高校数学 — 目次 高校数学 / 第3章

第3章図形と計量 — 三角比・正弦定理・余弦定理

第2章では,相似な三角形どうしで対応する辺の比が等しいことを使って,重心や外心といった三角形の性質を調べた.しかし相似という考え方には限界がある.たとえば「辺の長さがすべて分かっている三角形の,ある1つの角の大きさを求めたい」という問題には,相似だけでは歯が立たない.必要なのは,直角三角形の形(=鋭角の大きさ)が決まれば,辺の長さの比もただ1通りに決まる,という事実である.この「形が決まれば比が決まる」という関係に名前を付けたものが,本章の主役である三角比(trigonometric ratio)——$\sin\theta$(サイン),$\cos\theta$(コサイン),$\tan\theta$(タンジェント)——である.

本章では,まず三角比どうしを結ぶ3つの基本関係式を証明する.次に,直角三角形に限らずどんな三角形にも使える2つの強力な道具,正弦定理と余弦定理を証明する.正弦定理は「辺と,その対角の$\sin$との比が,三角形の外接円の直径に等しい」という定理であり,円周角の性質から証明できる.余弦定理は「三平方の定理を,直角三角形以外にも使えるように拡張した定理」であり,鋭角・直角・鈍角の3つの場合に分けて,面積を比較することで証明する.最後に,角度を測る新しい単位である弧度法(radian,ラジアン)を学ぶ.これは今は「$180°=\pi\,\mathrm{rad}$」という変換規則にすぎないが,将来,微分積分で三角関数を扱うときに必須になる考え方の種をここでまいておく.

この章で学ぶこと
  • 三角比 $\sin\theta,\cos\theta,\tan\theta$ の定義と,三平方の定理から導かれる3つの基本関係式($\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$ など)の証明
  • 正弦定理 $\dfrac{a}{\sin A}=\dfrac{b}{\sin B}=\dfrac{c}{\sin C}=2R$ の意味と,円周角の性質を使った証明
  • 余弦定理 $a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$ の意味と,鋭角・直角・鈍角の3つの場合分けによる面積からの証明
  • 弧度法の定義(弧の長さと半径の比として角度を測る)と,$180°=\pi\,\mathrm{rad}$ の導出
  • 正弦定理・余弦定理を使い分けて,三角形の未知の辺の長さや角の大きさを求める計算力
前提:第2章「三角形の性質」で学んだ相似・中点連結定理,中学数学の三平方の定理.三角比そのものはこの章で初めて学ぶ(三角比を初めて学ぶ人にも読めるように書いてある).
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 高校数学』 pp. 7–10.

3.1 三角比の基本関係式

直角三角形の1つの鋭角の大きさ$\theta$(シータ,ギリシャ文字で「角」を表すのによく使う)を決めると,3辺の長さの比はただ1通りに決まる(相似な直角三角形はすべて辺の比が等しいから).この比に名前を付けたのが,次の定義である.

定義3.1 三角比

図3-1のように,直角三角形の1つの鋭角を$\theta$とし,$\theta$に隣り合う辺(斜辺でないほう)の長さを$a$,$\theta$の対辺の長さを$b$,斜辺の長さを$c$とする.このとき

$$ \sin\theta=\frac{b}{c}\ (\text{対辺}/\text{斜辺}),\qquad \cos\theta=\frac{a}{c}\ (\text{隣辺}/\text{斜辺}),\qquad \tan\theta=\frac{b}{a}\ (\text{対辺}/\text{隣辺}) $$

を,それぞれ$\theta$の正弦(sine,サイン),余弦(cosine,コサイン),正接(tangent,タンジェント)といい,まとめて$\theta$の三角比(trigonometric ratio)と呼ぶ.定義から直ちに $a=c\cos\theta$,$b=c\sin\theta$ が成り立つ.

直角三角形とsinθ, cosθ, tanθの定義 θ a b c
図3-1 直角三角形と$\sin\theta,\cos\theta,\tan\theta$の定義(隣辺$a$,対辺$b$,斜辺$c$).

イメージ:三角比は「形」だけで決まり,「大きさ」にはよらない

$\theta$を固定したまま直角三角形を拡大・縮小しても,相似な図形どうしは対応する辺の比が等しいから,$\sin\theta,\cos\theta,\tan\theta$の値は変わらない.つまり三角比は三角形の大きさによらず,角度$\theta$だけで決まる関数である.たとえば$\theta=30°$の直角三角形なら,斜辺がどんな長さであっても,対辺は必ず斜辺のちょうど半分になる($\sin30°=1/2$).

定義3.1は$0°\lt\theta\lt90°$(鋭角)のときにしか意味を持たない(直角三角形の鋭角だから).しかし本章の後半(3.3節)では,鈍角($90°\lt\theta\lt180°$)に対しても$\cos\theta$などを使う場面が出てくる.そこで,鋭角の場合と矛盾しないように,三角比の定義を鈍角にも広げておこう.

定義3.2 一般角($0°\le\theta\le180°$)の三角比

座標平面上に,原点$O$を中心とする半径1の円(単位円,unit circle)をかく.$x$軸の正の向きから反時計回りに角$\theta$だけ回転した位置にある単位円周上の点を$P$とすると,$P$の座標はただ1組の実数の組$(x,y)$で表される.このとき

$$ \cos\theta = x,\qquad \sin\theta = y,\qquad \tan\theta=\frac{y}{x}\ (x\ne0) $$

と定義する.$0°\lt\theta\lt90°$のときはこれは定義3.1と一致する($P$から$x$軸へ垂線を下ろしてできる直角三角形を考えればよい.斜辺の長さが$1$なので $\cos\theta=$隣辺$/1$,$\sin\theta=$対辺$/1$).$\theta=90°$のときは$P=(0,1)$だから$\cos90°=0,\ \sin90°=1$($\tan90°$は$x=0$なので定義されない).$90°\lt\theta\le180°$(鈍角)のときは$P$の$x$座標が負になるので,$\cos\theta\lt0$となる.

