第1章論理と集合
「数学は正しいか正しくないかがはっきりする文で組み立てられている」——この当たり前に思える性質こそが,証明という営みを可能にしている.中学までの数学では,公式を覚えて数値を計算することが中心だった.しかし高校数学からは,「なぜその公式が成り立つのか」を,すでに正しいとわかっている事柄から論理的に導く,つまり証明することが増えていく.そして大学の数学($\varepsilon$-$\delta$論法や線形代数の定理の証明など)では,ほぼすべての文章が証明でできている.この章はその土台,すなわち「正しい・正しくない」を扱う言葉づかいのルールを整える章である.
まず学ぶのは命題(proposition)——正しいか正しくないかが明確に決まる文や式——という概念である.次に,命題どうしを「ならば」($\Rightarrow$)で結んだときに現れる必要条件・十分条件という考え方,そして命題から作られる逆・裏・対偶という3つの派生命題を学ぶ.対偶は,「直接証明するのが難しい命題を,論理的に同値な別の命題にすり替えて証明する」という高校数学で最初に出会う証明技法であり,大学以降のあらゆる証明で繰り返し使われる考え方である.最後に,これらの論理の言葉を集合(set)の言葉に翻訳する.「$p$は$q$であるための十分条件である」ということと,「$p$を満たすものの集まりが$q$を満たすものの集まりに含まれる」ということは,実は同じ内容を2通りの言葉で言っているにすぎない.この対応関係に気づくと,論理と集合はひとつながりの道具になる.
- 命題の定義と,真である・偽であるの意味
- 必要条件・十分条件の定義と,包含関係の図(ベン図)による直感的な理解
- 必要十分条件(同値)の定義
- 逆・裏・対偶の作り方,もとの命題との真偽の関係,そして対偶を用いた証明法
- 集合の基本用語(要素 $\in$,部分集合 $\subset$,共通部分 $\cap$,和集合 $\cup$,空集合 $\emptyset$)と,実数全体 $\R$ など集合を表す記号
- 条件が定める真理集合という考え方と,それによって必要条件・十分条件を「包含関係」として言い換えられること
- 全称記号 $\forall$(すべての,for all)・存在記号 $\exists$(存在する,there exists)の読み方と意味
もとにしたノート:望月泰英『数学ノート 高校数学』 pp. 1–2.
注:1.5節(集合の基礎)以降は,ノートのpp. 1–2には無い内容だが,論理と集合のつながりを示すために追加した.
1.1 命題
次の3つの文を比べてみよう.
- 「$2+3=5$」
- 「$x$は大きい数である」
- 「すべての自然数$n$について,$n^2+n$は偶数である」
1.は正しい(誰が見ても $2+3=5$ である).3.も(あとで確かめるように)正しい.ところが2.は,「大きい」がどれくらい大きいことを指すのか決まっていないので,正しいとも正しくないとも言えない.1.と3.のように正しいか正しくないかがはっきり決まる文や式だけが,数学で扱う対象になる.
定義1.1 命題
文や式で表された事柄で,正しいか正しくないかが明確に決まるものを命題(proposition)という.
命題が正しいとき,その命題は「真(true)である」といい,命題が正しくないとき,「偽(false)である」という.先の例でいえば,1.と3.は真である命題,2.は(曖昧なので)そもそも命題ではない.
イメージ:命題はいつも「$\forall$(すべての)」を隠し持っている
3.の文には「すべての自然数$n$について」と書かれている.これは全称記号 $\forall$(フォーオール,for all,「すべての」の意味)を日本語で書き下したものである.今後,$\forall n$は「すべての$n$について」と読む.同様に,「ある条件を満たす$n$が少なくとも1つ存在する」という主張には存在記号 $\exists$(イグジスツ,there exists,「存在する」の意味)を使う.これらの記号は1.5節でもう一度取り上げるが,「実数$x$に関する命題」のように主語が省略された言い方をするときは,たいてい「$\forall x\in\R$」(すべての実数$x$について)が省略されていると考えればよい.
