第16章エネルギーバンド
第15章では,金属中の電子をまったく自由な粒子として扱った.イオンが作る周期ポテンシャルを完全に無視し,箱の中に閉じ込めただけの気体と見なした.それでも電子比熱の $\gamma T$,Hall係数,Wiedemann–Franz則といった,実験と桁まで合う結果が次々に出てきた.乱暴な近似がなぜあれほど効くのかは,それ自体ひとつの謎である.
しかし自由電子模型には,どうしても越えられない壁がある.絶縁体と半導体が存在することを説明できないのである.自由電子模型では,電子がある限りその気体は必ず電気を通す.ところが現実の物質は,良導体($\mathrm{Cu}$,$\sigma \sim 6\times10^{7}\,\mathrm{S/m}$)から良絶縁体(溶融石英,$\sigma \sim 10^{-17}\,\mathrm{S/m}$)まで,電気伝導度が24桁以上にわたって分布している.物理量が24桁も変わるということは,その裏に定量的な違いではなく質的な違いがあるということだ.
その質的な違いを生むのが,本章の主役であるエネルギーギャップ(energy gap)である.周期ポテンシャルが,どんなに弱くても,$\kk$ 空間の特定の場所——Brillouin域の境界——では劇的に効いて,そこに電子が入れないエネルギー帯を開ける.ギャップの下のバンドが電子でちょうど埋まりきり,上のバンドが空であれば絶縁体,下のバンドが埋まりきっていなければ金属である.この一点で,24桁が説明される.
本章では,同じ結論に三つのまったく違う道から到達する.(a) ゾーン境界での Bragg 反射が定在波を作るという直観的な描像,(b) Kronig–Penney モデルという,最後まで手で解ける唯一のモデル,(c) 中心方程式(central equation)という,実際のバンド計算がそのまま乗っている一般的な枠組み.三つが同じ $E_g$ を返すことを,途中式を省略せずに確かめていく.とくに (c) からは,ゾーン境界で電子の有効質量が負になるという,正孔(第17章)の存在を予告する結果が自然に転がり出てくる.
- ゾーン境界 $k=\pm\pi/a$ で進行波が定在波に変わり,2つの定在波の電荷分布の違いがギャップを生むこと
- Bloch の定理の従来型(並進演算子)の証明 —— 第11章の群論的導出との対応
- Kronig–Penney モデルを $4\times4$ 行列式から最後まで解き,$\dfrac{P\sin Ka}{Ka}+\cos Ka=\cos ka$ を導くこと
- 中心方程式 $(\lambda_k-\epsilon)C(k)+\sum_G U_G C(k-G)=0$ の導出と意味
- ほとんど自由な電子近似の $2\times2$ 永年方程式,$E_g=2\abs{U}$,および負の有効質量
- 拡張ゾーン形式・還元ゾーン形式・周期ゾーン形式の使い分け
- 1バンドあたり $2N$ 個という数え方と,金属/半導体/絶縁体の区別(なぜ $\mathrm{Si}$ は絶縁体で $\mathrm{Ca}$ は金属か)
- $\mathrm{Si}$・$\mathrm{Cu}$・$\mathrm{Al}$ の実際のバンド図の読み方,直接ギャップと間接ギャップ
16.1 なぜギャップができるのか —— 定在波の描像
16.1.1 自由電子模型はどこで破綻するか
まず,これから何を直そうとしているのかをはっきりさせる.第15章の自由電子模型は,Hamiltonian から周期ポテンシャル $U(x)$ をまるごと落としたものであった.
| 説明できるもの | 説明できないもの |
|---|---|
| 電子比熱が $T$ に比例すること($\gamma T$) | 絶縁体・半導体が存在すること |
| Pauli常磁性の磁化率が $T$ によらないこと | Hall係数が正になる金属($\mathrm{Be}$, $\mathrm{Zn}$, $\mathrm{Cd}$)があること |
| Wiedemann–Franz則と Lorenz 数の値 | Lorenz数からのずれ,熱電能の符号 |
| 電気伝導度・熱伝導度の大きさの桁 | 磁気抵抗の異常,de Haas–van Alphen振動 |
| アルカリ金属の $\epsilon_F$ がだいたい合うこと | 遷移金属の $d$ 電子の寄与,金属の色 |
物理的意味:24桁の壁
室温での電気伝導度 $\sigma$ を並べてみる.
$\mathrm{Cu}$: $5.9\times10^{7}\,\mathrm{S/m}$ / $\mathrm{Si}$(真性): $\sim 4\times10^{-4}\,\mathrm{S/m}$ / 溶融石英 $\mathrm{SiO_2}$: $\sim 10^{-17}\,\mathrm{S/m}$
$\mathrm{Cu}$ と $\mathrm{SiO_2}$ の比は $10^{24}$ である.自由電子の数が $10^{24}$ 倍違うわけではない.$\mathrm{Si}$ にも $\mathrm{SiO_2}$ にも,$\mathrm{Cu}$ と同程度の密度で価電子は存在している.違うのはその電子が電場で加速できるかどうかである.そして加速できるかどうかを決めるのが,これから作るエネルギーバンドの充填状況である.
16.1.2 ゾーン境界での Bragg 反射
周期ポテンシャルが弱いとしよう.ほとんどの $k$ では,平面波 $\ee^{\ii kx}$ はほとんど乱されずに結晶中を進む.ところが $k$ がある特別な値になると,話が一変する.第3章で学んだ Laue 条件を思い出そう.弾性散乱で波数 $\kk$ が $\kk'=\kk+\GG$ に移るとき,エネルギー保存 $\abs{\kk'}=\abs{\kk}$ と合わせると
導出:式 \eqref{eq:16-laue} と1次元での帰結
$\kk'=\kk+\GG$ の両辺を2乗する.
$$ \abs{\kk'}^2 = \abs{\kk+\GG}^2 = (\kk+\GG)\cdot(\kk+\GG) = k^2 + 2\kk\cdot\GG + G^2 $$弾性散乱では $\abs{\kk'}=\abs{\kk}$,すなわち $\abs{\kk'}^2 = k^2$ だから,両辺から $k^2$ を引いて
$$ 0 = 2\kk\cdot\GG + G^2 $$となる.これが式 \eqref{eq:16-laue} である.1次元では $\GG \to G = 2\pi n/a$($n$ は0でない整数),$\kk\cdot\GG \to kG$ なので
$$ 2kG + G^2 = 0 \quad\Longrightarrow\quad k = -\frac{G}{2} = -\frac{\pi n}{a} $$$n$ は正負どちらの整数でもよいから,結局
$$ k = \pm\frac{\pi}{a},\ \pm\frac{2\pi}{a},\ \pm\frac{3\pi}{a},\ \dots $$∎ これらはちょうど第1,第2,第3 … Brillouin域の境界である(第3章).Brillouin域の境界とは,Bragg 反射が起こる $\kk$ の集合そのものである.
なぜ:Bragg 反射が起こると進行波でいられなくなる
$k=+\pi/a$ の電子は,格子によって $k'=k-2\pi/a=-\pi/a$ へ散乱される.ところが $-\pi/a$ の電子もまた,まったく同じ強さで $+\pi/a$ へ散乱される.散乱は一方通行ではない.
つまり,右向きに進もうとする波は必ず左向きの波に変換され,左向きの波は右向きに戻される.この往復が定常状態に落ち着いたものが定在波(standing wave)である.$k=\pm\pi/a$ では,右向きの進行波も左向きの進行波も定常解ではありえず,その等重み混合である定在波だけが定常解になる.
光学でいえば,多層膜ミラーの反射帯(stop band)とまったく同じ現象である.ある波長帯だけ,波は膜の中を伝播できず,入口で完全に跳ね返される.固体中の電子にとってその「伝播できない帯」がエネルギーギャップである.
16.1.3 2つの定在波
$k=\pi/a$ と $k=-\pi/a$ の2つの平面波は,自由電子としてはまったく同じエネルギー $\lambda = \hbar^2\pi^2/2ma^2$ を持つ.縮退している.縮退している2つの状態の線形結合はどれも同じエネルギーの解なので,自由電子だけを見ていては「どの組合せを取るべきか」が決まらない.その決着をつけるのが弱いポテンシャル $U(x)$ である.$U(x)$ が対角化される組合せ,つまり実数の定在波が選ばれる.
2つの独立な実定在波の作り方は,和と差の2通りしかない.
導出:規格化因子 $\sqrt2$ はどこから来るか
Kittel は $\psi(+)=\sqrt2\cos(\pi x/a)$,$\psi(-)=\sqrt2\,\ii\sin(\pi x/a)$ と書く.この $\sqrt2$ の出どころを確かめておく.
規格化の約束は「単位胞1個あたりの確率が1」,すなわち
$$ \frac{1}{a}\int_0^a \abs{\psi(x)}^2\,\dd x = 1 $$とする.この約束なら,進行波 $\ee^{\ii kx}$ は $\abs{\psi}^2=1$ でちょうど条件を満たす(比較の基準にできる).$\psi(+)=A\cos(\pi x/a)$ と置くと
$$ \frac{1}{a}\int_0^a A^2\cos^2\frac{\pi x}{a}\,\dd x = \frac{A^2}{a}\int_0^a \frac{1+\cos(2\pi x/a)}{2}\,\dd x $$ここで半角公式 $\cos^2\theta = (1+\cos2\theta)/2$ を使った.第2項の積分は,$\cos(2\pi x/a)$ をちょうど1周期にわたって積分するのでゼロである:
$$ \int_0^a \cos\frac{2\pi x}{a}\,\dd x = \left[\frac{a}{2\pi}\sin\frac{2\pi x}{a}\right]_0^a = \frac{a}{2\pi}(\sin 2\pi - \sin 0) = 0 $$したがって
$$ \frac{1}{a}\cdot\frac{A^2}{2}\cdot a = \frac{A^2}{2} = 1 \quad\Longrightarrow\quad A=\sqrt2 $$$\psi(-)$ も同様($\sin^2\theta=(1-\cos2\theta)/2$)で $A=\sqrt2$.∎
この規格化のもとで,確率密度は次のようになる.半角公式をもう一度使うだけである.
物理的意味:電子はどこに集まるか
イオンは $x=0,\ \pm a,\ \pm2a,\dots$ にある.
- $\abs{\psi(+)}^2 = 1+\cos(2\pi x/a)$ は $x=0,\pm a,\dots$ で最大値 $2$,$x=\pm a/2,\dots$ で $0$.電子をイオンの上に集める.
- $\abs{\psi(-)}^2 = 1-\cos(2\pi x/a)$ は逆で,$x=\pm a/2,\dots$ で最大値 $2$.電子をイオンとイオンの中間に集める.
- 進行波 $\ee^{\ii kx}$ は $\abs{\psi}^2=1$ で一様.どこにも偏らない.
正イオンのそばはポテンシャルエネルギーが低い(引力)から,$\psi(+)$ の電子は $\psi(-)$ の電子より得をする.同じ運動エネルギー $\lambda$ を持ちながら,ポテンシャルエネルギーだけが違う.この差がそのままエネルギーギャップになる.
16.1.4 ギャップの大きさを計算する
いよいよ $E_g$ を計算する.ポテンシャル $U(x)$ の周期は $a$ だから,Fourier 級数に展開できる.定数項(平均値)はエネルギーの原点の取り方で消せるので落とし,最低次の成分だけを残す.
$$ U(x) = U\cos\frac{2\pi x}{a} \qquad (U\ \text{は実数}) $$導出:$E(+)-E(-)=U$
2つの定在波は同じ運動エネルギー $\lambda=\hbar^2\pi^2/2ma^2$ を持つので,エネルギーの差はポテンシャルエネルギーの期待値の差だけである.1次摂動論の式そのものである.
$$ E(\pm) = \lambda + \frac{1}{a}\int_0^a U(x)\,\abs{\psi(\pm)}^2\,\dd x $$差を取ると $\lambda$ が消えて
$$ E(+)-E(-) = \frac{1}{a}\int_0^a U(x)\Bigl[\abs{\psi(+)}^2-\abs{\psi(-)}^2\Bigr]\dd x $$角括弧の中は,式 \eqref{eq:16-density} をそのまま引き算するだけで求まる.
$$ \abs{\psi(+)}^2-\abs{\psi(-)}^2 = \left(1+\cos\frac{2\pi x}{a}\right)-\left(1-\cos\frac{2\pi x}{a}\right) = 2\cos\frac{2\pi x}{a} $$これを代入する.
$$ E(+)-E(-) = \frac{1}{a}\int_0^a \left(U\cos\frac{2\pi x}{a}\right)\left(2\cos\frac{2\pi x}{a}\right)\dd x = \frac{2U}{a}\int_0^a \cos^2\frac{2\pi x}{a}\,\dd x $$残った積分をもう一度半角公式で潰す.$\cos^2\theta=(1+\cos2\theta)/2$ より
$$ \int_0^a \cos^2\frac{2\pi x}{a}\,\dd x = \int_0^a\frac{1}{2}\dd x + \frac12\int_0^a\cos\frac{4\pi x}{a}\,\dd x = \frac{a}{2} + 0 = \frac{a}{2} $$(第2項は $\cos(4\pi x/a)$ をちょうど2周期分積分するのでゼロ.)したがって
∎ ギャップの幅は $E_g=\abs{U}$,すなわち周期ポテンシャルの Fourier 成分の振幅そのものである.
注意:符号のこと(Kittel が書いていないこと)
式 \eqref{eq:16-Eg1} の左辺は「$\psi(+)$ のエネルギー引く $\psi(-)$ のエネルギー」であって,正とは限らない.Kittel はこれを $E_g$ と書いてしまっているが,正確には次のとおりである.
- 実在の結晶では,イオンは電子を引きつけるので,$U(x)$ はイオン位置 $x=0$ で最小になる.$U(x)=U\cos(2\pi x/a)$ が $x=0$ で最小になるためには $U<0$ でなければならない.
- したがって $E(+)-E(-)=U<0$,つまり $\psi(+)$ のほうが低い.イオン上に電子を集めるほうが得をする,という直観と一致する.
- ギャップの幅は $E_g=\abs{E(+)-E(-)}=\abs{U}$ である.
$U$ の符号はギャップの幅には影響せず,「どちらの定在波が下のバンドの頂上になるか」だけを決める.16.5節で $2\times2$ 行列を対角化すると,この事情がもっとはっきり見える.
補足:$E_g$ の実測値の桁
ギャップの幅がポテンシャルの Fourier 成分の大きさで決まるということは,イオンの電荷が強く局在しているほどギャップが大きいということである.実際に並べてみると納得できる.
| 物質 | $E_g$ (eV) | 種類 | コメント |
|---|---|---|---|
| $\mathrm{Cu}$, $\mathrm{Al}$, $\mathrm{Na}$ | (Fermi準位にギャップなし) | 金属 | ギャップはあるが $\epsilon_F$ がバンドの途中にある |
| 灰色スズ $\alpha$-$\mathrm{Sn}$ | $0.00$ | 半金属 | ちょうど閉じている |
| $\mathrm{InSb}$ | $0.17$ | 直接 | 赤外検出器 |
| $\mathrm{Ge}$ | $0.67$ | 間接 | 最初のトランジスタの材料 |
| $\mathrm{Si}$ | $1.12$ | 間接 | $0\,\mathrm{K}$ では $1.17$ |
| $\mathrm{GaAs}$ | $1.42$ | 直接 | LED・半導体レーザー |
| $\mathrm{GaN}$ | $3.4$ | 直接 | 青色LED |
| ダイヤモンド $\mathrm{C}$ | $5.47$ | 間接 | Si と同じ構造なのに5倍 |
| $\mathrm{NaCl}$ | $\sim 8.5$ | 直接 | イオン結晶.真空紫外まで透明 |
| $\mathrm{SiO_2}$(石英ガラス) | $\sim 9$ | — | 非晶質だがギャップの概念は生きる |
$\mathrm{Si}$ とダイヤモンドはまったく同じ結晶構造(ダイヤモンド型,第1章)なのに $E_g$ が5倍違う.格子定数が $5.43\,$Å と $3.57\,$Å で違うため,原子どうしが近いダイヤモンドのほうが結合・反結合の分裂が大きくなるためである.構造が同じでもギャップは同じにならない,という良い例である.
16.2 Bloch の定理 —— 並進演算子による証明
16.1節の議論はゾーン境界という1点だけの話であった.任意の $k$ で使える一般論を作るには,まず「周期ポテンシャル中の波動関数はどんな形をしているか」を確定させなければならない.それが Bloch の定理である.
16.2.1 第11章の群論的導出の復習
補足:第11章で何をやったか(3行で)
- 並進群 $\mathcal{T}=\{\{E|\RR\}\}$ は可換群である.可換群の既約表現はすべて1次元である(第7章).
