第3章初等関数の導関数
第1章で微分係数の定義 $\displaystyle f'(x)=\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}$ を,第2章で平均値の定理や双曲線関数を学んだ.しかし,これまで実際に「この定義から導関数を計算しきった」関数は,$x^n$ など数えるほどしかない.指数関数 $e^x$,対数関数 $\log_e x$,三角関数 $\sin x$,双曲線関数 $\sinh x$……これらの導関数を,高校では公式として天下りに教わった人も多いだろう.本章の目的はただ1つ,その公式のすべてを,微分係数の定義に戻って自分の手で証明することである.
証明の型はほとんど同じである.定義式 $\lim_{h\to0}\{f(x+h)-f(x)\}/h$ に関数を代入し,加法定理や指数法則を使って式を整え,最後は「基本極限」($\lim_{h\to0}\frac{\sin h}{h}=1$ や $\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}{h}=1$ など)に帰着させる——ほぼ全部がこの1パターンの繰り返しである.最初の数個($e^x$,$\sin x$)は手を動かして最後まで追ってほしい.後半(双曲線関数,逆三角関数)に進むころには「あ,またこのパターンか」と気づき,むしろ楽に読めるようになるはずである.また,途中で「対数微分法」(両辺の対数をとってから微分する技巧)という,$y=a^x$ や $y=x^\alpha$ のような形の関数を扱う強力な手法も身につける.これは第4章で $x^x$ のような関数を扱うときの伏線にもなる.
- 指数関数の微分公式:$\dfrac{d}{dx}e^x=e^x$,$\dfrac{d}{dx}a^x=a^x\ln a$($a\gt0$)と,「両辺の対数をとって微分する」対数微分法の基本手順
- 積・商の微分公式:$(fg)'=f'g+fg'$,$(f/g)'=(f'g-fg')/g^2$ と,それぞれの「足して引く」証明の技巧
- 対数関数の微分公式:$\dfrac{d}{dx}\log_e x=\dfrac1x$,$\dfrac{d}{dx}\log_a x=\dfrac{1}{x\ln a}$,$\dfrac{d}{dx}\log_e f(x)=\dfrac{f'(x)}{f(x)}$,そして一般のべき関数 $\dfrac{d}{dx}x^\alpha=\alpha x^{\alpha-1}$($\alpha$ は任意の実数)
- 三角関数の微分公式:$\dfrac{d}{dx}\sin x=\cos x$,$\dfrac{d}{dx}\cos x=-\sin x$,$\dfrac{d}{dx}\tan x=\dfrac{1}{\cos^2x}$
- 双曲線関数とその逆関数の微分公式:$\sinh,\cosh,\tanh$ とその逆関数 $\sinh^{-1},\cosh^{-1},\tanh^{-1}$(合わせて6個の公式)
- 逆三角関数の微分公式:$\sin^{-1}x,\cos^{-1}x,\tan^{-1}x$ の定義(主値の取り方)とその導関数
- 逆関数の微分法 $\dfrac{dy}{dx}=1\big/\dfrac{dx}{dy}$ という考え方(双曲線関数・三角関数の逆関数で繰り返し使う)
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 微分積分学』 pp. 23–29.
3.1 指数関数の基本微分公式
まず,指数関数(exponential function)$e^x$ の導関数を,微分係数の定義式にそのまま代入するところから始めよう.$e$ はネイピア数(Napier's constant,$e=2.71828\ldots$)で,第1章で $\displaystyle e=\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac1n\right)^n=\lim_{t\to0}(1+t)^{\frac1t}$ として定義された定数である.
数学ノート:この章で繰り返し使う基本極限 $\displaystyle\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}{h}=1$
$e^x$ の微分係数の定義式を計算すると,最終的に $\displaystyle\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}{h}$ という極限が現れる.この値が $1$ であることは,第1章ですでに証明済みである(ネイピア数の定義 $\displaystyle e=\lim_{t\to0}(1+t)^{\frac1t}$ の両辺の対数をとり,$x=e^u-1$ と置き換えることで $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{e^x-1}{x}=1$(第1章1.5節)が導かれた).念のため,同じ結論を少し違う置き換えで確認しておこう.$u=e^h-1$(つまり $h=\log_e(1+u)$)とおくと,$h\to0$ のとき $u\to0$ であり,
$$ \frac{e^h-1}{h}=\frac{u}{\log_e(1+u)}=\frac{1}{\dfrac{1}{u}\log_e(1+u)}=\frac{1}{\log_e(1+u)^{\frac1u}} $$(最後の等号は,対数の性質 $k\log_e X=\log_e X^k$ を $k=1/u$ として使った).$u\to0$ のとき $(1+u)^{\frac1u}\to e$ なので,分母は $\log_e e=1$ に近づく.したがって
$$ \lim_{h\to0}\frac{e^h-1}{h}=\frac{1}{\log_e e}=\frac11=1 $$となり,第1章の結果と一致する.以下ではこの事実を「基本極限」として断りなく使う.
公式3.1 $\dfrac{d}{dx}e^x=e^x$
指数関数 $e^x$ は,微分しても形が変わらない(自分自身が導関数になる)という性質をもつ.
\begin{equation} \frac{d}{dx}e^x=e^x\label{eq:3-exp-e} \end{equation}公式3.1の証明
$f(x)=e^x$ の導関数を定義から計算する.
$$ f'(x)=\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}=\lim_{h\to0}\frac{e^{x+h}-e^x}{h} $$指数法則 $e^{x+h}=e^x\cdot e^h$ を使って $e^x$ をくくり出すと,
$$ =\lim_{h\to0}\frac{e^x(e^h-1)}{h}=e^x\cdot\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}{h} $$($e^x$ は $h$ を含まないので極限の外に出せる).上のノートの基本極限を使うと,
$$ f'(x)=e^x\cdot1=e^x $$を得る.
(証明終わり)
別解:対数をとって微分する(対数微分法の第一歩)
$y=e^x$ の両辺の自然対数($\log_e$,$e$ を底とする対数.以下 $\ln$ とも書く)をとると,
$$ \log_e y=\log_e e^x=x $$(対数の性質 $\log_e e^x=x$ を使った).この式の両辺を $x$ で微分する.右辺は $\dfrac{d}{dx}x=1$($\cdots①$)である.左辺は,$y$ が $x$ の関数であることに注意し,合成関数の微分(chain rule,高校既習)を使う.$\log_e y$ は「$y$ の関数 $\log_e(\cdot)$」に「$x$ の関数 $y$」を合成したものなので,
$$ \frac{d}{dx}\log_e y=\frac{d}{dy}\log_e y\cdot\frac{dy}{dx}=\frac1y\cdot\frac{dy}{dx}\quad\cdots② $$($\dfrac{d}{dy}\log_e y=\dfrac1y$ は本章 3.3 節で改めて証明する公式3.5そのものだが,ここでは高校で習った結果を先取りして使う).①と②はどちらも同じ左辺 $\dfrac{d}{dx}\log_e y$ の値なので,①$=$②より
$$ \frac1y\cdot\frac{dy}{dx}=1 $$となる.両辺に $y$ をかけると $\dfrac{dy}{dx}=y$.$y=e^x$ を代入すれば
$$ \frac{dy}{dx}=e^x $$となり,同じ結果が得られる.
数学ノート:対数微分法の一般手順
いま使った「両辺の対数をとってから微分する」方法を対数微分法(logarithmic differentiation)と呼ぶ.$y=($式$)$ の形の関数が,指数に変数が乗っている($a^x$ など)・底に変数がありさらに指数にも変数がある($x^x$ など)・積や商が複雑に絡む,といった理由で直接微分しにくいとき,次の3手順で計算できる.
