大学数学 — 目次 第IV部 ベクトル解析 / 第17章

第17章ベクトル値関数の微分積分

これまでの微分積分学(第I部)では,関数の出力はつねに1つの実数(スカラー)であった.たとえば $f(x)=x^2$ は,入力 $x$ に対して出力もただの数である.しかし,たとえば「時刻 $t$ における物体の位置」を考えると,位置は $x$ 座標・$y$ 座標・$z$ 座標という3つの数の組,すなわちベクトルで表される.このように,入力は数(媒介変数)だが,出力がベクトルであるような関数をベクトル値関数(vector-valued function)という.本章では,このベクトル値関数に対して微分・積分の考え方をどう拡張すればよいかを学ぶ.

結論を先に言うと,ベクトル値関数の微分積分は各成分ごとにスカラー値関数の微分積分をするだけでよく,新しい計算技術はほとんど必要としない.難しいのは計算そのものではなく,「微分すると何が求まるのか」「積分すると何が求まるのか」という意味の方である.たとえば,位置ベクトルを微分すると速度ベクトル(接線ベクトル)が求まり,速さ(速度ベクトルの大きさ)を時間で積分すると移動した道のり(曲線の長さ)が求まる.本章の前半(17.1〜17.4節)では媒介変数が1つだけのベクトル値関数 $\vec y(t)=[x_1(t),x_2(t),x_3(t)]$ を扱い,後半(17.5〜17.6節)では媒介変数が2つあるベクトル値関数 $\vec a(u,v)$ ——たとえば曲面上の点の位置——を扱って,曲面の面積を求める公式を導く.ここで身につける「曲面を径数(パラメータ)で表し,接ベクトルの外積で面積要素を作る」という発想は,第20章で学ぶ面積分の土台になる.

この章で学ぶこと
  • ベクトル値関数 $\vec y(t)=[x_1(t),x_2(t),x_3(t)]$ の微分の定義と,接線ベクトルとしての意味
  • 曲線の長さ(弧長)を表す公式 $S=\displaystyle\int_{t_1}^{t_2}\abs{\vec f\,'(t)}\,dt$ と,三平方の定理を極限に持ち込むその導出
  • ベクトル値関数の不定積分・定積分の定義(成分ごとの積分)と,線形性・部分積分の公式とその証明
  • 1階線形微分方程式 $\dfrac{d\vec y}{dt}+p(t)\vec y=\vec g(t)$ が,各成分ごとのスカラーの1階線形微分方程式に分解できること
  • 2変数ベクトル値関数(曲面の径数表示) $\vec P(u,v)$ の偏微分・全微分
  • 曲面の面積の公式 $S=\displaystyle\iint_D\abs{\pdiff{\vec P}{u}\times\pdiff{\vec P}{v}}\,dudv$ と,$z=f(x,y)$ の形の曲面に対する特別な場合
前提:第1章(極限の厳密な定義と微分の導入:導関数の定義),第5章(積分の基本公式と定積分の性質:不定積分・定積分の基本,5.5節の公式5.18「曲線の長さ」——本章はこれをベクトルの場合に一般化する.また高校数学の部分積分の技法も使う),第6章(偏微分(多変数関数の微分):偏微分・全微分の定義),第7章(重積分(多変数関数の積分):重積分の定義,7.7節の球座標と球の体積・表面積),第15章(ベクトルの内積と外積:外積の大きさ=平行四辺形の面積),第16章(座標系と基底ベクトル:円筒座標・球座標)を使う.第33章(1階常微分方程式の基本解法:1階線形微分方程式の解の公式)の結果も引用する.
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート ベクトル解析』 pp. 17–24.

17.1 ベクトル値関数の微分と接線ベクトル

数直線上の1点 $t$(時刻だと思ってよい)を決めるごとに,空間内の1点 $[x_1(t),x_2(t),x_3(t)]$ が決まるとき,この対応をベクトル値関数(vector-valued function)という.$t$ を実数(スカラー)にとり,出力を3つの実数の組(ベクトル)にとる関数である,という意味で,出力が実数1つだけであった今までの関数(スカラー値関数,scalar-valued function)と対比される.たとえば,時刻 $t$ における粒子の位置を $\vec y(t)=[x_1(t),x_2(t),x_3(t)]$ と書けば,これはまさにベクトル値関数である.

定義17.1 ベクトル値関数の微分

ベクトル値関数 $\vec y(t)=[x_1(t),x_2(t),x_3(t)]$ の各成分について,導関数 $x_1'(t),x_2'(t),x_3'(t)$ が存在するとき,$\vec y(t)$ は微分可能(differentiable)であるという.このとき $\vec y(t)$ の導関数 $\vec y\,'(t)$ を

$$ \vec y\,'(t) = [x_1'(t),\ x_2'(t),\ x_3'(t)] $$

と定める.また,$\vec y(t)$ の導関数 $\vec y\,'(t)$ は,極限を使って

\begin{equation} \vec y\,'(t) = \lim_{\Delta t\to0}\frac{\vec y(t+\Delta t)-\vec y(t)}{\Delta t} \label{eq:17-derivative-def} \end{equation}

とも定義される.

なぜ2通りの定義が同じことになるのか

式\eqref{eq:17-derivative-def}の右辺で,ベクトルの引き算 $\vec y(t+\Delta t)-\vec y(t)$ は成分ごとの引き算 $[\,x_1(t+\Delta t)-x_1(t),\ x_2(t+\Delta t)-x_2(t),\ x_3(t+\Delta t)-x_3(t)\,]$ であり,スカラー $\Delta t$ で割ることも成分ごとに行われる(ベクトルをスカラーで割るとは,各成分をそのスカラーで割ることだった).したがって,

$$ \lim_{\Delta t\to0}\frac{\vec y(t+\Delta t)-\vec y(t)}{\Delta t} = \left[\ \lim_{\Delta t\to0}\frac{x_1(t+\Delta t)-x_1(t)}{\Delta t},\ \ \lim_{\Delta t\to0}\frac{x_2(t+\Delta t)-x_2(t)}{\Delta t},\ \ \lim_{\Delta t\to0}\frac{x_3(t+\Delta t)-x_3(t)}{\Delta t}\ \right] $$

である(極限はベクトルの各成分ごとにとってよい,というのがここでの約束である).右辺のかっこの中身は,まさに $x_1'(t),x_2'(t),x_3'(t)$ の定義そのもの(第1章で学んだ,極限による微分係数の定義)である.よって式\eqref{eq:17-derivative-def}は,定義17.1の $\vec y\,'(t)=[x_1',x_2',x_3']$ と完全に一致する.ベクトル値関数の微分は,各成分を1変数関数だと思って別々に微分すればよい——これが本章全体を通して繰り返し使う,最も基本的な指針である.

この指針のおかげで,ベクトル値関数の微分公式はスカラー値関数の微分公式と(線形性に関するかぎり)まったく同じ形になる.たとえば,$\vec a(t),\vec b(t)$ をベクトル値関数,$k$ を定数とすると,

$$ \{\vec a(t)+\vec b(t)\}' = \vec a\,'(t)+\vec b\,'(t),\qquad \{k\,\vec a(t)\}' = k\,\vec a\,'(t) $$

が成り立つ.実際,$\vec a(t)=[a_1(t),a_2(t),a_3(t)]$,$\vec b(t)=[b_1(t),b_2(t),b_3(t)]$ とおくと,和 $\vec a(t)+\vec b(t)$ の各成分は $a_i(t)+b_i(t)$($i=1,2,3$)であり,これをスカラー値関数の和の微分公式(高校数学で既習)で微分すると $\{a_i+b_i\}'=a_i'+b_i'$ となる.3成分をまとめれば

$$ \{\vec a(t)+\vec b(t)\}' = [\,a_1'+b_1',\ \ a_2'+b_2',\ \ a_3'+b_3'\,] = [\,a_1',a_2',a_3'\,]+[\,b_1',b_2',b_3'\,] = \vec a\,'(t)+\vec b\,'(t) $$

となって,左の等式が示される.同様に,定数倍 $k\,\vec a(t)$ の各成分は $k\,a_i(t)$ であり,スカラー値関数の定数倍の微分公式から $\{k\,a_i\}'=k\,a_i'$ となるので,

$$ \{k\,\vec a(t)\}' = [\,k\,a_1',\ \ k\,a_2',\ \ k\,a_3'\,] = k\,[\,a_1',a_2',a_3'\,] = k\,\vec a\,'(t) $$

となって右の等式も示される.

イメージ:微分すると何が求まるのか——接線ベクトル

1変数のスカラー値関数 $y=f(x)$ を微分すると,幾何学的には「傾き」,すなわちグラフの接線の傾きが求まった.ベクトル値関数 $\vec y(t)$ でも同様に考えることができる.$\vec y(t)$ が描く曲線上で,$t$ が $t_0$ から $t_0+\Delta t$ まで変化したときの変位ベクトル $\vec y(t_0+\Delta t)-\vec y(t_0)$ を $\Delta t$ で割ったもの(式\eqref{eq:17-derivative-def}の中身)は,曲線上の2点を結ぶ弦の方向を向いたベクトルである.$\Delta t\to0$ の極限をとると,この弦はどんどん短くなって,最終的に曲線上の点 $\vec y(t_0)$ における接線の方向を向いたベクトルに近づく.すなわち,ベクトル値関数を微分すると,「傾きの大きさを示すベクトル」,つまり接線ベクトル(tangent vector)が求まる.$\vec y(t)$ を時刻 $t$ における物体の位置だと考えれば,$\vec y\,'(t)$ はその物体の速度ベクトル(velocity vector)にほかならない.

