大学数学 — 目次 第VI部 フーリエ級数と変換 / 第27章

第27章三角関数の直交性と関数の内積

次章から,どんな(十分に素性のよい)周期関数も $\sin,\cos$ の無限級数——フーリエ級数(Fourier series)——として表せる,という驚くべき事実を学んでいく.しかしその前に,どうしても押さえておかなければならない土台が1つある.無限個の $\sin kx,\cos kx$ を寄せ集めて元の関数 $f(x)$ を再現できたとして,では各項の「重み」(フーリエ係数)はどうやって取り出せばよいのだろうか.種明かしをすると,$\sin x,\cos x,\sin2x,\cos2x,\dots$ という三角関数の集まりには,高校のベクトルで習った「内積が $0$ になる2つのベクトルは互いに垂直(直交)である」という性質と,驚くほどよく似た性質が成り立つ.関数どうしにも「内積」を定義でき,異なる振動数の三角関数どうしの内積はことごとく $0$ になる——つまり互いに直交しているのである.この直交性こそが,次章でフーリエ係数を取り出す唯一の道具になる.

本章では,(1) $\sin mx,\cos mx$($m$ は整数)を定積分した5つの基本公式を,行間を1行も飛ばさずに証明し,(2) それを土台に「関数の内積」「関数のノルム(大きさ)」を定義してベクトルとの類似性を確認し,(3) 次章でフーリエ級数を扱う関数のクラスとして「区分的に連続な関数」「区分的に滑らかな関数」を定義する.どれも次章以降で繰り返し使う,フーリエ解析の共通言語である.

この章で学ぶこと
  • 三角関数の直交性を表す5つの積分公式:$\int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\,dx=0$,$\int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\,dx=0$($m\neq0$),$\int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\cos nx\,dx=0$,$\int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\cos nx\,dx=\pi\delta_{mn}$,$\int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\sin nx\,dx=\pi\delta_{mn}$($m,n$ は正の整数,$\delta_{mn}$ はクロネッカーのデルタ)
  • 関数の内積 $\langle f,g\rangle=\displaystyle\int_a^b f(x)g(x)\,dx$ と関数のノルム $\|f\|=\sqrt{\langle f,f\rangle}$ の定義,そしてすでに学んだシュワルツの不等式を内積の言葉で読み直すこと
  • 三角関数の集まり $\sin x,\sin3x,\sin5x,\dots$ が,互いに直交する幾何ベクトル(直交基底)とまったく同じ構造を持つこと
  • 区分的に連続な関数・区分的に滑らかな関数の定義:片側極限の記号 $\displaystyle\lim_{x\to x_0-0}f(x)$,$\displaystyle\lim_{x\to x_0+0}f(x)$ の意味と使い方
  • 「連続だが区分的に滑らかでない」関数(尖った関数・導関数が発散する関数)の具体例
  • 次章で使う方形波などの周期関数を,直交性とノルムの言葉で先取りして扱う練習
前提:定積分の計算(第5章5.1節),定積分の性質とシュワルツの不等式(第5章5.2節,とくに定理5.3),三角関数の積和の公式(高校数学 第5章5.5節)と2倍角・半角の公式(同5.3節),ベクトルの内積(高校数学 第7章7.4節).片側極限の記号は本章で初めて導入するので,予備知識は不要である.
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート フーリエ級数と変換』 pp. 1–5.

本章を通して,扱う関数はすべて周期関数(periodic function)である.関数 $f(x)$ が周期 $T\gt0$ を持つとは,定義域内のすべての $x$ について $f(x+T)=f(x)$ が成り立つことをいう.たとえば $\sin x,\cos x$ はいずれも周期 $2\pi$ を持つ($\sin(x+2\pi)=\sin x$ など).以下ではとくに断らない限り,積分区間は1周期分である $[-\pi,\pi]$ にとる.また,$m,n$ は特に断らない限り整数(0,正の整数,負の整数をまとめてこう呼ぶ.記号 $\Z=\{\dots,-2,-1,0,1,2,\dots\}$)を表す文字として使う.

27.1 三角関数の直交性 ― 基本公式

$\sin mx,\cos mx$($m$ は整数)を,$-\pi$ から $\pi$ まで定積分すると何が起きるだろうか.結論を先に言えば,振動数の異なる(あるいは種類の異なる)三角関数どうしを掛けて積分すると,判で押したように $0$ になる.なぜそんな都合のよいことが起きるのか,証明に入る前に,まずグラフで直感をつかんでおこう.

イメージ:山と谷がちょうど釣り合う

下図は $\sin2x$(灰色の破線)と $\sin3x$(青の破線),そして両者の積 $\sin2x\sin3x$(赤の実線,赤く塗った部分がその面積)を $-\pi\le x\le\pi$ の範囲で重ねて描いたものである.積のグラフは正負に激しく振動しているが,よく見ると山(正の部分)の面積の合計と,谷(負の部分)の面積の合計がちょうど等しく見える.定積分 $\int_{-\pi}^{\pi}\sin2x\sin3x\,dx$ は「符号つき面積」($x$ 軸より上をプラス,下をマイナスとして数える面積)だったから,正負がぴったり打ち消し合えば積分は $0$ になる.振動数の異なる三角関数どうしが「ちょうど打ち消し合う」ことこそが,これから証明する直交性の正体である.

sin2xとsin3xの積のグラフ.区間マイナス円周率からπの範囲で正負に激しく振動し,正の山の面積の合計と負の谷の面積の合計がちょうど釣り合って見える
図27.1 $\sin2x$(灰色破線),$\sin3x$(青破線),その積 $\sin2x\sin3x$(赤,塗りつぶした面積)のグラフ.赤い山(正の部分)の面積の合計と谷(負の部分)の面積の合計は,実際にちょうど等しい(後の公式27.3で証明する).

それでは,5つの基本公式を順に証明していく.最初の2つは,$\sin mx$ あるいは $\cos mx$ を単独で積分したものである.

公式27.1 $\sin mx$ の定積分

\begin{align} \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\,dx=0\qquad(m\text{ は整数)} \label{eq:27-sin-int} \end{align}

証明

$m=0$ のときは $\sin(0\cdot x)=\sin0=0$(定数関数の $0$)なので,$\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}0\,dx=0$ となり成立する.以下,$m\neq0$ の場合を示す.第3章の公式3.9($\frac{d}{dx}\sin x=\cos x$)と合成関数の微分(高校既習)より,$\dfrac{d}{dx}\cos(mx)=-m\sin(mx)$ である.両辺を $-m$($m\neq0$ なので割ってよい)で割ると

$$ \frac{d}{dx}\left(-\frac{1}{m}\cos(mx)\right)=\sin(mx) $$

を得る.つまり $\sin(mx)$ の原始関数は $-\dfrac1m\cos(mx)$ である(第5章の公式5.2・5.3 $\int\sin x\,dx=-\cos x+C$ を,置換 $u=mx$($du=m\,dx$)で $\sin(mx)$ に拡張したものと考えてもよい).したがって,

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\,dx=\left[-\frac{1}{m}\cos mx\right]_{-\pi}^{\pi}=-\frac{1}{m}\cos m\pi-\left(-\frac{1}{m}\cos(-m\pi)\right)=-\frac{1}{m}\cos m\pi+\frac{1}{m}\cos(-m\pi) $$

ここで,余弦は偶関数(even function:$\cos(-\theta)=\cos\theta$ がすべての $\theta$ で成り立つ関数.単位円上で角の符号を反転させても $x$ 座標は変わらないことに対応する)だから $\cos(-m\pi)=\cos m\pi$ である.よって上の式は

$$ -\frac{1}{m}\cos m\pi+\frac{1}{m}\cos m\pi=0 $$

となり,$\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\,dx=0$ が示された.

(証明終わり)

公式27.2 $\cos mx$ の定積分

\begin{align} \int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\,dx=0\qquad(m\text{ は }0\text{ でない整数)} \label{eq:27-cos-int} \end{align}

証明

式\eqref{eq:27-sin-int}(公式27.1)と同様に,公式3.10($\frac{d}{dx}\cos x=-\sin x$)と合成関数の微分より $\dfrac{d}{dx}\sin(mx)=m\cos(mx)$ なので,両辺を $m$($\neq0$)で割ると $\cos(mx)$ の原始関数は $\dfrac1m\sin(mx)$ である.したがって,

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\,dx=\left[\frac{1}{m}\sin mx\right]_{-\pi}^{\pi}=\frac{1}{m}\sin m\pi-\frac{1}{m}\sin(-m\pi) $$

正弦は奇関数(odd function:$\sin(-\theta)=-\sin\theta$ がすべての $\theta$ で成り立つ関数)だから $\sin(-m\pi)=-\sin m\pi$ である.さらに,$m$ は整数なので $m\pi$ は $\pi$ の整数倍であり,$\sin(m\pi)=0$($\sin$ は $\pi$ の整数倍でつねに $0$).よって

$$ \frac{1}{m}\sin m\pi-\frac{1}{m}(-\sin m\pi)=\frac{1}{m}\cdot0+\frac{1}{m}\cdot0=0 $$

となり,$\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\,dx=0$ が示された.