単位円による一般角(鈍角を含む)の三角比の定義 θ P(cosθ, sinθ) sinθ cosθ x y
図3-2 単位円による一般角の三角比の定義($\theta$が鈍角のとき,$\cos\theta=x\lt0$,$\sin\theta=y\gt0$).

なぜ?:$\cos(180°-\theta)=-\cos\theta$,$\sin(180°-\theta)=\sin\theta$

角$180°-\theta$に対応する単位円周上の点は,角$\theta$に対応する点$(\cos\theta,\sin\theta)$を$y$軸に関して線対称に映した点$(-\cos\theta,\sin\theta)$である($x$軸の正の向きから測った角を,$y$軸を挟んで反対側に測り直すことになるため).線対称な点は$x$座標の符号だけが反転し,$y$座標は変わらないから,定義3.2よりただちに

$$ \begin{equation} \cos(180°-\theta)=-\cos\theta,\qquad \sin(180°-\theta)=\sin\theta \label{eq:3-obtuse-conv} \end{equation} $$

が成り立つ.この関係は3.3節(余弦定理・鈍角の場合)で実際に使うので,覚えておこう.

それでは,三角比のあいだに成り立つ3つの基本関係式を証明する.いずれも鋭角$\theta$(定義3.1の状況)で証明するが,実は定義3.2の一般角でもそのまま成り立つ(証明は単位円上の座標$(\cos\theta,\sin\theta)$が原点からの距離1の円周上にあること,つまり$x^2+y^2=1$から,鋭角の場合と同じ議論でわかる).

定理3.1 $\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$

任意の$\theta$($0°\lt\theta\lt90°$)について,$\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$ が成り立つ.

証明

図3-1の直角三角形で三平方の定理(三辺の長さの間に成り立つ関係.中学数学既習)を使うと,$a^2+b^2=c^2$ である.定義3.1より$a=c\cos\theta$,$b=c\sin\theta$ だから,これを代入すると

$$ (c\cos\theta)^2+(c\sin\theta)^2=c^2 $$

となる.左辺を展開して$c^2$でくくると($c^2\cos^2\theta+c^2\sin^2\theta=c^2(\cos^2\theta+\sin^2\theta)$),

$$ c^2\cos^2\theta+c^2\sin^2\theta=c^2(\sin^2\theta+\cos^2\theta)=c^2 $$

を得る.三角形の辺の長さだから$c\ne0$であり,両辺を$c^2$($\ne0$)で割ってよい.割ると

$$ \sin^2\theta+\cos^2\theta=\frac{c^2}{c^2}=1 $$

となり,示された.

(証明終わり)

定理3.2 $\tan\theta=\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}$

任意の$\theta$($0°\lt\theta\lt90°$,$\cos\theta\ne0$)について,$\tan\theta=\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}$ が成り立つ.

証明

定義3.1より$\tan\theta=\dfrac{b}{a}$である.さらに$a=c\cos\theta$,$b=c\sin\theta$ をこの分数の分母・分子にそれぞれ代入すると,

$$ \tan\theta=\frac{b}{a}=\frac{c\sin\theta}{c\cos\theta} $$

となる.分母と分子に共通する$c$($\ne0$)を約分して消すと

$$ \tan\theta=\frac{\sin\theta}{\cos\theta} $$

を得る.

(証明終わり)

定理3.3 $1+\tan^2\theta=\dfrac{1}{\cos^2\theta}$

任意の$\theta$($0°\lt\theta\lt90°$,$\cos\theta\ne0$)について,$1+\tan^2\theta=\dfrac{1}{\cos^2\theta}$ が成り立つ.

証明

出発点は定理3.1の$\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$である.この等式の両辺に$\dfrac{1}{\cos^2\theta}$をかける($\cos\theta\ne0$だから,これは0で割ることにならず許される操作である).左辺は各項に分配してかけると,

$$ \frac{\sin^2\theta}{\cos^2\theta}+\frac{\cos^2\theta}{\cos^2\theta}=\frac{1}{\cos^2\theta} $$

となる.左辺第2項は$\dfrac{\cos^2\theta}{\cos^2\theta}=1$であり,左辺第1項は$\dfrac{\sin^2\theta}{\cos^2\theta}=\left(\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}\right)^2$ と書き直せるから,

$$ \left(\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\right)^2+1=\frac{1}{\cos^2\theta} $$

を得る.ここで定理3.2($\tan\theta=\sin\theta/\cos\theta$)を使ってかっこの中を$\tan\theta$に置き換えると,

$$ \tan^2\theta+1=\frac{1}{\cos^2\theta} $$

すなわち $1+\tan^2\theta=\dfrac{1}{\cos^2\theta}$ が示された.

(証明終わり)

注意:$\tan\theta$が定義できないとき

$\tan\theta=\sin\theta/\cos\theta$ は$\cos\theta=0$のとき(鋭角の範囲では起こらないが,定義3.2の一般角では$\theta=90°$のとき)定義できない.割り算の分母が0になる式は考えないという,数学全体を通じて共通のルールである.

