固体物理学入門 — 目次 第I部 結晶をどう記述するか / 第4章

第4章32の結晶点群

第1章から第3章までで,結晶を「どこに何を置くか」という言葉で記述する術を身につけた.本章からは,その結晶がどんな対称性を持つかを数え上げる.

結晶の対称性は,並進を含まない操作(回転・鏡映・反転など)と,並進を含む操作(らせん軸・グライド面)に分かれる.前者だけを集めたものが点群(point group)であり,3次元の結晶で許されるものはちょうど32種類しかない.本章の目標は,この32という数を暗記するのではなく,なぜ32で尽きるのかを自分で追えるようになることである.

鍵になるのが 結晶制限定理 である.並進対称性があるという,たったそれだけの条件から,許される回転が1, 2, 3, 4, 6回の5種類に限られてしまう.5回対称も7回対称も存在できない.この定理が,無限にありそうな対称性の可能性を,一気に有限個へと絞り込む.

本章の最後では,点群と物性の関係に触れる.中心対称性の有無が圧電性の可否を,極性の有無が焦電性の可否を分け,強誘電体の探索が「新規超伝導体の探索より困難」と言われる理由が,点群の言葉で理解できるようになる.これは望月研究室が実際に研究対象としている領域でもある.

この章で学ぶこと
  • 対称操作の行列表示 —— 回転 $C_n$,鏡映 $\sigma$,反転 $i$,回反 $\bar{n}$,回映 $S_n$
  • 結晶制限定理:$2\cos(2\pi/n) \in \mathbb{Z}$ から $n=1,2,3,4,6$ のみが許されること
  • Schoenflies記号と国際(Hermann–Mauguin)表記の対応,および両者で $\bar{n}$ と $S_n$ の定義が異なること
  • 32の結晶点群の一覧と,結晶系ごとの分類
  • 中心対称性を持つ11点群(常誘電性のみ)と持たない21点群(うち $432$ を除く20点群が圧電性を示しうる),極性を持つ10点群(焦電性)
  • 極性 = 結晶構造に分極あり,電場で分極反転できる焦電体 = 強誘電体,という階層
  • Laue群という考え方と,X線回折では中心対称性の有無が見えにくいこと
前提:第1章〜第3章.3×3行列の積とトレース,行列式.群の公理は第6章で厳密に扱うが,本章では「対称操作の集まり」という直観で読み進めてよい.

4.1 対称操作とその行列表示

4.1.1 対称操作とは

定義:対称操作(symmetry operation)

物体(ここでは結晶)に施したとき,施す前とまったく区別がつかない状態に移す操作を,その物体の対称操作という.

点群を構成する対称操作は,少なくとも1点を動かさない(=並進を含まない)ものに限る.その動かない点を通る軸・面が,対称要素(symmetry element)である.

表4.1 点群を構成する対称操作
操作Schoenflies国際表記内容行列式
恒等$E$$1$何もしない$+1$
$n$ 回回転$C_n$$n$軸のまわりに $360^\circ/n$ 回す$+1$
鏡映$\sigma$$m$面で折り返す$-1$
反転$i$$\bar{1}$$\rr \to -\rr$$-1$
回反—$\bar{n}$$360^\circ/n$ 回転してから反転$-1$
回映$S_n$—$360^\circ/n$ 回転してから鏡映(軸に垂直な面で)$-1$

物理的意味:行列式の符号が意味すること

行列式が $+1$ の操作を真の回転(proper rotation),$-1$ の操作を非真の回転(improper rotation)という.

$\det = +1$ は右手系を右手系に保つ操作,$\det = -1$ は右手系を左手系にひっくり返す操作である.だから,キラルな分子(右手型と左手型が区別できる分子)は,$\det=-1$ の操作を対称操作として持てない.逆に言えば,$\det=-1$ の操作をひとつも持たない点群($1, 2, 3, 4, 6, 222, 32, 422, 622, 23, 432$ の11個)が,キラルな結晶を許す点群である.

石英($\alpha$-SiO$_2$,点群 $32$)が右水晶と左水晶に分かれ,旋光性を示すのはこのためである.

4.1.2 行列表示

対称操作は,原点を動かさない線形変換なので,$3\times3$ の直交行列で表せる.

導出:$z$ 軸まわりの $n$ 回回転行列

$z$ 軸まわりに角 $\phi$ だけ回す操作は,$xy$ 平面内での回転である.点 $(x,y)$ が $(x',y')$ に移るとき,極座標で $x = r\cos\alpha$, $y=r\sin\alpha$ と書けば,回転後は $\alpha \to \alpha+\phi$ だから

$$ x' = r\cos(\alpha+\phi) = r(\cos\alpha\cos\phi - \sin\alpha\sin\phi) = x\cos\phi - y\sin\phi $$ $$ y' = r\sin(\alpha+\phi) = r(\sin\alpha\cos\phi + \cos\alpha\sin\phi) = x\sin\phi + y\cos\phi $$

$z$ は変わらない.行列で書けば

$$ \begin{equation} C_n(z) = \begin{pmatrix} \cos\phi & -\sin\phi & 0 \\ \sin\phi & \cos\phi & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}, \qquad \phi = \frac{2\pi}{n} \label{eq:4-rotation} \end{equation} $$

∎ トレースは

$$ \begin{equation} \Tr\, C_n = 2\cos\phi + 1 = 2\cos\frac{2\pi}{n} + 1 \label{eq:4-trace-rotation} \end{equation} $$

である.このトレースが,次節の結晶制限定理と,第8章の指標の話の両方で主役になる.

