理想気体はどこから来るのか

高校で PV = nRT を習うとき,この式は「そういうものだ」として与えられます. ここでは箱の中を飛び回る分子 1 個 1 個から出発して,圧力・温度・ 内部エネルギー・エンタルピー・エントロピー・比熱を,順番に組み立てます. 途中で必要になるのは,力学と,数を数えることだけです.

0. 設定

体積 V の箱に,質量 m の分子が N 個入っているとします. 「理想気体」と呼ぶとき,私たちは次の 2 つを捨てています.

捨てたものは,あとで戻せます 1 つめを戻すと状態方程式に排除体積の項(van der Waals の b)が, 2 つめを戻すと引力の項(同じく a)が付きます. シミュレーターでは分子を「見えるように」大きく描いて衝突させているので, 測った圧力が nRT/V より 1 % ほど高く出ます. それがまさに 1 つめを戻したときの効き方です.
画面の点は「代表粒子」です シミュレーターが描く点は 30〜5000 個で,読み取り値に出る分子数 N (1 L・1 気圧・300 K なら 2.4×1022 個)そのものではありません. ただし点の数は N に比例させ,箱の大きさも体積の 3 乗根に比例させてあるので, T・P・V・n のどれを動かしても画面の混み具合は本当の数密度 N/V どおりになります. 測った圧力も,代表粒子が壁に与えた力積を N/(点の数)倍してから面積と時間で割っています. 点の数が上限・下限に張り付いたときだけこの比例が崩れるので,その旨がつまみの横に出ます.

ただし「力を及ぼし合わない」を文字どおり受け取ると,分子はいつまでも初めの速度のままで, 平衡状態にたどり着けません.実際にはごくたまに衝突してエネルギーをやりとりするけれども, その衝突が状態方程式には効かないほどまれである,というのが正しい言い方です.

1. まず結論(30 秒版)

この先で作るもの ① 壁への力積を数えると PV = NkBT が出る.
② 温度とは,分子 1 個あたりの並進運動エネルギーそのもの.
③ 分配関数 z を書き下すと,U・S・P がすべて機械的に出てくる.
④ エントロピーには絶対値がある(Sackur–Tetrode).N₂・O₂・CO₂ では実測と 0.02 J/(mol·K) 以内で合う(§10).
⑤ CP − CV = R は,定圧では気体が押しのける仕事の分だけ 余計に熱が要る,という意味.

2. 圧力は「壁を叩く力積」― 分子運動論

一辺 L の立方体を考え,x 軸に垂直な右の壁に注目します. 速度の x 成分が vx の分子がこの壁で跳ね返ると, 運動量の x 成分は mvx から −mvx に変わります. 壁が受け取る力積は,その反作用で

Δp=2mvx

です.この分子が次に同じ壁を叩くまでには,箱を往復する必要があるので Δt=2L/vx かかります.したがってこの分子 1 個が壁に与える平均の力は

F‾= ΔpΔt = 2mvx 2L/vx = mvx2L

N 個ぶん足して壁の面積 L² で割ると圧力になります. 平均を ⟨…⟩ で書けば

P= Nm⟨vx2⟩ L3 = Nm⟨vx2⟩V

気体には向きの区別がない(等方的である)ので, ⟨vx2⟩= ⟨vy2⟩= ⟨vz2⟩ であり,3 つを足すと ⟨v2⟩ になります.つまり ⟨vx2⟩= ⟨v2⟩/3. これを入れると

PV= 13Nm ⟨v2⟩ = 23N ⟨ε並進⟩ (2.1)

ここで ⟨ε並進⟩= 12m⟨v2⟩ は分子 1 個あたりの並進運動エネルギーです.

ここまでに使った仮定 力学(運動量保存)と,等方性だけです.量子力学も,統計力学も,まだ使っていません. それでも PV が「分子 1 個あたりのエネルギー × 個数」に比例するという, 状態方程式の骨格がもう出ています.

3. 温度の正体と Maxwell 分布

実験から分かっている PV = NkBT と (2.1) を見比べると, 温度が何であるかが読み取れます.

⟨ε並進⟩ = 12m⟨v2⟩ = 32kBT (3.1)

温度計が測っているのは,分子 1 個あたりの並進運動エネルギーだった,ということです. 3 という数字は x, y, z の 3 方向から来ていて, 1 つの自由度あたり (1/2)kBT ずつ配られています.これが等分配則です.

