焼結の理論 ― 駆動力・ネック成長・緻密化と粒成長の競合

このページは sintering-simulator.html の対になる解説です. シミュレーターで見た「ネック成長の指数 n」「収縮する機構としない機構」「気孔の取り残し」が, どこから出てくるのかを,途中式を省略せずに導きます. 必要なのは,拡散方程式の初歩(Fick の第 1 法則),表面エネルギーと Laplace 圧, そして Arrhenius の式だけです.学部 2・3 年生を想定しています. シミュレーターの各タブの画面の読み方・操作の意味・計算の近似は,付録 A にまとめてあります.

このページの背骨 焼結は,次の 3 つの問いに分けると見通しがよくなります. ①なぜ進むのか(駆動力:表面エネルギーの減少), ②どう進むのか(物質移動の経路:曲率が化学ポテンシャルの差をつくり,拡散が運ぶ), ③どこで止まるのか(緻密化と粒成長の競合:粒界が気孔を置き去りにすると止まる). このうち「物質がどこから来るかで,収縮するかどうかが決まる」(§9)が,本ページの核心です.

1. はじめに ― 焼結とは何か

セラミックスの部品は,たいてい粉からつくります.粉を型に詰めて固めた成形体は, 粒子どうしが軽く接しているだけで,相対密度は 50–65 % 程度,指で押せば崩れます. これを融点より低い温度で加熱すると,粒子どうしがくっつき,すきま(気孔)が縮み, 緻密で強い固体になる ―― これが焼結(sintering)です.

融かしていないのに,なぜ固まるのか.しかも,なぜ体積が縮むのか. このページはこの 2 つの問いに答えます.先に答えを言ってしまうと, 前者は表面エネルギー,後者は粒界からの物質移動です.

ただし実際の工程では,焼結の前にもう 1 つ大事な工程があります. 工程は「原料 → 仮焼(固相反応・固溶体の形成)→ 成形 → 焼結」の順で,2 種類以上の原料粉を混ぜて加熱し,目的の化合物や固溶体の粉にしておくのが仮焼です. このページも工程の順に,まず §2 で仮焼(拡散と固溶体の形成)を,§3 以降で焼結を扱います.

記号の約束 a:粒子半径.x:ネック半径.ρ:ネック表面の曲率半径(本ページでは密度にはこの記号を使わず,相対密度は Drel と書く). γs:表面エネルギー.γgb:粒界エネルギー. Ω:原子(化合物では化学式単位)1 個の体積.Vm:モル体積. Dv, Db, Ds:体積・粒界・表面の自己拡散係数.Dvac:空孔の拡散係数. Cv0:平らな表面の下での空孔の平衡濃度.δ, δs:粒界・表面拡散層の厚み.η:粘度. G:粒径.kB:Boltzmann 定数.R:気体定数. (§2 では c を濃度,x を位置または組成に使い,§2.4・§2.7 では Ω を相互作用パラメーターに使う.それぞれ §2 の中で断る.)

2. 仮焼と固溶体の形成 ― 拡散・Fick の法則・焼結助剤

§3 以降で扱う焼結は,「同じ物質の粒子どうしがくっつく」話です. しかし実際のセラミックスの多くは,その前に2 種類以上の原料粉を混ぜて加熱し,反応させて目的の化合物の粉をつくります. チタン酸バリウム BaTiO3 は BaCO3 と TiO2 の粉から, Cr を添加したアルミナのセラミックス(Al2O3 に Cr3+ が溶け込んだ固溶体)は Al2O3 と Cr2O3 の粉から,という具合です. 異なる原子が混ざり合う仕組みは拡散で,これは後の焼結で物質を運ぶ仕組みと同じです. この節では,原子がどう動くか(§2.2),それをどう式にするか(§2.3,Fick の法則), 混ざった結果が秩序化合物になるか固溶体になるか(§2.4),それを X 線回折でどう見分けるか(§2.5), そして拡散しにくい物質をどう焼くか(§2.6,焼結助剤)を順に考えます.

2.1 仮焼とは

仮焼(calcination)は,原料粉を焼結より低い温度で加熱して, 目的の化合物の粉にしておく工程です.仮焼で起きることは主に次の 2 つです.

典型的な工程は「秤量・混合 → 仮焼 → 粉砕 → 成形 → 焼結」です. 仮焼を焼結と分けるのは,分解で出るガスや反応に伴う体積変化を成形前に済ませておき, 組成のそろった粉を粉砕して細かくしてから焼結するためです(ガスや体積変化が焼結中に起きると,割れや気孔の原因になります).

固相反応は,粒子の接点から始まり,拡散で進む 粉 A と粉 B を混ぜても,接しているのは粒子どうしの接点だけです.反応はまずそこで起き, 接点に生成物の層ができると,その後は原子(イオン)が生成物の層を拡散で通り抜けないと反応が進みません. 層が厚くなるほど遅くなるので,反応の速さは拡散係数と粒子の大きさで決まります(§2.7 の Jander の式). スピネル(MgAl2O4)やフェライト(MgFe2O4)の生成では,生成物の層の酸素の格子はほとんど動かず,その中を陽イオンどうしが逆向きに拡散することが,マーカー実験で確かめられています(Carter,1961,参考文献 29). たとえば MgO + Al2O3 → MgAl2O4 では,電気的中性を保つために Mg2+ 3 個と Al3+ 2 個が逆向きに移動する,というモデル(Wagner の機構,参考文献 28)で説明されます.

2.2 原子はどう動くか ― 拡散の機構と点欠陥

結晶中の原子は格子点のまわりで振動していて,ときどき隣のサイトへ飛び移ります. 飛び移り方には,主に次の 3 つがあります.

表 1 拡散の機構
機構何が起きるか典型例・備考
空孔機構隣の格子点が空孔のとき,原子がそこへ飛び移る(空孔は逆向きに動く)金属やイオン結晶の自己拡散・置換型の溶質原子の拡散の大部分
格子間機構小さな原子が格子間位置から格子間位置へ飛び移る鉄中の C・N・H のような小さな原子
交換機構隣り合う 2 個の原子が直接入れ替わる(環状に回る場合も含む)周りの原子を大きく押しのける必要があり,結晶中ではエネルギー的に不利とされる

置換型の原子(A や B が格子点を占める場合)が動く主な経路は空孔機構です. したがって,空孔が無ければ原子は動けません.では空孔はどれくらいあるのか. 結論から言うと,有限温度では空孔は必ず存在します.それを配置のエントロピーから導きます.

N 個の格子点のうち n 個が空孔である結晶を考えます.空孔 1 個をつくるのに必要な Gibbs エネルギー(振動のエントロピーの寄与も含む)を ΔGf とします. 空孔の置き方は W = N!/[n!(N − n)!] 通りあるので,配置のエントロピーは Sconf = kB ln W です.結晶の Gibbs エネルギーの変化は

ΔG(n)=nΔGf −kBTln⁡ N!n!(N−n)!

Stirling の公式 ln M! ≈ M ln M − M を使うと ln W ≈ N ln N − n ln n − (N − n) ln(N − n) (−N + n + (N − n) = 0 で 1 次の項は消える).これを n で微分すると

∂ln⁡W∂n =−ln⁡n−1+ln⁡(N−n)+1 =ln⁡N−nn

平衡では ΔG が最小なので ∂ΔG/∂n = ΔGf − kBT ln[(N − n)/n] = 0.n ≪ N を使うと,空孔のサイト分率は

(1) cv=nN ≈nN−n =exp⁡(−ΔGfkBT)

空孔をつくるとエネルギーは損をします(ΔGf > 0)が,ごく少数の空孔を入れたときの配置のエントロピーの得は ∂(kB ln W)/∂n = kB ln[(N − n)/n] → ∞(n → 0)で,必ずエネルギーの損に勝ちます. これが「T > 0 では空孔の濃度はゼロにならない」理由です. 仮に ΔGf = 1.0 eV とすると,T = 1000 K では kBT = 0.0862 eV なので cv ≈ exp(−11.6) ≈ 9×10−6, 300 K では exp(−38.7) ≈ 2×10−17 です.温度が高いほど空孔が指数関数的に増え,原子が動きやすくなります. (後の §4 で使う Cv0 は単位体積あたりの空孔の数で,cv = Cv0Ω の関係にあります.)

イオン結晶では,電気的中性の制約がつく MX 型のイオン結晶(NaCl や MgO)で陽イオンの空孔だけをつくると電荷が偏るので,陽イオン空孔と陰イオン空孔が対(Schottky 欠陥)で生じます. このとき両者の濃度の積が exp(−ΔGS/kBT) で決まり,濃度が等しいので,それぞれの濃度は exp(−ΔGS/2kBT) になります(ΔGS は対 1 組の生成エネルギー). また,価数の違う不純物(たとえば NaCl 中の Ca2+)が入ると,電荷を補償するための空孔が温度によらず一定量できます. このため,低温では空孔の濃度が不純物で決まり(外因性領域),高温では式 (1) 型の熱平衡の空孔が上回る(真性領域),という 2 つの領域が現れます.

2.3 Fick の法則 ― 拡散を式にする

第 1 法則を原子の飛び移りから導く. 単純立方格子(格子定数 a0)で,原子 1 個が 1 秒あたり Γ 回,6 方向のどれかへ等しい確率で飛び移るとします. x 軸に垂直な隣り合う 2 枚の原子面(位置 x と x + a0)を考え,単位面積あたりの原子数を n1 = c(x)a0,n2 = c(x + a0)a0(c は単位体積あたりの原子数)とします. 面 1 から面 2 へ(+x 向きに)飛ぶのは 1 秒あたり Γn1/6,逆向きは Γn2/6 なので,正味の流束は

J=Γ6(n1−n2) =Γa06[c(x)−c(x+a0)] ≈−Γa026∂c∂x

(最後は c(x + a0) ≈ c(x) + a0 ∂c/∂x と 1 次で展開した.)これが Fick の第 1 法則です.Fick は 1855 年に,熱伝導の法則との類推からこの形を提案しました(参考文献 10).

(2) J=−D∂c∂x , D=Γa026

流れは濃度の高いほうから低いほうへ向かい,その速さは濃度勾配に比例します. 1 個 1 個の原子は勝手な方向に飛んでいるだけなのに,濃度の高いほうには飛び出す原子が多いので,平均すると正味の流れが生まれるのです. (2 次元の正方格子なら飛ぶ方向は 4 つなので D = Γa02/4,1 次元なら Γa02/2 です.)

第 2 法則を連続の式から導く. 断面積 S,厚さ Δx の薄い板を考えます.時間 Δt のあいだに左の面から入る原子は J(x)SΔt,右の面から出ていく原子は J(x + Δx)SΔt です. 原子は途中で生まれも消えもしない(反応がない)ので,板の中の原子数の増加 Δc · SΔx はその差に等しく

(3) ΔcSΔx=[J(x)−J(x+Δx)]SΔt ⟹ ∂c∂t=−∂J∂x

(両辺を SΔxΔt で割り,Δx, Δt → 0 とした.)式 (2) を代入し,D が場所によらないとすると Fick の第 2 法則(拡散方程式)が得られます.

(4) ∂c∂t= D∂2c∂x2

拡散対の解.純物質 A(x < 0)と純物質 B(x > 0)を x = 0 で貼り合わせ,高温に保ちます(拡散対). A 原子の濃度 c(x, t) の初期条件は,x < 0 で c = c0,x > 0 で c = 0 です. 試料は十分長く,両端では濃度が変わらないとします.

この問題には長さの目盛りになる量が D と t しかなく,長さの次元をもつ組み合わせは √(Dt) だけです. そこで,解が相似変数 η = x/(2√(Dt)) だけの関数 c = f(η) になると予想して代入します. ∂η/∂t = −η/(2t),∂η/∂x = 1/(2√(Dt)) なので

∂c∂t=−η2tf′ , ∂2c∂x2=14Dtf″

式 (4) に入れると −ηf′/(2t) = f″/(4t) で,t が消えて η だけの常微分方程式になります(予想が正しかったことの確認です).

f″=−2ηf′ ⟹ f′=C1e−η2 ⟹ f=C2+C1π2erf⁡η

(f′ についての 1 階の方程式 df′/f′ = −2η dη を積分し,さらに誤差関数 erf η = (2/√π)∫0η e−u2 du を使って積分した.) 初期条件は η → −∞ で f = c0,η → +∞ で f = 0 に対応します(t → 0 では x < 0 の点は η → −∞,x > 0 の点は η → +∞ へ行くため). erf(±∞) = ±1 より C2 − C1√π/2 = c0,C2 + C1√π/2 = 0. これを解いて C2 = c0/2,C1√π/2 = −c0/2.したがって,相補誤差関数 erfc = 1 − erf を使うと

(5) c(x,t)= c02erfc⁡ (x2Dt)

図 1 拡散対 A | B の濃度分布(式 (5)).横軸は界面からの距離(任意単位),縦軸は A 原子の濃度 c/c0. Dt が 4 倍になるごとに,濃度が変わっている範囲の幅は 2 倍になる.● は x = √(Dt) の位置(c/c0 ≈ 0.24).

界面(x = 0)の濃度は erfc 0 = 1 より常に c0/2 で,濃度分布は時間とともに √(Dt) に比例して横に広がります. x = √(Dt) では η = 1/2 で,c = (c0/2) erfc(0.5) ≈ 0.24 c0 です. つまり √(Dt) は「原子が時間 t のあいだに混ざり込む距離」の目安で,これを拡散距離と呼びます. 距離を 2 倍にするには時間が 4 倍かかる ―― この「距離の 2 乗に時間が比例する」ことが,仮焼でも焼結でも粉を細かくするほど速い理由です. (ランダムウォークの言葉では,1 次元で ⟨x2⟩ = 2Dt,3 次元で ⟨r2⟩ = 6Dt です.)

温度依存性.空孔機構では,原子が飛ぶには①隣に空孔があり(確率 ∝ cv,式 (1)),②移動の障壁 ΔGm を越える(確率 ∝ exp(−ΔGm/kBT))必要があります. 配位数を z,原子の振動数を ν とすると Γ ≈ zν cv exp(−ΔGm/kBT) なので,式 (2) の D = Γa02/6 は

(6) D=D0exp⁡(−QRT) , Q=NA(ΔHf+ΔHm) , D0=zνa026 exp⁡ΔSf+ΔSmkB

と Arrhenius 型になります(ΔG = ΔH − TΔS と分け,エントロピーの項は前指数因子 D0 に入れた).活性化エネルギー Q は「空孔をつくるエンタルピー」ΔHf と「空孔へ飛び移るエンタルピー」ΔHm の和です(参考文献 21). 実際には,直前に飛んだ原子は空いたばかりの元の場所へ戻りやすいので,相関係数 f(1 より小さい数.fcc 格子の自己拡散で約 0.78,参考文献 19)がかかります. また,§2.2 の囲みで述べた外因性領域では空孔の濃度が温度によらないので,Q は移動のエンタルピーだけになり,Arrhenius プロットの傾きが変わります.

