破壊の理論 ― 理論強度・Griffith の式・破壊靱性・Weibull 統計を導く

このページは fracture-simulator.html の対になる解説です. シミュレーターで見た「理論強度と実際の強度の数十–数百倍の差」「き裂の長さの −1/2 乗で下がる強度」 「同じ条件でつくってもばらつく強度と Weibull 係数 m」が,どこから出てくるのかを,途中式を省略せずに導きます. 必要なのは,Hooke の法則と弾性ひずみエネルギー σ2/2E,微分で極大を求めること, そして「独立な事象の確率は掛け算」という確率の初歩だけです.学部 2・3 年生を想定しています. シミュレーターで目に見えるようにした現象 ―― 引張試験片のくびれ,楕円孔のまわりの応力場,き裂先端の塑性域と原子の模式図,試験片を壊すごとに積み上がる強度の分布,曲げ試験の応力分布,熱衝撃の温度と熱応力の分布,Vickers 圧子の圧痕と隅から伸びるき裂 ―― の物理も, §1.1–§1.5,§3.2–§3.5,§5.5–§6.7,§8.5,§9.5–§9.6,§10.2–§10.5,§12 で導きます(§3.2 の複素関数と §10.4 の数値解法は,考え方と結果の使い方が分かれば十分です).

このページの背骨 セラミックスの破壊は,次の 3 段で組み立てると見通しがよくなります. ①結合を引きちぎる強さ(理論強度:アルミナ相当で約 44 GPa)は,実際の強度(数百 MPa)の数十–数百倍(アルミナで約 125 倍)もある. ②その差を埋めるのがき裂で,強度はいちばん危険なき裂の大きさで決まる(Griffith:エネルギーの収支). ③き裂の大きさは試料ごとにばらつくので,強度は確率でしか言えない(Weibull:最弱リンク). このうち「Griffith の式をエネルギーの収支から導くこと」(§4)と 「欠陥の大きさの分布から Weibull 係数 m を導くこと」(§7)が,本ページの核心です.

1. はじめに ― セラミックスの壊れ方

茶碗を床に落とすと割れます.金属のスプーンは,落としても曲がることはあっても割れはしません. 引張試験で比べると違いははっきりしていて,セラミックスは応力とひずみが比例したまま,ある応力で突然壊れます. 壊れる直前のひずみはアルミナで 0.092 %,ソーダ石灰ガラスで 0.071 % にすぎません. 金属は降伏したあと塑性変形で大きく伸び,くびれてから壊れます(§1.1–§1.5).

この違いの根は,転位が動けるかどうかにあります.金属結合は方向性がなく,原子面は比較的楽にすべります. イオン結晶では,すべりの途中で同符号のイオンどうしが向かい合うので大きなエネルギーが要り, 共有結合結晶では結合に方向性があるので,すべりには結合を切り替える必要があります. そのため室温の多結晶セラミックスでは,転位が動きにくいうえに独立なすべり系も足りず(MgO などの単結晶は室温でも少しすべります),き裂の先端が塑性変形で丸まることがありません. 先端が鋭いままのき裂が,強度を支配することになります.

壊れるまでに単位体積が蓄えられる弾性エネルギーは,応力–ひずみ直線の下の三角形の面積 σf2/2E です. アルミナで 0.16 MJ m−3,ガラスで 0.018 MJ m−3,Y-TZP でも 2.4 MJ m−3 です. 金属は塑性変形の仕事が加わるので,これよりはるかに大きなエネルギーを吸収してから壊れます. このページでは,表 1 の値を例に使います.

表 1 本ページとシミュレーターで使う材料定数教材用の目安であり,特定の製品の実測値ではない.金属は比較のため.破壊ひずみは σf/E.
材料E (GPa)νσf (MPa)KIC (MPa m1/2)α (10−6 K−1)破壊ひずみ (%)
ソーダ石灰ガラス700.22500.759.00.071
石英ガラス730.17700.750.550.096
アルミナ(Al2O3)3800.223503.58.00.092
炭化ケイ素(SiC)4100.164003.54.00.098
窒化ケイ素(Si3N4)3100.278006.03.20.26
ジルコニア(Y-TZP)2100.3010008.010.50.48
構造用鋼(比較)2100.30降伏 250,引張 4005012塑性変形する
アルミニウム合金(比較)700.33降伏 270,引張 3103023塑性変形する
※ 誤解 1 「セラミックスは弱い」わけではありません 表 1 の σf は引張(または曲げ)の強度です. セラミックスは圧縮には非常に強く,圧縮強度は引張強度の 5–10 倍程度(目安)あります. 圧縮ではき裂が口を開きにくく,傾いた欠陥の端から小さなき裂が少しずつ伸びてつながるまで壊れないからです. 弱いのは「引張に対して,き裂があるとき」で,しかも強度が試料ごとに大きくばらつく ―― この 2 点が,このページの主題です. セラミックスの部品を,引張がかからず圧縮で使う設計が好まれるのはこのためです.
記号の約束 σ:応力(引張を正).E:Young 率.ν:Poisson 比.γs:表面エネルギー. a0:原子面の間隔.a:き裂の大きさ(板を貫通するき裂では全長 2a の半分,表面き裂では深さ). ρ:き裂先端の曲率半径.KI:応力拡大係数.KIC:破壊靱性.G:エネルギー解放率. m:Weibull 係数.σ0:特性強度.V:体積.α:線熱膨張係数.P:気孔率. Y:形状係数.Gc:破壊エネルギー.γeff:実効表面エネルギー.λV:試料 1 本あたりの欠陥の平均個数.k:欠陥の大きさの分布の指数. amin:いちばん小さな欠陥の大きさ.σ*:いちばん小さな欠陥が壊れる応力.Veff:有効体積. F:荷重(§12 の押し込み荷重.文献では P と書くことが多いが,本ページでは気孔率 P と区別する).d:Vickers 圧痕の対角線の長さ.h:圧痕の深さ.c:圧痕の中心から測ったき裂の長さ.HV:Vickers 硬さ(kgf/mm2 の数値),HV:それを GPa で表した値.Kc:押し込み破壊で見積もった靱性.
同じ文字を節によって別の意味に使うものがあります:R(§6.4 ではき裂進展抵抗 [J m−2],§10 では熱衝撃抵抗 [K]),λ(§2 では正弦の周期,§7 では欠陥の数密度),b(§3 では楕円の短半径,§6.6 では Burgers ベクトル,§9 では試験片の幅,§11 では経験定数),P(Pf,Ps は確率,添字のない P は気孔率),K と n(§1.2–§1.3 では Hollomon の式の強度係数と加工硬化指数.添字つきの KI,KIC は応力拡大係数と破壊靱性,§7 の n は欠陥の数,§8.5 では壊した本数,§9.5 では体積の比 V2 = nV1,§10.2 では級数の番号),a と R(§1.4 ではくびれの最小断面の半径と輪郭の曲率半径,§3.2 の R と m は等角写像の定数),k(§10.2 では熱伝導率),a と A(§12 では圧痕の半対角線 d/2 と圧痕の面積.AM,A1,A2 は §12.4 の経験定数),B(§12.7 では脆性指数).κ(§10)は熱拡散率です.
弾性の式は平面応力で書きます.厚い板の内部のような平面ひずみでは,E を E/(1 − ν2) に置き換えてください.

1.1 引張試験 ― 公称応力と真応力

シミュレーターの①は,学生実験の引張試験を画面の中で行います. 平行部の長さ(標点距離)L0,断面積 A0 の試験片を荷重 F で引き,伸び ΔL を測ります. 試験機が直接記録するのは F と ΔL なので,これをはじめの寸法で割った量がまず得られます.

(1) σn=FA0 , e=ΔLL0 (公称応力と公称ひずみ)

ところが引っ張ると試験片は細くなるので,いまの断面 A が本当に受けている応力は F/A です. ひずみも,長さが L から L + dL に伸びるときの増分 dL/L を足し合わせて定義します. これが真応力 σt と真ひずみ εt です.

(2) σt=FA , εt=∫L0LdL′L′ =ln⁡LL0=ln⁡(1+e)

金属の塑性変形では原子が並び替わるだけで,体積はほとんど変わりません.AL = A0L0 とおくと A = A0L0/L = A0/(1 + e) なので,

(3) σt=FA0·A0A =σn(1+e)=σneεt , εt=ln⁡A0A

弾性の範囲では体積は少し変わりますが,ひずみが 0.1 % 程度なので違いは無視できます. くびれが始まったあとは試験片の中で断面が一様でなくなるので,真応力と真ひずみはいちばん細いところの断面 Amin で σt = F/Amin,εt = ln(A0/Amin) と読みます(シミュレーターの読み取り値もこの定義です).

1.2 加工硬化 ― Hollomon の式

金属は降伏したあとも,転位どうしが絡み合って動きにくくなるので,変形を続けるにはより大きな応力が要ります(加工硬化). 真応力–真ひずみの関係は,多くの金属で次のべき関数でよく表せます(Hollomon,1945).

(4) σt=Kεtn

n を加工硬化指数,K を強度係数と呼びます(この節の K と n は,§5 の応力拡大係数 KI や §7 の欠陥の数 n とは別の量です). シミュレーターでは,弾性の直線 σt = Eεt が降伏応力 σy に達したあと, σt = max(σy, Kεtn) としています. 式 (4) をそのまま降伏ひずみ σy/E に当てはめると,構造用鋼で 209 MPa と σy = 250 MPa を下回ってしまうので, Kεtn が σy に追いつくひずみ ε1 = (σy/K)1/n(鋼 0.36 %,Al 合金 0.47 %)までは σy で一定とします. これは軟鋼で見られる降伏点伸び(Lüders 帯が試験片を伝わる間の平らな部分)を形の上で置き換えたものです. n と K は,次の §1.3 の結果を使って,表 1 の引張強さと,一様伸び(構造用鋼 18 %,アルミニウム合金 8 %.教材用の目安)から決めます.

1.3 くびれはいつ始まるか ― Considère の条件

加工硬化で材料は強くなりますが,同時に断面は細くなります.荷重 F = σtA がどう変わるかは,この 2 つの競争で決まります. 積の微分をとると

(5) dF=Adσt+σtdA

体積一定 AL = 一定 を微分すると L dA + A dL = 0,すなわち dA/A = −dL/L = −dεt です. これを入れると

(6) dF=A(dσt−σtdεt)

荷重が最大になる(dF = 0)のは

(7) dσtdεt=σt (Considère の条件)

のときです(Considère,1885).意味は次のとおりです.試験片のどこか 1 か所がたまたま少し細くなったとします. そこでは応力が上がりますが,そこだけ余分にひずむので加工硬化で強くもなります. 加工硬化率 dσt/dεt が σt より大きいうちは「強くなる」ほうが勝ち,細いところは変形を止めて,変形は試験片全体に広がります(一様伸び). 加工硬化率が σt を下回ると「細くなる」ほうが勝ち,変形はその 1 か所に集中します.これがくびれです. 式 (6) から分かるように,これは荷重が増加から減少に転じる点,つまり公称応力–公称ひずみ曲線の最高点と一致します.

Hollomon の式 (4) なら dσt/dεt = nKεtn−1 = (n/εt)σt なので,式 (7) は

(8) nεtσt=σt ⟹ εt=n , σUTS=σn|εt=n =Knne−n

となります(2 つ目は式 (3) の σn = σte−εt に εt = n を入れたもの). くびれが始まる真ひずみは加工硬化指数 n に等しいという,簡単で重要な結果です. 逆に一様伸び eu(最高点での公称ひずみ)が分かれば n = ln(1 + eu),引張強さ σUTS が分かれば K = σUTS/(nne−n) です. 構造用鋼(eu = 18 %,σUTS = 400 MPa)では n = 0.166,K = 636 MPa で,くびれの始まりの真応力は 472 MPa, そこでの加工硬化率も確かに 472 MPa です.アルミニウム合金(8 %,310 MPa)では n = 0.077,K = 408 MPa で,どちらも 334.8 MPa になります. 加工硬化指数の小さい Al 合金は,早くくびれます. なお,公称ひずみで書き直すと dσt/de = σt/(1 + e) となり,σt–e のグラフの上で e = −1 の点から曲線に引いた接線の接点が最高点になります.これが教科書によく出てくる Considère の作図です. シミュレーターでは「真応力–真ひずみと加工硬化率(Considère の条件)も表示」をチェックすると,dσt/dεt の曲線(緑)と σt の曲線の交点として同じ点を示します.

1.4 くびれの中の応力 ― Bridgman の補正

くびれができると,いちばん細い断面の外側の輪郭は曲がり,その断面は太い部分に上下からはさまれます. 細い部分は横に縮もうとしますが,まわりの太い部分がそれを引き止めるので,断面の内部には軸の向き以外にも引張の応力(半径方向と円周方向)が生じます. その結果,軸方向の応力 σzz は断面の中で一様でなくなり,中心で高く,表面で低くなります. Bridgman(1952 の著書にまとめられた解析)は,丸棒のくびれについて,最小断面の半径を a,くびれの輪郭の曲率半径を R として, 次の分布を導きました(r は中心からの距離,σeq は材料の流れ応力(相当応力)).

(9) σzz(r)=σeq [1+ln⁡(1+a2−r22aR)] , σrr=σθθ=σeqln⁡(1+a2−r22aR)

荷重 F を最小断面 πa2 で割った平均の応力 σ̄ = F/πa2 を,この分布から計算してみます. u = a2 − r2(du = −2r dr)と置換すると ∫0a ln(1 + (a2 − r2)/2aR) 2r dr = ∫0a2 ln(1 + u/2aR) du = 2aR[(1 + x) ln(1 + x) − x] (x = a/2R.∫ ln t dt = t ln t − t を使った)なので,

(10) σ¯=1πa2∫0aσzz2πrdr =σeq[1+(1+x)ln⁡(1+x)−xx] =σeq(1+2Ra)ln⁡(1+a2R)

右辺の係数 B = (1 + 2R/a) ln(1 + a/2R) は 1 以上で,a/R → 0(くびれがない)で 1 に戻ります. つまり,くびれの後に測った F/Amin は材料の流れ応力を B 倍だけ高く見せており,σeq = σ̄/B と割り戻すのが Bridgman の補正です. 構造用鋼のモデルで破断の直前(a/R = 0.646)では B = 1.146 で,式 (9) の中心の値は σ̄ の 1.12 倍,表面の値は 0.87 倍です. 中心で応力が高く,しかも 3 方向に引張になっていることが,次の §1.5 で延性破壊が中心から始まる理由です.

Bridgman の式は近似です 式 (9) は,最小断面の中でひずみが一様であること,くびれの輪郭が最小断面の近くで円弧であること,材料が von Mises の条件で降伏することを仮定した丸棒の解で, くびれが深くなると有限要素法の計算とずれてきます. シミュレーターの試験片は平板ですが,断面内の分布の形を見せるためにこの丸棒の式を幅方向に借りています. また,荷重 F そのものは Hollomon の式を延長した F = AminKεtn で計算し,B は応力を断面の中で配り直すことにだけ使っています(理由とくびれの形のモデルは付録 A.9).

1.5 延性破壊と脆性破壊

延性破壊(金属).金属の中には,酸化物や硫化物などの介在物や第 2 相の粒子が散らばっています. 塑性変形が進むと,粒子が割れたり粒子と母相の界面がはがれたりして,小さな空洞(ボイド)ができます. ボイドは塑性変形とともに引き伸ばされて育ち,3 方向に引張の応力がかかっているところほど速く育ちます. くびれの中心は式 (9) のとおりその条件がそろう場所なので,ボイドは中心で育ってつながり,軸に垂直な中央のき裂になります. 最後に外周の部分が約 45° の面ですべってちぎれ,カップアンドコーンと呼ばれる破面ができます.破面を電子顕微鏡で見ると,ボイドの跡のくぼみ(ディンプル)が一面に並んでいます. 介在物の量とボイドの生成・成長から延性の大きさを説明するモデルは,Le Roy ら(1981)が示しています. シミュレーターの拡大図(模式図)はこの順序を描いていますが,ボイドの育ち方は形を示すだけで,成長の式を解いてはいません.

脆性破壊(セラミックス).転位がほとんど動かないので,応力は直線のまま上がり, もともとあった小さなき裂の先端で応力拡大係数が破壊靱性に達した瞬間(§5),き裂は加速しながら断面を横切ります. 破面は荷重の向きに垂直な平らな面になり,塑性変形の跡はありません. 表 1 の値で表面き裂(Y = 1.12)とすると,強度 σf で壊れるき裂の深さ a = (KIC/1.12σf)2/π(式 (43))は, アルミナで 25 μm,Y-TZP で 16 μm,ソーダ石灰ガラスで 57 μm です.シミュレーターの拡大図は,この深さのき裂を描いています.

壊れるまでに吸収するエネルギー(公称応力–公称ひずみ曲線の下の面積)は, シミュレーターのモデルで構造用鋼 94 MJ m−3,アルミニウム合金 35 MJ m−3 で,アルミナ(0.16 MJ m−3)のそれぞれ約 590 倍と約 215 倍です. 強度そのものはアルミナ(350 MPa)のほうが鋼の降伏応力(250 MPa)より高いのに,決定的に違うのは壊れるまでに吸収できるエネルギーです.

2. 理論強度を見積もる(Orowan)

まず,き裂も欠陥もない完全な結晶を引っ張り,原子面どうしを引き離すのに必要な応力 ―― 理論強度 ―― を見積もります. 原子面の間隔を a0,平衡位置からの面の変位を x とします. x を増やすと,応力ははじめ Hooke の法則にしたがって増え,最大値 σth に達したあと, 結合が切れていくにつれて 0 に戻ります.この山の形を,正弦関数の半周期で近似します(Orowan の近似).

(11) σ(x)=σth sin⁡2πxλ (0≤x≤λ/2)

λ/2 は,応力が 0 に戻る(結合が完全に切れる)変位です.未知数は σth と λ の 2 つなので,条件を 2 つ用意します.

2.1 条件 1:変位が小さいところでは Hooke の法則

x ≪ λ では sin θ ≈ θ なので,式 (11) は σ ≈ σth·2πx/λ です. 一方,ひずみは ε = x/a0 なので,Hooke の法則は σ = Eε = Ex/a0. x の係数を等しいとおいて

(12) σth2πλ =Ea0 ⟹ σth=Eλ2πa0

2.2 条件 2:引き離す仕事は,新しくできる 2 枚の表面のエネルギー

単位面積の原子面を完全に引き離すまでに応力がする仕事は,式 (11) の曲線の下の面積です. 引き離すと表面が 2 枚できるので,これが 2γs に等しくなります.

(13) ∫0λ/2 σthsin⁡2πxλdx =σth [−λ2πcos⁡2πxλ]0λ/2 =σthλ2π(1+1) =σthλπ =2γs

(cos π = −1,cos 0 = 1 を使った.)したがって λ = 2πγs/σth です.

2.3 λ を消去する

この λ を式 (12) の右の式に代入すると

(14) σth=E2πa0 ·2πγsσth =Eγsa0σth ⟹ σth2=Eγsa0
(15) σth=Eγsa0

アルミナ相当の値 E = 380 GPa,γs = 1.0 J m−2,a0 = 0.2 nm を入れると

(16) σth= 380×109×1.00.2×10−9 =1.9×1021 ≈4.36×1010Pa =43.6GPa≈E8.7

表 1 のアルミナの強度は 350 MPa なので,理論強度は実際の強度の約 125 倍です. このとき λ = 2πγs/σth = 0.144 nm,結合が完全に切れる変位 λ/2 は 0.072 nm で, a0 の 0.36 倍 ―― 原子間距離の 4 割弱引き伸ばせば結合は切れる,という妥当な大きさです.

図 1 Orowan の正弦近似(アルミナ相当:E = 380 GPa,γs = 1.0 J m−2,a0 = 0.2 nm). 塗りつぶした面積が 2γs に等しい(式 (13)).原点を通る破線は Hooke の法則の傾き E/a0 で, 式 (12) は曲線の原点での傾きをこれに一致させる条件である.

※ 誤解 2 式 (16) の「E/8.7」の係数は,近似の取り方で変わります 式 (11) の正弦関数は,結合の力の曲線の形を大ざっぱに置き換えたものです. より現実的な原子間ポテンシャルを使ったり,γs や a0 の値を変えたりすれば係数は変わります. しかし,理論強度が実際の強度の数十–数百倍にもなるという結論は,係数によらず動きません. 欠陥の少ない細いガラス繊維の強度が,太い棒よりはるかに高いことを示したのが Griffith(1921)の実験でした.

3. 応力集中(Inglis)

この大きな差を説明する最初の手がかりは,穴やき裂の先端に応力が集中することです. Inglis(1913)は,無限に広い板にあいた長径 2a,短径 2b の楕円の穴に,長径と垂直な向きに一様な引張応力 σ をかけたときの弾性解を求め, 長径の端での応力が

(17) σmax=σ(1+2ab)

になることを示しました.円孔(a = b)なら 3σ で,よく知られた「応力集中係数 3」です. 楕円 (x/a)2 + (y/b)2 = 1 の長径の端 (a, 0) の近くでは y2 ≈ 2(b2/a)(a − x) と放物線で近似でき,これを半径 ρ の円の y2 ≈ 2ρ(a − x) と比べると,曲率半径は ρ = b2/a です.これより b = √(aρ),したがって 2a/b = 2a/√(aρ) = 2√(a/ρ) と書き直せます.

(18) σmax=σ(1+2aρ) ≈ 2σaρ (a≫ρ)

集中の度合いを決めるのは,穴の大きさそのものではなく「長さと先端の鋭さの比」です. たとえば a = 10 μm のき裂の先端が原子 1 個ぶんまで鋭い(ρ = a0 = 0.2 nm)とすると, √(a/ρ) = √(5×104) = 223.6 で,集中係数は 1 + 2 × 223.6 ≈ 448 です. 外から σ = 100 MPa をかけただけで,先端の応力は 44.8 GPa ―― 式 (16) の理論強度 43.6 GPa を超えます.

3.1 Orowan と Inglis を組み合わせると

先端の応力が理論強度に達したら壊れる,つまり σmax = σth とし,ρ = a0 とおきます. 式 (18) の近似形と式 (15) から

(19) σf≈σth2a/a0 =12Eγsa0 ·a0a =12Eγsa

a0 が消えました.a = 10 μm では σf ≈ 97 MPa で,実際の強度の桁が出ます. しかも「強度はき裂の大きさの平方根に反比例する」という形まで出ています.

※ 誤解 3 「先端の曲率半径 ρ が分かれば強度が決まる」わけではありません 式 (19) は ρ = a0 と決め打ちした結果です.弾性論は連続体の理論なので,原子 1 個ぶんの鋭さの先端の応力を正確には扱えませんし, 実際の ρ を測ることもできません. Griffith は,先端の応力の値を問わず,き裂が伸びるときのエネルギーの出入りだけで破壊の条件を決めました(§4). その結果は式 (19) と同じ √(Eγs/a) の形で,係数が 1/2 から √(2/π) ≈ 0.80 に変わるだけです.
なお式 (18) は,丸い気孔(ρ が大きい)は同じ大きさのき裂より危険が小さいことも示しています. ただし気孔の縁に小さなき裂があれば,気孔とき裂を合わせた大きさのき裂としてはたらきます(§11).

3.2 楕円孔のまわりの応力場 ― 等角写像と複素ポテンシャル

シミュレーターの②は,式 (17) の「先端の 1 点の値」だけでなく,楕円孔のまわり全体の応力をカラーマップで描きます. その計算の考え方をまとめます.無限に広い板(平面応力でも平面ひずみでも,面内の応力は ν によりません)に, x 方向の半径 a,y 方向の半径 b の楕円孔があり,孔の縁には力がかかっていない(自由表面)とします. 遠方では一様な応力 σxx = Sx,σyy = Sy,σxy = 0 がかかっています. ②の荷重「上下」は (Sx, Sy) = (0, σ),「左右」は (σ, 0),「等二軸」は (σ, σ) です.

手順 1:応力を 2 つの複素関数で表す. つり合いの式と適合条件を満たす平面の応力は,z = x + iy の解析関数 φ(z),ψ(z) を使って次のように書けることが知られています(Kolosov–Muskhelishvili の式.導出は弾性論の教科書に譲ります:Muskhelishvili,1953).

(20) σxx+σyy=4ReΦ(z) , σyy−σxx+2iσxy =2[z¯Φ′(z)+Ψ(z)] , Φ=φ′,Ψ=ψ′

たとえば φ = Γz,ψ = Γ′z(Γ,Γ′ は実数)とすると Φ = Γ,Φ′ = 0,Ψ = Γ′ なので, σxx + σyy = 4Γ,σyy − σxx = 2Γ′,σxy = 0 の一様な応力になります. 遠方の応力に合わせるには

(21) Γ=Sx+Sy4 , Γ′=Sy−Sx2

とすればよく,孔があるときの φ,ψ は,遠方でこの形に近づき,孔の縁で力が 0 になるように決めます.

手順 2:楕円の外側を円の外側に写す. 楕円の縁の上で条件を課すのは面倒なので,別の複素数 ζ の平面の単位円の外側 |ζ| ≥ 1 を,楕円孔の外側に写す関数を使います.

(22) z=ω(ζ)=R(ζ+mζ) , R=a+b2 , m=a−ba+b

確かめてみます.単位円の上の点 ζ = eiθ では 1/ζ = e−iθ なので z = R[(1 + m) cos θ + i(1 − m) sin θ]. R(1 + m) = (a + b)/2 × 2a/(a + b) = a,同じく R(1 − m) = b なので, z = a cos θ + ib sin θ ―― ちょうど楕円の縁です. b = a なら m = 0 で円孔,b → 0 なら m → 1 で長さ 2a のき裂になります. このように角度を保って形を写す関数を等角写像と呼びます.

手順 3:縁で力が 0 になる関数を決める. ζ の平面で,遠方で手順 1 の形になる関数を ζ と 1/ζ のべきで表し,単位円の上で縁の力が 0 になるように係数を決めると,次の形になります.

