X 線回折の理論 ― Bragg 則・逆格子・構造因子,そしてピーク位置を決めるもの

― 面間隔 dhkl から Bragg 則・逆格子・Laue 条件・構造因子・消滅則まで,途中式を省略せずに(学部 2・3 年生向け)

粉末 X 線回折(XRD)の図は,横軸が 2θ,縦軸が強度の,棒が何本か立っただけの単純な絵です. ところがこの絵には3 種類の情報が,きれいに分離して入っています ―― ピークの位置には格子の形と大きさが,ピークの高さには箱の中身(どの元素がどこにいるか)が, ピークの幅には結晶子の大きさと歪みが入っているのです. 講義ではこの分業が「そういうものだ」と与えられがちですが, 実は指数関数 exp の足し算を最後まで書き下すだけで,全部きちんと証明できます. 使う数学はベクトルの内積と外積,等比級数の和,そして eiπn=(−1)n だけです.

結論を先に ―― この教材の背骨 単位胞の中の原子からの散乱波を全部足した量(構造因子)は, 「格子の部分」と「箱の中身の部分」の積にきれいに分かれます. Fhkl=S格子×F基底 です(式 (29)(30)).前者は Bravais 格子だけで決まり,後者は箱の中身だけで決まります. そしてピークが立ちうる 2θ は,格子定数と Bravais 格子だけで決まり,箱の中身には一切依存しません(中身によっては,そのうち何本かが基底由来の消滅則で欠けることがあります.§9.4). だから ―― 「格子定数を揃えたうえで Bravais 格子が同じなら,primitive cell という『箱』にどんな物質を入れても, ピークが立ちうる位置は完全に一致する」のです. 中身が変えられるのは高さだけ.これが §9 の主題で,この教材の核心です.
(鉤括弧内は望月研究室勉強会資料「物質の対称性と群論 1. 結晶系と Bravais 格子」 2026 年 4 月 24 日 スライド 1-5 の主張です.出典と原文は §9.1 に示します.)
  1. はじめに ― X 線回折で何が分かるのか
  2. ミラー指数と面間隔 dhkl
  3. Bragg の法則の導出
  4. 逆格子 ― なぜ逆空間で考えるのか
  5. Laue 条件 ― Bragg 則と同じこと
  6. Ewald 球
  7. 構造因子 Fhkl
  8. 消滅則を手で導く
  9. なぜ同じ Bravais 格子ならピーク位置が一致するのか【核心】
  10. 強度を決めるその他の因子
  11. Scherrer 式とピーク幅
  12. 粉末法から Rietveld 解析へ
  13. さらに深く学ぶために
  14. 演習問題と解答
  15. 付録 A. シミュレーターで見ていること
記号の約束(このページ全体で通します) 実格子の基本ベクトルを a1, a2, a3, 逆格子の基本ベクトルを b1, b2, b3 と書きます. θ は面と入射線のなす角(Bragg 角)で,装置が表示する 2θ の半分です. s≡sin⁡θ/λ=1/(2d) [Å−1]は結晶学の慣用量で,原子散乱因子の引数に使います. ベクトルは G のように直立太字で書きます. N ≡ h2 + k2 + l2(指数和)です.ただし §5.1 と §11 では,N は格子点(面)の個数(枚数)を表します ―― そのつど断ります.

1. はじめに ― X 線回折で何が分かるのか

この章で分かること 粉末 X 線回折の図から読み取れる 3 つの量(位置・高さ・幅)が,それぞれ結晶の何に対応しているのか. そして,なぜ X 線でなければならないのか.

結晶は,同じ形の箱(単位胞)が空間を隙間なく埋め尽くしたものです. この周期は 0.2〜1 nm,つまり 2〜10 Å 程度しかありません. これを「見る」には,波長がこの周期と同じくらいの波を当てる必要があります. 可視光の波長は 400〜800 nm ですから 1000 倍も長すぎて,結晶の周期を感じ取れません. 実験室で最もよく使う Cu Kα1 線の波長は λ = 1.5405929 Å で,ちょうど原子の間隔と同じオーダーです. だから X 線なのです.

X 線は原子核ではなく電子に当たって散乱されます(Thomson 散乱). 1 個 1 個の電子は,向きによる強弱はあるものの(偏光因子.§10.2)ほぼ全方向に散乱波を出しますが, 結晶では散乱源が規則正しく並んでいるので, 特定の方向にだけ,散乱波の位相がぴったり揃って強め合います. それ以外の方向では,膨大な数の波が互いに打ち消し合ってゼロになります. この「揃う方向」を教えてくれるのが Bragg の法則であり,Laue 条件です.

読み取る量決めているもの本ページの章
ピークの位置(2θ)格子定数(= dhkl の値)と Bravais 格子(= どの hkl が立ちうるか)§2, §3, §9
ピークの高さ(強度)構造因子 Fhkl = どの元素がどこにいるか§7, §8, §10
ピークの幅結晶子の大きさ・不均一歪み・装置§11
ピークが出ないこと消滅則(systematic absence/extinction rule.散乱波の打ち消し合い)§8
※ 誤解 1 消滅則は「そこに原子が無いから」起きるのではありません ピークが消えるのは,原子が有るからです. 余分な位置にある原子が出した散乱波が,元の原子の波と逆位相になって打ち消し合う ―― これが消滅則の正体です. 体心の原子を消してしまえば,消えていた (100) 反射は復活します.§8 で式として確かめます.

この解説と対になるシミュレーターがあります. 式を追って疲れたら, xrd-simulator.html で実際にスライダーを動かしてみてください.各章の終わりに,対応するタブへの案内を置きます. シミュレーターの画面の読み方・操作の意味・計算の近似は,付録 A にまとめてあります.

2. ミラー指数と面間隔 dhkl

この章で分かること ミラー指数 (hkl) の定義と,そこから面間隔 dhkl を出す方法. 7 つの晶系すべての一般式は,実はたった 1 本の式(逆格子計量テンソル)の特殊化です.

2.1 ミラー指数の定義

結晶の中の平面の向きを表すのに,結晶学ではミラー指数(Miller indices)を使います. ある平面が 3 本の結晶軸を a1/h, a2/k, a3/l の点で切るとき,その面を (h k l) と書きます. つまり切片の逆数を並べたものが指数です. h = 0 なら「a1 軸を無限遠で切る」= その軸に平行という意味になります.負の指数は上線を付けて 1‾ のように書きます.

※ なぜ逆数をとるのか 切片そのままだと「軸に平行」が ∞ になって扱えません.逆数にすると 0 になり,整数だけで書けます. さらに,逆数にしたおかげで指数がそのまま逆格子ベクトルの成分になるという 幸運が起こります(§4).いまは「そう決めた」で先に進んで構いません.

2.2 面間隔 ― たった 1 本の式から全部出る

(h k l) という記号が表すのは 1 枚の面ではなく,等間隔に並んだ平行な面の集まりです. その間隔が面間隔(interplanar spacing,d-spacing)dhkl です. 7 つの晶系ごとに違う式が教科書に並んでいますが, それらはすべて次の 1 本の式の特殊化にすぎません. まず実格子の計量テンソル G(3×3 の対称行列)を作ります.

(1) G= ( a2 abcos⁡γ accos⁡β abcos⁡γ b2 bccos⁡α accos⁡β bccos⁡α c2 ) , Gij= ai·aj

その逆行列 G*=G−1 を逆格子計量テンソルといいます.すると面間隔は,どんな晶系でも

(2) 1dhkl2 = (hkl) G* (hkl)T

で与えられます.プログラムを書くならこれ 1 本で十分です ―― 7 晶系ごとに式を書き分ける必要はなく,バグも入りません. 以下の個別式は「手で計算するとき用」「式の形から性質を読むとき用」と割り切ってください.

晶系格子定数の条件1 / d2
立方
cubic
a = b = c, α = β = γ = 90° h2+k2+l2a2
正方
tetragonal
a = b ≠ c, α = β = γ = 90° h2+k2a2+l2c2
直方
orthorhombic
a ≠ b ≠ c, α = β = γ = 90° h2a2+k2b2+l2c2
六方
hexagonal
a = b ≠ c, α = β = 90°, γ = 120° 43·h2+hk+k2a2+l2c2
三方
(菱面体軸)
ar, α (h2+k2+l2)sin2⁡α+2(hk+kl+hl)(cos2⁡α−cos⁡α) ar2(1−3cos2⁡α+2cos3⁡α)
単斜
monoclinic
α = γ = 90°, β ≠ 90° 1sin2⁡β [h2a2 +k2sin2⁡βb2 +l2c2 −2hlcos⁡βac]
三斜
triclinic
制約なし 式 (2)(または下の (3))を使う

三斜晶を明示形で書くと次のようになります.V は単位胞の体積です.

(3) V=abc 1 −cos2⁡α −cos2⁡β −cos2⁡γ +2cos⁡α cos⁡β cos⁡γ 1d2= 1V2 [ S11h2+ S22k2+ S33l2+ 2S12hk+ 2S23kl+ 2S13hl ]
S11=b2c2sin2⁡α S22=a2c2sin2⁡β S33=a2b2sin2⁡γ
S12=abc2(cos⁡αcos⁡β−cos⁡γ) S23=a2bc(cos⁡βcos⁡γ−cos⁡α) S13=ab2c(cos⁡γcos⁡α−cos⁡β)

2.3 立方晶 ― この教材で最もよく使う形

立方晶では式が劇的に簡単になります.

(4) dhkl= ah2+k2+l2 , N≡h2+k2+l2

N を指数和と呼びます.立方晶では N が同じ反射は必ず同じ 2θ に重なります. たとえば (300) と (221) はどちらも N = 9 なので,粉末パターンでは 1 本のピークとして観測されます ―― これが立方晶で最初に起こる「偶然の縮退」です(§10.3).

数値でも検算してあります 上の 7 晶系の式は,すべて自作の実装と pymatgen の Lattice.d_hkl を 8 個の (hkl) について突き合わせ,差が 2×10−15 Å 以下で一致することを確認しています. 三方晶の式は,さらに α = 60°(fcc の primitive 胞)と α = 109.4712°(bcc の primitive 胞)に代入して, 立方晶で消滅則を課したときの d の集合と完全に一致することも確かめました.
※ 誤解 2 「(200) 面には原子が無い」ではありません (200) は「(100) の 2 次反射」を,あとで説明する n = 1 の流儀(§3.3)で書き直したものです. 面の向きは (100) と同じで,面の間隔だけが半分になった面の族を指します ―― (100) の面の間にもう 1 枚数え入れた,というだけのことで,「(200) 面には原子が無い」わけではありません. d200=d100/2 ―― 式 (4) に代入すればすぐ分かります.

→ xrd-simulator.html の ① Bragg の条件 で,物質と面 (hkl) を選び,N が大きい面ほど面が細かく並んで dhkl が小さくなる様子を見てみましょう(3 つの物質の数値は §3.5 の表にあります).

3. Bragg の法則 ― 2d sinθ = nλ の導出

この章で分かること 平行な原子面で反射した波の光路差が 2d sinθ になること, それが波長の整数倍のときだけ強め合うこと,そして「n を指数に繰り込む」結晶学の流儀.

3.1 光路差を数える

間隔 d の平行な面が積み重なっているとします. X 線が面と角 θ をなして入射し,同じ角 θ で出ていく方向を考えます(鏡面反射の向き). 上の面で「反射」した波と,1 枚下の面で「反射」した波を比べると, 下の波は余分に潜り込んだぶんだけ長い道を通ります. 上の面での散乱点を M,1 枚下の面での散乱点を B とし,M から,B を通る入射線・回折線へ下ろした垂線の足をそれぞれ A,C とします. MB = d で,MB と入射方向のなす角が 90° − θ ですから,直角三角形 MAB・MCB から AB‾=BC‾=dsin⁡θ が直ちに読み取れます.したがって光路差は

(5) Δ= AB‾+BC‾ =dsin⁡θ +dsin⁡θ =2dsin⁡θ

この光路差が波長の整数倍のとき,2 枚の面からの波は位相が揃って強め合います.

(6) 2dsin⁡θ =nλ , n=1,2,3,…

図 1 Bragg の法則の光路差(式 (5)).上の面で散乱した波と,1 枚下の面で散乱した波の 行路差は AB + BC = 2d sinθ.上の面の散乱点を M,下の面の散乱点を B とし,A,C は M から,B を通る入射線・回折線に下ろした垂線の足である.θ は面と入射線のなす角であって, 光学でいう「法線からの入射角」とは 90° 違う.装置が表示するのは,入射方向と回折方向のなす角 2θ である.

※ 誤解 3 X 線は面で「反射」しているわけではありません 実際には,結晶中のすべての電子が全方向に散乱波を出しています. ただし「面での鏡面反射」の方向だけで位相が揃って生き残り,他の方向では打ち消し合ってゼロになります. Bragg の「反射」は,干渉の結果に付けられた便利な呼び名であって,反射現象そのものではありません.
※ 誤解 4 θ と 2θ を取り違えないこと Bragg 則の θ は面と入射線のなす角で,装置が表示する 2θ の半分です. d を求めるときは必ず sin⁡(2θ/2) を計算してください.この取り違えは,レポートの計算間違いの第 1 位です.

3.2 なぜ「隣の面だけ」考えればよいのか

ここで多くの学生が詰まります.結晶には面が何千万枚もあるのに, なぜ隣り合う 2 枚だけで条件を書いてよいのでしょうか. 答えは簡単です.隣接面で光路差が nλ なら,j 枚離れた面では jnλ ですが,これも波長の整数倍です. つまり隣どうしが揃えば,自動的に全部が揃う.だから条件は隣接面だけで書けば十分なのです.

3.3 n を d に繰り込む ― 結晶学の流儀

式 (6) の n は,実は書き方を変えれば消せます.両辺を n で割ると

2(dhkln) sin⁡θ=λ

ところが式 (4) から分かるとおり, dhkl/n=dnh,nk,nl です(立方晶なら a/n2(h2+k2+l2)=dhkl/n. 一般の晶系でも 1/d2 が h, k, l の 2 次形式なので同じことが起こります). そこで結晶学では常に n = 1 に固定し,代わりに指数を n 倍するという流儀を採ります.

(7) 2dhkl sin⁡θ =λ

この流儀では,(111) 面の 2 次反射は (222) の 1 次反射,(100) 面の 3 次反射は (300) の 1 次反射, というふうに読み替えます.約分できる指数((200), (222), (400) など)も独立な反射として扱います. 約分しないこの指数を Laue 指数と呼びます. 以降,本ページでは式 (7) の流儀を使います.

教科書との対応 『よくわかる無機材料化学』をはじめ,多くの教科書は 2dsin⁡θ=nλ の形で書いています.どちらも同じことを言っており, 「n 次反射」と「指数を n 倍した 1 次反射」は同じものです. 逆格子で考えると(§4),これは「Ghkl の整数倍も逆格子点である」という当たり前の事実に対応していて,こちらの方が自然です.

3.4 見える d には下限がある

式 (7) を sinθ について解くと sin⁡θ=λ/(2d) ですが,sinθ ≤ 1 でなければ解がありません.したがって

(8) λ≤2dhkl ⇔ dhkl≥λ/2

波長の半分より細かい面間隔は,その波長では絶対に見えません. これが分解能の限界です.Cu Kα1 なら λ/2 = 0.77030 Å より細かい面は,どうやっても観測できません. より細かい構造を見たければ,短波長の Mo Kα1 や Ag Kα1 を使います.

線源λ [Å]見える最小の d = λ/2 [Å]
Cr Kα12.2897261.14486
Fe Kα11.9360410.96802
Co Kα11.7889960.89450
Cu Kα11.54059290.77030
Mo Kα10.709317150.35466
Ag Kα10.559421780.27971
波長の値について 上の値は RIETAN-FP マニュアルの表(Cr〜Cu は Hölzer et al. (1997) の高精度測定値)によります. pymatgen が内蔵する値は系列が違い(Cu Kα1 = 1.54056 Å),6 桁目で最大 4×10−5 Å ほどずれます(6 桁目まで一致するのは Fe Kα1 だけです). ただし Cu Kα1 を 1.54056 Å に替えても,2θ のずれは 120° でも 0.005° 未満なので, 実用上はどちらでも構いません(一般的な回折計の測定ステップ幅は 0.01〜0.02°). ※ Mo Kα1・Ag Kα1 の一次出典は要確認です.Hölzer et al. (1997) が測定したのは 3d 遷移金属(Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu)だけで, Mo と Ag は別系列の値です.
※ 実験室の X 線は単色ではありません 実験室光源は Kα1 と Kα2 の混合で,強度比はおよそ 2 : 1 です (統計的重み 2p3/2 : 2p1/2 = 4 : 2 による). モノクロメータを使わなければ,高角ほどピークが 2 本に割れて見えます. 加重平均 λ = (2λ1 + λ2)/3 = 1.5418711 Å を使うこともあります. 本教材の計算はすべて Kα1 単色を仮定しています.

3.5 3 つの物質で確かめる ―― dhkl は指数で決まり,ピークの高さは中身で決まる

式 (4) と式 (7) を,シミュレーター①で選べる 3 つの立方晶に当てはめてみます. 塩化セシウム CsCl(Pm-3m,a = 4.209055 Å)とチタン酸ストロンチウム SrTiO3(Pm-3m,ペロブスカイト型,a = 3.945130 Å)は単純立方 P, 塩化ナトリウム NaCl(Fm-3m,岩塩型,a = 5.691694 Å)は面心立方 F です. 原子の位置(慣用単位胞の分率座標)は次のとおりです.

(hkl)Nmhkl CsCl(Pm-3m)SrTiO3(Pm-3m)NaCl(Fm-3m)
d [Å]2θ [°]強度 d [Å]2θ [°]強度 d [Å]2θ [°]強度
100164.209121.0936.53.945122.523.95.691715.560(消滅)
1102122.976330.00100.02.789632.06100.04.024622.070(消滅)
111382.430136.9612.12.277739.5321.23.286127.118.1
200462.104542.9417.91.972645.9741.32.845831.41100.0
2105241.882348.3117.41.764351.772.92.545435.230(消滅)
2116241.718353.2737.21.610657.1437.72.323638.720(消滅)
2208121.488162.3511.51.394867.0423.62.012345.0165.9
31010241.331070.7215.91.247676.2616.21.799950.680(消滅)
31111241.269174.745.11.189580.726.31.716153.342.0
2221281.215078.694.01.138985.127.81.643155.9221.4

表の数値は,望月研究室の XRD 計算スクリプト(pymatgen の XRDCalculator,参考文献 3)が上の構造データ(参考文献 14)から計算した出力を丸めたものです. 波長は Cu Kα1 = 1.5405929 Å,範囲は 2θ ≤ 120° で,「強度」はその範囲の最強線を 100 とした相対強度(多重度 mhkl と Lorentz 偏光因子を含み,温度因子は含まない.§10)です. NaCl の (110) だけは出力に行が無かったので,d と 2θ を式 (4)(7) で計算し,強度は構造因子が 0 になることから「0(消滅)」と書きました. 出力では強度が 10−29 以下(倍精度の丸め誤差)になっている反射も「0(消滅)」と書いています. 格子定数は第一原理計算の値なので,実測の 2θ とは少しずれます(付録 A.6 の囲み).