酸化物の拡散係数の値について 酸化物の拡散係数は,物質・拡散するイオンの種類(陽イオンか酸素か)・温度・不純物量・雰囲気(酸素分圧)によって何桁も変わります. 同じ物質でも測定によって大きくばらつくので,このページでは特定の値を挙げません. 代表的な酸化物の実測値の Arrhenius プロットは,Kingery ほか Introduction to Ceramics の第 6 章(参考文献 7)にまとめられています. 演習問題で使う D の値は,計算の練習のために仮定した値です.

相互拡散と Kirkendall 効果. 式 (5) は,A と B が同じ速さで入れ替わる場合の解です.実際には A 原子と B 原子の動きやすさ(固有拡散係数 DA, DB)は違います. 濃度分布の広がりを式 (4) で表したときの係数を相互拡散係数 D̃ と呼び,Darken の解析(1948,参考文献 18)によると D̃ = xBDA + xADB(xA, xB はモル分率)となります. D̃ は組成によって変わるのがふつうで,そのときは式 (5) の形からずれます(実測の濃度分布から D̃ を求める方法として Boltzmann–Matano 法があります).

DA ≠ DB だと,界面を横切って一方向へ運ばれる原子の数と逆方向の原子の数がつり合いません. 空孔機構では,原子の正味の流れの逆向きに空孔が流れるので,速く拡散する原子がいる側で原子が減り,格子そのものが移動します. Smigelskas と Kirkendall(1947,参考文献 11)は,α 黄銅(Cu 70 %–Zn 30 %)の角棒にモリブデンの細線を印(マーカー)として巻き,その上に銅をめっきして 785 °C で加熱しました. すると Zn が Cu より速く外へ拡散するため,マーカーどうしの間隔が時間とともに縮みました. これを Kirkendall 効果と呼び,拡散が空孔機構で起きていることの有力な証拠になりました(参考文献 25). 速く拡散する原子の側で余った空孔が集まると,ボイド(Kirkendall ボイド)ができることもあります. 格子そのものが動くには,空孔が転位・粒界・表面などで生まれたり消えたりできる必要があります. 上の Darken の式も,空孔がこうした場所で生まれたり消えたりして,どこでも平衡濃度に保たれている(格子が動ける)ことを前提にしています. 空孔の数が一定で格子点の数も変わらないシミュレーターの①では,この効果は現れません. A と B の正味の流れがつり合うしかないので,シミュレーターの計算では,Darken の式とは違って遅い原子が混ざる速さを抑える様子が見られます(付録 A.2.空孔の数が保存される格子模型の相互拡散係数は,一般には単純な式で表せないことが知られています,参考文献 24).

2.4 秩序化合物か固溶体か ― 正則溶体モデル

A と B が拡散で混ざったとき,最終的にどんな状態に落ち着くかは,エネルギー(どの原子と隣り合うと得か)とエントロピー(ばらばらに並ぶ場合の数)の競争で決まります. 最も簡単な正則溶体モデルで考えます.

記号の注意 §2.4 と §2.7 に限り,Ω は相互作用パラメーター(エネルギー)を表します.後の §4・§7 で使う原子体積 Ω とは別物です. また §2.3 の Darken の式と §2.4・§2.5 では,x は B のモル分率(組成)を表します(§2.3 の拡散の式では位置,後の §6〜§9 ではネック半径).

混合エンタルピー. N 個の格子点に A が (1 − x)N 個,B が xN 個並び,各格子点には z 個の最近接の格子点があるとします. 最近接の対は全部で zN/2 組です.対 1 組のエネルギーを,A–A なら εAA,B–B なら εBB,A–B なら εAB とします. 符号の約束:結合すると安定になるので ε はいずれも負で,値が小さい(絶対値が大きい)ほど強い結合です. A と B がランダムに並ぶと仮定すると,ある対が A–A である確率は (1 − x)2,B–B は x2,A–B は 2x(1 − x)(A–B と B–A の 2 通り)なので

Emix=zN2 [(1−x)2εAA+x2εBB +2x(1−x)εAB]

混ぜる前(純 A と純 B が別々にある状態)のエネルギーは (zN/2)[(1 − x)εAA + xεBB] です.差をとると,(1 − x)2 − (1 − x) = −x(1 − x),x2 − x = −x(1 − x) なので

ΔHmix=zN2x(1−x) [2εAB−εAA−εBB]

(固体では体積変化が小さいので,エネルギー変化をエンタルピー変化とみなした.)相互作用パラメーターを

(7) Ω≡εAB−εAA+εBB2 , ΔHmix=zNΩx(1−x)

と定義すると,すっきり書けます.Ω < 0 は「A–B 対のほうが,A–A と B–B の平均より安定」(異種の原子と隣り合いたい), Ω > 0 は「同種の原子どうしで集まりたい」,Ω = 0 は「どちらでもよい」(理想溶体)を意味します.

混合エントロピー.格子点 N 個に A と B を並べる場合の数は W = N!/[(xN)!((1 − x)N)!] です.§2.2 と同じく Stirling の公式を使うと ln W ≈ N ln N − xN ln(xN) − (1 − x)N ln((1 − x)N) = −N[x ln x + (1 − x) ln(1 − x)] なので, 1 mol(N = NA,NAkB = R)あたり

(8) ΔSmix=−R[xln⁡x+(1−x)ln⁡(1−x)] ≥0

したがって,1 mol あたりの混合 Gibbs エネルギーは

(9) ΔGmix=ΔHmix−TΔSmix =zNAΩx(1−x) +RT[xln⁡x+(1−x)ln⁡(1−x)]

図 2 正則溶体の混合 Gibbs エネルギー(式 (9)).W = zNAΩ として ΔGmix/RT を描いた. W/RT > 2 では中央が盛り上がって極小が 2 つになり,2 相に分かれたほうが Gibbs エネルギーが低い(相分離).

Ω > 0 の場合:相分離. エネルギーは混ざるのを嫌い,エントロピーは混ざるのを好みます.ΔGmix の曲線が上に凸の部分(∂2ΔGmix/∂x2 < 0)をもつと, 均一な固溶体より 2 相に分かれたほうが安定になります.式 (9) を 2 回微分すると ∂2ΔGmix/∂x2 = −2zNAΩ + RT/[x(1 − x)] で,これが最初に負になるのは x = 1/2 です. そこで 0 とおくと,相分離が起きる上限の温度(臨界温度)が得られます(下の式 (10) の上の式.R = NAkB). 臨界温度より低温では混ざらずに 2 相に分かれ(混和ギャップ),高温では配置のエントロピーが勝って全組成で固溶体になります. つまり「Ω > 0 なら混ざらない」のは,あくまで低温での話です.

Ω < 0 の場合:秩序化合物と,秩序–無秩序転移. 式 (9) は A と B がランダムに並ぶと仮定しているので,Ω < 0 では全組成で ΔGmix < 0 となり,秩序化は出てきません. A–B の隣接が得なら,実際には A と B が交互に並んだ規則格子(秩序相)のほうがさらに得をするはずです. 組成 1:1 の体心立方(bcc)格子を例に,これを確かめます.bcc 格子は,互いに最近接となる 2 つの副格子 α(隅)と β(体心)に分けられます(z = 8,最近接の対はすべて α–β の組). 秩序度 s を,α 副格子の A の占有率が (1 + s)/2,β 副格子の A の占有率が (1 − s)/2 となるように定義します. s = 0 は無秩序(ランダム),s = 1 は完全な秩序(α が全部 A,β が全部 B.CsCl 型,B2 構造)です.

zN/2 組の α–β 対のうち,A–B 対になる確率は ((1 + s)/2)2 + ((1 − s)/2)2 = (1 + s2)/2, A–A と B–B はそれぞれ (1 + s)(1 − s)/4 = (1 − s2)/4 です.エネルギーは

E(s)=zN2 [1+s22εAB +1−s24(εAA+εBB)] =E(0)+zNΩ4s2

で,Ω < 0 なら秩序化(s を大きくする)ほどエネルギーが下がります. 一方,各副格子(格子点 N/2 個ずつ)での並べ方のエントロピーは,p = (1 + s)/2 として S(s) = −NkB[p ln p + (1 − p) ln(1 − p)] で,s が小さいとき S(s) ≈ NkB ln 2 − NkBs2/2 と展開できます(ln(1 ± s) を s2 まで展開すると得られる). よって G(s) − G(0) ≈ N(zΩ/4 + kBT/2)s2 です. 括弧の中が負,すなわち T < −zΩ/(2kB) なら s ≠ 0 のほうが安定で,秩序相が現れます(下の式 (10) の下の式).

(10) Ω>0: Tc=zΩ2kB (これより低温で相分離) Ω<0: Tc=z|Ω|2kB (これより低温で秩序相,高温で無秩序な固溶体)

低温では AB が規則正しく並んだ秩序化合物(規則格子),高温では配置のエントロピーが勝って A と B がランダムに並んだ固溶体になる ―― これが秩序–無秩序転移です. 代表例は β 黄銅(CuZn)で,低温では Cu と Zn が CsCl 型に規則正しく並び,約 740 K(約 470 °C.組成によって少し変わる)以上で bcc の無秩序な固溶体になります(参考文献 16,17). (式 (10) は各サイトの平均だけを見る平均場近似(Bragg–Williams 近似,参考文献 20)の結果で,短距離の秩序を無視するため Tc を高めに見積もる傾向があります(参考文献 17). また,イオン結晶の化合物(陽イオンと陰イオンが入れ替わることはない)や,NiAl のように結合の強い金属間化合物では,無秩序化する前に融けたり分解したりするものもあります.)

まとめると Ω < 0(異種の隣接が得):低温で秩序化合物,高温で無秩序な固溶体. Ω = 0:全組成・全温度で理想溶体(ランダムな固溶体). Ω > 0(同種の隣接が得):低温で相分離,臨界温度より高温で固溶体.
どの場合も,十分に高温ならエントロピーが勝って無秩序になるのが基本の傾向です.

固溶体ができやすい条件. 正則溶体モデルの Ω は,実際には原子の大きさの違いによる格子のひずみや,電子構造の違いなどから生じます. 金属の置換型固溶体について経験的にまとめられたのが Hume-Rothery 則で, ①原子の直径の差が 15 % 程度以内(Hume-Rothery ら,1934,参考文献 23),②結晶構造が同じ,③電気陰性度が近い,④価数が近い,であるほど広い範囲で固溶しやすい,というものです. セラミックス(イオン結晶)でも同様に,置き換わるイオンの半径の差がおよそ 15 % 以内,価数が同じ(違うと電荷を補償する欠陥が必要になる), 端成分の結晶構造が同じ(全率固溶の必要条件)であるほど固溶しやすいと整理されています(Kingery ほか第 4 章,参考文献 7).いずれも目安であって,厳密な法則ではありません(表 2 の Al2O3–Cr2O3 のように,差が 15 % 前後でも高温で全率固溶する系があります).

表 2 酸化物の固溶の例イオン半径は Shannon(参考文献 12)の 6 配位の有効イオン半径.
系結晶構造置き換わるイオンと半径半径の差固溶の様子
MgO–NiOともに岩塩型Mg2+ 0.72 Å,Ni2+ 0.69 Å約 4 %全率固溶体(参考文献 47)
Al2O3–Cr2O3ともにコランダム型Al3+ 0.535 Å,Cr3+ 0.615 Å約 15 %高温で全率固溶体(参考文献 45).低温(およそ 800〜950 °C 以下.値は文献によって違う)では混和ギャップがあり 2 相に分かれる(参考文献 46.Cr3+ を少し含むものがルビー)
MgO–CaOともに岩塩型Mg2+ 0.72 Å,Ca2+ 1.00 Å約 39 %固溶の範囲は限られ,共晶系になる

2.5 X 線回折で見分ける ― 超格子反射と Vegard 則

仮焼した粉が秩序化合物になったのか,無秩序な固溶体になったのか,それとも反応せず混ざっただけなのかは,粉末 X 線回折で見分けられます. 鍵は構造因子です(導出は xrd-derivation.html の「構造因子」の節,消滅則は同じページの「消滅則」の節).

§2.4 の B2 型(CsCl 型)の AB を例にとります.単位胞の中に A が (0, 0, 0),B が (1/2, 1/2, 1/2) にあり,原子散乱因子をそれぞれ fA, fB とすると, 構造因子 Fhkl = Σj fj exp[2πi(huj + kvj + lwj)] は eπi(h+k+l) = (−1)h+k+l より

(11) 秩序相: Fhkl=fA+(−1)h+k+lfB ={ fA+fB(h+k+l が偶数) fA−fB(h+k+l が奇数) 無秩序相: Fhkl=f‾[1+(−1)h+k+l] ,f‾=fA+fB2

無秩序相では,どの格子点も「A か B かが半々の平均の原子」f̄ が占めるので,構造は体心立方格子と同じになり,h + k + l が奇数の反射(100, 111, 210 など)は消滅します. 秩序相ではそれが fA − fB ≠ 0 の強度で現れます.これを超格子反射(規則格子反射)と呼び,超格子反射があれば秩序化合物,なければ無秩序な固溶体と判断できます. 部分的に秩序化している場合,超格子反射の構造因子は秩序度 s に比例し,強度は s2 に比例します. ただし fA と fB が近い(原子番号が近い)と超格子反射は非常に弱くなります. CuZn(Cu は 29 番,Zn は 30 番)はその例で,通常の X 線では超格子反射をとらえにくく,吸収端の近くの波長を使う異常散乱や,中性子回折などが使われます.

一方,無秩序な固溶体では,組成が変わると平均の原子の大きさが変わるので,格子定数が連続的に変わり,回折ピークが組成とともに少しずつ移動します. 経験的に,格子定数は組成にほぼ比例します(Vegard 則,参考文献 13).

