第7章表現論 — 既約表現と大直交定理
第6章で,群という枠組みを手に入れた.積表を埋め,部分群を探し,共役類に分けた.しかしそこで扱っていたのは $E$, $C_3$, $\sigma_v$ といった記号であり,記号どうしの掛け算の規則であった.記号のままでは,Schrödinger方程式の中に持ち込めない.
本章の仕事は,群の元を行列に翻訳することである.この翻訳を表現(representation)という.翻訳の仕方は一通りではなく,無限にある.そこで問題になるのが「どの翻訳が本質的なのか」である.答えは既約表現(irreducible representation)——これ以上小さく分解できない翻訳——であり,群の性質はすべて既約表現の中に畳み込まれている.
本章の山場は3つある.Schurの補題(第1・第2)と,そこから導かれる大直交定理(Wonderful Orthogonality Theorem)である.大直交定理は,異なる既約表現の行列要素が互いに直交するという,一見して地味な式である.しかしこの式こそが,第8章の指標表,第9章の射影演算子,第10章の選択則,第11章のBloch定理——群論の応用のすべて——を支える土台になる.Dresselhausの教科書が Wonderful(すばらしい)と形容するのは伊達ではない.
証明は長い.しかし一つひとつのステップは,行列の掛け算と再配列定理だけでできている.飛ばさずに追えば,必ず最後までたどり着ける.本章では途中式を一行も省略しない.
- 表現の定義 $D(R_1)D(R_2)=D(R_1R_2)$ と,基底関数から行列を作る手続き
- 恒等表現・忠実な表現・正則表現 —— 次元の異なる表現がいくつもあること
- 相似変換 $D'(R)=U^{-1}D(R)U$ と表現の同値.指標が不変量であること
- 可約表現・既約表現・ブロック対角化.$C_{3v}$ の3次元表現が $A_1\oplus E$ に分かれること
- ユニタリ性定理:任意の表現は相似変換でユニタリにできる
- Schurの補題 第1:既約表現と可換な行列は $cI$ に限る
- Schurの補題 第2:非同値な既約表現をつなぐ行列は $0$ に限る
- 大直交定理の完全な導出と,$C_{3v}$ での数値確認
- 次元定理 $\sum_i \ell_i^2 = h$ と,その幾何学的な意味
7.1 表現とは何か
7.1.1 定義
定義:表現(representation)
位数 $h$ の群 $G=\{R_1, R_2, \dots, R_h\}$ の各元 $R$ に対して,$\ell\times\ell$ の正則行列(逆行列を持つ行列)$D(R)$ をひとつずつ対応させる.この対応が,群のすべての元の組 $(R,S)$ について
を満たすとき,行列の集合 $\{D(R)\}$ を群 $G$ の表現(representation)といい,$\ell$ をその次元(dimension)という.
式 \eqref{eq:7-hom} が言っているのは,「群の中で先に掛け算してから行列に翻訳する」のと「先に行列に翻訳してから行列の掛け算をする」のが,必ず同じ答えになるということである.この性質を準同型(homomorphism)という.
注意:位数 $h$ と次元 $\ell$ は別物である
初学者が最初に混乱するのがここである.
- $h$ = 群の元の個数($C_{3v}$ なら $h=6$).群そのものの性質であり,表現の取り方によらない.
- $\ell$ = 行列のサイズ($3\times3$ なら $\ell=3$).表現ごとに違う.
ひとつの群に対して,次元1の表現も,次元2の表現も,次元6の表現もある.「$C_{3v}$ の表現は何次元か」という問いには答えがない.「どの表現の話か」を必ず指定しなければならない.
導出:$D(E)=I$ と $D(R^{-1})=D(R)^{-1}$
定義 \eqref{eq:7-hom} だけから,恒等元と逆元の翻訳先が自動的に決まってしまうことを示す.
(1) 恒等元.群では $EE=E$ である.これを式 \eqref{eq:7-hom} に入れると
$$ D(E)\,D(E) = D(EE) = D(E) $$表現の行列は正則だと約束したので,$D(E)^{-1}$ が存在する.両辺に右から $D(E)^{-1}$ を掛けると,左辺は $D(E)D(E)D(E)^{-1} = D(E)$,右辺は $D(E)D(E)^{-1} = I$ となり
$$ D(E) = I $$恒等元は必ず単位行列に写る.
(2) 逆元.群では $RR^{-1}=E$ である.これを式 \eqref{eq:7-hom} に入れると
$$ D(R)\,D(R^{-1}) = D(E) = I $$両辺に左から $D(R)^{-1}$ を掛けて
$$ D(R^{-1}) = D(R)^{-1} $$∎ 逆元の翻訳先は,翻訳先の逆行列である.この2つは以下の証明で何度も使うので,頭に入れておくこと.
7.1.2 基底関数から表現を作る
表現は天下りに与えられるものではない.実際には,対称操作で互いに移り合う関数(またはベクトル)の組を用意すれば,そこから自動的に行列が出てくる.これが物理で表現を使うときの標準的な作り方である.
導出:基底関数の組から行列が決まる仕組み
対称操作 $R$ に対応する関数の変換演算子を $\hat{P}_R$ と書く.これは第6章で $\hat{R}$ と書いた演算子($\hat{R}f(\rr)\equiv f(R^{-1}\rr)$)とまったく同じものであり,本章以降は表現の行列 $D(R)$ と紛れないよう $\hat{P}_R$ という記号を使う.$\ell$ 個の関数 $\{\phi_1,\phi_2,\dots,\phi_\ell\}$ を用意し,これらが張る空間が群のすべての操作で閉じている,すなわち $\hat{P}_R\phi_j$ がふたたび $\{\phi_i\}$ の線形結合で書けるとしよう.そのときの係数を並べたものが行列である:
ここで添字の順序に注意したい.$D(R)_{ij}$ の第2添字 $j$ が「変換される関数の番号」,第1添字 $i$ が「展開先の関数の番号」である.つまり $D(R)$ の第 $j$ 列が,$\phi_j$ の行き先の係数を並べたものになる.
この約束のもとで,式 \eqref{eq:7-hom} が本当に成り立つことを確かめよう.$\hat{P}_R\hat{P}_S = \hat{P}_{RS}$ を認めれば(これは第6章で確認した),
$$ \hat{P}_R\hat{P}_S\,\phi_k = \hat{P}_R\left(\sum_j \phi_j D(S)_{jk}\right) = \sum_j \left(\hat{P}_R\phi_j\right) D(S)_{jk} $$さらに内側に式 \eqref{eq:7-basis} を代入して
$$ = \sum_j \left(\sum_i \phi_i D(R)_{ij}\right) D(S)_{jk} = \sum_i \phi_i \underbrace{\left(\sum_j D(R)_{ij}D(S)_{jk}\right)}_{=\ \left[D(R)D(S)\right]_{ik}} $$一方,左辺をまとめて $\hat{P}_{RS}$ と見れば
$$ \hat{P}_{RS}\,\phi_k = \sum_i \phi_i\, D(RS)_{ik} $$$\{\phi_i\}$ は一次独立だから,両者の係数を比べて
$$ \left[D(R)D(S)\right]_{ik} = D(RS)_{ik} $$∎ すなわち式 \eqref{eq:7-hom} が成り立つ.閉じた関数の組を用意すれば,それだけで表現がひとつできるのである.
なぜ:これが量子力学とつながる理由
第6章の最後で,Hamiltonianが対称操作と可換であること $[\Ham,\hat{P}_R]=0$ を見た.このとき,あるエネルギー固有値 $E_n$ に属する縮退した固有関数の組 $\{\psi_{n1},\dots,\psi_{n\ell}\}$ は,$\hat{P}_R$ を作用させても同じ固有値 $E_n$ の空間から出られない.実際
$$ \Ham\left(\hat{P}_R\psi_{nj}\right) = \hat{P}_R\left(\Ham\psi_{nj}\right) = E_n\left(\hat{P}_R\psi_{nj}\right) $$つまり $\hat{P}_R\psi_{nj}$ もまた固有値 $E_n$ の固有関数であり,$\{\psi_{ni}\}$ の線形結合で書ける.これはまさに式 \eqref{eq:7-basis} の状況である.
したがって,縮退した固有関数の組は,必ず群の表現の基底になっている.しかも後で見るように,その表現は(偶然の縮退がなければ)既約である.だから「既約表現の次元」=「縮退度」という辞書が成り立つ.$d$ 軌道が八面体場で3重と2重に割れるのも,$O_h$ の既約表現に3次元のものと2次元のものがあればこそである.ただし,既約表現の次元がそろっていることは割れ方の必要条件にすぎない.実際にどの既約表現に割れるかは,$d$ 軌道の指標を計算して初めて決まる(第10章).
7.1.3 $C_{3v}$ の3次元表現を書き下す
抽象論はここまでにして,実際に手を動かす.$C_{3v}$ の6個の元
$$ C_{3v} = \{E,\ C_3,\ C_3^2,\ \sigma_1,\ \sigma_2,\ \sigma_3\} $$に対して,$3$ 個の関数 $(x, y, z)$ を基底に取る.主軸(3回軸)を $z$ 軸とし,鏡映面 $\sigma_1$ は $xz$ 面(すなわち $x$ 軸を含む面),$\sigma_2$ は $x$ 軸から $60^\circ$,$\sigma_3$ は $120^\circ$ の位置にある面とする.3枚の面が $60^\circ$ ずつずれるのは,$180^\circ$ 回した面はもとの面と同一だからである($120^\circ$ 回転を2回すると $240^\circ \equiv 60^\circ$).
導出:6個の行列をすべて書く
回転.第4章の式($z$ 軸まわりの回転行列)で $\phi=2\pi/3=120^\circ$ とすると,$\cos120^\circ=-\tfrac12$, $\sin120^\circ=\tfrac{\sqrt3}{2}$ だから
$$ D(C_3)=\begin{pmatrix}-\tfrac12 & -\tfrac{\sqrt3}{2} & 0\\[2pt] \tfrac{\sqrt3}{2} & -\tfrac12 & 0\\[2pt] 0&0&1\end{pmatrix}, \qquad D(C_3^2)=\begin{pmatrix}-\tfrac12 & \tfrac{\sqrt3}{2} & 0\\[2pt] -\tfrac{\sqrt3}{2} & -\tfrac12 & 0\\[2pt] 0&0&1\end{pmatrix} $$($C_3^2$ は $\phi=240^\circ$,すなわち $\cos=-\tfrac12$, $\sin=-\tfrac{\sqrt3}{2}$.)
鏡映.$z$ 軸を含み,$x$ 軸から角 $\theta$ だけ傾いた面での鏡映は,$xy$ 平面内では「角 $\theta$ の直線に関する折り返し」である.折り返しは,方向 $\alpha$ のベクトルを方向 $2\theta-\alpha$ に移すから,$x=r\cos\alpha,\ y=r\sin\alpha$ に対し
$$ x' = r\cos(2\theta-\alpha) = x\cos2\theta + y\sin2\theta,\qquad y' = r\sin(2\theta-\alpha) = x\sin2\theta - y\cos2\theta $$(加法定理を展開し,$r\cos\alpha=x$, $r\sin\alpha=y$ を代入しただけである.)$z$ は変わらない.よって
$$ D(\sigma_\theta)=\begin{pmatrix}\cos2\theta & \sin2\theta & 0\\ \sin2\theta & -\cos2\theta & 0\\ 0&0&1\end{pmatrix} $$$\theta=0^\circ,\ 60^\circ,\ 120^\circ$ を代入する.$2\theta=0^\circ,120^\circ,240^\circ$ だから
$$ D(\sigma_1)=\begin{pmatrix}1&0&0\\0&-1&0\\0&0&1\end{pmatrix},\quad D(\sigma_2)=\begin{pmatrix}-\tfrac12&\tfrac{\sqrt3}{2}&0\\[2pt] \tfrac{\sqrt3}{2}&\tfrac12&0\\[2pt] 0&0&1\end{pmatrix},\quad D(\sigma_3)=\begin{pmatrix}-\tfrac12&-\tfrac{\sqrt3}{2}&0\\[2pt] -\tfrac{\sqrt3}{2}&\tfrac12&0\\[2pt] 0&0&1\end{pmatrix} $$もちろん $D(E)=I_3$.∎ これで $C_{3v}$ の3次元表現が完成した.
