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このページは ybco-simulator.html の対になる解説です. 材料科学実験(無機)の基礎実験 A1〜A3 で行う YBa2Cu3O7−δ(以下 YBCO)の固相合成と,焼結体の磁気浮上の観察について, 反応式と質量収支,仮焼・焼結・酸素化で材料の中に何が起きるか,酸素量 δ と超伝導転移温度 Tc の関係, そして「なぜ浮くのか,なぜ位置が安定するのか」を,シミュレーターで使っている式とその出典とともにまとめます. 超伝導そのものの原理(GL 理論・BCS 理論)は superconductivity-simulator.html,Cooper 対は cooper-pair-simulator.html を参照してください. シミュレーターの各タブの画面の読み方は付録 A にあります.
基礎実験 A1〜A3 の手順は,実験テキスト(2025 年版)§6 と実習の動画(音声はなく,画面の字幕から読み取りました)で次のとおりです.
| 動画 | 手順(実験テキストと動画の字幕の要点) | シミュレーター ① の工程と既定値 |
|---|---|---|
| A1 | Y2O3・BaCO3・CuO を電子天秤で秤量(「所定量」) | ① 秤量:Y:Ba:Cu = 1:2:3,0.454/1.587/0.959 g(合計 3.000 g,テキスト §6.1) |
| A1 | まず乾式で軽く混ぜ,エタノールを乳鉢の壁面に加え,蒸発するまで混ぜる(液体 → スラリー状 → ペースト状 → 乾燥粉体) | ② 乾式 3 分(仮.乾式の予混合は動画だけ),③ エタノール 1.0 mL(仮)で約 20 分(テキスト.15 分を過ぎたらエタノールを足さない) |
| A1 | 60 ℃ の乾燥機で 30 分以上 → 軽く砕く → アルミナるつぼに入れて質量を量る | ④ 60 ℃ で 30 分(テキスト・動画) |
| A1 | 電気炉で 900 ℃,10 h 焼成(スタッフが行う) | ⑤ 仮焼 3 ℃/min,900 ℃,10 h(テキスト).大気中(先生の指示).炉冷は仮 |
| A2 | 仮焼粉にエタノールを数滴加え,30 分以上すり混ぜる | ⑥ 再粉砕 30 分(湿式).仮焼粉 約 0.5 g を XRD 用に提出 |
| A2 | ダイスに粉を入れて軽くタッピングし,上パンチの肩が 1〜2 mm 浮くまで詰める.ゆっくり加圧して 1 分保持,ゆっくり除荷.抜き台を介してダイスだけを押し下げて取り出し,質量と厚さを量る | ⑦ φ 10 mm,98.1 MPa,1 分保持(テキスト §6.2.油圧計の読みは約 12.0 MPa).粉 0.60 g は仮 |
| A2 | 焼結(スタッフが行う.動画に場面はない) | ⑧ 3 ℃/min,920 ℃,10 h ⑨ 400 ℃,10 h 保持 → 炉冷(テキスト §6.2).大気中(先生の指示) |
| A3 | 焼成直後に質量 W・直径 D・厚さ h を量り,#400 で焼き肌を落とし #800 で鏡面に(8 の字を描くように),もう一度 W・D・h を量る | ⑩ 研磨(削る量 上下合わせて 0.1 mm は仮)とかさ密度 |
| A3 | 研磨した焼結体を発泡スチロールの容器に置き,TA が液体窒素を注ぐ(ZFC).冷えた焼結体の上に竹製ピンセットで磁石を静かに置く(磁石は逸れるように動く)→ 磁石を無理に載せ,ピンセットで摘んで横に動かす(焼結体がピン止めで追随)→ 室温に戻し,磁石を載せてから液体窒素を注ぐ(FC)→ 磁石を動かすと焼結体が追随(実験テキスト §6.4.磁石は冷やさない).実習の動画 A3 は磁石の上に試料を載せる配置で(磁石も同じ容器で冷やす),順番と結果は同じ | ② 浮上タブの操作の順番(既定はテキストの配置.磁石はネオジム磁石 φ 6 × 3 mm,仮) |
| A3 | 短冊状の試料に銀ペーストで電極を 4 本つけ(外側が電流 I,内側が電圧 V),30 mA を流し,ジャッキでデュワー瓶を下げて温めながら電圧と温度を記録する | ⑪ 4 端子法の R–T(モデル),③ 比較タブの R–T の図(模式) |
指示書(§5.5)は,合成・焼結・酸素量・組織が超伝導と浮上にどう結び付くかを理解することを目的としています. シミュレーターは VEL の合成モデル(thermal_ybco.js・properties.js)を 1 ファイルの授業用の画面に移し, VEL になかった 材料内部の模式図,焼結体の上に磁石を載せる浮上の配置(実験テキスト)と,磁石の上に焼結体を載せる配置(動画),ゼロ磁場冷却と磁場中冷却の履歴,YBCO 以外の超伝導体の比較を加えたものです. VEL では「真の状態」(相分率・δ)を学生に見せない設計ですが,この教材では内部で何が起きているかを見せることを優先しています(§12 の確認事項 7).
全体の反応は,炭酸塩から CO2 が抜け,最後に酸素を取り込む形に書けます.
酸素の数は左辺 1.5 + 6 + 3 + (1/2 − δ) = 11 − δ,右辺 (7 − δ) + 4 = 11 − δ でそろいます. モル質量は Y2O3 225.809,BaCO3 197.335,CuO 79.545,YBa2Cu3O7−δ 666.191 − 15.999δ,CO2 44.009 g/mol です(原子量表からの計算). YBCO 1 mol 分の原料は 0.5 × 225.809 + 2 × 197.335 + 3 × 79.545 = 746.21 g なので,原料の合計を m0 とすると各試薬の質量は次のようになります.
| 試薬 | モル比 | 質量 (g) |
|---|---|---|
| Y2O3 | 1 | 0.4539 |
| BaCO3 | 4 | 1.5867 |
| CuO | 6 | 0.9594 |
質量収支は,固体の質量 m が,秤量した質量から CO2 として抜けた分を引き,O2 の出入りを足したものになる,という恒等式です.
シミュレーターはこれを反応の 1 刻みごとに帳簿につけ,読み取り値の「収支の差」に表示します(node での検算でも差は 10−15 g 以下). 成形では使った粉の割合だけ,⑩の研磨では削った割合だけ,帳簿の各項を同じ割合で減らします. BaCO3 がすべて分解したときの CO2 は原料の 2 × 44.009 / 746.21 = 11.80 %(質量)で,これに酸素の出入り(δ の変化)が加わります. 代表条件では仮焼後に CO2 0.3539 g が抜け,O2 が 0.0219 g 入って,3.000 g が 2.668 g になりました. 実験テキスト §6.1 の方法で理論収量を数えると,秤量値 0.454/1.587/0.959 g では Y:Ba:Cu = 1:2.000:2.998 で Cu がわずかに律速になり,YBa2Cu3O6.5(原料の酸素だけで数えた組成)として 2.645 g(YBa2Cu3O7 なら 2.677 g)です. 理論減量と理論収量は①の読み取り値の「質量収支」に表示します(BaCO3 の秤量ずれを入れると値が変わる).
