第10章遮蔽 — Thomas–FermiとLindhard関数
金属の中に,余分な正電荷を1個そっと置いてみる.たとえば銅の結晶で,銅原子1個を亜鉛原子に置き換えると,そこには銅より1個多い正電荷が残る.真空中なら,この電荷が作るCoulombポテンシャルは $e/r$ でどこまでも届く.ところが金属中では,まわりの伝導電子がわらわらと集まってきて,その正電荷を包み隠してしまう.少し離れて見ると,正電荷はもうそこに無いように見える.これが遮蔽(screening)である.
遮蔽は,金属という物質を理解するうえで最も基本的な現象である.金属中の電子は,互いに $e^2/r$ という強くて長距離のCoulomb力で押し合っているはずなのに,実験的には「ほとんど自由な電子」のようにふるまう.この矛盾を解くのが遮蔽であり,Landau のFermi液体論が成り立つ理由でもある.
本章では,遮蔽をきちんと計算する.道具はすでに揃っている.第7章の久保公式,第8章のLehmann表示,第9章の誘電関数 $\epsilon(\qq,\omega)=1-v(q)\chi^0(\qq,\omega)$,そして第5章の留数定理である.あとは自由電子気体の $\chi^0(\qq,\omega)$ —— Lindhard関数 —— を実際に計算するだけである.
この計算は,線形応答理論の中で「最初に自分の手で最後まで通す」べき計算である.Fetter–Waleckaでは数行で片づけられているが,本章では途中式を一本も飛ばさずに書く.得られた関数は,遮蔽長を与え(10.2節),$q=2k_F$ という奇妙な特異点をもち(10.4節),粒子‐正孔連続体という散逸の舞台を定め(10.5節),そして第11章のプラズマ振動を生む(10.6節).ひとつの関数から,これだけの物理が出てくる.
- Lehmann表示に密度演算子の行列要素を代入して,Lindhard関数 $\chi^0(\qq,\omega)$ を導出すること
- なぜ分子に $n_\kk-n_{\kk+\qq}$ という「差」が現れるのか(2つの項の $\kk$ の付け替え)
- 静的極限 $\chi^0(\qq\to0,0)=-N(\epsilon_F)$ とThomas–Fermi遮蔽長 $q_{TF}^{-1}$
- 遮蔽Coulomb(湯川型)ポテンシャル $\phi(r)=\dfrac{e}{r}\ee^{-q_{TF}r}$ を留数定理で導くこと
- 静的Lindhard関数の完全形と,$q=2k_F$ での対数的非解析性
- Friedel振動 $\delta n(r)\propto\cos(2k_Fr)/r^3$ の起源,RKKY相互作用・Kohn異常・電荷密度波との関係
- $\mathrm{Im}\,\chi^0\neq0$ の領域=粒子‐正孔連続体,$(q,\omega)$ 平面の地図
- 高振動数極限 $\chi^0\to nq^2/m\omega^2$ と $f$ 和則の整合,そしてプラズマ振動の予告
10.1 Lindhard関数 $\chi^0(\qq,\omega)$ を自分の手で導く
10.1.1 何を計算するのか — 記号と約束
第9章の設定を思い出す.電子気体に,外から静電ポテンシャルをかける.電子1個が感じるポテンシャルエネルギーを $U_{\rm ext}(\xx,t)$ と書くと,摂動ハミルトニアンは
$$ \begin{equation} \hat{H}_{\rm ext}(t) = \int \dd^3x\; U_{\rm ext}(\xx,t)\, \hat{\rho}(\xx) \label{eq:10-Hext} \end{equation} $$である($\hat\rho(\xx)=\sum_\sigma\hat\psi^\dagger_\sigma(\xx)\hat\psi_\sigma(\xx)$ は数密度演算子であり,スピンについて和を取ってある).これに対する誘起数密度 $\delta n$ を,Fourier成分ごとに
と書いて,$\chi$ を密度応答関数と呼ぶ.第7章の久保公式をこの場合に書き下すと
$$ \begin{equation} \chi(\qq,\omega) = -\frac{\ii}{\hbar V}\int_0^{\infty}\dd t\; \ee^{\ii\omega t}\, \braket{\left[\hat\rho_{\qq}(t),\, \hat\rho_{-\qq}(0)\right]} \label{eq:10-kubo} \end{equation} $$となる($V$ は系の体積,$\hat\rho_\qq$ は10.1.3節で定義する).相互作用のない自由電子気体についてこの $\chi$ を計算したものを $\chi^0(\qq,\omega)$ と書き,Lindhard関数と呼ぶ.本章の主題はこれである.
符号の覚え方と,第9章との接続
式 \eqref{eq:10-chi-def} の符号は,「斥力ポテンシャルをかけると電子は逃げる」で覚える.$U_{\rm ext}>0$(電子にとって居心地が悪い)なら $\delta n<0$(電子が減る)だから,静的な $\chi$ は負である.実際,10.2節で $\chi^0(\qq\to0,0)=-N(\epsilon_F)<0$ が出る.
第9章のRPA(乱雑位相近似)では,電子は外部ポテンシャルではなく,他の電子が作った誘起ポテンシャルも含めた全ポテンシャル $U_{\rm tot}$ に応答する:$\delta n=\chi^0 U_{\rm tot}$.誘起分は $U_{\rm ind}(\qq)=v(q)\,\delta n(\qq)$,$v(q)=4\pi e^2/q^2$(Gauss単位系)だから
$$ U_{\rm tot}=U_{\rm ext}+v(q)\chi^0 U_{\rm tot} \quad\Longrightarrow\quad U_{\rm tot}=\frac{U_{\rm ext}}{1-v(q)\chi^0} $$すなわち誘電関数は $\epsilon(\qq,\omega)=1-v(q)\chi^0(\qq,\omega)$,そしてRPA の応答関数は $\chi^{\rm RPA}=\chi^0/\epsilon$ である.第9章の結果と一致する.本章で $\chi^0$ さえ求めれば,$\epsilon$ も $\chi^{\rm RPA}$ も自動的に決まる.
10.1.2 出発点:第8章のLehmann表示
第8章で,任意の遅延応答関数がスペクトル(Lehmann)表示をもつことを示した.式 \eqref{eq:10-kubo} の場合に書き下すと,$T=0$ で基底状態 $\ket{0}$(エネルギー $E_0$),完全系 $\{\ket{n}\}$(エネルギー $E_n$)として
導出:式 \eqref{eq:10-kubo} から式 \eqref{eq:10-lehmann} へ(第8章の復習)
ステップ1:完全系を挟む.Heisenberg表示の演算子は $\hat\rho_\qq(t)=\ee^{\ii\Ham t/\hbar}\hat\rho_\qq\ee^{-\ii\Ham t/\hbar}$ である.交換子の第1項に $1=\sum_n\ket{n}\bra{n}$ を挟むと
$$ \braket{0|\hat\rho_\qq(t)\hat\rho_{-\qq}(0)|0} =\sum_n \bra{0}\hat\rho_\qq\ket{n}\bra{n}\hat\rho_{-\qq}\ket{0}\;\ee^{\ii(E_0-E_n)t/\hbar} $$ここで $\hat\rho_\qq^\dagger=\hat\rho_{-\qq}$($\hat\rho(\xx)$ がエルミートだから)を使うと $\bra{0}\hat\rho_\qq\ket{n}=\bra{n}\hat\rho_{-\qq}\ket{0}^{*}$ となり,和の中身は $\abs{\bra{n}\hat\rho_{-\qq}\ket{0}}^2$ になる.
ステップ2:第2項も同様に.
$$ \braket{0|\hat\rho_{-\qq}(0)\hat\rho_{\qq}(t)|0} =\sum_n \bra{0}\hat\rho_{-\qq}\ket{n}\bra{n}\hat\rho_{\qq}\ket{0}\;\ee^{\ii(E_n-E_0)t/\hbar} =\sum_n\abs{\bra{n}\hat\rho_\qq\ket{0}}^2\ee^{\ii\omega_{n0}t} $$ただし $\omega_{n0}\equiv(E_n-E_0)/\hbar\ge0$ と略記した.
ステップ3:時間積分.$\eta\to0^+$ を収束因子として入れると
$$ \int_0^{\infty}\dd t\;\ee^{\ii\omega t}\ee^{\mp\ii\omega_{n0}t}\ee^{-\eta t} =\left[\frac{\ee^{\ii(\omega\mp\omega_{n0}+\ii\eta)t}}{\ii(\omega\mp\omega_{n0}+\ii\eta)}\right]_0^\infty =\frac{\ii}{\omega\mp\omega_{n0}+\ii\eta} $$上端では $\ee^{-\eta t}\to0$ が効いて消える.これが「因果律を守る $\ii\eta$」である.
ステップ4:まとめる.前係数の $-\ii/\hbar$ と,いま出た $\ii$ が掛かって $1/\hbar$ になる.$\hbar$ を分母の括弧の中に押し込めば式 \eqref{eq:10-lehmann} を得る.∎
式 \eqref{eq:10-lehmann} の読み方
この式は「応答関数の極が励起エネルギーを教える」という第8章の主張そのものである.第1項は $\hbar\omega=E_n-E_0$ で発散する.つまり外力の振動数が励起エネルギーに一致すると系が激しく応答する(共鳴).第2項は $\hbar\omega=-(E_n-E_0)$ に極をもち,これは負振動数側の同じ共鳴である(第1章の演習1.2で見た $\chi(-\omega)=\chi(\omega)^*$ の反映).
したがって $\chi^0$ を求めるには,次の2つを知ればよい.(i)どんな中間状態 $\ket{n}$ が $\hat\rho_{\pm\qq}\ket{0}$ に現れるか.(ii)その励起エネルギーはいくらか.自由電子気体では,どちらも初等的に答えられる.
10.1.3 密度演算子を生成消滅演算子で書く
まず $\hat\rho_\qq$ の定義を確認する.密度演算子のFourier成分を
$$ \hat\rho_\qq \equiv \int\dd^3x\; \ee^{-\ii\qq\cdot\xx}\,\hat\rho(\xx) = \sum_\sigma\int\dd^3x\; \ee^{-\ii\qq\cdot\xx}\,\hat\psi^\dagger_\sigma(\xx)\hat\psi_\sigma(\xx) $$と定義する.場の演算子を平面波で展開する($\sigma$ はスピン,$V$ は体積,周期境界条件):
$$ \hat\psi_\sigma(\xx)=\frac{1}{\sqrt{V}}\sum_{\kk}\ee^{\ii\kk\cdot\xx}\hat c_{\kk\sigma} $$導出:$\hat\rho_\qq$ の第二量子化表現
代入して,$\xx$ 積分を実行する.
$$ \hat\rho_\qq=\frac{1}{V}\sum_{\kk\kk'\sigma}\hat c^\dagger_{\kk\sigma}\hat c_{\kk'\sigma} \int\dd^3x\;\ee^{-\ii\qq\cdot\xx}\ee^{-\ii\kk\cdot\xx}\ee^{\ii\kk'\cdot\xx} $$$\xx$ 積分は $\displaystyle\int\dd^3x\,\ee^{\ii(\kk'-\kk-\qq)\cdot\xx}=V\,\delta_{\kk',\kk+\qq}$ である(周期境界条件のもとでの平面波の直交性).$V$ が約分されて
2番目の式は,$\hat\rho_\qq$ をそのままエルミート共役して書いたものである(ダミー添字は付け替えていない).∎
$\hat\rho_{-\qq}$ は「運動量 $\hbar\qq$ を系に注ぎ込む演算子」である
式 \eqref{eq:10-rho-q} の $\hat c^\dagger_{\kk+\qq}\hat c_\kk$ は,「運動量 $\hbar\kk$ の電子を消して,運動量 $\hbar(\kk+\qq)$ の電子を作る」という操作である.差し引き $\hbar\qq$ だけ運動量が増えている.
外部ポテンシャルの空間変化(波数 $\qq$ の縞模様)が,電子に $\hbar\qq$ の運動量キックを与える —— という物理が,この1行に入っている.
10.1.4 中間状態は粒子‐正孔対 — たった1種類しかない
自由電子気体の基底状態はFermi球 $\ket{FS}$ である.占有数を
$$ n_\kk=\theta(k_F-k)= \begin{cases}1 & (k<k_F)\\ 0 & (k>k_F)\end{cases}, \qquad \epsilon_\kk=\frac{\hbar^2k^2}{2m} $$と書く($T=0$).$\hat\rho_{-\qq}$ を $\ket{FS}$ に作用させると
$$ \hat\rho_{-\qq}\ket{FS}=\sum_{\kk\sigma}\hat c^\dagger_{\kk+\qq,\sigma}\hat c_{\kk\sigma}\ket{FS} $$各項が生き残る条件ははっきりしている.$\hat c_{\kk\sigma}$ が効くには $\kk$ が占有されていなければならない($n_\kk=1$).$\hat c^\dagger_{\kk+\qq,\sigma}$ が効くには $\kk+\qq$ が空でなければならない($n_{\kk+\qq}=0$).すなわち中間状態は
これが粒子‐正孔対(particle–hole pair)である.Fermi球の内側に穴(正孔)を1個あけ,外側に電子(粒子)を1個置いた状態である.$\qq\neq0$ である限り,これ以外の中間状態は現れない.自由電子気体の密度励起は,粒子‐正孔対だけなのである.
