大学数学 — 目次 第VIII部 常微分方程式 / 第33章

第33章1階常微分方程式の基本解法

第I部で私たちは,関数を微分する技術(第1章〜第4章),多変数関数の微分である偏微分(第6章),そしてその逆操作である積分の技術(第5章,第7章)を身につけた.第VI部・第VII部では,その道具を使って三角関数の重ね合わせ(フーリエ級数・変換)や,複雑な関数を指数関数の積分に変換する仕掛け(ラプラス変換)まで学んできた.実は,ラプラス変換の主要な応用のひとつは,線形微分方程式を代数方程式に化けさせて解くことだった(第31章).しかし,微分方程式そのものを真正面から――変換の力を借りずに――解く方法を,私たちはまだ体系的には学んでいない.本章から始まる第VIII部は,まさにそこに取り組む.

ここで発想の転換が必要になる.中学・高校で「方程式を解く」と言えば,$2x-4=0$ を解いて $x=2$ を得るように,解は数(値)だった.ところが微分方程式(differential equation)とは,未知の関数とその導関数(derivative)を含む方程式のことであり,その解は関数である.たとえば $\diff yx=2x$ という方程式を解くとは,「微分すると $2x$ になる関数 $y$」をすべて求めることであり,答えは $y=x^2+C$($C$ は任意定数)という関数の集まり(族)になる.「方程式を解く」という同じ言葉が,まったく違うスケールの答えを要求しているのである.この違いに最初は戸惑うかもしれないが,本章を読み終える頃には自然に感じられるはずである.

本章では,微分方程式の基本的な用語と分類(33.1節)を整えたのち,1階の常微分方程式のうち,具体的な手順で厳密に解ける5つの型――変数分離形・同次形・1階線形・ベルヌーイ形・リッカチ形――を順に攻略する.どの型にも共通する精神は,「うまい置き換え(置換)をひとつ見つけて,すでに解ける形に帰着させる」という発想である.この精神は,第34章以降で学ぶ完全微分方程式や2階線形微分方程式にもそのまま受け継がれていく.

この章で学ぶこと
  • 微分方程式の定義と,常微分方程式・偏微分方程式,線形・非線形,同次・非同次による分類(分類の樹形図)
  • 変数分離形 $\diff yx=f(x)g(y)$ の解法——「$\dd x$ と $\dd y$ をくっつける」操作の意味
  • 同次形 $\diff yx=f\left(\dfrac yx\right)$ の解法——置換 $\dfrac yx=t$ で変数分離形に帰着させる
  • 変数分離形の応用 $\diff yx=f(ax+by+c)$ の解法——置換 $ax+by+c=t$ を使う
  • 1階線形微分方程式 $y'+p(x)y=g(x)$ の一般解(general solution)を,定数変化法(variation of parameters)と積分因子法(integrating factor method)の2通りで導出し,さらに「なぜ定数を関数に変えてよいのか」を自分の手で検証する
  • ベルヌーイの微分方程式 $y'+p(x)y=g(x)y^n$ を,置換 $u=y^{1-n}$ で1階線形微分方程式に帰着させる
  • リッカチの微分方程式 $y'+P(x)y^2+Q(x)y+R(x)=0$ を,1つの特殊解(particular solution)が分かっている場合に,置換 $y=y_1+u$ でベルヌーイ形(さらに1階線形)に帰着させる
前提:第1章(極限の厳密な定義と微分の導入:微分係数の定義,ネイピア数 $e$),第3章(初等関数の導関数:指数関数 $(e^x)'=e^x$ と対数関数 $(\ln x)'=1/x$ の微分公式,合成関数の微分),第5章(積分の基本公式と定積分の性質:$\displaystyle\int\frac1x\,\dd x=\ln|x|+C$ など基本的な不定積分公式).高校数学(数学III)の置換積分と,対数の性質($\log_ee^x=x$ など)も使う.
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 常微分方程式』 pp. 1–9.

33.1 微分方程式とは何か(分類と用語)

まず,具体例から入ろう.$\diff yx=2x$ という式を満たす関数 $y=y(x)$ を求めたい.両辺を $x$ で積分すれば $y=x^2+C$($C$ は任意の実数)と分かる.これは1本の関数ではなく,$C$ の値だけ存在する放物線の族である.$C=0,1,-1,2$ のときの4本のグラフを思い浮かべてみるとよい——どれも「頂点の高さ」が違うだけで,同じ形の放物線が上下に並んでいる.このように,未知関数 $y$ とその導関数 $\diff yx$ を含む方程式を解くと,答えは1個の数ではなく,任意定数を含む関数の族になる.これが,冒頭で述べた「微分方程式の解は関数である」ということの具体的な中身である.

定義33.1 微分方程式(differential equation)

未知の関数とその導関数(1階以上)を含む方程式を,微分方程式(differential equation)という.ふつうの方程式(代数方程式など)の解が数値であるのに対し,微分方程式の解は関数である.方程式に現れる導関数の最高階数を,その微分方程式の階数(order)と呼ぶ.たとえば $\diff yx=2x$ は1階,$\dfrac{\dd^2y}{\dd x^2}+y=0$ は2階の微分方程式である.

微分方程式は,登場する関数が何変数の関数かによって,大きく2つに分類される.

定義33.2 常微分方程式と偏微分方程式

未知関数が1変数関数 $y=y(x)$ であり,導関数がすべて $x$ についての常微分 $\diff yx,\dfrac{\dd^2y}{\dd x^2},\dots$ である方程式を,常微分方程式(ordinary differential equation,略して ODE)という.一方,未知関数が2変数以上の関数 $u=u(x,t)$ などであり,導関数が偏微分(partial derivative)$\pdiff ux,\pdiff ut,\dots$ で書かれる方程式を,偏微分方程式(partial differential equation,略して PDE)という.本章から第41章までは常微分方程式を,第IX部(第42章〜第49章)では偏微分方程式(波動方程式やシュレーディンガー方程式など)を扱う.

次に,方程式の中で未知関数 $y$ とその導関数がどのように現れているかに注目する.

定義33.3 線形微分方程式と非線形微分方程式

$n$ 階の常微分方程式が

$$ a_n(x)\frac{\dd^ny}{\dd x^n}+a_{n-1}(x)\frac{\dd^{n-1}y}{\dd x^{n-1}}+\cdots+a_1(x)\diff yx+a_0(x)y=g(x) $$

の形——すなわち,未知関数 $y$ とその導関数 $\diff yx,\dfrac{\dd^2y}{\dd x^2},\dots$ が,互いに掛け合わされることも,2乗されることも,$\sin y$ や $e^y$ のような非線形関数の中に入ることもなく,それぞれ「$x$ だけの関数」を係数として1次式(1乗の形)で現れているとき,線形微分方程式(linear differential equation)という.この条件が崩れている方程式($y^2$,$y\cdot y'$,$\sin y$,$(y')^3$ などを含む)を非線形微分方程式(nonlinear differential equation)という.非線形方程式は一般に解を具体的な式で書き下すことができず,本章で学ぶ手法が使えるのはそのうちの特別な型(変数分離形・同次形・ベルヌーイ形・リッカチ形など)に限られる.

注意:「係数」に $x$ が入っていても線形

線形微分方程式の定義で「1次式」というのは,あくまで未知関数 $y$ とその導関数についての話である.係数 $a_n(x),\dots,a_0(x),g(x)$ の中に $x^2$ や $\sin x$,$e^x$ が入っていても構わない.たとえば $x^2y''+(\sin x)y'-y=e^x$ は($y,y',y''$ について1次式なので)線形である.一方 $y''+y^2=0$ や $yy'=x$ は,$y$ どうし・$y'$ どうしが掛け合わされているので非線形である.

線形微分方程式のうち,右辺の $g(x)$($y,y',\dots$ を一切含まない「外から加わる項」)の有無によって,もう一段階の分類がある.

定義33.4 同次形・非同次形の線形微分方程式

線形微分方程式 $a_n(x)y^{(n)}+\cdots+a_0(x)y=g(x)$ において,$g(x)\equiv0$(恒等的に $0$)のとき同次(homogeneous,斉次とも書く),$g(x)\not\equiv0$ のとき非同次(inhomogeneous,非斉次とも書く)であるという.同次の場合,$y\equiv0$($x$ によらず常に $0$)は明らかに方程式を満たすので,これを自明な解(trivial solution)と呼ぶ.非同次方程式を解く際には,$g(x)$ を $0$ に置き換えて得られる同次方程式のことを同伴方程式(associated homogeneous equation)と呼び,33.3節以降で重要な役割を果たす.

常微分方程式・偏微分方程式のどちらについても,線形なものはさらに同次・非同次に分かれる(非線形の場合はこの分類を使わない).この関係を樹形図に整理すると,図33.1のようになる.

