第20章線積分・面積分と積分定理
第19章までで,$\nabla f$(勾配),$\nabla\cdot\vec f$(発散),$\nabla\times\vec f$(回転)という,スカラー場・ベクトル場に「その場所での変化のようす」を教えてくれる3つの演算子を手に入れた.どれも,ある1点のまわりのごく狭い範囲を見て定義される局所的な量である.本章ではいよいよ視点を変え,曲線に沿って,あるいは曲面全体にわたって,スカラー場やベクトル場を足し合わせる——つまり積分する——方法を学ぶ.これが線積分(せんせきぶん)と面積分(めんせきぶん)である.
線積分・面積分を身につけると,2つのご褒美が手に入る.第一に,「途中の経路によらず答えが決まる」という保存力・ポテンシャルの数学的な正体が,$\displaystyle\int_C\nabla f\cdot\dd\vec p=f(B)-f(A)$ という1本の式として見えてくる.第二に,発散・回転という局所的な量と,線積分・面積分という大域的な量とを結びつける2つの大定理——ガウス(Gauss)の発散定理とストークス(Stokes)の定理——にたどり着く.この2つの定理は,電磁気学のマクスウェル(Maxwell)方程式や流体力学の連続の式など,自然科学のいたるところに顔を出す,ベクトル解析の到達点である.
- 媒介変数表示された曲線 $C:\vec p(t)=[x(t),y(t)]$(平面)または $[x(t),y(t),z(t)]$(空間)に沿った,スカラー場 $f$ の線積分 $\displaystyle\int_C f\,\dd x,\ \int_C f\,\dd y,\ \int_C f\,\dd z,\ \int_C f\,\dd s$ の定義と計算法
- 向き付き曲線の反転 $-C$:$\displaystyle\int_{-C}f\,\dd t=-\int_C f\,\dd t$,区分的に滑らかな曲線 $C=C_1+C_2+\cdots+C_n$ に対する線積分の加法性
- ベクトル場 $\vec f$ の接線線積分 $\displaystyle\int_C\vec f\cdot\dd\vec p=\int_C(f\,\dd x+g\,\dd y+h\,\dd z)$ と,仕事(work)としての物理的な意味
- 電磁気学への応用例(慶應大学 入試問題):回転するコイルに働く力と誘導起電力
- 勾配ベクトル $\nabla f$ の接線線積分は経路によらず,始点と終点だけで決まる:$\displaystyle\int_C\nabla f\cdot\dd\vec p=f(B)-f(A)$(状態関数と経路関数の区別,保存力とポテンシャルへの入口)
- 媒介変数表示された曲面 $S:\vec p(u,v)$ 上のスカラー場の面積分 $\displaystyle\iint_S f\,\dd S=\iint_D f\left|\pdiff{\vec p}{u}\times\pdiff{\vec p}{v}\right|\dd u\,\dd v$,および $z=\varphi(x,y)$ の形のグラフでの特別な場合 $\dd S=\sqrt{\varphi_x^2+\varphi_y^2+1}\,\dd x\,\dd y$
- 面要素ベクトル $\dd\vec S=\hat n\,\dd S$(大きさが面積 $\dd S$,向きが外向き法線 $\hat n$ のベクトル)
- ガウスの発散定理 $\displaystyle\iint_S\vec f\cdot\dd\vec S=\iiint_V(\nabla\cdot\vec f)\,\dd V$($S$ は $V$ を囲む閉曲面)と,発散の定義(第19章)にもとづく証明のスケッチ
- ストークスの定理 $\displaystyle\oint_C\vec f\cdot\dd\vec\ell=\iint_S(\nabla\times\vec f)\cdot\dd\vec S$ と,回転の定義(第19章)にもとづく証明のスケッチ
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート ベクトル解析』 pp. 41–50.
20.1 スカラー場の線積分
高校数学で学んだ定積分 $\int_a^b h(x)\,\dd x$ は,$x$ 軸というまっすぐな区間 $[a,b]$ の上で関数 $h$ を足し合わせるものだった.ここでは区間の代わりに,平面や空間の中でぐにゃりと曲がった曲線 $C$ を用意し,その曲線に沿ってスカラー場 $f$ を足し合わせることを考える.曲線 $C$ は,第17章で学んだのと同じように,媒介変数(パラメータ)$t$ を使って
$$ C:\ x=x(t),\ y=y(t)\qquad(a\le t\le b) $$のように表す.$t$ が $a$ から $b$ まで動くにつれて,点 $P(t)=(x(t),y(t))$ は曲線 $C$ 上を,出発点 $A=P(a)$ から到着点 $B=P(b)$ まで動いていく.この「$t$ が増える向き」が,曲線 $C$ の向き(orientation)である.線積分とは,この向きに沿って歩きながらスカラー場の値を集めていく計算のことである.
定義20.1 平面スカラー場の線積分
平面上のスカラー場 $f(x,y)$ と,媒介変数表示された曲線 $C:x=x(t),\,y=y(t)\ (a\le t\le b)$ が与えられているとき,$f$ の曲線 $C$ に沿った線積分を次のように定義する.
$$ \int_C f(x,y)\,\dd x := \int_a^b f\bigl(x(t),y(t)\bigr)\cdot x'(t)\,\dd t, \qquad \int_C f(x,y)\,\dd y := \int_a^b f\bigl(x(t),y(t)\bigr)\cdot y'(t)\,\dd t. $$右辺はどちらも,$t$ の通常の定積分になっている($x'(t)=\diff{x}{t}$ は $t$ による通常の導関数).つまり線積分とは,「曲線の上の積分」を「媒介変数 $t$ の上の,ふつうの定積分」に翻訳する計算にほかならない.
数学ノート:$\dd x=\diff{x}{t}\,\dd t$ の意味
定義20.1の右辺は,1変数の置換積分の公式 $\displaystyle\int f(x)\,\dd x=\int f(x(t))\,\diff{x}{t}\,\dd t$ をそのまま使っているだけである.「$x=x(t)$ とおいたら $\dd x=\diff{x}{t}\,\dd t=x'(t)\,\dd t$ に置き換わる」という,置換積分でおなじみの規則を思い出しておこう.$\dd y=\diff{y}{t}\,\dd t=y'(t)\,\dd t$ も同様である.この2つをひとまとめにして,$\vec p=[x,y]$(点の位置ベクトル)とおき,
$$ \int_C f\,\dd\vec p:=\left[\int_C f\,\dd x,\ \int_C f\,\dd y\right] $$という「ベクトルに値をとる線積分」を考えることもある(成分ごとに定義20.1を適用しただけの表記の工夫である).
同じ定義は,空間内の曲線に対してもそのまま拡張できる.曲線が $C:x=x(t),\,y=y(t),\,z=z(t)\ (a\le t\le b)$ という3本の式で表されているとき,3変数のスカラー場 $f(x,y,z)$ の線積分を次のように定める.
定義20.2 空間スカラー場の線積分
$$ \int_C f(x,y,z)\,\dd x=\int_a^b f\cdot x'(t)\,\dd t,\quad \int_C f(x,y,z)\,\dd y=\int_a^b f\cdot y'(t)\,\dd t,\quad \int_C f(x,y,z)\,\dd z=\int_a^b f\cdot z'(t)\,\dd t. $$3つまとめて $\vec p=[x,y,z]$ として $\displaystyle\int_C f\,\dd\vec p=\Bigl[\int_C f\,\dd x,\int_C f\,\dd y,\int_C f\,\dd z\Bigr]$ と書いてもよい.
媒介変数 $t$ そのものについての線積分(重みをかけずに $t$ で単純に積分する場合)も,同じ考え方で
$$ \int_C f(x,y,z)\,\dd t=\int_a^b f\bigl(x(t),y(t),z(t)\bigr)\,\dd t $$と定義される.これは定義20.2で $x'(t)$ を掛ける代わりに $1$ を掛けているだけの,最も単純な場合である.
