第36章2階線形非同次微分方程式とオイラーの方程式
第35章では,2階線形同次微分方程式 $y''+ay'+by=0$(右辺が $0$)を解き,一次独立な2つの基本解 $y_1,y_2$ から一般解 $Y=C_1y_1+C_2y_2$ を作る方法を学んだ.しかし,現実の物理現象——外力が加わったばね,電源をつないだ回路,重力を受ける振り子——は,右辺に $0$ ではない「入力」や「外力」を持つ非同次方程式 $y''+ay'+by=R(x)$ で表される.本章の前半では,この $R(x)$ に応じた特殊解 $y_0$(一般解は $y=y_0+Y$)を求める2つの強力な方法を学ぶ.1つは,2つの基本解がすでに分かっているときに使える定数変化法.もう1つは,基本解がたった1つしか分からなくても使える階数低減法である——後者では,1つの解を知っているだけで,特殊解だけでなく,もう一方の基本解まで芋づる式に見つかってしまうという,驚くべきことが起こる.
本章の後半では,係数が定数ではなく $x$ に依存する2階線形微分方程式に踏み込む.その代表例がオイラーの微分方程式(Cauchy–Euler方程式)$x^2y''+axy'+by=0$ である.円柱や球のように回転対称性を持つ物理系(同軸ケーブルの電位,量子力学の動径方向のシュレーディンガー方程式,弾性体の応力など)の方程式にはしばしばこの形が現れる.指数関数 $e^{\lambda x}$ が定数係数方程式の基本解だったのと同じ理由で,オイラー方程式では冪関数 $x^\lambda$ が基本解の候補になる——この対応は,$x=e^t$ という置換で完全に説明できる(第37章で扱う).特性方程式の解の種類(相異なる実数解・重解・複素数解)に応じて基本解の形が3通りに分かれるのは,第35章で学んだ定数係数同次方程式の3分類と全く同じ論理構造をしている.さらに,一般の変数係数方程式で基本解の候補を見つける条件,そして1階微分の項を消し去る「標準形」への変換という,物理でも頻繁に使われる変換技法も習得する.最後に,単振動の方程式を$(x,\dot x)$平面(相空間)上の円運動として眺め直し,「振動」と「回転」が同じ現象の2つの顔であることを幾何学的に確認する.
- 非同次方程式の一般解 $y=y_0+Y$ の構造の復習と,特殊解 $y_0$ を求める2つの方法の使い分け
- 定数変化法:2つの基本解 $y_1,y_2$ が既知のとき,$C_1(x),C_2(x)$ を行列(逆行列)で求め,公式 $y_0=-y_1\displaystyle\int\frac{y_2R(x)}{W}\dd x+y_2\displaystyle\int\frac{y_1R(x)}{W}\dd x$ を導く
- 階数低減法:基本解が $y_1$ だけ既知のとき,$y=u(x)y_1$ とおいて非同次方程式を $u$ についての1階線形微分方程式に帰着させる
- オイラーの微分方程式 $x^2y''+axy'+by=0$ と,その特性方程式 $\lambda^2+(a-1)\lambda+b=0$,試行解 $x^\lambda$ の由来
- 特性方程式の解の種類に応じた3通りの一般解:相異なる実数解 $x^{\lambda_1},x^{\lambda_2}$/重解 $x^{\lambda_0},x^{\lambda_0}\ln x$/複素数解 $x^\alpha\cos(\beta\ln x),x^\alpha\sin(\beta\ln x)$
- 一般の2階線形微分方程式 $y''+P(x)y'+Q(x)y=R(x)$ で,基本解 $x^\lambda$ や $e^{\lambda x}$ が(変数係数でも)求まる十分条件
- 標準形(正規形)$u''+I(x)u=J(x)$ への変換:$y=u(x)v(x)$ とおいて1階微分の項を消す技法
- 相空間 $(x,V)$ 上の円 $x^2+V^2=A^2$ と,単振動型微分方程式 $m\ddot x=-kx$ の幾何学的な解法 $x(t)=A\cos(\omega t-\theta_0)$
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 常微分方程式』 pp. 24–32.
36.1 非同次方程式の一般解の構造と定数変化法
まず,定数 $a,b$ を係数とする2階線形非同次微分方程式
\begin{equation} y''+ay'+by=R(x) \qquad \cdots ① \label{eq:36-inhomog} \end{equation}を考える.右辺の $R(x)$ を,方程式に加わる「入力」や「外力」と考えるとよい($R(x)=0$ なら第35章で学んだ同次方程式である).①に対応する同次方程式を
\begin{equation} y''+ay'+by=0 \qquad \cdots ② \label{eq:36-homog} \end{equation}と書く.第35章の定理で証明したように,①の一般解 $y$ は
$$ y=y_0+Y $$の形になる.ここで $Y$ は②の一般解(基本解,basic solution,$y_1,y_2$ を使って $Y=C_1y_1+C_2y_2$)であり,$Y$ の求め方はすでに第35章で学んだ.一方 $y_0$ は①を満たすただ1つの解で構わないもの——これを①の特殊解(particular solution)と呼ぶ.本章の目標は,この $y_0$ を求める具体的な方法を身につけることである.
なぜ「定数変化法」と呼ぶか
第33章で学んだ1階線形微分方程式 $y'+P(x)y=Q(x)$ の解法を思い出そう.そこでは,まず同次方程式 $y'+P(x)y=0$ の一般解 $y=C e^{-\int P(x)\dd x}$ を求め,その後で任意定数 $C$ を $x$ の関数 $C(x)$ に「変化」させることで,非同次方程式の一般解 $y=C(x)e^{-\int P(x)\dd x}$ を得た.今回も全く同じ発想を使う.②の一般解 $Y=C_1y_1+C_2y_2$ に現れる2つの任意定数 $C_1,C_2$ を,$x$ の関数 $C_1(x),C_2(x)$ に置き換えたもの \begin{equation} y_0=C_1(x)y_1+C_2(x)y_2 \qquad \cdots ③ \label{eq:36-ansatz} \end{equation} が,①の特殊解になっているのではないか——と考えるのである.これが定数変化法(variation of parameters)である.
③が本当に①を満たすように,$C_1(x),C_2(x)$ をどう選べばよいかを調べよう.③の両辺を $x$ で微分すると(積の微分法則を2回使う),
$$ y_0'=C_1'y_1+C_1y_1'+C_2'y_2+C_2y_2'=(C_1'y_1+C_2'y_2)+(C_1y_1'+C_2y_2') $$となる.ここで少し工夫をする.$C_1(x),C_2(x)$ という2つの未知関数に対して,まだ条件を1つも課していない(③はあくまで「$y_0$ がこの形をしている」というだけで,$C_1,C_2$ 自体は自由である).そこで,計算が楽になるように,かっこの前半部分がちょうど $0$ になるという条件
\begin{equation} C_1'y_1+C_2'y_2=0 \qquad \cdots ④ \label{eq:36-c1c2-zero} \end{equation}を自分から課してしまう(本当にこの条件で矛盾なく $C_1,C_2$ が求まることは,このあとの計算で確認できる).すると
\begin{equation} y_0'=C_1y_1'+C_2y_2' \qquad \cdots ⑤ \label{eq:36-y0prime} \end{equation}となって,$y_0'$ の式に $C_1',C_2'$ が現れずにすむ.⑤をもう一度 $x$ で微分すると,
\begin{equation} y_0''=(C_1y_1'+C_2y_2')'=C_1'y_1'+C_1y_1''+C_2'y_2'+C_2y_2''=C_1'y_1'+C_2'y_2'+C_1y_1''+C_2y_2'' \qquad \cdots ⑥ \label{eq:36-y0double} \end{equation}を得る.$y_0$ は①の解であるという条件から,③,⑤,⑥を①の左辺に代入したものが $R(x)$ に等しくなるはずである.実際に代入すると,
$$ y_0''+ay_0'+by_0=\big(C_1'y_1'+C_2'y_2'+C_1y_1''+C_2y_2''\big)+a\big(C_1y_1'+C_2y_2'\big)+b\big(C_1y_1+C_2y_2\big) $$右辺を $C_1,C_2$ でくくり直すと,
$$ =C_1\underbrace{(y_1''+ay_1'+by_1)}_{0}+C_2\underbrace{(y_2''+ay_2'+by_2)}_{0}+C_1'y_1'+C_2'y_2' $$となる.下線部が $0$ になるのは,$y_1,y_2$ がどちらも②(同次方程式)の基本解だからである.したがって,①の左辺は $C_1'y_1'+C_2'y_2'$ だけが残り,これが $R(x)$ に等しい:
\begin{equation} C_1'y_1'+C_2'y_2'=R(x) \qquad \cdots ⑦ \label{eq:36-c1c2-R} \end{equation}④と⑦の役割
④は自分から課した「都合のよい条件」,⑦は①を満たすために出てくる「必然的な条件」である.この2つを連立させれば,未知の $C_1',C_2'$ をちょうど2本の式で決定できる——④と⑦は,まさにそのために用意された式である.