導出:行列要素はちょうど 1 になる
式 \eqref{eq:10-ph-state} の状態が規格化されていることを確かめる.反交換関係 $\{\hat c_{\kk\sigma},\hat c^\dagger_{\kk'\sigma'}\}=\delta_{\kk\kk'}\delta_{\sigma\sigma'}$ を使うと
$$ \braket{\kk\qq\sigma|\kk\qq\sigma} =\bra{FS}\hat c^\dagger_{\kk\sigma}\hat c_{\kk+\qq,\sigma}\,\hat c^\dagger_{\kk+\qq,\sigma}\hat c_{\kk\sigma}\ket{FS} $$真ん中の $\hat c_{\kk+\qq}\hat c^\dagger_{\kk+\qq}=1-\hat n_{\kk+\qq}$ を使えば
$$ =\bra{FS}\hat c^\dagger_{\kk\sigma}(1-\hat n_{\kk+\qq,\sigma})\hat c_{\kk\sigma}\ket{FS} =n_\kk\,(1-n_{\kk+\qq}) $$これは許される $(\kk,\sigma)$ に対して $1$,それ以外は $0$ である.つまり許される組はすでに規格化された直交状態を与える(異なる $(\kk,\sigma)$ は異なる占有配置をもつので互いに直交する).
したがって行列要素は
$$ \bra{\kk\qq\sigma}\hat\rho_{-\qq}\ket{FS} =\bra{\kk\qq\sigma}\sum_{\kk'\sigma'}\hat c^\dagger_{\kk'+\qq,\sigma'}\hat c_{\kk'\sigma'}\ket{FS}=1 $$和のうち $(\kk',\sigma')=(\kk,\sigma)$ の項だけが生き残るからである.行列要素の2乗は $n_\kk(1-n_{\kk+\qq})$ にちょうど等しい.∎
10.1.5 Lehmann表示に代入する — 第1項
式 \eqref{eq:10-lehmann} の第1項に,いま求めた行列要素と励起エネルギーを入れる.$n$ についての和は $(\kk,\sigma)$ についての和になる:
$$ (\text{第1項})=\frac{1}{V}\sum_{\kk\sigma} \frac{n_\kk(1-n_{\kk+\qq})}{\hbar\omega-(\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk)+\ii\eta} =\frac{1}{V}\sum_{\kk\sigma} \frac{n_\kk(1-n_{\kk+\qq})}{\hbar\omega+\epsilon_\kk-\epsilon_{\kk+\qq}+\ii\eta} $$最後は単に分母の括弧を外しただけである.この形にしておくのが後で効く.
10.1.6 第2項 — ここで $\kk$ の付け替えが起きる
第2項には $\hat\rho_{\qq}\ket{FS}$ が現れる.式 \eqref{eq:10-rho-q} の第1式のままでは $\hat c^\dagger_\kk\hat c_{\kk+\qq}$ という形なので,ダミー添字を $\kk\to\kk-\qq$ と付け替えて
$$ \hat\rho_\qq=\sum_{\kk\sigma}\hat c^\dagger_{\kk\sigma}\hat c_{\kk+\qq,\sigma} \;\xrightarrow{\;\kk\to\kk-\qq\;}\; \sum_{\kk\sigma}\hat c^\dagger_{\kk-\qq,\sigma}\hat c_{\kk\sigma} $$と書き直す.これは「運動量 $-\hbar\qq$ を注ぎ込む演算子」である.中間状態は $\ket{n}=\hat c^\dagger_{\kk-\qq,\sigma}\hat c_{\kk\sigma}\ket{FS}$,生き残る条件は $n_\kk=1$ かつ $n_{\kk-\qq}=0$,励起エネルギーは $\epsilon_{\kk-\qq}-\epsilon_\kk$ である.したがって
$$ (\text{第2項})=-\frac{1}{V}\sum_{\kk\sigma} \frac{n_\kk(1-n_{\kk-\qq})}{\hbar\omega+(\epsilon_{\kk-\qq}-\epsilon_\kk)+\ii\eta} $$ここでもう一度ダミー添字を付け替える.今度は $\kk\to\kk+\qq$ とする(和は全 $\kk$ にわたるので自由に付け替えてよい):
$$ (\text{第2項})=-\frac{1}{V}\sum_{\kk\sigma} \frac{n_{\kk+\qq}(1-n_{\kk})}{\hbar\omega+\epsilon_{\kk}-\epsilon_{\kk+\qq}+\ii\eta} $$なぜ2回も付け替えるのか
目的はただひとつ,第1項と第2項の分母を同じ形にすることである.第1項の分母は $\hbar\omega+\epsilon_\kk-\epsilon_{\kk+\qq}+\ii\eta$,第2項も付け替え後にまったく同じになった.分母が揃えば,分子だけを足し引きできる.
この「添字の付け替えで分母を揃える」という操作は,多体論の計算で何十回も出てくる.慣れておくと得である.10.3節でも10.6節でも同じ手を使う.
10.1.7 分子をまとめる — $n_\kk-n_{\kk+\qq}$ の出現
2つの項を足す.分母は共通なので分子だけを計算すればよい:
$$ n_\kk(1-n_{\kk+\qq})-n_{\kk+\qq}(1-n_\kk) = n_\kk - \underbrace{n_\kk n_{\kk+\qq}}_{\text{相殺}} - n_{\kk+\qq} + \underbrace{n_\kk n_{\kk+\qq}}_{\text{相殺}} = n_\kk-n_{\kk+\qq} $$2次の項が見事に消える.最後にスピン和を実行する.$\epsilon_\kk$ も $n_\kk$ もスピンに依らないから,$\sum_\sigma$ は単に因子 $2$ を出す.以上をまとめて
これがLindhard関数である.J. Lindhardが1954年に導いた.式 \eqref{eq:10-lindhard} が本章のすべての出発点になる.
式 \eqref{eq:10-lindhard} を日本語で読む
- 分子 $n_\kk-n_{\kk+\qq}$:「$\kk$ が詰まっていて $\kk+\qq$ が空いている」場所だけが応答に寄与する.図10.1の三日月形である.Pauli の排他律がここに入っている.
- 分母 $\hbar\omega-(\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk)$:外力の振動数 $\omega$ が粒子‐正孔対の励起エネルギーに一致すると発散する.これが共鳴である.
- $\ii\eta$:因果律.第5章のSokhotski–Plemelj公式で実部と虚部に分ければ,虚部(散逸)が出てくる(10.5節).
- 因子 $2$:スピンの自由度.忘れると遮蔽長が $\sqrt2$ 倍ずれる.
そして最も大事なこと:この式には相互作用がまったく入っていない.入っているのは自由電子の分散 $\epsilon_\kk=\hbar^2k^2/2m$ とFermi分布 $n_\kk$ だけである.にもかかわらず,これに $v(q)$ を組み合わせるだけで(RPA),遮蔽もプラズモンも出てくるのである.
記号の流儀 —— 教科書ごとに違うので注意
- $1/V$ の有無:本書の $\chi^0$ は単位体積あたりの量(示強変数)である.$V$ を付けない流儀もある.
- $\hbar$ の位置:分母を $\omega+(\epsilon_\kk-\epsilon_{\kk+\qq})/\hbar$ と書く流儀もある.すると全体に $1/\hbar$ が掛かる.次元をいつも確認すること(本書の $\chi^0$ の次元は $[\text{エネルギー}^{-1}\text{体積}^{-1}]$,すなわち状態密度と同じである).
- 記号:Fetter–Waleckaは $\chi^0$ ではなく分極伝播関数 $\Pi^0$ を使う.定数倍の違いがあるので,和則で校正するのが安全である.
- 符号:$\delta n=-\chi\,U$ と定義する本もある.その場合すべての符号が逆になる.「斥力で電子は逃げる」で毎回確かめるのが安全である.
10.2 静的極限とThomas–Fermi遮蔽
10.2.1 $\omega=0,\ q\to0$ で状態密度が現れる
まず最も簡単な極限を取る.$\omega=0$(静的)かつ $q\to0$(長波長)である.式 \eqref{eq:10-lindhard} で $\omega=0$ と置く:
$$ \chi^0(\qq,0)=\frac{2}{V}\sum_\kk\frac{n_\kk-n_{\kk+\qq}}{\epsilon_\kk-\epsilon_{\kk+\qq}} $$$\ii\eta$ は落とした.$\qq\neq0$ なら分母がゼロになる項では分子もゼロなので,発散は現れない.
導出:$\chi^0(\qq\to0,0)=-N(\epsilon_F)$
ステップ1:分子・分母をそれぞれ $\qq$ の1次まで展開する.
$$ n_{\kk+\qq}\simeq n_\kk+\qq\cdot\nabla_\kk n_\kk \quad\Longrightarrow\quad n_\kk-n_{\kk+\qq}\simeq -\,\qq\cdot\nabla_\kk n_\kk $$ $$ \epsilon_{\kk+\qq}\simeq \epsilon_\kk+\qq\cdot\nabla_\kk\epsilon_\kk \quad\Longrightarrow\quad \epsilon_\kk-\epsilon_{\kk+\qq}\simeq -\,\qq\cdot\nabla_\kk\epsilon_\kk $$ステップ2:比を取る.$n_\kk$ は $\kk$ に直接依るのではなく $\epsilon_\kk$ を通してのみ依る($n_\kk=n(\epsilon_\kk)$).したがって連鎖律により
$$ \nabla_\kk n_\kk=\frac{\dd n}{\dd\epsilon}\,\nabla_\kk\epsilon_\kk $$これを代入すると,$\qq\cdot\nabla_\kk\epsilon_\kk$ が分子と分母でそっくり相殺する:
$$ \frac{n_\kk-n_{\kk+\qq}}{\epsilon_\kk-\epsilon_{\kk+\qq}} \;\longrightarrow\; \frac{-\,\dfrac{\dd n}{\dd\epsilon}\,(\qq\cdot\nabla_\kk\epsilon_\kk)}{-\,(\qq\cdot\nabla_\kk\epsilon_\kk)} =\frac{\dd n}{\dd\epsilon_\kk} $$ここが要である.$\qq$ の向きにも大きさにも依存しない量が残った.だから $q\to0$ の極限が方向に依らず存在する.
ステップ3:$T=0$ での微分.$n(\epsilon)=\theta(\epsilon_F-\epsilon)$ だから
$$ \frac{\dd n}{\dd\epsilon}=-\delta(\epsilon-\epsilon_F) $$(階段関数の微分がデルタ関数.付録A参照.$\epsilon$ が増えると占有数が減るので符号は負である.)
ステップ4:和を実行する.
$$ \chi^0(\qq\to0,0)=\frac{2}{V}\sum_\kk\left(-\delta(\epsilon_\kk-\epsilon_F)\right) =-\underbrace{\frac{2}{V}\sum_\kk\delta(\epsilon_\kk-\epsilon_F)}_{\textstyle N(\epsilon_F)} $$∎ ここで $N(\epsilon_F)$ はFermi準位における単位体積あたりの状態密度(スピン両方を含む)である.
なぜ状態密度なのか — 直観
「電子気体をどれだけ押しつぶせるか」を測っているのが静的応答である.電子を押し込むには,Fermi準位のすぐ近くにある空席にねじ込むしかない(内側は排他律で埋まっている).Fermi準位付近の席が多い(状態密度が大きい)ほど押し込みやすい=応答が大きい.
これは第1章1.5.2節で述べた「静的感受率は熱力学量」の具体例でもある.実際,電子気体の等温圧縮率 $\kappa_T$ は自由電子模型で $\kappa_T=N(\epsilon_F)/n^2$ となり,$\chi^0(0,0)=-n^2\kappa_T$ と書ける(本章の後半では $\kappa$ を遮蔽波数の意味でも使うので,圧縮率のほうは $\kappa_T$ と書き分けておく).応答関数と熱力学量がつながった.
10.2.2 状態密度を具体的に計算する
導出:$N(\epsilon_F)=\dfrac{mk_F}{\pi^2\hbar^2}=\dfrac{3n}{2\epsilon_F}$
和を積分に直す.体積 $V$ の系では $\kk$ 空間の1状態が体積 $(2\pi)^3/V$ を占めるから
$$ \frac{1}{V}\sum_\kk \;\longrightarrow\; \int\frac{\dd^3k}{(2\pi)^3} $$よって
$$ N(\epsilon_F)=2\int\frac{\dd^3k}{(2\pi)^3}\,\delta(\epsilon_\kk-\epsilon_F) =\frac{2}{(2\pi)^3}\cdot4\pi\int_0^\infty k^2\,\dd k\;\delta\!\left(\frac{\hbar^2k^2}{2m}-\epsilon_F\right) $$デルタ関数の引数を $k$ で微分すると $\hbar^2k/m$ だから,$\delta(\cdots)=\dfrac{m}{\hbar^2k_F}\delta(k-k_F)$ である.したがって
$$ N(\epsilon_F)=\frac{8\pi}{8\pi^3}\cdot k_F^2\cdot\frac{m}{\hbar^2k_F} =\frac{mk_F}{\pi^2\hbar^2} $$これを電子密度 $n$ とFermiエネルギー $\epsilon_F$ で書き直す.$n=k_F^3/3\pi^2$,$\epsilon_F=\hbar^2k_F^2/2m$ を使うと
$$ \frac{3n}{2\epsilon_F}=\frac{3}{2}\cdot\frac{k_F^3}{3\pi^2}\cdot\frac{2m}{\hbar^2k_F^2}=\frac{mk_F}{\pi^2\hbar^2} $$∎ 「$3n/2\epsilon_F$」という形は覚えておくと便利である.