表から読み取ってほしいことは 2 つです. 1 つ目は,面間隔 dhkl を決めるのは格子定数 a と指数 (hkl) だけだということです. 同じ物質の中では,N = h2 + k2 + l2 が大きい面ほど d が小さく,2θ は高角に来ます. 物質を替えても d の比は a の比でしか変わりません(どの列でも d100 : d110 : d111 = 1 : 1/√2 : 1/√3). (200) と (222) はそれぞれ (100) と (111) の 2 次反射を §3.3 の流儀で書き直したもので,d はちょうど半分です.

2 つ目は,ピークが立つかどうか・どれだけ高いかは d ではなく単位胞の中身で決まることです(§7,§8). 単純立方 P の CsCl と SrTiO3 では 10 個の反射がすべて立ちますが, 面心立方 F の NaCl では h, k, l の偶奇が混ざった (100)(110)(210)(211)(310) が消えます(式 (33)). 高さにも中身が効きます.電子数でおおまかに見積もると次のようになります.

→ xrd-simulator.html の ① Bragg の条件 で,物質と (hkl) を選び,θ を動かしながら 2 本の波の位相が揃う瞬間と,原子層からの波が強め合ったり打ち消し合ったりする様子を見てみましょう. Cu Kα1 のとき,①の読み取り値の 2θB と相対強度は上の表と同じ値になります(画面の読み方は付録 A.2).

4. 逆格子 ― なぜ逆空間で考えるのか

この章で分かること 逆格子ベクトルの定義と,2 つの重要な性質 ―― Ghkl は (hkl) 面に垂直で, その長さは面間隔の逆数の 2π 倍 ―― の証明. この章はゼロから始めます.固体物理を履修していなくても読めます.

Bragg の法則は「面」を主役にした見方です. ところが「面」は数え方がややこしく(どの面が (100) でどれが (200) か,など), 3 次元で扱おうとするとすぐに手に負えなくなります. そこで 1 枚 1 枚の面の集まりを,1 個の点で代表させてしまおうというのが逆格子の発想です. 「(hkl) 面という無限に広がる平行面の集まり」を, 「面に垂直で,長さが 1/dhkl に比例する 1 本のベクトル」に置き換えるのです. こうすると,回折の条件がベクトルの足し算 1 本で書けてしまいます(§5).

4.1 逆格子ベクトルの定義

実格子の基本ベクトル a1, a2, a3 と単位胞の体積 V=a1·(a2×a3) から,次の 3 本のベクトルを作ります.

なぜこの形なのか ―― 先に「欲しい性質」を決める 式 (9) を天下りに眺める必要はありません.順番はこうです.
(1) 面の集まり (hkl) を 1 本のベクトルで代表させたい.そのために ai·bj=2πδij を満たす 3 本 bj が欲しい(これが下の式 (10)).
(2) すると b1 は a2 にも a3 にも直交しなければならない. そういうベクトルは外積 a2×a3 の定数倍しかありません.
(3) 残った定数を a1·b1=2π から決めると,スカラー三重積が V なので係数は 2π/V ―― こうして式 (9) が出ます. つまり式 (9) は要請 (10) から一意に決まった答えであって, 誰かが思いついた便利な式ではありません.
(9) b1=2π a2×a3V , b2=2π a3×a1V , b3=2π a1×a2V

外積 a2×a3 は a2 と a3 の両方に垂直なので, b1·a2=b1·a3=0 です.一方 a1·b1=2π·a1·(a2×a3)/V=2π ―― スカラー三重積がちょうど V だからです.まとめると

(10) ai·bj =2πδij

この双対関係が,以下すべての計算の道具です.これ以外は何も使いません. そして (hkl) に対応する逆格子ベクトルを

(11) Ghkl= hb1+ kb2+ lb3

と定義します.h, k, l が整数の組すべてを動くと, Ghkl の先端は空間に格子状に並びます.これが逆格子(reciprocal lattice)です.

※ 誤解 5 2π が付く流儀と付かない流儀があります 本ページは固体物理の流儀(2π 付き)を採ります.望月研の固体物理学教材もこちらです. 結晶学・回折の教科書やソフトウェア(VESTA, pymatgen)は2π 無しの流儀を使います.
物理流儀(本ページ)結晶学流儀
双対関係ai·bj=2πδijai·aj*=δij
長さ|G|=2π/d|g|=1/d
波数|k|=2π/λ1/λ
Ewald 球の半径2π/λ1/λ
換算は |G|=2π|g| だけです. どちらを使っているかを毎回明示すれば,結果は同じになります.他書を読むときは, 最初にどちらの流儀かを確かめる習慣をつけてください.

4.2 Ghkl は (hkl) 面に垂直である

§2.1 の定義から,(hkl) 面は 3 本の軸を a1/h, a2/k, a3/l で切ります.この面の上に乗る,独立な 2 本のベクトルを取りましょう. 切片どうしを結べばよいので

u= a2k− a1h , v= a3l− a1h

です. Ghkl との内積を,式 (10) だけを使って計算します.

(12) Ghkl·u =(hb1+kb2+lb3)· (a2k−a1h) =k·2πk−h·2πh =2π−2π=0

同じ計算で Ghkl·v=2π−2π=0 です. Ghkl は面内の独立な 2 本のベクトルの両方に直交しているので, 面そのものに垂直です.□

h = 0 のときは たとえば h = 0 なら,面は a1 軸に平行なので, 面内ベクトルとして a1 そのものが取れます. Ghkl·a1=2πh=0 なので,結論は変わりません.

4.3 |Ghkl|=2π/dhkl であること

dhkl は「原点を通る面」と「その隣の面」の距離です. 隣の面は a1/h の点を通ります.§4.2 より面の単位法線は n^=G/|G| ですから,原点からその点へのベクトルを法線方向に射影すれば距離が出ます.

(13) dhkl =|a1h·n^| =|a1·G||h||G| =|2πh||h||G| =2π|G|

途中で使ったのは a1·Ghkl=2πh というただ 1 つの計算です.h で割ることで h が消え, 結果が h, k, l のどれを選んでも同じ値になる ―― ここが美しいところです. h = 0 のときは,h, k, l のうちゼロでない成分を 1 つ選んで (たとえば k ≠ 0 なら a2/k を使って) まったく同じ計算をすれば,同じ結論 d=2π/|G| になります(h = k = l = 0 なら (hkl) 面そのものが定義されません).

(14) |Ghkl| =2πdhkl (物理流儀) |ghkl| =1dhkl (結晶学流儀)

これで「面の集まり」と「1 個の逆格子点」が 1 対 1 に対応しました. 逆格子点 (hkl) の原点からの距離が,そのまま面間隔の逆数に比例している(結晶学流儀なら 1/dhkl,本ページの物理流儀ならその 2π 倍)―― これが逆格子の全てです. 実際,式 (2) は結晶学流儀の逆格子ベクトルの長さの 2 乗 |ha1*+ka2*+la3*|2 (= |Ghkl|2/(2π)2) を成分で書き下しただけのものです.

立方晶でたしかめる ―― 式 (4) がここから出ます 立方晶では ai=ae^i, V=a3 なので,式 (9) は bi=(2π/a)e^i というだけの式になります.したがって |Ghkl|=(2π/a)h2+k2+l2 であり,式 (14) の d=2π/|G| に入れると d=a/N ―― §2 の式 (4) がそのまま再現しました. §2(面間隔)・この章(逆格子)・§5(式 (37))は,これで 1 本につながります.
※ 誤解 6 dhkl は「隣り合う原子面の距離」ではありません dhkl は,あくまで幾何学的に定義された面の間隔です. たとえば fcc の (100) では d100 = a ですが, 実際には a/2 の位置にも原子が並んでいます. この「余分な面」が (100) 反射を消すのです ―― それが消滅則の正体です(§8).
本当はもっと深い話があります ここでは「逆格子とはこういうものだ」と天下りに導入しましたが, 本当は,周期的な電子密度 n(r+T)=n(r) を Fourier 展開すると,逆格子が自動的に現れます. この導出は 3 年次の固体物理学(望月研『固体物理学入門』第 3 章 3.1 節)にあります. いまは「面間隔の逆数を並べた格子」という絵を持っていれば十分です.

→ xrd-simulator.html の ② 逆格子と Ewald 球 で,実格子の面と逆格子点が連動して動く様子を見てみましょう.

5. Laue 条件 ― Bragg 則と同じことを言っている

この章で分かること 散乱波の重ね合わせから Δk=G という条件が出ること,そしてそれが Bragg 則と完全に同じ内容であることの証明. ついでに Brillouin 域との関係も見えます.

5.1 散乱振幅を全原子について足す

入射 X 線の波数ベクトルを k (|k|=2π/λ), 散乱後を k′ とします. 位置 r にある散乱体からの波は,原点にある散乱体に対して −Δk·r だけ位相がずれます.ここで Δk≡k′−k を散乱ベクトルといいます.結晶全体からの散乱振幅は

(15) A(Δk) ∝ ∑全原子 fj e−iΔk·rj

結晶では原子の位置が「格子並進 R + 単位胞内の位置」に分解できるので, 和も 2 つに分かれます.格子並進についての和は等比級数で, 格子点が N 個あるとき(この N は式 (4) の指数和とは別物です)

(16) ∑R e−iΔk·R = { N(Δk=Gのとき) ≈0(それ以外)

となります.なぜなら Δk=G のとき,式 (10) と R=n1a1+n2a2+n3a3 から G·R=2π(hn1+kn2+ln3) = 2π × 整数となり,指数関数がすべて 1 になって N 個が単純に足し合わさるからです. それ以外では位相がぐるぐる回って,膨大な数の項が打ち消し合います.

「打ち消し合う」を等比級数で確かめておきましょう.1 方向だけ取り出して x≡Δk·a1 と書くと,N 個の項の和は ∑n=0N−1e−inx=e−iNx−1e−ix−1 で,絶対値の 2 乗(= 強度に比例する量)をとると sin2⁡(Nx/2)/sin2⁡(x/2) になります.x = 2π × 整数 のところだけ値が N2 になり, そこから外れると N2 に比べて無視できる大きさに落ちます. この和を最後まで書き下したものが §11.1 の式 (42)(Laue の干渉関数)です. 厳密な形と,そこから出るピーク幅(= Scherrer 式)はそちらを見てください. 結晶が十分大きければ(N → ∞),この和は事実上ゼロです.したがって

(17) Δk= k′−k =G (Laue 条件)

5.2 Laue 条件から Bragg 則を出す

X 線の散乱は弾性散乱なので,エネルギーは変わらず |k′|=|k| です.式 (17) を k′=k+G と書いて,両辺を 2 乗します.

|k′|2 = |k+G|2 = |k|2 +2k·G +|G|2

左辺は |k|2 に等しいので,それを引いて

(18) 2k·G +|G|2 =0

ここで G は (hkl) 面の法線(§4.2)ですから, 入射線と面のなす角を θ とすると, k と法線方向のなす角は 90° + θ になります (入射線は面に「潜り込む」向きだからです).したがって k·G=|k||G|cos⁡(90°+θ)=−|k||G|sin⁡θ です.これを式 (18) に入れると

−2|k||G| sin⁡θ +|G|2=0 ⇒ |G|= 2|k| sin⁡θ

最後に |k|=2π/λ と式 (14) の |G|=2π/d を代入すれば

(19) 2πd= 2·2πλ sin⁡θ ⇒ 2dsin⁡θ=λ

これは式 (7),すなわち n = 1 の流儀の Bragg 則そのものです.□ Laue 条件と Bragg 則は,同じことを違う言葉で言っているだけだと分かりました. n 次反射は Gnh,nk,nl=nGhkl という別の逆格子点に対応します ―― Laue 条件は最初から n を指数に繰り込んだ形になっているのです.

2 つの見方の使い分け Bragg:直観的で,粉末パターンを読むのに便利.面と d で考える.
Laue:一般的で,逆格子とベクトルで考える.単結晶回折・バンド理論にそのままつながる.
どちらか一方だけ覚えても片手落ちです.同じ物理の 2 つの言語だと思ってください.

5.3 おまけ ― 回折条件は Brillouin 域の境界そのもの

式 (18) を書き直してみます.両辺を 4 で割ると

(20) k· (G2) =− |G2|2 ⇔ |k·G^| =|G|2

これは「k の先端が,原点と ±G を結ぶ線分の垂直二等分面(Bragg 面)の上にある」という条件です (G が逆格子点なら −G も逆格子点なので,± の区別は本質的ではありません). 逆格子点たちの垂直二等分面が囲む最小の領域を第一 Brillouin 域と呼びます.つまり

回折が起こる k = Brillouin 域境界上の k X 線回折が起こる条件と,電子のバンド構造にエネルギーギャップが開く条件は, まったく同じ式です.偶然ではありません.どちらも「格子の周期に合った波が, 前向きと後ろ向きに強く混ざる」現象だからです. これが「Bravais 格子 → 逆格子 → Brillouin 域 → バンド図」という道筋を支える物理で, §9 でもう一度触れます.

→ xrd-simulator.html の ② 逆格子と Ewald 球 で,k と k′ と G が三角形を作る様子を見てみましょう.

6. Ewald 球 ― 回折が起きる条件の作図

この章で分かること Laue 条件を紙の上に描く方法.そして「なぜ単結晶では反射がほとんど見えないのに, 粉末なら試料を回さずに全部見えるのか」という実験上の急所.

6.1 作図の手順

ここは結晶学の流儀(2π 無し,半径 1/λ)で描くのが標準なので,そちらで説明します. 物理流儀で描きたければ,全部の長さを 2π 倍してください.

  1. 逆格子を紙の上に描きます.原点を O とします.
  2. 入射ビームの向きに沿って,終点が O に来るように長さ 1/λ のベクトルを描き, その始点を C とします(C が結晶の位置に相当します).
  3. C を中心,半径 1/λ の球を描きます.これが Ewald 球(反射球)です. 作り方から,この球は必ず O を通ります.
  4. Ewald 球面上に逆格子点 P が乗ったとき,その反射 (hkl) が観測されます. 回折ビームの向きは C → P です.

図 2 Ewald 球(結晶学流儀,半径 1/λ).中心 C,逆格子の原点 O. 球面に乗った逆格子点 P について反射が起きる.散乱ベクトルは OP→=g, その長さは 1/dhkl.二等辺三角形 C–O–P の頂角の半分が Bragg 角 θ である. C は逆格子点である必要はない.

6.2 なぜこれが Bragg 則と同じなのか ―― 三角形 1 個で分かります

O と P はどちらも,中心 C・半径 1/λ の球面上にあります. だから三角形 C–O–P は二等辺三角形です. 弦 OP の長さは |g|=1/d. 頂角 ∠OCP の半分を θ と書くと,二等辺三角形を半分に割った直角三角形から

(21) |g|2 =1λ sin⁡θ ⇒ 12d= sin⁡θλ ⇒ 2dsin⁡θ=λ

この 1 行が Ewald 球の全てです.そして,この三角形から s=sin⁡θ/λ=1/(2d)=|g|/2 という関係も読み取れます.この s が,次章の原子散乱因子の引数になります.

6.3 単結晶では反射がほとんど見えない

固定した単結晶に,固定した波長の X 線を当てたとしましょう. 逆格子点は空間に離散的に散らばった点で,Ewald 球面は 2 次元の面です. 点が偶然その面に乗る確率は,ほとんどゼロです.だから

6.4 粉末法ではなぜ全部いっぺんに見えるのか

粉末試料は,あらゆる方位を向いた微結晶の集まりです. ある反射 (hkl) を考えると,微結晶の向きが全方位に散らばっているので, 逆格子ベクトル ghkl もあらゆる向きを取り得ます.つまり逆格子空間で見ると,「1 個の点」ではなく 原点 O を中心とする半径 1/dhkl の球殻になります.

この球殻(中心 O,半径 1/d)と Ewald 球(中心 C,半径 1/λ)は, 交われば必ず円で交わります.2 つの球が交わる条件は, 中心間距離が 2 つの半径の和と差の間にあることです. いまは中心間距離が Ewald 球の半径と同じ 1/λ なので,和の側 1/λ ≤ 1/d + 1/λ は自動的に成り立ちます. 残るのは差の側 |1/d − 1/λ| ≤ 1/λ です.1/d < 1/λ なら常に成り立ち, 1/d ≥ 1/λ なら 1/d − 1/λ ≤ 1/λ となるので,まとめると

(22) 1d≤2·1λ ⇔ λ≤2d

―― これは §3.4 の式 (8) そのものです.したがって

粉末法の御利益 λ ≤ 2dhkl を満たす反射は,すべて,試料を一切動かさずに同時に観測できます. 交線が円になることが,回折像が同心円(Debye–Scherrer 環)になる理由です. 2θ 走査型の回折計は,この環を 1 本の半径線に沿って切って強度を読んでいるだけです.
※ 誤解 7 粉末パターンに方位の情報はありません 粉末法で得られるのは |g|=1/d だけ,つまり「d の一覧表」です. g の向き(どの hkl か)の情報は,同じ d をもつ反射どうしで重なって失われます. 「ピークが 1 本もない 2θ 領域は,結晶がその方向に何も持っていない」という読み方は誤りです. たとえば立方晶の (300) と (221) は N = 9 で完全に重なります(§10.3).

→ xrd-simulator.html の ② 逆格子と Ewald 球 で,逆格子点が球面を横切る瞬間にピークが立つ様子を見てみましょう.

7. 構造因子 Fhkl ― ピークの高さを決めるもの

この章で分かること 原子 1 個の散乱能(原子散乱因子 f)と,単位胞 1 個の散乱能(構造因子 Fhkl). そして 7.3 の「分離定理」―― この教材の理論的な心臓部です.

7.1 原子散乱因子 f

X 線は原子の中の電子に散乱されます.原子 1 個には Z 個の電子が 半径 1 Å 程度に広がって存在しているので, それぞれの電子からの散乱波の間にも位相差が生じます. 原子散乱因子(atomic scattering factor.原子形状因子 atomic form factor ともいいます) f は,「その原子の電子雲全体からの散乱振幅を,自由電子 1 個からの散乱振幅で割ったもの」で, 電子密度 n(r) の Fourier 変換です (ここでは指数の符号を結晶学の慣用に合わせて + にとっています.球対称な n(r) では f は実数なので,符号をどちらにとっても値は同じです.§7.2 の注も参照).

(23) f(g)= ∫n(r) e2πig·r d3r

電子雲が球対称なら f は g の向きによらず, s=|g|/2=sin⁡θ/λ だけの関数になります.性質は 3 つだけ覚えれば十分です.

実際に数値を出すときは,f(s) を 4 個のガウス関数で近似した表を使います. 本教材とシミュレーターは,pymatgen と同じ次の式・同じ係数を採用しました.