放物線y=x^2のグラフに,t=1における接線ベクトルを矢印で示した図.横軸にt=-1,1,2の点を示す
図17.1 $\vec f(t)=[t,t^2]$ のグラフ.$t=1$ での接線ベクトルは $\vec f\,'(1)=[1,2]$ の向きを持つ.

例17.1 $\vec f(t)=[t,t^2]$ の微分

ノートの例.$\vec f(t)=[t,t^2]$ のグラフ(図17.1)を考える.各成分を $t$ で微分すると,$x_1(t)=t$ より $x_1'(t)=1$,$x_2(t)=t^2$ より $x_2'(t)=2t$ であるから,定義17.1により

$$ \vec f\,'(t) = [1,\ 2t] $$

である.たとえば $t=1$ での接線ベクトルは $\vec f\,'(1)=[1,2]$ であり,図17.1の $t=1$ の点 $(1,1)$ から,右へ1,上へ2だけ進む向き(すなわち傾き2の直線の向き)を指している.これは高校数学で習った「$y=x^2$ の $x=1$ における接線の傾きは $2\times1=2$」という結果と,向きの点でも完全に一致している.

例題17.1 平面上を動く点の速度と速さ

平面上を動く点の位置が,時刻 $t$(秒)において $\vec r(t)=[t^2,\,t^3]$(メートル)で与えられているとする.(a) 速度ベクトル $\vec r\,'(t)$ を求めよ.(b) $t=1$ における速度ベクトルと,そのときの速さ(速度ベクトルの大きさ)を求めよ.

解答 (a) 定義17.1にしたがい成分ごとに微分すると,$x_1(t)=t^2$ より $x_1'(t)=2t$,$x_2(t)=t^3$ より $x_2'(t)=3t^2$ であるから,

$$ \vec r\,'(t) = [2t,\ 3t^2]\ \text{(m/s)} $$

(b) $t=1$ を代入すると $\vec r\,'(1)=[2,3]$(m/s)である.速さは速度ベクトルの大きさ $\abs{\vec r\,'(t)}=\sqrt{(2t)^2+(3t^2)^2}$ に $t=1$ を代入して

$$ \abs{\vec r\,'(1)} = \sqrt{2^2+3^2} = \sqrt{13}\ \text{(m/s)} $$

である($\sqrt{13}\fallingdotseq3.61$).速度ベクトル $\vec r\,'(t)$ は大きさだけでなく向きも持つ量であるのに対し,速さ $\abs{\vec r\,'(t)}$ はその大きさだけを取り出したスカラー量であることに注意しよう.

17.2 曲線の長さ

前節で見たように,$\vec f\,'(t)$ は曲線の接線ベクトル(位置なら速度ベクトル)を与える.では,その大きさ $\abs{\vec f\,'(t)}$(速さ)を時間について積分すると何が求まるだろうか.結論から言うと,それは曲線に沿って実際に進んだ道のり,すなわち曲線の長さ(弧長,arc length)である.高校数学でも「速さ」を時間で積分すると「道のり」が求まることを学んだと思うが,それとまったく同じ発想である.

定義17.2 曲線の長さ

媒介変数 $t$ が $t_1\le t\le t_2$ の範囲で変化するとき,動点 $\vec f(t)=[x(t),y(t),z(t)]$ の描く曲線の長さ $S$ は

\begin{equation} S = \int_{t_1}^{t_2}\abs{\vec f\,'(t)}\,dt = \int_{t_1}^{t_2}\sqrt{x'(t)^2+y'(t)^2+z'(t)^2}\,dt \label{eq:17-arclength} \end{equation}

となる(2次元の場合は $\displaystyle\int_{t_1}^{t_2}\sqrt{x'(t)^2+y'(t)^2}\,dt$ である).

この式\eqref{eq:17-arclength}は,第5章5.5節の公式5.18「$y=f(x)$ の形の曲線の長さ $L=\displaystyle\int_a^b\sqrt{1+\{f'(x)\}^2}\,dx$」を一般化したものである.実際,$x(t)=t,\ y(t)=f(t)$(つまり $x$ 自身を媒介変数に使う)とおけば,$x'(t)=1,\ y'(t)=f'(t)$ であるから,式\eqref{eq:17-arclength}は $\displaystyle\int_a^b\sqrt{1+\{f'(t)\}^2}\,dt$ となり,公式5.18にちょうど一致する.公式5.18は「グラフが $y=f(x)$ の形をした特別な曲線」しか扱えなかったが,式\eqref{eq:17-arclength}は $x,y,z$ がそれぞれ独立に $t$ の関数として動く任意の空間曲線に使えるという点で,真に一般的な公式になっている.

導出:三平方の定理から式\eqref{eq:17-arclength}を導く

$t=t_1$ から $t=t_2$ までの曲線の長さを $S$ とする.曲線をごく短い区間に刻み,その微小区間で考えることにしよう(図17.2).$t$ が $\Delta t$ だけ変化したときの点の変位を,$x,y,z$ 各方向の変位 $\Delta x,\Delta y,\Delta z$ に分解すると,3辺の長さが $\Delta x,\Delta y,\Delta z$ の直方体の対角線の長さとして,三平方の定理(2回使う:まず $xy$ 平面内の対角線 $\sqrt{\Delta x^2+\Delta y^2}$ を求め,それと $\Delta z$ からもう一度対角線を求める)より,微小な弧の長さ $\Delta S$ は

$$ \Delta S = \sqrt{\Delta x^2+\Delta y^2+\Delta z^2} \tag{①} $$

で近似できる(弧が短ければ短いほど,弦の長さ $\Delta S$ は弧の長さそのものに近づく).①の両辺で $\Delta t\to0$ の極限を取る操作を行うと,$\Delta x,\Delta y,\Delta z,\Delta S$ はそれぞれ無限小 $dx,dy,dz,ds$ になり,

$$ ds = \sqrt{(dx)^2+(dy)^2+(dz)^2} = \sqrt{\left(\frac{dx}{dt}\right)^2+\left(\frac{dy}{dt}\right)^2+\left(\frac{dz}{dt}\right)^2}\cdot dt \tag{②} $$

となる(2つ目の等号では,根号の中の各項を $\left(\frac{dx}{dt}\right)^2dt^2$ のように $dt^2$ をくくり出し,$dt>0$ なので絶対値は不要なまま根号の外に $dt$ として取り出した).②の両辺に $\displaystyle\int_{t_1}^{t_2}$ をつけて足し合わせる(無限小 $ds$ を $t_1$ から $t_2$ まで積み上げると,全体の長さ $S$ になる)と,

$$ S = \int_{t_1}^{t_2}\sqrt{(x')^2+(y')^2+(z')^2}\,dt $$

となる.さらに,$\sqrt{(x')^2+(y')^2+(z')^2}$ はベクトル $\vec f\,'(t)=[x'(t),y'(t),z'(t)]$ の大きさ $\abs{\vec f\,'(t)}$(各成分の2乗和の平方根,という大きさの定義そのもの)に等しいから,

$$ S = \int_{t_1}^{t_2}\abs{\vec f\,'(t)}\,dt $$

である.(証明終わり)

微小変位の合成 ΔS(三平方の定理の3次元版) Δx Δy Δz ΔS
図17.2 微小変位 $\Delta x,\Delta y,\Delta z$ と,それらの合成である微小変位ベクトル $\Delta S=\sqrt{\Delta x^2+\Delta y^2+\Delta z^2}$(三平方の定理の3次元版).
空間曲線の弧長 S z x y t=t₁のとき t=t₂のとき 長さS
図17.3 空間曲線 $\vec f(t)$ の,$t=t_1$ から $t=t_2$ までの部分(太線)の長さが $S$ である.

例17.2 直線の長さ:$\vec f(t)=[t,2t]$

ノートの例.例として $\vec f(t)=[t,2t]$(図17.4,原点を通り傾き2の直線)を考える.$t=0$ から $t=4$ までの長さを求めよう.$\vec f\,'(t)=[1,2]$ なので $\abs{\vec f\,'(t)}=\sqrt{1^2+2^2}=\sqrt5$($t$ によらない定数)であり,

$$ S_1 = \int_0^4\abs{\vec f\,'(t)}\,dt = \int_0^4\sqrt5\,dt = \sqrt5\,[\,t\,]_0^4 = 4\sqrt5 $$

である.この曲線は直線なので,ピタゴラスの定理(三平方の定理)で直接検算できる:$t=0$ での点は $(0,0)$,$t=4$ での点は $(4,8)$ であるから,2点間の距離は $\sqrt{4^2+8^2}=\sqrt{16+64}=\sqrt{80}=4\sqrt5$ となり,一致する.

