第4章テイラーの定理と関数の展開
前章までで,多項式・指数関数・対数関数・三角関数・双曲線関数といった主な初等関数について,導関数(derivative,「微分係数を各点で対応させる関数」)を求める技術をひととおり身につけた.しかし,導関数それ自体は「その1点での変化の割合」を教えてくれるだけであり,関数のグラフ全体の形,たとえば「$x=0.1$ のときの $e^x$ の値はどれくらいか」「$\cos x$ を $x=0$ の近くで近似する多項式は何か」といった問いには,まだ答える道具を持っていない.
本章では,1点 $x=a$ における関数値と,そこでのすべての階数の導関数の値だけから,関数 $f(x)$ を「多項式で近似する」という,微分積分学でもっとも応用範囲の広い定理の1つ——テイラーの定理(Taylor's theorem,英国の数学者ブルック・テイラー Brook Taylor に由来)を学ぶ.テイラーの定理は,第2章で学んだ平均値の定理を「1次」から「$n$ 次」へ拡張したものであり,$n\to\infty$ の極限を考えることで関数を無限級数(テイラー展開・マクローリン展開)として表す道への扉を開く.その応用として,指数関数・三角関数のべき級数表示や,これらを結びつけるオイラーの公式,極限の計算,そして関数の極値を判定する高階微分の条件までを扱う.
- テイラーの定理:$f(x)=f(a)+\dfrac{f'(a)}{1!}(x-a)+\cdots+\dfrac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n+R_{n+1}$ と,誤差を表すラグランジュの剰余項 $R_{n+1}$
- 1次近似(接線近似)から出発し,積分によって2次・3次・…・$n$ 次近似へと帰納的に拡張していく導出の流れ
- テイラー展開・マクローリン展開の定義と,$e^x$,$\sin x$,$\cos x$ のマクローリン展開の導出
- べき級数の項別代入からオイラーの公式 $e^{ix}=\cos x+i\sin x$ を導く方法と,そこに潜む論理的な注意点
- テイラー展開を使って $\displaystyle\lim_{x\to+0}x^x=1$ のような「$0^0$ 型」の極限を求める方法
- $n$ 階導関数の一般公式($\sin x$,$\cos x$)と,積の高階微分を求めるライプニッツの公式
- 高階微分による極値判定条件:$f'(a)=\cdots=f^{(n-1)}(a)=0$,$f^{(n)}(a)\neq0$ のときに極値をもつかどうかの判定
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 微分積分学』 pp. 30–38.
4.1 テイラーの定理 — 1次近似から一般次数近似へ
第3章までで学んだのは,「関数 $f(x)$ の $x=a$ における導関数の値 $f'(a)$ は,そこでの接線の傾きである」ということだった.接線とは,$x=a$ の近くで $f(x)$ にもっとも近い直線(1次式)である.ならば,接線よりもっと $f(x)$ に近い放物線(2次式),さらに近い3次式,…,と近似の精度を上げていくことはできないだろうか.本節では,この問いに対する答え——テイラーの定理(Taylor's theorem)——を,1次近似から出発して一歩ずつ次数を上げていく,ノートに沿った構成的な方法で導く.
数学ノート:先取りする積分記号
以下の議論では,微分の逆演算である積分(integral)の記号 $\displaystyle\int$ を使う.積分そのものは第5章で正式に定義するが,ここでは高校数学(数学III)で学んだ次の事実だけを使う.
(i)$\displaystyle\int_a^{b} f'(x)\,dx = f(b)-f(a)$(微分積分学の基本定理:$f'(x)$ を積分すると,もとの $f(x)$ の増分がもどってくる).
(ii)定数 $c$ の積分は $\displaystyle\int c\,dx=cx+C$,$(x-a)$ の積分は $\displaystyle\int (x-a)\,dx=\frac{1}{2}(x-a)^2+C$,一般に $\displaystyle\int (x-a)^k\,dx=\frac{(x-a)^{k+1}}{k+1}+C$($C$ は積分定数).ここで $a$ は定数として扱っているので,$f'(a)$,$f''(a)$ なども($x$ に依存しない)ただの定数であることに注意する.
4.1.1 1次近似 — 接線近似を積分から作り直す
関数 $f(x)$ が $x=a$ を含む区間で微分可能であるとする.基本定理(i)を $b=a+h$ として使うと,
$$ f(a+h) = f(a) + \int_a^{a+h} f'(x)\,dx \qquad\cdots① $$が成り立つ.ここで,被積分関数 $f'(x)$ を,積分区間 $[a,a+h]$ の中で一番簡単な近似——「$x=a$ での値 $f'(a)$ のまま一定とみなす」——で置き換えてみる.$h$ が十分小さければ,区間の中で $f'(x)$ はほとんど変化しないはずだから,これはもっともらしい近似である.このとき①の積分は(ii)の(i番目の公式)よりただちに計算できて,
$$ \int_a^{a+h} f'(a)\,dx = f'(a)\cdot h $$となる.($f'(a)$ は定数だから,$\int_a^{a+h} f'(a)\,dx = f'(a)\underbrace{\int_a^{a+h}dx}_{=\,h} = f'(a)\,h$ である.)これを①に代入すると,
$$ f(a+h) \fallingdotseq f(a) + h\,f'(a) \qquad(\text{1次近似}) $$を得る.ここで記号「$\fallingdotseq$」は「近似的に等しい」ことを表す(本章のノート独自の書き方で,$=$ の上に小さな点を1つ添えたもの).さらに $x=a+h$(すなわち $h=x-a$)とおいて書きなおすと,$h$ を使わずに $x$ だけの式にできる.
これは高校数学で学んだ「接線の方程式」そのものである.
イメージ:1次近似とその誤差
図4.1に,1次近似②の意味を図示する.点 $(a,f(a))$ で曲線 $y=f(x)$ に接線を引き,$x$ を $a$ から $h$ だけ進めた点 $x=a+h$ まで接線に沿って進む.水平方向に $h$ だけ進み(青の水平矢印),続いて接線の傾き $f'(a)$ にしたがって垂直方向に $h\cdot f'(a)$ だけ上がる(青の垂直矢印).こうして到達する接線上の高さが,②の右辺 $f(a)+h f'(a)$ である.しかし実際の曲線の高さ $f(a+h)$ は,一般にはこれと一致しない.図のように曲線が接線の下側にある(上に凸である)場合,接線は実際の値より高く見積もりすぎており,その差(赤の矢印,ラベル $R$)が近似の誤差(error)である.$h$ を小さくするほど誤差 $R$ も小さくなるが,$h$ を固定したまま「どれだけ小さいか」を数式で評価したい——これが次項からの目標である.
4.1.2 2次近似 — 1次近似を積分の中に代入する
1次近似②は $f'(x)$ の情報しか使っていない.精度を上げるには,$f'(x)$ 自身をさらに1次近似すればよい.②を $f$ の代わりに $f'$ に対して適用する($f'$ を微分すれば $f''$ になることに注意)と,
$$ f'(x)\fallingdotseq f'(a)+(x-a)\cdot f''(a) \qquad\cdots③ $$注意:文字 $a$,$X$ の対応
後出の「定理4.1」では区間の右端を $X$ と書くが,ここでの説明(Explanation)では $a=a$,$X=a+h$ とおいて話を進めている.同じ文字 $a$ が「近似の中心」という同じ役割で一貫して使われていることに注意してほしい.
