大学数学 — 目次 第V部 複素解析学 / 第21章

第21章複素数と複素平面

方程式 $x^2+1=0$ は,実数の中には解を持たない.しかし「2乗すると $-1$ になる数」を $i$(虚数単位,imaginary unit)という新しい記号で名付け,実数 $a,b$ を使って $z=a+bi$ という形の数(複素数,complex number)の世界にまで数の範囲を広げると,この方程式にも $x=\pm i$ という解が現れる.ここまでは高校数学IIで学んだとおりである.本章から始まる第V部「複素解析学」では,この複素数を単なる「解の集合を広げるための道具」としてではなく,平面上の点(あるいは原点からの矢印)として捉え直し,そこに広がる幾何学と解析学——複素解析学(complex analysis)——の入り口に立つ.

複素数 $z=a+bi$ を,$x$ 座標が $a$,$y$ 座標が $b$ である平面上の点,すなわち複素平面(complex plane,ガウス平面とも呼ぶ)上の点として見ると,それまで代数的な計算規則にすぎなかった複素数の四則演算に,長さ・角度・回転といった幾何学的な意味が宿る.たとえば「2つの複素数を掛け合わせる」という演算は,実は「長さ(絶対値)を掛け合わせ,角度(偏角)を足し合わせる」という,驚くほど単純な操作に等しいことを本章で確かめる.この事実の背後にあるのが,指数関数と三角関数を結びつけるオイラーの公式 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$ であり,これは工学・物理学・材料科学のあらゆる場所——交流回路のインピーダンス,波動や振動の記述,量子力学の波動関数の位相,フーリエ変換(第30章)やラプラス変換(第31章)——に現れる,理系の基礎体力とも言うべき道具である.本章では,この公式を天下り的に受け入れるのではなく,第4章で学んだマクローリン展開を使って自分の手で導出する.

この章で学ぶこと
  • 複素数の絶対値 $|\alpha|=\sqrt{a^2+b^2}$ を「原点からの距離」として導入し,$|\alpha|^2=\alpha\bar\alpha$,$|\alpha|=|-\alpha|=|\bar\alpha|=|-\bar\alpha|$ などの基本性質を証明する
  • 複素数の極形式 $z=r(\cos\theta+i\sin\theta)$($r=|z|$,$\theta=\arg z$)を,実軸方向・虚軸方向の単位ベクトルによる分解として導入する
  • 極形式どうしの積・商が,加法定理を通じて「絶対値の積・商」と「偏角の和・差」に分解されること
  • ド・モアブルの定理 $(\cos\theta+i\sin\theta)^n=\cos n\theta+i\sin n\theta$ の数学的帰納法による証明と,$|e^{i\theta}|=1$,$\overline{e^{i\theta}}=e^{-i\theta}$ などの性質
  • オイラーの公式 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$ のマクローリン展開による導出(第4章の復習を兼ねる)
  • $1$ の $n$ 乗根が複素平面上の正 $n$ 角形の頂点をなすこと,そして「$i$ を掛けることは90°回転すること」という回転作用素としての見方
  • 三角関数 $\cos\theta,\sin\theta$ と双曲線関数 $\cosh x,\sinh x$ が,虚数を代入することで互いに移り合うこと($\cos ix=\cosh x$ など)
  • 複素平面上の直線・円の方程式を,$z$ とその共役 $\bar z$ だけを使って表す方法
前提:高校数学IIで学ぶ複素数の基本($i^2=-1$,$a+bi$ の形の複素数,共役複素数 $\bar z=a-bi$ の定義,複素数平面の初歩)は既知として話を進めるが,21.1節の冒頭で要点を手短に復習する.高校数学 第5章(三角関数の加法定理と諸公式)の加法定理 $\cos(\alpha\pm\beta)=\cos\alpha\cos\beta\mp\sin\alpha\sin\beta$,$\sin(\alpha\pm\beta)=\sin\alpha\cos\beta\pm\cos\alpha\sin\beta$ を頻繁に使う.第4章(テイラーの定理と関数の展開:マクローリン展開)はオイラーの公式の証明で使う.高校数学 第7章(ベクトル)で学んだ,ベクトルを基底の1次結合で分解する考え方(第15章〈ベクトルの内積と外積〉でも再度扱う)も使う.数学的帰納法(高校数学B)も既習として使う.
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 複素解析学』 pp. 1–8.

21.1 複素数の絶対値と共役複素数

複素解析学の第一歩として,まず高校数学IIで学んだ複素数の基本語彙を手短に復習しておく.

定義21.1 複素数と共役複素数(復習)

2乗すると $-1$ になる数を虚数単位(imaginary unit)と呼び,$i$ で表す:$i^2=-1$.実数 $a,b$ を用いて $z=a+bi$ の形に表される数を複素数(complex number)と呼び,複素数全体の集合を $\C$ で表す.$a$ を $z$ の実部(real part,$\operatorname{Re}z$ とも書く),$b$ を $z$ の虚部(imaginary part,$\operatorname{Im}z$)と呼ぶ.また,虚部の符号だけを反転させた複素数 $\bar z=a-bi$ を $z$ の共役複素数(complex conjugate)と呼ぶ.

複素数 $z=a+bi$ は,実部 $a$ を横軸($x$軸),虚部 $b$ を縦軸($y$軸)にとった平面上の点 $(a,b)$ に対応させることができる.この平面を複素平面(complex plane)と呼び,横軸を実軸,縦軸を虚軸と呼ぶ.以下,本章では複素数 $\alpha,z$ を,複素平面上の原点 $O$ から点 $\alpha,z$ に向かって伸びるベクトル(矢印)として図示する.

21.1.1 複素数の絶対値 — 距離としての定義

定義21.2 複素数の絶対値(大きさ)

複素数 $\alpha=a+bi$ を複素平面上の点 $(a,b)$ とみなす.原点 $O(0,0)$ から点 $\alpha$ までの距離を $\alpha$ の絶対値(absolute value)または大きさ(modulus)と呼び,$|\alpha|$ で表す.

この距離を,座標 $a,b$ を使った式で表そう.原点 $O$,点 $(a,0)$,点 $\alpha=(a,b)$ の3点を頂点とする三角形を考える(図21.1).辺 $O$–$(a,0)$ の長さは $|a|$,辺 $(a,0)$–$\alpha$ の長さは $|b|$ であり,この2辺は互いに直交する(一方は実軸に平行,他方は実軸に垂直だから).したがって,斜辺 $O$–$\alpha$ の長さが,求めたい距離 $|\alpha|$ である.中学校で学んだ三平方の定理(ピタゴラスの定理,Pythagorean theorem;直角三角形において,斜辺の長さの2乗は他の2辺の長さの2乗の和に等しいという定理)を,この直角三角形に適用すると,

$$|\alpha|^2=|a|^2+|b|^2=a^2+b^2$$

(実数 $a$ に対して $|a|^2=a^2$ である.符号によらず2乗すれば同じ値になるからである.)両辺とも $0$ 以上の実数なので,平方根をとってよく,

\begin{equation} |\alpha|=\sqrt{a^2+b^2}\label{eq:21-abs} \end{equation}

が得られる.

複素数αの絶対値 実軸 虚軸 O α=(a,b) |α| a b
図21.1 複素数 $\alpha=a+bi$ の絶対値 $|\alpha|=\sqrt{a^2+b^2}$.原点 $O$,点 $(a,0)$,点 $\alpha$ を結ぶ直角三角形に三平方の定理を適用する.

21.1.2 絶対値と共役複素数の関係

公式21.1 $|\alpha|^2=\alpha\bar\alpha$

$\alpha=a+bi$ とすると $\bar\alpha=a-bi$ である.積 $\alpha\bar\alpha$ を計算する.

$$\alpha\bar\alpha=(a+bi)(a-bi)=a\cdot a+a\cdot(-bi)+bi\cdot a+bi\cdot(-bi)=a^2-abi+abi-b^2i^2$$

(分配法則で4つの項に展開した.)中央の2項 $-abi$ と $+abi$ は互いに打ち消し合う.また $i^2=-1$ なので $-b^2i^2=-b^2\cdot(-1)=b^2$.よって

$$\alpha\bar\alpha=a^2+b^2$$

一方,式 \eqref{eq:21-abs} の両辺を2乗すれば $|\alpha|^2=a^2+b^2$ であった.右辺が一致するので,

\begin{equation} \therefore |\alpha|^2=\alpha\bar\alpha\label{eq:21-abssq} \end{equation}

(証明終わり)

なぜ重要か:$|\alpha|^2=\alpha\bar\alpha$ の使いどころ

式 \eqref{eq:21-abssq} は,「絶対値の2乗」という幾何学的な量を,「複素数どうしの積」という代数的な計算に翻訳してくれる,複素解析全体で最も頻繁に使う変換公式の1つである.特に,複素数を分母に持つ分数を実数の分母に直したいとき(21.3節の商の計算で使う),分母の複素数とその共役を掛けて $|\text{分母}|^2$ という実数を作り出す,という手法の理論的根拠になっている.

公式21.2 $|\alpha|=|-\alpha|=|\bar\alpha|=|-\bar\alpha|$

複素数 $\alpha=a+bi$ に対して,$-\alpha=-a-bi$,$\bar\alpha=a-bi$,$-\bar\alpha=-a+bi$ である.絶対値の定義(定義21.2)より,これらはそれぞれ複素平面上の点 $(-a,-b)$,$(a,-b)$,$(-a,b)$ に対応する.絶対値の公式(式 \eqref{eq:21-abs})を使うと,

$$|-\alpha|=\sqrt{(-a)^2+(-b)^2}=\sqrt{a^2+b^2}=|\alpha|,\qquad |\bar\alpha|=\sqrt{a^2+(-b)^2}=\sqrt{a^2+b^2}=|\alpha|$$ $$|-\bar\alpha|=\sqrt{(-a)^2+b^2}=\sqrt{a^2+b^2}=|\alpha|$$

(座標の符号を反転させても,2乗すれば符号は消えるので,根号の中身は変わらない.)よって4つの絶対値はすべて等しい.

