第37章高階線形微分方程式
第35章・第36章では,2階の線形微分方程式 $y''+P_1(x)y'+P_2(x)y=R(x)$ を扱った.ばね1個・おもり1個のような「自由度が1つ」の振動系は,この2階の方程式でちょうど尽くされる.しかし現実の系は,もっと多くの自由度をもつことが普通である.おもりが3個つながったばね系,あるいは1本の細長いはり(beam)のたわみを表す方程式は4階になる.化学反応が何段階も連鎖する速度式や,制御工学のフィードバック系も,しばしば3階・4階・それ以上の線形微分方程式になる.本章では,2階までで学んだ考え方——同次方程式と非同次方程式の関係,基本解,特性方程式,オイラーの方程式——を,すべて$n$ 階($n$ は3以上の任意の整数)に一般化する.
結論を先に言ってしまうと,$n$ 階になっても道具立てはほとんど変わらない.「一般解=同次方程式の一般解+非同次方程式の特殊解」という構造も,「$n$ 個の1次独立な解(基本解)の1次結合が同次方程式の一般解になる」という事実も,「$y=e^{\lambda x}$ を代入して特性方程式を作る」という定数係数方程式の解法も,2階のときとまったく同じ形でそのまま成り立つ.変わるのは,登場する定数の個数が2個から$n$個に増えることと,特性方程式の次数が2次から$n$次に増えることだけである.ただし$n$次方程式は2次方程式ほど簡単には解けないので,本章では特性方程式の根が重解になる場合($k$重解に対して基本解が$e^{\lambda x},xe^{\lambda x},\ldots,x^{k-1}e^{\lambda x}$と増えていく理由)を,具体例を積み重ねながらじっくり確認し,最後にその理由を一般の$n$,一般の重複度$k$について完全に証明する.
本章の底本である望月泰英『数学ノート 常微分方程式』のこの部分には,2か所,証明が書きかけのまま中断している箇所がある(37.1節の数学的帰納法と,37.6節の重解定理の証明).これは決してノートの欠陥ではなく,むしろ「証明の筋道は見えているが,最後まで書き切るには一段階の工夫がいる」という,数学を自分の手で作っていく過程そのものを記録した貴重な部分である.本章では,ノートの記述をそのまま受け継いだうえで,中断していた証明を最後まで完成させる.どこまでがノートに書かれていた内容で,どこから先が本書での補完なのかを,本文中で明示する.
- $n$ 階線形微分方程式が完全微分方程式(形式的に1回積分できる方程式)であるための必要十分条件と,そのときの第1積分の作り方(係数 $Q_k$ の漸化式)
- 「①の一般解=②の一般解+①の特殊解」という構造が $n$ 階でもそのまま成り立つことの証明,$n$個の1次独立な解(基本解)の1次結合として一般解を表すこと,一般の $n\times n$ ロンスキアン
- 定数係数 $n$ 階同次方程式 $y^{(n)}+a_1y^{(n-1)}+\cdots+a_ny=0$ を $y=e^{\lambda x}$ で解く方法と,特性方程式 $\lambda^n+a_1\lambda^{n-1}+\cdots+a_n=0$
- 特性方程式が重解をもつ場合の基本解 $e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x},\ldots,x^{k-1}e^{\lambda_0x}$ を,4つの具体例(3次〜6次,実数解・複素数解)を通して観察すること
- 高階オイラーの方程式 $x^ny^{(n)}+a_1x^{n-1}y^{(n-1)}+\cdots+a_ny=0$ の2つの解法($y=x^\lambda$ を代入する方法と,$x=e^t$ と置いて定数係数方程式に帰着させる方法)
- 定数変化法の意味についての考察(同次方程式の解の線形空間から,非同次方程式の解の線形空間への平行移動),本章で学んだ解法の総まとめ
- 重解定理「特性方程式の $k$ 重解 $\lambda_0$ に対する基本解は $e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x},\ldots,x^{k-1}e^{\lambda_0x}$ である」の一般証明(ノートで中断していた証明の完成)
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 常微分方程式』 pp. 33–44.
37.1 高階完全微分方程式
第34章では,1階の微分方程式 $P(x,y)\dd x+Q(x,y)\dd y=0$ が「完全微分方程式」であるとは,左辺がある関数 $F(x,y)$ の全微分 $\dd F$ にちょうど一致することだった.その考え方を,$n$階の線形微分方程式に対して焼き直してみよう.線形方程式では未知関数は $y(x)$ の1変数だけなので,「全微分になる」という条件は,「$x$ についての1回の積分($\int(\cdot)\dd x$)でちょうど1階分だけ次数が下がる」という条件に置き換わる.
定義37.1 高階完全微分方程式(線形完全微分方程式)
$n$ 階の非同次線形微分方程式
\begin{equation} P_0(x)\,y^{(n)}+P_1(x)\,y^{(n-1)}+\cdots+P_{n-1}(x)\,y'+P_n(x)\,y=R(x) \label{eq:37-general-ode} \end{equation}($P_0,P_1,\ldots,P_n$ は $x$ の関数であり,$P_0$ は恒等的には $0$ でないとする)が,ある $n-1$ 階以下の量
$$ Q_0(x)\,y^{(n-1)}+Q_1(x)\,y^{(n-2)}+\cdots+Q_{n-2}(x)\,y'+Q_{n-1}(x)\,y $$を使って,恒等的に
$$ \frac{\dd}{\dd x}\Big[\,Q_0y^{(n-1)}+Q_1y^{(n-2)}+\cdots+Q_{n-1}y\,\Big]=P_0y^{(n)}+P_1y^{(n-1)}+\cdots+P_ny $$(すべての $n$ 回微分可能な関数 $y$ について)と書けるとき,この方程式を完全微分方程式(exact differential equation)と呼ぶ.このとき,この方程式自体が
$$ \frac{\dd}{\dd x}\Big[\,Q_0y^{(n-1)}+\cdots+Q_{n-1}y\,\Big]=R(x) $$と書き直せるので,両辺を1回積分するだけで,$n-1$ 階の方程式 $Q_0y^{(n-1)}+\cdots+Q_{n-1}y=\int R\dd x+C$ にまで次数を1つ下げられる.これを第1積分(first integral)と呼ぶ.
なぜ「$Q_k$の漸化式」を考えるとうまくいくのか
$Q_0,\ldots,Q_{n-1}$ を天下り的に与えられても実感が湧かないので,先に「どう探せばよいか」を考えておこう.積の微分公式(Leibniz則の $n=1$ 版)$\dfrac{\dd}{\dd x}(fg)=f'g+fg'$ を使うと,
$$ \frac{\dd}{\dd x}\Big[\,Q_0y^{(n-1)}+Q_1y^{(n-2)}+\cdots+Q_{n-1}y\,\Big] =\big(Q_0y^{(n)}\big)+\big(Q_0'y^{(n-1)}+Q_1y^{(n-1)}\big)+\big(Q_1'y^{(n-2)}+Q_2y^{(n-2)}\big)+\cdots+\big(Q_{n-2}'y'+Q_{n-1}y'\big)+Q_{n-1}'y $$($Q_ky^{(n-1-k)}$ を微分すると,積の微分公式で $Q_k'y^{(n-1-k)}+Q_ky^{(n-k)}$ の2項に分かれる.そのうち $Q_ky^{(n-k)}$ の項は,1つ後ろの項 $Q_{k+1}y^{(n-2-k)}$ を微分したときに出てくる $Q_{k+1}'y^{(n-2-k)}$ とは次数が違うことに注意して,同じ次数の $y^{(j)}$ の項どうしをまとめる).$y^{(n-j)}$($j=0,1,\ldots,n-1$)の係数だけを取り出すと,$y^{(n)}$ の係数は $Q_0$,$y^{(n-j)}$($1\le j\le n-1$)の係数は $Q_{j-1}'+Q_j$ となり,最後に $y$ 自身の係数として $Q_{n-1}'$ が余る(これは1つ先の「架空の $Q_n y^{(-1)}$」を微分した名残であり,実際にはどの $y^{(j)}$ にも対応しない余分な項である).
これを $P_0y^{(n)}+P_1y^{(n-1)}+\cdots+P_ny$ と係数比較すると,
$$ P_0=Q_0,\qquad P_j=Q_{j-1}'+Q_j\ \ (j=1,\ldots,n-1),\qquad P_n=Q_{n-1}' $$を得る.最初の2つの関係を $Q_j$ について解けば,$Q_0=P_0$,$Q_j=P_j-Q_{j-1}'$($j=1,\ldots,n-1$)という漸化式が得られ,これで $Q_0,\ldots,Q_{n-1}$ がすべて $P_0,\ldots,P_{n-1}$ から一意に決まる.抽象的な話が続く前に,ここでいったん $n=2$ の最小の場合で具体的に確かめておこう.たとえば $P_0=x,\ P_1=2,\ P_2=0$(後の例題37.1で扱う方程式 $xy''+2y'=6x$ の左辺)の場合,上の漸化式から $Q_0=P_0=x,\ Q_1=P_1-Q_0'=2-1=1$ となり,実際に $\dfrac{\dd}{\dd x}(Q_0y'+Q_1y)=\dfrac{\dd}{\dd x}(xy'+y)=xy''+y'+y'=xy''+2y'$(積の微分公式 $\dfrac{\dd}{\dd x}(xy)=xy'+y$ を1回使っただけ)と,もとの左辺 $xy''+2y'$ にちょうど一致する.つまり $Q_0,Q_1$ さえ正しく見つかれば,左辺全体が「$1$回微分するだけの形」に書き直せるわけである.一般の $n$ でも同じ漸化式で $Q_0,\ldots,Q_{n-1}$ が機械的に決まる.問題は最後の関係 $P_n=Q_{n-1}'$ である.$Q_{n-1}$ はすでに $P_0,\ldots,P_{n-1}$ だけから決まってしまっているので,$P_n=Q_{n-1}'$ が成り立つかどうかは,$P_n$ が「都合よく」なっているかどうかにかかっている.そこで,同じ漸化式をもう1歩だけ先へ延長して
$$ Q_n:=P_n-Q_{n-1}' $$と定義してしまえば,最後の関係は「$Q_n=0$」という条件そのものになる.つまり,もとの方程式が完全微分方程式であるための条件は,漸化式 $Q_0=P_0,\ Q_k=P_k-Q_{k-1}'\ (k=1,\ldots,n)$ で最後まで($k=n$まで)計算したときに $Q_n=0$ になることである.これが定理37.1の中身である.
定理37.1 完全微分方程式であるための必要十分条件
$Q_0=P_0$,$Q_k=P_k-Q_{k-1}'$($k=1,2,\ldots,n$)によって $Q_0,Q_1,\ldots,Q_n$ を順に定める.このとき,もとの方程式が完全微分方程式であるための必要十分条件は
\begin{equation} Q_n=P_n-P_{n-1}'+P_{n-2}''-\cdots+(-1)^nP_0^{(n)}=0 \qquad\cdots① \label{eq:37-exact-cond} \end{equation}である.また,$Q_k$ を展開すると $Q_k=P_k-P_{k-1}'+P_{k-2}''-\cdots+(-1)^kP_0^{(k)}$($k=0,1,\ldots,n$;符号が1項ごとに反転する)という形になる.完全微分方程式であるとき,第1積分は
\begin{equation} Q_0y^{(n-1)}+Q_1y^{(n-2)}+\cdots+Q_{n-2}y'+Q_{n-1}y=\int R(x)\,\dd x+C\qquad(C:\text{積分定数}) \label{eq:37-first-integral} \end{equation}である.
注意:$P_0,P_1,\ldots,P_n$ は関数である
ノートの欄外にもある通り,ここまでの式の $P_0,\ldots,P_n$ や $Q_0,\ldots,Q_n$ は,特別な断りがない限り一般に $x$ の関数であって,定数とは限らない.$Q_k'$ は「$Q_k$ という関数を $x$ で微分したもの」であって,$Q_k$ に定数 $k$ を掛けたものではないので混同しないこと.
それでは,定理37.1を証明しよう.ノートはこれを数学的帰納法で示そうとしており,$n=1$ の場合はきちんと最後まで書かれているが,一般の $n=k$ から $n=k+1$ へ進む段階は「$n=k$のとき,」の1行だけで中断しており,続きは書かれていない.以下ではまず,ノートに書かれている $n=1$ の場合をそのまま再現し,そのあとで一般の $n$ について,同じ部分積分の考え方を一度にまとめて実行することで証明を完成させる.