例題4.1 主な操作の行列とトレース

次の操作の行列とトレースを書け.(a) 反転 $i$ (b) $xy$ 面での鏡映 $\sigma_h$ (c) $C_2(z)$ (d) $C_3(z)$ (e) $C_4(z)$

解答.

$$ i = \begin{pmatrix}-1&0&0\\0&-1&0\\0&0&-1\end{pmatrix},\ \Tr = -3; \qquad \sigma_h = \begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&-1\end{pmatrix},\ \Tr = 1 $$ $$ C_2(z) = \begin{pmatrix}-1&0&0\\0&-1&0\\0&0&1\end{pmatrix},\ \Tr = -1; \qquad C_4(z) = \begin{pmatrix}0&-1&0\\1&0&0\\0&0&1\end{pmatrix},\ \Tr = 1 $$ $$ C_3(z) = \begin{pmatrix}-\frac12&-\frac{\sqrt3}{2}&0\\[3pt] \frac{\sqrt3}{2}&-\frac12&0\\[3pt] 0&0&1\end{pmatrix},\ \Tr = 0 $$

式 \eqref{eq:4-trace-rotation} で確かめると,$n=2$: $2(-1)+1=-1$,$n=3$: $2(-\tfrac12)+1=0$,$n=4$: $2(0)+1=1$.(c)〜(e) のトレースとすべて一致する.∎

数学ノート:トレースは基底の取り方によらない

同じ回転操作でも,座標軸の取り方を変えれば行列の成分は変わる.しかしトレースは変わらない.基底変換は相似変換 $A' = P^{-1}AP$ であり,トレースの巡回性 $\Tr(ABC) = \Tr(BCA)$ から

$$ \Tr A' = \Tr(P^{-1}AP) = \Tr(APP^{-1}) = \Tr A $$

この性質のおかげで,トレースは「操作そのものの性質」を表す量になる.第8章では,これを指標(character)と呼んで群論の中心に据える.トレースが群論で特別扱いされる理由が,すでにここに現れている.

4.2 結晶制限定理 — なぜ5回対称がないのか

雪の結晶は6回対称,食塩は4回対称.では5回対称の結晶はなぜ見ないのか.答えは,並進対称性と両立しないからである.

定理4.1(結晶制限定理, crystallographic restriction theorem)

並進対称性を持つ格子において許される回転対称は,

$$ n = 1, 2, 3, 4, 6 $$

の5種類に限られる.$n=5$ および $n \ge 7$ は存在しない.

証明1:格子並進ベクトルを使う幾何学的証明

格子点が間隔 $a$ で一直線に並んでいるとする($a$ は最短の格子並進の長さ).この直線上で隣り合う2つの格子点を $A$,$B$($\abs{\overrightarrow{AB}} = a$)とし,紙面に垂直な $n$ 回回転軸を考える.格子は並進対称だから,ある格子点に $n$ 回軸があればすべての格子点に同じ $n$ 回軸がある.つまり $A$ にも $B$ にも $n$ 回軸が立っている.この「2つの中心を同時に使える」ことが,以下の議論の要である.

そこで,$A$ から見て $B$ とは反対隣にある格子点を,$A$ のまわりに $-\phi = -2\pi/n$ 回転した点を $A'$ とする.同じく,$B$ から見て $A$ とは反対隣にある格子点を,$B$ のまわりに $+\phi$ 回転した点を $B'$ とする.$A$ にも $B$ にも $n$ 回軸があるのだから,$A'$ も $B'$ も格子点である.

ここで $\overrightarrow{A'B'}$ を考える.$A$ を原点,$B = (a,\,0)$ と座標をとると,$A'$ は $(-a,\,0)$ を原点のまわりに $-\phi$ 回転した点,$B'$ は $(2a,\,0)$ を $B$ のまわりに $+\phi$ 回転した点であるから

$$ A' = (-a\cos\phi,\ a\sin\phi), \qquad B' = (a + a\cos\phi,\ a\sin\phi) $$

である.両者の $y$ 座標が等しいので,$A'$ と $B'$ はもとの格子直線に平行な1本の直線上に並ぶ.その $x$ 座標の差は

$$ x_{B'} - x_{A'} = (a + a\cos\phi) - (-a\cos\phi) = a + 2a\cos\phi $$

である.$A'$ も $B'$ も格子点であり,その2点を結ぶ直線はもとの格子直線と平行だから,この直線上に並ぶ格子点の間隔もやはり $a$ である.したがって,いま求めた $x$ 座標の差は $a$ の整数倍でなければならない:

$$ a + 2a\cos\phi = m a \qquad (m \in \mathbb{Z}) $$

両辺を $a$ で割って

$$ \begin{equation} 2\cos\phi = m - 1 \equiv M \in \mathbb{Z} \label{eq:4-restriction} \end{equation} $$

$\abs{\cos\phi}\le1$ より $M \in \{-2,-1,0,1,2\}$.各場合を調べる.

