固体物理学入門 — 目次 第I部 結晶をどう記述するか / 第2章

第2章7つの結晶系と14のBravais格子

第1章で,結晶構造を表す箱には conventional cell と primitive cell の2種類があることを見た.本章では,その2つの箱がそれぞれ何によって形を決められているのかという問いに答える.答えは,望月研究室勉強会の資料にある次の2行に尽きている.

conventional cell の形は,7つの結晶系により決定され,
primitive cell の形は,14個のBravais格子により決定される.

7つと14個.この数字はどこから来るのか.なぜ7で,なぜ14なのか.なぜ「8つの結晶系」でも「15個のBravais格子」でもないのか.本章の目標は,これらの数を暗記するのではなく,数え上げによって自分で導けるようになることである.とくに14個のほうは,「$7 \times$(詰め方4通り)$= 28$ にはならない」という点が要である.重複するものと,そもそも成立しないものを慎重に除いていくと,ちょうど14に落ち着く.

本章の最後では,初学者が最も混乱する trigonal(三方晶)と hexagonal(六方晶)と rhombohedral(菱面体)の三つ巴を整理する.先生の資料に「Trigonalが少しややこしい」と書かれているところである.

この章で学ぶこと
  • 7つの結晶系(cubic, hexagonal, trigonal, tetragonal, orthorhombic, monoclinic, triclinic)と,各々の格子定数の条件
  • 結晶系の順番は「対称性が高い順」であり,対称性の高さとは点群の位数のことであること(ただし位数だけで一列に順序が付くわけではないこと)
  • 格子点の詰め方 $P, I, F, C(A,B), R$ の意味
  • $7 \times 4 = 28$ ではなく14になる理由 —— 重複するもの(tetragonal-$C$ = tetragonal-$P$ など)と,成立しないもの
  • 各Bravais格子の primitive 基本ベクトルの具体形,体積比,格子点数
  • trigonal / rhombohedral / hexagonal の関係,$R$ 中心と hexagonal 軸の取り方(obverse setting)
  • Bravais格子が決まるとBrillouin域が決まること(第3章への橋渡し)
前提:第1章(格子と基底,primitive cell,conventional cell,変換行列と体積比).行列式の計算.対称操作の詳細は第4章で扱うので,ここでは「回転軸がある/ない」という直観的な理解で足りる.

2.1 7つの結晶系

conventional cell は平行六面体である.その形は,3つの辺の長さ $a, b, c$ と,3つの角 $\alpha, \beta, \gamma$ という6個のパラメータで決まる.ここで $\alpha$ は $\bb$ と $\cc$ のなす角,$\beta$ は $\cc$ と $\aa$,$\gamma$ は $\aa$ と $\bb$ のなす角である.

a b c γ α β α = ∠(b, c), β = ∠(c, a), γ = ∠(a, b)
図2.1 conventional cell を決める6つのパラメータ.辺の長さ $a, b, c$ と,各辺の対どうしがなす角 $\alpha, \beta, \gamma$.角の名前($\alpha, \beta, \gamma$)は,対応する軸($a, b, c$)が関与しない2軸のなす角,と覚えるとよい($\alpha$ は $a$ 以外の $\bb, \cc$ の角).

この6つのパラメータにどのような制約が付くかによって,平行六面体は7種類に分類される.これが 結晶系(crystal system)である.

表2.1 7つの結晶系(対称性が高い順)
#結晶系和名格子定数の条件点群の最大位数
1Cubic立方晶$a=b=c$, $\alpha=\beta=\gamma=90^\circ$48($m\bar{3}m$)
2Hexagonal六方晶$a=b\neq c$, $\alpha=\beta=90^\circ$, $\gamma=120^\circ$24($6/mmm$)
3Trigonal三方晶$a=b\neq c$, $\alpha=\beta=90^\circ$, $\gamma=120^\circ$
(菱面体軸なら $a=b=c$, $\alpha=\beta=\gamma\neq90^\circ$)
12($\bar{3}m$)
4Tetragonal正方晶$a=b\neq c$, $\alpha=\beta=\gamma=90^\circ$16($4/mmm$)
5Orthorhombic直方晶$a\neq b\neq c$, $\alpha=\beta=\gamma=90^\circ$8($mmm$)
6Monoclinic単斜晶$a\neq b\neq c$, $\alpha=\gamma=90^\circ\neq\beta$4($2/m$)
7Triclinic三斜晶$a\neq b\neq c$, $\alpha\neq\beta\neq\gamma$2($\bar{1}$)

注意:「$\neq$」は「等しくてもよいが,等しいことを要求しない」という意味

表2.1の $a \neq b \neq c$ は,「$a$ と $b$ が数値としてたまたま一致してはならない」という意味ではない.対称性によって等しくなることが保証されていない,という意味である.