(23) φ(ζ)=R(Γζ+Aζ) ,A=−(Γ′+mΓ) ψ(ζ)=R[Γ′ζ−Γζ+mΓζ −(1+mζ2)(Γζ2−A)ζ(ζ2−m)]

Inglis(1913)は楕円座標を使って同じ問題を解きました.式 (23) は,それを複素ポテンシャルの形で書き直したもので, シミュレーターは z から ζ を逆に求め(ζ = (z ± √(z2 − a2 + b2))/2R のうち |ζ| の大きいほう), Φ = φ′(ζ)/ω′(ζ),Ψ = ψ′(ζ)/ω′(ζ) を式 (20) に入れて各点の応力を計算しています. 孔の縁で力が 0 になること,遠方で一様な応力に戻ること,つり合いと適合の式を満たすことは,数値的に確かめてあります(付録 A.9).

手順 4:孔の縁の応力. 自由な縁では縁に垂直な応力 σnn が 0 なので,縁に沿った応力 σtt は,座標の向きによらない和 σxx + σyy = σnn + σtt に等しく,4 Re Φ です. ζ = eiθ で Φ = φ′/ω′ = (Γ − Ae−2iθ)/(1 − me−2iθ) です. 分母を実数にするため分子と分母に (1 − me2iθ) を掛けると,分母は 1 − 2m cos 2θ + m2, 分子の実部は Γ + mA − (A + mΓ) cos 2θ です.A + mΓ = −Γ′,Γ + mA = Γ(1 − m2) − mΓ′ を使うと

(24) σtt(θ)= 4[Γ(1−m2)−mΓ′+Γ′cos⁡2θ] 1−2mcos⁡2θ+m2 (縁の点 (acos⁡θ,bsin⁡θ))

上下の荷重(Γ = σ/4,Γ′ = σ/2,A = −σ(2 + m)/4)で先端 θ = 0 を計算すると, 分子は 4(1 − m)(Γ − A) = (1 − m)(3 + m)σ,分母は (1 − m)2 なので σtt = σ(3 + m)/(1 − m) です. 1 − m = 2b/(a + b),3 + m = (4a + 2b)/(a + b) を入れると σ(4a + 2b)/2b = σ(1 + 2a/b) ―― 式 (17) が出てきました. 上下の縁 θ = π/2(cos 2θ = −1)では,分子が −(1 + m)2σ,分母が (1 + m)2 で σtt = −σ(圧縮)です.

3.3 荷重の向きで変わる ― 円孔の Kirsch の解との比較

式 (24) で荷重の向きを変えると,縁のどこに応力が集中するかが入れ替わります.表にまとめます(σ で割った値).

表 2 楕円孔の縁の応力 σtt/σ(式 (24))「先端」は長径の端 (±a, 0),「上下の縁」は短径の端 (0, ±b).b/a = 0.25 はシミュレーター②の既定値.
荷重先端上下の縁円孔(b = a)b/a = 0.25
上下(y 方向)1 + 2a/b−13 と −1先端 9,上下 −1
左右(x 方向)−11 + 2b/a3 と −1先端 −1,上下 1.5
等二軸2a/b2b/a縁全体で 2先端 8,上下 0.5

き裂のような細長い孔を,き裂に沿った向き(左右)に引っ張っても,応力はほとんど集中しません(上下の縁で 1 + 2b/a → 1). 危険なのはき裂の面を開く向きの応力だけです.等二軸では先端で 2a/b と,上下の荷重とほぼ同じだけ集中します.

円孔では,孔の中心を原点とする極座標 (r, θ)(θ は荷重の向きの x 軸から測る)で,x 方向の一様な引張 σ に対する解が Kirsch(1898)によって閉じた形で求められています.

(25) σrr=σ2(1−a2r2) +σ2(1−4a2r2+3a4r4)cos⁡2θ σθθ=σ2(1+a2r2) −σ2(1+3a4r4)cos⁡2θ σrθ=−σ2(1+2a2r2−3a4r4)sin⁡2θ

縁 r = a では σrr = σrθ = 0(自由表面)で,σθθ = σ(1 − 2 cos 2θ). 荷重と垂直な位置 θ = 90° で 3σ,荷重の向きの位置 θ = 0 で −σ です. r → ∞ では σrr → (σ/2)(1 + cos 2θ) = σ cos2θ と一様な引張に戻ります. 式 (24) で m = 0 とおいた値とも一致します. 符号を逆にした一様な圧縮では,荷重の向きの縁に +σ の引張が現れます.圧縮しかかけていないのに孔や欠陥の縁から小さなき裂が伸びうるのはこのためで,§1 の誤解 1 の説明と対応します.

き裂に近い細長い楕円(b ≪ a)では,先端の前方の応力も簡単な形になります. b → 0 の極限(長さ 2a のき裂)では,き裂の延長線上で先端から r 離れた点の応力は σyy = σ(a + r)/√((a + r)2 − a2) で, r ≪ a では (a + r)2 − a2 = 2ar + r2 ≈ 2ar なので σyy ≈ σ√(a/2r) = σ√(πa)/√(2πr) ―― §5 の式 (37)(38) の KI/√(2πr) です(§5.5 で導きます). たとえば b/a = 0.005,r = 0.01a の点では,楕円孔の解 7.128σ,き裂の厳密解 7.124σ,K 場の近似 7.071σ と,ほぼ一致します. カラーマップで先端の高い σ1 の領域がき裂の線の上下にふくらんだ腎臓形に見えるのは,§5.5 の式 (47) で説明できます.

3.4 主応力の向きと,き裂の進む向き

ある点の応力 (σxx, σyy, σxy) を,x 軸から角 ϑ だけ回した向きの面で見ると,その面に垂直な応力は

(26) σϑ=σxx+σyy2 +σxx−σyy2cos⁡2ϑ +σxysin⁡2ϑ

です(力のつり合いを小さな三角形の要素で書くと出ます).ϑ で微分して 0 とおくと tan 2ϑp = 2σxy/(σxx − σyy), そのときの cos 2ϑ,sin 2ϑ を戻すと最大値と最小値が得られます.これが主応力です.

(27) σ1,2=σxx+σyy2 ±(σxx−σyy2)2+σxy2

シミュレーター②の既定の表示は最大主応力 σ1 で,短い灰色の線がその向き(ϑp)を示します. 脆い材料のき裂は,先端の近くで最大主応力の向きに垂直に進みます. Erdogan と Sih(1963)は,先端のまわりで円周方向の応力が最大になる向きにき裂が伸びるという条件(最大円周応力説)で,斜めのき裂の曲がり方を実験と比べ, Gol'dstein と Salganik(1974)は,き裂は先端の場がずれの成分(モード II)をもたない向きに進むという局所対称の原理を示しました. どちらも「き裂は先端を開く向きの引張に垂直に進む」という同じ直感の表現です. ②の緑の矢印は,縁で σ1 が最大になる点からこの向き(縁の外向きの法線)に描いてあります. 上下の荷重ではき裂は先端から x 方向に,左右の荷重では上下の縁から y 方向に伸びます. 円孔に等二軸をかけると縁全体が同じ 2σ なので,どこから割れるかはその場所にある小さな欠陥で決まり,矢印は描きません.

自由な縁のすぐそばでは,主応力の向きは必ず縁に沿った向きと縁に垂直な向きになります. 縁では面に垂直な応力もずれの応力も 0 なので,縁に沿った向きの応力 σtt と,0 の垂直応力が主応力になるからです. σtt > 0 なら σ1 は縁に沿い,それに垂直に進むき裂は縁に直角に突き当たります. ②で「σ1 の向きを短い線で重ねる」をチェックすると,孔の縁の近くの線が縁に沿って並ぶことを確かめられます.

3.5 考察:ガラスの破片に三角形が多いと感じるのはなぜか

この小節は考察です 割れたガラスの破片の形の統計を系統的に調べた文献は,ここでは確かめられませんでした. 以下では,文献で確かめられる事実(き裂の進む向き,交わり方,枝分かれ)を並べ,そこから言えそうなことと言えないことを分けて書きます.

事実 1:き裂は局所の σ1 に垂直に進む(§3.4).したがって破片の形は,割れる瞬間の板の中の主応力の向きの模様を写し取ります.

事実 2:あとから来たき裂は,先にできたき裂にほぼ直角に突き当たる. 先にできたき裂の面は自由表面なので,その近くでは §3.4 のとおり σ1 が面に沿い,あとから来たき裂は面に垂直に向きを変えます. 陶磁器の釉薬や乾いた泥の割れのように,き裂が1 本ずつ順にできて領域を分けていく場合には,T 字形の交点が多くなり, できる区画の辺の数は平均して 4 になることが報告されています(Bohn,Douady,Couder,2005.Bohn,Pauchard,Couder,2005). 「順に分割するだけなら,破片は三角形より四角形になりやすい」ということです.

事実 3:速く走るき裂は枝分かれする. ガラスのように蓄えた弾性エネルギーが大きいまま割れると,き裂は加速して 2 本に分かれ,さらに分かれていきます. Yoffe(1951)は,速く走るき裂の先端では円周方向の応力が最大になる向きが進行方向から斜めにずれることを示し,枝分かれの古典的な説明の 1 つとされています(枝分かれの原因は現在も研究が続いています). 枝分かれの角度は応力状態で変わり,一軸の引張では 30–45° 程度(ばらつきは大きい),二軸の引張ではそれより大きいことが,破面解析の文献でまとめられています(Quinn,2020). また,板に点状の衝撃や曲げがかかると,荷重点から放射状に伸びるき裂(放射き裂)と,それを横切る円周状のき裂ができることもよく知られています(Quinn,Swab,Patel,2021.Bradt,2011).

そこから言えそうなこと. 1 点から鋭い角度で出た 2 本のき裂(枝分かれの 2 本,または隣り合う放射き裂)の間の細長いくさびを,3 本目のき裂が横切ると,三角形に近い破片ができます. 枝分かれの角度が 30–45° 程度と鋭いことは,くさびの先端の角が鋭い三角形の破片ができやすいことと矛盾しません. 一方,事実 2 の T 字の交わりが続くと四角形に近づきます. したがって「三角形が多い」と感じられるとすれば,それはエネルギーの大きい速い破壊で枝分かれや放射き裂が多くできたことの表れと考えるのが自然です. ただし,三角形が本当に多数派なのか,どの割れ方でどれだけ多いのかは,破片の形を数えてみないと言えません. シミュレーター②の楕円孔の図は静的な弾性解で,速く走るき裂や枝分かれそのものは表していないことにも注意してください. 学生への問い:②で荷重の向きを変え,σ1 の線の模様から「き裂がどこでどちらに曲がるか」を予想し,実際の割れたガラスの写真と比べてみましょう.

4. Griffith のエネルギー収支【核心】

Griffith(1921)の着想は,き裂の先端で何が起きているかを問わず,き裂が少し伸びたときのエネルギーの帳尻だけを見ることでした. き裂が伸びると,(i) 新しい表面ができるのでエネルギーが要り,(ii) き裂のまわりの材料がゆるむので弾性ひずみエネルギーが解放されます. (ii) が (i) を上回るなら,き裂は外から何もしなくても伸びていきます.

状況を次のように決めます.無限に広い,厚さ 1(単位厚さ)の板に,全長 2a の貫通き裂があり, き裂と垂直な向きに遠方から一様な引張応力 σ がかかっている.平面応力とする. き裂を入れることで,(i)(ii) がそれぞれいくらになるかを a の関数として求め,足し合わせます.

4.1 き裂が口を開く形

弾性論(§3 の Inglis の楕円の穴で b → 0 とした極限)によれば,このき裂は楕円形に口を開きます. き裂の中心を原点,き裂に沿って x 軸をとると,上側のき裂面の変位は

(28) v(x)=2σE a2−x2 (−a≤x≤a)

です(下側の面は −v(x) だけ動く).この結果は弾性論から借ります. 口の開きは中央で最大の 4σa/E で,a = 10 μm,σ = 156 MPa でも 16 nm にすぎません.

4.2 き裂を入れると解放される弾性エネルギー

次の手順を考えます.き裂のない板に σ がかかった状態から出発し,き裂を入れる面を切りますが, 切った面にはもともとかかっていた応力 σ を「押さえの力」として残しておきます.押さえている間は何も変わりません. この押さえの力を σ から 0 までゆっくり減らすと,き裂面は 0 から v(x) まで開きます. このとき材料が押さえの力に対してする仕事が,き裂を入れることで解放されるエネルギーです.

線形弾性体では押さえの力と開きが比例して変わるので,仕事は「最初の力 × 最終の変位 × 1/2」(力–変位の直線の下の三角形)です. 上下 2 枚の面について足すと

(29) UE=2× ∫−aa 12σv(x)dx =σ∫−aa 2σEa2−x2dx =2σ2E ∫−aaa2−x2dx

最後の積分は,y = √(a2 − x2)(半径 a の上半円)の下の面積,すなわち半円の面積 πa2/2 です.したがって

(30) UE=2σ2E·πa22 =πσ2a2E
外力を一定に保つか,つかみを固定するか 外力を一定に保つ(定荷重)場合は,き裂が開くと外力も仕事をし,ひずみエネルギーはかえって増えます. つかみを固定する(定変位)場合は,ひずみエネルギーそのものが減ります. 見かけは逆ですが,ひずみエネルギーから外力の仕事を引いた「系のポテンシャルエネルギー」が下がる量は, 線形弾性体ではどちらの場合も同じになることが示せます.式 (30) はこの量として読んでください.

4.3 新しくできる表面のエネルギー

き裂の長さは 2a,厚さは 1,そして面は上下 2 枚です.

(31) US=2×(2a×1)×γs =4aγs

4.4 全エネルギーの極大を求める

き裂のない状態を基準にした系のエネルギーの変化は,式 (30) の解放ぶんを引き,式 (31) を足して

(32) U(a)=−πσ2a2E +4γsa

第 1 項は a2 で下がり,第 2 項は a で上がります.小さい a では第 2 項が勝ち,大きい a では第 1 項が勝つので,U(a) は山の形になります. a で微分すると

(33) dUda= −2πσ2aE+4γs

dU/da > 0 のうちは,き裂が伸びるとエネルギーが増えるので伸びません. dU/da < 0 になると,伸びるほどエネルギーが下がるので止まりません.境目 dU/da = 0 は

(34) 2πσ2aE=4γs ⟹ σ2=2Eγsπa

これを,与えられた a で壊れる応力(強度)として読むか,与えられた σ で伸び始めるき裂の半長として読むかで,2 つの形になります.

(35) σf=2Eγsπa , ac=2Eγsπσ2

2 階微分は d2U/da2 = −2πσ2/E < 0 なので,この点は極大です. 山の高さは,式 (34) の左の式から πσ2ac/E = 2γs を使って U(ac) = −2γsac + 4γsac = 2γsac です. アルミナ相当の値で a = 10 μm とすると

(36) σf= 2×380×109×1.0π×10×10−6 =2.42×1016 ≈1.56×108Pa =156MPa

理論強度 43.6 GPa の 1/280 です.平面ひずみ(E → E/(1 − ν2),ν = 0.22)なら 159 MPa になります. 逆に,γs = 1.0 J m−2 のままアルミナの強度 350 MPa を説明するには,a = 2.0 μm のき裂があればよいことになります.

図 2 式 (32) の全エネルギー U(a)(アルミナ相当:E = 380 GPa,γs = 1.0 J m−2,単位厚さあたり). σ = 100,150,200 MPa の 3 本で,丸印が極大,その位置が臨界半長 ac = 24.2,10.8,6.0 μm. 点線は表面エネルギーの項 4γsa.応力が大きいほど山は低く,ac は小さくなる.

式 (35) から読み取ること ①強度はき裂の大きさの −1/2 乗.き裂を 4 倍にすると強度は半分になります.両対数プロットでは傾き −1/2 の直線です.
②材料の側でできることは 2 つ.き裂(欠陥)を小さくすること ―― 粉の凝集・粗大な気孔・研削傷を減らす ―― と,γs の代わりに入る「き裂の伸びにくさ」を大きくすること(§5・§6)です.
③臨界点は不安定なつり合い.極大を越えたき裂は,伸びるほど dU/da がさらに負になるので,加速して止まりません. セラミックスが前ぶれなく突然割れるのはこのためです.
※ 誤解 4 a は「き裂の全長」ではありません 式 (35) の a は,板を貫通するき裂では全長 2a の半分,表面から入ったき裂では深さです. 全長を a に入れてしまうと,き裂を実際の 2 倍の大きさとして扱うことになり,強度は本来の 1/√2(約 0.71 倍)に,臨界の大きさ(許容できるき裂)は本来の半分に見積もられます. 強度や許容き裂を見積もる向きでは安全側の誤りですが,逆に測った強度とき裂の長さから KIC を求めると √2 倍に大きく出てしまい,危険側になります.文献の値と比べるときには,き裂の大きさで 2 倍,強度や KIC で √2 倍の食い違いになります. 文献の値を使うときは,どちらの定義かを必ず確かめてください.

5. 応力拡大係数とエネルギー解放率

Griffith は系全体のエネルギーを見ました.Irwin(1957)は視点をき裂の先端に移し, 先端近くの応力場の「強さ」を 1 つの数で表しました.両者は同じ破壊条件の 2 つの顔です.

5.1 先端の応力場と応力拡大係数 K

線形弾性体では,先端からの距離 r が a より十分小さいところで,き裂面の延長上の引張応力は

(37) σyy(r)≈ KI2πr (r≪a)

という形になります.r → 0 で 1/√r のように発散しますが,発散の形はき裂の長さや試料の形によらず同じで, それらの違いはすべて係数 KI に入ります.これを応力拡大係数と呼びます(添字 I は,き裂を口開きの向きに開くモード I を表す). 幅の広い板では

(38) KI=Yσπa (Y=1.0:貫通き裂, Y≈1.12:表面・縁のき裂)

Y は形状係数です.板の縁(自由表面)から入った,前縁がまっすぐなき裂は,片側の拘束がないぶん口を開きやすいので,Y は 1 より大きい 1.12 になります. 表面にできる半円形の小さなき裂では,Y は前縁に沿って 0.66(いちばん深い点)から 0.73(表面と交わる点)ほどで,代表値として円板状のき裂の係数 2/π に表面の補正 1.12 を掛けた Y ≈ 0.71 がよく使われます.いずれにしても 1 より小さくなります. 本ページとシミュレーターでは簡単のため,表面のき裂を Y = 1.12 で代表させます(KI を大きめに見積もる,安全側の扱い). KI の単位は MPa m1/2 です.

先端で応力が無限大になるのは困らないのか 式 (37) は連続体の弾性論の答えで,実際の先端では原子の大きさの丸みや,わずかな非線形の領域(プロセスゾーン)のために応力は有限です. KI は,その小さな領域の外側を取り巻く弾性場の強さを表す量です. 外側の場が同じなら内側で起きることも同じはず,というのが K で破壊を論じる根拠です.

5.2 エネルギー解放率 G

き裂が単位面積だけ進むときに解放される弾性エネルギーをエネルギー解放率 G と定義します. 全長 2a のき裂には先端が 2 つあり,a が da 増えると両端がそれぞれ da 進むので,き裂の面積(厚さ 1)は 2da 増えます. 式 (30) を使って

(39) G=dUEd(2a) =12dda(πσ2a2E) =12·2πσ2aE =πσ2aE

Y = 1 の式 (38) を 2 乗すると KI2 = πσ2a なので,これはそのまま

(40) G=KI2E (平面応力.平面ひずみでは G=KI2(1−ν2)/E)

と書けます.全体のエネルギー(G)と先端の応力場(K)が,1 本の式でつながりました.

5.3 2 つの破壊条件は同じもの

表面エネルギーの側も同じ規則で数えます.き裂の面積が単位量増えると表面は上下 2 枚ぶん増えるので,必要なエネルギーは 2γs です. 「G が 2γs に達したら壊れる」という条件を書くと

(41) πσ2aE=2γs ⟺ σ=2Eγsπa

となり,式 (35) と一致します.K の言葉では「KI が臨界値 KIC に達したら壊れる」です. 式 (40) で G を臨界値 Gc に置き換えれば,両者の関係は次のようになります.

(42) Yσπa=KIC , KIC=EGc , Gc=2γeff

Gc を破壊エネルギー(き裂進展抵抗),γeff = Gc/2 を実効表面エネルギーと呼びます(文献によっては片側の破面あたりの γeff のほうを破壊エネルギー γf と呼ぶので,値を比べるときは 2 倍の違いに注意してください). KIC は試験で直接測れる材料の値で,これが破壊靱性です. 理想的な脆性体なら γeff = γs で,アルミナ相当の値では KIC = √(2Eγs) = 0.87 MPa m1/2 になるはずです. 表 1 の 3.5 MPa m1/2 はその 4.0 倍,Gc にすれば 16 倍です.この差の由来が §6 の主題です.

5.4 許容できるき裂の大きさ

式 (42) の左の式を a について解くと,応力 σ のもとで許容できる最大のき裂が決まります.

(43) ac=1π (KICYσ)2

設計応力 σ = 300 MPa,表面のき裂(Y = 1.12)とすると, アルミナで 34.5 μm,ソーダ石灰ガラスで 1.6 μm,Y-TZP で 180 μm です. ac は KIC の 2 乗に比例するので,KIC が 2.3 倍(アルミナ → Y-TZP)になると許容できるき裂は 5.2 倍になります. ガラスの 1.6 μm は,表面を軽くこすった傷でも超えてしまう大きさです. §4 の最後で見た「γs = 1.0 J m−2 なら 350 MPa には 2.0 μm のき裂で足りる」という見積もり(貫通き裂)に対し, 実際のアルミナ(KIC = 3.5 MPa m1/2)が 350 MPa で壊れるき裂の大きさは,同じ貫通き裂なら 32 μm(Gc の比と同じ 16 倍),表面き裂(Y = 1.12)なら 25 μm です.

5.5 き裂先端の応力場の全体 ― Westergaard の解と K 場

式 (37) はき裂の延長線の上だけの式でした.シミュレーター③の上の図は,先端のまわり全体の σyy を塗り分けています. その場を,Westergaard(1939)の方法で導きます.長さ 2a のき裂(y = 0,|x| < a)をもつ広い板に,遠方から σ がかかっているとき,複素関数

(44) Z(z)=σzz2−a2 , σyy=ReZ+yImZ′ , σxx=ReZ−yImZ′ , σxy=−yReZ′

を使うと,き裂の面(y = 0,|x| < a)で √(z2 − a2) が純虚数になって σyy = σxy = 0,遠方で Z → σ になります (この Z は遠方で σxx も σ にする二軸の解なので,一軸の引張では σxx から σ を引きます.σyy と σxy は変わりません). 延長線の上(y = 0,x = a + r)では σyy = σ(a + r)/√((a + r)2 − a2) で,§3.3 のき裂の厳密解と同じです.

先端の近くを,先端を原点とする極座標 z = a + reiθ(r ≪ a)で調べます. z2 − a2 = (z − a)(z + a) ≈ reiθ × 2a なので

(45) Z≈σa2are−iθ/2 =KI2πre−iθ/2 , Z′≈−KI22πr−3/2e−3iθ/2

(KI = σ√(πa) とおいた.Z′ は Z ∝ (z − a)−1/2 を微分した.) Re Z = (KI/√(2πr)) cos(θ/2),y Im Z′ = r sin θ × (KI/2√(2π))r−3/2 sin(3θ/2), sin θ = 2 sin(θ/2) cos(θ/2) を使ってまとめると,モード I のK 場が得られます.

(46) σyy=KI2πrcos⁡θ2[1+sin⁡θ2sin⁡3θ2] , σxx=KI2πrcos⁡θ2[1−sin⁡θ2sin⁡3θ2] σxy=KI2πrcos⁡θ2sin⁡θ2cos⁡3θ2

θ = 0 で式 (37) に戻ります.角度の関数は a にも σ にもよらず,それらは KI だけに入っている ―― これが「K が先端の場の強さを 1 つの数で表す」ことの中身です. 式 (27) に入れると,(σxx + σyy)/2 = (KI/√(2πr)) cos(θ/2), ((σxx − σyy)/2)2 + σxy2 = (KI2/2πr) cos2(θ/2) sin2(θ/2)[sin2(3θ/2) + cos2(3θ/2)] なので

(47) σ1=KI2πrcos⁡θ2(1+|sin⁡θ2|)

s = sin(θ/2) とおくと角度の部分は √(1 − s2)(1 + s) で,s で微分して 0 とおくと s = 1/2,すなわち θ = ±60° で最大値 1.30 になります. 同じ距離なら,き裂の正面(1.00)より斜め 60° の方向のほうが σ1 が 3 割高いので,②の σ1 のカラーマップで高い領域は上下にふくらんだ腎臓形になります. ③の上の図が塗っている σyy(き裂を開く成分)も,式 (46) の角度の部分 cos(θ/2)[1 + sin(θ/2)sin(3θ/2)] が θ = ±60° で 1.30(正面の 1.3 倍)になるので,やはりき裂の線の上下にふくらんだ形です. σ1 との違いは,σyy がき裂を開く向きの成分だけであることと,先端の後ろ側で速く小さくなること(θ = 90° で σyy は 1.06,σ1 は 1.21)です.

5.6 塑性域の大きさ ― Irwin の見積もり

式 (46) は先端で無限大になりますが,金属では応力が降伏応力 σy を超えたところで塑性変形が起きます. 延長線上で KI/√(2πr) = σy となる距離を求めると

(48) rp=12π(KIσy)2 (平面応力)

です.ところが r < rp の部分は σy より大きな応力を支えられないので,そのぶんの力は外側に押し出され,塑性域はおよそ 2 倍の 2rp に広がります. Irwin はこれを「き裂が rp だけ長くなったように振る舞う」と考えて補正しました(この補正の導き方は Anderson,2017 にまとめられています). シミュレーター③では,先端から rp 先を中心とする直径 2rp の破線の円で,この塑性域を示しています. 平面ひずみ(厚い板の内部)では 3 軸の拘束で降伏しにくくなり,塑性域はおよそ 1/3 になります.