- 両辺の自然対数をとる:$\log_e y=\log_e(\text{式})$.右辺を対数の性質($\log(AB)=\log A+\log B$,$\log(A^k)=k\log A$ など)でできるだけ簡単にする.
- 両辺を $x$ で微分する.左辺は合成関数の微分で $\dfrac{d}{dx}\log_e y=\dfrac1y\cdot\dfrac{dy}{dx}$ になる.
- 結果の式を $\dfrac{dy}{dx}=y\times(\cdots)$ の形に整理し,最後に $y$ を元の式に戻す.
この手順は,本節の公式3.2($a^x$),3.3節の公式3.8($x^\alpha$),例題3.5($x^x$),演習3.6($x^{\sin x}$)で繰り返し使う.高校でも「対数をとって微分する」計算に軽く触れた人がいるかもしれないが,ここではそれを独立した一般的な技法として整理しておく.
公式3.2 $\dfrac{d}{dx}a^x=a^x\log_e a\quad(a\gt0)$
底が $e$ とは限らない一般の指数関数 $a^x$($a\gt0$)の導関数は,$a^x\log_e a$ である.
\begin{equation} \frac{d}{dx}a^x=a^x\log_e a\qquad(a\gt0)\label{eq:3-exp-a} \end{equation}公式3.2の証明(対数微分法)
$y=a^x$ とおく.両辺の自然対数をとると,
$$ \log_e y=\log_e a^x=x\log_e a $$(対数の性質 $\log_e a^x=x\log_e a$ を使った.$a$ は定数なので $\log_e a$ もただの定数である).両辺を $x$ で微分する.右辺は「定数 $\log_e a$ かける $x$」の微分だから
$$ \frac{d}{dx}\log_e y=\log_e a\quad\cdots① $$である.一方,左辺は先ほどと同じ合成関数の微分で
$$ \frac{d}{dx}\log_e y=\frac{d}{dy}\log_e y\cdot\frac{dy}{dx}=\frac1y\cdot\frac{dy}{dx}\quad\cdots② $$①$=$②より,$\dfrac1y\cdot\dfrac{dy}{dx}=\log_e a$.両辺に $y$ をかけて
$$ \frac{dy}{dx}=y\cdot\log_e a $$$y=a^x$ を代入すれば,
$$ \frac{d}{dx}a^x=a^x\log_e a $$を得る.
(証明終わり)
注意:$a=e$ に戻して確かめる
公式3.2で $a=e$ とすると,$\log_e e=1$ なので $\dfrac{d}{dx}e^x=e^x\cdot1=e^x$ となり,公式3.1に一致する.公式3.2は公式3.1を「底が任意の $a$」に一般化したものである.
例題3.1 $y=2e^x-3^x$ の導関数と,$x=0$ における接線
(1) $y=2e^x-3^x$ の導関数 $y'$ を求めよ.(2) $x=0$ における接線の方程式を求めよ.
解答 (1) 公式3.1($\dfrac{d}{dx}e^x=e^x$)と公式3.2($\dfrac{d}{dx}a^x=a^x\log_e a$,$a=3$)を項別に使う.定数倍の微分は定数倍のまま外に出せる(高校既習)ので,
$$ y'=2\cdot\frac{d}{dx}e^x-\frac{d}{dx}3^x=2e^x-3^x\log_e3 $$(2) $x=0$ を代入すると,$y(0)=2e^0-3^0=2\cdot1-1=1$,$y'(0)=2e^0-3^0\log_e3=2-\log_e3$.接線は点 $(0,1)$ を通り傾き $2-\log_e3$ の直線だから,
$$ y=1+(2-\log_e3)x $$である.$\log_e3=1.0986\ldots$ なので傾きはおよそ $0.901$(数値検算:sympyで $y'(0)=2-\ln3=0.9013877\ldots$).接線の傾きが正であることは,グラフ上で $x=0$ の少し先で $y$ が増加していくことに対応する.
3.2 積・商の微分公式
次に,2つの関数 $f(x)$,$g(x)$ の積(product)$f(x)g(x)$ と商(quotient)$f(x)/g(x)$ の微分公式を証明する.どちらも「$(f+\Delta f)$ かける $(g+\Delta g)$」を展開したときに出てくる余分な項を,ある1つの量を足してすぐに引くという技巧で処理するのが共通点である.
公式3.3 積の微分公式 $\{f(x)g(x)\}'=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)$
\begin{equation} \{f(x)g(x)\}'=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)\label{eq:3-product-rule} \end{equation}公式3.3の証明
定義に戻ると,
$$ \{f(x)g(x)\}'=\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)g(x+h)-f(x)g(x)}{h} $$分子は「$f$ も $g$ も同時に変化した後の積」から「変化する前の積」を引いた形で,このままでは $f$ と $g$ の変化を分離できない.そこで,分子に $f(x)g(x+h)$ を足した分,引いてやる(同じ値を足して引くのだから,式全体の値は変わらない).
$$ =\lim_{h\to0}\frac{\{f(x+h)g(x+h)-f(x)g(x+h)\}+\{f(x)g(x+h)-f(x)g(x)\}}{h} $$1つ目の中括弧は $g(x+h)$ が共通因数,2つ目の中括弧は $f(x)$ が共通因数なので,それぞれくくり出して分数を2つに分ける.
$$ =\lim_{h\to0}\left\{\frac{f(x+h)-f(x)}{h}\cdot g(x+h)\right\}+\lim_{h\to0}\left\{\frac{g(x+h)-g(x)}{h}\cdot f(x)\right\} $$1つ目の極限で,$\dfrac{f(x+h)-f(x)}{h}\to f'(x)$(微分係数の定義そのもの)であり,$g(x+h)\to g(x)$ である.(これは「微分可能ならば連続」という事実の表れである:$g(x+h)-g(x)=\dfrac{g(x+h)-g(x)}{h}\times h\to g'(x)\times0=0$ となるので,$g(x+h)\to g(x)$ が言える.)2つ目の極限で,$\dfrac{g(x+h)-g(x)}{h}\to g'(x)$ であり,$f(x)$ はそもそも $h$ を含まない定数扱いなのでそのまま残る.したがって,
$$ \{f(x)g(x)\}'=f'(x)\cdot g(x)+g'(x)\cdot f(x)=f'(x)g(x)+f(x)g'(x) $$を得る.