証明(その1:$n=1$の場合,ノートの記述どおり)
$n=1$ のとき,もとの方程式は $P_0y'+P_1y=R(x)$ である.両辺を $x$ で積分する.
$$ \int P_0y'\,\dd x+\int P_1y\,\dd x=\int R(x)\,\dd x+C $$第1項に部分積分の公式 $\displaystyle\int fg'\dd x=fg-\int f'g\dd x$ を,$f=P_0,\ g=y$ の役割で適用すると,$\displaystyle\int P_0y'\dd x=P_0y-\int P_0'y\dd x$ である.これを代入すると,
$$ P_0y-\int P_0'y\,\dd x+\int P_1y\,\dd x=\int R(x)\,\dd x+C $$となる.左辺の2つの積分をまとめると $-\displaystyle\int P_0'y\dd x+\int P_1y\dd x=\int(P_1-P_0')y\dd x$ である.したがって
$$ P_0y+\int(P_1-P_0')y\,\dd x=\int R(x)\,\dd x+C $$を得る.もし $P_1-P_0'=0$ ならば,左辺の積分の項が消えて $P_0y=\int R(x)\dd x+C$ となり,$y$ について直接解ける代数的な式($y$の積分を含まない式)になる.逆に $P_1-P_0'\neq0$ のままだと,左辺に $y$ の入った積分 $\int(P_1-P_0')y\dd x$ が残ってしまい,これは一般には初等的に計算できないので「1回積分してすぐ次数が下がる」という完全微分方程式の性質を満たさない.よって $P_1-P_0'=0$,すなわち $Q_1=P_1-Q_0'=0$($Q_0=P_0$)が,完全微分方程式であるための必要十分条件である.このとき第1積分は $Q_0y=P_0y=\int R\dd x+C$ となり,第1積分の一般公式で $n=1$ とした場合に一致する.(証明終わり,$n=1$の場合)
証明(その2:一般の $n$ の場合.ノートで中断していた部分の補完)
一般の $n$ でも,やっていることは$n=1$の場合の部分積分をちょうど1段だけ繰り返す操作である.そこで,$n=1$の証明を$n$回分まとめて実行しよう.もとの方程式の両辺を,最高階の項から順に「余分な微分を移す」部分積分を $n$ 回行う.具体的には,まず最初の項 $P_0y^{(n)}$ に着目し,これを $\dfrac{\dd}{\dd x}\big[P_0y^{(n-1)}\big]-P_0'y^{(n-1)}$ と書き直す(積の微分公式を右辺で確認すれば正しいことがわかる:$\dfrac{\dd}{\dd x}[P_0y^{(n-1)}]=P_0'y^{(n-1)}+P_0y^{(n)}$,これを $P_0y^{(n)}=\cdots$ の形に直しただけである).すると
$$ P_0y^{(n)}+P_1y^{(n-1)}+\cdots+P_ny=\frac{\dd}{\dd x}\big[Q_0y^{(n-1)}\big]+(P_1-Q_0')y^{(n-1)}+P_2y^{(n-2)}+\cdots+P_ny $$($Q_0=P_0$ とおいた.最初の1項が完全微分の形に変わり,代わりに2番目の項の係数が $P_1$ から $P_1-Q_0'=:Q_1$ に変わっただけで,残りの項は変化していない.)
次に,新しくできた2番目の項 $Q_1y^{(n-1)}$ に対して,まったく同じ操作——$Q_1y^{(n-1)}=\dfrac{\dd}{\dd x}[Q_1y^{(n-2)}]-Q_1'y^{(n-2)}$——を行う.すると
$$ =\frac{\dd}{\dd x}\big[Q_0y^{(n-1)}+Q_1y^{(n-2)}\big]+(P_2-Q_1')y^{(n-2)}+P_3y^{(n-3)}+\cdots+P_ny $$となり,3番目の項の係数が $P_2-Q_1'=:Q_2$ に変わる.この「完全微分の形に繰り込んでは,1つ後ろの項の係数を更新する」という操作を,全部でちょうど $n$ 回繰り返すと($k$回目の操作で $Q_{k-1}y^{(n-k)}=\frac{\dd}{\dd x}[Q_{k-1}y^{(n-k-1)}]-Q_{k-1}'y^{(n-k-1)}$ を使い,$n-k$回微分の項の係数を $Q_k:=P_k-Q_{k-1}'$ に更新する),最終的にすべての微分の項が完全微分の形に繰り込まれ,最後に $y$ 自身の項の係数だけが更新されて残る:
$$ P_0y^{(n)}+P_1y^{(n-1)}+\cdots+P_ny=\frac{\dd}{\dd x}\Big[\,Q_0y^{(n-1)}+Q_1y^{(n-2)}+\cdots+Q_{n-1}y\,\Big]+Q_ny $$ここで $Q_0,\ldots,Q_n$ は,ちょうど定理37.1に述べた漸化式 $Q_0=P_0,\ Q_k=P_k-Q_{k-1}'\ (k=1,\ldots,n)$ で定まる関数である.この等式は,$y$ がどんな($n$回微分可能な)関数であっても成り立つ恒等式である(実際,ここまでの計算は $y$ の具体形を一切使わず,積の微分公式の適用と項の並べ替えだけで得られている).
さて,もとの方程式は,この恒等式の左辺が $R(x)$ に等しいということだから,
$$ \frac{\dd}{\dd x}\Big[\,Q_0y^{(n-1)}+\cdots+Q_{n-1}y\,\Big]=R(x)-Q_ny $$である.右辺に $y$ を含む項 $-Q_ny$ が残っている限り,これは「1回積分すればよい」という形にならない(右辺が $x$ だけの既知関数ではなく,未知関数 $y$ を含んでしまっている).したがって,もとの方程式が完全微分方程式であるための必要十分条件は,まさにこの余分な項が消えること,すなわち①式の $Q_n=0$ である.そして $Q_n=0$ のとき,方程式は $\dfrac{\dd}{\dd x}\big[Q_0y^{(n-1)}+\cdots+Q_{n-1}y\big]=R(x)$ となり,両辺を $x$ で積分すれば第1積分の一般公式が直ちに得られる.(証明終わり)
この証明は,ノートの $n=1$ の場合の部分積分($\int P_0y'\dd x=P_0y-\int P_0'y\dd x$)を,$n$ 個の項それぞれに対して1回ずつ,合計 $n$ 回適用しているだけである.ノートが目指していた数学的帰納法——「$n=k$ で正しければ $n=k+1$ でも正しい」——を実行するときにも,まさにこの「もう1回部分積分を追加する」という同じ1手順が帰納段階の中身になる.そのため,ここでは帰納法の各段階を積み重ねる代わりに,$n$ 回分の部分積分を最初からまとめて実行する形で証明を仕上げた.
例題37.1 2階の完全微分方程式を解く
$x\,y''+2y'=6x$ が完全微分方程式であることを確かめ,一般解を求めよ.
解答 この方程式は2階($n=2$)で,$P_0=x,\ P_1=2,\ P_2=0$ である.定理37.1の条件①($n=2$の場合)は $Q_2=P_2-P_1'+P_0''=0-0+0=0$ であり,実際に成り立っている.したがってこの方程式は完全微分方程式である.
第1積分の係数を漸化式から求める.$Q_0=P_0=x$,$Q_1=P_1-Q_0'=2-1=1$ である.よって第1積分の一般公式より,第1積分は
$$ Q_0y'+Q_1y=xy'+y=\int 6x\,\dd x+C_1=3x^2+C_1 $$となる.ここで左辺 $xy'+y$ は,積の微分公式そのもの,$\dfrac{\dd}{\dd x}(xy)=xy'+y$ に他ならない(これは $Q_0y'+Q_1y$ の形が「ちょうど1つの積の微分になっている」ことの具体例である).したがって
$$ \frac{\dd}{\dd x}(xy)=3x^2+C_1 $$となり,もう1回 $x$ で積分すれば
$$ xy=x^3+C_1x+C_2 $$すなわち
$$ y=x^2+C_1+\frac{C_2}{x} $$が一般解である.検算のため $y=x^2+C_1+C_2/x$ を元の方程式に戻すと,$y'=2x-C_2/x^2$,$y''=2+2C_2/x^3$ であるから
$$ xy''+2y'=x\Big(2+\frac{2C_2}{x^3}\Big)+2\Big(2x-\frac{C_2}{x^2}\Big)=2x+\frac{2C_2}{x^2}+4x-\frac{2C_2}{x^2}=6x $$となって,$C_1,C_2$ の値によらずつねに元の方程式を満たしている(sympyのdsolveでも同じ一般解 $y=C_1+C_2/x+x^2$ を得ることを確認済み).
37.2 高階線形微分方程式の解の構造
37.1節では,$n$階の非同次方程式が「完全微分方程式」であるという特別な場合に,1回の積分で次数を1つ下げる方法を見た.しかし,係数 $P_0,\ldots,P_n$ が一般には条件①($Q_n=0$)を満たすとは限らないので,完全微分方程式の方法だけでは大多数の高階方程式は解けない.そこで本節では,いったん「完全微分方程式かどうか」を離れ,$n$階線形微分方程式そのものが持つ解の集合としての構造を調べる.結論を先に言うと,第35章で2階の場合に学んだ構造——「非同次方程式の一般解=同次方程式の一般解+非同次方程式の特殊解」,「同次方程式の一般解は基本解の1次結合」——は,$n$がいくつであってもまったく同じ形で成り立つ.登場する定数の個数が2個から$n$個に増えるだけである.
ノートにならい,$n$階の非同次線形微分方程式を①,それに対応する同次方程式を②とおく($P_1,\ldots,P_n$ は $x$ の関数,$R(x)$ は恒等的には $0$ でないとする).
\begin{equation} y^{(n)}+P_1(x)y^{(n-1)}+\cdots+P_{n-1}(x)y'+P_n(x)y=R(x)\qquad\cdots① \label{eq:37-2-nonhom} \end{equation} \begin{equation} y^{(n)}+P_1(x)y^{(n-1)}+\cdots+P_{n-1}(x)y'+P_n(x)y=0\qquad\cdots② \label{eq:37-2-hom} \end{equation}定理37.2 非同次方程式の一般解の構造
①の一般解を $y$,①のどれか1つの特殊解(specific solution;未知定数を含まない,具体的な1つの解)を $y_0$,②の一般解を $Y$ とする.このとき,つねに
$$ y=Y+y_0 $$が成り立つ.すなわち,非同次方程式①の一般解は,対応する同次方程式②の一般解に,①のどれか1つの特殊解を加えたものに等しい.
証明(ノートの記述どおり,2階の場合とまったく同じ手法)
$y,y_0$ はどちらも①を満たすので,それぞれを①に代入した式を③,④とおく.
$$ y^{(n)}+P_1(x)y^{(n-1)}+\cdots+P_{n-1}(x)y'+P_n(x)y=R(x)\qquad\cdots③ $$ $$ y_0^{(n)}+P_1(x)y_0^{(n-1)}+\cdots+P_{n-1}(x)y_0'+P_n(x)y_0=R(x)\qquad\cdots④ $$また,$Y$ は②を満たすので,
$$ Y^{(n)}+P_1(x)Y^{(n-1)}+\cdots+P_{n-1}(x)Y'+P_n(x)Y=0\qquad\cdots⑤ $$である.③-④を作る(左辺どうし,右辺どうしを引く.右辺は $R(x)-R(x)=0$ になることに注意).微分の線形性 $(f-g)^{(k)}=f^{(k)}-g^{(k)}$ を使って整理すると,
$$ (y^{(n)}-y_0^{(n)})+P_1(x)(y^{(n-1)}-y_0^{(n-1)})+\cdots+P_{n-1}(x)(y'-y_0')+P_n(x)(y-y_0)=0\qquad\cdots⑥ $$を得る.ここで⑥は,⑤の $Y$ をまるごと $y-y_0$ に置き換えただけの式になっている——つまり⑥は「$y-y_0$ が②を満たす」ことをそのまま述べている式である.これを「⑤=⑥」と略記すれば,$y-y_0$ もまた②の1つの解であるということになる.
ところで,$Y$ は②の一般解,すなわち②を満たすすべての関数を,$n$個の任意定数 $C_1,\ldots,C_n$ を動かすことで尽くしたものである(これは次に示す).$y-y_0$ は②を満たす1つの関数であるから,当然その「すべて」の中に含まれている.したがって,$C_1,\ldots,C_n$ をうまく選べば $Y=y-y_0$ とできる.よって
$$ y-y_0=Y\qquad\therefore\ y=Y+y_0 $$が成り立つ.(証明終わり)
「$Y$ に含まれる」とはどういうことか——解空間という見方
上の証明の最後の1行(「$Y$ の中に含まれるから $Y=y-y_0$ とできる」)は,一見すると当たり前に思えるが,実はここに②の解全体がもつ大事な性質が隠れている.②の解を2つ $u_1,u_2$ 持ってきて定数倍の和 $c_1u_1+c_2u_2$($c_1,c_2$ は任意の定数)を作ると,微分の線形性から $c_1u_1+c_2u_2$ もまた②を満たす(②の左辺に代入すれば,$u_1,u_2$ がそれぞれ②を満たすことから各項が $c_1\cdot0+c_2\cdot0=0$ になる).つまり②の解全体は,足し算・定数倍について閉じた集合——線形代数の言葉でいう線形空間(ベクトル空間)をなす(線形空間の定義は第10章 10.1).この線形空間が「$n$個の1次独立な関数 $y_1,\ldots,y_n$ の1次結合をすべて集めたもの」に等しい,というのが次に述べる事実であり,それが成り立つ理由で「$Y$ の中に $y-y_0$ が含まれる」ことが保証される.
