― 面間隔 dhkl から Bragg 則・逆格子・Laue 条件・構造因子・消滅則まで,途中式を省略せずに(学部 2・3 年生向け)
粉末 X 線回折(XRD)の図は,横軸が 2θ,縦軸が強度の,棒が何本か立っただけの単純な絵です. ところがこの絵には3 種類の情報が,きれいに分離して入っています ―― ピークの位置には格子の形と大きさが,ピークの高さには箱の中身(どの元素がどこにいるか)が, ピークの幅には結晶子の大きさと歪みが入っているのです. 講義ではこの分業が「そういうものだ」と与えられがちですが, 実は指数関数 exp の足し算を最後まで書き下すだけで,全部きちんと証明できます. 使う数学はベクトルの内積と外積,等比級数の和,そして だけです.
結晶は,同じ形の箱(単位胞)が空間を隙間なく埋め尽くしたものです. この周期は 0.2〜1 nm,つまり 2〜10 Å 程度しかありません. これを「見る」には,波長がこの周期と同じくらいの波を当てる必要があります. 可視光の波長は 400〜800 nm ですから 1000 倍も長すぎて,結晶の周期を感じ取れません. 実験室で最もよく使う Cu Kα1 線の波長は λ = 1.5405929 Å で,ちょうど原子の間隔と同じオーダーです. だから X 線なのです.
X 線は原子核ではなく電子に当たって散乱されます(Thomson 散乱). 1 個 1 個の電子は,向きによる強弱はあるものの(偏光因子.§10.2)ほぼ全方向に散乱波を出しますが, 結晶では散乱源が規則正しく並んでいるので, 特定の方向にだけ,散乱波の位相がぴったり揃って強め合います. それ以外の方向では,膨大な数の波が互いに打ち消し合ってゼロになります. この「揃う方向」を教えてくれるのが Bragg の法則であり,Laue 条件です.
| 読み取る量 | 決めているもの | 本ページの章 |
|---|---|---|
| ピークの位置(2θ) | 格子定数(= dhkl の値)と Bravais 格子(= どの hkl が立ちうるか) | §2, §3, §9 |
| ピークの高さ(強度) | 構造因子 Fhkl = どの元素がどこにいるか | §7, §8, §10 |
| ピークの幅 | 結晶子の大きさ・不均一歪み・装置 | §11 |
| ピークが出ないこと | 消滅則(systematic absence/extinction rule.散乱波の打ち消し合い) | §8 |
この解説と対になるシミュレーターがあります. 式を追って疲れたら, xrd-simulator.html で実際にスライダーを動かしてみてください.各章の終わりに,対応するタブへの案内を置きます. シミュレーターの画面の読み方・操作の意味・計算の近似は,付録 A にまとめてあります.
結晶の中の平面の向きを表すのに,結晶学ではミラー指数(Miller indices)を使います. ある平面が 3 本の結晶軸を , , の点で切るとき,その面を (h k l) と書きます. つまり切片の逆数を並べたものが指数です. h = 0 なら「 軸を無限遠で切る」= その軸に平行という意味になります.負の指数は上線を付けて のように書きます.
(h k l) という記号が表すのは 1 枚の面ではなく,等間隔に並んだ平行な面の集まりです. その間隔が面間隔(interplanar spacing,d-spacing)dhkl です. 7 つの晶系ごとに違う式が教科書に並んでいますが, それらはすべて次の 1 本の式の特殊化にすぎません. まず実格子の計量テンソル (3×3 の対称行列)を作ります.
その逆行列 を逆格子計量テンソルといいます.すると面間隔は,どんな晶系でも
で与えられます.プログラムを書くならこれ 1 本で十分です ―― 7 晶系ごとに式を書き分ける必要はなく,バグも入りません. 以下の個別式は「手で計算するとき用」「式の形から性質を読むとき用」と割り切ってください.
| 晶系 | 格子定数の条件 | 1 / d2 |
|---|---|---|
| 立方 cubic |
a = b = c, α = β = γ = 90° | |
| 正方 tetragonal |
a = b ≠ c, α = β = γ = 90° | |
| 直方 orthorhombic |
a ≠ b ≠ c, α = β = γ = 90° | |
| 六方 hexagonal |
a = b ≠ c, α = β = 90°, γ = 120° | |
| 三方 (菱面体軸) |
ar, α | |
| 単斜 monoclinic |
α = γ = 90°, β ≠ 90° | |
| 三斜 triclinic |
制約なし | 式 (2)(または下の (3))を使う |
三斜晶を明示形で書くと次のようになります.V は単位胞の体積です.
立方晶では式が劇的に簡単になります.
N を指数和と呼びます.立方晶では N が同じ反射は必ず同じ 2θ に重なります. たとえば (300) と (221) はどちらも N = 9 なので,粉末パターンでは 1 本のピークとして観測されます ―― これが立方晶で最初に起こる「偶然の縮退」です(§10.3).
Lattice.d_hkl を
8 個の (hkl) について突き合わせ,差が 2×10−15 Å 以下で一致することを確認しています.
三方晶の式は,さらに α = 60°(fcc の primitive 胞)と
α = 109.4712°(bcc の primitive 胞)に代入して,
立方晶で消滅則を課したときの d の集合と完全に一致することも確かめました.
→ xrd-simulator.html の ① Bragg の条件 で,物質と面 (hkl) を選び,N が大きい面ほど面が細かく並んで dhkl が小さくなる様子を見てみましょう(3 つの物質の数値は §3.5 の表にあります).
間隔 d の平行な面が積み重なっているとします. X 線が面と角 θ をなして入射し,同じ角 θ で出ていく方向を考えます(鏡面反射の向き). 上の面で「反射」した波と,1 枚下の面で「反射」した波を比べると, 下の波は余分に潜り込んだぶんだけ長い道を通ります. 上の面での散乱点を M,1 枚下の面での散乱点を B とし,M から,B を通る入射線・回折線へ下ろした垂線の足をそれぞれ A,C とします. MB = d で,MB と入射方向のなす角が 90° − θ ですから,直角三角形 MAB・MCB から が直ちに読み取れます.したがって光路差は
この光路差が波長の整数倍のとき,2 枚の面からの波は位相が揃って強め合います.
図 1 Bragg の法則の光路差(式 (5)).上の面で散乱した波と,1 枚下の面で散乱した波の 行路差は AB + BC = 2d sinθ.上の面の散乱点を M,下の面の散乱点を B とし,A,C は M から,B を通る入射線・回折線に下ろした垂線の足である.θ は面と入射線のなす角であって, 光学でいう「法線からの入射角」とは 90° 違う.装置が表示するのは,入射方向と回折方向のなす角 2θ である.
ここで多くの学生が詰まります.結晶には面が何千万枚もあるのに, なぜ隣り合う 2 枚だけで条件を書いてよいのでしょうか. 答えは簡単です.隣接面で光路差が nλ なら,j 枚離れた面では ですが,これも波長の整数倍です. つまり隣どうしが揃えば,自動的に全部が揃う.だから条件は隣接面だけで書けば十分なのです.
式 (6) の n は,実は書き方を変えれば消せます.両辺を n で割ると
ところが式 (4) から分かるとおり, です(立方晶なら . 一般の晶系でも 1/d2 が h, k, l の 2 次形式なので同じことが起こります). そこで結晶学では常に n = 1 に固定し,代わりに指数を n 倍するという流儀を採ります.
この流儀では,(111) 面の 2 次反射は (222) の 1 次反射,(100) 面の 3 次反射は (300) の 1 次反射, というふうに読み替えます.約分できる指数((200), (222), (400) など)も独立な反射として扱います. 約分しないこの指数を Laue 指数と呼びます. 以降,本ページでは式 (7) の流儀を使います.
式 (7) を sinθ について解くと ですが,sinθ ≤ 1 でなければ解がありません.したがって
波長の半分より細かい面間隔は,その波長では絶対に見えません. これが分解能の限界です.Cu Kα1 なら λ/2 = 0.77030 Å より細かい面は,どうやっても観測できません. より細かい構造を見たければ,短波長の Mo Kα1 や Ag Kα1 を使います.
| 線源 | λ [Å] | 見える最小の d = λ/2 [Å] |
|---|---|---|
| Cr Kα1 | 2.289726 | 1.14486 |
| Fe Kα1 | 1.936041 | 0.96802 |
| Co Kα1 | 1.788996 | 0.89450 |
| Cu Kα1 | 1.5405929 | 0.77030 |
| Mo Kα1 | 0.70931715 | 0.35466 |
| Ag Kα1 | 0.55942178 | 0.27971 |
式 (4) と式 (7) を,シミュレーター①で選べる 3 つの立方晶に当てはめてみます. 塩化セシウム CsCl(Pm-3m,a = 4.209055 Å)とチタン酸ストロンチウム SrTiO3(Pm-3m,ペロブスカイト型,a = 3.945130 Å)は単純立方 P, 塩化ナトリウム NaCl(Fm-3m,岩塩型,a = 5.691694 Å)は面心立方 F です. 原子の位置(慣用単位胞の分率座標)は次のとおりです.
| (hkl) | N | mhkl | CsCl(Pm-3m) | SrTiO3(Pm-3m) | NaCl(Fm-3m) | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| d [Å] | 2θ [°] | 強度 | d [Å] | 2θ [°] | 強度 | d [Å] | 2θ [°] | 強度 | |||
| 100 | 1 | 6 | 4.2091 | 21.09 | 36.5 | 3.9451 | 22.52 | 3.9 | 5.6917 | 15.56 | 0(消滅) |
| 110 | 2 | 12 | 2.9763 | 30.00 | 100.0 | 2.7896 | 32.06 | 100.0 | 4.0246 | 22.07 | 0(消滅) |
| 111 | 3 | 8 | 2.4301 | 36.96 | 12.1 | 2.2777 | 39.53 | 21.2 | 3.2861 | 27.11 | 8.1 |
| 200 | 4 | 6 | 2.1045 | 42.94 | 17.9 | 1.9726 | 45.97 | 41.3 | 2.8458 | 31.41 | 100.0 |
| 210 | 5 | 24 | 1.8823 | 48.31 | 17.4 | 1.7643 | 51.77 | 2.9 | 2.5454 | 35.23 | 0(消滅) |
| 211 | 6 | 24 | 1.7183 | 53.27 | 37.2 | 1.6106 | 57.14 | 37.7 | 2.3236 | 38.72 | 0(消滅) |
| 220 | 8 | 12 | 1.4881 | 62.35 | 11.5 | 1.3948 | 67.04 | 23.6 | 2.0123 | 45.01 | 65.9 |
| 310 | 10 | 24 | 1.3310 | 70.72 | 15.9 | 1.2476 | 76.26 | 16.2 | 1.7999 | 50.68 | 0(消滅) |
| 311 | 11 | 24 | 1.2691 | 74.74 | 5.1 | 1.1895 | 80.72 | 6.3 | 1.7161 | 53.34 | 2.0 |
| 222 | 12 | 8 | 1.2150 | 78.69 | 4.0 | 1.1389 | 85.12 | 7.8 | 1.6431 | 55.92 | 21.4 |
表の数値は,望月研究室の XRD 計算スクリプト(pymatgen の XRDCalculator,参考文献 3)が上の構造データ(参考文献 14)から計算した出力を丸めたものです.
波長は Cu Kα1 = 1.5405929 Å,範囲は 2θ ≤ 120° で,「強度」はその範囲の最強線を 100 とした相対強度(多重度 mhkl と Lorentz 偏光因子を含み,温度因子は含まない.§10)です.
NaCl の (110) だけは出力に行が無かったので,d と 2θ を式 (4)(7) で計算し,強度は構造因子が 0 になることから「0(消滅)」と書きました.
出力では強度が 10−29 以下(倍精度の丸め誤差)になっている反射も「0(消滅)」と書いています.
格子定数は第一原理計算の値なので,実測の 2θ とは少しずれます(付録 A.6 の囲み).
表から読み取ってほしいことは 2 つです. 1 つ目は,面間隔 dhkl を決めるのは格子定数 a と指数 (hkl) だけだということです. 同じ物質の中では,N = h2 + k2 + l2 が大きい面ほど d が小さく,2θ は高角に来ます. 物質を替えても d の比は a の比でしか変わりません(どの列でも d100 : d110 : d111 = 1 : 1/√2 : 1/√3). (200) と (222) はそれぞれ (100) と (111) の 2 次反射を §3.3 の流儀で書き直したもので,d はちょうど半分です.