粉を混ぜただけでは反応しません.加熱すると,粒どうしの接触点で原子が拡散し,次の段階を経て YBCO ができます(VEL thermal_ybco.js の反応系をそのまま移したもの).
速度は,脱炭酸と緑色相が一次反応,本反応が Ginstling–Brounshtein(GB)則です.α は「YBCO になった Y の割合」です.
r は粒子の半径で,t ∝ r2(粉を半分の大きさにすると 4 倍速く反応する)が,混合と粉砕を丁寧に行う理由です(固相反応と Jander の式は sintering-derivation.html §2). 混ざり具合 h(0〜1)は速さに 0.25 + 0.75h2 を掛け,到達できる α の上限を 0.62 + 0.40h で抑えます(混合が悪いと Y211 や BaCuO2 が残る).
| 段階 | 式 | 定数 | 素性 |
|---|---|---|---|
| 脱炭酸 | 一次.細かい粉ほど速い(×√(2.5 µm/r),0.4〜2.5),成形体の中では ×0.5 | A = 2.32×106 s−1,Ea = 210 kJ/mol | 推定 |
| 緑色相 | 一次 ×(0.25 + 0.75h2) | A = 8.20×107 s−1,Ea = 250 kJ/mol | 推定 |
| 本反応 | GB 則 (4) | D0 = 1.082 cm2/s,Ea = 300 kJ/mol | 推定(半径 2.5 µm が 950 ℃,12 h で α = 0.95 になるよう選んだ値) |
| 包晶分解 | Tper = 1015 + 33 log10(pO2/0.21) ℃,k = 1.67×10−3(1 − e−ΔT/8) s−1 | 空気 1015 ℃,O2 1 atm で 1037 ℃ | 1015 ℃ は Aselage & Keefer 1988(文献 5),速さは推定 |
文献の代表条件は仮焼 900〜950 ℃,8〜12 h(文献 6),焼結は 950 ℃ 前後で 6〜24 h です(文献 6,7).CuO が共存すると 940 ℃ から部分溶融が起こることが知られていますが(文献 5),このモデルには入っていません.
乳鉢での混合は,粒を細かくし(半径 r),3 種類の粒を近づける(混ざり具合 h)操作であり,混ぜた瞬間に YBCO ができるわけではありません. モデルは VEL の regrind をそのまま使います(t は分).
湿式(エタノールあり)は rfloor = 0.6 µm,τR = 16 分,τH = 8 分,乾式は 0.7 µm,22 分,20 分(VEL の推定値). 混ぜる前の粒子半径は 3.0 µm,均一度は薬包紙で合わせただけの 0.30(VEL のプリセットの値)とし,エタノールは混ぜている間に 0.055 mL/min で蒸発させています(VEL mortar_bench.js). 液とペーストの境目(液体 → スラリー状 → ペースト状 → 乾燥粉体)は,エタノールの体積と粉の体積の比による模式的な判定です. エタノールの残りが 0.05 mL を切ったあとは乾式として扱います(1.0 mL なら,20 分のうち最後の約 2.7 分).湿式から乾式に切り替わる時刻は計算で求めるので,画面で 1 工程ずつ進めても,プリセットや②③の「標準の手順」で一度に計算しても同じ試料になります. 代表条件(乾式 3 分 → 湿式 20 分)で均一度は 0.30 → 0.40 → 0.94,粒子半径は 3.0 → 1.24 µm になります.
仮焼したあとの粉では,反応した部分と未反応の部分が固い塊になっており,組成のむらは再粉砕で消えにくいはずです. そこで仮焼を経た粉の再粉砕では,均一度の時定数 τH を最大 3 倍に延ばします(650 ℃ から 850 ℃ にかけて滑らかに増やす.自作の模式で,係数は仮の値). 混合を省くと(乾式 0 分,湿式 0 分),再粉砕 30 分のあとでも均一度は約 0.80 にとどまり,焼結後も YBCO は約 94 %(残りは Y2BaCuO5 と BaCuO2)です. このため VEL の「混合不足」の条件(乾式 5 分,仮焼後に乾式 20 分)は,VEL の 94.1 % に対してこのシミュレーターでは 86.5 % になります(意図して変えた点).
| 仮焼(⑤) | 焼結(⑧) | |
|---|---|---|
| 目的 | 原料を反応させ,目的の相(YBCO)の粉をつくる.CO2 を抜く | 成形体の粒どうしを接合させて緻密な焼結体にする(ネックの成長,気孔の減少) |
| 試料の形 | るつぼの中の粉(あとで砕く) | 一軸成形した成形体(ペレット) |
| 材料の中で起こること | 脱炭酸,緑色相,拡散律速の本反応(生成物の層が粒の接触点から育つ) | 残った反応の完了,緻密化と粒成長,高温での酸素の放出(δ が大きくなる) |
| やりすぎると | 液相ができて粗大化(急速に 900 ℃ へ上げると避けやすい:文献 7) | 包晶分解(1015 ℃ 以上),粒の粗大化と気孔の閉鎖で酸素が入りにくくなる |
仮焼のあとの再粉砕は,仮焼でできた塊を砕いて粒を細かくし,未反応の部分を新しい接触面に出す操作です.
仮焼を省いた場合:BaCO3 が残ったまま成形するので,焼結の昇温中に成形体の中で脱炭酸(式 (1))が起こり,CO2 が成形体の中から出ます. シミュレーターでは,成形体の中で出た CO2 の理論量に対する割合 fCO2 を記録し,次の模式を入れています(いずれも自作で,係数は仮の値.VEL にはない).
仮焼 0 h の試料は,YBCO 100 %,δ 0.098 でも,相対密度 79.0 %(標準 81.7 %),粒界のつながり 0.40 で,抵抗は 40 K まで下げてもゼロになりません.焼成直後の寸法は φ 8.66 × 1.80 mm(標準 φ 8.96 × 1.84 mm),質量は 0.534 g(標準 0.601 g)です. 浮上は粒の中の電流で決まるので浮きますが,磁場中冷却の浮上高さは 1.8 mm(標準 4.0 mm)に下がります(磁石の上に試料を載せる配置,磁石 φ 20 × 10 mm.既定の実験テキストの配置では,磁石 φ 6 × 3 mm が 0.71 mm(標準 1.29 mm)浮く). 仮焼 800 ℃ 2 h のような仮焼不足でも,残った BaCO3 の分だけ同じことが起こります(プリセット「仮焼不足と焼結不足」では 18 %).
