核融合シミュレーター

陽子・中性子・電子をくっつけると、なぜエネルギーが出るのか。
「消えた質量」を追いかけて、eV から MeV までを目で見る。

E = Δm c²

🔨粒子を選んでくっつけてみよう

陽子・中性子・電子の数を決めて「合体させる」を押すと、原子ができるときに出るエネルギーがわかります。

+
陽子 (proton)電荷 +1 / 938.272 MeV/c²
2
0
中性子 (neutron)電荷 0 / 939.565 MeV/c²
2
−
電子 (electron)電荷 −1 / 0.511 MeV/c²
2
⁴He
ヘリウム4
安定
ヘリウム4(アルファ粒子):宇宙で2番目に多い原子。核融合発電の「灰」でもあります。

⚖️質量のつじつま合わせ

バラバラのときより、くっついた後のほうが「軽い」。その差がエネルギーになります。

放出されるエネルギー
28.30MeV

🧲どの力が仕事をした?

エネルギーの内訳を、担当した力ごとに分解します。

質量が何 % 減ったか
0% 0.75 % 1%(=⁴Heがほぼ最大)
ここがポイント:核子1個あたりの結合エネルギー B/A が大きいほど「よく縮んだ=安定」。 軽い核どうしをくっつけて B/A を増やすのが核融合、重い核を割って増やすのが核分裂です。

📏けた(単位)の感覚をつかむ

同じ「くっつける」でも、電子と核子ではエネルギーのけたが100万倍ちがいます。

電磁気力/eV の世界
13.6 eV
陽子 + 電子 → 水素原子。
化学反応もこのけた(数 eV)。
強い力/MeV の世界
2.22 MeV
陽子 + 中性子 → 重水素核。
水素原子の 約16万倍。
核融合/MeV の世界
17.6 MeV
D + T → ⁴He + n。
化学反応1回の 約440万倍。
答え:核融合は「MeV 単位」です。 化学反応(燃焼・電池)は eV 単位、原子の中の電子も eV 単位。 原子核の中の話になった瞬間に、単位が eV → MeV へ 100万倍ジャンプします。これが核エネルギーの正体です。

☀️核融合反応を選んで走らせる

カードをクリック → 下のステージで衝突アニメーションが動きます。Q値(発生エネルギー)はすべて実測質量から計算しています。

準備中

⚡エネルギー収支

Q値
17.59MeV

🌡️条件

⚛️自然界の4つの力

核融合には「強い力」と「弱い力」の両方が登場します。まず全体像から。

力相対的な強さ届く距離伝える粒子核融合での役割
強い力
strong
1 約 1〜3 fm
(10⁻¹⁵ m)
グルーオン
核子間は π中間子の交換
陽子と中性子を縛りつける。MeV 級のエネルギーの出どころそのもの。
電磁気力
electromagnetic
1/137 ≈ 10⁻² 無限
1/r² で弱まる
光子 (γ) 邪魔役。陽子どうしが反発してクーロン障壁をつくる。原子の電子を縛るのもこの力(eV 級)。
弱い力
weak
約 10⁻⁶ 約 0.0025 fm
(10⁻¹⁸ m)
W, Z ボソン
重い(80〜91 GeV)
陽子を中性子に変える。太陽の p+p 反応の第一歩。極端に遅いので太陽は何十億年も燃え続けられる。
重力
gravity
約 10⁻³⁹ 無限 (重力子?未発見) 粒子1個ずつでは無視できるが、星をつぶして高温高圧をつくるのは重力。
なぜ弱い力は「弱い」のか? 力を伝えるW粒子がとても重い(陽子の約86倍)から。 重い粒子は不確定性原理により一瞬しか存在できず、届く距離は ħ/(mWc) ≈ 0.0025 fm = 陽子の直径の 1/400 しかありません。 だから「めったに起こらない反応」になります。

💪強い力:なぜ核はバラバラにならないのか

陽子どうしは電気的に反発しているのに、原子核はまとまっています。

約 1 fm より近づくと、強い力(引力)が電気的反発を一気に上回ってドスンと落ちこみます。 この井戸の深さこそが結合エネルギー= MeV 級のエネルギー源。 ただし 3 fm より遠いと強い力はほぼゼロなので、まず近づけないと始まりません。

