第11章プラズマ振動とゼロ音波
第1章で応答関数の面白さを3つ挙げた.その2番目が「$\chi(\omega)$ の極が系の集団励起を教えてくれる」であった.本章はその約束を果たす章である.
第9章で誘電関数 $\epsilon(\qq,\omega)=1-v(q)\chi^0(\qq,\omega)$ を定義し,第10章でその中身である Lindhard 関数を計算した.そこまでは「外から電荷を持ち込んだとき電子気体がどう遮蔽するか」という受け身の話であった.ところが同じ $\epsilon$ には別の顔がある.$\epsilon(\qq,\omega)=0$ となる $(\qq,\omega)$ があれば,そこでは外場がなくても電子気体が自分だけで振動できるのである.これが集団励起であり,金属では全電子が揃って揺れるプラズマ振動(プラズモン)として現れる.その振動数は $\omega_p=\sqrt{4\pi ne^2/m}$ というただ一つの式で決まり,アルミニウムなら自由電子模型の計算値で $\hbar\omega_p\simeq15.8\ \mathrm{eV}$,EELS の実測値 $15.0\ \mathrm{eV}$ とほぼ一致する.誰でも確認できる数字である.
後半では,電荷をもたない Fermi 粒子系(液体 $^3$He)で同じ計算をやり直す.長距離の Coulomb 力の代わりに短距離斥力があると,集団モードは音波になる.これが Landau の予言したゼロ音波であり,普通の音(第一音波)とは伝わる仕組みがまるで違う.「分母がゼロ」という同じ一文から,まったく違う2つの物理が出てくるさまを見てほしい.
- 粒子‐正孔励起(個別励起)と集団励起の違い —— 連続スペクトルと1本の鋭い線
- $\epsilon(\qq,\omega)=0$ が集団モードの条件になる理由.第3章の共鳴(分母がゼロ)と同じ構造であること
- $\omega_p=\sqrt{4\pi ne^2/m}$ の2通りの導出(線形応答理論から/古典電磁気学から)とその一致
- Na, Mg, Al, Cu, Ag について $\hbar\omega_p$ を実際に数値で出し,実測値と比べる
- 分散関係 $\omega(q)=\omega_p\left(1+\frac{3}{10}\frac{q^2v_F^2}{\omega_p^2}+\cdots\right)$ の完全導出
- Landau 減衰 —— 波と同じ速さで走る電子がエネルギーを持ち去る仕組みと臨界波数 $q_c$
- EELS・表面プラズモン $\omega_s=\omega_p/\sqrt2$・金ナノ粒子の色(局在表面プラズモン共鳴)
- ゼロ音波の分散方程式 $1=\frac{F_0}{2}\left[s\ln\frac{s+1}{s-1}-2\right]$ の導出,および第一音波との違い
11.1 集団励起とは何か
絶対零度の自由電子気体の基底状態は,Fermi 球 $\abs{\kk}\le k_F$ がぎっしり詰まった状態である.ここにエネルギー $\hbar\omega$ と運動量 $\hbar\qq$ を与える方法は,大きく2種類ある.
粒子‐正孔励起(個別励起)
Fermi 球の内側の電子1個を $\kk\to\kk+\qq$ と蹴り出す.必要なエネルギーは
$$ \begin{equation} \hbar\omega=\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_{\kk}=\frac{\hbar^2}{2m}\left(2\kk\cdot\qq+q^2\right) \label{eq:11-ph} \end{equation} $$$\qq$ を固定しても $\kk$ の選び方が無数にあるから,$\hbar\omega$ は連続的な帯をとる.これを粒子‐正孔連続体という.
集団励起
特定の1個を蹴るのではなく,すべての電子がわずかずつ,互いに位相を揃えて動くモード.結びつけ役は Coulomb 相互作用である.この場合 $\qq$ を決めれば $\omega$ は1つに決まる.スペクトルは連続帯ではなく鋭い1本の線になる.
導出:粒子‐正孔連続体の上端と下端
あとで図を描くために境界を求めておく.式 \eqref{eq:11-ph} を $\hbar\omega=\frac{\hbar^2}{2m}(2kq\mu+q^2)$ と書く($\mu=\cos\theta$ は $\kk$ と $\qq$ のなす角の余弦).$\kk$ は Fermi 球の内側($k\le k_F$),$\kk+\qq$ は外側でなければならない.
上端.$k$ を最大($k=k_F$),$\mu$ を最大($\mu=1$)にとって
$$ \begin{equation} \hbar\omega_+(q)=\frac{\hbar^2}{2m}\left(2k_Fq+q^2\right)=\hbar v_F q+\frac{\hbar^2q^2}{2m} \label{eq:11-upper} \end{equation} $$ここで $v_F=\hbar k_F/m$ を使った.第1項は「Fermi 面の電子を波と同じ向きに蹴る」寄与,第2項は反跳である.
下端.$q<2k_F$ のときは,Fermi 面のすぐ内側の電子をすぐ外側へ移せるのでエネルギー差はいくらでも小さくでき,下端は $\omega=0$ である.$q>2k_F$ では,どの $\kk$ から出発しても $\abs{\kk+\qq}>k_F$ が自動的に成り立つので,$\mu=-1$, $k=k_F$ が最小を与え
$$ \begin{equation} \hbar\omega_-(q)=\frac{\hbar^2q^2}{2m}-\hbar v_F q \qquad (q>2k_F) \label{eq:11-lower} \end{equation} $$∎ 無次元化すると簡単で,$x\equiv q/k_F$,$\epsilon_F=\hbar^2k_F^2/2m$,$\hbar v_Fk_F=2\epsilon_F$ より $\hbar\omega_\pm/\epsilon_F=x^2\pm2x$ である.$x=2$ で下端が $0$ から立ち上がる.この $2k_F$ は第10章の Friedel 振動に現れたのと同じ $2k_F$ である.なお第10章では無次元波数を $x=q/2k_F$ ととったが,本章では $x=q/k_F$ である.同じ文字だが定義が2倍違うので,両章の式を並べて見るときは注意してほしい.
11.2 なぜ $\epsilon(\qq,\omega)=0$ が集団モードを与えるのか
まず第9章の RPA の要点を思い出す.電子は全ポテンシャル(外部+誘起)に応答する:$\delta n=\chi^0\phi_{\text{tot}}$.一方,誘起密度 $\delta n$ 自身が Coulomb ポテンシャル $v(q)\delta n$($v(q)=4\pi e^2/q^2$)を作る.したがって $\phi_{\text{tot}}=\phi_{\text{ext}}+v(q)\chi^0\phi_{\text{tot}}$ となり,$\phi_{\text{tot}}$ について解けば
なぜ $\epsilon=0$ が「外場なしの振動」を意味するのか
式 \eqref{eq:11-eps} を $\epsilon(\qq,\omega)\,\phi_{\text{tot}}=\phi_{\text{ext}}$ と読み替える.ここで外場を切る($\phi_{\text{ext}}=0$).ふつうなら $\phi_{\text{tot}}=0$ で何も起きない.ところが $\epsilon(\qq,\omega)=0$ となる特別な $(\qq,\omega)$ では,$0\times\phi_{\text{tot}}=0$ が $\phi_{\text{tot}}$ の値によらず成り立ってしまう.すなわち$\phi_{\text{tot}}$ が有限のまま,外場ゼロの解が存在する.
これは「誰も叩いていないのに系が自分で振動している」状態,すなわち固有モードにほかならない.同じことを $\chi=\chi^0/\epsilon$ の側から言えば,$\epsilon=0$ は応答関数 $\chi$ の極である.第1章 1.6節で予告した「応答関数の極が集団励起を教えてくれる」が,ここで具体的な形をとった.
第3章の共鳴とまったく同じ構造
第3章の強制振動子の応答関数 $\chi(\omega)=\left[m(\omega_0^2-\omega^2)+\ii\gamma\omega\right]^{-1}$ も,分母を左辺に移せば $\left[m(\omega_0^2-\omega^2)+\ii\gamma\omega\right]x(\omega)=F(\omega)$ である.摩擦のない極限 $\gamma\to0$ では分母は $\omega=\pm\omega_0$ でゼロになり,そこでは $F=0$ でも $x\neq0$ の解がある——それが自由振動である.電子気体の $\epsilon(\qq,\omega)=0$ は,この $m(\omega_0^2-\omega^2)=0$ の多体版である.
導出:減衰が弱いときの減衰率 $\Gamma_q$
$\epsilon$ は一般に複素数だから,$\epsilon=0$ の解 $\omega=\omega_q-\ii\Gamma_q/2$ も複素数になる.時間依存性は $\ee^{-\ii\omega t}=\ee^{-\ii\omega_q t}\ee^{-\Gamma_q t/2}$ である.ここで振幅が $1/\ee$ に落ちるまでの時間は $2/\Gamma_q$,強度(振幅の2乗)が $1/\ee$ に落ちるまでの時間は $1/\Gamma_q$ で,2倍違う.本章では後者を採り,$\Gamma_q$ を減衰率,$1/\Gamma_q$ を寿命と呼ぶ.このとき $\Gamma_q$ は共鳴ピークの半値全幅にあたる量である(第2章の減衰振動子と同じ構造.ただし第2章の $\Gamma=\gamma/2m$ は振幅の減衰率として定義されていたので,両者は因子2だけずれる).
$\mathrm{Im}\,\epsilon$ が小さいとする.まず実軸上で $\mathrm{Re}\,\epsilon(\qq,\omega_q)=0$ を満たす $\omega_q$ を決め,$\epsilon$ を $\omega_q$ のまわりで $\Gamma_q$ の1次まで展開する:
$$ \epsilon\!\left(\qq,\omega_q-\tfrac{\ii\Gamma_q}{2}\right) \simeq \underbrace{\mathrm{Re}\,\epsilon(\qq,\omega_q)}_{=0} +\ii\,\mathrm{Im}\,\epsilon(\qq,\omega_q) -\frac{\ii\Gamma_q}{2}\left.\frac{\partial\,\mathrm{Re}\,\epsilon}{\partial\omega}\right|_{\omega_q}=0 $$虚部どうしを比べて($\mathrm{Im}\,\epsilon$ の $\omega$ 微分は2次の小量なので落とす)
∎ 分子が $\mathrm{Im}\,\epsilon$ に比例する.したがって $\mathrm{Im}\,\epsilon=0$ の領域ではプラズモンは減衰しない.この事実が 11.5節の出発点になる.