(証明終わり)

注意:$m=0$ は除外する

公式27.1は $m=0$ でも(両辺とも $0$ なので)そのまま成り立つが,公式27.2は $m=0$ では成り立たない.実際 $\cos(0\cdot x)=\cos0=1$ なので,$\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\cos(0\cdot x)\,dx=\int_{-\pi}^{\pi}1\,dx=2\pi\neq0$ である.次章でフーリエ級数の係数を定義するとき,定数項($a_0$ に対応する部分)だけを特別扱いするのは,まさにこの $m=0$ の例外があるためである.

次に,$\sin$ と $\cos$(あるいは同じ種類どうし)を掛けて積分する3つの公式に進む.ここでは高校数学で学んだ積→和の公式(高校数学 第5章5.5節,公式5.15〜5.18)が主役になる.積のままでは原始関数が見えにくいが,和の形に直せば公式27.1・27.2がそのまま使えるからである.

公式27.3 $\sin mx\cos nx$ の直交性

\begin{align} \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\cos nx\,dx=0\qquad(m,n\text{ は整数)} \label{eq:27-sincos-orth} \end{align}

証明

高校数学の積→和の公式5.15(高校数学 第5章5.5節,$\sin\alpha\cos\beta=\frac12\{\sin(\alpha+\beta)+\sin(\alpha-\beta)\}$)に $\alpha=mx,\ \beta=nx$ を代入すると,

$$ \sin mx\cos nx=\frac12\{\sin(m+n)x+\sin(m-n)x\} $$

となる.両辺を $-\pi$ から $\pi$ まで積分すると,

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\cos nx\,dx=\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\sin(m+n)x\,dx+\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\sin(m-n)x\,dx $$

$m,n$ が整数なら $m+n,\ m-n$ もまた整数である.そこで,$m,n$ の大小関係によって3つの場合に分ける.

[1] $m\neq\pm n$ のとき.このとき $m+n\neq0$ かつ $m-n\neq0$ なので,式\eqref{eq:27-sin-int}(公式27.1.$m+n,\ m-n$ という「$0$ でない整数」を新たな $m$ とみなして適用できる)より,右辺の2つの積分はともに $0$ である.

$$ \frac12\int_{-\pi}^{\pi}\sin(m+n)x\,dx+\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\sin(m-n)x\,dx=\frac12\cdot0+\frac12\cdot0=0 $$

[2] $m=n$($\neq0$ の場合を含む)のとき.$m-n=0$ なので $\sin(m-n)x=\sin0=0$ であり,第2項の積分はもとから $0$ である(消えるのは「公式27.1を使うから」ではなく,被積分関数それ自体が恒等的に $0$ だからである).残る第1項は,$m+n=2m$ が $0$ でない整数($m\neq0$ なら)なので,公式27.1より

$$ \frac12\int_{-\pi}^{\pi}\sin(m+n)x\,dx+\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\underbrace{\sin(m-n)x}_{=0}\,dx=\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\sin\bigl(2mx\bigr)\,dx+0=\frac12\cdot0=0 $$

($m=0$ の場合は両方の被積分関数が恒等的に $0$ になるので,積分も明らかに $0$ である.)

[3] $m=-n$ のとき.[2]と対称に,今度は $m+n=0$ なので $\sin(m+n)x=0$ となり第1項が恒等的に $0$,残る第2項は $m-n=2m$ が公式27.1の対象になり $0$ である.

$$ \frac12\int_{-\pi}^{\pi}\underbrace{\sin(m+n)x}_{=0}\,dx+\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\sin(m-n)x\,dx=0+\frac12\cdot0=0 $$

[1],[2],[3] のいずれの場合も積分は $0$ になるから,$\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\cos nx\,dx=0$ が示された.

(証明終わり)

別解:奇関数×偶関数=奇関数を使う近道

場合分けをしなくても,対称性だけからもっと速く証明できる.$\sin mx$ は奇関数(公式27.2の証明で確認した $\sin(-\theta)=-\sin\theta$ を $\theta=mx$ に適用すればよい:$\sin(-mx)=\sin(-1\cdot mx)=-\sin(mx)$),$\cos nx$ は偶関数(同様に $\cos(-nx)=\cos(nx)$)である.一般に「(奇関数)×(偶関数)」は奇関数になる——実際 $h(x)=f(x)g(x)$($f$ は奇関数,$g$ は偶関数)とおくと,$h(-x)=f(-x)g(-x)=\{-f(x)\}\{g(x)\}=-f(x)g(x)=-h(x)$ となり,$h$ もまた奇関数の定義を満たす.したがって $\sin mx\cos nx$ は $x$ の奇関数である.さらに一般に,奇関数 $h(x)$ を左右対称な区間 $[-\pi,\pi]$ で積分すると,$x\gt0$ の部分の面積と $x\lt0$ の部分の面積が符号違いでちょうど打ち消し合うので,積分は必ず $0$ になる(グラフが原点対称であることの直接の帰結である).よって

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\cos nx\,dx=0 $$

を,場合分けなしに一発で得られる.

注意:以後 $m,n$ は正の整数とする

次の公式27.4・公式27.5では,$m=n$ の場合と $m\neq n$ の場合とで答えが変わる.もし $m,n$ に負の整数まで許すと,「添字としては $m\neq n$ なのに,符号のせいで $\cos mx\cos nx$ が $\cos^2(\pm mx)$ という $m=n$ のときと同じ形になってしまう」(たとえば $n=-m$ のとき)という紛らわしい場合が生じる.実際 $\cos mx\cos(-mx)=\cos^2mx$ となり,積分すると $m=n$ のときと同じ $\pi$ になってしまう.同様に $\sin mx\sin nx$ でも $n=-m$ とすると,$\sin mx\sin(-mx)=-\sin^2mx$ となる.こちらは積分すると $-\pi$ になり,$m=n$ のときの値 $\pi$ とも $m\neq n$ のときの値 $0$ とも異なる値になってしまう——$\cos$ の場合よりもさらにはっきりと公式の形が壊れるのである.実際に次章以降のフーリエ級数で使うのは,$\cos mx,\sin nx$ の $m,n$ がつねに $1,2,3,\dots$ という正の整数の場合だけである.そこで公式27.4・公式27.5では,以後 $m,n$ を正の整数($1$ 以上の整数)に限定する.こう限定すれば,$m\neq n$ のとき $m+n$ も $m-n$ も同時に $0$ になることはなく,証明の場合分けがすっきりする.なお公式27.1〜27.3(単独の $\sin,\cos$,および $\sin\times\cos$ の直交性)は,正負を問わずすべての整数 $m,n$ で成り立つ,より広い主張であることに注意しよう.

公式27.4 $\cos mx\cos nx$ の直交性

\begin{align} \int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\cos nx\,dx=\begin{cases}\pi & (m=n)\\ 0 & (m\neq n)\end{cases}\qquad(m,n\text{ は正の整数)} \label{eq:27-coscos-orth} \end{align}

証明

[1] $m=n$ のとき.$\cos mx\cos nx=\cos^2mx$ である.高校数学の2倍角の公式5.8($\cos2\theta=2\cos^2\theta-1$)を $\cos^2\theta$ について解くと $\cos^2\theta=\dfrac{1+\cos2\theta}{2}$ となる(半角の公式5.11を $\alpha=2\theta$ で読み替えたものでもある).$\theta=mx$ を代入して

$$ \cos^2mx=\frac{1+\cos2mx}{2} $$

を得る.したがって,

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\cos nx\,dx=\int_{-\pi}^{\pi}\cos^2mx\,dx=\frac12\int_{-\pi}^{\pi}1\,dx+\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\cos2mx\,dx $$

右辺第2項は,$2m$ が $0$ でない整数($m$ は正の整数なので $2m\ge2$)なので式\eqref{eq:27-cos-int}(公式27.2)により $0$ である.第1項は

$$ \frac12\int_{-\pi}^{\pi}1\,dx=\frac12\bigl[x\bigr]_{-\pi}^{\pi}=\frac12\{\pi-(-\pi)\}=\frac12\cdot2\pi=\pi $$

だから,合わせて $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\cos nx\,dx=\pi+0=\pi$ である.

[2] $m\neq n$(ともに正の整数)のとき.高校数学の積→和の公式5.17($\cos\alpha\cos\beta=\frac12\{\cos(\alpha+\beta)+\cos(\alpha-\beta)\}$)より,

$$ \cos mx\cos nx=\frac12\{\cos(m+n)x+\cos(m-n)x\} $$

両辺を積分すると,

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\cos nx\,dx=\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\cos(m+n)x\,dx+\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\cos(m-n)x\,dx $$

$m,n$ はともに正の整数だから $m+n\ge2$,すなわち $m+n\neq0$.また仮定 $m\neq n$ より $m-n\neq0$.したがって公式27.2($0$ でない整数についての公式)がどちらの項にもそのまま使え,

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\cos nx\,dx=\frac12\cdot0+\frac12\cdot0=0 $$

を得る.

