固体物理学入門 — 目次 第III部 固体の物性 / 第14章

第14章フォノンII — 熱的性質

第13章で,結晶の格子振動が $\omega(\qq)$ という分散関係を持つこと,そしてその振動が $\hbar\omega$ を単位とするエネルギー量子——フォノン——として振る舞うことを見た.分散関係は「どんな振動が存在できるか」を教えてくれる.しかし,それだけでは物質の熱的な性質は何ひとつわからない.温度 $T$ のとき,それらのモードが実際にどれだけ励起されているかを知らなければならないからである.

本章の主役は,たったひとつの式である.

$\displaystyle \braket{n} = \frac{1}{\ee^{\hbar\omega/k_BT}-1}$

温度 $T$ で角振動数 $\omega$ のモードに乗っているフォノンの平均個数を与えるこの式(Planck 分布)と,「そのような $\omega$ を持つモードが何個あるか」を数える状態密度 $D(\omega)$ ——この2つを掛けて足し合わせるだけで,比熱が出る.Debye の $T^3$ 法則も,Dulong–Petit の法則も,すべてこの掛け算の帰結である.逆に言えば,比熱の測定はフォノンの数え上げそのものであり,低温比熱を測ることは音速を測ることに等しい.

後半では,調和近似を破る.調和近似のもとでは,結晶は熱膨張もしなければ熱抵抗も持たない.無限に熱を流し,温度を上げても寸法が変わらない結晶——それが調和近似の描く世界である.現実の結晶が熱で膨らみ,有限の熱伝導率を持つのは,ポテンシャルに3次以上の項があるからにほかならない.この非調和性を Grüneisen パラメータという1個の数にまとめる技法と,そこから熱膨張係数を導く計算は,望月研究室が第一原理計算で扱っている負熱膨張の問題にそのままつながる.

この章で学ぶこと
  • 調和振動子の分配関数 $Z$ を等比級数として和し,$\braket{n}=-\partial\ln Z/\partial(\beta\hbar\omega)-\frac12$ から Planck 分布を導く
  • 周期境界条件から $\kk$ 空間の1状態あたりの体積 $(2\pi)^3/V$ が出ること,和を積分に直す手続き
  • 1次元・2次元・3次元の状態密度 $D(\omega)$ と,一般公式 $D(\omega)=\frac{V}{(2\pi)^3}\int\frac{\dd S}{\abs{\nabla_\kk\omega}}$
  • Debye モデル:$k_D=(6\pi^2N/V)^{1/3}$,$D(\omega)=3V\omega^2/2\pi^2v^3$,$\int_0^\infty x^3\dd x/(\ee^x-1)=\pi^4/15$ の導出,$C_V=\frac{12\pi^4}{5}Nk_B(T/\theta_D)^3$
  • 高温極限で Dulong–Petit $3Nk_B$ に戻ること,その補正項
  • Einstein モデルの比熱と,低温で指数関数的に消えてしまう理由
  • van Hove 特異点 —— $\nabla_\kk\omega=0$ の点で $D(\omega)$ に生じる特異性の分類
  • 非調和性がないと熱膨張も熱抵抗も生じないこと,Grüneisen パラメータ $\gamma=-\dd\ln\omega/\dd\ln V$,$\alpha=\gamma C_V/3BV$
  • 熱伝導率 $K=\frac13 Cv\ell$,Umklapp 過程 $\qq_1+\qq_2=\qq_3+\GG$ が熱抵抗の起源であること
前提:第13章(格子振動と分散関係),第3章(逆格子と Brillouin 域),第11章(周期境界条件と $\kk$ の量子化).統計力学の分配関数 $Z=\sum_i\ee^{-\beta E_i}$ と,そこから $U=-\partial\ln Z/\partial\beta$ が出ることは既知とする.多重積分と Taylor 展開が使えれば読める.

14.1 Planck 分布 — フォノンは何個いるか

14.1.1 出発点:1個の調和振動子

第13章で見たように,結晶の格子振動は基準モード(normal mode)に分解でき,各モードは互いに独立な1次元調和振動子とまったく同じ運動方程式に従う.ある1つのモード(角振動数 $\omega$)だけを取り出すと,量子力学的なエネルギー準位は

$$ \begin{equation} E_n = \left(n+\tfrac{1}{2}\right)\hbar\omega,\qquad n=0,1,2,\dots \label{eq:14-levels} \end{equation} $$

である.この整数 $n$ を「そのモードに乗っているフォノンの個数」と読む,というのが第13章の約束であった.$n=0$ でもエネルギーは $\hbar\omega/2$ 残る.これが零点エネルギー(zero-point energy)である.

問題は次の1点に尽きる.温度 $T$ の熱平衡状態では,$n$ の平均値 $\braket{n}$ はいくらか.

なぜ「平均個数」なのか

結晶を熱浴(温度 $T$)に接触させると,各モードは熱浴とエネルギーをやりとりして $n$ が揺らぐ.ある瞬間には $n=3$,次の瞬間には $n=5$ かもしれない.測定にかかるのは長時間平均(=統計力学の集団平均)であるから,必要なのは $\braket{n}$ である.

そして $\braket{n}$ さえわかれば,そのモードの平均エネルギーは $\hbar\omega(\braket{n}+\frac12)$ であり,結晶全体の内部エネルギーは全モードについての和として書ける.比熱はそれを $T$ で微分するだけである.比熱の計算は $\braket{n}$ の計算に帰着する.

14.1.2 分配関数を計算する

正準集団(カノニカル分布)では,エネルギー $E_n$ の状態が実現する確率は

$$ P_n = \frac{\ee^{-\beta E_n}}{Z},\qquad Z=\sum_{n=0}^{\infty}\ee^{-\beta E_n},\qquad \beta \equiv \frac{1}{k_BT} $$

である.$Z$ を分配関数(partition function)という.まずこれを実際に計算しよう.Kittel はここを1行で済ませているが,途中を全部書く.

導出:等比級数の和(念のため)

$\abs{r}<1$ のとき

$$S \equiv \sum_{n=0}^{\infty} r^n = 1+r+r^2+r^3+\cdots$$

両辺に $r$ を掛けると

$$rS = r+r^2+r^3+\cdots$$

上の式から下の式を引くと,$r,r^2,r^3,\dots$ がすべて消えて

$$S-rS = 1 \quad\Longrightarrow\quad S(1-r)=1 \quad\Longrightarrow\quad \boxed{S=\frac{1}{1-r}}$$

さらに,この式の両辺を $r$ で微分すると

$$\sum_{n=0}^{\infty} n\,r^{n-1} = \frac{1}{(1-r)^2}$$

両辺に $r$ を掛けて

$$\sum_{n=0}^{\infty} n\,r^{n} = \frac{r}{(1-r)^2}$$

この2本を使う.$\square$

導出:調和振動子の分配関数

\eqref{eq:14-levels} を代入する.

$$ Z=\sum_{n=0}^{\infty}\exp\!\left[-\beta\left(n+\tfrac12\right)\hbar\omega\right] $$

指数の中の $n$ に依らない部分 $-\beta\hbar\omega/2$ を指数関数の外に出す.$\ee^{a+b}=\ee^a\ee^b$ を使うだけである.

$$ Z=\ee^{-\beta\hbar\omega/2}\sum_{n=0}^{\infty}\ee^{-n\beta\hbar\omega} =\ee^{-\beta\hbar\omega/2}\sum_{n=0}^{\infty}\left(\ee^{-\beta\hbar\omega}\right)^{n} $$

ここで $x\equiv\beta\hbar\omega=\hbar\omega/k_BT$ と置く.これは本章を通じて使う無次元変数である.$r=\ee^{-x}$ とすれば $0<r<1$($T>0$ なら必ず成り立つ)だから,上の等比級数の公式が使えて

$$ Z=\ee^{-x/2}\cdot\frac{1}{1-\ee^{-x}} $$

これが調和振動子の分配関数である.対数を取っておく.

$$ \ln Z = -\frac{x}{2}-\ln\!\left(1-\ee^{-x}\right) $$

∎

補足:$x=\hbar\omega/k_BT$ の意味

$x$ は「量子のエネルギー $\hbar\omega$ と,熱エネルギー $k_BT$ の比」である.

本章に出てくる式はすべて $x$ の関数である.$x=1$ すなわち $\hbar\omega=k_BT$ が量子と古典の境目だと覚えておくと,どの温度で何が起きるかの見当がつく.

14.1.3 平均フォノン数 $\braket{n}$ を取り出す

$\braket{n}$ を求めるやり方は2通りある.両方やってみる.同じ答えが出ることを確かめるのは,計算の検算として有効である.

導出(方法1):定義通りに和を取る

定義は

$$ \braket{n}=\sum_{n=0}^{\infty} n\,P_n=\frac{\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} n\,\ee^{-\beta E_n}}{\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\ee^{-\beta E_n}} $$

分子・分母のどちらにも共通因子 $\ee^{-x/2}$ が現れるので,これは約分されて消える.零点エネルギーは $\braket{n}$ に影響しないということである.$r=\ee^{-x}$ と書けば

$$ \braket{n}=\frac{\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} n\,r^{n}}{\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} r^{n}} =\frac{\dfrac{r}{(1-r)^2}}{\dfrac{1}{1-r}} =\frac{r}{(1-r)^2}\cdot(1-r)=\frac{r}{1-r} $$

最後に $r=\ee^{-x}$ を戻す.分子・分母に $\ee^{x}$ を掛けると

$$ \braket{n}=\frac{\ee^{-x}}{1-\ee^{-x}}=\frac{\ee^{-x}\cdot\ee^{x}}{(1-\ee^{-x})\,\ee^{x}}=\frac{1}{\ee^{x}-1} $$

∎

導出(方法2):$\braket{n}=-\partial\ln Z/\partial x-\frac12$

まず,なぜこの微分で $\braket{n}$ が出るのかを確認する.$Z=\ee^{-x/2}\sum_n \ee^{-nx}$ の $x$ による偏微分は

$$ \frac{\partial Z}{\partial x}=\sum_{n=0}^{\infty}\left(-n-\tfrac12\right)\ee^{-(n+1/2)x} $$

両辺を $Z$ で割ると

$$ \frac{1}{Z}\frac{\partial Z}{\partial x}=\frac{\partial \ln Z}{\partial x} =-\sum_{n=0}^{\infty}\left(n+\tfrac12\right)P_n=-\left(\braket{n}+\tfrac12\right) $$

したがって

$$ \braket{n}=-\frac{\partial\ln Z}{\partial x}-\frac12 $$

実際に計算する.$\ln Z=-\frac{x}{2}-\ln(1-\ee^{-x})$ だから,第2項を合成関数の微分で処理して

$$ \frac{\partial}{\partial x}\ln\!\left(1-\ee^{-x}\right) =\frac{1}{1-\ee^{-x}}\cdot\frac{\partial}{\partial x}\left(1-\ee^{-x}\right) =\frac{1}{1-\ee^{-x}}\cdot\ee^{-x} =\frac{\ee^{-x}}{1-\ee^{-x}} $$

よって

$$ \frac{\partial \ln Z}{\partial x}=-\frac12-\frac{\ee^{-x}}{1-\ee^{-x}} $$ $$ \braket{n}=-\left(-\frac12-\frac{\ee^{-x}}{1-\ee^{-x}}\right)-\frac12=\frac{\ee^{-x}}{1-\ee^{-x}}=\frac{1}{\ee^{x}-1} $$

方法1と一致した.∎

$$ \begin{equation} \braket{n(\omega,T)}=\frac{1}{\ee^{\hbar\omega/k_BT}-1} \label{eq:14-planck} \end{equation} $$

これが Planck 分布(Planck distribution)である.1900年に Planck が黒体輻射の理論で導入したものと同じ関数であり,光子でもフォノンでも形は変わらない.

物理的意味:この式は何を言っているのか

分母の $\ee^{\hbar\omega/k_BT}-1$ に注目する.

つまり Planck 分布は「$\hbar\omega<k_BT$ のモードは古典的に励起され,$\hbar\omega>k_BT$ のモードは凍りつく」という,たったそれだけのことを1本の式で表している.比熱の温度依存性は,温度を上げるにつれてこの境界 $\hbar\omega=k_BT$ が高振動数側へ動き,生き返るモードが増えていく——という描像でほぼ説明がつく.

例題14.1 Si のフォノンは室温で何個乗っているか

Si の光学フォノン($\Gamma$ 点,Raman ピーク $520\,\mathrm{cm^{-1}}$)と,音響フォノンの典型値 $1\,\mathrm{THz}$ について,$T=300\,\mathrm{K}$ での $\braket{n}$ を求めよ.

解答 まずエネルギーに直す.$1\,\mathrm{cm^{-1}}=0.12398\,\mathrm{meV}$ だから

$$\hbar\omega_{\rm opt}=520\times0.12398=64.5\ \mathrm{meV}$$

$1\,\mathrm{THz}$ については $h=4.136\times10^{-15}\,\mathrm{eV\,s}$ を使って

$$\hbar\omega=h\nu=4.136\times10^{-15}\times10^{12}\ \mathrm{eV}=4.14\ \mathrm{meV}$$

一方 $300\,\mathrm{K}$ では

$$k_BT=8.617\times10^{-2}\,\mathrm{meV/K}\times300\,\mathrm{K}=25.85\ \mathrm{meV}$$

したがって

読み取り方 室温の Si では,光学フォノンのモードは10個に1個しか励起されていない(つまりほとんど基底状態にいる).一方,低振動数の音響フォノンは平均6個も乗っている.同じ結晶の中で,モードによって「熱いモード」と「冷たいモード」があるのである.比熱に効くのはもっぱら前者,すなわち $\hbar\omega\lesssim k_BT$ の音響フォノンである.

ちなみに Si の Debye 温度は $\theta_D=645\,\mathrm{K}$ で,室温 $300\,\mathrm{K}$ はその半分弱にすぎない.Si の室温比熱が Dulong–Petit 値 $3R=24.9\,\mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}$ にまだ達していない(実測 $20.0$)のは,このためである.

注意:Planck 分布と Bose–Einstein 分布,Fermi–Dirac 分布

一般の Bose 粒子の分布関数は

$$f_{\rm BE}(\varepsilon)=\frac{1}{\ee^{(\varepsilon-\mu)/k_BT}-1}$$

で,化学ポテンシャル $\mu$ が入る.フォノンでは $\mu=0$ である.理由はフォノンの個数が保存しないから.粒子数が保存する系(たとえば箱に閉じ込めた He 原子)では,粒子数を固定する Lagrange 未定乗数として $\mu$ が現れる.しかしフォノンは結晶の振動の励起であって,温度を上げれば勝手に増え,下げれば勝手に消える.個数を固定する制約がないので,自由エネルギーを $N_{\rm phonon}$ で微分してゼロ,すなわち $\mu=\partial F/\partial N_{\rm phonon}=0$ となる.光子もまったく同じ事情である.

一方,第15章で扱う電子は Fermi 粒子で

$$f_{\rm FD}(\varepsilon)=\frac{1}{\ee^{(\varepsilon-\mu)/k_BT}+1}$$

と,分母の符号が $+$ になる.この符号ひとつの違いが,$f_{\rm FD}\le1$(1つの状態に1個まで)と $\braket{n}\to\infty$(いくらでも詰め込める)を分ける.低温比熱が,格子では $T^3$,電子では $T$ に比例するという劇的な違いも,元をたどればこの符号に行き着く.

14.1.4 1モードの平均エネルギー

$\braket{n}$ が出れば,そのモードの平均エネルギーは即座に書ける.

$$ \begin{equation} \braket{\varepsilon(\omega,T)}=\hbar\omega\left(\braket{n}+\frac12\right) =\frac{\hbar\omega}{\ee^{\hbar\omega/k_BT}-1}+\frac{\hbar\omega}{2} \label{eq:14-emode} \end{equation} $$

念のため,$U=-\partial\ln Z/\partial\beta$ からも同じものが出ることを確かめておく.$x=\beta\hbar\omega$ だから $\partial/\partial\beta = \hbar\omega\,\partial/\partial x$ で,

$$ \braket{\varepsilon}=-\frac{\partial\ln Z}{\partial\beta}=-\hbar\omega\frac{\partial\ln Z}{\partial x} =\hbar\omega\left(\frac12+\frac{1}{\ee^{x}-1}\right) $$

一致する.高温極限を取ってみよう.$x\ll1$ で $\ee^x-1\simeq x$ だから

$$ \braket{\varepsilon}\simeq\frac{\hbar\omega}{x}+\frac{\hbar\omega}{2}=\frac{\hbar\omega}{\hbar\omega/k_BT}+\frac{\hbar\omega}{2}=k_BT+\frac{\hbar\omega}{2}\ \longrightarrow\ k_BT $$

これは等分配則そのものである.1次元調和振動子は運動エネルギーと位置エネルギーの2つの2次形式を持ち,それぞれに $\frac12k_BT$ ずつ配分されて合計 $k_BT$.古典統計力学の結果を,量子論が正しく再現している.

