大学基礎物理学 — 目次 付録A

付録A演習問題の解答

各章末の演習問題の完全な解答をまとめる.解答を読む前に,必ず一度は自分で手を動かしてほしい. 途中で行き詰まったら,章末のヒントと本文の例題に戻ってから,ここを読むとよい. 各解答の末尾から,その章に戻ることができる.

第1章 運動の記述 — 位置・速度・加速度とベクトル

演習1.1 質点近似の判定

解答

それぞれの場合について,物体自身の大きさ $L_{\text{obj}}$ と,運動の特徴的な長さ $L_{\text{motion}}$ を見積もり,比 $L_{\text{obj}}/L_{\text{motion}}$ で判定する(第1章1.1節の基準).

(a) 投手が投げた野球のボールの軌道.ボールの直径は約 $7\ \mathrm{cm}=0.07\ \mathrm m$,投球距離(投手からキャッチャーまで)は約 $18\ \mathrm m$ である.比は $0.07/18\approx4\times10^{-3}$ であり,1に比べてはるかに小さい.したがって,ボールの飛跡(軌道の形)だけに関心があるなら,質点として扱ってよい.(ただし,ボールの回転による変化球の効果など,ボール自身の回転そのものに注目する問題では,質点近似では扱えない.)

(b) 氷上でその場で回転するフィギュアスケーター.第1章例題1.1(b)で見たとおり,回転半径(腕を伸ばした長さ,$\sim0.6\ \mathrm m$)と身体の代表的な大きさ($\sim1\ \mathrm m$)が同じオーダーであり,比は1のオーダーになる.さらに,腕を縮めると速く回るという現象自体が身体各部の位置関係に依存しているので,質点として扱うことはできない.体の各部分を多数の質点の集まり(質点系,第10章)として扱う必要がある(腕を縮めると形が変わるので,剛体でもない).

(c) 地球から見た月の公転運動.月の半径は約 $1.7\times10^3\ \mathrm{km}$,地球から月までの平均距離(公転半径)は約 $3.8\times10^5\ \mathrm{km}$ である.比は $1.7\times10^3/3.8\times10^5\approx4.5\times10^{-3}$ であり,1に比べて十分小さい.したがって,月の公転軌道を考える上では,月を質点として扱ってよい(ただし,月の自転や潮汐力による変形に関心がある問題では,質点近似は使えない).

まとめると,(a)と(c)は「物体自身の大きさが運動のスケールに比べて無視できる」ので質点近似がよい近似になるが,(b)は比が1のオーダーであり,かつ物体自身の内部構造(腕の位置)そのものが問題の本質にかかわるため,質点近似は使えない.

演習1.2 ベクトル形の等加速度運動を積分から導け

解答

加速度ベクトルは成分で $\bm a=[a_x,a_y]=[0,-g]$ である.定義(加速度は速度の時間微分)より $\dd v_x/\dd t=0$,$\dd v_y/\dd t=-g$ であるから,両辺を $t$ で積分する.

$x$ 成分:$\dd v_x/\dd t=0$ を積分すると $v_x(t)=C_1$(定数).初期条件 $v_x(0)=v_0\cos\theta$ より $C_1=v_0\cos\theta$.よって $v_x(t)=v_0\cos\theta$($x$方向の速度は変化しない).

$y$ 成分:$\dd v_y/\dd t=-g$ を積分すると $v_y(t)=-gt+C_2$.初期条件 $v_y(0)=v_0\sin\theta$ より $C_2=v_0\sin\theta$.よって $v_y(t)=v_0\sin\theta-gt$.

したがって速度ベクトルは

$$ \bm v(t)=[\,v_0\cos\theta,\ \ v_0\sin\theta-gt\,] $$

である.さらに $v_x=\dd x/\dd t,\ v_y=\dd y/\dd t$ を,$x(0)=0,\ y(0)=0$ という初期条件のもとでもう一度積分すると,

$$ x(t)=\int_0^t v_0\cos\theta\,\dd t'=v_0\cos\theta\cdot t $$ $$ y(t)=\int_0^t(v_0\sin\theta-gt')\,\dd t'=v_0\sin\theta\cdot t-\frac12gt^2 $$

すなわち,位置ベクトルは

$$ \bm r(t)=\left[\,v_0\cos\theta\cdot t,\ \ v_0\sin\theta\cdot t-\frac12gt^2\,\right] $$

である.これは,第1章1.4節の「ベクトルでの一般化」(各成分に定理1.1を独立に適用する)を,$x$成分は $a_x=0$ の等加速度運動(実際には等速運動),$y$成分は $a_y=-g$ の等加速度運動として実行しただけであり,結果は空気抵抗のない放物運動の標準的な式(第5章で本格的に扱う)そのものになっている.

演習1.3 自由落下の $v$-$t$ グラフと $a$-$t$ グラフ

解答

鉛直上向きを正,$v_0=0,\ a=-g$($g=9.8\ \mathrm{m/s^2}$)とすると,速度は $v(t)=-gt$ である.

$v$-$t$ グラフ.$v(t)=-gt$ は $t$ の1次関数なので,$v$-$t$ グラフは原点 $(0,0)$ を通る右下がりの直線になる.傾きは $-g=-9.8\ \mathrm{m/s^2}$(一定)であり,時刻とともに(下向きの)速さがどんどん大きくなっていくことを表す.切片($t=0$ での値)は0である.

$a$-$t$ グラフ.加速度は $a=-g$(定数)なので,$a$-$t$ グラフは,縦軸の値が $-9.8\ \mathrm{m/s^2}$ で一定な水平な直線になる($t$ 軸に平行).

1.6節の「傾きは微分」の関係にあてはめると,$v$-$t$ グラフの傾き($-g$,一定)がまさに加速度 $a=\dd v/\dd t$ を表しており,これが $a$-$t$ グラフが一定値 $-g$ の水平線になることと整合している.また,「面積は積分」の関係から,$v$-$t$ グラフの $0$ から $t$ までの面積($t$軸より下なので負の符号)が,その間の変位 $y(t)-y(0)=-\frac12gt^2$(第1章の式 (1.6))に一致することも確認できる.

演習1.4 円運動の速度・加速度と速さ一定の証明

解答

(a) $x(t)=R\cos\omega t,\ y(t)=R\sin\omega t$ を,それぞれ合成関数の微分公式にしたがって $t$ で微分する.$\dd(\cos\omega t)/\dd t=-\omega\sin\omega t$,$\dd(\sin\omega t)/\dd t=\omega\cos\omega t$ より,

$$ \bm v(t)=[\,\dot x,\dot y\,]=[\,-R\omega\sin\omega t,\ \ R\omega\cos\omega t\,] $$

もう一度微分すると,

$$ \bm a(t)=[\,\ddot x,\ddot y\,]=[\,-R\omega^2\cos\omega t,\ \ -R\omega^2\sin\omega t\,]=-\omega^2\,[\,R\cos\omega t,\ R\sin\omega t\,]=-\omega^2\bm r(t) $$

すなわち,加速度は常に位置ベクトル $\bm r(t)$ と逆向き(原点を向く)で,大きさが $\omega^2$ 倍という形になっている.

(b) 速さの2乗は,

$$ \abs{\bm v(t)}^2=(-R\omega\sin\omega t)^2+(R\omega\cos\omega t)^2=R^2\omega^2\sin^2\omega t+R^2\omega^2\cos^2\omega t=R^2\omega^2(\sin^2\omega t+\cos^2\omega t) $$

三角関数の基本公式 $\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$($\theta=\omega t$ として使う)より,かっこの中は1になるので,

$$ \abs{\bm v(t)}^2=R^2\omega^2\qquad\Longrightarrow\qquad \abs{\bm v(t)}=R\omega\ (\text{一定,}\ t\text{によらない}) $$

である.速さ $\abs{\bm v}=R\omega$ は一定だが,(a)で見たとおり加速度 $\bm a=-\omega^2\bm r$ は $\bm 0$ ではない——速度ベクトルの向きが絶えず変化しているためであり,これが第1章1.2節で述べた「速さ一定でも加速度は0とは限らない」の具体例である.

(c) 内積は成分の積の和である.(a)の結果より,

$$ \bm v\cdot\bm a=(-R\omega\sin\omega t)(-R\omega^2\cos\omega t)+(R\omega\cos\omega t)(-R\omega^2\sin\omega t)=R^2\omega^3\sin\omega t\cos\omega t-R^2\omega^3\sin\omega t\cos\omega t=0 $$ $$ \bm r\cdot\bm v=(R\cos\omega t)(-R\omega\sin\omega t)+(R\sin\omega t)(R\omega\cos\omega t)=-R^2\omega\sin\omega t\cos\omega t+R^2\omega\sin\omega t\cos\omega t=0 $$

である.$\bm v\cdot\bm a=0$ は加速度が速度に垂直であること(速さが変わらず向きだけが変わる運動の特徴),$\bm r\cdot\bm v=0$ は速度が半径方向に垂直,すなわち円の接線の向きであることを表す.(別の見方:$\dd\abs{\bm v}^2/\dd t=2\bm v\cdot\bm a$ で,$\abs{\bm v}$ が一定なら左辺が0なので $\bm v\cdot\bm a=0$ となる.)

演習1.5 内積による直交判定

解答

内積が0であることと,2つのベクトルが直交することは同値である(第1章1.7節).成分ごとの積の和を計算する.

(a) $[1,2,3]\cdot[2,-1,0]=1\times2+2\times(-1)+3\times0=2-2+0=0$.内積が0なので,直交する.

(b) $[1,0,0]\cdot[0,1,1]=1\times0+0\times1+0\times1=0$.内積が0なので,直交する.

どちらの組も内積が0になるので,2組とも直交していることが確かめられた.

演習1.6 外積の計算と右ねじの法則

解答

外積の成分公式 $\bm a\times\bm b=[a_yb_z-a_zb_y,\ a_zb_x-a_xb_z,\ a_xb_y-a_yb_x]$ に,$\bm a=[1,0,0]$,$\bm b=[0,1,0]$ を代入すると,

$$ \bm a\times\bm b=[\,0\times0-0\times1,\ \ 0\times0-1\times0,\ \ 1\times1-0\times0\,]=[\,0,\ 0,\ 1\,] $$

である.結果 $[0,0,1]$ は $z$ 軸方向の単位ベクトル $\bm e_z$(第1章1.2節)にほかならない.すなわち $\bm e_x\times\bm e_y=\bm e_z$ である.これは,右手の指を $x$ 軸の正の向き($\bm a$)から $y$ 軸の正の向き($\bm b$)へ巻きつけたときに親指が指す向き,すなわち $z$ 軸の正の向きと一致しており,右ねじの法則(第1章図1.5)どおりの結果になっている.

演習1.7 ばね定数の次元

解答

運動方程式 $F=ma$ より,力の次元は質量の次元と加速度の次元の積である.質量の次元は $[\mathrm M]$,加速度の次元は $[\mathrm{L\,T^{-2}}]$(第1章1.2節・1.3節)なので,

$$ [F]=[\mathrm M][\mathrm{L\,T^{-2}}]=[\mathrm{M\,L\,T^{-2}}] $$

である.フックの法則 $F=kx$ は,第1章の法則1.1(次元の同次性)より両辺の次元が等しくなければならないので,$[F]=[k][x]$.$[x]=[\mathrm L]$ なので,

$$ [k]=\frac{[F]}{[x]}=\frac{[\mathrm{M\,L\,T^{-2}}]}{[\mathrm L]}=[\mathrm{M\,T^{-2}}] $$

である.次元 $[\mathrm{M\,T^{-2}}]$ をSIの基本単位で書けば $\mathrm{kg/s^2}$ であり,これは力の単位 $\mathrm N=\mathrm{kg\,m/s^2}$ を長さの単位 $\mathrm m$ で割ったもの,すなわち $\mathrm{N/m}$ と一致する($\mathrm{kg/s^2}=(\mathrm{kg\,m/s^2})/\mathrm m=\mathrm{N/m}$).ばね定数の単位がふだん $\mathrm{N/m}$ と書かれるのは,まさにこの次元解析の結果である.

第2章 ニュートンの運動の法則 — 運動量と角運動量

演習2.1 一定力を受ける質点の運動量と速度

解答

第2章の運動量原理($\bm p(t_1)+\int_{t_1}^{t_2}\bm F\,\dd t=\bm p(t_2)$)を,$t_1=0,\ t_2=t$ とし,$x$ 軸方向の1次元の問題として立てる.力 $F$ は時間的に一定なので,力積の積分は単純な掛け算になる:

$$ p(t)=p(0)+\int_0^t F\,\dd\tau=p(0)+F\big[\tau\big]_0^t=p(0)+Ft $$

質点は時刻 $t=0$ に静止していた($p(0)=0$)ので,

$$ p(t)=Ft $$

が得られる.速度は,運動量の定義 $p=m\dot x$ より $\dot x=p/m$ なので,

$$ \dot x(t)=\frac{p(t)}{m}=\frac{Ft}{m} $$

である.(これは,高校物理で「一定の力を受ける物体は等加速度運動をする」として学んだ関係 $v=at$ に,$a=F/m$(運動方程式)を代入したものと完全に一致する.運動量原理を使うと,加速度という量を経由しなくても,力積=運動量の変化という関係から直接同じ結果が得られることが分かる.)

演習2.2 弾性衝突の特別な場合 — 等質量の速度交換

解答

第2章の弾性衝突($e=1$)の速度の公式は,

$$ v_1'=\frac{(m_1-m_2)v_1+2m_2v_2}{m_1+m_2},\qquad v_2'=\frac{2m_1v_1+(m_2-m_1)v_2}{m_1+m_2} $$

であった.ここに $m_1=m_2=m$ を代入する.まず $v_1'$ について,

$$ v_1'=\frac{(m-m)v_1+2mv_2}{m+m}=\frac{0\times v_1+2mv_2}{2m}=\frac{2mv_2}{2m}=v_2 $$

(分子の第1項 $(m_1-m_2)v_1$ が,$m_1=m_2$ のためちょうど0になって消える点に注目する.)同様に $v_2'$ について,

$$ v_2'=\frac{2mv_1+(m-m)v_2}{m+m}=\frac{2mv_1+0\times v_2}{2m}=\frac{2mv_1}{2m}=v_1 $$

(今度は分子の第2項 $(m_2-m_1)v_2$ が消える.)したがって,

$$ v_1'=v_2,\qquad v_2'=v_1 $$

が示された.つまり,質量が等しい2物体が弾性衝突すると,2物体の速度がそっくり入れ替わる.ビリヤードの球(質量がほぼ等しく,衝突もほぼ弾性的)で,静止している球に別の球をまっすぐ当てると,当てた球はほぼ止まり,止まっていた球が当てた球のもとの速度で転がり出す,というよく知られた現象は,まさにこの結果の具体例である.

演習2.3 力のモーメントが0になる条件

解答

外積の大きさは,2つのベクトル $\bm r,\bm F$ のなす角を $\theta$($0\leqq\theta\leqq\pi$)として,

$$ \abs{\bm N}=\abs{\bm r\times\bm F}=\abs{\bm r}\,\abs{\bm F}\sin\theta $$

と書ける.$\bm r\neq\bm 0,\ \bm F\neq\bm 0$(したがって $\abs{\bm r}\neq0,\ \abs{\bm F}\neq0$)という条件のもとでは,$\bm N=\bm 0$($\abs{\bm N}=0$)となるのは,$\sin\theta=0$ のとき,すなわち $\theta=0$($\bm r$ と $\bm F$ が同じ向き)または $\theta=\pi$($\bm r$ と $\bm F$ が正反対の向き)のときだけである.つまり,力 $\bm F$ の向きが位置ベクトル $\bm r$ と平行(同じ向きでも反対向きでもよい)であるときに限り,力のモーメントは0になる.

幾何学的に言い換えると,力 $\bm F$ の「作用線」(力ベクトルの向きに引いた直線)が,原点 $O$ を通っているときに,力のモーメントは0になる,ということである.力の作用線が原点からずれている(原点を通らない)ほど,同じ大きさの力でも力のモーメント(回転させる効果)は大きくなる——これはまさに,てこの原理で「支点から遠い場所を押すほど回しやすい」という経験と一致している.

演習2.4 中心力と角運動量保存

解答

力 $\bm F$ が中心力である,すなわち $\bm F$ がつねに位置ベクトル $\bm r$ と平行であるとは,ある実数値の関数(スカラー関数)$f(t)$ を使って,

$$ \bm F(t)=f(t)\,\bm r(t) $$

と書けることを意味する($f\gt0$ のとき $\bm F$ は $\bm r$ と同じ向き=斥力的,$f\lt0$ のとき $\bm F$ は $\bm r$ と反対向き=引力的.万有引力や静電気力はこの形をしている).このとき,力のモーメントは,

$$ \bm N=\bm r\times\bm F=\bm r\times\big(f\bm r\big)=f\,(\bm r\times\bm r) $$

となる(スカラー $f$ は外積の外に出せる).ところが,同じベクトル $\bm r$ どうしの外積は,本章2.5節の導出($\bm v\times\bm v=\bm 0$ を示したのと全く同じ理由)により,つねにゼロベクトルである:$\bm r\times\bm r=\bm 0$.したがって,

$$ \bm N=f\cdot\bm 0=\bm 0 $$

が任意の時刻 $t$ で成り立つ.一方,回転の運動方程式(法則2.5)$\bm N=\dd\bm L/\dd t$ より,

$$ \frac{\dd}{\dd t}\bm L=\bm N=\bm 0 $$

つまり角運動量 $\bm L$ の時間微分が恒等的に0であるから,$\bm L$ は時刻によらず一定である(保存される).中心力を受けて運動する物体(惑星の運動など)で角運動量が保存されるのは,まさにこの理由による.

演習2.5 机の上の本にはたらく力のペア

解答

本にはたらいている力は,次の2つである.

本が静止し続けているのは,この2つの力の大きさが等しく,向きが反対で,合力がゼロになっている(力のつり合い)からである:$m\bm g+\bm R=\bm 0$.しかし,これは第3法則(作用・反作用の法則)のペアではない——作用・反作用の法則が主張しているのは「2つの異なる物体の間の力」についてであって,$m\bm g$ と $\bm R$ はどちらも同じ物体(本)にはたらく,2つの異なる種類の力である.

作用・反作用のペアを正しく見つけるには,本にはたらく力それぞれについて,「相手側の物体には,本からどんな反作用が返っているか」を考える.

まとめると,本が静止している理由(力のつり合い)は,本という1つの物体にはたらく2つの異なる力(重力・垂直抗力)が打ち消し合っているという話であり,作用・反作用の法則(本と地球の間,本と机の間,それぞれ別々に成り立つ2組のペア)とは,別の話である.この2つを混同しないことが,ニュートン力学を正しく理解するうえで重要な注意点である.

演習2.6 壁への衝突と力積

解答

(1) 衝突前の進行方向(壁に向かう向き)を正の向きにとる.ボールの質量は $m=0.5\ \mathrm{kg}$ である.衝突前の運動量は $p_1=0.5\times8=4\ \mathrm{kg\,m/s}$,はね返った後は逆向きなので $p_2=0.5\times(-6)=-3\ \mathrm{kg\,m/s}$ である.運動量原理(定理2.1)より,ボールが壁から受けた力積は運動量の変化に等しく,

$$ I=p_2-p_1=-3-4=-7\ \mathrm{N\,s} $$

である.力積の大きさは $7\ \mathrm{N\,s}$,向きは負の向き,すなわち壁から離れる向き(衝突前の進行方向と逆向き)である.

(2) 力積は「平均の力 × 接触時間」に等しいので,平均の力の大きさは

$$ \bar F=\frac{\abs{I}}{\Delta t}=\frac{7\ \mathrm{N\,s}}{2.0\times10^{-3}\ \mathrm s}=3.5\times10^{3}\ \mathrm N $$

である.ボールにはたらく重力 $0.5\times9.8=4.9\ \mathrm N$ の約 $7\times10^{2}$ 倍もの力が,ごく短い時間にはたらいていることが分かる.

(3) 反発係数は定義2.6で,壁の速度が衝突前後とも $0$ であることから,

$$ e=-\frac{v_1'-0}{v_1-0}=-\frac{v_1'}{v_1}=-\frac{-6}{8}=0.75 $$

である.一般に,ボールの衝突前の速度を $v_1=v\gt0$ とすると,上の式から衝突後の速度は $v_1'=-ev$ で,ボールの運動量の変化,すなわち力積は

$$ I=mv_1'-mv_1=-emv-mv=-(1+e)\,mv $$

であり,大きさは $(1+e)mv$ である.この問題の値を代入すると $(1+0.75)\times0.5\times8=7\ \mathrm{N\,s}$ となり,(1) の結果と一致する.$e=0$(はね返らない)なら力積は $mv$,$e=1$(完全にはね返る)なら $2mv$ で,はね返るほうが力積が大きい.

演習2.7 はねるボールの高さ

解答

(1) 2.6節の応用で導いた $e=\sqrt{h'/h}$ に $h=1.00\ \mathrm m,\ h'=0.64\ \mathrm m$ を代入すると,

$$ e=\sqrt{\frac{0.64}{1.00}}=0.80 $$

である.

(2) はね返りの直前の速さを $v$ とすると,はね返った直後の速さは $ev$ で,上がる高さは $v'^2=2gh'$ より速さの2乗に比例する.したがって,はね返り1回ごとに高さは $e^2$ 倍になる.1回目にはね返る直前の速さは高さ $h$ からの自由落下で決まるので,$h_1=e^2h$,次に $h_1$ から落下して2回目にはね返ると $h_2=e^2h_1$,…と続き,

$$ h_n=e^{2n}h $$

となる.$h_1=0.80^2\times1.00=0.64\ \mathrm m$(問題文と一致する),$h_2=0.80^4\times1.00=0.4096\ \mathrm m\approx0.41\ \mathrm m$ である.

演習2.8 質点の角運動量と中心力

解答

(1) 運動量は $\bm p=m\bm v=1.5\times(0,2,0)=(0,3,0)\ \mathrm{kg\,m/s}$ である.外積の成分表示 $\bm a\times\bm b=(a_yb_z-a_zb_y,\ a_zb_x-a_xb_z,\ a_xb_y-a_yb_x)$ を $\bm r=(2,0,0),\ \bm p=(0,3,0)$ に適用すると,

$$ \bm L=\bm r\times\bm p=\big(0\times0-0\times3,\ 0\times0-2\times0,\ 2\times3-0\times0\big)=(0,\,0,\,6)\ \mathrm{kg\,m^2/s} $$

である(右手の指を $x$ 軸方向から $y$ 軸方向へ回すと親指は $z$ 軸の正の向きを指すので,$z$ 成分が正になる).

(2) 力のモーメントは,$\bm r=(2,0,0)$ と $\bm F=(-4,0,0)$ が平行なので,

$$ \bm N=\bm r\times\bm F=\big(0\times0-0\times0,\ 0\times(-4)-2\times0,\ 2\times0-0\times(-4)\big)=(0,0,0)=\bm 0 $$

である.法則2.5より $\dd\bm L/\dd t=\bm N=\bm 0$ である.力 $\bm F$ が位置ベクトル $\bm r$ と平行(原点に向かう中心力)であれば,$\bm N=\bm r\times\bm F=\bm 0$ がつねに成り立つので,角運動量 $\bm L$ は時間によらず一定に保たれる(演習2.4).この瞬間の $\bm L=(0,0,6)\ \mathrm{kg\,m^2/s}$ の値が,その後もそのまま保存される.

第3章 曲線運動の記述 — 極座標と接線・法線加速度

演習3.1 曲率半径 $\rho(t)$ の一般式

解答

曲線 $\bm r(t)=[t,\ t^2,\ 0]$ の速度・加速度は,各成分を微分して

$$ \bm v(t)=[1,\ 2t,\ 0],\qquad \bm a(t)=[0,\ 2,\ 0] $$

である(加速度は時刻 $t$ によらず一定).速さは

$$ v(t)=\abs{\bm v(t)}=\sqrt{1^2+(2t)^2}=\sqrt{1+4t^2} $$

である.曲率半径を求める公式(第3章 公式3.3)$\rho=v^3/\abs{\bm v\times\bm a}$ を使うために,まず $\bm v\times\bm a$ を計算する.平面運動($z$ 成分が常に0)なので,外積は $z$ 成分だけを持ち,その値は $v_xa_y-v_ya_x$ である:

$$ \bm v\times\bm a=[\,0,\ 0,\ (1)(2)-(2t)(0)\,]=[0,\ 0,\ 2] \qquad\therefore\quad \abs{\bm v\times\bm a}=2 $$

($\abs{\bm v\times\bm a}$ が $t$ によらず一定になったのは,加速度 $\bm a$ が一定なうえ,速度の $x$ 成分も一定であるという,この曲線特有の事情による).公式3.3に代入すると,

$$ \rho(t)=\frac{v(t)^3}{\abs{\bm v\times\bm a}}=\frac{(1+4t^2)^{3/2}}{2} $$

が求める一般式である.

$t=1$ での検算:$\rho(1)=\dfrac{(1+4)^{3/2}}{2}=\dfrac{5^{3/2}}{2}=\dfrac{5\sqrt5}{2}$ となり,第3章例題3.4で(加速度を接線・法線成分に分解する方法で)求めた $\rho=5\sqrt5/2\ \mathrm m$ と完全に一致する.同じ曲線・同じ点について,2通りの独立な方法(成分分解による方法と,外積の公式による方法)が同じ答えに達したことになる.

演習3.2 カーブを曲がる自動車

解答

まず単位を $\mathrm{m/s}$ に直す:

$$ 72\ \mathrm{km/h}=\frac{72\times1000\ \mathrm m}{3600\ \mathrm s}=20\ \mathrm{m/s} $$

である.円弧状のカーブの曲率半径は円の半径に等しいので(第3章3.4節),$\rho=50\ \mathrm m$ である.

(a) 第3章定理3.2より,法線加速度の大きさは

$$ \frac{v^2}{\rho}=\frac{(20\ \mathrm{m/s})^2}{50\ \mathrm m}=\frac{400}{50}\ \mathrm{m/s^2}=8.0\ \mathrm{m/s^2} $$

である(単位は $\mathrm{(m/s)^2/m=m/s^2}$ で加速度の単位に一致する).向きはカーブの中心向きである.

(b) 自動車の質量を $m$ とすると,カーブを曲がるのに必要な向心力は $m v^2/\rho$(ニュートンの第2法則)で,これを水平な路面からの静止摩擦力がまかなう.最大静止摩擦力は $\mu mg$ だから,横滑りしない条件は

$$ \frac{mv^2}{\rho}\le\mu mg \qquad\therefore\quad \mu\ge\frac{v^2}{\rho g}=\frac{8.0}{9.8}\approx0.82 $$

である(質量 $m$ は両辺で約分されて消える.つまり,軽い車でも重い車でも同じ条件である).したがって,静止摩擦係数が約 $0.82$ 以上でなければ横滑りする.速さが2倍になれば $v^2$ が4倍になるので,必要な $\mu$ も4倍になる.

(c) 減速しているので,接線加速度は速さの変化率 $\dd v/\dd t=-2.0\ \mathrm{m/s^2}$(進行方向と逆向き)である.法線加速度は (a) の $8.0\ \mathrm{m/s^2}$ で,接線成分と法線成分は互いに直交するので,大きさは三平方の定理で合成できる:

$$ \abs{\bm a}=\sqrt{\left(\frac{\dd v}{\dd t}\right)^2+\left(\frac{v^2}{\rho}\right)^2}=\sqrt{(-2.0)^2+8.0^2}\ \mathrm{m/s^2}=\sqrt{68}\ \mathrm{m/s^2}\approx8.2\ \mathrm{m/s^2} $$

である.減速しても,加速度の大きさは法線成分がほとんどを占める.

演習3.3 $\theta$ が時間変化するときの $\bm e_r,\bm e_\theta$ の微分

解答

$\bm e_x,\bm e_y$ は時間によらない定ベクトルなので,$\bm e_r=\cos\theta\,\bm e_x+\sin\theta\,\bm e_y$ を時間で微分すると,係数の $\cos\theta,\sin\theta$ だけが微分される.合成関数の微分により $\dfrac{\dd}{\dd t}\cos\theta=-\dot\theta\sin\theta$,$\dfrac{\dd}{\dd t}\sin\theta=\dot\theta\cos\theta$ だから,

$$ \frac{\dd\bm e_r}{\dd t}=-\dot\theta\sin\theta\,\bm e_x+\dot\theta\cos\theta\,\bm e_y=\dot\theta\,(-\sin\theta\,\bm e_x+\cos\theta\,\bm e_y)=\dot\theta\,\bm e_\theta $$

となる(最後の等号は $\bm e_\theta$ の定義,第3章公式3.2).同様に,$\bm e_\theta=-\sin\theta\,\bm e_x+\cos\theta\,\bm e_y$ を微分すると,

$$ \frac{\dd\bm e_\theta}{\dd t}=-\dot\theta\cos\theta\,\bm e_x-\dot\theta\sin\theta\,\bm e_y=-\dot\theta\,(\cos\theta\,\bm e_x+\sin\theta\,\bm e_y)=-\dot\theta\,\bm e_r $$

である.

次に,$\bm r=R\,\bm e_r$($R$ は一定)を時間で微分する.$R$ は定数なので外に出せて,$\dot\theta=\omega$ を使うと,

$$ \bm v=\frac{\dd\bm r}{\dd t}=R\,\frac{\dd\bm e_r}{\dd t}=R\dot\theta\,\bm e_\theta=R\omega\,\bm e_\theta $$

となる.速度は $\bm e_\theta$ の向き(円の接線方向)で,速さは $R\omega$ である.これは,第3章3.4節の見通し(等速円運動で $\bm e_t=\bm e_\theta$,$\dd\bm e_t/\dd t=-\omega\bm e_r$ となり,$\bm e_n=-\bm e_r$)とも一致している.

演習3.4 極座標基底ベクトルの直交性の一般証明

解答

第3章公式3.2より,極座標の基底ベクトルの成分表示は

$$ \bm e_r=[\cos\theta,\ \sin\theta],\qquad \bm e_\theta=[-\sin\theta,\ \cos\theta] $$

である.内積は,対応する成分どうしの積の和として計算する(大学数学 第15章 15.2節の内積の定義):

$$ \bm e_r\cdot\bm e_\theta=(\cos\theta)\times(-\sin\theta)+(\sin\theta)\times(\cos\theta) $$

右辺を展開すると,

$$ =-\sin\theta\cos\theta+\sin\theta\cos\theta $$

となり,同じ項 $\sin\theta\cos\theta$ が符号違いでちょうど2つ現れているので,これらは打ち消し合って,

$$ \bm e_r\cdot\bm e_\theta=0 $$

である.この計算は角 $\theta$ の具体的な値を一切使っていない($\theta$ を含む項がすべて打ち消し合った)ので,どんな $\theta$ の値についても常に成り立つ——すなわち,極座標の基底ベクトル $\bm e_r,\bm e_\theta$ は,点の位置(角 $\theta$)によらず,常に互いに直交することが示された.

演習3.5 $y=\sin x$ の曲率半径

解答

$f(x)=\sin x$ とおくと,

$$ f'(x)=\cos x,\qquad f''(x)=-\sin x $$

である.第3章公式3.4 $\rho=(1+f'(x)^2)^{3/2}/\abs{f''(x)}$ に代入すると,

$$ \rho(x)=\frac{(1+\cos^2x)^{3/2}}{\abs{-\sin x}}=\frac{(1+\cos^2x)^{3/2}}{\abs{\sin x}} $$

が求める一般式である($\abs{-\sin x}=\abs{\sin x}$ を使った).

$x=\pi/2$(山の頂上)での値:$\cos(\pi/2)=0,\ \sin(\pi/2)=1$ を代入すると,

$$ \rho\left(\frac\pi2\right)=\frac{(1+0^2)^{3/2}}{\abs{1}}=\frac{1^{3/2}}{1}=1 $$

である.すなわち,$y=\sin x$ のグラフの山(や谷)の頂上では,曲率半径がちょうど1になる——これは,山の頂上付近の $y=\sin x$ のグラフが,半径1の円($y=1-\dfrac{(x-\pi/2)^2}{2}+\cdots$ とテイラー展開すれば,$y=\sin x$ の $x=\pi/2$ 近くでの振る舞いが半径1の円の頂上付近とほぼ同じ形になることからも納得できる)に最もよく重なる,ということを意味している.

演習3.6 らせん運動の $t=0$ における速度・加速度

解答

第3章例題3.6のらせん運動 $\bm r(t)=[\cos t,\ \sin t,\ t]$ の速度・加速度は,

$$ \bm v(t)=[-\sin t,\ \cos t,\ 1],\qquad \bm a(t)=[-\cos t,\ -\sin t,\ 0] $$

であった.$t=0$($\sin0=0,\ \cos0=1$)を代入すると,

$$ \bm v(0)=[-\sin0,\ \cos0,\ 1]=[0,\ 1,\ 1],\qquad \bm a(0)=[-\cos0,\ -\sin0,\ 0]=[-1,\ 0,\ 0] $$

である.速さは $v(0)=\abs{\bm v(0)}=\sqrt{0^2+1^2+1^2}=\sqrt2$.外積の成分は,

$$ \bm v(0)\times\bm a(0)=[\,(1)(0)-(1)(0),\ \ (1)(-1)-(0)(0),\ \ (0)(0)-(1)(-1)\,]=[0,\ -1,\ 1] $$

であり,$\abs{\bm v(0)\times\bm a(0)}=\sqrt{0^2+(-1)^2+1^2}=\sqrt2$ である.公式3.3より,

$$ \rho(0)=\frac{v(0)^3}{\abs{\bm v(0)\times\bm a(0)}}=\frac{(\sqrt2)^3}{\sqrt2}=\frac{2\sqrt2}{\sqrt2}=2 $$

となり,たしかに例題3.6で求めた「$\rho=2$(時刻 $t$ によらず一定)」という結果と,$t=0$ という具体的な時刻でも矛盾なく一致することが確認できた.

第4章 仕事とエネルギー

演習4.1 内積と仕事のイメージ

解答

内積の定義 $\bm a\cdot\bm b=\abs{\bm a}\abs{\bm b}\cos\theta$($\theta$ は $\bm a,\bm b$ のなす角)を思い出そう.$\bm a=\bm F\neq\bm0$,$\bm b=\dd\bm r\neq\bm0$ と仮定しているので,$\abs{\bm a}\neq0$,$\abs{\bm b}\neq0$ である.したがって,積 $\abs{\bm a}\abs{\bm b}\cos\theta$ が0になるのは,残る因子 $\cos\theta$ が0になるとき,すなわち $\theta=90^\circ$($\bm F$ と $\dd\bm r$ が互いに垂直)のときだけである.

言い換えると,力の向きが,質点の動く向き(変位の向き)にちょうど垂直であるとき,その力は仕事をしない.力がどれほど大きくても,変位に対して垂直な成分は,運動の「向き」には何の影響も及ぼさないからである(本文4.1節のイメージ:内積は変位の向きへの力の「影響の大きさ」を測る量であり,垂直な成分の影響はちょうど0になる).

等速円運動の向心力にこの結果を適用する.向心力は,常に円の中心を向く力である.一方,等速円運動をする質点の速度(=変位の向き $\dd\bm r/\dd t$)は,その瞬間の位置での円の接線方向を向く.円の半径方向(中心を向く向心力の向き)と接線方向は,幾何学的に常に直交する(半径と接線は垂直に交わる,というのは円の基本的な性質である).したがって,向心力の向きと変位の向きが常に $90^\circ$ をなすので,向心力は運動中つねに仕事をしない——これは,等速円運動で運動エネルギー(したがって速さ)が一定に保たれることの理由でもある(仕事エネルギー定理,定理4.1:仕事が0なら運動エネルギーの変化も0).

演習4.2 与えられた力が保存力かどうかの判定

解答

(1) $\bm F=[F_x,F_y,F_z]=[2xy,\ x^2,\ 0]$ について,回転の定義式(第4章4.4.2節)の各成分を計算する.$F_z=0$ で $x,y$ によらないので,第1・第2成分はすぐに0とわかる:

$$ \pdiff{F_z}{y}-\pdiff{F_y}{z}=0-0=0, \qquad \pdiff{F_x}{z}-\pdiff{F_z}{x}=0-0=0 $$

第3成分は,

$$ \pdiff{F_y}{x}-\pdiff{F_x}{y}=\pdiff{}{x}(x^2)-\pdiff{}{y}(2xy)=2x-2x=0 $$

したがって $\rot\bm F=[0,0,0]=\bm0$ であり,第4章の定理4.2 より,$\bm F$ は保存力である.

(2) $\bm F=-\nabla U$ より,$F_x=-\pdiff Ux=2xy$ なので,$\pdiff Ux=-2xy$ である.これを $x$ について積分すると($y$ を定数とみなして積分するので,積分定数は一般に $y$ の関数 $g(y)$ になる),

$$ U=-x^2y+g(y) $$

を得る.次に,この $U$ が $F_y=-\pdiff Uy=x^2$ も満たすことを使って $g(y)$ を決める.$U=-x^2y+g(y)$ を $y$ で偏微分すると $\pdiff Uy=-x^2+g'(y)$ である.一方,$F_y=-\pdiff Uy=x^2$ より $\pdiff Uy=-x^2$ でなければならない.比較すると,

$$ -x^2+g'(y)=-x^2 \quad\Longrightarrow\quad g'(y)=0 \quad\Longrightarrow\quad g(y)=(\text{定数}) $$

定数を0にとれば,

$$ U(x,y)=-x^2y $$

である.検算として,$-\pdiff{}{x}(-x^2y)=2xy=F_x$,$-\pdiff{}{y}(-x^2y)=x^2=F_y$ となり,たしかに $\bm F=-\nabla U$ を満たしている.

演習4.3 放物線上での摩擦力の仕事と,経路への依存

解答

(1)(i) 第4章4.3節「考察」で示した一般公式は,曲線 $y=f(x)$($0\le x\le X$)に沿って質点が接線方向の力でゆっくり引かれるとき($x$ が増える一方の経路),摩擦力がする仕事が

$$ W_{\text{摩擦}}=-\mu mgX $$

($X$ は水平方向に進んだ距離,曲線の途中の形にはよらない)というものだった.$y=x^2\ (0\le x\le1)$ では水平距離は $X=1$ なので,これを代入するだけで,

$$ W_{\text{摩擦}}=-\mu mg\times1=-\mu mg $$

を得る.

(ii) 直接計算する.接線方向の単位ベクトルは $\bm e_t=[1,f'(x)]/\sqrt{1+f'(x)^2}$ であり,$f(x)=x^2$ なので $f'(x)=2x$,したがって

$$ \bm e_t=\frac{[1,2x]}{\sqrt{1+4x^2}} $$

垂直抗力の大きさは,法線方向のつり合い(質点は接線方向の力で引かれるので,重力の法線成分と垂直抗力がつり合う)から,本文の例4.1 と同じ導出により $N=mg/\sqrt{1+f'(x)^2}=mg/\sqrt{1+4x^2}$ であり,動摩擦力は $\bm F_2=-\mu N\bm e_t$,弧長要素は $\dd s=\sqrt{1+4x^2}\,\dd x$ である.$\dd\bm r=\bm e_t\,\dd s$ なので,摩擦力がする仕事は,

$$ W_{\text{摩擦}}=\int_0^1\bm F_2\cdot\bm e_t\,\dd s=\int_0^1(-\mu N)\,\dd s=-\int_0^1\mu\cdot\frac{mg}{\sqrt{1+4x^2}}\cdot\sqrt{1+4x^2}\,\dd x=-\int_0^1\mu mg\,\dd x=-\mu mg $$

(根号の部分が分子・分母で約分されて消えるのは,例4.1 の一般化とまったく同じからくりである).(i),(ii) のどちらも $W_{\text{摩擦}}=-\mu mg$ となり,一致する.

(2) $x=0$ から $x=1$ まで引き上げる間の摩擦の仕事は (1) より $-\mu mg\cdot1$ である.引き戻す間($x$ が $1$ から $0.5$ まで減少)も,動摩擦力は運動と逆向きで,大きさは $\mu N$ である.このとき $\dd\bm r=\bm e_t'\,\dd s$($\bm e_t'$ は進行方向の単位ベクトルで,今度は $x$ が減る向き)と書くと $\bm F_2=-\mu N\bm e_t'$ であり,$\bm F_2\cdot\dd\bm r=-\mu N\,\dd s$ は変わらない.弧長 $s$ の増分は正の $\dd s=\sqrt{1+4x^2}\,\abs{\dd x}$ であるから,

$$ W_{\text{引戻し}}=-\int\mu N\,\dd s=-\int_{0.5}^{1}\mu\frac{mg}{\sqrt{1+4x^2}}\sqrt{1+4x^2}\,\dd x=-\mu mg(1-0.5)=-0.5\,\mu mg $$

である($x$ について $1$ から $0.5$ へ積分するときは $\abs{\dd x}$ として,積分区間の長さ $0.5$ を正にとる).したがって全行程の摩擦の仕事は

$$ W_{\text{全}}=-\mu mg-0.5\,\mu mg=-1.5\,\mu mg $$

である.一方,$x=0$ から $x=0.5$ まで直接引き上げる場合は,(1) の一般公式で $X=0.5$ として $W=-0.5\,\mu mg$ である.始点 $x=0$ と終点 $x=0.5$ はどちらの経路でも同じなのに,摩擦の仕事は $-1.5\,\mu mg$ と $-0.5\,\mu mg$ で異なる.保存力の仕事は経路によらず始点と終点だけで決まる(第4章 4.4.1 節の $W_c=U(P_1)-U(P_2)$)はずなので,摩擦力は保存力ではない.($x$ が増える一方の経路なら水平距離 $X$ だけで決まるが,$x$ が行ったり来たりすると,往復した分の水平距離が加わる.)

演習4.4 斜面を滑り降りる物体の仕事とエネルギー

解答

(1) 斜面に沿って,物体が滑り降りる向きを正にとる.重力の斜面方向の成分は $mg\sin\alpha$(滑り降りる向き,正)であり,物体は距離 $L$ だけ動くので,第4章4.1節の $W=\bm F\cdot\Delta\bm r$(直線運動の場合)より,

$$ W_{\text{重力}}=mg\sin\alpha\times L=mgL\sin\alpha $$

である(正の仕事.重力が運動を後押しする).垂直抗力の大きさは,斜面に垂直な方向のつり合いから $N=mg\cos\alpha$ であり,動摩擦力の大きさは $\mu N=\mu mg\cos\alpha$,向きは運動を妨げる向き(斜面を滑り降りる向きと逆)である.したがって,

$$ W_{\text{摩擦}}=-\mu mg\cos\alpha\times L=-\mu mgL\cos\alpha $$

である(負の仕事).

(2) 物体は静かに滑り始めた(初速0)ので,初めの運動エネルギーは $K_1=0$.合力がした仕事は,重力・摩擦力・垂直抗力(垂直抗力は運動方向に垂直なので仕事をしない)の仕事の合計であり,$W=W_{\text{重力}}+W_{\text{摩擦}}$ である.仕事エネルギー定理(第4章定理4.1)より,

$$ W_{\text{重力}}+W_{\text{摩擦}}=K_2-K_1=\frac12mv^2-0 $$

これを $v$ について解くと,

$$ v=\sqrt{\frac{2(W_{\text{重力}}+W_{\text{摩擦}})}{m}}=\sqrt{\frac{2\left(mgL\sin\alpha-\mu mgL\cos\alpha\right)}{m}}=\sqrt{2gL\left(\sin\alpha-\mu\cos\alpha\right)} $$

を得る(質量 $m$ が約分されて消えることに注意.この結果が意味を持つのは $\sin\alpha>\mu\cos\alpha$,すなわち $\tan\alpha>\mu$ のとき,つまり傾斜が摩擦に打ち勝って物体がそもそも滑り出す場合だけである).

演習4.5 保存力の条件の成分表示 — 3次元と2次元

解答

回転の定義式(第4章4.4.2節)より,$\rot\bm F=\bm0$ を成分で書き下すと,3本の連立条件になる:

$$ \pdiff{F_z}{y}-\pdiff{F_y}{z}=0,\qquad \pdiff{F_x}{z}-\pdiff{F_z}{x}=0,\qquad \pdiff{F_y}{x}-\pdiff{F_x}{y}=0 $$

これが3次元での一般形である.いま,$xy$ 平面内の運動だけを考える2次元の力,すなわち $F_z=0$ であり,かつ $F_x,F_y$ が $z$ に依存しない($\pdiff{F_x}{z}=\pdiff{F_y}{z}=0$)という条件をこの3本に代入する.

第1式:$\pdiff{F_z}{y}-\pdiff{F_y}{z}=\pdiff{}{y}(0)-0=0-0=0$——$F_z=0$(定数)なので自動的に満たされる.

第2式:$\pdiff{F_x}{z}-\pdiff{F_z}{x}=0-\pdiff{}{x}(0)=0-0=0$——同じく自動的に満たされる.

第3式:$\pdiff{F_y}{x}-\pdiff{F_x}{y}=0$——$F_x,F_y$ が $x,y$ の関数として残っているので,これは自動的には満たされず,実際に意味のある条件として残る.

したがって,2次元の力については,保存力であるための条件は3本のうち実質1本だけに簡単化され,

$$ \pdiff{F_y}{x}-\pdiff{F_x}{y}=0 \qquad\Bigl(\text{すなわち}\ \pdiff{F_y}{x}=\pdiff{F_x}{y}\Bigr) $$

となる.これは,3次元の $\rot\bm F$ のうち,$xy$ 平面に垂直な成分($z$ 成分)だけが意味を持ち,残り2成分は2次元運動では恒等的にゼロになる,ということを表している(演習4.2 で使った条件は,この2次元版(第3式)である.例題4.4 では3成分すべてを計算した).

(3) $\bm F=[y^2,\ 2xy,\ z]$ について,$\rot\bm F$ の3成分を計算する:

$$ \pdiff{F_z}{y}-\pdiff{F_y}{z}=0-0=0,\qquad \pdiff{F_x}{z}-\pdiff{F_z}{x}=0-0=0,\qquad \pdiff{F_y}{x}-\pdiff{F_x}{y}=2y-2y=0 $$

よって $\rot\bm F=\bm0$ で,定理4.2 より $\bm F$ は保存力である.ポテンシャルを求める.$F_x=-\pdiff Ux=y^2$ より $\pdiff Ux=-y^2$ で,$x$ で積分すると $U=-xy^2+g(y,z)$(積分定数は $y,z$ の関数).これを $y$ で偏微分すると $\pdiff Uy=-2xy+\pdiff gy$ で,$F_y=-\pdiff Uy=2xy$ すなわち $\pdiff Uy=-2xy$ と比べて $\pdiff gy=0$,つまり $g$ は $z$ だけの関数 $g(z)$.さらに $F_z=-\pdiff Uz=z$ より $\pdiff Uz=-z$ なので $g'(z)=-z$,$g(z)=-\dfrac{z^2}2$(定数は0にとる).したがって

$$ U(x,y,z)=-xy^2-\frac{z^2}2 $$

である.検算として,$-\pdiff Ux=y^2$,$-\pdiff Uy=2xy$,$-\pdiff Uz=z$ となり,$\bm F$ と一致する.

演習4.6 ポテンシャルエネルギー曲線のつり合いの安定性

解答

(1) つり合いの点は $\dd U/\dd x=0$ を満たす点である.$U(x)=\dfrac{x^4}{4}-\dfrac{x^2}{2}$ を微分すると,

$$ \diff Ux=x^3-x=x(x^2-1)=x(x-1)(x+1) $$

これが0になるのは $x=0,\ 1,\ -1$ の3点である.

(2) 安定性の判定には,第4章定理4.4 のとおり2階微分の符号を調べる.$\dd^2U/\dd x^2=3x^2-1$ である.

つまり,$U(x)$ は $x=\pm1$ に左右対称な2つの谷(安定なつり合い)を持ち,その間の $x=0$ に山(不安定なつり合い)を持つ,いわゆる「二重井戸型」のポテンシャルである.

(3) 力学的エネルギー $E=0$ での運動が可能な範囲は,第4章4.6.2節の考え方($U(x)\le E$)より,$U(x)\le0$ を満たす $x$ の範囲である.$U(x)=\dfrac{x^4}{4}-\dfrac{x^2}{2}=\dfrac{x^2}{4}\left(x^2-2\right)$ と因数分解できるので,$U(x)\le0$ となるのは $x^2\le2$($x^2/4\ge0$ は常に成り立つため,符号を決めるのは $(x^2-2)$ の部分)のときであり,すなわち

$$ -\sqrt2\ \le\ x\ \le\ \sqrt2 $$

である.これが,エネルギー的に許される領域($U(x)\le E$ を満たす範囲)である.$E=0$ のときの折り返し点は $x=\pm\sqrt2$($U=E$ かつ $U'=x^3-x\neq0$,定義4.5)である.

ただし,許される領域のすべてに質点が実際に到達できるとは限らない.$x=0$ では $U(0)=0=E$ で,しかも $U'(0)=0$,$U''(0)=-1\lt0$ なので,ここは不安定なつり合いの点(山の頂上)であり,折り返し点ではない.$E=0$ の質点は,$x=0$ の近くで速さが $0$ に近づき,$x=0$ に無限に長い時間をかけて近づくだけで,有限の時間では通過できない(不安定なつり合い点への漸近).したがって,$x\gt0$ の谷から出発した質点が実際に動ける範囲は $0\lt x\le\sqrt2$,$x\lt0$ の谷から出発した質点なら $-\sqrt2\le x\lt0$ に限られる.$E$ がわずかでも $0$ を超えれば,質点は $x=0$ を越えて左右の谷を往復できる.$E=0$ は,中央の山の頂上と同じ高さで,「井戸を越える」運動と「片方の井戸に閉じ込められる」運動の境目にあたる.

演習4.7 渦を巻く力の仕事と回転

解答

$\bm F=[-y,\ x,\ 0]$ について,$\bm F\cdot\dd\bm r=-y\,\dd x+x\,\dd y$ である.正方形の4辺を順に計算する.

したがって,1周の仕事は

$$ \oint\bm F\cdot\dd\bm r=2+2+2+2=8\neq0 $$

である.一方,例題4.7 の結果より $\rot\bm F$ の第3成分は $\pdiff{F_y}{x}-\pdiff{F_x}{y}=2$ で,正方形の面積は $2\times2=4$ だから,その積は $2\times4=8$ となり,1周の仕事とちょうど一致する(これは,ストークスの定理(大学数学 第20章 20.5 節)「閉じた経路に沿った1周の線積分は,回転の面積分に等しい」の具体例である).1周の仕事が0でないので,保存力なら1周の仕事は0のはずなので,この力は保存力ではない.

第5章 放物運動と円運動 — 空気抵抗と向心加速度

演習5.1 射程の対称性と最高点に達する時刻・高さ

解答

(1) 射程の対称性 空気抵抗のない放物運動の水平到達距離は,第5章 5.1節の結果より,初速さ $v_0$,投射角 $\theta$ に対して

$$ R(\theta)=\frac{v_0^2\sin2\theta}{g} $$

である.投射角を $90^\circ-\theta$ にすると $2(90^\circ-\theta)=180^\circ-2\theta$ なので,$\sin(180^\circ-x)=\sin x$(単位円で $x$ と $180^\circ-x$ の $y$ 座標は等しい)を使って,

$$ R(90^\circ-\theta)=\frac{v_0^2\sin(180^\circ-2\theta)}{g}=\frac{v_0^2\sin2\theta}{g}=R(\theta) $$

となり,$\theta$ と $90^\circ-\theta$ で水平到達距離は等しい($\theta=45^\circ$ は $90^\circ-45^\circ=45^\circ$ 自身なので対の相手がなく,$\sin2\theta$ が最大値1をとる投射角にあたる).

(2) 最高点に達する時刻と高さ 空気抵抗のない放物運動の鉛直方向の速度は,運動方程式を積分して得られる一般の式(第5章 5.1節)

$$ v_y(t)=v_0\sin\theta-gt $$

である.最高点は,ボールが上昇から下降に転じる瞬間,すなわち鉛直方向の速度がちょうど0になる時刻なので,$v_y(t)=0$ とおいて $t$ について解く:

$$ v_0\sin\theta-gt_{\text{top}}=0 \qquad\therefore\ t_{\text{top}}=\frac{v_0\sin\theta}{g} $$

ここに $v_0=15\ \mathrm{m/s}$,$\theta=45^\circ$($\sin45^\circ=\dfrac{\sqrt2}{2}\approx0.7071$),$g=9.8\ \mathrm{m/s^2}$ を代入すると,

$$ t_{\text{top}}=\frac{15\times0.7071}{9.8}=\frac{10.607}{9.8}\approx1.082\ \mathrm{s} $$

である.次に,最高点の高さ $H$ は,鉛直方向の位置の式 $y(t)=v_0t\sin\theta-\frac12gt^2$ に $t=t_{\text{top}}$ を代入して求まる(第5章 5.1節の導出と同じ手順):

$$ H=v_0t_{\text{top}}\sin\theta-\frac12g\,t_{\text{top}}^2 =\frac{v_0^2\sin^2\theta}{g}-\frac12\cdot\frac{v_0^2\sin^2\theta}{g} =\frac{v_0^2\sin^2\theta}{2g} $$

数値を代入すると,

$$ H=\frac{15^2\times0.7071^2}{2\times9.8}=\frac{225\times0.5}{19.6}=\frac{112.5}{19.6}\approx5.740\ \mathrm{m} $$

したがって,最高点に達する時刻は約 $1.082\ \mathrm s$,そのときの高さは約 $5.740\ \mathrm m$ である.

演習5.2 終端速度の物理的意味

解答

速度に比例する空気抵抗のもとでの鉛直方向の速度は(第5章 5.2節),

$$ v_y(t)=\Big(v_{0y}+\frac{g}{b}\Big)e^{-bt}-\frac{g}{b} $$

である.$t\to\infty$ の極限を考える.$b\gt0$ なので,指数関数 $e^{-bt}$ は $t\to\infty$ で0に近づく(どんな初速度 $v_{0y}$ に対しても,係数 $\big(v_{0y}+\dfrac gb\big)$ は有限な定数なので,それに0へ近づく $e^{-bt}$ を掛けた項全体が0に近づく).したがって,

$$ \lim_{t\to\infty}v_y(t)=\underbrace{\Big(v_{0y}+\frac gb\Big)\times0}_{\to\,0}-\frac gb=-\frac gb $$

となり,極限値 $-g/b$ には,最初にどんな初速度 $v_{0y}$(大きい・小さい・上向き・下向きのどれであっても)で投げ出したかがまったく影響しない——初速度の情報は,$e^{-bt}\to0$ という減衰によって「忘れられて」しまう.

この物理的な意味は,力のつり合いで理解できる.物体には,下向きに重力 $mg$,速度と逆向きに空気抵抗 $B|v_y|$ がはたらく.物体が十分に加速して落下速度が大きくなると,空気抵抗も大きくなっていき,やがて重力とちょうどつり合う:

$$ mg=B|v_y| \qquad\therefore\ |v_y|=\frac{mg}{B}=\frac gb $$

合力(したがって加速度)が0になったこの速さが,鉛直下向きの終端速度である(第5章 定義5.1).初速度をどのように選んでも,時間が十分たてば必ずこの力のつり合いの状態(終端速度)に落ち着くので,$t\to\infty$ での極限が初速度によらないのは当然の結果である.(初速度がすでに終端速度より速い場合は,抵抗の方が重力より大きくなって減速し,やはり同じ終端速度に近づいていく.)

演習5.3 向心加速度 $v^2/r=r\omega^2$ の2通りの確認

解答

(1) 位置ベクトルの2階微分から(本章5.4節の方法)

半径 $r$,角速度 $\omega$(一定)の等速円運動の位置ベクトルは $\bm r(t)=[r\cos\omega t,\,r\sin\omega t]$ であり,これを2回微分すると(第5章 5.4節の導出)加速度は

$$ \bm a(t)=-\omega^2\bm r(t) $$

となる.この大きさは $|\bm a|=\omega^2|\bm r(t)|=r\omega^2$($|\bm r(t)|=r$ は一定)である.一方,速度の大きさ(速さ)は $\bm v(t)=\dot{\bm r}(t)=r\omega[-\sin\omega t,\cos\omega t]$ より $v=|\bm v|=r\omega$ なので,$\omega=v/r$ を $|\bm a|=r\omega^2$ に代入すると,

$$ |\bm a|=r\left(\frac vr\right)^2=\frac{v^2}{r} $$

となり,$|\bm a|=v^2/r=r\omega^2$ が得られる.

(2) 接線・法線成分への分解から(第3章の方法)

第3章では,一般の曲線運動の加速度が,進行方向(接線方向,単位ベクトル $\bm e_t$)の成分と,それに垂直な向き(主法線方向,単位ベクトル $\bm e_n$,曲線が曲がっていく側を向く)の成分に分解できることを学んだ:

$$ \bm a=\dot v\,\bm e_t+\frac{v^2}{\rho}\,\bm e_n $$

($v$ は速さ,$\rho$ は曲率半径).等速円運動では,速さ $v=r\omega$ が時刻によらず一定なので,接線方向の成分 $\dot v=0$ である.また,円周上の運動では,曲線(円)の曲がり具合は円自身の半径と同じなので,曲率半径は $\rho=r$ である.これらを代入すると,

$$ \bm a=0\cdot\bm e_t+\frac{v^2}{r}\,\bm e_n=\frac{v^2}{r}\,\bm e_n $$

となり,加速度の大きさは $|\bm a|=v^2/r$,向きは主法線方向 $\bm e_n$(円の中心を向く向き)である.これは(1)で求めた向心加速度の大きさ・向きとまったく同じ結果であり,$v=r\omega$ を代入すれば同じく $v^2/r=r\omega^2$ が得られる.

2つのアプローチ——(1) 位置ベクトルを直交座標成分のままベクトルとして2回微分する方法と,(2) 速度・加速度を運動の「向き」に沿った接線・法線方向に分解する方法——は,出発点も計算の道具立ても異なるが,同じ物理現象(等速円運動の向心加速度)について同じ結論に達する.これは,物理法則が座標系の選び方によらないことの一つの具体例である.

演習5.4 人工衛星の軌道速度

解答

(1) 文字式での軌道速度 人工衛星(質量 $m$)が地球(質量 $M$)のまわりを半径 $r$ の円軌道で等速円運動するとき,衛星にはたらく力は地球からの万有引力だけである.万有引力の法則より,その大きさは

$$ F_{\text{万有引力}}=\frac{GMm}{r^2} $$

であり,向きは常に地球の中心(円軌道の中心)を向く.一方,この衛星が半径 $r$,速さ $v$ の等速円運動をするために必要な向心力の大きさは,第5章の向心力の式(定義5.2)$F=m\omega^2r$(角速度 $\omega$ の形)を,速さ $v=r\omega$(すなわち $\omega=v/r$)を使って書き直すと $F=m(v/r)^2r=mv^2/r$ となるので,

$$ F_{\text{向心力}}=\frac{mv^2}{r} $$

である.衛星を円軌道に留めている力は,まさにこの万有引力そのものなので,2つの力は等しい:

$$ \frac{mv^2}{r}=\frac{GMm}{r^2} $$

両辺の質量 $m$(衛星自身の質量.万有引力の式にも向心力の式にも $m$ が同じ形で現れるので約分できる)で両辺を割ると,

$$ \frac{v^2}{r}=\frac{GM}{r^2} \qquad\therefore\ v^2=\frac{GM}{r} $$

$v\gt0$ を選んで平方根をとると,軌道速度は

$$ v=\sqrt{\frac{GM}{r}} $$

である.衛星自身の質量 $m$ が最終的な答えに現れないことは重要な結果で,軌道半径 $r$ さえ決まれば,衛星がどれだけ重くても(質量に関係なく)同じ速さで周回することを意味している(これは自由落下の加速度が質量によらないことと同じ理由——万有引力も運動方程式の両辺も質量 $m$ に比例するため).

(2) 数値 $G=6.674\,30\times10^{-11}\ \mathrm{N\,m^2/kg^2}$,$M=5.972\times10^{24}\ \mathrm{kg}$,$r=6.371\times10^{6}\ \mathrm m$ を $v=\sqrt{GM/r}$ に代入する.まず $GM=6.674\,30\times10^{-11}\times5.972\times10^{24}\approx3.986\times10^{14}\ \mathrm{N\,m^2/kg}=\mathrm{m^3/s^2}$ であり,

$$ v=\sqrt{\frac{3.986\times10^{14}}{6.371\times10^{6}}}=\sqrt{6.256\times10^{7}}\approx7.91\times10^{3}\ \mathrm{m/s}=7.91\ \mathrm{km/s} $$

(単位は $\mathrm{\sqrt{(m^3/s^2)/m}}=\mathrm{m/s}$ で正しい).周期は,1周の長さ $2\pi r$ を速さ $v$ で割って,

$$ T=\frac{2\pi r}{v}=\frac{2\pi\times6.371\times10^{6}}{7.91\times10^{3}}\approx5.06\times10^{3}\ \mathrm s\approx84\ \text{分} $$

となる.地表すれすれの円軌道の速さは約 $7.9\ \mathrm{km/s}$(第1宇宙速度),1周にかかる時間は約84分である.

演習5.5 空気抵抗のある放物運動の水平位置の極限

解答

速度に比例する空気抵抗のもとでの水平方向の位置は(第5章 5.2節),

$$ x(t)=\frac{v_{0x}}{b}\big(1-e^{-bt}\big) $$

である.$t\to\infty$ の極限をとると,$e^{-bt}\to0$($b\gt0$)なので,

$$ \lim_{t\to\infty}x(t)=\frac{v_{0x}}{b}\big(1-0\big)=\frac{v_{0x}}{b} $$

という有限の値に収束する.これは,鉛直方向の位置 $y(t)$ が(式 $-\dfrac gb\,t$ の項のために)$t\to\infty$ で際限なく減少し続けるのとは対照的である.

この違いが生じる物理的な理由は,水平方向と鉛直方向で「つり合う力」の有無が異なるためである.水平方向には重力ははたらかず,空気抵抗だけがはたらく(運動方程式 $\dot v_x=-bv_x$).したがって,水平方向の速度は時間とともに指数関数的に0へ近づき,どこまでも減速し続けて,ついには止まる(速さが実用上0とみなせるようになる).速度が0に近づけば,それ以上ほとんど水平に進まなくなるので,水平位置は特定の値 $v_{0x}/b$ に近づいて頭打ちになる.一方,鉛直方向には重力が常にはたらき続けるため,速度は(水平方向のように0に近づくのではなく)有限の一定値である終端速度 $-g/b$ に近づく(0にはならない).終端速度で落下し続ける限り,鉛直位置はいつまでも(一定の速さで)下がり続けるので,$y(t)$ は発散する.まとめると,「空気抵抗によって水平方向の運動はやがて止まるが,鉛直方向は重力に引かれて(終端速度で)落下し続ける」というのが,$x(t)$ が収束し $y(t)$ が発散することの物理的な意味である——空気抵抗があっても,物体が地面(または水面)に達すること自体は避けられない,という当然の事実とも整合している.

演習5.6 断面積と終端速度

解答

速度の2乗に比例する抵抗のもとでの終端速度は(第5章 公式5.3),

$$ v_{\text t}=\sqrt{\frac{mg}{c}},\qquad c=\frac12C_{\mathrm d}\rho_{\text{air}}A $$

である.例題5.5と同じ $m=2.0\ \mathrm{kg}$,$C_{\mathrm d}=1.05$,$\rho_{\text{air}}=1.2\ \mathrm{kg/m^3}$ を使い,断面積だけを $A=0.50\ \mathrm{m^2}$(例題5.5の $A=0.25\ \mathrm{m^2}$ の2倍)に変えて,抵抗係数を計算し直すと,

$$ c=\frac12\times1.05\times1.2\times0.50=0.315\ \mathrm{kg/m} $$

となる(例題5.5の $c\approx0.1575\ \mathrm{kg/m}$ のちょうど2倍——$A$ が2倍になれば $c$ も2倍になることが,$c=\frac12C_{\mathrm d}\rho_{\text{air}}A$ の形からそのまま読み取れる).これを終端速度の式に代入すると,

$$ v_{\text t}=\sqrt{\frac{2.0\times9.8}{0.315}}=\sqrt{62.22}\approx7.89\ \mathrm{m/s} $$

である.断面積が2倍になると終端速度がもとの何倍になるかは,$c\propto A$ かつ $v_{\text t}\propto1/\sqrt c$ という関係(式の形からわかる比例関係)から,計算をやり直さなくても求められる:$A$ が2倍になれば $c$ も2倍になり,$v_{\text t}$ はその平方根に反比例するので,

$$ \frac{v_{\text{t,new}}}{v_{\text{t,old}}}=\sqrt{\frac{c_{\text{old}}}{c_{\text{new}}}}=\sqrt{\frac{1}{2}}=\frac{1}{\sqrt2}\approx0.707 $$

倍になる.実際,例題5.5の $v_{\text t}\approx11.16\ \mathrm{m/s}$ に $1/\sqrt2\approx0.707$ を掛けると $11.16\times0.707\approx7.89\ \mathrm{m/s}$ となり,上で直接計算した値と一致する.物理的には,パラシュートを開いて断面積を大きくすると,同じ速さでもより強い空気抵抗を受けるようになるため,重力とつり合う速さ(終端速度)が小さくなる,という直感と合っている.

演習5.7 抵抗のある運動の位置と速度

解答

速度に比例する抵抗のもとでの放物運動の速度と位置は,第5章 5.2節の公式5.2より,

$$ v_x=v_{0x}e^{-bt},\qquad v_y=\Big(v_{0y}+\frac gb\Big)e^{-bt}-\frac gb, $$ $$ x=\frac{v_{0x}}{b}\big(1-e^{-bt}\big),\qquad y=\frac1b\Big(v_{0y}+\frac gb\Big)\big(1-e^{-bt}\big)-\frac gb\,t $$

である.$v_{0x}=12\ \mathrm{m/s}$,$v_{0y}=16\ \mathrm{m/s}$,$b=0.50\ \mathrm{s^{-1}}$,$g=9.8\ \mathrm{m/s^2}$ より $g/b=19.6\ \mathrm{m/s}$,$v_{0y}+g/b=35.6\ \mathrm{m/s}$.$t=1.0\ \mathrm s$ で $bt=0.50$,$e^{-0.50}\approx0.6065$,$1-e^{-0.50}\approx0.3935$ なので,

$$ \begin{aligned} x&=\frac{12}{0.50}\times0.3935=24\times0.3935\approx9.44\ \mathrm m,\\ y&=\frac{35.6}{0.50}\times0.3935-19.6\times1.0=71.2\times0.3935-19.6\approx28.02-19.6\approx8.42\ \mathrm m \end{aligned} $$

となる.また速度は,

$$ v_x=12\times0.6065\approx7.28\ \mathrm{m/s},\qquad v_y=35.6\times0.6065-19.6\approx21.59-19.6\approx1.99\ \mathrm{m/s} $$

である($v_y\gt0$ なので,$t=1.0\ \mathrm s$ ではまだ上昇中).空気抵抗がない場合の同時刻の位置は,$x=v_{0x}t=12\ \mathrm m$,$y=v_{0y}t-\frac12gt^2=16-4.9=11.1\ \mathrm m$ である.したがって,抵抗があると,水平方向は $12\ \mathrm m$ から約 $9.4\ \mathrm m$ に,鉛直方向は $11.1\ \mathrm m$ から約 $8.4\ \mathrm m$ に,どちらも小さくなる.

第6章 極座標で見る運動と2次曲線

演習6.1 基底ベクトルの関係を逆に解く

解答

第6章では,基底ベクトルの関係が行列の形で $[\bm e_r\ \bm e_\theta]=[\bm e_x\ \bm e_y]R(\theta)$($R(\theta)=\begin{bmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{bmatrix}$)と書けることを見た.これを $[\bm e_x\ \bm e_y]$ について解くには,両辺に右から $R(\theta)^{-1}$ をかければよい:

$$ [\bm e_x\ \bm e_y]=[\bm e_r\ \bm e_\theta]\,R(\theta)^{-1} $$

第6章6.1節(ii)で確認したとおり,回転行列の逆行列は転置に等しい($R(\theta)^{-1}=R(\theta)^{\mathrm T}=\begin{bmatrix}\cos\theta&\sin\theta\\-\sin\theta&\cos\theta\end{bmatrix}$).これを代入すると,

$$ [\bm e_x\ \bm e_y]=[\bm e_r\ \bm e_\theta]\begin{bmatrix}\cos\theta&\sin\theta\\-\sin\theta&\cos\theta\end{bmatrix} $$

この行列の積を,列ごとに($\bm e_x$ を与える1列目,$\bm e_y$ を与える2列目)書き下すと,

$$ \bm e_x=\cos\theta\,\bm e_r-\sin\theta\,\bm e_\theta,\qquad \bm e_y=\sin\theta\,\bm e_r+\cos\theta\,\bm e_\theta $$

となる.これが求める逆関係である.検算として,これを右辺の $\bm e_r=\cos\theta\bm e_x+\sin\theta\bm e_y,\ \bm e_\theta=-\sin\theta\bm e_x+\cos\theta\bm e_y$ に代入すると,$\bm e_x=\cos\theta(\cos\theta\bm e_x+\sin\theta\bm e_y)-\sin\theta(-\sin\theta\bm e_x+\cos\theta\bm e_y)=(\cos^2\theta+\sin^2\theta)\bm e_x+(\cos\theta\sin\theta-\sin\theta\cos\theta)\bm e_y=\bm e_x$ となり,たしかに恒等式になっている($\bm e_y$ も同様).

演習6.2 近日点距離と遠日点距離

解答

第6章の公式6.3 $r(\theta)=\dfrac{k}{1+\varepsilon\cos\theta}$ に $\theta=0$($\cos0=1$),$\theta=\pi$($\cos\pi=-1$)を代入するだけである:

$$ r(0)=\frac{k}{1+\varepsilon\cos0}=\frac{k}{1+\varepsilon},\qquad r(\pi)=\frac{k}{1+\varepsilon\cos\pi}=\frac{k}{1-\varepsilon}\quad(0\le\varepsilon\lt1) $$

$r(0)$ が $\theta=0$ の位置(焦点にもっとも近い点,第8章で扱う惑星運動では近日点)までの距離,$r(\pi)$ が焦点から最も遠い点(遠日点)までの距離である.$\varepsilon$ が大きいほど $r(0)$ は小さく,$r(\pi)$ は大きくなる——離心率が大きい軌道ほど,近日点で焦点に強く近づき,遠日点で遠くまで離れることがわかる($\varepsilon\to1$ で $r(\pi)\to\infty$ となり,楕円が開いた放物線に近づく).

この2点は長軸の両端なので,長軸の長さは $2a=r(0)+r(\pi)$ である:

$$ 2a=\frac{k}{1+\varepsilon}+\frac{k}{1-\varepsilon}=\frac{k(1-\varepsilon)+k(1+\varepsilon)}{(1+\varepsilon)(1-\varepsilon)}=\frac{2k}{1-\varepsilon^2} \qquad\Longrightarrow\qquad a=\frac{k}{1-\varepsilon^2} $$

これは第6章の定理6.1の $a=k/(1-\varepsilon^2)$ と一致する.また $r(0)=a(1-\varepsilon)$,$r(\pi)=a(1+\varepsilon)$ とも書ける($\dfrac{k}{1+\varepsilon}=\dfrac{k(1-\varepsilon)}{1-\varepsilon^2}$).

演習6.3 離心率0.8の楕円

解答

第6章で導いた直交座標での一般形 $(1-\varepsilon^2)x^2+2k\varepsilon x+y^2-k^2=0$ に $\varepsilon=0.8=\dfrac45,\ k=2$ を代入すると,

$$ \left(1-\frac{16}{25}\right)x^2+2\times2\times\frac45\,x+y^2-4=0 \qquad\Longrightarrow\qquad \frac{9}{25}x^2+\frac{16}{5}x+y^2-4=0 $$

$x$ について平方完成する.$\dfrac{9}{25}x^2+\dfrac{16}{5}x=\dfrac{9}{25}\left(x^2+\dfrac{16}{5}\times\dfrac{25}{9}x\right)=\dfrac{9}{25}\left(x^2+\dfrac{80}{9}x\right)=\dfrac{9}{25}\left[\left(x+\dfrac{40}{9}\right)^2-\left(\dfrac{40}{9}\right)^2\right]$ なので,

$$ \frac{9}{25}\left(x+\frac{40}{9}\right)^2-\frac{9}{25}\times\frac{1600}{81}+y^2-4=0 \qquad\Longrightarrow\qquad \frac{9}{25}\left(x+\frac{40}{9}\right)^2+y^2=4+\frac{1600}{225}=\frac{900+1600}{225}=\frac{100}{9} $$

両辺を $\dfrac{100}{9}$ で割ると,

$$ \frac{\left(x+\dfrac{40}{9}\right)^2}{\dfrac{2500}{81}}+\frac{y^2}{\dfrac{100}{9}}=1 $$

となる.これは,中心 $\left(-\dfrac{40}{9},0\right)$,長半径 $a=\dfrac{50}{9}\approx5.56$,短半径 $b=\dfrac{10}{3}\approx3.33$ の楕円の標準形である.検算として,焦点までの距離は $c=\sqrt{a^2-b^2}=\sqrt{\dfrac{2500}{81}-\dfrac{900}{81}}=\sqrt{\dfrac{1600}{81}}=\dfrac{40}{9}$ であり,これは中心から原点までの距離 $\left|-\dfrac{40}{9}\right|=\dfrac{40}{9}$ にちょうど一致する——公式6.3が原点を焦点として作られていることと矛盾しない.

定理6.1の値とも比べよう.$a=\dfrac{k}{1-\varepsilon^2}=\dfrac{2}{1-16/25}=\dfrac{2}{9/25}=\dfrac{50}{9}$,$b=\dfrac{k}{\sqrt{1-\varepsilon^2}}=\dfrac{2}{3/5}=\dfrac{10}{3}$,中心 $-a\varepsilon=-\dfrac{50}{9}\times\dfrac45=-\dfrac{40}{9}$ で,すべて一致する.

演習6.4 基底ベクトルの時間微分による加速度公式の別証明

解答

準備:$\dot{\bm e}_r=\dot\theta\bm e_\theta,\ \dot{\bm e}_\theta=-\dot\theta\bm e_r$ の確認. 基底ベクトルの式 $\bm e_r=\cos\theta\bm e_x+\sin\theta\bm e_y$($\bm e_x,\bm e_y$ は時間によらない定ベクトル,$\theta=\theta(t)$ だけが時間の関数)を $t$ で微分する.連鎖律により $\dfrac{\dd}{\dd t}\cos\theta=-\dot\theta\sin\theta,\ \dfrac{\dd}{\dd t}\sin\theta=\dot\theta\cos\theta$ なので,

$$ \dot{\bm e}_r=-\dot\theta\sin\theta\,\bm e_x+\dot\theta\cos\theta\,\bm e_y=\dot\theta\left(-\sin\theta\,\bm e_x+\cos\theta\,\bm e_y\right)=\dot\theta\,\bm e_\theta $$

(最後の括弧の中身は,第6章の式より $\bm e_\theta$ そのものである).同様に,$\bm e_\theta=-\sin\theta\bm e_x+\cos\theta\bm e_y$ を微分すると,

$$ \dot{\bm e}_\theta=-\dot\theta\cos\theta\,\bm e_x-\dot\theta\sin\theta\,\bm e_y=-\dot\theta\left(\cos\theta\,\bm e_x+\sin\theta\,\bm e_y\right)=-\dot\theta\,\bm e_r $$

となり,どちらも確認できた.

速度の導出. 位置ベクトルは $\bm r=r\bm e_r$($r,\bm e_r$ はともに時間の関数)と書ける.積の微分公式を使うと,

$$ \bm v=\dot{\bm r}=\frac{\dd}{\dd t}(r\bm e_r)=\dot r\,\bm e_r+r\,\dot{\bm e}_r=\dot r\,\bm e_r+r\left(\dot\theta\,\bm e_\theta\right)=\dot r\,\bm e_r+r\dot\theta\,\bm e_\theta $$

($\dot{\bm e}_r=\dot\theta\bm e_\theta$ を代入した).これは第6章 公式6.1 $\bm v=\dot r\bm e_r+r\dot\theta\bm e_\theta$ とまったく同じ結果であり,回転行列を使わずに導けたことになる.

加速度の導出. 速度をもう一度微分する.今度は $\bm v=\dot r\bm e_r+r\dot\theta\bm e_\theta$ の2つの項それぞれに積の微分公式を使う.第1項は $\dot r$ と $\bm e_r$ の積なので,

$$ \frac{\dd}{\dd t}\left(\dot r\,\bm e_r\right)=\ddot r\,\bm e_r+\dot r\,\dot{\bm e}_r=\ddot r\,\bm e_r+\dot r\dot\theta\,\bm e_\theta $$

第2項は $r,\dot\theta,\bm e_\theta$ の3つの積なので,積の微分公式を2回使う($fgh$ の微分は $f'gh+fg'h+fgh'$).$f=r,\ g=\dot\theta,\ h=\bm e_\theta$ とすると $f'=\dot r,\ g'=\ddot\theta,\ h'=\dot{\bm e}_\theta=-\dot\theta\bm e_r$ なので,

$$ \frac{\dd}{\dd t}\left(r\dot\theta\,\bm e_\theta\right)=\dot r\dot\theta\,\bm e_\theta+r\ddot\theta\,\bm e_\theta+r\dot\theta\left(-\dot\theta\,\bm e_r\right)=-r\dot\theta^2\,\bm e_r+\left(\dot r\dot\theta+r\ddot\theta\right)\bm e_\theta $$

両方をあわせると,

$$ \bm a=\dot{\bm v}=\left[\ddot r\,\bm e_r+\dot r\dot\theta\,\bm e_\theta\right]+\left[-r\dot\theta^2\,\bm e_r+\left(\dot r\dot\theta+r\ddot\theta\right)\bm e_\theta\right] $$

$\bm e_r$ の係数どうし,$\bm e_\theta$ の係数どうしをまとめると,

$$ \bm a=\left(\ddot r-r\dot\theta^2\right)\bm e_r+\left(\dot r\dot\theta+\dot r\dot\theta+r\ddot\theta\right)\bm e_\theta=\left(\ddot r-r\dot\theta^2\right)\bm e_r+\left(2\dot r\dot\theta+r\ddot\theta\right)\bm e_\theta $$

となり,これは第6章 公式6.2 とまったく同じ結果である.回転行列の比較(本章の方法)と,基底ベクトルの時間微分(本演習の方法)という,見た目のまったく異なる2つの道筋が,同じ結論に至ることが確認できた.また,$2\dot r\dot\theta$ の内訳が,$\dot r\bm e_r$ の微分から来る $\dot r\dot\theta$ と $r\dot\theta\bm e_\theta$ の微分から来る $\dot r\dot\theta$ の和であることもこの導出からわかる.

演習6.5 離心率1(放物線)の確認

解答

第6章で導いた直交座標での一般形 $(1-\varepsilon^2)x^2+2k\varepsilon x+y^2-k^2=0$ に $\varepsilon=1$ を代入すると,$(1-1^2)=0$ なので $x^2$ の項がちょうど消えて,

$$ 2kx+y^2-k^2=0 $$

という,$x$ の1次式だけが残る.これを $y^2=\cdots$ の形に整理すると,

$$ y^2=k^2-2kx=-2k\left(x-\frac{k}{2}\right) $$

となる.これは,頂点 $\left(\dfrac{k}{2},0\right)$,$x$ の負の向き(原点の方向)に開いた放物線の標準形 $y^2=-2k\left(x-\dfrac{k}{2}\right)$(高校数学第8章の標準形 $y^2=4px$ で,頂点を $x=k/2$ だけ平行移動し,$4p=-2k$ すなわち $p=-k/2$ とした場合に対応する)にほかならず,たしかに放物線になることが確認できた.頂点が焦点(原点)から $k/2$ だけ離れた位置にあることは,$\varepsilon=1$ のとき近日点距離が演習6.2の結果より $r(0)=k/(1+1)=k/2$ になることとも整合している.

演習6.6 加速度の極座標成分の数値計算

解答

$r(t)=1+t^2$ を微分すると $\dot r=2t\ [\mathrm{m/s}]$,$\ddot r=2\ [\mathrm{m/s^2}]$.$\theta(t)=t$ より $\dot\theta=1\ \mathrm{rad/s}$,$\ddot\theta=0$.$t=1\ \mathrm s$ を代入すると,

$$ r=2\ \mathrm m,\quad \dot r=2\ \mathrm{m/s},\quad \ddot r=2\ \mathrm{m/s^2},\quad \dot\theta=1\ \mathrm{rad/s},\quad \ddot\theta=0 $$

公式6.2より,

$$ a_r=\ddot r-r\dot\theta^2=2-2\times1^2=0\ \mathrm{m/s^2} $$ $$ a_\theta=2\dot r\dot\theta+r\ddot\theta=2\times2\times1+2\times0=4\ \mathrm{m/s^2} $$

したがって,加速度は角度方向の $4\ \mathrm{m/s^2}$ だけである.このとき $\ddot r=2\ \mathrm{m/s^2}\neq0=a_r$ で,$\ddot r$ と $a_r$ は等しくない——$\ddot r=2$ が $-r\dot\theta^2=-2$ とちょうど打ち消し合って $a_r=0$ になっている.検算として,直交座標で $x=(1+t^2)\cos t,\ y=(1+t^2)\sin t$ を2回微分して $t=1$ を代入し,$\bm e_r=(\cos1,\sin1),\ \bm e_\theta=(-\sin1,\cos1)$ との内積をとっても $a_r=0,\ a_\theta=4\ \mathrm{m/s^2}$ が得られる.

演習6.7 等速直線運動の極座標成分

解答

(1) $r=\sqrt{b^2+u^2t^2}$ より $r^2=b^2+u^2t^2$.両辺を $t$ で微分すると $2r\dot r=2u^2t$,すなわち $r\dot r=u^2t$ なので $\dot r=\dfrac{u^2t}{r}=\dfrac{u^2t}{\sqrt{b^2+u^2t^2}}$.角は $\theta=\tan^{-1}\dfrac{ut}{b}$ で,$\dfrac{\dd}{\dd t}\tan^{-1}\dfrac{ut}{b}=\dfrac{1}{1+(ut/b)^2}\cdot\dfrac ub=\dfrac{bu}{b^2+u^2t^2}$ より $\dot\theta=\dfrac{bu}{r^2}$.

(2) $r\dot r=u^2t$ をもう一度 $t$ で微分すると(積の微分公式),$\dot r^2+r\ddot r=u^2$.したがって

$$ \ddot r=\frac{u^2-\dot r^2}{r}=\frac{u^2}{r}\left(1-\frac{u^2t^2}{r^2}\right)=\frac{u^2}{r}\cdot\frac{r^2-u^2t^2}{r^2}=\frac{u^2b^2}{r^3} $$

($r^2-u^2t^2=b^2$ を使った).一方,$r\dot\theta^2=r\cdot\dfrac{b^2u^2}{r^4}=\dfrac{b^2u^2}{r^3}$ なので,$\ddot r=r\dot\theta^2$ が成り立つ.よって $a_r=\ddot r-r\dot\theta^2=0$.

次に $\dot\theta=bu\,r^{-2}$ を微分すると $\ddot\theta=bu\cdot(-2)r^{-3}\dot r=-\dfrac{2bu\,\dot r}{r^3}$ なので,

$$ r\ddot\theta=-\frac{2bu\,\dot r}{r^2}=-2\dot r\cdot\frac{bu}{r^2}=-2\dot r\dot\theta $$

となり,$r\ddot\theta=-2\dot r\dot\theta$ が成り立つ.よって $a_\theta=2\dot r\dot\theta+r\ddot\theta=0$.

これで $a_r=a_\theta=0$(等速直線運動の加速度が $\bm 0$ であること)が極座標の公式からも確かめられた.ただし $\dot r\neq0,\ \dot\theta\neq0$($t\neq0$)なので,$\ddot r$,$r\dot\theta^2$,$2\dot r\dot\theta$,$r\ddot\theta$ の4つの項は個別には0ではなく,和が0になっているだけである.たとえば $b=u=1$(単位は m,m/s),$t=1\ \mathrm s$ では $r=\sqrt2$,$\dot r=\dfrac{1}{\sqrt2}$,$\dot\theta=\dfrac12$ で,$\ddot r=\dfrac{\sqrt2}{4}=r\dot\theta^2$,$2\dot r\dot\theta=\dfrac{\sqrt2}{2}=-r\ddot\theta$ となる(単位はいずれも $\mathrm{m/s^2}$).

演習6.8 双曲線の漸近線の向き

解答

公式6.3で $r\to\infty$ となるのは,分母 $1+\varepsilon\cos\theta$ が $0$ に近づくときである.$\cos\theta=-\dfrac1\varepsilon$($\varepsilon\gt1$ なので $-1\lt-\dfrac1\varepsilon\lt0$ で,解が存在する)となる角が $\theta_\infty$ で,$0\lt\theta_\infty\lt\pi$ の範囲では

$$ \theta_\infty=\cos^{-1}\left(-\frac1\varepsilon\right)\qquad(\pi/2\lt\theta_\infty\lt\pi) $$

である(曲線は $-\theta_\infty\lt\theta\lt\theta_\infty$ の範囲で $r\gt0$).このとき $\sin\theta_\infty=\sqrt{1-\dfrac1{\varepsilon^2}}=\dfrac{\sqrt{\varepsilon^2-1}}{\varepsilon}$($0\lt\theta_\infty\lt\pi$ で $\sin\gt0$)なので,

$$ \tan\theta_\infty=\frac{\sin\theta_\infty}{\cos\theta_\infty}=\frac{\sqrt{\varepsilon^2-1}/\varepsilon}{-1/\varepsilon}=-\sqrt{\varepsilon^2-1} $$

$\varepsilon=\dfrac53$ のとき $\cos\theta_\infty=-\dfrac35$,$\sin\theta_\infty=\dfrac45$,$\tan\theta_\infty=-\dfrac43$($\theta_\infty\approx126.9^\circ$)である.

定理6.1より双曲線の漸近線の傾きの大きさは $\dfrac ba=\dfrac{k/\sqrt{\varepsilon^2-1}}{k/(\varepsilon^2-1)}=\sqrt{\varepsilon^2-1}$ であり,$\varepsilon=\dfrac53$ では $\sqrt{\dfrac{25}{9}-1}=\dfrac43$ となる.$\left|\tan\theta_\infty\right|=\sqrt{\varepsilon^2-1}=\dfrac ba$ であるから,曲線が無限遠に向かう向き $\theta_\infty$ は,双曲線の漸近線の向き($x$ 軸との傾きの大きさが $b/a$)と一致している.

第7章 単振動・減衰振動・強制振動

演習7.1 判別式と減衰の種類

解答

運動方程式 $m\ddot x+n\dot x+kx=0$($m,n,k\gt 0$)の特性方程式 $m\lambda^2+n\lambda+k=0$ を,2次方程式の解の公式で解くと,

$$ \lambda=\frac{-n\pm\sqrt{n^2-4mk}}{2m}=\frac{-n\pm\sqrt{D}}{2m},\qquad D=n^2-4mk $$

である.根号の中身 $D$ の符号によって,根が実数か複素数かが決まる——これが,$D$ の符号と減衰の種類が対応する理由である.

まとめると,$D=n^2-4mk$ の符号は特性根が実数か複素数かを決め,複素数なら振動しながら減衰($D\lt 0$,減衰振動),実数なら振動せず減衰($D\gt 0$,過減衰),ちょうど重解になる境目が臨界減衰($D=0$)である.

演習7.2 単振動の最大速度・最大加速度

解答

単振動のエネルギー保存則は $\frac12m\dot x^2+\frac12kx^2=C$(一定)であり,$x=A,\dot x=0$(振幅の位置で一瞬静止する瞬間)を代入すると $C=\frac12kA^2$ と求まる(本文の法則7.1).したがって,任意の時刻で

$$ \frac12m\dot x^2+\frac12kx^2=\frac12kA^2 $$

が成り立つ.速度の大きさ $|\dot x|$ が最大になるのは,右辺が一定である以上,左辺の第2項 $\frac12kx^2$ が最小($x=0$)になるときである.$x=0$ を代入すると,

$$ \frac12m\dot x_{\max}^2=\frac12kA^2 \qquad\therefore\ \dot x_{\max}=\sqrt{\frac{k}{m}}\,A=\omega A $$

($\omega=\sqrt{k/m}$ は角振動数).これは,$x(t)=A\cos\omega t$ を微分した $\dot x(t)=-A\omega\sin\omega t$ の最大値($|\sin\omega t|=1$ のとき)$|\dot x|_{\max}=A\omega$ と完全に一致する.

最大加速度は,運動方程式 $m\ddot x=-kx$ より $\ddot x=-(k/m)x=-\omega^2x$ という関係(位置に比例し向きが逆)を使う.$|x|$ が最大になるのは $x=\pm A$(振幅の位置)のときなので,

$$ |\ddot x|_{\max}=\omega^2A $$

である.まとめると,最大速度は $\omega A$($x=0$ を通過する瞬間),最大加速度は $\omega^2A$($x=\pm A$ に達した瞬間)である.

演習7.3 臨界減衰となる抵抗係数

解答

臨界減衰は,特性方程式の判別式が0になる場合(第7章 定理7.2の(iii))である:

$$ D=n^2-4mk=0 \qquad\therefore\ n^2=4mk $$

$n$ は抵抗係数であり物理的に $n\gt 0$ でなければならないので,正の平方根を選ぶ:

$$ n=\sqrt{4mk}=2\sqrt{mk} $$

これが,質量 $m$,ばね定数 $k$ の系を臨界減衰にする抵抗係数である.たとえば第7章例題7.5と同じ $m=1\ \mathrm{kg},k=5\ \mathrm{N/m}$ の系なら,$n=2\sqrt{1\times5}=2\sqrt5\approx4.47\ \mathrm{N\cdot s/m}$ であり,これより $n$ が小さければ過減衰($D\gt 0$),大きければ減衰振動($D\lt 0$)になる.

演習7.4 強制振動の振幅とその極限

解答

第7章で求めた強制振動の定常応答は $x_0(t)=X_0\cos(\omega t-\delta)$ の形であり,振幅は

$$ X_0=\frac{f_0}{\sqrt{(k-m\omega^2)^2+(n\omega)^2}} $$

である.$\omega\to0$ の極限を考える.分母の中の $(k-m\omega^2)^2$ は $\omega=0$ で $(k-0)^2=k^2$ になり,$(n\omega)^2$ は $\omega=0$ で $0$ になる.したがって,

$$ \lim_{\omega\to0}X_0=\frac{f_0}{\sqrt{k^2+0}}=\frac{f_0}{\sqrt{k^2}}=\frac{f_0}{k} $$

($k\gt 0$ なので $\sqrt{k^2}=k$).これは,角振動数が非常に小さい駆動力は「ほとんど時間変化しない一定の力 $f_0$」に近く,おもりはばねのフックの法則 $f_0=kx_{\text{静}}$ につり合う位置 $x_{\text{静}}=f_0/k$ の近くに(ほぼ静的に)留まる,という直感と一致する.

演習7.5 演算子法の記法の対応

解答

大学数学 第38章の演算子法と,第7章「数学の道具」で使った演算子法の対応関係を,以下の表に整理する.

項目AD 02 第38章第7章(本章)
独立変数$x$(数学的な変数)$t$(時刻)
微分演算子の定義$D\equiv\dfrac{\dd}{\dd x}$(38.1節)$D\equiv\dfrac{\dd}{\dd t}$(同じ記号をそのまま流用)
2階までの演算子の書き方$Dy=y',\ D^2y=y''$$Dx=\dot x,\ D^2x=\ddot x$
多項式演算子$\Phi(D)=D^2+aD+b$(最高次の係数が1,38.3節以降)$\Phi(D)=mD^2+nD+k$(最高次の係数が $m$.方程式の両辺を $m$ で割らずにそのまま使う形)
指数関数への代入公式$\Phi(D)y=e^{\alpha x}$ の特殊解 $y=\dfrac{e^{\alpha x}}{\Phi(\alpha)}$($\Phi(\alpha)\neq0$,38.4節)$\Phi(D)x=f_0e^{i\omega t}$ の特殊解 $x=\dfrac{f_0e^{i\omega t}}{\Phi(i\omega)}$($\Phi(i\omega)\neq0$)
代入する指数の肩一般の実数(または複素数)$\alpha$純虚数 $\alpha=i\omega$(三角関数の外力を複素指数関数として扱うため)

本質的な違いは1点だけである:AD 02 第38章では,最高次の係数を1に規格化してから $\Phi(D)=D^2+aD+b$ の形で扱っているのに対し,第7章では運動方程式の両辺を質量 $m$ で割らずに,$\Phi(D)=mD^2+nD+k$(最高次の係数が $m$)のまま使っている.公式 $x=e^{\alpha t}/\Phi(\alpha)$ 自体は,$\Phi(D)$ の最高次の係数によらず成り立つ(例題7.6で検算したとおり,$\Phi(\alpha)\ne0$ である限り,$x=e^{\alpha t}/\Phi(\alpha)$ を直接代入すれば $\Phi(D)x=e^{\alpha t}$ を満たすことが確かめられる)ので,どちらの規格化でも同じように使える.

演習7.6 共鳴角振動数の導出(発展)

解答

振幅 $X_0(\omega)=f_0/\sqrt{(k-m\omega^2)^2+(n\omega)^2}$ を最大にすることは,分母の中身

$$ D(\omega)\equiv(k-m\omega^2)^2+(n\omega)^2 $$

を最小にすることと同じである(分子 $f_0$ は $\omega$ によらない正の定数であり,平方根とその中身は同じ向きに増減するから).$D(\omega)$ を $\omega$ で微分する.まず第1項を,合成関数の微分法で微分すると,

$$ \frac{\dd}{\dd\omega}(k-m\omega^2)^2=2(k-m\omega^2)\cdot\frac{\dd}{\dd\omega}(k-m\omega^2)=2(k-m\omega^2)\cdot(-2m\omega)=-4m\omega(k-m\omega^2) $$

第2項は,

$$ \frac{\dd}{\dd\omega}(n\omega)^2=\frac{\dd}{\dd\omega}(n^2\omega^2)=2n^2\omega $$

なので,

$$ D'(\omega)=-4m\omega(k-m\omega^2)+2n^2\omega=2\omega\left[-2m(k-m\omega^2)+n^2\right]=2\omega\left(2m^2\omega^2-2mk+n^2\right) $$

$D'(\omega)=0$ となるのは,$\omega=0$(これは極大点であり,$D(0)=k^2\gt 0$ で最小ではない——実際,7.4節で見たように $\omega\to0$ で $X_0\to f_0/k$ という有限の値であり,$\omega$ を大きくすると共鳴付近でさらに大きくなるので,$\omega=0$ は最小点ではない)か,または

$$ 2m^2\omega^2-2mk+n^2=0 \qquad\therefore\ \omega^2=\frac{2mk-n^2}{2m^2}=\frac{k}{m}-\frac{n^2}{2m^2}=\omega_0^2-\frac{n^2}{2m^2} $$

のときである($\omega_0=\sqrt{k/m}$).この右辺が正である場合($\omega_0^2\gt n^2/(2m^2)$,すなわち抵抗が弱い場合)にだけ,$\omega\neq0$ の実数解

$$ \omega_{\text{res}}=\sqrt{\omega_0^2-\frac{n^2}{2m^2}} $$

が存在する.これが,本文の式(式番号は第7章 式(7.20))の共鳴角振動数である.(この $\omega$ が実際に $D(\omega)$ の最小点,すなわち $X_0(\omega)$ の最大点になっていることは,$D(\omega)$ が $\omega\to0$ と $\omega\to\infty$ の両方で大きな値をとり,途中の唯一の停留点がこの $\omega_{\text{res}}$ であることから確認できる.)

第8章 中心力と惑星の運動 — ケプラーの法則と地球トンネル

演習8.1 面積速度一定と角運動量保存

解答

第8章8.2節の導出中に現れた式②は,$\dfrac1r\dfrac{\dd}{\dd t}(r^2\dot\theta)=0$ であった.両辺に $r$($\ne0$)を掛けると $\dfrac{\dd}{\dd t}(r^2\dot\theta)=0$ となり,これは $r^2\dot\theta$ が時間 $t$ によらず一定の値をとることを意味する.そこで,この一定値を $C_1$ とおく:

$$ r^2\dot\theta=C_1=\text{一定} $$

一方,質点の位置ベクトルが,時刻 $t$ から $t+\dd t$ の間に角度 $\dd\theta$ だけ回転するとき,掃く微小な面積は,半径 $r$,中心角 $\dd\theta$ の扇形の面積として $\dd A=\dfrac12r^2\,\dd\theta$ と書ける.両辺を $\dd t$ で割ると,面積速度は

$$ \frac{\dd A}{\dd t}=\frac12r^2\frac{\dd\theta}{\dd t}=\frac12r^2\dot\theta=\frac12(r^2\dot\theta)=\frac{C_1}{2} $$

である.$C_1$ は時間によらない定数なので,面積速度 $\dd A/\dd t=C_1/2$ も時間によらず一定である.つまり,「$r^2\dot\theta$ が一定」という式②の内容は,「質点と中心を結ぶ線分が,等しい時間に等しい面積を掃く」というケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)とまったく同じことを述べている——$r^2\dot\theta$ という量に $\dfrac12$ を掛けただけのものが面積速度そのものだからである.この結果は,8.1節で角運動量保存則から導いた $L=mr^2\dot\theta=$ 一定とも一致しており,$C_1=L/m$ の関係にある.

演習8.2 木星のデータから太陽の質量を求める

解答

ケプラーの第3法則(第8章 法則8.4)$T^2=\dfrac{4\pi^2}{GM}a^3$ を $GM$ について解くと,

$$ GM=\frac{4\pi^2a^3}{T^2} $$

である.木星のデータ $a=5.203\ \mathrm{AU}=5.203\times1.496\times10^{11}\ \mathrm{m}=7.784\times10^{11}\ \mathrm{m}$,$T=11.86\ \mathrm{年}=11.86\times3.156\times10^{7}\ \mathrm{s}=3.743\times10^{8}\ \mathrm{s}$ を代入すると,

$$ GM_\odot=\frac{4\pi^2\times(7.784\times10^{11}\ \mathrm{m})^3}{(3.743\times10^{8}\ \mathrm{s})^2} =\frac{4\pi^2\times4.716\times10^{35}\ \mathrm{m^3}}{1.401\times10^{17}\ \mathrm{s^2}} \approx1.329\times10^{20}\ \mathrm{m^3/s^2} $$

となる.第8章例題8.3(2)で地球のデータから求めた値は $GM_\odot\approx1.3270\times10^{20}\ \mathrm{m^3/s^2}$(文献値ともよく一致していた)であり,木星のデータから求めた値 $1.329\times10^{20}\ \mathrm{m^3/s^2}$(より正確には $1.3288\times10^{20}$)との相対差は約 $0.14\ \%$ である.この差は,丸めの誤差だけでなく,木星の質量が太陽の約 $1/1000$ あり,「太陽が静止している」という近似(正確には法則8.4の $M$ を $M+m$ に置き換える必要がある)からのずれでもある.地球という内惑星と木星という外惑星,まったく異なる軌道長半径・周期のデータから,同じ太陽の質量(に $G$ を掛けた量)がよい精度で一致して求まる——これは,ケプラーの第3法則の比例定数 $4\pi^2/(GM)$ が惑星ごとに変わらない(中心天体だけで決まる)ことの,実測データによる裏づけである.

演習8.3 弦状トンネルの周期が変わらないことの証明(発展)

解答

質点の位置ベクトルを,トンネルに沿った単位ベクトル $\bm e$ とそれに垂直な単位ベクトル $\bm e_\perp$ を使って $\bm r=p\,\bm e_\perp+s\,\bm e$($p$ は中心 $\mathrm O$ からトンネルへ下ろした垂線の長さで一定,$s$ はトンネルに沿った座標)と表す.第8章の法則8.6を3次元のベクトルの形に拡張すると,一様な球の内部($|\bm r|\lt R$)での重力は,質量 $m$ の質点について

$$ \bm F(\bm r)=-\frac43\pi G\rho\,m\,\bm r $$

である(大きさが中心からの距離 $|\bm r|$ に比例し,向きは常に中心 $\mathrm O$ を向く).この力のトンネル方向($\bm e$ 方向)の成分は,$\bm r=p\,\bm e_\perp+s\,\bm e$ を代入して,

$$ \bm F\cdot\bm e=-\frac43\pi G\rho\,m\,\bm r\cdot\bm e =-\frac43\pi G\rho\,m\,\big(p\,\bm e_\perp\cdot\bm e+s\,\bm e\cdot\bm e\big) $$

である.$\bm e_\perp$ と $\bm e$ は定義よりトンネルに垂直な方向とトンネル方向なので互いに直交し,$\bm e_\perp\cdot\bm e=0$(内積の定義,直交する2つのベクトルの内積は0).また $\bm e$ は単位ベクトルなので $\bm e\cdot\bm e=|\bm e|^2=1$ である.したがって,$p$ を含む項が消えて,

$$ \bm F\cdot\bm e=-\frac43\pi G\rho\,m\,s $$

となる——トンネル方向の力の成分は,垂線の長さ $p$(トンネルが中心からどれだけ離れているか)にはまったくよらず,トンネルに沿った座標 $s$ だけで決まる.トンネルの壁はなめらかで摩擦がなく,壁から質点が受ける垂直抗力は $\bm e_\perp$ 方向の成分だけを打ち消す(トンネルに沿った方向には力を及ぼさない)ので,$\bm e$ 方向の運動方程式は,力の$\bm e$成分だけを考えればよく,

$$ m\ddot s=\bm F\cdot\bm e=-\frac43\pi G\rho\,m\,s \qquad\therefore\ \ddot s+\omega^2s=0,\qquad \omega=\sqrt{\frac43\pi G\rho} $$

となる.これは,図8.8の中心を通るトンネル($p=0$ の特別な場合)の運動方程式(8.5.3項)とまったく同じ角振動数 $\omega$ をもつ単振動の方程式である.したがって,弦状トンネルでの振動の周期 $T=2\pi/\omega$ は,トンネルが中心からどれだけ離れているか($p$ の値,すなわちトンネルの長さ)にはまったくよらず,中心を通るトンネルと同じ約84分になる.

演習8.4 地球トンネルとエネルギー保存則

解答

第8章の法則8.6の力 $F(r)=-\dfrac43\pi G\rho\,mr$ から,位置エネルギー $U(r)$($U(0)=0$ を基準)を,$F=-\dd U/\dd r$ の逆演算(積分)で求める:

$$ U(r)=-\int_0^rF(r')\,\dd r'=-\int_0^r\left(-\frac43\pi G\rho\,mr'\right)\dd r' =\frac43\pi G\rho\,m\int_0^rr'\,\dd r' =\frac43\pi G\rho\,m\left[\frac{r'^2}{2}\right]_0^r =\frac23\pi G\rho\,m\,r^2 $$

である.力学的エネルギーは $E=\frac12m\dot r^2+U(r)=\frac12m\dot r^2+\frac23\pi G\rho\,mr^2$ である.初期条件 $r(0)=R,\ \dot r(0)=0$ を代入すると,

$$ E=\frac12m\times0^2+\frac23\pi G\rho\,mR^2=\frac23\pi G\rho\,mR^2 $$

となる.次に,運動方程式の解 $r(t)=R\cos\omega t$($\omega=\sqrt{\frac43\pi G\rho}$)を微分すると $\dot r(t)=-R\omega\sin\omega t$ なので,

$$ \dot r^2=R^2\omega^2\sin^2\omega t=R^2\omega^2\big(1-\cos^2\omega t\big)=\omega^2\big(R^2-R^2\cos^2\omega t\big)=\omega^2(R^2-r^2) $$

($\sin^2\omega t=1-\cos^2\omega t$ と $R\cos\omega t=r(t)$ を使った).これをエネルギーの式に代入すると,

$$ \frac12m\dot r^2+U(r)=\frac12m\,\omega^2(R^2-r^2)+\frac23\pi G\rho\,mr^2 $$

$\omega^2=\frac43\pi G\rho$ を代入して整理すると,

$$ =\frac12m\cdot\frac43\pi G\rho\,(R^2-r^2)+\frac23\pi G\rho\,mr^2 =\frac23\pi G\rho\,m\,R^2-\frac23\pi G\rho\,mr^2+\frac23\pi G\rho\,mr^2 =\frac23\pi G\rho\,mR^2 $$

となり,$-\frac23\pi G\rho\,mr^2$ と $+\frac23\pi G\rho\,mr^2$ が打ち消し合って,$r$ に依存しない一定値 $\frac23\pi G\rho\,mR^2$ になる.これはちょうど,先に初期条件から求めた $E=\frac23\pi G\rho\,mR^2$ と完全に一致する.したがって,$r(t)=R\cos\omega t$ という解は,どの時刻でもエネルギー保存則 $\frac12m\dot r^2+U(r)=E$(一定)を満たしており,運動方程式の解として矛盾がないことが確認できた.

演習8.5 火星の脱出速度

解答

第8章の脱出速度の式 $v_{\rm esc}=\sqrt{2GM/R}$ に,火星のデータ $GM_{\text{火星}}=4.283\times10^{13}\ \mathrm{m^3/s^2}$,$R_{\text{火星}}=3.390\times10^6\ \mathrm{m}$ を代入すると,

$$ v_{\rm esc,\text{火星}}=\sqrt{\frac{2\times4.283\times10^{13}\ \mathrm{m^3/s^2}}{3.390\times10^6\ \mathrm{m}}} =\sqrt{2.527\times10^{7}\ \mathrm{m^2/s^2}} \approx5.03\times10^3\ \mathrm{m/s}\approx5.03\ \mathrm{km/s} $$

である.第8章例題8.6で求めた地球の脱出速度 $\approx11.2\ \mathrm{km/s}$,月の脱出速度 $\approx2.38\ \mathrm{km/s}$ と比較すると,火星の脱出速度はその中間の値(地球の約45%,月の約2.1倍)になっている.これは,火星の質量・半径がともに地球より小さいが月よりは大きい($GM_{\text{火星}}/GM_\oplus\approx0.107$,$R_{\text{火星}}/R_\oplus\approx0.532$)ことを反映している.実際の火星探査機(たとえば火星からのサンプルリターン計画)が,地球からの打ち上げに比べて離陸に必要な速度が小さくて済むのは,この脱出速度の違いによる.

演習8.6 静止衛星の軌道半径

解答

静止衛星は,地球のまわりを円軌道(離心率 $\varepsilon=0$,軌道長半径 $a=r_0$)で,地球の自転周期 $T_{\rm sid}=86164\ \mathrm{s}$ と同じ周期で公転する.ケプラーの第3法則(第8章 法則8.4)$T^2=\dfrac{4\pi^2}{GM}a^3$ を $a^3$ について解くと,

$$ a^3=\frac{GM\,T^2}{4\pi^2} $$

である.地球の $GM_\oplus=3.986\times10^{14}\ \mathrm{m^3/s^2}$ と $T_{\rm sid}=86164\ \mathrm{s}$ を代入すると,

$$ r_0^3=a^3=\frac{3.986\times10^{14}\ \mathrm{m^3/s^2}\times(86164\ \mathrm{s})^2}{4\pi^2} \approx\frac{3.986\times10^{14}\times7.424\times10^9}{39.48}\ \mathrm{m^3} \approx7.497\times10^{22}\ \mathrm{m^3} $$

三乗根をとると,

$$ r_0\approx4.216\times10^7\ \mathrm{m}=42164\ \mathrm{km} $$

である(地表からの高度に直すと,$42164-6371\approx35793\ \mathrm{km}$ となり,よく知られた静止衛星の高度「約3万6000 km」と一致する).次に,単位質量あたりの角運動量は,円軌道速度 $v_{\rm circ}=\sqrt{GM/r_0}$(第8章8.4節,向心力のつり合い $GMm/r^2=mv^2/r$)を使って,

$$ \frac{L}{m}=r_0v_{\rm circ}=r_0\sqrt{\frac{GM}{r_0}}=\sqrt{GM\,r_0} $$

と表せる.数値を代入すると,

$$ \frac{L}{m}=\sqrt{3.986\times10^{14}\ \mathrm{m^3/s^2}\times4.216\times10^{7}\ \mathrm{m}}\approx1.296\times10^{11}\ \mathrm{m^2/s} $$

である.これが第8章の $r_0=L^2/(GMm^2)=(L/m)^2/(GM)$ を満たしていることは,$(1.296\times10^{11})^2/(3.986\times10^{14})\approx4.216\times10^{7}\ \mathrm{m}$ となることから確認できる($r_0$ の値と一致).

演習8.7 $u=1/r$ の置換を白紙から再現する

解答

$r$ は $\theta$ の関数 $r(\theta)$,$\theta$ は $t$ の関数 $\theta(t)$ なので,連鎖律より $\dfrac{\dd}{\dd t}=\dot\theta\,\dfrac{\dd}{\dd\theta}$ である.$\dot\theta=C_1/r^2$($r^2\dot\theta=C_1$ より)を使うと,

$$ \dot r=\frac{\dd r}{\dd\theta}\,\dot\theta=\frac{C_1}{r^2}\frac{\dd r}{\dd\theta} $$

となる.$u=1/r$ とおくと $\dfrac{\dd u}{\dd\theta}=\dfrac{\dd u}{\dd r}\dfrac{\dd r}{\dd\theta}=-\dfrac1{r^2}\dfrac{\dd r}{\dd\theta}$ なので,$\dfrac1{r^2}\dfrac{\dd r}{\dd\theta}=-\dfrac{\dd u}{\dd\theta}$ であり,

$$ \dot r=-C_1\frac{\dd u}{\dd\theta} $$

次に,$\ddot r=\dfrac{\dd}{\dd t}\dot r=\dot\theta\dfrac{\dd}{\dd\theta}\dot r$ に上の $\dot r$ を代入する($C_1$ は定数):

$$ \ddot r=\frac{C_1}{r^2}\frac{\dd}{\dd\theta}\left(-C_1\frac{\dd u}{\dd\theta}\right)=-\frac{C_1^2}{r^2}\frac{\dd^2u}{\dd\theta^2} $$

これらを $\ddot r\,r^2-C_1^2/r=-GM$ に代入する.$C_1^2/r=C_1^2u$ に注意すると,

$$ r^2\left(-\frac{C_1^2}{r^2}\frac{\dd^2u}{\dd\theta^2}\right)-C_1^2u=-GM \quad\Longrightarrow\quad -C_1^2\frac{\dd^2u}{\dd\theta^2}-C_1^2u=-GM $$

両辺を $-C_1^2\ (\ne0)$ で割ると,$\dfrac{\dd^2u}{\dd\theta^2}+u=\dfrac{GM}{C_1^2}$ が得られる.

演習8.8 地球トンネルとばね振り子の対応表

解答

地球トンネルは $m\ddot r=-\dfrac43\pi G\rho\,m\,r$,ばね振り子は $m\ddot x=-k_{\rm s}x$ である.係数を比べると,$x\leftrightarrow r$ の対応のもとで $k_{\rm s}\leftrightarrow\dfrac43\pi G\rho\,m$ となる.これに応じて,角振動数と周期は次のように対応する.

量ばね振り子地球トンネル
位置$x$$r$(中心からの符号つき距離)
復元力$-k_{\rm s}x$$-\frac43\pi G\rho\,m\,r$
ばね定数$k_{\rm s}$$\frac43\pi G\rho\,m$
角振動数$\omega=\sqrt{k_{\rm s}/m}$$\omega=\sqrt{\frac43\pi G\rho}$
周期$T=2\pi\sqrt{m/k_{\rm s}}$$T=2\pi\sqrt{3/(4\pi G\rho)}$

数値は,$m=1\ \mathrm{kg}$,$\rho=5500\ \mathrm{kg/m^3}$ のとき

$$ k_{\rm s}=\frac43\pi G\rho\,m=\frac43\pi\times6.674\times10^{-11}\ \mathrm{N\,m^2/kg^2}\times5500\ \mathrm{kg/m^3}\times1\ \mathrm{kg}\approx1.537\times10^{-6}\ \mathrm{N/m} $$

である(単位は $\mathrm{N\,m^2/kg^2\cdot kg/m^3\cdot kg}=\mathrm{N/m}$ で,ばね定数の単位に一致する).非常にやわらかいばね($1\ \mathrm m$ 伸ばしても $1.5\ \mathrm{\mu N}$ の力)だが,質点が動く距離が地球の半径 $6.4\times10^6\ \mathrm m$ と非常に大きいので,最大の力は $k_{\rm s}R\approx9.8\ \mathrm N$($1\ \mathrm{kg}$ の質点にはたらく重力そのもの)になる.なお,このとき $\omega=\sqrt{k_{\rm s}/m}=\sqrt{1.537\times10^{-6}}\ \mathrm{s^{-1}}\approx1.24\times10^{-3}\ \mathrm{s^{-1}}$ で,本文の値に一致する.

演習8.9 弦状トンネルの長さと通過時間

解答

(1) 中央(垂線の足)から端点までの距離を $s_{\max}$ とすると,端点は球の表面上にあるので,垂線の足と中心と端点でできる直角三角形の三平方の定理より $s_{\max}^2+p^2=R^2$ である.

$$ s_{\max}=\sqrt{R^2-p^2}=\sqrt{(6371\ \mathrm{km})^2-(3000\ \mathrm{km})^2}=\sqrt{3.1590\times10^{7}}\ \mathrm{km}\approx5620\ \mathrm{km} $$

トンネルの長さは $2s_{\max}\approx1.124\times10^4\ \mathrm{km}$ である.

(2) 演習8.3の結果より,トンネル方向の運動は $\ddot s=-\omega^2s$($\omega=\sqrt{\frac43\pi G\rho}=1.240\times10^{-3}\ \mathrm{s^{-1}}$)で,一方の端 $s=-s_{\max}$ から静かに落とすと $s(t)=-s_{\max}\cos\omega t$ となる.反対側の端 $s=+s_{\max}$ に着くのは $\omega t=\pi$ のときで,これは周期の半分である:

$$ t=\frac T2=\frac{\pi}{\omega}=\frac{\pi}{1.240\times10^{-3}\ \mathrm{s^{-1}}}\approx2.53\times10^{3}\ \mathrm s\approx42.2\ \mathrm{分} $$

これは,中心を通るトンネルの片道の時間($T/2$)とまったく同じである.トンネルの長さはずっと短いが,その分だけ力(運動方程式の右辺)も小さいので,時間は変わらない.

(3) 中央 $s=0$ での速さは最大で,$v_{\max}=\omega s_{\max}$ である:

$$ v_{\max}=1.240\times10^{-3}\ \mathrm{s^{-1}}\times5.620\times10^{6}\ \mathrm m\approx6.97\times10^{3}\ \mathrm{m/s}\approx7.0\ \mathrm{km/s} $$

である(中心を通るトンネルの $7.9\ \mathrm{km/s}$ より小さい.振幅が $s_{\max}$ だけであるためである).

第9章 運動座標系と慣性力 — 遠心力とコリオリ力

演習9.1 急ブレーキをかける電車の中のつり革

解答

電車の進行方向を前向きとする.電車は前向きに進みながら大きさ $a$ で減速しているので,電車(座標系)の加速度ベクトルは進行方向と逆向き(後ろ向き)で,大きさは $a$ である.電車に固定した非慣性系で考えると,つり革(質量 $m$)には,重力 $mg$(下向き),ひもの張力 $T$(ひもの向き),そして慣性力(座標系の加速度と逆向き,すなわち前向きで大きさ $ma$)の3つの力がはたらき,つり革が静止してつり合っている.

ひもが鉛直から前向きに角度 $\alpha$ だけ傾いているとすると,鉛直方向のつり合いより $T\cos\alpha=mg$,水平方向のつり合いより $T\sin\alpha=ma$(慣性力が前向きにつり革を押すので,ひもは鉛直から前方向へ傾く).2式の比をとると,

$$ \tan\alpha=\frac{T\sin\alpha}{T\cos\alpha}=\frac{ma}{mg}=\frac{a}{g} $$

数値を代入すると,

$$ \tan\alpha=\frac{3.0}{9.8}\approx0.3061 \qquad\therefore\ \alpha=\arctan(0.3061)\approx17.0^\circ $$

つり革は,電車の進行方向へ鉛直から約 $17^\circ$ 傾いてつり合う(急ブレーキで乗客のからだが前のめりになるのと同じ理屈である).$\tan\alpha$ は $m$ によらない.

演習9.2 回転するバケツの水面

解答

(1) バケツとともに角速度 $\omega$ で回る座標系で考えると,水は静止している.水面の水の微小部分(質量 $\Delta m$)には,重力 $\Delta m\,g$(下向き),遠心力 $\Delta m\,\omega^2\rho$(回転軸から外向き,水平),それに水面に垂直な向きの圧力による力がはたらく.圧力の力は水面に垂直なので,水面に沿う方向の力のつり合いは,重力と遠心力の合力の水面に沿う成分が0であること,つまり合力が水面に垂直であることを意味する.

回転軸からの距離 $\rho$ と鉛直上向きの座標 $z$ の断面で考える.合力(単位質量あたり)は $(\omega^2\rho,\ -g)$ である.水面 $z(\rho)$ の接線方向は $(1,\ \dd z/\dd\rho)$ なので,これと合力が垂直(内積が0)という条件は,

$$ \omega^2\rho\times1+(-g)\times\diff{z}{\rho}=0 \qquad\therefore\quad \diff{z}{\rho}=\frac{\omega^2\rho}{g} $$

である.$\rho=0$ で $z=z_0$ として積分すると,

$$ z(\rho)=z_0+\frac{\omega^2}{2g}\rho^2 $$

となり,水面は回転放物面になる.

(2) $60\ \mathrm{rpm}$ は毎秒1回転なので $\omega=2\pi\ \mathrm{rad/s}\approx6.283\ \mathrm{rad/s}$.縁 $\rho=a=0.15\ \mathrm m$ と中心の高さの差は,

$$ z(a)-z_0=\frac{\omega^2a^2}{2g}=\frac{(6.283)^2\times(0.15)^2}{2\times9.8}=\frac{39.48\times0.0225}{19.6}\approx0.0453\ \mathrm m $$

すなわち約 $4.5\ \mathrm{cm}$ である(単位は $\mathrm{s^{-2}\cdot m^2/(m/s^2)}=\mathrm m$).回転が速いほど($\propto\omega^2$),縁で高く中心で低くなる.

演習9.3 回転する棒に沿ってすべるビーズ

解答

(1) 棒に沿って外向きに $\bm e_r'$,水平面内でそれに垂直な反時計回りの向きに $\bm e_\theta'$ をとる.$\bm\omega=\omega\bm e_z$($\omega=2.0\ \mathrm{rad/s}$,鉛直上向き)である.ビーズは棒に沿ってだけ動くので $\bm v_{\text{相対}}=\dot r\,\bm e_r'$ である.ビーズにはたらく力(回転座標系)は次のとおり.

棒に沿う方向の運動方程式は,

$$ m\ddot r=m\omega^2r\qquad\therefore\quad\ddot r=\omega^2r $$

である.一般解は $r=Ce^{\omega t}+De^{-\omega t}$.初期条件 $r(0)=r_0$,$\dot r(0)=0$ より $C+D=r_0$,$\omega(C-D)=0$ なので $C=D=r_0/2$,したがって

$$ r(t)=\frac{r_0}{2}\left(e^{\omega t}+e^{-\omega t}\right)=r_0\cosh\omega t $$

となる.ビーズは指数関数的に外へ加速される.

(2) $r=1.0\ \mathrm m$ とおくと,$\cosh\omega t=1.0/0.10=10$ なので,$\omega t=\cosh^{-1}10=\ln(10+\sqrt{99})\approx2.993$.したがって

$$ t=\frac{2.993}{2.0}\approx1.5\ \mathrm s $$

(3) 棒に垂直な方向($\bm e_\theta'$ 方向)ではビーズは動かないので,この方向の力はつり合っている:$N-2m\omega\dot r=0$.したがって

$$ N=2m\omega\dot r $$

である.つまり棒の垂直抗力は,コリオリ力とちょうどつり合う大きさである.たとえば $r=1.0\ \mathrm m$ に達した時刻には,$\dot r=r_0\omega\sinh\omega t=0.10\times2.0\times\sqrt{99}\approx1.99\ \mathrm{m/s}$ なので,$N=2m\times2.0\times1.99\approx8.0\,m\ \mathrm{N}$($m$ は kg で測った質量の数値).

(4) 慣性系(極座標,原点 O)では,棒の角度は $\theta=\omega t$($\dot\theta=\omega$,$\ddot\theta=0$)である.ビーズにはたらく水平方向の力は棒に垂直な垂直抗力 $N\bm e_\theta$ だけなので,第6章の極座標の加速度の公式より,動径方向は

$$ m(\ddot r-r\dot\theta^2)=0\qquad\therefore\quad \ddot r=\omega^2r $$

で(1)と一致し,$\theta$ 方向は

$$ m(2\dot r\dot\theta+r\ddot\theta)=N\qquad\therefore\quad N=2m\omega\dot r $$

で(3)と一致する.回転座標系の遠心力の項 $m\omega^2r$ は,慣性系では加速度の項 $-r\dot\theta^2$ を右辺へ移したものであり,コリオリ力の項は $2\dot r\dot\theta$ に対応する.

演習9.4 回転木馬で遠心力とコリオリ力が等しくなる速さ

解答

(1) 周期 $T=8.0\ \mathrm s$ から角速度を求めると,

$$ \omega=\frac{2\pi}{T}=\frac{2\pi}{8.0}\approx0.7854\ \mathrm{rad/s} $$

第9章の式(遠心力 $F_{\text{遠心}}=m\omega^2\rho$)に,$m=25\ \mathrm{kg}$,$\rho=3.0\ \mathrm m$ を代入すると,

$$ F_{\text{遠心}}=25\times(0.7854)^2\times3.0\approx25\times0.6169\times3.0\approx46.3\ \mathrm N $$

である.向きは回転軸から子どもへ向かう向き(外向き).子どもの体重(約 $25\times9.8\approx245\ \mathrm N$)の約19%に相当する大きさの力を外向きに感じることになる.

(2) 外向きに速さ $v$ で動くとき,コリオリ力の大きさは $2m\omega v$ である.遠心力 $m\omega^2\rho$ と等しいとおくと,

$$ m\omega^2\rho=2m\omega v\qquad\therefore\quad v=\frac{\omega\rho}{2}=\frac{0.7854\times3.0}{2}\approx1.18\ \mathrm{m/s} $$

である.質量 $m$ は消えるので,誰が動いても同じである.ふつうに歩く速さ(約 $1.2\ \mathrm{m/s}$)でコリオリ力が遠心力と同程度になるので,回転木馬の上を歩くと,遠心力だけでなくコリオリ力にも大きく振り回される.

演習9.5 北半球で北向きに動く物体へのコリオリ力の向き

解答

東向きを $\bm e_x$,北向きを $\bm e_y$,鉛直上向きを $\bm e_z$ とする局所座標をとる.第9章9.4.1節の近似(水平面内の運動に対しては,自転角速度ベクトルの鉛直成分 $\Omega_z=\omega_{\text{地}}\sin\varphi\ (\gt0,\ \text{北半球})$ だけが効く)より $\bm\omega\approx\Omega_z\bm e_z$,また $\bm v_{\text{相対}}=v\bm e_y$($v\gt0$,真北向き)である.コリオリ力は

$$ \bm F_{\text{Co}}=-2m\,\bm\omega\times\bm v_{\text{相対}}=-2m\Omega_z v\,(\bm e_z\times\bm e_y) $$

ここで,$\bm e_x,\bm e_y,\bm e_z$ は右手系の正規直交基底なので $\bm e_z\times\bm e_y=-\bm e_x$($\bm e_x\times\bm e_y=\bm e_z$ の巡回関係から).したがって,

$$ \bm F_{\text{Co}}=-2m\Omega_z v\,(-\bm e_x)=2m\Omega_z v\,\bm e_x $$

となり,コリオリ力は東向き($+\bm e_x$ 方向)を向く.真北に向かって動く物体から見ると,東は進行方向(北向き)に対して右手側にあたるので,「進行方向に対して右向きにコリオリ力がはたらく」という第9章の定理9.2(反時計回りの座標系での規則)と一致する.

演習9.6 赤道と極での見かけの重力加速度の差

解答

第9章の式($g_{\text{eff}}(\varphi)\approx g_0-\omega_{\text{地}}^2R_{\text{地}}\cos^2\varphi$)を使うと,

$$ g_{\text{eff}}(0^\circ)-g_{\text{eff}}(90^\circ) =\left[g_0-\omega_{\text{地}}^2R_{\text{地}}\cos^20^\circ\right]-\left[g_0-\omega_{\text{地}}^2R_{\text{地}}\cos^290^\circ\right] $$

$\cos0^\circ=1,\ \cos90^\circ=0$ なので,$g_0$ の項は差し引きで消え,

$$ g_{\text{eff}}(0^\circ)-g_{\text{eff}}(90^\circ)=-\omega_{\text{地}}^2R_{\text{地}}\times1+\omega_{\text{地}}^2R_{\text{地}}\times0=-\omega_{\text{地}}^2R_{\text{地}} $$

符号は,赤道のほうが極より $g_{\text{eff}}$ が小さいことを表す(マイナスは「赤道の方が小さい」という意味).大きさは,

$$ \omega_{\text{地}}^2R_{\text{地}}=(7.292\times10^{-5})^2\times6.371\times10^6\approx0.0339\ \mathrm{m/s^2} $$

である.すなわち,遠心力の効果だけで,赤道は極よりも見かけの重力加速度が約 $0.034\ \mathrm{m/s^2}$小さい.9.4.2節の注意で述べたとおり,実測される赤道・極の重力加速度の差(約 $0.052\ \mathrm{m/s^2}$)はこれより大きく,残りの約 $0.018\ \mathrm{m/s^2}$ は,地球が完全な球ではなく赤道方向にふくらんだ回転楕円体をしていることによる効果(赤道が地心から遠いぶんの引力の減少と,赤道のふくらみの質量による引力の増加を合わせた正味の効果)である.

演習9.7 落体の東偏とエトヴェシュ効果

解答

第9章の式(コリオリ加速度の局所成分)は,$\bm v=(v_{\mathrm E},v_{\mathrm N},v_z)$ に対して,東向き $a_{\mathrm E}=2\omega_{\text{地}}(\sin\varphi\,v_{\mathrm N}-\cos\varphi\,v_z)$,上向き $a_z=2\omega_{\text{地}}\cos\varphi\,v_{\mathrm E}$ である.

(1) 落下時間は $h=\tfrac12gt^2$ より $t=\sqrt{2h/g}=\sqrt{600/9.8}\approx7.82\ \mathrm s$.落下中の速度は $v_z\approx-gt$,$v_{\mathrm N}\approx0$ なので,$a_{\mathrm E}=2\omega_{\text{地}}g\cos\varphi\,t$.時間で2回積分すると(初期の東向きの速度と位置のずれは0),

$$ x_{\mathrm E}=\frac13\,\omega_{\text{地}}g\cos\varphi\,t^3 =\frac13\times7.292\times10^{-5}\times9.8\times\cos45^\circ\times(7.82)^3 $$

$\cos45^\circ\approx0.7071$,$(7.82)^3\approx478.2\ \mathrm{s^3}$ を代入して,

$$ x_{\mathrm E}\approx\frac13\times7.146\times10^{-4}\times0.7071\times478.2\approx8.1\times10^{-2}\ \mathrm m $$

すなわち東へ約 $8\ \mathrm{cm}$ ずれる(単位は $\mathrm{s^{-1}\cdot m/s^2\cdot s^3}=\mathrm m$).

(2) 真東へ水平に速さ $v=100\ \mathrm{m/s}$($v_{\mathrm E}=100\ \mathrm{m/s}$)で進むとき,上向きのコリオリ加速度は,

$$ a_z=2\omega_{\text{地}}\cos\varphi\,v_{\mathrm E}=2\times7.292\times10^{-5}\times0.7071\times100\approx1.03\times10^{-2}\ \mathrm{m/s^2} $$

である.上向きなので,見かけの重力加速度は $1.03\times10^{-2}\ \mathrm{m/s^2}$ だけ減る.重力加速度 $9.8\ \mathrm{m/s^2}$ に対する割合は $1.03\times10^{-2}/9.8\approx1.05\times10^{-3}$,つまり約0.1%軽くなる.西向きに進む場合は,同じ大きさだけ重くなる.