(証明終わり)

公式27.5 $\sin mx\sin nx$ の直交性

\begin{align} \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\sin nx\,dx=\begin{cases}\pi & (m=n)\\ 0 & (m\neq n)\end{cases}\qquad(m,n\text{ は正の整数)} \label{eq:27-sinsin-orth} \end{align}

証明

[1] $m=n$ のとき.$\sin mx\sin nx=\sin^2mx$ である.半角の公式5.10を $\alpha=2\theta$ で読み替えた関係(あるいは2倍角の公式5.8の $\cos2\theta=1-2\sin^2\theta$ を $\sin^2\theta$ について解いたもの)$\sin^2\theta=\dfrac{1-\cos2\theta}{2}$ に $\theta=mx$ を代入すると,

$$ \sin^2mx=\frac{1-\cos2mx}{2} $$

ゆえに

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\sin nx\,dx=\int_{-\pi}^{\pi}\sin^2mx\,dx=\frac12\int_{-\pi}^{\pi}1\,dx-\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\cos2mx\,dx $$

$m$ は正の整数なので $2m\neq0$,式\eqref{eq:27-cos-int}(公式27.2)より第2項は $0$.第1項は式\eqref{eq:27-coscos-orth}(公式27.4[1])と同じ計算で $\pi$ である.よって

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\sin nx\,dx=\pi-0=\pi . $$

[2] $m\neq n$(ともに正の整数)のとき.高校数学の積→和の公式5.18($\sin\alpha\sin\beta=-\frac12\{\cos(\alpha+\beta)-\cos(\alpha-\beta)\}$)より,

$$ \sin mx\sin nx=-\frac12\cos(m+n)x+\frac12\cos(m-n)x $$

両辺を積分すると,

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\sin nx\,dx=-\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\cos(m+n)x\,dx+\frac12\int_{-\pi}^{\pi}\cos(m-n)x\,dx $$

$m,n$ はともに正の整数だから $m+n\ge2\gt0$,すなわち $m+n\neq0$.また $m\neq n$ より $m-n\neq0$.したがって公式27.2より両方の積分が $0$ となり,

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\sin nx\,dx=-\frac12\cdot0+\frac12\cdot0=0 $$

を得る.

(証明終わり)

数学ノート:クロネッカーのデルタでまとめる

公式27.4・公式27.5は,$m=n$ のときと $m\neq n$ のときで答えが変わる「場合分け」の形をしている.この種の場合分けは,数学ではクロネッカーのデルタ(Kronecker delta)という記号

$$ \delta_{mn}=\begin{cases}1 & (m=n)\\ 0 & (m\neq n)\end{cases} $$

を使うと1本の式にまとめられる.$\delta_{mn}$ は「$m$ と $n$ が等しいかどうかを判定するスイッチ」だと思えばよい.これを使うと,$m,n$ を正の整数として

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\cos nx\,dx=\pi\,\delta_{mn},\qquad \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\sin nx\,dx=\pi\,\delta_{mn},\qquad \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\cos nx\,dx=0 $$

と,公式27.3〜27.5をまとめて書ける.この記法は,線形代数(内積が $0$ になる基底ベクトルの組を書くときなど)でも繰り返し登場する.

例題27.1 直交性の公式を組み合わせて積分を計算する

次の定積分を計算せよ.

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\left(3\cos2x-4\sin5x+7\right)\cos2x\,dx $$

解答 被積分関数を展開すると,積分は3つの項の和に分解できる(積分の線形性:和の積分は積分の和).

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\left(3\cos2x-4\sin5x+7\right)\cos2x\,dx=3\int_{-\pi}^{\pi}\cos2x\cos2x\,dx-4\int_{-\pi}^{\pi}\sin5x\cos2x\,dx+7\int_{-\pi}^{\pi}\cos2x\,dx $$

第1項は式\eqref{eq:27-coscos-orth}(公式27.4)で $m=n=2$($m=n\neq0$ の場合)だから $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\cos2x\cos2x\,dx=\pi$.第2項は式\eqref{eq:27-sincos-orth}(公式27.3,$m=5,n=2$,$\sin mx\cos nx$ の形)より $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\sin5x\cos2x\,dx=0$.第3項は式\eqref{eq:27-cos-int}(公式27.2)で $m=2\,(\neq0)$ だから $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\cos2x\,dx=0$.したがって,

$$ 3\cdot\pi-4\cdot0+7\cdot0=3\pi $$

が答えである(sympyで直接積分し,$3\pi$ に一致することを検算済み).

27.2 関数の内積とノルム

公式27.1〜27.5では,2つの三角関数の積を積分すると,多くの場合に $0$ になることを見た.高校数学のベクトルの内積(第7章7.4節)を思い出そう.そこでは,2つのベクトル $\vec a,\vec b$ の内積 $\vec a\cdot\vec b$ が $0$ になることと,$\vec a,\vec b$ が互いに垂直(直交)であることが同値だった.「積分すると $0$」という関係も,実は関数どうしの「内積」が $0$という言い方に読み替えることができる.そうすれば,公式27.3〜27.5は「異なる三角関数どうしは互いに直交している」という,一言で済む幾何学的な主張になる.そのための準備として,関数の内積とノルム(大きさ)を定義しよう.

定義27.1 関数の内積

区間 $[a,b]$ で定義された区分的に連続な2つの関数 $f(x),g(x)$ について,$f(x)$ と $g(x)$ の内積(inner product)$\langle f,g\rangle$ を

$$ \langle f,g\rangle=\int_a^b f(x)g(x)\,dx $$

と定義する.(ここで「$f(x)$ と $g(x)$ の積を区間全体で積分する」という操作が,ベクトルの成分どうしを掛けて足し合わせる操作 $\vec a\cdot\vec b=a_1b_1+a_2b_2+\cdots$ の「連続版」になっていることに注意しよう.和 $\sum$ が積分 $\int$ に,離散的な添字 $1,2,\dots,n$ が連続な変数 $x$ に置き換わったと思えばよい.)

この定義がきちんと意味を持つ(積分が実際に存在する)ためには,$f(x),g(x)$ がある程度素性のよい関数である必要があり,そのために上の定義ではあらかじめ「区分的に連続な」という条件を課してある.この条件の正確な意味は27.4節で定義する.今の段階では,本章に登場する関数(三角関数とその和)はすべてこの条件を満たすと思ってよい.

さっそく内積の定義を使ってみよう.式\eqref{eq:27-sincos-orth}(公式27.3,$m=n=1$ の場合)は,内積の言葉を使うと次のように言い換えられる.

$$ \langle \sin x,\cos x\rangle=\int_{-\pi}^{\pi}\sin x\cos x\,dx=0 $$

つまり,「$\sin x$ と $\cos x$ の内積は $0$」——ベクトルの言葉で言えば「$\sin x$ と $\cos x$ は直交している」ということになる.同様に,公式27.3〜27.5は,正の整数 $m\neq n$ に対して $\langle \cos mx,\cos nx\rangle=0$,$\langle \sin mx,\sin nx\rangle=0$,そしてすべての整数 $m,n$ に対して $\langle \sin mx,\cos nx\rangle=0$ が成り立つ,とまとめて言い換えられる.

定義27.2 関数のノルム

区間 $[a,b]$ で区分的に連続な関数 $f(x)$ について,$f(x)$ のノルム(norm,大きさ)$\|f(x)\|$ を

$$ \|f(x)\|=\sqrt{\langle f,f\rangle}=\sqrt{\int_a^b f(x)^2\,dx} $$

と定義する.(ベクトルの大きさ $|\vec a|=\sqrt{\vec a\cdot\vec a}$ の定義と,まったく同じ形をしていることに注意しよう.根号の中の $f(x)^2\ge0$ より,被積分関数は負にならないので,$\|f(x)\|$ はつねに $0$ 以上の実数として定まる.)

定理27.1 シュワルツの不等式(関数の内積の形)

区間 $[a,b]$ で区分的に連続な関数 $f(x),g(x)$ について,

\begin{align} \langle f,g\rangle^2\le\langle f,f\rangle\cdot\langle g,g\rangle,\qquad\text{すなわち}\qquad |\langle f,g\rangle|\le\|f\|\,\|g\| \label{eq:27-schwarz} \end{align}

が成り立つ.

