第9章密度応答関数と誘電関数
第III部で量子系の線形応答の一般論は完成した.応答は久保公式(第7章)で書け,その解析的性質はLehmann表示(第8章)で尽くされている.しかし一般論はそのままでは何も計算できない.抽象的な $\hat{A}$, $\hat{B}$ を具体的な演算子で置き換えて初めて,実験と比べられる数値が出てくる.
本章からの第IV部では,その具体例として電子気体(金属中の伝導電子)を扱う.叩き方は外部電荷が作るポテンシャル,返事は電子密度の変化であり,応答関数は密度応答関数 $\chi_{\rho\rho}(\qq,\omega)$ と呼ばれる.これが分かれば金属の光学的性質,電子エネルギー損失スペクトル,遮蔽の長さ,プラズマ振動数——ほとんどすべてが出てくる.
ただし電子気体には新しい事情がある.電子どうしがCoulomb力で押し合っていることである.外から電荷を持ち込むと電子が押しのけられ,押しのけられた電子は電荷の偏りとして新しい電場を作り,それがまた電子を押しのける.この連鎖を打ち切らずに無限に足し上げて自己無撞着に解くのが本章の核心であり,その答えが $\epsilon(\qq,\omega)=1-v(q)\chi^0(\qq,\omega)$,$v(q)=4\pi e^2/q^2$ という誘電関数である.この一行を途中式を一切飛ばさずに組み立てる.第10章では $\chi^0$ を計算し(Lindhard関数),第11章ではその零点としてプラズモンを見つけ,第12章では $-\mathrm{Im}\,\epsilon^{-1}$ が電子線で測れることを見る.本章は第IV部全体の設計図である.
- 密度演算子 $\hat\rho(\xx)=\hat\psi^\dagger(\xx)\hat\psi(\xx)$ とそのFourier成分 $\hat\rho_\qq$ の第二量子化表現
- $\hat\rho_\qq$ をFermi球に作用させると粒子‐正孔対が1つできること,そのエネルギーの帯
- 久保公式から $\delta\braket{\rho(\qq,\omega)}=\chi_{\rho\rho}(\qq,\omega)\phi_{\text{ext}}(\qq,\omega)$ が出ること
- 並進対称性によって異なる $\qq$ が混ざらない理由(結晶では混ざる=局所場効果)
- 遮蔽の自己無撞着な扱い:電子は $\phi_{\text{ext}}$ ではなく $\phi_{\text{tot}}=\phi_{\text{ext}}+\phi_{\text{ind}}$ に応答する
- $\epsilon=1-v\chi^0$ の導出と,幾何級数 $1+x+x^2+\cdots$ としての読み方
- 全応答 $\chi$ と既約応答 $\chi^0$ の関係 $\chi=\chi^0/\epsilon$,および $\epsilon^{-1}=1+v\chi$
- RPA(乱雑位相近似)が何を近似しているのか,名前の由来,いつ良いか
- $\epsilon=0$(集団励起),$-\mathrm{Im}\,\epsilon^{-1}$(損失関数),$\epsilon(q,0)$(遮蔽)という3つの顔
- 縦誘電率と横誘電率の違い,光学測定が見ているのは $\epsilon(q\to0,\omega)$ であること
9.1 密度演算子とそのFourier成分
9.1.1 密度演算子
まず「電子がどこにどれだけいるか」を表す演算子が要る.場の演算子 $\hat\psi_\sigma(\xx)$(スピン $\sigma$ の電子を位置 $\xx$ で消す)を使って数密度演算子を
と定義する(付録B).「その場所の電子を1個消して,すぐ同じ場所に1個作る」操作だから,直感的には「その場所に電子がいるかを数える」演算子である.実際,全空間で積分すれば $\int\dd^3x\,\hat\rho(\xx)=\hat N$ となって全粒子数演算子になる.以後,スピンの和は暗黙に含めて $\sigma$ を省くことがある.
数密度か,電荷密度か
電子の電荷は $-e$($e>0$)なので,電荷密度は $-e\hat\rho$ である.本書は式 \eqref{eq:9-rho-def} のとおり数密度を採り,そのぶん外から加えるものをポテンシャルエネルギー $\phi_{\text{ext}}$(単位はエネルギー)にする.こうすると $e$ の因子がすべて $v(q)=4\pi e^2/q^2$ に押し込まれ,式が最もきれいになる(Fetter–Waleckaもこの流儀).他書では $\rho$ を電荷密度に取り $v(q)=4\pi/q^2$ と書くこともある.式を突き合わせるときは,まず流儀を確かめること.
9.1.2 Fourier成分 $\hat\rho_\qq$
時空のFourier変換の規約(本章以降)
$$ \begin{equation} f(\qq,\omega) = \int\dd^3x\int\dd t\; f(\xx,t)\,\ee^{-\ii\qq\cdot\xx+\ii\omega t}, \qquad f(\xx,t) = \int\frac{\dd^3q}{(2\pi)^3}\int\frac{\dd\omega}{2\pi}\; f(\qq,\omega)\,\ee^{\ii\qq\cdot\xx-\ii\omega t} \label{eq:9-fourier} \end{equation} $$時間部分は第1章の規約そのままである.空間側の符号を逆に取ったのは,平面波 $\ee^{\ii(\qq\cdot\xx-\omega t)}$ がちょうど成分 $(\qq,\omega)$ に対応するようにするためである.体積 $V$ の箱に周期境界条件を課す場合は $f_\qq=\int_V\dd^3x\,f(\xx)\ee^{-\ii\qq\cdot\xx}$,$f(\xx)=\frac{1}{V}\sum_\qq f_\qq\ee^{\ii\qq\cdot\xx}$ とする.以下しばらくは箱の描像を使う.
導出:$\hat\rho_\qq$ の第二量子化表現
体積 $V$ の箱の中で場の演算子を平面波展開する(付録B):
$$ \hat\psi_\sigma(\xx) = \frac{1}{\sqrt{V}}\sum_{\kk}\ee^{\ii\kk\cdot\xx}\,\hat c_{\kk\sigma}, \qquad \hat\psi^\dagger_\sigma(\xx) = \frac{1}{\sqrt{V}}\sum_{\kk}\ee^{-\ii\kk\cdot\xx}\,\hat c^\dagger_{\kk\sigma} $$ステップ1:定義に代入する.
$$ \hat\rho_\qq = \int_V\dd^3x\,\ee^{-\ii\qq\cdot\xx}\hat\rho(\xx) = \frac{1}{V}\sum_{\sigma}\sum_{\kk,\kk'}\hat c^\dagger_{\kk\sigma}\hat c_{\kk'\sigma}\int_V\dd^3x\,\ee^{\ii(\kk'-\kk-\qq)\cdot\xx} $$演算子 $\hat c^\dagger\hat c$ は $\xx$ を含まないので積分の外に出した.
ステップ2:$\xx$ 積分を実行する.周期境界条件下の平面波の直交性(付録A)から
$$ \frac{1}{V}\int_V\dd^3x\,\ee^{\ii(\kk'-\kk-\qq)\cdot\xx} = \delta_{\kk',\,\kk+\qq} $$指数が $0$ なら積分は $V$ で $1/V$ と相殺して $1$,$0$ でなければ箱全体で振動して $0$ になる.
ステップ3:デルタで $\kk'$ の和を潰す.$\kk'=\kk+\qq$ だけが生き残るから
∎ 「運動量 $\kk+\qq$ の電子を1個消して運動量 $\kk$ の電子を1個作る」操作を,すべての $\kk$ について足したものである.
$\hat\rho_\qq$ の基本性質
(a) $(\hat c^\dagger_\kk\hat c_{\kk+\qq})^\dagger=\hat c^\dagger_{\kk+\qq}\hat c_\kk$ なので,$\kk'=\kk+\qq$ と置き換えれば $\hat\rho_\qq^\dagger=\sum_{\kk'\sigma}\hat c^\dagger_{\kk'\sigma}\hat c_{\kk'-\qq,\sigma}=\hat\rho_{-\qq}$.$\hat\rho(\xx)$ が実であることのFourier版である.
(b) $\hat\rho_{\qq=0}=\sum_{\kk\sigma}\hat c^\dagger_{\kk\sigma}\hat c_{\kk\sigma}=\hat N$.粒子数は保存量なので $\qq=0$ の密度は動かない.密度応答を考えるのは $\qq\neq 0$ に限る.
(c) $\hat\rho_\qq$ は全運動量を $-\hbar\qq$ 変え,$\hat\rho_{-\qq}=\hat\rho_\qq^\dagger$ は $+\hbar\qq$ 与える.図を描くときは「与える」向きの $\hat\rho_{-\qq}$ のほうが直感的である.
9.1.3 $\hat\rho_\qq$ はFermi球に何をするか
ここが本章でいちばん大事な描像である.$T=0$ の自由電子気体の基底状態は $\abs{\kk}<k_F$ が詰まり外が空いたFermi球 $\ket{\text{FS}}$ である.ここに $\hat\rho_{-\qq}=\sum_\kk \hat c^\dagger_{\kk+\qq}\hat c_\kk$ を作用させる.
導出:密度演算子は粒子‐正孔対を1つだけ作る
$\hat\rho_{-\qq}\ket{\text{FS}}=\sum_{\kk\sigma}\hat c^\dagger_{\kk+\qq,\sigma}\hat c_{\kk\sigma}\ket{\text{FS}}$ の各項を見る.
(i) $\hat c_{\kk\sigma}$ が働くには $\kk$ が詰まっていなければならない(空なら $\hat c\ket{\text{FS}}=0$).よって $\abs{\kk}<k_F$.
(ii) $\hat c^\dagger_{\kk+\qq,\sigma}$ が働くには $\kk+\qq$ が空いていなければならない(詰まっていればPauli原理で消える).よって $\abs{\kk+\qq}>k_F$.
したがって生き残る項は
∎ 各項は,Fermi球の中に正孔を $\kk$ に1つ,外に粒子を $\kk+\qq$ に1つ作った状態,すなわち粒子‐正孔対である.$\hat\rho$ は1体演算子なので,作る対はちょうど1個である.