微分方程式の分類の樹形図 微分方程式 常微分方程式 偏微分方程式 線形 非線形 線形 非線形 同次 非同次 同次 非同次 (ODE) (PDE) g≡0 g≢0
図33.1 微分方程式の分類の樹形図.線形・非線形の分岐は常微分方程式・偏微分方程式のどちらの側にもあるが,同次・非同次の分岐は線形の側にしかない.

なぜ?:$g\equiv0$ の$\equiv$(恒等的に等しい)記号

図中の $g\equiv0$ は「$g(x)$ がすべての $x$ で $0$」という意味である.$\equiv$(合同記号,identically equal)は,特定の $x$ でたまたま $0$ になる(例えば $g(x)=\sin x$ は $x=0,\pi,2\pi,\dots$ で $0$ になる)のではなく,関数として恒等的に $0$ であることを強調する記号である.本書では,紛れのない場面では単に $g(x)=0$ とも書く.

例題33.1 微分方程式の分類

次の微分方程式を,常微分方程式/偏微分方程式,線形/非線形,(線形なら)同次/非同次に分類せよ.

(a) $y''+xy'=\sin x$  (b) $xy'-y=x^2$  (c) $\pdiff ut=\pdiff{^2u}{x^2}$  (d) $y'=y^2+x$

解答 (a) 未知関数 $y$ は1変数関数 $y(x)$ なので常微分方程式.$y,y',y''$ について1次式($y''$ の係数は $1$,$y'$ の係数は $x$,右辺 $\sin x$ は $y$ を含まない)なので線形.右辺 $g(x)=\sin x\not\equiv0$ なので非同次である.

(b) 常微分方程式.$xy'-y=x^2$ は $y,y'$ について1次式(係数はそれぞれ $x,-1$)なので線形.右辺 $g(x)=x^2\not\equiv0$ なので非同次である.

(c) 未知関数 $u$ が2変数関数 $u(x,t)$ であり,偏微分 $\pdiff ut,\pdiff{^2u}{x^2}$ を含むので偏微分方程式(これは第43章で学ぶ熱伝導方程式そのものである).$u,\pdiff ut,\pdiff{^2u}{x^2}$ について1次式なので線形.右辺を $\pdiff ut-\pdiff{^2u}{x^2}=0$ と移項すればすべての項に $u$ かその導関数が含まれ,$u$ を含まない項($g$ にあたるもの)が存在しないので同次である.

(d) 常微分方程式.右辺に $y^2$($y$ の2乗)があるので非線形である.非線形方程式には同次・非同次の分類そのものを使わない.

以上で必要な用語がそろった.次節からは,1階・常・(多くは非線形の混じった)微分方程式のうち,具体的な手順で厳密に解ける5つの型を順に見ていく.

33.2 変数分離形と同次形

これから5回,同じパターンを繰り返す:与えられた微分方程式を眺め,うまい置き換えをひとつ見つけて,「変数分離形」と呼ばれる最も基本的な型に帰着させる.そこでまず,その変数分離形そのものから始めよう.

33.2.1 変数分離形

1階常微分方程式 $\diff yx=f(x)g(y)$ のように,右辺が「$x$ だけの関数」と「$y$ だけの関数」の積に分かれているとき,これを変数分離形(separable equation)という.

公式33.1 変数分離形の解法

\begin{equation} \diff yx=f(x)\,g(y) \qquad (g(y)\neq0) \label{eq:33-separable-form} \end{equation}

の一般解は,両辺を $g(y)$ で割ってから $x$ について積分することで,次の形で得られる.

\begin{equation} \int\frac{1}{g(y)}\,\dd y=\int f(x)\,\dd x \label{eq:33-separable-general} \end{equation}

導出

$g(y)\neq0$ の範囲で両辺を $g(y)$ で割ると,

$$ \frac{1}{g(y)}\diff yx=f(x) $$

となる.ここで,$x$ についての関数 $f(x)$ は $\dd x$ と,$y$ についての関数 $\dfrac{1}{g(y)}$ は $\dd y$ とくっつけて書き,

$$ f(x)\,\dd x=\frac{1}{g(y)}\,\dd y $$

のように「$x$ の仲間」と「$y$ の仲間」を左右に分ける(これが「変数分離」という名前の由来である).両辺に $\displaystyle\int$ をつけると,公式\eqref{eq:33-separable-general}を得る.

なぜ?:$\dd x$ と $\dd y$ を「くっつけて」よい理由

$\diff yx$ はライプニッツ(Leibniz)の記法で,本来は「$x$ の微小変化 $\dd x$ に対する $y$ の微小変化 $\dd y$ の比の極限」というひとつの記号であり,分数のように $\dd y$ と $\dd x$ をばらばらに引き離してよい保証はどこにもない.しかし,上の操作は次のように厳密に正当化できる.$y=y(x)$ を方程式の解とし,両辺を $x$ で積分する.

$$ \int\frac{1}{g(y(x))}\diff yx\,\dd x=\int f(x)\,\dd x $$

左辺は,$u=y(x)$ という置換積分(高校数学既習)そのものである.$\dd u=\diff yx\,\dd x$ なので,左辺は $\displaystyle\int\frac{1}{g(u)}\,\dd u=\int\frac{1}{g(y)}\,\dd y$ に等しい.つまり,「$\dd x$ と $\dd y$ をくっつけて移項する」という形式的な操作は,実は置換積分を先取りして書いているだけであり,きちんと正当化された計算なのである.以後は本書でもこの略記を遠慮なく使う.

注意:積分定数はどちらか一方につければよい

公式\eqref{eq:33-separable-general}の両辺にはそれぞれ積分定数が現れるはずだが(左辺に $C_1$,右辺に $C_2$),移項すれば $C=C_2-C_1$ という1つの任意定数にまとめられる.そこで実務上は,最初から片方(多くは変数分離した式を積分した側,あるいは最後にまとめて)にだけ $+C$ を書けばよい.

例題33.2 変数分離形の初期値問題

微分方程式 $\diff yx=\dfrac xy$($y\neq0$)を,初期条件 $y(0)=1$ のもとで解け.

解答 右辺は $f(x)=x$,$g(y)=\dfrac1y$ の積 $f(x)g(y)$ の形($g(y)=1/y$ とみて $\diff yx=x\cdot\dfrac1y$)ではなく,そのまま $y\,\diff yx=x$ と変形するほうが見通しがよい.両辺に $y$ を掛けて

$$ y\,\dd y=x\,\dd x $$

とし,両辺に $\displaystyle\int$ をつける.

$$ \int y\,\dd y=\int x\,\dd x \quad\Longrightarrow\quad \frac{y^2}{2}=\frac{x^2}{2}+C_1 $$

両辺を2倍し,$2C_1=C$ とおくと $y^2=x^2+C$.初期条件 $y(0)=1$ を代入すると $1=0+C$ より $C=1$.よって

$$ y^2=x^2+1 \quad\Longrightarrow\quad y=\sqrt{x^2+1} $$

($y(0)=1\gt0$ なので正の平方根を選んだ).念のため検算すると,$\diff yx=\dfrac{x}{\sqrt{x^2+1}}=\dfrac xy$ となり,たしかに方程式を満たす.この解のグラフは,双曲線 $y^2-x^2=1$ の上半分($x$ 軸上の2点 $(0,\pm1)$ を通らない方の枝)である.

例題33.2の解曲線 y=ルート(x^2+1) と,方程式dy/dx=x/yが定める傾き場を重ねた図.曲線はy軸上の点(0,1)を頂点とする上に開いた双曲線の枝であり,傾き場の短い線分は各点でその曲線の接線方向と一致している
図33.2 例題33.2の解曲線 $y=\sqrt{x^2+1}$(太線)と,方程式 $\diff yx=\dfrac xy$ が定める傾き場(細い線分).どの点でも短い線分の傾きが,そこを通る解曲線の接線の傾きと一致している.

33.2.2 同次形

次に,右辺が $x$ と $y$ の比 $\dfrac yx$ だけの関数になっている場合を考える.

定義33.5 同次形の微分方程式

1階常微分方程式が

\begin{equation} \diff yx=f\left(\frac yx\right) \label{eq:33-homogeneous-form} \end{equation}

の形に書けるとき,これを同次形(homogeneous equation)の微分方程式という.

注意:「同次」という言葉の2つの意味

ここで使う「同次形」という言葉は,33.1節(定義33.4)で学んだ「線形微分方程式の同次・非同次」とは別の意味である.定義33.4の同次性は「右辺 $g(x)$ が $0$ かどうか」という線形方程式についての性質だったが,ここでの同次形は「右辺が $y/x$ という比だけで書けるかどうか」という(多くは非線形な)1階方程式についての性質である.英語ではどちらも homogeneous と呼ぶため紛らわしいが,数学ノートも含め伝統的にどちらも「同次」と呼ぶ.文脈でどちらの意味か判断する必要がある.

右辺 $f(x,y)=f(y/x)$ は $x,y$ の2変数関数に見えるが,実際には $y/x$ という1つの量だけに依存している.この量が幾何学的に何を意味するかを考えると,自然な置換が見えてくる.