この不等式はすでに証明済みである

実はこの定理は新しい定理ではない.第5章の定理5.3(シュワルツの不等式,Schwarz's inequality)そのものであり,そこでは $\left(\displaystyle\int_a^b fg\,dx\right)^2\le\displaystyle\int_a^b f^2\,dx\cdot\int_a^b g^2\,dx$ という形で,判別式を使って厳密に証明されている(第5章の脚注ですでに「これは関数の内積 $\langle f,g\rangle$ を使うと $\langle f,g\rangle^2\le\langle f,f\rangle\langle g,g\rangle$ と書ける」と予告されていた).今回,本章で内積 $\langle f,g\rangle=\int_a^b fg\,dx$ とノルム $\|f\|=\sqrt{\langle f,f\rangle}$ という記号を正式に定義したので,同じ定理を,高校数学のベクトルのシュワルツの不等式 $(\vec a\cdot\vec b)^2\le|\vec a|^2|\vec b|^2$ とそっくり同じ形で書き直せる,というのがこの定理27.1の意味である(式\eqref{eq:27-schwarz}).証明を読み返したい場合は,第5章5.2節を参照してほしい.

内積とノルムを定義したので,ベクトルでおなじみのもう1つの不等式——三角不等式——も,まったく同じ形で成り立つことを確認しておこう(これは底本のノートには載っていないが,シュワルツの不等式と並んで今後何度も使う基本的な性質なので,ここで補っておく).

定理27.2 三角不等式(関数のノルムの形)

区間 $[a,b]$ で区分的に連続な関数 $f(x),g(x)$ について,

\begin{align} \|f+g\|\le\|f\|+\|g\| \label{eq:27-triangle-ineq} \end{align}

が成り立つ.

証明

積分の線形性(第5章既習:和の積分は積分の和,定数倍は外に出せる)より,内積は $\langle f+g,h\rangle=\langle f,h\rangle+\langle g,h\rangle$ をみたす(実際,$\int_a^b\{f(x)+g(x)\}h(x)\,dx=\int_a^b f(x)h(x)\,dx+\int_a^b g(x)h(x)\,dx$ であり,右辺はまさに $\langle f,h\rangle+\langle g,h\rangle$ である).これを使うと,ノルムの2乗 $\|f+g\|^2$ は,ちょうど高校数学の $(\vec a+\vec b)\cdot(\vec a+\vec b)=|\vec a|^2+2\vec a\cdot\vec b+|\vec b|^2$ の展開とまったく同じ要領で,次のように展開できる.

$$ \|f+g\|^2=\langle f+g,f+g\rangle=\langle f,f\rangle+\langle f,g\rangle+\langle g,f\rangle+\langle g,g\rangle=\|f\|^2+2\langle f,g\rangle+\|g\|^2 $$

($\langle f,g\rangle=\langle g,f\rangle$ であることは,内積の定義 $\int_a^b f(x)g(x)\,dx$ の中身が $f(x)g(x)=g(x)f(x)$ で交換できることから明らかである.)ここで,式\eqref{eq:27-schwarz}(定理27.1,シュワルツの不等式)より $\langle f,g\rangle\le|\langle f,g\rangle|\le\|f\|\,\|g\|$ が成り立つから,これを代入すると,

$$ \|f+g\|^2\le\|f\|^2+2\|f\|\,\|g\|+\|g\|^2=(\|f\|+\|g\|)^2 $$

を得る.最後に,$\|f+g\|$ と $\|f\|+\|g\|$ はどちらも $0$ 以上の実数(ノルムの定義より)だから,$0$ 以上の数どうしでは「2乗の大小」と「もとの数の大小」が一致する($0\le X\le Y$ ならば $0\le\sqrt X\le\sqrt Y$).したがって両辺の平方根をとって,

$$ \|f+g\|\le\|f\|+\|g\| $$

が示された.

(証明終わり)

ベクトルの三角不等式との対応

高校数学で学んだベクトルの三角不等式 $|\vec a+\vec b|\le|\vec a|+|\vec b|$(2辺の長さの和は,残りの1辺の長さ以上になる——三角形の成立条件そのもの)と,定理27.2は見た目がまったく同じ形をしている.関数の「大きさ」をノルムで測れば,関数の世界でもベクトルとまったく同じ幾何学的な直感——遠回りした経路の長さの和は,まっすぐ行った経路の長さ以上——が成り立つ,ということを主張しているのである.

応用:直交性はいたるところに顔を出す

「異なる振動数の波は互いに直交する」という性質は,フーリエ級数の中だけの特殊な現象ではない.音の周波数分析(音声・音楽信号を純音の重ね合わせに分解する),結晶格子の振動モード(フォノン,格子を伝わる音波の基準振動)どうしの独立性,X線回折で結晶の周期構造を検出する仕組み,さらには量子力学の波動関数の直交性(エネルギー準位の異なる状態どうしの内積が $0$ になること)まで,「関数の内積」という同じ道具が姿を変えて何度も登場する.材料科学で結晶構造やスペクトルを扱うとき,この章で学ぶ直交性の考え方が土台になっていることを覚えておいてほしい.

例題27.2 多項式関数どうしの内積とノルム,シュワルツの不等式の確認

区間 $[-1,1]$ 上で $f(x)=x,\ g(x)=x^2$ とする.(1) $\langle f,g\rangle$,$\|f\|$,$\|g\|$ をそれぞれ求めよ.(2) シュワルツの不等式 $|\langle f,g\rangle|\le\|f\|\|g\|$ が実際に成り立つことを確認せよ.

解答 (1) 内積の定義(定義27.1)より,

$$ \langle f,g\rangle=\int_{-1}^{1}x\cdot x^2\,dx=\int_{-1}^{1}x^3\,dx $$

ここで,$x^3$ は奇関数($(-x)^3=-x^3$)であり,積分区間 $[-1,1]$ は原点対称だから,公式27.3の別解で使ったのと同じ理由(奇関数を左右対称な区間で積分すると $0$)により,計算するまでもなく $\langle f,g\rangle=0$ とわかる.念のため直接計算すると,$\displaystyle\int_{-1}^1x^3\,dx=\left[\frac{x^4}{4}\right]_{-1}^1=\frac14-\frac14=0$ で確かに一致する.

次にノルムを計算する.定義27.2より,

$$ \|f\|=\sqrt{\int_{-1}^1x^2\,dx}=\sqrt{\left[\frac{x^3}{3}\right]_{-1}^1}=\sqrt{\frac13-\left(-\frac13\right)}=\sqrt{\frac23}=\frac{\sqrt6}{3} $$ $$ \|g\|=\sqrt{\int_{-1}^1x^4\,dx}=\sqrt{\left[\frac{x^5}{5}\right]_{-1}^1}=\sqrt{\frac15-\left(-\frac15\right)}=\sqrt{\frac25}=\frac{\sqrt{10}}{5} $$

(sympyで検算済み:$\|f\|=\sqrt6/3\approx0.8165$,$\|g\|=\sqrt{10}/5\approx0.6325$.)

(2) $|\langle f,g\rangle|=0$ である一方,$\|f\|\|g\|=\dfrac{\sqrt6}{3}\times\dfrac{\sqrt{10}}{5}=\dfrac{\sqrt{60}}{15}=\dfrac{2\sqrt{15}}{15}\approx0.516$ は正の数だから,$0\le0.516$ となり,シュワルツの不等式は(等号にはならないが)確かに成り立っている.実は $\langle f,g\rangle=0$($f\perp g$,内積が $0$)というのは,$f(x)=x$ と $g(x)=x^2$ が三角関数でなくても,「奇関数と偶関数の積は奇関数,それを対称区間で積分すると $0$」という同じ仕組みで直交してしまう一例である.直交性は三角関数だけの特権ではないことがわかる.

27.3 三角関数とベクトルの類似性

27.2節で,関数の内積・ノルムを定義した.ここでは具体例を通して,三角関数の集まり $\sin x,\sin3x,\sin5x,\dots$ が,高校数学のベクトルで学んだ「互いに直交する基底ベクトル」(線形独立な,向きの異なるベクトルの組)と,まったく同じ構造を持つことを確認しよう.

例27.1 三角関数とベクトルの類似性

例として,次の関数 $y$ と,3次元ベクトル $Y$ を考える.

$$ y=\sum_{k=1}^{3}\frac{\sin(2k-1)x}{2k-1}=\sin x+\frac13\sin3x+\frac15\sin5x, \qquad Y=\left[\,1\ \ \frac13\ \ \frac15\,\right] $$

$y$ は,$\sin x,\sin3x,\sin5x$ という3つの関数を,係数 $1,\frac13,\frac15$ で重ね合わせたものである.$Y$ は,同じ係数 $1,\frac13,\frac15$ を3次元ベクトルの成分として並べたものである.この2つが,どちらも「3つの直交する基底を係数で重ね合わせたもの」という同じ構造を持つことを,[i]関数側,[ii]ベクトル側の両方で確かめよう.