命題3.「すべての自然数$n$について,$n^2+n$は偶数である」が真であることを確かめておこう.$n^2+n=n(n+1)$ と因数分解できる.$n$と$n+1$は連続する2つの整数だから,一方が偶数でもう一方が奇数である.偶数と奇数の積は必ず偶数になるから,$n(n+1)$,すなわち$n^2+n$はつねに偶数である.このように,1つの例で確かめるだけでは足りず,すべての場合に成り立つことを論証するのが証明である.
例題1.1 命題の判定
次の(a)〜(d)のうち,命題であるものをすべて選び,命題であればその真偽を判定せよ.
(a) $2+3=5$.
(b) 明日は晴れるだろう.
(c) すべての自然数$n$について,$n^2+n$は偶数である.
(d) $5$は$3$の倍数である.
解答 (a) $2+3=5$ は計算すれば正しいと確定するので命題であり,真である.
(b) 「晴れるだろう」は現時点では正しいか正しくないか決まっておらず(未来の天候は不確定であり,しかも「だろう」という推量の表現自体が真偽を確定させない),命題ではない.
(c) 本文で示したとおり,$n(n+1)$は連続する2整数の積なので必ず偶数になる.よって命題であり,真である.
(d) $5\div 3$ は割り切れない($5=3\times1+2$)ので,$5$は$3$の倍数ではない.よって命題であり,偽である.
1.2 必要条件と十分条件
2つの命題を「ならば」でつないだ「$p\Rightarrow q$」($p$ならば$q$,$p$ implies $q$)の形も1つの命題である.例えば,実数$x$に関する命題
$$ x=3 \;\Rightarrow\; x^2=9 $$は真である($x=3$ を代入すれば確かに $x^2=3^2=9$ になる).このとき,$x=3$ であることは,$x^2=9$ が成り立つための十分な条件になっている——$x=3$ さえわかれば,それだけで $x^2=9$ が保証されるからである.逆から見ると,$x^2=9$ が成り立つことは,$x=3$ であるための必要な条件になっている——なぜなら,もし $x^2=9$ が成り立っていなかったら,$x=3$ であるはずがないからである(ただし$x^2=9$ が成り立ったからといって $x=3$ とは限らない.$x=-3$ でも $x^2=9$ は成り立つ).
定義1.2 必要条件・十分条件
命題「$p\Rightarrow q$」が真であるとき,
- $p$ は,$q$ であるための十分条件(sufficient condition)である,
- $q$ は,$p$ であるための必要条件(necessary condition)である,
という.
この関係は,$p$を満たすものの集まりが$q$を満たすものの集まりにすっぽり含まれるという図で理解すると忘れにくい(この「集まり」を集合として厳密に扱う話は1.5節で行う).
イメージ:なぜ「含まれる方」が十分条件になるのか
円$A$が円$B$の内部に含まれているとする.点が円$A$の中にあれば,それだけで自動的に円$B$の中にもある.つまり「$A$の中にある」という情報だけで「$B$の中にある」ことが保証される——これが「$A$は$B$であるための十分条件」の意味である.逆に,「$B$の中にある」という情報だけでは,その点が$A$の中にあるかどうかは決まらない($B$の中には$A$の外側の部分もある).しかし,$A$の中にあるためには少なくとも$B$の中にはなければならない($A\subset B$ なのだから).これが「$B$は$A$であるための必要条件」の意味である.
この対応関係を,先ほどの放物線 $y=x^2$ のグラフで視覚化しておこう.
例題1.2 必要条件・十分条件の判定
実数$x$に関する命題「$x\gt 2 \Rightarrow x\gt 0$」を考える.(a) この命題が真であることを確かめよ.(b) $x\gt 2$ は $x\gt 0$ であるための何条件か.(c) 逆の命題 $x\gt 0 \Rightarrow x\gt 2$ は真か偽か,理由とともに答えよ.
解答 (a) $x\gt 2$ を満たす実数はすべて $2$ より大きいので,当然 $0$ より大きい.よって命題は真である.
(b) (a)より $x\gt 2 \Rightarrow x\gt 0$ が真だから,定義1.2により,$x\gt 2$ は $x\gt 0$ であるための十分条件である.