2 つ目は,ピークが立つかどうか・どれだけ高いかは d ではなく単位胞の中身で決まることです(§7,§8). 単純立方 P の CsCl と SrTiO3 では 10 個の反射がすべて立ちますが, 面心立方 F の NaCl では h, k, l の偶奇が混ざった (100)(110)(210)(211)(310) が消えます(式 (33)). 高さにも中身が効きます.電子数でおおまかに見積もると次のようになります.
→ xrd-simulator.html の ① Bragg の条件 で,物質と (hkl) を選び,θ を動かしながら 2 本の波の位相が揃う瞬間と,原子層からの波が強め合ったり打ち消し合ったりする様子を見てみましょう. Cu Kα1 のとき,①の読み取り値の 2θB と相対強度は上の表と同じ値になります(画面の読み方は付録 A.2).
Bragg の法則は「面」を主役にした見方です. ところが「面」は数え方がややこしく(どの面が (100) でどれが (200) か,など), 3 次元で扱おうとするとすぐに手に負えなくなります. そこで 1 枚 1 枚の面の集まりを,1 個の点で代表させてしまおうというのが逆格子の発想です. 「(hkl) 面という無限に広がる平行面の集まり」を, 「面に垂直で,長さが 1/dhkl に比例する 1 本のベクトル」に置き換えるのです. こうすると,回折の条件がベクトルの足し算 1 本で書けてしまいます(§5).
実格子の基本ベクトル , , と単位胞の体積 から,次の 3 本のベクトルを作ります.
外積 は と の両方に垂直なので, です.一方 ―― スカラー三重積がちょうど V だからです.まとめると
この双対関係が,以下すべての計算の道具です.これ以外は何も使いません. そして (hkl) に対応する逆格子ベクトルを
と定義します.h, k, l が整数の組すべてを動くと, の先端は空間に格子状に並びます.これが逆格子(reciprocal lattice)です.
| 物理流儀(本ページ) | 結晶学流儀 | |
|---|---|---|
| 双対関係 | ||
| 長さ | ||
| 波数 | ||
| Ewald 球の半径 |
§2.1 の定義から,(hkl) 面は 3 本の軸を , , で切ります.この面の上に乗る,独立な 2 本のベクトルを取りましょう. 切片どうしを結べばよいので
です. との内積を,式 (10) だけを使って計算します.
同じ計算で です. は面内の独立な 2 本のベクトルの両方に直交しているので, 面そのものに垂直です.□
dhkl は「原点を通る面」と「その隣の面」の距離です. 隣の面は の点を通ります.§4.2 より面の単位法線は ですから,原点からその点へのベクトルを法線方向に射影すれば距離が出ます.
途中で使ったのは というただ 1 つの計算です.h で割ることで h が消え, 結果が h, k, l のどれを選んでも同じ値になる ―― ここが美しいところです. h = 0 のときは,h, k, l のうちゼロでない成分を 1 つ選んで (たとえば k ≠ 0 なら を使って) まったく同じ計算をすれば,同じ結論 になります(h = k = l = 0 なら (hkl) 面そのものが定義されません).
これで「面の集まり」と「1 個の逆格子点」が 1 対 1 に対応しました. 逆格子点 (hkl) の原点からの距離が,そのまま面間隔の逆数に比例している(結晶学流儀なら 1/dhkl,本ページの物理流儀ならその 2π 倍)―― これが逆格子の全てです. 実際,式 (2) は結晶学流儀の逆格子ベクトルの長さの 2 乗 (= ) を成分で書き下しただけのものです.
→ xrd-simulator.html の ② 逆格子と Ewald 球 で,実格子の面と逆格子点が連動して動く様子を見てみましょう.
入射 X 線の波数ベクトルを (), 散乱後を とします. 位置 にある散乱体からの波は,原点にある散乱体に対して だけ位相がずれます.ここで を散乱ベクトルといいます.結晶全体からの散乱振幅は
結晶では原子の位置が「格子並進 + 単位胞内の位置」に分解できるので, 和も 2 つに分かれます.格子並進についての和は等比級数で, 格子点が 個あるとき(この N は式 (4) の指数和とは別物です)
となります.なぜなら のとき,式 (10) と から = 2π × 整数となり,指数関数がすべて 1 になって N 個が単純に足し合わさるからです. それ以外では位相がぐるぐる回って,膨大な数の項が打ち消し合います.
「打ち消し合う」を等比級数で確かめておきましょう.1 方向だけ取り出して と書くと, 個の項の和は で,絶対値の 2 乗(= 強度に比例する量)をとると になります.x = 2π × 整数 のところだけ値が N2 になり, そこから外れると N2 に比べて無視できる大きさに落ちます. この和を最後まで書き下したものが §11.1 の式 (42)(Laue の干渉関数)です. 厳密な形と,そこから出るピーク幅(= Scherrer 式)はそちらを見てください. 結晶が十分大きければ(N → ∞),この和は事実上ゼロです.したがって
X 線の散乱は弾性散乱なので,エネルギーは変わらず です.式 (17) を と書いて,両辺を 2 乗します.
左辺は に等しいので,それを引いて
ここで は (hkl) 面の法線(§4.2)ですから, 入射線と面のなす角を θ とすると, と法線方向のなす角は 90° + θ になります (入射線は面に「潜り込む」向きだからです).したがって です.これを式 (18) に入れると
最後に と式 (14) の を代入すれば
これは式 (7),すなわち n = 1 の流儀の Bragg 則そのものです.□ Laue 条件と Bragg 則は,同じことを違う言葉で言っているだけだと分かりました. n 次反射は という別の逆格子点に対応します ―― Laue 条件は最初から n を指数に繰り込んだ形になっているのです.
式 (18) を書き直してみます.両辺を 4 で割ると
これは「 の先端が,原点と ± を結ぶ線分の垂直二等分面(Bragg 面)の上にある」という条件です ( が逆格子点なら − も逆格子点なので,± の区別は本質的ではありません). 逆格子点たちの垂直二等分面が囲む最小の領域を第一 Brillouin 域と呼びます.つまり
→ xrd-simulator.html の ② 逆格子と Ewald 球 で, と と が三角形を作る様子を見てみましょう.
ここは結晶学の流儀(2π 無し,半径 1/λ)で描くのが標準なので,そちらで説明します. 物理流儀で描きたければ,全部の長さを 2π 倍してください.
図 2 Ewald 球(結晶学流儀,半径 1/λ).中心 C,逆格子の原点 O. 球面に乗った逆格子点 P について反射が起きる.散乱ベクトルは , その長さは 1/dhkl.二等辺三角形 C–O–P の頂角の半分が Bragg 角 θ である. C は逆格子点である必要はない.
O と P はどちらも,中心 C・半径 1/λ の球面上にあります. だから三角形 C–O–P は二等辺三角形です. 弦 OP の長さは . 頂角 ∠OCP の半分を θ と書くと,二等辺三角形を半分に割った直角三角形から
この 1 行が Ewald 球の全てです.そして,この三角形から という関係も読み取れます.この s が,次章の原子散乱因子の引数になります.
固定した単結晶に,固定した波長の X 線を当てたとしましょう. 逆格子点は空間に離散的に散らばった点で,Ewald 球面は 2 次元の面です. 点が偶然その面に乗る確率は,ほとんどゼロです.だから
粉末試料は,あらゆる方位を向いた微結晶の集まりです. ある反射 (hkl) を考えると,微結晶の向きが全方位に散らばっているので, 逆格子ベクトル もあらゆる向きを取り得ます.つまり逆格子空間で見ると,「1 個の点」ではなく 原点 O を中心とする半径 1/dhkl の球殻になります.
この球殻(中心 O,半径 1/d)と Ewald 球(中心 C,半径 1/λ)は, 交われば必ず円で交わります.2 つの球が交わる条件は, 中心間距離が 2 つの半径の和と差の間にあることです. いまは中心間距離が Ewald 球の半径と同じ 1/λ なので,和の側 1/λ ≤ 1/d + 1/λ は自動的に成り立ちます. 残るのは差の側 |1/d − 1/λ| ≤ 1/λ です.1/d < 1/λ なら常に成り立ち, 1/d ≥ 1/λ なら 1/d − 1/λ ≤ 1/λ となるので,まとめると
―― これは §3.4 の式 (8) そのものです.したがって
→ xrd-simulator.html の ② 逆格子と Ewald 球 で,逆格子点が球面を横切る瞬間にピークが立つ様子を見てみましょう.
X 線は原子の中の電子に散乱されます.原子 1 個には Z 個の電子が 半径 1 Å 程度に広がって存在しているので, それぞれの電子からの散乱波の間にも位相差が生じます. 原子散乱因子(atomic scattering factor.原子形状因子 atomic form factor ともいいます) f は,「その原子の電子雲全体からの散乱振幅を,自由電子 1 個からの散乱振幅で割ったもの」で, 電子密度 の Fourier 変換です (ここでは指数の符号を結晶学の慣用に合わせて + にとっています.球対称な n(r) では f は実数なので,符号をどちらにとっても値は同じです.§7.2 の注も参照).
電子雲が球対称なら f は の向きによらず, だけの関数になります.性質は 3 つだけ覚えれば十分です.
実際に数値を出すときは,f(s) を 4 個のガウス関数で近似した表を使います. 本教材とシミュレーターは,pymatgen と同じ次の式・同じ係数を採用しました.
| 元素 | Z | f(0) | f(0.2) | f(0.3) | f(0.5) | f(0.7) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| C | 6 | 6.0000 | 3.5638 | 2.4891 | 1.7038 | 1.3921 |
| O | 8 | 8.0000 | 5.6245 | 4.0935 | 2.3395 | 1.7281 |
| Na | 11 | 11.0000 | 8.3209 | 6.8993 | 4.2315 | 2.7434 |
| Si | 14 | 14.0000 | 9.6835 | 8.2012 | 6.2702 | 4.3588 |
| Cl | 17 | 17.0000 | 11.9920 | 9.5556 | 7.2130 | 5.6277 |
| Fe | 26 | 26.0000 | 20.0609 | 16.7022 | 11.5625 | 8.3462 |
| Cu | 29 | 29.0000 | 23.5545 | 19.8299 | 13.7809 | 9.7126 |
(s の単位は Å−1.f(0) = Z が厳密に成り立つことに注意.)
単位胞の中の j 番目の原子の位置を,分数座標で (0 ≤ x, y, z < 1)と書きます. 原点の原子に対する位相差は ですが(Laue 条件が満たされている位置で考えるので ), ここに式 (11) と上の を代入して, 式 (10) の を使うと,クロス項がすべて消えて
この 1 行が,これから出てくる全ての消滅則の源です. ここが導出の心臓部で, 格子定数 a, b, c も角度も,どこにも現れていないことに注目してください. したがって,単位胞 1 個からの散乱振幅は
これを構造因子(structure factor)といいます.和は単位胞の中の全原子について取ります. 観測される強度は
※ 「分離定理」という呼び名は本ページ独自のものです. 標準的な術語ではないので,検索しても出てきませんし,他の授業でこの名前を使っても通じません. 同じ内容は望月研『固体物理学入門』第 3 章で定理 3.3 として述べられています.
ここからがこの教材の核心です.結晶は「Bravais 格子 + 基底」でできています. 慣用単位胞(conventional cell)を使うと,格子は中心化並進を含みます. その集合を と書きましょう(P なら M = 1,I と C なら 2,R(六方軸)なら 3,F なら 4). 1 個の格子点に付随する原子の集まり(基底)を とします.するとBravais 格子と基底の定義そのものによって, 単位胞内の全原子の位置は
と一意に書けます.しかもどの に付いている基底もまったく同じです ―― これが Bravais 格子の定義だからです. これを式 (26) に代入します.式 (25) より なので,2π はすでに の中に入っています ―― 以下では肩を と書きます(2π を二重に掛けないこと). 指数関数の肩は足し算なので,指数関数の積に分かれます.
2 行目から 3 行目への変形が肝です. の中身は j を含まず, の中身は m を含まないので, 二重和が単純に積に分解できます(). そこで
と書きます( の分数座標を としました). 散乱能が「格子の因子」と「中身の因子」の積に,完全に分かれました. ここから直ちに 2 つの結論が出ます.
