減衰振動と強制振動はどう解くのか ― ロンスキアン・微分演算子法・Green 関数

― ばねに繋がれた質点が空気抵抗を受けるとき,x(0) = L,x′(0) = v0 から出発して数秒後どうなっているか(学部 1・2 年生向け)

ばね定数 k のばねに繋がれた質量 m の質点が,速度に比例する空気抵抗 −γdxdt を受けながら動きます.運動方程式は mx¨+γx˙+kx=0. たった 1 行の式ですが,これを解くために使う道具 ―― 重ね合わせ・ロンスキアン・特性方程式・微分演算子法・定数変化法 ―― は,このあと出てくる微分方程式のほとんどすべてで,そのまま使いまわせます. ここでは途中式をひとつも飛ばさずに,最後まで解ききります.

この先の道すじ §1〜§2 なぜ「解を 2 つ見つければ終わり」なのか(解空間が 2 次元であること,ロンスキアン).
§3〜§4 なぜ eλt を代入してよいのか, そして重根のとき,なぜ t が 1 つ増えるのか(微分演算子法).
§5〜§6 初期条件を入れて,3 つの場合の答えを完成させる.
§7 外から揺すったとき(強制振動).演算子法なら「D に iω を代入するだけ」で特解が出ます.
§8 どんな外力でも解ける公式(定数変化法).そこに現れるのが Green 関数で, そのまま線形応答理論の入口になります.

目で見て動かせる版は シミュレーター にあります.

0. 設定 ― 運動方程式を立てる

質点にはたらく力は 2 つ.ばねの復元力 −kx と,速度に逆らう抵抗力 −γx˙ です.どちらもマイナスがつくのは, 「のびた向きと逆に引き戻す」「動いている向きと逆に効く」からです. Newton の運動方程式 mx¨=F に入れて

(1) mx¨ +γx˙ +kx=0 , x(0)=L , x˙(0) =v0

m で割って,2 つの記号を導入しておきます.あとの式がすっかり見通しよくなります.

(2) x¨ +2βx˙ +ω02x=0 , ω0≡km , β≡γ2m

ω0 は抵抗がないときの角振動数, β は振幅が減っていく速さです(あとで e−βt という形で出てきます).この 2 つの比

(3) ζ≡βω0 =γ2mk

を減衰比といいます.結論を先にいえば, この 1 つの数(正確にはその 1 との大小)だけで,運動の顔つきが決まります. m, k, γ の 3 つを別々に気にする必要はありません.

単位を確かめる癖をつけましょう γ は [N·s/m] = [kg/s], β=γ/2m は [1/s], ω0 も [1/s](rad/s). だから ζ は無次元です. 無次元の量が出てきたら,それがたいてい物理の分かれ目になります.

1. 30 秒で見通しをつける

(2) は「x を 2 回微分したもの,1 回微分したもの,そのものを足すと 0」という式です. 微分しても形が変わらない関数といえば,指数関数 eλt しかありません. そこで代入してみると, eλt が共通因子になって外に出て,

(4) (λ2+2βλ +ω02) eλt=0 ⟹ λ±= −β± β2−ω02

微分方程式が,ただの 2 次方程式になってしまいました. あとは根号の中身の符号だけで話が 3 つに分かれます.

根号の中減衰比特性根運動呼び名
β2<ω02 ζ < 1 複素共役の 2 根 振動しながら減る 不足減衰(減衰振動)
β2=ω02 ζ = 1 重根(1 つだけ) 振動せずに戻る 臨界減衰
β2>ω02 ζ > 1 相異なる 2 実根 ゆっくり戻る 過減衰
ここで手を止めてはいけません 「指数関数を代入したら,たまたまうまくいった」では, 重根のときに解が 1 つしか出てこないという壁にぶつかります (2 階の方程式なのに任意定数が 1 つでは,初期条件 2 つを満たせません). なぜ代入してよいのか,足りない解はどこから来るのか ―― それを §2〜§4 でつぶします.

2. 「解を 2 つ見つければ終わり」の理由

2.1 線形性と重ね合わせ

左辺を 1 つの記号にまとめます.

