調和振動子はどう解くのか,なぜ止まれないのか,そして第 2 量子化

― 講義ノート「調和振動子」(1)(2)(3) と「第 2 量子化」(1)〜(5) の導出をたどる(学部 2・3 年生向け)

ばね定数 k=mω2 のばねに繋がれた質点.古典力学ならエネルギーは 0 から連続に取れて,いちばん下は「静止」です. Schrödinger 方程式を解くと En=(n+12)ℏω と飛び飛びになり,しかも下限が ℏω/2 だけ浮きます. この 2 つがどこから出てくるのかを,順を追って導きます.

結論を先に 「飛び飛び」は境界条件から出ます. x→±∞ で波動関数が 0 に収束することを要求すると,級数がどこかで切れなければならず, それが ε=2n+1 という条件になります. 「下限が浮く」のは不確定性原理そのもので, ℏω/2 は ΔxΔp≥ℏ/2 がエネルギーに翻訳されたものです.

§7 からは第 2 量子化に入ります.同じ答えを,微分方程式を一度も解かずに出す道です. そこで出てくる生成・消滅演算子は,調和振動子だけの道具ではありません. 粒子がたくさんある系を扱うときの,共通の言葉になります.

0. 設定

ノート (1) の出発点です.ばねから受ける力は F=−kx, そのポテンシャルは

(1) V(x)= 12kx2 =12mω2x2 , ω=km

定常状態の Schrödinger 方程式は

(2) − ℏ22m d2ψdx2 +12mω2x2ψ =Eψ
この形はどこにでも出てきます どんなポテンシャルでも,安定なつり合いの点のまわりで Taylor 展開すれば, 1 次の項は 0(つり合いだから),2 次の項が 12V″x2. つまり「底の近く」はどれも調和振動子です.分子の振動も,結晶中の原子も, 電磁場の各モード(Planck の公式で数えたもの)も,すべてこの式に従います.

1. まず直感で(30 秒版)

なぜエネルギーが飛び飛びになるのか.理由は「無限遠で 0 にならないと確率にならない」からです.

量子化は方程式ではなく境界条件から来る ―― これが調和振動子でいちばん学ぶ価値のある点です. §2.4 の図で,実際に ε を動かして発散するところを見てもらいます.

2. 解く ― ノート (1)

2.1 無次元にする

(2) には ℏ,m,ω が散らばっていて見通しが悪いので, 長さとエネルギーの「自然な単位」で測り直します.

(3) X=mωℏx , ε=2Eℏω ⟹ d2ψdX2 +(ε−X2)ψ=0

定数がすべて消えました.これ以降,物理定数はいっさい出てきません. ℏ/mω が「この振動子にとっての 1 メートル」,ℏω/2 が「1 ジュール」にあたります.

2.2 遠方の形を先に見る

|X| が大きいところでは ε≪X2 なので,(3) は ψ″≃X2ψ. これを満たすのは ψ≃e±X2/2 です.符号 + の方は発散するので捨てます(境界条件 limx→±∞ψ=0). そこで解の形を

(4) ψ(X)= f(X) e−X2/2

と予想して代入します.うまい手のように見えますが,やっていることは 「答えのうち分かっている部分を先に括り出す」だけです.(3) に入れると e−X2/2 が全体に掛かった形になり,括弧の中が 0 という条件になって

(5) d2fdX2 −2X dfdX +(ε−1)f=0

これが Hermite の微分方程式です.

2.3 級数に展開する

f=∑kakXk と置いて (5) に入れ,Xk の係数をそろえると, 隣どうしを結ぶ関係が出ます.

(6) ak+2= 2k−ε+1 (k+2)(k+1) ak

2.4 ここで量子化が起こる

(6) を眺めます.k が大きいところでは

ak+2ak →2k

ところが eX2=∑jX2j/j! の係数比も,k=2j と置けばやはり 2/k です.つまり

⚠ 級数が切れないと必ず発散する 級数が無限に続くと f∼eX2 になり,(4) から ψ∼eX2e−X2/2=e+X2/2. せっかく捨てたはずの発散解が復活してしまいます. これを避ける道はただ一つ,どこかで係数が 0 になって級数が多項式で終わることです.

