致する)量子数の組を求め,そのエネルギーを $a$,$m$,$\hbar$ を用いて表せ.
解答 式 \eqref{eq:45-2d-energy} より,エネルギーは $n_1^2+n_2^2$ だけで決まる.$n_1\ne n_2$ のもっとも小さい組は $(n_1,n_2)=(1,2)$ であり,これを入れ替えた $(2,1)$ は,$n_1^2+n_2^2=1^2+2^2=2^2+1^2=5$ で必ず同じ値を与える.他に $n_1^2+n_2^2=5$ となる正の整数の組は存在しない($1^2+1^2=2$,$1^2+3^2=10$,$2^2+2^2=8$ などと比べればわかる)ので,最初に縮退が起こるのは $(n_1,n_2)=(1,2)$ と $(2,1)$ の組である.エネルギーは
$$ E_{1,2}=E_{2,1}=\frac{\pi^2\hbar^2}{8ma^2}(1^2+2^2)=\frac{5\pi^2\hbar^2}{8ma^2} $$である.図45.5の中央と右端のパネルが,まさにこの2つの状態の確率密度を表している——波動関数の形そのものは異なる($x$ 方向に節を持つか,$y$ 方向に節を持つかが違う)のに,エネルギーはぴったり一致する.これが「縮退」という現象の具体例である.物理的には,正方形領域の $x$ 方向と $y$ 方向が対称(同じ長さ $2a$)であることが,この縮退の原因になっている.
45.6 無限井戸型ポテンシャル(2次元・時間変動)
最後に,2次元無限井戸型ポテンシャル(定義45.5.ポテンシャルの形は図45.4と同じである)で,時間的に変動する一般の解を求める.電子は $xy$ 平面上を動き,波動関数は時間変動するとする.初期条件は,井戸の内部全体で一定値 $\psi(x,y,0)=T_0$($\abs x\le a$ かつ $\abs y\le a$)とする.解くべき方程式は
$$ -\frac{\hbar^2}{2m}\left(\pdiff{^2\psi}{x^2}+\pdiff{^2\psi}{y^2}\right)+V\psi=i\hbar\pdiff\psi t $$境界条件は $\psi(-a,y,t)=\psi(a,y,t)=\psi(x,-a,t)=\psi(x,a,t)=0$ である.
導出:変数分離と量子化
$\psi(x,y,t)=X(x)Y(y)T(t)$ とおく.$\abs x\le a$ かつ $\abs y\le a$ の範囲($V=0$)で代入し,両辺を $XYT$ で割ると,45.4節・45.5節とまったく同じ論法により,
$$ -\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{X''}{X}+\frac{Y''}{Y}\right)=i\hbar\frac{\dot T}{T}=C\qquad(C:\text{定数}) $$という分離定数 $C$ が現れる(外側 $\abs x\gt a$ または $\abs y\gt a$ では,これまでと同じ理由で $\psi=0$).さらに $\dfrac{X''}{X}=-\omega_1^2$,$\dfrac{Y''}{Y}=-\omega_2^2$ とおくと(45.4節の「なぜ $C\gt0$ でなければならないか」とまったく同じ議論により,$\omega_1^2,\omega_2^2\ge0$ でなければ非自明解が存在しない),
$$ \frac{\omega_1^2+\omega_2^2}{2m}\hbar^2=C $$という関係が成り立つ.$X(x)=A_1\cos\omega_1x+B_1\sin\omega_1x$,$Y(y)=A_2\cos\omega_2y+B_2\sin\omega_2y$ に境界条件を適用すると,45.5節とまったく同じ非自明解条件(2つの行列式がともに $0$)が現れ,
$$ 2\omega_1a=n_1\pi,\qquad2\omega_2a=n_2\pi\qquad(n_1,n_2=1,2,3,\dots) $$すなわち $\omega_1=\dfrac{n_1\pi}{2a}$,$\omega_2=\dfrac{n_2\pi}{2a}$ と量子化される.したがって
$$ C=\frac{\omega_1^2+\omega_2^2}{2m}\hbar^2=\frac{n_1^2+n_2^2}{8ma^2}\pi^2\hbar^2 $$となり,これは45.5節のエネルギー固有値 $E_{n_1,n_2}$(式 \eqref{eq:45-2d-energy})とまったく同じ式である.
$X(x)$,$Y(y)$ も,45.5節とまったく同じ偶奇4通りの場合分けになる(記法を一言注意しておく——$Y(y)$ の一般解の中の定数は,$X(x)$ の定数 $A_1,B_1$ と混同しないよう,つねに添字 $2$($A_2,B_2$)を付け,$Y(y)$ の引数(角度部分)にはつねに量子数 $n_2$ を使う).