例題7.1 準同型を1組だけ手で確かめる
$C_3\sigma_1 = \sigma_2$ が群の中で成り立つ.これが行列でも成り立つこと,すなわち $D(C_3)D(\sigma_1)=D(\sigma_2)$ を確かめよ.
解答.$z$ 成分は両方とも $1$ で自明なので,左上の $2\times2$ ブロックだけ計算すればよい.
$$ \begin{pmatrix}-\tfrac12 & -\tfrac{\sqrt3}{2}\\[2pt] \tfrac{\sqrt3}{2} & -\tfrac12\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix} $$右の行列は第2列に $-1$ を掛けるだけの働きをするから,答えは
$$ =\begin{pmatrix}-\tfrac12 & +\tfrac{\sqrt3}{2}\\[2pt] \tfrac{\sqrt3}{2} & +\tfrac12\end{pmatrix} $$これは $D(\sigma_2)$ の $2\times2$ ブロックそのものである.∎
幾何学的にも納得できる.$x$ 軸を含む面で折り返してから $120^\circ$ 回すことは,$60^\circ$ 傾いた面で折り返すことと同じである(折り返し2回で回転,回転と折り返し1回で折り返し).
補足:トレースをここで数えておく
あとで指標(第8章)として主役になる量なので,いま計算しておく.
$$ \Tr D(E)=3,\quad \Tr D(C_3)=\Tr D(C_3^2)=-\tfrac12-\tfrac12+1=0,\quad \Tr D(\sigma_i)=1 $$($\sigma_1$ なら $1-1+1=1$,$\sigma_2$ なら $-\tfrac12+\tfrac12+1=1$.3枚とも同じ値になる.)第6章で見たとおり $C_{3v}$ の共役類は $\{E\}$, $\{C_3,C_3^2\}$, $\{\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3\}$ の3つであり,同じ類の元はトレースが等しい.まとめて $\chi=(3,\,0,\,1)$ と書ける.
7.2 恒等表現・忠実な表現・正則表現
ひとつの群には,次元も中身も異なる表現がいくらでも作れる.代表的なものを3つ見ておく.
7.2.1 恒等表現
定義:恒等表現(identity representation)
すべての元に $1\times1$ 行列 $(1)$ を対応させる:
$$ D(R)=1\qquad(\text{すべての }R\in G) $$これは $1\cdot1=1=D(RS)$ なので,確かに式 \eqref{eq:7-hom} を満たす.どんな群にも必ず存在する1次元表現であり,全対称表現(totally symmetric representation)とも呼ばれる.Mulliken記号では $A_1$ や $A_{1g}$,Bethe記号では $\Gamma_1$ と書く(第8章).
基底関数の言葉では,「すべての対称操作で不変な関数」が恒等表現の基底である.$C_{3v}$ なら $z$,$x^2+y^2$,$z^2$ などがそれにあたる.
7.2.2 忠実な表現
定義:忠実な表現(faithful representation)
異なる元には必ず異なる行列が対応する($R\neq S\ \Rightarrow\ D(R)\neq D(S)$)とき,その表現を忠実(faithful)であるという.忠実な表現では,群と行列の集合が1対1に対応するので,行列を見れば群がそのまま復元できる.
恒等表現は,$h\ge2$ なら忠実ではない(すべての元が同じ $1$ に潰れてしまう).7.1.3節で作った $C_{3v}$ の3次元表現は,6個の行列がすべて異なるので忠実である.
例題7.2 忠実でない1次元表現をもうひとつ作る
$C_{3v}$ に対し,真の回転($E,C_3,C_3^2$)には $+1$,鏡映($\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3$)には $-1$ を対応させる.これが表現になっていることを確かめよ.
解答.この対応は「行列式を取る」ことと同じである.実際,第4章で見たように回転の行列式は $+1$,鏡映の行列式は $-1$ であった.行列式には $\det(AB)=\det A\cdot\det B$ という性質があるから
$$ D(R)D(S) = \det\!\big[D_{3\text{次元}}(R)\big]\cdot\det\!\big[D_{3\text{次元}}(S)\big] = \det\!\big[D_{3\text{次元}}(R)D_{3\text{次元}}(S)\big] = \det\!\big[D_{3\text{次元}}(RS)\big] = D(RS) $$よって式 \eqref{eq:7-hom} が成り立ち,これは表現である.∎ この表現は $A_2$ と呼ばれる.忠実ではない(6個の元が2個の値に潰れている)が,立派な表現である.
この作り方は一般に通用する.ある表現の行列式を取ると,必ず1次元表現ができる.
7.2.3 正則表現
どんな群にも機械的に作れて,しかも $h$ 次元という大きさを持つ表現がある.それが正則表現(regular representation)である.7.9節で次元定理を導く際の主役になる.
定義:正則表現
群の元そのもの $\{G_1,G_2,\dots,G_h\}$ を,$h$ 次元ベクトル空間の基底だと思う.元 $R$ を作用させると基底が並べ替わるので,その並べ替えを行列で書く:
$$ R\,G_j = G_i \quad\text{のとき}\quad D^{\rm reg}(R)_{ij}=1,\qquad \text{それ以外の成分は }0 $$言い換えると,$D^{\rm reg}(R)$ は各行・各列にちょうど1個だけ $1$ がある置換行列である.
導出:正則表現が本当に表現であること
$\left[D^{\rm reg}(R)D^{\rm reg}(S)\right]_{ik} = \sum_j D^{\rm reg}(R)_{ij}\,D^{\rm reg}(S)_{jk}$ を考える.
和の各項がゼロでないためには,$D^{\rm reg}(S)_{jk}=1$ かつ $D^{\rm reg}(R)_{ij}=1$,すなわち
$$ S\,G_k = G_j \quad\text{かつ}\quad R\,G_j = G_i $$の両方が必要である.$G_j$ は $S G_k$ で決まってしまうので,そんな $j$ は高々1個.そしてその $j$ に対して
$$ G_i = R\,G_j = R(S\,G_k) = (RS)\,G_k $$これはまさに $D^{\rm reg}(RS)_{ik}=1$ の条件である.逆に $(RS)G_k=G_i$ なら,$j$ を $G_j=SG_k$ で定めれば上の2条件が満たされる.したがって
$$ \left[D^{\rm reg}(R)D^{\rm reg}(S)\right]_{ik} = D^{\rm reg}(RS)_{ik} $$∎ 正則表現は表現である.
例題7.3 巡回群 $C_3$ の正則表現を全部書く
$C_3=\{E,\ A,\ B\}$($A=C_3$, $B=C_3^2$)の積表は次のとおりである.
| $E$ | $A$ | $B$ | |
|---|---|---|---|
| $E$ | $E$ | $A$ | $B$ |
| $A$ | $A$ | $B$ | $E$ |
| $B$ | $B$ | $E$ | $A$ |
解答.基底の順序を $(G_1,G_2,G_3)=(E,A,B)$ とする.$A$ を左から掛けると
$$ A\,G_1 = A\,E = A = G_2,\qquad A\,G_2 = A\,A = B = G_3,\qquad A\,G_3 = A\,B = E = G_1 $$「第 $j$ 列の第 $i$ 行に $1$」という約束に従って書き込むと,第1列は第2行,第2列は第3行,第3列は第1行に $1$ が立つ:
$$ D^{\rm reg}(A)=\begin{pmatrix}0&0&1\\1&0&0\\0&1&0\end{pmatrix},\qquad D^{\rm reg}(B)=\left[D^{\rm reg}(A)\right]^2=\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&1\\1&0&0\end{pmatrix},\qquad D^{\rm reg}(E)=I_3 $$∎ トレースは $\Tr D^{\rm reg}(E)=3$,$\Tr D^{\rm reg}(A)=\Tr D^{\rm reg}(B)=0$ である.
定理7.1 正則表現の指標
正則表現のトレースは
証明.$\Tr D^{\rm reg}(R)=\sum_i D^{\rm reg}(R)_{ii}$ である.対角要素 $D^{\rm reg}(R)_{ii}$ が $1$ になるのは $R\,G_i=G_i$ のときに限る.両辺に右から $G_i^{-1}$ を掛けると $R=E$.したがって $R\neq E$ なら対角成分はすべて $0$ でトレースも $0$,$R=E$ なら $D^{\rm reg}(E)=I_h$ でトレースは $h$ である.∎
この極端な形——$E$ のところだけ巨大で,あとは全部ゼロ——が,7.9節で $\sum_i\ell_i^2=h$ を一撃で出す仕掛けになる.
7.3 相似変換と表現の同値
7.3.1 基底を取り換える
7.1.3節では基底に $(x,y,z)$ を選んだ.しかし基底の選び方は無数にある.基底を取り換えると行列の成分は変わるが,群としての構造は変わらないはずである.この「見た目だけの違い」を整理するのが相似変換である.
定義:相似変換(similarity transformation)と同値な表現
正則行列 $U$(群の元によらない,ひとつ固定した行列)を使って
と定めた $\{D'(R)\}$ もまた表現である.$D$ と $D'$ は同値(equivalent)であるといい,$D\sim D'$ と書く.
導出:$D'$ が本当に表現であること
式 \eqref{eq:7-hom} を確かめればよい.定義 \eqref{eq:7-sim} を代入して
$$ D'(R)\,D'(S) = \left(U^{-1}D(R)U\right)\left(U^{-1}D(S)U\right) $$真ん中の $U U^{-1}$ が消えて
$$ = U^{-1}D(R)\underbrace{UU^{-1}}_{=I}D(S)\,U = U^{-1}\big[D(R)D(S)\big]U = U^{-1}D(RS)\,U = D'(RS) $$∎ 成り立つ.$U$ が群の元によらないひとつの固定した行列であることが決定的である.もし $U$ が $R$ ごとに違えば,$UU^{-1}$ が消えてくれない.
定理7.2 指標は相似変換で不変
$\Tr D'(R) = \Tr D(R)$.
証明.トレースの巡回性 $\Tr(ABC)=\Tr(CAB)$ を使う.
$$ \Tr D'(R) = \Tr\left(U^{-1}D(R)U\right) = \Tr\left(U U^{-1}D(R)\right) = \Tr D(R) $$∎
だから,トレースは「基底の取り方によらない,表現そのものの性質」である.これを指標(character)と呼び,$\chi(R)\equiv\Tr D(R)$ と書く.第8章の全体が,この一行の上に建っている.
7.3.2 具体例1:複素基底に移る
例題7.4 $(x,y)$ から $(x+iy,\ x-iy)$ へ
7.1.3節の $C_{3v}$ 表現の左上 $2\times2$ ブロックを,基底 $u_\pm \equiv x\pm iy$ に取り換えるとどうなるか.
解答.$z$ 軸まわりに角 $\phi$ 回す操作で $x'=x\cos\phi-y\sin\phi$, $y'=x\sin\phi+y\cos\phi$ であった.したがって
$$ u_+' = x'+iy' = (x\cos\phi-y\sin\phi)+i(x\sin\phi+y\cos\phi) $$$x$ でくくり,$y$ でくくると
$$ = x(\cos\phi+i\sin\phi) + y(-\sin\phi+i\cos\phi) = x\,e^{i\phi} + y\cdot i(\cos\phi + i\sin\phi) = e^{i\phi}(x+iy) = e^{i\phi}u_+ $$(2番目の等号で $-\sin\phi+i\cos\phi = i(\cos\phi+i\sin\phi)$ を使った.$i\cdot i\sin\phi=-\sin\phi$ だから正しい.)同様に $u_-'=e^{-i\phi}u_-$.つまり
$$ D'(C_3) = \begin{pmatrix} e^{2\pi i/3} & 0\\ 0 & e^{-2\pi i/3}\end{pmatrix} $$回転が対角化された.一方,鏡映 $\sigma_1$ は $x\to x,\ y\to-y$ なので $u_+\leftrightarrow u_-$ であり
$$ D'(\sigma_1)=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix} $$指標を比べる.$\Tr D'(C_3) = e^{2\pi i/3}+e^{-2\pi i/3} = 2\cos120^\circ = -1$,もとの実行列でも $-\tfrac12-\tfrac12=-1$.$\Tr D'(\sigma_1)=0$,もとの実行列でも $1-1=0$.定理7.2のとおり一致する.∎
基底の変換行列は $\begin{pmatrix}u_+\\u_-\end{pmatrix}=S\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}$, $S=\begin{pmatrix}1&i\\1&-i\end{pmatrix}$ であり,$D'(R)=S\,D(R)\,S^{-1}$ という相似変換になっている($U=S^{-1}$ と置けば式 \eqref{eq:7-sim} の形).