演習9.8 南半球の低気圧の渦の向き

解答

南半球では緯度 $\varphi$ が負の値($\varphi\lt0$)になるので,自転角速度ベクトルの鉛直成分 $\Omega_z=\omega_{\text{地}}\sin\varphi$ は負になる(北半球とは向きが逆で,南半球では地表から見た自転軸の鉛直成分が下向きになる,と言ってもよい).第9章9.4.5節で調べたとおり,コリオリ力は $\Omega_z$ の符号が反転すると向きも反転する——北半球で「進行方向に対して右向き」だったコリオリ力は,南半球では「進行方向に対して左向き」になる.

したがって,南半球の低気圧(サイクロン)に向かって吹き込もうとする風は,次々に左へ曲げられることになる.風がつり合うのは,気圧傾度力(中心向き)と,進行方向の左向きのコリオリ力(外向き)がつり合うとき,すなわち中心を右手に見て回るときで,全体として時計回り(上空から見て)の渦を巻きながら中心に吹き込む.これは北半球の台風・温帯低気圧(反時計回り)とちょうど逆向きである.実際に,オーストラリア付近で発生するサイクロンは時計回りに渦を巻くことが観測されている.

第10章 質点系と剛体 — 重心・慣性モーメント・回転の運動方程式

演習10.1 棒の一端から $\ell/4$ の軸まわりの慣性モーメント

解答

(1) 定義の積分を直接実行する.棒の一端を原点とする座標 $r$($0\le r\le\ell$)をとると,軸は $r=\ell/4$ の位置にある.軸からの距離は $|r-\ell/4|$ であり,これを2乗するので絶対値記号は不要になる:

$$ I=\int_0^{\ell}\left(r-\frac{\ell}{4}\right)^2\frac{M}{\ell}\,\dd r $$

被積分関数を展開すると $\left(r-\dfrac{\ell}{4}\right)^2=r^2-\dfrac{\ell}{2}r+\dfrac{\ell^2}{16}$ なので,

$$ I=\frac{M}{\ell}\int_0^{\ell}\left(r^2-\frac{\ell}{2}r+\frac{\ell^2}{16}\right)\dd r =\frac{M}{\ell}\left[\frac{r^3}{3}-\frac{\ell}{4}r^2+\frac{\ell^2}{16}r\right]_0^{\ell} $$

$r=\ell$ を代入すると,

$$ I=\frac{M}{\ell}\left(\frac{\ell^3}{3}-\frac{\ell^3}{4}+\frac{\ell^3}{16}\right) =M\ell^2\left(\frac13-\frac14+\frac{1}{16}\right) $$

通分する(分母を48にそろえる:$\frac13=\frac{16}{48},\ \frac14=\frac{12}{48},\ \frac{1}{16}=\frac{3}{48}$):

$$ \frac13-\frac14+\frac1{16}=\frac{16-12+3}{48}=\frac{7}{48} $$

したがって,

$$ I=\frac{7}{48}M\ell^2 $$

(2) 平行軸の定理を使う方法.重心($r=\ell/2$)から軸($r=\ell/4$)までの距離は $d=\ell/2-\ell/4=\ell/4$ である.第10章の定理10.3($I=I_{\mathrm{cm}}+Md^2$)と,重心まわりの慣性モーメント $I_{\mathrm{cm}}=\dfrac{1}{12}M\ell^2$(第10章10.4節)を使うと,

$$ I=\frac{1}{12}M\ell^2+M\left(\frac{\ell}{4}\right)^2=\frac{1}{12}M\ell^2+\frac{1}{16}M\ell^2 $$

通分する(分母48):$\dfrac{1}{12}=\dfrac{4}{48},\ \dfrac{1}{16}=\dfrac{3}{48}$ なので,

$$ I=\frac{4+3}{48}M\ell^2=\frac{7}{48}M\ell^2 $$

となり,(1)の直接積分の結果と完全に一致する.

演習10.2 密度が一様でない棒の慣性モーメント

解答

まず,全質量 $M$ を線密度 $\rho(r)=\rho_0\left(1+\dfrac{r}{\ell}\right)$ から求める:

$$ M=\int_0^{\ell}\rho(r)\,\dd r=\rho_0\int_0^{\ell}\left(1+\frac{r}{\ell}\right)\dd r =\rho_0\left[r+\frac{r^2}{2\ell}\right]_0^{\ell}=\rho_0\left(\ell+\frac{\ell}{2}\right)=\frac{3}{2}\rho_0\ell $$

これを $\rho_0$ について解くと,

$$ \rho_0=\frac{2M}{3\ell} $$

次に,一端($r=0$)まわりの慣性モーメントを計算する:

$$ I=\int_0^{\ell}r^2\rho(r)\,\dd r=\rho_0\int_0^{\ell}r^2\left(1+\frac{r}{\ell}\right)\dd r =\rho_0\int_0^{\ell}\left(r^2+\frac{r^3}{\ell}\right)\dd r $$ $$ =\rho_0\left[\frac{r^3}{3}+\frac{r^4}{4\ell}\right]_0^{\ell}=\rho_0\left(\frac{\ell^3}{3}+\frac{\ell^3}{4}\right)=\rho_0\ell^3\left(\frac13+\frac14\right)=\rho_0\ell^3\cdot\frac{7}{12}=\frac{7}{12}\rho_0\ell^3 $$

最後に $\rho_0=\dfrac{2M}{3\ell}$ を代入する:

$$ I=\frac{7}{12}\cdot\frac{2M}{3\ell}\cdot\ell^3=\frac{14}{36}M\ell^2=\frac{7}{18}M\ell^2 $$

密度が一様な棒(第10章の結果 $I_{\text{端}}=\dfrac13M\ell^2=\dfrac{6}{18}M\ell^2$)と比べると,$\dfrac{7}{18}M\ell^2$ の方がわずかに大きい——これは,密度 $\rho(r)=\rho_0(1+r/\ell)$ が一端($r=0$)から遠い側($r=\ell$)に近いほど大きくなる(線密度が2倍になる)ため,同じ全質量でも,軸から遠い側に質量がより多く分布しており,慣性モーメントを大きくする効果があるからである.

演習10.3 円環・円柱の慣性モーメントの導出

解答

(1) 円環の中心軸まわり.円環の全周の長さは $2\pi R$ なので,線密度は $\lambda=\dfrac{M}{2\pi R}$ である.円環を,長さ $\dd s$ の小片(質量 $\dd m=\lambda\,\dd s$)に分けると,どの小片も回転軸(円の中心を通り面に垂直な軸)から距離 $R$ にあるので,定義10.3より,

$$ I=\int R^2\,\dd m=R^2\int\dd m=R^2M=MR^2 $$

である(全質量 $\int\dd m=M$ を使った.積分するまでもなく,軸からの距離がどこでも $R$ であることから直ちに求まる).

(2) 円柱の中心軸まわり.円柱(半径 $R$,長さ $h$)を,中心軸に垂直な厚さ $\dd z$ の円板に輪切りにする.円板1枚の質量は $\dd m=\dfrac{M}{h}\dd z$ で,この円板の中心軸まわりの慣性モーメントは,10.6節の円板の導出より $\tfrac12\,\dd m\,R^2$ である.全部足すと,

$$ I=\int\frac12R^2\,\dd m=\frac12R^2\int\dd m=\frac12MR^2 $$

となり,円柱の長さ $h$ によらず円板と同じ値になる.

(3) 円柱の直径まわり.円柱の中心を原点とし,中心軸を $z$ 軸,直径方向に $x$ 軸をとる.中心から高さ $z$($-h/2\le z\le h/2$)にある厚さ $\dd z$ の円板の質量は $\dd m=\dfrac{M}{h}\dd z$ で,この円板の,自分の中心(重心)を通る直径まわりの慣性モーメントは,直交軸の定理から $\tfrac14\,\dd m\,R^2$(10.7.2節)である.$x$ 軸は,この円板の重心から距離 $z$ だけ離れた平行な軸なので,平行軸の定理(定理10.3)より,この円板の $x$ 軸まわりの慣性モーメントは

$$ \dd I=\frac14\,\dd m\,R^2+\dd m\,z^2=\left(\frac14R^2+z^2\right)\frac{M}{h}\,\dd z $$

となる.これを $z=-h/2$ から $h/2$ まで積分する:

$$ I=\frac{M}{h}\int_{-h/2}^{h/2}\left(\frac14R^2+z^2\right)\dd z=\frac{M}{h}\left[\frac14R^2z+\frac{z^3}{3}\right]_{-h/2}^{h/2} =\frac{M}{h}\left(\frac14R^2h+\frac{h^3}{12}\right) $$

($z^3/3$ の上端・下端の差は $2\cdot\dfrac{(h/2)^3}{3}=\dfrac{h^3}{12}$,第1項の差は $\dfrac14R^2\cdot h$).したがって,

$$ I=\frac14MR^2+\frac1{12}Mh^2 $$

である(確認:$h\to0$ の薄い円板の極限で $\tfrac14MR^2$(円板の直径まわり),$R\to0$ の細い棒の極限で $\tfrac1{12}Mh^2$(棒の重心まわり,10.4.2節)となり,どちらの既知の結果にも一致する).

演習10.4 内力のモーメントが打ち消し合う条件

解答

(1) 作用・反作用の法則 $\bm F_{21}=-\bm F_{12}$ を代入すると,

$$ \bm r_1\times\bm F_{12}+\bm r_2\times\bm F_{21}=\bm r_1\times\bm F_{12}-\bm r_2\times\bm F_{12}=(\bm r_1-\bm r_2)\times\bm F_{12} $$

となる(外積は,第1の因子について分配法則が成り立つ).

(2) 内力が2質点を結ぶ直線に沿うとき,$\bm F_{12}$ は $\bm r_1-\bm r_2$ に平行である($\bm F_{12}=f\,(\bm r_1-\bm r_2)$,$f$ はスカラー).平行なベクトルどうしの外積は $\bm 0$ だから,

$$ (\bm r_1-\bm r_2)\times\bm F_{12}=f\,(\bm r_1-\bm r_2)\times(\bm r_1-\bm r_2)=\bm 0 $$

である.万有引力・クーロン力・ばねの弾性力は,いずれも力の向きが2質点を結ぶ直線に沿っている(大きさは距離だけの関数)ので,この条件を満たす.したがって,内力のモーメントは対ごとに打ち消し合い,質点系全体で $\dd\bm L/\dd t=\bm N_{\mathrm{ext}}$(外力のモーメントの合計)が成り立つ.

(3) 例えば $\bm r_1-\bm r_2=(\ell,0,0)$ とし,内力を $\bm F_{12}=(0,f,0)$,$\bm F_{21}=(0,-f,0)$(大きさが等しく向きが逆で,作用・反作用の法則を満たす.ただし力は2質点を結ぶ直線($x$ 方向)に垂直)とする.このとき (1) の結果から,内力のモーメントの和は

$$ (\bm r_1-\bm r_2)\times\bm F_{12}=(\ell,0,0)\times(0,f,0)=(0,0,\ell f)\neq\bm 0 $$

である(外積の成分は $(a_yb_z-a_zb_y,\ a_zb_x-a_xb_z,\ a_xb_y-a_yb_x)$ を使い,$z$ 成分は $\ell f-0=\ell f$).つまり,2質点が互いに及ぼし合う力だけで,系全体の角運動量が $\dd L_z/\dd t=\ell f$ の割合で変わってしまう.したがって,角運動量保存則(内力のモーメントが消えること)が成り立つには,作用・反作用の法則に加えて,「内力が2質点を結ぶ直線に沿う」という条件が必要である(強い形の作用・反作用の法則という).なお,運動する荷電粒子どうしの電磁気力のように,この条件を満たさない力もある(その場合は,電磁場がもつ角運動量まで含めて角運動量が保存される.第V部で学ぶ).

演習10.5 中空円筒が転がり落ちる加速度

解答

第10章で求めた転がり運動の加速度の一般式 $a=\dfrac{g\sin\alpha}{1+c}$($I=cMR^2$,$c$ は形状で決まる無次元の係数)を使う.薄い中空円筒は $I=MR^2$ なので $c=1$ であり,

$$ a_{\text{円筒}}=\frac{g\sin\alpha}{1+1}=\frac12g\sin\alpha $$

である.一方,第10章で求めたとおり,一様な中実球は $c=2/5$ で $a_{\text{球}}=\dfrac57g\sin\alpha\approx0.714\,g\sin\alpha$,一様な中実円柱は $c=1/2$ で $a_{\text{円柱}}=\dfrac23g\sin\alpha\approx0.667\,g\sin\alpha$ である.数値の大きさを比べると,

$$ a_{\text{球}}\left(\frac57\approx0.714\right)\ \gt\ a_{\text{円柱}}\left(\frac23\approx0.667\right)\ \gt\ a_{\text{円筒}}\left(\frac12=0.5\right) $$

であり,加速度が大きいほど早く斜面を下り終える.したがって,同じ斜面を同時に転がり落ちれば,中実球が最も早く,次に中実円柱,中空円筒が最も遅く斜面の下に到達する.これは,$c=I/(MR^2)$(同じ質量・半径あたりの慣性モーメントの大きさを表す無次元の係数)が小さい形状ほど,質量が回転軸の近くに集まっており,回転にエネルギーを取られる割合が小さいため,並進速度の増加が速いことに対応している($c$ が最も小さいのは中実球,最も大きいのは,質量がすべて外周(軸から最も遠い場所)に集まっている中空円筒である).

演習10.6 棒の慣性モーメントが最小になる軸の位置

解答

平行軸の定理(第10章 定理10.3,$I=I_{\mathrm{cm}}+Md^2$)を使う.軸の位置を,一端から測った距離 $x_0$($0\le x_0\le\ell$)で表すと,重心($x=\ell/2$)から軸($x=x_0$)までの距離は $|x_0-\ell/2|$ であり,2乗するので絶対値は不要である:

$$ I(x_0)=I_{\mathrm{cm}}+M\left(x_0-\frac{\ell}{2}\right)^2=\frac{1}{12}M\ell^2+M\left(x_0-\frac{\ell}{2}\right)^2 $$

$I(x_0)$ を $x_0$ で微分すると,

$$ \frac{\dd I}{\dd x_0}=2M\left(x_0-\frac{\ell}{2}\right) $$

これを0とおくと,

$$ 2M\left(x_0-\frac{\ell}{2}\right)=0\qquad\therefore\ x_0=\frac{\ell}{2} $$

である($M\neq0$ なので $M$ で割ってよい).2階微分は $\dfrac{\dd^2I}{\dd x_0^2}=2M\gt0$(定数で常に正)なので,$x_0=\ell/2$ は極小値(この場合,$I(x_0)$ が $x_0$ の2次関数——下に凸な放物線——であることから,この極小値は同時に区間 $[0,\ell]$全体での最小値でもある)である.最小値そのものは,

$$ I\left(\frac{\ell}{2}\right)=\frac{1}{12}M\ell^2+M\cdot0^2=\frac{1}{12}M\ell^2=I_{\mathrm{cm}} $$

となり,これは重心まわりの慣性モーメントそのものである.これは物理的に当然の結果を表している——平行軸の定理 $I=I_{\mathrm{cm}}+Md^2$ において,$d^2\ge0$ は常に非負なので,$I(x_0)\ge I_{\mathrm{cm}}$ が常に成り立ち,等号(最小)はまさに軸が重心を通るとき($x_0=\ell/2$,すなわち軸と重心の距離が0)に限って実現する.言い換えれば,ある物体を,どの軸のまわりに回転させても,重心を通る軸のまわりの慣性モーメントが,あらゆる平行な軸の中で最小である——これは,10.4節で見た「端まわり($I=M\ell^2/3$)の方が重心まわり($I=M\ell^2/12$)より回転しにくい」という具体例の一般化にほかならない.

演習10.7 転がる物体の運動エネルギーの配分

解答

重心の速さを $v$,角速度を $\omega$ とする.すべらずに転がる条件(第10章10.9.1節の転がり接触の条件)は $v=R\omega$ である.慣性モーメントを $I=cMR^2$ とおくと,並進運動エネルギーと回転運動エネルギーは

$$ K_{\mathrm{trans}}=\frac12Mv^2,\qquad K_{\mathrm{rot}}=\frac12I\omega^2=\frac12\,cMR^2\left(\frac{v}{R}\right)^2=\frac12\,c\,Mv^2 $$

となる($\omega=v/R$ を代入して $R^2$ が約分された).したがって比は,形状によらず

$$ \frac{K_{\mathrm{rot}}}{K_{\mathrm{trans}}}=c $$

で,$c$ だけで決まる.

(1) 円板.$c=1/2$ なので,$K_{\mathrm{trans}}:K_{\mathrm{rot}}=1:\tfrac12=2:1$ である.全運動エネルギー $K=K_{\mathrm{trans}}+K_{\mathrm{rot}}=\tfrac32K_{\mathrm{trans}}$ のうち,回転が占める割合は $\dfrac{1/2}{1+1/2}=\dfrac13$ である.

(2) 中実球と中空円筒.中実球は $c=2/5$ なので $K_{\mathrm{trans}}:K_{\mathrm{rot}}=1:\tfrac25=5:2$ で,回転が占める割合は $\dfrac{2/5}{1+2/5}=\dfrac27\approx0.286$ である.中空円筒(輪)は $c=1$ なので $K_{\mathrm{trans}}:K_{\mathrm{rot}}=1:1$ で,回転が占める割合は $\dfrac{1}{1+1}=\dfrac12$ である.まとめると,回転が占める割合は,中実球($2/7\approx0.29$)$\lt$ 円板($1/3\approx0.33$)$\lt$ 輪($1/2$)の順に大きくなる.質量が軸から遠くに分布している($c$ が大きい)ほど,同じ速さで進むために回転にまわるエネルギーが多くなり,斜面を下るときの加速度が小さくなる(10.9節).

演習10.8 実体振り子の周期が最小になる支点の位置

解答

(1) 支点は重心から距離 $d$ の点である.支点まわりの慣性モーメントは,平行軸の定理(定理10.3)と,棒の重心まわりの慣性モーメント $I_{\mathrm{cm}}=M\ell^2/12$ から,$I=\dfrac{M\ell^2}{12}+Md^2$ となる.定理10.7より,

$$ T(d)=2\pi\sqrt{\frac{I}{Mgd}}=2\pi\sqrt{\frac{\ell^2/12+d^2}{g\,d}} $$

(2) $T$ が最小になることは,根号の中の $f(d)=\dfrac{\ell^2/12+d^2}{d}=\dfrac{\ell^2}{12d}+d$ が最小になることと同じである.$d$ で微分すると,

$$ f'(d)=-\frac{\ell^2}{12d^2}+1 $$

$f'(d)=0$ より $d^2=\ell^2/12$,すなわち $d=\dfrac{\ell}{\sqrt{12}}=\dfrac{\ell}{2\sqrt3}\approx0.289\,\ell$ である.2階微分 $f''(d)=\dfrac{\ell^2}{6d^3}\gt0$ なので極小(かつ最小)である.このとき $f=\dfrac{\ell^2}{12}\cdot\dfrac{\sqrt{12}}{\ell}+\dfrac{\ell}{\sqrt{12}}=\dfrac{2\ell}{\sqrt{12}}=\dfrac{\ell}{\sqrt3}$ なので,最小周期は $T_{\min}=2\pi\sqrt{\dfrac{\ell}{\sqrt3\,g}}$ である.(このとき等価単振り子の長さは $\ell_{\mathrm{eq}}=d+\dfrac{\ell^2}{12d}=2d=\dfrac{\ell}{\sqrt3}$ で,支点から重心までの距離 $d$ のちょうど2倍である.)

(3) $\ell=1\ \mathrm m$,$g=9.8\ \mathrm{m/s^2}$ を代入すると,

$$ T_{\min}=2\pi\sqrt{\frac{1}{\sqrt3\times9.8}}=2\pi\sqrt{\frac{1}{16.97}}=2\pi\times0.2428\approx1.53\ \mathrm s $$

一端を支点にする場合($d=\ell/2=0.5\ \mathrm m$)は,

$$ T=2\pi\sqrt{\frac{1/12+0.25}{9.8\times0.5}}=2\pi\sqrt{\frac{0.3333}{4.9}}=2\pi\times0.2608\approx1.64\ \mathrm s $$

である.最適な位置(重心から約 $0.29\ \mathrm m$)に支点をとった方が,端を支点にするよりも周期が約 $7\%$ 短い.支点を重心に近づけすぎると($d\to0$),復元するモーメントが小さくなって周期は限りなく長くなる.

演習10.9 穴のあいた円板の重心

解答

円板が一様なので,質量は面積に比例する.切り抜く前の円板(半径 $R$)の質量を $M_0$ とすると,穴の部分(半径 $R/2$)の円板の質量は,面積比 $\dfrac{\pi(R/2)^2}{\pi R^2}=\dfrac14$ より $m_{\text{穴}}=\dfrac14M_0$ である.残った板の質量は $M=M_0-m_{\text{穴}}=\dfrac34M_0$ である.

$O$ を原点,穴の中心の方向に $x$ 軸をとる.切り抜く前の円板の重心は $x=0$,穴の部分の円板の重心はその中心 $x=R/2$,残った板の重心を $x_{\mathrm{cm}}$ とする.切り抜く前の円板は,「残った板」と「穴の部分の円板」の2つの部分でできているので,定義10.1($x$ 座標)を2つの部分に分けて使うと,

$$ 0=\frac{M\,x_{\mathrm{cm}}+m_{\text{穴}}\cdot\dfrac R2}{M_0} $$

(左辺は切り抜く前の円板の重心 $x=0$).これを $x_{\mathrm{cm}}$ について解く:

$$ M\,x_{\mathrm{cm}}=-m_{\text{穴}}\cdot\frac R2\qquad\therefore\ x_{\mathrm{cm}}=-\frac{\frac14M_0}{\frac34M_0}\cdot\frac R2=-\frac13\cdot\frac R2=-\frac R6 $$

である.重心は,穴と反対側($x$ の負の側)に中心から $R/6$ の位置にある(質量が穴の分だけ欠けているので,重心は穴から遠ざかる向きにずれる.これは「穴を負の質量とみなして重心の定義を使う」方法で,$x_{\mathrm{cm}}=\dfrac{M_0\cdot0-m_{\text{穴}}\cdot R/2}{M_0-m_{\text{穴}}}$ と書いても同じである).

第11章 波の基本性質 — 波の式・干渉・定常波・回折

演習11.1 つり合いの位置がずれた単振動のエネルギー保存則

解答

運動方程式 $m\ddot x=-\kappa(x-x_0)$($x_0$ は定数)の両辺に,速度 $\dot x=v$ を掛けると,

$$ m\dot v\cdot v=-\kappa(x-x_0)\cdot v \qquad\text{すなわち}\qquad mv\frac{\dd v}{\dd t}=-\kappa(x-x_0)\frac{\dd x}{\dd t} $$

となる.左辺は,合成関数の微分より $\dfrac{\dd}{\dd t}\!\left(\dfrac12mv^2\right)=mv\dfrac{\dd v}{\dd t}$ に等しい.右辺についても,$x_0$ が定数であることに注意すると,

$$ \frac{\dd}{\dd t}\left[\frac12\kappa(x-x_0)^2\right]=\kappa(x-x_0)\cdot\frac{\dd}{\dd t}(x-x_0)=\kappa(x-x_0)\cdot\left(\frac{\dd x}{\dd t}-0\right)=\kappa(x-x_0)\frac{\dd x}{\dd t} $$

に等しい($x_0$ を定数として微分すると $0$ になるので,$\dd(x-x_0)/\dd t=\dd x/\dd t$ である).したがって,

$$ \frac{\dd}{\dd t}\left(\frac12mv^2\right)=-\frac{\dd}{\dd t}\left[\frac12\kappa(x-x_0)^2\right] \qquad\therefore\qquad \frac{\dd}{\dd t}\left[\frac12mv^2+\frac12\kappa(x-x_0)^2\right]=0 $$

である.時間で微分して恒等的に $0$ になるということは,かっこの中身は時刻によらず一定であるということだから,積分定数 $E$ を用いて,

$$ \frac12mv^2+\frac12\kappa(x-x_0)^2=E $$

が成り立つ(本文11.1節の $x_0=0$ の場合の導出と,つり合いの位置が $x_0$ だけずれている以外は,まったく同じ手順である).

演習11.2 左向きに進む波が波動方程式を満たすことの確認

解答

$g$ を(2回微分可能な)任意の1変数関数とし,$w\equiv x+vt$ とおいて $y(x,t)=g(w)=g(x+vt)$ を考える.$w$ は $x,t$ の関数で,$\pdiff{w}{x}=1,\ \pdiff{w}{t}=v$ である($u=x-vt$ のときの $\partial u/\partial t=-v$ と符号が逆であることに注意).合成関数の偏微分公式より,

$$ \pdiff{y}{t}=\frac{\dd g}{\dd w}\cdot\pdiff{w}{t}=g'(w)\cdot v=vg'(w) $$

もう一度 $t$ で偏微分すると,$g'(w)$ も $w$ を通じて $t$ に依存する合成関数なので,

$$ \pdiff{^2y}{t^2}=\pdiff{}{t}\bigl[vg'(w)\bigr]=v\cdot g''(w)\cdot\pdiff{w}{t}=v\cdot g''(w)\cdot v=v^2g''(w) $$

を得る($u$ のときは $-v$ を2回掛けたので符号が消えて $+v^2$ になったが,ここでは $+v$ を2回掛けるので,やはり $+v^2$ になる——1階微分の符号は逆でも,2階微分では同じ符号になることがわかる).一方,$x$ について偏微分すると,$\partial w/\partial x=1$ なので,

$$ \pdiff{y}{x}=g'(w),\qquad \pdiff{^2y}{x^2}=g''(w)\cdot\pdiff{w}{x}=g''(w) $$

である.したがって,

$$ \pdiff{^2y}{t^2}=v^2g''(w)=v^2\pdiff{^2y}{x^2} $$

となり,$y=g(x+vt)$ も($g$ の具体的な形によらず)1次元波動方程式を満たすことが確認できた.本文(第11章11.2節)の $y=f(x-vt)$ の場合と合わせて,一般解 $y=f(x-vt)+g(x+vt)$ の両方の項が波動方程式を満たすことが確かめられたことになる.

演習11.3 波動関数の係数から伝わる方向を判定する

解答

$y=0.03\sin(15t-3x)\ [\mathrm{m}]$ を,第11章の定理11.2にある形 $y=A\sin(\alpha t+\beta x+\phi)$ と見比べると,

$$ A=0.03\ \mathrm{m},\qquad \alpha=15\ \mathrm{rad/s},\qquad \beta=-3\ \mathrm{rad/m},\qquad \phi=0 $$

である($-3x=+(-3)x$ なので $\beta=-3$).係数の積は,

$$ \alpha\beta=15\times(-3)=-45\lt 0 $$

である.定理11.2より,$\alpha\beta\lt 0$ のときは波は $x$ 軸正の方向へ進む.位相速度は,定理11.2の証明中の式 $\dot x=-\alpha/\beta$ より,

$$ \dot x=-\frac{\alpha}{\beta}=-\frac{15}{-3}=5\ \mathrm{m/s} $$

である.符号が正なので,やはり $+x$ 方向へ進むことと整合している.速さは $5\ \mathrm{m/s}$ である(この波は $y=A\sin(\omega t-kx)$,$\omega=15\ \mathrm{rad/s}$,$k=3\ \mathrm{rad/m}$ の形そのものであり,位相速度 $v=\omega/k=15/3=5\ \mathrm{m/s}$ と直接計算しても同じ値が得られる).

演習11.4 位相差が $\pi/2$ の2つの波源の干渉条件

解答

$y_A=a_A\sin\{\omega(t-\overline{\mathrm{AP}}/v)+\phi\}$,$y_B=a_B\sin\{\omega(t-\overline{\mathrm{BP}}/v)+\phi+\pi/2\}$ の位相差($y_B$ の位相 $-$ $y_A$ の位相)は,本文(第11章11.6.1節)と同様に,

$$ \Delta\theta=\frac{\omega}{v}\bigl(\overline{\mathrm{AP}}-\overline{\mathrm{BP}}\bigr)+\frac{\pi}{2}=\frac{2\pi}{\lambda}\bigl(\overline{\mathrm{AP}}-\overline{\mathrm{BP}}\bigr)+\frac{\pi}{2} $$

である(第1項は波が伝わる距離の違いによる位相差,第2項は波源そのものの位相差).強め合うのは全体の位相差 $\Delta\theta$ が $2n\pi$,弱め合うのは $(2n+1)\pi$ のときである(11.6.1節の「要点」ボックス).

強め合う条件:$\Delta\theta=2n\pi$($n\in\mathbb{Z}$)より,

$$ \frac{2\pi}{\lambda}\bigl(\overline{\mathrm{AP}}-\overline{\mathrm{BP}}\bigr)=2n\pi-\frac{\pi}{2} \qquad\therefore\quad \overline{\mathrm{AP}}-\overline{\mathrm{BP}}=\left(n-\frac14\right)\lambda $$

弱め合う条件:$\Delta\theta=(2n+1)\pi$ より,

$$ \frac{2\pi}{\lambda}\bigl(\overline{\mathrm{AP}}-\overline{\mathrm{BP}}\bigr)=(2n+1)\pi-\frac{\pi}{2}=2n\pi+\frac{\pi}{2} \qquad\therefore\quad \overline{\mathrm{AP}}-\overline{\mathrm{BP}}=\left(n+\frac14\right)\lambda $$

となる.同位相(強め合う $n\lambda$,弱め合う $(n+1/2)\lambda$)でも逆位相(強め合う $(n-1/2)\lambda$,弱め合う $n\lambda$)でもない,中間の条件である.たとえば $n=0$ とすると,強め合うのは $\overline{\mathrm{AP}}-\overline{\mathrm{BP}}=-\lambda/4$($\mathrm{A}$ より $\mathrm{B}$ が $\lambda/4$ だけ遠い点),弱め合うのは $+\lambda/4$ の点である.波源 $\mathrm{B}$ の位相が進んでいる分,$\mathrm{B}$ からの波は $\lambda/4$ 余計に伝わってはじめて $\mathrm{A}$ からの波と同位相になる,と理解できる.

演習11.5 位相がずれた2つの逆向き正弦波の重ね合わせ

解答

$y_1=A\sin(\omega t-kx)$,$y_2=A\sin(\omega t+kx+\pi)$ とする.まず $y_2$ を,$\sin(\theta+\pi)=-\sin\theta$(正弦の周期性,第11章11.6.1節の「要点」ボックス参照)を使って整理すると,

$$ y_2=A\sin(\omega t+kx+\pi)=-A\sin(\omega t+kx) $$

となる.したがって,

$$ y=y_1+y_2=A\sin(\omega t-kx)-A\sin(\omega t+kx) $$

である.ここで加法定理により,$y_1,\ -y_2'$($y_2'\equiv A\sin(\omega t+kx)$)をそれぞれ展開する(第11章11.7節と同じ手順):

$$ A\sin(\omega t-kx)=A(\sin\omega t\cos kx-\cos\omega t\sin kx) $$ $$ A\sin(\omega t+kx)=A(\sin\omega t\cos kx+\cos\omega t\sin kx) $$

辺々を引くと($y=$ 上の式 $-$ 下の式),$\sin\omega t\cos kx$ の項が打ち消し合って,

$$ y=A(\sin\omega t\cos kx-\cos\omega t\sin kx)-A(\sin\omega t\cos kx+\cos\omega t\sin kx)=-2A\cos\omega t\sin kx $$

が得られる.したがって,

$$ y=-2A\cos\omega t\sin kx $$

である.これは本文の $y=2A\sin\omega t\cos kx$($\sin\omega t$ と $\cos kx$ の組み合わせ)とは異なり,$\cos\omega t$ と $\sin kx$ が入れ替わった形の定常波になる.やはり時間の部分と空間の部分に完全に分離しているので,これも定常波である.節(振幅が常に $0$)の位置は,本文の場合は $\cos kx=0$($x=(2m+1)\lambda/4$)だったが,こちらは $\sin kx=0$($kx=m\pi$,すなわち $x=m\lambda/2$)となる位置——ちょうど本文の場合の腹の位置と入れ替わっている.同様に,腹の位置は本文の節の位置($x=(2m+1)\lambda/4$)と一致する.つまり,波源の位相を $\pi$ だけずらすと,定常波の節と腹の位置がちょうど半波長の半分($\lambda/4$)だけシフトする.

演習11.6 すき間の幅と回折の判定

解答

第11章の定義11.5と11.9節の注意より,回折はすき間の幅によらず起こるが,すき間の幅が波長と同程度かそれ以下のときに,波の回り込みが顕著になる.ビルの隙間の幅は $20\ \mathrm{m}$ である.

FM電波($\lambda\approx3\ \mathrm{m}$):すき間の幅($20\ \mathrm{m}$)は波長($3\ \mathrm{m}$)よりずっと大きい(比はおよそ $20/3\approx6.7$ 倍).したがって,定義11.5の「顕著になる」条件からはずれており,FM電波はあまり回り込まず,ビルの陰では弱まりやすい(実際,FM放送やテレビの電波はビルの陰で受信状態が悪くなることが知られている).

AM電波($\lambda\approx300\ \mathrm{m}$):すき間の幅($20\ \mathrm{m}$)は波長($300\ \mathrm{m}$)よりずっと小さい(比はおよそ $20/300\approx0.067$,すき間の幅は波長の1割にも満たない).すき間の幅が波長よりはるかに小さいので,定義11.5の条件をよく満たしており,AM電波はよく回り込み,ビルの陰でも比較的受信しやすい.

まとめると,波長が長いAM電波のほうが,波長が短いFM電波よりも,同じビルの隙間に対してよく回り込む.これは,音(波長が長い)が壁の陰でもよく聞こえ,光(波長が非常に短い)は壁の陰に影ができるという,第11章例題11.11で見た現象と同じ理屈である——波長とすき間(あるいは障害物)の幅の比によって,回折の目立ちやすさが決まる.

演習11.7 振幅の異なる2つの波の干渉

解答

(1) 公式11.4より,合成波の振幅は $a=\sqrt{a_A^2+a_B^2+2a_Aa_B\cos\Delta\theta}$ である.$a_A=3.0\ \mathrm{mm},\ a_B=1.0\ \mathrm{mm},\ \Delta\theta=\pi/3$($\cos(\pi/3)=1/2$)を代入して,

$$ a=\sqrt{3.0^2+1.0^2+2\times3.0\times1.0\times\dfrac12}\ \mathrm{mm}=\sqrt{9+1+3}\ \mathrm{mm}=\sqrt{13}\ \mathrm{mm}\approx3.6\ \mathrm{mm} $$

(2) $\Delta\theta=0$($\cos0=1$)のとき $a=\sqrt{9+1+6}\ \mathrm{mm}=\sqrt{16}\ \mathrm{mm}=4.0\ \mathrm{mm}$ で,これは $a_A+a_B$ に等しい(強め合い).$\Delta\theta=\pi$($\cos\pi=-1$)のとき $a=\sqrt{9+1-6}\ \mathrm{mm}=\sqrt{4}\ \mathrm{mm}=2.0\ \mathrm{mm}$ で,これは $|a_A-a_B|$ に等しい(弱め合い).したがって (1) の $3.6\ \mathrm{mm}$ は,$2.0\ \mathrm{mm}$ と $4.0\ \mathrm{mm}$ の間にある.位相差が $0$ から $\pi$ まで増えるにつれて,合成振幅は $4.0\ \mathrm{mm}$ から $2.0\ \mathrm{mm}$ へ滑らかに減っていく($\cos\Delta\theta$ が $1$ から $-1$ へ減るため).

演習11.8 ホイヘンスの原理による作図

解答

(1) 境界(水平な直線)上に,入射波の波面(境界に対して角 $\theta_i$ だけ傾いた線分 $\mathrm{OQ}$)の一端 $\mathrm{O}$ が境界に達した瞬間を考える.他端 $\mathrm{Q}$ が境界上の点 $\mathrm{R}$ に達するまでの時間を $\Delta t$,波の速さを $v$ とすると,$\overline{\mathrm{QR}}=v\Delta t$ である.この間に $\mathrm{O}$ から出た素元波は,同じ媒質中を速さ $v$ で広がり,$\mathrm{O}$ を中心とする半径 $v\Delta t$ の半円になる.$\mathrm{R}$ からこの半円に接線を引き,接点を $\mathrm{T}$ とすると,$\mathrm{RT}$ が反射波の波面である.直角三角形 $\mathrm{OQR}$(直角は $\mathrm{Q}$)と $\mathrm{RTO}$(直角は $\mathrm{T}$)は,斜辺 $\mathrm{OR}$ が共通で,$\overline{\mathrm{QR}}=\overline{\mathrm{OT}}=v\Delta t$ だから合同である.よって $\angle\mathrm{QOR}=\angle\mathrm{TRO}$,すなわち入射波面と境界のなす角と反射波面と境界のなす角は等しい.波面は進む向きに垂直,境界は法線に垂直だから,これらの角はそれぞれ入射角 $\theta_i$,反射角 $\theta_r$ に等しく,$\theta_i=\theta_r$ である.

(2) 幅 $a=\lambda/2$ のすき間を通り抜けた平面波は,すき間に並ぶ各点が素元波の波源になる.しかしすき間の幅が波長より小さいので,すき間全体を1つの点波源とみなしてよく,すき間の中心を中心とした半径 $v\Delta t,\ 2v\Delta t,\dots$ の半円状の素元波(波面)ができる.これらの素元波に共通に接する波面は,すき間を中心とする半円(球面波の断面)になる.したがって,波は板のかげにも回り込み,すき間の後ろの広い範囲へほぼ一様に広がる(本文の図11.15と同じ状況である).

演習11.9 屈折による波長の変化

解答

(1) 振動数は境界をまたいでも変わらないので $f=25\ \mathrm{Hz}$ のままである.$v=f\lambda$ より,

$$ \lambda_A=\frac{v_A}{f}=\frac{8.0\ \mathrm{m/s}}{25\ \mathrm{Hz}}=0.32\ \mathrm{m},\qquad \lambda_B=\frac{v_B}{f}=\frac{5.0\ \mathrm{m/s}}{25\ \mathrm{Hz}}=0.20\ \mathrm{m} $$

である($\lambda_A/\lambda_B=0.32/0.20=1.6$ は $v_A/v_B=8.0/5.0=1.6$ に一致する).

(2) 屈折の法則 $\dfrac{\sin\theta_i}{\sin\theta_t}=\dfrac{v_A}{v_B}$ より,

$$ \sin\theta_t=\sin\theta_i\times\frac{v_B}{v_A}=\sin30^\circ\times\frac{5.0}{8.0}=0.5\times0.625=0.3125 $$ $$ \therefore\quad\theta_t=\arcsin(0.3125)\approx18.2^\circ $$

である.波は遅い媒質 $B$ に入るので,屈折角 $18.2^\circ$ は入射角 $30^\circ$ より小さく,波は法線に近づくように曲がる.

演習11.10 球面波の強さと距離

解答

(1) 音源から $r$ の距離の球面(面積 $4\pi r^2$)を毎秒通過するエネルギーが,音源の全出力 $P$ に等しい(エネルギーは失われないので).強さは単位面積あたりなので $P=I\times4\pi r^2$ である.

$$ P=4.0\times10^{-6}\ \mathrm{W/m^2}\times4\pi\times(10\ \mathrm m)^2=4.0\times10^{-6}\times400\pi\ \mathrm W\approx5.0\times10^{-3}\ \mathrm W $$

(単位は $\mathrm{W/m^2}\times\mathrm{m^2}=\mathrm W$ で一致する).

(2) 同じ全出力 $P$ が半径 $r'=40\ \mathrm m$ の球面に広がるので,

$$ I'=\frac{P}{4\pi r'^2}=I\times\left(\frac{r}{r'}\right)^2=4.0\times10^{-6}\times\left(\frac{10}{40}\right)^2=2.5\times10^{-7}\ \mathrm{W/m^2} $$

である(強さは距離の2乗に反比例する).公式11.3より $I\propto A^2$(振動数 $f$ は同じ)なので,振幅の比は

$$ \frac{A'}{A}=\sqrt{\frac{I'}{I}}=\sqrt{\frac{1}{16}}=\frac14 $$

となる.距離が4倍になると,強さは $1/16$,振幅は $1/4$ になる(振幅は距離に反比例する).

第12章 音波 — ドップラー効果・うなり・共鳴・弦の振動

演習12.1 ドップラー効果の計算

解答

気温 $10\,^\circ\mathrm{C}$ での音速は,第12章の音速の式 $V=331.5+0.6t$ より,

$$ V=331.5+0.6\times10=331.5+6.0=337.5\ \mathrm{m/s} $$

である.ドップラー効果の公式(第12章の公式12.1)$f'=\dfrac{V-v_0}{V-v_s}f$ を使う.観測者は静止しているので $v_0=0$(近づく場合・遠ざかる場合とも共通).

(1) 電車が観測者に近づくときは,音源の速度の向きが,音の伝わる向き(音源から観測者へ向かう向き)と同じなので,$v_s=+25\ \mathrm{m/s}$.

$$ f'=\frac{337.5-0}{337.5-25}\times600=\frac{337.5}{312.5}\times600\approx648.0\ \mathrm{Hz} $$

(2) 電車が観測者を通過して遠ざかるときは,$v_s=-25\ \mathrm{m/s}$.

$$ f''=\frac{337.5-0}{337.5-(-25)}\times600=\frac{337.5}{362.5}\times600\approx558.6\ \mathrm{Hz} $$

したがって,近づくときは約 $648.0\ \mathrm{Hz}$,遠ざかるときは約 $558.6\ \mathrm{Hz}$ に聞こえる.

演習12.2 うなりの周期から振動数差を求める

解答

うなりの振動数 $f_{\text{うなり}}$ と周期 $T$ の関係(第12章)は $f_{\text{うなり}}=1/T=\abs{f_1-f_2}$ である.$T=0.25\ \mathrm s$ より,

$$ \abs{f_1-f_2}=\frac{1}{T}=\frac{1}{0.25}=4\ \mathrm{Hz} $$

したがって,2つの音さの振動数の差は $4\ \mathrm{Hz}$ である.片方が $f_1=392\ \mathrm{Hz}$ とわかっているので,もう一方の振動数 $f_2$ は,

$$ f_2=f_1\pm4=392\pm4 $$

すなわち,$f_2=396\ \mathrm{Hz}$ または $f_2=388\ \mathrm{Hz}$ のどちらかである.うなりの回数(振動数の差の大きさ)だけからは,$f_2$ が $f_1$ より高いか低いかは決まらない——これを決めるには,例題12.6のように,一方の音さに少し質量を加えるなどして振動数をわずかに変化させ,うなりの回数がどう変わるかを観察する必要がある.

演習12.3 開管・閉管の基本振動数と共鳴の数

解答

(1) 開管の固有振動数は $f_n=nV/(2L)$,波長は $\lambda_n=2L/n$ である(第12章の開管の式.両端が腹で,$L=n\lambda_n/2$).$L=0.80\ \mathrm m$,$V=343.5\ \mathrm{m/s}$ を代入すると,基本振動数は

$$ f_1=\frac{V}{2L}=\frac{343.5}{2\times0.80}=\frac{343.5}{1.60}\approx214.7\ \mathrm{Hz} $$

である.3倍振動($n=3$)の波長と振動数は,

$$ \lambda_3=\frac{2L}{3}=\frac{1.60}{3}\approx0.533\ \mathrm m,\qquad f_3=3f_1=\frac{3\times343.5}{1.60}\approx644.1\ \mathrm{Hz} $$

($f_3=V/\lambda_3=343.5/0.5333\approx644.1\ \mathrm{Hz}$ とも一致する.)

(2) 同じ長さの閉管の固有振動数は $f^{(m)}=mV/(4L)$($m=1,3,5,\ldots$)なので,基本振動数は

$$ f^{(1)}=\frac{V}{4L}=\frac{343.5}{4\times0.80}=\frac{343.5}{3.20}\approx107.3\ \mathrm{Hz} $$

である(開管の半分).$20\ \mathrm{kHz}=20000\ \mathrm{Hz}$ 以下の共鳴は,$m\times107.34\le20000$,すなわち $m\le20000/107.34\approx186.3$ を満たす奇数 $m=1,3,5,\ldots,185$ である.奇数 $1,3,\ldots,185$ の個数は $(185+1)/2=93$ 個.

同じ長さの開管では,$n\times214.69\le20000$ より $n\le93.2$,すなわち $n=1,2,\ldots,93$ の $93$ 個である.したがって,$20\ \mathrm{kHz}$ 以下の共鳴の数は,閉管も開管も同じ $93$ 個である(閉管は基本振動数が半分で低音まで出るが,奇数倍しか現れないので,個数としてはちょうど同じになる).

演習12.4 衝撃波が地上に届くまで

解答

(1) マッハ円錐の半頂角は,第12章の式 $\sin\theta=V/v_s=1/M$ より,

$$ \sin\theta=\frac{1}{1.5}=\frac23\qquad\therefore\ \theta=\arcsin\frac23\approx41.8^\circ $$

(2) 飛行機の速さは $v_s=MV=1.5\times340=510\ \mathrm{m/s}$.マッハ円錐の面が観測者に達するとき,観測者は円錐の母線上にあり,飛行機(円錐の頂点)は観測者の真上から水平に距離 $x$ だけ先へ進んでいる.円錐の半頂角が $\theta$ なので,頂点と観測者を結ぶ直線(母線)は飛行方向の延長線(後方)と角 $\theta$ をなし,高さ $h$ との関係から $\tan\theta=h/x$ である.したがって,

$$ x=\frac{h}{\tan\theta},\qquad \tan\theta=\frac{\sin\theta}{\cos\theta}=\frac{2/3}{\sqrt5/3}=\frac{2}{\sqrt5}\quad\Bigl(\cos\theta=\sqrt{1-\tfrac49}=\tfrac{\sqrt5}{3}\Bigr) $$ $$ x=\frac{8000\sqrt5}{2}=4000\sqrt5\approx8944\ \mathrm m $$

これを飛行機が進むのにかかる時間が $t_1$ なので,

$$ t_1=\frac{x}{v_s}=\frac{8944}{510}\approx17.5\ \mathrm s $$

すなわち,飛行機が真上を通過してから約 $17.5\ \mathrm{s}$ 後に,衝撃波(「ドン」という音)が届く.

(3) 飛行機が真上にいたときに出したエンジン音は,音速 $V$ で真下へ進み,$t_2=h/V=8000/340\approx23.5\ \mathrm s$ 後に届く.したがって,衝撃波が届いてから,

$$ t_2-t_1\approx23.53-17.54\approx6.0\ \mathrm s $$

後にエンジン音が聞こえる.一般には,$t_2-t_1=\dfrac hV\left(1-\dfrac{\sqrt{M^2-1}}{M}\right)$ である($\cot\theta=\sqrt{M^2-1}$ を使った).

演習12.5 斜めに動く音源と観測者

解答

公式12.2(第12章)の角度形 $f'=f\,\dfrac{V-v_{\mathrm O}\cos\theta_{\mathrm O}}{V-v_{\mathrm S}\cos\theta_{\mathrm S}}$ を使う.ここで $\theta_{\mathrm S},\theta_{\mathrm O}$ は,音線の向き(音源から観測者へ向かう向き)と,音源・観測者の速度のなす角である.

(1) 観測者は静止($v_{\mathrm O}=0$),音源は $v_{\mathrm S}=20\ \mathrm{m/s}$,$\theta_{\mathrm S}=60^\circ$ なので $v_{\mathrm S}\cos\theta_{\mathrm S}=20\times\tfrac12=10\ \mathrm{m/s}$.

$$ f'=\frac{340}{340-10}\times1000=\frac{340}{330}\times1000\approx1030\ \mathrm{Hz} $$

(音源の速度の視線成分が $+10\ \mathrm{m/s}$ で,音源が近づく向きの成分をもつので,本来より高く聞こえる.)

(2) 音源は静止($v_{\mathrm S}=0$),観測者は $v_{\mathrm O}=10\ \mathrm{m/s}$,$\theta_{\mathrm O}=120^\circ$ なので $v_{\mathrm O}\cos\theta_{\mathrm O}=10\times(-\tfrac12)=-5\ \mathrm{m/s}$(音源に近づく成分).

$$ f'=\frac{340-(-5)}{340}\times1000=\frac{345}{340}\times1000\approx1015\ \mathrm{Hz} $$

(観測者が音源に近づく成分をもつので,本来より高く聞こえる.)

演習12.6 共鳴管の実験から音速と開口端補正を求める

解答

(1) 閉管の共鳴では,実効長 $l+\Delta\ell$(水面=閉端=節から,開口端の腹まで)が $\lambda/4$ の奇数倍になる.最初の共鳴(基本振動)と次の共鳴(3倍振動)で,

$$ l_1+\Delta\ell=\frac{\lambda}{4},\qquad l_2+\Delta\ell=\frac{3\lambda}{4} $$

である.この2式を引き算すると,未知の $\Delta\ell$ が消えて,

$$ l_2-l_1=\frac{\lambda}{2}\qquad\therefore\ \lambda=2(l_2-l_1)=2\times(0.510-0.160)=0.700\ \mathrm m $$

となる.音速は $V=f\lambda=500\times0.700=350\ \mathrm{m/s}$ である.

(2) $l_1+\Delta\ell=\lambda/4$ より,

$$ \Delta\ell=\frac{\lambda}{4}-l_1=0.175-0.160=0.015\ \mathrm m=1.5\ \mathrm{cm} $$

(別の式 $l_2+\Delta\ell=3\lambda/4$ から $\Delta\ell=0.525-0.510=0.015\ \mathrm m$ とも一致する.また,$\Delta\ell\approx0.6r_0$ を使うと,管の半径は $r_0\approx2.5\ \mathrm{cm}$ と見積もられる.)

(3) 定義12.1(式 $V=331.5+0.6t$)より,

$$ t=\frac{V-331.5}{0.6}=\frac{350-331.5}{0.6}\approx30.8\,^\circ\mathrm{C} $$

すなわち,気温は約 $31\,^\circ\mathrm{C}$ である.

演習12.7 弦の張力と高次の振動

解答

(1) 弦を伝わる波の速さの式(第12章)$v=\sqrt{S/\rho}$ を,張力 $S$ について解くと $S=\rho v^2$ である.

$$ S=\rho v^2=1.0\times10^{-3}\times250^2=1.0\times10^{-3}\times6.25\times10^4=62.5\ \mathrm{N} $$

(2) 両端固定弦の固有振動数の式(第12章の公式12.3)$f_n=nv/(2L)$ に $L=0.60\ \mathrm m$,$v=250\ \mathrm{m/s}$ を代入して,

$$ f_1=\frac{v}{2L}=\frac{250}{1.20}\approx208.3\ \mathrm{Hz},\qquad f_2=2f_1\approx416.7\ \mathrm{Hz},\qquad f_3=3f_1=625\ \mathrm{Hz} $$

(3) 3倍振動の変位は $y\propto\sin(3\pi x/L)$($\lambda_3=2L/3$,$k_3=3\pi/L$).腹は $\abs{\sin(3\pi x/L)}=1$,すなわち $3\pi x/L=\pi/2,\ 3\pi/2,\ 5\pi/2$ の位置なので,

$$ x=\frac{L}{6},\ \frac{L}{2},\ \frac{5L}{6}=0.10\ \mathrm m,\ 0.30\ \mathrm m,\ 0.50\ \mathrm m $$

である(節は $x=0,\ L/3,\ 2L/3,\ L$,すなわち $0,\ 0.20,\ 0.40,\ 0.60\ \mathrm m$ で,腹はその中間にある).

演習12.8 音さの軸配置でなぜ振動数が2倍になるか

解答

音さを軸にして取り付ける(腕の開閉方向が弦の方向と平行)と,腕は弦の一端を弦の方向に往復させるだけで,弦を横向きには直接揺さぶらない.代わりに,腕が弦を引く向き(外側)に動くと弦がぴんと引かれて張力が大きくなり,腕が内側に動くと弦がゆるんで張力が小さくなる.音さの腕が1回往復する(開く→閉じる→開く)あいだに,張力が最大になる時刻は1回だけなので,張力は音さと同じ振動数 $f_{\text{音叉}}$ で周期的に変化する.

次に,弦の横振動の側から考える.弦が微小な横振動 $y(x,t)$ をしているとき,弦の全長は $L$ から,

$$ \Delta\ell_{\text{伸び}}\approx\frac12\int_0^L\left(\pdiff{y}{x}\right)^2\dd x $$

だけ伸びる.これは傾き $\partial y/\partial x$ の2乗,すなわち変位の大きさの2乗に比例し,変位が正(山)でも負(谷)でも同じ値をとる.たとえば $y=a\sin(2\pi x/L)\cos\omega_{\text{弦}}t$(1波長分の定常波)なら,伸びは $\dfrac{\pi^2a^2}{L}\cos^2\omega_{\text{弦}}t$ で,変位が最大(山・谷)のときに最大,まっすぐ($y=0$)のときに0になる.弦が伸びるほど張力も大きくなるので,弦の張力は,弦が山になるとき大,まっすぐなとき小,谷になるとき大,まっすぐなとき小……と変わり,弦が1回振動するあいだに,張力が最大になる時刻は2回(山のときと谷のとき)訪れる.

音さが弦の張力を変える時刻と,弦の運動が要求する張力の変化の時刻が揃うのは,弦の1回の振動(張力の最大が2回)のあいだに,音さがちょうど2回振動する(張力の最大が2回起こる)ときである.このとき,弦が山や谷になる瞬間ごとに張力が最大になって,弦の振動にエネルギーが供給され続け,弦は共振して大きく振動する.したがって,

$$ f_{\text{音叉}}=2f_{\text{弦}} $$

が成り立つ.一方,水平配置では,腕が弦を横向きに直接揺さぶるので,音さの1回の振動が弦の1回の横振動に対応して $f_{\text{音叉}}=f_{\text{弦}}$ である.(ブランコをこぐとき,1往復のあいだに体の「立つ・しゃがむ」を2回行うと振れが大きくなるのと同じ,パラメトリック励振のしくみである.)

第13章 光波の基礎 — 光速の測定と屈折率

演習13.1 偏光板を通る光の強度

解答

自然光を1枚目の偏光板に通すと,あらゆる方向の振動が平均されて強度は半分になる:

$$ I_1=\frac{I_0}{2} $$

2枚目の偏光板の透過軸は,1枚目を通った直後の振動方向から $60^{\circ}$ 傾いているので,マリュスの法則 $I=I_0\cos^2\theta$ を適用すると,

$$ I_2=I_1\cos^2 60^{\circ}=\frac{I_0}{2}\times\left(\frac12\right)^2=\frac{I_0}{2}\times\frac14=\frac{I_0}{8} $$

したがって,2枚目を通り抜けたあとの光の強度は $I_2=\dfrac{I_0}{8}$(入射した自然光の $12.5\ \%$)である.

演習13.2 クロスニコルに第3の偏光板を挿入する

解答

1枚目の偏光板を透過軸の角度 $0^{\circ}$,2枚目のクロスニコルの偏光板を角度 $90^{\circ}$ とし,そのあいだに角度 $45^{\circ}$(どちらとも $45^{\circ}$ をなす)の3枚目の偏光板を挿入する.自然光の強度を $I_0$ とすると,各偏光板を通るたびに,直前の偏光板の透過軸の向きを新しい「振動方向」としてマリュスの法則を適用する.

1枚目(自然光を通す)を通った直後:

$$ I_a=\frac{I_0}{2} $$

3枚目(角度 $45^{\circ}$,1枚目からの角度差 $45^{\circ}$)を通った直後:

$$ I_b=I_a\cos^2 45^{\circ}=\frac{I_0}{2}\times\frac12=\frac{I_0}{4} $$

2枚目(角度 $90^{\circ}$,3枚目からの角度差 $45^{\circ}$)を通った直後:

$$ I_c=I_b\cos^2 45^{\circ}=\frac{I_0}{4}\times\frac12=\frac{I_0}{8} $$

したがって,最終的に透過する光の強度は $I_c=\dfrac{I_0}{8}$($12.5\ \%$)である.

3枚目の偏光板を挿入する前は,1枚目(角度 $0^{\circ}$)と2枚目(角度 $90^{\circ}$)が直接クロスニコルの関係にあるので,$I=I_0\cos^2 90^{\circ}=0$ となり,光はまったく通り抜けなかった.ところが,あいだに角度 $45^{\circ}$ の3枚目を挿入すると,かえって $I_0/8$ の光が通り抜けるようになる——これは,偏光板が「光を吸収して弱める」だけの装置ではなく,光の振動を透過軸の方向に射影して,その成分だけを取り出す装置だからである.1枚目を通ると光は $0^{\circ}$ 方向の直線偏光になる.3枚目($45^{\circ}$)を通ると,振幅は $\cos45^{\circ}$ 倍になって $45^{\circ}$ 方向の直線偏光になる.この光は2枚目($90^{\circ}$)の透過軸に対しては,もう一度 $45^{\circ}$ の成分をもつので通り抜けられる.偏光板が振動方向を「回転」させているのではなく,成分の取り出しが $0^{\circ}\to45^{\circ}\to90^{\circ}$ と2回に分かれることで光が通るようになる,一見直感に反する結果である.

演習13.3 音と光の性質の違い

解答

(1) 分散の有無 波が媒質中を伝わる速さは,媒質が変位に対してどのような復元力を及ぼすか(弾性)で決まる.音波と光波では,この復元力が生じるしくみがまったく異なる.

音波(可聴域でほとんど分散しない理由) 気体中の音波の復元力は,気体分子の集団が示すマクロな圧力の弾性(圧縮率)に由来する.音速は本質的に $V=\sqrt{\gamma RT/M}$($\gamma$:比熱比,$M$:モル質量,$T$:絶対温度)の形をしており,これは気体の温度・組成という巨視的な性質だけで決まり,音の振動数はこの式のどこにも現れない.可聴域(およそ $20\ \mathrm{Hz}\sim20\ \mathrm{kHz}$)の周期は,気体分子どうしの衝突がこの巨視的な弾性を作り出す時間スケールに比べてはるかに長いため,気体は「振動数によらず同じように弾性的にふるまう連続体」として音波に応答する.これが,可聴域の音がほとんど分散しない理由である.

光波(透明な物質中で分散する理由) 光(電磁波)が透明な物質を伝わるとき,物質の復元力は,原子・分子に束縛された個々の電子が,光の電場によって強制振動する(固有角振動数 $\omega_0$ をもつ小さなばね振り子のように揺さぶられる)ことに由来する.電子の強制振動の応答は,駆動角振動数 $\omega$(=光の振動数)と固有角振動数 $\omega_0$ の関係,具体的には $1/(\omega_0^2-\omega^2)$ という形に依存するため,屈折率 $n(\omega)$ は振動数(波長)ごとに異なる値をとる——これが分散である.

まとめると,音波の復元力は振動数によらない巨視的な弾性(媒質全体としての性質)に由来するため分散がほとんど起こらないのに対して,光波の復元力は,振動数に敏感に応答する個々の電子の共鳴的な強制振動に由来するため,分散が本質的に起こる,という違いがある.

(2) 偏光と性質の整理 偏光とは,横波の振動方向が波の進行方向に垂直な面内の1つの向きに限られることである.横波の振動方向は,進行方向に垂直な平面内でいろいろな向きをとれる(自由度が2つある)ので,その向きを選ぶ・選ばないという区別が生じる.これに対して縦波である気体中の音波では,振動方向がつねに進行方向と同じ1本の直線上に決まってしまい,選べる向きが1つしかないので,「偏り」という区別が存在しない.光が偏光を示すことは,光が横波であることの証拠になる.

性質の違いを表にまとめると次のようになる.

項目光音(気体・液体中)
波の種類横波(電場・磁場の振動)→ 偏光がある縦波(密度・圧力の振動)→ 偏光はない
速さを決めるもの媒質と波長(真空中は $c_0$ で一定)媒質と温度
分散ある(プリズムで色が分かれる)可聴域ではほとんどない
波長のオーダー$10^{-7}\sim10^{-6}\ \mathrm{m}$ → 回折は目立たない$10^{-2}\sim10\ \mathrm{m}$ → 回折が著しい

演習13.4 光が地球・太陽間の距離を進む時間

解答

真空中の光速の定義値 $c_0=299\,792\,458\ \mathrm{m/s}$ と,天文単位の定義値 $1\ \mathrm{au}=1.495\,978\,707\times10^{11}\ \mathrm{m}$ を使うと,

$$ \Delta t=\frac{1\ \mathrm{au}}{c_0}=\frac{1.495\,978\,707\times10^{11}\ \mathrm{m}}{2.997\,924\,58\times10^8\ \mathrm{m/s}}\approx499.0\ \mathrm{s}\approx8.32\ \mathrm{分} $$

である.これは,第13章の例題13.5で求めた「地球の公転軌道の直径($2\ \mathrm{au}$)を光が横切る時間」(約 $998.0\ \mathrm{s}\approx16.6$ 分)のちょうど半分になっている.これは当然の結果である——公転軌道の直径は半径($1\ \mathrm{au}$)のちょうど2倍の距離であり,光速は一定なので,進むのにかかる時間もちょうど2倍になるからである.

演習13.5 フィゾーの実験(別のデータ)

解答

「はじめて完全に見えなくなった」のは,往復のあいだに歯車がちょうど半ピッチ回るときである.したがって,第13章の公式13.1(フィゾーの実験による光速の式) $c_0=4nNL$ に,$n=25.0\ \mathrm{/s}$,$N=600$,$L=5.00\times10^3\ \mathrm{m}$ を代入すると,

$$ c_0=4\times25.0\ \mathrm{/s}\times600\times5.00\times10^3\ \mathrm{m}=3.00\times10^8\ \mathrm{m/s} $$

である.これは真空中の光速の定義値 $c_0=2.997\,924\,58\times10^8\ \mathrm{m/s}$ に非常に近い値である.

確認:往復の時間は $2L/c_0=2\times5.00\times10^3/(3.00\times10^8)\approx3.33\times10^{-5}\ \mathrm{s}$,半ピッチの回転時間は $1/(2nN)=1/(2\times25.0\times600)\approx3.33\times10^{-5}\ \mathrm{s}$ で一致する.

次に光が最も明るく見えるのは,往復のあいだにちょうど1ピッチ回るときで,条件は $2L/c_0=1/(n'N)$,すなわち $c_0=2n'NL$ である.したがって

$$ n'=\frac{c_0}{2NL}=\frac{3.00\times10^8}{2\times600\times5.00\times10^3}\ \mathrm{/s}=50.0\ \mathrm{/s} $$

となり,最初に消えた回転数($25.0\ \mathrm{/s}$)のちょうど2倍である.

演習13.6 ダイヤモンド中の光速

解答

絶対屈折率の定義 $n=c_0/v$ を $v$ について解くと $v=c_0/n$ である.$n\approx2.42$ を代入すると,

$$ v=\frac{c_0}{n}=\frac{2.997\,924\,58\times10^8\ \mathrm{m/s}}{2.42}\approx1.239\times10^8\ \mathrm{m/s} $$

厚さ $d=1.0\times10^{-2}\ \mathrm{m}$ のダイヤモンドを通り抜ける時間は,$t=d/v$ より,

$$ t=\frac{1.0\times10^{-2}\ \mathrm{m}}{1.239\times10^8\ \mathrm{m/s}}\approx8.07\times10^{-11}\ \mathrm{s}=80.7\ \mathrm{ps} $$

である.真空中を同じ $1.0\ \mathrm{cm}$ 進むのにかかる時間($d/c_0\approx33.4\ \mathrm{ps}$)と比べると,屈折率の大きいダイヤモンドの中では,光はちょうど $n\approx2.42$ 倍の時間がかかることがわかる($v=c_0/n$ より $t=d/v=nd/c_0$ なので当然である).

演習13.7 回転鏡法による光速の計算

解答

(1) 光が回転鏡と凹面鏡の間を往復する時間は $t=2R/c_0$ で,この間に鏡が回る角度は $\theta=\omega t=2\pi n\times2R/c_0=4\pi nR/c_0$ である.$\theta$ の見積りには近似値 $c_0\approx2.998\times10^8\ \mathrm{m/s}$ を使うと,

$$ \theta=\frac{4\pi\times400.0\times10.0}{2.998\times10^8}\ \mathrm{rad}=\frac{5.027\times10^4}{2.998\times10^8}\ \mathrm{rad}\approx1.68\times10^{-4}\ \mathrm{rad} $$

であり,戻り光の向きのずれは $2\theta\approx3.35\times10^{-4}\ \mathrm{rad}$ である.$\tan x=x+x^3/3+\cdots$ より,$\tan2\theta\approx2\theta$ の相対誤差は $(2\theta)^2/3\approx4\times10^{-8}$ で,近似は十分によい.

(2) 公式13.2 $c_0=8\pi nRL/\ell$ に,$\ell=1.006\ \mathrm{cm}=1.006\times10^{-2}\ \mathrm{m}$ を代入する.分子は $8\pi\times400.0\times10.0\times30.0=3.016\times10^{6}\ \mathrm{m^2/s}$ なので,

$$ c_0=\frac{3.016\times10^{6}}{1.006\times10^{-2}}\ \mathrm{m/s}\approx3.00\times10^8\ \mathrm{m/s} $$

である(検算:$\ell=L\times2\theta=30.0\times3.35\times10^{-4}\approx1.006\times10^{-2}\ \mathrm{m}$).

(3) $\ell=8\pi nRL/c_0$ は $n$ に比例するので,回転数を $800.0\ \mathrm{/s}$(2倍)にすると,ずれは2倍の $\ell\approx2.01\ \mathrm{cm}$ になる.回転数を上げるほどずれが大きくなって測りやすくなる(フーコーの実験でも高速に回る鏡を使った).

演習13.8 フィゾーの実験の工夫

解答

(1) $n=\dfrac{c_0}{4NL}=\dfrac{2.998\times10^8}{4\times720\times100}\ \mathrm{/s}\approx1.04\times10^{3}\ \mathrm{/s}$,すなわち毎秒約1040回転(毎分約6万回転)が必要になる.歯数720の歯車をこの速さで回すのは,19世紀の技術では(現代でも大型の歯車では)現実的でない.また,往復の時間 $2L/c_0=2\times100/(2.998\times10^8)\approx6.7\times10^{-7}\ \mathrm{s}$ が短すぎて,そのあいだに歯車が半ピッチ回るような高速の回転を実現し,回転数を正確に測ることが難しい.

(2) $n=c_0/(4NL)$ を小さくするには,積 $NL$ を大きくすればよい.歯数 $N$ を増やす(歯を細かくする),鏡までの距離 $L$ を長くする,のどちらか,またはその両方である.たとえば $n=12.6\ \mathrm{/s}$ 程度にするには $NL=c_0/(4n)\approx5.9\times10^6\ \mathrm{m}$ が必要で,$N=720$ なら $L\approx8.3\ \mathrm{km}$(フィゾーの実験とほぼ同じ)となる.ただし $L$ を長くしすぎると,往復する光が広がったり弱まったりして,光が消えたかどうかの判定が難しくなる.

(3) $c_0=4nNL$ で $N$ は整数で誤差がない.$n$ と $L$ の誤差が独立なら,相対誤差はそれぞれ足し合わされて,

$$ \frac{\Delta c_0}{c_0}\approx\frac{\Delta n}{n}+\frac{\Delta L}{L} $$

となる(積の形の量の相対誤差は,各因子の相対誤差の和で見積もれる).たとえば $\Delta n/n=1\ \%$,$\Delta L/L=0.1\ \%$ なら $\Delta c_0/c_0\approx1.1\ \%$ で,誤差の大部分は回転数の測定と,光が「消えた」と判断する回転数の決め方(消光が連続的に暗くなるので判定に幅がある)に由来する.したがって,光速をよい精度で測るには,回転数の測定精度と,消光(あるいは最大の明るさ)の判定の精度を上げることが重要である.

第14章 光の反射と屈折 — 位相の変化・フェルマーの原理・全反射

演習14.1 一般の初期位相をもつ入射波の固定端反射

解答

入射波を $y_i=A\sin(\omega t-kx+\delta)$,反射波を $y_r=A\sin(\omega t+kx+\delta+\phi)$($\phi$ は $y_i$ に対する相対的な位相のずれ)とする.固定端の境界条件 $(y_i+y_r)|_{x=0}=0$ に $x=0$ を代入すると,

$$ A\sin(\omega t+\delta) + A\sin(\omega t+\delta+\phi) = 0 $$

となる.ここで $\theta\equiv\omega t+\delta$ とおくと($\delta$ は定数なので,$t$ が実数全体を動くとき $\theta$ も実数全体を動く),この式は

$$ A\sin\theta + A\sin(\theta+\phi) = 0 $$

と書き直せる.これは,第14章本文で $\theta=\omega t$ として扱った式とまったく同じ形である.和積の公式 $\sin\alpha+\sin\beta=2\sin\frac{\alpha+\beta}2\cos\frac{\alpha-\beta}2$ を使うと,

$$ A\sin\theta+A\sin(\theta+\phi)=2A\sin\left(\theta+\frac\phi2\right)\cos\frac\phi2=0 $$

$A\neq0$ なので,$\sin(\theta+\phi/2)\cos(\phi/2)=0$.この式は,$\theta$(したがって $t$)がどんな値をとっても成り立たなければならない.もし $\cos(\phi/2)\neq0$ なら,$\sin(\theta+\phi/2)=0$ が任意の $\theta$ で成り立つことを要求するが,$\sin$ は $\theta$ を少しでも動かせば値が変わる関数なので,これは成り立ちえない.したがって

$$ \cos\frac\phi2=0 \qquad\therefore\ \frac\phi2=\left(n+\frac12\right)\pi\ (n\in\mathbb Z) \qquad\therefore\ \phi=(2n+1)\pi $$

$0\leqq\phi\lt2\pi$ の範囲では $n=0$ の $\phi=\pi$ だけが条件を満たす.

すなわち,入射波にどんな初期位相 $\delta$ を与えても,固定端反射での相対的な位相のずれは本文とまったく同じ $\phi=\pi$ になる.これは当然の結果でもある——$\delta$ は「時刻の原点をどこに取るか」を変えているだけであり,反射という物理現象そのもの(境界でエネルギーがどう跳ね返るか)は,時刻の原点の取り方にはよらないはずだからである.

演習14.2 線密度が逆の場合の反射波・透過波の振幅

解答

弦の速さは $v=\sqrt{S/\rho}$ なので,

$$ v_1=\sqrt{\frac{10}{1.0}}=3.162\ \mathrm{m/s},\qquad v_2=\sqrt{\frac{10}{4.0}}=1.581\ \mathrm{m/s} $$

角振動数は共通 $\omega=2\pi f=2\pi\ \mathrm{rad/s}$ であり,波数は $k=\omega/v$ より,

$$ k_1=\frac{2\pi}{v_1}=1.987\ \mathrm{rad/m},\qquad k_2=\frac{2\pi}{v_2}=3.974\ \mathrm{rad/m} $$

$\rho_1=1.0\ \mathrm{kg/m}\lt\rho_2=4.0\ \mathrm{kg/m}$ なので,第14章14.2節の場合[3]($(\alpha,\beta)=(0,\pi)$,$\rho_1\lt\rho_2$)が対応する.場合[3]の公式は

$$ B=\frac{2k_1}{k_1+k_2}A,\qquad C=\frac{k_2-k_1}{k_1+k_2}A $$

である.ここで $k_2/k_1=v_1/v_2=\sqrt{\rho_2/\rho_1}=\sqrt{4.0}=2.0$ なので,$k_2=2k_1$ という簡単な比になる.これを代入すると,

$$ B=\frac{2k_1}{k_1+2k_1}A=\frac23A=\frac23\times2.0=1.33\ \mathrm{cm} $$ $$ C=\frac{2k_1-k_1}{k_1+2k_1}A=\frac13A=\frac13\times2.0=0.67\ \mathrm{cm} $$

場合[3]は反射波の位相のずれが $\beta=\pi$ であり,本文14.1節の固定端反射($\phi=\pi$)と同じ形なので,この反射は固定端的である(軽い弦 $\rho_1$ から重い弦 $\rho_2$ へ向かう波なので,直感的にも「壁にぶつかる」ような固定端反射に近いことに合致する).

演習14.3 水面での屈折角

解答

第14章の屈折の法則 $\sin\theta_1/\sin\theta_2=n_2/n_1$ を $\sin\theta_2$ について解くと,

$$ \sin\theta_2=\frac{n_1}{n_2}\sin\theta_1=\frac{1.0}{1.33}\times\sin40^\circ=\frac{1.0}{1.33}\times0.6428=0.4833 $$ $$ \theta_2=\arcsin(0.4833)\fallingdotseq28.9^\circ $$

である.$n_2=1.33\gt n_1=1.0$(絶対屈折率の小さい方から大きい方へ進む)なので,$\theta_2\lt\theta_1$($28.9^\circ\lt40^\circ$)となり,屈折光線は法線に近づく向きに曲がる.これは,第14章例題14.4で確認した「密な媒質に入ると法線に近づく」という規則と同じである.

演習14.4 フェルマーの原理による屈折角の計算(水から空気へ)

解答

光学的距離は $L(x)=n_1\sqrt{x^2+h_1^2}+n_2\sqrt{(d-x)^2+h_2^2}$($n_1=1.33,\ h_1=4.0,\ n_2=1.0,\ h_2=1.0,\ d=6.0$)である.第14章の導出とまったく同じ手順で微分すると,

$$ L'(x)=\frac{n_1x}{\sqrt{x^2+h_1^2}}-\frac{n_2(d-x)}{\sqrt{(d-x)^2+h_2^2}}=n_1\sin\theta_1-n_2\sin\theta_2 $$

である.$L'(x)=0$ とおいた方程式

$$ \frac{1.33\,x}{\sqrt{x^2+16.0}}=\frac{1.0\,(6.0-x)}{\sqrt{(6.0-x)^2+1.0}} $$

を解く.両辺を2乗すると4次方程式になり手計算は煩雑なので,$f(x)\equiv L'(x)$ の符号の変化を調べて解を挟み込む.たとえば $x=3.7$ では

$$ f(3.7)=\frac{1.33\times3.7}{\sqrt{3.7^2+16.0}}-\frac{2.3}{\sqrt{2.3^2+1.0}}=\frac{4.921}{5.4489}-\frac{2.3}{2.5080}=0.9031-0.9171=-0.0139 $$

$x=3.8$ では

$$ f(3.8)=\frac{1.33\times3.8}{\sqrt{3.8^2+16.0}}-\frac{2.2}{\sqrt{2.2^2+1.0}}=\frac{5.054}{5.5172}-\frac{2.2}{2.4166}=0.9160-0.9104=+0.0057 $$
$x\ /\ \mathrm{m}$$0$$3.0$$3.7$$3.8$$6.0$
$f(x)$$-0.986$$-0.151$$-0.014$$+0.006$$+1.107$

$f(3.7)\lt0$,$f(3.8)\gt0$ で符号が変わるので $3.7\lt x_0\lt3.8$ である.この区間で $f$ を直線とみなして線形補間すると,

$$ x_0\fallingdotseq3.8-0.0057\times\frac{0.1}{0.0057+0.0139}=3.8-0.029\fallingdotseq3.77\ \mathrm{m} $$

が得られる.このとき,

$$ \theta_1=\arctan\frac{x_0}{h_1}=\arctan\frac{3.77}{4.0}\fallingdotseq43.3^\circ,\qquad \theta_2=\arctan\frac{d-x_0}{h_2}=\arctan\frac{2.23}{1.0}\fallingdotseq65.8^\circ $$

であり,

$$ n_1\sin\theta_1=1.33\times\sin43.3^\circ\fallingdotseq0.912,\qquad n_2\sin\theta_2=1.0\times\sin65.8^\circ\fallingdotseq0.912 $$

となって一致し,スネルの法則が満たされていることが確認できる.また,$L(3.0)=9.812\ \mathrm{m}$,$L(3.77)=9.754\ \mathrm{m}$,$L(4.0)=9.760\ \mathrm{m}$ と,$x_0$ で $L$ が最小になっている.$n_1=1.33\gt n_2=1.0$(密から疎へ進む)なので $\theta_2\gt\theta_1$ となっており,これは屈折光が法線から遠ざかる向きに曲がる(すぐ後の第14章14.7節で学ぶ全反射が起こりうる配置そのもの)ことを示している.

演習14.5 ダイヤモンドの臨界角

解答

臨界角の定義 $\sin\theta_c=n_2/n_1$ に,$n_1=2.42$(ダイヤモンド),$n_2=1.0$(空気)を代入すると,

$$ \sin\theta_c=\frac{1.0}{2.42}=0.413 $$ $$ \theta_c=\arcsin(0.413)\fallingdotseq24.4^\circ $$

である.これは,ガラス(第14章例題14.9,$\theta_c\fallingdotseq41.8^\circ$)よりもかなり小さい.臨界角が小さいということは,ダイヤモンド内部で少し斜めに進んだ光でも,境界にほぼ垂直に近い角度で当たらない限り全反射してしまうということであり,カットされたダイヤモンドの内部では,入射した光の多くが何度も全反射を繰り返してから外へ出てくる.この「たくさんの全反射」が,ダイヤモンドが強く輝いて見える理由の1つである(宝石研磨のカット技術は,全反射が効果的に起こるように角度を設計している).

演習14.6 光ファイバーの原理(小論述と数値計算)

解答

(1) 光ファイバーのコアは,まわりのクラッドより絶対屈折率が大きく作られている.コアに入った光が,コア・クラッドの境界に臨界角以上の角度で当たると,全反射が起こり,光はコアの外に出ることなくそのまま反射して進み続ける.これがファイバーの中で何度も繰り返されることで,光はほとんど失われずに長い距離を伝わることができる.

(2) 臨界角は $\sin\theta_c=n_2/n_1$ より,

$$ \sin\theta_c=\frac{1.44}{1.48}=0.973 \qquad\therefore\ \theta_c\fallingdotseq76.6^\circ $$

である.開口数は,

$$ \mathrm{NA}=\sqrt{n_1^2-n_2^2}=\sqrt{1.48^2-1.44^2}=\sqrt{2.1904-2.0736}=\sqrt{0.1168}\fallingdotseq0.342 $$

である.第14章例題14.10(コア $1.50$,クラッド $1.46$,$\theta_c\fallingdotseq76.7^\circ$,$\mathrm{NA}\fallingdotseq0.344$)と比べると,コアとクラッドの差はどちらも $0.04$ で同じである.しかし,このファイバーは屈折率の値そのものが少し小さいので,比 $n_2/n_1$ が $0.9730$(例題14.10では $0.9733$)とわずかに小さく,臨界角も $76.6^\circ$(例題14.10では $76.7^\circ$)とわずかに小さい.開口数も $\mathrm{NA}=\sqrt{(n_1-n_2)(n_1+n_2)}$ の $n_1+n_2$ が小さいぶん $0.342$ と $0.344$ でわずかに小さく,受光できる角度の範囲もほんのわずか狭い.

演習14.7 電磁波のスペクトルを波長順に並べる

解答

第14章図14.8で確認したとおり,電磁波は波長によって呼び名が変わるだけで,本質的には同じ種類の波である.波長の長い方から短い方への順序は,

電波 > 赤外線 > 可視光線 > 紫外線 > X線 > $\gamma$線

である.振動数は波長と反比例($f=c_0/\lambda$,$c_0$ は真空中の光速で一定)の関係にあるので,この順序は振動数の低い方から高い方への順序とちょうど一致する——つまり,$\gamma$線がもっとも振動数が高く(エネルギーが高く),電波がもっとも振動数が低い(エネルギーが低い).

可視光線の中では,赤色($\lambda_1\fallingdotseq7.7\times10^{-7}\ \mathrm m$)の方が,青紫色($\lambda_2\fallingdotseq3.8\times10^{-7}\ \mathrm m$)より波長が長い.したがって,可視光線の中でも赤色の方が振動数が低く,青紫色の方が振動数が高い(第14章例題14.7で計算したとおり,$f_1\fallingdotseq3.89\times10^{14}\ \mathrm{Hz}\lt f_2\fallingdotseq7.89\times10^{14}\ \mathrm{Hz}$).

演習14.8 自由端反射の位相のずれ(一般の初期位相)

解答

$y_i+y_r$ を $x$ で偏微分すると,

$$ \frac{\partial}{\partial x}(y_i+y_r)=-kA\cos(\omega t-kx+\delta)+kA\cos(\omega t+kx+\delta+\phi) $$

である.$x=0$ を代入し,$\theta\equiv\omega t+\delta$ とおくと,境界条件は

$$ -kA\cos\theta+kA\cos(\theta+\phi)=0 $$

となる.和積の公式 $\cos\alpha-\cos\beta=-2\sin\dfrac{\alpha+\beta}{2}\sin\dfrac{\alpha-\beta}{2}$($\alpha=\theta+\phi,\ \beta=\theta$)を使うと,

$$ kA\left[\cos(\theta+\phi)-\cos\theta\right]=-2kA\sin\left(\theta+\frac\phi2\right)\sin\frac\phi2=0 $$

$kA\neq0$ で,この式は $\theta$(したがってすべての時刻 $t$)で成り立たなければならない.もし $\sin(\phi/2)\neq0$ なら $\sin(\theta+\phi/2)=0$ が任意の $\theta$ で成り立つことになり,不可能である.したがって $\sin(\phi/2)=0$,すなわち $\phi/2=n\pi$($n$ は整数),$\phi=2n\pi$ である.$0\leqq\phi\lt2\pi$ の範囲では $n=0$ の $\phi=0$ だけが条件を満たす.

この結果に初期位相 $\delta$ は現れない.初期位相 $\delta$ は時刻の原点の取り方を変えているだけなので,自由端反射での位相のずれは,$\delta$ によらず本文と同じ $\phi=0$ である.

演習14.9 反射・屈折の法則を使った光路の作図

解答

(1) 反射の法則(法則14.1)より,反射角は入射角と等しく $50^\circ$ である.屈折角は屈折の法則(法則14.2)$\sin\theta_2=\dfrac{n_1}{n_2}\sin\theta_1$ より,

$$ \sin\theta_2=\frac{1.00}{1.33}\times\sin50^\circ=\frac{0.7660}{1.33}=0.5760\qquad\therefore\ \theta_2=\arcsin0.5760\fallingdotseq35.2^\circ $$

である.$n_2\gt n_1$ なので $\theta_2\lt\theta_1$($35.2^\circ\lt50^\circ$)となり,屈折光線は法線に近づく向きに曲がる.作図は次の手順で行う.

  1. 水平な線を境界として引き,上を空気,下を水とする.
  2. 境界上に点 $\mathrm{O}$ をとり,$\mathrm{O}$ を通る鉛直な法線(破線)を,上下に引く.
  3. 上側で,法線から左へ $50^\circ$ の向きに,$\mathrm{O}$ に向かう入射光線を矢印つきで描く.
  4. 上側で,法線から右へ $50^\circ$ の向きに,$\mathrm{O}$ から出る反射光線を描く(入射光線と法線に関して対称).
  5. 下側で,法線から右へ $35.2^\circ$ の向きに,$\mathrm{O}$ から出る屈折光線を描く(入射光線の延長線より法線に近い).

(2) 水中から空気へ入射する場合は $n_1=1.33,\ n_2=1.00$,$\theta_1=50^\circ$ で,屈折の法則から

$$ \sin\theta_2=\frac{n_1}{n_2}\sin\theta_1=\frac{1.33}{1.00}\times0.7660=1.019\gt1 $$

となり,$\sin\theta_2$ が $1$ を超えるので,これを満たす屈折角 $\theta_2$ は存在しない.これは,入射角 $50^\circ$ が臨界角 $\theta_c=\arcsin(1.00/1.33)\fallingdotseq48.8^\circ$ より大きいことと対応している.したがって,屈折光は生じず,光は境界ですべて反射する(全反射).反射角はやはり入射角と同じ $50^\circ$ である.

演習14.10 プリズムで青紫色が赤色より大きく曲がる理由

解答

(1) 空気($n_1\fallingdotseq1$)からガラス($n_2$)へ入るとき,屈折の法則は $\sin\theta_2=\dfrac{1}{n_2}\sin\theta_1$ となる.同じ入射角 $\theta_1$ でも,$n_2$ が大きいほど $\sin\theta_2$ が小さく,屈折角 $\theta_2$ が小さくなる(法線に近づく度合いが大きくなり,入射方向から大きく曲げられる).ガラスでは「波長が短いほど絶対屈折率が大きい」ので,波長の短い青紫色光は赤色光より $n_2$ が大きく,$\theta_2$ が小さい,つまり大きく曲げられる.プリズムでは,入射面でも出射面でも光は同じ向き(頂角の反対側,すなわち底辺の側)に曲がるので,2回の屈折で色による曲がり方の差が加わって大きくなり,色がはっきり分かれる.

(2) 屈折の法則 $\sin\theta_2=\sin60^\circ/n$ に $\sin60^\circ=0.8660$ を代入する.

$$ \sin\theta_{2,\text{赤}}=\frac{0.8660}{1.514}=0.5720\ \Longrightarrow\ \theta_{2,\text{赤}}\fallingdotseq34.89^\circ $$ $$ \sin\theta_{2,\text{青}}=\frac{0.8660}{1.522}=0.5690\ \Longrightarrow\ \theta_{2,\text{青}}\fallingdotseq34.68^\circ $$

入射方向からのずれは,赤色光が $60^\circ-34.89^\circ=25.11^\circ$,青色光が $60^\circ-34.68^\circ=25.32^\circ$ で,青色光のほうが法線に近づく度合いが $0.21^\circ$ だけ大きい(屈折角は $0.21^\circ$ 小さい).

第15章 レンズと結像

演習15.1 第3の光線による写像公式の導出($a\gt f$の場合)

解答

焦点距離$f$の凸レンズの前方$a\gt f$の位置に,高さ$h_A$の物体を置く.物体の先端から出る2本の光線を考える.1本目は前方焦点$F$を通ってレンズに入る光線である.薄いレンズでは,前方焦点$F$を通る光線は屈折後に光軸に平行に進む(後方焦点を通る平行光線の,光の道筋を逆向きにたどったもの).2本目は,レンズの中心を通ってそのまま直進する光線である(薄いレンズの中心付近は,前後の面がほぼ平行な薄い板とみなせるので,屈折による方向の変化が無視できるため).この2本の光線が交わる点が像の先端であり,像の足もとは光軸上にある.像は実像($a\gt f$なので倒立)で,高さ(光軸からの距離)を$h_B$とおく.

まず1本目の光線に注目する.この光線は屈折後に光軸に平行になるので,レンズを出る点の光軸からの高さは,像の先端の高さ$h_B$に等しい.次の2つの直角三角形を比べる.

物体の先端から$F$,さらにレンズを出る点へと,光線は1本の直線をなしていて,$F$はその直線上で両者のあいだにあるから,2つの三角形の$F$における角は対頂角として等しい.どちらも光軸に対する直角を持つので,AA相似条件により相似であり,対応する辺の比が等しいから,

$$ h_A:h_B=(a-f):f \qquad\cdots\text{①} $$

である.次に2本目の光線(中心を通る直進光線)に注目する.物体の先端・物体の足もと・レンズの中心の3点でできる直角三角形と,像の先端・像の足もと・レンズの中心の3点でできる直角三角形は,レンズの中心における角が対頂角として等しく,どちらも光軸との直角を持つので,AA相似条件により相似で,

$$ a:b=h_A:h_B \qquad\cdots\text{②} $$

である.①と②はどちらも$h_A:h_B$に等しい比なので,

$$ a:b=(a-f):f $$

となる.「内項の積=外項の積」より$a\,f=b\,(a-f)$.両辺を$abf$($a,b,f$のいずれも0でない正の量)で割ると,

$$ \frac{af}{abf}=\frac{b(a-f)}{abf} \qquad\therefore\quad \frac{1}{b}=\frac{a-f}{af}=\frac{a}{af}-\frac{f}{af}=\frac{1}{f}-\frac{1}{a} $$

となる.移項して

$$ \frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f} $$

が得られる.これは第15章15.2節の本文(平行光線と中心を通る光線を使った導出)と同じ写像公式である.どの2本の基準光線を選んでも,同じ像の位置になることが確認できた.

演習15.2 凹レンズの写像公式の導出

解答

焦点距離の大きさ$\abs{f}$の凹レンズの前方$a$の位置に,高さ$h_A$の物体を置く.物体の先端から光軸に平行に入射する光線は,屈折後,前方焦点$F$(レンズの物体側,距離$\abs{f}$の位置)から広がってきたかのように発散する(凹レンズの基本的な性質).もう1本,レンズの中心を通る光線は直進する.この2本の光線はレンズの後方で交わらないが,光軸に平行だった光線を逆向きに延長すると$F$を通り,中心を通る光線(の実際の経路)と1点で交わる.この交点が虚像の先端であり,レンズから虚像までの距離を,ひとまず正の量(長さ)$\abs{b}$とする.

中心を通る光線がつくる相似な三角形(物体の先端・物体の足もと・レンズの中心,と,虚像の先端・虚像の足もと・レンズの中心)は,物体も虚像もレンズの同じ側にあるので,レンズの中心における角は同じ直線がつくる共通の角として等しい.どちらも光軸との直角を持つのでAA相似条件により相似であり,

$$ a:\abs{b}=h_A:h_B $$

が成り立つ.また,平行光線がレンズを通過する点(高さ$h_A$)・レンズの中心・前方焦点$F$がつくる直角三角形と,虚像の先端・虚像の足もと・$F$がつくる直角三角形も,$F$における角が(同じ1本の破線がつくる)共通の角として等しく,光軸との直角も持つので,AA相似条件を満たし,

$$ \abs{f}:(\abs{f}-\abs{b})=h_A:h_B $$

が成り立つ($F$から虚像までの距離が$\abs{f}-\abs{b}$であることは,$F$がレンズから距離$\abs{f}$,虚像がレンズから距離$\abs{b}$で,凹レンズでは常に$\abs{b}\lt\abs{f}$であることから$\abs{f}-\abs{b}\gt0$となる.このことは,計算の最後にあらためて確かめる).2つの比例式の右辺がどちらも$h_A:h_B$なので,

$$ a:\abs{b}=\abs{f}:(\abs{f}-\abs{b}) $$

となり,「内項の積=外項の積」より

$$ \abs{b}\,\abs{f}=a\,(\abs{f}-\abs{b}) $$

である.両辺を$a\abs{b}\abs{f}$で割ると,

$$ \frac{1}{a}=\frac{\abs{f}-\abs{b}}{\abs{b}\abs{f}}=\frac{\abs{f}}{\abs{b}\abs{f}}-\frac{\abs{b}}{\abs{b}\abs{f}}=\frac{1}{\abs{b}}-\frac{1}{\abs{f}} $$

となる.両辺から$1/\abs{b}$を引くと,

$$ \frac{1}{a}-\frac{1}{\abs{b}}=-\frac{1}{\abs{f}} $$

である.右辺は負なので$1/a\lt 1/\abs{b}$,すなわち$a\gt\abs{b}$であり,倍率の大きさ$\abs{b}/a$は常に1より小さい.

ここで,第15章表15.1の符号の約束に合わせて,虚像の像距離を符号付きで$b=-\abs{b}$($b\lt 0$),凹レンズの焦点距離を$f=-\abs{f}$($f\lt 0$)と書くと,$-1/\abs{b}=1/b$,$-1/\abs{f}=1/f$なので,

$$ \frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\qquad(b\lt 0,\ f\lt 0) $$

となる.これは第15章公式15.2(凹レンズの写像公式,統一公式)とまったく同じ形である.

最後に,上の式を$\abs{b}$について解くと$\abs{b}=a\abs{f}/(a+\abs{f})$であり,これと$\abs{f}$を比べると,

$$ \abs{f}-\abs{b}=\abs{f}-\frac{a\abs{f}}{a+\abs{f}}=\frac{\abs{f}(a+\abs{f})-a\abs{f}}{a+\abs{f}}=\frac{\abs{f}^2}{a+\abs{f}}\gt0 $$

なので,たしかに$\abs{b}\lt\abs{f}$($\abs{f}-\abs{b}\gt0$)が成り立ち,途中で仮定したことが確かめられる.さらに

$$ a-\abs{b}=a-\frac{a\abs{f}}{a+\abs{f}}=\frac{a^2}{a+\abs{f}}\gt0 $$

なので$a\gt\abs{b}$,すなわち倍率の大きさ$\abs{b}/a\lt1$が,物体距離$a$や焦点距離の大きさ$\abs{f}$の値によらずつねに成り立つことが確認できる.

演習15.3 2枚レンズの逐次結像(別の数値設定)

解答

焦点距離$f_1=10\ \mathrm{cm}$の凸レンズ$L_1$と,焦点距離$f_2=15\ \mathrm{cm}$の凸レンズ$L_2$を$d=5\ \mathrm{cm}$離して置き,$L_1$の前方$a_1=30\ \mathrm{cm}$に物体を置く.以下,長さはすべて$\mathrm{cm}$で計算する.

Step 1 $L_1$単独による像$P_1$の位置$b_1$を求める.$a_1=30\gt f_1=10$なので倒立実像ができるはずである.統一公式$1/a+1/b=1/f$より,

$$ \frac{1}{30}+\frac{1}{b_1}=\frac{1}{10} \qquad\therefore\quad \frac{1}{b_1}=\frac{1}{10}-\frac{1}{30}=\frac{3-1}{30}=\frac{2}{30}=\frac{1}{15} $$

より$b_1=15\ \mathrm{cm}$.$L_1$による倒立実像は,$L_1$の後方$15\ \mathrm{cm}$の位置にできる.

Step 2 $L_2$から見た物体距離$a_2$を求める.$L_1,L_2$間の距離は$d=5\ \mathrm{cm}$であり,$L_1$による像は$L_1$の後方$15\ \mathrm{cm}$,すなわち$L_2$の後方$15-5=10\ \mathrm{cm}$の位置にできるはずだった.しかし,実際にはその手前($L_2$の位置)で光がさえぎられてしまうので,$L_2$にとって$P_1$は虚物体であり,

$$ a_2=-(b_1-d)=-(15-5)=-10\ \mathrm{cm} $$

である.

Step 3 $L_2$(凸レンズ,$f_2=15\ \mathrm{cm}$)による像の位置$b_2$を求める.

$$ \frac{1}{-10}+\frac{1}{b_2}=\frac{1}{15} \qquad\therefore\quad \frac{1}{b_2}=\frac{1}{15}+\frac{1}{10}=\frac{2+3}{30}=\frac{5}{30}=\frac{1}{6} $$

より$b_2=6\ \mathrm{cm}$.$b_2\gt0$なので,最終的な像は$L_2$の後方$6\ \mathrm{cm}$の位置にできる実像である.

全体の倍率は,各レンズの(符号付き)倍率$m_1=-b_1/a_1$,$m_2=-b_2/a_2$の積として,

$$ m=m_1m_2=\left(-\frac{15}{30}\right)\left(-\frac{6}{-10}\right)=\left(-\frac{1}{2}\right)\times\frac{3}{5}=-\frac{3}{10}=-0.3 $$

である.$m\lt0$なので像は倒立で,大きさは$\abs{m}=0.3$倍である.各レンズで見ても,$L_1$の像は物体に対して倒立($m_1=-1/2\lt 0$),$L_2$では物体($P_1$)が虚物体($a_2\lt0$)で像が実像($b_2\gt0$)——符号が反対——なので,$P_1$に対して正立($m_2=+3/5\gt0$)であり,最終的な像はもとの物体に対して倒立のままである.

Ans. $L_2$の後方$6\ \mathrm{cm}$の位置に,$0.3$倍の倒立実像ができる.

演習15.4 密着レンズの合成度数

解答

(1) 度数の定義$D=1/f$($f$はメートル単位)より,凸レンズは$f_1=25\ \mathrm{cm}=0.25\ \mathrm{m}$,凹レンズは符号に注意して$f_2=-50\ \mathrm{cm}=-0.50\ \mathrm{m}$として,

$$ D_1=\frac{1}{f_1}=\frac{1}{0.25}=4.0\ \mathrm{D}, \qquad D_2=\frac{1}{f_2}=\frac{1}{-0.50}=-2.0\ \mathrm{D} $$

である.

(2) 公式15.3($1/f_{\mathrm{c}}=1/f_1+1/f_2$)を使う方法では,$\mathrm{cm}$のまま,

$$ \frac{1}{f_{\mathrm{c}}}=\frac{1}{25}+\frac{1}{-50}=\frac{2}{50}-\frac{1}{50}=\frac{1}{50} \qquad\therefore\quad f_{\mathrm{c}}=50\ \mathrm{cm}=0.50\ \mathrm{m} $$

である.一方,度数の和から求める方法では,

$$ D=D_1+D_2=4.0+(-2.0)=2.0\ \mathrm{D} \qquad\therefore\quad f_{\mathrm{c}}=\frac{1}{D}=\frac{1}{2.0}=0.50\ \mathrm{m}=50\ \mathrm{cm} $$

となり,たしかに両方の方法で$f_{\mathrm{c}}=50\ \mathrm{cm}$と一致する(公式15.3の両辺を度数の言葉で読み替えると$D=D_1+D_2$そのものになるので,これは当然の一致である).合成レンズは$f_{\mathrm{c}}\gt0$なので凸レンズとしてはたらく.

演習15.5 実像と虚像の違い

解答

第15章定義15.3で確認したとおり,実像は「物体から出た光が,レンズを通過したあとに実際に1点に集まってできる像」である.たとえば図15.3($a\gt f$の凸レンズ)では,物体の先端から出た光線(緑・青の実線)は,レンズを通過したあと,本当にレンズの後方のある1点(像の先端)で交わる.この点にスクリーンや紙を置けば,そこに実際に光のエネルギーが集まってきているので,像がくっきりと映る.レンズを通る光線は無数にあるが,物体の1点から出た光は(薄いレンズ・近軸近似のもとでは)すべてこの同じ1点に集まるので,スクリーンのその位置に置けば,どの光線も同じ点に到達し,明るい像ができる.

一方,図15.4($0\lt a\lt f$の凸レンズ)や図15.6(凹レンズ)で確認したように,虚像の場合,レンズを通過した後の光線(実線)は,レンズの後方では互いに離れていく一方であり,実際にはどの1点にも集まらない.虚像の位置は,これらの光線を,実際にはたどっていない向き(レンズの後ろ側,物体側)へ破線で逆向きに延長したときに,その延長線同士が交わる点として求まる.しかし,この延長線の部分は,光が実際に進んでいる経路ではない——単に「もし光がここまで伸びていたら,あたかもこの点から出発したように見える」という,作図上の仮想的な線にすぎない.

したがって,虚像の位置にスクリーンを置いても,そこには実際の光は1点にも集まってきていない(光はレンズの後方で発散しながら通り過ぎているだけ)ので,何も映らない.スクリーンをレンズの後方のどこに動かしても,同じ理由で像は映らない.目でこの発散光を見ると,人間の視覚は「光は直進してきた」と解釈する脳の仕組みによって,あたかも虚像の位置に物体があるかのように感じる(レンズを覗きこんだときにだけ見える見かけの像)が,これは目の中でだけ起こっている現象であり,スクリーンという物理的な検出器には何の効果も及ぼさない.これが,「実像はスクリーンに映るが,虚像は映らない」理由である.

演習15.6 顕微鏡の総合倍率

解答

対物レンズについて,焦点距離$f_{\text{obj}}=1.0\ \mathrm{cm}$,物体距離$a_1=1.2\ \mathrm{cm}$($a_1\gt f_{\text{obj}}$なので倒立実像ができる)として,第15章公式15.1(統一公式)を使うと,長さは$\mathrm{cm}$で,

$$ \frac{1}{1.2}+\frac{1}{b_1}=\frac{1}{1.0} \qquad\therefore\quad \frac{1}{b_1}=1-\frac{1}{1.2}=1-\frac56=\frac16 $$

より$b_1=6.0\ \mathrm{cm}$.対物レンズの倍率の大きさは,

$$ \abs{m_{\text{obj}}}=\left|\frac{b_1}{a_1}\right|=\frac{6.0}{1.2}=5.0 $$

である.

接眼レンズは,この中間像$P_1$を虫めがねとして観察する.虚像が明視の距離$D_0=25\ \mathrm{cm}$の位置にできるように観察する場合の角倍率は,第15章公式15.4より,

$$ M_{\text{eye}}=1+\frac{D_0}{f_{\text{eye}}}=1+\frac{25}{5.0}=1+5.0=6.0 $$

である.顕微鏡全体の総合倍率は,第15章の式(15.5)($M_{\text{total}}=\abs{m_{\text{obj}}}\times M_{\text{eye}}$)より,

$$ M_{\text{total}}=5.0\times6.0=30 $$

である.すなわち,この顕微鏡は観察対象を30倍に拡大して見せる.

演習15.7 密着レンズの合成焦点距離と,間隔があるときの合成焦点距離

解答

(1) 物体距離を$a_1$とする.$L_1$(焦点距離$f_1$)について,統一公式より

$$ \frac{1}{a_1}+\frac{1}{b_1}=\frac{1}{f_1}\qquad\cdots\text{①} $$

である.レンズの間隔は$d=0$なので,$L_2$にとっての物体$P_1$の物体距離は$a_2=-(b_1-d)=-b_1$($P_1$は$L_2$の後方$b_1$の位置にできるはずだったので虚物体である).$L_2$(焦点距離$f_2$)について統一公式を立てると,

$$ \frac{1}{-b_1}+\frac{1}{b_2}=\frac{1}{f_2}\qquad\cdots\text{②} $$

である.①と②を辺ごとに足すと,$1/b_1$と$-1/b_1$が打ち消し合って,

$$ \frac{1}{a_1}+\frac{1}{b_2}=\frac{1}{f_1}+\frac{1}{f_2} $$

となる.左辺は,全体を合成焦点距離$f_{\mathrm{c}}$の1枚のレンズとみなしたときの$1/(\text{物体距離})+1/(\text{像距離})$そのものだから,$1/a_1+1/b_2=1/f_{\mathrm{c}}$と比べて,

$$ \frac{1}{f_{\mathrm{c}}}=\frac{1}{f_1}+\frac{1}{f_2} $$

が得られる.

(2) 第15章15.1節の「なぜ平行光線が1点に集まるのか」の囲みで見たように,焦点距離$f$の薄いレンズは,光軸から高さ$h$の位置を通る光線を,光軸のほうへ角$h/f$だけ曲げる(近軸近似).光軸に平行に,高さ$h$で$L_1$に入る光線を追う.光軸へ向かう向きに傾きを測る(傾きが$s$なら,$x$だけ進むと高さが$sx$だけ光軸に近づく)ことにする.

レンズ系全体を焦点距離$f_{\mathrm{c}}$の1枚のレンズとみなせば,高さ$h$の平行光線は$s_2=h/f_{\mathrm{c}}$の傾きで曲げられるはずなので,

$$ \frac{1}{f_{\mathrm{c}}}=\frac{s_2}{h}=\frac{1}{f_1}+\frac{1}{f_2}-\frac{d}{f_1f_2} $$

が示された.$d=0$のとき(1)の結果に一致する.$f_1=15\ \mathrm{cm}$,$f_2=10\ \mathrm{cm}$,$d=5\ \mathrm{cm}$のとき,

$$ \frac{1}{f_{\mathrm{c}}}=\frac{1}{15}+\frac{1}{10}-\frac{5}{15\times10}=\frac{10+15-5}{150}=\frac{20}{150}=\frac{2}{15} \qquad\therefore\quad f_{\mathrm{c}}=\frac{15}{2}=7.5\ \mathrm{cm} $$

である.(確かめ:逐次結像法で,無限遠からの平行光線が$L_1$の後方$b_1=15\ \mathrm{cm}$に集まろうとし,$a_2=d-b_1=-10\ \mathrm{cm}$,$1/b_2=1/f_2-1/a_2=1/10-1/(-10)=1/5$より$b_2=5\ \mathrm{cm}$.この$5\ \mathrm{cm}$は$L_2$から測った後方焦点までの距離で,$f_{\mathrm{c}}(1-d/f_1)=7.5\times(1-1/3)=5\ \mathrm{cm}$と一致する.)

演習15.8 $a=f$で像が「消える」とはどういうことか

解答

(1) 物体の先端から出る基準光線2本を作図する.物体の高さを$h_A$,$a=f$とする.

2本の光線の傾きが等しい($h_A/f$)ので,レンズを出たあとの2本は完全に平行で,どこまで進んでも交わらない.つまり物体の先端から出た光は,レンズを通ったあと,1点に集まらず平行光線になって進む.像が「消える」とは,像ができる位置$b$が無限遠に飛んでしまい($1/b=1/f-1/a=0$より$b=\infty$),どこにスクリーンを置いても像が結ばれない,ということである.

(2) 長さは$\mathrm{cm}$で計算する.$f=10$,$a=10.5$のとき,

$$ \frac{1}{b}=\frac{1}{10}-\frac{1}{10.5}=\frac{10.5-10}{105}=\frac{0.5}{105}=\frac{1}{210} \qquad\therefore\quad b=210\ \mathrm{cm},\quad m=-\frac{b}{a}=-\frac{210}{10.5}=-20 $$

で,レンズの後方$210\ \mathrm{cm}$に,20倍に拡大された倒立の実像ができる.$a=9.5$のとき,

$$ \frac{1}{b}=\frac{1}{10}-\frac{1}{9.5}=\frac{9.5-10}{95}=-\frac{0.5}{95}=-\frac{1}{190} \qquad\therefore\quad b=-190\ \mathrm{cm},\quad m=-\frac{b}{a}=+\frac{190}{9.5}=+20 $$

で,レンズの前方$190\ \mathrm{cm}$に,20倍に拡大された正立の虚像ができる.したがって,物体を焦点の外側から近づけると,実像が正の側へ急速に遠ざかり($b\to+\infty$),$a=f$で光は平行光線になって像がなくなり,焦点の内側に入ると,今度は負の無限遠に近い側から虚像が戻ってくる.図15.7の凸レンズの曲線が$a=f$に漸近線を持ち,$a\lt f$では$b\lt0$,$a\gt f$では$b\gt0$になっているのは,この入れ替わりを表している.

第16章 光の干渉と回折格子 — ヤングの実験・薄膜・ニュートンリング

演習16.1 ヤングの実験の経路差の式の導出

解答

スリット $\mathrm{S}_1,\mathrm{S}_2$(間隔 $d$)から,スクリーン上の点 $\mathrm{P}$ までの距離をそれぞれ $\ell_1=\mathrm{S}_1\mathrm{P},\ \ell_2=\mathrm{S}_2\mathrm{P}$ とする.スリット板からスクリーンまでの距離を $\ell$,スクリーンの中心($\mathrm{S}_1,\mathrm{S}_2$ の中点 $\mathrm{S}$ の真正面)を $\mathrm{O}$,$\mathrm{O}$ から $\mathrm{P}$ までの距離を $x$,$\mathrm{SO}$ と $\mathrm{SP}$ のなす角を $\theta$ とする.

条件 $d\ll\ell$(スリット間隔がスリット–スクリーン間距離よりずっと小さい)のもとでは,$\mathrm{S}_1\mathrm{P},\mathrm{S}_2\mathrm{P},\mathrm{SP}$ の3本の線はほとんど平行とみなせる.$\mathrm{S}_1$ から直線 $\mathrm{S}_2\mathrm{P}$ に垂線を下ろし,その足を $\mathrm{H}$ とする.$\mathrm{P}$ は遠いので,$\mathrm{H}$ と $\mathrm{S}_1$ は $\mathrm{P}$ からほぼ同じ距離にあり,$\mathrm{S}_2$ からの光が余分に進む距離は $\mathrm{S}_2\mathrm{H}$ である:$|\ell_2-\ell_1|\fallingdotseq\mathrm{S}_2\mathrm{H}$.

直角三角形 $\mathrm{S}_1\mathrm{S}_2\mathrm{H}$ は,斜辺が $\mathrm{S}_1\mathrm{S}_2=d$ で,$\mathrm{S}_1$ の角が $\theta$ である($\mathrm{S}_1\mathrm{S}_2\perp\mathrm{SO}$ かつ $\mathrm{S}_1\mathrm{H}\perp\mathrm{SP}$ なので,垂直な2直線を同じ角だけ回した関係になり,$\mathrm{S}_1\mathrm{S}_2$ と $\mathrm{S}_1\mathrm{H}$ のなす角も $\mathrm{SO}$ と $\mathrm{SP}$ のなす角 $\theta$ に等しい).直角三角形において「対辺 $=$ 斜辺 $\times\sin(\text{対角})$」なので,斜辺が $d$,対角が $\theta$ であることから,

$$ |\ell_2-\ell_1|\fallingdotseq d\sin\theta $$

が得られる.次に,$x\ll\ell$(スクリーン上で見る範囲がスリット–スクリーン間距離よりずっと小さい)という条件から,角 $\theta$ は小さい.角度をラジアンで測るとき,角が0に近づくほど $\sin\theta,\tan\theta,\theta$ の3つの値は互いに近づく(高校数学の弧度法の基本的な近似)ので,

$$ \sin\theta\fallingdotseq\tan\theta $$

と置き換えられる.一方,直角三角形 $\mathrm{SOP}$($\mathrm{SO}=\ell$,$\mathrm{OP}=x$)を考えると,$\tan\theta=(\text{対辺})/(\text{隣辺})=x/\ell$ である.したがって,

$$ \sin\theta\fallingdotseq\tan\theta=\frac{x}{\ell} $$

を先ほどの式に代入すると,

$$ |\ell_2-\ell_1|\fallingdotseq d\sin\theta\fallingdotseq d\cdot\frac{x}{\ell}=\frac{dx}{\ell} $$

となり,第16章の式 (16.1)(16.2節)が導かれた.使った近似は,(1) $d\ll\ell$ による「$\mathrm{S}_1\mathrm{P},\mathrm{S}_2\mathrm{P},\mathrm{SP}$ がほぼ平行」,(2) $x\ll\ell$(したがって $\theta$ が小さい)による「$\sin\theta\fallingdotseq\tan\theta$」の2つである.

演習16.2 薄膜干渉の明暗条件の導出

解答

屈折率 $n$,厚さ $d$ の薄膜(周りは空気)に,ほぼ垂直(入射角 $\theta_{\mathrm{i}}\fallingdotseq0$,したがって膜内の屈折角 $\theta_{\mathrm{t}}\fallingdotseq0$)に単色光(波長 $\lambda$,真空中)が入射する場合を考える.膜の上面で反射する光と,膜の中に入って下面で反射してから上面に戻る光の2つを比べる.後者は,膜の中を光学的距離で $n\times2d$(屈折率 $n$ の物体内では真空中の $n$ 倍の光学的距離だけ進むことと,垂直入射では往復距離が単純に $2d$ になることを使った)だけ余分に進んでいるので,2つの光の光路差は,

$$ 2nd $$

である(一般の入射角なら $2nd\cos\theta_{\mathrm{t}}$ になるが,ここではほぼ垂直入射としたので $\cos\theta_{\mathrm{t}}\fallingdotseq1$ とした).

次に,反射のときの位相変化を確認する.膜の上面での反射は,空気(屈折率が小さい)から膜(屈折率が大きい,$n\gt1$ とする)へ向かう境界での反射なので,固定端反射であり,位相が $\pi$(半波長分)変化する.膜の下面での反射は,膜(屈折率が大きい)から,その下にある空気(屈折率が小さい)へ向かう境界での反射なので,自由端反射であり,位相は変化しない.

したがって,上面反射光だけに余分な位相 $\pi$ が付いており,これは経路差にして半波長 $\lambda/2$ ぶんの位相のずれに相当する.2つの反射光が実際に強め合う(山と山,谷と谷が重なる)ためには,光路差 $2nd$ と,この余分な半波長 $\lambda/2$ を合わせた「実質的な経路差」が波長の整数倍にならなければならない:

$$ 2nd+\frac{\lambda}{2}=m\lambda\qquad(m=1,2,3,\ldots) $$

($m=0$ とすると $d\lt0$ になって不適なので,$m$ は1から始まる).両辺から $\lambda/2$ を引いて整理すると,

$$ 2nd=m\lambda-\frac{\lambda}{2}=\left(m-\frac12\right)\lambda $$

ここで $m'=m-1$ とおき直すと $m-\tfrac12=m'+\tfrac12$ であり,$m'=0,1,2,\ldots$ となる.したがって明線条件は,

$$ 2nd=\left(m'+\frac12\right)\lambda\qquad(m'=0,1,2,\ldots) $$

である(以下,$m'$ を改めて $m$ と書く).

逆に,弱め合う(山と谷が重なる)条件は,実質的な経路差 $2nd+\lambda/2$ が波長の半整数倍になることである:

$$ 2nd+\frac{\lambda}{2}=\left(m+\frac12\right)\lambda\ \Rightarrow\ 2nd=m\lambda\qquad(m=0,1,2,\ldots) $$

これは,本文の法則16.2(一般の入射角の場合は $2nd\cos\theta_{\mathrm{t}}$ に置き換える)と一致する.位相変化のない通常の干渉では明線・暗線の条件がこれと逆(経路差が $m\lambda$ で明線,$(m+\frac12)\lambda$ で暗線)になることと比べると,「片方だけ固定端反射で $\pi$ ずれる」ことによって条件がちょうど入れ替わっていることがわかる.

演習16.3 くさび形空気層による薄膜厚さの測定

解答

くさびの頂点からの水平距離 $x$ の位置での空気層の厚さを $d$ とすると,暗線条件(法則16.3)は $2d=m\lambda$($m=0,1,2,\ldots$)と書ける.頂点($d=0$)が $m=0$ の暗線で,問題文のとおりこれは数えないので,頂点から数えて32本目の暗線は $m=32$ にあたる.箔を挟んだ端(空気層の厚さが $d_{\mathrm{f}}$)がちょうどその32本目なので,

$$ 2d_{\mathrm{f}}=32\lambda $$

である.$\lambda=500\ \mathrm{nm}=500\times10^{-9}\ \mathrm{m}$ を代入すると,

$$ d_{\mathrm{f}}=\frac{32\lambda}{2}=\frac{32\times(500\times10^{-9}\ \mathrm{m})}{2}=8.00\times10^{-6}\ \mathrm{m}=8.00\ \mathrm{\mu m} $$

である.金属箔の厚さは約8マイクロメートルと求まる.

暗線の間隔は,くさびの角が $\theta\fallingdotseq d_{\mathrm{f}}/L=(8.00\times10^{-6}\ \mathrm{m})/(0.0800\ \mathrm{m})=1.00\times10^{-4}\ \mathrm{rad}$ なので,本文の式 (16.11) より

$$ \Delta x=\frac{\lambda}{2\theta}=\frac{500\times10^{-9}\ \mathrm{m}}{2\times1.00\times10^{-4}}=2.5\times10^{-3}\ \mathrm{m}=2.5\ \mathrm{mm} $$

である.これは $L/32=80.0\ \mathrm{mm}/32=2.5\ \mathrm{mm}$ と一致しており,長さ $L$ の間に暗線が32本並ぶという状況と矛盾しない.

演習16.4 ニュートンリングの光路差の式の幾何学的導出

解答

平凸レンズの球面を,中心 $\mathrm{O}$,半径 $R$ の球の一部と考える.球面の最上点を $\mathrm{A}$,レンズと平面ガラス板の接触点を $\mathrm{B}$ とする($\mathrm{A},\mathrm{O},\mathrm{B}$ は同じ鉛直線上にあり,$\mathrm{AB}=2R$ は球の直径).この軸 $\mathrm{AB}$ 上で $\mathrm{B}$ から高さ $d$(空気層の厚さ)の点を $\mathrm{D}$($\mathrm{DB}=d$,$\mathrm{AD}=2R-d$),$\mathrm{D}$ を通る水平な直線が球面と交わる点を $\mathrm{C}$ とする.軸から水平に距離 $r$ 離れた位置での空気層の厚さが $d$ なので,$\mathrm{DC}=r$ である.

(1) $\mathrm{AB}$ は円の直径なので,直径に対する円周角は直角となり(高校数学),$\angle\mathrm{ACB}=90^{\circ}$ である.

(2) $\mathrm{CD}$ は軸 $\mathrm{AB}$ に垂直なので,$\triangle\mathrm{ACD}$ と $\triangle\mathrm{CBD}$ はどちらも $\mathrm{D}$ が直角である.

(3) 直角三角形 $\mathrm{ACB}$ の鋭角の和は $90^{\circ}$ なので $\angle\mathrm{CAD}+\angle\mathrm{CBD}=90^{\circ}$.直角三角形 $\mathrm{CBD}$ でも $\angle\mathrm{DCB}+\angle\mathrm{CBD}=90^{\circ}$.したがって $\angle\mathrm{CAD}=\angle\mathrm{DCB}$ である.

(4) よって2つの直角三角形は2つの角が等しく,$\triangle\mathrm{ACD}\sim\triangle\mathrm{CBD}$($\mathrm{A}\leftrightarrow\mathrm{C}$,$\mathrm{C}\leftrightarrow\mathrm{B}$,$\mathrm{D}\leftrightarrow\mathrm{D}$)である.対応する辺の比をとると,

$$ \mathrm{AD}:\mathrm{DC}=\mathrm{CD}:\mathrm{DB}\ \Rightarrow\ (2R-d):r=r:d $$

比例式の性質(内項の積 $=$ 外項の積)を使うと,

$$ r\times r=(2R-d)\times d $$ $$ \therefore\ r^2=2dR-d^2 $$

である.$d$ はレンズの曲率半径 $R$(数メートルのオーダー)に比べてはるかに小さい($d\sim10^{-6}\ \mathrm{m}$ に対して $R\sim1\ \mathrm{m}$ 程度)ので,$d^2$ の項は $2dR$ の項に比べて無視できる:

$$ r^2\fallingdotseq2dR $$

これが求める式である.したがって,光路差(空気層の往復距離)は $2d\fallingdotseq r^2/R$ である.

(別解1:方べきの定理.弦 $\mathrm{CC'}$($\mathrm{C'}$ は軸に関して $\mathrm{C}$ と反対側の球面上の点)と直径 $\mathrm{AB}$ は $\mathrm{D}$ で交わるので,$\mathrm{DC}\cdot\mathrm{DC'}=\mathrm{DA}\cdot\mathrm{DB}$ である.$\mathrm{DC}=\mathrm{DC'}=r$ より $r^2=(2R-d)\,d$.)

(別解2:座標を使う方法.接触点 $\mathrm{B}$ を原点とし,鉛直上向きに $y$ 軸,水平方向に $x$ 軸をとる.球の中心は $(0,R)$ なので,球面は $x^2+(y-R)^2=R^2$ を満たす.空気層の厚さが $d$ の位置は $y=d$ であり,そこでの軸からの水平距離 $x=r$ は,$r^2+(d-R)^2=R^2$ より

$$ r^2=R^2-(d-R)^2=2Rd-d^2 $$

となり,同じ結果が得られる.)

演習16.5 反射・透過ニュートンリングの位相変化の違い

解答

反射ニュートンリングの場合:観測者に届く2つの反射光は,(a)レンズの球面下側(ガラス→空気の境界)での反射光,(b)平面ガラス板の上面(空気→ガラスの境界)での反射光である.(a)は屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ向かう反射なので自由端反射(位相変化なし),(b)は屈折率の小さい媒質から大きい媒質へ向かう反射なので固定端反射(位相が $\pi$ 変化)である.片方だけに位相 $\pi$ のずれが付くので,経路差が0(中心,$r=0$)のところでは,2つの光は逆位相(山と谷)で出会うことになり,弱め合う——中心は暗線になる.

透過ニュートンリングの場合:観測者に届く2つの透過光は,(c)レンズ・空気層・ガラス板をそのまま素通りする光,(d)平面ガラス板の上面でいったん反射し(空気→ガラスで固定端反射,位相 $\pi$ 変化),さらにレンズの球面下側でも反射してから(ここも空気→ガラスへの反射になるので固定端反射,位相がさらに $\pi$ 変化)透過する光,の2つである.(d)の光路では固定端反射を2回経験しており,合計の位相変化は $\pi+\pi=2\pi$ である.位相が $2\pi$(1周期分)変化するというのは,波の形としては変化しなかったのとまったく区別がつかない($\cos(\phi+2\pi)=\cos\phi$).したがって,(c)と(d)の2つの透過光は実質的に同位相で出会うことになり,経路差が0(中心,$r=0$)のところでは強め合う——中心は明線になる.

エネルギー保存の観点:中心に入射した光のエネルギーは,反射されないなら透過するはずである.実際,反射では中心が暗線(弱め合う=反射光が少ない),透過では中心が明線(強め合う=透過光が多い)となっており,反射で弱まった分だけ透過が強まるという関係は,エネルギー保存則と矛盾しない.むしろ,反射・透過の条件が互いに入れ替わっているのは,エネルギー保存則から自然に要請される結果である.

演習16.6 反射防止コーティングの最小厚さ

解答

膜の上面(空気 $n=1.0$ →膜 $n_{\mathrm{f}}=1.45$)での反射は固定端反射(位相 $\pi$ 変化),膜の下面(膜 $n_{\mathrm{f}}=1.45$ →ガラス $n_{\mathrm{glass}}=1.52$)での反射も,$n_{\mathrm{f}}\lt n_{\mathrm{glass}}$ なので固定端反射(位相 $\pi$ 変化)である.両方とも固定端反射で同じだけ位相がずれるので,2つの反射光の位相差は,光路差そのもの($2n_{\mathrm{f}}d$)だけで決まり,余分な位相変化はない.したがって,反射光がもっとも弱め合う(反射防止に好都合な)条件は,

$$ 2n_{\mathrm{f}}d=\left(m+\frac12\right)\lambda\qquad(m=0,1,2,\ldots) $$

である.もっとも薄い膜($m=0$)を考えると,$2n_{\mathrm{f}}d=\lambda/2$ なので,

$$ d=\frac{\lambda}{4n_{\mathrm{f}}} $$

$\lambda=520\ \mathrm{nm}$,$n_{\mathrm{f}}=1.45$ を代入すると,

$$ d=\frac{520\ \mathrm{nm}}{4\times1.45}=\frac{520}{5.80}\ \mathrm{nm}\approx89.7\ \mathrm{nm} $$

である.約90ナノメートルという,可視光の波長よりずっと薄い膜厚が必要になる.

演習16.7 回折格子の主極大の幅

解答

$N$ 本スリットの干渉強度は,第16章の式 (16.6) より,

$$ I(\delta)=I_0\left(\frac{\sin(N\delta/2)}{N\sin(\delta/2)}\right)^2 $$

である.主極大は $\delta=0$(あるいはその整数倍の $\delta=2\pi m$)にあり,$I(0)=I_0$ である.主極大からわずかに離れたところで強度が最初に0になる点 $\delta_1$($\delta_1>0$ のうち最小のもの)を求める.$I(\delta)=0$ となるのは分子 $\sin(N\delta/2)=0$ のときであり,かつ同時に分母 $\sin(\delta/2)\neq0$(そうでないと $0/0$ の不定形になり,実際には主極大そのものになってしまう)でなければならない.

$\sin(N\delta/2)=0$ を満たす $\delta>0$ の中で最小のものは,$N\delta/2=\pi$($N\delta/2$ が $\pi$ の整数倍になる最小の正の場合)を解いて,

$$ \delta_1=\frac{2\pi}{N} $$

である.このとき $\delta_1/2=\pi/N$ であり,$N\ge2$ である限り $0\lt\pi/N\lt\pi$ なので $\sin(\delta_1/2)\neq0$(分母は0にならない)ことも確認できる.したがって,主極大($\delta=0$)から最初に強度0になる点までの「片側の幅」は $2\pi/N$ であり,主極大は $-2\pi/N\lt\delta\lt2\pi/N$ の範囲に収まっている——つまり主極大の全幅(両側の最初のゼロ点の間の幅)は,

$$ \Delta\delta=\frac{4\pi}{N} $$

である.この式から,主極大の幅 $\Delta\delta$ はスリット数 $N$ に反比例する($\Delta\delta\propto1/N$)ことが直接示された.$N$ が大きいほど(回折格子の場合のように溝の本数が非常に多いほど),主極大は幅の狭い鋭い輝線になる——これが,第16章の図16.7で $N=2,5,20$ と増やすにつれて明線が鋭くなっていくようすの,数式による裏付けである.(数値でも,$N=2,5,20,100$ について $\delta_1=2\pi/N$ で強度が0になることを確認した.)

演習16.8 ブラッグの条件による結晶格子面間隔の計算

解答

ブラッグの条件 $2d\sin\theta=n\lambda$ を $d$ について解くと,

$$ d=\frac{n\lambda}{2\sin\theta} $$

である.$n=1$(1次),$\lambda=0.15406\ \mathrm{nm}$,$\theta=14.22^{\circ}$ を代入すると,

$$ d=\frac{1\times0.15406\ \mathrm{nm}}{2\sin14.22^{\circ}}=\frac{0.15406\ \mathrm{nm}}{2\times0.24567}\approx0.3136\ \mathrm{nm} $$

である.これは,実際のケイ素(シリコン)結晶の(111)格子面の面間隔(格子定数 $a=0.5431\ \mathrm{nm}$ の結晶構造から $d_{111}=a/\sqrt3\approx0.3136\ \mathrm{nm}$)と非常によく一致する値であり,シリコンの粉末X線回折パターンでもっとも強く現れる(111)反射のブラッグ角にあたる.このように,X線の波長とブラッグ角の測定だけから,結晶中の原子面の間隔をナノメートル以下の精度で決定できる.

演習16.9 干渉フィルター用の多層膜の膜厚

解答

光学的距離は,屈折率 $n$ と物理的な厚さ $t$ の積 $nt$ である(定義16.1).各層の光学的距離を $\lambda_0/4$ にするので,$nt=\lambda_0/4$,すなわち $t=\lambda_0/(4n)$ である.$\lambda_0=550\ \mathrm{nm}$ として,

$$ t_{\mathrm{TiO_2}}=\frac{550\ \mathrm{nm}}{4\times2.4}=\frac{550}{9.6}\ \mathrm{nm}\approx57.3\ \mathrm{nm} $$ $$ t_{\mathrm{SiO_2}}=\frac{550\ \mathrm{nm}}{4\times1.46}=\frac{550}{5.84}\ \mathrm{nm}\approx94.2\ \mathrm{nm} $$

である.各層を1往復する光は,物理的な距離が $2t$ なので,光学的距離は $n\times2t=2\times\lambda_0/4=\lambda_0/2$ である.位相にすると,波長 $\lambda_0$ で $2\pi$ の位相が進むので,光学的距離 $\lambda_0/2$ は位相 $2\pi\times(\lambda_0/2)/\lambda_0=\pi$ にあたる.これに,隣り合う境界での反射の位相変化の差 $\pi$(低→高の固定端反射は $\pi$,高→低の自由端反射は0)が加わって,合計 $2\pi$ となり,すべての境界からの反射光が同位相で強め合う.

第17章 波の重ね合わせとフーリエ解析 — 波束と群速度

演習17.1 初速度をもつ弦(ハンマーで打つ)

解答

初期変位が $u_0\equiv0$ なので,ダランベールの公式は第2項だけが残り,

$$ y(x,t)=\frac{1}{2v}\int_{x-vt}^{x+vt}w_0(s)\,\dd s $$

である.$w_0(s)=w_0=2.0\ \mathrm{m/s}$($-a\le s\le a$,$a=0.020\ \mathrm{m}$),それ以外で $0$ なので,積分は「区間 $[x-vt,\ x+vt]$ のうち $[-a,a]$ と重なる部分の長さ」$\ell$ を使って $y=\dfrac{w_0\,\ell}{2v}$ と書ける.

