ガラスをつくる ― 調合・溶融・冷却の解説

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このページは glassmelt-simulator.html の対になる解説です. シミュレーターの①調合する,②融かす,③冷やす で使っている換算式・反応式・モデルと,その出典・仮定・仮の値をまとめます. ガラス転移と結晶化の原理(粘度の VFT 式,核生成と成長,JMAK の式,TTT 図)そのものは 2 成分系の状態図の解説 §7 で途中式から導いてあるので,ここでは結果だけを使います. 各タブの画面の読み方は 付録 A に,先生に確認していただきたい事項は 確認事項 にあります.

このページの背骨 ガラスづくりは 「何を量るか」(酸化物の組成と原料は別物),「どう融けるか」(分解 → 液相 → 溶解 → 泡抜け → 均質化), 「冷やすと何になるか」(結晶が育つ前に構造が凍ればガラス)の 3 段に分けると見通しがよくなります. 最後の段の答えは組成と冷やす速さの両方で決まり,どんな配合でも急冷すれば必ずガラスになるわけではありません.
数値の区別(シミュレーターと同じ印) 文献値出典のある値(またはそれから計算した値). 模式傾向を見せるための教育用の規則や式(定量予測ではない). 仮先生の資料または文献で確認が必要な値.

1. はじめに ― ガラスをつくる工程

実験室でガラスをつくる基本の工程は,秤量・混合 → るつぼへ投入 → 加熱・保持(溶融) → 融液の均質化 → 急冷またはゆっくり冷却 → 観察です. シミュレーターの 3 つのタブはこの順に並んでいて,1 つの試料の状態(配合,混ぜ具合,融液の状態)を次のタブへ引き継ぎます.

6 成分は指示書の指定です.ソーダ石灰ガラスに欠かせない CaO と,既存の 状態図 ④ で使っている Li2O は含めていません. そのため代表組成は,この 6 成分だけで文献値がそろうもの(§9)から選びました.

2. 組成の表し方 ― mol% と mass%,合計 100 %

ガラスの組成は,ふつう酸化物として表します(実際の原料が炭酸塩でも,融けたあとに残る酸化物で数える). 基準には物質量の割合(mol%)と質量の割合(mass%,wt% とも書く)の 2 通りがあり,どちらかを必ず明記します. 成分 i の mol 分率を xi,質量分率を wi,モル質量を Mi とすると

(1) wi=xiMi∑jxjMj , xi=wi/Mi∑jwj/Mj

です.モル質量は IUPAC の標準原子量から計算した SiO2 60.083,Al2O3 101.961,MgO 40.304,B2O3 69.617,Na2O 61.979,K2O 94.195 g/mol を使います 文献値. たとえば Na2O·2SiO2(mol% で 33.3/66.7)は mass% では 34.0/66.0 です. 軽い MgO は mol% のほうが大きく,重い K2O や Al2O3 は mass% のほうが大きくなります.

2.1 合計 100 % の扱い

6 成分の合計は常に 100 % です.シミュレーターでは,成分 k のスライダーを値 v に動かしたとき,ほかの成分をいまの比のまま増減させて合計を保ちます:

(2) pk′=v, pj′=pj×100−v∑l≠kpl (j≠k)

p は選んだ基準(mol% か mass%)の百分率です.ほかの成分がすべて 0 のとき(純物質から動かしたとき)は,残りを 5 等分します. v は 0〜100 に制限し,数でない入力は 0 とします.基準を切り替えても組成そのもの(式 (1) で結ばれた同じ組成)は変わりません.

3. 原料と酸化物 ― 反応式・換算係数・質量収支

Na2O や K2O は吸湿して扱いにくいので,炭酸塩として量り,加熱で分解させて酸化物にします. B2O3 はホウ酸 H3BO3 で,MgO は MgCO3(または MgO そのもの)で入れることが多い. したがって「酸化物として表した組成」と「実際に秤量する原料」は別物で,原料の質量は酸化物の質量より大きく,差はガスとして抜けます.

(3) Na2CO3→Na2O+CO2↑ K2CO3→K2O+CO2↑ MgCO3→MgO+CO2↑ 2H3BO3→B2O3+3H2O↑

実際には Na2CO3 は単独で分解するより先にケイ砂と反応して(Na2CO3 + nSiO2 → Na2O·nSiO2 + CO2)ケイ酸塩の液をつくります(§4). どの経路でも,出ていく CO2 の量は同じです.

表 1 原料の換算係数と質量減少 文献値から計算係数 = 酸化物 1 g をつくるのに要る原料の g.質量減少 = 原料のうちガスとして抜ける割合.
原料できる酸化物係数質量減少出るガス
SiO2(ケイ砂),Al2O3,MgO,無水 B2O3そのまま1.0000 %なし
MgCO3(84.313 g/mol)MgO2.09252.2 %CO2
H3BO3(61.831 g/mol)B2O31.77643.7 %H2O
Na2CO3(105.988 g/mol)Na2O1.71041.5 %CO2
K2CO3(138.204 g/mol)K2O1.46731.8 %CO2

ガラス mglass をつくるときの原料 r の質量とガスの質量は,酸化物 i の質量 mglasswi から

(4) mr=mglasswiMinrMr, mgas=mglasswiMingMg, ∑rmr−∑mgas=mglass

です(nr,ng は酸化物 1 mol あたりの原料とガスの mol.H3BO3 では 2 と 3).最後の式が質量収支で,シミュレーターの読み取り値に毎回表示しています.

例:ガラス 100 g あたり(原料は MgCO3・H3BO3) Na2O·2SiO2:ケイ砂 65.97 g + Na2CO3 58.19 g = 124.16 g.CO2 24.16 g が抜ける(バッチの 19.5 %).
DURAN 型:ケイ砂 81.00 g + H3BO3 23.09 g + Na2CO3 6.84 g + Al2O3 2.00 g = 112.93 g.ガス 12.93 g.
コーディエライト型:ケイ砂 51.36 g + Al2O3 34.86 g + MgCO3 28.83 g = 115.05 g.CO2 15.05 g.
純 B2O3(H3BO3 から):H3BO3 177.63 g.H2O 77.63 g が抜け,質量は 56.3 % になる.

4. 加熱中に起こること ― 分解・液相・溶解・泡抜け・均質化

バッチ(原料の混合物)を加熱すると,おおよそ次の順に変化します. それぞれの温度と速さは原料の粒度,混ぜ方,昇温速度で大きく変わるので,シミュレーターの②では順序と傾向を正しく見せる模式モデルにしています 模式.

  1. 分解・脱水:H3BO3 は 100〜400 ℃ で段階的に脱水して B2O3 に(HBO2 を経る多段反応.Huber ら 2020 の抄録),MgCO3 は数百 ℃ で CO2 を出す.
  2. 最初の液相:B2O3 は 450 ℃ で融ける.炭酸アルカリを含むバッチでは 700〜800 ℃ 付近で共晶の液ができ,ケイ砂と反応してケイ酸アルカリの被膜をつくる(ソーダ石灰バッチについて Hong & Speyer 1993 の抄録).このとき大量の CO2 が出る.
  3. 砂の溶解:残ったケイ砂(と Al2O3)の粒が液に溶け込む.粘度が低いほど速い.
  4. 清澄(泡抜け):液に閉じこめられたガスの泡が浮いて抜ける.粘度が高いと抜けない.
  5. 均質化:混ぜ方のむらが残した組成の縞(脈理)が,拡散と対流で薄れる.
  6. 揮発:高温に長く置くと B2O3 やアルカリが揮発して組成がずれる(NIST SRM 717a の証明書は,ホウケイ酸は特に 1400 ℃ を超えると揮発しやすいと注意している).

4.1 分解の速さ

原料 k の分解率 ξk は 1 次反応とし,速度定数は Arrhenius 型です:

(5) dξkdt=kk(T)(1−ξk), kk=k1/2exp⁡[−EkR(1T−1T1/2)], k1/2=ln2·EkβrefRT1/22

k1/2 は,一定速度の昇温(βref = 10 K/min)での近似 −ln(1 − ξ) ≈ kRT2/(Eβ) から, T1/2 でちょうど半分分解するように決めた値です. T1/2 と E は H3BO3 180 ℃・50 kJ/mol,MgCO3 500 ℃・150 kJ/mol,Na2CO3 800 ℃・250 kJ/mol,K2CO3 830 ℃・250 kJ/mol 仮 (Hong & Speyer の温度域と一般に引かれる値を目安にした.一次資料での確認が必要). 式 (5) で数値計算すると,Na2CO3 が半分分解する温度は 2 K/min で 748 ℃,10 K/min で 803 ℃,20 K/min で 828 ℃ となり,速く昇温すると分解が高温にずれるという熱分析でおなじみの傾向が出ます.