$M$$\cos\phi$$\phi$$n = 2\pi/\phi$
$-2$$-1$$180^\circ$2
$-1$$-1/2$$120^\circ$3
$0$$0$$90^\circ$4
$1$$1/2$$60^\circ$6
$2$$1$$0^\circ$($360^\circ$)1

したがって $n=1,2,3,4,6$ のみ.$n=5$ なら $\phi=72^\circ$,$2\cos72^\circ = 0.618$ で整数でない.$n=7$ なら $2\cos(360^\circ/7) = 1.247$ でやはり整数でない.∎

補足:第2章 演習2.5 との関係

第2章の演習2.5 では,回転中心を1つだけ取り,$R(\theta)\aa$ と $R(-\theta)\aa$ の和がふたたび格子ベクトルであることから $2\cos\phi = m$($m \in \mathbb{Z}$)を導いた.いま示した証明1は回転中心を2つ取る別の作図なので,条件は $1 + 2\cos\phi = m'$($m' \in \mathbb{Z}$)という形で出てくる.$m' = m + 1$ だから両者は同値であり,許される $n$ の集合が一致するのは当然である.作図の取り方が違えば途中に現れる整数が $1$ だけずれる,というだけのことなので,第2章と式の形が違っていても心配はいらない.

証明2:トレースを使う代数的証明(こちらの方が短い)

回転操作 $C_n$ を,格子並進ベクトルを基底として行列表示する.$C_n$ は格子を格子に移すので,格子ベクトルを格子ベクトルの整数係数の線形結合に移す.したがってこの基底での行列 $\tilde{C}_n$ は,成分がすべて整数である.整数行列のトレースは整数である:

$$ \Tr \tilde{C}_n \in \mathbb{Z} $$

一方,直交座標を基底に取れば式 \eqref{eq:4-trace-rotation} より $\Tr C_n = 1 + 2\cos(2\pi/n)$.基底を変えてもトレースは不変(4.1.2節の数学ノート)だから

$$ 1 + 2\cos\frac{2\pi}{n} \in \mathbb{Z} \quad\Longrightarrow\quad 2\cos\frac{2\pi}{n} \in \mathbb{Z} $$

これは式 \eqref{eq:4-restriction} と同じ条件である.∎

この証明は,$\bar{n}$(回反)についてもそのまま通用する($\Tr\bar{C}_n = -1-2\cos(2\pi/n)$ で,やはり整数条件から同じ結論).

準結晶 — 定理の抜け道

1984年,Shechtmanは Al–Mn 合金の電子線回折で,明瞭な5回対称の回折パターンを観測した.定理4.1に反するように見えるこの発見は,当初はげしい批判を浴びたが,後に正しいことが確認され,2011年のノーベル化学賞となった.

矛盾はない.定理4.1が仮定しているのは「並進対称性がある」ことである.準結晶(quasicrystal)は並進対称性を持たない.それでいて長距離秩序があり,鋭い回折ピークを与える.Penroseタイルのように,非周期的でありながら秩序立った構造が実在するのである.

定理の仮定を確認することの大切さを教えてくれる例である.

4.3 回反と回映 — 2つの記法の違い

ここは初学者が必ず混乱するところである.先生の資料にも「国際表記とSchoenfliesで定義が異なる!」と赤字で強調されている.

定義:回反と回映

導出:$\bar{n}$ と $S_m$ の対応

$z$ 軸を対称軸とする.反転 $i$ と,$z$ 軸に垂直な面での鏡映 $\sigma_h$ の関係を調べよう.

$$ i = \begin{pmatrix}-1&0&0\\0&-1&0\\0&0&-1\end{pmatrix}, \qquad \sigma_h = \begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&-1\end{pmatrix} $$

両者の積は

$$ i\,\sigma_h = \begin{pmatrix}-1&0&0\\0&-1&0\\0&0&1\end{pmatrix} = C_2(z) $$

すなわち $i = \sigma_h C_2$,あるいは $\sigma_h = i\, C_2^{-1} = i\,C_2$($C_2^2 = E$ なので $C_2^{-1}=C_2$).

これを使って,たとえば $\bar{4}$ を $S$ の言葉に翻訳する:

$$ \bar{4} = i\,C_4 = (\sigma_h C_2)C_4 = \sigma_h (C_2 C_4) = \sigma_h C_4^{3} = S_4^{3} $$

($C_2 C_4 = C_4^2 C_4 = C_4^3$.)$S_4^3 = S_4^{-1}$ であり,$S_4$ と $S_4^{-1}$ は同じ群を生成するので,実用上 $\bar{4} \leftrightarrow S_4$ と対応させてよい.

同様に

$$ \bar{3} = i\,C_3 = \sigma_h C_2 C_3 = \sigma_h C_6^{5} = S_6^{5} \quad\Longrightarrow\quad \bar{3} \leftrightarrow S_6 $$ $$ \bar{6} = i\,C_6 = \sigma_h C_2 C_6 = \sigma_h C_6^{4} = \sigma_h C_3^{2} = S_3^{5} \quad\Longrightarrow\quad \bar{6} \leftrightarrow S_3 \ (= C_{3h}) $$

($C_2 C_6 = C_6^3 C_6 = C_6^4 = C_3^2$ であって $C_3$ ではないことに注意.$S_3^5 = S_3^{-1}$ であり,$\bar{4}$ のときと同じく $S_3$ と $S_3^{-1}$ は同じ群 $C_{3h}$ を生成するので,対応としては $\bar{6}\leftrightarrow S_3$ としてよい.)

