大学数学 — 目次 第IX部 偏微分方程式 / 第42章

第42章偏微分方程式の導入とラグランジュの1階偏微分方程式

第33章から第41章まで,私たちは常微分方程式(ordinary differential equation,未知関数が1つの変数だけの関数であるような微分方程式)を学んできた.いよいよ本章から,未知関数が2つ以上の変数の関数である偏微分方程式(partial differential equation,略して PDE)に進む.偏微分方程式は,弦の振動,熱の伝わり方,電磁波,そして量子力学の波動関数まで,自然界のほとんど全ての現象を記述する言葉である.第43章以降で波動方程式・熱伝導方程式・シュレーディンガー方程式へと進んでいくが,本章ではまずウォームアップとして,偏微分方程式が常微分方程式と本質的にどう違うのか,そして最も基本的な「1階」の偏微分方程式(ラグランジュの偏微分方程式)をどう解くのかを学ぶ.

常微分方程式の一般解には任意定数が付くのに対して,偏微分方程式の一般解には任意関数が付く——この一点に尽きるのだが,「関数まるごと1つ分の自由度がある」というのがどれほど途方もないことか,具体的な例とグラフで実感してもらうことから始めよう.そのあと,ラグランジュ(Lagrange)の名を冠した1階偏微分方程式 $P z_x+Q z_y=R$ を,3次元空間内の曲面の接平面という幾何学的なイメージを使って解く方法を学ぶ.最後に,全微分方程式・完全微分方程式,そして波が進んでいく現象を表す「進行波の偏微分方程式」まで,第9部の土台となる道具一式をそろえる.

この章で学ぶこと
  • 常微分方程式の解に付く「任意定数」と,偏微分方程式の解に付く「任意関数」の違い(具体例とグラフで)
  • 初期条件・境界条件を課して,一般解から特殊解を選び出すという方針
  • ラグランジュの偏微分方程式 $Pz_x+Qz_y=R$ と,特性方程式 $\dfrac{dx}{P}=\dfrac{dy}{Q}=\dfrac{dz}{R}$ による解法
  • 解曲面の接平面の法線ベクトルという幾何学的描像から,特性方程式そのものを導く(なぜこの解法が正しいのか)
  • $n$ 変数関数へ一般化されたラグランジュの偏微分方程式と,境界条件付きの例題
  • 全微分方程式・完全微分方程式(2変数・3変数)と,勾配・回転($\rot$)との関係
  • 進行波を表す偏微分方程式 $\pdiff{u}{t}=\mp v_0\pdiff{u}{x}$ と,そこから導かれる波動方程式
前提:第6章(偏微分の記号 $\pdiff{z}{x}$ と多変数関数),第15章(ベクトルの内積・外積),第33章・第34章(1階常微分方程式の基本解法と完全微分方程式),第19章(発散と回転 $\rot$).ベクトルの内積は高校数学第7章(ベクトル)でも学んだ内容である.
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 偏微分方程式』 pp. 1–10.

42.1 偏微分方程式とは何か — 任意関数の登場

第33章で学んだ常微分方程式(ordinary differential equation)とは,未知関数が $x$ など1つだけの変数の関数であるような微分方程式であった.たとえば,もっとも単純な例として

$$ \diff{y}{x}=1 $$

を考えよう.両辺を $x$ で積分すれば,解は

\begin{equation} y=x+C \label{eq:42-ode-const} \end{equation}

となる.ここで $C$ は任意定数(積分定数)であり,$C$ の値をどう選んでも $y=x+C$ はもとの方程式を満たす.$C$ を色々な値に取り替えると,図42.1のように,傾き1の直線が上下に平行移動していく「直線の族」ができる.常微分方程式の解のイメージは,このように非常につかみやすい.

y=x+Cのイメージ図.傾き1の平行な直線が3本,Cの値に応じて上下にずれて並んでいる
図42.1 常微分方程式 $\diff yx=1$ の解 $y=x+C$.$C$ を変えると,傾き1の直線が上下に平行移動していく.ノートの図(i)を清書したもの.

これに対して,未知関数が2つ以上の変数の関数であるような微分方程式を偏微分方程式(partial differential equation,PDE)と呼ぶ.たとえば,未知関数を $z=z(x,y)$($x,y$ の2変数関数)として,次の方程式を考えよう.

$$ \pdiff zx=1 $$

これは「$z$ を $x$ で偏微分すると $1$ になる(ただし $y$ の効き方は何も指定していない)」という意味である.$y$ を固定して $x$ について積分すれば $z=x+(\text{$x$によらない量})$ となるが,その「$x$によらない量」は $y$ の関数であれば何でもよい.つまり解は

\begin{equation} z=x+f(y) \label{eq:42-pde-arbfunc} \end{equation}

であり,$f$ はどんな関数を選んでもよい(実際,$\pdiff{}{x}\{x+f(y)\}=1+0=1$ となって,$f$ の中身によらず方程式を満たすことが確認できる).ここが常微分方程式との決定的な違いである——常微分方程式の一般解には任意定数 $C$ が1個つくだけだったのに対し,偏微分方程式の一般解には任意関数 $f$ がまるごと1つ付いてくる.

イメージ:関数まるごと1つ分の自由度

「任意関数がつく」ことの意味を,実際にグラフで見て実感しよう.$f(y)=y$ とすると $z=x+y$ となり,これは平面のグラフである(図42.2(i)).ところが $f(y)=y^2$ とすると $z=x+y^2$ となり,$y$ 方向には放物線状に反り返った,樋(とい)のような曲面になる(図42.2(ii)).同じ「$\pdiff zx=1$ を満たす」という条件を課しているのに,$f$ の選び方だけでグラフの形がまったく別物になってしまうのである.$f(y)=\sin y$ を選べば,こんどは $y$ 方向に波打つ曲面になる(図42.2(iii)).常微分方程式の解が「1本の数直線上の1点(=定数 $C$)」を選ぶ自由度しかなかったのに対し,偏微分方程式の解は「$y$ を横軸にとったグラフ1枚まるごと(=関数 $f$)」を選ぶ自由度がある——これが,偏微分方程式の解の多様性が常微分方程式よりもはるかに大きい理由である.

z=x+f(y)の3つの曲面を比較する図.(i)f(y)=yのとき平面,(ii)f(y)=y二乗のとき樋状に反った曲面,(iii)f(y)=sin yのとき波打つ曲面になる.いずれもx軸方向に伸びる斜めの房線で面を表現している
図42.2 $z=x+f(y)$ の3つの場合.いずれも,$x$ 軸方向に伸びる斜めの線分(房線)を $y$ の値ごとに並べて曲面を表している.(i) $f(y)=y$ は平面,(ii) $f(y)=y^2$ は樋状に反った曲面,(iii) $f(y)=\sin y$ は波打つ曲面になる.座標軸はいずれも原点 $O$ から $x,y,z$ の3方向を示す(斜投影,oblique projection:奥行き方向の軸を斜めの向きに縮めて描く,立体を2次元の紙面に描き表す方法の一つ).ノートの図(ii)(iii)(p.1)と,p.2の表計算ソフトによる3D曲面グラフを1つの図にまとめて清書したもの.

数学ノート:表計算ソフトによる確認(p.2)

ノートの p.2 には,この3つの曲面を実際にコンピュータ(表計算ソフトの3Dグラフ機能)で描いた図が貼り付けてある.セル参照を使った計算式 =$A2+B$1($z=x+y$),=$A2+B$1^2($z=x+y^2$),=$A2+SIN(B$1)($z=x+\sin y$)が手書きで注記されており,$x$ の値を列 A,$y$ の値を行 1 に並べて格子状に計算したものと分かる.手描きの図42.2と,このコンピュータ計算による図が同じ形を示していることが,ノート自身によって確認されている.

このように,偏微分方程式の一般解には任意関数が付くために,何の制約もなければ解の形は無限に多様である.そこで実際に偏微分方程式を解くときには,未知関数がある値を取るべき条件を追加で課して,任意関数の中身を特定の関数に決めてしまう.条件によって任意関数を特定した解を特殊解(particular solution)と呼ぶ.一般解(任意関数を含む,最も広いクラスの解)に対して,特殊解は「その中から実際の問題設定に合う1つを選び出したもの」である.

注意:初期条件と境界条件

任意関数の中身を特定するために追加で課す条件を,初期条件(initial condition,時刻に関する条件であることが多い)または境界条件(boundary condition,空間の境界における条件であることが多い)と呼ぶ.第43章以降で扱う波動方程式や熱伝導方程式でも,この「一般解+初期条件・境界条件=特殊解」という方針を繰り返し使うことになる.

例題42.1 任意関数の中身によって解がどう変わるか

偏微分方程式 $\pdiff zx=2x$ の解は $z=x^2+f(y)$($f$ は任意関数)の形で書けることを確かめよ.そのうえで,(a) $f(y)=y$ の場合と (b) $f(y)=\cos y$ の場合について,それぞれ実際に方程式を満たすことを確認せよ.

解答 まず一般解の形を確かめる.$z=x^2+f(y)$ とすると,$f(y)$ は $x$ を含まないから $x$ で偏微分すると消え,

$$ \pdiff zx=\pdiff{}{x}\bigl(x^2+f(y)\bigr)=2x+0=2x $$

となり,たしかに $f$ の中身によらずもとの方程式を満たす.つまり $z=x^2+f(y)$ は $f$ を任意関数として一般解になっている.

(a) $f(y)=y$ のとき,$z=x^2+y$ である.$\pdiff zx=2x$ となり,方程式を満たす.

(b) $f(y)=\cos y$ のとき,$z=x^2+\cos y$ である.$\cos y$ は $x$ を含まないので,やはり $\pdiff zx=2x+0=2x$ となり,方程式を満たす.

(a)と(b)はどちらも同じ偏微分方程式 $\pdiff zx=2x$ の解でありながら,$y$ 方向の形は「傾き1の直線」と「余弦カーブ」でまったく異なる.図42.2で見た状況が,ここでも繰り返されている.もし境界条件として $z(x,0)=x^2+1$ が与えられていれば,(a)では $f(0)=0\ne1$ なので不適,(b)では $f(0)=\cos0=1$ となって条件を満たすから,境界条件によって(b)が選び出されることになる(sympyで検算:いずれの場合も $\partial z/\partial x=2x$ となることを確認済み).