(24) fj(s)= Zj−41.78214·s2 ∑i=14 ai e−bis2 , s=sin⁡θλ =12d
※ これは Cromer–Mann の式ではありません 結晶学で最も有名なのは Cromer–Mann の 9 パラメータ展開 f=∑aie−bis2+c ですが,式 (24) は形が違います.これは Mott–Bethe の関係式を使って, 電子散乱因子の 4 ガウス係数から X 線の f を逆算した形だと解釈するのが自然です ―― 下に述べる定数 41.78214 の正体からの推定であって,係数表そのものの一次出典は未確認です (参考文献 5 の注記を参照). 定数 41.78214 の正体は 8π2a0 で,実際 8π2 × 0.529177210903 Å = 41.782158 Å と一致します(相対差 4×10−7). 係数を Cromer–Mann のものと取り違えると,強度がまったく合わなくなります. なお Si の s = 0.2 Å−1 で両者を比べると差は 0.1 % で,実用上は同じです.
元素Zf(0)f(0.2)f(0.3)f(0.5)f(0.7)
C66.00003.56382.48911.70381.3921
O88.00005.62454.09352.33951.7281
Na1111.00008.32096.89934.23152.7434
Si1414.00009.68358.20126.27024.3588
Cl1717.000011.99209.55567.21305.6277
Fe2626.000020.060916.702211.56258.3462
Cu2929.000023.554519.829913.78099.7126

(s の単位は Å−1.f(0) = Z が厳密に成り立つことに注意.)

※ 中性原子の散乱因子を使っています この係数表は中性原子のみで,Na+ や Cl− のようなイオンの係数は含まれていません. イオン化による電子数の増減の効果は無視しています. 外殻電子は広がっているため f への寄与は低角に集中しており, 中角以上ではこの近似の誤差は小さいのですが,低角の弱い反射では効きます.

7.2 構造因子 Fhkl の導出

※ 位相の符号の取り直しについて §5.1 では,波の伝わり方に忠実に A∝∑fje−iΔk·rj と書きました(式 (15)).§7.1 の式 (23) から先は,結晶学の慣用に合わせて指数の符号を + に取り直しています ―― 以下の式 (25)(26) では φj=+Δk·rj です.観測量は |F|2 なので,全体の複素共役を取っただけのこの入れ替えで結果は 1 つも変わりません (Friedel の法則:|Fhkl|2=|Fh‾k‾l‾|2). 式 (15) の流儀に揃えたければ,以下に出てくる指数の符号をすべて逆にしてください.

単位胞の中の j 番目の原子の位置を,分数座標で rj=xja1+yja2+zja3 (0 ≤ x, y, z < 1)と書きます. 原点の原子に対する位相差は φj=Δk·rj=G·rj ですが(Laue 条件が満たされている位置で考えるので Δk=G), ここに式 (11) と上の rj を代入して, 式 (10) の ai·bj=2πδij を使うと,クロス項がすべて消えて

(25) G·rj =2π (hxj+kyj+lzj)

この 1 行が,これから出てくる全ての消滅則の源です. ここが導出の心臓部で, 格子定数 a, b, c も角度も,どこにも現れていないことに注目してください. したがって,単位胞 1 個からの散乱振幅は

(26) Fhkl= ∑j fj e2πi(hxj+kyj+lzj)

これを構造因子(structure factor)といいます.和は単位胞の中の全原子について取ります. 観測される強度は

(27) Ihkl∝ |Fhkl|2 =Fhkl Fhkl*
※ 位相は測定から失われます(位相問題) Fhkl は一般に複素数ですが, 観測できるのは |F|2 だけです. 偏角 arg F は測れません.これが結晶構造解析の位相問題で, 「回折パターンから構造を一意に逆算する」ことが原理的に難しい理由です.
記号と符号の流儀について 本ページは実務のソフト(VESTA・RIETAN・pymatgen)や X 線回折の教科書に合わせて, 構造因子を Fhkl, 指数を e+2πi(hx+ky+lz) と書きました.固体物理の教科書では SG=∑fje−iG·rj と,記号も符号も違う書き方をします(本ページの式 (15)(16) は,その固体物理の流儀のままです ―― §7.2 の冒頭で断ったとおり,式 (23) 以降で符号を取り直しています). |F|2 を取るので結果は変わりませんが,複素平面に位相を描くときは向きが逆になります.

7.3 格子部分と基底部分への分離 ―― 分離定理

※ 「分離定理」という呼び名は本ページ独自のものです. 標準的な術語ではないので,検索しても出てきませんし,他の授業でこの名前を使っても通じません. 同じ内容は望月研『固体物理学入門』第 3 章で定理 3.3 として述べられています.

ここからがこの教材の核心です.結晶は「Bravais 格子 + 基底」でできています. 慣用単位胞(conventional cell)を使うと,格子は中心化並進を含みます. その集合を {t1,…,tM} と書きましょう(P なら M = 1,I と C なら 2,R(六方軸)なら 3,F なら 4). 1 個の格子点に付随する原子の集まり(基底)を {r1,…,rn} とします.するとBravais 格子と基底の定義そのものによって, 単位胞内の全原子の位置は

(28) Rmj= tm+rj , m=1,…,M , j=1,…,n

と一意に書けます.しかもどの tm に付いている基底もまったく同じです ―― これが Bravais 格子の定義だからです. これを式 (26) に代入します.式 (25) より G·rj=2π(hxj+kyj+lzj) なので,2π はすでに G·r の中に入っています ―― 以下では肩を iG·r と書きます(2π を二重に掛けないこと). 指数関数の肩は足し算なので,指数関数の積に分かれます.

(29) Fhkl =∑m∑j fj eiG·(tm+rj) =∑m∑j fj eiG·tm eiG·rj = {∑m eiG·tm} × {∑jfj eiG·rj}

2 行目から 3 行目への変形が肝です. ∑m の中身は j を含まず, ∑j の中身は m を含まないので, 二重和が単純に積に分解できます(∑∑AB=(∑A)(∑B)). そこで

(30) Fhkl= S格子(hkl) × F基底(hkl) S格子= ∑m=1M e2πi(hum+kvm+lwm) ← Bravais 格子だけで決まる F基底= ∑j=1n fj e2πi(hxj+kyj+lzj) ← 箱の中身だけで決まる

と書きます(tm の分数座標を (um,vm,wm) としました). 散乱能が「格子の因子」と「中身の因子」の積に,完全に分かれました. ここから直ちに 2 つの結論が出ます.

分離定理から出る 2 つの結論 (1) S格子=0 になる (hkl) では, 基底が何であっても F = 0 です. すなわち Bravais 格子に由来する消滅則は,箱の中身に一切依存しません.
(2) F基底 の値(原子の種類と位置)は, ピークの高さだけを変えます.位置(2θ)は dhkl, つまり格子定数と「S格子≠0 という条件」だけで決まります.

→ xrd-simulator.html の ③ 構造因子と消滅則 で,複素平面上でベクトルが打ち消し合う様子を見てみましょう.

8. 消滅則を手で導く

この章で分かること P・I・F・C・R の 5 つの Bravais 中心化,そしてダイヤモンド型と hcp の消滅則を, Σ を全部書き下して導きます.使う道具は eiπn=(−1)n (n は整数)ただ 1 つです.

8.1 単純格子 P

中心化並進は (0, 0, 0) だけ(M = 1)ですから

(31) S格子= e2πi·0=1

常に 1.格子由来の消滅則はありません ―― Bravais 格子の側は,どの (hkl) も許します. (基底由来の消滅則は別にあります.§8.5 の ②・§8.6 を見てください.) たとえば CsCl 型(a = 4.123 Å)では,どの (hkl) も消えません ―― 100, 110, 111, 200, 210, 211, 220, 300/221, 310, 311, … という具合です (N = 7 が飛んでいるのは消滅則のせいではなく,h2+k2+l2 = 7 となる整数の組が存在しないからです. N = 15, 23, 28 なども同じ理由で現れません).

8.2 体心格子 I

中心化並進は (0, 0, 0) と (½, ½, ½) の 2 個(M = 2)です.

(32) S格子=1+ e2πi(h/2+k/2+l/2) =1+ eiπ(h+k+l) =1+ (−1)h+k+l
h+k+l(−1)h+k+lS格子判定
偶数+12許容
奇数−10消滅

規則:h + k + l が奇数のとき消滅. 物理的には,体心の原子が作る面がちょうど元の面の中間に来るので, そこからの散乱波が角の原子からの波と位相差 π(逆位相)になって打ち消し合うのです. h + k + l が偶数なら N = h2 + k2 + l2 も偶数(逆も真)なので, bcc では N が偶数の反射だけが出ます:110, 200, 211, 220, 310, 222, 321, 400, …

8.3 面心格子 F

中心化並進は (0,0,0), (0,½,½), (½,0,½), (½,½,0) の 4 個(M = 4)です.

(33) S格子=1 +(−1)k+l +(−1)h+l +(−1)h+k

4 つの場合を全部書き下します.偶奇の入れ替えは対称なので,これで尽きています.

場合k+lh+lh+kS格子判定
(i) h, k, l すべて偶偶 → +1偶 → +1偶 → +11+1+1+1 = 4許容
(ii) すべて奇偶 → +1偶 → +1偶 → +11+1+1+1 = 4許容
(iii) 偶 2 個・奇 1 個
(例:h, k 偶,l 奇)
奇 → −1奇 → −1偶 → +11−1−1+1 = 0消滅
(iv) 偶 1 個・奇 2 個
(例:h 偶,k, l 奇)
偶 → +1奇 → −1奇 → −11+1−1−1 = 0消滅

規則:h, k, l の偶奇が混在すると消滅(揃っているときだけ許容). 許される N は 3(111), 4(200), 8(220), 11(311), 12(222), 16(400), 19(331), 20(420), 24(422), 27(511/333), 32(440), 35(531), 36(442/600), … で, N = 1, 2, 5, 6, 7, 9, 10 は出ません(7 だけは F 格子の消滅則ではなく,そもそも組が無いためです).

fcc と bcc は,最初の 2 本の比だけで見分けられます Bragg 則から sin2⁡θ∝1/d2∝N なので,最初の 2 本の比は fcc なら 4/3=1.333, bcc なら 4/2=2.000. 実測パターンの最初の 2 本を測るだけで,格子の型が分かります.演習 4 でやってみましょう.

8.4 底心格子 C

ab 面が中心化された C 格子では,中心化並進は (0,0,0) と (½, ½, 0) です.

(34) S格子=1+ eiπ(h+k) =1+ (−1)h+k

規則:h + k が奇数のとき消滅(l は無関係). 同じ計算で A 中心(bc 面,(0,½,½))なら k + l 奇数で消滅, B 中心(ac 面,(½,0,½))なら h + l 奇数で消滅です. C 中心は 1 方向だけを潰すので,消滅則が l に依存しないのが特徴です. この特徴のおかげで,指数付けができた粉末パターンから C 中心化の有無を判定できます. 単斜晶 C 格子(C2/c など)は,単斜晶 P・三斜晶 P に次いでよく現れる格子です.

菱面体(R)中心化も手順はまったく同じです.六方軸で書くと中心化並進は (0,0,0), (⅔,⅓,⅓), (⅓,⅔,⅔) の 3 個(M = 3)で, t≡−h+k+l とおくと S格子=1+ωt+ω2t (ω=e2πi/3). 1 の 3 乗根の和は t が 3 の倍数のとき 3,そうでなければ 0 なので, −h+k+l が 3 の倍数でないとき消滅します (§8.6 の hcp で使う ω の計算とまったく同じ道具です). Al2O3(コランダム,R-3c)や方解石はこの格子です. 詳しくは『固体物理学入門』第 2 章 2.6 節を見てください.

Bravais 中心化中心化並進S格子消滅する条件最初の数本(立方系)
P(0,0,0)1なし100, 110, 111, 200, 210, 211
I+ (½,½,½)1 + (−1)h+k+lh+k+l = 奇数110, 200, 211, 220, 310, 222
F+ (0,½,½), (½,0,½), (½,½,0)式 (33)偶奇が混在111, 200, 220, 311, 222, 400
C+ (½,½,0)1 + (−1)h+kh+k = 奇数(晶系による)
R
(六方軸)
+ (⅔,⅓,⅓), (⅓,⅔,⅔)1 + ωt + ω2t
(ω = e2πi/3, t = −h+k+l)
−h+k+l ≠ 3n(六方晶)

8.5 ダイヤモンド構造 ―― 格子由来と基底由来の合わせ技

ダイヤモンド構造は「Bravais 格子 = 立方 F」+「基底 = 同一元素 2 原子 {(0,0,0), (¼,¼,¼)}」でできています. 分離定理 (30) を使えば,格子の因子はすでに §8.3 で求めた式 (33) そのままです. 残るのは基底の因子だけ.

(35) F基底=f [1+ e2πi(h+k+l)/4 ] =f [1+ih+k+l]

ここで e2πi/4=eiπ/2=i を使いました.n≡h+k+l とおくと, in は n mod 4 だけで決まります. F 格子の条件で残るのは「全部奇」か「全部偶」の 2 通りだけなので,それぞれを調べます. 以下の表の最後の数値列は,F 格子の因子 S格子 = 4 を掛けたあとの総和 |Fhkl|/f です.

場合n mod 4in1 + in|Fhkl| / f = |S格子 × F基底| / f判定
(a) 全部奇(n は奇数)1i1 + i4√2 = 5.657許容(中)
3−i1 − i4√2 = 5.657許容(中)
(b) 全部偶(n は偶数)0128許容(最強)
2−100消滅
ダイヤモンド構造の消滅則 ① h, k, l の偶奇が混在 → 消滅(F 格子由来)
② h, k, l がすべて偶で h+k+l = 4n+2 → 消滅(基底由来)
③ それ以外は許容

Si(a = 5.43102 Å,Cu Kα1)で検算してみましょう.

hkl偶奇nn mod 4規則の予言実際の 2θ [°]
111全奇33許容28.442
200全偶22消滅出ない ✓
220全偶40許容(強)47.302
311全奇51許容56.121
222全偶62消滅出ない ✓
400全偶40許容(強)69.129
331全奇73許容76.375
420全偶62消滅出ない ✓
422全偶80許容(強)88.028
511 / 333全奇7 / 93 / 1許容94.950
440全偶80許容(強)106.706
531全奇91許容114.089
※ 実在の Si では (222) が完全には消えません 非常に弱いピークが観測されます.Si—Si 共有結合の電子密度が球対称からずれているためです(結合電荷). 本教材が使っている球対称原子モデル(f が s だけの関数)では厳密にゼロになります. 歴史的に有名な例で,「モデルの限界がきれいに見える」好例です.

8.6 hcp ―― 基底だけから来る消滅則

六方最密充填(hcp)は,Bravais 格子が六方 P(中心化なし, S格子=1)で, 基底が同一元素 2 原子 {(0,0,0), (⅓, ⅔, ½)} です. したがって消滅則はすべて基底由来になります.

(36) Fhkl=f [1+ e2πi((h+2k)/3+l/2) ] =f [1+ (−1)l ωm] , ω≡e2πi/3 , m≡h+2k

ω は 1 の原始 3 乗根で, ω0=1, ω±1=−1/2±i3/2 です.また e2πi·l/2=(−1)l を使いました.4 つの場合を全部書き下します.

m mod 3l(−1)l ωm1 + (−1)l ωm|F| / f
0偶+122(最強)
0奇−100(消滅)
±1偶−½ ± 0.8660i½ ± 0.8660i1(弱)
±1奇+½ ∓ 0.8660i3/2 ∓ 0.8660i√3 = 1.7321(強)

|F| がいちばん大きいのは,h + 2k が 3 の倍数で l が偶数の反射((0002) や (112‾0) など)です (実測の強度にはさらに多重度や Lorentz 偏光因子が掛かるので(§10),最強線になるとは限りません. Mg では (101‾1) が最強線です).

hcp の消滅則 h + 2k が 3 の倍数で,かつ l が奇数のとき消滅. (h − k = 3n と書く教科書もあります. h+2k=(h−k)+3k なので,mod 3 では同じことです.) たとえば (0001), (0003), (112‾1), (336‾1)(3 指数で (001), (003), (111), (331))は消え, (0002) や (101‾1)(3 指数で (002), (101))は出ます.
※ 六方晶の 4 指数表記 (hkil) について 六方晶では,(hkl) を 4 つの数 (hkil) で書く流儀があります (Miller–Bravais 指数.i = −h − k なので情報は増えません). (001) は (0001),(002) は (0002),(101) は (101‾1) と書きます. 本ページは計算では 3 指数 (hkl) を使い,慣用的に呼ぶときだけ 4 指数を併記します. 上の例では 4 指数と 3 指数を併記しました ―― 3 指数の (111) と (331) は六方晶の指数で,立方晶の (111) とは別物です. なお負の指数は,§2.1 で決めたとおり上線 (1‾)で書きます.
消滅則には 2 種類あります ―― ここが大事です (A) Bravais 格子由来(§8.2〜8.4):S格子=0. 箱の中身に一切依存しない.
(B) 基底由来(§8.5 の ②,§8.6 の hcp):F基底=0. グライド面・らせん軸などの,基底の内部対称性から来る.
hcp は「六方 P だから格子の消滅則は無いのに,基底のせいで消える」という, (B) の教科書的な例です.この区別が §9 で効いてきます.

図 3 構造因子を複素平面(Argand 図)で見る. 左:fcc の (200).4 本のベクトルがすべて同じ向きを向いて S = 4 になる. 中:fcc の (100).2 本が +1,2 本が −1 を向いて完全に打ち消し合い S = 0(消滅). 右:ダイヤモンド構造の (111).基底の 2 本が 90° ずれて,合成の長さは √2 になる. 式 (33)(35) をそのまま図にしたものである.

数値でも検算してあります この章の 7 つの消滅則は,Σ を手で書き下したうえで, すべて数値計算でも確認しています.hcp については 14 個の (hkl) について |1+e2πi(h/3+2k/3+l/2)| を直接計算し,全 14 ケースで規則と一致しました. また,fcc(Cu)・bcc(α-Fe)・ダイヤモンド(Si)・岩塩型(NaCl)・CsCl 型・閃亜鉛鉱型(ZnS)・hcp(Mg)の 粉末パターンを,原子散乱因子から Lorentz 偏光因子まで全部自前で実装して計算し, pymatgen の XRDCalculator と 2θ は 10−4° 以内,規格化強度は 0.02 以内で 一致することを確認しています.

→ xrd-simulator.html の ③ 構造因子と消滅則 で,実際にベクトルの打ち消し合いを見てみましょう.

9. なぜ同じ Bravais 格子ならピーク位置が一致するのか【核心】

この章で分かること 「格子定数を揃えれば,Bravais 格子が同じ結晶は,どんな物質を入れてもピークの立つ位置が一致する」 ―― この主張を,式 (30) の分離定理から厳密に示します.そして, その正確な言い方(「立ちうる位置」)と,実際の数値による裏づけ.

9.1 主張 ―― 望月研究室の講義スライドより

この教材の背骨となる主張 「空間群が同じであれば,もっというと,Bravais 格子が同じであれば, primitive cell という名の『箱』にどんな物質をいれようとも,ピーク位置は一意に決定されるのだ.」
「ピークの高さは,構造因子(構成元素の電子数と元素サイト)で決定される.」
「Bravais 格子によって,Brillouin zone が決まる.」
―― 望月 泰英「物質の対称性と群論 1. 結晶系と Bravais 格子」 東京理科大学 望月研究室勉強会資料(2026 年 4 月 24 日)スライド 1-5, 1-6
※ 引用の句読点だけ本ページの表記(,.)に合わせています.

