第1章結晶構造の表し方 — conventional cell と primitive cell
固体物理学は,結晶学から始まる.原子が周期的に並んでいるという,たったそれだけの事実から,電子のバンド構造も,格子振動も,X線回折パターンも,すべてが演繹的に導かれていく.だから最初にやるべきことは,結晶構造をどう書き表すかを,曖昧さなく決めることである.
ところが,ここでいきなり最初の落とし穴が待っている.結晶構造を表す「箱」の取り方は,一意ではない.同じ結晶に対して,目的に応じて2種類の箱を使い分けるのが慣習になっていて,それが conventional cell(慣用単位胞)と primitive cell(基本単位胞)である.この2つの区別がついていないと,「原子が4個ある」のか「1個ある」のかで話が噛み合わなくなり,第一原理計算では扱う原子数が4倍違って計算コストが1〜2桁変わり,バンド図を描けばBrillouin域の形すら変わってしまう.
本章では,この2つの箱を厳密に定義し,岩塩型・閃亜鉛鉱型・ダイヤモンド型という見た目のまったく違う3つの構造が,実は同一のBravais格子を持つという,初学者にはやや意外な事実まで到達する.この事実は,第3章で,格子定数を揃えればX線回折のピークが立ちうる位置はこれら3つで完全に一致する(そのうちどれが実際に見えるかは基底が決める)という形で,実験的な帰結を持つことになる.
- 結晶=格子(lattice)+基底(basis)という分解,および格子並進ベクトル $\TT = n_1\aa_1 + n_2\aa_2 + n_3\aa_3$
- 格子点(lattice point)の定義:「周囲の環境が完全に同一な点」であって,原子の位置とは限らないこと
- primitive cell の定義(格子点をちょうど1個含む最小の胞)と,その取り方が無限にあること,体積だけは一意に決まること
- conventional cell の定義(結晶系の対称性が見える,直交性・等長性を優先した胞)と,なぜそれを使うのか
- Wigner–Seitz胞という,一意に決まる primitive cell の作り方
- 単位胞の中の原子数 $Z$ の数え方(頂点 $1/8$,辺 $1/4$,面 $1/2$,内部 $1$)
- 岩塩型 $Fm\bar{3}m$,閃亜鉛鉱型 $F\bar{4}3m$,ダイヤモンド型 $Fd\bar{3}m$ が同一のBravais格子(cubic-$F$)を持つこと
- Miller指数 $(hkl)$ と方向指数 $[uvw]$,およびその等価な組 $\{hkl\}$, $\langle uvw \rangle$
1.1 結晶とは何か — 格子と基底
まず「結晶」を定義する.日常語では「透明できれいな塊」を結晶と呼ぶが,物理学での定義はまったく違う.
定義:結晶(crystal)
同一の原子の集団が,空間的に周期的に繰り返し並んだ構造を結晶という.すなわち,ある3つの1次独立なベクトル $\aa_1, \aa_2, \aa_3$ が存在して,任意の整数 $n_1, n_2, n_3$ に対し,位置 $\rr$ と位置 $\rr + n_1\aa_1 + n_2\aa_2 + n_3\aa_3$ とで原子配置がまったく区別できないとき,その構造を結晶と呼ぶ.
この定義を,もう少し使いやすい形に分解しよう.周期的に繰り返される「原子の集団」そのものと,「どこに繰り返すか」という骨組みとを,分けて考えるのである.
格子とは,周期性だけを抜き出した,数学的な点の集合である.原子ではない.ただの点である.一方 基底とは,その各点に対して「何を,どこに置くか」を指定した,原子の集団のことである.
例:NaCl(岩塩)の場合
NaClの結晶は,面心立方(fcc)格子という格子の各点に,Na原子1個とCl原子1個という基底を置いたものである.具体的には,格子点を原点にとったとき,
$$ \text{基底} = \begin{cases} \text{Na} & \text{at } (0,0,0) \\ \text{Cl} & \text{at } \left(\tfrac12, 0, 0\right) \text{(conventional cell の分率座標)} \end{cases} $$格子点そのものの上にNaが乗っているが,これはたまたまそう選んだだけで,基底全体を平行移動しても同じ結晶である.なお,1.7.1節の表1.2 では同じ岩塩型の Cl を $\left(\tfrac12,\tfrac12,\tfrac12\right)$ と書いているが,両者は $\left(0,\tfrac12,\tfrac12\right)$ だけ違い,これは fcc 格子の並進ベクトルそのものなので,どちらを選んでも同じ結晶を表す.重要なのは,Na1個とCl1個がセットになって,fcc格子の周期で繰り返されているという構造である.なお,後で出てくる表1.2ではClの位置を $\left(\tfrac12,\tfrac12,\tfrac12\right)$ と書くが,これはここでの $\left(\tfrac12,0,0\right)$ とfccの格子並進 $\left(0,\tfrac12,\tfrac12\right)$ だけ違う,同じ基底の別表現である.
よくある誤解:「格子点=原子の位置」ではない
「格子」という言葉から,つい原子の並びそのものを思い浮かべてしまうが,これは正確ではない.格子は点の集合であって,原子はその点に「くっついている基底」の一部である.
