第3章逆格子・Brillouin域・X線回折
結晶の周期性は,実空間では $f(\rr + \TT) = f(\rr)$ という式で表される.この式を素直にFourier展開すると,展開係数が乗る「波数の格子」が自動的に現れる.それが逆格子(reciprocal lattice)である.
逆格子は,単なる数学的な便法ではない.実験で直接見えるのは,実空間の格子ではなく逆格子のほうである.X線回折で測っているのは逆格子点の位置であり,バンド図の横軸は逆格子空間の道筋であり,フォノンの分散関係も逆格子空間で描かれる.固体物理学が「逆格子空間で考えることが鉄則」(望月研資料)と言われるゆえんである.
本章では,Fourier展開から逆格子を導き,Braggの法則とLaue条件が同一の内容であることを示し,構造因子によってピークの高さが決まる仕組みを追う.そして第2章で予告した「Bravais格子が同じならピーク位置が一致する」という主張を,証明として完成させる.
- 周期関数のFourier展開から逆格子ベクトル $\GG$ が必然的に現れること,$\bb_i = 2\pi\dfrac{\aa_j\times\aa_k}{V_{\text{p}}}$ の導出
- $\aa_i\cdot\bb_j = 2\pi\delta_{ij}$ という双対関係と,$e^{i\GG\cdot\TT}=1$
- Braggの法則 $2d\sin\theta = n\lambda$ とLaue条件 $\Delta\kk = \GG$ が同値であることの証明
- Ewald球による回折条件の幾何学的理解
- 面間隔 $d_{hkl} = 2\pi/\abs{\GG_{hkl}}$,立方晶での $d = a/\sqrt{h^2+k^2+l^2}$
- 構造因子 $S_{\GG}$ と消滅則 —— bccで $h+k+l$ 奇数,fccで $hkl$ の偶奇混在が消える理由
- ピーク位置はBravais格子だけで決まり,基底はピーク高さにしか効かないことの証明
- 第1Brillouin域の作図,fcc(切頂八面体)・bcc(菱形十二面体)の高対称点
3.1 周期関数のFourier展開から逆格子へ
3.1.1 出発点
第1章で見たように,結晶中の任意の物理量,たとえば電子密度 $n(\rr)$ は格子並進に対して不変である:
$$ \begin{equation} n(\rr + \TT) = n(\rr), \qquad \TT = n_1\aa_1 + n_2\aa_2 + n_3\aa_3 \label{eq:3-periodic} \end{equation} $$周期関数はFourier級数に展開できる.3次元では
$$ \begin{equation} n(\rr) = \sum_{\GG} n_{\GG}\, e^{i\GG\cdot\rr} \label{eq:3-fourier} \end{equation} $$と書ける.ここで和は,まだ正体のわからない「ある波数ベクトルの集合 $\{\GG\}$」にわたる.この集合が何であるかを,周期性の条件から決めるのが本節の目的である.
導出:逆格子ベクトルの条件 $e^{i\GG\cdot\TT} = 1$
式 \eqref{eq:3-fourier} を式 \eqref{eq:3-periodic} に代入する.左辺は
$$ n(\rr+\TT) = \sum_{\GG} n_{\GG}\, e^{i\GG\cdot(\rr+\TT)} = \sum_{\GG} n_{\GG}\, e^{i\GG\cdot\rr}\, e^{i\GG\cdot\TT} $$これが右辺 $\sum_{\GG} n_{\GG} e^{i\GG\cdot\rr}$ に等しくなければならない.$e^{i\GG\cdot\rr}$ たちは互いに1次独立なので,係数を比較して
$$ n_{\GG}\, e^{i\GG\cdot\TT} = n_{\GG} $$$n_{\GG}\neq0$ である $\GG$ については,
が要求される.∎
これが逆格子の定義である.すなわち,すべての格子並進ベクトル $\TT$ に対して $\GG\cdot\TT$ が $2\pi$ の整数倍になるような $\GG$ の全体を,逆格子という.
3.1.2 逆格子基本ベクトルの構成
条件 \eqref{eq:3-G-condition} を満たす $\GG$ を,具体的に作ろう.
導出:$\bb_1 = 2\pi\dfrac{\aa_2\times\aa_3}{\aa_1\cdot(\aa_2\times\aa_3)}$
$\GG = h\bb_1 + k\bb_2 + l\bb_3$($h,k,l$ は整数)と書けるような基本ベクトル $\bb_i$ を探す.$\TT = n_1\aa_1+n_2\aa_2+n_3\aa_3$ との内積は
$$ \GG\cdot\TT = \sum_{i,j} (\text{整数})_i (\text{整数})_j\, \bb_i\cdot\aa_j $$これが任意の整数の組に対して $2\pi\times$整数 になるための最も簡単な十分条件は
である($\delta_{ij}$ はKroneckerのデルタ).実際このとき $\GG\cdot\TT = 2\pi(hn_1 + kn_2 + ln_3)$ となり,確かに $2\pi\times$整数 である.