導出:弧長パラメータ $s$ による線積分 $\int_C f\,\dd s$
媒介変数として,時刻のような抽象的な $t$ の代わりに,曲線の長さ $s$ そのものを使うこともできる.第17章2節で学んだとおり,曲線上をごくわずか $\dd t$ だけ進んだときに進む距離(弧長要素)は,3辺 $\dd x,\dd y,\dd z$ を持つ微小な直方体の対角線としてピタゴラスの定理から
$$ \dd s=\sqrt{(\dd x)^2+(\dd y)^2+(\dd z)^2} $$と表せるのだった.$x=x(t)$ などを代入して $\dd x=x'(t)\dd t$ を使えば,
$$ \dd s=\diff{s}{t}\cdot\dd t=\frac{\sqrt{(\dd x)^2+(\dd y)^2+(\dd z)^2}}{\dd t}\cdot\dd t =\sqrt{\left(\diff{x}{t}\right)^{\!2}+\left(\diff{y}{t}\right)^{\!2}+\left(\diff{z}{t}\right)^{\!2}}\ \dd t $$となる(分母・分子に同じ $\dd t$ を掛けて,ルートの中に $(\dd t)^2$ として押し込んだだけである).したがって,弧長 $s$ による線積分は
\begin{equation} \int_C f(x,y,z)\,\dd s=\int_a^b f\bigl(x(t),y(t),z(t)\bigr)\sqrt{x'(t)^2+y'(t)^2+z'(t)^2}\;\dd t \label{eq:20-line-ds} \end{equation}と定義される.$f\equiv1$(つねに $1$ の定数関数)とすれば $\displaystyle\int_C 1\,\dd s=\int_a^b\sqrt{x'^2+y'^2+z'^2}\,\dd t$ となり,これはまさに第17章で学んだ「曲線の長さ」の公式そのものである.つまり $\int_C f\,\dd s$ は,曲線の長さを求める式の被積分関数に $f$ という重みをかけたものであり,「密度 $f$ をもつ針金 $C$ の全質量」のようなイメージで理解できる.
線積分には,向きに関する2つの基本的な性質がある.1つ目は,曲線を逆向きにたどると符号が反転するという性質である.曲線 $C$ を $B$ から $A$ へ逆向きにたどる曲線を $-C$ と書く(媒介変数で言えば,$t$ を $b$ から $a$ へ動かすことに対応する).置換積分で積分区間の上端・下端を入れ替えると符号が反転することを思い出せば,
\begin{equation} \int_{-C} f\,\dd t=-\int_C f\,\dd t \label{eq:20-reverse} \end{equation}が成り立つことがわかる.2つ目は,曲線をいくつかの滑らかな弧に分割しても,線積分は各部分の和に等しいという加法性である.曲線 $C$ が,なめらかな弧 $C_1,C_2,\ldots,C_n$ を端点でつないでできる「区分的に滑らかな曲線」であるとき(例えば四角形の周や,折れ線になっている経路),
\begin{equation} \int_C f\,\dd s=\int_{C_1}f\,\dd s+\int_{C_2}f\,\dd s+\cdots+\int_{C_n}f\,\dd s \label{eq:20-additive} \end{equation}が成り立つ.これは定積分の性質 $\int_a^c=\int_a^b+\int_b^c$ を曲線の上でそのまま繰り返しているだけである.
例題20.1 放物線に沿ったスカラー場の線積分
スカラー場 $f(x,y)=xy$ と,曲線 $C:x=t,\ y=t^2\ (0\le t\le1)$(放物線 $y=x^2$ の一部)が与えられている.$\displaystyle\int_C f\,\dd x$,$\displaystyle\int_C f\,\dd y$,$\displaystyle\int_C f\,\dd s$ をそれぞれ求めよ.
解答 $x(t)=t,\ y(t)=t^2$ より $x'(t)=1,\ y'(t)=2t$.また $f(x(t),y(t))=x(t)y(t)=t\cdot t^2=t^3$ である.定義20.1をそのまま使う.
$$ \int_C f\,\dd x=\int_0^1 t^3\cdot 1\,\dd t=\left[\frac{t^4}{4}\right]_0^1=\frac14 . $$ $$ \int_C f\,\dd y=\int_0^1 t^3\cdot 2t\,\dd t=\int_0^1 2t^4\,\dd t=\left[\frac{2t^5}{5}\right]_0^1=\frac25 . $$$\int_C f\,\dd s$ は式\eqref{eq:20-line-ds}を使う.$\sqrt{x'(t)^2+y'(t)^2}=\sqrt{1^2+(2t)^2}=\sqrt{1+4t^2}$ であるから,
$$ \int_C f\,\dd s=\int_0^1 t^3\sqrt{1+4t^2}\,\dd t . $$この積分は $u=1+4t^2$($\dd u=8t\,\dd t$)とおくと $t^2=(u-1)/4$ を使って初等的に計算でき,
$$ \int_C f\,\dd s=\frac{1}{120}+\frac{5\sqrt5}{24}\approx0.4742 $$となる(sympyによる検算では,記号的な結果と数値積分の結果が $10^{-9}$ の精度で一致することを確認した).$\int_C f\,\dd x$ と $\int_C f\,\dd y$ が簡単な有理数になったのに対して $\int_C f\,\dd s$ が無理数になるのは自然である——前者2つは「$x$ 方向・$y$ 方向への正味の効き目」を測るのに対し,$\dd s$ は経路の実際の長さを測る量だからである.
例題20.2 らせん(空間曲線)に沿ったスカラー場の線積分
空間内のらせん $C:x=\cos t,\ y=\sin t,\ z=t\ (0\le t\le2\pi)$($xy$ 平面上では半径1の円を描きながら,$z$ 方向へ一様に上昇していく曲線)と,スカラー場 $f(x,y,z)=z$ が与えられている.$\displaystyle\int_C f\,\dd s$ を求めよ.
解答 $x'(t)=-\sin t,\ y'(t)=\cos t,\ z'(t)=1$ より,
$$ \sqrt{x'^2+y'^2+z'^2}=\sqrt{\sin^2t+\cos^2t+1}=\sqrt{1+1}=\sqrt2 $$($\sin^2t+\cos^2t=1$ を使った.らせんは高さ方向に一定の傾きで上昇するので,$\dd s/\dd t$ が $t$ によらず一定値 $\sqrt2$ になるのは図形的にも納得できる).したがって
$$ \int_C z\,\dd s=\int_0^{2\pi} t\cdot\sqrt2\,\dd t=\sqrt2\left[\frac{t^2}{2}\right]_0^{2\pi}=\sqrt2\cdot2\pi^2=2\sqrt2\,\pi^2\approx27.92 . $$この例は,線積分の定義がそのまま3変数の場合にも通用すること,そして $\dd s$ が実際の空間内での「歩いた距離」を正しく測っていることを確認するものである.
20.2 ベクトル場の線積分(接線線積分)と応用例
20.1節ではスカラー場(値がただの数である場)を曲線に沿って積分した.今度は,ベクトル場(各点に矢印が生えている場)$\vec f$ を曲線に沿って積分することを考える.物理的な動機ははっきりしている:$\vec f$ を「力」だと思うと,曲線 $C$ に沿って物体を動かすときに力がした仕事(work)を計算したいのである.高校物理では「仕事=力×距離×$\cos\theta$」(力と変位のなす角 $\theta$)と習ったが,これはまさに力ベクトルと変位ベクトルの内積である.曲線が曲がっていて力も場所ごとに変わる一般の場合には,この内積を曲線に沿って足し合わせる必要があり,それが以下で定義する接線線積分(tangential line integral)である.