この主張は,ここまで積み上げてきた式だけで証明できます. ただし1 つだけ条件を明示的に足す必要があります:格子定数も揃えること. これを落とすと,主張は明確に誤りになります(同じ fcc でも a が違えばピークは動きます).

9.2 証明

§5.2 の途中で得た |G|=2|k|sin⁡θ を sinθ について解き, |k|=2π/λ を入れます.

(37) sin⁡θ = |G|2|k| = λ|G|4π

右辺を見てください. そこには λ(測定条件)と |G| しかありません. そして G=hb1+kb2+lb3 の bi は,式 (9) により ai だけから作られています. ai を決めているのは,Bravais 格子の型と格子定数だけです. 基底(どの元素がどこにいるか)は,どこにも現れていません.

一方,どの (hkl) が「許される」かは,式 (30) の S格子 がゼロかどうかで決まり, これも §8 で見たとおり中心化並進,すなわち Bravais 格子だけで決まります. そして強度は |S格子F基底|2 で,ここに基底が丸ごと入ってきます.したがって

定理(分離定理の帰結) 格子定数を固定したうえで Bravais 格子が同じなら, ピークが立ちうる 2θ の集合は完全に一致する. 箱の中身が変えられるのは,そのピークの高さだけである. ∎
※ 誤解 8 ピーク位置は原子の種類では動きません 「重い原子を入れたらピークが右にずれるのでは」と思ってしまう学生が毎年います. ずれません.重い原子は f を通じて高さだけを変えます. 位置を動かせるのは格子定数(と Bravais 格子の型)だけです. 実際,構造因子の式 (26) には格子定数がまったく現れず, 面間隔の式 (2) には原子の種類がまったく現れません ―― この見事な分業が XRD の全構造です.

9.3 数値による裏づけ ―― スライド 1-5 の再現

実際に計算してみましょう. 格子定数を共通の値に固定したまま,箱の中身だけを入れ替えて粉末 XRD パターンを計算します (Cu Kα1,λ = 1.5405929 Å).

グループ A:Bravais 格子 = 立方 F.a = 5.64000 Å に固定.

2θ [°]hkl NaCl
岩塩型 Fm-3m
NaCl
閃亜鉛鉱型 F-43m
NaCl2
蛍石型 Fm-3m
SrSO4
F-43m
27.367(111)8.08100.0019.6814.19
31.704(200)100.003.4237.40100.00
45.449(220)65.6462.42100.0064.90
53.870(311)1.9536.437.9833.70
56.474(222)21.230.537.1126.76
66.228(400)9.328.8614.233.44
73.072(331)0.9113.332.755.15
75.294(420)24.750.839.2026.74
83.994(422)18.2217.3328.5621.71
90.417(511)/(333)1.0910.301.8510.10
101.176(440)6.526.2010.5414.79
107.802(531)1.9512.861.984.10
110.062(600)/(442)15.641.208.1520.42
119.490(620)12.9712.3421.5016.88

14 本すべてが,小数第 5 位まで完全に一致しました. 4 つの構造は,原子の配置も,空間群も,構造によっては原子の種類も個数も違うのに (慣用胞あたりの原子数は,岩塩型 8・閃亜鉛鉱型 8・蛍石型 12・SrSO4 24 です), ピークの立つ位置は 1 本残らず同じです.違うのは高さだけ. たとえば (111) は,岩塩型では 8.08 しかないのに閃亜鉛鉱型では 100.00(最強線)です.

グループ B:Bravais 格子 = 立方 P.a = 4.20000 Å に固定.

2θ [°]hkl NaCl
CsCl 型 Pm-3m
Na3N
anti-ReO3 型 Pm-3m
Ag2O
赤銅鉱型 Pn-3m
21.136(100)5.88100.00消滅
30.066(110)100.005.521.57
37.044(111)1.1569.91100.00
43.038(200)16.8068.4241.90
48.423(210)1.2333.96消滅
53.391(211)33.023.090.41
62.496(220)9.7138.3633.80
66.763(300)/(221)0.5713.23消滅
70.897(310)12.811.320.13
74.931(311)0.3822.4234.85
78.889(222)3.0911.199.07
82.794(320)0.355.00消滅
86.666(321)14.501.330.13
94.381(400)1.534.995.82
98.260(322)/(410)0.746.51消滅
102.177(330)/(411)8.320.620.07
106.153(331)0.418.7119.38
110.211(420)5.3715.9017.65
114.378(421)0.935.71消滅
118.687(332)5.530.330.04

図 4 格子定数を固定したまま中身だけ入れ替えた粉末パターン(Cu Kα1). 上 4 段=グループ A(立方 F,a = 5.64000 Å),下 3 段=グループ B(立方 P,a = 4.20000 Å). 棒の位置は各グループ内で完全に揃い,高さだけが構造によって入れ替わる. Ag2O(最下段)では 6 本が基底由来の消滅則で欠けているが, 格子が禁じた位置に新しい棒が生えることは決してない.

9.4 正確な言い方 ―― 「立ちうる位置」

グループ B の表をよく見てください. CsCl 型と anti-ReO3 型は 20 本すべてが一致しますが, Ag2O だけは 6 本が欠けています(100, 210, 300, 320, 322, 421). これは主張の反例でしょうか.違います. Ag2O の空間群 Pn-3m では,§8.6 の hcp と同じく基底由来の追加の消滅則が働いているのです. 内訳は 2 種類で,100, 210, 300, 320, 410 は n グライドそのものの系統的消滅則 (0kl は k+l が奇数なら消滅,h00 は h が奇数なら消滅)で, 同じ 2θ に重なる 221, 322 と単独の 421 は,O(Wyckoff 2a)と Ag(4c)が特殊位置を占めていることから来る消滅です (Pn-3m の一般位置に原子を置けば,この 3 つは消えません). どちらも構造因子を書き下せば同じ式で出ます.

実際に構造因子を書き下すと,消えた 6 本はいずれも奇数指数がちょうど 1 個の反射です. Ag2O の慣用胞では,O が (0,0,0) と (½,½,½) にあるので O の寄与は 1+(−1)h+k+l で h+k+l が奇数なら 0, Ag は (¼,¼,¾), (¾,¼,¼), (¼,¾,¼), (¾,¾,¾) にあり, 奇数指数が 1 個のときは位相和が i−i+i−i=0 になります.両方が同時にゼロになるので消えるのです.

だから,こう言うのが正確です 「格子定数を揃えたうえで Bravais 格子が同じなら, ピークが立ちうる 2θ の集合は完全に一致する. 実際に立つピークはその部分集合であり, 格子が禁じた位置に新しいピークが生えることは絶対に無い.」
―― つまり Bravais 格子は位置の候補(上限)を決め,構造因子がそこからさらに間引くという二段構えです. この言い方は「全部一致する」より弱い主張ですが,そのぶん反例に出会っても崩れません. しかも「格子が禁じた位置には絶対に出ない」という一方向の断定を含むので,使う道具としてはこれで十分に強力です.
※ グループ A も「壊せます」 同じ立方 F でも,ダイヤモンド構造(Fd-3m)を a = 5.64 Å にしてグループ A に混ぜると, 200 / 222 / 420 / 600 の 4 本が消えて 10 本になります(§8.5 の規則 ② のため). やはり「新しい位置に生える」ことはなく,「間引かれる」だけです. これを知らずにダイヤモンドや Cu2O を計算すると,主張が矛盾しているように見えてしまいます.
有名な実例 ―― KCl 岩塩型では,基底を 陽イオン (0,0,0)・陰イオン (½,½,½) に取ると F基底 = f陽 + f陰(−1)h+k+l, 格子は立方 F なので許容反射では S格子 = 4 です(式 (30)(33)).すなわち Fhkl = S格子 × F基底 = 4[f陽 + f陰(−1)h+k+l].そのため, 全奇の反射(111, 311, 331, 511/333, 531)は f の差に比例し,全偶の反射は和に比例します. NaCl では Na(11 電子)と Cl(17 電子)の散乱能の差が和に比べて小さいので,全奇の反射がとても弱くなります((111) が 8.08). KCl では K(19 電子)と Cl(17 電子)がさらに近く ―― イオンとして見れば K+ と Cl− はともに 18 電子の等電子体です ―― 散乱能がほぼ等しくなり,奇数反射がほとんど消えて,見かけ上は辺 a/2 の単純立方のパターンになります (本ページの計算は中性原子の f を使っていますが,どちらで見ても結論は同じです). ―― ここでも,格子が禁じた位置に新しい線が出たわけではなく,許された線が消えただけです.

9.5 Bravais 格子 → 逆格子 → Brillouin 域

§5.3 で見たとおり,回折条件は Brillouin 域の境界の条件と同じ式です. そして Brillouin 域は「逆格子空間の Wigner–Seitz 胞」ですから, 逆格子だけで決まります.その逆格子は式 (9) により実格子だけで決まる. つまり

(38) Bravais 格子⟶逆格子⟶ {X 線回折のピークが立ちうる位置 Brillouin 域の形(→ バンド図・フォノン分散)

この 1 本の道筋が,スライド 1-6 の「Bravais 格子によって,Brillouin zone が決まる」の中身です. Si の電子バンド図に Γ–X–L–W–K という記号が並ぶのも, Si の Bravais 格子が立方 F だからです ―― ダイヤモンド構造だからではありません. 同じ立方 F の NaCl も,まったく同じ形の Brillouin 域(切頂八面体)をもちます. 回折の話とバンドの話は,同じ逆格子という 1 つの舞台の上で起きています.

数値でも検算してあります 上の 2 つの表は,構造データ(POSCAR)を慣用胞に直し, 分数座標をそのままに格子だけを共通の立方格子に差し替えて計算したものです. pymatgen の XRDCalculator(wavelength=1.5405929) を使い,2θ = 0〜120° で計算しました. グループ A の 4 構造は 2θ が小数第 5 位まで同一, グループ B は CsCl 型と anti-ReO3 型が 20 本すべて同一, Ag2O は 6 本欠けて 14 本 ―― という結果を, さらに,pymatgen のコードを使わず,同じ定式化(同じ原子散乱因子の係数表と同じ Lorentz 偏光因子)で書いた自作実装でも再現し, 2θ の差 < 5×10−7°,相対強度の差 < 5×10−14 で一致することを確認しています (これは実装の写し間違いが無いことの確認で,係数表そのものの正しさの検証ではありません).
※ 上の 7 つのうち,いくつかは実在しない「仮想構造」です この章は「同じ箱に別の中身を入れる」という思考実験なので, 表には実在しない組み合わせが混ざっています.
「NaCl 閃亜鉛鉱型 F-43m」と「NaCl2 蛍石型 Fm-3m」は, ZnS(閃亜鉛鉱)と CaF2(蛍石)の分数座標に Na と Cl を置いて作った仮想構造で, 実際に合成できる物質ではありません.「NaCl CsCl 型」も同様で, 常温常圧の NaCl は岩塩型だけです(CsCl 型は高圧相として知られています). SrSO4 の立方 F-43m も常温常圧の相ではありません (安定相はセレスタイト,斜方晶 Pnma). 実在の相として素直に読んでよいのは,NaCl 岩塩型・Ag2O 赤銅鉱型・Na3N(anti-ReO3 型)です. 「NaCl に閃亜鉛鉱型がある」「SrSO4 は立方晶」と憶えないでください.
※ 格子定数について 上の表の a = 5.64000 Å と 4.20000 Å は,比較のために任意に選んだ丸い値です. 実在の物質の格子定数ではありません(この章の主張を見せるには, むしろ揃えた値でなければ意味がありません). また元になった構造データの格子定数は実験値から 1〜2 % ずれており, 実測パターンや ICDD カードと 2θ を直接比べると数値が合いません.

→ xrd-simulator.html の ④ ピーク位置は Bravais 格子が決める で,格子定数を固定したまま中身を切り替えて,棒の位置が動かないことを自分の目で確かめてください.

10. 強度を決めるその他の因子

この章で分かること |F|2 だけでは実測の強度になりません.多重度・Lorentz 偏光因子・吸収を掛け,さらに温度因子を f に織り込む必要があります.

10.1 全体の形

(39) I(hkl)= C· mhkl· |Fhkl|2· L(θ)· P(θ)· A

C は測定全体にかかるスケール因子です (§2 以降で使ってきた s=sin⁡θ/λ と紛らわしいので,本ページでは C と書きます.文献では s と書かれることが多いので注意してください).

10.2 Lorentz 因子と偏光因子

(40) LP= 1+cos2⁡2θ sin2⁡θcos⁡θ

内訳は次のとおりです.※ 定数 1/2 の扱いに注意. 下の L と P をそのまま掛けると LP=(1+cos2⁡2θ)/(2sin2⁡θcos⁡θ) となり,式 (40) のちょうど半分になります. 文献(および pymatgen の実装)には,この 1/2 を式 (39) のスケール因子 C に吸収して 分母の 2 を落とす流儀があり,式 (40) はそちらを採っています. 相対強度しか問題にしないので,どちらでも結論は変わりません.

※ この LP は粉末 X 線専用です 単結晶回折や中性子回折では形が違います. また,モノクロメータ付きの装置では偏光因子が (1 + cos22θ cos22θM)/(1 + cos22θM) になります(θM はモノクロメータの角度). 本教材とシミュレーターは,この補正を入れていません.

10.3 多重度 mhkl

粉末では,対称的に等価な面(たとえば (100), (010), (001), (−100), (0−10), (00−1))が すべて同じ 2θ に重なります.その枚数が多重度(multiplicity factor)です. 数え方は覚える必要がありません.次の式で出ます.

mhkl= (h,k,lの相異なる並べ方の数) ×2(0でない成分の個数)
hklNm数え方 hklNm
100163 × 21400166
1102123 × 223311924
111381 × 234202024
200463 × 214222424
2105246 × 225112724
2116243 × 23333278
2208123 × 224403212
2219243 × 235313548
300963 × 214423624
31010246 × 22600366
31111243 × 236204024
2221281 × 235334324
32013246 × 226224424
32114486 × 23444488

(立方晶・点群 m-3m の場合.48 個の符号付き置換を総当たりで数え上げて検算済み.)

偶然の縮退に注意 N が同じなら 2θ も同じなので,指数の族が違っても重なります. N = 9 では (300) の m = 6 と (221) の m = 24 が重なって合計 30, N = 27 では (511) の 24 と (333) の 8 で合計 32, N = 36 では (600) の 6 と (442) の 24, N = 51 では (551) と (711) が重なります. プログラムで多重度表を持つより,−N…N の全 (hkl) を回して 2θ でまとめるほうが安全です ―― 多重度が自動的に入り,偶然の縮退も正しく足し合わされます.本教材の計算もこの方式です.

10.4 温度因子と吸収

(41) Tj= e−Bjs2 = e−Bjsin2⁡θ/λ2 , Bj=8π2 ⟨u2⟩

原子は熱で振動しているので,位置が完全には決まりません. そのぶん高角の反射が余計に弱くなります.これが Debye–Waller 因子(温度因子)で, 各原子の fj に掛けて使います. ⟨u2⟩ は原子変位の平均二乗です.

※ 本教材が入れていない効果 温度因子(B = 0 として無視),吸収,選択配向(texture), 装置由来のピーク広がり,Kα2 の重なりは,すべて入れていません(シミュレーター⑥だけは装置幅を簡易的に入れています). 実測パターンでは高角の強度がこれより弱く出ます. 吸収については,Bragg–Brentano の対称反射配置では 2θ にほぼ依らない定数になるので, 規格化した相対強度にはほとんど影響しません ―― これが無視できる理由です.
※ 誤解 9 強度は原子の「個数」に比例するのではありません 単位胞の中で同位相に並んだ原子は,まず振幅 F が足し算になり,強度はその 2 乗 |F|2 です.だから同位相の原子が 2 倍になれば,強度は 2 倍ではなく 4 倍になります. 同じ理由で,強度は散乱能 f の 1 乗ではなく 2 乗に効きます.
逆に位相が打ち消し合う反射は差 |fA−fB|2 に比例するので,散乱能の近い元素どうし(KCl の K と Cl)では劇的に弱くなります. 閃亜鉛鉱型 ZnS の (200) が弱いのも同じ事情です (この角度で fZn=24.9,fS=11.5 なので,振幅は fZn−fS=13.4 に減ります). 一方 (111) では 2 つの原子の位相が 90° ずれるので打ち消しがなく,振幅は fZn2+fS2 に比例します. |F|2 の比はおよそ 0.22 で,多重度(6 対 8)と Lorentz 偏光因子の違いも掛けると,(200) は (111) の 1 割ほどになります.

→ xrd-simulator.html の ⑤ 粉末 XRD パターン で,実際の結晶構造からパターンを計算してみましょう.

11. Scherrer 式とピーク幅

この章で分かること 結晶が有限の大きさになると,ピークがなぜ広がるのか. Scherrer 定数 K はどこから来るのか.サイズと歪みを分離する Williamson–Hall 法. そして,結晶子が小さいとピークの面積は変わらないまま高さが下がる理由.

11.1 干渉関数 ―― 有限枚の面を足す

§3.2 では「面が無限に積み重なっている」として,条件をぴったり満たすときだけ強め合うとしました. 実際の結晶子は有限で,(hkl) 面が N 枚しかありません(ここでも N は枚数で,指数和ではありません). 面 j(j = 0, 1, …, N−1)からの散乱波の位相を φj=2πjξ, ξ≡2dsin⁡θ/λ とおきます(ξ が整数のとき Bragg 条件が満たされます). 振幅の和は等比級数なので

(42) A= ∑j=0N−1 e2πijξ = e2πiNξ−1 e2πiξ−1 ⇒ |A|2= sin2⁡(Nπξ) sin2⁡(πξ)

これを Laue の干渉関数といいます.ξ が整数のところで高さ N2 の鋭いピークを作り, N が大きいほど鋭くなります.N → ∞ で δ 関数になり,§5 の Laue 条件に戻ります.

図 5 Laue の干渉関数(式 (42)).N = 3, 10, 30 の 3 通り. 縦軸は最大値で規格化してある.N が増えるほどピークは鋭くなり, 半値全幅は 0.885893 / N に漸近する. 結晶が小さい(N が小さい)ほどピークが太る ―― これが Scherrer 式の正体である.

11.2 幅を求める

ξ=n(整数)の近くで ε≡ξ−n とおくと, |ε| ≪ 1 で sin⁡(πε)≈πε と近似できて

|A|2≈ N2 [sin⁡(Nπε)Nπε]2

という sinc2 型になります. 半値になるのは sin⁡(x)/x=1/2 の点で,数値的に解くと x = 1.3915574 です. したがって ξ についての半値全幅は Δξ=2×1.3915574/(Nπ)=0.885893/N. これを 2θ に直します. ξ=2dsin⁡θ/λ を θ で微分すると dξ=(2dcos⁡θ/λ)dθ なので,結晶子の厚さを D=Nd, 2θ についての幅を β=2Δθ として

(43) β=KλDcos⁡θ ⇔ D=Kλβcos⁡θ (Scherrer の式)

ここで K = 0.885893(板状・柱状で,D を面法線方向の厚さに取った場合)―― 慣用値の 0.9 は,この数の丸めです.