[i] $y$ について(関数の内積).$\sin x,\sin3x,\sin5x$ どうしの内積を,定義27.1にしたがって計算する.異なる2つを組み合わせた場合は,公式27.5($\sin mx\sin nx$,$m\neq n$)がそのまま使え,

$$ \langle\sin x,\sin3x\rangle=\int_{-\pi}^{\pi}\sin x\sin3x\,dx=0,\qquad \langle\sin3x,\sin5x\rangle=\int_{-\pi}^{\pi}\sin3x\sin5x\,dx=0,\qquad \langle\sin5x,\sin x\rangle=\int_{-\pi}^{\pi}\sin5x\sin x\,dx=0 $$

となる——3つのペアすべてで内積が $0$,すなわち3つの関数は互いに直交している.また,同じ関数どうしの内積(公式27.5の $m=n$ の場合)は,

$$ \langle\sin x,\sin x\rangle=\int_{-\pi}^{\pi}\sin x\sin x\,dx=\pi,\qquad \langle\sin3x,\sin3x\rangle=\int_{-\pi}^{\pi}\sin3x\sin3x\,dx=\pi,\qquad \langle\sin5x,\sin5x\rangle=\int_{-\pi}^{\pi}\sin5x\sin5x\,dx=\pi $$

となり,3つとも等しく $\pi$ である(したがってノルムはすべて $\|\sin x\|=\|\sin3x\|=\|\sin5x\|=\sqrt\pi$ で共通).

[ii] $Y$ について(ベクトルの内積).$\vec e_1=\sin x,\ \vec e_2=\sin3x,\ \vec e_3=\sin5x$ と名付けておく(関数を「基底ベクトル」に見立てるための記号である).$Y$ を,通常の3次元空間の標準的な基底 $\vec e_1=[1,0,0],\ \vec e_2=[0,1,0],\ \vec e_3=[0,0,1]$(座標軸方向を向く長さ $1$ のベクトル)の一次結合として表すと,

$$ Y=\vec e_1+\frac13\vec e_2+\frac15\vec e_3 $$

となる([i]の $y$ の式と,係数がぴったり対応していることに注目しよう).このとき,標準基底どうしの内積は,高校数学のベクトルの内積の定義($\vec a\cdot\vec b=|\vec a||\vec b|\cos\theta$,成分表示では対応する成分どうしの積の和)から,異なる基底どうしは垂直($\theta=90^\circ$)だから

$$ \vec e_1\cdot\vec e_2=0,\qquad \vec e_2\cdot\vec e_3=0,\qquad \vec e_3\cdot\vec e_1=0 $$

であり,同じ基底どうしは(長さ $1$ の単位ベクトルなので)

$$ \vec e_1\cdot\vec e_1=1,\qquad \vec e_2\cdot\vec e_2=1,\qquad \vec e_3\cdot\vec e_3=1 $$

が成り立つ.図27.2に,$Y$ ベクトルとその基底 $\vec e_1,\vec e_2,\vec e_3$(座標軸)の関係を図示する.

Yベクトルと基底の図(斜投影) x y z O 1 1/3 1/5 Y
図27.2 $Y$ ベクトルと基底の図.$x,y,z$ の3方向がそれぞれ $\vec e_1,\vec e_2,\vec e_3$(単位ベクトル)の向きを表し,目盛 $1,\ 1/3,\ 1/5$ の位置から破線で補助線(射影線)を引いた先が,$Y=\vec e_1+\frac13\vec e_2+\frac15\vec e_3$ の指す点である.(斜投影・キャビネット図法で描いた模式図であり,実際の角度や長さの比は正確な直交座標とは異なる.)

以上をまとめると,

$$ \vec e_1\cdot\vec e_2=\vec e_2\cdot\vec e_3=\vec e_3\cdot\vec e_1=0 $$

より内積が $0$ になる——これは[i]で見た $\langle\sin x,\sin3x\rangle=\langle\sin3x,\sin5x\rangle=\langle\sin5x,\sin x\rangle=0$ とまったく同じ構造である.このように,三角関数は周期の違うものと内積すると $0$ になることから,互いに $90^\circ$ に直交していると考えることができる.

一般に,1次結合で色々な関数を作るための「材料」となる,互いに直交する関数の集まりのことを直交基底(orthogonal basis)とよぶ——高校数学のベクトルで,互いに直交する基底ベクトルの1次結合でどんなベクトルも表せたのと同じ発想を,関数の世界に持ち込んだ言葉である(すべてのノルムが等しく $1$ にそろっている場合はとくに正規直交基底(orthonormal basis)とよぶが,$\sin x,\sin3x,\sin5x,\dots$ はノルムが $\sqrt\pi$ であって $1$ ではないので,正確にはノルムを$1$に規格化する前の直交基底である).$\displaystyle y=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\sin(2k-1)x}{2k-1}$ のように,無数に「サインの直交基底」($\sin x,\sin3x,\sin5x,\dots$)が存在する.3次元ベクトル空間の基底が3本の矢印だったのに対し,関数の「空間」では,$\sin x,\sin3x,\sin5x,\dots$ のように無限個の関数が,直交基底の役割を果たせるのである.

先取り:この $y$ の正体

実は,この節で扱った $\displaystyle y=\sin x+\frac13\sin3x+\frac15\sin5x$ や,その無限級数版 $\displaystyle y=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\sin(2k-1)x}{2k-1}$ は,思いつきの例ではない.次章で学ぶ「方形波」(矩形波,square wave:$-\pi\lt x\le0$ で $-1$,$0\lt x\le\pi$ で $+1$ となるような,値が2つだけを行き来する周期関数)のフーリエ級数の,途中まで(有限項)を計算したものに他ならない.つまり,本節の $y$ は「方形波を,直交する3つの $\sin$ の基底だけで近似した姿」であり,項数を増やす($k\to\infty$)ほど,方形波にどんどん近づいていく.この直感を,27.4節の例題27.5でもう一度取り上げる.

例題27.3 直交する基底の係数からノルムを求める

$y=\sin x-2\sin2x+4\sin4x$ とする.$\|y\|$($[-\pi,\pi]$ 上のノルム)を求めよ.

解答 $\sin x,\sin2x,\sin4x$ は(公式27.5より,添字がすべて異なる正の整数なので)互いに直交し,かつ $\|\sin x\|=\|\sin2x\|=\|\sin4x\|=\sqrt\pi$(公式27.5の $m=n$ の場合)である.ノルムの2乗を定義どおり展開すると,

$$ \|y\|^2=\langle y,y\rangle=\int_{-\pi}^{\pi}(\sin x-2\sin2x+4\sin4x)^2\,dx $$

被積分関数を展開すると,$(\sin x)^2,(2\sin2x)^2,(4\sin4x)^2$ という2乗の項と,$\sin x\cdot(-2\sin2x)$ のような交差項(クロスターム)が現れる.交差項はすべて「異なる添字の $\sin$ どうしの積」なので,公式27.5($m\neq n$)よりすべて積分すると $0$ になる.したがって残るのは2乗の項だけであり,

$$ \|y\|^2=1^2\int_{-\pi}^{\pi}\sin^2x\,dx+(-2)^2\int_{-\pi}^{\pi}\sin^22x\,dx+4^2\int_{-\pi}^{\pi}\sin^24x\,dx=1^2\cdot\pi+(-2)^2\cdot\pi+4^2\cdot\pi $$ $$ =(1+4+16)\pi=21\pi $$

ゆえに $\|y\|=\sqrt{21\pi}$ である(sympyで $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}(\sin x-2\sin2x+4\sin4x)^2dx$ を直接展開・積分し,$21\pi$ に一致することを検算済み).この計算からわかるように,互いに直交する関数 $\varphi_1,\varphi_2,\dots,\varphi_n$(ノルムがすべて $\sqrt\pi$)の1次結合 $y=\sum_kc_k\varphi_k$ については,一般に

$$ \|y\|^2=\pi\sum_k c_k^2 $$

という関係——交差項が直交性によってすべて消え,2乗の項の係数だけが残る——が成り立つ.これは次章以降で学ぶパーセバルの等式(Parseval's identity)の最初の姿である.

27.4 区分的に連続な関数と区分的に滑らかな関数

27.2節で関数の内積 $\langle f,g\rangle=\int_a^b f(x)g(x)\,dx$ を定義したとき,「この積分がきちんと意味を持つには,$f(x),g(x)$ がある程度素性のよい関数である必要がある」と述べ,正確な定義は本節に持ち越した.次章では,どんな周期関数がフーリエ級数(三角関数の無限級数)で表せるかを考えるが,そのためにも「扱ってよい関数のクラス」をきちんと決めておく必要がある.本節では,その土台となる2つの定義——区分的に連続な関数と区分的に滑らかな関数——を導入する.どちらも,グラフに折れ目やジャンプ(飛び)があってもよいが,「無茶苦茶に暴れてはいけない」という穏やかな条件を課すものである.

定義に入る前に,新しい記号を1つ準備しよう.高校数学では,$x\to x_0$ のときの極限 $\displaystyle\lim_{x\to x_0}f(x)$ を学んだ.これは「$x$ を(左からでも右からでも,どちらの方向からでもよいので)$x_0$ に近づけたときに $f(x)$ が近づく値」のことだった.ところが,$f(x)$ のグラフが $x_0$ でジャンプしている(不連続な)場合には,左から近づいたときと右から近づいたときとで,近づく先の値が違うことがある.そこで,近づく方向を区別した,次の2つの記号を導入する.