4.2 液相と砂の溶解

最初の液相の温度 TL1 は,B2O3 を含めば 450 ℃,炭酸アルカリを含めば 780 ℃,どちらもなければ液相線 Tl そのもの,とします 模式. 液相の平衡の割合 Leq は,融剤の量で頭打ちにします 模式. 融剤(B2O3 + R2O)の mol 分率を f,最初の液に含まれる融剤の割合を c1(B2O3 の液は 1,炭酸アルカリとケイ砂の液は Na2O–SiO2 系の共晶に近い 0.26 を目安とし,両方あれば mol 比で平均)とし, 液の融剤の割合が TL1 での c1 から液相線での f まで直線で変わるとすると,てこの規則から液の量が決まります:

(6a) Leq=min⁡(s,fc1+(f−c1)s), s=T−TL1Tl−TL1(0≤s≤1)

融剤が多い組成(f ≧ c1,例:Na2O·2SiO2)では第 1 項の直線,少ない組成では第 2 項が効きます. 例:Al2O3 97・B2O3 3 mol% を 1600 ℃ にしても液は約 10 %,コーディエライト型に B2O3 を 3 % 足して 1300 ℃ にすると約 18 %(液相線は §7.2 の融剤の上限で 1438 ℃),43 % 足すと液相線(1038 ℃)を超えるので全部が液です. 融剤を少し足しただけで耐火性の酸化物がほとんど液になる,という誤りを避けるための形です. Tl の文献値がない組成(DURAN 型,Bisbrouck 系列)では,融液の粘度が 103 Pa s になる温度(かつ TL1 + 150 K 以上)で液が行きわたるとみなします 仮. DURAN 型では 1260 ℃(データシートの作業点)になり,軟化点 825 ℃ での Leq は約 0.3 です.この仮定の温度は②の読み取り値に「(仮)」をつけて表示します.

溶け残った固体の割合 u は次の式で平衡値 ueq = 1 − Leq に近づきます:

(6) dudt=−u−ueqτd, τd=20分×(η10Pa s)1/2

粒のまわりの境界層での拡散律速を想定して η1/2 に比例させました.20 分という基準は 仮 です. 液相線より低い温度で保持すると u は 0 にならず,「融けきらない」結果になります. コーディエライト型を 1400 ℃ で保持すると融けませんが,液相線 1467 ℃ は炉の上限(1600 ℃)より低いので,1550 ℃ で保持すれば融けます. 純 SiO2(1723 ℃)や Al2O3(2072 ℃)は液相線が炉の上限より高いので,融剤なしでは融けません.②の .msg はこの 2 つを区別して表示します. 任意の配合の液相線は §7.2 の補間(模式)で決めます.融剤のない SiO2–Al2O3 や SiO2–MgO の配合は 1650〜1850 ℃ になり,炉の上限では融けません. 粘度は代表組成なら文献の式,任意の配合なら §7.1 の経験式(Fluegel 2007)です.

4.3 泡抜け ― Stokes の式

液の中の泡(半径 r)は,浮力と粘性抵抗がつり合う速さで浮きます(Stokes の式):

(7) v=2ρgr29η, dbdt=Leq×(ガスの出る速さ)−vhb

b は液に閉じこめられたガスの量(全ガスに対する割合).分解で出たガスのうち,そのときの液相の割合 Leq の分が閉じこめられるとしました 模式. 泡の半径 r = 0.2 mm,融液の深さ h = 20 mm,密度 ρ = 2400 kg/m3 仮 とすると, η = 10 Pa s で v = 2.1×10−5 m/s,深さ 20 mm を約 16 分で浮きます. 粘度が 100 倍なら 100 倍かかるので,粘い融液(アルバイト型は 1600 ℃ でも η ≈ 102.9 Pa s)は泡が抜けにくい. 実際の溶融では,清澄剤(As2O3,Sb2O3,硫酸塩など)で大きな泡をつくって抜きますが,シミュレーターでは扱いません.

4.4 均質化 ― 拡散で脈理が消える

混ぜ方のむらは,融液の中に間隔 λ の組成の縞(脈理)として残ります.正弦波の濃度のむらは拡散で exp(−4π2Dt/λ2) のように減ります.融液の網目をつくる原子の拡散係数は,粘度と結びつける Eyring の関係で見積もります:

(8) D≈kBTηd, τh=λ24π2D, λ=2mm×(1−0.75h)

d = 0.3 nm(飛び移りの距離),h は①の乳鉢での均一度(0〜1)です.λ の式は 仮. Na2O·2SiO2 を 1200 ℃(η ≈ 12 Pa s)で融かすと D ≈ 5.6×10−12 m2/s で, よく混ぜた(λ = 0.5 mm)なら τh ≈ 19 分,混ぜずに入れた(λ = 2 mm)なら約 5 時間です. 乳鉢でよく混ぜることが,融液を早く均質にすることにつながります.実際には対流とかき混ぜ(撹拌)が縞を引き延ばして λ を小さくしますが,モデルには入れていません.

4.5 揮発と質量

揮発率は dv/dt = kv(1 − v),kv = 1.39×10−6 s−1·exp[−(Ev/R)(1/T − 1/1773 K)],Ev = 250 kJ/mol(B2O3.アルカリはその半分の速さ)仮. 1500 ℃ で 2 時間保持すると B2O3 の約 1 % が抜ける大きさです.試料の質量(バッチに対する割合)は

(9) m(t)mbatch= mglass(1−wBvB−wRvR)+∑kmgas,k(1−ξk)mbatch

で,②のグラフの茶色の破線(熱重量測定 TG の曲線に相当)です.

5. ガラスの構造 ― 網目・修飾・Al と B の配位

5.1 網目形成体・修飾体・中間体

SiO2 と B2O3 は,SiO4 四面体や BO3 三角形が頂点の酸素(架橋酸素)を共有してつながった網目をつくり,それ自体でガラスになれる網目形成体です (なぜガラスになりやすいかは Zachariasen の規則として 状態図の解説 §7.9 にあります). Na2O,K2O,MgO は修飾体で,持ちこんだ酸素が Si–O–Si の結合を切り,片方にしかつながらない非架橋酸素(O−)をつくります. 切れた網目は動きやすく,融液の粘度が下がる(だから Na2O は融剤になる)一方,切りすぎると結晶化しやすくなります. Al2O3 は中間体で,条件がそろうと網目に入り,そろわないと入れません. 網目の切れ方は,網目をつくる陽イオン(Si,四配位の Al,B)1 個あたりの非架橋酸素の数 NBO/T で表します(網目に入らない高配位の Al は数えない).Na2O·2SiO2 は 1,Na2O·SiO2 は 2 です. シミュレーターの原子の図(付録 A.3・A.4)は,講義 第 01 回の「ガラスの分子構造(平面図)」と同じ色と大きさの約束で描き(O は網目の原子の中で最も大きい赤い球(修飾イオンの Na+・K+・Mg2+ は原則さらに大きく描くが,修飾イオンが多い組成では図に入れるため縮める.付録 A.3),Si は小さい青,Al は緑,B は橙,Na+ は黄の球),原子の配置はそのつど組成から生成しています(講義の図そのものの複製ではない). 輪の大きさと形のそろわない網目は,Zachariasen(1932)がガラスの構造として描いた 2 次元の不規則網目の考え方で,同じ組成の結晶は同じ網目が規則正しく並んだものとして描きます. 球の大きさは見分けるための比(O を 1 として Si 0.30,Al 0.41,B 0.33,Na 1.5,K 1.7,Mg 1.2)で,実際のイオン半径(Shannon 1976:O2− 1.40 Å,Na+ 1.02 Å,K+ 1.38 Å,Mg2+ 0.72 Å(いずれも六配位),Si4+ 0.26 Å,Al3+ 0.39 Å(四配位))とは違います. 講義の図にある Ti(網目に入る)と Ca2+(修飾イオン)はこの教材の 6 成分にないので描かず,Mg2+ を Ca2+ と同じアルカリ土類の修飾イオンとして描きます.

5.2 Al と B の配位は組成で変わる

AlO4 四面体は電荷が −1 なので,近くに Na+ などの陽イオンがあって電荷を補償されたときだけ網目に入ります. B も,陽イオンに補償されると BO3(三配位)から BO4−(四配位)に変わります. どちらが先に補償イオンを取るかについて,Bruns ら(2020)は NMR で,Al が先に Na を取り,残った Na だけが BO4 をつくる,すなわち

(10) N4=[BO4][BO3]+[BO4]≈R′=R2O−Al2O3B2O3

がよく合うことを示しました(表 2).Al を含まない Na2O–B2O3–SiO2 系では,Dell–Bray の規則として R = Na2O/B2O3 が Rmax = 0.5 + K/16(K = SiO2/B2O3)までは N4 = R,それを超えると Rd1 = 0.5 + K/4 までは頭打ち,さらに修飾体が多いと三配位の B に非架橋酸素がつき,N4 は下がることが知られています(Lu ら 2021 の整理.原典は未確認). シミュレーターでは R > Rd1 で N4 = Rmax(2 + K − R)/(1.5 + 0.75K) とし,R = 2 + K で 0 になるまで直線で下げます(直線の形は 仮). たとえば Na2O–B2O3 系(K = 0)の Na2O 40 mol% で 0.44,50 mol%(NaBO2 の組成)で 0.33 です.

