熱電変換の理論 ― Seebeck 係数・性能指数・最適キャリア濃度を導く

このページは thermoelectric-simulator.html の対になる解説です. シミュレーターで見た「キャリアを増やすと |S| は下がり σ と κe は上がる」「ZT の山が 1019–1021 cm−3(多くの材料では 1019–1020 cm−3)に出る」 「山の高さは品質因子 B だけで決まる」「効率は平均 ZT で決まる」が,どこから出てくるのかを,途中式を省略せずに導きます. 使う道具は,Fermi–Dirac 分布,状態密度,部分積分と Taylor 展開が中心です.ほかに Boltzmann 方程式と緩和時間近似(§3),ガンマ関数(§5),かんたんな微分方程式(§10)が出てきます(Fermi–Dirac 積分の値や ZT の最大化は数値計算に任せます). 教科書 5-3 節「熱電変換」(p. 96–98)と「無機材料学」第 12 回の発展にあたり,学部 2・3 年生を想定しています. 温度差からなぜ電圧が出るのかのやさしい説明は §1.1 に,シミュレーターの各タブの画面の読み方・操作の意味・計算の近似は 付録 A にまとめてあります.

このページの背骨 熱電変換の理論は,次の 3 段で組み立てられています. 第 1 段 現象論(Onsager):Seebeck・Peltier・Thomson の 3 係数は独立ではなく,Π = ST と μTh = TdS/dT で結ばれる. 第 2 段 微視的理論(Boltzmann 方程式):S は「輸送に参加するキャリアが運ぶ E − EF の平均」,Lorenz 数はその「分散」. 第 3 段 最適化:単一放物線バンドでは ZT がただ 1 つの材料パラメーター B で決まり,素子の効率は平均 ZT で決まる. このうち「ZT の最大値は B だけで決まる」(§7)が,本ページの核心です.

1. はじめに ― 熱電変換と性能指数

物質の両端に温度差をつけると電圧が出ます(Seebeck 効果).逆に,異なる 2 つの物質の接合に電流を流すと,接合で熱が吸収または放出されます(Peltier 効果). 前者を使えば熱から直接電気をとり出せ(熱電発電),後者を使えば可動部のない冷凍機(ペルチェ冷却)がつくれます. 半導体を使った熱電冷却は Goldsmid と Douglas が 1954 年に示し,その後の材料開発の流れは Snyder と Toberer の総説にまとまっています. どちらの性能も同じ物質定数の組で決まり,それを 1 つにまとめたのが無次元の性能指数です.

(1) ZT=S2σTκ =S2σTκe+κL

S は Seebeck 係数,σ は電気伝導率,κ は熱伝導率で,キャリアが運ぶ κe と格子振動(フォノン)が運ぶ κL の和です. 分子の S2σ をパワーファクタといいます. 式 (1) だけを見ると「S と σ を大きく,κ を小さく」すればよさそうですが,3 つの量は独立ではありません. キャリアを増やすと σ は上がりますが,|S| は下がり,κe は上がります. この綱引きを定量的に解くことが本ページの目的です.

記号の約束 e > 0:素電荷(電子の電荷は −e).EF:Fermi 準位(有限温度では電子の化学ポテンシャル).Ec:伝導帯の底. x = (E − Ec)/kBT:還元エネルギー.η = (EF − Ec)/kBT:還元 Fermi 準位. f0:Fermi–Dirac 分布.τ:緩和時間.m*:状態密度有効質量(式のなかでは質量そのもの.表やシミュレーターでは電子の質量 me を単位として 1.2 のように表す). μ:移動度,μ0:非縮退極限の移動度.z:試料の長さ方向の座標.V:電圧計で測る電位.
本文は主に n 型(電子)で書きます.p 型(正孔)では S と Π の符号が反転し,ほかの式は変わりません. §10 と §13 の問題 5 に限り,η は還元 Fermi 準位ではなく変換効率を表します(シミュレーターの表記に合わせる). なお,Onsager 係数 L11, L12(§2)と Lorenz 数 L, L0(§3 以降)は別物です.また,§10 の脚の長さ ℓ は,§6 の還元した Lorenz 数 l とは別の記号です.

1.1 熱起電力はどこから来るのか ― 熱い荷電粒子の拡散

式 (1) の S の中身に入る前に,温度差からなぜ電圧が出るのかを,まず式をほとんど使わずにつかんでおきます. n 型半導体の棒の一端を温め,もう一端を冷やしたとします. 非縮退の電子の気体では,電子 1 個の平均の運動エネルギーは (3/2)kBT なので,高温側の電子は低温側の電子より激しく動き回ります. 激しく動く粒子ほど遠くまで広がるので,電子は全体として高温側から低温側へ拡散しようとします. その結果,低温側には電子が溜まって負に帯電し,高温側には電子を放したドナーイオンの正電荷が残ります. この電荷の偏りがつくる電場は,低温側へ向かう電子を高温側へ押し戻す向きにはたらき,拡散の勢いと釣り合ったところで電荷の偏りはそれ以上増えなくなります. こうして両端に電位差が生じます.これが Seebeck 電圧の起源です(電圧計が読む大きさには,Fermi 準位の温度変化の分も加わります.下の囲みと続く説明). p 型では拡散するのが正の電荷をもつ正孔なので,低温側が正に,高温側がアクセプターイオンの負電荷で負になり,電圧の向きが逆になります. 電圧の符号を測れば,キャリアの型が分かるのはこのためです. この様子は,シミュレーター ① のアニメーションで見られます(付録 A.2).

符号の約束を確かめておきます.本ページでは §2 の式 (2) のとおり,温度差を ΔT = Th − Tc > 0 として 低温側の電位 Vc − 高温側の電位 Vh = SΔT と約束します. 授業のスライドの S = −ΔV/ΔT は,電位差 ΔV を温度差と同じ向きに「高温側 − 低温側」で測る(ΔV = Vh − Vc)と読めば, −ΔV/ΔT = (Vc − Vh)/ΔT となり,本ページの約束と同じものです. n 型では低温側が負(Vc < Vh)なので S < 0,p 型では低温側が正なので S > 0 です.

「運動エネルギーの差による拡散」の描像は,どこまで正しいか この描像は,熱起電力の起源と符号をつかむためのものです.|S| の大きさまで正しく出すには,§3〜§5 の Boltzmann 方程式が要ります. §5 の結果(式 (25))を,緩和時間を τ ∝ (E − Ec)r と書く流儀(r = λ − 1/2)で書き直すと,非縮退の半導体では |S| = (kB/e)(r + 5/2 − η) です(§5 の Pisarenko の関係). 以下では,この 5/2 − η が,「拡散と電場の釣り合い」と「Fermi 準位の温度変化」の 2 つの部分に分かれることを確かめます.

緩和時間がエネルギーによらない(r = 0)非縮退の電子を考えます. 開いた回路(電流 0)では,試料の内部はほぼ電気的に中性のままで(電場をつくるのに必要な電荷の偏りは,キャリアの数に比べてごくわずか), 電子の濃度 n はドナーの濃度に等しく,場所によらずほぼ一定です.

(a) 静電部分:静電ポテンシャルの差(拡散と電場の釣り合い). 電子の気体の圧力 nkBT は温度とともに場所で変わり,単位体積あたり −d(nkBT)/dz = −nkBdT/dz の力で電子を低温側へ押します. 電子 1 個あたりでは −kBdT/dz で,dT/dz < 0(高温側から低温側へ z をとる)なら z の正の向き,つまり低温側を向きます. τ が一定のときは,式 (9) の両辺に運動量 pz をかけてすべての状態について足すと,右辺は平均の速度(つまり電流)に比例する摩擦力 −nm*⟨vz⟩/τ になり, 左辺は圧力の勾配 d(nkBT)/dz と neℰ の和になります(neℰ は,電子にはたらく単位体積あたりの静電気力 −neℰ に負号を付けたもの.つまり圧力の勾配による力 −d(nkBT)/dz と静電気力 −neℰ の和が摩擦力と釣り合う)(非縮退の放物線バンドでは m*⟨vz2⟩ = kBT). 電流 0 では摩擦力が消えるので,電子 1 個にはたらく力が釣り合います.電子の電荷を q = −e と書くと

qℰ+(−kBdTdz)=0 ⟹ ℰ=−kBedTdz

です(第 2 項が熱による押す力で,電気力 qℰ = kBdT/dz がそれを打ち消す). 静電ポテンシャル φ(ℰ = −dφ/dz)で書くと dφ/dz = (kB/e)dT/dz なので,高温端から低温端まで積分して φc − φh = (kB/e)(Tc − Th) = −(kB/e)ΔT. 低温側の静電ポテンシャルが (kB/e)ΔT だけ低くなります.シミュレーターのタブ①のアニメーションが粒子の動きとして見せているのは,この (a) の部分です.

(b) 化学ポテンシャル部分:化学ポテンシャルの差(Fermi 準位の温度変化). ところが,電圧計が測るのは静電ポテンシャルそのものではなく,電子の電気化学ポテンシャル(Fermi 準位)の差です(§2.1 の ℰ* の説明). その場所の伝導帯の底から測った Fermi 準位の高さ EF − Ec = ηkBT は,式 (26) の n = Nceη から

EF−Ec=kBTln⁡nNc ,Nc∝T3/2 ⟹ d(EF−Ec)dT =kBln⁡nNc−kBT·32T =kB(η−32)

となり,n が一定でも温度で変わります(d ln Nc/dT = 3/(2T) を使った). 温度差が小さい(両端で η がほぼ同じ)とすると,低温端と高温端の差は (EF − Ec)c − (EF − Ec)h = kB(η − 3/2)(Tc − Th) = (3/2 − η)kBΔT です. 電圧計の電位は V = φ − (EF − Ec)/e です(電子の電気化学ポテンシャル −eV を,静電エネルギー −eφ と化学ポテンシャルの部分 EF − Ec に分けたもの.微分すると §2.1 の ℰ* = ℰ + (1/e)dEF/dz になる).したがって

Vc−Vh =(φc−φh) −1e[(EF−Ec)c−(EF−Ec)h] =−kBeΔT −(32−η)kBeΔT =−(52−η)kBeΔT

で,S = −(kB/e)(5/2 − η) が得られます.これは式 (25) で τ 一定(λ = 1/2,r = 0)とおいたものと一致します. 非縮退では η < 0 なので 2 つの部分は同じ向きに足し合わさり,しかも(b) のほうが (a) より大きいことに注意してください. 例えば η = −2 では,(a) が 1,(b) が 3.5(どちらも (kB/e)ΔT 単位)で,|S| = 4.5 × 86.17 μV/K = 388 μV/K です. 「熱い粒子が押し出される」という目に見える部分は,電圧計の読みの一部にすぎません. なお,τ がエネルギーによる場合(r ≠ 0)は,式 (14) で J = 0 とおいた ℰ* から同じように ℰ を分けると,(a) の部分が (1 + r)(kB/e)ΔT に変わり(r > 0 なら速い電子ほど散乱されにくく遠くまで進むので,低温側へ押す勢いが強まる), (b) の部分は変わらないので,合計が r + 5/2 − η になります.

金属で |S| が小さいわけ. 金属では電子が縮退していて,輸送に参加するのは EF のまわり kBT 程度の範囲の電子だけです(§3.1 の式 (11)). 高温側では,EF より上の状態を占める電子が増える一方で,EF より下には空いた状態が増えます. EF より上のエネルギーの電子は高温側から低温側へ流れようとしますが,EF より下のエネルギーの電子は高温側のほうが少ないので,逆に低温側から高温側へ流れようとします. このためEF より上と下の寄与がほとんど打ち消し合い,残るのは σ(E) の EF の前後でのわずかな非対称だけで,|S| は数 μV/K にとどまります. これを定量的に表したのが §4 の Mott の式 (20) です.

2. 現象論 ― 3 つの係数と Kelvin の関係

2.1 3 つの効果の定義

長さ方向に温度が T(z) と分布した試料を考えます.電流を流さないとき(開放端),両端に現れる電位差で Seebeck 係数を定義します. 符号はシミュレーターと同じく低温側の電位 − 高温側の電位 = SΔT となるように取ります.局所的に書くと

(2) ℰ*≡−dVdz =SdTdz(J=0)

です.ℰ* は電圧計が測る電位 V の勾配に負号をつけたものです.試料の中では Fermi 準位も場所によって変わるので, ℰ* は静電場 ℰ に EF の勾配を加えた電気化学的な電場 ℰ* = ℰ + (1/e)dEF/dz になります(ここで EF は,その場所の伝導帯の底 Ec(z) から測った高さのことです.Ec(z) 自身が静電ポテンシャルで上下するぶんが,第 1 項の ℰ にあたります.§3 でエネルギー E を測る基準も,その場所の Ec(z) です). n 型では,高温側の電子が低温側へ拡散して低温側が負に帯電するので S < 0 です. 温度が一様なときに,電流密度 J とそれが運ぶ熱流密度 JQ の比が Peltier 係数です.

(3) JQ=ΠJ(dTdz=0)

2 つの物質 A, B の接合に電流を流すと,両側で Π が違うので,運び込まれる熱と運び出される熱の差 (ΠA − ΠB)J が接合で吸収または放出されます.これが Peltier 熱です. 3 つめの Thomson 効果は §2.4 で扱います.

2.2 線形応答と Onsager の相反定理

温度勾配も電場も小さいとき,流れ J, JQ は「力」の 1 次式で書けます. エントロピー生成率が「流れ × 力」の和 Jℰ*/T + JQd(1/T)/dz になるように力を選ぶと

(4) J=L11ℰ*T+L12ddz(1T) JQ=L21ℰ*T+L22ddz(1T)

と書けます.Lij は物質で決まる係数です.Onsager は,微視的な運動方程式が時間反転に対して対称であることから,このように力を選べば非対角の係数が等しいことを示しました(相反定理).

(5) L12=L21

2.3 係数を読み取り,Kelvin の関係を導く

d(1/T)/dz = −(1/T2)dT/dz に注意して,式 (4) から 4 つの係数を読み取ります.

Peltier 係数の式に相反定理 (5) を入れると

(6) Π=L21L11 =L12L11 =T·L12TL11 =ST
Kelvin の第 2 関係 Π = ST Seebeck 係数と Peltier 係数は別々の物質定数ではなく,温度をかけるだけで移り合います. 「温度差が電圧を生む」と「電流が熱を運ぶ」は,同じ 1 つの結合を逆向きに見たものです. W. Thomson(のちの Kelvin 卿)は熱力学的な考察からこの関係を得ており,Onsager の相反定理はそれに一般的な根拠を与えました.