$\bb_1$ を作る.式 \eqref{eq:3-dual} は,$\bb_1$ が $\aa_2$ と $\aa_3$ の両方に直交することを要求している($\aa_2\cdot\bb_1 = \aa_3\cdot\bb_1 = 0$).2つのベクトルに直交するベクトルは外積で作れるから
$$ \bb_1 = C\,(\aa_2\times\aa_3) $$と置ける.残る条件 $\aa_1\cdot\bb_1 = 2\pi$ から
$$ C\,\aa_1\cdot(\aa_2\times\aa_3) = 2\pi \quad\Longrightarrow\quad C = \frac{2\pi}{\aa_1\cdot(\aa_2\times\aa_3)} = \frac{2\pi}{V_{\text{p}}} $$よって
ここで $V_{\text{p}} = \aa_1\cdot(\aa_2\times\aa_3)$ は primitive cell の体積である.∎
数学ノート:$2\pi$ を付ける流儀と付けない流儀
結晶学(X線回折)の分野では $\aa_i\cdot\bb_j = \delta_{ij}$ と,$2\pi$ を付けない定義を使うことが多い.物理(固体物理学)では式 \eqref{eq:3-dual} のように $2\pi$ を付ける.
物理で $2\pi$ を付けるのは,平面波を $e^{i\kk\cdot\rr}$ と書きたいからである.結晶学で付けないのは,面間隔との関係を $\abs{\GG_{hkl}} = 1/d_{hkl}$,Ewald球の半径を $1/\lambda$ という簡潔な形で使いたいからである.本書は固体物理学の教科書なので,一貫して $2\pi$ 付きを使う.他書を参照するときは,どちらの流儀かを最初に確認する習慣をつけたい.
3.2 逆格子ベクトルの性質
3.2.1 逆格子ベクトルは面に垂直
定理3.1
逆格子ベクトル $\GG_{hkl} = h\bb_1 + k\bb_2 + l\bb_3$ は,Miller指数 $(hkl)$ の面に垂直である.さらに面間隔は
$$ \begin{equation} d_{hkl} = \frac{2\pi}{\abs{\GG_{hkl}}} \label{eq:3-dspacing} \end{equation} $$導出
ステップ1:垂直であること.$(hkl)$ 面は,軸を $\aa_1/h$, $\aa_2/k$, $\aa_3/l$ で切る(第1章1.8節の定義).この面上の2つのベクトル
$$ \bm{u} = \frac{\aa_1}{h} - \frac{\aa_2}{k}, \qquad \bm{v} = \frac{\aa_2}{k} - \frac{\aa_3}{l} $$は,いずれも面内にある(面上の2点を結ぶベクトルだから).これらと $\GG_{hkl}$ との内積を,式 \eqref{eq:3-dual} を使って計算する:
$$ \GG_{hkl}\cdot\bm{u} = (h\bb_1+k\bb_2+l\bb_3)\cdot\left(\frac{\aa_1}{h}-\frac{\aa_2}{k}\right) = h\cdot\frac{2\pi}{h} - k\cdot\frac{2\pi}{k} = 2\pi - 2\pi = 0 $$同様に $\GG_{hkl}\cdot\bm{v} = 2\pi - 2\pi = 0$.$\bm{u}, \bm{v}$ は面内で1次独立なので,$\GG_{hkl}$ は面に垂直である.
ステップ2:面間隔.原点を通る面($hx+ky+lz=0$ 型)と,次の面(軸を $\aa_1/h$ で切る面)との距離を求める.$\GG_{hkl}$ 方向の単位ベクトルは $\hat{\bm{n}} = \GG_{hkl}/\abs{\GG_{hkl}}$ である.面上の1点 $\aa_1/h$ を,原点からこの方向に射影すれば距離が出る:
$$ d_{hkl} = \left| \frac{\aa_1}{h}\cdot\hat{\bm{n}} \right| = \left| \frac{\aa_1}{h}\cdot\frac{h\bb_1+k\bb_2+l\bb_3}{\abs{\GG_{hkl}}} \right| = \left| \frac{1}{h}\cdot\frac{2\pi h}{\abs{\GG_{hkl}}} \right| = \frac{2\pi}{\abs{\GG_{hkl}}} $$∎
例題3.1 立方晶の面間隔
単純立方格子($\aa_1 = a\hat{x}$ など)の逆格子基本ベクトルを求め,$d_{hkl}$ を導け.
解答.$V_{\text{p}} = a^3$,$\aa_2\times\aa_3 = a\hat{y}\times a\hat{z} = a^2\hat{x}$ だから
$$ \bb_1 = 2\pi\frac{a^2\hat{x}}{a^3} = \frac{2\pi}{a}\hat{x} $$同様に $\bb_2 = \frac{2\pi}{a}\hat{y}$, $\bb_3 = \frac{2\pi}{a}\hat{z}$.つまり単純立方の逆格子は,格子定数 $2\pi/a$ の単純立方である.したがって
$$ \GG_{hkl} = \frac{2\pi}{a}(h,k,l), \qquad \abs{\GG_{hkl}} = \frac{2\pi}{a}\sqrt{h^2+k^2+l^2} $$ $$ d_{hkl} = \frac{2\pi}{\abs{\GG_{hkl}}} = \frac{a}{\sqrt{h^2+k^2+l^2}} $$第1章の演習1.5で幾何学的に導いた式と一致した.∎
3.2.2 逆格子の逆格子は元の格子
例題3.2 逆格子の体積
逆格子の primitive cell の体積 $V_{\text{p}}^*$ が $(2\pi)^3/V_{\text{p}}$ になることを示せ.