定義20.3 平面ベクトル場の接線線積分
平面ベクトル場 $\vec f(\vec p)=[f(x,y),\,g(x,y)]$ と,曲線 $C:\vec p(t)=[x(t),y(t)]\ (a\le t\le b)$ が与えられているとき,$\vec f(\vec p)$ と $\dd\vec p$ の内積の,曲線 $C$ に沿った線積分を次のように定義する.
$$ \int_C \vec f(\vec p)\cdot\dd\vec p := \int_C\bigl(f\,\dd x+g\,\dd y\bigr)=\int_C f\,\dd x+\int_C g\,\dd y . $$右辺の2つの線積分は,どちらも定義20.1(スカラー場の線積分)そのものだから,すでに計算方法を知っている.$\dd x=x'(t)\dd t,\ \dd y=y'(t)\dd t$ を代入すれば,
$$ \int_C \vec f(\vec p)\cdot\left(\diff{\vec p}{t}\right)\dd t=\int_a^b f\cdot\diff{x}{t}\,\dd t+\int_a^b g\cdot\diff{y}{t}\,\dd t $$という,$t$ のふつうの定積分にまとまる.ここで $\diff{\vec p}{t}=\left[\diff{x}{t},\diff{y}{t}\right]$ は,曲線 $C$ の各点における接線ベクトル(tangent vector,曲線が今まさに進んでいる向きを指す矢印)である.つまり接線線積分とは,「ベクトル場 $\vec f$ を,曲線の接線方向の成分だけ取り出して足し合わせる」計算だと言い換えられる——これは高校物理の「仕事=力の,変位方向の成分×距離」という考え方の,曲線バージョンにほかならない.
空間の場合も同じ形で定義される.
定義20.4 空間ベクトル場の接線線積分
空間ベクトル場 $\vec f(\vec p)=[f,g,h]$ と,曲線 $C:\vec p(t)=[x(t),y(t),z(t)]\ (a\le t\le b)$ に対して,
$$ \int_C \vec f(\vec p)\cdot\dd\vec p=\int_C(f\,\dd x+g\,\dd y+h\,\dd z) =\int_a^b f\cdot\diff{x}{t}\,\dd t+\int_a^b g\cdot\diff{y}{t}\,\dd t+\int_a^b h\cdot\diff{z}{t}\,\dd t . $$接線線積分についても,20.1節で見た2つの性質——向きの反転と,区分的に滑らかな曲線に対する加法性——がそのまま成り立つ.
\begin{equation} \int_{-C}\vec f\cdot\dd\vec p=-\int_C \vec f\cdot\dd\vec p, \qquad \int_C \vec f\cdot\dd\vec p=\int_{C_1}\vec f\cdot\dd\vec p+\int_{C_2}\vec f\cdot\dd\vec p+\cdots+\int_{C_n}\vec f\cdot\dd\vec p \quad(C=C_1+C_2+\cdots+C_n). \label{eq:20-vec-additive} \end{equation}証明は,各成分($f\,\dd x$,$g\,\dd y$,…)に式\eqref{eq:20-reverse}と式\eqref{eq:20-additive}を適用して足し合わせるだけである.
注意:接線線積分は一般には経路によって値が変わる
スカラー場の線積分 $\int_C f\,\dd s$ は,$\dd s\gt 0$ しか出てこないので向きに依存しなかったが,接線線積分 $\int_C\vec f\cdot\dd\vec p$ は向きにも経路にも依存しうる.同じ2点 $A,B$ を結ぶのでも,通る経路が違えば値が違うことがある.次の例題でそれを実際に確認しよう(20.3節では,逆に「経路によらず決まる特別な場合」を学ぶ).
例題20.3 接線線積分は経路に依存する(回転するベクトル場)
ベクトル場 $\vec f(x,y)=[-y,\,x]$(原点のまわりを反時計回りに渦を巻くような場)について,点 $(1,0)$ から点 $(0,1)$ まで,(a) 線分(直線経路),(b) 単位円の四分円弧,の2通りの経路で接線線積分 $\int_C \vec f\cdot\dd\vec p$ を計算し,比較せよ.
解答 (a) 直線経路:$C_a:\vec p(t)=[1-t,\,t]\ (0\le t\le1)$($t=0$ で $(1,0)$,$t=1$ で $(0,1)$)とすると,$x(t)=1-t,\ y(t)=t$ より $x'(t)=-1,\ y'(t)=1$.また $f=-y=-t,\ g=x=1-t$ である.
$$ \int_{C_a}\vec f\cdot\dd\vec p=\int_0^1\bigl[(-t)(-1)+(1-t)(1)\bigr]\dd t=\int_0^1\bigl[t+1-t\bigr]\dd t=\int_0^1 1\,\dd t=1 . $$(b) 四分円弧:$C_b:\vec p(\theta)=[\cos\theta,\,\sin\theta]\ (0\le\theta\le\pi/2)$($\theta=0$ で $(1,0)$,$\theta=\pi/2$ で $(0,1)$)とすると,$x'(\theta)=-\sin\theta,\ y'(\theta)=\cos\theta$,$f=-\sin\theta,\ g=\cos\theta$ である.
$$ \int_{C_b}\vec f\cdot\dd\vec p=\int_0^{\pi/2}\bigl[(-\sin\theta)(-\sin\theta)+(\cos\theta)(\cos\theta)\bigr]\dd\theta =\int_0^{\pi/2}\bigl(\sin^2\theta+\cos^2\theta\bigr)\dd\theta=\int_0^{\pi/2}1\,\dd\theta=\frac{\pi}{2} . $$したがって $\displaystyle\int_{C_a}\vec f\cdot\dd\vec p=1\neq\frac{\pi}{2}=\int_{C_b}\vec f\cdot\dd\vec p$ となり,同じ2点を結んでいても経路によって値が異なることが確認できた.直感的には,このベクトル場は原点のまわりをぐるぐる回るように渦を巻いており(第19章の言葉で言えば $\nabla\times\vec f\neq\vec 0$),遠回りして渦に逆らったり従ったりする分だけ,仕事の値が変わってしまうのである.
接線線積分の応用として,電磁気学の入試問題を1つ取り上げる.次の例題は,力学的な力(外積)と電磁誘導(線積分・時間微分)の両方に接線線積分の考え方が使われている典型例である.
数学ノート:この例題で使う電磁気の公式
本書は数学の教科書なので電磁気学そのものは解説しないが,次の3つの事実だけ結果として認めて使う.(i) 半径 $r$ の円形コイルに電流 $I$ を流すと,コイル中心に生じる磁界の強さは $H=I/(2r)$ である($N$ 回巻きなら $N$ 倍).磁束密度は $B=\mu_0H$($\mu_0$:真空の透磁率).(ii) 一様な磁束密度 $\vec B$ の中で,電流 $\vec I$(大きさ×向き,ここでは「電流ベクトル」の意味で使う)が流れる長さ $\ell$ の導線が受ける力は $\vec F=\ell\,\vec I\times\vec B$(外積.フレミング(Fleming)左手則を式にしたもの)である.(iii) 断面を貫く磁束 $\Phi(t)$ が時間変化すると,$N$ 回巻きの回路には誘導起電力 $V(t)=-N\,\dfrac{\dd\Phi}{\dd t}$ が生じる(ファラデー(Faraday)の電磁誘導の法則).
例題20.4 電磁気への応用:一巻き半の円形コイルと導線(慶應大学 入試問題)
$xy$ 平面内に,長さ $\ell$ の直導線2本と,半径 $r$ の一巻き半($1.5$ 回巻き)の円形コイルが,図20.6のように点 $M,N$ の間をつないでいる.真空の透磁率を $\mu_0$ とし,導線の抵抗は無視できるものとする.
(1) $M\to N$ の向きに電流 $I$ を流すとき,コイルの中心 $O$ における磁束密度の大きさと向きを求めよ.
(2) (1)の電流を流したまま,さらに $z$ 軸正の向きに一様な磁束密度 $B$ を外部から加える.このとき,導線 $MN$(直線部分+コイル部分)に働く力の向きと大きさを求めよ.
