共沈法によるバリウムフェライト ― 沈殿は前駆体,目的相は仮焼でできる

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このページは coprecip-simulator.html の対になる解説です. シミュレーターで見た「pH の決まり方」「どの成分が沈殿に残り,どれが上澄みに出ていくか」「仮焼で相がどの順に現れるか」を, 電荷収支・溶解度積・拡散律速の反応速度という 3 つの道具で説明します.成形・焼結・着磁と見かけの残留磁化の測定(⑤)の模式と,天秤の読みから減磁曲線を推定する実験テキストの整理も §9.2,§9.3 にまとめます. 数値の出典と,仮の値・模式にとどめた部分・先生に確認したい事項も,ここにまとめます. シミュレーターの各タブの画面の読み方は 付録 A にあります.

このページの背骨 共沈法の要点は,沈殿ができること(②)と,目的の結晶相ができること(④)が別の段階であることです. 赤褐色の沈殿は Fe の含水酸化物(Fe(OH)3 と書かれることが多い)と BaCO3 がまざった前駆体で,BaFe12O19 の結晶はまだありません. 液の中で Fe と Ba を細かくまぜておくと,仮焼のときに原子が移動する距離が短くなり,固相法より低い温度で目的相ができます(§8). そのかわり,沈殿・洗浄の段階で成分が失われたり残ったりすると,仮焼の結果に組成のずれとして現れます(§4,§6,§8.4).
① 溶液 A:Na⁺,OH⁻,CO₃²⁻ B:Fe³⁺,Ba²⁺,Cl⁻ ② 沈殿(前駆体) 含水酸化鉄 + BaCO₃ 上澄み:Na⁺,Cl⁻,OH⁻ ③ 乾燥粉(前駆体) 含水酸化鉄 + BaCO₃ + 結合水 + 残った塩 ④ 仮焼粉 BaFe₁₂O₁₉ α-Fe₂O₃・BaFe₂O₄ が 残ることもある ⑤ 焼結体(磁石) 粒が育ち緻密になる 着磁して磁石になる 注ぐ 洗う・ろ過・乾燥 仮焼 成形・焼結・着磁

図 1 工程と試料の状態(自作の模式図).BaFe12O19 が現れるのは④の仮焼からで,⑤で焼き固めて着磁すると磁石になります.

1. 共沈法とは ― 前駆体と目的相

M 型バリウムフェライト BaFe12O19 は,六方晶の強い一軸磁気異方性をもつ酸化物で,永久磁石や磁気記録に使われます. 固相法では BaCO3 と α-Fe2O3 の粉を混ぜて 1100〜1200 ℃ 程度で焼きますが, 共沈法では Fe3+ と Ba2+ を含む溶液をアルカリの溶液に注いで,両方の成分を一度に沈殿させます. 沈殿の粒は数 nm〜数百 nm と細かく,Fe と Ba が近くにいるので,仮焼の温度を 800〜900 ℃ 程度まで下げられます(参考文献 1〜4).

ただし,沈殿そのものは BaFe12O19 ではありません. Fe は含水酸化物(Fe(OH)3 と書かれることが多い.文献では 2 線フェリハイドライト,組成はおおよそ FeOOH·nH2O)として,Ba は炭酸塩 BaCO3 として沈みます(参考文献 3,5). この前駆体を加熱すると,脱水 → α-Fe2O3 の生成 → 中間相 BaFe2O4 → BaFe12O19 の順に変わります(§8). 前駆体の作り方によって中間相がほとんど出ない例もあり(参考文献 2),温度の境目は経路によって 100 ℃ 以上動きます(参考文献 6). シミュレーターは,Fe 側の含水酸化物と BaCO3 が別々に沈む経路(VEL の設計)を採っています.

2. 実習の手順と条件,この教材の仮の値

旧東京工業大学 材料科学実験(無機材料分野)実験テキスト 2025 年版(§8.1–8.5.以下「実験テキスト」)と実習の動画(A1〜A3,B1〜B4.このページで使うのは主に B1〜B4)で確かめた手順と数値,先生の指示(2026-09-25)で確定した値,どれにも書かれていない数値(仮の値)を分けて示します. 試薬の質量・水量・仮焼の条件は,別に開発中の仮想実験室(VEL)のソースコードの定数とも一致しました.

表 1 手順と条件(実験テキスト・動画で確定)と,この教材の数値「テキスト」は実験テキストの節,「動画」は実習の動画 B1〜B4.「先生の指示」は 2026-09-25 の指示で確定した値.「仮」はどれにも書かれていない値.
工程実験テキスト・動画で確かめたことこの教材で使った数値
溶液 A300 mL ビーカーに蒸留水 100 mL.NaOH(潮解性.ポリビーカーで量る)を少しずつ溶かし,溶けきってから Na2CO3(薬包紙で量る)を少しずつ(テキスト §8.1,動画 B1)NaOH 12.5 g,Na2CO3 3.15 g(テキスト §8.1)
溶液 B100 mL ビーカーに蒸留水 50 mL.FeCl3·6H2O(大きいバランストレイ)を溶かしてから BaCl2·2H2O(小さいバランストレイ)FeCl3·6H2O 10.14 g,BaCl2·2H2O 0.835 g(テキスト §8.1)
沈殿溶液 A をよく混ぜながら溶液 B を少しずつ加える.動画ではガラス棒に伝わせて数回に分けて注ぎ,合間にガラス棒で混ぜる(撹拌子・スターラーは使わない).赤褐色の沈殿注ぐ速さ 5 mL/min,25 ℃(仮).撹拌の強さ 400 rpm 相当は条件を比べるための目盛り(§5)
静置時計皿で蓋をして静置し,沈殿を沈める静置 10 min(仮.テキストに指定なし)
洗浄上澄みを 5 mL 駒込ピペットで除き(廃液びんへ),約 125 mL まで減らす.ホットプレートの上の 500 mL ビーカーで約 60 ℃ にした蒸留水を 20 mL 駒込ピペットで約 300 mL まで注いで混ぜ,静置.上澄みの pH を pH 試験紙で見て,約 7 になるまで繰り返す抜いた後の液量 125 mL,60 ℃,300 mL(テキスト §8.1)
ろ過・乾燥アスピレーターと吸引瓶,ブフナー漏斗,ろ紙を蒸留水で湿らせる → スイッチを入れて吸引を確かめてから沈殿を注ぐ → 蒸留水でビーカーを共洗い → ろ餅にひびが入ったら終了(コックを閉じてからスイッチを切る).ろ紙ごと時計皿に載せて乾燥機へ.乾くとろ餅は黒褐色の小片に割れ,ろ紙が橙に染まる(動画 B2)ろ紙 5B,105 ℃・約 20 h(テキスト §8.1)
秤量・粉砕・仮焼乾燥粉を薬包紙の上とるつぼの中の 2 通りで量り,アルミナ乳鉢で粉砕.蓋をしたアルミナるつぼで仮焼(炉の操作はスタッフ).実験台で乾燥粉が最も多い班が乾燥粉約 0.5 g を XRD 用に取り分ける約 3 ℃/min で昇温,925 ℃・2 h,炉冷(テキスト §8.2).雰囲気は大気中(先生の指示).取り分けずに計算
成形・焼結仮焼粉を粉砕し,約 3 g に PVA 5 mass% 水溶液 3 滴を加えて造粒.φ 1.000 cm の金型で 98.1 MPa・1 min 保持して成形(厚さの違う 2 個.成形体が 6 mm 以上なら成形し直す).約 3 ℃/min で昇温し 1100 ℃・2 h,炉冷.2 番目に乾燥粉が多い班が仮焼粉約 0.5 g を XRD 用に取り分ける条件はテキスト §8.3 のとおり.1 個に使う粉 0.6 g・1.2 g,成形体と焼結体の相対密度 55 %・80 %(仮)
研磨・かさ密度#400 でバリを取り,厚さ 5 mm 以上なら 5 mm 未満まで研磨,#800 で鏡面にして W・D・h を測る.相対密度は真密度 5.374 g/cm3 に対して削る厚さ 0.10 mm(仮)
着磁・測定着磁用電磁石(極間 5 mm)で直流 10 A(約 32 V,磁極間 752 000 A/m)を 1 min(操作はスタッフ).天秤の試料台に試料を載せて W を読み,基準磁石(1 × 10−6 Wb·m)を反発する向きで支持台にセットして見かけの質量 Wrepul を読む.2 個を吸着させたものも測る(テキスト §8.4–8.5,動画 B4)基準磁石の厚さ 14.020 mm,基準磁石の下面から試料台の上面まで 37.349 mm(先生の指示.天秤に書かれた値),Wrepul は模式の目安(§9.2).整理はテキスト §8.5 のとおり(§9.3)

既定の仕込みの Fe/Ba は 10.97(BaO:Fe2O3 = 1:5.487)で,化学量論の 12(1:6)とは違います. Fe が律速で,理論収量は 3.4747 g です(実験テキスト §8.1 の原子量で計算.シミュレーターは Cl の原子量に 35.45 を使うので 3.4748 g,画面の表示は 3.475 g). シミュレーターでは「仕込み比(入れた量の比)」「沈殿に残った比(固体の Fe/Ba)」「得られた相」を別々の量として表示します. このモデルの既定の条件では②③での Ba の損失は約 1 % で,仕込み 10.97 では Ba が余り,BaFe2O4 が少し残ります(§8.4).