表 1 の値で KI = KIC のときの rp を計算すると,構造用鋼で 6.4 mm,アルミニウム合金で 2.0 mm です. セラミックスは室温で転位がほとんど動かないので降伏応力は定義しにくいのですが,硬さ H と降伏応力の目安の関係 σy ≈ H/3(Tabor,1951.§12.4.押し込みの下では静水圧がかかるので,そこで起きる塑性変形から見積もった名目的な値)を使うと, アルミナ(H ≈ 16 GPa,σy ≈ 5.3 GPa)で 69 nm,ソーダ石灰ガラスで 27 nm,Y-TZP でも 0.6 μm で,粒の大きさ程度以下,き裂の大きさ(数十 μm)に比べて桁違いに小さく ―― 事実上 0 です. なお H ≈ 3σy は E/σy の大きい金属で成り立つ関係で,セラミックスでは H/σy が 1.5–2 程度と小さくなります(Marsh,1964).H/3 は σy を低めに見積もるので,ここでの rp は上限の目安(実際は 1/2–1/4 程度)です. セラミックスの先端は,塑性で丸まる余地がほとんどありません.

式 (48) に KI = Yσ√(πa) を入れると rp/a = Y2σ2/(2σy2) で,σ = σy では 0.63 にもなります. K で破壊を論じてよいのは,塑性域がき裂や試験片の寸法に比べて十分小さいとき(小規模降伏)だけで,金属で応力が降伏応力に近いときは目安にとどまります(§6 の誤解 5). 塑性域があると先端は開いて丸まり,先端の開口変位は帯状降伏のモデルで δ ≈ KI2/(Eσy) です(Anderson,2017). 構造用鋼で KI = KIC なら δ ≈ 48 μm で,§15 の問題 2 で見たように,先端が丸まれば応力集中は大きく下がります.

6. 破壊靱性の値と強化機構

表 1 の KIC を,式 (40)(42) で破壊エネルギー Gc と実効表面エネルギー γeff に直してみます.

表 3 破壊靱性・破壊エネルギー・許容き裂Gc = KIC2/E(本ページの約束に合わせて平面応力で換算.KIC は平面ひずみで測る値なので,厳密には (1 − ν2) 倍になり,アルミナで 0.95 倍,Y-TZP で 0.91 倍),γeff = Gc/2,ac は式 (43) で σ = 300 MPa,Y = 1.12.表 1 の教材用の値による.
材料KIC (MPa m1/2)Gc (J m−2)γeff (J m−2)ac(300 MPa)
ソーダ石灰ガラス0.758.04.01.6 μm
石英ガラス0.757.73.91.6 μm
アルミナ3.532.216.134.5 μm
炭化ケイ素3.529.914.934.5 μm
窒化ケイ素6.011658.1102 μm
ジルコニア(Y-TZP)8.0305152180 μm
構造用鋼(比較)501.2×1046.0×103(7.0 mm)
アルミニウム合金(比較)301.3×1046.4×103(2.5 mm)

金属の ac に括弧をつけたのは,300 MPa が表 1 の降伏応力(鋼 250,Al 合金 270 MPa)を超えていて,き裂が伸びる前に降伏してしまうからです. 降伏応力より低い 200 MPa で同じ計算をすると,鋼で 1.6 cm,Al 合金で 5.7 mm で,降伏応力以下の応力なら金属が許容できるき裂は mm 以上の大きさになります(ただし §5.6 のとおり塑性域が大きいので目安です).

ガラスの γeff = 4.0 J m−2 は,表面エネルギー(1 J m−2 前後)の数倍にとどまります. Griffith が理論をガラスで確かめられたのは,ガラスが理想的な脆性体に近いからでした. ところが多結晶のセラミックスでは,アルミナ 16.1,窒化ケイ素 58.1,Y-TZP 152 J m−2 と,表面エネルギーより 1–2 桁大きい. 金属の Gc はさらに大きく,鋼でアルミナの約 370 倍,Al 合金で約 400 倍です. き裂を伸ばすのに,新しい表面をつくる以外の仕事が大量に使われているということです.

6.1 靱性はどこから来るか ― 先端の遮蔽

き裂の先端のまわりや後ろで,き裂を閉じようとする作用がはたらくと,先端が実際に感じる応力拡大係数は,外から加えた KI より小さくなります. これを遮蔽(shielding)と呼び,遮蔽ぶんを Ksh と書くと

(49) Ktip=KI−Ksh ⟹ KIC=K0+Ksh

です.先端の材料そのものは Ktip が固有の値 K0(結合を切るだけの靱性)に達したときに壊れるので, 外から見た破壊靱性は K0 + Ksh になります. 先端の結合を強くするのは難しいので,セラミックスの強化は Ksh を大きくすることを目指します.代表的な方法が次の 3 つです.

6.2 変態強化 ― ジルコニア

ZrO2 は,高温の正方晶(t 相)から冷やすと単斜晶(m 相)に変態し,体積が約 4 % 増えます(文献によって 3–5 % と幅があります). 純粋な ZrO2 の焼結体は,冷却中にこの膨張で自分自身を割ってしまいます. Y2O3 などを少量固溶させ,粒を小さく保つと,室温でも t 相を準安定に残すことができます.これが Y-TZP(イットリア安定化正方晶ジルコニア多結晶体)です.

この材料にき裂が近づくと,先端の大きな引張応力が引き金になって,き裂のまわりの帯状の領域で t → m 変態が起きます. 変態した粒は膨張しようとしますが,まわりの変態していない材料に押さえ込まれるので,き裂の面を閉じる向きの圧縮応力が生じ,これが式 (49) の Ksh になります. Garvie ら(1975)は,鋼の焼入れで起きるマルテンサイト変態と同じ型の変態を強化に使えることを示し,論文に「Ceramic steel?」という題をつけました. 変態強化のしくみと,それを生かすジルコニア系材料の設計は,Hannink ら(2000)の総説にまとめられています. 表 1 の Y-TZP の KIC = 8.0 MPa m1/2 は,アルミナの 2.3 倍です(ジルコニアの KIC は測定法による差が大きく,規格化された切欠き梁の方法では 4–6 MPa m1/2 程度と出ることもあります).

変態しやすさは,諸刃の剣でもあります 準安定な t 相は,き裂の先端以外でも変態しえます.Y-TZP は,水蒸気のある環境に中程度の温度で長く置かれると, 表面から t → m 変態が進んで強度や靱性が落ちることがあり,低温劣化と呼ばれます(Chevalier ら,2009). 人工関節の骨頭などでは,組成と製法でこれを抑える工夫がされています.

6.3 き裂の偏向と架橋

変態強化のほかにも,微構造で遮蔽をつくる方法がいくつもあります(Evans,1990 の総説が詳しい).

6.4 R 曲線 ― 伸びるほど伸びにくくなるき裂

架橋や変態の領域は,き裂が伸びるにつれて後ろにたまっていくので,遮蔽はき裂が伸びるほど大きくなります. き裂進展抵抗 R(Gc と同じ次元)が,き裂の伸び Δa とともに増える曲線を R 曲線と呼びます. 式 (39) の G = πσ2a/E は a に比例する直線なので,破壊が不安定になる条件は

(50) G(a)=R(a) かつ dGda=πσ2E ≥dRda

です.R が一定なら dR/da = 0 なので,G が R に達した瞬間に不安定になります(§4 の突然の破壊). R が上がっていく材料では,G = R になってもき裂は安定に少しだけ伸びて止まり, 応力をさらに上げて G の直線が R 曲線に接したところで初めて不安定になります. その結果,強度が最初のき裂の大きさに鈍感になり,ばらつきが小さくなりやすい,という利点があります. 一方,小さなき裂では遮蔽がまだ育っていないので,定常値の KIC ほどの恩恵は受けられません.

※ 誤解 5 金属とセラミックスの KIC を,そのまま比べてはいけません 金属の靱性の大部分は,先端の塑性変形(塑性域でのエネルギーの散逸と,先端の鈍化)から来ます. 塑性域が試験片に比べて小さくないと,K で整理する前提(先端の非線形な領域が小さい)が崩れます. 平面ひずみの有効な KIC を得るための厚さの目安 2.5(KIC/σy)2(ASTM E399)を表 1 の値で計算すると, 鋼で 100 mm,Al 合金で 31 mm にもなります.表 1 の金属の値は「桁の比較」のためのものです.

6.5 転位を出すか,結合を切るか ― Rice–Thomson の考え方

§5.6 の塑性域は連続体の見方でした.同じ問題を原子のスケールで見ると,原子 1 個ぶんまで鋭いき裂の先端で,先に起きるのはどちらかという競争になります. (i) 先端の結合が切れてき裂が 1 原子ぶん進む(へき開).(ii) 先端から転位が出て,すべり面に沿って逃げていく. (ii) が先に起きれば,転位が出るたびに先端は 1 段ずつずれて丸まり(鈍化),応力集中が下がって延性的に振る舞います. (i) が先なら先端は鋭いまま進み,脆性的に割れます.この見方を示したのが Rice と Thomson(1974)で,Rice(1992)はそれを Peierls のモデルで定量化しました.

結合が切れる条件は §5.3 と同じで G = 2γs です.転位が出る条件は,すべり面の上下を 1 原子ぶんずらすときに越える山の高さ ―― 不安定積層エネルギー γus ―― で決まり, き裂面から角 θ 傾いたすべり面について(モード I)

(51) Gcleave=2γs , Ge=8γus(1+cos⁡θ)sin2⁡θ =θ=60°649γus≈7.1γus

です(θ = 60° では 1 + cos θ = 3/2,sin2 θ = 3/4 なので分母は 9/8). Ge < 2γs なら転位の放出が先(延性),Ge > 2γs なら結合が切れるのが先(脆性)です. 応力拡大係数に直すには,平面ひずみの K = √(GE/(1 − ν2)) を使います. シミュレーター③の下の図(原子の模式図)と「Rice–Thomson の目盛」は,この 2 つの値と先端の G を比べています.

表 4 Rice–Thomson の判定(教材用の目安)γs,γus はシミュレーター③で使う名目的な値で,γus は計算法によって 2 倍程度ばらつく.Ge は式 (51) で θ = 60°.K は平面ひずみで換算.rp は式 (48) で KI = KIC,セラミックスは σy ≈ H/3 による名目値(セラミックスでは H/σy ≈ 1.5–2 なので上限の目安).
材料2γs (J m−2)γus (J m−2)Ge (J m−2)Kcleave / Ke (MPa m1/2)rp(KIC)先に起きること
ソーダ石灰ガラス2.0――0.38 / ―27 nm結合が切れる(転位なし)
アルミナ2.03.0210.89 / 2.969 nm結合が切れる
炭化ケイ素4.04.0281.30 / 3.533 nm結合が切れる
窒化ケイ素3.03.0211.00 / 2.70.23 μm結合が切れる
ジルコニア(Y-TZP)2.02.0140.68 / 1.80.64 μm結合が切れる
構造用鋼(bcc 鉄)4.80.503.61.05 / 0.916.4 mm転位が出る
アルミニウム2.20.171.20.42 / 0.312.0 mm転位が出る

金属の γs は Tyson と Miller(1977)が液体の表面張力から見積もった値と同じ桁です. 鋼では 2γs = 4.8 と Ge = 3.6 の差が小さく,条件しだいで逆転しうるほどの近さです. 実際,表 4 の γus = 0.50 J m−2 は原子間ポテンシャル(EAM)の計算値の低い側で,第一原理計算(DFT)による bcc 鉄の {110}〈111〉の値 1 J m−2 程度を使うと Ge ≈ 7 J m−2 > 4.8 となり,この単純な判定では bcc 鉄そのものが脆性側に分類されます.判定が γus の見積もりの幅の中で入れ替わることは,温度や拘束,不純物しだいで同じ鋼が延性にも脆性にもなりうることと対応します.bcc の鉄が低温で脆くなること(延性–脆性遷移)を,この近さと結びつけて論じる研究もあります. アルミニウムのような fcc 金属では差が大きく,低温でも延性を保ちます.

セラミックスで KIC が Kcleave より大きいのはなぜか アルミナの Kcleave = 0.89 MPa m1/2 は,表 1 の KIC = 3.5 MPa m1/2 よりずっと小さく,§5.3 の √(2Eγs) = 0.87 とほぼ同じです. 差は §6.1 の遮蔽で,外から加えた KI が 3.5 に達しても,微構造の遮蔽のために先端が感じる K は 0.89 程度にとどまると考えます. そのため,表の Ke = 2.9 が KIC より小さく見えても,先端では Ke に届く前に結合が切れます. シミュレーター③の原子の図では,この考えで先端の G を 2γs(KI/KIC)2 としています. 金属では転位が出たあと,転位による遮蔽で先端の G は Ge 程度に保たれるとしています.
原子の図は模式図です シミュレーター③の下の図は,式 (46) の K 場の変位(平面ひずみ)で三角格子の原子を動かし,結合の伸びで色を付けた模式図で,分子動力学の計算ではありません. 結合が切れる伸び(20 %)や転位の芯の形は見せるための約束で,転位の数や速さも実際の値ではありません. 図から読み取ってよいのは「鋭い先端のままか,転位が出て段ができて丸まるか」の違いと,それを決める式 (51) の大小関係です.

6.6 セラミックスで転位が動きにくい理由

§1 で述べた理由を,もう少し定量的に見ます.

これらはすべて温度が上がるとゆるみ,高温ではセラミックスも塑性変形やクリープを示します.室温で「転位が動けない」ことが,式 (51) で Ge が大きいことと,§5.6 の rp が事実上 0 であることの背景です.

6.7 変態強化の領域の形と遮蔽

§6.2 の t → m 変態は,体積が増える変態なので,静水圧の引張成分(平均応力 σm)が大きいところで起きやすくなります. 平面ひずみでは σzz = ν(σxx + σyy) なので,式 (46) から σm = (σxx + σyy + σzz)/3 = (1 + ν)(σxx + σyy)/3 です. σxx + σyy = 2(KI/√(2πr)) cos(θ/2) を入れ,変態の起きる臨界値 σmc と等しいとおくと,変態域の境界は

(52) σm=2(1+ν)3KI2πrcos⁡θ2 ⟹ r(θ)=2(1+ν)29π(KIσmc)2cos2⁡θ2

となり,先端の前方にふくらんだ形になります(McMeeking と Evans,1982). 興味深いのは,先端の前方にできた変態域だけでは遮蔽にならないことで,McMeeking と Evans は,き裂が伸びて変態域がき裂の後ろに帯として残ったときに初めて先端を閉じる向きの遮蔽が生じることを示しました. 帯の半幅を h,変態した体積分率を Vf,変態の体積ひずみを eT(約 0.04)とすると,定常状態の遮蔽は ΔK ∝ EVfeT√h/(1 − ν) の形になり,係数は 0.2 程度と求められています(McMeeking と Evans,1982.Budiansky ら,1983). 帯が伸びるほど遮蔽が育つので,Y-TZP は §6.4 の R 曲線を示します. シミュレーター③では,Y-TZP の原子の図で,式 (52) の形の領域の原子を橙色にし,き裂が進んだあとも帯として残しています(大きさは模式的です).

7. 最弱リンクから Weibull 分布を導く【核心】

§4〜§6 で,強度はいちばん危険なき裂の大きさで決まることが分かりました. ところが試料の中のき裂の大きさは,同じ粉を同じ条件で焼いた試料どうしでもそろいません.だから強度はばらつきます. しかも大きな試料ほど大きなき裂を含みやすいので,強度は平均して下がります. この 2 つを定量的に扱うのが Weibull 統計です.

7.1 最弱リンクの考え方

鎖は,いちばん弱い輪が切れたら全体が切れます.n 個の輪がそれぞれ独立に確率 ps(σ) で応力 σ に耐えるなら, 鎖全体が耐える確率は,独立な事象の確率の積です.

(53) Ps=ps×ps×⋯×ps⏟n 個 =psn

体積 V の試料を,体積 V1 の小片 V/V1 個に分けて同じことを言えば, Ps(V) = [Ps(V1)]V/V1 です. 対数をとると ln Ps(V) = (V/V1) ln Ps(V1),つまり ln Ps は体積に比例します. そこで単位体積あたりの「危険度」φ(σ) = −ln Ps(V1)/V1(≥ 0)を定義すると

(54) Ps(V,σ)=exp⁡[−Vφ(σ)]

Ps は応力 σ をかけたとき試料が生き残る(壊れない)確率です. ここまでは「小片は独立で,どれか 1 つが壊れれば全体が壊れる」という最弱リンクの仮定だけから出ます. φ(σ) の形は,この仮定からは決まりません.Weibull(1939)は φ をべき関数とおいて次の形を提案し,1951 年の論文でそれが多くの材料のデータに合うことを示しました.

(55) Pf=1−Ps =1−exp⁡[−VV0 (σσ0)m]

m が Weibull 係数(ばらつきの小ささ),σ0 が体積 V0 の試料の特性強度です. V = V0 なら,σ = σ0 で Pf = 1 − 1/e = 63.2 % になります. べき関数は実験によく合う簡単な形として選ばれたもので,Weibull 自身はこれを理論から導いてはいません. 次に,この形が欠陥の大きさの分布から導けることを示します.

7.2 欠陥の分布から導く ― シミュレーターのモデル

次の 4 つを仮定します.シミュレーターの④はこの仮定どおりに試料をつくって壊しています.

  1. 欠陥の数.体積 V の試料に含まれる欠陥の数 n は,平均 λV の Poisson 分布に従う(欠陥は互いに無関係にばらまかれている).
  2. 欠陥の大きさ.各欠陥の大きさ a は互いに独立で,amin 以上について Pareto 則(べき乗則)に従う.k が大きいほど大きな欠陥が出にくい.
  3. 各欠陥の強度.大きさ ai の欠陥は,式 (42) で KI = KIC となる応力 σi = KIC/(Y√(πai)) で破壊の起点になる.
  4. 最弱リンク.試料の強度は,すべての欠陥の σi のうち最小のもの.
(56) Pr(n)=(λV)ne−λVn! , Pr(大きさ>a)=(amina)k (a≥amin)

手順 1:応力 σ で危険な欠陥. 仮定 3 より,σi ≤ σ となるのは欠陥が次の大きさ以上のときです(式 (43) と同じ形).

(57) σi≤σ ⟺ ai≥a*(σ)= 1π(KICYσ)2

手順 2:1 個の欠陥が危険である確率.式 (56) の右の式に a = a* を入れます. amin/a* = πaminY2σ2/KIC2 なので

(58) q(σ)=(amina*)k =(πaminY2σ2KIC2)k =(σσ*)2k , σ*=KICYπamin

σ* は,いちばん小さな欠陥 amin が壊れる応力です.式 (58) は σ ≤ σ* で成り立ち, σ > σ* ではすべての欠陥が危険(q = 1)になります.

手順 3:どの欠陥も危険でない確率.欠陥が n 個あるとき,すべてが危険でない確率は (1 − q)n です(大きさは独立なので積). これを式 (56) の Poisson 分布で平均し,指数関数の級数 Σxn/n! = ex を使うと

(59) Ps(σ)= ∑n=0∞ (λV)ne−λVn! (1−q)n =e−λV ∑n=0∞ [λV(1−q)]nn! =e−λVeλV(1−q) =e−λVq

手順 4:q を代入する.式 (58) を入れると

(60) Ps(σ)=exp⁡ [−λV(σσ*)2k] (σ≤σ*)

手順 5:Weibull の形と比べる.V = V0 とおく(σ0 をこの体積の試料の特性強度と読む)と,式 (55) は Ps = exp[−(σ/σ0)m] と書けます. すべての σ で λV(σ/σ*)2k = (σ/σ0)m が成り立つには, σ の指数がそろって m = 2k,係数がそろって λV(σ*)−m = σ0−m でなければなりません.

(61) m=2k , σ0=σ*(λV)−1/m

σ ≤ σ* の範囲で,Weibull 分布が欠陥の分布から厳密に出てきました.しかも σ0 ∝ V−1/m なので,式 (55) の V/V0 の形もそのまま再現されています. シミュレーターの既定値(KIC = 3.5 MPa m1/2,Y = 1.12,amin = 5 μm,k = 5,λV = 300)では

(62) σ*=3.51.12×π×5×10−6 ≈788.5MPa , m=10 , σ0=788.5×300−1/10 ≈446MPa

です.σ > σ* の試料が現れる確率は e−λV = e−300 で,事実上 0 です.

式 (61) から読み取ること ① m は材料そのものの値ではなく,欠陥の大きさの分布の裾の形で決まる. 大きな欠陥が出にくい(k が大きい)ほど m は大きく,強度がそろいます. m = 2k の「2」は,強度が a−1/2 で決まる(式 (43))ことから来ています.
② σ0 は欠陥の数と最小の欠陥で決まる.欠陥が多い(λV が大きい)ほど下がり,amin が小さいほど上がります. 試料を大きくすれば λV が増えるので,σ0 は V−1/m で下がります(§9 の体積効果).
③ KIC を 2 倍にすると σ* も σ0 も 2 倍になるが,m は変わらない. 靱性は強度の水準を上げ,欠陥の分布の制御(粉の処理・成形・研削)はばらつきを減らします(KIC が一定のモデルでの話で,R 曲線をもつ材料では,靱性化によってばらつきも小さくなりやすくなります:§6.4).

7.3 平均値と変動係数

強度の確率密度は p(σ) = −dPs/dσ です.平均を部分積分すると,境界項 [−σPs]0∞ は 0 なので ⟨σ⟩ = ∫0∞ Ps dσ と書けます (σ > σ* の部分の e−λV は 0 とみなす). t = (σ/σ0)m,すなわち σ = σ0t1/m,dσ = (σ0/m)t1/m−1dt と置換すると

(63) ⟨σ⟩=∫0∞e−(σ/σ0)mdσ =σ0m∫0∞t1/m−1e−tdt =σ0mΓ(1m) =σ0Γ(1+1m)

(ここで ∫0∞ tz−1e−tdt をガンマ関数 Γ(z) と呼びます.部分積分で Γ(z + 1) = zΓ(z) が示せ,整数では Γ(n + 1) = n! です.最後にこの関係を使いました.)同じく部分積分で ⟨σ2⟩ = ∫0∞ 2σPs dσ で, 2σ dσ = σ02(2/m)t2/m−1dt と置換すれば

(64) ⟨σ2⟩=σ022mΓ(2m) =σ02Γ(1+2m)

したがって変動係数(標準偏差 ÷ 平均)は

(65) CoV=⟨σ2⟩−⟨σ⟩2⟨σ⟩ =Γ(1+2/m)−Γ(1+1/m)2Γ(1+1/m) ≈ π6m≈1.28m

近似は m が大きいときのものです.ln Γ(1 + x) = −γEx + (π2/12)x2 + ⋯(γE は Euler 定数)を使うと ln[Γ(1 + 2/m)/Γ(1 + 1/m)2] ≈ (π2/12)(4 − 2)/m2 = π2/(6m2) で 1 次の項が打ち消し合い, CoV2 = Γ(1 + 2/m)/Γ(1 + 1/m)2 − 1 ≈ π2/(6m2) となります.

既定値(m = 10,σ0 = 446 MPa)では Γ(1.1) = 0.95135,Γ(1.2) = 0.91817 なので, 平均 ⟨σ⟩ = 446 × 0.951 ≈ 424 MPa,CoV = √(0.91817 − 0.951352)/0.95135 ≈ 0.120(近似式では 0.128). m = 20 なら CoV は 0.062 まで小さくなります.

※ 誤解 6 「m が大きい材料ほど強い」わけではありません m はばらつきの小ささ,σ0 は強さの水準で,別の量です. ただし,壊れる確率を非常に小さく抑える設計(§8)では m が強く効きます. たとえば「m = 10,σ0 = 400 MPa」の材料と「m = 20,σ0 = 300 MPa」の材料では, 平均強度は前者が 381 MPa,後者が 292 MPa と前者が上ですが, Pf = 10−6 を許す設計応力は前者 100 MPa,後者 150 MPa と逆転します.

8. Weibull プロットと m の推定

8.1 直線にする

試料の大きさを V = V0 にそろえると,式 (55) は 1 − Pf = exp[−(σ/σ0)m] です. 逆数の対数をとると ln[1/(1 − Pf)] = (σ/σ0)m,もう一度対数をとると

(66) ln⁡ln⁡11−Pf =mln⁡σ−mln⁡σ0

横軸を x = ln σ,縦軸を y = ln ln[1/(1 − Pf)] にとれば,傾き m,y = 0 での x が ln σ0 の直線になります. これが Weibull プロットです.

8.2 N 本の試験データから

N 本の強度を小さい順に σ1 ≤ σ2 ≤ ⋯ ≤ σN と並べ,i 番目の試料の破壊確率を

(67) Fi=i−0.5N

で見積もります.i/N とすると最も強い試料で F = 1 になり,y が無限大になってしまうので,半分だけずらします. 点 (xi, yi) = (ln σi, ln ln[1/(1 − Fi)]) に最小二乗法で直線を当てはめると, 傾きと,直線が平均の点 (x̄, ȳ) を通ること(ȳ = m x̄ − m ln σ0)から

(68) mest= ∑i(xi−x¯)(yi−y¯) ∑i(xi−x¯)2 , σ0,est=exp⁡(x¯−y¯mest)

図 3 は,§7.2 のモデルを,シミュレーターと同じ既定値のもとで,シード 20261119 の擬似乱数を使って N = 100 本ぶん壊した結果です. 式 (68) で mest = 9.34,σ0,est = 447 MPa となり,理論値(m = 10,σ0 = 446 MPa)に近い値が得られています. 100 本のうち最も弱い試料は 289 MPa,最も強い試料は 510 MPa でした.

図 3 §7.2 のモデル(KIC = 3.5 MPa m1/2,Y = 1.12,amin = 5 μm,k = 5,λV = 300)で N = 100 本の試料を壊した結果の Weibull プロット(擬似乱数 mulberry32,シード 20261119). 実線が式 (68) による直線(mest = 9.34),破線が理論の直線(m = 10,σ0 = 446 MPa).右の目盛は破壊確率.

8.3 試験の本数と,推定のばらつき

mest は標本ごとにばらつきます.同じモデルでシードだけを変えて試験を 2000 回繰り返すと,次のようになりました.

表 5 試験本数 N と mest のばらつき真の値は m = 10,σ0 = 446 MPa.§7.2 のモデルでシードを 1–2000 と変えて 2000 回繰り返した.
Nmest の中央値mest の 5 % 点–95 % 点範囲の半幅(真値に対して)σ0,est の 5 % 点–95 % 点 (MPa)
109.96.2–16.853 %421–470
309.97.3–13.330 %431–460
10010.08.3–11.817 %438–454

σ0 は少ない本数でもそこそこ決まるのに,m は決まりにくいことが分かります. 10 本の試験で「m = 15 の材料だ」と推定されても,真の値は 10 かもしれません. N = 10 では,中央値は 9.9 でも分布が大きい側に長く裾を引くので平均は 10.5 となり,平均としては m を大きめに見積もります. セラミックスの強度データの規格(JIS R 1625,ASTM C1239 など)では,最小二乗法ではなく最尤法で推定し,本数による偏りを補正する方法が定められています.