(3) $z$ 軸正の向きの一様な磁束密度 $B$ の中で,$MN$ を軸として角速度 $\omega$ で回転させる($t=0$ のときコイル面が $xy$ 平面上にあるとする).$M\to N$ の向きに生じる誘導起電力 $V(t)$ を求めよ.
解答 (1) 一巻き半のコイルは,1回巻きの $1.5$ 倍の磁界を中心に作ると考えられるから,
$$ H=\frac32\cdot\frac{I}{2r},\qquad B=\mu_0H=\frac34\cdot\frac{\mu_0 I}{r} $$であり,向きは右ねじの法則($M\to N$ の向きに電流を右ねじの進む向きとしたときにねじを回す向き)から $z$ 軸正の向きである.
(2) 直線部分(長さ $\ell$ の導線2本)に働く力から求める.導線を流れる電流ベクトルは $\vec I=(0,I,0)$ の向き,磁束密度は $\vec B=(0,0,B)$ であるから,1本の導線が受ける力は
$$ \vec F_1=\ell\,\vec I\times\vec B=\ell\,(0,I,0)\times(0,0,B)=\ell\,(IB,\,0,\,0)=(\ell IB,\,0,\,0) $$である(外積の成分計算は第15章4節の「たすき掛け」を使う:$(0,I,0)\times(0,0,B)=(I\cdot B-0\cdot0,\ 0\cdot0-0\cdot B,\ 0\cdot0-I\cdot0)=(IB,0,0)$,図20.7(a)).直線部分は2本あるので,これらの合力は $2\vec F_1=(2\ell IB,0,0)$ となる.
次に円形コイル部分に働く力 $\vec F_2$ を求める.コイル上の位置を角 $\theta$ で表すと,そこを流れる電流ベクトルは $\vec I(\theta)=(I\cos\theta,\,I\sin\theta,\,0)$(コイルの接線方向,図20.8)であり,たすき掛けで計算すると(図20.7(b)),
$$ \vec I(\theta)\times\vec B=(I\cos\theta,I\sin\theta,0)\times(0,0,B)=(IB\sin\theta,\,-IB\cos\theta,\,0) $$である.コイルは一巻き半(角にして $0$ から $3\pi$ まで)あるので,力は線積分(コイルを一周ぶんずつ足し合わせる接線線積分の親戚である)として
$$ \vec F_2=\int_0^{3\pi}\bigl(\vec I(\theta)\times\vec B\bigr)\,r\,\dd\theta =r\left(IB\int_0^{3\pi}\sin\theta\,\dd\theta,\ -IB\int_0^{3\pi}\cos\theta\,\dd\theta,\ 0\right) $$と書ける.$\displaystyle\int_0^{3\pi}\sin\theta\,\dd\theta=[-\cos\theta]_0^{3\pi}=-\cos3\pi+\cos0=-(-1)+1=2$,$\displaystyle\int_0^{3\pi}\cos\theta\,\dd\theta=[\sin\theta]_0^{3\pi}=\sin3\pi-\sin0=0$ であるから,
$$ \vec F_2=r\,(2IB,\,0,\,0)=(2rIB,\,0,\,0) . $$よって,導線全体(直線部分2本+コイル部分)に働く力は
$$ 2\vec F_1+\vec F_2=(2\ell IB+2rIB,\,0,\,0)=\bigl(2(r+\ell)IB,\,0,\,0\bigr) $$となり,向きは $x$ 軸正の向き,大きさは $2(r+\ell)IB$ である(sympyの外積計算・定積分で検算済み).
(3) コイルの面積を $S=\pi r^2$ とする.$MN$ を軸に角速度 $\omega$ で回転すると,コイル面と磁束密度 $\vec B$ のなす角が時々刻々変わるので,コイル1回巻きあたりを貫く磁束は $\Phi(t)=BS\cos\omega t$ となる.一巻き半($N=3/2$)だから,ファラデーの法則より
$$ V(t)=-\frac32\cdot\diff{\Phi}{t}=-\frac32\cdot BS\cdot(-\omega\sin\omega t)=\frac32\,\omega BS\sin\omega t $$である(微分は $\diff{}{t}\cos\omega t=-\omega\sin\omega t$).
20.3 勾配ベクトルの接線線積分と経路独立性
例題20.3では,一般のベクトル場の接線線積分が経路によって値を変えることを見た.ところが,ベクトル場が第18章で学んだ勾配ベクトル $\nabla f=\left[\pdiff{f}{x},\pdiff{f}{y},\pdiff{f}{z}\right]$ という特別な形をしているときは,事情がまったく変わる.この節では,勾配ベクトルの接線線積分が経路にはまったく依存せず,始点と終点だけで決まるという,ベクトル解析でもっとも美しい定理の1つを証明する.
定理20.1 勾配ベクトルの接線線積分の経路独立性
スカラー場 $f(x,y,z)$ が全微分可能であるとし,曲線 $C:\vec p(t)=[x(t),y(t),z(t)]\ (a\le t\le b)$ の始点を $A=\vec p(a)$,終点を $B=\vec p(b)$ とする(一般の設定は図20.2と同様である).このとき,
\begin{equation} \int_C \nabla f\cdot\dd\vec p=f(B)-f(A) \label{eq:20-grad-path} \end{equation}が成り立つ.とくに右辺は曲線 $C$ そのもの(途中の通り道)にはいっさい依存せず,端点 $A,B$ だけで決まる.
証明:全微分(第6章)を使う
定義20.4(接線線積分)を,ベクトル場を $\vec f=\nabla f=\left[\pdiff{f}{x},\pdiff{f}{y},\pdiff{f}{z}\right]$ の場合に適用すると,
$$ \int_C\nabla f\cdot\dd\vec p=\int_C\left(\pdiff{f}{x}\dd x+\pdiff{f}{y}\dd y+\pdiff{f}{z}\dd z\right)\qquad\text{…①} $$となる.ここで,右辺のカッコの中身に見覚えがあるはずである——これは第6章3節で学んだ全微分(total differential)
$$ \dd f=\pdiff{f}{x}\dd x+\pdiff{f}{y}\dd y+\pdiff{f}{z}\dd z $$そのものである.つまり①の被積分式は,$f$ という1つの関数の全微分 $\dd f$ にほかならない.曲線上では $x=x(t),y=y(t),z=z(t)$ なので,$f$ は結局 $t$ だけの1変数関数 $f(t):=f(x(t),y(t),z(t))$ とみなせる.合成関数の微分公式(第6章4節)を使えば,
$$ \dd f=\diff{f}{t}\,\dd t=\left(\pdiff{f}{x}\diff{x}{t}+\pdiff{f}{y}\diff{y}{t}+\pdiff{f}{z}\diff{z}{t}\right)\dd t $$であり,これはまさに①の被積分式を $\dd t$ の形に書き直したものと一致する.したがって,$t=a$ のとき $P=A$,$t=b$ のとき $P=B$ となることに注意すれば,
$$ \text{(①)}=\int_a^b \diff{f}{t}\,\dd t=\bigl[f(t)\bigr]_a^b=f(B)-f(A) $$となる(最後の等号は微分積分学の基本定理そのものである:導関数を積分すればもとの関数の変化量に戻る).曲線 $C$ の情報は,途中の計算では使われたが,最終的な答え $f(B)-f(A)$ には $C$ の形がいっさい残っていない.これで式\eqref{eq:20-grad-path}が示された.(証明終わり)
イメージ:状態関数と経路関数——高低差と歩いた距離の違い
山登りを例に考えよう.出発地点 $A$ と山頂 $B$ の標高差は,どのルートで登っても同じ値になる——ジグザグに登ろうが,まっすぐ登ろうが,最終的な高さの差は変わらない.一方,歩いた距離やかいた汗の量は,ルートによって大きく変わる.定理20.1は,$f$ という「高さ」に相当する関数があるとき,$\nabla f$ に沿って積分した量(=高低差の総和)は,途中の経路によらず出発点と到着点の $f$ の値の差 $f(B)-f(A)$ だけで決まる,と言っている.