解答.$V_{\text{p}}^* = \bb_1\cdot(\bb_2\times\bb_3)$ を計算する.式 \eqref{eq:3-b-vectors} を代入すると
$$ \bb_2\times\bb_3 = \frac{(2\pi)^2}{V_{\text{p}}^2}(\aa_3\times\aa_1)\times(\aa_1\times\aa_2) $$ベクトル三重積の公式 $(\bm{A}\times\bm{B})\times\bm{C} = (\bm{A}\cdot\bm{C})\bm{B} - (\bm{B}\cdot\bm{C})\bm{A}$ を $\bm{A}=\aa_3\times\aa_1$ の形で使うため,別の形 $\bm{P}\times(\bm{Q}\times\bm{R}) = \bm{Q}(\bm{P}\cdot\bm{R}) - \bm{R}(\bm{P}\cdot\bm{Q})$ を用いる.$\bm{P} = \aa_3\times\aa_1$, $\bm{Q}=\aa_1$, $\bm{R}=\aa_2$ として
$$ (\aa_3\times\aa_1)\times(\aa_1\times\aa_2) = \aa_1\bigl[(\aa_3\times\aa_1)\cdot\aa_2\bigr] - \aa_2\bigl[(\aa_3\times\aa_1)\cdot\aa_1\bigr] $$第2項は $(\aa_3\times\aa_1)\perp\aa_1$ よりゼロ.第1項の括弧はスカラー三重積で $(\aa_3\times\aa_1)\cdot\aa_2 = \aa_1\cdot(\aa_2\times\aa_3) = V_{\text{p}}$.よって
$$ \bb_2\times\bb_3 = \frac{(2\pi)^2}{V_{\text{p}}^2}\cdot V_{\text{p}}\,\aa_1 = \frac{(2\pi)^2}{V_{\text{p}}}\aa_1 $$したがって
$$ V_{\text{p}}^* = \bb_1\cdot\frac{(2\pi)^2}{V_{\text{p}}}\aa_1 = \frac{(2\pi)^2}{V_{\text{p}}}\cdot 2\pi = \frac{(2\pi)^3}{V_{\text{p}}} $$∎ この結果は第14章・第15章で状態密度を数えるときに繰り返し使う.
この例題は,節の見出しに掲げた「逆格子の逆格子は元の格子」という事実も同時に与えている.逆格子を実格子とみなしてもう一度逆格子をつくると,その第1基本ベクトルは $2\pi(\bb_2\times\bb_3)/V_{\text{p}}^*$ である.ここに上で得た $\bb_2\times\bb_3 = \frac{(2\pi)^2}{V_{\text{p}}}\aa_1$ と $V_{\text{p}}^* = (2\pi)^3/V_{\text{p}}$ を代入すると
$$ 2\pi\,\frac{\bb_2\times\bb_3}{V_{\text{p}}^*} = 2\pi\cdot\frac{(2\pi)^2\aa_1/V_{\text{p}}}{(2\pi)^3/V_{\text{p}}} = \aa_1 $$となり,$\aa_2$, $\aa_3$ についてもまったく同様である.つまり逆格子変換を2回施すと元の格子に戻る.次の表3.1で fcc と bcc が互いの逆格子になっているのも,この対合性の現れである.
| 実空間 | 逆空間 | 備考 |
|---|---|---|
| cubic-$P$(格子定数 $a$) | cubic-$P$(格子定数 $2\pi/a$) | 自分自身と同型 |
| cubic-$F$(fcc,$a$) | cubic-$I$(bcc,$4\pi/a$) | fccの逆格子はbcc |
| cubic-$I$(bcc,$a$) | cubic-$F$(fcc,$4\pi/a$) | bccの逆格子はfcc |
| hexagonal-$P$($a, c$) | hexagonal-$P$($\dfrac{4\pi}{\sqrt3\,a}$, $\dfrac{2\pi}{c}$,$30^\circ$回転) | 六方は自己双対だが軸が回る |
3.3 Braggの法則
回折の話に移る.まず高校物理でもおなじみのBraggの法則から始めて,次節でそれが逆格子の言葉に翻訳されることを見る.
導出:Braggの法則 $2d\sin\theta = n\lambda$
間隔 $d$ で平行に並んだ原子面に,波長 $\lambda$ のX線が面と角 $\theta$ をなして入射するとする(結晶学では入射角を面からの角で測る.光学の「法線からの角」とは $90^\circ$ 違うので注意).
隣り合う2つの面で反射した波の行路差を求める.上の面で反射する光と,下の面まで潜って反射する光を比べると,余分に進む距離は,下の面へ入る分と出る分の2回で
$$ \Delta = d\sin\theta + d\sin\theta = 2d\sin\theta $$である.この行路差が波長の整数倍のとき,2つの波は同位相で強め合う:
∎
$n$ をどう扱うか — $(100)$ の2次反射は $(200)$ の1次反射
式 \eqref{eq:3-bragg} の $n$ は,実務上あまり使わない.$n$ 次反射を $(hkl)$ 面で考える代わりに,$(nh, nk, nl)$ 面の1次反射と読み替えるのが標準である.実際
$$ 2d_{hkl}\sin\theta = n\lambda \quad\Longleftrightarrow\quad 2\frac{d_{hkl}}{n}\sin\theta = \lambda \quad\Longleftrightarrow\quad 2 d_{nh,nk,nl}\sin\theta = \lambda $$(立方晶なら $d_{nh,nk,nl} = a/(n\sqrt{h^2+k^2+l^2}) = d_{hkl}/n$ だから.)
こうしておくと,次節のLaue条件 $\Delta\kk = \GG$ と1対1に対応する.$\GG_{200}$ は $\GG_{100}$ とは別の逆格子点なので,逆格子の言葉では $n$ は最初から現れないのである.