(1) $t=1.0\times10^{-4}\ \mathrm{s}$ のとき $vt=100\times1.0\times10^{-4}=0.010\ \mathrm{m}$.$x=0$ の区間は $[-0.010,\,0.010]$ で,これは $[-0.020,\,0.020]$ にすっぽり入るので重なりの長さは $\ell=0.020\ \mathrm{m}$.したがって

$$ y=\frac{2.0\times0.020}{2\times100}=2.0\times10^{-4}\ \mathrm{m}=0.20\ \mathrm{mm} $$

(2) $t=5.0\times10^{-4}\ \mathrm{s}$ のとき $vt=0.050\ \mathrm{m}$.$x=0.050\ \mathrm{m}$ の区間は $[0,\ 0.100]$ で,$[-0.020,\,0.020]$ との重なりは $[0,\,0.020]$,長さ $\ell=0.020\ \mathrm{m}$.したがって $y=\dfrac{2.0\times0.020}{2\times100}=2.0\times10^{-4}\ \mathrm{m}=0.20\ \mathrm{mm}$.

(3) 十分に時間が経つと $vt\gg a$ で,$x=0$ の区間 $[-vt,\,vt]$ が $[-a,a]$ を完全に含む.重なりの長さは $\ell=2a=0.040\ \mathrm{m}$ で,

$$ y=\frac{2.0\times0.040}{2\times100}=4.0\times10^{-4}\ \mathrm{m}=0.40\ \mathrm{mm} $$

である.初期変位が0でも,たたかれた部分から左右へ広がる波の間に,高さ $w_0a/v=0.40\ \mathrm{mm}$ の平らな台地ができることがわかる(無限に長い弦の場合.実際の有限の弦では,端で反射した波が戻ってくるまでの間の話である).

演習17.2 三角波のフーリエ級数

解答

$y(-t)=y(t)$(偶関数)なので $b_n=0$.平均値 $a_0/2$ は,1周期の面積が $2\int_0^{T/2}A(1-4t/T)\,\dd t=2A\bigl(T/2-T/2\bigr)=0$ より $0$ である.余弦の係数は $\omega_1=2\pi/T$ として

$$ a_n=\frac4T\int_0^{T/2}A\left(1-\frac{4t}{T}\right)\cos n\omega_1t\,\dd t =\frac{4A}{T}\left[\int_0^{T/2}\cos n\omega_1t\,\dd t-\frac4T\int_0^{T/2}t\cos n\omega_1t\,\dd t\right] $$

第1の積分は $\dfrac{\sin(n\omega_1T/2)}{n\omega_1}=\dfrac{\sin n\pi}{n\omega_1}=0$.第2の積分は部分積分で

$$ \int_0^{T/2}t\cos n\omega_1t\,\dd t=\left[\frac{t\sin n\omega_1t}{n\omega_1}\right]_0^{T/2}-\int_0^{T/2}\frac{\sin n\omega_1t}{n\omega_1}\,\dd t=0+\left[\frac{\cos n\omega_1t}{(n\omega_1)^2}\right]_0^{T/2}=\frac{(-1)^n-1}{(n\omega_1)^2} $$

$\omega_1=2\pi/T$ より $(n\omega_1)^2=4\pi^2n^2/T^2$ なので,

$$ a_n=\frac{4A}{T}\cdot\left(-\frac4T\right)\cdot\frac{(-1)^n-1}{(n\omega_1)^2}=\frac{16A}{T^2}\cdot\frac{1-(-1)^n}{4\pi^2n^2/T^2}=\frac{4A\,[1-(-1)^n]}{\pi^2n^2} $$

すなわち $a_n=\dfrac{8A}{\pi^2n^2}$($n$ が奇数),$a_n=0$($n$ が偶数)で,$y(t)=\dfrac{8A}{\pi^2}\displaystyle\sum_{n\,\text{奇数}}\dfrac{\cos n\omega_1t}{n^2}$ である.

(1) 偶関数なので余弦だけが現れ,正弦は現れない.現れる高調波は奇数次だけである.これは,三角波が半波対称性 $y(t+T/2)=-y(t)$ を持つためである(たとえば $y(0)=A$,$y(T/2)=A(1-2)=-A$).$\cos\bigl(n\omega_1(t+T/2)\bigr)=(-1)^n\cos n\omega_1t$ なので,偶数次の成分は $t\to t+T/2$ で符号が変わらず,符号が反転する $y$ とは両立できない.矩形波が奇数次だけを含む理由と同じである.

(2) $A=3.0\ \mathrm{V}$ より,$a_1=\dfrac{8\times3.0}{\pi^2}\approx2.43\ \mathrm{V}$,$a_3=\dfrac{a_1}{9}\approx0.270\ \mathrm{V}$,$a_5=\dfrac{a_1}{25}\approx0.0973\ \mathrm{V}$.

(3) 矩形波の高調波の振幅は $1/n$($b_3/b_1=1/3$,$b_5/b_1=1/5$),三角波は $1/n^2$($a_3/a_1=1/9$,$a_5/a_1=1/25$)で小さくなる.三角波は連続でかどがあるだけなので高調波の減り方が速く,少ない項数で元の波形に近づき,ギブス現象も起こらない.矩形波は不連続点を持つため,高調波が遅くしか小さくならない.

演習17.3 $L/4$ の点をはじく — 高調波と音色

解答

(1) $x_0=L/4$ を代入すると $x_0(L-x_0)=\dfrac L4\cdot\dfrac{3L}{4}=\dfrac{3L^2}{16}$ なので,

$$ C_n=\frac{2hL^2}{n^2\pi^2}\cdot\frac{16}{3L^2}\sin\frac{n\pi}{4}=\frac{32h}{3n^2\pi^2}\sin\frac{n\pi}{4} $$

$h=2.0\ \mathrm{mm}$ のとき $\dfrac{32h}{3\pi^2}=\dfrac{64}{3\pi^2}\approx2.16\ \mathrm{mm}$ なので

$$ \begin{aligned} C_1&=2.16\times\sin\tfrac\pi4\approx1.53\ \mathrm{mm},\qquad C_2=\frac{2.16}{4}\sin\tfrac\pi2\approx0.540\ \mathrm{mm},\qquad C_3=\frac{2.16}{9}\sin\tfrac{3\pi}{4}\approx0.170\ \mathrm{mm},\\ C_4&=\frac{2.16}{16}\sin\pi=0,\qquad C_5=\frac{2.16}{25}\sin\tfrac{5\pi}{4}\approx-0.0611\ \mathrm{mm} \end{aligned} $$

(2) $n=4,8,12,\ldots$(4の倍数)の高調波が消える.$\sin(n\pi/4)=0$ となる $n$ では,つまんだ点 $x_0=L/4$ がその固有振動 $X_n(x)=\sin(n\pi x/L)$ の節($X_n(L/4)=\sin(n\pi/4)=0$)に一致するからである.節の点をつまんでも,その固有振動は励起されない.

(3) 中点をはじいた場合は $C_1\approx1.62\ \mathrm{mm}$,$C_2=0$,$C_3\approx-0.180\ \mathrm{mm}$,$C_4=0$,$C_5\approx0.0648\ \mathrm{mm}$ で,偶数次はすべて消え,基本音がほとんどを占める澄んだ音になる.一方 $L/4$ の点をはじくと,第2高調波が基本音の約 $0.540/1.53\approx35\%$ の振幅で含まれ(中点では0),第3高調波も同程度に残る.偶数次を含む分だけ高調波が豊かで,中点をはじいたときよりも,するどく硬い音色になる.

演習17.4 閉管・開管の固有振動と境界条件

解答

(1) 開管は $f_n=nv/(2L)$,$v/(2L)=340/(2\times0.85)=200\ \mathrm{Hz}$ なので $f_1,f_2,f_3,f_4=200,\ 400,\ 600,\ 800\ \mathrm{Hz}$.閉管は $f_n=(2n-1)v/(4L)$,$v/(4L)=340/(4\times0.85)=100\ \mathrm{Hz}$ なので $f_1,f_2,f_3,f_4=100,\ 300,\ 500,\ 700\ \mathrm{Hz}$.

(2) $300\ \mathrm{Hz}=3\times100\ \mathrm{Hz}$ は閉管の $n=2$ の固有振動数に一致するので,閉管が共鳴する.開管の固有振動数は $200\ \mathrm{Hz}$ の整数倍($200,400,\ldots$)なので,$300\ \mathrm{Hz}$ は含まれない.

(3) 開管の基本振動数は $v/(2L)=200\ \mathrm{Hz}$.長さ $L'$ の閉管の基本振動数 $v/(4L')$ がこれに等しいとすると $L'=v/(4\times200)=0.425\ \mathrm{m}=L/2$.同じ高さの音を出すには,閉管は開管の半分の長さで済む.

(4) 閉端 $x=0$ では変位が節なので $X(0)=0$.一般解 $X=B\sin kx+C\cos kx$ に代入すると $C=0$,すなわち $X=B\sin kx$.開口端 $x=L$ では変位が腹($\partial y/\partial x=0$)なので $X'(L)=Bk\cos kL=0$.$B\ne0,\ k\ne0$ より $\cos kL=0$ でなければならず,$kL=\dfrac\pi2,\ \dfrac{3\pi}2,\ \dfrac{5\pi}2,\ldots$ すなわち $k_n=\dfrac{(2n-1)\pi}{2L}$($n=1,2,\ldots$)というとびとびの値だけが許される.$\lambda_n=2\pi/k_n=4L/(2n-1)$,つまり $L=(2n-1)\lambda_n/4$($L$ が波長の $1/4$ の奇数倍)になっており,$f_n=vk_n/2\pi=(2n-1)v/(4L)$ が得られる.境界条件が2つの端を同時に満たすことが,$k$ を離散化するのである.

演習17.5 表面張力を含む水面波の群速度

解答

(1) $\omega^2=gk+\dfrac{\sigma}{\rho_{\mathrm m}} k^3$ の両辺を $k$ で微分すると $2\omega\dfrac{\dd\omega}{\dd k}=g+\dfrac{3\sigma}{\rho_{\mathrm m}}k^2$ なので,

$$ v_{\mathrm g}=\frac{\dd\omega}{\dd k}=\frac{g+3\sigma k^2/\rho_{\mathrm m}}{2\omega}=\frac{g+3\sigma k^2/\rho_{\mathrm m}}{2\sqrt{gk+\sigma k^3/\rho_{\mathrm m}}} $$

(2) $v_{\mathrm p}=\omega/k$ より $\dfrac{v_{\mathrm g}}{v_{\mathrm p}}=\dfrac{k\,(g+3\sigma k^2/\rho_{\mathrm m})}{2\omega^2}=\dfrac{g+3s}{2(g+s)}$($s=\sigma k^2/\rho_{\mathrm m}$ とおいた.$\omega^2=k(g+s)$ を使った).長波長極限($s\ll g$)では $\dfrac{g}{2g}=\dfrac12$,短波長極限($s\gg g$)では $\dfrac{3s}{2s}=\dfrac32$.つまり長い波では $v_{\mathrm g}=\tfrac12v_{\mathrm p}$,短いさざ波では $v_{\mathrm g}=\tfrac32v_{\mathrm p}$ で,大小が逆転する.

(3) $\lambda=5.0\ \mathrm{cm}$:$k=2\pi/0.050\approx125.7\ \mathrm{rad/m}$,$\omega^2=9.8\times125.7+\dfrac{0.072}{1.0\times10^3}\times125.7^3\approx1231.5+142.9=1374.4$,$\omega\approx37.07\ \mathrm{rad/s}$.よって $v_{\mathrm p}=\omega/k\approx0.295\ \mathrm{m/s}$,$v_{\mathrm g}=\dfrac{9.8+3\times7.2\times10^{-5}\times125.7^2}{2\times37.07}=\dfrac{9.8+3.41}{74.14}\approx0.178\ \mathrm{m/s}$($v_{\mathrm g}/v_{\mathrm p}\approx0.60$).

$\lambda=0.50\ \mathrm{cm}$:$k\approx1256.6\ \mathrm{rad/m}$,$\omega^2=9.8\times1256.6+7.2\times10^{-5}\times1256.6^3\approx1.23\times10^4+1.43\times10^5=1.55\times10^5$,$\omega\approx394\ \mathrm{rad/s}$.$v_{\mathrm p}\approx0.313\ \mathrm{m/s}$,$v_{\mathrm g}=\dfrac{9.8+3\times7.2\times10^{-5}\times1256.6^2}{2\times394}=\dfrac{9.8+341}{788}\approx0.445\ \mathrm{m/s}$($v_{\mathrm g}/v_{\mathrm p}\approx1.42$,群速度のほうが速い).

(4) (2) の式で $v_{\mathrm g}=v_{\mathrm p}$ とおくと $g+3s=2(g+s)$ より $s=g$,すなわち $\sigma k_{\mathrm c}^2/\rho_{\mathrm m}=g$ で,

$$ k_{\mathrm c}=\sqrt{\frac{\rho_{\mathrm m} g}{\sigma}}=\sqrt{\frac{1.0\times10^3\times9.8}{0.072}}\approx369\ \mathrm{rad/m},\qquad \lambda_{\mathrm c}=\frac{2\pi}{k_{\mathrm c}}\approx1.70\ \mathrm{cm} $$

このとき $\omega^2=k_{\mathrm c}(g+s)=2gk_{\mathrm c}$ なので $v_{\mathrm p}=\omega/k_{\mathrm c}=\sqrt{2g/k_{\mathrm c}}\approx0.23\ \mathrm{m/s}$.ここは位相速度が最小になる波長で($v_{\mathrm g}=v_{\mathrm p}+k\,\dd v_{\mathrm p}/\dd k$ なので $v_{\mathrm g}=v_{\mathrm p}$ は $\dd v_{\mathrm p}/\dd k=0$ と同じ),これより長い波は重力波,短い波は毛管波(表面張力波)として振る舞う.

演習17.6 うねりの波束の広がり

解答

(1) $\omega=\sqrt{gk}$ より $\omega'=\dfrac12\sqrt g\,k^{-1/2}$,$\omega''=-\dfrac14\sqrt g\,k^{-3/2}$.$k_0=2\pi/20\approx0.3142\ \mathrm{rad/m}$ なので,$k_0^{-3/2}\approx5.68\ \mathrm{m^{3/2}}$,$\sqrt g\approx3.130\ \mathrm{m^{1/2}/s}$ から

$$ \beta=\omega''(k_0)=-\frac14\times3.130\times5.68\approx-4.44\ \mathrm{m^2/s} $$

(群速度は $v_{\mathrm g}=\omega'(k_0)=\tfrac12\sqrt{g/k_0}\approx2.79\ \mathrm{m/s}$.)

(2) $\psi(x,0)=e^{-x^2/(2\sigma_0^2)}e^{ik_0x}$ のフーリエ成分($q=k-k_0$ の分布)は $A(q)=\sigma_0\sqrt{2\pi}\,e^{-\sigma_0^2q^2/2}$ である.時刻 $t$ の波形は,$\omega\approx\omega_0+v_{\mathrm g}q+\tfrac12\beta q^2$ と $s=x-v_{\mathrm g}t$ を使って

$$ \psi(x,t)=e^{i(k_0x-\omega_0t)}\frac{1}{2\pi}\int A(q)\,e^{iqs-\frac i2\beta q^2t}\,\dd q =e^{i(k_0x-\omega_0t)}\frac{\sigma_0}{\sqrt{2\pi}}\int e^{-\frac12(\sigma_0^2+i\beta t)q^2+iqs}\,\dd q $$

ガウス積分の公式($a=\sigma_0^2+i\beta t$,$\mathrm{Re}\,a=\sigma_0^2\gt0$)から

$$ \psi(x,t)=e^{i(k_0x-\omega_0t)}\,\frac{\sigma_0}{\sqrt{\sigma_0^2+i\beta t}}\exp\!\left[-\frac{s^2}{2(\sigma_0^2+i\beta t)}\right] $$

となる.$\dfrac{1}{\sigma_0^2+i\beta t}=\dfrac{\sigma_0^2-i\beta t}{\sigma_0^4+\beta^2t^2}$ の実部をとると,包絡線は

$$ |\psi|\propto\exp\!\left[-\frac{s^2\sigma_0^2}{2(\sigma_0^4+\beta^2t^2)}\right]=\exp\!\left[-\frac{(x-v_{\mathrm g}t)^2}{2\sigma(t)^2}\right],\qquad \sigma(t)^2=\frac{\sigma_0^4+\beta^2t^2}{\sigma_0^2}=\sigma_0^2\left[1+\left(\frac{\beta t}{\sigma_0^2}\right)^2\right] $$

となり,中心が $v_{\mathrm g}t$ で進みながら,幅が $\sigma(t)=\sigma_0\sqrt{1+(\beta t/\sigma_0^2)^2}$ に広がるガウス型のままであることがわかる.

(3) $\sigma(t)=\sqrt2\,\sigma_0$ となるのは $(\beta t/\sigma_0^2)^2=1$ のときで,

$$ t=\frac{\sigma_0^2}{|\beta|}=\frac{(50\ \mathrm{m})^2}{4.44\ \mathrm{m^2/s}}\approx5.6\times10^2\ \mathrm{s}\approx9.4\ \text{分} $$

その間に波群は $v_{\mathrm g}t\approx2.79\times563\approx1.6\times10^3\ \mathrm{m}=1.6\ \mathrm{km}$ 進む.($\Delta k=1/\sigma_0=0.020\ \mathrm{rad/m}\ll k_0$ で,波束は準単色である.)長い波ほど群速度 $v_{\mathrm g}=\tfrac12\sqrt{g\lambda/2\pi}$ が大きいので,遠い嵐で生まれたうねりでは,長い波から順に先に岸へ届く.(時刻 $563\ \mathrm{s}$ の包絡線の幅は $70.7\ \mathrm{m}\approx\sqrt2\times50\ \mathrm{m}$ になる.)

演習17.7 フーリエ級数とフーリエ変換の違い

解答

(1) 線の間隔は $1/T$,包絡線の最初のゼロ点は $f=1/\tau=1/(2.0\times10^{-6}\ \mathrm{s})=5.0\times10^5\ \mathrm{Hz}=500\ \mathrm{kHz}$($T$ によらない).そこにある線は $n=f\cdot T=T/\tau$ 番目で,その高さは0なので,ゼロ点までの0でない線は $T/\tau-1$ 本である.基本振動の振幅は $a_1=\dfrac{2A}{\pi}\sin\dfrac{\pi\tau}{T}$.

(2) $T$ を大きくすると,線の間隔 $1/T$ は0に近づき,線の数は限りなく増える.一方,各線の高さは $\tau/T$ に比例して0に近づくが,包絡線($\sin(\pi f\tau)/(\pi f\tau)$ の形,最初のゼロ点が $1/\tau$)の形は変わらない.$T\to\infty$ では線が隙間なくつながって,包絡線の形の連続スペクトルになる.周期的なパルス列のフーリエ級数が,孤立した1つのパルスのフーリエ変換に移り変わるのである.

(3) (解答例)フーリエ級数は周期をもつ波形を扱い,基本振動数の整数倍というとびとびの周波数の正弦波の和として表すので,スペクトルは線スペクトルになる.フーリエ変換は,周期をもたないパルスのような波形を扱う.これは周期を無限大にする極限で,線の間隔が0になって周波数が連続になり,和が積分に置き換わったものである.したがって,スペクトルは連続的になる.どちらも,波形を正弦波(複素指数関数)の重ね合わせで表すという点は同じである.

演習17.8 超短パルスレーザーの幅とスペクトル

解答

(1) $\Delta x=c\tau=2.998\times10^8\times100\times10^{-15}\approx3.0\times10^{-5}\ \mathrm{m}=30\ \mathrm{\mu m}$.

(2) $\Delta t\,\Delta\omega\sim2\pi$ より $\Delta f=\Delta\omega/2\pi\sim1/\tau=1/(1.0\times10^{-13}\ \mathrm{s})=1.0\times10^{13}\ \mathrm{Hz}$($10\ \mathrm{THz}$).$\lambda=c/f$ の微分から $\Delta\lambda\approx\lambda^2\Delta f/c$ なので

$$ \Delta\lambda\approx\frac{(8.0\times10^{-7}\ \mathrm{m})^2\times1.0\times10^{13}\ \mathrm{Hz}}{2.998\times10^8\ \mathrm{m/s}}\approx2.1\times10^{-8}\ \mathrm{m}=21\ \mathrm{nm} $$

(空間の関係 $\Delta x\,\Delta k\sim2\pi$ から $\Delta\lambda\approx\lambda^2/\Delta x=(8.0\times10^{-7})^2/(3.0\times10^{-5})\approx21\ \mathrm{nm}$ としても同じ値になる.)

(3) 光の周期は $\lambda/c=8.0\times10^{-7}/2.998\times10^8\approx2.7\times10^{-15}\ \mathrm{s}=2.7\ \mathrm{fs}$ なので,パルスに含まれる光の波の数は $\tau/(\lambda/c)=100/2.67\approx37$ 個である.

(4) $\tau=10\ \mathrm{fs}$ では,$\Delta x=3.0\ \mathrm{\mu m}$,$\Delta f\sim1/\tau=1.0\times10^{14}\ \mathrm{Hz}$,$\Delta\lambda\approx\lambda^2\Delta f/c\approx2.1\times10^{-7}\ \mathrm{m}=210\ \mathrm{nm}$((2) の10倍)で,含まれる波の数は約 $3.7$ 個になる.パルスが短いほど周波数(波長)の広がりは広がり,$\Delta\lambda$ が中心波長 $800\ \mathrm{nm}$ の約4分の1に達するので,この見積もりはオーダーだけを与えるものである.

第18章 材料力学の基礎 — 荷重・応力・ひずみ

演習18.1 ボルトの引張応力

解答

直径 $d_0=12\ \mathrm{mm}$ のボルトの断面積は,半径 $d_0/2=6\ \mathrm{mm}$ の円の面積として,

$$ A_0=\pi\left(\frac{d_0}{2}\right)^2=\pi\times(6\ \mathrm{mm})^2=\pi\times36\ \mathrm{mm^2}\approx113.10\ \mathrm{mm^2} $$

である.第18章の応力の定義 $\sigma=P/A$ に,荷重 $P=8\ \mathrm{kN}=8\times10^3\ \mathrm N$ を代入すると,

$$ \sigma=\frac{P}{A_0}=\frac{8\times10^3\ \mathrm N}{113.10\ \mathrm{mm^2}}\approx70.7\ \mathrm{N/mm^2}=70.7\ \mathrm{MPa} $$

である($1\ \mathrm{N/mm^2}=1\ \mathrm{MPa}$ であることを使った).有効数字3桁で答えると,$\sigma\approx70.7\ \mathrm{MPa}$ となる.

演習18.2 鋼棒の横ひずみ

解答

第18章のポアソン比の定義 $\nu=\abs{\varepsilon'/\varepsilon}$ より,縦ひずみが正(引張,$\varepsilon\gt0$)のとき横ひずみは負($\varepsilon'\lt0$)になることを使うと,$\varepsilon'=-\nu\varepsilon$ と書ける.$\nu=0.30$,$\varepsilon=2.0\times10^{-4}$ を代入すると,

$$ \varepsilon'=-\nu\varepsilon=-0.30\times2.0\times10^{-4}=-6.0\times10^{-5} $$

である.横ひずみの大きさ($6.0\times10^{-5}$)は,縦ひずみ($2.0\times10^{-4}$)のおよそ0.3倍($=\nu$)になっており,ポアソン比の定義どおりの結果になっている.

演習18.3 せん断ひずみ $\gamma=0.05$ の厳密角と近似角

解答

第18章のせん断ひずみの定義 $\gamma=\tan\alpha$ より,$\alpha=\arctan\gamma$ である.

(a) 正確な角度は,$\gamma=0.05$ を代入して,

$$ \alpha_{\text{厳密}}=\arctan(0.05)\approx0.049958\ \mathrm{rad}\ (\approx2.862^\circ) $$

(b) 微小角近似 $\alpha\approx\gamma$ を使うと,

$$ \alpha_{\text{近似}}\approx\gamma=0.05\ \mathrm{rad}\ (\approx2.865^\circ) $$

(c) 両者の相対誤差は

$$ \frac{\abs{\alpha_{\text{厳密}}-\alpha_{\text{近似}}}}{\alpha_{\text{厳密}}}=\frac{\abs{0.049958-0.050000}}{0.049958}\approx0.083\ \% $$

である.第18章の例題18.11($\gamma=0.10$)では相対誤差が約 $0.33\ \%$ であったのに対し,本問($\gamma=0.05$)では約 $0.083\ \%$ と,およそ4分の1になっている.これは次のように説明できる.$\tan\alpha=\alpha+\alpha^{3}/3+\cdots$(テイラー展開)より,近似 $\gamma\approx\alpha$ の相対誤差は

$$ \frac{\tan\alpha-\alpha}{\alpha}\approx\frac{\alpha^{2}}{3} $$

である.$\alpha$ が半分になる($\gamma$ が $0.10$ から $0.05$ になる)と相対誤差は $(1/2)^2=1/4$ になり,実際に $0.33\ \%\to0.083\ \%$ と計算値にちょうど一致する.(なお,絶対誤差 $\tan\alpha-\alpha\approx\alpha^{3}/3$ のほうは $\alpha^{3}$ に比例するので,$\alpha$ が半分なら約 $1/8$ になる.)いずれにせよ,$\gamma=0.05$ のような小さなせん断ひずみに対しては,近似 $\alpha\approx\gamma$ の精度はきわめてよいと言える.

演習18.4 多孔質材料ではどの基礎仮定が破れやすいか

解答

発泡金属は,内部に多数の気孔(空洞)をもつ.第18章の定義18.1(均質体)は「材料は連続した固体で,内部に欠陥や空洞がなく,すべての部分が同性質をもつ」という仮定であったから,気孔だらけの発泡金属はこの均質体の仮定がもっとも破れやすい.気孔の大きさが,注目している部材の寸法(たとえば板の厚さ)と同程度になると,「材料のどこを取り出しても同じ性質」という近似はもはや成り立たず,気孔の位置・大きさ・配置そのものが力学的な挙動を左右するようになる.

さらに,気孔の形や分布が特定の方向に偏っている場合(たとえば,製造工程で気孔が引き伸ばされて一方向にそろってしまった発泡金属など)には,等方体の仮定(定義18.2)も同時に破れる——気孔が並んでいる方向とそれに垂直な方向とで,材料の強さや伸びやすさが異なるようになるからである.このように,均質体・等方体という2つの基礎仮定は,どちらも「材料を,考えている問題のスケールに比べて十分細かい構造をもつ連続体とみなせる」という前提に立っており,気孔のように「無視できない大きさの不均一構造」をもつ材料では,どちらの仮定も注意深く検証する必要がある.

演習18.5 サン=ブナンの原理と部材の幅

解答

第18章のサン=ブナンの原理(法則18.2)によれば,外力の作用のさせ方の細部が応力に与える乱れは,その外力が作用している範囲の代表的な大きさ程度の距離で小さくなる.平板の端に集中荷重が作用している場合,その「代表的な大きさ」にあたるのは,荷重を受け止めている板の幅 $b$ である.

したがって,一般的な目安としては,荷重の作用点から板の幅 $b$ 程度(安全側に見て $b$ の1〜2倍)以上離れた断面では,応力分布はほぼ一様とみなせる,と言える.数値の例として,弾性論で帯板の一様でない応力成分を調べると,そのうちもっとも減衰しにくい成分の大きさは,荷重点からの距離 $x$ とともにおおよそ $e^{-4.2x/b}$ の割合で小さくなることが知られている.これは,荷重点での大きさを $1$ とすると $x=0.5b$ で約 $12\ \%$,$x=b$ で約 $1.5\ \%$,$x=2b$ では $0.02\ \%$ 程度である.また,例題18.2の円孔では,乱れを生む孔の直径を $d$ とすると,孔の中心から $d$ で約 $22\ \%$,$2d$ で約 $4\ \%$,$3d$ で約 $1.5\ \%$ の増加であり,やはり「作用範囲の大きさの数倍」で乱れがほぼ消えた.逆に,作用点から幅 $b$ 未満の範囲では応力分布が一様であるという仮定(第18章の法則18.2の末尾で述べた,材料力学で通常置かれる作業上の仮定)は成り立たないおそれがあり,特に注意深い検討(あるいは,第21章で学ぶような応力集中の詳しい解析)が必要になる.

演習18.6 $\varepsilon_V\approx\varepsilon+2\varepsilon'$ の導出とポアソン比 $\nu=1/2$ の意味

解答

第18章の体積ひずみの1次近似の式 $\varepsilon_V\approx\varepsilon_x+\varepsilon_y+\varepsilon_z$(3方向の縦ひずみの単純な和)に,縦方向(荷重の向き)のひずみを $\varepsilon_x=\varepsilon$,それに垂直な2つの横方向のひずみを,対称性より等しいとして $\varepsilon_y=\varepsilon_z=\varepsilon'$ とおくと,

$$ \varepsilon_V\approx\varepsilon_x+\varepsilon_y+\varepsilon_z=\varepsilon+\varepsilon'+\varepsilon'=\varepsilon+2\varepsilon' $$

となり,題意の式が得られる.次に,第18章のポアソン比の定義より,1方向の引張($\varepsilon\gt0$)に対する横ひずみは $\varepsilon'=-\nu\varepsilon$ であったから,これを代入すると,

$$ \varepsilon_V\approx\varepsilon+2(-\nu\varepsilon)=\varepsilon(1-2\nu) $$

という,$\varepsilon$ と $\nu$ だけで表された式が得られる.この式に $\nu=1/2$ を代入すると,

$$ \varepsilon_V\approx\varepsilon\left(1-2\times\frac12\right)=\varepsilon(1-1)=0 $$

となり,体積ひずみがちょうど $0$ になることが確認できる.

この結果の物理的な意味は,「ポアソン比が $\nu=1/2$ である材料は,どんな向きに引っぱったり押したりしても,全体の体積がまったく変化しない」ということである.このような材料を非圧縮性(incompressible)であるという.天然ゴムのポアソン比が $\nu\approx0.5$ に非常に近いことはよく知られており(18.4節の応用),これはゴムを引っぱって細くなる分だけ,ちょうど体積が保たれるように変形している,という意味である.逆に,$\nu\lt1/2$ の材料(金属やセラミックスなど,ほとんどの固体がこれにあたる)を引っぱると($\varepsilon\gt0$),$1-2\nu\gt0$ なので $\varepsilon_V=\varepsilon(1-2\nu)\gt0$,すなわち横方向の収縮だけでは縦方向の伸びを打ち消しきれず,全体としてわずかに体積が増加する.体積が減ることはない.たとえば $\nu=0.30$,$\varepsilon=1.0\times10^{-3}$ なら,1次近似は $\varepsilon(1-2\nu)=4.0\times10^{-4}$,厳密な式 $\varepsilon_V=(1+\varepsilon)(1+\varepsilon')^{2}-1$($\varepsilon'=-3.0\times10^{-4}$)は $3.995\times10^{-4}$ で,よく一致する.体積弾性係数 $K$(第19章で定義する,圧力と体積ひずみの比例定数)は,この「体積の変わりにくさ」を表す量であり,$\nu\to1/2$ の極限で $K\to\infty$(どんな圧力をかけても体積が変わらない)に対応することも,次章で確認できる.

演習18.7 ボルトのせん断応力

解答

(a) せん断面は直径 $d=8\ \mathrm{mm}$ の円なので,その面積は

$$ A=\pi\left(\frac d2\right)^2=\pi\times(4\ \mathrm{mm})^2=16\pi\ \mathrm{mm^2}\approx50.27\ \mathrm{mm^2} $$

である.第18章のせん断応力の定義 $\tau=Q/A$ に $Q=5\ \mathrm{kN}=5.0\times10^{3}\ \mathrm N$ を代入すると,

$$ \tau=\frac QA=\frac{5.0\times10^{3}\ \mathrm N}{50.27\ \mathrm{mm^2}}\approx99.5\ \mathrm{N/mm^2}=99.5\ \mathrm{MPa} $$

となる.

(b) せん断応力がせん断強さ $\tau_{\max}=300\ \mathrm{MPa}=300\ \mathrm{N/mm^2}$ に達したときに壊れるので,$\tau=Q/A$ を $Q=\tau A$ と書き直して,

$$ Q_{\max}=\tau_{\max}A=300\ \mathrm{N/mm^2}\times50.27\ \mathrm{mm^2}\approx1.508\times10^{4}\ \mathrm N\approx15.1\ \mathrm{kN} $$

である.(a) の荷重 $5\ \mathrm{kN}$ は,壊れる荷重 $15.1\ \mathrm{kN}$ の約 $1/3$ である($99.5/300\approx0.33$ とも一致する).

演習18.8 応力の単位の換算

解答

(a) $1\ \mathrm{GPa}=10^{3}\ \mathrm{MPa}=10^{9}\ \mathrm{Pa}$ より,

$$ 1.5\ \mathrm{GPa}=1.5\times10^{3}\ \mathrm{MPa}=1500\ \mathrm{MPa},\qquad 1.5\ \mathrm{GPa}=1.5\times10^{9}\ \mathrm{Pa} $$

(b) $101.325\ \mathrm{kPa}=101.325\times10^{3}\ \mathrm{Pa}=1.01325\times10^{5}\ \mathrm{Pa}$.$1\ \mathrm{MPa}=10^{6}\ \mathrm{Pa}=1\ \mathrm{N/mm^2}$ なので,

$$ 1.01325\times10^{5}\ \mathrm{Pa}=0.101325\times10^{6}\ \mathrm{Pa}=0.101325\ \mathrm{MPa}=0.101325\ \mathrm{N/mm^2} $$

となり,大気圧はおよそ $0.1\ \mathrm{N/mm^2}$ である.

(c) $\sigma=P/A$ を $P=\sigma A$ と書き直して,$\sigma=120\ \mathrm{MPa}=120\ \mathrm{N/mm^2}$,$A=250\ \mathrm{mm^2}$ を代入すると,

$$ P=\sigma A=120\ \mathrm{N/mm^2}\times250\ \mathrm{mm^2}=3.0\times10^{4}\ \mathrm N=30\ \mathrm{kN} $$

である(単位は $\mathrm{N/mm^2}\times\mathrm{mm^2}=\mathrm N$).$\mathrm{Pa}$ に直して $\sigma=1.2\times10^{8}\ \mathrm{Pa}$,$A=2.5\times10^{-4}\ \mathrm{m^2}$ で計算しても $P=1.2\times10^{8}\times2.5\times10^{-4}=3.0\times10^{4}\ \mathrm N$ で同じ結果になる.

第19章 フックの法則・弾性係数と材料試験

演習19.1 縦弾性係数の計算

解答

第19章の式 $E=l_0P/(\lambda A_0)$ に,断面積 $A_0=5.0\times10^{-5}\ \mathrm{m^2}$,長さ $l_0=2.0\ \mathrm{m}$,荷重 $P=1.0\times10^{4}\ \mathrm N$,伸び $\lambda=2.0\ \mathrm{mm}=2.0\times10^{-3}\ \mathrm{m}$(単位をすべて SI 単位にそろえた)を代入すると,

$$ E=\frac{l_0P}{\lambda A_0}=\frac{2.0\times1.0\times10^{4}}{2.0\times10^{-3}\times5.0\times10^{-5}}=\frac{2.0\times10^{4}}{1.0\times10^{-7}}=2.0\times10^{11}\ \mathrm{Pa}=200\ \mathrm{GPa} $$

である(応力は $\sigma=P/A_0=200\ \mathrm{MPa}$,ひずみは $\varepsilon=\lambda/l_0=1.0\times10^{-3}$ で,$E=\sigma/\varepsilon$ でも同じ値になる).この値は,鋼のヤング率の代表値(第19章の表19.1,$200$–$210\ \mathrm{GPa}$)と一致するので,この棒は鋼でできていると考えられる.

演習19.2 $E,\nu$ から $G,K$ を求める

解答

第19章の公式 $G=E/\{2(1+\nu)\}$,$K=E/\{3(1-2\nu)\}$ に,$E=120\ \mathrm{GPa}$,$\nu=0.35$ を代入する.まず $\nu=0.35$ が等方弾性体として許される範囲 $-1\lt\nu\lt1/2$(第19章19.3.4項)に収まっていることを確認しておく——$0.35$ はこの範囲の内側にあるので,以下の計算は物理的に矛盾しない.

$$ G=\frac{E}{2(1+\nu)}=\frac{120}{2\times(1+0.35)}=\frac{120}{2.70}\approx44.4\ \mathrm{GPa} $$ $$ K=\frac{E}{3(1-2\nu)}=\frac{120}{3\times(1-0.70)}=\frac{120}{3\times0.30}=\frac{120}{0.90}\approx133.3\ \mathrm{GPa} $$

である.銅の代表的なヤング率(第19章の表19.1,$110$–$128\ \mathrm{GPa}$)とほぼ同じ範囲の値を使っているので,得られた $G,K$ の値も,銅の実測値($G\approx44\ \mathrm{GPa}$ 程度,$K\approx130$–$140\ \mathrm{GPa}$ 程度)とよく一致している.

演習19.3 直列に接続した棒の合成弾性率

解答

ばね定数とのアナロジーを作る.第19章の式 $E=l_0P/(\lambda A_0)$ を $\lambda$ について解くと,$\lambda=\dfrac{l_0}{EA_0}P$ となる.これは,ばねの伸び $x=F/k$(すなわち $F=kx$)と同じ形をしており,$1/k$ に対応するのが $l_0/(EA_0)$ であることが分かる.つまり,1本の棒は,ばね定数

$$ k=\frac{EA_0}{l_0} $$

を持つ「ばね」とみなせる.断面積 $A_0$ が2本とも同じで,長さもそれぞれ $l_0$(合わせて全長 $2l_0$)とすると,2本の棒のばね定数は

$$ k_1=\frac{E_1A_0}{l_0},\qquad k_2=\frac{E_2A_0}{l_0} $$

である.

直列合成の公式を使う.高校物理で学んだばねの直列合成の公式 $\dfrac{1}{k_{\text{合成}}}=\dfrac{1}{k_1}+\dfrac{1}{k_2}$(2本のばねを直列につなぐと,全体は同じ荷重 $P$ を受けながら,それぞれの伸び $\lambda_1,\lambda_2$ を足し合わせた分だけ伸びることに対応する)をそのまま適用すると,

$$ \frac{1}{k_{\text{合成}}}=\frac{1}{k_1}+\frac{1}{k_2}=\frac{l_0}{E_1A_0}+\frac{l_0}{E_2A_0}=\frac{l_0}{A_0}\left(\frac{1}{E_1}+\frac{1}{E_2}\right)=\frac{l_0}{A_0}\cdot\frac{E_1+E_2}{E_1E_2} $$

両辺を逆数にすると,

$$ k_{\text{合成}}=\frac{A_0}{l_0}\cdot\frac{E_1E_2}{E_1+E_2} $$

$E_{\text{合成}}$ を求める.合成した棒の全長は $2l_0$ なので,合成後の縦弾性係数は,$k_{\text{合成}}=E_{\text{合成}}A_0/(2l_0)$(同じ「棒のばね定数の式」を,長さ $2l_0$ の1本の棒として当てはめたもの)という関係から,

$$ E_{\text{合成}}=\frac{2l_0}{A_0}k_{\text{合成}}=\frac{2l_0}{A_0}\times\frac{A_0}{l_0}\cdot\frac{E_1E_2}{E_1+E_2}=\frac{2E_1E_2}{E_1+E_2} $$

が得られる.これは,$E_1,E_2$ の調和平均 $\dfrac{2}{1/E_1+1/E_2}$ そのものである(分母を通分すると $\dfrac{2}{1/E_1+1/E_2}=\dfrac{2E_1E_2}{E_1+E_2}$).数値例として $E_1=200\ \mathrm{GPa}$,$E_2=70\ \mathrm{GPa}$ なら,

$$ E_{\text{合成}}=\frac{2\times200\times70}{200+70}=\frac{28000}{270}\approx103.7\ \mathrm{GPa} $$

で,2つの値の単純な平均 $135\ \mathrm{GPa}$ よりも小さく,柔らかい棒($70\ \mathrm{GPa}$)のほうに引きずられた値になる.弾性係数の小さいほう(柔らかいほう)の影響が強く効くという,ばねの直列合成でおなじみの性質が,ここでも現れている.同じ荷重 $P$ のもとで,柔らかい棒のほうが大きく伸びるからである.

演習19.4 くびれの後も真応力が増加し続ける理由

解答

くびれた最小断面では,真ひずみを $\varepsilon_{\mathrm t}=\ln(A_0/A)$ と定める(第19章の定義19.13)から,断面積は $A=A_0e^{-\varepsilon_{\mathrm t}}$ である.荷重は $P=\sigma_{\mathrm t}A$ だから,荷重を初めの断面積 $A_0$ で割った公称応力は

$$ \frac{P}{A_0}=\sigma_{\mathrm t}\,e^{-\varepsilon_{\mathrm t}} $$

と書ける.これを $\varepsilon_{\mathrm t}$ で微分する(積の微分法則)と,

$$ \frac{\dd(P/A_0)}{\dd\varepsilon_{\mathrm t}}=e^{-\varepsilon_{\mathrm t}}\left(\frac{\dd\sigma_{\mathrm t}}{\dd\varepsilon_{\mathrm t}}-\sigma_{\mathrm t}\right) $$

Hollomonの式 $\sigma_{\mathrm t}=K_{\mathrm H}\varepsilon_{\mathrm t}^{\,n}$ では $\dd\sigma_{\mathrm t}/\dd\varepsilon_{\mathrm t}=(n/\varepsilon_{\mathrm t})\sigma_{\mathrm t}$ なので,

$$ \frac{\dd(P/A_0)}{\dd\varepsilon_{\mathrm t}}=e^{-\varepsilon_{\mathrm t}}\sigma_{\mathrm t}\left(\frac{n}{\varepsilon_{\mathrm t}}-1\right) $$

となる.$e^{-\varepsilon_{\mathrm t}}\sigma_{\mathrm t}\gt0$ だから,符号は $n/\varepsilon_{\mathrm t}-1$ で決まる.$\varepsilon_{\mathrm t}\lt n$ では正($P/A_0$ は増加),$\varepsilon_{\mathrm t}=n$ で $0$(最大値.引張強さ),$\varepsilon_{\mathrm t}\gt n$ では負($P/A_0$ は減少)である.一方,真応力 $\sigma_{\mathrm t}$ 自身は $\dd\sigma_{\mathrm t}/\dd\varepsilon_{\mathrm t}=(n/\varepsilon_{\mathrm t})\sigma_{\mathrm t}\gt0$ なので,$\varepsilon_{\mathrm t}$ とともに増加し続ける.

定性的な言い換え.真ひずみがわずかに $\dd\varepsilon_{\mathrm t}$ 増えるとき,断面積 $A$ は割合 $\dd\varepsilon_{\mathrm t}$ だけ減る($\dd A/A=-\dd\varepsilon_{\mathrm t}$).一方,真応力(加工硬化による強度)は割合 $(n/\varepsilon_{\mathrm t})\dd\varepsilon_{\mathrm t}$ だけ増える.荷重 $P=\sigma_{\mathrm t}A$ は,この2つの効果の差 $(n/\varepsilon_{\mathrm t}-1)\dd\varepsilon_{\mathrm t}$ の割合で変化する.加工硬化は $\varepsilon_{\mathrm t}$ が大きいほど「頭打ち」($n/\varepsilon_{\mathrm t}$ が小さくなる)になるので,$\varepsilon_{\mathrm t}\gt n$ になると,断面積の減り方が加工硬化による強度の増え方を上回り,荷重(したがって $P/A_0$)は減る.これが,材料そのものは加工硬化を続けている(真応力は増加し続ける)にもかかわらず,試験機が記録する荷重,すなわち公称応力が引張強さを過ぎると下がっていく理由である.

数値による確認($K_{\mathrm H}=636\ \mathrm{MPa}$,$n=0.166$.Hollomonの式がくびれ部でもそのまま成り立つと仮定した値).$\varepsilon_{\mathrm t}=n=0.166$(くびれの開始)では $\sigma_{\mathrm t}\approx472\ \mathrm{MPa}$,$P/A_0=\sigma_{\mathrm t}e^{-0.166}\approx400\ \mathrm{MPa}$(引張強さ).最小断面の真ひずみが $\varepsilon_{\mathrm t}=0.30$ まで進むと,$\sigma_{\mathrm t}\approx521\ \mathrm{MPa}$ まで増加するのに対し,$P/A_0=521\times e^{-0.30}\approx386\ \mathrm{MPa}$ まで減少する.

なお,一様に伸びている間だけ成り立つ関係 $\sigma_{\mathrm t}=\sigma(1+\varepsilon)$ は,くびれが始まったあとは(標点間の平均の伸びが最小断面の変形を表さないので)使えない.くびれ後の説明には,上のように最小断面の $\varepsilon_{\mathrm t}=\ln(A_0/A)$ を使う.

演習19.5 材料試験の分類

解答

第19章の定義19.5 にしたがって分類し,それぞれの試験で調べようとしている代表的な性質を一言で添えると,次のようになる.

静荷重試験(荷重をゆっくり,準静的に加える):

動荷重試験(荷重を急激に,あるいは繰り返し加える):

クリープ試験は,荷重の大きさ自体は一定(準静的)であるという点で他の静荷重試験と共通するが,「長時間かけて初めて現れる変形」を対象にしているという点で,瞬間的・短時間の測定で済む引張試験などとは性格が異なることに注意しておくとよい(それでも,荷重を急激に・繰り返し加える動荷重試験とは明確に区別され,静荷重試験に分類される).

演習19.6 身近な材料のヤング率の大小関係(発展課題)

解答

予想:結合の種類から考える.第19章19.5節の「応用:弾性率の原子論的な起源」で見たとおり,ヤング率は原子間ポテンシャルの底の曲率(結合の強さそのもの)を反映する.4つの材料が変形にどう抵抗しているかを考えると,

したがって,「結合を直接伸ばす変形」が支配的なものほどヤング率が大きくなると考えると,予想される順序は

$$ \text{ゴム}\ (E\sim0.001\text{–}0.1\ \mathrm{GPa}) \ \lt\ \text{木材(繊維方向)}\ (E\sim10\text{–}16\ \mathrm{GPa}) \ \lt\ \text{ガラス}\ (E\sim65\text{–}72\ \mathrm{GPa}) \ \lt\ \text{鋼}\ (E\sim200\text{–}210\ \mathrm{GPa}) $$

となる.

文献値との照合.第19章の表19.1 に挙げた鋼($200$–$210\ \mathrm{GPa}$)とソーダ石灰ガラス($65$–$72\ \mathrm{GPa}$)の値と,一般的な工学材料のデータ集に見られる代表値——木材(繊維方向,樹種により幅がある)が $E\approx10$–$16\ \mathrm{GPa}$ 程度,ゴムが軟らかいものでは数 $\mathrm{MPa}$,硬いものでは $0.1\ \mathrm{GPa}$ 程度(加硫の程度で幅が大きい)——を並べると,上で予想した順序(ゴム ≪ 木材 < ガラス < 鋼)とよく一致することが確認できる.ヤング率の大小が4桁以上にわたって開いている(ゴムと鋼の比はおよそ $10^{3}$–$10^{5}$ 倍)ことは,「結合の種類・密度」という原子論的な違いが,マクロな力学的性質にどれほど大きな影響を及ぼすかを端的に示す例になっている.

第20章 多軸応力・はりの曲げ・ねじり

演習20.1 主応力とモールの応力円

解答

$\sigma_x=-40\ \mathrm{MPa}$,$\sigma_y=80\ \mathrm{MPa}$,$\tau_{xy}=-25\ \mathrm{MPa}$ である.平均値と半差を求めると,

$$ \frac{\sigma_x+\sigma_y}2=\frac{-40+80}2=20\ \mathrm{MPa},\qquad \frac{\sigma_x-\sigma_y}2=\frac{-40-80}2=-60\ \mathrm{MPa} $$

(1) 第20章の主応力の公式(法則20.2)$\sigma_{1,2}=\dfrac{\sigma_x+\sigma_y}2\pm\sqrt{\left(\dfrac{\sigma_x-\sigma_y}2\right)^2+\tau_{xy}^2}$ より,根号の中身は $\sqrt{(-60)^2+(-25)^2}=\sqrt{3600+625}=\sqrt{4225}=65\ \mathrm{MPa}$ なので,

$$ \sigma_1=20+65=85\ \mathrm{MPa},\qquad \sigma_2=20-65=-45\ \mathrm{MPa} $$

面内の最大せん断応力は,主応力の差の半分(あるいは根号の値そのもの)として,$\tau_{\max}=65\ \mathrm{MPa}$ である($\sigma_1,\sigma_2$ が異符号なので,これは三次元の絶対最大せん断応力 $(\sigma_1-\sigma_2)/2$ でもある).

(2) モールの応力円の中心は $\left(\dfrac{\sigma_x+\sigma_y}2,0\right)=(20,0)\ \mathrm{MPa}$,半径は先ほど求めた根号の値と同じ $R=65\ \mathrm{MPa}$ である.円が $\sigma$ 軸と交わる点は $20\pm65$,すなわち右側が $85\ \mathrm{MPa}$,左側が $-45\ \mathrm{MPa}$ となり,(1)で求めた $\sigma_1,\sigma_2$ と完全に一致する.円の上端・下端の $\tau$ 座標も $\pm65\ \mathrm{MPa}$ で,$\tau_{\max}$ と一致する.図形的な方法(モールの応力円)と代数的な方法(固有値の計算)が同じ答えに到達することが確認できた(別の方法による確認:特性方程式 $\det\begin{pmatrix}-40-\lambda&-25\\-25&80-\lambda\end{pmatrix}=\lambda^2-40\lambda-3825=0$ を直接解くと,$\lambda=(40\pm\sqrt{1600+15300})/2=(40\pm130)/2=85,\,-45$ となり,一致する.)

演習20.2 拘束されたアルミニウム棒の熱応力

解答

両端を剛体の壁に固定した棒に生じる熱応力の公式 $\sigma=-E\alpha\Delta T$(第20章の公式20.2)に,$E=70\ \mathrm{GPa}$,$\alpha=2.3\times10^{-5}\ \mathrm{K^{-1}}$,$\Delta T=-30\ \mathrm K$ を代入すると,

$$ \sigma=-E\alpha\Delta T=-(70\times10^9\ \mathrm{Pa})\times(2.3\times10^{-5}\ \mathrm{K^{-1}})\times(-30\ \mathrm K) $$

符号に注意して計算すると,$(-1)\times(-30)=+30$ なので,

$$ \sigma=70\times10^9\times2.3\times10^{-5}\times30\ \mathrm{Pa}=70\times2.3\times30\times10^4\ \mathrm{Pa}=4830\times10^4\ \mathrm{Pa}=4.83\times10^7\ \mathrm{Pa}\approx48.3\ \mathrm{MPa} $$

符号が正なので,これは引張応力である.物理的には,温度が下がる($\Delta T\lt0$)と,棒は本来収縮したいのに,両端の壁がそれを許さず,棒を引き伸ばす向き(引張)の応力が生じる,という説明と対応している.

演習20.3 円形断面はりの曲げ応力

解答

直径 $d=60\ \mathrm{mm}=0.060\ \mathrm m$ の円形断面の断面二次モーメントは,第20章の円形断面の公式 $I=\pi d^4/64$ より,

$$ I=\frac{\pi\times(0.060\ \mathrm m)^4}{64}=\frac{\pi\times1.296\times10^{-5}}{64}\ \mathrm{m^4}\approx6.362\times10^{-7}\ \mathrm{m^4} $$

中立軸から縁までの距離は $y_{\max}=d/2=0.030\ \mathrm m$ なので,曲げ応力の公式 $\sigma=My/I$ より,

$$ \sigma_{\max}=\frac{M\,y_{\max}}I=\frac{3.0\times10^3\ \mathrm{N\cdot m}\times0.030\ \mathrm m}{6.362\times10^{-7}\ \mathrm{m^4}}=\frac{90}{6.362\times10^{-7}}\ \mathrm{Pa}\approx1.415\times10^8\ \mathrm{Pa}\approx141.5\ \mathrm{MPa} $$

(単位の確認:$[\mathrm{N\cdot m\cdot m/m^4}]=[\mathrm{N/m^2}]=[\mathrm{Pa}]$ で正しい.断面係数 $Z=\pi d^3/32=\pi\times(0.060)^3/32\approx2.121\times10^{-5}\ \mathrm{m^3}$ を使うと $\sigma_{\max}=M/Z=3.0\times10^3/2.121\times10^{-5}\approx1.415\times10^8\ \mathrm{Pa}$ と,同じ値がすぐに出る.)長方形断面の例題(第20章例題20.8)と同じ手順だが,断面二次モーメントの式だけが異なることに注意する.

演習20.4 単純支持はりのたわみ曲線(右半分)の導出

解答

区間 $L/2\le x\le L$ では,第20章20.6.2節より $M(x)=\dfrac{P(L-x)}2$ である.たわみの微分方程式 $EIv''=M(x)$ の両辺を $x$ で積分する.$\dd(L-x)/\dd x=-1$ であることに注意して,$\dfrac{\dd}{\dd x}\left[-\dfrac P4(L-x)^2\right]=-\dfrac P4\times2(L-x)\times(-1)=\dfrac P2(L-x)=M(x)$ となることから,

$$ EIv'=-\frac P4(L-x)^2+C_3 $$

が1回目の積分の結果であるとわかる(右辺を $x$ で微分すると確かに $M(x)$ に戻ることで確認できる).もう一度,同様に $\dfrac{\dd}{\dd x}\left[\dfrac P{12}(L-x)^3\right]=\dfrac P{12}\times3(L-x)^2\times(-1)=-\dfrac P4(L-x)^2$ であることを使うと,

$$ EIv=\frac P{12}(L-x)^3+C_3x+C_4 $$

が得られる.積分定数 $C_3,C_4$ を,次の2つの条件から決める.

(a) 傾きの条件:区間の境界 $x=L/2$ で,右区間の傾きが,左区間の傾き $EIv'=\dfrac P4x^2-\dfrac{PL^2}{16}$ の,$x=L/2$ での値 $EIv'(L/2)=\dfrac P4\left(\dfrac L2\right)^2-\dfrac{PL^2}{16}=\dfrac{PL^2}{16}-\dfrac{PL^2}{16}=0$(対称性による,たわみ曲線の底)と一致しなければならない:

$$ -\frac P4\left(\frac L2\right)^2+C_3=0 \quad\Longrightarrow\quad -\frac{PL^2}{16}+C_3=0 \quad\Longrightarrow\quad C_3=\frac{PL^2}{16} $$

(b) 支点の境界条件:右端 $x=L$ で支点のたわみは0でなければならない:

$$ EIv(L)=\frac P{12}(L-L)^3+C_3L+C_4=0+\frac{PL^2}{16}\cdot L+C_4=\frac{PL^3}{16}+C_4=0 \quad\Longrightarrow\quad C_4=-\frac{PL^3}{16} $$

したがって,区間 $L/2\le x\le L$ のたわみ曲線は,

$$ EIv(x)=\frac P{12}(L-x)^3+\frac{PL^2}{16}x-\frac{PL^3}{16}\qquad\left(\frac L2\le x\le L\right) $$

となる($(L-x)^3=L^3-3L^2x+3Lx^2-x^3$ を使って展開すると,$EIv(x)=\dfrac{PL^3}{12}-\dfrac{PL^2}{4}x+\dfrac{PL}4x^2-\dfrac P{12}x^3+\dfrac{PL^2}{16}x-\dfrac{PL^3}{16}=\dfrac{PL^3}{48}-\dfrac{3PL^2}{16}x+\dfrac{PL}4x^2-\dfrac P{12}x^3$ の形にもなる).

(c) 決めた積分定数を使って,$x=L/2$ でのたわみが左区間の結果と一致することを確認しよう.$x=L/2$ を代入すると,

$$ EIv\left(\frac L2\right)=\frac P{12}\left(\frac L2\right)^3+\frac{PL^2}{16}\cdot\frac L2-\frac{PL^3}{16}=\frac{PL^3}{96}+\frac{PL^3}{32}-\frac{PL^3}{16} $$

通分(96を分母にそろえる)すると,

$$ \frac{PL^3}{96}+\frac{3PL^3}{96}-\frac{6PL^3}{96}=\frac{(1+3-6)PL^3}{96}=-\frac{2PL^3}{96}=-\frac{PL^3}{48} $$

すなわち $v(L/2)=-\dfrac{PL^3}{48EI}$ となり,たしかに20.6.4項で左側の区間から求めた最大たわみの値 $\delta_{\max}=PL^3/(48EI)$ と,符号($v$ は上向き正なので下向きのたわみは負)を除いてぴったり一致する.条件(a),(b)の2つだけから積分定数を決めたにもかかわらず,たわみそのものの連続性まで自動的に満たされたことから,左右どちらの区間から出発しても矛盾なく同じ1本のたわみ曲線・同じ最大たわみに到達することが確認できた.

演習20.5 伝動軸の設計

解答

(1) 角速度は,回転数 $N=1200\ \mathrm{rpm}$ より,

$$ \omega=\frac{2\pi N}{60}=\frac{2\pi\times1200}{60}\ \mathrm{rad/s}=2\pi\times20\ \mathrm{rad/s}\approx125.66\ \mathrm{rad/s} $$

動力の公式 $P=T\omega$ より,必要なトルクは,

$$ T=\frac P\omega=\frac{45\times10^3\ \mathrm W}{125.66\ \mathrm{rad/s}}\approx358.1\ \mathrm{N\cdot m} $$

第20章例題20.15と同じく,ねじり応力の公式 $\tau_{\max}=Tr/J$ に円形断面の $J=\pi d^4/32$,$r=d/2$ を代入して整理した関係 $\tau_{\max}=16T/(\pi d^3)$ に,$\tau_{\max}=\tau_{\mathrm a}=35\ \mathrm{MPa}$ を代入し,$d$ について解くと,

$$ d=\left(\frac{16T}{\pi\tau_{\mathrm a}}\right)^{1/3}=\left(\frac{16\times358.1}{\pi\times35\times10^6}\right)^{1/3}\ \mathrm m=\left(\frac{5730}{1.0996\times10^8}\right)^{1/3}\ \mathrm m\approx\left(5.212\times10^{-5}\right)^{1/3}\ \mathrm m\approx0.03735\ \mathrm m $$

すなわち $d\approx37.4\ \mathrm{mm}$.例題20.15と同様に,実際にはこれ以上の標準直径(例えば $d=40\ \mathrm{mm}$)を選ぶのが実務上の通例である.

(2) $d=40\ \mathrm{mm}=0.040\ \mathrm m$ の軸の極断面二次モーメントは $J=\dfrac{\pi d^4}{32}=\dfrac{\pi\times(0.040)^4}{32}\ \mathrm{m^4}\approx2.513\times10^{-7}\ \mathrm{m^4}$.表面の最大せん断応力は,

$$ \tau_{\max}=\frac{16T}{\pi d^3}=\frac{16\times358.1}{\pi\times(0.040)^3}\ \mathrm{Pa}=\frac{5730}{2.011\times10^{-4}}\ \mathrm{Pa}\approx2.85\times10^7\ \mathrm{Pa}\approx28.5\ \mathrm{MPa} $$

で,許容応力 $35\ \mathrm{MPa}$ より小さく,余裕がある.ねじれ角は,$G=79\ \mathrm{GPa}$,$L=1.5\ \mathrm m$ として公式 $\varphi=TL/(GJ)$ より,

$$ \varphi=\frac{358.1\times1.5}{79\times10^9\times2.513\times10^{-7}}\ \mathrm{rad}=\frac{537.2}{1.985\times10^4}\ \mathrm{rad}\approx0.02706\ \mathrm{rad} $$

度に直すと $0.02706\times180/\pi\approx1.55°$ である.

演習20.6 軸表面の純粋せん断状態と $45°$ 方向の主応力

解答

純粋せん断状態 $\sigma_x=\sigma_y=0$,$\tau_{xy}=\tau_{\max}$ を,第20章の主応力の公式(法則20.2)

$$ \sigma_{1,2}=\frac{\sigma_x+\sigma_y}2\pm\sqrt{\left(\frac{\sigma_x-\sigma_y}2\right)^2+\tau_{xy}^2} $$

に代入すると,$\sigma_x=\sigma_y=0$ より平均値の項は0,根号の中の $\left(\dfrac{\sigma_x-\sigma_y}2\right)^2$ の項も0になるので,

$$ \sigma_{1,2}=0\pm\sqrt{0+\tau_{\max}^2}=\pm\tau_{\max} $$

すなわち,(1) $\sigma_1=+\tau_{\max}$(引張),$\sigma_2=-\tau_{\max}$(圧縮)である.

(2) 主応力面の向きは,第20章の式 $\tan2\theta_{\mathrm p}=\dfrac{2\tau_{xy}}{\sigma_x-\sigma_y}$ で求まるが,分母 $\sigma_x-\sigma_y=0$ になるため,この式は $\tan2\theta_{\mathrm p}\to\infty$($2\theta_{\mathrm p}=90°$)となる角を意味する.正接が無限大になるのは角が $90°$(およびその整数倍だけずれた角)のときなので,$2\theta_{\mathrm p}=90°$,すなわち

$$ \theta_{\mathrm p}=45° $$

である.このとき $a=(\sigma_x-\sigma_y)/2=0,\ b=\tau_{\max}$ で $(\cos2\theta_{\mathrm p},\sin2\theta_{\mathrm p})=(a,b)/r=(0,1)$ の符号の組に当たるので,$\theta_{\mathrm p}=45°$ の面が最大主応力 $\sigma_1=+\tau_{\max}$ の面である.実際に,座標変換公式(第20章の公式20.1)に $\theta=45°$($\cos90°=0,\ \sin90°=1$)を代入して確かめると,

$$ \sigma_{x'}=0+0\times0+\tau_{\max}\times1=\tau_{\max},\qquad \tau_{x'y'}=-0\times1+\tau_{\max}\times0=0 $$

となり,$\theta=45°$ の面でたしかにせん断応力が0,垂直応力が $\tau_{\max}$($=\sigma_1$)になっていることが確認できる.

この結果は,20.7節の「応用:ねじりの主応力と脆性材料の破断面」で述べた事実——円形断面の軸がねじりを受けるとき,表面は純粋せん断の状態にあり,軸方向から $45°$ 傾いた向きに主応力(最大引張応力)が生じる——の根拠そのものである.脆性材料(チョークや鋳鉄など)をねじると,この $45°$ 方向の引張主応力に垂直な面,すなわち軸に対して $45°$ 傾いたらせん状の面で破断するのは,まさにこの計算結果のためである.

演習20.7 一般化されたフックの法則 — アルミニウム板のひずみ

解答

$E=70\,000\ \mathrm{MPa}$,$\nu=0.33$,$\sigma_x=120\ \mathrm{MPa}$,$\sigma_y=-40\ \mathrm{MPa}$,$\sigma_z=0$ を,第20章の一般化されたフックの法則(法則20.3)に代入する.

(1)

$$ \begin{aligned} \varepsilon_x&=\frac{\sigma_x-\nu(\sigma_y+\sigma_z)}E=\frac{120-0.33\times(-40)}{70\,000}=\frac{133.2}{70\,000}\approx1.90\times10^{-3}\\ \varepsilon_y&=\frac{\sigma_y-\nu(\sigma_z+\sigma_x)}E=\frac{-40-0.33\times120}{70\,000}=\frac{-79.6}{70\,000}\approx-1.14\times10^{-3}\\ \varepsilon_z&=\frac{\sigma_z-\nu(\sigma_x+\sigma_y)}E=\frac{0-0.33\times(120-40)}{70\,000}=\frac{-26.4}{70\,000}\approx-3.77\times10^{-4} \end{aligned} $$

$\sigma_z=0$ でも,面内の応力によるポアソン効果のために $\varepsilon_z=-3.77\times10^{-4}$(縮み)が残る.

(2) 体積ひずみは3つのひずみの和で,$\varepsilon_V=1.903\times10^{-3}-1.137\times10^{-3}-0.377\times10^{-3}\approx3.89\times10^{-4}$.第20章の式 $\varepsilon_V=(1-2\nu)(\sigma_x+\sigma_y+\sigma_z)/E$ で確認すると,$(1-2\times0.33)\times(120-40)/70\,000=0.34\times80/70\,000\approx3.89\times10^{-4}$ となり,一致する.

(3) 厚さの変化は $\Delta t=\varepsilon_zt=-3.77\times10^{-4}\times5.0\ \mathrm{mm}\approx-1.89\times10^{-3}\ \mathrm{mm}$,すなわち約 $1.9\ \mathrm{\mu m}$ だけ薄くなる.

演習20.8 片持ちはりの反力・曲げモーメント図・最大曲げ応力・先端たわみ

解答

(1) 力のつり合いから,壁の反力は上向きに $R_0=P=2.0\ \mathrm{kN}$.壁のまわりのモーメントのつり合いから,反力モーメントは反時計回りに $M_0=PL=2.0\times10^3\times1.5\ \mathrm{N\cdot m}=3.0\ \mathrm{kN\cdot m}$.

(2) 固定端を $x=0$ として,断面より左側の力を数えると,$Q(x)=R_0=2.0\ \mathrm{kN}$(全長で一定),$M(x)=R_0x-M_0=2.0x-3.0\ \mathrm{kN\cdot m}=-2.0\,(1.5-x)\ \mathrm{kN\cdot m}$($x$ は $\mathrm m$ 単位).$M(0)=-3.0\ \mathrm{kN\cdot m}$,$M(L)=0$ で,どちらも $\dd M/\dd x=2.0=Q$ を満たしている.

(3) 曲げモーメントの大きさが最大なのは固定端で,$\abs{M}_{\max}=3.0\ \mathrm{kN\cdot m}$.断面二次モーメントは $I=\dfrac{bh^3}{12}=\dfrac{0.030\times0.060^3}{12}\ \mathrm{m^4}=5.4\times10^{-7}\ \mathrm{m^4}$,$y_{\max}=h/2=0.030\ \mathrm m$ なので,

$$ \sigma_{\max}=\frac{\abs{M}_{\max}\,y_{\max}}I=\frac{3.0\times10^3\times0.030}{5.4\times10^{-7}}\ \mathrm{Pa}\approx1.667\times10^8\ \mathrm{Pa}\approx166.7\ \mathrm{MPa} $$

$M\lt0$(はりは上に凸に曲がる)なので,固定端の断面の上面が引張($+167\ \mathrm{MPa}$),同じ断面の下面が圧縮($-167\ \mathrm{MPa}$)である.鋼の降伏応力の代表値(約 $250\ \mathrm{MPa}$)より小さい.

(4) 先端のたわみは,第20章20.6.4項の導出(片持ちはり・先端集中荷重)の結果 $\delta_{\max}=\dfrac{PL^3}{3EI}$ より,

$$ \delta_{\max}=\frac{2.0\times10^3\times1.5^3}{3\times206\times10^9\times5.4\times10^{-7}}\ \mathrm m=\frac{6750}{3.337\times10^5}\ \mathrm m\approx2.02\times10^{-2}\ \mathrm m\approx20.2\ \mathrm{mm} $$

下向きに約 $20\ \mathrm{mm}$(長さの約 $1/74$)である.

演習20.9 4点曲げ強さ

解答

(1) 荷重点の間の曲げモーメントは,$M_{\max}=\dfrac P2\times\dfrac{L-L_{\mathrm i}}2=\dfrac{P(L-L_{\mathrm i})}4$.$P=960\ \mathrm N$,$L-L_{\mathrm i}=40-20=20\ \mathrm{mm}=0.020\ \mathrm m$ を代入して,

$$ M_{\max}=\frac{960\times0.020}4\ \mathrm{N\cdot m}=4.8\ \mathrm{N\cdot m} $$

断面係数は $Z=\dfrac{bd^2}6=\dfrac{0.0040\times(0.0030)^2}6\ \mathrm{m^3}=6.0\times10^{-9}\ \mathrm{m^3}$ なので,曲げ強さは

$$ \sigma_{\mathrm f}=\frac{M_{\max}}Z=\frac{4.8}{6.0\times10^{-9}}\ \mathrm{Pa}=8.0\times10^8\ \mathrm{Pa}=800\ \mathrm{MPa} $$

である.(第20章の式 $\sigma_{\mathrm f}=3P(L-L_{\mathrm i})/(2bd^2)=3\times960\times0.020/(2\times0.0040\times9.0\times10^{-6})=57.6/(7.2\times10^{-8})=8.0\times10^8\ \mathrm{Pa}$ とも一致する.)

(2) 同じ荷重 $960\ \mathrm N$ を,スパン $L=40\ \mathrm{mm}$ の3点曲げでかけると,最大曲げモーメントは $M_{\max}=PL/4=960\times0.040/4=9.6\ \mathrm{N\cdot m}$ で,4点曲げの $4.8\ \mathrm{N\cdot m}$ の2倍である($L-L_{\mathrm i}=L/2$ なので $PL/4\div\{P(L/2)/4\}=2$).このときの最大曲げ応力は $9.6/(6.0\times10^{-9})=1.6\times10^9\ \mathrm{Pa}=1600\ \mathrm{MPa}$ にもなる.つまり,同じ荷重をかけたとき,3点曲げは荷重点の真下の1点に大きな応力が集中し,4点曲げは荷重点の間の広い区間に半分の大きさの応力が一様にかかる.

演習20.10 中空軸と中実軸のトルク容量

解答

中空軸の極断面二次モーメントは,

$$ J=\frac{\pi(D^4-d^4)}{32}=\frac{\pi\times\left\{(0.060)^4-(0.040)^4\right\}}{32}\ \mathrm{m^4}=\frac{\pi\times(1.296\times10^{-5}-2.56\times10^{-6})}{32}\ \mathrm{m^4}=\frac{\pi\times1.04\times10^{-5}}{32}\ \mathrm{m^4}\approx1.021\times10^{-6}\ \mathrm{m^4} $$

表面の半径は $D/2=0.030\ \mathrm m$.$\tau_{\max}=TR/J=\tau_{\mathrm a}$ より,許容トルクは,

$$ T_{\text{中空}}=\frac{\tau_{\mathrm a}J}{R}=\frac{40\times10^6\times1.021\times10^{-6}}{0.030}\ \mathrm{N\cdot m}\approx1.361\times10^3\ \mathrm{N\cdot m} $$

次に,断面積が等しい中実軸を考える.中空軸の断面積は $A=\dfrac{\pi(D^2-d^2)}4=\dfrac{\pi(0.060^2-0.040^2)}4\ \mathrm{m^2}=\dfrac{\pi\times2.0\times10^{-3}}4\ \mathrm{m^2}\approx1.571\times10^{-3}\ \mathrm{m^2}$.中実軸の直径 $d_{\mathrm s}$ は $\dfrac{\pi d_{\mathrm s}^2}4=A$ より $d_{\mathrm s}^2=D^2-d^2=2.0\times10^{-3}\ \mathrm{m^2}$,つまり $d_{\mathrm s}=\sqrt{2.0\times10^{-3}}\ \mathrm m\approx0.04472\ \mathrm m=44.7\ \mathrm{mm}$ である.このときの極断面二次モーメントは $J_{\mathrm s}=\dfrac{\pi d_{\mathrm s}^4}{32}=\dfrac{\pi\times(2.0\times10^{-3})^2}{32}\ \mathrm{m^4}\approx3.927\times10^{-7}\ \mathrm{m^4}$,表面の半径は $d_{\mathrm s}/2=0.02236\ \mathrm m$ なので,許容トルクは,

$$ T_{\text{中実}}=\frac{\tau_{\mathrm a}J_{\mathrm s}}{d_{\mathrm s}/2}=\frac{40\times10^6\times3.927\times10^{-7}}{0.02236}\ \mathrm{N\cdot m}\approx7.03\times10^2\ \mathrm{N\cdot m} $$

したがって,$T_{\text{中空}}/T_{\text{中実}}\approx1361/703\approx1.94$ となり,同じ質量なら,中空軸は中実軸の約1.9倍のトルクを伝えられる.ねじり応力は中心から離れるほど大きく,中心付近の材料はほとんど仕事をしていないので,その材料を外側に回すほうが効率がよいためである.

第21章 破壊力学の基礎 — 応力集中・グリフィス理論・破壊靱性

演習21.1 円孔の応力集中係数を曲率半径の式から導く

解答

第21章では,楕円孔(長径 $2a$,短径 $2b$)の長径の端での曲率半径が

$$ \rho=\frac{b^2}{a} $$

であること,そしてこれを使うと,Inglisの応力集中の式が

$$ \sigma_{\max}=\sigma\left(1+2\sqrt{\frac a\rho}\right) $$

と書けることを示した.円孔は,楕円の長径と短径が等しい特別な場合,すなわち $b=a$ である.このとき曲率半径は

$$ \rho=\frac{b^2}{a}=\frac{a^2}{a}=a $$

となる.つまり,円孔では曲率半径 $\rho$ はそのまま半径 $a$ に等しい(円の曲率半径は,その円自身の半径だから,これは幾何学的にも当然の結果である).これを $\sigma_{\max}=\sigma(1+2\sqrt{a/\rho})$ に代入すると,

$$ \sigma_{\max}=\sigma\left(1+2\sqrt{\frac a a}\right)=\sigma(1+2\sqrt1)=\sigma(1+2\times1)=3\sigma $$

となり,たしかに応力集中係数3が得られる.これは,Inglisの一般式 $\sigma_{\max}=\sigma(1+2a/b)$ に直接 $a=b$ を代入して求めた結果(第21章 例題21.1)と完全に一致する——曲率半径を経由する道筋でも,長径・短径を直接使う道筋でも,同じ結論に達することが確認できた.

演習21.2 Griffithの式から臨界き裂長さを逆算する

解答

第21章で導いたGriffithの式(平面応力)は

$$ \sigma_{\mathrm f}=\sqrt{\frac{2E\gamma_{\mathrm s}}{\pi a}} $$

である.これを,き裂の半長 $a$ について解く.両辺を2乗すると

$$ \sigma_{\mathrm f}^2=\frac{2E\gamma_{\mathrm s}}{\pi a} $$

両辺に $\pi a$ を掛けて $\sigma_{\mathrm f}^2$ で割ると,

$$ a=\frac{2E\gamma_{\mathrm s}}{\pi\sigma_{\mathrm f}^2} $$

ここに,ソーダ石灰ガラスの値 $E=70\ \mathrm{GPa}=70\times10^9\ \mathrm{Pa}$,$\gamma_{\mathrm s}=0.6\ \mathrm{J/m^2}$,測定された破壊応力 $\sigma_{\mathrm f}=60\ \mathrm{MPa}=60\times10^6\ \mathrm{Pa}$ を代入する:

$$ a=\frac{2\times70\times10^9\times0.6}{\pi\times(60\times10^6)^2}\ \mathrm m =\frac{8.4\times10^{10}}{\pi\times3.6\times10^{15}}\ \mathrm m =\frac{8.4\times10^{10}}{1.131\times10^{16}}\ \mathrm m \approx7.4\times10^{-6}\ \mathrm m $$

単位の確認:分子 $[\mathrm{Pa\cdot J/m^2}]=[\mathrm{Pa\cdot Pa\cdot m}]=[\mathrm{Pa^2\cdot m}]$,分母 $[\mathrm{Pa^2}]$,割ると $[\mathrm m]$ となり正しい.したがって,この試験片には半長 $a\approx7.4\ \mu\mathrm m$(全長にして約$15\ \mu\mathrm m$)程度のき裂があったと推定される.これは,肉眼ではほとんど見えないくらいの微小な傷でも,ガラスの強度を大きく左右することを示す典型的な数値例である.

演習21.3 許容設計応力を求める

解答

応力拡大係数の定義式は

$$ K_{\mathrm I}=Y\sigma\sqrt{\pi a} $$

である.き裂が不安定に伸び始める条件は $K_{\mathrm I}=K_{\mathrm{IC}}$ なので,これを許容できる限界として,$\sigma$ について解く:

$$ \sigma_{\text{許容}}=\frac{K_{\mathrm{IC}}}{Y\sqrt{\pi a}} $$

アルミニウム合金の $K_{\mathrm{IC}}=30\ \mathrm{MPa\,m^{1/2}}=30\times10^6\ \mathrm{Pa\,m^{1/2}}$,欠陥の深さ $a=2\ \mathrm{mm}=2\times10^{-3}\ \mathrm m$,形状係数 $Y=1.12$(表面き裂)を代入する:

$$ \sigma_{\text{許容}}=\frac{30\times10^6}{1.12\times\sqrt{\pi\times2\times10^{-3}}}\ \mathrm{Pa} =\frac{30\times10^6}{1.12\times0.0793}\ \mathrm{Pa} =\frac{30\times10^6}{0.0888}\ \mathrm{Pa} \approx3.38\times10^{8}\ \mathrm{Pa} $$

したがって,許容できる引張応力はおよそ $338\ \mathrm{MPa}$ である.単位の確認:$K_{\mathrm{IC}}$($\mathrm{Pa\cdot m^{1/2}}$)を $\sqrt{\pi a}$($\mathrm{m^{1/2}}$)で割ると $\mathrm{Pa}$ となり正しい.なお,一般的なアルミニウム合金の降伏応力の代表値(合金の種類・熱処理にもよるが,おおよそ200–300 MPa程度)と比べると,この許容応力338 MPaはそれを上回っており,実際にはき裂が伸びる前に部材が降伏してしまう可能性がある.設計では,破壊力学的な許容応力と,降伏強度にもとづく許容応力の両方を計算し,小さいほうを採用する必要がある.

演習21.4 試験片の厚さが平面ひずみ条件を満たすか判定する

解答

ASTM E399の平面ひずみ条件は,第21章で見たように

$$ B,\ a,\ (W-a)\ \ge\ 2.5\left(\frac{K_{\mathrm{IC}}}{\sigma_{\mathrm y}}\right)^2 $$

である.厚さ $B$ について,右辺の最小限必要な厚さを計算する.$K_{\mathrm{IC}}=50\ \mathrm{MPa\,m^{1/2}}=50\times10^6\ \mathrm{Pa\,m^{1/2}}$,$\sigma_{\mathrm y}=900\ \mathrm{MPa}=900\times10^6\ \mathrm{Pa}$ を代入すると,

$$ B_{\min}=2.5\left(\frac{50\times10^6}{900\times10^6}\right)^2\mathrm m =2.5\times(0.0556)^2\ \mathrm m =2.5\times3.086\times10^{-3}\ \mathrm m \approx7.7\times10^{-3}\ \mathrm m=7.7\ \mathrm{mm} $$

必要な最小厚さはおよそ$7.7\ \mathrm{mm}$である.これに対し,実際に使った試験片の厚さは$B=6\ \mathrm{mm}$であり,$6\ \mathrm{mm}\lt7.7\ \mathrm{mm}$なので,この条件は満たされていない.つまり,この試験片は平面ひずみ条件を満たすには薄すぎる.

この条件が満たされていないと,き裂先端の塑性域(第21章21.6節)が試験片の厚さに対して無視できないほど大きくなり,先端の応力状態が理想的な平面ひずみ(3軸拘束)からずれて,平面応力に近い状態になってしまう.平面応力に近い状態では,塑性変形がより起こりやすいため,見かけの破壊靱性は,真の(平面ひずみの)$K_{\mathrm{IC}}$よりも大きめの値として測定されてしまう.したがって,この試験で得られた値は,材料に固有の$K_{\mathrm{IC}}$として設計に使うことはできず,より厚い試験片で測定し直す必要がある.

演習21.5 R曲線の形と破壊の起こり方

解答

一定の応力 $\sigma$ のもとでのエネルギー解放率 $\mathcal G(a)=\pi\sigma^2a/E'$ は,き裂の半長 $a$(あるいはき裂の進展量 $\Delta a$)に比例する,原点を通る直線である.第21章の定理(き裂の安定・不安定進展の条件)は,き裂がわずかに伸びるには $\mathcal G=R$ が必要で,そのうえで $\dd\mathcal G/\dd a$ と $\dd R/\dd a$ の大小関係が安定・不安定を決める,というものだった.

R曲線が水平(一定,$\dd R/\dd a=0$)な材料(ガラスのような理想的な脆性体)では,応力を少しずつ上げていくと,$\mathcal G$ の直線はある応力で一定値の $R$ に達する.この瞬間,$\dd\mathcal G/\dd a>0=\dd R/\dd a$ となり,不安定条件が即座に満たされる.したがって,き裂は「それまでは何も起こらず,ある応力に達した瞬間に前ぶれなく加速して破壊する」という,まさに第21.2節で見たGriffithの理論そのものの振る舞いを示す.

右上がりのR曲線をもつ材料では,$\mathcal G$ の直線が曲線に最初に達する点(交点)では,まだ曲線の傾き $\dd R/\dd a$ のほうが直線の傾き $\dd\mathcal G/\dd a$ より大きいので,安定条件($\dd\mathcal G/\dd a\lt\dd R/\dd a$)が満たされ,き裂はそこでいったん止まる.応力をさらに上げると,$\mathcal G$ の直線の傾きも大きくなり(傾きは$\pi\sigma^2/E'$に比例するので,$\sigma$が大きいほど急になる),やがて直線がR曲線に接するところまで来ると,そこから先は不安定になる.つまりこの材料では,き裂は「応力を上げるたびに,少しずつ,安定に伸びていき,最後にある応力で一気に不安定破壊に至る」という,段階を踏んだ壊れ方をする.

実用上の利点:右上がりのR曲線をもつ材料は,最初にどれだけの大きさのき裂(欠陥)があったかに,強度があまり敏感でなくなる.小さいき裂もある程度伸びてから初めて不安定になるため,最終的な破壊応力が,初期のき裂サイズのばらつきに対して鈍感になりやすい.これは,セラミックスの強度のばらつき(第22章で学ぶWeibull統計と関わる)を抑えるうえで重要な性質であり,ジルコニアの変態強化や,窒化ケイ素の架橋強化(第21章21.7節)が実用材料として重視される理由の一つである.

演習21.6 小規模降伏が成り立たなくなる状況

解答

第21章で見たように,き裂先端の塑性域の大きさは,Irwinの見積もりでは $r_{\mathrm p}=\dfrac{1}{2\pi}(K_{\mathrm I}/\sigma_{\mathrm y})^2$,Dugdaleモデルでは $r_{\mathrm D}=\dfrac\pi8(K_{\mathrm I}/\sigma_{\mathrm y})^2$ と,どちらも $(K_{\mathrm I}/\sigma_{\mathrm y})^2$ に比例する.したがって,塑性域が大きくなるのは,(i) $K_{\mathrm I}$(すなわち応力やき裂の大きさ)が大きいとき,または (ii) 降伏応力 $\sigma_{\mathrm y}$ が小さい(軟らかい)材料のとき,である.

具体例:軟鋼(低炭素鋼)のような,降伏応力が比較的低く($\sigma_{\mathrm y}\sim200$–$300\ \mathrm{MPa}$程度),かつ延性が高くてある程度大きな $K_{\mathrm I}$ まで破壊せずに耐えられる材料に,比較的大きなき裂(あるいは切欠き)がある部材を考える.このとき,先端の塑性域の大きさは,本章例題21.6で構造用鋼について計算したように,数mmからときには数十mmのオーダーに達することがある.部材の板厚や,き裂から部材の端までの残りの寸法(リガメント)が,この塑性域の大きさと同じオーダーか,それより小さければ,小規模降伏の前提(塑性域が部材全体に対して「小さな一点」とみなせること)が崩れる.具体的には,薄い板状の部材(板厚が数mm程度)に,軟らかい鋼を使い,比較的大きな切欠きや溶接欠陥がある場合などが,この状況に当てはまる.

$K_{\mathrm{IC}}$をそのまま使うとどうなるか:小規模降伏が成り立たない状況では,き裂先端のまわりの応力場は,もはや式(き裂先端のK場)で表される弾性論の解にしたがわない.先端の周囲の広い範囲で材料が降伏し,大規模な塑性変形(構造全体が降伏する場合は全面降伏,general yieldingと呼ばれる)が生じるため,$K_{\mathrm I}$という1つの数だけでは先端の状態を代表できなくなる.このような場合に,弾性論だけにもとづく$K_{\mathrm{IC}}$を安全率の根拠として使うと,実際の破壊挙動(大きな塑性変形を経てから破断する,延性破壊に近い挙動)を正しく捉えられず,過度に安全側(あるいは逆に,塑性崩壊という別の破壊モードを見落とす形で危険側)の評価をしてしまう恐れがある.このような場合には,本章21.6.4節で紹介したJ積分など,弾塑性破壊力学の手法を使う必要がある.

演習21.7 荷重の向きからモードを判別する

解答

第21章21.3.2節の定義にもとづいて,き裂面がどの向きに,どうずれるかに注目して判別する.

(1) き裂面に垂直な方向の引張応力によって,き裂の上下の面が互いに離れる向き(面を開く向き)に変位する.これは,き裂面に垂直な引張によって口を開く変形であり,モードI(開口型)である.本章でここまで扱ってきた応力拡大係数 $K_{\mathrm I}$ や応力場は,すべてこの状況を表している.

(2) き裂の進行方向と平行に,き裂をはさんで上下の面が互いに逆向きにずれる——これは,き裂面内でのせん断変形であり,モードII(面内せん断型)である.き裂面自体はほとんど開かず,面の中で滑るようにずれる点がモードIと異なる.

(3) 丸棒のねじりでは,軸方向のき裂の前縁と平行な向き(き裂の前縁を軸とする回転の向き)に,面が面外方向へずれる.これは,き裂の前縁と平行にずれる面外のせん断変形であり,モードIII(面外せん断型)である.21.3.2節で述べたように,丸棒のねじり破壊はモードIIIが現れる典型例である.

このように,(1)–(3)はいずれも異なる向きのずれ方をしており,き裂面が「垂直に開く」か「面内でずれる」か「面外でずれる」かを区別すれば,モードI・II・IIIを判別できる.なお,実際の部材では複数のモードが混在することも多いが,21.3.2節で述べたように,脆性材料のき裂は最大主応力に垂直な向きに進もうとするため,斜めの荷重がかかっても自然にモードIが卓越する向きへ曲がっていく傾向がある.

第22章 疲労・強度のばらつき・環境による破壊

演習22.1 無限寿命設計と有限寿命設計

解答

S–N曲線に,くり返し数をどれだけ増やしても壊れない応力振幅の上限(疲労限度 $\sigma_{\mathrm w}$)がはっきり現れる材料(鋼などの体心立方金属に多い)では,使用中の応力振幅を常に $\sigma_{\mathrm w}$ より低く抑えておけば,理論上は何回くり返しても疲労破壊は起こらない.このような設計方針を無限寿命設計という.自動車のコイルばねや,据え置き型の機械の軸受のように,長期間にわたって同じ振幅の荷重をくり返し受け続ける部品でよく採用される.

これに対し,アルミニウム合金のように明瞭な疲労限度が現れない材料(面心立方金属に多い)では,どれほど応力振幅を下げても,くり返し数を十分大きくすれば理論上はいつか破壊に至ってしまう.そのため,あらかじめ「何回のくり返し(あるいは何年,何万飛行時間)まで安全に使うか」という設計寿命を定め,Basquin則やParis則を使って,その寿命に対応する許容応力振幅を計算し,実際の使用応力をそれ以下に抑える.この設計方針を有限寿命設計という.航空機の機体(軽量化のためアルミニウム合金が多用され,しかも疲労限度に頼れない)などがその代表例で,き裂があることを前提に,定期検査でき裂の有無と大きさを確認し,必要なら部品を交換する(損傷許容設計)という運用と組み合わされることも多い.

まとめると,無限寿命設計は「疲労限度以下に応力を抑えて,寿命そのものを気にしない」考え方,有限寿命設計は「疲労限度が使えないので,寿命を計算して管理する」考え方であり,材料の疲労限度の有無によって,とるべき設計方針が根本的に変わることが分かる.

演習22.2 Paris則の指数 $n$ の大小とき裂進展の挙動

解答

第22章で導いた,Paris則を積分した疲労寿命の式($n\neq2$)は,

$$ N_{\mathrm f}=\frac{a_{\mathrm c}^{\,p}-a_0^{\,p}}{p\,C(Y\Delta\sigma)^{n}\pi^{n/2}},\qquad p=1-\frac n2 $$

という形をしていた.$a_0\ll a_{\mathrm c}$ で $n\gt2$($p\lt0$)のとき,$a_{\mathrm c}^{\,p}$ は $a_0^{\,p}$ に比べて小さく無視できるので,$N_{\mathrm f}\approx a_0^{\,p}\big/\{|p|\,C(Y\Delta\sigma)^n\pi^{n/2}\}$,すなわち近似的に $N_{\mathrm f}\propto(\Delta\sigma)^{-n}$(分母に $(\Delta\sigma)^n$ が入っている)という関係になっている(厳密には $a_{\mathrm c}$ も応力とともに変わるが,その影響は小さい).したがって,応力範囲 $\Delta\sigma$ を $k$ 倍にしたとき,寿命はおよそ $k^{-n}$ 倍になる.また,き裂の進展速度は $\dd a/\dd N=C(\Delta K)^n\propto(\Delta\sigma)^n$ なので,同じ長さのき裂について,進展速度は $k^{n}$ 倍になる.

$n$ が大きい材料($n=10$ 程度など)では,応力範囲をわずか10%上げただけで($k=1.1$),寿命はおよそ $1.1^{-10}\approx0.386$ 倍——半分以下に激減し,進展速度は $1.1^{10}\approx2.6$ 倍になる.逆に応力をわずかに下げるだけで,寿命は大きく延びる.つまり,$n$ が大きい材料は,き裂進展速度が応力に対して非常に敏感であり,設計応力のわずかな見積もり誤差が寿命の予測に大きく響く,扱いにくい(が,逆に言えば応力さえ十分低く保てば長寿命を得やすい)材料だといえる.

一方,$n$ が小さい材料($n=2$–$3$程度)では,同じ10%の応力変化に対する寿命の変化はずっと緩やかである($n=3$ なら寿命は $1.1^{-3}\approx0.75$ 倍,進展速度は $1.1^3\approx1.33$ 倍).こうした材料は,応力の見積もりに多少の誤差があっても寿命予測が大きく狂いにくく,設計者にとって扱いやすい——ただし,与えられた応力での絶対的な寿命そのものが長いか短いかは,$n$ だけでなく係数 $C$ にもよるので,$n$ の大小だけで「良い材料・悪い材料」と単純に決めつけることはできない点には注意が必要である.

演習22.3 Miner則の限界

解答

Miner則 $D=\sum_i n_i/N_i$ は,どの順序で応力振幅をかけても,同じ組み合わせの $(n_i,N_i)$ であれば同じ損傷度 $D$ になる,と仮定している.しかし実際の材料では,大きな応力を先にかけると,き裂先端の周辺に局所的な塑性変形が生じ,除荷後にその領域に圧縮の残留応力が残ることがある.この残留応力は,その後の小さな応力振幅に対してき裂の開閉を妨げる向きにはたらき,き裂の進展を遅らせる(過大荷重によるき裂進展遅延効果).逆に,圧縮側の過大荷重を先にかけると,その後の疲労寿命がかえって短くなる場合もある.こうした「どんな順序で荷重をかけたか」に依存する効果を荷重順序効果(load sequence effect)と呼ぶ.

Miner則は,こうした荷重順序効果を一切考慮せず,各振幅の寄与を単純に線形に足し合わせるだけの近似である.そのため,実際の荷重パターン(とくに,大きな荷重と小さな荷重が不規則に混在するランダム荷重)に対しては,Miner則による予測が実際の寿命より過大評価・過小評価のどちらにもなりうる.重要な構造物(航空機の主要構造,原子力プラントの配管など)の設計では,Miner則を初期の簡易評価に使いつつ,実際に近い荷重パターンを再現した実物大の疲労試験や,荷重順序効果を考慮したより詳しい解析(不規則な荷重の時間変化から,応力振幅とくり返し数の組を数え出すレインフロー法と組み合わせた累積損傷評価など)で設計を検証することが不可欠である.

演習22.4 Weibull係数 $m$ の大小と強度分布の広がり

解答

Weibullプロットの直線の式は

$$ \ln\ln\frac1{1-P_{\mathrm f}}=m\ln\sigma-m\ln\sigma_0 $$

であり,傾きがWeibull係数 $m$ そのものである.$m=20$(傾きが急)の直線は,横軸 $\ln\sigma$ がわずかに変化しただけで,縦軸(したがって破壊確率 $P_{\mathrm f}$)が大きく変化する——言い換えると,破壊確率が0%近くから100%近くまで変わる応力の範囲がせまい.これは,強度の値が特性強度 $\sigma_0$ のごく近くに集中している(ばらつきが小さい)ことを意味する.

一方,$m=5$(傾きが緩やか)の直線は,同じだけ横軸(応力)が変化しても,縦軸(破壊確率)の変化が小さい.これは,破壊確率が0%近くから100%近くまで変わるのに,より広い応力の範囲を要することを意味し,強度の値が $\sigma_0$ のまわりに広く散らばっている(ばらつきが大きい)ことに対応する.つまり,Weibullプロットの傾きが急な材料ほどばらつきが小さく,傾きが緩やかな材料ほどばらつきが大きい.

$m$ が小さい(ばらつきが大きい)材料を実際の構造物に使う設計者は,(i) 統計的に十分な本数の強度試験を行って $\sigma_0,m$ を精度良く決定し,(ii) 平均的な強度ではなく,許容できる破壊確率(例えば0.1%や0.01%)に対応する,かなり低い応力を設計基準として使い,(iii) 22.7節で見た寸法効果・有効体積を考慮して,実際の部品サイズでの強度を正しく見積もる,といった対策をとる必要がある.また,そもそも $m$ が小さいこと自体が「欠陥のばらつきが大きい」ことを反映しているので,製造工程(原料粉末の均質化,焼結条件の管理など)を改善して欠陥のばらつきを減らし,$m$ を大きくすることも根本的な対策になる.

演習22.5 曲げ強度と引張強度の違い

解答

第22章では,3点曲げ試験の有効体積が

$$ V_{\mathrm{eff}}=\frac{V}{2(m+1)^2} $$

となること($V$:支点間の全体積)を積分で示した.例えば $m=10$ のとき,$V_{\mathrm{eff}}/V=1/\{2\times11^2\}=1/242\approx0.4\%$ であり,曲げ試験で「実質的に高い応力を受けている」体積は,試験片全体のごく一部にすぎない.

ところが,Weibull統計の寸法効果の式 $\sigma_1/\sigma_2=(V_2/V_1)^{1/m}$ は,「体積が大きいほど,危険な大きさの欠陥を含む確率が高くなり,強度は低くなる」ことを表していた.曲げ試験の有効体積は,同じ試験片を一様引張で試験したときの体積(試験片全体)よりずっと小さいので,曲げ試験は,いわば「実質的にとても小さい試験片」で強度を測っているのと同じことになる.体積が小さいほど強度は高く測定されるので,

$$ \frac{\sigma_{\text{3点曲げ}}}{\sigma_{\text{引張}}}=\left(\frac{V}{V_{\mathrm{eff}}}\right)^{1/m}=\bigl[2(m+1)^2\bigr]^{1/m} $$

という関係式のとおり,3点曲げで測った強度は,同じ材料の一様引張強度よりも系統的に高く測定される($m=10$ で約1.73倍).これが,セラミックスのカタログに載っている「曲げ強度」が,実際に部品に一様な引張応力がかかったときの強度より高めの値になっている理由であり,カタログ値をそのまま大きな部品の設計に使うと,強度を過大評価してしまう危険がある——設計では,試験片と部品それぞれの有効体積の違いを考慮して強度を換算しなければならない.

演習22.6 応力腐食割れが起きやすい環境

解答

ガラスの静疲労は,大気中の水分(湿度)が引き金になる.ガラスの主成分であるSiのネットワーク構造($\mathrm{Si\!-\!O\!-\!Si}$結合)が,応力のかかったき裂先端で水分子と反応して加水分解され($\mathrm{Si\!-\!O\!-\!Si}+\mathrm{H_2O}\to2(\mathrm{Si\!-\!OH})$),結合が切れることでき裂がゆっくり進展する.したがって,湿度が高い環境ほど静疲労は進みやすく,逆に乾燥した環境(真空中や乾燥した不活性ガス中)ではほとんど進行しない.

これに対し,高強度鋼の水素脆化による遅れ破壊は,水素原子が鋼の中に侵入することが引き金になる.酸洗い・電気めっきなどの製造工程や,腐食反応そのものによって発生した水素原子が,鋼材の格子間隙に侵入・拡散し,とくに転位やき裂先端など,応力が集中し格子がひずんでいる箇所に集まって蓄積する.これが鋼のじん性を局所的に低下させ,一定応力下で時間差をおいて破壊を引き起こす.したがって,水素の侵入経路(酸性の洗浄液,腐食性の水溶液,水素ガス雰囲気など)にさらされる環境ほど遅れ破壊が起きやすい.

環境要因(前者は水分・湿度,後者は水素)は異なるが,どちらも共通して「一定の持続応力のもとで,環境中の化学種がき裂先端に到達し,本来なら破壊靱性 $K_{\mathrm{IC}}$ に達するまでは進まないはずのき裂を,$K_{\mathrm{IC}}$よりずっと小さい応力拡大係数のもとでゆっくり進展させる」という亜臨界き裂進展のしくみで理解できる点は共通している.どちらの場合も,進展速度は $v=AK_{\mathrm I}^n$ という同じ形の式で近似でき,係数 $A$ が周囲の環境条件(湿度,水素濃度など)に強く依存する,という数学的な扱い方も共通している.

演習22.7 Weibull分布による破壊確率と許容応力

解答

(1) 第22章の式 $P_{\mathrm f}=1-\exp\left[-\dfrac V{V_0}\left(\dfrac\sigma{\sigma_0}\right)^m\right]$ に $V=V_0$,$\sigma=200\ \mathrm{MPa}$,$\sigma_0=300\ \mathrm{MPa}$,$m=10$ を代入する.$(200/300)^{10}=(2/3)^{10}\approx0.01734$ なので,

$$ P_{\mathrm f}=1-e^{-0.01734}\approx0.0172\quad(\text{約}\ 1.7\%) $$

(2) $P_{\mathrm f}=0.01$ とおくと $\exp[-(\sigma/\sigma_0)^m]=0.99$.両辺の自然対数をとって $(\sigma/\sigma_0)^m=-\ln0.99=0.010050$.よって,

$$ \sigma=\sigma_0\bigl[-\ln(1-P_{\mathrm f})\bigr]^{1/m}=300\times(0.010050)^{1/10}\ \mathrm{MPa}\approx300\times0.6313\ \mathrm{MPa}\approx189\ \mathrm{MPa} $$

である.特性強度 $300\ \mathrm{MPa}$ の材料でも,破壊確率を1%にするには,その約63%の応力に抑えなければならない.

(3) 体積が $8V_0$ の部品で同じ破壊確率にするには,指数部 $\dfrac V{V_0}\left(\dfrac\sigma{\sigma_0}\right)^m$ を同じ値に保つ必要があるので,許容応力は $(V_0/V)^{1/m}=8^{-1/10}\approx0.8123$ 倍になり,

$$ \sigma\approx189.4\times0.8123\ \mathrm{MPa}\approx154\ \mathrm{MPa} $$

となる.体積が大きい部品ほど,許容される応力は低くなる(寸法効果).

演習22.8 熱湯から水への急冷

解答

表面の熱応力は,第22章の式 $\sigma=-E\alpha\Delta T/(1-\nu)$ で与えられる.$\Delta T=-80\ \mathrm K$ のとき,

ソーダ石灰ガラス($E=70\ \mathrm{GPa}$,$\nu=0.22$,$\alpha=9.0\times10^{-6}\ \mathrm{K^{-1}}$,$\sigma_{\mathrm f}=50\ \mathrm{MPa}$):

$$ \sigma=\frac{70\times10^9\times9.0\times10^{-6}\times80}{1-0.22}\ \mathrm{Pa}=\frac{5.04\times10^7}{0.78}\ \mathrm{Pa}\approx64.6\ \mathrm{MPa} $$

これは強度 $50\ \mathrm{MPa}$ を超えるので,割れる.割れずにすむ最大の温度差は $\Delta T_{\mathrm c}=\sigma_{\mathrm f}(1-\nu)/(E\alpha)=3.9\times10^7/6.3\times10^5\ \mathrm K\approx61.9\ \mathrm K$ で,$80\ \mathrm K$ より小さい.

石英ガラス($E=73\ \mathrm{GPa}$,$\nu=0.17$,$\alpha=0.55\times10^{-6}\ \mathrm{K^{-1}}$,$\sigma_{\mathrm f}=70\ \mathrm{MPa}$):

$$ \sigma=\frac{73\times10^9\times0.55\times10^{-6}\times80}{1-0.17}\ \mathrm{Pa}=\frac{3.212\times10^6}{0.83}\ \mathrm{Pa}\approx3.87\ \mathrm{MPa} $$

これは強度 $70\ \mathrm{MPa}$ よりはるかに小さいので割れない.$\Delta T_{\mathrm c}\approx1447\ \mathrm K$ で,$80\ \mathrm K$ の温度差はまったく問題にならない.

普通のガラスのコップに熱湯を急に注ぐと割れることがあるのに対し,石英ガラスの器具は熱湯や炎から急に冷水に移しても割れにくい.その違いは,線膨張係数 $\alpha$ が1桁以上も違う($9.0\times10^{-6}$ と $0.55\times10^{-6}\ \mathrm{K^{-1}}$)ためである.なお,ここでは表面温度が一瞬で下がるという最も厳しい場合を仮定しており,実際に割れ始める温度差はこれより大きくなる(第22章のビオ数の注意を参照).

演習22.9 $n=2$ のParis則による寿命

解答

$R=0$ の片振りなので $\sigma_{\max}=\Delta\sigma=100\ \mathrm{MPa}$.臨界き裂長さは,最大応力での破壊条件 $K_{\mathrm{IC}}=Y\sigma_{\max}\sqrt{\pi a_{\mathrm c}}$ から,

$$ a_{\mathrm c}=\frac1\pi\left(\frac{K_{\mathrm{IC}}}{Y\sigma_{\max}}\right)^2=\frac1\pi\left(\frac{60}{1\times100}\right)^2\ \mathrm m=\frac{0.36}\pi\ \mathrm m\approx0.1146\ \mathrm m=114.6\ \mathrm{mm} $$

$n=2$ のときは,$\dd a/\dd N=C(Y\Delta\sigma)^2\pi a$ の変数分離で $\int a^{-1}\dd a=\ln a$ となるので,

$$ N_{\mathrm f}=\frac{1}{C(Y\Delta\sigma)^2\pi}\ln\frac{a_{\mathrm c}}{a_0}=\frac{1}{1.0\times10^{-11}\times(100)^2\times\pi}\ln\frac{0.1146}{0.001} $$

分母は $1.0\times10^{-11}\times10^4\times\pi=3.1416\times10^{-7}$,$\ln114.6=4.7414$ なので,

$$ N_{\mathrm f}=\frac{4.7414}{3.1416\times10^{-7}}\approx1.51\times10^{7}\ \text{サイクル} $$

単位の確認:$C(Y\Delta\sigma)^2\pi$ の単位は $\mathrm{m/cycle}\cdot(\mathrm{MPa\sqrt m})^{-2}\cdot\mathrm{MPa}^2=1/\mathrm{cycle}$ で,$N_{\mathrm f}$ はサイクル数になる.き裂長さの比の対数だけが効くので,初期き裂が10倍($10\ \mathrm{mm}$)になっても $\ln(11.46)=2.44$ で,寿命は約半分にしかならない.$n=3$ の例題22.3のようにべき乗で効く場合とは,初期き裂の大きさへの依存性が異なる.

第23章 熱と温度 — 気体の法則と状態変化

演習23.1 熱量の計算

解答

公式23.1の $Q=mc\Delta T$($m$:質量,$c$:比熱,$\Delta T$:温度変化)を使う.水 $m=100\ \mathrm{g}$,比熱 $c=4.2\ \mathrm{J/(g\cdot K)}$,$\Delta T=60-10=50\ \mathrm{K}$ を代入すると,

$$ Q=100\times4.2\times50=21000\ \mathrm{J}=2.1\times10^4\ \mathrm{J} $$

である.カロリーに換算すると,$1\ \mathrm{cal}=4.2\ \mathrm{J}$ なので $Q=21000/4.2=5000\ \mathrm{cal}=5.0\ \mathrm{kcal}$ となる(これはちょうど「水 $1\ \mathrm{g}$ を $1\ \mathrm{K}$ 上げるのに $1\ \mathrm{cal}$」という比熱の定義から,$100\ \mathrm{g}\times50\ \mathrm{K}=5000\ \mathrm{g\cdot K}$ 分の熱量そのものであり,直接暗算でも確かめられる).

演習23.2 ボイルの法則による体積の計算

解答

温度が一定なので,ボイルの法則 $p_1V_1=p_2V_2$ が使える.$p_1=1.0\times10^5\ \mathrm{Pa}$,$V_1=2.0\ \mathrm{L}$,$p_2=2.0\times10^5\ \mathrm{Pa}$ を代入して $V_2$ について解くと,

$$ V_2=\frac{p_1V_1}{p_2}=\frac{1.0\times10^5\times2.0}{2.0\times10^5}=1.0\ \mathrm{L} $$

である.圧力がちょうど2倍になったので,体積はちょうど半分になっている——図23.3(体積が半分になるごとに圧力が2倍になる)と矛盾なく一致する.

演習23.3 定積変化の吸収熱量

解答

定積変化では,ピストンが動かないので気体は仕事をされず($W=0$),熱力学第1法則より $Q=\Delta U$ である.単原子分子の理想気体では $\Delta U=\dfrac32nR\Delta T$ なので,$n=1.0\ \mathrm{mol}$,$R=8.31\ \mathrm{J/(mol\cdot K)}$,$\Delta T=100\ \mathrm{K}$ を代入すると,

$$ Q=\Delta U=\frac32\times1.0\times8.31\times100=\frac32\times831=1246.5\approx1.2\times10^3\ \mathrm{J} $$

である.

演習23.4 定圧モル比熱が定積モル比熱より大きい理由

解答

熱力学第1法則 $\Delta U=Q-p\Delta V$(式を $Q$ について解くと $Q=\Delta U+p\Delta V$)から出発する.定積変化では体積が変化しない($\Delta V=0$)ので,加えた熱 $Q$ はすべて内部エネルギーの上昇 $\Delta U$ に使われる:$Q_{\text{定積}}=\Delta U$.一方,定圧変化では気体は体積が増える分だけ外部に仕事 $p\Delta V(>0)$ をするので,加えた熱の一部がこの仕事に「使われてしまい」,残りだけが内部エネルギーの上昇にあてられる:$Q_{\text{定圧}}=\Delta U+p\Delta V$.

同じ温度上昇 $\Delta T$ を実現しようとすると,(理想気体では $\Delta U$ は温度変化だけで決まるので)どちらも同じ $\Delta U$ が必要であり,,定圧変化のほうが,仕事の分 $p\Delta V(>0)$ だけ余分に熱を加えなければならない.すなわち $Q_{\text{定圧}}\gt Q_{\text{定積}}$ であり,モル比熱の定義 $C_{\ast,\mathrm m}=Q_\ast/(n\Delta T)$ を通じて $C_{p,\mathrm m}\gt C_{V,\mathrm m}$ が導かれる.実際,23.7節で単原子分子理想気体について計算すると,その差はちょうど気体定数 $R$ に等しい($C_{p,\mathrm m}-C_{V,\mathrm m}=R$).

演習23.5 断熱圧縮と等温圧縮の比較

解答

断熱圧縮のほうが,圧縮後の気体分子の運動エネルギー(温度)は大きくなる.

等温圧縮では,外部からされた仕事に相当するエネルギーが,そのつど熱として外部(恒温槽)へ逃げていく($Q=W'\lt0$,すなわち気体は熱を放出し続ける).理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まるので,$\Delta U=0$ であり,温度も変化しない.一方,断熱圧縮では熱の逃げ場が一切ない($Q=0$)ので,外部からされた仕事はすべて内部エネルギーの増加 $\Delta U=W(\gt0)$ に変わり,気体分子がはね返るときの速さが増して温度が上昇する.

同じだけ体積を圧縮した場合,等温圧縮では温度(したがって圧力の上がり方)が抑えられるのに対し,断熱圧縮では圧縮による内部エネルギーの増加分がそのまま温度上昇として蓄積されるので,圧力はより急に上昇する.これが,図23.13で断熱線が等温線よりも急な傾きをもつことの物理的な理由である(式では,同じ点での傾きが等温線 $-p/V$,断熱線 $-\gamma p/V$($\gamma\gt1$)で,表23.1のとおり断熱線のほうが急になる).

演習23.6 線膨張率から体膨張率と体積変化率を求める

解答

(1) 公式23.3($\beta=3\alpha$.等方的な物質で成り立つ)に $\alpha=1.2\times10^{-5}\ \mathrm{K^{-1}}$ を代入すると,

$$ \beta=3\times1.2\times10^{-5}=3.6\times10^{-5}\ \mathrm{K^{-1}} $$

(2) 体膨張の式 $V=V_0(1+\beta t)$ より,体積の相対的な増加は $\Delta V/V_0=\beta\Delta T$ である($V_0$ は本来 $0\ {}^{\circ}\mathrm{C}$ での体積だが,$\beta\times20\approx7\times10^{-4}$ 程度の差なので,有効数字2桁の答えには影響しない).$\Delta T=100\ \mathrm{K}$ を代入すると,

$$ \frac{\Delta V}{V_0}=3.6\times10^{-5}\times100=3.6\times10^{-3}=0.36\ \% $$

である.

演習23.7 仕事の符号の約束の比較

解答

本書の約束では,$W$ は「気体が外部からされた仕事」(気体が圧縮されるとき $W\gt0$),$W'$ は「気体が外部にした仕事」(気体が膨張するとき $W'\gt0$)であり,両者は $W'=-W$ の関係にある.熱力学第1法則は,$W$ を使えば $\Delta U=Q+W$,$W'$ を使えば $\Delta U=Q-W'$ と書ける.高校物理でも,$\Delta U=Q+W$($W$:された仕事)と学ぶ場合と,$Q=\Delta U+W'$($W'$:した仕事)と学ぶ場合があり,これらは本書の書き方とそのまま対応している.

これに対し,工学の教科書などでは,$W$ という同じ文字を「気体がした仕事」(本書の $W'$ に相当)の意味で使う流儀を採ることが多い.この流儀では,熱力学第1法則は $\Delta U=Q-W$($W$:した仕事)と書かれる.

両者を対応づけると,次のようになる:

すなわち,本書の $\Delta U=Q-W'$ という式は,工学の流儀で言う「$\Delta U=Q-W$」($W$:した仕事)とまったく同じ内容を表している.文字だけを見ると本書の $\Delta U=Q+W$ と工学の $\Delta U=Q-W$ は符号が逆に見えるが,これは同じ物理法則を,仕事という量の「向き」の取り方(された仕事を正にするか,した仕事を正にするか)を変えて書いただけであり,矛盾ではない.他の教科書を読むときは,まずその本がどちらの流儀を採っているかを確認する習慣をつけるとよい.

第24章 気体分子運動論とファンデルワールスの状態方程式

演習24.1 Ar 1分子の質量

解答

Ar の分子量 $39.9$ は無次元の相対値であり,モル質量($1\ \mathrm{mol}$ あたりの質量)が $M=39.9\ \mathrm{g/mol}$ という意味である.$1\ \mathrm{mol}=N_{\mathrm A}$ 個の分子で $M$ グラムだから,分子1個あたりの質量 $m$ は,モル質量をアボガドロ定数 $N_{\mathrm A}$ で割れば求まる:

$$ m=\frac{M}{N_{\mathrm A}}=\frac{39.9\ \mathrm{g/mol}}{6.022\times10^{23}\ \mathrm{mol^{-1}}}=6.63\times10^{-23}\ \mathrm g=6.63\times10^{-26}\ \mathrm{kg} $$

となる($39.9/6.022=6.626$ を有効数字3桁に丸めた).こうして求めた $m$ の桁($10^{-26}\ \mathrm{kg}$ 程度)は,第24章の例題24.3で使った数値($m=5.0\times10^{-26}\ \mathrm{kg}$)と同じオーダーであり,妥当な値であることが確認できる.

演習24.2 HeガスとArガスの2乗平均速度の比

解答

気体分子運動論の結果(第24章の公式24.1)$\frac12m\overline{|\bm v|^2}=\frac32\dfrac{R}{N_{\mathrm A}}T$ を $\overline{|\bm v|^2}$ について解くと,$\overline{|\bm v|^2}=\dfrac{3RT}{mN_{\mathrm A}}=\dfrac{3RT}{M}$($M=mN_{\mathrm A}$ はモル質量)となる.同じ温度 $T$ のもとでは,右辺の $3RT$ の部分は気体の種類によらない共通の値なので,$\overline{|\bm v|^2}\propto1/M$ という比例関係がある.したがって,2乗平均速度 $\sqrt{\overline{|\bm v|^2}}$ の比は,

$$ \frac{\sqrt{\overline{|\bm v|^2}}_{\mathrm{He}}}{\sqrt{\overline{|\bm v|^2}}_{\mathrm{Ar}}} =\sqrt{\frac{\overline{|\bm v|^2}_{\mathrm{He}}}{\overline{|\bm v|^2}_{\mathrm{Ar}}}} =\sqrt{\frac{3RT/M_{\mathrm{He}}}{3RT/M_{\mathrm{Ar}}}} =\sqrt{\frac{M_{\mathrm{Ar}}}{M_{\mathrm{He}}}} $$

となる.分子量(モル質量の数値)$4.00$ と $39.9$ を代入すると,

$$ \sqrt{\frac{M_{\mathrm{Ar}}}{M_{\mathrm{He}}}}=\sqrt{\frac{39.9}{4.00}}=\sqrt{9.975}\approx3.158 $$

となる.すなわち,同じ温度でも,質量が軽いHeガスの分子の方が,Arガスの分子よりも約3.16倍速く飛び回っている.質量が軽い分子ほど,同じ運動エネルギー(同じ温度)を保つためにより速く運動する必要がある,という直感と対応している.

演習24.3 ファンデルワールス定数 $a,b$ の物理的な意味

解答

定数 $b$ は,気体分子が質点ではなく有限の大きさをもつことを補正する量である.理想気体の状態方程式では体積 $V$ をどこまでも0に近づけられると仮定していたが,実際には分子どうしがそれ以上互いにめり込めないため,圧力をどれほど大きくしても,体積は分子が締め出す体積($1\ \mathrm{mol}$ あたり $b$)より小さくならない.そこで,理想気体の式の $V$ を,分子が自由に動ける実効的な体積 $V-b$ に置き換える.なお,$b$ は分子自身の体積の $N_{\mathrm A}$ 倍そのものではなく,半径 $r$ の球とみなした分子の中心どうしが $2r$ より近づけないことによる排除体積で,$b\approx4N_{\mathrm A}\cdot\frac{4\pi}{3}r^3$(分子自身の体積の $N_{\mathrm A}$ 倍のおよそ4倍)にあたる.

定数 $a$ は,気体分子どうしにはたらく弱い引力(分子間力,ファンデルワールス力)を補正する量である.容器の壁付近にいる分子は,容器の内側にいる多数の分子から,平均として内向きの引力を受けるため,壁に衝突するときの勢いがわずかに弱まり,理想気体のモデルが予言する圧力よりも実際の圧力は低くなる.この低下量は,壁にぶつかる分子の数(密度 $1/V$ に比例)と,各分子が受ける引力(やはり密度に比例)の積なので,密度の2乗 $1/V^2$ に比例すると考えられる.そこで,$a/V^2$ という補正項として,理想気体モデルが予言する(分子間力の無い)圧力 $p+a/V^2$ を,実測される圧力 $p$ の代わりに使う($V$ は $1\ \mathrm{mol}$ あたりの体積).

まとめると,$b$ は「分子の大きさ」による体積の補正,$a$ は「分子間の引力」による圧力の補正であり,どちらも理想気体からの現実的なずれを表す正の定数である(第24章 図24.7参照).

演習24.4 なぜ臨界温度より高温では液化しないのか

解答

要点:$T\gt T_{\mathrm c}$ では等温線に $\dd p/\dd V=0$ となる点がなく,圧縮しても密度が連続的に増えるだけで,気体と液体を分ける境目(密度の跳び)が現れない.したがって「液化」(気体から液体への変化)が起こらない.

図24.5の読み方:温度が低いときの等温線には,谷と山があり,実際の気体はこの区間を圧力がほとんど変化しないまま体積だけが大きく減少する水平な領域(気液共存領域)に置き換えて振る舞う.この領域の長さ(体積方向の広がり)は,温度を上げるにつれてしだいに短くなり,臨界温度($\mathrm{CO_2}$ では約 $31\ °\mathrm C\approx304\ \mathrm K$.図24.5のファンデルワールス式でも $T_{\mathrm c}\approx304\ \mathrm K$)でついに1点(臨界点C)にまで縮んでしまう.

式による確認:臨界点は,$p=f(V)$ のグラフの1階微分・2階微分がともに0になる,退化した変曲点である(第24章 定義24.3).ファンデルワールス式では $\dfrac{\dd p}{\dd V}=-\dfrac{RT}{(V-b)^2}+\dfrac{2a}{V^3}$ だから,$\dfrac{\dd p}{\dd V}\lt0$(どの体積でも単調減少)となる条件は,

$$ RT\gt g(V)\equiv\frac{2a(V-b)^2}{V^3}\qquad(\text{すべての }V\gt b\text{ について}) $$

である.$g(V)$ を微分すると $g'(V)=\dfrac{2a(V-b)(3b-V)}{V^4}$ となり,$V=3b$ で最大値 $g(3b)=\dfrac{2a\cdot(2b)^2}{27b^3}=\dfrac{8a}{27b}$ をとる.したがって,「すべての $V$ で $\dd p/\dd V\lt0$」は $RT\gt\dfrac{8a}{27b}$,すなわち $T\gt\dfrac{8a}{27Rb}=T_{\mathrm c}$ と同値である.$T\gt T_{\mathrm c}$ では,谷も山も臨界点もない滑らかな単調減少の曲線になり,温度が $T_{\mathrm c}$ ちょうどのときにだけ,$V=3b=V_{\mathrm c}$ で $\dd p/\dd V=0$ となる1点が現れる.

気液共存領域(水平な部分)がそもそも存在しないということは,「圧力を上げていくと,ある体積で急に液体に変わる」という現象自体が起こらないということを意味する.したがって,$T\gt T_{\mathrm c}$ では,気体はどれほど圧力を上げても,滑らかに体積が縮んでいくだけで,液体との共存状態を経ることなく(つまり,はっきりと「ここから液体」と言える境目を作ることなく)連続的に密度が高くなっていくだけであり,通常の意味での「液化」は起こらない.

演習24.5 $U=\frac32nRT$ からの $C_{V,\mathrm m}=\frac32R$ の再導出

解答

第24章の公式24.2(気体分子運動論と,エネルギー等分配の法則(法則24.2)のどちらからも得られる単原子分子理想気体の内部エネルギー)より,

$$ U=\frac32nRT $$

である.定積モル熱容量は,$1\ \mathrm{mol}$ あたりの内部エネルギーを温度で(体積一定のもとで)微分したものと定義される:

$$ C_{V,\mathrm m}\equiv\frac1n\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_V $$

ここで $\left(\dfrac{\partial U}{\partial T}\right)_V$ は,$V$ を定数とみなして $T$ だけで $U$ を微分するという意味の偏微分である.$U=\frac32nRT$ を $T$ で微分すると($n,R$ は定数なので,$T$ の1次関数の微分になる),

$$ \left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_V=\frac32nR $$

したがって,

$$ C_{V,\mathrm m}=\frac1n\times\frac32nR=\frac32R $$

が得られる.数値では $C_{V,\mathrm m}=\frac32\times8.31\approx12.47\ \mathrm{J/(mol\,K)}$ である.この値は,第27章で熱力学第1法則から,定積変化で $Q=\Delta U$ となることを使って得られる単原子分子理想気体の定積モル熱容量と一致する(第27章).

演習24.6 $V$ が非常に大きいときの理想気体の式への収束

解答

ファンデルワールスの状態方程式 $\left(p+\dfrac{a}{V^2}\right)(V-b)=RT$($V$ は $1\ \mathrm{mol}$ あたりの体積)を $p$ について解くと,

$$ p=\frac{RT}{V-b}-\frac{a}{V^2} $$

である.$V\gg b$ のとき,$\dfrac1{V-b}=\dfrac1V\cdot\dfrac1{1-b/V}$ と書き直し,$b/V$ が小さいことを使って2項展開(1次の項まで)$\dfrac1{1-x}\approx1+x$($x=b/V$,$|x|\ll1$)を適用すると,

$$ \frac{1}{V-b}=\frac1V\left(1+\frac bV+\cdots\right)\approx\frac1V+\frac{b}{V^2} $$

となる.これを $p$ の式に代入すると,

$$ p\approx RT\left(\frac1V+\frac{b}{V^2}\right)-\frac{a}{V^2}=\frac{RT}{V}+\frac{RTb-a}{V^2} $$

両辺に $V$ を掛けると,

$$ pV\approx RT+\frac{RTb-a}{V} $$

となる.第1項 $RT$ は理想気体の状態方程式そのものであり,第2項 $\dfrac{RTb-a}{V}$ は,$V$ が大きいほど小さくなる補正項($1/V$ に比例して0に近づく)である.したがって,$V\to\infty$ で第2項が消えて $pV\to RT$ となることは,例題24.11で確認した結果と一致するが,ここではさらに,$V$ が有限のときの補正の大きさが $1/V$ のオーダーであることまで具体的に示せた.なお,この補正項 $RTb-a$ の符号($RTb$ と $a$ のどちらが大きいか)によって,同じ温度・体積でも実在気体の圧力が理想気体よりも高くなるか低くなるかが決まる——高温・小さい $a$(分子間力が弱い)では体積の補正 $b$ が優勢になり $p$ は理想気体より高くなり,低温・大きい $a$(分子間力が強い)では圧力の補正 $a$ が優勢になり $p$ は理想気体より低くなる.

演習24.7 二原子分子の内部エネルギーの変化

解答

第24章の公式24.3より,自由度 $f$ の分子からなる理想気体の内部エネルギーは $U=\frac f2nRT$ である.温度が $\Delta T$ だけ変わるときの内部エネルギーの変化は($n,f,R$ は一定なので)

$$ \Delta U=\frac f2nR\,\Delta T $$

である.$\mathrm{O_2}$ は $f=5$(並進3+回転2),$n=1\ \mathrm{mol}$,$\Delta T=350-300=50\ \mathrm K$ だから,

$$ \Delta U_{\mathrm{O_2}}=\frac52\times1\times8.31\times50=1.04\times10^{3}\ \mathrm J\approx1.04\ \mathrm{kJ} $$

Ar は $f=3$ だから,

$$ \Delta U_{\mathrm{Ar}}=\frac32\times1\times8.31\times50=6.23\times10^{2}\ \mathrm J\approx0.623\ \mathrm{kJ} $$

となる.比は $\Delta U_{\mathrm{O_2}}/\Delta U_{\mathrm{Ar}}=5/3\approx1.67$ で,同じだけ温めるのに,自由度の多い $\mathrm{O_2}$ のほうが約1.7倍のエネルギーが必要である.増えたエネルギーの一部が,回転運動にも配分されるためである.

第25章 実在気体 — 対応状態の原理・圧縮因子・ビリアル展開

演習25.1 酸素の還元変数

解答

酸素のファンデルワールスの定数 $a=0.138\ \mathrm{Pa\,m^6/mol^2}$,$b=3.19\times10^{-5}\ \mathrm{m^3/mol}$ を,臨界定数の式

$$ V_{\mathrm c}=3b,\qquad T_{\mathrm c}=\frac{8a}{27Rb},\qquad p_{\mathrm c}=\frac{a}{27b^2} $$

(第25章 25.1.1項)に代入する.$R=8.314\ \mathrm{J/(mol\,K)}$ として,

$$ T_{\mathrm c}=\frac{8\times0.138}{27\times8.314\times3.19\times10^{-5}}\ \mathrm K\approx154.2\ \mathrm K $$ $$ p_{\mathrm c}=\frac{0.138}{27\times(3.19\times10^{-5})^2}\ \mathrm{Pa}\approx5.02\times10^{6}\ \mathrm{Pa}\approx49.6\ \mathrm{atm} $$

(実測値は $T_{\mathrm c}\approx154.6\ \mathrm K$,$p_{\mathrm c}\approx49.8\ \mathrm{atm}$ であるが,$a,b$ は臨界定数に合うように決められた値なので,ほぼ一致するのは当然である.小さな差は $a,b$ を有効数字3桁に丸めたことによる).次に還元変数の定義 $T_{\mathrm r}=T/T_{\mathrm c},\ p_{\mathrm r}=p/p_{\mathrm c}$ に,$T=250\ \mathrm K$,$p=20\ \mathrm{atm}$ を代入すると,

$$ T_{\mathrm r}=\frac{250}{154.2}\approx1.62,\qquad p_{\mathrm r}=\frac{20}{49.6}\approx0.40 $$

が得られる.$T_{\mathrm r}\approx1.62$ は臨界温度より高いが,例題25.2の窒素($T_{\mathrm r}\approx2.38$)ほど臨界点から離れてはいない.

演習25.2 対応状態の原理の物理的な意味

解答

対応状態の原理(第25章 法則25.1)が主張するのは,還元変数で書いたファンデルワールスの状態方程式

$$ \left(p_{\mathrm r}+\frac{3}{V_{\mathrm r}^2}\right)(3V_{\mathrm r}-1)=8T_{\mathrm r} $$

が,$a,b$(したがって気体の種類)にまったくよらない,たった1本の式であるということである.したがって,AとBが同じ $T_{\mathrm r},p_{\mathrm r}$ にあれば,この1本の式(3次方程式)に同じ数値を代入することになるので,得られる還元体積 $V_{\mathrm r}$(の実数解)もAとBでまったく同じになる.すなわち,

$$ V_{\mathrm r}(\mathrm A)=V_{\mathrm r}(\mathrm B) $$

である(ここで方程式が複数の実数解を持つ場合は,同じ枝——気体なら気体の枝,液体なら液体の枝——を比較する).

次に圧縮因子については,定義 $Z=pV_{\mathrm m}/(RT)$ を還元変数で書き直すと,$p=p_{\mathrm r}p_{\mathrm c}$,$V_{\mathrm m}=V_{\mathrm r}V_{\mathrm c}=3bV_{\mathrm r}$,$T=T_{\mathrm r}T_{\mathrm c}$ を代入して,

$$ Z=\frac{p_{\mathrm r}p_{\mathrm c}\cdot3bV_{\mathrm r}}{R\,T_{\mathrm r}T_{\mathrm c}}=\frac{3p_{\mathrm c}b}{RT_{\mathrm c}}\cdot\frac{p_{\mathrm r}V_{\mathrm r}}{T_{\mathrm r}} $$

となる.ここで $p_{\mathrm c}=a/(27b^2)$,$T_{\mathrm c}=8a/(27Rb)$ を代入すると,$\dfrac{3p_{\mathrm c}b}{RT_{\mathrm c}}=\dfrac{3\times a/(27b^2)\times b}{R\times8a/(27Rb)}=\dfrac{a/(9b)}{8a/(27b)}=\dfrac{27}{9\times8}=\dfrac38$ という,これまた $a,b$ によらない普遍的な定数になる.したがって,

$$ Z=\frac38\cdot\frac{p_{\mathrm r}V_{\mathrm r}}{T_{\mathrm r}} $$

であり,AとBが同じ $(p_{\mathrm r},T_{\mathrm r})$(したがって同じ $V_{\mathrm r}$)にあれば,$Z(\mathrm A)=Z(\mathrm B)$ も成り立つ.まとめると,対応状態の原理のもとでは,同じ還元状態にある異なる気体は,同じ還元体積・同じ圧縮因子を持つ——これが「対応する」の意味である.なお,$Z_{\mathrm c}=3/8$ はファンデルワールス気体での値で,実在の気体では臨界圧縮因子は $0.27$〜$0.29$ 程度と異なるため,対応状態の原理は実在気体では近似的にしか成り立たない.