42.2 ラグランジュの1階偏微分方程式と特性方程式

42.2.1 ラグランジュの偏微分方程式とその解法

定義42.1 ラグランジュの偏微分方程式

$x,y,z$ の関数 $P,Q,R$ を係数として,未知関数 $z=z(x,y)$ についての1階偏微分方程式

\begin{equation} P(x,y,z)\pdiff zx+Q(x,y,z)\pdiff zy=R(x,y,z) \label{eq:42-lagrange-pde} \end{equation}

を,ラグランジュ(Lagrange)の偏微分方程式という.$P,Q,R$ の中に $z$ 自身が入っていてもよい($\pdiff zx,\pdiff zy$ について1次式(線形)になっている点が特徴で,このような方程式を準線形(quasi-linear,「$z$ の1階偏導関数については線形だが,$z$ 自身については線形とは限らない」という意味)という.$P,Q,R$ 自体は $z$ を自由に含んでよいので,方程式全体は $z$ について非線形になってもよい——実際,42.3.2項の例42.2 $x\pdiff ux+y\pdiff uy=-u^2$ では $R=-u^2$ であり,$u$ について明らかに非線形である).

定理42.1 特性方程式による解法

ラグランジュの偏微分方程式 \eqref{eq:42-lagrange-pde} を解くには,$x,y,z$ を変数とする連立の常微分方程式

\begin{equation} \frac{dx}{P}=\frac{dy}{Q}=\frac{dz}{R} \label{eq:42-characteristic} \end{equation}

(これを\eqref{eq:42-lagrange-pde}の特性方程式または補助方程式という)を解けばよい.特性方程式から,互いに独立な2つの解

$$ \varphi(x,y,z)=C_1,\qquad \psi(x,y,z)=C_2 $$

($C_1,C_2$ は積分定数)が得られたとすると,もとの偏微分方程式\eqref{eq:42-lagrange-pde}の一般解は

\begin{equation} \psi=f(\varphi)\quad\text{すなわち}\quad g(\varphi,\psi)=0 \label{eq:42-general-sol} \end{equation}

の形で与えられる.ここで $f,g$ は任意関数である(なぜこの形になるのかは42.2.3項・42.2.4項で証明する).

この定理をどう使うか,ノートに載っている例題で確認しよう.

例42.1 $x\pdiff zx-y\pdiff zy=z$ を解く

ラグランジュの偏微分方程式 $x\pdiff zx-y\pdiff zy=z$ を解け.

解答 これは \eqref{eq:42-lagrange-pde} で $P=x$,$Q=-y$,$R=z$ とした場合である.特性方程式\eqref{eq:42-characteristic}は

$$ \frac{dx}{x}=\frac{dy}{-y}=\frac{dz}{z} $$

である.3つの分数が等しいので,まず最初の2つを取り出す.

$$ \text{[i]}\quad\frac{dx}{x}=\frac{dy}{-y} $$

これは変数分離形の常微分方程式(第33章)である.両辺を積分すると(左辺は $x$ について,右辺は $-y$ について,それぞれ $1/(\text{変数})$ の積分だから対数になる),

$$ \ln|x|=-\ln|y|+C_1' $$

両辺に $\ln|y|$ を足すと $\ln|x|+\ln|y|=\ln|xy|=C_1'$ となるので,

$$ \ln|xy|=C_1' \qquad\therefore\ xy=C_1\quad(C_1=\pm e^{C_1'}) $$

($C_1'$ は積分定数,$C_1=\pm e^{C_1'}$ は $0$ 以外の任意の値を取れる定数とみなしてよい).次に,最初と最後の分数を取り出す.

$$ \text{[ii]}\quad\frac{dx}{x}=\frac{dz}{z} $$

これも同様に積分できて,

$$ \ln|z|=\ln|x|+C_2' \qquad\therefore\ \ln\left|\frac{z}{x}\right|=C_2' \qquad\therefore\ \frac{z}{x}=C_2\quad(C_2=\pm e^{C_2'}) $$

[i],[ii]から,$\varphi=xy$,$\psi=z/x$ という2つの独立な第一積分(first integral,特性方程式(常微分方程式)を解くことで得られる,特性方程式の解に沿って値が変化しない保存量のこと.常微分方程式を1回「積分」して得られる関係式なのでこう呼ぶ)が得られた.定理42.1により,一般解は $\psi=f(\varphi)$ の形,つまり

$$ \frac{z}{x}=f(xy) $$

と書けるので,

\begin{equation} \therefore\ z=xf(xy)\qquad(f\text{は任意関数}) \label{eq:42-example1-sol} \end{equation}

が一般解である.

検算 一般解が本当に正しいか,具体的に $f$ を選んで確かめてみよう.$f(t)=\sin^2t$ とすると,$f(xy)=\sin^2(xy)$ より $z=x\sin^2(xy)$ である.積の微分公式と合成関数の微分公式(第1章・第2章)を使って偏微分すると,

$$ \pdiff zx=\sin^2(xy)+x\cdot2\sin(xy)\cos(xy)\cdot y=\sin^2(xy)+2xy\sin(xy)\cos(xy) $$

(第1項は「$x$」を微分した分,第2項は $\sin^2(xy)$ を $x$ で微分した分.$\pdiff{}{x}\sin^2(xy)=2\sin(xy)\cos(xy)\cdot\pdiff{}{x}(xy)=2\sin(xy)\cos(xy)\cdot y$ であることに注意).また,

$$ \pdiff zy=x\cdot2\sin(xy)\cos(xy)\cdot x=2x^2\sin(xy)\cos(xy) $$

(今度は $z=x\sin^2(xy)$ を $y$ で偏微分するので,$x$ は定数扱いになり,$\pdiff{}{y}\sin^2(xy)=2\sin(xy)\cos(xy)\cdot x$).これらを左辺 $x\pdiff zx-y\pdiff zy$ に代入すると,

$$ x\pdiff zx-y\pdiff zy=x\sin^2(xy)+2x^2y\sin(xy)\cos(xy)-2x^2y\sin(xy)\cos(xy) $$

第2項と第3項はどちらも $2x^2y\sin(xy)\cos(xy)$ で符号が逆なので打ち消し合い,

$$ =x\sin^2(xy)=z $$

となって,たしかにもとの方程式 $x\pdiff zx-y\pdiff zy=z$ を満たす(sympyで検算済み).

42.2.2 なぜ特性方程式で解けるのか — 解曲面の接平面から

定理42.1の解法は,天下り的に与えられると「なぜ $dx/P=dy/Q=dz/R$ という式を作ってよいのか」が分かりにくい.そこで,解 $z=z(x,y)$ が表す曲面を3次元空間の中でイメージし,接平面の法線ベクトルという幾何学的な道具を使って,特性方程式そのものを導いてみよう.この証明には,高校では学ばない外積(cross product,ベクトル積ともいう)を使うので,まず外積を手短に確認しておく.

数学ノート:外積(クロス積)の定義

2つの3次元ベクトル $\bm a=(a_1,a_2,a_3)$,$\bm b=(b_1,b_2,b_3)$ に対して,外積 $\bm b\times\bm a$ を次の式で定義する(内積 $\bm a\cdot\bm b$ がスカラーになるのに対し,外積の結果はベクトルになることに注意).

$$ \bm b\times\bm a=(b_2a_3-b_3a_2,\ b_3a_1-b_1a_3,\ b_1a_2-b_2a_1) $$

たとえば $\bm b=(0,1,2)$,$\bm a=(1,0,-3)$ なら,$\bm b\times\bm a=(1\cdot(-3)-2\cdot0,\ 2\cdot1-0\cdot(-3),\ 0\cdot0-1\cdot1)=(-3,\,2,\,-1)$ となる.外積 $\bm b\times\bm a$ には,$\bm a$ にも $\bm b$ にも垂直($\bm a,\bm b$ の両方と内積を取ると $0$ になる)という重要な性質がある.実際,一般に成分で計算すると

$$ \bm a\cdot(\bm b\times\bm a)=a_1(b_2a_3-b_3a_2)+a_2(b_3a_1-b_1a_3)+a_3(b_1a_2-b_2a_1)=0 $$

(展開すると全ての項が2つずつ符号違いで打ち消し合う),同様に $\bm b\cdot(\bm b\times\bm a)=0$ である.つまり,$\bm a,\bm b$ が張る平面(2つのベクトルを含む平面)があれば,$\bm b\times\bm a$ はその平面に垂直なベクトル——法線ベクトル——になる.これが,$xy$平面上の2つの基本ベクトルから,$xyz$空間の法線ベクトルを作るために外積を使う理由である.外積の詳しい性質(大きさが平行四辺形の面積になること,右手系との関係など)は第15章で扱う.

定理42.1の証明(1)— 接平面の法線ベクトル

ラグランジュの偏微分方程式\eqref{eq:42-lagrange-pde}の解 $z=z(x,y)$ は,$xyz$座標系における1つの滑らかな曲面を表す.この曲面上の点 $A(x,y,z)$ における接平面を考えよう.

滑らかな曲面 $z=z(x,y)$ 上で,点 $A$ から $x$ 方向にわずかに動いた変位ベクトルは $\bigl[dx,\ 0,\ \pdiff zx\,dx\bigr]$,$y$ 方向にわずかに動いた変位ベクトルは $\bigl[0,\ dy,\ \pdiff zy\,dy\bigr]$ と書ける($z$ 成分は,$x$ が $dx$ だけ変化したときの $z$ の変化量 $\pdiff zx\,dx$,および $y$ が $dy$ だけ変化したときの変化量 $\pdiff zy\,dy$ である).これらを形式的にそれぞれ $dx,dy$ で割ったベクトルを

$$ \bm a=\left[1,\ 0,\ \pdiff zx\right],\qquad \bm b=\left[0,\ 1,\ \pdiff zy\right] $$

とおくと,$\bm a,\bm b$ は点 $A$ における接平面上のベクトル(それぞれ $x$方向・$y$方向)である.したがって,$\bm a,\bm b$ の張る接平面に垂直なベクトル(法線ベクトル)$\bm n$ は,外積を使って $\bm n=\bm b\times\bm a$ と表せる.実際に成分計算すると,

$$ \bm n=\bm b\times\bm a=\left(1\cdot\pdiff zx-\pdiff zy\cdot0,\ \ \pdiff zy\cdot1-0\cdot\pdiff zx,\ \ 0\cdot0-1\cdot1\right)=\left[\pdiff zx,\ \pdiff zy,\ -1\right] $$

となる.つまり,曲面 $z=z(x,y)$ 上の点 $A(x,y,z)$ における接平面の法線ベクトルは

\begin{equation} \bm n=\left[\pdiff zx,\ \pdiff zy,\ -1\right] \label{eq:42-normal-vector} \end{equation}

である.