このように,途中の経路に依存せず,その地点の状態(今の場所)だけで決まる関数を状態関数(state function)といい,逆に経路そのものに依存する量(先の例題20.3の接線線積分のように,通り道によって答えが変わる量)を経路関数(path function)という.力学でいえば,位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)は状態関数であり,摩擦によって失われる熱量は経路関数である.熱力学でも,内部エネルギーは状態関数だが,仕事や熱そのものは経路関数である——この区別は物理・化学のいたるところで顔を出す,非常に重要な概念である.
$\nabla f$ のようなベクトル場を保存力場(conservative field)といい,$f$ をそのポテンシャル(potential,あるいはスカラーポテンシャル)と呼ぶ.定理20.1は,「力が保存力であること」と「その力がした仕事が経路によらないこと」が数学的に同じ主張であることを示している.例題20.3のベクトル場 $[-y,x]$ が経路によって値を変えたのは,このベクトル場がどんな関数の勾配としても書けない(保存力ではない)ことの,いわば証拠だったわけである.
例題20.5 勾配ベクトルの線積分の経路独立性を具体的に確認する
$f(x,y)=xy$ とする.点 $(0,0)$ から点 $(1,1)$ まで,(a) 直線 $C_1:x=t,y=t\ (0\le t\le1)$,(b) 放物線 $C_2:x=t,y=t^2\ (0\le t\le1)$(例題20.1と同じ曲線)の2通りの経路で $\int_C\nabla f\cdot\dd\vec p$ を計算し,どちらも $f(1,1)-f(0,0)$ に一致することを確かめよ.
解答 $\nabla f=\left[\pdiff{f}{x},\pdiff{f}{y}\right]=[y,\,x]$ である($f=xy$ を $x$ で偏微分すれば $y$,$y$ で偏微分すれば $x$).
(a) 直線 $C_1$:$x(t)=t,\,y(t)=t$ より $x'(t)=y'(t)=1$.$\nabla f$ の成分は $[y,x]=[t,t]$ だから,
$$ \int_{C_1}\nabla f\cdot\dd\vec p=\int_0^1\bigl(t\cdot1+t\cdot1\bigr)\dd t=\int_0^1 2t\,\dd t=\bigl[t^2\bigr]_0^1=1 . $$(b) 放物線 $C_2$:$x(t)=t,\,y(t)=t^2$ より $x'(t)=1,\,y'(t)=2t$.$\nabla f$ の成分は $[y,x]=[t^2,t]$ だから,
$$ \int_{C_2}\nabla f\cdot\dd\vec p=\int_0^1\bigl(t^2\cdot1+t\cdot2t\bigr)\dd t=\int_0^1 3t^2\,\dd t=\bigl[t^3\bigr]_0^1=1 . $$どちらも $1$ になった.一方,$f(1,1)-f(0,0)=1\cdot1-0\cdot0=1$ であり,たしかに定理20.1の主張 $\int_C\nabla f\cdot\dd\vec p=f(B)-f(A)$ と一致する(sympyによる検算済み).例題20.3の $[-y,x]$ では経路によって値が変わったのに対し,今回の $[y,x]=\nabla(xy)$ では経路によらず同じ値になった——この対比こそが,「あるベクトル場が勾配ベクトルとして書けるかどうか」の違いを最もはっきり示している.
20.4 スカラー場の面積分
線積分が「曲線に沿った足し合わせ」だったのに対し,面積分(surface integral)は「曲面全体にわたる足し合わせ」である.第17章6節ですでに,曲面の面積そのものを求める方法(媒介変数 $u,v$ を使った面積要素 $\dd S=\left|\pdiff{\vec p}{u}\times\pdiff{\vec p}{v}\right|\dd u\,\dd v$)を学んでいる.この節では,その面積要素 $\dd S$ に,スカラー場 $f$ という「重み」をかけて積分することを考える——線積分で $\dd s$(弧長要素)に重み $f$ をかけたのとまったく同じ発想である.
定義20.5 媒介変数表示された曲面上のスカラー場の面積分
空間スカラー場 $f(x,y,z)$ と,媒介変数 $u,v$(領域 $D$ 内を動く)を用いて $\vec p(u,v)=[x(u,v),\,y(u,v),\,z(u,v)]$ と表される曲面 $S$ が与えられているとき,$f$ の曲面 $S$ 上の面積分を次のように定義する.
\begin{equation} \iint_S f(x,y,z)\,\dd S := \iint_D f\bigl(x(u,v),y(u,v),z(u,v)\bigr)\underbrace{\left|\pdiff{\vec p}{u}\times\pdiff{\vec p}{v}\right|}_{\text{ヤコビアン}}\,\dd u\,\dd v . \label{eq:20-surf-def} \end{equation}ここで,式\eqref{eq:20-surf-def}の被積分関数に現れる $\left|\pdiff{\vec p}{u}\times\pdiff{\vec p}{v}\right|$ をヤコビアン(Jacobian,媒介変数 $u,v$ から $x,y,z$ への変数変換によって,面積・体積がその点でどれだけ拡大・縮小するかを表す量)と呼ぶ.
右辺の $\left|\pdiff{\vec p}{u}\times\pdiff{\vec p}{v}\right|$ が「面積要素」になる理由は,すでに第17章6節で確認済みなのでここでは結果だけ思い出しておこう.曲面上で $u$ を $\dd u$,$v$ を $\dd v$ だけ動かすと,点 $\vec p(u,v)$ はそれぞれ $\pdiff{\vec p}{u}\dd u$,$\pdiff{\vec p}{v}\dd v$ というベクトルだけ移動する(図20.10).この2つのベクトルを2辺とする平行四辺形の面積が,微小な面積要素 $\dd S$ であり,第15章で学んだとおり,2辺ベクトルの外積の大きさが平行四辺形の面積を与えるから $\dd S=\left|\pdiff{\vec p}{u}\dd u\times\pdiff{\vec p}{v}\dd v\right|=\left|\pdiff{\vec p}{u}\times\pdiff{\vec p}{v}\right|\dd u\,\dd v$ となる.$f\equiv1$ とすれば式\eqref{eq:20-surf-def}は第17章の面積公式そのものに戻ることも確認しておこう.
実用上は,曲面が $z=\varphi(x,y)$($x,y$ が領域 $D$ 内を動く)という,高校数学でおなじみの「$x,y$ の関数のグラフ」の形で与えられていることが多い.この場合,媒介変数として $u=x,\,v=y$ をそのまま採用できるので,公式が次のように具体的な形にまで書き下せる.