(6) の分子が 0 になればそこで止まります.k=n で切れるとすると

(7) 2n−ε+1=0 ⟹ ε=2n+1 ⟹ E=ℏω2ε =(n+12)ℏω

エネルギーが飛び飛びになりました. ノートの「ε=2n+1(級数解法より)」の中身がこれです. 下の図で,ε を連続に動かして何が起きるか見てください.

左:(3) を X=0 から数値積分した ψ. ε がとびとびの値からわずかでもずれると,たちまち発散します(縦は対数). 右:遠方での値 ψ(5) を ε の関数として見たもの. 0 を横切る点だけが許される ―― 偶関数を選べば ε=1,5,9,…, 奇関数を選べば ε=3,7,11,… が現れ, 合わせて ε=2n+1 になります.

3. 解の形 ― ノート (2)

級数が n 次で切れた多項式が Hermite 多項式 Hn(X) です. 規格化条件 ∫|ψ|2dx=1 で定数を決めると,ノートの Cn=(mωπℏ)1/4/2nn! が出ます.

(8) ψn(x)= (mωπℏ)1/4 12nn! Hn(X) e−X2/2
nψn(x) En形
0 (mωπℏ)1/4e−mωx2/2ℏ 12ℏω 節なしの山(Gauss 関数)
1 (mωπℏ)1/42mωℏxe−mωx2/2ℏ 32ℏω 節 1 つ(中心で 0)
2 (mωπℏ)1/412(2mωℏx2−1)e−mωx2/2ℏ 52ℏω 節 2 つ

ノート (2) の (i)(ii)(iii) と同じです.節の数がそのまま n で, 節が増えるほど波が細かく=運動エネルギーが大きくなります. これがエネルギーが上がっていく理由です.

4. 零点エネルギーの正体 ― ノート (3)

n=0 でも E0=ℏω/2≠0. なぜ 0 にできないのかは,Schrödinger 方程式を解かなくても分かります.ノート (3) の議論です.

古典的なエネルギー E=p2/2m+12mω2x2 で,x と p を「ゆらぎ」に置き換えます. 中心が原点にある状態(⟨x⟩=⟨p⟩=0)では, これがそのまま平均エネルギー ⟨E⟩ です.相加相乗平均を使うと

(9) ⟨E⟩= Δp22m +12mω2Δx2 ≥2 Δp22m ⋅12mω2Δx2 =ωΔxΔp

m がきれいに消えて ωΔxΔp だけが残るのが見どころです.ここに不確定性原理 ΔxΔp≥ℏ/2 を入れれば

(10) ⟨E⟩≥ℏω2
零点エネルギーは「位置と運動量のゆらぎ」が生んでいた ノートの結びの一行「零点エネルギーは "エネルギーのゆらぎ" だったのだ」の中身がこれです (ゆらいでいるのは位置と運動量のほうで,基底状態のエネルギーそのものは ΔE=0 ―― 何度測っても ℏω/2 です). 止まろうとすると Δp→0 にせねばならず, そのとき Δx→∞ になって, 今度はばねの位置エネルギーが無限大になります. 逆に一点に固定しようとすれば運動エネルギーが発散する. この綱引きの最も得な妥協点が ℏω/2 で, §2 で解いた E0 とぴったり一致します.

一致するのは偶然ではありません.(9) の等号が成り立つのは 2 つの項が等しいとき, つまり Δx=ℏ/2mω のときで,これは (8) の ψ0 の幅そのものです. 実際,σxσp=(n+12)ℏ なので,n=0 のときだけ不確定性原理の等号が成り立ちます. 基底状態とは「不確定性原理が許すぎりぎりまで小さくまとまった状態」です.

5. 絶対零度と熱力学第三法則

温度 T の熱平衡では,準位 n にいる確率は Boltzmann 分布 Pn∝e−En/kBT です.等比級数を足すと(Planck の公式のページとまったく同じ計算です)

(11) ⟨E⟩= ℏωeℏω/kBT−1 +ℏω2 = ℏω2 coth⁡ ℏω2kBT
Planck の公式との関係 第 1 項は Planck が空洞放射で使った ⟨E⟩=hν/(ehν/kT−1) そのものです.Planck の式には零点エネルギーの項が入っていません. 零点項は温度に依らないので,熱放射としてやりとりされるエネルギー(=スペクトル)には現れないためです. hν/2 はモードごとに大きさが違い,全モードで足し上げると発散してしまうので, 全モードに共通の定数として括り出せるわけではありません.なお, 1912 年に Planck 自身が第 2 の理論で hν/2 を付け加えました.