10.2.3 Thomas–Fermi誘電関数
10.1.1節のRPA の式に,いま得た $\chi^0(\qq\to0,0)=-N(\epsilon_F)$ を代入する.Coulomb相互作用のFourier変換は $v(q)=4\pi e^2/q^2$(Gauss単位系)だから
$$ \epsilon(q,0)=1-v(q)\chi^0(q,0)=1+\frac{4\pi e^2}{q^2}N(\epsilon_F) $$$q_{TF}$ をThomas–Fermi波数,その逆数 $\lambda_{TF}=1/q_{TF}$ をThomas–Fermi遮蔽長と呼ぶ.最後の等号は式 \eqref{eq:10-dos} の $N(\epsilon_F)=3n/2\epsilon_F$ を入れて $4\pi e^2\cdot\frac{3n}{2\epsilon_F}=\frac{6\pi ne^2}{\epsilon_F}$ としたものである.
別表現:$q_{TF}^2=4k_F/\pi a_0$
Bohr半径 $a_0=\hbar^2/me^2$ を使うと,式 \eqref{eq:10-dos} から
$$ q_{TF}^2=4\pi e^2\cdot\frac{mk_F}{\pi^2\hbar^2}=\frac{4e^2mk_F}{\pi\hbar^2}=\frac{4k_F}{\pi a_0} $$という覚えやすい形になる.$q_{TF}/2k_F=\sqrt{1/(\pi a_0 k_F)}$ なので,密度が高い($k_F$ が大きい)ほど $q_{TF}/2k_F$ は小さく,遮蔽は「相対的に弱く」なる.金属では $q_{TF}\sim k_F$ 程度である.
$\epsilon(q,0)=1+q_{TF}^2/q^2$ を眺める
この式は $q\to0$ で発散する.「長波長(=ゆるやかな空間変化)のポテンシャルは,いくらでも強く遮蔽される」ということである.逆に $q\to\infty$(=きわめて急激な空間変化)では $\epsilon\to1$,すなわち遮蔽されない.
直観的には,ゆっくり変化するポテンシャルなら電子はゆったり動いて完全に打ち消せる.しかし原子1個より細かい構造には,電子は追随できない.境目が $q\sim q_{TF}$ である.
10.2.4 実空間へ — 留数定理で湯川型ポテンシャルを出す
点電荷 $+e$(たとえば不純物イオンの余分な電荷)を原点に置く.真空中のポテンシャルは $\phi_{\rm ext}(r)=e/r$,そのFourier変換は $\phi_{\rm ext}(\qq)=4\pi e/q^2$ である.金属中では誘電関数で割られるから
$$ \phi(\qq)=\frac{\phi_{\rm ext}(\qq)}{\epsilon(q,0)} =\frac{4\pi e/q^2}{1+q_{TF}^2/q^2} =\frac{4\pi e}{q^2+q_{TF}^2} $$実に単純である.あとはこれを実空間に戻せばよい.ここで第5章の留数定理が活躍する.
導出:遮蔽Coulombポテンシャル $\phi(r)=\dfrac{e}{r}\ee^{-q_{TF}r}$
ステップ1:3次元逆Fourier変換を書き下す.本書の規約(付録A)で
$$ \phi(\xx)=\int\frac{\dd^3q}{(2\pi)^3}\;\phi(\qq)\,\ee^{\ii\qq\cdot\xx} =\frac{1}{(2\pi)^3}\int\dd^3q\;\frac{4\pi e}{q^2+q_{TF}^2}\,\ee^{\ii\qq\cdot\xx} $$ステップ2:角度積分を実行する.$\qq$ の極座標を,$\xx$ を極軸に取って $\dd^3q=q^2\dd q\,\dd\Omega$,$\qq\cdot\xx=qr\cos\theta$ とする.$u=\cos\theta$ と置くと
$$ \int\dd\Omega\;\ee^{\ii qr\cos\theta} =2\pi\int_{-1}^{1}\dd u\;\ee^{\ii qru} =2\pi\cdot\frac{\ee^{\ii qr}-\ee^{-\ii qr}}{\ii qr} =2\pi\cdot\frac{2\sin qr}{qr}=\frac{4\pi\sin qr}{qr} $$ステップ3:残った動径積分を整理する.
$$ \phi(r)=\frac{4\pi e}{8\pi^3}\int_0^\infty q^2\dd q\;\frac{1}{q^2+q_{TF}^2}\cdot\frac{4\pi\sin qr}{qr} =\frac{2e}{\pi r}\int_0^\infty\dd q\;\frac{q\sin qr}{q^2+q_{TF}^2} $$(係数:$\dfrac{4\pi e\cdot4\pi}{8\pi^3 r}=\dfrac{16\pi^2e}{8\pi^3r}=\dfrac{2e}{\pi r}$.$q^2/q=q$ が分子に残る.)
ステップ4:偶関数化して全実軸の積分にする.被積分関数 $\dfrac{q\sin qr}{q^2+q_{TF}^2}$ は $q\to-q$ で不変(分子が奇関数×奇関数=偶関数)である.したがって
$$ I\equiv\int_0^\infty\dd q\;\frac{q\sin qr}{q^2+q_{TF}^2} =\frac{1}{2}\int_{-\infty}^{\infty}\dd q\;\frac{q\sin qr}{q^2+q_{TF}^2} =\frac{1}{2}\,\mathrm{Im}\int_{-\infty}^{\infty}\dd q\;\frac{q\,\ee^{\ii qr}}{q^2+q_{TF}^2} $$($\sin qr=\mathrm{Im}\,\ee^{\ii qr}$ を使った.$\cos$ に対応する部分は奇関数なので全実軸積分で落ちる.)
ステップ5:複素平面で積分路を閉じる.$r>0$ なので,上半面で $\abs{\ee^{\ii qr}}=\ee^{-r\,\mathrm{Im}\,q}\to0$ である.Jordan の補題(第5章)により,上半面の大半円の寄与はゼロになる.被積分関数の極は
$$ q^2+q_{TF}^2=0\quad\Longrightarrow\quad q=\pm\ii q_{TF} $$上半面にあるのは $q=+\ii q_{TF}$ の1個だけである.
ステップ6:留数を計算する.$q^2+q_{TF}^2=(q-\ii q_{TF})(q+\ii q_{TF})$ と因数分解して
$$ \Res_{q=\ii q_{TF}}\frac{q\,\ee^{\ii qr}}{(q-\ii q_{TF})(q+\ii q_{TF})} =\frac{(\ii q_{TF})\,\ee^{\ii(\ii q_{TF})r}}{2\ii q_{TF}} =\frac{\ee^{-q_{TF}r}}{2} $$ステップ7:留数定理を適用する.反時計回りに閉じたので
$$ \int_{-\infty}^{\infty}\dd q\;\frac{q\ee^{\ii qr}}{q^2+q_{TF}^2}=2\pi\ii\cdot\frac{\ee^{-q_{TF}r}}{2}=\ii\pi\ee^{-q_{TF}r} $$虚部を取って $I=\dfrac12\cdot\pi\ee^{-q_{TF}r}=\dfrac{\pi}{2}\ee^{-q_{TF}r}$.
ステップ8:代入する.
∎ 遮蔽Coulombポテンシャル,あるいは湯川型ポテンシャルである.$q_{TF}\to0$(遮蔽なし)とすれば $e/r$ に戻ることも確認できる.
10.2.5 数値を入れる — 銅の遮蔽長は 0.55 Å
例題10.1 銅(Cu)のThomas–Fermi遮蔽長
銅は1原子あたり1個の伝導電子を出し,電子密度は $n=8.47\times10^{22}\ \mathrm{cm^{-3}}=0.0847\ \mathrm{\mathring{A}^{-3}}$ である.$q_{TF}$ と遮蔽長を求めよ.Gauss単位系で $e^2=14.40\ \mathrm{eV\cdot\mathring{A}}$,$\hbar^2/2m=3.810\ \mathrm{eV\cdot\mathring{A}^2}$ を使ってよい.
解答.まずFermi波数:
$$ k_F=(3\pi^2 n)^{1/3}=(29.61\times0.0847)^{1/3}\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}} =(2.508)^{1/3}=1.359\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}} $$Fermiエネルギー:
$$ \epsilon_F=\frac{\hbar^2k_F^2}{2m}=3.810\times(1.359)^2=3.810\times1.847=7.04\ \mathrm{eV} $$(実験値 $7.0\ \mathrm{eV}$ とよく合う.)状態密度は式 \eqref{eq:10-dos} から
$$ N(\epsilon_F)=\frac{3n}{2\epsilon_F}=\frac{3\times0.0847}{2\times7.04}=0.01805\ \mathrm{\mathring{A}^{-3}eV^{-1}} $$Thomas–Fermi波数は式 \eqref{eq:10-eps-tf} から
$$ q_{TF}^2=4\pi e^2N(\epsilon_F)=4\pi\times14.40\times0.01805=3.267\ \mathrm{\mathring{A}^{-2}} \;\Longrightarrow\; q_{TF}=1.81\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}} $$∎ 銅の最近接原子間距離は $2.556\ \mathrm{\mathring{A}}$ である.遮蔽長は原子間距離のおよそ $1/5$ である.これは驚くべきことで,不純物の余分な電荷は隣の原子に届く前にほぼ完全に隠されてしまう.
| 金属 | $n\ (10^{22}\,\mathrm{cm^{-3}})$ | $k_F\ (\mathrm{\mathring{A}^{-1}})$ | $\epsilon_F\ (\mathrm{eV})$ | $q_{TF}\ (\mathrm{\mathring{A}^{-1}})$ | $\lambda_{TF}\ (\mathrm{\mathring{A}})$ | $q_{TF}/2k_F$ | $\hbar\omega_p\ (\mathrm{eV})$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| K | 1.40 | 0.746 | 2.12 | 1.34 | 0.75 | 0.90 | 4.4 |
| Na | 2.65 | 0.922 | 3.24 | 1.49 | 0.67 | 0.81 | 6.0 |
| Ag | 5.86 | 1.202 | 5.50 | 1.70 | 0.59 | 0.71 | 9.0 |
| Cu | 8.47 | 1.359 | 7.04 | 1.81 | 0.55 | 0.67 | 10.8 |
| Al | 18.1 | 1.750 | 11.7 | 2.05 | 0.49 | 0.59 | 15.8 |
Thomas–Fermi はどこまで正しいか
ここまでの議論は $\chi^0(\qq,0)$ を $q\to0$ の値 $-N(\epsilon_F)$ で置き換えた近似(Thomas–Fermi近似)である.表10.1を見ると $q_{TF}/2k_F$ は $0.6$〜$0.9$ もあり,$q\to0$ とは到底言えない.したがって定量的な精度は期待できない.
それでも「遮蔽長は原子間距離より短い」という結論は変わらない.ただし図10.3のように湯川型を原子間距離($1$〜$3\ \mathrm{\mathring{A}}$)まで外挿して得た数値は,あくまで長波長遮蔽の目安であって,遠方の厳密な漸近形ではない.実際,次の10.3節で $\chi^0(q,0)$ の厳密な $q$ 依存性を求めると,Thomas–Fermiでは絶対に出てこない新しい現象 —— Friedel振動 —— が現れ,遠方の振る舞いは単一の指数関数ではなく $\cos(2k_Fr)/r^3$ 型の振動に置き換わる.
10.3 静的Lindhard関数の完全形
今度は $q\to0$ の近似をせず,$\omega=0$ のまま任意の $q$ について式 \eqref{eq:10-lindhard} を計算する.$T=0$ とする.
10.3.1 2つの項を1つにまとめる
導出:分子を $n_\kk$ だけにする
出発点は
$$ \chi^0(q,0)=\frac{2}{V}\sum_\kk\frac{n_\kk-n_{\kk+\qq}}{\epsilon_\kk-\epsilon_{\kk+\qq}} =\underbrace{\frac{2}{V}\sum_\kk\frac{n_\kk}{\epsilon_\kk-\epsilon_{\kk+\qq}}}_{\rm (A)} -\underbrace{\frac{2}{V}\sum_\kk\frac{n_{\kk+\qq}}{\epsilon_\kk-\epsilon_{\kk+\qq}}}_{\rm (B)} $$(B) で $\kk'=\kk+\qq$ と置く($\kk=\kk'-\qq$).和は全 $\kk$ にわたるので $\kk'$ も全空間を走る:
$$ {\rm (B)}=\frac{2}{V}\sum_{\kk'}\frac{n_{\kk'}}{\epsilon_{\kk'-\qq}-\epsilon_{\kk'}} $$さらに $\kk'\to-\kk'$ と置き換える.$\epsilon$ も $n$ も偶関数($\epsilon_{-\kk}=\epsilon_\kk$,$n_{-\kk}=n_\kk$)だから
$$ \epsilon_{-\kk'-\qq}-\epsilon_{-\kk'}=\epsilon_{\kk'+\qq}-\epsilon_{\kk'} $$ $$ {\rm (B)}=\frac{2}{V}\sum_{\kk}\frac{n_{\kk}}{\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_{\kk}} =-\frac{2}{V}\sum_{\kk}\frac{n_{\kk}}{\epsilon_{\kk}-\epsilon_{\kk+\qq}}=-{\rm (A)} $$したがって ${\rm (A)}-{\rm (B)}=2\,{\rm (A)}$,すなわち
∎ 分子が $n_\kk$ だけになったので,$\kk$ 積分はFermi球の内側だけで済む.計算がぐっと楽になった.