式 (4) を実用的な形に直しておきます.第 1 式を ℰ* について解いて σ, S で書くと ℰ* = J/σ + SdT/dz. これを第 2 式に代入し,σT = L11 と S = L12/(TL11) を使うと

(7) JQ=L21L11J +(L21L12L11T2−L22T2)dTdz =ΠJ−κdTdz

熱流は「電流が運ぶ Peltier 熱」と「温度勾配による熱伝導」の和です.§10 の素子の計算はこの式から出発します.

2.4 Thomson 効果と Kelvin の第 1 関係

定常状態で,一様な電流 J が温度勾配のある試料を流れているとします.エネルギーの流れは熱流 JQ と,電位 V の電荷が運ぶ VJ の和で, これが場所によらず一定です:d(JQ + VJ)/dz = 0. ここに dV/dz = −ℰ* = −J/σ − SdT/dz と,式 (7) に Π = ST を入れた JQ = STJ − κdT/dz を代入し, d(ST)/dz = SdT/dz + T(dS/dT)dT/dz を使うと

(8) J[SdTdz+TdSdTdTdz] −ddz(κdTdz)−J2σ−SJdTdz=0 ⟹ddz(κdTdz)+J2σ −μThJdTdz=0 ,μTh=TdSdT

が得られます(2 行目は 1 行目の SJdT/dz が打ち消し合ったあと,全体に −1 をかけたもの). 第 1 項は熱伝導で流れ込む熱,第 2 項は Joule 熱(電流の向きによらず正),第 3 項が電流の向きで符号が変わる可逆な Thomson 熱です. その係数 μTh = TdS/dT を Kelvin の第 1 関係といいます(Π = ST を使えば μTh = dΠ/dT − S とも書けます). 導いた順とは逆ですが,こちらを第 1 関係,§2.3 の Π = ST を第 2 関係と呼ぶことが多いので,本ページもそれに従います. S が温度によらなければ Thomson 熱は消えます.§10 の定物性モデルはこの近似を使います.

3. 輸送係数を σ(E) で書く

§2 の係数 Lij を,キャリアの運動から計算します.道具は Boltzmann 方程式と緩和時間近似です.

3.1 分布のずれ

電子の分布関数 f は,電場や温度勾配によって平衡分布 f0 から少しずれ,散乱によって f0 へ戻ろうとします. 定常状態では両者が釣り合い,戻る速さを 1/τ で表すと(緩和時間近似)

(9) vz∂f∂z −eℰ∂f∂pz =−f−f0τ

です(−eℰ は電子にはたらく力,pz は運動量).左辺の f を f0 で置き換える(ずれの 1 次まで取る)と, δf = f − f0 = −τ[vz∂f0/∂z − eℰ∂f0/∂pz]. f0 = 1/(ey + 1),y = (E − EF)/kBT は EF(z) と T(z) を通して場所によるので, df0/dy = kBT∂f0/∂E と連鎖律を使って

(10) ∂f0∂z =df0dy∂y∂z =∂f0∂EkBT [−1kBTdEFdz −E−EFkBT2dTdz] =∂f0∂E [−dEFdz−E−EFTdTdz] ∂f0∂pz =∂f0∂E∂E∂pz =∂f0∂Evz

これらを δf に代入し,eℰ + dEF/dz = eℰ* でまとめると

(11) δf=−τvz(−∂f0∂E) [eℰ*+E−EFTdTdz]

δf は −∂f0/∂E に比例するので,分布がずれて輸送に参加するのは,−∂f0/∂E が値をもつエネルギーの状態だけです.

3.2 電流と熱流

単位体積・単位エネルギーあたりの状態数(状態密度,スピンを含む)を g(E) とします. 電流密度は各状態の電荷 −e と速度 vz の積を δf で重みづけて足したもの,熱流密度は電荷の代わりに熱 E − EF を運ぶとしたものです. 等方的な系では速度の向きについて平均すると vz2 → v2/3 になるので,式 (11) を入れて

(12) J=−e∫gvzδfdE =e∫gv2τ3(−∂f0∂E) [eℰ*+E−EFTdTdz]dE JQ=∫(E−EF)gvzδfdE =−∫(E−EF)gv2τ3(−∂f0∂E) [eℰ*+E−EFTdTdz]dE

ここでエネルギーごとの伝導度 σ(E) と,その重みつき積分 𝒦k を定義します.

(13) σ(E)=e2g(E)v(E)2τ(E)3 , 𝒦k=∫σ(E)(E−EF)k(−∂f0∂E)dE (k=0,1,2)

g v2τ/3 = σ(E)/e2 を使うと,式 (12) は次のように簡潔になります.

(14) J=𝒦0ℰ*+𝒦1eTdTdz JQ=−𝒦1eℰ*−𝒦2e2TdTdz

3.3 係数を読み取る

§2.3 と同じ手順です.J = 0 とおくと ℰ* = −[𝒦1/(eT𝒦0)]dT/dz. これを式 (2) と比べれば S が,第 2 式に入れれば JQ = −[(𝒦2 − 𝒦12/𝒦0)/(e2T)]dT/dz から κe が出ます. dT/dz = 0 とおけば J = 𝒦0ℰ*,JQ = −(𝒦1/e𝒦0)J から σ と Π が出ます.

(15) σ=𝒦0, S=−𝒦1eT𝒦0, Π=−𝒦1e𝒦0=ST, κe=1e2T (𝒦2−𝒦12𝒦0)

Π = ST が自動的に成り立っています.実際,式 (14) を式 (4) の形に書き直すと L11 = T𝒦0,L12 = L21 = −T𝒦1/e で,微視的な計算は相反定理を満たしています.

3.4 平均と分散として読む

σ(E)(−∂f0/∂E) を「どのエネルギーのキャリアがどれだけ電流を運ぶか」を表す重みとみなし,その重みでの平均を ⟨A⟩ = ∫A σ(E)(−∂f0/∂E)dE/𝒦0 と書きます. 𝒦1/𝒦0 = ⟨E − EF⟩,𝒦2/𝒦0 = ⟨(E − EF)2⟩ なので,式 (15) は

(16) S=−⟨E−EF⟩eT , L≡κeσT =⟨(E−EF)2⟩−⟨E−EF⟩2(eT)2
S は平均,Lorenz 数は分散 重み σ(E)(−∂f0/∂E) を輸送の窓と呼ぶことにします. S は,窓の中のキャリアが 1 個あたり運ぶ熱 E − EF の平均を eT で割ったものです. 熱 ÷ 温度はエントロピーなので,S は「電荷 1 単位が運ぶエントロピー」とも言えます. そして Lorenz 数 L は,窓の中での E − EF のばらつき(分散)です. 窓が EF の片側だけにあれば平均は大きく(|S| 大),両側にまたがれば正負が打ち消し合って平均は小さくなります(|S| 小).

図 1 輸送の窓(音響フォノン散乱,σ(E) ∝ E − Ec).左:非縮退(η = −2),右:縮退(η = 4). 横軸は伝導帯の底から測ったエネルギー x(kBT 単位).灰色の破線は状態密度 g,橙は g(−∂f0/∂E), 青の塗りは輸送の窓 σ(E)(−∂f0/∂E),赤はそれに (x − η)/6 をかけたもの(1/6 は縦軸に収めるための係数で,赤の正味の面積を青の面積で割って 6 倍すると下の窓の平均になる).橙と青はそれぞれの最大値が 1 に,灰色の g は右端で 1 になるようにとってあるので,色の違う曲線どうしで高さは比べられません. 窓の平均 ⟨x − η⟩ = |S|/(kB/e) は,左で 4.06(|S| = 350 μV/K),右で 0.79(68 μV/K).

※ 誤解 1 「キャリアが多いほど |S| が大きい」わけではありません 式 (16) の S はキャリアの数ではなく,窓が EF に対してどれだけ片寄っているかで決まります. 金属はキャリアが非常に多いのに |S| が小さく(§4),キャリアの少ない半導体は |S| が大きい(§5). 電流を運ぶ量 𝒦0 と,熱を運ぶ偏り 𝒦1 が別の積分であることが,熱電材料を考える出発点です.

4. 金属の極限 ― Mott の式

金属では EF が伝導帯の奥深く(EF − Ec ≫ kBT)にあり,σ(E) は EF の近くで滑らかに変わります. そこで窓の幅 kBT が小さいとして展開します.

4.1 Sommerfeld 展開

−∂f0/∂E は E − EF について偶関数で,全積分は ∫(−∂f0/∂E)dE = f0(−∞) − f0(∞) = 1 です. 滑らかな関数 H(E) を EF のまわりで Taylor 展開して積分すると,1 次の項は奇関数なので消え

(17) ∫H(E)(−∂f0∂E)dE =H(EF) +12H″(EF) ∫(E−EF)2(−∂f0∂E)dE+⋯ =H(EF)+π26(kBT)2H″(EF)+⋯

となります.2 行目では 2 次のモーメントの値を使いました.y = (E − EF)/kBT,f(y) = 1/(ey + 1) とおくと (−∂f0/∂E)dE = (−df/dy)dy で,偶関数であることと部分積分を使うと

(18) ∫(E−EF)2(−∂f0∂E)dE =(kBT)2·2∫0∞y2(−dfdy)dy =(kBT)2·2{[−y2f]0∞+2∫0∞yfdy} =4(kBT)2∫0∞yey+1dy =4(kBT)2·π212 =π23(kBT)2

です.最後の積分は,1/(ey + 1) = Σk≥1(−1)k+1e−ky と展開して ∫0∞ye−kydy = 1/k2 を使うと Σ(−1)k+1/k2 = (1 − 2/22)Σ1/k2 = (1/2)(π2/6) = π2/12 になります (偶数番目の項をいったん足してから 2 回引く).

4.2 Mott の式

式 (17) を 𝒦0, 𝒦1 に使います.𝒦0 は H = σ(E) で,最低次は 𝒦0 ≈ σ(EF). 𝒦1 は H = σ(E)(E − EF) で,H(EF) = 0,H′ = σ′(E − EF) + σ なので

(19) H″=σ″(E−EF)+2σ′ ⟹ 𝒦1≈π26(kBT)2·2σ′(EF) =π23(kBT)2σ′(EF)

これを式 (15) の S = −𝒦1/(eT𝒦0) に入れると,Mott の式が得られます(σ(E) で書いたこの形は Cutler と Mott による).

(20) S=−π23kB2Te σ′(EF)σ(EF) =−π23kBekBT [dln⁡σ(E)dE]E=EF
Mott の式から読み取ること (i) S ∝ T.金属の Seebeck 係数は温度に比例します.
(ii) S は σ(E) の対数微分で決まる.σ(E) が EF の前後で非対称なほど |S| は大きくなります. 普通の金属では d ln σ/dE ~ 1/EF なので |S| ~ (kB/e)(kBT/EF) です. 300 K の kBT = 25.85 meV は EF = 5 eV の 0.52 % しかなく,|S| は kB/e = 86.17 μV/K よりずっと小さい数 μV/K になります(問題 8 で −2.2 μV/K).
(iii) σ(E) を急峻にすれば |S| が上がる.状態密度に鋭い構造(共鳴準位)をつくって |S| を上げる手法(Heremans ら)は,この考え方にもとづいています.

4.3 金属の Lorenz 数

𝒦2 は H = σ(E)(E − EF)2 で,H″ = σ″(E − EF)2 + 4σ′(E − EF) + 2σ なので H″(EF) = 2σ(EF), したがって 𝒦2 ≈ (π2/3)(kBT)2σ(EF). 一方 𝒦12/𝒦0 は (kBT)4 の次数なので無視でき,式 (15) から κe ≈ 𝒦2/(e2T) = (π2/3)(kB/e)2σT.すなわち

(21) L0=κeσT=π23(kBe)2 =2.443×10−8W Ω K−2

で,物質によらない普遍的な値になります.これが金属の Wiedemann–Franz 則です(§8).

5. 非縮退半導体の極限 ― Pisarenko の関係

5.1 σ(E) のエネルギー依存性

伝導帯の底付近を,有効質量 m* の放物線バンド E − Ec = p2/2m* で近似します.状態密度と速度の 2 乗は

(22) g(E)=12π2 (2m*ℏ2)3/2 (E−Ec)1/2 ,v2=2(E−Ec)m*

です.緩和時間のエネルギー依存性を,散乱機構を表す指数 λ を使って τ ∝ (E − Ec)λ−1/2 と書くと,式 (13) より

(23) σ(E)∝gv2τ ∝(E−Ec)1/2 ·(E−Ec)· (E−Ec)λ−1/2 =(E−Ec)1+λ

音響フォノン散乱では τ ∝ E−1/2 なので λ = 0(σ(E) ∝ E − Ec),イオン化不純物散乱では τ ∝ E3/2 なので λ = 2 です. シミュレーターは λ = 0 を使っています.τ ∝ Er と書く流儀では r = λ − 1/2 です.

5.2 非縮退の Seebeck 係数

EF が伝導帯の底より数 kBT 以上下にある(η ≪ −1)とき,Fermi–Dirac 分布は Boltzmann 分布 f0 ≈ eη−x で近似でき, −∂f0/∂E = eη−x/kBT です. E − EF = kBT(x − η),dE = kBTdx を使うと,σ(E) の比例係数や kBT は分子と分母で約分され,窓の平均は

(24) ⟨E−EF⟩kBT =∫0∞x1+λ(x−η)eη−xdx ∫0∞x1+λeη−xdx =Γ(3+λ)Γ(2+λ)−η =2+λ−η

(Γ(s) = ∫0∞xs−1e−xdx はガンマ関数で,Γ(s + 1) = sΓ(s).eη も約分される.)式 (16) に入れて

(25) S=−kBe(2+λ−η) (n 型.p 型では符号が正)

2 + λ は「伝導帯の底から測った,窓の重みでのキャリアの平均エネルギー」,−η は「伝導帯の底が EF からどれだけ上にあるか」で,どちらも kBT を単位とした値です. キャリアはすべて EF より上にいるので,窓は EF の片側だけにあり,|S| は大きくなります(図 1 左).