→ xrd-simulator.html の ③ 構造因子と消滅則 で,複素平面上でベクトルが打ち消し合う様子を見てみましょう.
中心化並進は (0, 0, 0) だけ(M = 1)ですから
常に 1.格子由来の消滅則はありません ―― Bravais 格子の側は,どの (hkl) も許します. (基底由来の消滅則は別にあります.§8.5 の ②・§8.6 を見てください.) たとえば CsCl 型(a = 4.123 Å)では,どの (hkl) も消えません ―― 100, 110, 111, 200, 210, 211, 220, 300/221, 310, 311, … という具合です (N = 7 が飛んでいるのは消滅則のせいではなく,h2+k2+l2 = 7 となる整数の組が存在しないからです. N = 15, 23, 28 なども同じ理由で現れません).
中心化並進は (0, 0, 0) と (½, ½, ½) の 2 個(M = 2)です.
| h+k+l | (−1)h+k+l | S格子 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 偶数 | +1 | 2 | 許容 |
| 奇数 | −1 | 0 | 消滅 |
規則:h + k + l が奇数のとき消滅. 物理的には,体心の原子が作る面がちょうど元の面の中間に来るので, そこからの散乱波が角の原子からの波と位相差 π(逆位相)になって打ち消し合うのです. h + k + l が偶数なら N = h2 + k2 + l2 も偶数(逆も真)なので, bcc では N が偶数の反射だけが出ます:110, 200, 211, 220, 310, 222, 321, 400, …
中心化並進は (0,0,0), (0,½,½), (½,0,½), (½,½,0) の 4 個(M = 4)です.
4 つの場合を全部書き下します.偶奇の入れ替えは対称なので,これで尽きています.
| 場合 | k+l | h+l | h+k | S格子 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| (i) h, k, l すべて偶 | 偶 → +1 | 偶 → +1 | 偶 → +1 | 1+1+1+1 = 4 | 許容 |
| (ii) すべて奇 | 偶 → +1 | 偶 → +1 | 偶 → +1 | 1+1+1+1 = 4 | 許容 |
| (iii) 偶 2 個・奇 1 個 (例:h, k 偶,l 奇) | 奇 → −1 | 奇 → −1 | 偶 → +1 | 1−1−1+1 = 0 | 消滅 |
| (iv) 偶 1 個・奇 2 個 (例:h 偶,k, l 奇) | 偶 → +1 | 奇 → −1 | 奇 → −1 | 1+1−1−1 = 0 | 消滅 |
規則:h, k, l の偶奇が混在すると消滅(揃っているときだけ許容). 許される N は 3(111), 4(200), 8(220), 11(311), 12(222), 16(400), 19(331), 20(420), 24(422), 27(511/333), 32(440), 35(531), 36(442/600), … で, N = 1, 2, 5, 6, 7, 9, 10 は出ません(7 だけは F 格子の消滅則ではなく,そもそも組が無いためです).
ab 面が中心化された C 格子では,中心化並進は (0,0,0) と (½, ½, 0) です.
規則:h + k が奇数のとき消滅(l は無関係). 同じ計算で A 中心(bc 面,(0,½,½))なら k + l 奇数で消滅, B 中心(ac 面,(½,0,½))なら h + l 奇数で消滅です. C 中心は 1 方向だけを潰すので,消滅則が l に依存しないのが特徴です. この特徴のおかげで,指数付けができた粉末パターンから C 中心化の有無を判定できます. 単斜晶 C 格子(C2/c など)は,単斜晶 P・三斜晶 P に次いでよく現れる格子です.
菱面体(R)中心化も手順はまったく同じです.六方軸で書くと中心化並進は (0,0,0), (⅔,⅓,⅓), (⅓,⅔,⅔) の 3 個(M = 3)で, とおくと (). 1 の 3 乗根の和は t が 3 の倍数のとき 3,そうでなければ 0 なので, −h+k+l が 3 の倍数でないとき消滅します (§8.6 の hcp で使う の計算とまったく同じ道具です). Al2O3(コランダム,R-3c)や方解石はこの格子です. 詳しくは『固体物理学入門』第 2 章 2.6 節を見てください.
| Bravais 中心化 | 中心化並進 | S格子 | 消滅する条件 | 最初の数本(立方系) |
|---|---|---|---|---|
| P | (0,0,0) | 1 | なし | 100, 110, 111, 200, 210, 211 |
| I | + (½,½,½) | 1 + (−1)h+k+l | h+k+l = 奇数 | 110, 200, 211, 220, 310, 222 |
| F | + (0,½,½), (½,0,½), (½,½,0) | 式 (33) | 偶奇が混在 | 111, 200, 220, 311, 222, 400 |
| C | + (½,½,0) | 1 + (−1)h+k | h+k = 奇数 | (晶系による) |
| R (六方軸) | + (⅔,⅓,⅓), (⅓,⅔,⅔) | 1 + ωt + ω2t (ω = e2πi/3, t = −h+k+l) | −h+k+l ≠ 3n | (六方晶) |
ダイヤモンド構造は「Bravais 格子 = 立方 F」+「基底 = 同一元素 2 原子 {(0,0,0), (¼,¼,¼)}」でできています. 分離定理 (30) を使えば,格子の因子はすでに §8.3 で求めた式 (33) そのままです. 残るのは基底の因子だけ.
ここで を使いました. とおくと, は n mod 4 だけで決まります. F 格子の条件で残るのは「全部奇」か「全部偶」の 2 通りだけなので,それぞれを調べます. 以下の表の最後の数値列は,F 格子の因子 S格子 = 4 を掛けたあとの総和 |Fhkl|/f です.
| 場合 | n mod 4 | in | 1 + in | |Fhkl| / f = |S格子 × F基底| / f | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| (a) 全部奇(n は奇数) | 1 | i | 1 + i | 4√2 = 5.657 | 許容(中) |
| 3 | −i | 1 − i | 4√2 = 5.657 | 許容(中) | |
| (b) 全部偶(n は偶数) | 0 | 1 | 2 | 8 | 許容(最強) |
| 2 | −1 | 0 | 0 | 消滅 |
Si(a = 5.43102 Å,Cu Kα1)で検算してみましょう.
| hkl | 偶奇 | n | n mod 4 | 規則の予言 | 実際の 2θ [°] |
|---|---|---|---|---|---|
| 111 | 全奇 | 3 | 3 | 許容 | 28.442 |
| 200 | 全偶 | 2 | 2 | 消滅 | 出ない ✓ |
| 220 | 全偶 | 4 | 0 | 許容(強) | 47.302 |
| 311 | 全奇 | 5 | 1 | 許容 | 56.121 |
| 222 | 全偶 | 6 | 2 | 消滅 | 出ない ✓ |
| 400 | 全偶 | 4 | 0 | 許容(強) | 69.129 |
| 331 | 全奇 | 7 | 3 | 許容 | 76.375 |
| 420 | 全偶 | 6 | 2 | 消滅 | 出ない ✓ |
| 422 | 全偶 | 8 | 0 | 許容(強) | 88.028 |
| 511 / 333 | 全奇 | 7 / 9 | 3 / 1 | 許容 | 94.950 |
| 440 | 全偶 | 8 | 0 | 許容(強) | 106.706 |
| 531 | 全奇 | 9 | 1 | 許容 | 114.089 |
六方最密充填(hcp)は,Bravais 格子が六方 P(中心化なし, )で, 基底が同一元素 2 原子 {(0,0,0), (⅓, ⅔, ½)} です. したがって消滅則はすべて基底由来になります.
は 1 の原始 3 乗根で, , です.また を使いました.4 つの場合を全部書き下します.
| m mod 3 | l | (−1)l ωm | 1 + (−1)l ωm | |F| / f |
|---|---|---|---|---|
| 0 | 偶 | +1 | 2 | 2(最強) |
| 0 | 奇 | −1 | 0 | 0(消滅) |
| ±1 | 偶 | −½ ± 0.8660i | ½ ± 0.8660i | 1(弱) |
| ±1 | 奇 | +½ ∓ 0.8660i | 3/2 ∓ 0.8660i | √3 = 1.7321(強) |
|F| がいちばん大きいのは,h + 2k が 3 の倍数で l が偶数の反射((0002) や など)です (実測の強度にはさらに多重度や Lorentz 偏光因子が掛かるので(§10),最強線になるとは限りません. Mg では が最強線です).
図 3 構造因子を複素平面(Argand 図)で見る. 左:fcc の (200).4 本のベクトルがすべて同じ向きを向いて S = 4 になる. 中:fcc の (100).2 本が +1,2 本が −1 を向いて完全に打ち消し合い S = 0(消滅). 右:ダイヤモンド構造の (111).基底の 2 本が 90° ずれて,合成の長さは √2 になる. 式 (33)(35) をそのまま図にしたものである.
XRDCalculator と 2θ は 10−4° 以内,規格化強度は 0.02 以内で
一致することを確認しています.
→ xrd-simulator.html の ③ 構造因子と消滅則 で,実際にベクトルの打ち消し合いを見てみましょう.
この主張は,ここまで積み上げてきた式だけで証明できます. ただし1 つだけ条件を明示的に足す必要があります:格子定数も揃えること. これを落とすと,主張は明確に誤りになります(同じ fcc でも a が違えばピークは動きます).
§5.2 の途中で得た を sinθ について解き, を入れます.
右辺を見てください. そこには λ(測定条件)と しかありません. そして の は,式 (9) により だけから作られています. を決めているのは,Bravais 格子の型と格子定数だけです. 基底(どの元素がどこにいるか)は,どこにも現れていません.
一方,どの (hkl) が「許される」かは,式 (30) の がゼロかどうかで決まり, これも §8 で見たとおり中心化並進,すなわち Bravais 格子だけで決まります. そして強度は で,ここに基底が丸ごと入ってきます.したがって
実際に計算してみましょう. 格子定数を共通の値に固定したまま,箱の中身だけを入れ替えて粉末 XRD パターンを計算します (Cu Kα1,λ = 1.5405929 Å).
グループ A:Bravais 格子 = 立方 F.a = 5.64000 Å に固定.
| 2θ [°] | hkl | NaCl 岩塩型 Fm-3m |
NaCl 閃亜鉛鉱型 F-43m |
NaCl2 蛍石型 Fm-3m |
SrSO4 F-43m |
|---|---|---|---|---|---|
| 27.367 | (111) | 8.08 | 100.00 | 19.68 | 14.19 |
| 31.704 | (200) | 100.00 | 3.42 | 37.40 | 100.00 |
| 45.449 | (220) | 65.64 | 62.42 | 100.00 | 64.90 |
| 53.870 | (311) | 1.95 | 36.43 | 7.98 | 33.70 |
| 56.474 | (222) | 21.23 | 0.53 | 7.11 | 26.76 |
| 66.228 | (400) | 9.32 | 8.86 | 14.23 | 3.44 |
| 73.072 | (331) | 0.91 | 13.33 | 2.75 | 5.15 |
| 75.294 | (420) | 24.75 | 0.83 | 9.20 | 26.74 |
| 83.994 | (422) | 18.22 | 17.33 | 28.56 | 21.71 |
| 90.417 | (511)/(333) | 1.09 | 10.30 | 1.85 | 10.10 |
| 101.176 | (440) | 6.52 | 6.20 | 10.54 | 14.79 |
| 107.802 | (531) | 1.95 | 12.86 | 1.98 | 4.10 |
| 110.062 | (600)/(442) | 15.64 | 1.20 | 8.15 | 20.42 |
| 119.490 | (620) | 12.97 | 12.34 | 21.50 | 16.88 |
14 本すべてが,小数第 5 位まで完全に一致しました. 4 つの構造は,原子の配置も,空間群も,構造によっては原子の種類も個数も違うのに (慣用胞あたりの原子数は,岩塩型 8・閃亜鉛鉱型 8・蛍石型 12・SrSO4 24 です), ピークの立つ位置は 1 本残らず同じです.違うのは高さだけ. たとえば (111) は,岩塩型では 8.08 しかないのに閃亜鉛鉱型では 100.00(最強線)です.