演習25.3 ボイル温度と実在気体の理想性

解答

ビリアル状態方程式(第25章 定義25.3)は

$$ Z=1+\frac{B(T)}{V_{\mathrm m}}+\frac{C}{V_{\mathrm m}^2}+\cdots $$

である.ボイル温度 $T_{\mathrm B}$ の定義(第25章 定義25.4)は,この第2ビリアル係数が $B(T_{\mathrm B})=0$ になる温度のことだから,$T=T_{\mathrm B}$ を代入すると,$Z$ を $1$ からずらす最初の項($1/V_{\mathrm m}$ に比例する,最も影響の大きい項)がちょうど消えて,

$$ Z=1+\frac{C}{V_{\mathrm m}^2}+\cdots $$

だけが残る.$C/V_{\mathrm m}^2$ の項は,$1/V_{\mathrm m}^2$ という,$1/V_{\mathrm m}$ の項よりずっと速く(2次で)0に近づく量なので,モル体積 $V_{\mathrm m}$ がそれほど大きくなくても(圧力がそれほど低くなくても),$Z\approx1$ という近似がかなり広い範囲で成り立つ.一方,$T\neq T_{\mathrm B}$ の温度では,$1/V_{\mathrm m}$ に比例する項が残るので,$V_{\mathrm m}$ を大きくする(圧力を下げる)につれて$1$次のオーダーでゆっくりとしか$Z=1$に近づかない.したがって,ボイル温度は,実在気体が最も広い圧力範囲で理想気体的にふるまう特別な温度である.

演習25.4 圧縮因子と体積の大小

解答

圧縮因子の定義 $Z=pV_{\mathrm m}/(RT)$ を $V_{\mathrm m}$ について解くと,

$$ V_{\mathrm m}=\frac{ZRT}{p}=Z\times\frac{RT}{p}=Z\,V_{\mathrm m}^{\mathrm{ideal}} $$

である($V_{\mathrm m}^{\mathrm{ideal}}=RT/p$ は同じ $p,T$ での理想気体のモル体積).同じ $p,T$ のもとでは $V_{\mathrm m}^{\mathrm{ideal}}$ は正の定数だから,$V_{\mathrm m}$ は $Z$ に比例する.したがって,

これは第25章25.2節の解釈($Z\lt1$ は引力が優勢で分子どうしが「寄り集まっている」ぶん体積が小さくなる,$Z\gt1$ は分子自身の大きさによる反発が優勢で体積が大きくなる)と整合している.

演習25.5 ビリアル状態方程式の高次項が無視できる条件

解答

ビリアル状態方程式 $Z=1+B/V_{\mathrm m}+C/V_{\mathrm m}^2+\cdots$ において,第2項に対する第3項の比は

$$ \frac{C/V_{\mathrm m}^2}{B/V_{\mathrm m}}=\frac{C}{B\,V_{\mathrm m}} $$

である.$B,C$ はその気体・その温度で決まる定数(大きさのオーダーは $b$ 程度の体積の1乗・2乗)なので,この比が十分小さくなる,すなわち $C/V_{\mathrm m}^2$ 以降の項を無視して $Z\approx1+B/V_{\mathrm m}$ という1次近似で済ませてよいのは,

$$ V_{\mathrm m}\gg\left|\frac{C}{B}\right| $$

のとき,すなわちモル体積 $V_{\mathrm m}$ が十分大きい(気体が十分に希薄である)ときである.圧力で言えば,$V_{\mathrm m}\approx RT/p$(理想気体に近い場合の見積もり)なので,$V_{\mathrm m}$ が大きいことは圧力 $p$ が十分低いことに対応する.まとめると,低圧・大体積(希薄な気体)の極限でビリアル展開の高次項は無視でき,圧力を上げて気体を圧縮していくほど(モル体積が小さくなるほど),$C,D,\ldots$ を含む高次の項まで考慮する必要が出てくる.

具体的な目安を窒素で求めよう.ファンデルワールス気体では $B=b-a/(RT)$,$C=b^2$ だから $C/B=b^2/\bigl(b-a/(RT)\bigr)$ である.$T=300\ \mathrm K$ では $B=3.87\times10^{-5}-0.137/(8.314\times300)\approx-1.62\times10^{-5}\ \mathrm{m^3/mol}$,$C=(3.87\times10^{-5})^2\approx1.50\times10^{-9}\ \mathrm{m^6/mol^2}$ なので,

$$ \left|\frac{C}{B}\right|\approx\frac{1.50\times10^{-9}}{1.62\times10^{-5}}\approx9.2\times10^{-5}\ \mathrm{m^3/mol} $$

である.第3項が第2項の $10\ \%$ 以下になる条件 $\left|C/(BV_{\mathrm m})\right|\le0.1$ は $V_{\mathrm m}\ge9.2\times10^{-4}\ \mathrm{m^3/mol}$ である.理想気体の $V_{\mathrm m}\approx RT/p$ で圧力に直すと,

$$ p\lesssim\frac{RT}{V_{\mathrm m}}=\frac{8.314\times300}{9.2\times10^{-4}}\ \mathrm{Pa}\approx2.7\times10^{6}\ \mathrm{Pa}\approx27\ \mathrm{atm} $$

となる.すなわち,窒素の $300\ \mathrm K$ では,およそ $27\ \mathrm{atm}$ より低い圧力で $Z\approx1+B/V_{\mathrm m}$ の1次近似で済み,それより高圧では $C$ の項が無視できなくなる.

演習25.6 分子間ポテンシャルの符号が変わる距離

解答

$U(r)=4\varepsilon\bigl[(\sigma/r)^{12}-(\sigma/r)^6\bigr]=0$ とおくと,

$$ \left(\frac{\sigma}{r}\right)^{12}=\left(\frac{\sigma}{r}\right)^{6} $$

である.$X\equiv(\sigma/r)^6$ とおくと,左辺は $(\sigma/r)^{12}=X^2$ と書けるので,方程式は

$$ X^2=X\qquad\Longrightarrow\qquad X^2-X=0\qquad\Longrightarrow\qquad X(X-1)=0 $$

となり,$X=0$ または $X=1$ である.$X=(\sigma/r)^6=0$ は $r\to\infty$ に対応する(ポテンシャルが遠方でゼロに漸近することを表すだけで,符号が変わる有限の距離ではない)ので,求める解は $X=1$ のほうである.$(\sigma/r)^6=1$ より $\sigma/r=1$,すなわち

$$ r=\sigma $$

である.$r\lt\sigma$ では $\sigma/r\gt1$ なので $(\sigma/r)^{12}\gt(\sigma/r)^6$ となり $U\gt0$(ポテンシャルエネルギーが正で,分子どうしが近づきすぎてエネルギーが高い),$r\gt\sigma$ では逆に $U\lt0$(エネルギーが負で,引力による束縛的な領域)となる——これは第25章の図25.6の青と赤の領域の境界そのものである.

次に,この $r=\sigma$ での力の向きを調べる.力は $F=-\dd U/\dd r=\dfrac{24\varepsilon\sigma^6}{r^{7}}\left(\dfrac{2\sigma^6}{r^6}-1\right)$ で,$r=\sigma$ では $F=\dfrac{24\varepsilon}{\sigma}(2-1)=\dfrac{24\varepsilon}{\sigma}\gt0$,すなわち反発力である.力が $0$ になるのは $r=2^{1/6}\sigma\approx1.12\,\sigma$($U$ が最小になる距離)で,力が反発から引力に変わるのはそこである.つまり,$U$ の符号が変わる距離 $r=\sigma$ と,力の向きが変わる距離 $r_{\min}=2^{1/6}\sigma$ は別である.

演習25.7 水素と二酸化炭素のボイル温度

解答

(1) $T_{\mathrm B}=a/(Rb)$,$T_{\mathrm c}=8T_{\mathrm B}/27$ に代入する.水素は

$$ T_{\mathrm B}=\frac{0.0248}{8.314\times2.66\times10^{-5}}\ \mathrm K\approx112\ \mathrm K,\qquad T_{\mathrm c}=\frac{8}{27}\times112\ \mathrm K\approx33.2\ \mathrm K $$

二酸化炭素は

$$ T_{\mathrm B}=\frac{0.364}{8.314\times4.27\times10^{-5}}\ \mathrm K\approx1025\ \mathrm K,\qquad T_{\mathrm c}=\frac{8}{27}\times1025\ \mathrm K\approx304\ \mathrm K $$

である($T_{\mathrm c}$ は二酸化炭素の実測 $304\ \mathrm K$,水素の実測 $33.2\ \mathrm K$ とよく合う).

(2) 水素では $273\ \mathrm K$ が $T_{\mathrm B}\approx112\ \mathrm K$ より高いので $B\gt0$ であり,具体的には

$$ B=b-\frac{a}{RT}=2.66\times10^{-5}-\frac{0.0248}{8.314\times273}\approx2.66\times10^{-5}-1.09\times10^{-5}\approx+1.57\times10^{-5}\ \mathrm{m^3/mol} $$

二酸化炭素では $273\ \mathrm K$ が $T_{\mathrm B}\approx1025\ \mathrm K$ よりずっと低いので $B\lt0$ で,

$$ B=4.27\times10^{-5}-\frac{0.364}{8.314\times273}\approx4.27\times10^{-5}-16.04\times10^{-5}\approx-1.18\times10^{-4}\ \mathrm{m^3/mol} $$

である.$p=10\ \mathrm{atm}=1.01325\times10^6\ \mathrm{Pa}$ のとき $V_{\mathrm m}\approx RT/p=8.314\times273/(1.01325\times10^6)\approx2.24\times10^{-3}\ \mathrm{m^3/mol}$ なので,

$$ Z_{\mathrm{H_2}}\approx1+\frac{1.57\times10^{-5}}{2.24\times10^{-3}}\approx1.007,\qquad Z_{\mathrm{CO_2}}\approx1+\frac{-1.18\times10^{-4}}{2.24\times10^{-3}}\approx0.947 $$

となる(ファンデルワールスの式を直接解くと $1.007$ と $0.945$ で,1次近似はよく合っている).

(3) 図25.5で水素の $Z$ が $Z=1$ からゆるやかに増える($Z\gt1$)のは,$273\ \mathrm K$ が水素の $T_{\mathrm B}$ より高く,$B\gt0$(分子の大きさの効果が優勢)だからである.二酸化炭素は $273\ \mathrm K$ が $T_{\mathrm B}$ よりずっと低く,$B\lt0$(引力が優勢)で,$Z\lt1$ となる.気体によって $T_{\mathrm B}$ の高さ($a/b$ の大きさ)が違うので,同じ温度でも $Z$ の増減の向きが逆になりうる.

演習25.8 S字型の等温線の安定性

解答

(1) $T_{\mathrm r}=0.9$ の還元状態方程式は $p_{\mathrm r}=8T_{\mathrm r}/(3V_{\mathrm r}-1)-3/V_{\mathrm r}^2$,その傾きは $\dd p_{\mathrm r}/\dd V_{\mathrm r}=-24T_{\mathrm r}/(3V_{\mathrm r}-1)^2+6/V_{\mathrm r}^3$ である.$V_{\mathrm r}=1.2$ では $3V_{\mathrm r}-1=2.6$ なので,

$$ p_{\mathrm r}=\frac{7.2}{2.6}-\frac{3}{1.44}\approx2.769-2.083=0.686,\qquad \frac{\dd p_{\mathrm r}}{\dd V_{\mathrm r}}=-\frac{21.6}{6.76}+\frac{6}{1.728}\approx-3.195+3.472=+0.277 $$

$V_{\mathrm r}=2.0$ では $3V_{\mathrm r}-1=5$ なので,

$$ p_{\mathrm r}=\frac{7.2}{5}-\frac{3}{4}=1.44-0.75=0.690,\qquad \frac{\dd p_{\mathrm r}}{\dd V_{\mathrm r}}=-\frac{21.6}{25}+\frac{6}{8}=-0.864+0.75=-0.114 $$

(2) 傾き $\dd p_{\mathrm r}/\dd V_{\mathrm r}\gt0$ の $V_{\mathrm r}=1.2$ は,体積を増やすと圧力が上がる状態で,力学的に不安定である.例題25.4のスピノーダル点 $0.719$ と $1.529$ の間にあることとも一致する.一方,傾きが負の $V_{\mathrm r}=2.0$ は力学的には安定である.しかし,$1.529\lt2.0\lt2.349=V_{\mathrm r}^{\mathrm{gas}}$ で,共存する気体の体積 $2.349$ より小さい(同じ温度ではより高圧の)側にあるため,熱力学的な平衡状態ではなく,準安定(過飽和蒸気)である.安定な気体になるのは $V_{\mathrm r}\gt2.349$ の部分だけである.

第26章 熱力学の系と状態量 — 準静的過程と仕事

演習26.1 経路関数の身近な例

解答

身近な経路関数の例として,自動車の走行距離と消費する燃料を挙げよう.A 地点から B 地点まで行くのに,まっすぐな道($30\ \mathrm{km}$)を通る場合と,山を越える遠回りの道($50\ \mathrm{km}$)を通る場合を考える.対応は次のとおりである.

熱力学の言葉この例
始状態・終状態出発地 A・目的地 B
状態関数($U$ など)位置(標高).B に着いた時点で,どの道を通っても同じ値
経路(過程のしかた)どの道を,どう運転して通ったか
経路関数($Q$,$W$ など)走行距離,消費した燃料の量.道によって $30\ \mathrm{km}$ か $50\ \mathrm{km}$ かで違う

始点と終点(結果)が同じでも,道筋(経緯)が違えば走行距離や燃料の消費量は違う.同様に,同じ内部エネルギーの変化 $\Delta U$ を実現するのでも,経路が違えば熱 $Q$ や仕事 $W'$ の値は違う(例題26.7).

(別解:電気代.同じ部屋を同じ温度に保つ(始状態・終状態が同じ)のでも,エアコンをこまめにオン・オフするか,つけっぱなしにするかで消費電力量は変わる.状態にあたるのは部屋の温度,経路にあたるのは運転のしかた,経路関数にあたるのは電気代である.)

演習26.2 2原子分子の自由度が温度で変わる理由

解答

2原子分子の運動は,(a) 分子全体の並進運動(3方向),(b) 分子軸に垂直な2本の軸のまわりの回転運動,(c) 2つの原子の間の距離が周期的に伸び縮みする振動運動,の3種類に分けられる.エネルギーが2次の項(速度や座標の2乗の項)で書けるとき,その1項が1つの自由度に数えられる.並進は $\tfrac12mv_x^2$ など3項,回転は軸1本につき $\tfrac12I\omega^2$ の1項なので2項,振動は運動エネルギー $\tfrac12\mu\dot r^2$ と弾性エネルギー $\tfrac12k(r-r_0)^2$ の2項である.

室温付近では,分子どうしの衝突で受け渡されるエネルギーの典型的な大きさ(熱エネルギー $k_{\mathrm B}T$ 程度)が,振動を励起するのに必要なエネルギー(原子間結合のばねの強さで決まる,振動の量子のエネルギー間隔)よりずっと小さい.そのため,室温付近では振動運動はほとんど励起されず,事実上「凍結」した状態にあり,エネルギーの出入りに関与しない.したがって,室温付近では並進3+回転2=自由度5だけが実効的に使われる.振動が効くかどうかの目安になる温度(特性温度)は,$\mathrm{N_2}$ で約 $3400\ \mathrm K$,$\mathrm{O_2}$ で約 $2300\ \mathrm K$ であり,室温 $300\ \mathrm K$ はこれよりずっと低い.

温度が十分に高くなると,分子どうしの衝突エネルギーが振動を励起するのに必要なエネルギーに匹敵するようになり,振動運動もエネルギーの出入りに参加できるようになる(振動が「解凍」される).振動は,運動エネルギーと弾性エネルギーという,2つの独立な2次の項をもつので,自由度が2つ分増える.その結果,高温では自由度が $5+2=7$ になる.(振動が量子力学的な現象であり,励起に「量子」を必要とすることの詳しい説明は,量子力学を学んでから理解できる内容であり,本書のスコープを超える.ここでは「室温付近では振動が事実上使われず,高温になって初めて使われるようになる」という定性的な描像を押さえておけば十分である.)

演習26.3 準静的過程が「理想的だが非現実的」であるとはどういう意味か

解答

準静的過程は,定義上「無限にゆっくり」変化させる過程である.しかし,現実のどんな操作も,有限の時間で完了しなければならない——文字通り無限の時間をかけて気体を膨張させることは,現実には実行不可能である.この意味で,準静的過程は「非現実的」(現実には厳密には実現できない)な理想化にすぎない.ただし,「ゆっくり」とは,気体の中の乱れが均される時間(音速で $10\ \mathrm{cm}$ 伝わるのに約 $3\times10^{-4}\ \mathrm s$)に比べてゆっくり,という意味なので,ピストンを $1\ \mathrm{cm/s}$ で動かすような操作は,ほぼ準静的とみなせる.

それにもかかわらず,準静的過程が「理想的」であるとされるのは,この理想化のおかげで,変化の途中のあらゆる瞬間において,気体が熱平衡状態にある(マクロ的に一様で,圧力・温度がどこでも一定に定まっている)とみなせるからである.熱平衡状態にある瞬間だけが,$p$-$V$ 図の上に1つの点として明確に表せる(26.4節).準静的過程では,出発点から終着点までのすべての中間状態が熱平衡状態なので,過程全体を $p$-$V$ 図上の連続した曲線として描くことができ,さらに外圧と気体の圧力がつり合う($p_{\mathrm{ex}}=p$)ので,仕事 $W'=\int p\,\dd V$ のような積分計算も明確に定義できる.一方,急激な変化(不可逆過程)の途中では,気体の中で対流や乱流が生じて熱平衡が崩れるため,その「途中の状態」がそもそも1つの点として表せない——圧力や体積が場所によってバラバラの値をとってしまうからである.

つまり,「理想的だが非現実的」という言葉は,「厳密には実現できない極限的な理想化ではあるが,まさにその理想化のおかげで,変化の過程全体を数学的に明確に扱えるようになる」という意味である.現実の変化はすべて,程度の差はあれ不可逆であり,準静的過程はそれらを比較するための基準(ものさし)として使われる.

演習26.4 多原子分子の自由度が6になる理由

解答

折れ線形の3原子分子(たとえば $\mathrm{H_2O}$)は,3つの原子が一直線上に並んでいない(直線分子ではない)ため,分子全体の形を保ったまま回転できる独立な軸が3方向(互いに直交する3つの回転軸のまわりの回転)存在する.3本の軸のまわりの慣性モーメントがどれも $0$ でないので,回転の運動エネルギー $\tfrac12I\omega^2$ の項が3つ現れる.したがって,回転の自由度は3であり,並進の自由度3と合わせて,$f=3+3=6$ となる(振動は除く).

これに対し,2原子分子は,2つの原子を結ぶ直線(分子軸)が存在し,この分子軸のまわりに分子を回転させても,分子の形(原子の配置)は全く変化しない——2つの原子は点状の質点とみなせるので,分子軸のまわりの慣性モーメントは $0$ であり,この軸まわりの回転はエネルギーをもたない(力学的にも「何も起きていない」のと区別がつかない).このため,分子軸のまわりの回転は,自由度としては数えない.残るのは,分子軸に垂直な2つの方向のまわりの回転だけであり,これが2原子分子の回転の自由度が2(3ではなく)である理由である.折れ線形の分子には,このような「回転させても区別がつかない軸」が存在しないため,3方向すべての回転が意味のある自由度として数えられ,回転の自由度は3になる.

$\mathrm{CO_2}$ や $\mathrm{C_2H_2}$ のように原子が一直線に並ぶ直線状の多原子分子は,2原子分子と同じく分子軸が存在し,その軸まわりの慣性モーメントは $0$ なので,回転は分子軸に垂直な2本の軸だけである.したがって,直線分子の自由度は,振動を除けば並進3+回転2=$f=5$ となり,$f=6$ にはならない.

演習26.5 仕事の一般式の符号の理由

解答

仕事の一般式 $\dd'W=-p_{\mathrm{ex}}\dd V$($W$ は「された仕事」)の符号は,気体が膨張するとき,気体はエネルギーを外部に渡す側であって,受け取る側ではない,という物理的な事実を反映している.

気体が膨張するとき($\dd V\gt0$),気体はピストンを押し出し,外部(ピストンの向こう側)に対して仕事をする——つまり,気体は外部にエネルギーを渡している.このとき,気体が「された」仕事は,エネルギーを渡している以上,正であるはずがなく,むしろ負でなければならない.実際,$\dd'W=-p_{\mathrm{ex}}\dd V$ に $\dd V\gt0$ を代入すると $\dd'W\lt0$($p_{\mathrm{ex}}\gt0$ なので)となり,符号が正しく対応している.

逆に,気体が圧縮されるとき($\dd V\lt0$),外部が気体を押し縮めるためにエネルギーを注ぎ込んでいるので,気体は正の仕事をされているはずであり,$\dd'W=-p_{\mathrm{ex}}\dd V$ に $\dd V\lt0$ を代入すると $\dd'W\gt0$ となって,これも符号が正しく対応している.

した仕事 $W'=-W$ については符号がちょうど反対になり,膨張($\dd V\gt0$)のとき $\dd'W'=p_{\mathrm{ex}}\dd V\gt0$(気体は外部に正の仕事をする),圧縮($\dd V\lt0$)のとき $\dd'W'\lt0$(気体は外部に対して仕事をするどころか,一方的に仕事をされている)となる.このように,$\dd'W=-p_{\mathrm{ex}}\dd V$ のマイナス符号は,「膨張するときは気体がエネルギーを出す側,圧縮されるときは気体がエネルギーを受け取る側」という物理的な向きを,された仕事 $W$ という量に正しく反映させるために必要な符号である.

力学の言葉でいえば,外力(外圧による力)は気体をピストンごと内向きに押し,ピストンが外向きに動く膨張のときは,力の向きと変位の向きが逆なので,外力が気体にする仕事は負になる.これが $\dd'W=(-F)\,\dd x=-p_{\mathrm{ex}}S\,\dd x=-p_{\mathrm{ex}}\dd V$ の符号の由来である.

演習26.6 完全微分と不完全微分の違い

解答

内部エネルギーの微小変化 $\dd U$ を状態 $i$ から状態 $f$ まで積分すると,第26章の式 (26.5)

$$ \Delta U=\int_i^f\dd U=U_f-U_i $$

のように,積分区間の両端(最初の状態 $i$ と最後の状態 $f$)だけを指定すればよく,途中の経路をどのように指定するかによらず,答え($U_f-U_i$)はただ1通りに決まる.これが,$\dd U$ が完全微分であるということの意味である——積分記号の下には,「$i$ から $f$ まで」としか書かれておらず,経路の情報は必要ない.

一方,熱の微小変化 $\dd'Q$ を積分するときは,第26章の式 (26.6)

$$ Q=\int_{i,\,\text{経路}}^{f}\dd'Q $$

のように,積分記号の下に「経路」という情報を明示的に指定しなければならない.同じ始状態 $i$ と終状態 $f$ の間でも,たどる道筋が違えば,積分の結果(やりとりされる熱の量)が異なりうる.これが,$\dd'Q$ が不完全微分であるということの意味である——積分の結果を1通りに決めるには,始点・終点だけでなく,途中の経路そのものを指定する必要がある.

まとめると,完全微分は「始点と終点だけで積分値が決まる」(=もとの量が状態関数である)のに対し,不完全微分は「途中の経路まで指定しないと積分値が決まらない」(=もとの量が経路関数である)という違いである.仕事の微小量 $\dd'W$ も熱と同じ不完全微分なので,プライムを付けて書く.

演習26.7 単原子分子理想気体の内部エネルギー変化(計算問題)

解答

単原子分子理想気体(自由度 $f=3$)の内部エネルギーは,本章の公式より $U=\dfrac32nRT$ である.体積を一定に保ったまま温度だけを $\Delta T$ 変化させたときの内部エネルギーの変化は,$n$ を固定して $T$ の変化分だけを取り出せばよいので,

$$ \Delta U=\frac{3}{2}nR\,\Delta T $$

となる.$n=3\ \mathrm{mol}$,$R=8.3145\ \mathrm{J/(mol\cdot K)}$,$\Delta T=80\ \mathrm K$ を代入すると,

$$ \Delta U=\frac{3}{2}\times3\ \mathrm{mol}\times8.3145\ \mathrm{J/(mol\cdot K)}\times80\ \mathrm K $$

まず係数の部分を計算すると $\dfrac32\times3=4.5$ であるから,

$$ \Delta U=4.5\times8.3145\times80\ \mathrm J=4.5\times665.16\ \mathrm J\approx2993\ \mathrm J\approx2.99\ \mathrm{kJ} $$

となる.単位を確認すると,$[\mathrm{mol}]\times[\mathrm{J/(mol\cdot K)}]\times[\mathrm K]=[\mathrm J]$ となり,内部エネルギーの単位(ジュール)に一致している.

演習26.8 直線の経路での熱と仕事

解答

状態 $\mathrm A$($1.0\times10^5\ \mathrm{Pa}$,$2.0\times10^{-2}\ \mathrm{m^3}$),状態 $\mathrm B$($2.0\times10^5\ \mathrm{Pa}$,$4.0\times10^{-2}\ \mathrm{m^3}$)である.内部エネルギーの変化は,例題26.7で求めたとおり,状態関数なので経路によらず $\Delta U=9.0\times10^3\ \mathrm J$ である.

経路 c は $p$-$V$ 図上で $\mathrm A$ と $\mathrm B$ を結ぶ直線である.準静的なので,$W'$ はこの直線の下の面積(公式26.4,$W'=\int p\,\dd V$)に等しい.直線の下の図形は,上底 $p_{\mathrm A}=1.0\times10^5\ \mathrm{Pa}$,下底 $p_{\mathrm B}=2.0\times10^5\ \mathrm{Pa}$,高さ $V_{\mathrm B}-V_{\mathrm A}=2.0\times10^{-2}\ \mathrm{m^3}$ の台形なので,

$$ W'_{\mathrm c}=\frac{p_{\mathrm A}+p_{\mathrm B}}{2}\,(V_{\mathrm B}-V_{\mathrm A})=\frac{1.0\times10^5+2.0\times10^5}{2}\ \mathrm{Pa}\times2.0\times10^{-2}\ \mathrm{m^3}=3.0\times10^3\ \mathrm J $$

である(直線 $p=p_{\mathrm A}+\dfrac{p_{\mathrm B}-p_{\mathrm A}}{V_{\mathrm B}-V_{\mathrm A}}(V-V_{\mathrm A})$ を $V_{\mathrm A}$ から $V_{\mathrm B}$ まで積分しても同じ値になる).第1法則 $\Delta U=Q-W'$ より,

$$ Q_{\mathrm c}=\Delta U+W'_{\mathrm c}=9.0\times10^3+3.0\times10^3=1.2\times10^4\ \mathrm J $$

である.経路 a($W'=4.0\times10^3\ \mathrm J$,$Q=1.3\times10^4\ \mathrm J$),経路 b($W'=2.0\times10^3\ \mathrm J$,$Q=1.1\times10^4\ \mathrm J$)と比べると,経路 c の $W'$ と $Q$ はちょうどその中間の値になっている.始状態と終状態が同じでも,$W'$ と $Q$ は経路によって異なり,$\Delta U$ だけが経路によらない.

演習26.9 した仕事とされた仕事の換算

解答

(a) 熱を放出したので $Q=-300\ \mathrm J$,外部から仕事をされたので,された仕事は $W=+200\ \mathrm J$,した仕事は $W'=-W=-200\ \mathrm J$ である.

された仕事を使う式 $\Delta U=Q+W$ では,

$$ \Delta U=Q+W=-300+200=-100\ \mathrm J $$

した仕事を使う式 $\Delta U=Q-W'$ では,

$$ \Delta U=Q-W'=-300-(-200)=-100\ \mathrm J $$

となり,どちらも $\Delta U=-100\ \mathrm J$ で一致する.気体は,仕事で $200\ \mathrm J$ を受け取ったが,熱で $300\ \mathrm J$ を失ったので,内部エネルギーは $100\ \mathrm J$ 減る.

(b) $Q=+120\ \mathrm J$ で,外部に $50\ \mathrm J$ の仕事をしたので,した仕事は $W'=50\ \mathrm J$ である.「した仕事」を $W$ と書く流儀の式 $\Delta U=Q-W$ の $W$ は,本書の $W'$ にあたるので,代入する値は $50\ \mathrm J$(正の値)である.すると,

$$ \Delta U=Q-W=120-50=70\ \mathrm J $$

となる.本書の記号で $\Delta U=Q-W'=120-50=70\ \mathrm J$,された仕事 $W=-50\ \mathrm J$ を使って $\Delta U=Q+W=120+(-50)=70\ \mathrm J$ と計算しても同じである.

演習26.10 $\dd'W$ と $\dd'Q$ が不完全微分であることの確認

解答

$M\,\dd x+N\,\dd y$ が完全微分形であるための判定条件は $\partial M/\partial y=\partial N/\partial x$ である.

(a) $\dd'W=-p\,\dd V=0\cdot\dd p+(-p)\,\dd V$ と書くと,$\dd p$ の係数は $M=0$,$\dd V$ の係数は $N=-p$ である.

$$ \pdiff{M}{V}=\pdiff{0}{V}=0,\qquad\pdiff{N}{p}=\pdiff{(-p)}{p}=-1 $$

で,$0\ne-1$ なので判定条件は成り立たない.したがって $\dd'W$ は完全微分形ではない(不完全微分).

(b) 単原子分子理想気体の準静的変化では $p=nRT/V$ なので,

$$ \dd'Q=\frac32nR\,\dd T+p\,\dd V=\frac32nR\,\dd T+\frac{nRT}{V}\,\dd V $$

である.$(T,V)$ を変数とみて,$\dd T$ の係数を $M=\tfrac32nR$,$\dd V$ の係数を $N=\dfrac{nRT}{V}$ とすると,

$$ \pdiff{M}{V}=0,\qquad\pdiff{N}{T}=\frac{nR}{V} $$

で,$0\ne nR/V$ なので判定条件は成り立たない.したがって $\dd'Q$ は完全微分形ではない(不完全微分).

(c) $\dd'Q$ を $T$ で割ると,

$$ \frac{\dd'Q}{T}=\frac{3nR}{2T}\,\dd T+\frac{nR}{V}\,\dd V $$

となる.$M=\dfrac{3nR}{2T}$,$N=\dfrac{nR}{V}$ とすると,

$$ \pdiff{M}{V}=\pdiff{}{V}\left(\frac{3nR}{2T}\right)=0,\qquad\pdiff{N}{T}=\pdiff{}{T}\left(\frac{nR}{V}\right)=0 $$

で一致するので,判定条件が成り立つ.実際,$\dfrac{\dd'Q}{T}=\dd\left(\dfrac32nR\ln T+nR\ln V\right)$ と書ける.熱 $Q$ そのものは状態の関数ではないが,$T$ で割ると状態の関数の微小変化(完全微分)になる.この $1/T$ が積分因子であり,第29章で学ぶエントロピーの出発点になる.

第27章 熱容量・エンタルピーとジュール=トムソン効果

演習27.1 定積熱容量と定圧熱容量の違い

解答

第1法則(本書の符号の約束)は $\dd U=\dd'Q+\dd'W$,$\dd'W=-p\,\dd V$ である.

定積変化の場合:$\dd V=0$ なので $\dd'W=-p\,\dd V=0$.したがって $\dd U=\dd'Q$,すなわち受け取った熱量はそっくりそのまま内部エネルギーの増加になる.体積が変わらないので,気体は膨張のための仕事をいっさいしない.

定圧変化の場合:気体は温度が上がると同時に体積も膨張する(理想気体なら $pV=nRT$ より,$p$ 一定で $T$ が上がれば $V$ も比例して増える).このとき気体は外部に仕事 $\dd'W'=-\dd'W=p\,\dd V\gt0$ をする.受け取った熱量 $\dd'Q=\dd U+p\,\dd V$(第1法則を書き換えたもの)は,内部エネルギーの増加分 $\dd U$ と,この膨張の仕事 $p\,\dd V$ の両方をまかなわなければならない.

同じ熱量 $\dd'Q$ を受け取ったとき,内部エネルギーの増え方は,定積では $\dd U=\dd'Q$,定圧では $\dd U=\dd'Q-p\,\dd V\lt\dd'Q$ である.定圧のほうが,膨張の仕事 $p\,\dd V$ の分だけ小さい.理想気体では $\dd U=C_V\,\dd T$ なので,同じ $\dd T$ を得るには,定圧のほうが $p\,\dd V$ だけ多くの熱が必要になる.

同じ $\dd T$ だけ温度を上げるのに必要な熱量を比べると,定圧のほうが「膨張のための仕事の分」だけ余計に必要になる.これが,$C_p=(\partial H/\partial T)_p$ が $C_V=(\partial U/\partial T)_V$ より大きくなる(一般に $C_p\ge C_V$,第27章 公式27.3)理由である.第27章の例題27.2 で見たとおり,理想気体ではこの余分な熱量がちょうど $nR\,\dd T$(マイヤーの関係式 $C_p-C_V=nR$ そのもの)に等しい.

演習27.2 ポアソンの公式の2つの形の同値性

解答

第27章のポアソンの公式の1つの形は $T_1V_1^{\gamma-1}=T_2V_2^{\gamma-1}$ である.理想気体の状態方程式 $pV=nRT$ より $T=pV/(nR)$ なので,これを両辺に代入する:

$$ \frac{p_1V_1}{nR}\,V_1^{\gamma-1}=\frac{p_2V_2}{nR}\,V_2^{\gamma-1} $$

両辺に共通する定数 $nR$($0$ でない)を払うと,

$$ p_1V_1\cdot V_1^{\gamma-1}=p_2V_2\cdot V_2^{\gamma-1} $$

左辺の $V_1\cdot V_1^{\gamma-1}=V_1^{1+(\gamma-1)}=V_1^\gamma$(指数法則 $x^a\cdot x^b=x^{a+b}$),右辺も同様に $V_2^\gamma$ となるので,

$$ p_1V_1^{\gamma}=p_2V_2^{\gamma} $$

が得られる.これは,もう一方の形の公式そのものである.したがって,$T=pV/(nR)$ という理想気体の状態方程式を使う限り,2つの形は完全に同値であり,どちらから出発してもよい.

演習27.3 理想気体で内圧が0になる理由

解答

内圧 $\pi_T=(\partial U/\partial V)_T$ は,「温度を変えずに,分子どうしの平均的な間隔(体積)だけを変えたときに,内部エネルギーがどれだけ変化するか」を表す量である.

理想気体では,分子どうしがまったく力を及ぼし合わないと仮定する(気体分子運動論の基本の仮定の1つ).このとき,気体の内部エネルギーは,すべての分子の熱運動の運動エネルギーの合計だけでできている.分子間の平均距離(体積)を変えても,分子どうしの間に働く力(引力・斥力)そのものが存在しないので,そこに蓄えられているはずの位置エネルギーというものが最初から存在しない.運動エネルギーの合計は,温度(分子の平均の速さの2乗に関係する量)だけで決まり,分子どうしがどれだけ離れているかにはよらない.したがって,$T$ を一定に保ったまま $V$(体積,したがって分子間距離)を変えても $U$ はまったく変化せず,$\pi_T=(\partial U/\partial V)_T=0$ となる.

一方,分子間に引力がはたらく実在気体(たとえば,第27章 図27.5 のファンデルワールス気体)では事情が違う.分子どうしが引き合っているとき,体積を大きくして分子どうしを引き離すには,その引力に逆らって仕事をしてやる必要がある——これはちょうど,地球の重力に逆らって物を持ち上げると位置エネルギーが増えるのと同じ理屈である.そのぶん,分子間力によるポテンシャルエネルギーが内部エネルギーに上乗せされ,体積を大きくするほど $U$ が増加する.したがって $\pi_T=(\partial U/\partial V)_T\gt0$ になる(第27章の図27.5 では,$U(V)=-an^2/V$ という具体的な形で,$V$ を大きくすると $U$ が単調に増加していく様子を確認した).

演習27.4 なぜジュール=トムソン係数は等エンタルピー変化で定義されるのか

解答

ジュール=トムソン過程(気体を断熱容器の中で多孔質障壁に押し通す過程)を,2つのピストンで置き換えて考えると,容器全体が断熱されている(熱の出入りがない)ので,気体が受け取る正味の仕事がそのまま内部エネルギーの変化になる.左のピストンが気体を押し込む仕事 $+p_1V_1$ と,右のピストンを押し返す仕事 $-p_2V_2$ を合わせると,$\Delta U=p_1V_1-p_2V_2$ となり,これを整理すると $U_1+p_1V_1=U_2+p_2V_2$,すなわち $H_1=H_2$(エンタルピーが変化しない)が得られる(第27章の導出を見よ).

つまり,「気体を多孔質障壁に押し通す」という現実に起こっている変化の道すじは,数学的には「エンタルピー $H$ を一定に保ちながら,圧力 $p$ と温度 $T$ が変化していく」道すじにほかならない.ある物理量(ここでは温度 $T$)が,別の物理量(圧力 $p$)の変化に応じてどう変わるかを表したいとき,その道すじで実際に一定に保たれている量を下付きに書いて偏微分するのが自然である(たとえば,$C_V=(\partial U/\partial T)_V$ が「体積一定という道すじ」に沿った偏微分であったのと同じ発想).ジュール=トムソン過程では,その「道すじで一定に保たれている量」がエンタルピーだったので,$\mu=(\partial T/\partial p)_H$ とエンタルピー一定のもとでの偏微分として定義するのが,実際に起こっている現象を正しく表す定義になる.

演習27.5 液体ヘリウムの製造になぜ3段階の冷却が要るのか

解答

ジュール=トムソン膨張で気体を冷やす($\mu\gt0$)ためには,その気体の温度・圧力の状態が,第27章 図27.10 の逆転曲線の内側になければならない.逆転曲線の内側に入っていない(曲線の外側や,そもそも曲線が広がっていない低圧領域にいる)と,膨張してもむしろ発熱してしまう($\mu\lt0$).

図27.10 を見ると,3つの気体の逆転曲線の大きさはまったく違う——窒素の逆転曲線がいちばん大きく広がっており,水素はそれよりずっと小さく,ヘリウムはさらにいちだんと小さい(曲線の大きさは N$_2$,H$_2$,He の順に小さくなる).最大逆転温度($p\to0$ での高温側の値)は,実測でおよそ N$_2$:$620\ \mathrm{K}$,H$_2$:$200\ \mathrm{K}$,He:$40\ \mathrm{K}$ である(図27.10 はファンデルワールスモデルによる目安で,値は異なるが,この順に小さくなる傾向は同じである).室温(およそ$300\ \mathrm{K}$)は,窒素の逆転曲線の内側には入るが,水素やヘリウムの逆転曲線の内側にはまったく入らない.

したがって,室温のままヘリウムを膨張させても,そもそもヘリウムの小さな曲線の内側(せいぜい$40\ \mathrm{K}$程度以下)にいないので,ジュール=トムソン効果では冷えない.そこでまず,室温の窒素を(窒素自身の広い逆転曲線の内側にいるので)ジュール=トムソン膨張させて液体窒素($77\ \mathrm{K}$)を作る.次に,水素の最大逆転温度(およそ$200\ \mathrm{K}$)より低くなるように,水素を液体窒素で$77\ \mathrm{K}$まで予冷してからジュール=トムソン膨張させ,液体水素($20\ \mathrm{K}$)を作る.最後に,ヘリウムの最大逆転温度(およそ$40\ \mathrm{K}$)より低くなるように,ヘリウムを液体水素で$20\ \mathrm{K}$まで予冷してからジュール=トムソン膨張させて,ようやく液体ヘリウムが得られる.このように,各段階の気体の最大逆転温度が N$_2$,H$_2$,He の順に低くなっていく構造そのものが,1段階では液化できず,順番にカスケード式に予冷しなければならない理由である.

演習27.6 断熱膨張と等温膨張で気体がする仕事の比較

解答

(1) 等温可逆膨張の場合,第27章の式($W'=nRT\ln(V_2/V_1)$,例題27.1と同じ形)より,

$$ W'_{\text{等温}}=nRT_1\ln\frac{V_2}{V_1}=1.0\times8.314\times300\times\ln\frac{20}{10} $$

$\ln2\approx0.6931$ なので,

$$ W'_{\text{等温}}=8.314\times300\times0.6931\approx1728.8\ \mathrm{J}\approx1.73\ \mathrm{kJ} $$

(2) 断熱可逆膨張の場合,まず第27章のポアソンの公式 $T_1V_1^{\gamma-1}=T_2V_2^{\gamma-1}$ を使って,膨張後の温度を求める:

$$ T_2=T_1\left(\frac{V_1}{V_2}\right)^{\gamma-1}=300\times\left(\frac{10}{20}\right)^{0.4}=300\times0.5^{0.4} $$

$0.5^{0.4}=e^{0.4\ln0.5}=e^{0.4\times(-0.6931)}=e^{-0.2773}\approx0.7579$ なので,

$$ T_2\approx300\times0.7579\approx227.4\ \mathrm{K} $$

断熱変化なので $Q=0$,したがって(本書の符号の約束で)$\Delta U=W$.気体が外部にする仕事は $W'=-W=-\Delta U=-C_V(T_2-T_1)=C_V(T_1-T_2)$ である.二原子分子理想気体なので $C_V=\tfrac52 nR=2.5\times1.0\times8.314=20.785\ \mathrm{J/K}$.よって,

$$ W'_{\text{断熱}}=C_V(T_1-T_2)=20.785\times(300-227.4)=20.785\times72.6\approx1509.9\ \mathrm{J}\approx1.51\ \mathrm{kJ} $$

(3) $W'_{\text{等温}}\approx1.73\ \mathrm{kJ}$ のほうが $W'_{\text{断熱}}\approx1.51\ \mathrm{kJ}$ より大きい.第27章の図27.3で確認したとおり,同じ出発点 $(V_1,p_1)$ を通る等温線と断熱線を比べると,$V$ が増える側(膨張の向き)では,断熱線のほうが傾きが急($\abs{\dd p/\dd V}=\gamma p/V\gt p/V$)で,等温線の下側を通る.つまり,等温膨張のほうが,同じ体積変化に対して常に大きい圧力を保ちながら膨張するので,$p$-$V$ 図の下側の面積(=仕事)がより大きくなる.($V$ が減る側,つまり圧縮の向きでは逆に断熱線が上側になる.)物理的には,断熱膨張では気体自身が仕事をする分だけ自分の内部エネルギー(温度)を犠牲にする(温度が下がる)ので圧力の下がり方が大きく,等温膨張では外部から熱を補給して温度を一定に保つ(その分,多くの仕事を取り出せる)という違いに対応している.(数値は下の検算のとおり)

検算:$n=1.0,\ R=8.314,\ T_1=300,\ V_1=10,\ V_2=20,\ \gamma=1.4$ で,$W'_{\text{等温}}=nRT_1\ln(V_2/V_1)\approx1728.85\ \mathrm{J}$,$T_2=T_1(V_1/V_2)^{\gamma-1}\approx227.36\ \mathrm{K}$,$W'_{\text{断熱}}=C_V(T_1-T_2)\approx1509.87\ \mathrm{J}$.$1728.85\gt1509.87$ で(3)の結論と一致する.

演習27.7 銅の $C_p-C_V$

解答

(1) 体積弾性係数 $K$ と等温圧縮率 $\kappa_T$ は逆数の関係 $K=1/\kappa_T$ にあるので,

$$ \kappa_T=\frac{1}{K}=\frac{1}{1.4\times10^{11}\ \mathrm{Pa}}\approx7.1\times10^{-12}\ \mathrm{Pa^{-1}} $$

(2) 一般のマイヤーの関係式(第27章 公式27.3)を $1\ \mathrm{mol}$ あたりで使う:

$$ C_{p,\mathrm m}-C_{V,\mathrm m}=\frac{\alpha^2TV_{\mathrm m}}{\kappa_T}=\alpha^2TV_{\mathrm m}K $$

$\alpha^2=(4.9\times10^{-5})^2=2.401\times10^{-9}\ \mathrm{K^{-2}}$ に $T=300\ \mathrm{K}$ を掛けて $7.203\times10^{-7}\ \mathrm{K^{-1}}$,$V_{\mathrm m}=7.1\times10^{-6}\ \mathrm{m^3/mol}$ を掛けて $5.114\times10^{-12}\ \mathrm{m^3/(mol\,K)}$,$K=1.4\times10^{11}\ \mathrm{Pa}$ を掛けて,

$$ C_{p,\mathrm m}-C_{V,\mathrm m}\approx0.72\ \mathrm{Pa\,m^3/(mol\,K)}=0.72\ \mathrm{J/(mol\,K)} $$

(3) $C_{p,\mathrm m}\approx24.5\ \mathrm{J/(mol\,K)}$ に対する割合は $0.72/24.5\approx0.03$,すなわち約 $3\,\%$ である.固体は温めてもほとんど膨張せず($\alpha$ が小さい),しかも縮みにくい($K$ が大きい)ので,定圧で温めても膨張の仕事に使われる熱が小さい.そのため $C_p\approx C_V$ とみなせる.理想気体で $C_p-C_V=R\approx8.3\ \mathrm{J/(mol\,K)}$ にもなるのと対照的である.

演習27.8 窒素と水素の絞り膨張

解答

ジュール=トムソン過程では $\dd H=0$ である.エンタルピーの全微分 $\dd H=-\mu C_p\,\dd p+C_p\,\dd T$ で $\dd H=0$ とおくと $\dd T=\mu\,\dd p$ となる.$\mu$ を一定とみなして積分すると $\Delta T=\mu\,\Delta p$.圧力の変化は $\Delta p=1.0-10.0=-9.0\ \mathrm{atm}$ である.

(1) 窒素:$\Delta T=0.25\ \mathrm{K/atm}\times(-9.0\ \mathrm{atm})=-2.25\ \mathrm{K}\approx-2.3\ \mathrm{K}$.温度は約 $2.3\ \mathrm{K}$ 下がり,$297.75\ \mathrm{K}$ になる.

(2) 水素:$\Delta T=(-0.03\ \mathrm{K/atm})\times(-9.0\ \mathrm{atm})=+0.27\ \mathrm{K}$.温度は約 $0.3\ \mathrm{K}$ 上がり,$300.27\ \mathrm{K}$ になる.

(3) 窒素の最大逆転温度(実測でおよそ $620\ \mathrm{K}$)は室温 $300\ \mathrm{K}$ より高いので,室温は逆転曲線の内側にあり $\mu\gt0$(冷却)である.水素の最大逆転温度(およそ $200\ \mathrm{K}$)は室温より低く,室温は逆転曲線の外側にあるので $\mu\lt0$(発熱)になる.こうして,同じ圧力変化でも,窒素は冷え,水素はわずかに温まる.水素を絞り膨張で冷やすには,あらかじめ最大逆転温度より低くまで予冷しておく必要がある.

第28章 カルノー・サイクルと熱機関の効率

演習28.1 絶対零度とカルノー効率

解答

カルノー・サイクルの熱効率は $\eta=1-T_1/T_2$($T_2$ は高温熱源,$T_1$ は低温熱源の絶対温度)である.$T_2$ を固定して $T_1\to0$(絶対零度)の極限を考えると,

$$ \lim_{T_1\to0}\eta=\lim_{T_1\to0}\left(1-\frac{T_1}{T_2}\right)=1-\frac{0}{T_2}=1 $$

となり,たしかに $\eta\to1$(効率100%)に近づく.

しかし,これは「絶対零度の熱源さえ用意すれば,実際に効率100%の熱機関が作れる」ことを意味しない.この極限は,あくまで数式のうえで $T_1$ という変数を0に近づけたときの数学的な振る舞いを述べているにすぎない.熱力学第3法則(本教材第32章で学ぶ)によれば,有限回の操作で絶対零度そのものに到達することは物理的に不可能である.したがって,実在するどんな低温熱源も $T_1\gt0$ であり,$\eta=1-T_1/T_2$ は常に1より真に小さい.「$T_1\to0$ で $\eta\to1$」という関係は,低温熱源の温度を下げれば下げるほど理論上の上限効率が高くなる,という傾向を示す極限であって,実際に効率100%を達成できることを意味するわけではない.

これは,第28章28.1節のトムソンの原理とも整合している.$\eta=1$ は $Q_1=0$(低温熱源へ熱を捨てずに,吸収した熱をすべて仕事に変える)に対応し,トムソンの原理はまさにこれを禁じている.$T_1\to0$ は,低温熱源が消えることではなく,その温度が絶対零度に近づくことである.第3法則により $T_1=0$ には到達できないので,$\eta\to1$ の極限にも到達できず,両者は矛盾しない.

演習28.2 なぜ準静的でなければならないか

解答

カルノー・サイクルの4つの過程が準静的(十分ゆっくり)でなければならない理由は,可逆過程(外部に痕跡を残さずに逆向きにたどり直せる過程)にするためである.準静的であることは可逆であるための必要条件であり,これに加えて,摩擦などの散逸がなく,熱の授受を熱源との温度差なしに行うことも要る.もし途中の過程(たとえば断熱膨張)を急激に行うと,気体内部に圧力や温度のむら(不均一)が生じたり,乱流・摩擦のような散逸が起こったりして,同じ経路を逆向きに正確にたどることができなくなる(不可逆過程になる).

この可逆性は,カルノーの定理の証明(第28章28.4節)で本質的に使われていた.証明では,任意の熱機関 $\mathrm X$ と比較するために,可逆な熱機関 $\mathrm R$(カルノー・サイクル)を逆回転させて,$\mathrm X$ が出す仕事をそのまま使って $\mathrm R$ を冷凍機として動かす,という操作をした.もし $\mathrm R$ が不可逆な過程を含んでいたら,そもそも「逆回転させる」という操作自体ができない(不可逆過程は,同じ量の熱・仕事の出入りで逆向きにたどり直すことができないため,仮に無理に逆向きに動かしたとしても,往きと帰りで熱・仕事の量が異なってしまい,証明の前提となる「往きと帰りで大きさが同じ」という関係が崩れてしまう).したがって,もしカルノー・サイクルの過程が準静的でなく不可逆であれば,証明の中で「$\mathrm R$ を逆回転させ,往きと同じ大きさの熱・仕事が出入りする」と仮定した部分がそもそも成り立たなくなり,証明全体が崩れてしまう.準静的性(可逆性)は,カルノーの定理を成り立たせるための不可欠な前提なのである.

演習28.3 逆カルノー・サイクルが冷凍機である理由

解答

順回転のカルノー・サイクルでは,高温熱源から熱 $Q_2$ を吸収し,低温熱源へ熱 $Q_1$($Q_1\lt Q_2$)を放出し,その差額を外部への仕事 $W'=Q_2-Q_1$ として取り出していた.逆回転させると,これらの熱と仕事の出入りがすべて向きを反転する:低温熱源から熱 $Q_1$ を吸収し,高温熱源へ熱 $Q_2$ を放出し,そのために外部から仕事 $W_{\mathrm{in}}=Q_2-Q_1$ を供給される.

つまり,逆回転カルノー・サイクルは,「低温側から熱を吸い上げて,高温側へ吐き出す」という,まさに冷凍機(庫内という低温側から熱を奪う)やヒートポンプ(高温側である室内へ熱を届ける)そのものの働きをしている.外部から仕事 $W_{\mathrm{in}}$ を供給し続けなければこの熱の汲み上げは起こらない——これが,冷蔵庫やエアコンが電気(仕事)を消費し続ける理由である.

これは,第28章28.1節のクラウジウスの原理(「仕事の供給なしに,熱が低温から高温へ移る過程は存在しない」)には反しない.クラウジウスの原理が禁じているのは,あくまで「仕事の供給がないのに」熱が低温から高温へひとりでに移ってしまう過程である.逆回転カルノー・サイクルでは,外部からの仕事 $W_{\mathrm{in}}$ という「他の変化」がきちんと伴っているので,禁止されている過程には当たらない.

演習28.4 オットー・サイクルとディーゼル・サイクルの違い

解答

オットー・サイクルは,燃焼(外部からの吸熱にあたる過程)を定積変化として扱う.これは,ガソリンエンジンでは,圧縮された混合気に点火プラグで一瞬にして火花を飛ばして着火し,ピストンがほとんど動かないうちに燃焼が完了する(体積がほぼ一定のまま圧力・温度だけが急上昇する)と考えられるからである.一方,ディーゼル・サイクルは,燃焼を定圧変化として扱う.ディーゼルエンジンには点火プラグがなく,非常に高い圧縮比で空気だけを圧縮して高温にしたところへ燃料を噴射し,燃料が噴射されている間じゅう燃焼が続きながらピストンがゆっくり押し出される(圧力がほぼ一定に保たれたまま体積が増加する)とみなせるからである.

この違いは,実際のエンジンの構造上の違いに対応している.ガソリンエンジン(オットー・サイクル)は点火プラグによる強制的な着火を使うため,圧縮比を上げすぎると,点火前に混合気が自然発火してしまう「ノッキング」が起こりやすく,圧縮比には上限がある(28.6節の考察).一方,ディーゼルエンジン(ディーゼル・サイクル)は,そもそも空気の圧縮による自己着火を利用する設計なので,ノッキングを心配する必要がなく,オットー・サイクルよりずっと高い圧縮比($r=15$–$25$程度)を実現できる.例題28.9で確認したとおり,同じ圧縮比で比べればオットー・サイクルのほうが効率が高いが,ディーゼルエンジンは圧縮比そのものを高くできるため,実際にはガソリンエンジンより高い燃費(実効率)を達成することが多い.

演習28.5 カルノーの定理と作業物質によらないこと

解答

カルノーの定理により,同じ2つの熱源 $T_1,T_2$ の間で働く可逆機関の効率 $\eta=1-T_1/T_2$ は,作業物質(理想気体か,水蒸気か,その他の物質か)によらず,熱源の温度だけで決まる普遍的な値である.これは非常に強い主張であり,逆に考えると,「効率」という,作業物質の詳しい性質(状態方程式の形など)に頼らずに測定できる量を使って,「温度」そのものを定義し直せることを意味する.

具体的には,2つの熱源の間で働く可逆機関の効率 $\eta$ を実験(または定義上の思考実験)で測定できたとすれば,$\eta=1-T_1/T_2$ の関係から $T_1/T_2=1-\eta$ という温度の比が決まる.これは,特定の物質(たとえば理想気体の体積膨張)の性質に頼って温度を定義する「気体温度計」のような方法とは全く異なり,どんな物質にも共通する,熱機関の効率だけに基づいた温度の定義の仕方である.これを熱力学的温度目盛り(絶対温度目盛りとも呼ばれる,ケルビン目盛りの本来の定義)という(28.4節の考察の枠と同じ内容である).本章で計算した理想気体のカルノー・サイクルの効率 $\eta=1-T_1/T_2$(ここでの $T$ は理想気体の状態方程式で定義された温度)が,この普遍的な熱力学的温度目盛りと一致することは,理想気体を使った温度の定義が,作業物質によらない熱力学的な温度の定義と矛盾しないことを裏付けている.この考え方は,次章以降でエントロピーや熱力学第2法則をさらに深く学ぶ際の土台になる.

演習28.6 $Q_2/T_2-Q_1/T_1=0$ が示唆すること

解答

状態量とは,物質がどんな経路をたどって今の状態になったかによらず,今の状態(たとえば圧力・体積・温度の組)だけで値が決まる量のことである(第23章23.3節で学んだ内部エネルギーがその代表例).熱量 $Q$ は,一般にはこの意味での状態量ではない——本章で見たとおり,カルノー・サイクルを1周しても $Q_2-Q_1\neq0$ であり,「1周してもとの状態に戻ったのに,出入りした熱の総量はゼロにならない」.これは,$Q$ の値が,途中でどんな過程(等温か断熱か,どんな経路か)をたどったかに依存してしまうことを意味しており,状態量の定義に反する.

ところが,28.5節で確認したように,$Q_2/T_2$ と $Q_1/T_1$ という,熱量をそれを受け渡しした熱源の温度で割った量どうしを比べると,$Q_2/T_2-Q_1/T_1=0$ となり,1周してぴったりゼロに戻る.$Q$ 単体では経路に依存してしまうのに,$Q/T$ という組み合わせにすると,1周の変化がちょうど打ち消し合ってゼロになる——これは,$S\equiv Q/T$ という量が,$Q$ とは違って,状態(経路ではなく)だけで決まる状態量になっている可能性を強く示唆している.

では,この新しい状態量 $S$(エントロピー)は,どんな物理的な性質を表す量だと予想できるだろうか.$Q/T$ という形は,熱としてやりとりされたエネルギーのうち,どれだけの割合が二度と仕事に変換できない形(低温の熱源にただ捨てられただけの熱)になってしまったかを表しているように見える.エントロピーは,系の分子運動がどれだけ「乱雑」であるかの目安だと言われる(第29章以降で詳しく学ぶ).たとえば,カルノー・サイクルのように可逆に運転すれば $Q/T$ の収支はきっちりゼロになるが,もし途中に不可逆な過程(摩擦や急激な変化)が混じれば,このバランスが崩れて $S$ が増加する方向に片寄るのではないか——という予想は,次章(第29章)で正確なエントロピーの定義とその性質を学ぶことで確かめられる.

演習28.7 火力発電所のカルノー効率と実際の効率

解答

(1) 高温熱源 $T_2=800\ \mathrm{K}$,低温熱源 $T_1=300\ \mathrm{K}$ のカルノー効率は,

$$ \eta_{\mathrm{Carnot}}=1-\frac{T_1}{T_2}=1-\frac{300}{800}=1-0.375=0.625=62.5\,\% $$

(2) 実際の熱効率は $\eta=0.40$ なので,カルノー効率に対する比は

$$ \frac{\eta}{\eta_{\mathrm{Carnot}}}=\frac{0.40}{0.625}=0.64 $$

すなわち,実際の効率はカルノー効率(この温度範囲での理論上の上限)の約64%(6割強)である.摩擦・熱損失・温度差のある熱交換などの不可逆性が,残りの分を失わせている.

(3) 電気出力(1秒あたりの仕事)を $W'/t=1.0\times10^{9}\ \mathrm{W}=1.0\times10^{9}\ \mathrm{J/s}$ とする.$\eta=W'/Q_2$ より,毎秒吸収する熱は

$$ \frac{Q_2}{t}=\frac{W'/t}{\eta}=\frac{1.0\times10^{9}\ \mathrm{J/s}}{0.40}=2.5\times10^{9}\ \mathrm{J/s}=2.5\ \mathrm{GW} $$

である.$Q_1=Q_2-W'$ より,毎秒復水器に捨てる熱は

$$ \frac{Q_1}{t}=2.5\times10^{9}-1.0\times10^{9}=1.5\times10^{9}\ \mathrm{J/s}=1.5\ \mathrm{GW} $$

となる.燃料から得た熱の $60\,\%$ が海や川,大気に捨てられていることになる.(参考:もし効率がカルノー効率 $62.5\,\%$ に達していれば,同じ電気出力に必要な熱は $1.0\times10^{9}/0.625=1.6\times10^{9}\ \mathrm{J/s}$ で足りる.)

演習28.8 オットー・サイクルとカルノー・サイクルの比較

解答

オットー・サイクルの熱効率は $\eta=1-r^{1-\gamma}$ である.$r=10$,$\gamma=1.4$ を代入すると,

$$ \eta_{\mathrm{Otto}}=1-10^{-0.4}=1-e^{-0.4\ln10}=1-e^{-0.921}\approx1-0.3981=0.602=60.2\,\% $$

である.最高温度 $2000\ \mathrm{K}$,最低温度 $300\ \mathrm{K}$ の間で働くカルノー・サイクルの効率は,

$$ \eta_{\mathrm{Carnot}}=1-\frac{300}{2000}=1-0.15=0.85=85\,\% $$

なので,オットー・サイクルの効率はカルノー効率の

$$ \frac{0.602}{0.85}\approx0.708 $$

すなわち約71%である.オットー・サイクルがカルノー・サイクルより低い理由は,28.6節の考察のとおり,吸熱が最高温度 $T_A$ の熱源だけからではなく,$T_D$ から $T_A$ まで温度が上がりながら行われる(熱の大半をより低い温度で受け取る)ためである.

演習28.9 冷凍庫の成績係数

解答

絶対温度は $T_1=-18+273.15=255.15\ \mathrm{K}$(庫内,低温熱源),$T_2=27+273.15=300.15\ \mathrm{K}$(部屋,高温熱源)である.

(1) 逆回転カルノー・サイクルの冷凍機としてのCOPは,

$$ \mathrm{COP}_{\mathrm R}=\frac{T_1}{T_2-T_1}=\frac{255.15}{300.15-255.15}=\frac{255.15}{45.00}\approx5.67 $$

(2) 庫内から毎秒くみ出す熱は $Q_1/t=300\ \mathrm{J/s}$ である.$\mathrm{COP}_{\mathrm R}=Q_1/W_{\mathrm{in}}$ より,必要な仕事率(最小の電力)は,

$$ \frac{W_{\mathrm{in}}}{t}=\frac{Q_1/t}{\mathrm{COP}_{\mathrm R}}=\frac{300\ \mathrm{J/s}}{5.67}\approx52.9\ \mathrm{J/s}=52.9\ \mathrm{W} $$

(3) $Q_2=Q_1+W_{\mathrm{in}}$ より,部屋へ毎秒放出される熱は,

$$ \frac{Q_2}{t}=300+52.9\approx3.53\times10^{2}\ \mathrm{J/s}=353\ \mathrm{W} $$

(検算:$Q_2/Q_1=T_2/T_1$ より $300\times300.15/255.15\approx353\ \mathrm{W}$ で一致する.)冷凍庫の中の熱をくみ出すために電力を使うので,部屋へは,庫内から運んだ熱よりも大きな熱が放出される.実際の冷凍庫では不可逆性のために,必要な電力はこの理想値より大きい.

演習28.10 オットー・サイクルの仕事

解答

断熱過程の仕事. $A\to B$ は断熱変化なので $Q_{AB}=0$ であり,第1法則 $\Delta U=Q-W'$ より $W'_{AB}=-\Delta U_{AB}$.理想気体の内部エネルギーの変化は $\Delta U=C_V\Delta T$ なので,

$$ W'_{AB}=-C_V(T_B-T_A)=C_V(T_A-T_B) $$

同様に $C\to D$ も断熱変化なので,

$$ W'_{CD}=-C_V(T_D-T_C)=C_V(T_C-T_D)\ (\lt0) $$

定積過程 $D\to A$,$B\to C$ では $\dd V=0$ なので仕事は $0$ である.したがって,1サイクルの正味の仕事は,

$$ W'=W'_{AB}+W'_{CD}=C_V(T_A-T_B)-C_V(T_D-T_C)=C_V(T_A-T_D)-C_V(T_B-T_C) $$

ここで,例題28.7のとおり $Q_2=C_V(T_A-T_D)$,$Q_1=C_V(T_B-T_C)$ なので,$W'=Q_2-Q_1$ となり,1サイクルの正味の仕事が $Q_2-Q_1$ に一致することが示された.(さらに,$T_B=xT_A$,$T_C=xT_D$,$x=r^{1-\gamma}$ を使えば $W'=C_V(1-x)(T_A-T_D)=(1-r^{1-\gamma})Q_2$ で,$\eta=W'/Q_2=1-r^{1-\gamma}$ となる.)

数値. $C_V=nR/(\gamma-1)=1.0\times8.314/0.4\approx20.8\ \mathrm{J/K}$.$x=8^{-0.4}\approx0.4353$ なので,

$$ T_D=\frac{T_C}{x}=T_C\,r^{\gamma-1}=300\times8^{0.4}\approx300\times2.297\approx689\ \mathrm{K},\qquad T_B=xT_A=0.4353\times2000\approx871\ \mathrm{K} $$

である.よって,

$$ W'_{AB}=20.8\times(2000-871)\approx2.35\times10^{4}\ \mathrm{J},\qquad W'_{CD}=20.8\times(300-689)\approx-8.09\times10^{3}\ \mathrm{J} $$ $$ W'=W'_{AB}+W'_{CD}\approx(2.35-0.81)\times10^{4}\ \mathrm{J}\approx1.54\times10^{4}\ \mathrm{J} $$

(検算:$Q_2=20.8\times(2000-689)\approx2.72\times10^{4}\ \mathrm{J}$,$Q_1=20.8\times(871-300)\approx1.19\times10^{4}\ \mathrm{J}$ で $Q_2-Q_1\approx1.54\times10^{4}\ \mathrm{J}$.$W'/Q_2\approx0.565=1-8^{-0.4}$ とも一致する.)

演習28.11 $Q/T$ の一致を数値で確かめる

解答

$n=1.0\ \mathrm{mol}$,$T_2=400\ \mathrm{K}$,$T_1=300\ \mathrm{K}$,$V_B/V_A=3.0/1.0=3.0$,$\ln3.0\approx1.0986$,$R=8.314\ \mathrm{J/(mol\,K)}$ である.等温変化の熱は $Q_2=nRT_2\ln(V_B/V_A)$,$Q_1=nRT_1\ln(V_B/V_A)$ なので,

$$ Q_2=1.0\times8.314\times400\times1.0986\approx3.65\times10^{3}\ \mathrm{J},\qquad Q_1=1.0\times8.314\times300\times1.0986\approx2.74\times10^{3}\ \mathrm{J} $$

である.これらを熱を受け渡した熱源の温度で割ると,

$$ \frac{Q_2}{T_2}=\frac{3.65\times10^{3}}{400}\approx9.13\ \mathrm{J/K},\qquad\frac{Q_1}{T_1}=\frac{2.74\times10^{3}}{300}\approx9.13\ \mathrm{J/K} $$

となり,たしかに等しい($Q_2\neq Q_1$ なのに $Q_2/T_2=Q_1/T_1$).この等しい値は,式で見ると,$Q_2/T_2=nR\ln(V_B/V_A)$,$Q_1/T_1=nR\ln(V_B/V_A)$ で,どちらも $nR\ln(V_B/V_A)=1.0\times8.314\times1.0986\approx9.13\ \mathrm{J/K}$ である.温度 $T_2,T_1$ が約分されて消え,体積比 $V_B/V_A$ だけが残る——これが $Q/T$ が経路によらない量(エントロピー)になりうることの数値的な裏づけである.

第29章 エントロピー — 定義と状態量であることの証明

演習29.1 等温可逆圧縮のエントロピー変化

解答

(1) 第29章の等温可逆変化の結果 $\Delta S=nR\ln(V_2/V_1)$ に,$V_2=V_1/3$ を代入する:

$$ \Delta S_{\text{気体}}=nR\ln\frac{V_1/3}{V_1}=nR\ln\frac{1}{3}=-nR\ln3 $$

($\ln(1/3)=-\ln3\approx-1.0986$).$n=1\ \mathrm{mol}$ なら

$$ \Delta S_{\text{気体}}=-1\times8.314\times1.0986\ \mathrm{J/K}\approx-9.13\ \mathrm{J/K} $$

で負である.圧縮によって気体分子が動き回れる体積の範囲が $V_1$ から $V_1/3$ へ狭くなるので,分子配置の乱雑さは減り,エントロピーは減少する.これは,体積が広がる自由膨張で $\Delta S\gt0$ になったこととちょうど逆である.

(2) 理想気体の等温変化では $\Delta U=0$ なので $Q=W'$ で,$Q=nRT\ln(V_2/V_1)$ である.

$$ Q=1\times8.314\times300\times\ln\frac13\ \mathrm{J}\approx-2.74\times10^3\ \mathrm{J} $$

負なので,気体は熱源へ約 $2.74\ \mathrm{kJ}$ の熱を放出する($\Delta S_{\text{気体}}=Q/T=-2740/300\ \mathrm{J/K}\approx-9.13\ \mathrm{J/K}$ と一致する).

(3) 熱源は,気体が放出した熱 $2.74\ \mathrm{kJ}$ を温度 $T=300\ \mathrm{K}$ で受け取るので,

$$ \Delta S_{\text{熱源}}=\frac{+2740\ \mathrm{J}}{300\ \mathrm{K}}\approx+9.13\ \mathrm{J/K},\qquad \Delta S_{\text{全体}}=-9.13+9.13=0 $$

となる.気体だけを見ればエントロピーは減っているが,熱源の増加分がちょうどそれを打ち消しており,可逆変化なので全体の $\Delta S_{\text{全体}}=0$ で,エントロピー増大の法則(全体で $\Delta S\ge0$)に反しない.もし同じ圧縮を急激に(不可逆に)行えば,熱源が受け取る熱は $2.74\ \mathrm{kJ}$ より多くなり,$\Delta S_{\text{全体}}\gt0$ になる.

演習29.2 断熱自由膨張が不可逆である理由

解答

29.8節で求めた断熱自由膨張(体積 $V_i\to V_f$,$V_f\gt V_i$)のエントロピー変化は,

$$ \Delta S_{\text{正}}=nR\ln\frac{V_f}{V_i}\gt0 $$

である.いま考える逆過程は,同じ断熱容器の中で,気体がひとりでに体積 $V_f$ から $V_i$($V_i\lt V_f$)へ戻る変化である.エントロピーは状態量(定理29.2)なので,逆向きの変化のエントロピー変化は,もとの変化の符号を反転させたものになる:

$$ \Delta S_{\text{逆}}=nR\ln\frac{V_i}{V_f}=-nR\ln\frac{V_f}{V_i}=-\Delta S_{\text{正}}\lt0 $$

断熱容器全体(気体+容器)は孤立系であり,エントロピー増大の法則(法則29.1)は,孤立系で起こりうる変化は $\Delta S\ge0$ を満たさなければならないと述べている.逆過程では $\Delta S_{\text{逆}}\lt0$(エントロピーが減少する)ので,この法則により禁止される.したがって,広がった気体がひとりでに元の体積へ戻る変化は起こらない——これが,断熱自由膨張が不可逆である(逆向きには進まない)ことの,エントロピーによる説明である.(原理的には,すべての気体分子がたまたま同時に容器の半分に集まる確率はゼロではないが,アボガドロ数程度の分子数ではその確率は天文学的に小さく,現実には観測されない.この「確率の小ささ」を定量的に扱うのが,第VII部で学ぶ統計力学のボルツマンの関係式 $S=k_{\mathrm{B}}\ln W$ である.)

演習29.3 カルノー・サイクルの断熱過程の関係式

解答

29.5.1節で求めた等温過程2つのエントロピー変化は,$\Delta S_{AB}=nR\ln(V_B/V_A)$,$\Delta S_{CD}=nR\ln(V_D/V_C)$ である.これらの和は,対数の性質 $\ln x+\ln y=\ln(xy)$(高校数学 第6章)により,

$$ \Delta S_{AB}+\Delta S_{CD}=nR\ln\frac{V_B}{V_A}+nR\ln\frac{V_D}{V_C}=nR\ln\left(\frac{V_B}{V_A}\cdot\frac{V_D}{V_C}\right) $$

とまとめられる.ここで,断熱過程の関係(ポアソンの公式)から導かれる $V_B/V_A=V_C/V_D$ を使うと,括弧の中身は,

$$ \frac{V_B}{V_A}\cdot\frac{V_D}{V_C}=\frac{V_C}{V_D}\cdot\frac{V_D}{V_C}=1 $$

となる($V_B/V_A$ を,等しいことが分かっている $V_C/V_D$ に置き換えると,残りの $V_D/V_C$ とちょうど逆数の関係になり,掛け合わせるとぴったり $1$ になる).したがって,

$$ \Delta S_{AB}+\Delta S_{CD}=nR\ln1=0 $$

となり,符号違いでちょうど打ち消し合う.物理的には,$V_B/V_A=V_C/V_D$ という関係は,高温側での等温膨張の体積比(何倍に広がったか)と,低温側での等温圧縮の体積比の逆数(何倍に縮んだか)が,断熱過程をはさむことでちょうど同じ比になることを意味しており,この比の対称性が,2つの等温過程のエントロピー変化を,同じ大きさで逆符号にしている.

演習29.4 エントロピー増大の法則が「断熱系」に限られる理由

解答

29.7節で導いたクラウジウスの不等式は,一般に

$$ \dd S\ge\frac{\dd'Q}{T} $$

であった.断熱系($\dd'Q=0$)の場合にだけ,右辺が $0$ になって $\dd S\ge0$ という単純な形が得られる.外部と熱のやり取りがある系($\dd'Q\ne0$)では,右辺 $\dd'Q/T$ が $0$ でないので,一般には $\dd S$ の符号は決まらない.とくに,系が熱を放出する場合($\dd'Q\lt0$)を考えると,右辺は負になりうるので,不等式 $\dd S\ge\dd'Q/T$ は,$\dd S$ が負になること——その系だけのエントロピーが減少すること——を禁止しない.

具体例として,冷蔵庫の中で水が凍る場合を考えよう.水が氷になるとき,水分子はより規則正しい結晶構造に並ぶので,水(この系)のエントロピーは減少する($\Delta S_{\text{水}}\lt0$).水だけを見れば「エントロピーが減っている」ように見えるが,水が放出した熱(凝固熱)は,冷蔵庫の冷却装置を通ってさらに外部の空気へ運ばれ,そこで環境のエントロピーを $|\Delta S_{\text{水}}|$ 以上に増加させている.水,冷蔵庫,外部の空気をすべて含めた全体で見たエントロピーの合計は,

$$ \Delta S_{\text{全体}}=\Delta S_{\text{水}}+\Delta S_{\text{環境}}\ge0 $$

を満たしており,法則29.1に矛盾しない(可逆変化なら $=0$,不可逆なら $\gt0$).つまり,エントロピー増大の法則は,どんな部分系についても成り立つわけではなく,外部とのやり取りをすべて含めた(断熱系とみなせる)全体についてのみ成り立つ法則なのである.部分系だけのエントロピーは,外部から仕事や熱の出入りを通して減らすことができる(冷蔵庫や,演習29.1の等温圧縮がその例である)——ただし,その代償として,系の外部(環境)のエントロピーが,系の減少分を埋め合わせるだけ(可逆なら過不足なく,不可逆ならそれ以上に)増加している.

演習29.5 三重点セルによる温度測定の意義

解答

気体温度計は,理想気体の状態方程式 $pV=nRT$(またはボイル=シャルルの法則)という,特定の物質(理想気体という近似が成り立つ気体)の性質にもとづいて温度を定義する.したがって,気体温度計による温度の値は,厳密には「どの気体を使ったか」「理想気体からのずれ(ファンデルワールスの補正など)をどこまで補正したか」に依存しうる.

これに対して,定理29.1(カルノーの定理)は,2つの熱源のあいだで動く可逆機関の効率 $\eta=1-T_1/T_2$ が,作業物質が何であっても(理想気体でも,実在気体でも,他のどんな物質でも)まったく同じ値になることを保証している.したがって,水の三重点を基準 $T_2=273.16\ \mathrm{K}$ と決めてしまえば,未知の低い温度 $T_1$ の熱源とのあいだで(どんな作業物質を使ってもよい)可逆機関を動かし,その効率 $\eta$ を測定するだけで,$T_1=(1-\eta)T_2$ から $T_1$ が一意に定まる.この方法で定義される温度は,作業物質の選び方に一切依存しない,純粋に熱力学的な(第2法則だけにもとづく)温度であり,これを熱力学的温度(絶対温度)と呼ぶ.

三重点は,氷・水・水蒸気の3相が共存できる温度と圧力がただ1つの状態($273.16\ \mathrm{K}$,約 $611.657\ \mathrm{Pa}$)に決まるので,外の圧力を調整しなくても,同じ温度を何度でも正確に再現できる.これが基準点としての利点である.気体温度計は,実用上はこの熱力学的温度によく近似する(理想気体の極限に近づけるほど正確になる)ので広く使われているが,原理的な定義としては,カルノーの定理にもとづく方法のほうが,特定の物質の性質に頼らない,より基本的な温度の定義を与えている,という点に意義がある.

演習29.6 「$Q/T$ が状態量」と「$Q$ 自身は状態量でない」は矛盾しないか

解答

ある微小量 $\dd X$ が「状態量の微小変化(全微分)」であるかどうかは,「$\dd X$ を,始状態と終状態を固定したまま,異なる経路に沿って積分したとき,どの経路でも同じ値になるか」で決まる.経路によらないならば $X$ は「今の状態」だけで決まる状態量であり,経路によるならば $X$ は状態量ではない.2変数 $(T,V)$ の場合,$\dd X=M\,\dd T+N\,\dd V$ が全微分であるための条件は,2階の偏微分が順序によらないこと(シュワルツの定理)から

$$ \frac{\partial M}{\partial V}=\frac{\partial N}{\partial T} $$

である.

理想気体($n\ \mathrm{mol}$,$C_V$ 一定)の熱の微小量は,可逆変化で

$$ \dd'Q=C_V\,\dd T+\frac{nRT}{V}\,\dd V $$

である.$M=C_V$,$N=nRT/V$ とおくと,

$$ \frac{\partial M}{\partial V}=0,\qquad\frac{\partial N}{\partial T}=\frac{nR}{V}\ne0 $$

で一致しないので,$\dd'Q$ は全微分ではなく,$Q$ は状態量ではない(例題29.4で,2つの経路で吸収する熱が $5470\ \mathrm{J}$ と $7199\ \mathrm{J}$ と違っていたことと対応する).

ところが,この同じ $\dd'Q$ に $1/T$ を掛けた $\dd'Q/T$ を考えると,

$$ \frac{\dd'Q}{T}=\frac{C_V}{T}\dd T+\frac{nR}{V}\dd V,\qquad \frac{\partial}{\partial V}\!\left(\frac{C_V}{T}\right)=0=\frac{\partial}{\partial T}\!\left(\frac{nR}{V}\right) $$

となって全微分の条件が成り立つ.つまり,$\dd'Q$ は経路によって値が変わる(状態量でない)が,$1/T$ を掛けた $\dd'Q/T$ は経路によらなくなる(状態量 $S$ の微小変化 $\dd S$ になる).このように,全微分でない微小量に掛けると全微分に変える因子を積分因子(integrating factor)と呼び,$1/T$ は $\dd'Q$ の積分因子としてはたらいている.

これは矛盾ではなく,「$Q$ という量そのもの」と「$Q$ に $1/T$ を掛けて積分したもの($S$)」がそもそも別の量である,というだけのことである.一般の作業物質・一般の可逆変化でも同様に $\oint\dd'Q/T=0$ が成り立つことを示したのが,29.1節と29.5節の議論である.積分因子の一般論は,大学数学 第34章 34.4節(積分因子)で学ぶ.

演習29.7 ファンデルワールス気体の等温膨張のエントロピー

解答

(1) 等温変化なので,第29章の式 $\Delta S=R\ln[(V_2-b)/(V_1-b)]$ を使う.$V_1=0.50\times10^{-3}\ \mathrm{m^3}$,$V_2=1.0\times10^{-3}\ \mathrm{m^3}$,$b=4.27\times10^{-5}\ \mathrm{m^3}$ として,

$$ \frac{V_2-b}{V_1-b}=\frac{1.0\times10^{-3}-4.27\times10^{-5}}{0.50\times10^{-3}-4.27\times10^{-5}}=\frac{9.573\times10^{-4}}{4.573\times10^{-4}}\approx2.0934 $$ $$ \Delta S=8.314\times\ln2.0934\ \mathrm{J/K}\approx8.314\times0.7388\ \mathrm{J/K}\approx6.14\ \mathrm{J/K} $$

理想気体の値は $R\ln2=8.314\times0.6931\ \mathrm{J/K}\approx5.76\ \mathrm{J/K}$ なので,ずれは $(6.14-5.76)/5.76\approx0.066$,すなわち約 $6.6\,\%$ 大きい.

(2) $1.0\ \mathrm{L}\to2.0\ \mathrm{L}$ のとき(例題29.5)は $\Delta S\approx5.95\ \mathrm{J/K}$ で,理想気体の値より約 $3.2\,\%$ 大きいだけだった.したがって $b$ の影響が大きいのは,$0.50\ \mathrm{L}\to1.0\ \mathrm{L}$ のほうである.理由は,$b$ は体積によらない一定の量なので,体積が小さいほど($V$ に対する $b$ の割合 $b/V$ が大きいほど)気体が実際に動き回れる体積 $V-b$ の減り方が大きく,体積比 $(V_2-b)/(V_1-b)$ が2からずれるからである.体積が十分大きい極限では $b/V\to0$ となり,理想気体の結果に近づく.なお,引力の定数 $a$ は $S$ に現れないので,どちらの場合も $\Delta S$ には影響しない.

演習29.8 水の加熱と,氷を水に入れたときのエントロピー変化

解答

(1) 質量 $m=1000\ \mathrm{g}$,比熱 $c=4.19\ \mathrm{J/(g\,K)}$ の水を可逆に加熱すると,$\dd'Q_{\text{rev}}=mc\,\dd T$ より

$$ \Delta S=\int_{T_1}^{T_2}\frac{mc\,\dd T}{T}=mc\ln\frac{T_2}{T_1}=1000\times4.19\times\ln\frac{373.15}{293.15}\ \mathrm{J/K}\approx4190\times0.2415\ \mathrm{J/K}\approx1.01\times10^3\ \mathrm{J/K} $$

(2) 最終温度 $T_f$ は熱量の保存から決まる.氷 $100\ \mathrm{g}$ が融けて $T_f$ まで温まるのに必要な熱は $100\times334+100\times4.19\times(T_f-273.15)$ [J],水 $1000\ \mathrm{g}$ が $293.15\ \mathrm{K}$ から $T_f$ まで冷えて出す熱は $1000\times4.19\times(293.15-T_f)$ [J] で,両者が等しいから

$$ 33400+419(T_f-273.15)=4190(293.15-T_f)\qquad\therefore\ T_f\approx284.09\ \mathrm{K}\ (\approx10.9\,^{\circ}\mathrm{C}) $$

氷が完全に融ける($T_f\gt273.15\ \mathrm{K}$)ので,仮定は矛盾しない.エントロピー変化は,状態量なので,各部分を可逆に変化させて計算する.

合計は $\Delta S=122.3+16.4-131.6\approx+7.1\ \mathrm{J/K}\gt0$ である.断熱容器の中の変化なので,全体のエントロピーが増えることは,この変化が不可逆で,ひとりでに進む向きであることを表している(氷が水に融けて熱が移る向きは自然に進むが,逆は進まない).

第30章 自由エネルギー — 変化の向きと最大仕事

演習30.1 熱の移動方向とエントロピー増大則

解答

(1) 高温の物体($T_2=350\ \mathrm{K}$)は熱 $Q=500\ \mathrm{J}$ を失い,低温の物体($T_1=300\ \mathrm{K}$)はそれを受け取る.それぞれの温度が(熱量に比べて熱容量が大きく)一定とみなせるとして,

$$ \Delta S_2=\frac{-Q}{T_2}=\frac{-500\ \mathrm{J}}{350\ \mathrm{K}}\approx-1.43\ \mathrm{J/K},\qquad \Delta S_1=\frac{Q}{T_1}=\frac{500\ \mathrm{J}}{300\ \mathrm{K}}\approx+1.67\ \mathrm{J/K} $$ $$ \Delta S_{\text{全体}}=\Delta S_2+\Delta S_1\approx-1.4286+1.6667\approx+0.238\ \mathrm{J/K}\ (\gt0) $$

(2) 逆向き($300\ \mathrm{K}$ の物体から $350\ \mathrm{K}$ の物体へ)に同じ熱量が移ったとすると,各エントロピー変化の符号がすべて逆になるので,$\Delta S_{\text{全体}}\approx-0.238\ \mathrm{J/K}\lt0$ となる.2つの物体をあわせた全体は,断熱材で外部から切り離せば孤立系とみなせるので,孤立系のエントロピー増大則 $\dd S\ge0$ に反する.したがって,この向きの熱移動は自発的には起こらない.

(3) 一般に,高温の物体から低温の物体へ移動する熱量を $\dd'Q$ とすると,全体のエントロピー変化は $\dd S_{\text{全体}}=\dd'Q\,(1/T_1-1/T_2)$ であり,$T_2\gt T_1\gt0$ なので括弧の中は正である.$\dd S_{\text{全体}}\ge0$ のためには $\dd'Q\ge0$,すなわち熱は高温から低温へしか移動しない.これは,熱力学第2法則のクラウジウスの表現「熱はひとりでに低温の物体から高温の物体へ移ることはない」と完全に対応している.エントロピー増大則は,第2法則のさまざまな表現(クラウジウスの原理,トムソン=ケルビンの原理など)を統一的に定量化したものであり,「熱の移動方向」という具体的な現象に適用すると,クラウジウスの原理そのものが導かれる.

演習30.2 $C_p/T$–$T$ グラフの不連続なジャンプの意味

解答

$C_p/T$–$T$ グラフの縦軸 $C_p/T$ は,圧力一定で温度をわずかに変えたときのエントロピーの変化率 $(\partial S/\partial T)_p=C_p/T$ を表す.考える順序は次の3段階である.

(1) 各相(固体・液体・気体のどれか)の内部では,温度をじわじわ上げるときのエントロピーの増え方であり,$C_p/T$ は温度とともに連続的に変化する.

(2) 融点 $T_{\mathrm{fus}}$・沸点 $T_b$ の前後では,相が違えば分子の熱運動のしかた(自由度)が違うので,$C_p$ の値が相ごとに違う.そのため,$C_p/T$ のグラフには,転移点の前後で各相の値をつなぐ段差が現れる.

(3) 転移点そのものでは,温度が変わらないまま融解熱・蒸発熱 $\Delta_{\mathrm{trs}}H$ という有限の熱が出入りする.熱容量は「熱 ÷ 温度変化」なので,温度変化が $0$ で熱が有限なら $C_p$ は事実上無限大($\delta$ 関数的な発散)になり,$C_p/T$ のグラフには細いピークが立つ.このピークの面積は $\displaystyle\int\frac{C_p}{T}\,\dd T=\frac{\Delta_{\mathrm{trs}}H}{T_{\mathrm{trs}}}=\Delta_{\mathrm{trs}}S$ となる(第30章 30.2節).図30.3の $C_p/T$ のグラフは,このピークを細い線で描き,両側の相の値の違い(段差)を描いたものである.

$S$–$T$ グラフでは,$C_p/T$ の曲線の下の面積が $S$ の増分になるので,(1) の領域では $S$ が滑らかに増加し,(3) のピークの面積が,そのまま $T_{\mathrm{trs}}$ での $S$ の階段状のジャンプ $\Delta_{\mathrm{trs}}S$ として現れる.$C_p/T$ グラフの「段差」は各相の熱容量の違いを,$S$ グラフの「ジャンプ」は潜熱の効果そのものを表しており,同じ相転移が2つのグラフで異なる形で現れている.

演習30.3 水の加熱と蒸発のエントロピー変化

解答

(1) 加熱の段階:$C_{p,\mathrm{m}}$ が一定なので,第30章の式(定圧下での温度変化にともなうエントロピー変化)の積分が実行できて,

$$ \Delta S_1=\int_{298.15}^{373.15}\frac{C_{p,\mathrm{m}}}{T}\,\dd T=C_{p,\mathrm{m}}\ln\frac{373.15}{298.15}=75.3\times\ln(1.2516)\approx75.3\times0.2244\approx16.9\ \mathrm{J/(K\cdot mol)} $$

(2) 蒸発の段階:$373.15\ \mathrm{K}$ で一定温度・定圧の相転移なので,$\Delta S=\Delta H/T$ から,

$$ \Delta S_2=\frac{\Delta_{\mathrm{vap}}H}{T_b}=\frac{40660\ \mathrm{J/mol}}{373.15\ \mathrm{K}}\approx109.0\ \mathrm{J/(K\cdot mol)} $$

(3) 全体:エントロピーは状態量なので,2つの段階の和がそのまま全体の変化になり,

$$ \Delta S=\Delta S_1+\Delta S_2\approx16.9+109.0\approx125.9\ \mathrm{J/(K\cdot mol)} $$

である.蒸発の段階のほうが加熱の段階よりはるかに大きい.これは,気体になると分子が自由に飛び回れるようになり,乱雑さが一気に増えるためで,トルートンの規則(第30章 30.2節)とも整合している.

演習30.4 ヘルムホルツ自由エネルギー $A$ が自発変化の判定量である理由

解答

第30章 30.4.1節の導出を,条件ごとに分けてたどり直す.

「定積・非膨張仕事なし」という条件をどこで使ったか:体積が変化せず($\dd V=0$),非膨張仕事もないので,系が受け取る仕事は $\dd'W=-p\,\dd V+\dd'W_{\text{非膨張}}=0$ である.熱力学第1法則 $\dd U=\dd'Q+\dd'W$ から $\dd U=\dd'Q$ となる.これをクラウジウスの不等式 $\dd S\ge\dd'Q/T$ に代入すると,$\dd S\ge\dd U/T$,すなわち

$$ \dd U-T\,\dd S\le0 $$

が得られる——この不等式は「定積・非膨張仕事なし」という条件だけを使って導かれた,まだ温度一定という条件を使っていない一般の不等式である.

「定温」という条件をどこで使ったか:ヘルムホルツ自由エネルギーの定義 $A=U-TS$ を微分すると,積の微分法則により一般に $\dd A=\dd U-T\,\dd S-S\,\dd T$ となる.ここで温度が一定($\dd T=0$)という条件を追加すると,第3項が消えて $\dd A=\dd U-T\,\dd S$ となる.

2つを組み合わせる:「定積・非膨張仕事なし」から得た不等式 $\dd U-T\,\dd S\le0$ の左辺は,「定温」の条件のもとでは,ちょうど $\dd A$ に等しい.したがって,

$$ \dd A\le0 $$

となる.つまり,$A$ が自発変化の判定量になるのは,「定積・定温・非膨張仕事なし」という3つの条件がすべて同時に成り立つときだけである——「定積・非膨張仕事なし」がクラウジウスの不等式を系の変数だけの不等式に書き換える役割を,「定温」が $\dd U-T\,\dd S$ を $A$ の全微分そのものに一致させる役割を,それぞれ担っている.

演習30.5 等温圧縮に必要な仕事と $\Delta A$

解答

(1) 準静的(可逆的)な等温圧縮では $p_{\mathrm{ex}}=p=nRT/V$ である.系がされる仕事は,$V_2=V_1/2$ として,

$$ W=-\int_{V_1}^{V_1/2}p\,\dd V=-nRT\ln\frac{V_1/2}{V_1}=nRT\ln2=1\times8.314\times300\times0.6931\approx+1729\ \mathrm{J} $$

一方,理想気体の等温変化では $\Delta U=0$ で,$\Delta S=nR\ln(V_2/V_1)=-nR\ln2$ なので,

$$ \Delta A=\Delta U-T\Delta S=+nRT\ln2\approx+1729\ \mathrm{J} $$

である.可逆変化なので $W=\Delta A$(法則30.4の等号)が成り立つ.

(2) 最初の圧力を $p_1=nRT/V_1$ とすると,最終の圧力は $p_2=nRT/(V_1/2)=2p_1$ で,外圧を最初から $p_{\mathrm{ex}}=2p_1$ にしておくのが「一気に圧縮する」ということである.系がされる仕事は,外圧が一定なので,

$$ W=-p_{\mathrm{ex}}(V_2-V_1)=-2p_1\left(\frac{V_1}{2}-V_1\right)=p_1V_1=nRT=8.314\times300\approx2494\ \mathrm{J} $$

である.始状態と終状態は (1) と同じなので,$A$ が状態量であることから $\Delta A$ も同じ $+1729\ \mathrm{J}$ であり,$W=2494\ \mathrm{J}\ge\Delta A=1729\ \mathrm{J}$ が成り立つ.不可逆な圧縮では,可逆な場合より多くの仕事が必要になる(等号は可逆のときだけ).

(3) 理想気体では $\Delta U=0$ なので,第1法則より $Q=-W=-2494\ \mathrm{J}$,つまり系は恒温槽へ $2494\ \mathrm{J}$ の熱を放出する.系のエントロピー変化は $\Delta S_{\text{系}}=-nR\ln2\approx-5.76\ \mathrm{J/K}$,恒温槽(周囲)のエントロピー変化は $2494/300\approx+8.31\ \mathrm{J/K}$ で,全体は

$$ \Delta S_{\text{全体}}\approx-5.76+8.31\approx+2.55\ \mathrm{J/K}\ (\gt0) $$

となり,不可逆変化でエントロピーが増えることが確認できる.これは $(W-\Delta A)/T=(2494-1729)/300\approx2.55\ \mathrm{J/K}$ とも一致する.可逆の場合より余分に加えた仕事が,熱として恒温槽に散逸した分に当たる.

演習30.6 ギブスエネルギーの温度依存性の符号

解答

$(\partial G/\partial T)_p=-S$ は,$G=U+pV-TS$ の全微分に,準静的な変化の第1法則 $\dd U=T\,\dd S-p\,\dd V$ を代入して得られる $\dd G=-S\,\dd T+V\,\dd p$(第30章 30.6節)を,$G(T,p)$ の全微分 $\left(\partial G/\partial T\right)_p\dd T+\left(\partial G/\partial p\right)_T\dd p$ と係数比較して得られる一般的な関係であり,物質の種類にも,固体・液体・気体のどの相にあるかにもよらない.($G=H-TS$ の定義を温度一定で見るだけでは $\dd T=0$ となり,$S$ の係数は読み取れない.)

右辺のエントロピー $S$ は,第30章 30.3節のとおり,$S(T)=\int_0^T(C_p/T)\,\dd T$($S(0)=0$ とする)で表され,熱容量 $C_p\gt0$ なので,$T\gt0$ でつねに $S\gt0$ である.したがって $(\partial G/\partial T)_p=-S\lt0$,つまり圧力一定で温度を上げると $G$ は必ず減少する.

気体・液体・固体のエントロピーを比べると,同じ物質・同じ温度なら,分子が自由に飛び回れる気体がもっとも大きく,規則正しい格子に固定された固体がもっとも小さい($S_{\text{気体}}\gt S_{\text{液体}}\gt S_{\text{固体}}$).たとえば水の蒸発では $\Delta_{\mathrm{vap}}S\approx109\ \mathrm{J/(K\cdot mol)}$(第30章 30.2節)も $S$ が増える.$(\partial G/\partial T)_p=-S$ の大きさは $S$ の大きさで決まるので,温度を上げたときの $G$ の減り方がもっとも急なのは気体であり,もっとも緩やかなのは固体である.分子運動の自由度が大きい相ほど「エントロピーを稼ぎやすく」,温度が上がると $G$ を大きく下げられる.そのため,高温では気体が,低温では固体が,$G$ の最小の相として選ばれる.

演習30.7 ダニエル電池と最大の電気的仕事

解答

(1) 可逆的に運転したときに取り出せる電気的な仕事(最大非膨張仕事)は $nFE^\circ$ で,これが $-\Delta G^\circ$ に等しい(法則30.5).したがって,

$$ \Delta G^\circ=-nFE^\circ=-2\times96485\ \mathrm{C/mol}\times1.10\ \mathrm{V}\approx-2.12\times10^{5}\ \mathrm{J/mol}=-212\ \mathrm{kJ/mol} $$

($\mathrm{C\cdot V}=\mathrm{J}$ なので単位は $\mathrm{J/mol}$ になる).

(2) 亜鉛 $1.00\ \mathrm{g}$ の物質量は $1.00/65.38\approx1.53\times10^{-2}\ \mathrm{mol}$ なので,取り出せる電気的な仕事の最大値は,

$$ -\Delta G^\circ\times1.53\times10^{-2}\ \mathrm{mol}\approx2.123\times10^{5}\times1.53\times10^{-2}\approx3.25\times10^{3}\ \mathrm{J}=3.25\ \mathrm{kJ} $$

である.実際の電池では内部抵抗などの不可逆性のため,取り出せる仕事はこれより小さくなる.

演習30.8 反応が自発的に進む温度範囲

解答

定圧・定温(非膨張仕事なし)なので,$\Delta G\lt0$ となるときに反応は自発的に進む(法則30.3).$\Delta H,\Delta S$ が温度によらないとすると,

$$ \Delta G=\Delta H-T\Delta S=-50000\ \mathrm{J/mol}-T\times(-100\ \mathrm{J/(K\cdot mol)})=-50000+100\,T\ \ (\mathrm{J/mol}) $$

$\Delta G\lt0$ となる条件は $100\,T\lt50000$,すなわち $T\lt500\ \mathrm{K}$ である.$T=500\ \mathrm{K}$ では $\Delta G=0$ で平衡(正反応と逆反応が釣り合う),$T\gt500\ \mathrm{K}$ では $\Delta G\gt0$ で逆向きの反応が自発的になる.よって,自発的に進む温度範囲は $0\lt T\lt500\ \mathrm{K}$ である.たとえば $T=300\ \mathrm{K}$ では $\Delta G=-20\ \mathrm{kJ/mol}$,$T=600\ \mathrm{K}$ では $+10\ \mathrm{kJ/mol}$ になる.

$\Delta G=\Delta H-T\Delta S$ の2つの項の役割を見ると,$\Delta H\lt0$(発熱)の項はつねに反応を有利にするが,$\Delta S\lt0$(分子の配置が乱雑さを失う反応)のとき $-T\Delta S=+100\,T$ は正で,高温ほど大きくなって反応を不利にする.高温では乱雑さの損失の項が発熱の利益を上回るので,$\Delta H\lt0$ でも反応が進まなくなる.これは,30.4節の考え方(系のエントロピーの減少を,周囲へ放出される熱 $-\Delta H$ による周囲のエントロピーの増加 $-\Delta H/T$ で補えるかどうか)でも理解できる.温度が高いほど,同じ熱を受け取っても周囲のエントロピーの増加 $-\Delta H/T$ は小さくなる.

第31章 熱力学的関係式とマクスウェルの関係式

演習31.1 マクスウェルの関係式(IV)の再導出

解答

ギブスエネルギー $G=H-TS$ を,圧力 $p$ と温度 $T$ の関数とみなす.本章の第31.4節で確かめたとおり,全微分は

$$ \dd G=V\,\dd p-S\,\dd T $$

である.一方,$G=G(p,T)$ の全微分の一般公式は

$$ \dd G=\left(\frac{\partial G}{\partial p}\right)_T\dd p+\left(\frac{\partial G}{\partial T}\right)_p\dd T $$

であり,$\dd p,\dd T$ は独立に動かせる微小量なので,係数どうしを比較すると,

$$ V=\left(\frac{\partial G}{\partial p}\right)_T,\qquad -S=\left(\frac{\partial G}{\partial T}\right)_p $$

が得られる.第1式を $T$ で($p$ を一定に保って)偏微分すると,

$$ \left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_p=\frac{\partial^2G}{\partial T\,\partial p} $$

第2式を $p$ で($T$ を一定に保って)偏微分すると,

$$ -\left(\frac{\partial S}{\partial p}\right)_T=\frac{\partial^2G}{\partial p\,\partial T} $$

$G$ は状態量として滑らかな(何回でも偏微分できる)関数なので,シュワルツの定理により $\dfrac{\partial^2G}{\partial T\,\partial p}=\dfrac{\partial^2G}{\partial p\,\partial T}$ が成り立つ.したがって右辺どうしが等しく,左辺どうしも等しい:

$$ \left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_p=-\left(\frac{\partial S}{\partial p}\right)_T $$

これが,第31章のマクスウェルの関係式(IV)であり,本文(31.4節)の導出と完全に同じ結果が得られた.

演習31.2 排除体積だけを考慮した気体の内圧

解答

状態方程式 $p=\dfrac{nRT}{V-nb}$ を,本文の熱力学的状態方程式

$$ \pi_T=\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T=T\left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V-p $$

に代入する.まず $\left(\dfrac{\partial p}{\partial T}\right)_V$ を求めると,$V,n,b$ を一定に保ったまま $T$ で偏微分すればよいので,

$$ \left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V=\frac{nR}{V-nb} $$

である.これを $\pi_T$ の式に代入すると,

$$ \pi_T=T\cdot\frac{nR}{V-nb}-p=\frac{nRT}{V-nb}-\frac{nRT}{V-nb}=0 $$

となり,右辺の2つの項がちょうど打ち消し合って $\pi_T=0$ が得られる.

この結果は,理想気体の場合とまったく同じ「内圧ゼロ」である.物理的には,$a=0$ とした(分子間力を無視した)モデルなので,分子どうしを引き離すのに仕事は要らず,したがって等温で体積を変えても内部エネルギーは変化しない.一方,本章31.6節で求めたファンデルワールス気体の内圧 $\pi_T=an^2/V^2$ は,まさに引力の項 $a$ だけから生じている——つまり,$\pi_T\neq0$ になる原因は「分子間力(引力)」であって「分子自身の大きさ(排除体積)」ではない,ということがこの演習からわかる.排除体積の効果は,状態方程式のうえでは体積を $V-nb$ に置き換えるだけなので,$T$ で偏微分したときに $b$ の効果はきれいに消えてしまう構造になっている.

演習31.3 光子気体(黒体放射)の状態方程式と内部エネルギー

解答

(a) 光子気体のエントロピーは $S=\dfrac43aVT^3$($a$ は放射定数.$V,T$ の関数)である.これを $V$ で($T$ を一定に保って)偏微分すると,

$$ \left(\frac{\partial S}{\partial V}\right)_T=\frac43aT^3 $$

マクスウェルの関係式(III)$\left(\dfrac{\partial p}{\partial T}\right)_V=\left(\dfrac{\partial S}{\partial V}\right)_T$ にこれを代入すると,

$$ \left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V=\frac43aT^3 $$

が得られる.圧力 $p$ を $V$ を一定に保ったまま $T$ について積分すると,

$$ p=\int\frac43aT^3\,\dd T=\frac43a\cdot\frac{T^4}{4}+f(V)=\frac13aT^4+f(V) $$

($f(V)$ は積分定数——ただし $V$ を固定した積分なので,$V$ にはよるが $T$ にはよらない「定数」である).ここで,物理的な境界条件として,絶対零度 $T\to0$ では光子(熱放射)が存在しなくなるので圧力も $0$ にならなければならない:$p(V,0)=0$.これを上の式に代入すると,$0=0+f(V)$ より $f(V)=0$(どんな $V$ に対しても).したがって,

$$ p=\frac13aT^4 $$

が得られる.圧力が体積 $V$ によらず温度だけで決まる($\left(\partial p/\partial V\right)_T=0$)というのも,光子気体に特有の性質であり,本文で見た理想気体・ファンデルワールス気体(どちらも $p$ が $V$ に依存する)とは対照的である——光子気体は「分子」の代わりに,箱の大きさによらない一定のエネルギー密度をもつ電磁波の集まりだからである.

(b) 熱力学的状態方程式(定理31.5)$\left(\dfrac{\partial U}{\partial V}\right)_T=T\left(\dfrac{\partial p}{\partial T}\right)_V-p$ に,(a) で得た $p=\dfrac13aT^4$ と $\left(\dfrac{\partial p}{\partial T}\right)_V=\dfrac43aT^3$ を代入すると,

$$ \left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T=T\cdot\frac43aT^3-\frac13aT^4=aT^4 $$

である.これを $T$ を一定に保って $V$ で積分すると $U=aT^4V+f(T)$($f(T)$ は $V$ によらない積分定数).光子気体は $V\to0$ で光子がなくなり $U\to0$ となるので $f(T)=0$,したがって

$$ U=aVT^4 $$

(エネルギー密度 $u=U/V=aT^4$.単位の確認:$\mathrm{J\,m^{-3}\,K^{-4}}\times\mathrm{m^3}\times\mathrm K^4=\mathrm J$.)確認として,$S=\dfrac43aVT^3$,$p=\dfrac13aT^4$ を使うと $T\,\dd S-p\,\dd V=\dfrac43aT^4\dd V+4aVT^3\dd T-\dfrac13aT^4\dd V=aT^4\dd V+4aVT^3\dd T$ であり,これは $\dd(aVT^4)$ に一致する.

演習31.4 三重積の規則の直接確認

解答

理想気体の状態方程式 $pV=nRT$ を,それぞれの変数について解く.

(i) $p=nRT/V$ を $T$ で($V$ を一定に保って)偏微分すると,

$$ \left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V=\frac{nR}{V} $$

(ii) $T=pV/(nR)$ を $V$ で($p$ を一定に保って)偏微分すると,

$$ \left(\frac{\partial T}{\partial V}\right)_p=\frac{p}{nR} $$

(iii) $V=nRT/p$ を $p$ で($T$ を一定に保って)偏微分すると,

$$ \left(\frac{\partial V}{\partial p}\right)_T=-\frac{nRT}{p^2} $$

この3つを掛け合わせると,

$$ \left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V\left(\frac{\partial T}{\partial V}\right)_p\left(\frac{\partial V}{\partial p}\right)_T =\frac{nR}{V}\times\frac{p}{nR}\times\left(-\frac{nRT}{p^2}\right) =\frac{p}{V}\times\left(-\frac{nRT}{p^2}\right)=-\frac{nRT}{pV} $$

となる.状態方程式 $pV=nRT$ より $nRT/(pV)=1$ なので,積は $-1$ である.たしかに循環関係式(三重積の規則)$\left(\dfrac{\partial p}{\partial T}\right)_V\left(\dfrac{\partial T}{\partial V}\right)_p\left(\dfrac{\partial V}{\partial p}\right)_T=-1$ が成り立つことが確認できた.

演習31.5 負の等温圧縮率が実現しない理由

解答

本章31.8.2節で見たとおり,$\left(\dfrac{\partial^2A}{\partial V^2}\right)_T=\dfrac{1}{\kappa_TV}$ である.もし,ある体積の範囲で $\kappa_T\lt0$ になったとすると,この2階偏微分は負になる,すなわち $A(T,V)$(温度 $T$ を一定に保った場合の $V$ の関数)はその範囲で上に凸になる.

上に凸な関数のグラフは,その領域の内部にある点はすべて「極大」の候補であって「極小」ではない.しかし,31.8.2節で確認したとおり,定積・定温の安定な平衡状態は,ヘルムホルツエネルギー $A$ が極小になっている状態でなければならない(法則30.2,$\dd A\le0$ の向きに自発的に変化する).$A(V)$ が上に凸な区間では,どの点も極小になり得ないので,そこに系がとどまり続けることはできない——体積をわずかに変化させるだけで,$A$ をさらに下げられる方向(隣接するもっと安定な状態)へ自発的に移ってしまう.

具体的には,$\kappa_T\lt0$ の領域では $\left(\partial p/\partial V\right)_T\gt0$(体積を増やすと圧力が上がる)ため,わずかに体積が大きくなった部分は圧力が周囲より高くなり,周囲を押し返してさらに膨張しようとする——逆に体積が小さくなった部分は圧力が下がり,周囲から押されてさらに収縮しようとする.どちらの向きのゆらぎも増幅される(正のフィードバック)ので,一様な状態を保てず,結局は体積の大きい部分(低密度=気体)と体積の小さい部分(高密度=液体)へ分離してしまう.したがって,$\kappa_T\lt0$ の領域は物理的には実現せず,実際の物質はその領域を避けて,2つの相(気体と液体)に分かれた状態(気液共存)をとる.

演習31.6 ヘルムホルツエネルギーの自然な変数はなぜ $(T,V)$ なのか

解答

定義31.1(自然な変数)によれば,自然な変数とは,$\dd\Phi=X\,\dd x+Y\,\dd y$ と書け,しかも係数 $X,Y$ が $T,S,p,V$ のどれか(符号を除く)という基本的な量になっているような独立変数の組 $(x,y)$ のことである.本章31.3節で導いたとおり,ヘルムホルツエネルギーの全微分は

$$ \dd A=-p\,\dd V-S\,\dd T $$

であり,$\dd V$ と $\dd T$ の係数はそれぞれ $-p$,$-S$ という基本的な量である.したがって $A$ の自然な変数は $(T,V)$ である.このとき $p=-\left(\dfrac{\partial A}{\partial V}\right)_T$,$S=-\left(\dfrac{\partial A}{\partial T}\right)_V$ が $A(T,V)$ の1階偏微分としてそのまま得られ,$U=A+TS$,$H=U+pV$,$G=A+pV$ も微分と足し算だけで求まるので,$A(T,V)$ を1つ知れば系の熱力学的な情報がすべてわかる.

これに対し,$A$ を無理やり $(T,p)$ の関数として書くと,$\dd V=\left(\dfrac{\partial V}{\partial T}\right)_p\dd T+\left(\dfrac{\partial V}{\partial p}\right)_T\dd p$ を代入して

$$ \dd A=-\Bigl(S+p\left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_p\Bigr)\dd T-p\left(\frac{\partial V}{\partial p}\right)_T\dd p $$

となる.係数 $S+p\left(\dfrac{\partial V}{\partial T}\right)_p$ や $-p\left(\dfrac{\partial V}{\partial p}\right)_T$ は,$T,S,p,V$ のどれとも違う複雑な量であり,1階偏微分から $S,p$ が直接読み取れない.つまり,$(T,p)$ は $A$ の自然な変数ではない.

$(T,p)$ を自然な変数にもつポテンシャルがほしいときは,$A(T,V)$ の独立変数 $V$ を,その共役な量 $-p$ の符号を変えた $p$ に取り替えるルジャンドル変換(定義31.2,表31.2)を行う.$A$ から共役量 $\times$ 変数を引くと $A-\left(\dfrac{\partial A}{\partial V}\right)_TV=A+pV$ であり,$A+pV=U-TS+pV=H-TS=G$,すなわちギブスエネルギーである.つまり,「$A$ を $(T,p)$ の関数として扱いたい」という要求に対する正しい答えは,「$A$ を無理に $(T,p)$ の関数にする」ことではなく,「$(T,p)$ を自然な変数にもつ別の状態量 $G$ に乗り換える」ことである.ヘルムホルツエネルギーとギブスエネルギーは自然な変数が違うので,どちらも必要になる.

演習31.7 アルミニウムの $C_p-C_V$

解答

公式31.5を $1\ \mathrm{mol}$ あたりで使うと,

$$ C_{p,\mathrm m}-C_{V,\mathrm m}=\frac{\alpha^2TV_{\mathrm m}}{\kappa_T} =\frac{(6.9\times10^{-5}\ \mathrm{K^{-1}})^2(300\ \mathrm K)(1.0\times10^{-5}\ \mathrm{m^3/mol})}{1.4\times10^{-11}\ \mathrm{Pa^{-1}}} $$

分子は $(4.76\times10^{-9})(300)(1.0\times10^{-5})=1.43\times10^{-11}$(単位 $\mathrm{K^{-1}\,m^3\,mol^{-1}}$),これを $1.4\times10^{-11}\ \mathrm{Pa^{-1}}$ で割って

$$ C_{p,\mathrm m}-C_{V,\mathrm m}\approx1.0\ \mathrm{J/(mol\,K)} $$

(単位の確認:$\mathrm{K^{-1}\,m^3\,mol^{-1}\,Pa}=\mathrm{K^{-1}\,J\,mol^{-1}}$.)$C_{p,\mathrm m}\approx24\ \mathrm{J/(mol\,K)}$ に対する割合は $1.0/24\approx0.04$,すなわち約 $4\ \%$ である.銅(約 $3\ \%$)と同じく,固体では $C_p$ と $C_V$ の差は小さい.

演習31.8 銅の断熱圧縮での温度上昇

解答

$\left(\dfrac{\partial T}{\partial p}\right)_S=\dfrac{\alpha TV}{C_p}$ で $\alpha,V,C_p$ を一定とみなすと,$\Delta T\approx\dfrac{\alpha TV_{\mathrm m}}{C_{p,\mathrm m}}\Delta p$ である.数値を代入すると,

$$ \Delta T=\frac{(5.0\times10^{-5}\ \mathrm{K^{-1}})(300\ \mathrm K)(7.1\times10^{-6}\ \mathrm{m^3/mol})}{24\ \mathrm{J/(mol\,K)}}\times1.0\times10^{8}\ \mathrm{Pa} =\frac{1.07\times10^{-7}}{24}\times10^{8}\ \mathrm K=0.44\ \mathrm K $$

(単位の確認:$\mathrm{m^3\,Pa/(J/K)}=\mathrm K$.)約 $0.44\ \mathrm K$ だけ温度が上がる.

次に $C_p\Delta T=24\ \mathrm{J/K}\times0.44\ \mathrm K=1.07\times10^{1}\ \mathrm J\approx11\ \mathrm J$ となり,これは例題31.6で等温圧縮のとき放出された熱 $|Q|=T|\Delta S|=T\alpha V_{\mathrm m}\Delta p\approx11\ \mathrm J$ に等しい.理由は次のとおりである.断熱変化ではエントロピーが一定なので,圧縮によるエントロピーの減少 $-\alpha V\Delta p$(公式31.4)を,温度上昇によるエントロピーの増加 $C_p\Delta T/T$ が打ち消している:$C_p\Delta T/T=\alpha V\Delta p$.つまり「断熱圧縮での温度上昇に $C_p$ を掛けたもの」は「等温圧縮で放出される熱」に等しい.

第32章 熱力学第3法則と相転移の規則

演習32.1 第3法則を自分の言葉で説明する

解答

熱力学第3法則(ゾンマーフェルトの表現)は,次のように説明できる:「物質の温度を絶対零度に近づけていくと,その物質のエントロピー(分子や原子の配置・運動の乱雑さを表す量)は,ある決まった値 $S_0$ に近づいていく.しかも,この $S_0$ は,物質にどれだけ圧力をかけているか,あるいは物質がどんな凝集の状態(気体・液体・固体,あるいは結晶構造の違い)にあるかにはよらない.」

この主張が「反応のエントロピー変化 $\Delta S\to0$」(ネルンストの定理,法則32.1)よりも広いのは,次の点にある.ネルンストの定理は,反応で結ばれる凝縮相の物質 A と B について,$T\to0$ で $S_{\mathrm A}$ と $S_{\mathrm B}$ が同じ値に近づく($\Delta S=S_{\mathrm B}-S_{\mathrm A}\to0$)ことだけを述べていて,その共通の値が何か($0$ とおいてよいか)や,反応で結ばれない物質どうし,あるいは圧力・凝集状態の違う状態どうしのエントロピーの関係については何も述べていない.これに対して第3法則(ゾンマーフェルトの表現)は,個々の物質のエントロピー $S$ そのものが,圧力や凝集状態によらない共通の値 $S_0$ に近づくと主張しており,これによって,どんな物質・状態についても $T=0$ を基準にした絶対エントロピーが考えられるようになる.

演習32.2 ガラスの残余エントロピー

解答

第3法則(プランクの指摘を含む,より厳密な形)が $S_0=0$ を保証するのは,物質が「純粋な結晶」,つまり原子・分子がただ1通りの,完全に規則正しい配置に並んでいる場合に限られる.統計力学の言葉でいえば,これは絶対零度でその物質が取りうる微視的な状態の数(熱力学的重率)が $W=1$(配置のしかたが実質1通りしかない)であることに対応し,$S=k_{\mathrm B}\ln W=k_{\mathrm B}\ln1=0$ となる.

ところがガラス(非晶質固体)は,液体を急激に冷やして作られるため,液体状態にあったときの原子・分子配置の乱雑さが,結晶化する(規則正しく並び替わる)時間的余裕のないまま,そのまま「凍結」されてしまう.つまり,$T=0$ になっても,原子・分子の配置には依然としてたくさんの取りうるパターン($W\gt1$)が残っており,$S(0)=k_{\mathrm B}\ln W\gt0$ という正の値(残余エントロピー)をもってしまう.これは,ガラスが熱力学的な意味での「真の平衡状態」ではなく,配置がたまたま止まってしまった非平衡状態にあるためであり,第3法則が想定する「純粋結晶」の条件からは外れている.

演習32.3 トルートンの規則からメタンの沸点を逆算する

解答

トルートンの規則 $\Delta_{\mathrm{vap}}S=\Delta_{\mathrm{vap}}H/T_b\approx85\ \mathrm{J\,K^{-1}mol^{-1}}$ を $T_b$ について解くと,

$$ T_b\approx\frac{\Delta_{\mathrm{vap}}H}{85\ \mathrm{J\,K^{-1}mol^{-1}}}=\frac{8190\ \mathrm{J\,mol^{-1}}}{85\ \mathrm{J\,K^{-1}mol^{-1}}}\approx96.4\ \mathrm K $$

実測の沸点 $111.7\ \mathrm K$ と比べると,見積もりは実測より $13.7\%$ ほど低い.実測データから逆算した蒸発エントロピーは

$$ \Delta_{\mathrm{vap}}S=\frac{8190\ \mathrm{J\,mol^{-1}}}{111.7\ \mathrm K}\approx73.3\ \mathrm{J\,K^{-1}mol^{-1}} $$

であり,トルートンの目安 $85\ \mathrm{J\,K^{-1}mol^{-1}}$ よりもかなり小さい.つまり,メタンの $\Delta_{\mathrm{vap}}S$ は目安の $85$ より約 $14\ \%$ 小さい(図32.5の琥珀色の点).メタンは水素結合のような分子間の強い相互作用をもたない,小さく対称な無極性分子で,沸点が低く($111.7\ \mathrm K$),液体のうちからすでにかなり自由に動き回れるため,気体になるときの増加分が小さくなるのだろうと考えられる.ただし,このずれの理由は単純ではなく,トルートンの規則は「$\pm$ 1〜2割程度の目安」と受け取るのがよい.

演習32.4 氷の昇華曲線の勾配

解答

クラウジウス=クラペイロンの式 $\dd p/\dd T=\Delta H/(T\Delta V)$ に,理想気体近似 $\Delta V\approx V_{\text{vapor}}=RT/p$ を代入すると,

$$ \frac{\dd p}{\dd T}=\frac{\Delta_{\mathrm{sub}}H}{T\times(RT/p)}=\frac{p\,\Delta_{\mathrm{sub}}H}{RT^2} $$

三重点での値 $T_{\mathrm{tp}}=273.16\ \mathrm K$,$p_{\mathrm{tp}}=611.657\ \mathrm{Pa}$,$\Delta_{\mathrm{sub}}H=51060\ \mathrm{J\,mol^{-1}}$,$R=8.314\ \mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}$ を代入すると,

$$ \frac{\dd p}{\dd T}=\frac{611.657\times51060}{8.314\times273.16^2}\approx\frac{3.1233\times10^7}{6.2036\times10^5}\approx50.3\ \mathrm{Pa/K} $$

この値は正である(圧力を上げると昇華の起こる温度も上がる,というふつうの物質と同じ振る舞い).例題32.9で求めた融解曲線の勾配 $\dd p/\dd T\approx-13.47\ \mathrm{MPa/K}=-1.347\times10^7\ \mathrm{Pa/K}$ と比べると,

三重点では,この昇華曲線・融解曲線・気化曲線の3本がちょうど1点に集まり,水の $p$-$T$ 相図の三重点をなす.

演習32.5 絶対零度に到達できない理由を図で説明する

解答

図32.7の2本のエントロピー曲線 $S(T,B=0)$(磁場なし)と $S(T,B=B_1)$(磁場あり)は,第3法則により,どちらも $T\to0$ で同じ値 $S_0$ に収束する.一方,$T\gt0$ では $B_1$ の曲線が $B=0$ の曲線の下にあり,両者の間隔は $T\to0$ で $0$ に近づく.断熱消磁の1サイクル(等温磁化+断熱消磁)は,この2本の曲線のあいだを行き来する階段の1段に対応する:等温磁化で温度を変えずに $B=0$ の曲線から $B_1$ の曲線へ(エントロピーを下げる),断熱消磁でエントロピーを変えずに $B_1$ の曲線から $B=0$ の曲線へ(温度を下げる).

もし仮に,2本の曲線が $T\to0$ で別々の値に近づいていて,たとえば $S_0(B_1)\lt S_0(0)$ だったとしよう.すると $S_0(0)$ より低いエントロピーの点から水平に進む断熱消磁の線は,$B=0$ の曲線とどこでも交わらないまま $T=0$ に届いてしまう.つまり有限回の操作で $T=0$ に着く.しかし第3法則は,2本の曲線が $T=0$ で同じ値 $S_0$ に収束することを要求するので,$T\gt0$ の点から水平に進む線は,必ず $T=0$ より高い温度 $T'\lt T$ で $B=0$ の曲線と出会う.しかも $T\to0$ で曲線の間隔が小さくなるため,1段で下がる温度の幅も小さくなる(図32.7 (a) の模型では1段ごとに温度が半分になるだけ).したがって,何回繰り返しても $T=0$ にちょうど一致することはなく,到達するには無限回の操作が必要になる.これが,第3法則が絶対零度の不到達性を導く理由である.なお,$T\to0$ では $C_p\to0$ なので,わずかな熱の侵入でも温度が上がってしまい,低温を保つのも難しい(演習32.8).

演習32.6 トルートンの規則とリチャーズの規則,どちらがよく成り立つか

解答

液体が気体になる蒸発では,分子はそれまで互いにすぐ隣り合っていた状態から,容器いっぱいの空間を自由に飛び回れる状態へと,運動の自由度が劇的に変化する.体積は1気圧の沸点でおよそ $10^2\sim10^3$ 倍になり,この「自由に動ける空間の広がり」による並進運動のエントロピー増加は,物質によらずおおむね似た大きさになる(たとえば体積300倍なら $R\ln300\approx47\ \mathrm{J\,K^{-1}mol^{-1}}$).そのため蒸発にともなうエントロピー変化はどの液体でもよく似た値になりやすい.これがトルートンの規則がよく成り立つ理由である.

一方,固体が液体になる融解では,分子どうしの位置関係の規則性(結晶の周期的な並び)が崩れるだけで,分子1個あたりが自由に動ける空間の広さ自体は,蒸発のときほど劇的には変わらない.そのため,融解にともなうエントロピー変化は,もとの結晶構造がどれくらい規則正しかったか,分子どうしがどんな形で結びついていたか(水素結合の有無など),分子の向きの乱雑さが新たに増えるかどうかといった,物質ごとの個別の事情を強く反映してしまう.その結果,リチャーズの規則は金属など単純な物質では $\Delta_{\mathrm{fus}}S\approx R$ でよいが,氷($22.0\ \mathrm{J\,K^{-1}mol^{-1}}$)やベンゼン(約 $35\ \mathrm{J\,K^{-1}mol^{-1}}$)のような分子性の結晶では大きくはずれ,トルートンの規則ほどにはよく成り立たない.

演習32.7 なぜ「$\Delta G\to\Delta H$ は当たり前」という考えが不十分だったのか

解答

$\Delta G=\Delta H-T\Delta S$ という式だけを見れば,$\Delta S$ が発散しない(有限にとどまる)限り,$T\to0$ のとき $T\Delta S\to0$ となるので $\Delta G\to\Delta H$ となるのは,式のうえでは当たり前のことである.低温での研究が進む以前の多くの研究者は,まさにこの当たり前の事実だけをもって「$T\to0$ での振る舞いは理解した」と考えてしまった.

しかし,この当たり前の議論からは,$\Delta S$ 自体が $T\to0$ で具体的にどんな値に近づくのか($0$ に近づくのか,それとも何か有限の値にとどまるのか)については,何もわからない.$\Delta G\to\Delta H$ という事実だけでは,$\Delta S$ が $0$ に近づこうが,別の有限の値に近づこうが,同じように成り立ってしまうからである.低温での測定(リチャーズの電池の研究に続く測定)で明らかになったのは,これよりずっと強い事実——$\Delta G$ を $T$ の関数としてグラフに描いたとき,$T=0$ でこの曲線の接線が水平になる(傾き $(\partial \Delta G/\partial T)_p$ 自体が $0$ に近づく)という事実だった.$(\partial \Delta G/\partial T)_p=-\Delta S$ なので,この「傾きが $0$ に近づく」という事実は,まさに $\Delta S\to0$ という,先の当たり前の議論からは導けなかった具体的な結論を与える.この非自明な発見こそが,のちのネルンストの定理・熱力学第3法則へとつながっていった.

演習32.8 $C_p\to0$ と低温を保つことの難しさ

解答

温度が $T_1$ から $T_2$ に上がるのに必要な熱量は $Q=\displaystyle\int_{T_1}^{T_2}bT^3\,\dd T=\dfrac{b}{4}\left(T_2^4-T_1^4\right)$ なので,

$$ T_2=\left(T_1^4+\frac{4Q}{b}\right)^{1/4} $$

$Q=1\ \mu\mathrm J=10^{-6}\ \mathrm J$,$b=4.817\times10^{-5}\ \mathrm{J\,mol^{-1}K^{-4}}$ を代入すると $4Q/b=4\times10^{-6}/(4.817\times10^{-5})\approx0.0830\ \mathrm{K^4}$ である.

低温ほど $C_p=bT^3$ が急激に小さくなり,同じ熱量でも温度が大きく上がる.これが,絶対零度近くの低温を保つことの難しさの一因である.

第33章 熱伝導方程式

演習33.1 熱伝導方程式の物理的な意味

解答

第33章の熱伝導方程式の導出(微小区間 $[x,x+\dd x]$ における熱量の収支)を思い出そう.棒の側面が断熱され,熱が $x$ 方向にだけ流れる場合,断面 A(位置 $x$)から区間へ流れ込む熱量と,断面 B(位置 $x+\dd x$)から流れ出す熱量は,フーリエの法則により,微小時間 $\dd t$ の間に

$$ \dd'Q_{\mathrm{A}}=\lambda S\left(-\pdiff Tx\right)_{\!\mathrm{A}}\dd t,\qquad \dd'Q_{\mathrm{B}}=\lambda S\left(-\pdiff Tx\right)_{\!\mathrm{B}}\dd t $$

である(どちらも $+x$ の向きの熱の流れを正とした量).区間が正味で受け取る熱量は,その差

$$ \dd'Q=\dd'Q_{\mathrm{A}}-\dd'Q_{\mathrm{B}}=\lambda S\left[\left(\pdiff Tx\right)_{\!\mathrm{B}}-\left(\pdiff Tx\right)_{\!\mathrm{A}}\right]\dd t=\lambda S\,\pdiff{^2T}{x^2}\,\dd x\,\dd t $$

である($(\partial T/\partial x)_{\mathrm{B}}-(\partial T/\partial x)_{\mathrm{A}}\approx(\partial^2T/\partial x^2)\dd x$ を使った.第33章の式①).この熱量が,区間の温度を $\dd T=\dd'Q/(c\rho S\,\dd x)$ だけ上昇させる.つまり,$\partial^2T/\partial x^2$(温度分布のグラフの「曲がり具合」,2階微分)が大きいところほど,微小区間が受け取る正味の熱量が大きく,したがって温度の時間変化 $\partial T/\partial t$ も大きくなる.

符号の意味はこうである.$\partial^2T/\partial x^2\gt0$ の点(グラフが下に凸,つまりその点の温度がすぐ両隣の温度の平均より低い点)では,傾き $\partial T/\partial x$ が B の側の方が A の側より大きい.すなわち $\dd'Q_{\mathrm{A}}\gt\dd'Q_{\mathrm{B}}$ となって,流入が流出より多いので,正味で熱がたまり,温度が上昇する.逆に $\partial^2T/\partial x^2\lt0$ の点(グラフが上に凸,まわりより高温の「出っ張り」)では,流出が流入より多く,まわりへ熱が逃げていくので,温度が下がる.$\partial^2T/\partial x^2$ の絶対値が大きいほど,この「まわりとの差」がより極端(急激な凹凸)だということなので,熱の出入りの不均衡も大きく,温度が速く変化する.これが,本文で求めたフーリエ級数解(定理33.2・定理33.3)で,空間的に細かく振動する高次のフーリエ成分($n$ が大きい,$\partial^2T/\partial x^2$ に対応する係数 $-n^2\pi^2/a^2$ の絶対値が大きい成分)ほど速く減衰する理由でもある.

($T(x)=T_m\sin(\pi x/a)$ の場合) 2回微分すると

$$ \pdiff Tx=\frac{\pi}{a}T_m\cos\frac{\pi x}{a},\qquad \pdiff{^2T}{x^2}=-\frac{\pi^2}{a^2}T_m\sin\frac{\pi x}{a} $$

となる.中点 $x=a/2$ では $\sin(\pi/2)=1$ なので $\partial^2T/\partial x^2=-\pi^2T_m/a^2\lt0$($T_m\gt0$)であり,グラフは上に凸(山の頂上)である.よって熱伝導方程式から $\partial T/\partial t=\kappa^2\,\partial^2T/\partial x^2\lt0$ で,中点の温度は下がる.これは,山の頂上から熱が両側へ逃げていくことを表しており,本文の $n=1$ のモードが時間とともに減衰していくことと一致する.