5.1 絶対零度とは「止まること」ではない

T→0 の極限を取ります. coth の引数 ℏω/2kBT が ∞ へ発散し,coth は 1 に近づくので

(12) limT→0 ⟨E⟩ =ℏω2≠0

すべての粒子が基底状態に落ちきっても,揺れは残ります. 「絶対零度=すべての運動が止まった状態」という言い方は,古典力学の言葉としては自然ですが, 量子力学では正しくありません.正しくは「全部が基底状態に入った状態」で, そこには ℏω/2 の零点振動が必ず残っています.

液体ヘリウムが固まらない理由 ヘリウムは常圧では絶対零度まで冷やしても液体のままです. 原子が軽く(m が小さい)原子間力も弱い(ω が小さい)ため, 零点振動の振幅が原子間距離に対して無視できないほど大きく, 結晶格子に落ち着けないからです.零点エネルギーが直接目に見える,数少ない例です.

5.2 なぜ到達できないのか

熱力学第三法則には 2 つの言い方があります.

  1. Nernst の定理:T→0 でエントロピー S→0.基底状態がただ 1 つに決まっているからです. 実際 S/kB=u/(eu−1)−ln⁡(1−e−u) (u=ℏω/kBT) は T→0 で指数関数的に 0 へ向かいます.
  2. 到達不能性:有限回の操作で T=0 には到達できない.

2 つは繋がっています.冷却とは「系からエントロピーを外へ捨てる」操作ですが, T が下がるほど残っている S が小さくなるので,1 回の操作で捨てられる量も減っていきます. 減り方が指数関数的なので,何段重ねても 0 には届きません. ただし,1 回でどれだけ捨てられるかは冷却操作の中身(熱浴との結合や緩和の速さ)で決まります. これは筋道を示す説明であって,基底状態がただ 1 つであることだけから出てくる定理ではありません.

⚠ 因果関係の向きに注意 「零点エネルギーがあるから絶対零度に到達できない」と言うのは,少し飛躍があります. 正確には,両者は「基底状態がただ 1 つに決まっていて,その下が無い」という同じ事実を 出発点にしていますが,言っていることは別々です. 「冷やしても止まらない」と「そもそも冷やしきれない」は別の主張です.前者は 基底状態そのものの性質ですが,後者は冷却操作の側の性質で, S→0(Nernst の表現)を橋渡しにしてつながっています.

6. 古典に戻る道

では,なぜ机の上のばねでは量子性が見えないのか.数字を並べると一目瞭然です.

系ℏω ℏω/kB σx(n=0) 300 K での ⟨n⟩
H₂ 分子の振動0.546 eV6332 K 8.72 pm7×10−10
CO 分子の振動0.269 eV3122 K 3.37 pm3×10−5
Si の光学フォノン(Γ点)0.0632 eV734 K 3.43 pm0.095
Si の音響フォノン(最も軟らかいモード)0.00152 eV17.6 K 22.1 pm16.5
机の上のばね6.6×10−15 eV7.6×10−11 K 7.3×10−18 m3.9×1012
2 つの読みどころ (1) 机の上のばねは,室温で n≈4×1012 にいます. 1 段の間隔が全体の 10−12 しかないので,階段は連続に見えます. 零点振動の幅 7×10−18 m は陽子の半径よりさらに小さく,測りようがありません.
(2) 逆に CO 分子は,室温ですでに 99.997 % が基底状態にいます. つまり室温がこの振動にとっては十分「絶対零度」です. それでも止まっておらず,3.37 pm(結合長の 3 %)の零点振動を続けています.
⚠ 結晶は「1 個の調和振動子」ではありません ここまでは 1 個の振動子の話でしたが,原子が N 個ある結晶には 3N 個の振動モード(フォノン)があり, ω は波数 q と分枝ごとに違います. 上の表に載せた Si の 2 行は,望月研究室で第一原理計算した Si のフォノンから取った 両端です.同じ結晶の中で室温の ⟨n⟩ が 0.095 から 16.5 まで,2 桁以上ばらついています. Brillouin 帯と全分枝で平均すると ⟨n⟩=0.59. n = 0, 1, 2, … が数えられる範囲にいるので,量子性はそのまま測定にかかります ―― Si の定積比熱が室温で 19.9 J/(mol·K), Dulong–Petit の 3R=24.9 の 80 % に留まるのがその証拠です.