グループ B:Bravais 格子 = 立方 P.a = 4.20000 Å に固定.
| 2θ [°] | hkl | NaCl CsCl 型 Pm-3m |
Na3N anti-ReO3 型 Pm-3m |
Ag2O 赤銅鉱型 Pn-3m |
|---|---|---|---|---|
| 21.136 | (100) | 5.88 | 100.00 | 消滅 |
| 30.066 | (110) | 100.00 | 5.52 | 1.57 |
| 37.044 | (111) | 1.15 | 69.91 | 100.00 |
| 43.038 | (200) | 16.80 | 68.42 | 41.90 |
| 48.423 | (210) | 1.23 | 33.96 | 消滅 |
| 53.391 | (211) | 33.02 | 3.09 | 0.41 |
| 62.496 | (220) | 9.71 | 38.36 | 33.80 |
| 66.763 | (300)/(221) | 0.57 | 13.23 | 消滅 |
| 70.897 | (310) | 12.81 | 1.32 | 0.13 |
| 74.931 | (311) | 0.38 | 22.42 | 34.85 |
| 78.889 | (222) | 3.09 | 11.19 | 9.07 |
| 82.794 | (320) | 0.35 | 5.00 | 消滅 |
| 86.666 | (321) | 14.50 | 1.33 | 0.13 |
| 94.381 | (400) | 1.53 | 4.99 | 5.82 |
| 98.260 | (322)/(410) | 0.74 | 6.51 | 消滅 |
| 102.177 | (330)/(411) | 8.32 | 0.62 | 0.07 |
| 106.153 | (331) | 0.41 | 8.71 | 19.38 |
| 110.211 | (420) | 5.37 | 15.90 | 17.65 |
| 114.378 | (421) | 0.93 | 5.71 | 消滅 |
| 118.687 | (332) | 5.53 | 0.33 | 0.04 |
図 4 格子定数を固定したまま中身だけ入れ替えた粉末パターン(Cu Kα1). 上 4 段=グループ A(立方 F,a = 5.64000 Å),下 3 段=グループ B(立方 P,a = 4.20000 Å). 棒の位置は各グループ内で完全に揃い,高さだけが構造によって入れ替わる. Ag2O(最下段)では 6 本が基底由来の消滅則で欠けているが, 格子が禁じた位置に新しい棒が生えることは決してない.
グループ B の表をよく見てください. CsCl 型と anti-ReO3 型は 20 本すべてが一致しますが, Ag2O だけは 6 本が欠けています(100, 210, 300, 320, 322, 421). これは主張の反例でしょうか.違います. Ag2O の空間群 Pn-3m では,§8.6 の hcp と同じく基底由来の追加の消滅則が働いているのです. 内訳は 2 種類で,100, 210, 300, 320, 410 は n グライドそのものの系統的消滅則 (0kl は k+l が奇数なら消滅,h00 は h が奇数なら消滅)で, 同じ 2θ に重なる 221, 322 と単独の 421 は,O(Wyckoff 2a)と Ag(4c)が特殊位置を占めていることから来る消滅です (Pn-3m の一般位置に原子を置けば,この 3 つは消えません). どちらも構造因子を書き下せば同じ式で出ます.
実際に構造因子を書き下すと,消えた 6 本はいずれも奇数指数がちょうど 1 個の反射です. Ag2O の慣用胞では,O が (0,0,0) と (½,½,½) にあるので O の寄与は で h+k+l が奇数なら 0, Ag は (¼,¼,¾), (¾,¼,¼), (¼,¾,¼), (¾,¾,¾) にあり, 奇数指数が 1 個のときは位相和が になります.両方が同時にゼロになるので消えるのです.
§5.3 で見たとおり,回折条件は Brillouin 域の境界の条件と同じ式です. そして Brillouin 域は「逆格子空間の Wigner–Seitz 胞」ですから, 逆格子だけで決まります.その逆格子は式 (9) により実格子だけで決まる. つまり
この 1 本の道筋が,スライド 1-6 の「Bravais 格子によって,Brillouin zone が決まる」の中身です. Si の電子バンド図に Γ–X–L–W–K という記号が並ぶのも, Si の Bravais 格子が立方 F だからです ―― ダイヤモンド構造だからではありません. 同じ立方 F の NaCl も,まったく同じ形の Brillouin 域(切頂八面体)をもちます. 回折の話とバンドの話は,同じ逆格子という 1 つの舞台の上で起きています.
XRDCalculator(wavelength=1.5405929) を使い,2θ = 0〜120° で計算しました.
グループ A の 4 構造は 2θ が小数第 5 位まで同一,
グループ B は CsCl 型と anti-ReO3 型が 20 本すべて同一,
Ag2O は 6 本欠けて 14 本 ―― という結果を,
さらに,pymatgen のコードを使わず,同じ定式化(同じ原子散乱因子の係数表と同じ Lorentz 偏光因子)で書いた自作実装でも再現し,
2θ の差 < 5×10−7°,相対強度の差 < 5×10−14 で一致することを確認しています
(これは実装の写し間違いが無いことの確認で,係数表そのものの正しさの検証ではありません).
→ xrd-simulator.html の ④ ピーク位置は Bravais 格子が決める で,格子定数を固定したまま中身を切り替えて,棒の位置が動かないことを自分の目で確かめてください.
C は測定全体にかかるスケール因子です (§2 以降で使ってきた と紛らわしいので,本ページでは C と書きます.文献では s と書かれることが多いので注意してください).
内訳は次のとおりです.※ 定数 1/2 の扱いに注意. 下の L と P をそのまま掛けると となり,式 (40) のちょうど半分になります. 文献(および pymatgen の実装)には,この 1/2 を式 (39) のスケール因子 C に吸収して 分母の 2 を落とす流儀があり,式 (40) はそちらを採っています. 相対強度しか問題にしないので,どちらでも結論は変わりません.
粉末では,対称的に等価な面(たとえば (100), (010), (001), (−100), (0−10), (00−1))が すべて同じ 2θ に重なります.その枚数が多重度(multiplicity factor)です. 数え方は覚える必要がありません.次の式で出ます.
| hkl | N | m | 数え方 | hkl | N | m |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 100 | 1 | 6 | 3 × 21 | 400 | 16 | 6 |
| 110 | 2 | 12 | 3 × 22 | 331 | 19 | 24 |
| 111 | 3 | 8 | 1 × 23 | 420 | 20 | 24 |
| 200 | 4 | 6 | 3 × 21 | 422 | 24 | 24 |
| 210 | 5 | 24 | 6 × 22 | 511 | 27 | 24 |
| 211 | 6 | 24 | 3 × 23 | 333 | 27 | 8 |
| 220 | 8 | 12 | 3 × 22 | 440 | 32 | 12 |
| 221 | 9 | 24 | 3 × 23 | 531 | 35 | 48 |
| 300 | 9 | 6 | 3 × 21 | 442 | 36 | 24 |
| 310 | 10 | 24 | 6 × 22 | 600 | 36 | 6 |
| 311 | 11 | 24 | 3 × 23 | 620 | 40 | 24 |
| 222 | 12 | 8 | 1 × 23 | 533 | 43 | 24 |
| 320 | 13 | 24 | 6 × 22 | 622 | 44 | 24 |
| 321 | 14 | 48 | 6 × 23 | 444 | 48 | 8 |
(立方晶・点群 m-3m の場合.48 個の符号付き置換を総当たりで数え上げて検算済み.)
原子は熱で振動しているので,位置が完全には決まりません. そのぶん高角の反射が余計に弱くなります.これが Debye–Waller 因子(温度因子)で, 各原子の fj に掛けて使います. は原子変位の平均二乗です.
→ xrd-simulator.html の ⑤ 粉末 XRD パターン で,実際の結晶構造からパターンを計算してみましょう.
§3.2 では「面が無限に積み重なっている」として,条件をぴったり満たすときだけ強め合うとしました. 実際の結晶子は有限で,(hkl) 面が N 枚しかありません(ここでも N は枚数で,指数和ではありません). 面 j(j = 0, 1, …, N−1)からの散乱波の位相を , とおきます(ξ が整数のとき Bragg 条件が満たされます). 振幅の和は等比級数なので
これを Laue の干渉関数といいます.ξ が整数のところで高さ N2 の鋭いピークを作り, N が大きいほど鋭くなります.N → ∞ で δ 関数になり,§5 の Laue 条件に戻ります.
図 5 Laue の干渉関数(式 (42)).N = 3, 10, 30 の 3 通り. 縦軸は最大値で規格化してある.N が増えるほどピークは鋭くなり, 半値全幅は 0.885893 / N に漸近する. 結晶が小さい(N が小さい)ほどピークが太る ―― これが Scherrer 式の正体である.
(整数)の近くで とおくと, |ε| ≪ 1 で と近似できて
という 型になります. 半値になるのは の点で,数値的に解くと x = 1.3915574 です. したがって ξ についての半値全幅は . これを 2θ に直します. を θ で微分すると なので,結晶子の厚さを , 2θ についての幅を として
ここで K = 0.885893(板状・柱状で,D を面法線方向の厚さに取った場合)―― 慣用値の 0.9 は,この数の丸めです.
| 幅の定義 | 結晶子の形(D の意味) | K |
|---|---|---|
| 半値全幅 FWHM | 板状・柱状(D = 面法線方向の厚さ) | 0.885893 |
| 積分幅(面積 ÷ ピーク高さ) | 同上 | 1.0000(厳密に 1) |
| 半値全幅 FWHM | 球(D = 直径) | 1.1067 |
| 積分幅 | 球(D = 直径) | 4/3 = 1.3333 |
| 積分幅 | 球(D = 体積の立方根) | 1.0747 |
ピークが広がる原因は 2 つあります.
2 つが Lorentz 型で単純に足されると仮定して とし,両辺に cosθ を掛けると
横軸に 4 sinθ,縦軸に β cosθ(β はラジアン)を取ってプロットすると直線になり, 切片から結晶子径 D = Kλ/切片,傾きから微小歪み ε が読み取れます. 横軸を sinθ に取る流儀もあり,そのときは傾きが 4ε になります ―― どちらの流儀かを図の軸に明記してください.
Scherrer 式は幅の話でしたが,幅が変わると高さはどうなるでしょうか. 答えは「面積(積分強度)は結晶子径 D によらず一定で,高さは幅に反比例して下がる」です. 理由を 2 段階で見ます.
(1) 結晶子 1 個. 式 (42) の干渉関数は,頂上の高さが N2,半値全幅が 0.885893/N でした. その面積(1 周期ぶんの積分)は,高さ × 幅のおおよその見積もりどおり N に比例し,しかも厳密に
になります.式 (42) の和を と展開して 1 周期で積分すると,j ≠ j′ の項はすべて 0 になり,j = j′ の N 項だけが 1 ずつ残るからです. つまり結晶子 1 個が出す回折の面積は,その結晶子に含まれる面の数(3 次元では単位胞の数,すなわち体積)に比例します. 頂上の高さ N2 は「全部の面の波が同位相で足し合わさる」ことの結果で,面積が N 倍になることと,幅が 1/N に狭まることの積です.
(2) 同じ量の粉末. 粉末試料の X 線が当たる体積 V試料 を一定にしたまま,結晶子を小さくしていくとします. 1 個の結晶子の体積を V1 とすると,結晶子の数は V試料/V1 個です. 別々の結晶子は位置も向きもばらばらなので,互いの散乱波の位相はそろわず,振幅ではなく強度(面積)が足し算になります. したがって試料全体の面積は
となり,D によりません. 一方,幅は式 (43) により β ∝ 1/D で広がります. §11.2 の表の「積分幅 = 面積 ÷ 高さ」を思い出すと,高さ = 面積 ÷ 積分幅なので, サイズ由来の幅が支配的なら,ピークの高さは D に比例して下がります(D を 1/10 にすると高さも約 1/10). D が大きくなって幅が装置幅に近づくと,幅はそれ以上狭くならないので,高さも頭打ちになります.
VESTA や pymatgen の計算パターンは,最強線を 100 にそろえて表示するのが普通です(§10,§12). これは相対強度の並びを比べて物質を同定するには便利ですが,こう規格化すると,D を小さくしたときに高さが下がる様子は見えなくなります. 測定装置が出す生データ(カウント数)は規格化されていないので,同じ条件で測った 2 つの試料なら,結晶子が小さいほうのピークが低く広く見えます. シミュレーター⑥が強度を規格化せず,固定目盛で描いているのはこのためです(付録 A.7).