物理的意味:密度を揺さぶることは,電子を1個叩き上げること
「密度に波数 $\qq$ のさざ波を立てる」という操作は,微視的には「Fermi球の中の電子を1個つまみ出し,$\hbar\qq$ だけ運動量を与えて球の外に放り出す」ことである.この対の励起エネルギーは自由電子なら
$$ \hbar\omega_{\kk\qq} = \varepsilon_{\kk+\qq}-\varepsilon_\kk = \frac{\hbar^2}{2m}\left[(\kk+\qq)^2-\kk^2\right] = \frac{\hbar^2}{2m}\left(q^2 + 2\kk\cdot\qq\right) $$$\kk$ はFermi球の中を動けるので,$\qq$ を固定してもエネルギーは連続的な帯を作る.これが粒子‐正孔連続体である.上端は $\kk$ が $\qq$ と平行で $\abs{\kk}=k_F$ のときに実現する(このとき終点は $\abs{\kk+\qq}=k_F+q>k_F$ となり,前のボックスの条件 (ii) を確かに満たしている).一方下端は $q$ の大きさで様子が変わる:
$$ \hbar\omega_{\max}(q) = \frac{\hbar^2}{2m}\left(q^2+2k_Fq\right), \qquad \hbar\omega_{\min}(q) = \begin{cases} 0 & (0<q\le 2k_F)\\[4pt] \dfrac{\hbar^2}{2m}\left(q^2-2k_Fq\right) & (q>2k_F) \end{cases} $$$q\le 2k_F$ では下端が $\omega=0$ まで下りてくる,というのがここでの要点である.$\kk$ を $\qq$ と反平行に取れば $\frac{\hbar^2}{2m}(q^2-2k_Fq)$ という負の値が出てくるが,それは終点がFermi球の中に戻ってしまう選び方であり,条件 (ii)($\abs{\kk+\qq}>k_F$)を破っているので許されない.絶対値を付けて $\abs{q^2-2k_Fq}$ を下端とするのも誤りである.正しい下端がなぜ $0$ になるのかを,次に幾何学で見る.
第8章のLehmann表示によれば応答関数の極は励起エネルギーの位置にある.したがって $\chi^0(\qq,\omega)$ は帯の内側で $\mathrm{Im}\,\chi^0\neq0$(実励起が起こる=エネルギーを吸える),外側で $\mathrm{Im}\,\chi^0=0$ になるはずである.第10章で実際にそうなることを確かめる.
なぜ $q\le 2k_F$ では連続体の下端が $0$ になるのか
式で見る.励起エネルギーがちょうど $0$ になる条件は $\varepsilon_{\kk+\qq}=\varepsilon_\kk$,すなわち $\abs{\kk+\qq}=\abs{\kk}$ である.$\kk\cdot\qq=kq\cos\theta$ と書けばこれは
$$ q^2+2kq\cos\theta = 0 \qquad\Longleftrightarrow\qquad \cos\theta = -\frac{q}{2k} $$となる.$\abs{\cos\theta}\le1$ を満たす解が存在する条件は $q\le 2k$ である.$k$ は $0$ から $k_F$ まで自由に選べるから,$q\le 2k_F$ でありさえすれば,そのような向きの $\kk$ が必ず存在する.$\qq$ を固定しても $\kk$ の向きは自由だ,という一点がすべてである.
幾何学で言い直す.始点が球の中という条件 $\abs{\kk}\le k_F$ は「半径 $k_F$ の球(中心 $\bm 0$)の内側」,終点が球の外という条件 $\abs{\kk+\qq}\ge k_F$ は「同じ球を $-\qq$ だけずらしたものの外側」である.$q\le 2k_F$ なら2つの球は重なり,その交わりの縁の上では $\abs{\kk}=\abs{\kk+\qq}=k_F$ が同時に成り立つ(条件(i)(ii)の不等号は本来 $<,\ >$ だが,ここではその境界そのものを極限として取り込みたいので $\le,\ \ge$ と書いた).そこを始点に選べば,Fermi面のすぐ内側の電子をFermi面のすぐ外側へほとんどただで移せる.縁の上の点から $\abs{\kk}$ をわずかに縮め,そのとき向きも $\cos\theta$ が $-q/2k$ をごくわずかに上回るように取り直せば,$\abs{\kk+\qq}$ はFermi面のすぐ外側にとどまる.こうすれば許される励起のままで励起エネルギーを $0$ にいくらでも近づけられる($\cos\theta=-q/2k$ ちょうどでは $\abs{\kk+\qq}=\abs{\kk}<k_F$ となってPauli原理で禁じられるので,この一手間が要る).したがって連続体の下端は $\hbar\omega_{\min}=0$ である.
$q>2k_F$ では事情が変わる.2つの球はもう重ならない.$\kk$ をFermi球の中でどう選んでも $\kk+\qq$ は球のはるか外に出てしまい,最小でも $\abs{\kk}=k_F$・反平行のときの $\frac{\hbar^2}{2m}(q^2-2k_Fq)>0$ を払わねばならない.ここで初めて低振動数側に隙間があくのである.
$q=2k_F$ という波数の特別さ.いま見たとおり $2k_F$ は「エネルギーを払わずにFermi面上の2点を結べる最大の運動量移行」,すなわちFermi球の直径である.ここを境に応答の作り方が定性的に切り替わるのだから,$\chi^0$ がこの点で滑らかでなくなるのは自然である.第10章で見る静的Lindhard関数の $q=2k_F$ 非解析性,その実空間での現れであるFriedel振動 $\delta n(r)\propto\cos(2k_Fr)/r^3$,そして格子振動に現れるKohn異常は,いずれもこの同じ幾何学に起源を持つ.
9.2 外部ポテンシャルへの応答 — 密度応答関数
9.2.1 摂動ハミルトニアン
外から時間依存する電荷分布(たとえば試料の近くを通り過ぎる高速電子)を持ち込むと,そのCoulombポテンシャルが電子気体を揺さぶる.電子1個が感じるポテンシャルエネルギーを $\phi_{\text{ext}}(\xx,t)$ と書けば
である.「その場所にいる電子の数 $\times$ 1個あたりのエネルギー」を全空間で足しただけの素直な式であり,第7章で久保公式を導いたときの摂動と同じ形をしている.
9.2.2 久保公式を適用する
導出:密度応答関数の定義
第7章の結果は,摂動 $\Ham_{\text{ext}}(t)$ を断熱的に加えたときの1次のずれ
$$ \delta\braket{\hat A(t)} = -\frac{\ii}{\hbar}\int_{-\infty}^{t}\dd t'\,\braket{\left[\hat A_H(t),\,\Ham_{\text{ext}}(t')\right]}_0 $$である($H$ は無摂動 $\Ham_0$ によるHeisenberg表示,$\braket{\cdots}_0$ は無摂動基底状態での期待値).
ステップ1:$\hat A=\hat\rho(\xx)$ と式 \eqref{eq:9-Hext} を代入する.$\phi_{\text{ext}}$ は演算子でなくただの数なので交換子の外に出せる:
$$ \delta\braket{\hat\rho(\xx,t)} = -\frac{\ii}{\hbar}\int_{-\infty}^{t}\dd t'\int\dd^3x'\; \braket{\left[\hat\rho_H(\xx,t),\,\hat\rho_H(\xx',t')\right]}_0\;\phi_{\text{ext}}(\xx',t') $$ステップ2:階段関数で上限を $+\infty$ に直す.$\theta(t-t')$ を入れれば $t'>t$ の寄与が自動的に消えるので
$$ \delta\braket{\hat\rho(\xx,t)} = \int_{-\infty}^{\infty}\dd t'\int\dd^3x'\;\chi_{\rho\rho}(\xx,t;\xx',t')\,\phi_{\text{ext}}(\xx',t'), $$∎ これが密度‐密度相関関数(密度応答関数)である.第7章の一般式 $\chi^R_{AB}$ で $\hat A=\hat B=\hat\rho$ と置いただけであり,新しいことは何もしていない.
符号に注意:$\chi_{\rho\rho}$ は負である
第1章・第3章では $\Ham_{\text{ext}}=-f(t)\hat A$ とマイナス付きで書き $\delta A=\chi f$ としたが,式 \eqref{eq:9-Hext} はプラスである.つまり $\phi_{\text{ext}}$ は第1章の $f$ ではなく $-f$ に相当する.
その結果,符号が直感と逆に見える.ポテンシャルエネルギーの高いところ($\phi_{\text{ext}}>0$)に電子は行きたがらないので $\delta\rho<0$,すなわち $\chi_{\rho\rho}(\qq,0)<0$.実際,第10章で計算すると $q\to0$ で $\chi^0(q,0)\to-N(\epsilon_F)$(スピン込み・単位体積あたりのFermi面状態密度,正の量)になる.散逸の条件も反転し,第3章の「$\mathrm{Im}\,\chi>0$ が吸収」は本章では
$$ \mathrm{Im}\,\chi_{\rho\rho}(\qq,\omega) < 0 \qquad (\omega>0) $$となる.損失関数を $-\mathrm{Im}\,\epsilon^{-1}$ とマイナス付きで定義するのはこれを正にするためである(9.6節).符号に迷ったら「静的極限で電子は低いところに集まる」に立ち返ること.
9.2.3 並進対称性 — なぜ $\qq$ が混ざらないのか
式 \eqref{eq:9-chi-def} は $\xx$ と $\xx'$ に別々に依存する2点関数である.これがFourier空間で「$\qq$ ごとに独立な数」になるのは自明ではない.理由は並進対称性である.
導出:一様系では $\chi$ は $\xx-\xx'$ にしか依らない
ステップ1:並進演算子.$\bm a$ だけ平行移動する演算子 $\hat T_{\bm a}$ は $\hat T^\dagger_{\bm a}\hat\psi(\xx)\hat T_{\bm a}=\hat\psi(\xx+\bm a)$ と働く.$\hat\rho=\hat\psi^\dagger\hat\psi$ という積なので,間に $\hat T_{\bm a}\hat T^\dagger_{\bm a}=1$ を挟めば $\hat T^\dagger_{\bm a}\hat\rho(\xx)\hat T_{\bm a}=\hat\rho(\xx+\bm a)$ が従う.