8.4 設計強度 ― 破壊確率を決めて許容応力を求める

式 (55)(V = V0)を σ について解くと,破壊確率 Pf を許すときの応力は

(69) σd=σ0 [−ln⁡(1−Pf)]1/m ≈ σ0Pf1/m (Pf≪1)

(Pf ≪ 1 では −ln(1 − Pf) ≈ Pf.) Pf = 10−6(100 万個に 1 個)とすると,σd/σ0 は m = 10 で 0.251,m = 20 で 0.501 です. 既定値(σ0 = 446 MPa,m = 10)なら Pf = 1 % で 281 MPa,10−6 で 112 MPa ―― 平均強度 424 MPa の 4 分の 1 近くまで下げなければなりません. 図 3 の推定値(mest = 9.34,σ0,est = 447 MPa)を使うと 102 MPa で,m を 7 % 低く見積もっただけで設計応力は 9 % 下がります.

※ 誤解 7 「100 本試験すれば,10−6 の破壊確率が分かる」わけではありません 100 本の試験で直接見えるのは,いちばん弱い 1 本の F1 = 0.5 % あたりまでです. 10−6 はそこから 3.7 桁も外側への外挿で,分布の裾が本当に同じ直線に乗っている保証はありません. Weibull プロットが途中で折れ曲がる(表面の研削傷と内部の気孔のように,欠陥の種類が 2 つ以上ある)なら,1 本の直線で外挿してはいけません. さらにセラミックスは,水分のある環境で荷重をかけ続けるとき裂がゆっくり伸びる遅れ破壊を起こすので,時間とともに強度が下がることも設計で考える必要があります.

8.5 1 本ずつ壊すとヒストグラムは理論の分布に近づく ― 大数の法則

シミュレーター④では,棚に並んだ試験片を 1 本ずつ,または 10 本ずつ試験機にかけ,強度をヒストグラムに積み上げていきます. 赤い曲線は,壊した本数 n に合わせた理論の期待本数で,ビンの幅を Δσ,強度の確率密度を p(σ) として

(70) (ビンあたりの期待本数)≈nΔσp(σ) , p(σ)=−dPsdσ =mσ0(σσ0)m−1exp⁡[−(σσ0)m]

です(p は Ps = exp[−(σ/σ0)m] を微分したもの.Ps は応力 σ で生き残る確率です). はじめの数本では棒は曲線とまったく合いませんが,壊すほど曲線に近づきます.その近づき方を見積もります.

あるビンに入る確率を q(≈ Δσ p)とします.i 本目がそのビンに入れば 1,入らなければ 0 となる量 Xi の平均は q, Xi2 = Xi なので分散は q − q2 です.試験片は独立なので,n 本のうちそのビンに入る本数 N = ΣXi の平均と分散はそれぞれの和になり

(71) ⟨N⟩=nq , Var(N)=nq(1−q) ⟹ Var(N)⟨N⟩=1−qnq

棒の高さの相対的なばらつきは 1/√n で小さくなります.q = 0.1 のビンでは,n = 10 本で 1 ± 0.95 本(ばらつき 95 %), 100 本で 10 ± 3 本(30 %),1000 本で 100 ± 9.5 本(9.5 %)です. 割合 N/n が確率 q に近づくこと ―― これが大数の法則で,ヒストグラムの形が赤い曲線に近づいていく理由です. N = 20000 本で確かめると,Kolmogorov–Smirnov の統計量(経験分布と理論分布の差の最大値)は 0.0073 で,5 % の有意水準の臨界値 0.0096 を下回りました.

Weibull プロットの点のばらつき. どの試験片でも,その強度 σ を理論の破壊確率 F(σ) = 1 − Ps(σ) に直した値は,0 と 1 の間の一様乱数になります(F(σ) ≤ u となる確率がちょうど u だから). n 本を小さい順に並べた i 番目の F は,一様乱数 n 個の i 番目の値で,その平均と分散は次のとおりです(順序統計量の標準的な結果).

(72) ⟨F(i)⟩=in+1 , Var(F(i))=i(n−i+1)(n+1)2(n+2)

式 (67) の Fi = (i − 0.5)/n は,この平均に近い値を代表として使うものです. Weibull プロットの縦軸 y = ln ln[1/(1 − F)] は,F が小さいところで y ≈ ln F,すなわち dy ≈ dF/F と引き伸ばされます. n = 100 で i = 1(いちばん弱い 1 本)では F の標準偏差が平均と同じ 0.0098 なので,y のばらつきは 1 以上(数値計算で 1.29)になります. i = 50(中央)では 0.14,i = 100(いちばん強い 1 本)では 0.23 です. プロットの上では縦の位置 Fi を決めて横の位置 ln σ がばらつくので,横方向のばらつきはこれを m で割った値 ―― m = 10 なら最弱の点で ln σ が ±0.13 程度,中央の点で ±0.014 程度です. 左下の数点ほど大きくぶれ,最小二乗の直線の傾きを振り回すので,本数が少ないと m の推定が大きくばらつきます(表 5). シミュレーターの既定値で 100 本すべてを壊すと,m の推定値は 9.34,σ0 の推定値は 447 MPa,平均 424 MPa,最弱 289 MPa,最強 510 MPa です(図 3 と同じ擬似乱数).

9. 体積効果と有効体積

9.1 一様な引張での体積効果

同じ材料の体積 V1,V2 の試料に一様な引張をかけ,同じ破壊確率になる応力 σ1,σ2 を比べます. 式 (55) で Pf が等しいなら,指数の中身が等しいので

(73) V1V0(σ1σ0)m =V2V0(σ2σ0)m ⟹ σ1σ2=(V2V1)1/m

試験片の 1000 倍の体積の部品なら,強度は m = 10 で 1000−1/10 = 0.501 倍,m = 20 でも 0.708 倍になります. 体積が 10 倍なら m = 10 で 0.794 倍です. 中央値(Pf = 1/2 の応力)は σ0(ln 2)1/m なので,中央値の比も式 (73) に従います. シミュレーターの⑤では,§7.2 のモデルで V1 と 10V1 の試料を実際に壊して,これを確かめられます(記号の意味と模式図は §9.5).

9.2 応力が一様でないとき ― 有効体積

曲げ試験では,応力は場所によって違います.§7.1 で ln Ps が小片の寄与の和だったことに戻り, 体積 dV の小片ごとにその場所の応力 σ(r) で危険度を足し合わせます(圧縮の部分 σ ≤ 0 は壊れないので含めない).

(74) Pf=1−exp⁡ [−1V0∫σ>0 (σ(r)σ0)mdV]

試料の中の最大応力 σmax をくくり出すと

(75) Pf=1−exp⁡ [−VeffV0(σmaxσ0)m] , Veff=∫σ>0 (σ(r)σmax)mdV

Veff は「最大応力が一様にかかっているとみなしたとき,同じ危険度になる体積」です. m 乗が効くので,最大応力に近い場所だけが実質的に数えられます.

9.3 3 点曲げの有効体積を積分で求める

支点間の距離 L,幅 b,高さ h の角棒の中央に荷重をかけます. 曲げモーメントは支点で 0,中央で最大で,その間は直線的に変わります.断面の中の曲げ応力は中立軸からの距離 y に比例します. 支点から測った位置を x,引張側を y > 0 とすると,左半分(0 ≤ x ≤ L/2)で

(76) σ(x,y)=σmax ·2xL·2yh (0≤x≤L/2,0≤y≤h/2)

右半分は対称なので左半分の 2 倍とし,y < 0 の圧縮側は含めません.式 (75) に入れると,x と y の積分が分かれて

(77) Veff=b·2 ∫0L/2(2xL)mdx ·∫0h/2(2yh)mdy

u = 2x/L と置換すると dx = (L/2)du で,∫0L/2(2x/L)mdx = (L/2)∫01umdu = (L/2)/(m + 1). y の積分も同じく (h/2)/(m + 1) です.したがって

(78) Veff=b·2·L/2m+1 ·h/2m+1 =bLh2(m+1)2

4 点曲げ(内側の荷重点の間隔 Li)では,内側の区間でモーメントが一定なので長さ方向の積分が Li,外側の 2 区間が合わせて (L − Li)/(m + 1) になり, Veff = bh[Li + (L − Li)/(m + 1)]/[2(m + 1)] = bh(mLi + L)/[2(m + 1)2] です. Li = L/2 を入れ,支点間の体積 V = bLh で書くと

(79) Veff(3 点曲げ)=V2(m+1)2 , Veff(4 点曲げ)=V(m+2)4(m+1)2

図 4 曲げ試験の応力分布と有効体積(m = 10).左:支点間の長さ方向の応力比 σ/σmax(破線)とその m 乗(塗りつぶし). 上段が 3 点曲げ,下段が 4 点曲げ(内側の間隔 L/2).右:厚さ方向(荷重を上から加えるので,下半分が引張). m 乗をとると最大応力の近くだけが残り,Veff/V は 3 点曲げで 1/242,4 点曲げで 1/40.3 になる.

9.4 曲げ強度と引張強度の比

同じ棒を一様な引張(Veff = V)と 3 点曲げで壊すと,同じ破壊確率を与える σmax の比は,式 (73) の体積を有効体積に置き換えて

(80) σ3 点曲げσ引張 =(VVeff)1/m =[2(m+1)2]1/m

m = 10 では 2421/10 = 1.73,4 点曲げでは 40.31/10 = 1.45 です. つまり同じ材料でも,引張強度に比べて 3 点曲げでは 1.7 倍,4 点曲げでは 1.45 倍の強度が測られます(3 点曲げは 4 点曲げの 1.2 倍). ばらつきの大きい材料ほど差は開き,m = 5 では 3 点曲げ 2.35 倍・4 点曲げ 1.83 倍,ばらつきの小さい m = 20 では 1.40 倍・1.25 倍です.

※ 誤解 8 「カタログの曲げ強度で,大きな部品を設計してよい」わけではありません カタログの強度は,たいてい小さな試験片の 3 点曲げか 4 点曲げの値です. それは同じ棒の引張強度より高く(式 (80)),さらに部品は試験片よりずっと大きい(式 (73)). 設計には,試験法の有効体積と部品の有効体積の比で強度を換算する必要があります. なお,破壊の起点が研削傷のように表面にある場合は,体積の代わりに有効面積で同じ議論をします.

9.5 V1,V2,σ1,σ2 の意味 ― いちばん大きいき裂で見る体積効果

記号の意味を改めて確認します.V1 は小さい試験片(たとえば強度を測った試験片)の体積,V2 は大きい試験片や部品の体積(V2 = nV1), σ1,σ2 はそれぞれが同じ破壊確率で壊れる応力で,シミュレーター⑤では破壊確率 50 %(中央値)にそろえています. 曲げ試験のように応力が一様でないときは,V を有効体積 Veff(§9.2)と読みます.

⑤の模式図 1 は,同じ密度 λ でき裂を含む小さい試験片と大きい試験片を並べ,それぞれのいちばん大きいき裂に赤い丸を付けています. §7.2 のモデルで,体積 V の試験片の中に大きさが a を超えるき裂が 1 つもない確率を求めます. 1 個のき裂が a を超える確率は (amin/a)k なので,式 (59) と同じ計算(Poisson 分布で平均)で

(81) Pr(amax≤a)=exp⁡[−λV(amina)k]

です.これが 1/2 になる a,すなわちいちばん大きいき裂の中央値は,λV(amin/a)k = ln 2 を解いて

(82) amed=amin(λVln⁡2)1/k ⟹ amed,2amed,1=(V2V1)1/k =(V2V1)2/m

です(λV ≥ ln 2 のとき.m = 2k).試験片の強度 σ = KIC/(Y√(πamax)) は amax が大きいほど小さい単調な関係なので, 強度の中央値はき裂の中央値から計算した強度に等しく,その比は (amed,2/amed,1)−1/2 = (V1/V2)1/m ―― 式 (73) と同じです. k = 5(m = 10)では,体積が 10 倍で最大き裂は 1.58 倍,強度は 0.794 倍,100 倍で 2.51 倍と 0.631 倍,1000 倍で 3.98 倍と 0.501 倍です. 4000 回のモンテカルロで確かめると,10 倍で最大き裂の比 1.567,強度の比 0.799,100 倍で 2.511 と 0.631 でした. 体積を大きくすると「き裂の密度」は同じでも「いちばん大きいき裂」が大きくなる ―― これが体積効果の中身です.

9.6 曲げ試験の応力分布と,高い応力がかかる体積

§9.3 で使った曲げの応力 σ ∝ M(x)y を,はりの理論から確かめます. 曲げられたはりの断面は平面のまま回転し,中立軸から y の位置のひずみは曲率半径を ρ として ε = y/ρ です. σ = Ey/ρ を断面で積分した曲げモーメントは M = ∫σy dA = (E/ρ)∫y2 dA = EI/ρ (幅 b,高さ h の長方形で I = bh3/12)なので,E/ρ を消去して

(83) σ=MyI , σmax=Mmax(h/2)I=6Mmaxbh2

です.荷重 P,支点間 L の 3 点曲げでは各支点の反力が P/2 で,M = Px/2(x ≤ L/2),中央で Mmax = PL/4,σmax = 3PL/(2bh2). 4 点曲げ(P/2 ずつを 2 点に加える)で内側の荷重点の間隔が外側の支点間の 1/2(ASTM C1161 の配置.シミュレーター⑤と式 (79) はこの配置)なら,内側の区間で M = PL/8 の一定値,σmax = 3PL/(4bh2) です. 内側の間隔が 1/3 の配置(JIS R 1601)では M = PL/6,σmax = PL/(bh2) で,§9.3 の Veff = bh(mLi + L)/[2(m + 1)2] に Li = L/3 を入れて Veff = V(m/3 + 1)/[2(m + 1)2],m = 10 で V/55.8,引張に対する強度の比は 1.50 になります(1/2 の配置では 1.45).

⑤の模式図 2 は,この σ = My/I を塗り分け,σ ≥ 0.9σmax の部分を黄色で示しています.その体積の割合を計算します. 支点間の長さで割った位置 ξ ∈ [−1/2, 1/2],高さの半分で割った位置 η = y/(h/2) ∈ [−1, 1] を使うと,3 点曲げでは σ/σmax = (1 − 2|ξ|)η です. 引張側(体積の半分)の高さ η ≥ q の層で,σ ≥ qσmax となる長さの割合は 1 − 2|ξ| ≥ q/η から 1 − q/η なので

(84) f3 点=12∫q1(1−qη)dη =(1−q)+qln⁡q2 , f4 点=12∫q1(1−q2η)dη =(1−q)+(q/2)ln⁡q2

(4 点曲げ(内側 1/2)では σ/σmax = min(1, 2 − 4|ξ|)η で,長さの割合が 1 − q/2η になる.) q = 0.9 では,引張試験の 100 % に対して 3 点曲げで 0.26 %,4 点曲げで 2.6 % にすぎません. 最大に近い引張がかかるのは下の表面のごく薄い層だけなので,その層に大きなき裂がなければ高い強度が測られます. これを m 乗の重みで数えたのが有効体積で,m = 10 では Veff/V = 1/242(3 点),1/40.3(4 点)です. 破壊の起点が表面の傷にある場合は,体積の代わりに有効面積で同じ換算をします(Quinn と Morrell,1991.Quinn,2003). はりの理論は荷重点や支点の下の接触応力を含まず,引張試験片のつかみ部の肩の応力集中も無視しています.

10. 熱衝撃

熱いセラミックスを冷水に入れると割れることがあります.急冷すると表面だけが先に冷えて縮もうとするのに, まだ熱い内部に引き止められて縮めない.その結果,表面に引張応力が生じます. セラミックスは引張に弱く,しかも表面には研削傷などのき裂があるので,この応力で割れます.

10.1 表面の熱応力を導く

表面を x–y 面,表面の法線を z 方向とします.表面の薄い層の温度が,内部に比べて ΔT だけ急に下がったとします. この層は,自由なら各方向に αΔT だけ縮みますが, (i) 厚い内部につながっているので面内の寸法は変えられず(εx = εy = 0), (ii) 表面の法線方向には何も押さえるものがない(σz = 0)とします. Hooke の法則に熱ひずみ −αΔT を加えると,面内の 2 方向について次のようになります(y 方向の引張 σy は Poisson 効果で x 方向を νσy/E だけ縮めるので,その分を引きます).

(85) εx=σx−νσyE−αΔT , εy=σy−νσxE−αΔT

(σz = 0 なので −νσz/E の項はない.) 面内は等方的なので σx = σy ≡ σ です.εx = 0 とおくと

(86) σ−νσE−αΔT=0 ⟹ σ(1−ν)E=αΔT
(87) σ=EαΔT1−ν (引張)

1 方向だけ拘束された棒なら σ = EαΔT ですが,面内の 2 方向から拘束されるので 1/(1 − ν) 倍になります(アルミナで 1.28 倍). この応力が強度 σf に達する温度差が,割れ始める限界です.

(88) ΔTc=R= σf(1−ν)Eα

この R(§6.4 の R 曲線の R とは別の量)を熱衝撃抵抗パラメーターと呼びます(熱応力に対する抵抗をこうしたパラメーターで整理したのは Kingery(1955)).表 1 の値で計算すると次のようになります.

表 6 熱衝撃抵抗 R(式 (88))と,ΔT = 100 K の急冷で表面に生じる応力(式 (87))表 1 の教材用の値による.判定は式 (88) による瞬時冷却の目安(下の枠を参照).
材料R (K)ΔT = 100 K の応力 (MPa)σf (MPa)瞬時に 100 K 冷えたとき
ソーダ石灰ガラス628150割れうる(R < 100 K)
石英ガラス14474.870割れない(R > 100 K)
アルミナ90390350割れうる(R < 100 K)
炭化ケイ素205195400割れない(R > 100 K)
窒化ケイ素589136800割れない(R > 100 K)
ジルコニア(Y-TZP)3173151000割れない(R > 100 K)

石英ガラスの R がソーダ石灰ガラスの 20 倍以上(アルミナの約 16 倍)と大きく,熱衝撃に特に強いのは,熱膨張係数がソーダ石灰ガラスの約 1/16 と小さいからです.赤熱した石英ガラスを水に入れても割れないのはこのためです. 窒化ケイ素は,強度が高く熱膨張が小さいので,セラミックスの中では熱衝撃に強い代表です. アルミナは強度が高くても Eα が大きいので,R は 90 K にとどまります.

R は「無限に速い急冷」のときの下限です 式 (87) は,表面の温度が一瞬で ΔT だけ下がり,内部はまだまったく冷えていない,という極端な場合です. 実際には表面から熱が逃げる速さ(熱伝達係数)が有限なので,表面の温度は瞬時には下がりきらず,表面と内部の温度差は ΔT より小さくなります. そのため実際に割れ始める ΔTc は R より大きくなり,その度合いは試料の大きさ・熱伝導率・熱伝達係数を組み合わせた無次元数(Biot 数)で決まります. また,熱伝達がゆるやかな場合(Biot 数が小さい場合)は,表面と内部の温度差が熱の流れで決まるので,R に熱伝導率 k を掛けた R′ = kR が目安になります(§10.2 の κ は熱拡散率で,別の量です). 熱伝導率の小さいジルコニアは,R の値ほどには熱衝撃に強くありません.
※ 誤解 9 「R が大きい材料ほど,熱衝撃のあとの強度も高い」とは限りません R は「き裂が走り始めるかどうか」の指標です.Hasselman(1969)が示したように, いったんき裂が走り出したあと,それがどこまで伸びて強度がどれだけ落ちるかは別の問題で, 強度が高く弾性エネルギーをたくさん蓄えた材料ほど,き裂は長く走り,損傷は大きくなりがちです. 耐火物のように何度も熱衝撃を受ける材料では,「割れないこと」より「割れても壊滅しないこと」を重視した設計がとられます.

10.2 試料の中の温度 ― 非定常熱伝導と Fourier 数

式 (87) は「表面だけが ΔT 冷え,内部はまだ冷えていない」瞬間の値でした.シミュレーター⑦は,四角い試料の中で温度が時間とともにどう広がり,熱応力がどう変わるかを計算します. まず温度です.小さな体積 dV に出入りする熱を考えます.熱流束(単位面積・単位時間に流れる熱)は Fourier の法則 q = −k∇T(k は熱伝導率)で, 流れ込んだ正味の熱 −∇·q dV が温度を上げる(密度 ρ,比熱 c)ので,ρc ∂T/∂t = k∇2T,すなわち

(89) ∂T∂t=κ(∂2T∂x2+∂2T∂y2) , κ=kρc

です(κ は熱拡散率.長い角棒の断面を考え,長さの方向には温度が変わらないとした 2 次元の式). 座標を一辺 L で割り(x̂ = x/L,ŷ = y/L),時間を

(90) Fo=κtL2 ⟹ ∂T∂Fo=∂2T∂x^2+∂2T∂y^2

で測ると,材料にも大きさにもよらない式になります.Fourier 数 Fo は「熱が L だけ広がるのに要る時間 L2/κ」を単位にした時間です. ⑦の問題は,はじめ一様に T0 の正方形の断面で,時刻 0 に上面を Ttop,下面を Tbottom に保ち,側面は断熱(熱が出入りしない)とするものです. 表面の温度が一瞬で変わる,もっとも厳しい急冷・急熱にあたります(§10.1 の囲みの Biot 数が無限大の場合).

式 (89) は温度について線形なので,「上面だけ 1,はじめと下面は 0」の解 φ(ŷ, Fo) を 1 つ求めれば, T = T0 + (Ttop − T0)φ(ŷ, Fo) + (Tbottom − T0)φ(1 − ŷ, Fo) と重ね合わせで書けます. 側面が断熱ではじめの温度が一様なので,温度は ŷ だけの関数(1 次元)です.φ は時間がたつと直線 1 − ŷ に落ち着くので,φ = 1 − ŷ − u とおくと, u は両端で 0,はじめ 1 − ŷ の熱伝導の解です.変数分離で u = Σ bn sin(nπŷ) exp(−n2π2Fo) とおき, はじめの形を sin の級数に展開すると,部分積分で bn = 2∫01(1 − ŷ) sin(nπŷ) dŷ = 2/(nπ) となるので

(91) φ(y^,Fo)=1−y^− ∑n=1∞2nπsin⁡(nπy^)e−n2π2Fo

です.いちばん遅く消える n = 1 の項も,Fo = 0.5 では e−π2/2 = 0.007 倍まで小さくなるので,Fo ≈ 0.5 で温度分布はほぼ直線に落ち着きます. 実時間は t = Fo·L2/κ で,シミュレーターは材料ごとに表 7 の κ(目安)を使っています.

表 7 熱拡散率 κ = k/(ρc) の目安と,一辺 20 mm の試料の時間の目安室温付近の代表的な熱伝導率 k,密度 ρ,比熱 c から計算し,丸めた教材用の目安.実際の値は組成・気孔率・温度で大きく変わる(ジルコニアやガラスの k は特に小さく,SiC は製法で数倍違う).
材料k (W m−1 K−1)ρ (kg m−3)c (J kg−1 K−1)κ(使う値,m2 s−1)L2/κ(L = 20 mm)
ソーダ石灰ガラス1.025008405×10−7800 s
石英ガラス1.422007408×10−7500 s
アルミナ3039508809×10−644 s
炭化ケイ素12032106905×10−58 s
窒化ケイ素2532007001×10−540 s
ジルコニア(Y-TZP)2.560504601×10−6400 s

10.3 熱応力 ― 温度が直線からずれている間だけ生じる

自由な板の熱応力.厚さ方向を y とし,面内(x,z)に十分広い自由な板を考えます.温度の変化を ϑ(y) = T − T0 とします. 板は面内で一体なので,面内のひずみは y の 1 次式 εx = εz = c0 + c1y に限られ(断面は平面のまま),厚さ方向には押さえがない(σy = 0)とします. 面内は等方的なので σx = σz ≡ σ で,熱ひずみを加えた Hooke の法則 εx = (σx − νσz)/E + αϑ から

(92) σ(y)=E1−ν[c0+c1y−αϑ(y)] = −Eα1−ν[ϑ(y)−ϑlin(y)]

ここで ϑlin = (c0 + c1y)/α は,外から力もモーメントもかかっていない条件 ∫σ dy = 0,∫σy dy = 0 で決まる直線で, ϑ(y) に最小二乗で当てはめた直線と同じものです(この 2 つの条件が,最小二乗の正規方程式そのものだから). 温度が位置の 1 次式なら ϑ = ϑlin で,熱応力は 0 です.自由な物体は,直線的な温度分布には一様な伸びと曲がりで応じられるからです. したがって,上を加熱して下を冷やし続けても,温度が直線に落ち着いたあと(Fo ≳ 0.5)には熱応力は消えます.熱応力は温度が直線からずれている過渡のあいだだけ生じます.

急冷の直後は,表面の薄い層だけ ϑ = −ΔT,内部は ϑ = 0 で,当てはめた直線はほぼ 0 なので,表面で σ = EαΔT/(1 − ν) ―― 式 (87) に一致します. 上下の両面を同時に急冷する場合,対称なので ϑlin は平均の温度変化だけで,式 (91) の対称な形から表面の応力は

(93) σ表面(Fo)EαΔT/(1−ν) =1−(平均の温度変化)/ΔT =∑n=1,3,5,⋯8n2π2e−n2π2Fo

となります(両面を 0 にしたときの解は 1 − Σ奇数 n(4/nπ) sin(nπŷ)e−n2π2Fo の形で,sin(nπŷ) を 0 から 1 まで積分すると 2/nπ になることを使った). Fo = 0 では Σ奇数 8/(n2π2) = (8/π2)(π2/8) = 1 で式 (87) に戻り, Fo = 4×10−6 で 0.995,2×10−4 で 0.968,10−3 で 0.929,0.014 で 0.733,0.05 で 0.496,0.1 で 0.302,0.3 で 0.042,0.5 で 0.006 と下がります. 急冷の直後が最も危険で,割れるならそこで割れることと,最大の応力 EαΔT/(1 − ν) は試料の大きさにも κ にもよらない(表面温度が瞬時に変わるとき)ことが分かります. 大きさや熱伝導率が効くのは,熱伝達が有限で表面温度がすぐには変わらないときです(§10.1 の囲み,Kingery,1955.Hasselman,1969).