(証明終わり)
公式3.4 商の微分公式 $\left\{\dfrac{f(x)}{g(x)}\right\}'=\dfrac{f'(x)g(x)-f(x)g'(x)}{g(x)^2}\quad(g(x)\neq0)$
\begin{equation} \left\{\frac{f(x)}{g(x)}\right\}'=\frac{f'(x)g(x)-f(x)g'(x)}{g(x)^2}\label{eq:3-quotient-rule} \end{equation}公式3.4の証明(その1:定義から直接)
定義から,
$$ \left\{\frac{f(x)}{g(x)}\right\}'=\lim_{h\to0}\frac{\dfrac{f(x+h)}{g(x+h)}-\dfrac{f(x)}{g(x)}}{h} $$分子の2つの分数を通分する(分母を $g(x+h)g(x)$ にそろえる).
$$ =\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)g(x)-f(x)g(x+h)}{g(x)g(x+h)\cdot h} $$ここでも先ほどと同じ技巧を使う.分子に $-f(x)g(x)$ を1回足して1回引く.
$$ =\lim_{h\to0}\frac{1}{g(x+h)g(x)}\cdot\frac{\{f(x+h)g(x)-f(x)g(x)\}-\{f(x)g(x+h)-f(x)g(x)\}}{h} $$($-f(x)g(x)$ と $+f(x)g(x)$ が打ち消し合うので,元の分子と一致することを確かめておこう).1つ目の中括弧から $g(x)$ を,2つ目の中括弧から $f(x)$ をくくり出す.
$$ =\lim_{h\to0}\frac{1}{g(x+h)g(x)}\cdot\left\{\underbrace{\frac{f(x+h)-f(x)}{h}}_{\to\,f'(x)}\cdot g(x)-\underbrace{\frac{g(x+h)-g(x)}{h}}_{\to\,g'(x)}\cdot f(x)\right\} $$$h\to0$ のとき,下に波括弧を付けた2つの分数はそれぞれ $f'(x)$,$g'(x)$ に近づき,先頭の $\dfrac{1}{g(x+h)g(x)}$ は($g$ の連続性より $g(x+h)\to g(x)$ なので)$\dfrac{1}{g(x)^2}$ に近づく.よって,
$$ =\frac{1}{g(x)^2}\{f'(x)g(x)-f(x)g'(x)\}=\frac{f'(x)g(x)-f(x)g'(x)}{g(x)^2} $$を得る.
(証明終わり)
公式3.4の証明(その2:積の微分公式に帰着させる)
$\dfrac{f(x)}{g(x)}=f(x)\cdot\dfrac{1}{g(x)}$ と見て,公式3.3(積の微分公式)を使う手もある.
$$ \left\{\frac{f(x)}{g(x)}\right\}'=f'(x)\cdot\frac{1}{g(x)}+f(x)\cdot\left\{\frac{1}{g(x)}\right\}' $$そのためには $\left\{\dfrac{1}{g(x)}\right\}'$ が必要になる.これを合成関数の微分で求めよう.$u=g(x)$ とおき,$y=\dfrac1u$ とみる.
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx} $$$y=u^{-1}$ より $\dfrac{dy}{du}=-u^{-2}=-\dfrac{1}{u^2}$(高校既習のべき関数の微分),$\dfrac{du}{dx}=g'(x)$ だから,
$$ \frac{dy}{dx}=-\frac{1}{u^2}\cdot g'(x)=-\frac{g'(x)}{g(x)^2} $$すなわち $\left\{\dfrac1{g(x)}\right\}'=-\dfrac{g'(x)}{g(x)^2}$ である.これを代入すると,
$$ \left\{\frac{f(x)}{g(x)}\right\}'=\frac{f'(x)}{g(x)}-\frac{f(x)g'(x)}{g(x)^2}=\frac{f'(x)g(x)}{g(x)^2}-\frac{f(x)g'(x)}{g(x)^2}=\frac{f'(x)g(x)-f(x)g'(x)}{g(x)^2} $$となり,その1と同じ結果が得られる(通分して1つの分数にまとめた).
(証明終わり)
例題3.2 $y=x^2e^x$ の導関数(積の微分公式)
$y=x^2e^x$ の導関数を求めよ.
解答 $f(x)=x^2$,$g(x)=e^x$ とおくと,$y=f(x)g(x)$ である.$f'(x)=2x$(高校既習のべき関数の微分),$g'(x)=e^x$(公式3.1)だから,公式3.3より,
$$ y'=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)=2x\cdot e^x+x^2\cdot e^x=(x^2+2x)e^x $$(最後は $e^x$ をくくり出して整理した.sympyで検算:$\dfrac{d}{dx}(x^2e^x)=x(x+2)e^x$,展開すれば同じ式に一致.)
例題3.3 $y=\dfrac{\sin x}{x^2+1}$ の導関数(商の微分公式)
$y=\dfrac{\sin x}{x^2+1}$ の導関数を求めよ.
解答 $f(x)=\sin x$,$g(x)=x^2+1$ とおくと,$y=f(x)/g(x)$ である.$f'(x)=\cos x$(本章3.4節の公式3.9を先取りして使う),$g'(x)=2x$ だから,公式3.4より,
$$ y'=\frac{f'(x)g(x)-f(x)g'(x)}{g(x)^2}=\frac{\cos x\cdot(x^2+1)-\sin x\cdot2x}{(x^2+1)^2} $$これ以上は特に簡単にならないので,このままが答えである.
$$ y'=\frac{(x^2+1)\cos x-2x\sin x}{(x^2+1)^2} $$($g(x)=x^2+1$ は常に正なので,$g(x)\neq0$ の条件は自動的に満たされ,定義域はすべての実数である.sympyで検算済み.)
3.3 対数関数の微分公式のまとめ
指数関数 $e^x$ の逆関数(inverse function)が対数関数 $\log_e x$ である——このことはグラフで見ると直感的に分かる.$y=e^x$ のグラフを直線 $y=x$ に関して折り返す($x$ と $y$ を入れ替える)と,$y=\log_e x$ のグラフになる.これは,一般に逆関数のグラフが「もとの関数のグラフを直線 $y=x$ で鏡映したもの」になるという性質の一例である.
公式3.5 $\dfrac{d}{dx}\log_e x=\dfrac1x\quad(x\gt0)$
\begin{equation} \frac{d}{dx}\log_e x=\frac1x\qquad(x\gt0)\label{eq:3-log-e} \end{equation}公式3.5の証明
定義から,
$$ \frac{d}{dx}\log_e x=\lim_{h\to0}\frac1h\{\log_e(x+h)-\log_e x\} $$対数の性質 $\log_eA-\log_eB=\log_e\dfrac AB$ を使って中括弧をまとめると,
$$ =\lim_{h\to0}\frac1h\log_e\left(1+\frac hx\right) $$ここで $\dfrac1h=\dfrac1x\cdot\dfrac xh$ と分解し($x\neq0$ なので割ってよい),
$$ =\lim_{h\to0}\frac1x\cdot\frac xh\cdot\log_e\left(1+\frac hx\right) $$$u=\dfrac hx$ とおく.$h\to0$ のとき $u\to0$ である.対数の性質 $\dfrac1u\log_eA=\log_eA^{\frac1u}$ を使うと,
$$ =\lim_{u\to0}\frac1x\cdot\frac1u\cdot\log_e(1+u)=\lim_{u\to0}\frac1x\cdot\log_e(1+u)^{\frac1u} $$$\dfrac1x$ は $u$ を含まないので極限の外に出せる.$u\to0$ のとき $(1+u)^{\frac1u}\to e$($e$ の定義そのもの)なので,
$$ =\frac1x\cdot\log_ee=\frac1x\cdot1=\frac1x $$を得る.
(証明終わり)
公式3.6 $\dfrac{d}{dx}\log_ax=\dfrac{1}{x\log_ea}\quad(x\gt0,\ a\gt0,\ a\neq1)$
\begin{equation} \frac{d}{dx}\log_ax=\frac{1}{x\log_ea}\qquad(x\gt0)\label{eq:3-log-a} \end{equation}公式3.6の証明
高校で学んだ底の変換公式(対数の性質)$\log_ax=\dfrac{\log_ex}{\log_ea}$ を使うと,$\log_ax$ は「定数 $\dfrac{1}{\log_ea}$ かける $\log_ex$」と書き直せる.定数倍の微分は定数倍のまま外に出せるので,公式3.5を使って,
$$ \frac{d}{dx}\log_ax=\frac{d}{dx}\left(\frac{1}{\log_ea}\cdot\log_ex\right)=\frac{1}{\log_ea}\cdot\frac{d}{dx}\log_ex=\frac{1}{\log_ea}\cdot\frac1x=\frac{1}{x\log_ea} $$を得る.