イメージ:4点は原点を中心とする長方形の頂点

絶対値は「原点からの距離」だったから,$|\alpha|=|-\alpha|=|\bar\alpha|=|-\bar\alpha|$ は「この4点はすべて原点を中心とする同じ円周上にある」ことを意味する.実際には,4点 $\alpha=(a,b)$,$-\bar\alpha=(-a,b)$,$-\alpha=(-a,-b)$,$\bar\alpha=(a,-b)$ は,$x$座標・$y$座標がそれぞれ $\pm a,\pm b$ の組み合わせなので,原点を中心とする長方形の4頂点をなす(図21.2).対角線 $\alpha$–$(-\alpha)$ と $(-\bar\alpha)$–$\bar\alpha$ は,どちらも原点を通る.

4点 α, -α, ᾱ, -ᾱ の対称性 実軸 虚軸 O α -α α -α
図21.2 $\alpha,-\alpha,\bar\alpha,-\bar\alpha$ は原点を中心とする長方形の4頂点をなし,原点からの距離(絶対値)はすべて等しい.

21.1.3 実軸と虚軸の線形独立性

複素数全体の集合 $\C$ は,実数を係数とするベクトル空間ともみなせる(第10章「線形空間」参照).実軸方向の基底ベクトルを $e_R=1$,虚軸方向の基底ベクトルを $e_I=i$ とおくと,任意の複素数 $z=a+bi$ は $z=a\,e_R+b\,e_I$($a,b\in\R$)の形に表される.ここで,$e_R,e_I$ が実数係数に関して線形独立(linearly independent;$C_1e_R+C_2e_I=0$ を満たす実数の組 $(C_1,C_2)$ が $(0,0)$ に限られること)であることを確認しておこう.これは,のちの議論で「複素数の実部どうし,虚部どうしを比べてよい」という操作の理論的な裏付けになる.

定理21.1 実軸・虚軸の線形独立性

$C_1,C_2\in\R$ とする.$C_1e_R+C_2e_I=0$ ならば,$C_1=C_2=0$ である.

証明

$e_R=1,\ e_I=i$ を代入すると,

$$C_1e_R+C_2e_I=C_1\cdot1+C_2\cdot i=C_1+C_2i$$

これが $0$ に等しいとする.複素数 $C_1+C_2i$(実部 $C_1$,虚部 $C_2$)が $0$(実部も虚部も $0$ である複素数)に等しいということは,実部どうし・虚部どうしがそれぞれ等しい,すなわち $C_1=0$ かつ $C_2=0$ ということに他ならない.

(ノートの原文ではこの式を $C_1e_R+iC_2e_I=0$ と,虚軸成分に改めて $i$ を掛ける形で書いている.これは,$e_R,e_I$ を「大きさ $1$ の実2次元平面の基底ベクトル」とみなし,その虚軸成分をあとから $i$ 倍して初めて複素数に埋め込む,という書き方に相当する.本書ではあらかじめ $e_R=1,\ e_I=i$ と,$e_I$ 自身に $i$ を含めて定めた(21.1.3節の定義)ので,改めて $i$ を掛ける必要はなく,上のように $C_1e_R+C_2e_I=C_1+C_2i$ となる.)

$$\therefore C_1=C_2=0$$

(証明終わり)

例題21.1 絶対値の性質の確認

$z=3-4i$ について,次を求めよ.(1) $|z|$.(2) $z\bar z$ を計算し,$|z|^2=z\bar z$(式 \eqref{eq:21-abssq})を確かめよ.(3) $-z,\ \bar z,\ -\bar z$ の絶対値をそれぞれ求め,公式21.2 を確かめよ.

解答 (1) $a=3,\ b=-4$ なので,式 \eqref{eq:21-abs} より

$$|z|=\sqrt{3^2+(-4)^2}=\sqrt{9+16}=\sqrt{25}=5$$

(2) 共役複素数は虚部の符号だけを反転させるので $\bar z=3+4i$.よって

$$z\bar z=(3-4i)(3+4i)=3^2-(4i)^2=9-16i^2=9-16\cdot(-1)=9+16=25$$

($(A-B)(A+B)=A^2-B^2$ の形の展開を使った.$A=3,B=4i$.)$|z|^2=5^2=25$ であったから,$z\bar z=|z|^2$ が確かに成り立つ.

(3) $-z=-3+4i$ より $|-z|=\sqrt{(-3)^2+4^2}=\sqrt{9+16}=5$.$\bar z=3+4i$ より $|\bar z|=\sqrt{3^2+4^2}=5$.$-\bar z=-3-4i$ より $|-\bar z|=\sqrt{(-3)^2+(-4)^2}=5$.いずれも $|z|=5$ に一致し,公式21.2 が確かめられた.

21.2 複素数の極形式 — 長さと角度で表す

21.1節で扱った絶対値 $|z|$ は,複素数 $z$ の「大きさ」だけを取り出す量であった.しかし,複素平面上のベクトルとして $z$ を完全に指定するには,大きさに加えて「向き」も必要である.この節では,原点から $z$ へ向かう矢印が実軸の正方向となす角度を使って,$z$ を「長さ $r$ と角度 $\theta$ の組」として表す極形式を導入する.以下,$z\ne0$ とする($z=0$ には向きが定義できない).

21.2.1 ベクトルの1次結合による極形式の導出

$z=a+bi$ とする.21.1.3節の記号を使うと,$z=a\,e_R+b\,e_I$($e_R=1$:実軸方向の単位ベクトル,$e_I=i$:虚軸方向の単位ベクトル)と書けた.$r=|z|=\sqrt{a^2+b^2}$($z\ne0$ より $r>0$)とし,原点から $z$ へ向かう矢印が実軸の正方向となす角(反時計回りに測る)を $\theta$ とおく.図21.3のように,原点・点$(a,0)$・点$z=(a,b)$ を頂点とする直角三角形において,斜辺の長さが $r$,$\theta$ を挟む隣辺(実軸方向)の長さが $a$,対辺(虚軸方向)の長さが $b$ であるから,三角比の定義(高校数学 第3章「図形と計量」参照)より,

$$\cos\theta=\frac{a}{r},\qquad \sin\theta=\frac{b}{r}\qquad\text{すなわち}\qquad a=r\cos\theta,\quad b=r\sin\theta$$

が成り立つ.これを $z=a\,e_R+b\,e_I$ に代入すると,

$$z=(r\cos\theta)\cdot e_R+(r\sin\theta)\cdot e_I=(r\cos\theta)\cdot1+(r\sin\theta)\cdot i=r\cos\theta+ir\sin\theta$$

($e_R=1,\ e_I=i$ を代入し,実数の積の順序を入れ替えただけである.)右辺を $r$ でくくれば,

\begin{equation} \therefore z=r(\cos\theta+i\sin\theta)\label{eq:21-polar} \end{equation}

が得られる.

定義21.3 複素数の偏角と極形式

$z\ne0$ とする.原点から $z$ へ向かう矢印が実軸の正方向となす角(反時計回りを正とする)を $z$ の偏角(argument)と呼び,$\arg z$ で表す.$r=|z|$,$\theta=\arg z$ とおくとき,式 \eqref{eq:21-polar} の形の表示 $z=r(\cos\theta+i\sin\theta)$ を $z$ の極形式(polar form)と呼ぶ.

$\cos,\sin$ は周期 $2\pi$ の関数なので,$\theta$ を $2\pi$ の整数倍だけずらしても同じ複素数 $z$ を表す.したがって $\arg z$ は,$2\pi$ の整数倍の違いを除いて一意に定まる(本書では特に断らない限り,$\theta$ の範囲は限定しない).

極形式によるベクトル分解 実軸 虚軸 eR=1 eI=i θ O z r=|z| a b
図21.3 $z=a\,e_R+b\,e_I$ を,$r=|z|$,$\theta=\arg z$ を使って $z=r(\cos\theta+i\sin\theta)$ と表す.

21.2.2 別解:絶対値の公式から直接くくり出す

別解(もう1つの導き方)

先ほどとは独立に,21.1節の絶対値の公式(式 \eqref{eq:21-abs})だけから極形式を導くこともできる.$z=a+bi\ (z\ne0)$ とし,$r=|z|=\sqrt{a^2+b^2}$ とおく.$z$ の実部・虚部から $r$ を無理やりくくり出す:

$$z=a+bi=\sqrt{a^2+b^2}\left(\frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}+i\,\frac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}\right)=r\left(\frac{a}{r}+i\,\frac{b}{r}\right)$$

(分子・分母をどちらも $r=\sqrt{a^2+b^2}$ で割っただけで,値は変わらない.)ここで,$\left(\dfrac{a}{r}\right)^2+\left(\dfrac{b}{r}\right)^2=\dfrac{a^2+b^2}{r^2}=\dfrac{r^2}{r^2}=1$ が成り立つので,$\dfrac{a}{r},\dfrac{b}{r}$ を座標とする点は単位円周上にある.したがって,ある角 $\theta$ を用いて

$$\frac{a}{r}=\cos\theta,\qquad \frac{b}{r}=\sin\theta$$

と表せる(単位円上の点は,$x$座標が $\cos\theta$,$y$座標が $\sin\theta$ となる角 $\theta$ をちょうど1つ,$2\pi$ の違いを除いて持つ).これを代入すれば,

$$\therefore z=r(\cos\theta+i\sin\theta)$$

となり,式 \eqref{eq:21-polar} が別の道筋からも確認できた.