(12) ass(x)≈(1−x)aA+xaB

Vegard 則は近似で,実際の固溶体では直線から上や下へずれることが珍しくありません(たとえばイオンや原子の大きさの差が大きい場合.大きさの差からずれを説明した例は参考文献 22). それでも「格子定数が組成とともに連続的に動く」ことは,固溶体ができた強い証拠になります. 反応していない混合物なら,端成分 A と B のピークがそれぞれの位置に別々に現れるので区別がつきます. たとえば MgO と NiO(格子定数はそれぞれ約 4.21 Å と約 4.18 Å)の固溶体では,ピークは両者のあいだの 1 組だけになります.

2.6 拡散しにくい物質と焼結助剤

式 (6) のとおり,拡散係数は活性化エネルギー Q に指数関数的に依存します.Q には空孔をつくるエネルギーと原子を移動させるエネルギーが含まれ, どちらも結合を切ったりゆがめたりするエネルギーなので,結合の強い物質ほど Q が大きく,同じ温度では拡散が遅い傾向があります. 結合の強い物質は融点も高いので,「融点の高い物質ほど,同じ温度で比べると拡散が遅い」と言い換えられます(同じ結晶構造・結合様式の物質どうしで比べた場合.参考文献 33).

そこで,温度を融点 Tm(K)で割った規格化温度 T/Tm で比べると, 同じ結晶構造・同じ結合様式の物質どうしでは拡散係数がおおよそそろう,という経験則が知られています(金属についての Sherby と Simnad の式,金属とセラミックスを整理した Brown と Ashby.参考文献 33,34). 固相反応や焼結が目に見えて進み始めるのはおおよそ融点(K)の半分を超えるあたりから,という目安(Tammann の経験則.欠陥の生成との関係は参考文献 35)も同じ考え方です. ただしこれらは経験則であり,結合様式や結晶構造が違う物質どうし,また拡散するイオンの種類が違う場合には成り立たないことがあります.

※ 誤解 1 「重い元素だから拡散しにくい」は主因ではない 式 (6) の前指数因子 D0 には原子の振動数 ν が入り,ばね定数を ks,質量を m とすると ν ∝ √(ks/m) なので,重い原子ほど飛び移りの試行回数は少なくなります. しかし質量は平方根で前指数因子に入るだけです.質量が 2 倍になっても ν は 1/√2 ≈ 0.71 倍にしかなりません. 一方,Q が 10 kJ mol−1 違うだけで,1500 K での拡散係数は exp(10000/(8.3145 × 1500)) ≈ 2.2 倍違います. 同位体の拡散係数を比べる実験(同位体効果)でも,質量による違いは小さいことが確かめられています. 拡散のしにくさを主に決めるのは,質量よりも結合の強さ(活性化エネルギー)です.

共有結合性の強いセラミックス. 窒化ケイ素 Si3N4 や炭化ケイ素 SiC は共有結合性が強く,自己拡散が非常に遅いので,単独では緻密化しにくい物質の代表です. 温度を上げて拡散を稼ごうとしても,Si3N4 は融けずに分解し(1 気圧の窒素中で約 1880 °C),どちらも高温では表面拡散や蒸発凝縮(収縮しない機構.§9 で詳しく扱う)による粗大化が緻密化より先に進みやすいので,限界があります(Riley,2000.Greskovich と Rosolowski,1976.参考文献 41,39). そこで少量の添加物 ―― 焼結助剤 ―― を加えます.働き方は大きく 2 通りです.

表 3 焼結助剤・添加物の例と働き添加物の働きには,いまも議論が続いているものがある.ここでは教科書的に確立した説明だけを挙げた.
物質添加物働き注意点
Si3N4Y2O3,Al2O3(MgO なども)粉の表面を覆う SiO2 と反応して,粒界に酸窒化物の液相をつくる.液相焼結(溶解–再析出)で緻密化する(参考文献 41)冷却後に粒界にガラス相が残り,高温での強度やクリープ特性が下がる(粒界相を結晶化させて改善する方法がある,参考文献 42)
SiCB と C(少量)固相焼結.C は粉の表面の SiO2 を還元して除く.B は粒界エネルギーと表面エネルギーの比を下げると Prochazka は説明した(1975,参考文献 37,38).拡散を速めるなど別の説明も提案されている2000 °C を超える高温(おおよそ 2000〜2200 °C)が必要(参考文献 40)
SiCAl2O3,Y2O3酸化物の液相をつくる.液相焼結で,B・C 添加(2000〜2200 °C)より低い 1850〜1900 °C 程度で緻密化できる(参考文献 40)粒界に第二相(YAG など)が残る
Al2O3MgO(少量.Coble の特許(参考文献 4)では 1/16〜1/2 重量 %,好ましくは 1/8〜1/4 重量 %)融点を下げるためではなく,粒界の移動を遅くして粒成長を抑え,気孔の取り残しを防ぐ(後の §11.1,§12 の表 6.参考文献 43)溶解度を超えて多すぎると第二相(MgAl2O4 スピネル)が出る
「焼結助剤」と「粒成長抑制剤」は,効き方が違う 液相をつくる焼結助剤は,物質を運ぶ経路そのものを速くします(緻密化を速くする). Al2O3 への MgO は,粒界の動きを遅くします(粒成長を遅くする). 後の §10 で扱う「緻密化と粒成長の競合」の言葉でいえば,前者は緻密化の側を,後者は粒成長の側を動かして,どちらも「気孔が取り残される前に緻密化を終える」ことを助けています.

2.7 シミュレーター①との対応 ― 格子モンテカルロと Jander の式

モデルの考え方. シミュレーターの①は,2 次元の正方格子(横 48 × 縦 28 の格子点)に A 原子と B 原子を並べ,少数の空孔を入れた格子モンテカルロ(Monte Carlo)計算です. はじめは左半分を純物質 A,右半分を純物質 B とし(拡散対),有限温度なので両側にあらかじめ点欠陥(空孔)を入れておきます. 空孔の割合は,リセットしたときの温度で式 (1) の形 cv = exp(−Ef/kBT) から決めます. 1 回の試行では,空孔を 1 つ選び,隣の 4 つの格子点のうち 1 つをランダムに選んで,そこにある原子と空孔を入れ替える(空孔機構,§2.2)ことを試みます. 原子どうしの結合は最近接の対だけを考え,§2.4 と同じく A–A,B–B,A–B の対のエネルギーを εAA, εBB, εAB とします. 空孔が無いとすると,A 原子 1 個は z 本の結合をもつので,A–A 対の数 NAA,A–B 対の数 NAB の間には zNA = 2NAA + NAB の関係があり(B も同様), 全エネルギーは

E=εAANAA+εBBNBB+εABNAB =z2(εAANA+εBBNB) +ΩNAB

と,式 (7) の Ω と A–B 対の数だけで変わる形に書けます(原子の数 NA, NB は一定). 空孔(や焼結助剤 C)があるとこの関係は厳密には成り立ちませんが,シミュレーターでは空孔が少ないので,この形をそのまま使います. そこで入れ替えによる A–B 対の数の変化を ΔNAB として ΔE = ΩΔNAB とし, 動く原子の移動の障壁を Em として,入れ替えを受け入れる確率を

Paccept=exp⁡(−EmkBT) ×min[1,exp⁡(−ΔEkBT)]

とします(後ろの因子が Metropolis 法).エネルギーが下がる入れ替えは必ず,上がる入れ替えは Boltzmann 因子の確率で受け入れます. 前の因子は行きと帰りで同じなので詳細つり合いは保たれ,十分長く続けると温度 T での熱平衡の配置に近づきます. 前の因子 exp(−Em/kBT) は,温度が低いほど・障壁が高いほど原子が動きにくい,という式 (6) の Arrhenius 因子に対応します. 「重い元素や結合の強い元素は拡散しにくい」(§2.6)は,B の障壁 Em,B を大きくすることで表します. ただし Em,B が表すのは結合の強さです(重い元素はイオンが大きく結合が強いことが多いので,その代わりとして使う). 質量による試行頻度(前指数因子の振動数 ν ∝ m−1/2)の低下はモデルに入れていません.入れても平方根で効くだけなので影響は小さい(§2.6 の誤解 1). 焼結助剤は,助剤の原子 C の隣でだけ Em を下げて原子を動きやすくする(融点が局所的に下がって動きやすくなる)という模式で表します.実際の液相の化学を再現するものではありません. エネルギーは ε0 = kB × 1000 K(≈ 0.0862 eV,1 mol あたり 8.31 kJ)を単位とする教育用の値で,温度は T = 1000 K × (kBT/ε0) として K で表示します.計算を速くするために移動の障壁などは実際の値(1 eV 程度)よりずっと小さくしてあるので,温度の数値は目安です.時間の単位は「MC ステップ」(空孔 1 個あたり平均 1 回の試行)です. 各パラメーターの値・画面の読み方・モデルの限界は,付録 A.2 にまとめます.

Jander の式 ―― 粉の反応はどれくらいで終わるか. 実際の仮焼では,反応物 A の球形粒子(半径 r)が,もう一方の反応物 B に囲まれて反応すると考えます(Jander, 1927,参考文献 14). 生成物の層の厚さを y とし,反応は B が生成物の層を拡散で通り抜ける速さで決まる(拡散律速)とします. 近似 1:層が薄いとき,層を平板とみなすと,層を通る流束は Fick の第 1 法則(式 (2))より層の厚さに反比例するので,

dydt=k′y ⟹ y2=2k′t

(y dy = k′ dt を y(0) = 0 から積分した.k′ は拡散係数と界面での濃度差に比例する定数.)これを放物線則と呼びます. 近似 2:反応した割合 α を,まだ反応していない芯の体積から求めます.芯の半径は r − y なので

1−α=(4π/3)(r−y)3(4π/3)r3 ⟹ y=r[1−(1−α)1/3]

これを y2 = 2k′t に代入し,k = 2k′ とおくと Jander の式が得られます.

(13) [1−(1−α)1/3]2 =ktr2

同じ反応率 α に達する時間は t ∝ r2 です.原料粉の粒径を半分にすれば,仮焼の時間は 1/4 で済みます. また k ∝ D なので,温度依存性は式 (6) の Arrhenius 型になります. ただし Jander の式は,平板の放物線則を球に流用している(近似 1)ことと,生成物と反応物の体積の違いを無視していることから,反応の初期(α が小さいとき)に限ってよく合います. 球の形を正しく扱った改良式(Ginstling–Brounshtein の式,参考文献 30)や,生成物と反応物の体積の違いも取り入れた式(Carter の式,参考文献 31)もあります(総説は参考文献 32).

3. 駆動力 ― 表面エネルギーの減少と,その大きさ

粉体は膨大な表面積をもちます.表面は「切られた結合」の集まりなので,単位面積あたり γs の余分なエネルギーを抱えています. 粒子どうしがくっつくと,表面 2 枚(2γs)が粒界 1 枚(γgb)に置き換わります. γgb は 2γs より十分小さい(金属では γs の 1/3 程度)ので,全界面エネルギーが下がります. 焼結の駆動力は,この界面エネルギーの減少です.

3.1 大きさを見積もる

半径 a の球状粒子からなる粉 1 mol(体積 Vm)の表面エネルギーを考えます.球 1 個の表面積は 4πa2,体積は (4/3)πa3 なので, 体積あたりの表面積は 3/a です.1 mol の体積は Vm だから,1 mol あたりの表面エネルギーは(できる粒界のエネルギーを差し引いていないので,駆動力の上限の見積もりとして)

(14) ΔG表面≈ γs·3a·Vm

Al2O3(Vm ≈ 25.6 cm3 mol−1 = 2.56×10−5 m3 mol−1, γs ≈ 1 J m−2)の a = 1 μm の粉なら

(15) ΔG表面≈ 1×310−6 ×2.56×10−5 ≈77J mol−1
※ 誤解 2 「駆動力があるから,放っておけば焼結する」わけではありません 77 J mol−1 は,化学反応のエンタルピー(数百 kJ mol−1)に比べて 3〜4 桁小さい. (1 mol あたりで比べると,室温の熱エネルギー RT ≈ 2.5 kJ mol−1 よりも小さい.ただし,焼結で自由エネルギーが下がる(ΔG < 0)限り向きは決まっており,RT との大小で進む・進まないが決まるわけではありません.) 駆動力の向きは決まっていても,物質を動かす拡散が遅すぎて,室温では何も起きません. だから高温にして,拡散係数 D = D0 exp(−Q/RT) を桁違いに大きくしてやる必要があります.
また式 (14) は 1/a に比例します.粉を 10 倍細かくすれば駆動力は 10 倍になります. ナノ粒子が低温で焼結しやすいのは,これが一因です.

4. 曲率と化学ポテンシャル ― 物質はどちらへ流れるか

駆動力が「全体として表面を減らしたい」ことは分かりました.では,局所的には物質はどこからどこへ動くのか. それを決めるのが表面の曲率です.

4.1 Laplace 圧

曲がった表面は,表面張力によって内側を押して(あるいは引いて)います.主曲率半径を r1, r2 とすると

(16) Δp=γs (1r1+1r2)

ここで曲率半径は,固体の内側に中心があれば正(凸面),外側にあれば負(凹面)とします. 半径 a の球の表面は凸で,Δp = 2γs/a > 0(圧縮). 一方,2 つの粒子がくっついたネックの表面は鞍形で,主曲率半径は周方向が x(凸,正),くびれた子午線方向が大きさ ρ の凹(負)です. 式 (16) に入れると Δp = γs(1/x − 1/ρ) で,x ≪ a では ρ は x2/a の程度(中心が近づかない場合 x2/2a,近づく場合 x2/4a.§6.1,§6.2)で ρ ≪ x なので第 2 項が支配的です. そのため Δp ≈ −γs/ρ < 0(以下 ρ は正の大きさとする),つまりネックの下の固体は引っ張られています.

ρ は図のどこか 2 粒子を中心どうしを結ぶ軸を含む面で切った断面(図 3 の左)で考えます. ネックの表面は,2 つの粒子の表面になめらかにつながるくびれで,その断面の曲線を 2 つの球に接する円弧で近似したときの円の半径が ρ です. この円の中心は固体の外側(気孔の側)にあるので,この方向(軸に沿った子午線方向)の曲率半径は r2 = −ρ(凹)です. もう一方の主方向は軸のまわりを 1 周する周方向で,その曲率半径は軸からネックの表面までの距離 x(中心は固体の内側,凸)です. 図 3 の左とシミュレーターの②④では,ρ を紫の破線の円とその半径線で示しています(付録 A.3,A.5).