5.3 キャリア濃度と Pisarenko の関係

非縮退のキャリア濃度は,式 (22) の g(E) を使い,(E − Ec)1/2dE = (kBT)3/2x1/2dx として

(26) n=∫gf0dE ≈12π2(2m*kBTℏ2)3/2 eη∫0∞x1/2e−xdx =12π2(2m*kBTℏ2)3/2π2eη =Nceη, Nc≡12π2(2m*kBTℏ2)3/2π2 =12π2·(2π)3(2m*kBT)3/2h3·π2 =2π3/2(2m*kBT)3/2h3 =2(2πm*kBTh2)3/2

です.1 行目では Γ(3/2) = ∫0∞x1/2e−xdx = √π/2 を使いました. 3 行目では ħ = h/2π,すなわち 1/ħ3 = (2π)3/h3 を入れ,数の係数を (1/2π2)·(2π)3·(√π/2) = 8π3√π/4π2 = 2π3/2 とまとめ, 最後に π3/2(2m*kBT)3/2 = (2πm*kBT)3/2 としました.この Nc を有効状態密度といいます. Nc(300 K, m* = 1) = 2.51×1019 cm−3 です.η = ln(n/Nc) を式 (25) に入れ,ln(Nc/n) = ln Nc − (ln 10)log10n と書くと

(27) |S|=kBe[2+λ+ln⁡Ncn] ⟹ d|S|d(log10⁡n) =−kBeln⁡10=−198μV/K
Pisarenko の関係 非縮退の半導体では,キャリア濃度が 1 桁増えるごとに |S| が (kB/e) ln 10 = 198 μV/K ずつ下がります(2 倍なら (kB/e) ln 2 = 59.7 μV/K). 例えば m* = 1,300 K,λ = 0 では,式 (27) から n = 1018 cm−3 で |S| = 450 μV/K,1019 cm−3 で 252 μV/K です(§6 の Fermi–Dirac 積分による厳密な値は 451 μV/K と 256 μV/K). 同じ n でも Nc ∝ m*3/2 が大きい(バンドが重い)ほど |S| は大きいので, 測った S と n の組から有効質量を見積もることができます(Pisarenko プロット).
※ 誤解 2 Pisarenko の直線は,縮退すると成り立ちません 式 (25) は Boltzmann 近似の結果です.§6 の厳密な式と比べると,非縮退の式は |S| を η = −2 で 1.6 %,η = −1 で 5.1 %,η = 0 で 15.7 %,η = 1 で 42.9 % 小さく見積もります. ところが §7 で見るように,ZT が最大になる η はちょうどこの範囲にあります(表 2).最適化の議論には Fermi–Dirac 積分が欠かせません.

6. 単一放物線バンドモデル

§4 と §5 は両極端の近似でした.その中間(η ~ 0)を正確に扱うのが単一放物線バンド(SPB)モデルです. 放物線バンドと τ ∝ (E − Ec)λ−1/2 の仮定はそのままに,Fermi–Dirac 分布を近似せずに積分します.

6.1 Fermi–Dirac 積分

(28) Fj(η)=∫0∞xj1+ex−ηdx ,F0(η)=ln⁡(1+eη)

F0 だけは初等関数で書けます(d[−ln(1 + eη−x)]/dx = 1/(1 + ex−η) を 0 から ∞ まで積分する).ほかは数値積分が必要です. 極限は,η ≪ −1 で Fj → Γ(j + 1)eη,η ≫ 1 で Fj → ηj+1/(j + 1) です (本ページとシミュレーターでは 1/Γ(j + 1) をつけない定義を使う). 輸送の積分に現れる形は,部分積分で Fj に直せます(r > 0).

(29) ∫0∞xr(−∂f0∂x)dx =[−xrf0]0∞ +r∫0∞xr−1f0dx =rFr−1(η)

6.2 𝒦k を Fj で書く

σ(E) = σE0x1+λ(σE0 は定数),E − EF = kBT(x − η),(−∂f0/∂E)dE = (−∂f0/∂x)dx を式 (13) の 𝒦k に入れ, (x − η)k を展開してから式 (29) を項ごとに使うと

(30) 𝒦0=σE0∫x1+λ(−∂f0∂x)dx =σE0(1+λ)Fλ 𝒦1=σE0kBT∫(x2+λ−ηx1+λ)(−∂f0∂x)dx =σE0kBT[(2+λ)F1+λ−η(1+λ)Fλ] 𝒦2=σE0(kBT)2∫(x3+λ−2ηx2+λ+η2x1+λ)(−∂f0∂x)dx =σE0(kBT)2[(3+λ)F2+λ−2η(2+λ)F1+λ+η2(1+λ)Fλ]

6.3 Seebeck 係数と Lorenz 数

略記 A2 = (2 + λ)F1+λ/[(1 + λ)Fλ],A3 = (3 + λ)F2+λ/[(1 + λ)Fλ] を使うと, 式 (30) から 𝒦1/𝒦0 = kBT(A2 − η),𝒦2/𝒦0 = (kBT)2(A3 − 2ηA2 + η2) です. 式 (15)(16) に入れると

(31) |S|=1eT𝒦1𝒦0=kBe(A2−η) L=1(eT)2[𝒦2𝒦0−(𝒦1𝒦0)2] =(kBe)2[(A3−2ηA2+η2)−(A22−2ηA2+η2)] =(kBe)2(A3−A22)

L では η を含む項が打ち消し合います(分散は原点のずらし方によらないので当然です). シミュレーターの音響フォノン散乱(λ = 0)では A2 = 2F1/F0,A3 = 3F2/F0 なので, 還元量 s = |S|/(kB/e) と l = L/(kB/e)2 は

(32) s=2F1F0−η , l=3F2F0−(2F1F0)2 =3F0F2−4F12F02

6.4 キャリア濃度・移動度・電気伝導率

キャリア濃度は,式 (26) の 1 行目で Boltzmann 近似をせず,Fermi–Dirac 分布のまま積分すれば

(33) n=∫gf0dE=12π2(2m*kBTℏ2)3/2F1/2(η) =Nc2πF1/2(η)

です(係数は,式 (26) で (1/2π2)(2m*kBT/ħ2)3/2·(√π/2) = Nc だったことから). λ = 0 の電気伝導率は σ = 𝒦0 = σE0F0(η),移動度は μ = σ/ne です. η ≪ −1 では F0 → eη,F1/2 → (√π/2)eη なので,μ は η によらない値 μ0 = σE0/(eNc) に近づきます. σE0 = eNcμ0 を戻すと

(34) μ=σne=μ0π2F0(η)F1/2(η) , σ=Nceμ0F0(η)
表 1 SPB モデル(λ = 0)の両極限と,シミュレーターと同じコードで計算した値
量η ≪ −1 の極限η = −10η ≫ 1 の極限η = 50
s = |S|/(kB/e)2 − η(= 12)12.00002π2/(3η)(= 0.065797)0.065797
l = L/(kB/e)222.00001π2/3 − s2(= 3.28554)3.28554
μ/μ010.99999(3√π/4)η−1/2(= 0.18800)0.18790

縮退側の l は,F1 ≈ η2/2 + π2/6,F2 ≈ η3/3 + (π2/3)η から A2 ≈ η + π2/(3η),A3 ≈ η2 + π2 とすると, 式 (31) で π2/3 − s2 になります.μ の縮退極限は F0 → η,F1/2 → (2/3)η3/2 から出ます.

6.5 パワーファクタの最大

式 (32)(34) から,パワーファクタは

(35) S2σ=(kBe)2Nceμ0·s(η)2F0(η)

と書け,材料パラメーターは前の係数にまとまり,η 依存性は s2F0 だけです.これを数値的に最大化すると η = 0.668,|S| = 167 μV/K,n/Nc = 1.26 で,材料によりません.

※ 誤解 3 パワーファクタの最適点は ZT の最適点ではありません シミュレーターの②で,パワーファクタの山が ZT の山より高濃度側にあったのは,ZT の分母の κe がキャリアとともに増えるからです. パワーファクタだけで材料を評価すると,最適なキャリア濃度を高く取りすぎます. 次節で見るように ZT の最適点は ηopt = 0.30(B = 0.05)から −1.55(B = 2)で,B が大きい(κL が小さい)材料ほど,パワーファクタの最適点 η = 0.668 から離れて低濃度側へ動きます(表 2).

7. ZT は B だけで決まる【核心】

7.1 証明

式 (1) の分母に κe = LσT(式 (16) の Lorenz 数の定義)を入れ,S = s(kB/e),L = l(kB/e)2 と書いてから, 分子と分母を (kB/e)2σT で割ります.

(36) ZT=S2σTLσT+κL =(kBe)2s2σT(kBe)2lσT+κL =s2l+κL(kBe)2σT

残った κL/[(kB/e)2σT] に,式 (34) の σ = Nceμ0F0 を入れると

(37) κL(kBe)2σT =κL(kBe)2Nceμ0TF0(η) =1BF0(η) , B≡(kBe)2Nceμ0TκL

となります.したがって

(38) ZT(η)=s(η)2l(η)+1BF0(η)

で,Nc = 2(2πm*kBT/h2)3/2(式 (26))を代入すると,シミュレーターの③に表示される品質因子になります.

(39) B=(kBe)22e(2πm*kBT)3/2h3 μ0TκL

(式 (39) は SI 単位で計算します.表 3 の m* は me = 9.109×10−31 kg の倍数なので me をかけて kg に,μ0 は cm2/Vs なので 10−4 をかけて m2/Vs に直してから入れます.)

核心:ZT の山の高さと,η で測った位置は,B だけで決まる 式 (38) の右辺で,散乱機構を決めてしまえば(本ページとシミュレーターは音響フォノン散乱 λ = 0),材料によるのは B だけです.s(η), l(η), F0(η) は η だけの普遍関数です.したがって
(i) ZT の最大値は B だけの関数です.m*, μ0, κL, T をどう組み合わせても,B が同じなら山の高さは同じです(ただし散乱機構が変わると普遍関数そのものが変わります.イオン化不純物散乱 λ = 2 なら,同じ B = 0.442 でも ZT の最大値は 2.75 になります).
(ii) 最適な還元 Fermi 準位 ηopt も B だけの関数です.
(iii) 最適キャリア濃度 nopt = Nc(2/√π)F1/2(ηopt) は,B を決めたうえで Nc ∝ (m*T)3/2 に比例して動きます.
シミュレーター③の「m* を変え,B を一定に保つ」で 4 本の山の高さがそろい,位置だけが m*3/2 に比例して動くのは,このためです. この考え方の原型は Chasmar と Stratton の材料因子で,材料探索の指針として今も使われています.

7.2 B と ZT の最大値

式 (38) を η について数値的に最大化した結果が,表 2 と図 2 です.

表 2 品質因子 B と ZT の山の頂上(λ = 0,式 (38) を η について連続的に最大化)
BZT の最大値ηopt頂上の |S|(μV/K)nopt/Nc頂上の L/(kB/e)2
0.050.1830.301870.9672.212
0.10.3400.082000.8152.182
0.20.604−0.212180.6452.147
0.30.827−0.412310.5472.127
0.51.200−0.692500.4312.101
11.900−1.102800.2992.072
22.865−1.553140.1992.048

図 2 品質因子 B と,ZT の最大値(緑,左軸)・最適な還元 Fermi 準位 ηopt(青の破線,右軸). シミュレーターと同じ Fermi–Dirac 積分のコードで,式 (38) を η について最大化した.黒い点は 3 つのプリセット(B は式 (39) で計算).

7.3 なぜ最適キャリア濃度は 1019–1020 cm−3 なのか

見出しの 1019–1020 cm−3 は,m* と T が室温付近の典型値のときの目安です(m* が大きく高温で使う材料では,下の箇条書きの後半や表 3 の酸化物のように,これより高くなります). 表 2 のとおり,B を 0.05 から 2 まで変えても nopt/Nc は 0.967 から 0.199 の範囲にあり,最適点はいつも n が Nc の 0.2–1 倍, すなわち EF が伝導帯の底から 2kBT 以内にあるところです. Nc(300 K, m* = 1) = 2.51×1019 cm−3 なので,例えば B = 0.5(nopt/Nc = 0.431)では

となります.「絶縁体でも金属でもない,重くドープした半導体」が最適になるのは,EF を伝導帯の底付近に置いたときに, 窓の片寄り(|S|),窓の中のキャリアの数(σ),窓の幅(κe)の兼ね合いがもっともよくなるからです.

表 3 シミュレーターのプリセット(桁の目安を与える教材用の値)と,②に表示される山の頂上
プリセットT(K)m*μ0(cm2/Vs)κL(W/mK)BZT の最大値nopt(cm−3)頂上の |S|(μV/K)
室温用(Bi2Te3 系の桁)3001.23000.80.4421.0981.58×1019242
中温用(PbTe 系の桁)7000.9901.00.5721.3173.22×1019252
酸化物(移動度が低い)9004.022.50.0890.3088.92×1020196

3 つのプリセットの ZT の最大値は,B の値から図 2 の曲線を読んだ値そのものです. 酸化物は μ0 が小さく κL が大きいので B が小さく,m* が大きく Nc が大きいので,nopt は 1021 cm−3 近くまで上がります.

7.4 B を大きくするには

式 (39) から,B を大きくする方向は次の 4 つです.

SPB の外にある手法 共鳴準位(Heremans ら)や量子井戸・細線(Hicks と Dresselhaus)は,状態密度の形そのもの(式 (22) の (E − Ec)1/2)を変えて σ(E) を急峻にする手法で, 単一放物線バンドの B だけでは評価できません.式 (16) の「窓の平均と分散」に戻って考える必要があります.

8. Wiedemann–Franz 則と Lorenz 数

キャリアが運ぶ熱伝導率は,式 (16) の Lorenz 数を使って

(40) κe=LσT

と書けます.L は η によって変わり,両極限は

(41) L→(2+λ)(kBe)2(η≪−1) , L→π23(kBe)2(η≫1)

です.非縮退の値は,式 (31) で Fj → Γ(j + 1)eη とおくと A2 → (2 + λ)Γ(2 + λ)/[(1 + λ)Γ(1 + λ)] = 2 + λ,A3 → (3 + λ)(2 + λ) となり, A3 − A22 = (2 + λ)(3 + λ) − (2 + λ)2 = 2 + λ から出ます.縮退の値は式 (21) です. λ = 0 では,非縮退で 2(kB/e)2 = 1.485×10−8 W Ω K−2,縮退で (π2/3)(kB/e)2 = 2.443×10−8 W Ω K−2 で,比は π2/6 = 1.645 です.