例題21.2 極形式への変換

$z=1+\sqrt3\,i$ を極形式 $z=r(\cos\theta+i\sin\theta)$ で表せ.

解答 $a=1,\ b=\sqrt3$ である.式 \eqref{eq:21-abs} より,

$$r=|z|=\sqrt{1^2+(\sqrt3)^2}=\sqrt{1+3}=\sqrt4=2$$

次に $\theta$ を求める.

$$\cos\theta=\frac{a}{r}=\frac{1}{2},\qquad \sin\theta=\frac{b}{r}=\frac{\sqrt3}{2}$$

$\cos\theta=\frac12$ かつ $\sin\theta=\frac{\sqrt3}{2}$ を同時に満たす角は $\theta=\dfrac{\pi}{3}$($60°$)である(高校数学 第3章の三角比の表を思い出そう).よって,

$$z=2\left(\cos\frac{\pi}{3}+i\sin\frac{\pi}{3}\right)$$

(検算:$2\cos\frac{\pi}3+2i\sin\frac{\pi}3=2\cdot\frac12+2i\cdot\frac{\sqrt3}2=1+\sqrt3i=z$ で元に戻る.)

21.3 極形式による積と商 — 角度の足し算・引き算

極形式のありがたみは,掛け算・割り算をしたときに際立つ.$z_1=r_1(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)$,$z_2=r_2(\cos\theta_2+i\sin\theta_2)$($z_2\ne0$)とする.

21.3.1 積の極形式

公式21.3 $z_1z_2=r_1r_2\{\cos(\theta_1+\theta_2)+i\sin(\theta_1+\theta_2)\}$

定義どおりに掛け算を実行する.

$$z_1z_2=r_1(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)\cdot r_2(\cos\theta_2+i\sin\theta_2)=r_1r_2(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)(\cos\theta_2+i\sin\theta_2)$$

右側のかっこどうしを分配法則で展開する(4つの項が出る).

$$=r_1r_2\big(\cos\theta_1\cos\theta_2+i\sin\theta_1\cos\theta_2+i\cos\theta_1\sin\theta_2+i^2\sin\theta_1\sin\theta_2\big)$$

$i^2=-1$ なので,最後の項 $i^2\sin\theta_1\sin\theta_2=-\sin\theta_1\sin\theta_2$ は実部に合流する.虚部の2つの項 $i\sin\theta_1\cos\theta_2$ と $i\cos\theta_1\sin\theta_2$ は $i$ でくくれる.整理すると,

$$=r_1r_2\Big\{\underbrace{(\cos\theta_1\cos\theta_2-\sin\theta_1\sin\theta_2)}_{\text{加法定理より }\cos(\theta_1+\theta_2)}+i\underbrace{(\sin\theta_1\cos\theta_2+\cos\theta_1\sin\theta_2)}_{\text{加法定理より }\sin(\theta_1+\theta_2)}\Big\}$$

下線部はどちらも,高校数学 第5章の三角関数の加法定理 $\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta$,$\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta$ とちょうど同じ形をしている.そのまま代入すると,

\begin{equation} \therefore z_1z_2=r_1r_2\{\cos(\theta_1+\theta_2)+i\sin(\theta_1+\theta_2)\}\label{eq:21-polar-product} \end{equation}

(証明終わり)

イメージ:掛け算は「長さの積」と「角度の和」

式 \eqref{eq:21-polar-product} は,「2つの複素数を掛けると,絶対値(長さ)は掛け合わされ,偏角(角度)は足し合わされる」ことを述べている.図21.4のように,原点を中心に $z_1$ を角 $\theta_2$ だけ回転させながら $r_2$ 倍に拡大(縮小)した先に $z_1z_2$ が現れる,というイメージである.この「掛け算=回転+拡大縮小」という見方は,21.5節で $i$ を掛ける操作を考えるときにも中心的な役割を果たす.

積の偏角は偏角の和 実軸 θ₁ θ₁+θ₂ z₁ z₂ z₁z₂
図21.4 積 $z_1z_2$ の偏角は,$z_1$ の偏角 $\theta_1$ と $z_2$ の偏角 $\theta_2$ の和になる.

21.3.2 商の極形式

公式21.4 $\dfrac{z_1}{z_2}=\dfrac{r_1}{r_2}\{\cos(\theta_1-\theta_2)+i\sin(\theta_1-\theta_2)\}$($z_2\ne0$)

定義どおりに割り算を書き下す.

$$\frac{z_1}{z_2}=\frac{r_1(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)}{r_2(\cos\theta_2+i\sin\theta_2)}$$

分母に虚数が残っていると計算しにくいので,21.1節の公式21.1($|\alpha|^2=\alpha\bar\alpha$)と同じ発想で,分母・分子の両方に,分母の共役にあたる $\cos\theta_2-i\sin\theta_2$ を掛けて分母を実数化する.

$$=\frac{r_1(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)(\cos\theta_2-i\sin\theta_2)}{r_2\underbrace{(\cos\theta_2+i\sin\theta_2)(\cos\theta_2-i\sin\theta_2)}_{=\cos^2\theta_2-i^2\sin^2\theta_2=\cos^2\theta_2+\sin^2\theta_2=1}}$$

(下線部:$(A+B)(A-B)=A^2-B^2$ の形に展開し,$i^2=-1$ と $\cos^2\theta_2+\sin^2\theta_2=1$(三角関数の基本公式)を使った.)分母がちょうど $1$ になったので,

$$=\frac{r_1}{r_2}(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)(\cos\theta_2-i\sin\theta_2)$$

分子を展開する.

$$=\frac{r_1}{r_2}\big(\cos\theta_1\cos\theta_2-i\cos\theta_1\sin\theta_2+i\sin\theta_1\cos\theta_2-i^2\sin\theta_1\sin\theta_2\big)$$

$-i^2\sin\theta_1\sin\theta_2=+\sin\theta_1\sin\theta_2$ であることに注意して整理すると,

$$=\frac{r_1}{r_2}\Big\{\underbrace{(\cos\theta_1\cos\theta_2+\sin\theta_1\sin\theta_2)}_{\text{加法定理より }\cos(\theta_1-\theta_2)}+i\underbrace{(\sin\theta_1\cos\theta_2-\cos\theta_1\sin\theta_2)}_{\text{加法定理より }\sin(\theta_1-\theta_2)}\Big\}$$

下線部は,加法定理 $\cos(\alpha-\beta)=\cos\alpha\cos\beta+\sin\alpha\sin\beta$,$\sin(\alpha-\beta)=\sin\alpha\cos\beta-\cos\alpha\sin\beta$ の形そのものである.よって,

\begin{equation} \therefore \frac{z_1}{z_2}=\frac{r_1}{r_2}\{\cos(\theta_1-\theta_2)+i\sin(\theta_1-\theta_2)\}\label{eq:21-polar-quotient} \end{equation}

(証明終わり)

例題21.3 積の公式で $\cos\dfrac{\pi}{12}$ を求める

$\dfrac{\pi}{12}=\dfrac{\pi}{4}-\dfrac{\pi}{6}$であることに着目し,絶対値 $1$ の複素数どうしの積の公式(公式21.3,ただし角度の差なので公式21.4 も使う)を利用して $\cos\dfrac{\pi}{12}$ の値を求めよ.

解答 $w_1=\cos\frac{\pi}4+i\sin\frac{\pi}4$,$w_2=\cos\frac{\pi}6+i\sin\frac{\pi}6$ とおく(どちらも $r=1$ の極形式).公式21.4(商,$r_1=r_2=1$ の場合)より,

$$\frac{w_1}{w_2}=\cos\left(\frac{\pi}4-\frac{\pi}6\right)+i\sin\left(\frac{\pi}4-\frac{\pi}6\right)=\cos\frac{\pi}{12}+i\sin\frac{\pi}{12}$$

一方,$\dfrac{w_1}{w_2}=w_1\cdot\overline{w_2}$($|w_2|=1$ なので $w_2^{-1}=\overline{w_2}=\cos\frac{\pi}6-i\sin\frac{\pi}6$,公式21.1 の考え方)であるから,直接展開して実部を比較すればよい.

$$w_1\overline{w_2}=\left(\cos\frac{\pi}4+i\sin\frac{\pi}4\right)\left(\cos\frac{\pi}6-i\sin\frac{\pi}6\right)$$ $$=\cos\frac{\pi}4\cos\frac{\pi}6-i\cos\frac{\pi}4\sin\frac{\pi}6+i\sin\frac{\pi}4\cos\frac{\pi}6-i^2\sin\frac{\pi}4\sin\frac{\pi}6$$

実部($i$ を含まない項)だけを集めると $\cos\frac{\pi}4\cos\frac{\pi}6+\sin\frac{\pi}4\sin\frac{\pi}6$ である($-i^2\sin\frac{\pi}4\sin\frac{\pi}6=+\sin\frac{\pi}4\sin\frac{\pi}6$ に注意).これが $\cos\frac{\pi}{12}$ に等しいので,

$$\cos\frac{\pi}{12}=\cos\frac{\pi}4\cos\frac{\pi}6+\sin\frac{\pi}4\sin\frac{\pi}6=\frac{\sqrt2}{2}\cdot\frac{\sqrt3}{2}+\frac{\sqrt2}{2}\cdot\frac12=\frac{\sqrt6}{4}+\frac{\sqrt2}{4}=\frac{\sqrt6+\sqrt2}{4}$$

(これは加法定理 $\cos(\alpha-\beta)=\cos\alpha\cos\beta+\sin\alpha\sin\beta$ を極形式の積の公式から「再発見」したことに相当する.数値でも $\frac{\sqrt6+\sqrt2}{4}=0.9659\ldots=\cos15°$ で確認できる.)