別の見方:法線ベクトルは勾配ベクトルでもある

曲面 $z=z(x,y)$ を,$F(x,y,z)=z(x,y)-z=0$ という陰関数(implicit function,$x,y,z$ の関係式として $=0$ の形で書かれた関数)の形で見てみよう.$F$ の勾配(gradient,$\grad F=\left[\pdiff Fx,\pdiff Fy,\pdiff Fz\right]$,第6章で学ぶ「各方向にどれだけ増えるか」を並べたベクトル)を計算すると,

$$ \grad F=\left[\pdiff{}{x}\bigl(z(x,y)-z\bigr),\ \pdiff{}{y}\bigl(z(x,y)-z\bigr),\ \pdiff{}{z}\bigl(z(x,y)-z\bigr)\right]=\left[\pdiff zx,\ \pdiff zy,\ -1\right]=\bm n $$

となって,ちょうど法線ベクトル\eqref{eq:42-normal-vector}に一致する.これは偶然ではない——一般に,曲面が $F(x,y,z)=0$ という陰関数の形で表されているとき,その勾配ベクトル $\grad F$ は,つねに曲面に垂直な法線ベクトルになる(勾配ベクトルは「$F$ の値が最も急に増える向き」を指すが,曲面上($F=0$ の面上)ではどの向きに動いても $F$ の値は変化しない,つまり勾配ベクトルは曲面上のどんな接線ベクトルとも直交する,という理由による).法線ベクトルの求め方が2通りあること(外積を使う方法と,勾配を使う方法)を覚えておこう.

解曲面 z(x,y) と,点Aにおける接平面・法線ベクトルn A n x y z 接平面
図42.3 解曲面 $z(x,y)$(山型の曲面.腕2本と輪郭の等高線2本で概形を示す)と,点 $A$ における接平面(青の平行四辺形)・法線ベクトル $\bm n=[\pdiff zx,\pdiff zy,-1]$.ノートの図2.1を清書したもの.

定理42.1の証明(2)— $\bm n\perp d\bm\ell$ と特性方程式の導出

ここで,方程式\eqref{eq:42-lagrange-pde}の係数を並べたベクトル

$$ d\bm\ell=[P(x,y,z),\ Q(x,y,z),\ R(x,y,z)] $$

を考える.法線ベクトル\eqref{eq:42-normal-vector}との内積を計算すると,ラグランジュの偏微分方程式\eqref{eq:42-lagrange-pde}そのものが

$$ \bm n\cdot d\bm\ell=\pdiff zx\,P+\pdiff zy\,Q-R=0 $$

という形で顔を出す(\eqref{eq:42-lagrange-pde}を $P\pdiff zx+Q\pdiff zy-R=0$ と書き直しただけである).つまり,

$$ \therefore\ \bm n\perp d\bm\ell $$

である.ところが $\bm n$ は点 $A$ における接平面に垂直なベクトルであった.したがって,$\bm n$ に垂直な $d\bm\ell$ は接平面上のベクトルである,ということが分かる.これが,ラグランジュの偏微分方程式\eqref{eq:42-lagrange-pde}の幾何学的な意味——「$d\bm\ell=(P,Q,R)$ 方向は,解曲面の接平面の中に横たわっている」——である.

法線ベクトル n と方向ベクトル dl の直交関係 A n dℓ
図42.4 法線ベクトル $\bm n$(青)と,方向ベクトル $d\bm\ell=(P,Q,R)$(赤)の関係.$\bm n\cdot d\bm\ell=0$ となり,2つのベクトルは直交する.薄い四角形は,両ベクトルを含む面をイメージしたもの.ノートの図2.2を清書したもの.

42.2.3 なぜ特性方程式で解けるのか(3)— 交線の接線ベクトルとして $d\bm\ell$ を導く

証明(2)で,方向ベクトル $d\bm\ell=(P,Q,R)$ が,解曲面 $z(x,y)$ の点 $A$ における接平面の中に横たわっていることが分かった.しかし,これだけでは特性方程式 $dx/P=dy/Q=dz/R$ そのものはまだ出てこない.接平面は2次元の広がりを持つ「面」なので,「$d\bm\ell$ 方向が接平面の中にある」というだけでは,$d\bm\ell$ が接平面の中のどの具体的な曲線の接線になっているのかまでは決まらないからである.そこで,点 $A$ を通り,方向 $d\bm\ell$ を含み,かつ $z$ 軸に平行な平面を $\alpha$ としよう.平面 $\alpha$ は,$xy$ 平面上で点 $(x,y)$ から方向 $(P,Q)$ に伸びる直線を,そのまま $z$ 軸方向に押し出してできる「垂直な壁」のような平面である.

定理42.1の証明(3)— 交線のパラメータ表示と特性方程式の導出

平面 $\alpha$ と解曲面 $z=z(x,y)$ を重ねる(連立させる)と,1本の曲線(交線)が得られる(図42.5,ノートの図2.3に対応).この交線を,パラメータ $t$ を使って

$$ \bm P(t)=[x(t),\ y(t),\ z(t)] $$

と表そう.交線には,次の2つの性質がある.

つまり $\dot{\bm P}$ は,接平面と平面 $\alpha$ の両方に含まれるベクトルである.ところが,$xyz$ 空間の中で2枚の(一致しない)平面が交わるとき,その共通部分は1本の直線になる——これは高校でも学ぶ立体図形の基本的な性質である.接平面と平面 $\alpha$ も,点 $A$ を通る1本の直線を共有しており,$\dot{\bm P}$ はその直線の方向を向いていなければならない.

一方,方向ベクトル $d\bm\ell=(P,Q,R)$ もまた,証明(2)により接平面の中にあり,しかも $\alpha$ の定義そのもの($\alpha$ は $d\bm\ell$ の方向を含むように作った平面である)により平面 $\alpha$ の中にもある.したがって $d\bm\ell$ も,接平面と平面 $\alpha$ が共有する,同じ1本の直線の方向を向いている.

接線ベクトル $\dot{\bm P}$ と方向ベクトル $d\bm\ell$ が同じ直線の方向を向いている——これはつまり,2つのベクトルが(長さの違いを除いて)平行であるということである.そこで,比例定数を $k$(一般には $t$ とともに変化してよい)とおくと,

\begin{equation} \dot{\bm P}=k\,d\bm\ell \qquad(k\in\R) \label{eq:42-tangent-parallel} \end{equation}

と書ける.成分ごとに書き下すと,

$$ \begin{cases} \dfrac{dx}{dt}=kP(x,y,z)\\[4pt] \dfrac{dy}{dt}=kQ(x,y,z)\\[4pt] \dfrac{dz}{dt}=kR(x,y,z) \end{cases} $$

となる.各式の両辺を,右辺の $P,Q,R$ でそれぞれ割ってから $dt$ の形に整理すると(たとえば第1式は $\dfrac{dx}{P}=k\,dt$ と書き直せる),3つの式はどれも同じ量 $k\,dt$ に等しいことが分かる.

\begin{equation} \frac{dx}{P}=\frac{dy}{Q}=\frac{dz}{R}\ \bigl(=k\,dt\bigr) \label{eq:42-characteristic-derived} \end{equation}

これが,定理42.1の特性方程式\eqref{eq:42-characteristic}そのものである.つまり特性方程式とは,「解曲面の上にあり,かつ点 $A$ を通って $d\bm\ell$ 方向に押し出した平面 $\alpha$ の中にもある曲線(交線)」の接線の向きを表す方程式であり,この交線を,解曲面上のすべての点 $A$ について集めたものが,特性方程式の解曲線——特性曲線(characteristic curve)——にほかならない.

平面αと解曲面の交線(特性曲線の幾何学的な意味) A dℓ x y z 平面α 交線
図42.5 解曲面 $z(x,y)$ と,点 $A$ を通り方向ベクトル $d\bm\ell=(P,Q,R)$ を含み $z$ 軸に平行な平面 $\alpha$(赤の破線の四角形).$\alpha$ と解曲面が交わってできる交線(赤の太線)の,点 $A$ における接線方向がちょうど $d\bm\ell$ の向きになっている.ノートの図2.3を清書したもの.

42.2.4 なぜ一般解が $\psi=f(\varphi)$ の形になるのか — 交線を集めて解曲面を作る

特性方程式\eqref{eq:42-characteristic}を解いて,独立な2つの第一積分(積分してできる保存量)$\varphi(x,y,z)=C_1$,$\psi(x,y,z)=C_2$ が得られたとしよう.$\varphi(x,y,z)=C_1$ は($C_1$ を1つ固定するごとに)$xyz$ 空間の中の1枚の曲面($\varphi$ の等位面,level surface,「同じ値を取る点の集まり」という意味)を表す.同様に $\psi(x,y,z)=C_2$ も1枚の曲面を表す.

この2枚の曲面を重ねる(連立させる)と——2枚の曲面(それぞれ2次元の広がりを持つ)が交わってできるのは,一般に1本の曲線(1次元)である.実は,この交線こそが,42.2.3項で調べた特性曲線そのものになっている($\varphi,\psi$ はどちらも,特性方程式の解に沿って値が変化しない保存量だから,$\varphi=C_1$ かつ $\psi=C_2$ を満たす点の集まりは,特性方程式の1本の解曲線と一致するのである).

イメージ:交線を集めて解曲面を作る

図42.6左は,$\varphi(x,y,z)=C_1$(山型の曲面)と $\psi(x,y,z)=C_2$(傾いた平面)という2枚の曲面が,1本の交線(赤,特性曲線)で交わっている様子である.$C_1,C_2$ の値をいろいろ変えれば,そのたびに違う特性曲線が得られる(図42.6右,$C_1$ を3通りに変えた場合の交線).解曲面 $z(x,y)$ とは,こうして得られる無数の特性曲線を,$xyz$ 空間の中でちょうど隙間なく敷き詰めて(集めて)できる,2次元の曲面のことである.