注意:回転を対角化しても「分解できた」ことにはならない
例題7.4で $D'(C_3)$ は対角行列になった.ここで「よし,2つの1次元表現に分かれた」と早合点してはいけない.同じ $S$ で $\sigma_1$ を変換すると $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ という非対角行列になってしまう.
表現が分解できるというのは,群のすべての元について同時にブロック対角になることをいう.1個の行列を対角化するのは易しいが,群の全元を同時にブロック対角化できるかどうかは,まったく別の問題である.この違いが次節の主題である.
7.3.3 具体例2:見た目がまったく違う同値な表現
例題7.5 正三角形の3頂点による表現
$\mathrm{NH_3}$ 分子の3個の水素,あるいは正三角形の3頂点を思い浮かべる.頂点 $1,2,3$ に置いた関数(たとえば水素の $1s$ 軌道)を $\phi_1,\phi_2,\phi_3$ とし,$C_{3v}$ の操作でこれらがどう入れ替わるかから表現を作れ.
解答.$C_3$ は $\phi_1\to\phi_2\to\phi_3\to\phi_1$ と巡回させる.式 \eqref{eq:7-basis} の約束(第 $j$ 列が $\phi_j$ の行き先)に従うと,第1列は第2行に $1$,第2列は第3行に $1$,第3列は第1行に $1$:
$$ D(C_3)=\begin{pmatrix}0&0&1\\1&0&0\\0&1&0\end{pmatrix},\qquad D(C_3^2)=\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&1\\1&0&0\end{pmatrix} $$$\sigma_1$ は頂点1を通る鏡映面とすると,$\phi_1$ は動かず $\phi_2\leftrightarrow\phi_3$ となる.残る2枚を書く前に,面の番号と頂点の番号が一致しないことに注意したい.7.1.3節の約束では $\sigma_k$ の番号は面の傾き $0^\circ,\,60^\circ,\,120^\circ$ に対応している.頂点1を $\sigma_1$ の上($0^\circ$ の方向)に置き,$C_3$ を反時計回りの $120^\circ$ 回転とすれば,頂点2は $120^\circ$,頂点3は $240^\circ\equiv 60^\circ$ の方向に来る.したがって $\sigma_2$($60^\circ$)は頂点3を通り,$\sigma_3$($120^\circ$)が頂点2を通る:
$$ D(\sigma_1)=\begin{pmatrix}1&0&0\\0&0&1\\0&1&0\end{pmatrix},\quad D(\sigma_2)=\begin{pmatrix}0&1&0\\1&0&0\\0&0&1\end{pmatrix},\quad D(\sigma_3)=\begin{pmatrix}0&0&1\\0&1&0\\1&0&0\end{pmatrix} $$指標を取ると,置換行列のトレースは「動かない要素の個数」に等しいから
$$ \chi(E)=3,\qquad \chi(C_3)=\chi(C_3^2)=0,\qquad \chi(\sigma_i)=1 $$∎ これは7.1.3節の $(x,y,z)$ 表現の指標 $(3,0,1)$ と完全に一致する.
物理的意味:指標が一致すれば同値である
例題7.5の置換行列たちと,7.1.3節の回転・鏡映行列たちは,見た目がまるで違う.前者は $0$ と $1$ だけ,後者には $\sqrt3/2$ が並ぶ.それでも指標が同じである以上,この2つの表現は同値である.つまり適当な $U$ を選べば,片方をもう片方に変換できる.
実は,2つの表現が同値であるための必要十分条件は,すべての元で指標が一致することである.これは本章の7.9.1節で導く既約分解の公式 \eqref{eq:7-reduction} から従う.各既約表現の現れる回数(重複度)$a_i$ が指標だけで決まってしまうので,完全可約性と合わせれば,指標の等しい2つの表現は同じ既約表現の同じ組み合わせに分解され,したがって同値だからである.行列そのものを比べる必要はない.$h$ 個(実際には類の個数だけ)の数を比べれば済む.これが指標という道具の破壊力である.
物理的にも意味がある.$\mathrm{NH_3}$ の3個の水素 $1s$ 軌道が張る空間と,$(x,y,z)$ が張る空間は,$C_{3v}$ の対称性から見れば同じ構造をしている.だから両者は同じパターンで分裂する.第9章のSALC(対称性適合線形結合)の計算は,この事実を使い倒す.
7.4 可約表現と既約表現
7.4.1 不変部分空間
定義:不変部分空間・可約・既約
表現 $\{D(R)\}$ の作用する $\ell$ 次元空間 $V$ の部分空間 $W$($0<\dim W<\ell$)が,群のすべての元 $R$ について
$$ D(R)\,W \subseteq W $$を満たすとき,$W$ を不変部分空間(invariant subspace)という.
- 不変部分空間が存在する表現を可約表現(reducible representation)という.
- 存在しない表現を既約表現(irreducible representation, 略して irrep)という.
「既約」とは,これ以上小さな部品に分けられないという意味である.既約表現は群にとっての「素粒子」にあたる.
なぜ:不変部分空間があるとブロック対角になるのか
$W$ を $m$ 次元の不変部分空間とし,$W$ の基底 $\{w_1,\dots,w_m\}$ を先に並べ,残りを補って $V$ の基底 $\{w_1,\dots,w_m,\,v_{m+1},\dots,v_\ell\}$ を作る.この基底で行列を書くと,$D(R)w_j$ はふたたび $W$ の中にあるから,$v$ 成分の係数がゼロになる.すなわち第 $1\sim m$ 列の下側(第 $m+1$ 行以降)がすべてゼロ:
$$ D'(R)=\begin{pmatrix} A(R) & B(R)\\ 0 & C(R)\end{pmatrix} $$これでブロック三角形にはなった.さらに $B(R)=0$ にできる(=ブロック対角にできる)かどうかは別問題だが,有限群のユニタリな表現ではつねに可能である.実際,7.5節でどんな表現もユニタリにできることを示し,ユニタリなら $W$ の直交補空間 $W^\perp$ も不変部分空間になる(演習7.2)ので,$B(R)=0$ が保証される.
この事情を,有限群の表現は完全可約(fully reducible)であるという.以後,可約表現といえばブロック対角にできるものだと思ってよい.
記法:直和
ブロック対角化された表現を
$$ D = D^{(1)}\oplus D^{(2)}\oplus\cdots \quad\text{あるいは}\quad \Gamma = a_1\Gamma^{(1)}\oplus a_2\Gamma^{(2)}\oplus\cdots $$と書き,直和(direct sum)という.$a_i$ は既約表現 $\Gamma^{(i)}$ が何回現れるかの回数(重複度,multiplicity)である.次元とトレースは単純に足し算になる:
$$ \ell = \sum_i a_i\ell_i,\qquad \chi(R)=\sum_i a_i\chi^{(i)}(R) $$ブロック対角行列のトレースは各ブロックのトレースの和だから,後者は明らかである.
7.4.2 $C_{3v}$ の3次元表現を分解する
導出:$(x,y,z)$ 表現が $A_1\oplus E$ になること
7.1.3節で書き下した6個の行列を,もう一度眺めてみる.すべて
$$ D(R)=\begin{pmatrix} \ast & \ast & 0\\ \ast & \ast & 0\\ 0&0&1\end{pmatrix} $$という形をしている.つまりすでにブロック対角である.理由ははっきりしている.
- $C_{3v}$ の対称操作はすべて $z$ 軸を軸とする回転か,$z$ 軸を含む面での鏡映である.どちらも $z$ 座標を変えない.したがって $z$ だけが張る1次元空間は不変部分空間である.
- 同時に,$z$ 成分が $xy$ 成分に混ざり込むこともない.したがって $(x,y)$ が張る2次元空間も不変部分空間である.
$z$ の張る1次元部分は,$D(R)_{33}=1$(すべての $R$)だから恒等表現 $A_1$ である.
残る $2\times2$ ブロックを $D^{(E)}(R)$ と書こう.これが既約であることを示す.もし可約なら,2次元だから1次元の不変部分空間,すなわちすべての $D^{(E)}(R)$ の共通の固有ベクトルが存在するはずである.
まず $D^{(E)}(C_3)$ の固有ベクトルを求める.角 $\phi$ の回転行列 $\begin{pmatrix}\cos\phi&-\sin\phi\\ \sin\phi&\cos\phi\end{pmatrix}$ に $\begin{pmatrix}1\\-i\end{pmatrix}$ を掛けると
$$ \begin{pmatrix}\cos\phi+i\sin\phi\\ \sin\phi-i\cos\phi\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}e^{i\phi}\\ -i(\cos\phi+i\sin\phi)\end{pmatrix} = e^{i\phi}\begin{pmatrix}1\\-i\end{pmatrix} $$(2行目で $\sin\phi-i\cos\phi = -i(\cos\phi+i\sin\phi)$ を使った.)同様に $\begin{pmatrix}1\\ i\end{pmatrix}$ は固有値 $e^{-i\phi}$ を持つ.$\phi=120^\circ$ では $e^{i\phi}\neq e^{-i\phi}$ なので,固有値は縮退しておらず,固有ベクトルはこの2本(の定数倍)しかない.
次に,この2本が $D^{(E)}(\sigma_1)=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$ の固有ベクトルでもあるかを見る.
$$ \begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1\\-i\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1\\ i\end{pmatrix} $$これはもう一方の固有ベクトルであって,もとのベクトルの定数倍ではない.$\begin{pmatrix}1\\i\end{pmatrix}$ についても同様に入れ替わる.したがって共通の固有ベクトルは存在しない.
∎ よって $D^{(E)}$ は既約であり,2次元既約表現 $E$ である.まとめると
指標でも確認できる.$\chi^{A_1}=(1,1,1)$,$\chi^{E}=(2,-1,0)$ を足すと $(3,0,1)$ で,7.1.3節の計算と一致する.
注意:既約表現の記号 $E$ と恒等元 $E$ は別物
群論の記法の最大の罠である.$C_{3v}$ の元としての $E$ は恒等操作,既約表現の名前としての $E$ は2次元既約表現(ドイツ語 zweidimensional ではなく Entartung=縮退に由来).文脈で読み分けるしかない.本書では,既約表現を指すときは $\Gamma^{(E)}$ や $D^{(E)}$ のように上付きで書くよう努める.
例題7.6 置換表現を実際にブロック対角化する
例題7.5の3頂点の表現は,指標が $(3,0,1)$ なので $A_1\oplus E$ に分解するはずである.しかし置換行列を見てもブロック対角ではない.分解する相似変換 $U$ を具体的に作れ.
解答.新しい基底として,対称性から自然に思いつく組み合わせを取る.
$$ s=\frac{\phi_1+\phi_2+\phi_3}{\sqrt3},\qquad p_x=\frac{2\phi_1-\phi_2-\phi_3}{\sqrt6},\qquad p_y=\frac{\phi_2-\phi_3}{\sqrt2} $$(規格化定数は係数の二乗和が $1$ になるように選んだ:$1+1+1=3$,$4+1+1=6$,$1+1=2$.)変換行列は,新基底を旧基底で展開した係数を列に並べたものである:
$$ U=\begin{pmatrix} 1/\sqrt3 & 2/\sqrt6 & 0\\ 1/\sqrt3 & -1/\sqrt6 & 1/\sqrt2\\ 1/\sqrt3 & -1/\sqrt6 & -1/\sqrt2 \end{pmatrix} $$3本の列は互いに直交し(たとえば第1列と第2列の内積は $(2-1-1)/\sqrt{18}=0$),それぞれ長さ1なので $U$ は直交行列である.よって $U^{-1}=U^{T}$.
$C_3$ について計算する.置換行列 $D(C_3)$ の働きは,ベクトル $u=(u_1,u_2,u_3)^T$ に対して $D(C_3)u=(u_3,u_1,u_2)^T$ である(行ごとに読めばよい).
第1列 $u=(1,1,1)^T/\sqrt3$:巡回させても $(1,1,1)^T/\sqrt3$ で不変.$U^T$ の各行と内積を取ると $(1,0,0)^T$.