次に,②の一般解 $Y$ を具体的にどう作るかを述べる.ノートの記述をそのまま引く.
$n$階の同次方程式である②の一般解 $Y$ は,1次独立な $n$個の解 $y_1,y_2,y_3,\ldots,y_{n-1},y_n$ の1次結合,すなわち
$$ Y=C_1y_1+C_2y_2+C_3y_3+\cdots+C_{n-1}y_{n-1}+C_ny_n $$で表せる($C_1,\ldots,C_n$ は任意定数).
定義37.2 基本解の組(fundamental system of solutions)
②を満たす $n$個の解 $y_1,y_2,\ldots,y_n$ が,互いに1次独立(linearly independent;どの1つも,残りの1次結合として書けないこと)であるとき,$\{y_1,\ldots,y_n\}$ を②の基本解の組(あるいは単に基本解)と呼ぶ.基本解の組が1組見つかれば,その1次結合 $Y=C_1y_1+\cdots+C_ny_n$ を任意定数 $C_1,\ldots,C_n$ にわたって動かすことで,②の解全体(一般解)をちょうど尽くすことができる.
ではこの「1次独立な $n$個の解」は,具体的にどうやって見分ければよいのか.そして,なぜちょうど $n$個でなければならないのか.この2つの問いに答える道具が,2階の場合(第35章 35.2節)ですでに登場したロンスキアン(Wronskian)である.そこでの考え方——「$y_1,\ldots,y_n$ が1次独立であるかどうか」を「ある $n\times n$ 行列が正則(逆行列を持つ)かどうか」という問いに置き換え,行列式が0でないことをもって判定する——は,$n$がいくつであっても変わらない.
定義37.3 $n$個の関数のロンスキアン
$n-1$回微分可能な $n$個の関数 $y_1,y_2,\ldots,y_n$ について,次の $n\times n$ 行列式をロンスキアンと呼び,$W(y_1,y_2,\ldots,y_n)$ と書く.
$$ W(y_1,y_2,\ldots,y_n)= \begin{vmatrix} y_1 & y_2 & \cdots & y_n \\ y_1' & y_2' & \cdots & y_n' \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ y_1^{(n-1)} & y_2^{(n-1)} & \cdots & y_n^{(n-1)} \end{vmatrix} $$(第 $j$ 列に $y_j$ とその導関数 $y_j',y_j'',\ldots,y_j^{(n-1)}$ を,上から $0$ 階,$1$ 階,……,$n-1$ 階の順に並べる.行の数も列の数も $n$ である.)
なぜロンスキアンが0でないことが1次独立の判定になるのか(2階の場合の復習と一般化)
第35章35.2節で見た理屈をそのまま $n$個に広げよう.$y_1,\ldots,y_n$ が②の解で,かりに $c_1y_1+c_2y_2+\cdots+c_ny_n=0$(すべての $x$ で恒等的に $0$)という関係が,定数 $c_1,\ldots,c_n$ の少なくとも1つが $0$ でない形で成り立ったとする(=1次従属であるとする).この式を $x$ で $0,1,\ldots,n-1$ 回微分してできる $n$本の式
$$ c_1y_1^{(k)}+c_2y_2^{(k)}+\cdots+c_ny_n^{(k)}=0\qquad(k=0,1,\ldots,n-1) $$を,$(c_1,\ldots,c_n)$ を未知数とする $n$元連立1次方程式とみなすと,その係数行列はちょうど定義37.3の行列(の転置)であり,「自明でない解 $(c_1,\ldots,c_n)\neq(0,\ldots,0)$ を持つ」ということは,その行列が正則でない——すなわち行列式(ロンスキアン)が $0$ である,ということを意味する(正則条件については第9章 9.6).対偶を取れば,ロンスキアンがある1点 $x_0$ で $0$ でなければ,$y_1,\ldots,y_n$ は1次独立である.逆に,$y_1,\ldots,y_n$ が同じ1つの同次方程式②の解であるという特別な状況では(一般の無関係な $n$個の関数ではこの逆は成り立たないことに注意——第35章 35.3節),ロンスキアンが恒等的に $0$ であることは1次従属であることを意味する,という定理も成り立つ(この定理の証明は,初期値問題の解の一意性を使うため本書の範囲を超える.ここでは「②の $n$個の解については,ロンスキアン $\neq0$ と1次独立は同値である」という事実だけを使うことにする).
注意:$n$個の解が必要であって,$n+1$個以上は無駄である
②の解を $n+1$個以上集めると,第35章35.3節で3個の場合に確かめたのと同じ理屈(そこでの議論をそのまま $n+1$個に広げられる)で,ロンスキアンが恒等的に $0$ になってしまい,1次独立ではありえない.つまり,$n$階線形同次方程式の1次独立な解は,多くともちょうど $n$個しか存在しない.基本解の組がちょうど $n$個であるべき理由はここにある.
それでは,具体例でロンスキアンの計算を確認しておこう.次の例は,37.4節で重解を扱うときにもう一度登場する形——同じ指数 $e^{\lambda x}$ に $x$ のべきを掛けた形——を先取りしたものである.
例題37.2 $e^{2x},\ xe^{2x},\ x^2e^{2x}$ のロンスキアン
3つの関数 $y_1=e^{2x}$,$y_2=xe^{2x}$,$y_3=x^2e^{2x}$ について,ロンスキアン $W(y_1,y_2,y_3)$ を計算し,これらが1次独立であることを確かめよ.
解答 積の微分公式を使って,各列を微分していく.
$$ y_1=e^{2x},\quad y_1'=2e^{2x},\quad y_1''=4e^{2x} $$ $$ y_2=xe^{2x},\quad y_2'=(1+2x)e^{2x},\quad y_2''=(4+4x)e^{2x} $$ $$ y_3=x^2e^{2x},\quad y_3'=(2x+2x^2)e^{2x},\quad y_3''=(2+8x+4x^2)e^{2x} $$($y_2'$ は $\dfrac{\dd}{\dd x}(xe^{2x})=1\cdot e^{2x}+x\cdot2e^{2x}=(1+2x)e^{2x}$.$y_3'$ は $\dfrac{\dd}{\dd x}(x^2e^{2x})=2x\cdot e^{2x}+x^2\cdot2e^{2x}=(2x+2x^2)e^{2x}$.$y_2'',y_3''$ も同様にもう1回積の微分公式を使えばよい.)各列に共通する因子 $e^{2x}$ を,行列式の性質(各列を定数倍すると行列式もその定数倍になる)を使って3列分——$e^{2x}\times e^{2x}\times e^{2x}=e^{6x}$——くくり出すと,
$$ W(y_1,y_2,y_3)=e^{6x} \begin{vmatrix} 1 & x & x^2 \\ 2 & 1+2x & 2x+2x^2 \\ 4 & 4+4x & 2+8x+4x^2 \end{vmatrix} $$となる.右辺の行列式を,第1行の $2$ 倍・$4$ 倍をそれぞれ第2行・第3行から引く(行基本変形は行列式の値を変えない)ことで計算する.第2行から第1行の2倍を引くと $(2-2\cdot1,\ (1+2x)-2x,\ (2x+2x^2)-2x^2)=(0,1,2x)$.第3行から第1行の4倍を引くと $(4-4,\ (4+4x)-4x,\ (2+8x+4x^2)-4x^2)=(0,4,2+8x)$.よって
$$ \begin{vmatrix} 1 & x & x^2 \\ 2 & 1+2x & 2x+2x^2 \\ 4 & 4+4x & 2+8x+4x^2 \end{vmatrix} = \begin{vmatrix} 1 & x & x^2 \\ 0 & 1 & 2x \\ 0 & 4 & 2+8x \end{vmatrix} $$第1列を余因子展開すると,$1\times\begin{vmatrix}1 & 2x\\ 4 & 2+8x\end{vmatrix}=1\times\big\{(2+8x)-8x\big\}=2$ である.したがって
$$ W(y_1,y_2,y_3)=2e^{6x} $$となる.指数関数はどんな $x$ でも $0$ にならないから,$W(y_1,y_2,y_3)=2e^{6x}\neq0$(すべての $x$ で).よって $e^{2x},\ xe^{2x},\ x^2e^{2x}$ は1次独立である(sympyで検算済み).
37.3 定数係数n階同次微分方程式の解法
37.2節で見た一般論(一般解の構造,基本解の1次結合,ロンスキアン)は,係数 $P_1(x),\ldots,P_n(x)$ がどんな関数であっても成り立つ理屈だった.しかし,それを知っただけでは,具体的な $n$ 個の基本解 $y_1,\ldots,y_n$ を実際に書き下すことはできない——一般の関数係数の方程式は,一般には初等関数で解けないからである.そこで,第35章で2階の場合に行ったのとまったく同じ限定,すなわち係数がすべて定数であるという特別な場合に話を絞ろう.このとき,2階のときとまったく同じ発想($y=e^{\lambda x}$ を代入してみる)だけで,$n$ 個の基本解が一挙に求まってしまう.
ノートにならい,定数係数の $n$ 階同次線形微分方程式を①とおく($a_1,a_2,\ldots,a_n$ はすべて実数の定数とする).
\begin{equation} y^{(n)}+a_1y^{(n-1)}+a_2y^{(n-2)}+\cdots+a_{n-1}y'+a_ny=0 \qquad\cdots① \label{eq:37-3-const} \end{equation}特性方程式の導出
2階線形同次微分方程式(第35章35.4節)とまったく同様に,基本解の候補として
$$ y=e^{\lambda x} \qquad(\lambda:\text{定数}) $$とおいてみる.指数関数の微分公式 $\dfrac{\dd}{\dd x}e^{\lambda x}=\lambda e^{\lambda x}$ を $k$ 回繰り返し用いれば,$y^{(k)}=\lambda^k e^{\lambda x}$ である($k=0,1,\ldots,n$;$k=0$ のときは $y^{(0)}=y=e^{\lambda x}=\lambda^0e^{\lambda x}$ で確かに成り立つ).これを①へそのまま代入すると,
$$ \lambda^n e^{\lambda x}+a_1\lambda^{n-1}e^{\lambda x}+a_2\lambda^{n-2}e^{\lambda x}+\cdots+a_{n-1}\lambda e^{\lambda x}+a_ne^{\lambda x}=0 $$となる.左辺のどの項にも共通因数 $e^{\lambda x}$ が掛かっているので,これをくくり出すと,
$$ \big(\lambda^n+a_1\lambda^{n-1}+a_2\lambda^{n-2}+\cdots+a_{n-1}\lambda+a_n\big)\,e^{\lambda x}=0 $$を得る.ここで指数関数は,$\lambda$ が実数でも複素数でもつねに $e^{\lambda x}\neq0$ である(指数関数は決して $0$ にならない——第2章・第21章で確認済み)から,両辺を $e^{\lambda x}$ で割ってよい.したがって,$y=e^{\lambda x}$ が①の解になるための必要十分条件は,$\lambda$ が次の代数方程式($x$ をまったく含まない,$\lambda$ だけの方程式)を満たすことである.
\begin{equation} \lambda^n+a_1\lambda^{n-1}+a_2\lambda^{n-2}+\cdots+a_{n-1}\lambda+a_n=0 \qquad\cdots② \label{eq:37-3-charpoly} \end{equation}公式37.1 定数係数n階同次微分方程式の特性方程式
①の基本解の候補 $y=e^{\lambda x}$ を求めるには,①の $y^{(k)}$($k=0,1,\ldots,n$)をそれぞれ $\lambda^k$ に置き換えて得られる②式を,$\lambda$ についての代数方程式として解けばよい.これを①の特性方程式(characteristic equation)と呼ぶ.②は $n$ 次式だから,代数学の基本定理(第12章で述べた,$n$ 次複素係数方程式は重複度もこめてちょうど $n$ 個の複素数解をもつという定理)により,複素数の範囲でちょうど $n$ 個の解 $\lambda_1,\lambda_2,\ldots,\lambda_n$(重解があれば重複度もこめて数える)をもつ.
注意:係数 $a_k$ は実数でも,根 $\lambda_k$ は複素数になりうる
②の係数 $a_1,\ldots,a_n$ は実数であっても,$n$ 次方程式の解が実数とは限らない(2次方程式で判別式が負になるのと同じ事情).ただし,実係数の代数方程式の複素数解は,必ず共役複素数 $\alpha\pm i\beta$ の組で現れる($\lambda=\alpha+i\beta$ が解なら $\overline\lambda=\alpha-i\beta$ も解であることは,②の両辺の複素共役をとり,$\overline{a_k}=a_k$(実数だから)を使えばわかる).複素数の解が出たときに,オイラーの公式 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$(第23章)を使って実数値関数の基本解 $e^{\alpha x}\cos(\beta x),\ e^{\alpha x}\sin(\beta x)$ に直す方法は,2階の場合(第35章35.5節)とまったく同じである.具体例は37.4節の例37.3・例37.4で確認する.