なぜ非縮退のほうが L が小さいのか(音響フォノン散乱の場合) §3.4 のとおり L は窓の中での E − EF の分散です. 縮退していると窓は −∂f0/∂E そのもので,その分散は式 (18) の (π2/3)(kBT)2. 非縮退では窓は x1+λe−x の形(ガンマ分布)で,その分散は (2 + λ)(kBT)2 です. 音響フォノン散乱(λ = 0)ではこれが 2(kBT)2 で,縮退の (π2/3)(kBT)2 ≈ 3.29(kBT)2 より小さくなります. ただし 2 + λ > π2/3,すなわち λ > π2/3 − 2 = 1.29 では大小が逆になり,例えばイオン化不純物散乱(λ = 2)では非縮退の L = 4(kB/e)2 が L0 = 3.29(kB/e)2 を上回ります. 「電気を運ぶキャリアが,どれだけ幅広いエネルギーの熱を運ぶか」が L です.

実験では S は測れても η は直接わからないので,Kim らは SPB(音響フォノン散乱)の L を |S| だけで近似する式を提案しました.

(42) L≈[1.5+exp⁡(−|S|116)] ×10−8W Ω K−2 (|S| は μV/K 単位)

シミュレーターと同じ SPB(λ = 0)の L と比べると,η を −10 から 50 まで変えたとき,差は −3.6 %(|S| = 36 μV/K 付近)から +3.7 %(|S| = 217 μV/K 付近)の範囲に収まります.

※ 誤解 4 半導体の κL を,金属の L0 で見積もってはいけません 格子熱伝導率は測定した κ から κL = κ − LσT として求めます. ここで L に金属の値 L0 を使うと,非縮退に近い半導体では κe を最大 π2/6 = 1.645 倍(λ = 0 のとき)に見積もり,そのぶん κL を小さく見積もってしまいます. 散乱機構が違うと誤差の向きも変わり,λ = 2(イオン化不純物散乱)の非縮退半導体では逆に κe を 0.82 倍と小さく見積もります. 室温用プリセットの ZT の頂上では L = 1.568×10−8 W Ω K−2 で,L0 の 0.64 倍しかありません.
※ 誤解 5 高温で ZT がどこまでも上がるわけではありません(バイポーラ効果) バンドギャップの小さい材料を高温で使うと,価電子帯から伝導帯へ電子と正孔の対が熱励起されます. 電子と正孔は S の符号が逆なので打ち消し合って |S| が下がり,さらに高温側で対が生まれ低温側で再結合することでバンドギャップぶんのエネルギーが運ばれ,κ に余分な寄与が加わります. 1 種類のキャリアだけを扱う SPB モデル(シミュレーター)はこの効果を含まないので,高温では ZT を過大評価します.

9. 格子熱伝導率を下げる

式 (39) のとおり B ∝ μ0/κL です.移動度を下げずに κL だけを下げられれば,ZT の山は高くなります. そのための考え方を,フォノンの運動論から導きます.

9.1 気体分子運動論による κL

フォノンを「熱を運ぶ粒子の気体」とみなし,単位体積あたりの熱容量を C,音速を v,平均自由行程を Λ とします. 面 z = z0 を,法線と角 θ をなす向きに横切るフォノンは,最後に散乱された位置 z0 − Λ cos θ の温度に見合ったエネルギーを運んできます. そこでのエネルギー密度は z0 より CΛ cos θ dT/dz だけ低い(一様な部分は向きの平均で消える)ので,速度の z 成分 v cos θ をかけて向きについて平均すると

(43) JQ=⟨vcos⁡θ·(−CΛcos⁡θdTdz)⟩ =−CvΛ⟨cos2⁡θ⟩dTdz =−13CvΛdTdz ⟹κL=13CvΛ

(球面上で平均すると ⟨cos2 θ⟩ = 1/3.)C と v は物質でほぼ決まるので,設計で動かせるのは平均自由行程 Λ です.

9.2 Matthiessen 則と粒界散乱

複数の散乱が独立に起きるとき,散乱の頻度 v/Λ が足し合わさるので

(44) 1Λ=1ΛU+1Λpd+1Λb+⋯

です(U:フォノンどうしの Umklapp 散乱,pd:固溶体の質量のゆらぎなどの点欠陥,b:粒界).粒径 d の多結晶では Λb ≈ d です. シミュレーターの④は,粒界以外をまとめて 1 つの値 Λph で表し(灰色近似),1/Λ = 1/Λph + 1/d とします. 電子の移動度も μ ∝ τ ∝ Λ なので,電子の平均自由行程 Λe で同じ形になり

(45) Λ=11/Λph+1/d =Λph1+Λph/d ⟹ κL(d)=κL,bulk1+Λph/d , μ0(d)=μ0,bulk1+Λe/d

となります.シミュレーターは,これに固溶体化による κL の倍率と,κL の下限 κmin を加えています(§11 の式 (62)). 熱電材料が使う 1019–1020 cm−3 のキャリア濃度では,フォノンの平均自由行程は電子より長いことが多いので,Λe ≪ d ≲ Λph の粒径を選べば,熱だけを選んで止められます.

表 4 粒径と ZT の最大値(シミュレーター④の既定値:室温用プリセット,Λph = 50 nm,Λe = 5 nm,κmin = 0.2 W/mK,固溶体化なし)
粒径 dκL(W/mK)μ0(cm2/Vs)BZT の最大値
1 mm0.800300.00.4421.098
10 μm0.797299.90.4431.101
1 μm0.771298.50.4561.123
100 nm0.600285.70.5611.299
50 nm0.500272.70.6421.425
20 nm0.371240.00.7611.594
10 nm0.300200.00.7851.627
5 nm0.255150.00.6941.501

粒径が Λph 程度まで小さくなると κL が下がって B が上がります. さらに小さくすると κL は下限 κmin に近づいてもう下がらず,μ0 だけが Λe に近づいて落ちていくので,B は下がり始めます. このモデルでは約 12 nm で ZT の最大値が 1.63 と最も高くなります(シミュレーター④は粒径を 91 点で走査して最大の点を示すので,読み出しは「11 nm(ZT 1.63)」です).

9.3 PGEC と最小熱伝導率

Slack は,理想の熱電材料を「フォノンにとってはガラス,電子にとっては結晶(Phonon Glass, Electron Crystal)」と表現しました. かご状の結晶構造の中に入れたゲスト原子(Ba,Yb など)ががたつく(ラットリング)充填スクッテルダイトや,同じ仕組みのクラスレートは,その代表例です(かごが空のままではラットリングは起きません). ただし,どれだけ乱しても平均自由行程は原子間距離より短くはなれません.Cahill らは,各振動の寿命が半周期まで短くなった極限の熱伝導率を見積もり,高温では

(46) κmin≈12(π6)1/3 kBna2/3(vl+2vt)

を得ました(na:原子の数密度,vl, vt:縦波と横波の音速). 例えば na = 5×1028 m−3,vl = 3000 m/s,vt = 1800 m/s なら κmin ≈ 0.50 W/mK です. シミュレーターの κmin は,この下限を表すパラメーターです.

※ 誤解 6 灰色近似は,ナノ構造化の効果を大きく見積もりがちです 実際のフォノンの平均自由行程は nm から μm まで広く分布していて,1 つの Λph で代表させることはできません. 固溶体化(質量のゆらぎ)は主に短波長のフォノンを,ナノ析出物は中波長を,粒界は長波長を散乱するので, 原子スケール・ナノスケール・メソスケールの散乱体を組み合わせると効果的です(Biswas らの全スケール階層構造).

10. 発電効率と冷却の成績係数を導く

材料の ZT が分かったとして,p 型と n 型の脚(レッグ)を組み合わせた熱電素子にしたとき,どれだけの効率が出るかを導きます.定物性モデルによるこの解析は,Ioffe の教科書以来の標準的な方法です.なお,この節と §13 の問題 5 に限り η は変換効率を表します(還元 Fermi 準位ではありません).

10.1 定物性モデルと記号

図 3 のように,p 型と n 型の脚の一端を高温側 Th の電極でつなぎ,低温側 Tc の端に負荷抵抗をつなぎます. S, σ, κ は温度によらないとします(定物性モデル.このとき式 (8) の Thomson 熱は 0).素子全体を次の 3 つの量で表します.

素子の性能指数を

(47) Z=S2RK

と定義します.p と n が符号だけ逆で同じ大きさの物性(|Sp|, σ, κ)をもち,脚の長さ ℓ と断面積 A も同じなら, S = 2|Sp|,R = 2ℓ/(σA),K = 2κA/ℓ なので Z = 4Sp2/(4κ/σ) = Sp2σ/κ で,材料の性能指数と一致します. 負荷抵抗を mR(m:負荷比),ΔT = Th − Tc とします.

図 3 熱電発電素子(p–n 対)と熱の流れ.正孔(p 型)も電子(n 型)も高温側から低温側へ流れるので,電流は p 型の脚を下向き,n 型の脚を上向きに流れ,負荷を通って 1 周する. 高温側から入る熱 Qh は,高温接合で吸収される Peltier 熱 SThI と熱伝導 KΔT の和から,脚の中で発生して高温側へ戻る Joule 熱の半分 I2R/2 を引いたもの(式 (51)).

10.2 高温側の熱収支 ― Joule 熱の半分はなぜ戻るのか

回路を流れる電流は,起電力 SΔT を内部抵抗と負荷抵抗の和で割ったもので,負荷で取り出す電力は P = I2mR です.

(48) I=SΔTR+mR=SΔTR(1+m) ,P=I2mR=S2ΔT2mR(1+m)2

高温側から素子へ入る熱 Qh を求めるため,長さ ℓ,断面積 A の 1 本の脚の中の温度分布を考えます. 脚の中では単位体積あたり ρJ2 の Joule 熱が一様に発生するので(ρ = 1/σ,J = I/A),定常状態の熱伝導方程式(式 (8) で Thomson 熱を 0 としたもの)と解は

(49) κd2Tdz2=−ρJ2 ,T(0)=Th,T(ℓ)=Tc ⟹ T(z)=Th−ΔTℓz+ρJ22κz(ℓ−z)

です(2 回微分すると −ρJ2/κ,z = 0, ℓ で境界条件を満たす).高温端 z = 0 から脚へ流れ込む伝導熱は

(50) −κA(dTdz)z=0 =−κA(−ΔTℓ+ρJ2ℓ2κ) =κAℓΔT−12I2ρℓA

(ρJ2Aℓ = I2ρℓ/A).右辺第 1 項は脚の熱コンダクタンス × ΔT,第 2 項は脚の抵抗 ρℓ/A で発生する Joule 熱の半分です. つまり脚の中で発生した Joule 熱のちょうど半分が高温側へ戻り,高温側から引き出す熱をそのぶん減らします(残りの半分は低温側へ流れる). 2 本の脚について足し合わせ,高温接合で吸収される Peltier 熱(式 (6) より ΠI = SThI)を加えると

(51) Qh=SThI−12I2R+KΔT

10.3 効率を負荷比の関数として書く

η = P/Qh に式 (48) を入れます.Qh = S2ThΔT/[R(1 + m)] − S2ΔT2/[2R(1 + m)2] + KΔT です. 分子 P と分母 Qh をどちらも S2ΔTTh/[R(1 + m)2] で割り,RK/S2 = 1/Z を使うと

(52) η(m)=PQh =ΔTTh· m(1+m)−ΔT2Th+(1+m)2ZTh

10.4 最適な負荷比と最大効率

分母を D(m) = (1 + m) − ΔT/2Th + (1 + m)2/ZTh と書くと η ∝ m/D で, dη/dm ∝ (D − mD′)/D2 = 0 が条件です.D′ = 1 + 2(1 + m)/ZTh を使うと

(53) D−mD′=1−ΔT2Th +(1+m)2−2m(1+m)ZTh =1−ΔT2Th+1−m2ZTh=0 ⟹m2=1+Z(Th−ΔT2) =1+ZT‾,T‾=Th+Tc2

(1 行目は (1 + m)2 − 2m(1 + m) = (1 + m)(1 − m),2 行目は全体に ZTh をかけて整理した.)したがって

(54) mopt=1+ZT‾≡M

最適点では D = mD′ なので η = (ΔT/Th)·M/D = (ΔT/Th)/D′(M). Z = (M2 − 1)/T̄ を使うと 2(1 + M)/ZTh = 2(1 + M)T̄/[(M2 − 1)Th] = (Th + Tc)/[(M − 1)Th] なので

(55) ηmax=ΔTTh (M−1)Th(M−1)Th+Th+Tc =Th−TcTh·M−1M+Tc/Th
式 (55) から読み取ること 第 1 因子は Carnot 効率,第 2 因子は材料で決まる割合で,ZT̄ → ∞(M → ∞)で 1 に近づきます. 効率を決める材料の量は平均 ZT̄ ただ 1 つで,S, σ, κ を個別に知る必要はありません.シミュレーターの⑤はこの式を描いています.
表 5 最大発電効率の例(式 (55).負荷比 m を数値的に動かして式 (52) を最大化した結果とも一致し,そのときの m は M に等しい)
用途の目安Th/Tc(K)ZT̄Carnot 効率ηmaxCarnot に対する割合
低温の排熱500/3001.040.0 %8.23 %20.6 %
中温の排熱800/3001.062.5 %14.47 %23.2 %
宇宙機 RTG(シミュレーターのボタン)1275/5750.854.9 %10.46 %19.1 %

10.5 冷却の成績係数

電源で電流 I を流して,低温側から熱を汲み上げる場合です. 冷却能力 Qc は,低温接合で吸収される Peltier 熱 STcI から,戻ってくる Joule 熱の半分と,高温側から漏れてくる伝導熱を引いたものです. 外部から加える電力 W は,Seebeck 起電力に逆らう仕事と Joule 熱の和です.

(56) Qc=STcI−12I2R−KΔT ,W=SΔTI+I2R

成績係数 φ = Qc/W の分子と分母に R/S2 をかけ,ξ = IR/S(温度の次元をもつ)と 1/Z = RK/S2 を使うと

(57) φ(ξ)= Tcξ−ξ2/2−ΔT/ZΔTξ+ξ2

dφ/dξ = 0 の条件は,分子を N,分母を W̃ として N′W̃ − NW̃′ = 0 です.2 つの積を展開して引き算すると,ξ3 と TcΔT ξ の項が打ち消し合います.