3.4 Laue条件とEwald球
3.4.1 散乱振幅からLaue条件へ
導出:Laue条件 $\Delta\kk = \GG$
入射X線を平面波 $e^{i\kk\cdot\rr}$,散乱後を $e^{i\kk'\cdot\rr}$ とする(弾性散乱なので $\abs{\kk}=\abs{\kk'}=2\pi/\lambda$).位置 $\rr$ にある電子密度 $n(\rr)$ からの散乱の寄与は,位相因子 $e^{-i(\kk'-\kk)\cdot\rr}$ を伴う.結晶全体からの散乱振幅は
$$ \begin{equation} F = \int_{\text{crystal}} n(\rr)\, e^{-i\Delta\kk\cdot\rr}\, \dd^3r, \qquad \Delta\kk \equiv \kk' - \kk \label{eq:3-amplitude} \end{equation} $$すなわち散乱振幅は電子密度のFourier変換である.
ここに式 \eqref{eq:3-fourier} を代入すると
$$ F = \sum_{\GG} n_{\GG} \int e^{i(\GG - \Delta\kk)\cdot\rr}\, \dd^3r $$結晶が十分大きければ,この積分は $\GG - \Delta\kk \neq 0$ のとき激しく振動して打ち消し合い,ほぼゼロになる.ゼロでない寄与が残るのは
のときだけである.これをLaue条件という.このとき $F = V\, n_{\GG}$($V$ は結晶の体積).∎
定理3.2 BraggとLaueは同値
弾性散乱 $\abs{\kk'}=\abs{\kk}$ のもとで,Laue条件 $\kk'-\kk=\GG$ はBraggの法則 $2d\sin\theta=\lambda$ と等価である.
導出
$\kk' = \kk + \GG$ の両辺の2乗をとる.弾性散乱なので $\abs{\kk'}^2 = \abs{\kk}^2$,したがって
$$ \abs{\kk}^2 = \abs{\kk+\GG}^2 = \abs{\kk}^2 + 2\kk\cdot\GG + \abs{\GG}^2 $$ $$ \begin{equation} \Longrightarrow\quad 2\kk\cdot\GG + \abs{\GG}^2 = 0 \label{eq:3-laue2} \end{equation} $$いま $\GG$ は $(hkl)$ 面に垂直で(定理3.1),入射波 $\kk$ が面と角 $\theta$ をなすとする.すると $\kk$ と $\GG$(面の法線)のなす角は $90^\circ + \theta$ である($\GG$ の向きを適切に選ぶ).よって
$$ \kk\cdot\GG = \abs{\kk}\abs{\GG}\cos(90^\circ+\theta) = -\abs{\kk}\abs{\GG}\sin\theta $$これを式 \eqref{eq:3-laue2} に入れると
$$ -2\abs{\kk}\abs{\GG}\sin\theta + \abs{\GG}^2 = 0 \quad\Longrightarrow\quad 2\abs{\kk}\sin\theta = \abs{\GG} $$$\abs{\kk} = 2\pi/\lambda$ と $\abs{\GG} = 2\pi/d$(定理3.1)を代入すれば
$$ 2\cdot\frac{2\pi}{\lambda}\sin\theta = \frac{2\pi}{d} \quad\Longrightarrow\quad 2d\sin\theta = \lambda $$∎ Braggの法則が得られた.
物理的意味:2つの見方の役割分担
- Braggの見方は直観的で,面と反射というイメージが持てる.粉末X線回折のデータを読むときに便利.
- Laueの見方は一般的で,「回折点は逆格子点そのもの」という強力な描像を与える.単結晶の回折や,電子線回折・中性子回折,そして第11章のバンド理論に直結する.
とくに式 \eqref{eq:3-laue2} は $\GG/2$ を使った形に書き直せる.ここで一段だけ注意がいる.式 \eqref{eq:3-laue2} をそのまま4で割ると $\kk\cdot(\GG/2) = -(\GG/2)^2$ と負号が付くが,$\GG$ が逆格子ベクトルなら $-\GG$ もまた逆格子ベクトルであり,$\GG$ を $-\GG$ で置き換えても条件式が表す内容は変わらない.そこで向きを $\kk$ 側に取り直して $2\kk\cdot\GG = \abs{\GG}^2$ とし,両辺を4で割ると
$$ \kk\cdot\frac{\GG}{2} = \left(\frac{\GG}{2}\right)^2 $$となり,これは「$\kk$ の $\GG$ 方向成分が $\abs{\GG}/2$ に等しい」,すなわち$\kk$ が $\GG$ の垂直二等分面の上にあるという条件である.この面こそがBrillouin域の境界であり(3.7節),第16章で「なぜゾーン境界でバンドギャップが開くのか」を理解する鍵になる.回折とバンドギャップは,同じ条件式の裏表なのである.
3.4.2 Ewald球
Laue条件を幾何学的に可視化したものが Ewald球(Ewald sphere)である.
Ewald球の作図
- 逆格子を描く.ある逆格子点を原点 $O$ とする.
- 入射波ベクトル $\kk$ を,終点が $O$ に来るように描く.始点を $C$ とする.
- $C$ を中心,半径 $\abs{\kk} = 2\pi/\lambda$ の球を描く.これがEwald球.
- この球面上に別の逆格子点 $P$ が乗っていれば,$\kk' = \overrightarrow{CP}$ の方向に回折が起こる.実際 $\kk'-\kk = \overrightarrow{CP}-\overrightarrow{CO} = \overrightarrow{OP} = \GG$ である.
3.5 構造因子 — ピークの高さを決めるもの
ここまでは「格子」だけを見てきた.基底(単位胞の中の原子配置)はどこに効くのか.答えが構造因子である.