記号 片側極限(左側極限・右側極限)

$x$ を $x_0$ より真に小さい値をとりながら $x_0$ に近づけたときの $f(x)$ の極限を左側極限(left-hand limit)といい,

$$ \lim_{x\to x_0-0}f(x) $$

と書く(「$x_0-0$」は「$x_0$ よりわずかに小さい側から」という意味の記号であり,$x_0$ という1つの実数から $0$ を引いているわけではない).同様に,$x$ を $x_0$ より真に大きい値をとりながら $x_0$ に近づけたときの極限を右側極限(right-hand limit)といい,

$$ \lim_{x\to x_0+0}f(x) $$

と書く.左側極限と右側極限をあわせて片側極限(one-sided limit)とよぶ.$f(x)$ が $x_0$ で連続であるとは,左側極限・右側極限がともに存在し,かつその2つが一致し,しかもその値が $f(x_0)$($x_0$ での実際の関数値)にも一致することであった.片側極限どうしが一致しない,あるいはどちらか一方が存在しない場合,$f(x)$ は $x_0$ で不連続である.

片側極限の記号が手に入ったので,区分的に連続な関数を定義する準備が整った.いきなり抽象的な条件を並べる前に,まず具体的なグラフで感覚をつかんでおこう.

図27.3のグラフを見てほしい.有限個の点でジャンプしてはいるが,ジャンプ先・ジャンプ元の高さはどちらもきちんと定まった有限な値である——このような「行儀のよい」ジャンプなら許してあげよう,というのが,これから述べる定義の心である.

区分的に連続な関数の例 x a x0 x1 b
図27.3 区分的に連続な関数の例.端点 $a,b$ と不連続点 $x_0,x_1$ のいずれにおいても,片側極限が有限の値として存在する(黒丸はその点での実際の関数値,白丸はその側から近づいたときの極限値であって実際の関数値ではないことを表す).

一方,図27.4のグラフでは事情が異なる.途中で曲線が $\pm\infty$ に発散してしまっている区間があり,そこでは片側極限そのものが(有限の値として)存在しない——これは許したくない「暴れ方」である.図27.3と図27.4の違いこそが,次の定義27.3が区別しようとしている境界線である.

区分的に連続でない関数の例 x +∞ -∞ a x0 b
図27.4 区分的に連続でない関数の例.$x_0$ の左側極限,および図中2本目の破線の左側極限が,ともに有限な値として存在せず($\pm\infty$ に発散する),定義27.3の条件を満たさない.

定義27.3 区分的に連続な関数

閉区間 $[a,b]$ で定義された関数 $f(x)$ が,次の2条件をともに満たすとき,$f(x)$ を区間 $[a,b]$ で区分的に連続な関数(piecewise continuous function)という.

(i) $f(x)$ が連続でない点(不連続点)は,$[a,b]$ の中に高々有限個しかない.それらを $x_1,x_2,\dots,x_n$($a\lt x_1\lt x_2\lt\cdots\lt x_n\lt b$)とする.
(ii) それぞれの不連続点 $x_i$ において,左側極限 $\displaystyle\lim_{x\to x_i-0}f(x)$ と右側極限 $\displaystyle\lim_{x\to x_i+0}f(x)$ が,ともに(有限の値として)存在する.さらに,両端点 $a,b$ でも,区間の内側からの片側極限——$a$ では右側極限 $\displaystyle\lim_{x\to a+0}f(x)$,$b$ では左側極限 $\displaystyle\lim_{x\to b-0}f(x)$——が存在する.

イメージ:飛び跳ねてもよいが,発散してはいけない

区分的に連続な関数のグラフは,有限個の点で「ジャンプ」してもよい.ジャンプ先・ジャンプ元の高さがどちらもきちんと定まった実数の値であるかぎり——たとえ両者が一致していなくても——問題ない.禁止されているのは,グラフが $\pm\infty$ に発散してしまい,片側極限そのものが(有限の値として)存在しなくなることである.両端点 $a,b$ でも同様に,区間の内側から近づいたときに関数値が有限に収まっていなければならない.先に見た図27.3と図27.4は,まさにこの境目を示す好対照な例だった.

例27.2 区分的に連続な関数の例

先ほどの図27.3のグラフを,もう一度詳しく見よう.区間 $[a,b]$ の中に不連続点 $x_0,x_1$ が2つあり,$x_0$ ではグラフが下に飛び,$x_1$ ではグラフが上に飛んでいる(黒丸がその点での実際の関数値,白丸はその側からの極限値であって実際の関数値ではないことを表す).それぞれの点で,片側極限をチェックしよう.

$x_0$ では,左側極限 $\displaystyle\lim_{x\to x_0-0}f(x)$ は,黒丸の高さ(山型に立ち上がった先のピークの値)として有限に存在する.右側極限 $\displaystyle\lim_{x\to x_0+0}f(x)$ も,白丸の高さとして有限に存在する(両者は一致していない——ジャンプ不連続——が,どちらも有限な実数である点が重要である).$x_1$ でもまったく同様に,左側極限(白丸,$0$ の高さ)と右側極限(黒丸,やや高い値)がともに有限に存在する.両端点 $a,b$ でも,グラフは有限な値からなめらかに立ち上がり・下降しているだけなので,内側からの片側極限は問題なく存在する.以上より,不連続点は $x_0,x_1$ の2個(有限個)で,そのいずれでも片側極限が存在し,両端点でも内側極限が存在するから,定義27.3の条件(i)(ii)をともに満たし,この関数は区間 $[a,b]$ で区分的に連続である.

例27.3 区分的に連続でない関数の例

先ほどの図27.4のグラフを,もう一度詳しく見よう.$a$ から立ち上がったグラフが,$x_0$ に近づくにつれて上方の $+\infty$ に発散してしまっている(漸近線を破線で示した).したがって,左側極限 $\displaystyle\lim_{x\to x_0-0}f(x)$ は有限の値として存在しない($+\infty$ に発散する,というのは「極限が存在しない」ことの1つの言い方である).$x_0$ と(ラベルを省略した)次の不連続点のあいだでは山型の有限な区間があり,その先で今度は下方の $-\infty$ に発散してしまう.したがって,そこでも片側極限は存在しない.最後の区間はふたたび有限な値に収まり,$b$ まで問題なく続く.

不連続点の個数そのものは有限個だが,そのうちの2つ($+\infty,\ -\infty$ に発散する点)で片側極限が存在しないから,定義27.3の条件(ii)が満たされない.したがって,この関数は区分的に連続ではない.区分的に連続であるためには,「不連続点の個数が有限個であること」と「すべての不連続点・両端点で片側極限が(有限に)存在すること」の両方が必要であり,片方だけでは足りない,という好例である.

数学ノート:判別のコツ

区分的に連続かどうかを判定するときは,両端点の内側極限と,それぞれの不連続点の左右の極限が(有限な値として)存在するかどうかを1つずつ確認すればよい.発散($\pm\infty$)していなければ○,発散していれば×,とチェックしていく作業だと思うとわかりやすい.

区分的に連続な関数のクラスが決まったので,もう1段階,条件を強めたクラスを定義しよう.次章のフーリエ級数の定理では,「$f(x)$ が区分的に連続」というだけでは足りず,もう少し強い「区分的に滑らか」という条件を仮定することになる.

定義27.4 区分的に滑らかな関数

区間 $[a,b]$ で定義された関数 $f(x)$ と,その導関数(1階微分)$f'(x)$ が,ともに区間 $[a,b]$ で区分的に連続である(定義27.3の意味で)とき,$f(x)$ を区間 $[a,b]$ で区分的に滑らかな関数(piecewise smooth function)という.

言い換えると,「$f(x)$ 自身のグラフに有限個のジャンプがあってもよい.さらに,$f'(x)$(傾き)のグラフにも有限個のジャンプがあってもよい.ただし,$f(x)$ も $f'(x)$ も,$\pm\infty$ に発散してはいけない」という条件である.$f'(x)$ が区分的に連続であることを要求しているので,$f(x)$ のグラフの「折れ目」(コーナー,corner:左右で傾きが不連続に変わる点)は許されるが,接線の傾きが垂直($\pm\infty$)になってしまう「とがった尖点」(カスプ,cusp)は許されない,という違いが生まれる.2つの具体例で,この違いを確かめよう.

例27.4 区分的に滑らかな関数の例:$f(x)=\dfrac12x^2\ (-1\lt x\le1)$,周期2

周期 $2$ の関数 $f(x)$ を,1周期分の区間 $(-1,1]$ 上で $f(x)=\dfrac12x^2$ と定め,これを周期的に繰り返して得られる関数を考える(図27.5).この $f(x)$ が区分的に滑らかであることを確かめよう.