(証明終わり)
公式3.7 $\dfrac{d}{dx}\log_ef(x)=\dfrac{f'(x)}{f(x)}\quad(f(x)\gt0)$
\begin{equation} \frac{d}{dx}\log_ef(x)=\frac{f'(x)}{f(x)}\qquad(f(x)\gt0)\label{eq:3-log-f} \end{equation}公式3.7の証明
$g(f)=\log_ef(x)$ とおく($g$ は「$f$ の関数」,すなわち $f(x)$ を1つの変数とみて対数をとる合成関数である).合成関数の微分より,
$$ \frac{dg}{dx}=\frac{dg}{df}\cdot\frac{df}{dx} $$$g=\log_ef$ を $f$ で微分すると,公式3.5と同じ形(文字が $x$ から $f$ に変わっただけ)で $\dfrac{dg}{df}=\dfrac1f$ である.$\dfrac{df}{dx}=f'(x)$ だから,
$$ \frac{dg}{dx}=\frac{1}{f(x)}\cdot f'(x)=\frac{f'(x)}{f(x)} $$を得る.
(証明終わり)
イメージ:公式3.7は公式3.5の「量産型」
公式3.7は,公式3.5($f(x)=x$ の場合)を任意の関数 $f(x)$ に一般化したものである.これから先,対数の中身がどれほど複雑な式であっても,「その式を1階微分してから,もとの式で割る」だけで対数関数の導関数が求まる.例題3.4でこれを実際に使う.
例題3.4 $y=\log_e(x^2+1)$ の導関数(公式3.7の利用)
$y=\log_e(x^2+1)$ の導関数を求めよ.
解答 $f(x)=x^2+1$ とおくと $y=\log_ef(x)$ であり,$f(x)=x^2+1\gt0$(すべての実数 $x$ で成立)だから公式3.7が使える.$f'(x)=2x$ なので,
$$ y'=\frac{f'(x)}{f(x)}=\frac{2x}{x^2+1} $$である(sympyで検算済み).定義域はすべての実数 $x$.
公式3.8 $\dfrac{d}{dx}x^\alpha=\alpha x^{\alpha-1}\quad(x\gt0,\ \alpha\in\mathbb R)$
高校では,$x^n$($n$ は正の整数)や $x^{-n}$,$x^{1/n}$ の微分公式を個別に習ったはずである.次の公式は,指数 $\alpha$ が任意の実数(有理数でも無理数でもよい)である場合にまで,これらをひとまとめにする.
\begin{equation} \frac{d}{dx}x^\alpha=\alpha x^{\alpha-1}\qquad(x\gt0)\label{eq:3-power-alpha} \end{equation}公式3.8の証明(対数微分法)
$y=x^\alpha$($x\gt0$)とおく.両辺の自然対数をとると,対数の性質 $\log_e(x^\alpha)=\alpha\log_ex$ より,
$$ \log_ey=\alpha\log_ex $$両辺を $x$ で微分する.右辺は「定数 $\alpha$ かける $\log_ex$」なので,公式3.5より
$$ \frac{d}{dx}\log_ey=\frac{\alpha}{x}\quad\cdots① $$左辺は合成関数の微分(3.1節と同じ形)で
$$ \frac{d}{dx}\log_ey=\frac{d\log_ey}{dy}\cdot\frac{dy}{dx}=\frac1y\cdot\frac{dy}{dx}\quad\cdots② $$①$=$②より,$\dfrac{\alpha}{x}=\dfrac1y\cdot\dfrac{dy}{dx}$.両辺に $y$ をかけて,
$$ \frac{dy}{dx}=y\cdot\frac{\alpha}{x}=x^\alpha\cdot\frac{\alpha}{x} $$ここで $x^\alpha\cdot x^{-1}=x^{\alpha-1}$(指数法則)を使うと,
$$ \therefore\ \frac{d}{dx}x^\alpha=\alpha x^{\alpha-1} $$を得る.
(証明終わり)
注意:$x\gt0$ という条件について
証明の途中で $\log_ex$ を使うため,$x\gt0$ が必要である.一方,公式そのもの($\alpha x^{\alpha-1}$)は,$\alpha$ が正の整数のときは $x\le0$ でも意味をもつ場合がある(高校で習った $x^n$ の微分がその例).本章では議論を対数微分法の範囲に絞り,$x\gt0$ の場合だけを扱う.
例題3.5 $y=x^x$ の導関数(対数微分法;第4章4.3節 $\lim_{x\to+0}x^x$ への伏線)
$y=x^x$($x\gt0$)の導関数を求めよ.
解答 $y=x^x$ は,底にも指数にも変数 $x$ があるため,公式3.2(底が定数)にも公式3.8(指数が定数)にも直接当てはまらない.そこで対数微分法(3.1節)を使う.両辺の自然対数をとると,
$$ \log_ey=\log_e(x^x)=x\log_ex $$(対数の性質 $\log_e(x^x)=x\log_ex$ を使った).両辺を $x$ で微分する.左辺は合成関数の微分でいつもどおり $\dfrac1y\cdot\dfrac{dy}{dx}$.右辺は積の微分公式(公式3.3,$f(x)=x$,$g(x)=\log_ex$)を使う.
$$ \frac1y\cdot\frac{dy}{dx}=\frac{d}{dx}(x\log_ex)=1\cdot\log_ex+x\cdot\frac1x=\log_ex+1 $$両辺に $y$ をかけて $y=x^x$ を代入すると,
$$ \frac{dy}{dx}=y(\log_ex+1)=x^x(\log_ex+1) $$を得る(sympyで検算済み).この「対数微分法で指数と底の両方に変数がある関数を扱う」パターンは,第4章でテイラー展開を使って $\displaystyle\lim_{x\to+0}x^x$ を計算する場面でも背景として登場する.
3.4 三角関数の微分公式
三角関数 $\sin x,\cos x,\tan x$ の微分公式は,高校数学IIIですでに結果だけは学んでいるはずである.ここでは,それを微分係数の定義と加法定理から証明する.鍵になるのは,高校で学んだ2つの基本極限
$$ \lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1,\qquad\qquad\lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{x^2}=\frac12 $$である(前者は単位円の扇形と三角形の面積比較,後者は半角の公式 $1-\cos x=2\sin^2\dfrac x2$ を使って前者に帰着させることで示される:$\dfrac{1-\cos x}{x^2}=\dfrac{2\sin^2(x/2)}{x^2}=\dfrac12\left(\dfrac{\sin(x/2)}{x/2}\right)^2\to\dfrac12\cdot1^2=\dfrac12$).以下の証明ではこの2つの基本極限を断りなく使う.
公式3.9 $\dfrac{d}{dx}\sin x=\cos x$
\begin{equation} \frac{d}{dx}\sin x=\cos x\label{eq:3-sin} \end{equation}公式3.9の証明
定義から,
$$ \frac{d}{dx}\sin x=\lim_{h\to0}\frac1h\{\sin(x+h)-\sin x\} $$加法定理(三角関数の加法定理と諸公式)$\sin(x+h)=\sin x\cos h+\cos x\sin h$ を代入すると,
$$ =\lim_{h\to0}\frac1h\left(\sin x\cos h+\cos x\sin h-\sin x\right) $$$\sin x\cos h-\sin x=\sin x(\cos h-1)$ とまとめて2つの項に分け,$\sin x$,$\cos x$ を($h$ を含まない定数として)極限の外に出す.
$$ =\lim_{h\to0}\left(\cos x\cdot\frac{\sin h}{h}+\sin x\cdot\frac{\cos h-1}{h}\right) $$1つ目の分数は基本極限 $\dfrac{\sin h}{h}\to1$.2つ目の分数は,$\dfrac{\cos h-1}{h}=\dfrac{\cos h-1}{h^2}\cdot h$ と書き直せば,$\dfrac{\cos h-1}{h^2}$ は(上の基本極限より)$-\dfrac12$ に近づく有限な値であり,それに $h\to0$ をかけるので全体は $0$ に近づく.したがって,
$$ \frac{d}{dx}\sin x=\cos x\cdot1+\sin x\cdot0=\cos x $$を得る.