特性方程式②の $n$ 個の解 $\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ が求まれば,それぞれに対応する $n$ 個の関数 $e^{\lambda_1x},e^{\lambda_2x},\ldots,e^{\lambda_nx}$ が①の解の候補として得られる.これらが実際に37.2節でいう基本解の組(定義37.2)になっているかどうか,すなわち1次独立であるかどうかを確かめよう.まず,$\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ がすべて相異なる場合を考える(重解がある場合は37.4節・37.6節で別に扱う).
なぜ相異なる根なら1次独立なのか——ヴァンデルモンドの行列式
$\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ が相異なるとき,$e^{\lambda_1x},\ldots,e^{\lambda_nx}$ のロンスキアン(定義37.3)を計算してみよう.第 $j$ 列は $y_j=e^{\lambda_jx}$ とその導関数 $y_j^{(i)}=\lambda_j^ie^{\lambda_jx}$($i=0,\ldots,n-1$)だから,各列から共通因数 $e^{\lambda_jx}$ をくくり出す(行列式は1つの列を定数倍すると同じ定数倍になる,という性質を $n$ 列すべてに使う)と,
$$ W(e^{\lambda_1x},\ldots,e^{\lambda_nx})=e^{(\lambda_1+\cdots+\lambda_n)x} \begin{vmatrix} 1 & 1 & \cdots & 1\\ \lambda_1 & \lambda_2 & \cdots & \lambda_n\\ \lambda_1^2 & \lambda_2^2 & \cdots & \lambda_n^2\\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots\\ \lambda_1^{n-1} & \lambda_2^{n-1} & \cdots & \lambda_n^{n-1} \end{vmatrix} $$となる.右辺の行列式はヴァンデルモンドの行列式(Vandermonde determinant)と呼ばれる有名な行列式で,一般に
$$ \begin{vmatrix} 1 & 1 & \cdots & 1\\ \lambda_1 & \lambda_2 & \cdots & \lambda_n\\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots\\ \lambda_1^{n-1} & \lambda_2^{n-1} & \cdots & \lambda_n^{n-1} \end{vmatrix} =\prod_{1\le i\lt j\le n}(\lambda_j-\lambda_i) $$という,きれいな因数分解の形にまとまることが知られている($n$ に関する数学的帰納法で示せる:第1列を第2〜$n$列からそれぞれ引く行基本変形をすると,第1行が $(1,0,\ldots,0)$ になり,第1行で余因子展開すれば,1つ小さいサイズの同じ形の行列式に帰着する.$n=2,3,4$ の場合にsympyで直接計算し,この公式と一致することを検算済みである).この積 $\prod_{i\lt j}(\lambda_j-\lambda_i)$ は,$\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ が相異なるときに限り,どの因子 $\lambda_j-\lambda_i$($i\neq j$)も $0$ にならないから,全体として $0$ でない.したがって,
$$ W(e^{\lambda_1x},\ldots,e^{\lambda_nx})=e^{(\lambda_1+\cdots+\lambda_n)x}\prod_{1\le i\lt j\le n}(\lambda_j-\lambda_i)\neq0 \qquad(\text{すべての}x\text{で}) $$が言える(指数関数 $e^{(\lambda_1+\cdots+\lambda_n)x}$ も決して $0$ にならないため).よって,$\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ が相異なる限り,$e^{\lambda_1x},\ldots,e^{\lambda_nx}$ はつねに1次独立であり,①の基本解の組になっている.
定理37.3 特性方程式が相異なる$n$個の解をもつ場合の一般解
①の特性方程式②が相異なる $n$ 個の解 $\lambda_1,\lambda_2,\ldots,\lambda_n$(実数とは限らない)をもつとき,①の一般解は
$$ y=C_1e^{\lambda_1x}+C_2e^{\lambda_2x}+\cdots+C_{n-1}e^{\lambda_{n-1}x}+C_ne^{\lambda_nx} $$である($C_1,\ldots,C_n$ は任意定数).複素数の解 $\alpha\pm i\beta$ の組が現れた場合は,対応する2項 $C e^{(\alpha+i\beta)x}+\overline{C}e^{(\alpha-i\beta)x}$ を,実数値の基本解の組 $e^{\alpha x}\cos(\beta x),\ e^{\alpha x}\sin(\beta x)$ の1次結合に書き直してよい(2階の場合と同じ理由による).
例題37.3 相異なる3個の実根をもつ3階同次方程式
微分方程式 $y'''-6y''+11y'-6y=0$ の一般解を求めよ.
解答 $y=e^{\lambda x}$ とおいて特性方程式を作る(公式37.1).
$$ \lambda^3-6\lambda^2+11\lambda-6=0 $$左辺に $\lambda=1$ を代入すると $1-6+11-6=0$ となるので,$\lambda=1$ は解の1つであり,$\lambda-1$ が因数である(因数定理,高校既習).実際に割り算すると,
$$ \lambda^3-6\lambda^2+11\lambda-6=(\lambda-1)(\lambda^2-5\lambda+6)=(\lambda-1)(\lambda-2)(\lambda-3) $$($\lambda^2-5\lambda+6$ は,和が $5$,積が $6$ になる2数 $2,3$ を見つけて $(\lambda-2)(\lambda-3)$ と因数分解した).したがって特性方程式の解は $\lambda=1,2,3$ という相異なる3個の実数である.定理37.3より,一般解は
$$ y=C_1e^x+C_2e^{2x}+C_3e^{3x} $$である.検算のため,$y'=C_1e^x+2C_2e^{2x}+3C_3e^{3x}$,$y''=C_1e^x+4C_2e^{2x}+9C_3e^{3x}$,$y'''=C_1e^x+8C_2e^{2x}+27C_3e^{3x}$ を元の方程式に代入すると,$e^x$ の係数は $1-6+11-6=0$,$e^{2x}$ の係数は $8-24+22-6=0$,$e^{3x}$ の係数は $27-54+33-6=0$ となり,たしかに恒等的に $0$ になる(sympyでも検算済み).図37.1に,この3つの基本解のグラフを示す——$\lambda$ が大きいほど関数が急激に増加する様子が一目でわかる.
37.4 特性方程式が重解をもつ場合の基本解
37.3節では,特性方程式②の $n$ 個の解 $\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ がすべて相異なる場合を扱った.しかし②はふつうの $n$ 次代数方程式なのだから,2次方程式に重解(判別式 $D=0$)があるのとまったく同じように,②にも重解があってよい.②が $k$ 重解 $\lambda_0$ をもつ場合,一般解はどうなるのだろうか.結論を先取りすると,37.3節の $e^{\lambda_0x}$ という基本解1個だけでは足りず,$xe^{\lambda_0x},\ x^2e^{\lambda_0x},\ldots$ と $x$ のべきを掛けた関数が次々に基本解として必要になる(2階の場合の重解 $\Rightarrow$ 基本解 $e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x}$——第35章35.4節——の直接の一般化である).ノートにならい,まず4つの具体例((i)〜(iv))で規則性を観察し,そのあとで一般法則をまとめる.一般法則の証明は37.6節で完成させる.
例37.1 (i) 3次方程式・2重の実数解
$y'''-y''-y'+y=0$ の一般解を求めよ.
解答 特性方程式は $\lambda^3-\lambda^2-\lambda+1=0$ である.$\lambda^2(\lambda-1)-(\lambda-1)=(\lambda-1)(\lambda^2-1)=(\lambda-1)(\lambda-1)(\lambda+1)$ と因数分解できる($\lambda^3-\lambda^2$ と $-\lambda+1$ に分けて,共通因数 $(\lambda-1)$ をくくり出した)から,
$$ \lambda^3-\lambda^2-\lambda+1=(\lambda+1)(\lambda-1)^2=0 $$よって $\lambda=-1$(単純解),$\lambda=1$(2重解)である.単純解 $\lambda=-1$ からは通常どおり基本解 $e^{-x}$ が1個得られる.2重解 $\lambda=1$ からは,2階のときの重解の場合(定理35.4)と同じ理屈で,基本解が $e^{x}$ の1個ではなく $e^x,\ xe^x$ の2個になる(この理由は37.6節で厳密に証明する;ここではノートにしたがい,事実として認めて使う).したがって基本解は $e^{-x},\ e^x,\ xe^x$ の3個(方程式の階数3にちょうど一致する)であり,一般解は
$$ y=C_1e^{-x}+(C_2+C_3x)e^x $$である.検算として $y=xe^x$ を直接代入すると,$y'=(1+x)e^x,\ y''=(2+x)e^x,\ y'''=(3+x)e^x$ より $y'''-y''-y'+y=(3+x)-(2+x)-(1+x)+x$ を $e^x$ でくくった係数部分は $3-2-1+0=0$ かつ $x$ の係数は $1-1-1+1=0$ となり,たしかに $0$(sympyで検算済み).
例37.2 (ii) 4次方程式・3重の実数解
$y''''-6y'''+12y''-8y'=0$ の一般解を求めよ.
解答 特性方程式は $\lambda^4-6\lambda^3+12\lambda^2-8\lambda=0$ である.左辺には共通因数 $\lambda$ があるので,まず $\lambda$ をくくり出す.
$$ \lambda(\lambda^3-6\lambda^2+12\lambda-8)=0 $$かっこの中は,$(\lambda-2)^3=\lambda^3-3\cdot\lambda^2\cdot2+3\cdot\lambda\cdot2^2-2^3=\lambda^3-6\lambda^2+12\lambda-8$(2項展開の公式,高校既習)にちょうど一致するから,
$$ \lambda(\lambda-2)^3=0 $$よって $\lambda=0$(単純解),$\lambda=2$(3重解)である.単純解 $\lambda=0$ からは $e^{0\cdot x}=1$(定数関数)が1個.3重解 $\lambda=2$ からは,2重解のときの規則性 $e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x}$ をもう1段延長して,$e^{2x},\ xe^{2x},\ x^2e^{2x}$ の3個が基本解になる.合計 $1+3=4$ 個で階数4にちょうど一致し,一般解は
$$ y=C_1+(C_2+C_3x+C_4x^2)e^{2x} $$である($y=1,\ xe^{2x},\ x^2e^{2x}$ をそれぞれ元の方程式に代入すると $0$ になることをsympyで検算済み).
例37.3 (iii) 4次方程式・実数の2重解と複素数の単純解
$y''''-6y'''+10y''-6y'+9y=0$ の一般解を求めよ.
解答 特性方程式は $\lambda^4-6\lambda^3+10\lambda^2-6\lambda+9=0$ である.これは
$$ (\lambda-3)^2(\lambda^2+1)=(\lambda^2-6\lambda+9)(\lambda^2+1)=\lambda^4+\lambda^2-6\lambda^3-6\lambda+9\lambda^2+9=\lambda^4-6\lambda^3+10\lambda^2-6\lambda+9 $$と因数分解できる(右辺は左辺を実際に展開して確かめた).したがって $\lambda=3$(2重解),$\lambda=\pm i$(単純な複素数解の組)である.$\lambda=\pm i$ からは,オイラーの公式 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$(第23章)を使って複素数値の基本解 $e^{ix},e^{-ix}$ を実数値の基本解に直す——2階の場合(第35章35.5節)とまったく同じ計算で,$\cos x=\dfrac{e^{ix}+e^{-ix}}2,\ \sin x=\dfrac{e^{ix}-e^{-ix}}{2i}$ より,実数値の基本解 $\cos x,\ \sin x$ が得られる.$\lambda=3$(2重解)からは $e^{3x},\ xe^{3x}$ の2個.合計 $2+2=4$ 個で階数4に一致し,一般解は
$$ y=C_1\cos x+C_2\sin x+(C_3+C_4x)e^{3x} $$である(4つの基本解をそれぞれ元の方程式に代入すると $0$ になることをsympyで検算済み).
例37.4 (iv) 6次方程式・複素数の3重解
$y^{(6)}-6y^{(5)}+27y''''-68y'''+135y''-150y'+125y=0$ の一般解を求めよ.
