減衰振動と強制振動はどう解くのか ― ロンスキアン・微分演算子法・Green 関数
― ばねに繋がれた質点が空気抵抗を受けるとき,x(0) = L,x′(0) = v0
から出発して数秒後どうなっているか(学部 1・2 年生向け)
ばね定数 k のばねに繋がれた質量 m の質点が,速度に比例する空気抵抗
を受けながら動きます.運動方程式は
.
たった 1 行の式ですが,これを解くために使う道具
―― 重ね合わせ・ロンスキアン・特性方程式・微分演算子法・定数変化法 ――
は,このあと出てくる微分方程式のほとんどすべてで,そのまま使いまわせます.
ここでは途中式をひとつも飛ばさずに,最後まで解ききります.
この先の道すじ
§1〜§2 なぜ「解を 2 つ見つければ終わり」なのか(解空間が 2 次元であること,ロンスキアン).
§3〜§4 なぜ
を代入してよいのか,
そして
重根のとき,なぜ t が 1 つ増えるのか(微分演算子法).
§5〜§6 初期条件を入れて,3 つの場合の答えを完成させる.
§7 外から揺すったとき(強制振動).演算子法なら
「D に iω を代入するだけ」で特解が出ます.
§8 どんな外力でも解ける公式(定数変化法).そこに現れるのが
Green 関数で,
そのまま
線形応答理論の入口になります.
目で見て動かせる版は
シミュレーター にあります.
0. 設定 ― 運動方程式を立てる
質点にはたらく力は 2 つ.ばねの復元力
と,速度に逆らう抵抗力
です.どちらもマイナスがつくのは,
「のびた向きと逆に引き戻す」「動いている向きと逆に効く」からです.
Newton の運動方程式
に入れて
(1)
m で割って,2 つの記号を導入しておきます.あとの式がすっかり見通しよくなります.
(2)
は抵抗がないときの角振動数,
β は振幅が減っていく速さです(あとで
という形で出てきます).この 2 つの比
(3)
を減衰比といいます.結論を先にいえば,
この 1 つの数(正確にはその 1 との大小)だけで,運動の顔つきが決まります.
m, k, γ の 3 つを別々に気にする必要はありません.
単位を確かめる癖をつけましょう
は [N·s/m] = [kg/s],
は [1/s],
も [1/s](rad/s).
だから は無次元です.
無次元の量が出てきたら,それがたいてい物理の分かれ目になります.
1. 30 秒で見通しをつける
(2) は「x を 2 回微分したもの,1 回微分したもの,そのものを足すと 0」という式です.
微分しても形が変わらない関数といえば,指数関数
しかありません.
そこで代入してみると,
が共通因子になって外に出て,
(4)
微分方程式が,ただの 2 次方程式になってしまいました.
あとは根号の中身の符号だけで話が 3 つに分かれます.
| 根号の中 | 減衰比 | 特性根 | 運動 | 呼び名 |
|
ζ < 1 |
複素共役の 2 根 |
振動しながら減る |
不足減衰(減衰振動) |
|
ζ = 1 |
重根(1 つだけ) |
振動せずに戻る |
臨界減衰 |
|
ζ > 1 |
相異なる 2 実根 |
ゆっくり戻る |
過減衰 |
ここで手を止めてはいけません
「指数関数を代入したら,たまたまうまくいった」では,
重根のときに解が 1 つしか出てこないという壁にぶつかります
(2 階の方程式なのに任意定数が 1 つでは,初期条件 2 つを満たせません).
なぜ代入してよいのか,足りない解はどこから来るのか ―― それを §2〜§4 でつぶします.
2. 「解を 2 つ見つければ終わり」の理由
2.1 線形性と重ね合わせ
左辺を 1 つの記号にまとめます.
微分は線形な操作なので(),
(5)
したがって と
が (1) の解なら,
そのどんな定数倍の和も解です(重ね合わせの原理).