よくある誤解:なぜ光ではプラズモンが見えないのか
本章の $\epsilon(\qq,\omega)$ は縦(longitudinal)誘電関数であり,$\epsilon=0$ が与えるプラズモンも縦波モード(電場が $\qq$ と平行)である.ところが光は横波で,物質中の分散関係は $\epsilon_T=c^2q^2/\omega^2$ であって $\epsilon=0$ ではない.だから普通に光を当ててもバルクのプラズモンは励起できない.高速電子を打ち込めばよい——動く点電荷の場には縦成分があるからである.これが 11.6節の EELS である.逆に表面や微粒子では境界条件が縦横を混ぜるので光でも励起でき,金ナノ粒子が色づく.
11.3 プラズマ振動数の導出 —— 2通りの道
11.3.1 線形応答理論からの導出
導出:$\chi^0\to nq^2/m\omega^2$(第10章の結果の再確認)
Lindhard 関数(スピン因子 2 込み,$\eta\to0^+$)は
$$ \begin{equation} \chi^0(\qq,\omega)=\frac{2}{V}\sum_{\kk}\frac{n_\kk-n_{\kk+\qq}}{\hbar\omega-(\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk)+\ii\eta} \label{eq:11-lindhard} \end{equation} $$ステップ1:和を2つに割る.分子の $n_\kk$ の項と $n_{\kk+\qq}$ の項に分ける.
ステップ2:第2項で和の変数をずらす.$\kk\to\kk-\qq$ と置き換える(和は全 $\kk$ 空間なのでこの平行移動は許される).すると第2項の分母は $\hbar\omega-(\epsilon_{\kk}-\epsilon_{\kk-\qq})$ になり
$$ \chi^0=\frac{2}{V}\sum_{\kk}n_\kk\left[\frac{1}{\hbar\omega-(\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk)}-\frac{1}{\hbar\omega-(\epsilon_{\kk}-\epsilon_{\kk-\qq})}\right] $$ステップ3:通分する.記号を $a\equiv\dfrac{\hbar^2\kk\cdot\qq}{m}=\hbar\,\qq\cdot\bm{v}_\kk$,$b\equiv\dfrac{\hbar^2q^2}{2m}$ と定めると,$\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk=\frac{\hbar^2}{2m}(2\kk\cdot\qq+q^2)=a+b$,$\epsilon_{\kk}-\epsilon_{\kk-\qq}=\frac{\hbar^2}{2m}(2\kk\cdot\qq-q^2)=a-b$ である.よって
$$ \chi^0=\frac{2}{V}\sum_{\kk}n_\kk\left[\frac{1}{\hbar\omega-a-b}-\frac{1}{\hbar\omega-a+b}\right] =\frac{2}{V}\sum_{\kk}n_\kk\,\frac{(\hbar\omega-a+b)-(\hbar\omega-a-b)}{(\hbar\omega-a)^2-b^2} $$分子は $2b=\hbar^2q^2/m$.これを外に出し,分母を $\hbar^2$ で割ると
ここまで近似は一切入れていない.ステップ4:極限をとる.$\omega$ が $qv_F$ と $\hbar q^2/2m$ の両方よりずっと大きければ分母は単に $\omega^2$ になり,$\frac{2}{V}\sum_\kk n_\kk=n$ だから
∎
導出:プラズマ振動数
式 \eqref{eq:11-chi0-hf} を $\epsilon=1-v(q)\chi^0$ に代入する.$v(q)=4\pi e^2/q^2$ だから
$$ \epsilon(\qq,\omega)=1-\frac{4\pi e^2}{q^2}\cdot\frac{nq^2}{m\omega^2} $$$q^2$ が見事に約分される.これがプラズモンの全物語の鍵である:
$\epsilon=0$ とおけば $\omega^2=\omega_p^2$,すなわち
∎
$q^2$ が約分されたことの意味
$\chi^0$ には $q^2$ が掛かっていた(電荷保存則の帰結で,$q\to0$ で密度ゆらぎが作れないことを表す).一方 Coulomb 相互作用 $v(q)=4\pi e^2/q^2$ には $q^{-2}$ の発散があった.この2つがちょうど打ち消し合う.
結果として $\omega_p$ は $q$ に依存しない有限値になった.ふつう長波長のモード(音波,フォノン)は $\omega\to0$ になるのに,プラズモンは $q\to0$ でも有限のギャップ $\hbar\omega_p$ を残す.Coulomb 力が長距離だからこそ集団モードにギャップが開くのである.11.7節で短距離力の場合をやると,そこでは $\omega\propto q$ の音波になる.この対比が本章の背骨である.
小谷岳生先生のご助言:Goldstone の定理と,Coulomb 力がそれを破ること
いま述べた「ギャップが開く」ことには,もっと一般的な背景がある.連続対称性が自発的に破れた状態には $q\to0$ で $\omega\to0$ となるギャップのない集団モード(Nambu–Goldstone モード)が現れる,というのが Goldstone の定理である.結晶中の音響フォノン(並進対称性の破れ)や超流動の位相モードがその典型である(11.7節で扱うゼロ音波は対称性の破れを伴わない Fermi 液体の集団モードなので Nambu–Goldstone モードそのものではないが,相互作用が短距離ゆえにギャップが開かない点は共通である).ところがこの定理の証明は相互作用が短距離であること(局所性)を前提にしており,$1/r$ という長距離の Coulomb 力はその前提から外れる.だから荷電系では定理が破れ,$q\to0$ でも $\omega\to\omega_p>0$ のギャップが残る.式の上でそれを担っているのが $v(q)=4\pi e^2/q^2$ の $q\to0$ 発散であり,それが $\chi^0\propto q^2$ とちょうど打ち消し合って $\omega_p$ の $q$ 非依存性になる,というのが上で見た計算にほかならない.
この見方が正しいことは,相互作用を遮蔽された形 $e^2\ee^{-\kappa r}/r$ に置き換えてみればただちに検証できる.その Fourier 変換は $v_\kappa(q)=4\pi e^2/(q^2+\kappa^2)$ であり,$q\to0$ でも $4\pi e^2/\kappa^2$ という有限値にとどまる.これを $1-v_\kappa(q)\chi^0=0$ に入れ,$\chi^0\to nq^2/m\omega^2$(式 \eqref{eq:11-chi0-hf})を使うと
$$ \omega^2=\omega_p^2\,\frac{q^2}{q^2+\kappa^2}, \qquad\text{したがって } q\ll\kappa \text{ では } \omega\simeq\frac{\omega_p}{\kappa}\,q $$となり,ギャップが消えて $\omega\propto q$ の音波的モードに戻る.長距離性こそがギャップの原因だったことが,これで確かめられる形になった.第10章の Thomas–Fermi 遮蔽 $\kappa=q_{TF}$($q_{TF}^2=4\pi e^2N(0)$)を入れると音速は $\omega_p/q_{TF}=\sqrt{n/\left[mN(0)\right]}=v_F/\sqrt{3}$ となり,$\omega\propto q$ という点で 11.7節のゼロ音波とちょうど同じ土俵に乗る(ただし $s=\omega/qv_F=1/\sqrt{3}<1$ なので,この極限のモードは 11.5節の Landau 減衰を強く受ける.鋭いモードとして残るには $\kappa<\omega_p/v_F$ が要る).
ここで取り違えやすいのは,実際の金属では遮蔽が働いているのにプラズモンにギャップがある,という点である.金属の遮蔽は $\epsilon(\qq,\omega)$ 自身が表す集団応答の結果であって,あらかじめ $v(q)$ に押し込んでおくものではない.集団運動を駆動しているのはあくまで裸の Coulomb 相互作用 $4\pi e^2/q^2$ であり,$\ee^{-\kappa r}/r$ への置き換えは「外から遮蔽が与えられた別の系」を考える思考実験だと理解しておく必要がある.
——以上は,QSGW 法の開発者である小谷岳生先生よりいただいたご助言(私信,2026年8月)にもとづく.
発展:超伝導と Anderson–Higgs 機構 —— Goldstone モードはどこへ消えたか
いま見た「長距離 Coulomb がギャップを開ける」という筋書きが,最も鮮やかに効くのが超伝導である.ここは Goldstone の定理が本来の姿(連続対称性の自発的な破れ)で登場する場面でもあるので,少し詳しく見ておきたい.
1. まず電荷を消してみる —— Anderson–Bogoliubov モード.超伝導状態では,Cooper 対の凝縮体が巨視的な波動関数 $\Psi=\abs{\Psi}\ee^{\ii\varphi}$ を持ち,その位相 $\varphi$ が1つの値を選ぶ.これが $U(1)$ 対称性の自発的な破れである.破れた以上,Goldstone の定理により位相をゆっくりねじるギャップのない集団モードがあるはずで,実際,電荷を消した中性の Fermi 超流動(たとえば超流動 $^3$He)では
$$ \omega = \frac{v_F}{\sqrt3}\,q $$という音波的なモードが立つ.これを Anderson–Bogoliubov モードという.速度 $v_F/\sqrt3$ に見覚えがあるはずである——上の箱で Coulomb を $\ee^{-\kappa r}/r$ に置き換え $\kappa=q_{TF}$ とおいたときに出てきた音速と,同じものである.偶然ではなく,どちらも「長距離性を取り去った Fermi 気体の圧縮率」という同じ量から出ている.