ステップ2:一様系という仮定を2つの式で書く.(i) ハミルトニアンが並進不変:$[\hat T_{\bm a},\Ham_0]=0$.(ii) 基底状態が並進不変:$\hat T_{\bm a}\ket{0}=\ket{0}$(位相を除いて).(i)から,$\hat T$ は $\ee^{\pm\ii\Ham_0t/\hbar}$ をすり抜けるので,Heisenberg表示の $\hat\rho_H(\xx,t)$ に対しても同じ関係 $\hat T^\dagger\hat\rho_H(\xx,t)\hat T=\hat\rho_H(\xx+\bm a,t)$ が成り立つ.
ステップ3:期待値に挟み込む.交換子の左右に $\hat T\hat T^\dagger=1$ を挿入し,(ii)で $\hat T_{\bm a}\ket{0}=\ket{0}$,$\bra{0}\hat T^\dagger_{\bm a}=\bra{0}$ を使うと
$$ \braket{\left[\hat\rho_H(\xx,t),\hat\rho_H(\xx',t')\right]} = \bra{0}\left[\hat\rho_H(\xx+\bm a,t),\hat\rho_H(\xx'+\bm a,t')\right]\ket{0} $$ステップ4:$\bm a$ は任意である.左辺は $\bm a$ を含まないのに右辺は任意の $\bm a$ で同じ値になる.ということは差だけの関数である.実際 $\bm a=-\xx'$ と選べば
$$ \braket{\left[\hat\rho_H(\xx,t),\hat\rho_H(\xx',t')\right]} = \braket{\left[\hat\rho_H(\xx-\xx',t),\hat\rho_H(\bm 0,t')\right]} $$同じ議論を時間についてやれば($\Ham_0$ が $t$ に陽に依らない=第1章の要請2)$t-t'$ だけの関数になる.まとめて $\chi_{\rho\rho}(\xx,t;\xx',t')=\chi_{\rho\rho}(\xx-\xx',t-t')$.∎
導出:Fourier変換すると単なる掛け算になる
第1章1.4節の畳み込み定理を,時間だけでなく空間にも同時に適用する.
$$ \delta\rho(\qq,\omega) = \int\dd^3x\,\dd t\;\ee^{-\ii\qq\cdot\xx+\ii\omega t} \int\dd^3x'\,\dd t'\;\chi_{\rho\rho}(\xx-\xx',t-t')\,\phi_{\text{ext}}(\xx',t') $$変数変換:$\bm s=\xx-\xx'$,$\tau=t-t'$.$\xx',t'$ を固定すれば $\dd^3x=\dd^3s$,$\dd t=\dd\tau$ であり,指数関数は
$$ \ee^{-\ii\qq\cdot\xx+\ii\omega t} = \ee^{-\ii\qq\cdot(\bm s+\xx')+\ii\omega(\tau+t')} = \underbrace{\ee^{-\ii\qq\cdot\bm s+\ii\omega\tau}}_{\bm s,\;\tau\ \text{のみ}}\times\underbrace{\ee^{-\ii\qq\cdot\xx'+\ii\omega t'}}_{\xx',\;t'\ \text{のみ}} $$と完全に分離する.したがって4重積分が2つの独立な積分の積になり
$$ \delta\rho(\qq,\omega) = \underbrace{\left[\int\dd^3s\,\dd\tau\;\ee^{-\ii\qq\cdot\bm s+\ii\omega\tau}\chi_{\rho\rho}(\bm s,\tau)\right]}_{\displaystyle \chi_{\rho\rho}(\qq,\omega)} \times \underbrace{\left[\int\dd^3x'\dd t'\;\ee^{-\ii\qq\cdot\xx'+\ii\omega t'}\phi_{\text{ext}}(\xx',t')\right]}_{\displaystyle \phi_{\text{ext}}(\qq,\omega)} $$∎
物理的意味:この式のありがたみ
式 \eqref{eq:9-linear} には $\qq$ が1種類しか出てこない.「波数 $\qq$ のさざ波で揺さぶれば,返ってくるのも波数 $\qq$ のさざ波だけ」という主張である.波長 $2\pi/q$ の縞模様のポテンシャルをかければ同じ波長の密度の縞ができ,$2\qq$ の縞も $\qq/2$ の縞も生じない.
もし $\qq$ が混ざるなら応答は $\delta\rho(\qq)=\sum_{\qq'}\chi(\qq,\qq')\phi(\qq')$ という行列の掛け算になり,逆行列を求める仕事になってしまう.一様系ではこの行列が対角なので,成分ごとの割り算で済む.9.3節で $\epsilon$ の逆数を作るとき単なる数の逆数で済むのは,このおかげである.
結晶では $\qq$ が混ざる — 局所場効果
実際の金属はイオンが格子を組んでいるので,並進対称性は「任意の $\bm a$」ではなく「格子ベクトル $\bm R$ だけ」に弱まる.すると $\qq$ と $\qq+\bm G$($\bm G$ は逆格子ベクトル)が混ざり,誘電関数は行列 $\epsilon_{\bm G\bm G'}(\qq,\omega)$ になる.この非対角成分が担う効果を局所場効果と呼ぶ.第一原理計算で誘電関数を求めるとき,対角成分だけで済ませるか行列を全部逆にするかを選ばせるのがこの部分である.「$\qq$ が混ざらない」のは一様電子気体という理想化のおかげだ,ということは覚えておいてほしい.
なお,並進不変性を使って $\xx'$ について平均を取れば(値は $\xx'$ に依らないので変わらない),式 \eqref{eq:9-chi-def} は演算子 $\hat\rho_\qq$ で
と書ける.因果律 $\theta(\tau)$ のおかげで積分下限が $0$ になっており(第1章1.4節と同じ構造),したがって $\chi_{\rho\rho}$ は複素 $\omega$ 平面の上半面で正則,Kramers–Kronig関係(第4章)が使える.第8章のLehmann表示を当てはめれば分子に $\abs{\bra{n}\hat\rho_{-\qq}\ket{0}}^2$ が現れるが,9.1.3節で見たとおり $\hat\rho_{-\qq}\ket{0}$ は粒子‐正孔対の重ね合わせなので,極は図9.1(b)の帯の中にだけ並ぶ.
9.3 遮蔽の自己無撞着な扱い
ここからが本章の核心である.式 \eqref{eq:9-linear} は「外部ポテンシャルをかけたら密度がこれだけ変わる」と言っており,原理的にはこれで話は終わっている.にもかかわらず,電子気体ではこの式をそのまま使えない.
なぜ素朴な摂動論では駄目なのか
電子は電荷を持つ.密度が $\delta\rho$ 変化すれば,それ自体が電荷の偏り $-e\,\delta\rho$ となって新しいCoulombポテンシャルを作り,他の電子はそれも感じる.
もしCoulomb力が短距離力なら,この二次的な効果は小さく無視できた.ところがCoulomb力は $1/r$ という長距離力で,Fourier成分 $v(q)=4\pi e^2/q^2$ は $q\to0$ で発散する.つまり長波長の揺さぶりに対しては,誘起電荷が作るポテンシャルは外部ポテンシャルよりいくらでも大きくなりうる.実際あとで見るように $v(q)\chi^0(q,0)\simeq-q_{TF}^2/q^2$ であり,$q\ll q_{TF}$ では絶対値が $1$ をはるかに超える.「小さい補正」どころか主役が入れ替わり,素朴な1次摂動論はここで完全に破綻する.
そこで発想を変える.電子が本当に感じているポテンシャルは何かを先に決め,それに対する応答を書く.すると「感じるポテンシャル」の中に「応答の結果」が入り込み,方程式は自分自身を含む自己無撞着(self-consistent)な形になる.これを解くのである.
9.3.1 誘起電荷が作るポテンシャル
誘起された電荷密度は $-e\,\delta\rho(\xx)$ である.これが別の電子(電荷 $-e$)に及ぼすポテンシャルエネルギーは $(-e)\times(-e)=+e^2$ より
$$ \phi_{\text{ind}}(\xx,t) = \int\dd^3x'\;\frac{e^2}{\abs{\xx-\xx'}}\,\delta\rho(\xx',t) $$となる.畳み込みの形なので,Fourier変換すれば掛け算になる.そこでまずCoulomb相互作用のFourier変換を求める.
導出:$v(q)=4\pi e^2/q^2$
$1/r$ をそのままFourier変換すると $r\to\infty$ で収束しない.そこで湯川型の遮蔽因子 $\ee^{-\mu r}$ を入れて計算し,最後に $\mu\to0^+$ とする(遮蔽を受けない $1/r$ の裾が無限遠まで届く状況は現実には存在しないので,この操作は物理的にも正当である).
ステップ1:極座標.$\qq$ を $z$ 軸に取り $u=\cos\theta$ とすると $\qq\cdot\bm r=qru$,$\dd^3r=2\pi r^2\dd r\,\dd u$ だから
$$ v_\mu(q)=\int\dd^3r\;\frac{e^2\ee^{-\mu r}}{r}\ee^{-\ii\qq\cdot\bm r} =2\pi e^2\int_0^\infty\dd r\,r\,\ee^{-\mu r}\int_{-1}^{1}\dd u\;\ee^{-\ii qru} $$ステップ2:$u$ 積分.
$$ \int_{-1}^{1}\dd u\;\ee^{-\ii qru} =\left[\frac{\ee^{-\ii qru}}{-\ii qr}\right]_{u=-1}^{u=1} =\frac{\ee^{-\ii qr}-\ee^{\ii qr}}{-\ii qr} =\frac{2\sin qr}{qr} $$ステップ3:$r$ 積分.$r\cdot\frac{2\sin qr}{qr}=\frac{2\sin qr}{q}$ に注意して
$$ v_\mu(q)=\frac{4\pi e^2}{q}\int_0^\infty\dd r\;\ee^{-\mu r}\sin qr, \qquad \int_0^\infty\!\dd r\,\ee^{-\mu r}\sin qr =\frac{1}{2\ii}\left[\frac{1}{\mu-\ii q}-\frac{1}{\mu+\ii q}\right] =\frac{1}{2\ii}\cdot\frac{2\ii q}{\mu^2+q^2} =\frac{q}{\mu^2+q^2} $$($\sin qr=\frac{1}{2\ii}(\ee^{\ii qr}-\ee^{-\ii qr})$ と書けば初等的である.)