- $\Ham$ は並進操作と可換なので,固有関数は $\mathcal{T}$ の既約表現の基底に取れる.1次元表現の基底は,並進で位相因子倍されるだけである.
- その位相因子を $\ee^{\ii\kk\cdot\RR}$ と書いたときの $\kk$ が波数である.つまり$\kk$ は並進群の既約表現につけたラベルにほかならない.
この見方は美しく,また第11章6節以降の縮退の議論に直結する強力なものである.しかし群論を経由せずに,演算子の言葉だけで同じ結論に到達することもできる.Kittel が採っているのはこちらである.両方を知っておくと,「$\abs{C}=1$ はどこから来たのか」がはっきりする.
16.2.2 並進演算子とその固有値
定義:並進演算子 $\hat{T}_a$
1次元格子(格子定数 $a$)に対して,関数の引数を $a$ だけずらす演算子を
$$ \hat{T}_a\,f(x) \;\equiv\; f(x+a) $$と定義する.$n$ 回作用させれば $\hat{T}_a^{\,n}f(x)=f(x+na)$ である.
注意:第11章と符号の約束が逆である
第11章では $\hat{P}_{\{E|\RR\}}f(\rr)=f(\rr-\RR)$ と,引数から引く約束を採った(関数のグラフを $+\RR$ 動かす).本節の $\hat{T}_a$ は $f(x+a)$ と足す約束である.どちらでも理論は同じで,最終的な位相因子の符号が $\ee^{\ii ka}$ か $\ee^{-\ii ka}$ かが入れ替わるだけである.教科書ごとに違うので,式を突き合わせるときは必ずどちらの約束かを確認すること.本章では最終形が $\psi(x+a)=\ee^{\ii ka}\psi(x)$ になるように揃える.
導出:$[\Ham,\hat{T}_a]=0$
1電子 Hamiltonian は
$$ \Ham = -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\dd^2}{\dd x^2} + U(x), \qquad U(x+a)=U(x) $$である.任意の関数 $\psi$ に $\hat{T}_a\Ham$ を作用させる.$\Ham\psi$ というできあがった関数の引数を $x\to x+a$ に置き換えるのだから
$$ \hat{T}_a\bigl(\Ham\psi\bigr)(x) = \left[-\frac{\hbar^2}{2m}\psi''(x') + U(x')\psi(x')\right]_{x'=x+a} = -\frac{\hbar^2}{2m}\psi''(x+a) + U(x+a)\,\psi(x+a) $$ここで2つのことを使う.
(i) $\psi''(x+a) = \dfrac{\dd^2}{\dd x^2}\bigl[\psi(x+a)\bigr]$.合成関数の微分で $\dd(x+a)/\dd x=1$ だから,微分の順番と平行移動は交換する.
(ii) $U(x+a)=U(x)$.これがポテンシャルの周期性を使う唯一の場所である.
したがって
$$ \hat{T}_a\bigl(\Ham\psi\bigr)(x) = -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\dd^2}{\dd x^2}\bigl[\psi(x+a)\bigr] + U(x)\,\psi(x+a) = \Ham\bigl[\hat{T}_a\psi\bigr](x) $$$\psi$ は任意だったから,演算子として $\hat{T}_a\Ham=\Ham\hat{T}_a$,すなわち $[\Ham,\hat{T}_a]=0$.∎
可換な2つの演算子は同時対角化できる.したがって $\Ham$ の固有関数 $\psi$ を,同時に $\hat{T}_a$ の固有関数にも取れる.
$$ \hat{T}_a\,\psi(x) = \psi(x+a) = C\,\psi(x) $$問題は,この固有値 $C$ がどんな複素数でありうるか,である.ここが本節の山場である.
導出:$\abs{C}=1$ —— 3通りの示し方
(A) 物理から:電子の存在確率密度 $\abs{\psi(x)}^2$ は,観測可能量であり,結晶の並進対称性を持たなければならない.もし $\abs{\psi(x+a)}^2\neq\abs{\psi(x)}^2$ なら,$x$ と $x+a$ という区別のつかない2点で電子密度が違うことになり,矛盾する.よって
$$ \abs{\psi(x+a)}^2 = \abs{C}^2\abs{\psi(x)}^2 = \abs{\psi(x)}^2 \quad\Longrightarrow\quad \abs{C}^2=1 $$(B) 演算子から:$\hat{T}_a$ はユニタリ演算子である.実際,任意の2つの関数について
$$ \int_{-\infty}^{\infty}\bigl(\hat{T}_a f\bigr)^*\bigl(\hat{T}_a g\bigr)\dd x = \int_{-\infty}^{\infty} f^*(x+a)\,g(x+a)\,\dd x \overset{y=x+a}{=} \int_{-\infty}^{\infty} f^*(y)g(y)\,\dd y $$と,内積を変えない(積分変数の平行移動をしただけ).ユニタリ演算子の固有値は絶対値1である.
(C) 周期境界条件から:$N$ 個の単位胞からなる長さ $L=Na$ の鎖に,第15章と同じ Born–von Kármán の周期境界条件 $\psi(x+L)=\psi(x)$ を課す.$\hat{T}_a$ を $N$ 回作用させれば
$$ \psi(x+Na) = C^N\psi(x) = \psi(x) \quad\Longrightarrow\quad C^N=1 $$すなわち $C$ は1の $N$ 乗根である.1の $N$ 乗根はすべて絶対値1である.∎
(A) と (B) は $\abs{C}=1$ を言うだけだが,(C) はさらに $C$ の取りうる値を離散化する.3つとも押さえておく価値がある.
導出:$C=\ee^{\ii ka}$ と $k$ の量子化
(C) より $C^N=1$.1の $N$ 乗根は
$$ C = \exp\!\left(\ii\frac{2\pi s}{N}\right), \qquad s=0,1,2,\dots,N-1 $$の $N$ 個である.これを $C=\ee^{\ii ka}$ と書き直すために $ka = 2\pi s/N$ と置くと
これは第15章・第11章で得た $k$ の量子化そのものである.隣り合う $k$ の間隔は $2\pi/L$ で,結晶が大きいほど($L$ が大きいほど)$k$ は連続に近づく.
ここで重要な観察がひとつ.$s$ と $s+N$ は同じ $C$ を与える($\ee^{\ii2\pi(s+N)/N}=\ee^{\ii2\pi s/N}\cdot\ee^{\ii2\pi}$).$s\to s+N$ は $k\to k+2\pi/a=k+G$ に対応するから,
$$ k \quad\text{と}\quad k+G \quad\text{は物理的に同じ状態を指す} $$したがって独立な $k$ は $N$ 個しかなく,それらを $-\pi/a < k \le \pi/a$(第1 Brillouin域)に取ることができる.∎
定理16.1(Bloch の定理)
周期ポテンシャル $U(x+a)=U(x)$ 中の1電子 Schrödinger 方程式の固有関数は,実数 $k$ でラベルづけでき
$$ \psi_k(x+a) = \ee^{\ii ka}\,\psi_k(x) $$を満たす.同値な言い換えとして,格子周期を持つ関数 $u_k$ を用いて
と書ける.$u_k$ を Bloch 関数の周期部分(periodic part)という.
証明:2つの表現が同値であること
($\Rightarrow$) $\psi_k(x+a)=\ee^{\ii ka}\psi_k(x)$ を仮定し,$u_k(x)\equiv \ee^{-\ii kx}\psi_k(x)$ と定義する.すると
$$ u_k(x+a) = \ee^{-\ii k(x+a)}\psi_k(x+a) = \ee^{-\ii kx}\underbrace{\ee^{-\ii ka}\cdot\ee^{\ii ka}}_{=1}\psi_k(x) = \ee^{-\ii kx}\psi_k(x) = u_k(x) $$$u_k$ は周期 $a$ を持つ.定義から $\psi_k=\ee^{\ii kx}u_k$ である.
($\Leftarrow$) 逆に $\psi_k=\ee^{\ii kx}u_k$,$u_k(x+a)=u_k(x)$ を仮定すると
$$ \psi_k(x+a) = \ee^{\ii k(x+a)}u_k(x+a) = \ee^{\ii ka}\,\ee^{\ii kx}u_k(x) = \ee^{\ii ka}\psi_k(x) $$∎ 2つの表現は完全に同値である.前者は「並進したときどうなるか」,後者は「関数の形はどうなっているか」を述べている.計算では場面によって使い分ける.
16.2.3 3次元への拡張
3次元では,3本の基本並進ベクトル $\aa_1,\aa_2,\aa_3$ に対応する並進演算子 $\hat{T}_1,\hat{T}_2,\hat{T}_3$ がある.これらは互いに可換である:
$$ \hat{T}_1\hat{T}_2 f(\rr) = \hat{T}_1 f(\rr+\aa_2) = f(\rr+\aa_1+\aa_2) = \hat{T}_2\hat{T}_1 f(\rr) $$互いに可換で,かつ $\Ham$ とも可換な3つの演算子だから,4つ同時に対角化できる.それぞれの固有値を $\ee^{\ii\kk\cdot\aa_1}$, $\ee^{\ii\kk\cdot\aa_2}$, $\ee^{\ii\kk\cdot\aa_3}$ と書けば,3成分のラベル $\kk$ が定義される.周期境界条件 $\hat{T}_j^{N_j}=1$ から,第11章と同じく
$$ \kk = \frac{m_1}{N_1}\bb_1 + \frac{m_2}{N_2}\bb_2 + \frac{m_3}{N_3}\bb_3 $$と量子化される($\bb_j$ は逆格子基本ベクトル,$m_j$ は整数).全体で $N=N_1N_2N_3$ 個の独立な $\kk$ があり,これらはちょうど第1 Brillouin域を埋め尽くす.
16.2.4 Bloch の定理が「言っていない」こと
注意:よくある3つの誤解
誤解1:「$\psi_k$ は周期関数である」——違う.周期的なのは $u_k$ であって $\psi_k$ ではない.$\psi_k$ は並進すると $\ee^{\ii ka}$ 倍される.ただし $\abs{\psi_k}^2=\abs{u_k}^2$ は周期的である.
誤解2:「$\hbar k$ は電子の運動量である」——違う.運動量演算子 $\hat{p}=-\ii\hbar\,\dd/\dd x$ を Bloch 関数に作用させてみればわかる.
$$ \hat{p}\,\psi_k = -\ii\hbar\frac{\dd}{\dd x}\Bigl(\ee^{\ii kx}u_k\Bigr) = -\ii\hbar\Bigl(\ii k\,\ee^{\ii kx}u_k + \ee^{\ii kx}u_k'\Bigr) = \hbar k\,\psi_k - \ii\hbar\,\ee^{\ii kx}u_k' $$第2項が残るので,$u_k$ が定数(=自由電子)でない限り $\psi_k$ は $\hat p$ の固有関数ではない.$\hbar\kk$ は結晶運動量(crystal momentum)と呼ばれ,格子との衝突を含めた保存量として働く(第13章のフォノンの運動量と同じ事情).真の運動量ではないが,外力に対する応答は $\hbar\dot{\kk}=\bm{F}$ という運動量そっくりの式に従う(第17章).
誤解3:「$k$ は一意に決まる」——違う.$k$ と $k+G$ は同じ状態を指すので,$k$ は逆格子ベクトルの差を除いてしか決まらない.だからこそ「第1 Brillouin域に折り返す」という操作に意味がある(16.6節).
注意:縮退があるときの但し書き
「$\Ham$ と $\hat{T}_a$ が可換だから固有関数を共有できる」という論法には,実は一手間隠れている.$\Ham$ の固有値 $\epsilon$ が $g$ 重に縮退している場合,その $g$ 次元の固有空間に属する任意のベクトルは $\Ham$ の固有関数だが,$\hat T_a$ の固有関数とは限らない.しかし $[\Ham,\hat T_a]=0$ より $\hat T_a$ はこの固有空間を自分自身に写す($\Ham(\hat T_a\psi)=\hat T_a(\Ham\psi)=\epsilon(\hat T_a\psi)$)から,$\hat T_a$ をこの $g$ 次元空間の中で対角化すればよい.$\hat T_a$ はユニタリなので必ず対角化できる.こうして「$\Ham$ と $\hat T_a$ の同時固有関数からなる完全系」が必ず作れる.
この操作は第11章6節の「小群の既約表現でバンドの縮退が決まる」という話の入口でもある.
16.3 Kronig–Penney モデルの完全解
16.1節の議論はゾーン境界という1点だけの話であり,16.2節は波動関数の形を決めただけであった.では,あるポテンシャルを与えたとき,バンドとギャップがどう並ぶのかを最後まで計算することはできるだろうか.できる.ただし,それが手で最後までできるほとんど唯一のモデルが Kronig–Penney モデル(1931年)である.周期的な矩形障壁というだけの単純なモデルだが,バンド構造の本質的な特徴をすべて備えている.
16.3.1 モデルの設定
定義:Kronig–Penney ポテンシャル
周期 $a+b$ の1次元ポテンシャル.1周期を次の2領域に分ける.
- 領域 I(井戸):$0<x<a$ で $U=0$
- 領域 II(障壁):$-b<x<0$ で $U=U_0\ (>0)$
これが $x\to x+(a+b)$ で繰り返す.
エネルギー $\epsilon$(ただし $0<\epsilon<U_0$)の電子を考える.各領域での Schrödinger 方程式は定数係数の2階常微分方程式なので,指数関数の重ね合わせで書ける.
導出:各領域での一般解
領域 I($U=0$):
$$ -\frac{\hbar^2}{2m}\psi'' = \epsilon\psi \quad\Longleftrightarrow\quad \psi'' = -\frac{2m\epsilon}{\hbar^2}\psi \equiv -K^2\psi, \qquad K \equiv \sqrt{\frac{2m\epsilon}{\hbar^2}} $$$\epsilon>0$ なので $K$ は実数.振動解になり
$$ \psi_{\rm I}(x) = A\,\ee^{\ii Kx} + B\,\ee^{-\ii Kx} \qquad (0<x<a) $$領域 II($U=U_0$):
$$ -\frac{\hbar^2}{2m}\psi'' + U_0\psi = \epsilon\psi \quad\Longleftrightarrow\quad \psi'' = \frac{2m(U_0-\epsilon)}{\hbar^2}\psi \equiv Q^2\psi, \qquad Q \equiv \sqrt{\frac{2m(U_0-\epsilon)}{\hbar^2}} $$$\epsilon<U_0$ なので $Q$ は実数.符号が逆になったので指数関数解(トンネリング領域)になり
$$ \psi_{\rm II}(x) = C\,\ee^{Qx} + D\,\ee^{-Qx} \qquad (-b<x<0) $$∎ 未知数は $A,B,C,D$ の4個である.
16.3.2 接続条件と Bloch 条件 —— 4本の方程式
4個の未知数に対して4本の条件を書く.前半2本は $x=0$ での接続,後半2本は $x=a$ での接続だが,後半には Bloch の定理が効いてくる.ここが Kronig–Penney モデルの一番のポイントである.
導出:4本の方程式
(1)(2) $x=0$ での接続.$U(x)$ が有限の跳びしか持たないので,$\psi$ と $\psi'$ はともに連続でなければならない($\psi''$ が有限なら $\psi'$ は連続,$\psi'$ が有限なら $\psi$ は連続).
$$ \psi_{\rm I}(0)=\psi_{\rm II}(0):\qquad A+B = C+D \tag{1} $$ $$ \psi_{\rm I}'(0)=\psi_{\rm II}'(0):\qquad \ii K(A-B) = Q(C-D) \tag{2} $$(3)(4) $x=a$ での接続.$x=a$ のすぐ右は次の周期の障壁領域である.この領域の波動関数は,Bloch の定理により$-b<x<0$ の解を1周期ぶん平行移動して $\ee^{\ii k(a+b)}$ を掛けたものである:
$$ \psi(x) = \ee^{\ii k(a+b)}\,\psi_{\rm II}\bigl(x-(a+b)\bigr) \qquad (a<x<a+b) $$これを $x=a$ で評価すると,引数は $a-(a+b)=-b$ になるから
$$ \psi(a^+) = \ee^{\ii k(a+b)}\,\psi_{\rm II}(-b) = \ee^{\ii k(a+b)}\bigl(C\,\ee^{-Qb}+D\,\ee^{Qb}\bigr) $$これが $\psi_{\rm I}(a)$ に等しい.以下 $E\equiv \ee^{\ii k(a+b)}$ と略記すると
$$ A\,\ee^{\ii Ka}+B\,\ee^{-\ii Ka} = E\bigl(C\,\ee^{-Qb}+D\,\ee^{Qb}\bigr) \tag{3} $$微分についても同様に
$$ \ii K\bigl(A\,\ee^{\ii Ka}-B\,\ee^{-\ii Ka}\bigr) = Q\,E\bigl(C\,\ee^{-Qb}-D\,\ee^{Qb}\bigr) \tag{4} $$∎ これで4元1次同次連立方程式ができた.