第2列 $u=(2,-1,-1)^T/\sqrt6$:巡回させて $(-1,2,-1)^T/\sqrt6$.$U^T$ の各行との内積は
$$ \frac{-1+2-1}{\sqrt3\sqrt6}=0,\qquad \frac{2(-1)+(-1)(2)+(-1)(-1)}{6}=\frac{-3}{6}=-\frac12,\qquad \frac{0\cdot(-1)+1\cdot2+(-1)(-1)}{\sqrt2\sqrt6}=\frac{3}{2\sqrt3}=\frac{\sqrt3}{2} $$第3列 $u=(0,1,-1)^T/\sqrt2$:巡回させて $(-1,0,1)^T/\sqrt2$.同様に内積を取ると $0,\ -\dfrac{\sqrt3}{2},\ -\dfrac12$.
並べると
$$ U^{-1}D(C_3)U=\begin{pmatrix}1&0&0\\[2pt] 0&-\tfrac12&-\tfrac{\sqrt3}{2}\\[2pt] 0&\tfrac{\sqrt3}{2}&-\tfrac12\end{pmatrix} $$∎ 見事にブロック対角になり,しかも $2\times2$ ブロックは7.1.3節で $(x,y)$ について得た $D^{(E)}(C_3)$ と一文字も違わず一致する.同じ計算を $\sigma_1$ について行うと $\mathrm{diag}(1,\,1,\,-1)$ が得られ,これも $A_1\oplus E$ の形になっている($p_x$ は $\sigma_1$ で不変,$p_y$ は符号が変わる).
これで,例題7.5の表現と7.1.3節の表現が同値であることが,$U$ を明示して確かめられた.ここで作った $s,\,p_x,\,p_y$ こそ,第9章で射影演算子を使って系統的に作るSALC(対称性適合線形結合)である.いまは天下りに書いたが,第9章では作り方が機械的に与えられる.
7.5 表現のユニタリ性定理
ここから証明が続く.まず地ならしとして,「表現はユニタリだと思ってよい」という定理を示す.これがあると,以後 $D(R)^{-1}=D(R)^\dagger$ が自由に使えて,議論が劇的に軽くなる.
定理7.3(ユニタリ性定理)
有限群の任意の表現は,適当な相似変換によってユニタリ表現(すべての $R$ で $D(R)^\dagger D(R)=I$)に変換できる.
証明:$H=\sum_R D(R)D(R)^\dagger$ を作って対角化する
第1歩:行列 $H$ を作る.群のすべての元にわたる和
$$ H \equiv \sum_{R\in G} D(R)\,D(R)^\dagger $$を定義する.$h$ 個の行列の和なので,これは $R$ に依存しないひとつの $\ell\times\ell$ 行列である.
第2歩:$H$ はHermiteである.$\dagger$ を取ると,和の各項について $\left(DD^\dagger\right)^\dagger = \left(D^\dagger\right)^\dagger D^\dagger = DD^\dagger$ だから
$$ H^\dagger = \sum_R \left(D(R)D(R)^\dagger\right)^\dagger = \sum_R D(R)D(R)^\dagger = H $$第3歩:$H$ は正定値である.任意のゼロでないベクトル $v$ に対し
$$ v^\dagger H v = \sum_R v^\dagger D(R)D(R)^\dagger v = \sum_R \left(D(R)^\dagger v\right)^\dagger\left(D(R)^\dagger v\right) = \sum_R \left\|D(R)^\dagger v\right\|^2 \ \ge\ 0 $$等号が成り立つには,すべての $R$ で $D(R)^\dagger v=0$ でなければならない.ところが $R=E$ の項は $D(E)^\dagger v = I v = v$ なので,$v\neq0$ ならこの項だけで正になる.よって $v^\dagger Hv>0$,すなわち $H$ は正定値である.
第4歩:$H$ を対角化する.Hermite行列だから,あるユニタリ行列 $U$ で対角化できる:
$$ U^\dagger H U = d \equiv \mathrm{diag}(d_1,d_2,\dots,d_\ell) $$正定値だから固有値はすべて正,$d_k>0$.したがって
$$ d^{1/2}\equiv \mathrm{diag}(\sqrt{d_1},\dots,\sqrt{d_\ell}),\qquad d^{-1/2}\equiv \mathrm{diag}(1/\sqrt{d_1},\dots,1/\sqrt{d_\ell}) $$がどちらも実数の対角行列として定義でき,$d^{1/2}d^{1/2}=d$, $d^{1/2}d^{-1/2}=I$ が成り立つ.ここで $d_k>0$ が効いている.もし固有値にゼロや負があれば,この平方根が作れず証明が破綻する.
第5歩:新しい表現を定義する.まず $\tilde{D}(R)\equiv U^\dagger D(R) U$ と置く(これは相似変換なので表現である).定義から
$$ \sum_R \tilde{D}(R)\tilde{D}(R)^\dagger = \sum_R U^\dagger D(R)UU^\dagger D(R)^\dagger U = U^\dagger\left(\sum_R D(R)D(R)^\dagger\right)U = U^\dagger H U = d $$さらに
$$ D'(R) \equiv d^{-1/2}\,\tilde{D}(R)\,d^{1/2} $$と定義する.これも相似変換(変換行列は $U d^{1/2}$)なので表現である.
第6歩:$D'$ がユニタリであることを示す.$d^{1/2}$ は実対角行列なので $\left(d^{1/2}\right)^\dagger = d^{1/2}$ に注意して
$$ D'(R)D'(R)^\dagger = d^{-1/2}\tilde{D}(R)d^{1/2}\cdot d^{1/2}\tilde{D}(R)^\dagger d^{-1/2} = d^{-1/2}\,\tilde{D}(R)\,d\,\tilde{D}(R)^\dagger\,d^{-1/2} $$真ん中の $\tilde{D}(R)\,d\,\tilde{D}(R)^\dagger$ を計算する.$d$ を第5歩の和で書き直すと
$$ \tilde{D}(R)\,d\,\tilde{D}(R)^\dagger = \tilde{D}(R)\left[\sum_S \tilde{D}(S)\tilde{D}(S)^\dagger\right]\tilde{D}(R)^\dagger = \sum_S \left[\tilde{D}(R)\tilde{D}(S)\right]\left[\tilde{D}(S)^\dagger \tilde{D}(R)^\dagger\right] $$前半は $\tilde{D}(RS)$,後半は $\left[\tilde{D}(R)\tilde{D}(S)\right]^\dagger=\tilde{D}(RS)^\dagger$ である($\dagger$ は積の順序を逆にすることを思い出す).よって
$$ = \sum_{S\in G} \tilde{D}(RS)\,\tilde{D}(RS)^\dagger $$ここで再配列定理を使う.$R$ を固定して $S$ を群全体にわたらせると,積 $RS$ もまた群全体を1回ずつ走る(第6章).したがって $S'=RS$ と置き直せば
$$ = \sum_{S'\in G} \tilde{D}(S')\tilde{D}(S')^\dagger = d $$もとに戻して
$$ D'(R)D'(R)^\dagger = d^{-1/2}\,d\,d^{-1/2} = I $$∎ すべての $R$ について成り立つので,$D'$ はユニタリ表現である.
なぜ:この定理がありがたい理由
ユニタリなら $D(R)^{-1}=D(R)^\dagger$,成分で書けば
$$ \left[D(R)^{-1}\right]_{\mu\nu} = \left[D(R)^\dagger\right]_{\mu\nu} = D(R)^{*}_{\nu\mu} $$である.逆行列という扱いにくいものが,複素共役と添字の入れ替えという単純な操作に化ける.大直交定理に複素共役 $D^{*}$ が現れるのは,この置き換えを使うからである.
また,ユニタリ行列は内積を保つので,不変部分空間 $W$ の直交補空間 $W^\perp$ も不変部分空間になる.これによって「ブロック三角形」が「ブロック対角」に格上げされ,完全可約性が保証される(演習7.2).
以後,本章ではすべての表現はユニタリであるとする.定理7.3により,これは一般性を失わない.
7.6 Schurの補題 第1
いよいよ本章の心臓部である.Schurの補題は,名前こそ「補題」だが,群の表現論のほぼすべてがここから流れ出す.まず何を主張しているのかを,日本語で押さえておく.
これから何をするのか
既約表現とは「もうこれ以上分けられない」表現であった.分けられないということは,その表現の作用する空間の中に,特別扱いできる方向がひとつもないということである.
ある行列 $M$ が表現のすべての行列と可換だったとしよう.$M$ をHermiteに取れば $M$ は固有空間に空間を分割する.もし固有値が2種類以上あれば,その固有空間は表現で閉じている(不変部分空間になる)——つまり「特別扱いできる方向」が生まれてしまう.これは既約性に反する.したがって固有値は1種類しかありえず,$M$ は単位行列の定数倍でなければならない.
これがSchurの補題 第1の全内容である.山場は「可換なら固有空間が不変部分空間になる」という一点にある.以下の証明では,そこを丁寧に追う.
定理7.4(Schurの補題 第1)
$\{D(R)\}$ を群 $G$ の $\ell$ 次元既約表現とする.ある $\ell\times\ell$ 行列 $M$ が
を満たすなら,$M$ は単位行列の定数倍である:$M=cI$($c$ は複素数).
証明
第1歩:$M$ をHermiteだとしてよいことを示す.式 \eqref{eq:7-schur1} の両辺の $\dagger$ を取る.積の順序が逆になるので
$$ D(R)^\dagger M^\dagger = M^\dagger D(R)^\dagger $$表現はユニタリとしてよい(定理7.3)から $D(R)^\dagger=D(R)^{-1}$ であり
$$ D(R)^{-1}M^\dagger = M^\dagger D(R)^{-1} $$この式の両辺に,左からも右からも $D(R)$ を掛ける.左辺は $D(R)D(R)^{-1}M^\dagger D(R)=M^\dagger D(R)$,右辺は $D(R)M^\dagger D(R)^{-1}D(R)=D(R)M^\dagger$.したがって
$$ M^\dagger D(R) = D(R)M^\dagger $$すなわち$M^\dagger$ もまた式 \eqref{eq:7-schur1} を満たす.そこで
$$ H_1 \equiv M+M^\dagger,\qquad H_2\equiv i\left(M-M^\dagger\right) $$と置く.$H_1^\dagger = M^\dagger+M = H_1$,$H_2^\dagger = -i(M^\dagger-M)=i(M-M^\dagger)=H_2$ だから,どちらもHermiteである.そして式 \eqref{eq:7-schur1} は線形な関係なので,$H_1$ も $H_2$ もこれを満たす.逆に解けば
$$ H_1 - iH_2 = (M+M^\dagger) - i\cdot i(M-M^\dagger) = (M+M^\dagger)+(M-M^\dagger) = 2M \quad\Longrightarrow\quad M=\tfrac12\left(H_1-iH_2\right) $$よって,Hermite行列について $H=cI$ が示せれば,$M=\tfrac12(c_1-ic_2)I$ となって一般の $M$ についても結論が従う.以下 $M$ はHermiteとする.
第2歩:$M$ を対角化する.Hermiteだから,あるユニタリ行列 $V$ で
$$ V^\dagger M V = \Lambda = \mathrm{diag}(\lambda_1,\lambda_2,\dots,\lambda_\ell) $$と対角化できる(固有値 $\lambda_\mu$ は実数).ここで固有値の並べ方は自由なので,同じ値の固有値どうしが隣り合うように並べておく.同時に表現も $\tilde{D}(R)\equiv V^\dagger D(R)V$ と変換する.これは相似変換なので,$\tilde{D}$ も既約表現である.
式 \eqref{eq:7-schur1} を $V^\dagger\,(\cdots)\,V$ で挟むと
$$ V^\dagger M D(R)V = V^\dagger M VV^\dagger D(R)V = \Lambda\tilde{D}(R),\qquad V^\dagger D(R)MV = \tilde{D}(R)\Lambda $$したがって
$$ \Lambda\,\tilde{D}(R) = \tilde{D}(R)\,\Lambda $$第3歩:成分で書く.$\Lambda$ は対角行列なので,$\left[\Lambda\tilde{D}\right]_{\mu\nu} = \lambda_\mu \tilde{D}_{\mu\nu}$,$\left[\tilde{D}\Lambda\right]_{\mu\nu}=\tilde{D}_{\mu\nu}\lambda_\nu$.よって
これが証明の要である.式 \eqref{eq:7-schur1-key} は,$\lambda_\mu\neq\lambda_\nu$ なら $\tilde{D}(R)_{\mu\nu}=0$ がすべての $R$ について成り立つ,と言っている.