補足:零点エネルギーは比熱に効かない

\eqref{eq:14-emode} の第2項 $\hbar\omega/2$ は温度によらない定数である.比熱は $C=\partial U/\partial T$ で定義されるから,この項は微分で消える.零点エネルギーは比熱には現れない.

ただし,零点エネルギーが物理的に無意味というわけではない.それは結晶の全エネルギーに寄与し,格子定数を決め(第12章),同位体を置換すると変化する($\omega\propto M^{-1/2}$ なので重い同位体ほど零点エネルギーが低い).$^3$He と $^4$He の相図の違い,$\mathrm{H}$ と $\mathrm{D}$ の同位体効果はすべて零点振動の帰結である.14.6節の熱膨張の議論でも,零点項は圧力に寄与するので落とせない.

14.2 モードを数える — 状態密度 $D(\omega)$

14.2.1 何を数えるのか

結晶全体の内部エネルギーは,すべてのモードについて \eqref{eq:14-emode} を足し合わせたものである.モードは「分枝 $s$」と「波数 $\kk$」の組で指定されるから

$$ \begin{equation} U=\sum_{s}\sum_{\kk}\hbar\omega_s(\kk)\left[\frac{1}{\ee^{\hbar\omega_s(\kk)/k_BT}-1}+\frac12\right] \label{eq:14-Usum} \end{equation} $$

これで話は原理的には終わっている.あとは和を実行するだけである.しかし $\kk$ の個数は結晶中の単位胞の数 $N\sim10^{23}$ であって,まともに足せる量ではない.和を積分に直す必要がある.

さらに,\eqref{eq:14-Usum} の被積分関数は $\kk$ に $\omega_s(\kk)$ を通してしか依存していない.ならば,$\kk$ で積分する代わりに $\omega$ で積分し,「$\omega$ と $\omega+\dd\omega$ の間に何個のモードがあるか」という重み関数を用意すればよい.それが状態密度(density of states, DOS)$D(\omega)$ である.

定義:状態密度 $D(\omega)$

角振動数が $\omega$ と $\omega+\dd\omega$ の間にあるモードの個数を $D(\omega)\dd\omega$ と書く.$D(\omega)$ を状態密度(またはモード密度)という.次元は[時間]である.

これを使うと \eqref{eq:14-Usum} は

$$ U=\int_0^{\omega_{\max}} \dd\omega\, D(\omega)\,\hbar\omega\left[\frac{1}{\ee^{\hbar\omega/k_BT}-1}+\frac12\right] $$

と1次元の積分に化ける.規格化は

$$\int_0^{\omega_{\max}} D(\omega)\,\dd\omega = (\text{全モード数}) = 3pN$$

($N$:単位胞の数,$p$:単位胞あたりの原子数)である.

14.2.2 周期境界条件と $\kk$ の量子化

$\kk$ が飛び飛びであることは第11章で群論的に導いたが,ここでは物理的な言葉でやり直す.結果は同じである.

一辺 $L$ の立方体の結晶を考え,周期境界条件(periodic boundary condition, Born–von Kármán 境界条件)

$$ u(x+L,y,z)=u(x,y,z),\qquad u(x,y+L,z)=u(x,y,z),\qquad u(x,y,z+L)=u(x,y,z) $$

を課す.変位が平面波 $u\propto \ee^{\ii\kk\cdot\rr}$ の形をしているとすると,$x$ 方向の条件は

$$ \ee^{\ii k_x(x+L)}=\ee^{\ii k_x x}\quad\Longleftrightarrow\quad \ee^{\ii k_x L}=1 $$

である.$\ee^{\ii\theta}=1$ となるのは $\theta$ が $2\pi$ の整数倍のときだから

$$ \begin{equation} k_x=\frac{2\pi n_x}{L},\quad k_y=\frac{2\pi n_y}{L},\quad k_z=\frac{2\pi n_z}{L}, \qquad n_x,n_y,n_z\in\mathbb{Z} \label{eq:14-kquant} \end{equation} $$

すなわち,許される $\kk$ は $\kk$ 空間の中で,辺の長さ $2\pi/L$ の立方格子の格子点をなす.

導出:$\kk$ 空間の1状態あたりの体積

\eqref{eq:14-kquant} より,隣り合う許容 $\kk$ 点の間隔は各方向 $2\pi/L$ である.したがって,$\kk$ 空間で1つの状態が占める体積は

$$ \Delta^3k=\left(\frac{2\pi}{L}\right)^3=\frac{(2\pi)^3}{L^3}=\frac{(2\pi)^3}{V} $$

ここで $V=L^3$ は結晶の体積である.逆に言えば,$\kk$ 空間の単位体積あたりの状態数(1分枝あたり)は $V/(2\pi)^3$ である.

ゆえに,$\kk$ についての和は

$$ \boxed{\ \sum_{\kk}\ \longrightarrow\ \frac{V}{(2\pi)^3}\int \dd^3k\ } $$

と置き換えてよい.$V/(2\pi)^3$ が「和を積分に直すときのヤコビアン」である.1次元なら $\sum_k\to (L/2\pi)\int\dd k$,2次元なら $\sum_\kk\to (A/(2\pi)^2)\int\dd^2k$($A$ は面積).∎

注意:$2\pi$ が付くのか付かないのか

ここは初学者が最も間違えるところである.混乱を避けるため,次の対応を頭に入れておくとよい.

本書は一貫して前者(角波数)を使う.式に $(2\pi)^3$ が出てきたら「角波数で数えている」合図だと思えばよい.

補足:固定端条件でも答えは同じ

「周期境界条件は物理的に不自然ではないか.実際の結晶は端で切れているのに,なぜ環につないでよいのか」という疑問はもっともである.

固定端条件 $u(0)=u(L)=0$ を課すと,許される波は定在波 $\sin(k_xx)$ で $k_x=\pi n_x/L$($n_x=1,2,3,\dots$,正のみ)となる.間隔は $\pi/L$ で周期境界条件の半分だが,$k_x>0$ しか許されないので,数え上げると同じ個数になる.すなわち,$-k_{\max}<k_x<k_{\max}$ の範囲を間隔 $2\pi/L$ で数えるのと,$0<k_x<k_{\max}$ の範囲を間隔 $\pi/L$ で数えるのは,同じ状態数を与える.

一般に,状態密度のような示量的で境界に鈍感な量は,$N\to\infty$ で境界条件の取り方によらない.周期境界条件を使うのは,進行波 $\ee^{\ii\kk\cdot\rr}$ という扱いやすい基底が使え,$\kk$ が並進群の既約表現のラベルになる(第11章)からである.

14.2.3 1次元の状態密度

まず最も簡単な場合で手を動かす.長さ $L=Na$ の1次元鎖(原子 $N$ 個,格子定数 $a$)を考える.

導出:1次元の $D(\omega)$

step 1:$k$ を数える.$-k$ から $+k$ までの区間にある許容点の数は,区間の長さ $2k$ を間隔 $2\pi/L$ で割って

$$ \mathcal{N}(k)=\frac{2k}{2\pi/L}=\frac{Lk}{\pi} $$

step 2:$\omega$ に変換する.$\omega(k)$ が単調増加なら,$\omega$ 以下のモード数は $\mathcal{N}(k(\omega))$ である.$\omega$ で微分して

$$ D(\omega)=\frac{\dd\mathcal{N}}{\dd\omega}=\frac{\dd\mathcal{N}}{\dd k}\cdot\frac{\dd k}{\dd\omega} =\frac{L}{\pi}\cdot\frac{1}{\dd\omega/\dd k} $$

すなわち

$$ \boxed{\ D_{\rm 1D}(\omega)=\frac{L}{\pi\,v_g(\omega)}\ },\qquad v_g=\frac{\dd\omega}{\dd k} $$

∎

この式は非常に示唆に富む.群速度が小さいところで状態密度が大きくなる.分散曲線が平らになる場所($v_g\to0$)では $D(\omega)$ が発散する.これが後で扱う van Hove 特異点の芽である.

例題14.2 単原子鎖の状態密度

第13章で求めた単原子鎖の分散関係(第13章で $\omega_{\max}$ と書いた量を,本章では積分上限の $\omega_{\max}$ と紛れないよう $\omega_m$ と書く)

$$\omega(k)=\omega_m\left|\sin\frac{ka}{2}\right|,\qquad \omega_m=2\sqrt{\frac{C}{M}}$$

について $D(\omega)$ を求め,規格化 $\int_0^{\omega_m}D(\omega)\dd\omega=N$ を確かめよ.

解答 $0<k<\pi/a$ の範囲で微分すると

$$\frac{\dd\omega}{\dd k}=\omega_m\cdot\frac{a}{2}\cos\frac{ka}{2}$$

ここで $\cos$ を $\omega$ で書き直す.$\sin(ka/2)=\omega/\omega_m$ だから,$\sin^2+\cos^2=1$ より

$$\cos\frac{ka}{2}=\sqrt{1-\left(\frac{\omega}{\omega_m}\right)^2}=\frac{\sqrt{\omega_m^2-\omega^2}}{\omega_m}$$

したがって

$$\frac{\dd\omega}{\dd k}=\frac{a}{2}\sqrt{\omega_m^2-\omega^2}$$

これを 1次元の公式に入れる($L=Na$).

$$ D(\omega)=\frac{L}{\pi}\cdot\frac{2}{a\sqrt{\omega_m^2-\omega^2}}=\frac{2N}{\pi\sqrt{\omega_m^2-\omega^2}} $$

規格化の確認.$\int \dd\omega/\sqrt{\omega_m^2-\omega^2}=\arcsin(\omega/\omega_m)$ を使って

$$ \int_0^{\omega_m}D(\omega)\dd\omega=\frac{2N}{\pi}\left[\arcsin\frac{\omega}{\omega_m}\right]_0^{\omega_m} =\frac{2N}{\pi}\cdot\frac{\pi}{2}=N\quad\checkmark $$

モード数はちょうど $N$ 個.3次元での $3pN$ の3は空間次元(1原子あたりの分極の本数)に由来するから,1次元・単原子($p=1$)では分枝は1本だけで総モード数は $pN=N$ であり,これで正しい.

読み取り方 $\omega\to\omega_m$(ゾーン境界)で $D(\omega)\propto(\omega_m-\omega)^{-1/2}$ と発散する.しかしその発散は積分可能で,モードの総数は有限に収まる.長波長側 $\omega\to0$ では $D\to 2N/\pi\omega_m=$ 一定.1次元では $D(\omega)$ が低振動数で定数になることを覚えておくと,次元による違いが見えやすい.

14.2.4 2次元の状態密度

面積 $A=L^2$ の2次元結晶.等方的な分散 $\omega(\kk)=\omega(k)$ を仮定する.半径 $k$ の円の内部にある許容点の数は,円の面積を1状態あたりの面積で割って

$$ \mathcal{N}(k)=\frac{\pi k^2}{(2\pi/L)^2}=\frac{\pi k^2 L^2}{4\pi^2}=\frac{Ak^2}{4\pi} $$

これを $\omega$ で微分する.

$$ D_{\rm 2D}(\omega)=\frac{\dd\mathcal{N}}{\dd k}\frac{\dd k}{\dd\omega}=\frac{Ak}{2\pi}\cdot\frac{1}{v_g} $$

とくに $\omega=vk$(線形分散)なら $k=\omega/v$,$v_g=v$ で

$$ D_{\rm 2D}(\omega)=\frac{A\omega}{2\pi v^2}\ \propto\ \omega $$

14.2.5 3次元の状態密度

同じことを3次元で行う.半径 $k$ の球の内部にある許容点の数は

導出:3次元の $D(\omega)$

step 1:$\kk$ 空間の球の中の状態数.

$$ \mathcal{N}(k)=\frac{\dfrac{4\pi}{3}k^3}{\dfrac{(2\pi)^3}{V}}=\frac{4\pi k^3}{3}\cdot\frac{V}{8\pi^3}=\frac{Vk^3}{6\pi^2} $$

step 2:$k$ で微分.

$$ \frac{\dd\mathcal{N}}{\dd k}=\frac{V\cdot 3k^2}{6\pi^2}=\frac{Vk^2}{2\pi^2} $$

これは「半径 $k$ の球面の面積 $4\pi k^2$ に,密度 $V/(2\pi)^3$ を掛けたもの」に等しい($4\pi k^2\cdot V/8\pi^3=Vk^2/2\pi^2$ ✓).当然である.

step 3:$\omega$ に変換.

$$ \boxed{\ D_{\rm 3D}(\omega)=\frac{Vk^2}{2\pi^2}\cdot\frac{1}{\dd\omega/\dd k}\ } $$

とくに $\omega=vk$(線形分散,Debye の仮定)なら $k=\omega/v$,$\dd\omega/\dd k=v$ で

$$ D_{\rm 3D}(\omega)=\frac{V}{2\pi^2}\cdot\frac{\omega^2}{v^2}\cdot\frac{1}{v}=\frac{V\omega^2}{2\pi^2v^3} $$

∎

物理的意味:次元によって $D(\omega)$ の低振動数側の形が違う

線形分散 $\omega=vk$ のもとでの結果をまとめる.

表14.1 線形分散 $\omega=vk$ における状態密度の次元依存性
次元$\mathcal{N}(k)$$D(\omega)$低温比熱
1次元$Lk/\pi$$L/\pi v$(定数)$C\propto T$
2次元$Ak^2/4\pi$$A\omega/2\pi v^2$$C\propto T^2$
3次元$Vk^3/6\pi^2$$V\omega^2/2\pi^2v^3$$C\propto T^3$

$d$ 次元では $D(\omega)\propto\omega^{d-1}$,比熱は $C\propto T^{d}$ となる.理由は簡単で,温度 $T$ で励起されるのは $\hbar\omega\lesssim k_BT$ すなわち $k\lesssim k_BT/\hbar v$ のモードだけであり,その個数は $\kk$ 空間の半径 $k_BT/\hbar v$ の「球」の体積 $\propto T^d$ に比例するからである.各モードが $\sim k_BT$ のエネルギーを持つので $U\propto T^{d+1}$,$C=\dd U/\dd T\propto T^d$.$T^3$ 法則の本質はこれだけである.あとの計算は係数を出しているにすぎない.

層状物質であるグラファイトの低温格子比熱が,広い温度域で $T^2$ に近い振る舞いを示すことは実際に観測されている.ただし単層グラフェンの最低温では話が変わる.グラフェンには曲げ剛性による面外たわみ(ZA)分枝があり,その分散は $\omega\propto k^2$ という2次形なので,2次元では $D(\omega)$ が一定となって $C\propto T$ を与える.したがって最低温ではこの分枝が支配的になり,$T^2$ 則は面内音響分枝が効く温度域の話である.

14.2.6 一般公式 — 等 $\omega$ 面上の積分

これまでは分散が等方的($\omega$ が $\abs{\kk}$ だけの関数)と仮定していた.実在の結晶ではもちろんそうではない.一般の $\omega_s(\kk)$ に対する $D(\omega)$ を導く.