導出:構造因子と原子形状因子
電子密度を,単位胞ごとの寄与に分解する.単位胞内の $j$ 番目の原子の位置を $\rr_j$,その原子1個が作る電子密度を $n_j$ とすると
$$ n(\rr) = \sum_{\TT}\sum_{j} n_j(\rr - \TT - \rr_j) $$これを式 \eqref{eq:3-amplitude} に代入する.$\Delta\kk = \GG$ のとき,
$$ F = \sum_{\TT}\sum_j \int n_j(\rr-\TT-\rr_j)\, e^{-i\GG\cdot\rr}\,\dd^3r $$積分変数を $\bm{\rho} = \rr - \TT - \rr_j$ に変えると $e^{-i\GG\cdot\rr} = e^{-i\GG\cdot\bm{\rho}}e^{-i\GG\cdot\TT}e^{-i\GG\cdot\rr_j}$ であり,逆格子の定義から $e^{-i\GG\cdot\TT}=1$.よって
$$ F = \underbrace{\sum_{\TT} 1}_{N\ \text{個の胞}} \times \underbrace{\sum_j e^{-i\GG\cdot\rr_j} \int n_j(\bm{\rho})e^{-i\GG\cdot\bm{\rho}}\dd^3\rho}_{\displaystyle \equiv\, S_{\GG}} $$ここで
$S_{\GG}$ を構造因子,$f_j$ を原子形状因子(atomic form factor)という.∎
回折強度は $I \propto \abs{F}^2 \propto N^2\abs{S_{\GG}}^2$ である.
物理的意味:$f_j$ は原子の「電子の数」を測っている
$\GG\to0$ の極限では $e^{-i\GG\cdot\bm{\rho}}\to1$ なので
$$ f_j \to \int n_j(\bm{\rho})\,\dd^3\rho = Z_j \quad(\text{散乱体の全電子数,中性原子なら原子番号}) $$つまり原子形状因子は,$\GG\to0$ の極限ではその散乱体が持つ電子数そのものに等しく,$\GG$ が有限になるとそこから減衰していく.だから重い元素ほど強く散乱する.逆に水素($Z=1$)はX線でほとんど見えない.水素の位置を決めたいときに中性子回折を使うのは,中性子は原子核と相互作用するので,この $Z$ 依存性がまったく違うからである.
先生の資料に「ピークの高さは,構造因子(構成元素の電子数と元素サイト)で決定される」とあるのが,まさにこの式 \eqref{eq:3-structure-factor} である.$f_j$ が「電子数」,$e^{-i\GG\cdot\rr_j}$ が「元素サイト」に対応している.
3.5.1 消滅則
例題3.3 bccの構造因子と消滅則
体心立方格子を conventional cell(立方体)で記述すると,単位胞内の同種原子の位置は $(0,0,0)$ と $\left(\frac12,\frac12,\frac12\right)$ である.$S_{\GG}$ を計算し,どの $(hkl)$ で反射が消えるかを求めよ.
解答.conventional cell で考えるので $\GG = \frac{2\pi}{a}(h,k,l)$,原子位置は $\rr_1 = (0,0,0)$,$\rr_2 = \frac{a}{2}(1,1,1)$.したがって
$$ \GG\cdot\rr_2 = \frac{2\pi}{a}(h,k,l)\cdot\frac{a}{2}(1,1,1) = \pi(h+k+l) $$ $$ S_{\GG} = f\left(e^{0} + e^{-i\pi(h+k+l)}\right) = f\left(1 + (-1)^{h+k+l}\right) $$($e^{-i\pi m} = (-1)^m$ を使った.)よって
$$ S_{\GG} = \begin{cases} 2f & (h+k+l \text{ が偶数}) \\ 0 & (h+k+l \text{ が奇数}) \end{cases} $$すなわち $h+k+l$ が奇数の反射は消える.$(100)$, $(111)$, $(210)$ などが消え,$(110)$, $(200)$, $(211)$, $(220)$ などが残る.∎
これは第2章で見た「bccの逆格子はfcc」という事実の別表現である.conventional cell の逆格子(単純立方)のうち,$h+k+l$ 偶数の点だけが生き残ると,それはfcc格子の形をしている.
例題3.4 fccの消滅則
fccでは単位胞内の格子点が $(0,0,0)$, $\left(0,\frac12,\frac12\right)$, $\left(\frac12,0,\frac12\right)$, $\left(\frac12,\frac12,0\right)$ の4つである.同様に計算せよ.
解答.
$$ S_{\GG} = f\left[1 + e^{-i\pi(k+l)} + e^{-i\pi(h+l)} + e^{-i\pi(h+k)}\right] = f\left[1 + (-1)^{k+l} + (-1)^{h+l} + (-1)^{h+k}\right] $$場合分け.
- $h,k,l$ がすべて偶数,またはすべて奇数のとき:$k+l$, $h+l$, $h+k$ はすべて偶数なので $S = f(1+1+1+1) = 4f$.
- 偶奇が混ざるとき:たとえば $h$ が偶数で $k,l$ が奇数なら,$k+l$ 偶数,$h+l$ 奇数,$h+k$ 奇数で $S = f(1+1-1-1) = 0$.他の混ざり方も同様にゼロ.