④と⑦を,$C_1',C_2'$ を未知数とする連立1次方程式とみなし,行列の形に書き直す(第8章・第9章で学んだ行列とベクトルの積の記法を使う).
\begin{equation} \begin{cases} C_1'y_1+C_2'y_2=0 \\ C_1'y_1'+C_2'y_2'=R(x) \end{cases} \qquad\Longleftrightarrow\qquad \begin{bmatrix} y_1 & y_2 \\ y_1' & y_2' \end{bmatrix}\begin{bmatrix} C_1' \\ C_2' \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 \\ R(x) \end{bmatrix} \qquad \cdots ⑧ \label{eq:36-matrix} \end{equation}この $2\times2$ 行列の行列式は,まさに $y_1,y_2$ のロンスキアン $W(y_1,y_2)=y_1y_2'-y_2y_1'$ である.$y_1,y_2$ は②の一次独立な基本解だから,第35章で学んだように $W(y_1,y_2)\neq0$ が常に成り立つ.行列式が $0$ でないので,この行列は正則(逆行列を持つ)であり,$2\times2$ 行列の逆行列の公式(第8章)
$$ \begin{bmatrix} y_1 & y_2 \\ y_1' & y_2' \end{bmatrix}^{-1} = \frac{1}{W(y_1,y_2)}\begin{bmatrix} y_2' & -y_2 \\ -y_1' & y_1 \end{bmatrix} $$を⑧の両辺に左からかけると,
$$ \begin{bmatrix} C_1' \\ C_2' \end{bmatrix} = \frac{1}{W}\begin{bmatrix} y_2' & -y_2 \\ -y_1' & y_1 \end{bmatrix}\begin{bmatrix} 0 \\ R(x) \end{bmatrix} = \frac{1}{W}\begin{bmatrix} -y_2R(x) \\ y_1R(x) \end{bmatrix} $$を得る.すなわち,
$$ C_1'(x)=-\frac{y_2R(x)}{W(y_1,y_2)}, \qquad C_2'(x)=\frac{y_1R(x)}{W(y_1,y_2)} $$である(右辺は $x$ の関数だから,あとは両辺を $x$ で積分すれば $C_1(x),C_2(x)$ 自身が求まる).積分すると,
$$ C_1(x)=-\int\frac{y_2R(x)}{W(y_1,y_2)}\dd x, \qquad C_2(x)=\int\frac{y_1R(x)}{W(y_1,y_2)}\dd x $$となる.これを③に代入すれば,特殊解 $y_0$ が具体的に書き下せる.
公式36.1 定数変化法による特殊解の公式
2階線形非同次微分方程式 $y''+ay'+by=R(x)$ において,対応する同次方程式の一次独立な基本解 $y_1,y_2$(ロンスキアン $W=W(y_1,y_2)\neq0$)が分かっているとき,特殊解の1つは
\begin{equation} y_0=-y_1\int\frac{y_2R(x)}{W}\dd x+y_2\int\frac{y_1R(x)}{W}\dd x \label{eq:36-varparam} \end{equation}で与えられる.したがって,①の一般解は
$$ y=y_0+Y=-y_1\int\frac{y_2R(x)}{W}\dd x+y_2\int\frac{y_1R(x)}{W}\dd x+C_1y_1+C_2y_2 $$となる.
注意:この公式は係数が定数でなくても使える
導出の中で実際に使ったのは,「$y_1,y_2$ が同次方程式 $y''+P(x)y'+Q(x)y=0$ の一次独立な解であること」だけであり,$P,Q$ が定数であることは一度も使っていない.したがって公式\eqref{eq:36-varparam}は,係数が $x$ の関数であるような一般の方程式 $y''+P(x)y'+Q(x)y=R(x)$ に対しても,そのまま成り立つ一般的な公式である.36.5節で再びこの公式を使う.
公式\eqref{eq:36-varparam}を,具体的な方程式で使ってみよう.
例題36.1 定数変化法($y''-y=e^x$)
微分方程式 $y''-y=e^x$ の一般解を,定数変化法で求めよ.
解答 同次方程式 $y''-y=0$ の特性方程式は $\lambda^2-1=0$ より $\lambda=\pm1$ であるから(第35章),基本解は $y_1=e^x,\ y_2=e^{-x}$ である.ロンスキアンは
$$ W(y_1,y_2)=y_1y_2'-y_2y_1'=e^x\cdot(-e^{-x})-e^{-x}\cdot e^x=-1-1=-2 $$($0$ でないので,たしかに一次独立な基本解である).$R(x)=e^x$ を使って,
$$ C_1'(x)=-\frac{y_2R(x)}{W}=-\frac{e^{-x}\cdot e^x}{-2}=\frac{1}{2}, \qquad C_2'(x)=\frac{y_1R(x)}{W}=\frac{e^x\cdot e^x}{-2}=-\frac{e^{2x}}{2} $$を得る.積分して(積分定数は $Y$ に吸収されるので $0$ としてよい),
$$ C_1(x)=\frac{x}{2}, \qquad C_2(x)=-\frac{e^{2x}}{4} $$となる.公式\eqref{eq:36-varparam}に代入すると,
$$ y_0=C_1(x)y_1+C_2(x)y_2=\frac{x}{2}e^x-\frac{e^{2x}}{4}\cdot e^{-x}=\frac{x}{2}e^x-\frac{1}{4}e^x=e^x\left(\frac{x}{2}-\frac{1}{4}\right) $$を得る.ここで,$-\frac{1}{4}e^x$ の項は同次方程式の基本解 $y_1=e^x$ の定数倍なので,一般解の中の任意定数 $C_1$ に吸収してしまってよい(特殊解は「①を満たすどれか1つの解」であればよいことを思い出そう).したがって,特殊解として $y_0=\dfrac{x}{2}e^x$ を採用すれば十分であり,一般解は
$$ y=\frac{x}{2}e^x+C_1e^x+C_2e^{-x} $$となる(実際,$y_p=\frac{x}{2}e^x$ を直接方程式に代入すると,$y_p'=\frac12e^x+\frac{x}{2}e^x$,$y_p''=e^x+\frac{x}{2}e^x$ より $y_p''-y_p=e^x$ となって確かに成り立つ.sympyでも検算済み).
36.2 基本解が1つだけ既知の場合の解法(階数低減法)
36.1節の定数変化法は強力だが,同次方程式の基本解が2つとも分かっていることが前提だった.では,基本解が1つしか見つからないときはどうすればよいか.実は,たった1つの基本解からでも,非同次方程式の一般解——つまり特殊解 $y_0$ と もう1つの基本解の両方——を導き出す方法がある.この方法は階数低減法(reduction of order)と呼ばれる.
係数 $P(x),Q(x)$ は定数でも $x$ の関数でもよい(36.1節の注意で見たように,導出は係数が定数であることを使わない).非同次方程式
$$ y''+P(x)y'+Q(x)y=R(x) \qquad \cdots ① $$に対応する同次方程式を
$$ y''+P(x)y'+Q(x)y=0 \qquad \cdots ② $$と書く.この同次方程式の基本解が1つだけ,$y_1(\neq0)$ と分かっているとしよう.
イメージ:$C_1,C_2$ の次は $u(x)$
36.1節では,同次方程式の一般解 $C_1y_1+C_2y_2$ の定数 $C_1,C_2$ を関数 $C_1(x),C_2(x)$ に「変化」させた.今回は基本解が $y_1$ の1つしかないので,同じ発想を1つの関数だけに適用する.すなわち,非同次方程式①の一般解を
$$ y=u(x)\cdot y_1 \qquad \cdots ③ $$という形——$y_1$ の「定数倍」ならぬ「関数倍」——であると仮定するのである.
③の両辺を1回,2回微分する(積の微分法則).
$$ y'=u'y_1+uy_1' \qquad \cdots ④ $$ $$ y''=u''y_1+2u'y_1'+uy_1'' \qquad \cdots ⑤ $$③は①の解であるという前提から,③,④,⑤を①の左辺に代入したものが $R(x)$ に等しい.実際に代入すると,
$$ R(x)=\big(u''y_1+2u'y_1'+uy_1''\big)+P(x)\big(u'y_1+uy_1'\big)+Q(x)\cdot uy_1 $$右辺を,$u,u',u''$ でくくり直す.
$$ =u\underbrace{\big(y_1''+P(x)y_1'+Q(x)y_1\big)}_{0}+u''y_1+u'\big(2y_1'+P(x)y_1\big) $$下線部が $0$ になるのは,$y_1$ が同次方程式の解だから($y_1''+P(x)y_1'+Q(x)y_1=0$)である.よって,$u$ の1次の項と2次の項だけが残り,
$$ u''y_1+u'\big(2y_1'+P(x)y_1\big)=R(x) $$を得る.両辺を $y_1$($\neq0$)で割ると,これは $u$ についての方程式になる.
$$ u''+u'\left(\frac{2y_1'}{y_1}+P(x)\right)=\frac{R(x)}{y_1} $$ここで $u'=p(x)$ とおき($u''=p'$),$A(x)=\dfrac{2y_1'}{y_1}+P(x)$,$B(x)=\dfrac{R(x)}{y_1}$ と略記すると,
$$ p'+A(x)p=B(x) $$という形になる.