例題3.1 三角比の基本関係式の数値確認

$\theta=30°$のとき,$\sin\theta=\dfrac12$,$\cos\theta=\dfrac{\sqrt3}{2}$ である.これらの値を使って,定理3.1〜3.3の3つの等式が実際に成り立つことを確かめよ.

解答 まず$\tan\theta$を定義から計算する.$\tan30°=\dfrac{\sin30°}{\cos30°}=\dfrac{1/2}{\sqrt3/2}=\dfrac{1}{\sqrt3}=\dfrac{\sqrt3}{3}$(分母を有理化した).

(定理3.1の確認)$\sin^2 30°+\cos^2 30°=\left(\dfrac12\right)^2+\left(\dfrac{\sqrt3}{2}\right)^2=\dfrac14+\dfrac34=\dfrac44=1$.たしかに成り立つ.

(定理3.2の確認)$\dfrac{\sin30°}{\cos30°}=\dfrac{1/2}{\sqrt3/2}=\dfrac{1}{\sqrt3}=\dfrac{\sqrt3}{3}=\tan30°$.たしかに成り立つ.

(定理3.3の確認)$1+\tan^2 30°=1+\left(\dfrac{\sqrt3}{3}\right)^2=1+\dfrac{3}{9}=1+\dfrac13=\dfrac43$.一方,$\dfrac{1}{\cos^2 30°}=\dfrac{1}{3/4}=\dfrac43$.両辺とも$\dfrac43$で一致する.

(検算:Pythonのsympyで3つの等式を厳密分数のまま計算しても,同じ結果が得られる.)

3.2 正弦定理

ここからは三角形$\triangle ABC$を考え,$\angle A,\angle B,\angle C$の大きさをそのまま$A,B,C$と書く.また,角の対辺(向かい合う辺)の長さを,その角と同じ小文字で表す——つまり$\angle A$の対辺$BC$の長さを$a$,$\angle B$の対辺$CA$の長さを$b$,$\angle C$の対辺$AB$の長さを$c$とする.この記法を,本章を通じて使う.(3.1節の図3-1でも$a,b,c$を直角三角形の辺の名前として使ったが,それとは別の意味であることに注意しよう.同じ文字を使い回すのは,「角とその対辺を同じ文字で表す」のが三角形についての慣習として広く定着しているためである.)

三角形には,つねにただ1つの外接円(すべての頂点を通る円.第2章で学んだ外心を中心とする)が存在する.正弦定理は,3つの辺と3つの角のあいだの比を,この外接円の大きさと結び付ける美しい定理である.

定理3.4 正弦定理

三角形$\triangle ABC$の外接円の半径を$R$とすると,

$$ \begin{equation} \frac{a}{\sin A}=\frac{b}{\sin B}=\frac{c}{\sin C}=2R \label{eq:3-sine-rule} \end{equation} $$

が成り立つ.

証明

まず,中学校で学んだ円周角の定理(同じ弧の上に立つ円周角はすべて等しい,弦を見込む角は弧の位置によらず一定,という定理)を思い出しておく.図3-3(図(i))のように,$\triangle ABC$を半径$R$の外接円に内接させる.$\angle A$は弧$BC$($A$を含まないほうの弧)に対する円周角である.

この$\angle A$と辺$a=BC$の関係を調べるために,図3-4(図(ii))のような補助的な直角三角形を作る.外接円の直径のうち,点$C$を通るものをひき,円周上でCの反対側にある端点を$D$とする($CD$は直径だから長さ$2R$).さらに$B$と$D$を線分で結ぶ.

$CD$が直径であることから,円周上の点$B$について$\angle DBC=90°$である(直径に対する円周角は直角になる,という円周角の定理の特別な場合).つまり$\triangle DBC$は,$\angle B$($=\angle DBC$)を直角とする直角三角形である.

一方,$\angle BDC$と$\angle BAC$($=\angle A$)は,どちらも同じ弧$BC$に対する円周角だから,円周角の定理により$\angle BDC=\angle BAC=A$である(弧$BC$を見込む位置を,頂点$A$から頂点$D$へ「移動」させても角の大きさは変わらない,というのがこの補助的な作図の意味である).

そこで直角三角形$DBC$に定義3.1を適用する.直角は$B$にあるから,斜辺は$DC=2R$,$\angle BDC=A$の対辺は$BC=a$である.よって

$$ \sin A=\sin(\angle BDC)=\frac{BC}{DC}=\frac{a}{2R} $$

となる.両辺に$2R$をかけてから$\sin A$で割る($0°\lt A\lt180°$なら$\sin A\ne0$なので割ってよい)と,

$$ \frac{a}{\sin A}=2R $$

を得る.$\angle B$,$\angle C$についても,直径を$A$を通るもの,$B$を通るものに取り替えてまったく同じ議論をすれば,$\dfrac{b}{\sin B}=2R$,$\dfrac{c}{\sin C}=2R$ が同様に示される.以上をまとめると

$$ \frac{a}{\sin A}=\frac{b}{\sin B}=\frac{c}{\sin C}=2R $$

が成り立つ.

(証明終わり)

正弦定理の証明図(i):外接円と円周角 A A B C a O
図3-3 正弦定理の証明図(i):外接円に内接する$\triangle ABC$と,弧$BC$に対する円周角$A$.
正弦定理の証明図(ii):直径を使って直角三角形を作る B C D a A O 2R
図3-4 正弦定理の証明図(ii):$CD$を直径にとると,$\angle DBC=90°$(円周角の定理),$\angle BDC=\angle BAC=A$(同じ弧$BC$に対する円周角).よって$\sin A=a/2R$.(数学ノートでは,$\angle B,\angle C$の場合も同じ図で一度に示すために,$A$を通る直径と$B$を通る直径の2本を同時に引く構成を使っている.ここでは1つずつ順に示す.)

