― H2 の 2×2 行列から,Bloch の定理・状態密度・ギャップの起源,そして 2 次元正方格子の s・p・d・f まで(学部 2・3 年生向け)
固体の中の電子のエネルギーは,とびとびの準位ではなく連続な帯(バンド)をなします. 講義ではこの事実が Bloch の定理とセットで天下り式に与えられがちですが, 実は H2 分子の結合・反結合軌道の話をそのまま延長するだけで, バンドも,Bloch の定理も,ギャップも,全部手で導けます. 使う数学は2 次方程式と三角関数の加法定理だけです(d と f を扱う §11・§12 では,これに軌道の対称性の数え上げが加わります).
原子を等間隔 a で 1 列に N 個並べ,各原子に s 軌道 (j = 1, …, N)を 1 個ずつ置きます. 結晶の波動関数を原子軌道の重ね合わせ(LCAO)で書き,
ハミルトニアンの行列要素として次の 2 つだけを残します.
| 記号 | 意味 | ひとこと |
|---|---|---|
| α | 原子軌道そのもののエネルギー(Coulomb 積分) | 孤立原子の準位.エネルギーの基準に取ってよい |
| β | 隣の原子への飛び移り(共鳴積分・ホッピング) | s 軌道どうしなら負.軌道の重なりが大きいほど |β| 大 |
| N | 原子の数 | 結晶では 107/cm のオーダー |
| a | 原子の間隔(格子定数) | 典型的には 2〜4 Å |
近似はこれだけです:飛び移りは最近接だけ(1 個おきの などは捨てる),別の原子の軌道どうしの重なり積分は 0 とみなす (). 化学で「Hückel 法」,物理で「強束縛(tight-binding)模型」と呼ばれるものです. Schrödinger 方程式 を成分で書くと, j 番目の行は
となります.この 1 本の式(3 項漸化式)が本ページの主役で, 以下はすべてこの式を解いているだけです.
以下,これをきちんと式にします.
N = 2 のとき,式 (3) は j = 1, 2 の 2 本(). 自明でない解をもつ条件は永年行列式
で,解は
N = 3 の永年行列式は 3×3 の三重対角行列で,第 1 行で展開すると
となり,解は 3 本:
係数を求めると(規格化前),下から順に
節の数は 0,1,2 個 ―― 直感どおりです.真ん中の準位は中央の原子の係数が 0 で, エネルギーは α のまま(非結合性軌道). ここで式 (7) をよく見ると, , なので,3 本とも と書けています.N = 2 の式 (5) も ですから同じ形.一般法則の気配がします.
式 (3) を漸化式の形に書き直します.
端の原子(j = 1 と j = N)だけは隣が片方しかいないので式の形が 違ってしまいそうですが,存在しない原子の係数を 0 と置くことで 全部の j を同じ式 (9) に統一できます:
弦の振動とそっくりの境界条件です(両端の外側で振幅 0). そこで弦と同じ正弦波の仮設(ansatz)を置きます.
これは を自動的に満たします. 式 (9) に代入するのに使うのは加法定理から出る恒等式ひとつ:
これを使うと式 (9) は
となり,すべての j で成り立つ条件は角括弧 = 0,すなわち
です.残るはもう片方の境界条件 . これで θ が量子化されます:
まとめると,N 原子鎖の固有値と固有ベクトルの厳密解は:
m = 0 は全係数が 0(解でない),m = N + 1 も で解でない, m > N + 1 は既出の解の繰り返しなので,独立な解はちょうど N 本です. 検算として N = 2 を入れると から (式 (5) ✓), N = 3 なら (式 (7) ✓).
式 (15) から,バンドの性質が全部読み取れます.
(a) どの準位も窓の中. cos は −1 と 1 の間しか取らないので,すべての準位が
に入ります.準位の広がり(いちばん上 − いちばん下)は で,N → ∞ の極限値は幅 4|β| ―― N を増やしても幅は増えません.