第4歩:既約性と矛盾させる.いま固有値が2種類以上あると仮定してみる.第2歩で同じ値どうしを隣り合わせに並べておいたので,添字 $1,\dots,\ell$ は「固有値の等しいかたまり」に区切られている.式 \eqref{eq:7-schur1-key} により,異なるかたまりにまたがる成分はすべてゼロである.つまり $\tilde{D}(R)$ は,かたまりを単位とするブロック対角行列になる——それも,群のすべての $R$ について同時に.
これは $\tilde{D}$ が可約であることを意味し,$\tilde{D}$(したがって $D$)が既約であるという仮定に反する.
第5歩:結論.よって固有値は1種類しかない.$\lambda_1=\cdots=\lambda_\ell\equiv c$ とすれば $\Lambda=cI$ であり,もとに戻して
$$ M = V\Lambda V^\dagger = V(cI)V^\dagger = c\,VV^\dagger = cI $$∎
系7.1 可換群の既約表現はすべて1次元
証明.$G$ を可換群(Abel群)とし,$\{D(R)\}$ をその既約表現とする.可換だから,任意に固定した元 $S$ に対して $D(S)D(R)=D(SR)=D(RS)=D(R)D(S)$ がすべての $R$ について成り立つ.つまり $M=D(S)$ は式 \eqref{eq:7-schur1} を満たす.Schurの補題 第1により
$$ D(S)=c_S I\qquad(\text{各 }S\text{ ごとに定数 }c_S) $$ところが,すべての行列が単位行列の定数倍なら,どの1次元部分空間も不変部分空間になってしまう.既約であるためには,そもそも真の部分空間が存在しない,すなわち $\ell=1$ でなければならない.∎
例題7.7 $C_3$ の既約表現をすべて求める
$C_3=\{E,A,B\}$($A^3=E$)は可換群である.系7.1より既約表現はすべて1次元.すべて求めよ.
解答.1次元表現では行列は数 $D(A)=\epsilon$ である.$A^3=E$ より $\epsilon^3=D(E)=1$.1の3乗根は
$$ \epsilon = 1,\quad \omega\equiv e^{2\pi i/3},\quad \omega^2 = e^{4\pi i/3} $$の3個.したがって既約表現は3個あり
| $E$ | $A$ | $B=A^2$ | |
|---|---|---|---|
| $\Gamma^{(1)}$ | $1$ | $1$ | $1$ |
| $\Gamma^{(2)}$ | $1$ | $\omega$ | $\omega^2$ |
| $\Gamma^{(3)}$ | $1$ | $\omega^2$ | $\omega^4=\omega$ |
∎ 次元の二乗和は $1^2+1^2+1^2=3=h$ となり,7.9節の次元定理を満たしている.なお $1+\omega+\omega^2=0$ である($\epsilon^3-1=(\epsilon-1)(\epsilon^2+\epsilon+1)=0$ で $\epsilon\neq1$ の根が $\omega,\omega^2$ だから).この関係は次節以降の直交性の計算で何度も使う.
7.7 Schurの補題 第2
これから何をするのか
第1の補題は,ひとつの既約表現の内部の話であった.第2の補題は,2つの異なる既約表現の間をつなぐ行列の話である.
$D^{(i)}$ と $D^{(j)}$ を既約表現とし,長方形かもしれない行列 $M$ が $D^{(i)}(R)M=MD^{(j)}(R)$ をすべての $R$ で満たしているとしよう.この式は「$M$ で移してから $i$ の言葉で回す」のと「$j$ の言葉で回してから $M$ で移す」のが同じ,という意味である.つまり $M$ は2つの表現の間の構造を保つ写像である.
主張は「そんな写像は,$M=0$(何も伝えない)か,$M$ が可逆(2つの表現は実は同じもの)か,どちらかしかない」というものである.中途半端な部分的つながりは許されない.証明の山場は $MM^\dagger$ を作って第1の補題に持ち込むところと,$M$ が正方でない場合を潰すところである.
定理7.5(Schurの補題 第2)
$D^{(i)}$(次元 $\ell_i$)と $D^{(j)}$(次元 $\ell_j$)を群 $G$ の既約表現とする.$\ell_i\times\ell_j$ 行列 $M$ が
を満たすとする.このとき
- $D^{(i)}$ と $D^{(j)}$ が非同値ならば $M=0$.
- $\ell_i\neq\ell_j$ ならば $M=0$.
- $M\neq0$ ならば $\ell_i=\ell_j$ かつ $M$ は正則で,$D^{(i)}$ と $D^{(j)}$ は同値である.
証明
第1歩:$\dagger$ を取った関係式を用意する.式 \eqref{eq:7-schur2} の両辺の $\dagger$ を取ると
$$ M^\dagger D^{(i)}(R)^\dagger = D^{(j)}(R)^\dagger M^\dagger $$ユニタリ性より $D(R)^\dagger = D(R)^{-1}=D(R^{-1})$(7.1.1節の導出)だから
$$ M^\dagger D^{(i)}(R^{-1}) = D^{(j)}(R^{-1})\,M^\dagger $$ここで $R$ が群全体を走れば $R^{-1}$ も群全体を走る(逆元は1対1対応).したがって $R^{-1}$ を改めて $R$ と書き直してよく
第2歩:$MM^\dagger$ が第1の補題の条件を満たす.$MM^\dagger$ は $\ell_i\times\ell_i$ の正方行列である.式 \eqref{eq:7-schur2} を使い,続いて式 \eqref{eq:7-schur2-dag} を使うと
$$ D^{(i)}(R)\,MM^\dagger \ \overset{\eqref{eq:7-schur2}}{=}\ M\,D^{(j)}(R)\,M^\dagger \ \overset{\eqref{eq:7-schur2-dag}}{=}\ M\,M^\dagger D^{(i)}(R) $$(2番目の等号では,式 \eqref{eq:7-schur2-dag} を右から左に読んで $D^{(j)}(R)M^\dagger = M^\dagger D^{(i)}(R)$ と置き換えた.)すなわち $MM^\dagger$ は $D^{(i)}$ のすべての行列と可換である.$D^{(i)}$ は既約だから,Schurの補題 第1により
第3歩:$\ell_i=\ell_j$ の場合.$M$ は正方行列である.
(a) $c\neq0$ のとき.式 \eqref{eq:7-MMdag} の両辺の行列式を取ると $\det M\cdot\det M^\dagger = c^{\ell_i}\neq0$,よって $\det M\neq0$ で $M$ は正則.すると式 \eqref{eq:7-schur2} の両辺に左から $M^{-1}$ を掛けて
$$ M^{-1}D^{(i)}(R)M = D^{(j)}(R) $$これは相似変換の式 \eqref{eq:7-sim} そのものであり,2つの表現は同値である.
(b) $c=0$ のとき.$MM^\dagger=0$ の対角成分を書き下すと
$$ \left(MM^\dagger\right)_{\mu\mu} = \sum_{\nu} M_{\mu\nu}\left(M^\dagger\right)_{\nu\mu} = \sum_\nu M_{\mu\nu}M^{*}_{\mu\nu} = \sum_\nu \left|M_{\mu\nu}\right|^2 = 0 $$絶対値の二乗の和がゼロなら各項がゼロだから,すべての $\mu,\nu$ で $M_{\mu\nu}=0$,すなわち $M=0$.
まとめると,次元が等しい場合は「同値であるか,$M=0$ か」の二者択一である.対偶を取れば,非同値なら $M=0$.
第4歩:$\ell_i\neq\ell_j$ の場合.まず $\ell_i>\ell_j$ とする($M$ は縦長).$M$ の右側に $\ell_i-\ell_j$ 本のゼロ列を継ぎ足して,$\ell_i\times\ell_i$ の正方行列 $N$ を作る:
$$ N \equiv \left(\,M \ \big|\ 0\,\right) $$すると $N^\dagger$ は $M^\dagger$ の下にゼロ行が並んだ形なので,ブロックで掛け算して
$$ NN^\dagger = \left(M\ \big|\ 0\right)\begin{pmatrix}M^\dagger\\ 0\end{pmatrix} = MM^\dagger + 0 = MM^\dagger = c\,I_{\ell_i} $$一方 $N$ にはゼロ列があるので $\det N=0$.したがって
$$ \det\left(NN^\dagger\right) = \det N\cdot\det N^\dagger = 0 $$ところが $\det\left(cI_{\ell_i}\right) = c^{\ell_i}$ だから
$$ c^{\ell_i}=0\quad\Longrightarrow\quad c=0\quad\Longrightarrow\quad MM^\dagger=0\quad\Longrightarrow\quad M=0 $$(最後の含意は第3歩(b)と同じ絶対値二乗和の議論である.)
次に $\ell_i<\ell_j$ の場合.式 \eqref{eq:7-schur2-dag} を見ると,これは $M^\dagger$($\ell_j\times\ell_i$ 行列)について $D^{(j)}(R)M^\dagger = M^\dagger D^{(i)}(R)$ という,$i$ と $j$ の役割を入れ替えた式 \eqref{eq:7-schur2} の形である.いまや $\ell_j>\ell_i$ なので,すぐ上の議論がそのまま使えて $M^\dagger=0$,したがって $M=0$.
∎ 以上ですべての場合が尽くされた.
補足:階数(rank)を使う別証明
第4歩は,線形代数の階数の言葉でも一行で片づく.$\ell_i<\ell_j$ とし,式 \eqref{eq:7-schur2-dag} と式 \eqref{eq:7-schur2} から $M^\dagger M$($\ell_j\times\ell_j$)が $D^{(j)}$ と可換であることが同様に示せるので,Schurの補題 第1より $M^\dagger M = c'I_{\ell_j}$.$c'\neq0$ なら $M^\dagger M$ の階数は $\ell_j$ になるが,階数の一般則 $\mathrm{rank}(M^\dagger M)\le \mathrm{rank}(M)\le\min(\ell_i,\ell_j)=\ell_i<\ell_j$ に反する.よって $c'=0$,すなわち $M=0$.
どちらの筋道でも結論は同じである.行列式を使う方がDresselhausの教科書の流儀に近い.
7.8 大直交定理
これから何をするのか
Schurの補題は「ある条件を満たす行列 $M$ は $0$ か $cI$ に限る」という形をしている.使うには,まずその条件を満たす $M$ を人工的に作らねばならない.作り方は決まっていて,群のすべての元にわたって和を取る——群平均を取る——のである.
作った $M$ にSchurの補題を適用すると「$M=0$」または「$M=cI$」という等式が得られる.ここで $M$ の中身は $D^{(i)}$ と $D^{(j)}$ の行列要素の積の和だから,この等式はそのまま行列要素どうしの関係式になる.それが大直交定理である.
山場は3つ.(1) 群平均で作った $M$ が確かにSchurの条件を満たすことを再配列定理で示す.(2) 任意行列 $X$ を「1箇所だけ $1$」の行列に選んで,欲しい成分だけを取り出す.(3) 係数 $c$ をトレースから決める.ここで $h/\ell_i$ が出てくる.
定理7.6(大直交定理, Wonderful Orthogonality Theorem)
群 $G$(位数 $h$)の互いに非同値な既約ユニタリ表現を $D^{(i)}$(次元 $\ell_i$)とする.このとき
証明
第1歩:群平均で $M$ を作る.$\ell_i\times\ell_j$ の任意の行列 $X$ を持ってきて
と定義する.次元を確認すると,$(\ell_i\times\ell_i)(\ell_i\times\ell_j)(\ell_j\times\ell_j)$ なので $M$ は $\ell_i\times\ell_j$ 行列である.
第2歩:$M$ がSchurの条件 \eqref{eq:7-schur2} を満たすことを示す.群の任意の元 $A$ を取り,$D^{(i)}(A)MD^{(j)}(A)^{-1}$ を計算する.式 \eqref{eq:7-Mdef} を代入して
$$ D^{(i)}(A)\,M\,D^{(j)}(A)^{-1} = \sum_R D^{(i)}(A)D^{(i)}(R)^{-1}\,X\,D^{(j)}(R)D^{(j)}(A)^{-1} $$ここで表現の性質 $D(A)D(R)^{-1}=D(A)D(R^{-1})=D(AR^{-1})$ と $D(R)D(A)^{-1}=D(RA^{-1})$ を使うと
$$ = \sum_R D^{(i)}\!\left(AR^{-1}\right)X\,D^{(j)}\!\left(RA^{-1}\right) $$ここで変数変換を行う.$S\equiv RA^{-1}$ と置くと $R=SA$ であり
$$ AR^{-1} = A(SA)^{-1} = A\,A^{-1}S^{-1} = S^{-1} $$となる.$A$ を固定して $R$ を群全体にわたらせると,$S=RA^{-1}$ も群全体をちょうど1回ずつ走る(再配列定理).したがって和の記号を $S$ に書き換えて
$$ = \sum_{S\in G} D^{(i)}\!\left(S^{-1}\right)X\,D^{(j)}(S) = \sum_S D^{(i)}(S)^{-1}X D^{(j)}(S) = M $$右から $D^{(j)}(A)$ を掛けて
$$ D^{(i)}(A)\,M = M\,D^{(j)}(A)\qquad(\text{すべての }A\in G) $$これはまさに式 \eqref{eq:7-schur2} である.$X$ が何であっても成り立つことに注意したい.