たとえば直方晶の物質で,測ったら偶然 $a = b$ になっていたとしても,4回回転軸がなければそれは正方晶ではなく直方晶である.結晶系を決めるのは対称操作であって,格子定数の数値ではない.この点は,実験データから空間群を決めるときに実際に問題になる.

なぜこの順番なのか — 対称性が高い順

先生の資料には「実はこの順番,対称性が高い方から上にきている.※ 対称性が高い=対称操作の群元数が多い」と書かれている.表2.1の最右列がその群元数(点群の位数)である.

立方晶の $m\bar{3}m$ は48個もの対称操作を持つ.一方,三斜晶の $\bar{1}$ は恒等操作と反転の2個しかない.第4章でこれらの点群を実際に構成するが,いま押さえるべきは「結晶系の並びには意味がある」ということである.

ただし,位数だけで7つを一列に並べているわけではない.表2.1では trigonal($\bar{3}m$,位数12)が tetragonal($4/mmm$,位数16)より上に来ており,位数の単調な降順にはなっていない.この2つは互いに部分群関係にないので,そもそも位数だけでは順序が付かないのである.実際の並びは,群–部分群関係($m\bar{3}m \supset 4/mmm$,$m\bar{3}m \supset \bar{3}m$,$6/mmm \supset \bar{3}m$ など)に沿った International Tables の慣用順序だと理解しておけばよい.

この序列は,相転移を考えるときに効いてくる.多くの物質は,高温では高対称な相(たとえば立方晶ペロブスカイト $Pm\bar{3}m$)にあり,冷却すると対称性が下がって正方晶や直方晶になる.$\mathrm{BaTiO_3}$ が cubic → tetragonal → orthorhombic → rhombohedral と3回も転移するのは有名な例で,第19章で扱う.

2.2 なぜ7つなのか — 対称性による分類

「6つのパラメータに制約を付ける」だけなら,組み合わせはもっとたくさんありそうに思える.なぜ7つで打ち止めなのか.

結論から言えば,結晶系は格子定数で定義されているのではなく,対称性(点群)で定義されているからである.格子定数の条件は,その対称性が成り立つための必要条件として結果的に出てくるにすぎない.

定義:結晶系(正しい定義)

格子が持つ点群対称性(=格子点を動かさない対称操作の集合,holohedry という)によって格子を分類したものが結晶系である.3次元で可能な holohedry はちょうど7種類しかなく,それが

$$ \bar{1},\quad 2/m,\quad mmm,\quad 4/mmm,\quad \bar{3}m,\quad 6/mmm,\quad m\bar{3}m $$

である.

導出:立方晶の条件が $a=b=c$, $\alpha=\beta=\gamma=90^\circ$ になる理由

立方晶であるとは,$\langle111\rangle$ 方向に3回回転軸を4本持つということである(第4章で見るように,これが立方晶を特徴づける最小条件で,点群 $23$ 以上ということ).この条件から格子定数の関係を導こう.

ステップ1:$[111]$ まわりの $120^\circ$ 回転 $C_3$ を考える.この操作は,直交座標では3つの軸を巡回的に入れ替える:

$$ C_3: \quad x \to y \to z \to x $$

行列で書けば

$$ C_3 = \begin{pmatrix} 0&0&1 \\ 1&0&0 \\ 0&1&0 \end{pmatrix} $$

(実際,$(1,0,0)^{\mathsf T} \mapsto (0,1,0)^{\mathsf T}$ である.)

ステップ2:この操作が格子の対称操作であるためには,格子並進ベクトルを格子並進ベクトルに移さなければならない.基本ベクトルを $\aa, \bb, \cc$ とすると,$C_3$ が軸を巡回させるので

$$ \aa \to \bb \to \cc \to \aa $$

が要請される(適当に軸を選べばこうなる).

ステップ3:回転は長さを変えないので $\abs{\aa} = \abs{\bb} = \abs{\cc}$,すなわち $a = b = c$.また回転は角度も変えないので,$\aa$ と $\bb$ のなす角は $\bb$ と $\cc$ のなす角に等しく,さらに $\cc$ と $\aa$ のなす角にも等しい:$\alpha = \beta = \gamma$.