ステップ4:極限.
$$ v_\mu(q)=\frac{4\pi e^2}{q}\cdot\frac{q}{\mu^2+q^2}=\frac{4\pi e^2}{\mu^2+q^2} \;\xrightarrow{\ \mu\to0^+\ }\; \frac{4\pi e^2}{q^2} $$∎ 途中の $4\pi e^2/(q^2+\mu^2)$ という形が,そのまま9.6.3節のThomas–Fermi遮蔽ポテンシャルになる.計算の道具として入れた $\mu$ が,あとで遮蔽の逆長さという物理的意味を持つ.
別解と符号の確認:Poisson方程式から
$\nabla^2\phi_{\text{el}}=-4\pi\rho_{\text{charge}}$ をFourier変換する.規約 \eqref{eq:9-fourier} では $\nabla\to\ii\qq$ すなわち $\nabla^2\to-q^2$ だから $\phi_{\text{el}}(\qq)=\frac{4\pi}{q^2}\rho_{\text{charge}}(\qq)$.電荷密度 $\rho_{\text{charge}}=-e\,\delta\rho$ を入れ,電子(電荷 $-e$)が感じるエネルギー $\phi_{\text{ind}}=(-e)\phi_{\text{el}}$ を作れば
$$ \phi_{\text{ind}}(\qq)=(-e)\cdot\frac{4\pi}{q^2}\cdot(-e)\,\delta\rho(\qq)=v(q)\,\delta\rho(\qq) $$マイナスが2回かかってプラスになる.ここを間違えると誘電関数の符号が逆になる.
9.3.2 自己無撞着方程式を立てる
| 記号 | 名前 | 意味 |
|---|---|---|
| $\phi_{\text{ext}}$ | 外部ポテンシャル | 外から持ち込んだ電荷が作る分.実験者が制御できる量 |
| $\phi_{\text{ind}}$ | 誘起ポテンシャル | 電子が動いてできた電荷の偏りが作る分 |
| $\phi_{\text{tot}}$ | 全ポテンシャル | $\phi_{\text{ext}}+\phi_{\text{ind}}$.電子が実際に感じている分 |
| $\chi$ | 全(外場)応答関数 | $\delta\rho=\chi\,\phi_{\text{ext}}$.実験と直接つながる量 |
| $\chi^0$ | 既約(固有)応答関数 | $\delta\rho=\chi^0\,\phi_{\text{tot}}$.分極関数,分極率とも呼ばれる |
導出:誘電関数 $\epsilon=1-v\chi^0$(1行ずつ)
以下すべて同じ $(\qq,\omega)$ 成分どうしの関係であり,9.2.3節で示したとおり異なる $\qq$ は混ざらない.引数は省略する.
(1) 電子が感じるのは全ポテンシャルである.電子から見れば,外から来たポテンシャルも仲間の電子が作ったポテンシャルも区別がつかない.したがって応答の相手は $\phi_{\text{tot}}$ でなければならない:
$$ \delta\rho = \chi^0\,\phi_{\text{tot}} \tag{a} $$(2) 全ポテンシャルの定義.
$$ \phi_{\text{tot}} = \phi_{\text{ext}} + \phi_{\text{ind}} \tag{b} $$(3) 誘起ポテンシャルは誘起密度が作る(式 \eqref{eq:9-phiind}).
$$ \phi_{\text{ind}} = v\,\delta\rho \tag{c} $$(4) (c)に(a)を代入して $\delta\rho$ を消す.
$$ \phi_{\text{ind}} = v\,\chi^0\,\phi_{\text{tot}} \tag{d} $$(5) (d)を(b)に代入する.ここで $\phi_{\text{tot}}$ が両辺に現れる.これが自己無撞着ということである:
$$ \phi_{\text{tot}} = \phi_{\text{ext}} + v\,\chi^0\,\phi_{\text{tot}} \tag{e} $$(6) 移項してまとめる.
$$ \phi_{\text{tot}} - v\,\chi^0\,\phi_{\text{tot}} = \phi_{\text{ext}} \qquad\Longrightarrow\qquad \left(1 - v\,\chi^0\right)\phi_{\text{tot}} = \phi_{\text{ext}} \tag{f} $$(7) 割る.$1-v\chi^0$ はただの複素数($\qq$ が混ざらないおかげ)なので,逆数を掛けるだけでよい:
$$ \phi_{\text{tot}} = \frac{\phi_{\text{ext}}}{1 - v(q)\,\chi^0(\qq,\omega)} \tag{g} $$(8) 誘電関数を定義する.電磁気学では「外から与えた場」と「物質中の実際の場」の比を誘電率と呼ぶ.同じ流儀で $\epsilon\equiv\phi_{\text{ext}}/\phi_{\text{tot}}$ と定義すれば,(g)から直ちに
∎ 使った物理は (1)「電子は全ポテンシャルを感じる」と (3)「誘起電荷はCoulombポテンシャルを作る」の2つだけで,残りはすべて代数である.
物理的意味:$\epsilon$ は「外の声がどれだけ小さく聞こえるか」
定義を書き直すと $\phi_{\text{tot}}=\phi_{\text{ext}}/\epsilon$ である.$\epsilon$ が大きいほど外部ポテンシャルは中で弱められる.静的な場合 $\chi^0<0$ だったから $\epsilon=1+v\abs{\chi^0}>1$,つまり電子気体は必ず外部ポテンシャルを弱める.これが遮蔽(screening)である.9.6.3節では $q\to0$ で $\epsilon\to1+q_{TF}^2/q^2\to\infty$ となり,長波長の外部ポテンシャルが完全に打ち消されることを見る.金属の中に静電場が入り込めないという電磁気学の常識が,ここでは応答関数から導かれている.
9.3.3 幾何級数としての読み方
導出:無限回の「遮蔽の遮蔽」を足し上げる
式 (e) $\phi_{\text{tot}}=\phi_{\text{ext}}+v\chi^0\phi_{\text{tot}}$ の右辺の $\phi_{\text{tot}}$ に,式 (e) 自身を繰り返し代入する.$x\equiv v\chi^0$ と略記する.
0回(0次):$\phi_{\text{tot}}\simeq\phi_{\text{ext}}$.外部ポテンシャルがそのまま届くという素朴な近似.
1回:$\phi_{\text{tot}} = \phi_{\text{ext}} + x\left(\phi_{\text{ext}}+x\phi_{\text{tot}}\right)= \phi_{\text{ext}} + x\phi_{\text{ext}} + x^2\phi_{\text{tot}}$
2回:$\phi_{\text{tot}} = \phi_{\text{ext}} + x\phi_{\text{ext}} + x^2\phi_{\text{ext}} + x^3\phi_{\text{tot}}$
無限回:幾何級数の公式 $\sum_{n\ge0}x^n=1/(1-x)$ より
$$ \phi_{\text{tot}} = \left(1 + x + x^2 + x^3 + \cdots\right)\phi_{\text{ext}} = \frac{\phi_{\text{ext}}}{1-v\chi^0} $$∎ 式 (g) と一致する.
各項が何を表しているか
- 第0項 $\phi_{\text{ext}}$:外部電荷が直接作るポテンシャル.
- 第1項 $v\chi^0\phi_{\text{ext}}$:外部ポテンシャルが電子を動かし($\chi^0$),その偏りが新しいポテンシャルを作る($v$).1回目の遮蔽.
- 第2項 $(v\chi^0)^2\phi_{\text{ext}}$:その遮蔽ポテンシャルがさらに別の電子を動かす.遮蔽の遮蔽.
- 第 $n$ 項:$n$ 回のこだま.
誘電関数とは,この無限に続くこだまを全部足し上げた結果である.図9.2の「バブルの鎖」がこの級数の絵であり,Feynman図ではRPA鎖(ring diagram, bubble chain)と呼ばれる.以降「RPAで足し上げる」と言ったら,この幾何級数を自由電子の裸のバブルで組み立てることを指す(9.5節).
級数が発散しても答えは正しい
幾何級数が収束するのは $\abs{x}<1$ のときだけである.ところが電子気体では $x\simeq-q_{TF}^2/q^2$(静的極限)なので,$q<q_{TF}$ では級数は発散する.それでも $1/(1-x)$ という閉じた形は正しい.われわれは級数を足したのではなく,自己無撞着方程式 (e) を代数的に解いた((f)→(g))からである.級数は「そう読むこともできる」という解釈であって,導出の根拠ではない.
このように発散級数を有限の閉じた形に置き換える操作を再足し上げ(resummation)と呼び,多体理論の技法のほとんどはこの一言に尽きる.Al の $q_{TF}\approx2.05\ \text{Å}^{-1}$ を使うと $q=1\ \text{Å}^{-1}$ で $x\approx-4.2$,$q=0.5\ \text{Å}^{-1}$ で $x\approx-17$.級数は絶望的に発散しているが,$\epsilon=1-x$ は $5.2$,$18$ という穏やかな値で,これが正しい遮蔽の強さを与える.
「線形応答を超えた」わけではない
無限次まで足し上げたと聞くと非線形になったのかと思うかもしれないが,違う.$\phi_{\text{ext}}$ については依然として1次であり,$\phi_{\text{ext}}$ を2倍にすれば $\delta\rho$ も正確に2倍になる.無限次まで足したのは電子どうしのCoulomb相互作用についてである.「外部摂動については1次,内部相互作用については無限次」という非対称な扱いをしているのが,本章のいちばん技巧的な点である.