③を①に代入する.①の被積分関数 $f'(x)$ を③の右辺($x$ の1次式)で置き換えれば,
$$ f(a+h)\fallingdotseq f(a) + \int_a^{a+h}\bigl\{f'(a)+(x-a)\cdot f''(a)\bigr\}\,dx $$となる.右辺の積分は,(ii)の公式を項ごとに使って,
$$ f(a)+\int_a^{a+h}\bigl\{f'(a)+(x-a)\cdot f''(a)\bigr\}\,dx = f(a)+\left[f'(a)\cdot x + f''(a)\left(\frac{1}{2}x^2-ax\right)\right]_a^{a+h} $$と計算できる($f'(a)$,$f''(a)$ は定数なので積分の外に出し,$\int(x-a)\,dx=\int x\,dx - a\int dx = \tfrac12 x^2-ax+C$ を使った).あとは上端 $x=a+h$ の値から下端 $x=a$ の値を引くだけだが,$f'(a)$ を含む項は $f'(a)\{(a+h)-a\}=f'(a)\,h$ とすぐにまとまる.$f''(a)$ を含む項は少し込み入って見えるが,
$$ \left(\frac{1}{2}(a+h)^2-a(a+h)\right)-\left(\frac{1}{2}a^2-a^2\right) =\frac{1}{2}\Bigl\{(a+h)^2-2a(a+h)+a^2\Bigr\} =\frac{1}{2}\bigl\{(a+h)-a\bigr\}^2=\frac{h^2}{2} $$と,$(a+h)^2-2a(a+h)+a^2$ が $\{(a+h)-a\}^2$ という完全平方の形にまとまる($X^2-2aX+a^2=(X-a)^2$ に $X=a+h$ を入れただけである)ことに気づけば,きれいに $h^2/2$ に落ち着く.以上をまとめると,
$$ \therefore\ f(a+h)\fallingdotseq f(a)+h\cdot f'(a)+\frac{1}{2!}\cdot h^2\cdot f''(a) \qquad(\text{2次近似}) $$を得る.再び $x=a+h$ とおいて $x$ の式に直せば,
これは高校数学でいう「2次関数によるグラフの近似(放物線近似)」にあたる.⑤を作るには,②から③を作ったときと同じ代入操作を使う.④は,どんな(2回微分可能な)関数 $g$ に対しても成り立つ近似の型
$$ g(x)\fallingdotseq g(a)+g'(a)\cdot(x-a)+\frac{g''(a)}{2}\cdot(x-a)^2 $$に $g=f$ を代入したものにほかならない.そこで,同じ型に $g=f'$ を代入する($g'=f''$,$g''=f'''$ になることに注意する)と,
$$ f'(x)\fallingdotseq f'(a)+f''(a)\cdot(x-a)+\frac{f'''(a)}{2}\cdot(x-a)^2 \qquad\cdots⑤ $$が得られる.($a$ を変数と見て④を $a$ について直接微分しても⑤にはならないことに注意——$x$ を固定したまま④の右辺を $a$ で微分すると $\frac{f'''(a)}{2}(x-a)^2$ という別の式になってしまう.⑤が得られるのは,あくまで「$f$ を $f'$ に置き換える」という代入操作によってである.)
4.1.3 3次近似,そして一般の $n$ 次近似へ
今度は⑤を①に代入する.同じ計算($f'(a)$,$f''(a)$,$f'''(a)$ を定数として積分し,上端・下端を代入して完全立方の形 $\{(a+h)-a\}^3=h^3$ にまとめる)を繰り返すと,
$$ f(a+h)\fallingdotseq f(a)+\int_a^{a+h}\left\{f'(a)+f''(a)(x-a)+\frac{f'''(a)}{2}(x-a)^2\right\}dx = f(a)+\left[f'(a)x+f''(a)\left(\frac{1}{2}x^2-ax\right)+\frac{f'''(a)}{2}\left(\frac{1}{3}x^3-ax^2+a^2x\right)\right]_a^{a+h} $$となり,上端・下端の差を計算すると
$$ \therefore\ f(a+h)\fallingdotseq f(a)+h f'(a)+\frac{h^2}{2!}f''(a)+\frac{h^3}{3!}f'''(a)\qquad(\text{3次近似}) $$を得る.$x=a+h$ の形に直すと
$$ f(x)\fallingdotseq f(a)+f'(a)(x-a)+\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\frac{f'''(a)}{3!}(x-a)^3 $$である.ここまでの流れ——「$k$ 次近似の式を微分して $k+1$ 番目の導関数まで含む1次式(③,⑤に相当)を作り,それを①に代入してもう1段積分する」——は,$k$ が何であっても全く同じ形で繰り返せる.実際に,これを数学的帰納法(mathematical induction,「$k=1$ で成り立つことを確かめ,$k$ で成り立つと仮定すると $k+1$ でも成り立つことを示す」という高校数学既習の証明技法)で正当化できる(ノートの余白にも「数学的帰納法で証明」と注記されている).こうしてどこまでも次数を上げていくと,
$$ f(a+h)\fallingdotseq f(a)+h\cdot f'(a)+\frac{h^2}{2!}\cdot f''(a)+\cdots+\frac{h^n}{n!}\cdot f^{(n)}(a) $$という形の近似が得られる.しかし,この「$\fallingdotseq$」は近似であって等号ではない.どこまで正確なのか,誤差はどう書けるのか——ここに厳密な等号を成立させるための最後の1ピースが,次の剰余項(remainder term)である.
Check:剰余項 $R_{n+1}$
上の近似を等式にするには,末尾に誤差の項 $R_{n+1}$ を補えばよい.具体的には,ある $\xi$($a \lt \xi \lt a+h$)が存在して,
$$ R_{n+1} = \frac{h^{n+1}}{(n+1)!}\cdot f^{(n+1)}(\xi) $$と書ける.これをラグランジュの剰余項(Lagrange remainder,フランスの数学者ラグランジュ Joseph-Louis Lagrange に由来)という.$R_{n+1}$ は,$n$ 次近似で切り捨てた「本当は $f^{(n+1)}$ 以上の情報にも依存する部分」を代表して表しており,その大きさは誤差そのものである.
$x=a+h$ とおいて $x$ の式に戻すと,次の定理が得られる.
定理4.1 テイラーの定理(Taylor's theorem)
関数 $f(x),f'(x),\ldots,f^{(n)}(x)$ が,閉区間 $[a,X]$ で連続であり,かつ開区間 $(a,X)$ において $f^{(n)}(x)$ がさらに微分可能である(すなわち $f^{(n+1)}(x)$ が存在する)とする.このとき,ある値 $c$($a \lt c \lt X$)が存在して,
\begin{equation} f(X) = f(a) + \frac{f'(a)}{1!}(X-a) + \frac{f''(a)}{2!}(X-a)^2 + \cdots + \frac{f^{(n)}(a)}{n!}(X-a)^n + R_{n+1} \label{eq:4-taylor-thm} \end{equation}が成り立つ.ただし
\begin{equation} R_{n+1} = \frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(X-a)^{n+1} \qquad(a \lt c \lt X) \label{eq:4-remainder} \end{equation}である($X$ を $x$,$c$ を $\xi$ と書くこともある).
この結果は,存在が保証される点 $c$ を主張する,証明を要する命題であり,定義ではなく定理である.そこで本書では,最初から「定理」として提示した.
おまけ話:テイラーの定理は平均値の定理の拡張
$n=0$ のときの式 \eqref{eq:4-taylor-thm} を書き下すと,$f(X)=f(a)+f'(c)(X-a)$($a \lt c \lt X$)となる.これはまさに第2章で学んだ平均値の定理(mean value theorem)そのものである.つまりテイラーの定理は,平均値の定理を「1次」から「$n$ 次」へ拡張したものであり,$n$ を大きくするほど,より高階の導関数の情報を使ったきめ細かい近似になる.
例題4.1 $e^{0.1}$ の近似値と誤差の評価
テイラーの定理を使って,$f(x)=e^x$,$a=0$,$X=0.1$,$n=2$ の場合の近似多項式を作り,$e^{0.1}$ の近似値を求めよ.また,ラグランジュの剰余項を使って誤差の上限を評価し,実際の誤差と比較せよ.