→ xrd-simulator.html の ⑥ Scherrer 式 で,結晶子径を変えたときにピークが太り,そのぶん低くなる様子を見てみましょう(縦軸は規格化していません).
実験室の粉末回折計でいちばん普通の配置が Bragg–Brentano 集中法です. X 線源・試料・検出器を,1 つの円(ゴニオメータ円)の上に置き, 試料を θ 回すと検出器が 2θ 回るように連動させます. この配置では,試料表面に平行な面( が試料表面に垂直な向き)だけが 回折条件を満たすので,選択配向(結晶子の向きの偏り)の影響を受けやすいという弱点があります. 実用上の 2θ の範囲は,低角側が直接ビーム・空気散乱と,発散スリットで決まる照射幅が試料からはみ出すこと(footprint)のために 5〜10° 程度, 高角側がゴニオメータの機械的な制約で 150〜160° 程度です.
未知試料のパターンから出発するときの手順は,こうです.
ピークを 1 本ずつ拾うのではなく,パターン全体を計算値でフィットするのが Rietveld 法です. 格子定数・原子座標・占有率・温度因子・ピーク形状関数・バックグラウンド・選択配向・スケール因子… といった全パラメータを,観測値との残差 が最小になるように非線形最小二乗で動かします. 結晶構造そのものをパターンから精密化できる強力な方法ですが, 出発モデルが正しくなければ,収束しないか,見かけ上は収束しても誤った構造に落ち着いてしまうので, 「まず消滅則で空間群を絞る」という §8 の作業が前提になります.
$ python3 ~/script/xrd_pattern_poscar.py -p POSCAR_NaCl_Fm-3m -s F
望月研究室には,学部 3 年次向けの固体物理学教材『固体物理学入門』があります (全 20 章+付録).本ページの内容は,その第 1・2・3 章と全面的に対応しています. あちらは学部 3 年次の教材なので,いま全部を理解する必要はありません. 本教材でつまずいたときに戻る場所として憶えておいてください.
| 本ページ | 『固体物理学入門』の対応箇所 | そこで何が増えるか |
|---|---|---|
| §2 ミラー指数 | 第 1 章 1.8 節 | なぜ逆数をとるのか.立方晶以外では (hkl) 面の法線が [hkl] 方向と一致しないこと |
| §2 7 晶系 | 第 2 章 2.1〜2.2 節 | 7 つの結晶系が「格子定数」ではなく「対称性」で定義されていること.なぜ 7 つで尽きるのか |
| §4 逆格子 | 第 3 章 3.1 節 | 電子密度の Fourier 展開から逆格子が自動的に現れる導出.2π の流儀についての数学ノート |
| §4.2, §4.3 の証明 | 第 3 章 定理 3.1(3.2 節) | 本ページと同じ証明を,より簡潔に |
| §5 Laue と Bragg | 第 3 章 定理 3.2(3.4 節) | 両者の同値性の証明と,「Bragg は粉末向き,Laue はバンド理論向き」という役割分担 |
| §6 Ewald 球 | 第 3 章 3.4 節 の 3.4.2 項(図 3.2) | 回転法・粉末法・Laue 法がなぜ必要になるのか |
| §7 構造因子 | 第 3 章 3.5 節 | 電子密度の Fourier 変換から SG を導く厳密版 |
| §8 消滅則 | 第 3 章 3.5 節 の 3.5.1 項,第 5 章 5.5 節 | らせん軸・グライド面による消滅則.回折パターンから空間群を絞り込む方法 |
| §9 核心 | 第 3 章 3.6 節(定理 3.3) | 本ページの主張が定理として厳密に証明されている.望月研の数値実験の表もそこにある |
| §9.5 Brillouin 域 | 第 2 章 2.7 節,第 3 章 3.7 節 | fcc の切頂八面体・bcc の菱形十二面体の作図.高対称点 Γ, X, L, W, K, U |
| §10 強度因子 | 付録 B B.4 節 の B.4.2 項 | 実際の強度式と,VESTA が内部で何を計算しているか.SrTiO3 の手計算例題 |
| §12 Rietveld | 付録 B | CIF の書き方,構造データベース(Materials Project・ICSD)の使い方 |
シミュレーターは,本文と同じ順序で 6 つのタブに分かれています. まず①で,CsCl・SrTiO3・NaCl の 3 つの物質と面 (hkl) を選び,面間隔 dhkl が指数で決まること, 2dhkl sinθ = λ で隣り合う面からの波が強め合うこと,そしてそのピークの高さを 1 周期の中の原子層が決めることを目で見ます. ②では逆格子をゼロから導入して Ewald 球を描き,Laue 条件が Bragg 条件と同じことを言っているのを確かめます. ③では構造因子を複素平面上のベクトルの和として描くので, 面心立方で偶奇の混ざった hkl がどうやって打ち消し合って消えるのかがそのまま見えます. ④では格子定数を固定したまま箱の中身だけを入れ替えても,ピークの立つ 2θ は動かないことを, 岩塩型・閃亜鉛鉱型・蛍石型・SrSO4 型(いずれも立方 F)などで確かめます. これが §9 の主張で,この教材の背骨です. ⑤では実在の 27 の結晶構造の粉末パターンをその場で計算し, ⑥では Scherrer 式を使ってピーク幅から結晶子径を測ります.
東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科「無機材料学」の第 4 回で扱うのは ①・③・⑤ の 3 つです. この 3 つは指定教科書『よくわかる無機材料化学』の 1-2 節「X 線回折法」(p. 6–13)に対応しています(参考文献 13). ②・④・⑥ は発展で,授業では扱いません. とくに②の Brillouin 域,⑤から案内している Rietveld 解析(§12.3),⑥の Williamson–Hall プロットは 3 年次以降の内容なので, 2 年生のうちは「そういうものがある」と眺めておくだけで構いません.
| タブ | 画面で見ること | 授業での扱い | 本文の対応箇所 |
|---|---|---|---|
| ① Bragg の条件 | 3 物質の単位胞と (hkl) 面,面間隔 dhkl,隣り合う面からの波と原子層からの波の干渉 | 第 4 回 | §2, §3 |
| ② 逆格子と Ewald 球 | 実格子と逆格子,Ewald 球の作図,単結晶と粉末の違い | 発展 | §4, §5, §6 |
| ③ 構造因子と消滅則 | 回せる 3 次元の単位胞と,複素平面上の散乱波のベクトル和 | 第 4 回 | §7, §8 |
| ④ ピーク位置は Bravais 格子が決める | 格子定数を揃えて中身だけ替えたパターンの比較 | 発展 | §9 |
| ⑤ 粉末 XRD パターン | 実在の 27 構造の粉末パターン,指数付け,パターンの重ね合わせ | 第 4 回 | §10, §12 |
| ⑥ Scherrer 式 | 結晶子径と歪みによるピークの広がりと高さの変化(規格化しない固定目盛),幅から結晶子径を逆算する練習 | 発展 | §11 |
どのタブも,左に図(キャンバス),その下に凡例・読み取り値の表・そのタブの鍵になる式(式だけで,説明文は付けていません)・「ひとこと」の欄が並び,
右(スマートフォンでは下)に操作欄があります.
「ひとこと」は,スライダーを動かすたびにいまの状態に合わせて書き換わる 1〜2 文の短い知らせです.
シミュレーターの画面の説明は,授業の画面に埋め込んでも読み切れるように短くしてあり,
各タブの「ひとこと」の欄の下にある「詳しい解説」のリンクから,この付録の対応する小節(A.2〜A.7)に飛べます.
①と③の単位胞は 3 次元で描いてあり,マウスのドラッグ(スマートフォンでは 1 本指)で回せます.ダブルクリックか「向きを戻す」ボタンで元の向きに戻ります.
アドレスの末尾に #bragg,#ewald,#structure,#bravais,#powder,#scherrer
を付けると,そのタブを開いた状態でページが表示されます(本文の各章末のリンクはこれを使っています).
?only=bragg のように書くと,そのタブだけを表示します.
以下の各小節の末尾に「もっと深く」として挙げる先は,すべて望月研究室の学部 3 年次向け教材『固体物理学入門』です. この教材は学内限定で,閲覧にはパスワードが必要です(§13 を参照).
このタブでは,実在の 3 つの立方晶 ―― CsCl(Pm-3m),SrTiO3(Pm-3m,ペロブスカイト型),NaCl(Fm-3m,岩塩型)―― のどれかと,面 (hkl) を 1 つ選びます. 選んだ面の面間隔は,立方晶なら §2.3 の式 (4),dhkl = a/√(h2+k2+l2) です. Bragg 則で大事なのは,面間隔 d が勝手な数ではなく,格子定数とミラー指数 hkl で決まるということで, h2+k2+l2 が大きい面ほど d が小さく,高角に出ます. 構造データは望月研究室の POSCAR(慣用単位胞)そのもので,3 つの物質の d・2θ・相対強度は §3.5 の表にまとめてあります.
操作欄. 「物質」のプルダウンで 3 つの物質を,「結晶面(ミラー指数)」の 10 個のボタンで (100)(110)(111)(200)(210)(211)(220)(310)(311)(222) を選びます. 立方晶では N が同じ別の族が同じ 2θ に重なることがあるので((300) と (221) など.§2.3,A.6),そうした面はボタンに入れていません. 「X 線の波長」はスライダー(0.50〜2.50 Å)と Cu Kα1・Mo Kα1・Cr Kα1 のボタンで変えます. ボタンは §3.4 の表の値を入れます.スライダーは 0.01 Å 刻みなので,ボタンで入れた正確な値とはスライダーの位置が少しずれますが, 計算にはボタンの値(Cu Kα1 なら 1.5405929 Å)をそのまま使っています. 「入射角」のスライダーは θ を 0.1〜90° の範囲で 0.1° 刻みに動かし,「Bragg 条件に合わせる」ボタンで θ を Bragg 角 θB に戻します. 物質・面・波長を変えると,θ は自動的に θB に合います. 既定は CsCl の (100) 面・Cu Kα1 です.
左上(スマートフォンでは上)の 3 次元の図. 単位胞の原子を元素ごとの色で描き,境界上にある周期的な像も描いています(数え方は A.4). 球の大きさはイオン半径(Shannon の値)に比例させていますが,重なって見えにくくならないよう実際の 0.4 倍に縮めてあります. 半透明の青い面が (hkl) 面の族で,単位胞を横切る面をすべて描いています. 指数を大きくするほど面が細かく並び,その間隔が dhkl です. (200) は (100) の面の間にもう 1 枚ずつ面を挟んだもので,(200) の面の上にも原子はあります(§2.3 の誤解 2). 青い矢印が入射 X 線,赤い矢印が回折 X 線で,単位胞の中央付近の面で「反射」する向きに描いています. 図はドラッグで回せます.
右上(スマートフォンでは 2 段目)の断面図. (hkl) 面を真横から見た図で,見出しの「[0 0 1] 方向から見た断面」のように,面と平行な方向(晶帯軸)から見ています. (hkl) 面は水平な線(m = 1, 0, −1, …)に見えます. 円は,見る方向に沿って並んだ原子の列を列に沿った一定の長さ(単純立方格子の周期ぶん.F 格子では格子の周期の 2 倍になる列もあります)だけまとめて投影したもので, 1 つの列に何種類かの元素が入っているときは,個数の比で扇形に塗り分けています (たとえば NaCl の (100) を [0 0 1] 方向から見ると,Na と Cl が交互に並ぶ列になるので円は半分ずつの色になります). 面の上に乗っていない原子が面と面の間にあることが,下の 2 本目の帯(高さ)に効きます. 2 組の入射線・回折線は面 m = 1 と m = 0 で「反射」する波で,オレンジの折れ線が行路差 2d sinθ(§3.1 の式 (5),図 1 と同じ作図), 右端の寸法線が面間隔 d です.