イメージ:正弦定理は「見込む角が大きいほど,対辺も長い」を精密にした式

直感的には,同じ外接円の中では,弦(辺)が長いほど,それを見込む円周角も大きい.正弦定理はこの直感を「$a=2R\sin A$」という等式で精密化したものである.$\sin A$は$A=90°$のとき最大値1をとるので,直径($2R$)にいちばん近い長さの弦は,直角で見込まれる弦である——これは実際,直径そのものが直角三角形の斜辺になるという事実(図3-4のDCがまさにそう)と対応している.

例題3.2 正弦定理で外接円の半径を求める

$\triangle ABC$において,$a=8$,$B=45°$,$C=75°$ のとき,外接円の半径$R$を求めよ.

解答 三角形の内角の和は$180°$だから,$A=180°-B-C=180°-45°-75°=60°$ である.正弦定理$\dfrac{a}{\sin A}=2R$より,

$$ R=\frac{a}{2\sin A}=\frac{8}{2\sin60°}=\frac{8}{2\times\dfrac{\sqrt3}{2}}=\frac{8}{\sqrt3}=\frac{8\sqrt3}{3} $$

(最後は分母を有理化した.)よって$R=\dfrac{8\sqrt3}{3}\approx4.62$である.

3.3 余弦定理——鋭角・直角・鈍角の場合分け証明

三平方の定理 $a^2=b^2+c^2$ は,直角三角形($\angle A=90°$)でしか使えない.もし$\angle A$が直角でなかったら,$a^2$は$b^2+c^2$からどれだけずれるだろうか.答えを与えるのが余弦定理(law of cosines)であり,三平方の定理を任意の三角形に拡張した定理である.

定理3.5 余弦定理

三角形$\triangle ABC$において,

$$ \begin{equation} a^2=b^2+c^2-2bc\cos A \label{eq:3-cosine-rule} \end{equation} $$

が成り立つ.頂点の記号を入れ替えれば,$b^2=c^2+a^2-2ca\cos B$,$c^2=a^2+b^2-2ab\cos C$ も同じ意味の式として成り立つ.

証明の方針は「面積で考えれば楽」である.三角形の各辺を1辺とする正方形を,三角形の外側に描く(面積はそれぞれ$a^2,b^2,c^2$).頂点$A$から対辺$BC$へ垂線を下ろし,その足を$H$とする.この垂線をそのまま辺$BC$上の正方形(面積$a^2$)の中へまっすぐ延長すると,垂線は$BC$に垂直であり,正方形の残り2辺も$BC$に垂直だから,延長線は正方形をちょうど2つの長方形に分ける.この2つの長方形の面積を求めることが,証明の中心になる.$\angle A$が鋭角か直角か鈍角かによって,長方形の面積の求め方が少しずつ変わるので,3つの場合に分けて考える(鈍角三角形には鈍角はちょうど1つしかないので,その鈍角を$\angle A$とおいて考えればよい.鋭角三角形の場合は,$\angle A,\angle B,\angle C$のどれについても同じ議論が成り立つ).

[1] $\angle A$が鋭角のとき(鋭角三角形)

3つの角がすべて鋭角である三角形を考える.$\angle B,\angle C$がともに鋭角だから,垂線の足$H$は辺$BC$の内部にある.直角三角形$ABH$で,$\angle B$の隣辺は$BH$,斜辺は$c$だから,定義3.1より

$$ BH=c\cos B $$

同様に,直角三角形$ACH$で$\angle C$の隣辺は$HC$,斜辺は$b$だから

$$ HC=b\cos C $$

である.垂線を延長してできる2つの長方形は,どちらも高さが正方形の1辺の長さ$a$であり,底辺がそれぞれ$BH,HC$だから,面積は

$$ (\text{左の長方形の面積})=a\cdot BH=a\cdot c\cos B=ca\cos B,\qquad (\text{右の長方形の面積})=a\cdot HC=a\cdot b\cos C=ab\cos C $$

である.2つの長方形の面積の和は,もとの正方形の面積$a^2$に等しいから,

$$ \begin{equation} a^2=ca\cos B+ab\cos C \label{eq:3-square-a} \end{equation} $$

を得る.まったく同じ議論を,頂点$B$から対辺$CA$へ垂線を下ろす場合に適用すると(鋭角三角形だから,この垂線の足も辺$CA$の内部にある),辺$CA$上の正方形(面積$b^2$)が2つの長方形に分けられ,

$$ \begin{equation} b^2=bc\cos A+ab\cos C \label{eq:3-square-b} \end{equation} $$

を得る($\angle A$の隣辺$AH'$の長さが$c\cos A$,$\angle C$の隣辺$H'C$の長さが$a\cos C$になることから,同様に導かれる.$H'$は頂点$B$からの垂線の足である).さらに頂点$C$から対辺$AB$へ垂線を下ろせば,辺$AB$上の正方形(面積$c^2$)についても

$$ \begin{equation} c^2=ca\cos B+bc\cos A \label{eq:3-square-c} \end{equation} $$

が同様に得られる.さて,式\eqref{eq:3-square-b}を$ab\cos C$について,式\eqref{eq:3-square-c}を$ca\cos B$について解くと,

$$ ab\cos C=b^2-bc\cos A,\qquad ca\cos B=c^2-bc\cos A $$

となる.これらを式\eqref{eq:3-square-a}に代入すると,

$$ a^2=ca\cos B+ab\cos C=(c^2-bc\cos A)+(b^2-bc\cos A)=b^2+c^2-2bc\cos A $$

が得られる.