ℒ[x]≡ mx¨ +γx˙ +kx

微分は線形な操作なので((ax1 +bx2)′ =ax1′+ bx2′),

(5) ℒ[ax1 +bx2] =aℒ[x1] +bℒ[x2]

したがって x1 と x2 が (1) の解なら, そのどんな定数倍の和も解です(重ね合わせの原理). この一言のおかげで,あとは「土台になる解」を見つける仕事だけになります.

2.2 解の空間は,ちょうど 2 次元

(1) を 1 階の連立に書き直してみます. v=x˙ とおくと

(6) ddt (xv) = ( 01 −ω02 −2β ) (xv)

右辺は (x,v) について滑らかなので,解の存在と一意性の定理が使えます.つまり 出発点 (L,v0) を 1 つ決めれば,未来も過去も 1 本に決まる. 逆にいえば,解全体の集合と,出発点の集合 ℝ2 が 1 対 1 に対応します.

だから解の空間はちょうど 2 次元です. 1 次独立な解を 2 つ見つけたら,それが基底(基本解系)になり, ほかのすべての解はその 1 次結合で書けます. 「解が 2 つ見つかったから,もう探さなくてよい」の根拠がこれです.

2.3 ロンスキアン ― 1 次独立かどうかの判定

では,見つけた 2 つの解 x1, x2 が 1 次独立かどうかは,どう確かめるのでしょう. 「c1x1 +c2x2=0 がすべての t で成り立つのは c1=c2=0 のときだけか」を調べたいのですが,これを t ごとに確かめるのは大変です. そこで,この式と,これを微分した式を並べます.

( x1x2 x1′x2′ ) (c1 c2) = (00)

これが c1=c2=0 以外の解をもつのは,行列式が 0 のときだけ.この行列式をロンスキアンといいます.

(7) W(t)≡ | x1x2 x1′x2′ | =x1x2′ −x1′x2

W≠0 なら 1 次独立,というわけです. 向きを取り違えやすいので,理由ごと覚えてください.もし 2 つが平行 (x2=cx1)なら, W=x1·cx1′ −x1′·cx1=0 と必ず打ち消えます.「平行なら W = 0」の対偶が「W ≠ 0 なら独立」です. ただし,これだけだと「どの t で調べればいいのか」が残ります. 次がその答えです.

2.4 Abel の公式 ― ロンスキアンは指数関数で縮む

W を微分してみます. x1x2″ と x1′x2′ の項が出ますが,後者は打ち消し合って消えます.

W′= x1x2″ −x1″x2

ここで両方とも (2) の解なので x″= −2βx′ −ω02x を代入すると,ω02 の項もきれいに消えて

(8) W′= −2βW ⟹ W(t)= W(0) e−2βt =W(0) e−(γ/m)t

これが Abel(アーベル)の公式です.3 つのことが,ただちに分かります.

摩擦がないとき(γ=0) (8) は W= 一定 になります. 位相空間の面積が保存する ―― これはLiouville の定理そのもので, 統計力学の出発点になる性質です. 摩擦を入れると,その面積が指数関数で縮んでいく. 「情報が失われていく」ことが,1 行の式で見えています. 下の図で確かめてください.

図 1.ロンスキアン W(t) は,2 つの解が位相空間で張る平行四辺形の面積です. γ を動かすと,面積が e−γt/m で縮んでいくのが見えます(左:位相空間,右:W の対数). 解は数値積分(Runge–Kutta)で求めていて,公式 (8) と一致します.

3. なぜ eλt を代入してよいのか

微分するという操作そのものに,名前をつけます.

D≡ddt , ℒ=mD2+γD+k ≡f(D)

この記号のご利益は,eλt に当てたときに出ます. Deλt=λeλt ―― つまり指数関数は,微分演算子の固有関数で,固有値が λ です. 何回微分しても同じことなので,

(9) f(D) eλt= f(λ) eλt

演算子の多項式に,ただ数を代入すればよいのです. だから ℒ[x]=0 を eλt の形で探すと, 条件は f(λ)=0, すなわち (4) の特性方程式になります.

この手が使えるのは「定数係数」のときだけ たとえば x″+tx′=0 のように係数に t が入ると,D と t は交換しません (D(tx)= x+tx′). 多項式のように因数分解できるのは,係数がぜんぶ定数だからです.