直線f(t)=[t,2t]のグラフ.t=0からt=4までの線分を示す
図17.4 $\vec f(t)=[t,2t]$($0\le t\le4$)のグラフ.

例17.3 空間曲線の長さ:$\vec f(t)=[t,\sqrt3\,t,t^2]$

ノートの例.$\vec f(t)=[t,\sqrt3\,t,t^2]$ を考える.$t=0$ から $t=\sqrt3$ までの長さを求めよう.$\vec f\,'(t)=[1,\sqrt3,2t]$ であるから,

$$ \abs{\vec f\,'(t)} = \sqrt{1^2+(\sqrt3)^2+(2t)^2} = \sqrt{1+3+4t^2} = 2\sqrt{1+t^2} $$

($1+3=4$ をくくり出して $\sqrt{4(1+t^2)}=2\sqrt{1+t^2}$ とした).よって

$$ S_2 = \int_0^{\sqrt3}\abs{\vec f\,'(t)}\,dt = 2\int_0^{\sqrt3}\sqrt{1+t^2}\,dt $$

である.ここで,公式 $\displaystyle\int\sqrt{1+x^2}\,dx=\frac12\left(x\sqrt{1+x^2}+\ln\abs{x+\sqrt{1+x^2}}\right)+C$(高校数学の範囲外だが有名な不定積分.$x=\tan\theta$ の置換,あるいは $\sqrt{1+x^2}=u-x$ とおく置換で自分で確かめられる)を使うと,

$$ \int_0^{\sqrt3}\sqrt{1+t^2}\,dt = \frac12\left[t\sqrt{1+t^2}+\ln\abs{t+\sqrt{1+t^2}}\right]_0^{\sqrt3} = \frac12\left(\sqrt3\cdot2+\ln(\sqrt3+2)\right) $$

である($\sqrt{1+3}=2$ を使った).最後に,この積分は $S_2$ 自身ではなく,$S_2$ を作るために2倍した式の中身であったことを忘れずに,最後にもう一度2を掛けると,

$$ S_2 = 2\times\frac12\left(2\sqrt3+\ln(\sqrt3+2)\right) = 2\sqrt3+\ln(\sqrt3+2)\ \bigl(\fallingdotseq4.78\bigr) $$

が正しい答えである.

注意:ノートの計算ミス(係数2の掛け忘れ)

底本のノートでは,$S_2=2\displaystyle\int_0^{\sqrt3}\sqrt{1+t^2}\,dt$ と正しく式を立てたあと,不定積分の公式を代入する段階で,前に括り出した係数2を掛けるのを忘れ,最終的な答えを $S_2=\dfrac12\left(2\sqrt3+\ln(\sqrt3+2)\right)\fallingdotseq2.39$ と書いている.しかし,これは係数2を反映し忘れた計算ミスであり,正しくは上の $S_2=2\sqrt3+\ln(\sqrt3+2)\fallingdotseq4.78$ である(sympyによる数値積分・記号積分の両方で確認済み.検算スクリプト参照).

例題17.2 らせん(helix)の長さ

$\vec f(t)=[\cos t,\sin t,t]$(図17.5)は,$xy$ 平面内では半径1の円を描きながら,同時に $z$ 方向に一定の速さで上昇していく曲線であり,らせん(helix)とよばれる.ばね(コイル)やDNAの二重らせん構造をイメージするとよい.$t=0$ から $t=2\pi$(ちょうど1周する)までの,このらせんの長さを求めよ.

解答 $\vec f\,'(t)=[-\sin t,\cos t,1]$ であるから,

$$ \abs{\vec f\,'(t)} = \sqrt{(-\sin t)^2+(\cos t)^2+1^2} = \sqrt{\sin^2t+\cos^2t+1} = \sqrt{1+1} = \sqrt2 $$

($\sin^2t+\cos^2t=1$ という高校数学の三角関数の基本公式を使った).速さ $\abs{\vec f\,'(t)}=\sqrt2$ は $t$ によらず一定であるから,積分は単なる掛け算になり,

$$ S = \int_0^{2\pi}\sqrt2\,dt = \sqrt2\times2\pi = 2\sqrt2\,\pi\ \bigl(\fallingdotseq8.89\bigr) $$

である.もし $z$ 方向の上昇がなければ($\vec f(t)=[\cos t,\sin t]$ という平面上の円だけなら),1周の長さは円周 $2\pi\times1=2\pi\fallingdotseq6.28$ のはずである.らせんは上昇する分だけ実際の道のりが長くなるので,$2\sqrt2\,\pi\fallingdotseq8.89>2\pi\fallingdotseq6.28$ となっており,直感と合っている.

らせんf(t)=[cos t,sin t,t]を斜め方向から見た図.底面の円と,1周してz方向に上昇する曲線を示す
図17.5 らせん $\vec f(t)=[\cos t,\sin t,t]$.$xy$ 平面へ射影すると半径1の円(破線)になる.

17.3 ベクトル値関数の積分

微分と同様に,ベクトル値関数の積分も「各成分ごとにスカラー値関数の積分をする」だけで定義できる.この節では,不定積分・線形性の公式・部分積分の公式・定積分の順に見ていく.

17.3.1 不定積分

定義17.3 ベクトル値関数の不定積分

ベクトル値関数 $\vec a(t)$ の原始関数(微分すると $\vec a(t)$ になる関数)の1つを $\vec A(t)$ とおくとき,$\vec a$ の不定積分を $\displaystyle\int\vec a(t)\,dt$ と表し,

$$ \int\vec a(t)\,dt = \vec A(t)+\vec C $$

と定義する(ただし $\vec C$ は,成分がすべて定数であるようなベクトル,任意定ベクトルである).

これはスカラー値関数の不定積分とまったく同じ考え方の積分であり,単に成分ごとに積分してやればよい.実際,$\vec a(t)=[a_1(t),a_2(t),a_3(t)]$,$\vec A(t)=[A_1(t),A_2(t),A_3(t)]$,$\vec C=[C_1,C_2,C_3]$($A_i'(t)=a_i(t)$,$C_i$ は定数,$i=1,2,3$)とおくと,

$$ \int\vec a\,dt = \left[\int a_1(t)\,dt,\ \int a_2(t)\,dt,\ \int a_3(t)\,dt\right] = [A_1(t)+C_1,\ A_2(t)+C_2,\ A_3(t)+C_3] $$

であるが,これは

$$ = [A_1(t),A_2(t),A_3(t)] + [C_1,C_2,C_3] = \vec A(t)+\vec C $$

と書き直せる(ベクトルの足し算は成分ごとの足し算なので,3つの数の組をまとめてから分けても,分けたまま足しても結果は同じである).こうして定義17.3の右辺と一致することが確かめられた.

17.3.2 積分公式(線形性)

$\vec a(t),\vec b(t)$ をベクトル値関数,$k$ を(スカラーの)定数,$\vec k$ を定ベクトルとする.このとき,次の公式が成り立つ.

公式17.1 ベクトル値関数の積分の線形性

$$ \text{(I)}\ \ \int k\,\vec a(t)\,dt = k\int\vec a(t)\,dt \qquad\qquad \text{(II)}\ \ \int\{\vec a(t)+\vec b(t)\}\,dt = \int\vec a(t)\,dt+\int\vec b(t)\,dt $$ $$ \text{(III)}\ \ \int \vec k\cdot\vec a(t)\,dt = \vec k\cdot\left(\int\vec a(t)\,dt\right) \qquad\qquad \text{(IV)}\ \ \int \vec k\times\vec a(t)\,dt = \vec k\times\left(\int\vec a(t)\,dt\right) $$

(I)と(II)は,成分ごとに考えれば次のように確かめられる.$\vec a(t)=[a_1(t),a_2(t),a_3(t)]$ とおくと $k\,\vec a(t)=[\,k\,a_1,\ k\,a_2,\ k\,a_3\,]$ であるから,スカラー値関数の積分の線形性 $\int kf\,dt=k\int f\,dt$(高校数学ですでに習った)を各成分に使って

$$ \int k\,\vec a(t)\,dt = \left[\int k\,a_1\,dt,\ \int k\,a_2\,dt,\ \int k\,a_3\,dt\right] = \left[k\int a_1\,dt,\ k\int a_2\,dt,\ k\int a_3\,dt\right] = k\left[\int a_1\,dt,\int a_2\,dt,\int a_3\,dt\right] = k\int\vec a(t)\,dt $$

となり(I)が示される.(II)も同様に,$\vec b(t)=[b_1(t),b_2(t),b_3(t)]$ とおくと $\vec a(t)+\vec b(t)=[\,a_1+b_1,\ a_2+b_2,\ a_3+b_3\,]$ であるから,スカラー値関数の和の積分の公式 $\int(f+g)\,dt=\int f\,dt+\int g\,dt$ を各成分に使って

$$ \int\{\vec a(t)+\vec b(t)\}\,dt = \left[\int(a_1{+}b_1)dt,\ \int(a_2{+}b_2)dt,\ \int(a_3{+}b_3)dt\right] = \left[\int a_1dt{+}\!\int b_1dt,\ \int a_2dt{+}\!\int b_2dt,\ \int a_3dt{+}\!\int b_3dt\right] = \int\vec a(t)\,dt+\int\vec b(t)\,dt $$

となって示される.(III)と(IV)は内積・外積という「異なる成分を混ぜ合わせる」演算が入るので,もう少していねいに確認しておこう.