(証明終わり,鋭角三角形の場合)

errata:ノートの式の入れ替わりについて

底本 p.9 [1]では,$b^2=S_2+S_3=ca\cos B+bc\cos A$,$c^2=S_4+S_5=bc\cos A+ab\cos C$ と書かれている.しかし,具体的な数値($a=5,b=6,c=7$)を代入して確かめると,この2つの式はちょうど$b^2$と$c^2$の値が入れ替わってしまっている(この数値では$b^2=36$,$c^2=49$のはずだが,ノートの式では逆の値が出る).同じ余弦定理の[3]鈍角の場合(p.10)には,まったく同形の式が入れ替わりなく正しく書かれているので,[1]だけの書き誤りと考えられる.上の式\eqref{eq:3-square-b},\eqref{eq:3-square-c}は,添字を入れ替えた正しい形で示してある.

数学ノートでは:$S_1$〜$S_6$による面積の対応

底本では,$b^2,c^2$の式を,頂点$B,C$から新たに垂線を下ろすのではなく,上で求めた2つの長方形の面積($ca\cos B$,$ab\cos C$)を,正方形$a^2$の中でそれぞれ$S_1,S_6$と呼び,これらが辺$b,c$上の正方形の中に現れる部分($S_2,S_3,S_4,S_5$)とそれぞれ同じ面積になること($S_1=S_2$,$S_3=S_4$,$S_5=S_6$)を,1枚の図の中で示す方法をとっている(図3-5の$ca\cos B$,$ab\cos C$の領域に,ノートの記号$S_1,S_6$を添えてある).この面積の対応は,同じ底辺・同じ高さを持つ平行四辺形の面積が等しいという事実(平行線ぞいに頂点をずらしても面積が変わらないこと)から成り立つが,その根拠を省略せずに説明するにはもう1段階の準備が必要になる.そこで本書では,頂点$B,C$からも新たに垂線を下ろし,各段階の式変形をすべて追える形で$b^2,c^2$を導く.最終的に得られる結論(式\eqref{eq:3-square-b},\eqref{eq:3-square-c})は,ノートの結論と一致する.

余弦定理(鋭角三角形)の正方形分割図 A B C H a b c ca cosB (S₁) ab cosC (S₆) b² c²
図3-5 余弦定理(鋭角三角形)の証明:頂点$A$からの垂線が,辺$a$上の正方形を面積$ca\cos B$(左)と$ab\cos C$(右)の2つの長方形に分ける.

[2] $\angle A=90°$のとき(直角三角形)

この場合は,$\angle A$自身が直角なので,頂点$A$から対辺$BC$へ「垂線」を下ろすまでもなく,$A$から$BC$への距離を測る作図がそのまま三角形の中に含まれている——実は$H=A$になる,と言いたいところだが,そうではなく,$H$はやはり辺$BC$上の別の点である($\angle B,\angle C$がともに鋭角だから,場合[1]と同じく$H$は辺$BC$の内部にある).場合[1]の議論はそのまま使えて,$BH=c\cos B$,$HC=b\cos C$ であり,

$$ a^2=ca\cos B+ab\cos C $$

である(これは場合[1]の式\eqref{eq:3-square-a}と同じ形).ここで$\cos90°=0$であることに注意すると,式\eqref{eq:3-square-b},\eqref{eq:3-square-c}の証明で使った「$bc\cos A$」の項が0になるため,

$$ b^2=bc\cos A+ab\cos C=ab\cos C,\qquad c^2=ca\cos B+bc\cos A=ca\cos B $$

と,$b^2,c^2$はそれぞれ1つの長方形の面積そのものに等しくなる.よって

$$ b^2+c^2-2bc\cos A=ab\cos C+ca\cos B-2bc\times0=ca\cos B+ab\cos C=a^2 $$

となり,これは三平方の定理$a^2=b^2+c^2$($-2bc\cos90°=0$だから)に一致する.つまり,三平方の定理は余弦定理の$\angle A=90°$の特別な場合である.

(証明終わり,直角三角形の場合)

余弦定理(∠A=90°)の正方形分割図 A B C H a b c ab cosC ca cosB b² c²
図3-6 余弦定理($\angle A=90°$)の正方形分割図:$b^2=ab\cos C$,$c^2=ca\cos B$ となり,$-2bc\cos A$の項が消える.

[3] $\angle A$が鈍角のとき(鈍角三角形)

$\angle A$が鈍角($90°\lt A\lt180°$)でも,$\angle B,\angle C$はともに鋭角である(三角形の内角の和は$180°$であり,鈍角は1つしかないから).よって頂点$A$からの垂線の足$H$は,場合[1]と同じ理由でやはり辺$BC$の内部にあり,$BH=c\cos B$,$HC=b\cos C$ も同じ議論でそのまま成り立つ.したがって

$$ a^2=ca\cos B+ab\cos C $$

も場合[1]・[2]とまったく同じ形になる(この式は$\angle A$の大きさによらず,常に正しい).

ところが,$b^2,c^2$の式は事情が変わる.頂点$B$から対辺$CA$へ垂線を下ろすと,その足を$H'$とするとき,$H'$が辺$CA$の内部に入らない——$\angle A$が鈍角なので,$H'$は辺$CA$を$C$から$A$の向きに延長した先,$A$を越えた位置に来る(下の「なぜ?」参照).同様に,頂点$C$から対辺$AB$へ垂線を下ろした足$H''$も,辺$AB$を延長した先,$A$を越えた位置に来る.