第3歩:$X$ の選び方.$X$ として,$(\mu,\alpha)$ 成分だけが $1$ で他はすべて $0$ の行列を取る:
$$ X_{\lambda\sigma} = \delta_{\lambda\mu}\,\delta_{\sigma\alpha} $$このとき $M$ の $(\nu,\beta)$ 成分を計算する.式 \eqref{eq:7-Mdef} を成分で書くと
$$ M_{\nu\beta} = \sum_R \sum_{\lambda,\sigma} \left[D^{(i)}(R)^{-1}\right]_{\nu\lambda} X_{\lambda\sigma}\left[D^{(j)}(R)\right]_{\sigma\beta} $$$X$ のおかげで $\lambda=\mu$, $\sigma=\alpha$ の項だけが残り
$$ M_{\nu\beta} = \sum_R \left[D^{(i)}(R)^{-1}\right]_{\nu\mu}\,D^{(j)}(R)_{\alpha\beta} $$ここでユニタリ性を使う.$\left[D^{-1}\right]_{\nu\mu}=\left[D^\dagger\right]_{\nu\mu}=D^{*}_{\mu\nu}$(添字が入れ替わることに注意)だから
右辺は,まさに大直交定理の左辺である.あとは $M_{\nu\beta}$ をSchurの補題で決めればよい.
第4歩:$i\neq j$(非同値)の場合.第2歩により $M$ はSchurの補題 第2の条件を満たす.非同値なので定理7.5より $M=0$,すなわちすべての成分がゼロ:
$$ \sum_R D^{(i)}(R)^{*}_{\mu\nu}D^{(j)}(R)_{\alpha\beta} = 0 $$これで式 \eqref{eq:7-got} の $\delta_{ij}$ が説明できた.
第5歩:$i=j$ の場合.このとき式 \eqref{eq:7-Mdef} は $M=\sum_R D^{(i)}(R)^{-1}XD^{(i)}(R)$ となり,第2歩の結論は $D^{(i)}(A)M=MD^{(i)}(A)$,つまり$M$ は既約表現 $D^{(i)}$ と可換である.Schurの補題 第1(定理7.4)より
$$ M = c\,I_{\ell_i}\qquad\Longrightarrow\qquad M_{\nu\beta} = c\,\delta_{\nu\beta} $$これで式 \eqref{eq:7-got} の $\delta_{\nu\beta}$ が出た.定数 $c$ は $X$ の選び方に依るので,いま選んだ $X$($(\mu,\alpha)$ 成分だけ $1$)に対する値を $c_{\mu\alpha}$ と書く.
第6歩:$c_{\mu\alpha}$ をトレースから決める.ここが $h/\ell_i$ の出どころである.$M=c_{\mu\alpha}I_{\ell_i}$ のトレースを2通りに計算して比べる.
まず右辺から:
$$ \Tr M = \Tr\left(c_{\mu\alpha}I_{\ell_i}\right) = c_{\mu\alpha}\,\ell_i $$次に定義 \eqref{eq:7-Mdef} から:
$$ \Tr M = \sum_R \Tr\left[D^{(i)}(R)^{-1}X D^{(i)}(R)\right] $$トレースの巡回性 $\Tr(ABC)=\Tr(CAB)$ により,各項について
$$ \Tr\left[D^{(i)}(R)^{-1}XD^{(i)}(R)\right] = \Tr\left[D^{(i)}(R)D^{(i)}(R)^{-1}X\right] = \Tr\left[I\,X\right] = \Tr X $$$R$ に依らない値なので,$h$ 個の項がすべて同じ値になり
$$ \Tr M = h\,\Tr X $$いま $X$ は $(\mu,\alpha)$ 成分だけが $1$ だから,対角成分の和は $\mu=\alpha$ のときだけ $1$,そうでなければ $0$:
$$ \Tr X = \sum_\lambda X_{\lambda\lambda} = \delta_{\mu\alpha} $$したがって
$$ c_{\mu\alpha}\,\ell_i = h\,\delta_{\mu\alpha} \qquad\Longrightarrow\qquad c_{\mu\alpha} = \frac{h}{\ell_i}\,\delta_{\mu\alpha} $$第7歩:まとめる.第5歩と第6歩を式 \eqref{eq:7-Mcomp} に代入して
$$ \sum_R D^{(i)}(R)^{*}_{\mu\nu}D^{(i)}(R)_{\alpha\beta} = \frac{h}{\ell_i}\delta_{\mu\alpha}\delta_{\nu\beta} $$第4歩の結果と合わせれば,式 \eqref{eq:7-got} が得られる.∎
物理的意味:これは「ベクトルの直交関係」である
群の元 $R$ を $1$ から $h$ まで番号を振ったラベルだと思うと,$D^{(i)}(R)_{\mu\nu}$ は $R$ を動かして得られる$h$ 個の数の並び,すなわち $h$ 次元ベクトルとみなせる.これを
$$ \bm{V}^{(i)}_{\mu\nu} \equiv \Big(D^{(i)}(R_1)_{\mu\nu},\ D^{(i)}(R_2)_{\mu\nu},\ \dots,\ D^{(i)}(R_h)_{\mu\nu}\Big) $$と書こう.すると式 \eqref{eq:7-got} の左辺は,まさに $\bm{V}^{(i)}_{\mu\nu}$ と $\bm{V}^{(j)}_{\alpha\beta}$ の(複素)内積である.定理は次のように読める.
- 表現が違えば($i\neq j$)内積はゼロ.
- 同じ表現でも,行列要素の場所が違えば($(\mu,\nu)\neq(\alpha,\beta)$)内積はゼロ.
- 自分自身との内積(ノルムの二乗)は $h/\ell_i$.
つまりすべての既約表現のすべての行列要素は,$h$ 次元空間の中で互いに直交するベクトルの集まりをなす.これが「大直交定理」の名の由来であり,7.10節で見るように,$\sum_i\ell_i^2\le h$ という不等式はこの幾何学から直ちに従う(等号すなわち次元定理が成り立つことを言うには,7.9節の正則表現の議論が必要である).
例題7.8 $C_{3v}$ で大直交定理を数値で確かめる
$C_{3v}$($h=6$)の3つの既約表現 $A_1$($\ell=1$),$A_2$($\ell=1$),$E$($\ell=2$)の行列要素を全部並べ,直交性を確認せよ.
解答.$E$ 表現の行列は7.1.3節の $2\times2$ ブロックである.すべて実行列なので複素共役は不要である.以下,既約表現 $i$ の $(\mu,\nu)$ 成分を6個の元について並べた6次元ベクトルを $\bm{V}^{(i)}_{\mu\nu}$ と書く.上付きが既約表現の名前,下付きが行列要素の番号である.1次元表現には成分がひとつしかないので $\mu\nu=11$ とする.列見出しの $E$ は恒等元,上付きの $E$ は2次元既約表現であって,両者は別物である(前掲の注意箱).行列要素を表にすると次のようになる.
| $\bm{V}^{(i)}_{\mu\nu}$ | $E$ | $C_3$ | $C_3^2$ | $\sigma_1$ | $\sigma_2$ | $\sigma_3$ | ノルム$^2$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $\bm{V}^{(A_1)}_{11}$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ | $6=6/1$ |
| $\bm{V}^{(A_2)}_{11}$ | $1$ | $1$ | $1$ | $-1$ | $-1$ | $-1$ | $6=6/1$ |
| $\bm{V}^{(E)}_{11}$ | $1$ | $-\tfrac12$ | $-\tfrac12$ | $1$ | $-\tfrac12$ | $-\tfrac12$ | $3=6/2$ |
| $\bm{V}^{(E)}_{12}$ | $0$ | $-\tfrac{\sqrt3}{2}$ | $\tfrac{\sqrt3}{2}$ | $0$ | $\tfrac{\sqrt3}{2}$ | $-\tfrac{\sqrt3}{2}$ | $3=6/2$ |
| $\bm{V}^{(E)}_{21}$ | $0$ | $\tfrac{\sqrt3}{2}$ | $-\tfrac{\sqrt3}{2}$ | $0$ | $\tfrac{\sqrt3}{2}$ | $-\tfrac{\sqrt3}{2}$ | $3=6/2$ |
| $\bm{V}^{(E)}_{22}$ | $1$ | $-\tfrac12$ | $-\tfrac12$ | $-1$ | $\tfrac12$ | $\tfrac12$ | $3=6/2$ |
ノルムの二乗を確かめる.$\bm{V}^{(E)}_{11}$ の行なら
$$ 1^2+\left(-\tfrac12\right)^2+\left(-\tfrac12\right)^2+1^2+\left(-\tfrac12\right)^2+\left(-\tfrac12\right)^2 = 1+\tfrac14+\tfrac14+1+\tfrac14+\tfrac14 = 3 = \frac{h}{\ell_E}=\frac{6}{2}\quad\checkmark $$$\bm{V}^{(E)}_{12}$ の行なら $0+\tfrac34+\tfrac34+0+\tfrac34+\tfrac34=3$ ✓.$\bm{V}^{(A_1)}_{11}$ の行なら $6=6/1$ ✓.
直交性をいくつか確かめる.$\bm{V}^{(A_1)}_{11}$ と $\bm{V}^{(E)}_{11}$:
$$ 1\cdot1 + 1\cdot\left(-\tfrac12\right)+1\cdot\left(-\tfrac12\right)+1\cdot1+1\cdot\left(-\tfrac12\right)+1\cdot\left(-\tfrac12\right) = 1-\tfrac12-\tfrac12+1-\tfrac12-\tfrac12 = 0\quad\checkmark $$$\bm{V}^{(E)}_{11}$ と $\bm{V}^{(E)}_{12}$(同じ表現,異なる成分):
$$ 1\cdot0+\left(-\tfrac12\right)\left(-\tfrac{\sqrt3}{2}\right)+\left(-\tfrac12\right)\left(\tfrac{\sqrt3}{2}\right)+1\cdot0+\left(-\tfrac12\right)\left(\tfrac{\sqrt3}{2}\right)+\left(-\tfrac12\right)\left(-\tfrac{\sqrt3}{2}\right) $$ $$ = 0+\tfrac{\sqrt3}{4}-\tfrac{\sqrt3}{4}+0-\tfrac{\sqrt3}{4}+\tfrac{\sqrt3}{4}=0\quad\checkmark $$$\bm{V}^{(E)}_{12}$ と $\bm{V}^{(E)}_{21}$($\mu\nu=12$ と $\alpha\beta=21$,$\delta_{\mu\alpha}\delta_{\nu\beta}=0$ なのでゼロのはず):
$$ 0+\left(-\tfrac{\sqrt3}{2}\right)\left(\tfrac{\sqrt3}{2}\right)+\left(\tfrac{\sqrt3}{2}\right)\left(-\tfrac{\sqrt3}{2}\right)+0+\left(\tfrac{\sqrt3}{2}\right)^2+\left(-\tfrac{\sqrt3}{2}\right)^2 = -\tfrac34-\tfrac34+\tfrac34+\tfrac34 = 0\quad\checkmark $$$\bm{V}^{(E)}_{11}$ と $\bm{V}^{(E)}_{22}$(同じ表現の対角成分どうしだが $\mu\nu=11$, $\alpha\beta=22$ なのでやはりゼロのはず):
$$ 1\cdot1+\tfrac14+\tfrac14+1\cdot(-1)+\left(-\tfrac12\right)\left(\tfrac12\right)+\left(-\tfrac12\right)\left(\tfrac12\right) =1+\tfrac14+\tfrac14-1-\tfrac14-\tfrac14 = 0\quad\checkmark $$∎ 6本のベクトルはすべて互いに直交し,$6$ 次元空間をちょうど張り切っている.$1^2+1^2+2^2=6$ という数え上げが,この「ちょうど」を保証している.