導出:時間部分 $T(t)$ と最終解
分離定数の右側の式 $i\hbar\dot T/T=C$ は,45.4節の式 \eqref{eq:45-td-Tsol} を導いたときとまったく同じ1階線形微分方程式なので,同じ手順で
$$ T(t)=T_0\,e^{-iCt/\hbar} $$が得られる.以上を組み合わせ,45.5節の場合分け[i]〜[iv]それぞれに $T(t)$ を掛けると,
$$ \psi(x,y,t)=\begin{cases} A_1A_2T_0\,e^{-iCt/\hbar}\cos\dfrac{n_1\pi}{2a}x\cos\dfrac{n_2\pi}{2a}y & (n_1,n_2\ \text{がともに奇数})\\[1mm] B_1B_2T_0\,e^{-iCt/\hbar}\sin\dfrac{n_1\pi}{2a}x\sin\dfrac{n_2\pi}{2a}y & (n_1,n_2\ \text{がともに偶数})\\[1mm] A_1B_2T_0\,e^{-iCt/\hbar}\cos\dfrac{n_1\pi}{2a}x\sin\dfrac{n_2\pi}{2a}y & (n_1\ \text{奇},\ n_2\ \text{偶})\\[1mm] A_2B_1T_0\,e^{-iCt/\hbar}\sin\dfrac{n_1\pi}{2a}x\cos\dfrac{n_2\pi}{2a}y & (n_1\ \text{偶},\ n_2\ \text{奇}) \end{cases} $$という4つの場合分けを得る($C=\dfrac{n_1^2+n_2^2}{8ma^2}\pi^2\hbar$ を指数の肩に代入すればよい).
導出:規格化定数の決定
規格化条件 $\displaystyle\langle\psi|\psi\rangle=\iint_{-\infty}^{\infty}\abs{\psi(x,y,t)}^2\,dx\,dy=1$ を考える($\langle\psi|\psi\rangle$ の記法については45.4節「導出:規格化定数の決定」の注を参照——$\langle\psi|\bar\psi\rangle$ と同じ意味で使っている).45.4節と同じく,$\abs{T(t)}^2=\abs{T_0}^2$($t$ によらない)なので,規格化の積分は45.5節の計算(式中の $A_1A_2\to A_1A_2T_0$ のように,$T_0$ を掛けるだけ)とまったく同じになる.したがって
$$ A_1A_2T_0=\frac1a,\qquad B_1B_2T_0=\frac1a,\qquad A_1B_2T_0=\frac1a,\qquad A_2B_1T_0=\frac1a $$45.4節で見たとおり,これも $\psi(x,y,t)=\psi_{n_1,n_2}(x,y)\,e^{-iE_{n_1,n_2}t/\hbar}$(空間部分×位相因子)の形をしており,確率密度 $\abs\psi^2$ は時間に依存しない定常状態である.位相因子 $e^{-iE_{n_1,n_2}t/\hbar}$ は,角振動数 $E_{n_1,n_2}/\hbar$ で周期的に振動する——次の例題でその周期を実際に数値計算してみよう.
例題45.8 位相因子の振動周期
質量 $m_e$ の電子を,一辺 $2a=1\,\text{nm}$($a=0.5\,\text{nm}$)の正方形の2次元無限井戸に閉じ込めた.基底状態($n_1=n_2=1$)の位相因子 $e^{-iE_{1,1}t/\hbar}$ が1周期($2\pi$)だけ位相を進めるのにかかる時間 $T_{\text{period}}$ を求めよ.
解答 位相因子は $e^{-iE_{1,1}t/\hbar}$ であり,指数の肩の絶対値が $2\pi$ 増えるごとに同じ値に戻る.$\dfrac{E_{1,1}}{\hbar}T_{\text{period}}=2\pi$ より
$$ T_{\text{period}}=\frac{2\pi\hbar}{E_{1,1}} $$例題45.6の結果 $E_{1,1}=\dfrac{\pi^2\hbar^2}{4ma^2}$ を代入すると,
$$ T_{\text{period}}=\frac{2\pi\hbar}{\pi^2\hbar^2/(4m_ea^2)}=\frac{8m_ea^2}{\pi\hbar} $$ここに $m_e=9.109\times10^{-31}\,\text{kg}$,$a=0.5\times10^{-9}\,\text{m}$,$\hbar=1.0546\times10^{-34}\,\text{J\,s}$ を代入すると(詳しい数値計算は検算スクリプト参照),
$$ T_{\text{period}}\approx5.50\times10^{-15}\,\text{s}=5.50\,\text{フェムト秒} $$という結果が得られる.フェムト秒($10^{-15}$ 秒)というのは,光が波長1マイクロメートル分の距離を進むのにかかる時間よりもさらに短い,途方もなく短い時間である.これは「波動関数の位相はきわめて高速に振動している」ことを示しており,実験でこの位相そのものを直接観測することは容易ではない——観測にかかるのは,位相ではなく,位相に依存しない確率密度 $\abs\psi^2$ の方である,という45.4節の議論とも整合している.