熱処理の雰囲気は,学生実験では大気中です.研究では環状炉で N2 を流す場合や,Ar を詰めたグローブボックスで熱処理する場合もあります(先生の指示).この教材は大気中だけを扱います.

3. 溶液の pH ― 電荷収支で決まる

シミュレーターでは pH を入力にしません.入れた試薬の物質量から,溶液全体の電荷がつり合う条件(電荷収支)で pH を決めます. 体積 V の溶液に溶けている Na+,Cl−,Ba2+,Fe3+ と炭酸の総量 CT が分かっているとき,

[Na+]+2[Ba2+]+qFe[Fe3+]+[H+] = [Cl−]+[OH−]+α1CT+2α2CT (1)

です.[OH−] = Kw/[H+],炭酸の分率は

α1=Ka1hh2+Ka1h+Ka1Ka2, α2=Ka1Ka2h2+Ka1h+Ka1Ka2 (h=[H+]) (2)

です.Fe3+ は水と反応して Fe3+ + H2O ⇄ FeOH2+ + H+ と H+ を出すので, 実効の電荷を qFe = 3 − Kh/(Kh + h) としました(Kh = 6.3 × 10−3,pK ≈ 2.2). これがあるので塩化鉄の溶液 B は pH 1 台の強い酸性になります(既定の仕込みで pH 1.18). 式 (1) の左辺から右辺を引いた残差は pH について単調なので,二分法で解けます. 溶液 A(NaOH 12.5 g + Na2CO3 3.15 g / 100 mL)は pH 14.49 になります. 濃い溶液では活量係数が 1 から大きく外れるので,pH 14 台の値は濃度から計算した目安です(活量補正はしていない). 定数はすべて 25 ℃ の値で,温度による変化は扱っていません.

NaOH を溶かすと溶解熱で液温が上がります.シミュレーターは,溶解熱 44.51 kJ/mol と比熱 4.179 J/(g·K)(どちらも実験テキスト §8.1 の問の与条件の値)を使い, 放熱がなければ ΔT = nΔH/(cm) だけ上がるとして,①の温度計と数値の欄に出します. 既定の NaOH 12.5 g を水 100 mL に一度に溶かすと,液 112.5 g で ΔT ≈ 29.6 K,液温は 25 ℃ から約 54.6 ℃ になります(水 100 g だけで数えると 58.3 ℃). p 回に分けて入れ,次を入れるまでに温度差の 35 % が逃げる(推定)とすると,最高温度差は (ΔT/p)(1 − 0.65p)/0.35 になり,分けるほど低くなります. 実験テキストと動画の「一度に溶かすと溶解熱で沸騰する(突沸の)おそれがある」の理由です. ただし,この見積もりは液全体が均一に温まったときの平均の温度です.溶けている粒のまわりでは局所的に沸点に達して突沸することがあるので,平均が 100 ℃ に届かなくても危険です.

4. 沈殿 ― 塩基の量と溶解度積

4.1 塩基の量

Fe3+ 1 mol を含水酸化物にするには塩基が 3 当量要ります(Fe3+ + 3 OH− → FeOOH + H2O). NaOH が足りなければ CO32− が H+ を 2 個受け取り(HCO3−,H2CO3),一部は CO2 として抜けます. シミュレーターでは,H2CO3 になった分(3nFe − nNaOH − nCO₃,0 から nCO₃ まで)のうち §5 の割合が CO2 として抜けるとします. 抜けずに残った H2CO3・HCO3− があると液は pH 6 前後の弱い酸性にとどまり,CO32− が少ないので Ba の一部が沈みません (①で NaOH 2.5 g なら,塩基の合計は足りていても pH 5.98,逃げた炭酸 52 %,BaCO3 になる Ba は 89 %). このとき Ba を沈めるための炭酸塩が Fe に食われるので,Ba が沈みにくくなります.塩基がそれでも足りなければ Fe が溶け残ります. 既定の仕込みでは,入れた塩基(NaOH + 2 Na2CO3)は Fe を沈めるのに要る量の 3.3 倍あり(Fe を Fe(OH)3 にするのに要る NaOH は 4.501 g で,NaOH 12.5 g だけでもその 2.78 倍),余った OH− で液は強塩基性になります. CO2 として抜けた炭酸も,H+ を 2 個受け取ったので塩基として働いています(Na+ は液に残る). シミュレーターはこの「塩基の量」を別に数えず,次の 4.2 のように電荷収支の中で自動的に扱います.

4.2 溶解度積

液に残る Fe3+ と Ba2+ は溶解度積で決めます(それを超える分が沈む).

[Fe3+]=Ksp,Fe(OH)3[OH−]3, [Ba2+]=Ksp,BaCO3α2CT (3)

pH を 1 つ仮に決めると,式 (3) から液に残る Fe(ただし入れた量が上限)と,(nBa − x)(CT − x)α2 = KspV2 の小さいほうの根として BaCO3 の量 x が決まります. それを式 (1) に入れた残差は pH について単調に減るので,pH だけを未知数にして二分法で解けば,電荷収支と 2 つの溶解度積を同時に満たす状態がただ 1 つ求まります. VEL の equilibrate は「塩基の予算」で沈殿量の上限を先に決めてから固定点反復で解いていましたが,予算に CO2 として抜けた炭酸の塩基の分が入っていなかったので, 逆の向きに注ぐ途中で「pH 12 なのに Fe の 1 割以上が溶けている」という食い違いが出ました.この教材では上の解き方に改めています. Ba は BaCO3 としてだけ沈むと扱います(Ba(OH)2 はよく溶けるので,水酸化物としては沈まない). ②の数値の「液に残る Fe3+」「液に残る Ba2+」は,この解の液の組成そのものです.

表 2 溶解度積(25 ℃)の値の比較画面に使ったのは左の列.右の列は実験テキスト §8.1 の問の与条件の値(VEL も同じ値を使っている).
物質この教材(CRC Handbook の表)実験テキスト §8.1 の問の与条件効き方
Fe(OH)32.79 × 10−394 × 10−36高い pH ではどちらでも Fe はほぼ全部沈む.一般の表の 4 × 10−38 とも 2〜3 桁違う(表によって値の幅が大きい)
BaCO32.58 × 10−98.1 × 10−9洗浄で BaCO3 が溶け出す量(√Ksp)に約 1.8 倍効く.表によって 2.6 × 10−9〜5.1 × 10−9

4.3 過飽和度

沈殿がどれだけ一度にできるかの目安として,混ぜた瞬間(沈殿する前の全量)の過飽和度 S =(イオン活量積)/Ksp を画面に出しています(活量係数は 1 とし,pH は平衡の値を使う近似). 溶液 B を溶液 A に注ぐと,Fe(OH)3 の log10 S は 38 前後,BaCO3 は 6 前後になります. S ≫ 1 では核生成の障壁がほぼ無くなり,無数の核が一度にできて微細な沈殿になります. これが共沈の粒が細かい理由で,内部図では新しくできた粒ほど小さく描いています(成長の速さは計算していない模式).

4.4 Na2CO3 が少ないとき(仮のモデル)

VEL のモデルでは,炭酸塩が無いと Ba はまったく沈みません. しかし Zahn ら(参考文献 3)は Na2CO3 を使わず NaOH だけで pH 12〜13 に調整して単相の BaFe12O19 を得ており, 空気中の CO2 を吸って BaCO3 ができるという文献を引いています. そこで「炭酸塩が無いと Ba は必ず沈まない」とは断定せず,BaCO3 にならなかった Ba2+ の一部が高 pH で Fe の沈殿に取り込まれる, という仮の項を加えました:取り込まれる割合 = 0.5 × clamp((pH − 10)/3, 0, 1) × (Fe の沈殿率).取り込まれた Ba は洗浄 1 回ごとに 5 % ずつ離れます. 取り込みは液の Ba2+ を減らして pH を変えるので,この項も 4.2 の二分法の中に入れ,取り込みと pH が互いに食い違わないようにしています. 係数はどちらも根拠のない仮の値で,「炭酸塩が少ないと Ba の沈殿が減り,洗浄でさらに失われて Fe が過剰になる」という傾向を示すためのものです. 空気中の CO2 の吸収そのものは扱っていません.