ここで重要なのは,$C_1$ と $C_2$ をまったく自由に,2つとも独立に動かしてしまうと,特性曲線が $xyz$ 空間の中を隙間なく埋め尽くしてしまうということである.曲線1本には1個のパラメータ(曲線上の位置)しか自由度がないのに対し,$(C_1,C_2)$ を2個とも自由に動かせば,曲線を「2個のパラメータ」で数え上げることになり,得られるのは2次元の曲面ではなく,3次元の塊($xyz$ 空間の中の領域)になってしまう.ちょうど1枚の曲面を作るには,特性曲線を1個のパラメータだけで数え上げる必要がある.

そのためには,$C_1$ を1つ決めるごとに $C_2$ がただ1つに決まるという関係,すなわち $C_2=f(C_1)$($f$ は任意関数)という関係を課さなければならない.この関係のもとで $C_1$ だけを動かせば,特性曲線が1本ずつ,隙間なく並んで,ちょうど1枚の曲面を掃く.これが,一般解が

$$ \psi=f(\varphi)\qquad\text{すなわち}\qquad g(\varphi,\psi)=0 $$

という形——$\varphi$ と $\psi$ の間に何らかの関数関係($f$ や $g$ は任意関数)——を持つ理由である.逆に言えば,$f$(あるいは $g$)の選び方はまったくの自由であり,選ぶたびに異なる解曲面が得られる.これこそが,42.1節で見た「偏微分方程式の一般解には任意関数がまるごと1つ付く」という事実の,特性曲線による幾何学的な説明にほかならない.

Imagine:交線を集めて解曲面を作る φ(x,y,z)=C₁ ψ(x,y,z)=C₂ 交線(特性曲線) C₁,C₂を色々な値に して線を集める 交線の族 → 解曲面
図42.6 (イメージ図)左:$\varphi(x,y,z)=C_1$(山型の曲面,$\varphi$ の等位面)と $\psi(x,y,z)=C_2$(傾いた平面,$\psi$ の等位面)が交わってできる1本の交線(特性曲線,赤).右:$C_1$ をいろいろな値に変えて交線を集めると,それらが隙間なく並んで解曲面ができる.ノートの「Imagine!!」の図を,具体的な曲面の組で清書したもの.

42.2.5 特性方程式を実際に使う — 定数係数と境界条件の例

定理42.1の証明はここまでにして,実際に特性方程式を解く練習をもう2問しておこう.

例題42.2 $y\pdiff zx-x\pdiff zy=0$ を解く

ラグランジュの偏微分方程式 $y\pdiff zx-x\pdiff zy=0$ を解け.

解答 \eqref{eq:42-lagrange-pde}で $P=y$,$Q=-x$,$R=0$ とした場合である.特性方程式は

$$ \frac{dx}{y}=\frac{dy}{-x}=\frac{dz}{0} $$

である.まず最初の2つの分数から,分母を払うと $-x\,dx=y\,dy$,すなわち $x\,dx+y\,dy=0$ が得られる.両辺を積分すると($x\,dx$ の積分は $x^2/2$,$y\,dy$ の積分は $y^2/2$),

$$ \frac{x^2}{2}+\frac{y^2}{2}=\frac{C_1}{2}\qquad\therefore\ x^2+y^2=C_1 $$

となる.$xy$平面の中でこれを見ると,原点を中心とする円である(図42.7).一方,最後の分数 $dz/0$ は「分母が $0$ になる比は,対応する変数(この場合は $z$)が変化しないと約束する」という記法である($dz/R$ で $R=0$ のときの読み方の約束ごとである).すなわち

$$ z=C_2 $$

である.こうして $\varphi=x^2+y^2$,$\psi=z$ という2つの独立な第一積分が得られたので,定理42.1により,一般解は $\psi=f(\varphi)$ の形,つまり

\begin{equation} z=f(x^2+y^2)\qquad(f\text{は任意関数}) \label{eq:42-example2-sol} \end{equation}

である.

検算 $z=f(x^2+y^2)$ を合成関数の微分公式で偏微分すると,$\pdiff zx=f'(x^2+y^2)\cdot2x$,$\pdiff zy=f'(x^2+y^2)\cdot2y$ であるから,

$$ y\pdiff zx-x\pdiff zy=2xy\,f'(x^2+y^2)-2xy\,f'(x^2+y^2)=0 $$

となって,たしかにもとの方程式を満たす(sympyで検算済み).

原点を中心とする4本の同心円が並んでいる図.例題42.2の特性曲線x二乗+y二乗=C1を表す.2つの円の上に,円に沿った向きを示す短い矢印がある
図42.7 例題42.2の特性曲線 $x^2+y^2=C_1$(同心円).各円の上では $z=f(x^2+y^2)$ の値が一定である.赤い矢印は特性曲線(円)に沿った向きの一例.

例題42.3 境界条件をつけて特殊解を求める

偏微分方程式 $\pdiff ux+\pdiff uy=1$ を,境界条件 $u(x,0)=x^2$ のもとで解け.

解答 \eqref{eq:42-lagrange-pde}で $P=1$,$Q=1$,$R=1$(すべて定数)とした場合である.特性方程式は

$$ \frac{dx}{1}=\frac{dy}{1}=\frac{du}{1} $$

である.最初の2つ $dx=dy$ を積分すると $x-y=C_1$.最初と最後 $dx=du$ を積分すると $x-u=C_2'$,すなわち $u-x=C_2$($C_2=-C_2'$ とおいた.積分定数は符号を変えても任意定数のままなのでこう書き直してよい).定理42.1により,一般解は $C_2=f(C_1)$ の形にまとめて,

$$ u-x=f(x-y)\qquad\therefore\ u(x,y)=x+f(x-y) $$

である($f$ は任意関数).ここに境界条件 $u(x,0)=x^2$ を代入すると,

$$ u(x,0)=x+f(x-0)=x+f(x)=x^2 \qquad\therefore\ f(x)=x^2-x $$

という,$f$ が満たすべき条件が得られる.つまり $f(t)=t^2-t$($f$ の中身の変数名を,たまたま $x$ と書いていただけで,$t$ と書いても同じ関数である)ということである.これを一般解に代入し直すと,

$$ u(x,y)=x+f(x-y)=x+(x-y)^2-(x-y) $$

が,境界条件を満たす特殊解である.

検算 $s=x-y$ とおいて $u=x+s^2-s$ と見ると,$\pdiff sx=1$,$\pdiff sy=-1$ であるから,連鎖律(合成関数の微分公式)により

$$ \pdiff ux=1+(2s-1)\cdot1=2s, \qquad \pdiff uy=(2s-1)\cdot(-1)=1-2s $$

したがって

$$ \pdiff ux+\pdiff uy=2s+(1-2s)=1 $$

となって方程式を満たす.また $s=x-y$ に $y=0$ を代入すると $s=x$ なので,$u(x,0)=x+x^2-x=x^2$ となって境界条件も満たす(sympyで検算済み).

42.3 一般化されたラグランジュの偏微分方程式

42.2節では,未知関数が2変数 $z=z(x,y)$ の場合のラグランジュの偏微分方程式を扱った.この考え方は,変数が3個以上になっても,まったく同じ発想で一般化できる.接平面や外積といった3次元の幾何学的なイメージはそのままでは使えなくなるが,「特性方程式を解いて,独立な第一積分をいくつも求め,それらの間に任意関数の関係を課す」という解法の骨組みは変わらない.

42.3.1 $n$ 変数への一般化

定義42.2 一般化されたラグランジュの偏微分方程式

$n$ 個の変数 $x_1,x_2,\ldots,x_n$ の関数 $u=u(x_1,x_2,\ldots,x_n)$ について,$x_1,\ldots,x_n,u$ の関数 $f_1,f_2,\ldots,f_n,g$ を係数として,

\begin{equation} f_1\pdiff u{x_1}+f_2\pdiff u{x_2}+\cdots+f_n\pdiff u{x_n}=g \label{eq:42-general-lagrange} \end{equation}

を,一般化されたラグランジュの偏微分方程式という.$n=2$(変数が $x,y$ の2個)のときが,まさに42.2節で扱った定義42.1の形である.

定理42.2 一般化された特性方程式による解法

式\eqref{eq:42-general-lagrange}を解くには,特性方程式

\begin{equation} \frac{dx_1}{f_1}=\frac{dx_2}{f_2}=\cdots=\frac{dx_n}{f_n}=\frac{du}{g} \label{eq:42-general-characteristic} \end{equation}

を解けばよい(42.2.3項の議論を,3次元から $(n+1)$ 次元の $x_1,\ldots,x_n,u$ 空間に置き換えれば,まったく同様に正当化できる).こうして,互いに独立な $n$ 個の第一積分

$$ \varphi_1(x_1,\ldots,x_n,u)=C_1,\quad \varphi_2(x_1,\ldots,x_n,u)=C_2,\quad \ldots,\quad \varphi_n(x_1,\ldots,x_n,u)=C_n $$

が得られたとすると,方程式\eqref{eq:42-general-lagrange}の一般解は,

\begin{equation} \Phi(\varphi_1,\varphi_2,\ldots,\varphi_n)=0 \label{eq:42-general-solution} \end{equation}

の形で与えられる.ここで $\Phi$ は任意関数である(42.2.4項と同じ理由により,$n$ 個の保存量 $\varphi_1,\ldots,\varphi_n$ の間に関数関係を1つ課さないと,特性曲線を集めても $(n-1)$ 次元の解曲面ができないからである).

注意:$\Phi$ と $\varphi_i$ の文字を混同しない

ノートでは,一般解の式に現れる「関係をつける」ための外側の任意関数と,各第一積分 $\varphi_i$ とを,同じ文字 $\varphi$ で書いている(添字の有無だけで区別している).本書では読みやすさのため,外側の任意関数を大文字 $\Phi$ で書いて区別することにする.中身は同じことである.

42.3.2 例題(2変数,境界条件なし)

$n=2$ の場合,すなわち $u=u(x,y)$ の場合の例で,定理42.2の使い方を確認しよう.

例42.2 $x\pdiff ux+y\pdiff uy=-u^2$($x\gt0,y\gt0$)を解く

偏微分方程式 $x\pdiff ux+y\pdiff uy=-u^2$($x\gt0,y\gt0$)を解け.