(b) 間隔は 1/N で潰れる. 帯の中央付近で隣の準位との間隔を見積もると(式 (15) を m で微分),
です.a = 3 Å の鎖を 1 cm 並べると N ≈ 3×107 ですから, |β| = 1 eV として Δε ≈ 2×10−7 eV. 室温の熱エネルギー(約 0.026 eV)よりはるかに小さく,事実上の連続 ―― これがバンドです.
図 1 原子の数 N とエネルギー準位(式 (15),|β| = 1 eV). N = 2 の結合・反結合対から出発して,N 本の準位が α ± 2|β| の窓(破線)の中で混み合っていく.窓の幅は N によらない.
(c) 電子を詰めると金属になる. 1 価の原子(H や Na)なら電子は N 個.スピンを対にして下から詰めると N/2 本でちょうどバンドの半分まで埋まります. すぐ上に空準位が Δε ≈ 10−7 eV の間隔で控えているので, 電場をかければ電子はいくらでも加速できる ―― 金属です. HOMO–LUMO ギャップが 2|β| もあった N = 2 の「分子」から, ギャップ 0 の「金属」への連続変形を, シミュレーター①で ぜひ手で追ってみてください.
固体物理の教科書は,開いた鎖ではなく周期境界条件を使います. 鎖の両端をつないで輪にする,つまり
とする流儀です.端がなくなったので,解は定在波ではなく進行波で書けます:
これが 1 次元版の Bloch の定理です:格子を 1 個ぶん進む(j → j + 1)と, 波動関数は位相 が掛かるだけで形は変わりません.漸化式 (9) に代入すると,今度は を使って
―― バンド分散が出ました.周期境界条件 (18) から , すなわち許される k は
のちょうど N 個で,範囲 が第一 Brillouin ゾーンです(この範囲の外の k は が同じ を与えるので,新しい状態ではありません).
分散 (20) からは動力学も読めます.波束の速度(群速度)は
で,バンドの底と頂上(k = 0, ±π/a)では 0. 底の近くで cos を 2 次まで展開すると となり,自由電子の と見比べて
―― 有効質量です.a = 3 Å,|β| = 1 eV を入れると m* ≈ 0.42 me. 幅の広いバンド(|β| 大)ほど電子は「軽い」という, 半導体物理で毎日使う関係がここで出てきます. 許される k の点が曲線 (20) に乗っていく様子は シミュレーター②で見られます.
バンドの中で準位は均等に並んでいません.「エネルギーあたり何本あるか」を数えます. 式 (21) より k は間隔 2π/(Na) で等間隔ですから, 幅 dk の中の状態数は Na/(2π)·dk. 同じエネルギーには +k と −k の 2 つが対応するので,
です. を,(20) を使って sin を E で書き直せば
となります.バンドの端 で発散します ―― van Hove 特異点です. 理由は式 (24) がそのまま語っています:端では dE/dk = 0, つまり k を動かしてもエネルギーがほとんど変わらないので, 同じエネルギーに状態がどっと溜まるのです.
検算として全エネルギーで積分すると で,状態の総数はきちんと N 本. バンドの中央では です.
ここまでの鎖は原子も結合もすべて同じで,単位胞は原子 1 個ぶんでした. この節ではその間隔を と書きます. そこに「2 種類目」を入れます.入れ方は 2 通りです.
どちらの入れ方でも,共通して起きることがひとつあります. 同じ形が繰り返すのに原子 2 個ぶん必要になる ―― つまり
実空間の周期が伸びれば,逆空間のゾーンはその逆数で縮みます. すると,もとのゾーン にいた状態のうち,外側の半分は新しいゾーンからはみ出してしまいます. 行き場を失った状態は,逆格子ベクトル だけずらして新しいゾーンの中へ折り返されます.これがバンドフォールディング (band folding,バンドの折りたたみ)です.
折り返してきた枝の式は簡単に書けます.もとのバンドは式 (20) より ですから, と置き換えて
―― もとの枝を で上下ひっくり返した形です. この 2 本は,新しいゾーンの境界 で となってどちらも E = α,つまりぴったり交差します. 縮退した 2 つの状態が出会うこの一点こそが,ギャップの開く場所です.