なぜ?:垂線の足が辺の外に出るのはなぜか

頂点$B$から直線$CA$へ垂線を下ろすとき,その足が線分$CA$の内部に収まるのは,$\angle A$と$\angle C$がともに鋭角のときに限られる(もし$\angle A$が鈍角なら,直線$CA$上で$A$のところで折れ曲がって垂線の方向に近づいていくので,垂線の足は$A$を通り越してしまう).$\angle A$が鈍角のときは,$\angle BAC$の外側の角($180°-A$,$\angle BAC$と合わせて一直線をなす角)を考えるとよい.垂線の足$H'$と$C,A$は一直線上にあり,$H'$は$A$の外側にあるから,直角三角形$BH'A$において,$\angle H'AB=180°-A$($\angle BAC$の外角)である.

そこで直角三角形$BH'A$に着目する.$\angle H'AB=180°-A$,斜辺は$AB=c$だから,定義3.1と式\eqref{eq:3-obtuse-conv}より,

$$ AH'=c\cos(180°-A)=-c\cos A $$

である($A$が鈍角のとき$\cos A\lt0$だから,$-c\cos A\gt0$となり,これは長さとして正しく意味を持つ).$H'$は$A$を越えて$C$と反対側にあるので,$C$から$H'$までの距離は,$CA=b$に$AH'$を足したものになる:

$$ CH'=CA+AH'=b+(-c\cos A)=b-c\cos A $$

一方,直角三角形$BH'C$(直角は$H'$にある)に着目すると,$\angle BCH'=\angle BCA=C$($H'$は直線$CA$上にあり,$\angle C$そのものは変わらない),斜辺は$BC=a$だから,$CH'=a\cos C$でもある.2通りに表した$CH'$を等しいとおくと,

$$ a\cos C=b-c\cos A \quad\Longrightarrow\quad b=c\cos A+a\cos C $$

を得る.両辺に$b$をかけると

$$ \begin{equation} b^2=bc\cos A+ab\cos C \label{eq:3-square-b-obtuse} \end{equation} $$

となり,式\eqref{eq:3-square-b}とまったく同じ形の等式が,鈍角の場合にも得られた.まったく同様に,頂点$C$から辺$AB$の延長へ下ろした垂線の足$H''$を考えると,

$$ \begin{equation} c^2=ca\cos B+bc\cos A \label{eq:3-square-c-obtuse} \end{equation} $$

が得られる(式\eqref{eq:3-square-c}と同じ形).あとは場合[1]とまったく同じ代数計算——式\eqref{eq:3-square-b-obtuse},\eqref{eq:3-square-c-obtuse}から$ab\cos C=b^2-bc\cos A$,$ca\cos B=c^2-bc\cos A$ を作り,$a^2=ca\cos B+ab\cos C$ に代入する——を行えばよく,

$$ a^2=(c^2-bc\cos A)+(b^2-bc\cos A)=b^2+c^2-2bc\cos A $$

が,鈍角の場合にも成り立つことが示された.

(証明終わり,鈍角三角形の場合)

余弦定理(鈍角三角形)の正方形分割図 A B C H a b c ca cosB ab cosC b² c²
図3-7 余弦定理(鈍角三角形,$\angle A=120°$の例)の正方形分割図:$\angle B,\angle C$はともに鋭角なので,辺$a$上の正方形は場合[1]と同じ方法で分割できる.$b^2,c^2$の式には$\cos(180°-A)=-\cos A$(式\eqref{eq:3-obtuse-conv})が使われる.

例題3.3 余弦定理で辺の長さを求める(鋭角の余弦を使う場合)

$\triangle ABC$において,$a=5$,$b=7$,$C=60°$ のとき,辺$c$の長さを求めよ.

解答 定理3.5の$C$についての形,$c^2=a^2+b^2-2ab\cos C$ を使う.

$$ c^2=5^2+7^2-2\times5\times7\times\cos60°=25+49-70\times\frac12=74-35=39 $$

$c\gt0$だから$c=\sqrt{39}$.($\sqrt{39}\approx6.24$5であり,三角不等式$a+b\gt c$,$a+c\gt b$,$b+c\gt a$もすべて満たすので,実際に三角形が作れる.)

例題3.4 余弦定理で鈍角を判定する

$\triangle ABC$の3辺が$a=7$,$b=3$,$c=5$ であるとき,$\angle A$の余弦を求め,$\angle A$が鈍角であることを確かめよ.

解答 定理3.5を$\cos A$について解くと,$\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$ である.数値を代入すると,

$$ \cos A=\frac{3^2+5^2-7^2}{2\times3\times5}=\frac{9+25-49}{30}=\frac{-15}{30}=-\frac12 $$

$\cos A=-\dfrac12\lt0$なので,$A$は鈍角である($0°\lt A\lt180°$の範囲でコサインが負になるのは鈍角のときだけである——定義3.2で単位円を思い出すと,$x$座標が負になるのは$90°$より大きい角のときだった).実際,$\cos A=-\dfrac12$より$A=120°$である.

例題3.5 余弦定理と三平方の定理の整合性

$\triangle ABC$の3辺が$a=5$,$b=3$,$c=4$($3$-$4$-$5$の直角三角形)であるとき,余弦定理を使って$\angle A$の余弦を計算し,$\angle A=90°$であることを確かめよ.