4. 微分演算子法 ― 重根の teλt はどこから来るのか

4.1 演算子を因数分解する

f(λ)= m(λ−λ+) (λ−λ−) と同じことが,演算子のままでもできます.

(10) m(D−λ+) (D−λ−) x=0

実際に展開すると m[D2 −(λ++λ−)D +λ+λ−] で,解と係数の関係 λ++λ−= −γ/m, λ+λ−= k/m を使えば (1) に戻ります. 順番を入れかえても同じ(定数係数だから可換)です.

4.2 2 段階に分けて,1 階ずつ解く

u≡(D−λ−)x とおけば,(10) は (D−λ+)u=0. 1 階の線形方程式は,積分因子を掛ければ必ず解けます. e−λt を掛けると左辺がまとまって

e−λt (u′−λu) =ddt (e−λtu)

なので,(D−λ+)u=0 の解は u=C1 eλ+t. これを u の定義に戻して,もう一度同じ手を使います.

(11) ddt (e−λ−tx) =C1 e(λ+−λ−)t

あとは右辺を積分するだけ.ここでちょうど 2 つに分かれます.

「重根のときは teλt を足す」の正体は, 定数を 1 回積分したら t が出てきた,ただそれだけです. 公式として丸暗記する必要はありません. そして,これで任意定数が 2 つ揃うので,初期条件 2 つをちゃんと満たせます.

4.3 一般化 ― shift(ずらし)定理

D(eλtu) =eλt (D+λ)u を繰り返し使うと,どんな多項式 f についても

(12) f(D) [eλt u(t)] =eλt f(D+λ) u(t)

これを使うと重根の話が一瞬で片づきます. (D−λ)2x=0 に x=eλtu を入れると eλtD2u=0, つまり u″=0 なので u は 1 次式.n 重根なら Dnu=0 で, u は n−1 次の多項式です. 同じ定理は,§7 で強制振動の特解を出すときにも活躍します.

5. 初期条件を入れて,答えを完成させる

5.1 不足減衰(ζ < 1)― 揺れながら減る

β2<ω02 のとき,根号の中が負なので

λ±= −β±iωd , ωd≡ ω02−β2

一般解は Aeλ+t +Beλ−t ですが, x は実数の量です.Euler の公式 eiθ=cosθ +isinθ で書き直し,実数の定数 2 つで表すと

(13) x(t)= e−βt (C1cosωdt +C2sinωdt)

ここに初期条件を入れます.t=0 とおけば C1=L. 微分してから t=0 とおくと −βC1 +ωdC2=v0, したがって

(14) x(t)= e−βt [Lcosωdt +v0+βLωd sinωdt]

三角関数の合成でひとまとめにすると,包絡線が見えます (位相 φ は tanφ=v0+βLωdL で決まります).

(15) x(t)= Re−βt cos(ωdt−φ) , R=L2+ (v0+βLωd)2
ここが試験によく出ます 抵抗があると,振動は「遅く」なります. ωd= ω02−β2 <ω0 ですから, 周期は減衰なしのときより長くなります. ただし ζ = 0.1 なら ωd/ω0 =1−0.01=0.995 で,実験ではほとんど気づけません.効くのは減衰が強いときだけです.

5.2 臨界減衰(ζ = 1)― 重根の場合

β=ω0 のとき, §4.2 で見たように e−βt と te−βt が基本解です. 初期条件を入れると

(16) x(t)= e−βt [L+ (v0+βL) t]

5.3 過減衰(ζ > 1)― 2 つの実根

s≡β2−ω02 とおくと λ±= −β±s.どちらも負です.

(17) x(t)= A+eλ+t +A−eλ−t , A±= ±v0−λ∓L λ+−λ−

|λ+| <|λ−| なので,しばらくすると eλ−t の方は消えてしまい,ゆっくりの根だけが残ります. γ が大きいとき λ+≈ −k/γ ですから,抵抗を強くするほど,戻るのが遅くなります.

3 つの場合を,複素平面で 1 枚の絵にする 不足減衰では λ±=−β±iωd なので |λ±|2=β2+ωd2=ω02. m と k を固定して γ だけを 0 から増やすと,2 つの根は 半径 ω0 の円の上をすべっておりてきて, ζ = 1 で実軸の −ω0 でぶつかり(重根),そこから実軸上を左右に分かれます. 円から外れたところが過減衰で,それでも積 λ+λ−=ω02 は変わりません.シミュレーターの ② で動かせます.