5. 注ぐ向き・速さ・撹拌(模式)

実習では撹拌子とスターラーを使わず,溶液 B をガラス棒に伝わせて数回に分けて注ぎ,合間にガラス棒で混ぜます(動画 B1). 溶液 B を溶液 A に注ぐと,落ちた滴はいつも大過剰の塩基に出会い,Fe と Ba がその場で同時に沈みます. 逆に溶液 A を溶液 B に注ぐと,はじめは酸性の Fe 溶液に炭酸塩が入って CO2 として逃げ,入れた塩基(NaOH + 2 Na2CO3)が 3nFe に届いたところ (既定の仕込みで溶液 A の約 30 %)で pH が急に上がります.Fe はそれまでに沈み,Ba は急に上がった後で沈むので,まざり方が悪くなります.シミュレーターの②のグラフで既定の向きと比べられます.Janasi ら(参考文献 4)は添加の順序を変数にしています.

シミュレーターでは,均一度 h と凝集径 d を VEL の推定式で出しています.撹拌の強さは,ガラス棒で混ぜる強さを条件として比べるための目盛り(rpm 相当.既定の 400 は仮)です. 撹拌の点数 s = log10(1 + rpm/60)/log10 11,速さの点数 r = 1 − log10(速さ/3)/1.6(0.15〜1)として h = 0.985(0.45 + 0.35s + 0.30r)/1.10,d = 0.30 µm/(0.55 + 0.45sr) で,逆向きは h を 0.62 倍,d を 2.6 倍します. CO2 として逃げるのは,H+ を 2 個受け取って H2CO3 になった炭酸(混合液がまだ酸性の間に入った炭酸など)だけとし,その割合を VEL の推定式の (0.70 + 0.012 × 速さ)(0.97 まで)としました. 逆向きでは,注いだ割合 f が feq = 3nFe/(nNaOH + 2nCO₃) に届くまでに入った炭酸がこれに当たり, 既定の条件(5 mL/min)では注ぎ終わりで入れた炭酸の約 23 % です(VEL の式を注ぎ終わりに当てはめた 76 % は,pH が上がった後に入った炭酸まで数えていた). 手順どおりの向きでも,NaOH だけでは 3nFe に足りずに H2CO3 になった炭酸(§4.1)は同じ割合で逃げるとしています(塩基の合計も足りず混合液が酸性になったときは炭酸の全量). 逃げた炭酸も H+ を受け取っているので,pH の計算(電荷収支)には影響しません. 55 ℃ を超えて 20 min より長く熟成すると,一部が結晶性のゲーサイト α-FeOOH に変わります(割合 (T − 55)/60 × 熟成時間/180 min,上限 0.75.推定). これらはすべて模式で,実験に合わせた値ではありません.

6. 傾瀉洗浄 ― 薄める・溶け出す・ほどける

6.1 薄める

上澄みを Vd(抜いた後の液量)まで抜いて Vr = 300 mL まで水を足すと,溶けている塩は 1 回で(抜いた後の液量)÷(抜く前の液量)倍になります. 抜く前の液量は,1 回目だけが②のスラリーの V0 = 150 mL(溶液 A 100 mL + 溶液 B 50 mL),2 回目からは Vr なので,

nk=n0VdV0(VdVr)k−1 (4)

Vd = 125 mL なら 1 回目は 125/150 = 0.833 倍,2 回目からは 125/300 = 0.417 倍です.ゲルの表面に吸着した Na+ は 1 回ごとに 22〜40 % しか出てこない(温かいほど多い,推定)ので, 式 (4) より少し遅れて減ります.この吸着は,含水酸化鉄の表面が負に帯電する pH(等電点 ≈ 8 より上)でだけ生じるとします(≡FeO−Na+.推定). 吸着した Na+ が離れるときは表面の ≡FeO− が水から H+ を受け取るので,液には Na+ と同じ量の OH− が加わります(電荷収支で自動的に扱う). 塩基が足りず酸性になったスラリー(①で NaOH 2 g など)には吸着 Na+ がなく,洗うと酸性の上澄みが薄まって pH は下から 7 に近づきます. このとき液に残っていた Fe3+ は,pH が上がって溶解度積を超えた分だけ含水酸化鉄として沈み,H+ を出すので,pH の上がり方はゆっくりになります.電気伝導率は各イオンの無限希釈モル伝導率の和に Kohlrausch 型の補正 1/(1 + 0.6√I) を掛けた目安です.

6.2 溶け出す

BaCO3 はわずかに溶けます.上澄みにすでに [Ba]0,[CO3]0 があるとき,溶ける量 x は ([Ba]0 + x)([CO3]0 + x) = Ksp の正の根で,静置の時間 t で 1 − exp(−t/12 min) だけ平衡に近づく(推定)とします. 炭酸塩が洗い流されるほど共通イオン効果が弱まり,x は √Ksp ≈ 5 × 10−5 mol/L に近づきます. 洗いすぎると Ba が少しずつ抜けて,固体の Fe/Ba が上がります(既定の条件で 13 回洗うと 10.97 → 11.07).

このモデルは空気と CO2 をやりとりしない閉じた系なので,塩がほぼ抜けたあとも,溶けた CO32− が水と反応して 上澄みの pH は 9 台で止まります. この頭打ちの値は飽和の値ではなく,1 回の静置(10 min)で平衡へ近づく割合 1 − exp(−t/12 min) と,1 回ごとに 125/300 に薄める操作とが釣り合った値です. 同じ定数で閉じた系の BaCO3 飽和水を解くと pH 9.87 ですが,このモデルは溶け出す量を遊離の CO32− だけで数え,CO32− が HCO3− に変わる分を入れていない(簡略化)ので, 静置を 30 min にしても約 9.4 にとどまります. 空気中の CO2(約 400 ppm,Henry 定数 10−1.47 mol L−1 atm−1)と平衡した BaCO3 の飽和水溶液を同じ定数で計算しても 2[Ba2+] ≈ [HCO3−] から pH ≈ 8.2 で,炭酸カルシウムの水(pH 8.3 前後)と同じくpH 7 までは下がりません. したがって,モデルで pH 7 に届かないのは想定どおりです.実習の「上澄みの pH が約 7 になるまで」(実験テキスト §8.1)は pH 試験紙で読む目安で, 試験紙の読み取りの幅(おおむね ±0.5〜1),抜く量や静置時間の違い,BaCO3 が溶けきる前に上澄みを抜くことなどで,7 付近と読めることがあると考えられます(確かめていない.§12). 洗浄を終える目安としては,電気伝導率が下がりきること,上澄みに AgNO3 水溶液を加えて白く濁らない(AgCl ができない=Cl− がほぼ抜けた)ことも使えます.

6.3 ほどける(解膠)

沈殿の粒の表面は電荷をもち,液のイオン強度 I が高いうちは電気二重層が薄く,粒どうしが凝集して速く沈みます. 洗ってイオンが減ると二重層が厚くなって粒どうしが反発し,凝集がほどけて(解膠)細かい粒が上澄みに浮いたまま残ります. VEL の推定式では,危険度 = clamp((0.05 − I)/0.05, 0, 1) × (1 − 0.9 × clamp((水温 − 20)/40, 0, 1)) が 0.45 を超えると解膠とし, 浮いている割合(微粒子 4 % の沈降の時定数 1.8 + 45 × 危険度 min,塊は 1.2 min)× 抜いた体積の割合だけ固体が流出します. 温水ほど解膠しにくいという向きは VEL の設計に従ったもので,定量的な根拠は確認していません.

7. ろ過と乾燥 ― 残る水と残る塩

吸引ろ過は,ろ紙を蒸留水で湿らせ,アスピレーターのスイッチを入れて吸引を確かめてから沈殿を注ぎ,蒸留水でビーカーを共洗いして,ろ餅にひびが入るまで吸引します(実験テキスト §8.1,動画 B1). モデルでは,凝集体の大きさを対数正規分布(幾何標準偏差 3)とみなし,ろ紙の保持粒径(2 種 5 µm,5A 1 µm,5B 0.4 µm,5C 0.25 µm,推定)より細かい分の 35 % が抜けるとします. ろ紙を湿らせずに置くと,さらに約 6.5 % が縁から回り込みます(推定). ゲル状のろ餅は固体の 2 倍以上の水を抱え(水/固体 = 4.4 − 2.6 × 絞れ具合,推定),その水に溶けている Na+・Cl− が乾燥後に残ります. 洗浄が足りないと,乾いたときに NaCl の結晶になります.

乾燥では,自由水が一次の速さ k = 182.9 exp(−45 kJ mol−1/RT) s−1(105 ℃ で時定数 ≈ 2.5 h,推定)で抜けます. 含水酸化鉄は 105 ℃ でもゲル水を保ち,Fe 1 mol あたり 1.25 mol の H2O が残るとします(推定).この結合水は仮焼の昇温中に抜けます. 実習ではろ紙ごと時計皿に載せて 105 ℃ で約 20 h 乾かします(実験テキスト §8.1).乾くとろ餅は黒褐色の小片に割れ,下のろ紙が橙に染まります(動画 B2). 乾燥粉は前駆体で,BaFe12O19 ではありません.実習では,実験台で乾燥粉が最も多い班が乾燥粉を,2 番目に多い班が仮焼粉を,約 0.5 g ずつ XRD 用に取り分けます(この教材は取り分けずに計算).