解答 $\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=\dfrac{3^2+4^2-5^2}{2\times3\times4}=\dfrac{9+16-25}{24}=\dfrac{0}{24}=0$.$0°\lt A\lt180°$の範囲で$\cos A=0$となるのは$A=90°$のときだけだから,$\angle A=90°$である.これは$b^2+c^2=9+16=25=a^2$,すなわち三平方の定理がそのまま成り立っていることの,余弦定理を経由した確認になっている(場合[2]で示した「余弦定理は三平方の定理を含む」という事実の具体例である).

例題3.6 余弦定理から中線定理を示す(証明問題)

$\triangle ABC$の辺$BC$の中点を$M$とする(線分$AM$を,頂点$A$から引いた中線(median)という).このとき,

$$ AB^2+AC^2=2AM^2+2BM^2 $$

が成り立つことを,余弦定理を使って示せ(これは中線定理と呼ばれる定理である).

解答 $\angle AMB=\varphi$(ファイ)とおく.$M$は辺$BC$上にあるから,$\angle AMB$と$\angle AMC$は一直線をなす角どうしであり,$\angle AMC=180°-\varphi$である.また,$M$は$BC$の中点だから$BM=CM$である.

三角形$ABM$に余弦定理($\angle AMB=\varphi$を挟む2辺$AM,BM$に注目した形)を適用すると,

$$ c^2=AB^2=AM^2+BM^2-2\cdot AM\cdot BM\cos\varphi $$

を得る.同様に,三角形$ACM$に余弦定理($\angle AMC=180°-\varphi$を挟む2辺$AM,CM$に注目した形)を適用すると,

$$ b^2=AC^2=AM^2+CM^2-2\cdot AM\cdot CM\cos(180°-\varphi) $$

となる.ここで$CM=BM$,および式\eqref{eq:3-obtuse-conv}($\cos(180°-\varphi)=-\cos\varphi$)を使うと,

$$ AC^2=AM^2+BM^2+2\cdot AM\cdot BM\cos\varphi $$

と書き直せる.最後に,2つの式($AB^2$の式と$AC^2$の式)を辺々足すと,$\cos\varphi$を含む項どうしがちょうど符号違いで打ち消し合い,

$$ AB^2+AC^2=2AM^2+2BM^2 $$

が得られる.(検算:$A(0,0),B(9,0),C(3,5)$とすると,$M=(6,2.5)$であり,$AB^2+AC^2=81+34=115$,$2AM^2+2BM^2=2\times42.25+2\times15.25=84.5+30.5=115$で一致する.)

3.4 弧度法

これまで角度は「$°$」(度,degree)という単位で測ってきた.しかし,1周を$360$等分するという決め方には,数学的な必然性はない($360$という数は,古代バビロニアで使われていた60進法や,1年がおよそ360日であることに由来すると言われ,歴史的な理由による部分が大きい).ここでは,もっと自然な——特に,これから先,微分積分で三角関数を扱うときに都合がよい——角度の測り方,弧度法(radian,ラジアン)を導入する.

定義3.3 弧度法

半径$1$の円(単位円)において,中心角$\theta$に対する弧の長さがちょうど$\theta$になるように角度を測る方法を弧度法といい,そのときの角の大きさの単位をラジアン(記号 $\mathrm{rad}$)という.つまり,弧度法では「(長さ):(角度)」という比で角の大きさを測る.

弧度法の定義:弧の長さ1が1radに対応する 1 1 rad 1 1 π rad π P₀
図3-8 半径1の円で,弧の長さ$1$に対応する中心角が$1\,\mathrm{rad}$である.水平な直径(半円)は中心角$\pi\,\mathrm{rad}$に対応し,このとき下半分の弧の長さはちょうど$\pi$である.

$180°=\pi\,\mathrm{rad}$ の導出

半径$1$の円の円周の長さは,円周の公式$2\pi r$($r=1$)より$2\pi$である.一方,円を1周する角度は$360°$である.弧度法の定義(弧の長さと角度が比例する)より,「円周全体の長さ:円1周の角度」と「弧の長さ$1$:角度$1\,\mathrm{rad}$」は同じ比になるはずだから,

$$ 2\pi:360°=1:1\,\mathrm{rad} $$

という比例式が成り立つ.比例式の外側どうし・内側どうしをかける(内項の積=外項の積)と,$2\pi\times1\,\mathrm{rad}=360°\times1$,すなわち

$$ 360°=2\pi\,\mathrm{rad} $$

を得る.両辺を$2$で割ると,

$$ \begin{equation} 180°=\pi\,\mathrm{rad} \label{eq:3-radian} \end{equation} $$

が得られる.この関係式\eqref{eq:3-radian}が,度数法と弧度法を変換するときの基本になる($1°=\dfrac{\pi}{180}\,\mathrm{rad}$,$1\,\mathrm{rad}=\dfrac{180°}{\pi}$).図3-8からもわかるように,弧度法は角度を(半径を単位とした)長さに変換する働きを持っている——これが度数法にはない,弧度法の大きな利点である.