なぜ:Bloch 条件を入れないと何も決まらない
周期ポテンシャル1個ぶんの井戸と障壁だけを見ていては,エネルギーはまったく制限されない(散乱状態はどんなエネルギーでも存在する).「隣の胞に移ると波動関数が $\ee^{\ii k(a+b)}$ 倍される」という Bloch 条件を課してはじめて,$\epsilon$ と $k$ の間に関係が生まれ,$k$ が実数であるという要求からエネルギーが帯に制限される.
「$k$ が実数」というのが本質である.もし $k$ が複素数なら $\abs{\ee^{\ii k(a+b)}}\neq1$ となり,波動関数は結晶の一方の端に向かって指数関数的に発散するか消滅するかしてしまう.無限結晶の定常状態としては許されない.この「許されない $\epsilon$ の範囲」が禁制帯である.
16.3.3 $4\times4$ 行列式を実際に展開する
(1)〜(4) を $(A,B,C,D)$ についての行列方程式に書き直す.すべての項を左辺に集めると
$$ \begin{pmatrix} 1 & 1 & -1 & -1 \\[2pt] \ii K & -\ii K & -Q & Q \\[2pt] \ee^{\ii Ka} & \ee^{-\ii Ka} & -E\,\ee^{-Qb} & -E\,\ee^{Qb} \\[2pt] \ii K\ee^{\ii Ka} & -\ii K\ee^{-\ii Ka} & -QE\,\ee^{-Qb} & QE\,\ee^{Qb} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} A\\ B\\ C\\ D\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}0\\0\\0\\0\end{pmatrix} $$自明でない解 $(A,B,C,D)\neq(0,0,0,0)$ が存在する条件は,この $4\times4$ 行列の行列式がゼロになることである.$4\times4$ の行列式を余因子展開でまともに展開すると24項が出て収拾がつかないので,先に (1)(2) を使って $C,D$ を消去し,$2\times2$ に落としてから展開する.これは行列式を行基本変形で簡約するのと同じことであり,結果は変わらない.
導出(第1段):$C,D$ を $A,B$ で表す
(1) と (2) は $C,D$ について解ける.(2) を $Q$ で割ると
$$ C-D = \frac{\ii K}{Q}(A-B) \equiv \alpha\,(A-B), \qquad \alpha \equiv \frac{\ii K}{Q} $$(1) は $C+D=A+B$.両者を足して2で割る/引いて2で割ると
$$ C = \frac12\Bigl[(A+B)+\alpha(A-B)\Bigr] = \frac12\Bigl[A(1+\alpha)+B(1-\alpha)\Bigr] $$ $$ D = \frac12\Bigl[(A+B)-\alpha(A-B)\Bigr] = \frac12\Bigl[A(1-\alpha)+B(1+\alpha)\Bigr] $$∎
導出(第2段):$C\ee^{-Qb}\pm D\ee^{Qb}$ を双曲線関数でまとめる
(3)(4) の右辺に現れる組合せを計算する.$c\equiv\cosh Qb$, $s\equiv\sinh Qb$ と略記する.
まず $C\ee^{-Qb}+D\ee^{Qb}$:
$$ C\ee^{-Qb}+D\ee^{Qb} = \frac{A}{2}\Bigl[(1+\alpha)\ee^{-Qb}+(1-\alpha)\ee^{Qb}\Bigr] + \frac{B}{2}\Bigl[(1-\alpha)\ee^{-Qb}+(1+\alpha)\ee^{Qb}\Bigr] $$$A$ の係数を整理する.$\alpha$ を含む項と含まない項に分けて
$$ \frac12\Bigl[(\ee^{-Qb}+\ee^{Qb}) + \alpha(\ee^{-Qb}-\ee^{Qb})\Bigr] = \frac{\ee^{Qb}+\ee^{-Qb}}{2} - \alpha\,\frac{\ee^{Qb}-\ee^{-Qb}}{2} = c - \alpha s $$同様に $B$ の係数は $c+\alpha s$.よって
$$ C\ee^{-Qb}+D\ee^{Qb} = A(c-\alpha s) + B(c+\alpha s) $$次に $C\ee^{-Qb}-D\ee^{Qb}$:
$$ \frac{A}{2}\Bigl[(1+\alpha)\ee^{-Qb}-(1-\alpha)\ee^{Qb}\Bigr] = \frac{A}{2}\Bigl[(\ee^{-Qb}-\ee^{Qb})+\alpha(\ee^{-Qb}+\ee^{Qb})\Bigr] = A(-s+\alpha c) $$ $$ \frac{B}{2}\Bigl[(1-\alpha)\ee^{-Qb}-(1+\alpha)\ee^{Qb}\Bigr] = \frac{B}{2}\Bigl[(\ee^{-Qb}-\ee^{Qb})-\alpha(\ee^{-Qb}+\ee^{Qb})\Bigr] = B(-s-\alpha c) $$よって
$$ C\ee^{-Qb}-D\ee^{Qb} = A(\alpha c - s) + B(-\alpha c - s) $$∎
導出(第3段):$2\times2$ 行列式に落とす
第2段の結果を (3)(4) に代入する.(3) はそのまま
$$ A\,\ee^{\ii Ka}+B\,\ee^{-\ii Ka} = E\Bigl[A(c-\alpha s)+B(c+\alpha s)\Bigr] $$(4) は両辺を $\ii K$ で割る.右辺の係数は $Q/(\ii K)=1/\alpha$ になるので
$$ A\,\ee^{\ii Ka}-B\,\ee^{-\ii Ka} = \frac{E}{\alpha}\Bigl[A(\alpha c-s)+B(-\alpha c-s)\Bigr] = E\Bigl[A\bigl(c-\tfrac{s}{\alpha}\bigr)+B\bigl(-c-\tfrac{s}{\alpha}\bigr)\Bigr] $$すべて左辺に移すと,$(A,B)$ についての $2\times2$ の同次方程式になる.
$$ \begin{pmatrix} \ee^{\ii Ka}-E(c-\alpha s) & \ee^{-\ii Ka}-E(c+\alpha s) \\[3pt] \ee^{\ii Ka}-E\bigl(c-\tfrac{s}{\alpha}\bigr) & -\ee^{-\ii Ka}+E\bigl(c+\tfrac{s}{\alpha}\bigr) \end{pmatrix} \begin{pmatrix}A\\B\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\end{pmatrix} $$∎ $4\times4$ が $2\times2$ になった.あとはこの行列式を展開するだけである.
導出(第4段):行列式の展開 —— ここが計算の山場
行列式 $=$(左上)$\times$(右下)$-$(右上)$\times$(左下)を,そのまま書き下す.
$$ \underbrace{\Bigl[\ee^{\ii Ka}-E(c-\alpha s)\Bigr]\Bigl[-\ee^{-\ii Ka}+E\bigl(c+\tfrac{s}{\alpha}\bigr)\Bigr]}_{\textstyle \equiv T_1} \;-\; \underbrace{\Bigl[\ee^{-\ii Ka}-E(c+\alpha s)\Bigr]\Bigl[\ee^{\ii Ka}-E\bigl(c-\tfrac{s}{\alpha}\bigr)\Bigr]}_{\textstyle \equiv T_2} =0 $$$T_1$ を展開する(4項).$\ee^{\ii Ka}\ee^{-\ii Ka}=1$ に注意して
$$ T_1 = -1 + E\,\ee^{\ii Ka}\bigl(c+\tfrac{s}{\alpha}\bigr) + E\,\ee^{-\ii Ka}(c-\alpha s) - E^2(c-\alpha s)\bigl(c+\tfrac{s}{\alpha}\bigr) $$$T_2$ を展開する(4項).
$$ T_2 = +1 - E\,\ee^{-\ii Ka}\bigl(c-\tfrac{s}{\alpha}\bigr) - E\,\ee^{\ii Ka}(c+\alpha s) + E^2(c+\alpha s)\bigl(c-\tfrac{s}{\alpha}\bigr) $$$T_1-T_2$ を作る.定数項は $-1-1=-2$.$E$ の1次の項は $\ee^{\ii Ka}$ と $\ee^{-\ii Ka}$ ごとにまとめる.
$$ \ee^{\ii Ka}\ \text{の係数}:\quad E\Bigl[\bigl(c+\tfrac{s}{\alpha}\bigr)+(c+\alpha s)\Bigr] = E\Bigl[2c + s\bigl(\alpha+\tfrac1\alpha\bigr)\Bigr] $$ $$ \ee^{-\ii Ka}\ \text{の係数}:\quad E\Bigl[(c-\alpha s)+\bigl(c-\tfrac{s}{\alpha}\bigr)\Bigr] = E\Bigl[2c - s\bigl(\alpha+\tfrac1\alpha\bigr)\Bigr] $$ここで $\beta\equiv\alpha+\dfrac1\alpha$ と置く.$E$ の1次の項の和は
$$ E\Bigl[(2c+\beta s)\ee^{\ii Ka}+(2c-\beta s)\ee^{-\ii Ka}\Bigr] = E\Bigl[2c\underbrace{(\ee^{\ii Ka}+\ee^{-\ii Ka})}_{=2\cos Ka}+\beta s\underbrace{(\ee^{\ii Ka}-\ee^{-\ii Ka})}_{=2\ii\sin Ka}\Bigr] $$ $$ = E\Bigl[4c\cos Ka + 2\ii\beta s\sin Ka\Bigr] $$$E^2$ の項は驚くほどきれいになる.2つの積を別々に展開すると
$$ (c-\alpha s)\bigl(c+\tfrac{s}{\alpha}\bigr) = c^2 + \tfrac{cs}{\alpha} - \alpha cs - s^2 = (c^2-s^2) + cs\bigl(\tfrac1\alpha-\alpha\bigr) $$ $$ (c+\alpha s)\bigl(c-\tfrac{s}{\alpha}\bigr) = c^2 - \tfrac{cs}{\alpha} + \alpha cs - s^2 = (c^2-s^2) - cs\bigl(\tfrac1\alpha-\alpha\bigr) $$$T_1-T_2$ では前者に $-E^2$,後者にも $-E^2$ が掛かって足し合わされるので,$cs$ の項がちょうど相殺する:
$$ -E^2\Bigl[(c^2-s^2)+cs(\cdots)\Bigr]-E^2\Bigl[(c^2-s^2)-cs(\cdots)\Bigr] = -2E^2(c^2-s^2) = -2E^2 $$最後に双曲線関数の恒等式 $\cosh^2\theta-\sinh^2\theta=1$ を使った.以上をまとめると
$$ -2 + E\bigl[4c\cos Ka + 2\ii\beta s\sin Ka\bigr] - 2E^2 = 0 $$両辺を $2E$ で割る($E=\ee^{\ii k(a+b)}\neq0$).
$$ 2c\cos Ka + \ii\beta s\sin Ka = E + \frac{1}{E} = \ee^{\ii k(a+b)}+\ee^{-\ii k(a+b)} = 2\cos k(a+b) $$残るのは $\ii\beta$ の計算だけである.$\alpha=\ii K/Q$ だったから
$$ \beta = \alpha+\frac1\alpha = \frac{\ii K}{Q}+\frac{Q}{\ii K} = \frac{\ii K}{Q}-\frac{\ii Q}{K} = \ii\,\frac{K^2-Q^2}{KQ} \quad\Longrightarrow\quad \ii\beta = -\frac{K^2-Q^2}{KQ} = \frac{Q^2-K^2}{KQ} $$($1/\ii=-\ii$ を使った.)代入して全体を2で割ると,Kronig–Penney の厳密な関係式が得られる.
∎ ここまで一切の近似をしていない.
16.3.4 $\delta$ 関数極限
式 \eqref{eq:16-kpexact} は正しいが,$K$ と $Q$ の両方が $\epsilon$ に依存するので見通しが悪い.障壁を「薄くて高い」極限に持っていくと,著しく簡単になる.
導出:$b\to0$, $U_0\to\infty$($U_0 b=$ 一定)の極限
この極限では,障壁は面積 $U_0b$ の $\delta$ 関数に収束する:$U(x)\to U_0b\sum_n\delta\bigl(x-na\bigr)$.3つの量を順に評価する.
(i) $Qb\to0$ であること.$Q=\sqrt{2m(U_0-\epsilon)}/\hbar\simeq\sqrt{2mU_0}/\hbar$ である.$U_0b=$ 一定に保つので $U_0\propto 1/b$,したがって $Q\propto b^{-1/2}$,つまり
$$ Qb \propto b^{-1/2}\cdot b = b^{1/2} \to 0 $$よって $\sinh Qb \simeq Qb$,$\cosh Qb \simeq 1$ としてよい(それぞれ $\sinh x=x+x^3/6+\cdots$, $\cosh x=1+x^2/2+\cdots$ の最低次).
(ii) $Q\gg K$ であること.$Q\to\infty$ だから $K$ は無視でき
$$ \frac{Q^2-K^2}{2KQ} \simeq \frac{Q^2}{2KQ} = \frac{Q}{2K} $$(iii) 周期は $a+b\to a$.
以上を式 \eqref{eq:16-kpexact} に入れると,第1項は
$$ \frac{Q}{2K}\cdot(Qb)\cdot\sin Ka = \frac{Q^2 b}{2K}\sin Ka $$$Q^2=2mU_0/\hbar^2$ を代入する.
$$ = \frac{2mU_0}{\hbar^2}\cdot\frac{b}{2K}\sin Ka = \frac{mU_0b}{\hbar^2K}\sin Ka $$ここで分母分子に $a$ を掛けて $\sin(Ka)/(Ka)$ の形を作る.
$$ = \frac{mU_0ba}{\hbar^2}\cdot\frac{\sin Ka}{Ka} $$そこで無次元パラメータ
$$ P \equiv \frac{mU_0ba}{\hbar^2} $$を定義すれば,Kronig–Penney モデルは次の1本の式に凝縮する.
∎ $P$ は障壁の「強さ」を表す唯一のパラメータである($U_0b$ という面積だけで決まる).
物理的意味:左辺は $\epsilon$ の関数,右辺は $k$ の関数
式 \eqref{eq:16-kp} の読み方が肝心である.
- 左辺は $Ka$,すなわちエネルギー $\epsilon=\hbar^2K^2/2m$ だけの関数である.$f(Ka)$ と書こう.
- 右辺は $\cos ka$.$k$ が実数である限り,右辺は $-1$ から $+1$ の間にしか値を取れない.
したがって,$\abs{f(Ka)}>1$ となるエネルギーには,実数の $k$ が存在しない.そのエネルギーの電子は結晶中を伝播できない.これが禁制帯(forbidden band)である.逆に $\abs{f(Ka)}\le1$ となる $Ka$ の範囲が許容帯(allowed band)で,そこでは $ka=\arccos f(Ka)$ により $\epsilon$ と $k$ の対応(=分散関係)が定まる.
「バンドとギャップができる」という現象が,たった1本の超越方程式の $\pm1$ という上下限から出てくる.これが Kronig–Penney モデルの美しさである.
16.3.5 2つの極限 —— 自由電子と孤立原子
導出:$P\to0$(自由電子)
$P=mU_0ba/\hbar^2\to0$ は障壁がないのと同じである.式 \eqref{eq:16-kp} は
$$ \cos Ka = \cos ka $$となる.これは $Ka=\pm ka+2\pi n$,すなわち $K=\pm k+2\pi n/a = \pm k + G$ を意味する.$G$ の分だけずれた $k$ は同じ状態だったから,実質的に $K=k$ である.したがって
$$ \epsilon = \frac{\hbar^2K^2}{2m} = \frac{\hbar^2k^2}{2m} $$自由電子の放物線が戻ってきた.∎ 禁制帯の幅はゼロになる.
導出:$P\to\infty$(孤立した井戸)
$P\to\infty$ のとき,式 \eqref{eq:16-kp} の左辺第1項 $P\sin(Ka)/(Ka)$ は,$\sin Ka\neq0$ ならば発散してしまう.右辺は $\abs{\cos ka}\le1$ で有限だから,これは許されない.つまり許容帯が存在するためには
$$ \frac{\sin Ka}{Ka}\to 0 \qquad\text{すなわち}\qquad \sin Ka = 0 $$でなければならない.よって
$$ Ka = n\pi \quad (n=1,2,3,\dots) \quad\Longrightarrow\quad K = \frac{n\pi}{a} \quad\Longrightarrow\quad \epsilon_n = \frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{n\pi}{a}\right)^2 = \frac{\hbar^2\pi^2n^2}{2ma^2} $$これは幅 $a$ の無限に深い井戸に閉じ込められた粒子のエネルギー準位そのものである.∎
バンドは幅ゼロにつぶれ,離散的な原子準位になる.障壁が高いと隣の井戸へトンネルできず,電子は1つの井戸に閉じ込められる,という物理と一致する.