この区別が決定的に効いてくるのが,ダイヤモンド構造である.ダイヤモンドの炭素原子の位置全体は,格子ではない.なぜなら,後で見るように,隣り合う2つの炭素原子は周囲の環境が同一ではない(結合の向きが違う)からである.ダイヤモンドは「fcc格子+炭素2個の基底」であって,「炭素原子が作る格子」ではないのである.
1.2 格子並進ベクトルと格子点
1.2.1 格子並進ベクトル
格子を作る3つの基本ベクトル $\aa_1, \aa_2, \aa_3$ を 基本並進ベクトル(primitive translation vectors)という.これらの整数係数の線形結合
を 格子並進ベクトル(lattice translation vector)と呼ぶ.$\TT$ 全体の集合が格子である.結晶の定義は,この記号を使えば「任意の $\TT$ について,原子配置が $\rr \to \rr + \TT$ で不変」と一行で書ける.
物理量についても同じことが言える.たとえば電子密度 $\rho(\rr)$ は,結晶の周期性を持つので
$$ \begin{equation} \rho(\rr + \TT) = \rho(\rr) \label{eq:1-density-periodic} \end{equation} $$を満たす.この一見あたりまえの式が,第3章でFourier級数展開されて逆格子を生み,第11章でBloch定理を生む.本書のほとんどすべては,式 \eqref{eq:1-density-periodic} から出発すると言ってもよい.
1.2.2 格子点の定義
定義:格子点(lattice point)
結晶の中で,周囲の環境が完全に同一な点を格子点という.「同一」とは,その点から見た原子の配置が,種類・距離・向きまで含めて区別できないという意味である.
言い換えれば,格子点 $\bm{P}$ と格子点 $\bm{Q}$ に対して,$\bm{Q} - \bm{P}$ は必ず格子並進ベクトル $\TT$ になっている.
先生のスライドにある「格子点 = 周囲の環境が同一の点.対称操作を施した時,重なる点」という表現は,まさにこの定義である.
なぜ「向きまで含めて」同一でなければならないのか
ダイヤモンド構造の2個の炭素を考えよう.どちらの炭素も,最近接に4個の炭素を正四面体状に持っている.距離も種類も同じである.それでも両者は格子点として同一ではない.四面体の向きが互いに反転しているからである.
一方が $[111]$ 方向を向いた四面体の中心なら,他方は $[\bar{1}\bar{1}\bar{1}]$ 方向を向いた四面体の中心になっている(方向を表す記法 $[uvw]$ は1.8.2節で定義する).この2つを重ねるには,並進だけでは足りず,回転(あるいは反転)が要る.だからこの2点は「並進で移り合う点」ではなく,格子点としては別物なのである.
結果として,ダイヤモンド構造の格子はfcc格子であり,炭素2個が基底になる.第5章で見るように,この2個を結ぶのが $d$ グライドという nonsymmorphic な対称操作で,空間群記号 $Fd\bar{3}m$ の $d$ がそれを表している.
1.3 primitive cell — 最小の箱
1.3.1 定義
定義:primitive cell(基本単位胞)
基本並進ベクトル $\aa_1, \aa_2, \aa_3$ が張る平行六面体を primitive cell という.より広くは,格子点をちょうど1個だけ含む最小の胞を primitive cell と呼ぶ.この言い方では平行六面体とは限らず,1.5節で扱う Wigner–Seitz 胞がその例である.
この胞を格子並進ベクトル $\TT$ ですべて平行移動すると,空間を隙間なく,かつ重複なく埋め尽くす.
primitive cell の体積は,スカラー三重積で与えられる:
1.3.2 取り方は無限にあるが,体積は一意である
ここが初学者のつまずきどころである.primitive cell の取り方は一意ではない.無限に存在する.
導出:基本並進ベクトルの取り替えと体積の不変性
$\aa_1, \aa_2, \aa_3$ が基本並進ベクトルであるとき,別の組 $\aa_1', \aa_2', \aa_3'$ を整数係数の線形結合
$$ \begin{equation} \aa_i' = \sum_{j=1}^{3} M_{ij}\, \aa_j \qquad (M_{ij} \in \mathbb{Z}) \label{eq:1-basis-change} \end{equation} $$で作ったとする.この新しい組が再び基本並進ベクトルになる(つまり同じ格子をもれなく生成する)ための条件を求めよう.
ステップ1:逆変換も整数でなければならない.新しい組で元の $\aa_j$ が書けなければ,元の格子点の一部が生成できない.よって逆行列 $M^{-1}$ の成分もすべて整数である必要がある.
ステップ2:行列式の条件.整数行列 $M$ に対して $\det M$ は整数である.同様に $\det(M^{-1})$ も整数.ところが
$$ \det M \cdot \det(M^{-1}) = \det(M M^{-1}) = \det I = 1 $$である.整数どうしの積が1になるのは,両方が $+1$ か,両方が $-1$ のときに限る.したがって
$$ \begin{equation} \det M = \pm 1 \label{eq:1-unimodular} \end{equation} $$このような整数行列をユニモジュラー行列(unimodular matrix)という.
