第2章関数の連続性・平均値の定理と双曲線関数
第1章では,$\varepsilon$-$N$論法・$\varepsilon$-$\delta$論法によって「限りなく近づく」という直感を論理式に翻訳し,その道具を使って微分(導関数)を定義した.しかし,微分という操作がほんとうに意味を持つためには,その手前にある「関数のつながり方」,すなわち連続性(continuity)を確認しておく必要がある.グラフが途中で切れていたり,ジャンプしていたりする関数に対しては,接線の傾きという発想そのものが怪しくなるからである.
本章はまず,$\varepsilon$-$\delta$論法を使って連続性を正確に定義し,その手前の準備として三角関数の基本極限($\lim_{x\to0}\sin x/x=1$ など)を証明する.続いて,微分積分学でもっとも重要な定理の1つである平均値の定理(mean value theorem,MVT)——「なめらかな曲線の平均の傾きは,必ずどこか1点での瞬間の傾きに等しい」——を,その特別な場合であるロルの定理(Rolle's theorem)から出発して証明する.平均値の定理をさらに2変数化したコーシーの平均値の定理(Cauchy's MVT)を使うと,$\frac00$ 型や $\frac{\pm\infty}{\pm\infty}$ 型の極限を機械的に計算するロピタルの定理(l'Hôpital's rule)が得られる.最後に,指数関数 $e^x$ を材料にして三角関数とよく似た性質を持つ双曲線関数(hyperbolic functions)$\sinh x,\cosh x,\tanh x$ を導入し,その加法定理・相互関係・逆関数までをひととおり学ぶ.双曲線関数は,のちの章(懸垂線・特殊relativity・Fourier変換など)でも繰り返し登場する重要な道具である.
- 単位円の扇形と三角形の面積比較から,$\lim_{x\to0}\dfrac{\sin x}{x}=1$,$\lim_{x\to0}\dfrac{\tan x}{x}=1$,$\lim_{x\to0}\dfrac{1-\cos x}{x^2}=\dfrac12$ を証明する
- オイラーの公式 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$ とド・モアブルの定理から,$\sin\theta,\cos\theta,\tan\theta$ を複素指数関数だけで表す式を導く
- 関数の連続性の $\varepsilon$-$\delta$論法による定義:$\forall\varepsilon \gt 0,\exists\delta \gt 0\ \text{s.t.}\ 0 \lt |x-a| \lt \delta\Rightarrow|f(x)-f(a)| \lt \varepsilon$
- ロルの定理($f(a)=f(b)\Rightarrow f'(c)=0$ となる $c$ の存在)の場合分けによる完全な証明
- 平均値の定理とその証明(差関数 $F(x)=f(x)-(\text{弦の式})$ を作りロルの定理に帰着させる技巧)
- コーシーの平均値の定理(媒介変数 $X=g(x),Y=f(x)$ を使う一般化)とその証明
- ロピタルの定理((I) $\frac00$ 型,(II) $\frac{\pm\infty}{\pm\infty}$ 型)とその証明(コーシーの平均値の定理と $\varepsilon$-$\delta$論法の応用)
- 双曲線関数 $\sinh x=\dfrac{e^x-e^{-x}}2,\ \cosh x=\dfrac{e^x+e^{-x}}2,\ \tanh x=\dfrac{\sinh x}{\cosh x}$ の加法定理と,$\cosh^2x-\sinh^2x=1$ をはじめとする性質
- マクローリン展開の符号を比べることで見える,三角関数と双曲線関数の「値域の違い」の理由
- 逆双曲線関数 $\sinh^{-1}x,\cosh^{-1}x,\tanh^{-1}x$ を対数関数で表す式の導出
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 微分積分学』 pp. 11–22.
2.1 三角関数の基本極限とオイラーの公式的表示
第1章で微分の定義 $\displaystyle f'(x)=\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}$ を学んだので,さっそく $f(x)=\sin x$ の導関数を求めたくなる.しかし,そのためにはまず
$$ \lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x} $$という極限を知らなければならない(第3章で実際に $\dfrac{d}{dx}\sin x=\cos x$ を証明するときにこの極限を使う).$x\to0$ のとき $\sin x\to0$,$x\to0$ なので,これは $\frac00$ の形をした「不定形」であり,分母・分子をそのまま代入しても $0/0$ となって値が決まらない.この極限を確定させるのが本節の目標である.
2.1.1 $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$ — 扇形と三角形の面積比較
$x$ を弧度法(ラジアン,radian:円弧の長さで角度を測る方法.半径 $1$ の円で弧の長さがちょうど $x$ になる中心角を「$x$ ラジアン」という)で測った,十分小さい正の角とする.半径 $1$ の円(単位円)の中心を $O$,円周上に $B=(1,0)$ をとり,$O$ を中心に角 $x$ だけ回転した円周上の点を $P$(すなわち $P=(\cos x,\sin x)$)とする.さらに,直線 $OP$ を延長して直線 $x=1$($B$ を通る垂線)と交わる点を $T$ とすると,直角三角形 $OBT$ において $\tan x=\dfrac{BT}{OB}=\dfrac{BT}{1}$ だから $BT=\tan x$ である.
図2.1のように,(i) 三角形 $OBP$,(ii) 扇形 $OBP$(弧 $BP$ と半径 $OB,OP$ で囲まれた部分),(iii) 三角形 $OBT$ の3つの図形は,どれも同じ辺 $OB$ を底辺として,$O$ から出る2本の線の間に挟まれている.弧 $BP$ は弦 $BP$ より外側に膨らみ,かつ直線 $BT$ よりは内側にあるため,弧で挟まれた扇形の領域は,弦で挟まれた小さい三角形の領域を含み,かつ直線 $BT$ で囲まれる大きい三角形の領域に含まれる.したがって,三角形 $OBP\ \subset\ $ 扇形 $OBP\ \subset\ $ 三角形 $OBT$(記号「$\subset$」は「〜に含まれる」,すなわち左側の図形をなす点の集合が,右側の図形をなす点の集合の部分集合であることを表す)という包含関係が成り立ち,面積についても同じ大小関係が成り立つ.
証明:$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$($0 \lt x \lt \frac\pi2$ の場合)
三角形 $OBP$,扇形 $OBP$,三角形 $OBT$ の面積を,それぞれ「$\frac12\times$底辺$\times$高さ」「$\frac12\times$半径$^2\times$中心角」の公式で計算すると,
$$ \underbrace{\frac12\cdot1\cdot1\cdot\sin x}_{\text{三角形 }OBP} \ \le\ \underbrace{\frac12\cdot1\cdot1\cdot x}_{\text{扇形 }OBP} \ \le\ \underbrace{\frac12\cdot1\cdot1\cdot\tan x}_{\text{三角形 }OBT} $$(三角形 $OBP$ の面積は,底辺 $OB=1$,高さは $P$ の $y$ 座標 $\sin x$ であることから $\frac12\cdot1\cdot\sin x$.扇形の面積は,中心角 $x$,半径 $1$ の扇形の面積公式 $\frac12 r^2\theta$ に $r=1,\theta=x$ を代入して $\frac12 x$.三角形 $OBT$ の面積は,底辺 $OB=1$,高さ $BT=\tan x$ であることから $\frac12\tan x$.)両辺を $2$ 倍すると,
$$ \sin x \le x \le \tan x $$を得る.これを
$$ \begin{cases}\sin x\le x&\cdots① \\ x\le\tan x&\cdots②\end{cases} $$の2つの不等式に分けて扱う.①の両辺を($0 \lt x \lt \frac\pi2$ では $x \gt 0$ だから)$x$ で割ると,
$$ \frac{\sin x}{x}\le1 $$を得る.②について,$\tan x=\dfrac{\sin x}{\cos x}$ を代入すると $x\le\dfrac{\sin x}{\cos x}$ となるので,両辺に($0 \lt x \lt \frac\pi2$ では $\cos x \gt 0$ だから)$\cos x$ をかけると,
$$ x\cos x\le\sin x\quad\text{すなわち}\quad\cos x\le\frac{\sin x}{x} $$を得る.①,②から得た2つの不等式 $\dfrac{\sin x}{x}\le1$ と $\cos x\le\dfrac{\sin x}{x}$ を合わせると,
$$ \cos x \le \frac{\sin x}{x} \le 1 \qquad\cdots③ $$という,$\dfrac{\sin x}{x}$ を挟み込む不等式が得られる.③の各辺に $\displaystyle\lim_{x\to0}$ をつけると,
$$ \lim_{x\to0}\cos x \ \le\ \lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x} \ \le\ \lim_{x\to0}1 $$$\cos x$ は $x=0$ で連続な関数なので $\displaystyle\lim_{x\to0}\cos x=\cos0=1$ である(連続性の定義は2.2節で正確に述べる.ここでは高校既習の事実として使う).よって左端と右端がともに $1$ になったので,第1章1.3節で証明したはさみうちの原理(squeeze theorem:両側から同じ値に挟まれた量はその値に収束するという定理)より,
$$ \therefore\ \lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x} = 1 $$が成り立つ.($0 \gt x \gt -\frac\pi2$ の場合も,$\sin(-x)/(-x)=\sin x/x$ より同じ結果になるので,両側極限として成立する.)
イメージ:ラジアンだからこそ成り立つ式
式 $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$ は,角度をラジアンで測っているからこそ成り立つ.もし角度を度数法(degree,$360°$を一周とする測り方)で測っていたら,扇形の面積公式が $\frac12 r^2\theta$ という単純な形にならず(弧度法の $\theta$ を度数 $\theta°$ に置き換えると,弧度 $\theta=\frac{\pi}{180}\theta°$ という余計な係数がつく),極限の値も $1$ ではなく $\dfrac{\pi}{180}$ になってしまう.弧度法は「弧の長さで角度を測る」ことで,このような換算係数を消し去り,三角関数の微分公式(第3章)が $\cos x$ という簡潔な形になることを可能にする,きわめて自然な角度の単位である.
2.1.2 $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\tan x}{x}=1$
この極限は,$\tan x=\dfrac{\sin x}{\cos x}$ という関係と,2.1.1で証明した $\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$ を組み合わせるだけで得られる.
証明:$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\tan x}{x}=1$
$\tan x=\dfrac{\sin x}{\cos x}$ であるから,
$$ \lim_{x\to0}\frac{\tan x}{x} = \lim_{x\to0}\frac{\dfrac{\sin x}{\cos x}}{x} = \lim_{x\to0}\underbrace{\frac{\sin x}{x}}_{\to\,1}\cdot\frac{1}{\cos x} $$($\dfrac{\sin x}{\cos x\cdot x}=\dfrac{\sin x}{x}\cdot\dfrac1{\cos x}$ と積の形に分けた.)$\cos x$ は $x=0$ で連続で $\cos0=1\neq0$ だから,$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{1}{\cos x}=\frac{1}{\lim_{x\to0}\cos x}=\frac11=1$ である.したがって,極限の積の性質(各極限が存在すれば積の極限は極限の積に等しい)より,
$$ \lim_{x\to0}\frac{\tan x}{x} = 1\cdot1 = 1 \qquad\therefore\ \lim_{x\to0}\frac{\tan x}{x}=1 $$2.1.3 $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{x^2}=\frac12$
この極限も $\frac00$ の不定形だが,分子の「$1-\cos x$」に $1+\cos x$ を掛けて割るという古典的な技巧(有理化ならぬ「$\cos$ 化」)で $\sin^2x$ の形に変え,2.1.1の結果に帰着させる.