物理的意味:バンド幅は「隣へ飛び移りやすさ」である
2つの極限を並べると,バンドの物理的な意味がはっきりする.
- $P=0$(障壁なし):電子は自由に動く.エネルギーは連続.
- $P=\infty$(障壁無限大):電子は動けない.エネルギーは離散的な原子準位.バンド幅 $=0$.
- その中間:電子はときどき隣の井戸へトンネルできる.原子準位が幅を持ってバンドになる.
すなわちバンド幅 $W$ は,電子が隣の原子へ飛び移る確率(トランスファー積分 $t$)に比例する.1次元では $W=4t$,3次元単純立方では $W=12t$ である.この見方を徹底したのが強束縛(tight-binding)近似で,第18章で扱う.Kronig–Penney モデルは,自由電子側からと原子側からの両方を1本の式でつないでいる点で貴重である.
16.3.6 数値で見る
$P=3\pi/2\simeq4.712$,格子定数 $a=3.0\,$Å として,図16.2 のバンド端を数値的に求めてみる.エネルギーへの換算は
$$ \epsilon = \frac{\hbar^2K^2}{2m} = \frac{\hbar^2}{2ma^2}(Ka)^2, \qquad \frac{\hbar^2}{2m} = 3.810\ \mathrm{eV\cdot \mathring{A}^2} \ \Longrightarrow\ \frac{\hbar^2}{2ma^2} = \frac{3.810}{9.00} = 0.4233\ \mathrm{eV} $$| $Ka$ の範囲 | $\epsilon$ の範囲 (eV) | 幅 (eV) | |
|---|---|---|---|
| 第1バンド | $0.716\pi \sim 1.000\pi$ | $2.14 \sim 4.18$ | $2.03$ |
| 第1ギャップ | $1.000\pi \sim 1.500\pi$ | $4.18 \sim 9.40$ | $5.22$ |
| 第2バンド | $1.500\pi \sim 2.000\pi$ | $9.40 \sim 16.71$ | $7.31$ |
| 第2ギャップ | $2.000\pi \sim 2.360\pi$ | $16.71 \sim 23.28$ | $6.57$ |
| 第3バンド | $2.360\pi \sim 3.000\pi$ | $23.28 \sim 37.60$ | $14.33$ |
| 第3ギャップ | $3.000\pi \sim 3.274\pi$ | $37.60 \sim 44.77$ | $7.17$ |
| 第4バンド | $3.274\pi \sim 4.000\pi$ | $44.77 \sim 66.85$ | $22.08$ |
| 第4ギャップ | $4.000\pi \sim 4.218\pi$ | $66.85 \sim 74.32$ | $7.47$ |
補足:表16.3 から読み取れる3つのこと
(1) バンド幅はエネルギーとともに単調に広がる.$2.03 \to 7.31 \to 14.33 \to 22.08$ eV.高いエネルギーの電子ほど障壁を感じにくく,自由電子に近づくからである.
(2) 禁制帯は必ず $Ka=n\pi$ から始まる.表を見ると,すべてのギャップの下端が $Ka=\pi,2\pi,3\pi,4\pi$ ちょうどである.$\sin Ka=0$ のとき $f(Ka)=\cos Ka=\pm1$ になるからで,これはゾーン境界 $k=\pm n\pi/a$ に対応する.16.1節で予言した「ギャップはゾーン境界に開く」が,ここで厳密に確かめられた.
(3) ギャップ幅は一定値に収束する.$5.22\to6.57\to7.17\to7.47$ と,ある値に近づいている.その値は次のように予測できる.$\delta$ 関数ポテンシャル $U(x)=A\sum_n\delta(x-na)$($A=U_0b$)の Fourier 成分は
$$ U_G = \frac1a\int_{-a/2}^{a/2} A\,\delta(x)\,\ee^{-\ii Gx}\dd x = \frac{A}{a} \qquad(\text{すべての } G \text{ で同じ}) $$である.積分区間を $[-a/2,a/2]$ と取ったのは,$\delta$ 関数が区間の端点に乗って値があいまいになるのを避けるためである.なおここでは,あとで16.4.1項に置く約束「$U_{G=0}=0$ と取る」をまだ採らず,$\epsilon$ を井戸底($U=0$)から測った真のエネルギーとして扱っている.空間平均 $U_{G=0}=A/a$ を差し引くかどうかは全エネルギーの定数シフトの違いにすぎず,ギャップ幅 $2\abs{U_G}$ には影響しない.16.5節で示すように,ゾーン境界でのギャップは $E_g=2\abs{U_G}$ だから
$$ E_g = \frac{2A}{a} = \frac{2U_0b}{a} = \frac{2}{a}\cdot\frac{P\hbar^2}{ma} = 4P\cdot\frac{\hbar^2}{2ma^2} = 4\times4.712\times0.4233 = 7.98\ \mathrm{eV} $$表の値 $7.47$ eV はこれに近づいている.低いバンドでずれるのは,そこでは $U$ が「弱い摂動」とは言えないからである.Kronig–Penney の厳密解と,16.5節の摂動論的な結果が,高エネルギー極限で一致する——これは両方の計算が正しいことの強い証拠になる.
例題16.1 第1バンドの下端を求める
$P=3\pi/2$ のとき,第1バンドの下端 $Ka$ を数値的に求めよ.また $a=3.0$ Å としてエネルギーに直せ.
解答:$f(Ka)=1$ を解く.$Ka\equiv x$ として $g(x)=P\sin x/x+\cos x-1=0$.
$x\to0$ では $\sin x/x\to1$, $\cos x\to1$ なので $g(0)=P=4.712>0$.$x=\pi/2$ では $g=P\cdot(2/\pi)\cdot1+0-1=3.000-1=2.000>0$.$x=2.2$ では $\sin2.2=0.8085$, $\cos2.2=-0.5885$ より $g=4.712\times0.8085/2.2-0.5885-1=1.7317-1.5885=0.143>0$.$x=2.3$ では $\sin2.3=0.7457$, $\cos2.3=-0.6663$ より $g=4.712\times0.7457/2.3-1.6663=1.5276-1.6663=-0.139<0$.
符号が変わったので $2.2<x<2.3$ に根がある.二分法を続けると $x=2.2505$,すなわち $Ka=0.7164\pi$.エネルギーは
$$ \epsilon = 0.4233\times(2.2505)^2 = 0.4233\times5.065 = 2.14\ \mathrm{eV} $$補足:自由電子なら $k=0$ で $\epsilon=0$ だったのに,障壁のせいで最低エネルギーが $2.14$ eV に持ち上がっている.これは「幅 $a$ の井戸に閉じ込められた」ぶんのゼロ点エネルギー($P\to\infty$ なら $4.18$ eV)を,トンネリングが部分的に下げた結果である.
16.4 中心方程式
Kronig–Penney モデルは美しいが,ポテンシャルの形が矩形でなければ使えない.実際の結晶ポテンシャルは矩形ではないし,3次元である.もっと一般的な枠組みが要る.それが中心方程式(central equation)である.名前は仰々しいが,中身は「Schrödinger 方程式を Fourier 空間で書いただけ」である.そして現代のバンド計算(平面波基底の第一原理計算)は,文字どおりこの方程式を数値的に解いている.
16.4.1 周期ポテンシャルの Fourier 展開
導出:なぜ $G=2\pi n/a$ でなければならないか
$U(x)$ は周期 $a$ の関数だから Fourier 級数に展開できる.展開に使える指数関数を $\ee^{\ii Gx}$ と書くと,これが周期 $a$ を持つ条件は
$$ \ee^{\ii G(x+a)} = \ee^{\ii Gx} \quad\Longleftrightarrow\quad \ee^{\ii Ga}=1 \quad\Longleftrightarrow\quad Ga = 2\pi n $$ $$ \therefore\quad G = \frac{2\pi n}{a}, \qquad n\in\mathbb{Z} $$これはまさに1次元の逆格子ベクトルである(第3章).すなわち
係数の公式は,両辺に $\ee^{-\ii G'x}$ を掛けて1周期積分し,直交関係
$$ \frac1a\int_0^a \ee^{\ii (G-G')x}\dd x = \delta_{GG'} $$を使えば出る($G\neq G'$ なら $G-G'=2\pi m/a$($m\neq0$)で,ちょうど整数周期ぶんの積分になりゼロ).∎
補足:$U_G$ の性質 —— 3つの約束
(1) $U_{G=0}=0$ と取る.$G=0$ の Fourier 係数 $U_{G=0}$ は $U(x)$ の空間平均である.これは全エネルギーを一律にずらすだけなので,エネルギーの原点として吸収してしまう.なお,16.3節の Kronig–Penney モデルで障壁の高さを表した $U_0\ (>0)$ とはまったくの別物である.紛らわしいので,$G=0$ の Fourier 係数は以下でも $U_{G=0}$ と添字を明示して書く.
(2) $U(x)$ が実数 $\Rightarrow$ $U_{-G}=U_G^{*}$.式 \eqref{eq:16-Ufourier} の複素共役を取って $G\to-G$ とすればよい.
(3) 結晶が反転対称なら $U_G$ は実数.原点を反転中心に取れば $U(x)=U(-x)$ である.すると
$$ U_{-G} = \frac1a\int U(x)\ee^{\ii Gx}\dd x \overset{x\to-x}{=} \frac1a\int U(-x)\ee^{-\ii Gx}\dd x = \frac1a\int U(x)\ee^{-\ii Gx}\dd x = U_G $$これと (2) を合わせると $U_G=U_G^*$,つまり $U_G$ は実数.以下では簡単のためこの場合を考える.反転対称性がバンド計算を実数に保つという,第4章の点群の話が効いてくる場面である.
16.4.2 波動関数の Fourier 展開
波動関数のほうは周期的ではない(Bloch の定理の誤解1を思い出そう).しかし,長さ $L=Na$ の系に周期境界条件 $\psi(x+L)=\psi(x)$ を課したので,周期 $L$ の Fourier 級数には展開できる.
$$ \psi(x) = \sum_k C(k)\,\ee^{\ii kx}, \qquad k = \frac{2\pi n}{L}\ \ (n\in\mathbb{Z}) $$$k$ の刻みは $2\pi/L$ で,$G$ の刻み $2\pi/a$ の $N$ 分の1である.$L\to\infty$ で $k$ は連続に近づくが,$G$ はいつまでも離散的なままである.この2つのスケールの違いが,以下の議論の全体を支配する.
16.4.3 Schrödinger 方程式に代入する
導出:中心方程式
解くべき方程式は
$$ \left[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\dd^2}{\dd x^2}+U(x)\right]\psi(x) = \epsilon\,\psi(x) $$である.3つの項を順に Fourier 展開の形に直す.
第1項(運動エネルギー).$\ee^{\ii kx}$ を2回微分すると $(\ii k)^2=-k^2$ が出るので
$$ -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\dd^2}{\dd x^2}\sum_k C(k)\ee^{\ii kx} = -\frac{\hbar^2}{2m}\sum_k C(k)\,(-k^2)\,\ee^{\ii kx} = \sum_k \frac{\hbar^2k^2}{2m}\,C(k)\,\ee^{\ii kx} $$以下 $\lambda_k\equiv\dfrac{\hbar^2k^2}{2m}$ と書く(自由電子のエネルギー).
第2項(ポテンシャル).2つの級数の積になる.
$$ U(x)\psi(x) = \left(\sum_G U_G\ee^{\ii Gx}\right)\left(\sum_{k} C(k)\ee^{\ii kx}\right) = \sum_G\sum_{k} U_G\,C(k)\,\ee^{\ii(k+G)x} $$ここが Kittel が一行で飛ばすところである.このままでは指数が $k+G$ になっていて,他の項(指数が $k$)と比べられない.そこで和の変数を付け替える.$k$ についての和で,$k'\equiv k+G$ と置き直す.$k$ は $2\pi n/L$ の全体を走り,$G=2\pi m/a=2\pi mN/L$ も同じ格子の上にあるから,$k'$ もまた $2\pi n'/L$ の全体を走る.すなわち和の範囲は変わらない.$k=k'-G$ を代入して
$$ U\psi = \sum_G\sum_{k'} U_G\,C(k'-G)\,\ee^{\ii k'x} $$ダミー変数の名前を $k'\to k$ に戻せば
$$ U(x)\psi(x) = \sum_k\left[\sum_G U_G\,C(k-G)\right]\ee^{\ii kx} $$第3項(右辺).$\epsilon\psi = \sum_k \epsilon\,C(k)\ee^{\ii kx}$.
以上をすべて左辺に集めると
$$ \sum_k\left[(\lambda_k-\epsilon)C(k)+\sum_G U_G C(k-G)\right]\ee^{\ii kx} = 0 $$係数を比較する操作を明示する.両辺に $\ee^{-\ii k'x}$ を掛け,$0$ から $L$ まで積分して $L$ で割る.$k$ も $k'$ も $2\pi\times$整数$/L$ なので
$$ \frac1L\int_0^L \ee^{\ii(k-k')x}\,\dd x = \begin{cases}1 & (k=k')\\[4pt] \dfrac{1}{L}\left[\dfrac{\ee^{\ii(k-k')x}}{\ii(k-k')}\right]_0^L = \dfrac{\ee^{\ii 2\pi(n-n')}-1}{\ii(k-k')L}=0 & (k\neq k')\end{cases} $$つまり $\delta_{kk'}$ である.したがって和の中から $k=k'$ の項だけが生き残り
∎ これが中心方程式である.$k$ ごとに1本,合計で $k$ の個数だけの連立方程式になっている.
物理的意味:中心方程式は何を言っているのか
式 \eqref{eq:16-central} を,あえて日本語で書き直してみる.
「波数 $k$ の平面波成分の振幅 $C(k)$ は,自分自身のエネルギー $\lambda_k$ と全体のエネルギー $\epsilon$ のずれに比例する量として,逆格子ベクトルだけ離れた波数 $k-G$ の成分たちと結びついている.」
いちばん大事なのは結びつく相手が $k-G$ に限られることである.$C(k)$ は $C(k-2\pi/a)$ や $C(k+2\pi/a)$ とは混ざるが,$C(k+0.3\times2\pi/a)$ とはまったく混ざらない.周期ポテンシャルは,波数を「格子の目盛りぶんだけ」しか変えられないのである.これは第3章の Laue 条件 $\Delta\kk=\GG$ そのものであり,第13章のフォノンの Umklapp 過程とも同じ構造をしている.
導出:中心方程式から Bloch の定理が出る
中心方程式が $k$ と $k-G$ しか結ばないということは,$k$ 全体が
$$ \{\dots,\ k-2G_1,\ k-G_1,\ k,\ k+G_1,\ k+2G_1,\ \dots\} $$という互いに交わらない族(family)に分かれることを意味する($G_1=2\pi/a$).ひとつの固有関数には,ひとつの族の $C$ だけが現れる.族の代表として第1 Brillouin域の $k$ を選べば,その固有関数は
$$ \psi_k(x) = \sum_G C(k-G)\,\ee^{\ii(k-G)x} = \ee^{\ii kx}\underbrace{\sum_G C(k-G)\,\ee^{-\ii Gx}}_{\textstyle \equiv\, u_k(x)} $$と書ける.ここで $u_k$ は $\ee^{-\ii Gx}$ の重ね合わせだから,$G$ の定義より周期 $a$ を持つ:
$$ u_k(x+a) = \sum_G C(k-G)\ee^{-\ii G(x+a)} = \sum_G C(k-G)\ee^{-\ii Gx}\underbrace{\ee^{-\ii Ga}}_{=1} = u_k(x) $$∎ Bloch の定理 \eqref{eq:16-bloch} が再現された.16.2節では対称性から,ここでは方程式の構造から,同じ結論に達したことになる.