(c) 偽である.反例は $x=1$:このとき $x\gt 0$ は満たすが $x\gt 2$ は満たさない.したがって $x\gt 0$ は $x\gt 2$ であるための十分条件ではなく,(b)の逆向きの意味で必要条件でもない($x\gt 2$ であるための必要条件は,あくまで $x\gt 0$ の方である,という(b)の関係はこれで崩れない).
1.3 必要十分条件(同値)
前節では,$p\Rightarrow q$ が真であっても,逆の $q\Rightarrow p$ は真とは限らないことを見た($x\gt2\Rightarrow x\gt0$ は真だが,逆は偽だった).では,$p\Rightarrow q$ と $q\Rightarrow p$ の両方が真である場合はどうなるだろうか.
定義1.3 必要十分条件・同値
2つの命題 $p\Rightarrow q$ と $q\Rightarrow p$ がともに真であるとき,すなわち
$$ p \Leftrightarrow q $$が成り立つとき,$p$ は $q$ であるための必要十分条件であるといい,$p$ と $q$ は互いに同値(equivalent)であるという.
$p\Rightarrow q$ が真かつ $q\Rightarrow p$ も真ということは,$p$を満たすものの集まりと$q$を満たすものの集まりが,完全に一致しているということである.片方だけが相手を含む(前節の図のように,小さい円がもう一方の大きい円の中にある)のではなく,2つの円がぴったり重なる状態だと考えればよい.
例えば,「正三角形である」ことと「三辺の長さがすべて等しい」ことは同値である.一方が成り立てばもう一方も必ず成り立ち,しかもその逆も成り立つ.このように,定義や性質を「言い換える」ときには,たいてい必要十分条件の関係が使われている.
例題1.3 必要十分条件の確認
実数$x$について,命題 $p$:「$x^2-5x+6=0$」と,命題 $q$:「$x=2$ または $x=3$」は同値であることを確かめよ.
解答 $x^2-5x+6$ を因数分解すると
$$ x^2-5x+6=(x-2)(x-3) $$である($-2$ と $-3$ の和が $-5$,積が $6$ になる2数を探すと $-2,-3$ が見つかるので,$x^2-5x+6=(x+(-2))(x+(-3))=(x-2)(x-3)$ と書ける).積が $0$ になるのは,どちらか一方の因数が $0$ になるときに限るから,
$$ x^2-5x+6=0 \iff (x-2)(x-3)=0 \iff x-2=0 \text{ または } x-3=0 \iff x=2 \text{ または } x=3 $$となり,$p\Rightarrow q$ も $q\Rightarrow p$ も真である.よって $p$ と $q$ は同値である.
1.4 逆・裏・対偶
命題 $p\Rightarrow q$ が1つ与えられると,そこから機械的に3つの新しい命題を作ることができる.文字 $p$ の上に線を引いた $\bar p$ は「$p$でない」($p$の否定)を表す記号である.
定義1.4 逆・裏・対偶
命題 $p\Rightarrow q$ に対して,
- 逆(converse):$q\Rightarrow p$(仮定と結論を入れ替える)
- 裏(inverse):$\bar p\Rightarrow \bar q$(仮定と結論をそれぞれ否定する)
- 対偶(contrapositive):$\bar q\Rightarrow \bar p$(逆にしてから,さらに否定する)
という.
実数$x$に関する命題「$x=1 \Rightarrow x^2=1$」(真)を例に,逆・裏・対偶がそれぞれどうなるか,そして真偽がどうなるかを確かめよう.
$$ \begin{align} \text{逆:}\quad & x^2=1 \Rightarrow x=1 && (\text{偽.反例 } x=-1) \nonumber\\ \text{裏:}\quad & x\neq 1 \Rightarrow x^2\neq 1 && (\text{偽.反例 } x=-1) \nonumber\\ \text{対偶:}\quad & x^2\neq 1 \Rightarrow x\neq 1 && (\text{真}) \label{eq:1-converse-example} \end{align} $$逆と裏がどちらも偽になった反例が,同じ $x=-1$ であることに注目してほしい.$x=-1$ のとき $x^2=(-1)^2=1$ なので $x^2=1$ は真だが,肝心の $x=1$ 自体は偽である.だから逆「$x^2=1\Rightarrow x=1$」は,仮定($x^2=1$)が真なのに結論($x=1$)が偽という状況になり,偽と判定される.裏「$x\neq1\Rightarrow x^2\neq1$」も同じ $x=-1$ で,仮定($x\neq1$,$-1\neq1$は真)は満たすのに結論($x^2\neq1$)が満たされない($x^2=1$ なので $x^2\neq1$ は偽)ので,やはり偽である.一方,対偶「$x^2\neq1\Rightarrow x\neq1$」については,$x^2\neq1$ を満たす実数(たとえば $x=0,2,-5,\dots$)はどれも $1$ ではないから,つねに $x\neq1$ が成り立ち,真である.