イメージ:$y/x$ は原点から見た方向

平面上の点 $(x,y)$($x\neq0$)に対して,比 $t=y/x$ は原点とその点を結ぶ直線の傾きである.図33.3のように,原点を通る1本の直線(レイ)上には,$(x,y)$ と $(2x,2y)$ のように長さの違う点がいくつも乗っているが,そのどれについても $y/x$ の値は同じ $t$ である.同次形の方程式 $\diff yx=f(y/x)$ は「その点がどのレイの上にあるか(=$t$ の値)だけで,そこでの解曲線の傾きが決まる」という方程式なので,$t=y/x$ を新しい未知関数として扱うのが自然である.

原点を通る傾きの異なる6本のレイ(直線)を描いた図.同じレイの上では2つの点をとってもy/xの値(傾きt)が等しいことを示すため,1本のレイの上に2つの点を描き,どちらも同じtの値であることを示す注記を添えている
図33.3 原点を通るレイの上では,$y/x=t$ の値が一定である.同じレイ上の2点 $(x,y)$ と $(2x,2y)$ はどちらも $t=0.6$ を与える.

導出:同次形を変数分離形に帰着させる

$\dfrac yx=t$,すなわち $y=xt$ とおく.$t$ はこれから $x$ の関数として決まる新しい未知関数である.両辺を $x$ で微分すると,右辺は積の微分公式($x$ と $t(x)$ の積)より,

$$ \diff yx=\diff{}{x}(xt)=1\cdot t+x\cdot\diff tx=xt'+t $$

($t'=\diff tx$ と略記した).一方,方程式の右辺は $f(y/x)=f(t)$ である.両辺を比べると

$$ xt'+t=f(t) $$

を得る.$t$ を左辺に残し,

$$ x\diff tx=f(t)-t $$

と整理すれば,これはもう $t$ と $x$ の変数分離形である.$f(t)-t\neq0$ の範囲で両辺を $x\{f(t)-t\}$ で割り,

$$ \frac{1}{f(t)-t}\,\dd t=\frac1x\,\dd x $$

として両辺に $\displaystyle\int$ をつけると,

\begin{equation} \int\frac1x\,\dd x=\int\frac{1}{f(t)-t}\,\dd t \label{eq:33-homogeneous-general} \end{equation}

を得る.左辺を計算すれば $\ln|x|$(+ 積分定数)になるので,あとは右辺の積分が実行できれば $t$ が $x$ の関数として求まり,最後に $y=xt$ を代入して元の変数 $y$ に戻す.

例題33.3 同次形の微分方程式

微分方程式 $\diff yx=\dfrac{x+y}{x}$($x\gt0$)を解け.

解答 右辺を $\dfrac{x+y}{x}=1+\dfrac yx$ と変形すると,$f(t)=1+t$ の同次形であると分かる.$y=xt$ とおくと,公式の導出と同じく $\diff yx=xt'+t$ であり,方程式は

$$ xt'+t=1+t \quad\Longrightarrow\quad xt'=1 \quad\Longrightarrow\quad x\diff tx=1 $$

となる.変数分離形に直し,

$$ \dd t=\frac1x\,\dd x \quad\Longrightarrow\quad \int\dd t=\int\frac1x\,\dd x \quad\Longrightarrow\quad t=\ln x+C $$

($x\gt0$ なので $\ln|x|=\ln x$ とした).$t=y/x$ を戻すと,

$$ \frac yx=\ln x+C \quad\Longrightarrow\quad y=x(\ln x+C) $$

を得る.検算:$\diff yx=(\ln x+C)+x\cdot\dfrac1x=\ln x+C+1$.一方 $\dfrac{x+y}{x}=1+\dfrac yx=1+\ln x+C$.両者は一致する.

33.2.3 変数分離形の応用——$\diff yx=f(ax+by+c)$ 型

もう1つ,別の形の置換で変数分離形に帰着できる型がある.右辺が $x,y$ の1次式の関数になっている場合である.

定義33.6 $\diff yx=f(ax+by+c)$ 型

$a,b,c$ を定数($b\neq0$)として,

\begin{equation} \diff yx=f(ax+by+c) \label{eq:33-application-form} \end{equation}

の形の方程式を考える.同次形(定義33.5)が「$y/x$ という比」だけに依存する方程式だったのに対し,これは「$ax+by+c$ という1次結合」だけに依存する方程式である.

導出

$t=ax+by+c$ とおく.$t$ を $x$ で微分すると,$y$ が $x$ の関数であることに注意して(合成関数の微分),

$$ t'=a+b\,\diff yx \qquad\cdots① \qquad\left(\text{よって}\ \diff tx-a=b\diff yx\right) $$

一方,方程式より $\diff yx=f(ax+by+c)=f(t)$ なので,① の $b\diff yx$ の部分に代入すると,

$$ b\diff yx=b\,f(t) \qquad\cdots② $$

①と②はどちらも $b\diff yx$ を表しているので,右辺どうしが等しい:

$$ b\,f(t)=\diff tx-a \quad\Longrightarrow\quad \diff tx=b\,f(t)+a $$

これで $t$ だけの変数分離形になった.$bf(t)+a\neq0$ の範囲で両辺を $bf(t)+a$ で割り,両辺に $\displaystyle\int$ をつけると,

\begin{equation} \int\dd x=\int\frac{1}{bf(t)+a}\,\dd t \label{eq:33-application-general} \end{equation}

を得る.左辺は単に $x+C$ である.右辺の積分が実行できれば $t$ が $x$ の関数として求まり,$t=ax+by+c$ を $y$ について解けば元の変数に戻る.

例題33.4 $\diff yx=f(ax+by+c)$ 型の微分方程式

微分方程式 $\diff yx=(x+y+1)^2$ を解け.

解答 $a=1,b=1,c=1$,$f(t)=t^2$ の場合にあたる.$t=x+y+1$ とおくと,$\diff tx=1+\diff yx$ であり,$\diff yx=(x+y+1)^2=t^2$ を代入して

$$ \diff tx=1+t^2 $$

変数分離形にする.$1+t^2\neq0$(つねに成り立つ)なので両辺を $1+t^2$ で割り,

$$ \frac{1}{1+t^2}\,\dd t=\dd x \quad\Longrightarrow\quad \int\frac{1}{1+t^2}\,\dd t=\int\dd x $$

左辺は逆正接関数($\tan^{-1}$,第3章の逆三角関数の微分公式の逆演算)の積分公式 $\displaystyle\int\frac{1}{1+t^2}\dd t=\tan^{-1}t+C_1$ そのものである.よって

$$ \tan^{-1}t=x+C \quad\Longrightarrow\quad t=\tan(x+C) $$

$t=x+y+1$ を戻すと,

$$ x+y+1=\tan(x+C) \quad\Longrightarrow\quad y=\tan(x+C)-x-1 $$

を得る.検算のために,正割(secant)$\sec\theta:=\dfrac1{\cos\theta}$ という記号を導入しておく.恒等式 $\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$ の両辺を $\cos^2\theta$($\neq0$)で割ると $\tan^2\theta+1=\sec^2\theta$,すなわち $\sec^2\theta=1+\tan^2\theta$ が成り立つ.これを用いると(検算:$\diff yx=\sec^2(x+C)-1=\{1+\tan^2(x+C)\}-1=\tan^2(x+C)=(x+y+1)^2$,一致する).

応用:3つの置換の使い分け

ここまでの3つの型は,いずれも「解けない形」を「うまい1変数への置換」で変数分離形(公式33.1)に落とし込むという共通の発想でできている.右辺が $x,y$ の比だけの関数なら $t=y/x$(同次形),右辺が $x,y$ の1次結合だけの関数なら $t=ax+by+c$(本節の型)を試すとよい.どちらでもない場合は,次節以降で学ぶ線形・ベルヌーイ・リッカチの型に当てはまらないか確認する,という流れになる.

33.3 1階線形微分方程式(定数変化法)

ここまでの3つの型は,どれも「うまい置換をひとつ見つけて変数分離形に帰着させる」という発想だった.本節から2節にわたって扱う1階線形微分方程式は,置換ではなくもうひとつ別の道具——定数変化法(variation of parameters,「定数変化法」は文字どおり定数を変化させる方法という意味の訳語)——で解く,きわめて応用範囲の広い型である.次章以降の2階・高階の線形微分方程式も,この考え方の延長線上にある.

定義33.7 1階線形微分方程式の標準形

$p(x),g(x)$ を(考えている区間で)連続な既知の関数として,

\begin{equation} \diff yx+p(x)y=g(x) \label{eq:33-linear-form} \end{equation}

の形の方程式を1階線形微分方程式という.これは定義33.3・定義33.4の一般形 $a_n(x)y^{(n)}+\cdots+a_0(x)y=g(x)$ で,$n=1$,$a_1(x)=1$(両辺を割ってこう正規化できる),$a_0(x)=p(x)$ とした場合にほかならない.$g(x)\not\equiv0$ のとき非同次,$g(x)\equiv0$ のとき同次であり,同次の場合の方程式 $\diff yx+p(x)y=0$ を,非同次方程式 \eqref{eq:33-linear-form} の同伴方程式(定義33.4)と呼ぶのだった.