∎

表4.2 回反と回映の対応(先生の資料スライド2-3に対応)
国際表記Schoenflies実質的な内容
$\bar{1}$$S_2 = C_i$反転そのもの
$\bar{2}$$\sigma = C_s$じつは鏡映と同じ($\bar{2} = i C_2 = \sigma_h$)
$\bar{3}$$S_6$3回軸+反転中心を含む
$\bar{4}$$S_4$4回回反.反転中心も4回軸も含まない
$\bar{6}$$S_3 = C_{3h}$3回軸+垂直鏡映面

$\bar{2} = m$ という等式

表4.2の2行目が示すように,2回回反は鏡映とまったく同じ操作である.だから国際表記では $\bar{2}$ とは書かず,$m$ と書く.$Pm\bar{3}m$ の $m$ が,まさにこれである.

また $\bar{4}$ は,4回軸を含まないことに注意したい.$\bar{4}$ を2回施すと $(\bar{4})^2 = (iC_4)^2 = i^2 C_4^2 = C_2$ で,2回軸は含む.しかし $\bar{4}$ 単独では4回軸も反転中心も持たない.閃亜鉛鉱型 $F\bar{4}3m$ が中心対称性を持たず圧電体になるのは,このためである(第1章1.7.1節の議論とつながる).

先生の資料の注意書き:horizontal と vertical

資料のスライド2-3には,赤枠で「horizontal = 垂直,vertical = 水平」と書かれている.一見すると逆に思えるが,これは主軸(principal axis)を基準にした呼び方だからである.

つまり添字は「面がどう置かれているか」を表し,「軸との関係」を表しているのではない.$C_{4v}$(4回軸+それを含む鏡映面)と $C_{4h}$(4回軸+それに垂直な鏡映面)は,まったく別の点群である.

4.4 32の結晶点群

結晶制限定理により回転は5種類に限られる.これに鏡映・反転・回反を組み合わせて,閉じた集合(群)になるものを数え上げると,ちょうど32個が得られる.

表4.3 32の結晶点群.「中心」は反転対称性の有無,「極性」は極性軸の有無
結晶系国際表記Schoenflies位数中心極性
Triclinic$1$$C_1$1—あり
$\bar{1}$$C_i$2あり—
Monoclinic$2$$C_2$2—あり
$m$$C_s$2—あり
$2/m$$C_{2h}$4あり—
Orthorhombic$222$$D_2$4——
$mm2$$C_{2v}$4—あり
$mmm$$D_{2h}$8あり—
Tetragonal$4$$C_4$4—あり
$\bar{4}$$S_4$4——
$4/m$$C_{4h}$8あり—
$422$$D_4$8——
$4mm$$C_{4v}$8—あり
$\bar{4}2m$$D_{2d}$8——
$4/mmm$$D_{4h}$16あり—
Trigonal$3$$C_3$3—あり
$\bar{3}$$C_{3i}=S_6$6あり—
$32$$D_3$6——
$3m$$C_{3v}$6—あり
$\bar{3}m$$D_{3d}$12あり—
Hexagonal$6$$C_6$6—あり
$\bar{6}$$C_{3h}$6——
$6/m$$C_{6h}$12あり—
$622$$D_6$12——
$6mm$$C_{6v}$12—あり
$\bar{6}m2$$D_{3h}$12——
$6/mmm$$D_{6h}$24あり—
Cubic$23$$T$12——
$m\bar{3}$$T_h$24あり—
$432$$O$24——
$\bar{4}3m$$T_d$24——
$m\bar{3}m$$O_h$48あり—

合計 $2+3+3+7+5+7+5 = 32$ 個.中心対称性を持つものが11個,持たないものが21個,極性を持つものが10個である.

例題4.2 $m\bar{3}m$ の位数が48であることを確かめる

立方晶の最高対称点群 $m\bar{3}m$($O_h$)の対称操作を数え上げよ.

解答.まず真の回転($\det=+1$)である $O$($432$)の24個を数える.

類操作個数軸
$E$恒等1—
$8C_3$$\pm120^\circ$ 回転8$\langle111\rangle$ 4本 $\times$ 2向き
$6C_4$$\pm90^\circ$ 回転6$\langle100\rangle$ 3本 $\times$ 2向き
$3C_2$$180^\circ$ 回転3$\langle100\rangle$ 3本
$6C_2'$$180^\circ$ 回転6$\langle110\rangle$ 6本

$1+8+6+3+6 = 24$ 個.$O_h = O \times \{E, i\}$ なので,これらすべてに反転を掛けたものが加わり

$$ \abs{O_h} = 24 \times 2 = 48 $$

∎ 表4.3の値と一致する.この $O$ の類の構成($E, 8C_3, 3C_2, 6C_4, 6C_2'$)は,第10章で $d$ 軌道の結晶場分裂を計算するときにそのまま使う.先生の資料の「応用例1. d軌道の結晶場分裂」の表がこれである.