解答 $f(x)=e^x$ は何回微分しても $f^{(k)}(x)=e^x$ なので,$f(0)=f'(0)=f''(0)=1$ である.定理4.1($n=2$,$a=0$,$X=x$)より,
\begin{equation} e^x = 1+x+\frac{x^2}{2!}+R_3,\qquad R_3=\frac{f'''(c)}{3!}x^3=\frac{e^{c}}{6}x^3\quad(0 \lt c \lt x) \label{eq:4-quad-approx} \end{equation}$x=0.1$ を代入すると,2次近似多項式の値は
$$ P_2(0.1)=1+0.1+\frac{0.1^2}{2}=1+0.1+0.005=1.105 $$である.誤差の上限は,$0 \lt c \lt 0.1$ の範囲で $e^{c}$ が最大になるのは $c\to0.1$ のとき($e^x$ は単調増加だから)なので,$e^{c} \lt e^{0.1}$ を使って
$$ |R_3| = \frac{e^{c}}{6}\times0.1^3 \lt \frac{e^{0.1}}{6}\times0.001 = 1.8420\times10^{-4} $$と評価できる($e^{0.1}=1.10517\ldots$ を使った.なお,この評価では答えを求めるのに答え自身の値 $e^{0.1}$ を使ってしまっているので,実用上は $e^{0.1} \lt e^{0.2} \lt 1.3$ のような粗い上からの評価を使うことが多いが,ここでは誤差の大きさを実感するために正確な値を使った).実際に $e^{0.1}=1.105170918\ldots$ なので,真の誤差は
$$ e^{0.1}-P_2(0.1) = 1.105170918\ldots-1.105 = 0.000170918\ldots $$であり,たしかに上限 $1.8420\times10^{-4}$ より小さい.次数を1つ上げるだけで(1次近似の誤差は $0.1$ のオーダーだったのに対し)誤差が $10^{-4}$ のオーダーまで一気に小さくなることが実感できる.(Python の sympy で検算済み.)
4.2 テイラー展開・マクローリン展開とその具体例
4.2.1 テイラー展開・マクローリン展開の定義
定理4.1で $n$ を大きくしていくと,剰余項 $R_{n+1}$ が $n\to\infty$ でどうなるかが気になる.もし $R_{n+1}\to0$ であれば,近似はどこまでも良くなり,等式
定義4.1 テイラー展開(Taylor expansion)
関数 $f(x)$ が,$x=a$ を含むある区間で何回でも微分可能であり,かつ $\displaystyle\lim_{n\to\infty}R_{n+1}=0$ を満たすとき,
$$ f(x) = f(a)+\frac{f'(a)}{1!}(x-a)+\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\cdots+\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n+\cdots =\sum_{n=0}^{\infty}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n $$と表せる.これを $f(x)$ の $x=a$ のまわりのテイラー展開という.右辺は無限個の項の和(級数,series)であり,$\Sigma$(シグマ,総和記号.「$n=0$ から $\infty$ まで足す」の意味)を使って書く.
が成り立つ.テイラーの定理(有限の $n$ で打ち切って誤差 $R_{n+1}$ を残す等式)と,テイラー展開($n\to\infty$ の無限級数として真に等号が成り立つ主張)は,似ているが別のものであることに注意しよう.前者は常に成り立つ($f$ が十分滑らかであれば)が,後者は $R_{n+1}\to0$ という追加の条件が必要である.
定義4.2 マクローリン展開(Maclaurin expansion)
テイラー展開において,特に中心を原点 $a=0$ に取ったものをマクローリン展開(スコットランドの数学者コリン・マクローリン Colin Maclaurin に由来)という.すなわち,
$$ f(x) = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{f^{(n)}(0)}{n!}\cdot x^n = f(0)+\frac{f'(0)}{1!}x+\frac{f''(0)}{2!}x^2+\cdots+\frac{f^{(n)}(0)}{n!}x^n+\cdots $$である.
マクローリン展開は「$a=0$ の場合のテイラー展開」にすぎないが,$x=0$ での微分係数だけで済むぶん計算が簡単になることが多く,以下ではもっぱらこちらを使う.
4.2.2 具体例:$e^x$,$\sin x$,$\cos x$ のマクローリン展開
導出:$e^x$ のマクローリン展開
$f(x)=e^x$ とおく.$e^x$ は何回微分しても $e^x$ 自身に戻る(第3章の結果)から,$f(0)=f'(0)=f''(0)=\cdots=f^{(n)}(0)=1$ である.したがってマクローリン展開(定義4.2)より,
\begin{equation} e^x = 1+\frac{x}{1!}+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\cdots+\frac{x^n}{n!}+\cdots \label{eq:4-exp-series} \end{equation}を得る.(この級数はすべての実数 $x$ で収束し,かつ $R_{n+1}\to0$ となることが示せる.証明は本章の範囲を超えるため省略するが,剰余項 $R_{n+1}=\frac{e^{c}}{(n+1)!}x^{n+1}$ の分母の階乗が分子よりずっと速く大きくなることから直感的には納得できるだろう.)
導出:$\sin x$ のマクローリン展開
$f(x)=\sin x$ とおく.導関数を高階まで計算すると($\sin$ と $\cos$ が4階ごとに周期的に戻ることを使う),
$$ f(0)=\sin 0=0,\qquad f'(0)=\cos 0=1 $$ $$ f''(0)=-\sin 0=0,\qquad f^{(3)}(0)=-\cos 0=-1 $$ $$ f^{(4)}(0)=\sin 0=0,\qquad f^{(5)}(0)=\cos 0=1,\qquad\vdots $$となる.つまり,偶数階の微分係数はすべて $0$,奇数階の微分係数は $1,-1,1,-1,\ldots$ と符号を交互に変える.マクローリン展開より,
$$ \sin x = 0+\frac{1}{1!}x^1+\frac{0}{2!}x^2+\frac{-1}{3!}x^3+\frac{0}{4!}x^4+\frac{1}{5!}x^5+\cdots = x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\cdots $$偶数次の項がすべて $0$ で消えることに注意して,奇数次の項だけを $\Sigma$ でまとめれば,
\begin{equation} \sin x = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}\,x^{2n+1} \label{eq:4-sin-series} \end{equation}と書ける($n=0,1,2,\ldots$ に対して指数 $2n+1=1,3,5,\ldots$ が奇数だけを生成することを確かめよ).
導出:$\cos x$ のマクローリン展開
同様に $f(x)=\cos x$ とおくと,
$$ f(0)=\cos 0=1,\qquad f'(0)=-\sin 0=0 $$ $$ f''(0)=-\cos 0=-1,\qquad f^{(3)}(0)=\sin 0=0 $$ $$ f^{(4)}(0)=\cos 0=1,\qquad f^{(5)}(0)=-\sin 0=0,\qquad\vdots $$となり,今度は奇数階の微分係数がすべて $0$,偶数階が $1,-1,1,-1,\ldots$ となる.マクローリン展開より,
$$ \cos x = 1+\frac{0}{1!}x+\frac{-1}{2!}x^2+\frac{0}{3!}x^3+\frac{1}{4!}x^4+\frac{0}{5!}x^5+\cdots =1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\cdots $$すなわち
\begin{equation} \cos x = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n)!}\,x^{2n} \label{eq:4-cos-series} \end{equation}である.
例題4.2 $\cos x$ の2次・4次近似多項式とそのグラフ
式 \eqref{eq:4-cos-series} を使って,$\cos x$ の $x=0$ のまわりの2次近似多項式 $P_2(x)$ と4次近似多項式 $P_4(x)$ を求めよ.また,$x$ が $0$ から離れるにつれて近似がどう崩れていくかをグラフで確認せよ.
解答 式 \eqref{eq:4-cos-series} の $n=0,1$ の項($x^0,x^2$ の項)まで取れば
$$ P_2(x) = 1-\frac{x^2}{2} $$$n=0,1,2$($x^0,x^2,x^4$ の項)まで取れば
$$ P_4(x) = 1-\frac{x^2}{2}+\frac{x^4}{24} $$である.図4.2に $\cos x$(青の実線)と $P_2$(橙の破線),$P_4$(緑の破線)を重ねて示す.$x=0$ の近くでは3本の曲線がほとんど重なって区別できないが,$|x|$ が $1$ を超えるあたりから $P_2$ が,$|x|$ が $2$ を超えるあたりから $P_4$ も,本物の $\cos x$ から目に見えて外れていく.次数を上げるほど「良く一致する $x$ の範囲」が広がっていく様子が読み取れる.(グラフの座標は Python で計算した.)
例題4.3 $\ln(1+x)$ のマクローリン展開
定義4.2にもとづいて,$f(x)=\ln(1+x)$ のマクローリン展開を求めよ.