10.3.2 和を積分に直し,角度積分を実行する
導出:角度積分から対数が出てくる
ステップ1:エネルギー差を書き下す.
$$ \epsilon_\kk-\epsilon_{\kk+\qq}=\frac{\hbar^2}{2m}\left(k^2-\abs{\kk+\qq}^2\right) =-\frac{\hbar^2}{2m}\left(2\kk\cdot\qq+q^2\right) $$ステップ2:和を積分に直す.$\frac1V\sum_\kk\to\int\frac{\dd^3k}{(2\pi)^3}$ を使い,$n_\kk$ で積分領域を $k<k_F$ に制限する:
$$ \chi^0(q,0)=-\frac{8m}{\hbar^2}\int_{k<k_F}\frac{\dd^3k}{(2\pi)^3}\;\frac{1}{2\kk\cdot\qq+q^2} $$ステップ3:極座標にする.$\qq$ を極軸に取り,$u=\cos\theta$ とすると $\kk\cdot\qq=kqu$,$\dd^3k=2\pi k^2\dd k\,\dd u$.
$$ \chi^0(q,0)=-\frac{8m}{\hbar^2}\cdot\frac{2\pi}{8\pi^3}\int_0^{k_F}k^2\dd k\int_{-1}^{1}\frac{\dd u}{2kqu+q^2} =-\frac{2m}{\pi^2\hbar^2}\int_0^{k_F}k^2\dd k\int_{-1}^{1}\frac{\dd u}{2kqu+q^2} $$(係数:$\dfrac{8m}{\hbar^2}\cdot\dfrac{2\pi}{8\pi^3}=\dfrac{2m}{\pi^2\hbar^2}$.)
ステップ4:$u$ 積分.これは $\displaystyle\int\frac{\dd u}{au+b}=\frac{1}{a}\ln\abs{au+b}$ の形である($a=2kq$,$b=q^2$):
ひとつ断っておく.$k>q/2$ では被積分関数の分母が $u_0=-q/2k\in(-1,1)$ でゼロになり,この項だけを取り出すと積分は特異である.もとの $n_\kk-n_{\kk+\qq}$ の形では分子も同時にゼロになって可積分だったから,これは10.3.1節で2つの項を1つにまとめた代償である.$\omega=0$ は $\ii\eta\to0$ の実部を取ることに対応し,それはCauchy の主値を取ることに他ならない.以下の絶対値付きの対数は,まさにその主値の値である.
$$ \int_{-1}^{1}\frac{\dd u}{2kqu+q^2} =\frac{1}{2kq}\Big[\ln\abs{2kqu+q^2}\Big]_{-1}^{1} =\frac{1}{2kq}\ln\abs{\frac{q^2+2kq}{q^2-2kq}} =\frac{1}{2kq}\ln\abs{\frac{q+2k}{q-2k}} $$対数はここで生まれる.そして $k=q/2$ のとき分母がゼロになる —— これが後の $q=2k_F$ 特異性の芽である.
ステップ5:代入して整理する.
$$ \chi^0(q,0)=-\frac{2m}{\pi^2\hbar^2}\cdot\frac{1}{2q}\int_0^{k_F}k\,\dd k\;\ln\abs{\frac{2k+q}{2k-q}} =-\frac{m}{\pi^2\hbar^2 q}\,J, \qquad J\equiv\int_0^{k_F}k\,\ln\abs{\frac{2k+q}{2k-q}}\,\dd k $$∎ 残るは1変数積分 $J$ だけである.
10.3.3 動径積分 — 部分積分ひとつで片づく
導出:$J$ の計算
見やすくするために $a\equiv q/2$ と置く.$\ln\abs{\dfrac{2k+q}{2k-q}}=\ln\abs{\dfrac{k+a}{k-a}}$ だから
$$ J=\int_0^{k_F}k\,\ln\abs{\frac{k+a}{k-a}}\,\dd k $$ステップ1:部分積分の準備.$u=\ln\abs{\dfrac{k+a}{k-a}}$,$\dd v=k\,\dd k$ とする.ここで $v$ の積分定数をわざと $v=\dfrac{k^2-a^2}{2}$ と選ぶ($-a^2/2$ を足した).これが計算を劇的に簡単にする.
ステップ2:$u$ の微分.
$$ \frac{\dd u}{\dd k}=\frac{1}{k+a}-\frac{1}{k-a}=\frac{(k-a)-(k+a)}{(k+a)(k-a)}=\frac{-2a}{k^2-a^2} $$ステップ3:部分積分を実行する.
$$ J=\left[\frac{k^2-a^2}{2}\ln\abs{\frac{k+a}{k-a}}\right]_0^{k_F} -\int_0^{k_F}\frac{k^2-a^2}{2}\cdot\frac{-2a}{k^2-a^2}\,\dd k $$第2項の被積分関数で $k^2-a^2$ がきれいに約分される($v$ の定数を選んだ甲斐があった):
$$ -\int_0^{k_F}\frac{k^2-a^2}{2}\cdot\frac{-2a}{k^2-a^2}\dd k=+a\int_0^{k_F}\dd k=a\,k_F $$ステップ4:境界項.$k=0$ では $\dfrac{0-a^2}{2}\ln\abs{\dfrac{a}{-a}}=-\dfrac{a^2}{2}\ln1=0$ である.$k=k_F$ の項だけが残って
$$ J=\frac{k_F^2-a^2}{2}\ln\abs{\frac{k_F+a}{k_F-a}}+a\,k_F $$ステップ5:無次元化する.ここで
と定義すると
$$ J=\frac{k_F^2(1-x^2)}{2}\ln\abs{\frac{1+x}{1-x}}+x\,k_F^2 $$ステップ6:$\chi^0$ に戻す.$q=2xk_F$ を使って
$$ \chi^0(q,0)=-\frac{m}{\pi^2\hbar^2\cdot 2xk_F}\,k_F^2\left[\frac{1-x^2}{2}\ln\abs{\frac{1+x}{1-x}}+x\right] =-\frac{mk_F}{\pi^2\hbar^2}\left[\frac{1-x^2}{4x}\ln\abs{\frac{1+x}{1-x}}+\frac12\right] $$$mk_F/\pi^2\hbar^2=N(\epsilon_F)$(式 \eqref{eq:10-dos})だったから,最終結果は
∎ この $F(x)$ を静的Lindhard関数の無次元形と呼ぶことにする.$\chi^0(q,0)$ そのもの(10.3節の表題の「静的Lindhard関数」)とは $-N(\epsilon_F)$ 倍だけ違うので,混同しないでほしい.
10.3.4 極限を確かめる
導出:$x\to0$ で $F\to1$,$x\to\infty$ で $F\to1/3x^2$
(i)$x\to0$.$\ln\dfrac{1+x}{1-x}=2\left(x+\dfrac{x^3}{3}+\cdots\right)$ を使う:
$$ \frac{1-x^2}{4x}\cdot 2\left(x+\frac{x^3}{3}\right) =\frac{1-x^2}{2}\left(1+\frac{x^2}{3}\right) =\frac12\left(1+\frac{x^2}{3}-x^2+O(x^4)\right) =\frac12-\frac{x^2}{3}+O(x^4) $$ $$ \Longrightarrow\quad F(x)=1-\frac{x^2}{3}+O(x^4) $$たしかに $F(0)=1$,すなわち $\chi^0(0,0)=-N(\epsilon_F)$ で10.2節の結果を再現する.検算完了である.
(ii)$x\to\infty$.$\ln\abs{\dfrac{1+x}{1-x}}=\ln\dfrac{x+1}{x-1}=2\left(\dfrac1x+\dfrac{1}{3x^3}+\cdots\right)$:
$$ \frac{1-x^2}{4x}\cdot\frac{2}{x}\left(1+\frac{1}{3x^2}\right) =\frac{1-x^2}{2x^2}\left(1+\frac{1}{3x^2}\right) =-\frac12+\frac{1}{2x^2}-\frac{1}{6x^2}+O(x^{-4}) =-\frac12+\frac{1}{3x^2} $$ $$ \Longrightarrow\quad F(x)\simeq\frac{1}{3x^2}=\frac{4k_F^2}{3q^2} $$$1/2$ どうしが打ち消し合って $F\to0$ になる.物理的には「あまりに細かい空間構造には電子が追随できない=応答がゼロ」である.∎
(iii)$x=1$($q=2k_F$).$1-x^2=0$ なので対数の発散が抑えられて $F(1)=\dfrac12$ ちょうどである.値は有限だが,次節で見るように微分が発散する.
10.4 $q=2k_F$ の非解析性とFriedel振動
10.4.1 なぜ $q=2k_F$ が特別なのか
$q=2k_F$ の幾何学的意味
エネルギーを使わずに($\omega=0$ で)電子を移せる最大の運動量移行はいくらだろうか.Fermi面上の点 $\kk$($k=k_F$)からFermi面上の別の点 $\kk+\qq$($\abs{\kk+\qq}=k_F$)へ移す場合を考えればよい.両者ともFermi面上にあるので $q$ の最大値は直径,すなわち $q=2k_F$ である.
$q<2k_F$ では,Fermi面上のどこかに必ず「エネルギーを変えずに $\qq$ だけずれる」ペアが存在する.$q>2k_F$ ではそんなペアはもう存在しない.$q=2k_F$ はその境目である.
図10.1で言えば,2つの球の重なりが消える瞬間が $q=2k_F$ である.応答の「作り方」が定性的に変わるのだから,そこで関数が滑らかでなくなるのは自然である.
導出:$x=1$ で傾きが対数発散すること
$x=1+\delta$($\abs{\delta}\ll1$)と置いて $F(x)$ を展開する.
ステップ1:各因子を展開する.
$$ 1-x^2=1-(1+\delta)^2=-2\delta-\delta^2\simeq-2\delta $$ $$ \frac{1+x}{1-x}=\frac{2+\delta}{-\delta}\quad\Longrightarrow\quad \ln\abs{\frac{1+x}{1-x}}\simeq\ln\frac{2}{\abs{\delta}} $$ $$ \frac{1}{4x}=\frac{1}{4(1+\delta)}\simeq\frac14 $$ステップ2:掛け合わせる.
$$ F(1+\delta)\simeq\frac12+\frac{-2\delta}{4}\ln\frac{2}{\abs\delta} =\frac12-\frac{\delta}{2}\ln\frac{2}{\abs\delta} =\frac12+\frac{\delta}{2}\ln\frac{\abs\delta}{2} $$ステップ3:微分する.
$$ \frac{\dd F}{\dd x}=\frac{\dd F}{\dd\delta}\simeq\frac12\ln\frac{\abs\delta}{2}+\frac12 \;\xrightarrow{\ \delta\to0\ }\;-\infty $$∎ 値そのものは連続だが,傾きが対数的に発散する.$\delta\ln\abs\delta$ 型の非解析性である.テイラー展開ができない,すなわち $x=1$ で解析的でない.
10.4.2 非解析性が実空間で振動を生む
「$k$ 空間の尖り」は「実空間の遠方振動」を意味する
これはFourier変換の一般的な性質である.
- $f(q)$ が実軸を含むある帯状領域で解析的なら,$f(r)$ は遠方で指数関数的に速く減衰する.減衰率を決めるのは実軸から最も近い複素特異点までの距離である.Thomas–Fermi の $1/(q^2+q_{TF}^2)$ は $q=\pm\ii q_{TF}$ に極をもつだけで $\abs{\mathrm{Im}\,q}<q_{TF}$ の帯では解析的であり,実空間ではちょうど $\ee^{-q_{TF}r}$ になった(10.2.4節).
実軸上で何回でも微分できる($C^\infty$ である)だけでは,この結論は出ない.そのときに言えるのは「どんなべきよりも速く減衰する」ところまでで,指数減衰まで言うには複素平面への解析接続が要る.逆に実軸上で有限回しか微分できなければ,遠方の減衰はべき型になり,その次数は微分可能な回数で決まる. - $f(q)$ がある $q_0$ で非解析的なら,$f(r)$ は遠方で $\cos(q_0 r)$ と振動しながらべきで減衰する.
身近な例では,矩形波をFourier級数で表したときのGibbs現象がこの親戚である.関数の尖り(不連続)は,共役空間での長く尾を引く振動に対応する.Fermi球の「鋭い縁」($T=0$ の階段関数)が,実空間の $2k_F$ 振動を生むのである.
導出:$\delta n(r)\propto\dfrac{\cos(2k_Fr)}{r^3}$
ステップ1:実空間へ戻す式を用意する.誘起密度は $\delta n(\qq)=\chi^{\rm RPA}(q,0)\,U_{\rm ext}(\qq)$ である.10.2.4節と同じ角度積分をして
$$ \delta n(r)=\int\frac{\dd^3q}{(2\pi)^3}\delta n(\qq)\ee^{\ii\qq\cdot\xx} =\frac{1}{2\pi^2 r}\int_0^\infty \dd q\;q\,\sin(qr)\;\delta n(q) $$ステップ2:どこが遠方を支配するか.$r$ が大きいと $\sin(qr)$ が激しく振動し,$\delta n(q)$ の滑らかな部分からの寄与は互いに打ち消し合って急速に消える(Riemann–Lebesgue の補題).生き残るのは非解析点 $q=2k_F$ の近傍だけである.
ステップ3:特異部分を取り出す.式 \eqref{eq:10-2kf-sing} より,$s\equiv q-2k_F$ として
$$ \delta n(q)\Big|_{\rm sing}=C\,s\,\ln\abs{s} $$という形の項がある($C$ は $q=2k_F$ での滑らかな因子をまとめた定数).