ステップ4:ここまでで菱面体(rhombohedral)の条件 $a=b=c$, $\alpha=\beta=\gamma$ しか出ていない.立方晶にするには,さらに4回回転軸($\langle100\rangle$ まわり)が要る.$[001]$ まわりの $90^\circ$ 回転は $\aa \to \bb \to -\aa$ を要求するので $\aa \perp \bb$,すなわち $\gamma = 90^\circ$.同様に $\alpha = \beta = 90^\circ$.∎

この導出から,菱面体(trigonal-$R$)と立方晶は「4回軸があるかないか」だけで隔てられていることがわかる.実際,立方晶の primitive cell は菱面体であり(第1章1.4.1節で見たbccの例),$\alpha = 60^\circ$(fcc)や $109.47^\circ$(bcc)という特別な角度をとる菱面体になっている.

例題2.1 fccの primitive cell は $\alpha = 60^\circ$ の菱面体である

第1章で与えた fcc の基本ベクトル $\aa_1 = \frac{a}{2}(0,1,1)$, $\aa_2 = \frac{a}{2}(1,0,1)$, $\aa_3 = \frac{a}{2}(1,1,0)$ について,長さと相互の角度を求めよ.

解答.長さは

$$ \abs{\aa_1} = \frac{a}{2}\sqrt{0^2+1^2+1^2} = \frac{a}{\sqrt2} $$

で,3本とも同じ.内積は

$$ \aa_1\cdot\aa_2 = \frac{a^2}{4}(0\cdot1 + 1\cdot0 + 1\cdot1) = \frac{a^2}{4} $$

よって

$$ \cos\alpha = \frac{\aa_1\cdot\aa_2}{\abs{\aa_1}\abs{\aa_2}} = \frac{a^2/4}{a^2/2} = \frac12 \quad\Longrightarrow\quad \alpha = 60^\circ $$

3組とも同様である.したがって fcc の primitive cell は,辺 $a/\sqrt2$,角 $60^\circ$ の菱面体.∎

bcc については,第1章1.4.1節の例ですでに $109.47^\circ$ を得た.$\cos^{-1}(-1/3) = 109.47^\circ$ である.

2.3 格子点の詰め方 — $P, I, F, C, R$

結晶系は conventional cell の形を決めた.次に,その形の箱の中に格子点をどう配置するかを考える.これがBravais格子を生む.

定義:中心(centring)の記号

記号名称格子点の位置(分率座標)胞あたりの格子点数
$P$primitive(単純)$(0,0,0)$ のみ1
$I$body-centred(体心)$(0,0,0)$, $\left(\frac12,\frac12,\frac12\right)$2
$F$face-centred(面心)$(0,0,0)$, $\left(0,\frac12,\frac12\right)$, $\left(\frac12,0,\frac12\right)$, $\left(\frac12,\frac12,0\right)$4
$C$base-centred(底心)$(0,0,0)$, $\left(\frac12,\frac12,0\right)$2
$A$ / $B$底心(別の面)$A$: $\left(0,\frac12,\frac12\right)$ / $B$: $\left(\frac12,0,\frac12\right)$ を追加2
$R$rhombohedral(菱面体中心)$(0,0,0)$, $\left(\frac23,\frac13,\frac13\right)$, $\left(\frac13,\frac23,\frac23\right)$3

$A$, $B$, $C$ の違いは軸の名前だけ

$C$ 中心は「$\aa\bb$ 面の中心」に格子点を追加したもの,$A$ 中心は「$\bb\cc$ 面」,$B$ 中心は「$\cc\aa$ 面」である.しかし軸の名前 $a, b, c$ の付け方は人間が決めるだけなので,$A$, $B$, $C$ は本質的に同じ格子であり,軸を付け替えれば互いに移り合う.

だからBravais格子を数えるときには,これらを1つとして数える.慣習として $C$ を代表に使う(ただし単斜晶では設定によって $B$ を使うこともある).

2.4 なぜ28ではなく14なのか

7つの結晶系 $\times$ 4通りの詰め方($P, I, F, C$)= 28.ところが答えは14である.半分に減る.その理由は次の2つに尽きる.

14に減る2つの理由

  1. 重複:中心を入れた格子が,より小さい別の格子と同一になってしまう場合.新しい格子を生まないので数えない.
  2. 対称性の破壊:中心を入れると,その結晶系が要求する対称性が失われ,別の(対称性の低い)結晶系になってしまう場合.これも数えない.

ただし,この2つの篩だけでは14に届かない.$R$ 中心は $P, I, F, C$ の4通りに含まれない第5の中心であり,28個の中から生き残ったものではなく,外から加わるものだからである.実際に28個を篩にかけると,cubic 3+hexagonal 1+trigonal 0(trigonal-$P$ は hexagonal-$P$ と同じ格子なので重複で脱落する)+tetragonal 2+orthorhombic 4+monoclinic 2+triclinic 1 = 13 であり,これに trigonal-$R$ を1つ加えて14になる.