解答 特性方程式は $\lambda^6-6\lambda^5+27\lambda^4-68\lambda^3+135\lambda^2-150\lambda+125=0$ であり,これは
$$ (\lambda^2-2\lambda+5)^3=0 $$と因数分解できる.$\lambda^2-2\lambda+5=0$ を解くと,$\lambda=\dfrac{2\pm\sqrt{4-20}}2=\dfrac{2\pm4i}2=1\pm2i$ であるから,$\lambda=1\pm2i$ が3重解である(実数解は存在しない).例37.1〜37.3では「$k$重の実数解 $\lambda_0$ からは $e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x},\ldots,x^{k-1}e^{\lambda_0x}$」という規則を見たが,ここではその$\lambda_0$が複素数 $1+2i$(と,その共役 $1-2i$)になった場合を考える.同じ規則をそのまま複素数の $\lambda_0=1+2i$ に当てはめると,複素数値の基本解として
$$ e^{(1+2i)x},\ xe^{(1+2i)x},\ x^2e^{(1+2i)x},\qquad e^{(1-2i)x},\ xe^{(1-2i)x},\ x^2e^{(1-2i)x} $$の6個が得られる.これを,$e^{(1\pm2i)x}=e^x\cdot e^{\pm2ix}=e^x(\cos2x\pm i\sin2x)$(指数法則とオイラーの公式)を使って実数値に直す.各べき $x^j$($j=0,1,2$)ごとに,複素共役な2個の基本解 $x^je^{(1+2i)x},x^je^{(1-2i)x}$ の和と差を作ると($\lambda=\pm i$ のときとまったく同じ操作を,$x^j$ を掛けたままの状態で行うだけである),実数値の基本解
$$ x^je^x\cos2x,\qquad x^je^x\sin2x\qquad(j=0,1,2) $$の6個が得られる.合計6個で階数6に一致し,一般解は
$$ y=e^x(C_1\cos2x+C_2\sin2x)+xe^x(C_3\cos2x+C_4\sin2x)+x^2e^x(C_5\cos2x+C_6\sin2x) $$である(6個の基本解をそれぞれ元の方程式に代入すると $0$ になることを,37.6節で述べる一般公式を使ってsympyで検算済み).
例37.1〜例37.4の4つの例から,次の規則性が読み取れる.特性方程式の解 $\lambda=\lambda_0$ が $k$ 重解($\lambda_0$ は実数でも複素数でもよい)であるとき,対応する基本解は
$$ e^{\lambda_0x},\ xe^{\lambda_0x},\ x^2e^{\lambda_0x},\ \ldots,\ x^{k-1}e^{\lambda_0x} $$の $k$ 個であり,これらはすべて1次独立である($\lambda_0$ が複素数 $\alpha\pm i\beta$ の場合は,オイラーの公式で実数化した $x^je^{\alpha x}\cos(\beta x),\ x^je^{\alpha x}\sin(\beta x)$($j=0,\ldots,k-1$)が実数値の基本解になる).ノートはこの規則性を4つの具体例から観察するところまでで筆を置いているが,「なぜ $k$ 重解から $k$ 個の基本解 $e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x},\ldots,x^{k-1}e^{\lambda_0x}$ が出てくるのか」「なぜこれらが1次独立なのか」を一般の $n,k$ で証明することは,37.6節にまわす(ノートの37.6節に対応する部分でも,この証明は書きかけのまま中断している——本書ではそこを完成させる).表37.1に,根の種類と基本解の対応をまとめておく.
| 場合 | 特性方程式の解 | 対応する基本解 | 該当する例 |
|---|---|---|---|
| 単純な実数解 | $\lambda$(重複度1) | $e^{\lambda x}$ | 例37.1の$\lambda=-1$,例37.2の$\lambda=0$ |
| $k$重の実数解 | $\lambda_0$(重複度$k$) | $e^{\lambda_0x},\ xe^{\lambda_0x},\ldots,x^{k-1}e^{\lambda_0x}$ | 例37.1の$\lambda=1$($k=2$),例37.2の$\lambda=2$($k=3$),例37.3の$\lambda=3$($k=2$) |
| 単純な複素数解の組 | $\alpha\pm i\beta$(各重複度1) | $e^{\alpha x}\cos\beta x,\ e^{\alpha x}\sin\beta x$ | 例37.3の$\lambda=\pm i$($\alpha=0,\beta=1$) |
| $k$重の複素数解の組 | $\alpha\pm i\beta$(各重複度$k$) | $x^je^{\alpha x}\cos\beta x,\ x^je^{\alpha x}\sin\beta x\ (j=0,\ldots,k-1)$ | 例37.4の$\lambda=1\pm2i$($k=3$) |
例題37.4 2組の異なる2重解をもつ4階同次方程式
$y''''-8y''+16y=0$ の一般解を求めよ.
解答 特性方程式は $\lambda^4-8\lambda^2+16=0$ である.$\mu=\lambda^2$ とおくと $\mu^2-8\mu+16=(\mu-4)^2=0$(高校既習の2次の因数分解)であり,$\mu=4$(2重).$\mu=\lambda^2=4$ を戻すと $\lambda=\pm2$ である.したがってもとの4次方程式は
$$ \lambda^4-8\lambda^2+16=(\lambda^2-4)^2=(\lambda-2)^2(\lambda+2)^2=0 $$と因数分解でき,$\lambda=2$(2重),$\lambda=-2$(2重)という2組の異なる実数の2重解をもつ.例37.1〜37.3で確認した規則性から,$\lambda=2$ からは $e^{2x},xe^{2x}$ の2個,$\lambda=-2$ からは $e^{-2x},xe^{-2x}$ の2個,合計4個の基本解が得られ,一般解は
$$ y=(C_1+C_2x)e^{2x}+(C_3+C_4x)e^{-2x} $$である.検算として,$y=xe^{2x}$ を直接代入する.$y'=(1+2x)e^{2x},\ y''=(4+4x)e^{2x},\ y'''=(12+8x)e^{2x},\ y''''=(32+16x)e^{2x}$ より
$$ y''''-8y''+16y=\big[(32+16x)-8(4+4x)+16x\big]e^{2x}=\big[(32+16x)-(32+32x)+16x\big]e^{2x}=0\cdot e^{2x}=0 $$となり,たしかに方程式を満たす($xe^{-2x}$ についても同様.sympyで4個の基本解すべてを検算済み).例37.1〜例37.4がいずれも「1種類の重解(+単純解)」だけを含んでいたのに対して,この例題では異なる2つの重解が同時に現れている点に注意してほしい——それぞれの重解の“持ち分”である $e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x},\ldots$ を,そのまま独立に足し合わせるだけでよい.
37.5 高階オイラーの方程式
37.3節・37.4節では,係数がすべて定数の方程式を扱った.ここでは,2階の場合(第36章36.3節・36.4節)で学んだオイラーの微分方程式を,$n$ 階に一般化する.オイラー方程式は係数が $x$ の関数(定数ではない)にもかかわらず,$x^\lambda$ という特別な形の試行解によって,定数係数の場合とほぼ同じくらい簡単に解けてしまうという,たいへん都合のよい方程式である.
定義37.4 $n$階オイラーの方程式(Cauchy–Euler方程式)
$a_1,a_2,\ldots,a_n$ を定数として,
\begin{equation} x^ny^{(n)}+a_1x^{n-1}y^{(n-1)}+\cdots+a_{n-1}xy'+a_ny=0 \qquad(x\neq0) \qquad\cdots① \label{eq:37-5-euler} \end{equation}の形の$n$階線形同次微分方程式を,$n$階オイラーの方程式と呼ぶ.係数は $x$ に依存するが,$x^k\cdot y^{(k)}$($k$階微分にちょうど $x^k$ を掛けた形)でしか $x$ が現れないことが特徴である.2階の場合(定義36.1)の直接の一般化になっている.
37.5.1 解法1:$y=x^\lambda$ を代入する
$y=x^\lambda$ の $k$階微分
2階の場合(第36章36.3.2節)とまったく同じ考え方で,まず $y=x^\lambda$($\lambda$ は定数)を繰り返し微分してみる.
$$ y=x^\lambda,\qquad y'=\lambda x^{\lambda-1},\qquad y''=\lambda(\lambda-1)x^{\lambda-2},\qquad y'''=\lambda(\lambda-1)(\lambda-2)x^{\lambda-3} $$(べき関数の微分公式 $\dfrac{\dd}{\dd x}x^p=px^{p-1}$ を繰り返し使うだけである.1回微分するたびに,指数が1減り,もとの指数がそのまま係数として前に出てくる——2回目に微分するときに前に出てくる係数は「1回目の微分で指数が $\lambda-1$ になったあとのその指数」,すなわち $\lambda-1$ である.だから $y''$ の係数は $\lambda$ と $\lambda-1$ の積になる.3回目も同様に $\lambda-2$ が掛かる).この規則性から,一般に $k$回微分すると,
$$ y^{(k)}=\lambda(\lambda-1)(\lambda-2)\cdots(\lambda-k+1)\,x^{\lambda-k} \qquad(k=0,1,2,\ldots,n) $$となることがわかる($k=0$ のときは「何も掛けない」と約束すれば $y^{(0)}=y=x^\lambda$ で確かに成り立つ).右辺の $\lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-k+1)$ は,$\lambda$ から1つずつ減らしながら $k$ 個の数を掛け合わせたもの(下降階乗と呼ばれる)である.
特性方程式の導出
上の $y^{(k)}$ を①へ代入する.①の書き方では,$k$階の導関数 $y^{(k)}$ にはちょうど $x^k$ が掛かる約束だった(最高階 $y^{(n)}$ には $x^n$,1つ下の $y^{(n-1)}$ には $a_1x^{n-1}$,……,$y'$ には $a_{n-1}x$,$y$ には $a_n$).したがって,$k$階の項全体は $a_{n-k}x^ky^{(k)}$($k=0,1,\ldots,n$;$a_0:=1$ とし,$y^{(n)}$ の係数も $a_0=1$ として統一的に書く)と表せる.これに $y^{(k)}=\lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-k+1)x^{\lambda-k}$ を代入すると,
$$ a_{n-k}\,x^k\cdot\lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-k+1)\,x^{\lambda-k}=a_{n-k}\,\lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-k+1)\,x^{\lambda} $$となり,$x^k$ と $x^{\lambda-k}$ を掛け合わせるとちょうど $x^{k+(\lambda-k)}=x^\lambda$ になって,$k$ に依存する部分が消える(これがオイラー方程式の最大の特徴である:$x^k\cdot y^{(k)}$ という組み合わせが,$y=x^\lambda$ を代入すると必ず $x^\lambda$ という共通の形にそろう).したがって,①の左辺全体は
$$ \Big[\lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-n+1)+a_1\lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-n+2)+\cdots+a_{n-1}\lambda+a_n\Big]\,x^\lambda=0 $$という,すべての項が共通因数 $x^\lambda$ でくくれる形になる.$x\neq0$ より $x^\lambda\neq0$ だから,両辺を $x^\lambda$ で割ってよい.
公式37.2 $n$階オイラー方程式の特性方程式
$n$階オイラーの方程式①に $y=x^\lambda$ を代入すると,特性方程式
$$ \lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-n+1)+a_1\lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-n+2)+\cdots+a_{n-1}\lambda+a_n=0 $$が得られる.これは(右辺を展開すれば最高次の項が $\lambda^n$ になる)$\lambda$ についての $n$ 次代数方程式であり,代数学の基本定理により重複度もこめて $n$ 個の解 $\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ をもつ.これらを求めて $y=x^{\lambda_1},\ldots,x^{\lambda_n}$ とすれば,(相異なる場合は)基本解の組が一挙に得られ,一般解はその1次結合として書ける.重解や複素数解が現れた場合の扱いは,37.5.3節で述べる.
注意:$\lambda^k$ ではなく下降階乗 $\lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-k+1)$ である
定数係数方程式(37.3節)に $y=e^{\lambda x}$ を代入したときは,微分するたびに単に $\lambda$ が掛かるだけだったので($\dfrac{\dd}{\dd x}e^{\lambda x}=\lambda e^{\lambda x}$),$k$階微分の係数は単純なべき乗 $\lambda^k$ になった.しかし $y=x^\lambda$ を微分する場合は,微分するたびに指数そのものが1ずつ減っていくので,前に出てくる係数も $\lambda,\lambda-1,\lambda-2,\ldots$ と1つずつ減りながら掛け合わされる.したがって,オイラー方程式の特性方程式は,定数係数方程式の特性方程式(公式37.1)と見た目は似ているが,$\lambda^k$ の代わりに下降階乗が現れる点が本質的に違う.次の37.5.2節で述べる方法2($x=e^t$ の置き換え)を使うと,この違いがどこから生まれるのかがより明確に見える.
37.5.2 解法2:$x=e^t$ とおいて定数係数方程式に帰着させる
解法1は手早いが,「なぜ下降階乗が出てくるのか」「重解や複素数解のときにどうすればよいか」が見えにくい.そこで,独立変数を $x$ から $t=\ln x$(すなわち $x=e^t$)に取り替えて,オイラー方程式を定数係数方程式に帰着させる方法2を見よう.こうしておけば,重解・複素数解の扱いは37.3節・37.4節の結果がそのまま使える.
$\dfrac{\dd y}{\dd x}$,$\dfrac{\dd^2y}{\dd x^2}$,$\dfrac{\dd^3y}{\dd x^3}$ を $t$ の微分で書き直す
$x=e^t$ とおくと,$\dfrac{\dd x}{\dd t}=e^t=x$ である(指数関数の微分).したがって,逆関数の微分の関係 $\dfrac{\dd t}{\dd x}=1\big/\dfrac{\dd x}{\dd t}$(第1章)より,
$$ \frac{\dd t}{\dd x}=\frac{1}{x}\ \big(=e^{-t}\big) $$である.以下,$y$ を $t$ の関数とみて,$x$ についての微分を,合成関数の微分(第1章)を使って $t$ についての微分に書き換えていく.