ステップ4:この形のFourier変換.$\ln\abs s$ のFourier変換は $-\pi/\abs r$(デルタ関数項を除く)である.$s$ を掛けることは $-\ii\,\dd/\dd r$ に対応するから,$r>0$ で
$$ \int_{-\infty}^{\infty}\dd s\;s\ln\abs{s}\;\ee^{\ii sr} =-\ii\frac{\dd}{\dd r}\left(-\frac{\pi}{r}\right)=-\frac{\ii\pi}{r^2} $$ステップ5:組み立てる.$q\simeq2k_F$,$\sin(qr)=\mathrm{Im}\,\ee^{\ii qr}=\mathrm{Im}\left(\ee^{\ii2k_Fr}\ee^{\ii sr}\right)$ を使って
$$ \int_0^\infty\dd q\;q\sin(qr)\,\delta n(q)\Big|_{\rm sing} \simeq 2k_F\,C\;\mathrm{Im}\left[\ee^{\ii2k_Fr}\left(-\frac{\ii\pi}{r^2}\right)\right] =-\frac{2\pi k_F C}{r^2}\cos(2k_Fr) $$これをステップ1に戻すと,$1/r$ が掛かって
∎ これがFriedel振動である(J. Friedel, 1952).振幅の係数 $A$ は不純物の電荷や遮蔽の扱い方(RPAか位相差法か)に依るが,$\cos(2k_Fr)/r^3$ という形は普遍的である.
Friedel振動が引き起こす現象
- RKKY相互作用:磁性不純物のスピンが伝導電子を偏極させると,その偏極も同じ $2k_F$ 振動をする.距離 $R$ 離れた2個の磁性不純物の間には $J(R)\propto\cos(2k_FR)/R^3$ の交換相互作用が働く.符号が距離とともに振動するので,強磁性的にも反強磁性的にもなる.希薄磁性合金のスピングラスの起源である.
- Kohn異常:イオンの振動は伝導電子に遮蔽されるので,フォノンの振動数は裸の値 $\Omega_q$ から繰り込まれる.電子‐フォノン結合を $g_q$ とすると,最低次のフォノン自己エネルギーによる繰り込みは $$ \widetilde\Omega_q^{\,2}=\Omega_q^2+C\abs{g_q}^2\chi^0(q,0),\qquad C>0 $$ という形に書ける.本書の規約では $\chi^0(q,0)<0$ だから第2項は負であり,電子は確かにフォノンを軟化させる向きに効く.$q=2k_F$ で $\chi^0$ の微分が発散するため,$\widetilde\Omega_q$ の分散が $q=2k_F$ でカクンと折れる.中性子非弾性散乱で実際に観測され,フォノンの測定からFermi面の形が分かるという驚くべき事実の根拠になっている.(係数 $C$ の具体形はフォノンGreen関数の定義の流儀に依るので,ここで本質的なのは符号だけである.)
- 電荷密度波(CDW)とPeierls転移:1次元系では $\chi^0(2k_F,0)$ そのものが対数発散する(演習10.2).上のフォノン軟化の式で $q=2k_F$ の項が際限なく効くことになり,$\widetilde\Omega_{2k_F}\to0$ となる.フォノンが完全に軟化すると格子は $2k_F$ の周期(実空間では $\pi/k_F$)で自発的に歪み,Fermi面にギャップが開いて電子系のエネルギーが下がる.金属が絶縁体になるのである —— これがPeierls転移であり,そのとき生じる周期的な電荷変調が電荷密度波である.ポリアセチレンの二量化や $\mathrm{NbSe}_3$ などの擬1次元物質のCDWがこれである.
符号についての注意:この不安定性は「静的な誘電関数がゼロになること」ではない.本書の規約では斥力Coulomb $v_q>0$ と $\chi^0(q,0)<0$ なので $$ \epsilon(q,0)=1-v_q\chi^0(q,0)=1+v_q\abs{\chi^0(q,0)}>1 $$ であり,$\chi^0(2k_F,0)$ が負に発散してもむしろ $\epsilon$ は大きくなるだけで,決してゼロにはならない.不安定になるのは電子系そのものではなく,電子‐フォノン結合を介して軟化する格子のほうである. - STMで見える:走査トンネル顕微鏡で金属表面の不純物や段差のまわりを見ると,実際に $\pi/k_F$ 周期の電子密度の波紋が見える.Friedel振動は絵として撮影できる現象である.
RKKY・Kohn異常・Peierls転移は同じ一つの事実の子供である
この3つはどれも,静的Lindhard関数が $q=2k_F$ で非解析的になるという単一の事実から出ている.違うのは「その非解析性を何が拾うか」だけである.
- 不純物電荷が拾えば,遮蔽電荷の Friedel振動 $\cos(2k_Fr)/r^3$.
- 局在スピンが拾えば,スピン感受率を通じた RKKY相互作用 $\cos(2k_FR)/R^3$.
- 格子(フォノン)が拾えば,$\widetilde\Omega_q$ の折れ曲がり=Kohn異常.
- その折れ曲がりが深くなって $\widetilde\Omega_{2k_F}$ がゼロまで落ちれば,Peierls転移とCDW.
つまりKohn異常とPeierls転移は別物ではなく,同じフォノン軟化の弱い場合と極限の場合である.次元が下がって特異性が強くなるほど(表10.2),軟化は深くなる.
「1次元金属はどんなに弱い結合でも必ず転移する」はどこまで本当か
上のPeierls不安定性の議論が文字どおり成り立つのは,理想的な1次元バンド,完全なnesting,平均場近似,$T\to0$ という条件をすべて満たすときだけである.現実の物質では次の効果が結論を大きく修正する.
- 有限温度:$\chi^0_{\rm 1D}(2k_F,0)$ の対数発散は温度で切られ,$\ln(\epsilon_F/k_BT)$ 程度で頭打ちになる.結果として転移温度は $k_BT_P\sim\epsilon_F\ee^{-1/\lambda}$($\lambda$ は無次元の電子‐フォノン結合定数)という指数的に小さい量になり,結合が弱ければ実験的にはゼロと区別できない.
- 鎖間結合とnesting の不完全性:実在の擬1次元物質には鎖の間の飛び移りがあり,Fermi面は完全な平面ではない.nestingがずれると $2k_F$ の特異性は鈍り,発散は有限の高さのピークに変わる.
- 揺らぎ:厳密に1次元の系では熱揺らぎ・量子揺らぎのために有限温度で真の長距離秩序は生じず,平均場近似そのものが破綻する.実際に観測されるCDW転移は,鎖間結合によって3次元的な秩序が可能になって初めて起こる.$T_P$ の上の広い温度領域には,秩序の揺らぎだけが見える擬ギャップ領域が現れる.
- 有限サイズ:短い鎖では許される $q$ が離散的になり,ちょうど $2k_F$ の波数が存在するとは限らない.
したがって「弱い結合でも必ず転移する」は理想化された平均場の主張として受け取るべきであり,現実の物質でCDWが見えるかどうかは上の各効果の兼ね合いで決まる.
| 次元 | $\chi^0(q,0)$ の形 | $q=2k_F$ でのふるまい | 帰結 |
|---|---|---|---|
| 1次元 | $-\dfrac{2m}{\pi\hbar^2q}\ln\abs{\dfrac{q+2k_F}{q-2k_F}}$ | $\chi^0$ 自身が対数発散 | $2k_F$ フォノンの完全軟化 → Peierls転移(理想1次元・完全nesting・平均場・$T\to0$ のとき) |
| 2次元 | $-N_{2D}\left[1-\theta(q-2k_F)\sqrt{1-(2k_F/q)^2}\right]$ | $\chi^0$ 自身は連続だが $\sqrt{q-2k_F}$ 型のカスプ(1階微分は $q\to2k_F^{+}$ で $(q-2k_F)^{-1/2}$ と発散する) | 強いnesting効果 |
| 3次元 | 式 \eqref{eq:10-lindhard-static} | 1階微分が対数発散 | Friedel振動・Kohn異常 |
10.5 動的な場合 — 粒子‐正孔連続体
10.5.1 実部と虚部に分ける
$\omega\neq0$ に戻る.式 \eqref{eq:10-lindhard} に第5章のSokhotski–Plemelj公式
$$ \frac{1}{X+\ii\eta}=\PV\frac{1}{X}-\ii\pi\delta(X)\qquad(\eta\to0^+) $$を適用すると,実部と虚部が分離する.虚部は
$\mathrm{Im}\,\chi^0\neq0$ とはどういうことか
第3章で見たように,$\mathrm{Im}\,\chi$ はエネルギー散逸を表す.式 \eqref{eq:10-imchi} のデルタ関数は「外力の量子 $\hbar\omega$ が,ちょうど1個の粒子‐正孔対の励起エネルギーに一致する」ことを要求している.
つまり$\mathrm{Im}\,\chi^0\neq0$ の領域とは,外力が実際に粒子‐正孔対を作れる(=エネルギーを吸い取られる)$(q,\omega)$ の領域である.この領域を粒子‐正孔連続体(particle–hole continuum)と呼ぶ.第11章のLandau減衰は,プラズモンがこの領域に入り込んだときに起きる現象である.
10.5.2 $\mathrm{Im}\,\chi^0$ を実際に計算する
導出:$\mathrm{Im}\,\chi^0$ の閉じた形($\omega>0$,$T=0$)
ステップ1:分子の整理.$\omega>0$ ではデルタ関数が $\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk=\hbar\omega>0$ を要求する.$n_\kk-n_{\kk+\qq}$ がゼロでないのは片方が $1$,片方が $0$ のときだけで,エネルギーの大小からそれは $n_\kk=1,\ n_{\kk+\qq}=0$ の場合に限る.よって $n_\kk-n_{\kk+\qq}\to n_\kk(1-n_{\kk+\qq})$ と書いてよい.
ステップ2:積分に直す.式 \eqref{eq:10-imchi} の $\dfrac{2}{V}\sum_\kk\to2\displaystyle\int\frac{\dd^3k}{(2\pi)^3}$ とし,$\dd^3k=2\pi k^2\dd k\,\dd u$($u=\cos\theta$,$\qq$ が極軸)を使う.前係数は
$$ -\pi\cdot 2\cdot\frac{2\pi}{(2\pi)^3}=-\frac{4\pi^2}{8\pi^3}=-\frac{1}{2\pi} $$なので
$$ \mathrm{Im}\,\chi^0=-\frac{1}{2\pi}\int_0^{k_F}k^2\dd k\int_{-1}^{1}\dd u\;\Theta\; \delta\!\left(\hbar\omega-\frac{\hbar^2}{2m}(2kqu+q^2)\right) $$($\Theta$ は $\abs{\kk+\qq}>k_F$ という条件が満たされていれば $1$,そうでなければ $0$ を与えるものである.$k<k_F$ はすでに積分範囲に入れた.)
ステップ3:$u$ 積分をデルタ関数で潰す.デルタ関数の引数を $u$ で微分すると $-\dfrac{\hbar^2kq}{m}$ だから
$$ \delta(\cdots)=\frac{m}{\hbar^2kq}\,\delta(u-u_0), \qquad u_0=\frac{m\omega}{\hbar kq}-\frac{q}{2k} $$ $$ \mathrm{Im}\,\chi^0=-\frac{m}{2\pi\hbar^2 q}\int_0^{k_F}k\,\dd k\; \Theta\!\left(1-\abs{u_0}\right)\,\Theta\!\left(\abs{\kk+\qq}-k_F\right) $$($k^2\cdot\dfrac{1}{k}=k$ になった.ここからは $\Theta(\cdot)$ を引数付きの階段関数——引数が正なら $1$,負なら $0$——として使う.上の2つの条件をそのまま階段関数の引数に書き直しただけである.)
ステップ4:2つの条件を $k$ の条件に翻訳する.
(i)$\abs{u_0}\le1$.両辺に $k>0$ を掛けると
$$ -k\le\frac{m\omega}{\hbar q}-\frac q2\le k \quad\Longleftrightarrow\quad k\ge k_2\equiv\abs{\frac{m\omega}{\hbar q}-\frac{q}{2}} $$(ii)$\abs{\kk+\qq}>k_F$.デルタ関数のおかげで $\epsilon_{\kk+\qq}=\epsilon_\kk+\hbar\omega$ だから,これは $\epsilon_\kk>\epsilon_F-\hbar\omega$,すなわち
$$ k\ge k_1,\qquad k_1^2\equiv k_F^2-\frac{2m\omega}{\hbar}\quad(\text{負なら }k_1=0) $$ステップ5:積分は初等的.$\int k\,\dd k=k^2/2$ だから
($[\;\cdot\;]_+$ は「負なら $0$」の意味.)∎ 驚くほど簡単な形になった.