証明:$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{x^2}=\frac12$
分母・分子に $1+\cos x$ を掛ける($1+\cos x\neq0$ が $x=0$ の近くで保証されるので,これは同値変形である).
$$ \lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{x^2} = \lim_{x\to0}\frac{(1-\cos x)(1+\cos x)}{x^2(1+\cos x)} = \lim_{x\to0}\frac{1-\cos^2x}{x^2(1+\cos x)} $$三角関数の基本公式 $\sin^2x+\cos^2x=1$(高校既習)より $1-\cos^2x=\sin^2x$ だから,
$$ = \lim_{x\to0}\frac{\sin^2x}{x^2(1+\cos x)} = \lim_{x\to0}\left(\frac{\sin x}{x}\right)^2\cdot\frac{1}{1+\cos x} $$($\dfrac{\sin^2x}{x^2}=\left(\dfrac{\sin x}{x}\right)^2$ と分けた.)2.1.1の結果 $\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$ と,$\cos x$ の連続性 $\lim_{x\to0}\cos x=1$ を使うと,
$$ = 1^2\cdot\frac{1}{1+1} = 1\cdot\frac12 = \frac12 \qquad\therefore\ \lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{x^2}=\frac12 $$例題2.1 $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin3x}{x}$ を求める
$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin3x}{x}$ を求めよ.
解答 $u=3x$ とおくと,$x\to0$ のとき $u\to0$ であり,$x=\dfrac{u}{3}$ だから,
$$ \lim_{x\to0}\frac{\sin3x}{x} = \lim_{u\to0}\frac{\sin u}{u/3} = \lim_{u\to0}3\cdot\frac{\sin u}{u} = 3\cdot1 = 3 $$(2.1.1の結果 $\lim_{u\to0}\frac{\sin u}{u}=1$ を使った.)よって $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin3x}{x}=3$ である.一般に $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin kx}{x}=k$($k$ は $0$ でない定数)が同じ議論で成り立つ.
例題2.2 $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{1-\cos2x}{4x^2}$ を求める
$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{1-\cos2x}{4x^2}$ を求めよ.
解答 $u=2x$ とおくと,$x\to0$ のとき $u\to0$ であり,$4x^2=u^2$ だから,
$$ \lim_{x\to0}\frac{1-\cos2x}{4x^2} = \lim_{u\to0}\frac{1-\cos u}{u^2} = \frac12 $$(2.1.3の結果をそのまま使った.)よって $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{1-\cos2x}{4x^2}=\frac12$ である.
2.1.4 オイラーの公式から見る $\sin\theta,\cos\theta,\tan\theta$
数学ノート:オイラーの公式とド・モアブルの定理(高校既習事項の確認)
高校の数学C(複素数平面)で学んだ通り,複素数 $z=r(\cos\theta+i\sin\theta)$($r$ は絶対値,$\theta$ は偏角)に対して,オイラーの公式(Euler's formula)
$$ e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta $$が成り立つ($i=\sqrt{-1}$ は虚数単位).この式は指数関数 $e^{z}$ を複素数 $z$ にまで拡張したときに現れる関係式で,完全な証明は $e^x,\sin x,\cos x$ のマクローリン展開(べき級数展開)を比較することで与えられる——それは第4章4.2.3節で行う.ここでは高校既習の事実として認めて使う.また,ド・モアブルの定理(de Moivre's theorem)$(\cos\theta+i\sin\theta)^n=\cos n\theta+i\sin n\theta$ の $n=-1$ の場合,すなわち複素数の逆数の公式から,
$$ e^{-i\theta} = \cos(-\theta)+i\sin(-\theta) = \cos\theta - i\sin\theta $$も成り立つ($\cos$ は偶関数,$\sin$ は奇関数であることを使った).この2つの式を連立させると,$\sin\theta,\cos\theta$ を複素指数関数 $e^{\pm i\theta}$ だけで表す式が得られる.これは,のちに双曲線関数 $\sinh x=\frac{e^x-e^{-x}}2,\cosh x=\frac{e^x+e^{-x}}2$(2.5節)と比べるときにとても役に立つ——双曲線関数は,いわば「$i\theta$ を実数 $x$ に取り替えたときの $\sin,\cos$」なのである.
導出:$\displaystyle\sin\theta=\frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}$
オイラーの公式より $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta\ \cdots①$.また,ド・モアブルの定理より $e^{-i\theta}=\cos\theta-i\sin\theta\ \cdots②$.①$-$②を計算すると,$\cos\theta$ の項が打ち消し合って,
$$ e^{i\theta}-e^{-i\theta} = 2i\sin\theta $$を得る.両辺を $2i$ で割ると($i\neq0$ なので割ってよい),
$$ \frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i} = \sin\theta \qquad\therefore\ \sin\theta = \frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i} $$導出:$\displaystyle\cos\theta=\frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2}$
同じく①,②を使う.今度は①$+$②を計算すると,$i\sin\theta$ の項が打ち消し合って,
$$ e^{i\theta}+e^{-i\theta} = 2\cos\theta $$を得る.両辺を $2$ で割ると,
$$ \frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2} = \cos\theta \qquad\therefore\ \cos\theta = \frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2} $$導出:$\displaystyle\tan\theta=\frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{i(e^{i\theta}+e^{-i\theta})}$
$\tan\theta=\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}$ に,直前の2つの結果を代入すると,
$$ \tan\theta = \frac{\dfrac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}}{\dfrac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2}} $$という繁分数(分母・分子がさらに分数である分数)になる.分母・分子に $2i$ を掛けて整理すると(分子は $\frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}\times2i=e^{i\theta}-e^{-i\theta}$,分母は $\frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2}\times2i=i(e^{i\theta}+e^{-i\theta})$ となる),
$$ = \frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{i(e^{i\theta}+e^{-i\theta})} \qquad\therefore\ \tan\theta = \frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{i(e^{i\theta}+e^{-i\theta})} $$2.2 関数の連続性
「連続な関数」とは,直感的には「グラフを一筆書きできる関数,途中で切れたりジャンプしたりしない関数」のことである.しかし,第1章で $\varepsilon$-$\delta$論法を学んだ今,この直感を曖昧なままにしておく必要はない.関数の極限の $\varepsilon$-$\delta$論法による定義(第1章1.2節)を思い出そう:
$$ \lim_{x\to a}f(x)=P \quad\overset{\text{定義}}{\Longleftrightarrow}\quad \forall\varepsilon \gt 0,\ \exists\delta \gt 0\ \ \text{s.t.}\ \ 0 \lt |x-a| \lt \delta\Rightarrow|f(x)-P| \lt \varepsilon $$(記号の確認:「$\forall$」は「すべての」(for all),「$\exists$」は「存在する」(there exists),「s.t.」は「such that,~を満たすように」の略である.)連続性とは,この極限値 $P$ が,ちょうど関数そのものの値 $f(a)$ に一致している状態のことだと定義する.
定義2.1 関数の連続性($\varepsilon$-$\delta$論法による)
関数 $f(x)$ が $x=a$ の近くで定義されているとする.次の条件
$$ \forall\varepsilon \gt 0,\ \exists\delta \gt 0\ \ \text{s.t.}\ \ 0 \lt |x-a| \lt \delta\ \Rightarrow\ |f(x)-f(a)| \lt \varepsilon $$が成り立つとき,$f(x)$ は $x=a$ で連続(continuous)であるという.このとき,
$$ \lim_{x\to a}f(x) = f(a) $$が成り立つ.$f(x)$ がある区間の各点で連続であるとき,$f(x)$ はその区間で連続である,あるいは単に連続関数(continuous function)であるという.
イメージ:極限の定義と何が違うのか
連続性の定義は,形の上では極限の定義とほとんど同じに見える.実際に違うのはただ1点,「$0 \lt |x-a| \lt \delta$」という条件で $x=a$ そのものを除外していた極限の定義に対し,連続性の定義では極限値の代わりに $f(a)$($x=a$ での関数の実際の値)を使っている点である.言い換えると,連続性とは「$x\to a$ のときの極限値が存在する」だけでなく,「その極限値が,$x=a$ でのグラフの高さ $f(a)$ とぴったり一致する」という,2つの条件をあわせて要求している.たとえば $f(x)=\dfrac{\sin x}{x}$($x\neq0$),$f(0)=0$ と定義された関数を考えると,$\displaystyle\lim_{x\to0}f(x)=1$(2.1.1で証明済み)は存在するが,$f(0)=0\neq1$ なので,この関数は $x=0$ で連続ではない(グラフ上,$x=0$ の点だけが本来の位置からずれて「穴」が開いているようなイメージである).もし $f(0)$ を $1$ と定義し直せば,$f(x)$ は $x=0$ でも連続になる.
注意:$\forall,\exists$ の順序を逆にしない
第1章の $\varepsilon$-$N$論法・$\varepsilon$-$\delta$論法と同様,ここでも「$\forall\varepsilon \gt 0$ が先,$\exists\delta \gt 0$ があと」という順序が本質的である.正しい読み方は「どんなに小さい許容誤差 $\varepsilon$ を先に指定されても,それに応じて($\varepsilon$ に依存してよい)ちょうどよい $\delta$ を見つけることができる」である.$\delta$ を先に固定してしまうと,小さすぎる $\varepsilon$ に対応できなくなるので,定義として意味をなさない.
例題2.3 $f(x)=3x^2-1$ が $x=2$ で連続であることを示す
$f(x)=3x^2-1$ が $x=2$ で連続であることを,$\varepsilon$-$\delta$論法(定義2.1)にしたがって示せ.
解答 $f(2)=3\cdot4-1=11$ である.任意の $\varepsilon \gt 0$ に対して,$|f(x)-f(2)| \lt \varepsilon$ を満たす $\delta \gt 0$ が存在することを示せばよい.まず $|f(x)-f(2)|$ を因数分解を使って評価する.
$$ f(x)-f(2) = (3x^2-1)-11 = 3x^2-12 = 3(x-2)(x+2) $$したがって $|f(x)-f(2)|=3|x-2|\,|x+2|$ である.ここで,$|x+2|$ の部分を $|x-2|$ を使って上から評価したい.そこで,まず $\delta\le1$ の範囲で考える約束をする(最終的な $\delta$ を決める際にこの制限を組み込む).$|x-2| \lt 1$ ならば $1 \lt x \lt 3$ なので,
$$ |x+2| = x+2 \lt 3+2 = 5 $$(この区間では $x+2 \gt 0$ なので絶対値を外せる).よって $|x-2| \lt 1$ の範囲では,
$$ |f(x)-f(2)| = 3|x-2|\,|x+2| \lt 3\cdot5\cdot|x-2| = 15|x-2| $$が成り立つ.したがって,$15|x-2| \lt \varepsilon$ となるように,すなわち $|x-2| \lt \dfrac{\varepsilon}{15}$ となるようにすればよい.以上の2つの制約($|x-2| \lt 1$ と $|x-2| \lt \frac{\varepsilon}{15}$)を同時に満たすために,
$$ \delta = \min\left(1,\ \frac{\varepsilon}{15}\right) $$と選ぶ.このとき $|x-2| \lt \delta$ ならば,$|x-2| \lt 1$ かつ $|x-2| \lt \frac{\varepsilon}{15}$ が同時に成り立つので,
$$ |f(x)-f(2)| \lt 15|x-2| \lt 15\cdot\frac{\varepsilon}{15} = \varepsilon $$となり,定義2.1の条件がみたされる.(sympyで $f(x)-f(2)=3(x-2)(x+2)$ の因数分解と,境界での不等式評価を検算済み.)よって $f(x)=3x^2-1$ は $x=2$ で連続である.
