― SU(2)・SO(3) から SO(10) まで.ジョージアイ『物理学におけるリー代数』への道案内
素粒子物理の教科書には,SU(3)×SU(2)×U(1),SO(10),E8 と, まるで呪文のような記号が並んでいます.でもこの名前たちは,実は読めるのです. ―― 大文字の記号は「どんな量を保存する変換の集まりか」, 数字は「行列のサイズ」. たったこれだけの読み方を覚えると,標準模型のゲージ群も,水素原子の偶然縮退も, 大統一理論も,同じ一つの文法で書かれた文章として読めるようになります.
このページは,ジョージアイ『物理学におけるリー代数』を読み進めるための地図です. 細部の証明は教科書に任せ,話の背骨だけを一本道で通します. 手を動かして確かめたいところには, 対になるシミュレーター(liegroup-simulator.html)を随時ご案内します.
いくつかの変換を集めて,(i) 続けて行った変換も仲間にいる(閉じている), (ii)「何もしない」変換がいる(単位元), (iii) どの変換にも逆向きがいる(逆元)―― この条件を満たす集まりが群です. 回転を 2 回続ければやはり回転,戻す回転も回転. 「対称性」を数学の言葉にすると,自動的に群が出てきます. そして物理に出てくる群の名前は,その変換が何を保存するかでつけられています.
n 次元の実ベクトルを x → Ox と変換したとき, 長さの 2 乗 xTx が変わらないことを要求します:
これが直交群 O(n) です.両辺の行列式を取ると (det O)2 = 1, つまり det O = ±1. det = −1 の側は鏡映(裏返し)を含みます. det = +1 の側だけを集めたのが SO(n)(S は special=行列式 1 の意味)―― 裏返しなしの純粋な回転の群です.
自由度(=群の次元)を数えます. 条件 OTO = 1 の左辺は対称行列なので, 独立な条件式は n(n + 1)/2 本. n2 個の成分から引くと
直観的には,回転は「どの座標平面 (xi, xj) の中で回すか」の選び方ごとに 1 つずつあり,その数が n(n−1)/2 だから,と読めます. SO(2) は 1(回転角 1 つ),SO(3) は 3(オイラー角),SO(4) は 6,そして SO(10) は 45 です. この数はあとで「ゲージ粒子の数」として物理に登場します(§7).
量子力学の状態は複素ベクトル ψ で, 内積 ψ†ψ は確率の総和です. これを保存する変換 ψ → Uψ の条件は,(1) とまったく同じ論法で
これがユニタリ群 U(n).量子力学の対称性が実群でなくユニタリ群で語られるのは, 守るべきものが確率だからです. 自由度は:複素 n2 成分=実 2n2 個に対し, U†U = 1 は エルミート行列どうしの等式なので実 n2 本の条件. 差し引き n2. ユニタリ性から det U = eiφ(絶対値 1)なので, det = 1 を課すと位相 1 つ分だけ減って
SU(2) は 3,SU(3) は 8,SU(5) は 24. 「グルーオンが 8 色」の 8 は,まさにこの 32 − 1 です.
古典力学の位相空間 (q1, …, qn, p1, …, pn) には, 長さでも複素内積でもない第三の基本量――反対称な双 1 次形式 ω(x, y) = xTJy ――があります.これは q-p 平面に射影した「面積」の和で,これを守るのがシンプレクティック群です:
次元は n(2n + 1) (導出は §2 で).正準変換・リウヴィルの定理との関係は §7 で戻ってきます.
U(n) の行列は,全体にかかる位相因子 eiθ(これが U(1),1×1 のユニタリ群)と, det = 1 の部分 SU(n) に,ほぼ分解できます.「ほぼ」というのは, e2πik/n·1 という n 個の行列が両方に属して二重に数えられるためで,正確には U(n) ≅ (SU(n)×U(1))/Zn となります. 物理では全体位相の U(1) は電荷やハイパーチャージといった別の保存量として独立に扱うのが便利なので, 標準模型のゲージ群も SU(3)×SU(2)×U(1) という「S 付き × U(1)」の形に書かれるわけです.