例題21.4 極形式による積の計算

$z_1=\sqrt3+i$,$z_2=1-i$ とする.$z_1,z_2$ をそれぞれ極形式に直し,公式21.3 を使って積 $z_1z_2$ を求めよ.さらに,$z_1z_2$ を直接展開した結果と一致することを確かめよ.

解答 $z_1=\sqrt3+i$:$r_1=\sqrt{(\sqrt3)^2+1^2}=\sqrt{3+1}=2$,$\cos\theta_1=\frac{\sqrt3}{2},\sin\theta_1=\frac12$ より $\theta_1=\dfrac{\pi}{6}$.$z_2=1-i$:$r_2=\sqrt{1^2+(-1)^2}=\sqrt2$,$\cos\theta_2=\frac{1}{\sqrt2},\sin\theta_2=-\frac{1}{\sqrt2}$ より $\theta_2=-\dfrac{\pi}{4}$.したがって,

$$z_1=2\left(\cos\frac{\pi}6+i\sin\frac{\pi}6\right),\qquad z_2=\sqrt2\left(\cos\left(-\frac{\pi}4\right)+i\sin\left(-\frac{\pi}4\right)\right)$$

公式21.3 より,

$$z_1z_2=2\sqrt2\left\{\cos\left(\frac{\pi}6-\frac{\pi}4\right)+i\sin\left(\frac{\pi}6-\frac{\pi}4\right)\right\}=2\sqrt2\left\{\cos\left(-\frac{\pi}{12}\right)+i\sin\left(-\frac{\pi}{12}\right)\right\}$$

($\frac{\pi}6-\frac{\pi}4=\frac{2\pi}{12}-\frac{3\pi}{12}=-\frac{\pi}{12}$.)一方,直接展開すると,

$$z_1z_2=(\sqrt3+i)(1-i)=\sqrt3\cdot1+\sqrt3\cdot(-i)+i\cdot1+i\cdot(-i)=\sqrt3-\sqrt3i+i-i^2$$

(分配法則で4項に展開した.)$-i^2=1$ に注意して整理すると,

$$=\sqrt3+1+(1-\sqrt3)i=(1+\sqrt3)+(1-\sqrt3)i$$

という結果になる.極形式の答え $2\sqrt2\{\cos(-\frac{\pi}{12})+i\sin(-\frac{\pi}{12})\}$ がこれと一致することを数値で確かめよう.$\sqrt{12}=2\sqrt3$ に注意すると,

$$2\sqrt2\cos\left(-\frac{\pi}{12}\right)=2\sqrt2\cdot\frac{\sqrt6+\sqrt2}{4}=\frac{2\sqrt{12}+2\cdot2}{4}=\frac{4\sqrt3+4}{4}=\sqrt3+1$$

($\cos(-\pi/12)=\cos(\pi/12)=\frac{\sqrt6+\sqrt2}{4}$ は例題21.3 ですでに求めた値を用いた.$\sqrt2\cdot\sqrt6=\sqrt{12}=2\sqrt3$,$\sqrt2\cdot\sqrt2=2$ を使って分子を整理した.)これは実部 $\sqrt3+1$ と一致する.虚部も同様に $2\sqrt2\sin(-\pi/12)=1-\sqrt3$ となり一致する($\sin(-\pi/12)=-\sin(\pi/12)=-\frac{\sqrt6-\sqrt2}{4}$ を使う;付録の検算スクリプトで数値的にも確認済み).

21.4 ド・モアブルの定理とオイラーの公式

前節で見た「積の偏角は偏角の和になる」という法則(公式21.3)を,同じ複素数どうしで何度も繰り返し使うとどうなるだろうか.$n$ 乗の計算に関する強力な定理が得られる.

21.4.1 ド・モアブルの定理

定理21.2 ド・モアブルの定理

自然数 $n$ に対して,

\begin{equation} (\cos\theta+i\sin\theta)^n=\cos n\theta+i\sin n\theta\label{eq:21-demoivre} \end{equation}

が成り立つ.

証明(数学的帰納法)

(i) $n=1$ のとき.左辺は $(\cos\theta+i\sin\theta)^1=\cos\theta+i\sin\theta$,右辺は $\cos(1\cdot\theta)+i\sin(1\cdot\theta)=\cos\theta+i\sin\theta$ で一致し,成り立つ.

(ii) $n=k$($k$ は自然数)のとき成り立つと仮定する.すなわち,

$$(\cos\theta+i\sin\theta)^k=\cos k\theta+i\sin k\theta\qquad\cdots②$$

を仮定する.この仮定のもとで,$n=k+1$ のときにも成り立つことを示す.指数法則 $A^{k+1}=A^k\cdot A^1$ を使うと,

$$(\cos\theta+i\sin\theta)^{k+1}=(\cos\theta+i\sin\theta)^k\cdot(\cos\theta+i\sin\theta)^1$$

仮定②を右辺に代入すると,

$$=(\cos k\theta+i\sin k\theta)(\cos\theta+i\sin\theta)=\cos k\theta\cos\theta+i^2\sin k\theta\sin\theta+i\sin k\theta\cos\theta+i\sin\theta\cos k\theta$$

(分配法則で4項に展開した.)$i^2=-1$ に注意して実部・虚部に整理すると,

$$=\underbrace{(\cos k\theta\cos\theta-\sin k\theta\sin\theta)}_{\text{加法定理より }\cos(k\theta+\theta)}+i\underbrace{(\sin k\theta\cos\theta+\sin\theta\cos k\theta)}_{\text{加法定理より }\sin(k\theta+\theta)}=\cos(k+1)\theta+i\sin(k+1)\theta\qquad\cdots③$$

③は,証明したい式 $(\cos\theta+i\sin\theta)^n=\cos n\theta+i\sin n\theta$ に $n=k+1$ を代入したものに他ならない.よって $n=k$ で成り立てば $n=k+1$ でも成り立つ.(i)(ii)より,数学的帰納法により,式 \eqref{eq:21-demoivre} はすべての自然数 $n$ について成り立つ.

(証明終わり)

注意:ド・モアブルの定理はすべての整数 $n$ について成り立つ

上の証明は自然数 $n$ の場合だが,実は式 \eqref{eq:21-demoivre} はすべての整数 $n$($0$ や負の整数も含む)について成り立つ.$n=0$ のときは,左辺 $(\cos\theta+i\sin\theta)^0=1$,右辺 $\cos0+i\sin0=1+0=1$ で一致する.$n=-m$($m$ は正の整数)のときは,$m$ の場合(すでに証明済み)を使って,

$$(\cos\theta+i\sin\theta)^{-m}=\frac{1}{(\cos\theta+i\sin\theta)^m}=\frac{1}{\cos m\theta+i\sin m\theta}$$

公式21.1($|\alpha|^2=\alpha\bar\alpha$)の考え方で分母を実数化する.$|\cos m\theta+i\sin m\theta|^2=\cos^2m\theta+\sin^2m\theta=1$ なので,分母・分子に $\cos m\theta-i\sin m\theta$(分母の共役)を掛けると,分母はちょうど $1$ になる:

$$=\frac{\cos m\theta-i\sin m\theta}{(\cos m\theta+i\sin m\theta)(\cos m\theta-i\sin m\theta)}=\frac{\cos m\theta-i\sin m\theta}{1}=\cos m\theta-i\sin m\theta$$

$\cos$ は偶関数($\cos(-x)=\cos x$),$\sin$ は奇関数($\sin(-x)=-\sin x$)なので,$\cos m\theta-i\sin m\theta=\cos(-m\theta)+i\sin(-m\theta)$.$n=-m$ を代入した形 $\cos n\theta+i\sin n\theta$ とちょうど一致する.以上より,式 \eqref{eq:21-demoivre} はすべての整数 $n$ について成り立つ.

21.4.2 記号 $e^{i\theta}$ の性質

ここでいったん,$\cos\theta+i\sin\theta$ を $e^{i\theta}$ という指数の形の記号で表す,という記法を導入する($e^{i\theta}:=\cos\theta+i\sin\theta$).なぜこの奇妙に見える記法が単なる省略記号ではなく,本当に指数関数の意味を持つのかは,21.4.3節でマクローリン展開を使って正当化する.ここでは,この記法のもとでいくつかの基本性質を確認しておこう.

公式21.5 $|e^{i\theta}|=1$

絶対値の公式(式 \eqref{eq:21-abs},$a=\cos\theta,\ b=\sin\theta$ の場合)を使うと,

$$|e^{i\theta}|=|\cos\theta+i\sin\theta|=\sqrt{\cos^2\theta+\sin^2\theta}$$

三角関数の基本公式 $\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$(高校数学 第3章,単位円上の点の座標が $(\cos\theta,\sin\theta)$ であることの帰結)より,根号の中身はちょうど $1$ になる.

$$\therefore |e^{i\theta}|=\sqrt1=1$$

(証明終わり)

イメージ:$e^{i\theta}$ は単位円上の点

$|e^{i\theta}|=1$ は,$\theta$ をどう変えても,点 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$ が原点を中心とする半径 $1$ の円(単位円)の上を動くことを意味する.$\theta$ を $0$ から $2\pi$ まで増やすと,点 $e^{i\theta}$ はちょうど単位円を1周する.21.5節で見る「$1$ の $n$ 乗根」は,まさにこの単位円上に等間隔に並ぶ点たちである.