この一言のおかげで,あとは「土台になる解」を見つける仕事だけになります.
2.2 解の空間は,ちょうど 2 次元
(1) を 1 階の連立に書き直してみます.
とおくと
(6)
右辺は
について滑らかなので,解の存在と一意性の定理が使えます.つまり
出発点
を 1 つ決めれば,未来も過去も 1 本に決まる.
逆にいえば,解全体の集合と,出発点の集合
が 1 対 1 に対応します.
だから解の空間はちょうど 2 次元です.
1 次独立な解を 2 つ見つけたら,それが基底(基本解系)になり,
ほかのすべての解はその 1 次結合で書けます.
「解が 2 つ見つかったから,もう探さなくてよい」の根拠がこれです.
2.3 ロンスキアン ― 1 次独立かどうかの判定
では,見つけた 2 つの解 ,
が 1 次独立かどうかは,どう確かめるのでしょう.
「
がすべての t で成り立つのは
のときだけか」を調べたいのですが,これを t ごとに確かめるのは大変です.
そこで,この式と,これを微分した式を並べます.
これが
以外の解をもつのは,行列式が 0 のときだけ.この行列式をロンスキアンといいます.
(7)
なら 1 次独立,というわけです.
向きを取り違えやすいので,理由ごと覚えてください.もし 2 つが平行
()なら,
と必ず打ち消えます.「平行なら W = 0」の対偶が「W ≠ 0 なら独立」です.
ただし,これだけだと「どの t で調べればいいのか」が残ります.
次がその答えです.
2.4 Abel の公式 ― ロンスキアンは指数関数で縮む
を微分してみます.
と
の項が出ますが,後者は打ち消し合って消えます.
ここで両方とも (2) の解なので
を代入すると, の項もきれいに消えて
(8)
これが Abel(アーベル)の公式です.3 つのことが,ただちに分かります.
- 指数関数は決して 0 にならないので,W はどこかで 0 なら至るところ 0,
どこかで 0 でないなら至るところ 0 ではない.
だから t = 0 の 1 点で調べれば十分です.
- は解の中身を知らなくても分かってしまいます.
方程式の係数 だけで決まります.
- は,位相空間
で 2 つの解ベクトルが張る平行四辺形の面積です.
それが
で縮んでいく ―― これが「散逸」の幾何学的な意味です.
- §2.3 では「W ≠ 0 なら独立」という片方向だけを示しましたが,
この方程式の解どうしに限れば,逆向きも成り立ちます.
なら 2 つの初期ベクトル
が平行で,§2.2 の一意性から 2 つの解は永遠に定数倍のままだからです.
つまり解については W ≠ 0 ⟺ 1 次独立.
摩擦がないとき()
(8) は 一定 になります.
位相空間の面積が保存する ―― これはLiouville の定理そのもので,
統計力学の出発点になる性質です.
摩擦を入れると,その面積が指数関数で縮んでいく.
「情報が失われていく」ことが,1 行の式で見えています.
下の図で確かめてください.
3. なぜ を代入してよいのか
微分するという操作そのものに,名前をつけます.
この記号のご利益は, に当てたときに出ます.
―― つまり指数関数は,微分演算子の固有関数で,固有値が λ です.
何回微分しても同じことなので,
(9)
演算子の多項式に,ただ数を代入すればよいのです.
だから
を の形で探すと,
条件は ,
すなわち (4) の特性方程式になります.
この手が使えるのは「定数係数」のときだけ
たとえば
のように係数に t が入ると, と t は交換しません
().
多項式のように因数分解できるのは,係数がぜんぶ定数だからです.
4. 微分演算子法 ― 重根の はどこから来るのか
4.1 演算子を因数分解する
と同じことが,演算子のままでもできます.
(10)
実際に展開すると
で,解と係数の関係
,
を使えば (1) に戻ります.
順番を入れかえても同じ(定数係数だから可換)です.