圧粉体の相対密度は,試料にかかる圧力 P の対数に比例して上がるとします(VEL sinter.js の greenDensity,推定).
(0.30〜0.78 に制限.保持 1 分で ×0.997.)実験テキストのプレスはラムの直径が 2.86 cm なので,ダイス(φ 1.000 cm)の中の試料に 98.1 MPa をかけるときの油圧計の読みは 98.1 × (1.000/2.86)2 = 11.99 ≈ 12.0 MPa です(①の⑦の図に表示.油圧計の読みは油圧で,試料にかかる圧力ではない).焼結は sintering-simulator.html の Coble の中期モデルを借りた式と同じで(sintering-derivation.html §13), YBCO の係数は VEL の推定値 A = 1.03×1016,Qd = 350 kJ/mol,B = 5.73×1012,Qg = 260 kJ/mol,気孔の離脱粒径 3 µm,ρmax = 0.96 です.
相対密度は YBCO の理論密度(格子定数の δ についての一次近似 ā = 3.8571 − 0.01092(x − 6.5) Å,c = 11.7422 − 0.15325(x − 6.5) Å,x = 7 − δ, δ = 0 で 6.39 g/cm3,δ = 1 で 6.12 g/cm3)を基準にしています. 相対密度はいつも「質量 ÷(外形の体積 × いまの δ の理論密度)」になるように外形を合わせるので,読み取り値の寸法・質量・理論密度・相対密度は互いにそろいます. CO2 が抜けるときは外形を変えずに相対密度を下げ,酸素の出入りでは相対密度(固体の体積の割合)を保って,固体の体積(質量 ÷ 理論密度)の変化に合わせて外形を伸び縮みさせます. VEL は酸素の出入りでも質量に比例して相対密度を変えるので,酸素化で緻密になったように見えます.ここではそれをしないので,標準の相対密度は VEL より約 1 % 低く出ます(意図した差). 相対密度の基準の違い:実験テキストは,δ = 0.49 の格子定数と O6.5 の組成から出した一定の真密度を分母に使います.このシミュレーターの分母はいまの δ の理論密度なので,δ ≈ 0.1 の焼結体では分母が約 2 % 違い,テキストの方法で出す相対密度とはその分ずれます(テキストの真密度は,YBa2Cu3O6.5 の式量 658.19 g/mol を,表 6-1 の δ = 0.49 の格子の体積 174.8262 Å3 と NA で割った 6.2517 g/cm3 です.代表条件の研磨後の焼結体(かさ密度 5.20 g/cm3)では,モデルの相対密度 81.7 % に対して,テキストの方法では 83.1 % になります.①の読み取り値に両方を表示します). 代表条件の焼結体は相対密度 81.7 %,粒の半径 2.1 µm,焼成直後 φ 9.0 mm × 1.8 mm,0.60 g になりました. ⑩の研磨では上下合わせて 0.1 mm(仮の値)を削り,相対密度は変えずに厚さと質量だけを減らします(研磨後 φ 9.0 mm × 1.7 mm,0.57 g.かさ密度 W/(πD2h/4) は研磨の前後で同じ 5.20 g/cm3).②③の「YBCO 焼結体」は研磨したあとの試料です. 読み取り値の「粒界のつながり」(0〜1)は,成形後に 800 ℃ 以上に加熱した焼結体だけで値を持ち,YBCO の分率と粒界の炭酸塩の因子に,相対密度 60 % で 0,80 % で 1 になる滑らかな階段 3u2 − 2u3(u = (ρ − 0.6)/0.2)を掛けます(模式).粉と圧粉体はネックがないので 0 と表示します.標準の焼結体では 1.00,焼結 850 ℃ 0 h(相対密度 60 %)では 0,仮焼不足と焼結不足のプリセット(71.9 %)では 0.57 です.この値は抵抗の粒界の段(§10)に効き,浮上の力には入りません.
YBCO の Cu–O 鎖の酸素は温度と酸素分圧で出入りします.高温では抜けて δ が大きく(正方晶),低温で酸素を吸って δ が小さく(斜方晶)なります. 平衡の酸素量はシグモイドで表します(VEL の推定式.Specht ほかの曲線に形を合わせたもので,表へのフィットではない).
(T は ℃,pO2 は atm.)空気中の平衡 δ は 400 ℃ で 0.094,450 ℃ で 0.133,600 ℃ で 0.360,700 ℃ で 0.575,920 ℃ で 0.871,O2 1 atm の 450 ℃ で 0.098 です(図 1). 文献では,純酸素中で約 700 ℃ に正方晶–斜方晶の秩序–無秩序転移があり(Jorgensen ほか 1987,文献 8),流通 O2 中 450 ℃ の酸素化で Tc = 91 K,酸素量 6.94 が得られています(Heber ほか 1987,文献 7).
実験テキストの図との比較:実験テキストには,δ と酸素分圧の等温線の図(文献 21 からの引用)があります.その空気の線と比べると,500〜900 ℃ ではモデルの平衡 δ が 0.05〜0.15 大きく,モデルは酸素が抜けやすい側に寄っています. 図の空気の線の読み(目視,±0.02 程度)は 500 ℃ で 0.12,600 ℃ で 0.26,700 ℃ で 0.46,800 ℃ で 0.60 で,モデルの式 (8) はそれぞれ 0.190,0.360,0.575,0.754 です(400 ℃ では図 0.085,モデル 0.094 でほぼ一致). このため,冷却の途中で酸素の出入りが止まる(凍結する)ときの δ は,実際にはモデルより小さくなりえます(§7.2 の「保持なしの炉冷」).
高温の結晶系は模式です:モデルは斜方晶の境目を室温の値 x = 6.40 にすべての温度で固定しています.このため,式 (8) の平衡の曲線の上で正方晶と斜方晶が切り替わるのは,空気中で約 712 ℃,O2 1 atm で約 756 ℃ になり,文献(純 O2 で約 700 ℃,空気中はそれより低い)より高く出ます. 高温では境目が x ≈ 6.5 付近に移るためです.また δ = 0.60〜0.65(x = 6.35〜6.40)では,正方晶なのに Tc が 0〜10 K 残ります(VEL の Tc の消失点 6.35 と格子の境目 6.40 のずれ).どちらも 77 K での浮上の判定には影響しません.
図 1 平衡の δ(式 (8)).酸素化の保持温度を下げるほど δ は小さくなるが,酸素が入る速さ(§7.2)は遅くなる(自作)
δ は平衡値へ一次で近づき,時定数は拡散方程式のいちばん遅いモードで決めます.