16.4.4 行列としての中心方程式
族ごとに独立なので,ひとつの $k$(第1 Brillouin域内)を固定して,その族の $C(k-G)$ を並べたベクトルに対する固有値問題として書ける.$G_1=2\pi/a$ とし,$G=0,\pm G_1,\pm2G_1,\dots$ の順に並べると
$$ \begin{pmatrix} \ddots & & & & \\ & \lambda_{k+G_1} & U_{G_1} & U_{2G_1} & \\ & U_{-G_1} & \lambda_{k} & U_{G_1} & \\ & U_{-2G_1} & U_{-G_1} & \lambda_{k-G_1} & \\ & & & & \ddots \end{pmatrix} \begin{pmatrix}\vdots\\ C(k+G_1)\\ C(k)\\ C(k-G_1)\\ \vdots\end{pmatrix} =\epsilon \begin{pmatrix}\vdots\\ C(k+G_1)\\ C(k)\\ C(k-G_1)\\ \vdots\end{pmatrix} $$形式的には無限次元だが,対角成分 $\lambda_{k-G}=\hbar^2(k-G)^2/2m$ は $\abs{G}$ とともに急速に大きくなる.低いエネルギーの固有値を求めるだけなら,$\abs{G}$ の大きい成分は切り捨ててよい.平面波基底の第一原理計算で「カットオフエネルギー $E_{\rm cut}$」を指定するのは,まさにこの行列をどこで打ち切るかを指定している.
例題16.2 $3\times3$ に切り詰めて $k=0$ を解く
$U_{\pm G_1}=U$(実数),それ以外の $U_G$ をゼロとし,$G=0,\pm G_1$ の3成分だけを残して $k=0$ での固有値を求めよ.
解答:$\lambda_0=0$,$\lambda_{\pm G_1}=\hbar^2G_1^2/2m\equiv\Lambda$ である.行列は
$$ H=\begin{pmatrix}\Lambda & U & 0\\ U & 0 & U\\ 0 & U & \Lambda\end{pmatrix} \qquad \text{(順に }C(G_1),\ C(0),\ C(-G_1)\text{)} $$$C(G_1)$ と $C(-G_1)$ を直接つなぐ要素は $U_{2G_1}=0$ なので $0$ である.
この行列は $C(G_1)\leftrightarrow C(-G_1)$ の入れ替えで不変だから,固有ベクトルを対称なもの・反対称なものに分けられる(第9章の射影演算子の考え方).
反対称な組合せ $(1,0,-1)/\sqrt2$:
$$ H\begin{pmatrix}1\\0\\-1\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}\Lambda\\ U-U\\ -\Lambda\end{pmatrix} =\Lambda\begin{pmatrix}1\\0\\-1\end{pmatrix} \quad\Longrightarrow\quad \epsilon=\Lambda $$対称な組合せは $(1,\gamma,1)$ の形.
$$ \begin{cases}\Lambda + U\gamma = \epsilon\\ 2U + 0 = \epsilon\gamma\end{cases} $$第2式から $\gamma=2U/\epsilon$.第1式に入れて $\Lambda+2U^2/\epsilon=\epsilon$,すなわち
$$ \epsilon^2-\Lambda\epsilon-2U^2=0 \quad\Longrightarrow\quad \epsilon = \frac{\Lambda\pm\sqrt{\Lambda^2+8U^2}}{2} $$$\abs{U}\ll\Lambda$ のとき,平方根を展開すると $\sqrt{\Lambda^2+8U^2}\simeq\Lambda(1+4U^2/\Lambda^2)=\Lambda+4U^2/\Lambda$ だから
$$ \epsilon_{\text{下}} \simeq -\frac{2U^2}{\Lambda}, \qquad \epsilon_{\text{上}} \simeq \Lambda+\frac{2U^2}{\Lambda} $$読み取り:いちばん下のバンドは,自由電子の $\epsilon=0$ から $2U^2/\Lambda$ だけ下がる.これは2次摂動論の $-\abs{U}^2/(\Lambda-0)$ が2つぶん($G=\pm G_1$ の両方から)来たものである.$U$ の1次では効かず,2次で効く —— $k=0$ はゾーン境界から遠いので,これが正しい振舞いである.ゾーン境界だけが特別で,そこでは1次で効く.次節の主題である.
16.5 ほとんど自由な電子近似と有効質量
ほとんど自由な電子近似(nearly free electron approximation, NFE)は,$\abs{U_G}\ll\epsilon_F$ を仮定して中心方程式を摂動的に解くやり方である.$\mathrm{Al}$ や $\mathrm{Na}$ のような単純金属では驚くほどよく合う.そして何より,ゾーン境界の物理が完全に手計算で追える.
16.5.1 なぜ2成分だけ残してよいのか
なぜ:エネルギー分母が小さいところだけが効く
中心方程式 \eqref{eq:16-central} を $C(k)$ について解いた形に書くと
$$ C(k) = \frac{\displaystyle\sum_G U_G\,C(k-G)}{\epsilon-\lambda_k} $$となる.混ざり合いの大きさは $\dfrac{U_G}{\epsilon-\lambda_{k}}$ という比で決まる.分子 $U_G$ が小さくても,分母が小さければ比は大きくなる.分母が小さいとは $\lambda_k\simeq\lambda_{k-G}$,すなわち
$$ k^2 = (k-G)^2 \quad\Longleftrightarrow\quad -2kG+G^2=0 \quad\Longleftrightarrow\quad k=\frac{G}{2} $$これはまさにゾーン境界である(式 \eqref{eq:16-laue} と同じ条件).つまり,ゾーン境界の近くでは特定の1組 $\{C(k),C(k-G)\}$ だけが強く混ざり,他の成分($\lambda$ が大きく離れている)は無視できる.$2\times2$ に切り詰めてよい理由がこれである.
逆にゾーン境界から遠い $k$ では,どの分母も大きいので混ざり合いは弱く,例題16.2 で見たように $U$ の2次でしか効かない.
16.5.2 $2\times2$ 永年方程式
$G$ をひとつ固定し,$U_G=U_{-G}\equiv U$(反転対称,実数)とする.中心方程式のうち $C(k)$ と $C(k-G)$ の2本だけを残すと
導出:2本の式がこの行列になること
$k$ についての中心方程式:$(\lambda_k-\epsilon)C(k)+\sum_G U_G C(k-G)=0$ で,和のうち $G$ の項だけ残すと
$$ (\lambda_k-\epsilon)C(k) + U\,C(k-G)=0 $$次に,波数 $k-G$ についての中心方程式を書く.式 \eqref{eq:16-central} で $k\to k-G$ とすると
$$ (\lambda_{k-G}-\epsilon)C(k-G) + \sum_{G'} U_{G'}C(k-G-G')=0 $$和のうち $C(k)$ に戻る項は $G'=-G$ のときで,係数は $U_{-G}=U$.よって
$$ U\,C(k) + (\lambda_{k-G}-\epsilon)C(k-G)=0 $$この2本を行列にまとめたのが式 \eqref{eq:16-2x2} である.∎
導出:永年方程式を解く
自明でない解の条件は行列式ゼロ.
$$ (\lambda_{k}-\epsilon)(\lambda_{k-G}-\epsilon) - U^2 = 0 $$展開して $\epsilon$ の2次方程式に整理する.
$$ \epsilon^2 - (\lambda_k+\lambda_{k-G})\,\epsilon + \lambda_k\lambda_{k-G} - U^2 = 0 $$解の公式を使う.判別式の中身は
$$ (\lambda_k+\lambda_{k-G})^2 - 4(\lambda_k\lambda_{k-G}-U^2) = \underbrace{(\lambda_k+\lambda_{k-G})^2-4\lambda_k\lambda_{k-G}}_{=(\lambda_k-\lambda_{k-G})^2} + 4U^2 $$($(x+y)^2-4xy=(x-y)^2$ を使った.)したがって
$$ \epsilon = \frac{(\lambda_k+\lambda_{k-G}) \pm \sqrt{(\lambda_k-\lambda_{k-G})^2+4U^2}}{2} $$分子分母の $2$ を平方根の中に入れて整理すると,見やすい形になる.
∎ これが NFE 近似の中心的な結果である.
物理的意味:2準位系の反発
式 \eqref{eq:16-nfe} は,量子力学の至るところに現れる2準位系の反発の式である.$U=0$ なら $\epsilon_\pm$ は $\lambda_k$ と $\lambda_{k-G}$ そのもの(2本の放物線が交差する).$U\neq0$ になると,平方根の中に必ず $+U^2$ が加わるので,上の枝はより上へ,下の枝はより下へ押しやられる.交差していた2本の線が,けっして交わらなくなる(avoided crossing).この「交わらなくなった隙間」がエネルギーギャップである.
同じ数学は,二原子分子の結合軌道・反結合軌道の分裂,2つの結合した振り子,核磁気共鳴の avoided crossing,すべてに現れる.
16.5.3 ゾーン境界ちょうど
導出:$E_g=2\abs{U}$ と,定在波との対応
$k=G/2$(1次元なら $k=\pi/a$)では $k-G=-G/2$ で,$\abs{k}=\abs{k-G}=G/2$.したがって
$$ \lambda_k=\lambda_{k-G}=\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{G}{2}\right)^2 = \frac{\hbar^2G^2}{8m}\equiv\lambda $$式 \eqref{eq:16-nfe} の平方根の第1項が消えるので
固有ベクトルも求めておく.式 \eqref{eq:16-2x2} の1行目に $\lambda_k=\lambda$, $\epsilon=\lambda+U$ を代入すると
$$ (\lambda-\lambda-U)C(k) + U\,C(k-G) = 0 \quad\Longrightarrow\quad C(k-G)=C(k) $$このとき($k=G/2=\pi/a$ として)
$$ \psi = C(k)\ee^{\ii\pi x/a}+C(k-G)\ee^{-\ii\pi x/a} = C(k)\left(\ee^{\ii\pi x/a}+\ee^{-\ii\pi x/a}\right) = 2C(k)\cos\frac{\pi x}{a} $$同様に $\epsilon=\lambda-U$ では $C(k-G)=-C(k)$ となり
$$ \psi \propto \ee^{\ii\pi x/a}-\ee^{-\ii\pi x/a} = 2\ii\sin\frac{\pi x}{a} $$∎ 16.1節の $\psi(+)$ と $\psi(-)$ が,行列の固有ベクトルとして自動的に出てきた.手で「和と差を作ろう」と決めたわけではなく,$2\times2$ 行列を対角化した結果である.
補足:16.1節の $U$ と 16.5節の $U$ の関係(要確認事項)
16.1節では $U(x)=U\cos(2\pi x/a)$ と書いて $E(+)-E(-)=U$ を得た.16.5節では $E_g=2\abs{U_G}$ を得た.数が合っていないように見えるが,$U$ の意味が違うだけである.確かめよう.
$$ U\cos\frac{2\pi x}{a} = \frac{U}{2}\ee^{\ii(2\pi/a)x} + \frac{U}{2}\ee^{-\ii(2\pi/a)x} $$これを式 \eqref{eq:16-Ufourier} と比べると,$G_1=2\pi/a$ に対する Fourier 係数は
$$ U_{G_1}=U_{-G_1}=\frac{U}{2} $$である.したがって
$$ E_g = 2\abs{U_{G_1}} = 2\cdot\frac{\abs{U}}{2} = \abs{U} $$16.1節の結果と完全に一致した.$\cos$ の振幅と Fourier 係数の間の因子2 —— こういうところで学生は必ずつまずくが,Kittel は何も書いてくれない.式を突き合わせるときは,いつも「その $U$ は $\cos$ の係数か,複素指数の係数か」を確認する習慣をつけること.
16.5.4 ゾーン境界から少しずれたところ —— 平方根を展開する
ゾーン境界そのものだけでは,バンドの形がわからない.$k$ を境界から少しずらして,その近傍での分散関係を求めよう.ここから有効質量が出てくる.
導出:$\epsilon_\pm(\tilde k)$ の展開(Kittel の式 (7.42))
$k=\dfrac{G}{2}+\tilde k$($\abs{\tilde k}\ll G$)と置く.すると $k-G=-\dfrac{G}{2}+\tilde k$ である.
ステップ1:$\lambda$ を $\tilde k$ で書く.$\lambda_q=\hbar^2q^2/2m$ を使い,2乗を展開する.
$$ \lambda_k = \frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{G}{2}+\tilde k\right)^2 = \frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{G^2}{4}+G\tilde k+\tilde k^2\right) $$ $$ \lambda_{k-G} = \frac{\hbar^2}{2m}\left(-\frac{G}{2}+\tilde k\right)^2 = \frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{G^2}{4}-G\tilde k+\tilde k^2\right) $$ステップ2:和と差を作る.$\lambda\equiv\hbar^2G^2/8m$(ゾーン境界での自由電子エネルギー)と置くと
$$ \frac{\lambda_k+\lambda_{k-G}}{2} = \frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{G^2}{4}+\tilde k^2\right) = \lambda + \frac{\hbar^2\tilde k^2}{2m} $$ $$ \frac{\lambda_k-\lambda_{k-G}}{2} = \frac{\hbar^2}{2m}\,G\tilde k = \frac{\hbar^2G\tilde k}{2m} $$($\tilde k^2$ の項は差では相殺し,$G\tilde k$ の項は和では相殺することに注意.)
ステップ3:式 \eqref{eq:16-nfe} に代入する.
$$ \epsilon_\pm = \lambda + \frac{\hbar^2\tilde k^2}{2m} \pm \sqrt{\left(\frac{\hbar^2G\tilde k}{2m}\right)^2 + U^2} $$ステップ4:平方根を展開する.ここが山場である.$X\equiv\dfrac{\hbar^2G\tilde k}{2m}$ と置き,$\abs{X}\ll\abs{U}$(=境界に十分近い)として,$U^2$ をくくり出す.
$$ \sqrt{X^2+U^2} = \abs{U}\sqrt{1+\frac{X^2}{U^2}} $$$\sqrt{1+y}=1+\dfrac{y}{2}-\dfrac{y^2}{8}+\cdots$ を $y=X^2/U^2$ について1次まで取ると
$$ \sqrt{X^2+U^2} \simeq \abs{U}\left(1+\frac{X^2}{2U^2}\right) = \abs{U} + \frac{X^2}{2\abs{U}} $$ステップ5:$X^2/(2\abs{U})$ を $\lambda$ で書き換える.ここが Kittel が飛ばす部分である.
$$ X^2 = \left(\frac{\hbar^2G\tilde k}{2m}\right)^2 = \frac{\hbar^4G^2\tilde k^2}{4m^2} $$$\lambda=\hbar^2G^2/8m$ より $G^2=8m\lambda/\hbar^2$ だから,これを代入して
$$ X^2 = \frac{\hbar^4\tilde k^2}{4m^2}\cdot\frac{8m\lambda}{\hbar^2} = \frac{2\hbar^2\lambda\tilde k^2}{m} $$ $$ \therefore\quad \frac{X^2}{2\abs{U}} = \frac{\hbar^2\lambda\tilde k^2}{m\abs{U}} = \frac{\hbar^2\tilde k^2}{2m}\cdot\frac{2\lambda}{\abs{U}} $$最後の変形で,わざと $\hbar^2\tilde k^2/2m$ の形をくくり出した.こうしておくと次のステップで有効質量が読める.
ステップ6:まとめる.
∎ ゾーン境界近傍でも,分散は $\tilde k^2$ に比例する(放物線).ただし係数が自由電子の $\hbar^2/2m$ から $\left(1\pm2\lambda/\abs{U}\right)$ 倍にずれている.
16.5.5 有効質量 —— そして負の質量
定義:有効質量(effective mass)
分散関係が $\epsilon(\tilde k)=\text{const}+\dfrac{\hbar^2\tilde k^2}{2m^*}$ の形に書けるとき,$m^*$ を有効質量という.一般には
$$ \frac{1}{m^*} = \frac{1}{\hbar^2}\frac{\dd^2\epsilon}{\dd k^2} $$すなわち$m^*$ は分散曲線の曲率の逆数である.曲率が大きい(バンドが鋭く尖っている)ほど軽く,平坦なバンドほど重い.
導出:ゾーン境界での $m^*$
式 \eqref{eq:16-nfeexp} を有効質量の定義形と見比べる.
$$ \frac{\hbar^2\tilde k^2}{2m}\left(1\pm\frac{2\lambda}{\abs{U}}\right) = \frac{\hbar^2\tilde k^2}{2m^*} \quad\Longrightarrow\quad \frac{1}{m^*} = \frac{1}{m}\left(1\pm\frac{2\lambda}{\abs{U}}\right) $$∎
物理的意味:下のバンドの頂上で質量が負になる
NFE 近似の前提は $\abs{U}\ll\lambda$,すなわち $2\lambda/\abs{U}\gg1$ である.すると
- 上のバンド($+$,伝導帯の底に相当):$m^*/m = 1/(1+2\lambda/\abs{U})$ は小さい正の数.電子は自由電子より軽くなる.
- 下のバンド($-$,価電子帯の頂上に相当):$1-2\lambda/\abs{U}<0$ なので $m^*/m$ は負.しかも絶対値は小さい.
負の有効質量は,$\epsilon_-(\tilde k)$ が $\tilde k=0$(ゾーン境界)で極大になっていることの言い換えにすぎない.上に凸なら二階微分は負である.