導出:$z=\varphi(x,y)$ のグラフでの面積分
$u=x,\,v=y$ とし,$\vec p=[x,y,z]=[x,y,\varphi(x,y)]$ とおく.偏微分すると,
$$ \pdiff{\vec p}{x}=\left[1,\,0,\,\pdiff{\varphi}{x}\right],\qquad \pdiff{\vec p}{y}=\left[0,\,1,\,\pdiff{\varphi}{y}\right] $$である($x$ で偏微分するとき $y,z=\varphi(x,y)$ のうち $x$ の関数として動くのは第1成分の $x$ 自身と第3成分の $\varphi$ だけであることに注意).以下,$\varphi_x=\pdiff{\varphi}{x},\ \varphi_y=\pdiff{\varphi}{y}$ と略記する.外積をたすき掛けで計算すると,
$$ \pdiff{\vec p}{x}\times\pdiff{\vec p}{y}=[1,0,\varphi_x]\times[0,1,\varphi_y] =\bigl(0\cdot\varphi_y-\varphi_x\cdot1,\ \varphi_x\cdot0-1\cdot\varphi_y,\ 1\cdot1-0\cdot0\bigr)=[-\varphi_x,\,-\varphi_y,\,1] $$となる.したがって,このベクトルの大きさは
$$ \left|\pdiff{\vec p}{x}\times\pdiff{\vec p}{y}\right|=\sqrt{(-\varphi_x)^2+(-\varphi_y)^2+1^2}=\sqrt{\varphi_x^2+\varphi_y^2+1} $$であり,これを定義20.5に代入すれば,
\begin{equation} \iint_S f\,\dd S=\iint_D f\bigl(x,y,\varphi(x,y)\bigr)\sqrt{\varphi_x^2+\varphi_y^2+1}\;\dd x\,\dd y \label{eq:20-surf-graph} \end{equation}を得る.とくに $\varphi_x=\varphi_y=0$(水平な平面)のときは $\sqrt{0+0+1}=1$ となり,$\dd S=\dd x\,\dd y$ という当たり前の面積要素に戻る——傾き $\varphi_x,\varphi_y$ が大きいほど,同じ $\dd x\,\dd y$ に対応する実際の面積 $\dd S$ が大きくなる,というのがこの公式の意味である.この補正係数 $\sqrt{\varphi_x^2+\varphi_y^2+1}$ こそが,定義20.5で述べたヤコビアンの正体である——「$x,y$ の小さな長方形」を「曲面 $S$ 上の実際の面素」へ変換したときの拡大率にほかならない.
例題20.6 傾いた平面の面積($z=\varphi(x,y)$ 公式の応用)
平面 $z=x$ のうち,$xy$ 平面上の単位円板 $D=\{(x,y)\mid x^2+y^2\le1\}$ の真上にある部分の面積を,面積分 $\iint_S 1\,\dd S$ として求めよ.
解答 $\varphi(x,y)=x$ だから $\varphi_x=1,\ \varphi_y=0$.式\eqref{eq:20-surf-graph}に $f\equiv1$ を代入すると,
$$ \sqrt{\varphi_x^2+\varphi_y^2+1}=\sqrt{1^2+0^2+1}=\sqrt2\quad(\text{定数!}) $$であるから,
$$ \iint_S 1\,\dd S=\iint_D \sqrt2\;\dd x\,\dd y=\sqrt2\iint_D \dd x\,\dd y=\sqrt2\cdot(\text{単位円の面積})=\sqrt2\,\pi\approx4.44 . $$平面 $z=x$ は $xz$ 平面内で $45^\circ$ 傾いているので,真上から見た「影」の面積($D$ の面積 $\pi$)よりも $\sqrt2$ 倍広くなる——ちょうど,斜めに置いた板を真上から見ると実際より小さく見えるのと逆の関係になっている.この $\sqrt2$ が,まさに傾きの大きさ $|\varphi_x|=1$ から来る補正係数 $\sqrt{\varphi_x^2+\varphi_y^2+1}$ である.
例題20.7 球の表面積を面積分から導く
半径 $R$ の球面 $S$ を,媒介変数 $u=\theta$($0\le\theta\le\pi$,北極からの角),$v=\phi$($0\le\phi\le2\pi$,経度)を用いて $\vec p(\theta,\phi)=[R\sin\theta\cos\phi,\,R\sin\theta\sin\phi,\,R\cos\theta]$ と表す.面積分 $\iint_S 1\,\dd S$ を計算し,おなじみの球の表面積の公式 $4\pi R^2$ が得られることを確認せよ.
解答 偏微分すると,
$$ \pdiff{\vec p}{\theta}=[R\cos\theta\cos\phi,\,R\cos\theta\sin\phi,\,-R\sin\theta],\qquad \pdiff{\vec p}{\phi}=[-R\sin\theta\sin\phi,\,R\sin\theta\cos\phi,\,0] $$である.この2つの外積を計算すると(sympyによる計算),
$$ \pdiff{\vec p}{\theta}\times\pdiff{\vec p}{\phi}=\bigl[R^2\sin^2\theta\cos\phi,\ R^2\sin^2\theta\sin\phi,\ R^2\sin\theta\cos\theta\bigr] $$となり,その大きさは($\sin^2\phi+\cos^2\phi=1$ と $\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$ を使って整理すると)
$$ \left|\pdiff{\vec p}{\theta}\times\pdiff{\vec p}{\phi}\right|=R^2\sin\theta\qquad(0\le\theta\le\pi\ \text{なので}\ \sin\theta\ge0) $$という簡潔な形にまとまる.したがって,定義20.5より
$$ \iint_S 1\,\dd S=\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{\pi} R^2\sin\theta\,\dd\theta\,\dd\phi =\int_0^{2\pi}\!\Bigl(R^2\bigl[-\cos\theta\bigr]_0^{\pi}\Bigr)\dd\phi =\int_0^{2\pi} 2R^2\,\dd\phi=4\pi R^2 $$となり,見慣れた球の表面積の公式が得られた.面積分という一般的な道具を使うと,球面積の公式も,特別な図形の性質に頼らず,機械的な計算だけから導けることがわかる.
20.5 面要素ベクトルとガウス・ストークスの定理
いよいよ本章の到達点である,発散・回転(第19章)と面積分・線積分(本章)を結びつける2つの大定理にたどり着く.その前に,準備として面積要素 $\dd S$ に「向き」を持たせた面要素ベクトルを導入しておこう.
定義20.6 面要素ベクトル
曲面 $S$ 上の各点で,曲面に垂直な単位ベクトル(単位法線ベクトル,unit normal vector)を $\hat n$ とする.面要素ベクトル $\dd\vec S$ を,大きさが面積要素 $\dd S$,向きが $\hat n$ であるベクトル
$$ \dd\vec S:=\hat n\,\dd S $$として定義する.媒介変数表示 $\vec p(u,v)$ を使えば,$\pdiff{\vec p}{u}\times\pdiff{\vec p}{v}$ という外積そのものが,大きさ $\left|\pdiff{\vec p}{u}\times\pdiff{\vec p}{v}\right|=\dd S/(\dd u\,\dd v)$ を持ち,向きも(外積の性質から)曲面に垂直だから,
$$ \dd\vec S=\hat n\,\dd S=\left(\pdiff{\vec p}{u}\times\pdiff{\vec p}{v}\right)\dd u\,\dd v $$と具体的に書ける.ベクトル場 $\vec f$ に対して,$\vec f\cdot\dd\vec S=\vec f\cdot\hat n\,\dd S$ を曲面全体で足し合わせたもの $\iint_S\vec f\cdot\dd\vec S$ を,$\vec f$ の曲面 $S$ を貫く流束(flux)と呼ぶ.$\hat n$ の向きは通常2通り選べる(曲面のどちら側を向くか)ので,あらかじめどちらを正とするか決めておく必要がある——閉曲面(内部に体積を囲む,袋のような曲面)の場合は,慣習として外向きを正の向きに取る.
記法についての注意:閉曲面の記号について
閉曲面上の面積分であることを強調するために,教科書によっては二重積分記号に丸を重ねた専用の記号(「オイント(oiint)」のように読む)を使うことがある.本書では,この記号の代わりに「$S$ は閉曲面である」ということわり書きを添えたうえで,ふつうの $\displaystyle\iint_S$ を使うことにする(意味はまったく同じである).
準備が整った.発散の定義(第19章1節)を思い出そう——発散とは,1点のまわりの微小な体積 $\Delta V$ を取り,その境界(表面)を貫いて出ていく流束を $\Delta V$ で割って極限を取ったものだった.
$$ \nabla\cdot\vec f=\lim_{\Delta V\to0}\frac{1}{\Delta V}\iint_{\partial(\Delta V)}\vec f\cdot\dd\vec S $$($\partial(\Delta V)$ は微小体積 $\Delta V$ の境界となる閉曲面を表す.)この「局所的な」定義から,「大域的な」——体積全体 $V$ にわたる——結果を導けるはずだ,というのが次の定理の主張である.