| 記号 | 保存するもの | 定義条件 | 実次元 | 例 |
|---|---|---|---|---|
| SO(n) | 実ベクトルの長さ xTx(と向き) | OTO = 1,det = 1 | n(n − 1)/2 | SO(3) = 3,SO(10) = 45 |
| SU(n) | 複素内積 ψ†ψ(確率) | U†U = 1,det = 1 | n2 − 1 | SU(2) = 3,SU(3) = 8 |
| Sp(2n) | 反対称形式(位相空間の面積) | MTJM = J | n(2n + 1) | Sp(2) = 3,Sp(4) = 10 |
| U(1) | 位相の絶対値 | U = eiθ | 1 | 電磁気のゲージ群 |
リーの発見はこう要約できます――連続な群は,単位元のすぐそばだけ調べれば(ほぼ)全部わかる. 単位元の近くの群の元を O = 1 + εA (ε は微小)と書いて,定義条件に代入してみます.SO(n) なら:
つまり SO(n) の「微分」は反対称行列です. 反対称行列は対角が 0 で上三角の n(n − 1)/2 成分が自由―― (2) で数えた群の次元とぴったり一致します.当然です.群の次元=単位元での接空間の次元なのですから. 同様に SU(n) では,物理の流儀で i を出して U = 1 + iεH と書くと
生成子はエルミート行列.さらに det(1 + iεH) = 1 + iε tr H + O(ε2) なので, det = 1 の条件は tr H = 0―― su(n) の生成子はエルミートかつトレースレスです. 自由度は,対角に実数 n 個,非対角に複素数 n(n − 1)/2 組で 実 n2 個,トレースレスで 1 個引いて n2 − 1.これも (4) と一致します. Sp(2n) も同じ手順で:M = 1 + εS を (5) に入れると STJ + JS = 0, これは「JS が対称行列」と同値なので, 自由度は 2n 次対称行列の数 2n(2n + 1)/2 = n(2n + 1). §1 の表の次元はすべて,こうして定義条件を線形化するだけで出てきます.
微小変換を N 回繰り返せば有限の変換になります:
2 次元回転で確かめましょう.2×2 の反対称行列は,スケール倍を除けば 1 つしかありません:
A2 = −1 のおかげでテイラー級数が cos と sin に畳まれ,見慣れた回転行列が出てきました. exp が「代数から群へ」の橋です.この exp で作った有限の変換が本当に群の条件を守っているかは, シミュレーターのタブ①「何を保存する群か」で目で確かめられます: SO(3)・SU(2)・Sp(2,R) の 3 つのモードそれぞれで変換のパラメーターを動かすと, 不変量(正四面体分子の結合長と結合角/ノルム ψ†ψ/位相空間の面積)が 数値のまま動きません.「わざと群からはみ出す」トグルを入れて条件を壊すと, その不変量がずるずる漂い出します.
では群の掛け算 eXeY は 代数の言葉でどう書けるでしょうか.行列が可換でない限り eX + Y にはなりません. 正解は Baker–Campbell–Hausdorff の公式:
肝心なのは公式の係数ではなく,右辺が交換子だけで書けていることです. つまり,生成子どうしの交換関係 [X, Y] = XY − YX さえ与えれば,単位元近傍での群の積の規則は全部決まってしまう. だから「リー群を調べる」はほぼ「交換関係を調べる」に置き換わります. この交換関係つきの接空間をリー代数と呼び,群と区別して小文字で so(n),su(n),sp(2n) と書きます.
回転の場合,エルミートな生成子 J1, J2, J3 (R = e−iθ n̂·J)の交換関係は
この 1 行が「回転」という概念の代数的な DNA です. 量子力学で角運動量の理論がすべてこの交換関係から始まるのは, 角運動量とは回転の生成子のことだからです(Noether の定理:対称性の生成子=保存量). 以下 §3–4 は,この 1 行だけからどこまで行けるか,という話になります.
交換関係 (11) を満たす行列の組は,いくつもあります.最小のものがパウリ行列の半分です:
どれもエルミートでトレースレス――§2 で導いた su(2) の資格そのものです.そして
一方,3 次元回転の生成子(3×3 の反対称行列に i をかけたもの,成分で書けば (Lk)ij = −iεkij)も, まったく同じ交換関係を満たします. リー代数としては su(2) と so(3) は同じもの――交換関係だけを見る限り,区別のしようがありません.
ところが群まで持ち上げると,差が出ます. (n̂·σ)2 = 1 (パウリ行列の反交換関係から従います)を使うと,(9) と同じ畳み込みで
スピン 1/2 の回転行列です.角度の刻みが θ/2 であることに注目してください. θ = 2π(1 回転)を入れると:
1 回転しても元に戻らず,−1 が付くのです.元に戻るのは 4π,つまり 2 回転して初めて. SO(3) では当然 R(2π) = 1 ですから, SU(2) は回転を「2 倍細かく」数える群だ,ということになります. シミュレーター(liegroup-simulator.html)の SU(2)↔SO(3) のタブで, θ を 0 から 4π まで回して,ベクトルが 1 周で戻るのにスピノルは 2 周かかる様子を実際に確かめられます.