Ea = 93.6 kJ/mol(0.97 eV)は Rothman ほか(文献 9)の酸素トレーサー拡散の値です. 前指数 D0 = 6.0×10−6 cm2/s は VEL の較正値(単結晶 ab 面内の値の約 1/23.多孔質セラミックスの 450 ℃ での緩和時間が 1〜2 h になるよう合わせたもの)で,測定値として引用してはいけません. 拡散距離 Leff は,開気孔(相対密度 ≲ 0.90)なら粒の半径,閉気孔(≳ 0.96)ならペレットの厚さの半分とし,そのあいだを対数で滑らかにつなぎます(模型の仮定). 粒の半径 2 µm では 400 ℃ で τ = 3.4 h,450 ℃ で 1.1 h です.だから「400 ℃,10 h」の保持が効き,保持を省いて炉冷すると 500 ℃ 付近で凍結して δ ≈ 0.19 になります(実験テキストの図の平衡 δ はこの温度域でモデルより小さいので,実際の凍結の δ はこれより小さくなりうる.§7.1). この δ ≈ 0.19 は Tc が δ に対して急に変わる区間(§7.3)にあり,D0 を 2 倍にすると δ 0.151(Tc 89.8 K)になって,②で浮かない試料が浮く試料に入れ替わります.「400 ℃ の保持を省くと浮かない」は,このモデルの較正値のもとでの結果です(表 A2). 焼きすぎて粒が 5.8 µm まで育つと,同じ保持でも δ ≈ 0.30 にとどまります. 文献の実効拡散係数は桁でばらつき,94 % 緻密な多結晶で 1.7×10−7 cm2/s(400 ℃)という報告もあります(文献 10).モデルの値(400 ℃ で 3.3×10−13 cm2/s)とは大きく違うので,τ の絶対値は目安です. 酸素のむらの少なさ u = 1 − 0.35 log10(Leff/3 µm)(0.25〜1)が超伝導の体積分率と転移の広がりに効きます(VEL,模型の仮定).
Tc(δ) は VEL の区分線形(±3 K の推定)で,90 K 台地(x ≥ 6.85)と 60 K 台地(6.55〜6.75),x ≤ 6.35(δ ≥ 0.65)で 0 です. 文献値は同じ δ でも試料の作り方・急冷・室温での時効で大きく違います(表 5,図 2). 超伝導が消えるのは正方晶–斜方晶転移の近くの δ ≈ 0.65 です(Jorgensen ほか 1990,文献 11,Liang ほか 2006,文献 12). 実験テキストは「δ < 0.6 で超伝導が現れ,δ < 0.15 で 90 K 以上」としています.90 K の境はモデル(δ = 0.15 で 90 K)と一致し,超伝導が消える δ はテキスト(0.6)とモデル(0.65)で 0.05 違います(文献の消失点のばらつきの範囲).
| 7 − δ | δ | Jacobson ほか (K) | Poulsen ほか (K) | Cava ほか (K) | モデル (K) |
|---|---|---|---|---|---|
| 6.99 | 0.01 | 94 | 93 | 94 | 91.9 |
| 6.97 | 0.03 | 92 | 93 | 92 | 91.6 |
| 6.91 | 0.09 | 84.3 | 91 | 90 | 90.8 |
| 6.87 | 0.13 | 63 | 86.5 | 89 | 90.3 |
| 6.70 | 0.30 | 60 | 66.5 | 82.9 | 59.5 |
| 6.62 | 0.38 | 57.1 | 61 | 68.6 | 57.1 |
| 6.54 | 0.46 | 50 | 58 | 60 | 51.5 |
| 6.45 | 0.55 | 47.1 | 54.2 | 57.6 | 20.0 |
| 6.40 | 0.60 | 31 | 47.9 | 57.5 | 10.0 |
図 2 Tc と δ.線はシミュレーターのモデル,記号は表 5 の文献値(自作)
モデルは δ = 0.55〜0.6 で文献より低く出ます(VEL の式の消失点 6.35 に合わせた急な落ち込み).浮上の結果に効くのは Tc が 77 K を超えるかどうかの近く(δ ≈ 0.15〜0.2)で,ここは文献の範囲に入っています. 超伝導になっている体積分率は,転移の広がり w = 1 + 20 max(0, 0.85 − ρ) + 40(1 − f) + 24(1 − u) K(f:YBCO の質量分率)を使って fsc(T) = f u / [1 + exp(−(Tc − T)/(0.45w))] とします(VEL properties.js,推定). 内部の図の Cu–O 鎖の酸素の占有は,鎖の席(b 方向)と空いていた席(a 方向)に 1 − δ を秩序変数 s = o(x)/o(7) で分けたもの (n1 = (1 − δ)(1 + s)/2,n5 = (1 − δ)(1 − s)/2,o(x) = 0.0170√((x − 6.40)/0.60),x ≤ 6.40 で正方晶)です.
超伝導体は,弱い磁場を表面の遮蔽電流で中から締め出します(Meissner 効果).YBCO は第二種超伝導体で,下部臨界磁場 Hc1(77 K で数 mT〜十数 mT)を超えると, 磁束が 1 本あたり Φ0 = h/2e = 2.07×10−15 Wb の量子化磁束(渦糸)として入り込む混合状態になります (第一種と第二種の区別は superconductivity-simulator.html ①). 浮上実験の NdFeB 磁石の表面は 0.1〜0.5 T なので,焼結体の中は混合状態です.磁束の大部分は試料に入っていて,締め出されているのは一部だけです.
入った磁束は,第二相(Y2BaCuO5 など)・欠陥・粒界に引っかかって動けなくなります(ピン止め). 磁束が動けないと,磁場を変えようとしたときに遮蔽電流が流れ,その上限が臨界電流密度 Jc です. 完全な反磁性だけでは平らな超伝導体の上で横の位置が不安定で,磁束の侵入とピン止めが位置を安定にする(Hellman ほか 1988,文献 13). 「抵抗がゼロだから浮く」のではなく,遮蔽電流の大きさと,磁束を止めておく力が浮き方を決めます.
磁石は一様に磁化した円柱(残留磁束密度 Br,半径 a,厚さ b)とし,中心軸の上の磁場だけを使います(z は磁石の面からの距離).