表 2 R′ 規則と NMR の比較 文献値Bruns ら 2020.組成は mol%(SiO2/B2O3/Na2O/Al2O3).シミュレーターの規則による値も同じになる.
組成N4(NMR)R′Al を無視した R
74.00/20.70/4.30/1.000.12 ± 0.030.160.21
73.62/20.60/4.28/1.500.11 ± 0.030.130.21
73.25/20.49/4.26/2.000.07 ± 0.030.110.21
71.76/20.07/4.17/4.000.02 ± 0.030.010.21

5.3 Mg は B を補償しにくい ― 配位を固定してはいけない例

指示書が挙げる Bisbrouck ら(2022)の系列は,SiO2 51,B2O3 15,Al2O3 7.7 mol% を固定し,Na2O を MgO に置き換えたものです(表 3). Mg も 2 価の陽イオンなので,もし Na と同じように補償に使われるなら N4 は変わらないはずですが,実測の BO4 の割合は 57 % → 7 % と大きく下がり,Tg は 523 → 642 ℃ に上がります. Mg は BO4 の補償に寄与しにくい(同じ著者の 2021 年の論文の抄録).さらに Mg が多いと,Al を Na だけでは補償しきれず,五・六配位の Al が増えます. つまり,Al や B の配位は組成で変わり,一律に「Al は四配位」「B は三配位」と決めつけられません.

表 3 Bisbrouck 系列の実測とシミュレーターの規則 文献値 模式実測は Bisbrouck ら 2022 の表 1.規則の N4 は Na(と K)だけで数えた R′ を Dell–Bray の Rmax と 1 で頭打ちにした値.
記号MgO/Na2O(mol%)Tg(℃)BO4(実測)N4(規則)NBO/T(規則)
N26M00/26.152357 %72 %0.16
N19M87.5/18.757337 %71 %0.16
N13M1313.1/13.159424 %36 %0.27
N8M1918.7/7.56427 %0 %0.39

規則は傾向(Mg を増やすと BO4 が減る)を再現しますが,N26M0 と N19M8 では実測より大きな値を出します(Al を含む系で Dell–Bray 型の規則が合わない例は Lu ら 2021 も指摘している). そこでシミュレーターでは,代表組成では実測値を併記し,任意の配合では規則の値を「模式」として示します.

図 1 BO4 の割合 N4 と R′(自作).線はシミュレーターの規則(Rmax = 0.72 の場合.R′ > Rd1 = 1.36 では §5.2 の直線で下がる),● は Bruns ら 2020,■ は Bisbrouck ら 2022 の実測(横軸は Na だけで数えた R′).

5.4 シミュレーターで使う規則のまとめ 模式

  1. Al は先に R2O(Na2O + K2O)で補償されて四配位 AlO4−.R2O が足りないとき,残りの Al のうち割合 φ = MgO/(MgO + R2O) を MgO が補償し(φ の形は模式),補償されない Al は五・六配位とする. Na と競合すると Mg の補償は弱く(Bisbrouck ら 2021/2022,電場強度の大きい陽イオンほど五配位 Al が増える:Thompson & Stebbins 2011),アルカリのないメタアルミナ組成(コーディエライト型,MgO = Al2O3)では Al はすべて四配位になる. 実際の MgO–Al2O3–SiO2 ガラスには五配位の Al も一部あると報告されているので(要確認),コーディエライト型の「四配位 100 %」は規則の上の値です.
  2. 残った R2O が BO3 を BO4− に変える:N4 = clamp(R′, 0, min(1, Rmax)).R′ > Rd1 では §5.2 の直線で下げる(仮).Mg は BO4 を補償しない.
  3. それでも残る R2O と,Al に使われなかった MgO が非架橋酸素をつくる(1 mol あたり 2 個).NBO/T の T には三配位の B と四配位の Al を含め,高配位の Al は含めない(網目形成体がなければ NBO/T は定まらず,網目が切れた側として扱う).

6. 冷やす ― 結晶化とガラス化の競争

融液を液相線 Tl より下に冷やすと,結晶のほうが安定になります.しかし結晶ができるには核ができ(核生成),育つ(成長)時間が要ります. その前に温度が下がって粘度が大きくなり,原子の組み替えが冷却に追いつかなくなると,液体の構造のまま凍ってガラスになります. シミュレーターの③は,状態図 ④ の模型(phasediagram-simulator.html の 1681–1809 行の関数)をそのまま移植し,物質のパラメーターだけを入れ替えています. 式の導出は 状態図の解説 §7 を見てください.ここでは要点だけ示します.

(11) log10⁡η=A+BT−T0(VFT 式,Pa s) I=σkBTd05ηexp⁡(−16πσ33ΔGv2kBT), ΔGv=ΔHm(Tm−T)TmVm u=gkBTd02η[1−exp⁡(−ΔHm(Tm−T)RTTm)], X=1−exp⁡[−4π3∫0tI(t′)(∫t′tuds)3dt′]

一定速度 q の冷却では結晶の体積分率の指数部が 1/q4 に比例するので,X = 10−6(Uhlmann の基準)となる臨界冷却速度 Rc が決まります. q > Rc ならガラス,q < Rc なら結晶が出ます. シミュレーターの判定もこの基準にそろえ,X < 10−6 を「ガラス」,10−6 ≦ X < 1 % を「ほぼガラス(微量の結晶を含む.X 線回折では見えにくい)」,1〜50 % を「一部結晶化」,50 % 以上を「結晶化」とします(99.9 % 未満は「大半が結晶化」と書き,残ったガラス相があることを示す). 構造の凍結は単一緩和(τ = η/G∞,G∞ = 1010 Pa)で解き,構造の温度(仮想温度)Tf が凍る温度を Tg(q) とします.

③のグラフの赤い実線は,一定速度で冷やしながら X = 10−6 に達する点をつないだ線(連続冷却変態図,CCT)で,判定と同じ基準です. 一定速度 q の冷却では,液相線を下回ってから温度 T までの Xext が F(T)/q4(F は q = 1 K/s で計算した値)になるので, F(T)/q4 = 10−6 を解いた q から時刻 (Tl − T)/q を求めて描きます(状態図 ④ と同じ方法).この線に触れる最大の q がちょうど Rc です. 冷却曲線もこの線と同じく液相線を下回った時刻を原点にして描きます.点線は,その温度に急に下げて保ったときに X = 10−6 に達する時間(等温の TTT 曲線)で,参考です. 等温の TTT 曲線を横切っても,連続冷却では結晶化するとは限りません(状態図の解説 §7 と同じ注意).冷やしながらでは鼻の温度にいる時間が短いので,CCT 線は TTT 曲線より右下にきます.

表 4 冷却の速度論に使うパラメーター文献値のそろった代表組成だけ.Na2O·2SiO2 とコーディエライト型の σ と g は模型の値を文献の量に合わせたもの(あてはめ),アルバイト型の σ は文献の計算値,「仮」はあてはめる相手のない値.
組成VFT(A,B,T0)Tm(K)ΔHm(kJ/mol)σ(J/m2)gRc(模型)
Na2O·2SiO2−3.00,4254,429.3(Jiusti 2020)1148(Tl)35.564(NIST-JANAF)0.07910.23280.034 K/s
コーディエライト型−3.97,5316,762.0(Jiusti 2020)1740(Tl)225.9(Navrotsky & Kleppa 1973)0.13500.03111.05 K/s
アルバイト型−5.44,12700,356(Zanotto & Cassar 2017)139159.3(同)0.16(同,計算値)0.2373×10−22 K/s
純 SiO2−2.94,12997,610(状態図 ④)19968.90.06518.6×10−5 K/s
純 B2O3−0.97,1580,433(状態図 ④)72324.070.100(仮)17.8×10−8 K/s

あてはめの内容:Na2O·2SiO2 とコーディエライト型の g は,模型の成長速度の最大値を Jiusti ら 2020 の Umax(9.92×10−7 m/s と 9.05×10−6 m/s)に合わせました (最大になる温度は模型で 1105 K と 1687 K,文献では 1087 K と 1533 K で,コーディエライト型は 150 K ずれる). σ は,同じ論文の表面結晶化の式 Rc = (Tl − TUmax)/tn で見積もった 0.034 K/s と 1.05 K/s に模型の Rc が合うように決めました 仮 (この見積もりは実測の Li2O·2SiO2 で数倍大きく出るので,順位づけの目安にとどまる). アルバイト型は,Zanotto & Cassar 2017 の表 2 の σ = 0.16 J/m2(古典核生成の式からの計算値),Vm = 100.3 cm3/mol(密度 2.614 g/cm3),液体の Cp = 369 J/(mol K) を使い, g は同じ論文の成長速度の最大値 Umax ≈ 1 Å/s(1×10−10 m/s)に合わせました(模型の最大は 1359 K).Rc は 10−21 K/s より小さく,実験室のどんな冷やし方でもガラスになります(結晶化が観測されないことと合う). Cp は Na2O·2SiO2 とアルバイト型の液体だけ文献値(JANAF の 261.2 J/(mol K),Zanotto & Cassar の 369 J/(mol K))で,ほかは Dulong–Petit の 3R × 原子数と,その 1.25 倍の模式値です.Na2O·2SiO2 とコーディエライト型の密度(2.50,2.60 g/cm3)は 仮. 模型の Tg(10 K/min)は Na2O·2SiO2 715 K(文献 713 K),コーディエライト型 1096 K(文献 1072 K)です.