下の 1 本目の帯「位置を決める」. 隣り合う面 m = 0 と m = 1 からの波(青と赤)と,その和(紫の太線)です. 見出しの「和の振幅 … / 2」が 2 になるのは行路差が λ の整数倍のときで, ここで回折線が立ちうる,つまりピークの位置 2θ が決まります(§3.1 の式 (6),§3.2). θ のスライダーを動かすと,行路差 ÷ λ(読み取り値の欄)が変わり,和の振幅が上下します. 画面では 2 枚の面しか足していませんが,実際の結晶には面が何百万枚もあるので,条件から少しでもずれると散乱波は打ち消し合います. 回折線が鋭い線になるのはこのためで,面の枚数が有限だとどれだけ太るのかが §11 の話です. ひとつ注意があります.和の振幅は 2|cos(π × 行路差 ÷ λ)| なので,θ → 0(行路差 ÷ λ → 0)でも 2 に近づきますが, これは前方へ直進する透過ビーム(n = 0)にあたり,回折線ではありません.行路差 ÷ λ が 0.5 に近づけば振幅は 0 に落ちます(たとえば 0.4 で約 0.62).
下の 2 本目の帯「高さを決める」. 1 周期(隣り合う面の間)の中で,原子は面の上だけでなく,面と面の間の決まった高さにも並んでいます. その高さを面間隔を 1 とした分率 z(hx+ky+lz の小数部分)で表し,同じ高さの原子をまとめて 1 枚の「原子層」とみなします. 帯の 2 行目の「z = 0:Na×2+Cl×2 / z = 1/2:…」が単位胞 1 個ぶんの原子層の内訳で, 破線がそれぞれの層からの波(色は層に含まれる元素の色を散乱能で重み付けして混ぜたもの,振幅は層の原子散乱因子 f の和),紫の太線がその和です. 層 z からの波の位相のずれは 2π z ×(行路差 ÷ λ)で,Bragg 角ではちょうど 2π(hx+ky+lz) になるので, Bragg 角での和の振幅は構造因子の大きさ |Fhkl| そのものです(§7.2 の式 (26)).見出しにはいまの和の振幅と,Bragg 角での |F| が並びます. たとえば CsCl の (100) では z = 0 の Cs と z = 1/2 の Cl が逆位相になって |F| = fCs − fCl に弱まり, NaCl の (100) では z = 0 と z = 1/2 の層がまったく同じ中身(Na×2+Cl×2)なので完全に打ち消し合います. NaCl の (200) では全部の原子が z = 0 の層に入り,最強線になります. 1 本目の帯で位置の条件を満たしていても,2 本目の帯の和が 0 ならピークは立ちません ―― これが③で扱う消滅則です(§8). なお,この帯の f は Bragg 角での値(s = 1/(2d),中性原子,温度因子なし)に固定していて,θ を動かしても変えていません.
読み取り値. 物質と格子定数 a,(hkl) と N,面間隔 d = a/√N,波長 λ,Bragg 角 θB と 2θB, いまの θ と行路差 ÷ λ,1 周期の原子層の内訳,Bragg 角での |F|2,相対強度が出ます. 相対強度は,同じ物質・同じ波長の粉末パターン(A.8 と同じ計算,2θ ≤ 150°)の中で最強線を 100 としたものです. 消滅する反射は「0(消滅)」,λ > 2d なら「―」,2θ が 150° を超えると「範囲外」と表示されます. Cu Kα1 のときの値は §3.5 の表と一致します. 「ひとこと」の欄は,強め合っているとき・消滅するとき・θ がずれているとき・λ > 2d のときに,それぞれ短く知らせます.
λ > 2d のとき. sinθ = λ/(2d) が 1 を超えてしまうので,θ をどう振ってもこの面からの反射は出ません. §3.4 の式 (8) で述べた分解能の限界で,このときは物質・面・波長を変えても θ は自動では動かず,「Bragg 条件に合わせる」ボタンも押せなくなり,「ひとこと」の欄に警告が出ます. Mo Kα1 のような短い波長に替えるか,d の大きい(指数の小さい)面を選ぶと反射が戻ってきます.
n = 1 の流儀. このタブは 2dhkl sinθ = λ(§3.3 の式 (7))だけを扱い,n = 2, 3, … は使いません. n 次反射は,結晶学では「(nh nk nl) 面の 1 次反射」と読み替えるからで,たとえば (100) 面の 2 次反射は (200) 面の 1 次反射です. θ を上げていって行路差がちょうど λ の 2 倍・3 倍になると,「ひとこと」の欄は「(2 0 0) 面の反射として数えます」のように読み替え先を示します. ②以降のタブもすべてこの流儀で描いています. X 線は面で本当に鏡のように反射しているわけではないこと,θ は面からの角で装置の表示する 2θ の半分であることは,§3.1 の誤解 3・誤解 4 を読んでください.
※ SrTiO3 は POSCAR どおり Sr を原点に置いています.⑤のタブの SrTiO3 は Ti を原点に取っているので,原子層の内訳の表示は違いますが, 原点の取り方で変わるのは F の位相だけなので,|F|2 と強度は同じです.
もっと深く:『固体物理学入門』第 3 章 3.3 節(Bragg の法則,図 3.1).同じ図と同じ注意書きがあります.
左の図は 2 次元の長方格子(実格子),右の図はその逆格子と Ewald 球です. ミラー指数と面間隔の定義は §2.1,逆格子を「面の族 1 つを,面の法線を向き・1/dhkl を長さとするベクトル 1 本で表す」ものとして導入する動機は §4 の冒頭で述べたとおりです. 操作欄で実格子の a を大きくすると,右の逆格子の a* は小さくなります. 実格子と逆格子は「伸ばすと縮む」関係にあり,「逆」とはこの意味です. ただし画面について 2 つ断っておきます. ひとつは,画面が 2 次元なので,(hk) は正しくは「面」ではなく格子直線だということ(3 次元にはそのまま拡張できます). もうひとつは,a* = 1/a という単純な関係が成り立つのは,この画面のような直交格子の場合だけだということです. 一般には a* は b と c の両方に垂直に取るので(§4.1),a とは平行になりません.
右の図では,逆格子の原点 O に終点が来るように入射波数ベクトル(長さ 1/λ)を描き, その始点 C を中心に半径 1/λ の円を描いています.これが Ewald 球です(§6.1). この球面上に逆格子点 P が乗ったとき,その反射が観測され,回折線の向きは C → P,散乱ベクトルは g = OP(長さ 1/d)です. 三角形 C-O-P が二等辺三角形であることから 2d sinθ = λ が出ることは,§6.2 の式 (21) で示しました. 逆格子点が球面に乗ると,「ひとこと」の欄は黄色の g が散乱ベクトル Δk = k′ − k で, それが逆格子ベクトルにぴったり一致していること,つまり Laue 条件(§5)が満たされていることを知らせます. なお,シミュレーターは画面上で球面から 2.6 px 以内にある逆格子点を「乗っている」と判定しています. 実際の結晶にも微結晶の向きのばらつき(モザイク広がり)があるので,数学的に厳密な一致が要求されるわけではありません.
固定した単結晶に固定した波長の X 線を当てても,球面にちょうど乗る逆格子点はふつう 1 つも無く,回折は起きません(§6.3). このとき「ひとこと」の欄は「いま Ewald 球面に乗っている逆格子点は無く…」と知らせます. ただし判定は上に書いたとおり画面上の px で行うので,既定の状態(a = 4.00 Å,b = 3.00 Å,λ = 1.54 Å,ω = 0°)では, (h, k) = (−3, ±2) の逆格子点(球面からのずれ 0.025 Å−1)などが「乗った」と判定され,「ひとこと」の欄にもそう出ます. 厳密には乗っていませんが,画面の上ではそのずれが 2.6 px に満たないためです. 図が小さい(画面の幅が狭い)ほど 1 px が表す長さが大きくなるので判定は甘くなり,(−5, ±1)(ずれ 0.038 Å−1)なども「乗った」側に入ります. 読み取り値の欄の「球面からのずれ |Δg|」で,どれだけ離れているかを確かめてください. 「結晶の回転 ω」のスライダーや「ω をゆっくり回して反射を探す(1 度ずつ)」のボタンで結晶を回し, 逆格子点を球面まで持ってくるのが回転結晶法にあたります. 「粉末試料にする」にチェックを入れると,微結晶があらゆる向きを向くので, 1 個の逆格子点が原点を中心とする輪(3 次元なら球殻)に化けます. その半径 1/d が限界球の半径 2/λ 以下なら輪は必ず Ewald 球と交わるので, λ ≤ 2d を満たす反射が試料を 1 度も回さずに全部同時に観測でき,その本数が読み取り値の欄に出ます. これが §6.4 の式 (22) と「粉末法の御利益」の囲みの内容で,交線が Debye–Scherrer 環になる理由もそこに書きました. 「限界球 |g| = 2/λ を描く」のチェックは,この境界の円を表示するものです.
発展として,Laue 条件と弾性散乱の条件を連立すると 「k の先端が,原点と逆格子点を結ぶ線分の垂直二等分面の上にある」という条件になり, その面が囲む最小の領域が第一 Brillouin 域です. 回折が起きる波数とバンドギャップが開く波数が同じなのは偶然ではありません.§5.3 の式 (20) を参照してください.
もっと深く:『固体物理学入門』第 3 章 3.1 節(Fourier 展開から逆格子が自動的に現れる), 3.4 節(Laue 条件と Ewald 球,定理 3.2),3.7 節(Brillouin 域).
左の図は選んだ格子型の単位胞,右の図は複素平面です(幅の狭い画面では単位胞が上,複素平面が下に並びます). 単位胞の中の原子 1 個が,右の図の細い矢印 1 本に対応します(境界上に描いた周期的な像は数えません.下の囲み). 矢印の長さは散乱能 fj,向きは位相 2π(hxj + kyj + lzj) で, 矢印の終点に次の矢印の始点をつないで足していった先(太い矢印)が Fhkl です(§7.2 の式 (26),図 3). 矢印の列が原点に戻ってきたら消滅です. この式に格子定数 a が出てこないことに注目してください. 構造因子は「箱の形」ではなく「箱の中の相対配置」だけで決まります.
左の単位胞は VESTA と同じように3 次元で描いてあり,マウスのドラッグ(スマートフォンでは 1 本指)で回せます. ダブルクリックか操作欄の「向きを戻す」ボタンで,a 軸が左手前・b 軸が右・c 軸が上の元の向きに戻ります. 左下の 3 本の短い線は軸の向き(a 赤,b 緑,c 青),破線が単位胞の稜で,奥にあるものほど薄く描いています. 原子 A は青,原子 B は橙の球です. 単位胞の角・稜・面の上にある原子は,隣の単位胞と共有されています. そこで,単位胞の境界に乗っている原子は,周期的に等価な位置(反対側の面・稜・角)にもすべて描いてあります. たとえば面心立方 F では,格子点 4 個(角 1 個と面心 3 個)のほかに,残り 7 つの角と 3 つの面心にも同じ原子が見えるので,球は 14 個になります.
| 格子型 | 描いた球の数と数え方 | 単位胞内の原子数 |
|---|---|---|
| 単純立方 P | 角 8 × 1/8(計 8 個) | 1 |
| 体心立方 I | 角 8 × 1/8 + 体心 1 × 1(計 9 個) | 2 |
| 面心立方 F | 角 8 × 1/8 + 面心 6 × 1/2(計 14 個) | 4 |
| ダイヤモンド型 | 角 8 × 1/8 + 面心 6 × 1/2 + 内部 4 × 1(計 18 個) | 8 |
| 岩塩型 | A:角 8 × 1/8 + 面心 6 × 1/2(14 個)/ B:稜の中点 12 × 1/4 + 体心 1 × 1(13 個) | 4 + 4 |
| 閃亜鉛鉱型 | A:角 8 × 1/8 + 面心 6 × 1/2(14 個)/ B:内部 4 × 1(4 個) | 4 + 4 |
| CsCl 型 | A:角 8 × 1/8(8 個)/ B:体心 1 × 1(1 個) | 1 + 1 |
まず格子型を面心立方 F にして,hkl の偶奇を混ぜてみてください(100 や 110). 4 本の矢印が +1, −1, −1, +1 のように向き合って,ちょうど原点に戻ってきます. 偶奇を揃える(111 や 200)と 4 本が全部同じ向きに揃い,|F| = 4f になります. 面心の 3 個の原子を取り除いて単純立方にすれば,(100) の矢印は 1 本だけになって打ち消す相手がいなくなり,消えていた 100 反射は復活します(格子型を P にして確かめられます). 「ひとこと」の欄には,|F| の値が原子 A の散乱能 fA を単位として出るほか, 矢印が全部同じ向きに揃ったときの上限 Σj fj も併記されます. 2 種類の原子を含む格子型で fB ≠ fA のとき, この上限が「原子数 × fA」と一致しないのは B 原子の散乱能が違うからで,位相のせいではありません. 許容の反射でも |F| が上限より小さいときは,矢印の向きが揃っていないぶんだけ弱くなっているのです. 消滅則が「原子が無いから」ではなく「原子が有るから」起きること(面心位置の原子が元の面のちょうど中間にもう 1 枚の面を作り, そこからの散乱波が逆位相になって打ち消す)は,§1 の誤解 1 で述べ,§8 で式として確かめたとおりです. (000) は回折ではなく直進ビームなので,h, k, l のどれかを 1 以上にしてください.