すなわち $h,k,l$ の偶奇が揃っているときだけ反射が出る.$(111)$, $(200)$, $(220)$, $(311)$, $(222)$… が残り,$(100)$, $(110)$, $(210)$ などは消える.∎
| 中心 | 反射が出る条件 | 最初の数本 |
|---|---|---|
| $P$ | 制限なし | 100, 110, 111, 200, 210, 211, … |
| $I$ | $h+k+l$ = 偶数 | 110, 200, 211, 220, 310, 222, … |
| $F$ | $h,k,l$ の偶奇が一致 | 111, 200, 220, 311, 222, 400, … |
| $C$ | $h+k$ = 偶数 | 110, 020, 200, 111, 021, … |
| $R$(六方軸) | $-h+k+l$ = $3$ の倍数 | 101, 012, 110, 104, … |
なぜ消滅則が使えるのか — 空間群決定の第一歩
粉末X線回折パターンを測って,出ているピークの $(hkl)$ を割り出すと(指数付け, indexing),表3.2のどのパターンに合うかで中心記号が決まる.さらに,らせん軸やグライド面があると追加の消滅則が出る(第5章).これらを総合すると,候補となる空間群が数個まで絞り込める.
実験家が回折パターンから空間群を決めるという作業は,突き詰めればこの「消える反射のパターンを読む」ことに尽きる.消滅則は,対称性が回折という形で直接姿を現す,数少ない場面のひとつである.
3.6 なぜBravais格子が同じならピーク位置が一致するのか
第1章・第2章で予告した主張を,いま証明できる.
定理3.3
回折ピークの位置($2\theta$ の値)は,逆格子ベクトルの長さ $\abs{\GG}$ のみによって決まる.$\abs{\GG}$ はBravais格子と格子定数のみで決まり,基底(どの元素をどこに置くか)には依存しない.
基底が影響するのは,構造因子 $S_{\GG}$ を通じたピークの強度だけである.
証明
Braggの法則を $\abs{\GG}$ で書き直す.定理3.2の途中式 $2\abs{\kk}\sin\theta = \abs{\GG}$ から
$$ \begin{equation} \sin\theta = \frac{\abs{\GG}}{2\abs{\kk}} = \frac{\lambda\abs{\GG}}{4\pi} \label{eq:3-peak-position} \end{equation} $$右辺に現れるのは,波長 $\lambda$(測定条件)と $\abs{\GG}$ だけである.
いっぽう $\GG = h\bb_1+k\bb_2+l\bb_3$ で,$\bb_i$ は式 \eqref{eq:3-b-vectors} により $\aa_i$ のみから作られる.$\aa_i$ はBravais格子と格子定数で決まる.基底はどこにも現れない.
他方,強度は $I \propto \abs{S_{\GG}}^2 = \abs{\sum_j f_j e^{-i\GG\cdot\rr_j}}^2$ であり,ここには原子の種類($f_j$)と位置($\rr_j$),すなわち基底がまるごと入っている.∎
物理的意味:先生の数値実験が示していること
望月研究室の資料では,VESTA/RIETAN-FP で格子定数を固定したまま,次の組み合わせでXRDパターンを計算している.
| 計算した構造 | Bravais格子 | ピーク位置 |
|---|---|---|
| NaCl 岩塩型($Fm\bar{3}m$) | cubic-$F$ | すべて同一 |
| NaCl 閃亜鉛鉱型($F\bar{4}3m$) | cubic-$F$ | |
| NaCl$_2$ 蛍石型($Fm\bar{3}m$) | cubic-$F$ | |
| SrSO$_4$ 岩塩型($F\bar{4}3m$) | cubic-$F$ |
4つとも cubic-$F$ なので,定理3.3によりピーク位置は完全に一致しなければならない.そして実際に一致した.
さらに資料では,$Pm\bar{3}m$(CsCl型),$Pn\bar{3}m$(赤銅鉱(cuprite)型 Ag$_2$O),$Pm\bar{3}m$(ReO$_3$型 Na$_3$N)でも計算していて,こちらは $P$ 格子どうしなので互いに一致するが,$F$ 格子の組とは違うパターンになる.
資料の結論の一文を再掲する:「空間群が同じであれば,もっというと,Bravais 格子が同じであれば,primitive cell という名の『箱』にどんな物質をいれようとも,ピーク位置は一意に決定される」.
ただし「見かけ上」ピークが増減することはある
定理3.3は「$\abs{\GG}$ の集合=ピーク位置の集合」を主張するが,構造因子がゼロになれば,そのピークは強度0として観測されない.だから見た目のパターンは変わりうる.
たとえば岩塩型NaClでは,$f_{\mathrm{Na}}$ と $f_{\mathrm{Cl}}$ が違うので $(111)$ 反射は弱いながら出る.ところがもし2種類の原子が同じ散乱能を持てば(たとえば仮想的に $f_{\mathrm{Na}}=f_{\mathrm{Cl}}$ なら),$(111)$ は完全に消え,$hkl$ がすべて偶数の反射だけが残る.これは辺 $a/2$ の単純立方格子が与えるパターンにほかならない(2種のイオンが区別できなくなれば,NaCl構造は間隔 $a/2$ の単純立方配列そのものだからである).fcc金属は全偶数と全奇数の両方に反射を出すので,このパターンはfcc金属のものとは一致しない.KClが実際にこれに近く,K$^+$ とCl$^-$ が等電子体(ともに18電子)なので $(111)$ がほとんど消える.有名な例である.
つまり正確には,ピークが立ちうる位置がBravais格子で決まり,そのうちどれが実際に見えるか,どれくらいの高さかが基底で決まる.
3.7 Brillouin域
定義:第1Brillouin域
逆格子空間におけるWigner–Seitz胞を,第1Brillouin域(first Brillouin zone, BZ)という.すなわち,逆格子の原点から他のすべての逆格子点へ引いた線分の垂直二等分面で囲まれた,原点を含む最小の領域である.