(証明終わり)
公式3.10 $\dfrac{d}{dx}\cos x=-\sin x$
\begin{equation} \frac{d}{dx}\cos x=-\sin x\label{eq:3-cos} \end{equation}公式3.10の証明
公式3.9とまったく同じ流れである.定義から,
$$ \frac{d}{dx}\cos x=\lim_{h\to0}\frac1h\{\cos(x+h)-\cos x\} $$加法定理 $\cos(x+h)=\cos x\cos h-\sin x\sin h$ を代入すると,
$$ =\lim_{h\to0}\frac1h\left(\cos x\cos h-\sin x\sin h-\cos x\right) $$$\cos x\cos h-\cos x=\cos x(\cos h-1)$ とまとめて2つの項に分けると,
$$ =\lim_{h\to0}\left(-\sin x\cdot\frac{\sin h}{h}+\cos x\cdot\frac{\cos h-1}{h}\right) $$公式3.9の証明と同じ理由で $\dfrac{\sin h}{h}\to1$,$\dfrac{\cos h-1}{h}\to0$ だから,
$$ \frac{d}{dx}\cos x=-\sin x\cdot1+\cos x\cdot0=-\sin x $$を得る.
(証明終わり)
公式3.11 $\dfrac{d}{dx}\tan x=\dfrac{1}{\cos^2x}\quad\left(x\neq\dfrac\pi2+n\pi,\ n\in\mathbb Z\right)$
($\mathbb Z$(整数全体の集合)は $\mathbb R$(すべての実数)と同じ書体で整数を表す記号で,$n\in\mathbb Z$ は「$n$ は整数である」という意味である.$\cos x=0$ となる $x=\dfrac\pi2+n\pi$($n$ が整数のとき)をすべて除く,ということを表している.)
\begin{equation} \frac{d}{dx}\tan x=\frac{1}{\cos^2x}\label{eq:3-tan} \end{equation}公式3.11の証明
$\tan x=\dfrac{\sin x}{\cos x}$ なので,商の微分公式(公式3.4)が使える.$f(x)=\sin x$,$g(x)=\cos x$ とおくと,$f'(x)=\cos x$(公式3.9),$g'(x)=-\sin x$(公式3.10)だから,
$$ \left(\frac{\sin x}{\cos x}\right)'=\frac{(\sin x)'\cos x-\sin x\cdot(\cos x)'}{\cos^2x}=\frac{\cos x\cdot\cos x-\sin x\cdot(-\sin x)}{\cos^2x} $$ $$ =\frac{\cos^2x+\sin^2x}{\cos^2x} $$ここで三平方の定理から得られる恒等式 $\sin^2x+\cos^2x=1$(高校既習)を使うと,
$$ \therefore\ \frac{d}{dx}\tan x=\frac{1}{\cos^2x} $$を得る.なお,$1+\tan^2x=\dfrac{\sin^2x+\cos^2x}{\cos^2x}=\dfrac{1}{\cos^2x}$ という同値な形もよく使うので覚えておこう(3.6節の公式3.20の証明で使う).
(証明終わり)
例題3.6 単振動の速度と加速度(物理への応用)
ばね振り子や結晶格子中の原子の熱振動のように,時刻 $t$ における変位が $x(t)=A\sin(\omega t+\varphi)$($A$:振幅,$\omega$:角振動数,$\varphi$:初期位相,すべて定数)と表される運動を単振動(simple harmonic motion)という.速度 $v(t)=\dfrac{dx}{dt}$ と加速度 $a(t)=\dfrac{dv}{dt}$ を求め,$a(t)=-\omega^2x(t)$ が成り立つことを示せ.
解答 $x(t)=A\sin(\omega t+\varphi)$ を $t$ で微分する.公式3.9と合成関数の微分(内側の関数 $\omega t+\varphi$ を $t$ で微分すると $\omega$)を使うと,
$$ v(t)=\frac{dx}{dt}=A\cos(\omega t+\varphi)\cdot\omega=A\omega\cos(\omega t+\varphi) $$もう一度,今度は公式3.10を使って微分すると,
$$ a(t)=\frac{dv}{dt}=A\omega\cdot\{-\sin(\omega t+\varphi)\}\cdot\omega=-A\omega^2\sin(\omega t+\varphi) $$ここで $A\sin(\omega t+\varphi)=x(t)$ なので,
$$ a(t)=-\omega^2\cdot A\sin(\omega t+\varphi)=-\omega^2x(t) $$となり,題意が示された(sympyで検算済み).
応用:$a=-\omega^2x$ は振動現象すべてに共通する式
「加速度が変位に比例し,向きが逆」($a=-\omega^2x$)という関係式は,ばね振り子だけでなく,結晶中の原子が平衡位置のまわりで振動する格子振動(lattice vibration,フォノン)や,LC回路を流れる電流の振動など,自然界の実に多くの振動現象に共通して現れる基礎方程式である.材料科学で原子の熱振動や音速を議論するときの出発点も,本質的にはこの例題と同じ微分計算である.
3.5 双曲線関数とその逆関数の微分公式
数学ノート:第2章で導入した双曲線関数の復習
双曲線関数(hyperbolic function)は,第2章で次のように定義された.
$$ \sinh\alpha=\frac{e^\alpha-e^{-\alpha}}{2},\qquad\cosh\alpha=\frac{e^\alpha+e^{-\alpha}}{2},\qquad\tanh\alpha=\frac{\sinh\alpha}{\cosh\alpha} $$また,指数関数の定義から直接計算することで,三角関数の $\sin^2x+\cos^2x=1$ に対応する恒等式
$$ \cosh^2\alpha-\sinh^2\alpha=1 $$が成り立つことも第2章で確認済みである.本節では,まずこれら3つの関数自身の導関数を求め(公式3.12〜公式3.14),続いてその逆関数 $\sinh^{-1}x,\cosh^{-1}x,\tanh^{-1}x$ の導関数を求める(公式3.15〜公式3.17).なお本節の前半では,ノートの記法にならって変数を $\alpha$ で書く.
公式3.12 $\dfrac{d}{d\alpha}\sinh\alpha=\cosh\alpha$
\begin{equation} \frac{d}{d\alpha}\sinh\alpha=\cosh\alpha\label{eq:3-sinh} \end{equation}公式3.12の証明
定義 $\sinh\alpha=\dfrac{e^\alpha-e^{-\alpha}}{2}$ をそのまま項別に微分する.$(e^\alpha)'=e^\alpha$(公式3.1)であり,$(e^{-\alpha})'=-e^{-\alpha}$(合成関数の微分:内側の関数 $-\alpha$ を $\alpha$ で微分すると $-1$ なので,$e^{-\alpha}$ を微分すると $e^{-\alpha}\times(-1)=-e^{-\alpha}$)である.したがって,
$$ \frac{d}{d\alpha}\sinh\alpha=\frac{(e^\alpha)'-(e^{-\alpha})'}{2}=\frac{e^\alpha-(-e^{-\alpha})}{2}=\frac{e^\alpha+e^{-\alpha}}{2}=\cosh\alpha $$を得る(最後の等号は $\cosh\alpha$ の定義そのもの).