もうひとつの道が対応原理です.n を上げていくと, |ψn|2 は細かく振動しながらも,全体の形が古典の確率密度 Pcl(x)=1/πA2−x2 に近づきます.シミュレーターのタブ①で n を 20 まで上げると確かめられます.

7. もうひとつの道 ― 第 2 量子化(ノート「第 2 量子化」(1)(2))

§2 では (3) を級数に展開し,「級数が切れなければならない」ことから ε=2n+1 を出しました. 正しい道ですが,Hermite 多項式の係数を追いかけるのは骨が折れます. ここでは微分方程式を一度も解かずに,同じ答えにたどり着く道を通ります. そしてこの道具は,調和振動子ひとつの話では終わりません. 粒子がたくさんある系を扱うときの,標準的な言葉になります.

7.1 なぜこんな道具が要るのか

ノートの Introduction 多粒子状態の波動関数を扱うとき,波動関数を毎度書き下さなくても, 粒子の数とその変化を記述することで扱いが便利になることが多い. そのために,粒子の生成演算子と消滅演算子がよく使われます.

Fermi 粒子(電子など)を扱っているときは粒子数そのものが変わることは少ないのですが, 電子の励起状態を考えるときは「電子が 1 個消えて,正孔が 1 個生まれる」と見ないといけません. Bose 粒子(フォノン・フォトンなど)では粒子数の変化が常に起きるので, 生成・消滅演算子が記述の主役になります.
記号について ノートでは生成演算子を aˆ+ と書いています. ここでは教科書の慣用にならって aˆ†(ダガー)と書きます.まったく同じものです. ダガーは「エルミート共役」の印で,+ と読み違えないための書き方です.

7.2 Hamiltonian を因数分解する

出発点は (2) と同じ Schrödinger 方程式です.位置演算子 qˆ と運動量演算子 pˆ=ℏiddx で書くと

(13) Hˆ=pˆ22m+12mω2qˆ2=12mω2[qˆ2+pˆ2m2ω2]

ここが出発点です.A2 + B2 という形は,ふつうの数なら (A+iB)(A−iB) と因数分解できます.同じことをやってみると

12mω2(qˆ+ipˆmω)(qˆ−ipˆmω)=ℏω⋅mω2ℏ(qˆ+ipˆmω)⏟消滅演算子⋅mω2ℏ(qˆ−ipˆmω)⏟生成演算子

ノートで下線を引いた 2 つのかたまりに,名前がついています.

(14) aˆ=mω2ℏ(qˆ+ipˆmω)=mω2ℏ(x+ℏmωddx)(消滅演算子) aˆ†=mω2ℏ(qˆ−ipˆmω)=mω2ℏ(x−ℏmωddx)(生成演算子)

逆に解けば,位置と運動量のほうを aˆ, aˆ† で書き直せます.

(15) qˆ=ℏ2mω(aˆ+aˆ†)pˆ=−iℏmω2(aˆ−aˆ†)
ただし,この因数分解はぴったりではありません qˆ と pˆ は順番を入れ替えると違う演算子です (qˆpˆ−pˆqˆ=iℏ). ふつうの数の因数分解を真似すると,その分だけズレが出ます. そしてそのズレの正体こそ,§4 で見た零点エネルギー ℏω/2 です. 次の §8 で決着をつけます.