解答 微分係数を順に計算する.
$$ f(x)=\ln(1+x),\quad f(0)=\ln1=0 $$ $$ f'(x)=\frac{1}{1+x},\quad f'(0)=1 $$ $$ f''(x)=-\frac{1}{(1+x)^2},\quad f''(0)=-1 $$ $$ f'''(x)=\frac{2}{(1+x)^3},\quad f'''(0)=2 $$ $$ f^{(4)}(x)=-\frac{6}{(1+x)^4},\quad f^{(4)}(0)=-6 $$ここから,$f^{(n)}(0)=(-1)^{n-1}(n-1)!$($n\ge1$)という規則性が見える(分子の符号が交互に変わり,絶対値は $0!,1!,2!,3!,\ldots=1,1,2,6,\ldots$ と階乗になっている).マクローリン展開の係数 $f^{(n)}(0)/n!$ に代入すると,$\dfrac{(-1)^{n-1}(n-1)!}{n!}=\dfrac{(-1)^{n-1}}{n}$ となるから,
$$ \ln(1+x) = x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}-\frac{x^4}{4}+\cdots = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}}{n}x^n $$を得る.(この級数は $-1 \lt x\le1$ の範囲で収束することが知られている.$x=1$ を代入すると $\ln 2=1-\frac12+\frac13-\frac14+\cdots$ という有名な級数になる.sympy の $\mathrm{series}$ で検算済み.)
4.2.3 オイラーの公式
指数関数と三角関数は,見た目はまったく違う関数だが,マクローリン展開という共通の土俵に乗せると,驚くべき関係で結ばれていることが分かる.
導出:オイラーの公式 $e^{ix}=\cos x+i\sin x$
式 \eqref{eq:4-exp-series} の $e^x=1+x+\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^3}{3!}+\cdots$ に,形式的に $x=ix$($i$ は虚数単位,$i^2=-1$)を代入してみる.
注意:実数関数に虚数を代入してよいのか
$e^x$ はもともと実数 $x$ に対して定義された関数であり,そこにいきなり虚数 $ix$ を代入するのは,本来は正当化が必要な操作である.なぜなら,「実数変数の関数」に虚数を入れた結果が何を意味するかは,その時点ではまだ定義されていないからである.厳密には,複素数 $z$ を変数とする指数関数 $e^{z}$ をあらためて級数 $e^{z}=\sum_{n=0}^\infty z^n/n!$ によって定義し(これは第23章「初等複素関数」で行う),それが実数の場合の $e^x$ と矛盾なくつながることを確かめてから使うべきものである.ここで行うのは,級数に項別に代入するとどうなるかを形式的に試す計算であり,たまたま最後に意味のある正しい答え(オイラーの公式)にたどり着く,という順序になっている.
$i^2=-1$,$i^3=-i$,$i^4=1$,$i^5=i,\ldots$($i$ の累乗は4個周期で $i,-1,-i,1$ を繰り返す)に注意して代入すると,
$$ e^{ix} = 1+ix+\frac{(ix)^2}{2!}+\frac{(ix)^3}{3!}+\frac{(ix)^4}{4!}+\cdots = 1+ix-\frac{x^2}{2!}-\frac{ix^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\frac{ix^5}{5!}-\frac{x^6}{6!}-\cdots $$となる.右辺を実部($i$ の付かない項)と虚部($i$ の付く項)に仕分けると,
$$ e^{ix} = \underbrace{\left(1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\cdots\right)}_{\textstyle=\ \cos x\ (式\eqref{eq:4-cos-series})} +\ i\underbrace{\left(x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\cdots\right)}_{\textstyle=\ \sin x\ (式\eqref{eq:4-sin-series})} $$実部はちょうど式 \eqref{eq:4-cos-series} の $\cos x$ の級数,虚部はちょうど式 \eqref{eq:4-sin-series} の $\sin x$ の級数と完全に一致している.したがって,
を得る.これをオイラーの公式(Euler's formula)という.第1章で $e$ の定義を学んだときにも触れたように,$e$,三角関数,虚数単位 $i$ という一見無関係な3つの概念が,このように1本の式で結ばれる.
4.3 テイラー展開の応用:$\displaystyle\lim_{x\to+0}x^x$ の計算
$\displaystyle\lim_{x\to+0}x^x$ を考えよう($x\to+0$ は「$x$ を正の側から $0$ に近づける」という意味.$x^x$ は $x\le0$ では実数として定義しにくいので,片側からの極限しか意味をなさない).$x\to+0$ のとき,底 $x\to0$ なので $0$ に近づこうとする一方,指数 $x\to0$ なので「何を底にしても0乗すれば1」に近づこうともする——この2つの効果がせめぎ合う,いわゆる「$0^0$ 型」の不定形である.ここでは,テイラー展開を使ってこの極限を求める,ノートに載っている巧妙な方法を見る.
4.3.1 $x=1$ のまわりでの3次までの近似
$f(x)=x^x$($x \gt 0$)とおく.対数微分法(第3章で学んだ,両辺の対数を取ってから微分する手法)を使うと,$y=x^x$ の両辺の自然対数を取って $\ln y = x\ln x$,これを $x$ で微分すると
$$ \frac{1}{y}\cdot\frac{dy}{dx}=\ln x+1 $$(右辺は積の微分公式:$(x\ln x)'=1\cdot\ln x+x\cdot\frac1x=\ln x+1$).よって
$$ f'(x)=(\ln x+1)\,x^x $$もう一度積の微分公式を使って微分すると,
$$ f''(x)=x^{x-1}+(\ln x+1)^2 x^x $$($\frac{d}{dx}(\ln x+1)=1/x$ と $\frac{d}{dx}x^x=(\ln x+1)x^x$ を使って,$f''(x)=\frac1x\cdot x^x+(\ln x+1)\cdot(\ln x+1)x^x=x^{x-1}+(\ln x+1)^2x^x$ となる).
$f(x)$ を,直接計算しやすい点 $x=1$ のまわりでテイラー展開の第3項($(x-1)^2$ の項)まで使って近似する.$f(1)=1^1=1$,$f'(1)=(\ln1+1)\cdot1=1$,$f''(1)=1^0+(\ln1+1)^2\cdot1=1+1=2$ であるから,
$$ f(x)\fallingdotseq \frac{f(1)}{0!}(x-1)^0+\frac{f'(1)}{1!}(x-1)+\frac{f''(1)}{2!}(x-1)^2 = 1+(x-1)+(x-1)^2 $$展開して整理すると,
$$ 1+(x-1)+(x-1)^2 = x^2-x+1 $$($(x-1)+(x-1)^2=(x-1)+(x^2-2x+1)=x^2-x$ に $1$ を足せば $x^2-x+1$ になる).すなわち $x=1$ の近くで $x^x\fallingdotseq x^2-x+1$ という近似が得られる.
4.3.2 不等式で挟む
$f(x)=x^x=\sum_{n=0}^\infty\dfrac{f^{(n)}(1)}{n!}(x-1)^n$ というテイラー展開を考えると,この級数は $a=1$ を中心として半径 $1$ で収束する($0 \lt x \lt 2$ の範囲で $f(x)$ に収束することが知られている).本節の目的は $\displaystyle\lim_{x\to+0}x^x$ を求めることなので,そのうち $0 \lt x \lt 1$ の部分だけを使えば十分である.