2 つの群の関係を正確に言うには,3 次元ベクトル x を 2×2 エルミート・トレースレス行列 X = x·σ に詰め替えます.U ∈ SU(2) で挟むと UXU† もエルミート・トレースレスなので, ある新しいベクトル x′ の詰め替えになっているはずです:
ここで det X = −|x|2 が挟み込みで不変なので |x′| = |x|―― 長さを守るから R(U) は回転です. こうして写像 U ↦ R(U) が SU(2) → SO(3) を与えますが, (16) を見れば分かるとおり U と −U はまったく同じ R を与えます(両側から挟むので符号が消える). つまりこの対応は 2 対 1で,核は {±1}: SO(3) ≅ SU(2)/{±1}.
SU(2) の元は , |a|2 + |b|2 = 1 と書けます.実 4 成分の 2 乗和が 1 ―― SU(2) は 4 次元空間の単位球面 S3 です. SO(3) はその対心点 U と −U を貼り合わせた空間(実射影空間 RP3). 局所的には同じでも,大域的な形が違います. S3 上ではどんなループも 1 点に縮められます(単連結)が, RP3 には「縮められないループ」があり,2 周してはじめて縮む―― これが「2π 回転の −1」のトポロジー的な正体で,ベルトのねじれが 2 回転でほどける 「ディラックのベルトの手品」として体感できます.
パウリ行列(2×2)と回転生成子 Li(3×3)が同じ交換関係を満たす, という §3 の事実は,実はもっと大きな話の入り口です. 群の元 g それぞれに行列 D(g) を割り当て, 群の掛け算表がそのまま保たれるようにしたものを表現と呼びます:
同じ脚本(群)を,2 次元の舞台でも 3 次元の舞台でも演じられる―― スピン 1/2 の 2 成分スピノルも,スピン 1 の 3 成分ベクトルも,同じ「回転」の別の上演です. どの表現も,これ以上小さい不変な部分空間に分けられない既約表現のブロックに分解できるので, 既約表現をすべてリストアップすれば表現論は完成します. su(2) の場合,それは交換関係 (11) だけから機械的にできてしまいます. ジョージアイ流の導出を追いましょう.物理でおなじみの,あの計算です.
Jz を対角化し,固有値 m で状態をラベルします. 残りの 2 つから J± = Jx ± iJy を組むと,(11) は次の形に化けます:
1 本目の式は「J± をかけると Jz の固有値が ±1 ずれる」と読めます: Jz(J±|m⟩) = (m±1)(J±|m⟩). つまり J± は梯子の昇降演算子です. 有限次元の表現なら梯子には一番上の段があるはず.それを |j, j⟩ と書き, J+|j, j⟩ = 0 を要求します(最高ウェイト).
ここで全生成子と可換な Casimir 演算子 J2 = Jz2 + (J+J− + J−J+)/2 を使うと便利です.(17) で並べ替えると,順序の違う 2 本の式が出ます: J−J+ = J2 − Jz2 − Jz と J+J− = J2 − Jz2 + Jz. 最高状態では J+|j, j⟩ = 0 ですから, 前者を |j, j⟩ に当てると左辺が消えて J2 = j(j + 1). (後者は次の (18) のノルム計算で使う形です.) 既約表現の中では J2 は定数なので,この値が表現全体のラベルになります. 次に,梯子を下りたときの状態のノルムを計算します:
ノルムは負になれません.下り続けるといつかこの量が 0 になって梯子が止まる必要があり, j(j + 1) = m(m − 1) の解は m = −j(もう一方の解 j+1 は上限より上なので不可). つまり梯子は m = j から −j まで,1 刻みで 2j 段. 段数は非負整数ですから
ノルム (18) の平方根を規格化係数にすれば,行列要素まで完全に決まります:
交換関係 1 本から,許される表現の次元(2j+1)と行列要素のすべてが導けました. j = 1/2 で (20) を書き下せばパウリ行列の半分が,j = 1 で書き下せば 3×3 の Li が(基底の取り替えを除いて)再現されます. シミュレーターの表現論のタブでは,j を選んで 昇降演算子で梯子を上り下りし,(20) の係数が段ごとに変わる様子を見られます.