導出:$D(\omega)=\dfrac{V}{(2\pi)^3}\displaystyle\int\frac{\dd S}{\abs{\nabla_\kk\omega}}$

step 1:定義に戻る.$D(\omega)\dd\omega$ は,$\kk$ 空間のうち $\omega<\omega_s(\kk)<\omega+\dd\omega$ を満たす領域(殻, shell)に含まれる状態数である.密度が $V/(2\pi)^3$ だから

$$ D(\omega)\dd\omega=\frac{V}{(2\pi)^3}\int_{\rm shell}\dd^3k $$

step 2:殻の体積を「面積 × 厚み」に分解する.殻の内側の面は等 $\omega$ 面 $\omega_s(\kk)=\omega$,外側の面は $\omega_s(\kk)=\omega+\dd\omega$ である.等 $\omega$ 面上の微小面積要素 $\dd S$ を取り,そこでの殻の法線方向の厚みを $\dd k_\perp$ と書けば

$$ \int_{\rm shell}\dd^3k=\int_{S(\omega)}\dd S\,\dd k_\perp $$

step 3:厚み $\dd k_\perp$ を $\dd\omega$ で表す.ここが要点である.$\omega_s(\kk)$ の勾配 $\nabla_\kk\omega$ は,定義により等 $\omega$ 面に垂直で,$\omega$ が最も速く増える向きを向く.したがって法線方向に $\dd k_\perp$ だけ進んだときの $\omega$ の増分は

$$ \dd\omega=\abs{\nabla_\kk\omega}\,\dd k_\perp \quad\Longrightarrow\quad \dd k_\perp=\frac{\dd\omega}{\abs{\nabla_\kk\omega}} $$

step 4:まとめる.$\dd\omega$ は面上で一定なので積分の外に出せて

$$ D(\omega)\dd\omega=\frac{V}{(2\pi)^3}\,\dd\omega\int_{S(\omega)}\frac{\dd S}{\abs{\nabla_\kk\omega}} $$

両辺を $\dd\omega$ で割って

$$ \boxed{\ D(\omega)=\frac{V}{(2\pi)^3}\int_{S(\omega)}\frac{\dd S}{\abs{\nabla_\kk\omega}}\ } $$

∎

(a) 許される k は間隔 2π/L の格子点 1点あたりの体積は (2π/L)³ = (2π)³/V (2π/L)² k 半径 k の球(円)の中の状態数 = (球の体積)/(2π/L)³ 影の殻の中の状態数が D(ω)dω である (図は2次元だが,考え方は3次元でも同じ) (b) 一般の等 ω 面と,その間の殻 殻の厚みは場所ごとに違う ω + dω ω |∇ω| 大 → 薄い |∇ω| 小 → 厚い dk⊥ = dω/|∇ω| ∇k ω は等 ω 面に垂直(=群速度) D(ω) = V/(2π)³ ∫ dS / |∇k ω| 分散が平らな場所ほど状態密度を稼ぐ
図14.1 (a) 周期境界条件によって許される $\kk$ は間隔 $2\pi/L$ の格子点になる.1点あたりの体積が $(2\pi)^3/V$ なので,ある領域に含まれる状態数は「その領域の体積 $\times$ $V/(2\pi)^3$」で求まる.半径 $k$ と $k+\dd k$ の間の殻(影)に入る点の数が $D(\omega)\dd\omega$ である.(b) 分散が等方的でない一般の場合.殻の厚みは $\dd k_\perp=\dd\omega/\abs{\nabla_\kk\omega}$ で,場所ごとに違う.分散が平らで群速度が小さい場所ほど殻が厚くなり,そこが状態密度を大きく稼ぐ.$\nabla_\kk\omega=0$ になる点が van Hove 特異点である.

物理的意味:$\abs{\nabla_\kk\omega}$ は群速度である

第13章で見たように,群速度は $\vv_g=\nabla_\kk\omega$ である.したがって一般公式は

$$D(\omega)=\frac{V}{(2\pi)^3}\int\frac{\dd S}{\abs{\vv_g}}$$

と書ける.フォノンがゆっくり進むところ($\vv_g$ が小さいところ)に,状態がたくさん詰まっている.

直観的にはこうである.等 $\omega$ 面が密に詰まっている($\omega$ が急激に変わる)場所では,$[\omega,\omega+\dd\omega]$ という薄いエネルギー窓に入る $\kk$ はわずかしかない.逆に $\omega$ がほとんど変わらない平坦な場所では,広い $\kk$ 領域が同じ $\omega$ を持つので,その窓に大量の状態が押し込まれる.分散曲線の「平ら」は状態密度の「ピーク」に翻訳される,と覚えておけばよい.

まったく同じ公式が電子でも成り立つ($\omega\to E/\hbar$ と読み替えるだけ).第16章以降のバンド計算で出てくる電子状態密度も,この式で計算されている.

例題14.3 一般公式から等方的な場合を再現する

$\omega=vk$(等方)の場合に,一般公式 $D(\omega)=\frac{V}{(2\pi)^3}\int\dd S/\abs{\nabla_\kk\omega}$ から $D(\omega)=V\omega^2/2\pi^2v^3$ を導け.

解答 $\omega=v\abs{\kk}$ の勾配は

$$\nabla_\kk\omega=v\,\nabla_\kk\abs{\kk}=v\,\frac{\kk}{\abs{\kk}}\quad\Longrightarrow\quad\abs{\nabla_\kk\omega}=v\ (\text{一定})$$

等 $\omega$ 面は半径 $k=\omega/v$ の球面で,その面積は $S=4\pi k^2=4\pi\omega^2/v^2$.$\abs{\nabla_\kk\omega}$ が面上で一定なので積分の外に出せて

$$ D(\omega)=\frac{V}{8\pi^3}\cdot\frac{1}{v}\cdot 4\pi\frac{\omega^2}{v^2}=\frac{V\omega^2}{2\pi^2v^3}\quad\checkmark $$

3次元の結果と一致した.$\square$

14.3 Debye モデルと $T^3$ 法則

14.3.1 モデルの仮定

1912年,Debye は次の2つの大胆な近似で格子比熱の問題を解いた.

定義:Debye モデル

  1. 分散を線形で置き換える.すべての分枝について $\omega=vk$($v$ は音速,等方的で1つだけ)とする.実際には音響分枝は縦波1本・横波2本で速度が違い,しかもゾーン境界に近づくと曲がってくるが,それを全部無視する.
  2. 切断振動数 $\omega_D$ を導入する.$\omega=vk$ をどこまでも許すとモード数が無限になってしまうので,$\kk$ 空間で半径 $k_D$ の球(Debye 球)の内部だけを数え,その中にちょうど $3N$ 個のモードが入るように $k_D$ を決める.$\omega_D=vk_D$ を Debye 振動数,$\theta_D=\hbar\omega_D/k_B$ を Debye 温度 という.

光学分枝は無視する(単原子結晶なら存在しない).

なぜこの近似でうまくいくのか

低温で比熱に効くのは $\hbar\omega\lesssim k_BT$ のモード,すなわち $\kk$ 空間の原点近傍だけである.そして原点近傍では,どんな結晶でも音響分枝は必ず $\omega=vk$ という線形分散を持つ(第13章).だから低温では $C\propto T^3$ という形のほうは厳密であり,$T^3$ 法則は普遍的な法則になる.ただし Debye モデルにはもうひとつ「3分枝すべてを等方的な単一音速 $v$ で置き換える」という仮定があり,こちらは低温でも近似のままである.$T^3$ の係数まで正しく出すには,例題14.4 で導入する逆3乗平均 $3/v^3=1/v_L^3+2/v_T^3$ のように,音速の方向平均を取る必要がある.

高温では,モードの詳細によらず全モードが古典的に励起されて $3Nk_B$(Dulong–Petit)に達するので,やはり分散の詳細は効かない.Debye モデルが怪しいのは中間温度だけである.両端で正しく,間を滑らかにつないでいるから,全域でそこそこ合う.これが Debye モデルの成功の秘密である.

14.3.2 Debye 波数 $k_D$ を決める

導出:$k_D=(6\pi^2N/V)^{1/3}$

3次元の結果 $\mathcal{N}(k)=Vk^3/6\pi^2$(1分枝あたり)を思い出す.分枝が3本あるので,半径 $k_D$ の球の中の総モード数は

$$ 3\times\frac{Vk_D^3}{6\pi^2}=\frac{Vk_D^3}{2\pi^2} $$

これが $3N$ に等しいと置く.

$$ \frac{Vk_D^3}{2\pi^2}=3N \quad\Longrightarrow\quad k_D^3=\frac{6\pi^2N}{V} $$
$$ \begin{equation} k_D=\left(\frac{6\pi^2N}{V}\right)^{1/3}=\left(6\pi^2 n\right)^{1/3},\qquad n\equiv\frac{N}{V} \label{eq:14-kD} \end{equation} $$

$n$ は原子の数密度である.∎

補足:Debye 球と第1 Brillouin 域

本来,モードは第1 Brillouin 域(BZ)の中に $N$ 個ずつ分布している.Debye モデルは,この BZ を同じ体積の球で置き換えていることになる.実際,\eqref{eq:14-kD} は「半径 $k_D$ の球の体積 $=$ BZ の体積 $(2\pi)^3/V_{\rm cell}$」から出したのと同じ式である.

$\frac{4\pi}{3}k_D^3=\frac{(2\pi)^3}{V_{\rm cell}}=\frac{(2\pi)^3 N}{V}$ を解くと $k_D^3=\frac{3\cdot 8\pi^3 N}{4\pi V}=\frac{6\pi^2N}{V}$ ✓.BZ の形(fcc なら切頭八面体)を球で近似したのが Debye 球である.

14.3.3 Debye モデルの状態密度

3本の分枝がすべて $\omega=vk$ なので,$D(\omega)$ は 14.2.5節の結果の3倍である.

$$ \begin{equation} D(\omega)=\frac{3V\omega^2}{2\pi^2v^3}\quad(0\le\omega\le\omega_D),\qquad D(\omega)=0\quad(\omega>\omega_D) \label{eq:14-Ddebye} \end{equation} $$

検算しておく.

$$ \int_0^{\omega_D}D(\omega)\dd\omega=\frac{3V}{2\pi^2v^3}\cdot\frac{\omega_D^3}{3}=\frac{V\omega_D^3}{2\pi^2v^3}=\frac{Vk_D^3}{2\pi^2}=3N\quad\checkmark $$

(途中で $\omega_D=vk_D$ を使った.)モード数はきちんと $3N$ になっている.

14.3.4 内部エネルギー — 変数変換を丁寧に

導出:Debye モデルの内部エネルギー

step 1:積分を書き下す.零点項は温度によらず比熱に効かないので,以下では落とす(14.3.6節で改めて拾う).

$$ U=\int_0^{\omega_D}\dd\omega\,D(\omega)\,\frac{\hbar\omega}{\ee^{\hbar\omega/k_BT}-1} =\int_0^{\omega_D}\dd\omega\,\frac{3V\omega^2}{2\pi^2v^3}\cdot\frac{\hbar\omega}{\ee^{\hbar\omega/k_BT}-1} $$

定数を前に出して

$$ U=\frac{3V\hbar}{2\pi^2v^3}\int_0^{\omega_D}\frac{\omega^3\,\dd\omega}{\ee^{\hbar\omega/k_BT}-1} $$

step 2:無次元化する.ここが計算の要である.

$$ x\equiv\frac{\hbar\omega}{k_BT} $$

と置く.この置換に伴い,

したがって

$$ \begin{equation} U=\frac{3V\hbar}{2\pi^2v^3}\left(\frac{k_BT}{\hbar}\right)^{4}\int_0^{x_D}\frac{x^3\,\dd x}{\ee^{x}-1} =\frac{3Vk_B^4T^4}{2\pi^2v^3\hbar^3}\int_0^{x_D}\frac{x^3\,\dd x}{\ee^{x}-1} \label{eq:14-Udebye} \end{equation} $$

step 3:$N$ と $\theta_D$ で書き直す.物質の情報を $\theta_D$ 1つにまとめたい.\eqref{eq:14-kD} と $\omega_D=vk_D$ から

$$ \omega_D^3=v^3k_D^3=v^3\cdot\frac{6\pi^2N}{V} \quad\Longrightarrow\quad \frac{V}{v^3}=\frac{6\pi^2N}{\omega_D^3} $$

これを \eqref{eq:14-Udebye} に代入する.

$$ U=\frac{3k_B^4T^4}{2\pi^2\hbar^3}\cdot\frac{6\pi^2N}{\omega_D^3}\int_0^{x_D}\frac{x^3\dd x}{\ee^x-1} =\frac{9Nk_B^4T^4}{\hbar^3\omega_D^3}\int_0^{x_D}\frac{x^3\dd x}{\ee^x-1} $$

ここで $\hbar\omega_D=k_B\theta_D$ を使うと $\hbar^3\omega_D^3=k_B^3\theta_D^3$ だから

$$ \begin{equation} U=9Nk_BT\left(\frac{T}{\theta_D}\right)^{3}\int_0^{\theta_D/T}\frac{x^3\,\dd x}{\ee^{x}-1} \label{eq:14-Udebye2} \end{equation} $$

∎

物理的意味:\eqref{eq:14-Udebye2} を読む

この式には温度が2か所に入っている.$T^4$ の前因子と,積分の上限 $x_D=\theta_D/T$ である.

すなわち,ひとつの式の中に $T^3$ 法則と Dulong–Petit 則が両方入っている.以下でこれを厳密にやる.

14.3.5 低温極限 — $T^3$ 法則の完全導出

$T\ll\theta_D$ では積分の上限を $\infty$ にしてよい.したがって次の定積分の値が必要になる.

導出:$\displaystyle\int_0^{\infty}\frac{x^3\,\dd x}{\ee^{x}-1}=\frac{\pi^4}{15}$

step 1:被積分関数を級数に展開する.分母・分子に $\ee^{-x}$ を掛けると

$$ \frac{1}{\ee^x-1}=\frac{\ee^{-x}}{1-\ee^{-x}} $$

$x>0$ なので $\abs{\ee^{-x}}<1$,等比級数 $\frac{1}{1-r}=\sum_{m=0}^\infty r^m$($r=\ee^{-x}$)が使えて

$$ \frac{1}{\ee^x-1}=\ee^{-x}\sum_{m=0}^{\infty}\ee^{-mx}=\sum_{m=0}^{\infty}\ee^{-(m+1)x}=\sum_{s=1}^{\infty}\ee^{-sx} $$

(最後に $s=m+1$ と番号を振り直した.)

step 2:項別に積分する.

$$ \int_0^{\infty}\frac{x^3\dd x}{\ee^x-1}=\sum_{s=1}^{\infty}\int_0^{\infty}x^3\ee^{-sx}\,\dd x $$

各項は $t=sx$ と置換すれば Gamma 関数である.$x=t/s$,$\dd x=\dd t/s$ より

$$ \int_0^{\infty}x^3\ee^{-sx}\dd x=\int_0^{\infty}\frac{t^3}{s^3}\ee^{-t}\frac{\dd t}{s}=\frac{1}{s^4}\int_0^{\infty}t^3\ee^{-t}\dd t=\frac{3!}{s^4}=\frac{6}{s^4} $$

($\int_0^\infty t^n\ee^{-t}\dd t=n!$ は部分積分を $n$ 回繰り返せば出る.)

step 3:$\zeta(4)$ にまとめる.

$$ \int_0^{\infty}\frac{x^3\dd x}{\ee^x-1}=6\sum_{s=1}^{\infty}\frac{1}{s^4}=6\,\zeta(4) $$

step 4:$\zeta(4)=\pi^4/90$ を示す.Fourier 級数と Parseval の等式を使う.$f(x)=x^2$ を $[-\pi,\pi]$ で展開すると(偶関数なので $\cos$ のみ)

$$ x^2=\frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}a_n\cos nx,\qquad a_0=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}x^2\dd x=\frac{2\pi^2}{3},\qquad a_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}x^2\cos nx\,\dd x=\frac{4(-1)^n}{n^2} $$

($a_n$ は部分積分を2回行えば得られる.)Parseval の等式

$$ \frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)^2\dd x=\frac{a_0^2}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}a_n^2 $$

の左辺は

$$ \frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}x^4\dd x=\frac{1}{\pi}\cdot\frac{2\pi^5}{5}=\frac{2\pi^4}{5} $$

右辺は

$$ \frac{1}{2}\left(\frac{2\pi^2}{3}\right)^2+\sum_{n=1}^{\infty}\frac{16}{n^4}=\frac{2\pi^4}{9}+16\,\zeta(4) $$

等号から

$$ 16\,\zeta(4)=\frac{2\pi^4}{5}-\frac{2\pi^4}{9}=2\pi^4\left(\frac{9-5}{45}\right)=\frac{8\pi^4}{45} \quad\Longrightarrow\quad \zeta(4)=\frac{\pi^4}{90} $$

step 5:結論.

$$ \int_0^{\infty}\frac{x^3\dd x}{\ee^x-1}=6\cdot\frac{\pi^4}{90}=\frac{\pi^4}{15}\approx 6.4939 $$

∎

導出:$T^3$ 法則

\eqref{eq:14-Udebye2} で $\int_0^{\theta_D/T}\to\int_0^{\infty}=\pi^4/15$ と置き換える.

$$ U=9Nk_BT\left(\frac{T}{\theta_D}\right)^3\cdot\frac{\pi^4}{15} =\frac{3\pi^4}{5}\,Nk_BT\left(\frac{T}{\theta_D}\right)^3 =\frac{3\pi^4Nk_B}{5\theta_D^3}\,T^4 $$

($9/15=3/5$ を使った.)比熱は $T$ で微分するだけである.$\theta_D$ は温度によらない定数だから

$$ C_V=\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_V=\frac{3\pi^4Nk_B}{5\theta_D^3}\cdot 4T^3 =\frac{12\pi^4}{5}Nk_B\left(\frac{T}{\theta_D}\right)^3 $$

∎

$$ \begin{equation} \boxed{\ C_V=\frac{12\pi^4}{5}Nk_B\left(\frac{T}{\theta_D}\right)^{3}\simeq 233.8\,Nk_B\left(\frac{T}{\theta_D}\right)^3\ } \label{eq:14-T3} \end{equation} $$

これが Debye の $T^3$ 法則(Debye $T^3$ law)である.1 mol あたりに直すと $N=N_A$,$N_Ak_B=R=8.314\,\mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}$ で

$$ C_V=1944\left(\frac{T}{\theta_D}\right)^3\ \mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}} $$

物理的意味:なぜ $T^3$ なのか(式を使わない説明)

温度 $T$ では,$\hbar\omega<k_BT$ を満たすモードだけが「生きて」おり,それぞれが古典的に $\sim k_B$ ずつ比熱に寄与する.$\hbar\omega>k_BT$ のモードは凍っていて寄与しない.