8. 交換関係 ― ここでボソンとフェルミオンが分かれる(ノート (3))

8.1 [aˆ,aˆ†]=1

(14) を素直に掛け算します.ノートの Evidence の 2 行です.

aˆaˆ†=mω2ℏ(qˆ2+pˆ2m2ω2)+mω2ℏ⋅i(pˆqˆmω−qˆpˆmω) aˆ†aˆ=mω2ℏ(qˆ2+pˆ2m2ω2)+mω2ℏ⋅i(qˆpˆmω−pˆqˆmω)

第 1 項はまったく同じなので,引き算すると消えます.残るのは交換子だけで, [pˆ,qˆ]=pˆqˆ−qˆpˆ=ℏi を入れれば

(16) [aˆ,aˆ†]=aˆaˆ†−aˆ†aˆ=12ℏ{i(ℏi)−i(−ℏi)}=2ℏ2ℏ=1

8.2 Hamiltonian を「順番の曖昧さがない形」に書く

ノートの Attention の一行です.今度は足し算してみると,交換子のほうが消えます.

aˆaˆ†+aˆ†aˆ=mωℏ(qˆ2+pˆ2m2ω2)=2ℏω(pˆ22m+12mω2qˆ2)

右の括弧は (13) の Hˆ そのものです.したがって

(17) Hˆ=ℏω2(aˆaˆ†+aˆ†aˆ)

aˆaˆ† と aˆ†aˆ を対等に扱っているので, どちらを先に書くかという曖昧さがありません.ノートが「調和振動子の Schrödinger 方程式は ℏω2(aˆaˆ†+aˆ†aˆ)ψn=Enψn と表現できる」と書いているのは,これです.

因数分解のズレ = 零点エネルギー §7.2 の素朴な因数分解は ℏωaˆaˆ† でした. (16) を使うと aˆaˆ†=aˆ†aˆ+1 なので, (17) は Hˆ=ℏω(aˆ†aˆ+12). つまり素朴な因数分解は 12ℏω だけ大きすぎたのです.

この 12ℏω は,§4 で不確定性原理から出したものと同じ量です. 「qˆ と pˆ が交換しない」「不確定性原理」「零点エネルギー」は, ひとつのことの 3 通りの言い方だった ―― ここでそれが式の上で見えます.

8.3 フェルミ粒子では,引き算ではなく足し算になる

ノートの左余白に「この交換関係が通じるのはボソンのみ.フェルミオンの場合は {aˆ,aˆ†}=1」と書いてある部分です. フェルミ粒子の演算子を cˆ, cˆ† と書くと,規則は

(18) {cˆ,cˆ†}=cˆcˆ†+cˆ†cˆ=1cˆcˆ=cˆ†cˆ†=0

なぜ符号が変わるのか.同じ種類の粒子 2 個を入れ替えたとき,多体波動関数は ボソンなら符号がそのまま,フェルミオンなら符号が反転します. この「入れ替えの符号」が,そのまま演算子の交換関係に写ったものが (16) と (18) です.

Pauli の排他律が 2 行で出ます cˆ†cˆ†=0 は,そのまま 「同じ状態に 2 個目は入れられない」ということです. 数演算子 Nˆ=cˆ†cˆ を 2 乗してみると,(18) を 1 回使うだけで
Nˆ2=cˆ†cˆcˆ†cˆ=cˆ†(1−cˆ†cˆ)cˆ=cˆ†cˆ−cˆ†cˆ†cˆcˆ=Nˆ
つまり Nˆ(Nˆ−1)=0. 占有数は 0 か 1 しか取れません. ボソンの Nˆ が 0, 1, 2, … といくらでも増えるのと対照的です (シミュレーターのタブ⑤で,まさにこの違いを触れます).
同じ N でも,詰め方が違えば形が違います 1 本の調和振動子に粒子を N 個入れてみます. ボース粒子なら全員を n=0 に置けるので,基底エネルギーは Nℏω/2, 密度は |ψ0|2 の形のまま中心に細く尖ります. フェルミ粒子は 1 つの状態に 1 個までなので n=0 から N−1 まで積み上げるほかなく,基底エネルギーは (N2/2)ℏω, 密度は節の多い ψn まで動員することになって広く平たくなります. 粒子の数密度を n(x) と書けば,総数 ∫n(x)dx=N はどちらも同じなのに,形も基底エネルギーもまるで違うわけです. 物質が押し縮められずに体積をもつのは,この後者の性質によります.
ただし,ここではスピンを省いています. シミュレーターのタブ⑤も「フェルミ粒子 ― 1 準位に 1 個まで」と表示しますが,これはスピンを外した数え方です. 本物の電子はスピン ↑↓ をもつので 1 つの準位に 2 個まで入り, 状態を(準位,スピン)の組として数え直せば,上の話はそのまま成り立ちます.