証明:公式17.1 (III)(内積の場合)

$\vec k=[k_1,k_2,k_3]$,$\vec a(t)=[a_1(t),a_2(t),a_3(t)]$ とおく.内積の定義(成分どうしの積の和,第15章)より $\vec k\cdot\vec a(t)=k_1a_1(t)+k_2a_2(t)+k_3a_3(t)$ であるから,左辺は

$$ \int\vec k\cdot\vec a(t)\,dt = \int\{k_1a_1(t)+k_2a_2(t)+k_3a_3(t)\}\,dt $$

である.右辺の被積分関数はスカラー値関数の和と定数倍だけでできているので,スカラー値関数の積分の線形性を使って

$$ = k_1\int a_1(t)\,dt + k_2\int a_2(t)\,dt + k_3\int a_3(t)\,dt $$

と分解できる.一方,公式17.1(III)の右辺は,定義17.3により $\displaystyle\int\vec a(t)\,dt=\left[\int a_1\,dt,\int a_2\,dt,\int a_3\,dt\right]$ であるから,これと $\vec k$ の内積をとると,やはり内積の定義(成分どうしの積の和)から

$$ \vec k\cdot\left(\int\vec a(t)\,dt\right) = k_1\int a_1(t)\,dt + k_2\int a_2(t)\,dt + k_3\int a_3(t)\,dt $$

となり,左辺・右辺がまったく同じ式になった.(証明終わり)

証明:公式17.1 (IV)(外積の場合)

外積の成分表示(第15章)$\vec k\times\vec a=[\,k_2a_3-k_3a_2,\ \ k_3a_1-k_1a_3,\ \ k_1a_2-k_2a_1\,]$ を使う.左辺の第1成分は

$$ \left[\int\vec k\times\vec a(t)\,dt\right]_1 = \int\{k_2a_3(t)-k_3a_2(t)\}\,dt = k_2\int a_3(t)\,dt-k_3\int a_2(t)\,dt $$

である(最後の等号はスカラー値関数の積分の線形性).一方,右辺 $\vec k\times\left(\int\vec a\,dt\right)$ の第1成分は,外積の成分公式の第1成分($k_2\times(\text{第3成分})-k_3\times(\text{第2成分})$)に $\displaystyle\int\vec a\,dt=\left[\int a_1dt,\int a_2dt,\int a_3dt\right]$ を代入して

$$ \left[\vec k\times\int\vec a(t)\,dt\right]_1 = k_2\int a_3(t)\,dt-k_3\int a_2(t)\,dt $$

となり,第1成分どうしが一致する.第2成分・第3成分についても,まったく同じ手順で確かめられる.第2成分は,外積の成分公式の第2成分($k_3a_1-k_1a_3$)を使って,左辺が

$$ \left[\int\vec k\times\vec a(t)\,dt\right]_2 = \int\{k_3a_1(t)-k_1a_3(t)\}\,dt = k_3\int a_1(t)\,dt-k_1\int a_3(t)\,dt $$

となり,右辺も同じ成分公式に $\displaystyle\int\vec a\,dt=\left[\int a_1dt,\int a_2dt,\int a_3dt\right]$ を代入して

$$ \left[\vec k\times\int\vec a(t)\,dt\right]_2 = k_3\int a_1(t)\,dt-k_1\int a_3(t)\,dt $$

となって一致する.第3成分も同様に,外積の成分公式の第3成分($k_1a_2-k_2a_1$)を使うと,左辺は

$$ \left[\int\vec k\times\vec a(t)\,dt\right]_3 = \int\{k_1a_2(t)-k_2a_1(t)\}\,dt = k_1\int a_2(t)\,dt-k_2\int a_1(t)\,dt $$

となり,右辺も

$$ \left[\vec k\times\int\vec a(t)\,dt\right]_3 = k_1\int a_2(t)\,dt-k_2\int a_1(t)\,dt $$

となって一致する.こうしてすべての成分が一致することが確かめられたので,$\displaystyle\int\vec k\times\vec a(t)\,dt=\vec k\times\int\vec a(t)\,dt$ が成り立つ.(証明終わり)

17.3.3 積分公式(部分積分)

$\vec a(t),\vec b(t)$ をベクトル値関数,$f(t)$ をスカラー値関数とし,いずれも $t$ で微分可能とする.このとき,次の部分積分の公式が成り立つ.

公式17.2 ベクトル値関数の部分積分

$$ \text{(I)}\ \ \int f(t)\,\vec a\,'(t)\,dt = f(t)\,\vec a(t) - \int f'(t)\,\vec a(t)\,dt $$ $$ \text{(II)}\ \ \int \vec a(t)\cdot\vec b\,'(t)\,dt = \vec a(t)\cdot\vec b(t) - \int \vec a\,'(t)\cdot\vec b(t)\,dt $$ $$ \text{(III)}\ \ \int \vec a(t)\times\vec b\,'(t)\,dt = \vec a(t)\times\vec b(t) - \int \vec a\,'(t)\times\vec b(t)\,dt $$

証明:公式17.2 (I)

$\vec a(t)=[a_1(t),a_2(t),a_3(t)]$ とおく.各成分 $f(t)a_i(t)$($i=1,2,3$)を $t$ で微分すると,積の微分公式(高校数学で既習)より

$$ \frac{d}{dt}\{f(t)a_i(t)\} = f'(t)a_i(t)+f(t)a_i'(t) $$

である.これを $f(t)a_i'(t)$ について解くと $f(t)a_i'(t)=\dfrac{d}{dt}\{f(t)a_i(t)\}-f'(t)a_i(t)$ となるので,両辺を $t$ で積分すると

$$ \int f(t)a_i'(t)\,dt = f(t)a_i(t) - \int f'(t)a_i(t)\,dt $$

を得る(左辺第1項は,微分してから積分すると元に戻ることによる).これがすべての成分 $i=1,2,3$ について成り立つので,3つをまとめてベクトルの形に書けば

$$ \int f(t)\vec a\,'(t)\,dt = f(t)\vec a(t) - \int f'(t)\vec a(t)\,dt $$

となり,公式17.2(I)が示された.(証明終わり)

証明:公式17.2 (II)(内積の場合)

$\vec a(t)\cdot\vec b(t)=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3$ を $t$ で微分すると,積の微分公式を各項に使って

$$ \frac{d}{dt}\{\vec a(t)\cdot\vec b(t)\} = (a_1'b_1+a_1b_1')+(a_2'b_2+a_2b_2')+(a_3'b_3+a_3b_3') = (a_1'b_1+a_2'b_2+a_3'b_3)+(a_1b_1'+a_2b_2'+a_3b_3') $$

となる(「導関数のついた項」どうし,「ついていない項」どうしを集めて,同類項をまとめ直した).右辺のかっこの中身は,それぞれ内積の定義から $\vec a\,'(t)\cdot\vec b(t)$ と $\vec a(t)\cdot\vec b\,'(t)$ にほかならない.すなわち

$$ \frac{d}{dt}\{\vec a(t)\cdot\vec b(t)\} = \vec a\,'(t)\cdot\vec b(t)+\vec a(t)\cdot\vec b\,'(t) $$

である(これは「内積のライプニッツ則」ともいうべき公式で,スカラー値関数の積の微分公式のベクトル版になっている).これを $\vec a(t)\cdot\vec b\,'(t)$ について解くと $\vec a\cdot\vec b\,'=\dfrac{d}{dt}(\vec a\cdot\vec b)-\vec a\,'\cdot\vec b$ となるので,両辺を積分して

$$ \int\vec a(t)\cdot\vec b\,'(t)\,dt = \vec a(t)\cdot\vec b(t) - \int\vec a\,'(t)\cdot\vec b(t)\,dt $$

を得る.(証明終わり)

証明:公式17.2 (III)(外積の場合)

外積の成分表示 $\vec a\times\vec b=[\,a_2b_3-a_3b_2,\ \ a_3b_1-a_1b_3,\ \ a_1b_2-a_2b_1\,]$ の第1成分 $a_2b_3-a_3b_2$ を $t$ で微分する.積の微分公式を2つの項それぞれに使うと,

$$ \frac{d}{dt}(a_2b_3-a_3b_2) = (a_2'b_3+a_2b_3')-(a_3'b_2+a_3b_2') = (a_2'b_3-a_3'b_2)+(a_2b_3'-a_3b_2') $$

となる.右辺の2つのかっこは,それぞれ外積 $\vec a\,'\times\vec b$ の第1成分,$\vec a\times\vec b\,'$ の第1成分そのものである.第2成分・第3成分についても,外積の成分表示の残り2つの式に対してまったく同じ計算をすればよい.第2成分 $a_3b_1-a_1b_3$ を微分すると,積の微分公式を2つの項に使って

$$ \frac{d}{dt}(a_3b_1-a_1b_3) = (a_3'b_1+a_3b_1')-(a_1'b_3+a_1b_3') = (a_3'b_1-a_1'b_3)+(a_3b_1'-a_1b_3') $$