4.2 2 段階に分けて,1 階ずつ解く
とおけば,(10) は
.
1 階の線形方程式は,積分因子を掛ければ必ず解けます.
を掛けると左辺がまとまって
なので,
の解は .
これを の定義に戻して,もう一度同じ手を使います.
(11)
あとは右辺を積分するだけ.ここでちょうど 2 つに分かれます.
- 2 根が異なるとき
():
右辺は本物の指数関数なので,積分しても指数関数のまま.
.
- 重根のとき
():
右辺の指数が消えてただの定数
になります.定数を積分すれば t が出るので
,すなわち
.
「重根のときは を足す」の正体は,
定数を 1 回積分したら t が出てきた,ただそれだけです.
公式として丸暗記する必要はありません.
そして,これで任意定数が 2 つ揃うので,初期条件 2 つをちゃんと満たせます.
4.3 一般化 ― shift(ずらし)定理
を繰り返し使うと,どんな多項式 についても
(12)
これを使うと重根の話が一瞬で片づきます.
に を入れると
,
つまり なので
は 1 次式.n 重根なら
で,
は 次の多項式です.
同じ定理は,§7 で強制振動の特解を出すときにも活躍します.
5. 初期条件を入れて,答えを完成させる
5.1 不足減衰(ζ < 1)― 揺れながら減る
のとき,根号の中が負なので
一般解は ですが,
x は実数の量です.Euler の公式
で書き直し,実数の定数 2 つで表すと
(13)
ここに初期条件を入れます. とおけば
.
微分してから とおくと
,
したがって
(14)
三角関数の合成でひとまとめにすると,包絡線が見えます
(位相 φ は
で決まります).
(15)
ここが試験によく出ます
抵抗があると,振動は「遅く」なります.
ですから,
周期は減衰なしのときより長くなります.
ただし ζ = 0.1 なら
で,実験ではほとんど気づけません.効くのは減衰が強いときだけです.
5.2 臨界減衰(ζ = 1)― 重根の場合
のとき,
§4.2 で見たように と
が基本解です.
初期条件を入れると
(16)
5.3 過減衰(ζ > 1)― 2 つの実根
とおくと .どちらも負です.
(17)
なので,しばらくすると
の方は消えてしまい,ゆっくりの根だけが残ります.
が大きいとき
ですから,抵抗を強くするほど,戻るのが遅くなります.
3 つの場合を,複素平面で 1 枚の絵にする
不足減衰では
なので
.
m と
k を固定して
γ だけを 0 から増やすと,2 つの根は
半径 の円の上をすべっておりてきて,
ζ = 1 で実軸の
でぶつかり(重根),そこから実軸上を左右に分かれます.
円から外れたところが過減衰で,それでも積
は変わりません.
シミュレーターの ② で動かせます.
5.4 3 つは,切れ目なくつながっている
場合分けをすると「別々の 3 つの世界」に見えますが,そうではありません.
3 つとも,次の 1 本の式にまとまります.
(18)
| ζ < 1(不足減衰) | ζ = 1(臨界) | ζ > 1(過減衰) |
|
|
1 |
|
|
|
|
|
ロンスキアン (基本解
,
での値) |
|
|
|
ロンスキアンの行が 3 つとも同じになっていることに気づいたでしょうか.
,
,
,
はどの場合でも共通なので ,
あとは (8) の Abel の公式が
と決めてしまうからです(Abel の公式は場合分けを知りません).
もちろん基底の取り方を変えれば頭の定数は変わります
―― §8.2 で使う
( を付けない流儀)なら
です.
を
で展開すると
―― に近づきます.過減衰側でも
.
つまり臨界減衰は,両側からの極限としてつながっています.
「重根のときだけ特別な公式を使う」のではなく,
の関数として,最初から 1 本の滑らかな式なのです.
6. 減り方を数で読む ― 対数減衰率と Q 値
不足減衰の答え (15) には,測定できる量が 2 つ入っています.