しかし物理的な帰結は劇的である.$m^*<0$ の電子は,外力 $F$ を掛けると $F$ と逆向きに加速される.電場 $\mathcal{E}$ の中で,負電荷 $(-e)$ と負の質量 $(-\abs{m^*})$ の組合せは,正電荷 $(+e)$ と正の質量 $(+\abs{m^*})$ の組合せとまったく同じ運動をする.これが正孔(hole)である.Hall係数が正になる金属があるという,自由電子模型では絶対に説明できなかった事実が,ここで説明される.正孔の詳しい扱いは第17章で行う.
例題16.3 有効質量を数値で
1次元,$a=4.0$ Å,$\abs{U}=1.0$ eV とする.ゾーン境界($G=2\pi/a$)での上下のバンドの有効質量を求めよ.
解答:まず $\lambda$ を求める.$G/2=\pi/a$ だから
$$ \lambda = \frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\pi}{a}\right)^2 = 3.810\ \mathrm{eV\cdot\mathring{A}^2}\times\left(\frac{3.1416}{4.0\ \mathrm{\mathring{A}}}\right)^2 = 3.810\times0.6169\ \mathrm{eV} = 2.350\ \mathrm{eV} $$したがって
$$ \frac{2\lambda}{\abs{U}} = \frac{2\times2.350}{1.00} = 4.70 $$式 \eqref{eq:16-effmass} より
$$ \frac{m^*_+}{m} = \frac{1}{1+4.70} = \frac{1}{5.70} = 0.175, \qquad \frac{m^*_-}{m} = \frac{1}{1-4.70} = \frac{1}{-3.70} = -0.270 $$ギャップは $E_g=2\abs{U}=2.0$ eV.
読み取り:$\abs{m^*}$ が $0.1\sim0.3\,m$ という値は,実際の半導体の有効質量($\mathrm{Si}$ の電子の横有効質量 $m_t=0.19\,m$,$\mathrm{GaAs}$ の電子 $0.067\,m$,$\mathrm{Si}$ の軽い正孔 $0.16\,m$)と同じ桁である.これは偶然ではない.ギャップが小さいほど($\abs{U}$ が小さいほど)$2\lambda/\abs{U}$ が大きくなり,有効質量が軽くなる —— という式 \eqref{eq:16-effmass} の傾向は,実在の半導体できれいに成り立っている($E_g$ の小さい $\mathrm{InSb}$ は $m^*=0.014\,m$ と極端に軽い).
16.5.6 ゾーン境界から遠いところ —— 2次摂動
導出:一般の $k$ での2次摂動公式
ゾーン境界から遠い $k$ では,どの $C(k-G)$ も小さい.中心方程式を「$C(k)$ が主,他は従」として近似的に解く.
$k-G$ の式($G\neq0$)で,右辺に戻ってくる項として $C(k)$ だけを残すと
$$ (\lambda_{k-G}-\epsilon)C(k-G) + U_{-G}\,C(k) \simeq 0 \quad\Longrightarrow\quad C(k-G) \simeq \frac{U_{-G}\,C(k)}{\epsilon-\lambda_{k-G}} $$これを $k$ の式に代入する.
$$ (\lambda_k-\epsilon)C(k) + \sum_{G\neq0} U_G\cdot\frac{U_{-G}\,C(k)}{\epsilon-\lambda_{k-G}} = 0 $$$C(k)$ で割り,$U_GU_{-G}=U_GU_G^*=\abs{U_G}^2$ を使うと
$$ \epsilon = \lambda_k + \sum_{G\neq0}\frac{\abs{U_G}^2}{\epsilon-\lambda_{k-G}} $$右辺の $\epsilon$ を最低次の $\lambda_k$ で置き換えれば($U$ の2次までの近似)
∎ これは量子力学の標準的な2次摂動公式そのものである.分母が小さくなる(=ゾーン境界に近づく)と発散するので,そこでは使えない.使えないところが16.5.2項の $2\times2$ の出番,という役割分担になっている.
16.6 バンド図の3つの描き方
$k$ と $k+G$ が同じ状態を指すという事実(16.2.2項)のせいで,バンドの絵の描き方には自由度がある.教科書や論文で3種類の描き方が混在しているので,どれがどれかを見分けられるようになっておく必要がある.
定義:3つのゾーン形式
- 拡張ゾーン形式(extended zone scheme):$n$ 番目のバンドを,第 $n$ Brillouin域の中に描く.自由電子の放物線に最も近い見た目になる.
- 還元ゾーン形式(reduced zone scheme):すべてのバンドを第1 Brillouin域の中に折り返して描く.バンド指数 $n$ が必要になる.実際のバンド図はほぼこれ.
- 周期ゾーン形式(periodic zone scheme):$\epsilon_n(k+G)=\epsilon_n(k)$ を素直に使って,還元ゾーンの絵を $k$ 空間全体に周期的に繰り返す.Fermi 面の連結の様子を見るのに便利(第18章).
例題16.4 折り返しの計算
$a=4.00$ Å の1次元結晶で,拡張ゾーン形式の $k'=+2.50\,\pi/a$ にある状態は,還元ゾーン形式では何番目のバンドの,どの $k$ にあたるか.
解答:第1 Brillouin域は $-\pi/a<k\le\pi/a$.$G=2\pi n/a$ を引いて $k'$ をこの範囲に入れる.
$$ k = k' - G = \frac{2.50\pi}{a} - \frac{2\pi}{a} = \frac{0.50\pi}{a} $$$n=1$ の $G$ を1回引けば入った.数値では $k=0.50\times3.1416/4.00 = 0.393\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}}$.
バンド指数は,$\abs{k'}$ がどの Brillouin 域に入るかで決まる.第 $n$ 域は $ (n-1)\pi/a < \abs{k'} \le n\pi/a$ だから,$\abs{k'}=2.50\pi/a$ は $2\pi/a < \abs{k'} \le 3\pi/a$,すなわち第3域である.したがって還元ゾーン形式では $n=3$ のバンド上の $k=+0.393\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}}$ の点になる.
ヒント(一般則):「$G$ を何個引いたか」と「バンド指数」は別物である.バンド指数は $\abs{k'}$ が何番目の域かで決まり,引く $G$ は $k$ を第1域に入れるために選ぶ.両者を混同しやすいので注意すること.
補足:なぜ還元ゾーン形式が標準なのか
3次元の実際の結晶では,拡張ゾーン形式はほとんど使えない.第2,第3 Brillouin域は,fcc なら $W$ 点まわりで角張った複雑な多面体になり,そのままでは絵に描けないからである(第3章).
一方,還元ゾーン形式なら,第1 Brillouin域の高対称線($\Gamma\to X$,$\Gamma\to L$ など,第11章)に沿って $\epsilon_n(\kk)$ を並べるだけでよい.横軸を $\Gamma\!-\!X\!-\!W\!-\!L\!-\!\Gamma\!-\!K$ のように折れ線でつなぐ,あの見慣れた図がそれである.16.8節ではその読み方を扱う.
16.7 バンドあたりの状態数と金属・絶縁体の区別
ここまでで「バンドとギャップができる」ことはわかった.しかし金属か絶縁体かを決めるのは,バンドの形ではなく埋まり方である.そのためには「1本のバンドに電子が何個入るか」を正確に数えなければならない.
16.7.1 1バンドあたり $2N$ 個
導出:1次元の場合
単位胞の数を $N$,長さを $L=Na$ とする.周期境界条件から,許される $k$ は
$$ k = \frac{2\pi n}{L} = \frac{2\pi n}{Na}, \qquad n\in\mathbb{Z} $$で,間隔は $\Delta k = 2\pi/L$ である.第1 Brillouin域 $-\pi/a<k\le\pi/a$ の長さは $2\pi/a$ だから,その中に入る $k$ の個数は
$$ \frac{\text{域の長さ}}{k\ \text{の間隔}} = \frac{2\pi/a}{2\pi/(Na)} = \frac{2\pi}{a}\cdot\frac{Na}{2\pi} = N $$スピンの自由度が2つあるから,1本のバンドに入る電子は
∎
導出:3次元の場合(同じ結論)
結晶の体積を $V$,primitive cell の体積を $V_{\rm cell}$,その個数を $N=V/V_{\rm cell}$ とする.
ステップ1:$k$ 空間での状態の密度.第15章で見たとおり,周期境界条件のもとでは許される $\kk$ が $k$ 空間に密度 $V/(2\pi)^3$ で一様に分布する($\kk$ 1個あたりの体積が $(2\pi)^3/V$).
ステップ2:第1 Brillouin域の体積.第3章で示したように,逆格子の primitive cell(=第1 Brillouin域)の体積は
$$ \Omega_{\rm BZ} = \bb_1\cdot(\bb_2\times\bb_3) = \frac{(2\pi)^3}{V_{\rm cell}} $$ステップ3:割り算する.
$$ \text{域内の}\ \kk\ \text{の個数} = \Omega_{\rm BZ}\times\frac{V}{(2\pi)^3} = \frac{(2\pi)^3}{V_{\rm cell}}\cdot\frac{V}{(2\pi)^3} = \frac{V}{V_{\rm cell}} = N $$スピンを掛けて $2N$.∎ 1次元と同じである.
注意:$N$ は「原子の数」ではなく「primitive cell の数」である
これは本章でいちばん間違えやすい点である.$N$ は Bravais 格子点の数,すなわち primitive cell(単位胞)の数であって,原子の数ではない.
- $\mathrm{Si}$:ダイヤモンド型.Bravais 格子は fcc で,primitive cell には Si 原子が2個入る.立方 conventional cell には8個入るが,それは4つの primitive cell ぶんである(第1章).
- $\mathrm{NaCl}$:Bravais 格子は fcc.primitive cell には $\mathrm{Na}$ 1個と $\mathrm{Cl}$ 1個,計2原子.conventional cell の8個($\mathrm{Na_4Cl_4}$)ではない.
- $\mathrm{Mg}$:構造は hcp.hcp は Bravais 格子の名前ではなく,Bravais 格子は単純六方(hexagonal-$P$)で,その各格子点に2原子の基底を置いたものである.したがって primitive cell には Mg 原子が2個入る.
- $\mathrm{Cu}$, $\mathrm{Al}$, $\mathrm{Na}$:単体金属で1原子/primitive cell.fcc の conventional cell の4個や bcc の2個ではない.
数え間違えると偶奇がひっくり返り,金属と絶縁体の判定が逆になってしまう.第1章と第2章の知識がここで効いてくる.
16.7.2 金属と絶縁体を分ける規則
定理16.2(バンド充填の規則)
primitive cell あたりの価電子数を $n_v$ とする.以下は,時間反転対称でスピンが縮退した非相互作用電子のバンドを,もとの primitive cell の周期のままで数えるという前提のもとでの規則である(磁気秩序による分裂や単位胞の倍化,強い電子相関でこの前提が崩れる場合は16.7.4項を見よ).
- $n_v$ が奇数なら,その結晶は必ず金属である.1バンドに $2N$ 個入るので,$n_vN$ 個の電子は $n_v/2$ 本のバンドを埋める.$n_v$ が奇数なら $n_v/2$ は半整数となり,最後のバンドは必ず半分だけ埋まる.半分埋まったバンドには,ほんのわずかな電場でも移れる空席がすぐ上にあるので,電流が流れる.
- $n_v$ が偶数なら,絶縁体(半導体)でありうる.ちょうど $n_v/2$ 本のバンドが完全に埋まり,その上にギャップがある場合,電子を動かすには $E_g$ 以上のエネルギーが要る.
- ただし $n_v$ が偶数でも,バンドが重なれば金属になる.3次元では,あるバンドの $\kk$ 方向による最大値が,次のバンドの別方向での最小値より高くなることがある.すると両方が部分的に埋まり,金属になる.
なぜ:満杯のバンドは電流を運べない
「満杯のバンドは電流ゼロ」を確かめておく.バンドの電流は
$$ j = -\frac{e}{L}\sum_{k\ \text{占有}} v(k), \qquad v(k)=\frac{1}{\hbar}\frac{\dd\epsilon}{\dd k} $$である($v$ は群速度,第13章と同じ考え方).時間反転対称性から $\epsilon(-k)=\epsilon(k)$,したがって $\dd\epsilon/\dd k$ は $k$ の奇関数で $v(-k)=-v(k)$.バンドが満杯なら,すべての $k$ が占有されているから,$+k$ と $-k$ が必ずペアで現れて速度が相殺する:
$$ j \propto \sum_{k\in\rm BZ} v(k) = 0 $$電場を掛けても状況は変わらない.電場は全電子の $k$ を一斉にずらそうとするが,満杯のバンドでは「ずれた先」もすでに埋まっている(Pauli 排他律).ずれた電子がゾーン境界を越えて出て行っても,反対側から同じだけ入ってくる($k$ と $k+G$ が同じ状態だから).結局,満杯のバンドの電子分布は電場に対してまったく変化できない.
これに対し,半分だけ埋まったバンドでは,$-k$ 側の電子が空席へ移れるので分布が非対称になり,$j\neq0$ になる.
16.7.3 具体例で確かめる
| 物質 | Bravais格子 | 原子数 /primitive cell | 価電子数 /primitive cell | 偶奇 | 実際 |
|---|---|---|---|---|---|
| $\mathrm{Na}$ | bcc | 1 | 1($3s^1$) | 奇 | 金属(必然) |
| $\mathrm{Al}$ | fcc | 1 | 3($3s^23p^1$) | 奇 | 金属(必然) |
| $\mathrm{Cu}$ | fcc | 1 | 11($3d^{10}4s^1$) | 奇 | 金属(必然) |
| $\mathrm{Ca}$ | fcc | 1 | 2($4s^2$) | 偶 | 金属($4s$ と $3d$ が重なる) |
| $\mathrm{Mg}$ | hexagonal-$P$ (構造は hcp) | 2 | 4 | 偶 | 金属(バンドの重なり) |
| $\mathrm{Bi}$ | 菱面体 | 2 | 10 | 偶 | 半金属(わずかに重なる) |
| ダイヤモンド $\mathrm{C}$ | fcc | 2 | 8 | 偶 | 絶縁体 $E_g=5.47$ eV |
| $\mathrm{Si}$ | fcc | 2 | 8 | 偶 | 半導体 $E_g=1.12$ eV |
| $\mathrm{Ge}$ | fcc | 2 | 8 | 偶 | 半導体 $E_g=0.67$ eV |
| $\mathrm{GaAs}$ | fcc | 2(Ga+As) | 8($3+5$) | 偶 | 半導体 $E_g=1.42$ eV |
| $\mathrm{NaCl}$ | fcc | 2(Na+Cl) | 8($1+7$) | 偶 | 絶縁体 $E_g\simeq8.5$ eV |
例題16.5 なぜ $\mathrm{Si}$ は絶縁体で $\mathrm{Ca}$ は金属か
両方とも Bravais 格子は fcc で,価電子数も偶数である.それなのに一方は半導体,他方は金属である.理由を説明せよ.
解答:
$\mathrm{Si}$:primitive cell に Si 原子が2個あり,各原子が4個の価電子($3s^23p^2$)を持つので $n_v=8$.したがって $4N$ 本ぶん,すなわち4本のバンドがちょうど満杯になる.物理的には,2個の Si 原子から作られる4本の $sp^3$ 結合軌道が価電子帯,4本の反結合軌道が伝導帯になり,その間に $1.12$ eV のギャップが開いている.$\Gamma$ 点でも $X$ 点でも $L$ 点でも,価電子帯の頂上は伝導帯の底より下にある.どの $\kk$ でもギャップが閉じないので,絶対に重ならない.よって絶縁体(半導体).
$\mathrm{Ca}$:primitive cell に Ca 原子が1個,価電子は $4s^2$ の2個.$n_v=2$ なので,規則の (2) からは「1本のバンドが満杯 → 絶縁体でありうる」となる.ところが実際には,$4s$ から出るバンドと $3d$ から出るバンドがエネルギー的に接近している.$3d$ バンドの一部(ある $\kk$ 方向での最低値)が,$4s$ バンドの一部(別の $\kk$ 方向での最高値)より低く沈み込む.すると電子は $4s$ バンドを埋めきる前に $3d$ バンドへ流れ込み,両方のバンドが部分的に埋まる.よって金属.
まとめると:「偶数だから絶縁体」は必要条件を満たしただけであって,十分条件ではない.「奇数だから金属」のほうは,定理16.2 の前提(非磁性・スピン縮退のバンド描像を primitive cell の周期のままで使う)が成り立つ限り例外なしの定理である(前提そのものが崩れる場合は16.7.4項を見よ).