正方形の断面(平面ひずみ).シミュレーターは長い角棒の断面を平面ひずみ(長さ方向のひずみ εz = 0)として解いています. 表面の薄い層で εx = 0,σy = 0,εz = 0 とおくと,εz = [σz − νσx]/E + αϑ = 0 から σz = νσx − Eαϑ, これを εx = [σx − νσz]/E + αϑ = 0 に入れると σx(1 − ν2) = −Eαϑ(1 + ν), すなわち σx = −Eαϑ/(1 − ν) で,ϑ = −ΔT なら同じ EαΔT/(1 − ν) です. 平面ひずみでは面内の問題が「熱ひずみ (1 + ν)αϑ をもつ 2 次元の弾性体」になり,面内の応力は直線の温度分布でやはり 0 です. ただし正方形の試料は側面が自由なので,無限に広い板より応力がゆるみやすく,上下対称の急冷で表面中央の応力(EαΔT/(1 − ν) で割った値)は 急冷の直後の Fo = 4×10−6 で板の 0.995 に対して 0.988,Fo = 3.2×10−3 で 0.87 に対して 0.71,Fo = 1.4×10−2 で 0.73 に対して 0.49 と,時間がたつほど板の値より低くなります(断面の幅を 4 倍に広げて同じ計算をすると,これらの時刻で板の値との差が 0.001 以下になることを確かめてあります). 加熱した面は膨張しようとして圧縮になり,内部や反対側の面,角の近くに引張が生じます.

10.4 数値解法の概要と,格子による誤差

温度(厳密解).温度は ŷ だけの 1 次元の問題なので,数値的に時間を進めず,φ(ŷ, Fo) の厳密解をそのまま計算しています. 式 (91) の級数は Fo が小さいと多くの項が要るので,同じ解を誤差関数の鏡像の級数 φ = Σk = 0∞ [erfc((2k + ŷ)/(2√Fo)) − erfc((2k + 2 − ŷ)/(2√Fo))] で書いて使います (erfc(ŷ/2√Fo) は半無限の物体の表面温度を 1 にしたときの解で,温度 0 に保つ下面の条件を満たすように,ŷ = 1 と ŷ = 0 で鏡に映した項を交互に足し引きしたもの.Fo が小さいと最初の数項で足りる). erfc は Chebyshev 近似(相対誤差 1.2×10−7 以下)で計算し,式 (91) の級数(多くの項まで足したもの)との差は 10−7 程度です. カラーマップ用には 9 × 241 の格子点で評価した表を作り,間を線形に補間しています.有限要素法の熱ひずみには,各 Gauss 点の高さで直接評価した値を使います.

応力(有限要素法).断面を節点 33 × 77(四角形要素 32 × 76)に分けています. 横方向は座標 s − 0.75 sin(2πs)/2π(s は 0 から 1 まで等間隔)で側面の近くを細かくし(側面の要素は中央の約 1/7), 縦方向は表面の要素を 5×10−4L として内側へ 1.15 倍ずつ広げ(0.04L で頭打ち),上下対称に並べています. 最初のコマ Fo = 4×10−6 で熱がしみ込んだ深さ √Fo ≈ 0.002 を表面の 4 要素ほどで分解するためです. 各要素の中の変位を 4 つの節点の値から双一次の関数で補間し,弾性エネルギーから熱ひずみの仕事を引いた全ポテンシャルエネルギーが最小になる節点変位を求めます(2 × 2 点の Gauss 積分). これは連立 1 次方程式 Ku = f になり,係数行列を帯行列の Cholesky 分解で ν ごとに 1 度だけ分解して,全時刻に使い回しています. 温度についても応力についても線形なので,「EαΔT = 1」の単位の問題を解いておき,材料と温度差を掛けて重ね合わせます. 節点の応力は Gauss 点の値を外挿してまわりの要素で平均したあと,自由表面では面に垂直な応力とせん断応力を 0(σnn = σnt = 0)にしています(面に沿ったひずみは保つので,面に沿った応力を −ν/(1 − ν) × σnn だけ補正する). 図に塗っているのは面内の最大主応力 σ1(式 (27))で,長さ方向の σz は判定に入れていません.

精度の確かめ.上下の両面を同時に急冷したとき,試料全体の σ1 の最大値は最初のコマ(Fo = 4×10−6)の表面中央にあり, EαΔT/(1 − ν) で割ると 0.988 で,ν によりません(0.16–0.30 で 4 桁まで同じ). 同じ時刻の無限に広い板の厳密な値(式 (93))は 0.995 です.差の 0.007 は格子の誤差ではなく正方形の側面が自由なためで, 節点を 65 × 141(表面の要素 2.5×10−4L)に細かくしても 0.02 % も変わらず,断面の幅を 4 倍に広げると 0.995 になります. 式 (87) の限界 σ = σf は ΔT = R ですが,カラーマップの計算ではこの 0.988 倍の応力しか出ないので,急冷では ΔT ≈ 1.01R から割れます(セラミックス 6 種すべてで 1.012R). 上を加熱し下を冷やした定常状態(Fo = 1,温度は直線)では応力は本来 0 ですが,EαΔT/(1 − ν) の 0.15 % が残ります(65 × 141 で 0.04 %). 拘束点の反力は 10−12 程度以下です. 表示の数値はこの程度の誤差を含む目安として読んでください.

10.5 割れる様子の描き方(模式)

⑦では,各時刻で試料全体の σ1 の最大値が表 1 の強度 σf に初めて達した時刻に「割れた」とします. 表 1 のアルミナ(R = 90 K)で確かめると,ΔT = 90 K では最大 347 MPa で割れず,95 K では 366 MPa で割れ,式 (88) とよく合います(割れ始めは 90.9 K = 1.01R,§10.4). き裂は,σ1 ≥ σf となった点から,局所の σ1 の向きに垂直に(§3.4)0.01L ずつ両側へ伸ばし, き裂の面を開く応力が 0.1σf を下回るか,向きが最初から 60° 以上曲がるか,試料の外に出たところで止めています. 急冷ではき裂が表面から入り,圧縮になっている内部の手前(アルミナの 110–200 ℃ の急冷で深さ 0.12–0.18L)で止まります. 上を加熱すると,引張になる下面や,加熱面のすぐ下の角の近くから割れます. これは割れていない試料の応力場の上に描いた模式で,き裂ができたあとの応力の再配分や,き裂が走るときの動的な効果は計算していません. いったん走ったき裂がどこまで伸びるかは §10 の誤解 9(Hasselman,1969)の問題です.

11. 気孔と強度

焼結体に残った気孔は,強度を大きく下げます.理由は 3 つあります. ①荷重を支える断面積が減る.②気孔のまわりで応力が集中する(§3 の板の円孔では 3 倍,球形の気孔でも約 2 倍). ③気孔が大きな欠陥として破壊の起点になる(気孔と,その縁の小さなき裂を合わせた大きさが a としてはたらく). さらに Young 率 E も下がります.

気孔率 P(体積分率)と強度の関係には,次の経験式がよく使われます.

(94) σf(P)=σf0exp⁡(−bP) (Ryshkewitch–Duckworth の式)

σf0 は気孔のない材料の強度,b は 4–7 程度の定数です(シミュレーターの既定値は 5). Ryshkewitch(1953)は,多孔質のアルミナとジルコニアの圧縮強度が,気孔率が 10 % 増えるごとにほぼ半分になることを報告しました. exp(−b × 0.1) = 1/2 とおくと b = ln 2/0.1 = 6.9 に相当します. 両辺の対数をとると ln σf = ln σf0 − bP で,片対数のグラフで直線になります. P が小さいときは exp(−bP) ≈ 1 − bP なので,気孔率 1 % あたり強度はおよそ b % 下がります(b = 5 なら exp(−0.05) = 0.951).

相対密度 95 %(P = 0.05)で b = 5 なら exp(−0.25) = 0.779 ―― わずか 5 % の気孔で強度は 2 割以上下がります. b = 4–7 の範囲では 0.819–0.705,P = 0.1 では 0.607 です. 焼結で相対密度をあと数 % 上げることにこだわるのは,このためです.気孔をどう減らすかは 焼結の理論(sintering-simulator.html)で扱っています.

※ 誤解 10 式 (94) は理論式ではありません 式 (94) は,多孔質の焼結体の強度の測定値を整理した経験式で,b は気孔の形・大きさ・つながり方で変わります. また強度は最弱リンクで決まるので(§7),気孔率が同じでも,大きな気孔が 1 つあるほうが,小さな気孔が均一に散らばっているより危険です. 気孔率だけでなく,いちばん大きな気孔の大きさが式 (43) の a として効くことを忘れないでください.

12. Vickers 硬さと押し込み破壊

セラミックスの硬さを測るときに最もよく使われるのが Vickers 硬さ試験です. ダイヤモンドでできた正四角錐の先端(圧子)をある荷重で試料に押し付け,荷重を取り去ったあとに残ったくぼみ(圧痕)の大きさから硬さを求めます. 手順は単純ですが,セラミックスでは荷重が大きいと圧痕の隅からき裂が伸び出し,そこに §5 の応力拡大係数がそのまま顔を出します. この節では,圧子の幾何から硬さの式を導き(§12.2),規格の要点(§12.3)と金属との違い(§12.4)を見たあと,圧痕から伸びるき裂の長さの式と,それを破壊靱性の見積もりに使う方法の限界(§12.5–§12.7)を扱います. シミュレーターでは⑥のタブ(付録 A.7)に対応します.

12.1 硬さとは何か ― Brinell,Vickers,Knoop

硬さは「押し込みに対する抵抗」で,Young 率や降伏応力のような 1 つの物性値ではありません. 圧子の下では,まず弾性変形が起き,圧力が上がると塑性変形(セラミックスではごく狭い範囲の流動や高密度化)が加わります. 荷重を取り去ると弾性変形のぶんは戻り,塑性変形のぶんが圧痕として残ります. 硬さの値はこの残った圧痕から計算するので,おもに塑性変形のしにくさを表しますが,弾性の戻りの影響も受けます. JIS R 1610 も,金属の圧痕はおもに塑性変形でできるのに対し,セラミックスでは弾塑性変形が関わるので,金属の硬さと比べるときは注意するように,と注記しています.

圧子の形で試験の名前が変わります. Brinell 硬さは硬い球を押し付け,くぼみ(球の一部の形)の表面積で荷重を割ります.球では,くぼみが深くなるほど形が変わる(くぼみの直径 d と球の直径 D の比が変わる)ので,荷重を変えると値が変わりえます. Vickers 硬さ(Smith と Sandland,1922)は正四角錐の圧子で,どの荷重でもくぼみの形が相似になるので,理想的には荷重によらない値が得られます. Knoop 硬さは細長い(対角線の比がおよそ 7 : 1 の)ひし形の四角錐で,浅い圧痕ができます.JIS R 1610 は,Vickers 圧子のほうが Knoop 圧子よりき裂が出やすいと記しています.

硬さは「強さ」ではありません.「Vickers 強度」という言い方を見かけることがありますが,Vickers 試験で測るのはVickers 硬さ(ビッカース硬さ)で,引張強さ・破壊強度・破壊靱性とは測っているものが違います. 下の表のように,硬さは押し込みで残る塑性変形のしにくさ,強度は試験片が壊れる応力,破壊靱性はき裂の伸びにくさです. 硬い材料ほど強い・割れにくいとは限らず,炭化ケイ素は窒化ケイ素より硬いのに,表 1 の KIC は低めです(誤解 11).

硬さ・強度・破壊靱性の違い本ページの対応する節とシミュレーターのタブ.値の書き方は本ページで使うもの.
量何を表すかどう測るか書き方・単位本ページ
Vickers 硬さ(ビッカース硬さ)HV圧子を押し込んだときに残る塑性変形のしにくさ(弾性の戻りの影響も受ける)正四角錐の圧子を試験力 F で押し込み,圧痕の対角線 d を測る「640 HV 30」(値,記号 HV,試験力の kgf 値.この例の値はどの材料の値でもない),GPa 換算は HV × 0.009807§12,⑥
引張強さ(金属)引張試験で試験片が耐える最大の公称応力(くびれの始まり)引張試験MPa§1,①
破壊強度(セラミックス)最も大きいき裂から壊れるときの応力.試験片ごとにばらつき,体積と試験法で変わる曲げ試験・引張試験(多数の試験片)MPa(ばらつきは Weibull 係数 m)§4,§7–§9,②④⑤
破壊靱性 KICき裂が伸び始めるときの応力拡大係数.き裂の伸びにくさ予き裂を入れた試験片(SEPB 法など)MPa m1/2§5,§6,③

12.2 圧子の幾何 ― 136° と接触面積

Vickers 圧子は,底面が正方形の四角錐で,向かい合う 2 つの面のなす角(対面角)が 136° です. 角錐の軸と各面のなす角はその半分の 68°,試料の表面と面のなす角は 90° − 68° = 22° です. 圧痕を上から見ると正方形で,その対角線の長さを d とします(図 5 (b)).

図 5 Vickers 圧子と圧痕の幾何(模式図.縮尺は正確ではない). (a) 面の中央を通る断面:対面角 136°,軸と面のなす角 68°,正方形の一辺 s = d/√2,深さ h. (b) 上から見た圧痕:2 本の対角線 d1,d2,半対角線 a = d/2,隅から伸びるき裂(中心から測った長さ c). (c) 対角線を通る断面:圧痕の下の塑性域と,それを囲むハーフペニー形のき裂(§12.5).

(a) 断面(面の中央を通る) 136° 68° h s = d/√2 ダイヤモンド 試料 ↓ 荷重 F (b) 上から見た圧痕 d1 d2 a c き裂 (c) 断面(対角線を通る) 塑性域 c ハーフペニーき裂 き裂の面=この断面 (表面ではラジアルき裂)

接触面積.正方形の一辺を s とすると,対角線は d = √2 s です. 1 つの面は底辺 s の三角形で,その高さ(底辺の中点から頂点までの斜面に沿った長さ)を ℓ とします. 図 5 (a) の断面で,底辺の中点は軸から水平に s/2 離れていて,斜面は軸と 68° をなすので,s/2 = ℓ sin 68° です. 4 つの面の面積を足すと

(95) A=4×12sℓ =2s·s2sin⁡68° =s2sin⁡68° =d22sin⁡68° (s2=d2/2)

です.Vickers 硬さは,荷重をこの斜面の面積(接触面積)で割った値と定義されています(ISO 6507-1,JIS Z 2244). 歴史的な単位 kgf/mm2 で書くと

(96) HV=FA=2Fsin⁡68°d2 =1.8544Fd2 (F [kgf],d [mm])

で,2 sin 68° = 1.85437 です.荷重を N で測るときは 1 kgf = 9.80665 N(標準重力加速度 gn)で割って

(97) HV=1.85449.80665Fd2 =0.1891Fd2 (F [N],d [mm]), HV [GPa]=0.009807×HV

となります.HV は kgf/mm2 の数値を単位を付けずに書くのが慣習で,「1 500 HV 1」は試験力 9.807 N(1 kgf)で HV = 1500 だったことを表します. ISO 6507-1 の書き方では,硬さの値を先に,記号 HV のあとに試験力を kgf で表した数値を書きます.試験力そのものの記号は F(単位 N)で,硬さの記号 HV とは別です. したがって「HV 10」だけなら試験の条件(試験力 98.07 N)を表し,硬さの値ではありません.例えば 294.2 N(30 kgf)で測って 640 だったときは「640 HV 30」と書きます(この例の数値は,⑥の答えにならないように,どの材料の値でもない数にしてある). 1 kgf/mm2 = 9.80665 MPa なので,SI の硬さ HV は HV の 0.009807 倍の GPa です(1500 HV は 14.7 GPa). JIS R 1610 は,セラミックスの硬さを「12.5 GPa HV 9.807 N」のように GPa で書く表記を望ましいとしています. 2 本の対角線 d1,d2 は,試料の傾きや結晶の異方性でわずかに違うので,平均 d = (d1 + d2)/2 を使います.

深さ.図 5 (a) で,軸と斜面が 68° をなすので tan 68° = (s/2)/h です.s = d/√2 を入れて

(98) h=s2tan⁡68° =d22tan⁡68° =d7.0006≈d7

で,圧痕の深さは対角線のほぼ 1/7 です(荷重を取り去る前の,圧子の形どおりの深さ). 逆に,硬さ HV(SI)の材料を荷重 F で押したときの対角線は,式 (96) を SI で書き直して解くと

(99) d=1.8544FHV ∝F1/2 (F [N],HV [Pa],d [m])

です.例えば HV = 15.2 GPa のアルミナを 9.807 N で押すと d = √(1.8544 × 9.807/15.2×109) m = 34.6 μm,h = 4.9 μm, 98.07 N では d = 109 μm,h = 15.6 μm です.HV = 5.5 GPa のガラスを 9.807 N で押すと d = 57.5 μm になります. 荷重を 10 倍にしても対角線は √10 = 3.16 倍にしかならず,形は相似のままです.

なぜ 136° なのか Brinell 試験では,くぼみの直径が球の直径の 0.25–0.5 倍くらいになる荷重が好ましいとされ,その中ほどの d/D = 0.375 の圧痕の縁で球に接線を引くと, 向かい合う 2 本の接線のなす角は,sin φ = 0.375 から φ = 22.0°,180° − 2 × 22.0° = 136.0° になります. Vickers 圧子の 136° はこの角に合わせて選ばれ,そのため Vickers 硬さと Brinell 硬さは硬さがあまり高くない範囲で近い値になる,と説明されるのが普通です. ただし,Smith と Sandland(1922)の原論文の本文は確認できませんでした.計算そのものは上のとおり成り立ちます.
また,式 (96) で割っているのは斜面の面積で,真上から見た面積(投影面積)d2/2 ではありません. 投影面積で割った平均の圧力 H = 2F/d2 は HV の 2/1.8544 = 1.0785 倍で,§12.5 の押し込み破壊の式ではこちらを使うことが多いので注意が必要です(Quinn,2006).

12.3 試験の手順と規格の要点

金属の Vickers 硬さ試験は ISO 6507-1:2023(JIS Z 2244-1 は ISO 6507-1 に対応する日本の規格)で,ファインセラミックスの硬さ試験は JIS R 1610:2003(ISO 14705:2000 に対応)で定められています. 規格の本文は有料なので,ここでは要点だけを言い換えて示します.実際に試験をするときは規格の本文に従ってください.

表 8 Vickers 硬さ試験の試験力の区分と主な条件ISO 6507-1:2023 の Table 1 と本文,JIS R 1610:2003 の要点を言い換えたもの.
項目金属(ISO 6507-1:2023)ファインセラミックス(JIS R 1610:2003)
試験力の区分F ≥ 49.03 N(HV 5 以上):Vickers 硬さ試験(JIS Z 2244 ではビッカース硬さ試験)
1.961 ≤ F < 49.03 N:低試験力 Vickers 硬さ試験(JIS Z 2244 では低試験力ビッカース硬さ試験)
0.009807 ≤ F < 1.961 N:Vickers 微小硬さ試験(JIS Z 2244 ではマイクロビッカース硬さ試験)
推奨は 9.807 N(HV 1).試験面が壊れる,くぼみが不鮮明などの不都合があれば 4.903–98.07 N の範囲の決められた試験力を使ってよい
力をかける時間と保持最大の力に達するまで 2–8 s,保持 10–15 s保持 15 s
対角線の範囲と読み取りd = 0.020–1.400 mm が対象(これより小さい圧痕は範囲外).平らな面で 2 本の対角線の差が 5 % を超えたら,そのことを試験報告に書く(圧痕を除くとは定めていない)d < 50 μm は 0.2 μm 単位,50 μm 以上は 0.5 μm 単位で読む.2 本の対角線の差が平均の 5 % 以上の圧痕は除く
試料の厚さ1.5d 以上0.5 mm 以上,かつ 1.5d 以上,かつ 2c 以上
圧痕の中心と試料の縁の距離鋼・銅合金 2.5d 以上,軽金属 3d 以上2.5d 以上,かつ 5c 以上
圧痕どうしの中心間の距離鋼・銅合金 3d 以上,軽金属 6d 以上4d 以上,かつ 5c 以上
その他―測定を妨げる大きなき裂が出た圧痕や,角が気孔にかかった圧痕は除く.5 点以上測り,平均は 3 桁に丸める

厚さや間隔の条件は,圧痕のまわりの塑性域や弾性の場が,試料の裏面や隣の圧痕,試料の縁に届かないようにするためのものです. セラミックスで c(き裂の長さ)の条件が加わるのは,き裂のまわりの応力場も同じように広がるからです. 圧痕の中心から 5c 以上離すと,式 (99) と §12.5 の値で,アルミナを 98.07 N で押したとき(c ≈ 170 μm)には 0.85 mm 以上の間隔が必要になります.

12.4 金属とセラミックス ― Tabor の関係と押し込みサイズ効果

金属.金属の圧痕は塑性流動だけでできていて,割れることはありません. 圧子の真下の材料はまわりに拘束されて自由に流れ出せないので,塑性変形を始めるには一軸の流動応力よりずっと高い平均の圧力が要ります. Tabor(1951)は,圧子の下の塑性変形を解析して,金属では

(100) H≈3σr

となることを示しました.σr は代表ひずみでの流動応力で,Vickers 圧子では代表ひずみが約 8 % です.加工硬化しきった金属なら σr は降伏応力とほぼ同じです. 加工硬化する金属では σr は降伏応力 σy より大きいので,H/3 は σy を高めに見積もります. §5.6 で使った σy ≈ H/3 は,この関係を目安として逆向きに使ったものです. セラミックスやガラスは E/H が小さく,圧子のまわりの弾性変形の割合が大きいので,H/σy は 3 より小さく 1.5–2 程度になります(Marsh,1964.§5.6).

セラミックス.セラミックスの硬さ(10–25 GPa 程度)は,鋼(1–2 GPa 程度.焼入れ鋼で 7 GPa 程度,いずれも目安)より 1 桁高い値です. §6.6 で見たように,共有結合やイオン結合の結晶では転位が動きにくく,圧子の下の塑性変形そのものが起きにくいからです. ところが同じ理由で,塑性変形で応力を逃がすことができず,荷重が大きいと圧痕の隅からき裂が出ます. 荷重を取り去ったあと,対角線はほとんど戻らず,深さのほうが弾性で戻ります(Lawn と Marshall,1984).そのため,対角線から計算する HV は,深さから計算する硬さより弾性の戻りの影響を受けにくいと考えられます.

押し込みサイズ効果.理想的な角錐では HV は荷重によらないはずですが,実際には荷重が小さいほど見かけの硬さが高く出ることが多く,これを押し込みサイズ効果と呼びます. 荷重と対角線の関係を Meyer の式

(101) F=AMdn ⟹ HV=1.8544Fd2=1.8544AMdn−2

で表すと,n = 2 なら HV は一定,n < 2 なら d が小さい(荷重が小さい)ほど HV が大きくなります. Li と Bradt(1993)は,荷重の一部が表面近くの抵抗(d に比例)に使われると考えて

(102) F=A1d+A2d2 ⟹ HV=1.8544(A2+A1d)

という形を提案しました.d が大きいと HV は 1.8544A2 の一定値(荷重によらない硬さ)に近づき,小さいと A1/d のぶんだけ高くなります. 原因については,圧子の先端の丸み,表面の加工層,圧痕のまわりの割れなど,いくつもの説明があります(Bull ら,1989). 表 9 の窒化ケイ素の標準試料では,9.8 N で 17.3 GPa,98 N で 16.0 GPa でした.セラミックスの硬さを比べるときは,必ず荷重をそろえる必要があります.

※ 誤解 11 「硬い材料ほど割れにくい」わけではありません 硬さは押し込みで塑性変形しにくいことを表し,破壊靱性はき裂が伸びにくいことを表す,別の量です. 炭化ケイ素は窒化ケイ素より硬いのに,表 1 の KIC は低めです.むしろ,転位が動きにくくて硬い材料は,き裂の先端で応力を逃がせないので脆い傾向があります. §12.7 の脆性指数 H/Kc は,この 2 つの比をとったものです.

12.5 押し込み破壊 ― 残留応力とハーフペニーき裂

き裂の種類.鋭い圧子でセラミックスやガラスを押すと,次のようなき裂ができます. 表面で圧痕の隅から対角線の延長上に伸びるラジアルき裂,圧痕の真下で軸を含む面にできるメディアンき裂, 両者がつながって表面から見ると 1 本,断面では半円形になるハーフペニーき裂(図 5 (c)), 表面とほぼ平行に広がって表面の欠け(チッピング)の原因になる横き裂, そして荷重が小さいときに隅のまわりだけに浅くできる Palmqvist き裂です. 実際のき裂は枝分かれや交差があり,きれいな半円形は理想化にすぎません(Cook と Pharr,1990).

き裂を開く力はどこから来るか.Marshall と Lawn(1979),Lawn, Evans と Marshall(1980)は,圧痕の下の塑性域を「まわりの弾性体の中で膨らんだ空洞」とみなしました. 塑性変形で押しのけられた体積をまわりの弾性体が受け止めるので,荷重を取り去ったあとも,塑性域はまわりを外向きに押し続けます(残留応力). この押し広げる作用が,塑性域を囲むき裂の面をくさびのように開きます. ソーダ石灰ガラスの観察では,負荷中にき裂は主に下向きに伸び,表面のラジアルき裂や横き裂は主に荷重を取り去る間に広がります.空気中では,荷重を取り去ったあともしばらく伸び続けます(Lawn と Marshall,1984).