格子型のプルダウンには次の 7 つがあり,選ぶと「ひとこと」の欄にその格子型の消滅則が表示されます. 単純立方 P・体心立方 I・面心立方 F は 1 種類の原子だけでできています. P には消滅則が無く,I は h+k+l が奇数のとき,F は h, k, l の偶奇が混ざるときに消滅します(§8.1–§8.3). ダイヤモンド型は F 格子+同種 2 原子の基底で,偶奇混在の消滅(F 格子由来)に加えて, 全部偶数かつ h+k+l = 4n+2 の反射も消えます(基底由来,§8.5). 岩塩型と閃亜鉛鉱型は F 格子+異種 2 原子の基底です. 岩塩型では,残った反射のうち全部奇数のものが fA − fB に比例するので,2 原子の散乱能が近いと極端に弱くなります. 閃亜鉛鉱型では,ダイヤモンド型で消えていた 200・222・420 が,2 原子が異種になったぶん |fA − fB| に比例して弱く復活します. CsCl 型は P 格子+異種 2 原子の基底で,格子由来の消滅則はありません(体心立方ではないことに注意してください). h+k+l が奇数の反射が fA − fB に比例して弱くなります.
消滅則には,Bravais 格子の中心化に由来して箱の中身に一切依存しないもの(I や F の規則)と, 基底に由来して中身が変われば変わるもの(ダイヤモンド型の 200・222 など)の 2 種類があります. §7.3 の分離定理の 2 つの因子にそれぞれ対応していて,④のタブではこの区別がそのまま主役になります.
操作欄の h, k, l のスライダーは 0〜6 の範囲で動き,(100)(110)(111)(200)(220)(311) のボタンでも選べます. 図の下の表(h ≥ k ≥ l で 0〜4 の組)の行をクリックしても hkl を選べます. 2 種類の原子を含む格子型では「fB/fA」のスライダーが使えます. 岩塩型でこれを 1 に近づけると,全部奇数の反射(111 など)が消えていきます. K+ と Cl− はどちらも 18 電子なので散乱能がほぼ等しく,KCl が実際にこれに近い状態です(§9.4 の「有名な実例」の囲みと演習 9). ※ このタブでは f を hkl に依らない定数として扱っています. 本当は f は sinθ/λ とともに減ります(§7.1 の式 (24)).⑤ と ⑥ のタブはこの減少を入れて計算しています.
プルダウンには立方晶しかありませんが,六方最密構造(hcp)でも同じことが起きます. ⑤のタブでマグネシウム Mg かチタン Ti を選ぶと,(0001) の位置 ―― Cu Kα1 で Mg なら 2θ ≈ 17.3°,Ti なら 2θ ≈ 19.0° ―― にピークが 1 本も立っておらず,ピークの表にもその行が無いことが確かめられます (⑤は六方晶の指数を 4 指数で表示します). P63/mmc の基底 (0,0,0) と (1/3,2/3,1/2) からの散乱波が逆位相になるためで,§8.6 で導いた規則です.
もっと深く:『固体物理学入門』第 3 章 3.5 節(構造因子と消滅則.例題 3.3 の bcc,例題 3.4 の fcc,表 3.2 の P/I/F/C/R 一覧)と, 第 5 章 5.5 節(らせん軸・グライド面による消滅則と空間群の決定).
このタブは,§9.3 の 2 つの表と図 4 をその場で計算して再現するものです. 格子定数 a を共通の値に固定したまま,箱の中身だけを入れ替えて粉末パターンを計算し,縦に並べています. グループ A は岩塩型・閃亜鉛鉱型・蛍石型・SrSO4 型の 4 つで,空間群は Fm-3m と F-43m の 2 種類にまたがっていますが, Bravais 格子はどれも立方 F です. グループ B は CsCl 型・anti-ReO3 型(Na3N)・赤銅鉱型(Ag2O,Pn-3m)の 3 つで,Bravais 格子は立方 P です. グループのボタンを押すと,a はそれぞれ §9.3 と同じ 5.640 Å と 4.200 Å に戻ります. 波長は Cu Kα1 = 1.5405929 Å に固定しています.
図の縦の破線は,その Bravais 格子と格子定数が許す 2θ の位置です. × 印は,許された位置なのに基底がさらに消した反射(その位置にピークが立たない)を,点は各パターンの最強線を表します. 強度は各パターンごとに最大が 100 になるよう規格化してあるので,パターンどうしで高さは比べられません. このタブで比べるのは位置です(⑥のタブは逆に,高さの変化を見せるために規格化していません.§11.4). 読み取り値の欄には,Bravais 格子が許す位置の数(2θ ≤ 120°),実際に立ったピークの数, 「格子が禁じた位置に出たピーク」の数(必ず 0 本になります),最初のピークの 2θ が出ます.
操作欄のスライダーは格子定数 a の 1 本だけです. これを動かすと,並べたパターンのピークが一斉に,同じだけ動きます.中身が何であっても,です. なぜそうなるのかは §9.2 で証明しましたが,ここでは次の三段構えで整理しておきます. (i) 回折角は 2θ = 2 arcsin(λ|g|/2) で,|g|2 は逆格子計量テンソル(§2.2 の式 (2))を通して格子定数だけから計算できるので, ピークが立ちうる 2θ の候補は格子定数を決めた時点でもう決まっています. (ii) 構造因子は F = S格子 × F基底 と積に割れ(§7.3 の式 (29)(30)), S格子 = 0 になる hkl は箱に何を入れても消えたままなので,候補は Bravais 格子の中心化並進によって絞られます. (iii) 残った候補を基底がさらに間引き,高さを与えます.F基底 には格子定数がどこにも入っていません. ここで混同しやすい点がひとつあります. 積への分解が説明しているのは (ii) と (iii),つまり「どれが消えるか」だけで, 「残ったピークの 2θ がなぜ一致するか」を言っているのは (i) のほうです. なお,③の式の位相 2π(hxj+kyj+lzj) と,④の式に出てくる 2π g·rj は同じものです. g = ha*1 + ka*2 + la*3 と rj = xja1 + yja2 + zja3 の内積を取り, a*i·aj = δij を使えばすぐに確かめられます.
「ダイヤモンド型(Fd-3m)も並べる」にチェックを入れると,同じ立方 F なのに, 全部偶数かつ h+k+l = 4n+2 の反射(200・222・420 など)がさらに消えるのが見えます(§8.5,§9.4 の囲み). グループ B の Ag2O も同じで,奇数の指数をちょうど 1 個だけ含む反射が消えます. 既定の a = 4.200 Å・2θ ≤ 120° なら 20 本が 14 本になりますが,本数そのものは a によって変わるので,読み取り値の欄で確かめてください. これらは n グライドや特殊な Wyckoff 位置に由来する基底側の追加の消滅則です(§9.4). パターンごとの本数がそろわないとき,「ひとこと」の欄は × 印に注目するよう促します. 少ないほうは,ほかのパターンが持っている位置が抜けているだけで,新しい位置にピークが生えてはいません. Bravais 格子が決めるのは「ピークが立ちうる位置の上限集合」であり,構造因子はそこから間引くことしかできない ―― これが §9.4 の「正確な言い方」です. 読み取り値の下の「※」の囲みは,この「立ちうる位置」と次の仮想構造の注意を 2 文にまとめたものです. このタブのもとになった講義スライドの主張と出典は §9.1 に, 同じ Bravais 格子が同じ逆格子と同じ形の Brillouin 域を与える(Si のバンド図の Γ–X–L–W の記号はここから来る)という話は §9.5 にあります.
もっと深く:『固体物理学入門』第 3 章 3.6 節「なぜ Bravais 格子が同じならピーク位置が一致するのか」(定理 3.3 とその証明,同じ数値実験の表). お膳立ては第 1 章 1.7 節(fcc 格子を共有する 3 つの構造)と第 2 章 2.7 節(Bravais 格子から何がわかるのか), Brillouin 域は第 3 章 3.7 節です.
このタブは,選んだ結晶構造から粉末 XRD パターンをその場で計算して描きます. 保存された絵を出しているのではありません.計算の手順は A.8 にまとめました. 選べる構造は次の 27 種です. 面心立方の Al・Au・Ag,体心立方の α-Fe,六方最密の Mg・α-Ti, ダイヤモンド型の C・Si・Ge,閃亜鉛鉱型の ZnS・GaAs,ウルツ鉱型の ZnO・ZnS, 岩塩型の NaCl・MgO・KCl・NiO,CsCl,蛍石型の CaF2・CeO2, ペロブスカイト型の SrTiO3・BaTiO3(立方晶と正方晶), ルチル型 TiO2,コランダム型 Al2O3,スピネル MgAl2O4,α-石英 SiO2 です.
ピークにマウスを乗せると,そのピークの hkl・面間隔 d・多重度・相対強度が出ます. クリックすると表示を固定でき,図の下の表の行をクリックしても同じです. 六方晶の構造では指数を 4 指数 (hkil) で表示します(§8.6 の囲み). 選んだピークについては「2d sinθ = λ」の検算も表示されます. 相対強度は m|F|2·LP に比例する量を最強線が 100 になるように規格化したもので, 表の「≡」の印が付いた行は,別の族が同じ 2θ に重なっていて多重度が合計されていることを示します. 実験パターンの各ピークに hkl を割り当てる作業を指数付け(§12.2)といい,このタブの表はその答え合わせにあたります.
試しに塩化セシウム CsCl を選び,表の N = h2+k2+l2 が 9 になる行 (Cu Kα1 なら 2θ ≈ 66.6°)を見てください. (300) と (221) というまったく違う面が同じ 2θ に重なっていて,hkl の欄に 2 つの族が並び,行に「≡」の印が付きます. 立方晶では d が N だけで決まるので,こうした偶然の縮退は必ず起きます(§10.3). 既定の NaCl(立方 F)では (300) も (221) も偶奇混在で消えているので,この重なりは見えません. 粉末パターンが d の一覧表であって向きの情報を持たないことは,§6.4 の誤解 7 で述べたとおりです.
操作欄の「X 線の波長」では,Cu Kα1・Cu Kα2・Cu Kβ・Mo Kα1・Co Kα1・Fe Kα1・Cr Kα1・Ag Kα1 の 8 つが選べます. 波長が短いほど同じ面が低角に来ます(Mo Kα1 にしてみてください). 逆に λ が長すぎると,λ ≤ 2d を満たさない反射が丸ごと消えます(§3.4). 「格子定数の倍率」(0.90〜1.10)を上げて格子を膨らませると,ピークは低角側へ動きます. 格子が 1 % 膨らめば d も 1 % 増え,sinθ = λ/(2d) は 1 % 減るからで,熱膨張の測定はこれを利用しています. 「2θ の上限」は 40〜150° の範囲で変えられます(既定は 90°).
「重ねて比べる構造」で 2 つ目の構造を選ぶと,2 つのパターンが重なります. 実験パターンの同定は「手元のパターンと候補を重ねる」ことの繰り返しで, まずピークの位置がそろうかを見て,つぎに高さの並びを見る,という順序が基本です. 位置が合っていて高さが違うなら,同じ Bravais 格子・同じ格子定数で中身が違う,ということになります(④のタブ). いくつか練習の組み合わせを挙げておきます.
このタブの式の欄にある Ihkl ∝ |Fhkl|2·mhkl·LP は,§10 の式 (39)(40) から スケール因子と吸収を除いたものです.第 2 因子が多重度,第 3 因子が Lorentz 偏光因子です. 温度因子・吸収・選択配向は入っていません(A.8). 同じ計算は VESTA の Utilities → Powder Diffraction Pattern でも行えます(§12.3 の囲み).