解答 特性方程式は $\dfrac{dx}{x}=\dfrac{dy}{y}=\dfrac{du}{-u^2}$ である.

最初の2つ $\dfrac{dx}{x}=\dfrac{dy}{y}$ を積分すると(両辺とも「$1/(\text{変数})$」の積分だから対数になる),$\ln x=\ln y+C_1'$($x,y\gt0$ より絶対値記号は不要).したがって

$$ \frac{x}{y}=e^{C_1'}=C_1 $$

次に,$\dfrac{dy}{y}=-\dfrac{du}{u^2}$ を積分する.左辺は $\ln y$,右辺は $\displaystyle\int-\frac{du}{u^2}=\frac1u$(べき関数の積分公式 $\int u^{-2}du=-u^{-1}$ の符号を反転させたもの)になるから,

$$ \ln y=\frac1u+C_2' $$

両辺を $\dfrac1u$ だけ移項せずにそのまま指数を取ると,$y=e^{1/u+C_2'}=e^{C_2'}e^{1/u}$,すなわち

$$ y=C_2\,e^{1/u}\qquad(C_2=e^{C_2'}) $$

この式を $C_2=ye^{-1/u}$ の形に直しておく.$C_1=x/y$,$C_2=ye^{-1/u}$ の2つの独立な第一積分が得られたので,定理42.2により $C_2=\varphi(C_1)$($\varphi$ は任意関数)の関係を課すと,

$$ y\,e^{-1/u}=\varphi\!\left(\frac{x}{y}\right) $$

これを $u$ について解く.両辺を $y$ で割って対数を取ると $-\dfrac1u=\ln\!\dfrac{\varphi(x/y)}{y}$ となるので,

\begin{equation} u(x,y)=-\cfrac{1}{\ln\dfrac{\varphi(x/y)}{y}} \label{eq:42-example-i-main} \end{equation}

が一般解である.

別解(第一積分の組み合わせを変える) 特性方程式の3つの分数のうち,どの2つを組にして積分するかは自由である.今度は最初と最後の分数 $\dfrac{dx}{x}=-\dfrac{du}{u^2}$ を組にしてみよう.積分すると $\ln x+C_2''=\dfrac1u$ となる.$C_2''=\ln C_2$($C_2\gt0$)とおき直すと $\ln(C_2x)=\dfrac1u$,すなわち $C_2x=e^{1/u}$ である.これと,先ほどと同じ $C_1=x/y$ に,やはり $C_2=\varphi(C_1)$ の関係を課すと,

\begin{equation} \frac{e^{1/u}}{x}=\varphi\!\left(\frac{x}{y}\right)\qquad\therefore\ u(x,y)=\cfrac{1}{\ln\bigl[x\,\varphi(x/y)\bigr]} \label{eq:42-example-i-alt} \end{equation}

という,見かけが違う一般解が得られる.これは矛盾ではない——特性方程式の3本の等式からどの2つのペアを選んで積分するかによって,第一積分の組み合わせ方が変わり,その結果,任意関数 $\varphi$ の「中身」も変わるからである.どちらも同じ方程式の一般解であり,$\varphi$ の選び方を通じて,結局は同じ特殊解の集まりを表している(sympyでどちらの式も $x u_x+yu_y+u^2=0$ を満たすことを確認済み).

例42.3 $-y^2\pdiff ux+xy\pdiff uy=xu$($x\gt0,y\gt0$)を解く

偏微分方程式 $-y^2\pdiff ux+xy\pdiff uy=xu$($x\gt0,y\gt0$)を解け.

解答 特性方程式は $\dfrac{dx}{-y^2}=\dfrac{dy}{xy}=\dfrac{du}{xu}$ である.最初の2つから,分母を払うと $x\,dx=-y\,dy$ となる(分数の外側同士・内側同士をかけ合わせる,比の性質).両辺を積分すると($\int x\,dx=x^2/2$,$\int-y\,dy=-y^2/2$),

$$ \frac{x^2}{2}=-\frac{y^2}{2}+\frac{C_1}{2}\qquad\therefore\ x^2+y^2=C_1 $$

次に,後半の2つ $\dfrac{dy}{xy}=\dfrac{du}{xu}$ を見る.両辺に共通する $x$ を払うと $\dfrac{dy}{y}=\dfrac{du}{u}$ となり,積分すると $\ln y+C_2'=\ln u$,すなわち

$$ u=C_2\,y\qquad(C_2=e^{C_2'}) $$

すなわち $C_2=u/y$ である.$C_1=x^2+y^2$,$C_2=u/y$ の2つの独立な第一積分に,$C_2=\varphi(C_1)$($\varphi$ は任意関数)の関係を課すと,

\begin{equation} \frac uy=\varphi(x^2+y^2)\qquad\therefore\ u(x,y)=y\,\varphi(x^2+y^2) \label{eq:42-example-ii-sol} \end{equation}

が一般解である.

検算(ノートのConsiderationにならって) $\varphi(t)=\cos t$ を選んでみると,$u(x,y)=y\cos(x^2+y^2)$ となる.偏微分すると(積の微分公式と合成関数の微分公式),

$$ \pdiff ux=y\cdot\bigl(-\sin(x^2+y^2)\bigr)\cdot2x=-2xy\sin(x^2+y^2) $$ $$ \pdiff uy=\cos(x^2+y^2)+y\cdot\bigl(-\sin(x^2+y^2)\bigr)\cdot2y=\cos(x^2+y^2)-2y^2\sin(x^2+y^2) $$

(第2式第1項は「$y$」を微分した分,第2項は $\cos(x^2+y^2)$ を $y$ で微分した分).これらを左辺 $-y^2\pdiff ux+xy\pdiff uy$ に代入すると,

$$ -y^2\pdiff ux+xy\pdiff uy=2xy^3\sin(x^2+y^2)+xy\cos(x^2+y^2)-2xy^3\sin(x^2+y^2) $$

第1項と第3項は符号が逆で打ち消し合うので,

$$ =xy\cos(x^2+y^2)=x\bigl\{y\cos(x^2+y^2)\bigr\}=xu $$

となって,たしかにもとの方程式を満たす(sympyで検算済み).なお,$C_1=x^2+y^2$ が,例題42.2(42.2.5項,図42.7)で見た同心円 $x^2+y^2=C_1$ とまったく同じ特性曲線であることに注目してほしい——別の方程式でも,係数 $(P,Q)$ が「原点のまわりを回る」ような形(比 $P/Q=-y^2/(xy)=-y/x$)を持てば,同じ円の特性曲線が現れるのである.

42.3.3 境界条件をつけた例

例42.4 $xy\pdiff ux+y^2\pdiff uy=x^2$,境界条件 $u(x,1)=x^2+2\ln x$

偏微分方程式 $xy\pdiff ux+y^2\pdiff uy=x^2$ を,境界条件 $u(x,1)=x^2+2\ln x$ のもとで解け.

解答 特性方程式は $\dfrac{dx}{xy}=\dfrac{dy}{y^2}=\dfrac{du}{x^2}$ である.最初の2つから,共通する $y$ を払うと $\dfrac{dx}{x}=\dfrac{dy}{y}$ となり,積分すると $y=C_1x$,すなわち

$$ C_1=\frac yx $$

次に,最初と最後の分数 $\dfrac{dx}{xy}=\dfrac{du}{x^2}$ を使う.ここで先ほど求めた関係 $y=C_1x$ をこの式に代入すると($y$ を消去して $x$ だけの式にする),$\dfrac{dx}{x\cdot C_1x}=\dfrac{du}{x^2}$,すなわち $\dfrac{dx}{C_1x^2}=\dfrac{du}{x^2}$ となり,両辺に $x^2$ を掛けると

$$ \frac{dx}{C_1}=du $$

という簡単な式になる.$C_1$ は(この段階では)定数とみなしてよいから,そのまま積分できて,

$$ u=\frac{x}{C_1}+C_2 $$

ここに $C_1=y/x$ を戻すと $x/C_1=x^2/y$ になるので,$C_2=u-x^2/y$ である.$C_1=y/x$,$C_2=u-x^2/y$ の2つの第一積分に $C_2=\varphi(C_1)$($\varphi$ は任意関数)の関係を課すと,

$$ u-\frac{x^2}{y}=\varphi\!\left(\frac{y}{x}\right)\qquad\therefore\ u(x,y)=\frac{x^2}{y}+\varphi\!\left(\frac{y}{x}\right) $$

が一般解である.ここに境界条件 $u(x,1)=x^2+2\ln x$ を代入する.$y=1$ とおくと,

$$ u(x,1)=\frac{x^2}{1}+\varphi\!\left(\frac1x\right)=x^2+\varphi\!\left(\frac1x\right) $$

これが $x^2+2\ln x$ に等しいので,$\varphi(1/x)=2\ln x=2\ln\dfrac{1}{1/x}=-2\ln(1/x)$.つまり,$\varphi$ の中身の変数を $t=1/x$ と書き直せば,$\varphi(t)=-2\ln t=2\ln\dfrac1t$ である.これを一般解に戻すと,

\begin{equation} u(x,y)=\frac{x^2}{y}+2\ln\frac{x}{y} \label{eq:42-example-boundary-sol} \end{equation}

が,境界条件を満たす特殊解である.

検算 $\pdiff ux=\dfrac{2x}{y}+\dfrac{2}{x}$,$\pdiff uy=-\dfrac{x^2}{y^2}-\dfrac{2}{y}$ であるから,

$$ xy\pdiff ux+y^2\pdiff uy=xy\left(\frac{2x}{y}+\frac2x\right)+y^2\left(-\frac{x^2}{y^2}-\frac2y\right)=2x^2+2y-x^2-2y=x^2 $$

となって方程式を満たす.また $u(x,1)=x^2/1+2\ln(x/1)=x^2+2\ln x$ となって境界条件も満たす(sympyで検算済み).

42.3.4 陰関数の形で表される一般解

ここまでの例では,一般解がすべて「$u=(\text{$x,y$の式})$」という,$u$ について解けた形(陽関数形)で書けた.しかし,定理42.2の一般解の形 $\Phi(\varphi_1,\ldots,\varphi_n)=0$ は,$u$ について陽に解けるとは限らない.そのような例も見ておこう.