ステップ3:体積が変わらないこと.式 \eqref{eq:1-basis-change} を行列で書くと,行ベクトルを並べた行列 $A$(第 $i$ 行が $\aa_i$)に対して $A' = MA$ である.行列式の積の性質から
$$ V_{\text{p}}' = \abs{\det A'} = \abs{\det M}\cdot\abs{\det A} = 1 \cdot V_{\text{p}} = V_{\text{p}} $$すなわち,基本並進ベクトルの取り方によらず,primitive cell の体積は一意に決まる.∎
物理的意味:何が一意で,何が一意でないか
ユニモジュラー行列は無限に存在するので(たとえば $\begin{pmatrix}1&1&0\\0&1&0\\0&0&1\end{pmatrix}$ を何度でも掛けられる),primitive cell の形は無限に選べる.しかし,
- 体積 $V_{\text{p}}$ は一意(上で証明した)
- 含まれる格子点の数は常に1個(定義)
- 含まれる原子の数も一意(基底の原子数に等しい)
つまり「箱の形」は自由だが,「箱の中身の量」は動かせない.第一原理計算で primitive cell を使うのは,この「中身の量」が最小になるからである.計算コストは原子数の3乗程度で効くので,conventional cell(岩塩型なら原子8個)ではなく primitive cell(原子2個)を使えば,単純計算で $(8/2)^3 = 64$ 倍速くなる.
1.3.3 2次元での具体例
3次元では絵が描きにくいので,まず2次元の斜方格子で確かめよう.
例題1.1 格子点をちょうど1個含むことの確認
図1.1の実線・破線それぞれの平行四辺形について,含まれる格子点がちょうど1個であることを確かめよ.
解答.2次元では,頂点は4つの胞に共有されるので $1/4$ 個,辺の内部の点は2つの胞に共有されるので $1/2$ 個,胞の内部の点は $1$ 個と数える.
実線($\aa_1, \aa_2$).頂点は4個,辺の内部にも胞の内部にも格子点はない.したがって
$$ 4 \times \frac{1}{4} + 0 + 0 = 1 \quad\text{個} $$破線($\aa_1' = \aa_1$,$\aa_2' = \aa_1 + \aa_2$).形は大きく歪むが,数え方は同じである.頂点は4個.辺の内部を調べると,たとえば $\aa_2'$ に沿う辺の中点は $\frac12(\aa_1+\aa_2)$ にあたり,これは整数係数の格子並進ベクトルではないので格子点ではない.他の辺も同様で,内部にも格子点はない.よって
$$ 4 \times \frac{1}{4} = 1 \quad\text{個} $$2つの胞は形も辺の長さもまったく違うのに,どちらもちょうど1個である.これは偶然ではなく,変換行列が
$$ M = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 1 & 1 \end{pmatrix}, \qquad \det M = 1\cdot 1 - 0\cdot 1 = 1 $$とユニモジュラーであることが保証している(1.3.2節).面積も $\abs{\det M} = 1$ 倍,すなわち不変である.∎
1.4 conventional cell — 対称性が見える箱
1.4.1 なぜ最小でない箱をわざわざ使うのか
primitive cell は最小で経済的である.ではなぜ,教科書に出てくる結晶構造の図は,たいてい大きな立方体で描かれているのだろうか.
答えは,primitive cell では対称性が見えないからである.
例:体心立方(bcc)格子の primitive cell
bcc格子の基本並進ベクトルは,立方体の一辺を $a$ として
$$ \aa_1 = \frac{a}{2}(-1, 1, 1), \quad \aa_2 = \frac{a}{2}(1, -1, 1), \quad \aa_3 = \frac{a}{2}(1, 1, -1) $$と取れる.これらの長さはすべて $\frac{\sqrt{3}}{2}a$ で等しいが,なす角は
$$ \cos\theta = \frac{\aa_1\cdot\aa_2}{\abs{\aa_1}\abs{\aa_2}} = \frac{\frac{a^2}{4}(-1-1+1)}{\frac{3a^2}{4}} = -\frac{1}{3} \quad\Longrightarrow\quad \theta = 109.47^\circ $$である.つまり primitive cell は,辺の長さが等しく角度が $109.47^\circ$ の菱面体(rhombohedron)になる.この形を見て「これは立方晶だ」と気づける人はいない.4回回転軸はこの箱の形からはまったく読み取れず,3回回転軸にしても,立方晶が持つ4本のうち菱面体の体対角線(立方晶の $[111]$ 方向)に沿う1本しか見えないのである.位数48の点群対称性のうち,この箱の形が示してくれるのは菱面体自身の対称性(点群 $\bar{3}m$,位数12)だけである.
体積を確かめておこう.
$$ V_{\text{p}} = \abs{\aa_1\cdot(\aa_2\times\aa_3)} = \frac{a^3}{8}\abs{\det\begin{pmatrix}-1&1&1\\1&-1&1\\1&1&-1\end{pmatrix}} $$行列式を第1行で展開すると
$$ \det = (-1)\bigl[(-1)(-1)-1\cdot 1\bigr] - 1\bigl[1\cdot(-1)-1\cdot 1\bigr] + 1\bigl[1\cdot 1-(-1)\cdot 1\bigr] = (-1)(0) - (1)(-2) + (1)(2) = 4 $$よって $V_{\text{p}} = \frac{a^3}{8}\times 4 = \frac{a^3}{2}$.立方体の体積 $a^3$ のちょうど半分であり,これは conventional cell(立方体)が格子点を2個含むことに対応する.