では生きているモードは何個か.$\omega=vk$ だから条件は $k<k_T\equiv k_BT/\hbar v$.$\kk$ 空間で半径 $k_T$ の球の中の状態数は

$$ \mathcal{N}\sim\frac{V}{(2\pi)^3}\cdot\frac{4\pi}{3}k_T^3\propto T^3 $$

よって $C\sim \mathcal{N}k_B\propto T^3$.次元 3 と,$\omega\propto k$ という線形分散,この2つだけから $T^3$ が出る.係数 $12\pi^4/5$ は「境界がぼやけている」効果を正確に計算した結果にすぎない.

この論法は電子にもそのまま応用できる.ただし電子では Fermi 面という別の構造があるため,生きている状態は「$\varepsilon_F$ から $k_BT$ 以内」という薄い殻に限られ,その個数は $T^1$ に比例する.だから電子比熱は $C_{\rm el}\propto T$.第15章で厳密に計算する.

14.3.6 高温極限 — Dulong–Petit 則に戻ることの確認

導出:高温展開と Dulong–Petit 則

step 1:$1/(\ee^x-1)$ を $x$ の小さい方から展開する.$\ee^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{6}+\cdots$ より

$$ \ee^x-1=x\left(1+\frac{x}{2}+\frac{x^2}{6}+\cdots\right) $$ $$ \frac{1}{\ee^x-1}=\frac{1}{x}\left(1+\frac{x}{2}+\frac{x^2}{6}+\cdots\right)^{-1} =\frac{1}{x}\left(1-\frac{x}{2}-\frac{x^2}{6}+\frac{x^2}{4}+\cdots\right) =\frac{1}{x}-\frac12+\frac{x}{12}-\cdots $$

($(1+u)^{-1}=1-u+u^2-\cdots$ に $u=\frac{x}{2}+\frac{x^2}{6}$ を入れ,$x^2$ まで残した.$-u+u^2=-\frac{x}{2}-\frac{x^2}{6}+\frac{x^2}{4}=-\frac{x}{2}+\frac{x^2}{12}$.)

step 2:積分する.

$$ \int_0^{x_D}\frac{x^3\dd x}{\ee^x-1} =\int_0^{x_D}\left(x^2-\frac{x^3}{2}+\frac{x^4}{12}-\cdots\right)\dd x =\frac{x_D^3}{3}-\frac{x_D^4}{8}+\frac{x_D^5}{60}-\cdots $$

step 3:\eqref{eq:14-Udebye2} に代入する.$x_D=\theta_D/T$ に注意して,$(T/\theta_D)^3x_D^3=1$,$(T/\theta_D)^3x_D^4=\theta_D/T$,$(T/\theta_D)^3x_D^5=(\theta_D/T)^2$ となるから

$$ U=9Nk_BT\left[\frac13-\frac18\frac{\theta_D}{T}+\frac{1}{60}\left(\frac{\theta_D}{T}\right)^2-\cdots\right] =3Nk_BT-\frac98Nk_B\theta_D+\frac{3}{20}\frac{Nk_B\theta_D^2}{T}-\cdots $$

step 4:微分する.

$$ C_V=3Nk_B-\frac{3}{20}Nk_B\left(\frac{\theta_D}{T}\right)^2+\cdots $$

∎

$$ \begin{equation} C_V\ \xrightarrow[\ T\gg\theta_D\ ]{}\ 3Nk_B\left[1-\frac{1}{20}\left(\frac{\theta_D}{T}\right)^2+\cdots\right] \label{eq:14-dulong} \end{equation} $$

主項の $3Nk_B$ が Dulong–Petit の法則(1819年)である.1 mol・単原子固体なら $3R=24.94\,\mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}$.物質によらない普遍定数であり,19世紀の化学者はこれを使って原子量を決めた.

補足:$-\frac98Nk_B\theta_D$ の正体

高温展開の第2項 $-\frac98Nk_B\theta_D$ は温度によらない定数なので,比熱には効かない.しかしこれには意味がある.Debye モデルの零点エネルギーを計算してみよう.

$$ U_0=\int_0^{\omega_D}\frac{\hbar\omega}{2}D(\omega)\dd\omega =\frac{3V\hbar}{4\pi^2v^3}\int_0^{\omega_D}\omega^3\dd\omega =\frac{3V\hbar\omega_D^4}{16\pi^2v^3} $$

$V/v^3=6\pi^2N/\omega_D^3$ を代入して

$$ U_0=\frac{3\hbar\omega_D^4}{16\pi^2}\cdot\frac{6\pi^2N}{\omega_D^3}=\frac{18}{16}N\hbar\omega_D=\frac98 N k_B\theta_D $$

つまり高温展開の第2項は零点エネルギーの符号を変えたものにちょうど等しい.零点項を含む全エネルギーは

$$ U_{\rm tot}=U_0+U=3Nk_BT+\frac{3}{20}\frac{Nk_B\theta_D^2}{T}-\cdots $$

となり,$\theta_D$ の1次の項がきれいに消える.古典極限($\hbar\to0$ すなわち $\theta_D\to0$)で $U_{\rm tot}\to3Nk_BT$,すなわち等分配則($3N$ 個の振動自由度 $\times\,k_BT$)が正しく再現される.

14.3.7 数値で確かめる

表14.2 代表的な物質の Debye 温度 $\theta_D$(低温比熱から決めた値)
物質$\theta_D$ [K]物質$\theta_D$ [K]物質$\theta_D$ [K]
Ar(固体)92Ag225Ge374
Pb105Cu343Fe470
K91Zn327Si645
Na158Al428C(ダイヤモンド)2230
Au165Ni450NaCl321

物理的意味:$\theta_D$ の大小は何で決まるか

$\theta_D=\hbar vk_D/k_B$ で,$v\sim\sqrt{C/M}\,a$($C$ はばね定数,$M$ は原子質量)だから,おおまかに

$$\theta_D\propto \sqrt{\frac{C}{M}}$$

結合が強く($C$ 大),原子が軽い($M$ 小)ほど $\theta_D$ が高い.表14.2 を見ると

$\theta_D$ は融点や硬さともよく相関する.すべて「結合の強さ」という同じものを見ているからである.

例題14.4 Cu の $k_D$,$v$,$\theta_D$ を出す

Cu は fcc,格子定数 $a=3.61\,\text{Å}$,単位胞(conventional)あたり原子4個.弾性定数から求めた音速は縦波 $v_L=4760\,\mathrm{m/s}$,横波 $v_T=2325\,\mathrm{m/s}$ である.$\theta_D$ を計算し,表14.2 の実測値 $343\,\mathrm{K}$ と比べよ.

解答

(1) 数密度.conventional cell の体積は $a^3=(3.61\times10^{-10})^3=4.705\times10^{-29}\,\mathrm{m^3}$,そこに原子4個だから

$$n=\frac{4}{4.705\times10^{-29}}=8.50\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}$$

(2) $k_D$.\eqref{eq:14-kD} より

$$k_D=(6\pi^2 n)^{1/3}=(59.22\times8.50\times10^{28})^{1/3}=(5.03\times10^{30})^{1/3}=1.71\times10^{10}\ \mathrm{m^{-1}}$$

すなわち $k_D=1.71\ \text{Å}^{-1}$.参考までに,fcc の BZ の $\Gamma\!-\!X$ 距離は $2\pi/a=1.74\ \text{Å}^{-1}$ である.Debye 球の半径は BZ の大きさとほぼ同じで,球で近似するのが乱暴すぎないことがわかる.

(3) Debye 平均音速.3本の分枝の速度が違うときは,$D(\omega)\propto\sum_i 1/v_i^3$ となるので,平均は逆3乗平均で取る.

$$\frac{3}{v^3}=\frac{1}{v_L^3}+\frac{2}{v_T^3}$$ $$\frac{1}{(4760)^3}+\frac{2}{(2325)^3}=9.27\times10^{-12}+1.591\times10^{-10}=1.684\times10^{-10}$$ $$v^3=\frac{3}{1.684\times10^{-10}}=1.782\times10^{10}\quad\Longrightarrow\quad v=2616\ \mathrm{m/s}$$

(4) $\theta_D$.

$$ \theta_D=\frac{\hbar vk_D}{k_B}=\frac{1.0546\times10^{-34}\times2616\times1.71\times10^{10}}{1.3807\times10^{-23}}=342\ \mathrm{K} $$

実測 $343\,\mathrm{K}$ とほぼ完全に一致した.「低温比熱の測定は音速の測定と等価である」という主張が,数値で確かめられたことになる.

ついでに $\omega_D=vk_D=4.47\times10^{13}\,\mathrm{rad/s}$,$\nu_D=\omega_D/2\pi=7.1\,\mathrm{THz}$.中性子非弾性散乱で測った Cu のフォノンの最大振動数は約 $7.5\,\mathrm{THz}$ で,これも整合している.

例題14.5 Cu の $10\,\mathrm{K}$ での比熱,そして電子との競合

(1) $\theta_D=343\,\mathrm{K}$ の Cu について,$T=10\,\mathrm{K}$ での格子比熱を求めよ.

(2) Cu の電子比熱は $C_{\rm el}=\gamma_{\rm el} T$,$\gamma_{\rm el}=0.695\,\mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-2}}$ である(第15章).ここで $\gamma_{\rm el}$ は電子比熱係数(Sommerfeld 係数)であり,14.6節以降で使う Grüneisen パラメータ $\gamma$ とは別物なので添字で区別する.格子と電子の寄与が等しくなる温度を求めよ.

解答

(1) $T/\theta_D=10/343=0.02916$,その3乗は $2.478\times10^{-5}$.

$$C_V=1944\times2.478\times10^{-5}=0.0482\ \mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}$$

Dulong–Petit 値 $24.9$ の $1/500$ 以下である.$10\,\mathrm{K}$ では格子はほとんど凍りついている.

(2) $C_{\rm latt}=AT^3$,$A=1944/343^3=4.82\times10^{-5}\,\mathrm{J\,mol^{-1}K^{-4}}$.$\gamma_{\rm el} T=AT^3$ より

$$T^2=\frac{\gamma_{\rm el}}{A}=\frac{6.95\times10^{-4}}{4.82\times10^{-5}}=14.4\quad\Longrightarrow\quad T=3.8\ \mathrm{K}$$

読み取り方 $3.8\,\mathrm{K}$ より低温では電子比熱のほうが大きい.これが,金属の低温比熱を $C/T$ 対 $T^2$ でプロットして

$$\frac{C}{T}=\gamma_{\rm el}+AT^2$$

という直線に乗せ,切片から $\gamma_{\rm el}$(電子状態密度),傾きから $A$($\theta_D$)を同時に決める,という標準的な実験手法の根拠である.液体 He 温度($4.2\,\mathrm{K}$)まで冷やす意味がここにある.

Debye 比熱(青の実線)と Einstein 比熱(臙脂の破線,θ_E = θ_D)の温度変化,および C/T^3 のプロット.(a) では両者が高温で Dulong–Petit 値に近づき,低温での落ち方が違う.(b) では Debye 値を 1 に規格化した C/T^3 が T/θ が小さいところで平坦になり,実在の結晶(緑,模式)は T/θ = 0.05 付近にコブを持つ.
図14.2 (a) Debye 比熱(青実線)と Einstein 比熱(臙脂破線,$\theta_E=\theta_D$ とした).高温ではどちらも Dulong–Petit 値 $3Nk_B$ に収束するが,低温での落ち方が決定的に違う.Debye は $T^3$ でゆっくり落ち,Einstein は $\ee^{-\theta_E/T}$ で急激に落ちる.実験は Debye 側に従う.(b) $C_V/T^3$ を $T$ に対してプロットしたもの(Debye の低温値を1に規格化).$T^3$ 法則が成り立っていればこのプロットは水平線になる.Debye モデル自体は $T\lesssim\theta_D/10$ まで平坦だが,実在の結晶では実際の $D(\omega)$ が $\omega^2$ からずれる(とくに横波音響分枝がゾーン境界で平らになる)ため,$\theta_D/20$ 付近にコブが現れる.$T^3$ 法則が信用できるのは $T\lesssim\theta_D/50$ である.

注意:$T^3$ 法則が使える温度範囲

「$T\ll\theta_D$ なら $T^3$」と覚えると危ない.Debye モデルの中では確かに $T\lesssim\theta_D/10$ で $T^3$ が良い近似になる(図14.2b の青線が平坦な範囲).しかし実在の結晶では,$T^3$ 法則の根拠である $D(\omega)\propto\omega^2$ が成り立つのは真に長波長の音響フォノンだけで,そこから外れると横波分枝が柔らかくなって $D(\omega)$ が Debye の予想を上回る.

経験的には $T\lesssim\theta_D/50$ が $T^3$ 法則の適用範囲である.Cu なら $7\,\mathrm{K}$ 以下,Si なら $13\,\mathrm{K}$ 以下.$\theta_D$ を「実験値」として引用するとき,どの温度域のデータから決めたのかを確かめる必要があるのは,このためである.実際,$\theta_D$ を温度の関数として求めると(各温度の $C_V$ から逆算する),多くの物質で $\theta_D(T)$ は $\theta_D/20$ 付近に極小を持つ.図14.2(b) のコブと同じ現象を別の座標で見ているにすぎない.

14.4 Einstein モデル — なぜ低温で合わないのか

14.4.1 モデル

歴史的には Einstein のほうが5年早い(1907年).Einstein は次のように考えた.

定義:Einstein モデル

結晶中の $N$ 個の原子が,それぞれ独立に,同じ角振動数 $\omega_E$ で3方向に振動しているとする.すなわちすべてのモードが同じ振動数を持つ:

$$ D(\omega)=3N\,\delta(\omega-\omega_E) $$

$\theta_E\equiv\hbar\omega_E/k_B$ を Einstein 温度 という.

物理的には「原子が周囲の原子が作る井戸の中で単独に振動している(アインシュタイン振動子)」という描像である.原子間の連成をまったく無視しているので,分散関係は $\omega(\kk)=\omega_E$ という完全に平坦な線になる.