演習33.2 定常状態が直線になる理由

解答

熱伝導方程式は $\partial T/\partial t=\kappa^2\,\partial^2T/\partial x^2$ である.定常状態とは,温度分布がもはや時間変化しない状態のことだから,定義により $\partial T/\partial t=0$ である.これを熱伝導方程式の左辺に代入すると,

$$ 0=\kappa^2\,\pdiff{^2T}{x^2} $$

となる.$\kappa^2=\lambda/(c\rho)$ は熱伝導率・比熱・密度という物質固有の正の量からできているので,$\kappa^2\neq0$ である.したがって,両辺を $\kappa^2$ で割ることができて,$\partial^2T/\partial x^2=0$ が導かれる.

定常状態では $T$ が時刻 $t$ に依存しないので,$T=T(x)$ という $x$ だけの関数として扱ってよく,偏微分は常微分と同じことになる.$\dd^2T/\dd x^2=0$ の両辺を $x$ で1回積分すると $\dd T/\dd x=A$(積分定数)となり,もう1回積分すると

$$ T(x)=Ax+B $$

($A,B$ は積分定数)が得られる.これは,$x$ について1次関数(傾き $A$,切片 $B$ の直線)そのものである.2階微分が恒等的に0になるということは,「グラフの傾き(1階微分)が一定である」ということであり,傾きが一定な関数はまさに1次関数(直線)だけである——これが,定常状態の温度分布が必ず直線になる理由である.

演習33.3 変数分離でなぜ「定数」が現れるのか

解答

変数分離の式は $\dfrac{1}{\kappa^2}\dfrac{\dot\Theta(t)}{\Theta(t)}=\dfrac{X''(x)}{X(x)}$(第33章の式)であった.左辺は $t$ だけの式($x$ は一切現れない),右辺は $x$ だけの式($t$ は一切現れない)である.

いま,$x$ を何か1つの値(たとえば $x=x_1$)に固定して考えよう.右辺 $X''(x_1)/X(x_1)$ は,$x_1$ を固定した以上,もはやただの数($t$ によらない定数)である.等式が成り立つ以上,左辺 $\dfrac{1}{\kappa^2}\dfrac{\dot\Theta(t)}{\Theta(t)}$ も,$t$ をどう変えても常にこの同じ数に等しくなければならない.つまり,左辺は実は $t$ によらない定数だったのである.

次に,$t$ を別の値($t=t_1$)に固定して同じ議論をすると,今度は右辺 $X''(x)/X(x)$ が $x$ によらない定数だったことになる.

以上の2つの議論を合わせると,左辺($t$ だけの式)も右辺($x$ だけの式)も,どちらも「$x$ にも $t$ にもよらない,ただ1つの同じ数」に等しいということになる.これが,変数分離法で必ず「定数 $\alpha$」が現れる論理である.もし左辺が本当に $t$ とともに値を変えるなら,右辺($t$ を含まない式)はそれに追随できず,恒等式 $x,t$ すべてで成り立つという前提に矛盾してしまう.

演習33.4 銅の棒を流れる熱と冷めるまでの時間

解答

(1) 定常状態の熱流束は,第33章の式($Q=\lambda tS(T_0-T_a)/a$ を $St$ で割ったもの)より $q=\lambda\,\Delta T/a$ である.$\lambda=403\ \mathrm{W/(m\cdot K)}$,$\Delta T=80\ \mathrm{K}$,$a=0.10\ \mathrm{m}$ を代入して,

$$ q=403\ \mathrm{W/(m\cdot K)}\times\frac{80\ \mathrm{K}}{0.10\ \mathrm{m}}=3.224\times10^{5}\ \mathrm{W/m^2}\approx3.2\times10^{5}\ \mathrm{W/m^2} $$

である.面積は $S=1.0\ \mathrm{cm^2}=1.0\times10^{-4}\ \mathrm{m^2}$ なので,棒を流れる熱量の割合(単位時間あたりの熱量)は

$$ P=qS=3.224\times10^{5}\ \mathrm{W/m^2}\times1.0\times10^{-4}\ \mathrm{m^2}=32.24\ \mathrm{W}\approx32\ \mathrm{W} $$

となる.細い棒でも,銅は熱をよく伝えるので,この程度の温度差でも約 $32\ \mathrm{W}$ もの熱が流れる.

(2) $\tau_1=a^2/(\pi^2\kappa^2)$ に $a=0.10\ \mathrm{m}$,$\kappa^2=1.17\times10^{-4}\ \mathrm{m^2/s}$,$\pi^2=9.870$ を代入すると,

$$ \tau_1=\frac{(0.10)^2}{9.870\times1.17\times10^{-4}}=\frac{0.010}{1.155\times10^{-3}}\approx8.7\ \mathrm{s} $$

である(単位は $\mathrm{m^2/(m^2/s)}=\mathrm{s}$).例題33.7の $a=0.50\ \mathrm{m}$ の棒(約 $2.2\times10^{2}\ \mathrm{s}$)と比べると,長さが $1/5$ になったので $\tau_1\propto a^2$ より時間は $1/25$ になり,たしかに $217/25\approx8.7$ と一致する.

演習33.5 フーリエ級数と弦の振動の類似

解答

同じ部分:どちらも「両端で0」という境界条件 $X(0)=X(a)=0$(弦なら固定端での変位0,熱伝導なら両端の温度0)から出発し,空間部分の常微分方程式 $X''+\omega^2X=0$(あるいは同じ形の式)を解いて $X(x)=A\cos\omega x+B\sin\omega x$ を得る.境界条件 $X(0)=0$ より $A=0$,$X(a)=0$ より $\sin\omega a=0$,すなわち $\omega a=n\pi$($n=1,2,3,\ldots$)という,全く同じ量子化条件が現れる.つまり,空間方向に許される波の形(固有関数 $\sin(n\pi x/a)$)と,許される波数 $n\pi/a$ は,熱伝導方程式でも波動方程式でも共通である——これは,境界条件の形だけで決まる純粋に数学的な結果だからである.

違う部分:時間部分 $\Theta(t)$ についての常微分方程式が異なる.熱伝導方程式では,変数分離により $\Theta(t)$ は1階の常微分方程式 $\dot\Theta=\kappa^2\alpha\Theta$($\alpha\lt0$)に従い,解は指数関数的に減衰する $\Theta(t)=e^{-n^2\pi^2\kappa^2t/a^2}$(振動しない,単調に0へ近づく)である.一方,弦の波動方程式 $\partial^2u/\partial t^2=v^2\partial^2u/\partial x^2$ では,$t$ について2階の常微分方程式 $\ddot\Theta=v^2\alpha\Theta$ になり,$\alpha\lt0$ のとき $\Theta(t)=C_1\cos(n\pi vt/a)+C_2\sin(n\pi vt/a)$ という,時間についても振動する解になる.

この違いの根本原因は,熱伝導方程式が時間について1階($\partial T/\partial t$)であるのに対し,波動方程式は時間について2階($\partial^2u/\partial t^2$)だという,方程式そのものの違いにある.1階の時間微分は「変化の速さが今の値に比例する」という減衰・成長の式(指数関数)を生み,2階の時間微分は「加速度が変位に比例する」という振動の式(三角関数)を生む——これは,力学で速度に比例する抵抗力の式(1階,指数関数的減衰)と,ばねの復元力の式(2階,単振動)の違いとも同じ構造である.

演習33.6 高次モードほど速く減衰する理由

解答

時定数は $\tau_n=a^2/(n^2\pi^2\kappa^2)$ である.$n=1$ と $n=3$ について比をとると,$a^2,\pi^2,\kappa^2$ はどちらの場合にも共通なので約分でき,

$$ \frac{\tau_1}{\tau_3}=\frac{a^2/(1^2\pi^2\kappa^2)}{a^2/(3^2\pi^2\kappa^2)}=\frac{3^2}{1^2}=9 $$

となる(数値的にも $\kappa^2=1.0\times10^{-4}\ \mathrm{m^2/s},\ a=1\ \mathrm{m}$ で計算すると $\tau_1\approx1013\ \mathrm{s}$,$\tau_3\approx112.6\ \mathrm{s}$ で比は $9.000$ と一致する).つまり,$n=3$ のモードは $n=1$ のモードよりも9倍速く減衰する.

これが意味するのは,「温度分布の細かい凹凸(波長が短い,$n$ が大きい成分)は,全体的なゆるやかな山(波長が長い,$n$ が小さい成分)よりもずっと速く消える」ということである.物理的には,$n$ が大きい成分ほど空間的な変化が急(波長 $2a/n$ が短い)であり,演習33.1で見たように,$\partial^2T/\partial x^2$(変化の急峻さ)が大きいところほど熱の出入りが激しく,速く均されるからである.結果として,時間が十分に経った温度分布は,どんなに複雑な初期分布から出発しても,最も緩やかに減衰する最低次のモード($n=1$,あるいは境界条件が0でない場合は定常項 $T_1(x)$)だけが生き残った,滑らかな形に近づいていく——これは例題33.6で数値的にも確認したとおりである.

演習33.7 場合2の解の第1項近似

解答

定理33.3 の解は,$T(x,t)=T_1(x)+T_2(x,t)$ で,定常項は $T_1(x)=T_0+\dfrac{T_a-T_0}{a}x$,非定常項は $T_2(x,t)=-\displaystyle\sum_{k\text{ 奇}}\frac{8Aa^2}{k^3\pi^3}e^{-\kappa^2k^2\pi^2t/a^2}\sin\frac{k\pi x}{a}$ である.

$t\to\infty$:非定常項は 0 に近づくので,中点の温度は定常項だけになり,

$$ T_1\!\left(\frac a2\right)=\frac{T_0+T_a}{2}=\frac{40+20}{2}=30\ {}^\circ\mathrm{C} $$

$t=0$:初期条件 $T(x,0)=Ax^2+\beta x+T_0$($\beta=(T_a-T_0)/a-Aa=-20-100=-120\ \mathrm{K/m}$)に $x=0.5\ \mathrm{m}$ を代入して,

$$ T\!\left(\frac a2,0\right)=100\times0.25-120\times0.5+40=25-60+40=5\ {}^\circ\mathrm{C} $$

(定常項 $30\ {}^\circ\mathrm{C}$ と非定常項 $T_2(a/2,0)=-Aa^2/4=-25\ \mathrm{K}$ の和 $30-25=5\ {}^\circ\mathrm{C}$ でもある).

$t=1000\ \mathrm{s}$($k=1$ の項だけ):$\dfrac{8Aa^2}{\pi^3}=\dfrac{800}{31.006}=25.80\ \mathrm{K}$,$e^{-\kappa^2\pi^2t/a^2}=e^{-\pi^2\times10^{-4}\times1000}=e^{-0.987}=0.3727$,$\sin(\pi/2)=1$ より,

$$ T_2\!\left(\frac a2,1000\right)\approx-25.80\times0.3727=-9.62\ \mathrm{K} $$

である.よって

$$ T\!\left(\frac a2,1000\right)\approx30-9.62=20.4\ {}^\circ\mathrm{C} $$

となる.$k=3$ の項は $+25.80/27\times e^{-8.88}\approx1.3\times10^{-4}\ \mathrm{K}$ とごく小さく,無視してよい.初期の $5\ {}^\circ\mathrm{C}$ から,$1000\ \mathrm{s}$ 後には $20.4\ {}^\circ\mathrm{C}$ まで上がり,最終的な $30\ {}^\circ\mathrm{C}$ に向かっていくことがわかる(中点は初期には谷の底に近く,熱が流れ込んで温度が上がる.図33.5の $t=500\ \mathrm{s}$ の曲線の傾向と一致する).

第34章 熱統計力学への入口 — マクスウェルの速度分布

演習34.1 独立性の仮説が崩れたら何が起こるか

解答

(a) 圧力の式への直接の影響.$x$ 軸に垂直な衝突面が受ける垂直な力は,第34章34.3.2節で見たとおり $F_x/\dd S=2m\displaystyle\int_{v_x\gt0}v_x^2f\,\dd v_x\dd v_y\dd v_z=m\rho\langle v_x^2\rangle$ であり,$v_x$ だけの分布($v_y,v_z$ で積分してしまった周辺分布)だけで決まる.したがって,$v_x$ と $v_y$ の間に相関があっても,それだけでは $x$ 軸に垂直な面の垂直圧力は直ちには変わらない.

(b) 関数形の導出への影響.独立性が成り立たないと,分布関数は $g(v_x)g(v_y)g(v_z)$ の積の形に書けなくなり,第34章34.2節の導出(軸上の値の積 $f=a^{-6}f(v_x,0,0)f(0,v_y,0)f(0,0,v_z)$,そこから関数方程式 $G(x)G(y)=G(x+y)$ を導く議論)が使えない.すると,$f$ の関数形をガウス型 $Ae^{-\alpha(v_x^2+v_y^2+v_z^2)}$ に決めることができず,34.3.2節の $p=m\rho/(2\alpha)$($\alpha$ が現れる形)も,法則34.1も導けなくなる.(なお $p=m\rho\langle v_x^2\rangle$ という形自体は,$f$ の形によらず成り立つ.独立性が担っているのは,圧力の等方性ではなく,$f$ の関数形を決めることである.たとえば,速さだけで決まる非ガウス型の分布は,成分どうしが独立でなくても $\langle v_xv_y\rangle=0$ で,圧力は等方的になりうる.)

(c) 相関が本当にあった場合の矛盾.「$v_x$ が大きい分子ほど $v_y$ も大きい」という相関は,$\langle v_xv_y\rangle\ne0$ を意味する.これは,$x$ 軸に垂直な面を通して,$y$ 方向の運動量が正味で運ばれる(面に平行な向きの力,せん断応力が生じる)ことを意味するが,静止した気体の壁面にせん断力が現れるという事実は観測されない.また,もし $\langle v_x^2\rangle\ne\langle v_y^2\rangle$ のように方向によって分布の幅が違えば,壁の向きによって垂直圧力が違ってしまい,「気体の圧力はどの向きの壁にも同じ」という実験事実に反する.

(d) 34.5.1節の検証への影響.34.5.1節では,3方向を対等に扱う結果として $\langle v_x^2\rangle=\langle v_y^2\rangle=\langle v_z^2\rangle$ が自動的に成り立つことを使い,$\langle v^2\rangle=3\langle v_x^2\rangle$ として等分配則と比べた.独立性・等方性が崩れると,この3方向の等しさが保証されなくなり,$\langle v^2\rangle=3\langle v_x^2\rangle$ が使えず,等分配則との対応が直ちには言えなくなる.

演習34.2 規格化条件の役割

解答

規格化条件は,「容器内の全分子数は,分布関数を位置と速度のすべての範囲で積分したものに等しい」という条件で,第34章の式 (34.1) $N=V\displaystyle\int f\,\dd v_x\dd v_y\dd v_z$ として現れた.両辺を $V$ で割ると $\rho=N/V=\displaystyle\int f\,\dd v_x\dd v_y\dd v_z$ となり,これに $f=Ae^{-\alpha(v_x^2+v_y^2+v_z^2)}$ を代入してガウス積分の公式を使うと,第34章の式 (34.6) $\rho=A(\pi/\alpha)^{3/2}$ という関係式が得られた.

この規格化条件を課さなかったら,$A$ と $\alpha$ はそれぞれ独立に,どんな正の値でも取れることになってしまう.$f=Ae^{-\alpha(v_x^2+v_y^2+v_z^2)}$ という関数形(独立性と等方性から決まった形)は,$A,\alpha$ の値によらず,つねに「速度成分が独立」「空間に特別な向きがない」という要請を満たしているからである——独立性と等方性だけでは,関数の「形」(ガウス型であること)は決まっても,その「高さ」$A$ と「広がり」$\alpha$ という2つの定数までは決まらない.規格化条件は,「分布関数を全空間で積分すると,ちょうど実際の分子数 $N$(数密度 $\rho$)に一致しなければならない」という追加の情報を持ち込んで,$A$ と $\alpha$ の間に1つの関係式を与える.ただし,この関係式1本だけでは $A,\alpha$ の2つの値までは決まらず,もう1つの独立な条件(本文では圧力の計算から得た $p=m\rho/(2\alpha)$ と理想気体の状態方程式)が必要だった(第34章34.4節).

なお,圧力の計算を経由しない別の道筋もある.第24章のエネルギー等分配則から $\langle v_x^2\rangle=k_{\mathrm B}T/m$ が分かっていて,一方ガウス型の分布からは $\langle v_x^2\rangle=1/(2\alpha)$ が計算できる(第34章34.5.1節)ので,両者を等しいとおけば $\alpha=m/(2k_{\mathrm B}T)$ が決まる.この場合は,等分配則(すでに知られている結果)を「もう1つの条件」として使ったことになる.

演習34.3 酸素分子の音速と2乗平均速さの比較

解答

酸素分子 $\mathrm{O_2}$($M=32.0\times10^{-3}\ \mathrm{kg/mol}$,$\gamma=1.4$),$T=300\ \mathrm K$,$R=8.314\ \mathrm{J/(mol\,K)}$ を使うと,音速は

$$ v_{\text{音}}=\sqrt{\frac{\gamma RT}{M}}=\sqrt{\frac{1.4\times8.314\times300}{32.0\times10^{-3}}}\approx330\ \mathrm{m/s} $$

2乗平均速さは(第34章公式34.3)

$$ v_{\mathrm{rms}}=\sqrt{\frac{3RT}{M}}=\sqrt{\frac{3\times8.314\times300}{32.0\times10^{-3}}}\approx484\ \mathrm{m/s} $$

である.どちらの式にも共通する $RT/M$ の部分をくくり出すと,

$$ \frac{v_{\text{音}}}{v_{\mathrm{rms}}}=\frac{\sqrt{\gamma RT/M}}{\sqrt{3RT/M}}=\sqrt{\frac{\gamma}{3}} $$

となり,$R,T,M$ がすべて約分されて消える——つまりこの比は,モル質量 $M$ にも温度 $T$ にもよらず,比熱比 $\gamma$ だけで決まる.二原子分子($\gamma=1.4$)では $\sqrt{1.4/3}\approx0.683$ になり,実際 $330/484\approx0.682$ とよく一致する(単原子分子なら $\gamma=5/3$ で $\sqrt{5/9}\approx0.745$).物理的には,音速が分子の熱運動の速さ(2乗平均速さ)とほぼ同程度のオーダーになる——音というものが,結局は分子どうしの衝突が伝わっていく現象である以上,音速が分子の熱運動の速さを大きく超えることはできない——ということを,この結果は示している.

演習34.4 $\langle v^4\rangle$ を求める

解答

期待値の定義より,球座標への変換(第34章34.5.1節と同じ)をして

$$ \langle v^4\rangle=\left(\frac{m}{2\pi k_{\mathrm B}T}\right)^{3/2}\cdot4\pi\int_0^{\infty}v^4\cdot v^2e^{-\frac{mv^2}{2k_{\mathrm B}T}}\,\dd v =\left(\frac{m}{2\pi k_{\mathrm B}T}\right)^{3/2}\cdot4\pi\int_0^{\infty}v^6e^{-\frac{mv^2}{2k_{\mathrm B}T}}\,\dd v $$

である.$x=\dfrac{mv^2}{2k_{\mathrm B}T}$ とおくと,$v^2=\dfrac{2k_{\mathrm B}T}{m}x$,$\dd x=\dfrac{mv}{k_{\mathrm B}T}\dd v$ より $v\,\dd v=\dfrac{k_{\mathrm B}T}{m}\dd x$ である.$v^6\dd v=v^5\cdot(v\,\dd v)$ とまとめ,$v^5=(v^2)^{5/2}=\left(\dfrac{2k_{\mathrm B}T}{m}x\right)^{5/2}$ を使うと,

$$ \int_0^{\infty}v^6e^{-\frac{mv^2}{2k_{\mathrm B}T}}\,\dd v =\left(\frac{2k_{\mathrm B}T}{m}\right)^{5/2}\frac{k_{\mathrm B}T}{m}\int_0^{\infty}x^{5/2}e^{-x}\,\dd x =4\sqrt2\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{m}\right)^{7/2}\Gamma\!\left(\frac72\right) $$

($2^{5/2}=4\sqrt2$ を使った.)ここで $\Gamma(7/2)=\dfrac52\cdot\dfrac32\cdot\dfrac12\Gamma\!\left(\dfrac12\right)=\dfrac{15}{8}\sqrt\pi$ なので,

$$ \int_0^{\infty}v^6e^{-\frac{mv^2}{2k_{\mathrm B}T}}\,\dd v=4\sqrt2\cdot\frac{15}{8}\sqrt\pi\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{m}\right)^{7/2}=\frac{15\sqrt{2\pi}}{2}\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{m}\right)^{7/2} $$

となる.これを代入し,$\left(\dfrac{m}{2\pi k_{\mathrm B}T}\right)^{3/2}\left(\dfrac{k_{\mathrm B}T}{m}\right)^{7/2}=(2\pi)^{-3/2}\left(\dfrac{k_{\mathrm B}T}{m}\right)^2$ を使うと,

$$ \langle v^4\rangle=4\pi\cdot\frac{15\sqrt{2\pi}}{2}\cdot(2\pi)^{-3/2}\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{m}\right)^2 =\frac{4\pi\cdot15}{2}\cdot\frac{\sqrt{2\pi}}{(2\pi)^{3/2}}\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{m}\right)^2 =30\pi\cdot\frac1{2\pi}\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{m}\right)^2=15\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{m}\right)^2 $$

($\sqrt{2\pi}/(2\pi)^{3/2}=1/(2\pi)$ を使った.)これで $\langle v^4\rangle=15(k_{\mathrm B}T/m)^2$ が示された.次元は $(\mathrm{J/kg})^2=(\mathrm{m^2/s^2})^2=\mathrm{m^4/s^4}$ で $v^4$ と一致する.また $\langle v^2\rangle=3k_{\mathrm B}T/m$ なので,

$$ \frac{\langle v^4\rangle}{\langle v^2\rangle^2}=\frac{15}{9}=\frac53\approx1.67 $$

である.もし全分子が同じ速さ $v_0$ なら $\langle v^4\rangle/\langle v^2\rangle^2=1$ になるので,$5/3$ は1より大きい.この比が1からずれるほど,速さの分布が広がっている(速い分子の裾が長い)ことを表している.

演習34.5 最確速さの温度・質量依存

解答

(a) $v_{\mathrm p}=\sqrt{2RT/M}$ は同じ温度なら $M^{-1/2}$ に比例するので,

$$ \frac{v_{\mathrm p}(\mathrm{H_2})}{v_{\mathrm p}(\mathrm{N_2})}=\sqrt{\frac{M_{\mathrm{N_2}}}{M_{\mathrm{H_2}}}}=\sqrt{\frac{28.0}{2.02}}\approx3.72 $$

である.$\mathrm{H_2}$ の最確速さは

$$ v_{\mathrm p}(\mathrm{H_2})=\sqrt{\frac{2\times8.314\times300}{2.02\times10^{-3}}}\approx1.57\times10^3\ \mathrm{m/s} $$

(例題34.6の $v_{\mathrm p}(\mathrm{N_2})\approx422\ \mathrm{m/s}$ の3.72倍と一致:$422\times3.72\approx1570$.)

(b) $v_{\mathrm p}\propto\sqrt T$ なので,$v_{\mathrm p}$ を2倍にするには $\sqrt T$ を2倍,すなわち $T$ を $2^2=4$ 倍にすればよい.$T=4\times300\ \mathrm K=1200\ \mathrm K$ である.

演習34.6 1つの速度成分の平均

解答

(a) $\langle v_x\rangle=\sqrt{\alpha/\pi}\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}v_xe^{-\alpha v_x^2}\dd v_x$ で,被積分関数 $v_xe^{-\alpha v_x^2}$ は奇関数($v_x\to-v_x$ で符号が変わる)なので,正負の寄与が打ち消し合って $\langle v_x\rangle=0$ である.これは,気体全体が静止していて,$+x$ 向きに飛ぶ分子と $-x$ 向きに飛ぶ分子が同数いることに対応する.

(b) $|v_x|$ の平均は,偶関数なので片側の2倍で,

$$ \langle|v_x|\rangle=2\sqrt{\frac\alpha\pi}\int_0^{\infty}v_xe^{-\alpha v_x^2}\dd v_x=2\sqrt{\frac\alpha\pi}\cdot\frac1{2\alpha}=\frac1{\sqrt{\pi\alpha}}=\sqrt{\frac{2k_{\mathrm B}T}{\pi m}} $$

($\int_0^\infty xe^{-\alpha x^2}\dd x=\big[-e^{-\alpha x^2}/(2\alpha)\big]_0^\infty=1/(2\alpha)$,$\alpha=m/(2k_{\mathrm B}T)$ を使った.)一方,$\langle v_x^2\rangle=k_{\mathrm B}T/m$(第34章の式 (34.12))なので標準偏差は $\sqrt{\langle v_x^2\rangle}=\sqrt{k_{\mathrm B}T/m}$ であり,比は

$$ \frac{\langle|v_x|\rangle}{\sqrt{\langle v_x^2\rangle}}=\sqrt{\frac2\pi}\approx0.798 $$

となる.「絶対値の平均」は「2乗平均の平方根」より小さい.

(c) $T=300\ \mathrm K$ の窒素($M=28.0\times10^{-3}\ \mathrm{kg/mol}$)では,$k_{\mathrm B}/m=R/M$ を使って

$$ \langle|v_x|\rangle=\sqrt{\frac{2RT}{\pi M}}=\sqrt{\frac{2\times8.314\times300}{\pi\times28.0\times10^{-3}}}\approx238\ \mathrm{m/s} $$

である(標準偏差は $\sqrt{RT/M}\approx298\ \mathrm{m/s}$).また $\langle v\rangle=\sqrt{8k_{\mathrm B}T/(\pi m)}$(公式34.2)との比は

$$ \frac{\langle v\rangle}{\langle|v_x|\rangle}=\frac{\sqrt{8/\pi}}{\sqrt{2/\pi}}=\sqrt4=2 $$

で,数値でも $476/238=2$ と一致する.

演習34.7 地球の大気に水素とヘリウムが乏しいわけ

解答

(a) $v_{\mathrm{rms}}=\sqrt{3RT/M}$($T=300\ \mathrm K$,$R=8.314\ \mathrm{J/(mol\,K)}$)を計算すると,

$$ v_{\mathrm{rms}}(\mathrm{H_2})=\sqrt{\frac{3\times8.314\times300}{2.02\times10^{-3}}}\approx1.92\ \mathrm{km/s},\quad v_{\mathrm{rms}}(\mathrm{He})\approx1.37\ \mathrm{km/s},\quad v_{\mathrm{rms}}(\mathrm{N_2})\approx0.517\ \mathrm{km/s} $$

である.$v_{\mathrm{esc}}=11.2\ \mathrm{km/s}$ との比は,

$$ \frac{v_{\mathrm{esc}}}{v_{\mathrm{rms}}}\approx5.8\ (\mathrm{H_2}),\quad8.2\ (\mathrm{He}),\quad21.7\ (\mathrm{N_2}) $$

となる.軽い分子ほど $v_{\mathrm{rms}}$ が脱出速度に近い.

(b) 例題34.7より,$u_0=v_{\mathrm{esc}}/v_{\mathrm p}$($v_{\mathrm p}=\sqrt{2RT/M}$)として,割合は $\dfrac{2}{\sqrt\pi}u_0e^{-u_0^2}+\operatorname{erfc}(u_0)$ である.$v_{\mathrm p}$ は $\mathrm{H_2}$,$\mathrm{He}$,$\mathrm{N_2}$ でそれぞれ $1.571,\ 1.117,\ 0.422\ \mathrm{km/s}$ なので $u_0\approx7.13,\ 10.03,\ 26.5$.$u_0$ が大きいと第1項が支配的で,常用対数は $-u_0^2/\ln10+\log_{10}(2u_0/\sqrt\pi)$ で見積もれる.たとえば $\mathrm{H_2}$ では $u_0^2\approx50.8$ なので $-50.8/2.303\approx-22.06$,$\log_{10}(2\times7.13/1.772)\approx\log_{10}8.04\approx0.91$ で,合わせて約 $-21.15$,すなわち割合は約 $7\times10^{-22}$ である.同様に $\mathrm{He}$ は約 $2\times10^{-43}$,$\mathrm{N_2}$ は約 $5\times10^{-305}$となる.

(c) $300\ \mathrm K$ のままだと,どの気体も脱出速度を超える分子の割合は極端に小さいが,その小ささは桁違いに違う.$\mathrm{H_2}$ の約 $10^{-21}$ に対し,$\mathrm{N_2}$ は事実上ゼロ($10^{-304}$ 程度)である.割合は $e^{-u_0^2}$,すなわち $e^{-Mv_{\mathrm{esc}}^2/(2RT)}$ の形で質量 $M$ に指数関数的に敏感なので,軽い分子ほど脱出速度を超える速い分子が桁違いに多い.実際の大気の上層は温度がずっと高く($T$ が大きいほど $u_0$ は小さくなる),また何十億年という長い時間が経つので,このわずかな割合が積み重なって,軽い気体ほど宇宙空間へ逃げやすくなる.

演習34.8 小さな孔からの気体の流出

解答

(a) 第34章34.3.2節と同じ考え方で,面積 $\dd S$ の壁に $\Delta t$ の間に衝突する,速度が $(v_x,v_y,v_z)\sim(v_x+\dd v_x,\ldots)$ の分子数は,底面積 $\dd S$,高さ $v_x\Delta t$ の柱の中の分子数 $v_x\Delta t\,\dd S\,f\,\dd v_x\dd v_y\dd v_z$($v_x\gt0$)である.これを $\Delta t\,\dd S$ で割って全速度範囲で足すと,単位時間・単位面積あたりの衝突数 $\Phi$ は,

$$ \Phi=\int_0^{\infty}\!\!\int_{-\infty}^{\infty}\!\!\int_{-\infty}^{\infty}v_xf\,\dd v_x\dd v_y\dd v_z =\rho\left(\frac\alpha\pi\right)^{3/2}\cdot\frac{1}{2\alpha}\cdot\frac\pi\alpha=\rho\,\frac{\alpha^{3/2}}{\pi^{3/2}}\cdot\frac{\pi}{2\alpha^2}=\frac{\rho}{2\sqrt{\pi\alpha}} $$

である($f=\rho(\alpha/\pi)^{3/2}e^{-\alpha v^2}$,$\int_0^\infty v_xe^{-\alpha v_x^2}\dd v_x=1/(2\alpha)$,$v_y,v_z$ の積分は各々 $\sqrt{\pi/\alpha}$ を使った).$\alpha=m/(2k_{\mathrm B}T)$ より $\dfrac{1}{\sqrt{\pi\alpha}}=\sqrt{\dfrac{2k_{\mathrm B}T}{\pi m}}$ なので,

$$ \Phi=\frac\rho2\sqrt{\frac{2k_{\mathrm B}T}{\pi m}}=\rho\sqrt{\frac{k_{\mathrm B}T}{2\pi m}} $$

となる.一方 $\dfrac14\langle v\rangle=\dfrac14\sqrt{\dfrac{8k_{\mathrm B}T}{\pi m}}=\sqrt{\dfrac{8k_{\mathrm B}T}{16\pi m}}=\sqrt{\dfrac{k_{\mathrm B}T}{2\pi m}}$ なので,$\Phi=\tfrac14\rho\langle v\rangle$ が示された.

(b) 例題34.4より $\rho=p/(k_{\mathrm B}T)=2.41\times10^{25}\ \mathrm{m^{-3}}$,例題34.6より $\langle v\rangle\approx476\ \mathrm{m/s}$ である.$S=1.0\ \mathrm{mm^2}=1.0\times10^{-6}\ \mathrm{m^2}$ なので,1秒間に出ていく分子数は

$$ \Phi S=\frac14\times2.41\times10^{25}\times476\times1.0\times10^{-6}\approx2.9\times10^{21}\ \text{個/s} $$

である(物質量にすると $2.9\times10^{21}/6.02\times10^{23}\approx4.8\times10^{-3}\ \mathrm{mol/s}$).

(c) 同じ $p,T$ なら $\rho=p/(k_{\mathrm B}T)$ は気体の種類によらず同じなので,流出する分子数の比は $\langle v\rangle$ の比に等しく,$\langle v\rangle\propto M^{-1/2}$ より

$$ \frac{\Phi_{\mathrm{He}}}{\Phi_{\mathrm{N_2}}}=\sqrt{\frac{M_{\mathrm{N_2}}}{M_{\mathrm{He}}}}=\sqrt{\frac{28.0}{4.00}}=\sqrt7\approx2.65 $$

である.小さな孔からの気体の流出の速さがモル質量の平方根に反比例する,というこの結果が,グレアムの法則(Graham's law,流出の法則)である.

第35章 クーロンの法則とガウスの法則

演習35.1 立方体の頂点に置いた点電荷の流束

解答

大きな立方体の利用.点電荷 $Q$ を頂点にもつ立方体(1辺 $a$)を,電荷のまわりに8個くっつけると,電荷を中心とする1辺 $2a$ の大きな立方体ができる.大きな立方体の表面は閉曲面で,内部の電荷は $Q$ だけなので,ガウスの法則(積分形)より,表面全体を貫く流束は

$$ \iint_{\text{大立方体}}\bm E\cdot\bm n\,\dd S=\frac{Q}{\varepsilon_0} $$

である.大きな立方体には,電荷を中心とする対称性(面の入れ替え・回転・鏡映)があるので,6つの面を貫く流束はすべて等しく,1つの面あたり $\dfrac{Q}{6\varepsilon_0}$ である.さらに,1つの面(1辺 $2a$ の正方形)は,辺の中点を通る2本の線で,1辺 $a$ の4つの小さな正方形に分かれる.面の中心を通り辺に平行な2つの平面での鏡映で4つの小さな正方形は互いに入れ替わるので,貫く流束も同じで,1つの小さな正方形(1辺 $a$)あたり

$$ \frac{1}{4}\times\frac{Q}{6\varepsilon_0}=\frac{Q}{24\varepsilon_0} $$

である.

(a) 大きな立方体の表面は,このような小さな正方形24枚($=6\times4$)でできている.元の立方体(1辺 $a$,1つの頂点に電荷)の,電荷を含まない3つの面は,大きな立方体の表面の3枚の小さな正方形にちょうど重なる.したがって,その1つの面を貫く流束は $\dfrac{Q}{24\varepsilon_0}$ である.数値では

$$ \frac{Q}{24\varepsilon_0}=\frac{3.0\times10^{-9}\ \mathrm C}{24\times8.854\times10^{-12}\ \mathrm{C^2/(N\,m^2)}}\approx14.1\ \mathrm{N\,m^2/C} $$

(単位は $\mathrm{N\,m^2/C}=\mathrm{V\,m}$).3つの面は,立方体の頂点を通る3本の辺のまわりで互いに入れ替えられる対称性をもつので,どの面でも同じ値である.

(b) 電荷を含む3つの面は,電荷(頂点)を通る平面上にある.電荷から面上の点へ引いた線は面の中に含まれるので,点電荷の電場 $\bm E\parallel\bm r$ は,面上のいたるところで面と平行である.面の法線ベクトル $\bm n$ は面に垂直だから $\bm E\cdot\bm n=0$ で,流束は $0$ である.

(c) 立方体の表面全体を貫く流束は,(a) の3つの面と (b) の3つの面の和で

$$ 3\times\frac{Q}{24\varepsilon_0}+3\times0=\frac{Q}{8\varepsilon_0}\approx42.4\ \mathrm{N\,m^2/C} $$

である.これは,8個の立方体のそれぞれが,全流束 $Q/\varepsilon_0$ の $\dfrac18$ ずつを受け持つ,という当然の結果とも一致する.結果に辺の長さ $a$ は現れない.したがって,$a$ を2倍にしても流束は変わらない.これは,点電荷の電場が $1/r^2$ に比例して弱くなる一方で,面の面積が $r^2$ に比例して大きくなり,2つの効果が打ち消し合う(面を貫く流束が,電荷から面を見込む立体角だけで決まる)というガウスの法則の性質による.

演習35.2 発散・勾配の基本演習

解答

$\bm F=(x^2y,\ y^2z,\ z^2x)$ の発散は,各成分をそれ自身の変数で偏微分して足し合わせる(第35章35.3節・大学数学第19章19.1節の定義どおり).$\pdiff{}{x}(x^2y)=2xy$($y$ は定数扱い),$\pdiff{}{y}(y^2z)=2yz$($z$ は定数扱い),$\pdiff{}{z}(z^2x)=2zx$($x$ は定数扱い)なので,

$$ \operatorname{div}\bm F=2xy+2yz+2zx $$

である.$\varphi=x^2+y^2+z^2$ の勾配は,各変数で偏微分した3つの値を並べたベクトルなので,$\pdiff\varphi x=2x,\ \pdiff\varphi y=2y,\ \pdiff\varphi z=2z$ より,

$$ \grad\varphi=(2x,\ 2y,\ 2z) $$

である($\varphi=\abs{\bm r}^2$ なので,$\grad\varphi=2\bm r$ とも書ける).

次に,位置ベクトル場 $\bm f=(x,y,z)$(発散は,例35.1の3次元版として,定義19.2どおりに計算すると $\operatorname{div}\bm f=\pdiff xx+\pdiff yy+\pdiff zz=1+1+1=3$)について,半径 $R$ の球の表面全体での面積分を直接計算する.球面上の各点で,$\bm f=(x,y,z)$ は,その点の位置ベクトルそのものであり,大きさは球の半径 $R$ に等しく,向きは球の中心から外向き——つまり,球面の外向き法線 $\bm n$ とちょうど同じ向きである.したがって,球面上のどの点でも $\bm f\cdot\bm n=\abs{\bm f}\abs{\bm n}\cos0°=R\times1=R$(一定)であり,球の表面積は $4\pi R^2$ だから,

$$ \iint_S\bm f\cdot\bm n\,\dd S=R\times4\pi R^2=4\pi R^3 $$

である.一方,発散定理の右辺は,発散 $\operatorname{div}\bm f=3$(一定)と球の体積 $\frac43\pi R^3$ の積なので,

$$ \iiint_V(\operatorname{div}\bm f)\,\dd V=3\times\frac43\pi R^3=4\pi R^3 $$

となり,面積分(左辺)と体積分(右辺)がどちらも $4\pi R^3$ で一致する——ガウスの発散定理(大学数学第20章20.5節)が,この具体例でも成り立っていることが確認できた.

演習35.3 $\frac12$ の抜けを訂正する

解答

運動方程式は $m\ddot x=qE$ である.右辺 $qE$ は定数なので,加速度 $\ddot x=qE/m\equiv a$ も定数である.これを時間について1回積分すると(積分定数を $C_1$ とする),

$$ \dot x(t)=at+C_1 $$

初期条件 $\dot x(0)=v_0$ を代入すると $\dot x(0)=C_1=v_0$ なので,$\dot x(t)=at+v_0$ である.もう1回,時間について積分すると(積分定数を $C_2$ とする),

$$ x(t)=\frac12at^2+v_0t+C_2 $$

初期条件 $x(0)=x_0$ を代入すると $x(0)=C_2=x_0$ なので,

$$ x(t)=x_0+v_0t+\frac12at^2=x_0+v_0t+\frac12\cdot\frac{qE}{m}\,t^2 $$

が正しい式である.誤った式 $x(t)=x_0+v_0t+\dfrac{qE}{m}t^2$ は,$\dfrac12$ の係数が抜けており,2回の積分のうち2回目(速度の式 $\dot x=at+v_0$ をもう一度積分するときに $at$ の項から $\frac12at^2$ が生じる)の計算が正しく行われていない.(第1章1.4節・第35章35.6節と同じ内容.なお,正しい式を $t$ で2回微分すると $\ddot x=a=qE/m$ に戻り,運動方程式と一致する.誤った式は $\ddot x=2qE/m$ となって合わない.)

演習35.4 1クーロンの点電荷2つがおよぼしあう力

解答

クーロンの法則(第35章 法則35.1)に $q=Q=1\ \mathrm C$,$r=1\ \mathrm m$ を代入すると,

$$ \abs{\bm F}=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\cdot\frac{(1\ \mathrm C)(1\ \mathrm C)}{(1\ \mathrm m)^2}=k\times1\approx8.988\times10^{9}\ \mathrm N $$

である.これは,約90億ニュートンという途方もない大きさの力である.重さ $Mg$ がこの力に等しくなる物体の質量 $M$ は,$F=Mg$ より,

$$ M=\frac{F}{g}=\frac{8.988\times10^{9}\ \mathrm N}{9.8\ \mathrm{m/s^2}}\approx9.2\times10^{8}\ \mathrm{kg} $$

となる.これは約92万トン(載貨重量30万トン級の超大型の原油タンカーで約3隻分の重さ)の物体にはたらく重力と同じ大きさである.たった $1\ \mathrm C$ という,日常的にはそれほど大きく感じられない電荷量が,これほど巨大な力を生むという事実は,35.1節例題35.1で見た「クーロン力は万有引力よりはるかに強い」という結論と符合している——実際には,$1\ \mathrm C$ もの電荷を1点に集めること自体が,同符号の電荷どうしの強い反発力のために現実には極めて困難である.

演習35.5 正負2つの点電荷のまわりの電気力線

解答

電気力線は,正電荷 $+q_0$ から放射状に出発し,途中で電場の向きに沿って曲がりながら,負電荷 $-q_0$ に入る.2つの電荷を結ぶ線分の上では,電気力線は $+q_0$ から $-q_0$ へ向かう直線になり,その両側では,$+q_0$ を出た電気力線が弧を描いて $-q_0$ に戻ってくる.2つの電荷から遠く離れた場所へ向かう電気力線もあり,これらは,反対側の電荷を回り込みながら,しだいに放射状に広がっていく(概形は下の図.磁石のN極から出た磁力線がS極に戻る様子と同じ形の,電気双極子の電気力線のパターンである).

正負2つの点電荷の電気力線と垂直二等分面 + − +q0 −q0 E 垂直二等分面

次に,2つの電荷を結ぶ線分の垂直二等分面(2つの電荷から等距離にある点の集合)上の電場を調べよう.2つの電荷の間隔を $2a$ とし,$+q_0$ を $(-a,0)$,$-q_0$ を $(a,0)$ に置く.二等分面上の点 $\mathrm P=(0,s)$(中点から距離 $s$)では,どちらの電荷からも距離が $\sqrt{a^2+s^2}$ で等しいので,2つの電場の大きさは等しく,$E_1=\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{q_0}{a^2+s^2}$ である.向きは,$+q_0$ の電場は $+q_0$ から $\mathrm P$ へ向かう向き,$-q_0$ の電場は $\mathrm P$ から $-q_0$ へ向かう向きなので,成分で書くと,

$$ \bm E_+=E_1\cdot\frac{(a,\ s)}{\sqrt{a^2+s^2}},\qquad \bm E_-=E_1\cdot\frac{(a,\ -s)}{\sqrt{a^2+s^2}} $$

である.2つの電場の,2電荷を結ぶ方向に垂直な成分($y$ 成分.二等分面に平行な成分)は $\pm E_1s/\sqrt{a^2+s^2}$ で,逆向きで大きさが等しいので打ち消し合う.一方,2電荷を結ぶ方向の成分($x$ 成分)は,どちらも $+E_1a/\sqrt{a^2+s^2}$ で,同じ向き($+q_0$ の側から $-q_0$ の側へ)に強め合う.したがって,

$$ \bm E=\bm E_++\bm E_-=\left(\frac{2E_1a}{\sqrt{a^2+s^2}},\ 0\right)=\left(\frac{q_0\,a}{2\pi\varepsilon_0\,(a^2+s^2)^{3/2}},\ 0\right) $$

となる.よって,垂直二等分面上では電場は二等分面に垂直(2電荷を結ぶ直線に平行で,$+q_0$ の側から $-q_0$ の側を向く)であり,電気力線はこの面を直角に横切る.(たとえば $q_0=1\ \mathrm{nC}$,$a=1\ \mathrm m$,$s=1.5\ \mathrm m$ とすると,各電荷の電場の成分は $(1.53,\ \pm2.30)\ \mathrm{V/m}$ で,合計は $(3.07,\ 0)\ \mathrm{V/m}$ となり,$y$ 成分が打ち消し合うことが数値でも確かめられる.)

演習35.6 積分形と微分形の同値性を自分の言葉で説明する

解答

ガウスの法則の積分形 $\displaystyle\iint_S\bm E\cdot\bm n\,\dd S=Q_{\text{enc}}/\varepsilon_0$ は,「どんな形の閉曲面 $S$ についても,$S$ を貫く電場の正味の流束は,$S$ の内部にある電荷の総量で決まる」という主張である.一方,微分形 $\operatorname{div}\bm E=\rho/\varepsilon_0$ は,「空間の各点で,その点のごく近くから電場が湧き出す割合(単位体積あたり)は,その点の電荷密度で決まる」という,局所的な(1点だけに注目した)主張である——一見すると,片方は「面全体」の情報,もう片方は「1点」の情報についての主張であり,スケールがまったく違う.

この2つをつなぐのが,ガウスの発散定理 $\displaystyle\iint_S\bm f\cdot\bm n\,\dd S=\iiint_V(\operatorname{div}\bm f)\,\dd V$(大学数学第20章20.5節)である.この定理の中身は,「領域 $V$ を無数の微小体積に分割すると,隣り合う微小体積が共有する内部の面では,一方から見た外向きの流束と,隣から見た外向きの流束がちょうど符号が逆で大きさが等しく(同じ面を反対側から見ているだけなので),全部を足し合わせると内部の面はすべて打ち消し合って消える.生き残るのは,どの微小体積とも共有されていない,外側の境界面 $S$ の分だけである」という「打ち消し合い」の議論(第35章35.3節・大学数学第20章20.5節の証明のスケッチ)に基づいている.

この定理を積分形の左辺に適用すると $\displaystyle\iiint_V(\operatorname{div}\bm E)\,\dd V=Q_{\text{enc}}/\varepsilon_0=\dfrac1{\varepsilon_0}\displaystyle\iiint_V\rho\,\dd V$ となり,体積分どうしの等式になる.この等式は,$V$ をどんなに小さく,どこに取っても成り立つ——特に,$V$ を空間内のある1点のまわりに限りなく小さく縮めていくと,体積分の値は(被積分関数がその点で連続なら)その点での被積分関数の値に体積を掛けたものに近づいていく.両辺をその微小体積で割って極限をとれば,体積分の記号が外れて,$\operatorname{div}\bm E=\rho/\varepsilon_0$ という,1点だけに関する微分形の式が得られる.逆に,微分形が(領域内のすべての点で)成り立っていれば,それを体積 $V$全体で積分し,発散定理を右辺から左辺へ(同じ等式を逆向きに)使えば,積分形が導かれる.このように,「微小体積での関係を全空間で足し合わせたものが積分形,積分形を1点に潰したものが微分形」という関係にあり,発散定理が,この「足し合わせる」操作と「1点に潰す」操作を過不足なく結びつけているために,2つの形は数学的に完全に同値なのである.

第36章 電位とコンデンサー

演習36.1 クーロンの法則から点電荷の電位を導く

解答

原点に置いた点電荷 $Q$ のまわりの電場は,クーロンの法則より,動径方向を向き,大きさが

$$ E(r)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{Q}{r^2} $$

である.電位差の定義(本文36.1節)により,無限遠を基準($\varphi_\infty=0$)にした,原点から距離 $r$ の点 $A$ の電位は $\varphi(r)=-\displaystyle\int_\infty^A\bm E\cdot\dd\bm r$ である.積分経路として,無限遠から $A$ まで一直線に(動径方向に)近づく経路を選ぶと,電場と経路の向きがそろっているので,内積は単なる積になる.経路上の点の原点からの距離を積分変数 $r'$ と書くと(点 $A$ で $r'=r$),

$$ \varphi(r)=-\int_{r'=\infty}^{r'=r}E(r')\,\dd r'=-\int_\infty^r\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{Q}{r'^2}\,\dd r' $$

$1/r'^2$ の原始関数が $-1/r'$ であること(微分すると $\dd(-1/r')/\dd r'=1/r'^2$ に戻ることを確かめればよい)を使うと,

$$ \varphi(r)=-\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left[-\frac{Q}{r'}\right]_\infty^r=-\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left(-\frac{Q}{r}-\lim_{c\to\infty}\left(-\frac{Q}{c}\right)\right) $$

括弧の中の極限 $\lim_{c\to\infty}(-Q/c)=0$(分母が無限大に発散するので分数全体は0に近づく)なので,

$$ \varphi(r)=-\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left(-\frac{Q}{r}\right)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{Q}{r} $$

となり,本文の公式36.2 と一致する.

演習36.2 符号の異なる2枚の無限平面電荷

解答

面密度 $+\sigma$ の平面と $-\sigma$ の平面を,それぞれ単独で見ると,どちらも大きさ $\sigma/(2\varepsilon_0)$ の電場をつくる(本文の例題36.4,無限平面の電場 $E=\sigma/(2\varepsilon_0)$).向きは,$+\sigma$ の平面からは両側に外向き(遠ざかる向き),$-\sigma$ の平面へは両側から内向き(近づく向き)である.いま,$+\sigma$ の平面を左,$-\sigma$ の平面を右に置き,右向きを正とする.

(1) 2枚の間の領域:左の $+\sigma$ 平面から見て右側(2枚の間)なので,$+\sigma$ がつくる電場は右向き,大きさ $\sigma/(2\varepsilon_0)$.右の $-\sigma$ 平面から見て左側(やはり2枚の間)なので,$-\sigma$ がつくる電場も右向き($-\sigma$ に近づく向き),大きさ $\sigma/(2\varepsilon_0)$.2つとも同じ(右)向きなので足し合わされて,

$$ E_{\text{間}}=\frac{\sigma}{2\varepsilon_0}+\frac{\sigma}{2\varepsilon_0}=\frac{\sigma}{\varepsilon_0}\quad(\text{右向き,+から-へ向かう向き}) $$

(2) 2枚の外側の領域:たとえば左側($+\sigma$ 平面よりさらに左)では,$+\sigma$ がつくる電場は左向き(外向き),大きさ $\sigma/(2\varepsilon_0)$.一方,$-\sigma$ がつくる電場は,そこから見て $-\sigma$ に近づく向き,すなわち右向き,大きさ $\sigma/(2\varepsilon_0)$.大きさが等しく向きが逆なので,打ち消し合って,

$$ E_{\text{外側}}=\frac{\sigma}{2\varepsilon_0}-\frac{\sigma}{2\varepsilon_0}=0 $$

右側の外側の領域についても,左右を入れ替えた同じ議論により $0$ になる.まとめると,2枚の平行平面電荷(符号が逆)の間には一様な電場 $\sigma/\varepsilon_0$(+から-へ向かう),外側には電場が存在しない——これはまさに本文36.6節で使った,平行平板コンデンサーの電場の重ね合わせの議論そのものである.

演習36.3 コンデンサーの直列・並列接続の合成容量

解答

(1) 直列接続:2つのコンデンサー $C_1,C_2$ を1列につなぐと,途中の導線でつながった2枚の極板($C_1$ の負極板と $C_2$ の正極板)は,外部から孤立した1つの導体とみなせる.この孤立導体は,はじめ電気量 $0$ だったので,静電誘導によって生じる電気量の総和は常に $0$ でなければならない.したがって,$C_1$ に $+Q$ が乗れば,つながった導体には $-Q$ が誘導され,それと対をなす $C_2$ の正極板には $+Q$ が乗る——すなわち,$C_1,C_2$ には共通の電気量 $Q$ が乗る.全体の電位差は,2つのコンデンサーの電位差の和になる(電池の電位差が,途中の2つの電位差にちょうど分配される):

$$ V=V_1+V_2=\frac{Q}{C_1}+\frac{Q}{C_2}=Q\left(\frac1{C_1}+\frac1{C_2}\right) $$

合成容量 $C=Q/V$ の定義(本文の定義36.4 と同じ形)より,

$$ \frac1C=\frac VQ=\frac1{C_1}+\frac1{C_2} $$

(2) 並列接続:2つのコンデンサーを並列につなぐと,どちらも同じ2本の導線(電池の+極・-極)に直接つながるので,電位差 $V$ は共通になる.全体の電気量は,2つのコンデンサーにそれぞれ蓄えられる電気量の和になる:

$$ Q=Q_1+Q_2=C_1V+C_2V=(C_1+C_2)V $$

したがって,合成容量は

$$ C=\frac QV=C_1+C_2 $$

抵抗との対応:第37章37.5節で学ぶ抵抗の合成則は,直列 $R=R_1+R_2$(単純な和),並列 $1/R=1/R_1+1/R_2$(逆数の和の逆数)であった.コンデンサーはちょうど逆で,直列のときに逆数の和の逆数,並列のときに単純な和になる.これは,共通になる量が入れ替わっているからである.抵抗の直列接続では電流 $I$ が共通で電圧が分配される.コンデンサーの直列接続では電気量 $Q$ が共通で電圧が分配される($V_1:V_2=\dfrac1{C_1}:\dfrac1{C_2}$).並列接続では,どちらも電圧 $V$ が共通になる.共通になる量の違いが,公式の形(和と逆数和)が入れ替わる理由である.

演習36.4 密度が中心から表面へ直線的に減る球状電荷分布

解答

本文の例題36.7・例題36.8 と同じ手順を,$\rho=\rho_0(1-r/a)$ で実行する.

電場:半径 $r$ の球面をガウス面にとると,$0\le r\le a$ のとき,内部の電荷は(角度部分の積分 $\displaystyle\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^\pi\sin\theta\,\dd\theta\,\dd\phi=4\pi$ を使って)

$$ Q(r)=4\pi\int_0^r\rho_0\left(1-\frac{r'}{a}\right)r'^2\,\dd r'=4\pi\rho_0\left[\frac{r'^3}{3}-\frac{r'^4}{4a}\right]_0^r=4\pi\rho_0\left(\frac{r^3}{3}-\frac{r^4}{4a}\right) $$

ガウスの法則 $E(r)\cdot4\pi r^2=Q(r)/\varepsilon_0$ より,

$$ E(r)=\frac{Q(r)}{4\pi\varepsilon_0r^2}=\frac{\rho_0}{\varepsilon_0}\left(\frac r3-\frac{r^2}{4a}\right)\qquad(0\le r\le a) $$

全電荷は $Q=Q(a)=4\pi\rho_0a^3\left(\dfrac13-\dfrac14\right)=\dfrac{\pi}{3}\rho_0a^3$ である.$r\gt a$ では,内部の全電荷が $Q$ なので,

$$ E(r)=\frac{Q}{4\pi\varepsilon_0r^2}=\frac{\rho_0a^3}{12\varepsilon_0}\cdot\frac1{r^2}\qquad(r\gt a) $$

電場が最大になる位置:内部の式を $r$ で微分して $0$ とおくと,$\dfrac{\dd E}{\dd r}=\dfrac{\rho_0}{\varepsilon_0}\left(\dfrac13-\dfrac{r}{2a}\right)=0$ より $r=\dfrac{2a}{3}$.このとき

$$ E_{\max}=\frac{\rho_0}{\varepsilon_0}\left(\frac{2a}{9}-\frac{(2a/3)^2}{4a}\right)=\frac{\rho_0}{\varepsilon_0}\left(\frac{2a}{9}-\frac{a}{9}\right)=\frac{\rho_0a}{9\varepsilon_0} $$

である.表面での値は $E(a)=\dfrac{\rho_0a}{12\varepsilon_0}$ で,これより小さい.密度が表面に近づくほど小さくなるので,電場の最大は表面ではなく内部($r=2a/3$)にくる.

電位:$r\gt a$ のとき,

$$ \varphi(r)=\int_r^\infty\frac{\rho_0a^3}{12\varepsilon_0}\frac1{r'^2}\,\dd r'=\frac{\rho_0a^3}{12\varepsilon_0}\left[-\frac1{r'}\right]_r^\infty=\frac{\rho_0a^3}{12\varepsilon_0\,r}\qquad(r\gt a) $$

$0\le r\le a$ のとき,積分区間を $[r,a]$(内部の式)と $[a,\infty)$(外部の式)に分けると,$r=a$ での外部の電位が $\varphi(a)=\dfrac{\rho_0a^2}{12\varepsilon_0}$ なので,

$$ \varphi(r)=\int_r^a\frac{\rho_0}{\varepsilon_0}\left(\frac{r'}3-\frac{r'^2}{4a}\right)\dd r'+\frac{\rho_0a^2}{12\varepsilon_0}=\frac{\rho_0}{\varepsilon_0}\left[\frac{r'^2}{6}-\frac{r'^3}{12a}\right]_r^a+\frac{\rho_0a^2}{12\varepsilon_0} $$ $$ =\frac{\rho_0}{\varepsilon_0}\left(\frac{a^2}{12}-\frac{r^2}{6}+\frac{r^3}{12a}\right)+\frac{\rho_0a^2}{12\varepsilon_0}=\frac{\rho_0}{12\varepsilon_0a}\left(2a^3-2ar^2+r^3\right)\qquad(0\le r\le a) $$

点電荷との比較:外部の電位に $\rho_0a^3=\dfrac{3Q}{\pi}$ を代入すると,$\varphi(r)=\dfrac{1}{12\varepsilon_0r}\cdot\dfrac{3Q}{\pi}=\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac Qr$ となり,全電荷 $Q$ を中心に集めた点電荷の電位(本文の公式36.2)と一致する.また,$r=a$ で内部・外部の $E$,$\varphi$ の式はどちらも同じ値($\dfrac{\rho_0a}{12\varepsilon_0}$,$\dfrac{\rho_0a^2}{12\varepsilon_0}$)になり,連続につながっている.

演習36.5 誘電体を挿入したコンデンサー(発展)

解答

電気量 $Q$ を一定に保つ(外部の電源から切り離した状態で誘電体を挿入する)ので,定義36.4 の $C=Q/V$ より $V=Q/C$ である.誘電体を入れる前の容量を $C_0$,電位差を $V_0=Q/C_0$ とする.誘電体を入れると容量が $C=\varepsilon_rC_0$ になるので,

$$ V=\frac{Q}{C}=\frac{Q}{\varepsilon_rC_0}=\frac{V_0}{\varepsilon_r} $$

(1) したがって,電位差は誘電体を入れる前の $1/\varepsilon_r$ 倍になる($\varepsilon_r\gt1$ なので,電位差は小さくなる).

(2) 静電エネルギーは,$Q$ が一定の場合に便利な形 $U=Q^2/(2C)$(本文の公式36.5)を使う.誘電体を入れる前は $U_0=Q^2/(2C_0)$,入れた後は,

$$ U=\frac{Q^2}{2C}=\frac{Q^2}{2\varepsilon_rC_0}=\frac{U_0}{\varepsilon_r} $$

したがって,静電エネルギーも誘電体を入れる前の $1/\varepsilon_r$ 倍になる.電気量 $Q$(したがって極板上の電荷どうしの引力)を変えずに容量だけが増えるので,同じ電気量を蓄えるのに必要な電位差・エネルギーがどちらも小さくて済む,というのが誘電体を入れる効果である——ちょうど,同じ量の水を,より広い容器に入れると水位が下がるのと似たイメージで理解するとよい.誘電体が容量を増やす詳しいしくみ(分極による電場の弱まり)は,第41章で学ぶ.

演習36.6 円板電荷の面のすぐ近くと無限平面の関係

解答

本文の例題36.15 で求めた円板上電荷による軸上の電場は,$x\gt0$ で

$$ E(x)=\frac{\sigma}{2\varepsilon_0}\left(1-\frac{x}{\sqrt{a^2+x^2}}\right) $$

であった.$x\to+0$(円板の面のすぐ近くへ,正の側から近づく極限)をとると,第2項の分子 $x\to0$ なので,

$$ \lim_{x\to+0}E(x)=\frac{\sigma}{2\varepsilon_0}\left(1-\frac{0}{\sqrt{a^2+0}}\right)=\frac{\sigma}{2\varepsilon_0}(1-0)=\frac{\sigma}{2\varepsilon_0} $$

となり,これは本文の例題36.4(無限に広い帯電平面の電場)の結果 $E=\sigma/(2\varepsilon_0)$ と完全に一致する.

物理的な理由は次のように説明できる——観測点が円板の面のごく近く(円板の半径 $a$ に比べて,面からの距離 $x$ が十分小さい)にあるとき,その観測点から見える範囲では,円板の縁(半径 $a$ の輪郭)は「はるか遠く」にあるように見える.つまり,有限の大きさの円板であっても,観測点のすぐそばだけを見れば,あたかも無限に広い平面電荷であるかのように見えるのであり,電場もその近似に応じて無限平面の結果に一致するのである(円板から離れた場所,$x$ が $a$ 程度以上になると,縁の効果が無視できなくなり,無限平面の結果からずれていく).

反対側($x\lt0$):円板の面に関する対称性から,面に関して鏡映した点では,電場の大きさは同じ $\sigma/(2\varepsilon_0)$ で,向きは円板から遠ざかる向き($-x$ 向き)になる.したがって,電場は円板の面を横切るところで,$-\sigma/(2\varepsilon_0)$ から $+\sigma/(2\varepsilon_0)$ へ,差 $\sigma/\varepsilon_0$ だけ不連続に跳ぶ(無限平面でも同じである).円板の中心 $x=0$ ちょうどでの値は決まらず,上で求めたのは片側からの極限であることに注意する.

演習36.7 球対称なガウス型の電位から電荷密度を求める

解答

ポアソン方程式 $\nabla^2\varphi=-\rho/\varepsilon_0$ より $\rho=-\varepsilon_0\nabla^2\varphi$ で,球対称なので $\nabla^2\varphi=\dfrac1{r^2}\dfrac{\dd}{\dd r}\left(r^2\dfrac{\dd\varphi}{\dd r}\right)$ を使う.まず $\varphi=V_0\exp(-r^2/a^2)$ を $r$ で微分すると(合成関数の微分),

$$ \frac{\dd\varphi}{\dd r}=V_0\cdot\left(-\frac{2r}{a^2}\right)\exp(-r^2/a^2)=-\frac{2r}{a^2}\varphi $$

$r^2$ を掛けて $r$ でもう一度微分する(積の微分公式を使う):

$$ \frac{\dd}{\dd r}\left(r^2\frac{\dd\varphi}{\dd r}\right)=\frac{\dd}{\dd r}\left(-\frac{2r^3}{a^2}\varphi\right)=-\frac{6r^2}{a^2}\varphi-\frac{2r^3}{a^2}\cdot\left(-\frac{2r}{a^2}\right)\varphi=\left(-\frac{6r^2}{a^2}+\frac{4r^4}{a^4}\right)\varphi $$

$r^2$ で割ると,$\nabla^2\varphi=\left(-\dfrac{6}{a^2}+\dfrac{4r^2}{a^4}\right)\varphi$ なので,

$$ \rho(r)=-\varepsilon_0\nabla^2\varphi=\varepsilon_0V_0\left(\frac{6}{a^2}-\frac{4r^2}{a^4}\right)\exp(-r^2/a^2) $$

である(単位の確認:$\varepsilon_0V_0/a^2$ は $\dfrac{\mathrm{F}}{\mathrm m}\cdot\dfrac{\mathrm V}{\mathrm{m^2}}=\dfrac{\mathrm C}{\mathrm{m^3}}$ で,電荷密度の単位と一致する).

全電荷:球対称なので $\dd V=4\pi r^2\,\dd r$ として,

$$ Q_{\text{全}}=4\pi\int_0^\infty\rho\,r^2\,\dd r=4\pi\varepsilon_0V_0\left[\frac{6}{a^2}\int_0^\infty r^2\exp(-r^2/a^2)\dd r-\frac{4}{a^4}\int_0^\infty r^4\exp(-r^2/a^2)\dd r\right] $$

ヒントの積分値を代入すると,$\dfrac{6}{a^2}\cdot\dfrac{\sqrt\pi}{4}a^3=\dfrac{3\sqrt\pi}{2}a$,$\dfrac{4}{a^4}\cdot\dfrac{3\sqrt\pi}{8}a^5=\dfrac{3\sqrt\pi}{2}a$ なので,

$$ Q_{\text{全}}=4\pi\varepsilon_0V_0\left(\frac{3\sqrt\pi}{2}a-\frac{3\sqrt\pi}{2}a\right)=0 $$

となる.物理的には,$\rho(r)$ は中心付近($r\lt\sqrt{3/2}\,a$)で正,その外側で負で,全体として電気的に中性である.電位が遠方でガウス型($1/r$ よりはるかに速く)に $0$ へ近づくのは,遠方から見て全電荷が $0$(電場が $1/r^2$ の形で残らない)だからである.

第37章 定常電流と電気回路

演習37.1 電流の2つの表し方の次元解析と,細い銅線の電子の速さ

解答

(1) $I=\dd Q/\dd t$ の右辺は,「電気量を時間で割ったもの」なので,単位は

$$ \left[\frac{\dd Q}{\dd t}\right]=\frac{[\mathrm C]}{[\mathrm s]}=\mathrm{C/s} $$

である.一方,$I=envS$ の右辺は,$e$(電気量,単位 $\mathrm C$),$n$($1\ \mathrm m^3$ あたりの個数,単位 $\mathrm{1/m^3}$),$v$(速さ,単位 $\mathrm{m/s}$),$S$(面積,単位 $\mathrm{m^2}$)の積なので,単位を1つずつ掛け合わせると,

$$ [envS]=\mathrm C\times\frac{1}{\mathrm m^3}\times\frac{\mathrm m}{\mathrm s}\times\mathrm m^2 =\mathrm C\times\frac{\mathrm m^3}{\mathrm m^3}\times\frac{1}{\mathrm s} =\mathrm{C/s} $$

($\mathrm m$ のべき乗を数えると,分子に $\mathrm m^1\times\mathrm m^2=\mathrm m^3$,分母に $\mathrm m^3$ があるので,ちょうど打ち消し合う).どちらも単位は $\mathrm{C/s}=\mathrm A$(アンペア,定義37.1)となり,2つの表し方が同じ次元の量を表していることが確認できた.なお,3番目の表し方 $I=\iint_S\bm j\cdot\bm n\,\dd S$ についても,電流密度 $\bm j$ の単位が $[\mathrm{A/m^2}]$(37.2節定義37.2)であることから,面積 $\mathrm m^2$ を掛ければ $\mathrm A$ になり,やはり整合している.

(2) 直径 $d=0.50\ \mathrm{mm}$ の断面積は,

$$ S=\pi\left(\frac d2\right)^2=\pi\times(0.25\times10^{-3}\ \mathrm m)^2\approx1.96\times10^{-7}\ \mathrm{m^2} $$

である.電流が断面に垂直で一様なので,電流密度の大きさは

$$ j=\frac IS=\frac{0.50\ \mathrm A}{1.96\times10^{-7}\ \mathrm{m^2}}\approx2.5\times10^{6}\ \mathrm{A/m^2} $$

となる.$j=env$ より,平均速度は

$$ v=\frac{j}{en}=\frac{2.55\times10^{6}}{(1.602\times10^{-19})\times(8.49\times10^{28})}\approx1.9\times10^{-4}\ \mathrm{m/s} $$

である.例題37.1の太い銅線($7.4\times10^{-5}\ \mathrm{m/s}$)より速いが,それでも $0.2\ \mathrm{mm/s}$ 程度にすぎない.細い導線ほど,同じ電流を運ぶために電子が速く動かなければならない.

演習37.2 傾いた断面を通る電流

解答

(1) 軸に垂直な断面の面積を $S=1.0\ \mathrm{mm^2}$ とする.切り口の法線 $\bm n$ が軸($\bm j$ の向き)と $\theta=30^\circ$ の角をなすとき,切り口の面積は $S'=S/\cos\theta$ である(導線の幅は変わらず,切り口が斜めになる分だけ長くなる).したがって,

$$ S'=\frac{1.0\ \mathrm{mm^2}}{\cos30^\circ}=\frac{1.0}{0.8660}\ \mathrm{mm^2}\approx1.15\ \mathrm{mm^2} $$

(2) 切り口での $\bm j\cdot\bm n=j\cos\theta=(2.0\times10^{6})\times0.8660\approx1.73\times10^{6}\ \mathrm{A/m^2}$ で,$\bm j$ は切り口の全面で一様なので,面積分は単なる積になり,

$$ I'=\iint_{S'}\bm j\cdot\bm n\,\dd S=(j\cos\theta)\,S'=(1.73\times10^{6})\times(1.155\times10^{-6})\approx2.0\ \mathrm A $$

一方,垂直な断面を通る電流は $I=jS=(2.0\times10^{6})\times(1.0\times10^{-6})=2.0\ \mathrm A$ であり,$I'=I$ となって一致する.

(3) 一般の $\theta$ について,

$$ I'=(j\cos\theta)\,S'=(j\cos\theta)\,\frac{S}{\cos\theta}=jS=I $$

となり,$\cos\theta$ が打ち消し合って,傾き $\theta$ によらず同じ電流になる.これは,導線の2つの断面を通る電流が等しいという,本文37.2節の導出($\nabla\cdot\bm j=0$ と発散定理)の,最も単純な場合の確認になっている.

演習37.3 抵抗率の温度依存性(発展)

解答

本文37.3節のドルーデ模型では,抵抗率は

$$ \rho=\frac{m_{\mathrm e}}{ne^2\tau} $$

と表される($\tau$:緩和時間,自由電子が陽イオンなどによって散乱される平均の時間間隔).金属の温度が上がると,陽イオンは格子点のまわりでより激しく熱振動するようになる.自由電子から見ると,陽イオンが大きく振動しているほど,自由電子が散乱される確率は高くなる——衝突と衝突の間に進める距離・時間はどちらも短くなる.したがって,温度が上がると緩和時間 $\tau$ は短くなる.

$\rho$ の式で,$\tau$ が分母にあることに注目すると,$\tau$ が短くなれば(他の量 $m_{\mathrm e},n,e$ が変わらないとして)$\rho$ は大きくなる.これが,金属の抵抗率がふつう温度とともに増加する理由である.

この説明は,「自由電子密度 $n$ は温度によらずほぼ一定である」という仮定に暗黙のうちに頼っている——もし $n$ も温度とともに大きく変化するなら,$\rho=m_{\mathrm e}/(ne^2\tau)$ の増減は $n$ と $\tau$ の両方の変化のかね合いで決まってしまい,単純に「$\tau$ が減るから $\rho$ が増える」とは言えなくなる.金属では,自由電子は各原子が放出する伝導電子(価電子)に由来し,その総数(=自由電子密度 $n$)は,原子の配置や熱振動の激しさにほとんど影響されない——原子はその場にとどまったまま振動しているだけで,電子を放出する・しないが温度で大きく変わるわけではないからである.これに対し,半導体では,自由電子(伝導帯電子)は熱励起によって新たに生み出されるものであり,温度が上がると $n$ 自体が指数関数的に急増するため,この仮定が成り立たず,結果として抵抗率は温度とともに減少することが多い.

定量部分:$\rho(T)=\rho_0[1+\alpha(T-T_0)]$ に $\alpha=4\times10^{-3}\ \mathrm{K^{-1}}$,$T-T_0=100-20=80\ \mathrm K$ を代入すると,$\rho(100\ ^\circ\mathrm C)=\rho_0\times(1+4\times10^{-3}\times80)=1.32\,\rho_0$ である.導線の形($l,S$)は変わらないとすれば,抵抗も $1.32$ 倍で,

$$ R(100\ ^\circ\mathrm C)=0.168\ \Omega\times1.32\approx0.222\ \Omega $$

となる.また,$n$ が一定なら $\rho\propto1/\tau$ なので,$\tau(100\ ^\circ\mathrm C)/\tau(20\ ^\circ\mathrm C)=1/1.32\approx0.76$ である.例題37.6の $\tau=2.49\times10^{-14}\ \mathrm s$ を使えば,$100\ ^\circ\mathrm C$ では約 $1.9\times10^{-14}\ \mathrm s$ になる.

演習37.4 直列・並列公式のエネルギー的な検算

解答

(a) 直列接続.公式37.2より合成抵抗は $R=R_1+R_2=6.0+3.0=9.0\ \Omega$ である.直列接続なので,$R_1,R_2$ には同じ電流が流れ,電源から流れ出る全電流もそれに等しい:

$$ I=I_1=I_2=\frac{V}{R}=\frac{12}{9.0}=\frac43\ \mathrm A\approx1.33\ \mathrm A $$

各抵抗の消費電力は,公式37.1($P=I^2R$)より,

$$ P_1=I^2R_1=\left(\frac43\right)^2\times6.0\approx10.7\ \mathrm W,\qquad P_2=I^2R_2=\left(\frac43\right)^2\times3.0\approx5.33\ \mathrm W $$

電源が供給する全電力は $P=VI=12\times\dfrac43=16\ \mathrm W$ で,$P_1+P_2=10.7+5.33=16\ \mathrm W$ と一致する.($P=V^2/R=144/9.0=16\ \mathrm W$ としても同じである.)

(b) 並列接続.並列接続なので,$R_1,R_2$ にはどちらも同じ電圧 $V=12\ \mathrm V$ がかかる(本文37.5.2節).オームの法則より,

$$ I_1=\frac{V}{R_1}=\frac{12}{6.0}=2.0\ \mathrm A,\qquad I_2=\frac{V}{R_2}=\frac{12}{3.0}=4.0\ \mathrm A $$

各抵抗で消費される電力は,公式37.1($P=V^2/R$)より,

$$ P_1=\frac{V^2}{R_1}=\frac{12^2}{6.0}=24\ \mathrm W,\qquad P_2=\frac{V^2}{R_2}=\frac{12^2}{3.0}=48\ \mathrm W $$

次に,公式37.3(並列接続の合成抵抗,2項の閉じた形)より,

$$ R=\frac{R_1R_2}{R_1+R_2}=\frac{6.0\times3.0}{6.0+3.0}=\frac{18}{9.0}=2.0\ \Omega $$

電源から流れ出る全電流は,$I=V/R=12/2.0=6.0\ \mathrm A$(これは $I_1+I_2=2.0+4.0=6.0\ \mathrm A$ とも一致し,キルヒホッフの第一法則——本文法則37.3——の具体例にもなっている).電源が供給する全電力は,公式37.1($P=IV$)より,

$$ P=IV=6.0\times12=72\ \mathrm W $$

一方,$P_1+P_2=24+48=72\ \mathrm W$ であり,$P=P_1+P_2$ が成り立つことが確認できた.

どちらの接続でも,電源が供給するエネルギーは各抵抗で消費されるエネルギーの単純な和に等しい(エネルギー保存則).合成抵抗の公式は,直列では電圧の和,並列では電流の和(キルヒホッフの法則)から導かれたものだが,結果としてエネルギー収支の面でも矛盾がないことが,この検算から分かる.同じ電圧でも,並列($R=2.0\ \Omega$)の方が直列($R=9.0\ \Omega$)より大きな電力($72\ \mathrm W$ 対 $16\ \mathrm W$)を消費する.

演習37.5 キルヒホッフの法則で回路を解く

解答

本文例題37.9と同じ設定・同じ電流の向きの取り方を使う(どの電池も上側が正極).節点Nに流れ込む電流を左の枝から $I_1$,右の枝から $I_3$,節点Nから中央の枝($R_2$)を通って流れ出る電流を $I_2$ とする.第37章のキルヒホッフの第一法則(法則37.3)より,

$$ I_1+I_3=I_2 \qquad\cdots\ \text{(a)} $$

第二法則(法則37.4)を左ループ($\mathcal E_1,R_1,R_2$ を含む)に適用すると,接地点から出発して $+\mathcal E_1-I_1R_1-I_2R_2-\mathcal E_2=0$ となる.ここで $\mathcal E_2=0\ \mathrm V$(中央の枝には電池がなく抵抗 $R_2$ だけがある)なので,

$$ \mathcal E_1-\mathcal E_2=I_1R_1+I_2R_2 \qquad\Longrightarrow\qquad \mathcal E_1=I_1R_1+I_2R_2 \qquad\cdots\ \text{(b)} $$

右ループ($\mathcal E_3,R_3,R_2$ を含む)についても同様に,

$$ \mathcal E_3-\mathcal E_2=I_3R_3+I_2R_2 \qquad\Longrightarrow\qquad \mathcal E_3=I_3R_3+I_2R_2 \qquad\cdots\ \text{(c)} $$

数値($R_1=4\ \Omega,R_2=2\ \Omega,R_3=6\ \Omega,\mathcal E_1=8\ \mathrm V,\mathcal E_3=5\ \mathrm V$)を代入すると,(b)は $8=4I_1+2I_2$,(c)は $5=6I_3+2I_2$ となる.(a)(b)(c)の3元連立1次方程式を解くと,

$$ I_1=\frac{27}{22}\approx1.227\ \mathrm A,\qquad I_2=\frac{17}{11}\approx1.545\ \mathrm A,\qquad I_3=\frac{7}{22}\approx0.318\ \mathrm A $$

となる.$I_1,I_2,I_3$ がすべて正なので,最初に仮定した向き($I_1,I_3$ が節点Nに流れ込み,$I_2$ が節点Nから流れ出る)がそのまま実際の電流の向きになっている.検算として,(a)に代入すると,$I_1+I_3=27/22+7/22=34/22=17/11=I_2$ となり,確かに成り立っている.

演習37.6 微小直方体を使った連続の方程式の導出

解答

座標軸に各辺が平行な,1辺 $\Delta x,\Delta y,\Delta z$ の微小な直方体を考える.その1つの頂点を $(x,y,z)$ とし,$x$ 方向の面($y$-$z$ 面に平行な2つの面)に着目する.$x$ の小さい側の面(面積 $\Delta y\Delta z$)から流れ込む電流は,その面での電流密度の $x$ 成分 $j_x(x,y,z,t)$ を使って,

$$ j_x(x,y,z,t)\,\Delta y\Delta z $$

である.$x+\Delta x$ の側の面から流れ出る電流は,$\Delta x$ が微小量なので,1次のテイラー展開(大学数学,多変数関数の1次近似)を使って,

$$ j_x(x+\Delta x,y,z,t)\,\Delta y\Delta z\approx\left[j_x(x,y,z,t)+\pdiff{j_x}{x}\Delta x\right]\Delta y\Delta z $$

と近似できる.したがって,$x$ 方向の2つの面だけを見たときの「正味の流出量」(流出−流入)は,

$$ \left[j_x(x,y,z,t)+\pdiff{j_x}{x}\Delta x\right]\Delta y\Delta z-j_x(x,y,z,t)\,\Delta y\Delta z=\pdiff{j_x}{x}\,\Delta x\Delta y\Delta z $$

である.$y$ 方向,$z$ 方向についても全く同様に,正味の流出量はそれぞれ $\pdiff{j_y}{y}\Delta x\Delta y\Delta z$,$\pdiff{j_z}{z}\Delta x\Delta y\Delta z$ となる.直方体の6つの面すべてからの正味の流出量の合計は,これら3方向の和であり,

$$ \left(\pdiff{j_x}{x}+\pdiff{j_y}{y}+\pdiff{j_z}{z}\right)\Delta x\Delta y\Delta z=(\nabla\cdot\bm j)\,\Delta x\Delta y\Delta z $$

となる($\nabla\cdot\bm j=\partial j_x/\partial x+\partial j_y/\partial y+\partial j_z/\partial z$ は,大学数学第19章19.1節で学んだ発散の定義そのものである).一方,本文の議論と同様に,この正味の流出量は,直方体内部の電荷 $Q=\rho\,\Delta x\Delta y\Delta z$(体積が微小なので,$\rho$ は直方体内でほぼ一定とみなせる)の減少率に等しい:

$$ (\nabla\cdot\bm j)\,\Delta x\Delta y\Delta z=-\frac{\dd Q}{\dd t}=-\pdiff{\rho}{t}\,\Delta x\Delta y\Delta z $$

両辺を共通の体積 $\Delta x\Delta y\Delta z$ で割ると,

$$ \nabla\cdot\bm j=-\pdiff{\rho}{t} $$

となり,本文37.2節で発散定理(大域的な閉曲面)を使って導いた連続の方程式(法則37.1)と,全く同じ結果が,微小直方体(局所的な議論)からも得られた.実際,ガウスの発散定理は,まさにこの「微小な直方体1個ずつについて成り立つ関係を,領域全体にわたって足し合わせたもの」であり,本問の議論は,発散定理の証明の骨格そのものにもなっている(大学数学第19章19.2節「発散の物理的な意味」を参照).

演習37.7 RC回路の時定数と充電の速さ

解答

時定数は,本文の定義37.5より,

$$ \tau_{\mathrm{RC}}=RC=(2.0\times10^{3}\ \Omega)\times(100\times10^{-6}\ \mathrm F)=0.20\ \mathrm s $$

充電時のコンデンサーの電圧は,本文の充電時の $Q(t)=C\mathcal E(1-\exp(-t/\tau_{\mathrm{RC}}))$ を $C$ で割って,

$$ V_C(t)=\mathcal E\left(1-\exp(-t/\tau_{\mathrm{RC}})\right) $$

である.$t=0.10\ \mathrm s$,$\tau_{\mathrm{RC}}=0.20\ \mathrm s$ を代入すると,$t/\tau_{\mathrm{RC}}=0.10/0.20=0.50$ なので,

$$ V_C(0.10)=5.0\times\left(1-\exp(-0.50)\right)=5.0\times(1-0.6065)=5.0\times0.3935\approx1.97\ \mathrm V $$

次に,満充電状態(電圧 $\mathcal E$)から抵抗だけで放電させる場合,本文の放電時 $Q(t)=Q_0\exp(-t/\tau_{\mathrm{RC}})$ を $C$ で割って,

$$ V_C(t)=\mathcal E\,\exp(-t/\tau_{\mathrm{RC}}) $$

である.電圧が半分になる時刻 $t_{1/2}$ は,$V_C(t_{1/2})=\mathcal E/2$ とおいて,

$$ \frac12=\exp(-t_{1/2}/\tau_{\mathrm{RC}}) \qquad\Longrightarrow\qquad t_{1/2}=\tau_{\mathrm{RC}}\ln2 $$

を解けばよい(両辺の自然対数をとり,$\ln(1/2)=-\ln2$ を使った).数値を代入すると,

$$ t_{1/2}=0.20\times\ln2\approx0.20\times0.6931\approx0.139\ \mathrm s $$

となる.この $t_{1/2}=\tau_{\mathrm{RC}}\ln2$ という関係は,放射性崩壊の半減期と同じ構造——「同じ時間が経つごとに,残っている量が同じ割合で減っていく」——から来ている.

演習37.8 銅線のジュール熱と温度上昇

解答

(1) 単位体積あたり単位時間の発熱は $p=\bm j\cdot\bm E=\rho j^2$(本文37.4節)である:

$$ p=\rho j^2=(1.68\times10^{-8}\ \Omega\cdot\mathrm m)\times(1.0\times10^{6}\ \mathrm{A/m^2})^2=1.68\times10^{4}\ \mathrm{W/m^3} $$

(単位の確認:$\Omega\cdot\mathrm m\cdot\mathrm{A^2/m^4}=(\mathrm{V/A})\,\mathrm A^2/\mathrm m^3=\mathrm{W/m^3}$ で正しい).

(2) 単位体積の銅の熱容量は,(密度)×(比熱)$=(8.96\times10^{3}\ \mathrm{kg/m^3})\times(385\ \mathrm{J/(kg\cdot K)})\approx3.45\times10^{6}\ \mathrm{J/(m^3\cdot K)}$ である.断熱なら,発熱 $p$ がすべて温度上昇に使われるので,

$$ \frac{\dd T}{\dd t}=\frac{p}{3.45\times10^{6}}=\frac{1.68\times10^{4}}{3.45\times10^{6}}\approx4.9\times10^{-3}\ \mathrm{K/s} $$

となり,$1$ 分間($60\ \mathrm s$)では $\Delta T\approx0.29\ \mathrm K$ である.

(3) 実際の導線では,表面から周囲の空気へ熱が逃げる(放熱)ので,温度が上がるにつれて放熱が増し,発熱と放熱がつり合った温度で落ち着く.発熱は導線の体積に,放熱は表面積に比例するので,同じ電流密度でも太い導線ほど冷えにくい.電流の許容値が導線の太さや被覆の耐熱温度で決まるのはこのためである.

演習37.9 電池の内部抵抗と最大電力

解答

(1) 内部抵抗 $r$ と外部抵抗 $R$ は直列なので,全抵抗は $R+r$ で,キルヒホッフの第二法則より $\mathcal E=IR+Ir$,すなわち

$$ I=\frac{\mathcal E}{R+r} $$

である.端子電圧は,電池の内部抵抗での電圧降下 $Ir$ を引いて,

$$ V=\mathcal E-Ir=\mathcal E-\frac{\mathcal E r}{R+r}=\frac{R}{R+r}\,\mathcal E $$

となる(これは外部抵抗 $R$ の両端の電圧 $IR$ に等しく,分圧の式 $V=R\mathcal E/(R+r)$ にもなっている).電流を取り出すほど端子電圧は起電力より下がる.

(2) 外部抵抗 $R$ の消費電力は,

$$ P_R=I^2R=\frac{\mathcal E^2R}{(R+r)^2} $$

である.$R$ で微分すると,

$$ \frac{\dd P_R}{\dd R}=\mathcal E^2\,\frac{(R+r)^2-2R(R+r)}{(R+r)^4}=\mathcal E^2\,\frac{r-R}{(R+r)^3} $$

となる.これは $R\lt r$ で正,$R\gt r$ で負なので,$P_R$ は $R=r$ で最大になり,最大値は

$$ P_{\max}=\frac{\mathcal E^2r}{(2r)^2}=\frac{\mathcal E^2}{4r} $$

である(負荷の抵抗を電池の内部抵抗にそろえたとき,最も大きな電力を取り出せる.このとき,電力の半分は内部抵抗 $r$ で熱になるので,効率は $50\%$ である).

(3) $\mathcal E=1.5\ \mathrm V$,$r=0.50\ \Omega$ のとき,$R=0.50\ \Omega$ では $I=1.5/(0.50+0.50)=1.5\ \mathrm A$,$P_R=I^2R=1.5^2\times0.50=1.125\ \mathrm W\approx1.1\ \mathrm W$($\mathcal E^2/(4r)=2.25/2.0=1.125\ \mathrm W$ と一致).$R=2.0\ \Omega$ では $I=1.5/2.5=0.60\ \mathrm A$,$P_R=0.60^2\times2.0=0.72\ \mathrm W$ である.$R=r$ のときの方が大きい.

第38章 磁場の源 — ビオ=サバールの法則とアンペールの法則

演習38.1 ビオ=サバールの法則の外積の向き

解答

ビオ=サバールの法則は $\dd\bm H=\dfrac{1}{4\pi r^2}\left(I\dd\bm\ell\times\hat{\bm r}\right)$ である.電流素片が $+x$ 方向,観測点への向きが $+y$ 方向なので,$I\dd\bm\ell=I\dd\ell\,\bm e_x$,$\hat{\bm r}=\bm e_y$ と書ける.単位ベクトルの外積は,右手系($x,y,z$ 軸がこの順に右手の親指・人差し指・中指の向きにとってある座標系)では $\bm e_x\times\bm e_y=\bm e_z$ である.したがって,

$$ \dd\bm H=\frac{I\dd\ell}{4\pi r^2}\,\bm e_x\times\bm e_y=\frac{I\dd\ell}{4\pi r^2}\,\bm e_z $$

となり,$\dd\bm H$ は $+z$ 方向を向く.右手を使って確かめると,右手の指を $\dd\bm\ell$ の向き($+x$)から $\hat{\bm r}$ の向き($+y$)へ曲げるとき,親指が $+z$ 方向を向く(右ねじを $x$ 軸から $y$ 軸へ回すとねじは $z$ 軸の正の向きに進む).また,$\dd\bm\ell\perp\hat{\bm r}$($\theta=90^\circ$,$\sin\theta=1$)なので,大きさは $\dd H=\dfrac{I\dd\ell}{4\pi r^2}$ で,$\dd\bm H$ は $\dd\bm\ell$ と $\bm r$ のどちらにも垂直である.

図に描くには,次のようにする.$x$ 軸を右向き,$y$ 軸を上向き,$z$ 軸を紙面の手前向きにとる(右手系).原点の電流素片から,$\dd\bm\ell$ を右向き($+x$)の矢印,観測点へ向かう $\hat{\bm r}$ を上向き($+y$)の矢印として描き,観測点に $\dd\bm H$ を紙面の手前向き($+z$)の矢印(点を丸で囲んだ記号 $\odot$)として描く.右手の指を右向きから上向きへ曲げると,親指が手前を向くことが,この3本の矢印の関係に対応している.

(解答終わり)

演習38.2 正方形ループの中心磁場

解答

正方形の中心から各辺に下ろした垂線の足は,各辺の中点である.中心からその足までの距離は $r=L/2$ で,各辺の両端は足から $\pm L/2$ の位置にあるので,半長は $a=L/2$ である.第38章の公式38.2(有限長導線の磁場 $H=\dfrac{I}{2\pi r}\sin\left(\tan^{-1}\dfrac ar\right)$)に $a=r=L/2$ を代入すると,1辺がつくる磁場の大きさは,

$$ H_1=\frac{I}{2\pi\cdot\frac L2}\sin\left(\tan^{-1}1\right)=\frac{I}{\pi L}\sin\frac\pi4=\frac{I}{\pi L}\cdot\frac{\sqrt2}{2}=\frac{\sqrt2\,I}{2\pi L} $$

である($\tan^{-1}1=\pi/4$,$\sin(\pi/4)=\sqrt2/2$).電流が反時計回りに流れているとき,ビオ=サバールの法則(右ねじの法則)より,4辺のどの電流素片がつくる磁場も,中心では紙面に垂直で同じ向き(紙面の手前向き)になる(各電流素片は円形電流のときと同様に,辺から中心へ向かうベクトルと電流の向きの外積の向きが,全辺で同じになる).したがって,向きが同じ4つの寄与は単純に足し合わせてよく,

$$ H=4H_1=4\times\frac{\sqrt2\,I}{2\pi L}=\frac{2\sqrt2\,I}{\pi L}\approx0.900\,\frac{I}{L} $$

となる.確認として,正方形に内接する円(半径 $r=L/2$)の円形電流の中心磁場は $\dfrac{I}{2r}=\dfrac{I}{L}$ であり,正方形はそれよりわずかに弱く(約 $90\ \%$),角があるぶん中心から遠い部分が増えることと整合している.

(解答終わり)

演習38.3 半無限長の直線電流のつくる磁場

解答

導線に沿って座標 $x$ をとり,端点を原点 O,導線は $x\ge0$ の側にあるとする.観測点は端点から導線に垂直に距離 $r$ 離れた点 P である.この点は端点が「垂線の足」になっており,第38章38.3節と同じ幾何(P から電流素片への直線が垂線となす角を $\theta$ とすると,$x=r\tan\theta$,電流素片から P までの距離は $r/\cos\theta$,電流の向きと $\bm r$ のなす角は $\theta+\pi/2$)で,電流素片がつくる磁場の大きさは,

$$ \dd H=\frac{I\cos^3\theta}{4\pi r^2}\,\dd x=\frac{I}{4\pi r}\cos\theta\,\dd\theta $$

である($\dd x=\dfrac{r}{\cos^2\theta}\dd\theta$ を代入した).導線は $x=0$ から $x=\infty$ まで伸びているので,$\theta$ は $x=0$ のとき $\theta=0$,$x\to\infty$ のとき $\theta\to\pi/2$ である.したがって,

$$ H=\int_0^{\pi/2}\frac{I}{4\pi r}\cos\theta\,\dd\theta=\frac{I}{4\pi r}\Bigl[\sin\theta\Bigr]_0^{\pi/2}=\frac{I}{4\pi r}\,(1-0)=\frac{I}{4\pi r} $$

となる.これは,同じ距離 $r$ での無限長導線の磁場 $\dfrac{I}{2\pi r}$ のちょうど半分である.対称性から考えると,無限長の導線は,端点で2本の半無限長の導線をつないだものとみなせて,それぞれが同じ大きさ・同じ向きの磁場をつくるので,これは当然の結果である.なお,導線の延長線上の点では $\dd\bm\ell\parallel\bm r$($\sin\theta=0$)となるので磁場は $0$ である.

(解答終わり)

演習38.4 ソレノイドの内部の磁場が一様であること(発展)

解答

ソレノイドの半径を $R$ とし,軸を中心とする円柱座標で,内部($s\lt R$)の磁場は軸に平行で大きさ $H(s)$ であるとする.軸に平行な2辺の長さが $\ell$,それらが軸から $s_1,s_2$(どちらも $R$ より小さい)の距離にあり,軸に垂直な(動径方向の)2辺でつないだ長方形の経路を考える.この長方形はソレノイドの内部にすっぽり収まっていて,巻線を1本も囲まないので,$I_{\text{enc}}=0$ である.

軸に垂直な2辺では,磁場(軸に平行)と経路(動径方向)が直交するので $\bm H\cdot\dd\bm\ell=0$ で,寄与は $0$ である.軸に平行な2辺では,長方形を1周する向きに沿って,一方の辺は磁場と同じ向き,他方の辺は逆向きに通るので,

$$ \oint_C\bm H\cdot\dd\bm\ell=H(s_1)\,\ell-H(s_2)\,\ell=I_{\text{enc}}=0\qquad\therefore\ H(s_1)=H(s_2) $$

である.$s_1,s_2$ は内部の任意の値なので,内部の磁場は軸からの距離によらず一様である.

次に,内部の磁場の大きさを,別の経路で求める.長方形の軸に平行な2辺のうち,一方(長さ $\ell$,磁場と同じ向きに通る)を内部の距離 $s_1=R/2$ に,他方(磁場と逆向きに通る)をソレノイドの外部の距離 $s_2\gt R$ にとる.外部の磁場は $0$(第38章38.4節の考察)であり,軸に垂直な2辺の寄与は $0$ なので,$\oint_C\bm H\cdot\dd\bm\ell=H\ell$ である.この経路が囲む電流は,長さ $\ell$ の区間の $n\ell$ 本の導線に流れる電流 $n\ell I$ である.アンペールの法則より $H\ell=n\ell I$,すなわち $H=nI$ となり,本文(図38.11)と同じ結果が得られる.$\ell$ は両辺で約分されて消えるので,長方形の長さ $\ell$ をどうとっても結果は変わらない.また,内部の辺を内部のどの距離 $s_1$ にとっても同じ結果になる(上で示した,内部の磁場が一様であることによる).

(解答終わり)

演習38.5 磁場の公式の次元の確認

解答

直線電流の公式 $H=\dfrac{I}{2\pi r}$ の右辺の単位を考える.$2\pi$ は無次元の数なので,単位は $[I]/[r]=\mathrm{A}/\mathrm{m}$ である.ソレノイドの公式 $H=nI$ では,$n$ は「単位長さあたりの巻き数」で,巻き数は数(無次元)なので $[n]=\mathrm{1/m}$,これに $[I]=\mathrm A$ を掛けて $[nI]=\dfrac{1}{\mathrm m}\cdot\mathrm A=\mathrm{A/m}$ となる.2つの公式の右辺は,どちらも $\mathrm{A/m}$ で,磁場 $H$ の単位(定義38.2から導いた $[\mathrm{N/Wb}]=[\mathrm{A/m}]$,第38章の式で確認済み)と一致する.

次に,$B=\mu_0H$ の単位を調べる.$[\mu_0]=\mathrm{N/A^2}$,$[H]=\mathrm{A/m}$ なので,

$$ [B]=\frac{\mathrm N}{\mathrm A^2}\cdot\frac{\mathrm A}{\mathrm m}=\frac{\mathrm N}{\mathrm A\,\mathrm m} $$

である.一方,$[\mathrm{Wb}]=\dfrac{\mathrm N\,\mathrm m}{\mathrm A}$(第38章の式)を使うと,

$$ \frac{[\mathrm{Wb}]}{\mathrm m^2}=\frac{\mathrm N\,\mathrm m}{\mathrm A\,\mathrm m^2}=\frac{\mathrm N}{\mathrm A\,\mathrm m} $$

となり,$[\mathrm{N/(A\,m)}]=[\mathrm{Wb/m^2}]=[\mathrm T]$ が確かめられた.

(解答終わり)

演習38.6 ヘルムホルツコイル(発展)

解答

(1) 1つの円形コイル($N$ 回巻き,電流 $I$)の中心軸上,コイルの中心から軸方向に距離 $u$ の点の磁束密度は,公式38.5($H(z)=\dfrac{Ia^2}{2(a^2+z^2)^{3/2}}$)に $N$ を掛け,$B=\mu_0H$ とした

$$ B_1(u)=\frac{\mu_0NIa^2}{2\,(a^2+u^2)^{3/2}}=\frac{\mu_0NIa^2}{2}\,f(u),\qquad f(u)=(a^2+u^2)^{-3/2} $$

である.2つのコイルの中心を $z=\mp d/2$ に置くと,軸上の点 $z$ での磁束密度は,2つのコイルの寄与の和(向きは同じ)で,

$$ B(z)=\frac{\mu_0NIa^2}{2}\left[f\!\left(z-\tfrac d2\right)+f\!\left(z+\tfrac d2\right)\right] $$

となる.中点は $z=0$ で,$d=a$ のとき,$f(\pm a/2)=\left(a^2+\dfrac{a^2}{4}\right)^{-3/2}=\left(\dfrac54\right)^{-3/2}a^{-3}$ なので,

$$ B(0)=\frac{\mu_0NIa^2}{2}\times2\times\left(\frac45\right)^{3/2}\frac{1}{a^3}=\left(\frac45\right)^{3/2}\frac{\mu_0NI}{a}=\frac{8}{5\sqrt5}\,\frac{\mu_0NI}{a}\approx0.716\,\frac{\mu_0NI}{a} $$

である.

(2) $f(u)$ は偶関数なので,$f'(u)$ は奇関数,$f''(u)$ は偶関数である.$B(z)$ を $z$ で微分して $z=0$ とおくと,

$$ B'(0)=\frac{\mu_0NIa^2}{2}\left[f'\!\left(-\tfrac d2\right)+f'\!\left(\tfrac d2\right)\right]=0 $$

(奇関数なので打ち消し合う).2階微分は,

$$ B''(0)=\frac{\mu_0NIa^2}{2}\left[f''\!\left(-\tfrac d2\right)+f''\!\left(\tfrac d2\right)\right]=\mu_0NIa^2\,f''\!\left(\tfrac d2\right) $$

である.$f'(u)=-3u(a^2+u^2)^{-5/2}$ を,積の微分公式でもう一度微分すると,

$$ f''(u)=-3(a^2+u^2)^{-5/2}+15u^2(a^2+u^2)^{-7/2}=\frac{-3(a^2+u^2)+15u^2}{(a^2+u^2)^{7/2}}=\frac{3(4u^2-a^2)}{(a^2+u^2)^{7/2}} $$

となる.$u=d/2$ を代入すると $4u^2=d^2$ なので,

$$ B''(0)=\mu_0NIa^2\cdot\frac{3(d^2-a^2)}{\left(a^2+\frac{d^2}{4}\right)^{7/2}} $$

である.これが $0$ になるのは $d^2=a^2$,すなわち $d=a$($d\gt0$)のときに限る.$B(z)$ は $z$ の偶関数(2つのコイルが原点に対して対称)なので,展開は $B(z)=B(0)+\dfrac12B''(0)z^2+\dfrac1{24}B''''(0)z^4+\cdots$ の形になる.$d=a$ のときは $B''(0)=0$ なので $z^2$ の項も消え,$z^4$ の項が最初の補正になる.そのため,中点の近くでは磁場が非常に一様になる.

(3) $a=0.15\ \mathrm m$,$N=130$,$I=1.0\ \mathrm A$ のとき,

$$ B(0)=\left(\frac45\right)^{3/2}\times\frac{(1.2566\times10^{-6})\times130\times1.0}{0.15}\approx0.7155\times1.089\times10^{-3}\approx7.79\times10^{-4}\ \mathrm T=0.78\ \mathrm{mT} $$

である.同じコイル1つの中心の磁束密度は,公式38.3に $N$ を掛けて $B=\mu_0\dfrac{NI}{2a}=\dfrac{(1.2566\times10^{-6})\times130\times1.0}{2\times0.15}\approx5.45\times10^{-4}\ \mathrm T=0.54\ \mathrm{mT}$ なので,ヘルムホルツコイルは,コイル1つの約 $1.43$ 倍($=2\times(4/5)^{3/2}$)の磁場を,広い範囲でほぼ一様につくる.

(解答終わり)

演習38.7 同軸ケーブルの磁場

解答

電流は軸方向に流れ,系は軸のまわりに回転対称なので,磁場は軸を中心とする円の接線方向を向き,大きさは軸からの距離 $r$ だけで決まる.軸を中心とする半径 $r$ の円を経路にとると,$\oint_C\bm H\cdot\dd\bm\ell=2\pi r\,H(r)=I_{\text{enc}}$ である.領域ごとに $I_{\text{enc}}$ を求める.

(i) $r\lt a$:内導体の電流は断面に一様なので,半径 $r$ の円板を貫く電流は $I_{\text{enc}}=I\dfrac{\pi r^2}{\pi a^2}=I\dfrac{r^2}{a^2}$,したがって $H=\dfrac{Ir}{2\pi a^2}$.

(ii) $a\lt r\lt b$:内導体の電流の全部 $I$ だけを囲むので $H=\dfrac{I}{2\pi r}$.

(iii) $b\lt r\lt c$:内導体の電流 $I$ のほか,外導体(電流 $-I$,断面積 $\pi(c^2-b^2)$ に一様)のうち,半径 $r$ の内側にある部分の電流 $-I\dfrac{\pi(r^2-b^2)}{\pi(c^2-b^2)}$ を囲む.したがって,

$$ I_{\text{enc}}=I-I\frac{r^2-b^2}{c^2-b^2}=I\frac{c^2-r^2}{c^2-b^2}\qquad\therefore\ H=\frac{I}{2\pi r}\cdot\frac{c^2-r^2}{c^2-b^2} $$

(iv) $r\gt c$:内導体の電流 $I$ と外導体の電流 $-I$ の全部を囲むので $I_{\text{enc}}=I-I=0$,したがって $H=0$.

各境界で連続になっていることは,$r=a$ で (i)(ii) がどちらも $\dfrac{I}{2\pi a}$,$r=b$ で (ii)(iii) がどちらも $\dfrac{I}{2\pi b}$,$r=c$ で (iii)(iv) がどちらも $0$ となることから確かめられる.数値は,次のとおりである.

$r=0.50\ \mathrm{mm}$:$H=\dfrac{5.0\times0.50\times10^{-3}}{2\pi\times(1.0\times10^{-3})^2}\approx3.98\times10^{2}\ \mathrm{A/m}$. $r=2.0\ \mathrm{mm}$:$H=\dfrac{5.0}{2\pi\times2.0\times10^{-3}}\approx3.98\times10^{2}\ \mathrm{A/m}$. $r=3.5\ \mathrm{mm}$:$I_{\text{enc}}=5.0\times\dfrac{16-12.25}{16-9}\approx2.68\ \mathrm A$,$H=\dfrac{2.68}{2\pi\times3.5\times10^{-3}}\approx1.22\times10^{2}\ \mathrm{A/m}$. $r=5.0\ \mathrm{mm}$:$H=0$.

ケーブルの外側で磁場が $0$ になる理由は,内導体(往きの電流)と外導体(戻りの電流)の電流が,同じ大きさで逆向きなので,ケーブルの外側の任意の円が囲む正味の電流が $0$ になるためである.そのため,同軸ケーブルは外部に磁場を漏らさず,また外部の磁場(雑音)の影響も受けにくく,テレビのアンテナ線や高周波の信号線に使われる.

(解答終わり)

演習38.8 ボーア模型の水素原子の磁気モーメント

解答

(1) 電子が円軌道を1周する時間は $T=\dfrac{2\pi a_0}{v}=\dfrac{2\pi\times5.29\times10^{-11}}{2.19\times10^{6}}\approx1.52\times10^{-16}\ \mathrm s$ である.この間に電荷の大きさ $e$ が軌道上の1点を1回通過するので,電流の大きさは,

$$ I=\frac eT=\frac{ev}{2\pi a_0}=\frac{(1.602\times10^{-19})\times(2.19\times10^{6})}{2\pi\times5.29\times10^{-11}}\approx1.06\times10^{-3}\ \mathrm A $$

である(約 $1.06\ \mathrm{mA}$.電子の電荷は負なので,電流の向きは電子の運動と逆向きである).

(2) 定義38.5より,$m=I\times\pi a_0^2$ である.(1) の $I=\dfrac{ev}{2\pi a_0}$ を代入すると,

$$ m=\frac{ev}{2\pi a_0}\cdot\pi a_0^2=\frac{e v a_0}{2}=\frac{(1.602\times10^{-19})\times(2.19\times10^{6})\times(5.29\times10^{-11})}{2}\approx9.28\times10^{-24}\ \mathrm{A\,m^2} $$

となり,ボーア磁子 $9.27\times10^{-24}\ \mathrm{A\,m^2}$($\mathrm{J/T}$)にほぼ等しい(違いは $0.1\ \%$ 程度で,与えた $v$ と $a_0$ の有効数字の範囲内である).原子の磁気的な性質の基本単位が,電子の軌道運動をミクロな円形電流とみなした値で見積もれることが分かる.

(3) 円の中心(原子核の位置)の磁場は,公式38.3より,

$$ H=\frac{I}{2a_0}=\frac{1.056\times10^{-3}}{2\times5.29\times10^{-11}}\approx9.98\times10^{6}\ \mathrm{A/m} $$

で,磁束密度は $B=\mu_0H\approx(1.2566\times10^{-6})\times(9.98\times10^{6})\approx12.5\ \mathrm T$ である.これは,実験室で使われる強力な電磁石(数 T)を上回る非常に強い磁場であり,原子核の位置に,電子の軌道運動だけでこれほどの磁場ができていることを示している.

(解答終わり)

第39章 電流と荷電粒子にはたらく磁気力 — ローレンツ力とホール効果

演習39.1 電子が磁場中で描く円運動

解答

一様な磁場に垂直に入射した荷電粒子の円運動の半径・周期の公式(第39章の公式39.2)は,

$$ r=\frac{mv}{qB}, \qquad T=\frac{2\pi m}{qB} $$

であった.電子の質量 $m_{\mathrm e}=9.109\times10^{-31}\ \mathrm{kg}$,電気量の大きさ $e=1.602\times10^{-19}\ \mathrm C$,速さ $v=3.0\times10^{6}\ \mathrm{m/s}$,磁束密度 $B=1.0\times10^{-3}\ \mathrm T$ を代入する.

半径は,

$$ r=\frac{m_{\mathrm e}v}{eB}=\frac{9.109\times10^{-31}\times3.0\times10^{6}}{1.602\times10^{-19}\times1.0\times10^{-3}}\ \mathrm m=\frac{2.733\times10^{-24}}{1.602\times10^{-22}}\ \mathrm m\approx1.71\times10^{-2}\ \mathrm m\approx1.7\ \mathrm{cm} $$

周期は,

$$ T=\frac{2\pi m_{\mathrm e}}{eB}=\frac{2\pi\times9.109\times10^{-31}}{1.602\times10^{-19}\times1.0\times10^{-3}}\ \mathrm s\approx3.57\times10^{-8}\ \mathrm s\approx36\ \mathrm{ns} $$

である.陽子の質量は電子の約1800倍(例題39.5の陽子の質量 $1.673\times10^{-27}\ \mathrm{kg}$ と比べよ)なので,同じ速さ・同じ磁束密度で陽子が回るとすると,半径も周期も約1800倍になる.電子は軽いぶん,小さな半径で短い周期で回転することがわかる.

演習39.2 フレミングの左手の法則と外積の一致

解答

座標を,右向きを $x$ 軸,上向きを $y$ 軸,紙面手前向きを $z$ 軸の正の向きにとる(右手系,$\bm e_x\times\bm e_y=\bm e_z$).ヒントのとおり,電流の向き(導線の向き)を $x$ 軸の正の向き,磁場を $y$ 軸の正の向きにとる:$\bm\ell=\ell\,\bm e_x$,$\bm B=B\,\bm e_y$.

外積の成分計算(大学数学 第15章 15.4)と $\bm e_x\times\bm e_y=\bm e_z$ より,

$$ \bm F=I\bm\ell\times\bm B=I\ell B\,(\bm e_x\times\bm e_y)=I\ell B\,\bm e_z $$

すなわち力は $+z$ 向き(紙面手前向き)で,大きさは $I\ell B$ である.

次に,フレミングの左手の法則で確かめる.左手の親指・人差し指・中指を互いに直角に開き,中指を電流の向き($+x$),人差し指を磁場の向き($+y$)に合わせる.このとき,左手の3本の指は左手系をなす.親指の向きを $\bm p$,人差し指を $\bm q$,中指を $\bm r$ とすると,右手系なら $\bm p\times\bm q=\bm r$ となるところが,左手系では $\bm p\times\bm q=-\bm r$ となる.いま $\bm q=\bm e_y,\ \bm r=\bm e_x$ だから,親指は $\bm p\times\bm e_y=-\bm e_x$ を満たさなければならない.$\bm p=\pm\bm e_z$ のうち,$\bm e_z\times\bm e_y=-\bm e_x$ となる $\bm p=+\bm e_z$ が答えで,親指は $+z$ 向きを指す.これは外積の結果 $\bm F\parallel+\bm e_z$ と一致する.

もう1つの配置でも確かめよう.電流が $+x$ 向き,磁場が紙面の奥向き($-z$ 向き,$\bm B=-B\bm e_z$)のとき,$\bm e_x\times\bm e_z=-\bm e_y$ より,

$$ \bm F=I\ell\,\bm e_x\times(-B\bm e_z)=-I\ell B\,(\bm e_x\times\bm e_z)=+I\ell B\,\bm e_y $$

で,力は上向きである.左手則では,$\bm q=-\bm e_z,\ \bm r=\bm e_x$ より $\bm p\times(-\bm e_z)=-\bm e_x$,すなわち $\bm p\times\bm e_z=\bm e_x$ を満たす $\bm p$ が親指の向きで,$\bm e_y\times\bm e_z=\bm e_x$ より $\bm p=+\bm e_y$(上向き)となり,やはり外積の結果と一致する.

実は,一般に $\bm\ell\perp\bm B$ のとき $\bm F=I\bm\ell\times\bm B$ は $\bm F\times\bm B=-B^2\,I\bm\ell$ を満たす($(\bm\ell\times\bm B)\times\bm B=-\ell B^2\,\bm e_\ell$,$\bm e_\ell$ は $\bm\ell$ の向きの単位ベクトル)ので,$(\bm F,\bm B,\bm\ell)$ の組は,いつでも左手の(親指,人差し指,中指)と同じ関係になっている.フレミングの左手の法則は,外積という演算を知らなくても指の形だけで力の向きを求められるように工夫された作図法であり,本質的には同じ物理法則を表している.

演習39.3 $\bm E\times\bm B$ ドリフト運動(発展)

解答

荷電粒子(電気量 $q$,質量 $m$)が電場 $\bm E$ と磁場 $\bm B$(互いに垂直)の両方から力を受けるときの運動方程式は,

$$ m\frac{\dd\bm v}{\dd t}=q\bm E+q\bm v\times\bm B $$

である.座標を,$\bm B=B\bm e_z$,$\bm E=E\bm e_x$($\bm E\perp\bm B$)にとる.ドリフト速度 $\bm v_{\mathrm d}=\bm E\times\bm B/B^2$ を成分で計算する.$\bm e_x\times\bm e_z=-\bm e_y$ より,

$$ \bm E\times\bm B=EB\,(\bm e_x\times\bm e_z)=-EB\,\bm e_y,\qquad \bm v_{\mathrm d}=\frac{-EB\,\bm e_y}{B^2}=-\frac{E}{B}\,\bm e_y $$

である.次に,$\bm v_{\mathrm d}$ が磁場から受けるローレンツ力を求めるために $\bm v_{\mathrm d}\times\bm B$ を計算すると,$\bm e_y\times\bm e_z=\bm e_x$ より,

$$ \bm v_{\mathrm d}\times\bm B=-\frac{E}{B}\,B\,(\bm e_y\times\bm e_z)=-E\,\bm e_x=-\bm E $$

となる(一般の向きの $\bm E\perp\bm B$ でも,ベクトル三重積の公式 $\bm a\times(\bm b\times\bm c)=\bm b(\bm a\cdot\bm c)-\bm c(\bm a\cdot\bm b)$ を使うと,$(\bm E\times\bm B)\times\bm B=-\bm B\times(\bm E\times\bm B)=-[\bm E(\bm B\cdot\bm B)-\bm B(\bm B\cdot\bm E)]=-B^2\bm E$($\bm B\cdot\bm E=0$ を使った)で,$\bm v_{\mathrm d}\times\bm B=-\bm E$ になる).したがって,

$$ q\bm E+q\bm v_{\mathrm d}\times\bm B=q\bm E-q\bm E=\bm 0 $$

で,ドリフト速度 $\bm v_{\mathrm d}$ で動いている成分には,電場によるクーロン力と,その運動自身が磁場から受けるローレンツ力とがちょうど打ち消し合って,正味の力がはたらかない.これは $q$ の符号にも $m$ にもよらない.

そこで速度を $\bm v=\bm v_{\mathrm d}+\bm v'$ と分けて運動方程式に代入する.$\bm v_{\mathrm d}$ は一定なので $\dd\bm v_{\mathrm d}/\dd t=\bm 0$ であり,

$$ m\frac{\dd\bm v'}{\dd t}=q\bm E+q(\bm v_{\mathrm d}+\bm v')\times\bm B=\bigl(q\bm E+q\bm v_{\mathrm d}\times\bm B\bigr)+q\bm v'\times\bm B=q\bm v'\times\bm B $$

となる.これは,電場がないときと同じ形の,本章で学んだローレンツ力による円運動(サイクロトロン運動)の方程式である.

したがって,荷電粒子の運動は,「一定の速度 $\bm v_{\mathrm d}=\bm E\times\bm B/B^2$ による直線的なドリフト」と「その上に重なる,通常の円運動」の組み合わせになる.電場だけがある場合には粒子は力を受け続けて速さがどんどん増していくが,磁場も同時にあると,電場の力のぶんが,速さの変化しない一定速度の「横方向への流れ(ドリフト)」に姿を変えてしまう.これが,クロスした電場・磁場のもとで粒子が加速され続けるのではなく,一定の速度で流れていく理由である.

演習39.4 磁気ミラー(発展)

解答

荷電粒子が,磁場の強さが場所によって変化する領域を,らせん運動をしながらゆっくり進んでいく場合を考える(磁場の変化は,粒子が1周する間にはほとんど無視できるほど緩やかであるとする).磁場に垂直な速度成分を $v_\perp=v\sin\theta$,平行な成分を $v_\parallel=v\cos\theta$ とする.このとき,円運動の半径は $r=mv_\perp/(qB)$ で,1周する円が囲む面を貫く磁束は,

$$ \Phi=\pi r^2B=\pi\left(\frac{mv_\perp}{qB}\right)^2B=\frac{\pi m^2}{q^2}\cdot\frac{v_\perp^2}{B} $$

である.磁場がゆっくり変化するとき,粒子がぐるぐる回る円が囲む磁束 $\Phi$ は近似的に一定に保たれる.これは断熱不変量とよばれる事実で,磁場が変わると電磁誘導(第40章)で円軌道に沿った電場が生じ,それが粒子の速さを変えて磁束をほぼ一定に保つ,と理解できる.本章の範囲を超える発展的な内容なので,ここでは事実として認めて使う.$\pi m^2/q^2$ は定数だから,$\Phi$ が一定とは $v_\perp^2/B$ が一定ということであり,

$$ \frac{v_\perp^2}{B}=\text{一定}\qquad\left(\text{磁気モーメント}\ \mu=\frac{mv_\perp^2}{2B}\ \text{が一定,と同じ}\right) $$

となる.したがって,磁場 $B$ が大きくなる領域に入っていくと,垂直成分の速さは $v_\perp^2\propto B$ にしたがって大きくなっていく.一方,ローレンツ力は仕事をしないので(39.6節),粒子の速さ $v=\sqrt{v_\perp^2+v_\parallel^2}$ は運動の間ずっと一定に保たれる.$v_\perp$ が大きくなるのに $v$ 全体が変わらないのだから,磁場に平行な成分 $v_\parallel^2=v^2-v_\perp^2$ は,そのぶん小さくなっていく.

粒子がどんどん強い磁場の領域へ進むと,$v_\perp$ は増加し続け,$v_\parallel$ は減少し続ける.十分に強い磁場に達すると,ついに $v_\parallel=0$(磁場方向にまったく進まなくなる瞬間)になる.この地点をミラー点という.$v_\parallel=0$ になった後は,$v_\parallel$ は符号を変えて負になり,粒子は来た方向へ押し戻される.これはちょうど,坂道を登るボールが運動エネルギーを使い果たしたところで速度をゼロにし,坂を転がり降りて戻ってくる様子とよく似ている——磁場の強さの変化が「坂」のような役割を果たしているのである.この現象を磁気ミラー効果と呼び,地球の磁力線に沿って両極付近(磁場が強い)に近づいた荷電粒子が跳ね返されて,磁気圏(ヴァン・アレン帯)に閉じ込められる現象や,核融合の磁場閉じ込め装置(ミラー型装置)の原理として利用されている.

ただし,$v_\parallel$ が大きい粒子(磁場となす角 $\theta$ が小さい粒子)は,$v_\perp^2/B$ が一定でも,極付近の最大の磁場に達してなお $v_\parallel\gt0$ のままで,反射されずに大気へ降り込む(損失円錐).39.7節のオーロラを光らせるのは,こうして降り込む粒子である.

演習39.5 ホール効果による半導体のキャリア密度測定

解答

第39章で導いたホール電圧の式は,

$$ V_{\mathrm H}=\frac{IB}{nqt} $$

であった.これをキャリア密度 $n$ について解くと,

$$ n=\frac{IB}{qV_{\mathrm H}t} $$

キャリアが電子(n形)なので $q=-e$ で,$V_{\mathrm H}$ も負になるが,ここでは大きさ $|q|=e=1.602\times10^{-19}\ \mathrm C$,$|V_{\mathrm H}|=1.0\times10^{-3}\ \mathrm V$ を使う.数値 $I=2.0\times10^{-3}\ \mathrm A$,$B=0.80\ \mathrm T$,$t=0.50\times10^{-3}\ \mathrm m$ を代入すると,

$$ n=\frac{(2.0\times10^{-3})\times0.80}{(1.602\times10^{-19})\times(1.0\times10^{-3})\times(0.50\times10^{-3})}\ \mathrm{m^{-3}} $$

分子は $1.6\times10^{-3}$,分母は $1.602\times10^{-19}\times1.0\times10^{-3}\times0.50\times10^{-3}=8.01\times10^{-26}$ なので,

$$ n\approx\frac{1.6\times10^{-3}}{8.01\times10^{-26}}\ \mathrm{m^{-3}}\approx2.0\times10^{22}\ \mathrm{m^{-3}} $$

となる.これは,代表的な金属の自由電子密度($\sim10^{28}$–$10^{29}\ \mathrm{m^{-3}}$)よりも6桁ほど小さく,例題39.10で扱った半導体の値($n=1.0\times10^{21}\ \mathrm{m^{-3}}$)の約20倍である.第39章の応用ボックスで述べたドープ半導体のキャリア密度($10^{20}$–$10^{22}\ \mathrm{m^{-3}}$)の上限に近い,かなり高濃度にドープしたn形半導体の値になっている.

演習39.6 ローレンツ力とアンペール力は「同じもの」か——自分の言葉で説明する

解答

解答例(およそ200字):

アンペール力は導線という目に見える物体全体にはたらく力だが,その正体は,導線内を動く自由電子1個ずつが磁場から受けるローレンツ力である.1個あたりの力は微小でも,導線には $10^{22}$ 個を超える電子があり,どれも同じ向きの力を受けるので,単純に足し合わされて目に見える大きさの力になる.ミクロな1つの法則が積み重なって,マクロな法則として現れたのである.

(解答の要点:個々のローレンツ力は微小であること,自由電子の数が膨大であること,向きがそろっているために単純に足し算できること,の3点に触れていれば,表現は自分の言葉で書き換えてよい.)

演習39.7 ホール電圧の符号からキャリアを判定する

解答

(a) ホール電圧を「$-y$ 面の電位から $+y$ 面の電位を引いた値」と定義した.$V_{\mathrm H}=-25\ \mathrm{mV}\lt0$ は,$-y$ 面の電位が $+y$ 面より低い,すなわち $-y$ 面が負に帯電していることを表す.電流が $+x$ 向き,磁場が $+z$ 向きのとき,正孔でも電子でもキャリアは $-y$ 側へ押されて集まる(39.8節の導出(1))から,$-y$ 面に集まっているキャリアの電荷は負である.したがってキャリアは電子で,この半導体はn形である(表39.1).

(b) キャリアの電荷は $q=-e$ で,式 $V_{\mathrm H}=IB/(nqt)$ を $n$ について解くと,大きさについて,

$$ n=\frac{IB}{e\,|V_{\mathrm H}|\,t}=\frac{5.0\times10^{-3}\times0.10}{1.602\times10^{-19}\times25\times10^{-3}\times0.20\times10^{-3}}\ \mathrm{m^{-3}}=\frac{5.0\times10^{-4}}{8.01\times10^{-25}}\ \mathrm{m^{-3}}\approx6.2\times10^{20}\ \mathrm{m^{-3}} $$

ホール係数は,符号つきで,

$$ R_{\mathrm H}=\frac{1}{nq}=-\frac{1}{ne}=-\frac{1}{6.24\times10^{20}\times1.602\times10^{-19}}\ \mathrm{m^3/C}\approx-1.0\times10^{-2}\ \mathrm{m^3/C} $$

である.確認として $V_{\mathrm H}=R_{\mathrm H}IB/t=-1.0\times10^{-2}\times5.0\times10^{-3}\times0.10/(0.20\times10^{-3})\ \mathrm V=-25\ \mathrm{mV}$ となり,測定値と一致する.

演習39.8 アンペアの旧定義と現在の $\mu_0$

解答

(a) 式 $F/\ell=\mu_0I_1I_2/(2\pi a)$ を $\mu_0$ について解くと,$\mu_0=2\pi a\,(F/\ell)/(I_1I_2)$.旧定義の値 $I_1=I_2=1\ \mathrm A,\ a=1\ \mathrm m,\ F/\ell=2\times10^{-7}\ \mathrm{N/m}$ を代入して,

$$ \mu_0=\frac{2\pi\times1\ \mathrm m\times2\times10^{-7}\ \mathrm{N/m}}{1\ \mathrm A\times1\ \mathrm A}=4\pi\times10^{-7}\ \mathrm{N/A^2} $$

を得る(単位は $\mathrm{m\cdot(N/m)/A^2}=\mathrm{N/A^2}$).

(b) $4\pi\times10^{-7}=1.256\,637\,061\,44\times10^{-6}\ \mathrm{N/A^2}$ だから,相対的なずれは,

$$ \frac{\mu_0-4\pi\times10^{-7}}{4\pi\times10^{-7}}=\frac{(1.256\,637\,062\,12-1.256\,637\,061\,44)\times10^{-6}}{1.256\,637\,061\,44\times10^{-6}}\approx\frac{6.8\times10^{-10}}{1.2566}\approx5.4\times10^{-10} $$

である.測定値の相対不確かさ(約 $1.5\times10^{-10}$)よりは大きいが,きわめて小さい.

(c) $F\propto\mu_0$ だから,力も相対的に約 $5.4\times10^{-10}$ だけ大きくなり,$2\times10^{-7}\times(1+5.4\times10^{-10})\ \mathrm{N/m}\approx2.000\,000\,001\times10^{-7}\ \mathrm{N/m}$ となる.有効数字9桁まで $2\times10^{-7}\ \mathrm{N/m}$ のままで,旧定義と現在の値の間に実用上の違いはほとんどない.

第40章 電磁誘導とインダクタンス

演習40.1 磁石をコイルに通り抜けさせる

解答

N極を先頭にして左から右へ動かすので,磁石の位置に応じて3つの段階に分けて考える.

(a) 磁石がコイルに近づいてくる間.N極から出た磁力線が右向きにコイルを貫き,磁石が近づくにつれてその磁束は増加する.レンツの法則により,右向きの磁束の増加を打ち消す左向きの磁場をつくる向きに電流が流れる.右ねじの法則より,これは磁石の側(左側)から見て反時計回りである(表40.1の(i)).

(b) 磁石がコイルの中央にあるとき.コイルを貫く右向きの磁束は最大で,その時間変化率 $\dd\Phi/\dd t$ は $0$ になる(増加から減少に変わる瞬間).ファラデーの法則 $V=-N\,\dd\Phi/\dd t$ より,このとき誘導起電力は $0$,誘導電流も $0$ である.電流は反時計回りから時計回りへ,$0$ を横切って向きを変える.

(c) 磁石が通り抜けて遠ざかっていく間.磁石の後端(S極側)がコイルから離れていく.このとき,コイルを貫く磁束はやはり右向き(磁石の外側の磁力線は,N極から出てS極に入るので,S極の左側では磁石に向かう右向きになる)であるが,磁石が遠ざかるにつれて減少する.レンツの法則により,右向きの磁束の減少を補う右向きの磁場をつくる向きに電流が流れ,これは磁石の側から見て時計回りである(表40.1の(ii)と同じ).

まとめると,磁石が近づくときは反時計回り,通り抜けて遠ざかるときは時計回りで,コイルの中央では電流が $0$ になる.磁束 $\Phi(t)$ が「増加→最大→減少」と変化する様子($\dd\Phi/\dd t$ の符号の変化)が,そのまま電流の向きの反転として現れている.

演習40.2 $\operatorname{rot}\bm E=-\partial\bm B/\partial t$ と $\operatorname{div}\bm D=\rho$ の比較

解答

模範解答(約200字).発散 $\operatorname{div}$ は湧き出し,回転 $\operatorname{rot}$ は渦の強さを測る演算子で,$\operatorname{div}\bm D=\rho$ は電荷が電場の湧き出し口であることを,$\operatorname{rot}\bm E=-\partial\bm B/\partial t$ は電場が閉曲線に沿って正味の仕事をする(渦を巻く)ことを表す.右辺では,前者に電荷密度という源があるのに対し,後者には電荷にあたる固有の源がなく,かわりに磁場の時間変化が現れる.電場の渦の源は,新しい種類の電荷ではなく,磁場の時間変化である.

補足.真空中では $\bm D=\varepsilon_0\bm E$ なので,$\operatorname{div}\bm D=\rho$ は $\operatorname{div}\bm E=\rho/\varepsilon_0$ と同じ内容である.また,もし磁気単極子(磁荷)が存在すれば,$\operatorname{rot}\bm E$ の式の右辺にも磁荷の流れに当たる項が加わるはずだが,そのようなものは観測されていない.静電場では $\operatorname{rot}\bm E=\bm 0$ なので,電場の渦が現れるのは磁場が時間変化するときだけである.

演習40.3 動く導体棒の起電力の次元解析

解答

ローレンツ力の式 $F=qvB$ より $B=F/(qv)$ であり,$q=It$(電荷=電流×時間)を使うと,磁束密度の単位は,

$$ 1\ \mathrm T=\frac{\mathrm N}{\mathrm C\cdot\mathrm{m/s}}=\frac{\mathrm N}{\mathrm A\,\mathrm s\cdot\mathrm{m/s}}=\frac{\mathrm N}{\mathrm A\,\mathrm m} $$

である.$1\ \mathrm N=\mathrm{kg\,m/s^2}$ なので,

$$ 1\ \mathrm T=\frac{\mathrm{kg\,m\,s^{-2}}}{\mathrm A\,\mathrm m}=\mathrm{kg\,s^{-2}\,A^{-1}} $$

となる.したがって $B\ell v$ の単位は,$\ell$ が $\mathrm m$,$v$ が $\mathrm{m/s}$ だから,

$$ [B][\ell][v]=(\mathrm{kg\,s^{-2}\,A^{-1}})\cdot\mathrm m\cdot(\mathrm{m\,s^{-1}})=\mathrm{kg\,m^2\,s^{-3}\,A^{-1}} $$

である.一方,電圧の単位 $\mathrm V$ は「仕事率÷電流」で,仕事率 $\mathrm W$ は「仕事÷時間」,仕事(エネルギー)$\mathrm J$ は $\mathrm{kg\,m^2/s^2}$(運動エネルギー $\frac12mv^2$ の単位から)だから,

$$ 1\ \mathrm V=\frac{1\ \mathrm W}{1\ \mathrm A}=\frac{1\ \mathrm{J/s}}{1\ \mathrm A}=\frac{\mathrm{kg\,m^2\,s^{-2}}}{\mathrm s\cdot\mathrm A}=\mathrm{kg\,m^2\,s^{-3}\,A^{-1}} $$

となり,$B\ell v$ の単位とまったく同じである.したがって $V=B\ell v$ の右辺は,たしかに電圧の単位になっている(この確認は,ファラデーの法則の単位 $\mathrm{Wb}=\mathrm{V\,s}$ に頼らず,ローレンツ力と電力の定義だけから出発しているので,独立な確認になっている).