2.3 ロルの定理と平均値の定理
本節では,微分積分学の中でもとりわけ応用範囲の広い定理——平均値の定理(mean value theorem,MVT)を証明する.平均値の定理は,一言でいえば「なめらかな曲線の平均の傾き(弦の傾き)は,区間内のどこか1点での瞬間の傾き(接線の傾き)に必ず等しい」という定理である.この定理は,第4章のテイラーの定理,第5章の積分の平均値の定理など,本教科書のいたるところで使われる基本定理である.証明の道筋は,まず特別な場合であるロルの定理($f(a)=f(b)$ の場合)を証明し,そのあと一般の場合を「差関数を作ってロルの定理に帰着させる」という技巧で平均値の定理に拡張する,という2段階を踏む.
2.3.1 ロルの定理
定理2.1(ロルの定理,Rolle's theorem,フランスの数学者ミシェル・ロル Michel Rolle に由来)
関数 $f(x)$ が,閉区間 $[a,b]$ で連続,かつ開区間 $(a,b)$ で微分可能,さらに $f(a)=f(b)$ であるとき,
\begin{equation} f'(c) = 0 \qquad(a \lt c \lt b) \label{eq:2-rolle} \end{equation}を満たす $c$ が少なくとも1つ存在する(この $c$ は,グラフ上で接線の傾きがちょうど $0$ になる点,すなわち山や谷の頂上に対応する).
イメージ:ロルの定理が意味を持つのは,$f(x)$ が1次関数より複雑なときだけ
もし $f(x)$ が1次関数($f(x)=px+q$ の形,グラフが傾き一定の直線)だったとすると,仮定 $f(a)=f(b)$ から傾き $p=\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}=0$ となるほかなく,$f(x)$ は実は定数関数 $f(x)=q$ にしかなり得ない.このとき,区間 $(a,b)$ のどの点でも $f'(x)=0$ なので,ロルの定理はいわば当たり前に成り立ってしまい(これは後の証明の場合分け[3]そのものである),主張として面白味がない.したがって,ロルの定理がほんとうに非自明な内容を持つのは,$f(x)$ が1次関数よりも次数の高い(=直線ではなく,途中で曲がる)関数であり,かつ $(a,b)$ の内部で最大値または最小値をとる場合,すなわち後の証明の場合分け[1]または[2]に当たる場合である.
証明
$f(x)$ は $[a,b]$ で連続かつ $(a,b)$ で微分可能なので,グラフはなめらかに(切れ目やとがった点なしに)つながっている.証明は,$f(x)$ と $f(a)$ の大小関係によって3つの場合に分ける.
[1] ある $x\in(a,b)$ で $f(x) \gt f(a)$ となる場合.
$f(x)$ は $[a,b]$ で連続だから,前提として認めた最大値・最小値の定理(連続関数は有界閉区間で必ず最大値・最小値を持つという定理)より,$f(x)$ は $[a,b]$ 上で最大値を持つ.[1]の仮定 $f(x) \gt f(a)$($=f(b)$)があるので,その最大値をとる点は端点 $a,b$ ではなく,開区間の内部のある点 $c$($a \lt c \lt b$)である.すなわち $f(x)$ は最大値 $f(c)$($a \lt c \lt b$)をもつ.最大値をとる点 $c$ からどちらの向きに $h$($h\neq0$)だけずれても,値は最大値以下になるはずだから,
$$ f(c) \geqq f(c+h) \qquad\cdots① $$を満たす.この不等式を,$h$ の符号で場合分けして微分係数の言葉に直す.
[i] $h \gt 0$ のとき.①より $f(c+h)-f(c)\leqq0$ である.これを(正の数である)$h$ で割っても不等号の向きは変わらないから,
$$ \frac{f(c+h)-f(c)}{h} \leqq 0 $$$h\to0$ の極限をとると($f$ は $c$ で微分可能なので極限 $f'(c)$ が存在し,極限をとっても $\leqq$ の向きは保たれる),
$$ \lim_{h\to0^+}\frac{f(c+h)-f(c)}{h} = f'(c) \leqq 0 $$[ii] $h \lt 0$ のとき.①より同じく $f(c+h)-f(c)\leqq0$ である.今度は(負の数である)$h$ で割るので不等号の向きが反転し,
$$ \frac{f(c+h)-f(c)}{h} \geqq 0 $$$h\to0$ の極限をとると,
$$ \lim_{h\to0^-}\frac{f(c+h)-f(c)}{h} = f'(c) \geqq 0 $$[i],[ii]をあわせると,$0\leqq f'(c)\leqq0$ となるので,$f'(c)=0$ が成り立つ.
[2] ある $x\in(a,b)$ で $f(x) \lt f(a)$ となる場合.
[1]と対称に議論する.最大値・最小値の定理より,$f(x)$ は $[a,b]$ 上で最小値を持つ.[2]の仮定があるので,その最小値をとる点も端点ではなく内部の点 $c$($a \lt c \lt b$)である.$c$ から $h\ (h\neq0)$ にずれた点は必ず
$$ f(c) \leqq f(c+h) \qquad\cdots② $$を満たす.[i] $h \gt 0$ のとき,②より $f(c+h)-f(c)\geqq0$ なので,正の数 $h$ で割って $\dfrac{f(c+h)-f(c)}{h}\geqq0$,極限をとって $f'(c)\geqq0$.[ii] $h \lt 0$ のとき,②より同じく $f(c+h)-f(c)\geqq0$ だが,負の数 $h$ で割ると不等号が反転して $\dfrac{f(c+h)-f(c)}{h}\leqq0$,極限をとって $f'(c)\leqq0$.[i],[ii]をあわせると,$0\leqq f'(c)\leqq0$ となるので,やはり $f'(c)=0$ が成り立つ.
[3] すべての $x\in(a,b)$ で $f(x)=f(a)$ となる場合.
このとき $f(x)$ は $(a,b)$ 全体で一定の値 $f(a)$ をとる定数関数である.定数関数の導関数は恒等的に $0$ であるから,$a \lt x \lt b$ の範囲すべてにおいて $f'(x)=0$ となる.したがって,区間内のどの点を $c$ に選んでも $f'(c)=0$ が成り立つ.
[1],[2],[3] は互いに排反であり,かつどの $x\in(a,b)$ も必ずどれか1つの場合に属する([1]の否定と[2]の否定を合わせると[3]になる).よって,いずれの場合にも $a \lt c \lt b$ を満たす $c$ で $f'(c)=0$ となるものが存在することが示された.
(証明終わり)
2.3.2 平均値の定理
定理2.2(平均値の定理,mean value theorem)
関数 $f(x)$ が閉区間 $[a,b]$ で連続かつ開区間 $(a,b)$ で微分可能であるとき,
\begin{equation} \frac{f(b)-f(a)}{b-a} = f'(c) \qquad(a \lt c \lt b) \label{eq:2-mvt} \end{equation}を満たす $c$ が少なくとも1つ存在する.左辺は2点 $A(a,f(a))$,$B(b,f(b))$ を結ぶ弦(線分 $AB$)の傾きであり,右辺は $x=c$ での接線の傾きだから,この定理は「弦の傾きに等しい傾きの接線を持つ点が区間内に必ずある」ということを主張している.
証明の方針は次の通りである.曲線 $y=f(x)$ と,$A,B$ を通る弦(直線)$y$ との差を新しい関数 $F(x)$ として作る.$F(a)=F(b)=0$(両端で曲線と弦がぴったり重なるので差が $0$)となるように作れば,$F(x)$ にロルの定理を適用でき,$F'(c)=0$ となる $c$ が見つかる.$F'(c)=0$ を $f$ の言葉に翻訳すれば,それがそのまま平均値の定理の主張になる——これが「差関数を作ってロルの定理に帰着させる」という技巧である.
証明
点 $A(a,f(a))$ と点 $B(b,f(b))$ を通る直線の方程式は,傾き $\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}$ の直線として,
$$ y = \frac{f(b)-f(a)}{b-a}(x-a) + f(a) $$と書ける.曲線 $y=f(x)$ とこの直線 $y$ との差関数を $F(x)$ とおく.
$$ F(x) = f(x) - y = f(x) - \frac{f(b)-f(a)}{b-a}(x-a) - f(a) \qquad\cdots① $$①に $x=a,b$ を代入して,両端での値を確かめる.
[1] $x=a$ のとき,
$$ F(a) = f(a) - \frac{f(b)-f(a)}{b-a}(a-a) - f(a) = f(a) - 0 - f(a) = 0 $$($(a-a)=0$ なので,中央の項がまるごと消える.)
[2] $x=b$ のとき,
$$ F(b) = f(b) - \frac{f(b)-f(a)}{b-a}(b-a) - f(a) = f(b) - \bigl(f(b)-f(a)\bigr) - f(a) = f(b)-f(b)+f(a)-f(a) = 0 $$($\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}\times(b-a)=f(b)-f(a)$ と約分できることを使った.)
$F(x)$ は,連続関数 $f(x)$ と1次関数の差であるから $[a,b]$ で連続,微分可能な $f(x)$ と1次関数の差であるから $(a,b)$ で微分可能な,なめらかな曲線である.また,[1],[2]より $F(a)=F(b)(=0)$ であるので,ロルの定理(定理2.1)がそのまま適用できて,
$$ F'(c) = 0 \qquad(a \lt c \lt b) $$を満たす $c$ が必ず存在する.そこで①を $x$ で微分する.右辺第2項の $\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}$ は($a,b$ を固定して考えているので)$x$ に依存しない定数であり,$(x-a)$ を $x$ で微分すると $1$ になることに注意すると,
$$ F'(x) = f'(x) - \frac{f(b)-f(a)}{b-a} $$これに $x=c$ を代入すると,$F'(c)=0$ であったから,
$$ F'(c) = f'(c) - \frac{f(b)-f(a)}{b-a} = 0 \qquad(a \lt c \lt b) $$を得る.これを整理すれば($-\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}$ を移項するだけ),
$$ \frac{f(b)-f(a)}{b-a} = f'(c) \qquad(a \lt c \lt b) $$となり,これが求める平均値の定理の結論である.