(3.1) は平均だけを言っています.個々の分子の速さがどう散らばっているかは, 正準分布(エネルギー ε の状態が e−ε/kBT に比例して現れる)から出ます. 速度空間で e−mv2/2kBT に,半径 v の球殻の面積 4πv² を掛けて

f(v)= 4π (m2πkBT) 3/2 v2 e− mv2/2kBT (3.2)

この分布から 3 つの代表的な速さが出ます.小さい順に並びます.

名前定義値N₂ の 300 K での値
最確速さ vpf(v) が最大になる v 2kBT/m 422 m/s
平均速さ v̄∫v f(v)dv 8kBT/πm 476 m/s
二乗平均速さ vrms√⟨v²⟩(圧力に効くのはこれ) 3kBT/m 517 m/s
分布は「外から与えるもの」ではありません シミュレーターの①で「全員を同じ速さにする」を押すと,はじめは全分子が同じ速さ(棒 1 本)です. ところが分子どうしの弾性衝突を繰り返すだけで,箱を数回横切るあいだに (3.2) の形へ落ち着きます. エネルギーは 1 J も出入りしていないのに,速い分子と遅い分子が生まれる. 平衡分布は衝突が勝手に作る,というのが統計力学の出発点です.

4. 分配関数 ― 状態量を出す機械

ここから先は,1 本の関数を書き下すだけで,U も S も P も機械的に出てきます. 1 個の分子が取りうる状態 i(エネルギー εi)について

z=∑i e− εi/kBT (4.1)

を分子分配関数と呼びます.分子どうしが力を及ぼし合わないので, 系全体の分配関数は 1 個ぶんの積になります.ただし分子は区別できないので, 同じ配置を数え過ぎたぶんを N! で割ります.

Z=zNN! (4.2)
記号の約束 小文字の z が分子 1 個ぶん,大文字の Z が系全体の分配関数です. 同じ使い分けを エントロピーの導出でも使っています. 比熱の導出のほうは 1 個ぶんと全体を分ける必要がないので,Z だけで通しています.
この N! を落とすと何が起きるか エントロピーが示量的でなくなります.同じ気体を 2 つ並べて仕切りを抜いただけなのに エントロピーが増えてしまう(Gibbs のパラドックス). N! は単なる補正係数ではなく,同種の粒子は原理的に区別できないという 量子力学の性質が,古典的な式に顔を出したものです.

Helmholtz の自由エネルギーは A = −kBT ln Z です. Stirling の近似 ln N! ≈ N ln N − N を使うと

A= −NkBT [ln⁡ zN+1] (4.3)

あとは熱力学の関係式を当てはめるだけです.

U= kBT2 (∂ln⁡Z∂T)V =NkBT2 ∂ln⁡z∂T S= − (∂A∂T)V =NkB [ln⁡zN+1] +UT P= − (∂A∂V)T (4.4)

5. PV = NkBT を統計力学から出し直す

並進運動の分配関数を作ります.一辺 L の箱に閉じ込められた粒子のエネルギー準位は, 量子力学(井戸型ポテンシャル)から εn= n2h2 /8mL2 です.準位の間隔は室温では極端に細かいので,和を積分に置き換えられます. 3 方向ぶん掛けると

z並進= VΛ3 , Λ= h2πmkBT (5.1)

Λ は熱的 de Broglie 波長で,「その温度で動き回っている分子の,量子力学的な広がり」です. N₂ の 300 K での値は 19 pm ほど. z並進 = V/Λ³ は,箱の中に分子の「居場所」がいくつあるかを数えた個数だと読めます.

ここで V が入っているのは z並進 だけです(回転も振動も箱の大きさには関係しません). だから (4.3) と (4.4) から圧力を出すと

P= − ∂A∂V = NkBT ∂ln⁡V∂V = NkBTV (5.2)
同じ式に,2 つの道から着きました §2 では壁への力積を数えて,§5 では分配関数を微分して,どちらも PV = NkBT = nRT に着きました. しかも (5.2) の途中に現れたのは V の対数微分だけで, 分子の質量も,回転するかどうかも,まったく効いていません. どんな理想気体でも状態方程式が同じなのは,このためです.