この表現論は,回転だけのものではありません.同じ交換関係が現れる場所なら,どこでも同じ結論が使えます. 1932 年,ハイゼンベルクは陽子と中性子の質量が異常に近いことから, 両者を「アイソスピンという抽象空間での上向き・下向き」とみなしました. 強い相互作用がアイソスピン空間の SU(2) 回転で不変なら,粒子は (2I+1) 重項に組織されるはずです:
| 多重項 | I | 次元 2I+1 | 質量(MeV) |
|---|---|---|---|
| 核子 (p, n) | 1/2 | 2 | 938.3 / 939.6 ―― 0.1% しか違わない |
| パイ中間子 (π+, π0, π−) | 1 | 3 | 139.6 / 135.0 / 139.6 |
| Δ 共鳴 (Δ−, Δ0, Δ+, Δ++) | 3/2 | 4 | いずれも ≈ 1232 |
多重項内の質量がほぼ縮退しているのは,対称性がほぼ厳密(破れは電磁相互作用と u, d クォークの質量差だけ)だからです. 「ほぼ同じ質量の粒子の組を見つけたら,隠れた群の既約表現を疑え」―― これが次節以降で su(3) へ,さらに大統一へと続く物語の型になります.
su(2) の状態ラベルは m の 1 枚だけでした.これは偶然ではありません. su(2) では互いに可換な生成子が 1 個しか取れない (Jx, Jy, Jz はどの 2 つも非可換)からです. 量子力学で同時に確定できる量は互いに可換な演算子だけ――だから 同時対角化できる生成子の最大個数=状態に貼れる量子数ラベルの枚数です. この最大可換部分をカルタン部分代数 H1, …, Hr, その個数 r をランクと呼びます. 同時固有状態のラベルの組 μ = (μ1, …, μr) がウェイトで,これは r 次元空間の点です. ランク=ウェイト図の次元.su(2)(ランク 1)の多重項が「直線上に並んだ 2j+1 個の点」だったのはこのためです.
su(3) の生成子は 8 個(Gell-Mann 行列 λa/2). そのうち対角行列は T3 = λ3/2 と T8 = λ8/2 の 2 個で,ランク 2. 物理では 2 つめのカルタン生成子 T8 の代わりにフレーバーハイパーチャージ Y = (2/√3) T8 を使い,状態を (I3, Y) の 2 枚でラベルします. ここで Y = B + S(バリオン数+ストレンジネス)で,電荷は ゲルマン–西島の関係 Q = I3 + Y/2 で読み出します (この Y は §7.3 の弱ハイパーチャージとは別物です.§7.3 の注意書きを見てください). だから su(3) の多重項は平面図形として描ける―― 八道説の三角形や六角形は,ランク 2 のウェイト図そのものなのです. 基本表現 3(クォーク u, d, s)のウェイトは
―― 逆三角形です.反クォークの 3̄ はその符号反転で,正三角形になります.
残り 6 個の生成子は,su(2) の J± とまったく同様に, 昇降演算子 Eα に組み直せます.その定義条件は
(17) の 1 本目と同じ形です.読み方も同じ: Eα をかけるとウェイトがベクトル α だけ平行移動する. この移動ベクトル α たちをルートと呼びます. (21) は「カルタン部分代数から見た Eα 自身の固有値が α」 という式でもあるので,ルートとは,代数が自分自身に作用するとき(随伴表現)のウェイトにほかなりません.
su(3) では昇降演算子が 3 組できます.クォークの言葉で言えば「どのクォークをどれに変えるか」です:
| 演算子 | 作用 | ウェイトの変位 (I3, Y) |
|---|---|---|
| I±(アイソスピン) | d ↔ u | ±(1, 0) |
| V± | s ↔ u | ±(1/2, 1) |
| U± | s ↔ d | ±(−1/2, 1) |
6 本のルートは,(T3, T8) 座標で書けば ±(1, 0), ±(1/2, √3/2), ±(−1/2, √3/2) で,すべて同じ長さ・60° 刻みの正六角形をなします (Y 軸で描くと縦に伸びて見えるのは,Y = 2T8/√3 という規格化のせいです).
ここまでは su(2) と su(3) という個別の代数を見てきました. カルタンとキリングは 19 世紀末,逆向きの問いを立てました―― そもそも,どんな交換関係の組が「無矛盾な単純リー代数」になりうるのか? 驚くべきことに,この問いは完全に解けます.鍵はルートの幾何です.