(証明終わり)
例題2.4 ロルの定理:$f(x)=x^2-2x-3$,区間 $[-1,3]$
$f(x)=x^2-2x-3$ に対して,区間 $[-1,3]$ でロルの定理が成り立つことを確かめ,定理の主張する $c$ を実際に求めよ.
解答 $f(x)=x^2-2x-3$ は多項式関数なので,$\R$ 全体で連続かつ微分可能であり,特に $[-1,3]$ で連続,$(-1,3)$ で微分可能という前提が満たされる.端点の値を計算すると,
$$ f(-1) = 1+2-3 = 0, \qquad f(3) = 9-6-3 = 0 $$より $f(-1)=f(3)$ なので,ロルの定理の仮定がすべて満たされる.よって $f'(c)=0$,$-1 \lt c \lt 3$ を満たす $c$ が存在するはずである.実際に $f'(x)=2x-2$ を計算し,$f'(c)=0$ を解くと,
$$ 2c-2=0 \ \Longrightarrow\ c=1 $$$c=1$ はたしかに $-1 \lt 1 \lt 3$ を満たす.(sympyで $f(-1)=f(3)=0$ と $f'(x)=0$ の解 $x=1$ を検算済み.)よって $c=1$ である.
例題2.5 平均値の定理:$f(x)=x^2$,区間 $[1,3]$
$f(x)=x^2$ に対して,区間 $[1,3]$ で平均値の定理が成り立つことを確かめ,定理の主張する $c$ を実際に求めよ.
解答 $f(x)=x^2$ は $\R$ 全体で連続かつ微分可能である.弦の傾きは,
$$ \frac{f(3)-f(1)}{3-1} = \frac{9-1}{2} = 4 $$平均値の定理より,$f'(c)=4$ となる $c\in(1,3)$ が存在する.$f'(x)=2x$ だから,
$$ 2c=4 \ \Longrightarrow\ c=2 $$$c=2$ はたしかに $1 \lt 2 \lt 3$ を満たす.(sympyで弦の傾き $4$ と $f'(x)=4$ の解 $x=2$ を検算済み.)よって $c=2$ である.
2.3.3 コーシーの平均値の定理
平均値の定理は,1つの関数 $f(x)$ のグラフ $y=f(x)$ を対象にしていた.これを,2つの関数 $f(x),g(x)$ を組にして「媒介変数表示された曲線 $(X,Y)=(g(x),f(x))$」として扱うように一般化したのが,コーシーの平均値の定理(Cauchy's mean value theorem)である.この定理は,次節でロピタルの定理を証明するときの主役になる.
定理2.3(コーシーの平均値の定理,Cauchy's mean value theorem,フランスの数学者オーギュスタン=ルイ・コーシー Augustin-Louis Cauchy に由来)
2つの関数 $f(x),g(x)$ が $[a,b]$ で連続,$(a,b)$ で微分可能,さらに $g'(x)\neq0$($(a,b)$ の各点で)かつ $g(a)\neq g(b)$ であるとする.このとき,
\begin{equation} \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)} = \frac{f'(c)}{g'(c)} \qquad(a \lt c \lt b) \label{eq:2-cauchy-mvt} \end{equation}を満たす $c$ が少なくとも1つ存在する.$g(x)=x$ の場合,$g'(x)=1$,$g(b)-g(a)=b-a$ となるので,これは平均値の定理(定理2.2)そのものである——コーシーの平均値の定理は平均値の定理の一般化になっている.
証明
$X=g(x)$,$Y=f(x)$($a\le x\le b$)とおき,$(X,Y)$ 平面上の曲線として考える.点 $A(g(a),f(a))$ と点 $B(g(b),f(b))$ を通る直線の方程式 $Y$ は,傾き $\dfrac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}$($g(a)\neq g(b)$ だから傾きは定義できる)の直線として,
$$ Y = \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}\bigl\{X-g(a)\bigr\} + f(a) $$と書ける.$f(x)$ とこの直線 $Y$($X=g(x)$ を代入したもの)との差関数を $F(x)$ とおくと,
$$ F(x) = f(x) - Y = f(x) - \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}\bigl\{g(x)-g(a)\bigr\} - f(a) \qquad(a\le x\le b) $$($X=g(x)$ を代入した.)$F(x)$ に $x=a,b$ を代入する.
[1] $x=a$ のとき,
$$ F(a) = f(a) - \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}\bigl\{g(a)-g(a)\bigr\} - f(a) = f(a) - 0 - f(a) = 0 $$[2] $x=b$ のとき,
$$ F(b) = f(b) - \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}\bigl\{g(b)-g(a)\bigr\} - f(a) = f(b) - \bigl(f(b)-f(a)\bigr) - f(a) = 0 $$[1],[2]より $F(a)=F(b)(=0)$ である.また,$F(x)$ は $f(x),g(x)$ の連続・微分可能性から $[a,b]$ で連続,$(a,b)$ で微分可能であるから,ロルの定理より,
$$ F'(c) = 0 \qquad(a \lt c \lt b) $$を満たす $c$ が存在する.$F(x)$ を $x$ で微分する(右辺第2項の $\dfrac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}$ は,$a,b$ を固定して考えているので $x$ に依存しない定数であり,$\{g(x)-g(a)\}$ を $x$ で微分すると,定数 $g(a)$ の微分は $0$ になるので $g'(x)$ が残ることに注意する)と,
$$ F'(x) = f'(x) - \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}\cdot g'(x) $$$x=c$ を代入すると,$F'(c)=0$ より,
$$ F'(c) = f'(c) - \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}\cdot g'(c) = 0 $$これを整理する($g'(c)\neq0$ なので両辺を $g'(c)$ で割ってよい)と,
$$ f'(c) = \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}\cdot g'(c) \quad\Longrightarrow\quad \frac{f'(c)}{g'(c)} = \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)} $$ $$ \therefore\ \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)} = \frac{f'(c)}{g'(c)} $$(証明終わり)
例題2.6 コーシーの平均値の定理:$f(x)=\sin x,\ g(x)=\cos x$,区間 $\left[0,\dfrac\pi2\right]$
$f(x)=\sin x,\ g(x)=\cos x$ に対して,区間 $\left[0,\dfrac\pi2\right]$ でコーシーの平均値の定理(定理2.3)が成り立つことを確かめ,定理の主張する $c$ を実際に求めよ.
解答 $f(x)=\sin x,\ g(x)=\cos x$ はともに $\R$ 全体で連続かつ微分可能な関数なので,特に $\left[0,\dfrac\pi2\right]$ で連続,$\left(0,\dfrac\pi2\right)$ で微分可能という前提が満たされる.また,$g'(x)=-\sin x$ は,開区間 $\left(0,\dfrac\pi2\right)$ の範囲では($\sin x=0$ となるのは $x=0,\pi,2\pi,\ldots$ のときだけなので)$0$ にならず,さらに $g(0)=\cos0=1$,$g\!\left(\dfrac\pi2\right)=\cos\dfrac\pi2=0$ より $g(0)\neq g\!\left(\dfrac\pi2\right)$ なので,コーシーの平均値の定理の仮定はすべて満たされる.左辺を計算すると,
$$ \frac{f\!\left(\frac\pi2\right)-f(0)}{g\!\left(\frac\pi2\right)-g(0)} = \frac{1-0}{0-1} = -1 $$一方,$f'(x)=\cos x,\ g'(x)=-\sin x$ より,
$$ \frac{f'(c)}{g'(c)} = \frac{\cos c}{-\sin c} = -\cot c $$コーシーの平均値の定理より,これが左辺 $-1$ と等しくなる $c\in\left(0,\dfrac\pi2\right)$ が存在するはずだから,
$$ -\cot c = -1 \ \Longrightarrow\ \cot c = 1 \ \Longrightarrow\ \tan c = 1 \ \Longrightarrow\ c = \frac\pi4 $$$c=\dfrac\pi4$ はたしかに $0 \lt \dfrac\pi4 \lt \dfrac\pi2$ を満たす.(sympyで左辺 $=-1$ と,方程式 $-\cot c=-1$ の $\left(0,\frac\pi2\right)$ 内の解が $c=\pi/4$ であることを検算済み.)よって $c=\dfrac\pi4$ である.
2.4 ロピタルの定理
$\displaystyle\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}$ を求めるとき,$f(a)=g(a)=0$ であったり,$f(x),g(x)$ がともに $\pm\infty$ に発散したりすると,そのまま代入することができない.このような「不定形」の極限を,導関数の比の極限に置き換えて求めてよいことを保証するのがロピタルの定理(l'Hôpital's rule,フランスの数学者ロピタル侯爵 Guillaume de l'Hôpital に由来)である.前節で用意したコーシーの平均値の定理(定理2.3)が,この定理の証明の中心的な道具になる.
定理2.4(ロピタルの定理)
(I) $f(x),g(x)$ は $x=a$ の付近で微分可能で,$x=a$ の近く($x\neq a$ の範囲)で $g'(x)\neq0$,かつ $f(a)=g(a)=0$ とする.このとき,
\begin{equation} \lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)} = \lim_{x\to a}\frac{f'(x)}{g'(x)} \label{eq:2-lhopital1} \end{equation}が成り立つ(右辺の極限が存在する場合).
(II) $f(x),g(x)$ は $x=a$ の付近で微分可能で,$x=a$ の近く($x\neq a$ の範囲)で $g'(x)\neq0$,かつ $\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=\lim_{x\to a}g(x)=\pm\infty$ とする.このときも,
\begin{equation} \lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)} = \lim_{x\to a}\frac{f'(x)}{g'(x)} \label{eq:2-lhopital2} \end{equation}が成り立つ(右辺の極限が存在する場合).
2.4.1 (I)の証明:$\frac00$ 型
証明((I))
コーシーの平均値の定理(定理2.3)の主張 $\dfrac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}=\dfrac{f'(c)}{g'(c)}$ において,端点の一方 $b$ を,変数 $x$ に置き換える(コーシーの平均値の定理は $[a,x]$ の区間にもそのまま適用できる).
$$ \frac{f(x)-f(a)}{g(x)-g(a)} = \frac{f'(c)}{g'(c)} \qquad(a \lt c \lt x\ \text{もしくは}\ x \lt c \lt a) $$($x$ が $a$ より右にあれば $a \lt c \lt x$,左にあれば $x \lt c \lt a$ となる.)ここで仮定より $f(a)=0,g(a)=0$ なので,左辺の $-f(a),-g(a)$ が消えて,
$$ \frac{f(x)}{g(x)} = \frac{f'(c)}{g'(c)} $$という単純な形になる.この式の両辺に $\displaystyle\lim_{x\to a}$ をつけると,
$$ \lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)} = \lim_{x\to a}\frac{f'(c)}{g'(c)} $$ここで,$c$ は $a$ と $x$ の間にある数だから,$x\to a$ のとき $c$ もまた $a$ に近づく($c\to a$).したがって右辺の極限は,$x\to a$ に伴って $c\to a$ となる状況のもとでの $\dfrac{f'(c)}{g'(c)}$ の極限であり,これは $c$ を変数と読み替えた $\displaystyle\lim_{c\to a}\frac{f'(c)}{g'(c)}$ と同じ値になる.文字を $c$ から $x$ に付け替えれば,
$$ \lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)} = \lim_{c\to a}\frac{f'(c)}{g'(c)} = \lim_{\substack{x\to a\\(c\to a)}}\frac{f'(c)}{g'(c)} $$ $$ \therefore\ \lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)} = \lim_{x\to a}\frac{f'(x)}{g'(x)} $$(証明終わり)
2.4.2 (II)の証明:$\dfrac{\pm\infty}{\pm\infty}$ 型
(II)の証明は,$\varepsilon$-$\delta$論法を本格的に使う,本章でもっとも技巧的な証明である.方針を先に述べておく:極限値 $\alpha=\lim_{x\to a}f'(x)/g'(x)$ を仮定し,$x$ に近いがいったん固定した点 $b$ を使ってコーシーの平均値の定理を適用する.$f(x)/g(x)$ の中に強引に $f(b)/f(x)$ と $g(b)/g(x)$ を作り出すと,$f(x),g(x)\to\pm\infty$ という仮定のおかげで,$b$ を固定したまま $x\to a$ とすればこれらの補正項が $0$ に潰れ,最終的に $f(x)/g(x)$ が $f'(c)/g'(c)$ とほぼ同じ値に押し込められる,という論法である.