6.1 冷やし方と冷却速度

表 5 冷やし方ごとの冷却速度の目安 仮試料の大きさ(厚さ)で 1 桁以上変わる.速さの比べ方を見せるための代表値.
冷やし方q(K/s)Na2O·2SiO2コーディエライト型純 SiO2(融液から)
水に流し込む(フリット)300ガラスガラスガラス
金属板に流して押さえる30ガラスガラスガラス
るつぼごと空気中で冷ます3ガラスガラス(X ≈ 10−8)ガラス
炉の電源を切る(炉冷)0.05ガラス(X ≈ 2×10−7)一部結晶化(X ≈ 17 %)ガラス
プログラム徐冷(0.5 K/min)0.0083ほぼガラス(X ≈ 3×10−4,微量の結晶)結晶化ガラス

Na2O·2SiO2 はガラスになりやすく,炉冷でもガラス(X < 10−6)です.プログラム徐冷(q = 0.0083 K/s)は Rc ≈ 0.034 K/s より遅いので結晶がわずかに出ますが(X ≈ 3×10−4),量が少ないので見た目も X 線回折もほぼガラスです.コーディエライト型は炉冷で結晶化するので「急冷が要る」組成です. 純 SiO2 は融液がとても粘いので,ゆっくり冷やしてもガラスになります(急冷は要らない).ただし 1723 ℃ より高温にしないと融液ができません.

7. 任意の配合の扱い ― 粘度・液相線・ガラス形成の傾向

自由な 6 成分の配合について,VFT 式・Tl・ΔHm・σ をすべて組成から定量的に作る方法はありません. また,Tg や粘度を酸化物の加重平均(加成則)で作って予測値として示すことは,指示書の方針で避けます. そこで組成を代表組成から変えたときは,粘度は文献の経験式(§7.1),液相線は代表点からの補間(§7.2,模式),結晶化はガラス形成の傾向(§7.3,模式)で扱い,どれを使ったかを画面に表示します. 3 つとも,組成を少し動かしても値が跳ばないように(連続になるように)作ってあります.

7.1 粘度:Fluegel 2007 の経験式 文献値 と,範囲外の補間 模式

Fluegel 2007 は,SciGlass にある 2200 以上の組成–粘度のデータから,η = 101.5,106.6,1012 Pa s となる温度(等粘度温度)を組成の多項式で表しました(標準誤差 9〜17 ℃). シミュレーターはその表 4–6 のうち,SiO2,Al2O3,MgO,B2O3,Na2O,K2O だけにかかわる項を使います(CaO や Li2O などの項は 0):

(12) Tk(℃)=b0+∑ibiCi+∑i≤jbijCiCj+∑i≤j≤lbijlCiCjCl, k=1.5,6.6,12

Ci は SiO2 以外の成分の mol% です.3 つの等粘度温度を通る VFT 式(式 (11) の 1 行目)を毎回つくり,②の溶解・泡・脈理と③の構造の凍結に使います. K2O と Na2O は別の成分として入るので,Na2O を K2O に置き換えても融剤として働きます (SiO2 66.7・K2O 33.3 mol% で 1400 ℃ の log10(η/Pa s) ≈ 1.2,Na2O·2SiO2 の文献の式で 0.4). 書き写しの確認として,Na2O·2SiO2 で式 (12) は 1114/585/439 ℃(Jiusti ら 2020 の VFT で 1101/599/440 ℃),DURAN 型で 1539/815/585 ℃(データシートで 106.6 Pa s が 825 ℃,1012 Pa s が 560 ℃)になります.

適用範囲は同じ論文の表 3(元データの最大濃度)で,3 つの粘度のうち小さい値をとり,Al2O3 ≤ 10,B2O3 ≤ 16.97,MgO ≤ 16.61,Na2O ≤ 42,K2O ≤ 30,SiO2 42.62〜87.10 mol% とします. 範囲から外れた量 δ(mol% の点の距離)が 3 を超えると,代表組成の文献の VFT 式(Na2O·2SiO2,DURAN 型,アルバイト型,コーディエライト型,SiO2,B2O3,Na2O·2B2O3)から補間した等粘度温度へ, 重み w = clamp((δ − 3)/12, 0, 1) で移します 模式. また,外挿で等粘度温度の間隔がつぶれたときは,T12 ≤ T6.6 − 80 K,T1.5 ≥ T6.6 + 250 K まで広げます(どの代表組成の文献の VFT 式でも間隔はこれより広い.例:Bisbrouck 系列の N26M0 では式 (12) の T6.6 − T12 が 16 K しかない). 補間の重みは式 (13) と同じ形です(ここでは Na2O と K2O をまとめて R2O として測る). さらに,文献値のある代表組成のまわりでは,その点での食い違いを g = a exp[−(d/6 mol%)2] の重みで足し,代表組成の上では文献値に一致させます (Tg だけわかる Bisbrouck 系列は,3 つの温度を同じだけずらす).このため,アルバイト型から Na2O を 1 % だけ SiO2 に置き換えても,1600 ℃ の粘度は文献の式とほぼ同じ(102.95 と 102.93 Pa s)です.

補間は代表点の平均なので,融剤を足すと遠くの耐火性の代表点(SiO2 など)の割合が増え,粘度がかえって上がることがあります(例:コーディエライト型に B2O3 を足す). そこで,融剤を足す向きに粘度が下がるように,次の 2 つの上限を置きます 模式 仮. ここで自由な融剤 f = B2O3 + max(0, R2O − Al2O3)(Al の補償に使われる R2O は網目をつなぐので数えない),基本組成は配合から自由な融剤を除いたものです. (i) 等粘度温度(K)≤ 基本組成の値 × (1 − 0.5f)(経験式の範囲の中では使わない). (ii) 基本組成に同じ融剤の組み合わせを s = 0,0.02,0.04,… だけ足した組成の値 × (1 − 0.1(f − s)) の最小値を上限にする(経験式の範囲と補間の範囲の境目での逆転を防ぐ). どちらも f が 0.6〜0.8 で外していき,文献値に寄せた代表組成のまわりでは (ii) を使いません.例:コーディエライト型に B2O3 を 0/10/30 % 足すと η = 103 Pa s の温度は 1252/1175/1023 ℃,SiO2 に足すと 2525/1303/1149 ℃ と下がります. 使える代表組成が 1 つしかない配合(SiO2 と Na2O を含まない MgO–B2O3,Al2O3–B2O3 など.純 B2O3 だけが使える)は,その粘度をそのまま使い,画面に「組成による差を表せない」と書きます. Na2O–B2O3 系は Na2O·2B2O3 の VFT 式(Jiusti ら 2020:A = −3.03,B = 1279 K,T0 = 677.1 K)を加えたので,Na2O 15/20/30 % で 1000 ℃ の log10(η/Pa s) が 0.59/0.12/−0.82 と組成で変わります. 網目形成体(SiO2 + B2O3)が 0.30 より少ない配合(Na2O だけ,Al2O3–MgO など)は,粘度を見積もれないので,さらさらの融液の VFT 式(A = −4,B = 2000 K,T0 = 300 K.1200 ℃ で約 10−2.3 Pa s)へ移し,0.15 以下ではそれだけにします(仮.画面には「粘度は見積もれない,ガラスの教材の範囲外」と書き,Tf は示さない).