14.4.2 比熱の導出

導出:Einstein 比熱

step 1:内部エネルギー.$3N$ 個の同一振動子だから,\eqref{eq:14-emode} を $3N$ 倍するだけである.

$$ U=3N\hbar\omega_E\left[\frac{1}{\ee^{\hbar\omega_E/k_BT}-1}+\frac12\right] $$

step 2:$x=\hbar\omega_E/k_BT=\theta_E/T$ で微分の準備.零点項は定数なので落とす.

$$ U=\frac{3N\hbar\omega_E}{\ee^{x}-1},\qquad x=\frac{\theta_E}{T} $$

合成関数の微分を使う.まず

$$ \frac{\dd x}{\dd T}=\frac{\dd}{\dd T}\left(\frac{\theta_E}{T}\right)=-\frac{\theta_E}{T^2}=-\frac{x}{T} $$

次に

$$ \frac{\dd}{\dd x}\left(\frac{1}{\ee^x-1}\right)=-\frac{1}{(\ee^x-1)^2}\cdot\ee^{x}=-\frac{\ee^x}{(\ee^x-1)^2} $$

step 3:掛け合わせる.

$$ C_V=\frac{\dd U}{\dd T}=3N\hbar\omega_E\cdot\left(-\frac{\ee^x}{(\ee^x-1)^2}\right)\cdot\left(-\frac{x}{T}\right) =3N\,\frac{\hbar\omega_E}{T}\,\frac{x\,\ee^x}{(\ee^x-1)^2} $$

ここで $\hbar\omega_E/T=k_B\theta_E/T=k_Bx$ だから

$$ C_V=3Nk_B\,\frac{x^2\ee^x}{(\ee^x-1)^2} $$

∎

$$ \begin{equation} C_V=3Nk_B\left(\frac{\hbar\omega_E}{k_BT}\right)^{2} \frac{\ee^{\hbar\omega_E/k_BT}}{\left(\ee^{\hbar\omega_E/k_BT}-1\right)^{2}} \label{eq:14-einstein} \end{equation} $$

14.4.3 二つの極限

導出:高温極限 $x\to0$

$\ee^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{6}+\cdots$ を使う.分母は

$$ (\ee^x-1)^2=\left(x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{6}+\cdots\right)^2 =x^2\left(1+\frac{x}{2}+\frac{x^2}{6}\right)^2 =x^2\left(1+x+\frac{7x^2}{12}+\cdots\right) $$

($(1+u)^2=1+2u+u^2$ に $u=\frac x2+\frac{x^2}{6}$:$2u=x+\frac{x^2}{3}$,$u^2=\frac{x^2}{4}$,合計 $x+\frac{x^2}{3}+\frac{x^2}{4}=x+\frac{7x^2}{12}$.)

したがって

$$ \frac{x^2\ee^x}{(\ee^x-1)^2}=\frac{x^2\left(1+x+\frac{x^2}{2}\right)}{x^2\left(1+x+\frac{7x^2}{12}\right)} =\frac{1+x+\frac{x^2}{2}}{1+x+\frac{7x^2}{12}} \simeq 1-\frac{x^2}{12}+\cdots $$

(分母を $(1+u)^{-1}\simeq1-u$ で展開し,$x^2$ の係数の差 $\frac12-\frac{7}{12}=-\frac{1}{12}$ を取った.)よって

$$ C_V\ \xrightarrow[T\gg\theta_E]{}\ 3Nk_B\left[1-\frac{1}{12}\left(\frac{\theta_E}{T}\right)^2+\cdots\right] $$

Dulong–Petit 則に収束する.∎

導出:低温極限 $x\to\infty$

$x\gg1$ では $\ee^x\gg1$ なので $\ee^x-1\simeq\ee^x$.したがって

$$ \frac{x^2\ee^x}{(\ee^x-1)^2}\simeq\frac{x^2\ee^x}{\ee^{2x}}=x^2\ee^{-x} $$ $$ C_V\ \xrightarrow[T\ll\theta_E]{}\ 3Nk_B\left(\frac{\theta_E}{T}\right)^{2}\ee^{-\theta_E/T} $$

∎

14.4.4 なぜ実験と合わないのか

物理的意味:指数関数と冪の決定的な違い

$\ee^{-\theta_E/T}$ と $T^3$ を比べてみる.$\theta_E=300\,\mathrm{K}$ として,

表14.3 低温での落ち方の比較($\theta=300\,\mathrm{K}$)
$T$ [K]$(T/\theta)^3$$\ee^{-\theta/T}$比
100$3.7\times10^{-2}$$5.0\times10^{-2}$$0.7$
30$1.0\times10^{-3}$$4.5\times10^{-5}$$22$
10$3.7\times10^{-5}$$9.4\times10^{-14}$$4\times10^{8}$
3$1.0\times10^{-6}$$4\times10^{-44}$$2\times10^{37}$

$10\,\mathrm{K}$ では既に8桁違う.Einstein モデルは低温で比熱をとんでもなく過小評価する.実測は $T^3$ 側に従う.

原因は明快である.Einstein モデルでは,すべてのモードが有限の振動数 $\omega_E$ を持つ.だから $k_BT\ll\hbar\omega_E$ になるとすべてのモードが同時に凍りつく.凍りつき方は Boltzmann 因子 $\ee^{-\hbar\omega_E/k_BT}$ に支配され,指数関数的である.

しかし実在の結晶には音響分枝があり,$\kk\to0$ で $\omega\to0$ となる.どんなに低温にしても,$\hbar\omega<k_BT$ を満たす長波長のモードが必ず存在する.それらは決して凍らない.凍らないモードの個数が $T^3$ に比例して減っていく——これが冪則の起源である.

言い換えれば,Einstein モデルの誤りは「$\omega=0$ のモードが存在すること」を見落とした点にある.そして $\omega\to0$ のモードが存在するのは,結晶を丸ごと平行移動しても弾性エネルギーが変わらない(並進対称性)からである.長波長音響フォノンは並進対称性の破れに伴う Goldstone モードであり,その存在は結晶である限り保証されている.

なぜ Einstein モデルは今でも使われるのか

Einstein モデルは低温で失敗するが,それでも重要である.

  1. 歴史的意義:Einstein は「比熱が低温でゼロに向かう」ことを量子論から初めて示した.古典統計力学では $C=3Nk_B$ が温度によらず成り立ってしまい,ダイヤモンドの室温比熱が小さいという事実を説明できなかった.Einstein は $\hbar\omega$ のエネルギー量子化だけからこれを説明し,熱力学第三法則($T\to0$ で $C\to0$,$S\to$ 一定)とも整合させた.
  2. 光学分枝には合う:光学分枝は $\kk$ にあまり依存せず,ほぼ平坦である.まさに Einstein モデルの仮定そのものである.実際,実在の結晶の比熱を精密にフィットするときは
    $$C=C_{\rm Debye}(\theta_D)+\sum_j n_j\,C_{\rm Einstein}(\theta_{E,j})$$
    のように,音響分枝を Debye 項で,光学分枝を数個の Einstein 項で表す.これを Debye–Einstein フィットという.
  3. 局在モード:不純物や格子間原子がつくる局在振動モードは,まさに「1個の原子が単独で振動する」もので,Einstein 振動子そのものである.かご状構造をもつクラスレートやスクッテルダイトの中で「ラットリング」する重原子も同様で,それが熱伝導率を下げる仕組みは熱電材料の設計指針になっている.

Si の光学フォノン $520\,\mathrm{cm^{-1}}$ を Einstein 温度に直すと $\theta_E=\hbar\omega/k_B=748\,\mathrm{K}$($64.5\,\mathrm{meV}$ を $k_B$ で割った).Einstein 自身がダイヤモンドの比熱に対して用いた値は $\theta_E\approx1320\,\mathrm{K}$ であった.

14.5 実在の $D(\omega)$ と van Hove 特異点

14.5.1 Debye の $D(\omega)$ と本物の違い

Debye モデルの $D(\omega)\propto\omega^2$ は,$\kk$ 空間の原点近傍でしか正しくない.実在の結晶では次の2つの理由でずれる.

  1. 分散が曲がる:ゾーン境界に近づくと $\omega(\kk)$ は平坦になり,群速度がゼロに近づく.一般公式 $D=\frac{V}{(2\pi)^3}\int\dd S/\abs{\nabla_\kk\omega}$ より,そこで $D(\omega)$ が大きくなる.
  2. 光学分枝がある:単位胞に2個以上の原子があれば光学分枝が現れ,高振動数側に鋭いピークをつくる.Debye モデルにはこれがまったく入っていない.

とりわけ重要なのが,$\nabla_\kk\omega=0$ となる点である.

定義:van Hove 特異点(van Hove singularity)

$\kk$ 空間の中で $\nabla_\kk\omega_s(\kk)=\bm{0}$ となる点を分散関係の臨界点(critical point)といい,そこで状態密度 $D(\omega)$ に現れる非解析的な振る舞いを van Hove 特異点という(L. van Hove, 1953).

一般公式の被積分関数 $1/\abs{\nabla_\kk\omega}$ が発散するので,$D(\omega)$ に何らかの特異性が生じる.ただし発散するかどうかは次元による.

14.5.2 1次元では発散する

例題14.2 で既に見た.単原子鎖では

$$ D(\omega)=\frac{2N}{\pi\sqrt{\omega_m^2-\omega^2}}=\frac{2N}{\pi\sqrt{(\omega_m+\omega)(\omega_m-\omega)}} \ \xrightarrow[\omega\to\omega_m]{}\ \frac{2N}{\pi\sqrt{2\omega_m}}\,(\omega_m-\omega)^{-1/2} $$

$(\omega_m-\omega)^{-1/2}$ 型の発散である.ゾーン境界 $k=\pi/a$ で $\dd\omega/\dd k=0$ になることが原因で,これは1次元の臨界点(極大点)である.

補足:発散しても積分は有限

$(\omega_m-\omega)^{-1/2}$ は $\omega\to\omega_m$ で発散するが,$\int^{\omega_m}(\omega_m-\omega)^{-1/2}\dd\omega=\left[-2\sqrt{\omega_m-\omega}\right]$ は有限である.可積分な発散なので,モードの総数も内部エネルギーも有限に収まる.物理的に破綻はしていない.

1次元系の物性でこの特異点が顔を出す例は多い.1次元電子系の状態密度も同じ $E^{-1/2}$ 型の発散を持ち,Peierls 転移や電荷密度波が生じやすい理由のひとつになっている.

14.5.3 3次元では折れ曲がる

3次元では事情が変わる.臨界点 $\kk_c$ のまわりで $\omega(\kk)$ を Taylor 展開する.$\nabla_\kk\omega=0$ なので1次の項が消え,主軸を取れば

$$ \omega(\kk)=\omega_c+\frac{1}{2}\left(\alpha_1q_1^2+\alpha_2q_2^2+\alpha_3q_3^2\right),\qquad \bm{q}\equiv\kk-\kk_c $$

3つの係数 $\alpha_i$ の符号の組み合わせで,臨界点は4種類に分類される(J. C. Phillips, 1956).

導出:極小点($P_0$)まわりの $D(\omega)$

$\alpha_1=\alpha_2=\alpha_3=\alpha>0$(等方的な極小)とする.

$$ \omega-\omega_c=\frac{\alpha}{2}q^2\quad\Longrightarrow\quad q=\sqrt{\frac{2(\omega-\omega_c)}{\alpha}} $$

この式は $\omega>\omega_c$ でしか解を持たない.$\omega<\omega_c$ には状態が存在しないので $D=0$ である.

$\omega>\omega_c$ 側から数える.等 $\omega$ 面は半径 $q$ の球面で,面積 $4\pi q^2$.勾配の大きさは $\abs{\nabla_\kk\omega}=\alpha q$.一般公式より

$$ D(\omega)=\frac{V}{(2\pi)^3}\cdot\frac{4\pi q^2}{\alpha q}=\frac{Vq}{2\pi^2\alpha} =\frac{V}{2\pi^2\alpha}\sqrt{\frac{2(\omega-\omega_c)}{\alpha}} \ \propto\ \sqrt{\omega-\omega_c} $$

すなわち

$$ D(\omega)=\begin{cases}0 & (\omega<\omega_c)\\[2pt] A\sqrt{\omega-\omega_c} & (\omega>\omega_c)\end{cases} $$

発散しない.$D$ 自体は連続だが,$\dd D/\dd\omega$ が $\omega_c$ で発散する(無限大の傾きで立ち上がる).これが3次元の van Hove 特異点の典型的な姿である.∎

$\omega_c=0$ であることを思い出すと,Debye モデルの $D\propto\omega^2$ は $\Gamma$ 点での臨界点(線形分散 $\omega=v\abs{\kk}$ のため上の2次展開が使えない特別な場合)に対応する.

表14.4 3次元の van Hove 特異点の分類($\alpha_i$ の符号による)
型$\alpha_i$ の符号臨界点の性格$\omega<\omega_c$$\omega>\omega_c$
$P_0$$(+,+,+)$極小$0$$A\sqrt{\omega-\omega_c}$
$P_1$$(+,+,-)$鞍点(1方向が下り)$B-A\sqrt{\omega_c-\omega}$$B$(滑らか)
$P_2$$(+,-,-)$鞍点(2方向が下り)$B$(滑らか)$B-A\sqrt{\omega-\omega_c}$
$P_3$$(-,-,-)$極大$A\sqrt{\omega_c-\omega}$$0$

いずれも $\sqrt{\ }$ 型の折れ曲がり(キンク)であって,発散はしない.$D(\omega)$ の曲線に「角」が立つ場所を見つけたら,そこに臨界点がある,と読める.

定理14.1 Morse の定理(van Hove の議論)

周期関数 $\omega_s(\kk)$(Brillouin 域はトーラスと同相)が,各分枝ごとに滑らかで臨界点が非縮退(Morse 関数)であるとき,1つの分枝につき少なくとも

$$ P_0\ \text{1個},\quad P_1\ \text{3個},\quad P_2\ \text{3個},\quad P_3\ \text{1個} $$

の臨界点を持たなければならない(合計8個以上).

理由の概略:$\omega_s(\kk)$ は BZ 上の連続関数で,BZ の向かい合う面は逆格子ベクトルで同一視されるからトーラス $T^3$ 上の関数である.Morse 理論によれば,多様体上の Morse 関数の臨界点の個数は多様体の位相(Betti 数)で下から抑えられ,$T^3$ については上の数になる.極大と極小が1つずつ必要なのは直観的にも当然だが,鞍点が最低3+3個必要というのは位相的な要請である.

前提について一言.実在の分枝は縮退点や分枝どうしの交差で滑らかさを失うことがあり,そこでは個々の分枝を Morse 関数として扱えない.臨界点が非縮退でない($\det(\partial^2\omega/\partial k_i\partial k_j)=0$)場合もありうる.定理14.1 はあくまで「各分枝を非縮退で滑らかな関数として扱える場合」の下限だと理解しておけばよい.

したがって,実在の $D(\omega)$ には必ず複数のキンクが現れる.Debye モデルのような滑らかな $\omega^2$ は,現実には決して起こらない.

1次元単原子鎖の分散関係 ω(k) = ω_m |sin(ka/2)|,その状態密度 D(ω)(ω_m で発散),および3次元の4種類の臨界点 P0(極小),P1・P2(鞍点),P3(極大)のまわりの D(ω) の形.
図14.3 (a) 1次元単原子鎖の分散関係.ゾーン境界 $k=\pm\pi/a$ で $v_g=\dd\omega/\dd k=0$ になる.同じ幅 $\dd\omega$ の窓を取ったとき,分散が急な低振動数側では対応する $k$ 区間が狭く(臙脂),平坦な高振動数側では広い(緑).$D(\omega)$ はこの $k$ 区間の長さそのものである.(b) その結果として得られる $D(\omega)$.$\omega\to\omega_m$ で $(\omega_m-\omega)^{-1/2}$ と発散する.灰色破線は比較のための3次元 Debye の $\omega^2$.(c) 3次元の4種類の臨界点まわりで $D(\omega)$ が示す形(表14.4 に対応).いずれも発散せず,$\sqrt{\ }$ 型の折れ曲がりにとどまる.極小 $P_0$ ではゼロから $\sqrt{\omega-\omega_c}$ で立ち上がり,極大 $P_3$ では $\sqrt{\omega_c-\omega}$ でゼロに落ちる.鞍点 $P_1$ は下側から,$P_2$ は上側からキンクが入る.実在の $D(\omega)$ はこれらが多数重なったものであり,各分枝を非縮退で滑らかな関数として扱えるかぎり,Morse の定理により1分枝あたり $P_0,\,P_1\times3,\,P_2\times3,\,P_3$ の8個以上が存在する.

14.5.4 対称性と臨界点 — 第II部との接続

物理的意味:多くの高対称点は対称性によって臨界点になる

臨界点は,どこにでもランダムに現れるわけではない.多くは結晶の対称性によって位置が固定されている.

第11章で見たように,$\kk$ 点の小群 $G_{\kk}$($\kk$ を $\GG$ を除いて不変に保つ点群の操作の集合)を考える.もし $G_{\kk}$ が,$\kk$ 空間の $\kk$ 点まわりのすべての方向を互いに移し合うほど大きければ,ベクトル量である $\nabla_\kk\omega$ はその操作で不変でなければならず,しかも向きを変えられてしまうので,$\bm{0}$ 以外あり得ない.