既定の磁石は,実験テキスト §6.4 の配置(冷えた焼結体の上に磁石を置く)に合わせたネオジム磁石 φ 6 mm × 3 mm,Br = 1.25 T(仮.テキストに材質・寸法の記載がない.§12)で,表面中心は 0.44 T,質量 0.64 g(重さ 6.2 mN)です. このモデルでは,焼結体の上に置いて浮くのは小さな磁石だけで(磁場中冷却で φ 6 × 3 mm は 1.29 mm,φ 8 × 3 mm は 0.05 mm),スライダーで変えられるようにしてあります. 直径が試料(標準の焼結体で φ 8.95 mm)より大きい磁石(φ 10 mm 以上)は,厚さによらず浮きません.式 (12) の有効面積 Aeff は試料と磁石の小さい方の断面で決まるので,試料からはみ出した部分は反発に効かず(直径が大きいほど軸上の磁場の勾配もゆるくなる),磁石の重さだけが直径の 2 乗で増えるためです.厚さ 3 mm で比べると,接触での反発(ZFC)は φ 8 で 19.7 mN,φ 9 で 20.0 mN,φ 10 で 16.4 mN,φ 12 で 11.2 mN,φ 20 で 3.2 mN と,直径が試料を超えると下がります(φ 10 では重さ 17.3 mN を下回る).スライダーの範囲外ですが,φ 10 × 1 mm は既定の磁石より軽い(重さ 5.8 mN)のに,反発が 4.7 mN しかなく浮きません.逆に φ 8 × 5 mm は重さ 18.5 mN と重くても,反発が 26.7 mN あるので ZFC では 1.66 mm 浮きます. 「磁石の上に試料を載せる」配置(参考:実習の動画 A3)では,動画の見た目(直径は試料の約 2 倍,厚さも試料より厚い円柱)に合わせた φ 20 mm × 10 mm(仮.縦横の比が同じなので表面中心は同じ 0.44 T)にします.
試料の反磁性の磁化 m(A/m,磁場と逆向きを正)を,可逆な部分とピン止めによる不可逆な部分の和で表します.
焼結体の fsc は,①のモデルの超伝導の体積分率(YBCO の質量分率 × 酸素のむらの少なさ × 転移のシグモイド)に,気孔の係数 (ρrel/0.85)1.5(上限 1)を掛けたものです. 気孔の分だけ超伝導の体積が減り,粒どうしの接触が少ないと互いの遮蔽も弱くなることを表す係数で,VEL properties.js の meissnerTest の因子を借りました(模型の仮定). これがないと,焼結していない多孔質の試料の方が緻密な試料より強く反発してしまいます.焼結 850 ℃ 0 h の試料(相対密度 60 %)では係数 0.59 で,接触での ZFC の力は 8.4 mN(標準 12.3 mN,磁石 φ 20 × 10 mm の上に載せたとき)です.
力は,反磁性の磁化が磁場の弱い向きへ押される力を試料の厚さについて積分します(Aeff = π min(Rs, a)2).
浮上高さ zeq は,接触(z = 0)から上へ探して F が重さ W(磁石の上に試料を載せる配置では試料の重さ,試料の上に磁石を載せる配置では磁石の重さ,NdFeB の密度 7.5 g/cm3)を上から下へ横切る点です. F(0) < W なら浮きません. 横の安定は,ピン止めの復元 kpin ∝ Mc χ(χ:FC と押し付け後 1,ZFC 0.25)と,可逆な反磁性が中心から押し出す向きの kdia ∝ 0.15 × 第 1 項 の比 S で判定します(1.2 以上で安定,0.8 未満で滑り落ちる). この横の判定は「ピン止めが強いほど安定」という傾向だけを表す模式で,磁石の形による横の力は計算していません. 係数 0.15 と χ = 0.25 は仮の値で,焼結体を ZFC で載せたときに滑り落ちるかどうかは,この係数の選び方で決まります. 実際,焼結体の ZFC では磁石の寸法・Br・配置によらず S ≈ 0.5 になります(磁石 φ 6〜20 mm,フェライト磁石でも同じ). また S は Mc ∝ Jcℓ に比例するので,粒内 Jc(仮の値 105 A/cm2)と粒の半径(約 2 µm)で大きく変わります. 焼結体の浮き方は,可逆な反磁性の大きさ Hp0(10 mT,仮)と,FC で磁束を押し出す割合 pexp(1,仮)にも強く依存します. 標準の焼結体(77 K,ZFC,接触,磁石の上に試料を載せる配置の磁石 φ 20 × 10 mm)の力 12.3 mN のうち,可逆な反磁性(第 1 項)が 9.6 mN(78 %),ピン止め(第 2 項,粒内の臨界電流で頭打ちになる項)が 2.7 mN(22 %)です(②の読み取り値に内訳を表示). 同じ配置で Hp0 を 5 mT にすると FC では浮かず,ZFC は S = 0.97 でぐらつきながら止まります.20 mT にすると FC 10.0 mm,ZFC は S = 0.25 で滑り落ちます. pexp を 0.5 にすると FC では浮かず,粒内 Jc を 3 倍にすると ZFC で安定(S = 1.52,10.7 mm),FC ではほとんど浮きません. 既定の実験テキストの配置(焼結体の上に磁石 φ 6 × 3 mm)では,Hp0 を 5 mT にすると ZFC で磁石は 1.54 mm 浮いて S = 0.99 でぐらつき,押し付けと FC ではほとんど浮きません(0.13 mm,0.01 mm).20 mT にすると押し付けと FC で 2.99 mm 浮きますが,S = 1.02 でぐらつき,焼結体は遅れてついてきます.pexp を 0.5 にすると FC ではほとんど浮かず(0.01 mm),粒内 Jc を 3 倍にすると ZFC で S = 1.53 になり,磁石が逸れません(テキストの [2] と逆). したがって,実験テキスト §6.4 の [2](磁石が逸れる)と [3][4](磁石を動かすと焼結体がついてくる),動画 A3 の「ZFC で滑り落ちる」「FC で浮く」は,どちらの配置でも,0.15・χ だけでなく Hp0・pexp・Jc(いずれも仮)の選び方でも入れ替わります(§12 の確認事項 9). 磁石の上に試料を載せる配置(φ 20 × 10 mm)で焼結体を押し付けたあとは,押し込んだ磁束は位置を保つほど強くはありません(止まった高さで Mc ≈ 600 A/m.反発をつくる式 (11) 第 1 項の可逆な磁化 mrev ≈ 2100 A/m の約 29 %).しかし押し付けた位置から離れる向きには,式 (11) の第 2 項が引き戻す向きに反転し(−2.27 mN.第 1 項の反発 7.84 mN の約 29 % を打ち消す),試料は ZFC でそっと載せたとき(8.3 mm)より低く,磁場中冷却とほぼ同じ高さ(4.0 mm)で止まります(第 1 項だけなら 6.6 mm).既定の配置(焼結体の上に磁石 φ 6 × 3 mm)でも同じで,止まった高さで Mc ≈ 620 A/m,第 2 項は −2.60 mN(第 1 項の反発 8.84 mN の約 29 %)となり,磁石は ZFC(2.50 mm)より低い 1.29 mm(第 1 項だけなら 2.00 mm)で止まります.押し付けの効果は χ が 0.25 から 1 に変わることだけではありません. 溶融成長体を押し付けた場合は,押し込んだ磁束の一部が残り,ZFC でそっと載せたとき(20.3 mm)より低い 16.0 mm で止まります(履歴,磁石 φ 20 × 10 mm). 既定の実験テキストの配置(焼結体の上に磁石 φ 6 × 3 mm を置く)では,標準の焼結体の接触での ZFC の力は 17.2 mN(第 1 項 13.4 mN,第 2 項 3.8 mN)で,磁石の重さ 6.2 mN を超えるので磁石は 2.50 mm 浮きますが,S = 0.50 で逸れて滑り落ちます(テキストの [2]「磁石は逸れるように動く」). 押し付けると 1.29 mm で止まり(S = 1.97),磁場中冷却でも 1.29 mm(S = 1.97)で,どちらも磁石を横に動かすと焼結体がついてきます(テキストの [3][4]).