定理20.2 ガウス(Gauss)の発散定理
空間の有界な領域 $V$ を,その境界である閉曲面 $S$(外向き法線 $\hat n$)で囲まれているとする.ベクトル場 $\vec f$ が $V$ 上で全微分可能であるとき,次が成り立つ.
\begin{equation} \iint_S \vec f\cdot\dd\vec S=\iiint_V(\nabla\cdot\vec f)\,\dd V \label{eq:20-gauss} \end{equation}証明のスケッチ:発散の定義から出発する
領域 $V$ を,一辺が非常に小さい体積 $\Delta V_k$($k=1,2,\ldots,N$,$N$ はとても大きい整数)の小片に分割する(図20.12).発散の定義(もっと正しい定義)より,各小片の中心付近で
$$ (\nabla\cdot\vec f)_k\cdot\Delta V_k\ \approx\ \iint_{S_k}\vec f\cdot\dd\vec S \qquad(\Delta V_k\to0\ \text{で等号}) $$が成り立つ($S_k$ は小片 $\Delta V_k$ の境界の閉曲面).両辺を $k=1$ から $N$ まで足し合わせると,
$$ \sum_{k=1}^{N}(\nabla\cdot\vec f)_k\,\Delta V_k\ \xrightarrow[\Delta V_k\to0]{}\ \iiint_V(\nabla\cdot\vec f)\,\dd V \qquad\text{(左辺はリーマン和,右辺はその極限=重積分の定義そのもの)} $$となる.一方,右辺の小片ごとの表面積分の和 $\displaystyle\sum_{k=1}^N\iint_{S_k}\vec f\cdot\dd\vec S$ はどうなるだろうか.ここで鍵になるのが,隣り合う小片が共有する内部の面では,流束がちょうど打ち消し合うという事実である.小片 $k$ と隣の小片 $k'$ が面を共有しているとき,その共有面を通る流束は,$k$ から見れば「外向き」,$k'$ から見れば「内向き」——つまり符号が逆で大きさが等しい.したがって,すべての小片について表面積分を足し合わせると,領域の内部にある共有面はすべて相殺して消え,外側の境界 $S$ に接する面だけが生き残る(図20.12で色を変えた,外周に接するセルの外向きの矢印だけが最終的に残るイメージである).すなわち,
$$ \sum_{k=1}^N\iint_{S_k}\vec f\cdot\dd\vec S=\iint_S\vec f\cdot\dd\vec S . $$以上の2つの極限(左辺の和は体積分に,右辺の和は境界 $S$ 上の面積分に収束する)を比べれば,式\eqref{eq:20-gauss}が得られる.(証明終わり,厳密な証明は誤差項の評価が必要であり解析学の教科書に譲る)
回転についても,まったく同じ議論が成り立つ.回転の定義(第19章4節)を思い出そう——回転の,ある向き $\hat n$ 成分とは,その向きを法線とする微小な面 $\Delta S$ を取り,その境界(周)に沿った接線線積分(循環)を $\Delta S$ で割って極限を取ったものだった.
$$ (\nabla\times\vec f)\cdot\hat n=\lim_{\Delta S\to0}\frac{1}{\Delta S}\oint_{\partial(\Delta S)}\vec f\cdot\dd\vec\ell $$定理20.3 ストークス(Stokes)の定理
空間内の曲面 $S$ が,向き付けられた単純閉曲線 $C$ を境界に持つとする($C=\partial S$,向きは右ねじの法則で $S$ の法線 $\hat n$ と対応させる).ベクトル場 $\vec f$ が $S$ の近くで全微分可能であるとき,次が成り立つ.
\begin{equation} \oint_C \vec f\cdot\dd\vec\ell=\iint_S(\nabla\times\vec f)\cdot\dd\vec S \label{eq:20-stokes} \end{equation}証明のスケッチ:回転の定義から出発する
曲面 $S$ を,非常に小さい面積 $\Delta S_k$($k=1,\ldots,N$)のパッチに分割する(図20.13).回転の定義(もっと正しい定義)より,各パッチで
$$ (\nabla\times\vec f)_k\cdot\Delta\vec S_k\ \approx\ \oint_{C_k}\vec f\cdot\dd\vec\ell \qquad(\Delta S_k\to0\ \text{で等号,}C_k=\partial(\Delta S_k)) $$が成り立つ.左辺を $k=1$ から $N$ まで足し合わせれば,重積分の定義から
$$ \sum_{k=1}^N(\nabla\times\vec f)_k\cdot\Delta\vec S_k\ \xrightarrow[\Delta S_k\to0]{}\ \iint_S(\nabla\times\vec f)\cdot\dd\vec S . $$右辺の各パッチの周回積分の和 $\displaystyle\sum_{k=1}^N\oint_{C_k}\vec f\cdot\dd\vec\ell$ については,ガウスの定理のときと同じ「打ち消し合い」が起きる——隣り合うパッチが共有する辺は,一方のパッチから見れば反時計回り,隣のパッチから見ればその同じ辺を時計回りにたどることになるので,向きが逆で大きさが等しい線積分どうしが相殺する.生き残るのは,どのパッチとも共有されていない外周の辺だけ,すなわち曲面全体の境界 $C$ である.よって
$$ \sum_{k=1}^N\oint_{C_k}\vec f\cdot\dd\vec\ell=\oint_C\vec f\cdot\dd\vec\ell $$となり,両辺の極限を比べれば式\eqref{eq:20-stokes}が得られる.(証明終わり)
なぜ重要か:局所と大域を結ぶ2つの橋
ガウスの定理とストークスの定理は,どちらも同じ型の主張をしている.「各点のごく近くだけを見て定義された量(発散・回転)を,領域全体・曲面全体にわたって積分したものは,実は境界(表面・周)の上の情報だけで決まってしまう」.これは,微分積分学の基本定理 $\int_a^b F'(x)\,\dd x=F(b)-F(a)$ の,2次元・3次元への一般化になっている——右辺はどちらも「端点(境界)での値の違い」であり,左辺はどちらも「内部での変化率の積分」である.実際,電磁気学のマクスウェル方程式(ガウスの法則,アンペール・マクスウェルの法則)は,まさにこのガウスの定理・ストークスの定理を使って,微分形と積分形を行き来している.
例題20.8 ガウスの発散定理の確認:位置ベクトル場と単位球
ベクトル場 $\vec f(x,y,z)=[x,y,z]$(位置ベクトルそのもの)について,単位球 $V=\{x^2+y^2+z^2\le1\}$ とその境界球面 $S$ に関する式\eqref{eq:20-gauss}の両辺を,それぞれ直接計算して確かめよ.
解答 まず発散を計算する(第19章の公式どおり).$\nabla\cdot\vec f=\pdiff{x}{x}+\pdiff{y}{y}+\pdiff{z}{z}=1+1+1=3$(定数).したがって右辺(体積分)は,単位球の体積 $\frac43\pi$ を使って
$$ \iiint_V(\nabla\cdot\vec f)\,\dd V=3\cdot\frac43\pi\cdot1^3=4\pi . $$次に左辺(面積分)を直接計算する.単位球面上では,外向き単位法線ベクトルはちょうど位置ベクトル自身 $\hat n=(x,y,z)$ である(半径1の球面なので,位置ベクトルの大きさがすでに1だから正規化の必要がない).したがって球面上では
$$ \vec f\cdot\hat n=(x,y,z)\cdot(x,y,z)=x^2+y^2+z^2=1 $$と,値がつねに $1$ になる.よって
$$ \iint_S\vec f\cdot\dd\vec S=\iint_S 1\,\dd S=1\times(\text{球の表面積})=1\times4\pi(1)^2=4\pi . $$両辺とも $4\pi$ となり,ガウスの発散定理が成り立つことが確認できた(sympyによる検算済み).体積分は「発散(湧き出し)の合計」,面積分は「実際に表面から出ていった量」であり,一様に湧き出しているベクトル場では,この2つがきちんと釣り合うことが具体的な数値で見えた.