解答 まず $f(x)$ 自身の区分的連続性を調べる.$f(x)=\dfrac12x^2$ は $(-1,1]$ の内部ではどこでも連続な(多項式)関数であり,不連続の心配があるのは周期の継ぎ目($x=1,-1,3,\dots$)だけである.端点 $x=1$(この区間の右端点であり,同時に次の周期の左端点の手前でもある)で,

$$ \lim_{x\to1-0}f(x)=\lim_{x\to1-0}\frac12x^2=\frac12,\qquad \lim_{x\to-1+0}f(x)=\lim_{x\to-1+0}\frac12x^2=\frac12 $$

(右の極限は,次の周期区間 $(1,3]$ に入った直後の点を,$1$ つ手前の周期に平行移動して $(-1,1]$ の記法で考えたものである.)左右の極限がどちらも有限な値 $\dfrac12$ として存在する(さらに一致してもいる——実はこの周期関数は継ぎ目でも連続である).したがって $f(x)$ は区分的に連続である.

次に $f'(x)$ を調べる.$(-1,1)$ の内部では $f'(x)=x$(多項式の微分,$\left(\frac12x^2\right)'=x$)であり,これもどこでも連続である.継ぎ目 $x=1,-1$ での片側極限は,

$$ \lim_{x\to1-0}f'(x)=\lim_{x\to1-0}x=1,\qquad \lim_{x\to-1+0}f'(x)=\lim_{x\to-1+0}x=-1 $$

(sympyで検算済み:verify/univmath/ch27_examples.py).どちらも有限な値($1$ と $-1$)として存在する(一致していない——$x=1$ で $f'$ にジャンプがある,つまり図27.6のような「折れ目」ができる——が,有限であることが重要である).したがって $f'(x)$ も区分的に連続である.$f(x)$ と $f'(x)$ がともに区分的に連続だから,定義27.4より $f(x)=\dfrac12x^2\ (-1\lt x\le1)$ は区分的に滑らかな関数である.

f(x)=2分の1x2乗を周期2で繰り返したグラフ.各周期の中で下に凸な放物線の弧が並び,x=-1,1,3などの継ぎ目で頂点(値2分の1)をとり,x=0,2,-2などの谷でy=0となる山型の繰り返し波形
図27.5 $f(x)=\dfrac12x^2\ (-1\lt x\le1)$ を周期 $2$ で繰り返したグラフ.継ぎ目 $x=-1,1,3,\dots$ でも関数値そのものは連続につながっているが(黒丸),傾きは左右で食い違う(折れ目,図27.6参照).
f'(x)=xを周期2で繰り返したのこぎり波のグラフ.各周期の中で傾き1の直線が右上がりに伸び,継ぎ目でグラフが上端の白丸から下端の白丸へ不連続に飛び降りる
図27.6 $f'(x)=x\ (-1\lt x\lt1)$ を周期 $2$ で繰り返した「のこぎり波」.継ぎ目のたびに,上端の白丸(左側極限 $1$)から下端の白丸(右側極限 $-1$)へジャンプする——このジャンプの高さがどちらも有限であることが,図27.5の $f(x)$ が区分的に滑らかであるための鍵である.

例27.5 区分的に滑らかでない関数の例:$g(x)=\sqrt{1-x^2}\ (-1\lt x\le1)$,周期2

周期 $2$ の関数 $g(x)$ を,$(-1,1]$ 上で $g(x)=\sqrt{1-x^2}$ と定めて周期的に繰り返す(図27.7).この $g(x)$ が区分的に滑らかでないことを確かめよう.

解答 $g(x)=\sqrt{1-x^2}$ 自身は,$(-1,1]$ の内部で連続であり,継ぎ目 $x=1,-1$ でも $g(1)=\sqrt{1-1}=0$,$\displaystyle\lim_{x\to-1+0}g(x)=\sqrt{1-1}=0$ で一致するから,$g(x)$ は(連続,したがって)区分的に連続である.問題は導関数 $g'(x)$ の方である.合成関数の微分($\sqrt{u}$ の微分は $\frac{1}{2\sqrt u}$,$u=1-x^2$ の微分は $-2x$)より,

$$ g'(x)=\frac{1}{2\sqrt{1-x^2}}\cdot(-2x)=-\frac{x}{\sqrt{1-x^2}} $$

である.継ぎ目に近づいたときの片側極限を調べると,

$$ \lim_{x\to1-0}g'(x)=\lim_{x\to1-0}\left(-\frac{x}{\sqrt{1-x^2}}\right)=-\infty,\qquad \lim_{x\to-1+0}g'(x)=\lim_{x\to-1+0}\left(-\frac{x}{\sqrt{1-x^2}}\right)=+\infty $$

(分母 $\sqrt{1-x^2}\to0{+}$ なのに対し分子は $-1$ や $+1$ に近い有限な値に近づくため,比全体は $\mp\infty$ に発散する.sympyで検算済み.)どちらの片側極限も有限な値として存在しない.したがって $g'(x)$ は $x=\pm1$ で区分的に連続の条件(ii)を満たさず,$g'(x)$ は区分的に連続でない.よって定義27.4より,$g(x)$ は区分的に滑らかでない.

図27.7を見ると,$g(x)$ 自身のグラフは(値が飛ばないという意味で)なめらかにつながっているが,継ぎ目のところで山が鋭くとがった「カスプ」になっている——これはまさに,接線の傾きがそこで垂直($\pm\infty$)になっていることの視覚的な表れである.例27.4の $f(x)=\frac12x^2$ が滑らかな山型(丸みを帯びた頂点)だったのと対照的である.

g(x)=ルート1-xの2乗を周期2で繰り返したグラフ.各周期の中で上に凸な半円弧が並び,x=-1,1,3などでy=0に鋭く落ち込むカスプ状の山型の繰り返し波形
図27.7 $g(x)=\sqrt{1-x^2}\ (-1\lt x\le1)$ を周期 $2$ で繰り返したグラフ.関数値は継ぎ目でも連続だが,接線の傾きが継ぎ目で垂直($\pm\infty$)になる「カスプ」ができており,区分的に滑らかではない.

例27.4・例27.5は,どちらも周期の継ぎ目(区間の端点)で何が起きるかを調べる例だった.次の3つの例題では,区間の内部で何が起きるか,そして「連続だが区分的に滑らかでない」関数の別の顔を見ていこう.

例題27.4 絶対値関数の区分的な滑らかさ(内部の折れ目)

周期 $2$ の関数 $f(x)$ を,$(-1,1]$ 上で $f(x)=|x|$(絶対値)と定めて周期的に繰り返す.この $f(x)$ は区分的に滑らかか.

解答 まず区間の内部の点 $x=0$ を調べる.$f(x)=|x|$ は $x=0$ で連続である($f(0)=0$,$\displaystyle\lim_{x\to0}|x|=0$).導関数は,$x\gt0$ で $f'(x)=1$,$x\lt0$ で $f'(x)=-1$(絶対値の定義から,$x\gt0$ では $f(x)=x$,$x\lt0$ では $f(x)=-x$ であることによる).したがって,

$$ \lim_{x\to0+0}f'(x)=1,\qquad\lim_{x\to0-0}f'(x)=-1 $$

(sympyで検算済み).両方とも有限な値なので,$x=0$ で $f'(x)$ は片側極限を持つ(一致していない——$x=0$ に「折れ目」がある——が,どちらも有限なので構わない).

次に周期の継ぎ目 $x=1\,(=-1)$ を調べる.$f(1)=|1|=1$ であり,次の周期に入った直後($(-1,1]$ の記法に平行移動すると $x=-1$ 付近)の値は $\displaystyle\lim_{x\to-1+0}|x|=1$ で一致するから,$f(x)$ はここでも連続である.導関数の片側極限は,$x\to1-0$ では $f(x)=x$ の側から $f'(x)\to1$,継ぎ目を越えた直後($x\to-1+0$ の側)では $f(x)=-x$ の側から $f'(x)\to-1$ であり,どちらも有限である(ここにも折れ目がある).

以上より,$f(x)=|x|$ は,区間の内部($x=0$)と周期の継ぎ目($x=\pm1$)の2種類の点で折れ目を持つが,そのどちらでも $f'(x)$ の片側極限は有限に存在する.したがって $f(x)$ は区分的に滑らかである.「区分的に滑らか」という条件は,折れ目(コーナー)がいくつあっても——それが区間のどこにあっても——,傾きが有限にジャンプするだけなら許す,という条件なのである.

例題27.5 方形波の区分的な滑らかさ(先取り)

周期 $2\pi$ の関数 $f(x)$ を,$-\pi\lt x\le\pi$ 上で

$$ f(x)=\begin{cases}-\dfrac{\pi}{4} & (-\pi\lt x\le0)\\[4pt] \dfrac{\pi}{4} & (0\lt x\le\pi)\end{cases} $$

と定め(これは方形波,square wave とよばれる代表的な周期関数であり,27.3節の「先取り」で触れた $y=\sin x+\frac13\sin3x+\frac15\sin5x+\cdots$ の行き着く先である——詳しくは次章で扱う),周期的に繰り返す.この $f(x)$ は区分的に滑らかか.