非同次方程式 \eqref{eq:33-linear-form} を解く方針は,次の2段階である.[1] まず同伴方程式 $\diff yx+p(x)y=0$ を解く(これは変数分離形なので33.2.1節の方法がそのまま使える).[2] その解に現れる任意定数 $C$ を,$x$ の関数 $u(x)$ に置き換えて(定数変化法),非同次方程式の解を探す.驚くべきことに,この2段階だけで一般解が完全に求まる.

33.3.1 同伴方程式を解く

導出 [1] 同伴方程式 $y'+p(x)y=0$ を解く

$g(x)\equiv0$ の場合,方程式は $\diff yx=-p(x)y$ であり,これは $f(x)=-p(x)$,$g(y)=y$ とした変数分離形(公式33.1)である.$y\neq0$ の範囲で両辺を $y$ で割ると,

$$ \frac1y\,\dd y=-p(x)\,\dd x $$

両辺に $\displaystyle\int$ をつけ,右辺の積分定数を $C_1$ として,

$$ \int\frac1y\,\dd y=-\int p(x)\,\dd x+C_1 $$

左辺は $\ln|y|$ の定義そのもの($\dfrac{\dd}{\dd y}\ln|y|=\dfrac1y$ の逆演算)である.ここで右辺を指数の形に直したい.$\ln e=1$ なので,一般に $k\ln e=\ln e^k$(対数の性質 $a\ln b=\ln b^a$)が成り立つことを使うと,

$$ \ln|y|=\Bigl(-\int p(x)\,\dd x+C_1\Bigr)\ln e=\ln\Bigl(e^{-\int p(x)\,\dd x+C_1}\Bigr) $$

と書き直せる.対数関数 $\ln$ は単調増加(狭義単調,第3章)なので $\ln A=\ln B\iff A=B$ が成り立ち,

$$ |y|=e^{-\int p(x)\,\dd x+C_1}=e^{C_1}\cdot e^{-\int p(x)\,\dd x} $$

(指数法則 $e^{a+b}=e^a e^b$ を使った).絶対値をはずすと $y=\pm e^{C_1}e^{-\int p(x)\,\dd x}$ となるので,$\pm e^{C_1}=C$ とおく.

\begin{equation} y=Ce^{-\int p(x)\,\dd x} \label{eq:33-linear-homog-general} \end{equation}

注意:$C$ は $0$ を含む任意の実数でよい

上の議論では $y\neq0$ を仮定して両辺を $y$ で割ったので,$\pm e^{C_1}$ は本来 $0$ にはなり得ない.しかし $y\equiv0$(すべての $x$ で $y=0$)も方程式 $y'+p(x)y=0$ を明らかに満たしており(定義33.4の「自明な解」),これは式\eqref{eq:33-linear-homog-general}に $C=0$ を代入した場合に一致する.そこで実務上は,最初から「$C$ は任意の実数($0$ を含む)」として式\eqref{eq:33-linear-homog-general}を同伴方程式の一般解と呼ぶ.

33.3.2 定数変化法

式\eqref{eq:33-linear-homog-general}は同伴方程式 $g(x)\equiv0$ の解にすぎない.非同次方程式($g(x)\not\equiv0$)を解くには,ここで定数変化法(variation of parameters/variation of constants)という発想の転換を行う.すなわち,式\eqref{eq:33-linear-homog-general}の任意定数 $C$ を,$x$ に依存してもよい未知関数 $u(x)$ に置き換えて,

$$ y=u(x)\,e^{-\int p(x)\,\dd x} $$

という形の関数が非同次方程式\eqref{eq:33-linear-form}を満たすように,$u(x)$ をうまく決められないか探ってみる.

導出 [2] 定数変化法

$y=u(x)e^{-\int p(x)\dd x}$ を $x$ で微分する.右辺は「$u(x)$ と $e^{-\int p(x)\dd x}$ の積」なので積の微分公式を使い,さらに $\dfrac{\dd}{\dd x}e^{-\int p(x)\dd x}=e^{-\int p(x)\dd x}\cdot(-p(x))$(合成関数の微分:$\dfrac{\dd}{\dd x}\Bigl(-\!\int p(x)\dd x\Bigr)=-p(x)$ は微分積分学の基本定理そのもの)に注意すると,

\begin{equation} y'=u'(x)\,e^{-\int p(x)\dd x}+u(x)\cdot\Bigl(-p(x)\Bigr)e^{-\int p(x)\dd x} \label{eq:33-linear-product-rule} \end{equation}

これを $y'+p(x)y$ に代入する.

$$ y'+p(x)y=\underbrace{u'(x)e^{-\int p\,\dd x}}_{\text{新しい項}}\ \underbrace{-\,u(x)p(x)e^{-\int p\,\dd x}}_{(\ast)}\ +\ \underbrace{p(x)u(x)e^{-\int p\,\dd x}}_{(\ast\ast)} $$

$(\ast)$ と $(\ast\ast)$ は符号だけが逆で絶対値が等しい項なので,たがいに打ち消し合って $0$ になる.残るのは最初の項だけである.

$$ y'+p(x)y=u'(x)\,e^{-\int p(x)\,\dd x} $$

これが $g(x)$ に等しくなればよいのだから,

\begin{equation} u'(x)\,e^{-\int p(x)\,\dd x}=g(x) \label{eq:33-linear-u-ode} \end{equation}

を得る.両辺に $e^{\int p(x)\dd x}$ をかけ($e^{-\int p\dd x}\cdot e^{\int p\dd x}=e^0=1$ を使う),

$$ u'(x)=g(x)\,e^{\int p(x)\,\dd x} \quad\Longrightarrow\quad \dd u=g(x)e^{\int p(x)\dd x}\,\dd x $$

これはもう $u$ について積分するだけでよい(右辺は $x$ だけの関数なので,変数分離の最も単純な場合である).両辺に $\displaystyle\int$ をつけると,

$$ u(x)=\int g(x)\,e^{\int p(x)\,\dd x}\,\dd x+C $$

$y=u(x)e^{-\int p(x)\dd x}$ にこれを戻せば,一般解が得られる.

公式33.2 1階線形微分方程式の一般解

1階線形微分方程式 $\diff yx+p(x)y=g(x)$ の一般解は,

\begin{equation} y=e^{-\int p(x)\,\dd x}\left\{\int g(x)\,e^{\int p(x)\,\dd x}\,\dd x+C\right\} \label{eq:33-linear-general} \end{equation}

で与えられる($C$ は任意定数).

イメージ:なぜ「定数」を「変化」させてよいのか

一見,同伴方程式の解 $y=Ce^{-\int p\dd x}$ の $C$ を勝手に関数に取り替えるのは強引に見えるかもしれない.しかし,やっていることは「$y$ を $e^{-\int p\dd x}$ で割った量 $u(x):=y\,e^{\int p\dd x}$ を新しい未知関数とみて,方程式を $u(x)$ についての方程式に書き換える」という座標変換にすぎない.$u(x)$ が定数になるとは限らないのは当然で,むしろ $u(x)$ がどう $x$ に依存するかを決定する式\eqref{eq:33-linear-u-ode}こそが,元の非同次方程式の情報をそのまま引き継いでいる.この「妥当性」については,33.4.2項でさらに詳しく検証する.

例題33.5 定数変化法による1階線形微分方程式の求解

微分方程式 $\diff yx+2y=e^{-x}$ を,定数変化法を用いて解け.

解答 $p(x)=2$,$g(x)=e^{-x}$ の場合にあたる.まず同伴方程式 $y'+2y=0$ を解く.$\displaystyle\int p(x)\dd x=\int2\,\dd x=2x$ なので,公式\eqref{eq:33-linear-homog-general}より一般解は $y=Ce^{-2x}$.次に $C$ を $u(x)$ に置き換え,$y=u(x)e^{-2x}$ とおく.公式\eqref{eq:33-linear-u-ode}の考え方(あるいは直接,公式33.2)を使うと,

$$ u'(x)=g(x)e^{\int p\,\dd x}=e^{-x}\cdot e^{2x}=e^{x} $$

両辺を積分して $u(x)=e^{x}+C$.よって,

$$ y=u(x)e^{-2x}=(e^{x}+C)e^{-2x}=e^{-x}+Ce^{-2x} $$

を得る.検算:$y'=-e^{-x}-2Ce^{-2x}$ であり,$y'+2y=(-e^{-x}-2Ce^{-2x})+2(e^{-x}+Ce^{-2x})=(-1+2)e^{-x}+(-2C+2C)e^{-2x}=e^{-x}$.たしかに元の方程式を満たす.