公式21.6 $\overline{e^{i\theta}}=e^{-i\theta}$

共役複素数の定義(虚部の符号を反転する)より,

$$\overline{e^{i\theta}}=\overline{\cos\theta+i\sin\theta}=\cos\theta-i\sin\theta$$

$\cos$ は偶関数,$\sin$ は奇関数だから,$\cos\theta=\cos(-\theta)$,$-\sin\theta=\sin(-\theta)$ と書き直せる.

$$=\cos(-\theta)+i\sin(-\theta)$$

これは,ド・モアブルの定理(式 \eqref{eq:21-demoivre},整数 $n=-1$ の場合)の右辺 $\cos(n\theta)+i\sin(n\theta)$ に $n=-1$ を代入した形そのものである.すなわち,

$$=\cos(-1\cdot\theta)+i\sin(-1\cdot\theta)=(\cos\theta+i\sin\theta)^{-1}$$

$e^{i\theta}:=\cos\theta+i\sin\theta$ という記法のもとでは,$(\cos\theta+i\sin\theta)^{-1}=(e^{i\theta})^{-1}=e^{-i\theta}$ である(指数法則をこの記法に当てはめた).よって,

$$\therefore \overline{e^{i\theta}}=e^{-i\theta}$$

(証明終わり)

21.4.3 オイラーの公式(マクローリン展開による導出)

21.4.2節では $e^{i\theta}:=\cos\theta+i\sin\theta$ を単なる記法として導入した.ここでは,この記法が指数関数 $e^x$ の自然な拡張になっていること,すなわちオイラーの公式(Euler's formula)を,第4章「テイラーの定理と関数の展開」4.2.3節で学んだマクローリン展開を使って導く.同じ導出を第4章でも一度見たが,複素解析学の入り口に立つ本章で,議論の完結性のためにもう一度たどり直しておこう.

注意:実数の関数に虚数を代入してよいのか

$e^x$ はもともと実数 $x$ に対して定義された関数であり,そこに虚数 $i\theta$ を代入するのは,本来は正当化が必要な操作である.厳密には,複素数 $z$ を変数とする指数関数を,級数 $e^z=\sum_{n=0}^\infty z^n/n!$ によって改めて定義し(これは第23章「初等複素関数」で行う),それが実数の場合の $e^x$ と矛盾なくつながることを確認してから使うべきものである.以下で行うのは,級数に項別に $x=i\theta$ を代入するとどうなるかを形式的に調べる計算であり,その結果が最終的に意味のある正しい等式(オイラーの公式)に到達する,という順序になっている.

定理21.3(オイラーの公式) $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$

$f(x)=e^x$ とおくと,そのマクローリン展開は

$$f(x)=e^x=1+\frac{1}{1!}x+\frac{1}{2!}x^2+\frac{1}{3!}x^3+\frac{1}{4!}x^4+\cdots$$

である(第4章で導出済み).この式に,形式的に $x=i\theta$ を代入する.

$$f(i\theta)=e^{i\theta}=1+\frac{i\theta}{1!}+\frac{(i\theta)^2}{2!}+\frac{(i\theta)^3}{3!}+\frac{(i\theta)^4}{4!}+\frac{(i\theta)^5}{5!}+\frac{(i\theta)^6}{6!}+\cdots$$

$i$ の累乗は $i^1=i,\ i^2=-1,\ i^3=-i,\ i^4=1,\ i^5=i,\ i^6=-1,\ldots$ と,$4$個周期で $i,-1,-i,1$ を繰り返す($i^2=-1$ を繰り返し掛けているだけである).これに注意して各項の $(i\theta)^k=i^k\theta^k$ を計算すると,

$$=1+i\theta-\frac{\theta^2}{2!}-\frac{i\theta^3}{3!}+\frac{\theta^4}{4!}+\frac{i\theta^5}{5!}-\frac{\theta^6}{6!}-\frac{i\theta^7}{7!}+\cdots$$

右辺を,$i$ の付かない項(実部,偶数次)と $i$ の付く項(虚部,奇数次)に仕分けて,$i$ をくくり出す.

$$=\underbrace{\left(1-\frac{\theta^2}{2!}+\frac{\theta^4}{4!}-\frac{\theta^6}{6!}+\frac{\theta^8}{8!}-\cdots\right)}_{\cos\theta\text{ のマクローリン展開}}+i\underbrace{\left(\theta-\frac{\theta^3}{3!}+\frac{\theta^5}{5!}-\frac{\theta^7}{7!}+\cdots\right)}_{\sin\theta\text{ のマクローリン展開}}$$

下線の2つの級数は,それぞれちょうど第4章で導いた $\cos\theta$,$\sin\theta$ のマクローリン展開と一致している.したがって,

$$=\cos\theta+i\sin\theta$$ \begin{equation} \therefore e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta\label{eq:21-euler} \end{equation}

(証明終わり)

応用:オイラーの公式はどこで使うのか

オイラーの公式は,理系のほぼすべての分野に姿を現す.交流回路では電圧・電流を $e^{i\omega t}$ の実部(または虚部)として表すと微分・積分が代数計算に変わり(インピーダンスの計算),量子力学では波動関数の位相が $e^{i(kx-\omega t)}$ の形で現れ,材料科学で結晶構造を調べるX線回折や中性子回折の理論(第9章「連立1次方程式」やフーリエ変換を扱う第30章とも関係する)でも,波の干渉を複素指数関数で表す.本書の第VI部「フーリエ級数と変換」,第VII部「ラプラス変換」は,どちらもオイラーの公式なしには成り立たない.

例題21.5 ド・モアブルの定理による累乗の計算

$z=1-i$ を極形式に直し,ド・モアブルの定理を使って $z^6$ を計算せよ.

解答 $a=1,\ b=-1$ である.式 \eqref{eq:21-abs} より $r=|z|=\sqrt{1^2+(-1)^2}=\sqrt2$.$\cos\theta=\dfrac{a}{r}=\dfrac{1}{\sqrt2}$,$\sin\theta=\dfrac{b}{r}=-\dfrac{1}{\sqrt2}$ を満たす角は $\theta=-\dfrac{\pi}4$.よって $z=\sqrt2\left(\cos\left(-\dfrac{\pi}4\right)+i\sin\left(-\dfrac{\pi}4\right)\right)$.ド・モアブルの定理(式 \eqref{eq:21-demoivre})を $n=6$ で使うと,

$$z^6=(\sqrt2)^6\left\{\cos\left(6\cdot\left(-\frac{\pi}4\right)\right)+i\sin\left(6\cdot\left(-\frac{\pi}4\right)\right)\right\}=8\left\{\cos\left(-\frac{3\pi}2\right)+i\sin\left(-\frac{3\pi}2\right)\right\}$$

($(\sqrt2)^6=2^3=8$,$6\times(-\frac{\pi}4)=-\frac{6\pi}4=-\frac{3\pi}2$.)$\cos(-\frac{3\pi}2)=\cos(\frac{3\pi}2)=0$,$\sin(-\frac{3\pi}2)=-\sin(\frac{3\pi}2)=-(-1)=1$ なので,

$$z^6=8(0+i\cdot1)=8i$$

(検算:直接展開でも確かめる.$z^2=(1-i)^2=1-2i+i^2=1-2i-1=-2i$.$z^4=(z^2)^2=(-2i)^2=4i^2=-4$.$z^6=z^4\cdot z^2=(-4)\times(-2i)=8i$.極形式による計算と一致する.)

21.5 1のn乗根と回転作用素としての$i$

公式21.5($|e^{i\theta}|=1$)により,$\theta$ を動かすと点 $e^{i\theta}$ は単位円上を動く.では逆に,「$n$ 乗すると $1$ になる複素数」,すなわち方程式 $z^n=1$ の解は,単位円上のどこに現れるだろうか.具体的に $n=3,4$ の場合をノートに沿って調べたあと,一般の $n$ について定義し,最後にこの話題全体を貫く「$i$ を掛けることは回転すること」という見方を導入する.

21.5.1 $x^3=1$ の解 — 正三角形

例21.1 $x^3-1=0$ の解

$x^3-1=0$ を解け.

解答 因数分解の公式 $A^3-B^3=(A-B)(A^2+AB+B^2)$($B=1$ の場合)を使うと,

$$x^3-1=(x-1)(x^2+x+1)=0$$

$x-1=0$ より $x=1$.$x^2+x+1=0$ は解の公式より

$$x=\frac{-1\pm\sqrt{1^2-4\cdot1\cdot1}}{2}=\frac{-1\pm\sqrt{-3}}{2}=\frac{-1\pm i\sqrt3}{2}=-\frac12\pm\frac{\sqrt3}{2}i$$

($\sqrt{-3}=\sqrt{3}\sqrt{-1}=i\sqrt3$ を使った.)よって,

$$x=1,\quad -\frac12+\frac{\sqrt3}{2}i,\quad -\frac12-\frac{\sqrt3}{2}i$$

この3つの解を極形式($e^{i\theta}$ の記法)に直す.$x=1$ は $r=1,\theta=0$ で $1=\cos0+i\sin0=e^{i\cdot0}$.$x=-\frac12+\frac{\sqrt3}2i$ は,$r=\sqrt{(-\frac12)^2+(\frac{\sqrt3}2)^2}=\sqrt{\frac14+\frac34}=1$,$\cos\theta=-\frac12,\sin\theta=\frac{\sqrt3}2$ より $\theta=\frac{2}{3}\pi$ で,$-\frac12+\frac{\sqrt3}2i=\cos\frac{2}3\pi+i\sin\frac23\pi=e^{i\frac23\pi}$.同様に $x=-\frac12-\frac{\sqrt3}2i=\cos\frac43\pi+i\sin\frac43\pi=e^{i\frac43\pi}$.