定義:conventional cell(慣用単位胞)
その結晶が属する結晶系の対称性がそのまま見えるように,辺の直交性や等長性を優先して選んだ胞を conventional cell という.格子点を2個以上含んでもよい(最小性を捨てる).
第2章で見るように,conventional cell の形は7つの結晶系によって決まる.
先生のスライドの一行にすべてが書いてある
望月研究室の勉強会資料には,こうまとめられている.
conventional cell の形は,7つの結晶系により決定され,
primitive cell の形は,14個のBravais格子により決定される.
この2行が,第1章と第2章の内容をすべて要約している.本書ではこの2行を,定義から丁寧にほどいていく.
1.4.2 conventional cell と primitive cell の対応
両者は変換行列で結ばれる.conventional cell の基本ベクトルを $\aa, \bb, \cc$,primitive cell のそれを $\aa_1, \aa_2, \aa_3$ とすると,
$$ \begin{equation} \begin{pmatrix} \aa_1 \\ \aa_2 \\ \aa_3 \end{pmatrix} = P \begin{pmatrix} \aa \\ \bb \\ \cc \end{pmatrix} \label{eq:1-P-matrix} \end{equation} $$という関係である.今度は $P$ の成分は整数とは限らず($1/2$ などが現れる),$\abs{\det P}$ も一般には1とは限らない.むしろ
ここで $n_{\text{lp}}$ は conventional cell に含まれる格子点の数である.
| Bravais格子 | 記号 | $P$(行が $\aa_1,\aa_2,\aa_3$) | $\det P$ | 格子点数 $n_{\text{lp}}$ |
|---|---|---|---|---|
| 単純立方 | cubic-$P$ | $\begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&1\end{pmatrix}$ | $1$ | 1 |
| 体心立方 | cubic-$I$ | $\frac12\begin{pmatrix}-1&1&1\\1&-1&1\\1&1&-1\end{pmatrix}$ | $1/2$ | 2 |
| 面心立方 | cubic-$F$ | $\frac12\begin{pmatrix}0&1&1\\1&0&1\\1&1&0\end{pmatrix}$ | $1/4$ | 4 |
例題1.2 fccの primitive cell の体積を2通りで求める
面心立方格子(立方体の一辺 $a$)について,primitive cell の体積を (i) 直接スカラー三重積で,(ii) 表1.1の $\det P$ を使って求め,一致することを確かめよ.
(i) 直接計算.fccの基本並進ベクトルは
$$ \aa_1 = \frac{a}{2}(0,1,1), \quad \aa_2 = \frac{a}{2}(1,0,1), \quad \aa_3 = \frac{a}{2}(1,1,0) $$まず $\aa_2 \times \aa_3$ を計算する.
$$ \aa_2\times\aa_3 = \frac{a^2}{4} \begin{vmatrix} \hat{x} & \hat{y} & \hat{z} \\ 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \end{vmatrix} = \frac{a^2}{4}\Bigl[\hat{x}(0\cdot 0 - 1\cdot 1) - \hat{y}(1\cdot 0 - 1\cdot 1) + \hat{z}(1\cdot 1 - 0\cdot 1)\Bigr] = \frac{a^2}{4}(-1, 1, 1) $$次に $\aa_1$ との内積をとる.
$$ \aa_1\cdot(\aa_2\times\aa_3) = \frac{a}{2}(0,1,1)\cdot\frac{a^2}{4}(-1,1,1) = \frac{a^3}{8}\bigl(0\cdot(-1) + 1\cdot 1 + 1\cdot 1\bigr) = \frac{a^3}{8}\cdot 2 = \frac{a^3}{4} $$よって $V_{\text{p}} = a^3/4$.
(ii) 変換行列から.$\det P = \left(\frac12\right)^3 \det\begin{pmatrix}0&1&1\\1&0&1\\1&1&0\end{pmatrix}$.この行列式は第1行展開で
$$ 0\cdot(0-1) - 1\cdot(0-1) + 1\cdot(1-0) = 0 + 1 + 1 = 2 $$したがって $\det P = \frac18 \times 2 = \frac14$,$V_{\text{p}} = \frac14 a^3$.両者は一致した.∎
ついでに,conventional cell(立方体)が格子点を4個含むことも確認できる:頂点8個 $\times\frac18$ + 面心6個 $\times\frac12$ = $1 + 3 = 4$ 個.式 \eqref{eq:1-det-P} の $1/n_{\text{lp}} = 1/4$ と合っている.
1.5 Wigner–Seitz胞
primitive cell の取り方が無限にあるのは,理論を組み立てるうえでは気持ちが悪い.そこで,一意に決まる primitive cell の作り方が用意されている.
定義:Wigner–Seitz胞
ある格子点を選び,そこから他のすべての格子点へ向かう線分を引き,それぞれの垂直二等分面を描く.これらの面で囲まれた,元の格子点を含む最小の領域を Wigner–Seitz胞という.
言い換えれば,「その格子点が,他のどの格子点よりも近い」点の集合である.