例題42.4 $x^2\pdiff ux+y^2\pdiff uy=u^2$ を解く

偏微分方程式 $x^2\pdiff ux+y^2\pdiff uy=u^2$ を解け.

解答 特性方程式は $\dfrac{dx}{x^2}=\dfrac{dy}{y^2}=\dfrac{du}{u^2}$ である.最初の2つから,積分すると($\int dx/x^2=-1/x$,$\int dy/y^2=-1/y$)$-\dfrac1x=-\dfrac1y+C_1'$,すなわち

$$ C_1=\frac1y-\frac1x $$

次に,最初と最後から,同様に $-\dfrac1x=-\dfrac1u+C_2'$,すなわち

$$ C_2=\frac1u-\frac1x $$

$C_1,C_2$ の間に $C_2=\varphi(C_1)$ の関係を課すと,一般解は

\begin{equation} \frac1u-\frac1x=\varphi\!\left(\frac1y-\frac1x\right) \label{eq:42-example4-implicit} \end{equation}

となる.今度は,この式を $u$ について解こうとすると,$\varphi$ の中に $1/y-1/x$ が入ったまま残ってしまい,一般の $\varphi$ に対しては $u=(\ldots)$ という陽な形に整理できない.そこで,この式\eqref{eq:42-example4-implicit}自体を「一般解」として認める——これが,定理42.2で一般解の形をわざわざ $\Phi(\varphi_1,\varphi_2)=0$ という陰関数の形で書いていた理由である.

検算 式\eqref{eq:42-example4-implicit}を $G(x,y,u)=\dfrac1u-\dfrac1x-\varphi\!\left(\dfrac1y-\dfrac1x\right)=0$ という陰関数と見て,陰関数定理($\pdiff ux=-\dfrac{\partial G/\partial x}{\partial G/\partial u}$,$\pdiff uy=-\dfrac{\partial G/\partial y}{\partial G/\partial u}$,第6章で学ぶ)を使って $u_x,u_y$ を求め,$x^2u_x+y^2u_y-u^2$ に代入すると,$\varphi$ の中身によらず恒等的に $0$ になることが確認できる(sympyで検算済み).

数学ノート:乗数法 — 特性方程式の分数をうまく組み合わせる

特性方程式 $\dfrac{dx_1}{f_1}=\dfrac{dx_2}{f_2}=\cdots$ の分数を,どれか2つだけ直接組にしても変数分離できない場合がある.そのようなときに役立つのが,乗数法(method of multipliers)と呼ばれる工夫である.比の性質として,$\dfrac ab=\dfrac cd=\dfrac ef=k$(共通の値を $k$ とする)が成り立っているとき,任意の定数(あるいは $x,y,z$ の関数)$\lambda,\mu,\nu$ を選んでも,

$$ \frac{\lambda a+\mu c+\nu e}{\lambda b+\mu d+\nu f}=k $$

が成り立つ(分子は $\lambda bk+\mu dk+\nu fk=k(\lambda b+\mu d+\nu f)$ となるから,分母で割れば確かに $k$ に戻る).つまり,分母のほうをうまく打ち消し合うように $\lambda,\mu,\nu$ を選べば,新しい,積分しやすい分数が1本作れる.たとえば,特性方程式が $\dfrac{dx}{y-z}=\dfrac{dy}{z-x}=\dfrac{dz}{x-y}$ のとき,もっとも単純な乗数 $\lambda=\mu=\nu=1$(変数によらない定数)を選ぶと,分母は $(y-z)+(z-x)+(x-y)=0$ となり,分子は $dx+dy+dz$ になる.分母が $0$ になった以上,比の値 $k$ が(無限大でなく)有限であるためには,分子も $0$ でなければならない(42.2.5項で $dz/0$ を扱ったときと同じ約束ごとである).すなわち

$$ dx+dy+dz=0 $$

という,各変数をそのまま積分するだけの,非常に簡単な式が得られる.積分すると($\int dx=x$ など),$x+y+z=C$ という第一積分が得られる.このように,乗数 $\lambda,\mu,\nu$ をどう選べばうまく分母(または分子)が単純になるかは,方程式ごとにまったく異なる工夫が必要である——$\lambda,\mu,\nu$ を変数そのものに選ぶとよい場合もあれば,今のように定数に選ぶだけでよい場合もある.演習42.2では,別のラグランジュの偏微分方程式に対して,どんな乗数を選べばよいかを実際に考えてみよう.

42.4 全微分方程式と完全微分方程式

ここまでの42.2節・42.3節では,偏導関数 $\pdiff ux,\pdiff uy,\ldots$ を含む方程式(ラグランジュの偏微分方程式)を扱ってきた.本節では少し形を変えて,微分(differential,変数がほんの少しだけ変化したときの変化量)どうしの関係として書かれた方程式——全微分方程式——を扱う.これは,第34章で学んだ完全微分方程式(2変数の場合)を,$n$ 変数の場合に整理し直したものである.

42.4.1 全微分方程式

定義42.3 全微分方程式

$P_1,P_2,\ldots,P_n$ を,$x_1,x_2,\ldots,x_n$ の関数とする.このとき,

\begin{equation} P_1\,dx_1+P_2\,dx_2+\cdots+P_n\,dx_n=0 \label{eq:42-total-diff-eq} \end{equation}

の形の方程式を,全微分方程式(total differential equation)という.左辺は,$n$ 個の変数がそれぞれ $dx_1,dx_2,\ldots,dx_n$ だけ変化したときの,何らかの量の変化分(微分)の合計を表している,という考え方である.

42.4.2 2変数関数の完全微分方程式

まず,$n=2$(変数が $x,y$ の2個)の場合を考える.全微分方程式は $P(x,y)\,dx+Q(x,y)\,dy=0$($P,Q$ は連続関数)という形になる.

定理42.3 2変数の完全微分方程式

全微分方程式 $P(x,y)\,dx+Q(x,y)\,dy=0$ について,

\begin{equation} \pdiff Py=\pdiff Qx \label{eq:42-exact-condition-2var} \end{equation}

が成り立つならば,これを完全微分方程式(exact differential equation)といい,その一般解は,適当な基準点 $(x_0,y_0)$ を選んで,

\begin{equation} \int_{x_0}^{x}P(x,y)\,dx+\int_{y_0}^{y}Q(x_0,y)\,dy=C \label{eq:42-exact-solution-2var} \end{equation}

で与えられる($C$ は積分定数).

なぜこの式で解けるのか — 鍵型の経路

式\eqref{eq:42-exact-solution-2var}の左辺は,実は「$(x_0,y_0)$ から $(x,y)$ まで,$P\,dx+Q\,dy$ を積分したもの」であり,積分する経路として図42.8のような鍵型(L字型)の経路——まず $(x_0,y_0)$ から真上へ $(x_0,y)$ まで進み,そこから右へ $(x,y)$ まで水平に進む——を選んだものになっている.経路の縦の区間では $x=x_0$(一定)だから $dx=0$ で,$Q(x_0,y)\,dy$ だけが効き,$y_0$ から $y$ まで積分すると $\displaystyle\int_{y_0}^yQ(x_0,y)\,dy$ が得られる.経路の横の区間では $y=y$(この経路の終わりの高さで一定)だから $dy=0$ で,$P(x,y)\,dx$ だけが効き,$x_0$ から $x$ まで積分すると $\displaystyle\int_{x_0}^{x}P(x,y)\,dx$ が得られる.この2つを足したものが,式\eqref{eq:42-exact-solution-2var}の左辺である.

条件\eqref{eq:42-exact-condition-2var}($\partial P/\partial y=\partial Q/\partial x$)が成り立つとき,この積分の値は,実は経路のとり方(鍵型でなくても,$(x_0,y_0)$ から $(x,y)$ まで結ぶどんな経路でも)によらず同じになる(これを経路に依存しないという).だからこそ,計算がいちばん簡単な鍵型の経路を選んでよい,というのが式\eqref{eq:42-exact-solution-2var}の意味である.

完全微分方程式の解を作る鍵型の積分経路 x y O (x₀,y₀) (x₀,y) (x,y) Q(x₀,y)dy P(x,y)dx
図42.8 完全微分方程式の一般解\eqref{eq:42-exact-solution-2var}を作る,鍵型(L字型)の積分経路.縦の区間で $Q(x_0,y)\,dy$ を,横の区間で $P(x,y)\,dx$ を積分する.ノートの図(p.8余白)を清書したもの.

Point!!:完全微分条件と「もとの関数」の存在は同値

「$\pdiff Py=\pdiff Qx$」という条件と,「$\pdiff fx=P$,$\pdiff fy=Q$ となる関数 $f(x,y)$ が存在する」という条件は,実は同値(互いに他方を導く)である.$f$ が存在すれば,偏微分の順序を入れ替えてよいという事実($\pdiff{}{y}\pdiff fx=\pdiff{}{x}\pdiff fy$,第6章で学ぶ2階偏導関数の交換法則)から $\pdiff Py=\pdiff{}{y}\pdiff fx=\pdiff{}{x}\pdiff fy=\pdiff Qx$ が従う.逆に $\pdiff Py=\pdiff Qx$ が成り立てば,式\eqref{eq:42-exact-solution-2var}の左辺そのものが,求める $f(x,y)$ を(経路に依存しない形で)与えてくれる.つまり式\eqref{eq:42-exact-solution-2var}の $C$ は,実は $f(x,y)=C$($f$ が一定値を取る)という意味であり,$df=\pdiff fx\,dx+\pdiff fy\,dy=P\,dx+Q\,dy=0$ となって,もとの全微分方程式そのものになっている.

例題42.5 $(2xy+3)\,dx+(x^2-1)\,dy=0$ を解く

全微分方程式 $(2xy+3)\,dx+(x^2-1)\,dy=0$ が完全微分方程式であることを確かめ,一般解を求めよ.

解答 $P=2xy+3$,$Q=x^2-1$ である.完全性の条件\eqref{eq:42-exact-condition-2var}を確かめると,$\pdiff Py=2x$,$\pdiff Qx=2x$ となって一致するので,これは完全微分方程式である.