6. 内部エネルギーと比熱 ― 等分配則が破れるところ

分子は動くだけでなく,回ったり,原子どうしがばねのように伸び縮みしたりします. これらは互いに独立なので,分配関数は掛け算に分かれます.

z= z並進 z回転 z振動 z電子 (6.1)

ln z は和に分かれるので,(4.4) の U も比熱もそれぞれの足し算になります. 直線分子の回転と,1 本のばねの振動については

z回転= 1σ ∑J=0∞ (2J+1) e− J(J+1) θr/T (θr= ħ22IkB) z振動= 11− e− θv/T (θv= hνkB) (6.2)

θr・θv は特性温度と呼ばれ, 「その運動を目覚めさせるのに必要な温度」を表します.σ は対称数で, 分子を回して自分自身に重なる向きの数(N₂ や O₂ のような等核二原子分子では 2)です.

温度が特性温度よりずっと高ければ,和は積分で置き換えられて z回転≈T /σθr となり,U回転 = NkBT(自由度 2 ぶん)が出ます. 逆に温度が特性温度よりずっと低いと,和の第 1 項しか残らず z は定数になって,U に寄与しなくなります.これが凍結です.

CV,振動 =R (θvT)2 eθv/T (eθv/T−1)2 Einstein の比熱の式.T ≫ θv で R に,T ≪ θv で 0 に向かう
ここが古典物理学の限界でした 古典力学だけで考えると,回転にも振動にも等分配則が働くはずで, 二原子分子の CV は温度によらず (7/2)R のはずです. ところが実測は室温で (5/2)R.19 世紀の物理学者を悩ませたこの食い違いは, エネルギーが飛び飛びであることを認めて初めて解けました. kBT が準位の間隔より小さいと,その運動は励起できずに眠ったままになるのです.

図 1. 定積モル比熱 CV/R の温度変化. 下から順に 並進(つねに 3/2), 回転, 振動 の寄与を積み上げてあります. 縦の点線が特性温度 θr・θv の位置で, そこを境に階段が 1 段ずつ上がることを確かめてください.

気体θr [K]θv [K] 298 K の CV/Rγ室温で目覚めている運動
He, Ne, Ar——1.5001.667並進のみ(3 自由度)
H₂85.459872.5021.400並進 + 回転
N₂2.8633522.5021.400並進 + 回転
O₂2.0722392.5311.395並進 + 回転(振動が少し)
CO₂0.56960 (×2), 1918, 33803.4671.288並進 + 回転 + 変角振動

CV/R と γ の列は,実測値ではなく (6.1)–(6.2) にこのページの分光定数を入れ,(4.4) から出した計算値です. H₂ だけは §10 のとおり実測とわずかにずれ,実測の CP = 28.84 J/(mol·K) から逆算すると CV/R ≒ 2.469,γ ≒ 1.405 になります.

CO₂ が (5/2)R でも (7/2)R でもない半端な値になるのは, 変角振動の特性温度が 960 K と低く,室温ですでに半分ほど目覚めているからです. 「自由度の数」で比熱を数える古典的なやり方が通じない,よい例になっています.

7. エントロピー ― Sackur–Tetrode の式

(4.4) に z並進 = V/Λ³ と U = (3/2)NkBT を入れます. 単原子気体なら回転も振動もないので,これだけで終わりです.

S=NkB [ ln⁡ (VNΛ3) +52 ] (7.1)

これが Sackur–Tetrode の式です.中身は V/(NΛ³) ―― すなわち 1 個の分子が使える体積が,その分子の量子力学的な広がりの何倍あるかの対数です. 広い部屋にまばらに置かれるほど,状態の数が増え,エントロピーが大きくなります.

この式には調整できるパラメーターが 1 つもありません 分子の質量と,V, N, T だけで決まります.それでいて アルゴンの 298.15 K・1 bar での値は 154.85 J/(mol·K) と出て, NIST-JANAF 熱化学表の 154.85 J/(mol·K) と一致します. ただし単原子気体についてはこの表の値そのものが (7.1) から作られているので, 小数第 2 位まで合うのは出来すぎです.低温から比熱を積分して求める熱測定の値とは, その実験誤差(〜0.1 J/(mol·K))の範囲で合います. §10 の表に 7 種類ぶんの突き合わせを載せました.

回転や振動があるときは,(6.1) の残りが加わるだけです.