(58) N′W̃=(Tc−ξ)(ΔTξ+ξ2) =TcΔTξ+Tcξ2−ΔTξ2−ξ3 NW̃′=(Tcξ−ξ22−ΔTZ)(ΔT+2ξ) =TcΔTξ+2Tcξ2−ΔT2ξ2−ξ3−ΔT2Z−2ΔTZξ N′W̃−NW̃′=−(Tc+ΔT2)ξ2+2ΔTZξ+ΔT2Z=0 ⟹ZT‾ξ2−2ΔTξ−ΔT2=0 ⟹ξ=ΔT(1+M)ZT‾ =ΔT(1+M)M2−1=ΔTM−1

(3 行目は −Z をかけ,Tc + ΔT/2 = T̄ を使った.4 行目は 2 次方程式の正の解で,√(4ΔT2 + 4ZT̄ΔT2) = 2ΔT M.) この ξ を式 (57) に戻します.1/Z = T̄/(M2 − 1) を使うと分子は TcΔT/(M − 1) − ΔT2/2(M − 1)2 − ΔT T̄/(M2 − 1), 分母は ΔT2/(M − 1) + ΔT2/(M − 1)2 = ΔT2M/(M − 1)2 です.比をとって (M − 1)2/ΔT で約分し,分子分母に M + 1 をかけると

(59) φ=Tc(M−1)−ΔT2−T‾(M−1)M+1ΔTM =Tc(M2−1)−ΔT2(M+1)−(Tc+ΔT2)(M−1)ΔTM(M+1) =TcM(M−1)−ΔTMΔTM(M+1) =TcM−ThΔT(M+1) ⟹ φmax=TcTh−Tc·M−Th/TcM+1

が得られます(2 行目の分子は Tc(M2 − 1 − M + 1) − (ΔT/2)·2M を整理したもの,最後は Tc + ΔT = Th). 第 1 因子は Carnot の成績係数 Tc/(Th − Tc) です. ZT̄ = 1 で 300 K から 270 K へ汲み上げると φmax = 1.130(Carnot 9.00),250 K へなら 0.444(Carnot 5.00)で,温度差を広げると急に下がります. 電流を数値的に動かして Qc/W を最大化しても同じ値になります.

10.6 最大温度差

φmax > 0 には M > Th/Tc が必要です.両辺を 2 乗して M2 = 1 + Z(Th + Tc)/2 を入れると

(60) 1+Z(Th+Tc)2>Th2Tc2 ⟹Z(Th+Tc)2>(Th−Tc)(Th+Tc)Tc2 ⟹ΔT<ZTc22

です.同じ結果は,Qc = 0 とおいて直接求めることもできます.式 (56) から KΔT = STcI − I2R/2 で,右辺は d/dI = STc − IR = 0,すなわち I = STc/R で最大になるので

(61) ΔTmax=1K(S2Tc2R−S2Tc22R) =S2Tc22RK =ZTc22

例えば ZTc = 1,Tc = 300 K なら ΔTmax = 150 K です. 逆に,300 K の放熱側から 250 K まで冷やす(ΔT = 50 K)には,M > Th/Tc より ZT̄ > (300/250)2 − 1 = 0.44 が必要です.

※ 誤解 7 実際のモジュールの効率は,式 (55) より低くなります 式 (55)(59) は理想的な上限です.実際には電極との接触抵抗,脚の側面からの熱の漏れ,基板の熱抵抗があります. さらに実材料の S, σ, κ は温度で大きく変わるので,ZT̄ を「平均温度での ZT」で置き換える定物性モデルは近似にすぎません.

11. シミュレーターのモデルについて

thermoelectric-simulator.html は,本ページの式を次のように実装しています.

(62) κL(d)=κ1+aκL−κ11+Λph/d ,κ1=min(κmin,aκL) μ0(d)=μ0[1−0.25(1−a)]1+Λe/d

右辺の κL, μ0 はスライダーで選んだ値(粒径が十分大きいときの値)です.既定値は Λph = 50 nm,Λe = 5 nm,κmin = 0.2 W/mK,a = 1. d ≫ Λph で κL は aκL に,d → 0 で κ1 に近づきます. 2 行目は「固溶体化で κL を 1 − a の割合だけ下げると,移動度もその 1/4 の割合だけ下がる」という教材用の仮定です.

このモデルで言えること・言えないこと 言えるのは,「ZT の最大値は B で決まる」「最適キャリア濃度は Nc の 0.2–1 倍で,(m*T)3/2 に比例して動く」「パワーファクタの最適点は ZT の最適点より高濃度側にある」「粒径には最適な窓がある」という傾向と,パラメーターの効き方の相対比較です. 言えないのは,特定の物質の ZT の定量予測です.実材料は複数の谷やバンドの非放物線性,複数の散乱機構の混在,少数キャリアの寄与(バイポーラ効果),パラメーターの温度依存性をもち,プリセットは桁の目安にすぎません.

12. さらに深く学ぶために

表 6 関連する学習資源
話題参照先
Seebeck 効果:熱い荷電粒子の拡散と電荷の偏り(§1,§2,§3)thermoelectric-simulator.html ①(付録 A.2)
S, σ, κ と ZT の山(§6,§8)同 ②(付録 A.3)
山の高さと位置,品質因子 B(§7)同 ③(付録 A.4)
κL を下げる,PGEC(§9)同 ④(付録 A.5)
変換効率と冷却の成績係数(§10)同 ⑤(付録 A.6)
実材料の使用温度域と ZT の目安同 ⑥(付録 A.7)
原子の準位がバンドになる仕組み(式 (22) の状態密度の出発点)band-simulator.html/教科書 5-1・5-2 節(第 11 回)
フォノンと比熱(式 (43) の C)heatcapacity-simulator.html/教科書 4-1 節(第 10 回)
第 12 回のもう 1 つの主題,超伝導superconductivity-simulator.html
ナノ構造のバルク体をつくる:焼結と粒成長の抑制(§9 の粒径)sintering-derivation.html/教科書 3-4 節(第 9 回)
熱電変換の標準的な教科書と総説H. J. Goldsmid Introduction to Thermoelectricity,D. M. Rowe (ed.) CRC Handbook of Thermoelectrics,Snyder と Toberer の総説(文献一覧)

13. 演習問題と解答

問題 1 非縮退の n 型半導体で S = −300 μV/K であった.温度と有効質量を変えずにキャリア濃度を 2 倍にすると,S はいくらになるか.

解答.式 (27) より |S| = (kB/e)[2 + λ + ln(Nc/n)]. n を 2 倍にすると ln(Nc/n) が ln 2 だけ減るので,|S| は (kB/e) ln 2 = 86.17 × 0.6931 = 59.7 μV/K 下がり,S = −240 μV/K になる. この変化量は λ にも Nc にもよらない. (λ = 0 なら初めの η は 2 − 300/86.17 = −1.48 で,§5 の注意のとおり厳密な SPB の値とは数 % ずれる.)

問題 2 Sp = +200 μV/K の p 型脚と Sn = −200 μV/K の n 型脚からなる対を 100 対,電気的に直列につなぎ,高温側と低温側に 50 K の温度差をつけた.開放電圧はいくらか.

解答.1 対の Seebeck 係数は Sp − Sn = 400 μV/K で,起電力は 400 μV/K × 50 K = 20 mV.100 対の直列で 2.0 V. 熱的には並列(すべての対が同じ ΔT を受ける),電気的には直列につなぐのが熱電モジュールの基本構成である.

問題 3 銅の電気伝導率を σ = 5.96×107 S/m とし,300 K における電子熱伝導率を Wiedemann–Franz 則で見積もれ.

解答.式 (21) より κe = L0σT = 2.443×10−8 × 5.96×107 × 300 ≈ 437 W/mK. 室温の銅の熱伝導率は約 400 W/mK と知られており,金属の熱はほとんど電子が運ぶことが分かる.

問題 4 S = 200 μV/K,σ = 1000 S/cm,κ = 1.5 W/mK の材料について,300 K におけるパワーファクタと ZT を求めよ.

解答.σ = 105 S/m に直すと,S2σ = (2×10−4)2 × 105 = 4×10−3 W/mK2(= 40 μW/cmK2). 式 (1) より ZT = 4×10−3 × 300/1.5 = 0.80.

問題 5 高温側 500 K,低温側 300 K,ZT̄ = 1 の素子の最大発電効率と,そのときの負荷比を求めよ.Carnot 効率の何 % にあたるか.

解答.式 (54) より M = √2 = 1.4142 で,負荷抵抗を内部抵抗の 1.41 倍にする. 式 (55) より ηmax = (200/500) × (1.4142 − 1)/(1.4142 + 300/500) = 0.4 × 0.4142/2.0142 = 8.23 %. Carnot 効率 40 % の 20.6 % にあたる.

問題 6 シミュレーターの室温用プリセットを基準に,(a) κL を半分にする,(b) μ0 を 2 倍にする,の 2 つを比べる. ZT の最大値と最適キャリア濃度は,それぞれどうなるか.

解答.式 (39) より B ∝ μ0/κL なので,(a) も (b) も B を 0.442 から 0.883 へ 2 倍にする. 式 (38) より ZT(η) は B だけで決まるので,ZT の最大値も ηopt も (a) と (b) で同じである. さらに m* と T が同じなので Nc も同じで,nopt = Nc(2/√π)F1/2(ηopt) も一致する. シミュレーターと同じコードで計算すると,どちらも ZT の最大値 1.756,nopt = 1.08×1019 cm−3(基準は 1.098 と 1.58×1019 cm−3). シミュレーター②では (a) の κL = 0.4 W/mK はそのまま設定できる.一方 μ0 のスライダーは対数目盛なので 600 ちょうどにはならず,最も近い 603 cm2/Vs では ZT の最大値は 1.761 と表示される(nopt は同じ 1.08×1019 cm−3). B が大きくなると ηopt は下がる(表 2)ので,最適キャリア濃度は低濃度側へ動く.

問題 7 B を一定に保ったまま(例えば μ0 を 2−3/2 倍にして)状態密度有効質量を 2 倍にすると,ZT の最大値と nopt はどうなるか.

解答.B が同じなので,ZT の最大値と ηopt は変わらない. nopt = Nc(2/√π)F1/2(ηopt) で Nc ∝ m*3/2 なので,nopt は 23/2 = 2.83 倍になる. シミュレーター③の「m* を変え,B を一定に保つ」を選ぶと,表の ZT 最大が 4 行ともそろい,nopt が m*3/2 に比例して動くことを確かめられる.

問題 8 自由電子的な金属(放物線バンド,EF = 5 eV,τ はエネルギーによらない)で σ(E) ∝ E3/2 となることを示し,300 K の S を Mott の式で見積もれ.E はバンドの底から測る.

解答.式 (22) より g ∝ E1/2,v2 ∝ E で,τ が一定なので式 (13) から σ(E) ∝ E3/2(式 (23) で λ = 1/2 にあたる). d ln σ/dE = 3/(2EF) を式 (20) に入れると S = −(π2/2)(kB/e)(kBT/EF) = −4.935 × 86.17 μV/K × (0.02585/5) ≈ −2.2 μV/K. 式 (15) の積分を展開せずに数値計算しても −2.2 μV/K で,Mott の式はよい近似である.半導体の数百 μV/K より 2 桁小さい.

付録 A. シミュレーター(thermoelectric-simulator.html)で見ていること

この付録で分かること 対になるシミュレーター thermoelectric-simulator.html の 6 つのタブが,それぞれ何を描いていて,どの操作が何を意味するのか. そして,画面に出てくる数値がどんな近似で計算されているのか. シミュレーターは授業の画面に埋め込んで使うので,画面の説明は短くしてあります. 「この図はどう読めばよいのか」と思ったら,ここに戻ってきてください. 式の導出そのものは本文の §1〜§11 にあるので,この付録では本文を参照するだけにとどめ, シミュレーターにしか出てこない設定や数値をまとめます.

A.1 ページ全体 ―― 6 つのタブと授業との対応

温度差をつけると電圧が出る Seebeck 効果の起源は,高温側で大きな運動エネルギーをもった荷電粒子が低温側へ拡散しようとするところにあります(§1.1). シミュレーターは,まず①でその様子をアニメーションで見てから,熱電材料の性能を決める量の話へ進みます. ②がこの教材の核心で,単一放物線バンドモデルで S, σ, κe をキャリア濃度に対してその場で計算し, 3 つの量が互いに邪魔をするので性能指数 ZT が山になり,その頂上が 1019–1021 cm−3(多くの材料では 1019–1020 cm−3)に出ることを確かめます. ③では山の高さが品質因子 B だけで決まり,位置は有効質量で動くことを, ④では格子熱伝導率を下げる考え方(PGEC)を,⑤では変換効率と冷却の成績係数を,⑥では実材料の使いどころを見ます.

東京理科大学「無機材料学」の第 12 回(熱電変換と超伝導)では,①・②・⑤ を基本として位置づけており, 指定教科書『よくわかる無機材料化学』の 5-3 節「熱電変換」(p. 96–98)に対応します(参考文献 17). ③・④・⑥ は発展です.ただし④の PGEC の考え方は,第 12 回のスライドでも取り上げています.材料の設計や研究に興味が出てきたら開いてみてください.

表 A1 シミュレーターのタブと本文の対応
タブ画面で見ること位置づけ本文の対応箇所
① Seebeck 効果高温側と低温側の荷電粒子の熱的な揺らぎの違い,低温側への拡散と電荷の偏り,回路をつないだときに流れる電流基本§1.1,§2.1,A.2
② S, σ, κ と ZT の山キャリア濃度に対する |S|, σ, パワーファクタ,κe の割合,ZT の山基本§6,§8,A.3
③ 山の高さと位置 ― 品質因子 B1 つのパラメーターを 4 通りに変えたときの ZT の山と,頂上の比較表発展§7,A.4
④ κ を下げる(PGEC)粒径に対する ZT の最大値,κL と μ0 の下がり方発展(PGEC の考え方は第 12 回のスライドにもある)§9,§11,A.5
⑤ 変換効率と冷却平均 ZT に対する最大発電効率と冷却の最大成績係数,Carnot の上限基本§10,A.6
⑥ 実材料の使いどころ材料系ごとの使用温度域と ZT の目安,用途・長所・短所発展§9.3,A.7

どのタブも左に図(キャンバス)があり,その下にタブによって凡例・「ひとこと」の欄・読み取り値または比較の表が並び, 右(スマートフォンでは下)に操作欄があります. 「ひとこと」は,操作するたびにいまの状態に合わせて書き換わる短い知らせです. 授業の画面に埋め込んで使うので,画面の説明は短くしてあり,操作欄のいちばん下の「詳しい解説」のリンクからこの付録の該当する小節(A.2〜A.7)へ飛べます. アドレスの末尾に #seebeck,#curve,#peak,#kappa,#eff,#mat を付けると,そのタブを開いた状態でページが表示されます(本文の表 6 のリンクはこれを使っています). ?embed=1 を付けると見出しと導入文を隠した埋め込み用の表示になり(タブの列は残る), ?only=curve のように書くとそのタブだけを,タブの列も隠して表示します.