2.4.1 重複の例:tetragonal-$C$ = tetragonal-$P$

導出:正方晶に $C$ 中心を入れても新しい格子は生まれない

正方晶の conventional cell を,$a$ 軸・$b$ 軸の長さを $a$,$c$ 軸を $c$ として底面が正方形の直方体とする.ここに $C$ 中心,すなわち底面の中心 $\left(\frac12,\frac12,0\right)$ に格子点を追加したとしよう.

上から($c$ 軸方向から)眺めると,格子点は正方形の頂点と中心にある.ここで新しい軸を,正方形の対角線方向に取り直す:

$$ \aa' = \frac{1}{2}(\aa + \bb), \qquad \bb' = \frac{1}{2}(-\aa + \bb), \qquad \cc' = \cc $$

これらの長さは

$$ \abs{\aa'} = \frac12\sqrt{a^2+a^2} = \frac{a}{\sqrt2}, \qquad \abs{\bb'} = \frac{a}{\sqrt2} $$

で等しく,内積は

$$ \aa'\cdot\bb' = \frac14(\aa+\bb)\cdot(-\aa+\bb) = \frac14(-a^2 + 0 - 0 + a^2) = 0 $$

($\aa\cdot\bb = 0$ を使った.)つまり $\aa' \perp \bb'$.さらに $\cc'$ は両者に直交している.

したがって新しい胞は,底面が一辺 $a/\sqrt2$ の正方形,高さ $c$ の直方体,すなわちより小さい正方晶の単純格子(tetragonal-$P$)である.格子点数を確認すると,元の $C$ 中心胞は2個,新しい胞の体積は $\frac{a}{\sqrt2}\cdot\frac{a}{\sqrt2}\cdot c = \frac{a^2c}{2}$ で元の半分だから,格子点は1個.つじつまが合う.∎

よって tetragonal-$C$ は新しいBravais格子ではなく,単に軸を $45^\circ$ 回して $\sqrt2$ 倍細かく取り直した tetragonal-$P$ である.数えない.

C中心胞(格子点2個) 臙脂の正方形が新しい 単純正方格子(格子点1個) 一辺は a/√2,45°回転している ● 元の格子点 ● C中心で加えた点
図2.2 正方晶に $C$ 中心を入れても,軸を $45^\circ$ 回して $1/\sqrt2$ 倍に取り直せば単純正方格子になる.したがって tetragonal-$C$ は新しいBravais格子ではない.同じ論法で cubic-$C$ も除かれる(ただしこちらは対称性も壊れる).

2.4.2 対称性の破壊の例:cubic-$C$ は立方晶ではない

立方晶に $C$ 中心($\aa\bb$ 面だけ)を入れるとどうなるか.$\aa\bb$ 面だけを特別扱いすることになるので,$\cc$ 軸が他の2軸と対等でなくなる.すると $\langle111\rangle$ の3回回転軸($x\to y\to z\to x$)が失われる.

3回軸を失った時点で,それはもう立方晶ではない.実際,2.4.1節と同じ変換で tetragonal-$P$ になる.よって cubic-$C$ は数えない.

表2.2 $7\times4=28$ から14へ — 各組み合わせの可否
結晶系$P$$I$$F$$C$採用数
Cubic○○○× 対称性破壊→tetragonal-$P$3
Hexagonal○× 六方対称が壊れる××1
Trigonal○($=$ hexagonal-$P$ の胞を使う.同一の格子なので新規には数えない)$R$ 中心のみ別格子として存在1($R$)
Tetragonal○○× 重複→tetragonal-$I$× 重複→tetragonal-$P$2
Orthorhombic○○○○4
Monoclinic○× 重複→$C$× 重複→$C$○2
Triclinic○どの中心も,より小さい triclinic-$P$ に帰着1

合計すると $3+1+1+2+4+2+1 = 14$.これが14個のBravais格子である.

なぜ直方晶だけ4つ全部が生き残るのか

直方晶は $a\neq b\neq c$ で,3つの軸がもともと対等ではない.だから $C$ 中心を入れて $\aa\bb$ 面を特別扱いしても,失われる対称性がない(もともと3軸を入れ替える対称操作がない).また $a\neq b$ なので,2.4.1節の $45^\circ$ 回転の技も使えない.実際,$\aa' = \frac12(\aa+\bb)$, $\bb' = \frac12(-\aa+\bb)$ と取ると,長さのほうは $\abs{\aa'} = \abs{\bb'} = \frac12\sqrt{a^2+b^2}$ で $a\neq b$ でも等しくなるのだが,内積が $\aa'\cdot\bb' = \frac14(b^2-a^2) \neq 0$ となって直交性が破れる.新しい底面は長方形ではなく菱形になってしまい,$\alpha=\beta=\gamma=90^\circ$ を要求する直方晶の胞としては使えないのである($a=b$ のときだけ直交して,2.4.1節の正方晶の議論に戻る).