(証明終わり)
公式3.13 $\dfrac{d}{d\alpha}\cosh\alpha=\sinh\alpha$
\begin{equation} \frac{d}{d\alpha}\cosh\alpha=\sinh\alpha\label{eq:3-cosh} \end{equation}公式3.13の証明
公式3.12とまったく同様に,$\cosh\alpha=\dfrac{e^\alpha+e^{-\alpha}}{2}$ を項別に微分すると,
$$ \frac{d}{d\alpha}\cosh\alpha=\frac{(e^\alpha)'+(e^{-\alpha})'}{2}=\frac{e^\alpha+(-e^{-\alpha})}{2}=\frac{e^\alpha-e^{-\alpha}}{2}=\sinh\alpha $$を得る.
(証明終わり)
公式3.14 $\dfrac{d}{d\alpha}\tanh\alpha=\dfrac{1}{\cosh^2\alpha}$
\begin{equation} \frac{d}{d\alpha}\tanh\alpha=\frac{1}{\cosh^2\alpha}\label{eq:3-tanh} \end{equation}公式3.14の証明
$\tanh\alpha=\dfrac{\sinh\alpha}{\cosh\alpha}$ なので,商の微分公式(公式3.4)を使う.$f=\sinh\alpha$,$g=\cosh\alpha$ とおくと,$f'=\cosh\alpha$(公式3.12),$g'=\sinh\alpha$(公式3.13)だから,
$$ \frac{d}{d\alpha}\tanh\alpha=\frac{(\sinh\alpha)'\cosh\alpha-\sinh\alpha(\cosh\alpha)'}{\cosh^2\alpha}=\frac{\cosh^2\alpha-\sinh^2\alpha}{\cosh^2\alpha} $$分子は,指数関数の定義に戻って直接計算すると,
$$ \cosh^2\alpha-\sinh^2\alpha=\frac14(e^{2\alpha}+2+e^{-2\alpha})-\frac14(e^{2\alpha}-2+e^{-2\alpha})=\frac14\cdot4=1 $$(この計算は上のノートに書いた恒等式 $\cosh^2\alpha-\sinh^2\alpha=1$ の確認でもある).したがって,
$$ \frac{d}{d\alpha}\tanh\alpha=\frac{1}{\cosh^2\alpha} $$を得る.
(証明終わり)
ここから,双曲線関数の逆関数(inverse function)$\sinh^{-1}x,\cosh^{-1}x,\tanh^{-1}x$ の導関数を求める.第2章では,これらが次の対数の形に書けることをすでに示した.
$$ \sinh^{-1}x=\log_e(\sqrt{x^2+1}+x),\qquad\cosh^{-1}x=\log_e(x+\sqrt{x^2-1})\ (x\gt1),\qquad\tanh^{-1}x=\frac12\log_e\frac{1+x}{1-x}\ (|x|\lt1) $$数学ノート:逆関数の微分法 $\dfrac{dy}{dx}=1\big/\dfrac{dx}{dy}$
$y=\varphi^{-1}(x)$($\varphi$ の逆関数)を微分したいとき,いちいち対数の形に直さなくても,次の考え方で直接計算できる.$y=\varphi^{-1}(x)$ は $x=\varphi(y)$ と同じことなので,まず $x$ を $y$ の関数とみて $\dfrac{dx}{dy}$ を計算する.$\dfrac{dx}{dy}\neq0$ であれば,$x$ の微小変化と $y$ の微小変化の比の逆数を取ることで
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{1}{\dfrac{dx}{dy}} $$が成り立つ($y=\varphi^{-1}(x)$ のグラフは $x=\varphi(y)$ のグラフを $x$ 軸と $y$ 軸を入れ替えて見ているだけなので,傾きが互いに逆数になるのは図3.2で見た対称性からも直感的に納得できる).最後に,右辺に現れる $y$ を $x$ の式に書き戻して答えを完成させる.この手順を,以下の公式3.15〜3.17と3.6節の公式3.18〜3.20で繰り返し使う.
公式3.15 $\dfrac{d}{dx}\sinh^{-1}x=\dfrac{1}{\sqrt{x^2+1}}$
\begin{equation} \frac{d}{dx}\sinh^{-1}x=\frac{1}{\sqrt{x^2+1}}\label{eq:3-sinh-inv} \end{equation}公式3.15の証明
$y=\sinh^{-1}x$ とおく.これは $\sinh y=x$ と同じことである.逆関数の微分法を使うため,まず $x$ を $y$ の関数とみて $y$ で微分する.
$$ \frac{dx}{dy}=\cosh y $$Attention:$\cosh y$ を $x$ で表すには
恒等式 $\cosh^2\alpha=1+\sinh^2\alpha$(公式3.14の証明で示した $\cosh^2\alpha-\sinh^2\alpha=1$ を書き換えただけ)を利用する.
これを使うと,
$$ \frac{dx}{dy}=\cosh y=\sqrt{1+\sinh^2y}=\sqrt{1+x^2} $$($\cosh y$ は定義から常に正なので,根号は $+$ の符号だけでよい).逆関数の微分法より,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{1}{\dfrac{dx}{dy}}=\frac{1}{\sqrt{x^2+1}} $$を得る.
(証明終わり)
公式3.16 $\dfrac{d}{dx}\cosh^{-1}x=\dfrac{1}{\sqrt{x^2-1}}\quad(x\gt1)$
\begin{equation} \frac{d}{dx}\cosh^{-1}x=\frac{1}{\sqrt{x^2-1}}\qquad(x\gt1)\label{eq:3-cosh-inv} \end{equation}公式3.16の証明
$y=\cosh^{-1}x$($x\gt1$,$y\gt0$ の主値をとる)とおく.これは $\cosh y=x$ と同じことである.$y$ で微分すると,
$$ \frac{dx}{dy}=\sinh y=\sqrt{\cosh^2y-1}=\sqrt{x^2-1} $$($y\gt0$ の範囲では $\sinh y\gt0$ なので,こちらも根号は $+$ の符号でよい).逆関数の微分法より,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{1}{\dfrac{dx}{dy}}=\frac{1}{\sqrt{x^2-1}} $$を得る.
(証明終わり)
公式3.17 $\dfrac{d}{dx}\tanh^{-1}x=\dfrac{1}{1-x^2}\quad(|x|\lt1)$
\begin{equation} \frac{d}{dx}\tanh^{-1}x=\frac{1}{1-x^2}\qquad(|x|\lt1)\label{eq:3-tanh-inv} \end{equation}公式3.17の証明
$y=\tanh^{-1}x$ とおく.これは $\tanh y=x$ と同じことである.$y$ で微分すると,公式3.14と同じ計算で
$$ \frac{dx}{dy}=\frac{\cosh^2y-\sinh^2y}{\cosh^2y}=1-\left(\frac{\sinh y}{\cosh y}\right)^2=1-\tanh^2y=1-x^2 $$(1つ目の等号は $\dfrac{d}{dy}\tanh y$ を商の微分公式で書いた形,2つ目は分数を2項に分けた形,3つ目は $\tanh y=x$ の代入).逆関数の微分法より,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{1}{\dfrac{dx}{dy}}=\frac{1}{1-x^2} $$を得る.