具体的には:

これが,フォノン $D(\omega)$ の目立つピークの多くが高対称点のフォノン振動数に対応する理由である.群論が「どこに特異点が現れるか」を教え,実際の計算が「そこで $\omega$ がいくつか」を教えるという役割分担は,第11章のバンド縮退の議論とまったく同じ構図である.

ただし逆は成り立たない.対称性が $\nabla_\kk\omega=\bm{0}$ を要求するのは,小群がその点まわりに不変なベクトルを許さない場合(および $2\kk=\GG$ の時間反転由来の場合)に限られる.高対称線の上の一般の点では,線に沿った勾配成分は残ってよい.また臨界点は対称性と無関係な一般の $\kk$ にも現れうるので,「大きなピークは必ず高対称点」と決めてかかってはいけない.

補足:実際に $D(\omega)$ をどう得るか

実験:中性子非弾性散乱(第13章)で $\omega_s(\kk)$ を各方向について測り,それを内挿して BZ 全体で積分する.あるいは,非干渉性散乱を使って $D(\omega)$ を直接測る手法($\mathrm{V}$ や水素を含む系で有効)もある.

計算:第一原理計算では,密度汎関数摂動論(DFPT)または有限変位法(frozen-phonon 法)で力の定数行列を求め,動力学行列を多数の $\kk$ 点で対角化して,テトラヘドロン法などで BZ 積分する.望月研究室で日常的に使っている VASP+phonopy の組み合わせがまさにこれである.得られた $D(\omega)$ を,\eqref{eq:14-Usum} を $\omega$ の積分に直した形(14.2.1節の定義枠を見よ)に入れれば,比熱・エントロピー・自由エネルギーが温度の関数として出てくる.

ここで重要なのは,フォノンの計算が「振動数」だけでなく「熱力学量そのもの」を与える点である.相の安定性を有限温度で議論するには,電子のエネルギーだけでなく振動の自由エネルギー $F_{\rm vib}(T)$ が要る.次節の熱膨張はその典型例である.

14.6 非調和性 — 熱膨張はどこから来るか

14.6.1 調和近似の世界には何がないか

ここまでの議論はすべて調和近似(harmonic approximation)の上に成り立っていた.すなわち,原子の変位 $u$ についてポテンシャルを2次で打ち切り

$$ U=U_0+\frac12\sum_{i,j}\Phi_{ij}u_iu_j $$

としてきた.この近似は驚くほどよく効くが,そのぶん調和近似では絶対に起こらないことがいくつもある.

注意:完全な調和結晶で起こらないこと

  1. 熱膨張が起こらない.温度を上げても平衡原子位置は動かない.$0\,\mathrm{K}$ でも $1000\,\mathrm{K}$ でも格子定数は同じ.
  2. フォノン同士が衝突しない.基準モードは厳密な固有状態なので,いったん励起されたフォノンは永久にそのまま.相互作用がない.
  3. 熱伝導率が無限大になる.2の帰結.フォノンは散乱されずに結晶を突き抜けるので,温度勾配を作れない.
  4. $C_V=C_P$ である.体積が温度で変わらないので,定積と定圧の区別がなくなる.
  5. 弾性定数が温度・圧力によらない.
  6. 高温で $C_V$ が $3Nk_B$ を超えない.厳密に $3Nk_B$ で止まる.

現実の結晶では,これらすべてが破れている.したがって,熱膨張・熱伝導・比熱の高温での超過は,すべてポテンシャルの3次以上の項(非調和項)に由来する.

14.6.2 調和近似では熱膨張しないことの証明

導出:調和結晶の圧力は温度によらない

結晶の Helmholtz 自由エネルギーは,静的な格子エネルギー $U_0(V)$ と振動の寄与の和として書ける.振動の寄与は,各モードの分配関数 $Z_i=\ee^{-x_i/2}/(1-\ee^{-x_i})$(14.1.2節)から

$$ F_{\rm vib}=-k_BT\sum_i\ln Z_i =\sum_i\left[\frac{\hbar\omega_i}{2}+k_BT\ln\left(1-\ee^{-\hbar\omega_i/k_BT}\right)\right] $$

したがって

$$ \begin{equation} F(V,T)=U_0(V)+\sum_i\frac{\hbar\omega_i}{2}+k_BT\sum_i\ln\left(1-\ee^{-\hbar\omega_i/k_BT}\right) \label{eq:14-F} \end{equation} $$

圧力は $P=-(\partial F/\partial V)_T$ である.

ここで「厳密な調和近似」の意味を明確にする.厳密な調和結晶では,ばね定数 $\Phi_{ij}$ は原子間距離によらない定数であり,したがって $\omega_i$ は体積 $V$ に依存しない.すると \eqref{eq:14-F} の第2項・第3項は $V$ を含まないので微分すると消えて

$$ P=-\frac{\dd U_0}{\dd V} $$

となる.右辺は温度をまったく含まない.したがって,外圧 $P$ を一定に保つと,それを満たす $V$ も温度によらず一定である.

$$ \left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_P=0\quad\Longrightarrow\quad \alpha=0 $$

∎ 調和結晶は熱膨張しない.

なぜ:非対称なポテンシャルが膨張を生む

1個の原子が,隣の原子に対して距離 $x$ だけずれているとする.ポテンシャルが対称な放物線 $U=cx^2$ なら,どんなに大きく振動しても振動の中心(=平均位置)は $x=0$ のままである.左右対称だから当たり前である.

しかし実際の原子間ポテンシャルは非対称で,原子を近づけるときのほうが遠ざけるときより急峻である(Lennard-Jones や Morse ポテンシャルを思い出せばよい).この非対称性を3次・4次の項で表すと

$$ U(x)=cx^2-gx^3-fx^4 $$

となる($g,f>0$).この井戸の中では,振幅が大きくなるほど原子は外側($x>0$ 側)に長く滞在するので,平均位置 $\braket{x}$ が正にずれる.これが熱膨張である.

導出:古典統計での $\braket{x}$(非対称ポテンシャル)

Boltzmann 分布で平均を取る.ただし断っておくと,$U=cx^2-gx^3-fx^4$ は平衡点近傍だけを表す局所的な展開であって,$\abs{x}\to\infty$ では $U\to-\infty$ となるから,$\ee^{-\beta U}$ の全実軸積分は文字どおりには発散する.以下の計算は,調和項がつくる Gauss 分布に対して非調和項を1次の摂動として扱う漸近展開だと理解してほしい.振幅が小さいかぎり,この扱いで得られる結果は実際のポテンシャルの振る舞いを正しく捉える.

$$ \braket{x}=\frac{\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}x\,\ee^{-\beta U(x)}\dd x}{\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\ee^{-\beta U(x)}\dd x} $$

step 1:非調和項を小さいとして展開する.$U=cx^2-gx^3-fx^4$ なので

$$ \ee^{-\beta U}=\ee^{-\beta cx^2}\,\ee^{\beta(gx^3+fx^4)}\simeq \ee^{-\beta cx^2}\left(1+\beta gx^3+\beta fx^4\right) $$

step 2:分子を計算する.$x\cdot\ee^{-\beta cx^2}$ と $x\cdot\beta fx^4\ee^{-\beta cx^2}$ は奇関数なので積分すると 0.残るのは

$$ \int_{-\infty}^{\infty}x\cdot\beta gx^3\,\ee^{-\beta cx^2}\dd x=\beta g\int_{-\infty}^{\infty}x^4\ee^{-\beta cx^2}\dd x $$

Gauss 積分の公式 $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}x^4\ee^{-ax^2}\dd x=\frac{3}{4}\sqrt{\pi}\,a^{-5/2}$($a=\beta c$)を使って

$$ =\beta g\cdot\frac{3}{4}\sqrt{\pi}\,(\beta c)^{-5/2} $$

step 3:分母を計算する.最低次では

$$ \int_{-\infty}^{\infty}\ee^{-\beta cx^2}\dd x=\sqrt{\frac{\pi}{\beta c}}=\sqrt{\pi}\,(\beta c)^{-1/2} $$

step 4:割る.

$$ \braket{x}=\frac{\beta g\cdot\frac34\sqrt{\pi}(\beta c)^{-5/2}}{\sqrt{\pi}(\beta c)^{-1/2}} =\frac{3}{4}\,\beta g\,(\beta c)^{-2}=\frac{3g}{4c^2}\cdot\frac{1}{\beta} $$
$$ \begin{equation} \braket{x}=\frac{3g}{4c^2}\,k_BT \label{eq:14-xavg} \end{equation} $$

∎

読み方は明快である.平均変位は温度に比例し,係数は3次の非調和項 $g$ に比例する.$g=0$(対称な放物線)なら $\braket{x}=0$ で膨張しない.4次項 $f$ は $\braket{x}$ には(この次数では)効かない.$x^4$ は偶関数なので左右対称性を壊さないからである.熱膨張を生むのは3次項である.

また \eqref{eq:14-xavg} は $\braket{x}\propto T$ を与える.平衡原子間距離を $a_0$ と書けば,線膨張係数は

$$ \alpha=\frac{1}{a_0}\frac{\dd\braket{x}}{\dd T}=\frac{3gk_B}{4c^2a_0} $$

となり,温度によらない定数であることを予言する.これは高温での実験と合う.低温で $\alpha$ が小さくなること($\alpha\to0$ as $T\to0$)は古典計算では出てこないので,量子論的な扱いが必要になる.それが次の Grüneisen の議論である.

14.6.3 Grüneisen パラメータ

実在の結晶では,ばね定数は原子間距離に依存する.結晶を膨張させれば結合が伸びて弱くなり,振動数が下がる.この効果を1個の無次元数で表す.

定義:Grüneisen パラメータ

モード $i$ の Grüneisen パラメータ(Grüneisen parameter)を

$$ \begin{equation} \gamma_i\equiv-\frac{\dd\ln\omega_i}{\dd\ln V}=-\frac{V}{\omega_i}\frac{\dd\omega_i}{\dd V} \label{eq:14-gruneisen} \end{equation} $$

で定義する.「体積を 1% 増やしたとき,そのモードの振動数が何% 下がるか」を表す.

全モードの平均(比熱で重みを付けた平均)を

$$ \gamma=\frac{\sum_i\gamma_i\,C_i}{\sum_i C_i},\qquad C_i=k_B\frac{x_i^2\ee^{x_i}}{(\ee^{x_i}-1)^2} $$

と定義し,これを(マクロな)Grüneisen パラメータという.典型的な値は $\gamma\approx1.5\sim2.5$ である.

補足:符号の約束と準調和近似

$\gamma_i$ に負号が付いているのは,普通の物質では体積が増えると振動数が下がる($\dd\omega/\dd V<0$)ので,$\gamma_i>0$ となるように揃えるためである.

「$\omega_i$ が $V$ に依存する」という設定は,厳密には調和近似の外である.しかし各体積 $V$ ごとには調和振動子として扱うので,これを準調和近似(quasi-harmonic approximation, QHA)と呼ぶ.QHA は「非調和性のうち,体積を通じて効く部分だけを取り込む」近似であり,熱膨張の第一原理計算の標準的な枠組みである.フォノン同士の直接的な衝突(14.7節の熱伝導)は QHA には入らない.

14.6.4 熱膨張係数の導出

導出:$\alpha=\dfrac{\gamma C_V}{3BV}$

step 1:自由エネルギーから圧力を出す.\eqref{eq:14-F} を $V$ で微分する.今度は $\omega_i=\omega_i(V)$ である.

$$ P=-\left(\frac{\partial F}{\partial V}\right)_T =-\frac{\dd U_0}{\dd V}-\sum_i\frac{\hbar}{2}\frac{\dd\omega_i}{\dd V} -k_BT\sum_i\frac{\partial}{\partial V}\ln\left(1-\ee^{-\beta\hbar\omega_i}\right) $$

第3項を計算する.合成関数の微分で

$$ \frac{\partial}{\partial V}\ln\left(1-\ee^{-\beta\hbar\omega_i}\right) =\frac{1}{1-\ee^{-\beta\hbar\omega_i}}\cdot\ee^{-\beta\hbar\omega_i}\cdot\beta\hbar\frac{\dd\omega_i}{\dd V} =\frac{\beta\hbar}{\ee^{\beta\hbar\omega_i}-1}\frac{\dd\omega_i}{\dd V} $$

(最後は分子分母に $\ee^{\beta\hbar\omega_i}$ を掛けた.)$k_BT\cdot\beta=1$ なので

$$ P=-\frac{\dd U_0}{\dd V}-\sum_i\hbar\frac{\dd\omega_i}{\dd V}\left[\frac12+\frac{1}{\ee^{\hbar\omega_i/k_BT}-1}\right] $$

step 2:Grüneisen パラメータで書き直す.角括弧の中は $\braket{n_i}+\frac12$ で,これに $\hbar\omega_i$ を掛けたものがモード $i$ の平均エネルギー $\varepsilon_i$(\eqref{eq:14-emode})である.そこで $\hbar\frac{\dd\omega_i}{\dd V}$ を $\frac{\dd\ln\omega_i}{\dd V}\cdot\hbar\omega_i$ と書き換えると

$$ \hbar\frac{\dd\omega_i}{\dd V}\left[\braket{n_i}+\tfrac12\right] =\frac{\dd\ln\omega_i}{\dd V}\cdot\hbar\omega_i\left[\braket{n_i}+\tfrac12\right] =\frac{\dd\ln\omega_i}{\dd V}\,\varepsilon_i $$

定義 \eqref{eq:14-gruneisen} より $\dfrac{\dd\ln\omega_i}{\dd V}=\dfrac{1}{V}\dfrac{\dd\ln\omega_i}{\dd\ln V}=-\dfrac{\gamma_i}{V}$ だから

$$ \begin{equation} P=-\frac{\dd U_0}{\dd V}+\frac{1}{V}\sum_i\gamma_i\,\varepsilon_i \label{eq:14-mie} \end{equation} $$

これを Mie–Grüneisen 状態方程式 という.第2項が熱的な圧力(thermal pressure)で,振動しているフォノン気体が結晶を内側から押し広げる効果を表す.

step 3:温度微分を取る.すべての $\gamma_i$ が共通の値 $\gamma$ で近似できるとすると,$\sum_i\varepsilon_i=U_{\rm vib}$ より $P=-\dd U_0/\dd V+\gamma U_{\rm vib}/V$.体積を固定して $T$ で微分すると,$U_0$ の項は落ちて

$$ \left(\frac{\partial P}{\partial T}\right)_V=\frac{\gamma}{V}\left(\frac{\partial U_{\rm vib}}{\partial T}\right)_V=\frac{\gamma C_V}{V} $$

step 4:熱膨張係数に変換する.体積膨張率は $\alpha_V\equiv\frac1V\left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_P$ である.$P(V,T)=$ 一定 という条件から,陰関数定理(三重積の関係式)

$$ \left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_P =-\frac{(\partial P/\partial T)_V}{(\partial P/\partial V)_T} $$

を使う.体積弾性率(bulk modulus)の定義 $B\equiv-V(\partial P/\partial V)_T$ より $(\partial P/\partial V)_T=-B/V$ だから

$$ \left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_P=-\frac{\gamma C_V/V}{-B/V}=\frac{\gamma C_V}{B} $$

したがって

$$ \alpha_V=\frac{1}{V}\cdot\frac{\gamma C_V}{B}=\frac{\gamma C_V}{BV} $$

step 5:線膨張係数に直す.等方的な物質では $V=\ell^3$ より $\dd V/V=3\,\dd\ell/\ell$,すなわち $\alpha_V=3\alpha$.よって

$$ \begin{equation} \boxed{\ \alpha=\frac{\gamma\,C_V}{3BV}\ } \label{eq:14-alpha} \end{equation} $$

∎($C_V$ は結晶全体の熱容量 $[\mathrm{J/K}]$,$V$ は全体積 $[\mathrm{m^3}]$.1 mol あたりの量で揃えても同じ.)

物理的意味:$\alpha$ と $C_V$ は同じ温度依存性を持つ

\eqref{eq:14-alpha} の右辺で,$\gamma$,$B$,$V$ は温度にあまり依存しない.したがって

$$\alpha(T)\ \propto\ C_V(T)$$

熱膨張係数の温度変化は,比熱の温度変化と相似形になる.これが Grüneisen 則である.実験的にも非常によく成り立つ.