Bloch の定理より,単位胞の中の 2 成分 に を掛けた形を仮定すると, 問題は k ごとの 2×2 行列に落ちます:
2×2 の固有値は「平均 ± √((差/2)² + |非対角|²)」でしたから,
バンドが 2 本に分かれました.根号の中身は k = 0 で最大(), ゾーン境界 k = ±π/a で最小 () なので,2 本のバンドの間隔が最小になるのは必ずゾーン境界で,そこでのギャップは
です.3 つの極限を確かめておきます.
| 場合 | ギャップ Eg | 物質の例 |
|---|---|---|
| Δ = 0,β1 = β2(全部同じ) | 0 | §6 のバンドを半分のゾーンに折り返しただけ.金属のまま |
| Δ ≠ 0,β1 = β2(イオン性) | Δ | NaCl などのイオン結晶.電子は電気陰性度の高い側へ寄る |
| Δ = 0,β1 ≠ β2(結合交替) | 2|β1 − β2| | ポリアセチレン(Peierls 転移・二量化) |
ここまでの話は,そのまま 3 次元に持ち上がります.単純立方格子で最近接だけ残すと, 漸化式 (9) が x・y・z の 3 方向に分かれるだけで,
―― 幅 12|β| のバンドになります.実際の物質では,1 原子に s, p, d と 複数の軌道があるので,式 (28) の 2×2 が「軌道の数 × 原子の数」の行列に育ち, バンドも複数本になります.どの軌道とどの軌道が混ざれるかを仕分けするのが群論 (結晶の対称性)で,そこまで含めて実際に計算・作図するツールが, 当研究室で開発している CrystOD です. CrystOD のドキュメントには,本ページと同じ「分子 → 結晶」の玩具モデルの英語版と, 実在の分子・結晶(NH3 や ScF3)の軌道ダイアグラムが載っています.
バンド理論の全体像(Fermi 面・フォノン・比熱への応用)は, 発展教材の 『固体物理学』『マテリアル計算科学』で扱っています. 次の §10 では,その手前の2 次元正方格子に戻って, 軌道の向き(s と p)でバンドの形がどう変わるかを見ます.
§9 で「3 次元でも同じ」と書きましたが,その一歩手前の2 次元正方格子には, 1 次元では絶対に見えない大事な景色があります. 軌道の向きが効いてくることです. この節は講義ノート「LCAO 理論」(8)(9)(11) に対応します.
格子定数 a の正方格子の x 軸に n 番目,y 軸に m 番目にある原子の 原子軌道を と書きます. Bloch の定理を x・y の両方向に立てれば,波動関数は
です.1 次元の式 (19) に y 方向の位相を掛けただけ. あとは §0 と同じ約束(同じ原子で α,最近接で β,それ以外 0)で期待値を取ります. 規格化は , 分子は ですから
x と y がきれいに分かれた形になりました.最近接が 2 個から 4 個に増えたぶん, バンド幅も倍になります:
ここで困ったことが起きます.1 次元なら E(k) は曲線 1 本で描けましたが, 2 次元の は曲面です.紙に描くと立体的で読み取りづらい.
そこで教科書は,ブリルアンゾーンの中の代表的な道すじだけを辿って 1 本の線に落とし込みます.正方格子なら
| 記号 | (kx, ky) | 意味 | s バンドの値 |
|---|---|---|---|
| Γ | (0, 0) | ゾーンの中心.全原子が同位相 | α + 4β |
| X | (π/a, 0) | 辺の中点.x だけ交互に反転 | α |
| M | (π/a, π/a) | 角.市松模様 | α − 4β |
対称性から と は同じ内容なので,正の側だけ見れば十分です. Γ → X → M → Γ と回ると,バンドの底・中間・頂上をひととおり通ります. シミュレーター⑤では, この道すじが等高線図の上に引いてあり,スライダーで動かすと 実空間の位相の模様が同時に変わります.
ここからが 2 次元の本番です.s 軌道は球対称なので,どの隣とも同じように重なりました. ところが p 軌道は向きを持ちます.すると隣との重なり方が2 種類に分かれます.