例題20.9 ストークスの定理の確認:回転するベクトル場と単位円板
例題20.3で扱ったベクトル場 $\vec f(x,y,z)=[-y,x,0]$ と,$xy$ 平面内の単位円板 $S=\{x^2+y^2\le1,\,z=0\}$(境界 $C$:単位円,反時計回り,法線は $z$ 軸正の向き)について,式\eqref{eq:20-stokes}の両辺を直接計算して確かめよ.
解答 左辺(線積分)は例題20.3の(b)と同じ計算である.$C:\vec p(\theta)=[\cos\theta,\sin\theta,0]\ (0\le\theta\le2\pi)$ とすると,$f=-\sin\theta,\ g=\cos\theta$ より
$$ \oint_C\vec f\cdot\dd\vec\ell=\int_0^{2\pi}\bigl[(-\sin\theta)(-\sin\theta)+(\cos\theta)(\cos\theta)\bigr]\dd\theta=\int_0^{2\pi}1\,\dd\theta=2\pi . $$右辺(面積分)は,第19章の回転の公式より $\nabla\times\vec f=\left[\pdiff{}{y}0-\pdiff{}{z}x,\ \pdiff{}{z}(-y)-\pdiff{}{x}0,\ \pdiff{}{x}x-\pdiff{}{y}(-y)\right]=[0,0,1-(-1)]=[0,0,2]$ である.$S$ は $xy$ 平面内にあるので $\dd\vec S=[0,0,1]\,\dd S$ であり,$(\nabla\times\vec f)\cdot\dd\vec S=2\,\dd S$.よって
$$ \iint_S(\nabla\times\vec f)\cdot\dd\vec S=\iint_S 2\,\dd S=2\times(\text{単位円板の面積})=2\times\pi(1)^2=2\pi . $$両辺とも $2\pi$ となり,ストークスの定理が成り立つことが確認できた(sympyによる検算済み).例題20.3で「経路によって値が変わる」ことを見たこのベクトル場は,実は単位円1周分の循環がちょうど $2\pi$——回転 $\nabla\times\vec f=[0,0,2]$ の大きさ $2$ に,円板の面積 $\pi$ をかけた値に一致している.「渦の強さ×面積=境界を1周する循環」という,ストークスの定理の意味がそのまま数値に表れている.
20.6 まとめと演習
20.6.1 まとめ
- スカラー場 $f$ の曲線 $C:\vec p(t)\ (a\le t\le b)$ に沿った線積分は,媒介変数 $t$ の定積分に翻訳して計算する:$\int_C f\,\dd x=\int_a^b f\cdot x'(t)\,\dd t$ など.弧長 $s$ による線積分は $\dd s=\sqrt{x'^2+y'^2+z'^2}\,\dd t$ を使う.
- 向きを反転すると符号が反転する($\int_{-C}=-\int_C$),区分的に滑らかな曲線では各弧の和になる(加法性).
- ベクトル場 $\vec f$ の接線線積分 $\int_C\vec f\cdot\dd\vec p=\int_C(f\,\dd x+g\,\dd y+h\,\dd z)$ は,仕事(力×変位)の一般化であり,一般には経路によって値が変わる.
- 勾配ベクトルの接線線積分は経路によらない:$\int_C\nabla f\cdot\dd\vec p=f(B)-f(A)$.このような $f$ をポテンシャル,$\nabla f$ を保存力場という.
- 曲面 $S:\vec p(u,v)$ 上のスカラー場の面積分は $\iint_S f\,\dd S=\iint_D f\left|\pdiff{\vec p}{u}\times\pdiff{\vec p}{v}\right|\dd u\,\dd v$.$z=\varphi(x,y)$ の形なら $\dd S=\sqrt{\varphi_x^2+\varphi_y^2+1}\,\dd x\,\dd y$.
- 面要素ベクトル $\dd\vec S=\hat n\,\dd S=\left(\pdiff{\vec p}{u}\times\pdiff{\vec p}{v}\right)\dd u\,\dd v$.
- ガウスの発散定理 $\iint_S\vec f\cdot\dd\vec S=\iiint_V(\nabla\cdot\vec f)\,\dd V$ とストークスの定理 $\oint_C\vec f\cdot\dd\vec\ell=\iint_S(\nabla\times\vec f)\cdot\dd\vec S$ は,どちらも「局所的な微分(発散・回転)の積分は境界の情報だけで決まる」という,微分積分学の基本定理の高次元版である.
20.6.2 演習問題
演習20.1 スカラー場の線積分
$f(x,y)=x+y$ とする.曲線 $C:x=\cos\theta,\,y=\sin\theta\ (0\le\theta\le\pi)$(単位円の上半分)に沿った線積分 $\displaystyle\int_C f\,\dd s$ を求めよ.
ヒント:単位円なので $\dd s/\dd\theta$ は定数になる.まず $\sqrt{x'(\theta)^2+y'(\theta)^2}$ を計算せよ.
演習20.2 ベクトル場の接線線積分
ベクトル場 $\vec f(x,y)=[x,\,-y]$ について,直線 $C:(0,0)\to(2,2)$ に沿った接線線積分 $\displaystyle\int_C\vec f\cdot\dd\vec p$ を求めよ.
ヒント:$C$ を $x=t,\,y=t\ (0\le t\le2)$ とパラメータ表示せよ.
演習20.3 勾配ベクトルの経路独立性
$f(x,y)=x^2+y^2$ とする.点 $(0,0)$ から点 $(1,1)$ まで,(a) 直線,(b) 点 $(1,0)$ を経由する折れ線($(0,0)\to(1,0)\to(1,1)$),の2通りの経路で $\int_C\nabla f\cdot\dd\vec p$ を計算し,どちらも $f(1,1)-f(0,0)$ に一致することを確かめよ.
ヒント:折れ線は2つの線分に分けて,加法性(式\eqref{eq:20-vec-additive})を使って足し合わせよ.
演習20.4 円柱の側面積を面積分で求める
円柱の側面 $x^2+y^2=1,\ 0\le z\le1$ の面積を,媒介変数 $u=\theta,\,v=z$($\vec p(\theta,z)=[\cos\theta,\sin\theta,z]$)を使った面積分 $\iint_S1\,\dd S$ として求めよ.
ヒント:$\pdiff{\vec p}{\theta}\times\pdiff{\vec p}{z}$ を計算し,その大きさが定数になることを確かめよ.
演習20.5 ガウスの発散定理(半径2の球)
ベクトル場 $\vec f=[x,y,z]$ について,半径2の球 $V=\{x^2+y^2+z^2\le4\}$ とその境界球面 $S$ に関して,式\eqref{eq:20-gauss}の両辺をそれぞれ求めよ.
ヒント:例題20.8とまったく同じ考え方でよい.球面上では $\hat n=(x,y,z)/2$(半径2なので大きさ2で割って正規化する)であることに注意せよ.
演習20.6 ストークスの定理(向きに注意)
ベクトル場 $\vec f=[y,\,-x,\,0]$ と,単位円板 $S=\{x^2+y^2\le1,z=0\}$(境界 $C$:単位円,反時計回り)について,式\eqref{eq:20-stokes}の両辺をそれぞれ求めよ.例題20.9と比べて,符号がどう変わるか説明せよ.
ヒント:$\vec f=[y,-x,0]$ は例題20.9の $\vec f=[-y,x,0]$ とちょうど符号が逆である.
20.6.3 参考文献
- 望月泰英『数学ノート ベクトル解析』(手書き講義ノート).本章の底本.
- 杉浦光夫『解析入門II』東京大学出版会,1985年.
- 石原繁『ベクトル解析』裳華房(基礎数学選書).
- 後藤憲一・山本邦夫・神吉健『詳解 電磁気学演習』共立出版,1970年.(本章の応用例題の出典分野)