となり,右辺の2つのかっこは,それぞれ外積 $\vec a\,'\times\vec b$ の第2成分,$\vec a\times\vec b\,'$ の第2成分である.第3成分 $a_1b_2-a_2b_1$ についても同様に,

$$ \frac{d}{dt}(a_1b_2-a_2b_1) = (a_1'b_2+a_1b_2')-(a_2'b_1+a_2b_1') = (a_1'b_2-a_2'b_1)+(a_1b_2'-a_2b_1') $$

となり,やはり右辺の2つのかっこが外積 $\vec a\,'\times\vec b$,$\vec a\times\vec b\,'$ のそれぞれ第3成分になっている.こうしてどの成分でも同じ構造(導関数のついた外積とついていない外積の和)が現れることが確かめられた.したがって3成分をまとめると,

$$ \frac{d}{dt}\{\vec a(t)\times\vec b(t)\} = \vec a\,'(t)\times\vec b(t)+\vec a(t)\times\vec b\,'(t) $$

という「外積のライプニッツ則」が成り立つ.ここで外積には交換法則が成り立たず $\vec u\times\vec v=-\vec v\times\vec u$ である(第15章)ことから,項の順序を勝手に入れ替えられない点に注意しよう(実際に上の式の右辺は $\vec a\,'\times\vec b$ が先,$\vec a\times\vec b\,'$ が後という順序をきちんと保っている).この式を $\vec a(t)\times\vec b\,'(t)$ について解いて積分すれば,

$$ \int\vec a(t)\times\vec b\,'(t)\,dt = \vec a(t)\times\vec b(t) - \int\vec a\,'(t)\times\vec b(t)\,dt $$

が得られる.(証明終わり)

例題17.3 部分積分の公式を使う

$\vec a(t)=[\sin t,\cos t]$,$f(t)=t$ とするとき,公式17.2(I)を使って不定積分 $\displaystyle\int t\,\vec a\,'(t)\,dt$ を求めよ.

解答 $\vec a\,'(t)=[\cos t,-\sin t]$ である.公式17.2(I)($f=t$,$f'=1$)より,

$$ \int t\,\vec a\,'(t)\,dt = t\,\vec a(t) - \int 1\cdot\vec a(t)\,dt = t[\sin t,\cos t] - \int[\sin t,\cos t]\,dt $$

である.$\displaystyle\int\sin t\,dt=-\cos t+C_1$,$\displaystyle\int\cos t\,dt=\sin t+C_2$(高校数学の基本公式)を代入すると,

$$ \int t\,\vec a\,'(t)\,dt = [\,t\sin t,\ t\cos t\,] - [\,-\cos t,\ \sin t\,] + \vec C = [\,t\sin t+\cos t,\ \ t\cos t-\sin t\,] + \vec C $$

を得る.検算として,この結果を $t$ で微分すると,第1成分は $\dfrac{d}{dt}(t\sin t+\cos t)=\sin t+t\cos t-\sin t=t\cos t$,第2成分は $\dfrac{d}{dt}(t\cos t-\sin t)=\cos t-t\sin t-\cos t=-t\sin t$ となる.一方,もとの被積分関数は $t\,\vec a\,'(t)=t[\cos t,-\sin t]=[t\cos t,-t\sin t]$ であり,両者は確かに一致する.

17.3.4 定積分

定義17.4 ベクトル値関数の定積分

ベクトル値関数 $\vec a(t)=[a_1(t),a_2(t),a_3(t)]$ の原始関数が $\vec A(t)=[A_1(t),A_2(t),A_3(t)]$ であるとき,区間 $[t_1,t_2]$ における $\vec a$ の定積分は

$$ \int_{t_1}^{t_2}\vec a(t)\,dt = \left[\int_{t_1}^{t_2}a_1(t)\,dt,\ \int_{t_1}^{t_2}a_2(t)\,dt,\ \int_{t_1}^{t_2}a_3(t)\,dt\right] = [A_1(t_2)-A_1(t_1),\ A_2(t_2)-A_2(t_1),\ A_3(t_2)-A_3(t_1)] = \vec A(t_2)-\vec A(t_1) $$

と定義される——不定積分のときと同様,成分ごとに定積分を計算するだけでよい.

注意:ノートの添字の誤記

底本のノートでは,定義17.4にあたる式の第2成分($y$ 成分にあたる部分)の定積分の上端が $\displaystyle\int_{t_1}^{t_3}a_2(t)\,dt$ と書かれている.しかし,この節で考えている区間はつねに $[t_1,t_2]$ の1組しかなく,$t_3$ という記号はどこにも定義されていない.文脈から,これは単なる書き間違いで,正しくは他の成分と同じ上端 $t_2$($\displaystyle\int_{t_1}^{t_2}a_2(t)\,dt$)であるべきものと判断できる.上の定義17.4では,正しい形(上端はすべて $t_2$)で示した.

例題17.4 定積分の計算

$\displaystyle\int_0^{\pi}[\cos t,\ \sin t,\ 1]\,dt$ を求めよ.

解答 定義17.4にしたがい成分ごとに定積分を計算する.

$$ \int_0^\pi\cos t\,dt = [\sin t]_0^\pi = \sin\pi-\sin0 = 0-0=0 $$ $$ \int_0^\pi\sin t\,dt = [-\cos t]_0^\pi = -\cos\pi-(-\cos0) = -(-1)-(-1) = 1+1=2 $$ $$ \int_0^\pi 1\,dt = [\,t\,]_0^\pi = \pi-0=\pi $$

したがって,

$$ \int_0^\pi[\cos t,\sin t,1]\,dt = [\,0,\ 2,\ \pi\,] $$

である.

17.4 ベクトル値関数の1階線形微分方程式

スカラー値関数 $y(x)$ についての1階線形微分方程式

$$ \frac{dy}{dx}+p(x)y=g(x) $$

の解は,定数変化法により

\begin{equation} y(x) = e^{-\int p(x)\,dx}\left\{\int g(x)\,e^{\int p(x)\,dx}\,dx + C\right\} \label{eq:17-scalar-ode-solution} \end{equation}

という形で求まる(1階線形微分方程式の一般解の公式.第33章33.3節で詳しく学ぶ).念のため,この結果をここでも積分因子法で手短に確認しておこう.

確認:式\eqref{eq:17-scalar-ode-solution}を積分因子法で導く

方程式 $\dfrac{dy}{dx}+p(x)y=g(x)$ の両辺に,積分因子(integrating factor)$\mu(x)=e^{\int p(x)\,dx}$ を掛けると,

$$ \mu(x)\frac{dy}{dx}+\mu(x)p(x)y=\mu(x)g(x) $$

となる.ここで,合成関数の微分(第3章)により $\mu'(x)=p(x)\,e^{\int p(x)dx}=p(x)\mu(x)$ であることに注目すると,左辺は積の微分公式 $\{\mu(x)y\}'=\mu'(x)y+\mu(x)y'$ を逆にたどった形になっていることがわかる:

$$ \frac{d}{dx}\{\mu(x)y\} = \mu'(x)y+\mu(x)\frac{dy}{dx} = p(x)\mu(x)y+\mu(x)\frac{dy}{dx} $$

この右辺は,順序を入れ替えれば方程式の左辺 $\mu(x)\dfrac{dy}{dx}+\mu(x)p(x)y$ そのものである.したがって方程式は

$$ \frac{d}{dx}\{\mu(x)y\} = \mu(x)g(x) $$

と書き直せる.両辺を $x$ で積分する(左辺は微分してから積分するので $\mu(x)y$ そのものに戻る)と,

$$ \mu(x)y = \int \mu(x)g(x)\,dx + C $$

を得る.最後に両辺を $\mu(x)$ で割り,$\dfrac{1}{\mu(x)}=e^{-\int p(x)dx}$ であることを使えば,

$$ y(x) = e^{-\int p(x)\,dx}\left\{\int g(x)\,e^{\int p(x)\,dx}\,dx + C\right\} $$

となって,式\eqref{eq:17-scalar-ode-solution}が確かめられた.(証明終わり)

ここでは,未知関数がベクトル値関数であるような,よく似た形の微分方程式

\begin{equation} \frac{d\vec y}{dt}+p(t)\vec y=\vec g(t) \label{eq:17-vector-ode} \end{equation}

($p(t)$ はスカラー値関数,$\vec g(t)=[g_1(t),g_2(t),g_3(t)]$ はベクトル値関数)を考える.結論から言うと,この方程式もまた「各成分ごとに独立なスカラーの1階線形微分方程式に分解できる」ため,式\eqref{eq:17-scalar-ode-solution}を成分ごとに適用するだけで解ける.