7.9 次元定理 $\sum_i \ell_i^2 = h$
大直交定理の最初の果実を収穫する.既約表現の次元は好き勝手な値を取れず,その二乗の総和が群の位数にぴったり等しい,という強い制約がかかる.
7.9.1 指標の直交定理(大直交定理の系)
導出:行列要素の直交から指標の直交へ
大直交定理 \eqref{eq:7-got} で,$\nu=\mu$ かつ $\beta=\alpha$ と置く(対角成分だけを見る).
$$ \sum_R D^{(i)}(R)^{*}_{\mu\mu}D^{(j)}(R)_{\alpha\alpha} = \frac{h}{\ell_i}\delta_{ij}\delta_{\mu\alpha}\delta_{\mu\alpha} $$さらに $\mu$ について $1$ から $\ell_i$ まで,$\alpha$ について $1$ から $\ell_j$ まで和を取る.左辺は
$$ \sum_R \left(\sum_\mu D^{(i)}(R)^{*}_{\mu\mu}\right)\left(\sum_\alpha D^{(j)}(R)_{\alpha\alpha}\right) = \sum_R \chi^{(i)}(R)^{*}\chi^{(j)}(R) $$となる(トレースの定義そのもの).右辺は $\delta_{\mu\alpha}\delta_{\mu\alpha}=\delta_{\mu\alpha}$ に注意して
$$ \frac{h}{\ell_i}\delta_{ij}\sum_{\mu,\alpha}\delta_{\mu\alpha} = \frac{h}{\ell_i}\delta_{ij}\cdot\ell_i = h\,\delta_{ij} $$($i=j$ のときだけ意味があり,そのとき $\sum_{\mu\alpha}\delta_{\mu\alpha}=\ell_i$ である.)よって
∎ 指標の直交定理である.$\ell_i$ がきれいに消えて $h$ だけが残るのが美しい.第8章はこの式から出発する.
導出:既約分解の公式
可約表現 $\Gamma$ が既約表現を $\Gamma=\bigoplus_i a_i\Gamma^{(i)}$ と含むとき,指標は $\chi(R)=\sum_i a_i\chi^{(i)}(R)$ であった(7.4.1節).両辺に $\chi^{(j)}(R)^{*}$ を掛けて $R$ について和を取ると
$$ \sum_R \chi^{(j)}(R)^{*}\chi(R) = \sum_i a_i\sum_R\chi^{(j)}(R)^{*}\chi^{(i)}(R) = \sum_i a_i\,h\,\delta_{ij} = h\,a_j $$したがって
∎ 指標さえ分かれば,どの既約表現が何回入っているかが割り算1回で決まる.第8章以降で最も頻繁に使う公式である.
7.9.2 正則表現を分解する
定理7.7(次元定理)
群 $G$(位数 $h$)の互いに非同値な既約表現の次元を $\ell_1,\ell_2,\dots$ とすると
証明:正則表現に既約分解の公式を当てる
正則表現 $D^{\rm reg}$(次元 $h$)の指標は,定理7.1より $\chi^{\rm reg}(E)=h$,$R\neq E$ では $\chi^{\rm reg}(R)=0$ であった.
この極端な形が効く.式 \eqref{eq:7-reduction} の和は$R=E$ の項だけが生き残り
$$ a_i = \frac{1}{h}\sum_R \chi^{(i)}(R)^{*}\chi^{\rm reg}(R) = \frac{1}{h}\,\chi^{(i)}(E)^{*}\cdot h = \chi^{(i)}(E) $$ところが $\chi^{(i)}(E)=\Tr D^{(i)}(E)=\Tr I_{\ell_i}=\ell_i$ である.すなわち
正則表現は,各既約表現をちょうどその次元の回数だけ含む.これ自体が重要な結論である.
次に,次元の勘定を書く.可約表現の次元は各既約成分の次元の和だから
$$ h = \dim D^{\rm reg} = \sum_i a_i\,\ell_i = \sum_i \ell_i\cdot\ell_i = \sum_i \ell_i^2 $$∎ 同じことは指標を $R=E$ で評価しても出る:$\chi^{\rm reg}(E)=h$ と $\sum_i a_i\chi^{(i)}(E)=\sum_i\ell_i^2$ を等置すればよい.
7.9.3 具体例で確かめる
例題7.9 $C_{3v}$,$C_{4v}$,$O_h$ で次元定理を確認する
(a) $C_{3v}$($h=6$).既約表現は $A_1$(1次元),$A_2$(1次元),$E$(2次元)の3つ.
$$ 1^2+1^2+2^2 = 1+1+4 = 6 = h\quad\checkmark $$(b) $C_{4v}$($h=8$).共役類は $\{E\}$, $\{C_4,C_4^3\}$, $\{C_2\}$, $\{\sigma_v,\sigma_v'\}$, $\{\sigma_d,\sigma_d'\}$ の5個である.第8章で示すように既約表現の個数は共役類の個数に等しいので,既約表現は5個.次元を $\ell_1,\dots,\ell_5$ として
$$ \ell_1^2+\ell_2^2+\ell_3^2+\ell_4^2+\ell_5^2 = 8 $$各 $\ell_i$ は1以上の整数であり,恒等表現があるので少なくとも1個は $\ell=1$ である.5個の平方数の和が8になる組み合わせを探すと,$1+1+1+1+4$ しかない($1+1+1+1+1=5$ では足りず,$4$ を2個使うと $4+4+1+1+1=11$ で超える).よって
$$ (\ell_i) = (1,1,1,1,2)\quad\checkmark $$つまり $C_{4v}$ には1次元既約表現が4個と2次元既約表現が1個ある($A_1, A_2, B_1, B_2, E$).指標表を作る前に,次元だけが先に決まってしまうのである.
(c) $O_h$($h=48$).$O_h = O\times\{E,i\}$ という直積構造から,$O$ の各既約表現が $g$(偶)と $u$(奇)の2つに分かれる.まず $O$($h=24$,共役類は $E, 8C_3, 3C_2, 6C_4, 6C_2'$ の5個)について
$$ \sum \ell^2 = 24,\qquad 5\ \text{項},\qquad \ell_1=1 $$を満たす組み合わせを探す.まず $\ell\ge5$ だと $\ell^2\ge25>24$ で1個だけでも超えてしまうから,$\ell$ は $1,2,3,4$ に限られる.次元が $1,2,3,4$ である既約表現の個数をそれぞれ $n_1,n_2,n_3,n_4$ と置くと
$$ n_1+n_2+n_3+n_4 = 5,\qquad n_1+4n_2+9n_3+16n_4 = 24 $$である.第1式を第2式から引くと $3n_2+8n_3+15n_4=19$ となる.左辺の各項は非負だから $15n_4\le19$ より $n_4\le1$,$8n_3\le19$ より $n_3\le2$ である.$n_4=1$ なら $3n_2+8n_3=4$ で非負整数解がない.$n_4=0$ なら,$n_3=2$ のとき $3n_2=3$ すなわち $n_2=1$ が残り,$n_3=1$ なら $3n_2=11$,$n_3=0$ なら $3n_2=19$ でいずれも整数にならない.よって $(n_1,n_2,n_3,n_4)=(2,1,2,0)$,すなわち $1+1+4+9+9=24$ が唯一の解である.したがって $O$ の既約表現は $(1,1,2,3,3)$ = $A_1, A_2, E, T_1, T_2$.$O_h$ ではこれが $g/u$ で倍になるから
$$ \sum_i\ell_i^2 = 2\times(1+1+4+9+9) = 2\times24 = 48 = h\quad\checkmark $$∎ 10個の既約表現 $A_{1g},A_{2g},E_g,T_{1g},T_{2g},A_{1u},A_{2u},E_u,T_{1u},T_{2u}$ である.$3$ 次元既約表現が存在することが,立方対称の場で3重縮退が起こりうることの群論的な根拠になる.第10章で $d$ 軌道が $E_g\oplus T_{2g}$ に割れる計算をするとき,この $2$ と $3$ がそのまま縮退度として現れる.
物理的意味:縮退度は勝手な値を取れない
次元定理は,「その対称性のもとで許される縮退度」を厳しく制限する.$O_h$ 対称の結晶場では,既約表現の次元が $1,2,3$ しかないのだから,偶然縮退を除けば,電子準位の縮退度は1, 2, 3 のいずれかにしかなりえない.4重縮退や5重縮退は $O_h$ では起こらない.ただしこれは,スピンを無視した(軌道部分だけの)話である.スピン軌道相互作用を取り込むと二重群(double group)を使わねばならず,そこには4次元の既約表現があるので,4重縮退は $O_h$ 対称でも実際に起こる(第11章).
自由原子の $d$ 軌道は5重縮退(方位量子数 $\ell=2$ に対する $2\ell+1=5$.ここでの $\ell$ は方位量子数であって,既約表現の次元ではない)だが,これは球対称群 $O(3)$ の既約表現である.結晶に入れて対称性を $O_h$ に落とすと,$5$ 次元の既約表現はもう存在しないので,必ず割れる.次元定理から言えるのはここまでである.どう割れるかは次元の数え上げでは決まらない.$O_h$ の既約表現の次元は $1,2,3$ なので,$5=2+3$ のほかに $5=1+1+3$ も $5=1+2+2$ も数の上では可能だからである(実際 $d$ 軌道は $D_{4h}$ の場では $1+1+1+2$ に割れる).$E_g\oplus T_{2g}$ と決まるのは,$d$ 軌道の指標を計算して既約分解の公式 \eqref{eq:7-reduction} に入れて初めてである(第10章).結晶場分裂が起こることそのものが,次元定理の帰結なのである.
7.10 幾何学的な読み方
7.8節の物理的意味の箱で述べたように,大直交定理は「$h$ 次元空間の中でベクトルが直交している」と読める.この視点に立つと,次元定理 \eqref{eq:7-dim} が当たり前のことに見えてくる.
なぜ:$\sum_i\ell_i^2\le h$ は数えるだけで分かる
ベクトル $\bm{V}^{(i)}_{\mu\nu}$ は何本あるか.既約表現 $i$ ごとに,行の添字 $\mu$ が $\ell_i$ 通り,列の添字 $\nu$ が $\ell_i$ 通りだから $\ell_i\times\ell_i=\ell_i^2$ 本.すべての既約表現を合わせて
$$ \text{本数} = \sum_i \ell_i^2 $$一方,これらはすべて $h$ 次元のベクトル空間の中の要素であり,大直交定理により互いに直交する.$h$ 次元空間に入る互いに直交するゼロでないベクトルは,たかだか $h$ 本である(線形代数の基本事実:直交する非ゼロベクトルは一次独立).したがって
$$ \sum_i \ell_i^2 \ \le\ h $$不等式まではこれで出る.等号が成り立つ——つまり直交ベクトルが $h$ 次元空間をちょうど張り切る——ことを言うには,7.9節の正則表現の議論が必要である.正則表現は $h$ 次元であり,そこに既約表現が過不足なく詰まっていることが「余りがない」ことの保証になっている.
補足:規格化すれば正規直交基底になる
大直交定理 \eqref{eq:7-got} を $h/\ell_i$ で割った形,すなわち
$$ \sqrt{\frac{\ell_i}{h}}\,D^{(i)}(R)_{\mu\nu} $$を成分とするベクトルを考えれば,ノルムがちょうど $1$ になる.したがってこれらは $h$ 次元空間の正規直交完全系をなす.完全系だということは,$h$ 個の成分を持つ任意の量(群の元の関数)を,既約表現の行列要素で展開できるということである.第9章の射影演算子は,まさにこの展開係数を取り出す道具にほかならない.
7.11 まとめと演習
7.11.1 まとめ
- 表現とは,群の元 $R$ に正則行列 $D(R)$ を対応させ,$D(R)D(S)=D(RS)$ を満たすものである.定義から自動的に $D(E)=I$,$D(R^{-1})=D(R)^{-1}$ が従う.位数 $h$ と次元 $\ell$ を混同しないこと.
- 対称操作で閉じた関数の組を用意すれば,$\hat{P}_R\phi_j=\sum_i\phi_i D(R)_{ij}$ により表現が自動的に作れる.量子力学では,縮退した固有関数の組がこの役割を果たす.