S=NkB [ln⁡ z並進N +1 +ln⁡ (z回転 z振動 z電子) ] +UT (7.2)

N! が効いているのは z並進/N の N だけです. 回転や振動は分子の内部の話なので,「区別できない」ことの補正を受けません.

(7.1) から,教科書でおなじみの変化量もすぐ出ます.T を止めて V だけ 2 倍にすると

ΔS=nRln⁡2 =5.763n J/K

温度だけを変えるときは,対数項の中の Λ³ ∝ T−3/2 (定圧ではさらに V ∝ T)という温度依存性から,まず単原子気体について ΔS = n(3/2)R ln(T₂/T₁)(定積), ΔS = n(5/2)R ln(T₂/T₁)(定圧)が出ます. 回転や振動があるときは (7.2) の内部自由度の項からの寄与も加わり, そのぶんを含めた CV,m,CP,m を使って ΔS = nCV,m ln(T₂/T₁)(定積), ΔS = nCP,m ln(T₂/T₁)(定圧)と同じ形になります. シミュレーターの②は ΔS を (7.2) から直接計算していますが, 単原子気体のように CV,m が温度によらない範囲では, これらの ln の式と小数点以下 6 桁まで一致します. ただし回転や振動が目覚めていく途中の温度域では CV,m 自体が温度で動くので, 正しくは ΔS = n∫CV,mdT/T(定積), ΔS = n∫CP,mdT/T(定圧)です. CO₂ のように室温で振動が目覚めかけている気体を大きく温めると ln の式からずれますが, (7.2) から直接出した値のほうがつねに正しい値です.

8. エンタルピーと CP − CV = R

気体を温めるとき,体積を止めておくか,圧力を止めておくかで必要な熱が変わります. 第一法則を,気体がした仕事を W として書きます.

ΔU=Q−W , W=∫PdV (8.1)

定積では dV = 0 なので W = 0.加えた熱がそのまま内部エネルギーになります.

QV=ΔU , CV= (∂U∂T)V

定圧では,温めるとピストンが押し出されて W = PΔV の仕事をします. その分だけ余計に熱を入れなければなりません.この「余計な分」を式に組み込んでしまったのが エンタルピーです.

H≡U+PV ⟹ QP=ΔH , CP= (∂H∂T)P (8.2)

エンタルピーは「エネルギーの一種」というより, 定圧で出入りした熱をそのまま読める帳簿として作られた量です. 化学反応の熱を ΔH で表すのは,実験がたいてい大気圧のもとで行われるからです.

理想気体では PV = nRT なので,H = U + nRT.両辺を T で微分すると

CP−CV=nR すなわち CP,m− CV,m=R (8.3)
R はどこから来たのか ΔT だけ温めたときの余分な仕事は PΔV = nRΔT です. つまり (8.3) の右辺の R は,1 mol を 1 K 温めるときの押しのけ仕事そのもの. 分子の種類にも,回転するかどうかにも寄らないのは, §5 で見たとおり状態方程式が分子の中身を知らないからです. シミュレーターの②で「同じ ΔT に要る熱を比べる」の 4 行を見ると, QP − QV と nRΔT が桁までそろって出ます.

9. 古典近似が成り立つ条件

ここまでの話は,(5.1) で「和を積分に置き換えた」ところで古典近似に踏み込んでいます. それが許されるのは,分子の量子力学的な広がり Λ が,分子どうしの間隔よりずっと小さいときです.

Λ≪ (VN) 1/3 すなわち NΛ3V≪1 (9.1)
気体・状態(1 気圧)Λ [pm]平均間隔 [pm] Λ/間隔判定
N₂ 300 K(室温の空気)19.034500.0055古典近似で十分
Ar 300 K15.934500.0046古典近似で十分
N₂ 77.4 K(沸点)37.521900.017まだ大丈夫
H₂ 20.3 K(沸点)27314000.19怪しい
He 4.22 K(沸点)4258320.51古典近似は破綻

ヘリウムはその沸点で Λ が分子間隔の半分にもなります. ここでは分子を「区別できない粒子」として正しく数え直す必要があり, 実際に液体ヘリウムは超流動という古典物理学では説明できない振る舞いを見せます.