9. 数演算子 Nˆ=aˆ†aˆ(ノート (4))

aˆ†aˆ をもう一度きちんと書き下します.§8.1 の 2 行目に [qˆ,pˆ]=iℏ を入れるだけです.

(19) Nˆ=aˆ†aˆ=1ℏω(pˆ22m+12mω2qˆ2)−12⟺Hˆ=ℏω(Nˆ+12)

§2 で解いた En=(n+12)ℏω を代入すれば,ノートのとおり

(20) Nˆψn=1ℏω(n+12)ℏωψn−12ψn=nψn
n の意味が変わります §2 までの n は「何番目の準位か」を数える番号でした. ここでは Nˆ の固有値,つまり 「その振動子に量子が何個入っているか」を数える数になります. En=(n+12)ℏω は「ℏω のエネルギーを持つ量子が n 個 + 零点エネルギー」と読めます.

この量子に,系ごとに名前がついています. 結晶の格子振動ならフォノン,電磁場ならフォトンです. 「準位が上がる」と「粒子が 1 個増える」がまったく同じ数学だ,というのが第 2 量子化の核心です.
ノートの余白「aˆ† と aˆ を逆にすると +½ なんだよね」 そのとおりです.(16) から aˆaˆ†=Nˆ+1 なので, aˆaˆ†=Hˆℏω+12. aˆ†aˆ は Hˆℏω より 12 だけ小さく, aˆaˆ† は 12 だけ大きくて, その差 1 がちょうど (16) です. (17) が 2 つの平均を取っているのは,この ±½ の真ん中を通しているからです.

10. 梯子を上り下りする(ノート (5))

名前は「生成」「消滅」ですが,実際に波動関数に当てると何が起こるのか. ノートは n=1 の厳密な波動関数で確かめています. 無次元の ξ=mωℏx で書くと (14) は

aˆ=12(ξ+ddξ)aˆ†=12(ξ−ddξ)

10.1 ノートの計算

φ1(x)=(mωπℏ)1/42ξe−ξ2/2 に生成演算子を当てます.

aˆ†φ1=(mωπℏ)1/4[ξ2e−ξ2/2−(e−ξ2/2−ξ2e−ξ2/2)]=(mωπℏ)1/4(2ξ2−1)e−ξ2/2 =2φ2(x)

ノートの「=2φ2 となった.」です. 逆に消滅演算子を当てると,真ん中の項の符号が変わって ξ2 がきれいに消え,

aˆφ1(x)=(mωπℏ)1/4e−ξ2/2=φ0(x)

ノートの「=φ0(x) となった!」です. 波動関数の形そのものが,隣の準位のものに移り変わっているのが見どころです.

10.2 一般の n へ

ノートの Theorem です.

(21) aˆ†φn=n+1φn+1aˆφn=nφn−1

下の図で,実際に演算子を微分演算子として数値的に当てて確かめられます. aˆ†φn を計算した曲線と, n+1φn+1 の曲線がぴったり重なります.

梯子演算子を波動関数に当てる. 灰色がもとの φn,太い青が aˆ†φn または aˆφn(微分は数値差分), 赤い破線が (21) の右辺です.2 本が重なれば (21) が成り立っています.

10.3 ノートの余白の問い ―「スマートな方法はないだろうか?」

あります.ノートの Evidence は aˆ†aˆ=aˆaˆ†−1 を途中で使って書き換えていますが, それを先に交換子の形にまとめてしまうと,1 行で終わります.

(22) [Nˆ,aˆ†]=aˆ†aˆaˆ†−aˆ†aˆ†aˆ=aˆ†[aˆ,aˆ†]=aˆ†[Nˆ,aˆ]=−aˆ

これを Nˆψn=nψn に当てるだけです.

Nˆ(aˆ†ψn)=(aˆ†Nˆ+aˆ†)ψn=(n+1)(aˆ†ψn)

つまり aˆ†ψn は,固有値 n+1 の固有関数です.あとは長さ(規格化)を測れば係数が決まります.