9.4 全応答 $\chi$ と既約応答 $\chi^0$
実験家が制御できるのは $\phi_{\text{ext}}$ であって $\phi_{\text{tot}}$ ではない.したがって実験と直接つながるのは9.2節の $\chi$ のほうである.両者の関係を出そう.
導出:$\chi=\chi^0/\epsilon$ と $\epsilon^{-1}=1+v\chi$
(1) 同じ $\delta\rho$ を2通りに書く:$\delta\rho=\chi\,\phi_{\text{ext}}$ かつ $\delta\rho=\chi^0\,\phi_{\text{tot}}$.
(2) $\phi_{\text{tot}}=\phi_{\text{ext}}/\epsilon$ を右の式に入れる:$\chi\,\phi_{\text{ext}}=\chi^0\,\phi_{\text{ext}}/\epsilon$.
(3) $\phi_{\text{ext}}$ は任意なので係数を比べてよい:
(4) 逆誘電関数を $\chi$ で書く.$\epsilon^{-1}=\phi_{\text{tot}}/\phi_{\text{ext}}$ に $\phi_{\text{tot}}=\phi_{\text{ext}}+v\delta\rho$ を入れると
$$ \frac{1}{\epsilon}=\frac{\phi_{\text{ext}}+v\,\delta\rho}{\phi_{\text{ext}}}=1+v\,\frac{\delta\rho}{\phi_{\text{ext}}}=1+v\,\chi $$(5) 整合性の確認.式 \eqref{eq:9-chi-chi0} を代入すると
$$ 1+v\chi = 1+\frac{v\chi^0}{1-v\chi^0} = \frac{(1-v\chi^0)+v\chi^0}{1-v\chi^0} = \frac{1}{1-v\chi^0}=\frac{1}{\epsilon} $$∎ 確かに一致する.逆に解けば $\chi^0=\chi/(1+v\chi)$ であり,$\chi$ と $\chi^0$ はどちらか一方が分かればもう一方も分かる.実験で測るのは $\chi$,理論で計算しやすいのは $\chi^0$,という役割分担になっている.
「既約」とはどういう意味か
Feynman図の言葉では,$\chi$ に寄与する図には「Coulomb相互作用の波線1本を切ると2つに分かれる」ものと「切っても分かれない」ものがある.後者だけを集めたのが $\chi^0$ で,これを既約(irreducible)または固有(proper)と呼ぶ.式 \eqref{eq:9-chi-chi0} は「既約な部品 $\chi^0$ さえ分かれば,波線で切れる図はすべて幾何級数で自動的に足し上がる」と言っている.つまり難しい仕事は $\chi^0$ に押し込めたのである.
記号の流儀の違い
この分野は記号がとくに乱れている.Fetter–Waleckaは分極挿入を使い $\epsilon=1-v\Pi^{*}$ と書く($*$ が既約の印,本書の $\chi^0$ が $\Pi^*$).$\Pi=-\chi^0$ と符号を逆に定義して $\epsilon=1+v\Pi$ と書く本も多い.$\chi^0$ を $P^0$, $\chi_0$, $\Pi_0$, $\chi^{\text{irr}}$ と書く流儀もあり,「$\chi$」を本書の $\chi^0$ の意味で使う本さえある.迷ったら,静的極限で $\epsilon(q\to0,0)>1$(遮蔽)になるかを確かめれば流儀は一意に決まる.
9.5 RPA(乱雑位相近似)とは何か
ここまでの議論は近似ではない.式 \eqref{eq:9-epsilon} と \eqref{eq:9-chi-chi0} は,$\chi^0$ を「既約応答関数」と定義する限り厳密である.難しさはすべて $\chi^0$ に押し込まれており,それを厳密に求めることは相互作用する電子気体を厳密に解くのと同じくらい難しい.そこで近似する.
RPA(乱雑位相近似, Random Phase Approximation)
既約応答関数 $\chi^0$ を相互作用のない自由電子気体の密度応答関数で置き換える.この $\chi^{(0)}_{\text{free}}$ がLindhard関数で,第10章で完全に計算する.結果だけ先取りすると
$$ \chi^{(0)}_{\text{free}}(\qq,\omega)=\frac{2}{V}\sum_{\kk} \frac{n_\kk - n_{\kk+\qq}}{\hbar\omega + \varepsilon_\kk-\varepsilon_{\kk+\qq}+\ii\eta} $$($n_\kk$ はFermi分布,係数 $2$ はスピン,$\eta\to0^+$).したがって
RPAはHartree近似の動的な版である
取り入れたもの:電子が作る平均的なCoulombポテンシャル(Hartree場)を,自己無撞着に無限次まで.これが図9.2のバブル鎖である.
捨てたもの:(i)交換効果——同じスピンの電子はPauli原理で互いを避け「交換ホール」を作るが,RPAはこれを見ていない.(ii)相関効果——スピンが違っても電子は瞬間的な位置を見て互いを避ける(相関ホール).(iii)準粒子の寿命——バブルの中の電子を裸の電子として扱っている.
ひとことで言えば,RPAは「電子が他の電子の平均場だけを感じて勝手に運動する」近似である.1個の電子から見ると,他の電子は「なめらかに塗られた電荷の雲」であって,個々の粒としては見えていない.
なぜ「乱雑位相」という変な名前なのか
BohmとPines(1953年)に由来する.彼らは密度揺らぎ $\hat\rho_\qq$ の運動方程式を立てた.Coulomb相互作用のため $\hat\rho_\qq$ の時間発展には $\qq'\neq\qq$ の成分も混ざり込み,その混入項は粒子 $i$ の位置 $\xx_i$ を使って $\sum_{i}\ee^{\ii(\qq-\qq')\cdot\xx_i}$ という和を含む.$\qq\neq\qq'$ なら指数の位相 $(\qq-\qq')\cdot\xx_i$ は粒子ごとにばらばら(=乱雑)で,$10^{23}$ 個も足せば打ち消し合ってほぼゼロになる.一方 $\qq=\qq'$ の項は位相がすべて $0$ なので $N$ 個がそろって足し上がる.
そこで「乱雑な位相の項を落とし,そろった位相の項だけ残す」——これが名前の由来である.名前が近似の捨てたほうを指しているので分かりにくいが,中身は「同じ $\qq$ の成分だけを自己無撞着に扱う」という,9.3節でやったことそのものである.
導出:なぜ高密度でRPAが良いのか
電子1個あたりの体積を半径 $r_sa_0$($a_0=0.529\,\text{Å}$)の球で表す:$\frac{4\pi}{3}(r_sa_0)^3=1/n$.ここに現れた無次元数 $r_s=a_0^{-1}\left(\frac{3}{4\pi n}\right)^{1/3}$ を密度の目安として使う.$r_s$ が小さいほど高密度である.
運動エネルギー:$k_F=(3\pi^2n)^{1/3}\propto n^{1/3}\propto 1/r_s$ なので $E_{\text{kin}}\sim\hbar^2k_F^2/2m\propto r_s^{-2}$.
Coulombエネルギー:電子間距離が $r_sa_0$ 程度だから $E_{\text{Coul}}\sim e^2/(r_sa_0)\propto r_s^{-1}$.
比:$E_{\text{Coul}}/E_{\text{kin}}\propto r_s$.
∎ $r_s\ll1$(高密度)では運動エネルギーが圧倒的に勝ち,Coulombは摂動として扱える.このときRPAが厳密理論の主要項を正しく足し上げていることが示せる(Gell-Mann–Brueckner 1957).逆に $r_s\gg1$ ではCoulombが勝ち,電子は結晶を組もうとする(Wigner結晶).
| 金属 | 価電子数 | $n\ [10^{22}\,\text{cm}^{-3}]$ | $r_s$ | $\hbar\omega_p$(自由電子) | $\hbar\omega_p$(EELS実測) |
|---|---|---|---|---|---|
| Al | 3 | 18.1 | 2.07 | 15.8 eV | 15.0 eV |
| Mg | 2 | 8.61 | 2.66 | 10.9 eV | 10.6 eV |
| Na | 1 | 2.65 | 3.93 | 6.0 eV | 5.7 eV |
| K | 1 | 1.40 | 4.86 | 4.4 eV | 3.7 eV |
| Cs | 1 | 0.91 | 5.62 | 3.5 eV | 2.9 eV |
現実の金属は $r_s=2$–$6$ — それでもRPAは使える
実在の金属は $r_s=2$–$6$ で,$r_s\ll1$ からは程遠い.それでもプラズモンエネルギーの予言は数%〜十数%の精度で当たっている.理由は,プラズモンが長波長($q\to0$)の集団運動だからである.$q\to0$ では $v(q)=4\pi e^2/q^2$ が発散するので $v\chi^0$ の項が他のすべてを圧倒し,交換・相関はその「他のすべて」の一部にすぎないので相対的に効かなくなる.逆に言えば$q$ が大きい領域(短距離)ではRPAは信用できない.表9.2でも $r_s$ の大きい低密度のアルカリ金属ほどずれが大きい.
RPAを超える処方としては,$v(q)\to v(q)[1-G(q)]$ と局所場補正 $G(q)$ を入れるHubbard近似・Singwi–Tosi–Land–Sjölander(STLS)近似,時間依存密度汎関数理論(TDDFT)で $v\to v+f_{xc}$ とする方法などがある.いずれも「$\chi^0$ の外側の相互作用を少し賢くする」発想であり,9.3節の骨組みはそのまま使える.