| 材料 | Jc77 (A/cm2) | ℓ | μ0Hp0 | pexp | Birr(77 K) | 根拠 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| YBCO 焼結体 | 1×105(粒内) | 粒の半径(①の結果,約 2 µm) | 10 mT | 1 | 7 T | 粒内 Jc は 104〜106 A/cm2 の桁(文献 14,15) |
| YBCO 溶融成長 | 3×104 | 試料の半径 | 10 mT | 0.1 | 7 T | Jc(77 K, 1 T) > 104 A/cm2(文献 15) |
| GdBCO(TSIG) | 4×104 | 試料の半径 | 10 mT | 0.1 | 8 T | Wu ほか 2024(文献 16)の浮上力の桁 |
| Bi-2223 焼結体 | 1×104(粒内) | 3 µm | 4 mT | 1 | 0.25 T | 77 K の不可逆磁場 0.2〜0.3 T(文献 18) |
無限に広い完全反磁性体の上,高さ z に鉛直な点磁気双極子 md(A·m2)があるとき,境界で Bz = 0 を満たす像は −z にある逆向きの双極子で, 反発力は次のようになります(鏡像法,自作).
FC の式は,冷却位置 z0 の鏡像で磁化を反転した「凍結像」を加える Kordyuk の凍結鏡像法(文献 17)の記述から自作で導いたもので,原論文の式とは照合していません. z = z0 で F = 0,z > z0 で引力(吊り下げ),z0 → ∞ で ZFC の式に戻ります. 例:φ 10 mm × 5 mm,Br 1.2 T の磁石(md = 0.375 A·m2,2.9 g)なら ZFC の釣り合いは約 21 mm(すき間 18 mm)で, 焼結体の実際(数 mm)より大きすぎます.試料が有限で,粒界が弱結合で,磁束が侵入するからです.式 (11)(12) で溶融成長体(Mc ≫ H)を計算すると,この理想に近づきます.
| 材料 | Tc | 作製法・組織 | 77 K での浮上に関わる性質 | モデルの結果(77 K) | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| YBa2Cu3O7−δ 焼結体 | 90.7 K(①の代表条件) | 固相法,ランダム多結晶 | 粒界が弱結合,粒状モデル | 1 mm で 25 mN(ZFC).ZFC は浮くが横に不安定,FC は 3.8 mm 浮いて安定 | 文献 14,15 |
| YBCO 溶融成長 | 92 K | 溶融成長(TSMG/MPMG),単一ドメイン,Y211 分散 | Jc(77 K, 1 T) > 104 A/cm2 | 1 mm で 1.46 N.ZFC で 12.7 mm 浮いて安定,FC は接したまま強く保持 | 文献 15 |
| GdBa2Cu3O7−δ | 94 K | 上部種結晶溶浸成長(TSIG),単一ドメイン,Gd211 分散 | 直径 20 mm で 14.7〜35.6 N(文献 16) | 1 mm で 1.41 N.溶融成長 YBCO と同様.90 K でも 0.24 N が残る | 文献 15,16 |
| (Bi,Pb)2Sr2Ca2Cu3O10(Bi-2223)焼結体 | 110 K | 固相法,板状の粒 | 77 K の不可逆磁場 0.2〜0.3 T と低くピン止めが弱い(YBCO は約 7 T) | 1 mm で 12 mN.浮くが ZFC・FC とも横に不安定.90 K でも浮く(1 mm で 7.8 mN > 重さ 7.7 mN,浮上 1.2 mm) | 文献 18,20 |
Bi-2223 は Tc が最も高いのに,77 K では磁石の近くの磁場(0.2〜0.4 T)で磁束が動けてしまい,浮いても位置が定まりません. 「Tc 以下なら材料によらず同じ高さで浮く」わけではないことを示す比較例です(数値の浮上力は模式).
電流端子と電圧端子を分ける 4 端子法では,接触抵抗を含まずに試料の抵抗が測れます(動画 A3,実験テキスト §6.5). 実習では,短冊状に削った試料に銀ペーストで電極を 4 本つけ(外側 2 本が電流 I,内側 2 本が電圧 V,内側の端子間距離 L),定電流 30 mA を流し,液体窒素に浸した試料をジャッキでデュワー瓶を下げて温めながら,電圧と温度を約 77 K から約 173 K(−100 ℃)まで記録します. ①の⑪は,この測定を①の試料のモデルの R/R(300 K) で描きます(抵抗率の絶対値は扱わない). 焼結体は,粒の中の転移(Tc)と粒界の弱結合の転移(Tc − 転移幅)の 2 段で抵抗が落ち, 第二相や気孔が多いと「抵抗が落ち始めるのにゼロにならない」曲線になります(VEL properties.js の resistivityCurve を R/R(300 K) に規格化して簡略化). ほかの材料の曲線は転移の位置だけを表す模式です(Bi-2223 はゼロ抵抗 107 K:文献 20). ゼロ抵抗と浮上は別の性質で,Bi-2223 は 77 K で抵抗ゼロでも浮上は不安定です.
3 つのタブがあります.どのタブも左に図(上から実験装置,材料内部の模式図,グラフ),その下に凡例・「ひとこと」の欄・読み取り値,右(スマートフォンでは下)に操作欄があります.
3 枚の図と数値は,すべて 1 つの状態(試料)から描いています.