演習40.4 RL回路の時定数とエネルギー

解答

(1) 定常状態では,コイルの電流はもう変化していない($\dd I/\dd t=0$)ので,コイルの電圧降下は0になり,電池の起電力はすべて抵抗にかかる.オームの法則より,

$$ I_\infty=\frac{V_0}{R}=\frac{20}{100}=0.20\ \mathrm A $$

(2) コイルに蓄えられるエネルギーは,本文の公式 $U_L=\frac12LI^2$ を使うと,

$$ U_L=\frac12LI_\infty^2=\frac12\times0.50\times0.20^2=\frac12\times0.50\times0.040=0.010\ \mathrm J $$

(3) 電池を切り離した後の電流の減衰は,本文の式($I(t)=I_0\exp(-t/\tau)$,$\tau=L/R$)に従う.ここで $I_0=I_\infty=0.20\ \mathrm A$ であり,時定数は

$$ \tau=\frac{L}{R}=\frac{0.50}{100}=5.0\times10^{-3}\ \mathrm s $$

である.電流が定常値の半分 $I_0/2$ になる時刻 $t_{1/2}$ を求めるには,$I_0\exp(-t_{1/2}/\tau)=I_0/2$ を解けばよい.両辺を $I_0$ で割って $\exp(-t_{1/2}/\tau)=1/2$,両辺の自然対数をとると $-t_{1/2}/\tau=\ln(1/2)=-\ln2$,したがって

$$ t_{1/2}=\tau\ln2\approx5.0\times10^{-3}\times0.6931\approx3.47\times10^{-3}\ \mathrm s\approx3.5\ \mathrm{ms} $$

である.

演習40.5 LC回路の周期を変える

解答

本文の公式より,LC回路の角振動数は $\omega=1/\sqrt{LC}$,周期は $T=2\pi/\omega=2\pi\sqrt{LC}$ である.自己インダクタンス $L$ を変えずに電気容量を $C\to4C$ にすると,新しい周期は,

$$ T'=2\pi\sqrt{L\cdot4C}=2\pi\sqrt{4}\sqrt{LC}=2\times2\pi\sqrt{LC}=2T $$

となる.つまり,電気容量を4倍にすると,周期は2倍(角振動数は半分)になる.具体的には,元の周期 $T=1.0\times10^{-3}\ \mathrm s$ に対して,新しい周期は $T'=2.0\times10^{-3}\ \mathrm s$ である.

電流の振幅は,本文の式より $I_{\max}=Q_0\omega$ である.コンデンサーの初期電荷 $Q_0$ を変えていないので,$\omega'=\omega/2$($C\to4C$ より $\omega=1/\sqrt{LC}\to1/\sqrt{4LC}=\omega/2$)に比例して,

$$ \frac{I_{\max}'}{I_{\max}}=\frac{Q_0\omega'}{Q_0\omega}=\frac{\omega'}{\omega}=\frac12 $$

となる——電流の振幅は元の$\dfrac12$倍になる.電気容量を大きくする(同じ電荷でも電圧が下がる)と,振動はよりゆっくりになり,電流の振幅も小さくなることが分かる.

演習40.6 レンツの法則とエネルギー保存則

解答

もしレンツの法則が逆——磁束の変化を助長する向きに誘導電流が流れる——と仮定してみる.たとえば,N極の磁石をコイルに近づける場合,コイルを貫く磁束はもともと増加している.レンツの法則が逆であれば,誘導電流はこの増加をさらに後押しする向きの磁場をつくる.そのようなコイル(電磁石)は磁石を引き寄せる向きの力を及ぼすことになる.すると,磁石は外部から力を加えなくても自然にコイルへ引き寄せられて加速し,コイルに近づけば近づくほど磁束の変化率が大きくなって誘導電流もますます強くなり,引き寄せる力もますます強くなる——磁石の運動エネルギーと,誘導電流が抵抗で発生させるジュール熱の両方が,外部からエネルギーを何も供給していないのに際限なく増え続けてしまう.これはエネルギー保存則に明らかに反しており,物理的にありえない.したがって,誘導電流は磁束の変化を打ち消す向き(磁石を遠ざける向きの力を及ぼす向き)でなければならない——これがレンツの法則の向きの理由である.

電磁ブレーキ(渦電流制動)についても同様である.導体が磁場の中を動くとき,渦電流のつくる力はつねに導体の運動を妨げる向きにはたらくからこそ「ブレーキ」として機能する.もし力の向きが逆——運動を助長する向き——だったとしたら,導体はブレーキがかかるどころか,外部からエネルギーを与えられていないのに勝手に加速し続けることになり,これもエネルギー保存則に反する.実際に観測される電磁ブレーキが常に制動(減速)としてはたらくという事実そのものが,レンツの法則の向きが物理的に正しいことの1つの証拠になっている.

演習40.7 発電機の起電力の最大値と実効値

解答

(1) 角速度は $\omega=2\pi f=2\pi\times60\approx376.99\ \mathrm{rad/s}$ である.公式40.6より,最大値(振幅)は

$$ V_0=NBA\omega=50\times0.30\times0.040\times376.99\ \mathrm V=0.60\times376.99\ \mathrm V\approx226.2\ \mathrm V\approx2.3\times10^{2}\ \mathrm V $$

公式40.7より,実効値は

$$ V_{\mathrm{eff}}=\frac{V_0}{\sqrt2}=\frac{226.2}{1.4142}\ \mathrm V\approx159.94\ \mathrm V\approx1.6\times10^{2}\ \mathrm V $$

(2) 同じコイル・磁場では $V_0=NBA\cdot2\pi f$ は周波数 $f$ に比例し,$V_{\mathrm{eff}}$ も $f$ に比例する.実効値を $100\ \mathrm V$ にするには,周波数を $100/159.94\approx0.6252$ 倍にすればよいので,

$$ f'=60\times\frac{100}{159.94}\ \mathrm{Hz}\approx37.5\ \mathrm{Hz} $$

である.(直接求めるなら,$V_{\mathrm{eff}}=NBA\cdot2\pi f/\sqrt2=100\ \mathrm V$ を $f$ について解く:$f=\dfrac{100\sqrt2}{2\pi\times50\times0.30\times0.040}\ \mathrm{Hz}\approx37.5\ \mathrm{Hz}$.)

演習40.8 渦電流ブレーキの力はなぜ速さに比例するか

解答

(1) 板の中の自由電荷には,単位電荷あたり $\bm v\times\bm B$ の力がはたらく(40.4節のローレンツ力).$\bm v\perp\bm B$ なので大きさは $vB$ である.オームの法則 $\bm j=\sigma\bm E_{\mathrm{eff}}$ において,電場のかわりにこの力を使うと,電流密度は

$$ \bm j=\sigma\,\bm v\times\bm B,\qquad j=\sigma vB $$

となる.単位は $\mathrm{S/m}\cdot\mathrm{m/s}\cdot\mathrm T=\mathrm{A/V\cdot(1/s)\cdot V\,s/m^2}=\mathrm{A/m^2}$ で電流密度の単位に一致する.

(2) 単位体積あたりにはたらく磁気力(アンペール力の密度)は $\bm f=\bm j\times\bm B$ である.$\bm v\perp\bm B$ のとき,$(\bm v\times\bm B)\times\bm B=-B^2\bm v$ という関係($\bm a\times(\bm b\times\bm c)=\bm b(\bm a\cdot\bm c)-\bm c(\bm a\cdot\bm b)$ より,$(\bm v\times\bm B)\times\bm B=-\bm B\times(\bm v\times\bm B)=-[\bm v(\bm B\cdot\bm B)-\bm B(\bm B\cdot\bm v)]=-B^2\bm v$)を使うと,

$$ \bm f=\sigma(\bm v\times\bm B)\times\bm B=-\sigma B^2\,\bm v $$

となる.大きさは $f=\sigma B^2v$ で,速さ $v$ に比例し,向きは速度と逆向き(運動を妨げる向き)である.これは,例題40.1の $F=\gamma v$ の比例定数 $\gamma$ が,$\sigma B^2$ に比例する量であることを意味する.「速さが大きいほど誘導起電力($vB$)が大きく,電流が大きくなり,その電流が磁場から受ける力も大きい」という因果の連鎖が,$v$ の1次に比例する制動力を生む.

(3) 数値を代入すると,

$$ f=\sigma B^2v=3.5\times10^{7}\times0.50^2\times2.0\ \mathrm{N/m^3}=1.75\times10^{7}\ \mathrm{N/m^3} $$

体積 $1.0\ \mathrm{cm^3}=1.0\times10^{-6}\ \mathrm{m^3}$ の部分にはたらく力の大きさは,

$$ F=f\times1.0\times10^{-6}\ \mathrm{m^3}=17.5\ \mathrm N\approx18\ \mathrm N $$

また,電流密度は $j=\sigma vB=3.5\times10^{7}\times2.0\times0.50\ \mathrm{A/m^2}=3.5\times10^{7}\ \mathrm{A/m^2}$ で,この部分で発生するジュール熱の仕事率は

$$ \frac{j^2}{\sigma}\times1.0\times10^{-6}\ \mathrm{m^3}=\frac{(3.5\times10^{7})^2}{3.5\times10^{7}}\times10^{-6}\ \mathrm W=35\ \mathrm W $$

である.これは制動力のする仕事率 $Fv=17.5\times2.0\ \mathrm W=35\ \mathrm W$ に一致し,運動エネルギーがすべてジュール熱に変わることを確かめられる.なお,これは電流が板全体で閉じる必要などを無視した簡単なモデルなので,実際の値の上限を見積もる目安である.

第41章 物質中の電場と磁場 — 誘電体と磁性体

演習41.1 誘電体を挿入したコンデンサーのエネルギー変化

解答

(a) 電荷 $Q$ を一定に保つ場合(電池を外してから誘電体を挿入する) 挿入前の静電容量を $C_0$,挿入後を $C=\varepsilon_{\mathrm{r}}C_0$(第41章の法則41.3)とする.電荷 $Q$ は変わらないので,静電エネルギー $U=Q^2/(2C)$ を使うと,

$$ U_i=\frac{Q^2}{2C_0},\qquad U_f=\frac{Q^2}{2C}=\frac{Q^2}{2\varepsilon_{\mathrm{r}}C_0}=\frac{U_i}{\varepsilon_{\mathrm{r}}} $$

となる.$\varepsilon_{\mathrm{r}}\gt1$ なら $U_f\lt U_i$,すなわちエネルギーは減少する.電池が無いので,コンデンサーのエネルギー変化はすべて手(外力)がした仕事に等しく,

$$ W_{\text{手}}=U_f-U_i=-\Bigl(1-\frac1{\varepsilon_{\mathrm{r}}}\Bigr)U_i\lt0 $$

である.手の仕事が負ということは,誘電体は電極のあいだへ引き込まれる向きの力を受けていて,手はむしろ誘電体が急に飛び込まないように引き止める(負の仕事をする)必要がある,ということである.数値例:$C_0=88.5\ \mathrm{pF}$,$V=100\ \mathrm V$($Q=C_0V=8.85\ \mathrm{nC}$),$\varepsilon_{\mathrm{r}}=5$ のとき $U_i=\frac12C_0V^2=4.43\times10^{-7}\ \mathrm J$,$U_f=U_i/5=8.85\times10^{-8}\ \mathrm J$,$W_{\text{手}}=-3.54\times10^{-7}\ \mathrm J$.

(b) 電圧 $V$ を一定に保つ場合(電池を繋いだまま誘電体を挿入する) 電圧 $V$ は変わらないので,$U=\frac12CV^2$ を使うと,

$$ U_i=\frac12C_0V^2,\qquad U_f=\frac12CV^2=\frac12\varepsilon_{\mathrm{r}}C_0V^2=\varepsilon_{\mathrm{r}}U_i $$

となり,コンデンサーに蓄えられるエネルギーはむしろ増加する:$\Delta U_{\text{cap}}=U_f-U_i=\frac12(\varepsilon_{\mathrm{r}}-1)C_0V^2$.この場合は電池が追加の電荷 $\Delta Q=(C-C_0)V=(\varepsilon_{\mathrm{r}}-1)C_0V$ をコンデンサーに送り込むので,電池は仕事 $W_{\text{電池}}=V\Delta Q=(\varepsilon_{\mathrm{r}}-1)C_0V^2$ をしている.これは $\Delta U_{\text{cap}}$ のちょうど2倍である.エネルギーの保存(コンデンサーのエネルギー増加 $=$ 手の仕事 $+$ 電池の仕事)から,

$$ W_{\text{手}}=\Delta U_{\text{cap}}-W_{\text{電池}}=\frac12(\varepsilon_{\mathrm{r}}-1)C_0V^2-(\varepsilon_{\mathrm{r}}-1)C_0V^2=-\frac12(\varepsilon_{\mathrm{r}}-1)C_0V^2\lt0 $$

数値例:$\Delta U_{\text{cap}}=1.77\times10^{-6}\ \mathrm J$,$W_{\text{電池}}=3.54\times10^{-6}\ \mathrm J$,$W_{\text{手}}=-1.77\times10^{-6}\ \mathrm J$.電池が供給したエネルギー $W_{\text{電池}}$ の半分がコンデンサーの静電エネルギーの増加になり,残りの半分が,誘電体を引き込む力が誘電体にした仕事(手が引き止めなければ誘電体の運動エネルギーや,摩擦があれば熱)にまわる.

どちらの場合も $W_{\text{手}}\lt0$ で,「誘電体は電極のあいだへ引き込まれ,手は引き止める側の仕事をする」という結論は同じである.この引き込む力は,誘電体が電極に引き寄せられるのではなく,電極の縁の付近にある,板面に平行な成分を持つ縁辺の電場(フリンジ場)が,誘電体を分極させて電場の強いほう(電極のあいだ)へ引き込むために生じる.完全に挿入してしまえば,この力は無い.

演習41.2 アンペールの法則からの磁性体入りソレノイドの磁場の再導出

解答

ソレノイドの軸を含む平面内に,長方形の経路 $C$ をとる——1辺(長さ $L$)はソレノイドの内部を軸に平行に通り,向かい合う1辺はソレノイドの外部(十分長いので磁場が $\bm 0$ とみなせる)を通り,残る2辺はソレノイドの軸に垂直(内部の磁場 $\bm H$ に垂直)にとる.このとき,線積分 $\displaystyle\oint_C\bm H\cdot\dd\bm l$ への寄与は,内部を通る1辺だけから生じる(外部の辺は $H\approx0$,垂直な2辺は $\bm H$ と直交するので寄与しない).内部の辺の長さが $L$ で,そこでの磁場の強さを $H$(軸方向,一定と仮定)とすると,

$$ \oint_C\bm H\cdot\dd\bm l=HL $$

である.一方,この経路 $C$ が「拾う」自由電流は,ソレノイドの巻き線を貫く自由電流であり,単位長さあたりの巻き数 $n$,導線の電流 $I$ を使うと,長さ $L$ の区間に含まれる巻き数は $nL$(回)なので,

$$ I_{\mathrm{f},\text{enc}}=nL\times I=nLI $$

である.法則41.6のアンペールの法則(積分形)$\displaystyle\oint_C\bm H\cdot\dd\bm l=I_{\mathrm{f},\text{enc}}$ より,

$$ HL=nLI\qquad\therefore\quad H=nI $$

となる.この結果には,鉄心の透磁率 $\mu$(あるいは比透磁率 $\mu_{\mathrm{r}}$)がいっさい現れない——これは,法則41.6が自由電流だけを見ており,磁性体の応答(磁化電流)の効果はすでに $\bm H$ の定義の中に吸収されているためである(無限に長いソレノイド,あるいは端の影響を無視できる十分長いソレノイドという対称性のおかげで,$H$ が積分形だけから決まる).したがって,鉄心の有無によらず $H=nI$ は変わらない.磁束密度は,線形磁性体の構成方程式 $\bm B=\mu_0\mu_{\mathrm{r}}\bm H$(法則41.4)から,

$$ B=\mu_0\mu_{\mathrm{r}}H=\mu_0\mu_{\mathrm{r}}nI $$

として得られる——例題41.7の結果と完全に一致する(経路の長さ $L$ の取り方によらず同じ $H,B$ が得られる).

演習41.3 比誘電率と比透磁率の物理的意味の違い

解答

(a) 誘電体では,電子分極・イオン分極・配向分極(41.1節)のいずれも,双極子が電場 $\bm E$ に平行な向きに揃う(誘起される双極子は $\bm E$ に平行で,$U=-\bm p\cdot\bm E$ が最低になる向き).そうして分極した物質の内部の電場は,正電荷から負電荷へ向かう向きに,つまり $\bm P$ と逆向きに生じる(コンデンサーのように一様に分極した平板の内部で $-\bm P/\varepsilon_0$,41.1.3節の反分極電場).したがって,分極は,一定の自由電荷のもとで電場を弱める向きにはたらき,静的な比誘電率は常に $\varepsilon_{\mathrm{r}}\geq1$ になる(高周波では,共鳴の近くで $\varepsilon_{\mathrm{r}}\lt1$ になり得るが,これは静的な性質ではない).磁性体では,事情が対照的である.磁気双極子(円形電流)のつくる磁場は,ループの内部では $\bm m$ と同じ向き(一様に磁化した円柱の内部の $\bm B=\mu_0\bm M$)なので,常磁性・強磁性のように永久モーメントが $\bm H$ に平行に揃うと $\bm B=\mu_0(\bm H+\bm M)$ が強まり,$\mu_{\mathrm{r}}\gt1$ になる.さらに,磁性体には,電場側に対応するもののない反磁性がある.これは,磁場をかけたときに電子の軌道運動に誘導される磁気モーメントが,レンツの法則により,もとの磁場を弱める向き($\bm M$ が $\bm H$ と逆向き)に生じるためで,これが $\mu_{\mathrm{r}}\lt1$ になる理由である(電場側には,誘起された双極子が $\bm E$ と逆向きになるようなものは無い).強磁性は,交換相互作用(41.2.3節)で $\bm M$ が $\bm H$ に比べて桁違いに大きく揃うため,$\mu_{\mathrm{r}}\gg1$ になる.

(b) 強誘電体(41.1.4節)は,外部電場が無くても結晶構造の非対称性により自発的な分極 $P_{\mathrm{s}}$ を持ち,$P$–$E$ の関係が線形でなくヒステリシス(電場を反転させても分極がすぐには反転しない履歴現象)を示す.強磁性体(41.2.4節)も,外部磁場が無くても磁区に自発磁化を持ち,$M$–$H$(あるいは $B$–$H$)の関係が線形でなくヒステリシス(法則41.5)を示す.どちらも,「自発的な秩序(自発分極・自発磁化)を持つ」「外部の場を反転させても応答がすぐには追随しない(履歴・ヒステリシス)」という2つの性質を共有しており,比誘電率・比透磁率という単一の定数では記述できない.この類似性は,どちらも系の内部に「隣り合う単位(双極子・磁気モーメント)どうしが同じ向きに揃おうとする相互作用」があり(強磁性では交換相互作用,強誘電体では結晶内の相互作用と格子の変位の結びつき),キュリー温度以下で自発的な秩序を持つ相転移が生じることに由来する.

演習41.4 $\bm D,\bm E,\bm P$ および $\bm B,\bm H,\bm M$ の相互導出

解答

(a) 定義 $\bm D=\varepsilon_0\bm E+\bm P$ を $\bm P$ について解くと,

$$ \bm P=\bm D-\varepsilon_0\bm E $$

を $\bm E$ について解くと,

$$ \bm E=\frac{\bm D-\bm P}{\varepsilon_0} $$

(b) 定義 $\bm H=\bm B/\mu_0-\bm M$(すなわち $\bm B=\mu_0(\bm H+\bm M)$)を $\bm M$ について解くと,

$$ \bm M=\frac{\bm B}{\mu_0}-\bm H $$

を $\bm H$ について解くと(もとの定義そのもの),

$$ \bm H=\frac{\bm B}{\mu_0}-\bm M $$

(c) 線形な媒質で $\bm P=\varepsilon_0\chi_{\mathrm{e}}\bm E$ を $\bm D=\varepsilon_0\bm E+\bm P$ に代入すると,

$$ \bm D=\varepsilon_0\bm E+\varepsilon_0\chi_{\mathrm{e}}\bm E=\varepsilon_0(1+\chi_{\mathrm{e}})\bm E\equiv\varepsilon\bm E,\qquad\varepsilon=\varepsilon_0(1+\chi_{\mathrm{e}}) $$

同様に,$\bm M=\chi_{\mathrm{m}}\bm H$ を $\bm B=\mu_0(\bm H+\bm M)$ に代入すると,

$$ \bm B=\mu_0(\bm H+\chi_{\mathrm{m}}\bm H)=\mu_0(1+\chi_{\mathrm{m}})\bm H\equiv\mu\bm H,\qquad\mu=\mu_0(1+\chi_{\mathrm{m}}) $$

が得られる.

演習41.5 (発展)超伝導体のマイスナー効果と通常の反磁性の違い

解答

(a) 磁化率の大きさのオーダーで比べると,銅やビスマスなど通常の反磁性体の磁化率は $\chi_{\mathrm{m}}\sim-10^{-5}$–$-10^{-4}$ 程度のオーダーであり,外部磁場をほんのわずかしか弱めない(本章図41.9参照).これに対して超伝導体のマイスナー効果は,内部の磁束密度を完全に $\bm B=\bm 0$ にする——これは $\bm B=\mu_0(\bm H+\bm M)=\bm 0$ より $\bm M=-\bm H$,すなわち $\chi_{\mathrm{m}}=-1$ に相当し,通常の反磁性体よりも4〜5桁($10^4$–$10^5$ 倍)大きい,桁違いに強い応答である.

(b) 通常の反磁性は,41.2.3節で見たとおり,個々の原子・分子の中の電子の軌道運動が磁場によってわずかに変化する(電磁誘導に類似した)効果であり,磁場を完全に排除するには程遠い,弱い誘導効果にすぎない.一方,超伝導体のマイスナー効果は,物質全体にわたって位相の揃った巨視的な量子状態(クーパー対の凝縮)が形成され,物質の表面近くにその巨視的な量子状態を反映した超伝導電流(減衰のない永久電流)が流れることによって生じる,本質的に巨視的な量子効果である.この超伝導電流が作る磁場が,外部磁場をちょうど打ち消して内部の $\bm B$ を完全に $\bm 0$ にする.すなわち,通常の反磁性が「個々の原子の中の電子軌道運動」という微視的でわずかな効果であるのに対し,マイスナー効果は「物質全体を貫く巨視的な超伝導電流」という,起源からしてまったく異なる現象である(超伝導そのものの詳しい機構は,本書の範囲を超える).

(c) 電気抵抗が $0$ の「完全導体」でも,磁場中に置く前に冷やしておいて($\bm B=\bm 0$ の状態)から磁場をかけると,磁束の変化を打ち消す向きに(レンツの法則により)電流が誘導され,減衰せずに流れ続けるので,内部の $\bm B$ は $\bm 0$ に保たれる.しかし,磁場をかけた状態のまま冷やす場合,完全導体では磁束の変化が無いので,内部の $\bm B$ は冷やす前の値のまま保たれる(磁束が閉じ込められる).これに対して超伝導体は,磁場をかけたまま冷やしても,臨界温度を下回ると内部から磁束を排斥して $\bm B=\bm 0$ にする.つまり,マイスナー効果(磁束の排斥)は,抵抗が $0$ であること(完全導体)だけでは説明できず,超伝導状態そのものの性質である.なお,本問の $\bm B=\bm 0$ は第I種超伝導体で,磁場が臨界磁場より小さいときの話である.第II種超伝導体では,下部臨界磁場と上部臨界磁場のあいだで,磁束が細い渦糸(量子化磁束)として一部侵入し,$\chi_{\mathrm{m}}=-1$ にはならない.

演習41.6 積層セラミックコンデンサーと空気の絶縁破壊

解答

(a) 1層の静電容量は,$C_1=\varepsilon_0\varepsilon_{\mathrm{r}}S/d$ で,

$$ C_1=(8.854\times10^{-12}\ \mathrm{F/m})\times3000\times\frac{1.0\times10^{-6}\ \mathrm{m^2}}{2.0\times10^{-6}\ \mathrm m}\approx1.33\times10^{-8}\ \mathrm F=13.3\ \mathrm{nF} $$

(b) 並列接続では静電容量が足し合わされるので,100層では $C=100\,C_1\approx1.33\times10^{-6}\ \mathrm F=1.33\ \mu\mathrm F$.体積が同じでも,薄い高誘電率の層を何百層も重ねることで,大きな容量が得られる.

(c) $E=V/d=(5\ \mathrm V)/(2.0\times10^{-6}\ \mathrm m)=2.5\times10^{6}\ \mathrm{V/m}$,$D=\varepsilon_0\varepsilon_{\mathrm{r}}E=(8.854\times10^{-12})(3000)(2.5\times10^{6})\approx6.6\times10^{-2}\ \mathrm{C/m^2}$.この $E$ は,空気の絶縁破壊電場(約 $3\times10^{6}\ \mathrm{V/m}$)の約 $83\%$ という強さで,空気なら放電寸前であるが,セラミックスの絶縁破壊電場は空気よりはるかに高いので,問題なく使える.層を薄くすると,同じ電圧でも電場が強くなる($E=V/d$)ので,耐えられる電圧は,層の厚さと材料の絶縁破壊電場で決まる.

(d) $V=E_{\text{破壊}}d=(3\times10^{6}\ \mathrm{V/m})(1\times10^{-3}\ \mathrm m)=3\times10^{3}\ \mathrm V=3\ \mathrm{kV}$.

演習41.7 トロイド鉄心と変圧器鉄心の発熱

解答

(a) 鉄心の中を1周する経路(長さ $2\pi r$)にアンペールの法則(法則41.6)を使う.この経路を貫く自由電流は $NI$(巻き線が $N$ 回貫く)なので,

$$ H\cdot2\pi r=NI\qquad\therefore\quad H=\frac{NI}{2\pi r}=\frac{500\times0.10}{2\pi\times0.050}\ \mathrm{A/m}\approx1.59\times10^{2}\ \mathrm{A/m} $$

磁束密度は $B=\mu_0\mu_{\mathrm{r}}H=(1.2566\times10^{-6})(2000)(159.2)\approx0.40\ \mathrm T$(鉄心が無ければ $\mu_0H\approx0.20\ \mathrm{mT}$).磁化は $M=(\mu_{\mathrm{r}}-1)H=1999\times159.2\approx3.18\times10^{5}\ \mathrm{A/m}$.検算:$\mu_0(H+M)=\mu_0\times3.18\times10^{5}\approx0.40\ \mathrm T=B$.

(b) ヒステリシスループの面積 $300\ \mathrm{J/m^3}$ は,1周期(磁化のくり返し1回)あたり単位体積で失われる熱エネルギーである.鉄心の体積は $V=m/\rho=(1.0\ \mathrm{kg})/(7.65\times10^3\ \mathrm{kg/m^3})=1.31\times10^{-4}\ \mathrm{m^3}$ で,1周期で失われるエネルギーは $300\times1.31\times10^{-4}\approx3.9\times10^{-2}\ \mathrm J$.$50\ \mathrm{Hz}$ では1秒に50周期なので,発熱の電力は,

$$ P=(3.9\times10^{-2}\ \mathrm J)\times50\ \mathrm{s^{-1}}\approx1.96\ \mathrm W\approx2.0\ \mathrm W $$

である.$1\ \mathrm{kg}$ あたり約 $2\ \mathrm W$ で,これが積み重なって,大きな変圧器では無視できない発熱になる.ヒステリシスループの面積が小さい軟磁性材料(ケイ素鋼など)を使う理由である.

演習41.8 常磁性塩のキュリーの法則と鉄の飽和磁化

解答

(a) $\chi_{\mathrm{m}}=C/T$ より,$\chi_{\mathrm{m}}(77\ \mathrm K)/\chi_{\mathrm{m}}(300\ \mathrm K)=300/77\approx3.90$.液体窒素の温度に冷やすと,磁化率は約4倍になる.

(b) $\mu_{\mathrm B}B/(k_{\mathrm B}T)=\dfrac{(9.274\times10^{-24}\ \mathrm{J/T})(1.0\ \mathrm T)}{(1.380649\times10^{-23}\ \mathrm{J/K})(300\ \mathrm K)}\approx2.24\times10^{-3}$.この比が $1$ よりはるかに小さいので,$\tanh x\approx x$ が使えて,

$$ M\approx N\mu_{\mathrm B}\cdot\frac{\mu_{\mathrm B}B}{k_{\mathrm B}T}=(5.0\times10^{27})(9.274\times10^{-24})(2.24\times10^{-3})\approx1.04\times10^{2}\ \mathrm{A/m} $$

磁化率は,$B\approx\mu_0H$ より $\chi_{\mathrm{m}}=M/H\approx\mu_0M/B=(1.2566\times10^{-6})(1.04\times10^{2})/1.0\approx1.3\times10^{-4}$.これはキュリー定数 $C=\mu_0N\mu_{\mathrm B}^2/k_{\mathrm B}\approx0.039\ \mathrm K$ を使った $C/T=0.039/300\approx1.3\times10^{-4}$ とも一致する.

(c) 鉄の原子数密度は $N=\rho N_{\mathrm A}/M_{\mathrm{mol}}=(7.87\times10^3\ \mathrm{kg/m^3})(6.022\times10^{23}\ \mathrm{mol^{-1}})/(0.05585\ \mathrm{kg/mol})\approx8.49\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}$.すべてが揃ったときの飽和磁化は $M_{\mathrm s}=N\times2.2\mu_{\mathrm B}\approx1.73\times10^{6}\ \mathrm{A/m}$,$\mu_0M_{\mathrm s}\approx2.2\ \mathrm T$ となり,鉄の飽和磁束密度(約 $2.1$–$2.2\ \mathrm T$)とよく合う.

第42章 マクスウェル方程式と電磁波

演習42.1 コンデンサーを含む回路でのアンペールの法則の矛盾

解答

(1) 変位電流を含めない場合の矛盾.変位電流を含めないアンペールの法則は $\oint_C\bm H\cdot\dd\bm\ell=I_{\text{貫}}$($I_{\text{貫}}$ は $C$ を境界とする曲面を貫く伝導電流の合計)である.同じ閉曲線 $C$(導線を1周する輪)を境界にもつ2つの曲面を考える.

同じ左辺 $\oint_C\bm H\cdot\dd\bm\ell$ の値が,曲面の選び方によって $1.5\ \mathrm A$ になったり $0$ になったりして,矛盾する.たとえば導線から距離 $r$ の円周 $C$ 上の磁場は,$S_1$ を使うと $\oint_C\bm H\cdot\dd\bm\ell=I$ となり,実際の磁場 $H=I/(2\pi r)$ と一致する.しかし $S_2$ を使うと右辺が $0$ になって,実際の磁場と矛盾してしまう(磁場そのものが面の選び方で変わるわけではなく,法則の右辺の評価が2つの面で食い違う,ということである).

(2) 変位電流を含めた場合.コンデンサーを一定電流 $I$ で充電するので,時刻 $t$($t=0$ で電荷 $0$)の極板の電荷は $Q=It$ である.端の効果を無視すると極板間の電場は一様で,$E=\sigma/\varepsilon_0=Q/(\varepsilon_0A)=It/(\varepsilon_0A)$.したがって

$$ \pdiff Et=\frac{I}{\varepsilon_0A}=\frac{1.5}{(8.854\times10^{-12})(1.0\times10^{-2})}\approx1.69\times10^{13}\ \mathrm{V/(m\cdot s)} $$

である.変位電流密度は $j_{\mathrm d}=\pdiff Dt=\varepsilon_0\pdiff Et=I/A=1.5/(1.0\times10^{-2})=1.5\times10^2\ \mathrm{A/m^2}$(単位:$\mathrm{F/m}\cdot\mathrm{V/(m\,s)}=\mathrm{C/(m^2\,s)}=\mathrm{A/m^2}$ で一致).面 $S_2$ が極板全体の面積 $A$ を覆って電場を貫いているので,$S_2$ を貫く変位電流は

$$ I_{\mathrm d}=j_{\mathrm d}A=1.5\times10^2\times1.0\times10^{-2}=1.5\ \mathrm A $$

である.アンペール=マクスウェルの法則 $\oint_C\bm H\cdot\dd\bm\ell=\iint_S\left(\bm j+\pdiff{\bm D}{t}\right)\cdot\dd\bm S$ を使うと,

となり,どちらの面を選んでも右辺は $1.5\ \mathrm A$ で一致し,矛盾は解消される.

演習42.2 ベクトル恒等式の成分表示による証明

解答

$\bm f=[f,g,h]$ とする.回転の定義より

$$ \rot\bm f=\left[\pdiff hy-\pdiff gz,\ \pdiff fz-\pdiff hx,\ \pdiff gx-\pdiff fy\right] $$

である.この $\rot\bm f$ に対して,もう一度回転をとった $y$ 成分は,回転の定義で添字を1つずつ巡回させて($x\to y\to z\to x$),

$$ \bigl[\rot(\rot\bm f)\bigr]_y=\pdiff{}{z}(\rot\bm f)_x-\pdiff{}{x}(\rot\bm f)_z $$

となる.$(\rot\bm f)_x,(\rot\bm f)_z$ を代入すると,

$$ \bigl[\rot(\rot\bm f)\bigr]_y=\pdiff{}{z}\left(\pdiff hy-\pdiff gz\right)-\pdiff{}{x}\left(\pdiff gx-\pdiff fy\right) =\frac{\partial^2h}{\partial z\partial y}-\frac{\partial^2g}{\partial z^2}-\frac{\partial^2g}{\partial x^2}+\frac{\partial^2f}{\partial x\partial y} $$

である.偏微分の順序は交換できる(シュワルツの定理)ので $\dfrac{\partial^2h}{\partial z\partial y}=\dfrac{\partial^2h}{\partial y\partial z}$,$\dfrac{\partial^2f}{\partial x\partial y}=\dfrac{\partial^2f}{\partial y\partial x}$ と書ける.ここで $\dfrac{\partial^2g}{\partial y^2}$ を足して引く($0$ を加える)と,

$$ \bigl[\rot(\rot\bm f)\bigr]_y=\underbrace{\left(\frac{\partial^2f}{\partial y\partial x}+\frac{\partial^2g}{\partial y^2}+\frac{\partial^2h}{\partial y\partial z}\right)}_{=\ \pdiff{}{y}\left(\pdiff fx+\pdiff gy+\pdiff hz\right)} -\underbrace{\left(\frac{\partial^2g}{\partial x^2}+\frac{\partial^2g}{\partial y^2}+\frac{\partial^2g}{\partial z^2}\right)}_{=\ \nabla^2g} $$

となる.前半は $\pdiff{}{y}(\operatorname{div}\bm f)=\bigl[\grad(\operatorname{div}\bm f)\bigr]_y$,後半は $\nabla^2g=\bigl[\nabla^2\bm f\bigr]_y$ である.よって

$$ \bigl[\rot(\rot\bm f)\bigr]_y=\bigl[\grad(\operatorname{div}\bm f)\bigr]_y-\bigl[\nabla^2\bm f\bigr]_y $$

が成り立つ.$z$ 成分も同様に計算でき,恒等式 $\rot(\rot\bm f)=\grad(\operatorname{div}\bm f)-\nabla^2\bm f$ が3成分すべてで確かめられた.

補足(型の確認).左辺 $\rot(\rot\bm f)$ はベクトルなので,右辺の各項もベクトルでなければならない.$\grad(\operatorname{div}\bm f)$ は「スカラー $\operatorname{div}\bm f$ の勾配」なのでベクトルであり,$\operatorname{div}\bm f$ そのもの(スカラー)を足すことはできない.$y$ 成分の途中で現れた $\pdiff{}{y}(\operatorname{div}\bm f)$ という「$y$ で偏微分する」操作が,勾配の $y$ 成分に当たるのである.

演習42.3 4つのマクスウェル方程式と法則名の対応

解答

(1) 法則の名前と出発点.

(2) ②が「磁気単極子は存在しない」ことを表す理由.①は $\operatorname{div}\bm D=\rho$ の形で,右辺の電荷密度 $\rho$ が電気力線の湧き出し口(正電荷)・吸い込み口(負電荷)を表す.正電荷だけをもつ物体,負電荷だけをもつ物体は実際に存在するので,$\rho\neq0$ の場所があり,電気力線はそこから湧き出す.一方,②は $\operatorname{div}\bm B=0$ と書け,①の $\rho$ に当たる「磁荷密度」がどこでも $0$ になっている.これは,磁力線の湧き出し口・吸い込み口となる孤立した磁極(磁気単極子)が存在せず,磁力線は必ず閉じたループになる(N極から出た磁力線は必ずS極に入る)ことを意味する.棒磁石を半分に割っても,N極だけ・S極だけの破片はできず,それぞれが再びN極とS極をもつ小さな磁石になるという事実(例題42.3)とも一致する.電荷には単独の粒子(正電荷・負電荷)があるのに,磁気にはそれが見つかっていないという電気と磁気の非対称性が,①と②の右辺の違い($\rho$ と $0$)として現れているのである.

演習42.4 別の伝搬方向をもつ平面波

解答

$\bm E=[0,E_y,0]$,$E_y=E_0\cos(kx-\omega t)$ で,$E_y$ は $x,t$ だけの関数である.回転を成分ごとに計算すると,

$$ \rot\bm E=\left[\pdiff{E_z}{y}-\pdiff{E_y}{z},\ \pdiff{E_x}{z}-\pdiff{E_z}{x},\ \pdiff{E_y}{x}-\pdiff{E_x}{y}\right]=\left[0,\ 0,\ \pdiff{E_y}{x}\right] $$

($E_x=E_z=0$,$E_y$ は $y,z$ を含まないので $\pdiff{E_y}{z}=0$).$\pdiff{E_y}{x}=-kE_0\sin(kx-\omega t)$ なので $\rot\bm E=[0,0,-kE_0\sin(kx-\omega t)]$ となり,今度は $z$ 成分だけが $0$ でない.ファラデーの法則 $\rot\bm E=-\pdiff{\bm B}{t}$ から,$\bm B=[0,0,B_z]$ とおくと,

$$ -\pdiff{B_z}{t}=-kE_0\sin(kx-\omega t)\qquad\therefore\ \pdiff{B_z}{t}=kE_0\sin(kx-\omega t) $$

である.$t$ で積分する.$\displaystyle\int\sin(kx-\omega t)\,\dd t=\frac1\omega\cos(kx-\omega t)+C$($u=kx-\omega t$ とおくと $\dd u=-\omega\,\dd t$)で,波以外の余分な一定の磁場は無いとして $C=0$ とすると,

$$ B_z=\frac k\omega E_0\cos(kx-\omega t) $$

となる.波動方程式 $\pdiff{^2E_y}{x^2}=\dfrac1{c^2}\pdiff{^2E_y}{t^2}$ に代入すると $-k^2E_0\cos(\cdots)=-\dfrac{\omega^2}{c^2}E_0\cos(\cdots)$ なので $\omega=ck$,すなわち $k/\omega=1/c$.したがって

$$ \bm B=\left[0,\ 0,\ \frac{E_0}{c}\cos(kx-\omega t)\right] $$

である.

演習42.5 単一モードの初期条件での2次元波動方程式

解答

正方形領域($L=1$,4辺で $u=0$)の初速度 $0$ の問題の一般解は,第42章42.7節で導いたとおり

$$ u(x,y,t)=\sum_{n=1}^\infty\sum_{m=1}^\infty D_{mn}\sin m\pi x\sin n\pi y\cos\bigl(c\pi\sqrt{m^2+n^2}\,t\bigr) $$

である.$t=0$ を代入すると $\displaystyle\sum_{m,n}D_{mn}\sin m\pi x\sin n\pi y=\sin\pi x\sin2\pi y$ となる.左辺の $\sin m\pi x\sin n\pi y$($m,n=1,2,\ldots$)は互いに直交する関数で(大学数学第27章),右辺は $m=1,n=2$ の項そのものである.係数を直交性から求めると,

$$ D_{mn}=4\int_0^1\!\!\int_0^1\sin\pi x\,\sin2\pi y\,\sin m\pi x\,\sin n\pi y\,\dd x\,\dd y =4\left(\int_0^1\sin\pi x\sin m\pi x\,\dd x\right)\left(\int_0^1\sin2\pi y\sin n\pi y\,\dd y\right) $$

で,$\displaystyle\int_0^1\sin p\pi x\sin q\pi x\,\dd x=\tfrac12\delta_{pq}$($p,q$ は正の整数)なので,$D_{mn}=4\cdot\tfrac12\delta_{m1}\cdot\tfrac12\delta_{n2}=\delta_{m1}\delta_{n2}$ となる.すなわち $D_{12}=1$,それ以外の $D_{mn}$ はすべて $0$ である.したがって,

$$ u(x,y,t)=\sin\pi x\,\sin2\pi y\,\cos\bigl(\sqrt5\,\pi c\,t\bigr) $$

($\omega_{12}=c\pi\sqrt{1^2+2^2}=\sqrt5\,\pi c$.ここでは $L=1$ の単位で考えている.一般の $L$ では $\omega_{12}=\sqrt5\,\pi c/L$ で,解は $\sin\dfrac{\pi x}{L}\sin\dfrac{2\pi y}{L}\cos\left(\dfrac{\sqrt5\,\pi c}{L}t\right)$ である).

確認.波動方程式:$\pdiff{^2u}{t^2}=-5\pi^2c^2u$,$\pdiff{^2u}{x^2}+\pdiff{^2u}{y^2}=(-\pi^2-4\pi^2)u=-5\pi^2u$ なので $\pdiff{^2u}{t^2}=c^2\left(\pdiff{^2u}{x^2}+\pdiff{^2u}{y^2}\right)$ が成り立つ.境界条件:$x=0,1$ で $\sin\pi x=0$,$y=0,1$ で $\sin2\pi y=0$.初期条件:$u(x,y,0)=\sin\pi x\sin2\pi y$,$\pdiff ut(x,y,0)=-\sqrt5\pi c\sin\pi x\sin2\pi y\sin0=0$.すべて満たされる.この解は空間の形が変わらず,全体が角振動数 $\sqrt5\,\pi c$(周期 $2/(\sqrt5\,c)$($L=1$ のとき))で伸び縮みするだけの定在波(1つの固有振動)である.

演習42.6 平面電磁波のエネルギー密度

解答

エネルギー密度は $u=\dfrac12\varepsilon_0E^2+\dfrac1{2\mu_0}B^2$ である.平面電磁波では $E=cB$ なので $B=E/c$ を第2項に代入すると,

$$ \frac{1}{2\mu_0}B^2=\frac{1}{2\mu_0}\cdot\frac{E^2}{c^2}=\frac{1}{2\mu_0c^2}E^2 $$

となる.$c^2=\dfrac1{\varepsilon_0\mu_0}$ より $\dfrac1{\mu_0c^2}=\varepsilon_0$ なので,第2項は $\dfrac12\varepsilon_0E^2$ に等しく,第1項(電場のエネルギー密度 $u_E$)と同じ大きさである($u_B=u_E$).したがって

$$ u=\frac12\varepsilon_0E^2+\frac12\varepsilon_0E^2=\varepsilon_0E^2 $$

となり,電場だけの式($u_E=\tfrac12\varepsilon_0E^2$)の2倍で,電場と磁場がエネルギーを半分ずつ担っていることが確かめられた.

補足.このとき,ポインティング・ベクトルの大きさは $\abs{\bm S}=\dfrac{EB}{\mu_0}=\dfrac{E^2}{\mu_0c}=\varepsilon_0cE^2=u\,c$ である.つまり「エネルギー密度 $\times$ 速さ $c$ = エネルギー流束密度」という関係が成り立っており,エネルギーが電磁波と一緒に速さ $c$ で運ばれることを表している.時間平均では $\langle u\rangle=\tfrac12\varepsilon_0E_0^2$,$\langle S\rangle=\tfrac12\varepsilon_0cE_0^2=c\langle u\rangle$.

演習42.7 点光源のつくる電磁波の強さと電場・磁場の振幅

解答

(a) 放射された仕事率 $P$ は,光源を中心とする半径 $r$ の球面(面積 $4\pi r^2$)を等方的に通過する.ポインティング・ベクトルの大きさの時間平均 $\langle S\rangle$ は単位面積を単位時間に通過するエネルギーだから,

$$ \langle S\rangle=\frac{P}{4\pi r^2}=\frac{100\ \mathrm W}{4\pi\times(2.0\ \mathrm m)^2}=\frac{100}{50.27}\ \mathrm{W/m^2}\approx1.99\ \mathrm{W/m^2} $$

(b) 平面波の強度の式 $\langle S\rangle=\tfrac12\varepsilon_0cE_0^2$ を $E_0$ について解くと,

$$ E_0=\sqrt{\frac{2\langle S\rangle}{\varepsilon_0c}}=\sqrt{\frac{2\times1.989}{(8.854\times10^{-12})(2.998\times10^8)}}=\sqrt{\frac{3.979}{2.654\times10^{-3}}}\ \mathrm{V/m}=\sqrt{1.499\times10^{3}}\ \mathrm{V/m}\approx38.7\ \mathrm{V/m} $$

(c) $B_0=E_0/c=\dfrac{38.7}{2.998\times10^8}\ \mathrm T\approx1.29\times10^{-7}\ \mathrm T$(約 $0.13\ \mu\mathrm T$).

強度は $1/r^2$ に比例するので,振幅 $E_0,B_0$ は距離 $r$ に反比例して小さくなる.なお,光源から $2\ \mathrm m$ の位置は,光源の大きさに比べて十分遠いとして,球面波を局所的に平面波とみなした近似である.

演習42.8 ガラス中の電磁波の速さと波長

解答

(a) 物質中では $\varepsilon_0,\mu_0$ が $\varepsilon=\varepsilon_{\mathrm r}\varepsilon_0$,$\mu=\mu_{\mathrm r}\mu_0$ に置き換わるので,波の速さは $v=1/\sqrt{\varepsilon\mu}=c/\sqrt{\varepsilon_{\mathrm r}\mu_{\mathrm r}}=c/n$ である.屈折率は

$$ n=\sqrt{\varepsilon_{\mathrm r}\mu_{\mathrm r}}=\sqrt{2.25\times1}=1.5 $$

で,速さは

$$ v=\frac cn=\frac{2.998\times10^8\ \mathrm{m/s}}{1.5}\approx2.00\times10^8\ \mathrm{m/s} $$

(b) 真空中では $c=f\lambda_0$ なので,

$$ f=\frac{c}{\lambda_0}=\frac{2.998\times10^8\ \mathrm{m/s}}{600\times10^{-9}\ \mathrm m}\approx5.0\times10^{14}\ \mathrm{Hz} $$

(c) ガラス中でも振動数は変わらない(境界面で電場の接線成分が連続でなければならず,境界の両側で同じ時間変化をするため,振動数は境界の前後で等しい).波の関係式 $v=f\lambda$ より,

$$ \lambda=\frac vf=\frac{c/n}{c/\lambda_0}=\frac{\lambda_0}{n}=\frac{600\ \mathrm{nm}}{1.5}=400\ \mathrm{nm} $$

すなわち,ガラス中では真空中の $1/n$ 倍の波長になる(速さが $1/n$ になっても振動数が変わらないので,波長が短くなる).

(注:実際のガラスの比誘電率は光の振動数に依存する(分散).ここでは,この光の振動数での値として与えられた $\varepsilon_{\mathrm r}=2.25$ を使った.)

第43章 ラグランジュの運動方程式 — 一般化座標と一般化力

演習43.1 球座標での一般化運動量

解答

(1) 一般化運動量の定義は $p_i=\partial T/\partial\dot q_i$ である.$T=\tfrac12m\left(\dot r^2+r^2\dot\theta^2+r^2\sin^2\theta\,\dot\varphi^2\right)$ を,$\dot r,\dot\theta,\dot\varphi$ でそれぞれ偏微分する.偏微分では,微分する変数以外($r,\theta,\varphi$ そのものも,他の速度も)は定数とみなす.$T$ の中で $\dot r$ を含む項は $\tfrac12m\dot r^2$ だけなので,

$$ p_r=\pdiff{T}{\dot r}=m\dot r $$

同様に,$\dot\theta$ を含む項は $\tfrac12mr^2\dot\theta^2$ だけ,$\dot\varphi$ を含む項は $\tfrac12mr^2\sin^2\theta\,\dot\varphi^2$ だけなので,

$$ p_\theta=\pdiff{T}{\dot\theta}=mr^2\dot\theta,\qquad p_\varphi=\pdiff{T}{\dot\varphi}=mr^2\sin^2\theta\,\dot\varphi $$

となる.単位は,角度(ラジアン)が無次元であることに注意して,$p_r=m\dot r$ が $\mathrm{kg\cdot m/s}$(ふつうの運動量),$p_\theta=mr^2\dot\theta$ が $\mathrm{kg\cdot m^2/s}$(角運動量と同じ次元),$p_\varphi=m(r\sin\theta)^2\dot\varphi$ が $\mathrm{kg\cdot m^2/s}$ である.$p_\varphi$ は,$z$ 軸からの距離 $r\sin\theta$ の円周上を角速度 $\dot\varphi$ で回る運動の,$z$ 軸まわりの角運動量 $L_z$ にほかならない.

(2) $m=2\ \mathrm{kg},\ r=3\ \mathrm m,\ \theta=\pi/3,\ \dot r=1\ \mathrm{m/s},\ \dot\theta=0.5\ \mathrm{s^{-1}},\ \dot\varphi=2\ \mathrm{s^{-1}}$ を代入する.$\sin^2(\pi/3)=(\sqrt3/2)^2=3/4$ である.

$$ p_r=2\times1=2\ \mathrm{kg\,m/s} $$ $$ p_\theta=2\times3^2\times0.5=2\times9\times0.5=9\ \mathrm{kg\,m^2/s} $$ $$ p_\varphi=2\times3^2\times\frac34\times2=2\times9\times0.75\times2=27\ \mathrm{kg\,m^2/s} $$

演習43.2 中心力の一般化力

解答

力がすべて保存力のとき,一般化力は $Q_i=-\partial U/\partial q_i$ である.$U=U(r)$ は $\theta,\varphi$ を含まないので,$\theta,\varphi$ で偏微分すると0になる:

$$ Q_r=-\pdiff{U}{r}=-\diff{U}{r},\qquad Q_\theta=-\pdiff{U}{\theta}=0,\qquad Q_\varphi=-\pdiff{U}{\varphi}=0 $$

確認のために,定義 $Q_i=\sum_jF_j\,\partial x_j/\partial q_i$ から直接求めてみよう.中心力は $\bm F=-\dfrac{\dd U}{\dd r}\,\bm e_r$($\bm e_r=(\sin\theta\cos\varphi,\ \sin\theta\sin\varphi,\ \cos\theta)$ は動径方向の単位ベクトル)と書ける.$\bm x=r\bm e_r$ を $\theta$ で偏微分すると $\partial\bm x/\partial\theta=r\,\partial\bm e_r/\partial\theta$ となり,これは $\bm e_r$ と垂直($\bm e_r$ は大きさ一定の単位ベクトルなので,その微分は $\bm e_r$ と直交する).よって $Q_\theta=\bm F\cdot\partial\bm x/\partial\theta\propto\bm e_r\cdot\partial\bm e_r/\partial\theta=0$.$\varphi$ についても同様で $Q_\varphi=0$.一方 $\partial\bm x/\partial r=\bm e_r$ なので $Q_r=\bm F\cdot\bm e_r=-\dd U/\dd r$ となり,上の結果と一致する.

物理的な意味:$Q_r$ は動径方向の力の成分,$Q_\theta,Q_\varphi$ は,それぞれの角度方向の「力のモーメント」(トルク)である(例題43.4の平面極座標の場合の $Q_\theta=rF_\theta$ と同じ).中心力は原点を向いているので,原点のまわりのモーメントをもたない——それが $Q_\theta=Q_\varphi=0$ の意味である.たとえば,$T$ は $\varphi$ を含まないので,$\dot p_\varphi=Q_\varphi+\partial T/\partial\varphi=0$ となり,$p_\varphi=mr^2\sin^2\theta\,\dot\varphi$($z$ 軸まわりの角運動量)が保存する.これは第2章・第8章で学んだ「中心力のもとでは角運動量が保存する」ことの,一般化座標での言い換えである.

演習43.3 摩擦なしの場合の終端速度

解答

(1) $\mu=0$ を速度の式に代入すると,$\mu mg/k$ を含む項が消えて

$$ \dot x(t)=v_0e^{-\frac km t} $$

となる.$k\gt0,\ m\gt0$ なので $-kt/m$ は負で,$t\to\infty$ のとき $e^{-kt/m}\to0$.したがって

$$ \lim_{t\to\infty}\dot x(t)=0 $$

である(終端速度は0).物理的に妥当な理由:摩擦がないとき質点に働く水平方向の力は空気抵抗 $-k\dot x$ だけで,これは常に運動を妨げる向きなので,速度は減り続ける.一方,速度が小さくなるほど抵抗も小さくなるため,減り方はだんだんゆるやかになり,速度は指数関数的に0へ近づく(時間定数 $m/k$).他に質点を動かし続ける力がないので,最終的な速度が0以外の値になることはない.なお,摩擦がある場合の停止時刻 $t_{\text{stop}}=\dfrac mk\ln\!\left(1+\dfrac{kv_0}{\mu mg}\right)$ は,$\mu\to0$ で $\infty$ に発散する.摩擦がなければ,質点は有限の時間では完全には止まらない.

(2) $\mu=0$ を位置の式に代入すると,$\mu$ を含む2つの項が消えて

$$ x(t)=\frac mkv_0\left(1-e^{-\frac km t}\right) $$

となる.$t\to\infty$ で $e^{-kt/m}\to0$ なので,止まるまでに進む距離は

$$ \lim_{t\to\infty}x(t)=\frac{mv_0}{k} $$

である.$m=1\ \mathrm{kg},\ v_0=5\ \mathrm{m/s},\ k=0.5\ \mathrm{kg/s}$ なら,$\dfrac{1\times5}{0.5}=10\ \mathrm m$.単位も $\mathrm{kg\cdot(m/s)/(kg/s)}=\mathrm m$ となって,長さの次元と一致する.

演習43.4 初期位相が0でない場合のお椀の問題

解答

$\theta$ 方向の運動方程式から $\ddot\theta=0$ が得られたのは,外力 $F_\theta=-mg\cos\theta$ が重力の接線成分を打ち消すという $Q_\theta'=-mgR\cos\theta$ の形によるものであり,初期条件にはよらない.したがって $\dot\theta$ は一定で,$\dot\theta=\omega=\sqrt{g/R}$ を維持する.これを1回積分すると $\theta(t)=\omega t+C$($C$ は積分定数).初期条件 $\theta(0)=\theta_0$ より $C=\theta_0$ なので,

$$ \theta(t)=\theta_0+\sqrt{\frac gR}\,t $$

である.位置は,$x=R\cos\theta,\ y=R(1-\sin\theta)$ に代入して,

$$ x=R\cos\!\left(\theta_0+\sqrt{\frac gR}\,t\right),\qquad y=R\left[1-\sin\!\left(\theta_0+\sqrt{\frac gR}\,t\right)\right] $$

となる($\theta$ が $0\le\theta\le\pi$ の範囲,つまり縁から底を通ってもう一方の縁までのあいだ,この式が使える).

垂直抗力は,$r$ 方向の式 $N=mR\dot\theta^2+mg\sin\theta$ に $\dot\theta^2=g/R$ を代入して $N=mg(1+\sin\theta)$.この式は,$\theta$ だけの関数で,初期位相 $\theta_0$ を含まない.したがって,$N$ を $\theta$ の関数として表した式は変わらない(ただし,ある時刻 $t$ での $\theta$ の値は $\theta_0$ によって変わるので,$N$ を時刻の関数として書けば $N(t)=mg\left[1+\sin(\theta_0+\omega t)\right]$ となり,$\theta_0$ に依存する).

角速度を一般の $\omega$(一定)としても,$\ddot\theta=0$ は変わらず,$r$ 方向の式は

$$ N=mR\omega^2+mg\sin\theta $$

となる.$\omega=\sqrt{g/R}$ なら $mR\omega^2=mg$ で $N=mg(1+\sin\theta)$,$\omega=0$(外力で質点を面上の同じ位置に止めておく場合)なら

$$ N=mg\sin\theta $$

となり,静止した質点が面から受ける垂直抗力(重力の面に垂直な成分 $mg\sin\theta$ とのつり合い)に一致する.

演習43.5 一般化力の単位の比較

解答

(1) $q=x$ のとき,質点の座標は $x_1=x,\ x_2=y$ で $\partial x/\partial x=1,\ \partial y/\partial x=0$ なので,定義 $Q_i=\sum_jF_j\,\partial x_j/\partial q_i$ より

$$ Q_x=F_x\cdot1+F_y\cdot0=F_x $$

単位は力と同じ $\mathrm N$ である.

(2) $q=\theta$(原点まわりの回転角)のとき,原点からの距離 $r$ は一定として $x=r\cos\theta,\ y=r\sin\theta$.$\partial x/\partial\theta=-r\sin\theta=-y,\ \partial y/\partial\theta=r\cos\theta=x$ なので,

$$ Q_\theta=F_x\pdiff{x}{\theta}+F_y\pdiff{y}{\theta}=-yF_x+xF_y $$

これは原点まわりの力のモーメント(トルク)である.単位は,$\mathrm{m\cdot N}=\mathrm{N\,m}$(角度は無次元なので $\partial x/\partial\theta$ の単位は長さの単位 $\mathrm m$).

違いの理由:一般化力 $Q_i$ は,微小仕事が $\dd W=\sum_iQ_i\,\dd q_i$ となるように定義されている.仕事の単位は常にエネルギーの単位 $\mathrm J=\mathrm{N\,m}$ なので,$Q_i$ の単位は「$\mathrm J$ ÷($q_i$ の単位)」になる.$q_i=x$(長さ,単位 $\mathrm m$)なら $Q_x$ の単位は $\mathrm J/\mathrm m=\mathrm N$,$q_i=\theta$(角度,単位 $\mathrm{rad}$,無次元)なら $Q_\theta$ の単位は $\mathrm J/\mathrm{rad}=\mathrm{N\,m}$ となる.一般化座標が長さか角度かによって,$\partial x_j/\partial q_i$ の単位が異なるので,一般化力の単位も異なる.同様に,一般化運動量は $p_i\dot q_i$ がエネルギーの次元になる量で,$q_i$ が角度なら $p_i$ は角運動量($\mathrm{kg\,m^2/s}$)になる.

演習43.6 空気抵抗のある単振り子

解答

支点を原点,鉛直下向きを $y$ 軸の正の向きにとると,おもりの位置は $(x,y)=\ell(\sin\theta,\ \cos\theta)$ である(図43.1).保存力は重力だけで,運動エネルギーは $T=\tfrac12m\ell^2\dot\theta^2$,位置エネルギーは $U=-mg\ell\cos\theta$ なので(例題43.6),

$$ L=T-U=\frac12m\ell^2\dot\theta^2+mg\ell\cos\theta $$

$\partial L/\partial\dot\theta=m\ell^2\dot\theta$ より $\dfrac{\dd}{\dd t}\!\left(\pdiff{L}{\dot\theta}\right)=m\ell^2\ddot\theta$,$\partial L/\partial\theta=-mg\ell\sin\theta$.

非保存力は空気抵抗で,おもりの速さ $\ell\dot\theta$ に比例し,運動を妨げる向きに働く.$\theta$ が増える向きの接線方向の単位ベクトルは $\bm e_t=\pdiff{(x,y)}{\theta}\Big/\ell=(\cos\theta,\ -\sin\theta)$ なので,抵抗力は

$$ \bm F'=-c\ell\dot\theta\,\bm e_t $$

($\dot\theta\gt0$ なら $\theta$ が増える向きに動いているので,$-\bm e_t$ の向きに働く.$\dot\theta\lt0$ でも式は同じ形で正しい).一般化力は,定義(43.3節)どおり力に $\partial(x,y)/\partial\theta=\ell\bm e_t$ を掛けて,

$$ Q_\theta'=\bm F'\cdot\pdiff{(x,y)}{\theta}=-c\ell\dot\theta\,\bm e_t\cdot\ell\bm e_t=-c\ell^2\dot\theta $$

($\bm e_t\cdot\bm e_t=1$).これは,抵抗力の大きさ $c\ell\dot\theta$ に腕の長さ $\ell$ を掛けた,支点まわりのモーメントの大きさである.法則43.2より,

$$ m\ell^2\ddot\theta-\left(-mg\ell\sin\theta\right)=-c\ell^2\dot\theta\quad\Longrightarrow\quad m\ell^2\ddot\theta+c\ell^2\dot\theta+mg\ell\sin\theta=0 $$

両辺を $m\ell^2$ で割って,

$$ \ddot\theta+\frac cm\dot\theta+\frac g\ell\sin\theta=0 $$

を得る.単位の確認:$c$ は $F=c\,v$ より $\mathrm{N/(m/s)}=\mathrm{kg/s}$ なので $c/m$ の単位は $\mathrm{s^{-1}}$,$g/\ell$ の単位は $\mathrm{s^{-2}}$ となり,どの項も $\mathrm{s^{-2}}$(角加速度)で揃う.糸の張力は,最初から計算に現れなかった.

$\theta$ が小さくて $\sin\theta\approx\theta$ とみなせるときは,$\ddot\theta+(c/m)\dot\theta+(g/\ell)\theta=0$ となり,第7章7.3節の減衰振動の式 $m\ddot x+n\dot x+kx=0$ を $m$ で割った $\ddot x+(n/m)\dot x+(k/m)x=0$ と同じ形になる.特性方程式の判別式は $(c/m)^2-4g/\ell$ で,$c\lt2m\sqrt{g/\ell}$ のときは減衰振動になる.

演習43.7 円柱座標での式②の確認

解答

$x=\rho\cos\varphi$ の時間微分を,積の微分公式と合成関数の微分($\dd(\cos\varphi)/\dd t=-\dot\varphi\sin\varphi$)で計算する.$\rho,\varphi$ はどちらも $t$ の関数なので,

$$ \dot x=\dot\rho\cos\varphi+\rho\,(-\dot\varphi\sin\varphi)=\dot\rho\cos\varphi-\rho\dot\varphi\sin\varphi $$

である.これを $\dot\varphi$ で偏微分する.$\rho,\varphi,\dot\rho$ は,$\dot\varphi$ とは独立な変数なので,定数として扱ってよい.$\dot\rho\cos\varphi$ は $\dot\varphi$ を含まないので0,$-\rho\dot\varphi\sin\varphi$ は $\dot\varphi$ について1次だから,

$$ \pdiff{\dot x}{\dot\varphi}=-\rho\sin\varphi $$

一方,$x=\rho\cos\varphi$ を $\varphi$ で偏微分すると,

$$ \pdiff{x}{\varphi}=-\rho\sin\varphi $$

となり,2つは等しい.すなわち $\partial\dot x/\partial\dot\varphi=\partial x/\partial\varphi$(本文の②)が確かめられた.

他の組み合わせも同様である.$\partial\dot x/\partial\dot\rho=\cos\varphi=\partial x/\partial\rho$.また $y=\rho\sin\varphi$ では $\dot y=\dot\rho\sin\varphi+\rho\dot\varphi\cos\varphi$ で,$\partial\dot y/\partial\dot\varphi=\rho\cos\varphi=\partial y/\partial\varphi$,$\partial\dot y/\partial\dot\rho=\sin\varphi=\partial y/\partial\rho$.$z$ 座標は $z$ そのものが一般化座標なので,$\partial\dot z/\partial\dot z=1=\partial z/\partial z$ である.

なぜ成り立つか:$\dot x=\dfrac{\partial x}{\partial\rho}\dot\rho+\dfrac{\partial x}{\partial\varphi}\dot\varphi+\dfrac{\partial x}{\partial z}\dot z$(第43章43.2節で導いた,$\dot\alpha_j$ を一般化座標の速度で表す式)は,$\dot\rho,\dot\varphi,\dot z$ について1次式で,その係数がちょうど $\partial x/\partial\rho,\ \partial x/\partial\varphi,\ \partial x/\partial z$ だからである.

演習43.8 外力なしのお椀:底での微小振動と,縁から底までの時間(発展)

解答

(1) $\phi=\pi/2-\theta$ とおくと $\sin\theta=\cos\phi$,$\dot\theta=-\dot\phi$ である.運動エネルギーは $T=\tfrac12mR^2\dot\theta^2=\tfrac12mR^2\dot\phi^2$,位置エネルギーは $U=mgR(1-\sin\theta)=mgR(1-\cos\phi)$ なので,外力がなければ($Q_\phi'=0$),

$$ L=\frac12mR^2\dot\phi^2-mgR\,(1-\cos\phi) $$

$\partial L/\partial\dot\phi=mR^2\dot\phi$ より $\dfrac{\dd}{\dd t}\!\left(\pdiff{L}{\dot\phi}\right)=mR^2\ddot\phi$,$\partial L/\partial\phi=-mgR\sin\phi$ である.ラグランジュの運動方程式 $\dfrac{\dd}{\dd t}\!\left(\pdiff{L}{\dot\phi}\right)-\pdiff{L}{\phi}=0$ は

$$ mR^2\ddot\phi+mgR\sin\phi=0\qquad\therefore\ \ddot\phi=-\frac gR\sin\phi $$

となる.これは,長さ $R$ の単振り子の運動方程式(例題43.6(4))と同じ形である(お椀の断面が半径 $R$ の円なので,質点は半径 $R$ の円弧の上を動く).例題43.12の $\ddot\theta=(g/R)\cos\theta$ とも,$\ddot\theta=-\ddot\phi$,$\sin\phi=\cos\theta$ で一致する.

(2) $\phi$ が小さいとき $\sin\phi\approx\phi$ なので $\ddot\phi=-(g/R)\phi$,これは角振動数 $\omega=\sqrt{g/R}$ の単振動である.周期は

$$ T_0=\frac{2\pi}{\omega}=2\pi\sqrt{\frac Rg} $$

で,長さ $R$ の単振り子の微小振動の周期と同じである.$R=0.50\ \mathrm m$ なら $T_0=2\pi\sqrt{0.50/9.8}\approx1.42\ \mathrm s$,その $1/4$ は $0.355\ \mathrm s$ である.

(3) 縁は $\phi=\pi/2$ で,静かに放すので $\dot\phi=0$.力学的エネルギー保存則(垂直抗力は仕事をしない)より,任意の $\phi$ で

$$ \frac12mR^2\dot\phi^2+mgR(1-\cos\phi)=mgR(1-\cos\tfrac\pi2)=mgR $$

である.整理すると $\tfrac12mR^2\dot\phi^2=mgR\cos\phi$,すなわち $\dot\phi^2=\dfrac{2g}{R}\cos\phi$.$\phi$ は縁から底へ向かって減るので $\dot\phi=-\sqrt{2g\cos\phi/R}$ であり,変数分離して $\phi=\pi/2$ から $0$ まで積分すると,かかる時間は

$$ t=\int_{\pi/2}^{0}\frac{\dd\phi}{-\sqrt{2g\cos\phi/R}}=\sqrt{\frac{R}{2g}}\int_0^{\pi/2}\frac{\dd\phi}{\sqrt{\cos\phi}} $$

となる.右辺の積分は,$\phi=\pi/2$ で被積分関数が発散するが,積分としては有限で,数値積分で $\approx2.622$ である(第1種完全楕円積分を使って $\sqrt2\,K(1/\sqrt2)$ と書ける).よって,$R=0.50\ \mathrm m,\ g=9.8\ \mathrm{m/s^2}$ のとき

$$ t=\sqrt{\frac{0.50}{2\times9.8}}\times2.622=0.1597\ldots\ \mathrm s\times2.622\approx0.419\ \mathrm s $$

である.外力で角速度を一定に保つ場合の時間 $0.355\ \mathrm s$(例題43.11(1))より約18%長い.外力がないときの縁から底までの時間は,(2) の微小振動の周期の $1/4$($0.355\ \mathrm s$)と一致しない.これは,振幅が大きい($\phi_0=\pi/2$)と,単振り子の周期が微小振動の周期より長くなるためである.一方,外力で $\dot\theta=\sqrt{g/R}$ に保った運動の時間が $0.355\ \mathrm s$ になるのは,角速度を微小振動の角振動数に選んだ結果にすぎない.

第44章 ラグランジュ形式の応用と変分原理

演習44.1 ばね2本(直列)の単振動

解答

質点の変位を $x$,第1のばね(壁側)の伸びを $s$ とすると,第2のばねの伸びは $x-s$ である.運動エネルギーは質点の $\frac12m\dot x^2$ だけ(接続点は質量0),位置エネルギーは2本のばねの弾性エネルギーの和なので,

$$ L=\frac12m\dot x^2-\frac12k_1s^2-\frac12k_2(x-s)^2 $$

である.まず座標 $s$ についてのラグランジュの運動方程式を書く.$L$ は $\dot s$ を含まないので $\partial L/\partial\dot s=0$,また $\partial L/\partial s=-k_1s+k_2(x-s)$($-\frac12k_2(x-s)^2$ を $s$ で微分すると $+k_2(x-s)$ になる)なので,

$$ \diff{}{t}\left(\pdiff{L}{\dot s}\right)-\pdiff{L}{s}=0-\big[-k_1s+k_2(x-s)\big]=0 \qquad\therefore\ k_1s=k_2(x-s) $$

となる.これは,質量のない接続点での力のつり合い(第1のばねが引く力と第2のばねが引く力が等しい)を表している.これを $s$ について解くと,

$$ s=\frac{k_2}{k_1+k_2}\,x,\qquad x-s=\frac{k_1}{k_1+k_2}\,x $$

である.次に座標 $x$ についての方程式:$\partial L/\partial\dot x=m\dot x$,$\partial L/\partial x=-k_2(x-s)$ なので,

$$ \diff{}{t}(m\dot x)+k_2(x-s)=0 \qquad\therefore\ m\ddot x+k_2\cdot\frac{k_1}{k_1+k_2}\,x=0 $$

となる.よって,

$$ m\ddot x+\frac{k_1k_2}{k_1+k_2}\,x=0 $$

で,これは単振動の運動方程式 $m\ddot x=-k_{\text{合成}}x$ の形をしている.したがって

$$ k_{\text{合成}}=\frac{k_1k_2}{k_1+k_2}\ \left(\text{すなわち}\ \frac1{k_{\text{合成}}}=\frac1{k_1}+\frac1{k_2}\right),\qquad \omega=\sqrt{\frac{k_{\text{合成}}}{m}}=\sqrt{\frac{k_1k_2}{m(k_1+k_2)}} $$

である(高校物理の「直列ばねの合成ばね定数」の公式が,ラグランジュの運動方程式から出てきた).なお,$s$ を上の関係で $L$ に代入して消去しても $L=\frac12m\dot x^2-\frac12\dfrac{k_1k_2}{k_1+k_2}x^2$ となり,同じ結果になる.

数値:$k_{\text{合成}}=\dfrac{30\times60}{30+60}\ \mathrm{N/m}=20\ \mathrm{N/m}$,$\omega=\sqrt{\dfrac{20\ \mathrm{N/m}}{0.20\ \mathrm{kg}}}=\sqrt{100}\ \mathrm{s^{-1}}=10\ \mathrm{rad/s}$,周期は $T_0=2\pi/\omega=0.628\ \mathrm s$ である.

演習44.2 単振り子:直交座標と極座標の比較,張力の求め方

解答

(1) 直交座標では $T=\frac12m(\dot x^2+\dot y^2)$,位置エネルギーは($y$ が下向き正なので)$U=-mgy$ である.束縛条件を考えずに書くと

$$ L=\frac12m(\dot x^2+\dot y^2)+mgy $$

となる.このまま $x,y$ にラグランジュの運動方程式を適用すると $m\ddot x=0,\ m\ddot y=mg$,すなわち束縛のない自由落下になってしまう.棒の長さ一定という条件 $x^2+y^2=\ell^2$ が入っていないからで,これを取り込むには,44.7節のラグランジュの未定乗数法を使う(例題44.11).

(2) 極座標では $T=\frac12m(\dot r^2+r^2\dot\theta^2)$,$U=-mgr\cos\theta$(質点の高さは固定点より $r\cos\theta$ だけ下)なので,

$$ L=\frac12m(\dot r^2+r^2\dot\theta^2)+mgr\cos\theta $$

である.偏微分は $\partial L/\partial\dot r=m\dot r$,$\partial L/\partial r=mr\dot\theta^2+mg\cos\theta$,$\partial L/\partial\dot\theta=mr^2\dot\theta$,$\partial L/\partial\theta=-mgr\sin\theta$ である.張力 $N$ は動径方向で,質点を原点の向き($r$ が減る向き)に引くので $Q_r'=-N$,$\theta$ 方向の成分はないので $Q_\theta'=0$ である.非保存力を含むラグランジュの運動方程式より,

\begin{align*} r\text{ 方向:}&\quad m\ddot r-mr\dot\theta^2-mg\cos\theta=-N\\ \theta\text{ 方向:}&\quad \diff{}{t}(mr^2\dot\theta)+mgr\sin\theta=0 \end{align*}

となる.束縛条件 $r=\ell$($\dot r=\ddot r=0$)を代入すると,$r$ 方向の式は $-m\ell\dot\theta^2-mg\cos\theta=-N$,すなわち

$$ N=m\ell\dot\theta^2+mg\cos\theta $$

で,$\theta$ 方向の式は $m\ell^2\ddot\theta+mg\ell\sin\theta=0$,すなわち $\ddot\theta=-(g/\ell)\sin\theta$ である.どちらも44.2.3節と例題44.11の結果($\ddot\theta=-(g/\ell)\sin\theta$,$N=mg\cos\theta+m\ell\dot\theta^2$)に一致する.

(3) $x=\ell\sin\theta,\ y=\ell\cos\theta$ のとき,$\dot x=\ell\dot\theta\cos\theta,\ \dot y=-\ell\dot\theta\sin\theta$ なので $\dot x^2+\dot y^2=\ell^2\dot\theta^2(\cos^2\theta+\sin^2\theta)=\ell^2\dot\theta^2$ である.また $mgy=mg\ell\cos\theta=mg\ell-mg\ell(1-\cos\theta)$ なので,

$$ L=\frac12m\ell^2\dot\theta^2+mg\ell\cos\theta =\left[\frac12m\ell^2\dot\theta^2-mg\ell(1-\cos\theta)\right]+mg\ell $$

となり,44.2.3節の $L$ と定数 $mg\ell$ だけが違う.定数は $\theta$ や $\dot\theta$ で微分すると消えるので運動方程式には影響せず,同じ $\ddot\theta=-(g/\ell)\sin\theta$ が得られる.

座標の選び方を変えても(束縛を最初から組み込んだ $\theta$ だけ,束縛を残した $(r,\theta)$ に張力の一般化力 $Q_r'=-N$ を加えたもの,束縛を未定乗数で扱う $(x,y)$),「$L$ を作って同じ形の式に代入する」という手順は変わらず,同じ運動方程式に到達した——これが44.1節の利点(III)である.

演習44.3 惑星運動のエネルギー保存則

解答

$E=\frac12m\big(\dot r^2+r^2\dot\theta^2\big)-\dfrac{GMm}{r}$ を時間で微分する.積の微分と合成関数の微分により,

$$ \diff{E}{t}=m\dot r\ddot r+mr\dot r\dot\theta^2+mr^2\dot\theta\ddot\theta+\frac{GMm}{r^2}\dot r $$

($\dfrac{\dd}{\dd t}\left(\dfrac12mr^2\dot\theta^2\right)=mr\dot r\dot\theta^2+mr^2\dot\theta\ddot\theta$,$\dfrac{\dd}{\dd t}\left(-\dfrac{GMm}{r}\right)=+\dfrac{GMm}{r^2}\dot r$ を使った)である.これを $\dot r$ を含む項と $\dot\theta$ を含む項にまとめ直すと,

$$ \diff{E}{t}=m\dot r\left(\ddot r-r\dot\theta^2+\frac{GM}{r^2}\right)+mr\dot\theta\left(2\dot r\dot\theta+r\ddot\theta\right) $$

となる(右辺を展開すると $m\dot r\ddot r-mr\dot r\dot\theta^2+\frac{GMm}{r^2}\dot r+2mr\dot r\dot\theta^2+mr^2\dot\theta\ddot\theta$ で,$-mr\dot r\dot\theta^2+2mr\dot r\dot\theta^2=mr\dot r\dot\theta^2$ となるから,上の式と一致する).運動方程式 $m(\ddot r-r\dot\theta^2)=-GMm/r^2$ より第1の括弧は $0$,運動方程式 $m(2\dot r\dot\theta+r\ddot\theta)=0$ より第2の括弧も $0$ である.したがって $\dd E/\dd t=0$,すなわち $E$ は一定である.

円軌道 $r=R$($\dot r=0$)では,$\dot\theta=\Omega$,$\Omega^2=GM/R^3$(例題44.5)を使うと,運動エネルギーは $T=\frac12mR^2\Omega^2=\frac12mR^2\cdot\dfrac{GM}{R^3}=\dfrac{GMm}{2R}$,位置エネルギーは $U=-\dfrac{GMm}{R}$ なので,

$$ E=T+U=\frac{GMm}{2R}-\frac{GMm}{R}=-\frac{GMm}{2R} $$

である.$E$ は負で,これは惑星が太陽に束縛されていることを表す.また,$E=-T=U/2$ という関係が成り立つ.

演習44.4 一般の中心力ポテンシャルでの運動方程式と角運動量保存

解答

$L=\frac12m\big(\dot r^2+r^2\dot\theta^2\big)-U(r)$ を,$r,\dot r,\theta,\dot\theta$ の独立な変数として偏微分する.$\dot r$ を含む項は $\frac12m\dot r^2$ だけ,$r$ を含む項は $\frac12mr^2\dot\theta^2$ と $-U(r)$,$\dot\theta$ を含む項は $\frac12mr^2\dot\theta^2$ だけ,$\theta$ そのものを含む項は $L$ の中にない($U$ は $r$ だけの関数)ので,

$$ \pdiff{L}{\dot r}=m\dot r,\qquad \pdiff{L}{r}=mr\dot\theta^2-\diff{U}{r},\qquad \pdiff{L}{\dot\theta}=mr^2\dot\theta,\qquad \pdiff{L}{\theta}=0 $$

である.ラグランジュの運動方程式は,

\begin{align*} r\text{ 方向:}&\quad \diff{}{t}(m\dot r)-\left(mr\dot\theta^2-\diff{U}{r}\right)=0 \ \Longrightarrow\ m\big(\ddot r-r\dot\theta^2\big)=-\diff{U}{r}\\ \theta\text{ 方向:}&\quad \diff{}{t}\big(mr^2\dot\theta\big)-0=0 \end{align*}

となる.$r$ 方向の式の右辺 $-\dd U/\dd r$ は,中心力の動径成分 $F_r$ そのものである($U=-GMm/r$ なら $-\dd U/\dd r=-GMm/r^2$ で,44.3節の式に一致する).$\theta$ 方向の式は,$U(r)$ の具体的な形によらず,

$$ \diff{}{t}\big(mr^2\dot\theta\big)=0\qquad\therefore\ p_\theta=mr^2\dot\theta=\text{一定} $$

を意味する.どんな中心力でも角運動量が保存する理由は,$L$ が $\theta$ そのものにはよらない(座標系を回転させても $L$ が変わらない)ことにある.

演習44.5 端点固定の条件 $\delta q(t_1)=\delta q(t_2)=0$ はなぜ必要か

解答

端点固定の条件を置かずに44.5節と同じ計算をすると,部分積分で出る境界項が残り,

$$ \delta S=\left[\pdiff{L}{\dot q}\,\delta q\right]_{t_1}^{t_2}+\int_{t_1}^{t_2}\left(\pdiff{L}{q}-\diff{}{t}\left(\pdiff{L}{\dot q}\right)\right)\delta q\,\dd t $$

となる.第1項は,一般化運動量 $p=\partial L/\partial\dot q$ と端点でのずれ $\delta q$ の積の,両端での差である.

自由粒子($L=\frac12m\dot x^2$)を例にとる.実際の運動は等速直線運動 $x=v_0t$($v_0\ne0$)で,$\ddot x=0$ なので第2項の被積分関数は0である.ずれとして,たとえば $\delta x(t)=ct$($c$ は小さな定数)を選ぶと,これは $t=0$ では0だが,$t=t_2$ では $ct_2\ne0$ である(終点を固定していない).このとき

$$ \delta S=\int_0^{t_2}m\dot x\,\diff{(\delta x)}{t}\,\dd t=\int_0^{t_2}mv_0c\,\dd t=mv_0c\,t_2=\Big[m\dot x\,\delta x\Big]_0^{t_2} $$

となって,境界項 $p\,\delta x$ だけが残り,$0$ にならない.つまり,終点の位置を固定せずに「どんなずれ $\delta x(t_2)$ に対しても $\delta S=0$」を要求すると,$p(t_2)=mv_0=0$(終点で運動量が0)でなければならないことになる.これは,実際に動いている粒子($v_0\ne0$)の運動と矛盾する.したがって,「実際の運動が停留する」というハミルトンの原理は,端点を固定した経路の族の中で述べなければならない.

逆に,端点固定の族に限れば境界項は消え,「被積分関数の係数が恒等的に0」という結論(変分法の基本補題)が使えて,オイラー–ラグランジュ方程式が得られる.物理的には,端点固定は「質点が時刻 $t_1,t_2$ にどこにいたか」という与えられたデータに対応している.なお,境界項 $p\,\delta q$ は,終点の位置を少し変えたとき作用がどれだけ変わるかを表しており,この量は,ハミルトン–ヤコビ方程式(第46章 46.5節)で重要な役割を果たす.

演習44.6 摩擦力はなぜポテンシャルエネルギーから導けないか

解答

保存力とは,2点 A,B の間を動くときに力がする仕事が,経路によらず両端の位置だけで決まる力のことである.その場合に限り,基準点からの仕事として位置エネルギー $U(\bm r)$ が1つに決まり,$\bm F=-\nabla U$ と書ける(第4章 4.4節).

動摩擦力は,大きさが $\mu mg$ で,向きが常に運動の向きと逆である.したがって,動摩擦力がする仕事は,経路の全長を $s$ として $W=-\mu mg\,s$ となり,経路の長さに比例する.数値を入れると $\mu mg=0.30\times1.0\ \mathrm{kg}\times9.8\ \mathrm{m/s^2}=2.94\ \mathrm N$ で,

\begin{align*} \text{(a) 直線(}s=2.0\ \mathrm m\text{):}&\quad W=-2.94\ \mathrm N\times2.0\ \mathrm m=-5.88\ \mathrm J\\ \text{(b) 半円(半径 }1.0\ \mathrm m\text{ なので }s=\pi\times1.0\ \mathrm m=3.14\ \mathrm m\text{):}&\quad W=-2.94\ \mathrm N\times3.14\ \mathrm m=-9.24\ \mathrm J \end{align*}

である.同じ A から B への移動でも仕事が違うので,「A から B までの仕事」は両端の位置だけでは決まらない.よって位置だけの関数としてのポテンシャルエネルギーは定義できず,摩擦力は非保存力である.また,摩擦力の向きは位置ではなく運動の向きで決まる(同じ位置でも逆向きに動けば逆向きの力になる)ので,そもそも位置だけの関数 $\bm F(\bm r)$ でもない.このため,ラグランジュの運動方程式は $L=T-U$ の形のままでは使えず,摩擦は一般化力 $Q_i'$ として右辺に加える必要がある(第43章 43.5節).

演習44.7 「最小」ではなく「停留」と呼ぶべき例(発展)

解答

(1) 端点条件 $x(0)=x(\tau)=0$ のもとで運動方程式 $\ddot x=-\omega^2x$ の解は,$\omega\tau\ne n\pi$ のとき $x=0$ だけである(一般解 $x=C_1\cos\omega t+C_2\sin\omega t$ で,$x(0)=0$ から $C_1=0$,$x(\tau)=0$ から $C_2\sin\omega\tau=0$,$\sin\omega\tau\ne0$ なので $C_2=0$).$x=0$ の作用は $S=0$ である.

ずれを加えた経路 $x_\varepsilon=\varepsilon\sin(\pi t/\tau)$ は,$x_\varepsilon(0)=x_\varepsilon(\tau)=0$ を満たす.$\dot x_\varepsilon=\varepsilon(\pi/\tau)\cos(\pi t/\tau)$ なので,

$$ S(\varepsilon)=\int_0^\tau\left[\frac12m\varepsilon^2\frac{\pi^2}{\tau^2}\cos^2\frac{\pi t}{\tau}-\frac12m\omega^2\varepsilon^2\sin^2\frac{\pi t}{\tau}\right]\dd t $$

である.$\int_0^\tau\cos^2(\pi t/\tau)\,\dd t=\int_0^\tau\sin^2(\pi t/\tau)\,\dd t=\tau/2$(半角の公式 $\cos^2\phi=(1+\cos2\phi)/2$ などによる)を使うと,

$$ S(\varepsilon)=\frac12m\varepsilon^2\frac{\pi^2}{\tau^2}\cdot\frac\tau2-\frac12m\omega^2\varepsilon^2\cdot\frac\tau2 =\frac{m\varepsilon^2\tau}{4}\left[\left(\frac\pi\tau\right)^2-\omega^2\right] $$

が得られる.$\varepsilon$ の1次の項がない($x=0$ が停留点である)ことにも注意しよう.

(2) $\varepsilon\ne0$ のとき $m\varepsilon^2\tau/4>0$ なので,$S(\varepsilon)$ の符号は $(\pi/\tau)^2-\omega^2$ の符号で決まる.

・$\omega\tau<\pi$($\tau$ が半周期 $\pi/\omega$ より短い)のとき,$S(\varepsilon)>0=S(0)$ なので,$x=0$ は作用を最小にする(この形のずれに対して).たとえば $m=1\ \mathrm{kg}$,$\tau=1\ \mathrm s$,$\omega=2\ \mathrm{s^{-1}}$,$\varepsilon=0.1\ \mathrm m$ なら $S=\dfrac{0.01\times1}{4}(\pi^2-4)=0.0147\ \mathrm{J\,s}>0$ である.

・$\omega\tau>\pi$($\tau$ が半周期より長い)のとき,$S(\varepsilon)<0=S(0)$ となり,$x=0$ より作用が小さい経路が存在する.したがって $x=0$ は最小ではない.たとえば $\omega=4\ \mathrm{s^{-1}}$ なら $S=\dfrac{0.01}{4}(\pi^2-16)=-0.0153\ \mathrm{J\,s}<0$ である.同じ計算で,$n$ 次のずれ $\varepsilon\sin(n\pi t/\tau)$ の作用は $\dfrac{m\varepsilon^2\tau}{4}\big[(n\pi/\tau)^2-\omega^2\big]$ なので,$\pi<\omega\tau<2\pi$ なら,$n=1$ のずれでは減り,$n\ge2$ のずれでは増える.つまり $x=0$ は極小でも極大でもない鞍点である.

・$\omega\tau=\pi$ のときは係数が0になり,2次の変化も0である(半周期の時間間隔は,作用が最小でなくなる境目にあたる).

以上から,ハミルトンの原理の本質は「最小」ではなく「停留」($\delta S=0$)であり,時間間隔が長いと最小でなくなる例があることが分かる.

演習44.8 石けん膜の形(懸垂面)— ベルトラミの等式の応用

解答

$F=y\sqrt{1+y'^2}$(定数 $2\pi$ は停留条件に影響しないので落とした)は $x$ を陽に含まないので,ベルトラミの等式 $F-y'\partial F/\partial y'=$ 一定 が使える.$\partial F/\partial y'=y\,y'/\sqrt{1+y'^2}$ なので,

$$ F-y'\pdiff{F}{y'}=y\sqrt{1+y'^2}-\frac{y\,y'^2}{\sqrt{1+y'^2}} =\frac{y\big[(1+y'^2)-y'^2\big]}{\sqrt{1+y'^2}}=\frac{y}{\sqrt{1+y'^2}}=C $$

である($C>0$ は積分定数).両辺を2乗して整理すると $y^2=C^2(1+y'^2)$,すなわち $y'^2=y^2/C^2-1$ で,

$$ y'=\sqrt{\frac{y^2}{C^2}-1}\qquad(y\ge C) $$

となる($y'\ge0$ の側を考える).変数分離して $\dfrac{\dd y}{\sqrt{y^2/C^2-1}}=\dd x$.左辺は $u=y/C$ とおくと $C\dfrac{\dd u}{\sqrt{u^2-1}}$ なので,$\displaystyle\int\frac{\dd u}{\sqrt{u^2-1}}=\operatorname{arcosh}u$(大学数学 第2章 2.6節)より,

$$ C\operatorname{arcosh}\frac yC=x-x_0\qquad\therefore\ y=C\cosh\frac{x-x_0}{C} $$

が得られる($x_0$ は積分定数).

確認:$y=C\cosh\frac{x-x_0}{C}$ のとき $y'=\sinh\frac{x-x_0}{C}$ なので $\sqrt{1+y'^2}=\cosh\frac{x-x_0}{C}$ であり,$y/\sqrt{1+y'^2}=C$ となって,たしかに上の等式を満たす.また $y'^2=\sinh^2=\cosh^2-1=y^2/C^2-1$ である.この曲線を軸のまわりに回転した面が石けん膜の形(懸垂面 catenoid)である.定数 $C,x_0$ は,両端の円環の半径と位置という2つの条件から決まる.同じ半径 $R$ の2つの円環では,間隔が約 $1.33R$ を超えるとこの形の解は存在せず,膜は破れる.

演習44.9 惑星の運動:抽象形と代入形の対応

解答

(1) $L=\frac12m(\dot r^2+r^2\dot\theta^2)+GMm/r$ を,$r,\dot r,\theta,\dot\theta$ を独立な変数として偏微分する.

抽象形の量具体形
$\partial L/\partial\dot r$,そして $\diff{}{t}(\partial L/\partial\dot r)$$m\dot r$,そして $m\ddot r$
$\partial L/\partial r$$mr\dot\theta^2-GMm/r^2$
$\partial L/\partial\dot\theta$,そして $\diff{}{t}(\partial L/\partial\dot\theta)$$mr^2\dot\theta$,そして $m(2r\dot r\dot\theta+r^2\ddot\theta)$(積の微分)
$\partial L/\partial\theta$$0$($L$ に $\theta$ そのものは現れない)

($GMm/r=GMm\,r^{-1}$ を $r$ で微分すると $-GMm\,r^{-2}$ になる.)これらを代入すれば,$r$ 方向は $m\ddot r-mr\dot\theta^2+GMm/r^2=0$,$\theta$ 方向は $m(2r\dot r\dot\theta+r^2\ddot\theta)=0$ で,44.3節の結果と一致する.

(2) $r$ 方向の式を $m\ddot r=mr\dot\theta^2-GMm/r^2$ と書き直す.左辺 $m\ddot r=\dot p_r$ は動径方向の運動量の時間変化である.右辺第1項 $mr\dot\theta^2=\partial T/\partial r$ は,極座標で運動を記述したために現れる遠心力に相当する項で,外向き(正)である.第2項 $-GMm/r^2=Q_r=-\partial U/\partial r$ は万有引力で,太陽の向き($r$ が減る向き,負)にはたらく.一般に $\dot p_i=Q_i+\partial T/\partial q_i$ と書けることの具体例になっている.

(3) 円軌道では $\dot r=\ddot r=0$ なので,$r$ 方向の式から $-mr\Omega^2+GMm/r^2=0$,$\Omega^2=GM/r^3$ である.数値を入れると $GM=6.674\times10^{-11}\times1.989\times10^{30}=1.3275\times10^{20}\ \mathrm{m^3/s^2}$,$r^3=(1.496\times10^{11})^3=3.348\times10^{33}\ \mathrm{m^3}$ なので,

$$ \Omega=\sqrt{\frac{1.3275\times10^{20}}{3.348\times10^{33}}}\ \mathrm{s^{-1}}=1.99\times10^{-7}\ \mathrm{rad/s},\qquad P=\frac{2\pi}{\Omega}=3.16\times10^7\ \mathrm s $$

である.$3.16\times10^7\ \mathrm s\div(86400\ \mathrm{s/日})=365$ 日で,たしかに1年になる.

演習44.10 最小作用の原理は「自然が目的をもつ」ことを意味するか

解答

(1) スネルの法則を使う方法は,各境界で「いまの点での入射角から次の方向を決める」という局所的な規則を順に適用して,光の道筋を出発点から少しずつ作っていく方法である.フェルマーの原理は,出発点と到達点をあらかじめ決めて,道筋全体の所要時間が停留になるものを選ぶという大域的な言い方である.44.6.3節で見たとおり,フェルマーの原理から変分法で $n\sin\theta=$ 一定 が導かれるので,2つの言い方は数学的には同じ内容の別の表現である.

(2) 実際の運動は,初めの位置と速度が与えられれば,各瞬間の運動方程式だけで先の運動まで一意に決まる.そこには「終点を知っている」というはたらきは必要ない.ハミルトンの原理が「終点を選んで作用を最小にする」ように聞こえるのは,運動を指定する条件として,「初めの位置と速度」ではなく「始点と終点の位置」を与える言い方を選んでいるからである.同じ運動を,別の条件で指定し直しているにすぎない.さらに,停留値は最小とは限らず(演習44.7),時間間隔が長いと最小でもなくなるので,「自然が最小を目指す」という目的論的な解釈は,そのままでは成り立たない.現代の物理では,$\delta S=0$ は,局所的な運動方程式と同じ内容を,経路全体についての条件として書いた別表現と理解される.

第45章 ハミルトンの正準方程式と位相空間

演習45.1 線形項を含むラグランジアンのルジャンドル変換

解答

$L(\dot q)=\tfrac12 m\dot q^2-c\dot q$ を $\dot q$ で微分すると,一般化運動量は

$$ p=\pdiff{L}{\dot q}=m\dot q-c $$

である.これを $\dot q$ について解くと,$\dot q=(p+c)/m$.ルジャンドル変換 $H=p\dot q-L$ にこれを代入すると,

$$ H=p\cdot\frac{p+c}{m}-\left[\frac12 m\left(\frac{p+c}{m}\right)^2-c\cdot\frac{p+c}{m}\right] $$

括弧の中を整理すると,$\tfrac12 m(p+c)^2/m^2=(p+c)^2/(2m)$ なので,

$$ H=\frac{p(p+c)}{m}-\frac{(p+c)^2}{2m}+\frac{c(p+c)}{m} =\frac{(p+c)(p+c)}{m}-\frac{(p+c)^2}{2m} =\frac{(p+c)^2}{m}-\frac{(p+c)^2}{2m} $$

(途中で $p(p+c)+c(p+c)=(p+c)(p+c)=(p+c)^2$ とまとめた).したがって,

$$ H(p)=\frac{(p+c)^2}{2m} $$

である.$c=0$ とすれば第45章の例題45.1と同じ形($H=p^2/(2m)$,ただし $a\to m$)に戻ることを確認できる.線形項 $-c\dot q$ は,運動量の原点を $p\to p+c$ だけずらす効果をもつ.

演習45.2 正準方程式の一般的な導出(復習)

解答

この演習は,第45章45.2節の導出を自分の手で再現する練習である.要点だけを再掲する.

定義の式を直接微分する.$H=\sum_i p_i\dot q_i-L(q,\dot q,t)$ を微分すると,積の微分法則から

$$ \dd H=\sum_i\left(\dot q_i\,\dd p_i+p_i\,\dd\dot q_i\right)-\dd L $$

である.一方,$L$ の全微分は $\dd L=\sum_i(\partial L/\partial q_i)\dd q_i+\sum_i(\partial L/\partial\dot q_i)\dd\dot q_i+(\partial L/\partial t)\dd t=\sum_i(\partial L/\partial q_i)\dd q_i+\sum_i p_i\,\dd\dot q_i+(\partial L/\partial t)\dd t$(一般化運動量の定義 $p_i=\partial L/\partial\dot q_i$ を使った)なので,これを代入すると

$$ \dd H=\sum_i\dot q_i\,\dd p_i-\sum_i\pdiff{L}{q_i}\dd q_i-\pdiff{L}{t}\dd t $$

となり,$\sum_i p_i\,\dd\dot q_i$ の項がちょうど打ち消し合う(これがルジャンドル変換の本質的な効果である).

$H$ が $(q,p,t)$ の関数であることを使う.一方,$H(q,p,t)$ の全微分は,多変数関数の全微分の公式から

$$ \dd H=\sum_i\pdiff{H}{q_i}\dd q_i+\sum_i\pdiff{H}{p_i}\dd p_i+\pdiff{H}{t}\dd t $$

とも書ける.独立な微小量 $\dd q_i,\dd p_i,\dd t$ の係数を2つの式で比較すると,ルジャンドル変換の恒等式

$$ \pdiff{H}{p_i}=\dot q_i,\qquad \pdiff{H}{q_i}=-\pdiff{L}{q_i},\qquad \pdiff{H}{t}=-\pdiff{L}{t} $$

が得られる.最後に,ラグランジュ方程式 $\dd(\partial L/\partial\dot q_i)/\dd t=\partial L/\partial q_i$ と一般化運動量の定義から $\partial L/\partial q_i=\dot p_i$ であるから,2つ目の式は $\dot p_i=-\partial H/\partial q_i$ となる.こうして,ハミルトンの正準方程式

$$ \dot q_i=\pdiff{H}{p_i},\qquad \dot p_i=-\pdiff{H}{q_i} $$

が導かれる.ラグランジュ方程式(運動方程式)を使うのは最後の1回だけで,それ以前の恒等式は運動方程式とは無関係に成り立つことに注意しよう.

なお,時間に陽に依存する例として強制振動 $L=\tfrac12 m\dot q^2-\tfrac12 kq^2+qF_0\cos\omega t$ をとると,$p=m\dot q$,$H=p^2/(2m)+\tfrac12kq^2-qF_0\cos\omega t$ で,$\partial H/\partial t=qF_0\omega\sin\omega t=-\partial L/\partial t$ が実際に成り立つ.

演習45.3 方程式の本数と階数

解答

1つの2階線形常微分方程式(例えば $\ddot x+\omega^2x=0$)の一般解には,任意定数がちょうど2つ現れる($x=C_1\cos\omega t+C_2\sin\omega t$).これは,「2階微分方程式を満たす関数を2回積分することに相当し,積分のたびに1つの任意定数が生じる」という事実の反映である.$n$ 個の一般化座標があるラグランジュ形式では,各座標につき2階の方程式が1本ずつ,合計 $n$ 本あるので,任意定数の総数は $2n$ 個になる——初期条件でいえば,各座標の初期位置 $q_i(0)$ と初期速度 $\dot q_i(0)$ の合計 $2n$ 個である.

一方,1つの1階線形常微分方程式(例えば $\dot y+ay=0$)の一般解に現れる任意定数は1つだけである(1回積分すれば済むため).ハミルトン形式では,$q_i$ と $p_i$ を合わせて $2n$ 個の変数について,それぞれ1階の方程式が1本ずつ,合計 $2n$ 本あるので,任意定数の総数はやはり $2n$ 個になる——初期条件でいえば,各変数の初期値 $q_i(0),p_i(0)$ の合計 $2n$ 個である.

したがって,「$n$ 本の2階方程式(合計 $2n$ 個の定数)」と「$2n$ 本の1階方程式(合計 $2n$ 個の定数)」は,運動を一意に決めるのに必要な情報量としてはまったく同じであり,どちらの形式で書いても記述できる物理は変わらない.違うのは,その情報を「$n$ 個の座標に2個ずつ配る」か「$2n$ 個の変数に1個ずつ配る」かという,情報の持たせ方(配位空間か位相空間か)だけである.

演習45.4 2次元等方調和振動子のハミルトン形式

解答

運動エネルギーは $T=\tfrac12 m(\dot x^2+\dot y^2)$,ポテンシャルエネルギーは $U=\tfrac12 k(x^2+y^2)$ であり,束縛は時間に陽によらないので,$H=T+U$ が成り立つ(第45章 定理45.2).一般化運動量は $p_x=m\dot x,\ p_y=m\dot y$ なので,$T=(p_x^2+p_y^2)/(2m)$ と書き直せて,

$$ H=\frac{p_x^2}{2m}+\frac{p_y^2}{2m}+\frac12 k(x^2+y^2) $$

である.正準方程式は,$x,y$ それぞれについて,

$$ \dot x=\pdiff{H}{p_x}=\frac{p_x}{m},\qquad \dot p_x=-\pdiff{H}{x}=-kx, \qquad \dot y=\pdiff{H}{p_y}=\frac{p_y}{m},\qquad \dot p_y=-\pdiff{H}{y}=-ky $$

の4本になる.$x$ に関する2本を組み合わせると $\ddot x=-(k/m)x$,$y$ に関する2本を組み合わせると $\ddot y=-(k/m)y$ となり,$x$ の方程式には $y$ が,$y$ の方程式には $x$ が,まったく現れない.すなわち,2次元等方調和振動子のハミルトニアン $H$ は,$x$ 方向の1次元調和振動子 $H_x=p_x^2/(2m)+\tfrac12 kx^2$ と,$y$ 方向の1次元調和振動子 $H_y=p_y^2/(2m)+\tfrac12 ky^2$ の和 $H=H_x+H_y$ に分解でき,2つの方向は互いに独立に(例題45.2とまったく同じ数学で)振動する.

演習45.5 一般の中心力における角運動量保存

解答

ポテンシャルエネルギーが動径方向だけの関数 $U(r)$(角度 $\theta$ を含まない——これが「中心力」の条件そのものである)のとき,運動エネルギーは万有引力の場合とまったく同じ $T=\tfrac12 m(\dot r^2+r^2\dot\theta^2)$ なので,ハミルトニアンは

$$ H=\frac{p_r^2}{2m}+\frac{p_\theta^2}{2mr^2}+U(r) $$

である($p_r=m\dot r,\ p_\theta=mr^2\dot\theta$ は例題45.7と同じ).この $H$ を見ると,$U(r)$ の具体的な形によらず,$\theta$ はどこにも陽に現れていない:

$$ \pdiff{H}{\theta}=0 $$

したがって,正準方程式より $\dot p_\theta=-\partial H/\partial\theta=0$,すなわち $p_\theta=mr^2\dot\theta$ は一定である.これが,「中心力の向きが常に原点を向く」という幾何学的な性質だけから角運動量保存則が従うことの,ハミルトン形式による証明である——$U(r)$ が万有引力 $-GMm/r$ であろうと,フックの法則型の $\tfrac12 kr^2$ であろうと,あるいは他のどんな $r$ だけの関数であろうと,議論は変わらない.参考として,動径方向の運動方程式も一般の $U(r)$ について求めておくと,$\dot p_r=-\partial H/\partial r=p_\theta^2/(mr^3)-U'(r)$ と $\dot r=p_r/m$ を組み合わせて,

$$ \ddot r=r\dot\theta^2-\frac{U'(r)}{m} $$

となる($U(r)=-GMm/r$ のとき $U'(r)=GMm/r^2$ となり,例題45.7の結果 $\ddot r-r\dot\theta^2=-GM/r^2$ に一致する).

演習45.6 単振り子のセパラトリクスのエネルギーと運動量

解答

(1) セパラトリクスのエネルギーは,$\ell=0.5\ \mathrm{m}$,$m=0.2\ \mathrm{kg}$,$g=9.8\ \mathrm{m/s^2}$ を代入して,

$$ E_{\mathrm{sep}}=2mg\ell=2\times0.2\times9.8\times0.5=1.96\ \mathrm{J}\approx2.0\ \mathrm{J} $$

(2) 振れ角の最大値が $\theta_0=150^\circ$ のときのエネルギーは,$\cos150^\circ=-\cos30^\circ=-\sqrt3/2\approx-0.8660$ より,

$$ E=mg\ell(1-\cos\theta_0)=0.2\times9.8\times0.5\times(1-(-0.8660)) =0.98\times1.8660\approx1.8\ \mathrm{J} $$

$E\approx1.8\ \mathrm{J}$ は $E_{\mathrm{sep}}\approx2.0\ \mathrm{J}$ より小さい($E\lt E_{\mathrm{sep}}$)ので,第45章45.5.2節の分類より,この運動は往復運動(libration)である.おもりは,最下点を中心に $\pm150^\circ$ の範囲を,真上($\theta=\pm180^\circ$)に達することなく往復する(棒の先のおもりなので,$150^\circ$ まで持ち上げて静かに放すことができる).なお,$\theta_0$ を $180^\circ$ に近づけていくと $E$ は $E_{\mathrm{sep}}$ に近づいていき,$\theta_0=180^\circ$(真上でちょうど静止する極限)でぴったり $E=E_{\mathrm{sep}}$ となる.

(3) $\theta_0=60^\circ$($\cos60^\circ=0.5$)のとき,

$$ E=mg\ell(1-\cos60^\circ)=0.2\times9.8\times0.5\times0.5=0.49\ \mathrm{J} $$

最下点 $\theta=0$ では $U=0$ なので $H=p_\theta^2/(2m\ell^2)=E$.$m\ell^2=0.2\times0.5^2=0.050\ \mathrm{kg\,m^2}$ より,

$$ p_\theta=\sqrt{2m\ell^2E}=\sqrt{2\times0.050\times0.49}=\sqrt{0.049}\approx0.22\ \mathrm{kg\,m^2/s} $$

である(このとき角速度は $\dot\theta=p_\theta/(m\ell^2)\approx4.4\ \mathrm{rad/s}$,おもりの速さは $\ell\dot\theta\approx2.2\ \mathrm{m/s}$ で,$\tfrac12m(\ell\dot\theta)^2\approx0.49\ \mathrm J$ と一致する).

第46章 対称性と保存則・ポアソン括弧・正準変換

演習46.1 巡回座標と保存する運動量

解答

ラグランジアン $L=\frac12m(\dot x^2+\dot y^2)-U(x)$ を $y$ で偏微分すると,$U(x)$ は $y$ を含まず,運動エネルギー項も $\dot y$($y$ そのものではない)しか含まないので,

$$ \pdiff{L}{y}=0 $$

である.これは定義46.1(本章)の巡回座標の条件そのものなので,$y$ は巡回座標である.定理46.1より,共役な運動量

$$ p_y=\pdiff{L}{\dot y}=m\dot y $$

は時間に対して一定,すなわち保存する($y$ 方向のラグランジュ方程式 $\dd(m\dot y)/\dd t-\pdiff{L}{y}=0$ に $\pdiff{L}{y}=0$ を代入すれば $\dd(m\dot y)/\dd t=0$ となることからも直接確かめられる).これは,$U$ が $x$ だけに依存し $y$ 方向には力がはたらかない($y$ 方向には一様な系である)ことに対応する,自然な結果である.

演習46.2 エネルギー関数と $H=T+U$ の一致

解答

$T=\frac12\sum_{i,j}m_{ij}(q)\dot q_i\dot q_j$($m_{ij}=m_{ji}$)は,$\dot q_i$ について2次の同次関数である.一般に,$n$ 次の同次関数 $f(\dot q)$(すべての $\dot q_i$ を $\lambda$ 倍すると $f\to\lambda^nf$ となる関数)については,オイラーの斉次関数の定理 $\sum_i\dot q_i\pdiff{f}{\dot q_i}=nf$ が成り立つ.実際,$T$ を $\dot q_k$ で偏微分すると($m_{ij}=m_{ji}$ に注意して),

$$ \pdiff{T}{\dot q_k}=\sum_im_{ik}\dot q_i $$

となるので,

$$ \sum_k\dot q_k\pdiff{T}{\dot q_k}=\sum_{k,i}m_{ik}\dot q_i\dot q_k=2T $$

(最後の等号は $T=\frac12\sum_{i,k}m_{ik}\dot q_i\dot q_k$ の定義そのもの).これが $n=2$ の場合のオイラーの定理である.$U=U(q)$ は $\dot q$ に依存しないので $\pdiff{U}{\dot q_i}=0$,したがって $L=T-U$ について,

$$ h=\sum_i\dot q_i\pdiff{L}{\dot q_i}-L=\sum_i\dot q_i\pdiff{T}{\dot q_i}-(T-U)=2T-(T-U)=T+U $$

となり,$h=T+U$ が示された(2自由度の具体的な対称行列 $m_{ij}$ を使った計算でも一致する).

演習46.3 2重振り子に巡回座標はあるか

解答

長さ $\ell$,質量 $m$ の2重振り子(振れ角 $\theta_1,\theta_2$)の標準的なラグランジアンは,

$$ L=m\ell^2\dot\theta_1^2+\frac12m\ell^2\dot\theta_2^2+m\ell^2\dot\theta_1\dot\theta_2\cos(\theta_1-\theta_2)+2mg\ell\cos\theta_1+mg\ell\cos\theta_2 $$

である.これを $\theta_1,\theta_2$ でそれぞれ偏微分すると,

$$ \pdiff{L}{\theta_1}=-2mg\ell\sin\theta_1-m\ell^2\dot\theta_1\dot\theta_2\sin(\theta_1-\theta_2),\qquad \pdiff{L}{\theta_2}=-mg\ell\sin\theta_2+m\ell^2\dot\theta_1\dot\theta_2\sin(\theta_1-\theta_2) $$

となり,どちらも一般には0にならない.たとえば $\theta_1=\theta_2=\pi/2,\ \dot\theta_1=\dot\theta_2=0$ を代入すると $\pdiff{L}{\theta_1}=-2mg\ell\neq0$ である($\pdiff{L}{\theta_1}$ が0になるのは,$\theta_1=\theta_2=0$ かつ角速度が0のような特別な値のときに限られ,恒等的に0ではない).したがって,$\theta_1,\theta_2$ のどちらも巡回座標ではない.惑星運動(本章46.1節)では,万有引力が方位角 $\theta$ によらない(回転対称性がある)ために $\theta$ が巡回座標になったが,2重振り子では重力が鉛直下向きという特定の方向を向いているために,振れ角 $\theta_1,\theta_2$ そのものが位置エネルギーに現れてしまい,回転対称性がない.一般に,自由度の数だけ巡回座標があるとは限らず,系がどんな対称性をもつかによって決まる,という教訓を与える例である.なお,同じ振り子でも3次元の球面振り子(極角 $\theta$,方位角 $\varphi$)なら,重力は鉛直軸まわりの回転に対して対称なので,ラグランジアン $\frac12m\ell^2(\dot\theta^2+\sin^2\theta\,\dot\varphi^2)+mg\ell\cos\theta$ は $\varphi$ を含まず,$\varphi$ が巡回座標になる(対応する保存量 $p_\varphi=m\ell^2\sin^2\theta\,\dot\varphi$ は鉛直軸まわりの角運動量である).

演習46.4 時間に陽に依存するポテンシャルとエネルギー非保存

解答

具体例として,ばね定数が時間とともに周期的に変化するばね振り子 $U(x,t)=\frac12k_0\bigl(1+\cos\omega_{\rm d}t\bigr)x^2$($k_0,\omega_{\rm d}$ は定数.たとえば温度変化などでばねの硬さがゆっくり変動する状況を表す)を考える.ラグランジアンは $L=\frac12m\dot x^2-U(x,t)$ であり,これを時刻 $t$ で偏微分すると,

$$ \pdiff{L}{t}=-\pdiff{U}{t}=\frac12k_0\omega_{\rm d}x^2\sin\omega_{\rm d}t $$

となる.これは($x\neq0$ かつ $\sin\omega_{\rm d}t\neq0$ のとき)一般に0ではない.したがって本章の定理46.2(式 $\dd h/\dd t=-\pdiff{L}{t}$)より,エネルギー関数 $h=\frac12m\dot x^2+U(x,t)$ は保存しない:

$$ \diff{h}{t}=-\pdiff{L}{t}=-\frac12k_0\omega_{\rm d}x^2\sin\omega_{\rm d}t\neq0 $$

物理的には,ばねの硬さを外部から変化させる操作が,振り子に仕事をしたりエネルギーを奪ったりするため,振り子だけを見ればエネルギーが保存しないのは当然である(外部の操作者を含めた全体では,もちろんエネルギーは保存している).これは本章の例題46.5(支点を揺らす単振り子)と同じ種類の現象を,別の具体例で確認したものである.

演習46.5 ポアソン括弧の反対称性の直接確認

解答

ポアソン括弧の定義(本章の式 $\{A,B\}=\sum_i(\partial_{q_i}A\,\partial_{p_i}B-\partial_{p_i}A\,\partial_{q_i}B)$)から出発する.$\{B,A\}$ を同じ定義にしたがって書き下すと,

$$ \{B,A\}=\sum_i\left(\pdiff{B}{q_i}\pdiff{A}{p_i}-\pdiff{B}{p_i}\pdiff{A}{q_i}\right) $$

ここで,右辺の各項をよく見ると,$\{A,B\}$ の定義に現れる同じ2つの因子の積が,順序を変えて(掛け算の順序は交換できるので同じ値のまま)現れているだけであることが分かる:$\pdiff{B}{q_i}\pdiff{A}{p_i}=\pdiff{A}{p_i}\pdiff{B}{q_i}$,$\pdiff{B}{p_i}\pdiff{A}{q_i}=\pdiff{A}{q_i}\pdiff{B}{p_i}$.したがって,

$$ \{B,A\}=\sum_i\left(\pdiff{A}{p_i}\pdiff{B}{q_i}-\pdiff{A}{q_i}\pdiff{B}{p_i}\right)=-\sum_i\left(\pdiff{A}{q_i}\pdiff{B}{p_i}-\pdiff{A}{p_i}\pdiff{B}{q_i}\right)=-\{A,B\} $$

となり,$\{A,B\}=-\{B,A\}$ が定義から直接示された($A=B$ とおくと $\{A,A\}=-\{A,A\}$,すなわち $2\{A,A\}=0$ より $\{A,A\}=0$ も同時に分かる).

演習46.6 時間発展の統一公式の導出

解答

$A(q,p)$ が時刻 $t$ を陽に含まないとする.$A(q(t),p(t))$ を時刻 $t$ について合成関数の微分則(連鎖律)で全微分すると,

$$ \diff{A}{t}=\sum_i\left(\pdiff{A}{q_i}\dot q_i+\pdiff{A}{p_i}\dot p_i\right) $$

である.ここに正準方程式 $\dot q_i=\pdiff{H}{p_i},\ \dot p_i=-\pdiff{H}{q_i}$ を代入すると,

$$ \diff{A}{t}=\sum_i\left(\pdiff{A}{q_i}\pdiff{H}{p_i}-\pdiff{A}{p_i}\pdiff{H}{q_i}\right) $$

右辺は,ポアソン括弧の定義そのものにほかならない($B=H$ としたもの):

$$ \diff{A}{t}=\{A,H\} $$

これが,本章の定理46.6を,$A$ が $t$ を陽に含まない場合($\partial A/\partial t=0$)について,最初から自分の手で導いたものである(たとえば $A=qp$,$H$ を単振動のハミルトニアンにとった具体例では,連鎖律から計算した $\dd A/\dd t$ とポアソン括弧 $\{A,H\}$ がともに $p^2/m-kq^2$ になり,一致する).

演習46.7 $\{L_z,H\}=0$ となる条件

解答

まず $\{L_z,H\}$ を定義46.3から計算する.$L_z=xp_y-yp_x$ の偏微分は,

$$ \pdiff{L_z}{x}=p_y,\qquad\pdiff{L_z}{y}=-p_x,\qquad\pdiff{L_z}{p_x}=-y,\qquad\pdiff{L_z}{p_y}=x,\qquad\pdiff{L_z}{z}=\pdiff{L_z}{p_z}=0 $$

である.$(q_1,q_2,q_3)=(x,y,z)$,$(p_1,p_2,p_3)=(p_x,p_y,p_z)$ として定義46.3に代入すると,

$$ \{L_z,H\}=\left(\pdiff{L_z}{x}\pdiff{H}{p_x}+\pdiff{L_z}{y}\pdiff{H}{p_y}\right)-\left(\pdiff{L_z}{p_x}\pdiff{H}{x}+\pdiff{L_z}{p_y}\pdiff{H}{y}\right) =p_y\pdiff{H}{p_x}-p_x\pdiff{H}{p_y}+y\pdiff{H}{x}-x\pdiff{H}{y} $$

すなわち

$$ \{L_z,H\}=y\pdiff{H}{x}-x\pdiff{H}{y}+p_y\pdiff{H}{p_x}-p_x\pdiff{H}{p_y} $$

である.この式の意味は,$z$ 軸まわりの微小回転 $x\to x-\varepsilon y,\ y\to y+\varepsilon x,\ p_x\to p_x-\varepsilon p_y,\ p_y\to p_y+\varepsilon p_x$(位置と運動量は同じように回転する)による $H$ の変化を計算するとはっきりする.連鎖律より,

$$ \delta H=\varepsilon\left(-y\pdiff{H}{x}+x\pdiff{H}{y}-p_y\pdiff{H}{p_x}+p_x\pdiff{H}{p_y}\right)=-\varepsilon\{L_z,H\} $$

である.したがって,

$H$ が $z$ 軸まわりの回転に対して不変($\delta H=0$,回転対称)であること $\iff$ $\{L_z,H\}=0$($L_z$ が保存量)

が,特定の形の $H$ に限らず一般に成り立つ.具体例で確かめよう.

(i) 中心力 $H=\dfrac{p_x^2+p_y^2+p_z^2}{2m}+U(r)$,$r=\sqrt{x^2+y^2+z^2}$ のとき,$\pdiff{H}{x}=U'(r)\dfrac{x}{r},\ \pdiff{H}{y}=U'(r)\dfrac{y}{r},\ \pdiff{H}{p_x}=\dfrac{p_x}{m},\ \pdiff{H}{p_y}=\dfrac{p_y}{m}$ なので,

$$ \{L_z,H\}=yU'\frac{x}{r}-xU'\frac{y}{r}+p_y\frac{p_x}{m}-p_x\frac{p_y}{m}=0 $$

である.同様の計算で $\{L_x,H\}=\{L_y,H\}=0$ も成り立つので,中心力では角運動量の3成分がすべて保存する.

(ii) $H$ が $xp_x+yp_y$ のような混合項を含む場合でも,この量は回転で不変なので $\{L_z,H\}=0$ となる($\pdiff{H}{x}=p_x,\ \pdiff{H}{y}=p_y,\ \pdiff{H}{p_x}=x,\ \pdiff{H}{p_y}=y$ より $yp_x-xp_y+p_yx-p_xy=0$).「$x^2+y^2$ と $p_x^2+p_y^2$ だけの関数」は回転不変な $H$ の一例にすぎず,回転不変な $H$ はこれに限らない.

(iii) $H$ に $cx$($c$ は定数,$x$ 方向の一様な力に対応するポテンシャル)が加わると,$\pdiff{H}{x}$ に $c$ が加わるので $\{L_z,H\}=cy\neq0$ となる.回転対称性が破れ,$L_z$ は $\dd L_z/\dd t=\{L_z,H\}=cy$ の割合で変化して保存しない(力 $-c\,\bm e_x$ のモーメント $xF_y-yF_x=cy$ と一致する).

演習46.8 $Q=q,\ P=p+f(q)$ は常に正準変換であることを示せ

解答

判定条件 $\{Q,P\}=1$ を,定義にしたがって直接計算する.$Q=q$ より $\pdiff{Q}{q}=1,\ \pdiff{Q}{p}=0$.$P=p+f(q)$ より $\pdiff{P}{q}=f'(q)$($f$ の $q$ による通常の導関数),$\pdiff{P}{p}=1$.これらを代入すると,

$$ \{Q,P\}=\pdiff{Q}{q}\pdiff{P}{p}-\pdiff{Q}{p}\pdiff{P}{q}=1\times1-0\times f'(q)=1 $$

となり,$f(q)$ がどんな(微分可能な)関数であっても,つねに $\{Q,P\}=1$ が成り立つ.したがって,$Q=q,\ P=p+f(q)$ は常に正準変換である.これは,点変換の一般形 $P=p/Q'(q)+g(q)$(46.4.1項)で $Q=q$($Q'=1$)とし,$g(q)=f(q)$ とおいたものにあたる.この変換は,運動量に「座標だけで決まるずれ」を加える変換であり,本章例題46.9で見た点変換(座標だけを付け替える変換)と対をなす,正準変換のもう一つの典型的な作り方である(物理的には,たとえば電磁場中の荷電粒子(電荷 $e$)の正準運動量 $p=m\dot q+eA(q)$($A$ はベクトルポテンシャル)が,力学的運動量 $m\dot q$ に位置だけで決まる項を加えた形をしていることと同じ数学的構造をもつ——本書の電磁気学の範囲では深入りしないが,正準変換の考え方がこうした場面でも顔を出す一例である).

演習46.9 有効ポテンシャルと軌道の種類

解答

(1) $U_{\rm eff}'(r)=-\dfrac{p_\theta^2}{mr^3}+\dfrac{GMm}{r^2}=0$ より,円軌道の半径は

$$ r_0=\frac{p_\theta^2}{GMm^2} $$

である.そこでの値は,$\dfrac{p_\theta^2}{2mr_0^2}=\dfrac{G^2M^2m^3}{2p_\theta^2}$,$\dfrac{GMm}{r_0}=\dfrac{G^2M^2m^3}{p_\theta^2}$ より

$$ E_{\min}=U_{\rm eff}(r_0)=\frac{G^2M^2m^3}{2p_\theta^2}-\frac{G^2M^2m^3}{p_\theta^2}=-\frac{G^2M^2m^3}{2p_\theta^2}=-\frac{GMm}{2r_0} $$

である(2階微分 $U_{\rm eff}''(r_0)=GMm/r_0^3\gt0$ から極小点).

(2) グラフは,$r\to0$ で遠心力の項 $p_\theta^2/(2mr^2)\to+\infty$,$r\to\infty$ で $U_{\rm eff}\to0$($-GMm/r$ が支配的なので負の側から近づく),$r=r_0$ で極小値 $E_{\min}\lt0$ をとる谷の形である(図8.5).動径方向の運動は $E=\frac12m\dot r^2+U_{\rm eff}(r)$ なので,$\dot r^2\ge0$ より $E\ge U_{\rm eff}(r)$ の範囲だけを運動でき,$E$ の水平線と曲線の交点が折り返し点である.$E=U_{\rm eff}(r)$ を $u=1/r$ の2次方程式 $\frac{p_\theta^2}{2m}u^2-GMmu-E=0$ として解くと,

$$ u=\frac{m}{p_\theta^2}\left[GMm\pm\sqrt{G^2M^2m^2+\frac{2Ep_\theta^2}{m}}\right] $$

となる.

これは離心率 $\varepsilon=\sqrt{1+E/|E_{\min}|}$(第8章 8.4節の関係 $E=-\frac{GMm}{2r_0}(1-\varepsilon^2)$ を書き直したもの)で $\varepsilon=0$(円),$0\lt\varepsilon\lt1$(楕円),$\varepsilon=1$(放物線),$\varepsilon\gt1$(双曲線)となることに対応している.

演習46.10 母関数 $F=qQ$ と単振動の変換

解答

(1) 式 $p=\pdiff{F}{q},\ P=-\pdiff{F}{Q}$ に $F=qQ$ を代入すると,

$$ p=\pdiff{(qQ)}{q}=Q,\qquad P=-\pdiff{(qQ)}{Q}=-q $$

すなわち $Q=p,\ P=-q$ である($\dfrac{\partial^2F}{\partial q\,\partial Q}=1\neq0$ なので $Q$ について解ける).

(2) $\pdiff{Q}{q}=0,\ \pdiff{Q}{p}=1,\ \pdiff{P}{q}=-1,\ \pdiff{P}{p}=0$ より,

$$ \{Q,P\}=\pdiff{Q}{q}\pdiff{P}{p}-\pdiff{Q}{p}\pdiff{P}{q}=0\times0-1\times(-1)=1 $$

である.

(3) $F$ が $t$ を含まないので $K=H$(式 $K=H+\pdiff{F}{t}$ で $\pdiff{F}{t}=0$).$q=-P,\ p=Q$ を $H=\dfrac{p^2}{2m}+\dfrac12kq^2$ に代入すると,

$$ K(Q,P)=\frac{Q^2}{2m}+\frac12kP^2 $$

である.新しい正準方程式は $\dot Q=\pdiff{K}{P}=kP$,$\dot P=-\pdiff{K}{Q}=-\dfrac{Q}{m}$ となる.これをもとの変数に戻すと,$\dot Q=\dot p=-kq=kP$(もとの運動方程式 $\dot p=-kq$ と一致),$\dot P=-\dot q=-\dfrac{p}{m}=-\dfrac{Q}{m}$(もとの $\dot q=p/m$ と一致)であり,矛盾しない.役割を交換しても,運動方程式は同じ形(正準方程式)を保っている.

演習46.11 $\rho=\rho(H)$ は定常分布

解答

(1) $\rho=\rho(H(q,p))$ を偏微分すると,連鎖律より $\pdiff{\rho}{q_i}=\rho'(H)\pdiff{H}{q_i}$,$\pdiff{\rho}{p_i}=\rho'(H)\pdiff{H}{p_i}$ である.これを $\{\rho,H\}$ の定義に代入すると,

$$ \{\rho,H\}=\sum_i\left(\pdiff{\rho}{q_i}\pdiff{H}{p_i}-\pdiff{\rho}{p_i}\pdiff{H}{q_i}\right)=\rho'(H)\sum_i\left(\pdiff{H}{q_i}\pdiff{H}{p_i}-\pdiff{H}{p_i}\pdiff{H}{q_i}\right)=0 $$

である(括弧の中の2項が同じ積で打ち消し合う).したがってリウヴィル方程式 $\pdiff{\rho}{t}=-\{\rho,H\}=0$,すなわち $\rho$ は時間によらない.

(2) 単振動 $H=p^2/(2m)+\frac12kx^2$ の位相空間で,$H=E$(一定)の曲線は原点を中心とする楕円である.$\rho=\exp(-\beta H)$ は $H$ の関数なので,各楕円の上ではどの点でも同じ値をとり,楕円ごとに値が決まっている(外側の楕円ほど $H$ が大きく $\rho$ は小さい).位相空間の点は,正準方程式にしたがって,$H$ が一定のまま自分の楕円の上をぐるぐる回る.点が同じ楕円の上を動くだけなので,楕円上の密度は変わらず,$\rho$ の分布の形(同心楕円状の濃淡)は時間がたっても変化しない.これが $\rho=\rho(H)$ が定常分布になる理由である.

演習46.12 $\{L_x,\abs{\bm L}^2\}=0$ の確認

解答

線形性より $\{L_x,\abs{\bm L}^2\}=\{L_x,L_x^2\}+\{L_x,L_y^2\}+\{L_x,L_z^2\}$ である.第2引数についてのライプニッツ則は,反対称性と定理46.4のライプニッツ則から,$\{C,AB\}=-\{AB,C\}=-A\{B,C\}-\{A,C\}B=A\{C,B\}+\{C,A\}B$ となる.これを $C=L_x$,$A=B=L_j$ に使うと $\{L_x,L_j^2\}=2L_j\{L_x,L_j\}$ である($L_j$ どうしの積は交換できる).したがって,

$$ \{L_x,L_x^2\}=2L_x\{L_x,L_x\}=0 $$ $$ \{L_x,L_y^2\}=2L_y\{L_x,L_y\}=2L_yL_z $$ $$ \{L_x,L_z^2\}=2L_z\{L_x,L_z\}=2L_z\times(-L_y)=-2L_zL_y $$

($\{L_x,L_z\}=-\{L_z,L_x\}=-L_y$ を使った).3つを足すと $0+2L_yL_z-2L_zL_y=0$,すなわち $\{L_x,\abs{\bm L}^2\}=0$ が示された.$x\to y\to z\to x$ の巡回的な入れ替えで $\{L_y,\abs{\bm L}^2\}=\{L_z,\abs{\bm L}^2\}=0$ も成り立つ.