4.2 空孔濃度の差

固体中の原子が動くのは,空孔を介してです.引張応力 σ がかかった場所では,空孔を 1 個つくると体積 Ω ぶん応力が仕事をしてくれるので, 空孔の生成エネルギーが σΩ だけ下がります.したがって空孔の平衡濃度は

(17) Cv=Cv0 exp⁡(σΩkBT) ≈Cv0 (1+σΩkBT)

(通常の焼結条件では σΩ/kBT は 1 より小さいので 1 次で展開した.ただし,ネックがごく細い(ρ が数 nm 以下の)ときは近似が粗くなる.)ネックの下では σ ≈ γs/ρ(引張)なので, 平坦な表面の下に比べて空孔が過剰になります.

(18) ΔCv= Cv0γsΩkBTρ
物質と空孔は,逆向きに流れる 空孔はネックの下(過剰)から,粒子表面や粒界(空孔の少ないところ・空孔を吸収できるところ)へ拡散します. 空孔が一方へ流れれば,原子は逆方向へ流れます.したがって原子はネックへ向かって集まり,ネックが太る.
化学ポテンシャルの言葉で言えば,凸面の原子は μ が高く,凹面(ネック)の原子は μ が低い.物質は μ の高いところから低いところへ流れる ―― 水が高いところから低いところへ流れるのと同じです.
問題は,その原子が「どこから」来るかです.これが §9 の主題になります.

5. 焼結の 3 段階

表 4 焼結の 3 段階(Coble による区分)
段階相対密度の目安微構造主に起きること
初期〜65 %粒子どうしが点で接し,ネックが形成されるネック成長.収縮は数 % まで
中期65–92 %気孔が粒の稜に沿って連結した管状のネットワーク緻密化が最も進む.粒成長も始まる
終期92 % 〜気孔が粒の角に孤立した球状になる粒成長が顕著.気孔の取り残しが起きうる

§6〜§9 は初期段階(2 球モデル),§10〜§11 は中期・終期段階の話です. シミュレーターの②③と④の 2 粒子の図は初期,④の多数の粒子の模式図は初期から終期までの定性的な流れ,⑤⑥⑦は中期〜終期に対応します. ①は焼結の前の工程である仮焼(§2)に対応します.

6. 2 球モデルの幾何

初期段階を扱う標準的な道具が,半径 a の球 2 個が接したモデルです. ネック(接合部の円)の半径を x とし,x ≪ a の近似で幾何量を求めます.

6.1 中心が近づかない場合(物質源が表面)

2 球の中心間距離は 2a のまま,ネックに物質が積もって太る場合です. ネックの表面を,半径 ρ の円弧で近似します.この円弧は,2 つの球の表面に接し,かつネック円の縁を通ります. 三平方の定理から (a + ρ)2 = a2 + (x + ρ)2,展開して

(19) 2aρ=x2+2xρ ⟹ ρ=x22(a−x) ≈x22a

ネック表面の面積 A は,円周 2πx に円弧の長さ ≈ πρ をかけて A ≈ 2π2xρ = π2x3/a, ネックに積もった体積は V ≈ πx4/(2a) です(いずれも x ≪ a の最低次). シミュレーターの②と④の上の図は,式 (19) の近似する前の形 ρ = x2/2(a − x) の円をそのまま描いています.

6.2 中心が近づく場合(物質源が粒界)

粒界から物質が抜けてネックへ移ると,2 球は互いにめり込みます. それぞれの中心が接触面へ h だけ近づいたとします(中心間距離の半分が a − h). h と ρ を x で表すために,まず単純な幾何を考え,その欠点を直す,という 2 段階で進めます.

(i) 2 つの球を単純に切り落とす幾何.重なった部分を接触面で切り落とすだけだとすると,接触面で切った球の断面の半径が x なので

x2=a2−(a−h)2 =2ah−h2≈2ah ⟹ h≈x22a

ところが,この幾何ではネックのくびれが丸くなりません. §6.1 と同じく,2 つの球の表面に接し,軸から x の位置を通る半径 ρ の円を考えます. 円の中心は接触面の上で軸から x + ρ の位置にあり,球の中心は接触面から a − h の位置にあるので,接する条件は

(a−h)2+(x+ρ)2 =(a+ρ)2

です.両辺を展開すると a2 − 2ah + h2 + x2 + 2xρ + ρ2 = a2 + 2aρ + ρ2 で,a2 と ρ2 が消えて 2(a − x)ρ = x2 − 2ah + h2,つまり

ρ=x2−2ah+h22(a−x) ≈x22a−h

です(h = 0 とおくと式 (19) に戻る). 切り落としの厳密な関係 x2 = 2ah − h2 を入れると分子が 0 になり,ρ = 0 です. つまり,2 つの球の表面が接触面で角をつくって交わり,ネックの角がとがって ρ → 0 になります. これでは式 (16) の Laplace 圧がいくらでも大きくなってしまい,現実的ではありません. そのうえ,切り落とした部分(重なりのレンズ)の物質がどこにも行かずに消えてしまうので,物質の量も保存していません.

(ii) 切り落とした物質をネックの外側に付ける.実際には,粒界から抜けた物質はネックの表面に付いて,くびれを丸めます. この物質の収支から h を決めます.x ≪ a の最低次で考えます.

物質の保存 Vin = Vout から 2πaz12 = 2πah2,すなわち z1 = h です.z1 = x2/2a − h を入れると x2/2a − h = h なので

(20) h≈x24a , ρ≈z1=h≈x24a

中心の接近量は,単純に切り落とした場合の半分になり,そのぶん丸まったくびれの半径 ρ が h と同じ程度になります. 初期焼結の 2 球モデル(Kingery と Berg,1955.Coble,1958.参考文献 36,50)にもとづく整理でも,中心が近づく場合に ρ ≈ x2/4a,線収縮率 ΔL/L0 ≈ x2/4a2 とする形が広く使われています(係数は文献の近似の取り方によります). 上の見積もりは最低次の近似ですが,円弧で囲まれたネックの体積を数値的に正確に積分して物質の保存を解いても,h/(x2/a) は x/a = 0.1 で 0.253,0.3 で 0.261 で,x/a → 0 で 1/4 に近づきます.

中心間距離は 2a から 2(a − h) へ縮むので,線収縮率は

(21) ΔLL0= 2h2a= ha≈ x24a2

等方的に縮むとすれば,体積収縮率は 1 − (1 − ΔL/L0)3(ΔL/L0 が小さければ ≈ 3ΔL/L0)です. 数値例.x/a = 0.30 では h = 0.09a/4 = 0.0225a,線収縮率 2.25 %,体積収縮率 1 − (1 − 0.0225)3 = 1 − 0.9340 = 6.60 % です. くびれの円の半径は,近似する前の接する条件に h = 0.0225a を入れて ρ = (0.09 − 0.045 + 0.000506)a/(2 × 0.70) = 0.0325a です (最低次の x2/4a = 0.0225a より大きいのは,分母の a − x が効くため.h2 を落とした x2/4(a − x) = 0.0321a がよい近似). 中心が近づかない場合の ρ = x2/2(a − x) = 0.064a の約半分です. シミュレーターの④の下の図は,h = x2/4a として球を近づけ,ネックの表面を近似する前の条件 ρ = (x2 − 2ah + h2)/2(a − x) ≈ x2/4(a − x) の円弧で描いています.

※ 誤解 3 教科書によって係数が 2 倍違うことがあります 中心の接近量を,球を単純に切り落とした幾何から h ≈ x2/2a(線収縮率 x2/2a2)と書く説明と, 切り落とした物質がネックに付くことを考えて h ≈ x2/4a(線収縮率 x2/4a2)と書く説明(Kingery と Berg,Coble などの 2 球モデル,参考文献 36,50)があります. 前者はネックの角がとがって ρ → 0 になり,物質の量も保存しないので,本ページとシミュレーターの④は後者(式 (20)(21))を使います. 同じように ρ も,中心が近づかない場合は x2/2a(式 (19)),近づく場合は x2/4a(式 (20))で,ネック表面積や体積の係数も文献の近似の取り方で変わります. 係数は変わっても,h ∝ ρ ∝ x2/a(収縮率 ∝ (x/a)2)という依存性は変わりません. そのため,§7・§8 の指数 n, m も係数によりません(§9.2 で確かめます).

図 3 2 球モデルの幾何.左:中心が近づかない場合(物質源が表面).紫の破線の円がネックのくびれに沿う円で,その半径がネック表面の子午線方向の曲率半径 ρ ≈ x2/2a(円の中心が固体の外にあるので凹,r2 = −ρ). 右:中心が近づく場合(物質源が粒界).それぞれの中心が h ≈ x2/4a だけ接触面へ寄り,くびれの円の半径は ρ ≈ x2/4a(左の約半分).

7. ネック成長速度式を導く ― 体積拡散の場合

ここでは,粒子表面の下から体積拡散で原子がネックへ運ばれる場合(Kuczynski, 1949 の古典的な解析)を,最後まで導きます. ほかの機構も,拡散の経路と断面積を取り替えるだけで同じ手順になります.

7.1 流束を書く

式 (18) の空孔の過剰 ΔCv が,距離およそ ρ にわたって解消されるとします(拡散距離 ≈ ネックの曲率半径). Fick の第 1 法則から,空孔の流束密度は

(22) jv≈DvacΔCvρ =DvacCv0 γsΩkBTρ2

空孔 1 個が出ていくと原子 1 個(体積 Ω)が入ってくるので,ネックに積もる体積の速さは,流束密度 × Ω × ネック表面積 A です. ここで,原子の自己拡散係数が Dv = DvacCv0Ω(空孔の拡散係数 × 空孔のサイト分率)と書けることを使うと

(23) dVdt =jvΩA =DvγsΩA kBTρ2

7.2 幾何を代入する

§6.1 の幾何量 V ≈ πx4/2a,A ≈ π2x3/a,ρ ≈ x2/2a を入れます.左辺は

(24) dVdt= 2πx3a dxdt

右辺は A/ρ2 = (π2x3/a)·(4a2/x4) = 4π2a/x なので

(25) 2πx3a dxdt =DvγsΩkBT ·4π2ax ⟹ x4dxdt =2πa2 DvγsΩkBT

7.3 積分する

t = 0 で x = 0 として両辺を積分すると,x5/5 = 2πa2(DvγsΩ/kBT)t.a5 で割って整理すると

(26) (xa)5 =10πγsΩDvkBT ·ta3
式 (26) から読み取ること ①指数 n = 5.両対数プロットで x/a 対 t の傾きは 1/5 になります.
②粒径の指数 m = 3.同じ x/a に達する時間は a3 に比例します.
③温度は Dv の中にいる.Dv = D0 exp(−Q/RT) なので,温度を上げると指数関数的に速くなります.
係数 10π ≈ 31 は近似の取り方で変わり,文献によって 40 などの値が使われます. 粒径の指数 m は Herring の相似則(§8.1)で決まるので近似によりません. 時間の指数 n は拡散距離や断面積の取り方で 1 程度変わることがあります(例:拡散距離を ρ ではなく x とすると体積拡散で n = 4). それでも係数よりはずっと頑健なので,機構の目安には指数を使います.

8. 機構ごとの指数と,Herring の相似則

§7 と同じ手順を,拡散の経路(体積・粒界・表面・気相)と,それに応じた断面積・拡散距離に置き換えて繰り返すと, どの機構も次の形にまとまります.

(27) (xa)n =F(T)tam
表 5 物質移動の機構と指数Kingery らの 2 球モデルの整理による値.拡散距離の取り方により,表面からの体積拡散を n = 4 とする整理もある.F(T) に入る拡散係数も併記.
機構物質源経路nmF(T) の主役収縮
粘性流動バルク流れ21γs/ηする
蒸発・凝縮粒子表面気相32蒸気圧 p0しない
体積拡散(表面から)粒子表面格子53Dvしない
体積拡散(粒界から)粒界格子53Dvする
粒界拡散粒界粒界64Dbδする
表面拡散粒子表面表面74Dsδsしない
※ 誤解 4 指数 n だけでは機構を決めきれません 表 5 の整理では,体積拡散は物質源が表面でも粒界でも n = 5 です.両対数の傾きが 1/5 だったとしても, それだけではどちらか分かりません.収縮しているかどうかを合わせて測る必要があります(§9). さらに実際の粉体では複数の機構が同時にはたらき,温度域によって主役が入れ替わるので, 傾きは中間的な値になりがちです.

8.1 Herring の相似則 ― 粉を細かくすると,どれだけ速くなるか

式 (27) で x/a を同じにする(幾何学的に相似な状態に達する)ための時間は t ∝ am です. したがって粒径 a1 と a2 の粉を比べると

(28) t2t1 =(a2a1)m

これを Herring の相似則(1950)といいます. 粒界拡散(m = 4)が支配するなら,粒径を 1 μm から 0.2 μm にすると 所要時間は (0.2)4 = 1/625 になります. 原料を細かくすることが焼結によく効くのは,この指数のためです. ナノ粉で焼結温度が数百度下がることがあるのも,同じ理由です.

9. 収縮する機構・しない機構【核心】

表 5 の最後の列 ―― 収縮するかしないか ―― が,本ページでいちばん大事なところです. 判定の基準はただひとつ,ネックに積もる原子が「どこから」来るかです.

9.1 物質源が粒子表面の場合

表面拡散・蒸発凝縮・表面からの体積拡散では,原子は粒子の凸な表面(あるいはその直下)から取られて,ネックへ運ばれます. 粒子の表面が少し削れて,そのぶんネックが太る ―― 物質が表面に沿って移動しているだけです. 2 つの粒子の中心の位置はまったく変わりません.

したがってネックはいくら太っても,粒子間の距離は縮まず,気孔の体積もほとんど変わりません. 強度は上がる(ネックが太るので)が,密度は上がらない. 実験でよく出会う「焼き締まらない」状態の正体がこれです.

9.2 物質源が粒界の場合

粒界拡散・粒界からの体積拡散では,2 粒子が接している粒界面から原子が抜き取られ,ネックの表面へ運ばれます. 粒界の面から原子の層が 1 枚抜き取られれば,その厚みのぶんだけ 2 つの粒子は互いに近づきます. 中心間距離が縮む ―― つまり収縮し,緻密化します.式 (20)(21) の h がこれです.