(i) 1階微分.合成関数の微分より,
$$ \frac{\dd y}{\dd x}=\frac{\dd y}{\dd t}\cdot\frac{\dd t}{\dd x}=\frac1x\frac{\dd y}{\dd t} $$(ii) 2階微分.$\dfrac{\dd y}{\dd x}$ をもう1回 $x$ で微分する.$\dfrac{\dd y}{\dd x}=\dfrac1x\dfrac{\dd y}{\dd t}$ は「$x$」と「$t$の関数 $\dfrac{\dd y}{\dd t}$」の積になっているので,積の微分公式と合成関数の微分をあわせて使う.
$$ \frac{\dd^2y}{\dd x^2}=\frac{\dd}{\dd x}\left(\frac1x\frac{\dd y}{\dd t}\right) =\underbrace{\left(-\frac1{x^2}\right)}_{\frac{\dd}{\dd x}(1/x)}\frac{\dd y}{\dd t} +\frac1x\cdot\underbrace{\frac{\dd t}{\dd x}\cdot\frac{\dd^2y}{\dd t^2}}_{\frac{\dd}{\dd x}\left(\frac{\dd y}{\dd t}\right)} =-\frac1{x^2}\frac{\dd y}{\dd t}+\frac1x\cdot\frac1x\cdot\frac{\dd^2y}{\dd t^2} $$(下線部の2つは,それぞれ「$1/x$ を $x$ で微分したもの」と「$\dfrac{\dd y}{\dd t}$($t$の関数)を $x$ で微分したもの」であり,後者にはもう一度合成関数の微分 $\dfrac{\dd t}{\dd x}=\dfrac1x$ を使った).$\dfrac1{x^2}$ で通分してまとめると,
$$ \frac{\dd^2y}{\dd x^2}=\frac1{x^2}\left(\frac{\dd^2y}{\dd t^2}-\frac{\dd y}{\dd t}\right) $$(iii) 3階微分.同じ操作を,$\dfrac{\dd^2y}{\dd x^2}=\dfrac1{x^2}\left(\dfrac{\dd^2y}{\dd t^2}-\dfrac{\dd y}{\dd t}\right)$ にもう1回行う.$g(t):=\dfrac{\dd^2y}{\dd t^2}-\dfrac{\dd y}{\dd t}$ とおくと,
$$ \frac{\dd^3y}{\dd x^3}=\frac{\dd}{\dd x}\left(\frac1{x^2}g\right) =\underbrace{\left(-\frac2{x^3}\right)}_{\frac{\dd}{\dd x}(1/x^2)}g+\frac1{x^2}\cdot\underbrace{\frac1x\left(\frac{\dd^3y}{\dd t^3}-\frac{\dd^2y}{\dd t^2}\right)}_{\frac{\dd g}{\dd x}=\frac{\dd t}{\dd x}\cdot\frac{\dd g}{\dd t}} =-\frac2{x^3}\left(\frac{\dd^2y}{\dd t^2}-\frac{\dd y}{\dd t}\right)+\frac1{x^3}\left(\frac{\dd^3y}{\dd t^3}-\frac{\dd^2y}{\dd t^2}\right) $$$\dfrac1{x^3}$ でまとめて整理すると($-2$ 倍した $\dfrac{\dd^2y}{\dd t^2}$ と,$-1$ 倍の $\dfrac{\dd^2y}{\dd t^2}$ をあわせて $-3\dfrac{\dd^2y}{\dd t^2}$ に,$+2\dfrac{\dd y}{\dd t}$ はそのまま),
$$ \frac{\dd^3y}{\dd x^3}=\frac1{x^3}\left(\frac{\dd^3y}{\dd t^3}-3\frac{\dd^2y}{\dd t^2}+2\frac{\dd y}{\dd t}\right) $$を得る.以上をまとめると,
$$ x\frac{\dd y}{\dd x}=\frac{\dd y}{\dd t},\qquad x^2\frac{\dd^2y}{\dd x^2}=\frac{\dd^2y}{\dd t^2}-\frac{\dd y}{\dd t},\qquad x^3\frac{\dd^3y}{\dd x^3}=\frac{\dd^3y}{\dd t^3}-3\frac{\dd^2y}{\dd t^2}+2\frac{\dd y}{\dd t} $$である.これらを①($n=3$ の場合)に代入すれば,$x$ をまったく含まない,$t$ の関数 $y$ についての定数係数の3階線形微分方程式が得られる.一般の $n$ でも,同じ操作を $n$ 回繰り返せば(計算はやや煩雑になるが原理は同じ),$x$ を含まない $t$ についての定数係数方程式に必ず帰着する.
解法1と解法2のつながり——下降階乗の正体
$D_t:=\dfrac{\dd}{\dd t}$ という記号(微分演算子;第38章でくわしく学ぶ)を使うと,上で求めた3つの式は,
$$ x\frac{\dd y}{\dd x}=D_ty,\qquad x^2\frac{\dd^2y}{\dd x^2}=D_t(D_t-1)y,\qquad x^3\frac{\dd^3y}{\dd x^3}=D_t(D_t-1)(D_t-2)y $$と,きれいに統一して書ける($D_t(D_t-1)y=D_t(D_ty-y)=D_t^2y-D_ty=\dfrac{\dd^2y}{\dd t^2}-\dfrac{\dd y}{\dd t}$ であり,たしかに(ii)の式に一致する).一般に $x^k\dfrac{\dd^ky}{\dd x^k}=D_t(D_t-1)\cdots(D_t-k+1)y$ が成り立つ(同じ計算を $k$ 回繰り返せばよい).ここで,解法2では $x=e^t$ すなわち $t=\ln x$ なので,解法1の試行解 $y=x^\lambda$ は $y=e^{\lambda t}$ と書き直せる.$D_te^{\lambda t}=\lambda e^{\lambda t}$(指数関数の微分)だから,$D_t$ を1回作用させるたびに $\lambda$ が1個掛かる.したがって
$$ x^k\frac{\dd^ky}{\dd x^k}=D_t(D_t-1)\cdots(D_t-k+1)\,e^{\lambda t}=\lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-k+1)\,e^{\lambda t}=\lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-k+1)\,x^\lambda $$となり,解法1で現れた下降階乗 $\lambda(\lambda-1)\cdots(\lambda-k+1)$ の正体は,$t$ の世界での演算子 $D_t(D_t-1)\cdots(D_t-k+1)$ を $e^{\lambda t}$ に作用させたときの固有値そのものだったことがわかる.こうして,解法1・解法2はまったく同じ特性方程式に行き着く——一方は $x$ の世界で直接見つけた規則性,他方は $t=\ln x$ の世界に移して37.3節の議論をそのまま流用した結果であり,2つの道が同じ山頂で出会っている.
37.5.3 重解・複素数解の扱い
解法2によって $t$ についての定数係数方程式に帰着すれば,その特性方程式の解が重解や複素数解になった場合の扱いは,37.3節・37.4節ですでに調べたとおりでよい.たとえば $\mu_0$($t$側の特性方程式の変数を $\mu$ と書くことにする)が $k$ 重解なら,$t$ の世界での基本解は $e^{\mu_0t},te^{\mu_0t},\ldots,t^{k-1}e^{\mu_0t}$(34.4節の規則)であり,$t=\ln x$ を戻せば,
$$ e^{\mu_0t}=x^{\mu_0},\qquad te^{\mu_0t}=(\ln x)\,x^{\mu_0},\qquad\ldots,\qquad t^{k-1}e^{\mu_0t}=(\ln x)^{k-1}x^{\mu_0} $$となる.すなわち,オイラー方程式で解 $\lambda_0$ が $k$ 重解のときは,$x^{\lambda_0},\ (\ln x)x^{\lambda_0},\ \ldots,\ (\ln x)^{k-1}x^{\lambda_0}$ が基本解になる(定数係数方程式の重解のときに $x$ のべきが掛かったのと同じ理屈で,オイラー方程式の重解のときは $\ln x$ のべきが掛かる——2階の場合の定理36.2「$y=C_1x^{\lambda_0}+C_2x^{\lambda_0}\ln x$」の直接の一般化である).複素数解 $\alpha\pm i\beta$ が出た場合も同様に,$x^\alpha\cos(\beta\ln x),\ x^\alpha\sin(\beta\ln x)$(と,重解ならこれに $(\ln x)^j$ を掛けたもの)が実数値の基本解になる(2階の場合の定理36.3の一般化).
例題37.5 3階オイラー方程式を2通りの方法で解く
$x^3y'''+3x^2y''-2xy'+2y=0$($x\gt0$)の一般解を,解法1と解法2の両方で求め,一致することを確認せよ.
解答(解法1:$y=x^\lambda$ を代入) $y=x^\lambda$ とおく.公式37.2の作り方にしたがい,$y'=\lambda x^{\lambda-1},\ y''=\lambda(\lambda-1)x^{\lambda-2},\ y'''=\lambda(\lambda-1)(\lambda-2)x^{\lambda-3}$ を代入すると,
$$ x^3\cdot\lambda(\lambda-1)(\lambda-2)x^{\lambda-3}+3x^2\cdot\lambda(\lambda-1)x^{\lambda-2}-2x\cdot\lambda x^{\lambda-1}+2x^\lambda =\Big[\lambda(\lambda-1)(\lambda-2)+3\lambda(\lambda-1)-2\lambda+2\Big]x^\lambda $$となる.$x^\lambda\neq0$($x\gt0$)で割って,かっこの中を展開する.$\lambda(\lambda-1)(\lambda-2)=\lambda^3-3\lambda^2+2\lambda$,$3\lambda(\lambda-1)=3\lambda^2-3\lambda$ だから,
$$ (\lambda^3-3\lambda^2+2\lambda)+(3\lambda^2-3\lambda)-2\lambda+2=\lambda^3+(-3+3)\lambda^2+(2-3-2)\lambda+2=\lambda^3-3\lambda+2 $$特性方程式は $\lambda^3-3\lambda+2=0$ である.$\lambda=1$ を代入すると $1-3+2=0$ となるので $\lambda-1$ が因数.割り算すると
$$ \lambda^3-3\lambda+2=(\lambda-1)(\lambda^2+\lambda-2)=(\lambda-1)(\lambda-1)(\lambda+2)=(\lambda-1)^2(\lambda+2) $$よって $\lambda=1$(2重解),$\lambda=-2$(単純解)である.37.5.3節の規則より,$\lambda=1$(2重)からは $x,\ x\ln x$ の2個,$\lambda=-2$ からは $x^{-2}$ の1個,合計3個の基本解が得られ,一般解は
$$ y=(C_1+C_2\ln x)x+C_3x^{-2} $$である.
解答(解法2:$x=e^t$ とおく) 37.5.2節の公式 $x\dfrac{\dd y}{\dd x}=\dfrac{\dd y}{\dd t},\ x^2\dfrac{\dd^2y}{\dd x^2}=\dfrac{\dd^2y}{\dd t^2}-\dfrac{\dd y}{\dd t},\ x^3\dfrac{\dd^3y}{\dd x^3}=\dfrac{\dd^3y}{\dd t^3}-3\dfrac{\dd^2y}{\dd t^2}+2\dfrac{\dd y}{\dd t}$ を,方程式 $x^3y'''+3x^2y''-2xy'+2y=0$ の対応する項に代入する.$3x^2y''$ の項は $3\left(\dfrac{\dd^2y}{\dd t^2}-\dfrac{\dd y}{\dd t}\right)$,$-2xy'$ の項は $-2\dfrac{\dd y}{\dd t}$ になるから,
$$ \left(\frac{\dd^3y}{\dd t^3}-3\frac{\dd^2y}{\dd t^2}+2\frac{\dd y}{\dd t}\right)+3\left(\frac{\dd^2y}{\dd t^2}-\frac{\dd y}{\dd t}\right)-2\frac{\dd y}{\dd t}+2y=0 $$$\dfrac{\dd^2y}{\dd t^2}$ の項をまとめると $-3+3=0$,$\dfrac{\dd y}{\dd t}$ の項をまとめると $2-3-2=-3$ になるので,
$$ \frac{\dd^3y}{\dd t^3}-3\frac{\dd y}{\dd t}+2y=0 $$という,$t$ についての定数係数3階同次方程式が得られる.37.3節の方法で特性方程式を作ると $\mu^3-3\mu+2=0$——解法1で得たのとまったく同じ多項式である(当然である,37.5.2節の box why で見たとおり,2つの解法は同じ計算の裏表にすぎない).したがって $\mu=1$(2重),$\mu=-2$(単純)であり,37.4節の規則より,$t$側の一般解は
$$ y=(C_1+C_2t)e^t+C_3e^{-2t} $$である.最後に $t=\ln x$(すなわち $e^t=x$)を戻すと,
$$ y=(C_1+C_2\ln x)\,x+C_3x^{-2} $$となり,解法1の答えとぴったり一致する.検算として,$y=x\ln x$ を元の方程式に直接代入する.$y'=\ln x+1,\ y''=\dfrac1x,\ y'''=-\dfrac1{x^2}$ より,
$$ x^3\left(-\frac1{x^2}\right)+3x^2\cdot\frac1x-2x(\ln x+1)+2x\ln x=-x+3x-2x\ln x-2x+2x\ln x=(-x+3x-2x)+(-2x\ln x+2x\ln x)=0 $$となり,たしかに方程式を満たす($x,\ x^{-2}$ についても同様にsympyで検算済み.$\lambda^3-3\lambda+2=0$ の解と,$t$側の特性方程式 $\mu^3-3\mu+2=0$ の解が完全に一致すること,そして解法1・解法2の一般解が恒等的に等しいことも,sympyで確認済みである).