5.4 3 つは,切れ目なくつながっている

場合分けをすると「別々の 3 つの世界」に見えますが,そうではありません. 3 つとも,次の 1 本の式にまとまります.

(18) x(t)= e−βt [L C(t) +(v0+βL) S(t)]
ζ < 1(不足減衰)ζ = 1(臨界)ζ > 1(過減衰)
C(t) cosωdt 1 coshst
S(t) sinωdtωd t sinhsts
ロンスキアン W
(基本解 x1=e−βtC, x2=e−βtS での値)
e−2βt e−2βt e−2βt

ロンスキアンの行が 3 つとも同じになっていることに気づいたでしょうか. C(0)=1, S(0)=0, C′(0)=0, S′(0)=1 はどの場合でも共通なので W(0)=1, あとは (8) の Abel の公式が W=e−2βt と決めてしまうからです(Abel の公式は場合分けを知りません). もちろん基底の取り方を変えれば頭の定数は変わります ―― §8.2 で使う x2= e−βt sinωdt (1/ωd を付けない流儀)なら W=ωd e−2βt です.

S(t) を ωd2 で展開すると

sinωdtωd =t− ωd2t36 +⋯ (ωd→0)

―― t に近づきます.過減衰側でも sinhst/s →t. つまり臨界減衰は,両側からの極限としてつながっています. 「重根のときだけ特別な公式を使う」のではなく, ωd2= ω02−β2 の関数として,最初から 1 本の滑らかな式なのです.

図 2.ζ をゆっくり動かしてみてください. 不足減衰から過減衰まで,曲線はどこでも切れずに変形します. 右は (18) の S(t) で,ζ=1 でちょうど直線 t を通ります.

6. 減り方を数で読む ― 対数減衰率と Q 値

不足減衰の答え (15) には,測定できる量が 2 つ入っています. 振幅がどれくらいで小さくなるかと,どれくらいの周期で往復するかです.

1 往復(周期 Td=2π/ωd) ごとに,包絡線は e−βTd 倍になります.その対数を対数減衰率といいます.

(19) Λ≡ln x(t) x(t+Td) =βTd= 2πβωd =2πζ 1−ζ2

実験で ζ を測るときの定石です. となり合う 2 つのピークの高さの比を対数に取るだけで, γ の値が分かってしまいます.

もうひとつ,工学でも物理でもいちばんよく使われるのが Q 値です.

(20) Q≡ω02β =mkγ =12ζ

エネルギーは振幅の 2 乗なので E∝e−2βt, 1 周期で失う割合は 2βTd≈ 2π/Q.つまり

Q≈2π× 蓄えているエネルギー 1 周期で失うエネルギー

―― これが Q 値の意味です.「Q が大きい = よく響く = 長く鳴る」. §7 で見るように,同じ Q が共鳴の鋭さも決めます.

系ζ の目安Q の目安ようす
水晶振動子5×10−7 〜 5×10−6105 〜 106何十万回も鳴り続ける
音叉〜 5×10−4〜 103数秒間うなる
建物(鉄骨)0.01 〜 0.0317 〜 50地震で共振しうる
自動車のサスペンション0.2 〜 0.41.3 〜 2.51 回ふわっと沈んで戻る
ドアクローザー・計器の針≒ 10.5行き過ぎずに止まる
「臨界減衰がいちばん速い」は,条件つきです 一度も行き過ぎない(オーバーシュートしない)ことを求めるなら,最速はちょうど臨界減衰です. 振動しない解のうち,減り方 e−|λ+|t がいちばん速いのが β=ω0 だからです. いっぽう,「もとの 5 % 以内に収まればよい」という決め方にすると, 少し行き過ぎてもよいぶん,ζ ≒ 0.7 のわずかな不足減衰が最短になります (臨界の 0.6 倍ほどの時間).制御工学で ζ ≒ 0.7 がよく選ばれるのはこのためです. この値は,§7 で出てくる共鳴の山が消える ζ=1/2 にたいへん近いのですが,由来のちがう別の条件です (整定時間を最短にする ζ は,初期条件と「5 %」という基準の取り方で少し動きます). 整定時間は シミュレーターの ②, 共鳴の山は シミュレーターの ④ で確かめられます. どちらの基準でも,過減衰は臨界減衰より遅くなります.