例題33.5の解 y=e^{-x}+Ce^{-2x} を,C=-2,-1,0,1,2 の5本描いた図.すべての曲線がxが大きくなるにつれてy=0(x軸)に漸近して1本に収束していく様子を示す
図33.4 例題33.5・33.6の一般解 $y=e^{-x}+Ce^{-2x}$($C=-2,-1,0,1,2$).$C=0$(太線)が特殊解 $y=e^{-x}$,それ以外は同伴方程式の一般解 $Ce^{-2x}$ の分だけずれた曲線である.$x\to\infty$ でどの曲線も $e^{-2x}\to0$ となるため $y\to0$ に漸近し,5本の曲線が右側で1本に収束していくように見える.

33.4 1階線形微分方程式(積分因子法)と定数変化法の妥当性

公式33.2は定数変化法という1つの道筋で導いたが,実は同じ結論に至るまったく別の道筋がある.本節ではまずその別解法——積分因子法(integrating factor method)——を紹介し,同じ公式33.2に一致することを確かめる.そのあとで,定数変化法という発想がなぜ正当化されるのか(なぜ「たまたま」うまくいったのではないのか)を,もう一段掘り下げて検証する.

33.4.1 積分因子法

イメージ:「積の微分」を逆手に取る

方程式 $y'+p(x)y=g(x)$ の左辺 $y'+p(x)y$ は,$y$ と何らかの関数 $h(x)$ の積 $y\cdot h(x)$ を微分した形 $(y\cdot h)'=y'h+yh'$ に,うまく$h(x)$を選べば一致するのではないか——という発想である.もし一致すれば,左辺はまるごと $(y\cdot h)'$ という1つの導関数になり,あとは両辺を積分するだけで解ける.この$h(x)$を積分因子(integrating factor)と呼ぶ.次章(完全微分方程式)でも同じ名前の道具が別の文脈で登場するので,覚えておくとよい.

注意:これから使う記号

以下で $y$ は(これから求めたい)方程式の一般解,$h(x)$ はこれから決める未知関数(積分因子の候補)である.$p(x),g(x)$ は方程式\eqref{eq:33-linear-form}に与えられた既知の関数のままである.

導出:積分因子法

まず,任意の関数 $y=y(x)$,$h=h(x)$ の積 $y\cdot h$ を微分すると,積の微分公式より

\begin{equation} (y\cdot h)'=y'\cdot h(x)+y\cdot h'(x) \label{eq:33-linear-if-product} \end{equation}

である.次に,方程式\eqref{eq:33-linear-form}の両辺に $h(x)$ をかけてみる.

\begin{equation} y'\cdot h(x)+y\cdot p(x)\cdot h(x)=g(x)\cdot h(x) \label{eq:33-linear-if-times-h} \end{equation}

式\eqref{eq:33-linear-if-product}の右辺と式\eqref{eq:33-linear-if-times-h}の左辺を見比べると,どちらも第1項は $y'h(x)$ で共通である.したがって,もし

\begin{equation} p(x)h(x)=h'(x) \label{eq:33-linear-if-condition} \end{equation}

という条件を $h(x)$ が満たしていれば,式\eqref{eq:33-linear-if-product}の右辺と式\eqref{eq:33-linear-if-times-h}の左辺は完全に一致する.すなわち $(y\cdot h)'=g(x)h(x)$ となり,左辺が1つの導関数にまとまる.そこで,この条件\eqref{eq:33-linear-if-condition}を満たす $h(x)$ を実際に求めよう.式\eqref{eq:33-linear-if-condition}を $h(x)$($h(x)\neq0$ と仮定する)で割ると,

$$ p(x)=\frac{h'(x)}{h(x)} $$

右辺 $\dfrac{h'(x)}{h(x)}$ は,合成関数の微分によって $\dfrac{\dd}{\dd x}\ln|h(x)|$ に等しい($\ln|h|$ を $h$ の関数とみて連鎖律を適用すると $\dfrac{\dd}{\dd x}\ln|h(x)|=\dfrac{1}{h(x)}\cdot h'(x)$).両辺を $x$ で積分すると,

$$ \int p(x)\,\dd x=\int\frac{h'(x)}{h(x)}\,\dd x=\ln|h(x)| $$

(右辺の積分定数は,あとで $h$ を1つ具体的に選べばよいので省略した.積分因子は「条件\eqref{eq:33-linear-if-condition}を満たす関数を1つ見つければ十分」であり,最も一般的な $h$ を求める必要はない.)両辺を指数の形に直し,絶対値をはずして正の分枝を選べば,

\begin{equation} h(x)=e^{\int p(x)\,\dd x} \label{eq:33-linear-if-h} \end{equation}

を積分因子として採用できる.この $h(x)$ を使うと,$(y\cdot h)'=g(x)h(x)$ であるから,両辺を $x$ で積分して,

$$ y\cdot h(x)=\int g(x)\,h(x)\,\dd x+C $$

両辺を $h(x)$($\neq0$)で割ると,一般解が得られる.

$$ y=\frac{1}{h(x)}\left\{\int g(x)h(x)\,\dd x+C\right\}=e^{-\int p(x)\,\dd x}\left\{\int g(x)\,e^{\int p(x)\,\dd x}\,\dd x+C\right\} $$

なぜ?:積分因子法は定数変化法と同じ公式に一致する

式\eqref{eq:33-linear-if-h}の $h(x)=e^{\int p(x)\dd x}$ を最後の式に代入して得た結果は,公式33.2の $y=e^{-\int p\,\dd x}\{\int g\,e^{\int p\,\dd x}\,\dd x+C\}$ と完全に同じ式である.出発点も計算の道筋もまったく違う(定数変化法は「同伴方程式の解の $C$ を関数にする」,積分因子法は「左辺を1つの導関数にする関数 $h(x)$ を探す」)のに,同じ公式に行き着くのは偶然ではない.実際,$h(x)=e^{\int p\,\dd x}$ は定数変化法で使った $e^{-\int p\,\dd x}$ のちょうど逆数であり,$u(x)=y\,h(x)$ という対応がそのまま両者を結びつけている.

例題33.6 積分因子法による1階線形微分方程式の求解

例題33.5と同じ微分方程式 $\diff yx+2y=e^{-x}$ を,今度は積分因子法で解け.

解答 $p(x)=2$ なので,積分因子は式\eqref{eq:33-linear-if-h}より $h(x)=e^{\int2\,\dd x}=e^{2x}$.方程式の両辺に $h(x)=e^{2x}$ をかけると,

$$ y'e^{2x}+2ye^{2x}=e^{-x}\cdot e^{2x}=e^{x} $$

左辺は,条件\eqref{eq:33-linear-if-condition}($p(x)h(x)=h'(x)$,実際 $2e^{2x}=(e^{2x})'$)が満たされているので,積の導関数 $(y\cdot e^{2x})'$ に一致する.

$$ (y\cdot e^{2x})'=e^{x} $$

両辺を $x$ で積分すると,$y\cdot e^{2x}=e^{x}+C$.両辺を $e^{2x}$ で割って,

$$ y=e^{-2x}(e^{x}+C)=e^{-x}+Ce^{-2x} $$

を得る.これは例題33.5で定数変化法によって得た答えと完全に一致する(図33.4も参照).

33.4.2 定数変化法の妥当性

ここまでで公式33.2を2通りの方法で導いたが,最初に定数変化法を紹介したとき,「同伴方程式の解 $y=Ce^{-\int p\dd x}$ の定数 $C$ を,なぜ関数 $u(x)$ に置き換えてよいのか」という疑問が残ったままだった.この最後の疑問に答えておこう.

検証①:$C$ を本当の定数のまま代入するとどうなるか

もし $C$ を字義どおりの定数とみなし,$y=Ce^{-\int p(x)\dd x}$($C$ は定数)をそのまま非同次方程式 $y'+p(x)y=g(x)$ の左辺に代入するとどうなるか,確かめてみよう.$y'=C\cdot(-p(x))e^{-\int p\dd x}$ なので,

$$ y'+p(x)y=C\cdot\bigl(-p(x)\bigr)e^{-\int p\,\dd x}+p(x)\cdot C\,e^{-\int p\,\dd x}=0 $$

となる(2つの項が符号だけ逆で打ち消し合う).これは,$g(x)\equiv0$ の同伴方程式を満たしているだけであり,33.3.1項の[1]の結果と何も変わらない.つまり,$C$ を定数のままにしている限り,非同次方程式($g(x)\not\equiv0$)の解には決して到達できない.$g(x)\not\equiv0$ となるためには,代入した結果が $0$ にならずに $g(x)$ という「何らかの関数」が残らなければならず,そのためには $C$ の代わりに置いた関数の導関数が $0$ であってはならない——すなわち,$C$ の役割を果たす量は定数であってはいけないのである.これが,定数変化法で $C\to u(x)$ という置き換えを行う理由である.