逆に \eqref{eq:14-alpha} を $\gamma$ について解けば

$$\gamma=\frac{3\alpha BV}{C_V}$$

となり,測定可能な4つの量から $\gamma$ が決まる.これが $\gamma$ の実験的な決め方である.

例題14.6 Cu と Si の Grüneisen パラメータ

次のデータから $\gamma=3\alpha BV/C_V$ を計算せよ(すべて室温).

$\alpha$ [$10^{-6}\,\mathrm{K^{-1}}$]$B$ [GPa]$V_{\rm mol}$ [$10^{-6}\,\mathrm{m^3/mol}$]$C$ [J mol$^{-1}$K$^{-1}$]$\gamma$(答え)
Cu16.51377.1124.51.97
Al23.17610.024.22.18
Si2.69812.0620.00.46
NaCl39.52427.050.01.54

解答 Cu について.

$$ \gamma=\frac{3\times16.5\times10^{-6}\times137\times10^{9}\times7.11\times10^{-6}}{24.5} =\frac{48.2}{24.5}=1.97 $$

(分子:$4.95\times10^{-5}\times1.37\times10^{11}=6.78\times10^{6}$,これに $7.11\times10^{-6}$ を掛けて $48.2\ \mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}$.)

他の3つもまったく同じ手順である.答えは表の最右列に入れてある:Al は $\gamma=2.18$,Si は $\gamma=0.46$,NaCl は $\gamma=1.54$.

読み取り方 金属やイオン結晶では $\gamma\approx1.5\sim2.2$ とほぼ同じ値になる.「$\gamma$ はだいたい 2」という経験則があるのはこのためである.

一方 Si は $\gamma=0.46$ と際立って小さい.これは Si の熱膨張率が異常に小さいこと($2.6\times10^{-6}\,\mathrm{K^{-1}}$ は Cu の $1/6$)を反映している.理由は次項で述べる横波音響モードの負の $\gamma_i$ である.半導体デバイスで Si と金属配線の熱膨張差が問題になるのは,この数値の違いに起因する.

14.6.5 負熱膨張 — $\gamma_i<0$ のモード

物理的意味:なぜ縮む物質があるのか

\eqref{eq:14-alpha} の $\gamma$ は各モードの $\gamma_i$ を比熱で重み付けした平均である.もし$\gamma_i<0$ のモード(体積を増やすと振動数が上がるモード)が十分な重みで存在すれば,平均 $\gamma$ が負になり,$\alpha<0$ ——すなわち負熱膨張(negative thermal expansion, NTE)が実現する.

典型的な機構は横振動(transverse vibration)である.$\mathrm{M\!-\!O\!-\!M}$ のように2つの陽イオンが酸素1個で架橋された構造を考える.酸素が結合軸に垂直に振れると,$\mathrm{M\!-\!O}$ 距離はほとんど変わらないのに $\mathrm{M}\cdots\mathrm{M}$ 距離は $\cos$ の分だけ縮む.弦を弾くと両端が引き寄せられるのと同じ幾何学である.この横モードは,結晶を膨張させると $\mathrm{M}\cdots\mathrm{M}$ 距離が伸びて架橋が張り詰め,横方向の復元力が増して硬くなる(逆に圧縮すると架橋が緩んで柔らかくなる).弦は張るほど振動数が上がる,というのと同じである.したがって $\dd\omega/\dd V>0$,すなわち $\gamma_i<0$ になる.

温度を上げるとこの横モードが励起されて $\mathrm{M}\cdots\mathrm{M}$ が縮み,結晶全体が縮む.

望月研究室では,第一原理計算(準調和近似)でこの $\gamma_i$ をモードごとに分解し,どの振動が縮みに効いているかを特定して,負熱膨張材料を設計する研究を行っている.本節の \eqref{eq:14-gruneisen} と \eqref{eq:14-alpha} は,その研究の出発点となる式そのものである.

応用上の狙いも明快で,正の熱膨張を持つ通常の材料と NTE 材料を複合させれば,熱膨張ゼロの材料が作れる.精密光学部品,人工衛星の構造材,歯科材料などで求められている.

補足:QHA での実際の計算手順

第一原理計算で熱膨張を求める標準的な手順は次の通りである.

  1. いくつかの体積 $V_1,V_2,\dots,V_n$(典型的には平衡体積の $\pm5\%$ を 7〜11 点)について構造最適化し,静的エネルギー $U_0(V_j)$ を得る.
  2. 各体積でフォノン計算を行い,$\omega_i(V_j)$ を得る.
  3. \eqref{eq:14-F} により各 $(V_j,T)$ で $F(V_j,T)$ を求める.
  4. 各温度 $T$ について $F(V,T)$ を $V$ の関数としてフィット(Birch–Murnaghan や Vinet の状態方程式)し,最小値を与える $V(T)$ を求める.
  5. $\alpha(T)=\frac{1}{3V}\dfrac{\dd V}{\dd T}$.

ステップ2で虚振動数($\omega^2<0$)が出たら,その体積では構造が力学的に不安定である.NTE 物質はしばしば柔らかい低振動数モードを持つので,$k$ 点メッシュとスーパーセルサイズの収束には注意が要る.

14.7 熱伝導率と Umklapp 過程

14.7.1 気体運動論による $K=\frac13Cv\ell$

熱伝導率 $K$ は,熱流束と温度勾配を結ぶ係数である.

$$ j_U=-K\frac{\dd T}{\dd z} $$

フォノンを「結晶の中を飛び回る気体」とみなして $K$ を評価する.

導出:$K=\frac13 Cv\ell$

step 1:設定.フォノンの数密度を $n_{\rm ph}$,1個あたりの平均エネルギーを $\varepsilon$,速度を $v$(大きさ一定),衝突と衝突の間の平均時間を $\tau$ とする.平均自由行程は $\ell=v\tau$.(この $n_{\rm ph}$ は,\eqref{eq:14-kD} で使った原子の数密度 $n=N/V$ とは別物なので添字を付けて区別する.)

step 2:$z=0$ の面を通る熱流.速度の $z$ 成分が $v_z$ のフォノンは,最後に衝突した場所 $z=-v_z\tau$ での局所平衡のエネルギーを運んでくる.その場所の温度は $T(-v_z\tau)=T(0)-v_z\tau\frac{\dd T}{\dd z}$ なので,運んでくるエネルギーは平衡値からのずれ

$$ \Delta\varepsilon=\frac{\dd\varepsilon}{\dd T}\cdot\left(-v_z\tau\frac{\dd T}{\dd z}\right) $$

を持つ.

step 3:平均する.単位面積・単位時間に $z=0$ を通過する正味のエネルギーは

$$ j_U=n_{\rm ph}\braket{v_z\,\Delta\varepsilon} =-n_{\rm ph}\,\tau\,\frac{\dd\varepsilon}{\dd T}\,\frac{\dd T}{\dd z}\,\braket{v_z^2} $$

速度の向きが等方的なら $\braket{v_z^2}=\frac13\braket{v^2}=\frac13v^2$($v_x^2+v_y^2+v_z^2=v^2$ で3方向が対等だから).また $n_{\rm ph}\,\dd\varepsilon/\dd T=C$(単位体積あたりの熱容量)である.したがって

$$ j_U=-\frac13Cv^2\tau\frac{\dd T}{\dd z}=-\frac13Cv\ell\frac{\dd T}{\dd z} $$
$$ \begin{equation} \boxed{\ K=\frac13\,C\,v\,\ell\ } \label{eq:14-K} \end{equation} $$

∎($C$:単位体積あたりの比熱,$v$:フォノンの速度=音速,$\ell$:平均自由行程.)

物理的意味:$K$ の温度依存性は $C$ と $\ell$ の綱引き

\eqref{eq:14-K} の3つの因子のうち,$v$ は音速でほとんど温度によらない.したがって

$$K(T)\propto C(T)\,\ell(T)$$

結果として $K(T)$ は山型になる.これが図14.4(c) に描いた曲線である.金属の電気伝導率が単調に振る舞うのと対照的で,絶縁体の熱伝導率のこの山は,フォノン物理の最も目立つ実験的痕跡のひとつである.

14.7.2 なぜ調和結晶の熱伝導率は無限大なのか

\eqref{eq:14-K} は $\ell$ を外から与えているだけで,$\ell$ が何で決まるかを何も言っていない.ここからが本題である.

完全な調和結晶では,基準モードは Hamiltonian の厳密な固有状態である.あるモードにフォノンを $n$ 個入れたら,その $n$ は永久に変わらない.フォノンは互いに素通りする.したがって $\ell=\infty$,$K=\infty$ である.

実際に有限の $\ell$ を与えるものは3つある.

  1. フォノン–フォノン散乱(非調和項による)
  2. 欠陥・不純物・同位体による散乱
  3. 結晶表面での散乱(境界散乱)

1つめが本質的である.ポテンシャルの3次項

$$ U_3=\frac{1}{3!}\sum_{ijk}\Phi_{ijk}u_iu_ju_k $$

を摂動として扱うと,$u\propto(a+a^\dagger)$($a$ は消滅演算子)なので $U_3$ は3個の生成・消滅演算子の積を含む.その中の $a^\dagger a a$ の項が「フォノン2個が合体して1個になる」過程,$a^\dagger a^\dagger a$ が「1個が2個に分裂する」過程を表す.3フォノン過程である.

14.7.3 Normal 過程と Umklapp 過程

3フォノン過程では,エネルギーと(結晶)運動量の保存則が成り立つ.

$$ \omega_1+\omega_2=\omega_3,\qquad \qq_1+\qq_2=\qq_3+\GG $$

第13章で見たように,フォノンの波数 $\qq$ は逆格子ベクトル $\GG$ の分だけしか定義されない($\qq$ と $\qq+\GG$ は同じ振動を表す).したがって保存則にも $\GG$ が入る余地がある.ここで過程が2種類に分かれる.

定義:Normal 過程と Umklapp 過程

定理14.2 N 過程だけでは熱抵抗が生じない

N 過程は全結晶運動量 $\bm{P}=\sum_i\hbar\qq_i\braket{n_i}$ を保存する.したがって N 過程だけでは,正味の熱流を持つ非平衡状態を平衡状態に緩和させることができない.すなわち $K=\infty$ のままである.

証明の考え方 熱流は

$$\bm{j}_U=\sum_i \hbar\omega_i\,\vv_{g,i}\braket{n_i}$$

である.フォノン分布が「一様に流れている」形

$$\braket{n_i}=\frac{1}{\ee^{(\hbar\omega_i-\hbar\qq_i\cdot\bm{u})/k_BT}-1}$$

($\bm{u}$ はドリフト速度)を取ると,これは正味の熱流を持つ.しかもこの分布はN 過程に対して不変である:N 過程は $\omega$ と $\qq$ の両方を保存するので,上の指数の中身も保存し,詳細つり合いが成り立ってしまう.したがって N 過程はこの分布を崩さない.$\bm{u}\ne0$ の状態が永久に続き,熱流が減衰しない.$\square$

一方 U 過程では $\sum\qq$ が $\GG$ だけ跳ぶので,$\bm{P}$ は保存しない.$\GG$ は結晶(=格子全体)が受け取る運動量である.U 過程だけが,フォノン気体の運動量を格子に捨てることができる.これが熱抵抗の起源である.

ただし前提に注意.この定理が言えるのは,無限に広く一様で並進不変な理想フォノン気体を考えたときである.実在の試料では境界・不純物・同位体があり,N 過程はモード間でエネルギーと運動量を再分配して,これらの抵抗過程や U 過程の効き方を変える.だから「N 過程は熱伝導に無関係」ではない.N 過程が単独では運動量を散逸させられない,というのが正確な主張であり,Callaway 模型やフォノン流体力学ではこの再分配こそが主役になる.

なぜ $\GG$ が現れるのか — 第11章との接続

運動量保存則は,空間の連続並進対称性から出る(Noether の定理).しかし結晶は連続並進対称性を持たず,格子ベクトル $\TT$ の離散並進対称性しか持たない.

第11章で見たように,離散並進群の既約表現のラベルが $\kk$ であり,$\kk$ と $\kk+\GG$ は同じ既約表現である.したがって「$\kk$ の保存」も $\GG$ を除いてしか意味を持たない.$\hbar\kk$ は真の運動量ではなく結晶運動量(crystal momentum)であり,保存則は

$$\qq_1+\qq_2\equiv\qq_3\pmod{\GG}$$

という合同式でしかない.

だから,格子がなければ U 過程は存在しない.自由なフォノン気体(もしそんなものがあれば)は熱抵抗をもたない.熱抵抗が生じるのは,結晶が離散的だからである.これは非常に美しい結論で,第II部で作った群論の道具(並進群の既約表現)が,熱伝導という具体的な輸送現象を支配していることを示している.

14.7.4 温度依存性

導出:低温での $\ell\propto\ee^{\theta_D/2T}$

U 過程が起こるには,$\qq_1+\qq_2$ が BZ の外に出る必要がある.BZ の大きさは $\sim k_D$ だから,少なくとも一方のフォノンが

$$\abs{\qq}\gtrsim \frac{k_D}{2}$$

程度の大きな波数を持たなければならない.そのようなフォノンのエネルギーは

$$\hbar\omega\gtrsim \hbar v\frac{k_D}{2}=\frac{\hbar\omega_D}{2}=\frac{k_B\theta_D}{2}$$

低温 $T\ll\theta_D$ では,このような高エネルギーのフォノンの数は Planck 分布の裾

$$\braket{n}\simeq \ee^{-\hbar\omega/k_BT}\sim \ee^{-\theta_D/2T}$$

で指数関数的に少ない.散乱率は散乱相手の数に比例するので

$$\frac{1}{\tau_U}\propto \ee^{-\theta_D/2T} \quad\Longrightarrow\quad \ell_U\propto \ee^{\theta_D/2T} $$

∎(分母の 2 は「$k_D/2$ 程度あればよい」という粗い見積もりから来ており,実験的には $\ee^{\theta_D/bT}$ の $b$ は $2\sim3$ 程度になる.指数関数の肩に $\theta_D$ 程度のエネルギーが乗るという点が本質である.)

導出:高温での $\ell\propto1/T$

$T\gg\theta_D$ ではすべてのモードが励起され,各モードのフォノン数は

$$\braket{n}=\frac{1}{\ee^{\hbar\omega/k_BT}-1}\simeq\frac{k_BT}{\hbar\omega}\ \propto\ T$$

散乱相手の数が $T$ に比例するので,散乱率も $T$ に比例し

$$\ell\propto\frac1T$$

比熱は $C\to3nk_B$($n=N/V$ は原子の数密度.\eqref{eq:14-kD} と同じ $n$ である)で一定なので,\eqref{eq:14-K} より

$$K\propto\frac1T$$

∎ 実験的にも,絶縁体の高温熱伝導率は $K\propto T^{-1}$ によく従う.

14.7.5 境界散乱・同位体散乱と山型の $K(T)$

$\ell_U\propto\ee^{\theta_D/2T}$ は $T\to0$ で発散するが,実際には $\ell$ は無限には伸びない.試料の寸法 $L_s$ に達したところで頭打ちになる(Casimir 極限,境界散乱).状態密度 $D(\omega)$ と紛れないよう,試料寸法には $L_s$ を使う.すると

$$ K=\frac13 C v L_s\ \propto\ T^3 $$

となり,$K$ は $T^3$ で減っていく.$C\propto T^3$ がそのまま $K$ に出るのである.

したがって $K(T)$ は

という山型になる.

補足:同位体効果

同位体は化学的には同一だが質量が違うので,格子の中では質量の「不純物」として働き,フォノンを散乱する.散乱断面積は Rayleigh 散乱と同じ $\propto\omega^4$ で,短波長(高振動数)フォノンほど強く散乱される.

この効果の大きさは,同位体散乱がいかに支配的でありうるかを示している.「純良な結晶」とは化学的な純度だけでなく同位体的な純度も意味する.