なぜ:1次元ではバンドは重ならないが,3次元では重なる
これは3次元であることが本質的に効く数少ない場面である.
1次元:バンド $n$ の最高値は必ずゾーン境界(またはゾーン中心)にあり,バンド $n+1$ の最低値も同じ点にある.そこにギャップが開いているのだから,両者は必ず $E_g$ だけ離れている.重なりようがない.
3次元:ゾーン境界は面であり,面の場所によって自由電子エネルギー $\lambda=\hbar^2k^2/2m$ が違う.fcc なら,$L$ 点($\abs{\kk}=\sqrt3\pi/a$)と $X$ 点($\abs{\kk}=2\pi/a$)で $\lambda$ の値が
$$ \frac{\lambda_X}{\lambda_L} = \frac{(2\pi/a)^2}{(\sqrt3\pi/a)^2} = \frac{4}{3} = 1.33 $$と3割以上違う.第1バンドの $X$ 点での値が,第2バンドの $L$ 点での値より高くなることは十分ありうる.ギャップは各面の上では開いているのに,全体としてはエネルギー的に重なるということが起こる.これがアルカリ土類金属($\mathrm{Be}$, $\mathrm{Mg}$, $\mathrm{Ca}$, $\mathrm{Sr}$, $\mathrm{Ba}$)が金属である理由である.
16.7.4 バンド理論が破れるとき
注意:Mott 絶縁体 —— バンド充填の議論そのものが破れるとき
定理16.2 は,一電子近似(各電子が平均的なポテンシャルの中を独立に動く)が成り立つ限りで正しい.電子間のクーロン反発が強いと,この前提そのものが崩れ,バンドを数え上げて得た結論が当てにならなくなる.
典型例が $\mathrm{NiO}$(岩塩型)である.primitive cell には $\mathrm{Ni}$ 1個と $\mathrm{O}$ 1個,価電子は $10+6=16$ 個で偶数だから,定理16.2 の (1) には抵触しない.それでも一電子論は破綻する.$\mathrm{Ni^{2+}}$ の $3d^8$ 配置は,5本ある $3d$ バンドを部分的にしか埋めないので,バンド理論(非磁性の局所密度近似 LDA)は金属を予言してしまうのである.ところが実験では $E_g\simeq4.3$ eV の立派な絶縁体である.反強磁性秩序を取り込んだ LSDA では $0.2\sim0.4$ eV 程度の小さなギャップが開くものの,実測の約 $4$ eV には遠く及ばない.
「奇数なのに絶縁体」という,定理16.2 (1) そのものの反例もある.$\mathrm{MnO}$($7+6=13$),$\mathrm{CoO}$($9+6=15$),$\mathrm{La_2CuO_4}$($3\times2+11+6\times4=41$)は,いずれも primitive cell あたりの価電子数が奇数でありながら絶縁体である.
原因は,$d$ 電子が同じ原子上に2個乗るときのクーロン反発エネルギー $U_{\rm eff}$(数 eV)が,$d$ バンドの幅 $W$(1 eV 程度)より大きいことにある.電子は「隣へ飛び移ると余分に $U_{\rm eff}$ を払う」ため,各原子に張りついて動けなくなる.これをMott–Hubbard 絶縁体という.
ただし $\mathrm{NiO}$ を「純粋な Mott–Hubbard 絶縁体」と呼ぶのは正確ではない.$\mathrm{NiO}$ のギャップの下端を作っているのは $d$ 準位ではなく,$\mathrm{O}$ の $2p$ 状態が大きく混ざった状態である.この型は Zaanen–Sawatzky–Allen の分類で電荷移動型絶縁体(charge-transfer insulator)と呼ばれ,1バンド Hubbard 模型で記述される Mott–Hubbard 型とは区別される.
実務上は DFT+$U$(LDA+$U$)法や動的平均場理論(DMFT)で補正する.第一原理計算で遷移金属酸化物を扱うときに $U$ の値を入れるのは,まさにこの効果を取り込むためである.
補足:温度と不完全性 —— 「絶縁体」の実際
$T=0$ で完全に満杯のバンドでも,有限温度では熱励起で電子が伝導帯へ上がる.キャリア密度は $n\propto\exp(-E_g/2k_BT)$ に比例する(第17章で導出する).室温 $k_BT=0.0259$ eV では
- $\mathrm{Si}$($E_g=1.12$ eV):$\exp(-1.12/0.0518)=4\times10^{-10}$ → 真性キャリア $n_i=1.0\times10^{10}\ \mathrm{cm^{-3}}$
- ダイヤモンド($E_g=5.47$ eV):$\exp(-5.47/0.0518)=10^{-46}$ → 事実上ゼロ
「半導体」と「絶縁体」の境界は原理的なものではなく,$E_g$ が室温の熱エネルギーの何倍かという程度問題である.$\mathrm{Si}$ の $n_i=10^{10}\ \mathrm{cm^{-3}}$ は,金属の $10^{22}\ \mathrm{cm^{-3}}$ に比べれば12桁小さいが,ゼロではない.だからこそドーピングで制御できる(第17章).
16.8 実際のバンド図の読み方 —— Si, Cu, Al
16.8.1 横軸は何か
論文や教科書で見るバンド図の横軸は,$\Gamma\!-\!X\!-\!W\!-\!L\!-\!\Gamma\!-\!K$ のような記号の列である.これは第1 Brillouin域の中の高対称点を結ぶ折れ線に沿って $\kk$ を動かしたときの,$\epsilon_n(\kk)$ の値である.第11章で扱った記号がそのまま出てくる.
| 記号 | 座標($2\pi/a$ 単位) | $\abs{\kk}$($2\pi/a$ 単位) | 小群 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| $\Gamma$ | $(0,0,0)$ | $0$ | $O_h$ | ゾーン中心.対称性が最も高い |
| $X$ | $(1,0,0)$ | $1.000$ | $D_{4h}$ | 正方形の面の中心 |
| $L$ | $(\frac12,\frac12,\frac12)$ | $0.866$ | $D_{3d}$ | 正六角形の面の中心.$\Gamma$ に最も近い境界 |
| $K$ | $(\frac34,\frac34,0)$ | $1.061$ | $C_{2v}$ | 六角形と六角形の稜の中点 |
| $W$ | $(1,\frac12,0)$ | $1.118$ | $D_{2d}$ | 正方形・六角形・六角形が集まる頂点 |
| $\Delta$ | $\Gamma\!\to\!X$ の線上 | — | $C_{4v}$ | $\langle100\rangle$ 方向 |
| $\Lambda$ | $\Gamma\!\to\!L$ の線上 | — | $C_{3v}$ | $\langle111\rangle$ 方向 |
| $\Sigma$ | $\Gamma\!\to\!K$ の線上 | — | $C_{2v}$ | $\langle110\rangle$ 方向 |
補足:$L$ が $X$ より $\Gamma$ に近いこと
fcc では $\abs{\kk_L}=0.866\times(2\pi/a)$,$\abs{\kk_X}=1.000\times(2\pi/a)$ で,$L$ 点のほうが $\Gamma$ に近い.したがって,NFE の描像では最初にギャップが開くのは $L$ 点である.$\mathrm{Ge}$ の伝導帯の底が $L$ 点にあるのはこれと関係している.逆に bcc では $N$ 点($\abs{\kk}=0.707\times2\pi/a$)が最も近い.Brillouin 域の形(第3章)が,そのままバンドの形に反映される.
16.8.2 Si —— 間接ギャップの代表
物理的意味:$\mathrm{Si}$ のバンドをどう読むか
- 価電子帯は4本.16.7節で数えたとおり,primitive cell あたり8個の価電子が $8N$ 個の状態(=4本のバンド)を埋める.
- 価電子帯の頂上(VBM)は $\Gamma$ 点にあり,第11章の記号で $\Gamma_{25'}$($O_h$ の $T_{2g}$ に対応)という3重縮退した状態である.3重なのは小群 $O_h$ の3次元既約表現に属するからで,これは群論からしか出てこない(第11章6節).
- スピン軌道相互作用を入れると,この3重縮退が $\Gamma_8$(4重)と $\Gamma_7$(2重)に割れる.分裂幅は $\mathrm{Si}$ で $44$ meV,$\mathrm{Ge}$ で $0.29$ eV,$\mathrm{GaAs}$ で $0.34$ eV.原子番号が大きいほど大きい.
- 伝導帯の底(CBM)は $\Gamma$ ではなく,$\Delta$ 線上の $\kk\simeq0.85\times(2\pi/a)(1,0,0)$ にある.$\langle100\rangle$ は等価な方向が6本あるので,$\mathrm{Si}$ の伝導帯には6個の等価な谷(valley)がある.この6という数がキャリア密度の計算に直接効く(第17章).
- $\mathrm{Ge}$ では CBM が $L$ 点にあり,$\langle111\rangle$ 方向の8本の半分が域内なので4個の谷になる.$\mathrm{GaAs}$ では CBM が $\Gamma$ にあり1個.
16.8.3 直接ギャップと間接ギャップ
導出:光子は $\kk$ をほとんど変えられない
電子が光を吸収して価電子帯から伝導帯へ移るとき,エネルギーと結晶運動量の両方が保存しなければならない.光子の運動量がどれくらいか,桁を確かめよう.
エネルギー $\hbar\omega=1.12$ eV の光子の波数は
$$ k_{\rm photon} = \frac{\omega}{c} = \frac{\hbar\omega}{\hbar c} = \frac{1.12\ \mathrm{eV}}{1973\ \mathrm{eV\cdot\mathring{A}}} = 5.7\times10^{-4}\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}} $$($\hbar c = 1973\ \mathrm{eV\cdot\mathring{A}}$ は覚えておくと便利な定数.)一方,$\mathrm{Si}$ のゾーンの大きさは $a=5.43$ Å として
$$ \frac{2\pi}{a} = \frac{6.283}{5.43} = 1.16\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}} $$比を取ると
$$ \frac{k_{\rm photon}}{2\pi/a} = \frac{5.7\times10^{-4}}{1.16} = 4.9\times10^{-4} $$∎ 光子の運動量は Brillouin 域の大きさの1万分の5しかない.したがってバンド図の上では,光吸収は完全に垂直な矢印($\Delta\kk=0$)として描いてよい.これを直接遷移(direct transition)という.
物理的意味:$\mathrm{Si}$ が光らない理由
$\mathrm{Si}$ では VBM($\Gamma$)と CBM($0.85X$)の $\kk$ が違う.垂直な矢印だけでは,$1.12$ eV の光子ではどこへも遷移できない.$\Gamma$ 点で垂直に上がるには $3.4$ eV が要る.
ではなぜ $\mathrm{Si}$ は $1.12$ eV 付近から光を吸収するのか.フォノンが運動量を補うからである.運動量 $\hbar\qq\simeq0.85\times(2\pi/a)\hbar$,エネルギー $\hbar\Omega\simeq 60$ meV のフォノン(第13章・第14章)を1個吸収または放出すれば,$\kk$ の帳尻が合う.
$$ \hbar\omega = E_g \pm \hbar\Omega, \qquad \kk_{\rm CBM}-\kk_{\rm VBM} = \pm\qq $$これを間接遷移(indirect transition)という.3体過程(電子・光子・フォノン)なので確率が低い.実際,吸収係数は
- $\mathrm{Si}$(間接,吸収端付近):$\alpha\sim 10\ \mathrm{cm^{-1}}$ → 光が $1$ mm 進んでやっと吸収される
- $\mathrm{GaAs}$(直接,吸収端付近):$\alpha\sim 10^4\ \mathrm{cm^{-1}}$ → $1\ \mu$m で吸収される
逆過程(発光)も同じく $\mathrm{Si}$ では起こりにくい.これが「$\mathrm{Si}$ で LED やレーザーは作れない」という,半導体産業を規定してきた事実の正体である.LED・半導体レーザーには直接ギャップの $\mathrm{GaAs}$,$\mathrm{InP}$,$\mathrm{GaN}$ が使われ,太陽電池でも $\mathrm{Si}$ セルは光を吸収させるために $100\ \mu$m 以上の厚みが必要で,$\mathrm{GaAs}$ セルなら数 $\mu$m で足りる.
16.8.4 Cu と Al —— 金属のバンド
物理的意味:$\mathrm{Cu}$ の色は $d$ バンドが決めている
$\mathrm{Cu}$($3d^{10}4s^1$)の価電子は11個で奇数.定理16.2 より必ず金属である.バンド図の特徴は次のとおり.
- $4sp$ から出るバンドは,$\mathrm{Al}$ と同じく自由電子的で幅が広い($\sim10$ eV).第15章で $\epsilon_F=7.03$ eV としてよく合ったのはこのため.
- $3d$ から出る5本のバンドは幅が狭い($\sim3$ eV).$d$ 軌道は原子に強く局在していて,隣の原子との重なり(トランスファー積分 $t$)が小さいからである.16.3.5項の「バンド幅は飛び移りやすさ」がここで効く.
- $d$ バンドは $\epsilon_F$ より $2\sim5$ eV 下にあり,10個の $d$ 電子で完全に埋まっている.$\epsilon_F$ を横切るのは $sp$ バンドだけ.
色:可視光($1.8\sim3.1$ eV)を当てると,$d$ バンドの電子が $\epsilon_F$ 直上の空席へ励起される(バンド間遷移).この吸収の閾値が $\mathrm{Cu}$ では約 $2.1$ eV($590$ nm,黄〜橙)である.青と緑が吸収され,赤・橙が反射されるので,$\mathrm{Cu}$ は赤みを帯びて見える.$\mathrm{Au}$ の閾値は $2.4$ eV でやや上,$\mathrm{Ag}$ は $3.9$ eV で可視光の外にあるため,$\mathrm{Ag}$ は可視域全体をほぼ一様に反射して白銀色になる.金属の色は,バンド構造の直接の可視化である.
補足:$\mathrm{Al}$ で NFE がどれだけ効くか
$\mathrm{Al}$(fcc, $a=4.05$ Å)の擬ポテンシャル形状因子(= $U_G$ に相当する量)は,経験的に
$$ U_{111}\simeq -0.24\ \mathrm{eV}, \qquad U_{200}\simeq +0.76\ \mathrm{eV} $$程度である.一方 $\epsilon_F=11.7$ eV(第15章).比を取ると $\abs{U}/\epsilon_F \sim 0.02\sim0.07$ で,確かに $\abs{U}\ll\epsilon_F$ である.NFE 近似の前提が満たされている.
ゾーン境界のギャップは $E_g=2\abs{U_G}$ だから,$L$ 点で $0.48$ eV,$X$ 点で $1.5$ eV 程度.$\epsilon_F$ に比べて小さいので,$\mathrm{Al}$ の Fermi 面は自由電子の球をゾーン境界で少し削っただけの形になる.第18章の Harrison 構成が $\mathrm{Al}$ で驚くほどうまくいくのは,この事情による.
例題16.6 $\mathrm{Cu}$ の $d$ バンド幅からトランスファー積分を見積もる
$\mathrm{Cu}$ の $3d$ バンドの幅を $W=3.0$ eV とする.fcc 格子の $s$ バンド強束縛近似では,帯幅とトランスファー積分の関係が $W=16\,t$ になる(第18章 表18.2).最近接数は $z=12$ だが,16.3.5項の単純立方の $W=12t$ の「12」は $2z=2\times6$ であって配位数そのものではなく,しかも fcc は三角形のループをもつためそもそも $W=2zt$ が成り立たない.この $W=16\,t$ を使ってトランスファー積分 $t$ を求めよ.また $4sp$ バンド($W\simeq10$ eV)と比べよ.
解答:$t = W/16 = 3.0/16 = 0.19$ eV.$4sp$ バンドなら $t=10/16=0.63$ eV.
読み取り:$d$ 電子の飛び移りやすさは $sp$ 電子の $1/3$ 程度である.$3d$ 軌道は $4s,4p$ に比べて動径方向に内側へ強く縮んでいるため,隣の原子との重なりが小さい.これが「$d$ バンドは狭い」ことの正体である.
そして狭いバンドはそのまま「大きな状態密度」を意味する(同じ数の状態が狭いエネルギー範囲に詰まるから).遷移金属の電子比熱係数 $\gamma$ が単純金属より一桁大きいこと,遷移金属が磁性を示しやすいこと(Stoner 条件,第20章)は,いずれもこの狭い $d$ バンドに由来する.$U_{\rm eff}\gtrsim W$ になれば16.7.4項の Mott 絶縁体になるという話とも地続きである.