8. 仮焼 ― 相が現れる順と拡散律速

8.1 反応

①自由水・結合水の脱離(100 ℃ 前後から) ②2FeOOH→α-Fe2O3+H2O ③BaCO3+Fe2O3→BaFe2O4+CO2 ④BaFe2O4+5Fe2O3→BaFe12O19(律速) (5)

④で中間相が足りなければ BaCO3 + 6 Fe2O3 から直接つくります. 取り込まれた Ba(§4.4)は Ba(OH)2 相当として数え,②と同じ速さで BaO になり,③④では BaCO3 と同じように反応します(CO2 は出ない). 洗い残した NaCl は 801 ℃ で融けてフラックスになり,反応を最大 10 倍,粒成長を最大 46 倍に速め(NaCl が固相の 3 % 以上で頭打ち),その後ゆっくり揮発します(900 ℃ で時定数約 30 min,いずれも推定). 揮発した NaCl の質量は,TG 風の図の「抜けた量」に H2O・CO2 と並べて出します.TG 風の図の縦軸はふだん 65〜101 % で,生乾きの粉(自由水が多い)では下へ広げます. 洗い残した Na のうち Cl− と対にならない分(NaOH,Na2CO3,沈殿の表面の Na)は,400 ℃ を超えると Na2O になり (NaOH は H2O を,Na2CO3 は CO2 を出し,酸素は固体に残る),Na2O + Fe2O3 → 2 NaFeO2 で Na–Fe 酸化物の不純物になるとしました(700 ℃ で時定数 10 min,推定).Zahn ら(参考文献 3)は,洗浄が不十分な試料に FeNaO2 などの Na 系の不純物を 0.5〜0.7 wt% 見つけています. NaFeO2 は BaFe12O19 に使えるはずの Fe を取るので,Ba が余って BaFe2O4 が残り,BaFe12O19 の割合と飽和磁化が下がります.

8.2 拡散律速の式

③④は,生成物の層を通って原子が拡散する速さで決まると考え,球形粒子の Ginstling–Brounshtein の式(参考文献 8)を使います.

1−23α−(1−α)2/3=kt, k=2Dr2, D=D0exp(−EaRT) (6)

α は Ba を含む相のうち生成物になった割合,r は反応の実効半径で,凝集径 × (2 − 均一度) とします(まざりが悪いほど拡散の距離が長い). 温度が時間とともに変わるので,120 s 以下の刻みで g(α) に kΔt を足して α を解き直します. 定数は VEL の値で,④ D0 = 1.56 × 10−3 cm2/s,Ea = 250 kJ/mol(凝集径 0.3 µm が 900 ℃・2 h で α ≈ 0.9 になるよう選んだ推定値), ③ 8.46 × 10−4 cm2/s,215 kJ/mol(推定),② は一次反応で A = 1.66 × 106 s−1,110 kJ/mol(350 ℃ で時定数約 17 min,推定)です. 結晶子の成長は G3 − G03 = k0 exp(−Q/RT) t(k0 = 2.5 × 1021 nm3/s,Q = 450 kJ/mol,推定)です.

8.3 文献との照合

表 3 既定の乾燥粉(13 回洗浄)を 3 ℃/min で昇温し 2 h 保持したときの計算値昇温速度は実験テキスト §8.2 の値.相は固相の質量分率(水と残留塩を除く).磁性は §9 の目安.
保持温度含水酸化鉄BaCO3α-Fe2O3BaFe2O4BaFe12O19質量減少結晶子Hc
300 ℃27 %18 %56 %0 %0 %17.1 %−−
400 ℃0 %18 %82 %0 %0 %24.4 %−−
600 ℃0 %16 %80 %3 %1 %24.7 %12 nm−
700 ℃0 %10 %71 %11 %8 %25.8 %12 nm181 kA/m
800 ℃0 %0 %46 %21 %33 %27.5 %16 nm270 kA/m
900 ℃0 %0 %7 %6 %87 %27.5 %56 nm412 kA/m
925 ℃0 %0 %0 %3 %97 %27.5 %78 nm422 kA/m
1000 ℃0 %0 %0 %3 %97 %27.5 %189 nm434 kA/m
1100 ℃0 %0 %0 %3 %97 %27.5 %531 nm247 kA/m

文献では,共沈前駆体の BaFe12O19 は XRD で約 800 ℃ から現れ(参考文献 4),800 ℃・1 h で単相になる例(参考文献 1,機械的活性化あり), 800〜1000 ℃・3 h で保磁力が 370 kA/m を超え 1200 ℃ では 45〜70 kA/m に下がる例(参考文献 3), ゾル–ゲル前駆体で α-Fe2O3 が 550〜900 ℃,BaFe2O4 が 650〜750 ℃ に中間相として現れる例(参考文献 7 の引用)があります. 表 3 では,BaFe12O19 が 700 ℃ ごろから現れ,約 900 ℃・2〜3 h でほぼ完結(900 ℃・2 h で 87 %,3 h で 97 %,910 ℃・2 h で 93 %)し, 約 1050 ℃ を超えると(BaFe12O19 の結晶子が単磁区の臨界径 0.3 µm(仮)を超えると)粒成長で保磁力が下がります(2 h 保持で 1000 ℃ 434,1050 ℃ 405,1100 ℃ 247 kA/m).相が現れる順と,高温での保磁力の低下の向きは文献と合います. ただし完結する温度は文献の「800〜900 ℃」の上の端に当たり,800 ℃ 付近ではモデルのほうが遅い (800 ℃・3 h で 39 %,保磁力 290 kA/m.参考文献 3 は 800 ℃・3 h で単相,370 kA/m 超). VEL の D0 は凝集径 0.3 µm・900 ℃ 保持 2 h で α ≈ 0.9 に合わせた値で,この教材は実効半径が約 0.375 µm で昇温の時間も含むためです. 温度の境目は前駆体の作り方で 100 ℃ 以上動くので,D0 の見直しは実習の結果(§12)を待ちます.数値そのものは予測ではありません.

質量減少は,付着水・結合水・脱水酸化の H2O と脱炭酸の CO2 の和です. シミュレーターでは結合水(Fe 1 mol あたり 1.25 mol,推定)を含めているので,質量減少は Fe(OH)3 や FeOOH を仮定した化学量論の値より大きくなります (BaCO3 1 mol + Fe(OH)3 12 mol → BaFe12O19 なら 24.89 %.④の数値の欄に比較として出す.既定の乾燥粉の計算は表 3 の 27.5 %). 物質量の収支(Fe と Ba の総量,はじめの質量 = 残った質量 + 抜けた H2O + CO2 + 揮発した NaCl)は計算の各段で保たれていることを確かめました (洗浄が少ない試料では NaCl の揮発分が加わる.洗浄 2 回で 0.078 g).

8.4 組成がずれると何が残るか

Ba がすべて BaFe12O19 に入るとき,固体の Fe/Ba を R とすると,R > 12 なら式単位あたり (R − 12)/2 mol の α-Fe2O3 が余ります.

wα-Fe2O3=MFe2O3(R−12)/2MBaFe12O19+MFe2O3(R−12)/2 (7)

R < 12 なら,余った Ba は BaFe2O4 として残ります(シミュレーターのモデルでは高温でも消えない). 仕込み 13 では洗浄後の固体が 13.1 で,式 (7) の α-Fe2O3 は 7.5 % です. 925 ℃・2 h(3 ℃/min)の終わりでは α-Fe2O3 が 11.2 %,BaFe2O4 が 1.4 % 残りますが,このうち式 (7) の 7.5 % が組成ずれで,残りの約 3.7 % はまだ反応の途中の分です (925 ℃・10 h や 1000 ℃・2 h では 7.5 % まで減り,それ以上は減らない).仕込み 8 では BaFe2O4 が約 16 % 残ります(925 ℃ でも 1100 ℃ でも同じ). 既定の仕込み 10.97 でも,このモデルでは Ba が②でほぼすべて(99.99 %)沈み,13 回の洗浄で Fe より余分に失われる Ba は約 0.9 %(固体の Fe/Ba 10.97 → 11.07)で,Ba が余って BaFe2O4 が 2.8 % 残ります(925 ℃ でも 1200 ℃ でも同じ). 仕込みをちょうど 12 にしても,洗浄で Ba が抜けて固体は 12.1 になり,式 (7) の α-Fe2O3 は 0.8 % です(925 ℃・2 h の終わりでは未反応の分を含めて 4.7 %). シミュレーターの④の終わりのひとことは,いまの相とこの「最後まで進んだときの相」の差から,未反応の分と組成ずれの分を分けて示します. 文献でも,固相法で Fe:Ba ≥ 12 では α-Fe2O3 が共存し,Fe:Ba < 11 では 1000 ℃ 未満で BaFe2O4 が共存すると整理されています(参考文献 7).