結果として $P, I, F, C$ の4つすべてが別物として生き残る.「対称性が低いほど,区別すべき格子の種類は多い」という,やや逆説的な事情である.

例題2.2 単斜晶の $I$ は $C$ と同じであることを示す

単斜晶($\alpha=\gamma=90^\circ\neq\beta$,$b$ 軸が唯一の2回軸)で,体心格子 $I$ が底心格子 $C$ と同じ格子であることを示せ.

解答.単斜晶の $I$ 格子の格子点は $(0,0,0)$ と $\left(\frac12,\frac12,\frac12\right)$(分率座標)である.ここで新しい軸を

$$ \aa' = \aa, \qquad \bb' = \bb, \qquad \cc' = \aa + \cc $$

と取り直す($b$ 軸は動かさないので,2回軸は保たれる).この変換の行列式は

$$ \det\begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\1&0&1\end{pmatrix} = 1 $$

なので体積は変わらず,格子点数も2個のままである.

元の体心点 $\frac12(\aa+\bb+\cc)$ を新しい基底で表すと,$\cc = \cc' - \aa'$ だから

$$ \frac12(\aa+\bb+\cc) = \frac12(\aa' + \bb' + \cc' - \aa') = \frac12(\bb' + \cc') $$

これは新しい胞の $\bb'\cc'$ 面の中心,すなわち $A$ 中心である.$A$ と $C$ は軸の名前替えで移り合う(2.3節)ので,単斜晶の $I$ は $C$(あるいは $A$)と同一の格子である.∎

2.5 14のBravais格子の一覧と primitive ベクトル

表2.3 14のBravais格子.$n_{\text{lp}}$ は conventional cell 内の格子点数,$V_{\text{p}}/V_{\text{conv}} = 1/n_{\text{lp}}$
結晶系Bravais格子$n_{\text{lp}}$primitive 基本ベクトル代表物質
Cubiccubic-$P$1$a\hat{x},\ a\hat{y},\ a\hat{z}$$\alpha$-Po, CsCl型, ペロブスカイト $\mathrm{SrTiO_3}$
cubic-$I$(bcc)2$\frac{a}{2}(-1,1,1)$ など$\alpha$-Fe, W, Na
cubic-$F$(fcc)4$\frac{a}{2}(0,1,1)$ などCu, Al, NaCl, ZnS, ダイヤモンド
Hexagonalhexagonal-$P$1$a(1,0,0)$, $a\left(-\frac12,\frac{\sqrt3}{2},0\right)$, $c(0,0,1)$Mg, Zn(hcp), ZnO(wurtzite)
Trigonaltrigonal-$R$(菱面体)3(六方軸で)$\abs{\aa_i}$ 等長,$\alpha=\beta=\gamma\neq90^\circ$$\alpha$-Al$_2$O$_3$(コランダム), LaAlO$_3$, カルサイト
Tetragonaltetragonal-$P$1$a\hat{x},\ a\hat{y},\ c\hat{z}$$\mathrm{TiO_2}$(rutile)
tetragonal-$I$2$\frac12(-a,a,c)$ など$\mathrm{La_2CuO_4}$, $\beta$-Sn
Orthorhombicorthorhombic-$P$1$a\hat{x},\ b\hat{y},\ c\hat{z}$$\mathrm{CaTiO_3}$($Pnma$)
orthorhombic-$C$2$\frac12(a,b,0)$, $\frac12(-a,b,0)$, $c\hat{z}$$\mathrm{La_2NiO_4}$($Cmca$)
orthorhombic-$I$2$\frac12(-a,b,c)$ など$\mathrm{SrZrO_3}$($Imma$ 相)
orthorhombic-$F$4$\frac12(0,b,c)$ など$\alpha$-S$_8$($Fddd$), $\mathrm{TiSi_2}$(C54, $Fddd$)
Monoclinicmonoclinic-$P$1$a\hat{x}$, $b\hat{y}$, $c(\cos\beta,0,\sin\beta)$$\mathrm{ZrO_2}$(バデレイ石型, $P2_1/c$), $\mathrm{MoO_3}$-II(高圧相, $P2_1/m$)
monoclinic-$C$2$\frac12(\aa+\bb)$, $\frac12(-\aa+\bb)$, $\cc$$\beta$-$\mathrm{Ga_2O_3}$($C2/m$)
Triclinictriclinic-$P$1制約なし$\alpha$-$\mathrm{CuMoO_4}$($P\bar{1}$), $\mathrm{CuSO_4\cdot5H_2O}$(胆礬, $P\bar{1}$)

物理的意味:$P$ 格子では conventional = primitive

先生の資料には「(眺めてみると気付くかもしれないが,) 基本的に,Bravais 格子が単純格子($P$)の場合,conventional と primitive が全く同じ構造になる」と書かれている.表2.3を見れば,$n_{\text{lp}} = 1$ の行がそれである.