ノートの流儀にならって , と約束します(§2 の β < 0 とは符号の取り方が違うので注意). 正方格子で最近接だけを残すと,px・py・pz は互いに混ざらず, 3 本のバンドがそれぞれ独立に
となります.式の形は (33) とそっくりですが,σ の項は +,π の項は − で入るところが違います. pz は面から突き出しているので x にも y にも横腹で重なり,π だけになります.
講義ノートと同じ , , (単位 eV)で 高対称点の値を並べます.
| Γ (0,0) | X (π/a,0) | M (π/a,π/a) | 読みどころ | |
|---|---|---|---|---|
| px | 12 | 4 | 8 | Γ→X で大きく下がる.σ の重なりが効く方向 |
| py | 12 | 16 | 8 | px を 90° 回しただけ.X で最高 |
| pz | 6 | 10 | 14 | π だけなので s と同じ形.Γ が底 |
ここから 3 つのことが読み取れます.
なお 3 次元の単純立方格子なら,式 (33) に の項が 1 つ増えるだけで式 (31) に戻り,高対称点は Γ = α+6β,X = α+2β,M = α−2β,R = α−6β となります(講義ノート (9) の下半分).
ここまでは s と p でした.d でも f でも,やることはまったく同じです. 違うのは「隣とどう重なるか」の種類が増えることだけで, そこさえ整理できれば,あとは §10 とそっくり同じ式が出てきます.
2 つの原子を結ぶ線を軸に取り,その軸のまわりの磁気量子数 m で軌道を分類します. が σ, が π, が δ, が φ です. s は σ しかなく,p は σ と π,d は σ・π・δ,f は σ・π・δ・φ まで出ます. ここが増えるだけ ―― これが d と f のすべてです.
絵で言えば,σ は頭どうし,π は横腹どうし,δ は4 枚の葉が向かい合う重なり, φ は6 枚の葉が互い違いに触れる重なりです. が上がるほど葉の数が増え, 触れ合う部分は細くなっていきます.
そして重要なのは,2 中心積分の符号が最初から決まっていることです. 結合軸を に取ると, の実球面調和関数は に対して のパリティを持ちます.偶なら向かい合うローブが同符号になり, 引力ポテンシャルと掛け合わせて積分は負になります.奇ならその逆.つまり
| σ | π | δ | φ | |
|---|---|---|---|---|
| s(l = 0) | − | |||
| p(l = 1) | + | − | ||
| d(l = 2) | − | + | − | |
| f(l = 3) | + | − | + | − |
§10 で「σ の項は +,π の項は −」と手で決めた p の規則は, この表の 2 行目そのものです.s の も 1 行目. 1 本の規則で s から f まで一気に片づくので,あとは機械的です.
§10 の p では 3 本のバンドが独立でした.d と f ではそうはいきません. ただし,混ざる相手は数える前から分かります.
x 方向の結合を考えると,並んだ 2 個の原子は にも にも対称です. だから,この 2 つの反転についてのパリティが違う軌道どうしは絶対に混ざりません. 同じように y 方向の結合は と について対称. 両方を課すと,結局(x, y, z) 3 つのパリティが全部一致する軌道どうしだけが混ざります.
| d 軌道 | x | y | z | 仲間 |
|---|---|---|---|---|
| dxy | 奇 | 奇 | 偶 | ひとりだけ |
| dyz | 偶 | 奇 | 奇 | ひとりだけ |
| dzx | 奇 | 偶 | 奇 | ひとりだけ |
| dx²−y² | 偶 | 偶 | 偶 | dz² と 2×2 |
| dz² | 偶 | 偶 | 偶 | dx²−y² と 2×2 |
5 本のうち 3 本は単独,残りの 2 本だけが 2×2 で組む ―― これで見通しがつきました. 一般には,Bloch 行列は §10 とまったく同じ形
で( は x 方向の隣との 2 中心積分を並べた行列, なので の和が になります), 上の表はこの行列がブロック対角になることを言っています.
dxy を x 方向に並べると,結合軸まわりでは ―― つまり純粋な π です.dyz なら で純粋な δ.方向を y に変えると役割が入れ替わります. この「同じ軌道でも方向によって σ・π・δ が変わる」ところが,d の面白さです.