4.5 国際表記の読み方

国際(Hermann–Mauguin)表記は,単なる記号の羅列ではない.各位置がどの方向の対称要素を表すかが決まっている.この規則は第5章の空間群記号にそのまま引き継がれるので,ここでしっかり押さえる.

国際表記の3つの位置と,結晶系ごとの方向

点群記号は最大3つの位置からなり,各位置は決められた方向(Blickrichtung,視方向)の対称要素を表す.

結晶系第1位置第2位置第3位置
Triclinic—(方向の指定なし)——
Monoclinic$[010]$(または $[001]$)——
Orthorhombic$[100]$$[010]$$[001]$
Tetragonal$[001]$$[100]$$[110]$
Trigonal / Hexagonal$[001]$$[100]$$[210]$
Cubic$[100]$$[111]$$[110]$

記号が「数字」ならその方向に回転軸(または回反軸),「$m$」ならその方向に垂直な鏡映面,「$n/m$」なら両方があることを意味する.

$Fm\bar{3}m$(点群 $m\bar{3}m$)の読み方 — 先生が最も強調していた点

望月研究室の資料には,こう書かれている(スライド2-8).

実は,$Fm\bar{3}m$ は,$F\,\dfrac{4}{m}\bar{3}\,\dfrac{2}{m}$ なのだ.(International Table で確認せよ)
・100軸に垂直な面に鏡映面があり,100軸に4回回転軸がある
・111軸に3回回反軸あり(120度回転させたのち,$-x,-y,-z$に移動)
・110軸に垂直な面に鏡映面があり,110軸に2回回転軸がある

これを表の言葉で読み直そう.立方晶なので,第1位置=$[100]$,第2位置=$[111]$,第3位置=$[110]$ である.

位置方向$m\bar{3}m$ の記号完全形意味
第1$[100]$$m$$\dfrac{4}{m}$$[100]$ に4回回転軸,$[100]$ に垂直な鏡映面
第2$[111]$$\bar{3}$$\bar{3}$$[111]$ に3回回反軸
第3$[110]$$m$$\dfrac{2}{m}$$[110]$ に2回回転軸,$[110]$ に垂直な鏡映面

つまり $m\bar{3}m$ の最初の $m$ と最後の $m$ は,まったく違う方向の鏡映面を指している.同じ文字だが,位置が違えば意味が違う.ここが国際表記の核心であり,慣れるまで最もつまずきやすいところである.

短縮形 $m\bar{3}m$ では $4/m$ の $4$ と $2/m$ の $2$ が省略されているが,これは「省略しても32点群の中で群が一意に定まる」からである.省略された $4$ と $2$ は,残った対称要素から生成される.実際,法線が $[100]$ の鏡映面と法線が $[110]$ の鏡映面(両者のなす角は $45^\circ$)を続けて施すと,$45^\circ$ の2倍すなわち $90^\circ$ の回転になり,その軸は $[001]$ である.こうして $\langle100\rangle$ の4回軸が自動的に現れる.

ただし,「第1位置が $m$ だから軸は4回」と早合点してはいけない.$m\bar{3}$($T_h$)の完全形は $\frac{2}{m}\bar{3}$ であって,同じ第1位置の $m$ の背後にあるのは2回軸である.短縮形の $m$ が隠している軸の次数は群ごとに違うので,迷ったら完全形を確認するのがよい.International Tables では完全形 $\frac{4}{m}\bar{3}\frac{2}{m}$ が併記されている.

例題4.3 いろいろな記号を読む

(a) $4mm$(正方晶).第1位置 $[001]$ に $4$ → 4回回転軸.第2位置 $[100]$ に $m$ → $[100]$ と $[010]$ に垂直な鏡映面(2枚).第3位置 $[110]$ に $m$ → $[110]$ と $[1\bar{1}0]$ に垂直な鏡映面(2枚).合計,4回軸1本と鏡映面4枚.位数は $4\times2 = 8$.表4.3と一致.

(b) $\bar{4}2m$(正方晶).第1位置 $[001]$ に $\bar{4}$ → 4回回反軸.第2位置 $[100]$ に $2$ → 2回回転軸.第3位置 $[110]$ に $m$ → 鏡映面.4回回転軸はないので,$4mm$ とは別の群である.

(c) $\bar{4}3m$(立方晶,閃亜鉛鉱型).第1位置 $[100]$ に $\bar{4}$,第2位置 $[111]$ に $3$,第3位置 $[110]$ に $m$.反転中心を含まない($\bar{4}$ も $3$ も $m$ も,組み合わせて $i$ を作れない).だからZnS, GaAsは圧電体になる.

(d) $6/mmm$(六方晶).第1位置 $[001]$ に $6/m$ → 6回軸+それに垂直な鏡映面.第2位置 $[100]$ に $m$,第3位置 $[210]$ に $m$.位数24で,六方晶の最高対称点群.

例題4.4 資料のスライド2-8を追う — $Fm\bar{3}m$ の対称要素を岩塩構造で確認する

岩塩型NaCl($Fm\bar{3}m$)を頭に描いて,次を確かめよ.