任意のルート α に対して, Eα, E−α, α·H の 3 つ組は su(2) をなします((17) と同じ交換関係を満たすように規格化できる). 別のルート β をこの「α 方向の su(2)」から眺めると,β は何かの Jz 固有値を持つはずで,§4 で示したとおり su(2) の固有値 m は半整数に量子化されています.その帰結が
という整数条件です.2 つを掛け合わせると
(4 だと平行).つまりルートどうしの角度は量子化されている: 基底に選んだ単純ルートどうしなら(内積が非正になるので) 90°,120°,135°,150° の 4 通りしかなく,長さの比もそれぞれ 自由,1,√2,√3 に限られます. 連続無限にあるはずの「代数の設計図」が,突然,有限の組合せ問題になりました.
単純ルートを点(○)で描き,2 点間を角度に応じて 120° なら 1 本線,135° なら 2 本線,150° なら 3 本線で結び(90° なら結ばない), 長さの違いは矢印(長→短)で示す――これがディンキン図です. 「無矛盾につながる図」をすべて列挙すると,答えは4 つの無限系列と 5 つの例外に尽きます:
| 型 | ディンキン図(略記) | コンパクト群 | 次元 | ランク |
|---|---|---|---|---|
| An | ○–○–⋯–○ | SU(n+1) | n(n + 2) | n(n ≥ 1) |
| Bn | ○–○–⋯–○⇒○ | SO(2n+1) | n(2n + 1) | n(n ≥ 2) |
| Cn | ○–○–⋯–○⇐○ | Sp(2n)(コンパクト形 USp(2n).§7.6 参照) | n(2n + 1) | n(n ≥ 3) |
| Dn | ○–○–⋯–○<(末端が二股) | SO(2n) | n(2n − 1) | n(n ≥ 4) |
| G2 | ○≣○(3 本線) | G2 | 14 | 2 |
| F4 | ○–○⇒○–○ | F4 | 52 | 4 |
| E6 | ○–○–○–○–○(3 番目に枝 ○) | E6 | 78 | 6 |
| E7 | ○–○–○–○–○–○(3 番目に枝 ○) | E7 | 133 | 7 |
| E8 | ○–○–○–○–○–○–○(3 番目に枝 ○) | E8 | 248 | 8 |
これが群の周期表です.元素の周期表が「原子はこれで全部」と言うように, この表は「連続対称性の素材はこれで全部」と言っています. 自然界がどんな対称性を使うにせよ,この表から選ぶしかない―― だから大統一理論の候補探し(§7)は,元素探しならぬ「表の中から条件に合う行を探す」作業になるのです. 例外型は 5 つで打ち止め,E8(248 次元・ランク 8)が行き止まりの「超重元素」です.
SO(奇数) と SO(偶数) が別の行に載っているのは,見かけ以上に深い理由があります. ルート系で言うと,so(2n+1) は長いルート ±ei±ej に加えて短いルート ±ei を持ちます(だからディンキン図に 2 本線の矢印がある)が, so(2n) は ±ei±ej だけで全ルートが同じ長さ(単純レース simply-laced)です. 表現論での現れ方も違います:スピノル表現が, so(2n+1) では 1 種類(次元 2n), so(2n) では左右 2 種類(カイラル・反カイラル,各 2n−1 次元)に分かれます. ディンキン図の末端の「二股」が,ちょうどこの 2 つのスピノルに対応しています. so(10) = D5 の 16 と 16̄――§7 の主役――はここから来ます.
| ランク | 同型 | 物理での出番 |
|---|---|---|
| 1 | su(2) ≅ so(3) ≅ sp(2) (A1 = B1 = C1) | スピンと回転(§3) |
| 2 | so(4) ≅ su(2) ⊕ su(2) (D2 = A1⊕A1,単純ですらない) | 水素原子(§7)・ローレンツ群(§7) |
| 2 | so(5) ≅ sp(4) (B2 = C2) | 次元はともに 10 |
| 3 | so(6) ≅ su(4) (D3 = A3,次元 15) | Pati–Salam 統一 SU(4) |
表の「n ≥ 2, 3, 4」という開始ランクは,まさにこの重複を二重に数えないための約束です. ランクが低いうちは周期表が縮退していて,別系列のはずの代数が同じものになってしまう―― ランク 4 以上でようやく A・B・C・D が完全に別物になります. そしてこの「縮退」は数学の珍現象ではなく,低ランクの同型がそのまま物理の仕掛けとして使われます. 水素原子の so(4),ローレンツ群の su(2)⊕su(2),どちらも次節に登場します.