🔬クォークで見ると

陽子も中性子も、実はクォーク3個の集まりです。

強い力はクォークどうしをグルーオンで縛る力。核子(陽子・中性子)の間に働く「核力」は、 そのはみ出した残りかすです(分子間力が電磁気力の残りかすなのと同じ)。

🌀弱い力:太陽が急いで燃え尽きない理由

陽子2個をぶつけても、そのままではくっつけません。1個を中性子に「作り変える」必要があります。

陽子2個(ジプロトン ²He)は存在できない。 パウリの排他律のせいで、同じ陽子2個は最も安定な状態に入れず、強い力だけでは束縛できません。 組み立てラボで「陽子2個だけ」を試すと確認できます。
そこで弱い力の出番。 陽子の中の u クォーク1個が W⁺ ボソンを放出して d クォークに変わり、 陽子 → 中性子になります。すると陽子+中性子=重水素核として結合でき、 0.42 MeV が解放されます(陽電子 e⁺ とニュートリノ ν も飛び出す)。
この一歩がとてつもなく遅い。 太陽の中心にいる陽子1個が p+p 反応を起こすまで、平均でおよそ90億年かかります。 弱い力がボトルネックになっているおかげで、太陽は爆発せずゆっくり燃え続け、地球に生命が育つ時間が生まれました。 逆に地上の核融合炉が p+p ではなく D–T 反応(強い力だけで進む)を使うのは、弱い力を待っていられないからです。

🚧クーロン障壁とトンネル効果

プラス同士は反発する。それでも核融合が起きるのは、量子力学が「壁抜け」を許すからです。

プラズマ温度
13 keV = 1.5 億 K
0.3 ☀ 太陽 1.35 ITER 13 200 keV
※ 対数目盛(1 keV ≒ 1160万 K)
反応させる相手
青い線が粒子の持つエネルギー。古典物理なら山のてっぺんを越えないと合体できませんが、 量子力学では波としてしみ出して壁をすり抜ける(トンネル効果)。 だから山の 1/40 の高さのエネルギーしかなくても核融合は起こります。

🏔️ガモフピーク:ちょうどいい速さの粒子だけが反応する

遅い粒子は数が多いけど壁を抜けられない。速い粒子は抜けられるけどほとんどいない。その掛け算のピークで反応が起きます。

青:マクスウェル分布
そのエネルギーを持つ粒子が何個いるか。速いほど急激に減る。
赤:トンネル確率
壁を抜けられる確率。速いほど急激に増える。
黄:実際の反応
2つの掛け算。あたりが「おいしいところ」。

📈核子1個あたりの結合エネルギー B/A

この曲線が、核融合と核分裂の両方を1枚で説明します。点にマウスを乗せてみてください。

⬆ 山を登るとエネルギーが出る
B/A が増える方向の変化は必ず発熱。左から登るのが核融合、右から登るのが核分裂。
⛰ 頂上は ⁵⁶Fe / ⁶²Ni
B/A ≈ 8.8 MeV。ここより先は融合してもエネルギーが出ない。星の中心に鉄が溜まると超新星爆発へ。
✨ ⁴He が異様に高い
軽い核なのに B/A = 7.07 MeV と飛び抜けて安定(魔法数 2+2)。だから核融合の生成物はたいてい ⁴He。

⚖️反応1回で出るエネルギー

対数目盛です。1目盛で10倍。

🔋燃料 1 g あたりのエネルギー

同じ重さで比べると、核融合の桁ちがいぶりが見えます(完全に反応したときの理想値)。

重水素と三重水素を合わせて たった 1 g で、ガソリン約 7.4 トン 分。 一般家庭の消費電力に直すと、1 g で 約 26年分 の電気に相当します。

🌍核融合が「次世代エネルギー」と言われる理由

燃料重水素(海水に無尽蔵)+
三重水素(リチウムから炉内生成)
CO₂発生しない
暴走事故原理的に起きない
条件が崩れた瞬間に反応が止まる
高レベル放射性廃棄物出ない
炉材の放射化はある(数十〜100年)
難しさ①1億度以上を保つ
難しさ②ローソン条件
n·T·τ ≳ 3×10²¹ keV·s/m³
難しさ③14 MeV 中性子に耐える材料
現状2022年 NIF が点火達成
ITER が 2030年代に運転予定
ローソン条件とは「密度 × 温度 × 閉じ込め時間」が一定値を超えると、 生まれた ⁴He(アルファ粒子)が持つ 3.5 MeV でプラズマが自分を加熱し続けられるようになる、という自己点火の条件です。 D–T 反応の 17.6 MeV のうち、電気を持つ ⁴He の分だけが磁場に捕まってプラズマに残り、 電気を持たない中性子の 14.1 MeV は外へ飛び出して発電(と三重水素の生成)に使われます。
質量データ:CODATA 2018 / AME2020 に基づく実測値。表にない核種は液滴模型(Weizsäcker の式)で推定し、 「推定」と表示しています。
1 u = 931.494 MeV/c² / 1 eV = 1.602176634×10⁻¹⁹ J