数えてみると,$n_{\text{lp}} = 1$ の $P$ 格子は cubic, hexagonal, tetragonal, orthorhombic, monoclinic, triclinic の6個である(trigonal-$P$ は hexagonal-$P$ と同一の格子なので,ここでは別に数えない).残る8個が $I, F, C, R$ の中心を持つ格子で,$6 + 8 = 14$ という数え方もできる.

2.6 trigonal・rhombohedral・hexagonal の整理

ここが最も混乱しやすい.用語が3つあり,しかも文脈によって指すものが違う.整理しよう.

3つの言葉の使い分け

trigonal = rhombohedral ではない

これが最大の落とし穴である.三方晶(trigonal)の空間群は25個あるが,そのうち $R$ 格子を持つのは7個だけで,残る18個は hexagonal-$P$ 格子を使う.

先生の資料の表で「Trigonal: $R$ ($P$)」と,$P$ が括弧付きで書かれているのはこの事情を表している.例として挙げられている $\mathrm{La_2O_3}$($P\bar{3}m1$)は trigonal だが $P$ 格子,$\mathrm{LaMnO_3}$ の高温相($R\bar{3}c$)は trigonal で $R$ 格子である($\mathrm{LaMnO_3}$ は室温では協同 Jahn–Teller 歪みにより直方晶 $Pnma$ になる.第10章参照).

2.6.1 $R$ 中心の意味 — 六方軸と菱面体軸

菱面体格子には,2通りの記述の仕方がある.

(a) 菱面体軸(rhombohedral axes).$a=b=c$, $\alpha=\beta=\gamma\neq90^\circ$ の平行六面体を使う.これは primitive cell であり,格子点は1個.

(b) 六方軸(hexagonal axes).$a=b\neq c$, $\alpha=\beta=90^\circ$, $\gamma=120^\circ$ の六方胞を使う.これは conventional cell で,格子点は3個($R$ 中心).

導出:$R$ 中心の位置が $\left(\frac23,\frac13,\frac13\right)$ になる理由

六方軸を $\aa_h, \bb_h, \cc_h$,菱面体軸を $\aa_r, \bb_r, \cc_r$ とする.両者を結ぶ標準的な関係(obverse setting)は

$$ \aa_r = \frac{2}{3}\aa_h + \frac{1}{3}\bb_h + \frac{1}{3}\cc_h,\quad \bb_r = -\frac{1}{3}\aa_h + \frac{1}{3}\bb_h + \frac{1}{3}\cc_h,\quad \cc_r = -\frac{1}{3}\aa_h - \frac{2}{3}\bb_h + \frac{1}{3}\cc_h $$

である.$\aa_r$ の係数がそのまま,六方胞から見た格子点の分率座標 $\left(\frac23,\frac13,\frac13\right)$ を与える.同様に $\aa_r + \bb_r$ を計算すると

$$ \aa_r + \bb_r = \left(\frac23-\frac13\right)\aa_h + \left(\frac13+\frac13\right)\bb_h + \left(\frac13+\frac13\right)\cc_h = \frac13\aa_h + \frac23\bb_h + \frac23\cc_h $$

で,これが第2の中心点 $\left(\frac13,\frac23,\frac23\right)$ である.

体積比を確かめよう.変換行列

$$ M = \begin{pmatrix} \frac23 & \frac13 & \frac13 \\[2pt] -\frac13 & \frac13 & \frac13 \\[2pt] -\frac13 & -\frac23 & \frac13 \end{pmatrix} $$

の行列式は,共通因子 $\frac13$ を3行から括り出して

$$ \det M = \frac{1}{27}\det\begin{pmatrix}2&1&1\\-1&1&1\\-1&-2&1\end{pmatrix} $$

この $3\times3$ 行列式を第1行で展開すると

$$ 2(1\cdot1 - 1\cdot(-2)) - 1((-1)\cdot1 - 1\cdot(-1)) + 1((-1)(-2) - 1\cdot(-1)) = 2(3) - 1(0) + 1(3) = 9 $$

よって $\det M = 9/27 = 1/3$.菱面体胞の体積は六方胞の $1/3$,すなわち六方胞には格子点が3個.$R$ 中心の定義と一致する.∎

例題2.3 立方晶を菱面体で記述する

先生の資料の「5-3. セルの取り方の変更(応用編)」には,VESTA で $Pm\bar{3}m$ のペロブスカイトを $R\bar{3}c$ 風のセルに変換する行列が載っている.

$$ \text{cubic} \to \text{rhombohedral conventional}: \quad \begin{pmatrix} 0&1&2 \\ -1&0&2 \\ 1&-1&2 \end{pmatrix} $$

この行列式を計算し,セルが何倍になるかを求めよ.