幅の定義結晶子の形(D の意味)K
半値全幅 FWHM板状・柱状(D = 面法線方向の厚さ)0.885893
積分幅(面積 ÷ ピーク高さ)同上1.0000(厳密に 1)
半値全幅 FWHM球(D = 直径)1.1067
積分幅球(D = 直径)4/3 = 1.3333
積分幅球(D = 体積の立方根)1.0747
※ K = 0.9 は普遍定数ではありません K の値は,結晶子の形と幅の定義の両方に依存します. 0.9 は「FWHM を使い,結晶子を等方的(球)とみなし,サイズを体積の立方根で測る」場合の値(厳密には 0.8920)や,上の板状・柱状の 0.885893 を,まとめて丸めたものにすぎません. Scherrer 式で得られる「結晶子径」は,±20 % 程度の不確かさをもつ半定量的な量だと思ってください. 上の表の球の値は Langford & Wilson (1978) によるものですが,本教材でも球の共通体積関数 V(L)/V(0)=1−(3/2)(L/D)+(1/2)(L/D)3 の Fourier 変換から独立に検算しました. よく引用される 1.0747 は「積分幅を使い,サイズを体積の立方根で測る」ときの値で, 半値全幅と直径で測るときは 1.1067 になります ―― K を引用するときは, 必ず幅の定義とサイズの定義の両方を確かめてください.
※ 使う前に必ず 2 つ (1) 装置幅を差し引くこと. 観測される幅 βobs には装置由来の幅 βinst が含まれます. Gauss 型なら β2=βobs2−βinst2, Lorentz 型なら β=βobs−βinst. 標準試料(LaB6, Si など)で βinst を測っておく必要があります.
(2) β は必ずラジアンに直すこと. 度のまま入れると 57.3 倍間違えます.
※ 誤解 10 出てくるのは「粒径」ではありません Scherrer 式が与えるのは結晶子径(coherent domain size)です. 1 個の粒(粒子)の中に多数の結晶子が入っていることは,ごく普通にあります. 電子顕微鏡で見た粒径と食い違っても,どちらかが間違っているとは限りません.

11.3 Williamson–Hall 法 ―― サイズと歪みを分ける

ピークが広がる原因は 2 つあります.

  1. 結晶子サイズ: βsize=Kλ/(Dcos⁡θ) ―― cosθ にだけ依存します.
  2. 不均一歪み:Bragg 則を微分すると Δd/d=−cot⁡θΔθ なので,歪みの分布幅を ε=Δd/d(§11.2 で使った ε≡ξ−n とは別の量です)とすると βstrain=4εtan⁡θ ―― tanθ に依存します.

2 つが Lorentz 型で単純に足されると仮定して β=βsize+βstrain とし,両辺に cosθ を掛けると

(44) βcos⁡θ =KλD +4εsin⁡θ

横軸に 4 sinθ,縦軸に β cosθ(β はラジアン)を取ってプロットすると直線になり, 切片から結晶子径 D = Kλ/切片,傾きから微小歪み ε が読み取れます. 横軸を sinθ に取る流儀もあり,そのときは傾きが 4ε になります ―― どちらの流儀かを図の軸に明記してください.

※ Williamson–Hall 法の限界 Lorentz 型の加算を仮定しています.Gauss 型なら β2cos2⁡θ=(Kλ/D)2+(4ε)2sin2⁡θ をプロットします.また異方的な結晶子形状や異方的な歪みには対応できず, そもそも 3 本以上のピークがないと直線が引けません.
数値でも検算してあります K = 0.885893 は,式 (42) の干渉関数から半値点を数値的に求めた値です. 有限の N でも厳密に解いて確かめました:N = 10 で K = 0.889741, N = 30 で 0.886318,N = 100 で 0.885931 ―― N ≥ 30 なら極限値との差は 0.05 % 以下です. 積分幅で定義した場合は ∫sinc2=π から K が厳密に 1 になることも確認しました.

11.4 ピークの高さと面積 ―― 小さい結晶子ほどピークが低くなる理由

Scherrer 式は幅の話でしたが,幅が変わると高さはどうなるでしょうか. 答えは「面積(積分強度)は結晶子径 D によらず一定で,高さは幅に反比例して下がる」です. 理由を 2 段階で見ます.

(1) 結晶子 1 個. 式 (42) の干渉関数は,頂上の高さが N2,半値全幅が 0.885893/N でした. その面積(1 周期ぶんの積分)は,高さ × 幅のおおよその見積もりどおり N に比例し,しかも厳密に

(45) ∫n−1/2n+1/2 sin2⁡(Nπξ) sin2⁡(πξ) dξ=N

になります.式 (42) の和を |A|2=∑j∑j′e2πi(j−j′)ξ と展開して 1 周期で積分すると,j ≠ j′ の項はすべて 0 になり,j = j′ の N 項だけが 1 ずつ残るからです. つまり結晶子 1 個が出す回折の面積は,その結晶子に含まれる面の数(3 次元では単位胞の数,すなわち体積)に比例します. 頂上の高さ N2 は「全部の面の波が同位相で足し合わさる」ことの結果で,面積が N 倍になることと,幅が 1/N に狭まることの積です.

(2) 同じ量の粉末. 粉末試料の X 線が当たる体積 V試料 を一定にしたまま,結晶子を小さくしていくとします. 1 個の結晶子の体積を V1 とすると,結晶子の数は V試料/V1 個です. 別々の結晶子は位置も向きもばらばらなので,互いの散乱波の位相はそろわず,振幅ではなく強度(面積)が足し算になります. したがって試料全体の面積は

(1 個あたりの面積∝V1) × (個数=V試料/V1) ∝V試料

となり,D によりません. 一方,幅は式 (43) により β ∝ 1/D で広がります. §11.2 の表の「積分幅 = 面積 ÷ 高さ」を思い出すと,高さ = 面積 ÷ 積分幅なので, サイズ由来の幅が支配的なら,ピークの高さは D に比例して下がります(D を 1/10 にすると高さも約 1/10). D が大きくなって幅が装置幅に近づくと,幅はそれ以上狭くならないので,高さも頭打ちになります.

※ 誤解 11 「小さい結晶子は X 線を弱くしか散乱しない」のではありません 結晶子 1 個あたりの頂上の高さは確かに急に下がります.しかし同じ量の粉末には,小さい結晶子がそのぶんたくさん入っています. 試料全体が散乱する X 線の量(面積)は変わらず,それが広い角度に薄く配られるので,ピークが低く広く見えるのです. 逆に言えば,面積が変わるのは,試料の量(X 線が当たる体積)・充填の具合・測定時間・X 線源の強さなどが変わったときです. 高さを試料どうしで比べてよいのは,これらをそろえて測ったときだけです.

VESTA や pymatgen の計算パターンは,最強線を 100 にそろえて表示するのが普通です(§10,§12). これは相対強度の並びを比べて物質を同定するには便利ですが,こう規格化すると,D を小さくしたときに高さが下がる様子は見えなくなります. 測定装置が出す生データ(カウント数)は規格化されていないので,同じ条件で測った 2 つの試料なら,結晶子が小さいほうのピークが低く広く見えます. シミュレーター⑥が強度を規格化せず,固定目盛で描いているのはこのためです(付録 A.7).

→ xrd-simulator.html の ⑥ Scherrer 式 で,結晶子径を変えたときにピークが太り,そのぶん低くなる様子を見てみましょう(縦軸は規格化していません).

12. 実際の測定 ― 粉末法から Rietveld 解析へ

この章で分かること 実験室の回折計が何をしているのか,そして測ったパターンから構造をどう決めるのか. ここは概観だけです.深入りは 3 年次以降の講義と,研究室での実習に譲ります.

12.1 Bragg–Brentano 配置

実験室の粉末回折計でいちばん普通の配置が Bragg–Brentano 集中法です. X 線源・試料・検出器を,1 つの円(ゴニオメータ円)の上に置き, 試料を θ 回すと検出器が 2θ 回るように連動させます. この配置では,試料表面に平行な面(g が試料表面に垂直な向き)だけが 回折条件を満たすので,選択配向(結晶子の向きの偏り)の影響を受けやすいという弱点があります. 実用上の 2θ の範囲は,低角側が直接ビーム・空気散乱と,発散スリットで決まる照射幅が試料からはみ出すこと(footprint)のために 5〜10° 程度, 高角側がゴニオメータの機械的な制約で 150〜160° 程度です.

12.2 指数付け(indexing)

未知試料のパターンから出発するときの手順は,こうです.

  1. 各ピークの 2θ から d を出す(式 (7)).
  2. 立方晶を仮定して sin2⁡θ∝N=h2+k2+l2 の比を取る.小さい整数の比になれば立方晶の可能性が高く,比のパターンから P / I / F を見当づけられる(演習 4). ただし整数比は必要条件にすぎず,c/a が 1 に近い正方晶なども同じ比を与えるので,高角側の線まで含めて確かめること. P と I の区別には,N = 7 に相当する線が有るか無いかが効く.
  3. N と d から格子定数 a を出す.
  4. 立方晶で合わなければ,正方・六方…と自由度を上げていく(自動指数付けプログラムの仕事).

12.3 Rietveld 解析

ピークを 1 本ずつ拾うのではなく,パターン全体を計算値でフィットするのが Rietveld 法です. 格子定数・原子座標・占有率・温度因子・ピーク形状関数・バックグラウンド・選択配向・スケール因子… といった全パラメータを,観測値との残差 Rwp が最小になるように非線形最小二乗で動かします. 結晶構造そのものをパターンから精密化できる強力な方法ですが, 出発モデルが正しくなければ,収束しないか,見かけ上は収束しても誤った構造に落ち着いてしまうので, 「まず消滅則で空間群を絞る」という §8 の作業が前提になります.

同じ計算は VESTA でもできます 結晶構造ファイル(CIF や POSCAR)を読み込んで Utilities → Powder Diffraction Pattern を選べば, 本ページと同じ粉末パターンが計算できます. 講義でもこの手順を扱っています. 本教材の数値検証では,Python の pymatgen を使って次のように計算しました.
$ python3 ~/script/xrd_pattern_poscar.py -p POSCAR_NaCl_Fm-3m -s F
※ ソフトウェアは必ず引用してください VESTA・RIETAN-FP・pymatgen のようなソフトウェアを使って論文を書いたのに引用しないのは, 無償で提供してくださっている作者に対して非常に失礼なことです. 論文を引用しない = 敬意・感謝の意を示さないということです. 末尾の参考文献に,本教材が使ったソフトウェアとデータ源をすべて挙げてあります.

13. さらに深く学ぶために

この章で分かること 本ページで「天下りに導入した」ことや「触れるだけにした」ことが, 3 年次の固体物理学のどこで厳密に扱われるか.

望月研究室には,学部 3 年次向けの固体物理学教材『固体物理学入門』があります (全 20 章+付録).本ページの内容は,その第 1・2・3 章と全面的に対応しています. あちらは学部 3 年次の教材なので,いま全部を理解する必要はありません. 本教材でつまずいたときに戻る場所として憶えておいてください.

※ 下の表のリンク先はパスワード保護されています 『固体物理学入門』は学内限定です.パスワードを入れていない状態でリンクを踏むと, 節に着地せず研究室の教育ページに戻されます.
本ページ『固体物理学入門』の対応箇所そこで何が増えるか
§2 ミラー指数第 1 章 1.8 節なぜ逆数をとるのか.立方晶以外では (hkl) 面の法線が [hkl] 方向と一致しないこと
§2 7 晶系第 2 章 2.1〜2.2 節7 つの結晶系が「格子定数」ではなく「対称性」で定義されていること.なぜ 7 つで尽きるのか
§4 逆格子第 3 章 3.1 節電子密度の Fourier 展開から逆格子が自動的に現れる導出.2π の流儀についての数学ノート
§4.2, §4.3 の証明第 3 章 定理 3.1(3.2 節)本ページと同じ証明を,より簡潔に
§5 Laue と Bragg第 3 章 定理 3.2(3.4 節)両者の同値性の証明と,「Bragg は粉末向き,Laue はバンド理論向き」という役割分担
§6 Ewald 球第 3 章 3.4 節 の 3.4.2 項(図 3.2)回転法・粉末法・Laue 法がなぜ必要になるのか
§7 構造因子第 3 章 3.5 節電子密度の Fourier 変換から SG を導く厳密版
§8 消滅則第 3 章 3.5 節 の 3.5.1 項,第 5 章 5.5 節らせん軸・グライド面による消滅則.回折パターンから空間群を絞り込む方法
§9 核心第 3 章 3.6 節(定理 3.3)本ページの主張が定理として厳密に証明されている.望月研の数値実験の表もそこにある
§9.5 Brillouin 域第 2 章 2.7 節,第 3 章 3.7 節fcc の切頂八面体・bcc の菱形十二面体の作図.高対称点 Γ, X, L, W, K, U
§10 強度因子付録 B B.4 節 の B.4.2 項実際の強度式と,VESTA が内部で何を計算しているか.SrTiO3 の手計算例題
§12 Rietveld付録 BCIF の書き方,構造データベース(Materials Project・ICSD)の使い方
本ページを読む前に戻るとよい 3 節 第 1 章 1.1 節「結晶とは何か ― 格子と基底」 ―― §7.3 の分離定理の大前提です.「格子点=原子の位置ではない」という誤解もここで解けます.
第 1 章 1.7 節「代表的な結晶構造を読み解く」 ―― 岩塩型・閃亜鉛鉱型・ダイヤモンド構造が同じ Bravais 格子(立方 F)だという表があります. §9 の話そのものです.
第 2 章 2.3 節「格子点の詰め方 ― P, I, F, C, R」 ―― §8 の消滅則の直接の前提です.
※ 『固体物理学入門』は学内限定です 閲覧にはパスワードが必要です.入口は 研究室サイトの教育ページにあります. 第 3 章の章題は「逆格子・Brillouin 域・X 線回折」, 本ページの核心に対応するのは 3.6 節「なぜ Bravais 格子が同じならピーク位置が一致するのか」です.

14. 演習問題と解答

この章で分かること 手を動かさないと身につきません.解答はすぐ下に置いてありますが, まず自分で紙に書いてから見てください.波長は特に断らない限り Cu Kα1 (λ = 1.5405929 Å)とします.
演習 1 (100) の 2 次反射と (200) の 1 次反射 立方晶で d200=d100/2 であることを式 (4) から示し, 「(100) 面の 2 次反射」と「(200) 面の 1 次反射」が同じ 2θ に現れることを確かめなさい.
解答 1 式 (4) より d100=a/1=a, d200=a/4=a/2 なので d200=d100/2. (100) の 2 次反射は 2d100sin⁡θ=2λ, (200) の 1 次反射は 2d200sin⁡θ=λ. 後者に d200=d100/2 を入れると d100sin⁡θ=λ で,前者を 2 で割ったものと同じ.よって同じ θ .∎
演習 2 Al の (111) ピークの位置 fcc の Al(a = 4.03893 Å)について,(111) 反射の d と 2θ を求めなさい. また,Al で最初に現れる反射が (100) でも (110) でもなく (111) である理由を述べなさい.
解答 2 d111=4.03893/3=2.331877 Å. sin⁡θ=λ/(2d)=1.5405929/4.663754=0.33033, θ = 19.289°,2θ = 38.578°. (100) は N = 1,(110) は N = 2 で,どちらも偶奇が混在しているので F 格子の消滅則(式 (33))により消えます. 偶奇の揃う最小の N が 3,すなわち (111) です.∎
※ この a = 4.03893 Å は第一原理計算による値で, シミュレーター側の構造データと揃えてあります. 実験値は a = 4.0495 Å(室温)で 0.3 % 違い,そちらで計算すると d111 = 2.3380 Å,2θ = 38.47° になります. ICDD カードや教科書の値と比べるときは,こちらを使ってください. (他の演習で使う Fe 2.8665,Cu 3.6149,Mg 3.2094/5.2108,Si 5.43102 Å はいずれも実験値です.)
演習 3 bcc の消滅則 体心格子の S格子 を Σ から書き下し,消滅則を導きなさい. さらに,許される反射を N の小さい順に 5 本挙げなさい.
解答 3 中心化並進は (0,0,0) と (½,½,½) の 2 個なので,式 (32) のとおり S格子=1+(−1)h+k+l. h+k+l が偶数なら 2,奇数なら 0.よって h+k+l = 奇数で消滅. 許される反射は N = 2 (110), 4 (200), 6 (211), 8 (220), 10 (310). α-Fe(a = 2.8665 Å)なら (110) が 2θ = 44.671° で最強線になります.∎
演習 4 指数付け ―― 未知の金属を当てる ある金属の粉末パターンで,最初の 2 本が 2θ = 43.318° と 50.450° に出ました. (1) sin2⁡θ の比を求め,fcc か bcc かを判定しなさい. (2) 格子定数 a を求めなさい.
解答 4 (1) θ1 = 21.659°,sinθ1 = 0.36908,sin2θ1 = 0.13622. θ2 = 25.225°,sinθ2 = 0.42617,sin2θ2 = 0.18162. 比は 0.18162 / 0.13622 = 1.333 = 4/3. sin2⁡θ∝N なので N = 3 : 4,すなわち (111) と (200) ―― fcc です (bcc なら (110) と (200) で N = 2 : 4 = 2.000 になるはずでした).
(2) d111=λ/(2sin⁡θ1)=2.0871 Å, a=d1113=3.6149 Å. これは Cu の格子定数です.∎
演習 5 ダイヤモンドと閃亜鉛鉱 ―― (200) の運命 (1) ダイヤモンド構造で (200) が消えることを,式 (33) と (35) から示しなさい. (2) 閃亜鉛鉱型 ZnS は,ダイヤモンドとまったく同じ原子配置なのに,(200) が弱く現れます.なぜですか.
解答 5 (1) (200) は全部偶なので F 格子の因子は S格子=4≠0(許容). 基底の因子は n = h+k+l = 2 で n mod 4 = 2 なので i2=−1, F基底=f(1−1)=0. 積がゼロなので消滅します(基底由来の消滅則).
(2) 閃亜鉛鉱では 2 つのサイトが Zn と S という別の元素なので,基底の因子が fZn+fSin となり,(200) では fZn−fS≠0 です.同じ元素だから打ち消せたのであって,違う元素なら打ち消せません. 実際 ZnS(a = 5.4093 Å)では (200) が 2θ = 33.094° に強度 11.91 で出ます. そして,位置は fcc が許す位置のまま動きません ―― §9 の主張の,最も鮮やかな実例です.∎
演習 6 hcp の (0001) はなぜ出ないのか 式 (36) を使って,(0001) すなわち (hkl) = (001) が消滅することを示しなさい. また,この消滅則が Bravais 格子由来ではないことを説明しなさい.
解答 6 (001) では m = h + 2k = 0(3 の倍数),l = 1(奇数)です. ω0=1, (−1)1=−1 なので F001=f(1−1)=0. hcp の Bravais 格子は六方 P で,P には中心化並進が無いので S格子=1(消滅則なし). つまりこの消滅は完全に基底由来です. 幾何学的には,(0001) 面どうしのちょうど中間に z = 1/2 の原子層がもう 1 枚あるので, 実効的な面間隔が c/2 になっている ―― だから最初に出る基底面反射が (0002) になる ―― ということです. 実際 Mg(a = 3.2094, c = 5.2108 Å)では (0001) と (0003) は出ず, (0002) が 2θ = 34.393° に出ます.∎
演習 7 Scherrer 式を使う 2θ = 38.58° のピークの半値全幅が 0.30°(装置幅は差し引き済み)でした. K = 0.9 として結晶子径を求めなさい. 単位に注意.
解答 7 まず β をラジアンに直します: β=0.30×π/180=5.236×10−3 rad. θ = 19.29°,cosθ = 0.9439.式 (43) より D=0.9×1.5406/(5.236×10−3×0.9439)=281 Å ≒ 28 nm. ここで β を度のまま入れると 57.3 倍小さい値(約 4.9 Å)になり, 原子 2 個分という物理的にありえない答えになります. また,これは結晶子径であって粒径ではなく,±20 % 程度の不確かさがあります.∎
演習 8 この教材の核心を 5 行で 「格子定数を揃えれば,Bravais 格子が同じ結晶はピークが立ちうる位置が一致する」 ―― これを,式 (30) と (37) を使って 5 行程度で説明しなさい. また「一致する」ではなく「立ちうる位置が一致する」と言わなければならない理由を,1 つ例を挙げて述べなさい.
解答 8 ピーク位置は式 (37) sin⁡θ=λ|G|/4π で決まり,右辺には λ と |G| しかありません. |G| は式 (9)(11) により ai,すなわち Bravais 格子と格子定数だけで決まります. どの (hkl) が許されるかも,式 (30) の S格子 がゼロかどうかで決まり,これも Bravais 格子だけの関数です. 基底が入るのは F基底 だけで,これは強度にしか効きません.∎
「立ちうる位置」と言うべき理由:基底の内部対称性(グライド面・らせん軸)や,原子が特殊位置を占めることによって, F基底=0 となり,格子が許した反射がさらに消えることがあるからです. 例:Ag2O(Pn-3m)では立方 P が許す 20 本のうち 6 本が消えます(§9.4). ダイヤモンド構造も同様に,立方 F が許す位置の一部を間引きます. ただし格子が禁じた位置に新しいピークが生えることは絶対にありません.
演習 9 NaCl と KCl 岩塩型構造の F基底 を書き下し, h+k+l の偶奇によって f陽±f陰 のどちらになるかを示しなさい. そのうえで,KCl のパターンが NaCl と質的にどう違うかを説明しなさい.
解答 9 岩塩型の基底は 陽イオン (0,0,0) と 陰イオン (½,½,½) の 2 原子です(格子は立方 F). 式 (26) より F基底=f陽+f陰eiπ(h+k+l)=f陽+f陰(−1)h+k+l. F 格子が許すのは偶奇の揃う反射だけなので,全偶なら h+k+l は偶数で f陽+f陰(和), 全奇なら h+k+l は奇数で f陽−f陰(差)になります. Na(11 電子)と Cl(17 電子)の散乱能の差は和に比べて小さいので,NaCl では奇数反射が弱くなります ((111) の相対強度は 8.08,(200) は 100.00). KCl では K(19 電子)と Cl(17 電子)がさらに近く(イオンとして見れば K+ と Cl− はともに 18 電子の等電子体です. 中性原子とイオンのどちらで見ても結論は同じです),散乱能がほぼ等しくなって 奇数反射がほとんど消えます.その結果,見かけ上は辺 a/2 の単純立方のパターンに見えます. ―― ただし,これは「消えた」のであって,格子が禁じた新しい位置に線が出たわけではありません.∎
演習 10 多重度を数える 立方晶(点群 m-3m)で,(321) と (400) の多重度を §10.3 の数え方の式で求めなさい. また,N = 9 で何が起きるかを述べなさい.
解答 10 (321):3 個の数字がすべて異なるので並べ方は 3! = 6 通り,0 でない成分は 3 個なので 6×23=48. (400):4, 0, 0 の並べ方は 3 通り,0 でない成分は 1 個なので 3×21=6.
N = 9 では (300)(m = 6)と (221)(m = 24)が同じ 2θ に完全に重なります. これが立方晶で最初に起きる「偶然の縮退」で,合計の重みは 30 になります. 粉末法では方位の情報が失われているため,この 2 本を分離することは原理的にできません.∎