証明((II))
$\displaystyle\lim_{x\to a}\frac{f'(x)}{g'(x)}=\alpha$ とする.これを $\varepsilon$-$\delta$論法で書くと,
$$ \forall\varepsilon \gt 0,\ \exists\delta \gt 0,\ \text{s.t.}\quad 0 \lt |x-a| \lt \delta \ \Rightarrow\ \left|\frac{f'(x)}{g'(x)}-\alpha\right| \lt \varepsilon \qquad\cdots① $$この $\delta$ を1つ固定しておく.いま,$a$ と $b$ の間に $x$ をとる($b$ は $x$ よりも $a$ から遠い側に,$\delta$ 近傍内の1点として固定してとり,$x$ はその $b$ よりも $a$ に近い側を動く).コーシーの平均値の定理を区間 $[b,x]$(または $[x,b]$)に適用すると,
$$ \frac{f(x)-f(b)}{g(x)-g(b)} = \frac{f'(c)}{g'(c)} \qquad(b \lt c \lt x \lt a\ \text{または}\ a \lt x \lt c \lt b) $$という,$b$ と $x$ の間にある $c$ が存在する.左辺を,$f(x),g(x)$ をくくり出す形に無理やり変形する(分子・分母をそれぞれ $f(x),g(x)$ で割る)と,
$$ \frac{f(x)-f(b)}{g(x)-g(b)} = \frac{f(x)}{g(x)}\cdot\frac{1-\dfrac{f(b)}{f(x)}}{1-\dfrac{g(b)}{g(x)}} = \frac{f'(c)}{g'(c)} $$ここで,$c$ は $b$ と $x$ の間にあり,$b,x$ はどちらも $a$ の $\delta$ 近傍の中にあるので,$c$ もまた $a$ の $\delta$ 近傍の中にある:$0 \lt |c-a| \lt \delta$.したがって①がそのまま $c$ に適用でき,
$$ \left|\frac{f'(c)}{g'(c)}-\alpha\right| \lt \varepsilon $$が成り立つ.先の等式と合わせると,
$$ \left|\frac{f(x)}{g(x)}\cdot\frac{1-\dfrac{f(b)}{f(x)}}{1-\dfrac{g(b)}{g(x)}}-\alpha\right| \lt \varepsilon \qquad\cdots(\star) $$を得る.ここで,$b$ は最初から($\delta$ 近傍の中の)1つの定数として固定してあったことを思い出そう.そのうえで,$x$ を($b$ よりも $a$ に近い側を動く変数として)$a$ に近づけていく極限 $x\to a$ を考える.$f(b),g(b)$ は,$b$ を固定した以上は動かないただの定数である.一方,仮定より $\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=\pm\infty$,$\displaystyle\lim_{x\to a}g(x)=\pm\infty$ だから,$x\to a$ のとき分母がいくらでも大きくなり,
$$ \frac{f(b)}{f(x)} \longrightarrow 0, \qquad \frac{g(b)}{g(x)} \longrightarrow 0 $$となる.したがって $(\star)$ の中の補正因子 $\dfrac{1-f(b)/f(x)}{1-g(b)/g(x)}$ は,$x\to a$ のとき $1$ に近づいていく.そこで,$0 \lt |x-a| \lt \delta$ の範囲で改めて極限操作を行うと,
$$ \left|\frac{f(x)}{g(x)}\cdot\frac{1-\dfrac{f(b)}{f(x)}}{1-\dfrac{g(b)}{g(x)}}-\alpha\right| \longrightarrow \left|\frac{f(x)}{g(x)}-\alpha\right| \lt \varepsilon \qquad\cdots② $$(補正因子が $1$ に収束するため,$(\star)$ の不等式は,$x$ を $a$ に十分近づけた極限でそのまま $\left|\frac{f(x)}{g(x)}-\alpha\right| \lt \varepsilon$ に移る.)①,②を合わせると,任意の $\varepsilon \gt 0$ に対して,$\left|\dfrac{f(x)}{g(x)}-\alpha\right| \lt \varepsilon$ を満たす $\delta$ が存在することが示された——これはまさに $\varepsilon$-$\delta$論法による極限の定義そのものだから,
$$ \lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)} = \alpha = \lim_{x\to a}\frac{f'(x)}{g'(x)} $$ $$ \therefore\ \lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)} = \lim_{x\to a}\frac{f'(x)}{g'(x)} $$(証明終わり)
イメージ:なぜ $b$ をいったん固定するのか
この証明のわかりにくさは,「$c$ は $b$ と $x$ の間にある(だから $x\to a$ のとき自動的に $c\to a$ になる)」という関係と,「$b$ を固定して $x\to a$ とする」という2つの操作を続けて行う点にある.直感的には,まず $\delta$ 近傍の中で $b$ を($a$ に十分近いところに)1つ選んでおき,$b$ よりもさらに $a$ に近い場所を $x$ が動き回る,という状況を考えるとよい.$b$ は「$x$ より少しだけ外側の見張り番」のような役割を果たしており,コーシーの平均値の定理を使うための足場を提供したあとは,$f(b),g(b)$ が有限の定数として働くおかげで,$x\to a$ の極限では $f(x)/g(x)$ という「$\pm\infty/\pm\infty$」の危険な比だけが残り,それがちょうど $\alpha=\lim f'/g'$ に一致する,という筋書きである.
例題2.7 $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{e^x-1-x}{x^2}$ を求める
$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{e^x-1-x}{x^2}$ を,ロピタルの定理を使って求めよ.
解答 まず代入して形を確認する.分子は $e^0-1-0=0$,分母は $0^2=0$ なので,$\frac00$ 型の不定形である.定理2.4(I)($f(x)=e^x-1-x,\ g(x)=x^2$ とおくと $f(0)=g(0)=0$)より,
$$ \lim_{x\to0}\frac{e^x-1-x}{x^2} = \lim_{x\to0}\frac{(e^x-1-x)'}{(x^2)'} = \lim_{x\to0}\frac{e^x-1}{2x} $$ところが,これもまた分子 $e^0-1=0$,分母 $2\cdot0=0$ の $\frac00$ 型なので,もう一度ロピタルの定理を適用する.
$$ = \lim_{x\to0}\frac{(e^x-1)'}{(2x)'} = \lim_{x\to0}\frac{e^x}{2} = \frac{e^0}{2} = \frac12 $$(今度は分母 $\lim_{x\to0}2=2\neq0$ なので,そのまま代入できる.)よって $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{e^x-1-x}{x^2}=\frac12$ である.(sympyで元の極限が直接 $1/2$ に一致すること,および2回のロピタル適用の各段階を検算済み.)
例題2.8 $\displaystyle\lim_{x\to0^+}x\ln x$ を求める($\dfrac{\pm\infty}{\pm\infty}$ 型への書き換え)
$\displaystyle\lim_{x\to0^+}x\ln x$ を,ロピタルの定理(定理2.4(II))を使って求めよ.
解答 $x\ln x$ は,そのままでは「$0\times(-\infty)$」という,ロピタルの定理がまだ使えない形の不定形である.そこで,$x=\dfrac{1}{1/x}$ を使って商の形に書き換える.
$$ x\ln x = \frac{\ln x}{1/x} $$と書き直すと,$x\to0^+$ のとき,分子 $\ln x\to-\infty$,分母 $\dfrac1x\to+\infty$ となるので,$\dfrac{-\infty}{+\infty}$ 型の不定形になり,定理2.4(II)が使える.$f(x)=\ln x,\ g(x)=\dfrac1x$ とおくと,$g'(x)=-\dfrac1{x^2}$ は $x \gt 0$ の範囲でつねに $0$ でないから,定理2.4(II)に必要な仮定 $g'(x)\neq0$ もみたされている.$f'(x)=\dfrac1x$ であるから,
$$ \lim_{x\to0^+}\frac{f'(x)}{g'(x)} = \lim_{x\to0^+}\frac{1/x}{-1/x^2} = \lim_{x\to0^+}(-x) = 0 $$($\dfrac{1/x}{-1/x^2}=\dfrac1x\times\left(-x^2\right)=-x$ と約分した.)右辺の極限が存在して $0$ になったので,定理2.4(II)より,
$$ \lim_{x\to0^+}\frac{\ln x}{1/x} = \lim_{x\to0^+}\frac{f'(x)}{g'(x)} = 0 \qquad\therefore\ \lim_{x\to0^+}x\ln x = 0 $$(sympyで $\lim_{x\to0^+}x\ln x=0$ と,書き換え後の $f'(x)/g'(x)=-x\to0$ が一致することを検算済み.)よって $\displaystyle\lim_{x\to0^+}x\ln x=0$ である.(この結果は「$\ln x$ が $-\infty$ に発散する速さよりも,$x$ が $0$ に近づく速さのほうが勝る」ことを意味しており,後の章で対数関数のふるまいを調べる際にもたびたび使われる基本極限である.)
2.5 双曲線関数の加法定理と性質
2.1節でオイラーの公式から $\sin\theta,\cos\theta$ を複素指数関数 $e^{\pm i\theta}$ で表す式を作った.ここで自然な問いが生まれる——もし指数を虚数 $i\theta$ ではなく,実数 $x$ のままにしたら,$\dfrac{e^{x}-e^{-x}}{2}$ や $\dfrac{e^x+e^{-x}}{2}$ はどんな関数になるだろうか.これが本節の主役,双曲線関数(hyperbolic functions)である.