解答.第1行で展開する.

$$ \det = 0\bigl(0\cdot2 - 2\cdot(-1)\bigr) - 1\bigl((-1)\cdot 2 - 2\cdot 1\bigr) + 2\bigl((-1)(-1) - 0\cdot 1\bigr) $$ $$ = 0 - 1(-2-2) + 2(1-0) = 4 + 2 = 6 $$

すなわち体積は6倍になる.立方ペロブスカイト($Z=1$,原子5個)から,原子30個の六方胞ができる.$R\bar{3}c$ のペロブスカイト($\mathrm{LaAlO_3}$ など)の conventional cell が $Z=6$ であることと一致する.

もうひとつ,資料にある

$$ \begin{pmatrix} 1&1&0 \\ 0&1&1 \\ 1&0&1 \end{pmatrix} $$

は $\det = 1(1-0) - 1(0-1) + 0 = 1 + 1 = 2$ で体積2倍.これが菱面体 primitive cell($Z=2$,原子10個)を与える.∎

2.7 Bravais格子から何がわかるのか

ここまで分類に労力を費やしてきたが,そもそもBravais格子を知ると何が嬉しいのか.先生の資料の言葉を借りれば,「みな,ここまでは知っているはずだ.わかった…しかし,だから何なの?と思う方が多いと思う」.答えは3つある.

2.7.1 X線回折のピーク位置が決まる

第3章で証明するが,回折ピークの位置($2\theta$ の値)は逆格子ベクトル $\GG$ の長さのみで決まり,$\GG$ はBravais格子と格子定数で決まる.基底(どの元素をどこに置くか)は,ピークが立ちうる位置には一切効かない.基底が効くのは構造因子,すなわちピークの高さのほうである.

先生の資料の実験(VESTAによる計算)が,これを鮮やかに示している.格子定数を固定して

を計算すると,ピーク位置がすべて完全に一致する.4つとも cubic-$F$ で,しかも格子定数を揃えてあるからである.基底が変わると変わるのはピークの高さ(構造因子)で,構造因子がちょうどゼロになった反射は消えてしまうこともある.

2.7.2 Brillouin域の形が決まる

第1章1.5節で見たWigner–Seitz胞を,実空間ではなく逆格子空間で作ったものが第1Brillouin域である.逆格子はBravais格子から一意に決まるので,Brillouin域の形もBravais格子だけで決まる.

資料にある通り,「結晶の逆格子空間の primitive cell が Brillouin 域.Bravais 格子によって,Brillouin zone が決まる」.

表2.4 Bravais格子とBrillouin域の形(立方晶)
実空間のBravais格子逆格子第1Brillouin域の形高対称点
cubic-$P$cubic-$P$立方体$\Gamma, X, M, R$
cubic-$I$(bcc)cubic-$F$菱形十二面体$\Gamma, H, N, P$
cubic-$F$(fcc)cubic-$I$切頂八面体$\Gamma, X, L, W, K, U$

Si(ダイヤモンド構造,cubic-$F$)のバンド図の横軸が必ず $\Gamma \to X \to U|K \to \Gamma \to L \to W \to X$ と書かれているのは,fccのBrillouin域が切頂八面体だからである.資料の「1-6. Bravais格子によって,逆格子空間が一意に決まる」のスライドに,まさにこの図が載っている.

2.7.3 対称性の上限が決まる

Bravais格子は,その上に載せられる対称性の上限を決める.hexagonal-$P$ 格子の上に4回回転軸を載せることはできない.この制約が,次の第4章・第5章で「32点群」「230空間群」という有限個の答えを生む源になる.

2.8 まとめと演習

2.8.1 まとめ

2.8.2 演習問題

演習2.1 hexagonal-$I$ が存在しないことを示す

六方晶の conventional cell($a=b\neq c$, $\gamma=120^\circ$)の中心 $\left(\frac12,\frac12,\frac12\right)$ に格子点を追加したとする.

(1) この配置が6回回転対称性を持たないことを示せ.

(2) 得られる格子はどの結晶系のどのBravais格子になるか.