7. 強制振動 ― 外から揺すってみる

こんどは右辺に外力を入れます.

(21) mx¨ +γx˙ +kx= F0cosωt

非同次方程式の一般解は,同次解(余関数)+ 特解です. 同次解は §5 で求めたものがそのまま使えるので,特解を 1 つ見つければ終わりです.

7.1 なぜ複素数にするのか

cosωt= Reeiωt ですから,代わりに

f(D)z= F0eiωt

を解いて,最後に実部を取ります(ℒ は実係数なので ℒ[Rez] =Reℒ[z], つまり実部を取る操作と微分は交換します). 三角関数のままだと「cos の項」と「sin の項」を別々に係数比較しなければなりませんが, 指数関数なら (9) の固有関数の性質がそのまま使えます. これが複素数にする唯一の理由です.

7.2 「D に iω を代入する」だけ

(9) をそのまま使いましょう. f(D) eiωt= f(iω) eiωt なので, f(iω)≠0 でありさえすれば

(22) zp= 1f(D) F0eiωt = F0eiωt f(iω) = F0eiωt k−mω2+iγω

微分方程式が,複素数の割り算 1 回になりました. 1/f(D) という書き方(逆演算子)は,「両辺に f(D) を当てるともとに戻る関数」という意味で,(9) がその保証を与えています.

分母を極形式 k−mω2+iγω =ρeiδ に直せば, zp= (F0/ρ) ei(ωt−δ). 実部を取って,

(23) xp(t)= A cos(ωt−δ) , A= F0/m (ω02−ω2)2 +(2βω)2 , tanδ= 2βω ω02−ω2
位相の遅れ δ は 0 から π まで ゆっくり揺する(ω≪ω0)と δ≈0:ばねが手についてくる(ばねが支配).
ちょうど共鳴(ω=ω0)で δ=π/2: 分母の実部が 0 になるからで,γ の値によりません. このとき力と速度が同位相になり,エネルギーがいちばんよく吸われます.
速く揺する(ω≫ω0)と δ≈π:手と逆向きに動く(慣性が支配).

7.3 一般解 ―― 過渡解は必ず消える

(24) x(t)= xh(t) ⏟過渡解 + Acos(ωt−δ) ⏟定常解

初期条件を担うのは過渡解のほうです. xh(0) =L−Acosδ, xh′(0) =v0−Aωsinδ と決めて,§5 の公式に入れるだけです.

β>0 なら特性根の実部はどちらも負 (不足減衰なら xh∝ e−βt) なので,過渡解はどんな初期条件から出発しても必ず消えます. 時定数は 1/β ―― ただしこれは ζ ≤ 1 のときで,過減衰では §5.3 の遅い根 λ+=−β+s が決めます(γ が大きいと λ+≈−k/γ で,かえって長くなります). つまり十分に時間が経つと,質点は「自分がどこから出発したか」を忘れて, 外力の振動数 ω でだけ揺れます. 実験で「定常状態を測る」と言えるのは,このおかげです.

7.4 共鳴 ―― 「山の場所」はひとつではない

(23) の A を ω で微分して 0 とおくと,分母の中身 (ω02−ω2)2 +4β2ω2 が最小になる条件から

(25) ωr= ω02−2β2 , Amax= F0γωd

根号の中が正でなければ山はできません.その条件が ζ<1/2 ≈0.707 です. いっぽう速度の振幅 ωA と吸収パワーの山は,β によらず ちょうど ω0 にあります.

(26) P¯(ω) =⟨Fx˙⟩ =12γω2A2 , P¯max= F022γ (ω=ω0)

この山(Lorentz 型)の半値全幅を求めてみましょう. P¯ が半分になるのは |ω02−ω2| =2βω のときで,2 つの解の差はちょうど

(27) Δω=2β= γm= ω0Q かつ A(ω0) A(0) =Q

Q は「どれくらい増幅するか」と「山がどれくらい狭いか」を同時に決めます. 分光でスペクトルの線幅から寿命を読むのも,回路の Q から帯域を読むのも,全部この式です.