7.2 液相線:代表点からの補間 模式

任意の配合の液相線は,表 7 の代表点の液相線を次の重みで平均します:

(13) Tl=∑pwpTl,p∑pwp, wp=apdp2+1, ap=∏c∈pclamp(xc0.5xc,p,0,1)

dp は配合と代表点 p の組成の距離(mol% の点),ap は «代表点が含む成分 c が配合にどれだけあるか» の積です. 配合にない成分を含む代表点は ap = 0 で使いません.たとえば融剤のない SiO2–Al2O3 の配合が,Na を含むアルバイトの液相線(1118 ℃)を借りることはありません. 成分を 0 から少しずつ増やすと重みも 0 から連続に増えるので,値は跳びません. この補間は液相線の形(共晶のくぼみ,どの結晶が初めに出るか)を表せないので,模式として「どの代表点に近いか」と一緒に表示します. また,融剤を足すと遠くの耐火性の代表点の割合が増えて液相線が上がることがあるので,次の 2 つの上限を置きます(どちらも 仮). (i) 融剤 f = B2O3 + R2O に対して,Tl ≤ 基本組成(SiO2,Al2O3,MgO)の補間値 − 1000 K × f(f が 0.6〜0.8 で外していく). (ii) B2O3 の量 b に対して,B2O3 以外の比を変えずに B2O3 を s(0 ≤ s ≤ b)まで減らした組成の補間値 Tl(s) から, Tl ≤ mins [Tl(s) − 300 K × (b − s)]. 300 K は理想溶液の凝固点降下 RTl2/ΔHm の大きさ(Na2O·2SiO2 で約 310 K)に合わせた値です. B2O3 を除いた組成の SiO2 が 0.30〜0.45 のところで入れていき,b が 0.6〜0.8 で外していきます. この形なら,融剤のない基本組成に融剤を足すときと,SiO2 を含む配合に B2O3 を足すときは液相線が下がり (例:Na2O·2SiO2 に B2O3 を 10 %,20 %(mol)足すと 875 → 846,816 ℃), 文献値の代表点(Na2O·2SiO2,Na2O·SiO2,アルバイト,Na2O·2B2O3 など)は上限にかかりません. 一方,アルカリを含む配合に R2O を足すと,液相線は上がることがあります.Na2O–SiO2 系では,共晶(793 ℃)より Na2O の多い側で液相線が Na2O·2SiO2(875 ℃),Na2O·SiO2(1089 ℃)へ実際に上がるので,R2O には (ii) の扱いをしません (例:Na2O·2SiO2 に Na2O か K2O を 20 % 足すと約 1070 ℃,1000 ℃).

表 7 液相線を補間する代表点組成は mol%.lit は代表組成と同じ出典の文献値,gen は 2 成分・3 成分の状態図で一般に引かれる値(一次資料の確認が必要).
代表点組成Tl(℃)区別
Na2O·2SiO2SiO2 66.7,Na2O 33.3875文献値 Jiusti ら 2020
Na2O·2SiO2–SiO2 の共晶SiO2 74.6,Na2O 25.4793仮 一般値
Na2O–SiO2 系の液相線(石英–トリジマイト)SiO2 76.1,Na2O 23.9(75.5 mass% SiO2)870文献値 Kracek 1930(Ryś 2007 の要約で確認)
Na2O–SiO2 系の液相線(トリジマイト–クリストバライト)SiO2 89.0,Na2O 11.0(88.7 mass% SiO2)1470文献値 Kracek 1930(同上)
Na2O–SiO2 系の液相線(上の 2 点の中点)SiO2 82.55,Na2O 17.451170仮 2 点のあいだを直線とみなした値
Na2O·SiO2SiO2 50,Na2O 501089仮 一般値
K2O·2SiO2,K2O·4SiO2K2O 33.3,201045,770仮 一般値
アルバイトSiO2 75,Al2O3 12.5,Na2O 12.51118文献値 Zanotto & Cassar 2017
コーディエライトSiO2 55.6,Al2O3 22.2,MgO 22.21467文献値 Jiusti ら 2020
ムライト 3Al2O3·2SiO2SiO2 40,Al2O3 601850仮 一般値
フォルステライト 2MgO·SiO2SiO2 33.3,MgO 66.71890仮 一般値
エンスタタイト MgO·SiO2(分解溶融)SiO2 50,MgO 501557仮 一般値
MgO–SiO2 の二液相域SiO2 80,MgO 201695仮 一般値(この温度より上で 2 つの液に分かれる)
スピネル MgO·Al2O3Al2O3 50,MgO 502135仮 一般値
SiO2,B2O3,Na2O·2B2O3―1723,450,743文献値 状態図 ④,Jiusti ら 2020
MgO,Al2O3―2852,2072仮 一般値

例:融剤のない SiO2 60・Al2O3 40 は 1841 ℃,SiO2 70・MgO 30 は 1692 ℃,SiO2 40・Al2O3 30・MgO 30 は 1650 ℃ で,どれも炉の上限(1600 ℃)では融けません. SiO2–Na2O 系では Na2O 10 % で 1458 ℃,15 % で 1222 ℃,20 % で 1061 ℃,25 % で 820 ℃,SiO2 74・MgO 10・Na2O 16 は 1110 ℃ です (Kracek の SiO2 側の 2 点を加えた.補間なので 2 点のあいだで最大 20 K ほど波打つ). コーディエライト型に B2O3 を 0/10/30 % 足すと 1468/1368/1168 ℃ と下がります. 液相線の傾きが急な SiO2 側(Na2O 12〜15 %)では,0.5 mol% で最大 45 K 変わります.

7.3 ガラス形成の傾向 模式

結晶化の速さ(ΔHm,σ,成長速度)は任意の配合では決められないので,構造の規則(§5.4)からガラス形成の傾向を点数 s で表し,3 段階で示します:

(14) s=clamp(sN+sF+sM+sA+sMA+sB,−1.5,4.5)+s0, sN=clamp(1.5(NBO/T−1),−1.5,3), sF=clamp((0.55−F)/0.15,0,2) sM=clamp((xMgO−0.10)/0.10,0,2)×xMgOxMgO+xR2O, sA=clamp(xAl,高配位/0.08,0,3), sMA=clamp(xAl,Mg 補償/0.15,0,1.5) sB=4clamp((R′−Rd1)/0.5,0,1)×xB2O3xSiO2+xB2O3, s0=4clamp((0.35−F)/0.10,0,1) A:s<1(ガラスになりやすい),B:1≤s<2.5(急冷が要る),C:s≥2.5(ガラスになりにくい)

F は網目形成体として働く酸化物(SiO2,B2O3,四配位の Al2O3)の mol 分率です.四配位の Al は SiO2 と B2O3 の量までしか数えません(Al だけでは網目にならない). それぞれの項は「網目が切れすぎる(つながっているほどガラスになりやすい)」「形成体が少ない」「電場強度の大きい Mg が主な修飾体」「補償されない Al」「Mg が補償した Al(コーディエライト型)」「修飾体の多いホウ酸塩(三配位の B に非架橋酸素がつく)」「網目形成体がほとんどない」という,結晶化しやすさにかかわる教科書的な要因に対応します. sB と s0 の係数は 仮 で,s0 だけは上限 4.5 の外に足すので,網目形成体のない組成では Rc の目安がスライダーの上限(103 K/s)よりずっと大きくなります. sN は NBO/T に対して連続なので,傾向 A の中でも組成によって Rc の目安が違います(DURAN 型 1.6×10−4,Na2O·2SiO2 の組成 1.0×10−2,SiO2 75・Na2O 25 は 2.5×10−3 K/s). 冷却の計算では Rc の目安を 10−2 + 1.2s K/s とし,Xext = 10−6(Rc/q)4 W(T) とします. W は結晶化の起こる温度域(Tl〜Tg)を通り過ぎた割合(0→1 のなめらかな階段)です. これは一定速度の冷却で Xext ∝ q−4 になる性質だけを借りた近似で,数字は順位を見せるためのものです. 例:純 Al2O3,MgO,Na2O は網目形成体がないので s = 8.5(Rc の目安 1.6×108 K/s),MgAl2O4 は 8.0(4.0×107 K/s)で,水冷(300 K/s)や 103 K/s でも結晶になり,急冷してもガラスにはなりません. Mg2SiO4 は s = 5.2(C,1.6×104 K/s.水冷でも結晶化.文献では容器なしの 1 mm の液滴を 700 K/s で冷やしてはじめてガラス:Tangeman ら 2001 の要約.るつぼでは容器の壁から結晶ができやすいので,模式の値は大きめ), NaBO2 の組成(Na2O 50・B2O3 50)は sB が効いて 3.8(C,4.0×102 K/s.空冷では結晶化,Na2O 40 % では 0.2 で A), Na2O 56・K2O 6.7・SiO2 37 mol% は s ≈ 4.2(C.水冷でも微量の結晶が出る),SiO2 70・MgO 30 は 1.8(B),コーディエライトの組成を少し変えたものは 1.2(B),融剤のない SiO2 60・Al2O3 40 は 1.5(B.補償されない Al の項 sA が効く)です.