A.2 ① Seebeck 効果

温度差をつけると電圧が出る Seebeck 効果の起源を,荷電粒子の動きとして目で見るタブです. 物理の中身は §1.1 で説明しました.要点は次の 3 つです.

アニメーションで見る順番. 最初は n 型,Tc = 300 K,ΔT = 300 K(高温側 600 K),|S| = 200 μV/K,スイッチ OFF で,すぐに動き始めます. 電子は棒の中を散乱されながら動き回ります.高温側(左)の電子は色が濃く(運動エネルギーが大きく),長い残像を引いて速く動き,低温側(右)の電子は色が淡く,ゆっくり動きます.動けないイオンの揺れも,高温側ほど大きく描いています. 数秒のうちに,高温側の端に正,低温側の端に負の電荷の偏りが現れ(電極のすぐ内側に並ぶ赤い ⊕ と青い ⊖ の列,棒の薄い赤と青の塗り),端子電圧 V が SΔT = −60 mV のまわりで落ち着きます. このとき電子の数は棒の中でほとんど変わっておらず,偏っているのは両端のごく薄い層の,全体の 0.5 % ほどの電荷だけです(下の「モデル」を参照). スイッチを ON にして+側と−側を外部の導線でつなぐと,低温側の電極に来た電子の一部が導線に入り,外部回路を回って高温側の電極から棒に戻ります. 電荷の偏りが減って電場が弱まるので,棒の中では高温側から低温側への拡散がまた進み,温度差が保たれている限り電流は流れ続けます. これが熱電発電で,熱が荷電粒子を押し出す勢いが,電池の起電力の役目をしています. 外部回路の電流(正の電荷の流れの向き)は+側から−側で,n 型では高温側が+,p 型では低温側が+です(本文の図 3 で,p 型の脚と n 型の脚で電流の向きが逆になっているのはこのためです). スイッチを OFF に戻すと,再び電荷が溜まって開回路の状態に戻ります. 速さの 2 乗平均の平方根の比 √(Th/Tc) は,既定で 1.41 です. 違いをもっとはっきり見たいときは Tc = 250 K,ΔT = 400 K(高温側 650 K)にすると 1.61 になり,逆に ΔT = 100 K まで下げると 1.15 で,違いは目立たなくなります.

上の図(アニメーション).

下の図. 左の「電荷の偏り(棒)と電位(線)」は,横軸が棒に沿った位置(左が高温側,右が低温側)で,40 個の区間ごとの電荷の偏り(時間平均.赤が正,青が負.左の目盛は+ 0 − の向きだけ)と, 高温側の端を 0 とした電位 φ(x)(黒の線,右の目盛.単位は mV で,下の「画面の電圧への読み替え」と同じ換算)を描きます. 電荷の偏りは両端の薄い層にだけ現れ,内部はほぼ中性で,電位はほぼ直線的に変わることを見てください. 右の「端子電圧 V と電流 I(スイッチ ON のとき)」は,横軸が過去 24 秒から「いま」までの実時間で,取り違えないよう V と I を上下の別々の枠に描いています. 上の広い枠は,黒の線が端子電圧 V(mV),黒の破線が開回路の値 SΔT です.縦軸は SΔT の側を 1.3|SΔT| まで広くとり,反対側は熱雑音で振れる分(|S| × 25 K)だけ空けています. 下の狭い枠は,緑の線が電流 I の相対値で,スイッチ ON の区間だけ描きます(目盛の上限は 1.5 × ΔT/100 K,ただし 0.5 以上). 幅 560 px 未満の画面では,2 つのグラフを上下に並べます.

図の下の凡例. 次の 10 項目です.キャリア(色と残像が濃いほど運動エネルギーが大きい),イオン(動けない.揺れの大きさは誇張した模式),棒の地の色(温度),⊕ ⊖ の列(両端に溜まった余分な電荷の模式),端子の+/−,導線の中の電子,正の電荷の偏り,負の電荷の偏り,端子電圧 V の線,電流 I の線.

狭い画面のボタン. 幅 760 px 以下の画面では操作欄が図の下に回って遠くなるので,上の図のすぐ下に「再生」/「一時停止」と「スイッチ ON」/「スイッチ OFF」のボタンと,「図のスイッチをタップしても切り替わります.」の一文を出します. 操作欄の同じボタンと同じはたらきです.

操作欄.

既定値は,n 型,Tc = 300 K,ΔT = 300 K(高温側 600 K),|S| = 200 μV/K,スイッチ OFF,負荷は豆電球,再生中です(OS で動きを減らす設定にしているときは一時停止).

読み取り値. キャリアの型,Seebeck 係数 S(符号つき),温度差 ΔT(高温側と低温側の温度),開回路の起電力 SΔT(mV),いまの端子電圧 V(mV),スイッチの状態(OFF(開回路),または ON と負荷の種類),電流 I(相対値). 続く「キャリアの運動(図は 2 次元の模式.エネルギーは 3 次元の値)」の欄に,高温側と低温側の平均運動エネルギー (3/2)kBT(meV.(3/2)kB/e = 0.1293 meV/K なので,600 K で 77.6 meV,300 K で 38.8 meV), 速さの 2 乗平均の平方根の比 vrms(高温側)/vrms(低温側) の理論値 √(Th/Tc)(既定で 1.414)と,粒子から求めた実測値を表示します. 実測値は,すべてのキャリアの v2 を位置の 1 次式 a + bx/L で最小二乗近似し(時間平均),両端の値の比 √(a/(a + b)) を求めたもので,理論値と 1 % 以内で一致します. 棒の高温側 1/3 と低温側 1/3 の粒子で比べると,それぞれの平均温度が Th − ΔT/6 と Tc + ΔT/6 になるので,比は √(Th/Tc) より小さく出ます(既定で √(550/350) = 1.25).

ひとことの欄. 状態に応じて次のどれかを知らせます(一時停止中は「(一時停止中)」が付きます). ΔT のスライダーを 0 まで下げた直後の約 10 秒間(モデルの時間 4)は「温度差がなくなったので,それまでに偏っていた電荷が広がって元に戻りつつある」. その後も ΔT = 0 のままなら「両端で揺らぎは同じ大きさで,電荷は偏らず,電圧は 0 のまわりで揺らぐだけ」. リセットや温度・スイッチの変更の直後で,開回路の電圧がまだ育っている間は「高温側で激しく動く電子(正孔)が低温側へ拡散し,低温側に負,高温側に正(p 型では逆)の電荷が偏り始めている」. 開回路で釣り合ったら「溜まったキャリアと残ったイオンがつくる電場が拡散を押し戻し,V ≈ SΔT で釣り合っている」. スイッチ ON では,n 型なら「低温側に溜まった電子が導線を通って高温側へ戻り,外部回路を高温側(+)から低温側(−)へ電流が流れる」, p 型なら「外部回路を低温側(+)から高温側(−)へ電流が流れる(導線の中の電子は高温側から低温側へ)」と,どちらの場合も「端子電圧は SΔT より下がり,温度差がある限り電流は流れ続ける」ことを伝えます.

モデル ― 単位と温度分布. ここからは,アニメーションの計算の中身です(この A.2 に限り,x は還元エネルギーではなく棒に沿った位置で,§1.1 の z にあたります.同じく λ は散乱の指数ではなく遮蔽長,L は Lorenz 数ではなく棒の長さ,ℓ は §10 の脚の長さではなく平均自由行程です). 棒の長さ L を長さの単位,T0 = 300 K を温度の単位とし,キャリアの質量 m,kB,電荷の大きさ |q| を 1 とおいた単位で計算します. 時間の単位は L/√(kBT0/m),電位の単位は kBT0/|q| です. キャリアの電荷は n 型で q = −|q|,p 型で q = +|q| です. x は高温側の電極から測り(x = 0 が高温側,x = L が低温側),温度は棒に沿って直線的に変わるとします. これは熱伝導の定常状態で,キャリアが運ぶ熱,Peltier 熱,Joule 熱による温度の変化は考えません(電流を流しても温度分布は変わらない).

T(x)=Th−ΔTxL , dvxdt=qmℰ(x) , dvydt=0

モデル ― 運動と散乱. キャリアは 2 次元の古典的な粒子で,散乱と散乱の間は上の運動方程式に従って動きます(時間刻み Δt = 0.002). 上下の壁と両端の電極では鏡のように反射します(棒の縦横比は画面に合わせた見た目だけで,計算の結果にはよりません). 各ステップで確率 Δt/τ = 0.1(緩和時間 τ = 0.02)で散乱され,散乱されると速度の 2 成分をその場所の温度 T(x) の Maxwell 分布(各成分が平均 0,分散 kBT(x)/m の正規分布)から引き直します. これが格子(フォノン)との熱のやりとりで,高温側で散乱されたキャリアは速く,低温側で散乱されたキャリアは遅くなります. そのため棒の各場所で ⟨v2⟩ ≈ 2kBT(x)/m(2 次元)となり,vrms ∝ √T です. 緩和時間はエネルギーによらないので,§1.1 の r = 0 の場合にあたります. 平均自由行程は ℓ = √(πkBT/2m)·τ ≈ 0.025L(300 K.1000 K で 0.046L)で,キャリアは棒の中で何度も散乱されながら拡散していきます. 2 次元なので 1 個あたりの平均運動エネルギーは kBT ですが,読み取り値には実際の 3 次元の値 (3/2)kBT を表示しています(速さの比 √(Th/Tc) は次元によりません).

モデル ― イオンと電場. イオンは動かず,キャリアと同じ数 N だけ棒の中に一様に分布した電荷の背景として扱うので,全体はいつも電気的に中性です. 棒を 40 個の区間に分け,キャリアを隣り合う 2 つの区間の中心へ距離に応じて配り(雲粒子法),区間 j の電荷を ρj = q(nj − N/40) とします. 電場は 1 次元の Gauss の法則から求め,粒子の位置へ線形補間して力を計算します(電場は時間平均せず,その瞬間の値で押す).

dℰdx=ρ(x)ε ,ℰ(0)=ℰ(L)=0 , Vsim=φ(L)−φ(0)=−∫0Lℰdx , λ=εkBTq2n0

両端で ℰ = 0 となるのは,全体が中性で,棒の外に電場がないためです.Vsim は低温側の電位 − 高温側の電位で,本ページの符号の約束と同じ向きです. 誘電率 ε は,キャリアの密度 n0 = N/L に対する遮蔽長(Debye 長)λ が 300 K で λ0 = 0.07L になるように ε = λ02N(上の単位で 127.0)と選んであり, λ(T) = 0.07L√(T/300 K) です(250 K で 0.064L,600 K で 0.099L,1000 K で 0.128L). 電荷の偏りが電場で打ち消されるまでの時間(誘電緩和時間)は τd = λ2m/(kBTτ) = λ02/τ ≈ 0.25(温度によらない.実時間で約 0.6 秒)で, プラズマ振動数との積は ωpτ = τ/λ0 ≈ 0.29 なので,電荷の偏りは振動せずに落ち着きます(過減衰).

モデル ― 開回路の釣り合いと起電力. スイッチ OFF で十分に時間がたつと,電流は 0 になります. 棒の内部ではキャリアの密度 n はほぼ一定なので,§1.1 の (a) 静電部分と同じく,キャリア 1 個にはたらく熱による押す力 −kBdT/dx と電気力 qℰ が釣り合い

qℰ=kBdTdx ⟹ φ(L)−φ(0) =−kBq(Tc−Th) =kBqΔT

となります.n 型(q = −e)では低温側の電位が (kB/e)ΔT だけ低く,p 型では高くなり,符号は S の符号と一致します. 2 次元でも 3 次元でも,1 方向の圧力は 1 個あたり m⟨vx2⟩ = kBT なので,この結果は次元によりません. この電場をつくる電荷は,Gauss の法則から,両端の厚さ λ ほどの層に集まります. n 型では高温側の端で電子が減ってドナーの正電荷が残り,低温側の端に電子が余ります(p 型では逆).内部はほぼ中性です. 偏る電荷の量は全キャリアの λ02ΔT/T0 程度で,既定の ΔT = 300 K では 0.49 %(25920 個のうち約 127 個分)にすぎません. 描いている 216 個の点の数の違いとしては見えないので,電極の内側の ⊕ と ⊖ の列(模式),棒の塗り,下の図の棒グラフで示しています.

ただし電極の位置では ℰ = 0 なので,両端の遮蔽層の中では電場が内部の値 ℰb より弱く(Debye 近似では,高温側の端から ℰ ≈ ℰb(1 − e−x/λh)), 端子間の電位差は c(kB/q)ΔT と,1 より小さい係数 c ≈ 1 − (λh + λc)/L 倍になります(λh, λc は高温側と低温側の遮蔽長). シミュレーターは,端の近くの運動論的な効果と区間の粗さの分も含めて,数値実験に合わせた次の係数を使っています.

c=1−0.052−1.046×λ0L (ThT0+TcT0)

既定(600 K と 300 K)では c = 0.771 です(Debye 近似の式では 0.831). 数値実験で Vsim/[(kB/q)ΔT] は条件により 0.71–0.78 で,これを c で割ると 0.97–1.00 になります. 実際の熱電半導体の遮蔽長は nm 程度(キャリア濃度 1019 cm−3,比誘電率 10 として非縮退の式で見積もると約 1 nm)で,mm の試料に比べて無視でき,c は 1 とみなせます. このモデルでは遮蔽長を棒の長さの 7 % と大きくとっているので,この補正が要ります.

画面の電圧への読み替え. 上の釣り合いから分かるとおり,このモデルの電位差は材料によらずいつも (kB/e)ΔT × c,つまり |S| にして c × 86 μV/K です. 実際の |S| は,§1.1 の (b) 化学ポテンシャル部分や散乱の仕方で材料ごとに変わり,熱電半導体ではこれよりずっと大きくなります. そこで画面では,粒子の電位差から逆算した温度差 ΔTeff に,操作欄の |S| に型の符号を付けた S を掛けて端子電圧とします.