Point:対偶を使った証明
ある命題 $p\Rightarrow q$ を証明するには,その対偶 $\bar q\Rightarrow\bar p$ を証明してもよい.
Point:逆の真偽に注意
真である命題の逆は,必ずしも真ではない.
この4つの命題(もとの命題・逆・裏・対偶)の関係を図にまとめると,次のようになる.対角線で結ばれた2つの命題どうし(もとの命題と対偶,逆と裏)は,つねに真偽が一致する.
なぜ対偶はもとの命題と真偽が一致するのか
命題 $p\Rightarrow q$ が偽になるのは,ただ1つの場合,すなわち「$p$が真であるにもかかわらず$q$が偽である」場合に限る($p$が偽の場合は,$p\Rightarrow q$は「前提が成り立たないので主張していることが何もない」として真とみなす約束になっている).
この状況で対偶 $\bar q\Rightarrow \bar p$ を調べると,$q$が偽だから$\bar q$($q$でない)は真であり,$p$が真だから$\bar p$($p$でない)は偽である.つまり対偶も「仮定($\bar q$)が真であるにもかかわらず結論($\bar p$)が偽である」という,まったく同じ壊れ方をしており,やはり偽になる.
逆に $p\Rightarrow q$ が真である場合を考える.これは,$p$が偽である場合と,$q$が真である場合の少なくとも一方が成り立つ場合である.それぞれの場合について対偶 $\bar q\Rightarrow\bar p$ を確かめよう.$p$が偽の場合,対偶の結論 $\bar p$($p$でない)は真だから,$\bar q\Rightarrow\bar p$ は結論が真であり,仮定 $\bar q$ の真偽によらず真である.$q$が真の場合,対偶の仮定 $\bar q$($q$でない)は偽だから,$\bar q\Rightarrow\bar p$ は「仮定が成り立たない」ので(先ほどの約束により)真である.いずれの場合も対偶 $\bar q\Rightarrow\bar p$ は真になる.したがって $p\Rightarrow q$ と $\bar q\Rightarrow\bar p$ は,$p,q$ の真偽の組み合わせによらずつねに真偽が一致する.これが「対偶を証明してもよい」(Point参照)という言い換えの正当性である.
(証明終わり)
例題1.4 逆・裏・対偶とその真偽(ノートの例の確認)
実数$x$に関する命題「$x=1\Rightarrow x^2=1$」の逆・裏・対偶をそれぞれ書き,真偽を判定せよ.
解答 本文の式\eqref{eq:1-converse-example}のとおりである:逆「$x^2=1\Rightarrow x=1$」は偽(反例 $x=-1$),裏「$x\neq1\Rightarrow x^2\neq1$」は偽(反例 $x=-1$),対偶「$x^2\neq1\Rightarrow x\neq1$」は真.もとの命題「$x=1\Rightarrow x^2=1$」自身も真であり,図1.5のとおり,もとの命題と対偶(ともに真),逆と裏(ともに偽)がそれぞれ対角線で結ばれて真偽が一致していることが確認できる.
例題1.5 対偶を使った証明
$n$を整数とする.命題「$n^2$が偶数ならば,$n$は偶数である」を,対偶を利用して証明せよ.
解答 もとの命題の対偶は「$n$が偶数でないならば,$n^2$は偶数でない」,すなわち「$n$が奇数ならば,$n^2$は奇数である」である.Point(本文参照)により,この対偶を証明すれば,もとの命題を証明したことになる.