9. 磁性の目安,成形・焼結・着磁と見かけの残留磁化(模式)

9.1 仮焼粉の磁性の目安(④)

飽和磁化は,BaFe12O19 の室温の値 72 A·m2/kg(参考文献 3 の引用)に BaFe12O19 の質量分率を掛け, 細かい結晶の表面の磁気的な死層(20 nm で 15 %,200 nm 以上で 0,VEL の推定)で目減りさせます.α-Fe2O3 と BaFe2O4 は室温の磁化にほとんど寄与しないとします.

Hc=Hmax·min(1,DsdG)·[1−(DspG)3/2] (8)

G は結晶子径,Hmax = 5500 Oe ≈ 438 kA/m(VEL の値.共沈粉の実測 440 kA/m(参考文献 4),436.7 kA/m(参考文献 1)と同程度), 単磁区の臨界径 Dsd = 0.3 µm(仮.文献では 100〜300 nm から 1 µm 程度まで幅がある.VEL は 0.7 µm), 超常磁性の臨界径 Dsp は KuV = 25kBT(Ku = 3.3 × 105 J/m3,300 K)から 8.4 nm です. 結晶子が単磁区の大きさを超えると磁壁ができて保磁力が下がる,という向きだけを示す模式で,焼結体の粒径や形状異方性は扱っていません.

9.2 成形・焼結・着磁と見かけの残留磁化(⑤,模式)

実習(実験テキスト §8.3–8.5,動画 B3・B4)では,仮焼粉を粉砕して約 3 g に PVA 5 mass% 水溶液を 3 滴加えて造粒し,φ 1.000 cm の金型で 98.1 MPa・1 min 保持して厚さの違う 2 個の成形体をつくります. 1100 ℃・2 h(約 3 ℃/min,炉冷)で焼結し,#400 → #800 で研磨して厚さを 5 mm 未満にそろえ,質量 W・直径 D・厚さ h からかさ密度を出します. 着磁用電磁石で直流 10 A(磁極間 752 000 A/m)を 1 min 流して着磁し,天秤の試料台に載せた試料の上から基準磁石を反発する向きに近づけて,見かけの質量 Wrepul を読みます. ⑤のタブは,この流れを④の仮焼粉から続けて描きます.モデルは次の模式で,実測の予測ではありません.

既定の条件(③を 13 回洗浄,④を 925 ℃・2 h)では,表示の増加 Wrepul − W の目安は A(0.6 g)約 0.27 g,B(1.2 g)約 0.62 g,A+B 約 1.04 g です(天秤の読み Wrepul はそれぞれ約 0.84,1.80,2.79 g).厚い試料ほど大きくなり,体積の比より速く増えます(厚いほど試料の中心が基準磁石に近づき,反磁場も弱くなるため). 増加が 0.001 g(画面の表示の桁)未満か,焼結体の BaFe12O19 が 2 % 未満のときは「ほとんど増えない」と表示します. 実習での典型値は確かめていないので,この値は目安です(§12).

9.3 実験テキストの整理 ― 天秤の読みから減磁曲線を推定する(⑤の数値の欄)

実験テキスト §8.5 の結果の整理は,天秤の読みだけから試料の磁化を求め,反磁場の効果を補正して,減磁曲線(第 2 象限の B–H 曲線)を推定する手順です. シミュレーターは⑤の測定が終わると,画面の読みを入力にしてこの手順をそのまま計算し,数値の欄の「テキストの整理」に出します. 単位は実験テキストと同じ E−H 対応 MKSA(磁化 I と磁束密度 B は Wb/m2,磁場 H は A/m,磁気モーメントは Wb·m)で,μ0 = 4π × 10−7 Wb/(A·m),g = 9.81 m/s2,基準磁石の磁気モーメント μref = 1 × 10−6 Wb·m です.

  1. 距離:基準磁石と試料の中心の間の距離は,基準磁石の下面から試料台までの距離 L′ に,基準磁石の厚さの半分を足し,試料の厚さの半分を引いたものです.
    L=L′+href−h2(8-13)
  2. 磁気モーメント:2 つの磁石を軸上に並んだ点双極子とみなすと,反発力は 3μμref/(2πμ0L4) で,これが読みの増加 (Wrepul − W)(kg)に g を掛けた力に等しいので,
    μ=2πμ0gL4(Wrepul−W)3μref(8-14)
  3. 磁荷と磁化:試料を,上下の面に ±md の磁荷をもつ長さ h の磁石とみなすと μ = mdh です.面の磁荷を面積で割ったものが磁化なので,
    md=μh,Id=4mdπD2(8-15)(8-16)
    Id は,試料自身の反磁場がかかった状態で残っている磁化(見かけの残留磁化)です.
  4. 反磁場係数:実験テキストの表 7-1 の寸法比(長さ/直径)0 で N = 1,1 で N = 0.27 の 2 点を直線で結び,Ni ≈ 1 − 0.73 h/D とします(i = 1,2,3 は A,B,A+B).
  5. 減磁曲線の上の点:試料の中では B = μ0H + I と,反磁場 H = −NI/μ0 が成り立ちます.I = Idi を入れると
    Bdi=(1−Ni)Idi,B=(1−1Ni)μ0H(8-17)(8-18)
    で,右の式は反磁場の直線を B–H 面に描いたもの(I を消した形)です.その上で B = Bdi となる点は (−Hdi, Bdi) で,実験テキストと同じく Hdi = NiIdi/μ0 は反磁場の大きさ(正の値)です.
  6. 推定:厚さの違う 3 つの点 (−Hdi, Bdi) を最小二乗の直線 B = a + bH で結ぶと,H = 0 の切片が残留磁束密度 Br(= Ir),B = 0 となる磁場の大きさ a/b が保磁力 Hc です.厚さの違う試料を 2 個つくり,吸着させた 1 個も測るのは,この 3 点を得るためです.
表 4 既定の条件(③を 13 回洗浄,④を 925 ℃・2 h,粉 0.6 g と 1.2 g)の読みを整理した値シミュレーターの⑤の数値の欄と同じ計算.直径 D はどれも 8.83 mm.
ABA+B
厚さ h / 質量 W2.18 mm / 0.574 g4.46 mm / 1.174 g6.64 mm / 1.747 g
天秤の読み Wrepul0.839 g1.797 g2.788 g
(8-13) L43.27 mm42.13 mm41.04 mm
(8-14) μ2.40 × 10−8 Wb·m5.07 × 10−8 Wb·m7.62 × 10−8 Wb·m
(8-16) Id0.1799 Wb/m20.1855 Wb/m20.1874 Wb/m2
Ni(直線近似)0.8200.6310.451
(8-17) Bdi0.0325 Wb/m20.0685 Wb/m20.1030 Wb/m2
Hdi(点は (−Hdi, Bdi))117.4 kA/m93.2 kA/m67.2 kA/m
最小二乗の直線からBr ≈ 0.198 Wb/m2,Hc ≈ 141 kA/m

この整理の値と,読みをつくるのに使ったモデルの内部の値は別のものです.モデルでは,等方的な焼結体の残留磁化 Ir = 0.189 Wb/m2,I–H の保磁力の目安 246 kA/m,寸法比の曲線近似の反磁場係数(A 0.625,B 0.440,A+B 0.337)から見かけの残留磁化を決めています. 式 (8-13)〜(8-16) はモデルの反発力の式と同じ関係なので,逆算した Id はモデルの Id と一致します. 違いが出るのは次の 2 点です.反磁場係数の直線近似は,寸法比 0.25 で 0.82 と曲線(0.62)より大きく,Bdi と Hdi の位置が変わります. また,推定する Hc は B–H 曲線の保磁力で,I–H 曲線の保磁力とは別の量です.B = μ0H + I が 0 になる磁場なので,大きさは Ir/μ0 ≈ 150 kA/m を超えません. このため推定の Br(0.198 Wb/m2)はモデルの Ir より約 5 % 大きく,Hc(141 kA/m)はモデルの 246 kA/m より小さく出ます. どちらも「反磁場の補正と直線での推定」という手順の近似による差なので,シミュレーターは 2 組の値を分けて表示します.

10. XRD 風の図の作り方

④のグラフで選べる「XRD 風」の図は,線の位置だけが計算値です. 六方晶は 1/d2 = 4(h2 + hk + k2)/3a2 + l2/c2,直方晶と立方晶はそれぞれの式で面間隔を出し, Bragg の式 λ = 2d sin θ(Cu Kα1,λ = 1.5406 Å)で 2θ にしました. 格子定数は BaFe12O19 a = 5.89 Å,c = 23.18 Å(参考文献 9),α-Fe2O3 a = 5.034 Å,c = 13.75 Å, ゲーサイト a = 4.608,b = 9.956,c = 3.021 Å(参考文献 10),NaCl a = 5.640 Å です. BaCO3 は強い 2 本(d = 3.72,3.65 Å)だけ,2 線フェリハイドライトは d ≈ 2.5,1.5 Å の幅の広い 2 つの山(参考文献 10)として描きます. BaFe2O4 の線は省きました.