(1) $[100]$ 軸の4回回転.立方体の面の中心を貫く軸まわりに $90^\circ$ 回すと,Na副格子もCl副格子も自分自身に重なる.Naを原点にとれば,Clは $\left(\pm\frac12,0,0\right),\left(0,\pm\frac12,0\right),\left(0,0,\pm\frac12\right)$ の6箇所(正八面体配位)にあり,$z$ 軸まわりの $90^\circ$ 回転でこれらは互いに入れ替わるだけである.✓

(2) $[100]$ に垂直な鏡映面.$x = 0$ の面(Na原子を含む面)で折り返しても構造は不変.✓ これで第1位置の $4/m$ が確認できた.

(3) $[111]$ 軸の3回回反.体対角線まわりに $120^\circ$ 回すと $x\to y\to z\to x$,すなわちClの6箇所が巡回する.さらに反転すると $\left(\frac12,0,0\right)\to\left(-\frac12,0,0\right)$ で,これもCl位置.✓

(4) $[110]$ 軸の2回回転と垂直鏡映面.面対角線まわりの $180^\circ$ 回転は $x \leftrightarrow y$, $z\to-z$.Cl位置の集合は不変.✓ 次に,第3位置の $\frac{2}{m}$ が要求するのは $[110]$ に垂直な鏡映面,すなわち $x+y=0$ の面である($x=y$ の面は法線が $[1\bar{1}0]$ で,$[110]$ を含む面だから別物である).この鏡映は $(x,y,z)\to(-y,-x,z)$ であり,Clの $\left(\frac12,0,0\right)$ は $\left(0,-\frac12,0\right)$ に移る.これもCl位置なので不変.✓

これで $\frac{4}{m}\bar{3}\frac{2}{m} = m\bar{3}m$ のすべての位置が確認できた.∎

4.6 点群と物性 — 誘電性・圧電性・焦電性

ここからが,点群を学ぶ最大の実利である.結晶がどんな物性を持ちうるかは,点群だけで決まってしまう.

Neumannの原理

結晶の物理的性質を表すテンソルは,その結晶の点群のすべての対称操作に対して不変でなければならない.

言い換えれば,物性(テンソル)の対称性は,結晶の点群の対称性より低くなることはできない.結晶より高い対称性を持つことはあってよいが,低くなることは許されない.結晶の対称性が高いほど,独立なテンソル成分は少なくなり,多くの物性は「禁止」される.

4.6.1 中心対称性と圧電性

導出:中心対称な結晶は圧電性を持てない

圧電効果は,応力 $\sigma_{jk}$ を加えると分極 $P_i$ が生じる現象で,3階のテンソル $d_{ijk}$ で記述される:

$$ P_i = \sum_{j,k} d_{ijk}\,\sigma_{jk} $$

いま結晶が反転対称性 $i$ を持つとする.反転操作 $\rr\to-\rr$ のもとで,

Neumannの原理により,$d_{ijk}$ は反転操作で不変でなければならない.テンソルの変換則から,3階テンソルは反転で $(-1)^3 = -1$ 倍される:

$$ d_{ijk} \to (-1)^3 d_{ijk} = -d_{ijk} $$

不変であるためには $d_{ijk} = -d_{ijk}$,すなわち

$$ d_{ijk} = 0 \quad(\text{すべての成分}) $$

∎ 中心対称な結晶では,圧電テンソルが恒等的にゼロになる.

一般に,通常の極性テンソル(polar tensor)で表される奇数階の物性は,中心対称な結晶では必ずゼロである.圧電性(3階),2次の非線形光学効果(3階),電気光学効果(3階)などがこれにあたる.逆に誘電率(2階)や弾性定数(4階)は偶数階なので,中心対称でも生き残る.

ただし「奇数階ならゼロ」を無条件に一般化してはいけない.軸性テンソル(擬テンソル)や,時間反転に対して奇の磁気的な物性は,反転操作に対して極性テンソルとは別の変換則に従うので,この判定はそのままでは適用できない.磁気光学係数のような量を扱う段階では,点群ではなく,時間反転操作を組み込んだ磁気点群(第20章)で考える必要がある.

物理的意味:先生の資料スライド2-4の分類

資料には,点群と物性の関係がこう整理されている.

分類個数点群物性
中心対称性あり
(centrosymmetric)
11$\bar{1}, 2/m, mmm, 4/m, 4/mmm, \bar{3}, \bar{3}m, 6/m, 6/mmm, m\bar{3}, m\bar{3}m$常誘電性のみ
中心対称性なし・極性なし11$222, \bar{4}, 422, \bar{4}2m, 32, \bar{6}, 622, \bar{6}m2, 23, 432, \bar{4}3m$圧電性
(ただし $432$ は例外的にゼロ)
中心対称性なし・極性あり10$1, m, 2, mm2, 4, 4mm, 3, 3m, 6, 6mm$焦電性(+圧電性)

$11 + 11 + 10 = 32$.資料の「極性あり=結晶構造に分極あり」「電場による分極反転可能な焦電体=強誘電体」というまとめが,この表の最下段にあたる.