例題45.9 図から読み取る:節の数と縮退
図45.3を見て,量子数 $n=1,2,3$ の固有関数 $\psi_n(x)$ が井戸内部(両端を除く)に持つ節(ゼロ点)の数をそれぞれ図から数えよ.また,その結果から,一般の量子数 $n$ について節の数を予想せよ.さらに,図45.5を見て,$n_1=1,n_2=2$ の状態と $n_1=2,n_2=1$ の状態が,図の模様の観点からどのような関係にあるか,またそれがなぜ同じエネルギーを与えるのかを説明せよ.
解答 図45.3を見ると,青の実線($n=1$)は井戸の内部で一度も $0$ を横切らず,節は0個である.赤の実線($n=2$)は中央の丸印($x=0$)で1回だけ $0$ を横切り,節は1個である.青の破線($n=3$)は $x=\pm a/3$ の2つの丸印で $0$ を横切り,節は2個である.したがって,$n=1,2,3$ の節の数はそれぞれ $0,1,2$ 個であり,一般に「量子数 $n$ の固有関数は井戸内部に節を $n-1$ 個持つ」と予想できる(これは例題45.4で $n=3$ の場合に実際に計算して確かめた事実と一致し,$n=1,2,3,4,5$ について $n-1$ 個であることは検算スクリプトでも確認済みである).
図45.5については,$n_1=1,n_2=2$(中央のパネル)と $n_1=2,n_2=1$(右端のパネル)の確率密度の模様は,互いに $90^\circ$ 回転した(あるいは $x$ 軸と $y$ 軸の役割を入れ替えた)関係にある——これは,正方形の井戸が $x$ 方向と $y$ 方向に関して対称(どちらも辺の長さが $2a$)であることの表れである.エネルギー $E_{n_1,n_2}=\dfrac{\pi^2\hbar^2}{8ma^2}(n_1^2+n_2^2)$(式 \eqref{eq:45-2d-energy})は $n_1^2+n_2^2$ という,$n_1$ と $n_2$ を入れ替えても値の変わらない対称な式でできているので,模様の形は違っても(節の向きが $x$ 方向か $y$ 方向かが入れ替わっているだけで)$E_{1,2}=E_{2,1}$ となり,必ず同じエネルギーを持つ(縮退,定義45.6,例題45.7).図だけを見ても,2つのパネルが単純な回転で移り合う「対称な形の入れ替え」であることから,縮退が起きていることを直観的に読み取ることができる.
45.7 まとめと演習
45.7.1 まとめ
- 演算子(operator)は「関数を受け取って関数を返す仕組み」.固有値方程式 $\hat A\psi=\lambda\psi$((演算子)×(固有関数)=(固有値)×(固有関数))は,行列の固有値問題 $A\bm v=\lambda\bm v$(第12章)の無限次元版である.
- 運動量演算子 $\hat p=\dfrac\hbar i\pdiff{}x$,エネルギー演算子 $\hat E=-\dfrac\hbar i\pdiff{}t$,ハミルトニアン演算子 $\hat H=\hat p^2/2m+V=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\pdiff{^2}{x^2}+V$ の3つを定義した.
- $\hat H\psi=E\psi$(定常状態)と $\hat H\psi=\hat E\psi$(一般の時間変動)という2つの形のシュレーディンガー方程式を導いた.前者は後者の特別な場合($\psi(x,t)=\psi(x)e^{-iEt/\hbar}$ の形)である.
- 無限井戸型ポテンシャルを解く手順は,1次元・2次元・定常・時間変動のどの場合でも共通の「型」に従っていた——①変数分離 → ②各方向の常微分方程式($\cos,\sin$ の一般解) → ③境界条件を行列にし,非自明解条件(行列式=0)から量子化を導く → ④偶奇による場合分け → ⑤規格化定数の決定.この型は,次章以降の調和振動子(第46章)や水素原子(第48章)でも繰り返し使われる.
- 境界条件によってエネルギーが離散的な値($E_n\propto n^2$)しか取れなくなる現象を量子化と呼ぶ.波動関数の量子数 $n$ が1増えるごとに,井戸内部の節(ゼロ点)が1個ずつ増える.