注意:これは1階線形微分方程式
$p=u'$ とおくと $p'+A(x)p=B(x)$ の形になり,これは第33章で学んだ1階線形微分方程式にほかならない.したがって第33章の解の公式がそのまま使える.
実際,解の公式
$$ p(x)=u'(x)=e^{-\int A(x)\dd x}\left\{\int B(x)\,e^{\int A(x)\dd x}\dd x+C_1\right\} $$がそのまま使える.$p(x)$ が求まれば,これをもう一度 $x$ で積分して $u(x)$ を得て,最後に③ $y=u(x)y_1$ に代入すれば,①の一般解が完成する.
定理36.1 階数低減法
非同次方程式 $y''+P(x)y'+Q(x)y=R(x)$ の同次方程式の基本解が1つ $y_1(\neq0)$ だけ分かっているとき,$y=u(x)y_1$ とおくと,$u$ は次の関係式 $$ u''+\left(\frac{2y_1'}{y_1}+P(x)\right)u'=\frac{R(x)}{y_1} $$ を満たす($p=u'$ とおけば,これは $p$ についての1階線形微分方程式 $p'+A(x)p=B(x)$ に帰着し,第33章の公式で解ける).$u(x)$ が求まれば $y=u(x)y_1$ が①の一般解を与える.
この方法が便利な理由
この解法は,同次方程式の基本解を1つ知っているだけで,非同次方程式の一般解(特殊解 $y_0$ と,もう1つの基本解 $y_2$ の両方)が求まってしまう,とても便利な解法である.次の例題でそのことを実際に確かめよう.
例題36.2 階数低減法($y''-3y'+2y=e^{4x}$,$y_1=e^x$ のみ既知)
方程式 $y''-3y'+2y=e^{4x}$ において,同次方程式 $y''-3y'+2y=0$ の基本解の1つが $y_1=e^x$ であることだけを知っているとする(もう1つの基本解 $y_2$ は分かっていないものとして進める).階数低減法で一般解を求めよ.
解答 $P(x)=-3$(定数),$R(x)=e^{4x}$,$y_1=e^x$(よって $y_1'=e^x$)である.定理36.1の係数を計算すると,
$$ A(x)=\frac{2y_1'}{y_1}+P(x)=\frac{2e^x}{e^x}+(-3)=2-3=-1, \qquad B(x)=\frac{R(x)}{y_1}=\frac{e^{4x}}{e^x}=e^{3x} $$である($A(x)$ が定数になったのは,たまたま $y_1$ が指数関数だからである).$p=u'$ とおくと,$u$ の方程式は
$$ p'-p=e^{3x} $$という1階線形方程式になる.積分因子は $e^{\int(-1)\dd x}=e^{-x}$(第33章)であるから,両辺に $e^{-x}$ をかけて
$$ (pe^{-x})'=e^{3x}\cdot e^{-x}=e^{2x} $$を得る.両辺を積分すると,$pe^{-x}=\frac12e^{2x}+C_1$,すなわち
$$ p(x)=u'(x)=\frac12e^{3x}+C_1e^x $$となる.さらに $x$ で積分して,
$$ u(x)=\frac16e^{3x}+C_1e^x+C_2 $$を得る.これを $y=u(x)y_1=u(x)e^x$ に代入すると,
$$ y=\left(\frac16e^{3x}+C_1e^x+C_2\right)e^x=\frac16e^{4x}+C_1e^{2x}+C_2e^x $$となる.これで完成である.注目してほしいのは,出発点では $y_1=e^x$ しか知らなかったにもかかわらず,結果として
- 特殊解 $y_0=\dfrac16e^{4x}$(未定係数法で $y_p=Ae^{4x}$ を代入して検算すると,$16A-12A+2A=6A=1$ より $A=\frac16$ となり一致する)
- 同次方程式のもう1つの基本解 $y_2=e^{2x}$($C_1$ の係数として自動的に現れた)
の両方が手に入ったことである.たった1つの基本解 $y_1$ から出発して,方程式全体の情報(もう1つの基本解と特殊解)が芋づる式に得られる——これが階数低減法の威力である($e^x,e^{2x}$ が同次方程式 $y''-3y'+2y=0$ の基本解であることも特性方程式 $\lambda^2-3\lambda+2=(\lambda-1)(\lambda-2)=0$ から確認でき,sympyでも全体を検算済み).
36.3 オイラーの微分方程式 — 試行解 $x^\lambda$ の発見
ここまでは係数が定数の方程式(36.1節・36.2節)を中心に扱ってきた.ここからは,係数が $x$ の関数である2階線形微分方程式に話を進める.その中でもっとも基本的で応用が広いのが,次のオイラーの微分方程式である.
定義36.1 オイラーの微分方程式(Cauchy–Euler方程式)
$a,b$ を定数として, $$ x^2\frac{\dd^2y}{\dd x^2}+ax\frac{\dd y}{\dd x}+by=0 \qquad (x\neq0) $$ の形の2階線形同次微分方程式を,オイラーの微分方程式(Euler's equation)またはコーシー・オイラー方程式(Cauchy–Euler equation)と呼ぶ.係数そのものは $x$ に依存するが,$x^k\cdot y^{(k)}$ という特別な組み合わせでしか $x$ が現れないことが特徴である.
物理的な意味:なぜ球や円柱の問題にオイラー方程式が現れるのか
オイラーの微分方程式は,同軸ケーブルの中の電位分布,球対称・円柱対称なポテンシャル中の量子力学的な動径方向のシュレーディンガー方程式,弾性体中の応力分布など,回転対称性を持つ物理系を極座標や円柱座標で扱うときに繰り返し登場する.これは,極座標のラプラシアンに現れる動径方向の微分演算子が,まさに $x^2\dfrac{\dd^2}{\dd x^2}+ax\dfrac{\dd}{\dd x}$ の形をしているためである.第44章(座標変換とラプラシアン)以降で,この事実を具体的に確認する.
36.3.1 なぜ $x^\lambda$ を試すのか — 簡単な場合で調べる
第35章で,定数係数の同次方程式 $y''+ay'+by=0$ に指数関数 $y=e^{\lambda x}$ を代入すると,$\lambda$ についての2次方程式(特性方程式)が現れたことを思い出そう.オイラー方程式でも同じように,まず解の「形」を見つけるところから始める.話を簡単にするため,$b=0$ の場合 $$ x^2\frac{\dd y'}{\dd x}+ax\cdot y'=0 $$ を考える($y''=\dfrac{\dd y'}{\dd x}$ と見て,$y'$ についての1階の方程式とみなす).$x\neq0$ で両辺を $x\cdot y'$ で割ると,変数分離形になる.
$$ \frac{1}{y'}\dd y'=-\frac{a}{x}\dd x $$両辺を積分すると(第33章の変数分離法),
$$ \ln|y'|=-a\ln|x|+C_1 $$を得る.$C_1=\ln|C_2|$($C_2\neq0$ の定数)とおいて右辺を1つの対数にまとめると $\ln|y'|=\ln\left|C_2x^{-a}\right|$ となるから,両辺の指数をとって
$$ y'=C_2\,x^{-a} $$を得る($C_2$ は正負を含む任意定数).これをもう一度 $x$ で積分する.$a\neq1$ のとき,冪関数の積分公式 $\displaystyle\int x^{-a}\dd x=\frac{x^{1-a}}{1-a}$($-a\neq-1$ より)を使うと,
$$ y=\int y'\dd x=\frac{C_2}{1-a}\,x^{1-a}+C \qquad \big(C:\text{積分定数}\big) $$となる.$C_0=\dfrac{C_2}{1-a}$ と定数をまとめ直せば,
$$ y=C_0\,\underbrace{x^{1-a}}_{\text{基本解の候補}}+C $$を得る.こうして,$x^{1-a}$(と定数関数 $x^0=1$)が基本解の候補として浮かび上がった.つまり,一般の場合でも基本解の形は $x^\lambda$($\lambda$ はある定数)だろうという予想が立つ.
36.3.2 一般の場合:$x^\lambda$ を直接代入する
予想に基づいて,一般のオイラー方程式 $x^2y''+axy'+by=0$ に,実際に $y=x^\lambda$($\lambda$ は定数)を代入してみよう.$y'=\lambda x^{\lambda-1}$,$y''=\lambda(\lambda-1)x^{\lambda-2}$ であるから,
$$ x^2\cdot\underbrace{\lambda(\lambda-1)x^{\lambda-2}}_{y''}+ax\cdot\underbrace{\lambda x^{\lambda-1}}_{y'}+b\cdot x^\lambda =\lambda(\lambda-1)x^\lambda+a\lambda x^\lambda+bx^\lambda $$となる(3つの項がすべて $x^\lambda$ でくくれることに注目——これがオイラー方程式に $x^\lambda$ がうまくはまる理由である).$x^\lambda$ でくくると,
$$ x^\lambda\Big\{\underline{\lambda(\lambda-1)+a\lambda+b}\Big\}=0 $$を得る.下線部を特性方程式(characteristic equation)と呼ぶ.$x\neq0$ より $x^\lambda\neq0$ だから,これが $0$ になるためには下線部そのものが $0$ でなければならない.展開して $\lambda$ について整理すると,
\begin{equation} \lambda^2+(a-1)\lambda+b=0 \label{eq:36-euler-char} \end{equation}という $\lambda$ についての2次方程式が得られる.