なぜBrillouin域が特別なのか — 3.4.1節の式との関係
Laue条件を変形した式($-\GG$ も逆格子ベクトルであることを使って,$\GG$ の向きを $\kk$ 側に揃えてある)
$$ \kk\cdot\frac{\GG}{2} = \left(\frac{\GG}{2}\right)^2 $$は,「$\kk$ の終点が,原点と $\GG$ を結ぶ線分の垂直二等分面上にある」という意味だった.つまりBrillouin域の境界とは,ちょうど回折が起こる波数の集合である.
電子波についても同じことが起こる.ゾーン境界の波数を持つ電子はBragg反射され,進行波でいられなくなって定在波になる.定在波には位相の異なる2種類があり,そのエネルギー差がバンドギャップになる.これが第16章の中心的な議論である.
回折(第3章)とバンドギャップ(第16章)は,まったく別の現象に見えて,同一の条件式から出てくる.
3.7.1 fccとbccのBrillouin域
例題3.5 fccのBrillouin域が切頂八面体になること
fcc格子(格子定数 $a$)の逆格子はbcc(格子定数 $4\pi/a$)である(表3.1).bcc逆格子の原点から最も近い逆格子点は
$$ \GG = \frac{2\pi}{a}(\pm1,\pm1,\pm1) \quad (8\text{個}), \qquad \abs{\GG} = \frac{2\pi}{a}\sqrt3 \approx \frac{10.88}{a} $$次に近いのは
$$ \GG = \frac{4\pi}{a}(\pm1,0,0)\ \text{など} \quad (6\text{個}), \qquad \abs{\GG} = \frac{4\pi}{a} \approx \frac{12.57}{a} $$である.8個の $\langle111\rangle$ 型から六角形の面が8枚,6個の $\langle100\rangle$ 型から正方形の面が6枚できて,合計14面の切頂八面体になる.∎
高対称点は次のとおり.
| 記号 | 位置($2\pi/a$ 単位) | 意味 |
|---|---|---|
| $\Gamma$ | $(0,0,0)$ | ゾーン中心 |
| $X$ | $(0,0,1)$ | 正方形の面の中心 |
| $L$ | $\left(\frac12,\frac12,\frac12\right)$ | 六角形の面の中心 |
| $W$ | $\left(\frac12,0,1\right)$ | 頂点 |
| $K$ | $\left(\frac34,\frac34,0\right)$ | 2つの六角形の稜の中点 |
| $U$ | $\left(\frac14,\frac14,1\right)$ | 正方形の面と六角形の面が接する稜の中点 |
Siのバンド図の横軸が $\Gamma\to X\to U|K\to\Gamma\to L\to W\to X$ となっているのは,この切頂八面体の高対称点を結ぶ標準的な経路である.望月研資料の「1-6. Bravais格子によって,逆格子空間が一意に決まる」のスライドにある図が,まさにこれである.
例題3.6 bccのBrillouin域
bcc格子の逆格子はfccなので,Brillouin域はfcc格子のWigner–Seitz胞,すなわち菱形十二面体(rhombic dodecahedron,12面体)になる.最近接の逆格子点は $\frac{2\pi}{a}(\pm1,\pm1,0)$ 型の12個で,それぞれが1枚の菱形の面を与える.
高対称点は $\Gamma(0,0,0)$,$H(0,0,1)$,$N\left(\frac12,\frac12,0\right)$,$P\left(\frac12,\frac12,\frac12\right)$(単位は $2\pi/a$)である.
物理的意味:なぜBrillouin域だけ考えれば十分か
Bloch関数の波数 $\kk$ と $\kk+\GG$ は,物理的に同じ状態を表す(第11章・第16章で証明する).したがって $\kk$ 空間全体を考える必要はなく,逆格子の周期の1つ分だけ,すなわち第1Brillouin域だけ考えれば,すべての状態が尽くされる.
バンド図の横軸が有限の区間で終わっているのは,このためである.無限に広い $\kk$ 空間を,逆格子の周期性で折りたたんだ結果が Brillouin 域なのである.
3.8 まとめと演習
3.8.1 まとめ
- 逆格子は周期性から必然的に現れる.$n(\rr+\TT)=n(\rr)$ をFourier展開すると $e^{i\GG\cdot\TT}=1$ が要求され,これを満たす $\GG$ の全体が逆格子である.
- 双対関係 $\aa_i\cdot\bb_j = 2\pi\delta_{ij}$ から $\bb_1 = 2\pi(\aa_2\times\aa_3)/V_{\text{p}}$ が導かれ,逆格子の胞の体積は $(2\pi)^3/V_{\text{p}}$ である.
- $\GG_{hkl}$ は $(hkl)$ 面に垂直で,$d_{hkl} = 2\pi/\abs{\GG_{hkl}}$.立方晶では $d = a/\sqrt{h^2+k^2+l^2}$.
- BraggとLaueは同値.$\kk'-\kk=\GG$ と $\abs{\kk'}=\abs{\kk}$ から $2d\sin\theta=\lambda$ が出る.$n$ 次反射は $(nh,nk,nl)$ の1次反射と読み替える.
- 散乱振幅は電子密度のFourier変換であり,$\Delta\kk=\GG$ のときだけゼロでない.構造因子 $S_{\GG}=\sum_j f_j e^{-i\GG\cdot\rr_j}$ が強度を決める.