導出:ベクトルの1階線形微分方程式が成分ごとに分解できること

$\vec y(t)=[y_1(t),y_2(t),y_3(t)]$,$\vec g(t)=[g_1(t),g_2(t),g_3(t)]$ とおく.式\eqref{eq:17-vector-ode}の左辺 $\dfrac{d\vec y}{dt}+p(t)\vec y$ を成分で書くと,微分は成分ごと(定義17.1),スカラー倍も成分ごとであるから,

$$ \frac{d\vec y}{dt}+p(t)\vec y = \left[\frac{dy_1}{dt},\frac{dy_2}{dt},\frac{dy_3}{dt}\right] + p(t)[y_1,y_2,y_3] = \left[\ \frac{dy_1}{dt}+p(t)y_1,\ \ \frac{dy_2}{dt}+p(t)y_2,\ \ \frac{dy_3}{dt}+p(t)y_3\ \right] $$

となる.式\eqref{eq:17-vector-ode}は,このベクトルが $\vec g(t)=[g_1,g_2,g_3]$ に等しいと言っているので,2つのベクトルが等しいのは対応する成分がすべて等しいときにかぎる,という約束(ベクトルの相等)から,

$$ \begin{cases} y_1'+p(t)y_1=g_1(t)\\ y_2'+p(t)y_2=g_2(t)\\ y_3'+p(t)y_3=g_3(t) \end{cases} $$

という,$p(t)$ を共通に持つ3本の独立なスカラーの1階線形微分方程式に分解される.この3本はどれも式\eqref{eq:17-scalar-ode-solution}と同じ形(係数 $p(t)$ が共通)なので,それぞれに式\eqref{eq:17-scalar-ode-solution}を適用すると,任意定数 $C_1,C_2,C_3$ を使って

$$ y_i(t) = e^{-\int p\,dt}\left(\int g_i(t)\,e^{\int p\,dt}\,dt + C_i\right)\qquad(i=1,2,3) $$

となる.3つをまとめてベクトルの形に戻せば,$\vec C=[C_1,C_2,C_3]$ として

\begin{equation} \vec y(t) = e^{-\int p\,dt}\left(\int \vec g(t)\,e^{\int p\,dt}\,dt + \vec C\right) \label{eq:17-vector-ode-solution} \end{equation}

を得る.(証明終わり)

イメージ:なぜ成分ごとに分解できるのか

この結果は,考えてみれば当然でもある.微分方程式\eqref{eq:17-vector-ode}に登場する演算(微分,スカラー $p(t)$ 倍)は,どれも「異なる成分どうしを混ぜ合わせない」演算である(内積や外積のように,異なる成分を掛け合わせて足すような操作は登場しない).したがって,第1成分の式にはずっと $y_1,g_1$ だけしか現れず,$y_2,y_3$ とは無関係に決まってしまう.もし方程式の中に,たとえば $\vec k\times\vec y$ のような,成分を混ぜ合わせる項が入っていたら,3本の方程式は互いに独立ではなくなり,連立させて解く必要が出てくる(そのような問題には,行列を使った線形代数の道具,第II部,が必要になる.これは本章より進んだ話題である).

例題17.5 ベクトルの1階線形微分方程式を解く

微分方程式 $\dfrac{d\vec y}{dt}+2\vec y=[\,e^{-2t},\ t,\ 3\,]$ を,初期条件 $\vec y(0)=[1,0,0]$ のもとで解け.

解答 $p(t)=2$(定数)なので $\displaystyle\int p\,dt=2t$ であり,3本に分解した各成分の方程式を,第33章の手順(定数変化法)で1つずつ解く.

【第1成分】$y_1'+2y_1=e^{-2t}$.式\eqref{eq:17-scalar-ode-solution}に代入すると,$y_1(t)=e^{-2t}\left(\displaystyle\int e^{-2t}\cdot e^{2t}\,dt+C_1\right)=e^{-2t}(t+C_1)$.初期条件 $y_1(0)=1$ より,$1=e^0(0+C_1)=C_1$ であるから $C_1=1$.よって $y_1(t)=(t+1)e^{-2t}$.

【第2成分】$y_2'+2y_2=t$.同次方程式 $y_2'+2y_2=0$ の解は $C_2e^{-2t}$ である.非同次項が多項式 $t$(1次式)なので,特解を $y_{2p}=At+B$($A,B$ は未知の定数)の形で仮定して代入すると,$A+2(At+B)=t$,すなわち $2At+(A+2B)=t$.両辺で $t$ の係数・定数項をそれぞれ比べると,$2A=1$ より $A=\dfrac12$,$A+2B=0$ より $B=-\dfrac14$.したがって一般解は $y_2(t)=\dfrac t2-\dfrac14+C_2e^{-2t}$.初期条件 $y_2(0)=0$ より,$0=-\dfrac14+C_2$ であるから $C_2=\dfrac14$.よって $y_2(t)=\dfrac t2-\dfrac14+\dfrac14e^{-2t}$.

【第3成分】$y_3'+2y_3=3$.非同次項が定数なので,特解も定数 $y_{3p}=k$ と仮定すると $2k=3$ より $k=\dfrac32$.同次解 $C_3e^{-2t}$ を加えて一般解 $y_3(t)=\dfrac32+C_3e^{-2t}$.初期条件 $y_3(0)=0$ より $0=\dfrac32+C_3$ であるから $C_3=-\dfrac32$.よって $y_3(t)=\dfrac32-\dfrac32e^{-2t}$.

以上をまとめると,

$$ \vec y(t) = \left[\ (t+1)e^{-2t},\ \ \ \frac t2-\frac14+\frac14e^{-2t},\ \ \ \frac32-\frac32e^{-2t}\ \right] $$

である(sympyのdsolveによる検算済み.検算スクリプト参照).

17.5 2変数ベクトル値関数——偏微分と全微分

ここまでは,媒介変数が $t$ ただ1つだけのベクトル値関数を扱ってきた.しかし,たとえば「曲面」を表そうとすると,媒介変数は2つ必要になる.たとえば地球の表面(球面)上の1点は,緯度と経度という2つの数の組で指定される.このように,2つの実数 $(u,v)$ の組に対して1つのベクトルを対応させる関数を2変数ベクトル値関数という.

定義17.5 ベクトル値関数の偏微分

領域 $D$ 上の2変数ベクトル値関数 $\vec a(u,v)=[a_1(u,v),a_2(u,v),a_3(u,v)]$ について,

(I) 各成分の $u$ に関する偏導関数 $\pdiff{a_1}{u},\pdiff{a_2}{u},\pdiff{a_3}{u}$(第6章で学んだ,$v$ を固定して $u$ だけで微分したもの)が存在するとき,$\vec a(u,v)$ は $u$ に関して偏微分可能であるといい,その偏導関数を $\pdiff{\vec a}{u}=\left[\pdiff{a_1}{u},\pdiff{a_2}{u},\pdiff{a_3}{u}\right]$ と表す.

(II) 同様に,各成分の $v$ に関する偏導関数 $\pdiff{a_1}{v},\pdiff{a_2}{v},\pdiff{a_3}{v}$ が存在するとき,$\vec a(u,v)$ は $v$ に関して偏微分可能であるといい,その偏導関数を $\pdiff{\vec a}{v}=\left[\pdiff{a_1}{v},\pdiff{a_2}{v},\pdiff{a_3}{v}\right]$ と表す.

定義17.1のときと同じ理由(極限・偏微分はどちらも成分ごとにとってよい)で,この偏微分も「$v$(あるいは $u$)を定数だと思って,残りの変数について各成分を微分する」だけで計算できる.新しい計算技術は何もいらない.

定義17.6 ベクトル値関数の全微分

あるベクトル値関数 $\vec a(u,v)$ が点 $(u,v)$ において全微分可能である(第6章6.3節の意味で,各成分が全微分可能である)とき,$\vec a$ の全微分 $d\vec a$ は,スカラー値関数のときと同様に

$$ d\vec a(u,v) = \pdiff{\vec a}{u}\,du + \pdiff{\vec a}{v}\,dv $$

と表される.

イメージ:全微分は「2方向への変化を足し合わせたもの」

点 $(u,v)$ を $(u+du,v+dv)$ までほんの少しだけ動かしたとき,$\vec a$ の変化量 $d\vec a$ は,「$u$ 方向にだけ $du$ 動かしたときの変化」$\pdiff{\vec a}{u}\,du$ と,「$v$ 方向にだけ $dv$ 動かしたときの変化」$\pdiff{\vec a}{v}\,dv$ を足し合わせたものになる,というのが全微分の意味である(第6章で学んだスカラー値関数の全微分 $df=\pdiff fu\,du+\pdiff fv\,dv$ と,考え方はまったく同じである).次節では,この $\pdiff{\vec a}{u}$,$\pdiff{\vec a}{v}$ という2本のベクトルが,曲面の接平面を張る2本の接線ベクトルとして活躍する.

例題17.6 球面の径数表示とその偏微分

第7章7.7節の球座標の記法にならい,半径 $R$ の球面上の点を,2つの角 $\theta$($z$ 軸の正の向きから測った極角,$0\le\theta\le\pi$)と $\varphi$($xy$ 平面上で $x$ 軸から測った方位角,$0\le\varphi\lt2\pi$)を使って

$$ \vec P(\theta,\varphi) = [\,R\sin\theta\cos\varphi,\ \ R\sin\theta\sin\varphi,\ \ R\cos\theta\,] $$

と表す(球面という曲面を,2変数 $(\theta,\varphi)$ のベクトル値関数として表したものである).偏導関数 $\pdiff{\vec P}{\theta}$,$\pdiff{\vec P}{\varphi}$ を求め,この2本のベクトルが互いに直交することを確かめよ.