$n$が奇数であるとする.奇数とは「ある整数$k$を使って $n=2k+1$ と書ける数」のことだから,
$$ n^2=(2k+1)^2=4k^2+4k+1=2(2k^2+2k)+1 $$と展開できる($(2k+1)^2$ を $(a+b)^2=a^2+2ab+b^2$ の形で展開し,$4k^2+4k$ が $2$ で割り切れることを使って $2\times(\text{整数})+1$ の形にくくり出した).$2k^2+2k$ は整数だから,$n^2$ は「$2\times(\text{整数})+1$」の形,すなわち奇数である.よって「$n$が奇数ならば$n^2$は奇数である」(対偶)が示され,もとの命題「$n^2$が偶数ならば$n$は偶数である」も真である.
(証明終わり)
1.5 集合の基礎——条件と真理集合
ここまで,必要条件・十分条件を「円の包含関係」の図で説明してきた.この節では,その円の中身,つまり「ものの集まり」を数学の対象として正式に扱う集合(set)の言葉を導入し,論理と集合が実は同じことを2通りの方法で言っていることを確かめる.集合の言葉は,このあと大学数学(関数の定義域・値域,$\varepsilon$-$\delta$論法,確率の事象など)のいたるところで使われる,最も基本的な共通言語である.
定義1.5 集合・要素
ものの集まりであって,あるものがその集まりに属するかどうかが明確に決まるものを集合(set)という.集合に属する1つ1つのものを,その集合の要素(element)という.$a$ が集合$A$の要素であることを
$$ a \in A $$と書き,「$a$は$A$に属する($a$ is an element of $A$)」と読む(記号 $\in$ 自体は「イン,in」と読む).$a$が$A$の要素でないことは $a\notin A$ と書く.要素を1つも持たない集合を空集合(empty set)といい,$\emptyset$ と書く.
集合は,$\{1,2,3\}$ のように要素を書き並べる方法(外延的記法)と,$\{x\mid p(x)\}$(「$x$のうち,条件$p(x)$を満たすもの全体」の意味)のように満たすべき条件を書く方法(内包的記法)の2通りで表せる.例えば $\{1,2,3\}=\{x\mid x\text{は5以下の自然数であり,4でも5でもない}\}$ のように,同じ集合を両方の書き方で表せる.
数を扱うときによく使う集合には,決まった記号がある.自然数全体の集合を$\N$,整数全体の集合を$\Z$,有理数全体の集合を$\Q$,実数全体の集合を$\R$と書く(それぞれ英語の natural number,German の Zahlen(数),quotient,real number の頭文字に由来する).これらの記号は,このあとの章や大学数学の教材で繰り返し使われる.
定義1.6 部分集合
集合$A$のすべての要素が集合$B$の要素でもあるとき,すなわち
$$ \forall a\ (a\in A \Rightarrow a\in B) $$が成り立つとき,$A$は$B$の部分集合(subset)であるといい,$A\subset B$ と書く(記号 $\subset$ は「サブセット,subset of」と読む).
イメージ:円の包含とA⊂Bはまったく同じこと
図1.1・図1.2で描いた「小さい円$A$が大きい円$B$の中にすっぽり含まれる」という絵は,まさに $A\subset B$ の絵である.$A$の要素(円$A$の中の点)は,すべて$B$の要素でもある(円$B$の中にも入っている)——これが定義1.6の内容そのものである.
定義1.7 共通部分・和集合
2つの集合$A,B$に対して,
$$ A\cap B=\{x\mid x\in A \text{ かつ } x\in B\} $$を$A$と$B$の共通部分(intersection,記号 $\cap$ は「キャップ」と読む)といい,
$$ A\cup B=\{x\mid x\in A \text{ または } x\in B\} $$を$A$と$B$の和集合(union,記号 $\cup$ は「カップ」と読む)という.
例えば $A=\{1,2,3\}$,$B=\{2,3,4\}$ とすると,$A$と$B$の両方に属する要素は$2$と$3$だから $A\cap B=\{2,3\}$ である.また,$A$または$B$の少なくとも一方に属する要素をすべて集めると $A\cup B=\{1,2,3,4\}$ である.