ここで $f(x)=x^x$ の増減を調べる.$f'(x)=(\ln x+1)x^x$ より,$f'(x)=0$ となるのは $\ln x=-1$,すなわち $x=1/e$ のときである.増減表を作ると次のようになる.
| $x$ | $0$ | $\cdots$ | $1/e$ | $\cdots$ | $1$ |
|---|---|---|---|---|---|
| $f'(x)$ | (定義域外) | $-$ | $0$ | $+$ | |
| $f(x)$ | (定義域外) | $\searrow$ | 極小 | $\nearrow$ | $1$ |
この表から,$0 \lt x \lt 1$ の範囲で $f(x)=x^x$ は常に $1$ より小さいことが分かる($x=1$ で初めて $f(1)=1$ に達し,それより手前ではずっと極小を経て単調に増加している).すなわち,
$$ x^x \lt 1 \qquad(0 \lt x \lt 1)\qquad\cdots① $$①は $x^x$ の上からの評価である.はさみうちを完成させるには,これと対になる,$x\to+0$ で同じく $1$ に近づく下からの評価がもう1つ必要になる.4.3.1節で作った近似 $x^x\fallingdotseq x^2-x+1$ を使い,「有限項までの和($x^2-x+1$)は,無限和($x^x$ 自身)より小さいはずだ」という直感から
$$ x^2-x+1 \ \lt\ x^x \qquad(0 \lt x \lt 1) $$を下からの評価として使いたくなる.しかし,これを実際に数値で確かめると成り立たない.たとえば $x=0.5$ のとき $x^x=0.70710678\ldots$,$x^2-x+1=0.75$ であり,$x=0.1$ のときも $x^x=0.79432\ldots$,$x^2-x+1=0.91$ であって,どちらも
$$ x^x \ \lt\ x^2-x+1 \qquad(0 \lt x \lt 1) $$と,先ほど期待した向きとは逆の不等式になっている(実際,$x^2-x+1$ は $x=1$ のまわりでの2次近似であり,剰余項の符号までは近似の直感だけでは決まらない).つまり,$x^2-x+1$ は $x^x$ の下からの評価には使えず,①と合わせても「上から」の評価が2つ得られるだけで,はさみうちは完成しない.$x^x$ の正しい下からの評価を作るには,テイラーの定理の剰余項を別途評価する必要があり,本章の範囲を超える.そこで,$\displaystyle\lim_{x\to+0}x^x=1$ の証明は,次に示すロピタルの定理を使う方法によって完結させる.
証明:ロピタルの定理を使う方法
$x^x$ は,指数関数と対数関数を使って $x^x=e^{x\ln x}$ と書き直せる(両辺の対数を取れば $\ln(x^x)=x\ln x=\ln(e^{x\ln x})$ となり確かに等しい).したがって
$$ \lim_{x\to+0}x^x=\lim_{x\to+0}e^{x\ln x} $$であり,指数関数 $e^{(\cdot)}$ は連続なので,中身の極限 $\displaystyle\lim_{x\to+0}x\ln x$ さえ求まれば,それを $e$ の指数に乗せるだけでよい.$x\ln x$ は $x\to+0$ で「$0\times(-\infty)$」の不定形なので,商の形に書き直す.
$$ \lim_{x\to+0}x\ln x = \lim_{x\to+0}\frac{\ln x}{1/x} $$右辺は $x\to+0$ で「$-\infty/\infty$」型の不定形になっており,第2章で学んだロピタルの定理(分子・分母をそれぞれ微分して極限を取り直してよい,という定理)が使える.分子 $(\ln x)'=1/x$,分母 $(1/x)'=-1/x^2$ より,
$$ \lim_{x\to+0}\frac{\ln x}{1/x} = \lim_{x\to+0}\frac{1/x}{-1/x^2} = \lim_{x\to+0}(-x) = 0 $$($\dfrac{1/x}{-1/x^2}=\dfrac1x\times\left(-x^2\right)=-x$ を使った).したがって
$$ \lim_{x\to+0}x^x = \lim_{x\to+0}e^{x\ln x} = e^0=1 $$となり,$\displaystyle\lim_{x\to+0}x^x=1$ が厳密に証明された(対数を取って $0\times(-\infty)$ の不定形を商の不定形に帰着し,ロピタルの定理を使うのが鍵だった).テイラー展開による評価①($x^x \lt 1$)は上からの評価として役に立つが,前段で見たように,下からの評価をテイラー展開だけから初等的に作ることはできなかった.こうして,テイラー展開の考え方(近似・評価)とロピタルの定理という2つの道具が,互いに補い合って初めてこの極限が求まる,という構造になっている.
例題4.4 テイラー展開を使う極限の計算:$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x-\sin x}{x^3}$
マクローリン展開を使って,$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x-\sin x}{x^3}$ を求めよ.
解答 式 \eqref{eq:4-sin-series} より $\sin x = x-\dfrac{x^3}{3!}+\dfrac{x^5}{5!}-\cdots$ であるから,
$$ x-\sin x = x-\left(x-\frac{x^3}{6}+\frac{x^5}{120}-\cdots\right) = \frac{x^3}{6}-\frac{x^5}{120}+\cdots $$($\sin x$ の展開の $x$ の項が $x$ そのものと打ち消し合うことに注意.これがまさにマクローリン展開を使う利点で,$x-\sin x$ という「引き算で消える恐れのある式」を,打ち消し合わない次数だけを残した形に整理できる.)両辺を $x^3$($\neq0$)で割ると,
$$ \frac{x-\sin x}{x^3} = \frac{1}{6}-\frac{x^2}{120}+\cdots $$$x\to0$ のとき,右辺の $x^2$ 以降の項はすべて $0$ に近づくから,
$$ \lim_{x\to0}\frac{x-\sin x}{x^3} = \frac{1}{6} $$を得る.(この極限は $\frac{0}{0}$ 型の不定形なのでロピタルの定理でも解けるが,3回微分する必要があり手間がかかる.一方,マクローリン展開を知っていれば,展開の各項を見比べるだけで一瞬で答えが分かる——これがテイラー展開の実用上のご利益である.sympy の $\mathrm{limit}$ で検算済み:$1/6$.)
4.4 高階導関数とライプニッツの公式
テイラー展開は $f^{(n)}(a)$,つまり $n$ 階までのすべての導関数の値を必要とする.そこで本節では,$n$ 階導関数を求めるための2つの実用的な道具——三角関数の $n$ 階導関数の一般公式と,積の高階微分を求めるライプニッツの公式——を用意する.これらは次節の極値判定条件でも使う.
4.4.1 $\sin x$,$\cos x$ の $n$ 階導関数
以下の公式4.1・公式4.2では,「$n\in\N$」という書き方を使う.$\N$(黒板太字,Natural numberの頭文字)は自然数全体の集合 $\{1,2,3,\ldots\}$ を表し,記号 $\in$ は「〜に属する(is an element of)」という意味である.したがって「$n\in\N$」は「$n$ は(1以上の)自然数である」ということを短く表したものにすぎない.
公式4.1 $\sin x$ の $n$ 階導関数
\begin{equation} \frac{d^n}{dx^n}(\sin x) = \sin\left(x+\frac{n\pi}{2}\right) \qquad(n\in\N) \qquad\cdots① \label{eq:4-nth-sin} \end{equation}証明:数学的帰納法による
【1】$n=1$ のとき.①の左辺は $\dfrac{d}{dx}(\sin x)=\cos x$.①の右辺は,加法定理 $\sin(A+B)=\sin A\cos B+\cos A\sin B$($A=x$,$B=\pi/2$)を使って,
$$ \sin\left(x+\frac{\pi}{2}\right)=\sin x\cos\frac{\pi}{2}+\cos x\sin\frac{\pi}{2}=\sin x\cdot0+\cos x\cdot1=\cos x $$両辺とも $\cos x$ に一致するので,$n=1$ のとき①は成立する.
【2】$n=k$($k$ は自然数)のとき,$\dfrac{d^k}{dx^k}(\sin x)=\sin\left(x+\dfrac{k\pi}{2}\right)$ が成り立つと仮定する.この両辺を $x$ でもう1回微分すると,左辺は $\dfrac{d^{k+1}}{dx^{k+1}}(\sin x)$ になり,右辺は合成関数の微分($\sin$ の中身 $x+k\pi/2$ を $x$ で微分すると $1$)より
$$ \frac{d}{dx}\left(\frac{d^k}{dx^k}\sin x\right) = \cos\left(x+\frac{k\pi}{2}\right) $$となる.ここで,$\cos\theta=\sin\left(\theta+\dfrac{\pi}{2}\right)$($n=1$ のときに確かめたのと同じ関係を $\theta=x+k\pi/2$ に対して使う)より,
$$ \cos\left(x+\frac{k\pi}{2}\right) = \sin\left(x+\frac{k\pi}{2}+\frac{\pi}{2}\right) = \sin\left(x+\frac{(k+1)\pi}{2}\right) $$したがって
$$ \frac{d^{k+1}}{dx^{k+1}}(\sin x) = \sin\left(x+\frac{(k+1)\pi}{2}\right) $$となり,$n=k+1$ のときも①が成立することが示された.【1】,【2】より,数学的帰納法により,①はすべての自然数 $n$ について成立する.(証明終わり)
公式4.2 $\cos x$ の $n$ 階導関数
\begin{equation} \frac{d^n}{dx^n}(\cos x) = \cos\left(x+\frac{n\pi}{2}\right) \qquad(n\in\N) \label{eq:4-nth-cos} \end{equation}証明は公式4.1とまったく同じ要領(数学的帰納法)で行える.実際に $n=1$ で確かめると,$\dfrac{d}{dx}(\cos x)=-\sin x$ であり,右辺は $\cos\left(x+\dfrac{\pi}{2}\right)=\cos x\cos\dfrac{\pi}{2}-\sin x\sin\dfrac{\pi}{2}=-\sin x$ となって一致する.一般の $n$ についても,公式4.1の証明とまったく同じ帰納法の手順——$\cos\theta$ を1回微分すると $-\sin\theta=\cos(\theta+\pi/2)$ になることを使って,$k$ 番目から $k+1$ 番目へ議論を進める——で証明できる.