解答 定義17.5にしたがい,各成分を偏微分する.$\varphi$ を固定して $\theta$ で偏微分すると($\dfrac{d}{d\theta}\sin\theta=\cos\theta$,$\dfrac{d}{d\theta}\cos\theta=-\sin\theta$ を使う),

$$ \pdiff{\vec P}{\theta} = [\,R\cos\theta\cos\varphi,\ \ R\cos\theta\sin\varphi,\ \ -R\sin\theta\,] $$

$\theta$ を固定して $\varphi$ で偏微分すると($\cos\varphi,\sin\varphi$ の部分だけが $\varphi$ に依存する),

$$ \pdiff{\vec P}{\varphi} = [\,-R\sin\theta\sin\varphi,\ \ R\sin\theta\cos\varphi,\ \ 0\,] $$

を得る.この2本の内積を計算すると,

$$ \pdiff{\vec P}{\theta}\cdot\pdiff{\vec P}{\varphi} = R\cos\theta\cos\varphi\cdot(-R\sin\theta\sin\varphi) + R\cos\theta\sin\varphi\cdot R\sin\theta\cos\varphi + (-R\sin\theta)\cdot0 $$ $$ = -R^2\sin\theta\cos\theta\cos\varphi\sin\varphi + R^2\sin\theta\cos\theta\sin\varphi\cos\varphi + 0 = 0 $$

(第1項と第2項は符号だけが違う同じ式なので,足すとちょうど打ち消し合う)となり,確かに $\pdiff{\vec P}{\theta}\perp\pdiff{\vec P}{\varphi}$ である.これは,球面上で経線($\varphi$ 一定,$\theta$ が動く線)と緯線($\theta$ 一定,$\varphi$ が動く線)が,どの点でも直角に交わることに対応している(地球儀を思い浮かべれば,経線と緯線がつねに直交していることは直感的にも納得できるだろう).

球面の径数表示 P(θ,φ) と接線ベクトル P(θ,φ) ∂P/∂θ ∂P/∂φ 経線(φ一定,θが動く)と 緯線(θ一定,φが動く)は つねに直交する
図17.6 球面の径数表示 $\vec P(\theta,\varphi)$.点 $P$ における2本の接線ベクトル $\pdiff{\vec P}{\theta}$(経線方向)と $\pdiff{\vec P}{\varphi}$(緯線方向)は互いに直交する.

17.6 曲面の面積

前節で見た $\pdiff{\vec P}{u}$,$\pdiff{\vec P}{v}$ という2本のベクトルを使うと,曲面 $\vec P(u,v)$ の面積を求める公式を作ることができる.

なぜ外積が面積を作るのか——微小面積要素

曲面 $\vec P(u,v)$ 上で,$(u,v)$ を $(u+\Delta u,v)$ まで動かすと,点は $\vec P(u,v)$ から,およそ $\pdiff{\vec P}{u}\Delta u$ だけ変位する(これは全微分 $d\vec P=\pdiff{\vec P}{u}\,du+\pdiff{\vec P}{v}\,dv$ で $dv=0$ とした場合に対応する,1次近似である).同様に,$(u,v+\Delta v)$ への変位はおよそ $\pdiff{\vec P}{v}\Delta v$ である.したがって,$(u,v)$ を1つの頂点とする小さな長方形 $[u,u+\Delta u]\times[v,v+\Delta v]$ の像は,曲面上でおよそ2本のベクトル $\pdiff{\vec P}{u}\Delta u$,$\pdiff{\vec P}{v}\Delta v$ が張る小さな平行四辺形になる(図17.7).第15章で学んだように,2本のベクトル $\vec u,\vec v$ が張る平行四辺形の面積は,外積の大きさ $\abs{\vec u\times\vec v}$ に等しい.よって,この微小平行四辺形の面積は

$$ \left|\pdiff{\vec P}{u}\Delta u\times\pdiff{\vec P}{v}\Delta v\right| = \left|\pdiff{\vec P}{u}\times\pdiff{\vec P}{v}\right|\Delta u\,\Delta v $$

となる(外積の性質 $(\lambda\vec u)\times(\mu\vec v)=\lambda\mu(\vec u\times\vec v)$,第15章,を使って,スカラー $\Delta u,\Delta v$ を外に出した).曲面全体の面積 $S$ は,領域 $D$($(u,v)$ が動く範囲)をこのような微小長方形に細かく分割し,それぞれの像の面積を全部足し合わせ,分割を限りなく細かくする極限として得られる.これはまさに重積分(第7章)の定義そのものだから,次の公式が得られる.

公式17.3 曲面の面積(一般の径数表示)

\begin{equation} S = \iint_D\left|\pdiff{\vec P}{u}\times\pdiff{\vec P}{v}\right|\,du\,dv \label{eq:17-surface-area-general} \end{equation}
曲面の微小面積要素 曲面 P(u,v) 領域 D((u,v)平面) ∂P/∂u Δu ∂P/∂v Δv
図17.7 曲面 $\vec P(u,v)$ 上の微小面積要素.2本の接ベクトル $\pdiff{\vec P}{u}\Delta u$,$\pdiff{\vec P}{v}\Delta v$(塗りつぶした平行四辺形)が,$(u,v)$ 平面上の小さな長方形(破線)の像の面積を近似する.

式\eqref{eq:17-surface-area-general}は任意の曲面(径数表示さえできれば)に使える一般公式であるが,とくに曲面が $z=f(x,y)$ という,$xy$ 平面上のグラフの形をしている場合には,$x,y$ 自身を径数として使うことで,見慣れた形の公式に整理できる.

導出:$z=f(x,y)$ の場合の面積公式

曲面が $z=f(x,y)$ の形をしているとき,$x,y$ をそのまま径数(今までの $u,v$ の役割)に使って,

$$ \vec P(x,y) = [\,x,\ y,\ z\,] = [\,x,\ y,\ f(x,y)\,] $$

と書ける.このとき,

$$ \pdiff{\vec P}{x} = \left[1,\ 0,\ \pdiff fx\right],\qquad \pdiff{\vec P}{y} = \left[0,\ 1,\ \pdiff fy\right] $$

である($x$ で偏微分するとき,第1成分 $x$ は $1$ に,第2成分 $y$($x$ とは無関係な変数として固定)は $0$ になり,第3成分 $f(x,y)$ は偏導関数 $\pdiff fx$ になる;$y$ による偏微分も同様である).この2本のベクトルの外積を,外積の成分公式 $\vec u\times\vec v=[\,u_2v_3-u_3v_2,\ \ u_3v_1-u_1v_3,\ \ u_1v_2-u_2v_1\,]$(第15章)にしたがって計算する.$\vec u=\pdiff{\vec P}{x}=\left[1,0,\pdiff fx\right]$,$\vec v=\pdiff{\vec P}{y}=\left[0,1,\pdiff fy\right]$ として,

$$ \text{第1成分:}\ u_2v_3-u_3v_2 = 0\cdot\pdiff fy-\pdiff fx\cdot1 = -\pdiff fx $$ $$ \text{第2成分:}\ u_3v_1-u_1v_3 = \pdiff fx\cdot0-1\cdot\pdiff fy = -\pdiff fy $$ $$ \text{第3成分:}\ u_1v_2-u_2v_1 = 1\cdot1-0\cdot0 = 1 $$

よって

$$ \pdiff{\vec P}{x}\times\pdiff{\vec P}{y} = \left[\,-\pdiff fx,\ \ -\pdiff fy,\ \ 1\,\right] $$

である.この大きさは,各成分を2乗して足し,根号をつけて

$$ \left|\pdiff{\vec P}{x}\times\pdiff{\vec P}{y}\right| = \sqrt{\left(\pdiff fx\right)^2+\left(\pdiff fy\right)^2+1^2} = \sqrt{\left(\pdiff fx\right)^2+\left(\pdiff fy\right)^2+1} $$

となる.これを公式17.3に代入すれば,次の公式を得る.(証明終わり)

公式17.4 曲面の面積($z=f(x,y)$ の場合)

\begin{equation} S = \iint_D\sqrt{\left(\pdiff fx\right)^2+\left(\pdiff fy\right)^2+1}\;dx\,dy \label{eq:17-surface-area-graph} \end{equation}

注意:ノートの根号の範囲についての誤記

底本のノートでは,公式17.4にあたる式の根号が $\sqrt{\left(\pdiff fx\right)^2+\left(\pdiff fy\right)^2}$ の部分までしかかかっておらず,末尾の $+1$ が根号の外にはみ出して書かれているように見える.しかし,直前に導いた $\left|\pdiff{\vec P}{x}\times\pdiff{\vec P}{y}\right|=\sqrt{\left(\pdiff fx\right)^2+\left(\pdiff fy\right)^2+1}$($+1$ も根号の中)という結果と整合させるべきであり,$+1$ を根号の外に出すのは誤りである.曲面積の公式は第7章7.7節ですでに同じ形($z=\sqrt{R^2-x^2-y^2}$ について)で登場しており,そちらでも $+1$ は根号の中に入っている.公式17.4では正しい形($+1$ を根号の中に含む形)で示した.