2. 電荷を戻すと $\omega_p$ まで持ち上がる.ところが電子は電荷を持っている.位相を空間的にねじると電荷密度が揺らぎ,そこに $v(q)=4\pi e^2/q^2$ の長距離 Coulomb が効く.計算は本節と同じで,$q\to0$ での $v(q)$ の発散が音波的な $\omega\propto q$ を押し上げ,
$$ \omega(q\to0)\;\longrightarrow\;\omega_p $$となる.超伝導体の位相モードは,ギャップのない Goldstone モードではなく,プラズモンそのものになってしまう.普通の金属でプラズモンにギャップが開いたのとまったく同じ機構が,超伝導体でも働いているのである.
3. これが Anderson–Higgs 機構である.いなくなった Goldstone モードはどこへ行ったのか.答えは「ゲージ場に食べられた」である.質量ゼロの光子は横波2成分しか持たないが,位相モードを吸収すると縦波成分を1つ得て3成分になり,質量を持つ.自由度の勘定が合っていることに注意してほしい($2+1=3$).P. W. Anderson がこれを固体物理の文脈で示したのが1963年で,素粒子物理で Higgs らが同じ機構を提出したのはその翌年である.$W$・$Z$ ボソンが質量を持つ仕組みは,超伝導体の中で光子が重くなる仕組みと同一である.
4. 光子が重くなること = Meissner 効果.これは抽象論ではなく,超伝導の最も有名な性質そのものである.質量を持った場は指数的にしか浸み込めないので,磁場は表面から $\lambda_L$ の深さで遮断される.その $\lambda_L$ は,重くなった光子の Compton 波長 $\hbar/(m_\gamma c)$ にほかならない.光子の質量が $m_\gamma=\hbar\omega_p/c^2$ であることを使うと
となる.実際,London の侵入長の定義 $\lambda_L^2=mc^2/(4\pi n e^2)$ と $\omega_p^2=4\pi ne^2/m$ を見比べれば $\lambda_L=c/\omega_p$ は恒等式である.プラズマ振動数と磁場の侵入長は,同じ1つの量の2つの顔なのである.アルミニウムで確かめると,$\hbar\omega_p=15.8\ \mathrm{eV}$ から $\lambda_L=c/\omega_p\simeq12.5\ \mathrm{nm}$ となり,実測の $\sim16\ \mathrm{nm}$ とよく合う.鉛やニオブでは実測のほうが数倍大きいが,これは全電子が凝縮するわけではないこと($n_s<n$)や有効質量・非局所効果によるもので,機構そのものは変わらない.
5. 「食べ残し」は振幅モードとして残る.破れた対称性に伴う自由度のうち,位相 $\varphi$ はゲージ場に食べられたが,振幅 $\abs{\Psi}$ の揺らぎは残る.これがHiggs モード(振幅モード)で,超伝導ギャップ $\Delta$ を使って $\omega\simeq2\Delta$ に現れる.電荷を持たないので Coulomb に押し上げられず,ギャップの底に残るのである.$\mathrm{NbSe_2}$ の Raman 散乱や,テラヘルツ光による強励起の実験で実際に観測されており,「固体の中の Higgs 粒子」として近年よく調べられている.
6. 本章の話とどうつながるか.ここまでの議論は,超伝導になってもプラズモンはほとんど変わらないことを意味する.エネルギースケールが桁違いだからである——アルミニウムでは $2\Delta\simeq0.36\ \mathrm{meV}$ に対し $\hbar\omega_p=15.8\ \mathrm{eV}$ で,実に4万倍以上の開きがある.超伝導が起きるのは Fermi 面のごく近傍の薄い殻の中だけであり,全電子が揃って揺れるプラズマ振動はそれをはるかに超えた高エネルギーの現象である.同じ $\epsilon(\qq,\omega)=0$ という条件から,$\mathrm{meV}$ の Higgs モードと $\mathrm{eV}$ のプラズモンが同時に読み取れる——これが誘電関数という1つの関数の懐の深さである.
11.3.2 古典電磁気学からの導出
導出:電子の板をずらす(Tonks–Langmuir, 1929)
ステップ1:設定.一様な電子気体を考える.正イオンは動かない一様背景(jellium)で,電荷密度は $+ne$(電子の電荷は $-e$,$e>0$).
ステップ2:全電子を $x$ 方向に $u$ だけずらす.左端では電子が $u$ だけ逃げるので,厚さ $u$ の層に正の背景だけが残る.その面電荷密度は $\sigma_+=(+ne)\times u=+neu$.右端では逆に電子だけがはみ出して $\sigma_-=-neu$.この2枚の面電荷が平行板コンデンサをなす.
ステップ3:電場を求める.面電荷密度 $\pm\sigma$ の平行板コンデンサ内部の電場は,Gauss の法則から(Gauss 単位系で)
$$ E=4\pi\sigma=4\pi n e u $$向きは正の板から負の板へ,すなわち $+x$ 方向である.
ステップ4:運動方程式.電子1個に働く力は $F=(-e)E=-4\pi n e^2 u$.変位と逆向きだから確かに復元力であり,ばね定数に相当する量が $k_{\text{eff}}=4\pi ne^2$ である.
$$ m\frac{\dd^2u}{\dd t^2}=-4\pi n e^2 u \qquad\Longrightarrow\qquad \frac{\dd^2u}{\dd t^2}+\frac{4\pi ne^2}{m}u=0 $$ステップ5:読み取る.$\ddot{u}+\omega^2u=0$ の形だから $\omega^2=4\pi ne^2/m$,すなわち $\omega=\omega_p$.
∎ 式 \eqref{eq:11-omegap} と完全に一致した.板の厚さにも面積にも電子の総数にもよらず,密度 $n$ だけで決まる.SI では $E=neu/\epsilon_0$ となり $\omega_p^2=ne^2/\epsilon_0m$.
2つの導出が一致することの意味
片方は「Lindhard 関数 → RPA 誘電関数 → その零点」という長い道のり,もう片方は「Gauss の法則と $F=ma$」だけの3行である.それが同じ答えを与えた.
偶然ではない.$q\to0$ では波長が無限に長い,すなわち系全体が剛体のように一斉に動くので,量子効果がすべて効かなくなる.式 \eqref{eq:11-chi0-exact} で $\bm{v}_\kk$ と反跳項を落としたことが「電子の個性を無視した」ことに対応する.逆に言えば$q$ が有限になると量子効果が顔を出す.それが 11.4節の $q^2$ 補正であり 11.5節の Landau 減衰である.
11.3.3 実際の金属で数値を出す
例題11.1 便利な換算式を作る
SI で $\omega_p=\sqrt{ne^2/\epsilon_0m}$ に $n=1.000\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}$ を代入する.$e=1.602\times10^{-19}\ \mathrm{C}$,$\epsilon_0=8.854\times10^{-12}\ \mathrm{F/m}$,$m=9.109\times10^{-31}\ \mathrm{kg}$,$\hbar=1.0546\times10^{-34}\ \mathrm{J\,s}$.
分子:$ne^2=1.000\times10^{28}\times(1.602\times10^{-19})^2=2.566\times10^{-10}$.分母:$\epsilon_0m=8.854\times10^{-12}\times9.109\times10^{-31}=8.065\times10^{-42}$.比:$3.182\times10^{31}\ \mathrm{s^{-2}}$.平方根:$\omega_p=5.641\times10^{15}\ \mathrm{rad/s}$.
エネルギー:$\hbar\omega_p=1.0546\times10^{-34}\times5.641\times10^{15}=5.949\times10^{-19}\ \mathrm{J}$.$e$ で割って $3.714\ \mathrm{eV}$.
∎ 電卓1つで金属のプラズモンエネルギーが言えるようになった.
例題11.2 アルミニウムの $\hbar\omega_p$
Al は fcc,格子定数 $a=4.05\ \mathrm{Å}$,単位胞あたり4原子,価電子は $3s^23p^1$ の3個.
単位胞の体積:$a^3=(4.05\times10^{-10})^3=6.643\times10^{-29}\ \mathrm{m^3}$.価電子数:$4\times3=12$.電子密度:$n=12/(6.643\times10^{-29})=1.806\times10^{29}=18.06\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}$.
式 \eqref{eq:11-numeric}:$\hbar\omega_p=3.714\times\sqrt{18.06}=3.714\times4.250=15.8\ \mathrm{eV}$.実測(EELS のバルクプラズモン損失ピーク)は $15.0\ \mathrm{eV}$ で,自由電子模型でわずか5%の誤差である.
ついでに Fermi 量も出す.$k_F=(3\pi^2n)^{1/3}=(5.348\times10^{30})^{1/3}=1.748\times10^{10}\ \mathrm{m^{-1}}=1.75\ \mathrm{Å^{-1}}$,$v_F=\hbar k_F/m=2.03\times10^{6}\ \mathrm{m/s}$,$\epsilon_F=\frac12mv_F^2=11.7\ \mathrm{eV}$.したがって $\hbar\omega_p/\epsilon_F=15.8/11.7=1.35$.∎ この比は 11.5節で臨界波数を出すときに使う.
| 金属 | 構造・格子定数 | 価電子/原子 | $n\ (10^{28}\,\mathrm{m^{-3}})$ | $\hbar\omega_p$ 計算 (eV) | 実測 (eV) |
|---|---|---|---|---|---|
| K | bcc, 5.23 Å | 1 | 1.40 | 4.4 | 3.7 |
| Na | bcc, 4.29 Å | 1 | 2.53 | 5.9 | 5.7 |
| Ag | fcc, 4.09 Å | 1 (5s) | 5.86 | 9.0 | 3.8 (!) |
| Cu | fcc, 3.61 Å | 1 (4s) | 8.50 | 10.8 | 19.3 (!) |
| Mg | hcp, 3.21/5.21 Å | 2 | 8.60 | 10.9 | 10.6 |
| Al | fcc, 4.05 Å | 3 | 18.1 | 15.8 | 15.0 |
なぜアルカリ金属と Al では合い,貴金属では合わないのか
K, Na, Mg, Al は価電子が $s$, $p$ 軌道だけで内殻が深く,電子気体はほぼ自由である.だから自由電子模型が十数%以内の精度で当たる.Cu と Ag では,満たされた $d$ バンドが $\epsilon_F$ のすぐ下(Cu で約 2 eV,Ag で約 4 eV)にあって2通りに効く.