例題4.5 $\sin x$ の5階導関数
公式4.1を使って $\dfrac{d^5}{dx^5}(\sin x)$ を求めよ.
解答 式 \eqref{eq:4-nth-sin} に $n=5$ を代入すると,
$$ \frac{d^5}{dx^5}(\sin x) = \sin\left(x+\frac{5\pi}{2}\right) $$ここで,$\sin$ は周期 $2\pi$ の関数だから,$\dfrac{5\pi}{2}=2\pi+\dfrac{\pi}{2}$ と分解すれば $\sin\left(x+\dfrac{5\pi}{2}\right)=\sin\left(x+2\pi+\dfrac{\pi}{2}\right)=\sin\left(x+\dfrac{\pi}{2}\right)=\cos x$(最後は公式4.1の証明【1】と同じ計算).したがって
$$ \frac{d^5}{dx^5}(\sin x) = \cos x $$である.($\sin x\to\cos x\to-\sin x\to-\cos x\to\sin x$ と4階ごとに周期的に戻ることを知っていれば,$5=4+1$ より「1階微分した形」つまり $\cos x$ になる,と暗算でも求まる.sympy で $\dfrac{d^5}{dx^5}\sin x$ を直接計算し,$\cos x$ に一致することを確認済み.)
4.4.2 ライプニッツの公式
2つの関数の積 $f(x)g(x)$ を1回微分すると積の微分公式 $(fg)'=f'g+fg'$ になることは第3章で学んだ.では,2回,3回,…,$n$ 回微分するとどうなるだろうか.実際に2回微分してみると,$(fg)''=(f'g+fg')'=f''g+f'g'+f'g'+fg''=f''g+2f'g'+fg''$ となり,係数 $1,2,1$ が現れる.これは二項係数 ${}_2C_0,{}_2C_1,{}_2C_2$ に他ならない.この観察を一般化したのが次の公式である.
公式4.3 ライプニッツの公式(Leibniz's rule)
\begin{equation} (f\cdot g)^{(n)} = \sum_{k=0}^{n}{}_nC_k\cdot f^{(n-k)}\cdot g^{(k)} \label{eq:4-leibniz} \end{equation}ここで ${}_nC_k=\dbinom{n}{k}=\dfrac{n!}{k!(n-k)!}$ は二項係数(高校数学既習),$f^{(0)}=f$,$g^{(0)}=g$(0階微分は関数そのもの)とする.
証明:数学的帰納法による
【1】$n=1$ のとき.左辺は $\{f(x)g(x)\}^{(1)}=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)$.右辺は ${}_1C_0f'(x)g(x)+{}_1C_1f(x)g'(x)=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)$(${}_1C_0={}_1C_1=1$ を使った).両辺が一致するので,$n=1$ で成立する.
【2】$n=N$ のとき,$\{f(x)g(x)\}^{(N)}=\displaystyle\sum_{k=0}^{N}{}_NC_k f^{(N-k)}(x)g^{(k)}(x)$ が成立すると仮定する.両辺をもう1回 $x$ で微分する.右辺の各項 ${}_NC_k f^{(N-k)}g^{(k)}$ に積の微分公式を使うと,${}_NC_k\bigl(f^{(N-k+1)}g^{(k)}+f^{(N-k)}g^{(k+1)}\bigr)$ になるから,
$$ \frac{d}{dx}\{f(x)g(x)\}^{(N)} = {}_NC_0\bigl(f^{(N+1)}g+f^{(N)}g'\bigr) + {}_NC_1\bigl(f^{(N)}g'+f^{(N-1)}g''\bigr) + {}_NC_2\bigl(f^{(N-1)}g''+f^{(N-2)}g'''\bigr) + \cdots $$ $$ \cdots + {}_NC_{N-1}\bigl(f''g^{(N-1)}+f'g^{(N)}\bigr) + {}_NC_N\bigl(f'g^{(N)}+fg^{(N+1)}\bigr) $$(引数 $(x)$ は省略した)となる.ここで,同じ組み合わせ $f^{(N-k)}g^{(k+1)}$ が2つの隣り合う項($k$ 番目の後半と $k+1$ 番目の前半)から重複して現れることに注目し,$f^{(N-k)}g^{(k)}$ の形ごとに項をまとめ直すと,
$$ = {}_NC_0 f^{(N+1)}g + \bigl({}_NC_0+{}_NC_1\bigr)f^{(N)}g' + \bigl({}_NC_1+{}_NC_2\bigr)f^{(N-1)}g''+\cdots+\bigl({}_NC_{N-1}+{}_NC_N\bigr)f'g^{(N)} + {}_NC_N fg^{(N+1)} $$となる.ここで,二項係数の対称性 ${}_{N+1}C_0={}_{N+1}C_{N+1}=1$ より端の係数は ${}_NC_0={}_{N+1}C_0=1$,${}_NC_N={}_{N+1}C_{N+1}=1$ と書き直せ,さらにパスカルの関係式(高校数学既習の二項係数の漸化式)
$$ {}_NC_k+{}_NC_{k+1}={}_{N+1}C_{k+1} \qquad(k=0,1,\ldots,N) $$を各中間項に使うと,すべての係数が ${}_{N+1}C_j$($j=0,\ldots,N+1$)の形にそろい,
$$ \frac{d}{dx}\{f(x)g(x)\}^{(N)} = \sum_{k=0}^{N+1}{}_{N+1}C_k\, f^{(N+1-k)}(x)\,g^{(k)}(x) $$となる.これは $n=N+1$ のときの主張そのものである.【1】,【2】より,数学的帰納法により,公式4.3はすべての自然数 $n$ について成り立つ.(証明終わり)
イメージ:二項定理との対応
ライプニッツの公式の形 $\displaystyle\sum_{k=0}^n{}_nC_k f^{(n-k)}g^{(k)}$ は,二項定理 $\displaystyle(a+b)^n=\sum_{k=0}^n{}_nC_k a^{n-k}b^k$ と全く同じ構造をしている.実際,「微分する」という操作を形式的に $D$ と書き,積の微分公式を $D(fg)=(Df)g+f(Dg)$ と見ると,$D^n(fg)$ を求める計算は,あたかも $(Df+Dg)^n$($D$ を $f$ 側にかけるか $g$ 側にかけるかを選びながら $n$ 回演算を繰り返す)を二項展開するのと同じ組み合わせ構造をもつ.これが,ライプニッツの公式に二項係数 ${}_nC_k$ が現れる理由である.
例題4.6 ライプニッツの公式で $(x^2\sin x)'''$ を求める
ライプニッツの公式を使って,$(x^2\sin x)^{(3)}$ を求めよ.