16.9 まとめと演習
16.9.1 まとめ
- ギャップはゾーン境界に開く.$k=\pm n\pi/a$ では Bragg 反射(Laue 条件 $2\kk\cdot\GG+G^2=0$)により進行波が定在波に変わる.$\abs{\psi(+)}^2=2\cos^2(\pi x/a)$ は電子をイオン上に,$\abs{\psi(-)}^2=2\sin^2(\pi x/a)$ はイオン間に集め,そのポテンシャルエネルギーの差がギャップになる.$U(x)=U\cos(2\pi x/a)$ なら $E(+)-E(-)=U$,ギャップ幅は $\abs{U}$.
- Bloch の定理 $\psi_k(x)=\ee^{\ii kx}u_k(x)$,$u_k(x+a)=u_k(x)$.並進演算子 $\hat T_a$ が $\Ham$ と可換であること,その固有値が $\abs{C}=1$ を満たすこと(確率密度の周期性/ユニタリ性/周期境界条件のいずれからも出る),$C^N=1$ から $k=2\pi s/L$ が量子化されること —— この順に導かれる.第11章の群論的導出と完全に同値である.
- $\hbar k$ は運動量ではない.$\hat p\psi_k = \hbar k\psi_k -\ii\hbar\ee^{\ii kx}u_k'$ で第2項が残る.$\hbar\kk$ は結晶運動量であり,$\GG$ の差を除いてしか定まらない.
- Kronig–Penney モデルは $4\times4$ の接続条件($\psi,\psi'$ の連続+Bloch 条件)から厳密に解け,$\delta$ 関数極限で $\dfrac{P\sin Ka}{Ka}+\cos Ka=\cos ka$($P=mU_0ba/\hbar^2$)になる.左辺が $\pm1$ を超える $\epsilon$ が禁制帯である.$P\to0$ で自由電子,$P\to\infty$ で幅 $a$ の井戸の離散準位(バンド幅ゼロ).
- 中心方程式 $(\lambda_k-\epsilon)C(k)+\sum_G U_GC(k-G)=0$.周期ポテンシャルは波数を $\GG$ だけしか変えられないので,$k$ の族ごとに独立な行列固有値問題になる.ここから Bloch の定理も自動的に出る.平面波基底の第一原理計算はこの方程式を数値的に解いている.
- NFE 近似:ゾーン境界近傍で2成分に切り詰めると $\epsilon_\pm=\dfrac{\lambda_k+\lambda_{k-G}}{2}\pm\sqrt{\left(\dfrac{\lambda_k-\lambda_{k-G}}{2}\right)^2+U^2}$.境界ちょうどで $\epsilon_\pm=\lambda\pm\abs{U}$,$E_g=2\abs{U_G}$.固有ベクトルは $\cos$ と $\sin$ の定在波で,16.1節と一致する.
- 有効質量:$\epsilon_\pm\simeq\lambda\pm\abs{U}+\dfrac{\hbar^2\tilde k^2}{2m}\left(1\pm\dfrac{2\lambda}{\abs{U}}\right)$ より $\dfrac{m^*}{m}=\dfrac{1}{1\pm2\lambda/\abs{U}}$.$\abs{U}\ll\lambda$ のとき下のバンドで $m^*<0$.これが正孔(第17章)の起源であり,Hall係数が正の金属がある理由である.
- 1バンドあたり $2N$ 個($N$ はprimitive cell の数,原子の数ではない).primitive cell あたりの価電子数が奇数なら必ず金属(非磁性・スピン縮退のバンド描像を primitive cell の周期のままで使う限り),偶数なら絶縁体でありうるが,3次元ではバンドが重なって金属になることがある($\mathrm{Ca}$, $\mathrm{Mg}$).$\mathrm{Si}$ は primitive cell に2原子・8価電子で4本のバンドが満杯になるので半導体.
- 満杯のバンドは電流を運べない.$v(-k)=-v(k)$ の相殺と,電場でずらそうにも行き先が全部埋まっていること(Pauli 排他律+$k\equiv k+G$)による.
- 実際のバンド図は還元ゾーン形式で,高対称点(fcc なら $\Gamma,X,L,K,W$)を結ぶ折れ線に沿って描く.$\mathrm{Si}$ は VBM が $\Gamma_{25'}$(3重縮退),CBM が $0.85X$ で間接ギャップ.光子の運動量はゾーンの $5\times10^{-4}$ しかないので光吸収は垂直遷移であり,間接遷移にはフォノンが要る.だから $\mathrm{Si}$ では,直接ギャップ半導体に比べて放射再結合が著しく非効率になる.
16.9.2 演習問題
演習16.1 Kronig–Penney モデルの数値解
$P=\pi$,格子定数 $a=2.5$ Å とする.
(1) 第1バンドの下端 $Ka$ を,$f(Ka)=P\sin(Ka)/(Ka)+\cos(Ka)=1$ の数値解として求めよ(二分法でよい).
(2) 第1バンドの上端は $Ka=\pi$ である.理由を述べ,第1バンドの幅を eV 単位で求めよ.
(3) 第1ギャップの幅を求め,高エネルギー極限での予測値 $E_g=4P\cdot\hbar^2/(2ma^2)$ と比べよ.
ヒント:$\hbar^2/(2ma^2)=3.810/6.25=0.6096$ eV.(1) $f(x)=1$ の根は $x\approx2.0$ と $2.05$ の間にある.実際,$x=1.95$ で $f=\pi\sin(1.95)/1.95+\cos(1.95)=1.4966-0.3702=1.126$ とまだ $1$ より大きく,$x=2.00$ でも $f=\pi\times0.9093/2.00-0.4161=1.4283-0.4161=1.012$ とかろうじて $1$ を上回り,$x=2.05$ で $f=\pi\times0.8874/2.05-0.4611=1.3599-0.4611=0.899$ と $1$ を下回る.よって根は $x\simeq2.00$ 付近.答えは $Ka=2.006=0.6385\pi$.(2) $Ka=\pi$ で $\sin Ka=0$ となり $f=\cos\pi=-1$,すなわち $\cos ka=-1$(ゾーン境界 $k=\pi/a$).幅 $=0.6096\times(\pi^2-2.006^2)=0.6096\times(9.870-4.024)=3.56$ eV.(3) 第1ギャップの上端は $Ka=3\pi/2$ ではなく $f(Ka)=-1$ の次の根.予測値は $4\pi\times0.6096=7.66$ eV.
演習16.2 平方根の展開と有効質量
1次元,$a=5.43$ Å($\mathrm{Si}$ の格子定数),$G=2\pi/a$ とする.
(1) $\lambda=\hbar^2G^2/8m$ を eV 単位で求めよ.
(2) $E_g=1.12$ eV を再現するように $\abs{U}$ を決めよ.
(3) 式 \eqref{eq:16-effmass} から上下のバンドの有効質量を求めよ.
(4) 式 \eqref{eq:16-nfeexp} の導出で,平方根を2次まで展開したら何が変わるか.展開が破綻する $\tilde k$ の目安を $\abs{U}$ と $\lambda$ で表せ.
ヒント:(1) $G/2=\pi/a=0.5786\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}}$,$\lambda=3.810\times0.3348=1.276$ eV.(2) $E_g=2\abs{U}$ より $\abs{U}=0.56$ eV.(3) $2\lambda/\abs{U}=4.56$ なので $m^*_+/m=0.180$,$m^*_-/m=-0.281$.(4) $\sqrt{1+y}$ の展開が使えるのは $y=X^2/U^2\lesssim1$,すなわち $\abs{X}=\hbar^2G\tilde k/2m \lesssim \abs{U}$.これを $\tilde k$ について解くと $\abs{\tilde k}\lesssim \dfrac{m\abs{U}}{\hbar^2G}=\dfrac{G}{8}\cdot\dfrac{\abs{U}}{\lambda}$.$\abs{U}\ll\lambda$ なら,この放物線近似が使えるのはゾーン境界のごく近傍だけである.
演習16.3 中心方程式から Kronig–Penney 関係式を導く(発展)
$\delta$ 関数ポテンシャル $U(x)=A\sum_n\delta(x-na)$($A=U_0b$)について,以下を示せ.
(1) Fourier 係数はすべての $G$ で $U_G=A/a$ であること.
(2) $S\equiv\sum_G C(k-G)$ と置くと,中心方程式は $\displaystyle 1=\frac{A}{a}\sum_G\frac{1}{\epsilon-\lambda_{k-G}}$ に帰着すること.
(3) この和を実行すると,式 \eqref{eq:16-kp} がそのまま出ること.
ヒント:(2) 中心方程式を $C(k-G)=\dfrac{(A/a)S}{\epsilon-\lambda_{k-G}}$ と解き,両辺を $G$ について足すと左辺が $S$ になるので $S$ が消える.
(3) $K^2=2m\epsilon/\hbar^2$,$z\equiv ka/2\pi$,$w\equiv Ka/2\pi$ と置くと,(2) の和は $-\left(\dfrac{a}{2\pi}\right)^2\dfrac{2m}{\hbar^2}\displaystyle\sum_{n}\frac{1}{(z+n)^2-w^2}$ になる.ここで恒等式
($\pi\cot\pi u=\sum_n 1/(u+n)$ を部分分数分解 $\frac{1}{(z+n)^2-w^2}=\frac{1}{2w}\left[\frac{1}{z+n-w}-\frac{1}{z+n+w}\right]$ に使えば出る)と,$\cot X-\cot Y=\dfrac{\sin(Y-X)}{\sin X\sin Y}$,$\sin\pi(z-w)\sin\pi(z+w)=\tfrac12\bigl[\cos2\pi w-\cos2\pi z\bigr]$ を順に使う.最後に $2\pi w=Ka$, $2\pi z=ka$ に戻し,$P=mAa/\hbar^2$ と置けばよい.まったく違う2つの方法が同じ式に到達することを,自分の手で確かめてほしい.
演習16.4 金属か絶縁体か
次の各物質について,(i) primitive cell 中の原子数,(ii) primitive cell あたりの価電子数,(iii) 偶奇,(iv) 実際に金属か絶縁体かを答え,偶数なのに金属である場合はその理由を述べよ.
(1) $\mathrm{K}$(bcc) (2) $\mathrm{Sr}$(fcc) (3) $\mathrm{Zn}$(hcp) (4) $\mathrm{InSb}$(閃亜鉛鉱型) (5) $\mathrm{CsCl}$(塩化セシウム型,単純立方) (6) グラフェン(2次元六方,2原子/cell)
ヒント:(1) 1原子・1電子・奇 → 金属.(2) 1原子・2電子・偶 → だが $5s$ と $4d$ が重なるため金属.(3) hcp は2原子/cell,$\mathrm{Zn}$ は $4s^2$ なので4電子・偶 → バンドの重なりで金属.(4) 2原子(In+Sb),$3+5=8$ 電子・偶 → 半導体 $E_g=0.17$ eV.(5) 単純立方の primitive cell に Cs 1個 + Cl 1個,$1+7=8$ 電子・偶 → 絶縁体.bcc と間違えないこと:$\mathrm{CsCl}$ は Cs と Cl が別種の原子なので bcc ではなく単純立方である(第1章).(6) 2原子,各4電子で8電子・偶 → しかしバンドが $K$ 点でちょうど1点で接触するので半金属(ゼロギャップ半導体).
演習16.5 定在波と Fourier 係数の対応
周期ポテンシャルを $U(x) = U_1\cos(2\pi x/a) + U_2\cos(4\pi x/a)$ とする.
(1) $U_G$($G=\pm2\pi/a,\ \pm4\pi/a$)をすべて求めよ.
(2) $k=\pi/a$ でのギャップ幅を求めよ.$U_2$ は効くか.
(3) $k=2\pi/a$(第2ゾーン境界)でのギャップ幅を求めよ.$U_1$ は効くか.
(4) $k=\pi/a$ で $U_2$ が効かないことを,16.1節の定在波の描像から説明せよ.
ヒント:(1) $U_{\pm2\pi/a}=U_1/2$,$U_{\pm4\pi/a}=U_2/2$.(2) $k=\pi/a$ で結合する相手は $k-G=-\pi/a$,つまり $G=2\pi/a$.したがって $E_g=2\abs{U_{2\pi/a}}=\abs{U_1}$.$U_2$ は1次では効かない.(3) $k=2\pi/a$ の相手は $k-G=-2\pi/a$,$G=4\pi/a$.$E_g=2\abs{U_{4\pi/a}}=\abs{U_2}$.(4) $\abs{\psi(+)}^2-\abs{\psi(-)}^2=2\cos(2\pi x/a)$ に $U_2\cos(4\pi x/a)$ を掛けて1周期積分すると,三角関数の直交性からゼロになる.周期の合わない成分は効かない,ということである.
演習16.6 直接ギャップと間接ギャップ
(1) $\mathrm{GaAs}$($E_g=1.42$ eV,直接)と $\mathrm{Si}$($E_g=1.12$ eV,間接)の吸収端の波長をそれぞれ求めよ.
(2) $\mathrm{Si}$ の間接遷移に必要なフォノンの波数を,$\mathrm{Si}$ の格子定数 $a=5.43$ Å と CBM の位置 $0.85\times(2\pi/a)(1,0,0)$ から求めよ.それは第1 Brillouin域の中に収まるか.
(3) $\mathrm{Si}$ の吸収スペクトルには,$E_g-\hbar\Omega$ と $E_g+\hbar\Omega$ の2つの閾値が現れる.それぞれ何が起きているか説明せよ.低温にすると一方が消える.どちらか.
(4) 太陽電池として,$\mathrm{Si}$ セルの厚みが $100\ \mu$m 以上必要で $\mathrm{GaAs}$ セルは数 $\mu$m でよい理由を,(1)〜(3) を踏まえて述べよ.
ヒント:(1) $\lambda[\mathrm{nm}]=1240/E[\mathrm{eV}]$ より $\mathrm{GaAs}$: $873$ nm,$\mathrm{Si}$: $1107$ nm.どちらも近赤外.(2) $q=0.85\times2\pi/5.43=0.983\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}}$.$\Gamma$ から $X$ までが $1.157\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}}$ なので域内に収まる.(3) $E_g-\hbar\Omega$ はフォノンを吸収して不足分を補う過程,$E_g+\hbar\Omega$ はフォノンを放出する過程.低温では熱励起されたフォノンがいなくなるので,吸収する側($E_g-\hbar\Omega$)の閾値が消える.この2つの閾値の間隔からフォノンのエネルギーが直接測れる.(4) 間接遷移は3体過程で確率が低く,吸収係数が $\mathrm{GaAs}$ より3桁小さい.$\alpha^{-1}$ 程度の厚みがないと光を吸収しきれない.
参考文献
- C. Kittel『キッテル 固体物理学入門(上)』第8版,宇野良清ほか訳,丸善出版,第7章「エネルギーバンド」.—— 本章の骨格.16.1節は Kittel 式 (7.1)–(7.5),16.3節は (7.15)–(7.21),16.4節は (7.26)–(7.29),16.5節は (7.30)–(7.42) に対応する.本章は,そこで省略されている代数計算をすべて埋めたものである.
- N. W. Ashcroft, N. D. Mermin, Solid State Physics, Saunders (1976), Chapter 8(Bloch の定理), Chapter 9(ほとんど自由な電子), Chapter 10(強束縛近似).—— 中心方程式の行列表示と摂動論の扱いが Kittel より詳しい.
- F. Bloch, "Über die Quantenmechanik der Elektronen in Kristallgittern", Z. Physik 52, 555 (1929). —— Bloch の定理の原論文.
- R. de L. Kronig, W. G. Penney, "Quantum Mechanics of Electrons in Crystal Lattices", Proc. R. Soc. London A 130, 499 (1931). —— 16.3節のモデルの原論文.
- J. R. Chelikowsky, M. L. Cohen, "Nonlocal pseudopotential calculations for the electronic structure of eleven diamond and zinc-blende semiconductors", Phys. Rev. B 14, 556 (1976). —— 図16.4(a) のもとになっている $\mathrm{Si}$ のバンド図の標準的な出典.
- M. L. Cohen, J. R. Chelikowsky, Electronic Structure and Optical Properties of Semiconductors, 2nd ed., Springer (1989). —— 半導体のバンド図と光学的性質の標準的な参考書.
- V. I. Anisimov, J. Zaanen, O. K. Andersen, "Band theory and Mott insulators: Hubbard $U$ instead of Stoner $I$", Phys. Rev. B 44, 943 (1991). —— 16.7.4項の DFT+$U$ 法.
- M. S. Dresselhaus, G. Dresselhaus, A. Jorio, Group Theory: Application to the Physics of Condensed Matter, Springer (2008), Chapter 12(空間群の表現と電子状態).—— 16.8節の $\Gamma_{25'}$ などの記号の意味は第11章とこの文献にある.
- 望月 泰英「物質の対称性と群論」望月研究室勉強会資料(2026年4月24日).—— 高対称点の記号と小群の対応.