- Ag:$d$ バンドからの遷移が背景分極 $\epsilon_\infty$ を作る.$\epsilon(\omega)=\epsilon_\infty-\omega_p^2/\omega^2$ の零点は $\omega=\omega_p/\sqrt{\epsilon_\infty}$ へ下がる.$\epsilon_\infty\simeq5.5$ とすれば $9.0/\sqrt{5.5}=3.8\ \mathrm{eV}$ で実測とぴたり合う.この 3.8 eV が $d$ バンド遷移の閾値より下にあるため,Ag のプラズモンは非常に鋭い.
- Cu:$d$ バンドが浅く,高エネルギーでは $d$ 電子も集団運動に参加して実効的な $n$ が増える.EELS の主損失ピークは約 19.3 eV で自由電子値 10.8 eV と大きく食い違い,しかも $d\to sp$ 遷移と重なるので幅広い.ピークが幅広いため,半導体のバンドギャップと同様に,試料や測定手法によって文献値には多少の幅がある(19〜20 eV 程度).
教訓:$\omega_p$ の式は「価電子が自由電子として振る舞う」という仮定を含む.その仮定が壊れる系では,$\epsilon(\omega)$ に背景分極や他バンドの寄与を足してから零点を探さねばならない.プラズモニクス材料の設計とは,この $\epsilon(\omega)$ の設計である.
11.4 分散関係の $q^2$ 補正
11.3節では $\qq\cdot\bm{v}_\kk$ を捨てた.しかし電子は実際には Fermi 速度 $v_F$ で動き回っている.波の位相速度 $\omega/q$ に対して電子の速度が無視できなくなると,$\omega_p$ は $q$ に依存し始める.その最初の補正を求める.
導出:$\chi^0$ を $qv_F/\omega$ で展開する(全ステップ)
出発点は厳密式 \eqref{eq:11-chi0-exact}.
ステップ1:反跳項を落とす.$(\hbar q^2/2m)^2$ は $q^4$ の量,$(\omega-\qq\cdot\bm{v})^2\simeq\omega^2$ は $q^0$ の量である.求めたいのは相対的に $q^2$ までの補正なので,反跳項の寄与(相対的に $q^4$)は落としてよい:
$$ \chi^0\simeq\frac{q^2}{m}\cdot\frac{2}{V}\sum_{\kk}\frac{n_\kk}{(\omega-\qq\cdot\bm{v}_\kk)^2} $$ステップ2:展開する.$X\equiv\dfrac{\qq\cdot\bm{v}_\kk}{\omega}$ と置くと $\dfrac{1}{(\omega-\qq\cdot\bm{v})^2}=\dfrac{1}{\omega^2}\dfrac{1}{(1-X)^2}$.ここで公式
$$ \frac{1}{(1-X)^2}=\sum_{j=0}^{\infty}(j+1)X^{j}=1+2X+3X^2+4X^3+5X^4+\cdots \qquad(\abs{X}<1) $$を使う($\frac{1}{1-X}=\sum_j X^j$ を $X$ で微分すれば得られる).
ステップ3:Fermi 球上で角度平均をとる.$\qq\cdot\bm{v}_\kk=qv\,(\hat{q}\cdot\hat{k})=qv\mu$ と書き,$\mu=\cos\theta$ について平均する.$\kk$ の向きは等方的なので $\braket{\mu^j}=\frac{1}{2}\int_{-1}^{1}\mu^{j}\dd\mu$($\frac12$ は規格化 $\frac12\int_{-1}^1\dd\mu=1$).奇数次は被積分関数が奇関数なのでゼロ:$\braket{\mu}=\braket{\mu^3}=0$.偶数次は
$$ \braket{(\hat{q}\cdot\hat{k})^2}=\frac{1}{2}\int_{-1}^{1}\mu^2\dd\mu=\frac{1}{2}\left[\frac{\mu^3}{3}\right]_{-1}^{1}=\frac{1}{2}\cdot\frac{2}{3}=\frac{1}{3} $$ $$ \braket{(\hat{q}\cdot\hat{k})^4}=\frac{1}{2}\int_{-1}^{1}\mu^4\dd\mu=\frac{1}{2}\left[\frac{\mu^5}{5}\right]_{-1}^{1}=\frac{1}{2}\cdot\frac{2}{5}=\frac{1}{5} $$ステップ4:代入する.
$$ \left\langle\frac{1}{(1-X)^2}\right\rangle_{\text{角度}} =1+2\cdot 0+3\cdot\frac{q^2v^2}{\omega^2}\cdot\frac{1}{3}+4\cdot 0+5\cdot\frac{q^4v^4}{\omega^4}\cdot\frac{1}{5}+\cdots =1+\frac{q^2v^2}{\omega^2}+\frac{q^4v^4}{\omega^4}+\cdots $$係数 $3$ と $\frac13$,$5$ と $\frac15$ がそれぞれ打ち消し合った.
ステップ5:速度の大きさについて平均する.$T=0$ の Fermi 球($k\le k_F$,$v=\hbar k/m$)で,重みは $k^2\dd k$:
$$ \overline{v^2}=\frac{\displaystyle\int_0^{k_F}\left(\frac{\hbar k}{m}\right)^2k^2\,\dd k}{\displaystyle\int_0^{k_F}k^2\,\dd k} =\frac{\hbar^2}{m^2}\cdot\frac{k_F^5/5}{k_F^3/3} =\frac{3}{5}\frac{\hbar^2k_F^2}{m^2}=\frac{3}{5}v_F^2 $$ステップ6:まとめる.$\frac{2}{V}\sum_\kk n_\kk=n$ なので
∎ 括弧の中の $1$ が 11.3節で使った項,$\frac35\frac{q^2v_F^2}{\omega^2}$ が新入りである.
導出:分散関係 $\omega(q)$
式 \eqref{eq:11-chi0-exp} を $\epsilon=1-v(q)\chi^0=0$ に入れる.ふたたび $q^2$ が約分されて
$$ 1-\frac{\omega_p^2}{\omega^2}\left[1+\frac{3}{5}\frac{q^2v_F^2}{\omega^2}\right]=0 \qquad\Longrightarrow\qquad \omega^2=\omega_p^2\left[1+\frac{3}{5}\frac{q^2v_F^2}{\omega^2}\right] $$これは $\omega$ についての自己無撞着な式である.右辺の補正項はもともと小さいので,そこには最低次の解 $\omega\simeq\omega_p$ を代入してよい(逐次代入法の第1段):$\omega^2\simeq\omega_p^2+\frac{3}{5}q^2v_F^2$.平方根をとり,$\dfrac{3q^2v_F^2}{5\omega_p^2}\ll1$ として $\sqrt{1+z}\simeq1+\frac{z}{2}$ を使うと
$$ \omega=\omega_p\sqrt{1+\frac{3}{5}\frac{q^2v_F^2}{\omega_p^2}} \simeq\omega_p\left(1+\frac{1}{2}\cdot\frac{3}{5}\frac{q^2v_F^2}{\omega_p^2}\right) $$∎ $\frac12\times\frac35=\frac{3}{10}$ である.等価な書き方 $\omega^2(q)=\omega_p^2+\frac{3}{5}v_F^2q^2$ もよく使われる.
物理的意味:分散が正であること
係数 $3/10$ は正である.すなわち波長が短くなるほどプラズモンのエネルギーは上がる.直感的には,$q=0$ では全電子が完全に同位相で動くので復元力は純粋に静電的であるのに対し,$q\neq0$ では波の中で電子が押し合いへし合いし,Fermi 気体としての縮退圧が追加の復元力として効く.ばね定数が増えれば振動数は上がる.係数に $v_F^2$ が現れているのは,この追加分が Fermi 圧に由来することの反映である.
補足:Lindhard 関数の閉じた形(この先ずっと使う関数)
$q\to0$(反跳を無視)の極限では,Lindhard 関数を積分して閉じた形に書ける.11.5節と 11.7節で繰り返し使うので,ここで導いておく.
式 \eqref{eq:11-lindhard} で $q\to0$ とすると $n_\kk-n_{\kk+\qq}\simeq-\qq\cdot\nabla_\kk n_\kk$,$\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk\simeq\hbar\,\qq\cdot\bm{v}_\kk$.$T=0$ では $n_\kk=\theta(k_F-k)$ なので $\nabla_\kk n_\kk=-\hat{\kk}\,\delta(k-k_F)$(階段関数の微分がデルタ関数,勾配の向きは $-\hat{\kk}$).したがって $\qq\cdot\hat\kk=q\mu$ を使って
$$ \chi^0\longrightarrow 2\int\frac{\dd^3k}{(2\pi)^3}\frac{q\mu\,\delta(k-k_F)}{\hbar(\omega-qv_F\mu+\ii\eta)} =\frac{2\cdot 2\pi k_F^2}{(2\pi)^3}\int_{-1}^{1}\dd\mu\,\frac{q\mu}{\hbar(\omega-qv_F\mu)} $$($\dd^3k=k^2\dd k\,\dd\mu\,\dd\varphi$ で $\varphi$ 積分は $2\pi$,$k$ 積分はデルタ関数が $k_F^2$ を拾う.)ここで無次元の位相速度 $s\equiv\dfrac{\omega}{qv_F}$ を導入すると $\omega-qv_F\mu=qv_F(s-\mu)$ となり,$\dfrac{q}{\hbar\,qv_F}=\dfrac{1}{\hbar v_F}$ だから $\chi^0=\dfrac{k_F^2}{2\pi^2\hbar v_F}I(s)$,$I(s)\equiv\displaystyle\int_{-1}^{1}\frac{\mu\,\dd\mu}{s-\mu}$.この積分は初等的である:
$$ \frac{\mu}{s-\mu}=\frac{-(s-\mu)+s}{s-\mu}=-1+\frac{s}{s-\mu} $$ $$ I(s)=\int_{-1}^{1}\left(-1+\frac{s}{s-\mu}\right)\dd\mu =-2+s\Bigl[-\ln(s-\mu)\Bigr]_{-1}^{1} =-2+s\bigl[\ln(s+1)-\ln(s-1)\bigr] $$$k_F^2/(\hbar v_F)=mk_F/\hbar^2$ と,Fermi 面での状態密度(スピン込み,単位体積あたり)$N(0)=\dfrac{mk_F}{\pi^2\hbar^2}=\dfrac{3n}{2\epsilon_F}$ を使うと
検算1(静的極限):$s=0$ で $I(0)=-2$,$\chi^0=-N(0)$.第10章の Thomas–Fermi 極限 $\epsilon=1+q_{TF}^2/q^2$($q_{TF}^2=4\pi e^2N(0)$)そのものである.