一般解を求めるには,$\pdiff fx=P=2xy+3$ となる $f$ をまず $x$ について積分する($y$ は定数として扱う).

$$ f=\int(2xy+3)\,dx=x^2y+3x+h(y) $$

(積分定数は,$y$ の関数であれば何でもよいので $h(y)$ とおいた——これは42.1節で見た,偏微分方程式の解に付く「任意関数」の考え方そのものである).次に,この $f$ を $y$ で偏微分したものが $Q$ に等しいという条件から,$h(y)$ を決める.

$$ \pdiff fy=x^2+h'(y)=Q=x^2-1 $$

比較すると $h'(y)=-1$,積分して $h(y)=-y$(積分定数は最終的に $C$ の中に吸収されるので省略してよい).したがって

$$ f(x,y)=x^2y+3x-y $$

となり,一般解は

\begin{equation} x^2y+3x-y=C \label{eq:42-example5-sol} \end{equation}

である.

検算 $\pdiff fx=2xy+3=P$,$\pdiff fy=x^2-1=Q$ となって,たしかに元の $P,Q$ に一致する(sympyで検算済み).

42.4.3 3変数関数の完全微分方程式

次に $n=3$(変数が $x,y,z$ の3個)の場合を考える.全微分方程式は $P(x,y,z)\,dx+Q(x,y,z)\,dy+R(x,y,z)\,dz=0$ という形になる.2変数のときの条件 $\partial P/\partial y=\partial Q/\partial x$ は,3変数ではどう一般化されるだろうか.

定理42.4 3変数の完全微分方程式

全微分方程式 $P\,dx+Q\,dy+R\,dz=0$ について,$\bm F=[P,Q,R]$ とおく.このとき,

\begin{equation} \rot\bm F=\bm0 \label{eq:42-exact-condition-3var} \end{equation}

($\rot$ は回転,rotation.第19章で学んだベクトル場の回転演算子で,$\rot\bm F=\left[\pdiff Ry-\pdiff Qz,\ \pdiff Pz-\pdiff Rx,\ \pdiff Qx-\pdiff Py\right]$ と定義される)ならば,もとの方程式は完全微分方程式であり,その一般解は,適当な基準点 $(x_0,y_0,z_0)$ を選んで,

\begin{equation} \int_{x_0}^{x}P(x,y,z)\,dx+\int_{y_0}^{y}Q(x_0,y,z)\,dy+\int_{z_0}^{z}R(x_0,y_0,z)\,dz=C \label{eq:42-exact-solution-3var} \end{equation}

で与えられる.

2変数の場合との対応

$\rot\bm F=\bm0$ の第3成分 $\partial Q/\partial x-\partial P/\partial y=0$ は,2変数の条件\eqref{eq:42-exact-condition-2var}そのものである.3変数では,これに加えて第1成分 $\partial R/\partial y-\partial Q/\partial z=0$,第2成分 $\partial P/\partial z-\partial R/\partial x=0$ も要求される——つまり,$P,Q$ の組だけでなく,$Q,R$ の組・$R,P$ の組についても,同様の「交換法則」が成り立っていなければならない,ということである.一般解\eqref{eq:42-exact-solution-3var}も,2変数のときの鍵型の経路(図42.8)を1段増やした,$(x_0,y_0,z_0)\to(x_0,y_0,z)\to(x_0,y,z)\to(x,y,z)$ という階段状の経路に沿って,$R\,dz$,$Q\,dy$,$P\,dx$ の順に積分したものになっている.

例題42.6 $yz\,dx+xz\,dy+xy\,dz=0$ を解く

全微分方程式 $yz\,dx+xz\,dy+xy\,dz=0$ が完全微分方程式であることを確かめ,一般解を求めよ.

解答 $P=yz$,$Q=xz$,$R=xy$ である.条件\eqref{eq:42-exact-condition-3var}を確かめよう.

$$ \pdiff Ry-\pdiff Qz=x-x=0,\qquad \pdiff Pz-\pdiff Rx=y-y=0,\qquad \pdiff Qx-\pdiff Py=z-z=0 $$

すべて $0$ になるので,$\rot\bm F=\bm0$ であり,完全微分方程式である.一般解を求めるには,$\pdiff fx=P=yz$ をまず $x$ について積分する($y,z$ は定数扱い).

$$ f=\int yz\,dx=xyz+h(y,z) $$

次に $\pdiff fy=xz+\pdiff hy$ が $Q=xz$ に等しいという条件から,$\pdiff hy=0$,すなわち $h$ は $y$ を含まない.最後に $\pdiff fz=xy+\pdiff hz$($h$ が $y$ を含まないことを使った)が $R=xy$ に等しいという条件から,$\pdiff hz=0$,すなわち $h$ は定数($C$ に吸収されるので省略してよい).したがって $f(x,y,z)=xyz$ であり,一般解は

\begin{equation} xyz=C \label{eq:42-example6-sol} \end{equation}

である.実は $yz\,dx+xz\,dy+xy\,dz$ は,積の微分公式を3変数に拡張したもの,すなわち $xyz$ という積の全微分 $d(xyz)$ そのものになっている——だからこそ,一般解が「$xyz=$ 一定」という,見るからに対称な形になるのである.

検算 $\bm F=(yz,xz,xy)$ について $\rot\bm F$ の各成分を計算すると,たしかにすべて $0$ になる.また $d(xyz)=yz\,dx+xz\,dy+xy\,dz$ となって,もとの全微分方程式の左辺と一致する(sympyで検算済み).

42.5 進行波の偏微分方程式

本章の最後に,第43章以降で本格的に扱う波動方程式(wave equation)への橋渡しとして,「形を変えずに一定の速さで進んでいく波」を表す偏微分方程式を見ておこう.

42.5.1 右に進む波・左に進む波

速さ $v_0$ で,形を変えずに $x$ 軸の正の向きに進んでいく波を考える.たとえば,波長 $\lambda$,周期 $T$ の正弦波

\begin{equation} u(x,t)=A\sin\!\left(\frac{2\pi}{\lambda}x-\frac{2\pi}{T}t\right) \label{eq:42-wave-example} \end{equation}

を例に取ろう($A$ は振幅).波の速さ(位相速度,phase velocity)は $v_0=\lambda/T$ である——これは,波1つ分の長さ $\lambda$ が,1周期 $T$ のあいだに1つ分だけ進む,という意味である.図42.9は,この波を時刻 $t=0$(青の実線)と,そこから少し時間が経った $t=\Delta t$(灰色の破線)で比べたものである.波の山(ピーク)の位置が,時間の経過とともに $x$ の正の向きに移動している様子が分かる.

正弦波の2つのスナップショット.t=0の波(青の実線)と,少し時間が経ったt=dtの波(灰色の破線)を重ねて描いた図.波の山の位置がx軸の正の向きに移動している
図42.9 進行波 $u(x,t)=A\sin\!\left(\frac{2\pi}{\lambda}x-\frac{2\pi}{T}t\right)$ の2つのスナップショット.$t=0$(青の実線)から $t=\Delta t$(灰色の破線)に進むと,波形全体が $x$ の正の向きに $v_0\Delta t$ だけ平行移動する.

なぜ $\pdiff ut=-v_0\pdiff ux$ が右向きの波を表すのか

式\eqref{eq:42-wave-example}を,$t$ と $x$ でそれぞれ偏微分してみる.

$$ \pdiff ut=-\frac{2\pi}{T}\,A\cos\!\left(\frac{2\pi}{\lambda}x-\frac{2\pi}{T}t\right) $$ $$ \pdiff ux=\frac{2\pi}{\lambda}\,A\cos\!\left(\frac{2\pi}{\lambda}x-\frac{2\pi}{T}t\right) $$

(どちらも,$\sin$ を微分すると $\cos$ になり,中身を微分した分($\mp2\pi/T$ または $2\pi/\lambda$)が前に出る,という合成関数の微分公式である).$v_0=\lambda/T$ を使って $v_0\pdiff ux$ を計算すると,

$$ v_0\pdiff ux=\frac{\lambda}{T}\cdot\frac{2\pi}{\lambda}\,A\cos\!\left(\frac{2\pi}{\lambda}x-\frac{2\pi}{T}t\right)=\frac{2\pi}{T}\,A\cos\!\left(\frac{2\pi}{\lambda}x-\frac{2\pi}{T}t\right)=-\pdiff ut $$

($\lambda$ が約分で消える).すなわち

\begin{equation} \pdiff ut=-v_0\pdiff ux \label{eq:42-wave-right} \end{equation}

が成り立つ.これが,$x$ の正の向きに進む波が満たす偏微分方程式である.同様に,$x$ の負の向きに進む波 $u(x,t)=A\sin\!\left(\frac{2\pi}{\lambda}x+\frac{2\pi}{T}t\right)$(位相の符号が逆)を考えると,

\begin{equation} \pdiff ut=v_0\pdiff ux \label{eq:42-wave-left} \end{equation}

が成り立つ(同様の計算で確かめられる).符号のイメージをつかむには,「位相 $\frac{2\pi}{\lambda}x\mp\frac{2\pi}{T}t$ が一定の値を保つように,時間 $t$ が増えるとき $x$ がどちらに動くか」を考えるとよい.式\eqref{eq:42-wave-right}のマイナス符号の場合,位相一定の条件から $x=\frac{\lambda}{T}t+(\text{一定})$ となり,$t$ が増えると $x$ も増える——右(正の向き)に進む.