物理的意味:Wigner–Seitz胞の3つの利点
- 一意である.作り方に恣意性がないので,「この結晶のWS胞」と言えば形が確定する.
- 格子と同じ点群対称性を持つ.平行六面体型の primitive cell は対称性を壊してしまうが,WS胞は格子点まわりの対称操作をすべてそのまま持っている.だから第4章・第11章の対称性の議論と相性がよい.
- 逆格子で作れば Brillouin 域になる.これが決定的に重要である.逆格子空間で同じ作図をしたものが第1Brillouin域であり,バンド図の横軸そのものである.第3章で詳しく扱う.
先生のスライドにある「結晶の逆格子空間の primitive cell が Brillouin 域.Bravais 格子によって,Brillouin zone が決まる」という一文が,まさにこれである.
1.6 単位胞に何個の原子が入っているか
結晶構造を扱うとき,必ず必要になる実務的な計算が「この胞には原子が何個入っているか」である.化学式単位の数を $Z$ と書く.
数え方の規則
胞の境界にまたがる原子は,いくつの胞に共有されているかで割り算する.直方体状の胞では,
- 頂点(corner)の原子:8個の胞が共有 → $1/8$ 個
- 辺(edge)の上の原子:4個の胞が共有 → $1/4$ 個
- 面(face)の上の原子:2個の胞が共有 → $1/2$ 個
- 内部(interior)の原子:共有なし → $1$ 個
例題1.3 代表的な構造の $Z$ を数える
(a) 単純立方(sc).頂点のみに原子.$8\times\frac18 = 1$ 個.
(b) 体心立方(bcc).頂点8個+中心1個.$8\times\frac18 + 1 = 2$ 個.$\alpha$-Feがこれである.
(c) 面心立方(fcc).頂点8個+面心6個.$8\times\frac18 + 6\times\frac12 = 1 + 3 = 4$ 個.Cu, Al, Ni など.
(d) 岩塩型 NaCl($Fm\bar{3}m$).Naがfcc位置($4$ 個),Clが辺の中点12個+体心1個で $12\times\frac14 + 1 = 4$ 個.したがってNa$_4$Cl$_4$,すなわち $Z = 4$.
(e) 閃亜鉛鉱型 ZnS($F\bar{4}3m$).Znがfcc位置で4個,Sが内部の $\left(\frac14,\frac14,\frac14\right)$ 型の位置に4個(すべて胞の内部なので $4\times 1 = 4$).$Z = 4$.
(f) ダイヤモンド($Fd\bar{3}m$).(e)のZnとSをどちらも炭素にしたもの.$4 + 4 = 8$ 個.$Z = 8$(元素なので化学式単位は C).
(g) CsCl型($Pm\bar{3}m$).Csが頂点8個で $8\times\frac18 = 1$ 個,Clが体心に1個.$Z = 1$.
注意:CsCl型は「体心立方」と呼びたくなるが,bcc格子ではない.体心にあるのがCs(頂点)と違う元素Clなので,体心の点は格子点ではない(周囲の環境が異なる).CsCl型のBravais格子は単純立方(cubic-$P$)であり,基底がCs 1個+Cl 1個である.空間群記号が $Pm\bar{3}m$ と,$I$ ではなく $P$ で始まっているのは,まさにこのことを表している.
よくある誤解:$Z$ は conventional cell の値か primitive cell の値か
論文で「$Z = 4$」と書いてあるとき,ほとんどの場合それは conventional cell の値である.国際表(International Tables)に載っている $Z$ も conventional cell の値である.第一原理計算の入力ファイルを作るときは,primitive cell に直すと原子数が $1/n_{\text{lp}}$ になることを忘れないようにしたい.
岩塩型NaClなら,conventional cell で $Z=4$(原子8個),primitive cell では $Z=1$(原子2個)である.
1.7 代表的な結晶構造を読み解く
ここまでの道具で,先生のスライドにある「岩塩型構造,閃亜鉛鉱型構造,ダイヤモンド構造は,実は同一なBravais格子!」という主張を,自分で確かめられるようになった.
1.7.1 3つの構造の共通点
| 構造 | 空間群 | Bravais格子 | 基底(primitive cell 内) | conventional の $Z$ |
|---|---|---|---|---|
| 岩塩型 NaCl | $Fm\bar{3}m$ | cubic-$F$ | Na $(0,0,0)$,Cl $\left(\frac12,\frac12,\frac12\right)$ | 4 |
| 閃亜鉛鉱型 ZnS | $F\bar{4}3m$ | cubic-$F$ | Zn $(0,0,0)$,S $\left(\frac14,\frac14,\frac14\right)$ | 4 |
| ダイヤモンド C | $Fd\bar{3}m$ | cubic-$F$ | C $(0,0,0)$,C $\left(\frac14,\frac14,\frac14\right)$ | 8 |
(分率座標は conventional cell を基準にした値である.)
3つとも cubic-$F$(面心立方) という同じBravais格子を持ち,primitive cell には原子が2個ずつ入っている.違うのは,
- 2個目の原子が $\left(\frac12,\frac12,\frac12\right)$ にあるか $\left(\frac14,\frac14,\frac14\right)$ にあるか
- 2個の原子が同種か異種か
という,基底の違いだけである.