検算2(高振動数極限):$\ln\frac{1+x}{1-x}=2\left(x+\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}+\cdots\right)$ に $x=1/s$ を入れると
$$ s\ln\frac{s+1}{s-1}-2=s\left(\frac{2}{s}+\frac{2}{3s^3}+\frac{2}{5s^5}+\cdots\right)-2=\frac{2}{3s^2}+\frac{2}{5s^4}+\cdots $$ $$ \chi^0=\frac{N(0)}{2}\left(\frac{2}{3s^2}+\frac{2}{5s^4}\right)=\frac{N(0)}{3s^2}\left(1+\frac{3}{5s^2}+\cdots\right) $$$N(0)=\frac{3n}{2\epsilon_F}$,$\epsilon_F=\frac12mv_F^2$,$s^{-2}=q^2v_F^2/\omega^2$ を代入すると $\dfrac{N(0)}{3s^2}=\dfrac{nq^2}{m\omega^2}$,すなわち $\chi^0=\frac{nq^2}{m\omega^2}\left(1+\frac35\frac{q^2v_F^2}{\omega^2}\right)$.式 \eqref{eq:11-chi0-exp} と完全に一致した.まったく別の計算法(角度平均の展開 vs 対数の展開)が同じ答えを与えたので,両方とも正しいと確信できる.
11.5 Landau 減衰と臨界波数
式 \eqref{eq:11-master} の $\ln\dfrac{s+1}{s-1}$ を見てほしい.$s>1$ なら $s-1>0$ で対数は実数である.ところが $0<s<1$ では $s-1<0$,すなわち負の数の対数となって複素数が現れる.この一点に Landau 減衰のすべてがある.
導出:$0<s<1$ での $\mathrm{Im}\,\chi^0$
Lindhard 関数には因果律から来る $+\ii\eta$ が付いていた.式 \eqref{eq:11-lindhard} の分母が $\hbar\omega-(\cdots)+\ii\eta$ なので,これは $\omega\to\omega+\ii\eta/\hbar$,すなわち $s\to s+\ii 0^+$ を意味する.したがって $s-1$ は「負の実数のわずかに上」にある.第5章で扱った対数の分岐により主枝では $\ln(-\abs{z}+\ii0^+)=\ln\abs{z}+\ii\pi$(負の実軸のすぐ上では偏角が $+\pi$)だから,$0<s<1$ のとき
$$ \ln\frac{s+1}{s-1}=\ln(s+1)-\ln\bigl(-(1-s)+\ii0^+\bigr)=\ln\frac{1+s}{1-s}-\ii\pi $$これを式 \eqref{eq:11-master} に入れると
∎ すなわち $\mathrm{Im}\,\chi^0=-\frac{\pi}{2}N(0)\,\frac{\omega}{qv_F}$($0<\omega<qv_F$),$\mathrm{Im}\,\chi^0=0$($\omega>qv_F$).したがって $\mathrm{Im}\,\epsilon=-v(q)\mathrm{Im}\,\chi^0=+\frac{\pi}{2}v(q)N(0)s>0$ であり,$\mathrm{Im}\,\epsilon>0$ は吸収を意味する(第3章・第8章と整合する).
$s=1$ という境界の正体
$s=\omega/qv_F=1$ すなわち $\omega=qv_F$ は,11.1節で求めた粒子‐正孔連続体の上端 \eqref{eq:11-upper} の(反跳を無視した)式そのものである.つまり$s>1$(連続体の外)では $\mathrm{Im}\,\chi^0=0$ で,粒子‐正孔対を作れないからエネルギーを捨てる先がなく,プラズモンは減衰しない.$s<1$(連続体の中)では $\mathrm{Im}\,\chi^0\neq0$ となり,プラズモンは粒子‐正孔対へ崩壊できる.
式 \eqref{eq:11-gamma} により $\Gamma_q\propto\mathrm{Im}\,\epsilon$ だったから,連続体に入った瞬間にプラズモンは寿命をもち,たちまち崩れる.これがLandau 減衰(Landau, 1946)であり,衝突がまったくなくても波が減衰するという当時としては衝撃的な結果であった.
サーフィンの比喩:なぜ波と同じ速さで走る粒子がエネルギーを奪うのか
波 $\phi\propto\cos(qz-\omega t)$ の位相速度は $v_\phi=\omega/q$ である.$z$ 方向の速度が $v_z\simeq v_\phi$ の電子は波と一緒に動くので,いつまでも同じ位相の場所に居続ける.波乗り(サーフィン)である.
波よりわずかに遅い電子は後ろから追いつかれて坂を押され加速される(波からエネルギーをもらう).わずかに速い電子は波を追い越すときに坂を登り減速される(波にエネルギーを渡す).どちらが多いかで勝負が決まる.速度分布 $g(v_z)$ が $v_z=v_\phi$ で減少していれば($g'(v_\phi)<0$),遅い電子のほうが多いので正味で波がエネルギーを失う.
検算.$T=0$ の Fermi 球を $z$ 方向に射影した1次元速度分布は,半径 $\sqrt{v_F^2-v_z^2}$ の円の面積に比例するので $g(v_z)\propto(v_F^2-v_z^2)\theta(v_F-\abs{v_z})$,したがって $g'(v_z)\propto-2v_z$.減衰率は $-g'(v_\phi)\propto v_\phi=s\,v_F$ に比例するはずで,式 \eqref{eq:11-imchi} の $\mathrm{Im}\,\chi^0\propto-s$ と$s$ 依存性がぴたり一致する.また $\abs{v_z}>v_F$ には電子が存在しない($g=0$)ので $s>1$ では減衰ゼロ.これも一致する.
導出:臨界波数 $q_c$
プラズモンの分散 $\omega(q)$ はほぼ一定($\simeq\omega_p$)なのに,連続体の上端 $\omega_+(q)$ は $q$ とともに上がる.したがってある $q_c$ で必ず交わる.
粗い見積もり.分散を $\omega\simeq\omega_p$,上端を $\omega_+\simeq v_Fq$(反跳を無視)とすると,交点は $s=1$ すなわち
Al で数値を入れる.例題11.2 より $\hbar\omega_p=15.8\ \mathrm{eV}$,$\epsilon_F=11.7\ \mathrm{eV}$ だから $q_c/k_F=15.8/(2\times11.7)=0.68$,すなわち $q_c=0.68\times1.75=1.2\ \mathrm{Å^{-1}}$.
もう少し丁寧に.分散の $q^2$ 補正 \eqref{eq:11-dispersion} と反跳込みの上端 \eqref{eq:11-upper} を使う.$x=q/k_F$,$\alpha=\hbar\omega_p/\epsilon_F$ として両辺を $\epsilon_F/\hbar$ で割ると(左辺第2項は $\frac{3}{10}\frac{v_F^2q^2}{\omega_p}\cdot\frac{\hbar}{\epsilon_F}$ に $v_F^2q^2=4\epsilon_F^2x^2/\hbar^2$ を入れて得た)
$$ \underbrace{\alpha+\frac{6}{5}\frac{x^2}{\alpha}}_{\text{プラズモン}}=\underbrace{2x+x^2}_{\text{連続体上端}} $$Al の $\alpha=1.35$ を入れると $0.11x^2+2x-1.35=0$,解いて $x=0.65$.すなわち $q_c\simeq0.65\,k_F=1.1\ \mathrm{Å^{-1}}$.
∎ 粗い見積もりとよく一致する.実測ではこれよりやや大きい $1.3\ \mathrm{Å^{-1}}$ 程度が報告されており,RPA としては良好な精度である.波長に直すと $\lambda_c=2\pi/q_c\simeq5\ \mathrm{Å}$.つまり波長が約 5 Å より短いプラズモンは存在できない.集団励起はつねに,ある波数までの有効理論なのである.
11.6 実験でどう見えるか
高速電子を試料に打ち込み,透過後のエネルギー損失を測るのが EELS(電子エネルギー損失分光)である.第12章で導くように,散乱確率は第9章 9.6.2節で定義した損失関数
に比例する.$\mathrm{Re}\,\epsilon=0$ かつ $\mathrm{Im}\,\epsilon$ が小さいとき分母が小さくなり,鋭いピークができる.プラズモンが EELS で見える理由である.
例題11.3 損失関数は Lorentz 型になる
散乱時間 $\tau$ を入れた $\epsilon(\omega)=1-\dfrac{\omega_p^2}{\omega(\omega+\ii/\tau)}$ で $\omega\tau\gg1$ とすると $\mathrm{Re}\,\epsilon\simeq1-\omega_p^2/\omega^2$,$\mathrm{Im}\,\epsilon\simeq\omega_p^2/\omega^3\tau$.$\omega=\omega_p$ 近傍で $\mathrm{Re}\,\epsilon\simeq\dfrac{2(\omega-\omega_p)}{\omega_p}$ と線形化して式 \eqref{eq:11-loss} に代入すると
$$ \mathcal{L}\simeq\frac{1/\omega_p\tau}{\dfrac{4(\omega-\omega_p)^2}{\omega_p^2}+\dfrac{1}{(\omega_p\tau)^2}} $$∎ 中心 $\omega_p$,半値全幅 $1/\tau$ の Lorentz 型ピークである.プラズモンピークとは,電子気体という巨大な振動子の共鳴曲線にほかならない(第3章の共鳴曲線と同じ形).