7.5 摩擦がないときの共鳴 ―― 重根がまた出てくる

γ=0 で ω=ω0 だと, f(iω0)=0 になって (22) が使えません.外力が同次解と同じ形になってしまったからです. §4.3 の shift 定理を使えば,このときの規則もすぐ出ます. f(λ)=0, f′(λ)≠0 なら

(28) 1f(D) eλt= teλt f′(λ)

f(λ)= mλ2+k, f′=2mλ, λ=iω0 を入れて実部を取ると

(29) xp(t)= F02mω0 t sinω0t

振幅が t に比例して,いくらでも大きくなります. ここでも「重なったときに t が 1 つ増える」という,同じことが起きています.

ω を ω0 から少しずらすと, 今度はうなりになります.γ=0, x(0)= x˙(0)=0 で解くと

(30) x(t)= 2F0/m ω02−ω2 sin(ω0−ω)t2 sin(ω0+ω)t2

速い振動 (ω0+ω)/2 が,ゆっくりした包絡線 (ω0−ω)/2 に包まれた形です. ω→ω0 の極限をとると sinε≈ε で (29) に一致します ―― 共鳴は「周期が無限に長いうなり」だったわけです.

8. どんな外力でも解く ― 定数変化法と Green 関数

外力が cosωt でなく, たとえば「1 回だけ叩く」「途中から一定の力を加える」のような場合はどうするか. ここでロンスキアンがもう一度,しかも決定的な形で出てきます. 以下,外力を f(t) と書きます ―― §3 の特性多項式 f(D) と字は同じですが,別ものです((21) の F0cosωt にあたるものです).

8.1 定数変化法

同次方程式の基本解 x1, x2 が手に入っているとします. 特解を,定数のところを関数に格上げした形で探します.

xp= u1(t)x1 +u2(t)x2

未知の関数が 2 つあるのに,方程式は 1 本しかありません. 余っているぶん,都合のよい条件を 1 つ勝手に課してよいのです. u1′x1 +u2′x2=0 と決めると(こうすると xp′ に u′ が出てこないので, 2 階微分しても u″ が出ません), もとの方程式に入れて ℒ[x1] =ℒ[x2]=0 を使うと,残るのは

{ u1′x1 +u2′x2=0 u1′x1′ +u2′x2′ =f(t)/m

という,u1′, u2′ についてのただの連立 1 次方程式です. Cramer の公式で解けば,係数行列式がまさにロンスキアン W:

(31) u1′= − x2fmW , u2′= x1fmW

積分して代入すれば,どんな外力に対しても使える特解の公式が得られます.

(32) xp(t)= ∫0t x1(t′) x2(t) −x1(t) x2(t′) mW(t′) f(t′) dt′
ロンスキアンは「1 次独立かどうかの判定道具」で終わりではありません. 非同次方程式を解く公式の分母として,本番に登場します. W≠0 ―― つまり基本解がちゃんと 2 本そろっていること ―― が,ここで効いてきます.

8.2 Green 関数 ― 「1 回叩いたときの応答」

不足減衰の基本解 x1= e−βt cosωdt, x2= e−βt sinωdt と,Abel の公式から出た W(t′)= ωd e−2βt′ を (32) に入れます.分子は加法定理でまとまって e−β(t+t′) sinωd (t−t′) になるので,

(33) xp(t)= ∫0t G(t−t′) f(t′) dt′ , G(τ)= e−βτ sinωdτ mωd (τ≥0)

この G を Green 関数(インパルス応答)といいます. 性質を 3 つ確かめておきましょう.

(33) は畳み込み積分です.「外力を細かい撃力に刻んで, それぞれの応答 G を足し合わせる」という,重ね合わせの原理そのものの姿になっています.

8.3 フーリエ変換すると,§7 に戻る

畳み込みはフーリエ変換するとただの掛け算になります. (33) を e−iωt で変換すると(規約は f∝eiωt)

(34) χ(ω)= ∫0∞ G(τ) e−iωτ dτ= 1k−mω2+iγω

―― (22) の分母の逆数,そのものです. 時間の言葉(Green 関数)と,振動数の言葉(応答関数)は,同じものの表と裏でした. この χ を感受率あるいは応答関数と呼びます.