K の形を次元で決める.き裂が圧痕より十分大きい(c ≫ a)とき,き裂から見ると塑性域は中心の 1 点に集中した力のように見えます. 半径 c の円板状のき裂の中心で,上下の面を大きさ Pr の力で引き離すときの応力拡大係数は,破壊力学の標準的な解として

(103) KI=Pr(πc)3/2

です.係数を気にしなければ,これは次元だけから分かります.K の単位は Pa m1/2 = N m−3/2 で,使える量が力 Pr [N] と長さ c [m] だけなら, N m−3/2 をつくる組み合わせは Pr/c3/2 しかありません. 残留応力の力 Pr は押し込み荷重 F に比例するので,Pr = (定数) × F とおき,定数と形の係数をまとめて χ と書くと

(104) KI=χFc3/2 , dKIdc =−32χFc5/2<0

になります.ここが §4,§5 のき裂との大きな違いです. 一様な引張では KI = Yσ√(πa) がき裂とともに増えるので,いったん KIC に達すると止まらずに走ります(不安定). 押し込みのき裂では KI がき裂とともに減るので,KI = Kc になった長さで安定に止まります. 止まったき裂の長さは材料の靱性で決まるので,それを測れば靱性が見積もれる ―― これが押し込み破壊法(IF 法,indentation fracture)の考え方です.

IF 法の式.膨張空洞のモデルでは,塑性域の大きさと,それがまわりを押す強さが E/H で決まり,χ ∝ (E/H)1/2 になります(Lawn, Evans と Marshall,1980.導出は省きます). 比例係数 ξ を,ほかの方法で靱性の分かっている 8 種類のセラミックスとガラスに合わせて決めたのが Anstis ら(1981)の式です.

(105) Kc=ξ(EH)1/2Fc3/2 ,ξ=0.016±0.004 (H=F2a2=1.0785HV)

c は圧痕の中心から測ったき裂の長さ(表面で端から端まで測った長さの半分),a = d/2 は半対角線です. 日本の JIS R 1607:2015 は,単一エッジ予き裂はり(SEPB)法を優先し,それが使えない場合の選択肢として,三好ら(1985)の係数と HV を使う次の式を残しています.

(106) KC=0.018(EHV)1/2Fc3/2

同じ測定値を入れると,式 (106) は式 (105) より 0.018/0.016 × √1.0785 = 1.17 倍大きい値を出します(Quinn,2006). JIS R 1607 は,き裂が隅から対角線の延長上に出ていること,直交する 2 方向のき裂の長さの差が平均の 10 % 以下であること,き裂の長さが対角線の長さの 2.5 倍以上(c/a ≥ 2.5)であることを条件にしています. 結果の記号が KIC ではなく KC であることにも注意してください.

き裂の長さは荷重とともにどう伸びるか.式 (104) で KI = Kc とおいて c について解くと

(107) c=(χFKc)2/3∝F2/3 , ca∝F2/3F1/2=F1/6

です(a ∝ F1/2 は式 (99)).荷重を上げると,き裂は圧痕より速く伸びます.荷重を 10 倍にすると c/a は 101/6 = 1.47 倍です. 例えば表 1 のアルミナ(E = 380 GPa,Kc = 3.5 MPa m1/2)で HV = 15.2 GPa(H = 16.4 GPa)とすると,式 (105)(107) から 9.807 N で c ≈ 36 μm(a = 17 μm,c/a ≈ 2.1),98.07 N で c ≈ 170 μm(a = 55 μm,c/a ≈ 3.1)になります. JIS R 1607 が荷重をなるべく大きく選ぶように求め,c/a ≥ 2.5 を条件にしているのは,c ≫ a という式 (104) の前提に近づけることにもなっています.なお,Anstis ら(1981)自身が式 (105) の条件としたのは,よく発達したき裂であること(c ≥ 2a)で,2.5 は JIS R 1607 の値です.⑥ の補足では 2.5 で判定し,画面にもそう書いています.

12.6 IF 法の精度と限界

NIST の標準試料 SRM 2100(ホットプレスの窒化ケイ素.破壊靱性の認証値 KIC = 4.57 ± 0.23 MPa m1/2)に,Quinn(2006)が IF 法を試した結果が表 9 です.

表 9 SRM 2100 窒化ケイ素の Vickers 圧痕とき裂(Quinn,2006)a,c と 3 つの K は Quinn の表の値(保持 15 s).c/a,HV,F/c3/2 は本ページで式 (96) などから計算した値.Niihara の式は ASTM F2094 の形.
F (N)a (μm)c (μm)c/aHV (GPa)F/c3/2 (107 N m−3/2)式 (105)Niihara式 (106)
9.816.233.02.0417.35.173.445.144.02
19.623.552.02.2116.55.233.565.294.16
4937.594.02.5116.25.383.695.474.31
9853.3148.92.7916.05.393.725.514.34

F/c3/2 は荷重を 10 倍にしても 4 % しか変わらず,式 (107) の c ∝ F2/3 はよく成り立っています. c/a は 2.04 から 2.79 へ 1.37 倍で,式 (107) の 1.47 倍より少し小さくなっています.低荷重ほど硬く出る押し込みサイズ効果で,低荷重の a が小さめになることが一因です. ところが,靱性の値はどの式も認証値 4.57 に一致しませんでした.c/a ≥ 2.5 の 49 N 以上で比べても,式 (105) は約 19 % 低く,Niihara の式は約 20 % 高く,式 (106) は約 5 % 低い値です.

Anstis ら自身も,この方法の誤差は 30–40 % 程度に収まるだろう,という見積もりにとどめていました.Quinn と Bradt(2007)などは,次の問題を指摘しています.

NIST の Quinn と Alabama 大学の Bradt(2007)は,これらを踏まえて,IF 法は破壊試験として信頼できず,何を測っているのかも明確に定義できないので,セラミックスの破壊靱性試験としては認めるべきではないと結論しています(NIST が公開している論文の要旨による). JIS R 1607 も SEPB 法を優先し,IF 法は SEPB 法が使えない場合の方法として残しているだけです. IF 法の値は標準の KIC 試験の値ではなく「押し込み破壊抵抗」とみなし,使うとしても,同じ式・同じ試験力で測った材料どうしの比較や品質管理の目安にとどめます(これは本ページの立場で,Quinn と Bradt の要旨にある言葉ではありません). 部品の設計や材料の仕様には,予き裂を入れた試験片で測る SEPB 法などの値を使います.

※ 誤解 12 「Vickers 圧痕のき裂から破壊靱性 KIC が測れる」 式 (105) は物理的な考え方(残留応力の力が中心に集中したハーフペニーき裂)と,経験的な係数でできた見積もりの式です. 表 9 のように,同じ圧痕から式によって 3.7–5.5 MPa m1/2 と 1.5 倍も違う値が出ます.論文やカタログで IF 法の値を見たら,どの式を使ったか,c/a はいくつかを確かめてください.

12.7 割れ始める荷重と脆性指数

荷重が小さいと,圧痕はできてもき裂は出ません. Lawn と Evans(1977)は,塑性域の縁にあった小さな欠陥が塑性域の応力で伸び出す条件から,き裂が出始める荷重 F* を見積もりました. 係数を除いた形は次元から導けます.材料の量として硬さ H [Pa] と靱性 Kc [Pa m1/2] だけを使うと,長さをつくる組み合わせは (Kc/H)2 しかないので,き裂が出始めるときの圧痕の大きさは a* ∝ (Kc/H)2 です. そのときの荷重は,硬さの定義 F ∝ Ha2 から

(108) a*∝(KcH)2 , F*∝H(a*)2∝Kc4H3

となります.F* は Kc の 4 乗に比例するので,靱性の少しの差が大きく効きます. 表 1 の KIC と表 10 の HV(アルミナ 15.2,ガラス 5.5 GPa)で比べると,アルミナの F* はガラスの (3.5/0.75)4 × (5.5/15.2)3 = 約 22 倍です. ガラスでは,き裂が出始めるときの圧痕の大きさは数十 μm 程度で,水があるとき裂が出始める荷重が 2 桁も下がることがあります(Lawn と Marshall,1984). 比例係数は原典で確認できなかったので,ここでは比だけを示します.多結晶体では粒界や気孔の影響が大きく,この比がそのまま成り立つとは限りません.

式 (108) の中の H/Kc を,Lawn と Marshall(1979)は脆性指数と呼びました.

(109) B=HKc [m−1/2]

H は「変形しにくさ」,Kc は「割れにくさ」なので,B が大きいほど,押されたときに変形より割れが先に起きやすい材料です. 表 1 の KIC と表 10 の HV で計算すると,ソーダ石灰ガラス 5.5×109/0.75×106 ≈ 7300,炭化ケイ素 ≈ 6600,アルミナ ≈ 4300,窒化ケイ素 ≈ 2300,Y-TZP ≈ 1500 m−1/2 です. シミュレーター⑥の補足に出る脆性指数は,表 10 ではなく表 A3 の HV(アルミナ 16,窒化ケイ素 15 GPa)を使うので,アルミナ 4600,窒化ケイ素 2500 m−1/2 と少し大きくなります. Quinn と Quinn(1997)は,荷重を変えたときの圧痕とき裂の大きさの関係から B を求める方法を提案しています.

12.8 材料の硬さの値

表 10 Vickers 硬さの値の例硬さは荷重・微構造・測り方で変わるので,同じ名前の材料でも値は幅をもつ.「目安」は本ページで出典を確かめていない一般的な値.京セラの表には製法(焼結の方法など)の記載はない.
材料HV (GPa)条件出典
炭化ケイ素23.0JIS R 1610,9.807 N京セラの材料特性表(メーカー値)
サファイア(単結晶 Al2O3)22.5同上同上
アルミナ(純度 99 %)15.2同上同上
窒化ケイ素14.0同上同上
ジルコニア12.3同上同上
窒化アルミニウム10.4同上同上
窒化ケイ素(NIST SRM 2100,ホットプレス)17.3 → 16.09.8 N → 98 N(表 9)Quinn(2006)の a から計算
炭化タングステン(NIST SRM 2831,硬さ標準片)15.29.8 N(d の認証値 34.6 μm から計算)Quinn(2006)
ソーダ石灰ガラス5–6―目安
構造用鋼(比較)1.2–1.6―目安

シミュレーター③で塑性域の目安に使い(§5.6),⑥で圧痕の大きさに使う硬さは,アルミナ 16,炭化ケイ素 23,窒化ケイ素 15,Y-TZP 12,ソーダ石灰ガラス 5.5,石英ガラス 8 GPa です(付録 A.7 の表 A3). セラミックスの値は表 10 のメーカー値と 1 割以内でそろえた丸めた値ですが,硬さは荷重や微構造で変わるので,教材用の目安として読んでください.

材料の区分.⑥では,材料名の脇に区分を表示します.アルミナと Y-TZP は酸化物焼結体,炭化ケイ素と窒化ケイ素は非酸化物焼結体,ソーダ石灰ガラスと石英ガラスはガラス(非晶質),構造用鋼と Al 合金は金属です. ガラスと金属は粉末を焼き固めたものではないので,「焼結体」とは呼びません. セラミックスの 4 種を焼結体としたのは多結晶セラミックスの一般的なつくり方によるもので,表の値は特定の製品ではなく,製法(常圧焼結,加圧焼結,焼結助剤の有無など)を出典で確かめていないので,画面では「(仮)」を付けています. 参考に挙げた SRM 2100 の窒化ケイ素はホットプレス(加圧焼結)でつくられたものです(表 9).

§12 のまとめ ①Vickers 硬さは荷重を圧痕の斜面の面積 d2/(2 sin 68°) で割った値で,HV = 1.8544F/d2(kgf,mm),深さは d/7. ②角錐の圧痕は荷重によらず相似なので,理想的には硬さは荷重によらない.実際には低荷重ほど硬く出る(押し込みサイズ効果). ③セラミックスは硬いが転位で応力を逃がせないので,隅からき裂が出る.き裂は残留応力で開かれ,K = χF/c3/2 が c とともに減るので安定に止まり,c ∝ F2/3. ④その長さから靱性を見積もるのが IF 法だが,精度は 30–40 % 程度で,KIC の代わりにはならない. ⑤硬さの値は「640 HV 30」(値,記号 HV,試験力の kgf 値)の形で書く.HV の後ろの数字は試験力で,硬さではない.硬さは引張強さ・破壊強度・破壊靱性とは別の量.

13. シミュレーターのモデルについて

fracture-simulator.html の各タブは,本ページの次の式をその場で計算しています.材料定数は表 1 の値で,表 1 にない量(硬さ,表面エネルギー,熱拡散率など)は付録 A の目安です. 各タブの画面の読み方・操作の意味・この節に書いていない設定は,付録 A にまとめてあります.

このモデルで言えること・言えないこと 言えるのは,「強度はき裂の大きさの −1/2 乗で下がる」「靱性が高いほど許容できるき裂は 2 乗で大きくなる」 「欠陥の大きさの分布が m を決め,体積が大きいほど弱い」「急冷に強いのは強度が高く Eα の小さい材料」という傾向と,材料どうしの相対比較です. 言えないのは,特定の製品の強度や寿命の定量予測です.
表 1 の材料定数は教材用の目安で,同じ名前の材料でも製法・粒径・純度で大きく変わります. 欠陥のモデルは理想化されていて,き裂の向きや形,表面の傷と内部の気孔の区別,き裂どうしの相互作用,水分によるき裂の遅い成長(遅れ破壊)を考えていません. 金属の KIC は,有効な平面ひずみの値を得るのに非常に厚い試験片が必要で(§6),表 1 の値はセラミックスとそのまま比べられる値ではありません.

14. さらに深く学ぶために

表 11 関連する学習資源
話題参照先
本ページの式を動かして確かめるfracture-simulator.html: ① 応力–ひずみ/② Griffith/③ 破壊靱性/ ④ Weibull/⑤ 体積効果と試験法/⑥ Vickers 硬さ(ビッカース硬さ)/⑦ 熱衝撃と気孔
気孔と欠陥をどう減らすか(焼結の駆動力,緻密化と粒成長の競合)焼結の理論/sintering-simulator.html/教科書『よくわかる無機材料化学』3-4 節
Young 率と熱膨張係数はどこから来るか(結合の硬さと非調和性)solid-eos-simulator.html
熱的性質(第 10 回の前半,教科書 4-1 節)heatcapacity-simulator.html
イオン結晶・共有結合結晶の構造(すべりにくさの背景)crystal-structure-simulator.html
破壊力学と脆性材料の強度の標準的な教科書B. Lawn Fracture of Brittle Solids(2nd ed.),W. D. Kingery ほか Introduction to Ceramics

15. 演習問題と解答

問題 1 SiC 相当の値 E = 410 GPa,γs = 1.0 J m−2,a0 = 0.2 nm を使う. (1) 式 (15) で理論強度 σth を求め,表 1 の強度 400 MPa と比べよ. (2) γs = 1.0 J m−2 のまま式 (35) を使うと,400 MPa で壊れる貫通き裂の半長はいくらか. (3) 表 1 の KIC = 3.5 MPa m1/2 を使い,式 (43)(Y = 1.12)で 400 MPa で壊れる表面き裂の深さを求めよ.(2) との違いは何を意味するか.

解答.(1) σth = √(410×109 × 1.0/(0.2×10−9)) = √(2.05×1021) = 4.53×1010 Pa = 45.3 GPa(E/9.1). 実際の強度の約 113 倍である.
(2) ac = 2 × 410×109 × 1.0/[π × (400×106)2] = 1.63×10−6 m = 1.63 μm.
(3) ac = (1/π)[3.5/(1.12 × 400)]2 m = 1.94×10−5 m = 19.4 μm で,(2) の 11.9 倍. 実際の SiC では γeff = KIC2/2E = 14.9 J m−2 と,表面エネルギーの 15 倍近いき裂進展抵抗があるためである (11.9 は γeff/γs = 14.9 を表面き裂の Y2 = 1.25 で割った値に等しい).

問題 2 半長 a = 20 μm,先端の曲率半径 ρ = 0.5 nm のき裂をもつ板に,σ = 50 MPa の引張をかける. (1) 式 (18) で先端の最大応力を求めよ.(2) 先端が丸まって ρ = 5 nm になると,最大応力は何分の 1 になるか.

解答.(1) √(a/ρ) = √(20×10−6/(0.5×10−9)) = √(4×104) = 200 なので,集中係数は 1 + 2 × 200 = 401. σmax = 50 × 401 = 2.005×104 MPa = 20.05 GPa.
(2) √(20×10−6/(5×10−9)) = √4000 = 63.2 で,集中係数は 1 + 2 × 63.2 = 127.5,σmax = 6.37 GPa. 401/127.5 = 3.15 なので約 1/3.15.a ≫ ρ では σmax ∝ ρ−1/2 なので,ρ を 10 倍にすると √10 = 3.16 分の 1 になる,と見積もってもよい. 金属でき裂の先端が塑性変形で丸まると強くなるのは,このためである.

問題 3 (1) 式 (35) で,き裂の半長を 4 倍にすると強度は何倍になるか. (2) アルミナ相当の値(E = 380 GPa,γs = 1.0 J m−2)で,σ = 200 MPa のときの臨界半長 ac と,式 (32) の山の高さを求めよ. (3) 平面ひずみ(ν = 0.22)では ac はいくらになるか.

解答.(1) σf ∝ a−1/2 なので 4−1/2 = 1/2 倍.
(2) ac = 2 × 380×109 × 1.0/[π × (200×106)2] = 6.05×10−6 m = 6.05 μm. 山の高さは §4.4 より U(ac) = 2γsac = 1.21×10−5 J m−1 = 12.1 μJ m−1(単位厚さあたり).
(3) E を E/(1 − ν2) に置き換えるので,ac は 1/(1 − 0.222) = 1.051 倍の 6.36 μm.

問題 4 σ = 500 MPa の引張がかかる部品を考え,き裂は表面き裂(Y = 1.12)とする. (1) アルミナ,窒化ケイ素,Y-TZP の許容き裂 ac を式 (43) で求めよ. (2) 非破壊検査で深さ 50 μm 以上のき裂は必ず見つけられるとする.検査に合格した部品が 500 MPa で壊れる心配がないのはどれか. (3) 窒化ケイ素と Y-TZP の Gc と γeff を求めよ.

解答.(1) ac = (1/π)(KIC/560 MPa)2 より,アルミナ 12.4 μm,窒化ケイ素 36.5 μm,Y-TZP 65.0 μm.
(2) 検査で見逃しうるのは深さ 50 μm 未満のき裂である.ac がそれより大きいのは Y-TZP だけで, アルミナと窒化ケイ素は,見逃した 50 μm 未満のき裂で壊れるおそれがある.
(3) 窒化ケイ素:Gc = (6.0×106)2/(310×109) = 116 J m−2,γeff = 58.1 J m−2. Y-TZP:Gc = (8.0×106)2/(210×109) = 305 J m−2,γeff = 152 J m−2. いずれも γs = 1.0 J m−2 の 58 倍,152 倍で,架橋や変態による遮蔽(§6)の大きさを表している.

問題 5 ある材料の強度は m = 10,σ0 = 400 MPa の Weibull 分布に従う(試料の大きさは一定). (1) 300 MPa で壊れる確率を求めよ.(2) 破壊確率を 10−4 に抑えるときの設計応力を求めよ. (3) 平均強度と変動係数を求めよ.平均強度の応力をかけると,何 % が壊れるか.

解答.(1) (300/400)10 = 0.0563 なので,Pf = 1 − exp(−0.0563) = 0.0548 ≈ 5.5 %.
(2) 式 (69) より σd ≈ 400 × (10−4)1/10 = 400 × 0.398 = 159 MPa.
(3) 式 (63) より ⟨σ⟩ = 400 × Γ(1.1) = 400 × 0.95135 = 381 MPa,式 (65) より CoV = 0.120. 381 MPa では (0.95135)10 を指数に入れて Pf = 0.455,約 46 % が壊れる. 「平均強度」は設計に使える数字ではない.

問題 6 §7.2 のモデルで,既定値(KIC = 3.5 MPa m1/2,Y = 1.12,amin = 5 μm,k = 5,λV = 300.このとき σ* = 788.5 MPa,m = 10,σ0 = 446 MPa)から, 次のように変えると m と σ0 はどうなるか. (1) 粉の処理を改善して大きな欠陥を出にくくし,k = 7.5 にした. (2) 試料の体積を 2 倍にした. (3) 最小の欠陥の大きさを amin = 2.5 μm にした.

解答.式 (58)(61) より m = 2k,σ0 = σ*(λV)−1/m,σ* ∝ amin−1/2.
(1) m = 15.σ0 = 788.5 × 300−1/15 = 788.5 × 0.684 = 539 MPa.ばらつきが減るだけでなく,特性強度も上がる.
(2) λV = 600 になり,m = 10 のまま,σ0 = 446 × 2−1/10 = 446 × 0.933 = 416 MPa(式 (73) の体積効果そのもの).
(3) σ* が √2 倍の 1115 MPa になり,σ0 も √2 倍の 630 MPa(丸める前の値から計算).m は 10 のまま.

問題 7 m = 10 の材料でつくった小さな角棒を 3 点曲げで試験し,ある破壊確率に対応する強度 600 MPa を得た.同じ破壊確率に対して, (1) 同じ棒を一様な引張で試験すると何 MPa か.(2) 同じ棒を 4 点曲げ(内側の間隔 L/2)で試験すると何 MPa か. (3) 3 点曲げ試験の支点間の体積の 100 倍の体積に,一様な引張がかかる部品では何 MPa か.

解答.(1) 式 (80) より 600/2421/10 = 600/1.731 = 347 MPa.
(2) 式 (79) より Veff(4 点)/Veff(3 点) = (1/40.3)/(1/242) = 6.0 なので,600/6.01/10 = 600/1.196 = 502 MPa.
(3) 部品の有効体積は 100V,3 点曲げは V/242 なので体積比は 24200.式 (73) より 600/242001/10 = 600/2.744 = 219 MPa. カタログの 3 点曲げ強度の約 0.36 倍(3 分の 1 強)である.

問題 8 (1) 表 1 のアルミナと炭化ケイ素を ΔT = 150 K で急冷する.式 (88) で割れるかどうかを判定せよ. (2) アルミナの焼結体の相対密度が 95 %(P = 0.05,b = 5)だったとき,式 (94) による強度と,E,α を変えないときの R を求めよ. (3) 実際には気孔によって E も下がる.(2) の R の見積もりは,実際より大きいか小さいか.

解答.(1) アルミナは R = 90 K < 150 K なので割れる.炭化ケイ素は R = 205 K > 150 K なので割れない. ただし R は無限に速い急冷での下限なので,アルミナが実際に割れるかどうかは冷却の速さや試料の大きさにもよる(§10 の注).
(2) σf = 350 × exp(−0.25) = 350 × 0.779 = 273 MPa. R = 273×106 × 0.78/(380×109 × 8.0×10−6) = 70 K(緻密なときの 90 K から下がる).
(3) R ∝ σf/E なので,E が下がると R は上がる.(2) の見積もりは実際より小さい側にずれている(強度の低下の一部が打ち消される).

問題 9 (1) あるセラミックスを試験力 9.807 N で Vickers 圧子で押したところ,圧痕の対角線は d1 = 34.4 μm,d2 = 34.8 μm だった. この圧痕は JIS R 1610 の「2 本の対角線の差が平均の 5 % 未満」を満たすか.満たすなら HV(3 桁)と HV(GPa),圧痕の深さ h を求めよ. (2) E = 365 GPa のセラミックスを 196 N で押すと,半対角線 a = 70.0 μm,き裂の長さ c = 300 μm だった.HV と c/a を求め,式 (106) と式 (105) で靱性を見積もれ. (3) (2) で c を 10 % 長く読み誤る(330 μm)と,式 (106) の値は何 % 変わるか.

解答.(1) d = (34.4 + 34.8)/2 = 34.6 μm で,差 0.4 μm は平均の 1.2 % なので満たす. 式 (97) より HV = 0.1891 × 9.807/(0.0346)2 = 1.8545/1.1972×10−3 = 1550(1 550 HV 1),HV = 0.009807 × 1549 = 15.2 GPa. 式 (98) より h = 34.6/7.00 = 4.94 μm.
(2) d = 2a = 140 μm = 1.40×10−4 m なので,HV = 1.8544 × 196/(1.40×10−4)2 Pa = 363.5/1.96×10−8 Pa = 1.85×1010 Pa = 18.5 GPa.c/a = 300/70.0 = 4.29(2.5 以上). F/c3/2 = 196/(3.00×10−4)3/2 = 196/5.196×10−6 = 3.772×107 N m−3/2 なので, 式 (106):KC = 0.018 × √(365/18.5) × 3.772×107 = 0.018 × 4.442 × 3.772×107 Pa m1/2 = 3.02 MPa m1/2. 式 (105):H = 2F/d2 = 392/1.96×10−8 Pa = 20.0 GPa で,Kc = 0.016 × √(365/20.0) × 3.772×107 = 0.016 × 4.272 × 3.772×107 Pa m1/2 = 2.58 MPa m1/2. 同じ圧痕から 1.17 倍違う値が出る(§12.5).(2) の数値は JIS R 1607 の計算例と同じ値にしてある.
(3) K ∝ c−3/2 なので 1.1−3/2 = 0.867 倍,約 13 % 低く(3.02 → 2.61 MPa m1/2)なる.き裂の先端を読む精度が,そのまま靱性の値の精度を決める.

付録 A. シミュレーター(fracture-simulator.html)で見ていること

この付録で分かること 対になるシミュレーター fracture-simulator.html のタブが,それぞれ何を描いていて,どの操作が何を意味するのか. そして,画面に出てくる数値がどんな近似で計算されているのか. シミュレーターは授業の画面に埋め込んで使うので,画面の説明は短くしてあります.各タブの操作欄の最後にある「詳しい解説」のリンクから,この付録の該当する小節に来られます. 式の導出は本文にあるので,この付録では本文を参照し,シミュレーターにしか出てこない設定や数値をまとめます.

A.1 ページ全体 ―― タブと授業との対応

セラミックスは硬く,強度も金属の降伏応力に負けないものが多いのに,ほとんど変形しないまま突然割れます. シミュレーターのタブは,この「なぜ」を目で見て分かるように並べてあります. ①では引張試験で金属とセラミックスの試験片の伸び方と壊れ方を比べ,②では穴やき裂の先端に応力が集中する様子と Griffith のエネルギー収支を見ます. ③では原子の模式図で,転位が動ける金属ではき裂の先端が鈍くなり,動けないセラミックスでは結合が切れて割れることを確かめ,材料ごとに許容できるき裂の大きさを求めます. ④では試験片を 1 本ずつ壊して強度のばらつきが Weibull 分布になることを,⑤では体積と試験法による強度の違いを見ます.⑥では試験機でダイヤモンドの圧子を押し付け,残った圧痕の対角線を自分で測って Vickers 硬さ(ビッカース硬さ)を計算し,セラミックスでは圧痕の隅からき裂が出ることを,⑦では熱衝撃で試料の中に生じる温度と応力の分布を見ます.