8. 観察で間違えやすいこと

9. 代表組成と文献値

表 6 シミュレーターの代表組成Tg,Tx,Tc,Tl は K(DURAN と Bisbrouck 系列は ℃ のまま).KH = (Tx − Tg)/(Tl − Tx)(Hrubý のガラス安定性の指標).③の扱い:定量=核生成・成長の模型,模式=§7.
名前組成特性温度など③出典
Na2O·2SiO2mol% 33.3/66.7Tg 713,Tx 897,Tc 918,Tl 1148,KH 0.73定量Jiusti ら 2020
DURAN 型ホウケイ酸mass% SiO2 81,B2O3 13,Na2O 4,Al2O3 2Tg 525 ℃,1012/106.6/103 Pa s で 560/825/1260 ℃模式(VFT はデータシートの 3 点に合わせた A −3.155,B 7254.8 K,T0 354.4 K)SCHOTT データシート
Bisbrouck N26M0〜N8M19表 3Tg 523〜642 ℃,BO4 57〜7 %.EPMA と TEM でナノ結晶なしの均質なガラス模式Bisbrouck ら 2022
アルバイト型mol% Na2O 12.5,Al2O3 12.5,SiO2 75Tg 1086,Tm 1391,ΔHm 59.3 kJ/mol.常圧・種なしで結晶化の報告なし定量(σ は同論文の計算値)Zanotto & Cassar 2017
コーディエライト型mol% MgO 22.2,Al2O3 22.2,SiO2 55.6Tg 1072,Tx 1203,Tc 1238,Tl 1740,KH 0.24定量Jiusti ら 2020
Na2O·SiO2 型mol% 50/50融点 1089 ℃(一般値).NBO/T = 2模式―
純 SiO2,純 B2O3―状態図 ④ と同じ値定量状態図の解説 §7

10. 簡略化した点と,モデルの限界

付録 A. シミュレーター(glassmelt-simulator.html)で見ていること

A.1 ページ全体

タブは ① 調合する(キー batch),② 融かす(melt),③ 冷やす(cool)の 3 つで,URL の末尾に #batch などを付けるとそのタブが開きます. ?only=cool のようにするとそのタブだけ,?embed=1 で見出しと説明文を隠した埋め込み表示になります. 3 つのタブは 1 つの状態(配合,原料,乳鉢の粒の配置と均一度,融液の状態)を共有し,前のタブで変えたことは後のタブに引き継がれます. 配合・原料・質量を変えると,②と③の結果は消えて最初からになります. アニメーションはタブが隠れたとき,または画面(ブラウザのタブ)が隠れたときに止まります.

A.2 ① 調合する

操作.代表組成を選ぶか,6 本のスライダーで配合を決めます(式 (2) で合計 100 % を保つ).mol% と mass% を切り替えると,同じ組成を別の基準で表示します. MgO 源(MgCO3 か MgO)と B2O3 源(H3BO3 か無水 B2O3),つくるガラスの質量(10〜300 g)を選び, 「秤量する」で原料が 1 つずつ天秤に載って乳鉢に入り,「乳鉢で混ぜる」で粒が入れ替わり,「るつぼへ入れる」で②へ進む準備ができます. 「この配合を残して比べる」は,グラフに点線で前の配合を残します.

装置の図.原料のびん(中身の高さは原料の質量に比例),電子天秤(量っている原料の g),乳鉢(混ぜた時間),白金るつぼ. 内部の図.乳鉢の中の幅 約 5 mm の模式で,粒の数は原料の体積(質量/密度)に比例し,色と形で原料を区別します.秤量した直後は入れた順に層になっています. 均一度 h は,24 × 10 の格子を 6 × 5 の区画に分け,区画ごとの原料の割合のばらつき M から h = (M0 − M)/(M0 − Mr) (M0:層のとき,Mr:でたらめに並べたとき)で計算し,表示のために少しならしています.1 コマ = 2 秒の混合で,約 10 分で 0.85 前後になります. グラフ.左は酸化物の組成(濃い棒が mol%,薄い棒が mass%.棒の色は②の原子の図と同じ:SiO2 青,Al2O3 緑,MgO 桃,B2O3 橙,Na2O 黄,K2O 薄紫),右は原料の質量(色の部分が残る酸化物,灰色が抜けるガス). 読み取り値.原料ごとの g,合計,CO2 と H2O の g,質量収支(式 (4)),網目の見積もり(NBO/T,四配位の Al の割合,N4.代表組成では実測値を併記),ガラス形成の傾向(§7).

A.3 ② 融かす

操作.昇温速度(1〜20 K/min),保持温度(800〜1600 ℃.1600 ℃ を炉の上限と仮定),保持時間(0〜10 h)を決め,「▶ 加熱する」で昇温を始めます. 「30 分進める」「最後まで進める」で時間を送れます.条件を変えると加熱は最初からやり直しになります.1 コマの時間は計画の長さに合わせて 0.25〜30 分に決め,画面に表示します. 代表組成を選ぶと,保持温度と時間の既定値(Na2O·2SiO2 1200 ℃ 2 h,DURAN 型 1600 ℃ 4 h,コーディエライト型 1550 ℃ 2 h,アルバイト型 1600 ℃ 10 h,Bisbrouck N8M19 1500 ℃(ほかの Bisbrouck 系列は 1400 ℃)など.すべて仮)が入ります. アルバイト型は炉の上限で 10 h 保持しても砂が約 4 % 溶け残る(融液がとても粘い)ので,結晶化しにくさは③の「理想化」で比べるよう案内します. ①で秤量(と混合)だけして②に来たときは,その粉をるつぼへ入れたことにし,①の工程表示も進めます.

装置の図.電気炉の断面(発熱体,断熱れんが,熱電対,排気口),るつぼの中身(粉 → 融液.泡),出ているガス(H2O か CO2),温度調節器.炉内の色は温度の模式です. 内部の図.「粒・泡・脈理」(幅 約 5 mm.縞の間隔は λ と同じ縮尺,粒と泡の大きさは模式)では①の粒の配置をそのまま使い,炭酸塩が分解して小さくなり,液が広がり,砂の粒が溶けて小さくなり,泡が浮き,縞が薄れる様子を描きます(泡の上昇の速さは粘度で変わる). 炭酸塩以外の粒(ケイ砂,Al2O3,MgO,B2O3,脱水した H3BO3)は,液ができたら未溶解の固体 u と同じ規則(大きさ ∝ u1/3)で小さくなります.凡例は①と同じく配合にある原料ごとにつくり,泡のガス(CO2,H2O)は出る原料から決めます. SiO2 を含まない配合では,文で「砂」と言わず,配合にある固体(Al2O3・MgO の粒,B2O3 の塊)の名前を使います.揮発の注意も配合にある成分(B2O3,Na2O,K2O)だけを挙げます. 「原子の網目」(2 次元の模式.幅は T–T の距離を 0.31 nm として 3〜5 nm)では,§5.1 の約束の色と大きさで,T(Si・Al・B)が平面内に 3 本の結合を持つ六角形の網目を,Stone–Wales 型の結合の回転(5 員環と 7 員環ができる)とばねでならした不規則網目を描きます. T の数(50〜60 個)は見やすさで決め,種類の割合(Si,AlO4−,高配位の Al,BO3,BO4−)は §5.4 の規則に合わせます. 非架橋酸素は,4 本の結合のうち NBO/T ÷ 4 の割合を平面の 3 本に当てて,切る T–O–T の数を round(0.375 N NBO/T)(N:T の数)とします.1 本切ると O− が 2 個できる(R2O + ≡Si–O–Si≡ → 2 ≡Si–O− + 2R+)ので,図の O− は T 1 個あたり 0.75 NBO/T 個で,読み取り値の NBO/T(実際の値)の 3/4 です.O− も架橋酸素と同じ赤い球で,片側の T とだけ黒線でつながります. 陽イオンは図の中の負電荷に合わせて置きます:O− 1 個に R+ 1 個(細い赤線で結ぶ),MgO が切った結合では 2 個の O− を同じ側へ曲げてその間に Mg2+ 1 個(≡Si–O− Mg2+ −O–Si≡),AlO4− 1 個に R+ 1 個か 2 個に Mg2+ 1 個,BO4− 1 個に R+ 1 個(この 2 つは非架橋酸素をつくらない電荷補償なので赤の破線で T と結ぶ). R と Mg の割合は §5.4 で非架橋酸素をつくる R2O と MgO の比(AlO4− は R2O と MgO が補償した分の比),K と Na の割合は K2O/(Na2O + K2O) です.R2O を含まない組成では AlO4− をすべて AlO4− 2 個と Mg2+ 1 個の組で補償するので,図の AlO4− の数を偶数にそろえ(ほかの種類と 1 個やりとりする),Na+・K+ は描きません.修飾イオンが輪の数より多いときは,陽イオンの球をすべて同じ割合で最小 0.6 倍まで小さくします(O に対する直径は Na+ 0.9 倍,K+ 1.02 倍,Mg2+ 0.72 倍まで).このため Na2O·2SiO2 のように修飾イオンが多い組成では,Na+ が O とほぼ同じ大きさに見えます. 融液になると原子が揺れ,原子の動きやすさ(粘度から計算)に比例した頻度で結合が組み替わります(O− が隣の T–O–T を切り,もとの切れ目はつながる.O− の数は変わらず,陽イオンは相手の O− について移る).新しい O− とほかの原子や陽イオンとの重なりを増やす組み替えと,近くの切れ目が増える組み替えは行いません(網目をつくるときと同じ基準.つくったときから重なりのある組成では,重なりを増やさない範囲で組み替える).組み替えを描くのは O− の切れ目だけなので,O− のない組成(純 SiO2,純 B2O3,DURAN 型,アルバイト型,コーディエライト型など)では網目が揺れるだけで組み替えは描かず,O− が Mg2+ の組だけの組成では,図の中で重ならない置き場所がほとんどないので,組み替えをほとんど描けません(見出しでそう示す.実際の融液では Mg2+ のまわりの結合も組み替わる).実際の融液では架橋酸素の結合の組み替えでも流れます.網目の図は融液の割合が半分以上(②の判定が「まだ粉」や「融けきらない」にならない)のときに動かします.リセットや加熱のやり直しでは網目を最初の配置に戻します(作った直後の網目をとっておき,そこへ戻す).網目の枠は③と同じ大きさです. グラフ.上は温度(実線),計画(破線),試料の質量(茶の破線,式 (9)),下は未分解の原料,未溶解の固体 u,泡 b(今回と残した結果の最大値を 1 とする縮尺.最大値は凡例に書く),脈理の強さ.「この結果を残して比べる」で前の結果を薄い線で重ねます(加熱の途中で残したときは,凡例に「途中 … h で止めたもの」と書く). 判定.保持が終わったら,融液の割合 50 % 未満なら「融けきらない」,u > 0.02 でストーン,b > 0.01 で泡,脈理 > 0.1 で不均質,揮発による組成ずれ > 0.3 mol% を注意として示します. 融けきらないときは理由を分けて示します:最初の液相の温度に届かない,融剤がなく液相線より低い(液相線が炉の上限 1600 ℃ より高いか低いかで案内を変える),融剤が少なく式 (6a) で液が頭打ち,粘くて溶解が遅い(保持温度が液相線より低いときは,平衡でも一部が固体のままであることも示す.Na2Si2O5 のような調和融解の組成では,実際には液相線より下で液はほとんどできない). 脈理が残った理由も,均一度 h が小さいときは「混ぜ方」,よく混ぜたときは「粘い融液で拡散が遅い」と分けます. 読み取り値.最初の液相(融剤の mol%),液相線(文献値・一般値・補間・仮定の区別.補間では近い代表点の名前),保持温度での Leq(融剤の量で頭打ちかどうか),粘度の出どころ(文献の式,データシートの 3 点に合わせた VFT,Fluegel 2007 の経験式,代表組成からの補間). 「秤量する」「乳鉢で混ぜる」「るつぼへ入れる」をやり直すと,②と③の結果は消えます.