振幅がどれくらいで小さくなるかと,どれくらいの周期で往復するかです.
1 往復(周期
)
ごとに,包絡線は
倍になります.その対数を対数減衰率といいます.
(19)
実験で ζ を測るときの定石です.
となり合う 2 つのピークの高さの比を対数に取るだけで,
の値が分かってしまいます.
もうひとつ,工学でも物理でもいちばんよく使われるのが Q 値です.
(20)
エネルギーは振幅の 2 乗なので
,
1 周期で失う割合は
.つまり
―― これが Q 値の意味です.「Q が大きい = よく響く = 長く鳴る」.
§7 で見るように,同じ Q が共鳴の鋭さも決めます.
| 系 | ζ の目安 | Q の目安 | ようす |
| 水晶振動子 | 5×10−7 〜 5×10−6 | 105 〜 106 | 何十万回も鳴り続ける |
| 音叉 | 〜 5×10−4 | 〜 103 | 数秒間うなる |
| 建物(鉄骨) | 0.01 〜 0.03 | 17 〜 50 | 地震で共振しうる |
| 自動車のサスペンション | 0.2 〜 0.4 | 1.3 〜 2.5 | 1 回ふわっと沈んで戻る |
| ドアクローザー・計器の針 | ≒ 1 | 0.5 | 行き過ぎずに止まる |
「臨界減衰がいちばん速い」は,条件つきです
一度も行き過ぎない(オーバーシュートしない)ことを求めるなら,最速はちょうど臨界減衰です.
振動しない解のうち,減り方
がいちばん速いのが
だからです.
いっぽう,
「もとの 5 % 以内に収まればよい」という決め方にすると,
少し行き過ぎてもよいぶん,
ζ ≒ 0.7 のわずかな不足減衰が最短になります
(臨界の 0.6 倍ほどの時間).制御工学で
ζ ≒ 0.7 がよく選ばれるのはこのためです.
この値は,§7 で出てくる
共鳴の山が消える
にたいへん近いのですが,由来のちがう
別の条件です
(整定時間を最短にする
ζ は,初期条件と「5 %」という基準の取り方で少し動きます).
整定時間は
シミュレーターの ②,
共鳴の山は
シミュレーターの ④ で確かめられます.
どちらの基準でも,過減衰は臨界減衰より遅くなります.
7. 強制振動 ― 外から揺すってみる
こんどは右辺に外力を入れます.
(21)
非同次方程式の一般解は,同次解(余関数)+ 特解です.
同次解は §5 で求めたものがそのまま使えるので,特解を 1 つ見つければ終わりです.
7.1 なぜ複素数にするのか
ですから,代わりに
を解いて,最後に実部を取ります( は実係数なので
,
つまり実部を取る操作と微分は交換します).
三角関数のままだと「cos の項」と「sin の項」を別々に係数比較しなければなりませんが,
指数関数なら (9) の固有関数の性質がそのまま使えます.
これが複素数にする唯一の理由です.
7.2 「D に iω を代入する」だけ
(9) をそのまま使いましょう.
なので,
でありさえすれば
(22)
微分方程式が,複素数の割り算 1 回になりました.
という書き方(逆演算子)は,「両辺に
を当てるともとに戻る関数」という意味で,(9) がその保証を与えています.
分母を極形式
に直せば,
.
実部を取って,
(23)
位相の遅れ δ は 0 から π まで
ゆっくり揺する()と
:ばねが手についてくる(ばねが支配).
ちょうど共鳴()で
:
分母の実部が 0 になるからで,γ の値によりません.
このとき力と速度が同位相になり,エネルギーがいちばんよく吸われます.
速く揺する()と
:手と逆向きに動く(慣性が支配).
7.3 一般解 ―― 過渡解は必ず消える
(24)
初期条件を担うのは過渡解のほうです.