42.5.2 フーリエ級数を使った,より一般的な進行波

式\eqref{eq:42-wave-right}を正弦波1つだけで確かめたのでは,一般性に欠けるのではないか,と心配になるかもしれない.そこで,第43章以降でも活躍するフーリエ級数(Fourier series,どんな周期関数も,正弦波・余弦波を寄せ集めた無限級数で表せるという理論)を使って,より一般的な波形でも同じ関係が成り立つことを確かめておこう.長さ $2L$ の周期を持つ,一般の(複素指数関数で表した)波を

\begin{equation} u(x,t)=\sum_{k=-\infty}^{\infty}C_k\exp\!\left[i\left(\frac{k\pi}{L}x-\omega_k t\right)\right] \label{eq:42-fourier-wave} \end{equation}

とおく($C_k$ は各モードの複素振幅,$i$ は虚数単位).ここで角振動数 $\omega_k$ に添字 $k$ を付けたのは,波数 $k\pi/L$ ごとに角振動数が違ってよいという意味である.$t,x$ でそれぞれ偏微分すると(指数関数 $\exp(\cdots)$ の微分は,中身を微分したものが前に出るだけである),

$$ \pdiff ut=\sum_{k=-\infty}^{\infty}(-i\omega_k)\,C_k\exp\!\left[i\left(\frac{k\pi}{L}x-\omega_kt\right)\right],\qquad \pdiff ux=\sum_{k=-\infty}^{\infty}i\frac{k\pi}{L}\,C_k\exp\!\left[i\left(\frac{k\pi}{L}x-\omega_kt\right)\right] $$

式\eqref{eq:42-wave-right}($\pdiff ut=-v_0\pdiff ux$)が,この和のすべての項(すべての $k$)について同時に成り立つためには,各項の係数を見比べて,$-i\omega_k=-v_0\cdot i\dfrac{k\pi}{L}$,すなわち

$$ \omega_k=v_0\,\frac{k\pi}{L} $$

という関係(分散関係,dispersion relation,波数と角振動数の関係)が,すべてのモード $k$ で成り立っていればよい.この場合,波数によらず全てのモードが同じ速さ $v_0=\omega_k/(k\pi/L)$ で伝わる(これを非分散性

42.5.3 進行波の式から波動方程式を導く

式\eqref{eq:42-wave-right}をもう一度 $t$ で偏微分してみよう.

$$ \pdiff{}{t}\left(\pdiff ut\right)=-v_0\pdiff{}{x}\left(\pdiff ut\right) $$

(右辺は,式\eqref{eq:42-wave-right}を「$u$ の代わりに $\pdiff ut$ に対しても成り立つ関係」として,もう一度そのまま適用した.これができるのは,式\eqref{eq:42-wave-right}を $t$ で偏微分し,偏微分の順序を入れ替える公式 $\pdiff{}{t}\pdiff ux=\pdiff{}{x}\pdiff ut$(第6章)を使えば,$\pdiff{}{t}\pdiff ut=-v_0\pdiff{}{x}\pdiff ut$ が確かに導けるからである.)右辺の中の $\pdiff ut$ に,もう一度式\eqref{eq:42-wave-right}($\pdiff ut=-v_0\pdiff ux$)を代入すると,

$$ \pdiff{}{t}\left(\pdiff ut\right)=-v_0\pdiff{}{x}\left(-v_0\pdiff ux\right)=v_0^2\pdiff{^2u}{x^2} $$

すなわち

\begin{equation} \pdiff{^2u}{t^2}=v_0^2\,\pdiff{^2u}{x^2} \label{eq:42-wave-equation} \end{equation}

が得られる.これが,第43章で本格的に扱う波動方程式(wave equation)である.左向きの波の式\eqref{eq:42-wave-left}から出発しても,同じ計算で同じ式\eqref{eq:42-wave-equation}が得られる(符号 $\mp v_0$ の2乗は,どちらでも $+v_0^2$ になるので当然である).つまり,波動方程式\eqref{eq:42-wave-equation}は,「右にも左にも,速さ $v_0$ で進める」という,向きを問わない波の方程式になっている.

例題42.7 ガウス型のパルスが進行波であることを確かめる

$u(x,t)=\exp\!\bigl[-(x-3t)^2\bigr]$ が,式\eqref{eq:42-wave-right}の形 $\pdiff ut=-v_0\pdiff ux$($v_0=3$)を満たすことを確かめよ.また,この $u$ が波動方程式\eqref{eq:42-wave-equation}も満たすことを確かめよ.

解答 $s=x-3t$ とおくと,$u=\exp(-s^2)$ である.合成関数の微分公式により,

$$ \pdiff ut=\exp(-s^2)\cdot(-2s)\cdot\pdiff st=\exp(-s^2)\cdot(-2s)\cdot(-3)=6s\exp(-s^2) $$ $$ \pdiff ux=\exp(-s^2)\cdot(-2s)\cdot\pdiff sx=\exp(-s^2)\cdot(-2s)\cdot1=-2s\exp(-s^2) $$

したがって $-3\pdiff ux=-3\cdot(-2s\exp(-s^2))=6s\exp(-s^2)=\pdiff ut$ となり,たしかに $\pdiff ut=-3\pdiff ux$($v_0=3$ の右向きの進行波の式)を満たす.

波動方程式も確かめておこう.$\pdiff{^2u}{t^2}=\pdiff{}{t}\bigl(6s\exp(-s^2)\bigr)=6\pdiff st\exp(-s^2)+6s\cdot\exp(-s^2)(-2s)\pdiff st=6(-3)\exp(-s^2)+6s(-2s)(-3)\exp(-s^2)=(-18+36s^2)\exp(-s^2)$.同様に $\pdiff{^2u}{x^2}=(-2+4s^2)\exp(-s^2)$.よって $v_0^2\pdiff{^2u}{x^2}=9(-2+4s^2)\exp(-s^2)=(-18+36s^2)\exp(-s^2)=\pdiff{^2u}{t^2}$ となり,たしかに波動方程式\eqref{eq:42-wave-equation}($v_0=3$)を満たす(sympyで検算済み).この $u$ は,$x=3t$(速さ3で右へ動く点)を中心に,形を変えずに移動していく「釣鐘型(ガウス型)のパルス」を表している.

関連シミュレーター:フーリエ級数(本節で使った,波を正弦波・余弦波の和に分解する考え方を,実際に動かして確認できる).

42.6 まとめと演習

42.6.1 まとめ

\begin{equation} P\pdiff zx+Q\pdiff zy=R \quad\Longleftrightarrow\quad \frac{dx}{P}=\frac{dy}{Q}=\frac{dz}{R}\ \ (\text{特性方程式}) \label{eq:42-keyeq-characteristic} \end{equation}
\begin{equation} \pdiff Py=\pdiff Qx\ (\text{2変数}),\qquad \rot\bm F=\bm0\ (\text{3変数})\qquad\Longrightarrow\qquad P\,dx+Q\,dy(+R\,dz)=0\ \text{は完全微分方程式} \label{eq:42-keyeq-exact} \end{equation}
\begin{equation} \pdiff ut=\mp v_0\pdiff ux \quad\Longrightarrow\quad \pdiff{^2u}{t^2}=v_0^2\pdiff{^2u}{x^2}\ \ (\text{波動方程式}) \label{eq:42-keyeq-wave} \end{equation}

42.6.2 演習問題

演習42.1 もっとも簡単なラグランジュの偏微分方程式

ラグランジュの偏微分方程式 $\pdiff zx-\pdiff zy=0$ を,特性方程式を使って解け.また,得られた解 $z=f(x+y)$ を42.5節の進行波の式 $\pdiff ut=\mp v_0\pdiff ux$ と比較し,この解がどのような波を表していると解釈できるか述べよ.

ヒント:$P=1,Q=-1,R=0$ として特性方程式を立てる.$dz/0$ の読み方は42.2.5項の例題42.2を参照.波としての解釈は,$f(x+y)$ の値が一定に保たれる条件($x+y=$一定)のもとで,$x$ が増えるとき $y$ がどう動くかを考えるとよい.

演習42.2 $z$ を含む係数のラグランジュの偏微分方程式

ラグランジュの偏微分方程式 $xz\pdiff zx-yz\pdiff zy=x^2-y^2$ を,特性方程式を使って解け(一般解は陰関数の形のままでよい).

ヒント:$P=xz,Q=-yz,R=x^2-y^2$ である.特性方程式の最初の2つの分数から $\varphi=xy$ が出る.もう1つの第一積分には,42.3節末尾の「数学ノート:乗数法」で説明した工夫が有効である.どの乗数 $\lambda,\mu,\nu$ を選べば分母がうまく単純になるか,係数 $P,Q,R$ の形をよく見て考えてみよ.

演習42.3 完全微分方程式(2変数)

全微分方程式 $(y^2+2xy)\,dx+(x^2+2xy)\,dy=0$ が完全微分方程式であることを確かめ,一般解を求めよ.

ヒント:定理42.3の条件 $\pdiff Py=\pdiff Qx$ を確認したうえで,例題42.5と同じ手順($f$ をまず $x$ について積分し,残りを $y$ の関数として決める)で $f(x,y)$ を求める.

演習42.4 2つの進行波の重ね合わせ

$u(x,t)=A\sin(kx-\omega t)+B\sin(kx+\omega t)$($A,B,k,\omega$ は定数)が,波動方程式 $\pdiff{^2u}{t^2}=\left(\dfrac\omega k\right)^2\pdiff{^2u}{x^2}$ を満たすことを確かめよ.

ヒント:$u$ は,右向きの進行波 $A\sin(kx-\omega t)$(速さ $\omega/k$)と,左向きの進行波 $B\sin(kx+\omega t)$(速さ $\omega/k$)の和である.42.5.3項の議論は,和についても線形に成り立つ(微分は線形な演算だから).

演習42.5 3変数への一般化

$x_1,x_2,x_3\gt0$ とする.一般化されたラグランジュの偏微分方程式 $x_1\pdiff u{x_1}+x_2\pdiff u{x_2}+x_3\pdiff u{x_3}=0$ を解け.また,$u=\Phi\!\left(\dfrac{x_2}{x_1},\dfrac{x_3}{x_1}\right)$($\Phi$ は任意の2変数関数)がこれを満たすことを確かめよ.

ヒント:定理42.2で $n=3$,$f_1=x_1,f_2=x_2,f_3=x_3$,$g=0$ とする.特性方程式 $\dfrac{dx_1}{x_1}=\dfrac{dx_2}{x_2}=\dfrac{dx_3}{x_3}$ から,独立な第一積分を2つ($x_2/x_1$ と $x_3/x_1$ など)作る.

演習42.6 境界条件付きの簡単な例

偏微分方程式 $\pdiff ux=2y$ を,境界条件 $u(0,y)=y^2$ のもとで解け.

ヒント:$y$ を定数とみなして $x$ について積分すると,$y$ の関数であれば何でもよい「任意関数」が付く(42.1節参照).境界条件で,その任意関数の中身を決定する.

42.6.3 参考文献

  1. 望月泰英『数学ノート 偏微分方程式』(手書き講義ノート).本章の底本.
  2. 寺沢寛一『自然科学者のための数学概論』岩波書店.
  3. 溝畑茂『偏微分方程式論』岩波書店.