- 2次元以上に拡張すると,量子数の組が複数になり,異なる量子数の組が同じエネルギーを与える縮退という現象が現れる.
- 波動関数の規格化 $\int\abs\psi^2=1$ は「電子がどこかに必ず存在する」という確率解釈の帰結である.時間変動する解でも,位相因子 $e^{-iEt/\hbar}$ の絶対値は $1$ なので,規格化定数は定常状態の場合と変わらない.
45.7.2 演習問題
演習45.1 エネルギー準位の比
無限井戸型ポテンシャル(半幅 $a$)において,$E_5/E_2$ の値を求めよ.また,一般に $E_n/E_1=n^2$ となることを示せ.
ヒント:$E_n=\dfrac{\hbar^2\pi^2}{8ma^2}n^2$(式 \eqref{eq:45-well-energy})に代入するだけである.$a,m,\hbar$ は約分で消える.
演習45.2 2次元井戸の「偶然の」縮退
2次元無限井戸型ポテンシャルにおいて,単純な入れ替え $(n_1,n_2)\leftrightarrow(n_2,n_1)$ によるものではない縮退(つまり,$\{n_1,n_2\}$ という集合として異なる2組以上が同じ $n_1^2+n_2^2$ の値を持つ例)を,$n_1^2+n_2^2\le50$ の範囲で1つ見つけよ.
ヒント:$n_1^2+n_2^2$ の値を,$n_1\le n_2$ の組についていくつか計算して表にしてみる.$(1,7)$ と $(5,5)$ を比べてみよ.
演習45.3 運動量演算子とエネルギー演算子の交換子
運動量演算子 $\hat p=\dfrac\hbar i\pdiff{}x$ とエネルギー演算子 $\hat E=-\dfrac\hbar i\pdiff{}t$ の交換子 $[\hat p,\hat E]:=\hat p\hat E-\hat E\hat p$ を,任意の(十分滑らかな)関数 $f(x,t)$ に作用させて計算し,$[\hat p,\hat E]=0$(可換)であることを示せ.
ヒント:$\hat p\hat Ef$ は「$f$ を $t$ で微分してから $x$ で微分する」,$\hat E\hat pf$ は「$x$ で微分してから $t$ で微分する」という意味になる.偏微分の順序を交換しても同じ結果になる(クレローの定理/シュワルツの定理)ことを使えばよい.
演習45.4 初期状態が基底状態そのものである場合
1次元無限井戸型ポテンシャル(時間変動)で,初期条件が $\psi(x,0)=\psi_1(x)$(45.3節の基底状態そのもの)であるとき,時間発展した波動関数 $\psi(x,t)$ を求めよ.
ヒント:45.4節の一般解(式 \eqref{eq:45-td-psi-final})のうち,初期条件 $\psi(x,0)=\psi_1(x)$ を満たすのはどの $n$ の項か,$t=0$ を代入して考えよ.
演習45.5 2次元の規格化定数(偶数×偶数の場合)
45.5節の場合分け[ii]($n_1,n_2$ がともに偶数,$\psi=B_1B_2\sin\dfrac{n_1\pi}{2a}x\sin\dfrac{n_2\pi}{2a}y$)について,規格化条件 $\iint\abs\psi^2\,dx\,dy=1$ から $B_1B_2=1/a$ となることを,実際に積分を実行して確認せよ.
ヒント:45.3節の規格化計算($\sin^2$ の積分が $a$ になること)を,$x$ 積分と $y$ 積分にそれぞれ独立に使えばよい.
演習45.6 なぜ $\hat H\psi=E\psi$ は「時間に依存しない」のか
定義45.1(演算子の固有値方程式)に戻って考えよ.$\hat H\psi=E\psi$ という式そのものには,時刻 $t$ を表す文字がどこにも現れていない.にもかかわらず,これを「時間に依存しないシュレーディンガー方程式」と呼ぶのはなぜか,$E$ という記号の意味に注目して説明せよ.
ヒント:45.2節の「注意:『時間に依存しない』と『時間に依存する』の関係」を読み返そう.$E$ が定数であることと,$\hat E$ が演算子であることの違いは何か.
45.7.3 参考文献
- 望月泰英『数学ノート 偏微分方程式』(手書き講義ノート).本章の底本.
- J. J. Sakurai, J. Napolitano, Modern Quantum Mechanics, 2nd edition, Addison-Wesley(Pearson),2011.
- D. J. Griffiths, D. F. Schroeter, Introduction to Quantum Mechanics, 3rd ed., Cambridge University Press, 2018.
- 猪木慶治,川合光『量子力学I』講談社サイエンティフィク,1994年.