付録 A. シミュレーター(xrd-simulator.html)で見ていること

この付録で分かること 対になるシミュレーター xrd-simulator.html の 6 つのタブが,それぞれ何を描いていて,どの操作が何を意味するのか. そして,画面に出てくる数値がどんな近似で計算されているのか. シミュレーターの画面には短い説明しか置いていないので, 「この図はどう読めばよいのか」と思ったらここに戻ってきてください. 式の導出そのものは本文の各章にあるので,この付録では本文を参照するだけにとどめます.

A.1 ページ全体 ―― 6 つのタブと授業との対応

シミュレーターは,本文と同じ順序で 6 つのタブに分かれています. まず①で,CsCl・SrTiO3・NaCl の 3 つの物質と面 (hkl) を選び,面間隔 dhkl が指数で決まること, 2dhkl sinθ = λ で隣り合う面からの波が強め合うこと,そしてそのピークの高さを 1 周期の中の原子層が決めることを目で見ます. ②では逆格子をゼロから導入して Ewald 球を描き,Laue 条件が Bragg 条件と同じことを言っているのを確かめます. ③では構造因子を複素平面上のベクトルの和として描くので, 面心立方で偶奇の混ざった hkl がどうやって打ち消し合って消えるのかがそのまま見えます. ④では格子定数を固定したまま箱の中身だけを入れ替えても,ピークの立つ 2θ は動かないことを, 岩塩型・閃亜鉛鉱型・蛍石型・SrSO4 型(いずれも立方 F)などで確かめます. これが §9 の主張で,この教材の背骨です. ⑤では実在の 27 の結晶構造の粉末パターンをその場で計算し, ⑥では Scherrer 式を使ってピーク幅から結晶子径を測ります.

東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科「無機材料学」の第 4 回で扱うのは ①・③・⑤ の 3 つです. この 3 つは指定教科書『よくわかる無機材料化学』の 1-2 節「X 線回折法」(p. 6–13)に対応しています(参考文献 13). ②・④・⑥ は発展で,授業では扱いません. とくに②の Brillouin 域,⑤から案内している Rietveld 解析(§12.3),⑥の Williamson–Hall プロットは 3 年次以降の内容なので, 2 年生のうちは「そういうものがある」と眺めておくだけで構いません.

タブ画面で見ること授業での扱い本文の対応箇所
① Bragg の条件3 物質の単位胞と (hkl) 面,面間隔 dhkl,隣り合う面からの波と原子層からの波の干渉第 4 回§2, §3
② 逆格子と Ewald 球実格子と逆格子,Ewald 球の作図,単結晶と粉末の違い発展§4, §5, §6
③ 構造因子と消滅則回せる 3 次元の単位胞と,複素平面上の散乱波のベクトル和第 4 回§7, §8
④ ピーク位置は Bravais 格子が決める格子定数を揃えて中身だけ替えたパターンの比較発展§9
⑤ 粉末 XRD パターン実在の 27 構造の粉末パターン,指数付け,パターンの重ね合わせ第 4 回§10, §12
⑥ Scherrer 式結晶子径と歪みによるピークの広がりと高さの変化(規格化しない固定目盛),幅から結晶子径を逆算する練習発展§11

どのタブも,左に図(キャンバス),その下に凡例・読み取り値の表・そのタブの鍵になる式(式だけで,説明文は付けていません)・「ひとこと」の欄が並び, 右(スマートフォンでは下)に操作欄があります. 「ひとこと」は,スライダーを動かすたびにいまの状態に合わせて書き換わる 1〜2 文の短い知らせです. シミュレーターの画面の説明は,授業の画面に埋め込んでも読み切れるように短くしてあり, 各タブの「ひとこと」の欄の下にある「詳しい解説」のリンクから,この付録の対応する小節(A.2〜A.7)に飛べます. ①と③の単位胞は 3 次元で描いてあり,マウスのドラッグ(スマートフォンでは 1 本指)で回せます.ダブルクリックか「向きを戻す」ボタンで元の向きに戻ります. アドレスの末尾に #bragg,#ewald,#structure,#bravais,#powder,#scherrer を付けると,そのタブを開いた状態でページが表示されます(本文の各章末のリンクはこれを使っています). ?only=bragg のように書くと,そのタブだけを表示します.

以下の各小節の末尾に「もっと深く」として挙げる先は,すべて望月研究室の学部 3 年次向け教材『固体物理学入門』です. この教材は学内限定で,閲覧にはパスワードが必要です(§13 を参照).

A.2 ① Bragg の条件

このタブでは,実在の 3 つの立方晶 ―― CsCl(Pm-3m),SrTiO3(Pm-3m,ペロブスカイト型),NaCl(Fm-3m,岩塩型)―― のどれかと,面 (hkl) を 1 つ選びます. 選んだ面の面間隔は,立方晶なら §2.3 の式 (4),dhkl = a/√(h2+k2+l2) です. Bragg 則で大事なのは,面間隔 d が勝手な数ではなく,格子定数とミラー指数 hkl で決まるということで, h2+k2+l2 が大きい面ほど d が小さく,高角に出ます. 構造データは望月研究室の POSCAR(慣用単位胞)そのもので,3 つの物質の d・2θ・相対強度は §3.5 の表にまとめてあります.

操作欄. 「物質」のプルダウンで 3 つの物質を,「結晶面(ミラー指数)」の 10 個のボタンで (100)(110)(111)(200)(210)(211)(220)(310)(311)(222) を選びます. 立方晶では N が同じ別の族が同じ 2θ に重なることがあるので((300) と (221) など.§2.3,A.6),そうした面はボタンに入れていません. 「X 線の波長」はスライダー(0.50〜2.50 Å)と Cu Kα1・Mo Kα1・Cr Kα1 のボタンで変えます. ボタンは §3.4 の表の値を入れます.スライダーは 0.01 Å 刻みなので,ボタンで入れた正確な値とはスライダーの位置が少しずれますが, 計算にはボタンの値(Cu Kα1 なら 1.5405929 Å)をそのまま使っています. 「入射角」のスライダーは θ を 0.1〜90° の範囲で 0.1° 刻みに動かし,「Bragg 条件に合わせる」ボタンで θ を Bragg 角 θB に戻します. 物質・面・波長を変えると,θ は自動的に θB に合います. 既定は CsCl の (100) 面・Cu Kα1 です.

左上(スマートフォンでは上)の 3 次元の図. 単位胞の原子を元素ごとの色で描き,境界上にある周期的な像も描いています(数え方は A.4). 球の大きさはイオン半径(Shannon の値)に比例させていますが,重なって見えにくくならないよう実際の 0.4 倍に縮めてあります. 半透明の青い面が (hkl) 面の族で,単位胞を横切る面をすべて描いています. 指数を大きくするほど面が細かく並び,その間隔が dhkl です. (200) は (100) の面の間にもう 1 枚ずつ面を挟んだもので,(200) の面の上にも原子はあります(§2.3 の誤解 2). 青い矢印が入射 X 線,赤い矢印が回折 X 線で,単位胞の中央付近の面で「反射」する向きに描いています. 図はドラッグで回せます.

右上(スマートフォンでは 2 段目)の断面図. (hkl) 面を真横から見た図で,見出しの「[0 0 1] 方向から見た断面」のように,面と平行な方向(晶帯軸)から見ています. (hkl) 面は水平な線(m = 1, 0, −1, …)に見えます. 円は,見る方向に沿って並んだ原子の列を列に沿った一定の長さ(単純立方格子の周期ぶん.F 格子では格子の周期の 2 倍になる列もあります)だけまとめて投影したもので, 1 つの列に何種類かの元素が入っているときは,個数の比で扇形に塗り分けています (たとえば NaCl の (100) を [0 0 1] 方向から見ると,Na と Cl が交互に並ぶ列になるので円は半分ずつの色になります). 面の上に乗っていない原子が面と面の間にあることが,下の 2 本目の帯(高さ)に効きます. 2 組の入射線・回折線は面 m = 1 と m = 0 で「反射」する波で,オレンジの折れ線が行路差 2d sinθ(§3.1 の式 (5),図 1 と同じ作図), 右端の寸法線が面間隔 d です.

下の 1 本目の帯「位置を決める」. 隣り合う面 m = 0 と m = 1 からの波(青と赤)と,その和(紫の太線)です. 見出しの「和の振幅 … / 2」が 2 になるのは行路差が λ の整数倍のときで, ここで回折線が立ちうる,つまりピークの位置 2θ が決まります(§3.1 の式 (6),§3.2). θ のスライダーを動かすと,行路差 ÷ λ(読み取り値の欄)が変わり,和の振幅が上下します. 画面では 2 枚の面しか足していませんが,実際の結晶には面が何百万枚もあるので,条件から少しでもずれると散乱波は打ち消し合います. 回折線が鋭い線になるのはこのためで,面の枚数が有限だとどれだけ太るのかが §11 の話です. ひとつ注意があります.和の振幅は 2|cos(π × 行路差 ÷ λ)| なので,θ → 0(行路差 ÷ λ → 0)でも 2 に近づきますが, これは前方へ直進する透過ビーム(n = 0)にあたり,回折線ではありません.行路差 ÷ λ が 0.5 に近づけば振幅は 0 に落ちます(たとえば 0.4 で約 0.62).

下の 2 本目の帯「高さを決める」. 1 周期(隣り合う面の間)の中で,原子は面の上だけでなく,面と面の間の決まった高さにも並んでいます. その高さを面間隔を 1 とした分率 z(hx+ky+lz の小数部分)で表し,同じ高さの原子をまとめて 1 枚の「原子層」とみなします. 帯の 2 行目の「z = 0:Na×2+Cl×2 / z = 1/2:…」が単位胞 1 個ぶんの原子層の内訳で, 破線がそれぞれの層からの波(色は層に含まれる元素の色を散乱能で重み付けして混ぜたもの,振幅は層の原子散乱因子 f の和),紫の太線がその和です. 層 z からの波の位相のずれは 2π z ×(行路差 ÷ λ)で,Bragg 角ではちょうど 2π(hx+ky+lz) になるので, Bragg 角での和の振幅は構造因子の大きさ |Fhkl| そのものです(§7.2 の式 (26)).見出しにはいまの和の振幅と,Bragg 角での |F| が並びます. たとえば CsCl の (100) では z = 0 の Cs と z = 1/2 の Cl が逆位相になって |F| = fCs − fCl に弱まり, NaCl の (100) では z = 0 と z = 1/2 の層がまったく同じ中身(Na×2+Cl×2)なので完全に打ち消し合います. NaCl の (200) では全部の原子が z = 0 の層に入り,最強線になります. 1 本目の帯で位置の条件を満たしていても,2 本目の帯の和が 0 ならピークは立ちません ―― これが③で扱う消滅則です(§8). なお,この帯の f は Bragg 角での値(s = 1/(2d),中性原子,温度因子なし)に固定していて,θ を動かしても変えていません.

読み取り値. 物質と格子定数 a,(hkl) と N,面間隔 d = a/√N,波長 λ,Bragg 角 θB と 2θB, いまの θ と行路差 ÷ λ,1 周期の原子層の内訳,Bragg 角での |F|2,相対強度が出ます. 相対強度は,同じ物質・同じ波長の粉末パターン(A.8 と同じ計算,2θ ≤ 150°)の中で最強線を 100 としたものです. 消滅する反射は「0(消滅)」,λ > 2d なら「―」,2θ が 150° を超えると「範囲外」と表示されます. Cu Kα1 のときの値は §3.5 の表と一致します. 「ひとこと」の欄は,強め合っているとき・消滅するとき・θ がずれているとき・λ > 2d のときに,それぞれ短く知らせます.

λ > 2d のとき. sinθ = λ/(2d) が 1 を超えてしまうので,θ をどう振ってもこの面からの反射は出ません. §3.4 の式 (8) で述べた分解能の限界で,このときは物質・面・波長を変えても θ は自動では動かず,「Bragg 条件に合わせる」ボタンも押せなくなり,「ひとこと」の欄に警告が出ます. Mo Kα1 のような短い波長に替えるか,d の大きい(指数の小さい)面を選ぶと反射が戻ってきます.

n = 1 の流儀. このタブは 2dhkl sinθ = λ(§3.3 の式 (7))だけを扱い,n = 2, 3, … は使いません. n 次反射は,結晶学では「(nh nk nl) 面の 1 次反射」と読み替えるからで,たとえば (100) 面の 2 次反射は (200) 面の 1 次反射です. θ を上げていって行路差がちょうど λ の 2 倍・3 倍になると,「ひとこと」の欄は「(2 0 0) 面の反射として数えます」のように読み替え先を示します. ②以降のタブもすべてこの流儀で描いています. X 線は面で本当に鏡のように反射しているわけではないこと,θ は面からの角で装置の表示する 2θ の半分であることは,§3.1 の誤解 3・誤解 4 を読んでください.

※ SrTiO3 は POSCAR どおり Sr を原点に置いています.⑤のタブの SrTiO3 は Ti を原点に取っているので,原子層の内訳の表示は違いますが, 原点の取り方で変わるのは F の位相だけなので,|F|2 と強度は同じです.

もっと深く:『固体物理学入門』第 3 章 3.3 節(Bragg の法則,図 3.1).同じ図と同じ注意書きがあります.

A.3 ② 逆格子と Ewald 球

左の図は 2 次元の長方格子(実格子),右の図はその逆格子と Ewald 球です. ミラー指数と面間隔の定義は §2.1,逆格子を「面の族 1 つを,面の法線を向き・1/dhkl を長さとするベクトル 1 本で表す」ものとして導入する動機は §4 の冒頭で述べたとおりです. 操作欄で実格子の a を大きくすると,右の逆格子の a* は小さくなります. 実格子と逆格子は「伸ばすと縮む」関係にあり,「逆」とはこの意味です. ただし画面について 2 つ断っておきます. ひとつは,画面が 2 次元なので,(hk) は正しくは「面」ではなく格子直線だということ(3 次元にはそのまま拡張できます). もうひとつは,a* = 1/a という単純な関係が成り立つのは,この画面のような直交格子の場合だけだということです. 一般には a* は b と c の両方に垂直に取るので(§4.1),a とは平行になりません.

※ シミュレーターは 2π の無い「結晶学の流儀」で描いています シミュレーターでは ai·a*j = δij,|g| = 1/d,Ewald 球の半径は 1/λ です. 本文 §4・§5 の固体物理の流儀(2π 付き)では |G| = 2π/d,半径は 2π/λ となり, 全体が 2π 倍になるだけで結論は同じです. 記号も対応していて,シミュレーターの g・a*i は, 本文 §4・§5 や『固体物理学入門』第 3 章ではそれぞれ G・bi と書かれます. どちらの流儀を使っているかを毎回確かめる習慣をつけてください. この付録の「もっと深く」で挙げた節を開くときも,この読み替えをしてください.