37.6 定数変化法の考察と重解定理の完成(発展)
本章もいよいよ最後の節である.ここでは,ノートの最後の2つの話題を扱う.1つは,第36章から使ってきた「定数変化法」という解法の意味についての考察——なぜ積分定数を関数に変えるという操作でうまくいくのか,という素朴な疑問への,ノート自身の答え——である.もう1つは,37.4節で4つの具体例から観察した「$k$重解 $\Rightarrow$ 基本解 $e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x},\ldots,x^{k-1}e^{\lambda_0x}$」という規則を,すべての $n,k$ について証明することである.ノートはこの証明を「まず2階線形微分方程式について……」と書きかけたところで中断しており,本節ではそこから先を完成させる.
37.6.1 定数変化法についての考察
Consideration:定数変化法とは何をしていたのか
これまで(37.1節~37.5節,そして第36章),線形微分方程式を解くとき,定数変化法という,最初は少し奇妙に思える解法をくり返し使ってきた——同次方程式の一般解 $C_1y_1+C_2y_2+\cdots$ の任意定数 $C_1,C_2,\ldots$ を,$x$ の関数 $C_1(x),C_2(x),\ldots$ に「変化」させて,非同次方程式の特殊解を作る,という方法である.ノートは,この解法の意味について,次の2つの考えを述べている.
① (積分)定数 $C$ を関数に変換することは,同次微分方程式の解から,非同次微分方程式の解に変換することである.
② 定数変化法は,同次微分方程式の解の線形空間から,非同次微分方程式の解の線形空間にもっていくための方法である.
言い換えると,定数変化法は単なる計算テクニックではなく,「同次方程式の解全体(線形空間)」を,非同次方程式の解全体が作る「もう1つの空間」へまるごと橋渡しする操作だ,というのがノートの見方である.同次方程式の解空間は,第10章でいう線形空間(ベクトル空間)であり,原点($y=0$)を含む「まっすぐな」空間である.これに対して,非同次方程式の解全体は,$y=0$ を含まない($R(x)\neq0$ だから $y=0$ は非同次方程式を満たさない)――ちょうど原点を通らない平行な平面のような集合になっている.図37.3は,ノートに描かれたこの様子を清書したものである.
37.6.2 線形微分方程式の解法についての考察(まとめ)
Conclusion:ノート自身によるまとめ
ここまで色々な微分方程式を解いてきたが,その解法もテクニカルで難しいものが多かった.ノートの最後に,自分なりのまとめが書かれている.
まとめ① 非同次方程式の一般解=同次方程式の一般解+非同次方程式の特殊解.
まとめ② 同次方程式の基本解を求めるための操作が特性方程式であり,特性方程式をたてるためにどの基本解を選んでおくか($y=e^{\lambda x}$ か $y=x^\lambda$ か,など)が大事.
まとめ③ 線形微分方程式は,各階数の導関数が,0次または1次式で表示された方程式のことで,同次微分方程式と非同次微分方程式は,それぞれ基本解と特殊解の線形空間として扱える.
まとめ①は定理37.2(37.2節)そのものである.まとめ②は,37.3節〜37.5節で実際にやってきたこと——$y=e^{\lambda x}$(定数係数の場合)や $y=x^\lambda$(オイラー方程式の場合)という正しい形の試行解を見つけることが,特性方程式を作るための鍵だった,という実感を述べたものである.まとめ③は,線形微分方程式という言葉の意味($y,y',y'',\ldots,y^{(n)}$ について1次式であること)を確認し,37.6.1節で見た「解空間」という見方を再確認したものである.
37.6.3 特性方程式の重解の定理とその証明(発展)
最後に,37.4節で4つの例から観察した規則性——特性方程式の $k$ 重解 $\lambda_0$ に対応する基本解が $e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x},\ldots,x^{k-1}e^{\lambda_0x}$ になること——を,一般の $n,k$ について証明しよう.
定理37.4 特性方程式の$k$重解に対する基本解
定数係数$n$階同次微分方程式
$$ y^{(n)}+a_1y^{(n-1)}+\cdots+a_{n-1}y'+a_ny=0 $$の特性方程式 $p(\lambda):=\lambda^n+a_1\lambda^{n-1}+\cdots+a_{n-1}\lambda+a_n=0$ が,$\lambda=\lambda_0$ を $k$ 重解($k=2,3,\ldots,n$)としてもつとき,$\lambda_0$ に対応する基本解は
$$ e^{\lambda_0x},\ xe^{\lambda_0x},\ x^2e^{\lambda_0x},\ \ldots,\ x^{k-1}e^{\lambda_0x} $$の $k$ 個であり,これらはすべて1次独立である.
注意:ここから先はノートで中断していた証明を完成させる
ノート(本節の底本)の証明(Evidence)は「まず2階線形微分方程式……」の1行を書きかけたところで中断しており(次ページは白紙),続きは書かれていない.以下ではこの証明を最初から完成させる.
証明の準備として,記号を整える.$L[y]:=y^{(n)}+a_1y^{(n-1)}+\cdots+a_{n-1}y'+a_ny$(もとの方程式の左辺全体を,$y$ を受け取って関数を返す1つの操作とみなしたもの)とおく.37.3節の計算は,まさに
$$ L[e^{\lambda x}]=p(\lambda)\,e^{\lambda x} \qquad\cdots③ $$という恒等式(すべての $x,\lambda$ で成り立つ式)を示していた(37.3節では「$e^{\lambda x}\neq0$ で割って $p(\lambda)=0$」という形で使ったが,割る前のこの等式自体は $\lambda$ が特性方程式の解でなくても成り立つ,$y=e^{\lambda x}$ を①の左辺に代入しただけの単なる計算結果である).この③式を,$x$ の関数としてではなく,$\lambda$ の関数として見て,$\lambda$ で微分するというのが,証明の鍵になるアイデアである.
補題:$\lambda$ に関する $j$ 階微分の公式
③式の両辺を,$\lambda$ について $j$ 回微分する($x$ は固定して動かさない).右辺は,$p(\lambda)$ と $e^{\lambda x}$ の積を $j$ 回微分することになるので,ライプニッツ則(積の高階微分公式,$(fg)^{(j)}=\sum_{i=0}^j{}_j\mathrm{C}_i\,f^{(i)}g^{(j-i)}$,第4章)を使う.$f=p(\lambda),\ g=e^{\lambda x}$ とみて,$g$ を $\lambda$ で $m$ 回微分すると $\dfrac{\partial^m}{\partial\lambda^m}e^{\lambda x}=x^me^{\lambda x}$($x$ を定数とみて $\lambda$ で微分すれば,指数関数の微分公式そのもの)だから,
$$ \frac{\partial^j}{\partial\lambda^j}\big[p(\lambda)e^{\lambda x}\big]=\sum_{i=0}^j{}_j\mathrm{C}_i\,p^{(i)}(\lambda)\cdot x^{j-i}e^{\lambda x} \qquad\cdots④ $$を得る.一方,左辺 $L[e^{\lambda x}]$ を $\lambda$ で $j$ 回微分する方はどうか.$L$ は $x$ についての微分演算子($y^{(n)},y^{(n-1)},\ldots$ を作って定数倍し足し合わせるだけの操作)であり,$\lambda$ にはまったく関与しない.したがって,$x$ についての微分と $\lambda$ についての微分の順序を入れ替えてもよい(偏微分の順序交換,第6章で学んだ,$2$回偏微分の順序が交換できるという事実を,$x$方向の微分を$n$回・$\lambda$方向の微分を$j$回に一般化しただけである.$e^{\lambda x}$ は何回でも微分できる滑らかな関数だから,交換の条件は満たされている).すなわち,
$$ \frac{\partial^j}{\partial\lambda^j}L[e^{\lambda x}]=L\left[\frac{\partial^j}{\partial\lambda^j}e^{\lambda x}\right]=L\big[x^je^{\lambda x}\big] \qquad\cdots⑤ $$となる($L$ の中身はぜんぶ $x$ についての微分だから,先に $x$ で微分してから $\lambda$ で微分しても,先に $\lambda$ で微分(=$x^j$ を掛ける)してから $x$ で微分しても,結果は同じ).③の両辺を $j$ 回 $\lambda$ 微分した式そのものが④=⑤なので,
$$ L\big[x^je^{\lambda x}\big]=\sum_{i=0}^j{}_j\mathrm{C}_i\,p^{(i)}(\lambda)\,x^{j-i}e^{\lambda x} \qquad\cdots⑥ $$という恒等式が,すべての $j=0,1,2,\ldots$ と,すべての $\lambda,x$ について成り立つ($j=0$ のときは和が1項だけになって $L[e^{\lambda x}]=p(\lambda)e^{\lambda x}$,すなわち③そのものに戻る.$n=4$ の場合に $j=0,1,2,3$ で⑥をsympyで直接検算し,成立することを確認済みである).
一般の $n,j$ で証明に入る前に,最小のケース $n=2,\ j=1$($p(\lambda)=\lambda^2+a_1\lambda+a_2$,$L[y]=y''+a_1y'+a_2y$)で⑥式を直接計算して確かめておこう.右辺は,${}_1\mathrm{C}_0=1,\ {}_1\mathrm{C}_1=1$ より $\displaystyle\sum_{i=0}^1{}_1\mathrm{C}_i\,p^{(i)}(\lambda)\,x^{1-i}e^{\lambda x}=p(\lambda)\,xe^{\lambda x}+p'(\lambda)\,e^{\lambda x}$($p'(\lambda)=2\lambda+a_1$)である.一方,左辺 $L[xe^{\lambda x}]$ は,$y=xe^{\lambda x}$ を直接微分して求められる.積の微分公式より $y'=(1+\lambda x)e^{\lambda x}$,$y''=(2\lambda+\lambda^2x)e^{\lambda x}$ だから,
$$ L\big[xe^{\lambda x}\big]=(2\lambda+\lambda^2x)e^{\lambda x}+a_1(1+\lambda x)e^{\lambda x}+a_2xe^{\lambda x}=\big[(2\lambda+a_1)+(\lambda^2+a_1\lambda+a_2)x\big]e^{\lambda x}=\big[p'(\lambda)+p(\lambda)x\big]e^{\lambda x} $$となり,右辺の $p(\lambda)\,xe^{\lambda x}+p'(\lambda)\,e^{\lambda x}$ にちょうど一致する(sympyでも一致を確認済み).こうして,この先の一般の証明(定理37.4の証明)に入る前に,$n=2$ という最小のケースで式⑥が主張している内容を具体的に確かめられた.
定理37.4の証明
$\lambda_0$ が特性方程式 $p(\lambda)=0$ の $k$ 重解であるとは,$p(\lambda)$ が
$$ p(\lambda)=(\lambda-\lambda_0)^k\,q(\lambda),\qquad q(\lambda_0)\neq0 $$の形に因数分解できることをいう($q(\lambda)$ は $\lambda_0$ を解に持たない $n-k$ 次多項式).このとき,$p(\lambda)$ を $i$ 回($i=0,1,\ldots,k-1$)微分した $p^{(i)}(\lambda)$ は,ライプニッツ則により $(\lambda-\lambda_0)^k$ の側の因子に着目すると,$(\lambda-\lambda_0)^{k-i}\times(\text{何らかの多項式})$ という形の項の和になる($(\lambda-\lambda_0)^k$ を $i$ 回微分すれば,$i\lt k$ の間は必ず $(\lambda-\lambda_0)^{k-i}$($k-i\ge1$)が残る——2階の場合の重解で $(\lambda-\lambda_0)^2$ を1回微分すると $2(\lambda-\lambda_0)$ が残るのとまったく同じ理屈である).したがって,$\lambda=\lambda_0$ を代入するとどの項も $(\lambda_0-\lambda_0)^{k-i}=0^{k-i}=0$($k-i\ge1$ だから)になり,
$$ p(\lambda_0)=p'(\lambda_0)=p''(\lambda_0)=\cdots=p^{(k-1)}(\lambda_0)=0 \qquad\cdots⑦ $$が成り立つ($k$ 重解の定義から導かれる基本的な事実である).