- 消滅則:$I$ 中心は $h+k+l$ 偶数,$F$ 中心は $hkl$ の偶奇一致のときだけ反射が出る.これが実験から中心記号を決める手がかりになる.
- ピーク位置はBravais格子だけで決まる(定理3.3).$\sin\theta = \lambda\abs{\GG}/4\pi$ に基底は現れない.基底は強度にのみ効く.
- 第1Brillouin域は逆格子のWigner–Seitz胞.その境界は回折条件を満たす波数の集合であり,第16章のバンドギャップの起源と同一の条件である.fccのBZは切頂八面体,bccは菱形十二面体.
3.8.2 演習問題
演習3.1 fccの逆格子はbccである
fccの基本並進ベクトル $\aa_1=\frac{a}{2}(0,1,1)$, $\aa_2=\frac{a}{2}(1,0,1)$, $\aa_3=\frac{a}{2}(1,1,0)$ から逆格子基本ベクトルを計算し,格子定数 $4\pi/a$ のbccの形になっていることを確かめよ.
ヒント:$V_{\text{p}}=a^3/4$(第1章例題1.2).$\aa_2\times\aa_3 = \frac{a^2}{4}(-1,1,1)$(同).したがって $\bb_1 = \frac{2\pi}{a^3/4}\cdot\frac{a^2}{4}(-1,1,1) = \frac{2\pi}{a}(-1,1,1)$.これは $\frac{4\pi}{a}\cdot\frac12(-1,1,1)$ で,確かにbccの基本ベクトルの形である.
演習3.2 ダイヤモンド構造の消滅則
ダイヤモンド構造は,fcc格子に炭素2個($(0,0,0)$ と $\left(\frac14,\frac14,\frac14\right)$)の基底を置いたものである.
(1) 構造因子が $S_{\GG} = S_{\text{fcc}}\times\left[1 + e^{-i\frac{\pi}{2}(h+k+l)}\right]$ と因数分解できることを示せ.
(2) $(200)$ 反射が消えることを示せ.
(3) $(222)$ 反射はどうなるか.
ヒント:(2) $h+k+l=2$ なので $e^{-i\pi}=-1$,括弧が $0$.(3) $h+k+l=6$ で $e^{-3i\pi}=-1$,やはり $0$.実際にはダイヤモンドで $(222)$ は「禁制反射」だが,結合電子の非球対称性のためわずかに観測される.歴史的に有名な例である.
演習3.3 粉末X線回折パターンの指数付け
立方晶の粉末XRDで,$\lambda = 1.5406\ \mathrm{\AA}$(Cu K$\alpha$)を使って次の $2\theta$ が観測された:
$$ 2\theta = 43.3^\circ,\ 50.4^\circ,\ 74.1^\circ,\ 89.9^\circ,\ 95.1^\circ $$(1) 各ピークについて $\sin^2\theta$ を計算し,その比を最小の整数比にせよ.
(2) 得られた整数が $h^2+k^2+l^2$ に対応する.指数付けを行い,Bravais格子を判定せよ.
(3) 格子定数 $a$ を求めよ.
ヒント:$\sin^2\theta = \frac{\lambda^2}{4a^2}(h^2+k^2+l^2)$.比は $3:4:8:11:12$ になるはずで,これは $(111),(200),(220),(311),(222)$,すなわちfcc.$a \approx 3.61\ \mathrm{\AA}$ でCuである.
演習3.4 六方格子の逆格子
hexagonal-$P$ の基本ベクトルを
$$ \aa_1 = a(1,0,0),\quad \aa_2 = a\left(-\tfrac12,\tfrac{\sqrt3}{2},0\right),\quad \aa_3 = c(0,0,1) $$として,逆格子基本ベクトルを求めよ.また逆格子も六方格子であるが,実格子に対して $30^\circ$ 回転していることを確かめよ.
ヒント:$V_{\text{p}} = \frac{\sqrt3}{2}a^2c$.$\bb_1 = \frac{2\pi}{a}\left(1,\frac{1}{\sqrt3},0\right)$,$\bb_2 = \frac{2\pi}{a}\left(0,\frac{2}{\sqrt3},0\right)$,$\bb_3 = \frac{2\pi}{c}(0,0,1)$.
演習3.5 Brillouin域の体積
第1Brillouin域の体積が $(2\pi)^3/V_{\text{p}}$ であることを述べ,$N$ 個の primitive cell からなる結晶(体積 $V = NV_{\text{p}}$)に対して,Brillouin域内に許される $\kk$ 点の数がちょうど $N$ 個であることを示せ.
ヒント:周期境界条件(付録A A.2節)から,$\kk$ 点の密度は $V/(2\pi)^3$.これに BZ の体積を掛ければ $\frac{V}{(2\pi)^3}\cdot\frac{(2\pi)^3}{V_{\text{p}}} = N$.この事実は第13章(フォノンのモード数)と第15章(電子の状態数)で決定的に使う.
参考文献
- C. Kittel『キッテル 固体物理学入門(上)』第8版,丸善出版,第2章「波の回折と逆格子」.
- 望月 泰英「物質の対称性と群論 1. 結晶系とBravais格子」望月研究室勉強会資料(2026年4月24日),スライド1-5, 1-6.—— 3.6節・3.7節の実例.
- B. E. Warren, X-ray Diffraction, Dover (1990). —— 回折の古典的な標準書.
- F. Izumi, K. Momma, "Three-dimensional visualization in powder diffraction", Solid State Phenom. 130, 15 (2007). —— RIETAN-FP/VESTA によるXRDパターン計算.