9.6 誘電関数の3つの顔
$\epsilon(\qq,\omega)$ は2変数関数である.この平面のどこを見るかによって,まったく違う物理が現れる.
| 見る場所 | 読み取る量 | 物理 | 実験 | 本書 |
|---|---|---|---|---|
| $\epsilon(\qq,\omega)=0$ | 零点の位置 | 集団励起(プラズモン) | EELS,光学 | 第11章 |
| $-\mathrm{Im}\,\epsilon^{-1}$ | 損失関数 | エネルギー散逸 | EELS,非弾性X線散乱(IXS) | 第12章 |
| $\epsilon(q,\omega=0)$ | 静的な値 | 遮蔽(Thomas–Fermi) | Friedel振動,電気伝導 | 第10章 |
9.6.1 $\epsilon=0$ は集団励起である
導出:外から叩かなくても揺れる条件
$\phi_{\text{tot}}(\qq,\omega)=\phi_{\text{ext}}(\qq,\omega)/\epsilon(\qq,\omega)$ において,ある $(\qq_0,\omega_0)$ で $\epsilon(\qq_0,\omega_0)=0$ になったとしよう.分母がゼロなので,$\phi_{\text{ext}}$ がどんなに小さくても $\phi_{\text{tot}}$ は有限に残る.極限を取れば
$$ \phi_{\text{ext}}\to0 \quad\text{でも}\quad \phi_{\text{tot}}\neq0 $$∎ 外から叩かなくても系が自分で振動し続ける.これが集団励起であり,電子気体では電子全体が一斉に揺れるプラズマ振動(プラズモン)である.
第1章の「極が固有振動」と同じこと
式 \eqref{eq:9-inv-eps} より $\chi=(\epsilon^{-1}-1)/v$ なので,$\epsilon=0$ は $\chi$ の極である.減衰振動子で $\chi(\omega)=[m(\omega_0^2-\omega^2)+\ii\gamma\omega]^{-1}$ の分母がゼロになる点が共鳴だったのと,まったく同じ構造である.違いは,あちらでは1個の質点が揺れ,ここでは $10^{23}$ 個の電子がそろって揺れる点だけである.第11章では $q\to0$ で $\epsilon(0,\omega)=1-\omega_p^2/\omega^2$ となり,$\epsilon=0$ から $\omega_p=\sqrt{4\pi ne^2/m}$ が出ることを示す.
9.6.2 $-\mathrm{Im}\,\epsilon^{-1}$ は損失関数である
高速電子を試料に打ち込むと,電子はエネルギーの一部を電子気体に渡して減速する.失ったエネルギーの分布を測るのが電子エネルギー損失分光(EELS)である.第12章で示すが,その散乱確率は
に比例する.これを損失関数と呼ぶ.第2の等号は式 \eqref{eq:9-inv-eps} の虚部を取っただけである($1$ と $v$ は実数).9.2.2節で見たとおり $\mathrm{Im}\,\chi<0$($\omega>0$)なので $L>0$ になっている.
導出:損失関数が $\epsilon_1=0$ で鋭いピークを持つこと
$\epsilon=\epsilon_1+\ii\epsilon_2$ と分け,分母を実数化する:
$$ \frac{1}{\epsilon}=\frac{1}{\epsilon_1+\ii\epsilon_2} =\frac{\epsilon_1-\ii\epsilon_2}{(\epsilon_1+\ii\epsilon_2)(\epsilon_1-\ii\epsilon_2)} =\frac{\epsilon_1-\ii\epsilon_2}{\epsilon_1^2+\epsilon_2^2} \quad\Longrightarrow\quad L=-\mathrm{Im}\,\frac{1}{\epsilon}=\frac{\epsilon_2}{\epsilon_1^2+\epsilon_2^2} $$∎ $\epsilon_1=0$ かつ $\epsilon_2$ が小さいとき $L\simeq1/\epsilon_2$ となって非常に大きくなる.損失関数のピークは「$\epsilon_1$ がゼロを横切り,しかも $\epsilon_2$ が小さい場所」に立つ——それは9.6.1節の集団励起の条件そのものである.EELSでプラズモンピークが見えるのはこのためである.逆に $\epsilon_2$ が大きい場所では $L$ は小さい.「よく吸うほどよく見える」わけではない.
例題9.1 Drude模型の損失関数
金属の誘電関数を緩和率 $\gamma$ のDrude模型 $\epsilon(\omega)=1-\dfrac{\omega_p^2}{\omega(\omega+\ii\gamma)}$ で近似する.損失関数 $L(\omega)$ を求めよ.
解答.通分すると $\epsilon=\dfrac{\omega(\omega+\ii\gamma)-\omega_p^2}{\omega(\omega+\ii\gamma)}$,すなわち
$$ \frac{1}{\epsilon}=\frac{\omega^2+\ii\gamma\omega}{\omega^2-\omega_p^2+\ii\gamma\omega}\equiv\frac{N}{D}=\frac{N\bar D}{\abs{D}^2} $$$\abs{D}^2$ は実数なので,虚部は分子 $N\bar D$ の虚部だけで決まる:
$$ \mathrm{Im}\left(N\bar D\right) =\mathrm{Im}\left[(\omega^2+\ii\gamma\omega)(\omega^2-\omega_p^2-\ii\gamma\omega)\right] =\gamma\omega(\omega^2-\omega_p^2)-\omega^2\gamma\omega =-\gamma\omega\,\omega_p^2 $$(第1項は $\ii\gamma\omega\times(\omega^2-\omega_p^2)$,第2項は $\omega^2\times(-\ii\gamma\omega)$ から.残る2つの積は実数なので効かない.)したがって
$\omega\simeq\omega_p$ にピークを持つLorentz型の共鳴曲線で,半値全幅は $\gamma$ である.∎
第3章との対応.この分母は,第3章の強制振動子 $\chi(\omega)=[m(\omega_0^2-\omega^2)+\ii\gamma\omega]^{-1}$ の絶対値の2乗の分母とまったく同じ形である($\omega_0\to\omega_p$).$10^{23}$ 個の電子の集団運動が,1個の減衰振動子と同じ数式で書けている.第I部で作った直観がそのまま使えるのである.Alでは $\hbar\omega_p\approx15.0\ \mathrm{eV}$,EELS のピーク幅は $\hbar\gamma\approx0.5$–$1\ \mathrm{eV}$ なので $\omega_p/\gamma\approx15$–$30$,かなり鋭い共鳴である.
和則による検算
第8章の $f$ 和則は密度応答に対して $\int_0^\infty\dd\omega\,\omega\left(-\mathrm{Im}\,\chi_{\rho\rho}(\qq,\omega)\right)=\pi nq^2/2m$ となる(両辺で $\hbar$ が相殺するので,$\hbar$ を復元しても形は変わらない).両辺に $v(q)=4\pi e^2/q^2$ を掛けると右辺の $q^2$ が $1/q^2$ と相殺し
$$ \int_0^\infty\dd\omega\;\omega\,L(\qq,\omega)=\frac{4\pi e^2}{q^2}\cdot\frac{\pi nq^2}{2m}=\frac{\pi}{2}\cdot\frac{4\pi ne^2}{m}=\frac{\pi}{2}\,\omega_p^2 $$すなわち損失関数の第1モーメントは $\qq$ に依らず $\frac{\pi}{2}\omega_p^2$ である.EELS の実測スペクトルを積分してこの値になるかを見れば,絶対値較正を検算できる(演習9.5).
9.6.3 $\epsilon(q,0)$ は遮蔽である
第10章で $\chi^0(q\to0,0)=-N(\epsilon_F)$($N(\epsilon_F)$ はスピン込み・単位体積あたりのFermi面状態密度)を示すので,それを認めれば
$$ \epsilon(q\to0,0)=1+\frac{4\pi e^2 N(\epsilon_F)}{q^2}\equiv 1+\frac{q_{TF}^2}{q^2}, \qquad q_{TF}^2\equiv 4\pi e^2 N(\epsilon_F) $$導出:湯川型に遮蔽されたCoulombポテンシャル
点電荷 $Ze$ が作る裸のポテンシャル(電子が感じるエネルギー)は $\phi_{\text{ext}}(q)=-Zv(q)=-4\pi Ze^2/q^2$ である(正の点電荷は電子を引き寄せるのでマイナス).遮蔽後は
$$ \phi_{\text{tot}}(q)=\frac{\phi_{\text{ext}}(q)}{\epsilon(q,0)} =\frac{-4\pi Ze^2/q^2}{(q^2+q_{TF}^2)/q^2} =\frac{-4\pi Ze^2}{q^2+q_{TF}^2} $$ここで9.3.1節の導出のステップ4を逆向きに読む.$4\pi e^2/(\mu^2+q^2)$ は $e^2\ee^{-\mu r}/r$ のFourier変換だったから,$\mu\to q_{TF}$ と読み替えて
∎ $1/r$ という長距離の裾が $\ee^{-q_{TF}r}$ で切り落とされている.これがThomas–Fermi遮蔽である.すでに計算した積分をもう一度使っただけで,新しい計算はしていない.
ただし,ここで一つ断っておかねばならない.いま $\epsilon(q,0)=1+q_{TF}^2/q^2$ をすべての $q$ について使ったが,この形はもともと $q\to0$ の極限で導いたものである.それを全 $q$ に外挿してしまうのがThomas–Fermi近似であり,湯川型の $\ee^{-q_{TF}r}$ は「長波長の遮蔽の目安」を与えるものであって,遠方の厳密な漸近形ではない.実際の $\chi^0(q,0)$ は $q=2k_F$ に非解析性(9.1節で見たFermi球の直径)を持ち,そのために遠方では単一の指数関数ではなく $\cos(2k_Fr)/r^3$ 型の振動——Friedel振動——が残る.正しい $q$ 依存性は第10章のLindhard関数で扱う.
例題9.2 アルミニウムの遮蔽長
Al の伝導電子密度は $n=1.81\times10^{29}\ \mathrm{m^{-3}}$(3価,密度 $2.70\ \mathrm{g/cm^3}$)である.遮蔽長 $1/q_{TF}$ を求めよ.