材料工学の現場での使われ方
- 組成・相の同定:$\omega_p\propto\sqrt{n}$ なので,ピーク位置は価電子密度の直接測定になる.Al と Al$_2$O$_3$($\simeq23\ \mathrm{eV}$),Si($\simeq16.7\ \mathrm{eV}$)と SiO$_2$($\simeq23\ \mathrm{eV}$)は明確に区別できる.
- 膜厚測定:電子はプラズモンを何度も励起するので $\omega_p,2\omega_p,3\omega_p$ に等間隔のピーク列が出る.強度比は Poisson 分布に従い,$t/\lambda=\ln(I_{\text{total}}/I_0)$(log-ratio 法)で厚さが求まる.ここで $t$ は膜厚,$\lambda$ は非弾性散乱の平均自由行程,$I_{\text{total}}$ はスペクトル全体の積分強度,$I_0$ はゼロロスピーク(損失を受けずに透過した電子)の強度である.Al の平均自由行程は 100 keV でおよそ $100\ \mathrm{nm}$.
- 分散の測定:散乱角 $\theta$ を変えると,入射電子の波数を $k_0$ として $q\simeq k_0\theta$(微小角)で $q$ を走査できる.式 \eqref{eq:11-dispersion} の $q^2$ 分散と,$q_c$ でピークが消えることが直接見える.図11.2 は絵空事ではなく測れる図である.
導出:表面プラズモン $\omega_s=\omega_p/\sqrt{2}$ と球の共鳴 $\epsilon+2\epsilon_m=0$
平らな界面.金属($z<0$,誘電関数 $\epsilon(\omega)$)と誘電体($z>0$,$\epsilon_d$)の界面に局在した静電モードを探す.静電近似では各領域で $\nabla^2\phi=0$ を解けばよく,界面から離れて減衰する解は $\phi=A\ee^{\ii\qq_\parallel\cdot\bm{r}_\parallel}\ee^{+q_\parallel z}$($z<0$),$\phi=B\ee^{\ii\qq_\parallel\cdot\bm{r}_\parallel}\ee^{-q_\parallel z}$($z>0$).
境界条件1($\phi$ の連続)から $A=B$.境界条件2($\epsilon E_z=-\epsilon\,\partial_z\phi$ の連続)から $-\epsilon(\omega)q_\parallel A=+\epsilon_d q_\parallel B$,すなわち $\epsilon(\omega)+\epsilon_d=0$.真空($\epsilon_d=1$)に対して $1-\omega_p^2/\omega^2=-1$ とおけば $\omega^2=\omega_p^2/2$:
Al なら $15.8/\sqrt2=11.2\ \mathrm{eV}$.実測の Al 表面プラズモンは約 $10.3\ \mathrm{eV}$ でよく合う.
球.半径 $R$ の金属球を誘電率 $\epsilon_m$ の媒質中に置くと,静電気学の標準結果として分極率は $\alpha(\omega)=R^3\dfrac{\epsilon-\epsilon_m}{\epsilon+2\epsilon_m}$ である(この $\alpha(\omega)$ は分極率であって,11.5節で使った無次元比 $\alpha=\hbar\omega_p/\epsilon_F$ とは別物である).分母がゼロで $\alpha$ が発散する——またしても「分母がゼロ=共鳴」である.背景分極を入れた $\epsilon(\omega)=\epsilon_\infty-\omega_p^2/\omega^2$ を代入すると
∎ 真空中の自由電子($\epsilon_\infty=\epsilon_m=1$)なら $\omega_p/\sqrt3$ である.
例題11.4 金コロイドが赤いのはなぜか
Au は fcc,$a=4.08\ \mathrm{Å}$,価電子(6s)1個/原子.$a^3=6.79\times10^{-29}\ \mathrm{m^3}$ より $n=4/(6.79\times10^{-29})=5.89\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}$,自由電子の $\hbar\omega_p=3.714\times\sqrt{5.89}=9.01\ \mathrm{eV}$.
Au の $d$ バンドによる背景分極は $\epsilon_\infty\simeq9.8$.水中($\epsilon_m=1.77$)では
$$ \hbar\omega_{\text{LSPR}}=\frac{9.01}{\sqrt{9.8+2\times1.77}}=\frac{9.01}{\sqrt{13.34}}=\frac{9.01}{3.652}=2.47\ \mathrm{eV} $$波長に直すと $\lambda=1239.8/2.47=502\ \mathrm{nm}$.実測の金コロイド(粒径 20 nm 程度)の吸収ピークは約 $520\ \mathrm{nm}$ で,この単純な模型で 4% の精度である.
∎ $520\ \mathrm{nm}$ は緑である.白色光から緑を抜けば残るのは赤紫——だから金コロイドはルビー色に見える.中世のステンドグラスの赤も,古代ローマのリュクルゴスの杯の色変化も,ガラス中の金ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴である.$\epsilon+2\epsilon_m=0$ という一行が,1600年前の職人の技を説明している.この共鳴は周囲の $\epsilon_m$ に敏感なので,屈折率変化を色で読む LSPR バイオセンサにも使われる.
11.7 ゼロ音波
ここまでは電荷をもつ電子気体を扱ってきた.次に Fetter–Walecka 16節に従って中性の Fermi 粒子系を考える.典型例は液体 $^3$He である($^3$He 原子はスピン $1/2$ の Fermi 粒子).粒子間には Coulomb 力ではなく短距離の斥力が働き,その Fourier 変換は $q$ が小さい範囲では定数と見なせる:$v(q)\to V_0$.Coulomb では $v(q)=4\pi e^2/q^2$ が $q\to0$ で発散していたのに対し,いまは有限の定数である.この違いが決定的に効く.
導出:ゼロ音波の分散方程式
集団モードの条件はまったく同じ,「分母がゼロ」である:
$$ 1-V_0\,\chi^0(\qq,\omega)=0, \qquad\text{すなわち}\qquad 1-\frac{V_0}{V}\sum_{\kk\sigma}\frac{n_\kk-n_{\kk+\qq}}{\hbar\omega-(\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk)+\ii\eta}=0 $$$\chi^0$ はもう計算してある.閉じた形 \eqref{eq:11-master} をそのまま使えばよい:$1=V_0\cdot\frac{N(0)}{2}\left[s\ln\frac{s+1}{s-1}-2\right]$.ここで無次元の結合定数(最も簡単な近似での Landau パラメータ)
$$ \begin{equation} F_0\equiv V_0\,N(0)=V_0\cdot\frac{mk_F}{\pi^2\hbar^2}=V_0\cdot\frac{3n}{2\epsilon_F} \label{eq:11-F0} \end{equation} $$を定義すると
∎ これがゼロ音波の分散方程式である.
この式の読み方 —— なぜ「音波」なのか
式 \eqref{eq:11-zerosound} のどこにも $q$ が単独では現れない.現れるのは $s=\omega/qv_F$ という比だけである.したがって解 $s$ は $F_0$ だけで決まる定数となり,$\omega=s(F_0)\,v_F\,q\equiv c_0\,q$,すなわち$\omega$ が $q$ に比例する——音波の分散関係にほかならない.$c_0=s\,v_F$ をゼロ音速という.
プラズモンでは $v(q)=4\pi e^2/q^2$ の $q^{-2}$ のせいで $\omega\to\omega_p$(有限のギャップ)になったのに対し,$V_0$ が定数だとギャップが開かず音波型になる.相互作用が長距離か短距離かが,集団モードの性格を決める.これが本章で最も覚えておくべき対比である.
$g(s)\equiv s\ln\dfrac{s+1}{s-1}-2$ と置くと方程式は $F_0=2/g(s)$ である.$g(s)$ は $s>1$ で単調減少し,$s\to1^+$ で $+\infty$,$s\to\infty$ で $0$ に近づく.したがって $F_0>0$ ならつねに解が1つある.
導出:弱結合極限 $F_0\to0^+$ では $s\to1^+$
$F_0$ が小さければ $g(s)=2/F_0$ が大きくなければならない.$g$ が大きくなるのは $s\to1^+$ のときだけである.そこで $s=1+\delta$($\delta\ll1$)と置く:
$$ \ln\frac{s+1}{s-1}=\ln\frac{2+\delta}{\delta}\simeq\ln\frac{2}{\delta}, \qquad g(s)\simeq(1+\delta)\ln\frac{2}{\delta}-2\simeq\ln\frac{2}{\delta}-2 $$これを $2/F_0$ と等置して $\ln\frac{2}{\delta}=2+\frac{2}{F_0}$,すなわち $\frac{2}{\delta}=\ee^{\,2+2/F_0}$,$\delta=2\,\ee^{-2-2/F_0}$:
∎ $\ee^{-2/F_0}$ という本質的特異性に注目してほしい.$F_0$ について Taylor 展開できない形である($F_0=0$ ですべての微分が消える).したがってゼロ音波は摂動論のどの次数にも現れない,非摂動的な現象である.BCS 超伝導のギャップ $\Delta\propto\ee^{-1/N(0)V}$ と同じ構造をしているのは偶然ではなく,Fermi 面の存在が生む共通の特徴である.物理的には $s$ は $1$ よりわずかに大きいだけで,ゼロ音波は粒子‐正孔連続体の上端をかすめるようにぎりぎり外側を走る.少しでも中に入れば Landau 減衰で消えてしまうから,これは必然である.