なぜ岩塩型と閃亜鉛鉱型で対称性が変わるのか
両方ともfcc格子+2原子の基底なのに,空間群は $Fm\bar{3}m$(点群 $m\bar{3}m$,位数48)と $F\bar{4}3m$(点群 $\bar{4}3m$,位数24)で違う.理由は反転対称性である.
岩塩型では,Naの位置を原点にとると,Clは $\left(\pm\frac12,0,0\right)$, $\left(0,\pm\frac12,0\right)$, $\left(0,0,\pm\frac12\right)$ の6方向(正八面体配位)に等距離であり,$\rr \to -\rr$ で構造が不変である.反転中心がある.
閃亜鉛鉱型では,Znを原点にとるとSは $\left(\frac14,\frac14,\frac14\right)$ など4方向(正四面体配位)にある.$\rr\to-\rr$ を施すと $\left(-\frac14,-\frac14,-\frac14\right)$ になるが,そこにS原子はいない.反転中心がない.
この違いが,第4章で見る「中心対称性を持たない点群 → 圧電性の起源」に直結する.ZnSやGaAs(閃亜鉛鉱型)は圧電体だが,NaClは圧電体ではない.結晶構造の対称性が,そのまま物性の可否を決めているのである.
物理的意味:この事実の実験的帰結
先生のスライドには,VESTA(RIETAN)でX線回折パターンを計算した結果が載っている.格子定数を固定したまま,NaClの岩塩型と閃亜鉛鉱型,NaCl$_2$蛍石型,SrSO$_4$岩塩型で計算すると,ピーク位置がすべて完全に同じになる.
これは偶然ではない.第3章で示すように,回折ピークの位置は逆格子ベクトル $\GG$ の長さだけで決まり,$\GG$ は Bravais 格子だけで決まる.基底は関係ない.基底が効くのはピークの高さ(構造因子)のほうである.
スライドの言葉を借りれば,「空間群が同じであれば,もっというと,Bravais 格子が同じであれば,primitive cell という名の『箱』にどんな物質をいれようとも,ピーク位置は一意に決定される」.
1.7.2 六方最密構造(hcp)は Bravais 格子ではない
もうひとつ,つまずきやすい例を扱っておく.六方最密構造(hexagonal close-packed, hcp)である.
hcpは,$ABABAB\ldots$ という積層で最密充填を実現する構造である.ここで注意すべきは,hcpは14個のBravais格子のリストに載っていないことである.hcpのBravais格子は単純六方(hexagonal-$P$)であり,基底が原子2個
$$ (0,0,0) \quad\text{と}\quad \left(\frac{1}{3}, \frac{2}{3}, \frac{1}{2}\right) $$である.$A$ 層の原子と $B$ 層の原子は,周囲の環境が(向きまで込みで)異なるので,両者は並進では移り合わない.したがって別々の格子点にはならない.
例題1.4 理想的なhcpの軸比 $c/a$
剛体球が最密充填しているとして,$c/a$ を求めよ.
解答.$A$ 層の3個の球(半径 $r$,中心間距離 $a = 2r$)が正三角形をなし,その上の窪みに $B$ 層の球が乗る.$A$ 層3個の中心が作る正三角形の外接円半径は
$$ R = \frac{a}{\sqrt{3}} $$(正三角形の重心から頂点までの距離.一辺 $a$ の正三角形で $R = a/\sqrt{3}$.)$B$ 層の球の中心は,この重心の真上,高さ $h$ のところにある.$A$ 層の球と接するので中心間距離は $a$ であり,三平方の定理から
$$ h^2 + R^2 = a^2 \quad\Longrightarrow\quad h^2 = a^2 - \frac{a^2}{3} = \frac{2}{3}a^2 \quad\Longrightarrow\quad h = a\sqrt{\frac{2}{3}} $$$c$ 軸は $ABA$ で1周期なので $c = 2h$,したがって
$$ \frac{c}{a} = 2\sqrt{\frac{2}{3}} = \sqrt{\frac{8}{3}} \approx 1.633 $$実際のMgは $c/a = 1.624$,Znは $1.856$,Cdは $1.886$ である.Mgは理想値に近いが,ZnとCdは大きくずれている.これは結合が完全な等方的剛体球ではなく,電子構造に由来する異方性があるためである.∎
1.8 Miller指数 — 面と方向の表し方
結晶の中の「面」と「方向」を指定する記法を決めておく.第3章の回折条件,第5章の空間群記号,第II部の対称軸の指定に,すべてこの記法を使う.
1.8.1 Miller指数の作り方
定義:Miller指数 $(hkl)$
結晶面が3つの結晶軸 $\aa, \bb, \cc$ を切る切片を,格子定数を単位として $p, q, r$ とする.このとき
- 逆数をとる:$\dfrac{1}{p}, \dfrac{1}{q}, \dfrac{1}{r}$
- 最小の整数比に直す:$h : k : l$
ただし回折を扱うときは,手順2の約分をあえて行わず,$(200)$ のように整数倍のままの指数を使う慣習がある.これを Laue 指数といい,例題1.5の別問で扱う.