(23) |aˆ†ψn|2=⟨ψn|aˆaˆ†|ψn⟩=⟨ψn|Nˆ+1|ψn⟩=n+1

長さが n+1 で,向きが ψn+1 なのですから,(21) の 1 本目が出ます. 同じように |aˆψn|2=⟨Nˆ⟩=n から 2 本目が出ます. 波動関数の具体形を一度も使っていません.使ったのは (16) と (19) だけです.

10.4 ここでもう一度,量子化が出てきます

(23) の下の式 |aˆψn|2=n は,左辺が長さの 2 乗ですから負になれません.つまり n≥0. ところが aˆ を当てるたびに n は 1 ずつ下がります. どこかで止まらないと,いつか n<0 になってしまう. 止まる道はただひとつ,

aˆψ0=0

そこから数えて n=0,1,2,….§2 で「級数が切れなければならない」として出したのと,まったく同じ結論が, 微分方程式を一度も解かずに出ました.

おまけ:基底状態は 1 階の微分方程式で出ます aˆψ0=0 を (14) で書き下すと (ξ+ddξ)ψ0=0,つまり dψ0ψ0=−ξdξ. 積分するだけで ψ0∝e−ξ2/2 が出ます. §2 で 2 階の微分方程式を級数で解いて得た (8) の ψ0 と同じものです. あとは (21) を繰り返し当てるだけで,すべての ψn が手に入ります: ψn=1n!(aˆ†)nψ0.

11. これが多体問題でどう効くのか

ここまでは振動子 1 個の話でした.第 2 量子化の値打ちが出るのは, 粒子がたくさんあるときです.

N 個の粒子の波動関数 Ψ(x1,…,xN) を まともに書こうとすると,フェルミ粒子なら Slater 行列式で N! 個の項が並びます. N=10 で 360 万項,N=20 で 2×1018 項.とても紙に書き下せる量ではありません. (行列式の値そのものは LU 分解を使えば O(N3) で求まります. 本当に手に負えなくなるのは,この行列式を何通りも重ね合わせて多体状態を組むときの,組合せの爆発のほうです.)

ところが「どの準位に何個いるか」だけを書くなら,

|n0,n1,n2,…⟩cˆk†がnk→nk+1にする

で済みます.粒子が何個いても書き方が変わりません. しかも「入れ替えたら符号が変わる」というフェルミ粒子の約束は, (18) の反交換関係のほうへ丸ごと吸収されています. Slater 行列式を書く必要がなくなるのです.

相互作用まで込めた Hamiltonian は,どんな系でもこの形に書けます.

(24) Hˆ=∑kεkcˆk†cˆk+12∑klmnVklmncˆk†cˆl†cˆmcˆn

第 1 項が 1 体のエネルギー,第 2 項が 2 体の相互作用(電子なら Coulomb 斥力)です. Hartree–Fock 法も,摂動論も,Feynman ダイアグラムも,出発点はこの式です.

粒子数が変わる過程が,そのまま式になります 比熱・熱伝導率・電子–格子相互作用(超伝導もここです)は,どれも このフォノンの生成と消滅を数え上げる計算になります. シミュレーターのタブ②で使った ⟨n⟩ は,まさに「そのモードにフォノンが平均何個いるか」です.