検証②:逆に,$C$ を $y$ から作ってみる

今度は逆の方向から考える.方程式 $\diff yx+P(x)y=Q(x)$(記号の混同を避けるため,ここでは非同次方程式の係数を $P(x),Q(x)$ と大文字で書く)の任意の解 $y=y(x)$ が与えられたとして,

$$ C(x):=y(x)\,e^{\int P(x)\,\dd x} $$

という量を作ってみる(これは,同伴方程式の解の形 $y=Ce^{-\int P\dd x}$ から,$C=y\,e^{\int P\dd x}$ と逆算した式である).この $C(x)$ を $x$ で微分すると,積の微分公式より,

$$ \frac{\dd}{\dd x}C(x)=\diff yx\,e^{\int P(x)\dd x}+y\cdot P(x)\,e^{\int P(x)\dd x}=\Bigl(\diff yx+P(x)y\Bigr)e^{\int P(x)\dd x} $$

ここで $y$ はもともと方程式 $\diff yx+P(x)y=Q(x)$ の解だと仮定したので,$\diff yx+P(x)y=Q(x)$ を代入できる.

\begin{equation} \frac{\dd}{\dd x}C(x)=Q(x)\,e^{\int P(x)\,\dd x} \label{eq:33-linear-validity} \end{equation}

この1本の式\eqref{eq:33-linear-validity}が,定数変化法のすべてを説明している.

(i) $Q(x)\equiv0$(同伴方程式)のとき,式\eqref{eq:33-linear-validity}の右辺は恒等的に $0$ になるから,$\dfrac{\dd}{\dd x}C(x)=0$,すなわち $C(x)$ は真に定数である.これは33.3.1項の結果($y=Ce^{-\int P\dd x}$,$C$ は定数)と完全に一致する.

(ii) $Q(x)\not\equiv0$(非同次)のとき,式\eqref{eq:33-linear-validity}の右辺は恒等的には $0$ にならないから,$\dfrac{\dd}{\dd x}C(x)\not\equiv0$,すなわち $C(x)$ は($x$ によらない)定数ではあり得ない.

つまり,$C(x):=y\,e^{\int P\dd x}$ という量は,もとの方程式の解 $y$ が非同次方程式を満たすことを要求するだけで自動的に「定数ではなく,式\eqref{eq:33-linear-validity}にしたがって $x$ とともに変化する関数」になることが強制される.定数変化法は勘や当てずっぽうではなく,この必然性を先取りして「最初から $C$ を未知関数 $u(x)$ とおいて式\eqref{eq:33-linear-validity}を(積分して)解く」という手順そのものだったのである.なお,式\eqref{eq:33-linear-validity}は $y$ が方程式の任意の解であることから出発しているので,この議論は同時に「定数変化法が一般解をひとつも取りこぼさずに与える」ことの根拠にもなっている.

数学ノート:1次元の「解空間」への一歩

検証①・②が示しているのは,同伴方程式 $y'+P(x)y=0$ の解全体が,$e^{-\int P\dd x}$ というただ1つの関数の定数倍 $C\,e^{-\int P\dd x}$ として尽くされている,という事実である.この「解の集まりが1つの関数の定数倍で尽くされる」という構造は,2階以上の線形同次微分方程式では「解空間が2次元以上のベクトル空間になり,複数の基本解が線形独立(linearly independent)であることが本質的に重要になる」という形に一般化される.この話は第35章(2階線形同次微分方程式)で,ロンスキアン(Wronskian)という道具とともに詳しく学ぶ.

33.5 ベルヌーイの微分方程式とリッカチの微分方程式

本章の最後に,非線形の1階微分方程式のうち,うまい置換で1階線形微分方程式(公式33.2)に帰着できる2つの型——ベルヌーイの微分方程式(Bernoulli equation)とリッカチの微分方程式(Riccati equation)——を扱う.どちらも,これまでに学んだ道具(変数分離形の置換の発想,そして公式33.2)を組み合わせるだけで解ける.

33.5.1 ベルヌーイの微分方程式

定義33.8 ベルヌーイの微分方程式

$p(x),g(x)$ を既知の関数,$n$ を $n\neq0,1$ を満たす実数として,

\begin{equation} \diff yx+p(x)y=g(x)\,y^{n} \label{eq:33-bernoulli-form} \end{equation}

の形の方程式をベルヌーイの微分方程式(Bernoulli equation,ヤコブ・ベルヌーイ(Jacob Bernoulli)にちなむ)という.$n=0$ なら右辺は $g(x)$ で公式33.2そのもの,$n=1$ なら $y'+(p(x)-g(x))y=0$ という同次線形方程式になるので,どちらの場合も既知の話に帰着してしまう.新しい工夫が必要になるのは $n\neq0,1$ のときである.

導出:ベルヌーイ形を1階線形微分方程式に帰着させる

右辺の $y^n$ が邪魔なので,まず両辺に $y^{-n}$ をかけて消してしまおう($y\neq0$ の範囲で考える).

\begin{equation} y^{-n}\diff yx+p(x)\,y^{1-n}=g(x) \label{eq:33-bernoulli-multiply} \end{equation}

(左辺第1項は $y^{-n}y'$,第2項は $p(x)y\cdot y^{-n}=p(x)y^{1-n}$,右辺は $g(x)y^n\cdot y^{-n}=g(x)y^0=g(x)$ となる.)ここで,左辺第1項の形をよく見ると,合成関数の微分によって $\bigl(y^{1-n}\bigr)'=(1-n)y^{(1-n)-1}y'=(1-n)y^{-n}y'$(べき関数の微分と連鎖律;$y$ は $x$ の関数であることに注意)となることに気づく.これは式\eqref{eq:33-bernoulli-multiply}の左辺第1項 $y^{-n}y'$ の $(1-n)$ 倍にほかならない.そこで,式\eqref{eq:33-bernoulli-multiply}の両辺を $(1-n)$ 倍する($n\neq1$ なので $1-n\neq0$,倍してよい).

\begin{equation} (1-n)\,y^{-n}\diff yx+(1-n)p(x)\,y^{1-n}=(1-n)g(x) \label{eq:33-bernoulli-times1n} \end{equation}

左辺第1項はちょうど $\bigl(y^{1-n}\bigr)'$ になったので,

$$ \bigl(y^{1-n}\bigr)'+(1-n)p(x)\,y^{1-n}=(1-n)g(x) $$

ここで $u=y^{1-n}$(新しい未知関数),$P(x)=(1-n)p(x)$,$Q(x)=(1-n)g(x)$ とおくと,

\begin{equation} u'(x)+P(x)u(x)=Q(x) \label{eq:33-bernoulli-reduced} \end{equation}

という1階線形微分方程式(定義33.7の形そのもの)が得られた.これは公式33.2で解ける.公式33.2に $p\to P,\ g\to Q$ を代入すると,

$$ u(x)=e^{-\int P(x)\dd x}\left\{\int Q(x)\,e^{\int P(x)\dd x}\,\dd x+C\right\} $$

$P(x)=(1-n)p(x)$,$Q(x)=(1-n)g(x)$ を戻し,$u=y^{1-n}$ であることを思い出せば,一般解が得られる.

公式33.3 ベルヌーイの微分方程式の一般解

$\diff yx+p(x)y=g(x)y^n$($n\neq0,1$)の一般解は,$u=y^{1-n}$ に対して,

\begin{equation} y^{1-n}=e^{(n-1)\int p(x)\,\dd x}\left\{(1-n)\int g(x)\,e^{(1-n)\int p(x)\,\dd x}\,\dd x+C\right\} \label{eq:33-bernoulli-general} \end{equation}

という陰関数(implicit function,$y$ について明示的に「$y=\cdots$」の形に解かれていない,$x,y$ の関係式のこと)の形で与えられる($e^{-(1-n)\int p\dd x}=e^{(n-1)\int p\dd x}$ と指数法則で書き直した).

注意:$y\equiv0$ という解を見落とさないように

$n\gt0$ のとき,$y\equiv0$ は方程式\eqref{eq:33-bernoulli-form}の両辺をともに $0$ にするので,明らかに解である(定義33.4の意味での自明な解).ところが,導出の最初の一歩で両辺を $y^{-n}$ で割った($y\neq0$ を仮定した)ため,この $y\equiv0$ という解は公式33.3の陰関数表示には含まれていない.$n\gt0$ のベルヌーイ形を解くときは,公式33.3の一般解に加えて $y\equiv0$ も解であることを別途書き添える必要がある.

例題33.7 ベルヌーイの微分方程式

微分方程式 $\diff yx-y=xy^2$ を解け.