線の高さは相の質量分率に,代表的な線の相対的な強さ(模式.構造因子は計算していない)を掛けたもので,相ごとの散乱の強さの違いは無視しています. 線の幅は結晶子径 G から Scherrer の式 β = 0.9λ/(G cos θ)(参考文献 11)で広げています. 前駆体の山が低く幅広いこと,仮焼で BaFe12O19 の線が現れて鋭くなることを見るための図で,実測のパターンとの照合には使えません. XRD の原理は X 線回折のシミュレーターを見てください.

11. 簡略化した点と適用範囲

12. 確認事項(先生に確認)

試薬の質量・水量,上澄みを抜いた後の液量(約 125 mL),ろ紙(5B),乾燥(105 ℃・約 20 h),仮焼(約 3 ℃/min,925 ℃・2 h,蓋つき,炉冷),成形・焼結・着磁の条件は,実験テキストで確かめて仮の値ではなくなりました. 溶解度積と溶解熱・比熱の VEL の値も,テキスト §8.1 の問の与条件と同じでした. 熱処理の雰囲気,天秤の寸法,公開してよい範囲は先生の回答(2026-09-25)で解決しました(下の 1,4,5).残っている確認事項は次のとおりです.

  1. 仮焼・焼結の雰囲気(解決(先生の回答 2026-09-25)):学生実験は大気中.研究では環状炉で N2 を流す場合や,Ar を詰めたグローブボックスで熱処理する場合もある.この教材は大気中だけを扱う(§2).
  2. 洗浄の終わり方:実習は「上澄みの pH が約 7 になるまで」ですが,このモデル(閉じた系)では pH が 9 台で止まり,空気中の CO2 と平衡させても計算上 8 程度です(§6.2).実際に何回くらいで pH 7 と判定しているか.静置時間(テキストに指定なし.この教材は 10 min,仮).
  3. 実習の結果の例:乾燥粉・仮焼粉の XRD,仮焼の質量減少,焼結体の相対密度,見かけの残留磁化 Wrepul の典型値.あれば模式の係数をそれに合わせたい.
  4. 天秤の寸法(解決(先生の回答 2026-09-25)):基準磁石の厚さ href = 1.4020 × 10−2 m,基準磁石の下面から試料台の上面までの距離 L′ = 3.7349 × 10−2 m(天秤に書かれた値).⑤の読みと §9.2,§9.3 の数値はこの値で計算した.
  5. 公開してよい範囲(解決(先生の回答 2026-09-25)):実験テキストは旧東京工業大学のもので,東京理科大学の授業では配布しないので,計算値はすべて出してよい. そこで,前回「課題の答えに当たる」として外した文(§5 の逆の向きの説明と約 30 %・約 23 %,§9.2 と §11 の仮焼が不十分な粉の説明,付録 A の塩基不足・20 ℃ の解膠・逆の向きの説明,シミュレーターの②③④⑤のひとこと)を戻し, 理論収量 3.4747 g,BaO:Fe2O3 = 1:5.487,NaOH を一度に溶かしたときの液温 54.6 ℃,Fe(OH)3 に要る NaOH 4.501 g,理論の質量減少 24.89 %,X 線密度 5.302 g/cm3(本文 §9.2 と⑤の数値の欄の参考の行.相対密度の計算にはテキストの真密度 5.374 を使う),油圧計の読み約 12.0 MPa と,§9.3 の整理(L,μ,md,Id,Ni,Bdi,Hdi,推定の Br・Hc)を本文と画面に出した. VEL の講評・設問の文言は写していない.
  6. 溶解度積の値:テキストの与条件(Fe(OH)3 4 × 10−36,BaCO3 8.1 × 10−9)と,この教材が使っている CRC Handbook の値のどちらを画面に使うか.
  7. Na2CO3 が少ないときの Ba の扱い(§4.4 の仮のモデル)を授業で見せてよいか.
  8. 単磁区の臨界径 0.3 µm(仮)と,保磁力の目安を画面に出すかどうか.
  9. 仕込み Fe/Ba と仮焼粉の相:このモデルの既定の条件では,仕込み 10.97 で BaFe2O4 が 2.8 % 残ります(§8.4).実習の仮焼粉の XRD で BaFe2O4 が見えるか.
  10. 前駆体の呼び方:Fe 側を「Fe の含水酸化物(Fe(OH)3 と書かれることが多い)」と書いた.テキストのレポートの例は Fe(OH)3,文献では 2 線フェリハイドライト.

付録 A. シミュレーター(coprecip-simulator.html)で見ていること

この付録で分かること 対になるシミュレーター coprecip-simulator.html の各タブが何を描いていて,どの操作が何を意味するのか.画面に出る数値がどの近似で計算されているのか. 式の導出は本文の §3〜§10 にあるので,ここでは画面の読み方と,シミュレーターにしか出てこない設定をまとめます.

A.1 ページ全体 ―― 5 つの工程と状態の引き継ぎ

5 つのタブは実習の工程の順に並んでいます.どのタブも,左上に実験装置の図,右上に材料内部の拡大模式図,その下にグラフがあり, 下に「ひとこと」(いまの操作で何が変わったか)と読み取り値の表,右(スマートフォンでは下)に操作欄があります. 装置図・内部図・グラフ・数値は,ページの中の 1 つの状態(試料)から描いているので,食い違いません.

工程は前の工程の試料をそのまま引き継ぎます.①の仕込みを変えると②以降は作り直しになります. 前の工程をまだ行っていないのに後のタブを開いたときは,前の工程をいまの条件で最後まで自動で進めた試料を使い,そのことを各タブの上の黄色い帯に表示します (③の自動の洗浄は 13 回).ただし③が途中(洗浄の途中やろ過まで)のときに④を開くと,③の状態は変えずに,その複製をろ過・乾燥したと仮定した粉で④を計算するので,③に戻れば続きから操作できます.⑤を開いたときに④を最後まで進めていなければ,いまの④の条件で仮焼を最後まで計算した粉を使います.タブの上の「① 溶液 → ② 沈殿 → ③ 乾燥粉 → ④ 仮焼粉 → ⑤ 焼結体」の列は,どこまで済んだかを示します.

アドレスの末尾に #solution,#precip,#wash,#calcine,#form を付けるとそのタブが開きます. ?embed=1 で見出しと導入文を隠した埋め込み用の表示(タブは残る),?only=calcine のように書くとそのタブだけを表示します. アニメーションは,タブを切り替えたり画面が隠れたりすると止まります.

表 A1 タブと本文の対応
タブ画面で見ること本文
① 秤量と溶解秤量と溶解の順序,液中のイオン,pH,溶解熱,仕込み比と化学量論・塩基の予算の比較§2,§3,A.2
② 滴下と沈殿注ぐ向きと pH の推移,Fe と Ba の沈殿率,過飽和度,前駆体の粒§4,§5,A.3
③ 洗浄・ろ過・乾燥上澄みの pH と電気伝導率,解膠と流出,ろ餅に残る塩,乾燥粉の中身§6,§7,A.4
④ 仮焼温度プログラム,相の変化,質量変化,XRD 風の図,磁性の目安§8〜§10,A.5
⑤ 成形・焼結・着磁造粒・成形・焼結・研磨・着磁・天秤での測定の順,粒と気孔と磁化の向き,かさ密度,天秤の読み Wrepul と増加 Wrepul − W,実験テキストの整理((8-13)〜(8-18))§9.2,§9.3,A.6

A.2 ① 秤量と溶解

「秤量して溶かす」で,NaOH → Na2CO3(溶液 A),FeCl3·6H2O → BaCl2·2H2O(溶液 B)の順に,天秤ではかって溶かす様子を描きます(1 コマの時間は短縮). 器は動画 B1 のとおり,NaOH はポリビーカー,Na2CO3 は薬包紙,塩化鉄は大きいバランストレイ,塩化バリウムは小さいバランストレイです.試薬の質量と水量の既定値は実験テキスト §8.1 の値です. 温度計は溶解熱の見積もり(§3)で,「NaOH の入れ方」を「一度に全部」にすると「跳ねる危険」と出ます. 内部図のイオンの個数は物質量に比例し,Fe3+・Ba2+・CO32−・H+ は 1 個 = 1 mmol,数の多い Na+・Cl−・OH− は 1 個 = 8 mmol に間引いています.箱の面積は液量に比例します. グラフは「Fe からつくれる BaFe12O19(nFe/12)」と「Ba からつくれる量(nBa)」を並べ,少ないほうが理論収量を決めることと, 入れた塩基が Fe を沈めるのに要る量(3nFe)を上回っているかを示します. スライダーは仕込み Fe/Ba(8〜13.BaCl2·2H2O の量を決める),FeCl3·6H2O の量(溶液 B の濃さ),NaOH,Na2CO3 の量です. 範囲外や数でない入力は,計算の前に範囲の端に丸めます.