道具はそろいました.「名前の読み方」(§1),「代数と表現」(§2–4), 「ラベルの幾何学」(§5),「品ぞろえの全リスト」(§6). ここからは,物理に実際に現れる群を一つずつ棚卸しします.
クォークは「色」という内部自由度を 3 つ持ち,基本表現 3 に入ります. この SU(3) 変換を時空の各点で独立に行えるよう要求する(ゲージ化する)と, 接続の場=グルーオンが必要になり,その本数は随伴表現の次元 8 (=群の次元 32−1)です. 「グルーオンはなぜ 9 種類でなく 8 種類か」―― 3⊗3̄ = 8⊕1 の 1(トレース部分=どの色も平等に混ぜる成分)はゲージ群の外だから,が答えです. 色の SU(3) は,知られている限り厳密に成り立つ対称性です.
同じ SU(3) という代数が,まったく別の顔でも現れます. u, d, s の 3 種のクォークの質量差が QCD のスケールより小さいため, 3 つを入れ替えるフレーバー SU(3) が近似的に成り立つのです. ハドロンは su(3) の既約表現(八重項・十重項)に組織され, §5 で見たとおり,その分類図はランク 2 のウェイト図になります. 1961 年,ゲルマンとネーマンが独立にこの分類(八道説)を提唱し, 1962 年,まだ空席だった十重項の頂点 (Ω−,ストレンジネス −3)の存在と質量 (等間隔則から約 1680 MeV)が予言されました. 1964 年,Ω− は予言どおりの質量(1672 MeV)で発見されます. 群論が新粒子を予言した金字塔です.
弱い相互作用は左巻きフェルミオンを弱アイソスピン SU(2) の二重項に組みます. 電磁気の U(1) はこの SU(2) と絡み合っていて,電荷 Q は 弱アイソスピン第 3 成分 T3 と弱ハイパーチャージ Y の和です:
| 場(左巻きで数える) | SU(2) | T3 | Y | Q |
|---|---|---|---|---|
| クォーク二重項 Q = (uL, dL) | 2 | ±1/2 | 1/6 | 2/3,−1/3 |
| レプトン二重項 L = (νL, eL) | 2 | ±1/2 | −1/2 | 0,−1 |
| uc(u の反粒子) | 1 | 0 | −2/3 | −2/3 |
| dc(d の反粒子) | 1 | 0 | 1/3 | 1/3 |
| ec(陽電子) | 1 | 0 | 1 | 1 |
気になりませんか.1/6,−2/3,1/3,−1/2,1――この妙に細かい分数は, 標準模型の中では「実験に合わせた入力」でしかなく,理由がありません. なぜ電荷はきれいに量子化されているのか? その答えの候補が §7.7 の SU(5) です.
クーロン問題 H = p2/2m − k/r では角運動量 L のほかに,ルンゲ–レンツベクトル
も保存します(古典的には「楕円軌道の向きが歳差しない」ことに対応). 束縛状態(E < 0)の部分空間で A′ = √(−m/2E) A と規格化すると,L と A′ の 6 個で閉じた代数――ちょうど 4 次元回転の so(4)(次元 6)――になります.そして §6 の偶然の同型の出番です:
2 つの独立な su(2) に分かれます.さらに L·A′ = 0 という拘束から 2 つの Casimir が等しくなり, j1 = j2 ≡ j. n = 2j + 1 と置けば,エネルギー準位の縮退度は
――水素原子のあの n2 重縮退です (Casimir を通じて En = −mk2/2ℏ2n2 も出ます). 見かけの対称性 SO(3) だけでは,同じ l の中の 2l+1 個の縮退(m を回す)しか説明できません. l = 0, 1, …, n−1 が全部同じエネルギーになる「偶然縮退」の正体は, 隠れた SO(4) 対称性だったのです (検算:∑l=0n−1(2l+1) = n2).
3 次元等方調和振動子 H = ℏω (a†·a + 3/2) は,生成消滅演算子の複素回転 ai → Uijaj で不変――隠れた対称性は U(3) です.準位 N = nx + ny + nz の縮退度は,3 つの非負整数の和を N にする組合せの数:
これは su(3) の対称テンソル表現(ウェイト図が辺 N の三角形になる表現)の次元そのものです. 原子核の殻模型で魔法数を数える出発点が,まさにこの縮退です. 水素原子(so(4))と調和振動子(u(3))――量子力学で厳密に解ける 2 大ポテンシャルは, どちらも見かけの SO(3) より大きな隠れた対称性を持っていたわけです.