得られた $(hkl)$ をその面のMiller指数という.軸と平行な面(切片が $\infty$)は,逆数が $0$ になる.負の指数は $\bar{h}$ のように上線で表す.
なぜわざわざ逆数をとるのか
理由は2つある.
(1) 無限大を避けるため.$c$ 軸に平行な面は $c$ 軸を切らないので切片が $\infty$ になる.逆数をとれば $0$ という扱いやすい数になる.
(2) 逆格子ベクトルと直結するため.第3章で示すが,Miller指数 $(hkl)$ の面に垂直なベクトルが,ちょうど逆格子ベクトル $\GG_{hkl} = h\bb_1 + k\bb_2 + l\bb_3$ になる(ここで $\bb_1, \bb_2, \bb_3$ は第3章 3.1.2節で定義する逆格子の基本ベクトルであり,実格子の軸 $\bb$ とは別物である).さらに面間隔は
$$ d_{hkl} = \frac{2\pi}{\abs{\GG_{hkl}}} $$という美しい関係で書ける.逆数をとるという一見不自然な操作は,実は逆格子空間へ移るための準備なのである.
例題1.5 Miller指数を求める
立方晶で,$a$ 軸を $1$,$b$ 軸を $2$,$c$ 軸を $3$ の位置で切る面のMiller指数を求めよ.
解答.切片は $(p,q,r) = (1,2,3)$.逆数をとると $\left(1, \frac12, \frac13\right)$.分母の最小公倍数6を掛けて $(6,3,2)$.よって $(632)$ 面.
別問.立方晶で,$a$ 軸を $\frac12$ で切り,$b$ 軸と $c$ 軸には平行な面は?
切片は $\left(\frac12, \infty, \infty\right)$,逆数は $(2, 0, 0)$.定義の手順2どおりに約分すれば $(100)$ だが,回折を扱う文脈では約分せずに $(200)$ 面と書く(Laue 指数).これは $(100)$ 面と平行だが,面間隔が半分である.回折を考えるときには $(100)$ と $(200)$ を区別する必要がある.
1.8.2 方向指数と等価な組
| 記法 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| $(hkl)$ | ひとつの結晶面 | $(100)$ |
| $\{hkl\}$ | 対称性で等価な面の集合 | $\{100\} = \{(100),(010),(001),(\bar{1}00),(0\bar{1}0),(00\bar{1})\}$ |
| $[uvw]$ | ひとつの方向 | $[111]$ |
| $\langle uvw\rangle$ | 対称性で等価な方向の集合 | $\langle 111\rangle$(立方晶では8方向) |
方向指数 $[uvw]$ は,原点から $u\aa + v\bb + w\cc$ へ向かうベクトルの方向を表す(こちらは逆数をとらない).
注意:立方晶以外では $(hkl) \perp [hkl]$ とは限らない
立方晶では,$(hkl)$ 面の法線方向がちょうど $[hkl]$ 方向になる.この性質は便利だが,立方晶に特有である.
たとえば六方晶や単斜晶では,$(110)$ 面の法線は $[110]$ 方向とは一般に一致しない.正しくは「$(hkl)$ 面の法線は逆格子ベクトル $\GG_{hkl}$ の方向」であり,逆格子ベクトルが実格子ベクトルと平行になるのは,軸が直交して等長な立方晶の場合だけである.第3章でこの点をきちんと扱う.
例題1.6 立方晶の $\{111\}$ と $\langle 110\rangle$ は何個あるか
$\{111\}$ 面.符号の組み合わせは $(\pm1,\pm1,\pm1)$ で $2^3 = 8$ 通り.ただし $(hkl)$ と $(\bar{h}\bar{k}\bar{l})$ は同じ面(向きが逆なだけ)なので,面としては $8/2 = 4$ 種類.これがfccの最密面であり,$\{111\}$ すべりが起こる面である.
$\langle 110\rangle$ 方向.0が1つ入る位置が3通り,残り2成分の符号が $2^2 = 4$ 通りで $3\times 4 = 12$.方向としては $\pm$ を区別しないので $12/2 = 6$… と数えたくなるが,方向指数では $[110]$ と $[\bar{1}\bar{1}0]$ は逆向きの別方向として数えることが多い.結晶学の文脈で「$\langle 110\rangle$ 方向は12個」と言うときは符号を区別している.fccの最近接原子方向がこれで,配位数12と一致する.
注:面についても同じ事情がある.表1.3で $\{100\}$ を6個としたのは $(100)$ と $(\bar{1}00)$ を別に数えたからで,これは回折の多重度を数えるときの流儀である.上のように向きの違いを無視して面の種類を数えれば $\{100\}$ は3,$\{111\}$ は4になる.どちらの流儀も文献で使われるので,何を数えているのかを毎回確かめたい.
1.9 まとめと演習
1.9.1 まとめ
- 結晶=格子+基底.格子は周期性だけを抜き出した点の集合で,原子の位置とは別物である.格子点は「周囲の環境が向きまで含めて同一な点」と定義される.
- 格子並進ベクトル $\TT = n_1\aa_1+n_2\aa_2+n_3\aa_3$ が結晶の周期性のすべてを担う.物理量は $f(\rr+\TT)=f(\rr)$ を満たし,この式が逆格子(第3章)とBloch定理(第11章)を生む.