意味:$\abs{\bm L}^2$ は $L_x,L_y,L_z$ のどれとも可換(ポアソン括弧が0)である.したがって,互いに括弧が0の組として,たとえば $\abs{\bm L}^2$ と $L_z$ を同時に選ぶことができる.量子力学では,$[\hat{\bm L}^2,\hat L_z]=0$ により,$\hat{\bm L}^2$ と $\hat L_z$ が同時に確定値をもてる($\hat L_x,\hat L_y,\hat L_z$ 自身は互いに交換しないので同時には確定値をもてない).

演習46.13 ハミルトン・ヤコビ方程式の位置づけ

解答

(1) 新しいハミルトニアン $K$ がまるごと0になる正準変換を,$F_2(q,P,t)=S(q,P,t)$ 型の母関数で作る.変換の関係式 $p=\pdiff{S}{q},\ Q=\pdiff{S}{P},\ K=H+\pdiff{S}{t}$ で $K=0$ とおき,$p=\pdiff{S}{q}$ を $H$ に代入すると,ハミルトン・ヤコビ方程式

$$ \pdiff{S}{t}+H\!\left(q,\pdiff{S}{q},t\right)=0 $$

が得られる.$S$ は,運動に沿って評価した作用 $\int L\,\dd t$ にあたる関数である.$K=0$ なので $\dot Q=\pdiff{K}{P}=0,\ \dot P=-\pdiff{K}{Q}=0$ となり,新しい座標 $Q$ と運動量 $P$ はどちらも時間に対して一定の定数である($2n$ 個の正準方程式を解く代わりに,$S$ についての1本の1階偏微分方程式を解けば,$2n$ 個の定数で運動がすべて決まる).位置づけとしては,波動関数 $\psi=\exp(iS/\hbar)$ の $\hbar\to0$ の極限が量子力学の半古典近似(WKB近似)でこの方程式になること,幾何光学の方程式と同じ形をしていることが重要である.

(2) $H=p^2/(2m)$ なので,ハミルトン・ヤコビ方程式は $\pdiff{S}{t}+\dfrac{1}{2m}\left(\pdiff{S}{q}\right)^2=0$ である.$S=Pq-\dfrac{P^2}{2m}t$ のとき,$\pdiff{S}{q}=P,\ \pdiff{S}{t}=-\dfrac{P^2}{2m}$ なので,

$$ \pdiff{S}{t}+\frac{1}{2m}\left(\pdiff{S}{q}\right)^2=-\frac{P^2}{2m}+\frac{P^2}{2m}=0 $$

となり,たしかに解である.このとき $p=\pdiff{S}{q}=P$(運動量は一定)であり,

$$ Q=\pdiff{S}{P}=q-\frac{P}{m}t $$

が時間によらない定数であることから,$q=Q+\dfrac{P}{m}t$,すなわち速さ $P/m$ の等速直線運動が得られる.

第47章 統計力学のための数学 — n次元球・スターリングの公式・ゼータ関数

演習47.1 5次元球の体積

解答

$n$ 次元球の体積の公式 $V_n(R)=\pi^{n/2}R^n/\Gamma(n/2+1)$ に $n=5$ を代入すると,$\Gamma(5/2+1)=\Gamma(7/2)$ が必要になる.漸化式 $\Gamma(\alpha+1)=\alpha\Gamma(\alpha)$ を,$\Gamma(1/2)=\sqrt\pi$ に届くまで繰り返し使う:

$$ \Gamma\!\left(\frac72\right)=\frac52\,\Gamma\!\left(\frac52\right)=\frac52\times\frac32\,\Gamma\!\left(\frac32\right)=\frac52\times\frac32\times\frac12\,\Gamma\!\left(\frac12\right)=\frac{15}{8}\sqrt\pi $$

したがって,

$$ V_5(R)=\frac{\pi^{5/2}}{\dfrac{15}8\sqrt\pi}R^5=\frac{\pi^{5/2}}{\pi^{1/2}}\times\frac8{15}R^5=\frac8{15}\pi^2R^5 $$

となる.$n=1,2,3,4$ のとき $2R,\ \pi R^2,\ \frac43\pi R^3,\ \frac{\pi^2}2R^4$ だったのと比べ,係数の分母・分子がどちらも大きくなっていく様子が見てとれる.

演習47.2 $\Gamma(5)$ と $\Gamma(m)=(m-1)!$

解答

$\Gamma(1)=1$ から出発し,漸化式 $\Gamma(\alpha+1)=\alpha\Gamma(\alpha)$ を4回使うと,

$$ \Gamma(2)=1\cdot\Gamma(1)=1,\quad\Gamma(3)=2\cdot\Gamma(2)=2,\quad\Gamma(4)=3\cdot\Gamma(3)=6,\quad\Gamma(5)=4\cdot\Gamma(4)=24 $$

となる($4!=24$ に一致する).一般に,自然数 $m$ に対して漸化式を $m-1,m-2,\ldots,1$ の順に繰り返し使うと,

$$ \Gamma(m)=(m-1)\,\Gamma(m-1)=(m-1)(m-2)\,\Gamma(m-2)=\cdots=(m-1)(m-2)\cdots2\cdot1\cdot\Gamma(1) $$

となり,$\Gamma(1)=1$ を使うと,

$$ \Gamma(m)=(m-1)(m-2)\cdots2\cdot1=(m-1)! $$

が示される.これは,本文で確認した「$\Gamma(n+1)=n!$」という関係の,添字を $n=m-1$ とずらしただけの書き方にほかならない.

演習47.3 台形則で $\ln n!$ の近似を改良する

解答

台形則(trapezoidal rule)は,区間 $[k-1,k]$ の面積を,両端の高さ $\ln(k-1)$ と $\ln k$ の平均に幅 $1$ を掛けたもの $\frac12\bigl(\ln(k-1)+\ln k\bigr)$ で近似する方法である.積分区間は $[1,n]$ なので,これを $k=2,3,\ldots,n$ の $n-1$ 個の区間について足し合わせる($k=1$ の区間 $[0,1]$ は $\ln0$ を含むので使わない):

$$ \int_1^n\ln x\,\dd x\approx\sum_{k=2}^n\frac12\bigl(\ln(k-1)+\ln k\bigr)=\frac12\sum_{j=1}^{n-1}\ln j+\frac12\sum_{k=2}^{n}\ln k $$

右辺で,$\ln2,\ln3,\ldots,\ln(n-1)$ はそれぞれ2つの台形に1回ずつ現れて重み $\frac12+\frac12=1$ になり,端点の $\ln1=0$ は何も足さず,端点の $\ln n$ だけが重み $\frac12$ になる.したがって($\ln1=0$ より $\sum_{k=2}^n\ln k=\sum_{k=1}^n\ln k$ として)

$$ \int_1^n\ln x\,\dd x\approx\sum_{k=1}^n\ln k-\frac12\ln n $$

となる.左辺は 47.3 節で計算したとおり $n\ln n-n+1$ なので,

$$ \sum_{k=1}^n\ln k\approx n\ln n-n+\frac12\ln n+1 $$

が得られる.本文の右端点近似($\sum_{k=1}^n\ln k\approx n\ln n-n+1$,のち定数 $1$ を落として $n\ln n-n$)に比べて,$+\frac12\ln n$ という補正項が加わった形である.これは,右端点の長方形の面積の合計 $\sum_{k=2}^n\ln k$ が台形則の値より $\frac12(\ln n-\ln1)=\frac12\ln n$ だけ大きい,ということに対応している.

これを,大学数学第32章32.3節で学んだ精密版 $n!\approx\sqrt{2\pi n}\,n^ne^{-n}$ の対数 $\ln n!\approx n\ln n-n+\frac12\ln n+\frac12\ln(2\pi)$ と比べると,台形則の結果との違いは定数項だけで,$1$ と $\frac12\ln(2\pi)\approx0.919$ の差 $1-\frac12\ln(2\pi)\approx0.081$ だけが残る.つまり,台形則の補正は,精密版の補正項のうち $n$ に依存する部分 $\frac12\ln n$ を正しくとらえている.

実際に $n=10,50,100$ で数値的に比較すると,真の値・簡易版(本文の公式47.3の対数)・台形則近似(定数 $1$ を含めたもの)はそれぞれ次のようになる.

$$ \begin{array}{c|ccc} n & \text{真の値 }\ln n! & \text{簡易版} & \text{台形則}\\\hline 10 & 15.104 & 13.026\ (\text{誤差}\ 2.079) & 15.177\ (\text{誤差}\ {-0.073})\\ 50 & 148.478 & 145.601\ (\text{誤差}\ 2.877) & 148.557\ (\text{誤差}\ {-0.079})\\ 100 & 363.739 & 360.517\ (\text{誤差}\ 3.222) & 363.820\ (\text{誤差}\ {-0.080}) \end{array} $$

(誤差は 真の値 $-$ 近似値).簡易版の誤差 $2.08,\ 2.88,\ 3.22$ は,ほぼ $\frac12\ln(2\pi n)$($n=10,50,100$ で $2.07,\ 2.87,\ 3.22$.本文47.3節の補足)に等しく,$n$ とともにゆっくり増える.これに対し台形則近似の誤差は絶対値がいずれの $n$ でも約 $0.08$ 以下で,$n$ によらずほぼ一定であり(定数 $-0.081$ に近づく),簡易版の誤差の約 $1/30$ 前後である.なお,定数 $1$ まで落として $n\ln n-n+\frac12\ln n$ とすると誤差は $0.927,\ 0.921,\ 0.920$ となり,$1-0.081=0.919$ 程度が残る.いずれの場合も,台形則近似は簡易版よりも一貫して真の値に近い

演習47.4 調和級数($s=1$)が発散することの直接証明

解答

調和級数の部分和を $H_n=\displaystyle\sum_{k=1}^n\frac1k$ とする.最初の項 $1$ は別扱いにし,残りの項を,個数が $2$ のべき乗になるようにグループ分けする(第 $j$ グループは $2^{j-1}$ 個の項,$j=1,2,\ldots,k$):

$$ H_{2^k}=1+\underbrace{\frac12}_{1\text{個}}+\underbrace{\left(\frac13+\frac14\right)}_{2\text{個}}+\underbrace{\left(\frac15+\frac16+\frac17+\frac18\right)}_{4\text{個}}+\cdots+\underbrace{\left(\frac1{2^{k-1}+1}+\cdots+\frac1{2^k}\right)}_{2^{k-1}\text{個}} $$

各グループの中の項は,どれもそのグループの最後の項(もっとも小さい値)以上である.たとえば $\left(\frac13+\frac14\right)\ge\left(\frac14+\frac14\right)=\frac12$,$\left(\frac15+\frac16+\frac17+\frac18\right)\ge\left(\frac18+\frac18+\frac18+\frac18\right)=\frac12$ のように,$2^{j-1}$ 個の項からなる第 $j$ グループ($j=1,2,\ldots,k$)は,どの項も最小値 $1/2^j$ 以上なので,そのグループの和は $2^{j-1}\times\frac1{2^j}=\frac12$ 以上になる($j=1$ のグループは $\frac12$ そのものである).グループは $k$ 個あるので,

$$ H_{2^k}\ge1+\underbrace{\frac12+\frac12+\cdots+\frac12}_{k\text{個}}=1+\frac k2 $$

が成り立つ.$k\to\infty$ のとき右辺 $1+k/2$ はいくらでも大きくなるので,$H_{2^k}$ もいくらでも大きくなり,$H_n$(単調増加数列)は上に有界ではない.したがって $\zeta(1)=\displaystyle\lim_{n\to\infty}H_n$ は発散する.実際に数値で確認すると,$k=1,2,3,4,5$($n=2,4,8,16,32$)で $H_n=1.500,\,2.083,\,2.718,\,3.381,\,4.058$ となり,下限 $1+k/2=1.5,\,2.0,\,2.5,\,3.0,\,3.5$ 以上である($k=1$ のときだけ等号が成り立つ).

演習47.5 積分公式(i)の具体値 $p=1$

解答

本文の積分公式(ボース型積分の具体形)$\displaystyle\int_0^\infty\frac{x^p}{e^x-1}\,\dd x=\Gamma(p+1)\zeta(p+1)$ に $p=1$ を代入すると,

$$ \int_0^\infty\frac{x}{e^x-1}\,\dd x=\Gamma(2)\,\zeta(2) $$

$\Gamma(2)=1!=1$,$\zeta(2)=\pi^2/6$ なので,

$$ \int_0^\infty\frac{x}{e^x-1}\,\dd x=1\times\frac{\pi^2}6=\frac{\pi^2}6 $$

となる.数値積分でも $\approx1.6449$ となり,$\pi^2/6\approx1.6449$ と一致する.この積分は,ボース型積分の最も簡単な例である.同じ公式で $p$ を変えれば,$p=2$ で $2\zeta(3)$,$p=3$ で $\pi^4/15$ が得られる

演習47.6 公式47.5を自分で導き直す($p=4$ の場合)

解答

$\dfrac{e^x}{(e^x-1)^2}=-\dfrac{\dd}{\dd x}\!\left(\dfrac1{e^x-1}\right)$ という関係を使い,部分積分 $u=x^4,\ \dd v=-\dfrac{\dd}{\dd x}\!\left(\dfrac1{e^x-1}\right)\dd x$(すなわち $v=-\dfrac1{e^x-1}$,$\dd u=4x^3\,\dd x$)とおくと,

$$ \int_0^\infty\frac{x^4e^x}{(e^x-1)^2}\,\dd x=\left[-\frac{x^4}{e^x-1}\right]_0^\infty+4\int_0^\infty\frac{x^3}{e^x-1}\,\dd x $$

境界項は,$x\to\infty$ で指数関数がべき関数より速く $0$ に近づくため $0$,$x\to0$ では $e^x-1\approx x$ より $x^4/(e^x-1)\approx x^3\to0$ となるため,こちらも $0$ になる.したがって,

$$ \int_0^\infty\frac{x^4e^x}{(e^x-1)^2}\,\dd x=4\int_0^\infty\frac{x^3}{e^x-1}\,\dd x $$

右辺の積分は,本文の積分公式(ボース型積分の具体形)で $p=3$ とおいた形,すなわち $\Gamma(4)\zeta(4)$ に等しい.$\Gamma(4)=3!=6$ なので,

$$ \int_0^\infty\frac{x^4e^x}{(e^x-1)^2}\,\dd x=4\times6\times\zeta(4)=24\,\zeta(4)=4!\,\zeta(4) $$

$\zeta(4)=\pi^4/90$ を代入すると,

$$ \int_0^\infty\frac{x^4e^x}{(e^x-1)^2}\,\dd x=24\times\frac{\pi^4}{90}=\frac{24\pi^4}{90}=\frac{4\pi^4}{15} $$

となり,示すべき式が得られた.数値では $\approx25.976$ であり,$4\pi^4/15\approx25.976$ と一致する.

演習47.7 公式47.6を自分で導く($p=3$ の場合)

解答

$\dfrac{e^x}{(e^x+1)^2}=-\dfrac{\dd}{\dd x}\!\left(\dfrac1{e^x+1}\right)$ を使い,部分積分 $u=x^3,\ \dd v=-\dfrac{\dd}{\dd x}\!\left(\dfrac1{e^x+1}\right)\dd x$($v=-\dfrac1{e^x+1}$,$\dd u=3x^2\dd x$)とおくと,

$$ \int_0^\infty\frac{x^3e^x}{(e^x+1)^2}\,\dd x=\left[-\frac{x^3}{e^x+1}\right]_0^\infty+3\int_0^\infty\frac{x^2}{e^x+1}\,\dd x $$

境界項は本文の議論と同様の理由でどちらも $0$ になる.右辺の積分は,フェルミ型積分の一般公式 $\displaystyle\int_0^\infty\frac{x^{s-1}}{e^x+1}\dd x=(1-2^{1-s})\Gamma(s)\zeta(s)$ で $s=3$ とおいた形なので,

$$ \int_0^\infty\frac{x^2}{e^x+1}\,\dd x=\left(1-2^{1-3}\right)\Gamma(3)\,\zeta(3)=\left(1-\frac14\right)\times2\times\zeta(3)=\frac32\,\zeta(3) $$

($1-2^{1-3}=1-2^{-2}=1-\frac14=\frac34$,$\Gamma(3)=2!=2$ を使った.)これを代入すると,

$$ \int_0^\infty\frac{x^3e^x}{(e^x+1)^2}\,\dd x=3\times\frac32\,\zeta(3)=\frac92\,\zeta(3) $$

となる.一方,本文の公式(積分公式(iii))の形 $\left(1-\dfrac1{2^{p-1}}\right)p!\,\zeta(p)$ に $p=3$ を代入すると,$\left(1-\dfrac1{2^2}\right)3!\,\zeta(3)=\dfrac34\times6\times\zeta(3)=\dfrac{18}4\zeta(3)=\dfrac92\zeta(3)$ となり,一致することが確認できる.数値では $\zeta(3)\approx1.20206$ なので $\dfrac92\zeta(3)\approx5.4093$ であり,数値積分の結果 $\approx5.4093$ と一致する.

演習47.8 $V_n(1)$ が $n\to\infty$ で $0$ に収束する理由

解答

$V_n(1)=\pi^{n/2}/\Gamma(n/2+1)$ において,分子 $\pi^{n/2}=(\sqrt\pi)^n$ は,公比 $\sqrt\pi\approx1.772$ の等比数列(指数関数)のオーダーで増える.一方,分母 $\Gamma(n/2+1)$ は,$n$ が偶数のとき $\Gamma(n/2+1)=(n/2)!$(自然数の階乗そのもの)であり,スターリングの公式(公式47.3)$m!\approx m^me^{-m}$ を $m=n/2$ に適用すると,

$$ \Gamma\!\left(\frac n2+1\right)\approx\left(\frac n2\right)^{n/2}e^{-n/2} $$

という近似が得られる.これは,$n$ が大きくなると「$n$ の半分自身を指数とするべき乗」,すなわち $n$ とともに際限なく大きくなる底 $(n/2)$ を使ったべき乗のオーダーで増大する——これを超指数関数的(super-exponential)な増大とよぶ.これに対し分子 $(\sqrt\pi)^n$ は,底が固定された定数 $\sqrt\pi$ のままの指数関数のオーダーでしか増えない.したがって,比

$$ V_n(1)=\frac{\pi^{n/2}}{\Gamma(n/2+1)}\approx\frac{(\sqrt\pi)^n}{(n/2)^{n/2}e^{-n/2}} $$

は,分母が分子よりもはるかに速く増大するため,$n\to\infty$ で必ず $0$ に収束する.実際に数値で確認すると,$n=10,50,100,200$ で $V_n(1)$ はそれぞれ $\approx2.55,\ 1.73\times10^{-13},\ 2.37\times10^{-40},\ 5.56\times10^{-109}$ と,桁数が加速度的に減っていく様子がはっきり見てとれる.図47.2で見た「$n=5$ で最大」という振る舞いは,$n$ が小さいうちは分子の増加が優勢だが,$n$ が大きくなるにつれて分母の超指数関数的な増大が追いつき,やがて圧倒的に上回ってしまうために起こる現象である.

演習47.9 ガウス型積分と運動量の4乗平均

解答

公式47.2($n=2$)を使う.$(2n-1)!!=3!!=1\cdot3=3$,$2^{n+1}=2^3=8$,$\sqrt{\pi/a^{2n+1}}=\sqrt{\pi/a^5}$ なので,

$$ \int_0^\infty x^4e^{-ax^2}\dd x=\frac{3}{8}\sqrt{\frac\pi{a^5}} $$

となる(別の確かめ方:$\Gamma(\frac52)=\frac32\cdot\frac12\sqrt\pi=\frac34\sqrt\pi$ を使うと,$\dfrac{\Gamma(5/2)}{2a^{5/2}}=\dfrac{3\sqrt\pi}{8a^{5/2}}$).

次に平均を求める.分母は $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-ap^2}\dd p=\sqrt{\pi/a}=\sqrt\pi\,a^{-1/2}$.$p^2$ と $p^4$ は偶関数なので,分子は $0$ から $\infty$ の積分の2倍になり,表47.1の $n=1$ と上の結果から

$$ \int_{-\infty}^\infty p^2e^{-ap^2}\dd p=2\cdot\frac14\sqrt{\frac\pi{a^3}}=\frac12\sqrt\pi\,a^{-3/2},\qquad \int_{-\infty}^\infty p^4e^{-ap^2}\dd p=2\cdot\frac38\sqrt{\frac\pi{a^5}}=\frac34\sqrt\pi\,a^{-5/2} $$

である.したがって,

$$ \langle p^2\rangle=\frac{\frac12\sqrt\pi\,a^{-3/2}}{\sqrt\pi\,a^{-1/2}}=\frac1{2a},\qquad \langle p^4\rangle=\frac{\frac34\sqrt\pi\,a^{-5/2}}{\sqrt\pi\,a^{-1/2}}=\frac3{4a^2} $$

となり,比は

$$ \frac{\langle p^4\rangle}{\langle p^2\rangle^2}=\frac{3/(4a^2)}{1/(4a^2)}=3 $$

で,$a$ によらない定数 $3$ になる.これは,ガウス分布の4次モーメントと2次モーメントの間の一般的な関係(ガウス分布の尖度が $3$)であり,温度が変わっても($a=\beta/2m$ が変わっても)気体分子の運動量分布の「形」が変わらないことを表している.

第48章 微視的状態と等重率の原理 — ミクロカノニカル分布

演習48.1 エネルギーと位相空間体積の関係

解答

第48章で示した単原子分子理想気体の位相空間体積は $\Omega(E)=C_0E^{3N/2}$($C_0$は $N,V,m,h$ だけで決まりエネルギーによらない定数,$C_0=\dfrac{V^N}{N!\,h^{3N}}\cdot\dfrac{\pi^{3N/2}\,(2m)^{3N/2}}{\Gamma(3N/2+1)}=\dfrac{V^N}{N!\,h^{3N}}\cdot\dfrac{(2\pi m)^{3N/2}}{\Gamma(3N/2+1)}$)という形をしている.エネルギーを$E$から$2E$に増やすと,

$$ \frac{\Omega(2E)}{\Omega(E)}=\frac{C_0(2E)^{3N/2}}{C_0E^{3N/2}}=2^{3N/2} $$

となる.$N=1$(分子1個)でも$2^{3/2}\approx2.83$倍であり,$N$が大きくなるほど(指数$3N/2$が大きくなるほど)この倍率は爆発的に大きくなる——たとえば$N=10$なら$2^{15}=32768$倍,$N$がアボガドロ数程度なら,指数$3N/2$自体が$10^{23}$のオーダーになり,倍率はもはや日常的な数の感覚をはるかに超える.

別の見方として,$\Omega(E)$を$E$で微分すると,

$$ \frac{\dd\Omega}{\dd E}=C_0\cdot\frac{3N}{2}E^{\frac{3N}{2}-1}=\frac{3N}{2E}\,\Omega(E) $$

となり,$\dd\Omega/\dd E$(エネルギーがわずかに増えたときに新しく加わる状態の「密度」)も,$\Omega(E)$そのものに比例した,きわめて急激な増加を示す.これが,図48.3で「粒子数は同じで,エネルギーが大きいほど微視的状態の数が急激に増える」と模式的に描いた性質の,定量的な中身である.また,エネルギー殻 $[E,E+\Delta E]$ の状態数は $W=\dfrac{\dd\Omega}{\dd E}\Delta E=\dfrac{3N}{2}\dfrac{\Delta E}{E}\,\Omega(E)$ と書ける.

演習48.2 時間平均の定義になぜ$1/T$が必要か

解答

時間平均の正しい定義は,

$$ \bar A_{\text{時間}}=\lim_{T\to\infty}\frac1T\int_0^TA(l(t))\,\dd t $$

である(第48章の式).ここで,$A(t)=A_0$(時間によらず一定の物理量)という最も単純な場合を考え,仮に$1/T$を取り除いた式 $\displaystyle\int_0^TA(t)\,\dd t$ を「時間平均」の定義だとしてみると,

$$ \int_0^TA_0\,\dd t=A_0\,\big[t\big]_0^T=A_0T $$

となる.$A_0\neq0$である限り,$T\to\infty$ のとき $A_0T\to\pm\infty$($A_0$の符号による)に発散してしまい,有限な値に収束しない.これは,「一定の値を保ち続ける量の平均は,その値そのものになるはずだ」という平均の直感的な意味とまったく矛盾する.一方,正しい定義どおり$1/T$をかけると,

$$ \frac1T\int_0^TA_0\,\dd t=\frac1T\cdot A_0T=A_0 $$

となり,$T$によらずつねに$A_0$という妥当な値が得られる.つまり,$1/T$は,時間とともに大きくなっていく積分 $\int_0^TA(t)\dd t$ を,観測時間の長さ$T$で「割り戻す」ことで,単位時間あたりの平均値という,平均本来の意味を回復させるために不可欠な因子である.

演習48.3 $N=3$個の粒子で$N!$の意味を確かめる

解答

(1) 3個の粒子が区別できるとすると,「どの粒子がセルAに,どの粒子がセルBに,どの粒子がセルCに入るか」という対応のさせ方は,3個の粒子と3個のセルとの1対1対応(全単射)の数,すなわち$3$個の異なるものを一列に並べる順列の数と同じであり,

$$ 3!=3\times2\times1=6\ \text{通り} $$

である(たとえば,粒子$1,2,3$を$(セルA,セルB,セルC)$の順に並べる並べ方が$6$通りある,と考えればよい).(2) 3個の粒子が区別できない(同種粒子)場合,「セルA,B,Cにそれぞれ1個ずつ入っている」という状況そのものは,どの粒子がどのセルにいるかを入れ替えても物理的にまったく同じ状態にしか見えないので,微視的状態は

$$ 1\ \text{通り} $$

しかない.(3) (1)の答え$6$を$N!=3!=6$で割ると,

$$ \frac{6}{3!}=\frac66=1 $$

となり,たしかに(2)の答え$1$と一致する.これは,本文の例題48.3($N=2$の場合)とまったく同じ構造の確認であり,「区別できると仮定して数えた場合の数を,同種粒子の入れ替えの総数$N!$で割れば,区別できない場合の正しい数え方になる」という$N!$の意味を,$N=3$でも確かめたことになる.

演習48.4 エルゴード仮説が破れる系の例

解答

例として,互いに力を及ぼし合わない2個の1次元調和振動子(角振動数 $\omega_1,\omega_2$,比 $\omega_1/\omega_2$ は無理数とする)を考える.ハミルトニアンは $H=H_1+H_2$,$H_i=\dfrac{p_i^2}{2m}+\dfrac12m\omega_i^2x_i^2$($i=1,2$)である.位相空間は4次元 $(x_1,p_1,x_2,p_2)$ で,全エネルギー $E=E_1+E_2$ が一定の面は3次元の超曲面になる.もしこの系がエルゴード的であれば,軌道は時間とともにこの3次元のエネルギー一定面全体を(一様に)訪れるはずである.

ところが,2個の振動子は互いに独立なので,各振動子のエネルギー $E_1$,$E_2$ が別々に保存される.したがって軌道は,$E_1,E_2$ をともに一定に保つ面,すなわち $(x_1,p_1)$ 平面の楕円と $(x_2,p_2)$ 平面の楕円の直積である2次元の面(トーラス.ドーナツの表面のような面)の上に制限される.エネルギー一定面は,$E_1$ を $0$ から $E$ まで変えた無数のトーラスの集まりであり,軌道はそのうちの1枚だけを動き続ける($\omega_1/\omega_2$ が無理数なら,そのトーラス上は隙間なく埋めるが,別の $E_1$ の値のトーラスには決して行かない).

時間平均と位相平均が一致しないことは,$A=E_1$ で確かめられる.時間平均は,$E_1$ が保存されるので初期値 $E_1(0)$ そのものである.一方,位相平均(エネルギー殻の中で一様)では,$\dd x_i\,\dd p_i=\dd E_i\,\dd\phi_i/\omega_i$ と書けるので,$\dd x_1\dd p_1\dd x_2\dd p_2\propto\dd E_1\dd E_2\dd\phi_1\dd\phi_2$ であり,$E_1+E_2=E$ の条件のもとで $E_1$ は $0$ から $E$ まで一様に分布する.平均は $E/2$ である.したがって,$E_1(0)\neq E/2$ のとき時間平均 $\neq$ 位相平均となり,この系はエルゴード的ではない.

一般に,エネルギー以外にも保存量(第46章で見た,運動の間に一定に保たれる量)をたくさんもち,運動が規則正しい可積分系は,同様の理由でエルゴード仮説が成り立たない典型例になる(摂動を受けない2体のケプラー運動もそうである).なお,自由度1の系(単振り子など)は,エネルギー一定面が軌道そのものなので,時間平均=位相平均が自明に成り立つ.時間スケールの問題としては,ガラスのように,観測できる時間内には微視的状態のごく一部にしか到達できない系もある.

演習48.5 エルゴード仮説と等重率の原理の関係

解答

エルゴード仮説(法則48.1)は,「熱平衡状態にある系について,物理量の時間平均と位相平均は等しい」という主張であり,1つの系を長時間観察して得られる平均(時間平均)と,同じ巨視的状態に対応するすべての微視的状態を集めた仮想的な集団について計算する平均(位相平均)という,2種類の平均の値が一致することを述べている.この仮説自体は,位相平均を計算するときに,個々の微視的状態にどんな確率 $P_i$ を割り当てるべきかについては,何も述べていない.

一方,等重率の原理(法則48.2)は,孤立系($E,V,N$一定)について,「許されたすべての微視的状態は等しい確率で実現する」という,確率の割り当て方そのものを具体的に指定する主張である.

両者の関係は,本文48.4節で述べたとおり,次のように理解できる:エルゴード仮説が成り立つ(系が長時間のうちに,許されたすべての微視的状態を次々とたどっていく)と考えると,特定の微視的状態だけが他より頻繁に訪れられる理由がないので,「すべての微視的状態は等しい確率で見つかるはずだ」という等重率の原理が,自然な帰結として動機づけられる——ただし,これは等重率の原理の「証明」ではなく,あくまで直感的な根拠づけである.論理的には,エルゴード仮説は2つの平均の同一性を,等重率の原理はある孤立系における確率分布の具体的な形を,それぞれ独立に主張しており,統計力学ではこの2つを別々の(互いに補い合う)基本的な仮定として採用している.

演習48.6 $N=6$の2準位系の状態数とミクロカノニカル分布

解答

(1) 公式48.1 $W(N,n)=\dbinom Nn=\dfrac{N!}{n!(N-n)!}$ に$N=6$を代入すると,

$n$$0$$1$$2$$3$$4$$5$$6$
$W(6,n)$$1$$6$$15$$20$$15$$6$$1$

である(総和 $1+6+15+20+15+6+1=64=2^6$ が,全微視的状態数 $2^N=2^6=64$ と一致することも確認できる).(2) $E=3\varepsilon$($n=3$)に対応する微視的状態は $W(6,3)=20$ 個あるので,等重率の原理より,そのそれぞれが実現する確率は

$$ P_i=\frac{1}{W(6,3)}=\frac{1}{20}\qquad(i=1,\dots,20) $$

である.これが,このミクロカノニカル分布における各微視的状態の確率である.

演習48.7 アインシュタイン固体 $N=4$,$q=3$ の状態数

解答

(1) 公式48.2 $W_{\text{Einstein}}(N,q)=\dfrac{(q+N-1)!}{q!\,(N-1)!}$ に $N=4$,$q=3$ を代入すると,

$$ W_{\text{Einstein}}(4,3)=\frac{(3+4-1)!}{3!\,(4-1)!}=\frac{6!}{3!\,3!}=\frac{720}{6\times6}=20=\binom{6}{3} $$

となる.(2) 量子3個の分け方は,順序を無視すると次の3パターンである.

合計は $4+12+4=20$ 通りで,(1)の結果と一致する.

演習48.8 体積を2倍にしたときの状態数

解答

第48章の公式48.3($\Omega(E)=\dfrac{V^N}{N!\,h^{3N}}\dfrac{\pi^{3N/2}}{\Gamma(3N/2+1)}(2mE)^{3N/2}$)で,$V$ に依存するのは $V^N$ だけである.$N,E$ を一定にして $V\to2V$ とすると,

$$ \frac{\Omega(2V)}{\Omega(V)}=\frac{(2V)^N}{V^N}=2^N $$

となる.$N=1$ では $2$ 倍である.$N=6.0\times10^{23}$ では $2^{6.0\times10^{23}}=10^{6.0\times10^{23}\times\log_{10}2}\approx10^{1.8\times10^{23}}$ 倍($\log_{10}2\approx0.301$,$6.0\times10^{23}\times0.301\approx1.8\times10^{23}$)であり,「$1$ のあとに $0$ が $1.8\times10^{23}$ 個続く数」という,想像を絶する倍率になる.

すべての分子が容器の左半分(体積 $V/2$)に集まっている微視的状態の数は,位置の積分が $(V/2)^N$ になるだけで運動量の積分は変わらないので,全体の状態数 $\Omega(V)$ に対する比は $(V/2)^N/V^N=2^{-N}$ である.等重率の原理から,これがその確率になる.$N=10$ でも $2^{-10}=1/1024$,$N=6.0\times10^{23}$ では $10^{-1.8\times10^{23}}$ であり,事実上,一度も起こらない.これが,気体が容器全体に均一に広がっている理由である(例題48.3のコインの「全部表」と同じ構造である).

演習48.9 コイン100枚の割合をスターリングの公式で見積もる

解答

$\dbinom{2M}{M}=\dfrac{(2M)!}{(M!)^2}$ の各階乗に $n!\approx\sqrt{2\pi n}\,n^ne^{-n}$ を代入する.分子は $\sqrt{2\pi\cdot2M}\,(2M)^{2M}e^{-2M}=\sqrt{4\pi M}\,2^{2M}M^{2M}e^{-2M}$,分母は $\bigl(\sqrt{2\pi M}\,M^Me^{-M}\bigr)^2=2\pi M\cdot M^{2M}e^{-2M}$ である.$M^{2M}e^{-2M}$ が約分されて,

$$ \binom{2M}{M}\approx\frac{\sqrt{4\pi M}}{2\pi M}\,2^{2M}=\frac{2\sqrt{\pi M}}{2\pi M}\,2^{2M}=\frac{2^{2M}}{\sqrt{\pi M}} $$

となる.したがって,

$$ \frac{\binom{2M}{M}}{2^{2M}}\approx\frac{1}{\sqrt{\pi M}} $$

である.コイン100枚は $M=50$ なので $1/\sqrt{50\pi}=1/\sqrt{157.08}\approx1/12.53\approx0.0798$ で,厳密な値 $0.0796$ と約 $0.25\%$ の誤差で一致する.なお,簡易版 $n!\approx n^ne^{-n}$ だけを使うと,上の計算で $\sqrt{2\pi n}$ の係数がなくなり比が $1$ になってしまう.つまり,係数 $\sqrt{2\pi n}$ が,$N/2$ の近くに分布が広がる幅($\sqrt{M}$ に比例)を与えている.

第49章 熱力学的重率とボルツマンの原理

演習49.1 エネルギーを2倍にすると状態数は何倍になるか

解答

(1) 単原子分子理想気体では,体積一定のとき $W(E)=C_0E^{3N/2-1}$($C_0$ は $E$ によらない定数)である.したがって,

$$ \frac{W(2E)}{W(E)}=\frac{C_0(2E)^{3N/2-1}}{C_0E^{3N/2-1}}=2^{\frac{3N}{2}-1} $$

$N=N_{\mathrm A}=6.022\times10^{23}$ を代入すると,自然対数は $\left(\frac{3N}{2}-1\right)\ln2\approx9.03\times10^{23}\times0.6931\approx6.26\times10^{23}$,常用対数は $\left(\frac{3N}{2}-1\right)\log_{10}2\approx9.03\times10^{23}\times0.3010\approx2.72\times10^{23}$ である.すなわち $W$ は $10^{2.72\times10^{23}}$ 倍という,けた数そのものが $10^{23}$ 程度の途方もない倍率になる.

(2) エントロピー変化は,ボルツマンの原理 $S=k_{\mathrm B}\ln W$ より,

$$ \Delta S=k_{\mathrm B}\ln W(2E)-k_{\mathrm B}\ln W(E)=k_{\mathrm B}\ln\frac{W(2E)}{W(E)}=k_{\mathrm B}\left(\frac{3N}{2}-1\right)\ln2\fallingdotseq\frac32Nk_{\mathrm B}\ln2=\frac32R\ln2 $$

($N$ が大きいので $-1$ を無視し,$Nk_{\mathrm B}=N_{\mathrm A}k_{\mathrm B}=R$ を使った).数値は $\frac32\times8.314\times0.6931\approx8.64\ \mathrm{J/K}$ である.($-1$ を残しても,相対的な違いは $10^{-24}$ 程度で,有効数字には現れない.)

(3) $E=\frac32Nk_{\mathrm B}T\propto T$ なので,$E\to2E$ は $T\to2T$ である.第29章の公式29.1 $S=C_V\ln T+nR\ln V+\alpha_0$ で,体積一定・$n=1\ \mathrm{mol}$,$C_V=\frac32R$ として,

$$ \Delta S=C_V\ln(2T)-C_V\ln T=C_V\ln2=\frac32R\ln2\approx8.64\ \mathrm{J/K} $$

となり,(2) の結果と一致する.熱力学が教える「熱容量 $\times\ln$(温度比)」というエントロピー変化が,統計力学では「状態数の増え方の対数」として説明される.

演習49.2 クリプトンの標準モルエントロピー

解答

(1) $m=83.798\times1.660\,539\times10^{-27}\approx1.3915\times10^{-25}\ \mathrm{kg}$.熱的ド・ブロイ波長は,

$$ \lambda_{\mathrm T}=\frac{h}{\sqrt{2\pi mk_{\mathrm B}T}}=\frac{6.626\,070\times10^{-34}}{\sqrt{2\pi\times1.3915\times10^{-25}\times1.380\,649\times10^{-23}\times298.15}}\approx1.104\times10^{-11}\ \mathrm m=11.0\ \mathrm{pm} $$

である(分母の根号の中は $2\pi\times1.3915\times10^{-25}\times4.116\times10^{-21}=3.599\times10^{-45}$,その平方根は $6.00\times10^{-23}$).1分子あたりの体積は $V/N=k_{\mathrm B}T/p=4.116\times10^{-26}\ \mathrm{m^3}$(例題49.8と同じ).$\lambda_{\mathrm T}^3=(1.1045\times10^{-11})^3=1.347\times10^{-33}\ \mathrm{m^3}$ なので,$V/(N\lambda_{\mathrm T}^3)=4.116\times10^{-26}/1.347\times10^{-33}=3.06\times10^{7}$,$\ln(3.06\times10^7)=17.23$ である.したがって,

$$ S_{\mathrm m}=R\left[\ln\frac{V}{N\lambda_{\mathrm T}^3}+\frac52\right]=8.314\times(17.23+2.5)\approx164.1\ \mathrm{J/(mol\,K)} $$

となり,実験値(約 $164.1\ \mathrm{J/(mol\,K)}$)とよく一致する.アルゴン($154.8$)よりも大きいのは,クリプトンのほうが重く($m$ が大きく),$\lambda_{\mathrm T}$ が小さい($V/(N\lambda_{\mathrm T}^3)$ が大きい)からである.

(2) 圧力一定のとき $V/N=k_{\mathrm B}T/p\propto T$,$\lambda_{\mathrm T}^{-3}\propto(2\pi mk_{\mathrm B}T)^{3/2}\propto T^{3/2}$ なので,$V/(N\lambda_{\mathrm T}^3)\propto T^{5/2}$ である.したがって,$T_1=298.15\ \mathrm K$ から $T_2=600\ \mathrm K$ に加熱したときのモルエントロピーの変化は,

$$ \Delta S_{\mathrm m}=R\ln\left(\frac{T_2}{T_1}\right)^{5/2}=\frac52R\ln\frac{600}{298.15}=2.5\times8.314\times0.6994\approx14.5\ \mathrm{J/(mol\,K)} $$

である($\ln(600/298.15)=\ln2.0124=0.6994$).第29章の $\Delta S=C_p\ln(T_2/T_1)$(定圧変化)で,単原子分子理想気体の $C_p=C_V+R=\frac52R$ とすると,$\Delta S=\frac52R\ln(T_2/T_1)$ となって,完全に一致する.ザックール=テトローデの式は,熱容量 $C_p=\frac52R$ の値も内側にもっている.

演習49.3 大きさの違う2つの箱の仕切りを外す

解答

ヒントのとおり,$E_i=N_ie$,$V_i=N_iv$($i=1,2$)とおくと,仕切りを外した後は $E=Ne$,$V=Nv$($N=N_1+N_2$)である.

(1) $1/N!$ を含むザックール=テトローデの式は,$S(E,V,N)=Nk_{\mathrm B}\left[\ln\left\{\dfrac VN\left(\dfrac{4\pi m}{3h^2}\dfrac EN\right)^{3/2}\right\}+\dfrac52\right]$ である.$V/N=v$,$E/N=e$ を代入すると,$[\ \ ]$ の中身は $\ln\{v(4\pi me/(3h^2))^{3/2}\}+\frac52\equiv s$($N$ によらない定数)となるので,$S=Nk_{\mathrm B}s$,つまり $S$ は $N$ に比例する.したがって,

$$ \Delta S=S(E,V,N)-S(E_1,V_1,N_1)-S(E_2,V_2,N_2)=Nk_{\mathrm B}s-N_1k_{\mathrm B}s-N_2k_{\mathrm B}s=0 $$

である.

(2) $1/N!$ を含まない式 $S^{(0)}=Nk_{\mathrm B}\left[\ln V+\frac32\ln\frac{4\pi mE}{3Nh^2}+\frac32\right]$ に $V=Nv$,$E=Ne$ を代入すると,$\dfrac{E}{N}=e$ なので,

$$ S^{(0)}=Nk_{\mathrm B}\left[\ln(Nv)+\frac32\ln\frac{4\pi me}{3h^2}+\frac32\right]=Nk_{\mathrm B}\ln N+Nk_{\mathrm B}s'\quad\left(s'\equiv\ln v+\frac32\ln\frac{4\pi me}{3h^2}+\frac32\right) $$

となる($s'$ は $N$ によらない).よって,

$$ \Delta S^{(0)}=(Nk_{\mathrm B}\ln N+Nk_{\mathrm B}s')-(N_1k_{\mathrm B}\ln N_1+N_1k_{\mathrm B}s')-(N_2k_{\mathrm B}\ln N_2+N_2k_{\mathrm B}s')=k_{\mathrm B}\bigl(N\ln N-N_1\ln N_1-N_2\ln N_2\bigr) $$

$N\ln N=N_1\ln N+N_2\ln N$ と書き直すと,

$$ \Delta S^{(0)}=k_{\mathrm B}\left(N_1\ln\frac{N}{N_1}+N_2\ln\frac{N}{N_2}\right)=-k_{\mathrm B}\left[N_1\ln\frac{N_1}{N}+N_2\ln\frac{N_2}{N}\right] $$

である.$x_i=N_i/N$ とおけば $\Delta S^{(0)}=-Nk_{\mathrm B}(x_1\ln x_1+x_2\ln x_2)$ で,異なる気体の混合エントロピー $\Delta S_{\mathrm{mix}}=-Nk_{\mathrm B}(x_A\ln x_A+x_B\ln x_B)$ とまったく同じ形になる.同じ気体なのに,異なる気体を混ぜたのと同じだけエントロピーが増えてしまうのが,ギブスのパラドックスである.

数値:$N_1=1\ \mathrm{mol}$,$N_2=2\ \mathrm{mol}$,$N=3\ \mathrm{mol}$ のとき,$x_1=\frac13$,$x_2=\frac23$ で,

$$ \Delta S^{(0)}=-R\left[1\times\ln\frac13+2\times\ln\frac23\right]=R\left[\ln3+2\ln\frac32\right]=8.314\times(1.0986+0.8109)\approx15.9\ \mathrm{J/K} $$

(正しい数え方では $\Delta S=0$ である).

演習49.4 温度の違う2つの気体の熱的接触

解答

(1) 全エネルギー $E_1+E_2$ は保存する.単原子分子理想気体では $E_i=\frac32N_ik_{\mathrm B}T_i$ なので,初期のエネルギーは $\frac32k_{\mathrm B}(N_1T_1+N_2T_2)$,平衡後のエネルギーは $\frac32k_{\mathrm B}(N_1+N_2)T_\mathrm f$ である.両者を等しいとおくと,

$$ T_\mathrm f=\frac{N_1T_1+N_2T_2}{N_1+N_2}=\frac{2.0\times10^{22}\times300+8.0\times10^{22}\times400}{2.0\times10^{22}+8.0\times10^{22}}=\frac{6.0\times10^{24}+3.2\times10^{25}}{1.0\times10^{23}}=380\ \mathrm K $$

である(分子数で重みをつけた平均温度.例題49.6の $E_i^*/N_i=$ 共通,に対応する).

(2) 各系のエントロピー変化は,

$$ \Delta S_1=\frac32N_1k_{\mathrm B}\ln\frac{380}{300}=1.5\times2.0\times10^{22}\times1.380\,649\times10^{-23}\times0.23639\approx+9.79\times10^{-2}\ \mathrm{J/K} $$ $$ \Delta S_2=\frac32N_2k_{\mathrm B}\ln\frac{380}{400}=1.5\times8.0\times10^{22}\times1.380\,649\times10^{-23}\times(-0.05129)\approx-8.50\times10^{-2}\ \mathrm{J/K} $$

である.合計は,

$$ \Delta S=\Delta S_1+\Delta S_2\approx9.79\times10^{-2}-8.50\times10^{-2}=1.29\times10^{-2}\ \mathrm{J/K}\ \gt0 $$

となり,全エントロピーは増加する.低温側のエントロピーの増加が,高温側のエントロピーの減少を上回るためで,「孤立系のエントロピーは増大する」(第29章)ことと,「最も確からしい分配へ向かう」(49.4節)ことが,同じことの言い換えであると分かる.

演習49.5 動く仕切りと圧力の一致

解答

(1) $\ln\Omega_{\mathrm{total}}=N_1\ln V_1+N_2\ln(V-V_1)+(\text{定数})$ を $V_1$ で微分して $0$ とおく(合成関数の微分で,$\dd(V-V_1)/\dd V_1=-1$):

$$ \frac{N_1}{V_1}-\frac{N_2}{V-V_1}=0\quad\Longrightarrow\quad N_1(V-V_1)=N_2V_1\quad\Longrightarrow\quad V_1^*=\frac{N_1}{N_1+N_2}V $$

$N_1=1\ \mathrm{mol}$,$N_2=3\ \mathrm{mol}$,$V=10\ \mathrm L$ のとき $V_1^*=\frac14\times10\ \mathrm L=2.5\ \mathrm L$,右の体積は $V-V_1^*=7.5\ \mathrm L$ である.このとき,両側の圧力($T$ は共通)は,

$$ p_1=\frac{N_1RT}{V_1^*},\quad p_2=\frac{N_2RT}{V-V_1^*}=\frac{3N_1RT}{3V_1^*}=p_1 $$

($V-V_1^*=3V_1^*$ を使った)となり,$p_1=p_2$ が確かめられた.具体的に $T=300\ \mathrm K$ とすれば,$p_1=1\times8.314\times300/(2.5\times10^{-3})\approx9.98\times10^5\ \mathrm{Pa}$ である.すなわち,体積は分子数に比例して分けられ,$V_1/N_1=V_2/N_2$ が成り立つ.

(2) さらに微分すると,

$$ \frac{\dd^2}{\dd V_1^2}\ln\Omega_{\mathrm{total}}=-\frac{N_1}{V_1^2}-\frac{N_2}{(V-V_1)^2}\lt0 $$

となり,どの $V_1$ でも負なので,$V_1^*$ での値は極大(したがって最大)である.

演習49.6 2準位系の温度とエントロピー

解答

(1) 第49章で求めた $f=1/[\exp(\varepsilon/k_{\mathrm B}T)+1]$ を $T$ について解く.$\dfrac1f=\exp\!\left(\dfrac{\varepsilon}{k_{\mathrm B}T}\right)+1$ より $\exp\!\left(\dfrac\varepsilon{k_{\mathrm B}T}\right)=\dfrac{1-f}{f}$,両辺の対数をとって $\dfrac{\varepsilon}{k_{\mathrm B}T}=\ln\dfrac{1-f}{f}$,すなわち

$$ k_{\mathrm B}T=\frac{\varepsilon}{\ln\{(1-f)/f\}}=\frac{0.020\ \mathrm{eV}}{\ln9}=\frac{0.020}{2.1972}\ \mathrm{eV}=9.10\times10^{-3}\ \mathrm{eV} $$

$f=0.1$ のとき $(1-f)/f=9$,$\ln9=2.1972$ である.したがって,

$$ T=\frac{9.10\times10^{-3}\ \mathrm{eV}}{8.617\,333\times10^{-5}\ \mathrm{eV/K}}\approx105.6\ \mathrm K $$

(2) 第49章で求めた $S/(Nk_{\mathrm B})=-[f\ln f+(1-f)\ln(1-f)]$ より,

$$ \frac{S}{Nk_{\mathrm B}}=-\bigl[0.1\ln0.1+0.9\ln0.9\bigr]=0.1\times2.3026+0.9\times0.10536=0.23026+0.09482=0.3251 $$

したがって,$S_{\mathrm m}=R\times0.3251=8.314\times0.3251\approx2.70\ \mathrm{J/(mol\,K)}$ である.(参考:このとき全エネルギーは $E=0.1\times N_{\mathrm A}\times0.020\ \mathrm{eV}=0.1\times6.022\times10^{23}\times0.020\times1.602\times10^{-19}\ \mathrm J\approx193\ \mathrm J/\mathrm{mol}$.)

(3) $T\to0$ では $f\to0$(全員が基底状態)となり,状態数は $W(N,0)=\binom N0=1$,すなわち基底状態は1通りだけなので,$S=k_{\mathrm B}\ln1=0$ となる.エントロピーは $0$ に近づく(法則49.3で $W_0=1$ の場合,第3法則と整合する).

演習49.7 ヘリウムとネオンの混合

解答

(1) 全物質量 $n=4\ \mathrm{mol}$,モル分率は $x_{\mathrm{He}}=\frac14$,$x_{\mathrm{Ne}}=\frac34$ である.公式49.3より,

$$ \Delta S_{\mathrm{mix}}=-nR\left(x_{\mathrm{He}}\ln x_{\mathrm{He}}+x_{\mathrm{Ne}}\ln x_{\mathrm{Ne}}\right)=-4\times8.314\times\left(\frac14\ln\frac14+\frac34\ln\frac34\right) $$

$\frac14\ln\frac14=-0.34657$,$\frac34\ln\frac34=-0.21576$ なので,和は $-0.56233$ となり,

$$ \Delta S_{\mathrm{mix}}=4\times8.314\times0.56233\approx18.7\ \mathrm{J/K} $$

である.

(2) 混合による $\Delta H=0$ なので,$\Delta G_{\mathrm{mix}}=\Delta H-T\Delta S_{\mathrm{mix}}=-300\times18.70\approx-5.61\times10^3\ \mathrm J=-5.61\ \mathrm{kJ}$ である.負なので,混合は自発的に進む.

(3) 同じ $\mathrm{He}$ どうしの仕切りを外すだけなので,法則49.2($1/N!$ を含む $S$)により $\Delta S=0$ である.同じ物質量比 $1:3$ で,成分が違うか同じかだけで,$\Delta S$ が $18.7\ \mathrm{J/K}$ と $0$ に分かれる.

演習49.8 凍結された乱雑さと残余エントロピー

解答

(1) 各分子の向きが2通りで,$N$ 個が独立なので $W_0=2\times2\times\cdots\times2=2^N$ である(積の法則).ボルツマンの原理により,

$$ S_0=k_{\mathrm B}\ln2^N=Nk_{\mathrm B}\ln2,\qquad S_{0,\mathrm m}=R\ln2=8.314\times0.6931\approx5.76\ \mathrm{J/(mol\,K)} $$

である.

(2) $N$ 個の格子点から,Aを置く $N/2$ 個の場所を選ぶ選び方の数が $W_0$ である(残りにBを置く):

$$ W_0=\binom{N}{N/2}=\frac{N!}{\{(N/2)!\}^2} $$

スターリングの公式 $\ln m!\fallingdotseq m\ln m-m$ を使うと,

$$ \ln W_0\fallingdotseq(N\ln N-N)-2\left\{\frac N2\ln\frac N2-\frac N2\right\}=N\ln N-N-N\ln\frac N2+N=N\ln N-N\ln\frac N2=N\ln2 $$

($-N$ と $+N$ が打ち消し合い,$\ln N-\ln(N/2)=\ln2$ を使った).したがって $S_0=k_{\mathrm B}\ln W_0\fallingdotseq Nk_{\mathrm B}\ln2$ で,(1) と同じ値になる.これは,公式49.3の混合エントロピー($x_A=x_B=\frac12$ のとき $\Delta S_{\mathrm{mix}}=Nk_{\mathrm B}\ln2$)と同じ式である.

(3) $N=100$ では,$\ln\binom{100}{50}=\ln100!-2\ln50!=363.739-2\times148.478=66.784$(正確には $\ln\binom{100}{50}=66.7838$,$\binom{100}{50}\approx1.009\times10^{29}$).一方,$N\ln2=100\times0.69315=69.315$ である.差は $2.53$,相対的には約 $3.8\ \%$ で,スターリングの公式(簡易版)の誤差は $N\to\infty$ で相対的に小さくなる($\ln N$ 程度の絶対誤差であり,$N\ln 2$ に比べて $N$ が大きいほど無視できる).$N=N_{\mathrm A}$ では,その相対誤差は $10^{-23}$ 程度で,まったく問題にならない.

演習49.9 $\Omega(E)$ の各因子の意味と単位

解答

公式49.1の $\Omega(E)$ を,因子ごとに見ていく($q_i$ は位置座標で単位 $\mathrm m$,$p_i$ は運動量座標で単位 $\mathrm{kg\,m/s}$).

全体の単位は,位置空間 $\mathrm{m^{3N}}$,運動量空間 $(\mathrm{kg\,m/s})^{3N}$,$1/h^{3N}$ を合わせて,

$$ \frac{\mathrm{m^{3N}}\cdot(\mathrm{kg\,m/s})^{3N}}{(\mathrm{kg\,m^2/s})^{3N}}=\left(\frac{\mathrm{m}\cdot\mathrm{kg\,m/s}}{\mathrm{kg\,m^2/s}}\right)^{3N}=1 $$

となり,$\Omega(E)$ は無次元(ただの数,状態の個数)である.

第50章 カノニカル分布と分配関数

演習50.1 縮退のある準位

解答

(a) $k_{\mathrm B}T=2\varepsilon$ なので $E_J/(k_{\mathrm B}T)=J(J+1)/2$.各準位の重み $g_Je^{-E_J/(k_{\mathrm B}T)}$ は

$$ J=0:\ 1,\qquad J=1:\ 3e^{-1}=1.1036,\qquad J=2:\ 5e^{-3}=0.2489,\qquad J=3:\ 7e^{-6}=0.01735 $$

である.したがって $Z=1+1.1036+0.2489+0.01735=2.3699$.

(b) $P_J=(\text{重み})/Z$ より,

$$ P_0=\frac{1}{2.3699}=0.4220,\quad P_1=\frac{1.1036}{2.3699}=0.4657,\quad P_2=\frac{0.2489}{2.3699}=0.1050,\quad P_3=\frac{0.01735}{2.3699}=0.00732 $$

(和は $1.0000$).

(c) 最大は $J=1$($P_1=0.466$)である.最低エネルギーの $J=0$ ではなく $J=1$ が最も起こりやすいのは,$J=1$ には $g_1=3$ 個の状態があるためである.微視的状態1つあたりの確率 $P_J/g_J$ は $0.422,\ 0.155,\ 0.021,\ 0.0010$ と,エネルギーが高いほど小さくなる.

(d) $P_2/P_1=0.1050/0.4657=0.2256$.一方 $(g_2/g_1)e^{-(E_2-E_1)/(k_{\mathrm B}T)}=\frac53e^{-(6\varepsilon-2\varepsilon)/(2\varepsilon)}=\frac53e^{-2}=0.2256$ で一致する(分母の $Z$ が約分されるので,$P_2/P_1$ は $Z$ を知らなくても求まる).

(解答終わり)

演習50.2 軽い気体と重い気体の高度分布

解答

式 $n(z)/n(0)=e^{-mgz/(k_{\mathrm B}T)}$ で $z=1.0\times10^4\ \mathrm m$,$T=250\ \mathrm K$.$k_{\mathrm B}T=1.380649\times10^{-23}\times250=3.4516\times10^{-21}\ \mathrm J$ である.

窒素:$\dfrac{mgz}{k_{\mathrm B}T}=\dfrac{4.65\times10^{-26}\times9.8\times10^4}{3.4516\times10^{-21}}=1.320$ より $n/n(0)=e^{-1.320}=0.267$.

ヘリウム:$\dfrac{6.65\times10^{-27}\times9.8\times10^4}{3.4516\times10^{-21}}=0.1888$ より $n/n(0)=e^{-0.1888}=0.828$.

存在比(ヘリウム/窒素)の,地表に対する倍率は,$\dfrac{n_{\mathrm{He}}(z)/n_{\mathrm{N_2}}(z)}{n_{\mathrm{He}}(0)/n_{\mathrm{N_2}}(0)}=\dfrac{0.828}{0.267}=3.10$ である.これは $\exp\!\left[(m_{\mathrm{N_2}}-m_{\mathrm{He}})gz/(k_{\mathrm B}T)\right]=e^{1.320-0.189}=e^{1.131}=3.10$ にも等しい.つまり,静止した等温の大気なら,軽い気体は重い気体より高い所に多く分布し,$10\ \mathrm{km}$ でヘリウムの存在比が地表の約3倍になる.ただし,実際の大気は高度 $100\ \mathrm{km}$ 程度までは対流と乱流でよく混合されているので,成分比はほぼ一定に保たれている(軽い気体が上に多くなる分離は,混合が効かなくなるずっと高い所で起こる).

(解答終わり)

演習50.3 3準位系のゆらぎ

解答

$\beta\varepsilon=1$,$y=e^{-1}=0.36788$ とおくと,$Z=1+y+y^2=1+0.36788+0.13534=1.50321$.確率は $P_0=1/Z=0.66524$,$P_1=y/Z=0.24473$,$P_2=y^2/Z=0.09003$(和は $1$).

(a) $\langle E\rangle=0\cdot P_0+\varepsilon P_1+2\varepsilon P_2=(0.24473+0.18006)\,\varepsilon=0.42479\,\varepsilon$.$\langle E^2\rangle=\varepsilon^2P_1+4\varepsilon^2P_2=(0.24473+0.36012)\,\varepsilon^2=0.60485\,\varepsilon^2$.したがって

$$ \langle\Delta E^2\rangle=\langle E^2\rangle-\langle E\rangle^2=0.60485\,\varepsilon^2-0.18045\,\varepsilon^2=0.42440\,\varepsilon^2 $$

(b) $Z=1+y+y^2$($y=e^{-\beta\varepsilon}$,$\dd y/\dd\beta=-\varepsilon y$)より,

$$ \frac{\partial\ln Z}{\partial\beta}=\frac{-\varepsilon(y+2y^2)}{1+y+y^2} $$

(分子は $\partial Z/\partial\beta=-\varepsilon y-2\varepsilon y^2$ から).これをもう一度 $\beta$ で微分する.商の微分公式で,分子 $N=y+2y^2$($\partial N/\partial\beta=-\varepsilon y(1+4y)$),分母 $D=1+y+y^2$($\partial D/\partial\beta=-\varepsilon y(1+2y)$)とすると,

$$ \frac{\partial}{\partial\beta}\frac ND=\frac{-\varepsilon y(1+4y)D+\varepsilon y(1+2y)N}{D^2}=\frac{-\varepsilon y\left[(1+4y)(1+y+y^2)-(1+2y)(y+2y^2)\right]}{D^2}=\frac{-\varepsilon y(1+4y+y^2)}{D^2} $$

($(1+4y)(1+y+y^2)=1+5y+5y^2+4y^3$,$(1+2y)(y+2y^2)=y+4y^2+4y^3$ の差が $1+4y+y^2$).よって

$$ \frac{\partial^2\ln Z}{\partial\beta^2}=-\varepsilon\cdot\frac{-\varepsilon y(1+4y+y^2)}{D^2}=\varepsilon^2\frac{y(1+4y+y^2)}{(1+y+y^2)^2} $$

である.$y=0.36788$ を代入すると,$y(1+4y+y^2)=0.36788\times2.60684=0.95903$,$D^2=1.50321^2=2.25964$ で,$\varepsilon^2\times0.95903/2.25964=0.42440\,\varepsilon^2$.(a) と一致する.

(c) 公式50.3より $C_V=\langle\Delta E^2\rangle/(k_{\mathrm B}T^2)$.$k_{\mathrm B}T=\varepsilon$ のとき $\varepsilon^2/(k_{\mathrm B}T^2)=k_{\mathrm B}$ なので,$C_V=0.4244\,k_{\mathrm B}$ である.

(解答終わり)

演習50.4 エントロピーの微視的な表式の導出

解答

(a) $P_j/g_j=e^{-\beta E_j}/Z$ の対数は $\ln(P_j/g_j)=-\beta E_j-\ln Z$ である.これに $-k_{\mathrm B}P_j$ を掛けて $j$ について足すと,

$$ -k_{\mathrm B}\sum_jP_j\ln\frac{P_j}{g_j}=k_{\mathrm B}\beta\sum_jP_jE_j+k_{\mathrm B}\ln Z\sum_jP_j $$

である.$\sum_jP_jE_j=\langle E\rangle$,$\sum_jP_j=1$,$k_{\mathrm B}\beta=1/T$ を使うと,右辺は $\dfrac{\langle E\rangle}{T}+k_{\mathrm B}\ln Z$ となり,これは $S=k_{\mathrm B}\ln Z+\langle E\rangle/T$ に等しい.よって $S=-k_{\mathrm B}\sum_jP_j\ln(P_j/g_j)$ が得られた.

(b) 独立な2つの系では $P_{jk}/g_{jk}=\dfrac{P_j^{(1)}}{g_j^{(1)}}\cdot\dfrac{P_k^{(2)}}{g_k^{(2)}}$ なので,$\ln\dfrac{P_{jk}}{g_{jk}}=\ln\dfrac{P_j^{(1)}}{g_j^{(1)}}+\ln\dfrac{P_k^{(2)}}{g_k^{(2)}}$(積の対数は対数の和).したがって

$$ S=-k_{\mathrm B}\sum_{j,k}P_j^{(1)}P_k^{(2)}\left[\ln\frac{P_j^{(1)}}{g_j^{(1)}}+\ln\frac{P_k^{(2)}}{g_k^{(2)}}\right] =-k_{\mathrm B}\sum_jP_j^{(1)}\ln\frac{P_j^{(1)}}{g_j^{(1)}}\underbrace{\sum_kP_k^{(2)}}_{=1}-k_{\mathrm B}\sum_kP_k^{(2)}\ln\frac{P_k^{(2)}}{g_k^{(2)}}\underbrace{\sum_jP_j^{(1)}}_{=1}=S_1+S_2 $$

となり,エントロピーは足し算(示量性)になる.

(c) 2準位($E_1=0,E_2=\varepsilon$,$g=1$)で $k_{\mathrm B}T=\varepsilon$ のとき,$P_1=e/(e+1)=0.73106$,$P_2=1/(e+1)=0.26894$,$Z=1+e^{-1}=1.36788$,$\langle E\rangle/T=k_{\mathrm B}P_2=0.26894\,k_{\mathrm B}$.$S=k_{\mathrm B}\ln Z+\langle E\rangle/T$ の式では

$$ \frac{S}{k_{\mathrm B}}=\ln1.36788+0.26894=0.31326+0.26894=0.58220 $$

である.(a) の式では,$g=1$ なので

$$ \frac{S}{k_{\mathrm B}}=-P_1\ln P_1-P_2\ln P_2=-0.73106\times(-0.31326)-0.26894\times(-1.31326)=0.22901+0.35319=0.58220 $$

となって,両者は一致する(高温極限の $\ln2=0.693$ より小さい).

(解答終わり)

演習50.5 固体中の原子の熱振動の大きさ

解答

等分配則(定理50.4)より $\langle\frac12m\omega^2x^2\rangle=\frac12k_{\mathrm B}T$,すなわち $\langle x^2\rangle=k_{\mathrm B}T/(m\omega^2)$ である.数値は,

原子の質量:$m=\dfrac{63.55\times10^{-3}\ \mathrm{kg/mol}}{6.022\times10^{23}\ \mathrm{mol^{-1}}}=1.055\times10^{-25}\ \mathrm{kg}$,角振動数:$\omega=2\pi\times5.0\times10^{12}\ \mathrm{s^{-1}}=3.14\times10^{13}\ \mathrm{s^{-1}}$,$k_{\mathrm B}T=1.380649\times10^{-23}\times300=4.14\times10^{-21}\ \mathrm J$.

$$ m\omega^2=1.055\times10^{-25}\times(3.14\times10^{13})^2=104\ \mathrm{N/m},\qquad \langle x^2\rangle=\frac{4.14\times10^{-21}}{104}\ \mathrm{m^2}=3.98\times10^{-23}\ \mathrm{m^2} $$

($\mathrm{kg\,s^{-2}=N/m}$,$\mathrm{J/(N/m)=m^2}$).したがって $x_{\mathrm{rms}}=\sqrt{3.98\times10^{-23}}\ \mathrm m=6.3\times10^{-12}\ \mathrm m=0.063\ \text{Å}$ である.最近接原子間距離 $2.56\ \text{Å}$ に対する比は $0.063/2.56=0.025$,すなわち約 $2.5$%である.室温でも原子は原子間距離の数%の幅で振動している.温度を上げると $x_{\mathrm{rms}}\propto\sqrt T$ で大きくなり,原子間距離の $10$%前後に達すると結晶が融けるという経験則(リンデマンの融解の基準)がある.

(適用条件の確認)$\theta=h\nu/k_{\mathrm B}=\dfrac{6.626\times10^{-34}\times5.0\times10^{12}}{1.3806\times10^{-23}}\ \mathrm K=240\ \mathrm K$ であり,$T=300\ \mathrm K$ は $\theta$ の $1.25$ 倍にすぎない.そのため,等分配則(古典統計力学)の近似は数%の精度である.量子力学の調和振動子(準位 $\hbar\omega(n+\frac12)$)を使うと $\langle x^2\rangle=\dfrac{\hbar}{2m\omega}\coth\dfrac{\hbar\omega}{2k_{\mathrm B}T}$ となり,古典値 $k_{\mathrm B}T/(m\omega^2)$ との比は $\dfrac{\hbar\omega}{2k_{\mathrm B}T}\coth\dfrac{\hbar\omega}{2k_{\mathrm B}T}$.ここで $\hbar\omega=h\nu$ なので $\dfrac{\hbar\omega}{2k_{\mathrm B}T}=\dfrac{240}{2\times300}=0.400$,比は $0.400\times\coth0.400=1.053$ である.すなわち量子論の $\langle x^2\rangle$ は古典値の約 $1.05$ 倍,$x_{\mathrm{rms}}$ は約 $2.6$%大きく($6.5\times10^{-12}\ \mathrm m$ 程度),古典的な見積もりは室温でも数%の誤差を含む.

(解答終わり)

演習50.6 等分配則が成り立たない場合:$E=c|\bm p|$

解答

(a) 運動量の大きさが $p$ から $p+\dd p$ の球殻の体積は $4\pi p^2\dd p$ であり,$\alpha=\beta c$ とおくと,

$$ \langle E\rangle=\frac{\displaystyle\int_0^\infty cp\,e^{-\alpha p}\,4\pi p^2\dd p}{\displaystyle\int_0^\infty e^{-\alpha p}\,4\pi p^2\dd p}=c\,\frac{\int_0^\infty p^3e^{-\alpha p}\dd p}{\int_0^\infty p^2e^{-\alpha p}\dd p}=c\cdot\frac{3!/\alpha^4}{2!/\alpha^3}=\frac{3c}{\alpha}=\frac{3}{\beta}=3k_{\mathrm B}T $$

(公式 $\int_0^\infty p^ne^{-\alpha p}\dd p=n!/\alpha^{n+1}$ を使った).

(b) 一般式 $\langle p_i\,\partial E/\partial p_i\rangle=k_{\mathrm B}T$($i=1,2,3$)を3成分について足すと $\left\langle\sum_ip_i\,\partial E/\partial p_i\right\rangle=3k_{\mathrm B}T$.$E=c|\bm p|$ は $\bm p$ の1次の同次関数なので,オイラーの定理より $\sum_ip_i\,\partial E/\partial p_i=E$(実際,$\partial E/\partial p_i=cp_i/|\bm p|$ で $\sum_ip_i\cdot cp_i/|\bm p|=c|\bm p|=E$).よって $\langle E\rangle=3k_{\mathrm B}T$ である.

いずれも $3k_{\mathrm B}T$ で,$\frac32k_{\mathrm B}T$ ではない.運動量の1次のエネルギーは2次形式ではないので,1成分あたり $\frac12k_{\mathrm B}T$ にならず,$k_{\mathrm B}T$ になる(発展ボックスで $s=1$ の場合:$\langle a|\xi|^s\rangle=k_{\mathrm B}T/s$).$N$ 個の粒子なら $U=3Nk_{\mathrm B}T$,$C_V=3Nk_{\mathrm B}$ である.

(解答終わり)

演習50.7 ラグランジュの未定乗数法による温度の決定

解答

50.8節の結果 $n_j=g_je^{-\alpha}e^{-\beta E_j}$ を2準位($g_1=g_2=1$,$E_1=0$,$E_2=\varepsilon$)に使うと,$W$ を最大にする分配は比 $n_2/n_1=e^{-\beta(E_2-E_1)}=e^{-\beta\varepsilon}$ を満たす.換算:$\varepsilon/k_{\mathrm B}=\dfrac{0.050\times1.602\,176\,634\times10^{-19}\ \mathrm J}{1.380\,649\times10^{-23}\ \mathrm{J/K}}=580.2\ \mathrm K$.

(a) $n_2=100$,$n_1=400$ なので $e^{-\beta\varepsilon}=100/400=\frac14$,$\beta\varepsilon=\ln4=1.386$.$T=\dfrac{\varepsilon/k_{\mathrm B}}{\beta\varepsilon}=\dfrac{580.2\ \mathrm K}{1.386}=418.5\ \mathrm K$.

(b) $n_2=200$,$n_1=300$ なので $e^{-\beta\varepsilon}=200/300=\frac23$,$\beta\varepsilon=\ln\frac32=0.4055$.$T=\dfrac{580.2\ \mathrm K}{0.4055}=1431\ \mathrm K$ である.励起数を $100$ 個から $200$ 個へ $2$ 倍にすると,温度は $418.5\ \mathrm K$ から $1431\ \mathrm K$ へ約 $3.4$ 倍に上がる.励起数の増え方に比べて温度を大きく上げる必要があるのは,$\ln(n_1/n_2)$ が $n_2/n_1$ の対数でしか変わらず,$T\propto1/\ln(n_1/n_2)$ だからである.$n_2\to n_1$(励起の割合が $\frac12$)では $\beta\to0$,すなわち $T\to\infty$ となる.

(解答終わり)

演習50.8 独立な2準位系のエネルギー分布と二項分布

解答

(a) $n$ 個が励起状態にあるとき全エネルギーは $n\varepsilon$ で,その微視的状態の数($N$ 個のうち励起状態にあるのがどれかの選び方)は $W(n)=\binom Nn$ である.全体の分配関数は $Z=(1+e^{-\beta\varepsilon})^N=\sum_n\binom Nne^{-n\beta\varepsilon}$(二項定理)なので,

$$ P_n=\frac{W(n)e^{-\beta n\varepsilon}}{Z}=\binom Nn\frac{e^{-n\beta\varepsilon}}{(1+e^{-\beta\varepsilon})^N}=\binom Nn\left(\frac{e^{-\beta\varepsilon}}{1+e^{-\beta\varepsilon}}\right)^n\left(\frac{1}{1+e^{-\beta\varepsilon}}\right)^{N-n}=\binom NnP_2^{\,n}P_1^{\,N-n} $$

となり,「各系が確率 $P_2$ で励起状態にいる」ときの二項分布に一致する.

(b) $k_{\mathrm B}T=\varepsilon$ では $P_2=1/(e+1)=0.26894$,$P_1=0.73106$.二項分布の平均は $NP_2=26.89$,分散は $NP_1P_2=100\times0.19661=19.66$ である.エネルギーで表すと $\langle E\rangle=\varepsilon\langle n\rangle$,$\langle\Delta E^2\rangle=19.66\,\varepsilon^2$.一方,公式50.3(例題50.11の結果)より,1個の系で $k_{\mathrm B}T^2C_V=\varepsilon^2P_1P_2=0.19661\,\varepsilon^2$ であり,$N=100$ 個では100倍の $19.66\,\varepsilon^2$ となって一致する.標準偏差は $\sigma_n=\sqrt{19.66}=4.43$ である.

(c) 二項分布の最頻値は $\lfloor(N+1)P_2\rfloor=\lfloor101\times0.26894\rfloor=\lfloor27.16\rfloor=27$($\lfloor x\rfloor$ は $x$ を超えない最大の整数).$P_{27}=\binom{100}{27}P_2^{27}P_1^{73}$ を対数で計算すると,$\ln\binom{100}{27}=55.913$,$27\ln P_2=27\times(-1.31326)=-35.458$,$73\ln P_1=73\times(-0.31326)=-22.868$ なので $\ln P_{27}=55.913-35.458-22.868=-2.413$,すなわち $P_{27}=e^{-2.413}=0.0895$($P_{26}=0.0888$,$P_{28}=0.0859$ と比べて最大).ガウス近似では $1/(\sigma\sqrt{2\pi})=1/(4.434\times2.5066)=0.0900$ で,厳密値との差は $0.5$%程度にすぎない.$N=100$ という小さな系でも,エネルギー分布はほぼガウス分布(定理50.3)になっていることが分かる.

(解答終わり)

第51章 カノニカル分布の応用 — 理想気体・固体の比熱・常磁性

演習51.1 2次元の理想気体

解答

(1) 位相空間は $(x,y,p_x,p_y)$ の4次元で,1つの状態に対応する体積は $h^2$ である.したがって

$$ Z_1=\frac{1}{h^2}\int_{L^2}\dd x\,\dd y\int_{-\infty}^{\infty}\dd p_x\int_{-\infty}^{\infty}\dd p_y\ e^{-\beta(p_x^2+p_y^2)/(2m)} $$

位置の積分は面積 $L^2$.運動量の積分は,ガウス積分 $\int_{-\infty}^{\infty}e^{-ap^2}\dd p=\sqrt{\pi/a}$($a=\beta/(2m)$)の2乗で,$\left(\sqrt{2\pi m/\beta}\right)^2=2\pi m/\beta=2\pi mk_{\mathrm B}T$.よって

$$ Z_1=\frac{L^2}{h^2}\,2\pi mk_{\mathrm B}T=\frac{L^2}{\lambda_{\mathrm T}^2},\qquad\lambda_{\mathrm T}=\frac{h}{\sqrt{2\pi mk_{\mathrm B}T}} $$

(次元:$[mk_{\mathrm B}T/h^2]=\mathrm{m^{-2}}$ に $L^2$ をかけて無次元).

(2) $Z=Z_1^N/N!$,スターリングの公式 $\ln N!\approx N\ln N-N$ より

$$ \ln Z=N\ln\frac{L^2}{\lambda_{\mathrm T}^2}-N\ln N+N=N\left[\ln\frac{L^2}{N\lambda_{\mathrm T}^2}+1\right],\qquad A=-k_{\mathrm B}T\ln Z=-Nk_{\mathrm B}T\left[\ln\frac{L^2}{N\lambda_{\mathrm T}^2}+1\right] $$

$\lambda_{\mathrm T}$ は $L$ によらない.面積 $\mathcal A=L^2$ を変数として微分すると,$A$ で $\mathcal A$ を含むのは $\ln\mathcal A$ の項だけなので,

$$ \Pi=-\left(\pdiff{A}{\mathcal A}\right)_T=Nk_{\mathrm B}T\cdot\frac{1}{\mathcal A}\qquad\therefore\quad\Pi\,L^2=Nk_{\mathrm B}T $$

となり,2次元の理想気体の状態方程式が得られる.$\Pi$ の単位は $\mathrm{J/m^2}=\mathrm{N/m}$(単位長さあたりの力)で,$\Pi L^2$ が $\mathrm J$ になって $Nk_{\mathrm B}T$ と整合する.

(3) $Z_1=(L^2/h^2)\cdot2\pi m/\beta\propto\beta^{-1}$ より $\ln Z_1=-\ln\beta+\text{(}\beta\text{ によらない量)}$,$\ln N!$ は $\beta$ によらないので,

$$ U=-\pdiff{\ln Z}{\beta}=-N\pdiff{\ln Z_1}{\beta}=\frac{N}{\beta}=Nk_{\mathrm B}T $$

である.等分配則では,運動エネルギーの2次の項が $p_x^2/(2m)$ と $p_y^2/(2m)$ の2つあり,それぞれ $\tfrac12k_{\mathrm B}T$ を与えるので,1粒子あたり $k_{\mathrm B}T$,$N$ 粒子で $Nk_{\mathrm B}T$ となり,一致している.熱容量は $C=Nk_{\mathrm B}$ である.

演習51.2 ネオンのエントロピー

解答

(1) $\lambda_{\mathrm T}\propto T^{-1/2}$ なので $\ln\dfrac{V}{N\lambda_{\mathrm T}^3}=\ln\dfrac VN+\dfrac32\ln T+c$($c$ は $T$ によらない定数).よって $A=-Nk_{\mathrm B}T\left[\ln\dfrac VN+\dfrac32\ln T+c+1\right]$ を,積の微分公式で $T$ について微分すると,

$$ \pdiff{A}{T}=-Nk_{\mathrm B}\left[\ln\frac{V}{N\lambda_{\mathrm T}^3}+1\right]-Nk_{\mathrm B}T\cdot\frac{3}{2T}=-Nk_{\mathrm B}\left[\ln\frac{V}{N\lambda_{\mathrm T}^3}+\frac52\right] $$

したがって $S=-(\partial A/\partial T)_V=Nk_{\mathrm B}\left[\ln\dfrac{V}{N\lambda_{\mathrm T}^3}+\dfrac52\right]$ である.

(2) ネオン原子の質量は $m=20.180\times1.6605\times10^{-27}=3.351\times10^{-26}\ \mathrm{kg}$.

$$ \lambda_{\mathrm T}=\frac{6.626\times10^{-34}}{\sqrt{2\pi\times3.351\times10^{-26}\times1.3806\times10^{-23}\times298.15}}=2.251\times10^{-11}\ \mathrm m=22.5\ \mathrm{pm} $$

1分子あたりの体積は $V/N=k_{\mathrm B}T/p=1.3806\times10^{-23}\times298.15/(1\times10^5)=4.116\times10^{-26}\ \mathrm{m^3}$,$\lambda_{\mathrm T}^3=1.140\times10^{-32}\ \mathrm{m^3}$ なので $V/(N\lambda_{\mathrm T}^3)=3.61\times10^{6}$,$\ln(3.61\times10^6)=15.10$.$1\ \mathrm{mol}$ について $N k_{\mathrm B}=R$ より,

$$ S_{\mathrm m}=R\left[15.10+2.5\right]=8.314\times17.60\approx146.3\ \mathrm{J/(mol\,K)} $$

で,標準熱力学表の値 $146.33\ \mathrm{J/(mol\,K)}$ と一致する.なお $V/(N\lambda_{\mathrm T}^3)\approx3.6\times10^6\gg1$ で,古典統計力学が使える条件をみたしている.

演習51.3 量子調和振動子の平均エネルギーとフォノンの数

解答

(1) $X\equiv\beta\hbar\omega$,$x\equiv e^{-X}$ とおく.準位 $E_n=\hbar\omega(n+\tfrac12)$ の確率は $P_n=e^{-\beta E_n}/Z_{\mathrm{qm}}=e^{-X/2}x^n/\left[e^{-X/2}/(1-x)\right]=(1-x)x^n$(零点エネルギーの因子 $e^{-X/2}$ は分子・分母で打ち消し合う).したがって

$$ \langle n\rangle=\sum_{n=0}^\infty nP_n=(1-x)\sum_{n=0}^\infty nx^n $$

等比級数 $\sum_nx^n=1/(1-x)$ の両辺を $x$ で微分すると $\sum_nnx^{n-1}=1/(1-x)^2$ で,両辺に $x$ をかけると $\sum_nnx^n=x/(1-x)^2$.よって

$$ \langle n\rangle=(1-x)\frac{x}{(1-x)^2}=\frac{x}{1-x}=\frac{e^{-X}}{1-e^{-X}}=\frac{1}{e^{X}-1} $$

である.エネルギーの平均は $\langle E\rangle=\sum_nE_nP_n=\hbar\omega\left(\langle n\rangle+\tfrac12\right)=\tfrac12\hbar\omega+\dfrac{\hbar\omega}{e^{\beta\hbar\omega}-1}$ で,本文の式($-\partial\ln Z_{\mathrm{qm}}/\partial\beta$ から導いた結果)と一致する.

(2) $\langle E\rangle/(k_{\mathrm B}T)=X\left(\langle n\rangle+\tfrac12\right)$ を計算する.

$X=\hbar\omega/(k_{\mathrm B}T)$$\langle n\rangle=1/(e^X-1)$$\langle E\rangle/(k_{\mathrm B}T)$
$1$$0.5820$$1.082$
$2$$0.1565$$1.313$
$5$$0.00678$$2.534$

古典論の値は $\langle E\rangle/(k_{\mathrm B}T)=1$ である.量子論の値はつねに古典値より大きい(零点エネルギー $\tfrac12\hbar\omega$ の分).$X$ が大きい(低温)ほど古典値から離れ,$X=5$ では $\langle n\rangle\approx0.007$,すなわち振動子はほぼ基底状態にあって,$\langle E\rangle\approx\tfrac12\hbar\omega=0.5\hbar\omega$($0.507\,\hbar\omega$)である.$X=1$ での古典値からのずれ $8.2\%$ は,例題51.5の展開 $1+X^2/12=1.083$ とほぼ一致する.

(3) プランクの振動子の平均エネルギー $\dfrac{h\nu}{e^{h\nu/(k_{\mathrm B}T)}-1}$ は,$h\nu=\hbar\omega$($\omega=2\pi\nu$,$h=2\pi\hbar$)とおくと,$\hbar\omega\langle n\rangle=\dfrac{\hbar\omega}{e^{\hbar\omega/(k_{\mathrm B}T)}-1}$ に一致する.つまり,プランクの式は,量子調和振動子の平均エネルギーから零点エネルギー $\tfrac12\hbar\omega$ を除いた部分($\hbar\omega\langle n\rangle$)である.$\langle n\rangle$ は,そのモードにある量子(光子またはフォノン)の平均個数と読める.

演習51.4 アインシュタイン比熱の高温・低温での展開

解答

(1) $e^x/(e^x-1)^2=1/(e^{x/2}-e^{-x/2})^2=1/(4\sinh^2(x/2))$ なので,$f_{\mathrm E}(x)=\dfrac{x^2}{4\sinh^2(x/2)}=\left[\dfrac{y}{\sinh y}\right]^2$($y=x/2$).$\sinh y=y\left(1+\tfrac{y^2}{6}+\tfrac{y^4}{120}+\cdots\right)$ より,$t=\tfrac{y^2}{6}+\tfrac{y^4}{120}$ とおいて $\dfrac{1}{1+t}=1-t+t^2-\cdots$ を $y^4$ まで計算すると,

$$ \frac{y}{\sinh y}=1-\frac{y^2}{6}-\frac{y^4}{120}+\frac{y^4}{36}+\cdots=1-\frac{y^2}{6}+\frac{7y^4}{360}+\cdots $$

($-\tfrac1{120}+\tfrac1{36}=\tfrac{-3+10}{360}=\tfrac7{360}$).2乗すると,$(1-a+b)^2=1-2a+(a^2+2b)+\cdots$($a=y^2/6$,$b=7y^4/360$)より

$$ f_{\mathrm E}=1-\frac{y^2}{3}+\left(\frac{1}{36}+\frac{7}{180}\right)y^4+\cdots=1-\frac{y^2}{3}+\frac{y^4}{15}+\cdots $$

$y=x/2$ を戻すと $y^2=x^2/4$,$y^4=x^4/16$ で,

$$ f_{\mathrm E}(x)=1-\frac{x^2}{12}+\frac{x^4}{240}-\cdots $$

$x=0.8$ では,2項まで:$1-0.64/12=0.94667$,3項まで:$0.94667+0.4096/240=0.94837$,正確な値は $0.94833$.3項までで $10^{-4}$ 以下の精度である.

(2) $x\gg1$ で,$\dfrac{e^x}{(e^x-1)^2}=\dfrac{e^{-x}}{(1-e^{-x})^2}$ と書き直し,$t=e^{-x}\ll1$ で $\dfrac{1}{(1-t)^2}=1+2t+3t^2+\cdots$ を使うと,$f_{\mathrm E}=x^2e^{-x}\left(1+2e^{-x}+3e^{-2x}+\cdots\right)$.$x=5$ では $e^{-5}=0.006738$,$x^2e^{-x}=0.16845$,補正因子 $1+2e^{-5}=1.01348$ で $0.17072$,正確な値は $0.17074$.補正を入れない近似 $x^2e^{-x}$ だけでも $1.3\%$ 以内の精度で,$x=10$ では相対誤差 $0.01\%$ である.

演習51.5 アインシュタイン模型は,なぜ低温の実験と合わないか

解答

(1) $T=10\ \mathrm K$ で $x=\theta_{\mathrm E}/T=24$.$x\gg1$ なので $f_{\mathrm E}\approx x^2e^{-x}=576\times e^{-24}=576\times3.775\times10^{-11}=2.17\times10^{-8}$(モル比熱では $3R\times2.17\times10^{-8}=5.4\times10^{-7}\ \mathrm{J/(mol\,K)}$).

(2) $T^3$ 則:$\dfrac{4\pi^4}{5}=77.9$,$(T/\theta_{\mathrm D})^3=(10/343)^3=2.48\times10^{-5}$ なので,$C_V/(3Nk_{\mathrm B})=77.9\times2.48\times10^{-5}=1.93\times10^{-3}$(モル比熱では $3R\times1.93\times10^{-3}=0.048\ \mathrm{J/(mol\,K)}$).

2つの値の比は $1.93\times10^{-3}/(2.17\times10^{-8})\approx9\times10^{4}$,約5桁の違いである.実験は $T^3$ 則の側に合う(金属では,これに伝導電子による温度に比例する比熱が加わる).$T^3$ 則が実測とよく合うのは $T\lesssim\theta_{\mathrm D}/50\approx7\ \mathrm K$ の極低温で,$10\ \mathrm K$ はその少し外側だが,5桁の違いを見るには十分である.

(3) アインシュタイン模型では,すべての振動子が同じ $\omega$($\hbar\omega=k_{\mathrm B}\theta_{\mathrm E}=20.7\ \mathrm{meV}$)をもち,励起に必要な最小のエネルギーがこの値にそろっている.$T=10\ \mathrm K$ の熱エネルギー $k_{\mathrm B}T=0.86\ \mathrm{meV}$ ではこれを励起する確率は $e^{-24}$ で,比熱は指数関数的に凍結する.ところが,実際の固体の原子は互いに連動して振動しており,波長の長い音波のように,振動数が $0$ に近い振動のモードがいくらでもある.そのようなモードは小さな量子 $\hbar\omega$ で励起でき,どんなに低温でも,$\hbar\omega\lesssim k_{\mathrm B}T$ のモードが一定数は励起される.その数は,$3$ 次元の波数空間の体積に比例して $T^3$ で増える.そのため,エネルギーは $T^4$,比熱は $T^3$ に比例する(第53章のデバイ模型).アインシュタイン模型は,この「低い振動数のモードの存在」を無視した点で,極低温では実験と合わない.一方,高温の $3Nk_{\mathrm B}$(デュロン=プティ)は,振動数の分布によらない(すべてのモードが古典的に励起されるから)ので,両方の模型で正しく再現される.

演習51.6 ショットキー比熱の極限とエントロピー

解答

(1) $x\ll1$ では $e^x\approx1$ なので,$\dfrac{x^2e^x}{(e^x+1)^2}\approx\dfrac{x^2}{(1+1)^2}=\dfrac{x^2}{4}$.すなわち $C_V\approx Nk_{\mathrm B}x^2/4=Nk_{\mathrm B}(\varepsilon/2k_{\mathrm B}T)^2\propto T^{-2}$($x=0.1$ で近似値 $0.002500$,正確な値 $0.002494$).$x\gg1$ では $e^x+1\approx e^x$ なので $\dfrac{x^2e^x}{e^{2x}}=x^2e^{-x}$($x=8$ で近似値 $0.02147$,正確な値 $0.02146$).どちらも $0$ に近づく.

(2) ピークは $x\tanh(x/2)=2$ の解 $x=2.3994$(例題51.10)で,$k_{\mathrm B}T=\varepsilon/2.3994$.$\varepsilon/k_{\mathrm B}=5.0\ \mathrm K$ なら $T_{\mathrm{peak}}=5.0/2.3994=2.08\ \mathrm K$.高さは $0.4392\,R=0.4392\times8.314=3.65\ \mathrm{J/(mol\,K)}$.

(3) 熱力学(第29章)の関係 $\dd S=\dd'Q/T=C_V\dd T/T$(体積一定)を $0$ から $\infty$ まで積分すると $S(\infty)-S(0)=\int_0^\infty(C_V/T)\dd T$.一方,カノニカル分布のエントロピー $S=k_{\mathrm B}\ln Z+U/T$($Z=(1+e^{-\beta\varepsilon})^N$,$U=N\varepsilon/(e^{\beta\varepsilon}+1)$)の極限を調べる.$T\to0$:$Z\to1$,$U\to0$ なので $S\to0$.$T\to\infty$:$Z\to2^N$,$\ln Z\to N\ln2$,$U\to N\varepsilon/2$ で $U/T\to0$ なので,$S\to Nk_{\mathrm B}\ln2$.したがって

$$ \int_0^\infty\frac{C_V}{T}\dd T=Nk_{\mathrm B}\ln2 $$

であり,これは $\varepsilon$ によらない(準位間隔が変わっても,$C_V/T$ を $T$ で積分した値,つまり $C_V/T$ の曲線の下の面積は同じ $Nk_{\mathrm B}\ln2$ である).$1\ \mathrm{mol}$ では $R\ln2=8.314\times0.6931=5.76\ \mathrm{J/(mol\,K)}$.数値積分($t=k_{\mathrm B}T/\varepsilon$ として $\int_0^\infty f_{\mathrm S}(1/t)\,\dd t/t$)でも $0.69314$($=\ln2$)が得られる.この $\ln2$ は,各2準位系が「$2$ つの状態のどちらか」という自由度 $1$ ビットぶんのエントロピーに相当する.

演習51.7 スピン$1/2$常磁性体:エネルギー・エントロピーと断熱消磁

解答

(1) 2つの準位は $E_\uparrow=-\mu B$,$E_\downarrow=+\mu B$.エネルギーの原点を下の準位 $E_\uparrow$ に取り直すと,準位は $0$ と $\varepsilon=2\mu B$ になる.このときの1個あたりの平均エネルギー(原点からの)は,2準位系の公式 $\varepsilon/(e^{\beta\varepsilon}+1)$ である.原点を $-\mu B$ に戻すには $-\mu B$ を加えればよいので,

$$ \langle E\rangle=-\mu B+\frac{2\mu B}{e^{2\beta\mu B}+1}=\mu B\,\frac{-\left(e^{2\beta\mu B}+1\right)+2}{e^{2\beta\mu B}+1}=-\mu B\,\frac{e^{2\beta\mu B}-1}{e^{2\beta\mu B}+1}=-\mu B\tanh(\beta\mu B) $$

(最後は分子・分母を $e^{\beta\mu B}$ で割った).磁場中のエネルギーは $-\bm m\cdot\bm B$ なので $\langle E\rangle=-\langle m\rangle B$.よって $\langle m\rangle=\mu\tanh(\beta\mu B)$,$N$ 個で $M=N\mu\tanh(\mu B/k_{\mathrm B}T)$.

(2) $Z=z^N$,$z=e^{\beta\mu B}+e^{-\beta\mu B}=2\cosh x$($x=\beta\mu B=\mu B/(k_{\mathrm B}T)$).$U=-N\mu B\tanh x$ なので $U/T=-N(\mu B/T)\tanh x=-Nk_{\mathrm B}x\tanh x$($\mu B/T=k_{\mathrm B}x$).よって

$$ S=k_{\mathrm B}\ln Z+\frac UT=Nk_{\mathrm B}\left[\ln(2\cosh x)-x\tanh x\right] $$

$x\to0$(磁場が弱いか高温):$\cosh x\to1$,$x\tanh x\approx x^2\to0$ なので $S\to Nk_{\mathrm B}\ln2$(向きが完全にばらばら).$x\to\infty$(強磁場か低温):$\cosh x\approx e^x/2$ で $\ln(2\cosh x)\to x$,$\tanh x\to1$ なので $x-x\to0$,$S\to0$(全部が平行にそろう).

(3) 初め $x_{\mathrm i}=\mu_{\mathrm B}B_{\mathrm i}/(k_{\mathrm B}T_{\mathrm i})=9.274\times10^{-24}\times4.0/(1.381\times10^{-23}\times2.0)=1.343$.磁化は $M/(N\mu_{\mathrm B})=\tanh1.343=0.872$(飽和の約 $87\%$).エントロピーは $S/(Nk_{\mathrm B})=\ln(2\cosh1.343)-1.343\tanh1.343=\ln4.093-1.172=0.237$(無磁場の値 $\ln2=0.693$ の約 $34\%$).断熱可逆過程では $S$ が一定で,$S$ は $x$ だけの関数なので $x_{\mathrm f}=x_{\mathrm i}$,すなわち $B/T$ が一定:

$$ T_{\mathrm f}=T_{\mathrm i}\frac{B_{\mathrm f}}{B_{\mathrm i}}=2.0\ \mathrm K\times\frac{0.040}{4.0}=0.020\ \mathrm K=20\ \mathrm{mK} $$

である(ただし,これは理想的な,スピンどうしの相互作用がない場合の結果である).

演習51.8 負温度と2原子分子の比熱

解答

(1) 上の準位が全体の $60\%$ なので $n/N=0.6$,$(N-n)/n=0.4/0.6=2/3$.温度の式 $1/T=(k_{\mathrm B}/\varepsilon)\ln[(N-n)/n]$ より

$$ \frac{1}{T}=\frac{k_{\mathrm B}}{\varepsilon}\ln\frac23=-0.4055\,\frac{k_{\mathrm B}}{\varepsilon}\qquad\therefore\quad T=-\frac{\varepsilon}{0.4055\,k_{\mathrm B}}=-2.47\,\frac{\varepsilon}{k_{\mathrm B}} $$

である.この系(系1,$1/T_1\lt0$)と,正温度の熱浴(系2,$T_2\gt0$,$1/T_2\gt0$)を接触させる.全エネルギーが保存されるので $\dd E_2=-\dd E_1$ で,全エントロピーの変化は

$$ \dd S=\frac{\dd E_1}{T_1}+\frac{\dd E_2}{T_2}=\left(\frac1{T_1}-\frac1{T_2}\right)\dd E_1 $$

である.$1/T_1\lt0\lt1/T_2$ なので括弧の中は負で,エントロピー増大則 $\dd S\ge0$ をみたすには $\dd E_1\lt0$.つまり,系1(負温度)のエネルギーが減り,熱は負温度の系から正温度の熱浴へ流れる.これは,熱浴の温度 $T_2$ がどれほど高くても($1/T_2\to0^+$ でも)変わらない.負温度の系は,どんな正温度の系よりも「熱い」のである.

(2) $x=\theta_{\mathrm{vib}}/T=470/300=1.567$.振動の寄与は

$$ f_{\mathrm E}(1.567)=1.567^2\times\frac{e^{1.567}}{(e^{1.567}-1)^2}=2.455\times\frac{4.791}{(3.791)^2}=2.455\times\frac{4.791}{14.37}\approx0.818 $$

である.$C_{V,\mathrm m}/R=\tfrac32+1+0.818=3.318$,すなわち $C_{V,\mathrm m}=3.318\times8.314\approx27.6\ \mathrm{J/(mol\,K)}$.マイヤーの関係 $C_p=C_V+R$ より,比熱比は $\gamma=(3.318+1)/3.318=1.30$.標準熱力学表の臭素ガスの $C_p\approx36.0\ \mathrm{J/(mol\,K)}$($C_V\approx27.7$,$\gamma\approx1.30$)とよく一致する.窒素・酸素の $\gamma=1.40$ より小さいのは,振動がかなり励起されているためである.

第52章 グランドカノニカル分布と量子統計 — フェルミ分布とボース分布

演習52.1 吸着サイトのラングミュア吸着等温式

解答

(1) 吸着サイトの2つの状態の重みは,グランドカノニカル分布より,空が $e^{0}=1$,吸着が $e^{-\beta(-\varepsilon_0-\mu)}=e^{\beta(\varepsilon_0+\mu)}$ である.したがって吸着している確率(被覆率)は

$$ \theta=\frac{e^{\beta(\varepsilon_0+\mu)}}{1+e^{\beta(\varepsilon_0+\mu)}}=\frac1{1+e^{-\beta(\varepsilon_0+\mu)}} $$

である.単原子分子理想気体の化学ポテンシャルは $\mu=k_{\mathrm B}T\ln(n\lambda_{\mathrm T}^3)$,$n=p/k_{\mathrm B}T$ なので $e^{\beta\mu}=n\lambda_{\mathrm T}^3=p\lambda_{\mathrm T}^3/k_{\mathrm B}T$,したがって $e^{-\beta\mu}=k_{\mathrm B}T/(p\lambda_{\mathrm T}^3)$.これを $\theta$ に代入して,

$$ \theta=\frac1{1+\dfrac{k_{\mathrm B}T}{p\lambda_{\mathrm T}^3}e^{-\varepsilon_0/k_{\mathrm B}T}}=\frac1{1+p_0/p}=\frac p{p+p_0},\qquad p_0=\frac{k_{\mathrm B}T}{\lambda_{\mathrm T}^3}e^{-\varepsilon_0/k_{\mathrm B}T} $$

を得る(分母と分子に $p$ を掛けた).$p\ll p_0$ で $\theta\approx p/p_0$(圧力に比例),$p\gg p_0$ で $\theta\to1$(飽和)となる.$p_0$ は $\theta=\tfrac12$ になる圧力である.

(2) $m=39.948\times1.6605\times10^{-27}=6.634\times10^{-26}\ \mathrm{kg}$,$k_{\mathrm B}T=1.3806\times10^{-23}\times300=4.142\times10^{-21}\ \mathrm J=0.02585\ \mathrm{eV}$.熱的ド・ブロイ波長は

$$ \lambda_{\mathrm T}=\frac h{\sqrt{2\pi mk_{\mathrm B}T}}=\frac{6.626\times10^{-34}}{\sqrt{2\pi\times6.634\times10^{-26}\times4.142\times10^{-21}}}\ \mathrm m=1.595\times10^{-11}\ \mathrm m $$

なので $\lambda_{\mathrm T}^3=4.056\times10^{-33}\ \mathrm{m^3}$,$k_{\mathrm B}T/\lambda_{\mathrm T}^3=4.142\times10^{-21}/4.056\times10^{-33}=1.021\times10^{12}\ \mathrm{Pa}$.指数因子は $e^{-0.40/0.02585}=e^{-15.47}=1.907\times10^{-7}$ なので

$$ p_0=1.021\times10^{12}\ \mathrm{Pa}\times1.907\times10^{-7}=1.95\times10^{5}\ \mathrm{Pa}\approx1.9\ \mathrm{atm} $$

$1\ \mathrm{atm}=1.013\times10^5\ \mathrm{Pa}$ での被覆率は $\theta=1.013\times10^5/(1.013\times10^5+1.947\times10^5)=0.342$.$\theta=0.9$ になるのは $p/(p+p_0)=0.9$ より $p=9p_0=1.75\times10^6\ \mathrm{Pa}\approx17\ \mathrm{atm}$ である.

演習52.2 理想気体の粒子数の分布

解答

(1) 粒子数がちょうど $N$ である確率は,$N$ 粒子系のすべての状態 $j$ の確率の和 $P(N)=\sum_je^{-\beta(E_{j,N}-\mu N)}/\Xi=z^NZ_N/\Xi$.$Z_N=Z_1^N/N!$,$\Xi=e^{zZ_1}$ と,$\bar N=zZ_1$ を使って

$$ P(N)=\frac{(zZ_1)^N}{N!}e^{-zZ_1}=\frac{\bar N^N}{N!}e^{-\bar N}=\frac{4^N}{N!}e^{-4} $$

(ポアソン分布).

(2) $e^{-4}=0.018316$.$P(0)=e^{-4}=0.0183$,$P(4)=\dfrac{4^4}{4!}e^{-4}=\dfrac{256}{24}\times0.018316=10.667\times0.018316=0.1954$.$P(N\ge8)=1-\sum_{N=0}^{7}P(N)$.$P(0),\ldots,P(7)=0.0183,\ 0.0733,\ 0.1465,\ 0.1954,\ 0.1954,\ 0.1563,\ 0.1042,\ 0.0595$ の和は $0.9489$ なので,$P(N\ge8)=1-0.9489=0.0511$.平均 $4$ に対して,$8$ 個以上入っている確率は約 $5\,\%$ である.

(3) $\langle N(N-1)\rangle=e^{-\bar N}\sum_{N\ge2}N(N-1)\dfrac{\bar N^N}{N!}=e^{-\bar N}\sum_{N\ge2}\dfrac{\bar N^N}{(N-2)!}=e^{-\bar N}\bar N^2\sum_{M\ge0}\dfrac{\bar N^M}{M!}=\bar N^2$($N-2=M$ と置いた.$N=0,1$ の項は $N(N-1)=0$).したがって $\langle N^2\rangle=\langle N(N-1)\rangle+\langle N\rangle=\bar N^2+\bar N$,分散は $\langle N^2\rangle-\bar N^2=\bar N$ である.

(4) 空気の数密度は $n=p/k_{\mathrm B}T=2.446\times10^{25}\ \mathrm{m^{-3}}$.$\bar N=nV=4$ より $V=4/n=1.635\times10^{-25}\ \mathrm{m^3}$.立方体の1辺は $V^{1/3}=5.47\times10^{-9}\ \mathrm m\approx5.5\ \mathrm{nm}$.このような微小な領域では,粒子数の相対ゆらぎ $1/\sqrt{\bar N}=50\,\%$ にもなる.

演習52.3 2個の粒子を,エネルギー $0,\varepsilon,2\varepsilon$ の3つの状態に入れる

解答

(1)〜(3) 2個の粒子のエネルギーは,それぞれの入る状態のエネルギーの和である.(1) 区別できる粒子では,各粒子が独立に3つの状態(重み $1,x,x^2$)のどれかに入るので $Z=(1+x+x^2)^2=1+2x+3x^2+2x^3+x^4$.(2) ボース粒子は例題52.7の6通り,$(0,0),(0,\varepsilon),(0,2\varepsilon),(\varepsilon,\varepsilon),(\varepsilon,2\varepsilon),(2\varepsilon,2\varepsilon)$ でエネルギーは $0,\varepsilon,2\varepsilon,2\varepsilon,3\varepsilon,4\varepsilon$ なので $Z_{\mathrm B}=1+x+2x^2+x^3+x^4$.(3) フェルミ粒子は $(0,\varepsilon),(0,2\varepsilon),(\varepsilon,2\varepsilon)$ の3通りで,エネルギーは $\varepsilon,2\varepsilon,3\varepsilon$ なので $Z_{\mathrm F}=x+x^2+x^3$.

(4) 平均エネルギーは $\langle E\rangle=\sum E\,e^{-\beta E}/Z$.$k_{\mathrm B}T=\varepsilon$ では $x=e^{-1}=0.36788$,$x^2=0.13534$,$x^3=0.04979$,$x^4=0.01832$.(1):分子 $0\cdot1+1\cdot2x+2\cdot3x^2+3\cdot2x^3+4x^4=0.7358+0.8120+0.2987+0.0733=1.9198$,$Z=1+0.7358+0.4060+0.0996+0.0183=2.2597$ より $\langle E\rangle=0.850\,\varepsilon$.(2):分子 $x+2\cdot2x^2+3x^3+4x^4=0.3679+0.5413+0.1494+0.0733=1.1318$,$Z_{\mathrm B}=1.7067$ より $0.663\,\varepsilon$.(3):分子 $x+2x^2+3x^3=0.3679+0.2707+0.1494=0.7879$,$Z_{\mathrm F}=0.5530$ より $1.425\,\varepsilon$.$T\to0$($x\to0$)では,最低エネルギーの状態が支配的になり,(1),(2) は $\langle E\rangle\to0$(2個とも基底状態 $0$ に入る),(3) は,2個とも基底状態に入ることが排他原理で禁止されるので,最低の状態 $(0,\varepsilon)$ になり $\langle E\rangle\to\varepsilon$ である.

(5) 2個が同じ状態にいるのは,(1) では $(0,0),(\varepsilon,\varepsilon),(2\varepsilon,2\varepsilon)$ の3つで,重みの和は $1+x^2+x^4=1.1537$,確率は $1.1537/2.2597=0.511$.(2) でも同じ3つの状態で重みの和は $1.1537$,確率は $1.1537/1.7067=0.676$.ボース粒子では,区別できる粒子($0.511$)よりも,2個が同じ状態に入る確率が大きい.「区別できないボース粒子は,同じ状態に集まりやすい」ことの数値による確認である.

演習52.4 半導体の伝導帯の電子の占有確率

解答

$T=300\ \mathrm K$ では $k_{\mathrm B}T=0.02585\ \mathrm{eV}$.伝導帯の底と $\mu$ の差は $E_{\mathrm g}/2$ なので,$x=(E_{\mathrm g}/2)/k_{\mathrm B}T$,占有確率は $f=1/(e^x+1)$.

(1) シリコン $E_{\mathrm g}/2=0.56\ \mathrm{eV}$,$x=0.56/0.02585=21.66$.$e^{21.66}=2.556\times10^{9}$ なので $f=1/(2.556\times10^{9}+1)=3.91\times10^{-10}$.ボルツマン因子は $e^{-21.66}=3.91\times10^{-10}$ で,$e^x\gg1$ のため分母の $1$ は $10^{-9}$ の相対誤差の寄与しかなく,両者は事実上一致する.

(2) ゲルマニウム $E_{\mathrm g}/2=0.33\ \mathrm{eV}$,$x=12.77$,$f=2.86\times10^{-6}$(ボルツマン因子 $e^{-12.77}=2.86\times10^{-6}$).禁制帯が狭いほど,励起されやすく,シリコンより約 $7000$ 倍大きい.

正孔の確率 価電子帯の頂上は $\mu$ の $E_{\mathrm g}/2$ 下にある.そこが空である確率は $1-f(\mu-E_{\mathrm g}/2)$ で,対称性 $f(\mu+\delta)+f(\mu-\delta)=1$(52.5節)より $1-f(\mu-\delta)=f(\mu+\delta)$.つまり $\delta=E_{\mathrm g}/2$ で,伝導帯の底の占有確率と同じ値になる(Si で $3.9\times10^{-10}$,Ge で $2.9\times10^{-6}$).電子1個が伝導帯に励起されるたびに,価電子帯に正孔が1個できるので,これは当然の結果である.

演習52.5 ドナー準位の占有確率 — スピンの縮退を数える

解答

(1) $x=(E_{\mathrm d}-\mu)/k_{\mathrm B}T$ とおく.状態は,空(電子数 $0$,エネルギー $0$),上向き1個と下向き1個(電子数 $1$,エネルギー $E_{\mathrm d}$,2通り)の3つで,大分配関数は

$$ \Xi_{\mathrm d}=1+2e^{-\beta(E_{\mathrm d}-\mu)}=1+2e^{-x} $$

である.電子が1個いる確率が $2e^{-x}/\Xi_{\mathrm d}$ で,このときの電子数が $1$ なので,

$$ \langle n_{\mathrm d}\rangle=\frac{2e^{-x}}{1+2e^{-x}}=\frac{1}{1+\tfrac12e^{x}} $$

となる(分子・分母を $2e^{-x}$ で割った).$\langle n_{\mathrm d}\rangle=k_{\mathrm B}T\,\partial\ln\Xi_{\mathrm d}/\partial\mu$ でも同じ結果が得られる.

(2) $x=0.030/0.02585=1.160$,$e^x=3.191$ なので,

$$ \langle n_{\mathrm d}\rangle=\frac1{1+\tfrac12\times3.191}=\frac1{1+1.596}=0.385 $$

である.スピンの縮退を考えない通常のフェルミ分布では $1/(e^x+1)=1/(3.191+1)=0.239$ で,縮退を数えた値は約 $1.6$ 倍大きい.

(3) ドナー準位に電子が入る状態が,上向きと下向きの2通りあるので,「電子がいる」状態の重みが2倍になり,占有されやすくなる.これは $\tfrac12e^{x}=e^{x-\ln2}$ と書けることから,$E_{\mathrm d}-\mu$ が $k_{\mathrm B}T\ln2=0.018\ \mathrm{eV}$ だけ小さくなったのと同じ効果である.通常のフェルミ分布は,スピンを指定した1つの状態が占有される確率であり,ドナーのように「2つのスピン状態のどちらか一方にしか入れない(両方同時には入れない)」準位では,この $\tfrac12$ の因子が現れる.

演習52.6 2次元電子気体

解答

(1) 一辺 $L$ の正方形(面積 $L^2$)では,許される波数は $k_x=n_x\pi/L$,$k_y=n_y\pi/L$($n_x,n_y=1,2,\ldots$)で,波数空間の1格子点の面積は $(\pi/L)^2$.波数の大きさが $k$ 以下の状態は,第1象限の $1/4$ 円(面積 $\pi k^2/4$)の格子点なので,軌道の数は $\dfrac{\pi k^2/4}{(\pi/L)^2}=\dfrac{L^2k^2}{4\pi}$.スピン $2$ 通りを掛けて $N(\varepsilon)=\dfrac{L^2k^2}{2\pi}$.$k^2=2m\varepsilon/\hbar^2$ を代入すると $N(\varepsilon)=\dfrac{mL^2}{\pi\hbar^2}\varepsilon$ で,$\varepsilon$ の1次式.微分して $g(\varepsilon)=\dfrac{\dd N}{\dd\varepsilon}=\dfrac{mL^2}{\pi\hbar^2}$(一定)となる.

(2) $T=0$ では $N=\int_0^{E_{\mathrm F}}g\dd\varepsilon=gE_{\mathrm F}$.$N=n_2L^2$ より $n_2L^2=\dfrac{mL^2}{\pi\hbar^2}E_{\mathrm F}$,すなわち $E_{\mathrm F}=\dfrac{\pi\hbar^2n_2}m$(このとき $k_{\mathrm F}^2=2\pi n_2$).

(3) $z=e^{\mu/k_{\mathrm B}T}$,$y=e^{-\varepsilon/k_{\mathrm B}T}$ とおくと,$f=\dfrac1{e^{(\varepsilon-\mu)/k_{\mathrm B}T}+1}=\dfrac{zy}{1+zy}$(分子分母に $y$ を掛けた),$\dd\varepsilon=-k_{\mathrm B}T\,\dd y/y$.$\varepsilon:0\to\infty$ は $y:1\to0$ なので

$$ \int_0^\infty f\dd\varepsilon=k_{\mathrm B}T\int_0^1\frac{z}{1+zy}\dd y=k_{\mathrm B}T\bigl[\ln(1+zy)\bigr]_0^1=k_{\mathrm B}T\ln\bigl(1+e^{\mu/k_{\mathrm B}T}\bigr) $$

である.$N=g\int f\dd\varepsilon=gE_{\mathrm F}$ より $k_{\mathrm B}T\ln(1+e^{\mu/k_{\mathrm B}T})=E_{\mathrm F}$.$e^{\mu/k_{\mathrm B}T}=e^{E_{\mathrm F}/k_{\mathrm B}T}-1$ を解いて,$\mu=k_{\mathrm B}T\ln\bigl(e^{E_{\mathrm F}/k_{\mathrm B}T}-1\bigr)$.低温では $\mu=E_{\mathrm F}+k_{\mathrm B}T\ln(1-e^{-E_{\mathrm F}/k_{\mathrm B}T})\approx E_{\mathrm F}-k_{\mathrm B}Te^{-E_{\mathrm F}/k_{\mathrm B}T}$ となり,3次元($T^2$ に比例するずれ,52.9節)と違って,ずれは指数関数的に小さい(状態密度が一定なので,$\mu$ の $T^2$ の補正が $g'(E_{\mathrm F})=0$ から消える).たとえば $k_{\mathrm B}T=0.5E_{\mathrm F}$ で $\mu=0.927E_{\mathrm F}$,$k_{\mathrm B}T=E_{\mathrm F}$ で $\mu=0.541E_{\mathrm F}$ である.

(4) $n_2=3\times10^{11}\ \mathrm{cm^{-2}}=3\times10^{15}\ \mathrm{m^{-2}}$,$m^*=0.067\times9.109\times10^{-31}=6.10\times10^{-32}\ \mathrm{kg}$.$E_{\mathrm F}=\pi\hbar^2n_2/m^*=\pi\times(1.0546\times10^{-34})^2\times3\times10^{15}/6.10\times10^{-32}\ \mathrm J=1.72\times10^{-21}\ \mathrm J=10.7\ \mathrm{meV}$.$T_{\mathrm F}=E_{\mathrm F}/k_{\mathrm B}=1.72\times10^{-21}/1.381\times10^{-23}=124\ \mathrm K$.したがって液体ヘリウム温度($4.2\ \mathrm K$)では強く縮退しており,室温($300\ \mathrm K>T_{\mathrm F}$)ではもう縮退していない.

演習52.7 アルミニウムの電子比熱

解答

(1) 原子数密度は $\dfrac{2.70\times10^{3}\ \mathrm{kg/m^3}}{26.98\times10^{-3}\ \mathrm{kg/mol}}\times6.022\times10^{23}\ \mathrm{mol^{-1}}=6.03\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}$.価電子数 $3$ を掛けて,電子の数密度は $n=1.81\times10^{29}\ \mathrm{m^{-3}}$.

(2) $k_{\mathrm F}=(3\pi^2n)^{1/3}=(3\times9.870\times1.808\times10^{29})^{1/3}=(5.353\times10^{30})^{1/3}=1.749\times10^{10}\ \mathrm{m^{-1}}$.$E_{\mathrm F}=\dfrac{\hbar^2k_{\mathrm F}^2}{2m}=\dfrac{(1.0546\times10^{-34})^2\times(1.749\times10^{10})^2}{2\times9.109\times10^{-31}}=1.867\times10^{-18}\ \mathrm J=11.7\ \mathrm{eV}$.$T_{\mathrm F}=E_{\mathrm F}/k_{\mathrm B}=1.867\times10^{-18}/1.381\times10^{-23}=1.35\times10^5\ \mathrm K$.

(3) $1\ \mathrm{mol}$ の原子で $N=3N_{\mathrm A}$ なので,$Nk_{\mathrm B}=3R$.$\gamma=\dfrac{\pi^2}2\dfrac{3R}{T_{\mathrm F}}=4.935\times\dfrac{3\times8.314}{1.353\times10^5}=9.10\times10^{-4}\ \mathrm{J/(mol\,K^2)}=0.91\ \mathrm{mJ/(mol\,K^2)}$.$T=300\ \mathrm K$ の電子比熱は $\gamma T=0.273\ \mathrm{J/(mol\,K)}$.古典値 $\tfrac32\times3R=37.4\ \mathrm{J/(mol\,K)}$ の $0.273/37.4=0.73\,\%$ である.銅($1.2\,\%$,例題52.16)より小さいのは,アルミニウムのほうが $T_{\mathrm F}$ が高い(電子密度が高い)ため,$T/T_{\mathrm F}$ が小さく,縮退がより強いことによる.

演習52.8 フェルミ気体の $T_{\mathrm F}$ とボース気体の $T_{\mathrm c}$ の比較

解答

ヒントの2式の比をとると,$m,n,\hbar,k_{\mathrm B}$ が消えて

$$ \frac{T_{\mathrm c}}{T_{\mathrm F}}=\frac{2\pi\,\zeta(\tfrac32)^{-2/3}}{(3\pi^2)^{2/3}/2}=\frac{4\pi}{\bigl(3\pi^2\zeta(\tfrac32)\bigr)^{2/3}} $$

である.数値は $3\pi^2\zeta(\tfrac32)=3\times9.8696\times2.6124=77.35$,$77.35^{2/3}=18.15$($77.35^{1/3}=4.26$,その2乗),$4\pi=12.57$ なので $T_{\mathrm c}/T_{\mathrm F}=12.57/18.15=0.692$.

ヘリウム3($m=3.016\times1.6605\times10^{-27}=5.008\times10^{-27}\ \mathrm{kg}$),$n=1.6\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}$ では,$(3\pi^2n)^{2/3}=(4.738\times10^{29})^{2/3}=6.08\times10^{19}\ \mathrm{m^{-2}}$,$\dfrac{\hbar^2}{2mk_{\mathrm B}}=\dfrac{(1.0546\times10^{-34})^2}{2\times5.008\times10^{-27}\times1.381\times10^{-23}}=8.04\times10^{-20}\ \mathrm{m^2\,K}$ より $T_{\mathrm F}=8.04\times10^{-20}\times6.08\times10^{19}\ \mathrm K=4.9\ \mathrm K$(自由フェルミ気体としての見積もり).

結論:質量と密度が同じなら,フェルミ気体の縮退温度 $T_{\mathrm F}$ とボース気体の凝縮温度 $T_{\mathrm c}$ は同じ桁($T_{\mathrm c}\approx0.7\,T_{\mathrm F}$)である.どちらも「熱的ド・ブロイ波長 $\lambda_{\mathrm T}$ が粒子間距離 $n^{-1/3}$ と同程度になる温度」($n\lambda_{\mathrm T}^3\sim1$)で,縮退が始まるからである.縮退が始まる温度は粒子の型によらず決まり,型の違いは,縮退したあとの振る舞い(フェルミ:階段関数のフェルミ球,ボース:凝縮)に現れる.

演習52.9 貯蔵庫が理想気体のとき,$\beta$ と $\mu$ を確かめる

解答

(1) $N_R,V_R,E_R$ を $N,V,E$ と略す.$\ln\Omega_R=S_R/k_{\mathrm B}=N\bigl[\ln V+\tfrac32\ln E-\tfrac52\ln N+\tfrac32\ln\tfrac{4\pi m}{3h^2}+\tfrac52\bigr]$($\ln(V/N)=\ln V-\ln N$ と,$\tfrac32\ln\tfrac{4\pi mE}{3Nh^2}=\tfrac32\ln E-\tfrac32\ln N+\tfrac32\ln\tfrac{4\pi m}{3h^2}$ を使った).$E$ で微分すると

$$ \left(\pdiff{\ln\Omega_R}{E}\right)_{N}=\frac{3N}{2E} $$

$N$ で微分すると,積の微分公式より $[\ ]$ の中身そのものと,$N\times\bigl(-\tfrac5{2N}\bigr)=-\tfrac52$ の和になり,$+\tfrac52$ と打ち消し合って

$$ \left(\pdiff{\ln\Omega_R}{N}\right)_{E}=\ln V+\frac32\ln E-\frac52\ln N+\frac32\ln\frac{4\pi m}{3h^2}=\ln\left\{\frac VN\left(\frac{4\pi mE}{3Nh^2}\right)^{3/2}\right\} $$

(2) $E=\tfrac32Nk_{\mathrm B}T$ を代入すると,第1式は $\dfrac{3N}{2\cdot\frac32Nk_{\mathrm B}T}=\dfrac1{k_{\mathrm B}T}=\beta$.第2式では $\dfrac{4\pi mE}{3Nh^2}=\dfrac{4\pi m\cdot\frac32Nk_{\mathrm B}T}{3Nh^2}=\dfrac{2\pi mk_{\mathrm B}T}{h^2}=\dfrac1{\lambda_{\mathrm T}^2}$ なので,中身は $\dfrac VN\dfrac1{\lambda_{\mathrm T}^3}=\dfrac1{n\lambda_{\mathrm T}^3}$,したがって第2式は $-\ln(n\lambda_{\mathrm T}^3)=-\beta\mu$($\mu=k_{\mathrm B}T\ln(n\lambda_{\mathrm T}^3)$).52.1節のテイラー展開の1次の項は,$-E_{j,N}\times\beta-N\times(-\beta\mu)=-\beta(E_{j,N}-\mu N)$ なので,$P_{j,N}\propto\Omega_R\propto\exp\bigl[-\beta(E_{j,N}-\mu N)\bigr]$ が得られる.

(3) $E_{j,N}=0$,$N=1$ なら,$\ln\Omega_R$ の変化は $-1\times(-\beta\mu)=\beta\mu$ なので,貯蔵庫の状態数は $e^{\beta\mu}=n\lambda_{\mathrm T}^3$ 倍になる.ヘリウム4ガス($300\ \mathrm K$,$1\ \mathrm{atm}$)では,表52.3の値 $n\lambda_{\mathrm T}^3=3.1\times10^{-6}$($\mu=-12.7\,k_{\mathrm B}T$).貯蔵庫の状態数は約 $3\times10^{-6}$ 倍,つまり約 $32$ 万分の1に減る.粒子を1個手放すと,貯蔵庫の選べる状態(場所)がそれだけ減るので,系 $s$ に粒子が入っている状態は,空の状態に比べて実現しにくい.

演習52.10 2つの軌道をもつフェルミ粒子系の大分配関数

解答

(1) 占有数の組 $(n_1,n_2)$($n_i=0,1$)は4通りである.$(0,0)$:$N=0$,$E=0$,重み $1$.$(1,0)$:$N=1$,$E=0$,重み $z$.$(0,1)$:$N=1$,$E=\varepsilon$,重み $zx$.$(1,1)$:$N=2$,$E=\varepsilon$,重み $z^2x$($e^{-\beta(E-\mu N)}=e^{-\beta\varepsilon}e^{2\beta\mu}$).したがって

$$ \Xi=1+z+zx+z^2x=(1+z)+zx(1+z)=(1+z)(1+zx) $$

と因数分解できる.これは,各1粒子状態の大分配関数 $\Xi_1=1+z$(エネルギー $0$),$\Xi_2=1+zx=1+e^{-\beta(\varepsilon-\mu)}$ の積 $\Xi=\Xi_1\Xi_2$ である(52.4節の $\Xi=\prod_i\Xi_i$ に相当).

(2) $\ln\Xi=\ln(1+z)+\ln(1+zx)$.$\partial/\partial\mu=\beta z\,\partial/\partial z$ なので,$\langle N\rangle=k_{\mathrm B}T\,\partial\ln\Xi/\partial\mu=z\,\partial\ln\Xi/\partial z=\dfrac z{1+z}+\dfrac{zx}{1+zx}$.分子分母を $z$(第2項は $zx$)で割ると,$\dfrac1{z^{-1}+1}+\dfrac1{(zx)^{-1}+1}$.$z^{-1}=e^{-\beta\mu}=e^{\beta(0-\mu)}$,$(zx)^{-1}=e^{\beta(\varepsilon-\mu)}$ なので,これは $f(0)+f(\varepsilon)$ そのものである.

(3) $k_{\mathrm B}T=\varepsilon$ なら $\beta\varepsilon=1$,$\mu=\varepsilon/2$ なら $z=e^{1/2}=1.6487$,$x=e^{-1}=0.36788$,$zx=0.60653$.$f(0)=z/(1+z)=1.6487/2.6487=0.6225$,$f(\varepsilon)=zx/(1+zx)=0.60653/1.60653=0.3775$.合計は $\langle N\rangle=0.6225+0.3775=1.0000$.ちょうど $1$ になるのは,$\mu=\varepsilon/2$ が2つの準位の中間で,対称性 $f(\mu+\delta)+f(\mu-\delta)=1$(52.5節,$\delta=\varepsilon/2$)が使えるからである.2個とも入っている確率は,状態 $(1,1)$ の重み $z^2x=e\times e^{-1}=1.0000$ を $\Xi=(1+z)(1+zx)=2.6487\times1.6065=4.2552$ で割って $0.2350$.これは $f(0)f(\varepsilon)=0.6225\times0.3775=0.2350$ と一致し,2つの準位が独立であることを表している.

演習52.11 2次元理想気体の $\Xi$,$\mu$,圧力

解答

(1) 例題52.2と同じ手順で,$\Xi=\sum_Nz^NZ_N=\sum_N\dfrac{(zZ_1)^N}{N!}=e^{zZ_1}=\exp\bigl(zS/\lambda_{\mathrm T}^2\bigr)$($z=e^{\beta\mu}$).

(2) $\ln\Xi=zS/\lambda_{\mathrm T}^2$.$\partial z/\partial\mu=\beta z$ なので,$N=k_{\mathrm B}T\,\partial\ln\Xi/\partial\mu=k_{\mathrm B}T\cdot\beta zS/\lambda_{\mathrm T}^2=zS/\lambda_{\mathrm T}^2$.したがって $z=e^{\beta\mu}=N\lambda_{\mathrm T}^2/S=n_2\lambda_{\mathrm T}^2$,$\mu=k_{\mathrm B}T\ln(n_2\lambda_{\mathrm T}^2)$.

(3) $J=-k_{\mathrm B}T\ln\Xi=-k_{\mathrm B}T\,zS/\lambda_{\mathrm T}^2=-k_{\mathrm B}TN$.一方 $J=-\Pi S$ なので $\Pi S=Nk_{\mathrm B}T$,すなわち $\Pi=n_2k_{\mathrm B}T$(2次元の状態方程式).$T,\mu$ を固定すると $J$ は $S$ に比例するので,$\Pi=-(\partial J/\partial S)_{T,\mu}=k_{\mathrm B}Tz/\lambda_{\mathrm T}^2=n_2k_{\mathrm B}T$ としても同じである.単位は,$n_2k_{\mathrm B}T$ が $\mathrm{m^{-2}\cdot J}=\mathrm{N/m}$ で,単位長さあたりの力と一致する.

(4) $m=39.948\times1.6605\times10^{-27}=6.634\times10^{-26}\ \mathrm{kg}$,$\lambda_{\mathrm T}=1.595\times10^{-11}\ \mathrm m$(演習52.1と同じ).$n_2\lambda_{\mathrm T}^2=10^{16}\times(1.595\times10^{-11})^2=2.543\times10^{-6}$.$\ln(2.543\times10^{-6})=-12.88$ なので,$\mu=-12.88\,k_{\mathrm B}T=-12.88\times0.02585\ \mathrm{eV}=-0.333\ \mathrm{eV}$.表面圧は $\Pi=n_2k_{\mathrm B}T=10^{16}\times4.142\times10^{-21}\ \mathrm{N/m}=4.14\times10^{-5}\ \mathrm{N/m}$($0.041\ \mathrm{mN/m}$).

演習52.12 低温でフェルミ分布が階段関数になる様子

解答

(1) $\beta=1/k_{\mathrm B}T$ として,指数の肩は $\beta(\varepsilon-\mu)$.$\varepsilon\lt\mu$ なら $\varepsilon-\mu\lt0$ なので,$\beta\to\infty$ で $\beta(\varepsilon-\mu)\to-\infty$,$e^{\beta(\varepsilon-\mu)}\to0$,したがって $f\to1/(0+1)=1$.$\varepsilon\gt\mu$ なら $\beta(\varepsilon-\mu)\to+\infty$,$e^{\beta(\varepsilon-\mu)}\to\infty$,$f\to0$.$\varepsilon=\mu$ では,どんな $T$ でも指数の肩が $0$ で $e^0=1$,$f=\tfrac12$ である(階段の飛びの真ん中).