ヒント:(1) $c$ 軸まわりの $60^\circ$ 回転で,追加した点がどこへ行くかを調べる.(2) $\bm{A}_1 = \aa+\bb$, $\bm{A}_2 = -\aa+\bb$, $\bm{A}_3 = \cc$(互いに直交し,$\abs{\bm{A}_1} = a$, $\abs{\bm{A}_2} = \sqrt3\,a$)と軸を取り直すと,格子点は $(0,0,0)$, $\left(\frac12,\frac12,0\right)$, $\left(\frac12,0,\frac12\right)$, $\left(0,\frac12,\frac12\right)$ の4点になる.すなわち面心直方格子(orthorhombic-$F$)である.

演習2.2 tetragonal-$F$ = tetragonal-$I$

正方晶に面心 $F$ を入れると,より小さい体心正方格子 $I$ になることを示せ.

ヒント:2.4.1節と同じく,底面の対角線方向に軸を取り直す.$\aa' = \frac12(\aa+\bb)$, $\bb' = \frac12(-\aa+\bb)$, $\cc'=\cc$ とすると,元の面心点のうち $\left(\frac12,\frac12,0\right)$ は新しい格子の頂点になり,$\left(\frac12,0,\frac12\right)$ と $\left(0,\frac12,\frac12\right)$ は新しい胞の体心になる.

演習2.3 bccの逆格子はfccであることを予想する

第3章の準備として,次を考えよ.bccの基本並進ベクトルは $\frac{a}{2}(-1,1,1)$ 型,fccは $\frac{a}{2}(0,1,1)$ 型であった.

(1) 逆格子ベクトルの定義 $\bb_1 = 2\pi\dfrac{\aa_2\times\aa_3}{\aa_1\cdot(\aa_2\times\aa_3)}$ を使って,bccの逆格子基本ベクトルを求めよ.

(2) 得られたベクトルが,格子定数 $4\pi/a$ のfccの基本ベクトルの形をしていることを確かめよ.

ヒント:(1) $V_{\text{p}} = a^3/2$ を使う.答えは $\frac{2\pi}{a}(0,1,1)$ 型になる.

演習2.4 実在物質の分類

次の物質について,結晶系とBravais格子を空間群記号から読み取れ.また conventional cell と primitive cell の原子数を求めよ.

(1) $\mathrm{TiO_2}$ ルチル型 $P4_2/mnm$($Z=2$)
(2) $\mathrm{ZnO}$ ウルツ鉱型 $P6_3mc$($Z=2$)
(3) $\mathrm{LaAlO_3}$ $R\bar{3}c$(六方軸で $Z=6$)
(4) $\mathrm{BaCO_3}$ 毒重石(アラゴナイト型)$Pnma$($Z=4$)

ヒント:先頭の文字が中心記号,続く記号から結晶系を読む(詳しくは第5章).$P$ なら conventional = primitive.(3) の $R$ は六方軸で格子点3個なので,primitive は原子数 $1/3$.

演習2.5 なぜ5回対称の格子はないのか(第4章の予告)

正五角形は平面を隙間なく埋められない.このことを,格子の並進対称性から示す準備として,次を考えよ.

格子点を含む直線上に,間隔 $a$ で格子点が並んでいるとする.その1つを原点にとり,そこに $n$ 回回転軸があるとしよう.隣の格子点の位置ベクトルを $\aa$($\abs{\aa} = a$)とすると,これを $\pm\theta$($\theta = 2\pi/n$)だけ回転させた $R(\theta)\aa$ と $R(-\theta)\aa$ もまた格子ベクトルでなければならない.格子ベクトルの和はふたたび格子ベクトルだから,$R(\theta)\aa + R(-\theta)\aa = 2\cos\theta\,\aa$ も格子ベクトルである.ところがこれは $\aa$ に平行であり,$\aa$ に平行な格子ベクトルの長さは $a$ の整数倍に限られる.この事実から

$$ 2a\cos\frac{2\pi}{n} = ma \qquad (m \in \mathbb{Z}) $$

を導き,$n = 1,2,3,4,6$ のみが許されることを示せ.

ヒント:$\abs{\cos(2\pi/n)} \le 1$ より $m \in \{-2,-1,0,1,2\}$.各 $m$ に対応する $n$ を求める.これが結晶制限定理で,第4章4.2節で詳しく扱う.

参考文献

  1. C. Kittel『キッテル 固体物理学入門(上)』第8版,丸善出版,第1章「空間格子の基本型」.
  2. 望月 泰英「物質の対称性と群論 1. 結晶系とBravais格子」望月研究室勉強会資料(2026年4月24日).—— 本章の骨格,および 2.7節の実例はこの資料による.
  3. International Union of Crystallography, International Tables for Crystallography, Vol. A, Chapter 2.1. —— Bravais格子と結晶系の公式な定義.
  4. 今野 豊彦『物質の対称性と群論』共立出版,第1章.