ΔTeff=qkBV‾simc , V=SΔTeff

V̄sim は Vsim を時定数 1(実時間 2.5 秒)で指数移動平均したものです. 開回路の定常状態では ΔTeff ≈ ΔT なので V ≈ SΔT になり(数値実験で SΔT の 0.97–1.00 倍),スイッチ ON で電荷の偏りが減ると ΔTeff が小さくなって V が下がります. |S| のスライダーは画面の mV の目盛を変えるだけで,粒子の動きや電荷の偏り,電流の相対値は変わりません. 下の図の電位 φ(x) も同じ換算(|S| × T0/c を掛ける)で mV に直しています. 電圧の揺らぎは,計算するキャリアの数 N を多くするほど小さくなります(端子間の電位の熱雑音は,上の単位(L = |q| = 1)で √(kBT/N)/λ 程度,次元を補うと (kBT/|q|)√(L/N)/(λ/L) 程度.ΔT = 0 の数値実験では,瞬間の Vsim の標準偏差は約 0.07–0.09 kBT0/|q|). 描く 216 個だけで計算すると,一瞬の揺らぎが既定の信号より大きくなってしまうので,N = 25920 個を計算し,そのうち 120 個おきの 216 個(幅 560 px 未満の画面では 240 個おきの 108 個)を描いています. それでも表示電圧は,ΔT に換算して標準偏差で 11–13 K ほど(既定の ΔT = 300 K の約 4 %)揺らぎます.

回路の規則. スイッチ ON のとき,電極で反射したキャリアについて,導線を通って反対側の電極へ移ったときのポテンシャルエネルギーの下がり方

u=q(φ自分の電極−φ反対の電極)kBT0 , 導線に入る確率=min(1,Gu)(u>0 のときだけ)

を計算し(電位は時定数 0.02 で平均したもの),u > 0 のときだけこの確率で導線に入れます.両端で同じ規則で,電流の向きは手で決めず,粒子がつくった電位から決まります. 導線を通り抜ける数が電位差に比例するので,オームの法則にあたり,G は負荷の通しやすさ(コンダクタンス)の役目をします.豆電球は G = 0.08,「導線でつなぐ(ほぼ短絡)」は G = 3 です. 導線に入ったキャリアは,その瞬間に反対側の電極から棒に戻ります(金属の導線は電子で満ちているので,片方で入った分だけもう片方から出る,という扱い). 戻るときの速度は,その電極の温度で,電極から飛び出す向きの成分を流束で重みを付けた半 Maxwell 分布から,横の成分を Maxwell 分布から引きます. 導線の中にとどまるキャリアはいつも 0 個で,棒の中のキャリアの総数 N は変わりません.

なぜ「電位が下がるときだけ入る」規則なのか 電位を見ずに「電極に当たったら一定の確率で導線に入る」とすると,電流が逆向きに流れてしまいます. 電極に当たる回数は n√T に比例するので,高温側の電極のほうが多く当たるためです(小さな穴から気体が漏れ出す Knudsen の流出と同じ). 実際の回路で電流を流すのは導線の両端の電位差なので,その電位差を使った規則にしてあります.

電流の向きと大きさ. 電流 I は,棒の中を高温側から低温側へ正味に移ったキャリアの数(単位時間あたり,時定数 1 で平均)を,150 で割った相対値です. 150 は,ΔT = 100 K で短絡したときにほぼ 1 になるように選んだ単位です(キャリアの流束の釣り合いから求めた短絡電流の理論値は NτkBΔT/(mT0L2) = 173 で,数値実験では 153–159). 向きは次のとおりです.

数値実験(Tc = 300 K)では,豆電球をつなぐと端子電圧は開回路の値の約 0.43 倍に下がり,電流の相対値は ΔT = 100, 200, 300(既定),400 K で 0.60, 1.19, 1.83, 2.42(ΔT に比例)です. 「導線でつなぐ」では端子電圧は開回路の約 0.02 倍でほぼ 0 になり,電流は ΔT = 100, 200, 300, 400 K で 1.02, 2.09, 3.08, 4.13 です. 豆電球のときの 0.43 と 0.60/1.02 ≈ 0.59 を足すとほぼ 1 になるのは,棒が「起電力 SΔT と内部抵抗をもつ電池」としてふるまい,端子電圧が SΔT − IR内部 と直線的に下がるからです. 豆電球の明るさは電力 |IV| に比例させています.スイッチを OFF に戻すと,端子電圧は 1 % 以内で開回路の値に戻ります.

時間の進み方. モデルの時間 1 が実時間 2.5 秒にあたります(毎秒 0.4 ずつ進む).毎秒 60 コマの画面では 1 コマに約 3.3 ステップ計算し,1 コマで最大 40 ステップです. 緩和時間 τ は実時間で 0.05 秒,誘電緩和時間は約 0.6 秒です. 平均をとる時定数は,端子電圧と電流と下の図の電位が 1(2.5 秒),棒の塗りと下の図の電荷の棒グラフが 3(7.5 秒)です. アニメーションは①のタブが表示されていて,2 つの図のどちらかが画面に見えている間だけ動き,ほかのタブに切り替えたり,ブラウザのタブを隠したり,図を画面の外までスクロールしたりすると止まります. OS で「視差効果を減らす(動きを減らす)」設定にしていると,一時停止の状態で始まります.

表 A2 ①のアニメーションのモデルの定数(長さ L,温度 T0 = 300 K,m = kB = |q| = 1 の単位)
量値備考
計算するキャリアの数 N25920描くのは 216 個(幅 560 px 未満で 108 個).イオンは別に 56 個(27 個)を格子状に描く
電場を求める区間の数40雲粒子法でキャリアを配る
時間刻み Δt0.002実時間 5 ms
緩和時間 τ0.021 ステップで散乱される確率 0.1
平均自由行程 ℓ(300 K)0.025√(πkBT/2m)·τ
遮蔽長 λ0(300 K)0.07λ ∝ √T.ε = λ02N = 127.0
誘電緩和時間 τd0.245λ02/τ,温度によらない
電位差の補正係数 c0.771既定の 600 K/300 K での値.1 − 0.052 − 1.046λ0(√θh + √θc),θ = T/T0
負荷の通しやすさ G0.08 / 3豆電球 / 導線でつなぐ(ほぼ短絡)
電流の相対値の単位150キャリアの数/時間.ΔT = 100 K の短絡でほぼ 1
時間の対応1 = 2.5 s毎秒 0.4 進む
乱数mulberry32種 20260917.リセットで同じ初期配置になる
アニメーションは模式です ― このモデルに入っていないこと 2 次元の古典的な粒子の気体で,Fermi 統計もバンド構造もありません(非縮退の半導体の電子・正孔に近い).緩和時間はエネルギーによらない一定値です. 電圧として計算しているのは静電ポテンシャルの差だけで(次の囲み),粒子から出てくる電位差は材料によらず c × 86 μV/K × ΔT で,画面の mV の値は操作欄の |S| で目盛を付け直したものです(電圧計が実際に測る電気化学ポテンシャルの差そのものではありません). 遮蔽長は実際の試料よりずっと大きくとってあり,その分を係数 c で補正しています. 温度分布は固定で,電流を流しても Peltier 熱や Joule 熱で温度は変わりません. 導線の中の移動は一瞬で,電流と豆電球の明るさは相対値です.イオンの揺れは演出です.
粒子の動きで見えるのは,電圧の一部です アニメーションが見せる「熱い粒子が押し出され,電場と釣り合う」部分は,§1.1 の (a) 静電部分(静電ポテンシャルの差)にあたります. 電圧計が読む Seebeck 電圧には,これに (b) 化学ポテンシャル部分(Fermi 準位の温度変化)が加わり, 非縮退の半導体では多くの場合,(b) のほうが大きくなります(§1.1 の例で (a) : (b) = 1 : 3.5). |S| の大きさを正しく求めるには §3〜§5 の Boltzmann 方程式が要り,その結果をタブ②〜④が使っています.
符号の約束 低温側の電位 − 高温側の電位 = SΔT(式 (2)). n 型では電子が低温側に溜まって低温側が負になるので S < 0,p 型では正孔が溜まって低温側が正になるので S > 0 です. 授業のスライドの S = −ΔV/ΔT と同じ約束であることは §1.1 で確かめました. 符号を測るだけでキャリアの型が分かるので,酸化物半導体の評価で日常的に使われます.

|S| の目安. 金属は |S| ≈ 数 μV/K,良い熱電半導体は 150–250 μV/K,絶縁体に近い半導体は数百 μV/K 以上です. 例えば |S| = 200 μV/K の材料に ΔT = 300 K(①の既定)をつけると起電力は 60 mV ですが,同じ ΔT で金属(|S| = 5 μV/K)なら 1.5 mV にしかなりません. 金属の |S| が小さい理由は §1.1 の最後と §4 の Mott の式で,半導体の |S| がキャリア濃度とともにどう下がるかは §5 の Pisarenko の関係で説明しています.

熱電対. 熱電対は 2 種類の材料 A, B をつないで,その起電力 V = (SA − SB)ΔT を測る温度計です. 1 種類の材料だけで回路をつくると,電圧計へつなぐ導線にも同じ温度差がかかって起電力が打ち消し合うので,S の違う 2 種類を組み合わせます. 工業炉の温度測定の多くはこの原理によります.§13 の問題 2 の p–n 対も,同じ足し算(Sp − Sn)です.

Fermi–Dirac 分布の違いとして眺める. 同じことを,高温側と低温側の Fermi–Dirac 分布の違いとして見ることもできます(図 A1). 図では比べやすいように,両側の Fermi 準位 EF を揃えて横軸の原点にとっています(実際の試料では,§1.1 の (b) 化学ポテンシャル部分のとおり EF − Ec 自体も温度で変わります).

図 A1 高温側(赤,Th = 400 K,kBT = 34.5 meV)と低温側(青,Tc = 300 K,kBT = 25.9 meV)の Fermi–Dirac 分布 f(E) = 1/[e(E − EF)/kBT + 1]. 横軸は Fermi 準位から測ったエネルギー(meV).赤の塗りは EF より上で高温側のほうが多く占有されている部分,青の塗りは EF より下で高温側のほうが多く空いている部分で,2 つの面積は等しい.

A.3 ② S, σ, κ と ZT の山

この教材の核心のタブです.単一放物線バンド(SPB)モデル・音響フォノン散乱(緩和時間 τ ∝ E−1/2,λ = 0)で, Seebeck 係数 S,電気伝導率 σ,電子熱伝導率 κe と ZT を,キャリア濃度 n の関数としてその場で計算します(式は §6〜§8,実装は §11). キャリアを増やすと |S| は下がり,σ と κe は上がる ―― 3 つの量が互いに邪魔をするので,ZT = S2σT/κ は山になります.

上の図「Seebeck 係数は下がり,電気伝導率は上がる」. 横軸はキャリア濃度 n(対数目盛)で,1017 cm−3 から,1022 cm−3 と η = 50 に対応する濃度の小さいほうまでを描きます(m* が小さく低温では,η = 50 でも 1022 cm−3 に届かないため). 青が |S|(左軸,μV/K.目盛の上限は表示範囲での |S| の最大値を 100 μV/K 単位で切り上げた値で,1000 μV/K で頭打ち), 赤が σ(右軸,S/cm,10−2 から 106 までの対数目盛)です. 背景の帯は,1017–1018 cm−3 が「軽くドープ」,1019–1020 cm−3 が「重くドープした半導体」(緑),1021–1022 cm−3 が「金属寄り」で,表示範囲に入る幅が 0.6 桁より狭い帯は名前を省きます. 灰色の点線は,操作欄で選んだ n の位置です.

下の図「だから性能指数は山になる」. 緑の太線が ZT(左軸),橙がパワーファクタ S2σ をその最大値で割って規格化したもの(右軸), 灰色の破線が κe/(κe + κL),つまり熱のうち電子が運ぶ割合(右軸)です. 緑の点が ZT の山の頂上(「ZT 最大」とその値),橙の点がパワーファクタの最大(「PF 最大」)で,緑の帯は 1019–1020 cm−3 です.

操作欄.

操作欄の式の囲みは式 (1) と,κe = LσT(Wiedemann–Franz 則,式 (40))です. L は縮退の度合いで変わる Lorenz 数で,音響フォノン散乱では非縮退で 1.49×10−8 W Ω K−2,縮退で 2.44×10−8 W Ω K−2 です. 金属の定数 L0 = 2.44×10−8 W Ω K−2 はその縮退極限にあたります(式 (41),§8 の「誤解 4」).

読み取り値. 「選んだ n での値」として,キャリア濃度 n,還元 Fermi 準位 η,S(符号つき),移動度 μ(式 (34)),σ,パワーファクタ(μW/cmK2),Lorenz 数 L,κe と κL,ZT を, 「山の頂上」として,最適キャリア濃度 nopt,ZT の最大値,そのときの S,パワーファクタが最大になる n(ZT の山より高濃度側なら,その旨を添える),品質因子 B(式 (39))を表示します. 例えば室温用プリセットのまま(p 型)では,選んだ n = 3.15×1019 cm−3 で η = 0.29,S = +187.6 μV/K,ZT = 0.970, 山の頂上は nopt = 1.58×1019 cm−3,ZT の最大値 1.098,S = +242 μV/K,パワーファクタの最大は 4.29×1019 cm−3,B = 0.442 です.

ひとことの欄と,図から読み取ること. 「ひとこと」は,ZT の山の頂上の n が 1019–1020 cm−3 の範囲にあるか,それより高濃度側か低濃度側かと,パワーファクタの山の位置(ZT の山より高濃度側か)を短く知らせます.以下は,その背景として図から読み取ってほしいことです. m* が大きく B が小さい材料では頂上は 1021 cm−3 近くまで上がり,m* が小さい材料や B が大きい材料では低濃度側へ動きます(§7.3). 図の左側(キャリアが少ない)では S は大きいが σ がほとんどなく,右側(金属に近い)では σ は大きいが S が消え,しかも κe が増えて熱も漏れます. 絶縁体でも金属でもない「重くドープした半導体」がいちばん良いのは,この綱引きの結果です(§7.3). また,パワーファクタ S2σ(橙)の山は ZT(緑)の山より高濃度側にずれます. κe が n とともに増えるぶん,ZT の山は低濃度側へ押し戻されるからです(§6.5 の「誤解 3」).

A.4 ③ 山の高さと位置 ― 品質因子 B

材料パラメーターを 1 つ選んで 4 通りに変え,ZT の山がどう動くかを重ねて描くタブです. 背景にある主張は §7 の「ZT の山の高さと,η で測った位置は,品質因子 B だけで決まる」です.

図と表. 図「ZT の山はどう動くか」は,横軸がキャリア濃度(1017–1022 cm−3,対数目盛),縦軸が ZT で,4 本の曲線とそれぞれの頂上の点を描きます(緑の帯は 1019–1020 cm−3). 図の下の表「山の頂上の比較」には,条件ごとに B,ZT の最大値,nopt,頂上での |S| を並べます. 操作欄の式の囲みは式 (39) の品質因子(Chasmar–Stratton の材料因子にさかのぼる)です.