もっと深く:『固体物理学入門』付録 B B.4 節(VESTA の実務.B.4.2 項に粉末 XRD パターンを計算する手順と, 強度式 I = s mhkl|F|2LPA の各因子の説明があります). そこでの s は本文 §10.1 の C にあたるスケール因子です.
このタブで測るのは結晶子径(crystallite size,coherent domain size)D で, 物差しになるのはピークの半値全幅(FWHM)β です. 試料はシリコン Si・銀 Ag・塩化ナトリウム NaCl・鉄 Fe(bcc)・TiO2 ルチルの 5 つから選べ, 波長は Cu Kα1 に固定しています(相対強度が 1.5 未満の弱いピークは描いていません). 上段が広がった粉末パターン(2θ = 20〜100°),下段が Williamson–Hall プロットです.
ピークが広がる理由は §11.1 の Laue の干渉関数(式 (42))で,幅の計算は §11.2(式 (43)), K = 0.885893 の出どころもそこにあります. 記号の違いに 1 つ注意してください. シミュレーターでは,行路差が λ の整数倍からどれだけずれているかを ξ = 2d sinθ/λ − n と書いています (①のタブの「行路差 ÷ λ」といちばん近い整数との差で,低角側では負になります). 本文 §11 では ξ は n を引く前の 2d sinθ/λ を指し,ずれのほうを ε ≡ ξ − n と書いています. シミュレーターで記号を変えているのは,⑥のスライダーの ε が歪みを表すからです.
操作欄のスライダーは,結晶子径 D(2.0〜200 nm),歪み ε(0〜1.00 %),装置幅(0〜0.40°,既定は 0.06°)の 3 本です. D を小さくすると全部のピークが太ります.正確には 1/cosθ に比例するので,高角ほど少し余分に太ります. 30 nm を切るころから目に見えて広がり,5 nm を切るとピークどうしが重なり合って, もはや「線」には見えなくなります.非晶質(アモルファス)のブロードなハローに近づいていくわけで, 「結晶か非晶質か」の境目はこの連続的な広がりの上のどこかにあるだけで,はっきりした境界線があるわけではありません. 逆に D が 100 nm を超えると,サイズ由来の広がりが装置由来の幅に埋もれて,Scherrer 式では測れなくなります(「ひとこと」の欄にもそう出ます). これが実用上の上限で,おおむね 100〜200 nm という経験的な目安です(装置の分解能しだいで変わります). 装置幅を 0° にすれば原理的には読み取れますが,実際の装置は 0.05〜0.1° 程度の幅を持っています.
歪み ε を入れると,こんどは高角ほど太ります(tanθ に比例). §11.3 の βstrain = 4ε tanθ の係数 4 は 2 段階で出てきます. Bragg 則を微分した |Δθ| = ε tanθ に対して, ① 装置が表示するのは 2θ なので Δ(2θ) = 2Δθ, ② d は ±ε の両側に散らばるので全幅はさらに 2 倍,合わせて 4 倍です. サイズと歪みで角度依存(1/cosθ と tanθ)が違うので,両者は分けられます. 横軸 4 sinθ・縦軸 β cosθ の Williamson–Hall プロット(式 (44))では,サイズは切片 Kλ/D,歪みは傾き ε に現れます. ε = 0 なら直線は水平になり(どのピークでも β cosθ が同じ),ε を上げると傾きます. ただしこの画面の点は,入力した D と ε から作った理論直線そのものなので,実測のようなばらつきは出ません. 実測では最小二乗法で切片と傾きを求めます. また,サイズと歪みの広がりは Lorentz 型として足し算で合成しています.Gauss 型なら 2 乗で足すことになり, β2cos2θ 対 sin2θ のプロットになります(§11.3 の「Williamson–Hall 法の限界」の囲み).
縦軸は規格化していません. D を小さくすると,ピークは太るだけでなく低くなります. §11.4 で示したとおり,同じ量の粉末なら各ピークの面積(積分強度)は D によらず一定で,幅 β が広がるぶん高さが 1/β で下がるからです. VESTA のように最強線を毎回 100 にそろえると,この「低くなる」様子が消えてしまうので,⑥の上段の縦軸は固定目盛にしてあります. 目盛の基準は「その試料で D = 200 nm,ε = 0,装置幅 0.06° のときの最強線の高さを 100」とし,D・ε・装置幅を動かしても変えません. たとえばシリコン Si の最強線 (111) の高さは,装置幅 0.06° のままで D = 200, 50, 20, 5, 2 nm とすると 100, 42.0, 17.7, 4.5, 1.8 と下がります. 装置幅を 0° にすると高さは D に比例し(D = 200 nm で 179.3),D が大きいところで頭打ちになるのは装置幅のせいだと分かります. 基準は試料ごとに決めているので,試料どうし(たとえば Si と Ag)の高さは比べられません.比べるのは同じ試料で D などを変えたときの高さです.
低くなったピークを見るために,操作欄の「縦軸の拡大」に「×1」「×5」「×25」のボタンがあります. これは表示の倍率を変えるだけで,計算した強度は変わりません(×5 なら枠の上端が 100 ではなく 20 になります). 拡大しているときは図の上の見出しに「縦軸 ×5 拡大」などと出ます. 枠の高さを超えたピークは上端で切って,赤い小さな ▲ を付けています. ピークの位置は,横軸の下に付けた短い目盛で示しています(幅 0 の線の位置です). 赤い横線は最強線の半値全幅 β で,最強線の高さの半分の位置に描きます.半値の位置が枠の上にはみ出すときは線を描かず,「β = …°(半値が枠の上)」とだけ表示します. 読み取り値の欄には,最強線の「積分強度(面積)」(固定目盛 × 度.D によらず一定)と「高さ(固定目盛)」(枠を超えると「(枠外)」)が出るので, D を動かして面積が変わらず高さだけが変わることを数値で確かめてください.
「練習モードにする」を押すと,最強線を拡大した図と 6 つの問題が出ます(問題ごとの結晶子径は固定なので,毎回同じ問題になります). 赤い印の両端が,青い曲線と半値の点線が交わるところにぴったり重なるように「読み取った β」のスライダーを合わせ, 「答えを見る」を押すと,装置幅を引いた β から Scherrer 式で逆算した D と正解が並びます. 練習モードでは歪みを ε = 0 として出題します(歪みと結晶子径を分ける話は Williamson–Hall プロットのほうで扱います). 練習モードの図は幅を読み取りやすくするための拡大表示で,ピークの頂上を 100 に合わせてあり,固定目盛ではありません(図にもそう注記してあります). 練習モードのあいだは D・ε のスライダーと縦軸の拡大ボタンは使えません. ずれが 10 % 未満なら「よく合っています」と表示されます. ずれが大きいときは,半値の高さで幅を測っているかを確かめてください. 裾のほうで測ると幅を広く取りすぎて D が小さく出ますし,装置幅の差し引きを忘れても D は必ず小さめに出ます. 読み取った β が装置幅以下だと,差し引いた幅が 0 になって D は求まりません.
最後に,出てきた数字の読み方です.Scherrer 式が返すのは結晶子径であって粉の 1 粒の大きさではないこと(§11.2 の誤解 10), K が結晶子の形と幅の定義の両方に依存すること(§11.2 の表.柱状で FWHM なら 0.886,球で FWHM・直径なら 1.11 前後), そのため得られる値は ±20 % 程度の半定量的な量と考えるのが安全なこと, そして β は必ずラジアンに直してから使うこと(度のまま入れると 57.3 倍間違えます.シミュレーターは内部で直しています)は, 本文で述べたとおりです. ±20 % という数字と,上に挙げた結晶子径の下限・上限の目安は,いずれも経験則であって厳密な定理ではありません.
もっと深く:『固体物理学入門』には Scherrer 式の節はありませんが, 第 3 章 3.4.1 項の「結晶が十分大きければこの積分は打ち消し合う」という一文の裏返しがこの話です.
④・⑤・⑥の粉末パターンと①の相対強度は,シミュレーターの JavaScript がその場で計算しています(静的なデータの再生ではありません). 使っている式は本文とまったく同じです. 面間隔は逆格子計量テンソルから 1/d2 = (h, k, l)·M*·(h, k, l)T として求めます(§2.2 の式 (2)). シミュレーターでは実格子の計量テンソルを M,その逆行列を M* = M−1 と書いていますが, 本文 §2.2 の G・G* と同じものです(シミュレーターでは逆格子ベクトルの G と混同しないように記号を変えています). 原子散乱因子は §7.1 の式 (24), f(s) = Z − 41.78214 s2 Σi ai exp(−bi s2), s = sinθ/λ = 1/(2d) で,構造因子は式 (26),強度は |F|2 × LP, LP = (1 + cos22θ)/(sin2θ cosθ)(式 (40))です. 多重度は掛け算せず,限界球 |g| ≤ 2/λ の中の逆格子点のうち指定した 2θ の上限までに入るものを全部走査し, 同じ 2θ のものを足し込むことで自動的に入れています. §10.3 の「偶然の縮退に注意」の囲みで勧めた方式で,立方晶の (300) と (221) のように偶然重なる別の族も正しく足されます.
使っている近似は次のとおりです(§10.4 の「本教材が入れていない効果」の囲みの内容に,⑥の装置幅と強度の規格化を書き足したものです). シミュレーターの画面には,説明を短くするため主なものだけを「※」の印で示してあり,全体はここにまとめます.
XRDCalculator(参考文献 3)と突き合わせ,⑤に収録した 27 構造すべてについて,2θ ≤ 150° の範囲で
2θ の差 < 5×10−7°,規格化強度の差 < 1×10−12 で一致することを確認してあります
(どちらも倍精度演算の丸め誤差の水準です).
④で使う 8 つの構造(立方 F の 4 種とダイヤモンド型,立方 P の 3 種)についても,格子定数を共通の値に固定したうえで,
pymatgen の出力と 2θ・強度とも一致することを確認しました.
①の 3 物質 × 10 面についても,望月研究室のスクリプト(pymatgen の XRDCalculator,Cu Kα1,2θ ≤ 120°)の出力と,
2θ の差 < 3×10−14°,相対強度の差 < 2×10−14 で一致しています(§3.5 の表はこの出力の値です).
§9.5 の囲みで断ったとおり,これは実装の写し間違いが無いことの確認であって,原子散乱因子の係数表そのものの正しさの検証ではありません
(係数表の出典については §7.1 と参考文献 5 を参照).
結晶構造データは,望月研究室の POSCAR コレクション(第一原理計算で構造最適化したもの)を慣用単位胞に直して収めています(参考文献 14). 格子定数が実測値と 1〜2 % ずれることがある点は A.6 の囲みのとおりです. X 線の波長は §3.4 の表と同じで,Cr〜Cu の Kα1 は Hölzer et al. (1997)(参考文献 10), Mo Kα1・Ag Kα1 は RIETAN-FP の配布マニュアルの X 線波長表(参考文献 2)によります. 同じ粉末パターンの計算は VESTA(参考文献 1)の Utilities → Powder Diffraction Pattern でも行えます.
東京理科大学 望月研究室 / 東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科「無機材料学」第 4 回.
手を動かす版は
xrd-simulator
(① Bragg の条件/② 逆格子と Ewald 球/③ 構造因子と消滅則/
④ ピーク位置は Bravais 格子が決める/⑤ 粉末 XRD パターン/⑥ Scherrer 式)へ.画面の読み方は付録 A にあります.
§9 は望月研究室勉強会資料(2026 年 4 月 24 日)スライド 1-5, 1-6 の主張に対応し,
同じ内容が望月研『固体物理学入門』第 3 章 3.6 節に定理 3.3 として厳密に証明されています.
本ページの計算はすべて Cu Kα1 単色を仮定し,
温度因子・吸収・選択配向・装置広がり・Kα2 の重なりは無視しています.
式 (2)(4)(24)(30)(31)(32)(33)(34)(35)(36)(40)(42)(43) と §9 の 2 つの表は,
いずれも独立な数値計算および pymatgen と突き合わせて検証済みです
(§2, §8, §9, §11 末尾の囲みを参照).
使用したソフトウェア・データ源