A.3 ② 滴下と沈殿

「滴下を始める」で,落とす側の液を少しずつ加えた混合物ごとに §4 の平衡を解き,pH・沈殿率・過飽和度を描きます(画面の 7 秒で注ぎ終わる.実験の時間は注ぐ量 ÷ 速さ). 装置図は実習と同じくガラス棒に伝わせて分けて注ぎ(実習は「数回に分けて」で回数の指定はなく,画面の 5 回は模式),合間にガラス棒で混ぜます(撹拌子・スターラー・pH メーターは使わない.pH は計算値として表示).注ぎ終わると時計皿で蓋をして静置します.撹拌の強さのスライダーは条件を比べるための目盛り(rpm 相当)です. グラフの上段は pH,下段は Fe と Ba の沈殿率で,細い点線は注ぎ終わるまでの予定の曲線です. 横軸は注いだ割合(注ぎ終わり = 100 %)なので,向きを変えて注ぐ液の量が変わっても比べられます. 「直前の結果を残す」を押してから条件を変えると,前の曲線が灰色の破線(Ba は点線)で重なります. 内部図の茶色の粒は含水酸化鉄(1 個 = Fe 1 mmol),□ は BaCO3(1 個 = 1 mmol),小さな青緑の点は取り込まれた Ba(仮,1 個 = 0.5 mmol),針はゲーサイトです. □ が茶色の粒のそばにある割合は均一度(§5)に合わせています. 注ぐ向きを「溶液 A を溶液 B に注ぐ」にすると,pH が約 30 % まで酸性のまま進み(その間に Fe が沈む),そこで急に上がって Ba が沈む様子と,酸性の間に入った炭酸塩が CO2 として逃げること(推定)が見えます.「直前の結果を残す」で既定の向きと重ねて比べてください. 比べる条件の例:向き(B→A と A→B),①で NaOH 2 g(塩基不足:Fe が溶け残り Ba が沈まない),①で Na2CO3 0 g(Ba が BaCO3 にならない),熟成 60 ℃・120 min(ゲーサイト).

A.4 ③ 洗浄・ろ過・乾燥

「洗浄 1 回」は,静置 → 上澄みを駒込ピペットで抜く → 温水で 300 mL まで満たす,を 1 回行います(画面では 1.5 秒). 「上澄みの pH が下がりきるまで」は,pH の下がりが 1 回あたり 0.03 未満になるか 40 回で止まります. 装置図では,静置のあいだビーカーに時計皿で蓋をし,上澄みを 5 mL 駒込ピペットで廃液びんへ抜き,ホットプレートの上の 500 mL ビーカーで約 60 ℃ にした温水を 20 mL 駒込ピペットで注ぎます. スラリーが酸性(塩基不足)のときはボタンが「上澄みの pH が 7 に近づくまで」に変わり,pH が 6.8 以上になるか 40 回で止まります. pH の目盛りはふだん 6〜15 で,酸性の上澄みがあれば下へ広げます. ひとことは,静置が短くて沈みきらない粒が 1 回に 2 % を超えて抜けたとき(または流出の累計が②の沈殿の 10 % を超えたとき)に警告します. 「直前の結果を残す」を押すと,pH と電気伝導率の曲線を灰色の太い線で下に敷き,洗浄回数・pH・流出した沈殿の累計・固体の Fe/Ba を数値の欄に並べます (pH と伝導率は薄め方でほぼ決まるので曲線は重なりやすく,水温や静置時間の違いは流出の累計に出る). 洗浄の途中でタブを切り替えると,残りの回数はアニメーションなしで計算して反映します. 抜いた後の液量 125 mL・60 ℃・300 mL・ろ紙 5B・105 ℃ 20 h の既定値は実験テキスト §8.1 の値で,静置 10 min は仮です. 「吸引ろ過する」は,ろ紙を湿らせる → 吸引を確かめる → 注ぐ → 共洗い → ひびが入るまで吸引 → コックを閉じてスイッチを切る → ろ紙ごと時計皿へ,の順を描きます. 乾燥の後は,ろ餅が黒褐色の小片に割れてろ紙が橙に染まった姿を描き,「乳鉢で粉砕してるつぼに移す」で動画 B2 の秤量と粉砕を描きます(XRD 用の取り分けは計算に入れない). グラフは上澄みの pH(左の目盛り)と電気伝導率(右の目盛り,対数)で,解膠した回は赤い点です. 内部図は上澄み(Na+・Cl−・OH− などが洗うたびに減る)と沈殿の層で,解膠すると粒がほどけて上澄みに浮きます. 1 個に満たない量は描かないので,少なくなった後は数値で読んでください. ろ過の後はろ餅(母液に残る Na+・Cl− を 1 個 = 0.1 mmol で拡大して描く),乾燥の後は乾燥粉(NaCl の結晶を 1 個 = 0.1 mmol で描く)になります. 比べる条件の例:水温 60 ℃ と 20 ℃(20 ℃ では 7 回目ごろから解膠して沈殿が流れる),洗浄 2 回でろ過(NaCl と NaOH が残り,④で粒が大きくなり NaFeO2 ができる),ろ紙 2 種(ろ液が濁る),乾燥 60 ℃・5 h(生乾き).

A.5 ④ 仮焼

「加熱を始める」で,温度プログラム(昇温 → 保持)に沿って §8 の計算を 120 s 以下の刻みで進めた結果を,画面の 10 秒で再生します. 電気炉の窓の色は温度の目安,H2O↑・CO2↑ はその時刻に気体が出ていることを示します. 内部図は粒子の断面で,相の割合を面積として外側から BaFe12O19(濃い灰,六角の板は結晶),BaFe2O4(黄),α-Fe2O3(赤),含水酸化鉄(茶)の順に塗り, BaCO3 を □ で粒のそば(まざりが悪いと離れた場所)に描きます.NaCl が融けているときは粒の縁が青くなります. グラフは「相の割合と温度」「質量の変化(TG 風)」「XRD 風(§10)」を切り替えられ,「直前の結果を残す」で前の結果が破線で重なります(相の割合は各相と同じ色,TG と XRD は灰色). BaFe12O19 がまだほぼ無い(1 % 未満)うちは,結晶子径を「—」と表示します. Na2CO3 が少ない試料では,Fe の沈殿に取り込まれた Ba(仮のモデル)と,それが脱水してできる BaO を「取り込まれた Ba(仮)・BaO」として相の表とグラフに出します(相の合計は 100 %). 「仮焼する試料」では③でつくった乾燥粉のほか,既定の手順から 1 か所だけ変えた比較用の試料(Fe/Ba 13,Fe/Ba 8,洗浄 2 回,逆の向き,Na2CO3 なし)を選べます. 比べる条件の例:保持温度 700・800・925・1100 ℃(未反応 → 中間相 → ほぼ完成 → 粒成長で保磁力低下),Fe/Ba 13 と 8(α-Fe2O3 と BaFe2O4 のどちらが残るか),逆の向き(同じ温度でも遅い),洗浄 2 回(925 ℃ で NaFeO2 約 11 %,BaFe12O19 83 %,飽和磁化が下がる).

A.6 ⑤ 成形・焼結・着磁

「次の工程」を押すごとに,① 仮焼粉を乳鉢で粉砕して 3 g を 30 mL ビーカーへ,② PVA 5 % 水溶液を 3 滴加えて造粒,③ 一軸成形(φ 10 mm,98.1 MPa,1 min)を 2 個, ④ 焼結(3 ℃/min → 1100 ℃・2 h → 炉冷),⑤ 研磨(#400 → #800)と W・D・h の測定,⑥ 着磁(直流 10 A,1 min.操作はスタッフ),⑦ 天秤で反発による見かけの質量の測定(A,B,A+B),の順に 1 つずつ進みます(条件は実験テキスト §8.3–8.5). 「最後まで進める」で一度に最後まで,「リセット」で最初に戻ります.試料は④の仮焼粉の最後の状態で,④の試料や温度を変えると⑤は最初からになります.