導出:どちらの条件が効くか — 領域IとII
$\bar\nu\equiv\dfrac{m\omega}{\hbar q}$,$Q\equiv\dfrac q2$ と略記すると $k_2=\abs{\bar\nu-Q}$,$k_1^2=k_F^2-4\bar\nu Q$ である($\dfrac{2m\omega}{\hbar}=2\bar\nu q=4\bar\nu Q$ を使った).差を取ると
$$ k_1^2-k_2^2=k_F^2-4\bar\nu Q-(\bar\nu-Q)^2 $$ここで $(\bar\nu-Q)^2=(\bar\nu+Q)^2-4\bar\nu Q$ を使うと,$-4\bar\nu Q$ が消えて
$$ k_1^2-k_2^2=k_F^2-(\bar\nu+Q)^2 $$したがって
$$ k_1>k_2 \iff \frac{m\omega}{\hbar q}+\frac q2<k_F \iff \hbar\omega<\frac{\hbar^2}{2m}\left(2k_Fq-q^2\right) $$領域I(低振動数側):$k_1$ が効く.$k_F^2-k_1^2=\dfrac{2m\omega}{\hbar}$ だから
(最後の形は $N(\epsilon_F)=mk_F/\pi^2\hbar^2$,$v_F=\hbar k_F/m$ を代入すれば確かめられる.)$\omega$ に厳密に比例するのが特徴で,これが金属の低エネルギー励起が「$\omega$ に比例する連続スペクトル」をもつことの数式表現である.
領域II(高振動数側):$k_2$ が効く.
$$ \mathrm{Im}\,\chi^0=-\frac{m}{4\pi\hbar^2q}\left[k_F^2-\left(\frac{m\omega}{\hbar q}-\frac q2\right)^2\right] $$これが正である条件は $\abs{\dfrac{m\omega}{\hbar q}-\dfrac q2}<k_F$,すなわち
∎ 左側の不等式は $q<2k_F$ では自動的に満たされる(左辺が負だから).この2本の曲線が粒子‐正孔連続体の上端と下端である.
境界での連続性チェック
以下では $N\equiv N(\epsilon_F)$ と略記する.領域IとIIの境界 $\hbar\omega=\dfrac{\hbar^2}{2m}(2k_Fq-q^2)$ で両式が一致することを確かめる.無次元変数 $x=q/2k_F$,$\nu=\hbar\omega/4\epsilon_F$ を使うと境界は $\nu=x-x^2$ であり
$$ \text{領域I:}\quad-\frac{\pi}{2}N\frac{\nu}{x}=-\frac{\pi}{2}N\,\frac{x-x^2}{x}=-\frac{\pi}{2}N(1-x) $$ $$ \text{領域II:}\quad-\frac{\pi N}{8x}\left[1-\left(\frac{\nu}{x}-x\right)^2\right] =-\frac{\pi N}{8x}\left[1-(1-2x)^2\right]=-\frac{\pi N}{8x}\cdot4x(1-x)=-\frac{\pi}{2}N(1-x) $$一致した.こういう検算を必ずすること.なお領域IIの無次元形は演習10.6で導く.
10.5.3 $(q,\omega)$ 平面の地図
境界の式はどこから来たか(もう一度,幾何で)
粒子‐正孔対の励起エネルギーは $\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk=\dfrac{\hbar^2}{2m}(2kq\cos\theta+q^2)$ である.$k\le k_F$,$\cos\theta\in[-1,1]$ の範囲で動かすと,この量は
$$ \frac{\hbar^2}{2m}(q^2-2k_Fq)\quad\text{から}\quad\frac{\hbar^2}{2m}(q^2+2k_Fq) $$までの値を取りうる.最大は「Fermi面上の電子を $\qq$ の向きに叩く」場合,最小は「$-\qq$ の向きに叩く」場合である.
ただし $q<2k_F$ では,$\hbar\omega$ をいくらでもゼロに近づけられる.Fermi面上には「$\qq$ だけずらしてもFermi面上に留まる」点が存在するからである(10.4.1節).だから連続体は原点から生えている.$q<2k_F$ なら,どんなに小さい $\omega$ でも散逸が起きる —— 電子気体が有限の $q$ の擾乱に対して完全には無損失でいられない根本的な理由である.
ここで一言だけ注意しておく.この「有限の $q$ での散逸」を,そのまま金属が不透明であることの説明にしてはいけない.光の波数は $q\simeq\omega/c$ であり,位相速度 $\omega/q=c$ は $v_F$ よりも桁違いに大きい.つまり光学極限は図10.6の連続体の外側——縦軸に張り付くほど左上——を通るのであって,粒子‐正孔連続体の内部に入り込むわけではない.金属の反射と不透明性は,Drude応答と誘電関数の符号(プラズマ端より下では $\epsilon<0$),有限の散乱率,それにバンド間遷移によって説明されるべきものである.粒子‐正孔連続体が主役になるのは,電子線エネルギー損失分光(EELS)や非弾性散乱のように有限の $q$ を持ち込める測定のほうである(第11章・第12章).
10.6 高振動数極限と $f$ 和則
10.6.1 $\omega\gg qv_F$ の展開
導出:$\chi^0\to\dfrac{nq^2}{m\omega^2}$
ステップ1:分子を $n_\kk$ だけにする.10.1.6節と同じ操作を逆向きに行う.式 \eqref{eq:10-lindhard} を2つに割り,$n_{\kk+\qq}$ の項で $\kk\to\kk-\qq$ と置き換えると
$$ \chi^0(\qq,\omega)=\frac{2}{V}\sum_\kk n_\kk\left[ \frac{1}{\hbar\omega-\Delta_+}-\frac{1}{\hbar\omega+\Delta_-}\right], \qquad \Delta_\pm\equiv\epsilon_{\kk\pm\qq}-\epsilon_\kk $$ここで $\Delta_\pm=\dfrac{\hbar^2}{2m}\left(\pm2\kk\cdot\qq+q^2\right)$ である($\ii\eta$ は虚部が消える領域を考えているので落とした).
ステップ2:$1/\omega$ で展開する.$\hbar\omega\gg\abs{\Delta_\pm}$ として
$$ \frac{1}{\hbar\omega-\Delta_+}=\frac{1}{\hbar\omega}\left(1+\frac{\Delta_+}{\hbar\omega}+\frac{\Delta_+^2}{(\hbar\omega)^2}+\cdots\right) $$ $$ \frac{1}{\hbar\omega+\Delta_-}=\frac{1}{\hbar\omega}\left(1-\frac{\Delta_-}{\hbar\omega}+\frac{\Delta_-^2}{(\hbar\omega)^2}-\cdots\right) $$引き算すると0次が消え,
$$ \left[\cdots\right]=\frac{1}{\hbar\omega}\left[\frac{\Delta_++\Delta_-}{\hbar\omega} +\frac{\Delta_+^2-\Delta_-^2}{(\hbar\omega)^2}+\frac{\Delta_+^3+\Delta_-^3}{(\hbar\omega)^3}+\cdots\right] $$ステップ3:最低次を評価する.ここが気持ちのよいところである:
$$ \Delta_++\Delta_-=\frac{\hbar^2}{2m}\left(2\kk\cdot\qq+q^2\right)+\frac{\hbar^2}{2m}\left(-2\kk\cdot\qq+q^2\right) =\frac{\hbar^2q^2}{m} $$$\kk$ に依らない定数になった.したがって $\kk$ 和は単に $n_\kk$ の和になり
$$ \chi^0\simeq\frac{2}{V}\sum_\kk n_\kk\cdot\frac{\hbar^2q^2/m}{(\hbar\omega)^2} =\frac{q^2}{m\omega^2}\cdot\underbrace{\frac{2}{V}\sum_\kk n_\kk}_{=\,n} $$∎ $n$ は電子数密度である.Fermi統計の細かい情報はすべて消えて,密度と質量だけが残った.速く揺さぶられると,電子はもはや量子統計を気にせず,ただの荷電粒子の集まりとして振る舞うのである.
次の次数:プラズモンの分散を先取りする
$1/\omega^4$ の補正を求めておく.$\Delta_+^2-\Delta_-^2=(\Delta_++\Delta_-)(\Delta_+-\Delta_-)$ で,$\Delta_+-\Delta_-=\dfrac{2\hbar^2\kk\cdot\qq}{m}$ は $\kk$ について奇関数だから,Fermi球での平均はゼロである.よってこの次数は落ちる.
次は $\Delta_+^3+\Delta_-^3$ である.$A\equiv\dfrac{\hbar^2\kk\cdot\qq}{m}$,$B\equiv\dfrac{\hbar^2q^2}{2m}$ と置けば $\Delta_\pm=\pm A+B$ で
$$ \Delta_+^3+\Delta_-^3=(A+B)^3+(B-A)^3=2B^3+6A^2B $$Fermi球での平均は $\braket{(\kk\cdot\qq)^2}=q^2\braket{k^2}/3$,$\braket{k^2}=\frac35k_F^2$ だから $\braket{A^2}=\dfrac{\hbar^4q^2k_F^2}{5m^2}$.最低次との比を取ると
$$ \frac{2B^3+6\braket{A^2}B}{2B\,(\hbar\omega)^2} =\frac{B^2+3\braket{A^2}}{(\hbar\omega)^2} =\frac{3}{5}\frac{q^2v_F^2}{\omega^2}+\frac{\hbar^2q^4}{4m^2\omega^2} $$($v_F=\hbar k_F/m$ を使った.)したがって
∎ $\epsilon(\qq,\omega)=1-v(q)\chi^0=0$ を解くと
$$ 1=\frac{4\pi e^2}{q^2}\cdot\frac{nq^2}{m\omega^2}\left[1+\frac35\frac{q^2v_F^2}{\omega^2}\right] \quad\Longrightarrow\quad \omega_q^2\simeq\omega_p^2+\frac35 q^2v_F^2, \qquad \omega_p^2=\frac{4\pi ne^2}{m} $$これがプラズマ振動とその分散である.第11章で詳しく扱うが,Lindhard関数の高振動数展開から自然に出てくることをここで見ておく.図10.6の赤い曲線がこれである.
10.6.2 $f$ 和則との整合 — 2通りの検算
第8章で,密度応答関数が満たすべき厳密な和則($f$ 和則)を導いた.本書の規約では
となる.これは相互作用の有無に依らず成り立つ厳密な関係で,電荷保存則(連続の方程式)から導かれるものである.ここでは2つのことを確かめる.(i)高振動数極限 \eqref{eq:10-highfreq} が和則と整合すること.(ii)Lindhard関数が実際に和則を満たすこと.
検算(i):Kramers–Kronig関係から高振動数極限を出す
第4章のKramers–Kronig関係
$$ \mathrm{Re}\,\chi(\omega)=\frac{1}{\pi}\PV\int_{-\infty}^{\infty}\dd\omega'\;\frac{\mathrm{Im}\,\chi(\omega')}{\omega'-\omega} $$で $\omega$ を非常に大きくする.$\abs{\omega}\gg\abs{\omega'}$($\mathrm{Im}\,\chi$ が値をもつ範囲)として
$$ \frac{1}{\omega'-\omega}=-\frac{1}{\omega}\cdot\frac{1}{1-\omega'/\omega} \simeq-\frac{1}{\omega}\left(1+\frac{\omega'}{\omega}+\cdots\right) $$代入すると
$$ \mathrm{Re}\,\chi(\omega)\simeq-\frac{1}{\pi\omega}\underbrace{\int\dd\omega'\,\mathrm{Im}\,\chi(\omega')}_{=\,0\ (\text{奇関数})} -\frac{1}{\pi\omega^2}\int\dd\omega'\,\omega'\,\mathrm{Im}\,\chi(\omega') $$第1項は $\mathrm{Im}\,\chi$ が $\omega$ の奇関数であること(第1章の演習1.2)から消える.これを式 \eqref{eq:10-highfreq} と比べると
$$ \frac{nq^2}{m\omega^2}=-\frac{1}{\pi\omega^2}\int\dd\omega'\,\omega'\,\mathrm{Im}\,\chi \quad\Longleftrightarrow\quad -\frac1\pi\int\dd\omega\,\omega\,\mathrm{Im}\,\chi=\frac{nq^2}{m} $$∎ 式 \eqref{eq:10-fsum} そのものである.高振動数極限と $f$ 和則は同じことを2通りに言っているだけだと分かった.
検算(ii):Lindhard関数が和則を満たすことを直接示す
ステップ1:$\mathrm{Im}\,\chi^0$ を代入する.式 \eqref{eq:10-imchi} を式 \eqref{eq:10-fsum} の左辺に入れる.$-\frac1\pi\times(-2\pi/V)=2/V$ だから
$$ -\frac1\pi\int\dd\omega\,\omega\,\mathrm{Im}\,\chi^0 =\frac{2}{V}\sum_\kk(n_\kk-n_{\kk+\qq})\int\dd\omega\;\omega\;\delta\!\left(\hbar\omega-(\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk)\right) $$ステップ2:デルタ関数で $\omega$ 積分を潰す.$\delta(\hbar\omega-E)=\frac1\hbar\delta(\omega-E/\hbar)$ なので,$\omega=E/\hbar$ を代入して
$$ \int\dd\omega\;\omega\;\delta(\hbar\omega-E)=\frac{1}{\hbar}\cdot\frac{E}{\hbar}=\frac{E}{\hbar^2} $$ $$ \Longrightarrow\quad -\frac1\pi\int\dd\omega\,\omega\,\mathrm{Im}\,\chi^0 =\frac{2}{\hbar^2V}\sum_\kk(n_\kk-n_{\kk+\qq})(\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk) $$ステップ3:また添字を付け替える.2つに分け,$n_{\kk+\qq}$ の項で $\kk\to\kk-\qq$ とすると
$$ =\frac{2}{\hbar^2V}\sum_\kk n_\kk\Big[(\epsilon_{\kk+\qq}-\epsilon_\kk)-(\epsilon_\kk-\epsilon_{\kk-\qq})\Big] =\frac{2}{\hbar^2V}\sum_\kk n_\kk\Big[\epsilon_{\kk+\qq}+\epsilon_{\kk-\qq}-2\epsilon_\kk\Big] $$ステップ4:括弧の中を計算する.自由電子では
$$ \epsilon_{\kk\pm\qq}=\epsilon_\kk\pm\frac{\hbar^2\kk\cdot\qq}{m}+\frac{\hbar^2q^2}{2m} $$だから,足すと1次項が消えて
$$ \epsilon_{\kk+\qq}+\epsilon_{\kk-\qq}-2\epsilon_\kk=\frac{\hbar^2q^2}{m} $$$\kk$ に依らない定数である(放物線分散の2階差分だから当然である).