公式36.2 オイラー方程式の特性方程式
オイラーの微分方程式 $x^2y''+axy'+by=0$ に $y=x^\lambda$ を代入すると,特性方程式 $$ \lambda^2+(a-1)\lambda+b=0 $$ が得られる.この2次方程式の解を $\lambda_1,\lambda_2$ とすると,$x^{\lambda_1},x^{\lambda_2}$ が($\lambda_1\neq\lambda_2$ のとき)方程式の基本解になる.一般解の形は,$\lambda_1,\lambda_2$ が相異なる実数解か,重解か,複素数解かによって3通りに分かれる(36.4節で詳しく調べる).
36.3.1節の結果との整合性の確認
$b=0$ のとき,特性方程式\eqref{eq:36-euler-char}は $\lambda^2+(a-1)\lambda=\lambda\big(\lambda+(a-1)\big)=0$ となり,解は $\lambda=0$ と $\lambda=1-a$ である.これは36.3.1節で求めた基本解 $x^{1-a}$($\lambda=1-a$ に対応)と,積分定数 $C$(定数関数 $x^0=1$,つまり $\lambda=0$ に対応)にちょうど一致する.簡単な場合の計算と,一般公式が矛盾なくつながっていることが確認できた.
例題36.3 オイラー方程式の基本解($x^2y''-2y=0$)
オイラーの微分方程式 $x^2y''-2y=0$($x\gt0$)の一般解を求めよ.
解答 この方程式は $a=0,\ b=-2$ の場合である.公式36.2より,特性方程式は
$$ \lambda^2+(0-1)\lambda+(-2)=\lambda^2-\lambda-2=0 $$である.左辺を因数分解すると $(\lambda-2)(\lambda+1)=0$ となるから,$\lambda=2,-1$ を得る.したがって基本解は $x^2$ と $x^{-1}$ であり,一般解は
$$ y=C_1x^2+C_2x^{-1} $$となる.検算として,$y=x^2$ を直接代入すると,$y'=2x,\ y''=2$ より $x^2\cdot2-2\cdot x^2=2x^2-2x^2=0$.また $y=x^{-1}$ を代入すると,$y'=-x^{-2},\ y''=2x^{-3}$ より $x^2\cdot2x^{-3}-2\cdot x^{-1}=2x^{-1}-2x^{-1}=0$.どちらも確かに方程式を満たす(sympyでも検算済み).
36.4 オイラーの微分方程式の解法 — 実数解・重解・複素数解
36.3節で,オイラー方程式 $x^2y''+axy'+by=0$ の特性方程式 $\lambda^2+(a-1)\lambda+b=0$ を導いた.この2次方程式の解の種類(判別式の符号)によって,一般解の形が3通りに分かれる.これは第35章で学んだ定数係数同次方程式の3分類と,全く同じ論理構造をしている——実際,第37章で学ぶ置換 $x=e^t$ を使うと,オイラー方程式は定数係数の方程式にそっくり変換できる.ここでは,その置換を使わずに,オイラー方程式の枠組みの中で直接3つの場合を調べる.
36.4.1 相異なる2つの実数解の場合
特性方程式の解 $\lambda_1,\lambda_2$($\lambda_1\neq\lambda_2$)が実数のとき,36.3節ですでに見たように基本解は $x^{\lambda_1},x^{\lambda_2}$ である.念のためロンスキアンで一次独立性を確認しておこう.
$$ W(x^{\lambda_1},x^{\lambda_2})=\begin{vmatrix} x^{\lambda_1} & x^{\lambda_2} \\ \lambda_1x^{\lambda_1-1} & \lambda_2x^{\lambda_2-1}\end{vmatrix} =\lambda_2x^{\lambda_1+\lambda_2-1}-\lambda_1x^{\lambda_1+\lambda_2-1}=(\lambda_2-\lambda_1)x^{\lambda_1+\lambda_2-1} $$$\lambda_1\neq\lambda_2$ かつ $x\neq0$ より,$W(x^{\lambda_1},x^{\lambda_2})\neq0$ である.したがって $x^{\lambda_1},x^{\lambda_2}$ は一次独立な基本解であり,一般解は
$$ y=C_1x^{\lambda_1}+C_2x^{\lambda_2} $$となる.
例題36.4 相異なる実数解の場合($x^2y''-xy'-3y=0$)
オイラーの微分方程式 $x^2y''-xy'-3y=0$($x\gt0$)の一般解を求めよ.
解答 $a=-1,\ b=-3$ である.特性方程式は
$$ \lambda^2+(-1-1)\lambda+(-3)=\lambda^2-2\lambda-3=(\lambda-3)(\lambda+1)=0 $$より $\lambda=3,-1$(相異なる実数解).よって一般解は
$$ y=C_1x^3+C_2x^{-1} $$である($x^3$,$x^{-1}$ をそれぞれ方程式に代入して $0$ になることをsympyで検算済み).
36.4.2 重解の場合
特性方程式 $\lambda^2+(a-1)\lambda+b=0$ が重解 $\lambda_0$ を持つのは,判別式が $0$,すなわち $(a-1)^2-4b=0$ のときである.
注意:$\lambda_0$ の求め方
特性方程式 $\lambda_0^2+(a-1)\lambda_0+b=0$ が重解をもつのだから,2次方程式の解の公式で判別式を $0$ とすればよい.
$$ \lambda_0=\frac{-(a-1)\pm\sqrt{0}}{2}=-\frac{a-1}{2} $$このとき基本解の1つは $x^{\lambda_0}$ だが,2階微分方程式には基本解が2つ必要である(第35章:解空間は2次元).そこで,もう1つの基本解を $y=u(x)\cdot x^{\lambda_0}$(36.2節の階数低減法と同じ発想)とおいて探す.
$$ \frac{\dd y}{\dd x}=u'x^{\lambda_0}+u\lambda_0x^{\lambda_0-1}, \qquad \frac{\dd^2y}{\dd x^2}=u''x^{\lambda_0}+2u'\lambda_0x^{\lambda_0-1}+u\lambda_0(\lambda_0-1)x^{\lambda_0-2} $$これらを $x^2y''+axy'+by$ に代入すると,
$$ x^2\frac{\dd^2y}{\dd x^2}+ax\frac{\dd y}{\dd x}+by =u''x^{\lambda_0+2}+(2u'\lambda_0+au')x^{\lambda_0+1}+\Big\{\underbrace{\lambda_0(\lambda_0-1)+a\lambda_0+b}_{0}\Big\}u\,x^{\lambda_0} $$を得る.波かっこの中身が $0$ になるのは,$\lambda_0$ が特性方程式の解だからである.よって,これが $0$(同次方程式)に等しいという条件は
$$ \big\{u''x+(2\lambda_0+a)u'\big\}x^{\lambda_0+1}=0 $$となる.ここで,$\lambda_0=-\dfrac{a-1}{2}$ すなわち $2\lambda_0=-(a-1)=1-a$ であることから,
$$ 2\lambda_0+a=(1-a)+a=1 $$という便利な関係が成り立つ(重解のときにいつでも成り立つ恒等式である).$x^{\lambda_0+1}\neq0$($x\neq0$)なので,波かっこの中身が $0$ でなければならず,
$$ xu''+u'=0 $$という $u$ についての方程式が残る.$v=u'$ とおくと $xv'+v=0$,すなわち変数分離形
$$ \frac{1}{v}\dd v=-\frac{1}{x}\dd x $$になる.積分すると($x\gt0$ として絶対値は不要),
$$ \ln|v|=-\ln x+C_1' \quad\Longrightarrow\quad v=\frac{C_1}{x} \qquad (C_1=e^{C_1'}) $$を得る.よって $u=\displaystyle\int v\,\dd x=-C_1\ln x+C_2$(符号の付け方は任意定数の取り方次第なので,以下では $C_1\to-C_1$ と書き直して $u=C_1\ln x+C_2$ としてもよい).基本解として使いたいのは $u(x)$ そのものだから,$C_1=1,C_2=0$ を選んで $u(x)=\ln x$ とすれば,もう1つの基本解
$$ y_2=x^{\lambda_0}\ln x $$が得られる.ロンスキアンを確認すると,
$$ W\big(x^{\lambda_0},x^{\lambda_0}\ln x\big)=\begin{vmatrix} x^{\lambda_0} & x^{\lambda_0}\ln x \\ \lambda_0x^{\lambda_0-1} & (\lambda_0\ln x+1)x^{\lambda_0-1}\end{vmatrix}=x^{2\lambda_0-1}\neq0 $$となり,一次独立であることが確認できる.