(2) $x=(\varepsilon/\mu-1)/(k_{\mathrm B}T/\mu)$ を計算して $f=1/(e^x+1)$ に入れる.

$k_{\mathrm B}T/\mu$$\varepsilon/\mu=0.9$$0.99$$1.01$$1.1$
$0.1$($x=-1,\,-0.1,\,+0.1,\,+1$)$0.7311$$0.5250$$0.4750$$0.2689$
$0.01$($x=-10,\,-1,\,+1,\,+10$)$0.99995$$0.7311$$0.2689$$4.5\times10^{-5}$

温度を $1/10$ にすると,$\mu$ から同じ距離($\varepsilon/\mu=0.9$ や $1.1$)の値が,$0.73\to0.99995$,$0.27\to4.5\times10^{-5}$ と,$1$ と $0$ に張りつく.遷移の幅($f=0.9$ から $0.1$ まで.$4.4\,k_{\mathrm B}T$)も $1/10$ になり,$T\to0$ で階段関数になる.また,$f(\mu+\delta)+f(\mu-\delta)=1$(例:$0.7311+0.2689=1$)が表のどの列の組でも成り立っている.

演習52.13 2次元の理想ボース気体では,なぜ凝縮が起こらないか

解答

(1) 平均粒子数は $N=\int_0^\infty g(\varepsilon)\langle n_\varepsilon\rangle\dd\varepsilon$($\langle n_\varepsilon\rangle=1/(e^{(\varepsilon-\mu)/k_{\mathrm B}T}-1)$)である.$x=\varepsilon/k_{\mathrm B}T$ と変数変換し,ヒントの積分を使うと,

$$ N=\frac{Am}{2\pi\hbar^2}\,k_{\mathrm B}T\int_0^\infty\frac{\dd x}{z^{-1}e^{x}-1}=\frac{Amk_{\mathrm B}T}{2\pi\hbar^2}\bigl[-\ln(1-z)\bigr] $$

となる.$\lambda_{\mathrm T}^2=2\pi\hbar^2/(mk_{\mathrm B}T)$($h=2\pi\hbar$ を使うと $\lambda_{\mathrm T}^2=h^2/(2\pi mk_{\mathrm B}T)$ と同じ)より,

$$ n=\frac NA=\frac{-\ln(1-z)}{\lambda_{\mathrm T}^2} $$

である.(ヒントの積分は,$\dfrac{1}{z^{-1}e^x-1}=\dfrac{ze^{-x}}{1-ze^{-x}}$ が $\dfrac{\dd}{\dd x}\ln(1-ze^{-x})$ に等しいことから,$\bigl[\ln(1-ze^{-x})\bigr]_0^\infty=0-\ln(1-z)$ と求まる.)

(2) $-\ln(1-z)=n\lambda_{\mathrm T}^2$ より,

$$ z=1-\exp\left(-n\lambda_{\mathrm T}^2\right) $$

である.$n\lambda_{\mathrm T}^2\ll1$ では $z\approx n\lambda_{\mathrm T}^2$(古典理想気体の結果と同じ形)になる.

(3) $n$ と $T$ がどんな有限の値でも,$n\lambda_{\mathrm T}^2$ は有限なので $z=1-e^{-n\lambda_{\mathrm T}^2}\lt1$,すなわち $\mu\lt0$ である.$z\to1$($\mu\to0$)となるのは $n\lambda_{\mathrm T}^2\to\infty$,つまり $T\to0$ の極限だけである.3次元では,$\mu\to0$ としても励起状態に入れる粒子数の上限 $\int g(\varepsilon)/(e^{\varepsilon/k_{\mathrm B}T}-1)\dd\varepsilon$ が有限($\propto\zeta(3/2)$)なので,それを超えた粒子は基底状態に落ちる(凝縮).2次元では,状態密度が一定で $\varepsilon\to0$ で $\int\dd\varepsilon/\varepsilon$ が対数的に発散するため,$\mu\to0$ に近づけば励起状態だけでいくらでも粒子を収容できる.したがって,どんな密度でも励起状態が全粒子を受け入れられ,有限温度で基底状態に巨視的な数の粒子が集まること(凝縮)は起こらない.

(4) $n\lambda_{\mathrm T}^2=1$ のとき,$z=1-e^{-1}=1-0.3679=0.632$,$\mu/k_{\mathrm B}T=\ln z=-0.459$ である.同じ $n\lambda_{\mathrm T}^2=1$ を古典理想気体の式 $z=n\lambda_{\mathrm T}^2$ に代入すると $z=1$($\mu=0$)になってしまうので,ボース分布では,古典近似よりも $z$ が小さくなる($\mu$ が低い).

第53章 光子とフォノンの統計 — 黒体放射とデバイ模型

演習53.1 光子の $\mu=0$ と平均光子数

解答

(a) 化学ポテンシャルは $\mu=(\partial A/\partial N)_{T,V}$,つまり温度と体積を一定にして粒子を1個加えたときの自由エネルギー $A$ の変化である.普通の気体では粒子数 $N$ が外から与えられているので $\mu$ は一般に $0$ ではない.しかし,空洞の壁は光子を自由に吸収・放出するので,光子の数 $N$ は保存されず,熱平衡では $N$ は自由エネルギーが最小になるように自分で決まる.$A(T,V,N)$ が $N$ の関数として最小になる点では $\partial A/\partial N=0$ である.これがそのまま $\mu=0$ を意味する.別の見方をすると,1つのモードの分配関数 $\sum_{n=0}^\infty e^{-\beta\hbar\omega n}$ は光子数 $n$ に何の制限もつけずに和をとったものであり,グランドカノニカル分布の因子 $e^{\beta\mu n}$ で $\mu=0$ とおいた形をしている.

(b) 平均光子数は $\langle n\rangle=1/(e^x-1)$,平均エネルギーは $h\nu\langle n\rangle=k_{\mathrm B}T\cdot x/(e^x-1)$($x=h\nu/k_{\mathrm B}T$)である.

$x=1$ のとき,$e^1-1=1.71828$ より $\langle n\rangle=0.5820$,平均エネルギーは $1\times0.5820\,k_{\mathrm B}T=0.582\,k_{\mathrm B}T$.

$x=5$ のとき,$e^5-1=147.413$ より $\langle n\rangle=6.78\times10^{-3}$,平均エネルギーは $5\times6.78\times10^{-3}\,k_{\mathrm B}T=0.0339\,k_{\mathrm B}T$.

等分配則の値 $k_{\mathrm B}T$ に比べて,$x=1$ で約 $58\%$,$x=5$ で約 $3.4\%$ しかない.$x\to0$ では $x/(e^x-1)\to1$ で等分配則の値に一致するので,$h\nu\ll k_{\mathrm B}T$ のモードだけが古典的に振る舞い,$h\nu$ が大きいモードは凍結していることが確かめられた.

演習53.2 プランクの式の波長表示とピークの違い

解答

(a) プランクの式 $u(\nu,T)\,\dd\nu=\dfrac{8\pi h\nu^3}{c^3}\dfrac{1}{e^{h\nu/k_{\mathrm B}T}-1}\dd\nu$ に $\nu=c/\lambda$ を代入する.$\nu^3=c^3/\lambda^3$,$\abs{\dd\nu}=(c/\lambda^2)\,\dd\lambda$($\nu=c/\lambda$ を $\lambda$ で微分すると $-c/\lambda^2$)なので,

$$ \frac{8\pi h}{c^3}\cdot\frac{c^3}{\lambda^3}\cdot\frac{c}{\lambda^2}\,\dd\lambda=\frac{8\pi hc}{\lambda^5}\,\dd\lambda,\qquad\frac{h\nu}{k_{\mathrm B}T}=\frac{hc}{\lambda k_{\mathrm B}T} $$

となる.したがって $u(\lambda,T)\,\dd\lambda=\dfrac{8\pi hc}{\lambda^5}\dfrac{1}{e^{hc/(\lambda k_{\mathrm B}T)}-1}\dd\lambda$ である.

(b) $u(\nu,T)$ が最大になる条件は $x=3(1-e^{-x})$($x=h\nu/k_{\mathrm B}T$)で,解は $x_\nu=2.8214$.よって

$$ \nu_{\max}=\frac{x_\nu k_{\mathrm B}T}{h}=\frac{2.8214\times1.380649\times10^{-23}\times5772}{6.62607\times10^{-34}}=3.393\times10^{14}\ \mathrm{Hz} $$

対応する波長は $c/\nu_{\max}=2.998\times10^{8}/3.393\times10^{14}=8.83\times10^{-7}\ \mathrm m=883\ \mathrm{nm}$(近赤外).一方,$u(\lambda,T)$ のピークは変位則から $\lambda_{\max}=b/T=2.898\times10^{-3}/5772=5.02\times10^{-7}\ \mathrm m=502\ \mathrm{nm}$(可視光)である.$883\ \mathrm{nm}$ と $502\ \mathrm{nm}$ は一致しない.比は $883/502=1.76$ で,これは $x_\lambda/x_\nu=4.965/2.821=1.760$ と一致する.同じスペクトルでも,単位振動数あたりで見るか単位波長あたりで見るかで,$\dd\nu=(c/\lambda^2)\,\dd\lambda$ のヤコビアンのせいでピークの位置が変わるのである.

演習53.3 シュテファン=ボルツマン定数とその使い方

解答

(a) $x=h\nu/(k_{\mathrm B}T)$ とおくと $\nu=(k_{\mathrm B}T/h)x$,$\dd\nu=(k_{\mathrm B}T/h)\dd x$,積分範囲は $0\to\infty$ のまま.

$$ u(T)=\frac{8\pi h}{c^3}\int_0^\infty\frac{\nu^3\,\dd\nu}{e^{h\nu/k_{\mathrm B}T}-1}=\frac{8\pi h}{c^3}\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{h}\right)^4\int_0^\infty\frac{x^3}{e^x-1}\dd x=\frac{8\pi(k_{\mathrm B}T)^4}{h^3c^3}\cdot\Gamma(4)\zeta(4) $$

第47章の公式47.4($p=3$)より $\Gamma(4)\zeta(4)=3!\times\pi^4/90=\pi^4/15$.よって $u(T)=\dfrac{8\pi^5k_{\mathrm B}^4}{15h^3c^3}T^4=aT^4$.$T^4$ が積分の外に出るのは,$\nu^3\,\dd\nu$ から $(k_{\mathrm B}T/h)^3\cdot(k_{\mathrm B}T/h)$ が出るためで,残った $x$ の積分は温度によらない数だからである.

(b) $\sigma=\dfrac c4a=\dfrac c4\cdot\dfrac{8\pi^5k_{\mathrm B}^4}{15h^3c^3}=\dfrac{2\pi^5k_{\mathrm B}^4}{15h^3c^2}$.数値は $a=7.566\times10^{-16}\ \mathrm{J\,m^{-3}K^{-4}}$,$c/4=7.4948\times10^{7}\ \mathrm{m/s}$ より $\sigma=7.566\times10^{-16}\times7.4948\times10^{7}=5.670\times10^{-8}\ \mathrm{W\,m^{-2}K^{-4}}$.

(c) $j=\sigma T^4=5.670\times10^{-8}\times(300)^4=5.670\times10^{-8}\times8.1\times10^{9}=459\ \mathrm{W/m^2}$.$1\ \mathrm{m^2}$ あたり約 $459\ \mathrm W$ である.温度が $10\%$ 上がると $T\to1.1\,T$ で,$j\to1.1^4j=1.4641\,j$,すなわち約 $1.46$ 倍($46\%$ 増)になる(約 $672\ \mathrm{W/m^2}$).温度のわずかな上昇が放射パワーを大きく増やす.

演習53.4 光子の数密度と光子1個あたりの平均エネルギー

解答

単位体積あたりの光子数は,「モードの数」×「1モードの平均光子数」を足し合わせて体積で割ったものである:

$$ n_\gamma=\frac1V\int_0^\infty g(\omega)\langle n\rangle\dd\omega=\frac{1}{\pi^2c^3}\int_0^\infty\frac{\omega^2\,\dd\omega}{e^{\hbar\omega/k_{\mathrm B}T}-1} $$

ここで $g(\omega)=V\omega^2/(\pi^2c^3)$,$\langle n\rangle=1/(e^{\hbar\omega/k_{\mathrm B}T}-1)$ を使った.$x=\hbar\omega/k_{\mathrm B}T$ とおくと $\omega^2\dd\omega=(k_{\mathrm B}T/\hbar)^3x^2\dd x$ で,公式47.4($p=2$)より $\int_0^\infty x^2/(e^x-1)\,\dd x=\Gamma(3)\zeta(3)=2\zeta(3)$ だから,

$$ n_\gamma=\frac{1}{\pi^2c^3}\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{\hbar}\right)^3\cdot2\zeta(3)=\frac{2\zeta(3)}{\pi^2}\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{\hbar c}\right)^3 $$

係数は $2\zeta(3)/\pi^2=2\times1.2021/9.8696=0.2436$ である.

(a) $T=300\ \mathrm K$:$k_{\mathrm B}T=4.142\times10^{-21}\ \mathrm J$,$\hbar c=1.0546\times10^{-34}\times2.998\times10^{8}=3.1615\times10^{-26}\ \mathrm{J\,m}$,$k_{\mathrm B}T/(\hbar c)=1.310\times10^{5}\ \mathrm{m^{-1}}$,その3乗は $2.249\times10^{15}$ で,$n_\gamma=0.2436\times2.249\times10^{15}=5.5\times10^{14}\ \mathrm{m^{-3}}$.

(b) $T=5772\ \mathrm K$:$k_{\mathrm B}T=7.969\times10^{-20}\ \mathrm J$,$k_{\mathrm B}T/(\hbar c)=2.521\times10^{6}\ \mathrm{m^{-1}}$,3乗は $1.602\times10^{19}$ で,$n_\gamma=0.2436\times1.602\times10^{19}=3.9\times10^{18}\ \mathrm{m^{-3}}$.

(c) $u=aT^4=\dfrac{\pi^2(k_{\mathrm B}T)^4}{15\hbar^3c^3}$($a=8\pi^5k_{\mathrm B}^4/(15h^3c^3)$ を $h=2\pi\hbar$ で書き直した)なので,

$$ \frac{u}{n_\gamma}=\frac{\pi^2(k_{\mathrm B}T)^4}{15\hbar^3c^3}\cdot\frac{\pi^2}{2\zeta(3)}\frac{(\hbar c)^3}{(k_{\mathrm B}T)^3}=\frac{\pi^4}{30\,\zeta(3)}k_{\mathrm B}T=\frac{97.409}{30\times1.2021}k_{\mathrm B}T=2.70\,k_{\mathrm B}T $$

である.光子1個あたりの平均エネルギーは $k_{\mathrm B}T$ の約 $2.7$ 倍で,温度によらない.

演習53.5 デバイ模型の状態密度とデバイ温度

解答

(a) $\displaystyle\int_0^{\omega_{\mathrm D}}C\omega^2\,\dd\omega=\dfrac{C\omega_{\mathrm D}^3}{3}=3N$ より $C=\dfrac{9N}{\omega_{\mathrm D}^3}$.よって $g(\omega)=9N\omega^2/\omega_{\mathrm D}^3$($0\le\omega\le\omega_{\mathrm D}$)である.

(b) $c_{\mathrm l}=6.0\ \mathrm{km/s}$,$c_{\mathrm t}=3.0\ \mathrm{km/s}$ を $\mathrm{km/s}$ 単位で使うと,

$$ \frac{3}{c_s^3}=\frac1{6.0^3}+\frac{2}{3.0^3}=4.630\times10^{-3}+7.407\times10^{-2}=7.870\times10^{-2}\ (\mathrm{km/s})^{-3} $$

より $c_s^3=38.12\ (\mathrm{km/s})^3$,$c_s=3.365\ \mathrm{km/s}=3.365\times10^{3}\ \mathrm{m/s}$.波数の上限は $k_{\mathrm D}=(6\pi^2n)^{1/3}=(59.22\times6.0\times10^{28})^{1/3}=(3.553\times10^{30})^{1/3}=1.526\times10^{10}\ \mathrm{m^{-1}}$.したがって

$$ \omega_{\mathrm D}=c_sk_{\mathrm D}=3.365\times10^{3}\times1.526\times10^{10}=5.14\times10^{13}\ \mathrm{rad/s} $$ $$ \theta_{\mathrm D}=\frac{\hbar\omega_{\mathrm D}}{k_{\mathrm B}}=\frac{1.0546\times10^{-34}\times5.14\times10^{13}}{1.3806\times10^{-23}}=3.9\times10^{2}\ \mathrm K $$

(約 $392\ \mathrm K$).最短の波長は $2\pi/k_{\mathrm D}=2\pi/(1.526\times10^{10})=4.1\times10^{-10}\ \mathrm m=0.41\ \mathrm{nm}$ で,原子間隔 $n^{-1/3}=0.26\ \mathrm{nm}$ の約1.6倍である.

演習53.6 デバイの $T^3$ 則を導く

解答

(a) $U(T)=9Nk_{\mathrm B}T\,(T/\theta_{\mathrm D})^3\int_0^{\theta_{\mathrm D}/T}x^3/(e^x-1)\,\dd x$ で,$T\ll\theta_{\mathrm D}$ なので上限を $\infty$ に置き換える.被積分関数は大きい $x$ で $x^3e^{-x}$ のように小さくなるので,誤差は無視できる($\theta_{\mathrm D}/T=10$ で約 $1\%$).公式47.4($p=3$)から積分は $\pi^4/15$ となり,

$$ U(T)=9Nk_{\mathrm B}T\left(\frac{T}{\theta_{\mathrm D}}\right)^3\frac{\pi^4}{15}=\frac{3\pi^4}{5}\,\frac{Nk_{\mathrm B}}{\theta_{\mathrm D}^3}\,T^4 $$

($9/15=3/5$).$T$ で微分して $C_V=\dfrac{\dd U}{\dd T}=\dfrac{12\pi^4}{5}\dfrac{Nk_{\mathrm B}}{\theta_{\mathrm D}^3}T^3=\dfrac{12\pi^4}{5}Nk_{\mathrm B}\left(\dfrac T{\theta_{\mathrm D}}\right)^3$ となる.

(b) 1 mol では $Nk_{\mathrm B}=R$.$12\pi^4/5=233.78$ なので $\dfrac{12\pi^4}{5}R=233.78\times8.314=1944\ \mathrm{J/(mol\,K)}$.$T/\theta_{\mathrm D}=4/400=0.01$ より

$$ C_V=1944\times(0.01)^3=1.94\times10^{-3}\ \mathrm{J/(mol\,K)} $$

である.加熱に要する熱量は $0\ \mathrm K$ から $4\ \mathrm K$ までの内部エネルギーの増加 $\Delta U=U(4\ \mathrm K)$ で,$U=\frac{3\pi^4}{5}RT^4/\theta_{\mathrm D}^3$ に代入して,

$$ \Delta U=58.44\times8.314\times\frac{(4)^4}{(400)^3}=485.9\times\frac{256}{6.4\times10^{7}}=1.94\times10^{-3}\ \mathrm{J/mol} $$

($\frac{3\pi^4}{5}=58.44$).$U\propto T^4$ と $C_V\propto T^3$ の関係から $U=C_VT/4=1.94\times10^{-3}\times4/4$ となって一致している.$1\ \mathrm{mol}$ を $4\ \mathrm K$ まで温めるのに,わずか約 $2\ \mathrm{mJ}$ の熱で足りる.

演習53.7 デバイ模型の高温展開

解答

$C_V=9Nk_{\mathrm B}y^{-3}\int_0^y x^4e^x/(e^x-1)^2\,\dd x$($y=\theta_{\mathrm D}/T$)である.まず $x^2e^x/(e^x-1)^2$ を展開する.$e^x/(e^x-1)^2=1/(4\sinh^2(x/2))$ で,$\sinh(x/2)=\frac x2\left(1+\frac{x^2}{24}+\cdots\right)$ より $\sinh^2(x/2)=\frac{x^2}{4}\left(1+\frac{x^2}{12}+\cdots\right)$.したがって

$$ \frac{x^2e^x}{(e^x-1)^2}=\frac{x^2}{4\sinh^2(x/2)}=\frac{1}{1+x^2/12+\cdots}=1-\frac{x^2}{12}+\cdots $$

となる.被積分関数は $x^4e^x/(e^x-1)^2=x^2\cdot\dfrac{x^2e^x}{(e^x-1)^2}=x^2-\dfrac{x^4}{12}+\cdots$ で,積分すると $\displaystyle\int_0^y\left(x^2-\frac{x^4}{12}\right)\dd x=\frac{y^3}{3}-\frac{y^5}{60}$.よって

$$ C_V=9Nk_{\mathrm B}y^{-3}\left(\frac{y^3}{3}-\frac{y^5}{60}\right)=3Nk_{\mathrm B}\left(1-\frac{y^2}{20}\right)=3Nk_{\mathrm B}\left[1-\frac{1}{20}\left(\frac{\theta_{\mathrm D}}{T}\right)^2\right] $$

数値の比較:$T=\theta_{\mathrm D}$($y=1$)では近似値 $1-1/20=0.9500$,数値積分の値は $0.9517$(誤差 $0.2\%$).$T=2\theta_{\mathrm D}$($y=0.5$)では $1-0.25/20=0.9875$,数値積分の値は $0.9876$(誤差 $0.01\%$).次の項 $+y^4/560$ を加えると,$y=1$ では $0.9518$ となり,数値積分の値にほぼ一致する.高温ほど近似がよいことが確かめられた.

演習53.8 1次元のデバイ模型(鎖状物質の比熱)

解答

(a) 長さ $L$ の鎖に周期境界条件を課すと,波数は $k=2\pi j/L$($j$ は整数)で,波数空間(1次元)の格子点は間隔 $2\pi/L$ の直線上に並ぶ.波数の大きさが $K$ 以下の格子点の数は $-K\le k\le K$ の長さ $2K$ を間隔 $2\pi/L$ で割った $KL/\pi$ で,偏りは1つだから,$\omega$ 以下のモードの数は $N(\omega)=L\omega/(\pi c_s)$.したがって $g(\omega)=\dd N/\dd\omega=L/(\pi c_s)$(一定)である.規格化条件 $\int_0^{\omega_{\mathrm D}}g\,\dd\omega=N$ より $L\omega_{\mathrm D}/(\pi c_s)=N$,すなわち $\omega_{\mathrm D}=\pi c_sN/L=\pi c_s/a$($a=L/N$ は原子間隔)で,

$$ g(\omega)=\frac{N}{\omega_{\mathrm D}}\quad(0\le\omega\le\omega_{\mathrm D}) $$

である.

(b) $U=\displaystyle\int_0^{\omega_{\mathrm D}}\frac{N}{\omega_{\mathrm D}}\,\frac{\hbar\omega}{e^{\hbar\omega/k_{\mathrm B}T}-1}\,\dd\omega$.$x=\hbar\omega/k_{\mathrm B}T$,$\theta_{\mathrm D}=\hbar\omega_{\mathrm D}/k_{\mathrm B}$,$y=\theta_{\mathrm D}/T$ とおくと,$\omega\,\dd\omega=(k_{\mathrm B}T/\hbar)^2x\,\dd x$ より

$$ U=\frac{N\hbar}{\omega_{\mathrm D}}\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{\hbar}\right)^2\int_0^y\frac{x}{e^x-1}\dd x=Nk_{\mathrm B}T\cdot\frac{T}{\theta_{\mathrm D}}\,F_1(y),\qquad F_1(y)\equiv\int_0^y\frac{x}{e^x-1}\dd x $$

$T$ で微分する.$\dd y/\dd T=-y/T$,$F_1'(y)=y/(e^y-1)$ を使うと,

$$ C_V=\diff{U}{T}=Nk_{\mathrm B}\left[\frac{2T}{\theta_{\mathrm D}}F_1(y)+\frac{T^2}{\theta_{\mathrm D}}\cdot\frac{y}{e^y-1}\cdot\left(-\frac{y}{T}\right)\right]=Nk_{\mathrm B}\frac{T}{\theta_{\mathrm D}}\left[2F_1(y)-\frac{y^2}{e^y-1}\right] $$

となる.部分積分により $\displaystyle\int_0^y\frac{x^2e^x}{(e^x-1)^2}\dd x=\left[-\frac{x^2}{e^x-1}\right]_0^y+2\int_0^y\frac{x}{e^x-1}\dd x=-\frac{y^2}{e^y-1}+2F_1(y)$ なので,括弧の中身はこの積分に等しく,

$$ C_V=Nk_{\mathrm B}\frac{T}{\theta_{\mathrm D}}\int_0^{\theta_{\mathrm D}/T}\frac{x^2e^x}{(e^x-1)^2}\dd x $$

を得る.

(c) 低温($T\ll\theta_{\mathrm D}$)では上限を $\infty$ にして,公式47.5($p=2$)$\int_0^\infty x^2e^x/(e^x-1)^2\,\dd x=2!\,\zeta(2)=2\cdot\pi^2/6=\pi^2/3$ より $C_V=\dfrac{\pi^2}{3}Nk_{\mathrm B}\dfrac T{\theta_{\mathrm D}}$,温度に比例する(3次元の $T^3$ が,1次元では $T^1$ になる).高温($T\gg\theta_{\mathrm D}$)では $y\ll1$ で被積分関数 $x^2e^x/(e^x-1)^2\approx1$ なので,積分は $\int_0^y\dd x=y=\theta_{\mathrm D}/T$ となり,$C_V=Nk_{\mathrm B}\dfrac T{\theta_{\mathrm D}}\cdot\dfrac{\theta_{\mathrm D}}T=Nk_{\mathrm B}$ を得る.これは1次元の鎖のデュロン=プティの値(原子1個あたり,振動の自由度が1つで $k_{\mathrm B}$)である.数値積分で確かめると,低温側の傾き $C_V/(Nk_{\mathrm B}T/\theta_{\mathrm D})\to3.2899=\pi^2/3$,高温側では $C_V/Nk_{\mathrm B}\to0.99993$ となる.

演習53.9 説明せよ:上限を $\infty$ にしてよい理由,アインシュタイン模型との違い,光子とフォノン

解答

(a) $y=\theta_{\mathrm D}/T$ として,$\int_0^yx^3/(e^x-1)\,\dd x=\pi^4/15-\int_y^\infty x^3/(e^x-1)\,\dd x$ と書ける.上限を $\infty$ にしたことによる誤差は,右辺の第2項(残りの積分)である.被積分関数は大きい $x$ で $x^3e^{-x}$ のように指数関数的に小さくなるので,残りの積分はごく小さい.数値積分すると,$y=10$ で $0.062$(全体の値 $\pi^4/15=6.494$ の約 $0.96\%$),$y=20$ で $1.9\times10^{-5}$(全体の約 $3\times10^{-6}$ 倍)である.$T\ll\theta_{\mathrm D}$ とは $y$ が大きいということなので,低温ほど上限を $\infty$ にした誤差は急速に小さくなる.物理的には,$\hbar\omega\gg k_{\mathrm B}T$ の高い振動数のモード($\omega_{\mathrm D}$ の近く)は熱エネルギーでは励起されず凍結していて,上限 $\omega_{\mathrm D}$ があるかどうかは低温の比熱に影響しない,ということである.

(b) アインシュタイン模型では,$3N$ 個のモードがすべて1つの角振動数 $\omega_{\mathrm E}$ をもつ(状態密度が $\omega_{\mathrm E}$ の1点に集中している).最低の励起エネルギーが $\hbar\omega_{\mathrm E}$ という有限の値(ギャップ)なので,$k_{\mathrm B}T\ll\hbar\omega_{\mathrm E}$ では励起される確率が $e^{-\hbar\omega_{\mathrm E}/k_{\mathrm B}T}$ に比例して指数関数的に小さくなり,比熱も指数関数的に $0$ になる.一方,デバイ模型の状態密度 $g\propto\omega^2$ は $\omega\to0$ までモードが連続的に続く.どんなに低温でも $\hbar\omega\lesssim k_{\mathrm B}T$ を満たす長波長のモードが存在し,その数は $\omega^3\propto T^3$,各モードのエネルギーは $k_{\mathrm B}T$ 程度なので,$U\propto T^4$,$C_V\propto T^3$ となる.つまり,違いの原因は,状態密度が1点に集中している(アインシュタイン)か,$\omega\to0$ まで連続している(デバイ)かという仮定の違いである.

(c) 次の表のようになる.

項目光子フォノン(デバイ模型)
同じ部分各モードが調和振動子で,エネルギーは $\hbar\omega(n+\tfrac12)$.粒子数が保存されず $\mu=0$ のボース粒子.平均占有数は $1/(e^{\hbar\omega/k_{\mathrm B}T}-1)$.「モードを数える → ボース分布 → 第47章の積分」という3段階の計算.
違う部分:波の種類電磁波(横波)弾性波(縦波1つ,横波2つ)
分散関係$\omega=ck$$\omega=c_sk$(音速 $c_s$)
偏りの数23
モードの総数無限(上限なし)$3N$($\omega_{\mathrm D}$ で打ち切る)
温度を上げたとき$u\propto T^4$,$C_V\propto T^3$ で増え続ける$C_V\to3Nk_{\mathrm B}$ で頭打ち(デュロン=プティ)
存在する場所真空中でも存在する結晶の中にだけ存在し,$\hbar k$ は結晶運動量

(d) AD 02 第49章は,エネルギー等分配則が黒体放射を説明できないこと(紫外破綻)から,量子仮説によるプランクの放射式に至る道を,ボルツマン分布・定在波の数え上げ・フーリエ級数などの数学の題材として示した.本章は,同じ式を「光子は粒子数が保存されない $\mu=0$ のボース粒子である」という統計力学の一般論から導き直し,状態密度の数え上げは要点の再掲にとどめた.そのうえで,AD 02 にない部分,すなわち全エネルギーの $T^4$ 則とシュテファン=ボルツマン定数(第47章の積分),光子気体の圧力・エントロピー,宇宙マイクロ波背景放射,およびフォノンとデバイ模型を扱った.

演習53.10 宇宙マイクロ波背景放射と宇宙の膨張

解答

(a) 振動数で見たピークは $\nu_{\max}=2.821\,k_{\mathrm B}T_0/h=2.821\times1.380649\times10^{-23}\times2.725/(6.62607\times10^{-34})=1.60\times10^{11}\ \mathrm{Hz}=160\ \mathrm{GHz}$.波長で見たピークは,ウィーンの変位則 $\lambda_{\max}=b/T_0=2.898\times10^{-3}\ \mathrm{m\,K}/2.725\ \mathrm K=1.06\times10^{-3}\ \mathrm m=1.06\ \mathrm{mm}$ である.なお $c/\nu_{\max}=1.87\ \mathrm{mm}$ とは一致しない(本文53.4節).

(b) $n_\gamma=\dfrac{2\zeta(3)}{\pi^2}\left(\dfrac{k_{\mathrm B}T_0}{\hbar c}\right)^3$ に $k_{\mathrm B}T_0/(\hbar c)=1.190\times10^{3}\ \mathrm{m^{-1}}$ を代入して,$n_\gamma=0.2436\times(1.190\times10^{3})^3=4.1\times10^{8}\ \mathrm{m^{-3}}=4.1\times10^{2}\ \mathrm{cm^{-3}}$(約 $410$ 個/$\mathrm{cm^3}$).

(c) 長さが2倍になると,光の波長も2倍に伸び(赤方偏移),温度は $T\propto1/s$ より半分になる:$T=T_0/2=1.3625\ \mathrm K$.体積は $2^3=8$ 倍になり,光子の総数は変わらない(光子は生成も消滅もしない)から,光子数密度は $1/8$:$n_\gamma\to51\ \mathrm{cm^{-3}}$.これは $n_\gamma\propto T^3$ とも一致する($(1/2)^3=1/8$).エネルギー密度は $u=aT^4$ より $(1/2)^4=1/16$:$u=4.17\times10^{-14}/16=2.6\times10^{-15}\ \mathrm{J/m^3}$.これは,光子の数が $1/8$,光子1個のエネルギー $h\nu$ が $1/2$ になるので,$u$ が $1/8\times1/2=1/16$ になることとも合っている.

演習53.11 原子鎖の分散関係とデバイ近似の差

解答

$\sqrt{\kappa/m}=\sqrt{40/(1.0\times10^{-25})}\ \mathrm{s^{-1}}=2.0\times10^{13}\ \mathrm{s^{-1}}$,音速は $c_s=a\sqrt{\kappa/m}=5.0\times10^{3}\ \mathrm{m/s}$(例題53.10).

(a) $ka=\pi/2$ なので $\sin(ka/2)=\sin(\pi/4)=1/\sqrt2$.実際の角振動数は $\omega=2\sqrt{\kappa/m}\times\dfrac{1}{\sqrt2}=\sqrt2\times2.0\times10^{13}=2.83\times10^{13}\ \mathrm{rad/s}$.

(b) デバイ近似では $\omega=c_sk=a\sqrt{\kappa/m}\cdot\dfrac{\pi}{2a}=\dfrac\pi2\sqrt{\kappa/m}=1.5708\times2.0\times10^{13}=3.14\times10^{13}\ \mathrm{rad/s}$.実際の値との差は $3.14\times10^{13}-2.83\times10^{13}=3.1\times10^{12}\ \mathrm{rad/s}$,割合にして $\dfrac{\pi/2}{\sqrt2}-1=0.111$,すなわち約 $11\%$ の過大評価である.

(c) 波長は $\lambda=2\pi/k=2\pi\cdot2a/\pi=4a=1.0\times10^{-9}\ \mathrm m=1.0\ \mathrm{nm}$(原子間隔の4倍).

(d) 例題53.10(3) の $k=\pi/a$(波長 $2a$)では,デバイ近似の $\pi\sqrt{\kappa/m}$ が実際の最大値 $2\sqrt{\kappa/m}$ より約 $57\%$ 大きかった.$k=\pi/(2a)$ では差は約 $11\%$ で,$k$ が小さく(波長が長く)なるほど差は小さくなる.実際,$ka\ll1$ では $2\sin(ka/2)\approx ka$ となって差は $0$ に近づく($ka=0.5$ で約 $1\%$).デバイ近似が正確なのは長波長のモードで,これは低温の熱的性質を決めるのが長波長のモードだということと対応している.

第54章 ガリレイの相対性からローレンツ変換へ

演習54.1 抵抗力とガリレイ変換

解答

S 系(空気が静止している座標系)での運動方程式は $m\ddot{\bm{r}}=-k\dot{\bm{r}}$ である.S′ は S に対して一定の速度 $\bm{v}$ で動いているので,ガリレイ変換 $\bm{r}'=\bm{r}-\bm{v}t$,すなわち $\bm{r}=\bm{r}'+\bm{v}t$ を使う.$\bm{v}$ は定ベクトルなので,両辺を $t$ で微分すると

$$ \dot{\bm{r}}=\dot{\bm{r}}'+\bm{v},\qquad\ddot{\bm{r}}=\ddot{\bm{r}}' $$

である.これを運動方程式に代入すると,S′ 系での方程式は

$$ m\ddot{\bm{r}}'=-k\left(\dot{\bm{r}}'+\bm{v}\right)=-k\dot{\bm{r}}'-k\bm{v} $$

となる.右辺に,S 系にはなかった定数の項 $-k\bm{v}$ が加わっているので,$m\ddot{\bm{r}}'=-k\dot{\bm{r}}'$ という S 系と全く同じ形にはならない.例外は $\bm{v}=\bm{0}$(S′ が空気に対して静止しているとき)だけである.

ただし,これは「ガリレイの相対性が破れた」という意味ではない.S′ 系から見ると,空気は速度 $\bm{u}'_{\text{空気}}=\bm{0}-\bm{v}=-\bm{v}$ で動いている.そこで質点の「空気に対する相対速度」$\dot{\bm{r}}'-\bm{u}'_{\text{空気}}=\dot{\bm{r}}'+\bm{v}$ を使うと,S′ 系の方程式は

$$ m\ddot{\bm{r}}'=-k\left(\dot{\bm{r}}'-\bm{u}'_{\text{空気}}\right) $$

となる.これは,S 系の方程式 $m\ddot{\bm{r}}=-k(\dot{\bm{r}}-\bm{u}_{\text{空気}})$($\bm{u}_{\text{空気}}=\bm{0}$)と同じ形である.つまり,抵抗力の法則を「質点の速度」ではなく「質点の媒質(空気)に対する相対速度」で書き,空気も物理系の一部として一緒に変換すれば,運動方程式の形はガリレイ変換で変わらない.力が速度に依存する場合でも,決め手になるのが相対速度であるかぎりガリレイの相対性は成り立つ.(「$\bm{F}=-k\dot{\bm{r}}$」は,空気が静止している座標系でだけ成り立つ形の式だったのである.)

演習54.2 ローレンツ因子の値

解答

(a) $\beta=0.8$ なので $1-\beta^2=1-0.64=0.36$,$\sqrt{0.36}=0.6$,よって

$$ \gamma=\frac{1}{0.6}=\frac53\approx1.667 $$

(b) $\beta=0.99$ なので $1-\beta^2=1-0.9801=0.0199$,$\sqrt{0.0199}=0.14107$,よって

$$ \gamma=\frac{1}{0.14107}\approx7.089 $$

(c) $\gamma=1/\sqrt{1-\beta^2}$ の両辺を 2 乗して逆数をとると $1-\beta^2=1/\gamma^2$,すなわち $\beta^2=1-1/\gamma^2$.$\gamma=10$ なら $\beta^2=1-1/100=0.99$,$\beta=\sqrt{0.99}=0.99499$.つまり $v=0.995c\approx2.98\times10^8\ \mathrm{m/s}$ である.(d) $\gamma=2$ なら $\beta^2=1-1/4=3/4$,$\beta=\sqrt3/2\approx0.866$($v\approx0.866c$)である.

演習54.3 マイケルソン干渉計の縞のずれ

解答

$\beta=v/c=3.0\times10^4/(3.00\times10^8)=1.0\times10^{-4}$,$\beta^2=1.0\times10^{-8}$ である.

(a) 往復時間の差は $\Delta t\approx(L/c)\beta^2$ なので,

$$ \frac{L}{c}=\frac{2.0\ \mathrm m}{3.00\times10^8\ \mathrm{m/s}}=6.67\times10^{-9}\ \mathrm s $$

なので,$\beta^2$(無次元)をかけて

$$ \Delta t=\frac{L}{c}\,\beta^2=6.67\times10^{-9}\ \mathrm s\times1.0\times10^{-8}=6.7\times10^{-17}\ \mathrm s $$

(b) 光路差は $c\Delta t=3.00\times10^8\times6.67\times10^{-17}=2.0\times10^{-8}\ \mathrm m$.腕を入れ替える($90^\circ$ 回転する)と $\Delta t$ の符号が反転するので,縞のずれの本数は $2\times c\Delta t/\lambda$ である:

$$ 2\times\frac{2.0\times10^{-8}\ \mathrm m}{6.0\times10^{-7}\ \mathrm m}=0.067 $$

すなわち縞の間隔の約 $7\ \%$ で,肉眼でははっきりしない小さなずれである.(c) 縞のずれ $2L\beta^2/\lambda=0.4$ となる $L$ は,

$$ L=\frac{0.4\,\lambda}{2\beta^2}=\frac{0.4\times6.0\times10^{-7}\ \mathrm m}{2\times1.0\times10^{-8}}=12\ \mathrm m $$

である.腕そのものを $12\ \mathrm m$ にするのは非現実的なので,マイケルソンとモーリーは鏡で光を何度も往復させて実効的な腕の長さを $11\ \mathrm m$ ほどにした.

演習54.4 光線の条件から $A,B,C,D$ を決める

解答

線形変換 $x'=Ax+B\,ct$,$ct'=Cx+D\,ct$ に対して,4 つの条件を順に使う.

(i) $x=ct$ の光では $x'=(A+B)\,ct$,$ct'=(C+D)\,ct$ であり,$x'=ct'$ となる条件は

$$ A+B=C+D \qquad\cdots\ \text{①} $$

(ii) $x=-ct$ の光では $x'=(-A+B)\,ct$,$ct'=(-C+D)\,ct$ であり,$x'=-ct'$ となる条件は $-A+B=-(-C+D)=C-D$,すなわち

$$ -A+B=C-D \qquad\cdots\ \text{②} $$

①$+$② より $2B=2C$,すなわち $B=C$.①$-$② より $2A=2D$,すなわち $A=D$ である.

(iii) S′ の原点 $x'=0$ は S 系の $x=vt$ に対応するので,$0=Avt+B\,ct$,すなわち $B=-\beta A$($\beta=v/c$).したがって $C=B=-\beta A$,$D=A$ となり,変換は

$$ x'=A\,(x-vt),\qquad ct'=A\,(ct-\beta x) $$

の形にまで絞られた.残るのは $A$ の値だけである.

(iv) 相対性原理により,逆変換は $\beta\to-\beta$ の置き換え($v\to-v$)で得られるので,$x=A\,(x'+\beta\,ct')$ である.ここに上の $x',ct'$ を代入すると,

$$ x=A\left[A\,(x-\beta ct)+\beta A\,(ct-\beta x)\right]=A^2\left[x-\beta ct+\beta ct-\beta^2x\right]=A^2(1-\beta^2)\,x $$

となり,これが任意の $x$ で成り立つので $A^2(1-\beta^2)=1$,すなわち $A^2=1/(1-\beta^2)=\gamma^2$.$v\to0$ で $x'\to x$ となる($A\to1$)よう $A=+\gamma$ をとる.結局

$$ A=D=\gamma,\qquad B=C=-\beta\gamma $$

となり,第54章本文の結果($x^2-c^2t^2$ の係数比較から得たもの)と一致する.この方法では,$x^2-c^2t^2$ の不変性を最初から使わずに,光速度不変性(光線の条件 (i),(ii))と相対性原理((iv))だけからローレンツ変換が導けたことになる.

演習54.5 ガリレイ変換とローレンツ変換の対応

解答

ガリレイ変換とローレンツ変換($\beta=v/c$,$\gamma=1/\sqrt{1-\beta^2}$)を並べると次のようになる.

$\beta\to0$($v\ll c$,物体の速さ $u\ll c$)の極限を調べる.$\gamma=1/\sqrt{1-\beta^2}\to1$ なので,(a),(d) のローレンツ変換は $x'\to x-vt$,$x\to x'+vt'$ となりガリレイ変換に一致する.(c),(e) の補正項は $vx/c^2$,$vx'/c^2$ で,$t$ との比が $\beta\,u/c\ll1$ だから無視でき(第54章 54.6節),$t'\to t$,$t\to t'$ となってガリレイ変換に一致する.(f) は $c-v$ と $c$ で,相対的な違いは $v/c\to0$ である.したがって,どの量についても $v/c\to0$ でローレンツ変換はガリレイ変換に一致する.

演習54.6 任意の向きのローレンツ変換

解答

$r_n=\bm{r}\cdot\bm{n}$($\bm{r}$ の $\bm{n}$ 方向の成分)とおく.$\bm{n}$ の方向を新しい「$x$ 軸」と見れば,$\bm{n}$ に平行な座標 $r_n$ は第54章の定理54.1 の $x$ と同じ変換を受け,垂直な成分 $\bm{r}_\perp=\bm{r}-r_n\bm{n}$ は $y,z$ と同じく変わらない:

$$ r'_n=\gamma\,(r_n-vt),\qquad\bm{r}'_\perp=\bm{r}_\perp,\qquad t'=\gamma\left(t-\frac{v}{c^2}r_n\right) $$

である.$\bm{r}'=r'_n\bm{n}+\bm{r}'_\perp$ に上式を代入すると,

$$ \bm{r}'=\gamma\,(r_n-vt)\,\bm{n}+\bm{r}-r_n\bm{n}=\bm{r}+(\gamma-1)(\bm{r}\cdot\bm{n})\,\bm{n}-\gamma vt\,\bm{n} $$

となる.時刻は,$v\,r_n=\bm{v}\cdot\bm{r}$($\bm{v}=v\bm{n}$)を使って $t'=\gamma\left(t-\bm{v}\cdot\bm{r}/c^2\right)$ である.

不変量:$\bm{r}'^2=(r'_n)^2+\bm{r}'^2_\perp=\gamma^2(r_n-vt)^2+(\bm{r}^2-r_n^2)$,$c^2t'^2=\gamma^2(ct-\beta r_n)^2$ なので,

$$ c^2t'^2-\bm{r}'^2=\gamma^2\left[(ct-\beta r_n)^2-(r_n-\beta ct)^2\right]-\bm{r}^2+r_n^2 $$

括弧の中は $c^2t^2-2\beta ct\,r_n+\beta^2r_n^2-r_n^2+2\beta ct\,r_n-\beta^2c^2t^2=(1-\beta^2)(c^2t^2-r_n^2)$ なので,$\gamma^2(1-\beta^2)=1$ を使って

$$ c^2t'^2-\bm{r}'^2=(c^2t^2-r_n^2)-\bm{r}^2+r_n^2=c^2t^2-\bm{r}^2 $$

が得られ,不変量が保たれる.

$\bm{n}=\bm{e}_x$ の場合:$r_n=x$,$\bm{r}_\perp=(0,y,z)$ なので,$x'=\gamma(x-vt)$,$y'=y$,$z'=z$,$t'=\gamma(t-vx/c^2)$ となり,第54章の定理54.1 と一致する.なお,$y=y'$,$z=z'$ という仮定は,運動方向($\bm{n}$)に垂直な成分についてのものであり,一般の向きの運動では「$\bm{n}$ に垂直な成分が変わらない」と読みかえれば同じ議論が成り立つ.

演習54.7 $v\ge c$ の座標系は許されるか

解答

(a) $\beta=1.2$ では $1-\beta^2=1-1.44=-0.44\lt0$ である.$\sqrt{-0.44}=i\sqrt{0.44}=0.663\,i$($i$ は虚数単位)となり,$\gamma=1/(0.663\,i)=-1.51\,i$ は実数でない.したがってローレンツ変換の $x',t'$ も実数にならず,実際に測定できる座標・時刻として意味をなさない.つまり,ローレンツ変換で結ばれる 2 つの慣性系の相対速度は,$\abs{v}\lt c$ でなければならない.

(b) 第54章の表54.1 のように,$\gamma$ は $\beta=0.9$ で $2.3$,$\beta=0.99$ で $7.1$,$\beta=0.999$ で $22.4$ と,$\beta\to1$ で限りなく大きくなる.第57章で示すように,質量 $m$ の物体のエネルギーは $E=\gamma mc^2$ で,$\gamma$ 倍の静止エネルギー $mc^2$ をもつ(運動量も $\gamma mv$ の形で大きくなる).物体を光速に近づけるには,速さのわずかな増加に対して,物体がもつエネルギー・運動量が急速に大きくなるので,加えるべきエネルギーがどんどん増え,$v=c$ に到達するには無限大のエネルギーが必要になる.つまり,$\gamma\to\infty$ という数学的な事実は,質量のある物体の速さが $c$ を超えられない(到達すらできない)ことに対応している.

演習54.8 2 つのローレンツ変換の合成

解答

(a) $\beta=0.6$ で $\gamma=5/4$,$\beta\gamma=3/4$ なので $\Lambda(0.6)=\begin{pmatrix}5/4&-3/4\\-3/4&5/4\end{pmatrix}$.積は

$$ \Lambda(0.6)\Lambda(0.6)=\begin{pmatrix}\frac{25}{16}+\frac{9}{16}&-\frac{15}{16}-\frac{15}{16}\\-\frac{15}{16}-\frac{15}{16}&\frac{9}{16}+\frac{25}{16}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}17/8&-15/8\\-15/8&17/8\end{pmatrix} $$

(b) これを $\begin{pmatrix}\gamma&-\beta\gamma\\-\beta\gamma&\gamma\end{pmatrix}$ と比べると,$\gamma=17/8=2.125$,$\beta\gamma=15/8$.したがって $\beta=(15/8)/(17/8)=15/17\approx0.882$ である.確かめ:$\gamma^2-(\beta\gamma)^2=(289-225)/64=1$,また $1/\sqrt{1-(15/17)^2}=1/\sqrt{64/289}=17/8$ で $\gamma$ と一致する.

(c) 一般の $\beta_1,\beta_2$($\gamma_1,\gamma_2$)について,

$$ \Lambda(\beta_1)\Lambda(\beta_2)=\gamma_1\gamma_2\begin{pmatrix}1&-\beta_1\\-\beta_1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&-\beta_2\\-\beta_2&1\end{pmatrix}=\gamma_1\gamma_2\begin{pmatrix}1+\beta_1\beta_2&-(\beta_1+\beta_2)\\-(\beta_1+\beta_2)&1+\beta_1\beta_2\end{pmatrix} $$

である.これが $\Lambda(\beta)$ に等しいとおくと,$(1,1)$ 成分から $\gamma=\gamma_1\gamma_2(1+\beta_1\beta_2)$,$(1,2)$ 成分から $\beta\gamma=\gamma_1\gamma_2(\beta_1+\beta_2)$ なので,比をとって

$$ \beta=\frac{\beta_1+\beta_2}{1+\beta_1\beta_2} $$

となる.($\gamma_1\gamma_2>0$ が約分される.また,$1-\beta^2=\dfrac{(1+\beta_1\beta_2)^2-(\beta_1+\beta_2)^2}{(1+\beta_1\beta_2)^2}=\dfrac{(1-\beta_1^2)(1-\beta_2^2)}{(1+\beta_1\beta_2)^2}$ なので,$\gamma=1/\sqrt{1-\beta^2}=\gamma_1\gamma_2(1+\beta_1\beta_2)$ となって,$(1,1)$ 成分とも矛盾しない.)

(d) ガリレイ変換の速度の合成 $0.6c+0.6c=1.2c$ は光速を超えてしまうが,ローレンツ変換の合成では $\beta=(0.6+0.6)/(1+0.36)=1.2/1.36=15/17\approx0.882$ で,光速を超えない.一般に $\abs{\beta_1},\abs{\beta_2}\lt1$ なら $1-\beta^2=(1-\beta_1^2)(1-\beta_2^2)/(1+\beta_1\beta_2)^2\gt0$ なので $\abs{\beta}\lt1$ である.また $\beta_1,\beta_2\ll1$ のときは分母が $1$ に近く $\beta\approx\beta_1+\beta_2$ で,高校物理の速度の合成に一致する.この式は,第55章で速度の合成則(ローレンツ速度変換)として再び現れる.

第55章 ローレンツ収縮・時間の遅れ・速度の変換

演習55.1 ローレンツ収縮の値

解答

(a) $\beta=0.5$ のとき $1-\beta^2=1-0.25=0.75$ なので,

$$ \frac{\ell'}{\ell}=\sqrt{0.75}=\frac{\sqrt3}{2}=0.866 $$

である.棒の長さは約 $86.6\%$ に縮む.(b) $\beta=0.9$ のとき $1-\beta^2=1-0.81=0.19$ なので,

$$ \frac{\ell'}{\ell}=\sqrt{0.19}=0.4359 $$

で,約 $43.6\%$ に縮む.(c) $\ell'/\ell=1/2$ とおくと,$\sqrt{1-\beta^2}=1/2$.両辺を 2 乗して $1-\beta^2=1/4$,すなわち $\beta^2=3/4$ より,

$$ \beta=\frac{\sqrt3}{2}=0.866,\qquad v=0.866\,c $$

である.(d) $\ell'/\ell=1\ \mathrm{mm}/1\ \mathrm m=10^{-3}$ とおくと,$\sqrt{1-\beta^2}=10^{-3}$ なので $1-\beta^2=10^{-6}$ である.$\beta$ が 1 に非常に近いとき,$1-\beta^2=(1-\beta)(1+\beta)\approx2\,(1-\beta)$($1+\beta\approx2$)と近似できるので,

$$ 1-\beta\approx\frac{10^{-6}}{2}=5\times10^{-7} $$

すなわち $\beta=0.9999995$($v=0.9999995\,c$)のときである.このとき $\gamma=1/\sqrt{1-\beta^2}=10^{3}$ である($\ell'/\ell=1/\gamma$).

(解答終わり)

演習55.2 宇宙旅行者の若さ

解答

$\beta=0.8$ より $\gamma=1/\sqrt{1-0.64}=1/0.6=5/3$,$1/\gamma=0.6$ である.(a) 地球の系では,$4$ 光年の距離を速さ $0.8c$ で進むので,かかる時間は

$$ \Delta t=\frac{4\ \text{光年}}{0.8\,c}=\frac{4}{0.8}\ \text{年}=5\ \text{年} $$

である.(b) 宇宙船の時計は,宇宙船の中の同じ場所で起こる出発と到着の間隔を測るので固有時 $\Delta\tau$ である.時間の遅れ($\Delta t=\gamma\Delta\tau$)より,

$$ \Delta\tau=\frac{\Delta t}{\gamma}=5\ \text{年}\times0.6=3\ \text{年} $$

である.(c) 宇宙船の系では,出発地の地球と目的地の星が,速さ $0.8c$ で宇宙船に向かって(後ろ向きに)動いている.2 つの天体の間の距離は,2 つの天体が静止している系(地球の系)での固有長 $4$ 光年が,宇宙船の系ではローレンツ収縮して,

$$ \ell'=\frac{4\ \text{光年}}{\gamma}=4\times0.6=2.4\ \text{光年} $$

になる.この距離を,星が速さ $0.8c$ で近づいてくるのだから,かかる時間は

$$ \Delta\tau=\frac{2.4\ \text{光年}}{0.8\,c}=3\ \text{年} $$

となり,(b) の答えと一致する.時間の遅れ(地球の系での説明)と長さの収縮(宇宙船の系での説明)は,同じ結果を 2 通りに説明している.(同じ速さで往復すると,宇宙船の時計では $6$ 年,地球では $10$ 年が経過する.加速度運動を含む往復の扱いは第56章で調べる.)

(解答終わり)

演習55.3 ドップラー効果の低速極限

解答

(a) $f(\beta)=(1-\beta)^{1/2}(1+\beta)^{-1/2}$ を,因子ごとに $\beta=0$ のまわりでテイラー展開する.$(1-\beta)^{1/2}$ は,$\dfrac{\dd}{\dd\beta}(1-\beta)^{1/2}=-\dfrac12(1-\beta)^{-1/2}$ より $\beta=0$ で $-\dfrac12$ なので $1-\dfrac{\beta}{2}+\cdots$.$(1+\beta)^{-1/2}$ は,$\dfrac{\dd}{\dd\beta}(1+\beta)^{-1/2}=-\dfrac12(1+\beta)^{-3/2}$ より $\beta=0$ で $-\dfrac12$ なので $1-\dfrac{\beta}{2}+\cdots$ である.したがって $\beta$ の 1 次まででは,

$$ \sqrt{\frac{1-\beta}{1+\beta}}\approx\left(1-\frac\beta2\right)\left(1-\frac\beta2\right)\approx1-\beta $$

となり,$\nu'\approx\nu(1-\beta)$ が示された($\beta^2$ 以上の項は無視した).これは古典的なドップラー効果(観測者が速さ $v$ で遠ざかるとき $\nu(1-v/c)$)に一致する.

(b) $\beta=0.01$ のとき,$(1-\beta)/(1+\beta)=0.99/1.01=0.980198$,その平方根は $0.990050$(有効数字 5 桁)である.近似値は $1-\beta=0.99$ なので,差は

$$ 0.990050-0.99=5.0\times10^{-5} $$

である(厳密には $4.95\times10^{-5}$).(c) 2 次の項まで展開する.$(1-\beta)^{1/2}=1-\dfrac\beta2-\dfrac{\beta^2}{8}+\cdots$,$(1+\beta)^{-1/2}=1-\dfrac\beta2+\dfrac{3\beta^2}{8}+\cdots$ なので(二項展開 $(1+x)^{\alpha}=1+\alpha x+\dfrac{\alpha(\alpha-1)}{2}x^2+\cdots$ による),積の $\beta^2$ の係数は,$1\cdot\dfrac38+\left(-\dfrac12\right)\left(-\dfrac12\right)+\left(-\dfrac18\right)\cdot1=\dfrac38+\dfrac14-\dfrac18=\dfrac12$ である.よって

$$ \sqrt{\frac{1-\beta}{1+\beta}}=1-\beta+\frac{\beta^2}{2}-\cdots $$

であり,厳密な値と近似 $1-\beta$ の差は,およそ $\beta^2/2=(0.01)^2/2=5\times10^{-5}$ となって,(b) の値と一致する(さらに次の項 $-\beta^3/2=-5\times10^{-7}$ を入れると $4.95\times10^{-5}$).相対論的な補正は $\beta^2/2$ 程度の小さな量である.

(解答終わり)

演習55.4 ロケットの問題($v=0.8c$)

解答

$\beta=0.8$ なので $\gamma=1/\sqrt{1-0.64}=5/3$ である.ロケットの時計の値を $\tau=1$ 時間 $=60$ 分とする.(a) 地球の系では,動いているロケットの時計は $1/\gamma$ の速さで進むので,ロケットの時計が $\tau$ を指すのは,地球の時計で

$$ t_{\mathrm E}=\gamma\tau=\frac53\times60\ \text{分}=100\ \text{分}=1\ \text{時間}\,40\ \text{分} $$

のときである.(b) 望遠鏡で見えるのは,このとき(地球の時刻 $t_{\mathrm E}$)にロケットを出た光が,地球に届いた瞬間である.ロケットは $x_{\mathrm E}=vt_{\mathrm E}$ の位置にいて,光が地球に届くには $x_{\mathrm E}/c=\beta t_{\mathrm E}$ の時間がかかるから,見える時刻は

$$ t=t_{\mathrm E}+\beta t_{\mathrm E}=(1+\beta)\,\gamma\tau=\sqrt{\frac{1+\beta}{1-\beta}}\ \tau=\sqrt{\frac{1.8}{0.2}}\times60\ \text{分}=3\times60\ \text{分}=180\ \text{分} $$

すなわち出発から $3$ 時間後(3 時 00 分)である($(1+\beta)\gamma=1.8\times5/3=3$ でも確かめられる).(c) (b) と (a) の差は $180-100=80$ 分である.一方,ロケットの位置は $x_{\mathrm E}=vt_{\mathrm E}=0.8c\times100\ \text{分}=80\ \text{光分}$(光が 80 分で進む距離)なので,光がロケットから地球に届くまでの時間は $x_{\mathrm E}/c=80\ \text{分}$ である.この 2 つは一致する.

(解答終わり)

演習55.5 速度の合成の 2 段階

解答

(a) S′ の S に対する速度が $v=\beta_1c$,S′ 系での物体の速度が $u'_x=\beta_2c$ である.S 系での物体の速度は,速度変換の逆変換の第 1 式より

$$ u_x=\frac{u'_x+v}{1+\dfrac{vu'_x}{c^2}}=\frac{\beta_2c+\beta_1c}{1+\beta_1\beta_2} $$

である.両辺を $c$ で割って $\beta=u_x/c$ と書くと,

$$ \beta=\frac{\beta_1+\beta_2}{1+\beta_1\beta_2} $$

である.(b) $1-\beta^2$ を計算する:

$$ 1-\beta^2=\frac{(1+\beta_1\beta_2)^2-(\beta_1+\beta_2)^2}{(1+\beta_1\beta_2)^2} $$

分子を展開すると,

$$ \begin{aligned} (1+\beta_1\beta_2)^2-(\beta_1+\beta_2)^2&=1+2\beta_1\beta_2+\beta_1^2\beta_2^2-\beta_1^2-2\beta_1\beta_2-\beta_2^2\\ &=1-\beta_1^2-\beta_2^2+\beta_1^2\beta_2^2=(1-\beta_1^2)(1-\beta_2^2) \end{aligned} $$

となる(最後は $(1-\beta_1^2)(1-\beta_2^2)$ の展開).よって

$$ 1-\beta^2=\frac{(1-\beta_1^2)(1-\beta_2^2)}{(1+\beta_1\beta_2)^2} $$

である.$0\le\beta_1,\beta_2<1$ ならば,$1-\beta_1^2>0$,$1-\beta_2^2>0$ で右辺は正なので,$1-\beta^2>0$,すなわち $\beta<1$ である($\beta\ge0$ は (a) の式から明らか).どんなに $\beta_1,\beta_2$ を 1 に近づけても,合成された速さは光速を超えない.(c) $\beta_1=\beta_2=0.9$ のとき,

$$ \beta=\frac{0.9+0.9}{1+0.9\times0.9}=\frac{1.8}{1.81}=\frac{180}{181}=0.9945 $$

である.足し算の値 $1.8$ は光速を超えるが,正しい値は $0.9945$ で,$c$ の 99.45 パーセントである.

(解答終わり)

演習55.6 速さ $0.98c$ のミューオン

解答

(a) $\beta=0.98$ なので $1-\beta^2=1-0.9604=0.0396$,$\sqrt{0.0396}=0.19900$,

$$ \gamma=\frac{1}{0.19900}=5.025 $$

である.地上から見た平均寿命は $\gamma T_\mu=5.025\times2.197\ \mathrm{\mu s}=11.04\ \mathrm{\mu s}$ である.(b) 地上から見た平均の飛行距離は,$c=2.998\times10^{8}\ \mathrm{m/s}$ として,

$$ L=v\,(\gamma T_\mu)=0.98\times2.998\times10^{8}\ \mathrm{m/s}\times11.04\times10^{-6}\ \mathrm s=3.24\times10^{3}\ \mathrm m $$

すなわち約 $3.2\ \mathrm{km}$ である.(c) 高度 $h=12\ \mathrm{km}$ から降下するミューオンが崩壊せずに届く割合は,地上系の降下時間 $h/v$ の間に,固有時 $h/(\gamma v)$ が経つことから,

$$ P=\exp\left(-\frac{h/(\gamma v)}{T_\mu}\right)=\exp\left(-\frac{h}{L}\right)=\exp\left(-\frac{12\,000}{3\,244}\right)=\exp(-3.70)=0.0247 $$

で,約 $2.5\%$ である.(d) ミューオンの系では,大気の厚さがローレンツ収縮して $12\,000\ \mathrm m/\gamma=12\,000/5.025=2\,388\ \mathrm m$ になる.地面が速さ $v=0.98c$ で近づいてくるので,降下にかかる時間(固有時)は

$$ \tau=\frac{2\,388\ \mathrm m}{0.98\times2.998\times10^{8}\ \mathrm{m/s}}=8.13\times10^{-6}\ \mathrm s=8.13\ \mathrm{\mu s} $$

である.生き残る割合は $\exp(-\tau/T_\mu)=\exp(-8.13/2.197)=\exp(-3.70)=0.0247$ となり,(c) と一致する.

(解答終わり)

演習55.7 国際宇宙ステーションの時計

解答

(a) 円軌道の速さは $v=\sqrt{GM/r}$(万有引力が向心力)なので,

$$ v=\sqrt{\frac{3.986\times10^{14}}{6.778\times10^{6}}}\ \mathrm{m/s}=\sqrt{5.881\times10^{7}}\ \mathrm{m/s}=7.67\times10^{3}\ \mathrm{m/s} $$

である.(b) 特殊相対論による遅れの割合は $v^2/(2c^2)$ で,$c^2=8.988\times10^{16}\ \mathrm{m^2/s^2}$ より

$$ \frac{v^2}{2c^2}=\frac{5.881\times10^{7}}{2\times8.988\times10^{16}}=3.27\times10^{-10} $$

である.1 日 $86\,400\ \mathrm s$ での遅れは $3.27\times10^{-10}\times86\,400\ \mathrm s=2.83\times10^{-5}\ \mathrm s=28.3\ \mathrm{\mu s}$ である.(c) 一般相対論による進みの割合は $\dfrac{GM}{c^2}\left(\dfrac1R-\dfrac1r\right)$ で,$GM/c^2=4.435\times10^{-3}\ \mathrm m$,$1/R-1/r=1.5679\times10^{-7}-1.4754\times10^{-7}=9.25\times10^{-9}\ \mathrm{m^{-1}}$ なので,

$$ \frac{GM}{c^2}\left(\frac1R-\frac1r\right)=4.435\times10^{-3}\times9.25\times10^{-9}=4.10\times10^{-11} $$

である.1 日での進みは $4.10\times10^{-11}\times86\,400\ \mathrm s=3.5\times10^{-6}\ \mathrm s=3.5\ \mathrm{\mu s}$ である.(d) 差し引きは

$$ -28.3\ \mathrm{\mu s}+3.5\ \mathrm{\mu s}=-24.7\ \mathrm{\mu s} $$

すなわち,宇宙ステーションの時計は,地上の時計より 1 日あたり約 $25\ \mathrm{\mu s}$ 遅れる.GPS 衛星(高度が高く,$45.6\ \mathrm{\mu s}$ の進みが $7.2\ \mathrm{\mu s}$ の遅れより大きい)とは逆に,高度が低い宇宙ステーションでは,運動による遅れ(特殊相対論)のほうが強く効く.2 つの効果は,$\dfrac{GM}{2c^2r}=\dfrac{GM}{c^2}\left(\dfrac1R-\dfrac1r\right)$,すなわち $r=\dfrac32R\approx9.6\times10^{6}\ \mathrm m$(高度約 $3\,200\ \mathrm{km}$)で打ち消し合い,これより低い軌道では遅れ,高い軌道では進むことになる.

(解答終わり)

演習55.8 見かけの超光速運動(光の届く時間のずれ)

解答

(a) 1 つ目の信号を出した点から観測者までの距離を $D$ とする.2 つ目の信号は,時間 $\Delta t$ ののちに,塊が $\beta c\,\Delta t$ だけ進んだ点で出る.観測者は十分遠いので,光線は視線と平行とみなせて,その点は観測者に $\beta c\,\Delta t\cos\theta$ だけ近い.したがって,信号が観測者に届く時刻は,

$$ t_1=\frac{D}{c},\qquad t_2=\Delta t+\frac{D-\beta c\,\Delta t\cos\theta}{c} $$

で,その差は

$$ \Delta t_{\mathrm{obs}}=t_2-t_1=\Delta t-\beta\,\Delta t\cos\theta=\Delta t\,(1-\beta\cos\theta) $$

である.$\theta=0$ ならば $\Delta t_{\mathrm{obs}}=(1-\beta)\Delta t$ で,観測者に届く信号の間隔は縮んで見える.(b) 視線に垂直な変位は $\beta c\,\Delta t\sin\theta$ なので,見かけの速さは

$$ \beta_{\mathrm{app}}c=\frac{\beta c\,\Delta t\sin\theta}{\Delta t\,(1-\beta\cos\theta)}\quad\Longrightarrow\quad\beta_{\mathrm{app}}=\frac{\beta\sin\theta}{1-\beta\cos\theta} $$

である.(c) $\beta=0.98$,$\theta=10^\circ$ を代入する.$\sin10^\circ=0.173648$,$\cos10^\circ=0.984808$ なので,

$$ \beta_{\mathrm{app}}=\frac{0.98\times0.173648}{1-0.98\times0.984808}=\frac{0.170175}{0.034888}=4.88 $$

である.実際の速さは $0.98c$ であるのに,見かけの速さは約 $4.9c$ になる.(d) $\beta_{\mathrm{app}}(\theta)$ を商の微分公式で微分すると,

$$ \frac{\dd\beta_{\mathrm{app}}}{\dd\theta}=\frac{\beta\cos\theta\,(1-\beta\cos\theta)-\beta\sin\theta\cdot\beta\sin\theta}{(1-\beta\cos\theta)^2}=\frac{\beta\cos\theta-\beta^2}{(1-\beta\cos\theta)^2}=\frac{\beta\,(\cos\theta-\beta)}{(1-\beta\cos\theta)^2} $$

(分子で $\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$ を使った).これは $\cos\theta=\beta$ で 0 になり,$\cos\theta\gt\beta$($\theta$ が小さいほう)で正,$\cos\theta\lt\beta$ で負なので,$\cos\theta=\beta$ のとき最大である.このとき $\sin\theta=\sqrt{1-\beta^2}=1/\gamma$,$1-\beta\cos\theta=1-\beta^2=1/\gamma^2$ なので,

$$ \beta_{\mathrm{app,max}}=\frac{\beta\,(1/\gamma)}{1/\gamma^2}=\gamma\beta $$

である($\beta=0.98$ では $\gamma\beta=4.92$,そのときの角度は $\theta=\arccos0.98=11.5^\circ$).$\gamma\beta\gt1$ となるのは $\beta^2\gt1-\beta^2$,すなわち $\beta\gt1/\sqrt2\approx0.707$ のときである($\beta=0.9$ なら $\gamma\beta=2.06$).

これは相対論に反しない.塊そのものの速さは $\beta c\lt c$ のままで,見かけの速さが $c$ を超えるのは,「塊が観測者に近づきながら信号を出すので,2 つの信号の届く時刻の差 $\Delta t_{\mathrm{obs}}=\Delta t\,(1-\beta\cos\theta)$ が実際の時間差 $\Delta t$ よりずっと短くなる」という,光の届く時間のずれによる見かけの効果だからである.何かが実際に光より速く運ばれたわけではない.

(解答終わり)

演習55.9 速く動く光時計

解答

(a) 静止している光時計の周期は,光が間隔 $d$ の鏡の間を 1 往復する時間なので,

$$ \Delta\tau=\frac{2d}{c}=\frac{2\times0.30\ \mathrm m}{3.00\times10^{8}\ \mathrm{m/s}}=2.00\times10^{-9}\ \mathrm s=2.00\ \mathrm{ns} $$

である.(b) $\beta=0.8$ のとき $\gamma=1/\sqrt{1-0.64}=1/0.6=5/3$ なので,動いて見える時計の周期は

$$ T=\gamma\,\Delta\tau=\frac53\times2.00\ \mathrm{ns}=3.33\ \mathrm{ns} $$

である.(c) 光が 1 往復のあいだに進む道のりは,$cT=3.00\times10^{8}\ \mathrm{m/s}\times3.33\times10^{-9}\ \mathrm s=1.00\ \mathrm m$ で,静止しているときの往復の道のり $2d=0.60\ \mathrm m$ の $5/3$ 倍($=\gamma$ 倍)である.ピタゴラスの定理を確かめる.片道の斜辺は $cT/2=0.50\ \mathrm m$,時計の水平移動は $vT/2=0.8\times0.50\ \mathrm m=0.40\ \mathrm m$,垂直の辺は $d=0.30\ \mathrm m$ なので,

$$ d^2+\left(\frac{vT}{2}\right)^2=0.30^2+0.40^2=0.09+0.16=0.25=0.50^2=\left(\frac{cT}{2}\right)^2 $$

となり,成り立っている($3:4:5$ の直角三角形である).(d) Q の時計は Q に対して静止しているので,Q の系での周期は同じ $\Delta\tau=2.00\ \mathrm{ns}$ である.相対性原理により,P と Q は対等である.P から見れば Q の時計は速さ $0.8c$ で動いているので,(b) と同じ計算で,P が測る Q の時計の周期は $\gamma\,\Delta\tau=3.33\ \mathrm{ns}$ である.つまり,Q から見れば P の時計が遅れ,P から見れば Q の時計が遅れる.これは,例題55.7 で確かめたように,矛盾ではない.

(解答終わり)

演習55.10 近づく光源の色

解答

(a) 光源が近づく場合は $v\to-v$ として,$\nu'/\nu=\sqrt{(1+\beta)/(1-\beta)}$ である.$\beta=0.5$ を入れると,

$$ \frac{\nu'}{\nu}=\sqrt{\frac{1+0.5}{1-0.5}}=\sqrt{\frac{1.5}{0.5}}=\sqrt3=1.732 $$

である.波長は振動数に反比例するので($c=\nu\lambda$),

$$ \lambda'=\frac{\lambda}{\nu'/\nu}=\frac{500\ \mathrm{nm}}{1.732}=288.7\ \mathrm{nm}\approx289\ \mathrm{nm} $$

となり,可視光の緑色の光が,紫外線に変わって観測される.(振動数で見れば,$\nu=c/\lambda=2.998\times10^{8}/(500\times10^{-9})=5.996\times10^{14}\ \mathrm{Hz}$ が,$\nu'=1.732\nu=1.039\times10^{15}\ \mathrm{Hz}$ になる.)(b) 古典的な式では $\nu'/\nu=1/(1-\beta)=1/0.5=2$ なので,

$$ \lambda''=\frac{500\ \mathrm{nm}}{2}=250\ \mathrm{nm} $$

である.(a) との差は $288.7-250=38.7\ \mathrm{nm}$ で,相対論的な式のほうが波長が長い.これは,古典的な式に含まれない時間の遅れの因子 $1/\gamma=\sqrt{1-\beta^2}=0.866$ による違いで,実際 $2\times0.866=1.732$ となって (a) の値と一致する.(c) 遠ざかる場合は $\nu'/\nu=\sqrt{(1-\beta)/(1+\beta)}=\sqrt{0.5/1.5}=1/\sqrt3=0.577$ なので,

$$ \lambda'=\sqrt3\times500\ \mathrm{nm}=866\ \mathrm{nm} $$

で,近赤外線になる.同じ速さで近づく場合と遠ざかる場合を比べると,波長が $500\ \mathrm{nm}$ の $0.577$ 倍と $1.732$ 倍で,かけ合わせると $1$ になる($\sqrt{(1+\beta)/(1-\beta)}\times\sqrt{(1-\beta)/(1+\beta)}=1$).

(解答終わり)

第56章 ミンコフスキー時空 — 同時性の相対性と固有時

演習56.1 横方向に動く粒子の速度

解答

速度の変換則(第55章の定理55.4.ここでは座標系の速さを $v$,粒子の速度を $u$ と書く)は,$\beta=v/c=0.3$,$\sqrt{1-\beta^2}=\sqrt{1-0.09}=\sqrt{0.91}=0.95394$ として,

$$ u'_x=\frac{u_x-v}{1-vu_x/c^2},\qquad u'_y=\frac{u_y\sqrt{1-\beta^2}}{1-vu_x/c^2} $$

である.$u_x=0$ なので分母は $1-0=1$ となり,

$$ u'_x=-v=-0.3c,\qquad u'_y=0.4c\times0.95394=0.38158c\approx0.382c,\qquad u'_z=0 $$

速さは $u'=c\sqrt{0.3^2+0.38158^2}=c\sqrt{0.09+0.1456}=c\sqrt{0.2356}=0.48539c\approx0.485c$($u'_y{}^2=0.4^2\times0.91=0.1456$ を使った).確かめ:恒等式(第55章の定理55.5)の左辺は $1-u'^2/c^2=1-0.2356=0.7644$,右辺は $(1-\beta^2)(1-u^2/c^2)/(1-\beta u_x/c)^2=0.91\times(1-0.16)/1=0.91\times0.84=0.7644$ で一致する.

S′ 系で見た進行方向は,$x'$ 成分が $-0.3c$,$y'$ 成分が $0.38158c$ なので,$y'$ 軸から $-x'$ 側へ,$\tan\alpha=0.3/0.38158=0.7862$,すなわち $\alpha=38.2^\circ$ 傾く.ガリレイ変換なら $u'_y=0.4c$ で $\tan\alpha=0.3/0.4=0.75$($\alpha=36.9^\circ$)だったので,相対論では $u'_y$ が $\sqrt{1-\beta^2}$ 倍に縮み,傾きがわずかに大きくなる.

演習56.2 固有時の積分

解答

(a) 一定の速さ $v$ では $\gamma=1/\sqrt{1-v^2/c^2}$ は時間によらない定数なので,

$$ \tau=\int_0^T\frac{\dd t}{\gamma}=\frac{1}{\gamma}\int_0^T\dd t=\frac{T}{\gamma}=T\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}} $$

(定数の積分 $\int_0^T\dd t=T$).(b) $v=0.99c$ では $\sqrt{1-0.99^2}=\sqrt{0.0199}=0.14107$.$T=1$ 年 $=365.25$ 日として,$\tau=0.14107\times365.25\ \text{日}=51.5$ 日.つまり,地球で 1 年経つあいだに,宇宙船の時計は約 $52$ 日しか進まない.(c) 区間ごとに (a) の結果を使って足す.$\gamma$ は,前半が $1/\gamma=\sqrt{1-0.6^2}=0.8$,後半が $1/\gamma=\sqrt{1-0.8^2}=0.6$ なので,

$$ \tau=\int_0^{T/2}0.8\,\dd t+\int_{T/2}^{T}0.6\,\dd t=0.8\times\frac T2+0.6\times\frac T2=0.4T+0.3T=0.7\,T $$

である.どちらか一方の速さで全時間 $T$ を進んだ場合($0.8T$ と $0.6T$)の中間である.

演習56.3 不変間隔と固有時の座標系によらないこと

解答

(a) 微小量の変換式(第56章の定理56.1)は $c\,\dd t'=\gamma(c\,\dd t-\beta\,\dd x)$,$\dd x'=\gamma(\dd x-\beta c\,\dd t)$,$\dd y'=\dd y$,$\dd z'=\dd z$ である.$t,x$ の部分は,

$$ c^2\dd t'^2-\dd x'^2=\gamma^2\left\{(c\,\dd t-\beta\,\dd x)^2-(\dd x-\beta c\,\dd t)^2\right\}=\gamma^2\left\{(1-\beta^2)c^2\dd t^2-(1-\beta^2)\dd x^2\right\}=c^2\dd t^2-\dd x^2 $$

(展開すると交差項 $-2\beta c\,\dd t\,\dd x$ と $+2\beta c\,\dd t\,\dd x$ が打ち消し合い,$\gamma^2(1-\beta^2)=1$).$\dd y'^2+\dd z'^2=\dd y^2+\dd z^2$ は明らかに成り立つので,$\dd y,\dd z$ が 0 でない(質点が $y,z$ 方向にも動く)場合も含めて,$c^2\dd t'^2-\dd x'^2-\dd y'^2-\dd z'^2=c^2\dd t^2-\dd x^2-\dd y^2-\dd z^2$ が成り立つ.

(b) 質点の S 系での速度が $\bm{u}$ のとき $\dd\tau=\dd t\sqrt{1-u^2/c^2}$,S′ 系での速度が $\bm{u}'$ のとき $\dd\tau'=\dd t'\sqrt{1-u'^2/c^2}$ である.恒等式(第55章の定理55.5)の平方根をとると,$D=1-\beta u_x/c\gt0$ として

$$ \sqrt{1-\frac{u'^2}{c^2}}=\frac{\sqrt{1-\beta^2}\,\sqrt{1-u^2/c^2}}{D}=\frac{1}{\gamma}\,\frac{\sqrt{1-u^2/c^2}}{D} $$

一方,$\dd t'=\gamma(1-vu_x/c^2)\dd t=\gamma D\,\dd t$($vu_x/c^2=\beta u_x/c$).両者をかけると,

$$ \dd\tau'=\gamma D\,\dd t\times\frac{1}{\gamma}\frac{\sqrt{1-u^2/c^2}}{D}=\dd t\sqrt{1-u^2/c^2}=\dd\tau $$

となる.$\gamma$ と $D$ が約分されて消えるので,$\dd\tau'=\dd\tau$,すなわち固有時は座標系によらない.

演習56.4 ラピディティの加法性(速度の合成則から)

解答

(a) $\phi_1=\tanh^{-1}\beta_1$,$\phi_2=\tanh^{-1}\beta_2$ とおくと,$\beta_1=\tanh\phi_1$,$\beta_2=\tanh\phi_2$.双曲線正接の加法定理 $\tanh(\phi_1+\phi_2)=\dfrac{\tanh\phi_1+\tanh\phi_2}{1+\tanh\phi_1\tanh\phi_2}$ の右辺に代入すると

$$ \tanh(\phi_1+\phi_2)=\frac{\beta_1+\beta_2}{1+\beta_1\beta_2}=\beta $$

となる.両辺に $\tanh^{-1}$ を作用させて,$\tanh^{-1}\beta=\phi_1+\phi_2=\tanh^{-1}\beta_1+\tanh^{-1}\beta_2$.すなわち,合成速度のラピディティは 2 つのラピディティの和である.

(b) $\beta_1=0.6$:$\phi_1=\frac12\ln\frac{1.6}{0.4}=\frac12\ln4=\ln2$.$\beta_2=0.8$:$\phi_2=\frac12\ln\frac{1.8}{0.2}=\frac12\ln9=\ln3$.和は $\phi=\ln2+\ln3=\ln6\approx1.792$.合成速度は $\beta=\tanh(\ln6)=\dfrac{6-1/6}{6+1/6}=\dfrac{35/6}{37/6}=\dfrac{35}{37}\approx0.9459$($\tanh x=(e^x-e^{-x})/(e^x+e^{-x})$).直接計算では $\beta=\dfrac{0.6+0.8}{1+0.6\times0.8}=\dfrac{1.4}{1.48}=\dfrac{35}{37}\approx0.9459$ で,一致する.

演習56.5 光円錐と出来事の分類

解答

(a) $s^2=(ct)^2-x^2$ を計算する.$\mathrm{P}_1$ $(4,3)$:$s^2=16-9=7\gt0$(時間的).$\mathrm{P}_2$ $(3,5)$:$s^2=9-25=-16\lt0$(空間的).$\mathrm{P}_3$ $(5,5)$:$s^2=25-25=0$(光的).O が原因になれるのは,時間的で O より後にある $\mathrm{P}_1$ と,光的で O より後にある $\mathrm{P}_3$(O から出た光が届く)である.$\mathrm{P}_2$ は空間的で,O から光でも届かないので原因になれない.

(b) $\mathrm{P}_1$:$\beta_0=x/(ct)=3/4$,$\gamma=1/\sqrt{1-9/16}=4/\sqrt7$.この座標系で,$x'=\gamma(x-\beta_0ct)=\gamma(3-\tfrac34\times4)=0$(同じ場所),$ct'=\gamma(ct-\beta_0x)=\frac{4}{\sqrt7}(4-\tfrac94)=\frac{4}{\sqrt7}\times\frac74=\sqrt7\approx2.646\ \mathrm m$.すなわち,速さ $0.75c$ の座標系で 2 つの出来事は同じ場所にあり,時間差は $\sqrt7\ \mathrm m/c\approx8.8\ \mathrm{ns}$($\sqrt{s^2}/c$).$\mathrm{P}_2$:$\beta_0=ct/x=3/5=0.6$,$\gamma=1.25$.$ct'=\gamma(ct-\beta_0x)=1.25\times(3-0.6\times5)=0$(同時),$x'=\gamma(x-\beta_0ct)=1.25\times(5-0.6\times3)=1.25\times3.2=4\ \mathrm m$.すなわち,速さ $0.6c$ の座標系で同時になり,距離は $\sqrt{-s^2}=\sqrt{16}=4\ \mathrm m$.

(c) 時空図(横軸 $x$,縦軸 $ct$)に O を原点として,$45^\circ$ の 2 本の直線 $ct=\pm x$(光円錐)を引く.$\mathrm{P}_1$ $(x,ct)=(3,4)$ は光円錐の内側(未来側),$\mathrm{P}_3$ $(5,5)$ は光円錐の上(右上の $45^\circ$ の線上),$\mathrm{P}_2$ $(5,3)$ は光円錐の外側(右側)に描かれる.物理的な違いは次のとおり.O と $\mathrm{P}_1$ は,速さ $3/4\,c=0.75c$ の粒子が結べる(O から $\mathrm{P}_1$ まで $x/(ct)=0.75$ の速さ)ので,O は $\mathrm{P}_1$ の原因になりうる.前後関係は,どの座標系でも O が先である.一方 O と $\mathrm{P}_2$ を結ぶには速さ $x/(ct)=5/3\,c\gt c$ が必要で,そのような信号や物体は存在しない.$\mathrm{P}_2$ と O の前後関係は座標系によって入れ替わる($\beta$ を $0.6$ より大きくすると $\mathrm{P}_2$ が O より先になる)が,因果関係がないので矛盾しない.

演習56.6 双子のパラドックスと非対称性

解答

(a) 往復の距離 $6$ 光年を $v=0.6c$ で進むので,地球の時間で $T=6/0.6=10$ 年.兄は $10$ 年年をとる.弟は $\gamma=1/\sqrt{1-0.36}=1.25$ より $\tau_{\mathrm B}=T/\gamma=10\times0.8=8$ 年.不変間隔でも確かめる.片道の出来事の差 $(c\Delta t,\Delta x)=(5,3)$(単位は年と光年)で,$\Delta s=\sqrt{25-9}=4$ 年,往復で $8$ 年.弟は兄より $2$ 年若い.

(b) 折り返し(出来事 T)は,S 系で $x_{\mathrm T}=3$ 光年,$t_{\mathrm T}=3/0.6=5$ 年.往路の弟の慣性系では,T と同時な地球の出来事 Q は,$\Delta t=v\Delta x/c^2$(単位は年と光年で $c=1$)から $t_{\mathrm T}-t_{\mathrm Q}=0.6\times3=1.8$ 年,$t_{\mathrm Q}=5-1.8=3.2$ 年.復路の弟の慣性系(速度 $-0.6c$)では $t_{\mathrm Q}-5=0.6\times3=1.8$ 年,$t_{\mathrm Q}=6.8$ 年.同時刻線は,折り返しの前後で地球の時刻 $3.2$ 年から $6.8$ 年へ,$3.6$ 年だけ跳ぶ.確かめ:往路の弟の時間 $4$ 年の間,兄の時計は $0.8\times4=3.2$ 年進み,復路も $3.2$ 年進む.跳びの $3.6$ 年を加えて $3.2+3.6+3.2=10$ 年で,兄の年齢に一致する.

(c) 「弟から見れば兄が動いている」という議論は,弟が 1 つの慣性系にいる間(往路だけ,または復路だけ)の議論としては正しく,弟から見て兄の時計は $1/\gamma=0.8$ 倍で進む.しかし,弟は折り返しで,往路の慣性系から復路の慣性系へ乗り換える.乗り換えの前後で,弟の「現在」にあたる地球の時刻が $3.2$ 年から $6.8$ 年へ跳ぶ.この跳びは,同時性の相対性による.兄は最初から最後まで 1 つの慣性系にいて,このような跳びはない.したがって兄と弟の立場は対等でなく,慣性系を乗り換えた(世界線が折れ曲がった)弟のほうの固有時が短い.時空図では,兄の世界線が 2 つの出来事を結ぶ直線で,直線の固有時が最大(定理56.6)である.弟は折り返しのときに加速を感じることでも,自分が慣性系にいないことがわかる.

演習56.7 光信号の数え上げで双子の年齢差を確かめる

解答

単位を年と光年($c=1$)にとり,$\beta=0.6$,$\gamma=1.25$,星までの距離は $3$ 光年,弟が折り返すのは地球の時間で $5$ 年(弟の時計で $4$ 年)である.

(a) 弟の時計の $n$ 年目の信号.往路($n=1,2,3,4$.折り返しの瞬間の $n=4$ を含める):弟の出来事は地球の時間で $t=\gamma n=1.25n$,位置 $x=0.6t=0.75n$.この信号が地球に届くのは $t+x=2n$ 年目.すなわち $2,4,6,8$ 年目で,間隔 $2$ 年(弟の $1$ 年間隔が兄には $2$ 年に伸びる).復路($n=5,6,7,8$):$m=n-4$ とすると,$t=5+1.25m$,$x=3-0.6\times1.25m=3-0.75m$.届くのは $t+x=8+0.5m$ 年目:$8.5,9,9.5,10$ 年目で,間隔 $0.5$ 年.兄は,最初の 4 個を $2$ 年間隔で($2\to8$ 年目),残りの 4 個を $0.5$ 年間隔で($8\to10$ 年目)受け取り,合計 $8$ 個で,最後の信号は再会の $10$ 年目に届く.

(b) 兄が地球の時間 $n$ 年目($n=1,\dots,10$)に出す信号は,$x=t-n$ の光.弟が往路($x=0.6t$,$0\le t\le5$)にいる間に届くのは,$t-n=0.6t$ から $t=n/0.4=2.5n$.$t\le5$ から $n=1,2$:地球の時間で $2.5,\,5.0$ 年目,弟の時計($\tau=t/\gamma=0.8t$)で $2.0,\,4.0$ 年目.間隔 $2$ 年.復路($x=3-0.6(t-5)=6-0.6t$)では,$t-n=6-0.6t$ から $t=(6+n)/1.6$.$n=3,\dots,10$ で $t=5.625,\,6.25,\,\dots,\,10$,弟の時計で $\tau=4+0.8(t-5)=4.5,\,5.0,\,\dots,\,8.0$.間隔 $0.5$ 年.弟は,往路で $2$ 個($2$ 年間隔),復路で $8$ 個($0.5$ 年間隔)を受け取る(折り返しの瞬間 $\tau=4$ の信号は往路に数えた).

(c) 兄が受け取った弟の信号は $8$ 個で,弟が出した信号は $1$ 年ごとだったので,弟の旅は自分の時計で $8$ 年である.弟が受け取った兄の信号は $2+8=10$ 個で,兄が $1$ 年ごとに出していたので,兄の年齢は $10$ 年である.兄が $10$ 年,弟が $8$ 年という結果が,光信号を数えるだけの,同時性を使わない方法で確かめられた.往路の受信間隔が $2$ 年,復路が $0.5$ 年で,その比が $4$ 倍(ドップラー因子 $\sqrt{(1+\beta)/(1-\beta)}=2$ の 2 乗)になっている点は,兄と弟のどちらの側から見ても同じである.

演習56.8 向かい合うビームの相対速度

解答

(a) 速度の合成則:一方の粒子(速度 $+0.9c$)の静止系から見た他方(速度 $-0.9c$)の速さは,ガリレイ的には $1.8c$ だが,合成則で,

$$ \beta=\frac{0.9+0.9}{1+0.9\times0.9}=\frac{1.8}{1.81}=0.99448 $$

である.光速の約 $99.4\ \%$.ラピディティで求める.$\phi=\tanh^{-1}0.9=\frac12\ln\frac{1.9}{0.1}=\frac12\ln19\approx1.4722$.相対速度のラピディティは,一方が $+\phi$,他方が $-\phi$ なので,差 $2\phi=2.9444$(定理56.7).$\beta=\tanh(2\phi)=\dfrac{e^{2\phi}-e^{-2\phi}}{e^{2\phi}+e^{-2\phi}}=\dfrac{19-1/19}{19+1/19}=\dfrac{360}{362}=\dfrac{180}{181}=0.99448$($e^{2\phi}=19$ を使った).合成則の結果 $1.8/1.81=180/181$ と一致する.

(b) $\gamma_{\mathrm{rel}}=1/\sqrt{1-\beta^2}$,$1-\beta^2=1-\dfrac{180^2}{181^2}=\dfrac{181^2-180^2}{181^2}=\dfrac{361}{181^2}$ なので $\sqrt{1-\beta^2}=19/181$,$\gamma_{\mathrm{rel}}=181/19\approx9.526$.

(c) 実験室での $\gamma=\cosh\phi=1/\sqrt{1-0.81}=1/\sqrt{0.19}$,$\gamma^2=1/0.19=5.263$.$\cosh2\phi=2\cosh^2\phi-1=2\times5.263-1=9.526$.(b) の $\gamma_{\mathrm{rel}}=\cosh2\phi=9.526$ と一致する(公式56.2 の $\gamma=\cosh\phi$ を,相対速度のラピディティ $2\phi$ に適用した).$0.9c$ のビームを向かい合わせにぶつけると,一方の粒子の静止系では,相手は $\gamma\approx9.5$ の粒子が静止した粒子にぶつかるのと同じになる.

第57章 4元ベクトルと相対論的力学 — E=mc² と粒子の運動学

演習57.1 時空間隔 $x\cdot x$

解答

(a) 内積の定義 $x\cdot x=(x^0)^2-(x^1)^2-(x^2)^2-(x^3)^2$ に $x^\mu=(ct,x,0,0)$ を入れて,

$$ x\cdot x=(ct)^2-x^2-0^2-0^2=c^2t^2-x^2 $$

(b) 単位はいずれも $\mathrm{m}$ なので,$x\cdot x$ の単位は $\mathrm{m^2}$ である.

$$ \begin{aligned} (ct,x)=(4,1):&\quad x\cdot x=4^2-1^2=15\ \mathrm{m^2}\gt0\quad\text{(時間的)}\\ (ct,x)=(1,4):&\quad x\cdot x=1^2-4^2=-15\ \mathrm{m^2}\lt0\quad\text{(空間的)}\\ (ct,x)=(3,3):&\quad x\cdot x=3^2-3^2=0\quad\text{(光的)} \end{aligned} $$

(c) 出来事 $(4,1)$ と原点の出来事が同じ場所で起きる慣性系 S′ では,$x'^1=0$ なので $x'\cdot x'=(ct')^2$ である.内積は不変(定理57.1)だから $x'\cdot x'=x\cdot x=15\ \mathrm{m^2}$ で,$ct'=\sqrt{15}\ \mathrm{m}=3.873\ \mathrm{m}$ となる.したがって固有時は

$$ \Delta\tau=\frac{\sqrt{15}\ \mathrm{m}}{3.00\times10^8\ \mathrm{m/s}}=1.29\times10^{-8}\ \mathrm{s}\quad(12.9\ \mathrm{ns}) $$

である.確認:この S′ 系は,原点と出来事を同じ場所とみなす系なので,S 系に対して速度 $v=x/t=c\times1/4$,すなわち $\beta=0.25$ で動いており,$\gamma=1/\sqrt{1-1/16}=4/\sqrt{15}$ である.ローレンツ変換で $ct'=\gamma(ct-\beta x)=\dfrac{4}{\sqrt{15}}(4-0.25\times1)=\dfrac{4\times3.75}{\sqrt{15}}=\dfrac{15}{\sqrt{15}}=\sqrt{15}\ \mathrm{m}$ となり,一致する.また,$x'=\gamma(x-\beta ct)=\dfrac{4}{\sqrt{15}}(1-0.25\times4)=0$ である.

演習57.2 $\Lambda^{\mathsf T}g\Lambda=g$ と内積の不変性($\beta=0.8$)

解答

(a) $\gamma=1/\sqrt{1-0.8^2}=1/0.6=5/3$,$\beta\gamma=0.8\times5/3=4/3$ なので,

$$ \Lambda=\begin{pmatrix}5/3&-4/3\\-4/3&5/3\end{pmatrix},\qquad g=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix},\qquad g\Lambda=\begin{pmatrix}5/3&-4/3\\4/3&-5/3\end{pmatrix} $$

$\Lambda$ は対称行列で $\Lambda^{\mathsf T}=\Lambda$ だから,

$$ \Lambda^{\mathsf T}g\Lambda=\begin{pmatrix}5/3&-4/3\\-4/3&5/3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}5/3&-4/3\\4/3&-5/3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\frac{25}{9}-\frac{16}{9}&-\frac{20}{9}+\frac{20}{9}\\-\frac{20}{9}+\frac{20}{9}&\frac{16}{9}-\frac{25}{9}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}=g $$

(b) $a'^0=\gamma(a^0-\beta a^1)=\dfrac53(3-0.8\times1)=\dfrac53\times2.2=\dfrac{11}{3}$,$a'^1=\gamma(a^1-\beta a^0)=\dfrac53(1-0.8\times3)=\dfrac53\times(-1.4)=-\dfrac73$,$a'^2=2$,$a'^3=0$ より $a'^\mu=(11/3,\,-7/3,\,2,\,0)$.同様に $b'^0=\dfrac53(2-0.8\times1)=2$,$b'^1=\dfrac53(1-0.8\times2)=\dfrac53\times(-0.6)=-1$,$b'^2=0$,$b'^3=1$ より $b'^\mu=(2,\,-1,\,0,\,1)$ である.内積は

$$ a'\cdot b'=\frac{11}{3}\times2-\left(-\frac73\right)(-1)-2\times0-0\times1=\frac{22}{3}-\frac73=\frac{15}{3}=5 $$

で,S 系での値 $a\cdot b=3\times2-(1\times1+2\times0+0\times1)=5$ に一致する(定理57.1).

演習57.3 4元速度と固有時

解答

(a) $u^\mu=\gamma(c,\bm{v})$ なので,$u\cdot u=(\gamma c)^2-\gamma^2\bm{v}\cdot\bm{v}=\gamma^2(c^2-v^2)$ である.$\gamma^2=1/(1-v^2/c^2)$ を代入して,

$$ u\cdot u=\frac{c^2-v^2}{1-v^2/c^2}=\frac{c^2\left(1-v^2/c^2\right)}{1-v^2/c^2}=c^2 $$

となり,速さ $v$ によらない.(b) $v=0.8c$ なら $\gamma=1/\sqrt{1-0.64}=5/3$ で,$u^0=\gamma c=\tfrac53c$,$u^1=\gamma v=\tfrac53\times0.8c=\tfrac43c$,$u^2=u^3=0$ である:$u^\mu=(5/3,\ 4/3,\ 0,\ 0)\,c$.確認:$u\cdot u=(25/9-16/9)c^2=c^2$ である.(c) $\dd t/\dd\tau=u^0/c=\gamma=5/3$ なので,$\Delta\tau=\Delta t/\gamma=30\ \mathrm{s}\times3/5=18\ \mathrm{s}$ である.粒子と一緒に動く時計は $18\ \mathrm{s}$ しか進まない(時間の遅れ).

演習57.4 静止した粒子・非相対論極限・質量ゼロの粒子

解答

(a) 静止しているので $\bm{v}=\bm{0}$,$\gamma=1$ で,$p^\mu=mu^\mu=m(c,\bm{0})=(mc,\bm{0})$ である.$p^0=E/c$ と比べて $E=mc^2$,空間成分から $\bm{p}=\bm{0}$ である.

(b) $E=\sqrt{(pc)^2+(mc^2)^2}=mc^2\sqrt{1+x}$,$x=(p/mc)^2\ll1$ とおいて,$\sqrt{1+x}=1+\tfrac12x-\tfrac18x^2+\cdots$ を使うと,

$$ E\approx mc^2\left[1+\frac12\frac{p^2}{m^2c^2}-\frac18\frac{p^4}{m^4c^4}\right]=mc^2+\frac{p^2}{2m}-\frac{p^4}{8m^3c^2} $$

第 2 項までで $E\approx mc^2+p^2/2m$ である.電子で $pc=0.05\ \mathrm{MeV}$ のとき,厳密値は $E=\sqrt{0.05^2+0.511^2}=\sqrt{0.263621}=0.513440\ \mathrm{MeV}$ なので $T=E-mc^2=0.002440\ \mathrm{MeV}=2.44\ \mathrm{keV}$.一方,$p^2/2m=(pc)^2/(2mc^2)=0.0025/1.022=0.002446\ \mathrm{MeV}$.相対的なずれは $0.002446/0.002440-1\approx0.24\%$ で,第 3 項が引き起こす補正 $p^2/(4m^2c^2)=(0.05/0.511)^2/4=0.0024$ とほぼ等しい.第 3 項まで入れると,$p^4/(8m^3c^2)=(pc)^4/[8(mc^2)^3]=6.25\times10^{-6}/(8\times0.1334)=5.86\times10^{-6}\ \mathrm{MeV}$ を引いて $0.002446-0.000006=0.002440\ \mathrm{MeV}$ となり,厳密値に一致する.

(c) $m=0$ なら $E^2=(pc)^2$ で,$E\gt0$ なので $E=pc$ である.このとき $\beta=v/c=pc/E=1$,すなわち $v=c$ である(質量ゼロの粒子は光速で動く).

演習57.5 質量とエネルギー

解答

(a) $E=mc^2=(1\ \mathrm{kg})(2.998\times10^8\ \mathrm{m/s})^2=8.99\times10^{16}\ \mathrm{J}$.TNT 換算では $8.99\times10^{16}/(4.184\times10^9)\approx2.15\times10^7\ \mathrm{t}$,約 $21.5$ メガトン($1\ \mathrm{Mt}=10^6\ \mathrm{t}$)である.

(b) 必要な熱量は $Q=cm\Delta T=4186\ \mathrm{J/(kg\,K)}\times1\ \mathrm{kg}\times100\ \mathrm{K}=4.19\times10^5\ \mathrm{J}$ で,これが水のエネルギーの増加 $\Delta E$ なので,質量の増加は

$$ \Delta m=\frac{\Delta E}{c^2}=\frac{4.186\times10^5\ \mathrm{J}}{\left(2.998\times10^8\ \mathrm{m/s}\right)^2}=4.66\times10^{-12}\ \mathrm{kg} $$

である(約 $4.7\ \mathrm{ng}$,割合は $4.7\times10^{-12}$).日常のエネルギーの出入りでは質量の変化は測れないほど小さい.

(c) $\gamma=(1-\beta^2)^{-1/2}$ を,$(1-x)^{-1/2}=1+\tfrac12x+\tfrac38x^2+\cdots$($x=\beta^2$)で展開すると $\gamma-1=\tfrac12\beta^2+\tfrac38\beta^4+\cdots$ である.$\beta^2mc^2=mv^2$,$\beta^4mc^2=mv^4/c^2$ なので,

$$ T=(\gamma-1)mc^2=\frac12mv^2+\frac38\,\frac{mv^4}{c^2}+\cdots $$

第 1 項が高校物理の運動エネルギー $\tfrac12mv^2$ である.$v=0.05c$ のとき $\beta^2=0.0025$ で,$\gamma-1=1.25235\times10^{-3}$,$\tfrac12\beta^2=1.25\times10^{-3}$ なので,相対的なずれは $1.25235/1.25-1\approx1.9\times10^{-3}$,約 $0.19\%$ である($\tfrac34\beta^2=0.1875\%$ とほぼ一致).

演習57.6 2体崩壊 $M\to m+m$ と $Z\to\mu^+\mu^-$

解答

(a) 静止系で崩壊前の 4 元運動量は $P^\mu=(Mc,\bm{0})$,崩壊後は $p_1^\mu+p_2^\mu$ である.$p_2^\mu=P^\mu-p_1^\mu$ の両辺の自分自身との内積をとると,$p_2\cdot p_2=P\cdot P-2P\cdot p_1+p_1\cdot p_1$ で,$p_2\cdot p_2=p_1\cdot p_1=m^2c^2$,$P\cdot P=M^2c^2$,$P\cdot p_1=Mc\cdot E_1/c=ME_1$ なので,

$$ m^2c^2=M^2c^2-2ME_1+m^2c^2\quad\Longrightarrow\quad E_1=\frac{Mc^2}{2} $$

である.エネルギー保存 $E_1+E_2=Mc^2$ から $E_2=Mc^2/2$ となり,$E_1=E_2=Mc^2/2$ が示された.運動量の大きさは,$p^2c^2=E_1^2-m^2c^4=M^2c^4/4-m^2c^4$ より

$$ p=\frac{c}{2}\sqrt{M^2-4m^2} $$

である($M\gt2m$ が必要).

(b) $M=91.19\ \mathrm{GeV}/c^2$,$m=m_\mu=105.658\ \mathrm{MeV}/c^2$ とすると,エネルギーは $E=Mc^2/2=45.595\ \mathrm{GeV}$.運動量は $pc=\sqrt{E^2-(m_\mu c^2)^2}=\sqrt{45595^2-105.658^2}\ \mathrm{MeV}=45594.9\ \mathrm{MeV}\approx45.595\ \mathrm{GeV}$($E$ との差は $0.12\ \mathrm{MeV}$ だけ)で,$p\approx45.595\ \mathrm{GeV}/c$ である.$\gamma=E/(m_\mu c^2)=45595/105.658\approx431.5$ で,ミューオンはほぼ光速($1-\beta\approx1/(2\gamma^2)=2.7\times10^{-6}$)で飛ぶ.

演習57.7 $\mathrm p+\mathrm p\to\mathrm p+\mathrm p+\pi^0$ のしきいエネルギー

解答

(a) しきい条件は,反応後の質量の和 $2m_{\mathrm p}+m_{\pi^0}$ に対して $M_{\mathrm{inv}}c^2=(2m_{\mathrm p}+m_{\pi^0})c^2$ である.固定標的の不変質量は $M_{\mathrm{inv}}^2c^4=2m_{\mathrm p}^2c^4+2Em_{\mathrm p}c^2$(例題57.22)なので,

$$ 2m_{\mathrm p}^2c^4+2Em_{\mathrm p}c^2=\left(2m_{\mathrm p}+m_{\pi^0}\right)^2c^4=\left(4m_{\mathrm p}^2+4m_{\mathrm p}m_{\pi^0}+m_{\pi^0}^2\right)c^4 $$

これを $E$ について解くと $E=\left(m_{\mathrm p}+2m_{\pi^0}+\dfrac{m_{\pi^0}^2}{2m_{\mathrm p}}\right)c^2$ なので,運動エネルギーは $T=E-m_{\mathrm p}c^2=\left(2m_{\pi^0}+\dfrac{m_{\pi^0}^2}{2m_{\mathrm p}}\right)c^2$ である.数値を入れると,

$$ T=2\times134.977+\frac{134.977^2}{2\times938.272}=269.954+\frac{18218.8}{1876.544}=269.954+9.709=279.66\ \mathrm{MeV}\approx280\ \mathrm{MeV} $$

(b) 衝突型では,全運動量が $0$ で $M_{\mathrm{inv}}c^2=2E$ なので,$2E=(2m_{\mathrm p}+m_{\pi^0})c^2$,$E=m_{\mathrm p}c^2+\tfrac12m_{\pi^0}c^2$,したがって運動エネルギーは 1 本あたり $T=\tfrac12m_{\pi^0}c^2=67.49\ \mathrm{MeV}$(2 本で $135\ \mathrm{MeV}$)である.

(c) 固定標的では,ビーム陽子がもつ運動量が反応後もなくならないので,生成された粒子は全体として前へ動き続ける(57.8 節の図57.7 と同じ事情).そのため,運動エネルギーの一部が重心の運動に使われ,質量の生成には使えない.そのぶん $T$ は,$\pi^0$ の静止エネルギー $135\ \mathrm{MeV}$ の約 2 倍の $280\ \mathrm{MeV}$ 必要になる.衝突型では,全運動量が 0 で,運動エネルギーの合計 $2\times67.49=135\ \mathrm{MeV}$ がちょうど $\pi^0$ の静止エネルギーになる.

演習57.8 $^{137}\mathrm{Cs}$ のガンマ線の後方散乱

解答

$\theta=180^\circ$ では $1-\cos\theta=2$ なので,第57章 57.9 節のコンプトン散乱のエネルギーの式 $E'=E/[1+(E/m_{\mathrm e}c^2)(1-\cos\theta)]$ より,

$$ E'=\frac{662\ \mathrm{keV}}{1+2\times662/511}=\frac{662}{1+2.591}\ \mathrm{keV}=\frac{662}{3.591}\ \mathrm{keV}=184.4\ \mathrm{keV}\approx184\ \mathrm{keV} $$

である.電子が受け取る運動エネルギーはエネルギー保存則から $T_{\mathrm e}=E-E'=662-184.4=477.6\ \mathrm{keV}\approx478\ \mathrm{keV}$ で,これが散乱で電子が受け取れる最大のエネルギー(コンプトン端)である.電子の向きは,運動量保存則 $\bm{p}_{\mathrm e}'=\bm{q}-\bm{q}'$ で決まる.後方散乱では散乱光子が入射方向と逆向き($\bm{q}'=-(E'/c)\bm{n}$)なので,$\bm{p}_{\mathrm e}'=[(E+E')/c]\,\bm{n}$,つまり電子は入射光子と同じ向き($\phi=0^\circ$)に飛ぶ.運動量の大きさは $p_{\mathrm e}c=E+E'=846.4\ \mathrm{keV}$ で,エネルギーは $\sqrt{846.4^2+511^2}=989\ \mathrm{keV}=511+477.6\ \mathrm{keV}$ となって,エネルギー保存則と整合している.別の確認として,波長で計算する:$\lambda=hc/E=1239.84\ \mathrm{keV\,pm}/662\ \mathrm{keV}=1.873\ \mathrm{pm}$,$\lambda'=\lambda+2\lambda_{\mathrm C}=1.873+4.853=6.726\ \mathrm{pm}$ で,$E'=1239.84/6.726=184.3\ \mathrm{keV}$ となり,一致する.

第58章 自然単位系と電磁気学の4元形式 — 素粒子物理学への準備

演習58.1 自然単位系の換算

解答

(a) 長さ $\ell$ に対応するエネルギーは $E=\hbar c/\ell$ である.$\ell=0.84\ \mathrm{fm}$ として,

$$ E=\frac{197.327\ \mathrm{MeV\,fm}}{0.84\ \mathrm{fm}}=2.35\times10^{2}\ \mathrm{MeV} $$

($197.327/0.84=234.9$).陽子の大きさの世界は,数百 $\mathrm{MeV}$ のエネルギー・スケールにある.

(b) 自然単位系の $1\ \mathrm{GeV}^{-1}$ は,長さでは $\hbar c$ をかけて $\hbar c/(1\ \mathrm{GeV})$,時間では $\hbar$ をかけて $\hbar/(1\ \mathrm{GeV})$ である(公式58.1).$1\ \mathrm{GeV}=10^{3}\ \mathrm{MeV}$ を使うと,

$$ \frac{\hbar c}{1\ \mathrm{GeV}}=\frac{197.327\ \mathrm{MeV\,fm}}{10^{3}\ \mathrm{MeV}}=0.197\,327\ \mathrm{fm}=1.973\times10^{-16}\ \mathrm{m},\qquad \frac{\hbar}{1\ \mathrm{GeV}}=\frac{6.582\,12\times10^{-22}\ \mathrm{MeV\,s}}{10^{3}\ \mathrm{MeV}}=6.582\times10^{-25}\ \mathrm{s} $$

(c) 面積の次元の量なので,長さ $1\ \mathrm{GeV}^{-1}$ を 2 乗する:$(0.197\,327\ \mathrm{fm})^2=0.038\,94\ \mathrm{fm^2}$.$1\ \mathrm{fm^2}=10^{-30}\ \mathrm{m^2}=10\ \mathrm{mb}$($1\ \mathrm{mb}=10^{-31}\ \mathrm{m^2}$ だから,$10^{-30}/10^{-31}=10$)なので,

$$ 1\ \mathrm{GeV}^{-2}=0.038\,94\times10\ \mathrm{mb}=0.389\ \mathrm{mb} $$

逆に $1\ \mathrm{mb}$ は約 $2.57\ \mathrm{GeV}^{-2}$ である.

(d) $\hbar c$ の SI 単位は $[\mathrm{J\,s}]\cdot[\mathrm{m/s}]=\mathrm{J\,m}$(エネルギー×長さ)である.自然単位系では $\hbar c=1$ だから,「エネルギー×長さ $=1$」,すなわち長さ $=1/$エネルギー,長さの次元は「エネルギー$^{-1}$」である.同様に $\hbar$ の単位 $\mathrm{J\,s}$ から,時間 $=\hbar/$エネルギー,つまり時間の次元も「エネルギー$^{-1}$」になる.

(解答終わり)

演習58.2 ミューオンの寿命を自然単位系で計算する

解答

(a) $G_{\mathrm F}^2=(1.166\,379\times10^{-5})^2\ \mathrm{GeV}^{-4}=1.3604\times10^{-10}\ \mathrm{GeV}^{-4}$,$m_\mu^5=(0.105\,658)^5\ \mathrm{GeV}^5=1.3168\times10^{-5}\ \mathrm{GeV}^5$,$192\pi^3=192\times31.006=5953.2$ である.したがって

$$ \Gamma=\frac{1.3604\times10^{-10}\times1.3168\times10^{-5}}{5953.2}\ \mathrm{GeV}=\frac{1.7914\times10^{-15}}{5953.2}\ \mathrm{GeV}=3.009\times10^{-19}\ \mathrm{GeV} $$

($\mathrm{GeV}^{-4}\times\mathrm{GeV}^{5}=\mathrm{GeV}$ で,エネルギーの次元になっている.$3.009\times10^{-10}\ \mathrm{eV}$ に相当).

(b) $\tau=\hbar/\Gamma$ に,$\hbar=6.582\,12\times10^{-25}\ \mathrm{GeV\,s}$ を入れると,

$$ \tau=\frac{6.582\,12\times10^{-25}\ \mathrm{GeV\,s}}{3.009\times10^{-19}\ \mathrm{GeV}}=2.187\times10^{-6}\ \mathrm{s} $$

である.実測値 $2.197\times10^{-6}\ \mathrm{s}$ との差は約 $0.45\%$ で,この簡単な式が電子の質量の効果(約 $0.02\%$)と量子電磁気学の輻射補正(崩壊幅を約 $0.4\%$ 減らす)を無視したことによる差にほぼ一致する.自然単位系の式で計算するだけで,$10^{-6}\ \mathrm{s}$ の桁と有効数字 3 桁の寿命が得られる.

(c) $G_{\mathrm F}/(\hbar c)^3$ が $\mathrm{GeV}^{-2}$ の量であることに注意して,質量を $m_\mu\to m_\mu c^2$ とおくと,

$$ \Gamma=\frac{1}{192\pi^3}\left[\frac{G_{\mathrm F}}{(\hbar c)^3}\right]^2(m_\mu c^2)^5 $$

である(次元:$[\mathrm{GeV}^{-2}]^2[\mathrm{GeV}]^5=\mathrm{GeV}$).寿命は $\tau=\hbar/\Gamma$ で,$G_{\mathrm F}$ を SI 単位($\mathrm{J\,m^3}$)で与えた場合は $\Gamma=G_{\mathrm F}^2(m_\mu c^2)^5/[192\pi^3(\hbar c)^6]$ となる(次元:$(\mathrm{J\,m^3})^2\mathrm{J}^5/(\mathrm{J\,m})^6=\mathrm{J}$).

(解答終わり)

演習58.3 ポテンシャルの変換から電場を求める

解答

(a) S 系で $A^0=\varphi/c=-E_0x/c$,$A^1=A_x=0$ である.S′ 系の座標で書くため,逆変換 $x=\gamma(x'+\beta ct')$ を使う.$\beta=0.5$ より $\gamma=1/\sqrt{1-0.25}=2/\sqrt3$,$\gamma^2=4/3$,$\gamma^2\beta=2/3$,$\gamma^2\beta^2=1/3$.$x^\mu$ と同じ変換 $A'^0=\gamma(A^0-\beta A^1)$,$A'^1=\gamma(A^1-\beta A^0)$ を使うと,

$$ A'^0=\gamma A^0=-\frac{\gamma E_0}{c}\,x=-\frac{\gamma^2E_0}{c}\,(x'+\beta ct'),\qquad A'^1=-\gamma\beta A^0=\frac{\gamma\beta E_0}{c}\,x=\frac{\gamma^2\beta E_0}{c}\,(x'+\beta ct') $$

である.したがって,$\varphi'=cA'^0$,$A'_x=A'^1$,$A'_y=A'_z=0$ で,数値を入れると

$$ \varphi'=-\frac43E_0\left(x'+\frac{ct'}2\right),\qquad A'_x=\frac23\,\frac{E_0}{c}\left(x'+\frac{ct'}2\right) $$

となる(次元:$E_0x'\ [\mathrm V]$ は電位,$E_0x'/c\ [\mathrm{V\,s/m}]$ は $\bm A$ の次元).

(b) 電位の勾配は $\partial_{x'}\varphi'=-\dfrac43E_0$,ベクトルポテンシャルの時間微分は $\partial_{t'}A'_x=\dfrac23\dfrac{E_0}{c}\cdot\dfrac c2=\dfrac13E_0$ なので,

$$ E'_x=-\pdiff{\varphi'}{x'}-\pdiff{A'_x}{t'}=\frac43E_0-\frac13E_0=E_0 $$

である.$E'_y=-\partial_{y'}\varphi'-\partial_{t'}A'_y=0$,$E'_z=0$.また,$\bm A'=(A'_x(t',x'),0,0)$ の回転は,$(\rot'\bm A')_y=\partial_{z'}A'_x-\partial_{x'}A'_z=0$,$(\rot'\bm A')_z=\partial_{x'}A'_y-\partial_{y'}A'_x=0$,$(\rot'\bm A')_x=0$ で,$\bm B'=\bm0$.これは,定理58.5 で $E_y=E_z=0$,$\bm B=\bm0$ とおいたときの $E'_x=E_x=E_0$,$\bm E'_\perp=\bm0$,$\bm B'=\bm0$ に一致する.運動方向に平行な電場は,動く観測者に対しても変わらない.なお,$\gamma^2=4/3$ が電位に,$\gamma^2\beta^2=1/3$ が $A'_x$ の時間変化に現れて,差 $\gamma^2(1-\beta^2)=1$ が残るところに,ローレンツ変換の性質がよく表れている.

(c) $\dfrac1{c^2}\partial_{t'}\varphi'=\dfrac1{c^2}\left(-\dfrac43E_0\cdot\dfrac c2\right)=-\dfrac23\dfrac{E_0}c$,$\partial_{x'}A'_x=\dfrac23\dfrac{E_0}c$ なので,

$$ \partial'_\mu A'^\mu=\frac1{c^2}\pdiff{\varphi'}{t'}+\pdiff{A'_x}{x'}=-\frac23\frac{E_0}c+\frac23\frac{E_0}c=0 $$

で,ローレンツ条件が S′ 系でも成り立つ(S 系では $\partial_\mu A^\mu=\dfrac1{c^2}\partial_t\varphi+\nabla\cdot\bm A=0+0=0$ だった.ローレンツ条件が共変であることの一例).

(解答終わり)

演習58.4 一様な磁場の場のテンソルと不変量

解答

(a) $A^0=\varphi/c=0$,$A^1=-B_0y/2$,$A^2=B_0x/2$,$A^3=0$,$\partial^0=\dfrac1c\partial_t$,$\partial^i=-\partial_i$ である.時間微分はゼロ(場は時間に依存しない)で,$A^0=0$ なので $F^{0i}=\partial^0A^i-\partial^iA^0=0$.空間成分は

$$ F^{12}=\partial^1A^2-\partial^2A^1=-\pdiff{A^2}{x}+\pdiff{A^1}{y}=-\frac{B_0}{2}+\left(-\frac{B_0}{2}\right)=-B_0 $$

で,$F^{13}=-\partial_xA^3+\partial_zA^1=0$,$F^{23}=-\partial_yA^3+\partial_zA^2=0$ である.反対称性から $F^{21}=+B_0$.よって

$$ F^{\mu\nu}=\begin{pmatrix}0&0&0&0\\0&0&-B_0&0\\0&B_0&0&0\\0&0&0&0\end{pmatrix} $$

で,式 $F^{12}=-B_z$ と $B_z=B_0$,他の成分が $0$ であることに一致する.$F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}=2B_0^2$.

(b) $\beta=0.6$,$\gamma=1.25$,$v=0.6c$.$E_y=0$,$B_z=B_0$ を定理58.5 に入れると,

$$ E'_y=\gamma(E_y-vB_z)=-1.25\times0.6\times2.998\times10^{8}\ \mathrm{m/s}\times1.0\ \mathrm{T}=-2.25\times10^{8}\ \mathrm{V/m},\qquad B'_z=\gamma\left(B_z-\frac{v}{c^2}E_y\right)=1.25\ \mathrm{T} $$

で,$E'_x=E'_z=0$,$B'_x=B'_y=0$ である.不変量は

$$ E'^2-c^2B'^2=(2.248\times10^{8})^2-(2.998\times10^{8}\times1.25)^2=5.06\times10^{16}-1.404\times10^{17}=-8.99\times10^{16}\ \mathrm{V^2/m^2} $$

で,$-c^2B_0^2=-(2.998\times10^{8}\times1.0)^2=-8.99\times10^{16}\ \mathrm{V^2/m^2}$ と一致する.一様な磁場を動く観測者は,強い電場(この例では $2.2\times10^{8}\ \mathrm{V/m}$)と,わずかに強まった磁場を観測する.

(解答終わり)

演習58.5 $\partial_\mu F^{\mu\nu}=\mu_0j^\nu$ の成分と電荷保存則

解答

(a) $\nu=2$ の式は $\partial_0F^{02}+\partial_1F^{12}+\partial_2F^{22}+\partial_3F^{32}=\mu_0j^2$ である.場のテンソルの行列から $F^{02}=-E_y/c$,$F^{12}=-B_z$,$F^{22}=0$,$F^{32}=B_x$ なので,

$$ -\frac1{c^2}\pdiff{E_y}{t}-\pdiff{B_z}{x}+\pdiff{B_x}{z}=\mu_0j_y $$

である.$\partial_zB_x-\partial_xB_z=(\rot\bm B)_y$ だから,$(\rot\bm B)_y=\mu_0j_y+\dfrac1{c^2}\pdiff{E_y}{t}$ が得られる.

(b) 式 $\partial_\mu F^{\mu\nu}=\mu_0j^\nu$ の両辺に $\partial_\nu$ を作用させて,$\nu$ について $0$ から $3$ までの和をとる:

$$ \partial_\nu\partial_\mu F^{\mu\nu}=\mu_0\,\partial_\nu j^\nu $$

左辺は,和をとる添字の名前 $\mu,\nu$ を入れ替えても値が変わらないので $\partial_\nu\partial_\mu F^{\mu\nu}=\partial_\mu\partial_\nu F^{\nu\mu}$,$F$ の反対称性 $F^{\nu\mu}=-F^{\mu\nu}$ から $=-\partial_\mu\partial_\nu F^{\mu\nu}$,偏微分の順序の交換 $\partial_\mu\partial_\nu=\partial_\nu\partial_\mu$ から $=-\partial_\nu\partial_\mu F^{\mu\nu}$ となる.これは元の左辺の符号を変えたものに等しいので,$0$ である.したがって $\partial_\nu j^\nu=0$,すなわち $\dfrac1c\partial_t(c\rho)+\nabla\cdot\bm j=\partial_t\rho+\nabla\cdot\bm j=0$(電荷保存則)となる.

(解答終わり)

演習58.6 平面電磁波を動く観測者から見る

解答

(a) S 系で $E_y=E_0$,$B_z=E_0/c$,他の成分は $0$.$\beta=0.6$,$\gamma=1.25$ で,$v=\beta c$ とすると,定理58.5 より

$$ E'_y=\gamma(E_y-vB_z)=\gamma\left(E_0-\beta c\cdot\frac{E_0}{c}\right)=\gamma(1-\beta)E_0=1.25\times0.4\times1.0\times10^{3}\ \mathrm{V/m}=5.0\times10^{2}\ \mathrm{V/m} $$ $$ B'_z=\gamma\left(B_z-\frac{v}{c^2}E_y\right)=\gamma\left(\frac{E_0}{c}-\frac{\beta E_0}{c}\right)=\gamma(1-\beta)\frac{E_0}{c}=\frac{5.0\times10^{2}\ \mathrm{V/m}}{2.998\times10^{8}\ \mathrm{m/s}}=1.67\times10^{-6}\ \mathrm{T} $$

で,他の成分は $0$ のまま.$E'_y/B'_z=c$,すなわち $E'=cB'$ が保たれている(不変量 $E^2-c^2B^2=0$ の帰結).

(b) $E'/E_0=\gamma(1-\beta)=\dfrac{1-\beta}{\sqrt{(1-\beta)(1+\beta)}}=\sqrt{\dfrac{1-\beta}{1+\beta}}=\sqrt{\dfrac{0.4}{1.6}}=0.5$ で,例題58.7 の 4 元波数ベクトルの $\omega'/\omega$ と同じ係数である.波と一緒に遠ざかる観測者には,振幅も振動数も同じ係数で小さく見える(光子が数を保ったままエネルギーが下がることに対応する).

(c) S′ の速度が $-x$ 向き(光源に近づく向き)なら,$\beta\to-\beta$ として $E'/E_0=\gamma(1+\beta)=\sqrt{\dfrac{1+\beta}{1-\beta}}=2$,$E'=2.0\times10^{3}\ \mathrm{V/m}$($B'=E'/c$).振幅が 2 倍になり,振動数も 2 倍(青方偏移)になる.

(解答終わり)

演習58.7 地磁気中の宇宙線陽子の軌道半径

解答

(a) 公式58.2 の $p\ [\mathrm{GeV}/c]=0.2998\,B\ [\mathrm{T}]\,r\ [\mathrm{m}]$ から,

$$ r=\frac{p}{0.2998\,B}=\frac{10}{0.2998\times5\times10^{-5}}\ \mathrm{m}=6.67\times10^{5}\ \mathrm{m}=6.7\times10^{2}\ \mathrm{km} $$

である.地球の半径 $6.4\times10^{3}\ \mathrm{km}$ の約 $1/10$($667/6400=0.104$)で,地磁気は $10\ \mathrm{GeV}/c$ 程度の宇宙線陽子を,地球の大きさよりはるかに小さい半径で曲げる.地磁気が低いエネルギーの宇宙線を地表から遠ざけるのは,このためである.

(b) 軌道半径 $r=p/(qB)$ は,運動量と電気量の大きさ $\abs{q}$ だけで決まり,質量にはよらない.電子は陽子と電気量の大きさが同じなので,運動量が同じなら軌道半径は同じ $6.7\times10^{2}\ \mathrm{km}$ である(電荷の符号が逆なので,曲がる向きは逆になる).
運動エネルギーが同じ $T=10\ \mathrm{GeV}$ の場合は,運動量が $pc=\sqrt{T^2+2Tmc^2}$ で決まる.陽子($m_{\mathrm p}c^2=0.938\ \mathrm{GeV}$)では $pc=\sqrt{100+18.77}\ \mathrm{GeV}=10.90\ \mathrm{GeV}$,$r=10.90/(0.2998\times5\times10^{-5})\ \mathrm{m}=7.27\times10^{5}\ \mathrm{m}$.電子($m_{\mathrm e}c^2=0.511\times10^{-3}\ \mathrm{GeV}$)では $pc=\sqrt{100+0.0102}\ \mathrm{GeV}=10.0005\ \mathrm{GeV}$,$r=6.67\times10^{5}\ \mathrm{m}$ で,差は約 $9\%$ にすぎない.エネルギーが十分に高いと,質量の違いはほとんど効かない(超相対論的.$pc\approx T$).

(解答終わり)

演習58.8 自由粒子のハミルトニアンの展開

解答

(a) $p=\partial L/\partial v=\gamma mv$.$H=pv-L=\gamma mv^2+mc^2/\gamma=\gamma mc^2$(本文 58.9.2).これを $p$ で書く.$p^2c^2=\gamma^2m^2v^2c^2=\gamma^2m^2c^4\beta^2$ で,$\gamma^2\beta^2=\gamma^2-1$($\gamma^2(1-\beta^2)=1$ より)なので $p^2c^2=(\gamma^2-1)m^2c^4$,すなわち $\gamma^2m^2c^4=p^2c^2+m^2c^4$.$\gamma mc^2\gt0$ の平方根をとって

$$ H=\gamma mc^2=\sqrt{p^2c^2+m^2c^4} $$

を得る.

(b) $H=mc^2\sqrt{1+x}$,$x=p^2/(mc)^2$ とおくと,$p\ll mc$ で $x\ll1$.$\sqrt{1+x}=1+\dfrac x2-\dfrac{x^2}8+\cdots$(テイラー展開)から

$$ H=mc^2\left(1+\frac{p^2}{2m^2c^2}-\frac{p^4}{8m^4c^4}+\cdots\right)=mc^2+\frac{p^2}{2m}-\frac{p^4}{8m^3c^2}+\cdots $$

である.第 1 項は静止エネルギー,第 2 項は非相対論の運動エネルギー,第 3 項が最初の相対論的補正(運動エネルギーを減らす向き)である.

(c) $pc=0.10\ \mathrm{MeV}$,$mc^2=0.511\ \mathrm{MeV}$ とする.厳密な運動エネルギーは

$$ T=\sqrt{(pc)^2+(mc^2)^2}-mc^2=\sqrt{0.0100+0.2611}\ \mathrm{MeV}-0.511\ \mathrm{MeV}=9.693\times10^{-3}\ \mathrm{MeV} $$

$p^2/(2m)=(pc)^2/(2mc^2)=0.0100/1.022\ \mathrm{MeV}=9.785\times10^{-3}\ \mathrm{MeV}$.差は $9.785\times10^{-3}-9.693\times10^{-3}=9.2\times10^{-5}\ \mathrm{MeV}=92\ \mathrm{eV}$($T$ の約 $1\%$)である.(b) の第 3 項は $-\dfrac{(pc)^4}{8(mc^2)^3}=-\dfrac{1.0\times10^{-4}}{8\times0.1334}\ \mathrm{MeV}=-9.4\times10^{-5}\ \mathrm{MeV}=-94\ \mathrm{eV}$ で,差の大きさとよく一致する(残りの数 $\mathrm{eV}$ は,さらに高次の項による).

(解答終わり)