2.5.1 双曲線関数の定義
定義2.2 双曲線関数(hyperbolic functions)
実数 $x$ に対して,次の3つの関数を定義する.
$$ \sinh x = \frac{e^x-e^{-x}}{2}\ (\text{ハイパボリックサイン,「シンチ」と読む}),\qquad \cosh x = \frac{e^x+e^{-x}}{2}\ (\text{ハイパボリックコサイン,「コッシュ」}) $$ $$ \tanh x = \frac{\sinh x}{\cosh x} = \frac{e^x-e^{-x}}{e^x+e^{-x}}\ (\text{ハイパボリックタンジェント,「タンチ」}) $$イメージ:なぜ「双曲線」関数と呼ぶのか
三角関数 $\cos\theta,\sin\theta$ が単位円 $X^2+Y^2=1$ 上の点を $(\cos\theta,\sin\theta)$ とパラメータ表示する関数だったのに対し,双曲線関数は,双曲線(hyperbola)$X^2-Y^2=1$ の右半分($X\ge1$)を $(X,Y)=(\cosh t,\sinh t)$ とパラメータ表示する(この事実は,あとで示す恒等式 $\cosh^2x-\sinh^2x=1$(2.5.4節)そのものである).「双曲線関数」という名前はここに由来する.また,2.1節で見たように $\sin\theta,\cos\theta$ は虚数 $i\theta$ を使うと $e^{\pm i\theta}$ の組み合わせで書けたので,双曲線関数は「指数を虚数にする手間を省いた,三角関数のいとこ」のような関数だとイメージするとよい.
2.5.2 双曲線関数の加法定理
三角関数に加法定理 $\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta$ などがあったように,双曲線関数にも同じ形の加法定理がある.証明は,定義2.2にもとづいて指数関数の形に展開し,地道に整理するだけでよい.
定理2.5 双曲線関数の加法定理
\begin{equation} \sinh(\alpha\pm\beta) = \sinh\alpha\cosh\beta\pm\cosh\alpha\sinh\beta \label{eq:2-sinh-add} \end{equation} \begin{equation} \cosh(\alpha\pm\beta) = \cosh\alpha\cosh\beta\pm\sinh\alpha\sinh\beta \label{eq:2-cosh-add} \end{equation} \begin{equation} \tanh(\alpha\pm\beta) = \frac{\tanh\alpha\pm\tanh\beta}{1\pm\tanh\alpha\tanh\beta} \label{eq:2-tanh-add} \end{equation}証明:$\sinh(\alpha+\beta)=\sinh\alpha\cosh\beta+\cosh\alpha\sinh\beta$
右辺を定義2.2にしたがって指数関数で書き下す.
$$ \sinh\alpha\cosh\beta+\cosh\alpha\sinh\beta = \frac14(e^\alpha-e^{-\alpha})(e^\beta+e^{-\beta}) + \frac14(e^\alpha+e^{-\alpha})(e^\beta-e^{-\beta}) $$($\sinh\alpha=\frac12(e^\alpha-e^{-\alpha})$,$\cosh\beta=\frac12(e^\beta+e^{-\beta})$ などをそのまま代入し,$\frac12\times\frac12=\frac14$ とした.)それぞれの積を展開すると,
$$ = \frac14\left(e^{\alpha+\beta}+e^{\alpha-\beta}-e^{-\alpha+\beta}-e^{-(\alpha+\beta)}\right) + \frac14\left(e^{\alpha+\beta}-e^{\alpha-\beta}+e^{-\alpha+\beta}-e^{-(\alpha+\beta)}\right) $$2つの括弧を足し合わせると,$e^{\alpha-\beta}$ と $-e^{\alpha-\beta}$,$-e^{-\alpha+\beta}$ と $e^{-\alpha+\beta}$ がそれぞれ打ち消し合い,$e^{\alpha+\beta}$ と $-e^{-(\alpha+\beta)}$ の項だけが2倍になって残る.
$$ = \frac12\left(e^{\alpha+\beta}-e^{-(\alpha+\beta)}\right) $$これは,定義2.2の $\sinh x=\frac12(e^x-e^{-x})$ に $x=\alpha+\beta$ を代入した形そのものだから,
$$ = \sinh(\alpha+\beta) $$よって $\sinh(\alpha+\beta)=\sinh\alpha\cosh\beta+\cosh\alpha\sinh\beta$ が示された.($\alpha-\beta$ の場合も,$\beta$ を $-\beta$ に置き換え,$\sinh(-\beta)=-\sinh\beta$,$\cosh(-\beta)=\cosh\beta$(定義から $e^{-\beta}$ と $e^{\beta}$ を入れ替えるだけなのですぐわかる)を使えば同じ結論が得られる.)
証明:$\cosh(\alpha+\beta)=\cosh\alpha\cosh\beta+\sinh\alpha\sinh\beta$
同様に右辺を展開する.
$$ \cosh\alpha\cosh\beta+\sinh\alpha\sinh\beta = \frac14(e^\alpha+e^{-\alpha})(e^\beta+e^{-\beta}) + \frac14(e^\alpha-e^{-\alpha})(e^\beta-e^{-\beta}) $$ $$ = \frac14\left(e^{\alpha+\beta}+e^{\alpha-\beta}+e^{-\alpha+\beta}+e^{-(\alpha+\beta)}\right) + \frac14\left(e^{\alpha+\beta}-e^{\alpha-\beta}-e^{-\alpha+\beta}+e^{-(\alpha+\beta)}\right) $$今度は $e^{\alpha-\beta}$ と $-e^{\alpha-\beta}$,$e^{-\alpha+\beta}$ と $-e^{-\alpha+\beta}$ が打ち消し合い,$e^{\alpha+\beta}$ と $e^{-(\alpha+\beta)}$ の項が2倍になって残る.
$$ = \frac12\left(e^{\alpha+\beta}+e^{-(\alpha+\beta)}\right) = \cosh(\alpha+\beta) $$よって $\cosh(\alpha+\beta)=\cosh\alpha\cosh\beta+\sinh\alpha\sinh\beta$ が示された.
証明:$\tanh(\alpha+\beta)=\dfrac{\tanh\alpha+\tanh\beta}{1+\tanh\alpha\tanh\beta}$
$\tanh x=\dfrac{\sinh x}{\cosh x}$ の定義と,直前の2つの加法定理を使う.
$$ \tanh(\alpha+\beta) = \frac{\sinh(\alpha+\beta)}{\cosh(\alpha+\beta)} = \frac{\sinh\alpha\cosh\beta+\cosh\alpha\sinh\beta}{\cosh\alpha\cosh\beta+\sinh\alpha\sinh\beta} $$分母・分子の両方を $\cosh\alpha\cosh\beta$ で割ると($\cosh$ は常に正なのでこれで割ってもよい),
$$ = \frac{\dfrac{\sinh\alpha\cosh\beta}{\cosh\alpha\cosh\beta}+\dfrac{\cosh\alpha\sinh\beta}{\cosh\alpha\cosh\beta}}{\dfrac{\cosh\alpha\cosh\beta}{\cosh\alpha\cosh\beta}+\dfrac{\sinh\alpha\sinh\beta}{\cosh\alpha\cosh\beta}} = \frac{\dfrac{\sinh\alpha}{\cosh\alpha}+\dfrac{\sinh\beta}{\cosh\beta}}{1+\dfrac{\sinh\alpha}{\cosh\alpha}\cdot\dfrac{\sinh\beta}{\cosh\beta}} = \frac{\tanh\alpha+\tanh\beta}{1+\tanh\alpha\tanh\beta} $$(証明終わり)
2.5.3 三角関数と双曲線関数——値域はなぜ違うのか
双曲線関数は,加法定理の形こそ三角関数とそっくりだが,1つだけ大きく違う点がある.それは値域(とりうる値の範囲)である.$\sin x,\cos x$ は $-1$ 以上 $1$ 以下の値しかとらないのに対し,$\sinh x,\cosh x$ はいくらでも大きな値をとる.この違いがどこから生まれるのかを,マクローリン展開(べき級数展開,各項が $x^n$ の形をした無限級数への展開.正式な導出は第4章で行うが,ここでは高校で学んだ $e^x,\sin x,\cos x$ の級数展開の結果を認めて使う)を比較することで明らかにする.
導出:$\sinh x,\cosh x$ のマクローリン展開と,三角関数との比較
$\sin x,\cos x$ のマクローリン展開(高校範囲を超える結果だが,第4章4.2.2節で正式に証明する.ここでは結果を借りる)は,
$$ \sin x = \frac{x}{1!}-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\frac{x^9}{9!}-\cdots \qquad\cdots① $$ $$ \cos x = 1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\frac{x^8}{8!}-\cdots \qquad\cdots② $$である.また,$e^x,e^{-x}$ のマクローリン展開は,
$$ e^x = 1+\frac{x}{1!}+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\frac{x^5}{5!}+\frac{x^6}{6!}+\cdots \qquad\cdots③ $$ $$ e^{-x} = 1-\frac{x}{1!}+\frac{x^2}{2!}-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^5}{5!}+\frac{x^6}{6!}-\cdots \qquad\cdots④ $$(④は③の $x$ を $-x$ に置き換え,$(-x)^n=(-1)^nx^n$ を使って整理したもの.)定義2.2の $\sinh x=\frac12(e^x-e^{-x})$ に③,④を代入すると,
$$ \sinh x = \frac12\left\{\left(1+\frac{x}{1!}+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\cdots\right)-\left(1-\frac{x}{1!}+\frac{x^2}{2!}-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}-\cdots\right)\right\} $$偶数次の項($1,\frac{x^2}{2!},\frac{x^4}{4!},\ldots$)は符号がそろっているので引き算で消え,奇数次の項($\frac{x}{1!},\frac{x^3}{3!},\ldots$)は符号が逆なので引き算で2倍に残る.
$$ = \frac12\left\{2\left(\frac{x}{1!}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}+\frac{x^7}{7!}+\cdots\right)\right\} = \frac{x}{1!}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}+\frac{x^7}{7!}+\frac{x^9}{9!}+\cdots \qquad\cdots⑤ $$同様に,定義2.2の $\cosh x=\frac12(e^x+e^{-x})$ に③,④を代入すると,今度は奇数次の項が消え,偶数次の項が2倍に残る.
$$ \cosh x = \frac12\left\{\left(1+\frac{x}{1!}+\frac{x^2}{2!}+\cdots\right)+\left(1-\frac{x}{1!}+\frac{x^2}{2!}-\cdots\right)\right\} = 1+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}+\frac{x^6}{6!}+\frac{x^8}{8!}+\cdots \qquad\cdots⑥ $$ここで①,②,⑤,⑥の4つの展開を並べて見比べる.
$$ \sin x = x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\frac{x^9}{9!}-\cdots,\qquad \sinh x = x+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}+\frac{x^7}{7!}+\frac{x^9}{9!}+\cdots $$ $$ \cos x = 1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\frac{x^8}{8!}-\cdots,\qquad \cosh x = 1+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}+\frac{x^6}{6!}+\frac{x^8}{8!}+\cdots $$$\sin x,\cos x$ の展開に現れる負符号がすべて正符号に変わっているだけで,項の絶対値(各項の係数と次数)はまったく同じである.