収縮の速さと指数.§6.2 の幾何(ρ ≈ x2/4a)で係数が変わっても,指数は変わらないことを確かめておきます. §7 と同じ見積もり(拡散距離 ρ,断面積 A)を,粒界からの体積拡散に使います. ネック表面積は A ≈ 2π2xρ = π2x3/2a,粒界から運ばれてネックに付く体積は §6.2 の Vout ≈ 2πah2 = πx4/8a なので, dV/dt = (πx3/2a)(dx/dt),A/ρ2 = (π2x3/2a)·(16a2/x4) = 8π2a/x です. 式 (23) に入れて,K = DvγsΩ/kBT と書くと

πx32a dxdt =K·8π2ax ⟹ x4dxdt=16πa2K ⟹ (xa)5=80πKta3

式 (26) と比べると,係数が 10π から 80π に変わっただけで,n = 5,m = 3 は同じです. この 80π は本ページの最低次の近似 V ≈ πx4/8a から出た数で,ネックの体積を別の近似でとる教科書の表とは数値の係数が違うことがあります(たとえば V ≈ πx4/4a とすれば 40π).それでも n,m は同じです. ρ,A,V がそれぞれ x2/a,x3/a,x4/a に比例するという依存性だけで指数が決まり,係数(1/2 か 1/4 か)は指数に入らないからです. 線収縮率は式 (21) から ΔL/L0 = (x/a)2/4 = (80πKt/a3)2/5/4 で,t2/5 に比例して増えます. 一般に式 (27) の形なら ΔL/L0 ∝ (x/a)2 ∝ (t/am)2/n,収縮の速さは d(ΔL/L0)/dt = (2/n)(ΔL/L0)/t で, 係数を x2/2a2 にしても x2/4a2 にしても時間と粒径の指数は変わりません(変わるのは ΔL/L0 の大きさだけ).

図 4 物質移動の 6 つの経路.緑・紫・水色は物質源が粒子表面(収縮しない),青・赤・橙は物質源が粒界またはバルク(収縮する). ネックに向かう矢印の出発点を見るのがコツ.

空孔の言葉で言い直すと ネックの下で過剰になった空孔(式 (18))は,どこかで消滅しなければなりません.
空孔が粒子表面で消滅する ―― 原子が表面から供給される ―― なら,粒子は削れるだけで近づかない.
空孔が粒界で消滅する ―― 粒界は空孔を吸収できる「シンク」 ―― なら,粒界の原子面が 1 枚ずつ食われていくので,粒子は近づく.
緻密化とは,空孔を粒界に吸い込ませて消し,そのぶん粒子の中心どうしを近づけることです. §11 で「気孔が粒界から離れると,もう消せない」と言うのは,このシンクを失うからです.

多数の粒子で考えると. 粉の成形体では,1 つの粒子がまわりの何個もの粒子と接していて,粒子のすき間が気孔です. 物質源が粒子表面なら,どの粒子の中心も動かないので,ネックが太って粒子の形が丸くつながっても,成形体の外形も気孔の体積の合計も変わりません. 物質源が粒界なら,すべての接点で中心どうしが近づくので成形体全体が縮み,気孔が小さくなっていきます. はじめは互いにつながって外まで通じていた気孔(開気孔)は,やがてところどころでくびれて切れ,粒子に囲まれた孤立した気孔(閉気孔)になります(表 4 の終期). シミュレーターの④では,この違いを 2 次元に並べた多数の円で定性的に描いています(付録 A.5).

※ 誤解 5 「高温で焼けば,どの機構でも緻密化する」わけではありません 表面拡散の活性化エネルギーは一般に小さいので,低温ではまず表面拡散が効きます. これはネックを太らせますが,同時にネックの曲率を緩めて(ρ を大きくして)駆動力を消費してしまいます. そのため,低温でゆっくり昇温すると,収縮が始まる前に駆動力の多くを消費してしまい,かえって焼き締まりにくくなることがあります. 急速昇温(SPS など)が有利になる理由のひとつです.
なお,ここでいう「低温」は昇温途中の表面拡散(収縮しない)の話です.§11.2・§11.3 の「温度を下げる」は,緻密化が進み始めた後の保持温度で粒成長(粒界移動)を抑える話です. どちらも,駆動力を緻密化以外の過程に使わせないという同じ考え方です.

10. 緻密化と粒成長の競合

中期段階に入ると,気孔は粒の稜に沿った管状のネットワークになり,2 球モデルは使えなくなります. Coble(1961)は,粒を 14 面体とみなし,稜に沿った円柱状の気孔が粒界拡散(または体積拡散)で縮むモデルをつくりました. 結果だけを示すと,相対密度 Drel の変化率は

(29) dDreldt ∝DbδγsΩ kBTG4 (粒界拡散) , ∝DvγsΩ kBTG3 (体積拡散)

という形になります(G は粒径,δ は粒界の厚み).m = 4, 3 は §8 の粒子径の指数とそろっています.

ここに,焼結の最大の困難がある 緻密化の速さは G−4 に比例します. ところが高温では,緻密化と同時に粒成長も進みます.粒が 2 倍になれば,緻密化の速さは 2−4 = 1/16 に落ちる.
粒成長は,粒界の曲率を駆動力として粒界が動く現象で,気孔が粒界にくっついている間は気孔がブレーキになります(ピン止め). そのため中期段階では,気孔の動き方に応じて G3 − G03 ∝ t や G4 − G04 ∝ t に近い遅い成長になりますが, 気孔が減ってブレーキが外れると,粒界自身の移動で決まる G2 − G02 ∝ t 型に近づいて加速します.
緻密化は粒成長に足を引っ張られ,粒成長は気孔にブレーキをかけられている ―― この 2 つの綱引きが,終期段階の成否を決めます.

11. 気孔の取り残しと 2 段階焼結

11.1 気孔は,粒界の上にいる限り消せる

§9.2 で見たように,緻密化とは空孔を粒界というシンクに吸い込ませることでした. 気孔が粒界の上(とくに 3 つの粒が出会う稜や角)にある限り,気孔から出た空孔はすぐそばの粒界に吸収されて消滅できます(粒界がシンクとして働く).

ところが粒成長が速すぎると,動く粒界が気孔を置き去りにして通り過ぎます. 粒界の移動速度が,気孔が粒界についていける速度(気孔自身の移動度で決まる)を上回ると,気孔は粒界から離脱し,粒の内部に閉じ込められます(Brook, 1969).

粒内に取り残された気孔は,もう消せない 粒内の気孔の空孔は,粒界まで体積拡散で遠くまで旅しなければなりません. その距離は粒径程度で,しかも粒は大きくなり続けます.実用的な時間ではほとんど消えません.
結果として,相対密度は 90–95 % 程度で頭打ちになり,それ以上焼いても粒が大きくなるだけです. 透光性セラミックス(相対密度 99.9 % 以上が必要)では致命的です.

図 5 焼結の軌跡(相対密度 対 粒径).シミュレーターの⑤⑥と同じモデルを 3 つの温度で積分した. 高温ほど粒成長が先行し,破線の離脱粒径 Gc を超えた時点で気孔が取り残され,密度が頭打ちになる.

11.2 なぜ「温度を下げる」と効くのか ― 活性化エネルギーの差

緻密化も粒成長も熱活性化過程なので,速さはそれぞれ exp(−Qd/RT),exp(−Qg/RT) に比例します. 温度を T1 から T2(< T1)へ下げたとき,速さは

(30) k(T2)k(T1) =exp⁡[−QR (1T2−1T1)]

倍になります.Q が大きいほど,温度を下げたときの落ち込みが大きい. 材料によっては粒成長の活性化エネルギーが緻密化より大きいことがあり(シミュレーターはそう仮定しています), そうであれば,温度を下げると粒成長のほうが大きく遅くなる.緻密化を相対的に有利にできるのです.

数値で確かめる Qd = 400 kJ mol−1,Qg = 560 kJ mol−1(シミュレーターの値)として,1650 K から 1500 K へ下げると 1/T2 − 1/T1 = 6.06×10−5 K−1. 緻密化は exp(−48 110 × 6.06×10−5) ≈ 0.054 倍, 粒成長は exp(−67 350 × 6.06×10−5) ≈ 0.017 倍. 粒成長のほうが約 3.2 倍強く抑えられます.

11.3 2 段階焼結

この考え方を推し進めたのが,Chen と Wang(2000)の2 段階焼結です. いったん高温 T1 まで上げて相対密度を 75 % 程度(気孔がまだ粒界にピン止めされている状態)まで進め, すぐに少し低い温度 T2 に下げて長時間保持します. T2 では粒界の移動がほぼ止まる一方,粒界拡散による緻密化は続くので,粒成長をほとんど伴わずに緻密化を完了できます. ナノ結晶の Y2O3 を粒径 60 nm 程度のまま緻密化できることが報告されました.

※ 誤解 6 2 段階焼結の機構は「Q の差」だけではありません §11.2 の Arrhenius の議論は直感をつかむための単純化です. Chen と Wang は,T2 で粒成長が止まる理由を,粒界の三重点(3 つの粒界が出会う線)の移動が抑えられることに求めています. 「なぜ効くか」の詳細はいまも研究対象であり,材料によって効く条件も違います.

12. 焼結を助ける手法 ― 加圧・液相・粉体設計・添加物

表 6 焼結を助ける方法と,それが効く理由
方法何を変えるか効く理由注意点
ホットプレス(HP)一軸加圧(数十 MPa)外力が粒界に圧縮応力を加えて粒界の空孔濃度を下げ(式 (17) で σ < 0),ネック・気孔表面との空孔濃度差(化学ポテンシャル差)を大きくする.塑性流動・粒界すべりも助ける単純形状のみ
熱間等方加圧(HIP)ガス圧(100 MPa 超)等方的に押すので複雑形状も可.孤立気孔をつぶす仕上げにも使う開気孔が残っているとガスが入り込むので,先に閉気孔化が必要
放電プラズマ焼結(SPS)パルス通電+一軸加圧,急速昇温数百 K/min で昇温し,粒成長が進む前に緻密化を終える.低温での表面拡散による駆動力の消費も抑えられる大型品・温度分布の均一化が難しい
液相焼結焼結助剤で共晶液相を発生①毛管力による粒子の再配列 ②液相を介した溶解–再析出(液中の拡散は固体より桁違いに速い)③固相焼結,の 3 段で進む液相が粒子を濡らすこと(接触角が小さいこと)が前提(参考文献 48,49).酸化物・窒化物では冷却後に粒界にガラス相が残ることが多く,高温強度が落ちる
原料の微粒化粒子径 a式 (14) で駆動力 ∝ 1/a,式 (28) で時間 ∝ am凝集しやすく,硬い凝集体があると局所的に先に焼結して割れの原因になる
粒成長抑制剤粒界の移動度添加イオンが粒界に偏析して粒界の移動を遅くし(溶質ドラッグが主な説明の一つ.気孔の移動を速める効果も提案されている,参考文献 43,44),気孔の離脱を防ぐ.Al2O3 に MgO を少量(Coble の特許(1962,参考文献 4)では 1/8〜1/4 重量 % が好ましいとされた)添加量に最適値がある.多すぎると第二相が出る

13. シミュレーターのモデルについて

sintering-simulator.html の⑤⑥⑦は,次の連立方程式をその場で数値積分しています. ①②③④の計算と,各タブの画面の読み方は付録 A(とくに A.9)にまとめてあります.

(31) dDreldt =Ae−Qd/RTTG4 (1−Drel)φ dGdt =Be−Qg/RTTG2 ψ
このモデルで言えること・言えないこと 言えるのは,「粒径の 4 乗が効く」「粒成長の Q が大きいと低温が有利」「気孔が離脱すると頭打ちになる」という傾向と, 温度・粒径・添加物の効き方の相対比較です. 言えないのは,特定の物質で何時間焼けば何 % になるか,という定量予測です. 実際の焼結では,粒径分布,気孔の配位数,昇温速度,雰囲気,不純物がすべて効きます.

14. さらに深く学ぶために

表 7 関連する学習資源
話題参照先
拡散と点欠陥(なぜ空孔がないと動けないか)§2.2・§2.3/教科書 1-3 節(格子欠陥)
固相反応・固溶体・拡散係数の実測値§2/W. D. Kingery ほか Introduction to Ceramics 第 4 章(固溶体)・第 6 章(拡散)
超格子反射と構造因子§2.5/xrd-derivation.html の「構造因子」「消滅則」の節
表面エネルギー,Laplace 圧,粒成長,Ostwald 成長§3・§4・§10,sintering-simulator.html の②(表面エネルギー・Laplace 圧)と⑤⑥(粒成長)/教科書『よくわかる無機材料化学』2-3 節
液相焼結の前提となる共晶・状態図phasediagram-simulator.html
焼結体の強度(残留気孔が強度をどう下げるか)fracture-simulator.html
焼結の標準的な教科書W. D. Kingery ほか Introduction to Ceramics 第 10 章,M. N. Rahaman Ceramic Processing and Sintering,R. M. German Sintering Theory and Practice

15. 演習問題と解答

問題 1 ある酸化物の中の陽イオンの拡散係数を,仮に 1200 °C で D = 1.0×10−16 m2 s−1 とする. (a) 1 時間の仮焼での拡散距離 √(Dt) を求めよ. (b) 拡散距離が 5 μm に達するには何時間かかるか. (c) この結果から,仮焼の前に原料粉をよく混ぜ,細かくしておくことの意味を述べよ.

解答.(a) t = 3600 s より √(Dt) = √(1.0×10−16 × 3600) = √(3.6×10−13) ≈ 6.0×10−7 m = 0.6 μm. (b) t = x2/D = (5×10−6)2/(1.0×10−16) = 2.5×105 s ≈ 69 時間. 距離が約 8 倍になると,時間は約 70 倍になる(時間 ∝ 距離の 2 乗). (c) 原子が 1 時間で混ざり込めるのは 1 μm 程度にすぎないので,原料粉の粒子が大きかったり,混合が不十分で同じ粉が数 μm 以上の塊になっていたりすると, 現実的な時間では反応が終わらず,未反応の原料や組成のむらが残る.粒子を細かくし,異なる粉どうしを近づけておくことで,必要な拡散距離そのものを短くできる.

問題 2 ある固相反応が Jander の式 (13) に従い,粒子半径 5 μm の原料で反応率 α = 0.3 に達するのに 8 時間かかった. (a) 同じ温度で粒子半径を 2.5 μm にすると,α = 0.3 に達するのに何時間かかるか. (b) 半径 5 μm のまま,拡散係数が 4 倍になる温度で行うとどうか.