ここで,1.2節の必要条件・十分条件の話に戻ろう.実数$x$についての条件 $p(x)$(例えば「$x=3$」)に対して,$p(x)$を真にする$x$全体の集合を,条件$p$の真理集合(truth set)と呼ぶことにする.
定理1.1 必要条件・十分条件と真理集合の関係
条件$p,q$の真理集合をそれぞれ$P,Q$とする.このとき,
$$ (\forall x,\ p(x)\Rightarrow q(x)) \iff P\subset Q $$が成り立つ.すなわち,「$p$は$q$であるための十分条件である」ことと,「$p$の真理集合$P$が$q$の真理集合$Q$の部分集合である」ことは,同じ内容を述べている.
確認
$p(x)\Rightarrow q(x)$ がすべての$x$で真であるとする.$a\in P$ とすると,$a$は$p$を満たす($p(a)$が真).このとき $p(a)\Rightarrow q(a)$ も真だから,$q(a)$も真,すなわち $a\in Q$ である.よってすべての$a\in P$について$a\in Q$,つまり$P\subset Q$.逆に$P\subset Q$が成り立つとき,$p(a)$が真な任意の$a$は$a\in P\subset Q$より$q(a)$も真であり,$p(a)\Rightarrow q(a)$がすべての$a$で真になる.
(確認終わり)
例1.2で確かめた「$x\gt2$ は $x\gt0$ であるための十分条件」という結論は,定理1.1により「$\{x\mid x\gt2\}\subset\{x\mid x\gt0\}$」という集合の包含関係と完全に同じ主張である.図1.1・図1.2の円の絵は,実はこの部分集合の関係を絵にしたものだったのである.
最後に,全称記号 $\forall$ と存在記号 $\exists$ を集合の言葉できちんと定義しておく.「すべての$x\in A$について,条件$p(x)$が成り立つ」ことを $\forall x\in A,\ p(x)$ と書き,「$p(x)$を満たす$x\in A$が少なくとも1つ存在する」ことを $\exists x\in A,\ p(x)$ と書く.1.1節で見た命題「すべての自然数$n$について,$n^2+n$は偶数である」は,$\forall n\in\N,\ n^2+n\text{は偶数}$ と書ける.
注意:∀の否定は∃,∃の否定は∀
「$\forall x\in A,\ p(x)$」が偽であることは,「$p(x)$を満たさない$x\in A$が少なくとも1つある」こと,すなわち $\exists x\in A,\ \overline{p(x)}$ が真であることと同じである.逆に「$\exists x\in A,\ p(x)$」が偽であることは,「すべての$x\in A$が$p(x)$を満たさない」こと,すなわち $\forall x\in A,\ \overline{p(x)}$ が真であることと同じである.全称と存在は,否定を取ると互いに入れ替わる.
例題1.6 真理集合と包含関係
条件 $p(x)$:「$x=3$」,条件 $q(x)$:「$x^2=9$」($x$は実数)について,それぞれの真理集合$P,Q$を求め,$P\subset Q$ が成り立つことを確かめよ.
解答 $P=\{x\mid x=3\}=\{3\}$.$Q=\{x\mid x^2=9\}$ を求めるには $x^2-9=0$,すなわち $(x-3)(x+3)=0$ を解けばよく,$x=3$ または $x=-3$ である.よって $Q=\{-3,3\}$.$P=\{3\}$ の唯一の要素$3$は$Q=\{-3,3\}$にも含まれているから,$P\subset Q$ である(図1.6).定理1.1により,これは「$x=3$は$x^2=9$であるための十分条件である」(例1.2の考え方を1.2節で確認した内容)と同じ主張である.
例題1.7 全称命題・存在命題の真偽
次の命題の真偽を判定せよ.(a) $\forall x\in\R,\ x^2\ge 0$.(b) $\exists x\in\R,\ x^2=-1$.
解答 (a) 実数の2乗は,正の数の2乗も負の数の2乗も0の2乗も,すべて$0$以上になる(負の数どうしの積は正になるため,符号によらず$x^2\ge0$).反例($x^2\lt0$となる実数$x$)は存在しないから,この命題は真である.