いま,$j$ を $0\le j\le k-1$ の範囲の整数とし,⑥式に $\lambda=\lambda_0$ を代入する.
$$ L\big[x^je^{\lambda_0x}\big]=\sum_{i=0}^j{}_j\mathrm{C}_i\,p^{(i)}(\lambda_0)\,x^{j-i}e^{\lambda_0x} $$右辺の和に現れる $i$ は $0\le i\le j\le k-1$ の範囲だから,⑦により $p^{(i)}(\lambda_0)=0$ がすべての $i$ について成り立つ.したがって和のすべての項が $0$ になり,
$$ L\big[x^je^{\lambda_0x}\big]=0 \qquad(j=0,1,\ldots,k-1) $$を得る.これはまさに,$x^je^{\lambda_0x}$($j=0,1,\ldots,k-1$)がもとの同次方程式 $L[y]=0$ の解であることを意味する.こうして,$k$ 重解 $\lambda_0$ に対して,$k$ 個の関数 $e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x},\ldots,x^{k-1}e^{\lambda_0x}$ がすべて解になることが証明された.
最後に,これら $k$ 個が1次独立であることを確認する.$c_0,c_1,\ldots,c_{k-1}$ を定数として,$\displaystyle\sum_{j=0}^{k-1}c_jx^je^{\lambda_0x}=0$(すべての $x$ で恒等的に $0$)が成り立ったとする.$e^{\lambda_0x}\neq0$ で両辺を割ると,$\displaystyle\sum_{j=0}^{k-1}c_jx^j=0$ となり,これは $x$ についての(高々 $k-1$ 次の)多項式がすべての $x$ で $0$ であるという主張である.多項式が無限個の $x$(実数全体)で $0$ になるならば,係数はすべて $0$ でなければならない(次数 $k-1$ 以下の多項式で恒等的に $0$ でないものは,高々 $k-1$ 個の実根しか持てないから,「すべての $x$」で $0$ になることと矛盾する——高校で学んだ「恒等式」の考え方そのものである).よって $c_0=c_1=\cdots=c_{k-1}=0$ となり,$e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x},\ldots,x^{k-1}e^{\lambda_0x}$ は1次独立である.(証明終わり)
複数の重解・単純解が混ざっている一般の場合について
ここまでで,1つの $k$ 重解 $\lambda_0$ について,$k$ 個の解 $x^je^{\lambda_0x}$($j=0,\ldots,k-1$)が得られ,それらどうしは1次独立であることを証明した.特性方程式が複数の重解や単純解を同時に持つ一般の場合(37.4節の例37.1〜例37.4がまさにそうだった)には,異なる根に属する解のグループどうしも1次独立でなければならない.これは37.3節で相異なる単純解について行ったヴァンデルモンドの行列式の議論を,重解がある場合にも拡張した「合流型ヴァンデルモンド行列式」と呼ばれるものが $0$ にならないことから従う(根が重なるにつれて行列式の一部の列が「微分」に置き換わっていくイメージで,証明の構造は37.3節の box why とよく似ているが,計算がかなり煩雑になるため,本書では立ち入らない).いずれにせよ,例37.1〜例37.4・例題37.4・例題37.6のように,特性方程式の $n$ 個の根(重複度をこめて)から作った基本解の個数がちょうど $n$ 個であれば,それらはつねに1次独立になる,という事実は,本節で証明した「各根ごとの解は方程式を満たす」という部分と合わせて,どの具体例でも安心して使ってよい.
例題37.6 4重解の場合に定理37.4を直接確認する
特性方程式が $(\lambda+1)^4=0$ である4階同次方程式 $y''''+4y'''+6y''+4y'+y=0$($(\lambda+1)^4=\lambda^4+4\lambda^3+6\lambda^2+4\lambda+1$ を展開した係数をそのまま使った)について,定理37.4の主張どおり,$e^{-x},xe^{-x},x^2e^{-x},x^3e^{-x}$ の4つがすべて解になっていることを直接確認せよ.
解答 $\lambda_0=-1$ は $(\lambda+1)^4=0$ の4重解($k=4$)である.$L[y]=y''''+4y'''+6y''+4y'+y$ とおいて,$y=x^3e^{-x}$($j=k-1=3$ のもっとも次数の高いケース)を直接代入して確かめよう.積の微分公式を繰り返し使うと,
$$ y=x^3e^{-x},\quad y'=(3x^2-x^3)e^{-x},\quad y''=(6x-6x^2+x^3)e^{-x},\quad y'''=(6-18x+9x^2-x^3)e^{-x} $$ $$ y''''=(-24+36x-12x^2+x^3)e^{-x} $$($e^{-x}$ を微分すると符号が反転することに注意しながら,$x^3,x^2,x,1$ の各項を積の微分公式で追いかければよい).これらを $L[y]=y''''+4y'''+6y''+4y'+y$ に代入し,$e^{-x}$ の係数だけを $x$ の次数ごとに集めると,
$$ \begin{aligned} x^3:&\ 1-4+6-4+1=0\\ x^2:&\ -12+36-36+12+0=0\\ x^1:&\ 36-72+36+0+0=0\\ x^0:&\ -24+24+0+0+0=0 \end{aligned} $$(たとえば $x^3$ の係数は,$y''''$ から $+1$,$y'''$ から $4\times(-1)=-4$,$y''$ から $6\times1=6$,$y'$ から $4\times(-1)=-4$,$y$ から $1\times1=1$ が来て $1-4+6-4+1=0$,という具合に,各階の式の $x^3$ の係数を集めて計算する).どの次数の係数も $0$ になるので,たしかに $L[x^3e^{-x}]=0$ である.同様に $j=0,1,2$($e^{-x},xe^{-x},x^2e^{-x}$)についても $L[y]=0$ となることを確認できる(4つすべてについて,そして本節で証明した一般公式⑥からも,sympyで検算済みである).
37.7 まとめと演習
37.7.1 まとめ
- 高階完全微分方程式(37.1節):$n$階非同次線形方程式 $P_0y^{(n)}+\cdots+P_ny=R$ が完全微分方程式(1回積分するだけで次数が1つ下がる方程式)であるための必要十分条件は,漸化式 $Q_0=P_0,\ Q_k=P_k-Q_{k-1}'$($k=1,\ldots,n$)で定めた $Q_n$ が $0$ になることである(定理37.1).このとき第1積分は $Q_0y^{(n-1)}+\cdots+Q_{n-1}y=\int R\dd x+C$.
- 解の構造(37.2節):$n$階非同次方程式①の一般解は $y=Y+y_0$($Y$:対応する同次方程式②の一般解,$y_0$:①のどれか1つの特殊解).$Y$ は $n$個の1次独立な基本解 $y_1,\ldots,y_n$ の1次結合 $Y=C_1y_1+\cdots+C_ny_n$ で表せ,1次独立性は $n\times n$ ロンスキアン $W(y_1,\ldots,y_n)\neq0$(定義37.3)で判定する.
- 定数係数の同次方程式(37.3節):$y=e^{\lambda x}$ を代入すると特性方程式 $\lambda^n+a_1\lambda^{n-1}+\cdots+a_n=0$(公式37.1)が現れる.相異なる$n$個の解 $\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ が求まれば,ヴァンデルモンドの行列式によって $e^{\lambda_1x},\ldots,e^{\lambda_nx}$ は必ず1次独立であり,一般解は $y=C_1e^{\lambda_1x}+\cdots+C_ne^{\lambda_nx}$(定理37.3).
- 重解の場合(37.4節・37.6節):特性方程式が $k$重解 $\lambda_0$ をもつとき,対応する基本解は $e^{\lambda_0x},xe^{\lambda_0x},\ldots,x^{k-1}e^{\lambda_0x}$ の $k$個である(定理37.4,例37.1〜37.4で観察し,37.6節で一般に証明した).複素数の重解 $\alpha\pm i\beta$ の場合は,$x^je^{\alpha x}\cos\beta x,\ x^je^{\alpha x}\sin\beta x$($j=0,\ldots,k-1$)が実数値の基本解になる.
- 高階オイラーの方程式(37.5節):$x^ny^{(n)}+a_1x^{n-1}y^{(n-1)}+\cdots+a_ny=0$ は,$y=x^\lambda$ を代入すれば下降階乗を係数とする特性方程式(公式37.2)が,$x=e^t$ とおけば $t$ についての定数係数方程式が,それぞれ得られる.2つの解法は,微分演算子 $D_t=\dd/\dd t$ を通じて同じ結果に行き着く(box why,37.5.2節).重解の場合は,$x$のべきの代わりに $\ln x$ のべきが掛かる:$x^{\lambda_0},(\ln x)x^{\lambda_0},\ldots,(\ln x)^{k-1}x^{\lambda_0}$.
- 定数変化法の意味(37.6.1節):積分定数 $C_1,\ldots,C_n$ を関数に変化させる操作は,同次方程式の解の線形空間から,非同次方程式の解の線形空間へ(特殊解 $y_0$ の分だけ)平行移動する操作である(図37.3).
37.7.2 演習問題
演習37.1 相異なる4個の実根($y''''-5y''+4y=0$)
微分方程式 $y''''-5y''+4y=0$ の一般解を求めよ.
ヒント:$\mu=\lambda^2$ とおいて $\mu^2-5\mu+4=0$ をまず解き,$(\lambda^2-1)(\lambda^2-4)=0$ の形に因数分解せよ.定理37.3をそのまま使う.
演習37.2 3重解($y'''-3y''+3y'-y=0$)
微分方程式 $y'''-3y''+3y'-y=0$ の一般解を求めよ.
ヒント:特性方程式の係数 $1,-3,3,-1$ は2項係数 ${}_3\mathrm{C}_0,-{}_3\mathrm{C}_1,{}_3\mathrm{C}_2,-{}_3\mathrm{C}_3$ に一致している.$(\lambda-1)^3$ の展開と見比べよ.定理37.4を使う.
演習37.3 2階オイラー方程式との比較($x^2y''-3xy'+4y=0$)
オイラーの微分方程式 $x^2y''-3xy'+4y=0$($x\gt0$)の一般解を求めよ.これは第36章36.4節の定理36.2(2階オイラー方程式の重解の場合)で扱った形の方程式でもある——37.5節で学んだ一般の$n$階の方法を$n=2$に適用した結果と,第36章の結果が一致することを確かめよ.
ヒント:$y=x^\lambda$ を代入して特性方程式 $\lambda(\lambda-1)-3\lambda+4=0$ を作れ.
演習37.4 単項式のロンスキアン($W(1,x,x^2,x^3)$)
4個の関数 $1,x,x^2,x^3$ のロンスキアン $W(1,x,x^2,x^3)$(定義37.3)を計算せよ.また,この値が $x$ によらない定数になることに注目し,その定数が $0!\cdot1!\cdot2!\cdot3!$ に等しいことを確かめよ.
ヒント:$4\times4$ 行列式を,各行が定数($1,x,x^2,x^3$ とその導関数を並べた行)であることに注意して余因子展開せよ.一般に $1,x,x^2,\ldots,x^{n-1}$ のロンスキアンは $0!\,1!\,2!\cdots(n-1)!$ になる(階乗の積).
演習37.5 複素数の重解と実数の重解が混在する6階方程式
特性方程式が $p(\lambda)=(\lambda^2+1)^2(\lambda-2)^2=0$ であるような6階の定数係数同次微分方程式の一般解を求めよ.
ヒント:$p(\lambda)$ を展開して係数 $a_1,\ldots,a_6$ を求める必要はない——因数分解された形からじかに根とその重複度を読み取れる.$\lambda=\pm i$(各2重),$\lambda=2$(2重)である.定理37.4を各根ごとに適用し,複素数の根は37.4節の要領で実数化せよ.
演習37.6(材料科学への応用) 等分布荷重を受けるはりのたわみ
長さ $L$ の単純支持ばり(両端で支えられ,曲げモーメントが両端で $0$ になるはり)が,単位長さあたり大きさ $w_0$(定数)の等分布荷重を受けているとき,はりのたわみ $y(x)$($0\le x\le L$)は,曲げ剛性 $EI$($E$:ヤング率,$I$:断面2次モーメント)を用いて次の4階線形非同次微分方程式にしたがう.
$$ EI\,y''''(x)=w_0 $$境界条件は,両端が支えられていて変位が $0$($y(0)=y(L)=0$),かつ両端で曲げモーメントが $0$($y''(0)=y''(L)=0$)である.たわみ $y(x)$ を求めよ.
ヒント:右辺が定数だけの4階方程式なので,37.1節の完全微分方程式の考え方を使うまでもなく,両辺を $x$ で4回そのまま積分すれば一般解が積分定数 $A,B,C,D$ を含む形で求まる.4つの境界条件から $A,B,C,D$ を決定せよ.中央 $x=L/2$ でのたわみの大きさが,はりのたわみの公式として有名な $\dfrac{5w_0L^4}{384EI}$ になることを確認せよ.
37.7.3 参考文献
- 望月泰英『数学ノート 常微分方程式』(手書き講義ノート).本章の底本.
- 笠原晧司『微分方程式の基礎』(朝倉書店,1982年).
- 矢野健太郎・石原繁『微分方程式』(裳華房,1981年).
- E. Kreyszig, Advanced Engineering Mathematics, 10th ed. (Wiley, 2011).