イメージ:符号の違いが値域の違いを生む
$\sin x,\cos x$ の展開に交互に現れる負符号は,$x$ が大きくなると項どうしが打ち消し合う効果を生み,全体の値を $-1$ から $1$ の間に押しとどめる(この事実自体の証明は本教科書の範囲を超えるが,具体的に $x=1,2,3,\ldots$ を代入して部分和を計算してみると,たしかに振動しながら $[-1,1]$ に収まる値へ近づいていく様子が確認できる).これに対し,$\sinh x,\cosh x$ の展開はすべての項が同符号(正)なので,打ち消し合いが一切起こらず,$x$ を大きくすればするほど項がどんどん積み上がって,値は際限なく大きくなる.だからこそ,双曲線関数の値域は限りが無いのに対し,三角関数には値域が定められているのである.同じ理由で,$\tan x$ は($\cos x=0$ となる点で)値域が限りないのに対し,$\tanh x$ は値域が $(-1,1)$ に定められている——$\cosh x$ が決して $0$ にならず($\cosh x\ge1$ が常に成り立つことは2.5.4節で示す),かつ $|\sinh x| \lt \cosh x$ となることの帰結である.
2.5.4 双曲線関数の基本恒等式と2倍角の公式
三角関数の $\sin^2x+\cos^2x=1$ に対応する,双曲線関数のもっとも基本的な恒等式を証明する.
定理2.6 双曲線関数の性質
\begin{equation} \cosh^2x-\sinh^2x=1, \qquad \sinh2x=2\sinh x\cosh x, \qquad \cosh2x=\cosh^2x+\sinh^2x \label{eq:2-hyp-basic} \end{equation}証明:$\cosh^2x-\sinh^2x=1$(定義から直接計算)
定義2.2にもとづいて,$\cosh^2x,\sinh^2x$ をそれぞれ2乗の展開公式 $(A\pm B)^2=A^2\pm2AB+B^2$ を使って計算する.
$$ \cosh^2x = \left\{\frac12(e^x+e^{-x})\right\}^2 = \frac14\left(e^{2x}+2\cdot e^x\cdot e^{-x}+e^{-2x}\right) = \frac14(e^{2x}+e^{-2x}+2) $$($e^x\cdot e^{-x}=e^{x-x}=e^0=1$ を使った.)同様に,
$$ \sinh^2x = \left\{\frac12(e^x-e^{-x})\right\}^2 = \frac14\left(e^{2x}-2+e^{-2x}\right) = \frac14(e^{2x}+e^{-2x}-2) $$差をとると,$e^{2x}+e^{-2x}$ の部分が打ち消し合って,
$$ \cosh^2x-\sinh^2x = \frac14\left\{(e^{2x}+e^{-2x}+2)-(e^{2x}+e^{-2x}-2)\right\} = \frac14\times4 = 1 $$ $$ \therefore\ \cosh^2x-\sinh^2x=1 $$別解:加法定理を使う証明
定理2.5の $\cosh(\alpha-\beta)=\cosh\alpha\cosh\beta-\sinh\alpha\sinh\beta$ に $\alpha=\beta=x$ を代入すると,
$$ \cosh(x-x) = \cosh x\cosh x - \sinh x\sinh x = \cosh^2x-\sinh^2x $$一方,左辺は $\cosh(x-x)=\cosh0=\dfrac{e^0+e^0}{2}=\dfrac{1+1}{2}=1$ である.よって,
$$ \cosh^2x-\sinh^2x = \cosh0 = 1 \qquad\therefore\ \cosh^2x-\sinh^2x=1 $$(加法定理をすでに証明してあれば,定義に戻って計算し直すよりもこちらのほうが速い——三角関数の $\cos(\alpha-\alpha)=1$ から $\cos^2x+\sin^2x=1$ を導くのとまったく同じ発想である.)
証明:$\sinh2x=2\sinh x\cosh x$
加法定理(定理2.5)に $\alpha=\beta=x$ を代入する.
$$ \sinh(x+x) = \sinh x\cosh x+\cosh x\sinh x = 2\sinh x\cosh x $$左辺は $\sinh(x+x)=\sinh2x$ だから,
$$ \therefore\ \sinh2x = 2\sinh x\cosh x $$(これは双曲線関数の2倍角の公式である——三角関数の $\sin2x=2\sin x\cos x$ に対応する.)
証明:$\cosh2x=\cosh^2x+\sinh^2x$
同じく加法定理に $\alpha=\beta=x$ を代入する.
$$ \cosh(x+x) = \cosh x\cosh x+\sinh x\sinh x = \cosh^2x+\sinh^2x $$左辺は $\cosh(x+x)=\cosh2x$ だから,
$$ \therefore\ \cosh2x = \cosh^2x+\sinh^2x $$(これも双曲線関数の2倍角の公式であり,三角関数の $\cos2x=\cos^2x-\sin^2x$ と比べると,符号が $-$ から $+$ に変わっている点に注意する.2.5.3節で見た「符号がすべて $+$ になる」現象がここにも表れている.)
例題2.9 $\cosh(2)$ の値を定義から近似計算する
$\cosh(2)$ の値を,定義2.2の式から小数点以下4桁まで近似計算せよ($e\approx2.71828$ を使ってよい).
解答 定義2.2より $\cosh(2)=\dfrac{e^2+e^{-2}}{2}$ である.$e\approx2.71828$ より,
$$ e^2 \approx 2.71828^2 \approx 7.38906, \qquad e^{-2} = \frac{1}{e^2} \approx \frac{1}{7.38906} \approx 0.13534 $$これらを代入すると,
$$ \cosh(2) \approx \frac{7.38906+0.13534}{2} = \frac{7.52440}{2} \approx 3.7622 $$(sympy/numpyで $\cosh(2)=3.7621956910836314\ldots$ と検算済み.有効数字4桁で $3.7622$ と一致する.)よって $\cosh(2)\approx3.7622$ である.三角関数の $\cos2\approx-0.416$(ラジアン)とはまったく違う値域にあることに注意しよう——これも2.5.3節で説明した,双曲線関数の値域が限りないことの具体例である.
2.6 逆双曲線関数
高校で $y=\sin x$ の逆関数 $y=\sin^{-1}x$($-1\le x\le1$,$-\frac\pi2\le y\le\frac\pi2$ に制限して定義)を学んだのと同様に,双曲線関数にも逆関数——逆双曲線関数(inverse hyperbolic functions)——を考えることができる.三角関数の逆関数とは違い,双曲線関数の逆関数は,指数関数の逆関数である対数関数 $\ln x$ を使って,きれいな閉じた形で書き表せるという特徴がある.
2.6.1 逆関数が存在するための下準備
逆関数を考える前に,まず3つの双曲線関数がそれぞれどんな範囲で単調(狭義単調増加)になっているかを確認しておく.関数が単調であれば,同じ値を2度取ることがないので,逆関数が矛盾なく定義できる.
| 関数 | 定義域 | 値域 | 単調性 | 偶奇性 |
|---|---|---|---|---|
| $\sinh x$ | $\R$(すべての実数) | $\R$ | $\R$ 全体で狭義単調増加 | 奇関数 |
| $\cosh x$ | $\R$ | $[1,\infty)$ | $\R$ 全体では単調でない($x \lt 0$ で減少,$x \gt 0$ で増加).$[0,\infty)$ に制限すれば単調増加 | 偶関数 |
| $\tanh x$ | $\R$ | $(-1,1)$ | $\R$ 全体で狭義単調増加 | 奇関数 |
$\sinh x,\tanh x$ は奇関数かつ全区間で単調増加なので,$\R$ 全体で逆関数 $\sinh^{-1}x\,(\R\to\R)$,$\tanh^{-1}x\,((-1,1)\to\R)$ がそのまま定義できる.一方,$\cosh x$ は偶関数($\cosh(-x)=\cosh x$)なので,$\R$ 全体では単調ではなく,$x$ と $-x$ が同じ値を持ってしまい,逆関数が1つに定まらない.そこで,高校の $\sin^{-1}x$ と同じように,定義域を $[0,\infty)$($\cosh x$ が単調増加になる範囲)に制限して,$\cosh^{-1}x:[1,\infty)\to[0,\infty)$ を定義するのが標準的な約束である.
2.6.2 $y=\sinh^{-1}x$
定理2.7 $y=\sinh^{-1}x = \ln\!\left(\sqrt{x^2+1}+x\right)$
(すべての実数 $x$ に対して定義される.)
証明
$y=\sinh^{-1}x$ とは,$x=\sinh y$ を $y$ について解いた式のことである.そこでまず,$x$ を $y$ の関数として書き,逆に $y$ を $x$ で表す方針をとる.
$$ y=\sinh^{-1}x \ \Longleftrightarrow\ x=\sinh y $$ここで,$\cosh y=\frac12(e^y+e^{-y})$,$\sinh y=\frac12(e^y-e^{-y})$ の定義から,2つを足すと $e^y$ だけが単独で残ることに注目する.
$$ \cosh y + \sinh y = \frac12(e^y+e^{-y}) + \frac12(e^y-e^{-y}) = e^y $$すなわち $e^y=\cosh y+\sinh y$ である.ここで,2.5.4節で証明した恒等式 $\cosh^2y-\sinh^2y=1$ を $\cosh y=\sqrt{1+\sinh^2y}$($\cosh y$ は常に正なので平方根の符号は $+$ でよい)と変形して代入すると,
$$ e^y = \sqrt{1+\sinh^2y}+\sinh y $$いま $x=\sinh y$ とおいていたのだから,これはそのまま
$$ e^y = \sqrt{1+x^2}+x $$と書き直せる.両辺の自然対数をとると($\sqrt{1+x^2}+x$ は常に正なので対数が取れる:$\sqrt{1+x^2} \gt |x|\ge-x$ より $\sqrt{1+x^2}+x \gt 0$),
\begin{equation} y = \ln\!\left(\sqrt{x^2+1}+x\right) \label{eq:2-asinh} \end{equation}(証明終わり)
2.6.3 $y=\cosh^{-1}x$
定理2.8 $y=\cosh^{-1}x = \ln\!\left(x+\sqrt{x^2-1}\right)$
($x\ge1$ に対して定義され,主値($y\ge0$ をみたす枝)はこの $+$ の符号をとる.)
証明
$y=\cosh^{-1}x$ とは $x=\cosh y$ を $y$ について解いた式である.2.6.2節と同じく,$e^y=\cosh y+\sinh y$ の関係を使う.今度は $\cosh^2y-\sinh^2y=1$ を $\sinh y=\pm\sqrt{\cosh^2y-1}$ の形に変形して代入する.
$$ e^y = \cosh y+\sinh y = \cosh y\ \pm\sqrt{\cosh^2y-1} $$$x=\cosh y$ とおいていたので,
$$ e^y = x\pm\sqrt{x^2-1} $$両辺の自然対数をとると,
\begin{equation} y = \ln\!\left(x\pm\sqrt{x^2-1}\right) \label{eq:2-acosh} \end{equation}注意:$\pm$ の符号はどちらを取るべきか
表2.1で確認したように,$\cosh x$ は偶関数なので $\R$ 全体では単調ではなく,逆関数を1つに定めるには定義域を $y\ge0$($\cosh y$ が単調増加になる範囲)に制限する必要がある.この制限のもとでは $\sinh y\ge0$($y\ge0$ のとき $\sinh y=\frac12(e^y-e^{-y})\ge0$)なので,$\sinh y=+\sqrt{\cosh^2y-1}$ と,符号は $+$ に定まる.したがって,主値としての逆双曲線余弦関数は
$$ \cosh^{-1}x = \ln\!\left(x+\sqrt{x^2-1}\right) \qquad(x\ge1) $$と,$+$ の符号だけを使う.(もし $y\le0$ の枝を選べば $-$ の符号になり,$\ln(x-\sqrt{x^2-1})=-\ln(x+\sqrt{x^2-1})$(分母の有理化で確認できる)となって,符号違いの $y$ が得られる——$\cosh$ が偶関数であることの反映である.)