解答 $f(x)=x^2$,$g(x)=\sin x$ とおく.$f$ の導関数は3階以降すべて $0$ になるので,
$$ f=x^2,\quad f'=2x,\quad f''=2,\quad f'''=0 $$ $$ g=\sin x,\quad g'=\cos x,\quad g''=-\sin x,\quad g'''=-\cos x $$公式4.3($n=3$)より,
$$ (fg)^{(3)} = {}_3C_0\,f\,g''' + {}_3C_1\,f'g'' + {}_3C_2\,f''g' + {}_3C_3\,f'''g $$${}_3C_0=1,\ {}_3C_1=3,\ {}_3C_2=3,\ {}_3C_3=1$ を使って各項を計算すると,
$$ = 1\cdot x^2\cdot(-\cos x) + 3\cdot(2x)\cdot(-\sin x) + 3\cdot2\cdot\cos x + 1\cdot0\cdot\sin x $$ $$ = -x^2\cos x - 6x\sin x + 6\cos x $$(最後の項は $f'''=0$ なので消える).したがって
$$ (x^2\sin x)^{(3)} = -x^2\cos x-6x\sin x+6\cos x $$である.(sympy で直接3回微分した結果と一致することを確認済み.)
4.5 極値の判定条件(高階微分による)
高校数学では,「$f'(a)=0$ かつ $f'(x)$ が $x=a$ の前後で符号を変えれば,$x=a$ で極値をとる」という増減表による判定法を学んだ.しかし,$f'(a)=0$ であっても符号が変わらない場合(たとえば $f(x)=x^3$ の $x=0$)もあり,増減表だけでは埒が明かないことがある.テイラーの定理を使うと,この判定条件を高階の導関数を使って一般化し,しかも「なぜそう判定できるのか」を証明つきで理解できる.
4.5.1 定理の主張
定理4.2 高階微分による極値の判定条件
関数 $f(x)$ は $x=a$ の近傍で $C^n$ 級($n$ 階まで導関数が存在し,それが連続であるという意味.英語の class の頭文字 $C$ を使い,「$C^n$ 級」で「$n$ 回微分可能で $n$ 階導関数が連続」を表す)であるとする.もし
$$ f'(a)=f''(a)=\cdots=f^{(n-1)}(a)=0 \quad\text{かつ}\quad f^{(n)}(a)\neq0 $$ならば,次が成り立つ.
(i) $n$ が偶数のとき:$f^{(n)}(a) \gt 0$ ならば $x=a$ で極小,$f^{(n)}(a) \lt 0$ ならば $x=a$ で極大.
(ii) $n$ が奇数のとき:$f(x)$ は $x=a$ で極値をとらない.
この定理の意味を確認しておこう.一般に,「$x=a$ で $f(x)$ が極値をもつ」ならば「$f'(a)=0$」は必ず成り立つ(極値では接線が水平になる,第2章既習)が,逆の「$f'(a)=0$ ならば極値をもつ」は成り立たない($f(x)=x^3$ の $x=0$ が反例).つまり $f'(a)=0$ は極値であるための必要条件ではあるが十分条件ではない.定理4.2は,「$x=a$ で $f(x)$ が極値をもつ」ための必要十分条件を,最初に $0$ でなくなる導関数の階数 $n$ の偶奇と符号によって完全に特定するものである.
4.5.2 証明
証明
テイラーの定理(定理4.1,式 \eqref{eq:4-taylor-thm})より,ある $c$($a$ と $x$ の間)が存在して,
$$ f(x)=f(a)+\frac{f'(a)}{1!}(x-a)+\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\cdots+\frac{f^{(n)}(c)}{n!}(x-a)^n $$ここで,仮定より $f'(a)=f''(a)=\cdots=f^{(n-1)}(a)=0$ なので,右辺の第2項から第 $n$ 項の手前まで($(x-a)^1$ から $(x-a)^{n-1}$ までの項)はすべて消え,最後の1項だけが残る.
$$ f(x)=f(a)+\frac{f^{(n)}(c)}{n!}(x-a)^n $$すなわち
$$ f(x)-f(a)=\frac{f^{(n)}(c)}{n!}(x-a)^n \qquad\cdots(\ast) $$ただし,この $c$ は $a$ と $x$ の間,つまり $a \lt c \lt x$(または $x \lt c \lt a$)を満たす値であり,$x$ を決めるごとに $c$ も定まる(一般には $x$ によって異なる値になる).
証明(続き)
図4.5のように,$c$ は常に $a$ と $x$ の間にある.したがって $x\to a$ のとき,はさみうちの原理により $c\to a$ となる.$f^{(n)}(x)$ は連続($C^n$ 級の仮定)だから,$c\to a$ のとき $f^{(n)}(c)\to f^{(n)}(a)$ である.すなわち,$x$ が $a$ に十分近ければ,$f^{(n)}(c)$ の符号は $f^{(n)}(a)$ の符号と(連続性により)同じになる.
(i) $n$ が偶数のとき.$(x-a)^n$ は $x$ が $a$ より大きくても小さくても,偶数乗だから常に正である.
【場合1】$f^{(n)}(a) \gt 0$ のとき.$x$ が $a$ に十分近ければ $f^{(n)}(c) \gt 0$ でもあるから,$(\ast)$ の右辺は「正 $\div$ 正 $\times$ 正」で正になる.
$$ f(x)-f(a)=\frac{\overbrace{f^{(n)}(c)}^{\text{正}}}{\underbrace{n!}_{\text{正}}}\underbrace{(x-a)^n}_{\text{正}} \ \gt \ 0 $$つまり $x$ が $a$ の近くのどちら側にあっても $f(x) \gt f(a)$ となる.これはまさに「$f(a)$ が極小値である」ことの定義そのものである.
【場合2】$f^{(n)}(a) \lt 0$ のとき.同様に $x$ が $a$ に十分近ければ $f^{(n)}(c) \lt 0$ なので,$(\ast)$ の右辺は「負 $\div$ 正 $\times$ 正」で負になる.
$$ f(x)-f(a)=\frac{\overbrace{f^{(n)}(c)}^{\text{負}}}{\underbrace{n!}_{\text{正}}}\underbrace{(x-a)^n}_{\text{正}} \ \lt \ 0 $$つまり $x$ が $a$ の近くのどちら側にあっても $f(x) \lt f(a)$ となり,$f(a)$ は極大値である.
(ii) $n$ が奇数のとき.$(x-a)^n$ は,$x-a \gt 0$($x \gt a$)のとき正,$x-a \lt 0$($x \lt a$)のとき負となり,$x$ が $a$ をまたぐと符号が反転する.$f^{(n)}(a)\ (\neq0)$ の符号は $x$ によらず一定なので,
$$ f(x)-f(a)=\frac{f^{(n)}(c)}{n!}(x-a)^n $$の符号は,$(x-a)^n$ の符号がそのまま反映されて,$x \gt a$ のときと $x \lt a$ のときとで入れ替わる.「$x=a$ の片側で $f(x) \gt f(a)$,反対側で $f(x) \lt f(a)$」ということは,$f(a)$ は極大値でも極小値でもない——すなわち $x=a$ で $f(x)$ は極値をもたない.(証明終わり)
例題4.7 定理4.2の適用例:$f(x)=x^4-5x^3+9x^2-7x$
$f(x)=x^4-5x^3+9x^2-7x$ の極値を,定理4.2を使って求めよ.
解答 まず1階導関数を求め,因数分解する.
$$ f'(x)=4x^3-15x^2+18x-7=(x-1)^2(4x-7) $$($x=1$ が2重解になっていることは,展開して確かめられる:$(x-1)^2(4x-7)=(x^2-2x+1)(4x-7)=4x^3-7x^2-8x^2+14x+4x-7=4x^3-15x^2+18x-7$,たしかに一致する.)続けて高階導関数も求めておく.
$$ f''(x)=12x^2-30x+18,\qquad f'''(x)=24x-30,\qquad f^{(4)}(x)=24 $$$f'(x)=0$ とおくと,$(x-1)^2(4x-7)=0$ より $x=1,\ \dfrac{7}{4}$ の2つの臨界点(critical point,$f'=0$ となる点)が見つかる.
(i) $x=1$ のとき.$f'(1)=0$(そもそもの前提),$f''(1)=12-30+18=0$,$f'''(1)=24-30=-6\ (\neq0)$.したがって「$f^{(n)}(1)\neq0$ となる最小の $n$」は $n=3$ であり,$n=3$ は奇数だから,定理4.2(ii)より $f(1)$ は極値ではない.