なお $432$($O$)は中心対称性を持たないが,対称性が高すぎて圧電テンソルがすべてゼロになる特殊な例である.だから「圧電性を持ちうる点群は20個」と数えることが多い.

もう一つ注意しておく.表の「常誘電性のみ」という書き方は,圧電性も焦電性も持たないという意味であって,「中心対称な結晶だけが誘電体である」という意味ではない.誘電応答(電場をかけると分極が誘起されること)は32点群すべての絶縁体が持つので,絶縁体はすべて誘電体であり,その部分集合として圧電体($432$ を除く20点群),さらにその部分集合として自発分極を持つ焦電体(10の極性点群),そのまた部分集合として分極反転が可能な強誘電体,という入れ子の階層になっている.

4.6.2 極性と焦電性・強誘電性

定義:極性点群(polar point group)

すべての対称操作によって方向が変わらない軸(極性軸)が存在する点群を,極性点群という.

極性軸があれば,自発分極 $\bm{P}_s$ をその方向に置いても対称性に矛盾しない.したがって自発分極を持ちうる.

例題4.5 なぜ $mm2$ は極性で $222$ は極性でないのか

$222$($D_2$).$x, y, z$ の3方向に2回軸がある.$z$ 方向に分極 $\bm{P} = (0,0,P)$ を置いてみる.$x$ 軸まわりの $C_2$ 操作は $(x,y,z)\to(x,-y,-z)$ なので,$\bm{P}\to(0,0,-P)$.これは元の $\bm{P}$ と違う.$x$ 方向,$y$ 方向に置いても同様.したがって,どの方向にも分極を置けない.極性なし.

$mm2$($C_{2v}$).$z$ 軸に2回軸,$xz$ 面と $yz$ 面に鏡映面がある.$\bm{P}=(0,0,P)$ を置くと,

すべての操作で不変.$z$ 軸が極性軸である.∎

一般に極性軸を持つのは,回転軸が高々1本で,その軸に垂直な2回軸も,その軸に垂直な鏡映面 $\sigma_h$ も,反転中心 $i$ も,その軸まわりの回反軸($\bar{4}=S_4$,$\bar{3}=S_6$)も持たない場合である.鏡映面があっても,極性軸を含む $\sigma_v$ だけなら極性は保たれる($\bm{P}$ が面内にあるので向きが変わらない).反転中心と回反軸を除いておくのは,$\bar{1}$,$\bar{4}$,$\bar{3}$ が「回転軸は高々1本,垂直な2回軸も $\sigma_h$ もない」という条件だけは満たしてしまうからである(たとえば $\bar{4}$ では $S_4$ が $\bm{P}=(0,0,P)$ を $(0,0,-P)$ に移すので,極性軸になれない).回転軸をまったく持たない $C_s$($m$)も,鏡映面内の方向が極性軸になるので極性点群である.表4.3の「極性」列を見れば,$C_n$ 型と $C_{nv}$ 型,および $C_1, C_s$ だけが極性であることがわかる.

物理的意味:強誘電体はなぜ見つけにくいのか

資料には「※ 新規強誘電体の探索は,新規超伝導体の探索より困難とされる」と書かれている.その理由が,点群の数え上げから見える.

強誘電体であるためには,少なくとも次の3つを同時に満たす必要がある.

  1. 極性点群であること(10/32 = 約31%).これだけでも3分の1に絞られる.
  2. 自発分極が実際にゼロでないこと.極性点群でも,構造によっては分極が打ち消し合ってほぼゼロのことがある.
  3. 現実的な電場で分極が反転できること.反転に必要な電場(抗電場)が絶縁破壊電場より小さくなければならない.これが最も厳しい条件で,多くの極性結晶は「焦電体だが強誘電体ではない」に留まる.ZnO($6mm$)が典型例で,極性結晶だが分極反転はできない.

さらに,多くの物質は「反転対称性を持つほうがエネルギー的に得」である.実際,$\mathrm{BaTiO_3}$ が室温で強誘電性を示すのは,Ti$^{4+}$ の $d^0$ 電子配置とO-2p軌道の second-order Jahn–Teller 効果という,かなり特殊な事情による.この機構の探索が,望月研究室でも扱われている「新規強誘電体の探索」というテーマである.詳しくは第19章で扱う.

X線回折では中心対称性が見えにくい — Friedel則

実験的に空間群を決めるとき,最後まで残る難問が「中心対称性があるかないか」である.

通常のX線回折では,$\abs{S_{\GG}}^2 = \abs{S_{-\GG}}^2$ が(吸収を無視すれば)常に成り立つ.これをFriedel則という.つまり回折強度のパターンは,結晶が実際に中心対称かどうかにかかわらず,あたかも中心対称であるかのように見えてしまう.

その結果,回折から直接わかるのは,点群そのものではなく「点群に反転を付け加えた群」(Laue群,11個ある)までである.中心対称性の有無を決めるには,異常分散を使う,第二高調波発生(SHG)を測る,圧電性を測るなど,別の実験が要る.

強誘電体の研究で「本当に極性か」がしばしば論争になるのは,この事情による.