ステップ5:仕上げ.
$$ -\frac1\pi\int\dd\omega\,\omega\,\mathrm{Im}\,\chi^0 =\frac{2}{\hbar^2V}\cdot\frac{\hbar^2q^2}{m}\sum_\kk n_\kk =\frac{q^2}{m}\cdot\frac{2}{V}\sum_\kk n_\kk=\frac{nq^2}{m} $$∎ 厳密に一致した.近似も極限も使っていない.Lindhard関数は $f$ 和則を厳密に満たす.
和則が保証していること
式 \eqref{eq:10-fsum} の右辺 $nq^2/m$ には,相互作用も統計も入っていない.したがって相互作用を入れても和則の値は変わらない.RPAで $\chi^0\to\chi^{\rm RPA}=\chi^0/\epsilon$ としても,$\int\omega\,\mathrm{Im}\,\chi\,\dd\omega$ の総量は保存される.
これは強い制約である.RPAでは粒子‐正孔連続体のスペクトル強度の大半がプラズモンに吸い上げられるのだが,総量が決まっているので「どれだけ吸い上げられるか」が計算できてしまう.実際,$q\to0$ ではほぼ全部がプラズモンに移り,$\mathrm{Im}\,\chi^{\rm RPA}$ は $\omega_p$ の位置の1本のデルタ関数になる.第11章と第12章(動的構造因子)の主題である.
「和則で検算する」という習慣は,多体論の計算で最も役に立つ習慣のひとつである.係数を1つ間違えれば,和則は必ず破れる.
10.7 実験との対応
10.7.1 なぜ金属中の電子は「自由」に見えるのか
遮蔽とLandau のFermi液体論
金属中の電子は $e^2/r$ という強い長距離力で押し合っている.ところが比熱は $C\propto T$(自由電子気体の予言),電気伝導はDrude模型で説明でき,de Haas–van Alphen効果ではFermi面がくっきり見える.なぜ相互作用が「見えない」のか.
答えの半分が遮蔽である.実効的な相互作用は式 \eqref{eq:10-yukawa} の湯川型で,銅では $0.55\ \mathrm{\mathring{A}}$ しか届かない.長距離力が短距離力に化けてしまえば,散乱は稀にしか起こらない.
もう半分がPauli の排他律である.Fermi面から $\Delta\epsilon$ だけ離れた電子が散乱するとき,終状態も空いていなければならない.位相空間の制限から散乱率は $\Gamma\propto(\Delta\epsilon)^2$ となり,Fermi面近傍では散乱がきわめて稀になる.寿命 $\hbar/\Gamma$ がエネルギー $\Delta\epsilon$ より長い準粒子が定義でき,これがLandau のFermi液体論の準粒子である.
遮蔽(相互作用を短距離にする)と排他律(散乱の位相空間を潰す)の合わせ技で,相互作用する電子系が「自由電子+弱い残留相互作用」に見えるのである.本章で計算した $\chi^0$ は,その第一歩を定量化したものにほかならない.
10.7.2 不純物散乱と残留抵抗
例題10.2 遮蔽された不純物による散乱と残留抵抗の見積もり
金属中の余分な電荷 $Ze$ をもつ不純物のポテンシャルは,式 \eqref{eq:10-yukawa} で $e\to Ze$ としたものである.電子(電荷 $-e$)がこれを感じるポテンシャルエネルギーは $U(r)=-\dfrac{Ze^2}{r}\ee^{-q_{TF}r}$(引力)であり,そのFourier変換は $\tilde U(q)=-\dfrac{4\pi Ze^2}{q^2+q_{TF}^2}$ である.第12章の規約 $f_{\rm Born}(\qq)=-\dfrac{m}{2\pi\hbar^2}\tilde U(q)$ を使うと
$$ f(\theta)=+\frac{2mZe^2}{\hbar^2\left(q^2+q_{TF}^2\right)}, \qquad q=2k_F\sin\frac\theta2 $$となる(符号は不純物電荷の符号で反転するが,以下で使うのは $\abs{f}^2$ だけなので結果には効かない).輸送断面積 $\sigma_{\rm tr}=\int(1-\cos\theta)\abs{f}^2\dd\Omega$ を求め,銅に $Z=1$ の不純物を $1\ \mathrm{at.\%}$ 入れたときの残留抵抗を見積もれ.
解答.$u=\sin^2(\theta/2)$ と置くと $q^2=4k_F^2u$,$1-\cos\theta=2u$,$\dd\Omega=4\pi\,\dd u$($u:0\to1$)である.$A\equiv 2mZe^2/\hbar^2=2Z/a_0$,$b\equiv4k_F^2$,$c\equiv q_{TF}^2$ とすると
$$ \sigma_{\rm tr}=8\pi A^2\int_0^1\frac{u\,\dd u}{(bu+c)^2} =\frac{8\pi A^2}{b^2}\left[\ln\frac{b+c}{c}+\frac{c}{b+c}-1\right] $$($w=bu+c$ と置換すれば $\int\frac{u\dd u}{(bu+c)^2}=\frac{1}{b^2}\int\left(\frac1w-\frac{c}{w^2}\right)\dd w$ で初等的に出る.)
銅の数値(例題10.1)$k_F=1.359\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}}$,$q_{TF}^2=3.267\ \mathrm{\mathring{A}^{-2}}$,$a_0=0.529\ \mathrm{\mathring{A}}$ を入れると $A=3.78\ \mathrm{\mathring{A}^{-1}}$,$b=7.39$,$c=3.27\ \mathrm{\mathring{A}^{-2}}$ で
$$ \ln\frac{10.66}{3.27}=1.182,\quad \frac{3.27}{10.66}=0.307 \quad\Longrightarrow\quad \sigma_{\rm tr}=\frac{8\pi\times14.3}{54.6}\times0.489=3.2\ \mathrm{\mathring{A}^2} $$$1\ \mathrm{at.\%}$ の不純物濃度は $n_{\rm imp}=8.5\times10^{-4}\ \mathrm{\mathring{A}^{-3}}$ だから平均自由行程は
$$ \ell=\frac{1}{n_{\rm imp}\sigma_{\rm tr}}=\frac{1}{8.5\times10^{-4}\times3.2}=3.7\times10^{2}\ \mathrm{\mathring{A}}=37\ \mathrm{nm} $$抵抗率は $\rho=\dfrac{mv_F}{ne^2\ell}$($v_F=1.57\times10^6\ \mathrm{m/s}$)から
$$ \rho\approx1.8\ \mathrm{\mu\Omega\,cm}\quad(\text{不純物 }1\ \mathrm{at.\%}\text{ あたり}) $$∎ 実測ではCu中のZn($Z=1$)で約 $0.3\ \mathrm{\mu\Omega\,cm/at.\%}$ である.数倍のずれがあるが,桁は合っている.ずれの原因はBorn近似(本来は位相差法でFriedel和則を満たすように扱うべき)とThomas–Fermi近似の粗さである.
より大事なのは定性的な結論のほうである.$q_{TF}\to0$ とすると上の $\sigma_{\rm tr}$ は $\ln(1/c)$ で対数発散する(Rutherford散乱の発散).遮蔽が金属の抵抗を有限に保っているのである.
10.7.3 Mott転移の目安
例題10.3 遮蔽からMott判定条件を出す
ドープした半導体では,ドナー濃度 $n$ を上げていくとある濃度で絶縁体から金属に転移する(Mott転移).遮蔽の言葉で言えば「遮蔽が強すぎて,ドナーが電子を束縛できなくなる」ことである.
湯川型ポテンシャル $-\dfrac{e^2}{r}\ee^{-\kappa r}$ が束縛状態をもつ条件は,数値的に $\kappa a_H<1.19$ であることが知られている($a_H$ は有効Bohr半径).この条件から臨界濃度を見積もれ.
解答.$q_{TF}^2=4k_F/\pi a_H$(10.2.3節の別表現)を使う.$\kappa=q_{TF}$ として
$$ q_{TF}^2a_H^2=\frac{4k_Fa_H}{\pi}=1.19^2=1.416 \quad\Longrightarrow\quad k_Fa_H=\frac{\pi\times1.416}{4}=1.112 $$$k_F=(3\pi^2n)^{1/3}$ だから
$$ n_c^{1/3}a_H=\frac{1.112}{(3\pi^2)^{1/3}}=\frac{1.112}{3.094}=0.36 $$∎ 実験的なMott判定条件は $n_c^{1/3}a_H\approx0.26$ である.1桁の精度で合っている.これだけ粗い議論(Thomas–Fermi+湯川ポテンシャルの束縛条件)で臨界濃度の目安が出るのは,遮蔽という概念の強さを物語っている.
たとえばSi中のPドナーは $a_H\approx2.5\ \mathrm{nm}$ なので $n_c\approx(0.26/2.5\ \mathrm{nm})^3\approx1.1\times10^{18}\ \mathrm{cm^{-3}}$,実測値 $3.7\times10^{18}\ \mathrm{cm^{-3}}$ と同じ桁である.
| 実験 | 測る量 | 本章のどこ |
|---|---|---|
| 走査トンネル顕微鏡(STM) | 不純物・段差まわりの $\pi/k_F$ 周期の波紋 | 10.4節 Friedel振動 |
| 中性子非弾性散乱(フォノン) | $q=2k_F$ でのフォノン分散の折れ(Kohn異常) | 10.4節 $2k_F$ 特異性 |
| 電子エネルギー損失分光(EELS) | プラズモンピーク(Alで実測 $15.0$〜$15.3\ \mathrm{eV}$.自由電子模型の $15.8\ \mathrm{eV}$ とよく合う)と粒子‐正孔連続体の裾 | 10.5・10.6節,第11・12章 |
| X線非弾性散乱 | 動的構造因子 $S(\qq,\omega)\propto-\mathrm{Im}\,\chi$ | 10.5節,第12章 |
| 希薄磁性合金の磁化率 | RKKY相互作用によるスピングラス | 10.4節 Friedel振動 |
| 残留抵抗(低温) | 不純物 $1\ \mathrm{at.\%}$ あたりの抵抗率 | 10.7.2節 |
| ドープ半導体の伝導度 | Mott転移の臨界濃度 | 10.7.3節 |
10.8 まとめと演習
10.8.1 まとめ
- Lindhard関数は,Lehmann表示に「粒子‐正孔対」という唯一の中間状態を代入して得られる: $\chi^0(\qq,\omega)=\dfrac{2}{V}\sum_\kk\dfrac{n_\kk-n_{\kk+\qq}}{\hbar\omega+\epsilon_\kk-\epsilon_{\kk+\qq}+\ii\eta}$(式 \eqref{eq:10-lindhard}).分子の「差」は,2つの項の $\kk$ を付け替えて分母を揃えたときに現れる.
- 静的長波長極限では $\chi^0\to-N(\epsilon_F)$.「Fermi準位の状態密度が大きいほど押し込みやすい」ということである.誘電関数は $\epsilon(q,0)=1+q_{TF}^2/q^2$,$q_{TF}^2=4\pi e^2N(\epsilon_F)=6\pi ne^2/\epsilon_F$.
- 実空間では湯川型 $\phi(r)=\dfrac{e}{r}\ee^{-q_{TF}r}$.留数定理で導いた.減衰長 $1/q_{TF}$ は複素平面の極の虚部そのものであり,銅では $0.55\ \mathrm{\mathring{A}}$(原子間距離のおよそ $1/5$)である.
- 厳密な静的Lindhard関数は $\chi^0(q,0)=-N(\epsilon_F)\left[\frac12+\frac{1-x^2}{4x}\ln\abs{\frac{1+x}{1-x}}\right]$,$x=q/2k_F$.対数は角度積分から,その係数は部分積分ひとつから出る.
- $q=2k_F$ で1階微分が対数発散する($F\simeq\frac12+\frac{x-1}{2}\ln\frac{\abs{x-1}}{2}$).これは「Fermi球の鋭い縁」の反映であり,実空間では Friedel振動 $\delta n(r)\propto\cos(2k_Fr)/r^3$ を生む.RKKY相互作用・Kohn異常・電荷密度波の起源である.
- $\mathrm{Im}\,\chi^0\neq0$ の領域が粒子‐正孔連続体で,境界は $\frac{\hbar^2}{2m}(q^2-2k_Fq)<\hbar\omega<\frac{\hbar^2}{2m}(q^2+2k_Fq)$.低振動数側では $\mathrm{Im}\,\chi^0=-\frac{\pi}{2}N(\epsilon_F)\frac{\omega}{qv_F}$ と $\omega$ に厳密比例する.
- 高振動数極限では $\chi^0\to nq^2/m\omega^2$.$\epsilon=0$ の条件からプラズマ振動 $\omega_q^2=\omega_p^2+\frac35q^2v_F^2$ が出る(第11章).この極限は $f$ 和則 $-\frac1\pi\int\omega\,\mathrm{Im}\chi\,\dd\omega=nq^2/m$ と同値であり,Lindhard関数は和則を厳密に満たす.