操作欄. 「動かすパラメーター」で次の 5 つから選び,その下の材料パラメーター(②と同じプリセット・型・スライダー.n のスライダーはない)を基準にします. 4 本の曲線は,基準の値に表の倍率をかけたものです.

選択肢ごとに図から読み取ること.「ひとこと」には,次の各項目の太字の 1 文と短い補足だけが出ます.

A.5 ④ κ を下げる(PGEC)

多結晶の粒を小さくしていくと,ZT の最大値がどう変わるかを描くタブです.考え方は §9,計算に使う式は §11 の式 (62) です.

PGEC(Phonon Glass, Electron Crystal) フォノンにとってはガラスのように乱れていて,電子にとっては結晶のように整っている材料が理想です(Slack,参考文献 8). 熱電材料が使う 1019–1020 cm−3 のキャリア濃度では,フォノンの平均自由行程は電子より長いことが多いので,その中間の大きさの界面を入れれば,熱だけを選んで止められる. ただし,どれだけ乱しても κL は非晶質(ガラス)程度の値 κmin より下がりにくい(最小熱伝導率,§9.3 の式 (46),参考文献 6).

図「粒を小さくすると,熱が先に止まる」. 横軸は粒径 d(対数目盛,5 nm から 1 mm)です. 緑の太線は,各粒径で最適なキャリア濃度をとったときの ZT の最大値(左軸)で,粒径を 91 点で走査して描きます. 青緑の破線は κL を元の値(操作欄の κL)で割ったもの,赤の点線は μ0 を元の値で割ったもの(どちらも右軸「バルクに対する比」)です. 灰色の点線と緑の点が,操作欄で選んだ粒径とそこでの ZT の最大値です.

操作欄.

読み取り値. 選んだ粒径での κL(元の何 % か),μ0(元の何 % か),ZT の最大値, 比較の基準として粒径 1 mm(合金化の効果だけを含む)での ZT の最大値,その比の「向上率」,そしてこのモデルで ZT が最大になる粒径(91 点の中の最大)とその ZT を表示します. 既定値では ZT が最大になる粒径は「11 nm(ZT 1.63)」と表示されます(表 4,§9.2).

ひとことの欄と,図から読み取ること. 粒径が Λph 程度まで小さくなると,フォノンは粒界で散乱されて κL が下がります. 「ひとこと」は,設定が次の 4 つの場合のどれにあたるかを短く知らせます.それぞれの場合の意味は次のとおりです.

灰色近似の注意 ④の粒径依存性は,平均自由行程を 1 つの値で代表させる灰色近似に,非晶質極限 κmin の下限を加えただけのものです. 実際のフォノンの平均自由行程は nm から μm まで広く分布していて,1 つの Λ で代表させると効果を大きく見積もりがちです(§9.3 の「誤解 6」). また固溶体化(質量のゆらぎ)は主に短波長のフォノンを,ナノ析出物は中波長を,④で動かしている粒界は長波長を散乱するので, 大きさの違う散乱体を階層的に組み合わせると効きます(参考文献 13). 第 10 回(熱的性質)で見たフォノンによる熱伝導を,ここでは「どう止めるか」の側から見ています.

A.6 ⑤ 変換効率と冷却

材料の平均 ZT が分かったとき,素子にしてどれだけの効率が出るかを描くタブです.式は §10 の式 (55)(発電)と式 (59)(冷却)で,定物性モデルによる理想的な上限です. 操作欄の式の囲みは式 (55) で,第 1 因子が Carnot 効率,第 2 因子が材料で決まる割合です. この η は変換効率で,②の還元 Fermi 準位 η とは別の量です(記号の約束の囲み). 横軸の「平均 ZT」は §10 の ZT̄ = Z(Th + Tc)/2 にあたります.

上の図「発電」.横軸は平均 ZT(0–4),縦軸は最大発電効率(%)で,青の曲線が式 (55),赤の破線が Carnot 効率 (Th − Tc)/Th です.青の点が操作欄で選んだ ZT での効率です.
下の図「冷却(ペルチェ)」.低温側を Tc に,高温側(放熱側)を Th に保って熱を汲み上げるときの最大成績係数 COP で,青緑の曲線が式 (59),赤の破線が Carnot の成績係数 Tc/(Th − Tc) です. 発電と冷却で同じ Th, Tc を使います. √(1 + ZT) ≦ Th/Tc ではその温度差は作れないので(§10.6),曲線はその ZT より右だけに描かれ,いまの ZT で作れなければ点の代わりに「いまの ZT ではこの温度差は作れません(必要な ZT = …)」と表示します. 必要な ZT = (Th/Tc)2 − 1 が横軸の範囲 4 を超えるときは,曲線そのものが描かれず,その旨を表示します.

操作欄. 高温側 Th(320–1300 K,既定 800 K),低温側 Tc(200–700 K,既定 300 K.Th より 10 K 以上低く保つ),材料の平均 ZT(0–4,既定 1). 3 つのボタンは用途の例で,「排熱発電」が 800 K/300 K,ZT = 1.0,「ペルチェ冷却」が 300 K/270 K,ZT = 1.0,「宇宙機 RTG」が 1275 K/575 K,ZT = 0.8 です.
読み取り値.発電では Carnot 効率,熱電発電の最大効率,Carnot に対する割合を,冷却では Carnot の COP,熱電冷却の最大 COP(作れない温度差ならそう表示),この ΔT を作るのに必要な最低 ZT を表示します. 例えば既定値(800 K/300 K,ZT = 1)では最大効率 14.47 %(Carnot 62.5 % の 23.2 %,表 5),「ペルチェ冷却」では COP 1.130(Carnot 9.00)で必要な最低 ZT は 0.23,「宇宙機 RTG」では 10.46 %(Carnot の 19.1 %)です.

ひとことの欄と,図から読み取ること. 「ひとこと」は,いまの ZT での発電効率の上限と Carnot 効率に対する割合,冷却の最大 COP(その温度差が作れないときはその旨)を知らせます. ZT = 1 でも発電効率は Carnot の 2 割程度(温度によって変わる)にとどまり,ZT → ∞ で初めて Carnot 効率に達します. 実用の目安が ZT ≳ 1,既存の熱機関や冷凍機と効率で競うには ZT ≳ 2–3 が必要といわれるのはこのためです. しかもこれは理想的な上限で,実際のモジュールでは電極の接触抵抗や熱の漏れがあるので,これより低くなります(§10 の「誤解 7」). それでも熱電変換が使われるのは,可動部がなく,静かで,壊れにくいからです. 原子力電池(RTG)で数十年動き続ける惑星探査機や,振動を嫌うレーザーの温度制御がその例です. 冷却では,温度差 ΔT を大きくとるほど COP が下がり,√(1 + ZT) < Th/Tc になるとその温度差は原理的に作れません(§10.6).

A.7 ⑥ 実材料の使いどころ

代表的な熱電材料の系について,使用温度域と ZT の目安を横棒で並べるタブです. 図「材料系ごとの使用温度域と ZT の目安(教科書レベル)」の横軸は温度(200–1300 K)で,上端の帯は「冷却・室温」(250–400 K),「排熱(中温)」(500–850 K),「高温・宇宙」(900–1300 K)の目安です. 操作欄の「注目する材料系」で選んだ系の棒が濃く描かれ,図の下の表「材料系の比較」の行が強調され,「ひとこと」にその系の解説が出ます(最初は酸化物). 表の内容は表 A3 のとおりです.

表 A3 ⑥の材料系の比較(数値は目安.詳細は原著論文を参照)
材料系温度域ZT の目安主な用途長所短所
Bi2Te3 系200–450 K≈ 1ペルチェ冷却,室温付近の小型発電室温で最も実績があるTe が希少・高価
Mg2Si・Mg3Sb2 系450–800 K≈ 1–1.5中温の排熱発電資源が豊富・軽い酸化しやすい
PbTe 系500–850 K≈ 1–2中温の排熱発電・宇宙機中温で高い ZTPb が有害,Te が希少
スクッテルダイト(CoSb3 系)500–850 K≈ 1–1.5中温の排熱発電かごに詰めたゲスト原子のラットリングで κL が低いSb の毒性・資源量
SiGe900–1300 K≈ 1原子力電池(RTG)高温で安定Ge が高価
酸化物(Ca3Co4O9,SrTiO3 系など)700–1100 K≈ 0.2–0.5大気中の高温排熱大気中で安定・無害・資源豊富ZT が低い(移動度が低い)

材料系ごとの解説.「ひとこと」には,各項目の最初の 1 文にあたる要点だけが出ます.

この表の数値について 温度範囲と ZT は教科書レベルの目安です.同じ系でも組成・ドープ・作製法によって大きく変わり,論文ごとに幅があります. 特定の値を引用するときは,必ず原著論文を確認してください.
材料選択は ZT だけでは決まらない 使用温度,大気中で安定か,毒性,資源量,コスト,機械的強度,モジュールにしたときの接合 ―― 第 9 回の合成・焼結で見た「どう作るか」の制約もここで効きます(本文の表 6 の焼結の解説も参照).

A.8 計算のモデルと注意

シミュレーターの図と数値は,すべてページの JavaScript がその場で計算したもので,あらかじめ用意した曲線ではありません. ただしこのモデルは「傾向を理解するためのもの」で,特定の物質の ZT を定量予測するものではありません. 実装の詳細(η の走査,Fermi–Dirac 積分,輸送係数の式,山の頂上の取り方,③の温度の選択肢,④の式 (62),⑤の最低 ZT)は §11 にまとめたので,ここでは要点と,§11 に書いていないことだけを挙げます.

このモデルで言えないこと 実材料は複数の谷(バンド縮退),バンドの非放物線性,複数の散乱機構,少数キャリアの寄与(バイポーラ効果)をもちます. プリセットは桁の目安を与える教材用の値で,特定の物質の実測 ZT を再現するものではありません. ④の粒径依存性は灰色近似に κmin の下限を加えただけのもので(A.5),⑥の ZT は教科書レベルの目安で,組成や論文によって幅があります. 言えること・言えないことの全体は §11 の囲みを参照してください.

このページの数値は,本文中の式を,シミュレーターと同じコード(Fermi–Dirac 積分の Simpson 則)と,それとは独立に書いた計算(多重対数関数による Fermi–Dirac 積分と数値最適化)の両方で計算し,一致を確かめたものです. プリセットの材料パラメーターは桁の目安を与える教材用の値で,特定の物質の実測値ではありません.

対になるシミュレーター:熱電変換 ― なぜ最適キャリア濃度があるのか

  1. L. Onsager, “Reciprocal relations in irreversible processes. I.”, Phys. Rev. 37, 405 (1931). doi:10.1103/PhysRev.37.405, “Reciprocal relations in irreversible processes. II.”, Phys. Rev. 38, 2265 (1931). doi:10.1103/PhysRev.38.2265
  2. H. J. Goldsmid, R. W. Douglas, “The use of semiconductors in thermoelectric refrigeration”, Br. J. Appl. Phys. 5, 386 (1954). doi:10.1088/0508-3443/5/11/303
  3. A. F. Ioffe, Semiconductor Thermoelements and Thermoelectric Cooling, Infosearch (1957).―― 性能指数と素子の効率の古典.
  4. R. P. Chasmar, R. Stratton, “The thermoelectric figure of merit and its relation to thermoelectric generators”, J. Electron. Control 7, 52 (1959). doi:10.1080/00207215908937186.―― 品質因子 B の原型.
  5. M. Cutler, N. F. Mott, “Observation of Anderson localization in an electron gas”, Phys. Rev. 181, 1336 (1969). doi:10.1103/PhysRev.181.1336.―― σ(E) で書いた Mott の式.
  6. D. G. Cahill, S. K. Watson, R. O. Pohl, “Lower limit to the thermal conductivity of disordered crystals”, Phys. Rev. B 46, 6131 (1992). doi:10.1103/PhysRevB.46.6131
  7. L. D. Hicks, M. S. Dresselhaus, “Effect of quantum-well structures on the thermoelectric figure of merit”, Phys. Rev. B 47, 12727 (1993). doi:10.1103/PhysRevB.47.12727, “Thermoelectric figure of merit of a one-dimensional conductor”, Phys. Rev. B 47, 16631 (1993). doi:10.1103/PhysRevB.47.16631
  8. G. A. Slack, “New materials and performance limits for thermoelectric cooling”, in CRC Handbook of Thermoelectrics, D. M. Rowe (ed.), CRC Press (1995), p. 407.―― PGEC の提唱.
  9. G. J. Snyder, E. S. Toberer, “Complex thermoelectric materials”, Nat. Mater. 7, 105 (2008). doi:10.1038/nmat2090
  10. J. P. Heremans, V. Jovovic, E. S. Toberer, A. Saramat, K. Kurosaki, A. Charoenphakdee, S. Yamanaka, G. J. Snyder, “Enhancement of thermoelectric efficiency in PbTe by distortion of the electronic density of states”, Science 321, 554 (2008). doi:10.1126/science.1159725
  11. Y. Pei, X. Shi, A. LaLonde, H. Wang, L. Chen, G. J. Snyder, “Convergence of electronic bands for high performance bulk thermoelectrics”, Nature 473, 66 (2011). doi:10.1038/nature09996
  12. Y. Pei, H. Wang, G. J. Snyder, “Band engineering of thermoelectric materials”, Adv. Mater. 24, 6125 (2012). doi:10.1002/adma.201202919
  13. K. Biswas, J. He, I. D. Blum, C.-I Wu, T. P. Hogan, D. N. Seidman, V. P. Dravid, M. G. Kanatzidis, “High-performance bulk thermoelectrics with all-scale hierarchical architectures”, Nature 489, 414 (2012). doi:10.1038/nature11439
  14. H.-S. Kim, Z. M. Gibbs, Y. Tang, H. Wang, G. J. Snyder, “Characterization of Lorenz number with Seebeck coefficient measurement”, APL Mater. 3, 041506 (2015). doi:10.1063/1.4908244
  15. H. J. Goldsmid, Introduction to Thermoelectricity, 2nd ed., Springer (2016).
  16. H. Tamaki, H. K. Sato, T. Kanno, “Isotropic conduction network and defect chemistry in Mg3+δSb2-based layered Zintl compounds with high thermoelectric performance”, Adv. Mater. 28, 10182 (2016). doi:10.1002/adma.201603955
  17. 日本セラミックス協会 編『よくわかる無機材料化学』(森北出版,2026)5-3 節「熱電変換」,p. 96–98.―― 「無機材料学」第 12 回の指定教科書.