§1 の Sp に戻ります.ハミルトン力学の正準変換は,線形化すれば (5) を満たす行列, すなわち Sp(2n,R) の元です.シンプレクティック行列は自動的に det = 1 なので 位相空間の体積が保たれる――リウヴィルの定理は「群論的には 1 行」です. ただしこの群は非コンパクトです:スクイーズ変換 q → λq, p → p/λ は際限なく続けられ,パラメータ空間が閉じていません. 非コンパクトな単純リー群の自明でない有限次元表現はユニタリにできない,という一般定理があるため (量子光学のスクイーズ演算子が有限の行列でなく Fock 空間全体で表現されるのはこのため), 有限次元ユニタリ表現を軸に据える §4–6 の機械は,そのままでは適用できません. 「単純」という条件は落とせません:実数の加法群 R も非コンパクトですが, x ↦ eiax は自明でない 1 次元ユニタリ表現です. Sp(2n,R) は単純なので,この群には定理がそのまま効きます. ジョージアイの教科書に出てくる Sp(2n) はコンパクト形 USp(2n) = U(2n) ∩ Sp(2n,C) のことで,こちらは(§6 の C 系列として)安心して使えます. 同じ Cn の行でも実形が違う――名前を読むときの小さな落とし穴です.
1974 年,ジョージアイとグラショウは,標準模型のゲージ群 SU(3)×SU(2)×U(1) がすっぽり収まる最小の単純群として SU(5) を提案しました. 発想は素朴です:色の 3 成分と弱アイソスピンの 2 成分を縦に並べて 5 成分にする. すると基本表現は 5 = (3, 1) ⊕ (1, 2) と分解し,1 世代 15 個の左巻きワイル場が,ちょうど 2 つの既約表現に収まります:
(10 は 5 の反対称 2 階テンソル,次元 5·4/2 = 10.クォーク二重項 3 色 × 2 で 6, uc が 3,ec が 1,合計 10). そしてここで魔法が起きます.電荷 Q はいまや SU(5) の生成子の 1 つです. §2 で見たとおり su(n) の生成子はトレースレス―― だからどの表現でも電荷の総和はゼロでなければなりません.5̄ に適用すると:
d クォークの電荷は,符号まで込みで電子の 1/3.分母の 3 は色の数です. クォークの電荷が 1/3 の倍数なのは色が 3 つあるから, 水素原子(p = uud と e−)が厳密に中性なのは 同じ 1 つのトレースレス生成子がクォークとレプトンの電荷を同時に決めているから―― §7.3 で「妙に細かい」と言った弱ハイパーチャージの値は,全部 Y = diag(−1/3, −1/3, −1/3, 1/2, 1/2) というたった 1 つの行列から読み出せます(トレースはちゃんと 0). この行列は基本表現 5 に作用する形で,10 = Λ25 の値は 2 つの成分の和として −1/3 − 1/3 = −2/3(uc),−1/3 + 1/2 = 1/6(Q),1/2 + 1/2 = 1(ec)と読めます. (29) の 5̄ は共役表現なので全体の符号が反転して Y = diag(1/3, 1/3, 1/3, −1/2, −1/2) となり,これが §7.3 の表の dc:1/3,レプトン二重項:−1/2 です. 代償として,クォークとレプトンを結ぶ新しいゲージ粒子(X, Y ボソン,全部で 24−12 = 12 個)が現れ, 陽子崩壊を予言します.そしてそれは見つかりませんでした――最小の SU(5) 模型は, この予言が観測にかからないことで実験的に否定されています (スーパーカミオカンデ:τ(p → e+π0) > 2.4×1034 年). それでも,電荷の量子化をこれほど美しく説明する枠組みは他にありません.
もう一段だけ上があります.SU(5) の 5̄ ⊕ 10 は 2 つの表現に分かれたままでした. SO(10)(=周期表の D5,次元 45,ランク 5)まで上がると, §6 で予告したカイラルスピノル表現 16(次元 25−1 = 16)が使えて:
1 世代 15 個+おまけの 1 個=16 個が,ただ 1 つの既約表現に収まります. おまけの SU(5) 一重項こそ右巻きニュートリノ νc―― ニュートリノ振動(質量)の発見以降,シーソー機構の部品としてむしろ歓迎される存在です.