(証明終わり)
別証明:積分を使って $\tanh^{-1}x=\log_e\sqrt{\dfrac{1+x}{1-x}}$ を導く
公式3.17の逆演算(積分)を考えることで,第2章で示した対数の形をもう一度確認できる.公式3.17の両辺を(第5章で正式に学ぶ積分を高校数学IIIの範囲で先取りして)$x$ で積分すると,
$$ \int\frac{d}{dx}(\tanh^{-1}x)\,dx=\int\frac{1}{1-x^2}\,dx $$左辺は $\tanh^{-1}x+C_0$(積分は微分の逆演算)である.右辺は,部分分数分解
$$ \frac{1}{1-x^2}=\frac{1}{(1-x)(1+x)}=\frac12\left(\frac{1}{1-x}+\frac{1}{1+x}\right) $$(右辺を通分すると $\dfrac12\cdot\dfrac{(1+x)+(1-x)}{(1-x)(1+x)}=\dfrac12\cdot\dfrac{2}{1-x^2}=\dfrac{1}{1-x^2}$ となって確かに元の式に戻ることで検算できる)を使い,高校既習の $\displaystyle\int\frac{dx}{1-x}=-\log_e|1-x|+C$,$\displaystyle\int\frac{dx}{1+x}=\log_e|1+x|+C$ を項別に使うと,
$$ \int\frac{1}{1-x^2}\,dx=\frac12\{-\log_e(1-x)+\log_e(1+x)\}+C=\frac12\{\log_e(1+x)-\log_e(1-x)\}+C $$($|x|\lt1$ なので $1-x\gt0,\ 1+x\gt0$ となり絶対値は外せる).対数の性質 $\log_eA-\log_eB=\log_e\dfrac AB$ でまとめ,さらに $\dfrac12\log_eX=\log_eX^{\frac12}=\log_e\sqrt X$(対数の性質)を使うと,
$$ =\log_e\sqrt{\frac{1+x}{1-x}}+C $$したがって $\tanh^{-1}x=\log_e\sqrt{\dfrac{1+x}{1-x}}+C$(積分定数の違いは1つの定数 $C$ にまとめた).定数 $C$ を決めるために $x=0$ を代入すると,$\tanh^{-1}0=0$($\tanh0=0$ の逆関数だから)であり,右辺は $\log_e\sqrt{\frac{1+0}{1-0}}=\log_e1=0$ なので,$C=0$.よって,
$$ \therefore\ \tanh^{-1}x=\log_e\sqrt{\frac{1+x}{1-x}} $$を得る.これは第2章で $x=\tanh y$ から直接導いた式と一致する.
(証明終わり)
例題3.7 $y=\tanh(2x)$ の導関数(合成関数の微分)
$y=\tanh(2x)$ の導関数を求めよ.
解答 $u=2x$ とおくと $y=\tanh u$ である.合成関数の微分より,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx} $$$\dfrac{dy}{du}=\dfrac{1}{\cosh^2u}$(公式3.14),$\dfrac{du}{dx}=2$ だから,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{1}{\cosh^2u}\cdot2=\frac{2}{\cosh^2(2x)} $$を得る(sympyで検算済み).
例題3.8 $y=\cosh^{-1}\dfrac x2$ の導関数(合成関数の微分)
$y=\cosh^{-1}\dfrac x2$($x\gt2$)の導関数を求めよ.
解答 $u=\dfrac x2$ とおくと $y=\cosh^{-1}u$ である.合成関数の微分より,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx}=\frac{1}{\sqrt{u^2-1}}\cdot\frac12 $$(公式3.16,$\dfrac{du}{dx}=\dfrac12$).$u=\dfrac x2$ を代入して整理すると,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{1}{2\sqrt{\left(\frac x2\right)^2-1}}=\frac{1}{2\sqrt{\dfrac{x^2}4-1}}=\frac{1}{2\cdot\dfrac12\sqrt{x^2-4}}=\frac{1}{\sqrt{x^2-4}} $$(分母の $\sqrt{\frac{x^2}4-1}=\sqrt{\frac{x^2-4}4}=\frac12\sqrt{x^2-4}$ を使って整理した.sympyで検算済み.)
3.6 逆三角関数の微分公式
三角関数 $\sin x,\cos x,\tan x$ にも,双曲線関数のときと同じように逆関数を考えることができる.ただし1つ注意が必要である.$\sin x$ は周期関数なので,$\sin x=\frac12$ を満たす $x$ は $x=\frac\pi6,\frac{5\pi}6,\frac\pi6+2\pi,\ldots$ と無限に存在し,このままでは「逆関数」(1つの $x$ に1つの $y$ を対応させる関数)が定まらない.そこで,$\sin x$ の定義域を制限して,1対1の対応になる範囲だけを取り出してから逆関数を考える.これが逆三角関数(inverse trigonometric function)である.
定義3.1 逆三角関数 $\sin^{-1}x,\cos^{-1}x,\tan^{-1}x$(主値)
$\sin x$ を定義域 $-\dfrac\pi2\le x\le\dfrac\pi2$ に制限すると,値域 $-1\le y\le1$ との間に1対1の対応がつく.この範囲での逆関数を $y=\sin^{-1}x$($-1\le x\le1$)と書き,
$$ y=\sin^{-1}x\iff\sin y=x\ \text{かつ}\ -\frac\pi2\le y\le\frac\pi2 $$と定める(この $y$ の範囲を主値,principal value という).同様に,$\cos x$ を $0\le x\le\pi$ に制限して
$$ y=\cos^{-1}x\iff\cos y=x\ \text{かつ}\ 0\le y\le\pi\qquad(-1\le x\le1) $$$\tan x$ を $-\dfrac\pi2\lt x\lt\dfrac\pi2$ に制限して
$$ y=\tan^{-1}x\iff\tan y=x\ \text{かつ}\ -\frac\pi2\lt y\lt\frac\pi2\qquad(x\in\mathbb R) $$と定める.($\sin^{-1}x$ は $\arcsin x$,$\cos^{-1}x$ は $\arccos x$,$\tan^{-1}x$ は $\arctan x$ とも書かれる.)
| 関数 | 定義域($x$ の範囲) | 値域(主値 $y$ の範囲) |
|---|---|---|
| $y=\sin^{-1}x$ | $-1\le x\le1$ | $-\dfrac\pi2\le y\le\dfrac\pi2$ |
| $y=\cos^{-1}x$ | $-1\le x\le1$ | $0\le y\le\pi$ |
| $y=\tan^{-1}x$ | すべての実数 | $-\dfrac\pi2\lt y\lt\dfrac\pi2$ |
公式3.18 $\dfrac{d}{dx}\sin^{-1}x=\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}}\quad(-1\lt x\lt1)$
\begin{equation} \frac{d}{dx}\sin^{-1}x=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\qquad(-1\lt x\lt1)\label{eq:3-arcsin} \end{equation}公式3.18の証明
$y=\sin^{-1}x$ とおく.定義3.1より,これは $\sin y=x$ かつ $-\dfrac\pi2\lt y\lt\dfrac\pi2$ ということである(端点 $y=\pm\pi/2$ では後の割り算ができないので $-1\lt x\lt1$ の範囲で考える).逆関数の微分法(3.5節)を使うため,$x$ を $y$ の関数とみて微分する.
$$ \frac{dx}{dy}=\frac{d}{dy}\sin y=\cos y\quad\cdots① $$Attention:$\cos y$ を $x$ で表すには符号に注意
$\cos^2\theta=1-\sin^2\theta$(三平方の定理)より $\cos\theta=\pm\sqrt{1-\sin^2\theta}$ だが,どちらの符号かは $\theta$ の範囲によって決まる.いま $-\dfrac\pi2\lt y\lt\dfrac\pi2$(単位円の右半分)なので $\cos y\gt0$ である.