導出:強結合極限 $F_0\gg1$ では $s\simeq\sqrt{F_0/3}$
$F_0$ が大きいと $g(s)=2/F_0$ は小さくてよいので $s\gg1$ の解になる.11.4節の補足で得た展開 $g(s)=\frac{2}{3s^2}+\frac{2}{5s^4}+\cdots$ を使うと,方程式 \eqref{eq:11-zerosound} は
$$ 1=\frac{F_0}{2}\left(\frac{2}{3s^2}+\frac{2}{5s^4}+\cdots\right)=\frac{F_0}{3s^2}\left(1+\frac{3}{5s^2}+\cdots\right) $$最低次では括弧を $1$ として
∎ $V_0$ を戻すと $c_0^2\simeq\frac{v_F^2F_0}{3}=\frac{v_F^2V_0N(0)}{3}=\frac{V_0n}{m}$($N(0)=3n/2\epsilon_F$, $\epsilon_F=\frac12mv_F^2$ を使った).これは圧縮率から出る音速の式そのものである.強結合では相互作用エネルギーが Fermi 圧を圧倒し,ゼロ音波は普通の音波に近づく.
| $F_0$ | $s=c_0/v_F$ | 近似式の値 | $c_1/v_F$ | $c_0/c_1$ |
|---|---|---|---|---|
| 0.36 | 1.0010 | 1.0010(弱結合式 \eqref{eq:11-weak}) | 0.673 | 1.49 |
| 1.05 | 1.050 | 1.040(弱結合式) | 0.827 | 1.27 |
| 2.28 | 1.200 | 0.872(強結合式 \eqref{eq:11-strong}) | 1.046 | 1.15 |
| 4.83 | 1.500 | 1.269(強結合式) | 1.394 | 1.08 |
| 10.1 | 2.000 | 1.838(強結合式) | 1.927 | 1.04 |
| 25.2 | 3.000 | 2.898(強結合式) | 2.954 | 1.02 |
表から読み取れること
- $s$ はつねに $1$ より大きい.すなわちゼロ音波は必ず粒子‐正孔連続体の外側にあり,Landau 減衰を受けない.$F_0>0$(斥力)である限り,結合の強さによらない.
- $F_0$ が小さいと $s$ は $1$ にへばりつく.$F_0=0.36$ でも $s-1=10^{-3}$ しかなく,実際上は観測が難しくなる.
- つねに $c_0>c_1$,すなわちゼロ音波は第一音波より速い.強結合では両者が近づく($c_0/c_1\to1$).相互作用が支配的になると,衝突があってもなくても同じ速さになるからである.
11.8 ゼロ音波と第一音波の違い
同じ液体に同じように「密度の波」を送るのに,なぜ2種類の音があるのか.鍵は粒子どうしの衝突が間に合うかどうかである.衝突の平均時間を $\tau$,波の角振動数を $\omega$ とする.
2つの領域
- 流体力学的領域($\omega\tau\ll1$):波の1周期のあいだに粒子は何度も衝突する.系は各点で局所熱平衡に達し,圧力・密度・流速という流体力学の変数だけで記述できる.復元力は圧力である.これが第一音波(普通の音).
- 無衝突領域($\omega\tau\gg1$):波の1周期のあいだに粒子はほとんど衝突しない.局所平衡は成り立たず,Fermi 面の形そのものが時間とともに変形する.復元力は他の粒子が作る平均場(Hartree 場)である.これがゼロ音波.
なぜ「ゼロ」音波なのか,そして Fermi 面はどう動くのか
名前の由来は「$\omega\tau\to\infty$,すなわち衝突頻度がゼロの極限で伝わる音」だからである.Landau が 1957年に予言したとき,多くの人は「衝突がないのにどうやって隣へ情報が伝わるのか」と訝しんだ.答えは,粒子どうしは直接ぶつからなくても平均場を通じて互いを感じているである.式 \eqref{eq:11-zerosound} で復元力の役を演じているのが $F_0=V_0N(0)$,すなわち平均場の強さであることが,そのことを表している.
違いは Fermi 面の変形の仕方に最もはっきり現れる.式 \eqref{eq:11-master} を導く途中の被積分関数から,分布のずれは $\delta n_\kk\propto\dfrac{\cos\theta}{s-\cos\theta}$($\theta$ は $\kk$ と $\qq$ のなす角)に比例することが読み取れる.第一音波では衝突が絶えず起きて局所平衡が保たれるので,Fermi 面は球形のまま中心が動き半径が伸び縮みするだけ(変形を $\cos\theta$ の Legendre 多項式で展開したときの次数を $\ell$ とすると,$\ell=0,1$ の変形のみ).ゼロ音波では衝突が形を戻さないので,Fermi 面は上式に従って洋梨形に歪み,$\qq$ 方向に大きく膨らむ.$s$ が $1$ に近いほど分母 $s-\cos\theta$ が前方($\theta=0$)で小さくなり,変形の前方集中が激しくなる.$\ell\ge2$ の高次変形を含むことが,これが流体力学では記述できないモードであることの現れである.
| 第一音波(first sound) | ゼロ音波(zero sound) | |
|---|---|---|
| 成立条件 | $\omega\tau\ll1$(衝突が速い) | $\omega\tau\gg1$(衝突が遅い) |
| 温度 | 高温側 | 低温側($1/\tau\propto T^2$) |
| 記述の枠組み | 流体力学(局所平衡) | 無衝突 Boltzmann 方程式/RPA |
| 復元力 | 圧力(衝突が伝える) | 平均場(Hartree 場) |
| Fermi 面 | 球形のまま移動・伸縮($\ell=0,1$) | 洋梨形に変形($\ell\ge2$ を含む) |
| 速度 | $c_1=v_F\sqrt{(1+F_0)/3}$ | $c_0=s\,v_F$($s$ は式 \eqref{eq:11-zerosound} の解) |
| 弱結合極限 | $c_1\to v_F/\sqrt3=0.577\,v_F$ | $c_0\to v_F$ |
| 強結合極限 | どちらも $v_F\sqrt{F_0/3}$ に収束 | |
| 大小関係 | つねに $c_0>c_1$ | |
| 液体 $^3$He($0.32\ \mathrm{atm}$) | 約 $188\ \mathrm{m/s}$ | 約 $194\ \mathrm{m/s}$ |
液体 $^3$He での検証(Abel–Anderson–Wheatley, 1966)
圧力 $0.32\ \mathrm{atm}$ の液体 $^3$He に $15\ \mathrm{MHz}$ 程度の超音波を通し,温度を $100\ \mathrm{mK}$ から $2\ \mathrm{mK}$ まで下げながら音速と減衰を測る実験が行われた.高温側($\omega\tau\ll1$)では音速は $188\ \mathrm{m/s}$ で一定——第一音波である.$10\ \mathrm{mK}$ あたりで音速が上昇を始め,低温側では $194\ \mathrm{m/s}$ 程度で一定になる.約 3.5% の増加,これがゼロ音波への乗り換えである.ちょうど $\omega\tau\simeq1$ となる温度では減衰が鋭いピークを示す.どちらの極限からも遠く,どちらの記述も効かない「最も損な」領域だからである.
電子気体との違いをもう一度.金属中の電子でも同じ無衝突条件 $\omega\tau\gg1$ が要る.しかし電子では $\omega_p\sim10^{16}\ \mathrm{s^{-1}}$ と非常に大きいので,$\tau\sim10^{-14}\ \mathrm{s}$ でも $\omega_p\tau\sim100\gg1$ が自動的に満たされる.金属中のプラズモンは,いわば常に「ゼロ音波の側」にいる.これが,プラズモンを議論するとき衝突をほとんど気にしなくてよい理由である.
11.9 まとめと演習
11.9.1 まとめ
- 集団励起は「分母がゼロ」で見つかる.$\epsilon(\qq,\omega)=0$ のとき外場ゼロでも有限の応答が存在しうる.第3章の共鳴 $m(\omega_0^2-\omega^2)=0$ の多体版であり,第1章 1.6節で予告した「応答関数の極=集団励起」の具体形である.
- プラズマ振動数は $\omega_p=\sqrt{4\pi ne^2/m}$(Gauss 単位).線形応答理論($\chi^0\to nq^2/m\omega^2$ と $v(q)=4\pi e^2/q^2$ の $q^2$ が約分される)からも,古典電磁気学(板をずらすと $E=4\pi neu$)からも同じ答えが出る.長波長では量子効果が効かないからである.
- 実用式は $\hbar\omega_p\,[\mathrm{eV}]=3.714\sqrt{n/10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}}$.Al で $15.8$(実測 $15.0$),Na で $5.9$(実測 $5.7$)eV.Cu, Ag では $d$ バンドの寄与で自由電子模型が破れる.
- $q^2$ 補正:$\omega(q)=\omega_p\left(1+\frac{3}{10}\frac{q^2v_F^2}{\omega_p^2}+\cdots\right)$.角度平均 $\braket{(\hat q\cdot\hat k)^2}=1/3$ と速度平均 $\overline{v^2}=\frac35v_F^2$ から係数 $3/5$ が出て,平方根を開いて $3/10$ になる.
- 閉じた形の Lindhard 関数 $\chi^0=\frac{N(0)}{2}\left[s\ln\frac{s+1}{s-1}-2\right]$($s=\omega/qv_F$)が本章の主役.$s\to0$ で Thomas–Fermi,$s\gg1$ で $nq^2/m\omega^2$,$0<s<1$ で虚部が生じる.
- Landau 減衰:$s<1$(粒子‐正孔連続体の中)では $\ln(s-1+\ii0^+)$ が $\ii\pi$ を生み,$\mathrm{Im}\,\epsilon\neq0$ となってプラズモンが崩壊する.臨界波数は粗い見積もりで $q_c\simeq\omega_p/v_F$(Al で $\simeq0.68k_F$),反跳と $q^2$ 分散まで入れて $q_c\simeq0.65k_F\simeq1.1\ \mathrm{Å^{-1}}$(波長で約 5 Å).物理的には,波と同じ速さで走る電子が「波乗り」してエネルギーを持ち去る.
- 実験:EELS の損失関数 $-\mathrm{Im}\,\epsilon^{-1}$ がプラズモンピークを与え,第12章で導く $f$ 和則の重みをほぼ独占する.表面プラズモンは $\epsilon+\epsilon_d=0$ から $\omega_s=\omega_p/\sqrt2$,球状ナノ粒子は $\epsilon+2\epsilon_m=0$ から $\omega_p/\sqrt{\epsilon_\infty+2\epsilon_m}$.金コロイドの $520\ \mathrm{nm}$ 吸収がルビー色の正体である.