,
と決めて,§5 の公式に入れるだけです.
なら特性根の実部はどちらも負
(不足減衰なら
)
なので,過渡解はどんな初期条件から出発しても必ず消えます.
時定数は
―― ただしこれは ζ ≤ 1 のときで,過減衰では §5.3 の遅い根
が決めます( が大きいと
で,かえって長くなります).
つまり十分に時間が経つと,質点は「自分がどこから出発したか」を忘れて,
外力の振動数 ω でだけ揺れます.
実験で「定常状態を測る」と言えるのは,このおかげです.
7.4 共鳴 ―― 「山の場所」はひとつではない
(23) の A を ω で微分して 0 とおくと,分母の中身
が最小になる条件から
(25)
根号の中が正でなければ山はできません.その条件が
です.
いっぽう速度の振幅
と吸収パワーの山は,β によらず
ちょうど にあります.
(26)
この山(Lorentz 型)の半値全幅を求めてみましょう.
が半分になるのは
のときで,2 つの解の差はちょうど
(27)
Q は「どれくらい増幅するか」と「山がどれくらい狭いか」を同時に決めます.
分光でスペクトルの線幅から寿命を読むのも,回路の Q から帯域を読むのも,全部この式です.
7.5 摩擦がないときの共鳴 ―― 重根がまた出てくる
で
だと,
になって (22) が使えません.外力が同次解と同じ形になってしまったからです.
§4.3 の shift 定理を使えば,このときの規則もすぐ出ます.
,
なら
(28)
,
,
を入れて実部を取ると
(29)
振幅が t に比例して,いくらでも大きくなります.
ここでも「重なったときに t が 1 つ増える」という,同じことが起きています.
を から少しずらすと,
今度はうなりになります.,
で解くと
(30)
速い振動
が,ゆっくりした包絡線
に包まれた形です.
の極限をとると
で (29) に一致します
―― 共鳴は「周期が無限に長いうなり」だったわけです.
8. どんな外力でも解く ― 定数変化法と Green 関数
外力が でなく,
たとえば「1 回だけ叩く」「途中から一定の力を加える」のような場合はどうするか.
ここでロンスキアンがもう一度,しかも決定的な形で出てきます.
以下,外力を
と書きます ―― §3 の特性多項式
と字は同じですが,別ものです((21) の
にあたるものです).
8.1 定数変化法
同次方程式の基本解 ,
が手に入っているとします.
特解を,定数のところを関数に格上げした形で探します.
未知の関数が 2 つあるのに,方程式は 1 本しかありません.
余っているぶん,都合のよい条件を 1 つ勝手に課してよいのです.
と決めると(こうすると に
が出てこないので,
2 階微分しても が出ません),
もとの方程式に入れて
を使うと,残るのは
という,,
についてのただの連立 1 次方程式です.
Cramer の公式で解けば,係数行列式がまさにロンスキアン
:
(31)
積分して代入すれば,どんな外力に対しても使える特解の公式が得られます.
(32)
ロンスキアンは「1 次独立かどうかの判定道具」で終わりではありません.
非同次方程式を解く公式の分母として,本番に登場します.
―― つまり基本解がちゃんと 2 本そろっていること ――
が,ここで効いてきます.
8.2 Green 関数 ― 「1 回叩いたときの応答」
不足減衰の基本解
,
と,Abel の公式から出た
を (32) に入れます.分子は加法定理でまとまって
になるので,
(33)
この を Green 関数(インパルス応答)といいます.
性質を 3 つ確かめておきましょう.
- ,
―― 止まっている質点に力積 1 を与えたときの応答そのものです
().
- では 0.
叩く前には動かない ―― 因果律です.
- 時間差
にしか依りません.系が時間によらないからです(時間並進対称性).
(33) は畳み込み積分です.「外力を細かい撃力に刻んで,
それぞれの応答 を足し合わせる」という,重ね合わせの原理そのものの姿になっています.