解答.(a) 同じ α なら式 (13) の左辺は同じなので kt/r2 が一定,t ∝ r2. t = 8 × (2.5/5)2 = 2 時間. (b) k ∝ D なので t ∝ 1/D.t = 8/4 = 2 時間. 粒子を半分にすることは,拡散係数を 4 倍にするのと同じ効果をもつ. (α = 0.3 は Jander の式がよく合う反応初期の範囲とみなした.)

問題 3 bcc 格子(z = 8)上の組成 1:1 の合金 AB について,最近接の対のエネルギーが (a) εAA = −0.50 eV,εBB = −0.40 eV,εAB = −0.47 eV の場合と, (b) εAA = −0.50 eV,εBB = −0.40 eV,εAB = −0.43 eV の場合で, 式 (7) の Ω を求め,低温でできるのは秩序化合物か,相分離した 2 相か,を判断せよ. また,それぞれ式 (10) の Tc を求め,それより高温で何ができるかを述べよ(kB = 8.617×10−5 eV K−1).

解答.(εAA + εBB)/2 = −0.45 eV. (a) Ω = −0.47 − (−0.45) = −0.02 eV < 0.A–B の隣接が得なので,低温では A と B が交互に並んだ秩序化合物(CsCl 型). Tc = z|Ω|/(2kB) = 8 × 0.02/(2 × 8.617×10−5) ≈ 9.3×102 K.これより高温では無秩序な固溶体(bcc)になる. (b) Ω = −0.43 − (−0.45) = +0.02 eV > 0.同種の隣接が得なので,低温では A に富む相と B に富む相の 2 相に分かれる. Tc = zΩ/(2kB) ≈ 9.3×102 K で,これより高温では配置のエントロピーが勝って全組成で固溶体になる. (いずれも平均場近似の値で,実際の転移温度はこれより低めになるのがふつうである. (a) の化合物を X 線回折で調べると,Tc 以下で h + k + l が奇数の超格子反射が現れる(式 (11)).)

問題 4 ZrO2(Vm = 21.7 cm3 mol−1,γs = 1 J m−2)の粒子半径 a = 0.1 μm の粉について, 式 (14) で焼結の駆動力を見積もれ.また,駆動力があるのに室温で焼結が進まない理由を述べよ.

解答.ΔG ≈ 1 × 3/(10−7) × 2.17×10−5 ≈ 6.5×102 J mol−1. これは室温の RT = 8.3145 × 298 ≈ 2.5×103 J mol−1 より小さいが,焼結温度(1500 K)の RT ≈ 1.2×104 J mol−1 と比べると比はさらに小さくなるので, RT との大小では室温で進まない理由は説明できない.駆動力の大小と速さは別の話で,室温で進まない本質的な理由は拡散係数が極端に小さいことである. D = D0exp(−Q/RT) の Q は数百 kJ mol−1 あり,室温では原子がほとんど動けない.

問題 5 粒界拡散が支配する焼結で,原料の粒径を 1 μm から 0.1 μm にすると,同じ x/a に達する時間は何倍になるか. 体積拡散が支配する場合はどうか.

解答.Herring の相似則(式 (28))より t2/t1 = (a2/a1)m. 粒界拡散(m = 4)なら (0.1)4 = 10−4 倍(1 万分の 1). 体積拡散(m = 3)なら (0.1)3 = 10−3 倍.

問題 6 2 球モデルでネック半径が x/a = 0.2 に達した.物質源が粒界の場合と表面の場合で,線収縮率はそれぞれいくらか.

解答.粒界の場合,式 (21) より ΔL/L0 ≈ (0.2)2/4 = 0.01(1 %). 表面の場合,中心は近づかないので 0 %. (球を単純に切り落とした幾何 h ≈ x2/2a を使うと 2 % になるが,この幾何ではネックの角がとがり(ρ → 0),物質の量も保存しない(§6.2 の「誤解 3」).いずれにせよ (x/a)2 に比例する.)

問題 7 ある粉体の初期焼結で,ネック半径の時間変化を両対数でプロットしたところ傾きが 1/5 であった. この情報だけで支配的な機構を特定できるか.できないなら,何を追加で測ればよいか.

解答.特定できない.傾き 1/5(n = 5)は体積拡散を示唆するが, 表 5 の整理では物質源が表面でも粒界でも n = 5 である. 収縮(寸法変化または密度)を同時に測り,収縮していれば粒界からの体積拡散, 収縮していなければ表面からの体積拡散と判断する. さらに温度を変えて活性化エネルギーを求め,体積拡散係数の文献値と比べれば裏付けになる.

問題 8 中期段階で粒径が 3 倍になった.粒界拡散律速の Coble モデルに従うとすると,緻密化の速さは何倍になるか.

解答.式 (29) より緻密化の速さ ∝ G−4 なので,3−4 = 1/81. 粒成長が緻密化をいかに強く妨げるかが分かる.

問題 9 ある焼結体の相対密度が 95 % で頭打ちになり,それ以上保持しても粒径が大きくなるだけであった. 何が起きているかを説明し,対策を 3 つ挙げよ.

解答.粒成長が速すぎて,移動する粒界が気孔を置き去りにし,気孔が粒の内部に取り残された(§11.1). 粒内の気孔は空孔のシンクである粒界から切り離されたので,実用的な時間では消えない.
対策(3 つ挙げればよい):①焼成温度を下げる(粒成長の Q が緻密化より大きい場合), ②粒成長抑制剤を添加する(Al2O3 への MgO 添加など), ③2 段階焼結を行う,④加圧焼結(HP・HIP・SPS)で緻密化を速くする, ⑤原料を微粒化・均一化して,粒成長が始まる前に緻密化を終える.

問題 10 Qd = 400 kJ mol−1,Qg = 560 kJ mol−1 とする. 焼成温度を 1650 K から 1500 K に下げると,緻密化と粒成長の速さはそれぞれ何倍になるか(前指数因子の T 依存性は無視せよ). この結果から,低温で長時間焼くことの意味を述べよ.

解答.1/1500 − 1/1650 = 6.06×10−5 K−1. Qd/R = 4.00×105/8.3145 ≈ 4.81×104 K より,緻密化は exp(−2.92) ≈ 0.054 倍. Qg/R ≈ 6.74×104 K より,粒成長は exp(−4.08) ≈ 0.017 倍.
どちらも遅くなるが,粒成長のほうが約 3.2 倍強く抑えられる. したがって低温で長時間焼けば,同じ密度に達するまでの粒成長を小さくでき,気孔の取り残しを避けやすい. 代償は時間(とそのぶんのエネルギー)である.

付録 A. シミュレーター(sintering-simulator.html)で見ていること

この付録で分かること 対になるシミュレーター sintering-simulator.html のタブが,それぞれ何を描いていて,どの操作が何を意味するのか. そして,画面に出てくる数値がどんな近似で計算されているのか. シミュレーターは授業の画面に埋め込んで使うので,画面の説明は短くしてあります. 「この図はどう読めばよいのか」と思ったら,ここに戻ってきてください. 式の導出そのものは本文の §2〜§13 にあるので,この付録では本文を参照するだけにとどめ, シミュレーターにしか出てこない設定や数値をまとめます.

A.1 ページ全体 ―― タブと授業との対応

粉のままでは材料として使えません.融点より低い温度で粉を緻密な固体にする焼結は, セラミックスにとって最も重要なプロセスでありながら,直感が湧きにくいところです. シミュレーターのタブは,実際の工程の順に,焼結の前の仮焼から始まります. ①では焼結の前の工程である仮焼で,接した 2 種類の粉が原子の拡散で混ざり合い,秩序相の化合物か無秩序な固溶体になる様子を見ます(本文 §2). ②から先は焼結で,本文の 3 つの問い(「このページの背骨」の囲み)に沿って並んでいます. ②で駆動力が表面エネルギーの減少であることを確かめ, ③で 2 球モデルのネック成長を機構ごとに比べます.両対数の傾きが 1/n になり, その n は表面拡散なら 7,粒界拡散なら 6,蒸発凝縮なら 3 と機構によって違います. ④がこの教材の核心で,物質源が表面か粒界かで,収縮するかどうかが決まります. ⑤⑥では Coble の中期モデルを借りた式を数値積分して緻密化曲線を描き, 粒成長が気孔を置き去りにすると,もう緻密化できないことを見ます. ⑦では加圧焼結・液相焼結・粉体設計・添加物の効果を比べます.

東京理科大学「無機材料学」の第 9 回(合成法・焼結)で扱うのは ①〜⑤ の 5 つです. ①は第 9 回の主題のうち合成法(原料粉を混ぜて仮焼し,目的の化合物や固溶体の粉をつくる工程)に, ②〜⑤は焼結に関わる内容で,焼結の部分は指定教科書『よくわかる無機材料化学』の 3-4 節「焼結体の製造」(p. 59–66)に対応します(参考文献 8). ⑥・⑦ は,研究室に配属されて実際に試料を焼くようになってから効いてくる内容で,授業では扱いません. 「焼いても密度が上がらない」「粒ばかり大きくなる」という場面に出会ったら,開いてみてください.

表 A1 シミュレーターのタブと本文の対応
タブ画面で見ること授業での扱い本文の対応箇所
① 仮焼と固溶体の形成拡散対 A | B の原子の格子モンテカルロ計算,濃度分布と Fick の第 2 法則の解の比較,粉末の反応率(Jander の式)第 9 回(合成法)§2, A.2
② 焼結の駆動力倍率どおりの大きさで描いた 2 粒子とネック,ネックのくびれの曲率半径 ρ,表面からネックへの物質の流れ,表面積の減り方第 9 回§3, §4, §6.1
③ ネック成長と指数 n機構ごとのネック成長曲線(両対数),粒子径の効き方第 9 回§6〜§8
④ 収縮する機構・しない機構同じネック半径で,物質源が表面の場合と粒界の場合を上下に並べた 2 粒子の図と収縮率.多数の粒子を 2 次元に並べた模式図で,粒子のつながり方と気孔(開気孔・閉気孔)の残り方第 9 回§4, §6, §9
⑤ 緻密化曲線相対密度の時間変化と温度による違い,気孔の取り残し第 9 回§10, §11, §13
⑥ 緻密化と粒成長の競争密度と粒径の競争,焼成後の微構造の模式図,粒成長抑制剤の効果研究室配属後§10, §11
⑦ 焼結を助ける 4 つの手法加圧・液相・粉体設計・添加物による緻密化曲線の違い研究室配属後§12, §13

どのタブも,左に図(キャンバス),その下に凡例・「ひとこと」の欄・読み取り値の表が並び, 右(スマートフォンでは下)に操作欄があります. 「ひとこと」は,操作するたびにいまの状態に合わせて書き換わる 1〜2 文の短い知らせです. 授業の画面に埋め込んで使うので,画面の説明は短くしてあり,操作欄のいちばん下の「詳しい解説」のリンクからこの付録の該当する小節へ飛べます. アドレスの末尾に #calcine,#drive,#neck,#shrink,#dens,#race,#help を付けると,そのタブを開いた状態でページが表示されます. ?embed=1 を付けると見出しと導入文を隠した埋め込み用の表示になり(タブは残る), ?only=shrink のように書くとそのタブだけを,タブの列も隠して表示します.

A.2 ① 仮焼と固溶体の形成

純物質 A と純物質 B が界面で接し,有限温度の熱による原子の拡散で混ざり合って,秩序相の化合物 AB か無秩序な固溶体になる(あるいは混ざらない)様子を, 原子のスケールの計算と粉末のスケールの式の 2 段で見るタブです. 考え方は Kingery ほか Introduction to Ceramics の第 6 章の Fig. 6.2(参考文献 7)を参考にしましたが,図はその複製ではなく,この計算そのものを描いています. モデルの導出(空孔の平衡濃度・Fick の法則・正則溶体モデル・格子モンテカルロ・Jander の式)は本文の §2(とくに §2.7)にあり, ここでは画面の読み方と,計算に使っている値をまとめます.

上の図(原子のスケール).横 48 × 縦 28 の正方格子で,1 マスが格子定数 a です. 黒い丸が A,白い丸が B,赤い丸が焼結助剤 C,破線の輪と中心の点が空孔(原子のいない格子点)です. はじめは左の 24 列が A,右の 24 列が B で,縦の破線がはじめの界面です.左右の端は壁(原子も空孔も出入りしない),上下の端はつながっています(周期境界). A と B が市松模様にそろった場所は薄い色で塗ってあり,2 色は市松模様の「位相」の違い(A が偶数の格子点にいるか奇数の格子点にいるか)を表します. 色の境目は位相のずれたドメインどうしの境界(逆位相境界)です. 図の下に,経過した MC ステップ数,Ω(ε0 単位),温度 T(K)と,いまの状態の判定(下の「状態の判定」)が出ます.

中の図(Fick の第 2 法則との比較).左は,縦の列ごとに数えた B の割合 cB(x) = NB/(NA + NB)(青い点), はじめの階段状の分布(破線),そして式 (5) と同じ形の cB(x) = ½ erfc[−(x − x0)/2√(D̃t)] を最小二乗法で当てはめた曲線(赤)です (式 (5) は A の濃度で書いてあるので,B の割合では erfc の中の符号が逆になる). 当てはめで決まる幅 2√(D̃t) と経過した MC ステップ数 t から,相互拡散係数 D̃ を読み取ります. 右は,拡散距離の 2 乗 D̃t を t に対して打った点と,原点を通る直線(破線)です.点が直線に乗れば「拡散距離は √t に比例して伸びる」ことが確かめられます.

下の図(粉末のスケール,Jander の式).左は,半径 r の A の粒子を B の粉(白)が囲み,接点から生成物 AB の層(紫)が内側へ育つ様子の模式図で, 黒い芯が未反応の A です.右隣に半径 r/2 の粒子を同じ時刻で描き,1 μm のスケールバーを添えています. 右のグラフは式 (13) の反応率 α(t) で,実線が半径 r,破線が r/2,点が α = 0.5 に達する時刻,縦の破線が「仮焼時間」のスライダーの位置です. 式 (13) の k は教育用の値 k = 0.02 μm2 h−1 にしてあり,生成物の層の厚さは √(kt) です. 既定の r = 2 μm,t = 8 h では,層の厚さ 0.40 μm,反応率は r で 0.49,r/2 で 0.78 で, α = 0.5 までの時間は r で 8.51 h,r/2 で 2.13 h(ちょうど 1/4)です. 拡散距離は √(Dt) でしか伸びないので,時間を延ばすより原料粉を細かくして,必要な拡散距離そのものを短くするほうがよく効きます(§2.3,演習問題 1・2).