解答.まずFermi波数を出す.
$$ k_F=(3\pi^2n)^{1/3}=\left(3\times9.87\times1.81\times10^{29}\right)^{1/3}=\left(5.36\times10^{30}\right)^{1/3}=1.75\times10^{10}\ \mathrm{m^{-1}}=1.75\ \text{Å}^{-1} $$自由電子の状態密度を使うと $q_{TF}^2=4\pi e^2N(\epsilon_F)$ はGauss単位系で $q_{TF}^2=\frac{4}{\pi}\frac{k_F}{a_0}$ と書ける(第10章で導く).したがって
$$ q_{TF}^2=\frac{4}{\pi}\times\frac{1.75}{0.529}=1.273\times3.308=4.21\ \text{Å}^{-2}, \qquad q_{TF}=2.05\ \text{Å}^{-1}, \qquad \frac{1}{q_{TF}}=0.49\ \text{Å} $$∎ 遮蔽長は $0.5\ \text{Å}$ 弱で,原子間距離(Alでは $2.86\ \text{Å}$)よりずっと短い.式 \eqref{eq:9-yukawa} に入れると,裸なら $r=1\ \text{Å}$ で $14.4\ \mathrm{eV}$ のポテンシャルが $1.9\ \mathrm{eV}$ に,隣の原子の位置では $5\ \mathrm{eV}$ が $0.014\ \mathrm{eV}$ 程度にまで落ちる.
これが何を意味するか.金属中に不純物を1個入れても,その電荷は隣の原子に届く前にほぼ完全に打ち消される.金属内部に静電場が存在できないのも,不純物どうしが静電的にほとんど相互作用しないのも,この短い遮蔽長のためである.裸のCoulomb力は無限遠まで届くのに,電子気体の中では原子1個分も届かない——長距離力が実質的に接触相互作用に化けるという,この事実こそが,金属を自由電子気体として扱ってよい根拠になっている.ただし以上はThomas–Fermi近似で描いた大づかみの姿であって,上の $0.014\ \mathrm{eV}$ のような原子スケールでの数値は目安と受け取ってほしい.遠方には指数関数では書けないFriedel振動が残る(第10章).
9.7 縦誘電率と横誘電率
これまでの $\epsilon(\qq,\omega)$ は,実は誘電率の一部分でしかない.ここを曖昧にすると光学の教科書と本章の式が合わなくなる.
縦成分と横成分
ベクトル場は波数 $\qq$ に対して $\bm E=\bm E_L+\bm E_T$($\bm E_L\parallel\qq$,$\bm E_T\perp\qq$)と一意に分解できる.$\bm E_L$ を縦成分,$\bm E_T$ を横成分と呼ぶ.Maxwell方程式では $\nabla\cdot\bm E=4\pi\rho_{\text{charge}}\to\ii\qq\cdot\bm E_L=4\pi\rho_{\text{charge}}$ より電荷が作るのは縦成分だけ,渦を持つのは横成分だけ,という役割分担になっている.
本章で計算したのは縦誘電率である
9.3節では外部電荷が作るスカラーポテンシャルへの応答を計算した.スカラーポテンシャルから作られる電場は $\bm E=-\nabla\phi_{\text{el}}\to-\ii\qq\phi_{\text{el}}$ で $\qq$ に平行,すなわち縦である.したがって式 \eqref{eq:9-epsilon} は正しくは $\epsilon_L(\qq,\omega)=1-v(q)\chi^0(\qq,\omega)$ と書くべきものである.密度変化 $\delta\rho$ は電荷の疎密であり,疎密波は縦波である.プラズモンが縦波なのも同じ理由による.
横成分に応答するのは密度ではなく電流である.横ベクトルポテンシャルに対する電流応答から横伝導度 $\sigma_T$ が定義され,$\epsilon_T=1+\frac{4\pi\ii}{\omega}\sigma_T$ となる.縦側にも同形の $\epsilon_L=1+\frac{4\pi\ii}{\omega}\sigma_L$ が成り立つ(演習9.6).一般に $\epsilon_L\neq\epsilon_T$ であり,両者が一致するのは $\qq$ に対する向きの区別が意味を失う極限 $\lim_{q\to0}\epsilon_L=\lim_{q\to0}\epsilon_T\equiv\epsilon(\omega)$ だけである(等方的な系の場合).この共通の極限値が,光学の教科書に出てくる「複素誘電率」である.
例題9.3 可視光の波数はどれくらい小さいか
光子は $\omega=cq$ で結ばれている.$\hbar\omega=2.0\ \mathrm{eV}$(波長 $620\ \mathrm{nm}$ の赤い光)の $q$ を求め,Al の $k_F=1.75\ \text{Å}^{-1}$ と比べよ.
解答.
$$ \omega=\frac{2.0\times1.602\times10^{-19}}{1.055\times10^{-34}}=3.04\times10^{15}\ \mathrm{s^{-1}}, \qquad q=\frac{\omega}{c}=\frac{3.04\times10^{15}}{3.00\times10^{8}}=1.01\times10^{7}\ \mathrm{m^{-1}}=1.01\times10^{-3}\ \text{Å}^{-1} $$ $$ \frac{q}{k_F}=\frac{1.01\times10^{-3}}{1.75}=5.8\times10^{-4} $$∎ 光の波数はFermi波数の1万分の6程度,事実上ゼロである.
結論.反射率・吸収係数・楕円偏光解析といった光学測定で得られるのは $\epsilon(q\to0,\omega)$ という1変数関数だけであり,$\epsilon(\qq,\omega)$ の2次元の広がりのうち $\omega$ 軸1本しか見ていない.有限の $q$ を見るには,可視光ではなく波数の大きい探針をぶつける必要がある.効いているのは粒子性ではなく探針の波数の大きさである.$100\ \mathrm{keV}$ の電子(EELS)や $10\ \mathrm{keV}$ の硬X線(IXS)なら $q$ を $0$ から数 $\text{Å}^{-1}$ まで自由に変えられる.第12章でこの話をする.
金属光沢とアルカリ金属の紫外透明性
$q\to0$ で $\epsilon(\omega)=1-\omega_p^2/\omega^2$(減衰を無視)である.横波(=光)が物質中を伝わる条件は $q^2c^2=\epsilon(\omega)\omega^2$ だから,$\epsilon<0$ すなわち $\omega<\omega_p$ では $q$ が純虚数になり,波は指数関数的に減衰して中に入れない.入射光はすべて反射される.可視光は $1.6$–$3.3\ \mathrm{eV}$,金属の $\hbar\omega_p$ は表9.2のとおり $3$–$16\ \mathrm{eV}$ なので,ほとんどの金属は可視光を反射し,あの金属光沢を持つ($\hbar\omega_p$ が最も低いCsだけは実測 $2.9\ \mathrm{eV}$ で可視域に食い込んでおり,青紫の端ではすでに透過が始まる).
逆に $\omega>\omega_p$ では $\epsilon>0$ で光が通る.Na の $\hbar\omega_p=5.7\ \mathrm{eV}$ は波長 $218\ \mathrm{nm}$ に相当するから,それより短い紫外線に対してNaは透明になる.R. W. Woodが1933年にアルカリ金属の薄膜でこれを実証した.金属が紫外線に透明という一見奇妙な事実が,本章で組み立てた $\epsilon(\qq,\omega)$ から自然に出てくるのである.
9.8 まとめと演習
9.8.1 まとめ
- 密度演算子のFourier成分は $\hat\rho_\qq=\sum_{\kk\sigma}\hat c^\dagger_{\kk\sigma}\hat c_{\kk+\qq,\sigma}$ であり,$\hat\rho_\qq^\dagger=\hat\rho_{-\qq}$,$\hat\rho_{\qq=0}=\hat N$.
- $\hat\rho_{-\qq}$ をFermi球に作用させると粒子‐正孔対がちょうど1つできる.寄与する $\kk$ は $\abs{\kk}<k_F$ かつ $\abs{\kk+\qq}>k_F$ の三日月領域に限られ,そのエネルギーの集合が粒子‐正孔連続体を作る.上端は $\hbar\omega_{\max}=\frac{\hbar^2}{2m}(q^2+2k_Fq)$,下端は $q\le 2k_F$ では $0$ であり,$q>2k_F$ になって初めて $\frac{\hbar^2}{2m}(q^2-2k_Fq)$ に持ち上がる.
- 摂動 $\Ham_{\text{ext}}=\int\dd^3x\,\phi_{\text{ext}}\hat\rho$ に久保公式を当てると $\chi_{\rho\rho}=-\frac{\ii}{\hbar}\theta(t-t')\braket{[\hat\rho,\hat\rho]}$.本章の符号規約では $\chi_{\rho\rho}(\qq,0)<0$,$\mathrm{Im}\,\chi_{\rho\rho}(\qq,\omega>0)<0$.
- 並進対称性により $\chi_{\rho\rho}$ は $\xx-\xx'$ のみの関数となり,Fourier空間で $\qq$ ごとに独立になる.結晶ではこれが崩れ $\epsilon_{\bm G\bm G'}$ という行列(局所場効果)になる.
- 核心は自己無撞着性である.電子が感じるのは $\phi_{\text{tot}}=\phi_{\text{ext}}+v\,\delta\rho$ であり,$\delta\rho=\chi^0\phi_{\text{tot}}$ と連立して解くと
- これは幾何級数 $1+x+x^2+\cdots$($x=v\chi^0$)の和,すなわち「遮蔽のこだま」を無限回足した結果である.級数自体は $q<q_{TF}$ で発散するが,閉じた形は正しい(再足し上げ).
- $\chi=\chi^0/\epsilon$,$\epsilon^{-1}=1+v\chi$.実験で測るのは $\chi$,計算しやすいのは $\chi^0$.
- RPAは $\chi^0$ を自由電子の値(Lindhard関数)で置き換える近似で,Hartree的平均場だけを見て交換・相関を捨てている.高密度 $r_s\ll1$ で正当化されるが,実在金属($r_s=2$–$6$)でも長波長のプラズモンには数%〜十数%の精度で使える.
- 誘電関数には3つの顔がある.$\epsilon=0$ が集団励起(第11章),$-\mathrm{Im}\,\epsilon^{-1}=\epsilon_2/(\epsilon_1^2+\epsilon_2^2)$ が損失関数(第12章),$\epsilon(q\to0,0)=1+q_{TF}^2/q^2$ が遮蔽(第10章).Al の遮蔽長は $0.49\ \text{Å}$ にすぎない.