定理36.2(重解の場合)
特性方程式 $\lambda^2+(a-1)\lambda+b=0$ が重解 $\lambda_0=-\dfrac{a-1}{2}$ を持つとき,オイラー方程式の一般解は $$ y=C_1x^{\lambda_0}+C_2x^{\lambda_0}\ln x $$ である.
例題36.5 重解の場合($x^2y''+5xy'+4y=0$)
オイラーの微分方程式 $x^2y''+5xy'+4y=0$($x\gt0$)の一般解を求めよ.
解答 $a=5,\ b=4$ である.特性方程式は
$$ \lambda^2+(5-1)\lambda+4=\lambda^2+4\lambda+4=(\lambda+2)^2=0 $$より,重解 $\lambda_0=-2$ を得る.定理36.2より,一般解は
$$ y=C_1x^{-2}+C_2x^{-2}\ln x $$である($x^{-2}$,$x^{-2}\ln x$ をどちらも方程式に代入すると $0$ になり,ロンスキアンが $x^{-5}\neq0$ であることもsympyで検算済み).
36.4.3 複素数解の場合
特性方程式が複素数解 $\lambda_1=\alpha+i\beta,\ \lambda_2=\alpha-i\beta$($\alpha,\beta\in\R$,$\beta\neq0$,$i$ は虚数単位)を持つ場合を考える.このときも形式的には基本解は $x^{\alpha+i\beta},x^{\alpha-i\beta}$ であり,一般解は
$$ y=C_1'x^{\alpha+i\beta}+C_2'x^{\alpha-i\beta} $$と書けるが,$x^{i\beta}$ という「実数の複素数乗」は,まだ意味を説明していない.
なぜ $x^{i\beta}=e^{i\beta\ln x}$ と定義するのか
実数の指数 $r$ に対して,$x^r=e^{r\ln x}$($x\gt0$)という関係はよく知られている(対数と指数が互いに逆演算であることの表れ,高校数学の対数の性質参照).複素数の指数 $i\beta$ に対しても,この関係をそのまま定義として採用する: $$ x^{i\beta}:=e^{i\beta\ln x} \qquad (x\gt0) $$ こうすることで,指数法則 $x^{r+s}=x^rx^s$ などがそのまま複素数の指数にも拡張される.あとは,右辺の複素数を指数に持つ指数関数 $e^{i\theta}$($\theta=\beta\ln x$ は実数)の意味が分かればよい.
数学ノート:オイラーの公式 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$
$\theta$ を実数とするとき,複素指数関数は $$ e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta $$ という関係(オイラーの公式,Euler's formula)を満たす.厳密な証明は複素解析学の章(第23章)で改めて扱うが,直感的には,$e^x,\cos\theta,\sin\theta$ をそれぞれマクローリン展開(第4章)し,$x=i\theta$ を形式的に代入して $i^2=-1,\ i^3=-i,\ i^4=1,\ldots$ を使うと,偶数次の項が $\cos\theta$ の展開に,奇数次の項($i$ を1つ含む)が $i\sin\theta$ の展開にちょうど一致することから納得できる.本章ではこの事実を既知として使う.
オイラーの公式を使うと,
$$ y=C_1'x^\alpha e^{i\beta\ln x}+C_2'x^\alpha e^{-i\beta\ln x} =C_1'x^\alpha\big(\cos(\beta\ln x)+i\sin(\beta\ln x)\big)+C_2'x^\alpha\big(\cos(\beta\ln x)-i\sin(\beta\ln x)\big) $$($e^{-i\beta\ln x}=\cos(\beta\ln x)-i\sin(\beta\ln x)$ は,オイラーの公式で $\theta\to-\theta$ とし,$\cos$ が偶関数,$\sin$ が奇関数であることを使った).$\cos(\beta\ln x)$ と $\sin(\beta\ln x)$ の項をそれぞれまとめると,
$$ y=(C_1'+C_2')x^\alpha\cos(\beta\ln x)+i(C_1'-C_2')x^\alpha\sin(\beta\ln x) $$となる.新たに $C_1=C_1'+C_2',\ C_2=i(C_1'-C_2')$($C_1',C_2'$ を複素数の範囲で適切に選べば,$C_1,C_2$ は実数の任意定数になる)とおくと,
$$ y=C_1x^\alpha\cos(\beta\ln x)+C_2x^\alpha\sin(\beta\ln x) $$という,虚数単位 $i$ を含まない実数値の一般解が得られる.ロンスキアンを確認すると,
$$ W\big(x^\alpha\cos(\beta\ln x),\,x^\alpha\sin(\beta\ln x)\big)=\beta\,x^{2\alpha-1} $$となる.
注意:$\beta\neq0$ でなければならない
ロンスキアン $\beta x^{2\alpha-1}$ が $0$ にならないためには,$\beta\neq0$ が必要である.もし $\beta=0$ なら,そもそも特性方程式の解は複素数ではなく(重解または実数解の場合に帰着し),この節の議論の前提が崩れてしまう.つまり $\beta\neq0$ は,複素数解の場合を考えている以上,自動的に満たされている条件である.
定理36.3(複素数解の場合)
特性方程式 $\lambda^2+(a-1)\lambda+b=0$ が複素数解 $\lambda=\alpha\pm i\beta$($\beta\neq0$)を持つとき,オイラー方程式の一般解は $$ y=C_1x^\alpha\cos(\beta\ln x)+C_2x^\alpha\sin(\beta\ln x) $$ である.
例題36.6 複素数解の場合($x^2y''+xy'+y=0$)
オイラーの微分方程式 $x^2y''+xy'+y=0$($x\gt0$)の一般解を求めよ.
解答 $a=1,\ b=1$ である.特性方程式は
$$ \lambda^2+(1-1)\lambda+1=\lambda^2+1=0 $$より $\lambda=\pm i$($\alpha=0,\ \beta=1$)である.定理36.3より,一般解は
$$ y=C_1\cos(\ln x)+C_2\sin(\ln x) $$となる($x^\alpha=x^0=1$ なので,前に係数は現れない).$\cos(\ln x),\sin(\ln x)$ をどちらも方程式に代入すると $0$ になることをsympyで検算済みである.
36.5 一般の2階線形微分方程式 — 基本解が求まる条件
オイラー方程式は,係数が $x$ の関数であっても解ける特別な例だった.ここでは視野をさらに広げ,係数が任意の関数 $P(x),Q(x)$ である,もっとも一般的な2階線形微分方程式
$$ \frac{\dd^2y}{\dd x^2}+P(x)\frac{\dd y}{\dd x}+Q(x)y=R(x) $$を考える.係数が定数でなくても,基本解 $y_1,y_2$(同次方程式の解)と特殊解 $y_0$ が分かってさえいれば,一般解が
$$ y=y_0+C_1y_1+C_2y_2 $$の形になることは,36.1節・36.2節の議論と全く同じである.また,特殊解 $y_0$ を求める公式36.1(定数変化法)も,36.1節の注意で確認したとおり,係数が定数でなくてもそのまま使える:
$$ y_0=-y_1\int\frac{y_2R(x)}{W(y_1,y_2)}\dd x+y_2\int\frac{y_1R(x)}{W(y_1,y_2)}\dd x $$問題は,2つの基本解 $y_1,y_2$ そのものをどう見つけるかである.一般の $P(x),Q(x)$ に対しては,基本解を求める万能の方法は存在しない.しかし,$P(x),Q(x)$ がある特別な条件を満たすときに限り,$x^\lambda$ や $e^{\lambda x}$ という形の基本解を,代入するだけで直接見つけられる場合がある.
36.5.1 条件(I):$x^\lambda$ が基本解になる場合
$y=x^\lambda$($\lambda$ は定数)を,一般の方程式の左辺 $\dfrac{\dd^2y}{\dd x^2}+P(x)\dfrac{\dd y}{\dd x}+Q(x)y$ に代入してみよう.$y'=\lambda x^{\lambda-1}$,$y''=\lambda(\lambda-1)x^{\lambda-2}$ より,
$$ \frac{\dd^2y}{\dd x^2}+P(x)\frac{\dd y}{\dd x}+Q(x)y =\lambda(\lambda-1)x^{\lambda-2}+P(x)\lambda x^{\lambda-1}+Q(x)x^\lambda $$となる.右辺を $x^{\lambda-2}$($\neq0$)でくくり出すと,
$$ =\underbrace{x^{\lambda-2}}_{\neq0}\Big\{\lambda(\lambda-1)+\lambda xP(x)+x^2Q(x)\Big\} $$を得る.したがって,もし定数 $\lambda$ をうまく選んで
$$ \lambda(\lambda-1)+\lambda xP(x)+x^2Q(x)=0 \qquad \text{($x$ によらず恒等的に)} $$とできれば,波かっこの中身が $0$ になり,$y=x^\lambda$ がこの方程式の基本解の1つになることが分かる.