2.6.4 $y=\tanh^{-1}x$
定理2.9 $y=\tanh^{-1}x = \dfrac12\ln\!\left(\dfrac{1+x}{1-x}\right)$
($-1 \lt x \lt 1$ に対して定義される.)
証明
$y=\tanh^{-1}x$ とは $x=\tanh y$ を $y$ について解いた式である.定義2.2の $\tanh y=\dfrac{e^y-e^{-y}}{e^y+e^{-y}}$ を使うと,
$$ x = \frac{e^y-e^{-y}}{e^y+e^{-y}} $$両辺に $(e^y+e^{-y})$ を掛けて分母を払うと,
$$ x(e^y+e^{-y}) = e^y-e^{-y} $$$e^y$ の項どうし,$e^{-y}$ の項どうしをそれぞれ左辺・右辺に集めるよう整理する($xe^y-e^y$ を左辺に,$-e^{-y}-xe^{-y}$ を右辺に移項する)と,
$$ xe^{-y}+e^{-y} = e^y-xe^y \quad\Longrightarrow\quad (x+1)e^{-y} = (1-x)e^{y} $$両辺を $(1-x)e^{-y}$ で割る($-1 \lt x \lt 1$ より $1-x \gt 0$,また $e^{-y} \gt 0$ なので割ってよい)と,
$$ \frac{x+1}{1-x} = \frac{e^y}{e^{-y}} = e^{2y} $$すなわち $e^{2y}=\dfrac{1+x}{1-x}$ である.両辺の平方根をとると($-1 \lt x \lt 1$ より右辺は正なので平方根が取れる),
$$ e^y = \sqrt{\frac{1+x}{1-x}} $$両辺の自然対数をとり,$\ln\sqrt{A}=\frac12\ln A$(対数の性質,高校既習)を使うと,
\begin{equation} y = \ln\sqrt{\frac{1+x}{1-x}} = \frac12\ln\!\left(\frac{1+x}{1-x}\right) \label{eq:2-atanh} \end{equation}(証明終わり)
例題2.10 $\sinh^{-1}(1)$ の値を具体的に求める
定理2.7を使って,$\sinh^{-1}(1)$ の値を $\ln$ を使った具体的な数値の形で求めよ.また,その近似値を小数第4位まで求めよ.
解答 定理2.7の式 $\sinh^{-1}x=\ln(\sqrt{x^2+1}+x)$ に $x=1$ を代入すると,
$$ \sinh^{-1}(1) = \ln\!\left(\sqrt{1^2+1}+1\right) = \ln(\sqrt2+1) $$$\sqrt2\approx1.41421$ だから,$\sqrt2+1\approx2.41421$ であり,
$$ \sinh^{-1}(1) = \ln(\sqrt2+1) \approx \ln(2.41421) \approx 0.8814 $$(sympyで $\ln(\sqrt2+1)=0.881373587\ldots$ と,組み込みの $\operatorname{asinh}(1)$ の値が一致することを検算済み.)検算として,$\sinh(0.8814)$ を計算すると $\frac{e^{0.8814}-e^{-0.8814}}{2}\approx\frac{2.4142-0.4142}{2}=\frac{2.0000}{2}=1.0000$ となり,たしかに元の $x=1$ に戻る.よって $\sinh^{-1}(1)=\ln(\sqrt2+1)\approx0.8814$ である.
2.7 まとめと演習
2.7.1 まとめ
- 基本極限:式 \eqref{eq:2-basic-limits}($\lim_{x\to0}\sin x/x=1$ など3つ)はいずれも単位円の扇形と三角形の面積比較($\sin x\le x\le\tan x$)とはさみうちの原理から得られる.オイラーの公式とド・モアブルの定理から,式 \eqref{eq:2-euler-trig} のように $\sin\theta,\cos\theta$ を複素指数関数で表すこともできる.
- 連続性の定義(定義2.1):$\forall\varepsilon \gt 0,\exists\delta \gt 0\ \text{s.t.}\ 0 \lt |x-a| \lt \delta\Rightarrow|f(x)-f(a)| \lt \varepsilon$.極限の定義とほぼ同じ形だが,極限値が $f(a)$ 自身に一致することまで要求する点が異なる.
- ロルの定理(式 \eqref{eq:2-rolle}):$f(a)=f(b)$ なら $f'(c)=0$ となる $c\in(a,b)$ が存在する.最大値・最小値の定理を使い,$f$ と $f(a)$ の大小で3つに場合分けして証明した.
- 平均値の定理(式 \eqref{eq:2-mvt}):曲線と弦の差関数 $F(x)$ を作ってロルの定理に帰着させる,という技巧で証明した.この「差を取ってロルの定理に帰着させる」技巧は,コーシーの平均値の定理(式 \eqref{eq:2-cauchy-mvt})でも,そして次章以降のテイラーの定理でも繰り返し使われる.
- ロピタルの定理:$\frac00$ 型(式 \eqref{eq:2-lhopital1})はコーシーの平均値の定理に $b=x$ を代入するだけで証明できる.$\frac{\pm\infty}{\pm\infty}$ 型(式 \eqref{eq:2-lhopital2})は,補助点 $b$ を固定してコーシーの平均値の定理を使い,$\varepsilon$-$\delta$論法で丁寧に極限を評価する,本章でもっとも技巧的な証明だった.
- 双曲線関数 $\sinh x=\frac{e^x-e^{-x}}2,\cosh x=\frac{e^x+e^{-x}}2,\tanh x=\frac{\sinh x}{\cosh x}$ の加法定理(式 \eqref{eq:2-sinh-add}〜\eqref{eq:2-tanh-add})は,三角関数の加法定理とまったく同じ形をしている.一方,マクローリン展開の符号(三角関数は交代級数,双曲線関数はすべて正符号)の違いから,双曲線関数の値域が限りないことが説明できた.
- 双曲線関数の基本恒等式(式 \eqref{eq:2-hyp-basic}):$\cosh^2x-\sinh^2x=1$ と2つの2倍角公式.三角関数の $\cos^2x+\sin^2x=1$ に対応するが,符号が違う点に注意する.
- 逆双曲線関数(式 \eqref{eq:2-asinh}〜\eqref{eq:2-atanh}):$\sinh^{-1}x,\cosh^{-1}x,\tanh^{-1}x$ はいずれも $\ln$ を使った閉じた形で書け,導出には「$e^y=\cosh y+\sinh y$」という関係と,恒等式 $\cosh^2y-\sinh^2y=1$ が繰り返し使われた.
2.7.2 演習問題
演習2.1 $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\tan2x}{\sin3x}$ を求める
$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\tan2x}{\sin3x}$ を求めよ.
ヒント:分子・分母をそれぞれ $\dfrac{\tan2x}{2x}\cdot2x$,$\dfrac{\sin3x}{3x}\cdot3x$ の形に分解し,2.1.1,2.1.2の基本極限(式 \eqref{eq:2-basic-limits})に帰着させる.
演習2.2 コーシーの平均値の定理:$f(x)=x^2,\ g(x)=x^3$,区間 $[1,2]$
$f(x)=x^2,\ g(x)=x^3$ に対して,区間 $[1,2]$ でコーシーの平均値の定理(定理2.3)が成り立つことを確かめ,定理の主張する $c$ を実際に求めよ.
ヒント:$g'(x)=3x^2$ は $(1,2)$ で $0$ にならず,$g(1)=1\neq8=g(2)$ なので仮定は満たされる.左辺 $\dfrac{f(2)-f(1)}{g(2)-g(1)}$ を計算し,$\dfrac{f'(c)}{g'(c)}=\dfrac{2c}{3c^2}=\dfrac{2}{3c}$ と等しいとおいて $c$ について解く.
演習2.3 ロピタルの定理:$\displaystyle\lim_{x\to\infty}\frac{\ln x}{x}$
ロピタルの定理を使って,$\displaystyle\lim_{x\to\infty}\frac{\ln x}{x}$ を求めよ.
ヒント:$x\to\infty$ のとき分子 $\ln x\to\infty$,分母 $x\to\infty$ なので,定理2.4(II)($\frac{\pm\infty}{\pm\infty}$ 型)が使える.$(\ln x)'=\dfrac1x$,$(x)'=1$ を使う.
演習2.4 $\tanh(\alpha+\beta)$ の加法定理から $\tanh2\alpha$ を導く
双曲線関数の加法定理(式 \eqref{eq:2-tanh-add})を使って,$\tanh$ の2倍角公式 $\tanh2\alpha=\dfrac{2\tanh\alpha}{1+\tanh^2\alpha}$ を導け.
ヒント:加法定理に $\beta=\alpha$ を代入するだけでよい.$\tanh\alpha\tanh\alpha=\tanh^2\alpha$ に注意する.
演習2.5 $\tanh^2x+\dfrac1{\cosh^2x}=1$ を示す
双曲線関数の基本恒等式 $\cosh^2x-\sinh^2x=1$(式 \eqref{eq:2-hyp-basic})を使って,$\tanh^2x+\dfrac{1}{\cosh^2x}=1$ が成り立つことを示せ.
ヒント:$\cosh^2x-\sinh^2x=1$ の両辺を $\cosh^2x$($\gt 0$)で割ると,$1-\dfrac{\sinh^2x}{\cosh^2x}=\dfrac1{\cosh^2x}$ となる.$\dfrac{\sinh x}{\cosh x}=\tanh x$ を使って左辺を書き換える.
演習2.6 $y=\tanh^{-1}x$ のグラフの概形を選点法で描く
定理2.9の式 $\tanh^{-1}x=\frac12\ln\!\left(\frac{1+x}{1-x}\right)$ を使い,$x=-0.9,-0.5,0,0.5,0.9$ での値を計算し,それをもとに $y=\tanh^{-1}x$($-1 \lt x \lt 1$)のグラフの概形を描け.また,$x\to\pm1$ のときグラフがどうなるかを式から説明せよ.
ヒント:$\tanh^{-1}x$ は $\tanh x$(図2.6)の逆関数なので,$\tanh x$ のグラフを直線 $y=x$ に関して折り返した形になるはずである.$x\to1^-$ のとき $\frac{1+x}{1-x}\to+\infty$,$x\to-1^+$ のとき $\frac{1+x}{1-x}\to0^+$ となることから,$\ln$ の中身がどう振る舞うかを考える.
2.7.3 参考文献
- 望月泰英『数学ノート 微分積分学』(手書き講義ノート).本章の底本.
- 杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会,1980年.
- 高木貞治『解析概論』岩波書店,改訂第3版,1983年.