東京理科大学「無機材料学」の第 10 回(熱的性質と機械的性質)で扱うのは ①〜④ と ⑥ の 5 つで, 指定教科書『よくわかる無機材料化学』の 4-2 節「機械的性質」(p. 74–83)に対応します(参考文献 18). ⑥ のうち,硬さの測り方は第 10 回の範囲で,き裂の長さから靱性を見積もる IF 法の式とその限界(§12.5–§12.7)は発展です. ⑤・⑦ は発展で,セラミックスの部品を設計したり,試料を急冷したりする場面で効いてくる内容です.

表 A1 シミュレーターのタブと本文の対応
タブ画面で見ること授業での扱い本文の対応箇所
① 応力–ひずみ ― 脆性と延性引っ張られる試験片の応力のカラーマップ,電子顕微鏡で見たような拡大図(模式図),公称・真応力–ひずみ曲線,くびれと Considère の条件第 10 回§1.1–§1.5, A.2
② Griffith ― き裂が強度を決める楕円孔のまわりの応力のカラーマップと σ1 の向き,荷重の向きによる違い,エネルギー U(a) と強度–き裂の大きさの両対数グラフ第 10 回§2〜§4, §3.2–§3.5, A.3
③ 破壊靱性 ― 許容できるき裂の大きさ縁き裂の先端の σyy のカラーマップと塑性域,き裂先端の原子の模式図(転位による鈍化とへき開),K–a の両対数グラフ第 10 回§5, §6, A.4
④ Weibull ― 強度はばらつく試験片の棚と試験機,1 本ずつ積み上がるヒストグラムと理論の分布(赤い線),Weibull プロット第 10 回§7, §8, A.5
⑤ 体積効果と試験法V1,V2,σ1,σ2 の模式図,引張・3 点曲げ・4 点曲げの応力分布,体積比と強度比,モンテカルロ発展§9, A.6
⑥ Vickers 硬さ(ビッカース硬さ)試験機の全体図と圧子の先の断面,顕微鏡で対角線を測って計算する硬さ(「640 HV 30」の形の書き方),自動測定による答え合わせと測定の記録,セラミックスの圧痕の隅から伸びるき裂(補足で IF 法)第 10 回(IF 法は発展)§12, A.7
⑦ 熱衝撃と気孔四角い試料の温度分布と熱応力分布のカラーマップ,割れる様子(模式),応力の時間変化,熱衝撃抵抗 R,気孔率と強度発展§10, §11, A.8

どのタブも,左に図(キャンバス),その下に凡例・「ひとこと」の欄・読み取り値の表が並び(⑥は図が 2 段で,下の段の右に測定と計算の欄があり,読み取り値の下に補足・測定の記録・材料の比較の図が続く.画面の幅が 760 px 以下のときは全体図と断面図のすぐ下に「押し込む(再生)」のボタンが付く),右(画面が狭いときは下)に操作欄があります. 図の幅は画面の幅に合わせて描き直すので,スマートフォンでも文字の大きさはほぼ変わりません. 「ひとこと」は,操作するたびにいまの状態に合わせて書き換わる短い知らせです. アニメーションは,タブが隠れているときやブラウザのタブが裏にあるときは止まります. 材料定数はすべて表 1 の値(教材用の目安)で,表 1 にない量(一様伸び,硬さ,表面エネルギー,熱拡散率など)も目安です. アドレスの末尾に #ss,#griffith,#kic,#weibull,#volume,#vickers,#shock を付けると,そのタブを開いた状態でページが表示されます. ?embed=1 を付けると見出しと導入文を隠した埋め込み用の表示になり(タブは残る), ?only=kic のように書くとそのタブだけを,タブの列も隠して表示します.

A.2 ① 応力–ひずみ ― 脆性と延性

何が見えるか.上の段の左は,引っ張られる平板のダンベル形の試験片です(平行部の長さ = 標点距離 50 mm,幅 10 mm,厚さ 2 mm,肩の半径 15 mm,つかみ部の幅 20 mm). 下のつかみは固定で,上のつかみが引かれます.試験片の中の軸方向の応力 σzz を,0(灰色がかった白)→ 黄 → 赤 → 暗い赤の色で塗り,右の色の帯に MPa の目盛があります. 金属は実際の寸法どおりに伸び,荷重最高点を過ぎると 1 か所がくびれ,くびれの中でカップアンドコーンの形にちぎれます. セラミックスは伸びが小さすぎて見えないので,伸びと幅の変化を誇張しています(ガラスとアルミナは 200 倍,Y-TZP は 20 倍.倍率は図の中に表示). セラミックスは表面からき裂が入り,平らな面で 2 つに割れます. 図の中の小さなグラフは,くびれの中央(くびれる前は平行部の中央)の断面の σzz の分布で,破線が平均 F/A です. 試験片の上の輪は,右の拡大図の場所です.

上の段の右は拡大図(走査電子顕微鏡で見たような模式図.縮尺の棒つき)です. 鋼(粒径 25 μm,視野 400 μm)と Al 合金(60 μm,800 μm)では,Voronoi 分割で描いた粒が真ひずみ ε に合わせて長さ方向に eε 倍,幅方向に e−ε/2 倍に変形し, 塑性ひずみとともに ±45° 付近のすべり線が密になります.くびれのあとは介在物のまわりでボイドが育ち,つながってちぎれます(§1.5). アルミナ(粒径 5 μm)と Y-TZP(0.4 μm.この倍率では粒は細かい模様にしか見えません)では粒は変形せず,表面から深さ a = (KIC/1.12σf)2/π のき裂と気孔が描かれ,破断の瞬間にき裂が横切ります. ガラスは非晶質なので粒はなく,き裂だけです.

下の段は公称応力–公称ひずみ曲線で,いまの点までの経路を太く描きます. 「真応力–真ひずみと加工硬化率(Considère の条件)も表示」をチェックすると,真応力–真ひずみ(破線)と加工硬化率 dσt/dεt(緑)が加わり, 2 つの曲線の交点(式 (7),緑の点)と荷重最高点(赤の点)は同じ状態です.ただし横軸は 1 本なので,緑の点は真ひずみ εt = n,赤の点は公称ひずみ eu = en − 1 の位置に描かれ,少しずれて見えます(鋼では n = 16.6 % に対して eu = 18 %). 金属では弾性域(0 から降伏ひずみの 3 倍まで)を拡大した小さな図も付きます.破断のあとは応力が縦の線で 0 に落ちます.

操作.材料(構造用鋼,アルミニウム合金,アルミナ,Y-TZP,ソーダ石灰ガラス),公称ひずみのスライダー(右端で破断.金属ではスライダーの最初の 15 % を降伏ひずみの 2 倍までに割り当てて弾性域を見やすくしている), 「引張試験を再生」(金属 8 秒,セラミックス 3.5 秒で破断まで進み,短い破断のアニメーションが続く),真応力の表示のチェックです.

読み取り値.段階(弾性/塑性(一様伸び)/くびれ/破断),公称ひずみ,公称応力,真ひずみと真応力(くびれの中央の断面),荷重 F,伸び ΔL,ここまでと破断までの吸収エネルギー(J). 標点間の体積が 50 mm × 20 mm2 = 1.0×10−6 m3 なので,J の値はそのまま MJ m−3 の値です. 金属では加工硬化指数 n,強度係数 K,降伏応力と引張強さ,くびれの a/R,くびれ中央の σzz の中心と縁の値,破断時の断面減少率, セラミックスでは E,σf,破断ひずみ,き裂の深さ a が出ます.

表 A2 ① のモデルで得られる主な値材料定数は表 1 と A.9 の目安による.断面減少率と破断時の公称応力はモデルの出力で,実測値ではない.
材料荷重最高点破断ひずみ破断までの吸収エネルギーその他
構造用鋼400 MPa(e = 18 %)26 %94.4 MJ m−3n = 0.166,K = 636 MPa,断面減少率 55 %,破断時 277 MPa
アルミニウム合金310 MPa(e = 8 %)12 %34.7 MJ m−3n = 0.077,K = 408 MPa,断面減少率 36 %,破断時 245 MPa
アルミナ―0.092 %0.161 MJ m−3き裂の深さ 25 μm
Y-TZP―0.476 %2.38 MJ m−3き裂の深さ 16 μm
ソーダ石灰ガラス―0.071 %0.0179 MJ m−3き裂の深さ 57 μm

Y-TZP は E が小さく(210 GPa)強度が高い(1000 MPa)ので,破断ひずみ σf/E が 0.48 % と,セラミックスとしては例外的に大きなひずみまで耐えます(アルミナの約 5 倍).

構造用鋼はアルミナの約 590 倍のエネルギーを吸収します.強度そのものはアルミナのほうが高いことに注意してください(§1.5). 金属が伸び,セラミックスが弾性変形のまま割れる理由は §1 と §6.6 に,セラミックスが圧縮には強いことは §1 の誤解 1 にあります.

A.3 ② Griffith ― き裂が強度を決める

何が見えるか(上の図).楕円孔(長径 2a,短径 2b)をもつ無限に広い板の応力のカラーマップが 2 枚並びます(図の幅が 600 px 未満では上下に並ぶ). 左は孔のまわり(横幅 ±2.3a)で,孔の中は灰色,板の縁の黒い矢印が引っ張る向きです. 青い点線の枠が右の拡大図の範囲で,右は右側の先端の拡大(半幅は min(a, max(5ρ, 0.08a)).ρ を単位とする縮尺の棒つき)です. 色は σ/σ∞ で,引張が赤,0 が白,圧縮が青,色の範囲を超えた値は最も濃い色になります(帯の端に「≥ 上限」と表示). 灰色の短い線は各点の σ1 の向き(σ1 < 0 の所は薄く,2 つの主応力が等しく向きが決まらない所は省略), 緑の矢印は縁で σ1 が最大になる点から出る,き裂が伸びる向き(§3.4)です.

操作.b/a(対数目盛で約 0.02–1,既定 0.25),荷重の向き(上下,左右,等二軸),表示する量(最大主応力 σ1,σyy,σxx), 色の上限(対数目盛で 2–100,既定 5)と「上限を最大値に合わせる」,σ1 の向きの線の表示です. 読み取り値は,a と b(a は下のエネルギー収支のき裂の半長),先端の曲率半径 ρ = b2/a,応力集中係数 1 + 2a/b, 荷重の向きごとの縁の最大・最小の応力とその場所です(表 2 の値). ρ を原子間距離 a0 = 0.2 nm にとれば,集中係数 1 + 2√(a/a0) が §3.1 と下の図の Inglis の見積もりになります.

何が見えるか(下の 2 つの図).エネルギー収支の部分は,Young 率 E(50–500 GPa),表面エネルギー γs(0.2–5 J m−2),き裂の半長 a(対数目盛で 1 nm–1 mm),応力 σ(10–1000 MPa)を変えられます. 既定値はアルミナ相当(380 GPa,1.0 J m−2,10 μm,100 MPa)で,原子間距離は a0 = 0.2 nm に固定です. 1 つ目の図は全エネルギー U(a)(式 (32),板厚 1 m あたり)と,その成分 +4γsa(緑)と −πσ2a2/E(紫)で,横軸は ac の 2.5 倍まで,縦軸の単位は自動で切り替わります. 2 つ目の図は強度 σf と a の両対数グラフで,Griffith の式 (35) が傾き −1/2 の直線,赤の水平線が理論強度,青緑の破線が Inglis の見積もりです. a ≫ a0 では Inglis と Griffith の比は 2√(2/π) ≈ 1.60 に近づきます(§3 の誤解 3). 読み取り値の「σth/σf」は,理論強度に比べてこのき裂で強度が何分の 1 になったかを表します. 式はすべて平面応力で,平面ひずみでは E を E/(1 − ν2) に置き換えます(ν = 0.22 なら σf は 2.5 % 大きくなるだけ).

モデルと近似.応力の場は §3.2 の式 (20)–(23) による線形弾性の厳密解で,無限に広い 2 次元の板を仮定しています. 塑性,粒,先端の原子の結合の非線形性は入っていません.細長い孔では左の図の画素が先端の急な変化を解像しきれないので,先端は右の拡大図で見てください. ガラスの破片の形の考察は §3.5 にあります.

A.4 ③ 破壊靱性 ― 許容できるき裂の大きさ

何が見えるか(上の図:試験片のスケール).左は幅 50 mm の板全体で,上下の矢印が引張,色は遠方の応力です.青い枠が右の拡大の範囲です. 右は縁き裂(表面からの深さ a)の先端のまわりの σyy で,−2σref から +2σref を青–白–赤で塗ります(σref はセラミックスで σf,金属で σy). 拡大の幅はいつも 2.6a です.金属では塑性域の中の応力を σy で頭打ちにし(弾完全塑性の目安),応力集中が平らになる様子を見せます. 図には,き裂と a の寸法線,Irwin の塑性域(先端から rp 先を中心とする直径 2rp の破線の円.セラミックスでは「塑性域はほぼ 0」), 許容き裂 ac の位置(緑の破線),状態(安全/割れた(へき開)/塑性域で鈍化/全面降伏)が描かれます. KI ≥ KIC になるとき裂が 0.7 秒で走り,板が 2 つに分かれて応力が抜けます.

何が見えるか(下の図:原子のスケール,模式図).三角格子の原子を式 (46) の変位で動かし,結合の伸びで色を付けています(伸び 赤,縮み 青.ガラスと石英ガラスは格子をずらして非晶質に見せる). セラミックスでは KI/KIC とともに先端の結合が伸び,KIC に達すると結合が 1 本ずつ切れて,先端は鋭いまま進みます. Y-TZP では変態域(式 (52) の形)の原子が橙色になり,き裂の後ろに帯として残ります. 金属では K が放出の条件 Ke を超えると,±60° の 2 つのすべり面に ⊥ 印の転位が対で出てすべり面に沿って逃げ,先端に段ができて丸まります. 図の下の目盛は対数の G 軸(0.01–100 J m−2)で,2γs(結合が切れる)と Ge(転位が出る)の位置と,いまの先端の G を示します(§6.5,表 4). この図は分子動力学の計算ではなく,転位の数・速さ・芯の形は見せるための約束です.

操作.材料(表 1 の 8 種),応力 σ(対数目盛で 1–1000 MPa),き裂の長さ a(対数目盛で 1 μm–5 mm), 「▶ 荷重を上げていく」(σ を 1 MPa から 7 秒かけて上げる.もう一度押すと止まる)です.Y は 1.12(縁き裂)に固定です. 既定値(アルミナ,a = 50 μm)では 249 MPa で割れます.

読み取り値.KI,KIC,KI/KIC,許容き裂 ac,σy(セラミックスは H/3 の目安),塑性域 rp と rp/a,状態, Rice–Thomson の欄に 2γs,Ge ≈ 7.1γus と判定,金属ではさらに放出の始まる Ke と先端の開き δ = KI2/(Eσy)(と,それに相当する転位の対の数 δ/(√3 b))が出ます. その下の K–a の両対数グラフでは,いまの σ の KI = Yσ√(πa)(傾き 1/2)と各材料の KIC の水平線の交点が ac で,いまの a に点が付きます. 表(KIC,σy,ac,K = KIC での rp,先端で起きること)の行をクリックすると材料が切り替わります.

本文から外した説明.G = K2/E(平面ひずみでは (1 − ν2)K2/E)は式 (40),γeff は式 (42) と表 3 にあります. KIC は本来は平面ひずみの値ですが,表 3 では平面応力の式で Gc に換算しているので,表 1 のセラミックスでは Gc が約 3–10 % 大きめです. 表面の半円形のき裂の Y ≈ 0.71 は §5.1 にあります.ac は KIC2 に比例するので,靱性が 2 倍なら許容できるき裂は 4 倍です.

A.5 ④ Weibull ― 強度はばらつく

何が見えるか.(a) 試験片の棚:N 本の棒が並び,それぞれの大きい順 6 個のき裂が縁から入る短い線(長さは誇張),小さなき裂が点(10 個まで)で描かれます. 次に試験する棒は青い枠,試験中の棒の場所は点線の空き,壊れた棒はいちばん大きいき裂の位置で 2 つに分かれて起点に赤い点が付き,強度に応じた色(色の帯つき)で塗られます. (b) 試験機:つかみと赤い矢印の間の試験片が公称応力の色で塗られ,応力が 0 から強度まで上がると,赤いき裂が起点から横切り,2 つに分かれます. き裂の先端の丸の大きさと色は KI/KIC を表し,右の 6 本の棒に大きい順のき裂の深さ a と KI/KIC が出ます. 破壊の瞬間には最大のき裂だけが 1.000 に達し,ほかは 0.9 や 0.8 にとどまる ―― 最弱リンク(§7.1)がそのまま見えます. (c) ヒストグラム:壊した試験片が 1 本ずつ積み上がり(最新の 1 本は赤),赤い実線が壊した本数に合わせた理論の期待本数(式 (70)),薄い破線が N 本すべてを壊したときの期待本数です. 軸は最初から N 本ぶんに固定してあるので,積み上がる様子が見えます. (d) Weibull プロット:壊した試験片ごとに点が増え(Fi = (i − 0.5)/n を毎回計算し直す),3 本目から最小二乗の直線,理論の直線(赤の破線)は常に表示されます.

操作.「1 本壊す」「10 本壊す」「残りを全部壊す」,「新しい試験片を用意する」(シードを 1 つ進めて最初から),「シードを最初(20261119)に戻す」, アニメーションの速さ(ゆっくり 2.6 秒/ふつう 1.3 秒/速い 0.52 秒/一瞬.待ちが 2 本以上なら 1 本あたり 1/2.5,30 本以上なら 1/10 に短縮). き裂の分布のスライダーは,指数 k(1–15),最小のき裂 amin(1–20 μm.σ* がラベルに出る),平均のき裂数 λV(対数目盛で 10–3000 個),試験片の数 N(10–200 本)で, 動かすと同じシードのまま最初からやり直します.KIC = 3.5 MPa m1/2,Y = 1.12(アルミナ程度)は固定です.

読み取り値.壊した本数 n/N,平均強度,最弱と最強,m と σ0 の推定値,理論の m = 2k,σ0,平均 σ0Γ(1 + 1/m),σ*,き裂の総数. 既定値(k = 5,amin = 5 μm,λV = 300,N = 100)では,理論が m = 10,σ* = 788.5 MPa,σ0 = 445.7 MPa,平均 424.1 MPa,変動係数 12.0 %, 100 本すべてを壊すと推定 m = 9.34,σ0 = 446.9 MPa,平均 423.9 MPa,範囲 288.8–509.6 MPa,き裂の総数 30281 個です. 画面の式 Ps = exp[−(σ/σ0)m] は,§7.2 の式 (60) exp[−λV(σ/σ*)2k] を式 (61) で書き直したものです. 本数と推定の幅(表 5),破壊確率 10−6 の設計応力(m = 10 で σ0 の 0.251 倍,m = 20 で 0.501 倍.§8.4),ヒストグラムの近づき方と点のばらつき(§8.5)は本文にあります.

模式図の部分.棚と試験機のき裂の長さは,最大き裂の中央値 amin(λV/ln 2)1/k で割った縮尺(1.5 倍で頭打ち)で,位置(長さ方向,左右どちらの縁か)は物理的な意味のない乱数です. 強度の計算そのものは描き方と独立で,同じシードでは §8.2 の図 3 と同じ強度になります. 実際の欠陥(気孔,介在物,加工傷,粗大粒)は理想的な Pareto 分布ではなく,最小二乗による m の推定は本数が少ないと偏ります(規格では最尤法.§8.3).

A.6 ⑤ 体積効果と試験法

何が見えるか.上から順に 4 つの図があります. 模式図 1(体積効果):小さい試験片 V1 と大きい試験片 V2 が面積を体積に比例させて並び,同じ密度のき裂(V1 に平均 8 個)が §7.2 と同じ分布の大きさで描かれ,いちばん大きいき裂に赤い丸が付きます. V2 が描ききれない大きさになると中央を省略し(「中央を省略」の表示),省略した部分のき裂の数と最大のき裂も確率に従って選んでいます. 図の中の文は V1,V2,σ1,σ2 の意味(§9.5)と,いまの m と V2/V1 での σ2/σ1 です. 強度比のグラフ:両対数で,横軸 V2/V1(1–106),縦軸 σ2/σ1,傾き −1/m の直線です. 模式図 2(試験法):引張(ダンベル形),3 点曲げ,4 点曲げ(内側の間隔 = 外側の支点間の 1/2)の 3 段で,σ/σmax を青(圧縮)–白–赤(引張)で塗り, σ ≥ 0.9σmax の部分を黒い縁の黄色で示します.各段に,その体積の割合(式 (84)),Veff/V(式 (79)),引張を 1 とした強度の比(式 (80))が出ます. m = 10 では,引張 100 %,1,×1.000,3 点曲げ 0.26 %,1/242,×1.731,4 点曲げ 2.6 %,1/40.3,×1.447 です. 曲げの黄色い帯は厚さの 5 % しかないので線のように見えますが,誇張はしていません. 引張試験片のつかみ部は σ/σmax = 平行部の幅/つかみ部の幅 = 0.6 とした 1 次元の見方で,肩の応力集中は入れていません. モンテカルロの Weibull プロット:④と同じモデル(k = m/2,amin = 5 μm)で λV1 = 300 個と λV2 = 3000 個の試験片を 200 本ずつ壊した点と理論の直線, F = 50 % の破線と,理論の中央値 σ1,σ2 の縦線です.σ1,σ2 が「50 % が壊れる応力」であることが読み取れます. 体積 V2 の点(橙)は V1 の点(青)と平行なまま左へずれて並びます.傾き m は体積によらず,強度の目盛が 10−1/m 倍に縮むだけだからです(式 (73)).

操作と読み取り値.Weibull 係数 m(4–30),体積の比 V2/V1(対数目盛で 1–106),「同じ条件でもう一度試験する」(シードを進め,模式図 1 のき裂もモンテカルロも引き直す)です. 読み取り値には,式 (73) の強度比,各試験法の Veff と強度比,モンテカルロの中央値の比と理論の比が並びます. モンテカルロの比は 200 本の標本のばらつきのぶんだけ理論からずれ,「もう一度試験する」を押すたびに少し変わります. 曲げ強度をそのまま設計に使わず,有効体積の比で換算すること(§9 の誤解 8)がこのタブの結論です. JIS R 1601 の 1/3 の配置の有効体積は §9.6 にあります.

A.7 ⑥ Vickers 硬さ(ビッカース硬さ)

このタブで見ること.試験機でダイヤモンドの正四角錐(対面角 136°)を試料に押し付け,荷重を取り去ったあとに残る圧痕の対角線 d1,d2 を自分で測り,d = (d1 + d2)/2 から HV = 0.1891F/d2(F [N],d [mm].式 (97))を計算し,最後に自動測定で答え合わせをする ―― Vickers 硬さ試験の手順そのものを動かして見ます(§12.1–§12.3). 同じ試験力でも,柔らかい金属には大きな圧痕が,硬いセラミックスには小さな圧痕が残ります. セラミックスとガラスでは,試験力が大きいと圧痕の隅からき裂が伸び,その長さは荷重の 2/3 乗で圧痕より速く伸びます(§12.5,式 (107)). き裂の長さから靱性を見積もる IF 法は,硬さの測定とは別の「補足」の折りたたみに分けてあり,その限界(§12.6)とあわせて発展の話題です. 硬さが引張強さ・破壊強度・破壊靱性とは別の量であること(§12.1 の表)も,画面の下の囲みに書いてあります.

画面の並び.上の段の左が試験機の全体図,右が圧子の先の断面の拡大,中の段の左が顕微鏡で上から見た像,右が測定と計算の欄です. その下に荷重–時間のグラフ,凡例,ひとこと,読み取り値,補足(IF 法),測定の記録,材料の比較(折りたたみ.初めは閉じている),硬さと強さの違いの囲みが続きます. 画面の幅が狭いときは 1 列に並び,全体図と断面図のすぐ下に「押し込む(再生)」のボタンが出ます(操作欄のボタンと同じ働き).

何が見えるか(試験機の全体図).側面から見た模式図で,縮尺は正確ではありません. 台,柱とアーム,アームの中のおもり(試験力をかける機構),おもりの力を伝える軸,回転台(ターレット)に付いた圧子と対物レンズ,試料,試料台と昇降ねじ(ハンドル)を描きます.試料の色は材料の区分ごとに変えます. 試験前は圧子が試料の上に離れていて,押し込み(負荷)で圧子が下がって試料に触れ,少し沈み込みます(3 px 以内に誇張した動き).試験力の赤い矢印 F は負荷とともに太くなり,除荷で細くなって圧子が離れます. 試験が終わると回転台を回して対物レンズを試料の真上に置いた状態(観察)になり,圧子は横に退きます. 押し込みの間は圧子の先に青い点線の枠を描き,その中を拡大したのが右の断面図であることを下の説明に書きます. いちばん下の帯の 4 つ(押し込み,保持,除荷,測定)のうち,いまの段階が紺色になります(圧子を近づける間は「押し込み」). 実際の試験機には,おもりとてこで試験力をかける型と,荷重センサーで制御する型があり,この図は前者を単純にした模式です.