36.5.2 条件(II):$e^{\lambda x}$ が基本解になる場合
同様に,$y=e^{\lambda x}$ を代入すると,$y'=\lambda e^{\lambda x}$,$y''=\lambda^2e^{\lambda x}$ より,
$$ \frac{\dd^2y}{\dd x^2}+P(x)\frac{\dd y}{\dd x}+Q(x)y =\lambda^2e^{\lambda x}+P(x)\lambda e^{\lambda x}+Q(x)e^{\lambda x} =\underbrace{e^{\lambda x}}_{\neq0}\Big\{\lambda^2+\lambda P(x)+Q(x)\Big\} $$となる.よって,定数 $\lambda$ をうまく選んで
$$ \lambda^2+\lambda P(x)+Q(x)=0 \qquad \text{($x$ によらず恒等的に)} $$とできれば,$y=e^{\lambda x}$ が基本解の1つになる.
定理36.4 変数係数方程式で基本解が直接求まる条件
2階線形微分方程式 $y''+P(x)y'+Q(x)y=0$ について,
(I) ある定数 $\lambda$ に対して $\lambda(\lambda-1)+\lambda xP(x)+x^2Q(x)=0$ が恒等的に成り立つならば,$y=x^\lambda$ は基本解の1つである.
(II) ある定数 $\lambda$ に対して $\lambda^2+\lambda P(x)+Q(x)=0$ が恒等的に成り立つならば,$y=e^{\lambda x}$ は基本解の1つである.
条件(I)とオイラー方程式の関係
条件(I)で,特に $P(x)=\dfrac{a}{x}$,$Q(x)=\dfrac{b}{x^2}$($a,b$ は定数)の場合を考えると,$\lambda(\lambda-1)+\lambda x\cdot\dfrac{a}{x}+x^2\cdot\dfrac{b}{x^2}=\lambda(\lambda-1)+a\lambda+b$ となり,$x$ が完全に消えて,36.3節で見たオイラー方程式の特性方程式そのものになる.つまり,条件(I)はオイラー方程式を特別な場合として含む,より広い判定条件である——$P(x),Q(x)$ が $1/x,1/x^2$ のちょうど何倍かでなくても,$\lambda(\lambda-1)+\lambda xP(x)+x^2Q(x)$ さえ $x$ によらない定数になれば,同じ考え方が使える.
例題36.7 条件(II)で基本解を見つける($y''+2xy'-(1+2x)y=0$)
方程式 $y''+2xy'-(1+2x)y=0$ が,$y=e^{\lambda x}$($\lambda$ は定数)の形の基本解を持つことを示し,その $\lambda$ を求めよ.
解答 この方程式は $P(x)=2x$,$Q(x)=-(1+2x)$ の場合である.定理36.4の条件(II)を調べる.
$$ \lambda^2+\lambda P(x)+Q(x)=\lambda^2+2\lambda x-(1+2x)=(\lambda^2-1)+2x(\lambda-1) $$これが,$x$ によらず恒等的に $0$ になるためには,$x$ の係数と定数項がそれぞれ $0$ でなければならない.
$$ 2(\lambda-1)=0 \qquad \text{かつ} \qquad \lambda^2-1=0 $$1つ目の式から $\lambda=1$.これは2つ目の式 $\lambda^2-1=(\lambda-1)(\lambda+1)=0$ も満たしている($\lambda=1$ はその解の1つ)ので,2つの条件に矛盾はなく,$\lambda=1$ が条件(II)を満たす定数である.したがって,定理36.4より $y=e^x$ がこの方程式の基本解の1つである.
実際に直接代入して確かめよう.$y=e^x$ のとき $y'=e^x,\ y''=e^x$ なので,
$$ y''+2xy'-(1+2x)y=e^x+2xe^x-(1+2x)e^x=e^x\big\{1+2x-1-2x\big\}=0 $$となり,確かに方程式を満たす(もう1つの基本解は,36.2節の階数低減法を $y_1=e^x$ に適用すれば求められる).
36.6 標準形への変換
36.5節の条件(I)(II)が使えるのは,$P(x),Q(x)$ がかなり特別な形をしているときに限られる.一般の $P(x),Q(x)$ に対しては,基本解を直接見つけることは望めない.しかし,方程式そのものを見やすい形に変形することならいつでもできる.ここでは,1階微分の項 $y'$ を消し去る変換を学ぶ.
なぜ「関数の積」という形を試すのか
どんな数も,他の数の和や積の組み合わせとして表せる(たとえば円周率 $\pi$ や $e$ は無限級数——すなわち和——として表せるし,$26=5\times5+1$ のように積と和の組み合わせでも表せる).関数についても同じ発想が使える.36.2節では,非同次方程式の解を「既知の基本解 $y_1$」と「未知関数 $u(x)$」の積 $y=u(x)y_1$ として探した.今度は,方程式①
$$ \frac{\dd^2y}{\dd x^2}+P(x)\frac{\dd y}{\dd x}+Q(x)y=R(x) \qquad \cdots ① $$の解を,2つの未知関数 $u(x),v(x)$ の積 $y=u(x)v(x)$ として探してみる.$v(x)$ をこちらで都合よく選ぶことで,$u(x)$ が満たす方程式を簡単にしよう,というのがねらいである.
$y=uv$ の両辺を1回,2回微分すると(積の微分法則),
$$ \frac{\dd y}{\dd x}=u'v+uv', \qquad \frac{\dd^2y}{\dd x^2}=u''v+2u'v'+uv'' $$となる.これらを①に代入すると,
$$ (u''v+2u'v'+uv'')+P(x)(u'v+uv')+Q(x)uv=R(x) $$を得る.これを,$u$ の階数($u,u',u''$)でくくり直すと,
$$ v\cdot u''+\big(2v'+P(x)v\big)u'+\big(v''+P(x)v'+Q(x)v\big)u=R(x) \qquad \cdots ② $$となる.ここで,$v(x)$ をまだ何も決めていないことを思い出そう.$u'$ の係数 $2v'+P(x)v$ を,自分から
$$ 2v'+P(x)v=0 $$となるように選んでしまえば,②から $u'$ の項が消え,$u''$ の項と $u$ の項だけが残る——これが「標準形(正規形)」を作る仕掛けである.この条件は変数分離形の1階方程式だから(第33章),
$$ \frac{1}{v}\dd v=-\frac12P(x)\dd x \quad\Longrightarrow\quad v=e^{-\frac12\int P(x)\dd x} $$($v$ は「たった1つ見つかればよい」関数なので,積分定数は不要,$C=0$ としてよい).こうして選んだ $v$ に対して,$v'=-\dfrac12P(x)v$ であり,これをもう一度微分すると $v''=-\dfrac12\big(P'(x)v+P(x)v'\big)$ となる.これらを②の $u$ の係数 $v''+P(x)v'+Q(x)v$ に代入すると,
$$ v''+Pv'+Qv=-\frac12\big(P'v+Pv'\big)+Pv'+Qv=-\frac12P'v+\frac12Pv'+Qv $$ここでさらに $v'=-\dfrac12Pv$ を代入すると,$\dfrac12Pv'=\dfrac12P\cdot\left(-\dfrac12Pv\right)=-\dfrac14P^2v$ となるから,
$$ v''+Pv'+Qv=-\frac12P'v-\frac14P^2v+Qv=\left(Q-\frac12P'-\frac14P^2\right)v $$を得る.したがって②は
$$ v\cdot u''+0\cdot u'+\left(Q-\frac12P'-\frac14P^2\right)v\cdot u=R(x) $$となり,$v(\neq0)$ で両辺を割ると,
$$ u''+\left(Q(x)-\frac12P'(x)-\frac14P^2(x)\right)u=\frac{R(x)}{v(x)} $$を得る.$I(x)=Q(x)-\dfrac12P'(x)-\dfrac14P^2(x)$,$J(x)=\dfrac{R(x)}{v(x)}$ とおくと,これは
$$ u''+I(x)u=J(x) $$という,1階微分の項を持たない形になる.
定義36.2 標準形(正規形)
2階微分方程式が $u''+I(x)u=J(x)$($u'$ の項を含まない)の形をしているとき,これを標準形(正規形,normal form)と呼ぶ.
定理36.5 標準形への変換公式
$y''+P(x)y'+Q(x)y=R(x)$ に対して $y=u(x)v(x)$,$v(x)=e^{-\frac12\int P(x)\dd x}$ とおくと,$u$ は標準形 $$ u''+I(x)u=J(x), \qquad I(x)=Q(x)-\frac12P'(x)-\frac14P^2(x), \qquad J(x)=\frac{R(x)}{v(x)} $$ を満たす.$u(x)$ が求まれば,もとの方程式の解は $y=u(x)v(x)$ である.
例題36.8 標準形への変換($y''+\frac2xy'+y=0$)
方程式 $y''+\dfrac2xy'+y=0$($x\gt0$)を標準形に変換し,一般解を求めよ.