ここで , と略しました. は小さいので, dyz は x 方向にはほとんど分散せず,y 方向にだけよく分散します ―― シミュレーター⑤で dyz を選ぶと,等エネルギー面が縞模様になるのがそれです.
残る 2 本を出します.x 方向を軸に取り直すと, dx²−y² と dz² はどちらも σ 型 ()と δ 型()の 混ぜ合わせになります.係数を求めると
すなわち dx²−y² は σ が 3/4,δ が 1/4, dz² は σ が 1/4,δ が 3/4(係数の 2 乗). dx²−y² のローブは 4 つの隣にまっすぐ向いているので σ 成分が多い ―― 絵のとおりです. これを (37) に入れて 2×2 を対角化すると
(つまり ,Γ や M)では 混ざらず,2 本は純粋な dx²−y² と dz² のままです. 離れるほど が効いて混ざります.
, , eV (Harrison の比 σ : π : δ ≈ 6 : 4 : 1)での です.
| Γ (0,0) | X (π/a,0) | M (π/a,π/a) | 読みどころ | |
|---|---|---|---|---|
| dxy | +4.00 | 0 | −4.00 | π だけなので s バンドを裏返した形 |
| dyz | +1.50 | +2.50 | −1.50 | x が δ なので Γ→X はほぼ平ら |
| dzx | +1.50 | −2.50 | −1.50 | dyz を 90° 回しただけ |
| eg(上) | −2.25 | +2.165 | +4.75 | Γ では dz²,M では dx²−y² |
| eg(下) | −4.75 | −2.165 | +2.25 | Γ では dx²−y²(最安定) |
なお シミュレーター⑤の バンド図は,選んだ軌道の成分が多いバンドほど太く濃い線で描いてあります. いま見た X 点の「濃さを分け合う」は,この約束のもとで半々の固有ベクトルが描かれた姿です.
ここまでの分類は,手で数えなくても出せます.CrystOD の crystod-group に
空間群と k 点を渡すと,その k 点の小群のもとで基底関数がどう既約分解されるかを返してくれます.
正方格子(2 次元の を 3 次元に埋めた
)の Γ 点なら
$ crystod-group --generate-basis --space-group P4/mmm --kpoint 0 0 0
これだけです.2 次(d 軌道)の出力を抜き出すと
* Decomposition * 2.0 [GM1+(1)] + 1.0 [GM5+(2)] + 1.0 [GM2+(1)] + 1.0 [GM4+(1)] * Irreducible representations for basis functions * GM1+(1): [x^2 + y^2, z^2] GM5+(2): [yz, xz] GM2+(1): [-x^2 + y^2] GM4+(1): [xy]
6 次元と出ているのは,2 次の単項式が 〜 の 6 個あるからで, これは (5 個)と ( の 1 個)の和です. は全対称なので GM1+ を 1 つ食べており, そのぶんを引くと d の 5 本は GM1+ + GM2+ + GM4+ + GM5+ ―― §11.5 で数えた 4 段(うち 1 組が 2 重)とぴったり一致します.
同じ出力の 3 次(f 軌道)はこうです.
* Decomposition * 2.0 [GM3-(1)] + 3.0 [GM5-(2)] + 1.0 [GM2-(1)] + 1.0 [GM4-(1)] * Irreducible representations for basis functions * GM3-(1): [z^3, x^2 z + y^2 z] GM5-(2): [x^3, y^3, x^2 y, xy^2, xz^2, yz^2] GM2-(1): [xyz] GM4-(1): [-x^2 z + y^2 z]
10 次元は (7 個)と ( など 3 個)の和で, 後者は GM3- + GM5- です.これを引くと f の 7 本は GM3- + 2×GM5- + GM2- + GM4-(1 + 4 + 1 + 1 = 7). §12 で見る「単独 3 本と 2 重縮退 2 組」は,まさにこの並びです.