なぜ?:半径が$1$でない円でも弧度法は使える

半径$r$の円で中心角$\theta\,\mathrm{rad}$に対する弧の長さ$l$を考えよう.半径$1$の円と半径$r$の円は相似(拡大・縮小の関係)であり,相似比は$r:1$である.弧の長さも相似比と同じ比率で伸び縮みするから,半径$1$のときの弧の長さ$\theta$(定義3.3そのもの)を$r$倍すればよく,

$$ l=r\theta $$

となる.同様に,半径$r$の円の面積は$\pi r^2$,中心角は$2\pi\,\mathrm{rad}$(全周)だから,中心角$\theta\,\mathrm{rad}$の扇形の面積$S$は,面積が中心角に比例することから比例式$S:\pi r^2=\theta:2\pi$を作れ,これを$S$について解くと

$$ S=\pi r^2\times\frac{\theta}{2\pi}=\frac12 r^2\theta $$

となる.弧の長さの公式$l=r\theta$,扇形の面積の公式$S=\dfrac12 r^2\theta$は,どちらも今後の章で繰り返し使う重要な公式である.

例題3.7 度数法と弧度法の変換

(a) $135°$を弧度法で表せ.(b) $\dfrac{5}{6}\pi\,\mathrm{rad}$を度数法で表せ.

解答 式\eqref{eq:3-radian}($180°=\pi\,\mathrm{rad}$,すなわち$1°=\dfrac{\pi}{180}\,\mathrm{rad}$)を使う.

(a) $135°=135\times\dfrac{\pi}{180}\,\mathrm{rad}=\dfrac{135}{180}\pi\,\mathrm{rad}=\dfrac{3}{4}\pi\,\mathrm{rad}$(約分した:$135$と$180$の最大公約数は$45$).

(b) $1\,\mathrm{rad}=\dfrac{180°}{\pi}$ だから,$\dfrac56\pi\,\mathrm{rad}=\dfrac56\pi\times\dfrac{180°}{\pi}=\dfrac56\times180°=150°$($\pi$が約分されて消える).

例題3.8 扇形の弧の長さと面積

半径$1$の円において,中心角が$2\,\mathrm{rad}$である扇形の弧の長さと面積を求めよ.

解答 公式$l=r\theta$,$S=\dfrac12 r^2\theta$に$r=1,\theta=2$を代入する.弧の長さは$l=1\times2=2$,面積は$S=\dfrac12\times1^2\times2=1$である.(弧度法の定義そのものから,半径$1$・中心角$2\,\mathrm{rad}$の弧の長さが$2$になることは,定義3.3から直接読み取れることにも注意しよう.)

3.5 まとめと演習

3.5.1 まとめ

(追加)正弦定理と余弦定理のどちらを使うべきか,わかっている情報の種類で整理すると次の表のようになる.

表3-1 正弦定理・余弦定理の使い分け
わかっている情報使う定理求まるもの
3辺($a,b,c$)余弦定理すべての角
2辺とその間の角($a,b,C$など)余弦定理残りの1辺,その後で他の角
1辺とその両端の角($c,A,B$など)正弦定理残りの2辺
2辺と,そのうち1辺の対角($a,b,A$など)正弦定理もう1辺の対角($\sin$の値から角を決める.鋭角・鈍角の2通りの可能性に注意)
$$ \frac{a}{\sin A}=\frac{b}{\sin B}=\frac{c}{\sin C}=2R, \qquad a^2=b^2+c^2-2bc\cos A, \qquad 180°=\pi\,\mathrm{rad} $$

3.5.2 演習問題

演習3.1 三角比の基本関係式

$\theta$は鋭角で,$\sin\theta=\dfrac13$ であるとする.$\cos\theta$,$\tan\theta$ を求め,$1+\tan^2\theta=1/\cos^2\theta$ が成り立つことを確かめよ.

ヒント:定理3.1($\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$)から$\cos\theta$を求める($\theta$が鋭角なので$\cos\theta\gt0$を選ぶ).そのあと定理3.2で$\tan\theta$を求める.

演習3.2 正弦定理

$\triangle ABC$において,$a=10$,$A=30°$ のとき,外接円の半径$R$を求めよ.さらに,$B=45°$であるとき,辺$b$の長さを求めよ.

ヒント:まず$\dfrac{a}{\sin A}=2R$から$R$を求める.次に$b=2R\sin B$を使う.

演習3.3 余弦定理と鋭角・鈍角の判定

$\triangle ABC$の3辺が$a=7$,$b=8$,$c=5$であるとき,最大辺に対する角の余弦を余弦定理で求め,その角が鋭角・鈍角のどちらであるかを判定せよ.

ヒント:三角形の中でいちばん大きい角は,いちばん長い辺の対角である.最大辺がどれかをまず確認してから,余弦定理を使う.

演習3.4 余弦定理と正弦定理の併用

$\triangle ABC$において,$a=6$,$b=4$,$C=60°$のとき,まず余弦定理で辺$c$を求め,次に正弦定理で$\sin A$を求めよ.

ヒント:$c$が求まれば,$\dfrac{a}{\sin A}=\dfrac{c}{\sin C}$から$\sin A$が求まる.

演習3.5 弧度法

半径$6$の円で,弧の長さが$4\pi$であるとき,中心角を弧度法・度数法の両方で求めよ.また,そのときの扇形の面積を求めよ.

ヒント:$l=r\theta$から$\theta$(弧度法)を求め,式\eqref{eq:3-radian}で度数法に直す.面積は$S=\dfrac12 r^2\theta$.

演習3.6 余弦定理から三平方の定理を一般に導く

$\angle A=90°$のとき,余弦定理$a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$から三平方の定理$a^2=b^2+c^2$が導かれることを,具体的な数値ではなく,文字$b,c$のままで(一般に)示せ.

ヒント:$\cos90°$の値を代入するだけでよい.

3.5.3 参考文献

  1. 望月泰英『数学ノート 高校数学』(手書き講義ノート).本章の底本.
  2. I. M. Gelfand, M. Saul, Trigonometry, Birkhäuser, 2001.