極の位置と因果律 (34) の分母が 0 になるのは ω=±ωd+iβ. 実軸から β だけ離れた(この規約では上半面の)2 点です. 逆変換 ∫χeiωtdω を t<0 で計算するときは下半面に閉じますが, そこには極が 1 つもないので積分は 0 ―― 「叩く前は動かない」が自動的に出ます. 因果律 ⟺ 応答関数が半平面で正則,という対応で, ここから Kramers–Kronig の関係式(実部と虚部が互いを決める)が導かれます.
(e−iωt を使う教科書では,極は下半面になります.どちらでも中身は同じです.)

吸収されるパワー (26) は −Imχ に比例します (この規約では Imχ<0 です. e−iωt を使う教科書なら符号が逆で +Imχ) ―― 虚部が散逸,実部が「蓄える応答」. この構造はそっくりそのまま, 誘電関数・電気伝導度・磁化率などの線形応答理論に受け継がれます. 減衰振動子は,そのいちばん小さな完全な実例なのです.

図 3.Green 関数 G(τ)(左)と, それを外力に畳み込んで作った答え(右)です. 畳み込み (33) の結果(青の実線)と, もとの微分方程式を Runge–Kutta で直接解いた答え(赤い○)を重ねてあります. 外力の形を切り替えて,どんな外力でも一致することを確かめてください. わずかに残るずれ(相対で 10−5 程度)は, 物理の食い違いではなく,積分を刻んで足したことによる数値誤差です.

9. 同じ式に,あちこちで出会う

ここまでの式は「ばねとおもり」の話でしたが, 安定なつり合いの近くで,小さく揺れて,速度に比例して減る系は, 例外なく同じ形になります.変数の名前が違うだけです.

質点とばねLCR 直列回路光と束縛電子(Lorentz 模型)
変数変位 x電荷 q電子の変位 x
慣性mインダクタンス L電子質量 me
散逸γ抵抗 R放射・衝突による減衰
復元k1/Cmeω02
外力F(t)電圧 V(t)−eE(t)
ω0 k/m 1/LC 吸収線の中心
Q mk/γ 1RLC 吸収線の鋭さ(中心/線幅)

たとえば Lorentz 模型で誘電関数を書くと,(22) の分母がそのまま現れます.

(35) ε(ω)ε0 =1+ ne2/ (ε0me) ω02−ω2 +2iβω

10. まとめ

使った道具何のためか結論
線形性・重ね合わせ解を組み合わせてよい根拠 ℒ[ax1+bx2]=aℒ[x1]+bℒ[x2]
存在と一意性解空間の次元2 次元.解を 2 つ見つければ終わり
ロンスキアン1 次独立の判定/特解の公式 W=x1x2′−x1′x2
Abel の公式W の時間変化 W=W(0)e−γt/m(位相空間の面積が縮む)
特性方程式微分方程式 → 代数方程式 λ±=−β±β2−ω02
微分演算子法因数分解して 1 階ずつ 重根で teλt が出る理由
shift 定理重根・共鳴の処理 f(D)[eλtu]=eλtf(D+λ)u
逆演算子強制振動の特解 xp=F0eiωt/f(iω)
定数変化法任意の外力 Green 関数 G(τ)=e−βτsinωdτ/(mωd)
この 1 問から持ち帰ってほしいこと ① 定数係数の線形微分方程式は,指数関数を入れるだけで代数の問題になります. ② 重根で t が 1 つ増えるのは,定数を積分したからであって, 覚える公式ではありません. ③ 過渡解は消え,定常解が残ります.だから「十分あとの様子」は初期条件によりません. ④ 応答関数 χ(ω) の 極の位置が減衰を,実軸からの距離が線幅を,半平面での正則性が因果律を表します. この見方が,そのまま線形応答理論の入口になります.

東京理科大学 望月研究室 / 動かして確かめる版は 減衰振動と強制振動シミュレーター にあります. 関連:調和振動子(量子), フーリエ級数, Green 関数と Feynman 図形, 基準振動とフォノン, Taylor 展開.