解答 $p(x)=-1$,$g(x)=x$,$n=2$ の場合にあたる.$u=y^{1-n}=y^{-1}$ とおく.$P(x)=(1-n)p(x)=(-1)\cdot(-1)=1$,$Q(x)=(1-n)g(x)=(-1)\cdot x=-x$ なので,式\eqref{eq:33-bernoulli-reduced}は

$$ u'+u=-x $$

公式33.2($p=1,g=-x$)を適用する.$\displaystyle\int1\,\dd x=x$ なので,

$$ u=e^{-x}\left\{\int(-x)e^{x}\,\dd x+C\right\} $$

右辺の積分は部分積分($\displaystyle\int xe^x\dd x=xe^x-e^x+C_1$,第5章の部分積分公式)を使うと $\displaystyle\int(-x)e^x\dd x=-(xe^x-e^x)=(1-x)e^x$(積分定数は後で $C$ にまとめる).よって,

$$ u=e^{-x}\bigl\{(1-x)e^{x}+C\bigr\}=(1-x)+Ce^{-x} $$

$u=y^{-1}=1/y$ だったから,

$$ y=\frac{1}{1-x+Ce^{-x}} $$

を得る(このほかに $y\equiv0$ も解である).検算:$u=1-x+Ce^{-x}$ とおくと $y=1/u$,$\diff yx=-\dfrac{u'}{u^2}$.$u'=-1-Ce^{-x}$ なので $\diff yx=\dfrac{1+Ce^{-x}}{u^2}$.これに対し,

$$ \diff yx-y=\frac{1+Ce^{-x}}{u^2}-\frac1u=\frac{1+Ce^{-x}-u}{u^2}=\frac{1+Ce^{-x}-(1-x+Ce^{-x})}{u^2}=\frac{x}{u^2}=x\cdot\frac1{u^2}=xy^2 $$

となり,たしかに元の方程式 $y'-y=xy^2$ を満たすことが確かめられた.

33.5.2 リッカチの微分方程式

定義33.9 リッカチの微分方程式

$P(x),Q(x),R(x)$ を既知の関数として,

\begin{equation} \diff yx+P(x)y^2+Q(x)y+R(x)=0 \label{eq:33-riccati-form} \end{equation}

の形の方程式をリッカチの微分方程式(Riccati equation,イタリアの数学者ヤコポ・リッカチ(Jacopo Riccati)にちなむ)という.一般には初等関数の範囲で解を書き下すことはできないが,1つの特殊解 $y=y_1(x)$ があらかじめ分かっている場合に限り,一般解を具体的な手順で求めることができる.

導出:リッカチ形をベルヌーイ形・1階線形微分方程式に帰着させる

特殊解 $y=y_1(x)$(つまり $\diff{y_1}x+P(x)y_1^2+Q(x)y_1+R(x)=0$ を満たす,という意味)が分かっているとする.一般解を $y=y_1+u$($u=u(x)$ は新しい未知関数)とおいて方程式\eqref{eq:33-riccati-form}に代入する.

\begin{equation} \begin{aligned} \diff yx+P(x)y^2+Q(x)y+R(x) &=(y_1'+u')+P(x)(y_1+u)^2+Q(x)(y_1+u)+R(x)\\ &=(y_1'+u')+P(x)\bigl(y_1^2+2y_1u+u^2\bigr)+Q(x)y_1+Q(x)u+R(x)\\ &=\underbrace{\bigl\{y_1'+P(x)y_1^2+Q(x)y_1+R(x)\bigr\}}_{=\,0\ (y_1\text{が特殊解だから})}+u'+2P(x)y_1\,u+P(x)u^2+Q(x)u \end{aligned} \label{eq:33-riccati-ansatz} \end{equation}

(2行目から3行目は,$(y_1+u)^2=y_1^2+2y_1u+u^2$ という展開を使い,$y_1,u$ に関する項を組み替えただけである.)下線を引いた部分は,$y_1$ が特殊解であるという仮定によって恒等的に $0$ になる.したがって,方程式\eqref{eq:33-riccati-form}(左辺全体が $0$)は,残りの部分がすべて $0$ になることと同値である.

$$ u'+\bigl\{2P(x)y_1(x)+Q(x)\bigr\}u=-P(x)\,u^2 $$

これは,$u$ を未知関数とみると,$n=2$ のベルヌーイの微分方程式(式\eqref{eq:33-bernoulli-form}で $y\to u$,$p\to 2Py_1+Q$,$g\to-P$ としたもの)そのものである.そこで,記号を整理するため $A(x):=2P(x)y_1(x)+Q(x)$ とおく.

\begin{equation} u'+A(x)u=-P(x)u^2 \label{eq:33-riccati-bernoulli} \end{equation}

33.5.1項のベルヌーイ形の手順($n=2$)にならって,両辺に $u^{-2}$ をかける($u\neq0$ の範囲で).

$$ u^{-2}\diff ux+A(x)u^{-1}=-P(x) $$

べき関数の微分と連鎖律より $\bigl(u^{-1}\bigr)'=-u^{-2}u'$,すなわち $u^{-2}u'=-\bigl(u^{-1}\bigr)'$ であるから,これを代入すると,

$$ -\bigl(u^{-1}\bigr)'+A(x)u^{-1}=-P(x) $$

両辺に $-1$ をかけて整理すると,

$$ \bigl(u^{-1}\bigr)'-A(x)u^{-1}=P(x) $$

ここで $v:=u^{-1}$($=1/u$)とおくと,

\begin{equation} \diff vx+\bigl(-A(x)\bigr)v=P(x) \label{eq:33-riccati-linear-v} \end{equation}

という$v$ についての1階線形微分方程式が得られた.公式33.2に,$p\to-A(x)$,$g\to P(x)$ を代入すると(符号を取り違えないように,$-\int(-A)\dd x=\int A\,\dd x$ であることに注意),

$$ v=e^{-\int(-A(x))\dd x}\left\{\int P(x)\,e^{\int(-A(x))\dd x}\,\dd x+C\right\}=e^{\int A(x)\,\dd x}\left\{\int P(x)\,e^{-\int A(x)\,\dd x}\,\dd x+C\right\} $$

$A(x)=2P(x)y_1(x)+Q(x)$ を戻し,$u=1/v$,$y=y_1+u$ であることを使えば,一般解が得られる.

公式33.4 リッカチの微分方程式の一般解

方程式\eqref{eq:33-riccati-form}の特殊解 $y_1(x)$ が分かっているとき,$A(x):=2P(x)y_1(x)+Q(x)$ として,一般解は

\begin{equation} y=y_1(x)+\left[e^{\int A(x)\,\dd x}\left\{\int P(x)\,e^{-\int A(x)\,\dd x}\,\dd x+C\right\}\right]^{-1} \label{eq:33-riccati-general} \end{equation}

で与えられる.

なぜ?:リッカチ形は本章の集大成である

公式33.4の導出をふり返ると,リッカチ形(非線形,2次)→ ベルヌーイ形(非線形,$n=2$)→ 1階線形微分方程式(線形)という2段階の帰着を経ている.しかも1階線形微分方程式そのものが,同伴方程式を解いてから定数変化法で非同次項を追加する,という手順で解かれる.つまりリッカチの微分方程式は,本章で学んだほとんどすべての道具(変数分離形の考え方,べき関数の微分と連鎖律,公式33.2)を1つに積み重ねた,本章の集大成にあたる型なのである.

例題33.8 リッカチの微分方程式

微分方程式 $\diff yx+y^2-2xy+(x^2-1)=0$ は,$y=y_1(x)=x$ を特殊解にもつことを確かめ,一般解を求めよ.

解答 まず $y_1=x$ が特殊解であることを確認する.$y_1'=1$,$y_1^2=x^2$ なので,$y_1'+y_1^2-2xy_1+(x^2-1)=1+x^2-2x\cdot x+x^2-1=1+x^2-2x^2+x^2-1=(1-1)+(x^2-2x^2+x^2)=0$.たしかに満たす.

ここで $P(x)=1,\ Q(x)=-2x,\ R(x)=x^2-1$ である.$A(x)=2P(x)y_1(x)+Q(x)=2\cdot1\cdot x+(-2x)=2x-2x=0$.$A(x)\equiv0$ なので,公式33.4は非常に簡単になる.$\displaystyle\int A\,\dd x=0$ より $e^{\int A\dd x}=e^{-\int A\dd x}=1$ なので,

$$ y=y_1+\left[1\cdot\left\{\int P(x)\cdot1\,\dd x+C\right\}\right]^{-1}=x+\left\{\int1\,\dd x+C\right\}^{-1}=x+\frac{1}{x+C} $$

を得る.検算:$y=x+\dfrac1{x+C}$ とおくと $y'=1-\dfrac1{(x+C)^2}$.一方,

$$ y^2-2xy+(x^2-1)=\Bigl(x+\frac1{x+C}\Bigr)^{\!2}-2x\Bigl(x+\frac1{x+C}\Bigr)+(x^2-1) $$

を展開すると,$x^2+\dfrac{2x}{x+C}+\dfrac1{(x+C)^2}-2x^2-\dfrac{2x}{x+C}+x^2-1=\dfrac1{(x+C)^2}-1$.よって $y'+y^2-2xy+(x^2-1)=\Bigl(1-\dfrac1{(x+C)^2}\Bigr)+\Bigl(\dfrac1{(x+C)^2}-1\Bigr)=0$.たしかに元の方程式を満たす.