(b) 実数を2乗して負になることはない((a)で確認したとおり,つねに$x^2\ge0$)から,$x^2=-1$ を満たす実数$x$は存在しない.よってこの命題は偽である(ただし,複素数の範囲まで広げれば $x=i$($i^2=-1$)が存在する——虚数単位$i$については,のちの章で学ぶ).
1.6 まとめと演習
1.6.1 まとめ
- 命題とは,正しいか正しくないかが明確に決まる文や式である.正しいとき真,正しくないとき偽という.
- $p\Rightarrow q$ が真であるとき,$p$は$q$であるための十分条件,$q$は$p$であるための必要条件である.
- $p\Rightarrow q$ と $q\Rightarrow p$ がともに真であるとき,$p,q$は同値(必要十分条件)であるという.
- 命題 $p\Rightarrow q$ に対して,逆$q\Rightarrow p$,裏$\bar p\Rightarrow\bar q$,対偶$\bar q\Rightarrow\bar p$ が作れる.もとの命題と対偶,逆と裏は,それぞれ真偽が一致する.この性質を使い,直接証明しにくい命題を対偶に置き換えて証明できる.
- 集合は要素の集まりであり,$a\in A$(属する),$A\subset B$(部分集合)などの記号で関係を表す.条件$p$が真になる$x$全体を$p$の真理集合という.
- $p\Rightarrow q$ が(すべての$x$で)真であることと,$p$の真理集合$P$が$q$の真理集合$Q$の部分集合であること($P\subset Q$)は同じ主張である.必要条件・十分条件は,集合の包含関係として言い換えられる.
- $\forall$(すべての,for all)と$\exists$(存在する,there exists)は,否定を取ると互いに入れ替わる.
1.6.2 演習問題
演習1.1 命題の判定
次の(a)〜(c)のうち,命題であるものを選び,命題であればその真偽を判定せよ.(a) $\sqrt2$ は無理数である.(b) この問題は難しい.(c) すべての自然数$n$について,$n^2+n$ は偶数である.
ヒント:「無理数である」は「分数で表せない」という明確な性質である.(c)は1.1節本文の議論がそのまま使える.
演習1.2 必要条件・十分条件(倍数)
整数$x$について,「$x$は4の倍数である」ことは「$x$は2の倍数である」ための何条件か.また,その逆(「$x$は2の倍数である」ことは「$x$は4の倍数である」ための何条件か)についても答えよ.
ヒント:4の倍数は $4=2\times2$ の倍数だから,2の倍数でもある.逆に2の倍数がすべて4の倍数とは限らない(反例を1つ探す).
演習1.3 必要十分条件(2次方程式)
実数$x$について,「$x^2-3x-4=0$」であることと,「$x=4$ または $x=-1$」であることが同値であることを示せ.
ヒント:例題1.3と同じ手順で,左辺を因数分解する.
演習1.4 逆・裏・対偶
実数$x$に関する命題「$x\gt2 \Rightarrow x^2\gt4$」の逆・裏・対偶をそれぞれ書き,真偽を判定せよ(偽である場合は反例を1つ挙げよ).
ヒント:もとの命題自体は真である.逆・裏の反例には,2乗すると4より大きくなる負の数を考えるとよい.
演習1.5 対偶による証明
$n$を整数とする.命題「$n^2$が3の倍数ならば,$n$は3の倍数である」を,対偶を利用して証明せよ.
ヒント:対偶は「$n$が3の倍数でないならば,$n^2$も3の倍数でない」.$n$を3で割った余りで場合分け(余り1,余り2)し,例題1.5にならって$n^2$を展開する.
演習1.6 真理集合と条件の関係
条件$p$:「$x\in\{1,2,3,4,5\}$」,条件$q$:「$x$は5以下の素数である」について,それぞれの真理集合$P,Q$を求めよ.また,$p$は$q$であるための何条件か,定理1.1を使って答えよ.
ヒント:5以下の素数を書き出し,$P,Q$の包含関係($P\subset Q$か$Q\subset P$か)を先に確認する.
1.6.3 参考文献
- 望月泰英『数学ノート 高校数学』(手書き講義ノート).本章の底本.
- P. R. Halmos, Naive Set Theory, Undergraduate Texts in Mathematics, Springer-Verlag, 1974.