表 A2 ①の操作と既定値エネルギーは ε0 = kB × 1000 K(≈ 0.0862 eV)を単位とする教育用の値で,温度 T は kBT/ε0 の 1000 倍を K で表示.時間の単位の MC ステップは,空孔の数と同じ回数の入れ替えの試行(空孔 1 個あたり平均 1 回).
操作範囲既定意味
再生/一時停止,リセット―停止計算を進める・止める.リセットで,はじめの配置(乱数の種は固定なので毎回同じ)に戻る.別のタブを開くと止まる
速さ30,100,300,1000,3000 MC ステップ/コマ300画面を 1 回描きかえるあいだに進める MC ステップ数
温度 T500〜2500 K(50 K 刻み)800 K温度(計算の中では kBT = (T/1000 K)ε0).動かすとすぐに入れ替えの確率(原子の動きやすさ)が変わる.空孔の数はリセットしたときの温度で決まる
混ざりやすさの 3 つのボタンΩ = −1.5ε0,0,+1.5ε0―「秩序化合物 AB になる」「固溶体になる」「混ざらない」.Ω を設定し,リセットして再生を始める
Ω−2ε0〜2ε00式 (7) の相互作用パラメーター.Ω < 0 なら A–B が隣り合うほうが得,Ω > 0 なら同種どうしが得
Em,B0.4ε0〜2.4ε00.4ε0B の移動の障壁(A は Em,A = 0.4ε0 に固定).「B を重い・結合の強い元素にする」のボタンで 1.6ε0 にし,もう一度押すと 0.4ε0 に戻る
焼結助剤 Cなし/ありなしありにすると,格子点全体(1344 個)の 2 % にあたる 27 個の C を,はじめの界面をはさむ 6 列(左から 22〜27 列目,168 個の格子点)の中にランダムに置いてリセットする(その 6 列の中では約 16 %)
粒子半径 r0.5〜5 μm2下の図の Jander の式の粒子半径
仮焼時間 t0〜24 h8下の図の時刻

操作欄の 2 つの式は,式 (7) の Ω の定義と Jander の式 (13) です. 計算に使っている値.

状態の判定.次の順に調べ,最初に当てはまったものを図の下と読み取り値に出します. ①混ざった場所の結合が 60 本未満なら「まだほとんど混ざっていない」, ②η ≧ 0.45 なら「秩序化合物 AB のドメインが成長」, ③R ≦ 0.8 かつ幅 w < 4a なら「相分離(A と B が分かれたまま)」, ④R ≦ 0.85 なら「固溶体(同種が集まりやすい)」,⑤R ≧ 1.15 なら「固溶体(AB が隣り合いやすい)」,⑥それ以外は「固溶体(無秩序)」. η が 0.45 の前後にあるうちは,判定が秩序化合物と固溶体のあいだで入れ替わることがあります.

読み取り値. 原子のスケールでは,経過 MC ステップ,空孔の割合(と丸める前の exp(−Ef/kBT)),原子の割合 A : B : C,A と B の移動回数, はじめの界面を越えた原子の数(右半分にいる A,左半分にいる B),左右の空孔の数. 混ざり方では,η,R,状態,秩序–無秩序(Ω > 0 では相分離)の目安 Tc ≈ 1.13|Ω|/kB(K で表示.§2.7 の Onsager の値). Fick の第 2 法則との比較では,D̃,拡散距離 √(D̃t),当てはめの中心 x0 と残差. 拡散距離が格子の幅の 1/4(Nx/4 = 12a)を超えると当てはめは意味を失うので,D̃ と拡散距離は「—(格子の幅を超えた)」と表示し,その時刻の点は D̃t–t の図にも記録しません. 粉末のスケールでは,時刻 t での反応率(r と r/2),層の厚さ √(kt),α = 0.5 までの時間とその比です. 「ひとこと」は状態に応じた本文 1 文に,補足を多くても 1 文だけ付けます. 本文は,秩序化合物,相分離,未開始のほか,固溶体では R ≧ 1.15(A と B が隣り合いやすい),R ≦ 0.85(同種の原子が集まりやすい),その間(ランダムに混ざる)の 3 通りに分かれます. 補足は次の優先順で,最初に当てはまった 1 つだけを付けます. (i) 拡散距離が 8a を超えた(左右の壁の影響で erfc の当てはめがずれてくる). (ii) 拡散距離が格子の幅を超えた(D̃ と拡散距離は読み取れないのでリセットを促す). (iii) 固溶体で Ω < 0 かつ T < Tc(秩序化合物 AB のドメインが育つには時間がかかる). (iv) |Ω| ≧ 0.3 で相分離でない(拡散係数が組成で変わるので erfc から少しずれる).

やってみること(数値は乱数の種を固定した計算の一例).

①(仮焼と固溶体の形成)のモデルの限界 ①Kirkendall 効果は現れません.格子点の数も空孔の数も一定で,空孔が生まれたり消えたりする場所(転位・粒界・表面)がないので, 左半分に入った B の数と左半分から出た A の数は,左右の空孔や C の数の小さな偏りを除いて必ずつり合います. Em,B を大きくして DA ≠ DB にしても,界面を越えた A と B の数はほぼ同じで,格子そのものが動くこと(§2.3)は表せません. 見えるのは,遅い B が全体の混ざる速さを抑えることだけで,これは空孔が平衡濃度に保たれる場合の Darken の式(§2.3)とは前提が異なります.
②化合物の層は鋭くなりません.最近接の結合だけを考えているので,A の中に B が 1 個ぽつんと入っても,市松模様の中の B と同じく A–B 結合を 4 本もち,エネルギーの得は同じです. そのため B は A の中に広く溶け込み,市松模様(化合物 AB)は組成がおよそ 1:1 になった場所にできます. 実際の固相反応のように,決まった組成の生成物の層が反応物のあいだに鋭くはさまって育つ様子(下の図の Jander のモデル)を原子のスケールで出すには,第 2 近接の相互作用などが必要です.
③2 次元・1 種類の格子です.酸化物のように陽イオンと陰イオンが別の副格子をもち,酸素の骨格の中で陽イオンが入れ替わる(§2.1 の Wagner の機構)様子は表していません.
④値は教育用です.エネルギー(ε0 単位)・温度・Ef・k は特定の物質の値ではなく(障壁が実際より小さいので,画面の温度 T は目安),空孔の割合は見やすさのために 0.5〜3 % に丸めています. 焼結助剤は,障壁を下げるだけの,エネルギー的には中立な原子として表しています. 上の格子モンテカルロと下の Jander の式は,同じ現象を 2 つのスケールで見せる別々の計算で,数値どうしはつながっていません.

A.3 ② 焼結の駆動力

半径 a の球 2 個がネック(半径 x,橙の線)でつながった 2 球モデルを描きます. 緑の矢印は物質の流れで,凸な粒子表面(化学ポテンシャル μ が高い)から凹なネック(μ が低い)へ向かいます. 曲がった面は,凸なら内側を押し(圧縮),凹なら内側を引っ張ります.これが操作欄の式,Laplace 圧 Δp = γs(1/r1 + 1/r2) で, 本文の式 (16) と同じものです.凸面の下が圧縮され凹面の下が引っ張られるので化学ポテンシャルは凸面で高く凹面で低い,という理屈は §4(とくに「物質と空孔は,逆向きに流れる」の囲み)で説明しています.

ρ の表示.ネックの上下にある紫の破線の円が,ネックのくびれに沿う円(2 つの球の表面に接する円)で, その中心からネックの表面へ引いた紫の線が半径 ρ です. ρ は,2 粒子の軸を含む断面で見たくびれの曲がり具合(子午線方向の曲率半径)で,円の中心が固体の外にあるので凹,Laplace 圧の式では r2 = −ρ と負で入ります. もう一方の主曲率半径は軸のまわりの周方向で,ネック半径そのもの r1 = x(凸,正)です. 図の左下にこの 2 つの注記があります.x ≪ a では ρ ≪ x なので Δp = γs(1/x − 1/ρ) < 0 となり,ネックの下は引っ張られます(§4.1 の「ρ は図のどこか」の囲み). 粒子が小さく描かれて円が小さいときは,引き出し線で「ρ」の名前を付けます. 円の半径が 18 px より小さいときは,図の右上にネックの上側を拡大した小窓(倍率「拡大 ×M」を表示)を添え,本図の拡大した範囲を紫の点線の枠で示します.

②の図は「表面拡散(物質源が粒子表面)」だけを考えています 図の上端にも書いてあるとおり,②の図では,ネックがいくら太っても2 つの粒子の中心間距離は 2a のままです(図の下の「h = 0」). これは,ネックに積もる物質を粒子の表面から取ってきている場合,つまり表面拡散(蒸発・凝縮や表面からの体積拡散も同じ)だけを考えて描いているからです(§6.1,§9.1). 実際の焼結では,粒界拡散や粒界からの体積拡散によって粒界から物質が運ばれ,粒子どうしが近づいて緻密化し,粒子間の距離が縮むことが多く, その違いは④で見ます(§6.2,§9.2).

粒子の大きさとスケールバー.②の図は,決まった倍率(1 μm あたりの図の画素数)で描いています. そのため「粒子の大きさ」の a を変えると,描かれる粒子の大きさがそのとおりに変わり,大きい粒子と小さい粒子を目で比べられます. 倍率は図の右下のスケールバーで表し,バーの長さはいつも「ラベルの長さ(μm)× 倍率」に一致します.倍率は次の 3 通りで変えられます.

最初の倍率は,a = 1.0 μm の 2 粒子がちょうど収まる「1 μm = 140 px(図の座標)」です. 図は画面の幅に合わせて拡大・縮小されるので,画面上の長さの目安になるのはスケールバーだけです. 倍率を固定したまま a を大きくすると粒子が図からはみ出し,左上に「粒子が枠からはみ出しています」と出ます. たとえば a = 2.0 μm で「倍率を自動で合わせる」を押すと 1 μm = 70 px(バーは 2 μm)になり,そのまま a を 0.2 μm まで下げていくと,同じ倍率で 10 倍の大きさの違いを見比べられます.

操作欄.「ネックの成長」の x/a(0.02〜0.60,既定 0.30)と,「粒子の大きさ」の a(0.2〜3.0 μm,既定 1.0 μm)を変えます. 読み取り値.粒子半径 a,ネック半径 x,x/a に加えて,ネック表面の曲率半径 ρ を §6.1 の式 (19) の近似する前の形 ρ = x2/2(a − x) で表示します(図の紫の円の半径そのもの).ρ は有効数字 3 桁で,0.01 μm 未満になると 1.23 × 10−3 μm のような指数の形で表示します. 「表示の倍率」の行は,スケールバーの長さと図の座標での px 数です. Laplace 圧の符号はネックで負(引っ張り),粒子表面で正(圧縮)です(§4.1). 下半分には,もとの表面積(球 2 個ぶん 8πa2),ネックでつながったいまの表面積,減った割合を出しています. たとえば x/a = 0.30 で表面積は約 1.8 %,x/a = 0.60 で約 4.5 % 減ります. 面積の計算方法は A.9 にまとめました.

ネックが太るほど表面積が減り,系の自由エネルギーが下がる ―― これが焼結の駆動力です(§3). x/a を固定したまま a だけを変えると,面積は a2 に比例して変わりますが,減った割合は変わりません. それでも細かい粉ほど駆動力が大きい(式 (14) で 1/a に比例する)のは,同じ 1 mol の体積に入る粒子の数が 1/a3 に比例して増え, 粉全体の表面積が 1/a に比例して増えるからです.

ただし駆動力そのものは小さく,Al2O3 の a = 1 μm の粉で約 77 J mol−1(式 (15))です. 化学反応のエンタルピー(数百 kJ mol−1)より 3〜4 桁小さいので,高温にして拡散を速くしてやる必要があります(§3 の「誤解 2」). そして,緻密化するには物質が「粒界から」来なければなりません.これが次の④につながります.

A.4 ③ ネック成長と指数 n

操作欄で物質移動の機構(表 5 の 6 つ)を選ぶと,それぞれのネック成長曲線 x/a 対 時間 t を両対数で描きます. 最初は表面拡散・粒界拡散・粒界からの体積拡散の 3 つが選ばれています. 機構名の横の「収縮する」「収縮しない」の印は物質源の違い(④)を表し,色は本文の図 4 とそろえてあります. 操作欄の式は §8 の式 (27),(x/a)n = F(T) t/am で,両対数にとると傾きが 1/n の直線になります.

実験で x/a の時間変化を両対数で測り,傾きから n を読むと,機構の候補を絞り込めます.焼結機構を調べる古典的な方法です. ただし体積拡散は物質源が表面でも粒界でも n = 5 なので,n だけでは機構を決めきれず,収縮の有無(④)や活性化エネルギーと合わせて判断します (§8 の「誤解 4」,演習問題 7).

A.5 ④ 収縮する機構・しない機構

上下 2 つの 2 粒子の図は,ネック半径 x がまったく同じ 2 球モデルです. 上は物質源が粒子表面(表面拡散・蒸発凝縮・表面からの体積拡散)の場合で,中心間距離は 2a のまま変わりません. 下は物質源が粒界(粒界拡散・粒界からの体積拡散)の場合で,赤い線の粒界にあった原子がネックへ移るぶん, 2 つの粒子は互いに h ずつめり込み,中心間距離が 2(a − h) に縮みます. 見分け方はひとつだけ,物質がどこから来るかです(§9,図 4). 表面から供給されるかぎり,ネックはいくら太っても粒子は近づかず,気孔は残ったままです. 強度は上がるのに密度が上がらないという,実験でよく出会う状況がこれです.

ρ の表示.どちらの 2 粒子の図にも,②と同じく紫の破線の円(ネックのくびれに沿う円)と半径線で ρ を描き, 右に「x:ネック半径(周方向).凸なので r1 = x」と注記しています(§4.1). 左の注記は,上の図では「ρ:ネックのくびれ(子午線方向)の曲率半径.凹なので r2 = −ρ」, 下の図にも同じく ρ の円と注記を描きます. 上の図の円の半径は ρ = x2/2(a − x) で,x/a = 0.30 なら 0.064a です. 下の図では,中心間距離の半分を a − h として接する条件を解いた ρ = (x2 − 2ah + h2)/2(a − x) に, 中心の接近量 h = x2/4a(§6.2 の式 (20))を入れた ρ ≈ x2/4(a − x) の円を描きます. x/a = 0.30 なら 0.0325a で,上の図の約半分です. どちらの図でも円は数 px と小さいので,右側にネックの上側を拡大した小窓(倍率「拡大 ×M」を表示)を添え,本図の拡大した範囲を紫の点線の枠で示しています. 球を単純に切り落とした幾何(h = x2/2a)ではネックの角がとがって ρ → 0 になりますが,実際には切り落とした分の物質がネックの外側に付いてくびれが丸くなり, 物質の保存から h も ρ も x2/4a の程度になります(§6.2).