12. 数値で確かめる

確かめたこと一致
(8) の漸化式版 vs ノート (2) の n = 0,1,2 の具体形相対差 < 4×10−16
規格化 ∫|ψn|2dX=1(n ≤ 30) 相対差 < 2×10−13
直交性 ⟨m|n⟩=0 < 4×10−15
(3) を満たすか(数値 2 階微分)残差 < 9×10−8
⟨X2⟩=n+1/2, σxσp=(n+1/2)ℏ 相対差 < 2×10−13
(9)(10):相加相乗の最小値 = ℏω/2 相対差 < 2×10−16
(6) の係数比 → 2/k(k = 6, 10, 18 で 0.57, 0.71, 0.82 と 1 へ) eX² と同じ挙動
(3) を数値積分:ε=1,3,5,7,9 でのみ減衰 固有値で 10−5,他は 10+3
(11)(12):T→0 で ℏω/2, T→∞ で kBT 相対差 < 1×10−12
第 2 量子化(ノート (2)〜(5))一致
(21) aˆ†φn=n+1φn+1,aˆφn=nφn−1(n ≤ 12,演算子を数値差分で当てる)最大差 < 3×10−11
係数 n+1 を重なり積分で測る相対差 < 8×10−12
aˆφ0=0(梯子の下端 §10.4)< 2×10−13
(16) [aˆ,aˆ†]=1,(19)(20) Nˆ の固有値が n(12×12 の行列表示)最大差 < 2×10−10
(17) Hˆ=ℏω2(aˆaˆ†+aˆ†aˆ) の対角が n+1/2最大差 < 1×10−10
素朴な因数分解のズレ ℏωaˆaˆ†−Hˆ=ℏω/2(§8.2)最大差 < 2×10−10
(22)(23) [Nˆ,aˆ†]=aˆ†,|aˆ†ψn|2=n+1最大差 < 2×10−10
ψn=1n!(aˆ†)nψ0(n ≤ 10)最大差 < 2×10−11
(18) {cˆ,cˆ†}=1,cˆ†cˆ†=0,Nˆ2=Nˆ厳密に 0
同じ N での基底エネルギー:ボース Nℏω/2 / フェルミ (N2/2)ℏω,∫n(x)dx=N(タブ⑤)相対差 < 4×10−14

13. まとめ

  1. ポテンシャルの底はどれも 12mω2x2. だから調和振動子はどこにでも出てくる (1)(2).
  2. 無次元化すると定数が全部消えて ψ″+(ε−X2)ψ=0 の 1 本になる (3).
  3. 遠方の発散する解を捨てるため ψ=fe−X2/2 と置く (4)(5).
  4. 級数が切れないと発散が復活する.切れる条件が ε=2n+1,すなわちエネルギーの量子化 (6)(7). 量子化は方程式ではなく境界条件から出る.
  5. いちばん下でも ℏω/2 残る. これは相加相乗平均+不確定性原理だけで出る量で, n=0 は不確定性原理の等号を実現している (9)(10).
  6. 絶対零度は「止まった状態」ではなく「全部が基底状態に入った状態」. 有限回の操作では到達できない ―― 1 回で捨てられるエントロピーが減っていくからで, その減り方は冷却操作の中身にもよる (11)(12).
  7. Hamiltonian を aˆ,aˆ† に因数分解すると, 微分方程式を解かずに同じ答えが出る.因数分解がぴったりでない分だけ残る ℏω/2 が,そのまま零点エネルギー (13)〜(17).
  8. Nˆ=aˆ†aˆ の固有値 n は 「量子が何個入っているか」.aˆ† が 1 個つくり,aˆ が 1 個消す. aˆψ0=0 で梯子が止まること自体が,量子化そのもの (19)〜(23).
  9. ボソンは交換関係 [aˆ,aˆ†]=1,フェルミオンは反交換関係 {cˆ,cˆ†}=1 と {cˆ†,cˆ†}=0. 後者から cˆ†cˆ†=0, すなわち Pauli の排他律が 2 行で出る (16)(18).
  10. 粒子がたくさんいるときは,波動関数ではなく「どの準位に何個いるか」で書く. これが第 2 量子化で,多体量子論の共通語になる (24).

東京理科大学 望月研究室 / 講義ノート 5. 波動力学 3. 調和振動子 (1)「1 次元調和振動子」,(2)「1 次元調和振動子の解とそのグラフ」,(3)「零点振動エネルギーと不確定性原理」, および講義ノート「第 2 量子化」(1)「第 2 量子化とは?」,(2)「生成・消滅演算子」,(3)「生成・消滅演算子の交換関係」, (4)「数演算子」,(5)「調和振動子の波動関数と生成・消滅演算子」より. §5 の熱力学的な部分と §11 の多体量子論への入口は,ノートの範囲外を補ったものです. 数値検証は Hermite 関数の漸化式,Simpson 法,4 次 Runge–Kutta, および梯子演算子を 4 次精度の中心差分で当てた行列表示による. 数式はブラウザ標準の MathML で組んでいます(外部ライブラリ・通信は一切ありません).