(a) Normal 過程:G = 0 第1 BZ q₁ q₂ q₃ = q₁+q₂ 和が BZ 内 運動量は保存し 熱流は減衰しない (b) Umklapp 過程:G ≠ 0 隣の BZ q₁ q₂ q₁+q₂ (BZ 外) −G q₃ 和が BZ からはみ出す → G を引いて BZ 内へ折り返す q₃ の向きが逆転 → 熱抵抗 (c) 熱伝導率 K(T)(両対数) 11010² 10³10⁴ 1101001000 T [K] K [W/(m·K)] ∝T³ ∝1/T 大きく純良な結晶 同位体を含む 細い結晶
図14.4 (a) Normal 過程:$\qq_1+\qq_2$ が第1 Brillouin 域の中に収まるので $\qq_3=\qq_1+\qq_2$.全結晶運動量が保存し,フォノン気体の「流れ」は減衰しない.(b) Umklapp 過程:$\qq_1+\qq_2$ が BZ からはみ出し,逆格子ベクトル $\GG$ を引いて BZ 内へ折り返す.その結果 $\qq_3$ の向きが元の流れとほぼ逆になり,熱流が壊される.$\GG$ 分の運動量は格子全体が受け取る.U 過程だけが熱抵抗を生む.(c) 熱伝導率の温度依存性(模式図,両対数).低温では境界散乱で $\ell\approx L_s$(試料寸法)となり $K\propto C\propto T^3$,高温では $\ell\propto1/T$ で $K\propto1/T$.両者の間に鋭いピークが立つ.細い結晶(緑)はピークが低く高温側にずれ,同位体を含む結晶(臙脂破線)は高振動数フォノンが散乱されてピークが抑えられる.

例題14.7 室温 Si のフォノン平均自由行程

Si の室温での熱伝導率は $K=148\,\mathrm{W\,m^{-1}K^{-1}}$,体積比熱は $C=1.63\times10^{6}\,\mathrm{J\,m^{-3}K^{-1}}$,Debye 平均音速は $v\approx5900\,\mathrm{m/s}$ である.平均自由行程 $\ell$ を求めよ.

解答 \eqref{eq:14-K} を $\ell$ について解く.

$$ \ell=\frac{3K}{Cv}=\frac{3\times148}{1.63\times10^{6}\times5900} =\frac{444}{9.62\times10^{9}}=4.6\times10^{-8}\ \mathrm{m}=46\ \mathrm{nm} $$

読み取り方 Si の格子定数は $5.43\,\text{Å}$ なので,$\ell\approx85$ 格子分.原子スケールよりずっと長いが,ナノスケールである.

この数字には大きな応用上の意味がある.Si を $100\,\mathrm{nm}$ 以下の細線やナノ多孔体に加工すると,境界散乱が効いて熱伝導率が大きく下がる.電子の平均自由行程はこれより短いので電気伝導はあまり損なわれない.熱電材料の性能指数 $ZT=S^2\sigma T/K$ を上げるには $K$ だけを下げたいので,これは有効な戦略になる.ナノ構造化熱電材料の設計は,この $46\,\mathrm{nm}$ という数字の上に成り立っている.

注意 ただしこの $\ell$ は「灰色近似」(すべてのフォノンが同じ $\ell$ を持つとする)による代表値にすぎない.実際には $\ell$ は振動数に強く依存し,Si では $\ell$ が $1\,\mu\mathrm{m}$ を超える低振動数フォノンが熱の約半分を運んでいることが,近年の測定と第一原理計算でわかっている.

補足:金属の熱伝導は電子が担う

本節はもっぱら絶縁体の話であった.金属では伝導電子も熱を運び,しかもその寄与が格子より圧倒的に大きい.Cu の室温熱伝導率 $401\,\mathrm{W\,m^{-1}K^{-1}}$ のうち,格子の寄与は数 $\mathrm{W\,m^{-1}K^{-1}}$ にすぎない.

電子による熱伝導は電気伝導と同じ担い手によるので,両者は結びついている.これが Wiedemann–Franz 則

$$\frac{K_{\rm el}}{\sigma T}=L=\frac{\pi^2}{3}\left(\frac{k_B}{e}\right)^2=2.44\times10^{-8}\ \mathrm{W\,\Omega\,K^{-2}}$$

である.第15章で導出する.

ちなみにダイヤモンドは絶縁体でありながら $K\approx2200\,\mathrm{W\,m^{-1}K^{-1}}$ と Cu の5倍以上の熱伝導率を持つ.\eqref{eq:14-K} の3因子がすべて有利だからである:$C$ は原子密度が高いので大きく,$v$ は Debye 平均で $\sim1.3\times10^{4}\,\mathrm{m/s}$(縦波なら $1.8\times10^{4}\,\mathrm{m/s}$)と金属の5倍以上速く,$\ell$ も $\theta_D=2230\,\mathrm{K}$ が高いため室温でも U 過程が起きにくく長い.パワー半導体の放熱基板にダイヤモンドや $\mathrm{AlN}$,$\mathrm{BN}$ が使われるのは,この3つの条件を満たすからである.

14.8 まとめと演習

14.8.1 まとめ

14.8.2 演習問題

演習14.1 Planck 分布の性質

(1) $\braket{n}=1/(\ee^x-1)$ について,$\braket{n}=1$ となる $x$ を求めよ.それは $\hbar\omega$ と $k_BT$ のどのような関係か.

(2) 調和振動子のフォノン数の揺らぎが $\braket{(\Delta n)^2}=\braket{n}(\braket{n}+1)$ となることを示せ.

(3) $\hbar\omega=25\,\mathrm{meV}$ のモードについて,$T=10,\,100,\,300,\,1000\,\mathrm{K}$ での $\braket{n}$ を計算し,表にせよ.

ヒント:(1) $\ee^x=2$ より $x=\ln2=0.693$,すなわち $k_BT=1.44\,\hbar\omega$.フォノンが平均1個乗るには,熱エネルギーが量子の 1.4 倍必要である.
(2) $\braket{n^2}=\frac{1}{Z}\sum n^2 r^n$ を,$\sum n^2r^n=r\frac{\dd}{\dd r}\left(\frac{r}{(1-r)^2}\right)=\frac{r(1+r)}{(1-r)^3}$ から求め,$\braket{n^2}-\braket{n}^2$ を計算する.あるいは $\braket{(\Delta n)^2}=\partial^2\ln Z/\partial x^2=-\partial\braket{n}/\partial x$ を使うと早い.
(3) $x=\hbar\omega/k_BT$ を計算する($k_BT=0.08617T$ meV).答えの目安は次の通り.$10\,\mathrm{K}$:$x=29.0$,$\braket{n}=2.5\times10^{-13}$;$100\,\mathrm{K}$:$x=2.90$,$\braket{n}=0.058$;$300\,\mathrm{K}$:$x=0.967$,$\braket{n}=0.612$;$1000\,\mathrm{K}$:$x=0.290$,$\braket{n}=2.98$.

演習14.2 2次元 Debye モデル

面積 $A$,原子数 $N$ の2次元結晶を考える.分枝は2本(面内2方向)で,いずれも $\omega=vk$ とする.

(1) 全モード数が $2N$ になるという条件から $k_D$ を求めよ.

(2) $D(\omega)$ を求めよ.

(3) 内部エネルギーを $x=\hbar\omega/k_BT$ で書き直し,低温比熱が $C\propto T^2$ となることを示し,係数を求めよ.

ヒント:(1) $2\cdot\frac{Ak_D^2}{4\pi}=2N$ より $k_D=(4\pi n)^{1/2}$($n=N/A$).
(2) $D(\omega)=A\omega/\pi v^2$.
(3) $U=\frac{A\hbar}{\pi v^2}\left(\frac{k_BT}{\hbar}\right)^3\int_0^{x_D}\frac{x^2\dd x}{\ee^x-1}$.低温で $\int_0^\infty\frac{x^2\dd x}{\ee^x-1}=2\zeta(3)=2.404$ を使う($\int_0^\infty x^2\ee^{-sx}\dd x=2/s^3$ から).結果は $C=\frac{6\zeta(3)A k_B^3T^2}{\pi\hbar^2v^2}$.$\zeta(3)$ は $\pi$ の簡単な冪では書けない(Apéry 定数).

演習14.3 $\theta_D$ から音速を推定する

Al は fcc,$a=4.05\,\text{Å}$,$\theta_D=428\,\mathrm{K}$ である.

(1) 原子の数密度 $n$ と Debye 波数 $k_D$ を求めよ.

(2) Debye 平均音速 $v$ を求めよ.

(3) $T=20\,\mathrm{K}$ での格子比熱を $\mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}$ で求めよ.また,電子比熱係数 $\gamma_{\rm el}=1.35\,\mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-2}}$ を使って,格子と電子の寄与が等しくなる温度を求めよ.

ヒント:(1) $n=4/a^3=6.02\times10^{28}\,\mathrm{m^{-3}}$,そこから $k_D=1.53\times10^{10}\,\mathrm{m^{-1}}$.
(2) $v=k_B\theta_D/(\hbar k_D)$ を数値で評価すると $v=3.66\times10^{3}\,\mathrm{m/s}$.実測の縦波 $6420\,\mathrm{m/s}$,横波 $3040\,\mathrm{m/s}$ から逆3乗平均を取ると $3.4\times10^{3}\,\mathrm{m/s}$ となり,よく合う.
(3) $C=1944(20/428)^3$,すなわち $0.198\,\mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}$.$A=1944/428^3=2.48\times10^{-5}$,$T=\sqrt{\gamma_{\rm el}/A}=7.4\,\mathrm{K}$.

演習14.4 Debye と Einstein の中間温度での比較

(1) $\theta_D=\theta_E=\theta$ として,$T=\theta/2$ における Debye 比熱と Einstein 比熱の比を求めよ(Debye 積分は数値的に $C_{\rm D}/3Nk_B=0.825$ となることを使ってよい).

(2) 実在の結晶を Debye–Einstein の和でフィットするとき,光学分枝を Einstein 項で表すのが妥当な理由を,$D(\omega)$ の形から説明せよ.

(3) 単位胞に $p$ 個の原子を含む結晶では,音響分枝が3本,光学分枝が $3p-3$ 本ある.高温での全比熱が $3pNk_B$($N$ は単位胞数)になることを確かめよ.

ヒント:(1) $x=2$ で $C_{\rm E}/3Nk_B=4\ee^2/(\ee^2-1)^2=0.724$.比は $0.825/0.724=1.14$.中間温度では両者の差は 15% 程度しかない.低温での差が劇的なだけである.
(2) 光学分枝は $\kk$ 依存性が弱く $D(\omega)$ が狭い振動数域に集中する.$\delta$ 関数で近似するのが Einstein モデルである.
(3) 高温では1モードあたり $k_B$ の寄与で,モード総数は $3pN$.

演習14.5 Grüneisen パラメータと熱膨張

(1) ダイヤモンドの室温データ:$\alpha=1.0\times10^{-6}\,\mathrm{K^{-1}}$,$B=442\,\mathrm{GPa}$,$V_{\rm mol}=3.42\times10^{-6}\,\mathrm{m^3/mol}$,$C=6.2\,\mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}$.$\gamma$ を求めよ.

(2) Grüneisen 則 $\alpha\propto C_V$ が成り立つとして,Cu の $\alpha$ を $50\,\mathrm{K}$ で推定せよ(室温 $300\,\mathrm{K}$ で $\alpha=16.5\times10^{-6}\,\mathrm{K^{-1}}$,$\theta_D=343\,\mathrm{K}$.$T/\theta_D=0.146$ での Debye 比熱は $C/3Nk_B=0.203$,$T/\theta_D=0.875$ では $0.937$ を使ってよい).

(3) ある物質で,全モードの $3/4$ が $\gamma_i=+2$,残り $1/4$ が $\gamma_i=-4$ を持つとする.高温での平均 $\gamma$ を求め,この物質が膨張するか収縮するか答えよ.低温では,負の $\gamma_i$ を持つモードが低振動数側に集まっているとすると何が起こるか論ぜよ.

ヒント:(1) 分子は $3\alpha BV=4.53\,\mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}$.これを $C=6.2$ で割って $\gamma=0.73$.
(2) $\alpha(50)/\alpha(300)=C(50)/C(300)$ で,$0.203/0.937=0.217$,よって $\alpha(50)\approx3.6\times10^{-6}\,\mathrm{K^{-1}}$.
(3) 高温では全モードが等しく $k_B$ ずつ寄与するので $\gamma=\frac34(2)+\frac14(-4)=0.5>0$,膨張する.低温では低振動数モードだけが励起されるので重み付き平均が負に傾き,$\alpha<0$(負熱膨張)になりうる.多くの NTE 物質で $\alpha$ が低温でだけ負になる理由がこれである.

演習14.6 Umklapp 過程と熱伝導

(1) 1次元単原子鎖(格子定数 $a$,第1 BZ は $-\pi/a<q\le\pi/a$)で,$q_1=q_2=0.6\pi/a$ の2つのフォノンが合体する過程を考える.これは N 過程か U 過程か.U 過程なら $\GG$ と $q_3$ を求めよ.

(2) 同じ鎖で $q_1=q_2=0.4\pi/a$ の場合はどうか.

(3) U 過程が起きるために必要な最小の $\abs{q}$ を求め,それに対応するフォノンのエネルギーを $\hbar\omega_m$ を使って表せ($\omega=\omega_m\abs{\sin(qa/2)}$ を使う).

(4) LiF の単結晶で,断面積を $1\,\mathrm{mm^2}$ から $0.01\,\mathrm{mm^2}$ に細くすると,$5\,\mathrm{K}$ での熱伝導率はおよそ何倍になるか.理由とともに答えよ.

ヒント:(1) $q_1+q_2=1.2\pi/a$ で BZ の外.$\GG=2\pi/a$ を引いて $q_3=1.2\pi/a-2\pi/a=-0.8\pi/a$.U 過程である.$q_3$ の符号が反転している点に注目せよ.右向きに流れていた2つのフォノンが,左向きのフォノンになった.これが熱流を壊すということである.
(2) $q_1+q_2=0.8\pi/a$ で BZ 内.N 過程.
(3) 2つ足して $\pi/a$ を超える必要があるので,少なくとも一方が $q>\pi/2a$.そのとき $\omega>\omega_m\sin(\pi/4)=\omega_m/\sqrt2$.すなわち最大振動数の $0.71$ 倍以上のエネルギーを持つフォノンが必要で,低温ではその数が $\ee^{-0.71\hbar\omega_m/k_BT}$ で少ない.
(4) 境界散乱領域なので $\ell\approx D\propto\sqrt{\text{断面積}}$.断面積が $1/100$ なら $D$ は $1/10$,よって $K$ もおよそ $1/10$.実験でも確かめられている.

参考文献

  1. C. Kittel『キッテル 固体物理学入門(上)』第8版,宇野良清ほか訳,丸善出版,第5章「フォノンII 熱的性質」.—— 本章の底本.Planck 分布,Debye モデル,Einstein モデル,非調和性,熱伝導の順序は Kittel に沿っている.本章では Kittel が省略した代数計算(等比級数の和,$\zeta(4)=\pi^4/90$,Mie–Grüneisen 状態方程式の導出)をすべて補った.
  2. N. W. Ashcroft, N. D. Mermin, Solid State Physics, Saunders (1976), Chapters 23–25. —— 非調和効果と熱伝導のより厳密な取り扱い.Boltzmann 方程式に基づく議論はこちらを参照.
  3. L. van Hove, "The Occurrence of Singularities in the Elastic Frequency Distribution of a Crystal", Phys. Rev. 89, 1189 (1953). —— van Hove 特異点の原論文.
  4. J. C. Phillips, "Critical Points and Lattice Vibration Spectra", Phys. Rev. 104, 1263 (1956). —— 3次元臨界点 $P_0\!\sim\!P_3$ の分類.
  5. P. Debye, "Zur Theorie der spezifischen Wärmen", Ann. Phys. 39, 789 (1912);A. Einstein, "Die Plancksche Theorie der Strahlung und die Theorie der spezifischen Wärme", Ann. Phys. 22, 180 (1907). —— 原典.
  6. R. Peierls, "Zur kinetischen Theorie der Wärmeleitung in Kristallen", Ann. Phys. 3, 1055 (1929). —— Umklapp 過程の導入.
  7. A. Togo, I. Tanaka, "First principles phonon calculations in materials science", Scr. Mater. 108, 1 (2015). —— phonopy.準調和近似による熱膨張計算の実装.使ったら必ず引用すること.
  8. T. A. Mary, J. S. O. Evans, T. Vogt, A. W. Sleight, "Negative Thermal Expansion from 0.3 to 1050 K in $\mathrm{ZrW_2O_8}$", Science 272, 90 (1996). —— 負熱膨張研究の出発点.
  9. 本書 第13章(格子振動と分散関係),第11章(周期境界条件と $\kk$ の量子化,高対称点の小群),第3章(逆格子と Brillouin 域),第15章(Fermi–Dirac 統計と電子比熱),付録A(Debye 積分と $\zeta$ 関数).