右の図では,逆格子の原点 O に終点が来るように入射波数ベクトル(長さ 1/λ)を描き, その始点 C を中心に半径 1/λ の円を描いています.これが Ewald 球です(§6.1). この球面上に逆格子点 P が乗ったとき,その反射が観測され,回折線の向きは C → P,散乱ベクトルは g = OP(長さ 1/d)です. 三角形 C-O-P が二等辺三角形であることから 2d sinθ = λ が出ることは,§6.2 の式 (21) で示しました. 逆格子点が球面に乗ると,「ひとこと」の欄は黄色の g が散乱ベクトル Δk = k′ − k で, それが逆格子ベクトルにぴったり一致していること,つまり Laue 条件(§5)が満たされていることを知らせます. なお,シミュレーターは画面上で球面から 2.6 px 以内にある逆格子点を「乗っている」と判定しています. 実際の結晶にも微結晶の向きのばらつき(モザイク広がり)があるので,数学的に厳密な一致が要求されるわけではありません.

固定した単結晶に固定した波長の X 線を当てても,球面にちょうど乗る逆格子点はふつう 1 つも無く,回折は起きません(§6.3). このとき「ひとこと」の欄は「いま Ewald 球面に乗っている逆格子点は無く…」と知らせます. ただし判定は上に書いたとおり画面上の px で行うので,既定の状態(a = 4.00 Å,b = 3.00 Å,λ = 1.54 Å,ω = 0°)では, (h, k) = (−3, ±2) の逆格子点(球面からのずれ 0.025 Å−1)などが「乗った」と判定され,「ひとこと」の欄にもそう出ます. 厳密には乗っていませんが,画面の上ではそのずれが 2.6 px に満たないためです. 図が小さい(画面の幅が狭い)ほど 1 px が表す長さが大きくなるので判定は甘くなり,(−5, ±1)(ずれ 0.038 Å−1)なども「乗った」側に入ります. 読み取り値の欄の「球面からのずれ |Δg|」で,どれだけ離れているかを確かめてください. 「結晶の回転 ω」のスライダーや「ω をゆっくり回して反射を探す(1 度ずつ)」のボタンで結晶を回し, 逆格子点を球面まで持ってくるのが回転結晶法にあたります. 「粉末試料にする」にチェックを入れると,微結晶があらゆる向きを向くので, 1 個の逆格子点が原点を中心とする輪(3 次元なら球殻)に化けます. その半径 1/d が限界球の半径 2/λ 以下なら輪は必ず Ewald 球と交わるので, λ ≤ 2d を満たす反射が試料を 1 度も回さずに全部同時に観測でき,その本数が読み取り値の欄に出ます. これが §6.4 の式 (22) と「粉末法の御利益」の囲みの内容で,交線が Debye–Scherrer 環になる理由もそこに書きました. 「限界球 |g| = 2/λ を描く」のチェックは,この境界の円を表示するものです.

発展として,Laue 条件と弾性散乱の条件を連立すると 「k の先端が,原点と逆格子点を結ぶ線分の垂直二等分面の上にある」という条件になり, その面が囲む最小の領域が第一 Brillouin 域です. 回折が起きる波数とバンドギャップが開く波数が同じなのは偶然ではありません.§5.3 の式 (20) を参照してください.

もっと深く:『固体物理学入門』第 3 章 3.1 節(Fourier 展開から逆格子が自動的に現れる), 3.4 節(Laue 条件と Ewald 球,定理 3.2),3.7 節(Brillouin 域).

A.4 ③ 構造因子と消滅則

左の図は選んだ格子型の単位胞,右の図は複素平面です(幅の狭い画面では単位胞が上,複素平面が下に並びます). 単位胞の中の原子 1 個が,右の図の細い矢印 1 本に対応します(境界上に描いた周期的な像は数えません.下の囲み). 矢印の長さは散乱能 fj,向きは位相 2π(hxj + kyj + lzj) で, 矢印の終点に次の矢印の始点をつないで足していった先(太い矢印)が Fhkl です(§7.2 の式 (26),図 3). 矢印の列が原点に戻ってきたら消滅です. この式に格子定数 a が出てこないことに注目してください. 構造因子は「箱の形」ではなく「箱の中の相対配置」だけで決まります.

左の単位胞は VESTA と同じように3 次元で描いてあり,マウスのドラッグ(スマートフォンでは 1 本指)で回せます. ダブルクリックか操作欄の「向きを戻す」ボタンで,a 軸が左手前・b 軸が右・c 軸が上の元の向きに戻ります. 左下の 3 本の短い線は軸の向き(a 赤,b 緑,c 青),破線が単位胞の稜で,奥にあるものほど薄く描いています. 原子 A は青,原子 B は橙の球です. 単位胞の角・稜・面の上にある原子は,隣の単位胞と共有されています. そこで,単位胞の境界に乗っている原子は,周期的に等価な位置(反対側の面・稜・角)にもすべて描いてあります. たとえば面心立方 F では,格子点 4 個(角 1 個と面心 3 個)のほかに,残り 7 つの角と 3 つの面心にも同じ原子が見えるので,球は 14 個になります.

描いた球の数と,単位胞に含まれる原子の数 境界上の球は隣の単位胞と分け合っているので,1 個の単位胞に属するのはその一部だけです. 角の球は 8 個の単位胞で共有されるので 1/8 個,稜の上の球は 4 個の単位胞で共有されるので 1/4 個, 面の上の球は 2 個の単位胞で共有されるので 1/2 個,内部の球は 1 個と数えます. 図の下の「面心立方 F / 球 14 個 = 原子 4 個分」と,読み取り値の「描いた球の数」の行がこの勘定です.
格子型描いた球の数と数え方単位胞内の原子数
単純立方 P角 8 × 1/8(計 8 個)1
体心立方 I角 8 × 1/8 + 体心 1 × 1(計 9 個)2
面心立方 F角 8 × 1/8 + 面心 6 × 1/2(計 14 個)4
ダイヤモンド型角 8 × 1/8 + 面心 6 × 1/2 + 内部 4 × 1(計 18 個)8
岩塩型A:角 8 × 1/8 + 面心 6 × 1/2(14 個)/ B:稜の中点 12 × 1/4 + 体心 1 × 1(13 個)4 + 4
閃亜鉛鉱型A:角 8 × 1/8 + 面心 6 × 1/2(14 個)/ B:内部 4 × 1(4 個)4 + 4
CsCl 型A:角 8 × 1/8(8 個)/ B:体心 1 × 1(1 個)1 + 1
構造因子 F の計算(右の複素平面の矢印・表・読み取り値の「単位胞内の原子数」)には,単位胞に属する原子だけを使い,境界上に描いた像は入れていません. 像まで足すと,同じ原子を 2 回以上数えることになるからです. たとえば面心立方 F の (111) で 14 個の球をすべて足すと 14f になってしまいますが,正しい値は 4f です.

まず格子型を面心立方 F にして,hkl の偶奇を混ぜてみてください(100 や 110). 4 本の矢印が +1, −1, −1, +1 のように向き合って,ちょうど原点に戻ってきます. 偶奇を揃える(111 や 200)と 4 本が全部同じ向きに揃い,|F| = 4f になります. 面心の 3 個の原子を取り除いて単純立方にすれば,(100) の矢印は 1 本だけになって打ち消す相手がいなくなり,消えていた 100 反射は復活します(格子型を P にして確かめられます). 「ひとこと」の欄には,|F| の値が原子 A の散乱能 fA を単位として出るほか, 矢印が全部同じ向きに揃ったときの上限 Σj fj も併記されます. 2 種類の原子を含む格子型で fB ≠ fA のとき, この上限が「原子数 × fA」と一致しないのは B 原子の散乱能が違うからで,位相のせいではありません. 許容の反射でも |F| が上限より小さいときは,矢印の向きが揃っていないぶんだけ弱くなっているのです. 消滅則が「原子が無いから」ではなく「原子が有るから」起きること(面心位置の原子が元の面のちょうど中間にもう 1 枚の面を作り, そこからの散乱波が逆位相になって打ち消す)は,§1 の誤解 1 で述べ,§8 で式として確かめたとおりです. (000) は回折ではなく直進ビームなので,h, k, l のどれかを 1 以上にしてください.

格子型のプルダウンには次の 7 つがあり,選ぶと「ひとこと」の欄にその格子型の消滅則が表示されます. 単純立方 P・体心立方 I・面心立方 F は 1 種類の原子だけでできています. P には消滅則が無く,I は h+k+l が奇数のとき,F は h, k, l の偶奇が混ざるときに消滅します(§8.1–§8.3). ダイヤモンド型は F 格子+同種 2 原子の基底で,偶奇混在の消滅(F 格子由来)に加えて, 全部偶数かつ h+k+l = 4n+2 の反射も消えます(基底由来,§8.5). 岩塩型と閃亜鉛鉱型は F 格子+異種 2 原子の基底です. 岩塩型では,残った反射のうち全部奇数のものが fA − fB に比例するので,2 原子の散乱能が近いと極端に弱くなります. 閃亜鉛鉱型では,ダイヤモンド型で消えていた 200・222・420 が,2 原子が異種になったぶん |fA − fB| に比例して弱く復活します. CsCl 型は P 格子+異種 2 原子の基底で,格子由来の消滅則はありません(体心立方ではないことに注意してください). h+k+l が奇数の反射が fA − fB に比例して弱くなります.

消滅則には,Bravais 格子の中心化に由来して箱の中身に一切依存しないもの(I や F の規則)と, 基底に由来して中身が変われば変わるもの(ダイヤモンド型の 200・222 など)の 2 種類があります. §7.3 の分離定理の 2 つの因子にそれぞれ対応していて,④のタブではこの区別がそのまま主役になります.

操作欄の h, k, l のスライダーは 0〜6 の範囲で動き,(100)(110)(111)(200)(220)(311) のボタンでも選べます. 図の下の表(h ≥ k ≥ l で 0〜4 の組)の行をクリックしても hkl を選べます. 2 種類の原子を含む格子型では「fB/fA」のスライダーが使えます. 岩塩型でこれを 1 に近づけると,全部奇数の反射(111 など)が消えていきます. K+ と Cl− はどちらも 18 電子なので散乱能がほぼ等しく,KCl が実際にこれに近い状態です(§9.4 の「有名な実例」の囲みと演習 9). ※ このタブでは f を hkl に依らない定数として扱っています. 本当は f は sinθ/λ とともに減ります(§7.1 の式 (24)).⑤ と ⑥ のタブはこの減少を入れて計算しています.

プルダウンには立方晶しかありませんが,六方最密構造(hcp)でも同じことが起きます. ⑤のタブでマグネシウム Mg かチタン Ti を選ぶと,(0001) の位置 ―― Cu Kα1 で Mg なら 2θ ≈ 17.3°,Ti なら 2θ ≈ 19.0° ―― にピークが 1 本も立っておらず,ピークの表にもその行が無いことが確かめられます (⑤は六方晶の指数を 4 指数で表示します). P63/mmc の基底 (0,0,0) と (1/3,2/3,1/2) からの散乱波が逆位相になるためで,§8.6 で導いた規則です.

もっと深く:『固体物理学入門』第 3 章 3.5 節(構造因子と消滅則.例題 3.3 の bcc,例題 3.4 の fcc,表 3.2 の P/I/F/C/R 一覧)と, 第 5 章 5.5 節(らせん軸・グライド面による消滅則と空間群の決定).

A.5 ④ ピーク位置は Bravais 格子が決める

このタブは,§9.3 の 2 つの表と図 4 をその場で計算して再現するものです. 格子定数 a を共通の値に固定したまま,箱の中身だけを入れ替えて粉末パターンを計算し,縦に並べています. グループ A は岩塩型・閃亜鉛鉱型・蛍石型・SrSO4 型の 4 つで,空間群は Fm-3m と F-43m の 2 種類にまたがっていますが, Bravais 格子はどれも立方 F です. グループ B は CsCl 型・anti-ReO3 型(Na3N)・赤銅鉱型(Ag2O,Pn-3m)の 3 つで,Bravais 格子は立方 P です. グループのボタンを押すと,a はそれぞれ §9.3 と同じ 5.640 Å と 4.200 Å に戻ります. 波長は Cu Kα1 = 1.5405929 Å に固定しています.

図の縦の破線は,その Bravais 格子と格子定数が許す 2θ の位置です. × 印は,許された位置なのに基底がさらに消した反射(その位置にピークが立たない)を,点は各パターンの最強線を表します. 強度は各パターンごとに最大が 100 になるよう規格化してあるので,パターンどうしで高さは比べられません. このタブで比べるのは位置です(⑥のタブは逆に,高さの変化を見せるために規格化していません.§11.4). 読み取り値の欄には,Bravais 格子が許す位置の数(2θ ≤ 120°),実際に立ったピークの数, 「格子が禁じた位置に出たピーク」の数(必ず 0 本になります),最初のピークの 2θ が出ます.

操作欄のスライダーは格子定数 a の 1 本だけです. これを動かすと,並べたパターンのピークが一斉に,同じだけ動きます.中身が何であっても,です. なぜそうなるのかは §9.2 で証明しましたが,ここでは次の三段構えで整理しておきます. (i) 回折角は 2θ = 2 arcsin(λ|g|/2) で,|g|2 は逆格子計量テンソル(§2.2 の式 (2))を通して格子定数だけから計算できるので, ピークが立ちうる 2θ の候補は格子定数を決めた時点でもう決まっています. (ii) 構造因子は F = S格子 × F基底 と積に割れ(§7.3 の式 (29)(30)), S格子 = 0 になる hkl は箱に何を入れても消えたままなので,候補は Bravais 格子の中心化並進によって絞られます. (iii) 残った候補を基底がさらに間引き,高さを与えます.F基底 には格子定数がどこにも入っていません. ここで混同しやすい点がひとつあります. 積への分解が説明しているのは (ii) と (iii),つまり「どれが消えるか」だけで, 「残ったピークの 2θ がなぜ一致するか」を言っているのは (i) のほうです. なお,③の式の位相 2π(hxj+kyj+lzj) と,④の式に出てくる 2π g·rj は同じものです. g = ha*1 + ka*2 + la*3 と rj = xja1 + yja2 + zja3 の内積を取り, a*i·aj = δij を使えばすぐに確かめられます.

「ダイヤモンド型(Fd-3m)も並べる」にチェックを入れると,同じ立方 F なのに, 全部偶数かつ h+k+l = 4n+2 の反射(200・222・420 など)がさらに消えるのが見えます(§8.5,§9.4 の囲み). グループ B の Ag2O も同じで,奇数の指数をちょうど 1 個だけ含む反射が消えます. 既定の a = 4.200 Å・2θ ≤ 120° なら 20 本が 14 本になりますが,本数そのものは a によって変わるので,読み取り値の欄で確かめてください. これらは n グライドや特殊な Wyckoff 位置に由来する基底側の追加の消滅則です(§9.4). パターンごとの本数がそろわないとき,「ひとこと」の欄は × 印に注目するよう促します. 少ないほうは,ほかのパターンが持っている位置が抜けているだけで,新しい位置にピークが生えてはいません. Bravais 格子が決めるのは「ピークが立ちうる位置の上限集合」であり,構造因子はそこから間引くことしかできない ―― これが §9.4 の「正確な言い方」です. 読み取り値の下の「※」の囲みは,この「立ちうる位置」と次の仮想構造の注意を 2 文にまとめたものです. このタブのもとになった講義スライドの主張と出典は §9.1 に, 同じ Bravais 格子が同じ逆格子と同じ形の Brillouin 域を与える(Si のバンド図の Γ–X–L–W の記号はここから来る)という話は §9.5 にあります.

※ ④に並ぶ構造のいくつかは,中身だけ入れ替えた仮想構造です 格子定数と Bravais 格子を揃えるために,実在しない組み合わせが混ざっています. NaCl は閃亜鉛鉱型を取りませんし,NaCl2 という化合物も常圧では存在しません. SrSO4 の実際の構造は斜方晶の Pnma です.詳しくは §9.5 の囲みを読んでください. 実在の構造なのは NaCl 岩塩型・ダイヤモンド・Ag2O・Na3N ですが, これらも格子定数を共通の値に差し替えてあるので,2θ は実測の値とは違います. 実在の構造と格子定数のパターンは ⑤ で扱います.

もっと深く:『固体物理学入門』第 3 章 3.6 節「なぜ Bravais 格子が同じならピーク位置が一致するのか」(定理 3.3 とその証明,同じ数値実験の表). お膳立ては第 1 章 1.7 節(fcc 格子を共有する 3 つの構造)と第 2 章 2.7 節(Bravais 格子から何がわかるのか), Brillouin 域は第 3 章 3.7 節です.

A.6 ⑤ 粉末 XRD パターン

このタブは,選んだ結晶構造から粉末 XRD パターンをその場で計算して描きます. 保存された絵を出しているのではありません.計算の手順は A.8 にまとめました. 選べる構造は次の 27 種です. 面心立方の Al・Au・Ag,体心立方の α-Fe,六方最密の Mg・α-Ti, ダイヤモンド型の C・Si・Ge,閃亜鉛鉱型の ZnS・GaAs,ウルツ鉱型の ZnO・ZnS, 岩塩型の NaCl・MgO・KCl・NiO,CsCl,蛍石型の CaF2・CeO2, ペロブスカイト型の SrTiO3・BaTiO3(立方晶と正方晶), ルチル型 TiO2,コランダム型 Al2O3,スピネル MgAl2O4,α-石英 SiO2 です.

ピークにマウスを乗せると,そのピークの hkl・面間隔 d・多重度・相対強度が出ます. クリックすると表示を固定でき,図の下の表の行をクリックしても同じです. 六方晶の構造では指数を 4 指数 (hkil) で表示します(§8.6 の囲み). 選んだピークについては「2d sinθ = λ」の検算も表示されます. 相対強度は m|F|2·LP に比例する量を最強線が 100 になるように規格化したもので, 表の「≡」の印が付いた行は,別の族が同じ 2θ に重なっていて多重度が合計されていることを示します. 実験パターンの各ピークに hkl を割り当てる作業を指数付け(§12.2)といい,このタブの表はその答え合わせにあたります.

試しに塩化セシウム CsCl を選び,表の N = h2+k2+l2 が 9 になる行 (Cu Kα1 なら 2θ ≈ 66.6°)を見てください. (300) と (221) というまったく違う面が同じ 2θ に重なっていて,hkl の欄に 2 つの族が並び,行に「≡」の印が付きます. 立方晶では d が N だけで決まるので,こうした偶然の縮退は必ず起きます(§10.3). 既定の NaCl(立方 F)では (300) も (221) も偶奇混在で消えているので,この重なりは見えません. 粉末パターンが d の一覧表であって向きの情報を持たないことは,§6.4 の誤解 7 で述べたとおりです.

操作欄の「X 線の波長」では,Cu Kα1・Cu Kα2・Cu Kβ・Mo Kα1・Co Kα1・Fe Kα1・Cr Kα1・Ag Kα1 の 8 つが選べます. 波長が短いほど同じ面が低角に来ます(Mo Kα1 にしてみてください). 逆に λ が長すぎると,λ ≤ 2d を満たさない反射が丸ごと消えます(§3.4). 「格子定数の倍率」(0.90〜1.10)を上げて格子を膨らませると,ピークは低角側へ動きます. 格子が 1 % 膨らめば d も 1 % 増え,sinθ = λ/(2d) は 1 % 減るからで,熱膨張の測定はこれを利用しています. 「2θ の上限」は 40〜150° の範囲で変えられます(既定は 90°).