3つの解はすべて絶対値 $1$(単位円上)で,偏角が $0,\ \frac23\pi,\ \frac43\pi$ とちょうど $\frac23\pi=120°$ ずつ等間隔である.したがって,この3点を頂点として結ぶと,単位円に内接する正三角形になる(図21.5).

1の3乗根と正三角形 1 -1/2+(√3/2)i -1/2-(√3/2)i
図21.5 $x^3=1$ の3つの解は,単位円に内接する正三角形の頂点をなす.

21.5.2 $x^4=1$ の解 — 正方形

例21.2 $x^4-1=0$ の解

$x^4-1=0$ を解け.

解答 $A^2-B^2=(A-B)(A+B)$ の形の因数分解を2回使う.まず $x^4-1=(x^2-1)(x^2+1)$,さらに $x^2-1=(x-1)(x+1)$ なので,

$$x^4-1=(x+1)(x-1)(x^2+1)$$

$x+1=0$ より $x=-1$,$x-1=0$ より $x=1$.$x^2+1=0$ は $x^2=-1$ となるが,これは $i^2=-1$(定義21.1)を満たす $i$ の定義そのものなので,$x=\pm i$.よって,

$$x=\pm1,\ \pm i$$

この4つの解は,単位円上($|1|=|-1|=|i|=|-i|=1$)で偏角が $0,\ \frac{\pi}2,\ \pi,\ \frac{3\pi}2$ とちょうど $90°$ ずつ等間隔であるから,単位円に内接する正方形の頂点をなす(図21.6).

1の4乗根と正方形 1 i -1 -i
図21.6 $x^4=1$ の4つの解 $1,i,-1,-i$ は,単位円に内接する正方形の頂点をなす.

21.5.3 $1$ の $n$ 乗根の一般論

上の2つの例に共通する構造を一般化しよう.

定義21.4 $1$ の $n$ 乗根

$n$ を正の整数とする.方程式 $z^n=1$ の解を,$1$ の $n$ 乗根($n$-th root of unity)と呼ぶ.

公式21.7 $1$ の $n$ 乗根は $z_k=e^{i\frac{2k\pi}{n}}$($k=0,1,\ldots,n-1$)で尽くされる

$z_k=e^{i\frac{2k\pi}n}=\cos\frac{2k\pi}n+i\sin\frac{2k\pi}n$ とおくと,ド・モアブルの定理(式 \eqref{eq:21-demoivre})より,

$$z_k^n=\left(\cos\frac{2k\pi}n+i\sin\frac{2k\pi}n\right)^n=\cos\left(n\cdot\frac{2k\pi}n\right)+i\sin\left(n\cdot\frac{2k\pi}n\right)=\cos2k\pi+i\sin2k\pi=1$$

($\cos,\sin$ の周期が $2\pi$ なので,$2k\pi$($k$ は整数)だけずらしても $\cos2k\pi=\cos0=1$,$\sin2k\pi=\sin0=0$ である.)よって各 $z_k$($k=0,1,\ldots,n-1$)は確かに $z^n=1$ の解である.また,$k=0,1,\ldots,n-1$ に対して偏角 $\frac{2k\pi}n$ はすべて異なり($0\le\frac{2k\pi}n\lt2\pi$ の範囲で相異なる),$n$ 次方程式 $z^n=1$ の解は重複を除いて高々 $n$ 個しかないから,これで $n$ 個の解をすべて尽くしたことになる.

イメージ:正 $n$ 角形

$n$ 個の解 $z_k=e^{i\frac{2k\pi}n}$($k=0,\ldots,n-1$)はすべて単位円上にあり,偏角が $\frac{2\pi}n$ ずつ等間隔に並んでいる.したがって,これらを頂点として結ぶと,単位円に内接する正 $n$ 角形になる——$n=3,4$ の場合に例21.1,例21.2 で見たとおりである.

21.5.4 回転作用素としての $i$

ノートがこの話題に付けた見出しは「回転演算子 $i$ の面白い性質」であった.実際,21.3節で見た「積の偏角は偏角の和になる」(公式21.3)を $z_2=e^{i\theta}$($r_2=1$ の場合)に特殊化すると,任意の複素数 $z_1$ に対して,

$$z_1\cdot e^{i\theta}=r_1(\cos(\theta_1+\theta)+i\sin(\theta_1+\theta))$$

すなわち,「$z_1$ に $e^{i\theta}$ を掛ける」という操作は,「絶対値 $r_1$ はそのままに,偏角だけを $\theta$ だけ増やす」——複素平面上で原点を中心に角 $\theta$ だけ回転させる操作に他ならない.この意味で,$e^{i\theta}$ を掛ける操作を回転作用素(rotation operator)と呼ぶことがある.

特に $\theta=\dfrac{\pi}2$($90°$)の場合を考えよう.$e^{i\pi/2}=\cos\frac{\pi}2+i\sin\frac{\pi}2=0+i\cdot1=i$ である.つまり,$i$ を掛けることは,複素平面上で原点を中心に $90°$ 回転させることに等しい.例21.2 で見た「$1$ の $4$ 乗根が $1,i,-1,-i$」という事実は,まさにこの回転の繰り返しそのものである:

$$1\ \xrightarrow{\times i}\ i\ \xrightarrow{\times i}\ i^2=-1\ \xrightarrow{\times i}\ i^3=-i\ \xrightarrow{\times i}\ i^4=1$$

$i$ を掛けるたびに $90°$ ずつ回転し,$4$回掛けるとちょうど $360°$ 回転して元に戻る.一般の複素数 $z=x+iy$ に $i$ を掛けても同じことが起きる:$iz=i(x+iy)=ix+i^2y=-y+ix$,すなわち点 $(x,y)$ が点 $(-y,x)$ に移る.これは,高校数学で学んだ「点 $(x,y)$ を原点中心に $90°$ 回転すると $(-y,x)$ に移る」という事実と完全に一致する(図21.7).

iを掛ける操作=90度回転 z=3+i iz=-1+3i i²z=-3-i i³z=1-3i
図21.7 $z=3+i$ に $i$ を繰り返し掛けると,原点を中心に $90°$ ずつ回転する.4回掛けると $i^4z=z$ に戻る.

例題21.6 $1$ の $5$ 乗根

$1$ の $5$ 乗根をすべて求め,複素平面上に図示せよ.

解答 定義21.4($n=5$ の場合)より,$1$ の $5$ 乗根は,

$$z_k=e^{i\frac{2k\pi}5}=\cos\frac{2k\pi}5+i\sin\frac{2k\pi}5\qquad(k=0,1,2,3,4)$$

の $5$ 個である.具体的に偏角を書き出すと,$k=0,1,2,3,4$ に対応して $\theta=0,\ \frac{2\pi}5,\ \frac{4\pi}5,\ \frac{6\pi}5,\ \frac{8\pi}5$(度数法でおよそ $0°,72°,144°,216°,288°$)である.いずれも単位円上にあり,偏角が $\frac{2\pi}5=72°$ ずつ等間隔なので,図21.8のように単位円に内接する正五角形の頂点をなす.

1の5乗根と正五角形 z₀=1 z₁ z₂ z₃ z₄
図21.8 $1$ の $5$ 乗根 $z_0,\ldots,z_4$ は,単位円に内接する正五角形の頂点をなす.

21.6 三角関数と双曲線関数をつなぐ

ここまでは,実数の角 $\theta$ に対して $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$(オイラーの公式)を考えてきた.この節では逆に,三角関数 $\cos,\sin$ の角度の側に虚数を代入すると何が起きるかを調べる.答えは,第2章「関数の連続性・平均値の定理と双曲線関数」で学んだ双曲線関数 $\cosh x=\dfrac{e^x+e^{-x}}2$,$\sinh x=\dfrac{e^x-e^{-x}}2$ に驚くほどきれいに結びつく.

21.6.1 準備:$\cos\theta,\sin\theta$ を $e^{i\theta}$ で表す

公式21.8 $\cos\theta=\dfrac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}2,\qquad \sin\theta=\dfrac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}$

オイラーの公式(式 \eqref{eq:21-euler})より $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$.また公式21.6 より $e^{-i\theta}=\overline{e^{i\theta}}=\cos\theta-i\sin\theta$.この2式を辺々加えると,虚部が打ち消し合う:

$$e^{i\theta}+e^{-i\theta}=(\cos\theta+i\sin\theta)+(\cos\theta-i\sin\theta)=2\cos\theta\ \Longrightarrow\ \cos\theta=\frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}2$$

逆に辺々引くと,実部が打ち消し合う:

$$e^{i\theta}-e^{-i\theta}=(\cos\theta+i\sin\theta)-(\cos\theta-i\sin\theta)=2i\sin\theta\ \Longrightarrow\ \sin\theta=\frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}$$

(証明終わり)

ノートはこの2式を「オイラーの公式(Euler's equation)より」得られるものとして使っている.以下,この公式21.8 の $\theta$ に,実数 $x$ を使って $\theta=ix$(純虚数)を代入してみよう.