アドレスの末尾に #synth,#levitate,#compare を付けるとそのタブを開き,?embed=1 で見出しと導入文を隠した埋め込み表示,
?only=levitate のように書くとそのタブだけを表示します.アニメーションは,表示していないタブや画面が隠れているときは止まります.
| タブ | 画面で見ること | 本文 |
|---|---|---|
| ① 合成する(synth) | 秤量から酸素化・研磨・4 端子法までの 11 工程.装置,粒子と相,気孔,酸素の出入り,Cu–O 鎖の酸素,温度履歴と相分率・相対密度・δ,Tc(δ),かさ密度,R–T | §2〜§7,§10 |
| ② 冷やして浮かせる(levitate) | 液体窒素・磁石・試料の断面,磁力線と量子化磁束,力 F(z) と重さ,温度と浮上高さの時間変化 | §8 |
| ③ 超伝導体を比べる(compare) | 4 材料の同条件での浮き方,F(z),力と抵抗の温度変化,材料の表 | §9,§10 |
「次の工程へ」で 1 工程ずつ,「全工程を続けて実行」で最後まで,アニメーションで進みます.「すぐに結果まで計算」はアニメーションを省きます. 前の工程の試料をそのまま次の工程に引き継ぎ,条件の変更はこれから始める工程にだけ効きます(実行中・一時停止中の工程には効かない). ⑨の条件(保持温度・時間・雰囲気・冷却)は,⑧が終わったあとに変えても効きます.⑨を始めるときに,⑧の保持が終わった時点から,そのときの条件で炉のプログラムを組み直すからです.炉の図の見出しと設定温度は,実際に使っているプログラムの条件を表示します. 「直前の結果を残す」の名前は,その試料を作るのに実際に使った条件から付けます(プリセットと違えば主な条件を並べる).スライダーを動かすとプリセットの欄は「(プリセットから条件を変更)」になります. 内部の図と読み取り値の「圧粉体」と「焼結体」は,成形したあと 800 ℃ 以上に加熱されたかで分けます(模式). ⑨までで試料ができあがり(「直前の結果を残す」の名前に「(…まで)」がつかない),⑩の研磨を終えると②③で「①で作った試料」を選べます.⑪は試料を変えません. 時間は短縮して再生しており(再生の速さ ×2 で,混合は 1 コマ 0.4 分,熱処理は 1 コマ 12 分),実際の経過時間は装置の図と読み取り値に出ます.⑦⑩⑪は場面を見せる工程なので,再生の速さによらず,それぞれ約 8 s,5 s,7 s かけて描きます.
| プリセット | YBCO | δ | Tc | 相対密度 | 浮上:磁石の上に試料(ZFC/FC) | 浮上:試料の上に磁石(ZFC/押し付け・FC) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 実験テキストの手順(焼結 920 ℃ 10 h → 400 ℃ 10 h → 炉冷) | 100 % | 0.101 | 90.7 K | 81.7 % | ZFC 浮くが滑り落ちる/FC 4.0 mm で安定 | ZFC 2.50 mm 浮いて逸れる(S 0.50)/押し付け・FC 1.29 mm で安定(S 1.97),焼結体がついてくる |
| O2 気流 450 ℃ 12 h(文献・比較用の条件) | 100 % | 0.088 | 90.8 K | 81.7 % | 同上 | 同上(2.52 mm/1.30 mm) |
| 400 ℃ の保持なし(炉冷,空気) | 100 % | 0.192 | 77.9 K | 81.6 % | 浮かない(接触で 0.6 mN < 重さ 5.6 mN).O2 気流中で炉冷すると δ 0.142,Tc 90.1 K で浮く.δ ≈ 0.19 は Tc が急に変わる区間(§7.3)で,較正値 D0 の選び方で浮く・浮かないが入れ替わる(D0 を 2 倍にすると δ 0.151,Tc 89.8 K,FC 3.8 mm で浮く.1/2 倍では δ 0.246,Tc 62.1 K).②の「ひとこと」にも書く | 浮かない(接触で 0.8 mN < 磁石の重さ 6.2 mN) |
| 焼結温度から急冷 | 100 % | 0.86 | 0 | 81.6 % | 超伝導にならない | 超伝導にならない |
| 焼きすぎ 980 ℃ 20 h | 100 % | 0.302 | 59.5 K | 86.2 % | 超伝導にならない(77 K).粒の半径 5.8 µm | 超伝導にならない(77 K) |
| 過焼成 1050 ℃ 4 h | 40 % | 0.825 | 0 | 79.9 % | 包晶分解.Y211 21 %,BaCuO2 32 % | 超伝導にならない |
| BaCO3 を 10 % 多く秤量 | 77 % | 0.101 | 90.7 K | 81.7 % | ZFC 滑り落ちる/FC ほとんど浮き上がらない(0.04 mm.BaCuO2 17 % が残る) | ZFC 1.87 mm で逸れる/押し付け・FC 0.45 mm(S 1.92) |
| 仮焼不足+焼結不足(800 ℃ 2 h,880 ℃ 4 h) | 89 % | 0.089 | 90.8 K | 71.9 % | FC 3.6 mm だがぐらつく(粒が小さく Mc が小さい).成形体の中で CO2 の 18 % が出た | ZFC 1.66 mm で逸れる/押し付け・FC 0.97 mm だがぐらつく(S 1.04) |
| (スライダー)仮焼 0 h | 100 % | 0.098 | 90.7 K | 79.0 % | FC 1.8 mm.気孔が増え・ひび,粒界のつながり 0.40,抵抗がゼロにならない.寸法は標準より小さい(CO2 の分だけ固体が少ない) | ZFC 1.98 mm で逸れる/押し付け・FC 0.71 mm(S 1.85) |
| (スライダー)焼結 850 ℃ 0 h | 94 % | 0.083 | 90.9 K | 60.0 % | ZFC 5.6 mm,FC 4.0 mm とも滑り落ちる(S 0.17,0.66).焼結が足りない(粒界のつながり 0) | ZFC 1.21 mm,押し付け・FC 0.72 mm とも滑り落ちる(S 0.17,0.67) |
| (スライダー)乾式 0 分・湿式 0 分 | 94 % | 0.098 | 90.7 K | 76.2 % | FC 3.3 mm.Y211・BaCuO2 が残る | ZFC 2.19 mm で逸れる/押し付け・FC 1.00 mm(S 1.85) |