多数の粒子の模式図(2 次元).2 粒子の図の下に,円い粒子をたくさん平面に並べた成形体の断面の模式図を 2 枚並べています(狭い画面では上下). 左が物質源=粒子表面,右が物質源=粒界で,どちらも同じ「進み具合 p」(0 がはじめ,1 が終わり)の状態を描きます. 淡い青が固体(粒子),粒子どうしの境目の線が粒界(左は灰色,右は物質源であることを示す赤), 淡い黄色が開気孔(外とつながった気孔),赤みのある色が閉気孔(粒子に囲まれて外とつながらない気孔), 破線の四角が焼結前の外形,青い実線の四角がいまの外形です. 図の下に,相対密度(面積率),線収縮,開気孔と閉気孔の数が出ます.

多数の粒子の模式図の限界 この図は,§9 の「物質源の違いで収縮するかどうかが決まる」ことと,開気孔が閉気孔に変わっていく流れ(表 4)を目で見るための 2 次元の定性的な模式図です. p は時間ではなく「進み具合」を表すだけで,拡散の速さは計算していません.粒界源での粒子の接近は拡散から求めたものではなく,最終の密度 0.95 になるように与えています. 密度は体積率ではなく面積率で,粒成長や粒子の再配列も入っていません. 閉気孔が現れる密度(この図では 0.84 付近)は並べ方と見分け方の約束で決まるもので,実際の焼結体で閉気孔が支配的になる相対密度 92 % 前後(表 4)を再現するように調整したものではありません.

操作欄.x/a(0.05〜0.40,既定 0.30)は上下の 2 粒子の図だけを変えます(a は 1 に固定). 「多数の粒子(2 次元の模式図)」の「進み具合 p」(0〜1,既定 0)は下の 2 枚の図を変えます. 「焼結を進める」を押すと,p がいまの値から 1 まで約 6 秒かけて進みます(p = 1 のときは 0 から). もう一度押すと一時停止し,別のタブを開いたときも止まります. 操作欄の式は線収縮率 ΔL/L0 = h/a = x2/4a2 で,§6.2 の式 (20)(21) です. 球を単純に切り落とした幾何の x2/2a2 を使わない理由は §6.2 の「誤解 3」にあります.

読み取り値.物質源が表面の場合は中心間距離 2a,線収縮率 0 %,ネックの曲率半径 ρ. 物質源が粒界の場合は中心の接近量 h,中心間距離 2(a − h),線収縮率,体積収縮率 1 − (1 − ΔL/L0)3,ネックの曲率半径 ρ(図の円の半径)です. たとえば x/a = 0.30 では h = 0.0225a,線収縮率 2.25 %,体積収縮率 1 − (1 − 0.0225)3 = 6.60 %,ρ = 0.0325a になります. その下に,多数の粒子の模式図の相対密度(面積率),開気孔・閉気孔の数,線収縮率を,表面源と粒界源のそれぞれについて出します.

2 球モデルが使える範囲 式 (21) が使えるのは x/a ≲ 0.3(線収縮が数 % まで)の初期段階です(表 4). それより先では気孔がつながった管になり,⑤の中期段階の考え方に移ります. スライダーは 0.40 まで動きますが,0.3 を超えたところは目安として見てください.
「焼き締まらない」ときに疑うこと 相対密度が上がらないときは,まず焼成温度が低くて表面拡散しか効いていないことを疑います. 表面拡散は活性化エネルギーが小さいので低温でも動きますが,収縮しません. 緻密化には,粒界拡散や体積拡散が効く十分な高温が要ります. 低温でゆっくり昇温すると,収縮が始まる前に駆動力を使ってしまうこともあります(§9 の「誤解 5」).

A.6 ⑤ 緻密化曲線

相対密度の時間変化(緻密化曲線)を,相対密度 0.60 の成形体から計算して描きます. 太い青の線が選んだ温度で,「1400 / 1550 / 1650 K を重ねて描く」をオンにすると(最初からオン),3 つの温度の曲線を破線で重ねます. 粒径が離脱粒径 Gc を超えて気孔が粒内に取り残されると,その時刻に赤い点「気孔が粒内へ」が付きます. 操作欄.焼成温度 T(1300〜1700 K),初期粒径 G0(0.15〜2.0 μm),保持時間(60〜1200 分). 読み取り値.到達相対密度,最終粒径 G,粒径の倍率 G/G0,残留気孔率,気孔が取り残されたかどうか(取り残されたときはその時刻と相対密度).

計算しているのは §13 の連立方程式 (31) です. 緻密化の速さは Coble の中期段階(粒界拡散律速)の粒径依存性 1/G4(式 (29))を借り,残留気孔率 (1 − Drel) に比例させています. (1 − Drel) の因子は教育用の仮定で,Coble の式そのものではありません. 係数は特定の物質の値ではないので,絶対値ではなく効き方の相対比較として見てください. 既定の条件(1450 K,G0 = 0.5 μm,600 分)では相対密度は約 98 %,粒径は約 1.1 μm になります. 同じ粉を 1650 K で焼くと,約 180 分で粒径が Gc = 4 μm に達して気孔が取り残され,相対密度は 92 % ほどで頭打ちになります.

「ひとこと」の欄は,結果に応じて次の 3 通りに変わります.

緻密化の活性化エネルギーを Qd = 400 kJ mol−1,粒成長を Qg = 560 kJ mol−1 としています. 粒成長のほうが Q が大きいので,温度を下げると粒成長のほうが強く抑えられます(§11.2 の数値例と演習問題 10). これが⑥の対策②(温度を下げる)や,§11.3 の 2 段階焼結が効く理由のひとつです. ただし 2 段階焼結の機構は Q の差だけでは説明できません(§11.3 の「誤解 6」).

A.7 ⑥ 緻密化と粒成長の競争

上の図は,⑤と同じモデルで計算した相対密度 D(青)と粒径 G(橙)を,同じ時間軸に重ねたものです. 2 つは単位が違うので,D は 0.55〜1.00 を 0〜1 に,G は 0 から図の上端の粒径までを 0〜1 に規格化してあります(上端の粒径は凡例に表示). 赤い破線が離脱粒径 Gc で,橙の線がこれを横切ると気孔が粒界から離れ,青の線に「離脱」の点が付いて密度の伸びが止まります. 既定の条件(1600 K,G0 = 0.5 μm,600 分)では,約 520 分,相対密度 94 % ほどで離脱が起きます.

下の図は焼成後の微構造の模式図です.粒を六角形で敷き詰め,粒の描き方の大きさは G/G0 とともに大きくしてあります (画面に収まるように上限と下限を設けてあるので,縮尺どおりではありません). 気孔は,残留気孔率 1 − Drel が大きいほど多く描きます(位置は乱数で決めますが,毎回同じ並びになります). 気孔が粒界に付いているうちは気孔(茶色)を粒界の上に,取り残された後は気孔(赤)を粒の中心に描きます. 粒内の気孔は,実用的な時間では消えません.

気孔は,粒界の上にいる限り消せる 気孔が粒界の上にあれば,気孔から出た空孔は近くの粒界(空孔のシンク)に吸い込まれて消滅できます. ところが粒成長が速いと,動く粒界が気孔を置き去りにして通り過ぎます. 粒内に取り残された気孔は,空孔を吸い込む粒界から遠く離れるので,ほとんど消せません(§9.2 の「空孔の言葉で言い直すと」,§11.1). シミュレーターでは,Brook の条件(粒界の移動速度が,気孔がついていける速度を超える)を,粒径が Gc を超えたかどうかで簡略化しています.

操作欄.焼成温度 T(1350〜1700 K),初期粒径 G0(0.15〜2.0 μm),保持時間(60〜1200 分)に加えて, 「粒成長抑制剤(MgO など)」のスライダー(1.0〜3.0)があります.値 s にすると,離脱粒径を Gc × s に上げ,粒成長の係数を 1/s にします. Al2O3 に MgO を少量(Coble の特許では 1/8〜1/4 重量 % が好ましいとされた,参考文献 4)加えると,粒界の移動が遅くなり(参考文献 43),気孔が置き去りにされにくくなります. 透光性アルミナ(高圧ナトリウムランプの発光管)は,この発見(Coble の特許,1962,参考文献 4)によって実現しました(表 6). 既定の条件でも,スライダーを 1.5 まで上げれば離脱は起きなくなります.

気孔が取り残されたときの「ひとこと」には,対策が 4 つ出ます. ①粒成長抑制剤を加えて Gc を上げる,②温度を下げて,粒成長の Q が大きいことを利用する(§11.2), ③初期粒径を小さくして早く緻密化を終える,④加圧焼結で緻密化を速くする(⑦). 本文の演習問題 9 の解答と同じ内容です. 逆に,気孔が粒界に付いたまま相対密度 99 % を超えれば,粒成長が始まる前に(あるいは抑制剤で粒界を遅くしたまま)密度を上げきったことになり, これが透光性セラミックスをつくるときの狙いそのものです. どちらでもないときは,保持時間を延ばして,粒径が Gc を超えて頭打ちになる境目を探してみてください.

A.8 ⑦ 焼結を助ける 4 つの手法

§12 の表 6 の方法を,⑤と同じモデルに組み込んで緻密化曲線を比べます. 4 つの手法とは,加圧(ホットプレス・HIP・SPS),液相(液相焼結),粉体設計(原料の微粒化),添加物(粒成長抑制剤)のことで, 操作欄ではこれに基準の常圧焼結を加えた 7 つから好きなものを選べます(最初は常圧焼結・SPS・微粒化・抑制剤の 4 つ). 共通の条件は温度 T(1350〜1700 K,既定 1620 K)と保持時間(60〜1200 分)で,初期粒径は 0.6 μm に固定しています. 図の下の表には,手法ごとの初期粒径,到達密度,最終粒径,気孔の取り残しの有無が出ます.

表 A3 ⑦の手法と,モデルでの表し方「A」「B」は式 (31) の緻密化・粒成長の係数にかける倍率.空欄は 1 倍(変えない). 「ひとこと」の欄には,選んだ手法について右端の列を 1〜2 文に縮めた説明が出る.
手法ABそのほか説明(効く理由と注意点)
常圧焼結(基準)外から何も加えない.最も安価だが,緻密化と粒成長の競争をそのまま受ける.
ホットプレス HP(一軸加圧)×2.6数十 MPa の一軸加圧.外力が粒界に圧縮応力を加えて焼結の駆動力に上乗せされ,粒界から気孔への拡散による物質移動が速くなる.塑性流動や粒界すべりも助ける.単純形状のみ.
熱間等方加圧 HIP×4.5ガスで等方加圧(100 MPa 超).複雑形状も可.開気孔があるとガスが入り込むので,カプセルに封入するか,先に常圧焼結で閉気孔化(相対密度 92〜95 % 程度)してから行う.孤立気孔をつぶす仕上げにも使う.
放電プラズマ焼結 SPS×3.2×0.35パルス通電で数百 K/min の昇温.粒成長が始まる前に緻密化を終えられる.ナノ結晶のバルク体をつくるのに強い.
液相焼結(焼結助剤)×6×1.6共晶液相を発生させる.毛管力による再配列と溶解–再析出で物質移動が大きく速くなる.ただし粒界にガラス相が残り,高温強度が落ちる.
原料の微粒化G0 を 1/3(0.2 μm)にそもそも焼結しやすい粉をつくるのが基本.駆動力が大きく,拡散距離が短い.ただし粒成長も速くなるので,焼成温度を下げて使う.
粒成長抑制剤(MgO 添加)×1/2.1Gc を 2.1 倍に粒界の移動を遅くし,気孔が置き去りにされにくくする.透光性アルミナはこれで実現した.

既定の条件(1620 K,600 分)では,常圧焼結は約 390 分で気孔が取り残されて相対密度 92 % ほどで止まるのに対し, SPS は取り残しなしで 99.9 % 近くまで,抑制剤の添加は取り残しなしで約 97 % まで進みます. 微粒化した粉は 1620 K では粒成長も速く,相対密度 98 % ほどで気孔が取り残されますが, 温度を 1450 K に下げると取り残しなしで 99.9 % を超えます. 細かい粉は,低い温度で焼いてはじめて生きるということです.

⑦のモデルの限界 加圧は緻密化の係数 A を大きくする形でしか表していません. SPS の本質である急速昇温は,この等温保持のモデルでは表せないので,B を小さくすることで代わりに表しています. 実際には応力状態や液相の濡れ(接触角)まで考える必要があり,この画面は効き方の傾向を比べるためのものです(§13 の「このモデルで言えること・言えないこと」).

A.9 計算のモデルと注意

シミュレーターの図と数値は,すべてページの JavaScript がその場で計算したもので,あらかじめ用意した曲線ではありません. ただしこの種のモデルは「傾向を理解するためのもの」であり,実材料の焼結を定量予測するものではありません. タブごとの計算は次のとおりです.

①の拡散は Fick(参考文献 10),2 次元の正方格子の相関係数は Compaan と Haven(参考文献 19),2 次元の秩序–無秩序転移の温度は Onsager(参考文献 15),反応率の式は Jander(参考文献 14)によります. ③のネック成長の整理は Kingery ほか Introduction to Ceramics の第 10 章(参考文献 7), ⑤⑥の中期段階モデルは Coble の 2 報(参考文献 3,9),気孔の離脱は Brook(参考文献 5), MgO 添加による透光性アルミナは Coble(参考文献 4)によります.

このページの数値は,本文中の式から計算した結果です. 表 5 の指数は Kingery らによる 2 球モデルの整理にもとづきます(時間の指数 n は近似の取り方で変わることがあります). §13 のモデルパラメーターは教育用に選んだ値(G は μm,t は分)であり,特定の物質の実測値ではありません. ①の格子モンテカルロ計算と④の多数の粒子の模式図も,傾向を見るための定性的なモデルです(付録 A.2,A.5).

対になるシミュレーター:焼結 ― 粉がくっついて緻密になるまで

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  8. 日本セラミックス協会 編『よくわかる無機材料化学』(森北出版,2026)3-4 節「焼結体の製造」,p. 59–66.―― 「無機材料学」第 9 回の指定教科書.
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