解答 $P(x)=\dfrac2x$,$Q(x)=1$ である.定理36.5より,
$$ v(x)=e^{-\frac12\int\frac2x\dd x}=e^{-\int\frac1x\dd x}=e^{-\ln x}=\frac1x $$である.$I(x)$ を計算すると,$P'(x)=-\dfrac{2}{x^2}$,$P^2(x)=\dfrac4{x^2}$ より,
$$ I(x)=Q(x)-\frac12P'(x)-\frac14P^2(x)=1-\frac12\left(-\frac2{x^2}\right)-\frac14\cdot\frac4{x^2}=1+\frac1{x^2}-\frac1{x^2}=1 $$となる($x$ の項が完全に打ち消し合って定数 $1$ になるのは,このもとの方程式が特別に選ばれているからである).$R(x)=0$ なので $J(x)=0$.したがって標準形は
$$ u''+u=0 $$という,見覚えのある単純な同次方程式になる(第35章).一般解は $u=C_1\cos x+C_2\sin x$ であるから,もとの方程式の解は
$$ y=u(x)v(x)=\frac{C_1\cos x+C_2\sin x}{x} $$である($y=\dfrac{\cos x}{x}$,$y=\dfrac{\sin x}{x}$ をそれぞれ方程式に代入して $0$ になることをsympyで検算済み).
物理的な意味:球面波と動径方向の波動方程式
例題36.8で現れた $y=\dfrac{\sin x}{x}$ という関数は,実は球面波(point sourceから球対称に広がる波)の動径方向の形そのものである.3次元の波動方程式を球対称な解 $\psi(r,t)$ について変数分離すると,動径方向 $R(r)$ の方程式に $R''+\dfrac2rR'+k^2R=0$ という形(本質的に例題36.8と同じ形)が現れ,$u=rR(r)$ とおく置き換え(まさに定理36.5の $y=uv$ の逆,$v=1/r$ に相当)によって $u''+k^2u=0$ という単純な形に帰着する.「$u=rR$」,「$1$次元の波動方程式に帰着する」という言い方は,音響学や電磁気学,そして量子力学の動径方向のシュレーディンガー方程式(第48章)でも繰り返し使われる,非常に重要なテクニックである.
36.7 相空間と単振動型微分方程式
本章の最後に,物理でもっともよく現れる微分方程式——単振動(simple harmonic motion)の方程式——を,これまでとは違う幾何学的な視点から眺め直す.質量 $m$ のおもりが,ばね定数 $k$ のばねにつながれて運動するとき,おもりの位置 $x(t)$($t$ は時刻)は,ニュートンの運動方程式($F=ma$,フックの法則 $F=-kx$)から
$$ m\frac{\dd v}{\dd t}=-kx \qquad \left(v=\frac{\dd x}{\dd t}\right) $$を満たす.以下では,物理でよく使う記法として,時間 $t$ についての1階微分を $\dot x=\dfrac{\dd x}{\dd t}$,2階微分を $\ddot x=\dfrac{\dd^2x}{\dd t^2}$ と,$x$ の上にドットを付けて書く(ニュートンの記法,Newton's notation).これまでの $y',y''$ と中身は全く同じで,独立変数が $t$ であることを強調するときに好んで使われる書き方である.この記法を使うと,上の運動方程式は $m\ddot x+kx=0$ という,第35章の定数係数同次方程式そのものであり,特性方程式 $m\lambda^2+k=0$ から $\lambda=\pm i\sqrt{k/m}$ となって三角関数の解が出ることは,すでに知っている解き方でも確認できる.ここでは,あえて特性方程式を使わず,エネルギー保存の考え方から直接解いてみよう.
36.7.1 エネルギー積分
方程式の両辺に $v\Big(=\dfrac{\dd x}{\dd t}\Big)$ をかけて,$t$ で積分する(この操作をエネルギー積分と呼ぶ).
$$ \int mv\frac{\dd v}{\dd t}\dd t=-k\int x\cdot\frac{\dd x}{\dd t}\dd t $$左辺は $\dfrac{\dd}{\dd t}\left(\dfrac12mv^2\right)=mv\dfrac{\dd v}{\dd t}$ の関係から $\dfrac12mv^2$ の積分に,右辺も同様に $\dfrac12kx^2$ の積分になるので,
$$ \frac12m\dot x^2+\frac12kx^2=C \qquad (C:\text{積分定数}) $$を得る.左辺の第1項は運動エネルギー,第2項はばねの位置エネルギーであり,この式はまさに力学的エネルギー保存則である.初期条件を $x(0)=A$(最初にばねを $A$ だけ引っ張って離す),$\dot x(0)=0$(初速度 $0$)とすると,$t=0$ で $C=\frac12m\cdot0^2+\frac12kA^2=\frac12kA^2$ となるから,
$$ \frac12m\dot x^2+\frac12kx^2=\frac12kA^2 $$である.両辺を $\frac12k$ で割ると,
$$ x^2+\frac{m}{k}\dot x^2=A^2 $$を得る.ここで $\omega=\sqrt{k/m}$(角振動数,angular frequency)とおくと $\dfrac{m}{k}=\dfrac1{\omega^2}$ であるから,$\sqrt{m/k}\,\dot x=\dfrac{\dot x}{\omega}$ という量を新たに $V$ と名づけると,
$$ x^2+V^2=A^2 \qquad \cdots Ⓐ \qquad \left(V=\frac{\dot x}{\omega}\right) $$という,見慣れた円の方程式が現れる.
36.7.2 相空間上の円と角度 $\theta$
式Ⓐは,横軸を $x$,縦軸を $V$ とする平面(この $(x,V)$ 平面を相空間,phase spaceと呼ぶ)の上で,原点を中心とする半径 $A$ の円を表している.円周上の点は,角度 $\theta$($x$ 軸から測った角度)を使って
$$ x=A\cos\theta \qquad \cdots ①, \qquad V=A\sin\theta \qquad \cdots ② $$とパラメータ表示できる($\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$ より,これは確かに式Ⓐを満たす).
①,②から,$\dot x$ を2通りの方法で計算する.まず①を $t$ で直接微分すると($\theta$ も $t$ の関数であることに注意,合成関数の微分),
$$ \dot x=\frac{\dd x}{\dd t}=-A\dot\theta\sin\theta $$を得る.一方,$V=\dot x/\omega$(Ⓐの定義)と②を組み合わせると,
$$ \dot x=\omega V=A\omega\sin\theta $$を得る.同じ $\dot x$ を2通りに書いたのだから,両者は等しい:
$$ -A\dot\theta\sin\theta=A\omega\sin\theta $$($\sin\theta\neq0$ である限り,両辺を $A\sin\theta$ で割ってよい.$\sin\theta=0$ となる瞬間はとびとびの点なので,連続性から次の結論はすべての $t$ で成り立つ.)
$$ \dot\theta=-\omega $$これは $\theta$ についての,非常に単純な1階微分方程式である.積分すると,
$$ \theta=-\omega t+\theta_0 \qquad (\theta_0:\text{初期位相,積分定数}) $$を得る.これを①に代入すれば,$x(t)$ が求まる.
$$ x(t)=A\cos(-\omega t+\theta_0)=A\cos(\omega t-\theta_0) $$($\cos$ が偶関数であること,$\cos(-\phi)=\cos\phi$ を使った.)
定理36.6 単振動型微分方程式の一般解
単振動型微分方程式 $m\ddot x+kx=0$($\omega=\sqrt{k/m}$)の一般解は,相空間 $(x,V)$($V=\dot x/\omega$)上の円 $x^2+V^2=A^2$ のパラメータ表示 $x=A\cos\theta,\ V=A\sin\theta$ と,$\theta=-\omega t+\theta_0$ から, $$ x(t)=A\cos(\omega t-\theta_0) $$ で与えられる.$A$(振幅)と $\theta_0$(初期位相)は初期条件から定まる2つの任意定数である.
例題36.9 単振動の初期値問題($m=1,\ k=4$)
質量 $m=1\,\mathrm{kg}$,ばね定数 $k=4\,\mathrm{N/m}$ のばね振り子が,時刻 $t=0$ に $x(0)=3\,\mathrm{m}$,$\dot x(0)=0$ の状態から運動を始めるとき,$x(t)$ を求めよ.
解答 $\omega=\sqrt{k/m}=\sqrt{4}=2$ である.定理36.6より $x(t)=A\cos(2t-\theta_0)$ の形になる.$\dot x(t)=-2A\sin(2t-\theta_0)$ なので,
$$ x(0)=A\cos(-\theta_0)=A\cos\theta_0=3, \qquad \dot x(0)=-2A\sin(-\theta_0)=2A\sin\theta_0=0 $$2つ目の式から($A\neq0$ より)$\sin\theta_0=0$,すなわち $\theta_0=0$ または $\pi$.1つ目の式 $A\cos\theta_0=3\gt0$ と,振幅は正($A\gt0$)と約束すれば,$\cos\theta_0\gt0$ が必要なので $\theta_0=0$,$A=3$ に決まる.よって
$$ x(t)=3\cos(2t) $$である($x(0)=3\cos0=3$,$\dot x(t)=-6\sin(2t)$ より $\dot x(0)=0$ となり,どちらの初期条件も満たす.sympyの $\mathrm{dsolve}$ で初期値問題を直接解いた結果とも一致することを検算済み).