A.4 ③ 冷やす

操作.冷やし方のボタン(表 5)か冷却速度のスライダー(10−4〜103 K/s)を選び,「▶ 冷やす」で冷却を始めます. ②の結果があればその保持温度・溶け残り・泡・脈理を引き継ぎ,なければ(または「均質な融液から冷やす」にチェック)液相線より上の均質な融液から始めます. 「結果を残して比べる」で表とグラフに最大 4 件の結果を残します(冷やし終わっていないときは,その条件で最後まで一度に計算して残す). 表示は約 8 秒で冷却の全体を見せ,経過時間(実際の秒)は読み取り値に出ます.

装置の図.冷やし方の様子(水・金属板・れんがの上・炉の中)と試料の温度,右上にできた試料の外観(ガラスは透明,結晶は白い粒,泡と脈理も描く),右下に X 線回折の模式. 内部の図.②の最初の網目と同じもの(同じ組成・同じ画面の幅なら同じ配置.②で組み替わった分は③では最初の配置に戻る)で,温度が下がると原子の動きやすさ(右下のバー.粘度から計算)が下がり,Tg を過ぎると止まります(位置の乱れは残る).結晶ができると薄緑の領域(面積の割合が X)の中で,網目が正六角形の規則的な並びになり,T の種類・O−・陽イオンが同じ数のまま周期的に並びます.O− は消しません(Na2Si2O5 のように修飾体を含む結晶も,Si 1 個あたり 1 個の非架橋酸素を持つ.結晶とガラスの違いは非架橋酸素の有無ではなく長距離の秩序).一部だけ結晶になったときは,Stone–Wales の回転で結合の相手が変わった T の組を同じ領域にそろえ,結晶の領域から 2.5 d 以内のガラスの節点だけを,網目をつくるときと同じばねでならし直します(境界の結合が長く伸びたり,O が重なったりしないように).ガラスの側の陽イオンは結晶の領域の原子を避けて置きます.AlO4− 2 個と Mg2+ 1 個の組が境界をまたいで片方だけ見えるときは,見えていて相手のない AlO4− どうしで組を組み直し(近い順.組が長くなるときは,描いている近くの組とも組み替える),図の中の電荷をつり合わせます(組に入らなかった AlO4− は R+ で補償し,R2O のない組成では境界の T 1 個をもう一方の領域に入れて数を偶数にそろえる).②で融液が半分に届かなかった試料(②の判定が「まだ粉」や「融けきらない」)では,ガラスの網目の図は描かず,溶けた割合とその旨を示します. グラフ.「CCT・TTT 図」は横軸が液相線を下回ってからの時間の対数,縦軸が温度です.赤い実線は冷やしながら X = 10−6 に達する線(CCT,§6),赤い破線は X = 50 % に達する線,赤い点線は等温で保持したときの TTT 曲線(参考),青い線が今回の冷却曲線です. 任意の配合では,赤い線を §7.3 の模式の式から同じ方法で描きます(破線の長さを変えて模式と区別). 冷却曲線が赤い実線にかかれば,結晶が 10−6 以上出ます(判定と同じ).等温の点線を横切っても結晶化するとは限りません.「エンタルピー–温度」は代表組成だけで,H = (1 − X)Hガラス + X H結晶 の道すじを平衡の液体と結晶の線に重ねます. 判定.結晶の体積分率(②の溶け残りを含む)X < 10−6 でガラス(Rc と CCT の赤い実線と同じ基準),1 % 未満でほぼガラス(微量の結晶を含む),50 % 未満で一部結晶化,それ以上で結晶化(99.9 % 未満は「大半が結晶化」),冷却中の結晶化が 1 % 未満で溶け残りが主のときはストーン,②で融けていなければ未溶融です. 未溶融のときは冷却の計算をせず,Tg・Tf の数値も CCT・TTT 図も示しません(ガラス転移は融液が凍る現象なので). 炉の上限より液相線が高い組成では,②の条件を変えても融けないことと,「理想化」のチェックで融液から冷やした場合を見られることを案内します. 冷やしている間に大半(50 % 以上)が結晶になったときも,Tg・Tf を示しません.「ガラス転移はない」と書くのは全体(99.9 % 以上)が結晶になったときだけで,99.9 % 未満では「大半が結晶(残ったガラス相には Tg がある)」と書きます(一部結晶化では「残ったガラス相」の値と断る). このとき CCT・TTT 図の Tg(q) の線と凡例も描きません. Tg の数値を文で示すのは,代表組成(模型の Tg(q))と文献の Tg がある組成(DURAN 型・Bisbrouck 系列.粘度式からの目安と文献値を並べる)だけで,それ以外は「文献の Tg はない.粘度式からの目安は Tf ≈ … ℃(模式)」と書きます (使える代表組成が 1 つだけの配合では「組成による差は表せない」と添え,粘度を見積もれない配合(§7.1)では Tf を示さない). 任意の配合で Rc の目安が 104 K/s を超えるときは,「冷却速度の上限よりずっと大きい:実験室の急冷ではガラスにならない」と書きます. ②で融液が半分に届かなかった試料は冷却を計算しないので,装置の図の見出しも「融けきっていない(ガラスにならない)」にします(水に入れたときの説明も「焼結した粉のかたまり(ガラスではない)」).狭い画面(幅 560 px 未満)では,比較の表を 1 件ずつのカードにします. 冷やし方のボタンの q は表 5 の値そのもの(スライダーのつまみは 0.05 刻みに丸まるが,見出しと計算は表の値).