Sackur–Tetrode は絶対零度まで使えません (7.1) で T → 0 とすると Λ → ∞ なので,S は −∞ に発散します. エントロピーが負になるのは明らかにおかしい(第三法則に反する). これは式の間違いではなく,(9.1) を満たさない領域に式を持ち込んだことの罰です. 実際には,そうなる前に気体は液体や固体に変わってしまいます. シミュレーターでこの領域に入ると,警告が出るようにしてあります.

10. 数値で確かめる

ここまでの式が本当に正しいかを,実測値と突き合わせます. 下の「計算」欄は,このページとシミュレーターが使っているのとまったく同じコードで, 分子の質量と分光定数(回転定数 B₀ と基準振動数)だけから出した値です. 「実測」は NIST-JANAF 熱化学表の値です. ただし単原子の 3 行は §7 で断ったとおり循環的な比較で,実質的な検証になるのは分子種の行です.

気体S°(298.15 K, 1 bar) [J/(mol·K)] CP°(298.15 K) [J/(mol·K)]
計算実測差 計算実測差
He126.15126.150.00 20.7920.790.00
Ne146.33146.330.00 20.7920.790.00
Ar154.85154.850.00 20.7920.790.00
N₂191.63191.61+0.02 29.1129.12−0.01
O₂205.15205.150.00 29.3629.38−0.02
CO₂213.79213.78+0.01 37.1437.13+0.01
H₂130.54130.68−0.14 29.1228.84+0.28
H₂ だけ少しずれます 水素の θr は 85 K もあり,298 K は「T ≫ θr」とは言い切れません. さらに水素では,核スピンの向きによって回転量子数 J が偶数のもの(パラ水素)と 奇数のもの(オルト水素)に分かれ,対称数 σ = 2 でまとめて扱うことができません. 0.14 J/(mol·K) というずれの主な出どころは,この核スピン統計を σ = 2 でひとまとめにした扱いであって, 数値計算の誤差ではありません(残りには非剛体回転や振動の非調和性も少し混じります). 循環にならない他の 3 つの分子種(N₂・O₂・CO₂)が 0.02 以内で合っていることが, その裏返しの証拠になっています.

状態方程式そのものも確かめておきます.標準モル体積は

状態Vm = RT/P の計算文献値
273.15 K, 101325 Pa(旧 STP)22.4140 L/mol22.4140 L/mol
273.15 K, 100000 Pa(現 STP)22.7110 L/mol22.7110 L/mol

そしてシミュレーターの①では,nRT/V をいっさい使わずに, 壁への力積だけを数えて圧力を出しています.分子を点とみなす(衝突を切る)と 両者は時間平均が進むにつれて同じ値へ近づき(有限個の衝突を平均しているので,表示値は数 % のあいだで揺れ続けます), 分子に大きさを持たせると,その揺れの中心が 1 % ほど高い側へずれます. 後者のずれは剛体球の第 2 ビリアル係数から来る補正でよく説明できます.圧縮因子は Z≈1+4η (η は充填率)となり,充填率がわずか 0.25 % ほどでも 1 % の超過になります. ここでの Z は圧縮因子 PV/NkBT で,4 節の分配関数 Z とは別の量です (どちらも慣用の記号なので,ここだけ重なります).

11. まとめ

量統計力学での姿意味
T2⟨ε並進⟩/(3kB)分子 1 個あたりの並進運動エネルギー
P−(∂A/∂V)T壁が単位時間・単位面積あたりに受け取る力積
UkBT²(∂lnZ/∂T)V目覚めている自由度それぞれに (1/2)kBT
SNkB[ln(z/N) + 1] + U/Tその状態で取りうる場合の数の対数
HU + PV定圧で出入りした熱を直接読むための帳簿
CV(∂U/∂T)V目覚めている自由度の数を測る道具
CPCV + nRそれに 1 K あたりの押しのけ仕事 nR を足したもの
3 行でいうと ① 圧力とは,分子が壁を叩く力積の平均である.
② 温度とは,分子 1 個あたりの並進運動エネルギーである.
③ 分配関数を 1 本書けば,あとの状態量はすべて微分で出てくる.

物理定数は 2019 年の SI 定義値(kB = 1.380649×10−23 J/K, h = 6.62607015×10−34 J·s,NA = 6.02214076×1023 mol−1)を, 分光定数は基底振動状態の値(B₀ と基本振動数 ν₀)を使っています. 比較に用いた実測値は NIST-JANAF 熱化学表によります.