物理的な意味:振動と回転は同じ現象の2つの顔
相空間での議論が明らかにしたのは,「$x$ 軸上を往復する単振動」と「$(x,V)$ 平面上を一定の角速度 $\omega$ で回る円運動」が,数学的には全く同じものだということである(単振動は,円運動を真横から眺めた「影」に相当する).この視点は,振り子時計,交流回路,レーザーの電磁場,そして材料科学で重要な結晶格子の振動(フォノン)まで,あらゆる振動現象の基礎になる.格子を作る原子の1つひとつが平衡位置のまわりで単振動に近い運動をするというモデルは,第IX部で学ぶ波動方程式や,望月研究室で扱う超伝導・フォノンの物理(発展教材「超伝導」)にそのままつながっていく.
関連シミュレーター:減衰振動と強制振動(本節の単振動は減衰・外力のない特別な場合にあたる.外力の角振動数を固有振動数に近づけると,演習36.1で見る共鳴が起こる様子を数値的に確認できる).
36.8 まとめと演習
36.8.1 まとめ
- 2階線形非同次方程式 $y''+ay'+by=R(x)$ の一般解は,$y=y_0+Y$($Y$:対応する同次方程式の一般解,$y_0$:①を満たすどれか1つの特殊解)の形になる.
- 定数変化法(36.1節):同次方程式の基本解 $y_1,y_2$ が両方とも既知のとき,$y_0=C_1(x)y_1+C_2(x)y_2$ とおき,条件 $C_1'y_1+C_2'y_2=0$ を自分から課すことで,$C_1',C_2'$ を求める $2\times2$ の連立1次方程式(行列とその逆行列)に帰着させる(公式36.1).この公式は係数が $x$ の関数でも成り立つ一般的な公式である.
- 階数低減法(36.2節):基本解が $y_1$ だけ既知でも,$y=u(x)y_1$ とおけば,$u$ についての1階線形微分方程式に帰着し,非同次方程式の一般解(特殊解 と もう1つの基本解の両方)が芋づる式に求まる(定理36.1).
- オイラーの微分方程式 $x^2y''+axy'+by=0$(36.3節・36.4節):試行解 $x^\lambda$ を代入すると特性方程式 $\lambda^2+(a-1)\lambda+b=0$ が現れる(公式36.2).解の種類によって一般解が3通りに分かれる:相異なる実数解 $y=C_1x^{\lambda_1}+C_2x^{\lambda_2}$,重解 $y=C_1x^{\lambda_0}+C_2x^{\lambda_0}\ln x$(定理36.2),複素数解 $y=C_1x^\alpha\cos(\beta\ln x)+C_2x^\alpha\sin(\beta\ln x)$(定理36.3).
- 一般の変数係数方程式 $y''+P(x)y'+Q(x)y=0$ でも,条件(I) $\lambda(\lambda-1)+\lambda xP(x)+x^2Q(x)=0$ を満たせば $x^\lambda$ が,条件(II) $\lambda^2+\lambda P(x)+Q(x)=0$ を満たせば $e^{\lambda x}$ が,それぞれ基本解の1つとして直接求まる(定理36.4,36.5節).
- 標準形(正規形)への変換(36.6節):$y=u(x)v(x)$,$v(x)=e^{-\frac12\int P(x)\dd x}$ とおくと,1階微分の項が消えた標準形 $u''+I(x)u=J(x)$($I=Q-\frac12P'-\frac14P^2$)が得られる(定理36.5).
- 相空間(36.7節):単振動型微分方程式 $m\ddot x+kx=0$ は,$(x,V)$ 平面($V=\dot x/\omega$)上の円 $x^2+V^2=A^2$ の一様な回転運動として幾何学的に解け,解は $x(t)=A\cos(\omega t-\theta_0)$ となる(定理36.6).「振動」と「回転」は同じ現象の2つの見え方である.
36.8.2 演習問題
演習36.1 共鳴が起こる場合の定数変化法($y''+4y=8\sin(2x)$)
微分方程式 $y''+4y=8\sin(2x)$ の一般解を,定数変化法で求めよ.(右辺の $\sin(2x)$ は,同次方程式の基本解 $\sin(2x),\cos(2x)$ と同じ角振動数を持つ「外力と自由振動の振動数が一致する」特別な場合——共鳴(resonance)——であることに注意せよ.)
ヒント:同次方程式 $y''+4y=0$ の特性方程式は $\lambda^2+4=0$($\lambda=\pm2i$)だから,基本解は $y_1=\cos(2x),\ y_2=\sin(2x)$ である.ロンスキアン $W(y_1,y_2)$ を求め,公式36.1にそのまま代入せよ.積分にはいくつかの三角関数の積和公式(あるいは半角公式)が必要になる.最終的に,特殊解の中に $x\cos(2x)$ という,$x$ が余分に掛かった項が現れることに注目せよ——これが共鳴に特有の「振幅が時間とともに増大する」効果の数学的な表れである.
演習36.2 階数低減法($xy''-(x+1)y'+y=x^2e^x$,$y_1=e^x$ のみ既知)
方程式 $xy''-(x+1)y'+y=x^2e^x$($x\gt0$)において,対応する同次方程式 $xy''-(x+1)y'+y=0$ の基本解の1つが $y_1=e^x$ であることだけを知っているとする.階数低減法で一般解を求めよ.
ヒント:まず両辺を $x$($\neq0$)で割って,本章の標準の形 $y''+P(x)y'+Q(x)y=R(x)$($P(x)=-\dfrac{x+1}{x}=-1-\dfrac1x,\ Q(x)=\dfrac1x,\ R(x)=xe^x$)に直してから,定理36.1の $A(x)=\dfrac{2y_1'}{y_1}+P(x)$,$B(x)=\dfrac{R(x)}{y_1}$ を計算せよ.最後に得られるもう1つの基本解が多項式($1$次式)になることを確かめよ.
演習36.3 オイラー方程式・相異なる実数解($x^2y''+7xy'+8y=0$)
オイラーの微分方程式 $x^2y''+7xy'+8y=0$($x\gt0$)の一般解を求めよ.
ヒント:公式36.2の特性方程式 $\lambda^2+(a-1)\lambda+b=0$ に $a=7,b=8$ を代入し,因数分解せよ.
演習36.4 オイラー方程式・重解と初期値問題($x^2y''-3xy'+4y=0$)
オイラーの微分方程式 $x^2y''-3xy'+4y=0$($x\gt0$)について,初期条件 $y(1)=1,\ y'(1)=1$ を満たす解を求めよ.
ヒント:まず定理36.2の形で一般解 $y=C_1x^{\lambda_0}+C_2x^{\lambda_0}\ln x$ を求め,$x=1$ での値と微分係数の条件から $C_1,C_2$ を決定せよ($\ln1=0$ に注意).
演習36.5 オイラー方程式・複素数解($x^2y''+xy'+4y=0$)
オイラーの微分方程式 $x^2y''+xy'+4y=0$($x\gt0$)の一般解を求めよ.
ヒント:特性方程式 $\lambda^2+4=0$ の解は純虚数 $\lambda=\pm2i$($\alpha=0,\beta=2$)である.定理36.3にそのまま代入せよ.
演習36.6 変数係数方程式で基本解を直接見つける(条件(I))
方程式 $y''+xy'-\left(\dfrac{2}{x^2}+2\right)y=0$($x\gt0$)が,$y=x^\lambda$($\lambda$ は定数)の形の基本解を持つことを,定理36.4の条件(I)を用いて示し,その $\lambda$ を求めよ.
ヒント:$P(x)=x$,$Q(x)=-\left(\dfrac{2}{x^2}+2\right)$ を,条件(I)の式 $\lambda(\lambda-1)+\lambda xP(x)+x^2Q(x)=0$ に代入し,$\lambda$ について整理せよ.$x$ を含む項どうしが打ち消し合うことを確認せよ.
演習36.7 単振動の初期値問題($m=2,\ k=8$)
質量 $m=2\,\mathrm{kg}$,ばね定数 $k=8\,\mathrm{N/m}$ のばね振り子が,時刻 $t=0$ に $x(0)=0\,\mathrm{m}$,$\dot x(0)=2\,\mathrm{m/s}$ の状態から運動を始めるとき,$x(t)$ を求めよ.
ヒント:$\omega=\sqrt{k/m}$ を求め,定理36.6の $x(t)=A\cos(\omega t-\theta_0)$ に初期条件を代入して $A,\theta_0$ を決定せよ.$x(0)=0$ から $\theta_0$ の候補が2つに絞られ,$\dot x(0)\gt0$(正の向きに動き出す)からどちらか一方に決まる.
36.8.3 参考文献
- 望月泰英『数学ノート 常微分方程式』(手書き講義ノート).本章の底本.
- 笠原晧司『微分方程式の基礎』(朝倉書店,1982年).
- 矢野健太郎・石原繁『微分方程式』(裳華房,1981年).
- E. Kreyszig, Advanced Engineering Mathematics, 10th ed. (Wiley, 2011).