したがって①式の $\cos y$ は,符号を選んで $\cos y=\sqrt{1-\sin^2y}$ と表せる.$\sin y=x$ を代入すると,
$$ \frac{dx}{dy}=\sqrt{1-\sin^2y}=\sqrt{1-x^2} $$逆関数の微分法(両辺の逆数をとる)より,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{1}{\dfrac{dx}{dy}}=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}} $$を得る.
(証明終わり)
公式3.19 $\dfrac{d}{dx}\cos^{-1}x=-\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}}\quad(-1\lt x\lt1)$
\begin{equation} \frac{d}{dx}\cos^{-1}x=-\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\qquad(-1\lt x\lt1)\label{eq:3-arccos} \end{equation}公式3.19の証明
$y=\cos^{-1}x$($\cos y=x$,$0\lt y\lt\pi$)とおく.$y$ で微分すると,
$$ \frac{dx}{dy}=\frac{d}{dy}\cos y=-\sin y $$$0\lt y\lt\pi$(単位円の上半分)では $\sin y\gt0$ なので,$\sin y=\sqrt{1-\cos^2y}$ と符号を選んでよい.$\cos y=x$ を代入すると,
$$ \frac{dx}{dy}=-\sqrt{1-\cos^2y}=-\sqrt{1-x^2} $$逆関数の微分法より,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{1}{\dfrac{dx}{dy}}=\frac{-1}{\sqrt{1-x^2}}=-\frac{1}{\sqrt{1-x^2}} $$を得る.
(証明終わり)
公式3.20 $\dfrac{d}{dx}\tan^{-1}x=\dfrac{1}{x^2+1}$
\begin{equation} \frac{d}{dx}\tan^{-1}x=\frac{1}{x^2+1}\label{eq:3-arctan} \end{equation}公式3.20の証明
$y=\tan^{-1}x$($\tan y=x$,$-\dfrac\pi2\lt y\lt\dfrac\pi2$)とおく.$y$ で微分すると,公式3.11より
$$ \frac{dx}{dy}=\frac{d}{dy}\tan y=\frac{1}{\cos^2y}=1+\tan^2y $$(2つ目の等号は公式3.11の証明末尾で確認した恒等式 $1+\tan^2y=1/\cos^2y$ を使った.この形なら $\tan y=x$ をそのまま代入できて都合がよい).$\tan y=x$ を代入すると,
$$ \frac{dx}{dy}=1+x^2 $$逆関数の微分法より,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{1}{\dfrac{dx}{dy}}=\frac{1}{1+x^2}=\frac{1}{x^2+1} $$を得る.
(証明終わり)
例題3.9 $y=\sin^{-1}(2x)$ の導関数(合成関数の微分)
$y=\sin^{-1}(2x)$($-\dfrac12\lt x\lt\dfrac12$)の導関数を求めよ.
解答 $u=2x$ とおくと $y=\sin^{-1}u$ である.合成関数の微分より,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx}=\frac{1}{\sqrt{1-u^2}}\cdot2 $$(公式3.18,$\dfrac{du}{dx}=2$).$u=2x$ を代入すると,
$$ \frac{dy}{dx}=\frac{2}{\sqrt{1-4x^2}} $$を得る(定義域は $1-4x^2\gt0$ より $-\frac12\lt x\lt\frac12$.sympyで検算済み).
3.7 まとめと演習
3.7.1 まとめ
本章では,微分係数の定義(と,そこから導かれる合成関数の微分・積の微分公式・逆関数の微分法)だけを武器にして,高校で公式として習った初等関数の導関数をすべて自分の手で証明した.証明の型はほぼ共通していた.
- 定義に戻って計算するパターン($e^x$,積・商の微分公式,$\log_ex$,$\sin x$,$\cos x$,$\sinh\alpha$,$\cosh\alpha$):$\lim_{h\to0}\{f(x+h)-f(x)\}/h$ を計算し,加法定理や指数法則で分子を整理し,基本極限($\lim\frac{e^h-1}h=1$,$\lim\frac{\sin h}h=1$,$\lim\frac{\cos h-1}h=0$)に帰着させる.
- 対数微分法($a^x$,$x^\alpha$,例題3.5の $x^x$,演習3.6の $x^{\sin x}$):両辺の対数をとり,合成関数の微分 $\frac{d}{dx}\log_ey=\frac1y\frac{dy}{dx}$ を使う.
- 既知の公式に帰着させるパターン($\tan x$,$\tanh\alpha$,商の微分公式の別解):商の微分公式や積の微分公式に当てはめるだけで新しい計算は不要.
- 逆関数の微分法 $\frac{dy}{dx}=1/\frac{dx}{dy}$ を使うパターン($\sinh^{-1}x,\cosh^{-1}x,\tanh^{-1}x,\sin^{-1}x,\cos^{-1}x,\tan^{-1}x$):$x=\varphi(y)$ の形に直し,$\frac{dx}{dy}$ を求めてから逆数をとり,最後に $y$ を $x$ の式に戻す.
証明した公式を,種類ごとに一覧にしておく.
これで,第4章のテイラー展開や第5章の積分計算で自由に使える「導関数の道具箱」が揃った.
3.7.2 演習問題
演習3.1 $y=x^3\log_ex$ の導関数
$y=x^3\log_ex$($x\gt0$)の導関数を求めよ.
ヒント:積の微分公式(公式3.3)を,$f(x)=x^3$,$g(x)=\log_ex$(公式3.5)として使う.
演習3.2 $y=\dfrac{e^x}{\cos x}$ の導関数
$y=\dfrac{e^x}{\cos x}$ の導関数を求めよ.
ヒント:商の微分公式(公式3.4)を,$f(x)=e^x$(公式3.1),$g(x)=\cos x$(公式3.10)として使う.
演習3.3 $y=\log_2(x^2+1)$ の導関数
$y=\log_2(x^2+1)$ の導関数を求めよ.
ヒント:底の変換公式で $\log_2(x^2+1)=\dfrac{\log_e(x^2+1)}{\log_e2}$ と書き直し,公式3.7(あるいは公式3.6と公式3.7の合わせ技)を使う.
演習3.4 $y=\sinh^{-1}(3x)$ の導関数
$y=\sinh^{-1}(3x)$ の導関数を求めよ.
ヒント:例題3.7・例題3.8と同じく,$u=3x$ の合成関数として公式3.15を使う.
演習3.5 $y=\tan^{-1}\dfrac1x$ の導関数
$y=\tan^{-1}\dfrac1x$($x\neq0$)の導関数を求めよ.
ヒント:$u=1/x$ の合成関数として公式3.20を使う.$\dfrac{du}{dx}=-\dfrac{1}{x^2}$(高校既習のべき関数の微分)に注意する.
演習3.6 $\dfrac{d}{dx}x^{\sin x}$(対数微分法)
$x^{\sin x}$($x\gt0$)の導関数を,対数微分法を使って求めよ.
ヒント:例題3.5($x^x$)とまったく同じ手順.両辺の対数をとると $\log_ey=\sin x\log_ex$ となり,右辺の微分には積の微分公式が必要になる.
3.7.3 参考文献
- 望月泰英『数学ノート 微分積分学』(手書き講義ノート).本章の底本.
- 杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会,1980年.
- 高木貞治『解析概論』岩波書店,改訂第3版,1983年.