33.6 まとめと演習

33.6.1 まとめ

本章では,1階常微分方程式のうち,具体的な手順で厳密に解ける5つの型を学んだ.どの型も,最終的には「うまい置換をひとつ見つけて,公式33.1(変数分離形の解法)が使える形に帰着させる」という同じ精神で解かれている.図33.5に,5つの型どうしの帰着関係をまとめる.

本章で学んだ5つの型の帰着関係 リッカチ形 ベルヌーイ形 1階線形微分方程式 同次形 f(ax+by+c) 型 変数分離形 y' + P(x)y² + Q(x)y + R(x) = 0 y' + p(x)y = g(x)yⁿ y' + p(x)y = g(x) y' = f(y/x) y' = f(ax+by+c) 1/g(y) dy = f(x) dx → あとは積分するだけ y = y₁ + u u = y¹⁻ⁿ 同伴方程式+定数変化法 t = y/x t = ax+by+c
図33.5 本章で学んだ5つの型の帰着関係.同次形と $f(ax+by+c)$ 型は置換ひとつで直接に変数分離形に帰着する.リッカチ形は「特殊解 $y_1$ からのずれ $u$」を新しい未知関数にとることでベルヌーイ形に,ベルヌーイ形は $u=y^{1-n}$ という置換で1階線形微分方程式に,そして1階線形微分方程式は同伴方程式を解いてから定数変化法(または積分因子法)を使うことで,最終的にすべて変数分離形(公式33.1)に帰着する.
$$ \begin{alignedat}{2} &\textbf{公式33.1(変数分離形)}\quad && \int\frac{1}{g(y)}\,\dd y=\int f(x)\,\dd x\\[4pt] &\textbf{公式33.2(1階線形)}\quad && y=e^{-\int p(x)\dd x}\left\{\int g(x)e^{\int p(x)\dd x}\dd x+C\right\}\\[4pt] &\textbf{公式33.3(ベルヌーイ形)}\quad && y^{1-n}=e^{(n-1)\int p\dd x}\left\{(1-n)\int g\,e^{(1-n)\int p\dd x}\dd x+C\right\}\\[4pt] &\textbf{公式33.4(リッカチ形)}\quad && y=y_1+\left[e^{\int A\dd x}\Bigl\{\textstyle\int P\,e^{-\int A\dd x}\dd x+C\Bigr\}\right]^{-1},\ A=2Py_1+Q \end{alignedat} $$

例題33.9 総合問題:リッカチの微分方程式の一般公式をフル活用する

微分方程式 $\diff yx=y^2-\dfrac{2}{x^2}$($x\gt0$)は,$y=y_1(x)=\dfrac1x$ を特殊解にもつ.これを用いて一般解を求めよ.

解答 方程式を定義33.9の形 $y'+P(x)y^2+Q(x)y+R(x)=0$ に合わせると,$P(x)=-1,\ Q(x)=0,\ R(x)=\dfrac2{x^2}$ である.まず $y_1=1/x$ が特殊解であることを確認する.$y_1'=-\dfrac1{x^2}$,$y_1^2=\dfrac1{x^2}$ なので,

$$ y_1'+P y_1^2+Q y_1+R=-\frac1{x^2}+(-1)\cdot\frac1{x^2}+0+\frac2{x^2}=\frac{-1-1+2}{x^2}=0 $$

たしかに特殊解である.例題33.8では $A(x)=2Py_1+Q$ が恒等的に $0$ になる「やさしい」場合だったが,今回は

$$ A(x)=2P(x)y_1(x)+Q(x)=2\cdot(-1)\cdot\frac1x+0=-\frac2x $$

となり,$A(x)\not\equiv0$ である.公式33.4のすべての項が実際に働く場合を見てみよう.まず,

$$ \int A(x)\,\dd x=\int\Bigl(-\frac2x\Bigr)\dd x=-2\ln x \quad(x\gt0) $$

なので,$e^{\int A\dd x}=e^{-2\ln x}=x^{-2}$,$e^{-\int A\dd x}=e^{2\ln x}=x^{2}$.公式33.4に代入すると,

$$ y=y_1+\left[x^{-2}\left\{\int P(x)\,x^{2}\,\dd x+C_1\right\}\right]^{-1}=\frac1x+\left[x^{-2}\Bigl\{\int(-1)x^{2}\,\dd x+C_1\Bigr\}\right]^{-1} $$

$\displaystyle\int(-1)x^2\dd x=-\dfrac{x^3}{3}$ なので,中括弧の中は $-\dfrac{x^3}3+C_1$.よって,

$$ y=\frac1x+\left[x^{-2}\Bigl(-\frac{x^3}3+C_1\Bigr)\right]^{-1}=\frac1x+\left[-\frac x3+\frac{C_1}{x^2}\right]^{-1} $$

大括弧の中を通分すると $-\dfrac x3+\dfrac{C_1}{x^2}=\dfrac{-x^3+3C_1}{3x^2}=\dfrac{3C_1-x^3}{3x^2}$ である.$3C_1=C$ とおいて逆数をとると,

$$ y=\frac1x+\frac{3x^2}{C-x^3} $$

を得る.検算:$y=\dfrac1x+\dfrac{3x^2}{C-x^3}$ とおき,$w=C-x^3$($w'=-3x^2$)と略記すると,商の微分公式(あるいは積の微分公式,$y_2=3x^2w^{-1}$ とみて)より

$$ \diff yx=-\frac1{x^2}+\frac{6xw-3x^2w'}{w^2}=-\frac1{x^2}+\frac{6xw+9x^4}{w^2} $$

($w'=-3x^2$ なので $-3x^2w'=9x^4$ と符号が変わることに注意).一方,

$$ y^2-\frac2{x^2}=\left(\frac1x+\frac{3x^2}{w}\right)^{\!2}-\frac2{x^2}=\frac1{x^2}+\frac{6x}{w}+\frac{9x^4}{w^2}-\frac2{x^2}=-\frac1{x^2}+\frac{6x}{w}+\frac{9x^4}{w^2} $$

両者を比べると,$\dfrac{6xw+9x^4}{w^2}$ と $\dfrac{6x}{w}+\dfrac{9x^4}{w^2}=\dfrac{6xw+9x^4}{w^2}$ は同じ式である($w=C-x^3$ を戻して確認できる)から,$\diff yx=y^2-\dfrac2{x^2}$ がたしかに成り立つ(sympyでも検算済み,python_checksを参照).こうして,$A(x)\not\equiv0$ という一般的な状況でも公式33.4がそのまま使えることが確認できた.

33.6.2 演習問題

演習33.1 変数分離形

微分方程式 $\diff yx=\dfrac{x^2}{y^2}$($y\neq0$)を解け.

ヒント:公式33.1にそのまま当てはめられる.$y^2\dd y=x^2\dd x$ の形に分けて積分せよ.

演習33.2 同次形

微分方程式 $\diff yx=\dfrac{x^2+y^2}{xy}$($x\gt0,\ y\gt0$)を解け.

ヒント:右辺を $y/x$ だけの式に書き直せるか確認し,$t=y/x$ とおく.

演習33.3 $f(ax+by+c)$ 型

微分方程式 $\diff yx=\cos(x+y)$ を解け.

ヒント:$t=x+y$ とおく.半角の公式(あるいは $t/2$ の置換)を使うと積分が実行できる.

演習33.4 1階線形微分方程式

微分方程式 $\diff yx-y\tan x=\sin x$($-\dfrac{\pi}2\lt x\lt\dfrac{\pi}2$)を解け.定数変化法・積分因子法のどちらを使ってもよい.

ヒント:$p(x)=-\tan x$ である.$\displaystyle\int\tan x\,\dd x=-\ln|\cos x|$(第5章)を使う.

演習33.5 ベルヌーイの微分方程式

微分方程式 $x\diff yx+y=y^2\ln x$($x\gt0$)を解け.

ヒント:両辺を $x$ で割って公式33.3の形 $y'+p(x)y=g(x)y^n$ に合わせてから,$n$ の値を確認せよ.

演習33.6 リッカチの微分方程式

微分方程式 $\diff yx-y^2+2xy-x^2-1=0$ は,$y=y_1(x)=x$ を特殊解にもつ.一般解を求めよ.

ヒント:$P(x)=-1,\ Q(x)=2x,\ R(x)=-(x^2+1)$ として公式33.4を使う.まず $A(x)=2Py_1+Q$ を計算せよ.

33.6.3 参考文献

  1. 望月泰英『数学ノート 常微分方程式』(手書き講義ノート).本章の底本.
  2. 笠原晧司『微分方程式の基礎』(朝倉書店,1982年).
  3. 矢野健太郎・石原繁『微分方程式』(裳華房,1981年).
  4. E. Kreyszig, Advanced Engineering Mathematics, 10th ed. (Wiley, 2011).