公式17.4は,第7章7.7節の例題7.13(球の表面積)で使った曲面積の公式と同じものである.あちらでは $z=f(x,y)=\sqrt{R^2-x^2-y^2}$(半球面)という特別な形から出発して公式を導いたが,本節の公式17.3は,$\vec P(u,v)$ という一般の径数表示から出発しており,公式17.4はその特別な場合($u=x,v=y$,$\vec P=[x,y,f(x,y)]$)にすぎない.どちらの道筋でも同じ公式にたどり着くことを,次の例題で球面を使って確かめよう.

例題17.7 球の表面積(径数表示から)

例題17.6の球面の径数表示 $\vec P(\theta,\varphi)=[R\sin\theta\cos\varphi,R\sin\theta\sin\varphi,R\cos\theta]$($0\le\theta\le\pi$,$0\le\varphi\lt2\pi$)を使って,公式17.3から球の表面積を求め,$4\pi R^2$ に一致することを確かめよ.

解答 例題17.6で求めた $\pdiff{\vec P}{\theta}=[R\cos\theta\cos\varphi,R\cos\theta\sin\varphi,-R\sin\theta]$,$\pdiff{\vec P}{\varphi}=[-R\sin\theta\sin\varphi,R\sin\theta\cos\varphi,0]$ の外積を,外積の成分公式にしたがって計算する($\vec u=\pdiff{\vec P}{\theta}$,$\vec v=\pdiff{\vec P}{\varphi}$ とおく).

$$ \text{第1成分:}\ u_2v_3-u_3v_2 = R\cos\theta\sin\varphi\cdot0-(-R\sin\theta)\cdot R\sin\theta\cos\varphi = R^2\sin^2\theta\cos\varphi $$ $$ \text{第2成分:}\ u_3v_1-u_1v_3 = (-R\sin\theta)(-R\sin\theta\sin\varphi)-R\cos\theta\cos\varphi\cdot0 = R^2\sin^2\theta\sin\varphi $$ $$ \text{第3成分:}\ u_1v_2-u_2v_1 = R\cos\theta\cos\varphi\cdot R\sin\theta\cos\varphi-R\cos\theta\sin\varphi\cdot(-R\sin\theta\sin\varphi) = R^2\sin\theta\cos\theta(\cos^2\varphi+\sin^2\varphi) = R^2\sin\theta\cos\theta $$

(第3成分の最後は $\cos^2\varphi+\sin^2\varphi=1$ を使って整理した).よって

$$ \pdiff{\vec P}{\theta}\times\pdiff{\vec P}{\varphi} = \left[\,R^2\sin^2\theta\cos\varphi,\ \ R^2\sin^2\theta\sin\varphi,\ \ R^2\sin\theta\cos\theta\,\right] $$

である(sympyによる展開・整理で検算済み).この大きさは,

$$ \left|\pdiff{\vec P}{\theta}\times\pdiff{\vec P}{\varphi}\right| = \sqrt{R^4\sin^4\theta\cos^2\varphi+R^4\sin^4\theta\sin^2\varphi+R^4\sin^2\theta\cos^2\theta} = R^2\sqrt{\sin^4\theta(\cos^2\varphi+\sin^2\varphi)+\sin^2\theta\cos^2\theta} $$ $$ = R^2\sqrt{\sin^4\theta+\sin^2\theta\cos^2\theta} = R^2\sqrt{\sin^2\theta(\sin^2\theta+\cos^2\theta)} = R^2\sqrt{\sin^2\theta} = R^2\sin\theta $$

(最後の等号は,$0\le\theta\le\pi$ の範囲では $\sin\theta\ge0$ だから $\sqrt{\sin^2\theta}=\sin\theta$ となることによる).これを公式17.3に代入すると,

$$ S = \int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{\pi} R^2\sin\theta\,d\theta\,d\varphi = R^2\left(\int_0^\pi\sin\theta\,d\theta\right)\left(\int_0^{2\pi}d\varphi\right) = R^2\times[-\cos\theta]_0^\pi\times2\pi = R^2\times2\times2\pi = 4\pi R^2 $$

となり,第7章7.7節・例題7.13で $z=f(x,y)$ の形の公式から求めた球の表面積 $4\pi R^2$ と,径数表示から出発した本節の方法でもぴったり一致することが確認できた.

17.7 まとめと演習

17.7.1 まとめ

$$ \vec y\,'(t)=\lim_{\Delta t\to0}\frac{\vec y(t+\Delta t)-\vec y(t)}{\Delta t},\qquad\quad S=\int_{t_1}^{t_2}\abs{\vec f\,'(t)}\,dt,\qquad\quad S=\iint_D\left|\pdiff{\vec P}{u}\times\pdiff{\vec P}{v}\right|dudv $$

17.7.2 演習問題

演習17.1 ベクトル値関数の微分

$\vec f(t)=[\,t^3-t,\ e^{2t},\ \ln(t+1)\,]$ について,導関数 $\vec f\,'(t)$ を求め,$t=0$ における接線ベクトル $\vec f\,'(0)$ を求めよ.

ヒント:定義17.1にしたがい,成分ごとに微分すればよい.$\ln(t+1)$ の微分は合成関数の微分(第3章)を使う.

演習17.2 らせんの長さ

$\vec f(t)=[\,3\cos t,\ 3\sin t,\ 4t\,]$(半径3のらせん)について,$t=0$ から $t=2\pi$ までの長さを求めよ.

ヒント:定義17.2の公式\eqref{eq:17-arclength}を使う.$\abs{\vec f\,'(t)}$ が $t$ によらない定数になることに注目せよ.

演習17.3 定積分の計算

$\displaystyle\int_0^1\left[\,t^2,\ e^t,\ \frac1{1+t^2}\,\right]dt$ を求めよ.

ヒント:成分ごとに定積分を計算する.第3成分は逆正接関数 $\tan^{-1}t$ の微分公式(第3章)の逆をたどる.

演習17.4 部分積分の公式の応用

$\vec a(t)=[\,e^t,\ t^2\,]$,$f(t)=t$ とするとき,公式17.2(I)を使って $\displaystyle\int t\,\vec a\,'(t)\,dt$ を求めよ.

ヒント:$\vec a\,'(t)=[e^t,2t]$ である.公式17.2(I)にそのまま代入し,$\displaystyle\int\vec a(t)\,dt$(成分ごとの不定積分)を計算すればよい.

演習17.5 ベクトルの1階線形微分方程式(共鳴が起きる場合)

$\dfrac{d\vec y}{dt}+3\vec y=[\,1,\ t,\ e^{-3t}\,]$ を,初期条件 $\vec y(0)=[0,0,1]$ のもとで解け.

ヒント:第1・第2成分は例題17.5と同じ手順でよい.第3成分は $y_3'+3y_3=e^{-3t}$ で,同次方程式の解 $e^{-3t}$ と非同次項 $e^{-3t}$ が同じ形になっている(共鳴,resonance)ため,特解を(定数ではなく)$At\,e^{-3t}$ の形で仮定する必要がある.

演習17.6 円柱の側面積

半径 $a$,高さ $h$ の円柱の側面を,径数表示 $\vec P(u,v)=[\,a\cos u,\ a\sin u,\ v\,]$($0\le u\lt2\pi$,$0\le v\le h$)で表す.公式17.3を使って側面積を求め,見慣れた公式 $2\pi ah$(底面の円周 $\times$ 高さ)と一致することを確かめよ.

ヒント:$\pdiff{\vec P}{u}$,$\pdiff{\vec P}{v}$ を求め,外積 $\pdiff{\vec P}{u}\times\pdiff{\vec P}{v}$ の大きさを計算する.

演習17.7 なぜ外積の向きが曲面の法線方向になるのか(図から考える)

図17.7を見て,微小面積要素を作る2本の接ベクトル $\pdiff{\vec P}{u}\Delta u$,$\pdiff{\vec P}{v}\Delta v$ の外積 $\pdiff{\vec P}{u}\times\pdiff{\vec P}{v}$ が,なぜ曲面 $\vec P(u,v)$ の法線方向(曲面に垂直な方向)を向くのかを,図と外積の定義(第15章)にもとづいて説明せよ.計算は必要ない.

ヒント:2本の接ベクトルが張る微小な平行四辺形(図17.7の塗りつぶし部分)は,$\Delta u,\Delta v\to0$ の極限で曲面上の点 $\vec P(u,v)$ における接平面(全微分 $d\vec P$ が動く平面)そのものに近づく.外積の定義(第15章)が「2本のベクトルのどちらにも垂直な向き」であったことを思い出そう.

17.7.3 参考文献

  1. 望月泰英『数学ノート ベクトル解析』(手書き講義ノート).本章の底本.
  2. 笠原晧司『微分積分学』(サイエンス社,1974年).
  3. 小林昭七『曲線と曲面の微分幾何』(裳華房,1977年).