4.7 まとめと演習

4.7.1 まとめ

4.7.2 演習問題

演習4.1 $\bar{6} = C_{3h}$ を確かめる

$\bar{6} = i\,C_6$ を行列で計算し,それが $\sigma_h\,C_3^{2}\,(=S_3^{-1})$ に等しいこと,したがって $\bar{6}$ の生成する群が $S_3$ の生成する群 $C_{3h}$ と一致することを示せ.また $\bar{6}$ が生成する群の位数を求め,その群が3回回転軸と,それに垂直な鏡映面 $\sigma_h$ を含むが,6回回転軸も反転中心も含まないことを確かめよ.

ヒント:$(\bar{6})^2 = i^2 C_6^2 = C_3$,$(\bar{6})^3 = i^3C_6^3 = iC_2 = \sigma_h$.位数6.

演習4.2 $T_d$ と $O$ — 位数は同じでも $O(3)$ の部分群としては別物

$\bar{4}3m$($T_d$)と $432$($O$)はともに位数24である.

(1) 両者の対称操作を類ごとに数え上げ,比較せよ.

(2) $T_d$ は $\det=-1$ の操作を12個含み,$O$ は1個も含まないことを示せ.

(3) メタン $\mathrm{CH_4}$ の点群はどちらか.理由を述べよ.

ヒント:(1) $T_d = \{E, 8C_3, 3C_2, 6S_4, 6\sigma_d\}$,$O=\{E,8C_3,3C_2,6C_4,6C_2'\}$.(3) $\mathrm{CH_4}$ は鏡映面を持つので $T_d$.

注意.ここで「別の群」というのは,$O(3)$ の部分群として(すなわち空間に作用する変換の集まりとして)別物だ,という意味である.$T_d$ は行列式 $-1$ の操作を含み $O$ は含まないので,物理的な作用はまったく異なる.しかし抽象群としては両者は同型であり,どちらも4文字の置換全体がなす対称群(位数24)と同じ構造を持つ($T_d$ では4本の $\langle111\rangle$ 軸の置換,$O$ では立方体の4本の体対角線の置換に対応する).ここで「対称群」を $S_4$ と書く流儀もあるが,本章の $S_4$ は回映操作の記号なので,混同しないよう注意してほしい.だから第8章で作る指標表も,$T_d$ と $O$ では類の名前が違うだけで数値の並びは同じになる.「作用が違う」ことと「抽象的な構造が違う」ことは別問題である,という区別は第6章以降で効いてくる.

演習4.3 極性点群の判定

次の点群が極性かどうか判定し,極性なら極性軸の方向を答えよ.

(1) $4mm$ (2) $\bar{4}2m$ (3) $3m$ (4) $\bar{3}m$ (5) $6$ (6) $m\bar{3}m$

ヒント:反転中心があれば即座に非極性.反転中心がなくても,主軸に垂直な2回軸や $\sigma_h$ があれば非極性.答えは (1) 極性 $[001]$,(2) 非極性,(3) 極性 $[001]$,(4) 非極性,(5) 極性 $[001]$,(6) 非極性.

演習4.4 実在物質の点群と物性

次の物質について,空間群から点群を読み取り,圧電性・焦電性の有無を判定せよ.

(1) $\alpha$-quartz SiO$_2$ ($P3_121$)
(2) ZnO wurtzite ($P6_3mc$)
(3) BaTiO$_3$ 室温相 ($P4mm$)
(4) BaTiO$_3$ 高温相 ($Pm\bar{3}m$)
(5) NaCl ($Fm\bar{3}m$)

ヒント:空間群記号かららせん軸・グライドを回転・鏡映に置き換えると点群になる(第5章).(1) $32$ → 圧電のみ.(2) $6mm$ → 焦電.(3) $4mm$ → 焦電(強誘電).(4) $m\bar{3}m$ → どちらもなし.これが強誘電相転移である.(5) $m\bar{3}m$ → なし.

演習4.5 結晶制限定理の2次元版

2次元格子(平面群)について,定理4.1と同じ議論を行い,やはり $n=1,2,3,4,6$ に限られることを示せ.また,正五角形や正八角形で平面を隙間なく敷き詰められないことと,この結果の関係を論ぜよ.

ヒント:2次元でも回転行列のトレースは $2\cos(2\pi/n)$ で,整数条件から同じ結論.平面充填が可能な正多角形は正三角形・正方形・正六角形の3つだけで,これは内角が $360^\circ$ を割り切ることに対応する.

参考文献

  1. 望月 泰英「物質の対称性と群論 2. 点群と空間群」望月研究室勉強会資料(2026年4月24日),スライド2-3, 2-4, 2-8.—— 本章 4.3節・4.5節・4.6節はこの資料に沿っている.
  2. M. S. Dresselhaus, G. Dresselhaus, A. Jorio, Group Theory: Application to the Physics of Condensed Matter, Springer (2008), Chapter 3.9–3.11.
  3. 今野 豊彦『物質の対称性と群論』共立出版,第2章・付録B.—— 資料に載っている32点群のステレオ投影図の出典.
  4. J. F. Nye, Physical Properties of Crystals, Oxford University Press (1985). —— Neumannの原理とテンソル物性の標準書.
  5. D. Shechtman et al., "Metallic Phase with Long-Range Orientational Order and No Translational Symmetry", Phys. Rev. Lett. 53, 1951 (1984). —— 準結晶の発見.