- 恒等表現はどんな群にも存在する1次元表現.正則表現は積表から作る $h$ 次元表現で,指標は $\chi^{\rm reg}(E)=h$,それ以外は $0$.
- 相似変換 $D'=U^{-1}DU$ で移り合う表現は同値であり,同じものとみなす.トレース(指標)は相似変換で不変な量である.$C_{3v}$ の $(x,y,z)$ 表現と正三角形3頂点の置換表現は,見た目は全く違うが同値である.
- 不変部分空間を持つ表現が可約,持たないものが既約.有限群の表現は完全可約で,ひとつの $U$ によって群の全元が同時にブロック対角化される.$C_{3v}$ の3次元表現は $A_1\oplus E$.
- ユニタリ性定理:$H=\sum_R D(R)D(R)^\dagger$ を作って対角化し,$d^{-1/2}$ で挟めば,任意の表現をユニタリにできる.以後 $D^{-1}=D^\dagger$ が自由に使える.
- Schurの補題 第1:既約表現の全行列と可換な $M$ は $cI$ に限る.要は「$M$ を対角化すると $(\lambda_\mu-\lambda_\nu)\tilde D_{\mu\nu}=0$ となり,固有値が2種類以上あるとブロック対角=可約になってしまう」ということ.系として,可換群の既約表現はすべて1次元.
- Schurの補題 第2:$D^{(i)}(R)M=MD^{(j)}(R)$ なら,$M=0$ か,$M$ が可逆で2つの表現が同値か,どちらかしかない.$MM^\dagger$ を作って第1の補題に帰着させ,$M$ が正方でない場合はゼロ列を継ぎ足して $\det=0$ から $c=0$ を出す.
- 大直交定理 \eqref{eq:7-got}.$M=\sum_R D^{(i)}(R)^{-1}XD^{(j)}(R)$ という群平均を作れば,再配列定理によりSchurの条件が満たされる.$X$ を「1箇所だけ $1$」に選ぶと欲しい成分が取り出せ,係数 $h/\ell_i$ はトレースの巡回性から出る.
- 系として指標の直交定理 \eqref{eq:7-charorth} と既約分解の公式 \eqref{eq:7-reduction}.
- 次元定理 $\sum_i\ell_i^2=h$.正則表現が各既約表現をちょうど $\ell_i$ 回含むことから従う.$C_{3v}$:$1+1+4=6$.$C_{4v}$:$1+1+1+1+4=8$.$O_h$:$2(1+1+4+9+9)=48$.
- 幾何学的には,既約表現の行列要素は $h$ 次元空間の直交ベクトルであり,その本数 $\sum_i\ell_i^2$ が空間の次元 $h$ とぴったり一致する.既約表現の次元が縮退度の上限を決めるので,スピンを無視し偶然縮退を除けば,$O_h$ では4重以上の縮退が起こらない.
7.11.2 演習問題
演習7.1 $C_3$ で大直交定理を確かめる
例題7.7で求めた $C_3$ の3つの1次元既約表現 $\Gamma^{(1)},\Gamma^{(2)},\Gamma^{(3)}$ について,式 \eqref{eq:7-got} を直接確かめよ.すなわち
(1) 各表現について $\sum_R |D^{(i)}(R)|^2 = h/\ell_i = 3$ を確かめよ.
(2) 異なる表現の間で $\sum_R D^{(i)}(R)^{*}D^{(j)}(R)=0$ を確かめよ.
ヒント:(1) $|1|^2+|\omega|^2+|\omega^2|^2=1+1+1=3$($|\omega|=1$ に注意).(2) たとえば $i=1, j=2$ なら $1^{*}\cdot1+1^{*}\cdot\omega+1^{*}\cdot\omega^2 = 1+\omega+\omega^2 = 0$.$i=2, j=3$ なら $1^{*}\cdot1+\omega^{*}\omega^2+(\omega^2)^{*}\omega^4$ である.$\omega^{*}=\omega^{-1}=\omega^2$ と $\omega^3=1$ を使うと,第2項は $\omega^2\cdot\omega^2=\omega^4=\omega$,第3項は $\omega\cdot\omega=\omega^2$.合計して $1+\omega+\omega^2=0$ に帰着する.
演習7.2 ユニタリ表現では直交補空間も不変
$\{D(R)\}$ をユニタリ表現,$W$ をその不変部分空間とする.$W$ の直交補空間
$$ W^\perp = \{\,v\ \mid\ \langle w, v\rangle = 0\ \ \text{for all}\ w\in W\,\} $$もまた不変部分空間であることを示せ.これにより,7.4.1節で述べた「ブロック三角形」が「ブロック対角」に格上げされることを説明せよ.
ヒント:$v\in W^\perp$ とし,任意の $w\in W$ について $\langle w, D(R)v\rangle$ を評価する.ユニタリ性から $\langle w, D(R)v\rangle = \langle D(R)^\dagger w, v\rangle = \langle D(R^{-1})w, v\rangle$.$W$ は不変なので $D(R^{-1})w\in W$ であり,$v\in W^\perp$ だからこの内積はゼロ.よって $D(R)v\in W^\perp$.
演習7.3 非ユニタリな表現をユニタリ化する
位数2の群 $C_2=\{E,A\}$($A^2=E$)の2次元表現として
$$ D(E)=\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix},\qquad D(A)=\begin{pmatrix}-1&1\\0&1\end{pmatrix} $$を考える.
(1) $D(A)^2=I$ を確かめ,これが確かに表現であることを示せ.
(2) $D(A)$ はユニタリでないことを示せ.
(3) $H=\sum_R D(R)D(R)^\dagger$ を計算し,Hermiteかつ正定値であることを確かめよ.
(4) 定理7.3の手続きで得られる $D'(A)$ は,結局どんな行列と同値か.指標から予想せよ.
ヒント:(1) $\begin{pmatrix}-1&1\\0&1\end{pmatrix}^2=\begin{pmatrix}1&-1+1\\0&1\end{pmatrix}=I$.(3) $H=I+\begin{pmatrix}-1&1\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-1&0\\1&1\end{pmatrix}=I+\begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}3&1\\1&2\end{pmatrix}$.固有値は $\lambda^2-5\lambda+5=0$ より $\lambda=(5\pm\sqrt5)/2>0$.(4) $\Tr D(A)=0$ かつ $D(A)^2=I$ なので固有値は $+1$ と $-1$.よって $D'(A)\sim\mathrm{diag}(1,-1)$ で,これはユニタリである.
演習7.4 表7.3を完成させる
例題7.8の表7.3について,まだ確かめていない内積をすべて計算し,6本のベクトルが互いに直交することを確認せよ.表7.3の記号にならい,行ベクトルを $\bm{V}^{(i)}_{\mu\nu}$ と書く.具体的には $\bm{V}^{(A_1)}_{11}\cdot\bm{V}^{(A_2)}_{11}$, $\bm{V}^{(A_1)}_{11}\cdot\bm{V}^{(E)}_{12}$, $\bm{V}^{(A_1)}_{11}\cdot\bm{V}^{(E)}_{21}$, $\bm{V}^{(A_1)}_{11}\cdot\bm{V}^{(E)}_{22}$, $\bm{V}^{(A_2)}_{11}\cdot\bm{V}^{(E)}_{11}$, $\bm{V}^{(A_2)}_{11}\cdot\bm{V}^{(E)}_{12}$, $\bm{V}^{(A_2)}_{11}\cdot\bm{V}^{(E)}_{21}$, $\bm{V}^{(A_2)}_{11}\cdot\bm{V}^{(E)}_{22}$, $\bm{V}^{(E)}_{11}\cdot\bm{V}^{(E)}_{21}$, $\bm{V}^{(E)}_{12}\cdot\bm{V}^{(E)}_{22}$, $\bm{V}^{(E)}_{21}\cdot\bm{V}^{(E)}_{22}$ の11個である.
ヒント:$\bm{V}^{(A_1)}_{11}\cdot\bm{V}^{(A_2)}_{11} = 1+1+1-1-1-1=0$.$\bm{V}^{(A_2)}_{11}\cdot\bm{V}^{(E)}_{22}=1-\tfrac12-\tfrac12+1-\tfrac12-\tfrac12=0$($\sigma$ の列で $A_2$ の $-1$ と $E$ の $-1,\tfrac12,\tfrac12$ の積を取ることに注意).$\bm{V}^{(E)}_{12}$ と $\bm{V}^{(E)}_{21}$ を含む内積では,恒等元 $E$ の列と $\sigma_1$ の列がゼロなので計算が軽い.すべて $0$ になる.
演習7.5 次元定理から既約表現の次元を決める
次の群について,共役類の個数と位数から既約表現の次元の組を決定せよ(既約表現の個数=共役類の個数を使ってよい).
(1) $C_{2v}$:$h=4$,共役類 $\{E\},\{C_2\},\{\sigma_v\},\{\sigma_v'\}$ の4個
(2) $D_3=C_{3v}$ と同型:$h=6$,共役類3個
(3) $T_d$:$h=24$,共役類 $E, 8C_3, 3C_2, 6S_4, 6\sigma_d$ の5個
(4) $D_{6h}$:$h=24$,共役類12個
ヒント:(1) 4個の平方数の和が4 → $1+1+1+1$.すべて1次元(可換群だから系7.1とも整合する).(2) 3個で和が6 → $1+1+4$.(3) 5個で和が24 → $1+1+4+9+9$($O$ と同じ).(4) 12個で和が24 → $1$ が8個と $4$ が4個,すなわち $1,1,1,1,1,1,1,1,2,2,2,2$.
演習7.6 Schurの補題を使って群平均を評価する
既約表現 $D^{(i)}$(次元 $\ell_i$ は $1$ でもよい)について,群平均
$$ \bar{D}\equiv\frac{1}{h}\sum_{R\in G}D^{(i)}(R) $$を考える.
(1) 任意の $A\in G$ について $D^{(i)}(A)\bar{D}=\bar{D}$ が成り立つことを,再配列定理を使って示せ.
(2) (1) から $\bar{D}$ が $D^{(i)}$ のすべての行列と可換であることを導き,Schurの補題 第1を適用して $\bar{D}=cI$ とせよ.
(3) $c$ を決定し,恒等表現でない既約表現については $\bar{D}=0$,すなわち
$$ \sum_{R\in G}D^{(i)}(R)_{\mu\nu}=0\qquad(\Gamma^{(i)}\neq\text{恒等表現}) $$となることを示せ.$\ell_i\ge2$ の場合と,$\ell_i=1$ で恒等表現でない場合とに分けて考えるとよい.
ヒント:(1) $D^{(i)}(A)\bar D = \frac1h\sum_R D^{(i)}(AR)$ で,$AR$ は群全体を1回ずつ走る.(2) 同様に $\bar{D}D^{(i)}(A)=\bar D$ も示せるので $D^{(i)}(A)\bar D = \bar D D^{(i)}(A)$.(3) $\bar D = cI$ を (1) に代入すると $cD^{(i)}(A)=cI$.$\ell_i\ge2$ の既約表現では $D^{(i)}(A)\neq I$ となる $A$ が必ずあるので $c=0$.1次元の非恒等表現でも同様に $c=0$.なお $\Gamma^{(i)}$ が恒等表現なら $\bar D=1$ である.この結果は,大直交定理 \eqref{eq:7-got} で $j$ を恒等表現に取った特別な場合にあたる.
参考文献
- M. S. Dresselhaus, G. Dresselhaus, A. Jorio, Group Theory: Application to the Physics of Condensed Matter, Springer (2008), Chapter 2. —— 本章はこの章に沿っている.Wonderful Orthogonality Theorem という呼び名もここから.
- 望月 泰英「物質の対称性と群論 3. 表現論の基礎」望月研究室勉強会資料(2026年4月24日).—— 既約表現と縮退の対応,$\sum_i\ell_i^2=h$ の使い方.
- 今野 豊彦『物質の対称性と群論』共立出版,第3章.—— Schurの補題と大直交定理の日本語での標準的な記述.
- M. Tinkham, Group Theory and Quantum Mechanics, McGraw-Hill (1964), Chapter 3. —— 証明の筋道が簡潔で,本章の補助に適する.
- 犬井 鉄郎・田辺 行人・小野寺 嘉孝『応用群論(増補版)』裳華房.—— 表現論の細部(完全可約性,実表現と複素表現の区別など)を確認したいときに.