21.6.2 $\cos ix,\ \sin ix$ の正体

公式21.9(i) $\cos ix=\cosh x$

公式21.8 の $\cos\theta=\dfrac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}2$ に $\theta=ix$ を代入する.

$$\cos ix=\frac{e^{i\cdot ix}+e^{-i\cdot ix}}2$$

指数の中の $i\cdot ix=i^2x=-x$,$-i\cdot ix=-i^2x=x$($i^2=-1$ を使った)なので,

$$=\frac{e^{-x}+e^{x}}2=\frac{e^x+e^{-x}}2$$

これは第2章で学んだ双曲線余弦関数 $\cosh x$ の定義そのものである.

\begin{equation} \therefore \cos ix=\cosh x\label{eq:21-cosix} \end{equation}

(証明終わり)

数学ノート:$\dfrac1{2i}$ を実部・虚部の形に直す

次の $\sin ix$ の計算では,分母に $2i$ が現れる.分母に虚数単位があるままでは扱いにくいので,公式21.1 と同じ発想で分母・分子に $i$ を掛けて実数化しておくと便利である.

$$\frac1{2i}=\frac{1\cdot i}{2i\cdot i}=\frac{i}{2i^2}=\frac{i}{-2}=-\frac{i}2$$

公式21.9(ii) $\sin ix=i\sinh x$

公式21.8 の $\sin\theta=\dfrac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}$ に $\theta=ix$ を代入する.

$$\sin ix=\frac1{2i}\left(e^{i\cdot ix}-e^{-i\cdot ix}\right)$$

先ほどと同じく指数部分は $i\cdot ix=-x$,$-i\cdot ix=x$ なので,

$$=\frac1{2i}\left(e^{-x}-e^{x}\right)$$

上の「数学ノート」の結果 $\dfrac1{2i}=-\dfrac{i}2$ を使うと,

$$=-\frac{i}2\left(e^{-x}-e^{x}\right)=\frac{i}2\left(e^{x}-e^{-x}\right)$$

($-1$ を掛けてかっこの中の引き算の順序を入れ替えた.)かっこの中はちょうど $2\sinh x$ であるから,

$$=i\cdot\frac{e^x-e^{-x}}2=i\sinh x$$ \begin{equation} \therefore \sin ix=i\sinh x\label{eq:21-sinix} \end{equation}

(証明終わり)

cos ix = cosh x と cos x のグラフを重ねて比較する図
図21.9 $\cos ix=\cosh x$(青)と $\cos x$(赤)のグラフ.$x=0$ では両者とも $1$ で一致するが,$|x|$ が大きくなると $\cosh x$ は急激に増大し,$\cos x$ は振動する.

なぜ?:$i\sinh x$ のグラフはどこにあるのか

ノートの著者自身が「$i\sinh x$ をどうやってグラフに表すのか」と自問して立ち止まっている箇所である.答えは,「$x$ を実数の範囲で動かす限り,$\sin ix=i\sinh x$ は($x=0$ を除いて)純虚数になるので,$xy$ 平面上の実数値関数のグラフとしては描けない」というものである.$\cos ix=\cosh x$ は右辺が実数(実数の指数関数の和)なので普通にグラフを描けたが,$\sin ix=i\sinh x$ は右辺に $i$ が掛かっており,値そのものが複素数(純虚数)である.強いて図示するなら,横軸に $x$,縦軸に「$\sin ix$ の虚部」をとってグラフを描けばよく,それはちょうど $\sinh x$ 自身のグラフ(原点対称な,$x\to\infty$ で急増する曲線)に一致する.つまり,$\sin ix$ のグラフを描くとは,実質的に $\sinh x$ のグラフを描いた上で「ただし縦軸の値には $i$ が掛かっていると思って読む」という約束をすることに他ならない.

21.6.3 $\cosh ix,\ \sinh ix$ の正体

今度は逆に,双曲線関数の変数に $ix$ を代入するとどうなるかを調べる.$\cosh x=\dfrac{e^x+e^{-x}}2$,$\sinh x=\dfrac{e^x-e^{-x}}2$(第2章の定義)に $x\to ix$ を代入する.

公式21.10(i) $\cosh ix=\cos x$

$$\cosh ix=\frac{e^{ix}+e^{-ix}}2$$

これは公式21.8 の $\cos\theta=\dfrac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}2$ に $\theta=x$ を代入した式とまったく同じ形である.よって,

$$\therefore \cosh ix=\cos x$$

(証明終わり)

公式21.10(ii) $\sinh ix=i\sin x$

$$\sinh ix=\frac{e^{ix}-e^{-ix}}2=i\cdot\underline{\frac1{2i}\left(e^{ix}-e^{-ix}\right)}$$

($\dfrac12=i\cdot\dfrac1{2i}$ であることを使って,$i$ を1つくくり出した.)下線部は,公式21.8 の $\sin\theta=\dfrac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}$ に $\theta=x$ を代入した式そのものであり,$\sin x$ に等しい.よって,

$$=i\sin x$$ $$\therefore \sinh ix=i\sin x$$

(証明終わり)

まとめ:三角関数と双曲線関数は「同じ関数」の実軸版・虚軸版

公式21.9 と公式21.10 を並べてみよう.

$\cos$ と $\cosh$,$\sin$ と $\sinh$ は,見た目も名前も似ているだけでなく,「片方の関数の引数に $i$ を掛けると,もう片方の関数に(必要なら $i$ 倍されて)変身する」という,密接な関係で結ばれている.これは偶然ではなく,どちらも指数関数 $e^z$ の言葉で書けること(公式21.8 とその類似)の帰結である.この関係は,第23章「初等複素関数」で複素変数の三角関数・双曲線関数を正式に定義するときに,中心的な役割を果たす.

例題21.7 $\cosh$ の虚数変数への値

公式21.10 を使って,$\cosh\dfrac{i\pi}3$ と $\sinh\dfrac{i\pi}4$ の値を求めよ.

解答 公式21.10(i)$\cosh ix=\cos x$ に $x=\dfrac{\pi}3$ を代入すると,

$$\cosh\frac{i\pi}3=\cos\frac{\pi}3=\frac12$$

公式21.10(ii)$\sinh ix=i\sin x$ に $x=\dfrac{\pi}4$ を代入すると,

$$\sinh\frac{i\pi}4=i\sin\frac{\pi}4=i\cdot\frac{\sqrt2}2=\frac{\sqrt2}2i$$

21.7 複素平面における直線と円の方程式

最後に,これまで培った $z,\bar z$ の扱いを応用して,複素平面上の基本図形——直線と円——の方程式を,実部・虚部 $x,y$ に分解せずに,$z$ とその共役 $\bar z$ だけを使って表す方法を見る.

21.7.1 直線の方程式

導出:直線の方程式を $z,\bar z$ で表す

高校数学 第4章「図形と方程式」で学んだように,$xy$平面上の直線は,実定数 $a,b,c$($a,b$ は同時には $0$ でない)を用いて

$$f(x,y)=ax+by+c=0\qquad\cdots①$$

の形に表せる.これを複素変数 $z=x+iy$ を使って書き換えよう.$z$ とその共役 $\bar z=x-iy$ を並べると,

$$\begin{cases}z=x+iy&②\\ \bar z=x-iy&③\end{cases}$$

②+③を計算すると虚部が打ち消し合って $z+\bar z=2x$,②-③を計算すると実部が打ち消し合って $z-\bar z=2iy$ となる.よって,

$$x=\frac{z+\bar z}2,\qquad y=\frac{z-\bar z}{2i}$$

が得られる.これらを①に代入すると,

$$f(x,y)=a\cdot\frac{z+\bar z}2+b\cdot\frac{z-\bar z}{2i}+c\qquad(a,b,c\text{ は実定数})$$

21.6節の「数学ノート」で確認した $\dfrac1{2i}=-\dfrac{i}2$ を使うと,第2項は $b\cdot\dfrac{z-\bar z}{2i}=b(z-\bar z)\cdot\left(-\dfrac{i}2\right)=-\dfrac{b}2i(z-\bar z)$ と書き直せる.よって,

$$f(x,y)=\frac a2(z+\bar z)-\frac b2i(z-\bar z)+c$$

$z$ の係数と $\bar z$ の係数に整理すると,

$$=\left(\frac a2-\frac b2i\right)z+\left(\frac a2+\frac b2i\right)\bar z+c$$

ここで $\alpha=\dfrac a2+\dfrac b2i$ とおく.すると $\bar\alpha=\dfrac a2-\dfrac b2i$(共役は虚部の符号を反転するだけ)であり,これはちょうど $z$ の係数に一致する.よって,

(導出終わり)

公式21.11 複素平面における直線の方程式

\begin{equation} f(x,y)=\bar\alpha z+\alpha\bar z+c=0\qquad\left(\alpha=\frac a2+\frac b2i,\ c\in\R\right)\label{eq:21-line} \end{equation}

が,直線 $ax+by+c=0$ の複素変数による表示である.逆に,$0$ でない複素定数 $\alpha$ と実定数 $c$ に対して $\bar\alpha z+\alpha\bar z+c=0$ の形の方程式は,つねに複素平面上のある直線を表す.

21.7.2 円の方程式

次に円を考える.中心 $\alpha=a+bi$,半径 $r>0$ の円は,「中心からの距離がちょうど $r$ である点 $z$ の集まり」として定義される(図21.10).絶対値 $|z-\alpha|$ はまさに点 $z$ から点 $\alpha$ までの距離(定義21.2)であったから,この円の方程式は,

$$|z-\alpha|=r\qquad(z:\text{複素変数,}\ \alpha:\text{複素定数,}\ r:\text{正の実定数})\qquad\cdots①$$

とそのまま表せる.