(ii) $x=\dfrac{7}{4}$ のとき.$f'\!\left(\dfrac74\right)=0$(前提),$f''\!\left(\dfrac74\right)=12\cdot\dfrac{49}{16}-30\cdot\dfrac74+18=\dfrac{147}{4}-\dfrac{210}{4}+\dfrac{72}{4}=\dfrac{9}{4}\ (\neq0)$.したがって最小の $n$ は $n=2$ であり,$n=2$ は偶数,かつ $f''(7/4)=9/4 \gt 0$ だから,定理4.2(i)より $f\!\left(\dfrac74\right)$ は $f(x)$ の極小値である.(sympy で $f'$ の因数分解と $f'',f'''$ の値を検算済み.)
例題4.8 $n$ が奇数になる例:$f(x)=x^3$
$f(x)=x^3$ について,$x=0$ で極値をとるかどうかを定理4.2を使って判定せよ.
解答 $f'(x)=3x^2$,$f''(x)=6x$,$f'''(x)=6$ なので,$f'(0)=0$,$f''(0)=0$,$f'''(0)=6\ (\neq0)$.「$f^{(n)}(0)\neq0$ となる最小の $n$」は $n=3$(奇数)だから,定理4.2(ii)より,$f(x)=x^3$ は $x=0$ で極値をとらない.実際,$x^3$ は $x=0$ の前後どちらでも符号は変わるが単調に増加し続けており($x \lt 0$ で負,$x \gt 0$ で正),$x=0$ は極大でも極小でもなく,接線が水平な変曲点(inflection point,曲線の凹凸が入れ替わる点)になっている.これは「$f'(a)=0$ だが極値ではない」の典型例であり,高校数学の増減表だけでは見落としがちな点を定理4.2がきちんと説明してくれる好例である.
4.6 まとめと演習
4.6.1 まとめ
- テイラーの定理:$f(X)=f(a)+\dfrac{f'(a)}{1!}(X-a)+\cdots+\dfrac{f^{(n)}(a)}{n!}(X-a)^n+R_{n+1}$,$R_{n+1}=\dfrac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(X-a)^{n+1}$($a \lt c \lt X$,ラグランジュの剰余項).$n=0$ の場合が平均値の定理である.
- 導出の要点:1次近似(接線近似)$f(a+h)\fallingdotseq f(a)+hf'(a)$ を出発点に,これを積分の中に代入して2次近似,3次近似,…と次数を上げていく.各段階で $(a+h-a)^k=h^k$ という完全べき乗の形に整理されるのが鍵だった.
- テイラー展開・マクローリン展開:$R_{n+1}\to0$($n\to\infty$)のとき,$f(x)=\sum_{n=0}^\infty\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n$.$a=0$ の場合が特にマクローリン展開.
- 具体例:$e^x=\sum\frac{x^n}{n!}$,$\sin x=\sum\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}x^{2n+1}$,$\cos x=\sum\frac{(-1)^n}{(2n)!}x^{2n}$,$\ln(1+x)=\sum\frac{(-1)^{n-1}}{n}x^n$.これらを項別に組み合わせるとオイラーの公式 $e^{ix}=\cos x+i\sin x$ が得られる.
- 応用:$\lim_{x\to+0}x^x=1$ を,テイラー展開による上からの評価 $x^x \lt 1$ とロピタルの定理を組み合わせて示した.一般に,マクローリン展開は $\frac00$ 型の極限計算にも便利である.
- $n$ 階導関数:$\frac{d^n}{dx^n}\sin x=\sin(x+n\pi/2)$,$\frac{d^n}{dx^n}\cos x=\cos(x+n\pi/2)$.積の高階微分はライプニッツの公式 $(fg)^{(n)}=\sum_k{}_nC_kf^{(n-k)}g^{(k)}$(二項定理と同じ組合せ構造).
- 極値の判定:$f'(a)=\cdots=f^{(n-1)}(a)=0$,$f^{(n)}(a)\neq0$ のとき,$n$ が偶数なら $f^{(n)}(a)$ の符号に応じて極小/極大,$n$ が奇数なら極値をとらない.証明はテイラーの定理から $f(x)-f(a)=\frac{f^{(n)}(c)}{n!}(x-a)^n$ を作り,$(x-a)^n$ の符号の偶奇性を見るだけで完結する.
4.6.2 演習問題
演習4.1 $\sin(0.1)$ の1次近似と誤差評価
$f(x)=\sin x$ の $x=0$ のまわりの1次近似(マクローリン展開の1次の項まで)を使って $\sin(0.1)$ を近似せよ.また,ラグランジュの剰余項を使って誤差の上限を評価し,実際の誤差($\sin(0.1)=0.0998334\ldots$)と比較せよ.
ヒント:$f(x)=\sin x$ に対して $f(0)=0$,$f'(0)=1$ なので1次近似は $\sin x\fallingdotseq x$.剰余項は $R_2=\dfrac{f''(c)}{2!}x^2=-\dfrac{\sin c}{2}x^2$($0 \lt c \lt 0.1$)であり,$|\sin c|\le1$ を使って上から評価する.
演習4.2 $\sinh x$ のマクローリン展開
双曲線関数 $\sinh x=\dfrac{e^x-e^{-x}}{2}$(第2章既習)のマクローリン展開を,$e^x$ と $e^{-x}$ のマクローリン展開(式 \eqref{eq:4-exp-series})から求めよ.
ヒント:$e^{-x}$ の展開は式 \eqref{eq:4-exp-series} に $x\to-x$ を代入すればよい.$e^x-e^{-x}$ を計算すると,偶数次の項どうしが打ち消し合い,奇数次の項だけが2倍になって残る.
演習4.3 $\cos(0.2)$ の5次近似と誤差評価
式 \eqref{eq:4-cos-series} を使って,$\cos x$ の5次まで($x^4$ の項まで.$\cos x$ の展開に奇数次の項はないので,5次近似と4次近似は同じ多項式になることに注意)の近似多項式で $\cos(0.2)$ を近似し,実際の値 $\cos(0.2)=0.980066\ldots$ と比較せよ.
ヒント:$P_4(x)=1-\dfrac{x^2}{2}+\dfrac{x^4}{24}$ に $x=0.2$ を代入する.誤差の大きさは,次の項($x^6$ の項,$6!=720$)のオーダーで見積もれる.
演習4.4 $\cos x$ の4階導関数
公式4.2を使って $\dfrac{d^4}{dx^4}(\cos x)$ を求めよ.
ヒント:式 \eqref{eq:4-nth-cos} に $n=4$ を代入し,$\cos$ の周期 $2\pi$ を使って角を整理する.
演習4.5 ライプニッツの公式で $(x^3e^x)^{(4)}$ を求める
ライプニッツの公式(公式4.3)を使って,$(x^3e^x)^{(4)}$ を求めよ.
ヒント:$f=x^3$ は4階微分すると $0$ になる(3階までしか項が残らない).$g=e^x$ は何回微分しても $e^x$ のままである.${}_4C_0,\ldots,{}_4C_4=1,4,6,4,1$ を使う.
演習4.6 $f(x)=x^5-5x$ の極値
定理4.2を使って,$f(x)=x^5-5x$ の極値をすべて求めよ.
ヒント:$f'(x)=5x^4-5=5(x^2-1)(x^2+1)$.実数の臨界点は $x^2+1\neq0$ に注意して $x^2-1=0$ から求める.$f''(x)=20x^3$ の符号を各臨界点で調べる.
演習4.7 $\displaystyle\lim_{x\to+0}x^{2x}$ を求める
$\displaystyle\lim_{x\to+0}x^{2x}$ を,テイラー展開またはロピタルの定理を使って求めよ.
ヒント:4.3節の $\lim_{x\to+0}x^x$ の証明(ロピタルの定理を使う方法)にならい,$x^{2x}=e^{2x\ln x}$ と書き直して,指数部分 $2x\ln x$ の極限を求める.
4.6.3 参考文献
- 望月泰英『数学ノート 微分積分学』(手書き講義ノート).本章の底本.
- 杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会,1980年.
- 高木貞治『解析概論』岩波書店,改訂第3版,1983年.
関連シミュレーター:Taylor 展開