試料は「①で作った試料」(①を⑩の研磨まで進めると選べる),YBCO 焼結体の 4 種(①と同じモデルで計算した既製試料),溶融成長 YBCO・GdBCO・Bi-2223(φ 10 × 2 mm に切り出したとする)から選びます. 配置は「試料の上に磁石を載せる(実験テキスト §6.4)」(既定.ネオジム磁石 φ 6 × 3 mm,仮)と「磁石の上に試料を載せる(参考:実習の動画 A3)」(磁石 φ 20 × 10 mm,仮)を切り替えられます. 実験テキストの配置では磁石は冷やさず,容器の外(室温)に置いておきます.動画の配置では,ZFC で磁石も同じ発泡スチロールの容器で冷やします(実験の様子の図と「ひとこと」に表示).操作欄に,液体窒素は TA が注ぐこと,革製の手袋(軍手は不可)と竹製ピンセット,凍傷と酸欠の注意を書いています. 操作の順番が履歴になります:磁石から離れた所で液体窒素を注ぐと ZFC,室温で磁石と試料を重ねてから注ぐと FC,冷えた試料と磁石を押し付けると(テキストの配置では焼結体の上に磁石を無理に載せると)「押し付け」. 温めると Jc と超伝導の体積分率が下がって浮上高さが下がり,横の安定を失うか重さを支えられなくなり,Tc を超えると履歴が消えます. 時間は約 12 倍速(1 コマ 0.2 s)です.冷える・温まる時定数(8 s,1500 s)は仮の値です. 「試料の上に磁石を載せる」配置(既定)では,浮くか逸れるかを見るのは磁石なので「ひとこと」の主語が磁石になり,ボタンは「冷えた焼結体の上に磁石を静かに置く」「磁石を無理に載せる(押し付けてピン止め)」になります. 移動のボタンは実験テキスト §6.4 と同じく「磁石を横に動かす(焼結体がついてくるか)」で,上の磁石をピンセットで摘んで ±7 mm 動かします.ピン止めで相対位置が保たれるとき(磁場中冷却か押し付けのあとで S ≥ 1.2)は焼結体が容器の底(図では台の上)を滑ってついてきて,浮いていて 0.8 ≤ S < 1.2 なら遅れてついてきて(磁石が戻ったあと,元の相対位置に追いつくまで動かし続ける),それ以外では焼結体は置いたままで磁石だけが動きます.ついてこないときは,磁石の中心が試料の縁を越えないように動かす幅を(試料の半径 − 1 mm)までに縮めます. ゼロ磁場冷却で磁石をそっと置いただけでも,浮いていて S ≥ 1.2 なら(溶融成長 YBCO・GdBCO など,ピン止めの強い試料),近づけたときに表面近くに入った磁束のピン止めで試料がついてきます.このときの「ひとこと」には「押し込んだ」とは書かず,実験テキスト §6.4 の手順にはない条件(テキストの焼結体では [2] のとおり磁石が逸れる)と書きます. 焼結体を押し付けたあとの「ひとこと」は,押し込んだ磁束は位置を保つほど強くはないが,押し付けた位置から離れる向きには引き戻す力として働き,磁場中冷却とほぼ同じ高さ(ZFC より低い)で止まることを,計算した釣り合いの高さと力の内訳(第 1 項と第 2 項)から書きます.比べる量はピン止めの磁化 Mc と可逆な磁化 mrev です(§8.4). 押し付けても力が重さに足りないときは「押し付けても浮かない」と書き,横の安定度 S は浮いているときだけ表示します.滑り落ちたときの「ひとこと」には,横の判定が仮の係数(0.15,ZFC の χ = 0.25)で決まり,試料や磁石の寸法・配置によらないことを書きます.押し付け後や磁場中冷却で滑り落ちた場合は,次の操作を勧めません. 読み取り値の力の内訳は,ピン止めの項が引き戻す向き(負)のときは百分率を出さず,符号をつけて表示します. 磁石の上に試料を載せる配置で,浮いていない(またはほぼ接したままの)試料で「磁石を横に動かす」を押すと,試料は磁石の上に載ったまま一緒に動きます.超伝導で,磁場中冷却か押し付けのあとで横の安定度 S が 1.2 以上なら「ピン止めされた磁束が相対位置を保つ」と書き(実験テキスト §6.4 の [3][4] と同じ),それ以外では「摩擦によるもので,ピン止めではない」と書きます.押し付けたあとの「ひとこと」の横の判定も,同じしきい値(S ≥ 1.2 で安定,0.8 以上でぐらつく)で書き分けます.押し付けたあと接触のすぐ近くで止まる試料では,押し付けた位置から離れる向きに第 2 項が引き戻す向きに反転して反発の一部を打ち消すので,接触のすぐ近くで重さと釣り合う(引き留めているのはピン止めのほう)と書き,Mc と mrev を比べて示します(標準の焼結体の上に,スライダーで φ 8 × 3 mm にした磁石を押し付けて載せると,0.15 mm で止まり,そこで第 1 項 15.34 mN,第 2 項 −4.29 mN.第 1 項だけなら 1.77 mm まで浮く).「ひとこと」の S は,③の表や読み取り値と同じく 10 を超えたら「10 以上」と書きます. 読み取り値には,力のうち可逆な反磁性とピン止めの内訳を表示します.実験の様子の図・磁束の図の縮尺,力のグラフの横軸,浮上高さの軸は,浮上高さと磁石の寸法に合わせて変わります(実験の様子の縮尺は図の右下に表示). 超伝導かどうかは,T < Tc で超伝導の体積分率が 2 % を超えることで判定します(fsc の滑らかな裾は Tc の上にも残るが,力は T ≥ Tc で 0 なので).
4 材料を同じ磁石・同じ寸法(φ 10 × 2 mm)・同じ温度に置いて,ZFC(冷やしてから磁石に載せる)か FC(磁石に載せてから冷やす)の釣り合いと横の安定を並べます. ③ は材料の違いを見やすくするため,磁石の上に試料を載せる配置(参考:実習の動画 A3.重さは試料の重さ)で比べます.実習の手順(実験テキスト §6.4)は ② の既定の配置(試料の上に磁石)です. 温度は 64〜115 K(77 K が液体窒素,それ未満は減圧した液体窒素を想定した参考.窒素は三重点 63 K で固まるので,下限を 64 K とした). 「ひとこと」の浮く・浮かないは,図と表と同じく横の安定度 S も見て書き分けます(S < 0.8 なら「反発はあるが横に滑り落ちる」.FC では 0.05 mm より高く浮き上がったときだけ「浮く」とする).溶融成長と GdBCO の F(z) はほぼ重なるので,溶融成長を太線で下に描きます.下のグラフは,すき間 1 mm での力(ZFC)と,4 端子法の抵抗 R/R(300 K)(模式)の温度変化です. 表には,Tc・作製法・組織(文献値)と,モデルに入れた Jc・ℓ・Birr(仮の値)を並べています. 「①の試料にする」にチェックすると,①で作った焼結体(の δ・粒径・相対密度)で比べます.読み取り値の「力(1 mm)」は,いま選んでいる冷却のしかた(ZFC/FC)で計算し,引力なら「(引力)」と書きます.
東京理科大学 望月研究室 / 図はすべて自作(式と文献値から描いたもの)です. シミュレーターは ybco-simulator.html.