- ゼロ音波:短距離相互作用 $V_0$ では $1=\frac{F_0}{2}\left[s\ln\frac{s+1}{s-1}-2\right]$($F_0=V_0N(0)$).$q$ が比の形でしか入らないので $\omega=c_0q$ の音波型になる.$F_0\to0$ で $s\to1+2\ee^{-2-2/F_0}$(非摂動的),$F_0\gg1$ で $s\to\sqrt{F_0/3}$.つねに $s>1$ なので Landau 減衰を受けない.
- 長距離力か短距離力かが,集団モードにギャップが開く(プラズモン)か音波になる(ゼロ音波)かを決める.これが本章最大の対比である.
- ゼロ音波 vs 第一音波:$\omega\tau\gg1$ なら Fermi 面が洋梨形に変形して平均場が復元力になり,$\omega\tau\ll1$ なら Fermi 面は球のままで圧力が復元力になる.つねに $c_0>c_1$.液体 $^3$He で $188\to194\ \mathrm{m/s}$ の乗り換えとして実測された.
11.9.2 演習問題
演習11.1 銀ナノ粒子の共鳴波長
Ag は fcc,格子定数 $a=4.09\ \mathrm{Å}$,価電子(5s)は原子あたり1個である.
(1) 電子密度 $n$ を求め,式 \eqref{eq:11-numeric} から自由電子の $\hbar\omega_p$ を計算せよ.
(2) $\epsilon_\infty=3.7$ として,水中($\epsilon_m=1.77$)の球状 Ag ナノ粒子の共鳴エネルギーを式 \eqref{eq:11-lspr} から求め,波長に直せ($\lambda[\mathrm{nm}]=1239.8/E[\mathrm{eV}]$).なお背景分極 $\epsilon_\infty$ は本来 $\omega$ に依存する量で,ここで使う $3.7$ は LSPR の波長域($3\ \mathrm{eV}$ 前後)での値である.11.3.3節でバルクプラズモンを $3.8\ \mathrm{eV}$ と合わせたときの $\epsilon_\infty\simeq5.5$ は,$d$ バンド遷移の閾値により近い振動数での実効値であり,両者が食い違うのはそのためである.
(3) 同じ粒子をガラス($\epsilon_m=2.25$)に埋め込むと共鳴はどちらへずれるか.センサへの応用と結びつけて説明せよ.
ヒント:(1) $n=4/a^3=5.86\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}$,$\hbar\omega_p=9.0\ \mathrm{eV}$.(2) $9.0/\sqrt{3.7+3.54}=3.34\ \mathrm{eV}\to371\ \mathrm{nm}$(実測は $400\ \mathrm{nm}$ 前後).(3) $\epsilon_m$ が増えれば分母が増えて共鳴エネルギーが下がる=長波長側へずれる.周囲の屈折率変化を色として読めるので屈折率センサになる.
演習11.2 球状試料の集団振動(消偏場)
11.3.2節では板を考えて $E=4\pi neu$ を得た.今度は球を考える.半径 $R$ の球内の電子全体を $u$ だけずらすと,内部に一様な消偏場 $E=\frac{4\pi}{3}neu$ が生じる(一様分極 $\bm{P}$ の球の内部電場が $-\frac{4\pi}{3}\bm{P}$ であることによる.電子は負電荷なので $\bm{P}=(-ne)\bm{u}$,すなわち大きさ $neu$ で変位と逆向きであり,その結果 $\bm{E}$ は $\bm{u}$ と同じ向きになる).
(1) 電子の運動方程式を立て,固有振動数が $\omega=\omega_p/\sqrt3$ になることを示せ.
(2) この結果が式 \eqref{eq:11-lspr} で $\epsilon_\infty=\epsilon_m=1$ とした場合と一致することを確かめよ.
(3) 無限に長い円柱の場合,電子全体を軸に垂直に $u$ だけずらすと内部電場は $2\pi neu$ になる.固有振動数を求めよ.(軸に平行にずらしても端が無限遠にあるので消偏場は生じず,復元力もはたらかない.)
ヒント:(1) $m\ddot u=-\frac{4\pi ne^2}{3}u$ より $\omega^2=\omega_p^2/3$.(3) $\omega=\omega_p/\sqrt2$.試料の形が変われば共鳴振動数が変わる——これがナノ粒子の形状で色を制御できる理由である.
演習11.3 ナトリウムの臨界波数
Na について $n=2.53\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}$,$\hbar\omega_p=5.9\ \mathrm{eV}$ である.
(1) $k_F=(3\pi^2n)^{1/3}$,$v_F=\hbar k_F/m$,$\epsilon_F=\frac12mv_F^2$ を計算せよ.
(2) $\alpha=\hbar\omega_p/\epsilon_F$ を求めよ.
(3) 粗い見積もり $q_c/k_F=\alpha/2$ から $q_c$ を Å$^{-1}$ 単位で求め,プラズモンが存在できる最短波長 $2\pi/q_c$ を出せ.
(4) 11.5節の $\alpha+\frac65\frac{x^2}{\alpha}=2x+x^2$ を Na について解き,(3) と比べよ.
ヒント:(1) $k_F=0.91\ \mathrm{Å^{-1}}$,$v_F=1.05\times10^6\ \mathrm{m/s}$,$\epsilon_F=3.1\ \mathrm{eV}$.(2) $\alpha=1.88$.(3) $q_c=0.94k_F=0.85\ \mathrm{Å^{-1}}$,$\lambda_{\min}\simeq7.4\ \mathrm{Å}$.(4) $0.36x^2+2x-1.88=0$ より $x\simeq0.82$.Al より $\alpha$ が大きい分 $q_c/k_F$ も大きい.
演習11.4 プラズモンの寿命
Drude 型 $\epsilon(\omega)=1-\dfrac{\omega_p^2}{\omega(\omega+\ii/\tau)}$ について.
(1) $\omega\tau\gg1$ として $\mathrm{Re}\,\epsilon$,$\mathrm{Im}\,\epsilon$ を $1/\omega\tau$ の1次まで求めよ.
(2) $\left.\partial\,\mathrm{Re}\,\epsilon/\partial\omega\right|_{\omega_p}$ を計算せよ.
(3) 式 \eqref{eq:11-gamma} を使って減衰率 $\Gamma$ を求め,$\Gamma=1/\tau$ となることを示せ.
(4) Al で $\tau=8\times10^{-15}\ \mathrm{s}$ とすると,ピーク幅 $\hbar\Gamma$ は何 eV か.EELS の実測幅($q\simeq0$ で約 $0.5\ \mathrm{eV}$,$q$ を大きくすると数 eV まで広がる)と比べよ.
ヒント:(1) $\mathrm{Re}\,\epsilon=1-\omega_p^2/\omega^2$,$\mathrm{Im}\,\epsilon=\omega_p^2/\omega^3\tau$.(2) $2\omega_p^2/\omega^3=2/\omega_p$.(3) $\Gamma=2\cdot\frac{1}{\omega_p\tau}\big/\frac{2}{\omega_p}=1/\tau$.(4) $\hbar/\tau\simeq0.08\ \mathrm{eV}$.$q\simeq0$ の実測幅 $0.5\ \mathrm{eV}$ でもこれより6倍以上広く,$q\neq0$ での粒子‐正孔崩壊やバンド間遷移が主な広がりの原因だと分かる.
演習11.5 ゼロ音波の分散方程式を解く
式 \eqref{eq:11-zerosound}:$1=\dfrac{F_0}{2}\left[s\ln\dfrac{s+1}{s-1}-2\right]$ について.
(1) $F_0=2$ のとき $g(s)=s\ln\frac{s+1}{s-1}-2=1$ を満たす $s$ を,はさみうちで小数第2位まで求めよ.
(2) それを強結合近似 $\sqrt{F_0/3}$ と比べよ.どちらが大きいか,なぜか.
(3) $g'(s)$ を計算し,$g$ が $s>1$ で単調減少すること(=解の一意性)を示せ.
(4) 第一音速 $c_1=v_F\sqrt{(1+F_0)/3}$ と比べ,$c_0/c_1$ を求めよ.
ヒント:(1) $s=1.1$ で $g=1.349$,$s=1.2$ で $g=0.877$ なので根は両者のあいだにある.$s=1.15$ で $g=1.062$,$s=1.16$ で $g=1.019$,$s=1.17$ で $g=0.980$ だから,$g=1$ の根は $1.16$ と $1.17$ のあいだにある.線形補間すると $1.165$ をわずかに下回るので,小数第2位までなら $s\simeq1.16$ である.(2) $\sqrt{2/3}=0.816<1$ で,そもそも $s>1$ を満たさない.強結合近似は $F_0\gg1$ でしか使えない.(3) $g'(s)=\ln\frac{s+1}{s-1}-\frac{2s}{s^2-1}$,展開すると $-\frac{4}{3s^3}-\cdots<0$.(4) $c_1/v_F=\sqrt{3/3}=1$ なので $c_0/c_1=s=1.16$.
参考文献
- A. L. Fetter, J. D. Walecka『多粒子系の量子論 理論編』マグロウヒル,15節「電子気体中のプラズマ振動」,16節「不完全 Fermi 気体中のゼロ音波」.本章の骨格.
- D. Bohm, D. Pines, "A Collective Description of Electron Interactions III", Phys. Rev. 92, 609 (1953). —— RPA とプラズモンの原典.
- L. D. Landau, "Oscillations in a Fermi Liquid", Sov. Phys. JETP 5, 101 (1957). —— ゼロ音波の予言.
- W. R. Abel, A. C. Anderson, J. C. Wheatley, "Propagation of Zero Sound in Liquid He$^3$ at Low Temperatures", Phys. Rev. Lett. 17, 74 (1966). —— ゼロ音波の実験的検証.
- R. F. Egerton, Electron Energy-Loss Spectroscopy in the Electron Microscope, 3rd ed., Springer (2011). —— EELS の実務書.
- G. D. Mahan, Many-Particle Physics, 3rd ed., Kluwer Academic/Plenum (2000), Chapter 5. —— Lindhard 関数と Landau 減衰の詳しい扱い.