8.3 フーリエ変換すると,§7 に戻る
畳み込みはフーリエ変換するとただの掛け算になります.
(33) を
で変換すると(規約は )
(34)
―― (22) の分母の逆数,そのものです.
時間の言葉(Green 関数)と,振動数の言葉(応答関数)は,同じものの表と裏でした.
この を感受率あるいは応答関数と呼びます.
極の位置と因果律
(34) の分母が 0 になるのは
.
実軸から β だけ離れた(この規約では上半面の)2 点です.
逆変換
を で計算するときは下半面に閉じますが,
そこには極が 1 つもないので積分は 0 ―― 「叩く前は動かない」が自動的に出ます.
因果律 ⟺ 応答関数が半平面で正則,という対応で,
ここから Kramers–Kronig の関係式(実部と虚部が互いを決める)が導かれます.
(
を使う教科書では,極は下半面になります.どちらでも中身は同じです.)
吸収されるパワー (26) は
に比例します
(この規約では です.
を使う教科書なら符号が逆で
)
―― 虚部が散逸,実部が「蓄える応答」.
この構造はそっくりそのまま,
誘電関数・電気伝導度・磁化率などの線形応答理論に受け継がれます.
減衰振動子は,そのいちばん小さな完全な実例なのです.
9. 同じ式に,あちこちで出会う
ここまでの式は「ばねとおもり」の話でしたが,
安定なつり合いの近くで,小さく揺れて,速度に比例して減る系は,
例外なく同じ形になります.変数の名前が違うだけです.
| 質点とばね | LCR 直列回路 | 光と束縛電子(Lorentz 模型) |
| 変数 | 変位 x | 電荷 q | 電子の変位 x |
| 慣性 | m | インダクタンス L | 電子質量 me |
| 散逸 | γ | 抵抗 R | 放射・衝突による減衰 |
| 復元 | k | 1/C | me |
| 外力 | F(t) | 電圧 V(t) | −eE(t) |
|
|
|
吸収線の中心 |
| Q |
|
|
吸収線の鋭さ(中心/線幅) |
たとえば Lorentz 模型で誘電関数を書くと,(22) の分母がそのまま現れます.
(35)
- 地震と建物:地面の揺れの卓越周期と建物の
が近いと共振します.制振ダンパーは,γ を足して Q を下げる装置です.
- 分光:吸収線の幅がそのまま
,
つまり励起状態の寿命の逆数になります.
- フォノン:調和近似だとピークは無限に鋭い()のですが,
非調和項が入ると有限の幅をもちます.
ラマン散乱や中性子散乱で見えるピーク幅は,まさにこの です.
10. まとめ
| 使った道具 | 何のためか | 結論 |
| 線形性・重ね合わせ | 解を組み合わせてよい根拠 |
|
| 存在と一意性 | 解空間の次元 | 2 次元.解を 2 つ見つければ終わり |
| ロンスキアン | 1 次独立の判定/特解の公式 |
|
| Abel の公式 | W の時間変化 |
(位相空間の面積が縮む) |
| 特性方程式 | 微分方程式 → 代数方程式 |
|
| 微分演算子法 | 因数分解して 1 階ずつ |
重根で が出る理由 |
| shift 定理 | 重根・共鳴の処理 |
|
| 逆演算子 | 強制振動の特解 |
|
| 定数変化法 | 任意の外力 |
Green 関数 |
この 1 問から持ち帰ってほしいこと
① 定数係数の線形微分方程式は,指数関数を入れるだけで代数の問題になります.
② 重根で t が 1 つ増えるのは,定数を積分したからであって,
覚える公式ではありません.
③ 過渡解は消え,定常解が残ります.だから「十分あとの様子」は初期条件によりません.
④ 応答関数 の
極の位置が減衰を,実軸からの距離が線幅を,半平面での正則性が因果律を表します.
この見方が,そのまま線形応答理論の入口になります.