何が見えるか(圧子の先の断面の拡大).試料を透かして描いた模式図です. 荷重の赤い矢印と試験力 F(負荷とともに矢印が太くなる.最大荷重での太さはどの試験力でも同じ),136° の圧子,圧痕とその深さ,圧痕の下の塑性域(橙の半円,破線の縁),き裂(赤)が描かれ,左下に縮尺の棒,右下に画面上の倍率の目安(1 CSS px = 0.2646 mm として計算)が付きます. 深さのラベルは負荷中と保持中は「深さ h」,除荷中は「深さ(戻る)」,試験後は「残留深さ hr」で,数値は答え合わせのあとだけ付けます(h ≈ d/7 なので,先に数値を出すと d が分かってしまうため). 圧痕は面の中央を通る断面(図 5 (a))の形で,表面での幅は正方形の一辺 s = d/√2 です. き裂は対角線を含む面にあるので,この向きから透かすと横幅が 1/√2 に縮んだ半楕円に見えます. 縮尺は,最大の試験力での圧痕・塑性域・き裂が収まるように材料と試験力ごとに決め,再生中は変えません. 隠すのは数値だけで,縮尺の棒や顕微鏡像の目盛と見比べれば,測る前でも d のおよその大きさは図から分かります.d と HV の数値は,自分で線を合わせて測って確かめます. 答えを隠すのは⑥の画面の中だけです.この解説の表 A3・表 A4 には全材料の HV とモデルの d・c が並び,③の表の σy ≈ H/3 からも H が分かります.§12.7・§12.8 の本文にも⑥で使う硬さの値が並んでいて,この解説ページには答えが載っています.表 A3・表 A4 は答え合わせのあとに見る値として使ってください(本文と画面の書き方の例には,どの材料の値でもない「640 HV 30」「12.5 GPa HV 9.807 N」を使っています). 見出しの下に,段階(試験前,圧子を近づける,負荷中,保持中(10 倍の早送り),除荷中,除荷後(圧子が離れる),試験後)と試験の時刻 t が出ます.

再生すると,負荷中は圧子が沈み込み,塑性域が広がります.ハーフペニー型(c/a ≥ 2.5)では,荷重が Fon を超え,き裂が図の塑性域より十分長くなったところで,塑性域の下にメディアンき裂が円板として現れて下向きに育ち,表面のき裂はまだ見えません(下の「き裂の育ち方」).それより前の荷重では,き裂は見えません. 保持中は変化しません.除荷中は深さが弾性の分だけ浅くなり,残留応力でき裂が表面に広がって,断面ではメディアンき裂が表面につながったハーフペニー形(図 5 (c))になります. 「負荷中はき裂が主に下向きに伸び,表面のき裂は除荷の間に広がる」という順序はソーダ石灰ガラスの観察(Lawn と Marshall,1984.§12.5)に合わせたもので,き裂の形と伸びる速さは模式です. き裂が短い場合(1 < c/a < 2.5)は,除荷中に角の外側に浅い半楕円のき裂が広がります(Palmqvist き裂のつもりの模式).

何が見えるか(顕微鏡で上から見た像).正方形の視野に,4 つの面を左上からの光で塗り分けた圧痕(深さが戻って浅くなるほど淡く描く)と,隅から対角線の延長上に伸びるき裂(赤い線)が見えます. 試験中(接近,負荷,保持,除荷)は,見出しが「試験中:圧子の下を透かした模式」に変わります(圧子に隠れて実際には見えない圧痕を,透かして描いた模式). 視野の幅は 20,30,50,100,200,300,500,1000,2000,3000,5000 μm のうち,max(d, 2c) の 1.3 倍が入る最小のものです(「き裂を表示」を外すか,「圧痕に合わせて拡大」をオンにすると d だけで決める.拡大したときは,き裂は視野の外で切れる.ただし補足を開いている間は,き裂を測れるように拡大しない). 上の縁に目盛があり,1 目盛は視野の幅の 1/50 を 1,2,2.5,5 の系列に丸めた値です(視野 20 μm で 0.5 μm,30・50 μm で 1 μm,100 μm で 2 μm,200 μm で 5 μm,300・500 μm で 10 μm,1000 μm で 20 μm,2000 μm で 50 μm,3000・5000 μm で 100 μm).5 目盛ごとに長い線です. 左下に縮尺の棒,右下に「視野 ○ μm / 1 目盛 ○ μm」が出ます. 測定線は縦の 2 本(青緑.d1 を測る)と横の 2 本(紫.d2 を測る)で,ドラッグして圧痕の角に合わせると,d1 = |x2 − x1|,d2 = |y2 − y1| が図の中に出ます(d2 の数値は上の横線のすぐ上の右端に置き,横のき裂の先端を隠さないようにしています). 線の位置は 0.1 μm に丸め,線に触れたとみなす幅はマウスで 8 px,タッチで 16 px です.線に触れてドラッグするときだけページのスクロールを止めます. 最初と,材料や試験力を変えたとき,新しく押し込むときは,4 本の線は視野の幅の ±0.45 倍の位置にあり,「未測定」です. 視野の幅が変わったときは,まだ測っていなければ線をこの位置に戻し,測ったあとなら線を視野の中に収めます. 「答え合わせ」を押すと,自動測定の線(圧痕の角 ±a の位置.黒の破線)と「自動 ○ μm」が重なります.学生の線は消さないので,ずれがそのまま見えます. 補足(IF 法)を開いている間は,き裂の長さを測る赤の点線 2 本(つまみは下の縁の三角で,縮尺と視野のラベルに隠れないように白い縁取りを付けて最後に描く.初めは視野の幅の ±0.40 倍)が出て,「2c = ○ μm」が表示されます.

測定と計算の欄.顕微鏡像の右(狭い画面では下)にあり,学生の測定だけから計算します. d1 / d2,その差(平均に対する割合.小数 1 桁で表示し,5 % の判定も表示と同じ丸めた値で行う),d = (d1 + d2)/2 を μm と mm で, HV = 0.1891 × F/d2 に数値を入れた式と結果(測る前は「○○○ HV 10」で,測ると ○○○ に値が入る)が並びます. そのあとの行は材料で変わります(表 8).金属は ISO 6507-1(題名は Metallic materials)に従い,差は「5 % を超えたら報告に書く」,GPa 換算(HV × 0.009807),d が 20–1400 μm に入るかを示します. 焼結体(アルミナ,Y-TZP,SiC,Si3N4)はファインセラミックスの JIS R 1610 に従い,差は「5 % 以上の圧痕は除く」,望ましい書き方「12.5 GPa HV 9.807 N」の形(GPa を有効数字 3 桁,試験力を N で.測る前は「○○○ GPa HV 98.07 N(3 桁)」),試験力が 4.903–98.07 N(推奨 9.807 N)に入るかを示します. ガラスはどちらの規格の対象でもないので,このページでは JIS R 1610 の条件を借りて同じように示します(読み取り値の「試験の区分」にもそう書く). 最後に, d を ±1 目盛読み違えたときの HV の変化と,±1 μm 読み違えたときの変化(HV ∝ d−2 なので,(d/(d ± δ))2 − 1.長く読むと HV は下がる)が並びます. その下の「答え合わせ(自動測定)」の 3 行(自動測定の d,自動測定の硬さ(セラミックスとガラスは「○○○ HV 10(○○○ GPa HV 98.07 N)」,金属は「○○○ HV 10(○.○ GPa)」の形),あなたの値との差)は,「答え合わせ」を押すまで表示しません. 答え合わせは試験が終わってからだけ使えます(前に押すと,ひとことに注意が出る).答え合わせのあとに線を動かすと,この欄の差は更新されますが,記録の行は答え合わせの時点の値のままです. 欄の下にも「答え合わせ(自動測定を重ねる)」のボタンがあります(操作欄の「答え合わせ」と同じ働き).

何が見えるか(荷重–時間のグラフ).横軸は試験の時間 0–25 s で,押し込み(負荷)5 s(青の帯),保持 15 s(緑の帯),除荷 3 s(赤の帯)の予定を灰色の破線で,ここまでの経過を赤の実線で描きます.再生中はいまの時刻に縦の点線が付きます.縦軸は F(N),見出しは「試験力 F = 98.07 N = 10 kgf」の形です.

読み取り値.見出しは材料名と区分,行は試験力 F(N と kgf),試験の区分(金属は ISO 6507-1 の区分で,F ≥ 49.03 N で「ビッカース硬さ試験」,1.961 N 以上で「低試験力ビッカース硬さ試験」,それ未満で「マイクロビッカース硬さ試験」.焼結体は「JIS R 1610(ファインセラミックス)」,ガラスは「ISO 6507-1,JIS R 1610 とも対象外(JIS R 1610 の条件で見る)」で,試験力が 4.903–98.07 N の外なら「試験力が範囲外」を付けて強調.表 8), 最大荷重での深さ h ≈ d/7(答え合わせの前は測った d から「約」を付けて,あとはモデルの値),き裂(試験後)(あり/短い/なし),欠けやすい試験力では「横き裂による欠け(チッピング)」です. HV は有効数字 3 桁(1000 以上は 10 の位に丸める)で,d と 2c は有効数字 4 桁(末尾の 0 も残す.例 250.0 μm)で表示します.

補足(IF 法).折りたたみの中に,考え方の説明,Quinn(NIST)と Bradt(2007)の結論の要旨(破壊試験として信頼できず,KIC の試験として認めるべきではない)と,使うとしても比較や品質管理の目安にとどめるという本ページの立場(画面にも「NIST の要旨の言葉ではない」と書き分ける),式 (105) のカード,見積もりの表があります. 表は,き裂の長さ 2c,c と c/a(a は測った d の半分.2.5 未満なら「JIS R 1607 の条件外」.本文には,Anstis らの条件は c ≥ 2a,JIS R 1607 は c/a ≥ 2.5 で,ここでは 2.5 で判定すると書き分けている),測った d と c を入れた IF 法の Kc(式 (105),ξ = 0.016)と KC(式 (106),JIS R 1607),脆性指数 HV/KIC(式 (109).表 1 の KIC と表 A3 の HV で計算.答え合わせのあと)です. K の行は,試験が終わり,き裂が見えていて,d と c の両方を測り,c > a のときだけ値が出ます(そうでなければ「試験のあと」「先に d を測る」「c を測る」などの案内).金属では「き裂なし(使えない)」と出ます. 以前の版にあった「真の d と,KIC から計算した c を入れた Kc」と「表の KIC(参考)」は,一致が当然の循環した値なので表示をやめました.

測定の記録.「答え合わせ」を押すと,材料 / 区分,試験力,d1 / d2,あなたの値,自動測定,差(2 % 未満を緑)が 1 行残ります(新しい順,1 つの試験につき 1 行,最大 8 行). あなたの値と差は答え合わせを押した時点の測定で固定し,あとから線を動かしたり答え合わせを押し直したりしても書き換えません(答えを見てから線を黒の破線に重ねると差が 0 になり,答えを見る前の測定が消えてしまうため). 答えを見たあとに測り直した値が元と違うときは,「答えを見たあと ○○○ HV 10」として同じ行に小さく添えます.行を作るのは「答え合わせ」だけで,線のドラッグは既にある行にこの添え書きを付けるだけです. d1 と d2 の差が大きい測定(セラミックスとガラスは 5 % 以上,金属は 5 % を超える)で答え合わせをした行には,「d₁ と d₂ の差 ○.○ %(JIS R 1610 では除く)」(金属は「ISO 6507-1 では報告に書く」)を赤で添えます. 材料や試験力を変えても記録は残り,「記録を消す」で消えます(材料の比較の図の表示もはじめに戻る).消したあと,同じ試験で答え合わせを押し直したり線を動かしたりしても行は作りません(答えを見たあとの測定が「あなたの値」として残らないように.次の試験から記録する).ページを読み込み直すと消えます. 表の説明(値を固定すること,試験力と差の関係,緑の意味)は表の下に書きます.幅が 560 px 以下の画面では,試験力を材料の欄に,d1 / d2 をあなたの値の欄に小さく入れて 4 列にし,横にスクロールしなくても差と自動測定が見えるようにします.

何が見えるか(材料の比較).折りたたみの中にあり,初めは閉じています(狭い画面でページが長くなりすぎないように).開くと,いまの試験力で 8 つの材料を押したときの試験後の圧痕(とき裂)を並べます(図の幅が 560 px 未満では 4 列 × 2 段). 答え合わせをした材料だけ圧痕と値を出し,まだの材料はマスに「?」だけを出します(ページを開いたときは 8 つとも「?」). このモデルは押し込みサイズ効果を入れていないので HV は試験力によらず,ほかの材料の値を先に見せると,その材料を選んだときの答えが分かってしまうためです. 値を出した材料は硬さの高い順に,隠した材料はそのあとに元の順で並べます(並び順から硬さの範囲が分からないように).いま選んでいる材料は,前に答え合わせをしていても,いまの試験の答え合わせまで隠します. 圧痕はすべて同じ縮尺で,縮尺は材料によらない基準の硬さ 0.8 GPa の圧痕がマスに収まるように決めます(隠した材料の大きさが縮尺から分からないように).長いき裂はマスの縁で切れます. マスの地の色は材料の区分(酸化物焼結体,非酸化物焼結体,ガラス,金属.いちばん下に色見本)で,マスの下に材料名,区分,「○○○ HV 10」の形の硬さ,d が出ます. 選んでいる材料は紺の枠で囲みます. その下は硬さの GPa 換算(HV × 0.009807,横軸 0–25)の横棒グラフで,棒は灰色,選んでいる材料だけ紺で,「○○.○ GPa(○○○ HV 10)」の形の数値が付きます(隠した材料は棒を描かず「?(答え合わせで表示)」). 式 (99) の d ∝ HV−1/2 のとおり,同じ試験力で鋼や Al 合金の圧痕は SiC の 4–5 倍,アルミナの 3.5–4 倍の大きさです.

操作.材料(表 1 の 8 種.選択肢に区分が付く.既定はアルミナ)と,その下の区分の表示,試験力のスライダー(0.1,0.2,0.3,0.5,1,2,3,5,10,20,30,50 kgf の 12 段.既定は 10 kgf), 「押し込む(再生)」(再生中は「一時停止」,止めると「続きを再生」.新しく押し込むときは測定線と答え合わせを戻す),「リセット」(圧子が上にある試験前の状態に戻し,測定線と答え合わせを戻す), 「答え合わせ」,「測定線を戻す」,「き裂を表示」と「圧痕に合わせて拡大」のチェックです. スライダーのラベルは「試験力 F = 98.07 N(10 kgf)」の形で,F は kgf の数値 × 9.80665 N を 4 桁で表示した値(ISO 6507-1 の試験力と同じ数値)です.その下に「この試験力で測った硬さは『○○○ HV 10』と書く」という案内が出ます(セラミックスとガラスでは,JIS R 1610 の望ましい書き方「○○○ GPa HV 98.07 N」(○○○ は有効数字 3 桁の値)と試験力の範囲も添え,範囲の外なら強調). 操作欄の数式のカードの書き方の例(640 HV 30,12.5 GPa HV 9.807 N)は,どの材料の値でもない数にしてあります(例から答えが分からないように). 材料や試験力を変えると,再生を止めて試験前の状態に戻し,測定線と答え合わせを戻します(ページを開いたときも試験前です). 再生は,接近 1 s(グラフには出さない),負荷 5 s,保持 15 s,除荷 3 s,圧子が離れる 2 s の試験の時間を,それぞれ 2 倍,2 倍,10 倍,1.5 倍,3 倍の速さで進めるので,全体で約 7 秒です.

ひとこと.段階ごとに書き換わります(接近中は「圧子を近づけています」).試験後は 2 文までで,1 文目は,測る前は測定の案内,測ったあとは「あなたの測定:○○○ HV 10」,答え合わせのあとは自動測定の値とあなたの値との差です. 2 文目は,欠けの注意,セラミックスとガラスで試験力が JIS R 1610 の 4.903–98.07 N の外にあるときの注意,金属で d が ISO 6507-1 の 20–1400 μm の範囲外のときの注意(20 μm 未満と 1400 μm 超で文を分ける.答え合わせの前は測った d で判定),石英ガラスの注記のうち当てはまる最初の 1 つで,どれも当てはまらないときだけき裂の様子を書きます. ただし,測った d1 と d2 の差が大きいとき(セラミックスとガラスは 5 % 以上,金属は 5 % を超えるとき.表示と同じ小数 1 桁の値で判定)は,答え合わせの前はその注意だけを出し,答え合わせのあとは 1 文目の答え合わせの結果に続けて 2 文目にその注意を出します(ほかの注意より優先).セラミックスとガラスでは「JIS R 1610 ではこの圧痕は除く」,金属では「ISO 6507-1 では報告に書く」と書き分けます.

測ってみると分かること.HV は d の −2 乗に比例するので,平均の d を 1 % 長く読むと HV は約 2 % 低くなります. d ≈ 100 μm の圧痕では,d を 1 μm 読み違えても HV は約 2 % しか変わりませんが,d ≈ 10 μm の圧痕(硬いセラミックスを 0.1 kgf で押したときの大きさ)では同じ 1 μm で −17 %〜+23 % も変わります.低い試験力の小さな圧痕が測りにくく,規格が d ≥ 20 μm を対象にしている(表 8)理由が実感できます. 目盛で読むときの誤差も同じ考え方で,d ≈ 100 μm の圧痕を視野 500 μm(1 目盛 10 μm)で読むと ±1 目盛で −17 %〜+23 % ですが,「圧痕に合わせて拡大」で視野 200 μm(1 目盛 5 μm)にすると −9 %〜+11 % に縮みます(数値は⑥の画面の「読み違えると」の行で確かめられる). 補足で c を測ると IF 法の値が出ますが,このシミュレーターの c は式 (105) で表 1 の KIC から決めているので,正確に測ると表の値に戻るだけです(画面にも注記). 画面で見える違いは,d と c の測り違い(Kc ∝ d c−3/2)と,式 (106) が同じ測定値から 1.17 倍の値を出すことだけで,IF 法そのものの精度(§12.6)を確かめる実験にはなりません.

表 A3 ⑥ の材料の値とき裂を描く試験力⑥の答えを含むので,答え合わせのあとに見る.E と KIC は表 1,HV は③と共通の教材用の目安(下の「材料の値」).HV = HV/0.009807 を 3 桁に丸めた値.Fon は表示のための目安で,文献の値ではない.右の 2 列はそのき裂が出る最初の試験力の段階(Y-TZP は HV 50 でも c/a = 1.82).金属は割れない.欠けの注意はガラス 49 N 以上,炭化ケイ素 196 N 以上.
材料E (GPa)KIC (MPa m1/2)HV (GPa)HVHV/KIC (m−1/2)Fon (N)短いき裂c/a ≥ 2.5
ソーダ石灰ガラス700.755.556173001.5HV 0.2HV 1
石英ガラス730.758.0816110001.5HV 0.2HV 0.5
アルミナ3803.516163046005HV 1HV 3
炭化ケイ素4103.523235066002HV 0.3HV 2
窒化ケイ素3106.015153025005HV 1HV 50
Y-TZP2108.0121220150050HV 10―
構造用鋼210501.313326―――
Al 合金70301.010233―――
表 A4 HV 10(F = 98.07 N)で押したときのモデルの値押し込みサイズ効果なし.h は最大荷重での深さ,hf は除荷後の深さ(図のための目安).c と b/a は下の「モデルと近似」の式による.
材料d (μm)h (μm)hf/hc (μm)c/aき裂塑性域 b/a
ソーダ石灰ガラス18226.00.603724.10ハーフペニー型2.27
石英ガラス15121.50.433334.42ハーフペニー型1.92
アルミナ10715.20.731643.08ハーフペニー型3.09
炭化ケイ素88.912.70.631493.36ハーフペニー型2.68
窒化ケイ素11015.70.711091.99短い2.89
Y-TZP12317.60.6985.51.39短い2.66
構造用鋼37453.40.97――なし2.77
Al 合金42660.90.93――なし2.13

§12.5 のアルミナの例(HV = 15.2 GPa)は 98.07 N で c ≈ 170 μm,c/a ≈ 3.1 で,HV = 16 GPa の表 A4 の値(164 μm,3.08)とほぼ同じです. §12.7 の脆性指数は表 10 のメーカー値で計算しているので,アルミナ 4300,窒化ケイ素 2300 m−1/2 と,表 A3 より少し小さくなっています.

モデルと近似.すべて閉じた式で,数値計算はしていません.

模式としての限界.次のものは入れていません. 押し込みサイズ効果(§12.4),圧子の先端の丸み,粒や気孔(角が気孔にかかった圧痕),横き裂による欠けの形(注意の表示だけ),水分によるき裂の遅い成長,き裂の枝分かれ(§12.5). 石英ガラスは塑性流動より高密度化で変形し,ソーダ石灰ガラスとはき裂の出方が違うことが知られているので(Arora ら,1979),石英ガラスのき裂の長さは式 (105) の目安から外れます(画面にも注記が出ます). 倍率は画面の 1 px を 0.2646 mm とみなした目安で,実際の顕微鏡の倍率とは対応しません. 試験機の全体図は形と動きの順序だけを示す模式で,寸法,圧子の沈み込み(誇張),回転台の回し方は実際の装置と対応しません.

確認事項(先生に確認) ① 材料の区分:アルミナ,Y-TZP,炭化ケイ素,窒化ケイ素を「焼結体」とした製法(常圧焼結・加圧焼結,焼結助剤)の出典.授業で扱う試料があれば,その製法と硬さの値に合わせたい. ② 構造用鋼 1.3 GPa,Al 合金 1.0 GPa,石英ガラス 8.0 GPa,ソーダ石灰ガラス 5.5 GPa の硬さの出典(いまは一般的な目安). ③ 1 目盛の大きさ(いまは視野の 1/50)を,授業で使う顕微鏡の接眼ミクロメーターの目盛に合わせるか. ④ タブ名を「⑥ Vickers 硬さ(ビッカース硬さ)」に変えた.EDUCATION ページの案内の文言との整合.

A.8 ⑦ 熱衝撃と気孔

何が見えるか.いちばん上の図は,長い角棒の正方形の断面(一辺 L)の 2 枚のカラーマップです(幅 560 px 未満では上下に並ぶ). (a) 温度(低温の紺から青緑・緑を経て高温の黄に至る色,帯に ℃ の目盛.上面と下面の温度を表示し,側面は「断熱」). (b) 面内の最大主応力 σ1(引張 赤,圧縮 青,帯に MPa の目盛と強度 σf の印.色の範囲は 1 回の再生の間は固定). σ1 > 0.15S(S は色の範囲)の所には引張の向きの短い線が付きます.割れると,ぎざぎざの線でき裂が両方の図に描かれ,「割れた(t = …)」と表示されます(§10.5). 図の下には時刻 t と Fo = κt/L2,その下の行に L2/κ と温度がほぼ直線になる Fo ≈ 0.5 の時刻が出ます. 2 つ目の図 (c) は応力の時間変化(横軸は対数の時間)で,上面中央・下面中央・中心の σxx と,試料全体の σ1 の最大値(破線),σf の線,いまの時刻,割れた時刻の赤い点です.

操作.材料(セラミックス 6 種),はじめの温度 T0,上面 Ttop,下面 Tbottom(0–1500 ℃,10 ℃ 刻み), 3 つの設定ボタン「急冷(200 ℃ → 上下 20 ℃)」「穏やかな急冷(70 ℃ → 上下 20 ℃)」「上を加熱・下を冷却(300 ℃ → 上 800 ℃,下 20 ℃)」(押すと最初から再生), 一辺 L(5–100 mm),「再生」「リセット」と時刻のスライダーです. 時刻は 121 コマで,0 が急冷の直前,1–120 が Fo = 4×10−6 から 1 まで対数で等間隔です(再生は 1 コマ 60 ms,全体で約 7 秒). 最初の表示はアルミナ,200 ℃ → 20 ℃ の急冷の途中で,上下の表面から割れています.

読み取り値.t と Fo,上面・中心・下面の温度,いまの σ1 の最大値とその場所,上下の表面中央の σxx と同じ時刻の無限に広い板の値(式 (93) の考え方), ΔT = max|T表面 − T0|,EαΔT/(1 − ν),全時間での σ1 の最大値と σf,R,判定,割れた時刻(Fo と t)と起点,κ(目安,表 7)です. 「ひとこと」は,急冷・加熱・その両方で文面が変わります.熱応力は Fo ≈ 0.5 で温度分布が直線に近づくと,ほぼ 0 に戻ります(§10.3).

その下の図.熱衝撃抵抗 R(式 (88))の横棒グラフ(対数の横軸,温度のスライダーから決めた ΔT の破線.R < ΔT は赤,それ以外は緑), 気孔率 P(0–0.40)と経験定数 b(4–7)による Ryshkewitch–Duckworth の式 (94) の曲線(b = 4,5,7 の破線と選んだ b の赤の実線),材料の表(κ の列つき)です. 強度が半分になる気孔率は ln 2/b で,b = 5 なら 0.139(相対密度 86.1 %)です. R は表面温度が瞬時に変わる場合の値で,熱伝達が有限なら割れる温度差は R より大きくなります(§10.1 の囲み). 緻密な焼結体をつくる方法は焼結の教材で扱います: 焼結シミュレーター ⑥ 緻密化と粒成長の競争, 焼結の理論「気孔の取り残しと 2 段階焼結」.

モデルと近似.温度は 1 次元の熱伝導の厳密解,応力は平面ひずみの有限要素法(§10.4)で,表面の熱伝達は無限大(表面温度が瞬時に変わる),材料定数は温度によらないとしています. 長さ方向の応力 σz は判定に入れていません.計算の精度(上下の急冷の直後の表面で EαΔT/(1 − ν) の 0.988 倍なので ΔT ≈ 1.01R から割れる,定常の残り 0.15 % 程度)は §10.4,割れ方が模式であることは §10.5 にあります.

A.9 計算のモデルと注意

各タブがどの式をその場で計算しているかは §13 にまとめてあります.ここでは,§13 に書いていない設定と,画面の数値を読むときの注意を補います.

このページの数値は,本文中の式から計算した結果です.表 1 の材料定数は教材用の目安であり,特定の製品の実測値ではありません. 表 5 と図 3 は,§7.2 のモデルを本文と同じ擬似乱数で実際に計算した結果です. ZrO2 の t → m 変態に伴う体積変化(約 4 %)は,Ban(2021)などの総説に記された値です. §1 の一様伸びと破断伸び,表 4 の表面エネルギーと不安定積層エネルギー,§5.6 の硬さ,表 7 の熱拡散率は,シミュレーターと共通の教材用の目安です. 表 9 の SRM 2100 の値は Quinn(2006)の論文の NIST が公開している原稿の表から,表 10 のメーカー値は京セラの「硬度(ビッカース硬さ)」のページ(JIS R 1610 による値)から取りました.§12.3 の規格の要点は,規格の本文を言い換えたものです.

対になるシミュレーター:セラミックスはなぜ突然割れるのか ― Griffith と Weibull

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