スピノル 16 の作りは驚くほど単純です.so(10) はランク 5 なので,ウェイトは 5 成分. スピノル表現のウェイトは
符号の選び方 25 = 32 通りのうち, マイナスが偶数個のものが 16 個: 5C0 + 5C2 + 5C4 = 1 + 10 + 5 = 16. しかもこの内訳,マイナス 0 個の 1 状態が SU(5) の 1(右巻きニュートリノ), 2 個の 10 状態が 10,4 個の 5 状態が 5̄―― (31) の分解が符号の組合せ論としてそのまま見えるのです. 電子もクォークもニュートリノも,「5 つの ±1/2 ラベルの偶奇パターン」の違いにすぎない―― これが SO(10) 大統一の見せる風景です. シミュレーターの大統一のタブでは, この 16 状態の符号パターンが,標準模型・SU(5)・SO(10) の 3 通りの束ね方で組み替わる様子を見られます.
最後に時空そのものの対称性を.ローレンツ群 SO(3,1) は 「符号 (+,−,−,−) の内積を保存する」群で,生成子は回転 Ji とブースト Ki. 交換関係は [Ki, Kj] = −iεijkJk のマイナス符号だけが so(4) と違います.複素の組合せ
を作ると 2 つの su(2) に分離し,表現は (j1, j2) の 2 枚ラベルで分類できます:(0,0) がスカラー,(1/2, 0) と (0, 1/2) が左巻き・右巻きワイルスピノル, (1/2, 1/2) が 4 元ベクトル,(1,0)⊕(0,1) が電磁場テンソル Fμν. そして SU(2)→SO(3) の物語(§3)はそっくり持ち上がります: ローレンツ群の二重被覆は SL(2,C)(行列式 1 の複素 2×2 行列)で, 4 元ベクトルを 2×2 エルミート行列 X = xμσμ に詰め替えると det X = t2 − |x|2 がミンコフスキー内積になり,(16) と同じ挟み込みが 2 対 1 対応を与えます. ブーストは非コンパクト方向なので,有限次元表現ではブーストの生成子を エルミートにできません(§7.6 と同じ事情.so(3,1) は単純なので,あの定理がそのまま効きます)――場の量子論でユニタリ性が 無限次元表現(粒子の状態空間)の上で実現されるのは,この理屈からです.
| 記号 | 保存するもの | 次元 | ランク | 物理での役割 |
|---|---|---|---|---|
| U(1) | 位相の絶対値 | 1 | 1 | 電磁気,ハイパーチャージ |
| SU(2) | 複素 2 成分の内積 | 3 | 1 | スピン,アイソスピン,弱い相互作用 |
| SO(3) | 3 次元の長さ | 3 | 1 | 空間回転(= SU(2)/{±1}) |
| SU(3) | 複素 3 成分の内積 | 8 | 2 | 色(厳密),フレーバー(近似) |
| SO(4) | 4 次元の長さ | 6 | 2 | 水素原子の隠れた対称性(n2 縮退) |
| U(3) | 複素 3 成分の内積と位相 | 9 | 3 | 等方調和振動子の縮退 |
| Sp(2n) | 位相空間の反対称形式 | n(2n + 1) | n | 正準変換,リウヴィルの定理 |
| SU(5) | 複素 5 成分の内積 | 24 | 4 | 大統一(5̄⊕10 = 1 世代,電荷の量子化) |
| SO(10) | 10 次元の長さ | 45 | 5 | 大統一(スピノル 16 = 1 世代 + νR) |
| SO(3,1) | ミンコフスキー内積 | 6 | 2 | ローレンツ変換(被覆は SL(2,C)) |
| E8 | (例外型) | 248 | 8 | ヘテロ弦理論の E8×E8 |
ここまでの道のりを振り返ります.
東京理科大学 望月研究室 / H. Georgi, Lie Algebras in Particle Physics(2nd ed., Westview Press) ――邦訳『物理学におけるリー代数』――の前半(su(2) の表現論),中盤(ルート・ウェイト・単純ルートと分類), 終盤(SU(5)・SO(10) 大統一)の要点を,「群の名前の読み方」という一本の物語に再構成したものです. §7.4–7.6 の水素原子・調和振動子・シンプレクティック群の話は教科書の範囲を補ったものです. 生成子・交換関係・ウェイト図を実際に動かして確かめたい方は シミュレーター(liegroup-simulator.html)へ. 結晶の離散対称性(点群・空間群)の側から連続群へ広げたい方は,当研究室で開発している CrystOD のドキュメントもあわせてどうぞ. 数式はブラウザ標準の MathML で組んでいます(外部ライブラリ・通信は一切ありません).