内部図は,粉砕した粒 → PVA でまとまった粒 → 押し固めた成形体(すきまが多い)→ 粒が育ってつながった焼結体(気孔の白い点は粒界の三重点に置き,面積の割合を 1 − 相対密度に合わせる),の順に描き,焼結体では粒ごとの容易軸に沿った矢印で磁化の向きを示します. 色は相(BaFe12O19 濃い灰,α-Fe2O3 赤,BaFe2O4 黄,NaFeO2 緑)で,割合は焼結後の相の計算値に合わせています. グラフは成形体と焼結体の相対密度(左)と,表示の増加 Wrepul − W の目安(右.0.001 g の桁まで表示)です. 測定が終わると,数値の欄に「テキストの整理」(天秤の読みから式 (8-13)〜(8-18) で出した L,μ,md,Id,直線近似の Ni,Bdi,Hdi と,3 点の最小二乗で推定した Br・Hc.§9.3)と,それとは別に「モデルの内部の値」(曲線近似の N,Ir,交点の Id,I–H の保磁力の目安)が並びます. 成形の図の油圧計の読みは 98.1 MPa × (1.000/2.86)2 ≈ 12.0 MPa(金型の直径 1.000 cm,ラムの直径 2.86 cm.実験テキスト §8.3)です.「直前の結果を残す」を押してから条件を変えると,前の結果が灰色の破線の枠で重なります. スライダーは成形体 A・B に使う粉の量(厚さが変わる)で,成形体が 6 mm 以上になると「成形し直す」と表示して焼結に進めません. 比べる条件の例:A と B の厚さ(Wrepul − W は厚いほど大きく,体積の比より速く増える),④の試料を「洗浄 2 回」や「Na2CO3 なし」にする(BaFe12O19 が少なく Wrepul が小さい),④を 700 ℃ にする(焼結中に反応が進む). モデルと仮の値は §9.2 にあります.

A.7 計算のモデルと注意

表 A2 使った定数と出典の種類
量値種類・出典
標準原子量H 1.008,C 12.011,O 15.999,Na 22.990,Cl 35.45,Fe 55.845,Ba 137.327文献値(参考文献 12)
Kw,Ka1,Ka2,Fe3+ の加水分解10−14,4.45 × 10−7,4.69 × 10−11,6.3 × 10−3一般の化学定数(25 ℃)
Ksp表 2文献値(参考文献 13)
NaOH の溶解熱,比熱44.51 kJ/mol,4.179 J/(g·K)実験テキスト §8.1 の問の与条件(VEL も同じ)
無限希釈モル伝導率Na+ 50.1,Cl− 76.3,OH− 198.0,H+ 349.8 S·cm2/mol など一般の値(VEL から)
仕込み・水量・洗浄・ろ過・乾燥・仮焼の条件表 1実験テキスト §8.1–8.2 と動画 B1・B2(静置時間・注ぐ速さは仮.雰囲気は大気中:先生の指示(2026-09-25))
均一度・凝集径・洗浄・ろ過・乾燥・結合水§5〜§7VEL の推定値(模式)
Ba の取り込み最大 0.5,洗浄 1 回で 5 %仮(この教材で追加)
表面に吸着した Na+pH 8〜10 で 0 → 最大(等電点 ≈ 8 より上だけ),1 回に 22〜40 % 放出推定(放出量は VEL,pH の条件はこの教材で追加)
仮焼の速度定数・結晶子の成長・NaCl§8.2VEL の推定値(完結温度は文献の上の端.§8.3)
洗い残した Na → NaFeO2400 ℃ 超で Na2O,700 ℃ で時定数 10 min推定(この教材で追加.Zahn 2024 の Na 系不純物を受けて)
磁性72 A·m2/kg,5500 Oe,Dsd 0.3 µm,Ku 3.3 × 105 J/m3文献値・VEL の推定・仮(§9)
XRD§10線の位置は計算値,高さは模式
成形・焼結・着磁の条件3 g + PVA 3 滴,φ 10 mm・98.1 MPa・1 min,1100 ℃・2 h,10 A・752 000 A/m・1 min,真密度 5.374 g/cm3,基準磁石 1 × 10−6 Wb·m,ラムの直径 2.86 cm実験テキスト §8.3–8.5
天秤の寸法 href,L′14.020 mm,37.349 mm先生の指示(2026-09-25.天秤に書かれた値)
テキストの整理式 (8-13)〜(8-18),N = 1 − 0.73 h/D,3 点の最小二乗実験テキスト §8.5(§9.3)
成形体・焼結体の密度,研磨,減磁曲線55 %,80 %,0.10 mm,§9.2仮(模式)

VEL(仮想実験室)は同じ実験を 3 次元の画面で行う別の教材で,公開準備中です.このシミュレーターは VEL の水溶液化学と熱処理のモデル(関数と定数)だけを, 授業用の軽い画面に移したものです.VEL の課題・講評の文言や内部の資料は使っていません.VEL と違い,このシミュレーターは相の割合や固体の Fe/Ba を直接見せます.

このページの数値は,シミュレーターと同じ関数で計算した結果です.仮焼の速度定数・洗浄やろ過の係数・磁性の係数は教育用に選んだ推定値で, 特定の実験の予測ではありません.静置時間・注ぐ速さ・焼結体の密度などは仮の値です(§12).熱処理の雰囲気(大気中)と天秤の寸法は先生の指示(2026-09-25)です.

対になるシミュレーター:バリウムフェライト ― 共沈した前駆体から磁性材料へ

参考文献

  1. X. Liu, J. Wang, J. Ding, M. S. Chen, Z. X. Shen, “The effects of mechanical activation in synthesizing ultrafine barium ferrite powders from co-precipitated precursors”, J. Mater. Chem. 10, 1745 (2000). doi:10.1039/a909568c ―― 抄録の範囲で確認.
  2. W. Roos, “Formation of chemically coprecipitated barium ferrite”, J. Am. Ceram. Soc. 63, 601 (1980). ―― 要約の範囲で確認.
  3. D. Zahn, M. Diegel, A. Valitova, J. Dellith, S. Dutz, “Influence of synthesis parameters on the properties of barium hexaferrite nanoparticles prepared by co-precipitation”, Nanomaterials 14, 992 (2024). doi:10.3390/nano14120992
  4. S. R. Janasi, M. Emura, F. J. G. Landgraf, D. Rodrigues, “The effects of synthesis variables on the magnetic properties of coprecipitated barium ferrite powders”, J. Magn. Magn. Mater. 238, 168 (2002). ―― 抄録の範囲で確認.
  5. K. Haneda, C. Miyakawa, H. Kojima, “Preparation of high-coercivity BaFe12O19”, J. Am. Ceram. Soc. 57, 354 (1974). ―― 二次文献の引用で確認.
  6. J. Y. Kwak ほか, J. Korean Chem. Soc. 56 (2012).S. L. Hu, J. Liu, H. Y. Yu, Z. W. Liu, J. Magn. Magn. Mater. 473, 79 (2019).P. Shepherd, K. K. Mallick, R. J. Green, J. Magn. Magn. Mater. 311, 683 (2007). ―― いずれも抄録の範囲.前駆体によって相の変化の温度が大きく違う例.
  7. S. H. Mahmood, I. Bsoul, “Tuning the magnetic properties of M-type hexaferrites”, arXiv:1707.07243. ―― Fe:Ba 仕込み比と共存相,ゾル–ゲル前駆体の相の変化(Zhong ら 1997 の引用).
  8. A. M. Ginstling, B. I. Brounshtein, “Concerning the diffusion kinetics of reactions in spherical particles”, J. Appl. Chem. USSR 23, 1327 (1950).
  9. R. C. Pullar, “Hexagonal ferrites: A review of the synthesis, properties and applications of hexaferrite ceramics”, Prog. Mater. Sci. 57, 1191 (2012). doi:10.1016/j.pmatsci.2012.04.001 ―― 格子定数・磁性の代表値の総説(本文は未確認.値は総説を引く文献と Wikipedia「Barium ferrite」で照合).
  10. R. M. Cornell, U. Schwertmann, The Iron Oxides, 2nd ed., Wiley-VCH (2003). ―― 酸化鉄・ゲーサイトの格子定数,2 線フェリハイドライトの回折の山.
  11. P. Scherrer, “Bestimmung der Größe und der inneren Struktur von Kolloidteilchen mittels Röntgenstrahlen”, Nachr. Ges. Wiss. Göttingen, 98 (1918).
  12. T. Prohaska ほか, “Standard atomic weights of the elements 2021 (IUPAC Technical Report)”, Pure Appl. Chem. 94, 573 (2022). doi:10.1515/pac-2019-0603
  13. J. R. Rumble (ed.), CRC Handbook of Chemistry and Physics, “Solubility product constants” の表.
  14. VEL(仮想実験室,望月研究室,公開準備中)の src/sim/coprecip.js,thermal_ferrite.js,reaction.js,magnetics.js(2026-09-24 時点).―― 水溶液化学・熱処理のモデルと推定値の移植元.
  15. 旧東京工業大学 材料科学実験(無機材料分野)実験テキスト 2025 年版(§7,§8.1–8.5).東京理科大学の授業では配布していない.実習の動画(A1〜A3,B1〜B4).―― 手順と条件(試薬の質量,水量,洗浄,ろ過・乾燥,仮焼,成形・焼結・着磁,見かけの残留磁化の測定と結果の整理の式)の確認に使用.本文は転載していない.
  16. 先生の指示(2026-09-25).―― 熱処理の雰囲気(学生実験は大気中),天秤の基準磁石の厚さ href と距離 L′ の値,計算値の公開.