| CrystOD | Mulliken | 基底関数 | この教材で対応する軌道 |
|---|---|---|---|
| Γ1+ | A1g | x²+y², z² | s,dz² |
| Γ2+ | B1g | x²−y² | dx²−y² |
| Γ3+ | A2g | (2 次には現れない) | ― |
| Γ4+ | B2g | xy | dxy |
| Γ5+ | Eg | yz, xz | dyz, dzx |
| Γ2− | B1u | xyz | fxyz |
| Γ3− | A2u | z, z³ | pz,fz³ |
| Γ4− | B2u | z(x²−y²) | fz(x²−y²) |
| Γ5− | Eu | x, y | px, py,f の残り 4 本 |
シミュレーター⑤の バンド図で,右端に x²−y²(Γ2+) のように出ているのがこれです (Γ 点でのラベルなので,X 点や M 点では別の記号になります).
最後に f です.新しい考え方はひとつもありません. §11 の手順をそのまま回すだけで,7 本のバンドが出てきます.
§11.2 のパリティの表を f について作ります.
| f 軌道 | x | y | z | 仲間 |
|---|---|---|---|---|
| fz³ | 偶 | 偶 | 奇 | この 2 本で 2×2 |
| fz(x²−y²) | 偶 | 偶 | 奇 | |
| fxz² | 奇 | 偶 | 偶 | この 2 本で 2×2 |
| fx(x²−3y²) | 奇 | 偶 | 偶 | |
| fyz² | 偶 | 奇 | 偶 | この 2 本で 2×2 |
| fy(3x²−y²) | 偶 | 奇 | 偶 | |
| fxyz | 奇 | 奇 | 奇 | ひとりだけ |
fxyz だけが単独で,あとは 2 本ずつ 3 組. 7×7 の行列を解く必要はどこにもなく,2×2 を 3 回解けば終わりです.
fxyz は,x 方向にも y 方向にも純粋な δ です (結合軸まわりで になります). fz³ と fz(x²−y²) の組は,どちらの方向についても π と φ の混ぜ合わせで, 重み と (入れ替わって)になります.結果は
(40) とそっくり同じ形です.違うのは が に変わり, 分母の 2 が 4 に,√ の中の 3 が 15 になっただけ. が 1 段ずつ上がると, 混成の効き方も規則的に変わっていきます.
fxz² と fx(x²−3y²) の組は,少しだけ様子が違います. x 方向では σ と δ の組,y 方向では π と φ の組になり, 方向によって重なりの種類そのものが入れ替わるのです. 重みは x 方向が と , y 方向が と .対角化すると
fyz² と fy(3x²−y²) の組は,これで x と y を入れ替えたものです (正方格子の 90° 回転で移り合うので当然). は判別式が負の正定値 2 次形式なので,√ の中は決して負になりません.
, , , eV での です.
| 組(2×2) | Γ (0,0) | X (π/a,0) | M (π/a,π/a) | Γ での主成分 |
|---|---|---|---|---|
| fz³, fz(x²−y²) | −1.15 / −1.65 | +0.968 / −0.968 | +1.65 / +1.15 | 上が fz³(純粋) |
| fxz², fx(x²−3y²) | +1.55 / −0.45 | −1.159 / −2.741 | +0.45 / −1.55 | 混ざっている |
| fyz², fy(3x²−y²) | +1.55 / −0.45 | +2.741 / +1.159 | +0.45 / −1.55 | 混ざっている |
| fxyz(単独) | +1.00 | 0 | −1.00 | ― |
各セルは / (式 (41)(42) の複号). どちらの枝がどの軌道かは k で入れ替わります ―― たとえば fz³ は Γ では上の枝,M では下の枝です.
東京理科大学 望月研究室.
インタラクティブ版は band-simulator
(① 分子から結晶へ/② Bloch の定理と E(k)/③ 状態密度/④ バンドギャップの起源/
⑤ 2 次元正方格子 s・p・d・f)へ.§10 は講義ノート「LCAO 理論」(8)(9)(11) に対応し,
§11・§12 はそれを d と f へ拡張したもので,Γ 点の既約表現は
crystod-group --generate-basis の出力(§11.6)に合わせてあります.
式 (15)(20)(25)(29)(30)(33)(35)(38)(40)(41)(42) はいずれも数値対角化と
突き合わせて検証済みです(§12 末尾の囲みを参照).