複素平面における円 実軸 虚軸 α=(a,b) a b r z r z
図21.10 中心 $\alpha=a+bi$,半径 $r$ の円.円周上の任意の点 $z$ は中心から距離 $r$ にある(半径 $r$ の線分は2本描いているが,どちらも同じ半径 $r$ を表す).

公式21.12 円の方程式($z,\bar z$ による表示)

①の両辺を2乗する.

$$|z-\alpha|^2=r^2$$

公式21.1($|\omega|^2=\omega\bar\omega$,$\omega=z-\alpha$ の場合)を使うと,左辺は $(z-\alpha)\overline{(z-\alpha)}=(z-\alpha)(\bar z-\bar\alpha)$ と書ける.

$$(z-\alpha)(\bar z-\bar\alpha)=r^2$$

左辺を展開する(分配法則で4項).

$$z\bar z-\alpha\bar z-\bar\alpha z+\alpha\bar\alpha=r^2$$

移項すると,

$$z\bar z-\alpha\bar z-\bar\alpha z+\alpha\bar\alpha-r^2=0$$

ここで,$\alpha\bar\alpha=|\alpha|^2$(公式21.1)と $r^2$ はどちらも実定数なので,まとめて $C=\alpha\bar\alpha-r^2$(実定数)とおける.よって,

\begin{equation} \therefore z\bar z-(\alpha\bar z+\bar\alpha z)+C=0\qquad(C=\alpha\bar\alpha-r^2\in\R)\label{eq:21-circle} \end{equation}

(証明終わり)

例題21.8 $z,\bar z$ による直線の方程式

$|z-2|=|z+2i|$ を満たす点 $z$ の全体が表す図形を求め,$x,y$ の関係式に直して検算せよ.

解答 与式は「点 $z$ から点 $2$ までの距離と,点 $z$ から点 $-2i$ までの距離が等しい」ことを意味するので,求める図形は2点 $2,\ -2i$ を結ぶ線分の垂直二等分線,すなわち直線である.両辺を2乗し,公式21.1 の考え方($|w|^2=w\bar w$)を使うと,

$$|z-2|^2=(z-2)(\bar z-2),\qquad |z+2i|^2=(z+2i)(\bar z-2i)$$

($\overline{z+2i}=\bar z-2i$ に注意.)両者を展開する.

$$(z-2)(\bar z-2)=z\bar z-2z-2\bar z+4$$ $$(z+2i)(\bar z-2i)=z\bar z-2iz+2i\bar z+4$$

($-2i\cdot2i\cdot(-1)$…に注意して丁寧に展開すると,$z\cdot\bar z+z\cdot(-2i)+2i\cdot\bar z+2i\cdot(-2i)=z\bar z-2iz+2i\bar z-4i^2=z\bar z-2iz+2i\bar z+4$.)この2つを等号で結ぶと,

$$z\bar z-2z-2\bar z+4=z\bar z-2iz+2i\bar z+4$$

両辺の $z\bar z$ と $4$ は共通なので消え,

$$-2z-2\bar z=-2iz+2i\bar z\ \Longleftrightarrow\ (-2+2i)z+(-2-2i)\bar z=0\ \Longleftrightarrow\ (1-i)z+(1+i)\bar z=0$$

(両辺を $-2$ で割った.)これは公式21.11 の形 $\bar\alpha z+\alpha\bar z+c=0$ で,$\bar\alpha=\dfrac{1-i}2,\ \alpha=\dfrac{1+i}2,\ c=0$ に対応する(両辺を2倍する前の形).$x,y$ に戻して検算しよう.$z=x+iy,\ \bar z=x-iy$ を代入すると,

$$(1-i)(x+iy)+(1+i)(x-iy)=x+iy-ix-i^2y+x-iy+ix-i^2y=2x+2y$$

($i$ を含む項がすべて打ち消し合い,$-i^2y=+y$ の項が2つ残って $2y$ になる.)よって方程式は $2x+2y=0$,すなわち

$$x+y=0\quad(\text{つまり }y=-x)$$

という直線になる.これは,2点 $(2,0)$ と $(0,-2)$(それぞれ $2$,$-2i$ に対応)を結ぶ線分の中点 $(1,-1)$ を通り,傾き $-1$ の垂直二等分線であることとも一致する(線分の傾きは $\frac{-2-0}{0-2}=1$ なので,垂直二等分線の傾きはその逆数の符号違い $-1$).

例題21.9 円の方程式

中心 $1+2i$,半径 $3$ の円の方程式を,公式21.12 の形 $z\bar z-(\alpha\bar z+\bar\alpha z)+C=0$ で書け.

解答 $\alpha=1+2i,\ r=3$ である.$\bar\alpha=1-2i$ なので,

$$\alpha\bar\alpha=(1+2i)(1-2i)=1^2-(2i)^2=1-4i^2=1+4=5$$

($|\alpha|^2=a^2+b^2=1^2+2^2=5$ としても同じ.)$C=\alpha\bar\alpha-r^2=5-3^2=5-9=-4$.よって,求める方程式は,

$$z\bar z-\{(1+2i)\bar z+(1-2i)z\}-4=0$$

(検算:円周上の点,たとえば中心から実軸方向に $3$ だけ進んだ点 $z=1+2i+3=4+2i$ を代入する.$z\bar z=(4+2i)(4-2i)=16+4=20$.$\bar\alpha z=(1-2i)(4+2i)=4+2i-8i-4i^2=4-6i+4=8-6i$.$\alpha\bar z=(1+2i)(4-2i)=4-2i+8i-4i^2=4+6i+4=8+6i$.$\alpha\bar z+\bar\alpha z=(8+6i)+(8-6i)=16$.よって $z\bar z-(\alpha\bar z+\bar\alpha z)+C=20-16-4=0$ となり,確かに成り立つ.)

21.8 まとめと演習

21.8.1 まとめ

$$ z=r(\cos\theta+i\sin\theta)=re^{i\theta},\qquad e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta,\qquad(\cos\theta+i\sin\theta)^n=\cos n\theta+i\sin n\theta $$

21.8.2 演習問題

演習21.1 極形式のままでの計算

$z=2e^{i\pi/3}$ のとき,$z^3$ と $z^{-1}$ を求めよ.

ヒント:ド・モアブルの定理(式 \eqref{eq:21-demoivre})を,$e^{i\theta}$ の記法のまま $n=3,-1$ に対して使う.$z^n=r^n(\cos n\theta+i\sin n\theta)$ の形にしてから,$\cos,\sin$ の値を代入する.

演習21.2 $(1+i)^{10}$ の計算

$(1+i)^{10}$ を,極形式とド・モアブルの定理を用いて計算せよ.

ヒント:まず $1+i$ を極形式 $r(\cos\theta+i\sin\theta)$ に直す(例題21.2 と同じ手順).$r^{10}$ の計算では $r=\sqrt2$ に注意.

演習21.3 $1$ の $n$ 乗根と正 $n$ 角形(一般の $n$)

定義21.4 の $1$ の $n$ 乗根 $z_k=e^{i2k\pi/n}$($k=0,1,\ldots,n-1$)について,隣り合う2点 $z_k,z_{k+1}$ の間の距離 $|z_{k+1}-z_k|$ が,$k$ によらず一定であることを示せ(これにより,$n$ 個の点が正 $n$ 角形の頂点をなすことが確認できる).

ヒント:$|z_{k+1}-z_k|=|e^{i2(k+1)\pi/n}-e^{i2k\pi/n}|=|e^{i2k\pi/n}|\cdot|e^{i2\pi/n}-1|$(公式21.5 と,絶対値が積で保たれること $|AB|=|A||B|$ を使う)と変形すると,$k$ に依存する部分が消える.

演習21.4 $\tanh ix=i\tan x$ の証明

双曲線正接 $\tanh x=\dfrac{\sinh x}{\cosh x}$(第2章の定義)と,公式21.10 を用いて,$\tanh ix=i\tan x$($\tan x=\dfrac{\sin x}{\cos x}$)を示せ.

ヒント:$\tanh ix=\dfrac{\sinh ix}{\cosh ix}$ に公式21.10(i)(ii)をそのまま代入する.

演習21.5 直線の方程式で $\alpha$ が純虚数のとき

公式21.11 の直線の方程式 $\bar\alpha z+\alpha\bar z+c=0$ において,$\alpha$ が純虚数($\alpha=\frac b2i$,すなわち $a=0$)であるとき,この直線は $xy$平面上でどのような形(向き)の直線になるか調べよ.

ヒント:$\alpha=\frac a2+\frac b2i$ の対応から,$a=0$ は元の直線の方程式 $ax+by+c=0$ において $x$ の係数が $0$ であることを意味する.

演習21.6 円の方程式で $\alpha=0$ のとき

公式21.12 の円の方程式 $z\bar z-(\alpha\bar z+\bar\alpha z)+C=0$ において,中心が原点($\alpha=0$)の場合を考え,原点中心・半径 $r$ の円の方程式 $z\bar z=r^2$ と一致することを確かめよ.

ヒント:$\alpha=0$ を $C=\alpha\bar\alpha-r^2$ と方程式にそのまま代入する.

21.8.3 参考文献

  1. 望月泰英『数学ノート 複素解析学』(手書き講義ノート).本章の底本.
  2. 高木貞治『解析概論』岩波書店,改訂第3版(軽装版),1983年.
  3. L. V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd edition, McGraw-Hill, 1979.