解答 まず不連続点を数える.1周期 $(-\pi,\pi]$ の中では,$x=0$ の前後で値が $-\dfrac\pi4$ から $\dfrac\pi4$ へジャンプする.また,周期の継ぎ目 $x=\pi\,(=-\pi)$ でも,$f(\pi)=\dfrac\pi4$($0\lt x\le\pi$ の側の値)から,次の周期に入った直後の値 $\displaystyle\lim_{x\to-\pi+0}f(x)=-\dfrac\pi4$ へジャンプする.したがって,1周期あたり不連続点はちょうど2個($x=0$ と $x=\pi$)であり,有限個である.

それぞれの不連続点での片側極限を調べると,$x=0$ では

$$ \lim_{x\to0-0}f(x)=-\frac{\pi}{4},\qquad\lim_{x\to0+0}f(x)=\frac{\pi}{4} $$

($f(x)$ は $x\le0$ で定数 $-\pi/4$,$x\gt0$ で定数 $\pi/4$ だから,片側極限はそれぞれの定数の値そのものである.sympyで検算済み.)どちらも有限である.$x=\pi$ でも同様に,$\displaystyle\lim_{x\to\pi-0}f(x)=\frac\pi4$,$\displaystyle\lim_{x\to-\pi+0}f(x)=-\frac\pi4$ で,どちらも有限である.したがって $f(x)$ は区分的に連続である.

次に $f'(x)$ を調べる.$f(x)$ は,$0$ でない有限な区間の内部ではつねに定数($-\pi/4$ または $\pi/4$)だから,各区間の内部で $f'(x)=0$ である(定数関数の導関数は $0$).したがって,不連続点 $x=0,\pi$ における $f'(x)$ の片側極限も,どちら側から近づいても(定数関数 $0$ の極限として)$0$ であり,有限に存在する.よって $f'(x)$ も区分的に連続である.

$f(x)$ と $f'(x)$ がともに区分的に連続だから,方形波 $f(x)$ は区分的に滑らかな関数である.じつは,「値が定数の区間をつないだだけの階段状の関数」(区分的に定数な関数)は,$f'$ がどこでも $0$(有限)になるので,つねに自動的に区分的に滑らかになる——これは次章以降で頻繁に登場する重要な事実である.

例題27.6 区間の内部にできるカスプ

周期 $2$ の関数 $g(x)$ を,$(-1,1]$ 上で $g(x)=\sqrt{|x|}$ と定めて周期的に繰り返す.この $g(x)$ は区分的に滑らかか.

解答 例27.5の $g(x)=\sqrt{1-x^2}$ では,カスプ(接線の傾きが垂直になる点)は周期の継ぎ目 $x=\pm1$ にできていた.今度は,区間の内部 $x=0$ で何が起きるかを見る.まず $g(x)=\sqrt{|x|}$ は $x=0$ で連続である($g(0)=\sqrt{|0|}=0$,$\displaystyle\lim_{x\to0}\sqrt{|x|}=0$).導関数は,$x\gt0$ で $g(x)=\sqrt{x}$ より $g'(x)=\dfrac{1}{2\sqrt x}$,$x\lt0$ で $g(x)=\sqrt{-x}$ より $g'(x)=-\dfrac{1}{2\sqrt{-x}}$ である.したがって,

$$ \lim_{x\to0+0}g'(x)=\lim_{x\to0+0}\frac{1}{2\sqrt x}=+\infty,\qquad \lim_{x\to0-0}g'(x)=\lim_{x\to0-0}\left(-\frac{1}{2\sqrt{-x}}\right)=-\infty $$

(sympyで検算済み).どちらの片側極限も有限な値として存在しない.したがって $g'(x)$ は $x=0$ で区分的に連続の条件を満たさず,$g(x)$ は区分的に滑らかでない.

この例からわかるように,「連続だが滑らかでない」尖った関数(カスプを持つ関数)は,周期の継ぎ目だけでなく,区間の内部のどこにでも現れうる.$g(x)=\sqrt{|x|}$ のグラフは,$x=0$ で $y$ 軸方向に垂直に切り立った,鋭い「V字」を逆さにしたような(上に凸の)とがった山になっている——例27.5の継ぎ目のカスプと,まったく同じ現象が区間の途中で起きている,と考えればよい.

27.5 まとめと演習

27.5.1 まとめ

\begin{align} \int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\cos nx\,dx=\pi\,\delta_{mn},\qquad \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\sin nx\,dx=\pi\,\delta_{mn},\qquad \int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\cos nx\,dx=0 \label{eq:27-key-orth} \end{align} \begin{align} \langle f,g\rangle=\int_a^b f(x)g(x)\,dx,\qquad \|f\|=\sqrt{\langle f,f\rangle},\qquad |\langle f,g\rangle|\le\|f\|\,\|g\|,\qquad \|f+g\|\le\|f\|+\|g\| \label{eq:27-key-innerprod} \end{align}

27.5.2 演習問題

演習27.1 直交性の公式を使って積分を計算する

次の定積分を計算せよ.

$$ \int_{-\pi}^{\pi}\left(5\sin3x-2\cos7x+1\right)\sin3x\,dx $$

ヒント:被積分関数を展開し,積分の線形性で3つの項に分ける.例題27.1と同じ要領で,公式27.3〜27.5(および公式27.1)を1つずつ当てはめる.

演習27.2 区間 $[0,2\pi]$ でも直交性は成り立つか

本章の直交性の公式は,すべて区間 $[-\pi,\pi]$ 上の積分として証明した.では,区間を $[0,2\pi]$ に変えても,同じ直交性——たとえば $\displaystyle\int_0^{2\pi}\cos2x\cos3x\,dx=0$——は成り立つだろうか.実際に積分を計算して確かめよ.また,一般に,積分区間を「長さが1周期($2\pi$)である区間」ならどこにとっても直交性が成り立つ理由を,$\sin,\cos$ が周期 $2\pi$ の関数であることに触れながら説明せよ.

ヒント:周期関数を1周期分積分した値は,積分区間を(1周期分の長さを保ったまま)平行移動しても変わらない.

演習27.3 三角関数以外の関数どうしの内積とノルム

区間 $[0,1]$ 上で $f(x)=e^x,\ g(x)=1$(定数関数)とする.$\langle f,g\rangle,\ \|f\|,\ \|g\|$ をそれぞれ求め,シュワルツの不等式 $|\langle f,g\rangle|\le\|f\|\|g\|$ が実際に成り立つことを確認せよ.

ヒント:$\displaystyle\int_0^1e^x\,dx=e-1$,$\displaystyle\int_0^1e^{2x}\,dx=\frac{e^2-1}{2}$(第5章の指数関数の積分公式)を使う.

演習27.4 直交する基底の係数からノルムを求める

$y=2\cos x+\cos3x-\cos5x$ とする.$[-\pi,\pi]$ 上でのノルム $\|y\|$ を求めよ.

ヒント:例題27.3とまったく同じ考え方が使える.$\cos x,\cos3x,\cos5x$ は互いに直交し,ノルムはすべて $\sqrt\pi$ である.

演習27.5 区分的連続性が破れる例

区間 $[-1,1]$ で,$f(x)=\dfrac1x\ (x\neq0)$,$f(0)=0$ と定める.この $f(x)$ は区間 $[-1,1]$ で区分的に連続だろうか.理由とともに答えよ.

ヒント:$x=0$ における片側極限 $\displaystyle\lim_{x\to0+0}\frac1x$,$\displaystyle\lim_{x\to0-0}\frac1x$ を調べる.定義27.3のどの条件に反するか,具体的に指摘すること.

演習27.6 三角不等式の数値確認

区間 $[-1,1]$ 上で $f(x)=x,\ g(x)=x^2$ とする(例題27.2と同じ関数である).$\|f+g\|$ と $\|f\|+\|g\|$ をそれぞれ計算し,定理27.2(三角不等式)$\|f+g\|\le\|f\|+\|g\|$ が実際に成り立つことを数値で確認せよ.

ヒント:$\|f\|,\|g\|$ の値は例題27.2で求めた.$\|f+g\|^2=\displaystyle\int_{-1}^1(x+x^2)^2dx$ を直接計算する.

27.5.3 参考文献

  1. 望月泰英『数学ノート フーリエ級数と変換』(手書き講義ノート).本章の底本.
  2. 金谷健一『これなら分かる応用数学教室 — 最小二乗法からウェーブレットまで』共立出版,2003年.
  3. 大石進一『フーリエ解析』岩波書店,1989年.
  4. 高木貞治『解析概論』岩波書店,改訂第3版,1983年.