A.5 検算

シミュレーターの計算部分(DOM を使わない関数)を抜き出して node で実行し,次を確かめました(2026-09-24): 表 1 の換算係数,代表組成の mol% と mass% の往復と合計,バッチの質量収支(原料 − ガス = ガラス),式 (2) の比例配分と上下限(数でない入力と範囲外の値の clamp), 表 2 の R′ の再現,表 4 の Rc と Umax と Tg,表 5 の判定,q を上げると X が単調に下がること, 式 (5) の半分分解の温度(10 K/min で 803 ℃),Stokes と Eyring の数値,式 (9) の質量の整合. 第 1 回の独立検証を受けた修理(2026-09-24)で,式 (6a) の頭打ち(融剤を増やすと Leq が単調に増える,Al2O3・MgO に融剤 3 % では融けない,DURAN 型の仮定の液相線 1260 ℃), コーディエライト型の Al がすべて四配位,判定と Rc の一致(Rc の 10±0.05 倍でガラス/ガラスでないが入れ替わる),アルバイト型の σ と Umax,純 B2O3 の質量 56.3 % を加えました(150 項目すべて合格). 第 2 回の独立検証を受けた修理では,式 (12) の書き写し(Na2O·2SiO2 と DURAN 型の等粘度温度),融剤のない耐火性の配合 5 つが 1600 ℃ で融けないこと,K2O·2SiO2 が 1400 ℃ で融けること, SiO2–Na2O・SiO2–K2O で 0.5 mol% ごとに粘度と液相線が跳ばないこと(Na2O 22 % の前後を含む),乱数の配合 20000 個で VFT 式が正常で連続なこと, 代表組成のまわりで文献値に寄ること,傾向 A の中で Rc の目安が組成で違うこと,CCT 線に触れる最大の q が Rc に一致することを加えました(182 項目すべて合格). 第 3 回の独立検証を受けた修理では,純 Al2O3・MgO・MgAl2O4・Na2O・K2O を 103 K/s で冷やすと結晶化すること, 6 つの基本組成に B2O3 を 0→30 %(コーディエライト型とエンスタタイトには Na2O を 0→20 % も)0.5 mol% ごとに足すと Tl と T(η = 103 Pa s) が上がらないこと, コーディエライト型に B2O3 3〜20 % を足して 1500 ℃ 2 h で均質に融けること,Na2O–B2O3 系で Tf が組成で変わること,NaBO2 の組成の N4 と徐冷での結晶化, Na2O だけの配合がさらさらの融液になること,Kracek の 2 点の再現,乱数の配合 20000 個で値がまともなことを加えました(前の 182 項目と合わせて 233 項目すべて合格).

確認事項(先生に確認)

  1. 授業・学生実験で扱う組成:6 酸化物の範囲でよいか,CaO や Li2O(ソーダ石灰ガラス,既存の Li2O·2SiO2)を加えるか.代表組成の選び方(表 6).
  2. 原料:ケイ砂の粒度,MgO か MgCO3 か,H3BO3 か無水 B2O3 か,Na2CO3 は無水か.つくるガラスの量(既定 100 g).
  3. るつぼ(白金,アルミナなど)と電気炉の上限温度(1600 ℃ と仮定).
  4. 昇温速度・保持温度・保持時間の実際の条件(既定値はすべて仮).
  5. 冷やし方(水,金属板,るつぼごと,炉冷,徐冷)と試料の大きさ.表 5 の冷却速度の目安.アニール(徐冷点付近での保持)を行うか.
  6. 観察と評価:外観,X 線回折,示差走査熱量測定のどれを行うか.
  7. 分解温度の目安(表:H3BO3 180 ℃,MgCO3 500 ℃,Na2CO3 800 ℃,K2CO3 830 ℃),砂の溶解・泡・脈理・揮発の基準の値(§4 の仮の値).
  8. 構造の説明の範囲:R′ 規則と Dell–Bray の規則,Mg の扱い(補償の割合 φ = MgO/(MgO + R2O))をこの形で教えてよいか.
  9. ②の液の量の模式(式 (6a)):最初の液の融剤の割合 0.26(炭酸アルカリ)と 1(B2O3),液相線の文献値がない組成で η = 103 Pa s の温度を液相線の代わりにする仮定.
  10. ガラス形成の傾向(§7.3)の点数の形と境目(A/B/C),Rc の目安 10−2 + 1.2s K/s.
  11. 表 7 の液相線の一般値(Na2O·SiO2 1089 ℃,共晶 793 ℃,K2O·2SiO2 1045 ℃,K2O·4SiO2 770 ℃,ムライト 1850 ℃,フォルステライト 1890 ℃,エンスタタイト 1557 ℃,MgO–SiO2 の二液相 1695 ℃,スピネル 2135 ℃)を状態図集で確認すること.補間(式 (13))をこの形で見せてよいか.
  12. 任意の配合の粘度に Fluegel 2007 の経験式を使い,範囲外は代表組成からの補間に移す扱い(§7.1)でよいか.
  13. アルバイト型の②の既定(1600 ℃ 10 h でも少し溶け残る)と,砂の溶解の基準(20 分,仮).
  14. Dell–Bray の第 3 領域(R > Rd1 で N4 を直線で下げる形)と,傾向の項 sB(修飾体の多いホウ酸塩)・s0(網目形成体がほとんどない)の係数(すべて仮).アルカリの多いホウ酸塩(NaBO2 の組成など)をこの形で扱ってよいか.
  15. 融剤の効果の上限(§7.1 の 0.5 と 0.1,§7.2 の 1000 K と 300 K)と,網目形成体の少ない配合をさらさらの融液とみなす VFT 式(すべて仮).アルカリや B2O3 と MgO・Al2O3 だけの配合を「ガラスの教材の範囲外」と表示する扱いでよいか.
  16. Na2O–SiO2 系の SiO2 側の液相線:Kracek 1930 の 2 点(870 ℃・75.5 mass%,1470 ℃・88.7 mass%)は博士論文(Ryś 2007)の要約で確認した値で,原典は未確認.2 点の中点(1170 ℃)は直線とみなした仮の値.

参考文献

このページの数値のうち「文献値」はここに挙げた出典の値(またはそれから計算した値)です. モデルの式のうち §4 と §7.2・§7.3 は教育用の模式で,特定の実験の再現ではありません(§7.1 の粘度の経験式は Fluegel 2007).図 1 は自作です.

対になるシミュレーター:ガラスをつくる ― 酸化物を混ぜ,融かし,冷やす.ガラス転移と結晶化の原理:2 成分系の状態図の解説 §7.

  1. A. Fluegel, “Glass viscosity calculation based on a global statistical modelling approach”, Glass Technol.: Eur. J. Glass Sci. Technol. A 48, 13–30 (2007).表 3(元データの最大濃度)と表 4–6(係数)を使用. glassproperties.com/viscosity(著者の公開版)
  2. J. Jiusti, D. R. Cassar, E. D. Zanotto, “Which glass stability parameters can assess the glass-forming ability of oxide systems?”, Int. J. Appl. Glass Sci. 11, 612 (2020). doi:10.1111/ijag.15416(arXiv:2001.01113 の版を参照.表 2 の Tg,Tx,Tc,Tl,Umax,VFT)
  3. E. D. Zanotto, D. R. Cassar, “The microscopic origin of the extreme glass-forming ability of Albite and B2O3”, Sci. Rep. 7, 43022 (2017). doi:10.1038/srep43022
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  5. N. Bisbrouck ほか, J. Am. Ceram. Soc. 104, 4518 (2021). doi:10.1111/jace.17876(抄録の範囲で参照)
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  10. SCHOTT,DURAN(ホウケイ酸ガラス 3.3)Technical Data(Tg,粘度の特性温度,密度).
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  12. C. Huber ほか, Energy Sci. Eng. 8, 1650 (2020). doi:10.1002/ese3.622(ホウ酸の多段脱水.抄録の範囲で参照)
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  15. C. J. Tangeman ほか, Geophys. Res. Lett. 28, 2517 (2001). doi:10.1029/2000GL012222(Mg2SiO4 ガラス.要約の範囲で参照)
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  17. F. C. Kracek, “The system sodium oxide–silica”, J. Phys. Chem. 34, 1583–1598 (1930).M. Ryś, Investigation of Thermodynamic Properties of Alkali Metals in Oxide Systems Relevant to Coal Slags, 博士論文,RWTH Aachen (2007) の文献調査(Na2O–SiO2 系の液相線の要約)で確認. d-nb.info/989424367
  18. W. H. Zachariasen, “The atomic arrangement in glass”, J. Am. Chem. Soc. 54, 3841–3851 (1932). doi:10.1021/ja01349a006(2 次元の不規則網目の模式)
  19. R. D. Shannon, “Revised effective ionic radii and systematic studies of interatomic distances in halides and chalcogenides”, Acta Cryst. A 32, 751–767 (1976). doi:10.1107/S0567739476001551(イオン半径)
  20. 望月研究室,2 成分系の状態図の解説 §7 ガラス転移と結晶化(冷却の模型の導出,SiO2 と B2O3 のパラメーターの出典と仮定).

東京理科大学 望月研究室 / 対になるシミュレーター:glassmelt-simulator.html. 確認事項が解決するまで,仮の値は仮のまま表示しています.