- 遮蔽こそが,強く相互作用する電子系を「ほとんど自由な電子」に見せている張本人である.金属の残留抵抗,Mott転移,Fermi液体論 —— すべての背後にこの1章の計算がある.
10.8.2 演習問題
演習10.1 静的Lindhard関数の両極限と,極限の順序
$F(x)=\dfrac12+\dfrac{1-x^2}{4x}\ln\abs{\dfrac{1+x}{1-x}}$ について次を示せ.
(1) $x\to0$ で $F(x)=1-\dfrac{x^2}{3}+O(x^4)$.
(2) $x\to\infty$ で $F(x)=\dfrac{1}{3x^2}+O(x^{-4})$.
(3) (2) を使って,$q\gg2k_F$ での $\chi^0(q,0)$ が $-\dfrac{4nm}{\hbar^2q^2}$ になることを示せ.
(4) 一方,式 \eqref{eq:10-highfreq} で $\omega\to0$ とすると発散してしまう.両者が矛盾しない理由($q\to\infty$ と $\omega\to0$ の極限が交換できないこと)を,図10.6を見ながら説明せよ.
ヒント:(1)(2) は $\ln\frac{1+t}{1-t}=2(t+t^3/3+\cdots)$ を,後者では $t=1/x$ について使う.(3) $N(\epsilon_F)=3n/2\epsilon_F$ と $\epsilon_F=\hbar^2k_F^2/2m$ を代入する.(4) 式 \eqref{eq:10-highfreq} は $\omega\gg qv_F$,静的極限は $\omega\ll qv_F$ の話であり,図10.6の連続体の上と下という別の場所に対応する.Lindhard関数の極限操作はいつも順序に注意が必要である.
演習10.2 1次元のLindhard関数とPeierls不安定性
1次元自由電子気体(長さ $L$,分散 $\epsilon_k=\hbar^2k^2/2m$,Fermi波数 $k_F$)について.
(1) 式 \eqref{eq:10-static-A} に対応する式 $\chi^0(q,0)=\dfrac{4}{L}\sum_k\dfrac{n_k}{\epsilon_k-\epsilon_{k+q}}$ から出発し,$\dfrac1L\sum_k\to\displaystyle\int\dfrac{\dd k}{2\pi}$ として積分を実行して
$$ \chi^0_{\rm 1D}(q,0)=-\frac{2m}{\pi\hbar^2 q}\ln\abs{\frac{q+2k_F}{q-2k_F}} $$を示せ.
(2) $q\to2k_F$ で $\chi^0$ 自身が対数発散することを確かめよ.3次元(式 \eqref{eq:10-lindhard-static})では有限だったのはなぜか,$\kk$ 積分の次元数の違いから説明せよ.
(3) 電子‐フォノン結合 $g_q$ によってフォノン振動数が $\widetilde\Omega_q^{\,2}=\Omega_q^2+C\abs{g_q}^2\chi^0(q,0)$($C>0$)と繰り込まれるとする.(2) の結果を使って,理想的な1次元・完全nesting・平均場近似・$T\to0$ のもとでは,どんなに弱い電子‐フォノン結合でも $q=2k_F$ で $\widetilde\Omega_{2k_F}^{\,2}$ が負になり,格子が $2k_F$ の周期で不安定になることを示せ(Peierls転移).また,この不安定性が静的誘電関数 $\epsilon(q,0)=1-v(q)\chi^0(q,0)$ のゼロ点とは別物であることを,$v(q)>0$,$\chi^0(q,0)<0$ から確認せよ.
ヒント:(1) $\epsilon_k-\epsilon_{k+q}=-\frac{\hbar^2}{2m}(2kq+q^2)$ を使い,$\displaystyle\int_{-k_F}^{k_F}\frac{\dd k}{2kq+q^2}=\frac{1}{2q}\ln\abs{\frac{2k_F+q}{q-2k_F}}$($q<2k_F$ では積分路上に極 $k=-q/2$ があるので,これは本文10.3.2節と同じく主値として読む.絶対値付きの対数はその主値の値である).(2) 3次元では角度積分の後にさらに $k\,\dd k$ の積分があり,対数の発散が均されてしまう.(3) $\chi^0_{\rm 1D}(q,0)$ は $q\to2k_F$ で $-\infty$ に発散するので,$\abs{g_{2k_F}}$ がどんなに小さくても第2項が $\Omega_{2k_F}^2$ を食い尽くす.3次元では $\chi^0$ が有限なので,軟化を完成させるには有限の結合強度が必要である.一方 $\epsilon(q,0)=1+v(q)\abs{\chi^0(q,0)}>1$ なので誘電関数のゼロ点は現れない.不安定になるのは格子のほうである.次元が下がると特異性が強まるという表10.2の内容を自分の手で確認することになる.
演習10.3 遮蔽長の数値と,遮蔽電荷の総量
(1) ナトリウム($n=2.65\times10^{22}\ \mathrm{cm^{-3}}$)とアルミニウム($n=18.1\times10^{22}\ \mathrm{cm^{-3}}$)について $k_F$,$\epsilon_F$,$q_{TF}$,$\lambda_{TF}$ を計算し,表10.1を再現せよ.
(2) Na の最近接原子間距離は $3.66\ \mathrm{\mathring{A}}$,Alは $2.86\ \mathrm{\mathring{A}}$ である.それぞれ最近接原子の位置でポテンシャルが何分の1に落ちているかを計算し,どちらがより強く遮蔽されているか論ぜよ.
(3) 遮蔽された点電荷のまわりに誘起される電荷の総量が,ちょうど $-e$(もとの電荷を完全に打ち消す)であることを示せ.すなわち $\displaystyle\int\dd^3r\;\delta\rho(r)=-e$.
ヒント:(2) $\ee^{-q_{TF}R}$ を計算するだけである.Naは $\ee^{-1.49\times3.66}=\ee^{-5.45}\simeq1/230$,Alは $\ee^{-2.05\times2.86}=\ee^{-5.86}\simeq1/350$.(3) Poisson方程式 $\nabla^2\phi=-4\pi\rho_{\rm tot}$ をFourier変換すると $q^2\phi(\qq)=4\pi\rho_{\rm tot}(\qq)$.式 \eqref{eq:10-yukawa} の $\phi(\qq)=4\pi e/(q^2+q_{TF}^2)$ から $\rho_{\rm tot}(\qq)=\dfrac{eq^2}{q^2+q_{TF}^2}$ で,$\qq\to0$ で $0$ になる.$\rho_{\rm tot}(\qq\to0)=\int\dd^3r\,\rho_{\rm tot}(r)$ が全電荷だから,全電荷はゼロ,すなわち誘起電荷が $-e$ である.これを完全遮蔽と呼ぶ.
演習10.4 留数定理の練習 —— 遮蔽の別の顔
(1) 式 \eqref{eq:10-yukawa} の導出をなぞりながら,今度は
$$ \int_0^{\infty}\dd q\;\frac{\sin qr}{q\,(q^2+\kappa^2)} =\frac{\pi}{2\kappa^2}\left(1-\ee^{-\kappa r}\right)\qquad(r>0) $$を示せ.
(2) この結果を使って,一様に遮蔽された媒質中で,半径 $R$ の球に一様に分布した全電荷 $Q$ が作るポテンシャルが球の外でどうなるか論ぜよ.
(3) $\kappa r\ll1$(遮蔽長よりずっと内側)と $\kappa r\gg1$(外側)で右辺がどうなるかを調べ,それぞれの物理的意味を述べよ.
ヒント:(1) 部分分数分解 $\dfrac{1}{q(q^2+\kappa^2)}=\dfrac{1}{\kappa^2}\left(\dfrac1q-\dfrac{q}{q^2+\kappa^2}\right)$ が最も楽である.第1項はDirichlet積分 $\int_0^\infty\frac{\sin qr}{q}\dd q=\frac\pi2$,第2項は本文の $I$ そのものである.$q=0$ に極があるように見えるが $\sin qr/q$ は有限なので特異点ではない($\ee^{\ii qr}$ に置き換えるときは主値積分+小半円で扱う.第5章).(3) $\kappa r\ll1$ では $1-\ee^{-\kappa r}\simeq\kappa r$ なので右辺は $\dfrac{\pi r}{2\kappa}$ となり,$r$ に比例して伸び続ける(遮蔽がまだ効いていない領域である).$\kappa r\gg1$ では $\ee^{-\kappa r}\to0$ で右辺は定数 $\dfrac{\pi}{2\kappa^2}$ に飽和する(遮蔽が効ききった領域である).$\kappa\to0$ の極限では飽和値が発散し,裸のCoulombポテンシャルが長距離であることを反映する.
演習10.5 $f$ 和則を明示的な $\mathrm{Im}\,\chi^0$ で確かめる
$q<2k_F$ の場合について,式 \eqref{eq:10-imchi-closed} を用いて $f$ 和則
$$ -\frac{2}{\pi}\int_0^{\infty}\dd\omega\;\omega\,\mathrm{Im}\,\chi^0(q,\omega)=\frac{nq^2}{m} $$を直接確かめよ($\mathrm{Im}\,\chi^0$ が $\omega$ の奇関数であることを使って全実軸の積分を正の側だけにしてある).
ヒント:$y\equiv\dfrac{m\omega}{\hbar q}$ と変数変換すると $\omega\,\dd\omega=\dfrac{\hbar^2q^2}{m^2}y\,\dd y$,$k_1^2=k_F^2-2qy$,$k_2=\abs{y-q/2}$ となる.領域Iは $0<y<k_F-\frac q2$,領域IIは $k_F-\frac q2<y<k_F+\frac q2$ である.領域IIでは $z=y-q/2$ と置き換えるとよい.2つの積分の和が $\dfrac{2k_F^3q}{3}$ になり,前係数と合わせて $\dfrac{k_F^3q^2}{3\pi^2m}=\dfrac{nq^2}{m}$ が出る.まず $k_F=q=1$ の場合だけ数値で確かめてから一般の場合に進むとよい.手を動かす価値のある計算である.
演習10.6 粒子‐正孔連続体の地図を自分で描く
$x=q/2k_F$,$\nu=\hbar\omega/4\epsilon_F$ とする.
(1) 連続体の上端・下端・領域I/IIの境界が,それぞれ $\nu=x+x^2$,$\nu=x^2-x$($x>1$),$\nu=x-x^2$($x<1$)と書けることを示せ.
(2) 領域IとIIでの $\mathrm{Im}\,\chi^0$ が,それぞれ
$$ \mathrm{Im}\,\chi^0=-\frac{\pi}{2}N(\epsilon_F)\frac{\nu}{x}, \qquad \mathrm{Im}\,\chi^0=-\frac{\pi N(\epsilon_F)}{8x}\left[1-\left(\frac{\nu}{x}-x\right)^2\right] $$と書けることを示せ.
(3) 銅($\epsilon_F=7.04\ \mathrm{eV}$,$\hbar\omega_p=10.8\ \mathrm{eV}$)について $\nu_p=\hbar\omega_p/4\epsilon_F$ を求め,プラズモン分散 $\nu(x)=\sqrt{\nu_p^2+\frac35x^2}$ が連続体の上端 $\nu=x+x^2$ と交わる $x$ を数値的に求めよ.この $q$ 以上でプラズモンはLandau減衰する.
ヒント:(1) $\frac{\hbar^2}{2m}\cdot4k_F^2=4\epsilon_F$ を使うと $\frac{\hbar^2}{2m}(2k_Fq\pm q^2)=4\epsilon_F(x\pm x^2)$ となる.(2) $\dfrac{m\omega}{\hbar q}=\dfrac{k_F\nu}{x}$,$\dfrac q2=k_Fx$ を式 \eqref{eq:10-imchi-closed} に代入する.(3) $\nu_p=10.8/28.2=0.383$.$\sqrt{0.383^2+0.6x^2}=x+x^2$ を解くと $x\simeq0.35$,すなわち $q_c\simeq0.70\,k_F$.図10.6と比べること.EELSでプラズモンピークが消える波数として実測できる量である.
参考文献
- A. L. Fetter, J. D. Walecka『多粒子系の量子論 理論編』マグロウヒル,14節「電子気体の遮蔽効果」.本章はこの節の全面的な展開である.
- J. Lindhard, "On the properties of a gas of charged particles", Kgl. Danske Videnskab. Selskab, Mat.-fys. Medd. 28, no.8 (1954). —— Lindhard関数の原論文.
- J. Friedel, "The distribution of electrons round impurities in monovalent metals", Phil. Mag. 43, 153 (1952). —— Friedel振動の原論文.
- W. Kohn, "Image of the Fermi Surface in the Vibration Spectrum of a Metal", Phys. Rev. Lett. 2, 393 (1959). —— Kohn異常.
- N. W. Ashcroft, N. D. Mermin, Solid State Physics, Holt–Saunders (1976), Chapter 17. —— Thomas–FermiとLindhard の物性論的な扱い.数値も豊富.
- G. D. Mahan, Many-Particle Physics, 3rd ed., Springer (2000), Section 5.5. —— Lindhard関数の実部・虚部の完全な閉じた形.
- D. Pines, P. Nozières, The Theory of Quantum Liquids, Benjamin (1966), Chapter 4. —— 粒子‐正孔連続体と集団励起の関係.
- F. Stern, "Polarizability of a Two-Dimensional Electron Gas", Phys. Rev. Lett. 18, 546 (1967). —— 表10.2の2次元の結果.