- primitive cell は格子点を1個含む最小の胞.取り方は無限にあるが,ユニモジュラー行列($\det M = \pm1$)で結ばれるので体積は一意である.
- conventional cell は結晶系の対称性が見えるように選んだ胞で,格子点を複数含んでよい.体積比は $V_{\text{conv}}/V_{\text{p}} = n_{\text{lp}}$.
- Wigner–Seitz胞は一意に決まる primitive cell で,格子の点群対称性をそのまま保つ.逆格子で作れば第1Brillouin域になる.
- 原子数の数え方:頂点 $1/8$,辺 $1/4$,面 $1/2$,内部 $1$.論文の $Z$ は原則 conventional cell の値である.
- 岩塩型・閃亜鉛鉱型・ダイヤモンド型は同一のBravais格子(cubic-$F$)を持ち,基底だけが違う.この事実は,格子定数を揃えればX線回折のピークが立ちうる位置が一致するという形で実験に現れる(どれが実際に見えるかは基底が決める.第3章).
- Miller指数は切片の逆数を整数比にしたもの.逆数をとるのは,逆格子ベクトル $\GG_{hkl}$ と直結させるためである.
1.9.2 演習問題
演習1.1 bccのWigner–Seitz胞
体心立方格子のWigner–Seitz胞は切頂八面体(truncated octahedron)になる.
(1) 中心の格子点から最近接格子点(8個)までの距離と,第2近接格子点(6個)までの距離を,立方体の一辺 $a$ で表せ.
(2) WS胞の面のうち,最近接格子点に由来する面は何個で,第2近接に由来する面は何個か.
(3) WS胞の体積が $a^3/2$ であることを,1.4.1節の結果を使って述べよ.
ヒント:(1) 最近接は体心↔頂点で $\frac{\sqrt3}{2}a$,第2近接は体心↔隣のセルの体心で $a$.(2) 8個と6個で,合計14面.
演習1.2 CsCl型のBravais格子
CsCl型構造($Pm\bar{3}m$)について,以下に答えよ.
(1) 体心の位置は格子点か.理由を述べよ.
(2) Bravais格子は何か.primitive cell に含まれる原子は何個か.
(3) もし仮にCsとClをどちらも同じ元素に置き換えたら,Bravais格子はどう変わるか.
ヒント:(3) 頂点と体心が区別できなくなるので,体心も格子点になり,bccになる.実際,$\alpha$-Fe(bcc)はそういう構造である.
演習1.3 充填率の計算
剛体球模型で,以下の構造の充填率(atomic packing factor, APF)を求めよ.
(1) 単純立方 (2) 体心立方 (3) 面心立方 (4) ダイヤモンド構造
ヒント:APF =(胞内の球の体積)/(胞の体積).球が接する方向を見つけるのが要点である.scは $\langle100\rangle$,bccは $\langle111\rangle$,fccは $\langle110\rangle$,ダイヤモンドは $\langle111\rangle$ の $1/4$ の長さで接する.答えは順に $\pi/6\approx0.524$,$\sqrt3\pi/8\approx0.680$,$\sqrt2\pi/6\approx0.740$,$\sqrt3\pi/16\approx0.340$.ダイヤモンド構造がいかにスカスカかがわかる.
演習1.4 変換行列を自分で作る
体心正方格子(tetragonal-$I$,$a=b\neq c$)について,conventional cell から primitive cell への変換行列 $P$ を書き下し,$\det P = 1/2$ となることを確かめよ.また primitive cell の3つの基本ベクトルの長さと,なす角を $a$ と $c$ で表せ.
ヒント:$\aa_1 = \frac12(-a, a, c)$ など.長さは3本とも $\frac12\sqrt{2a^2+c^2}$ で等しい.角度は $c/a$ に依存する.
演習1.5 Miller指数と面間隔
立方晶(格子定数 $a$)の面間隔が
$$ d_{hkl} = \frac{a}{\sqrt{h^2+k^2+l^2}} $$で与えられることを,$(hkl)$ 面が軸を $a/h, a/k, a/l$ で切ることと,原点から平面までの距離の公式を使って示せ.
ヒント:平面 $\frac{x}{a/h}+\frac{y}{a/k}+\frac{z}{a/l}=1$,すなわち $hx+ky+lz=a$ と原点との距離を求めればよい.第3章では同じ結果を逆格子から $d = 2\pi/\abs{\GG}$ として導く.
参考文献
- C. Kittel『キッテル 固体物理学入門(上)』第8版,丸善出版,第1章「結晶構造」.—— 本章の対応箇所.
- 望月 泰英「物質の対称性と群論 1. 結晶系とBravais格子」望月研究室勉強会資料(2026年4月24日).—— 本章 1.4節・1.7節の構成はこの資料に沿っている.
- 今野 豊彦『物質の対称性と群論』共立出版.—— 日本語で結晶学と群論を一冊で扱う標準的な教科書.
- K. Momma, F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data", J. Appl. Crystallogr. 44, 1272 (2011). —— 本章の構造図を自分で描いてみるための可視化ソフト.使用したら必ず引用すること(付録B).