- 本章で計算したのは縦誘電率 $\epsilon_L$ である.光学測定が見るのは $q\to0$ の極限(可視光で $q/k_F\sim10^{-4}$)で,そこでは $\epsilon_L=\epsilon_T$ になる.有限 $q$ を見るにはEELSやIXSが要る.
9.8.2 演習問題
演習9.1 $\hat\rho_\qq$ の性質
式 \eqref{eq:9-rho-q} の $\hat\rho_\qq=\sum_{\kk\sigma}\hat c^\dagger_{\kk\sigma}\hat c_{\kk+\qq,\sigma}$ について示せ.
(1) $\hat\rho_\qq^\dagger=\hat\rho_{-\qq}$.
(2) 自由電子の $\Ham_0=\sum_{\kk\sigma}\varepsilon_\kk\hat c^\dagger_{\kk\sigma}\hat c_{\kk\sigma}$ に対して $[\Ham_0,\hat\rho_\qq]=\sum_{\kk\sigma}(\varepsilon_\kk-\varepsilon_{\kk+\qq})\hat c^\dagger_{\kk\sigma}\hat c_{\kk+\qq,\sigma}$.
(3) (2)を使い,$\hat\rho_\qq(t)=\ee^{\ii\Ham_0t/\hbar}\hat\rho_\qq\ee^{-\ii\Ham_0t/\hbar}$ が各 $\kk$ の項ごとに位相因子 $\ee^{\ii(\varepsilon_\kk-\varepsilon_{\kk+\qq})t/\hbar}$ を持つことを示せ.
ヒント:(2) は $[\hat c^\dagger_a\hat c_a,\hat c^\dagger_b\hat c_c]=\delta_{ab}\hat c^\dagger_a\hat c_c-\delta_{ac}\hat c^\dagger_b\hat c_a$ を使う(付録B).(3) の結果は第10章でLindhard関数を導く出発点になる.位相の指数が粒子‐正孔対の励起エネルギーそのものであることを確認しておくとよい.
演習9.2 Coulomb相互作用のFourier変換をもう一度
(1) 湯川型ポテンシャル $\dfrac{e^2\ee^{-\mu r}}{r}$ のFourier変換が $\dfrac{4\pi e^2}{q^2+\mu^2}$ であることを,9.3.1節の導出をなぞって確かめよ.
(2) 逆変換をして,$\dfrac{4\pi e^2}{q^2+\mu^2}$ の実空間表示が確かに $\dfrac{e^2\ee^{-\mu r}}{r}$ に戻ることを示せ.
(3) (2) で $q$ 積分をどちらの半円で閉じるかを,第5章のJordan の補題に照らして説明せよ.
ヒント:(2) 角度積分を先に済ませると $\dfrac{e^2}{\pi r}\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\dd q\,\frac{q\sin qr}{q^2+\mu^2}$ になる.$\sin qr=\mathrm{Im}\,\ee^{\ii qr}$ と書き,$r>0$ なので上半面に閉じる.極は $q=\pm\ii\mu$ で,上半面の $q=\ii\mu$ だけを拾う.この計算はそのまま式 \eqref{eq:9-yukawa} の導出にも使える.
演習9.3 自己無撞着方程式を数値で追う
静的極限で $x\equiv v(q)\chi^0(q,0)$ とし,第10章の結果を先取りして $x=-q_{TF}^2/q^2$,Al の $q_{TF}=2.05\ \text{Å}^{-1}$ を使う.
(1) $q=0.5,\ 1.0,\ 2.0,\ 4.0\ \text{Å}^{-1}$ について $x$ と $\epsilon=1-x$ を計算し,表にせよ.
(2) 幾何級数 $1+x+x^2+\cdots$ の収束条件 $\abs{x}<1$ を $q$ の条件に書き直せ.
(3) $q=1.0\ \text{Å}^{-1}$ で第0項から第3項までの部分和を計算し,正しい答え $1/(1-x)$ と比べて,何が起きているか説明せよ.
(4) 遮蔽の強さ $1/\epsilon$ を(1)の各 $q$ で求め,「長波長ほど強く遮蔽される」ことを数値で確認せよ.
ヒント:(1) $q=1.0$ なら $x=-4.20$,$\epsilon=5.20$,$1/\epsilon=0.192$.(2) $q>q_{TF}=2.05\ \text{Å}^{-1}$.(3) 部分和は $1,\ -3.20,\ 14.4,\ -59.6$ と暴れるが正解は $0.192$.級数の発散と閉じた形の正しさは別問題である(9.3.3節).
演習9.4 $\chi$ と $\chi^0$ の相互変換
(1) 式 \eqref{eq:9-chi-chi0} を $\chi^0$ について解き,$\chi^0=\dfrac{\chi}{1+v\chi}$ を示せ.
(2) $\chi^0$ の極($\chi^0\to\infty$)は $\chi$ のどこに現れるか.逆に $\epsilon=0$($\chi$ の極)は $\chi^0$ のどの値に対応するか.
(3) (2) を「粒子‐正孔励起($\chi^0$ の極)と集団励起($\chi$ の極)は別物である」という言葉で説明せよ.
ヒント:(2) $\chi^0\to\infty$ のとき $\chi\to-1/v$ で有限.一方 $\chi$ が発散するのは $v\chi^0=1$,すなわち $\chi^0=1/v$ という有限の値のとき.相互作用は「電子を1個叩き上げる励起」を集団励起に作り変えてしまう.プラズモンが粒子‐正孔連続体の上に押し出される(図9.1(b))のはこの作り変えの結果である.
演習9.5 損失関数と和則
Drude模型の損失関数 $L(\omega)=\dfrac{\gamma\omega\omega_p^2}{(\omega^2-\omega_p^2)^2+\gamma^2\omega^2}$(式 \eqref{eq:9-drude-loss})について答えよ.
(1) $\gamma\ll\omega_p$ のとき,ピーク位置が $\omega\simeq\omega_p$,半値全幅が $\gamma$ であることを示せ.
(2) 第1モーメント $\displaystyle\int_0^\infty\dd\omega\,\omega L(\omega)$ が $\dfrac{\pi}{2}\omega_p^2$ になることを $\gamma\ll\omega_p$ の近似で確かめよ.
(3) Alについて $\hbar\omega_p=15.0\ \mathrm{eV}$,$\hbar\gamma=0.8\ \mathrm{eV}$ として,ピーク高さ $L(\omega_p)=\omega_p/\gamma$ を数値で求めよ.
ヒント:(2) ピーク近傍で $\omega^2-\omega_p^2\simeq2\omega_p(\omega-\omega_p)$,$\omega\simeq\omega_p$ と置くと
$$ \int_0^\infty\!\dd\omega\,\omega L\simeq\gamma\omega_p^2\!\int_{-\infty}^{\infty}\!\frac{\omega_p^2\,\dd\omega}{4\omega_p^2(\omega-\omega_p)^2+\gamma^2\omega_p^2} =\frac{\gamma\omega_p^2}{4}\cdot\frac{\pi}{\gamma/2}=\frac{\pi}{2}\omega_p^2 $$(3) $L(\omega_p)=15.0/0.8=18.8$.なお,第8章の $f$ 和則の一形態にあたるのは (2) の第1モーメントの関係のほうであり,EELSスペクトルの絶対値較正に使われるのもこちらである.
演習9.6 連続の方程式から縦伝導度へ
電荷保存則 $\dfrac{\partial\rho}{\partial t}+\nabla\cdot\bm j=0$ を出発点とする.
(1) 規約 \eqref{eq:9-fourier} でFourier変換し,$-\ii\omega\,\delta\rho(\qq,\omega)+\ii\qq\cdot\bm j(\qq,\omega)=0$ を導け.
(2) したがって $\delta\rho=\qq\cdot\bm j/\omega$ である.これを使い,密度応答関数 $\chi_{\rho\rho}$ と縦伝導度 $\sigma_L$ が同じ情報を持つことを説明せよ.
(3) $\epsilon_L=1+\dfrac{4\pi\ii}{\omega}\sigma_L$ に Drude形 $\sigma_L=\dfrac{ne^2/m}{\gamma-\ii\omega}$ を入れ,9.6.2節の $\epsilon=1-\dfrac{\omega_p^2}{\omega(\omega+\ii\gamma)}$ が再現されることを確かめよ.
ヒント:(3) 分母の $\gamma-\ii\omega$ に $\ii$ を掛けて $\ii\gamma+\omega$ にすると全体が $-\dfrac{4\pi ne^2/m}{\omega(\omega+\ii\gamma)}=-\dfrac{\omega_p^2}{\omega(\omega+\ii\gamma)}$ になる.$\omega_p^2=4\pi ne^2/m$ を使う.電磁気学で習った「伝導度」と本章の「誘電関数」が同じものの別の顔であることが分かる.
参考文献
- A. L. Fetter, J. D. Walecka『多粒子系の量子論 理論編』マグロウヒル,14節「電子気体の遮蔽効果」.本章の骨格はこの節の前半に対応する.
- D. Bohm, D. Pines, "A Collective Description of Electron Interactions III", Phys. Rev. 92, 609 (1953). —— RPAという名前の出所.
- M. Gell-Mann, K. A. Brueckner, "Correlation Energy of an Electron Gas at High Density", Phys. Rev. 106, 364 (1957). —— 高密度極限でRPAが正当化されることを示した論文.
- D. Pines, P. Nozières, The Theory of Quantum Liquids, Benjamin (1966), Chapter 3–4.
- G. D. Mahan, Many-Particle Physics, 3rd ed., Kluwer Academic/Plenum (2000), Section 5.5. 記号の流儀の違いに注意して読むこと.
- N. W. Ashcroft, N. D. Mermin, Solid State Physics, Saunders (1976), Chapter 17. —— Thomas–Fermi遮蔽とLindhard遮蔽の平易な比較.
- R. W. Wood, "Remarkable Optical Properties of the Alkali Metals", Phys. Rev. 44, 353 (1933).