「重ねて比べる構造」で 2 つ目の構造を選ぶと,2 つのパターンが重なります. 実験パターンの同定は「手元のパターンと候補を重ねる」ことの繰り返しで, まずピークの位置がそろうかを見て,つぎに高さの並びを見る,という順序が基本です. 位置が合っていて高さが違うなら,同じ Bravais 格子・同じ格子定数で中身が違う,ということになります(④のタブ). いくつか練習の組み合わせを挙げておきます.

※ 収録した格子定数は第一原理計算で最適化した値です 構造データは望月研究室の POSCAR コレクション(参考文献 14)から取っているので, 格子定数が実測値と 1〜2 % ずれることがあります(BaTiO3 正方晶の c のように 4 % 前後ずれる例もあります). ICDD カードや実測パターンと 2θ を直接比べるときは,「格子定数の倍率」で合わせてください.

このタブの式の欄にある Ihkl ∝ |Fhkl|2·mhkl·LP は,§10 の式 (39)(40) から スケール因子と吸収を除いたものです.第 2 因子が多重度,第 3 因子が Lorentz 偏光因子です. 温度因子・吸収・選択配向は入っていません(A.8). 同じ計算は VESTA の Utilities → Powder Diffraction Pattern でも行えます(§12.3 の囲み).

もっと深く:『固体物理学入門』付録 B B.4 節(VESTA の実務.B.4.2 項に粉末 XRD パターンを計算する手順と, 強度式 I = s mhkl|F|2LPA の各因子の説明があります). そこでの s は本文 §10.1 の C にあたるスケール因子です.

A.7 ⑥ Scherrer 式

このタブで測るのは結晶子径(crystallite size,coherent domain size)D で, 物差しになるのはピークの半値全幅(FWHM)β です. 試料はシリコン Si・銀 Ag・塩化ナトリウム NaCl・鉄 Fe(bcc)・TiO2 ルチルの 5 つから選べ, 波長は Cu Kα1 に固定しています(相対強度が 1.5 未満の弱いピークは描いていません). 上段が広がった粉末パターン(2θ = 20〜100°),下段が Williamson–Hall プロットです.

ピークが広がる理由は §11.1 の Laue の干渉関数(式 (42))で,幅の計算は §11.2(式 (43)), K = 0.885893 の出どころもそこにあります. 記号の違いに 1 つ注意してください. シミュレーターでは,行路差が λ の整数倍からどれだけずれているかを ξ = 2d sinθ/λ − n と書いています (①のタブの「行路差 ÷ λ」といちばん近い整数との差で,低角側では負になります). 本文 §11 では ξ は n を引く前の 2d sinθ/λ を指し,ずれのほうを ε ≡ ξ − n と書いています. シミュレーターで記号を変えているのは,⑥のスライダーの ε が歪みを表すからです.

操作欄のスライダーは,結晶子径 D(2.0〜200 nm),歪み ε(0〜1.00 %),装置幅(0〜0.40°,既定は 0.06°)の 3 本です. D を小さくすると全部のピークが太ります.正確には 1/cosθ に比例するので,高角ほど少し余分に太ります. 30 nm を切るころから目に見えて広がり,5 nm を切るとピークどうしが重なり合って, もはや「線」には見えなくなります.非晶質(アモルファス)のブロードなハローに近づいていくわけで, 「結晶か非晶質か」の境目はこの連続的な広がりの上のどこかにあるだけで,はっきりした境界線があるわけではありません. 逆に D が 100 nm を超えると,サイズ由来の広がりが装置由来の幅に埋もれて,Scherrer 式では測れなくなります(「ひとこと」の欄にもそう出ます). これが実用上の上限で,おおむね 100〜200 nm という経験的な目安です(装置の分解能しだいで変わります). 装置幅を 0° にすれば原理的には読み取れますが,実際の装置は 0.05〜0.1° 程度の幅を持っています.

歪み ε を入れると,こんどは高角ほど太ります(tanθ に比例). §11.3 の βstrain = 4ε tanθ の係数 4 は 2 段階で出てきます. Bragg 則を微分した |Δθ| = ε tanθ に対して, ① 装置が表示するのは 2θ なので Δ(2θ) = 2Δθ, ② d は ±ε の両側に散らばるので全幅はさらに 2 倍,合わせて 4 倍です. サイズと歪みで角度依存(1/cosθ と tanθ)が違うので,両者は分けられます. 横軸 4 sinθ・縦軸 β cosθ の Williamson–Hall プロット(式 (44))では,サイズは切片 Kλ/D,歪みは傾き ε に現れます. ε = 0 なら直線は水平になり(どのピークでも β cosθ が同じ),ε を上げると傾きます. ただしこの画面の点は,入力した D と ε から作った理論直線そのものなので,実測のようなばらつきは出ません. 実測では最小二乗法で切片と傾きを求めます. また,サイズと歪みの広がりは Lorentz 型として足し算で合成しています.Gauss 型なら 2 乗で足すことになり, β2cos2θ 対 sin2θ のプロットになります(§11.3 の「Williamson–Hall 法の限界」の囲み).

縦軸は規格化していません. D を小さくすると,ピークは太るだけでなく低くなります. §11.4 で示したとおり,同じ量の粉末なら各ピークの面積(積分強度)は D によらず一定で,幅 β が広がるぶん高さが 1/β で下がるからです. VESTA のように最強線を毎回 100 にそろえると,この「低くなる」様子が消えてしまうので,⑥の上段の縦軸は固定目盛にしてあります. 目盛の基準は「その試料で D = 200 nm,ε = 0,装置幅 0.06° のときの最強線の高さを 100」とし,D・ε・装置幅を動かしても変えません. たとえばシリコン Si の最強線 (111) の高さは,装置幅 0.06° のままで D = 200, 50, 20, 5, 2 nm とすると 100, 42.0, 17.7, 4.5, 1.8 と下がります. 装置幅を 0° にすると高さは D に比例し(D = 200 nm で 179.3),D が大きいところで頭打ちになるのは装置幅のせいだと分かります. 基準は試料ごとに決めているので,試料どうし(たとえば Si と Ag)の高さは比べられません.比べるのは同じ試料で D などを変えたときの高さです.

低くなったピークを見るために,操作欄の「縦軸の拡大」に「×1」「×5」「×25」のボタンがあります. これは表示の倍率を変えるだけで,計算した強度は変わりません(×5 なら枠の上端が 100 ではなく 20 になります). 拡大しているときは図の上の見出しに「縦軸 ×5 拡大」などと出ます. 枠の高さを超えたピークは上端で切って,赤い小さな ▲ を付けています. ピークの位置は,横軸の下に付けた短い目盛で示しています(幅 0 の線の位置です). 赤い横線は最強線の半値全幅 β で,最強線の高さの半分の位置に描きます.半値の位置が枠の上にはみ出すときは線を描かず,「β = …°(半値が枠の上)」とだけ表示します. 読み取り値の欄には,最強線の「積分強度(面積)」(固定目盛 × 度.D によらず一定)と「高さ(固定目盛)」(枠を超えると「(枠外)」)が出るので, D を動かして面積が変わらず高さだけが変わることを数値で確かめてください.

※ ⑥の画面で使っている近似 (1) ピークの形.広がったピークは,半値全幅 β の Gauss 関数で描いています. 面積を A とすると高さは A/(1.0645 β) です(1.0645 = √(π/(4 ln 2))). 本当の形は §11.1 の干渉関数(sinc2 型)や装置関数との畳み込みで決まるので,裾の形は近似です. 面積(積分強度)には,⑤と同じ計算(A.8)の相対強度をそのまま使い,試料の量は一定としています.
(2) 装置幅.試料由来の広がりと装置幅を Gauss 型として 2 乗和で合成し, 逆算では β2 = βobs2 − βinst2 で差し引いています. これは近似で,本当は標準試料(LaB6 や Si)で装置関数を測って畳み込みを解きます(§11.2 の「使う前に必ず 2 つ」の囲み).

「練習モードにする」を押すと,最強線を拡大した図と 6 つの問題が出ます(問題ごとの結晶子径は固定なので,毎回同じ問題になります). 赤い印の両端が,青い曲線と半値の点線が交わるところにぴったり重なるように「読み取った β」のスライダーを合わせ, 「答えを見る」を押すと,装置幅を引いた β から Scherrer 式で逆算した D と正解が並びます. 練習モードでは歪みを ε = 0 として出題します(歪みと結晶子径を分ける話は Williamson–Hall プロットのほうで扱います). 練習モードの図は幅を読み取りやすくするための拡大表示で,ピークの頂上を 100 に合わせてあり,固定目盛ではありません(図にもそう注記してあります). 練習モードのあいだは D・ε のスライダーと縦軸の拡大ボタンは使えません. ずれが 10 % 未満なら「よく合っています」と表示されます. ずれが大きいときは,半値の高さで幅を測っているかを確かめてください. 裾のほうで測ると幅を広く取りすぎて D が小さく出ますし,装置幅の差し引きを忘れても D は必ず小さめに出ます. 読み取った β が装置幅以下だと,差し引いた幅が 0 になって D は求まりません.

最後に,出てきた数字の読み方です.Scherrer 式が返すのは結晶子径であって粉の 1 粒の大きさではないこと(§11.2 の誤解 10), K が結晶子の形と幅の定義の両方に依存すること(§11.2 の表.柱状で FWHM なら 0.886,球で FWHM・直径なら 1.11 前後), そのため得られる値は ±20 % 程度の半定量的な量と考えるのが安全なこと, そして β は必ずラジアンに直してから使うこと(度のまま入れると 57.3 倍間違えます.シミュレーターは内部で直しています)は, 本文で述べたとおりです. ±20 % という数字と,上に挙げた結晶子径の下限・上限の目安は,いずれも経験則であって厳密な定理ではありません.

もっと深く:『固体物理学入門』には Scherrer 式の節はありませんが, 第 3 章 3.4.1 項の「結晶が十分大きければこの積分は打ち消し合う」という一文の裏返しがこの話です.

A.8 計算の方法と近似・pymatgen との一致確認

④・⑤・⑥の粉末パターンと①の相対強度は,シミュレーターの JavaScript がその場で計算しています(静的なデータの再生ではありません). 使っている式は本文とまったく同じです. 面間隔は逆格子計量テンソルから 1/d2 = (h, k, l)·M*·(h, k, l)T として求めます(§2.2 の式 (2)). シミュレーターでは実格子の計量テンソルを M,その逆行列を M* = M−1 と書いていますが, 本文 §2.2 の G・G* と同じものです(シミュレーターでは逆格子ベクトルの G と混同しないように記号を変えています). 原子散乱因子は §7.1 の式 (24), f(s) = Z − 41.78214 s2 Σi ai exp(−bi s2), s = sinθ/λ = 1/(2d) で,構造因子は式 (26),強度は |F|2 × LP, LP = (1 + cos22θ)/(sin2θ cosθ)(式 (40))です. 多重度は掛け算せず,限界球 |g| ≤ 2/λ の中の逆格子点のうち指定した 2θ の上限までに入るものを全部走査し, 同じ 2θ のものを足し込むことで自動的に入れています. §10.3 の「偶然の縮退に注意」の囲みで勧めた方式で,立方晶の (300) と (221) のように偶然重なる別の族も正しく足されます.

使っている近似は次のとおりです(§10.4 の「本教材が入れていない効果」の囲みの内容に,⑥の装置幅と強度の規格化を書き足したものです). シミュレーターの画面には,説明を短くするため主なものだけを「※」の印で示してあり,全体はここにまとめます.

pymatgen との一致確認 シミュレーターのアルゴリズムは,同じ構造データ・同じ波長(Cu Kα1 = 1.5405929 Å)で pymatgen の XRDCalculator(参考文献 3)と突き合わせ,⑤に収録した 27 構造すべてについて,2θ ≤ 150° の範囲で 2θ の差 < 5×10−7°,規格化強度の差 < 1×10−12 で一致することを確認してあります (どちらも倍精度演算の丸め誤差の水準です). ④で使う 8 つの構造(立方 F の 4 種とダイヤモンド型,立方 P の 3 種)についても,格子定数を共通の値に固定したうえで, pymatgen の出力と 2θ・強度とも一致することを確認しました. ①の 3 物質 × 10 面についても,望月研究室のスクリプト(pymatgen の XRDCalculator,Cu Kα1,2θ ≤ 120°)の出力と, 2θ の差 < 3×10−14°,相対強度の差 < 2×10−14 で一致しています(§3.5 の表はこの出力の値です). §9.5 の囲みで断ったとおり,これは実装の写し間違いが無いことの確認であって,原子散乱因子の係数表そのものの正しさの検証ではありません (係数表の出典については §7.1 と参考文献 5 を参照).

結晶構造データは,望月研究室の POSCAR コレクション(第一原理計算で構造最適化したもの)を慣用単位胞に直して収めています(参考文献 14). 格子定数が実測値と 1〜2 % ずれることがある点は A.6 の囲みのとおりです. X 線の波長は §3.4 の表と同じで,Cr〜Cu の Kα1 は Hölzer et al. (1997)(参考文献 10), Mo Kα1・Ag Kα1 は RIETAN-FP の配布マニュアルの X 線波長表(参考文献 2)によります. 同じ粉末パターンの計算は VESTA(参考文献 1)の Utilities → Powder Diffraction Pattern でも行えます.

東京理科大学 望月研究室 / 東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科「無機材料学」第 4 回. 手を動かす版は xrd-simulator (① Bragg の条件/② 逆格子と Ewald 球/③ 構造因子と消滅則/ ④ ピーク位置は Bravais 格子が決める/⑤ 粉末 XRD パターン/⑥ Scherrer 式)へ.画面の読み方は付録 A にあります. §9 は望月研究室勉強会資料(2026 年 4 月 24 日)スライド 1-5, 1-6 の主張に対応し, 同じ内容が望月研『固体物理学入門』第 3 章 3.6 節に定理 3.3 として厳密に証明されています. 本ページの計算はすべて Cu Kα1 単色を仮定し, 温度因子・吸収・選択配向・装置広がり・Kα2 の重なりは無視しています. 式 (2)(4)(24)(30)(31)(32)(33)(34)(35)(36)(40)(42)(43) と §9 の 2 つの表は, いずれも独立な数値計算および pymatgen と突き合わせて検証済みです (§2, §8, §9, §11 末尾の囲みを参照).
使用したソフトウェア・データ源

  1. K. Momma and F. Izumi, “VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data,” J. Appl. Crystallogr. 44, 1272–1276 (2011). doi:10.1107/S0021889811038970(粉末パターンの計算に使ったら必ず引用すること)
  2. F. Izumi and K. Momma, “Three-dimensional visualization in powder diffraction,” Solid State Phenom. 130, 15–20 (2007). doi:10.4028/www.scientific.net/SSP.130.15(RIETAN-FP.Mo Kα1・Ag Kα1 の波長はこのマニュアルの表による.Cr〜Cu の Kα1 の一次出典は参考文献 10)
  3. S. P. Ong, W. D. Richards, A. Jain, G. Hautier, M. Kocher, S. Cholia, D. Gunter, V. L. Chevrier, K. A. Persson, and G. Ceder, “Python Materials Genomics (pymatgen): A robust, open-source python library for materials analysis,” Comput. Mater. Sci. 68, 314–319 (2013). doi:10.1016/j.commatsci.2012.10.028(本ページの数値検証に使用)
  4. M. Deutsch, G. Hölzer, J. Härtwig, J. Wolf, M. Fritsch, and E. Förster, “Kα and Kβ x-ray emission spectra of copper,” Phys. Rev. A 51, 283–296 (1995). doi:10.1103/PhysRevA.51.283(Cu Kα の高精度波長.Cr〜Cu(3d 遷移金属)の系統的な測定は下の Hölzer et al. (1997) を参照.Mo・Ag はこの論文には含まれません)
  5. M. De Graef and M. E. McHenry, Structure of Materials: An Introduction to Crystallography, Diffraction and Symmetry, 2nd ed. (Cambridge Univ. Press, 2012) 第 11・12 章.式 (24) の原子散乱因子パラメータは,pymatgen がこの本を出典として実装しているものです.※ 係数表そのものの一次出典(International Tables for Crystallography Vol. C の電子散乱因子表と思われる)は要確認.
  6. C. Kittel, Introduction to Solid State Physics, 8th ed.[邦訳:『キッテル 固体物理学入門(上)』丸善出版]第 2 章「波の回折と逆格子」.
  7. B. E. Warren, X-ray Diffraction (Dover, 1990).粉末回折の強度式と線幅を含む,回折の古典的な教科書.
  8. P. Scherrer, “Bestimmung der Größe und der inneren Struktur von Kolloidteilchen mittels Röntgenstrahlen,” Nachr. Ges. Wiss. Göttingen, Math.-Phys. Kl. 1918, 98–100 (1918)(式 (43) の Scherrer 式の原典)./ G. K. Williamson and W. H. Hall, “X-ray line broadening from filed aluminium and wolfram,” Acta Metall. 1, 22–31 (1953). doi:10.1016/0001-6160(53)90006-6(式 (44) の Williamson–Hall 法の原典)
  9. J. I. Langford and A. J. C. Wilson, “Scherrer after sixty years: A survey and some new results in the determination of crystallite size,” J. Appl. Crystallogr. 11, 102–113 (1978). doi:10.1107/S0021889878012844(Scherrer 定数 K が結晶子の形と幅の定義に依存することの一次出典.§11.2 の表の球の値はここによる)
  10. G. Hölzer, M. Fritsch, M. Deutsch, J. Härtwig, and E. Förster, “Kα1,2 and Kβ1,3 x-ray emission lines of the 3d transition metals,” Phys. Rev. A 56, 4554–4568 (1997). doi:10.1103/PhysRevA.56.4554(Cr〜Cu の Kα1 波長の一次出典)
  11. 望月 泰英「物質の対称性と群論 1. 結晶系と Bravais 格子」東京理科大学 望月研究室勉強会資料(2026 年 4 月 24 日),スライド 1-2, 1-5, 1-6.§9 の主張と数値実験の出典で,シミュレーター④のタブはこのスライドの数値実験を再現したものです.
  12. 望月 泰英『固体物理学入門』(東京理科大学 望月研究室,学内配布・学部 3 年次向け)第 1 章(結晶と単位胞)・第 2 章(7 晶系と 14 Bravais 格子)・第 3 章(逆格子・Brillouin 域・X 線回折).とくに第 3 章 3.6 節「なぜ Bravais 格子が同じならピーク位置が一致するのか」(定理 3.3)が本ページ §9 とシミュレーター④の厳密版です.
  13. 日本セラミックス協会 編『よくわかる無機材料化学』(森北出版,2026)1-2 節「X 線回折法」,p. 6–13.「無機材料学」第 4 回の指定教科書で,シミュレーターの ①・③・⑤ のタブがこの節に対応します(付録 A.1).
  14. 望月研究室の POSCAR コレクション(第一原理計算で構造最適化した結晶構造データ).シミュレーター ① の 3 物質(§3.5),⑤ の 27 構造と ④ の構造の元データで,慣用単位胞に直して使っています.格子定数は実測値と 1〜2 % ずれることがあります(BaTiO3 正方晶の c のように 4 % 前後ずれる例もあります.付録 A.6).